サイト内検索|page:87

検索結果 合計:2157件 表示位置:1721 - 1740

1721.

ワクチン忌避」への対応と医療者教育の重要性/日本ワクチン学会

 「ワクチンの有効性・安全性に疑いを持つ人が接種を控える動き(ワクチン忌避)」が世界的に広がりを見せている。世界保健機関(WHO)は2019年に発表した「世界の健康に対する10の脅威」の1つとして「ワクチン忌避」を挙げている。日本においてもHPVワクチンの接種推奨が停止され、再開を求める医療者の声にもかかわらずいまだ果たされていない、等の現状がある。 11月30日~12月1日に開催された「第23回日本ワクチン学会学術集会」では、このワクチン忌避への危機感と対応策が大きなテーマの一つとなった。ワクチン忌避対抗の第一歩はデータ収集から シンポジウム「予防接種の教育啓発」では、国立感染症研究所・感染症疫学センターの砂川 富正氏が「国内外のVaccine hesitancyに関する状況」と題した講演を行った。砂川氏は「Vaccine hesitancy(ワクチン忌避)」に関連すると思われる報告が増加しており、「ある自治体における予防接種歴と百日咳に罹患した児の年齢分布を示すデータを見たところ、2~5歳と年齢が上がっても接種歴の無い児が含まれていた。ワクチンを受けさせない方針の保護者のコミュニティーができ、流行の一部となった疑いがある」と懸念を呈した。 2019年に報告数が急増し、学会でも大きなトピックスとなった麻しんについて「予防接種を受けていない10~20代の患者が30人以上出た、という事例を大きな衝撃を持って受け止めた。ワクチン接種率が90%を超える地域でも、ワクチンに否定的な医師に賛同する保護者のコミュニティなどができ、未接種者が固まって居住しているなどの条件が揃えば、一定規模の流行を生みかねない」と危機感を示した。こうした状況を踏まえ、自治体の予防接種担当者から保護者とのコミュニケーションについてアドバイスを求められることも増えている、という。 ワクチン忌避の動きは世界中で見られ、ブラジル、バルカン半島などで問題が顕在していることが報告されており、バルカン半島に位置するモンテネグロではワクチン反対派の運動で麻しん含有ワクチンの接種率が5割まで低下したという事例も報告された。科学誌Natureが、日本ではワクチン安全性への懸念が世界で最も高いレベルにあるとの風潮をニュース記事として取り上げるなど、日本は先進国の中でもワクチンを用いた取り組みが容易でない国として注視されている。 砂川氏は、「米国のようにワクチン忌避に関する定量調査でデータを蓄積し、分析と対応を行っていくことが急務」とまとめた。米国を参考に医療者向け教育プログラムを作成 続けて、同じく国立感染症研究所・感染症疫学センターの神谷 元氏が「予防接種従事者への教育の重要性」と題した講演を行った。 神谷氏は「定期接種・任意接種の問題はあるが、現在では国内で28種類のワクチンを受けられるようになり、海外との差を示すいわゆる『ワクチンギャップ』は数字の上では解消しつつある」と述べたうえで、「ワクチン忌避には歴史的・文化的背景があり、世界的に有効な手段は限られるが、その中で確実に有効性が証明されているのが『医療者への教育』であり、真のギャップをなくす手段である」と述べた。 そして、自身の留学時に経験した、米国疾病予防管理センター(CDC)とサンディエゴ郡保健局予防接種課の取り組みを紹介。CDCではACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)という外部の専門家集団と連携し、ワクチンに関連したエビデンスを検証し、ルール化する作業を常時行っている。ACIPの助言を基に決定したワクチンに関するルールは、全米の関係者・関係機関に通達され、患者からの問い合わせに対して全員が同じ回答ができることが信頼性につながっていると説明。また、米国には小学校入学前にワクチン接種を促す「School Law」と呼ばれるルールがあり、接種させない保護者にはペナルティが課されるという。 サンディエゴ郡保健局では、ワクチンに関するオンライン教育システムを用意し、担当地域の小児科・プライマリケアのレジデント全員に受講義務を課している。学習内容は臨床に即した実践的なロールプレイングを行うチーム学習プログラムであり、患児の予防接種歴確認の重要性などを体感できる。さらに、保健局はクリニックに対して担当地域の予防接種率のデータをフィードバックしており、「2回目の接種率は90%だが、3回目は70%に落ちている」等の実際のデータを見せることで、医師に対してワクチン接種を促す意識付けを図っている。こうしたさまざまな取り組みによって、サンディエゴ郡の予防接種率は全米トップクラスを達成、維持している。 同保健局の取り組みをヒントに、神谷氏は有志とともに医療従事者向けにワクチン知識を深めるためのオンライン講座を作成。医師向けに続き、看護師や事務員版についてもトライアルを進めているという。

1722.

インフルエンザ予防の新知見、養命酒の含有成分が有効か

 クロモジエキスを配合した、あめの摂取によるインフルエンザ予防効果が示唆された―。養命酒製造株式会社(以下、養命酒)と愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターの共同研究グループは、2017/2018シーズンに実施した「クロモジエキス配合あめ」のインフルエンザ予防効果に関する二重盲検試験を実施。風邪症状(発熱、喉・鼻症状)の有無や有症日数についても同時に解析を行った結果、クロモジエキス配合あめ摂取群がプラセボあめ摂取群と比較して、インフルエンザ感染患者の抑制ならびに風邪症状の有症期間を有意に短縮した。対象者は同大学で勤務し、インフルエンザワクチン接種済みの看護師の男女134名で、1日3回、12週間にわたりクロモジエキス67mgを配合したあめ摂取群とプラセボあめ群に割り付けられていた。この報告はGlycative Stress Research誌オンライン版2019年9月30日号1)に掲載された。 また、今年9月20日には、養命酒と信州大学農学部の共同研究グループがクロモジエキスのインフルエンザウイルス増殖抑制効果の長時間持続に関する可能性を示唆し、「クロモジ熱水抽出物の持続的なインフルエンザウイルス増殖抑制効果」に関する論文を、薬理と治療(JPT)誌2019年8月号で発表した。2) このような論文報告を受け、2019年11月11日、養命酒がメディアセミナー「国産ハーブ『クロモジ』の機能性研究におけるインフルエンザ予防の新たな可能性」を開催。伊賀瀬 道也氏(愛媛大学医学部附属病院 抗加齢・予防医療センター長)が「クロモジエキスのインフルエンザ・風邪予防に関するヒト試験について」、河原 岳志氏(信州大学学術研究院農学系 准教授)が「クロモジエキスの持続的な抗ウイルス活性~3回チャージで19時間キープ~」について講演し、報告研究の詳細を語った。クロモジとは… クロモジ(黒文字、漢方名:烏樟[うしょう])は、日本の産地に自生するクスノキ科の落葉低木である。クロモジから得られる精油はリラックス作用が期待されるリナロールを主成分とし、非常に良い香りがあることから、古くから楊枝や香木などに使用されてきた。また、耐久性もあるため、桂離宮の垣根や天皇の即位式後の大嘗祭でも使用された。 これまではクロモジをそのままで利用することが多かったが、近年では加工抽出される精油やアロマウォーターの活用が広がっている。今回の研究では、クロモジを煮出して濃縮、乾燥させて作られるエキス剤が用いられた。このように用途の広がるクロモジだが、近年ではさまざまな機能性研究がなされており、今回は抗ウイルス作用に着目した研究が行われた。食後のクロモジ摂取でインフルエンザの予防、症状緩和 現時点でクロモジの作用機序は解明されていないが、ノロウイルスやロタウイルスの代替ウイルス(ネコカリシウイルス)、日本脳炎ウイルスなどの細胞増殖抑制について報告されている。これを踏まえて、伊賀瀬氏は「in vitroの実験ではインフルエンザウイルスの増殖抑制が達成されており、今回の臨床試験でも同様の結果が得られた。風邪症状の有症期間の短縮については、風邪に感染した後でもクロモジエキス配合あめを摂取することで予後が良好になったのではないか」と推測している。 クロモジは全国各地でお茶として販売されているが、本研究ではあめを利用している。その理由として、同氏は「インフルエンザウイルスは主に上気道で感染して増殖する。抗インフルエンザ効果が長期間発揮するには成分が長く滞留することが必要であり、あめならば咽頭から喉頭部分に滞留するため予防が可能と考えた」と述べた。加えて、「ただし、一般的な予防法(流行前のワクチン摂取、外出後の手洗いなど)を行いながらの摂取が前提」と、注意事項も伝えた。クロモジエキス、1日3回摂取でインフルエンザウイルスの抑制効果アップ 河原氏らは前述の伊賀瀬氏の研究報告を受け、培養細胞を利用したクロモジエキスによるインフルエンザウイルスの増殖抑制タイミングと、その効果の持続性について検証した。その結果、クロモジエキスを細胞培養液から取り除いた24時間後にウイルス感染させても、ウイルス増殖指標の抑制が確認できた。また、本研究では細胞にクロモジエキスを8分間処理して5時間後にウイルス感染させても効果が持続し、さらに、繰り返しクロモジエキス処理を行うことで抑制効果が高まることを実証した2)。これらの結果を踏まえ、同氏は「クロモジエキスはウイルス感染に対して予防的な働きをする」と述べ、今後の作用メカニズムなどの詳細解明について意気込んだ。

1723.

新規デング熱ワクチンの有効性、小児で確認/NEJM

 開発中の4価デング熱ワクチン(TAK-003)は、デング熱が風土病化している国での症候性デング熱に対して有効であることが確認された。シンガポールにある武田薬品工業ワクチン部門Takeda VaccinesのShibadas Biswal氏らが、デング熱が風土病となっているアジア、中南米で実施中の3つの無作為化試験のpart1データを公表し、NEJM誌オンライン版2019年11月6日号で発表した。蚊を媒介としたウイルス性疾患のデング熱は、世界保健機関(WHO)が2019年における世界の健康に対する10の脅威の1つに挙げている。4価デング熱ワクチンを3ヵ月間隔で2回投与 試験では4~16歳の健康な小児と青少年を年齢および地域で層別化し、無作為に2対1の2群に分けて、一方の群には4価デング熱ワクチンを3ヵ月間隔で2回投与し、もう一方にはプラセボを投与した。 被験者が熱性疾患を発症した際には、血清型特異的RT-PCR法による検査を行い、デング熱をウイルス学的に確認。主要エンドポイントは、あらゆるデングウイルス血清型に起因するウイルス学的に確認されたデング熱の予防についての、全体のワクチン有効性だった。 本論では、主要エンドポイントの解析で120例がウイルス学的デング熱と確認され、また被験者が2回目の接種後12ヵ月間のフォローアップを受けていた時点で終了となったpart1データを分析し発表している。デング熱による入院に対するワクチン有効性は95.4% part1データは、ワクチンまたはプラセボを1回以上接種された2万71例(安全性解析対象)のうち、2回接種を受けた1万9,021例(94.8%)を包含しper-protocol解析を行った。 安全性解析対象における全体のワクチン有効性は80.9%(95%信頼区間[CI]:75.2~85.3)で、デング熱を発症したのはプラセボ群6,687例中199例(2.5件/100人年)に対し、ワクチン群は1万3,380例中78例(0.5件/100人年)だった。 per-protocol解析におけるワクチン有効性は80.2%(同:73.3~85.3)で、ウイルス学的に確認されたデング熱はプラセボ群149例、ワクチン群61例だった。デング熱による入院に対するワクチンの有効性は95.4%(同:88.4~98.2)で、入院発生はプラセボ群53例に対しワクチン群5例だった。 per-protocol集団のうち、ベースライン時に血清学的陰性だった27.7%の被験者を対象に行った事前規定の探索的解析では、ワクチンの有効性は74.9%(95%CI:57.0~85.4)で、ウイルス学的に確認されたデング熱はプラセボ群39例に対し、ワクチン群は20例だった。 有効性は、血清型により異なる傾向がみられた。重篤な有害事象の発生率は、プラセボ群3.8%、ワクチン群3.1%と同程度だった。

1724.

新たな結核ワクチン、投与36ヵ月後の有効性は?/NEJM

 結核菌(M. tuberculosis)に感染した成人において、M72/AS01Eワクチン接種は免疫応答を誘導し、少なくとも3年間は肺結核の発症を予防することが認められた。米国・国際エイズワクチン推進構想のDereck R. Tait氏らが、結核菌に対するM72/AS01Eワクチンの有効性、安全性および免疫原性を検討したプラセボ対照第IIb相臨床試験の3年間の最終解析結果を報告した。初期解析の結果では、M72/AS01Eワクチンは結核菌に感染した成人において安全性に懸念はなく、活動性肺結核の発症を54%防ぐことが示されていた。NEJM誌オンライン版2019年10月29日号掲載の報告。結核菌潜伏感染成人を対象にM72/AS01Eの有効性をプラセボと比較 研究グループは2014年8月~2015年11月の期間に、ケニア、南アフリカ共和国、ジンバブエの医療施設において、結核菌に感染(インターフェロンγ遊離試験で陽性)しているが活動性結核症の徴候がない18~50歳の成人を登録し、M72/AS01E群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ1ヵ月間隔で2回投与し、2回目の投与後3年間追跡した。 主要評価項目は、M72/AS01Eの有効性で、第一定義(ヒト免疫不全ウイルスと関連がない細菌学的に確認された肺結核症)による活動性肺結核症の予防で評価した。臨床的に結核が疑われた場合は、喀痰を用いたPCRまたはマイコバクテリア培養、あるいはその両方の検査で確認し、体液性および細胞性免疫反応は300例のサブグループにおいて36ヵ月まで評価した。安全性の解析は、M72/AS01Eまたはプラセボを少なくとも1回投与されたすべての被験者を対象とした。36ヵ月時点のワクチンの有効性は49.7% 計3,575例が無作為化され、そのうち3,573例が少なくとも1回のM72/AS01Eまたはプラセボの投与を受け、3,330例が計画された2回の投与を受けた。 according-to-protocol解析(有効性解析対象集団3,289例)の結果、M72/AS01E群では1,626例中13例、プラセボ群では1,663例中26例で、第一定義に合致した結核の発症を認めた(発症率0.3/100人年vs.0.6/100人年)。36ヵ月時点におけるワクチンの有効性は、49.7%であった(90%信頼区間[CI]:12.1~71.2、95%CI:2.1~74.2)。 M72/AS01E群では、M72特異的抗体の濃度とM72特異的CD4陽性T細胞の発現頻度が、初回投与後に増加し、追跡期間を通して維持された。重篤な有害事象、免疫の関与が疑われる疾患および死亡の発生頻度は、両群で同程度であった。 著者は「さまざまな地域、人種、年齢層で、インターフェロンγ遊離試験陰性例を組み込んだより大規模で長期的な試験で検証する必要がある」とまとめている。

1725.

今季インフルエンザ治療のポイントとは?

 今季インフルエンザは沖縄県での発生を皮切りに早くも流行が始まっているが、今年はどのような対策を講じればよいのだろうか? 2019年10月23日、塩野義製薬株式会社主催のメディアセミナー「インフルエンザの疫学と臨床」が開催。池松 秀之氏(日本臨床内科医会インフルエンザ研究班 リサーチディレクター)がインフルエンザ疫学や薬剤耐性の現況について報告した。今年の流行時期とインフルエンザ型は? 人間に影響を及ぼすインフルエンザウイルスにはA型(亜型としてH1N1[ソ連型]、H1N1pdm、H3N2[香港型]など)とB型がある。そのうちどちらが流行するかで流行時期は毎年異なるのだが、基本的には1月下旬~2月上旬にA型が、それに遅れてB型がピークを迎える。池松氏は各年度でのインフルエンザの流行型・亜型の内訳を提示し過去の動向について解説。2008~09年はインフルエンザのH275Y変異株H1N1(ソ連型)が大流行したものの翌年には消失。新型インフルエンザと呼ばれたH1N1pdm09が出現し、 以降はH1N1pdm09とH3N2が交互に、同様にA型とB型も交互に流行した。この状況を踏まえ、流行の予測は困難であるが、これまでの流行を参照にすると「今年は2010~11年、もしくは2012~13年のようにB型が流行、A型はH1N1が多く発生するのではないか」と述べ、「今年は例年より流行が早く、ピークが年明けになるかどうかはわからない。気温や気候による研究もたくさん実施されているが、それらは明確な予測指標に至っていない」と語った。ウイルス残存率や耐性株からみる今年の注意点とは 昨年はバロキサビルの発売年だったこともあり、多くの医師がバロキサビルを処方したことで耐性株出現などの研究報告が世間を賑わせた。このことから、今年はバロキサビル耐性株に対する治療薬選択への懸念が広がっているが、同氏の所属するインフルエンザ研究班が2018~19年に実施した臨床現場における成人での発熱や症状の改善やウイルスの残存率に関する調査によると、バロキサビルでは治験時と同様の成績(バロキサビルとオセルタミビルでは前者のほうが早くウイルスが消失した)が得られたという。これより同氏は、「治験成績が臨床現場と相違なかったことから、われわれはバロキサビルの治験時データは信頼できると考えている」と述べた。加えて、5種類のインフルエンザ治療薬での平均解熱時間に差がなかったことから、「成人の場合、どの薬剤を選択するかは各医師の患者に適切と思われる薬剤の選択で良い」と、研究班の見解を示した。また、日本感染症学会の提言で話題となった12歳未満への投与については「バロキサビルを絶対使ってはいけないと制限するものではないと受け取っている」とコメントした。 第III相無作為化プラセボ対照予防投与試験であるBLOCKSTONE試験の結果によると、プラセボ群(バロキサビル以外の治療群、n=375)で2例の同居家族がアミノ酸変異(I38変異)を認めた。しかし、この同居家族はその後インフルエンザを発症し、バロキサビルを服用したためI38変異が検出されたという。学会が提言した“慎重投与”が意味することとは? 過去に研究班の症例でもオセルタミビル治療後の成人にて感受性低下ウイルスが分離された例があったが、この時、重症化や周囲への蔓延はなかったという。これを踏まえ、「今後、バロキサビル耐性ウイルスが“治療前”にどれだけ広がるか、バロキサビルの治療にどれくらい影響があるのかは、注意深く見ていく必要がある」と述べ、「成人での感染実験や症状の程度とウイルス量の関係性をみた試験の結果1)、2)を参考に、ウイルス量を早く減らすことで重症化を防げるならば、(ウイルス量を早く消失させることができる)バロキサビルの価値が見いだせるのではないか」とも語った。 耐性に関しては、「小児ばかりがクローズアップされているが、高齢者でも変異ウイルスが一定の頻度で出ているので、高齢者に対しても今後注意を払っていく必要がある」と述べ、「これまではバロキサビル服用後の患者の変異株検出が取り上げられていたが、これは驚くことではない。今年、国立感染症研究所によって未投与患者における耐性株の検出が報告された。耐性株がどの程度伝播していくのかなど、臨床的影響に対して不明点が多いので非常にインパクトがある」とコメントした。さらに「インフルエンザウイルスが免疫機構を免れる新たな手段を手に入れる気配を見せるならば十分注意が必要」と注意点を示した。 最後に同氏は「作用機序やこれまでの試験から推察するに、鳥インフルエンザなどを含め受診が遅れた重症患者のウイルス量低下においてバロキサビルは貢献できるかもしれない」と、締めくくった。 なお、塩野義製薬株式会社によると、今年の9月末までに得られた検体におけるサーベイランススタディは日本小児感染症学会、日本ウイルス学会の両学術集会にて報告された。(11月7日 記事内容を一部修正いたしました)

1726.

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」【下平博士のDIノート】第34回

12週間ごとに投与する新規乾癬治療薬「スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL」 今回は、ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤「リサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注75mgシリンジ0.83mL)」を紹介します。本剤は、初回および4週時の後は12週ごとに皮下投与する薬剤です。少ない投与頻度で治療効果を発揮し、長期間持続するため、中等症から重症の乾癬患者のアンメットニーズを満たす薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年5月24日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはリサンキズマブとして、1回150mgを初回、4週後、以降12週間隔で皮下投与します。なお、患者の状態に応じて1回75mgを投与することができます。<副作用>尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の患者を対象とした国内外の臨床試験(国際共同試験3件、国内試験2件:n=1,228)で報告された全副作用は219例(17.8%)でした。主な副作用は、ウイルス性上気道感染27例(2.2%)、注射部位紅斑15例(1.2%)、上気道感染14例(1.1%)、頭痛12例(1.0%)、上咽頭炎10例(0.8%)、そう痒症9例(0.7%)、口腔ヘルペス8例(0.7%)などでした。150mg投与群と75mg投与群の間に安全性プロファイルの違いは認められていません。なお、重大な副作用として、敗血症、骨髄炎、腎盂腎炎、細菌性髄膜炎などの重篤な感染症(0.7%)、アナフィラキシーなどの重篤な過敏症(0.1%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となるIL-23の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.体内の免疫機能の一部を弱めるため、ウイルスや細菌などによる感染症にかかりやすくなります。感染症が疑われる症状(発熱、寒気、体がだるい、など)が現れた場合には、速やかに医師に連絡してください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹、風疹、麻疹・風疹混合、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.入浴時に体をゴシゴシ洗ったり、熱い湯船につかったりすると、皮膚に過度の刺激が加わって症状が悪化することがありますので避けてください。5.風邪などの感染症にかからないように、日頃からうがいと手洗いを心掛け、体調管理に気を付けましょう。インフルエンザ予防のため、流行前にインフルエンザワクチンを打つのも有用です。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、以前より副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売されている生物学的製剤は、本剤と標的が同じグセルクマブ(商品名:トレムフィア)のほか、抗TNFα抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)およびインフリキシマブ(同:レミケード)、抗IL-12/23p40抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)、抗IL-17A抗体のセクキヌマブ(同:コセンティクス)およびイキセキズマブ(同:トルツ)、抗IL-17受容体A抗体のブロダルマブ(同:ルミセフ)などがあります。また、2017年には経口薬のPDE4阻害薬アプレミラスト(同:オテズラ)も新薬として加わりました。治療の選択肢は大幅に広がり、乾癬はいまやコントロール可能な疾患になりつつあります。本剤の安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。本剤の投与は基本的に医療機関で行われると想定できますので、薬局では併用薬などの聞き取りや、生活指導で患者さんをフォローしましょう。本剤は、初回および4週後に投与し、その後は12週ごとに投与します。国内で承認されている乾癬治療薬では最も投与間隔が長い薬剤の1つとなります。通院までの間の体調を記録する「体調管理ノート」や、次回の通院予定日をLINEの通知で受け取れる「通院アラーム」などのサービスの活用を薦めるとよいでしょう。参考日本皮膚科学会 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2019年版)アッヴィ スキリージ Weekly 体調管理ノート

1727.

ワクチンガイドラインが9年ぶりに改訂

 格安航空会社(LCC)の乗り入れによる海外旅行や海外商圏の広がりによる出張などで渡航する日本人の数は減少することがない。その一方で、海外に渡航し、現地で感染症に罹患するケースも後を絶たない。現地で病に臥せったり、国内には存在しない、または、まれな感染症を国内に持ち込んだりというケースもある。 こうした感染症の予防には、渡航前にワクチンを接種することが重要だが、具体的にどのようなワクチンを、いつ、どこで、誰に、どのようなスケジュールで接種するかは一部の専門医療者しか理解していないのが現状である。 そんな渡航前のワクチン接種について、医療者の助けとなるのが海外渡航者のためのワクチンガイドラインである。今回9年ぶりに改訂された『海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019』では、研究によるエビデンスの集積が困難な事項も多いトラベラーズワクチン領域にあって、現場で適切な接種を普及させるために、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益(疾病の予防効果、他)と害(副反応の可能性、他)のバランスなどを考量し、最善のアウトカムを目指した推奨を呈示すべくClinical Question(CQ)を設定した。また、今版では「I ガイドライン編」と「II ガイダンス編」の2構成となった。6つのCQで接種現場の声に答える 「I ガイドライン編」では、大きく6つのCQを示すとともに、各々のエビデンスレベル、推奨グレードについて詳細に記載した。 たとえば「日本製と海外製のA型肝炎ワクチンの互換性はあるか」というCQでは、「互換性はある程度確認されており、同一ワクチンの入手が困難となった場合、海外製のA型肝炎ワクチンでの接種継続を提案する」(推奨の強さ〔2〕、エビデンスレベル〔C〕)と現場の悩みに答えるものとなっている。インバウンド向けの対応も詳しく記載 「II ガイダンス編」では、総論として海外渡航者に対する予防接種の概要を述べ、高齢者や基礎疾患のある小児などのリスク者、小児・妊婦などの注意すべき渡航者、留学者など接種を受ける渡航者について説明するとともに、渡航先(地域)別のワクチンの推奨、わが国の予防接種に関する諸規定の解説、未承認ワクチンへの取り扱い、インバウンド対応(海外ワクチンの継続、宗教・文化・風習への対応など)が記載されている。 各論では、個々のワクチンについて、特徴、接種法、スケジュール、有効性、安全性、接種が勧められる対象などが説明されている。ワクチンは、A/B型肝炎、破傷風トキソイド・ジフテリアトキソイド・DT、DPT・DPT-IPV・Tdap、狂犬病、日本脳炎、ポリオ、黄熱、腸チフス、髄膜炎菌、コレラ、ダニ媒介性脳炎、インフルエンザ、麻しん・風しん・おたふくかぜ・水痘が記載されている。 その他、付録として、疾患別のワクチンがまとめて閲覧できるように「各ワクチン概要と接種法一覧」を掲載。さらに渡航者から相談の多い「マラリア予防」についても概説している。 2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピックと日本を訪問する外国人も増えることから、渡航者の持ち込み感染も予想される。本書を、臨床現場で活用し、今後の感染症対策に役立てていただきたい。

1728.

痛くなってからでは遅い帯状疱疹

 帯状疱疹は、60歳以降が好発年齢といわれており、強い痛みと残存する神経痛が患者のQOLに大きな影響を及ぼす。水痘として感染したウイルスによるが、一度感染してしまったウイルスを排除する術は今のところなく、ワクチンで予防することが高齢での発症・重症化を防ぐ唯一の手段となる。 2019年8月27日、武田薬品工業が「帯状疱疹の診療・予防の最新動向」をテーマに、都内にてセミナーを開催した。最新の帯状疱疹診療にはどのようなポイントがあるのだろうか。今後も増え続ける? 高齢者の帯状疱疹 はじめに、川島 眞氏(医療法人社団ウェルエイジング Dクリニック東京 総院長/東京女子医科大学 名誉教授)が「高齢化社会における帯状疱疹診療の方向性」について講演を行った。わが国では年間約60万人が帯状疱疹を発症すると推定されており、そのうち50歳以上が約7割を占める。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を経験するという報告もあり、近年、50歳以上の発症率は増加傾向にある1)。 原因として、小児の水痘ワクチンが2014年に定期接種化されて以降、水痘患者の減少により免疫のブースター効果を受ける機会が減っていることが考えられる。帯状疱疹の発症数と水痘の流行は逆相関することが以前から知られており、帯状疱疹患者は今後も増加していくと予想される。発症予防には細胞性免疫の強化が必須 小豆島における前向き疫学研究(SHEZ study2))において、帯状疱疹の発症率や、発症リスク・重症度と免疫の関連などについて調査が行われた。その結果、発症リスクは水痘皮内反応(細胞性免疫)が強い人ほど低く、一方で、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に対する抗体価は発症リスクに影響しないことが明らかになった。帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症予防には、細胞性免疫が重要だ。 水痘・帯状疱疹ワクチンの接種で、VZV特異的細胞性免疫の強化が期待されている。海外の臨床試験では、水痘・帯状疱疹ワクチンにより、プラセボと比較して帯状疱疹の発症が51.3%、PHNの発症が66.5%減少したという報告3)がある。 川島氏は「帯状疱疹診療は、高齢化に伴い治療から予防へ方針が移ってきている。帯状疱疹を予防するワクチンは50歳以上が対象なので、免疫が低下してワクチンが打てなくなる前に接種勧奨することが重要」と強調した。発症後の経過で、痛みは変化していく 続いて、山口 重樹氏(獨協医科大学 医学部 麻酔科学講座 教授)が「帯状疱疹にまつわる痛みについて」をテーマに語った。帯状疱疹の痛みは、「焼けつくよう」「電気が走るよう」などと表現され、病期に伴い侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛へ変化していくことが特徴だ。 山口氏は「痛みとは心身共に影響があるもので、痛みの続く期間が長いほど正常な生活が妨げられ、生命予後にも影響を及ぼすことがわかっている。よって、治療では痛みをできる限り早く改善することが非常に大切だ」と示した。皮膚症状が改善しても、患者の痛みは続いている 帯状疱疹患者の半数以上が、発症時(初診時)から中等度以上の強い痛みを自覚している。皮膚症状は、抗ウイルス薬の投与によって2週間程度で軽減し、4週間程度で消失に至るが、疼痛残存率は21日後で50%、90日後で12.4%、1年後で4.0%という報告4)がある。皮膚症状が重篤であるほど、また高齢であるほど痛みが遷延する可能性が高くなる。 「帯状疱疹は皮膚の病気と思われがちだが、神経の病気でもある。皮膚症状が治まった後も残る疼痛のつらさは、家族や周りの人から理解されにくい面がある」と指摘した。 PHNを疑う兆候として「針で刺されるような痛み」「電気が走るような痛み」など、「しびれ」を連想させる表現がよく用いられるという。とくに、衣服がこすれたり冷風にあたったりするだけで痛む「アロディニア(異痛症)」がある場合は注意しなければならない。「神経障害性疼痛を感じている患者さんは、着替えや入浴を嫌がったり、罹患部にガーゼを当てたり保湿剤を塗ったりする様子が見受けられることがある」と診断のポイントを示した。強い痛みが改善したあとは、休薬を目指す 長期間強い痛みを感じている患者は、抑うつや不安、不眠、自己肯定感の低下、痛みの破局化(死んだほうがまし、生きている意味がないと感じるなど)など、生活でのさまざまな苦痛を感じている。医療者は、患者の感じている痛みの強弱だけでなく、種々の尺度で痛みを多面的に評価し、治療を進めていくことが求められる。 「私が考える痛み治療の目安は半年間。ピークを超えたら徐々に減薬し、休薬を目指す。神経が損傷している場合、痛みが完全になくなることはないので、元の生活に戻すことを意識して、痛みから気を逸らせる環境(趣味など)を作ることも大切」とまとめた。 帯状疱疹やPHNの予防にはワクチンが有効だが、発症後の早期介入も予後に大きく関わる。院内の待合室などに帯状疱疹のポスターを貼っておくと、患者だけでなく家族の目にも止まり、疾患・ワクチンの啓発につながるかもしれない。

1729.

NSCLC免疫治療のバイオマーカーと生存期間の関係

 非小細胞肺がん(NSCLC)における免疫療法の役割や現在のバイオマーカーの臨床的関連について、興味深い知見が示された。中国・中山大学のYunfang Yu氏らは臨床試験計31件のメタ解析を行い、免疫療法はNSCLC患者の予後改善が期待できること、免疫療法の有効性を評価するバイオマーカーとしてはPD-L1発現と腫瘍遺伝子変異量(TMB)の併用が有用で、CD8+T細胞腫瘍浸潤リンパ球も加えることでさらに信頼性が高い予後予測が可能となることを示した。著者は、「これらを併用した予測値について、前向き大規模臨床試験で確認する必要がある」とまとめている。JAMA Network Open誌2019年7月号掲載の報告。 研究グループは、進行NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬、腫瘍ワクチンおよび細胞性免疫療法と臨床転帰との関連を評価し、適切な治療戦略、対象および予測因子を探索する目的で、メタ解析を行った。 PubMed、EMBASEおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsのデータベースを用い、2018年6月までに発表された論文について、tumor vaccine、cellular immunotherapy、immune checkpoint inhibitor、cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4、programmed death-ligand 1、programmed death receptor 1、non-small cell lung carcinomaを含むキーワードおよびMeSH用語で検索するとともに、システマティックレビュー、メタ解析、参考文献、学会抄録集は手作業で検索した。進行/転移NSCLC患者を対象に、免疫チェックポイント阻害薬、腫瘍ワクチンまたは細胞性免疫療法と従来の治療法について、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)または奏効率(ORR)を比較している無作為化臨床試験で、英語の論文を解析に組み込んだ。解析は2018年2月1日~8月31日に行われた。 主要評価項目は、OSおよびPFSであった。 主な結果は以下のとおり。・無作為化臨床試験31件、計1万4,395例(男性66%)がメタ解析に組み込まれた。・従来の治療法と比較して、免疫療法はOS(HR:0.76、95%CI:0.71~0.82、p<0.001)およびPFS(HR:0.76、95%CI:0.70~0.83、p<0.001)の有意な延長と関連した。・PD-L1発現とTMBを併用した予後予測は、それぞれの単独よりも有用であった。全エクソームシークエンス実施群では、併用法による1年PFSに関するROC(receiver operating characteristic curve)のAUC(area under the curve)が0.829、3年PFSのAUCが0.839、ターゲット次世代シークエンス実施群では、それぞれ0.826および0.948であった。・さらにCD8+T細胞腫瘍浸潤リンパ球も加えた併用法は、OSの予測値が最も高かった(3年OSのAUC:0.659、5年OSのAUC:0.665)。・RYR1またはMGAM遺伝子変異は、持続的臨床効果(DCB)、高TMBおよびPD-L1高発現と有意に関連していた。・RYR1遺伝子変異の頻度は、DCBあり群で24%(12/51例)、DCBなし群で4%(2/55例)(p<0.001)、高TMB群で23%(12/53例)、低TMB群で3.8%(2/53例)(p<0.001)、PD-L1高発現群で27%(8/30例)、PD-L1低発現群で7.1%(6/85例)(p<0.001)であった。・MGAM遺伝子変異の頻度は、DCBあり群で24%(12/51例)、DCBなし群で0%(p<0.001)、高TMB群で17%(9/53例)、低TMB群で0%(p<0.001)、PD-L1高発現群で20%(6/30例)、PD-L1低発現群で6%(5/85例)(p<0.001)であった。

1730.

ゾフルーザに低感受性の変異株に関する調査結果

 昨年発売された抗インフルエンザウイルス薬のバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)は、臨床試験において、本剤に対する感受性が低下したPA/I38アミノ酸変異株の発現が報告されたことから、各国でその影響について検証が進められている。 2019年9月2日、塩野義製薬は、バロキサビルの特定使用成績調査におけるPA/I38アミノ酸変異株に関する結果を公表した。この内容は8月28日~9月1日にシンガポールで開催されたOptions X for the Control of Influenza(OPTIONS X)にて発表された。同学会では、1 歳以上12 歳未満の小児インフルエンザ患者に対するグローバル第III相試験、インフルエンザ発症抑制効果を検証した国内第III相試験の結果も報告された。わが国の特定使用成績調査におけるPA/I38アミノ酸変異株 OPTIONS Xでは、2018-2019シーズンに実施されたバロキサビルの特定使用成績調査における、PA/I38アミノ酸変異株に関する結果を、齋藤 玲子氏(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 教授)が発表した。本調査の対象は、国内6医療施設を受診しバロキサビルの投与を受けた20歳以下のA型インフルエンザ患者96例で、A/H1N1pdm型が32例、A/H3N2型が64例だった。 主な結果は以下のとおり。・バロキサビル投与3~6日後(再診時)におけるPA/I38Tアミノ酸変異株は、A/H1N1pdm型感染患者の6.3%(2/32例)、A/H3N2型感染患者の10.9%(7/64例)で検出された。同様に、PAタンパク質のどこかに変異の入った株の出現頻度は、それぞれ12.5%(4/32例)および14.1%(9/64例)だった。・解熱までの平均時間は、再診時にPA/I38Tアミノ酸変異株が検出された患者(9例)では0.99±1.21日、変異のないウイルス株が検出された患者(21例)では1.02±1.06日、インフルエンザウイルスが検出限界以下であった患者(62例)では0.76±0.86日で、PA/I38Tの変異による差は認められなかった。・患者より単離したPA/I38変異株は、バロキサビルに対する感受性がおよそ1/50~1/250に低下していたが、これらの患者個別の解熱までの時間はいずれも1日程度だった。小児における有害事象と有効性 同学会では、適応追加に向けた第III相試験の結果も報告された。1つは、1歳以上12歳未満の小児インフルエンザ患者を対象とするMINISTONE-2試験で、本試験はRocheグループによる多施設共同、無作為化、二重盲検比較のグローバル第III相試験である。 主要評価項目として、被験薬投与後29日目までに有害事象(重篤な有害事象を含む)を示した被験者の割合が検討された。その結果、1つ以上の有害事象を示した被験者の割合は、バロキサビル群で46.1%、オセルタミビル群で53.4%だった。本試験で示された小児における安全性プロファイルに、これまでに実施された成人・青少年における試験結果との矛盾はなかった。 さらに、副次評価項目としてバロキサビルの有効性をオセルタミビルと比較した結果、インフルエンザ罹病期間の中央値は、バロキサビル群で138.1時間、オセルタミビル群で 150.0時間だった。一方、体内からのウイルス排出期間の中央値は、バロキサビル群24.2時間、オセルタミビル群75.8時間で、バロキサビルはウイルス排出期間を短縮した。国内予防投与試験の結果、インフルエンザ発症が86%減少 日本でバロキサビルの予防効果を検討したBLOCKSTONE試験の結果も報告された。本試験は、インフルエンザ患者(初発)の同居家族または共同生活者750例を対象に実施した、多施設共同、無作為化、プラセボ対照二重盲検比較の第III相試験である。 主要評価項目として、被験薬を予防投与後10日間でインフルエンザを発症した被験者の割合が検討された。その結果、インフルエンザウイルスに感染し、発熱かつ呼吸器症状を発現した被験者の割合は、バロキサビル群1.9%(7/374例)、プラセボ群13.6%(51/375例)であり、バロキサビルの投与により、インフルエンザの発症割合はプラセボ群に対し86%減少した(p<0.0001)。 また、サブグループ解析により、重症化および合併症を起こしやすいリスク要因を持つ被験者および12歳未満の小児においても、バロキサビルはプラセボに対し発症抑制効果を示し、ウイルスの亜型やワクチン接種の有無にかかわらず有効だった。 有害事象の発現率は、バロキサビル群22.2%、プラセボ群20.5%で、バロキサビル群において重篤な有害事象の発現は認められなかった。

1731.

日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性

 インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防や発症後の重症化の予防に一定の効果があるとされている。今回、東北大学の國吉 保孝氏らが、地域の小中学生における季節性不活化インフルエンザワクチン接種(IIV)の有効性について2シーズンで評価した結果が報告された。Human Vaccines & Immunotherapeutics誌オンライン版2019年8月19日号に掲載。 本研究は、公立小中学校の生徒における2012/13年および2014/15年シーズンのデータでの横断調査。調査地域における対象学年の全員にアンケートを配布し、得られた7,945人の回答を分析した。予防接種状況とインフルエンザ発症は、両親または保護者による自己申告式アンケートにより判断した。一般化線形混合モデルを用いて、学校および個人の共変量におけるクラスタリングを調整し、予防接種状況とインフルエンザ発症との関連についてオッズ比および95%信頼区間(CI)を計算した。 主な結果は以下のとおり。・予防接種率は2シーズンで同程度であったが、2015年のインフルエンザ発症率は2013年の調査よりも高かった(25% vs.17%)。・未接種群に対する、1回もしくは2回の予防接種を受けた群におけるオッズ比は、2013年では0.77(95%CI:0.65~0.92)、2015年では0.88(95%CI:0.75~1.02)であった。・必要な回数の接種を完了した群におけるオッズ比は、2013年では0.75(95%CI:0.62~0.89)、2015年では0.86(95%CI:0.74~1.00)であった。 これらの結果から、地域社会のリアルワールドにおいて、季節性IIVが日本の小中学生のインフルエンザを予防したことが示された。なお、2シーズン間の臨床効果の差については、「おそらく流行株とワクチン株の抗原性のミスマッチが原因」と著者らは考察している。

1732.

妊娠中の新型インフルワクチン接種、出生児5歳までのアウトカム/BMJ

 妊娠中に受けた2009年パンデミックH1N1(pH1N1)インフルエンザワクチン接種と、出生児の5歳までの健康アウトカムについて、ほとんど関連性は認められないことが、カナダ・オタワ大学のLaura K. Walsh氏らにより報告された。10万例超の出生児を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果で、若干の関連性として、喘息の増加と消化器感染症の低下が観察されたが、著者は「これらのアウトカムは、さらなる検討で評価する必要がある」と述べている。BMJ誌2019年7月10日号掲載の報告。感染症、喘息、腫瘍、感覚障害、入院などのリスクを検証 研究グループは、カナダ・オンタリオ州の住民ベースの出生レジストリと健康管理データベースを結び付けて、2009年11月~2010年10月の出生児10万4,249例について、母親が妊娠中に受けたpH1N1インフルエンザワクチン接種と、5歳までのアウトカムとの関連を検証した。 主要アウトカムは、免疫関連疾患(感染症、喘息)、免疫に関連しない疾患(腫瘍、感覚障害)、非特異的疾患アウトカム(救急または入院医療サービス利用、小児の複合的な慢性疾患)の割合だった。5歳までの死亡率についても評価を行った。 傾向スコア重み付け法を用いて交絡因子を補正し、ハザード比、罹患率比、リスク比を算出した。ほとんど関連なし、わずかに喘息リスクが1.05倍、消化器感染症が0.94倍 10万4,249例のうち、子宮内でpH1N1インフルエンザワクチンの曝露を受けたのは3万1,295例(30%)だった。 解析の結果、上気道・下気道感染、中耳炎、感染症、腫瘍、感覚障害、救急または入院医療サービス利用、小児複合慢性疾患、死亡のいずれについても、有意な関連は見つからなかった。 ただしわずかな関連性として、喘息リスクの増加(補正後ハザード比:1.05、95%信頼区間:1.02~1.09)、消化器感染症の低下(補正後罹患率比:0.94、同:0.91~0.98)が認められた。これらの関連性は、受療行動や医療サービスへのアクセスについて潜在的格差を反映して行った感度分析でも、同様に認められた。

1733.

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第30回

関節リウマチに対する3剤目の経口JAK阻害薬「スマイラフ錠50mg/100mg」今回は、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬「ペフィシチニブ臭化水素酸塩(商品名:スマイラフ錠50mg/100mg)」を紹介します。本剤は、1日1回の服用でJAKファミリーの各酵素(JAK1/2/3、チロシンキナーゼ2[TYK2])を阻害し、関節リウマチによる関節の炎症や破壊を抑制します。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年7月10日より発売されています。なお、過去の治療において、メトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬などによる適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与します。<用法・用量>通常、成人はペフィシチニブとして150mg(状態に応じて100mg)を1日1回食後に投与します。なお、中等度の肝機能障害がある場合は、50mg/日を投与します。<副作用>後期第II相試験、第III相臨床試験2件および継続投与試験の4試験における安全性併合解析において、本剤が投与された患者1,052例中810例(77.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、上咽頭炎296例(28.1%)、帯状疱疹136例(12.9%)、血中CK増加98例(9.3%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、帯状疱疹(12.9%)、肺炎(ニューモシスチス肺炎などを含む)(4.7%)、敗血症(0.2%)などの重篤な感染症、好中球減少症(0.5%)、リンパ球減少症(5.9%)、ヘモグロビン減少(2.7%)、消化管穿孔(0.3%)、AST(0.6%)・ALT(0.8%)の上昇などを伴う肝機能障害、黄疸(5.0%)、間質性肺炎(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ヤヌスキナーゼという酵素を阻害することにより、関節の炎症や腫れ、痛みなどの関節リウマチによる症状を軽減します。2.持続する発熱やのどの痛み、息切れ、咳、倦怠感などの症状が現れた場合はすぐにご連絡ください。3.痛みを伴う発疹や皮膚の違和感、局所の激しい痛み、神経痛などが現れた場合は速やかに受診してください。4.この薬を服用している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合には主治医に相談してください。5.(妊娠可能年齢の女性の場合)この薬を服用中および服用終了後少なくとも1月経周期は、適切な避妊を行ってください。6.本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>関節リウマチの薬物療法は近年大きく進展しています。関節破壊の進行抑制を含めた病態コントロールのため、発症初期にはMTXをはじめとする従来型疾患修飾性抗リウマチ薬(cDMARDs)が使用されます。MTXなどを十分量で用いても効果不十分な場合には、生物学的製剤であるTNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)やIL-6阻害薬(トシリズマブなど)、T細胞活性抑制薬(アバタセプト)、もしくは低分子標的薬であるJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ)が使用されます。本剤は、関節リウマチに用いる3剤目のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3およびTYK2を阻害し、関節の炎症や破壊を抑制します。生物学的製剤は点滴または皮下注射での投与となりますが、しばしば発疹などの投与時反応や注射部位疼痛が問題となることがあります。JAK阻害薬は経口投与のため、非侵襲性の治療を望む患者さんや自己注射が困難な患者さんであっても、好みや生活環境に合わせた治療を選択することができると期待されています。また、本剤は相互作用も少なく、1日1回投与であるため、高齢者でも使用しやすいと考えられます。留意点としては、中等度の肝機能障害を有する患者については投与量の制限があることが挙げられます。また、本剤は免疫反応に関与するJAK経路の阻害により、結核、肺炎、敗血症などの感染症リスクが増大する懸念があることから、既存のJAK阻害薬2剤と同様に、生物学的製剤や他のJAK阻害薬などの免疫を抑制する薬剤との併用はできません。承認時の臨床試験では、副作用として12.9%で帯状疱疹が報告されているので、とくに高齢の患者さんでは、使用前に帯状疱疹ワクチン接種の有無などについて確認し、服用後に帯状疱疹が現れる可能性について注意喚起をしておく必要があるでしょう。

1734.

帯状疱疹ワクチン、自家造血幹細胞移植後の帯状疱疹予防に有効/JAMA

 帯状疱疹の罹患は健康人においても深刻だが、とくに自家造血幹細胞移植(auHSCT)後の発症頻度が高い合併症として知られており、病的状態と関連している。移植後帯状疱疹の予防のために開発された非生アジュバント添加遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチンの第III相臨床試験の結果が報告され、auHSCTを受けた成人患者において本ワクチンの2回接種により、追跡期間中央値21ヵ月時の帯状疱疹の発症率が有意に低下したことが示された。JAMA誌2019年7月9日号掲載の報告。 研究グループは2012年7月13日~2017年2月1日に、28ヵ国167施設にて第III相無作為化観察者盲検試験を実施した。 対象は、18歳以上のauHSCT施行者1,846例で、ワクチン群(922例)とプラセボ群(924例)に1対1の割合で無作為に割り付け、移植後50~70日後に1回目、その1~2ヵ月後に2回目の接種を行った。主要評価項目は、帯状疱疹の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・1,846例(1回以上の接種を受けた患者)の患者背景は、平均年齢55歳、女性688例(37%)で、1,735例(94%)が2回の接種を受け、1,366例(74%)が試験を完了した。・追跡期間中央値21ヵ月において、1回以上帯状疱疹を発症した患者が、ワクチン群で49例、プラセボ群で135例確認された(1,000人年当たりの発生率30 vs.94)。発生率比(IRR)は0.32(95%CI:0.22~0.44、p<0.001)であり、ワクチンの有効率は68.2%であった。・副次評価項目において、帯状疱疹後神経痛の有意な減少(ワクチン群1例、プラセボ群9例、IRR:0.1、95%CI:0.00~0.78、p=0.02)、帯状疱疹関連合併症の有意な減少(ワクチン群3例、プラセボ群13例、IRR:0.22、95%CI:0.04~0.81、p=0.02)、および重症帯状疱疹関連痛の持続期間減少(ワクチン群892.0日、プラセボ群6,275.0日、HR:0.62、95%CI:0.42~0.89、p=0.01)が認められた。・注射部位反応の発現率は、ワクチン群86%、プラセボ群10%であった。主な症状は痛みで、ワクチン群の84%(Grade3が11%)に認められた。・自発的に報告された重篤な有害事象、潜在的な免疫介在疾患および基礎疾患の再発は、すべての時点で両群とも類似していた。

1735.

インバウンド感染症の対応に役立つサイトを公開~日本感染症学会

 2020年7月24日から東京オリンピック・パラリンピックが開催される。日本感染症学会では、海外からの持ち込み感染症への対応として、訪日外国人の受診患者の臨床症状から想起すべき感染症とその対応をコンパクトにまとめた「症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~-感染症クイック・リファレンス」を7月23日に学会ホームページに公開した。 わが国では訪日外国人が急増し、今後外国人労働者の増加も予想されるため、日本全国どこでも臨床医がインバウンド感染症に遭遇する可能性がある。東京オリンピック・パラリンピックの期間だけでなく、その終了後も臨床医にとって有用と思われる。インバウンド感染症の感染対策を提示 本サイトの特徴として以下の点が挙げられる。・患者を前にした状況で役立つ鑑別診断および関連情報を、迅速かつわかりやすく参照可能・発熱、呼吸器症状、下痢、発疹、急性神経症状などの主要症状から考えておくべき疾患に直接リンク・外来診療で、ベットサイド診察中に症状別のクイック・リファレンスが可能・国際的マスギャザリングに関連したワクチン、インバウンド感染症の感染対策を提示・感染症各論で重要な75疾患の概要がまとめられ、海外からの持ち込み感染症として忘れてはいけない疾患が参照可能 なお、この「感染症クイック・リファレンス」は「2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体(AC2020)」の協賛事業として制作され、公益社団法人日本小児科学会、日本小児感染症学会の協力を受けている。また、AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「ウイルス性重症呼吸器感染症に係る診断・治療法の研究(代表:森島恒雄)」から一部助成を受けている。

1736.

HPVワクチン、感染と異形成の双方を抑制/Lancet

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種プログラムは、女性のHPV感染および子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)Grade2(中等度)以上の異形成(2+)を抑制し、男女の肛門性器疣贅を減少させることを示す強固なエビデンスが、カナダ・ラヴァル大学のMelanie Drolet氏らHPV Vaccination Impact Study Groupによる6,000万人以上を最長8年間追跡したデータのメタ解析で得られた。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年6月26日号に掲載された。HPVワクチン接種が開始されて10年以上が経過し、現在、99の国と地域で接種プログラムが導入されており、リアルワールドにおける有効性の評価や年齢別の効果の定量化が求められている。HPVワクチン接種、14ヵ国の最長8年時のデータのメタ解析 研究グループは、2015年に、9つの高所得国でHPVワクチン接種プログラム導入から最長4年時の効果に関するメタ解析を行っており、今回は、14ヵ国の最長8年時のデータを解析した(世界保健機関[WHO]などの助成による)。 前回の報告と同様の方針で、2014年2月1日~2018年10月11日までに発表された研究を検索した。一般集団において、HPVワクチン接種前後の期間で、1つ以上のHPV関連エンドポイント(HPV性器感染、肛門性器疣贅の診断、組織学的に確定されたCIN2+)の頻度(有病率または罹患率)を比較している、HPVワクチン接種前後の同一集団データを用いた研究、および患者登録の方法を用いた研究を対象とした。 主要評価項目は、HPVワクチン接種前と接種後の期間におけるHPV関連エンドポイントの頻度(有病率または罹患率)の比較における相対リスク(RR)とした。性別、年齢、HPVワクチン接種導入以降の年数で層別化した。変量効果モデルを用いて統合RRを推計した。HPVワクチン接種により大きな直接効果とともに集団免疫効果も メタ解析では、14の高所得国から報告された65件の研究(HPV感染23件、肛門性器疣贅29件、CIN2+ 13件)の論文が対象となった。2007~15年の8年間(CIN2+は9年間)における6,000万人以上のデータが解析に含まれた。 HPVワクチン接種後5~8年の期間に、HPV 16/18型の有病率は13~19歳の女性で83%(RR:0.17、95%信頼区間[CI]:0.11~0.25)、20~24歳の女性では66%(0.34、0.23~0.49)、それぞれ有意に低下した。そのほとんどがHPVワクチン接種を受けていない25~29歳の女性では、1~4年の期間ではHPV 16/18型の有病率に有意な差は認めなかった(0.86、0.69~1.07)のに対し、5~8年後には37%(0.63、0.41~0.97)有意に低下しており、集団免疫効果が示唆された。 また、HPVワクチン接種後5~8年の期間に、HPV 31/33/45型の有病率は13~19歳の女性で54%(RR:0.46、95%CI:0.33~0.66)有意に低下したが、20~24歳の女性では有意な差はみられなかった(0.72、0.47~1.10)。 参加者のHPVワクチン接種率が高かった(≧50%)試験は、低かった(<50%)試験に比べ、全般にHPV 16/18型およびHPV 31/33/45型の有病率が低かったが、有意差はなかった。 肛門性器疣贅の診断は、HPVワクチン接種後5~8年の期間に、15~19歳の女性で67%(RR:0.33、95%CI:0.24~0.46)、20~24歳の女性で54%(0.46、0.36~0.60)、25~29歳の女性では31%(0.69、0.53~0.89)、それぞれ有意に低下した。また、HPVワクチン接種を受けていない15~19歳の男性でも48%(0.52、0.37~0.75)、20~24歳の男性では32%(0.68、0.47~0.98)、それぞれ有意に低下しており、集団免疫効果が示唆された。 HPVワクチン接種後5~9年間に、CIN2+は15~19歳の女性で51%(RR:0.49、95%CI:0.42~0.58)、20~24歳の女性では31%(0.69、0.57~0.84)、それぞれ有意に低下した。これに対し、同時期に、そのほとんどがHPVワクチン接種を受けていない25~29歳の女性では、CIN2+が19%(1.19、1.06~1.32)有意に増加し、30~39歳の女性でも23%(1.23、1.13~1.34)有意に増加した。 著者は、「原因(高リスクのHPV感染)と疾患エンドポイント(CIN2+)の双方が有意に減少したことから、HPVワクチン接種の実施により、リアルワールドにおいて子宮頸がんが予防されたことを示す強固なエビデンスがもたらされた」とし、「複数集団へのHPVワクチン接種と高い接種率によって、より大きな直接効果と集団免疫効果がもたらされた」と指摘している。

1737.

新インフルワクチンで毎年の接種不要に? P1試験開始/NIH

 インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。 この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は? インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。 HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。 VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。 H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。健康な成人における抗原性、安全性と忍容性を調べる第I相試験 第I相臨床試験には、18~70歳までの健康な成人少なくとも53人が、段階的に組み入れられる。最初の5人の参加者は18~40歳で、H1ssF_3928(20µg)の筋肉内注射を1回受ける。残りの48人は、H1ssF_3928(60 µg)を16週間間隔で2回受ける予定となっている。 参加者は年齢によってそれぞれ12人ずつ4つのグループに層別される予定である(8~ 40歳、41~49歳、50~59歳、60~70歳)。研究者らは、H1ssF_3928に対する免疫反応が、年齢およびさまざまなインフルエンザ変異型への曝露歴に基づいてどのように変化するかを明らかにしたいと考えている。参加者は、接種後1週間、体温およびあらゆる症状を記録するよう求められる。また、12~15ヵ月の間に9~11回フォローアップ受診し、血液サンプルを提供する。研究者らはそのサンプルにより、インフルエンザに対する免疫を示す抗インフルエンザ抗体のレベルを特徴付けて測定する。なお、参加者が試験中にインフルエンザウイルスに曝露されることはない。 VRCでは、この臨床試験を長年の関連研究開発の集大成と位置付けている。2019年末までの登録完了、2020年はじめの結果報告開始を予定している。■参考NIHニュースリリースNCT 03814720(Clinical Trials.gov)

1738.

PCV10ワクチン導入、ケニアでIPDが激減/Lancet

 ケニアにおいて、キャッチアップキャンペーン(追加的なワクチン接種活動)を伴う10価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV10)接種の導入により、小児/成人におけるPCV10型の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)が有意な血清型置換を伴わず大幅に減少したという。米国・ジョンズホプキンス大学公衆衛生学大学院のLaura L. Hammitt氏らが、ケニア海岸農村部キリフィ県の「健康と人口動態追跡調査システム(Health and Demographic Surveillance System:HDSS)」に登録されている住民を対象とした、ケニア中央医学研究所とイギリス・ウェルカムトラスト財団の共同研究プログラム(KEMRI-Wellcome Trust Research Programme)によるサーベイランス研究の結果で、著者は「幼児のPCV10型定期予防接種プログラムが熱帯アフリカの低所得地域において直接的および間接的に大きな予防効果を上げる可能性が示唆された」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年4月15日号掲載の報告。PCV10による予防接種の有効性をサーベイランスで評価 ケニアでは、2011年1月に生後6週、10週および14週に接種するPCV10が導入された(キリフィ県では5歳未満の小児を対象としたキャッチアップを伴っている)。 研究グループは、キリフィ県の小児および成人における鼻咽頭保菌とIPDに対するPCV10の有効性を評価する目的で、1999~2016年にHDSSが運用されたキリフィ県立病院に入院した患者(全年齢)におけるIPDの臨床的および細菌学的調査を解析した。ワクチン導入前(1999年1月1日~2010年12月31日)とワクチン導入後(2012年1月1日~2016年12月31日)で、交絡因子を調整したIPDの罹患率比(IRR)を算出し、1-IRRの計算式でIPDの減少率を報告した。鼻咽頭保菌については、2009~16年に年次調査を行った。 月齢2~11ヵ月の小児で2回以上PCV10の接種を受けた割合は、2011年で80%、2016年で84%、月齢12~59ヵ月の小児で1回以上PCV10接種を受けた割合はそれぞれ66%および87%であった。ワクチンに含まれる血清型のIPDは92%減少、あらゆる血清型のIPDは68%減少 HDSSの観察期間中、321万1,403人年でIPDは667例が確認された。5歳未満の小児の年間IPD発生率は、2011年のワクチン導入後に急激に低下し、低い状態が継続した(PCV10型IPD:ワクチン導入前60.8例/10万人vs.ワクチン導入後3.2例/10万人、補正後IRR:0.08[95%信頼区間[CI]:0.03~0.22]、あらゆる血清型のIPD:81.6例/10万人vs.15.3例/10万人、補正後IRR:0.32[95%CI:0.17~0.60])。 ワクチン未接種の年齢集団においても、ワクチン導入後の時期でPCV10型IPDの発生率が同様に低下した(月齢2ヵ月未満:ワクチン導入後の症例は0、5~14歳:補正後IRR:0.26[95%CI:0.11~059]、15歳以上:補正後IRR:0.19[95%CI:0.07~0.51])。非PCV10型IPDの発生率は、ワクチン導入前後で違いは確認されなかった。 5歳未満の小児において、PCV10型の保菌率はワクチン導入前後で低下し(年齢標準化補正後有病率:0.26、95%CI:0.16~0.35)、非PCV10型の保菌率は増加した(1.71、1.47~1.99)。

1740.

第1回 一介の勤務医があの『コード・ブルー』の公式イベントに呼ばれたワケ【外科医けいゆうの気になる話題】

第1回 一介の勤務医があの『コード・ブルー』の公式イベントに呼ばれたワケ2018年7月4日17時半ごろ、私はお台場海浜公園駅構内のトイレにいました。目的はただ1つ。フジテレビ内の会場で登壇する前に、鏡の前で髪型を整えることでした。その日は風が強く、聴衆の前に立つのに髪型が乱れていては恥ずかしい、と思ったからです。私のような何のポジションもない一介の若手勤務医が、『劇場版コード・ブルー』という、のちに興行収入90億円超となる大ヒット映画の公式イベントに登壇し、ドラマのストーリーを医学的に解説することになっている―。私は鏡の前で、それまでの数奇な1年間を思い出さずにはいられませんでした。なぜこんなことになったのでしょうか?2017年5月、私は独自に医療情報ウェブサイト「外科医の視点」を立ち上げました。当時、ネット上には医療に関する間違いだらけの情報があふれていました。「インフルエンザワクチン」と検索すると、1位には「インフルエンザワクチンは接種するな」というまとめサイトが出ました。「胃カメラ 食事」の検索での1位は、「事前に禁止されたお酒や食べ物をどのくらいぎりぎりまで摂取してもバレないか」を実験した個人のブログ記事でした。こういう記事は、閲覧したユーザーに健康被害を与えるリスクがあります。強い焦燥感を覚えた私は、ネットで医療に関する疑問を検索したユーザーに、自分が作ったサイトで正しい情報を手に入れてもらいたいと考えたのです。私にとって幸運だったのは、サイトを開設した年に、偶然、医療ドラマ『コード・ブルー』の3作目の放送が始まったことでした。コード・ブルーといえば、これまで高視聴率を記録し続けてきた人気のシリーズ作品。3作目の「3rd SEASON」は、7年ぶりの新作ということで、世間の期待も高まっていました。私は、このドラマに出てきた医学的な内容をサイトで解説すれば、エンタメを使った効果的な啓発ができるのではないか、と考えました。そして、コード・ブルーのストーリーを土台に、長文記事を量産しました。3rd SEASON終了後は、1st、2nd SEASONもすべて視聴し直し、劇場版も含めシリーズ合計70本以上の解説記事をネットに投下しました。のちにこれがネット上で話題になり、合計200万回以上閲覧され、コード・ブルーシリーズを手掛けた増本 淳プロデューサーから「異常な熱意だ」と苦笑いで褒められることになります。オンラインで始めた活動が、最終的に「公式イベント登壇」というオフラインでの活動につながる、というのは、われながら実に「現代的」な情報発信のスタイルだと感じました。今はまさに、無名の個人が発信した情報が、多くのユーザーに直接届く時代です。ウェブサイト、各種SNS、YouTubeなどのプラットフォームは豊富にあります。今回から始まったこの連載もその1つ。多くの方々が読むメディアで文章を書かせていただくことに感謝しつつ、少しでも読者の皆さまのお役に立てる情報を提供していけたらと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

検索結果 合計:2157件 表示位置:1721 - 1740