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COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励まし【臨床留学通信 from NY】番外編6

COVID-19、医療者の心を支えるオンライン会議ツールと市民の励ましCOVID-19治療は依然として模索が続いています。当初使用していたヒドロキシクロロキンについてはネガティブデータが続いており、現状使用していません1,2,3)。アジスロマイシンも同様です。レムデシビルに関しては、トライアルベースでの使用に留まり、RCTに参加する必要があります。また当院では、シングルアームで回復期患者の血漿を使用したトライアルベースの治療を行っています。このほか、トシリズマブをオフラベルで使用しています。当院の関連病院であるMount Sinai Hospital(大学病院)ではMesenchymal stem cell treatmentをやっているようです4)。また、当院のプロトコールにおいては入院患者の中等度~重症例(低酸素血症またはD-dimer、Creatinine、CRP上昇例など)に対しては、アピキサバンや(低分子)ヘパリンを投与しています。実際に、Mount Sinaiのデータベースを使用した抗凝固療法を支持する後ろ向き研究のデータが出ていますが、RCTの結果が待たれますし、あくまで患者さんの出血のリスクとの兼ね合いとなります5)。いずれにせよ、確固たる治療法がない現状が続いています6)。今回のCOVID-19に関連して、途方もない数の方々が病院で亡くなりました。ニューヨーク州においては、5月30日現在で、約37万人の感染者と2万3,000人の死亡者、ニューヨーク市においては、20万の感染者に対し1万5,000人の死亡者でした。当初は、感染の危険性から死ぬ間際であっても面会を禁止していました。自らが感染するリスクを抱えるだけでもストレスでありましたが、まったくの孤独で亡くなる患者さん達を目の当たりにし、患者さんの家族には電話でしか伝えることができず、医療従事者の心身には想像以上の負荷がかかっていました。そのようなつらい状況下の医療従事者を、多くのニューヨーカーが称え、鼓舞してくれました。マンハッタンの日本料理屋などからfood donationをいただいたり7)、毎晩7時になると、市内のあちらこちらから拍手が起こったりして、心が温まります8)。依然として家族の面会は禁止のままですが、病院ではiPadを使用してZoomなどのテレビ通話アプリを介して患者さんと家族が会話できるよう環境を整え、亡くなる間際もZoomを利用して最期を迎えられるように行なっています。実際に、米国では家族が離れて暮らすことはよくあり、国内であっても飛行機で簡単に移動もできない現状もあり、そういった手段は非常に有用であると考えます。1)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501362)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/501113)https://www.carenet.com/news/journal/carenet/500954)https://www.mountsinai.org/about/newsroom/2020/mount-sinai-leading-the-way-in-innovative-stem-cell-therapy-for-covid19-patients-pr5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32387623/?from_term=jacc+fuster+covid&from_sort=date&from_pos=26)https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMcp2009575?articleTools=true7)https://www.mifune-restaurant.com8)https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/10/nyregion/nyc-7pm-cheer-thank-you-coronavirus.htmlColumn画像を拡大するこの写真は、文中でも触れたfood donationでいただいたものです。とくに右側に写っているマッシュルームスープは最高においしく、多くの治療や看取りに疲れ切った心身に染み入りました。予想もしなかった留学先でのCOVID-19は厳しい体験の連続ですが、人々の温かさを知る機会にもなりました。

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抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

 20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。 21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。 本研究では、すでに抗凝固薬を服用中のTAVIの症例が対象となった。本研究の対象症例は326例と多くない。80歳以上で、ほとんどの症例が心房細動を合併したリスクの高い症例である。しかし、心血管死亡・総死亡、虚血性脳卒中いずれもクロピドグレルの追加により減少のサインすらない。出血はクロピドグレル群で多い。重篤な出血には有意差はないが、傾向としてクロピドグレルの追加により増加する。心房細動にてDOACと強いマーケット活動が持続しているが、実臨床ではワルファリン使用が一般的である。本研究の対象も多くはワルファリン治療下である。TAVIでは一般に抗血小板薬併用療法が施行されているが、抗凝固療法施行中の症例に抗血小板薬を追加する必要はない。重篤な出血を惹起する抗血栓薬は使わずに済めば使わないほうがよい。抗血栓薬にとっては受難の時代になった。

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女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

 世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された1)。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。 一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。たとえば、抗血小板薬やスタチンを処方されている女性の割合は、男性の3分の2程度であった。また、高血圧に対して降圧薬を処方されている女性の割合も、男性より有意に低かった。さらに、冠動脈疾患の既往がある女性をみると、男性に比べて心カテ等の検査やPCI等の治療が十分に行われていない可能性も示唆された。このような状況であっても、低・中所得国における彼女らの脳心血管病再発リスクは男性よりも低かった。しかし、高所得国における女性の脳心血管病再発リスクは男性と同等あるいはやや高い傾向にあった。1次予防の成績で示されたように元来女性の脳心血管病リスクは低いものと思われるが、2次予防においては、十分な予防対策や医療介入が行われていないために、女性の脳心血管病再発リスクが高まっている可能性がある。 東アジアからPURE研究に参加しているのは中国だけなので、本研究の結果をそのまま日本に当てはめてよいかはわからない。しかし、日本においても、脳心血管病リスクの低い印象を有する女性において、2次予防戦略が手薄になってしまうことはありうることなのかもしれない。女性であっても、脳心血管病の既往がある場合は高リスク者であることをきちんと認識し、2次予防対策(危険因子のコントロール、抗血栓療法、定期検査、早期の治療介入)を徹底することが大切と考えられる。

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COVID-19による静脈血栓症、入院前に発症か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、Dダイマーと凝固系での凝固促進変化、この感染症に関連する静脈および動脈血栓症の上昇率が報告されている。現時点でのさまざまな論文報告によると、ICUに入室したCOVID-19患者の死亡率は50%と高い。とくに動脈・静脈での血栓イベント発症の報告は多く、末梢静脈血栓塞栓症は27~69%、肺塞栓症は最大23%も発生している。 フランス・CCN(centre cardiologique du nord saint denis)のJulien Nahum氏らが観察研究を行った結果、深部静脈血栓症の発症割合は79%と高く、早期発見と抗凝固療法を迅速に開始することで予後を改善する可能性が示唆された。また、抗凝固薬を予防投与したにもかかわらず、ICU入室後わずか2日で患者の15%が深部静脈血栓症を発症したことから、COVID-19のICU患者すべてにおいて系統的に抗凝固療法を評価する必要があるとしている。JAMA Network Open 2020年5月29日号のリサーチレターに報告した。 研究者らは、2020年3月中旬~4月初旬、フランス・パリ郊外にある病院の集中治療室(ICU)に入室したCOVID-19重症患者(急性呼吸窮迫症候群を起こし、人工呼吸を要した)を対象に深部静脈血栓症の系統的な評価を行う目的で観察研究を実施した。 研究者らは、ICU入室時、過去に炎症マーカー値の上昇を示したデータや入院時の静脈血栓症の発症率が高いことを考慮し、COVID-19患者全症例に対して下肢静脈エコーを実施。入院時の検査値が正常でも48時間後に下肢静脈エコーを行い、COVID-19の全入院患者に抗凝固療薬の予防投与を推奨した。統計分析はグラフパッドプリズム(ver.5.0)とExcel 365(Microsoft Corp)を用い、両側検定を有意水準5%として行った。 主な結果は以下のとおり。・計34例が組み込まれ、平均年齢±SDは62.2±8.6歳で、25例(78%)が男性だった。・COVID-19患者のうち26例(76%)がPCR法で診断された。 ・8例(24%)はPCR法で陰性だったが、CT画像でCOVID-19肺炎の典型的なパターンを示した。・主な併存疾患は、糖尿病(15例[44%])、高血圧症(13例[38%])、肥満(平均BMI±SD:31.4±9.0)で、深部静脈血栓症を最も発症していたのは、糖尿病(12例/15例)、次いで高血圧(9例/13例)だった。・ 26例(76%)は入院時にノルアドレナリンを、16例(47%)は腹臥位管理を、4例(12%)は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。・入院前に抗凝固療法を受けていた患者はわずか1例(3%)だった。・深部静脈血栓症は、入院時に22例(65%)、ICU入室48時間後に下肢静脈エコーを行った際5例(15%)で見られ、入院から48時間経過時点で計27例(79%)に認められた。 ・血栓症の発症部位は、両側性が18例(53%)、遠位が23例(68%)で、近位が9例(26%)だった。 ・過去に報告されたデータと比較して、今回の集団ではDダイマー(平均±SD:5.1±5.4μg/mL)、フィブリノーゲン(同:760±170mg/dL)およびCRP(同:22.8±12.9mg/dL)の値が高かった。一方、プロトロンビン活性(同:85±11.4%)と血小板数(同:256×103±107×103/μL)は正常だった。

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ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

 ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。 このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。 今後は、安定狭心症に対する冠血行再建法としてのPCIの適応はいっそうの厳格化が行われ、施行する場合には理由を明確に説明できることが必要となろう。患者の症状の改善という具体的な目標の達成のために、そのためだけにPCIをするというのは理解を得やすい説明であろう。一方で、ISCHEMIA試験の結果は、PCIやCABGはまったく役に立たないということを意味するものではない。さらに、血行再建群と保存的治療群の差異は非常に小さい(ない)ともいえ、その分だけ患者自身の考えを尊重する必要も高くなる。つまり、「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)」の比重も増してくる。 生命予後改善効果が血行再建群で認められないことにも言及したい。冠血行再建で改善が見込まれる虚血という因子以外のファクター、つまり、年齢・血圧・糖代謝・脂質・腎機能・喫煙・心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードのほうが生命予後においてはより重要な規定因子なのである。冠動脈という全身からみれば一部の血流を治すくらいで、人は長生きするようにはならないのであろう。心臓という臓器に介入したのだから生命予後が改善するはずだ、というのは医療サイドの思い込みなのかもしれない。 循環器内科医だけでなく医師として、ISCHEMIA試験の登録基準に該当する患者が目の前にいた場合に何をどうすれば良いのか? まず何よりも生活習慣の修正を含めた至適薬物療法をすぐに開始することである。循環器内科医として患者に関与するうえで、「PCIのことしか知りません」は容認されない。心不全、不整脈、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、脂質低下療法、抗血栓療法などについての知識を習得し活用できることは、これまで以上に必須となる。 それにしても、ISCHEMIA試験の解釈は難しい。

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循環器領域のプレシジョン・メディシンを目指して(解説:香坂俊氏)-1232

Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)という言葉がある。個別化医療と訳されることがあるが、こちらは実はPersonalized Medicineのことであり、日本語では「精密医療」と訳されることが多い。Precision Medicineという言葉が一躍脚光を浴びるようになったのは、バラク・オバマが大統領であった時期である(遠い昔のように思われるが、2015年のことだ)。彼がその年の一般教書演説で「今後米国はPrecision Medicineの徹底を目指す」と宣言し、そしてそのために巨額の研究費を支出することが表明され、欧米の学会で取り上げられることが多くなった。この一般教書演説のときのPrecision Medicineのイメージとしては「遺伝子の情報に応じたオーダーメイド治療の実現」という側面が強い。古典的なEBMが大規模RCTの結果を「極力すべての人たちにあてはめる」ということをゴールにするとしていたとすると、Precision Medicineはさらにその先、遺伝子のタイプに応じて医療を使い分けるということをゴールにしていた(完全な個別化ではなく、遺伝子の情報によって集団をさらに小分けにするという感じ)。この医療のPrecision化はがん領域において進捗が著しく、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行うという手法で、乳がん、肺がんなどの領域で実績を上げている。一方で循環器領域では、正直いまひとつパッとしていなかったが、今回取り上げる「Genotype-Guided Strategy for P2Y12 Inhibitors(POPular Genetics試験)」が初めて抗血小板領域におけるPrecision化に道筋をつけた。この試験では、遺伝子型に応じて抗血小板薬を選択するプレシジョン群と従来通りの治療を行う群にSTEMI症例(Primary PCI実施例)をランダム化した。プレシジョン群ではCYP2C19機能喪失型アレル保有者であればプラスグレルかチカグレロル(強めの抗血小板薬)を投与し、非保有者には従来通りのクロピドグレル(普通の抗血小板薬)を投与したが、その結果として2群で塞栓系のイベントの発症率には変化がなく、プレシジョン群で出血イベントの発症率が低かった(12ヵ月のハザード比:0.78、95%CI:0.61~0.98、p=0.04)。このことは日本人のACS患者さんにとっても意義が深い。なぜならば、日本人ではとくにCYP2C19機能喪失型アレル保有者は多いとされているからである(約6人に1人)。それならばすべてのACS患者さんにプラスグレルなどの「強めの抗血小板薬」を投与すればよいかというと、東アジア人においてはこうした薬剤で出血する割合も高いとされており、そういうわけにもいかない(日本では減量されたプラスグレルが市販されているが、それでも最近の解析結果をみてみると出血する割合はクロピドグレルよりも高くなるようである:Shoji S, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202004. あるいは Akita K, et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.2019 Oct 8. [Epub ahead of print])。このように、徐々にではあるが、循環器領域においてもプレシジョン化が進みつつある。抗血小板薬や抗凝固薬の使用に関してとくに有望であるとされているが、ほかに希望が持たれている分野としてはスタチンの使用(遺伝子型に応じて副作用の発症頻度が異なる)、あるいは心不全に対するACEやARBの使用(性差が存在し、それも遺伝子型によるものではないかと推測されている)などが挙げられ、引き続き注目していきたい分野である。

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高齢者特有のリスクを考慮した抗ヒスタミン薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第20回

 今回は、抗ヒスタミン薬の追加提案について紹介します。高齢者で抗ヒスタミン薬を選択する際には、鎮静やせん妄などのリスクを十分に考慮する必要があります。経過をフォローすることで、漫然投与も防ぎましょう。患者情報75歳、男性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症訪問診療の間隔:2週間に1回処方内容1.オルメサルタン錠20mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 2錠 分2 朝夕食後3.センノシド錠12mg 1錠 分1 夕食後4.d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mg 3錠 分3 朝昼夕食後(今回追加)5.ヘパリン類似物質油性クリーム 50g 1日2回 全身に塗布(今回追加)6.ジフルプレドナート軟膏 10g 1日2回 体幹部位に塗布(今回追加)本症例のポイントこの患者さんは、全身の乾燥と体幹部に強い痒みを伴う湿疹があり、夜間も痒くて眠れないので飲み薬も出してほしい、という訴えを訪問診療の同行時に聴取しました。そこで医師より、しっかりとした作用が必要なのでd-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mgを1日3回でどうかという相談がありました。ここでの処方薬のポイントは3点あります。1.高齢者における第1世代抗ヒスタミン薬のリスク第1世代の抗ヒスタミン薬は、中枢神経を抑制して鎮静作用が強く生じることがあります。この患者さんが眠れないと訴えたことから、鎮静作用を期待している可能性もありますが、抗コリン作用などに伴う口渇や便秘、認知機能低下、せん妄があり、高齢者ではリスクが大きいと懸念されます。2.第2世代抗ヒスタミン薬の代謝と排泄経路、鎮静作用代替薬として、よりH1受容体に選択的に作用する第2世代抗ヒスタミン薬を検討しました。多くの薬剤が発売されていますが、高齢者では肝・腎機能などの低下を考慮して、安全に使用できる薬剤が望ましいです。また、鎮静の強さも各薬剤で違いがありますので、鎮静作用が比較的弱いフェキソフェナジン、ロラタジン、エピナスチンが適切と考えました。3.併用薬との相互作用相互作用の面では、現在服用中の酸化マグネシウムとフェキソフェナジンは併用注意です。酸化マグネシウムがフェキソフェナジンの作用を減弱させるため候補から外れました。服用回数の少なさも薬剤選択の大きなポイントですが、ロラタジンもエピナスチンも1日1回ですので、今回は腎臓への負担の少ないエピナスチンが妥当と考え、医師に提案しました。処方提案と経過医師には、冒頭の処方内容では、鎮静が強く生じて転倒するリスクがあり、口渇や便秘、認知機能低下、せん妄リスクもあることを伝えました。代替薬として、エピナスチン錠20mg(後発品)を提示し、服用薬との薬物相互作用もなく、腎機能への影響も少なく、服用回数も1回で済むことを紹介しました。医師からは、高齢者での第1世代抗ヒスタミン薬のリスクを軽視するわけにはいかないと返答があり、提案のとおりに変更されました。患者さんはエピナスチン錠を服用開始した翌日の夜には掻痒感が改善し、よく眠れたと聴取することができました。2週間後には皮疹もきれいに治っていたことから、エピナスチン錠を中止し、保湿剤によるスキンケアのみを継続することを医師に提案しました。この提案も採用され、保湿剤のみとなりましたが現在も経過は良好です。抗ヒスタミン薬は漫然と飲み続けているケースも多く見受けられますが、継続的にフォローして、治療終了を判断することも重要と考えます。画像を拡大する※2020年5月時点の薬価※肝・腎:肝機能低下、腎機能低下でそれぞれ血中濃度上昇の可能性あり1)各薬剤のインタビューフォーム2)「透析患者に対する投薬ガイドライン」, 白鷺病院.3)谷内一彦ほか. 日耳鼻. 2009;112:99-103.

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低分子ヘパリン皮下注射の選択のない日本に応用できるか?(解説:後藤信哉氏)-1228

 静脈血栓症は難しい。抗凝固薬の使用が一般化したのは肺血栓塞栓症の生命予後改善効果確認後であった。新規の経口抗凝固薬の適応拡大試験を施行するのであれば、「生命予後」を有効性の一次エンドポイントとしたい。しかし、重症例をランダム化比較試験に取り込むことは難しい。静脈血栓の再発などを代替的エンドポイントにせざるを得ない。静脈血栓症の定義は難しい。客観的に確認された血栓があっても予後には影響がないかもしれない。本研究のイベントの詳細がsupplementに記載されているが、悪性腫瘍の診断のために施行したCTにて見いだされた血栓なども含まれる。無症候の静脈血栓の臨床的意味は正直わからない。しかも、open labelの試験である。アピキサバンの適応拡大を目指した試験としての意味はあるかもしれないが、臨床的意味は不明とせざるを得ない。 対象症例は平均67歳と比較的高齢である。4%程度の症例に重篤な出血合併症が起こる。日本では低分子ヘパリンとしてのデルタパリンの自己皮下注射は施行されていない。日本の実態であれば入院中のヘパリンと退院後のワルファリンが標準治療であろうか? 生命予後を有効性の一次エンドポイントとして現在の標準治療と低分子ヘパリンの皮下注射の比較試験を日本にて実施できるとよい。事前に賭けろと言われたら、現在の治療で十分と答える。心房細動の脳卒中の場合も、脳卒中・全身塞栓症が最大の問題と考えてランダム化比較試験を施行した。しかし、各種試験、観察研究は死亡率の高さを示した。静脈血栓でも真に避けたいイベントは死亡と思う。低分子ヘパリン、アピキサバンが静脈血栓症の死亡率を下げるか否かの仮説検証が行われれば標準治療の転換につながると考える。

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コロナウイルス感染と血栓症の関係(解説:後藤信哉氏)-1229

オリジナルニュース【NEJM】Lupus Anticoagulant and Abnormal Coagulation Tests in Patients with Covid-19 本稿執筆時点で日本では大きく問題とされていないが、中国、米国、欧州ではコロナウイルス感染と血栓イベントの深い関係が注目されている。血栓イベント増加の主要原因として、コロナウイルスの血管内皮細胞への浸潤などが想定されているがメカニズムの詳細は未知である。確かに、本稿の著者に指摘されてみればa-PTTは延長していることが多い。PT、a-PTTが延長してD-dimerの高い症例が多いというのが筆者の認識であるが、ICUに入院する時点にてヘパリンを投与されている症例が多いのでヘパリンの影響かと思っていた。 本研究では血液凝固関連因子を詳細に時系列にて調べている。全例にて同レベルの詳細な検討がなされているわけではない。平時であればNEJM誌に掲載される論文ではない。しかし、コロナウイルスは詳細未知のウイルスである。本論文にて示されたLupus anticoagulant陽性例が多いことは、コロナウイルス感染における血栓性亢進の原因として魅力的な仮説である。 a-PTTが延長しているからといって抗凝固薬を躊躇すべきでないとの著者の主張は現時点では正しいように思える。コロナウイルスと免疫調節の関係などが今後の研究のテーマとなると想定される。

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クロピドグレル、70歳以上の非ST上昇ACS患者に有用/Lancet

 70歳以上の非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)高齢患者において、クロピドグレルはチカグレロル/プラスグレルに比べ、全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・出血の複合エンドポイントを増加することなく出血リスクを減少させることが認められ、チカグレロルの代替としてクロピドグレルが好ましいことが示された。オランダ・St Antonius HospitalのMarieke Gimbel氏らが、非盲検無作為化比較試験「POPular AGE試験」の結果を報告した。最近のガイドラインでは、ACS後の患者に、チカグレロルまたはプラスグレルを用いた強力な抗血小板療法が推奨されているが、高齢患者における最適な抗血小板療法に関するデータは乏しかった。著者は、「とくに出血リスクが高い高齢患者では、クロピドグレルがP2Y12阻害薬の代替となるだろう」とまとめている。Lancet誌2020年4月25日号掲載の報告。クロピドグレルと、チカグレロルまたはプラスグレルを比較 研究グループは、オランダの12施設(病院10施設、大学病院2施設)において、70歳以上のNSTE-ACS患者を登録し、インターネットでの無作為化法(ブロックサイズ6)を用い、クロピドグレル群またはチカグレロル/プラスグレル群に1対1の割合で無作為に割り付け、1年間投与した。 クロピドグレル群では負荷投与300mgまたは600mg、維持投与75mgを1日1回、チカグレロル/プラスグレル群では医師の裁量でどちらかを選択し(ただし、脳卒中または一過性脳虚血発作の既往患者にはチカグレロルを投与)、チカグレロルは負荷投与180mg、維持投与90mgを1日2回、プラスグレルは負荷投与60mg、維持投与10mgを1日1回(75歳以上または体重60kg未満は5mgを1日1回)とした。治療群の割り付けは、患者と治療担当医師は認識していたが、評価者は盲検化された。 主要評価項目は、PLATO基準に基づく大出血または小出血(優越性の検証)、ならびに全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中・PLATO基準に基づく大出血または小出血の複合エンドポイント(ネットクリニカルベネフィット)とした(非劣性の検証マージン2%)。追跡期間は12ヵ月で、intention-to-treat解析で評価した。クロピドグレルで、クリニカルベネフィットの非劣性と出血リスクの有意な低下 2013年6月10日~2018年10月17日に、計1,002例がクロピドグレル群(500例)およびチカグレロル/プラスグレル群(502例)に無作為に割り付けられた。チカグレロル/プラスグレル群では475例(95%)でチカグレロルが投与された(以下、チカグレロル群)。 チカグレロル群で47%(238/502例)、クロピドグレル群で22%(112/500例)が早期中止となった。 PLATO基準の大出血/小出血は、チカグレロル群(24%、118/502例)と比較して、クロピドグレル群(18%、88/500例)で有意に低下した(ハザード比:0.71、95%信頼区間[CI]:0.54~0.94、優越性のp=0.02)。また、複合エンドポイントのイベントはクロピドグレル群で28%(139例)、チカグレロル群で32%(161例)に認められ、ネットクリニカルベネフィットに関して、チカグレロルに対するクロピドグレルの非劣性が示された(絶対リスク差:-4%、95%CI:-10.0~1.4、非劣性のp=0.03)。 治療中止の主な理由は、出血(38例)、呼吸困難(40例)、経口抗凝固薬による治療の必要性(35例)であった。

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細菌感染の可能性が低い炎症でのリンデロン-VG軟膏の変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第19回

 今回は、湿疹や皮膚炎で頻用されているベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンタマイシン硫酸塩軟膏(商品名:リンデロン-VG軟膏)についてです。細菌感染の可能性が低くても処方される「ステロイドあるある」ともいえる乱用に対して、薬剤師として行った介入を紹介します。患者情報70歳、男性(グループホーム入居、要介護2)基礎疾患:高血圧、心不全、陳旧性心筋梗塞訪問診療の間隔:2週間に1回処方内容1.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1朝食後2.ラベプラゾール錠10mg 1錠 分1 朝食後3.フロセミド錠40mg 1錠 分1 朝食後4.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後5.カルベジロール錠2.5mg 1錠 分1 朝食後6.ニコランジル錠5mg 3錠 分3 朝昼夕食後7.オルメサルタン錠40mg 1錠 夕食後8.ヘパリン類似物質油性クリーム 50g 1日2回 全身に塗布本症例のポイント訪問診療の同行時に、上記患者さんの下腿の皮膚に赤みがあり、痒そうなので、以前処方されたリンデロン-VG軟膏を使ってもよいかという質問を施設スタッフより受けました。医師の診察では、心不全もあるのでうっ滞性皮膚炎の可能性があり、炎症を引かせるためにもリンデロン-VG軟膏でよいだろうという判断でした。リンデロン-VG軟膏は、外用ステロイドであるベタメタゾン吉草酸エステルとアミノグリコシド系抗菌薬であるゲンタマイシンの配合外用薬です。ゲンタマイシンは、表在性の細菌性皮膚感染症の主要な起炎菌であるブドウ球菌や化膿性連鎖球菌に有効ですので、その抗菌作用とベタメタゾンのStrongという使いやすいステロイド作用ランクから皮膚科領域では大変頻用されています。しかし、長期的かつ広範囲の使用によって、耐性菌の出現やゲンタマイシンそのものによる接触性皮膚炎のリスク、さらには腎障害や難聴の副作用も懸念されています。そこで処方内容への介入を行うこととしました。<抗菌外用薬による接触性皮膚炎>アミノグリコシド系抗菌薬は基本構造骨格が類似しており、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、フラジオマイシンで交叉反応による接触性皮膚炎が生じやすい。とくにフラジオマイシンで高率に生じると報告されている。処方提案と経過まず、医師にゲンタマイシンによる上記の弊害を紹介し、細菌感染の可能性が低いのであれば、抗菌薬が配合されているリンデロン-VGではなく外用ステロイド単剤で治療するのはどうか提案しました。なお、その際に医師がステロイド単剤のリンデロン-V軟膏やリンデロン-DP軟膏を認識していなかったことがわかりました。さらに、炎症の強さから外用ステロイドとしての作用強度がワンランク上のVery Strongが望ましいと感じましたが、リンデロン-DP軟膏だと患者さんや施設、および薬局での取り違えの可能性もあったことから、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏(商品名:アンテベート軟膏)を提案しました。その結果、今回は細菌感染の可能性が低いことからベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏がよいだろうと変更の承認を得ることができました。治療を開始して4日目には皮膚の発赤と掻痒感は改善し、既処方薬のヘパリン類似物質油性クリームのみの治療へ戻すこととなりました。Sugiura M. Environmental Dermatology. 2000;7:186-194.

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新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編3

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今(3)コロナの激震地となったニューヨークの患者総数は、4月22日現在で25万人を超えています1)。しかしながらクオモ知事の声明によりますと、総入院患者がマイナス傾向になったということで、ようやくピークを超えつつあるようです2)。また、ようやく(?)ニューヨークにおいてもマスクが義務付けられました。通常のマスクは、防御機構に関しては不明ですが、ウイルスを拡散しないという効果はあると私は思います。もちろん市民に対し早めに声明を出したかったのだとは思いますが、医療従事者への確保が先決であり、それがようやく担保されたためとも考えられます。当院(Mount Sinai Beth Israel)の現状は、相変わらずの病床拡大傾向ですが、それがそのままレジデントの労働時間の負担になっている訳ではなく、外部から委託することで人員を確保しているという状況です。実際に、待機的な一般病院や開業医の不要不急の外来はすべて閉鎖されており、そこから人的資源を確保していると考えられます。現在、市内中心部のマンハッタンよりも郊外に位置するクイーンズ地区などで医療崩壊が起きており、ピークを超えていても当院がいまなお病床拡大傾向にあるのは、そこの負担を軽減するための措置であります。確かに、マンハッタンには多くの病院がありますが、実際に住んでいるのは郊外のほうが多く、患者さんの数も同様に多いため、医療の需要と供給のアンバランスが起きやすいのです。それは東京都23区とそれ以外の関係にも似ているように思えますし、関東でパンデミックが起きると、人口が多く医者の数が少ない郊外エリアで医療崩壊が起きる懸念があります。私の病院はMount Sinai医科大学系列なので、経営母体が同じグループ内で疲弊している病院があれば、それらの患者を受け入れるたり人的資源を派遣することは合理的であり、経営的にも好ましいとも言えます。そのような協力は日本においてはなかなか難しく、パンデミックではない地区からのボランティアでしか成り立たないのかもしれませんが、一般病院だけでなく開業医の先生方の協力もニューヨークのように必要なのかもしれません。肝心の治療方法については、依然として模索状態が続いています。前稿で紹介したヒドロキシクロロキンおよびアジスロマイシンについては、ウイルス量を減らすかもしれないと言われていますが3)、あまり効果がないように思いつつ使い続けているというのが正直なところです。QT延長が双方に副作用があり、心電図を何度も取ることで医療従事者への曝露を助長しているようにも思われ、大規模な研究が待たれます。アクテムラ(トシリズマブ)は重症例に使用しておりますが、当院でRCTが始まったのは、同じIL-6 inhibitorのサリルマブでした。抗ウイルス薬のremdesivirについてもRCTも始まりましたが、観察研究の結果を見る限り、ある程度の期待は持てるのかなと思います4)。しかし、これらの治療法が正しいのかどうかも、やはり大規模な研究を待たなければわからない部分も多いです。また、D-Dimerが高値ならば、死亡率が上昇するというデータが出ており5)、D-Dimer高値の重症例については、当院では抗凝固療法を開始しておりますが6)、ほかの施設では推奨していないなど、まったくのエビデンス不足であり、欧米人より出血が多いと言われる日本人に当てはまるかどうかも不明です。ただ、治療に当たった実感としては、COVID-19の重症患者では凝固系が更新しているのだとは思います。ステロイドも予後を改善するというデータが出たため7)使い始めたところ、その後、真菌感染が発症したため、現時点では使用を控えております。ECMOについては、パンデミックになってしまうと医療資源の兼ね合いで推奨されるものではないように思えます8)。また、一度挿管すると抜管は非常に厳しく、低めの酸素飽和度であったとしても、なるべく避けたほうがいいのではないかという印象があります。いざ挿管が必要となった場合、管理は通常のARDSと異なるのかもしれません9)。以上は個人的見解が含まれており、治療法は刻一刻と変化すること、また当院の意見を代表するものではありませんので、その点をご了承ください。1)https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_New_York_(state)2)https://twitter.com/NYGovCuomo3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322052044)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322758125)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Lancet+2020%3B+395%3A+10546)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=322201127)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/321675248)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322790189)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32228035

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がん患者のVTE治療、アピキサバンは低分子ヘパリンに非劣性/NEJM

 がん患者の静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、直接経口抗凝固薬(DOAC)アピキサバンは、低分子ヘパリン(LMWH)ダルテパリン皮下投与と比較して、VTE再発に関して非劣性で、消化管の大出血のリスクを増加させないことが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らが行った「Caravaggio試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月29日号に掲載された。現行の主要なガイドラインでは、がん患者のVTE治療にはLMWHが推奨され、最近、DOACであるエドキサバンとリバーロキサバンの使用の考慮が追加されたが、これらのDOACは出血のリスクが高いため有益性は限定的だという。LMWHと比較する無作為化非劣性試験 本研究は、がん患者のVTE治療におけるアピキサバンのダルテパリンに対する非劣性を検証する医師主導の非盲検無作為化非劣性試験である(Bristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、症候性または急性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)を有するがん患者であった。これらの患者が、アピキサバン群(10mg[1日2回]、7日間経口投与後、5mg[1日2回]を投与)、またはダルテパリン群(200 IU/kg[1日1回]、1ヵ月皮下投与後、150 IU/kg[1日1回]を投与)に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。 有効性の主要アウトカムは、試験期間中に客観的に確定されたVTE再発(症候性のDVTまたはPEの再発)とした。安全性の主要アウトカムは大出血であった。事前に規定された非劣性マージンは、ハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)上限値2.00とした。VTE再発:5.6% vs.7.9%、大出血:3.8% vs.4.0% 2017年4月~2019年6月までに、欧州9ヵ国、イスラエル、米国の119施設に1,155例が登録された。アピキサバン群が576例(平均年齢67.2[SD 11.3]歳、男性292例[50.7%])、ダルテパリン群は579例(67.2[10.9]歳、276例[47.7%])であった。治療期間中央値は、アピキサバン群が178日(IQR:106~183)、ダルテパリン群は175日(79~183)だった(p=0.15)。 ベースラインのPE±DVTは、アピキサバン群が52.8%、ダルテパリン群は57.7%、DVTはそれぞれ47.2%、42.3%、症候性DVTまたはPEは、79.9%、80.3%であった。また、活動性のがんは、アピキサバン群が97.0%、ダルテパリン群は97.6%、局所進行・再発または転移を有するがんは、それぞれ67.5%、68.4%だった。 VTE再発は、アピキサバン群が576例中32例(5.6%)、ダルテパリン群は579例中46例(7.9%)で認められ、アピキサバン群のダルテパリン群に対する非劣性が確認され、優越性は示されなかった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.37~1.07、非劣性のp<0.001、優越性のp=0.09)。 このうち、DVT再発は、アピキサバン群が576例中13例(2.3%)、ダルテパリン群は579例中15例(2.6%)で発生し(HR:0.87、95%CI:0.34~2.21)、PE再発はそれぞれ576例中19例(3.3%)および579例中32例(5.5%)で発生した(0.54、0.29~1.03)。 大出血は、アピキサバン群が576例中22例(3.8%)、ダルテパリン群は579例中23例(4.0%)で発生し、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.82、95%CI:0.40~1.69、p=0.60)。消化管大出血は、アピキサバン群が576例中11例(1.9%)、ダルテパリン群は579例中10例(1.7%)で発生した(1.05、0.44~2.50)。 また、臨床的に重要な非大出血(アピキサバン群576例中52例[9.0%]vs.ダルテパリン群579例中35例[6.0%]、HR:1.42、95%CI:0.88~2.30)や、全死因死亡(576例中135例[23.4%]vs.579例中153例[26.4%]、0.82、0.62~1.09)の発生にも、両群間に差はなかった。 著者は、「これらのがん患者におけるアピキサバンの良好な安全性プロファイルは、一般集団のVTE治療におけるアピキサバンの無作為化試験の結果と一致する。これらの知見を合わせると、消化器がんを含め、アピキサバンが適応となるVTEを有するがん患者の割合が拡大する可能性がある」と指摘している。

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TAVI後の出血リスク、抗凝固薬単独vs. 抗血小板薬併用/NEJM

 経口抗凝固薬内服中に経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)を受ける患者において、術後1ヵ月または12ヵ月にわたる重篤な出血の発生率は、経口抗凝固薬+抗血小板薬(クロピドグレル)併用療法と比較し経口抗凝固薬単独療法のほうが低いことが示された。オランダ・St. Antonius HospitalのVincent J. Nijenhuis氏らが、欧州の17施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検並行群間比較試験「POPular TAVI試験」の2つのコホートのうち、コホートBの結果を報告した。TAVI後の抗凝固療法については、抗凝固薬の単独療法または抗血小板薬との併用療法の役割に関する検証がこれまで十分ではなかった。NEJM誌オンライン版2020年3月29日号掲載の報告。TAVI予定患者約300例で、術後の経口抗凝固薬単独と抗血小板薬併用を比較 研究グループは、2013年12月~2018年8月の期間に、TAVIを実施する予定で適切な適応症に対する経口抗凝固薬の投与を受けている患者326例を登録し、TAVI施行前にクロピドグレル非投与(経口抗凝固薬単独)群と、3ヵ月間のクロピドグレル投与(抗血小板薬併用)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、12ヵ月間の全出血および非手技関連出血の2つであった。BARC出血基準タイプ4の重篤な出血を手技関連出血と定義し、穿刺部位出血のほとんどは非手技関連出血として計算した。 副次評価項目は、12ヵ月時点での心血管死・非手技関連出血・脳卒中・心筋梗塞の複合(副次複合エンドポイント1)と、心血管死・虚血性脳卒中・心筋梗塞の複合(副次複合エンドポイント2)で、いずれも非劣性(マージン:7.5ポイント)と優越性を検定した。統計解析にはCox比例ハザードモデルおよびlog-rank検定を用い、修正intention-to-treat解析を行った。TAVI後は経口抗凝固薬単独のほうが重篤な出血の発生率が低い 12ヵ月間の全出血発生率は抗凝固薬単独群21.7%(34/157例)、抗血小板薬併用群34.6%(54/156例)(リスク比:0.63、95%信頼区間[CI]:0.43~0.90、p=0.01)で、多くの出血イベントはTAVIのアクセス部位で確認された。非手技関連出血はそれぞれ34例(21.7%)および53例(34.0%)に確認された(0.64、0.44~0.92、p=0.02)。ほとんどの出血は、最初の1ヵ月に発生し、軽度であった。 副次複合エンドポイント1のイベントは、抗凝固薬単独群49例(31.2%)、抗血小板薬併用群71例(45.5%)に確認された(群間差:-14.3ポイント、非劣性の95%CI:-25.0~-3.6、リスク比:0.69、優越性の95%CI:0.51~0.92)。副次複合エンドポイント2のイベントは、それぞれ21例(13.4%)、27例(17.3%)に確認された(群間差:-3.9ポイント、非劣性の95%CI:-11.9~4.0、リスク比:0.77、優越性の95%CI:0.46~1.31)。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験であること、従来と異なり手技関連出血をBARC出血基準タイプ4と定義しており、穿刺部位出血の多くが重篤な出血から除外された可能性があることなどを挙げている。

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“肛門疾患”丸わかり-内科医にも役立つガイドライン発刊

 肛門疾患と聞くと、多くの方はまず“痔”を想像されるのではないだろうか。医師に相談しにくい病気の1つだが、非専門医の方々は相談を受けたことがあるだろうか? 2020年1月、日本大腸肛門病学会は『肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版』を発刊。これは2014年に策定された診療ガイドラインの改訂版で、既存の肛門部の三大疾患(痔核・痔瘻・裂肛)とは別に直腸脱の項が追加された。今回、本ガイドラインの作成委員長を務めた山名 哲郎氏(JCHO 東京山手メディカルセンター副院長)から活用ポイントについて聞いた。非専門医でも使いやすい1冊、専門医には直腸脱診療の理解を 現在、肛門疾患治療は保存治療適応例や高齢化に伴う肛門疾患の増加に伴い、プライマリケア医の協力が必要不可欠である。しかし、日本大腸肛門病学会会員の診療科内訳を見ると、大腸外科70%、肛門科15%、消化器内科15%、その他(病理科、放射線科など)少数と、内科診療を担う医師会員が非常に少ない。 このような現状を踏まえ、ガイドラインを作成するにあたり、山名氏は「CQ(Clinical Question)は専門医向けに設定、総論はプライマリケア医による診断や保存的治療の推進を念頭に置いた」という。スコープ作成は『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017』などを参考に進められ、重要臨床課題をもとに痔核、痔瘻、裂肛、直腸脱においてCQ3~5項目を決定、などを配慮した。また、総論には現時点でガイドライン作成委員会が提唱するフローチャートが図式化されており、どのタイミングでどのCQを確認するべきかがひと目でわかる仕組みになっている。 プライマリケア医、専門医それぞれに注目してもらいたい項目は以下のように分類されている。<プライマリケア医向け>・総論:疫学、病因、臨床所見、診断、治療などがコンパクトにまとめられている。・症例写真:各CQページ掲載。これにより鑑別診断が容易となる。<専門医向け>・CQ:専門医向けの診断アルゴリズムや新たな術式、乳児痔瘻やクローン病の痔瘻への対応方法について記載・直腸脱の項:日本の場合、高齢者の手術リスクを不安視し、経腹手術を避ける傾向がある。しかし、患者側の因子と直腸脱の病態による因子を考慮して術式を決定することが望ましいことから、術式決定のフローチャートの活用を求める。保存治療、まずは2~4週間を目処に 肛門疾患治療において、専門医への紹介や治療変更のタイミングに関する診療アルゴリズムは存在しない。だが、プライマリケア医でも本ガイドラインを活用することで患者の初期診療は可能であり、同氏は「たとえば、痔核や直腸脱の鑑別自体は難しくない。症例写真や臨床所見の項を活用することで診断は可能」とコメントした。保存治療の際の処方薬剤には、内服薬(鎮痛薬、痔核治療剤)や外用薬(坐薬、軟膏など)がある。専門医への紹介のタイミングについてはガイドラインに明記されていないが、「まずは2~4週間継続し、それでも症状が改善しなければ専門医への紹介が望ましい」と述べ、漫然と同じ治療を継続しないよう求めた。 このほか、専門医や専門病院への紹介パターンについて、同氏は患者紹介事例として3つを例示。同氏は独自の見解であると断りながら、1)プライマリケア医からの保存治療無効例の紹介、2)手術を実施しない施設の専門医からの紹介、3)手術実施施設からのハイリスク症例の紹介を挙げた。「とくに3つ目の場合、循環器疾患を併存している患者などでは抗凝固薬の服用が術前の服薬中止や術後出血のリスクとなるため、全身管理が可能な病院での手術が必要」と話した。高齢者にも手術を否定しない 専門医向けに追加された直腸脱については、「高齢者では手術リスクを考慮した結果、手術を推奨しない方針を選んでしまう医師がいる。しかしそれでは患者さんのQOLは改善されないため手術は必要である」と話した。高齢者にも適した術式を選択すれば、リスクを回避できることから、「とくに高齢者の治療を選択する際には、本ガイドラインのフローチャートを参照し、侵襲の少ない腹腔鏡下手術を視野に入れて治療方針を決めて欲しい」と述べた。 最後に同氏は「肛門疾患は、羞恥心ゆえにガイドライン作成に患者さんを取り込むのが難しい。本ガイドラインでは患者さんの声としてはパブリックコメントをもらう形式に留まったが、次の改訂版ではガイドライン作成委員のメンバーとして介入してもらいたい」と、次回改訂時への思いを語った。 なお、日本大腸肛門学会が作成するもう1つのガイドライン、「便失禁診療ガイドライン2017年版」の改訂版は2022年に発刊予定である。

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