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新インフルワクチンで毎年の接種不要に? P1試験開始/NIH

 インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。 この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は? インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。 HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。 VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。 H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。健康な成人における抗原性、安全性と忍容性を調べる第I相試験 第I相臨床試験には、18~70歳までの健康な成人少なくとも53人が、段階的に組み入れられる。最初の5人の参加者は18~40歳で、H1ssF_3928(20µg)の筋肉内注射を1回受ける。残りの48人は、H1ssF_3928(60 µg)を16週間間隔で2回受ける予定となっている。 参加者は年齢によってそれぞれ12人ずつ4つのグループに層別される予定である(8~ 40歳、41~49歳、50~59歳、60~70歳)。研究者らは、H1ssF_3928に対する免疫反応が、年齢およびさまざまなインフルエンザ変異型への曝露歴に基づいてどのように変化するかを明らかにしたいと考えている。参加者は、接種後1週間、体温およびあらゆる症状を記録するよう求められる。また、12~15ヵ月の間に9~11回フォローアップ受診し、血液サンプルを提供する。研究者らはそのサンプルにより、インフルエンザに対する免疫を示す抗インフルエンザ抗体のレベルを特徴付けて測定する。なお、参加者が試験中にインフルエンザウイルスに曝露されることはない。 VRCでは、この臨床試験を長年の関連研究開発の集大成と位置付けている。2019年末までの登録完了、2020年はじめの結果報告開始を予定している。■参考NIHニュースリリースNCT 03814720(Clinical Trials.gov)

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PCV10ワクチン導入、ケニアでIPDが激減/Lancet

 ケニアにおいて、キャッチアップキャンペーン(追加的なワクチン接種活動)を伴う10価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV10)接種の導入により、小児/成人におけるPCV10型の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)が有意な血清型置換を伴わず大幅に減少したという。米国・ジョンズホプキンス大学公衆衛生学大学院のLaura L. Hammitt氏らが、ケニア海岸農村部キリフィ県の「健康と人口動態追跡調査システム(Health and Demographic Surveillance System:HDSS)」に登録されている住民を対象とした、ケニア中央医学研究所とイギリス・ウェルカムトラスト財団の共同研究プログラム(KEMRI-Wellcome Trust Research Programme)によるサーベイランス研究の結果で、著者は「幼児のPCV10型定期予防接種プログラムが熱帯アフリカの低所得地域において直接的および間接的に大きな予防効果を上げる可能性が示唆された」と述べている。Lancet誌オンライン版2019年4月15日号掲載の報告。PCV10による予防接種の有効性をサーベイランスで評価 ケニアでは、2011年1月に生後6週、10週および14週に接種するPCV10が導入された(キリフィ県では5歳未満の小児を対象としたキャッチアップを伴っている)。 研究グループは、キリフィ県の小児および成人における鼻咽頭保菌とIPDに対するPCV10の有効性を評価する目的で、1999~2016年にHDSSが運用されたキリフィ県立病院に入院した患者(全年齢)におけるIPDの臨床的および細菌学的調査を解析した。ワクチン導入前(1999年1月1日~2010年12月31日)とワクチン導入後(2012年1月1日~2016年12月31日)で、交絡因子を調整したIPDの罹患率比(IRR)を算出し、1-IRRの計算式でIPDの減少率を報告した。鼻咽頭保菌については、2009~16年に年次調査を行った。 月齢2~11ヵ月の小児で2回以上PCV10の接種を受けた割合は、2011年で80%、2016年で84%、月齢12~59ヵ月の小児で1回以上PCV10接種を受けた割合はそれぞれ66%および87%であった。ワクチンに含まれる血清型のIPDは92%減少、あらゆる血清型のIPDは68%減少 HDSSの観察期間中、321万1,403人年でIPDは667例が確認された。5歳未満の小児の年間IPD発生率は、2011年のワクチン導入後に急激に低下し、低い状態が継続した(PCV10型IPD:ワクチン導入前60.8例/10万人vs.ワクチン導入後3.2例/10万人、補正後IRR:0.08[95%信頼区間[CI]:0.03~0.22]、あらゆる血清型のIPD:81.6例/10万人vs.15.3例/10万人、補正後IRR:0.32[95%CI:0.17~0.60])。 ワクチン未接種の年齢集団においても、ワクチン導入後の時期でPCV10型IPDの発生率が同様に低下した(月齢2ヵ月未満:ワクチン導入後の症例は0、5~14歳:補正後IRR:0.26[95%CI:0.11~059]、15歳以上:補正後IRR:0.19[95%CI:0.07~0.51])。非PCV10型IPDの発生率は、ワクチン導入前後で違いは確認されなかった。 5歳未満の小児において、PCV10型の保菌率はワクチン導入前後で低下し(年齢標準化補正後有病率:0.26、95%CI:0.16~0.35)、非PCV10型の保菌率は増加した(1.71、1.47~1.99)。

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第1回 一介の勤務医があの『コード・ブルー』の公式イベントに呼ばれたワケ【外科医けいゆうの気になる話題】

第1回 一介の勤務医があの『コード・ブルー』の公式イベントに呼ばれたワケ2018年7月4日17時半ごろ、私はお台場海浜公園駅構内のトイレにいました。目的はただ1つ。フジテレビ内の会場で登壇する前に、鏡の前で髪型を整えることでした。その日は風が強く、聴衆の前に立つのに髪型が乱れていては恥ずかしい、と思ったからです。私のような何のポジションもない一介の若手勤務医が、『劇場版コード・ブルー』という、のちに興行収入90億円超となる大ヒット映画の公式イベントに登壇し、ドラマのストーリーを医学的に解説することになっている―。私は鏡の前で、それまでの数奇な1年間を思い出さずにはいられませんでした。なぜこんなことになったのでしょうか?2017年5月、私は独自に医療情報ウェブサイト「外科医の視点」を立ち上げました。当時、ネット上には医療に関する間違いだらけの情報があふれていました。「インフルエンザワクチン」と検索すると、1位には「インフルエンザワクチンは接種するな」というまとめサイトが出ました。「胃カメラ 食事」の検索での1位は、「事前に禁止されたお酒や食べ物をどのくらいぎりぎりまで摂取してもバレないか」を実験した個人のブログ記事でした。こういう記事は、閲覧したユーザーに健康被害を与えるリスクがあります。強い焦燥感を覚えた私は、ネットで医療に関する疑問を検索したユーザーに、自分が作ったサイトで正しい情報を手に入れてもらいたいと考えたのです。私にとって幸運だったのは、サイトを開設した年に、偶然、医療ドラマ『コード・ブルー』の3作目の放送が始まったことでした。コード・ブルーといえば、これまで高視聴率を記録し続けてきた人気のシリーズ作品。3作目の「3rd SEASON」は、7年ぶりの新作ということで、世間の期待も高まっていました。私は、このドラマに出てきた医学的な内容をサイトで解説すれば、エンタメを使った効果的な啓発ができるのではないか、と考えました。そして、コード・ブルーのストーリーを土台に、長文記事を量産しました。3rd SEASON終了後は、1st、2nd SEASONもすべて視聴し直し、劇場版も含めシリーズ合計70本以上の解説記事をネットに投下しました。のちにこれがネット上で話題になり、合計200万回以上閲覧され、コード・ブルーシリーズを手掛けた増本 淳プロデューサーから「異常な熱意だ」と苦笑いで褒められることになります。オンラインで始めた活動が、最終的に「公式イベント登壇」というオフラインでの活動につながる、というのは、われながら実に「現代的」な情報発信のスタイルだと感じました。今はまさに、無名の個人が発信した情報が、多くのユーザーに直接届く時代です。ウェブサイト、各種SNS、YouTubeなどのプラットフォームは豊富にあります。今回から始まったこの連載もその1つ。多くの方々が読むメディアで文章を書かせていただくことに感謝しつつ、少しでも読者の皆さまのお役に立てる情報を提供していけたらと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

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インフルエンザ診療で不要なこと:医師会の見解

 2019年2月27日、日本医師会の釜萢 敏氏(常任理事)が、今季における季節性インフルエンザについて、診断方法や治療薬の選択、“隠れインフルエンザ”への対応など、世間の話題も踏まえた見解を記者会見で発表した。 昨季に続き、今季もインフルエンザは大規模な流行となったが、患者数は2019年第4週(1月21~27日)をピークに収束をみせている。ピーク時の患者数は昨年を上回ったものの、累積の推計受診者数は、昨季の推計全罹患者数を下回る見通しだ。 ワクチンの供給がより円滑に行われた結果とも考えられるが、最も需要が高かった11月の供給量は必ずしも十分でなかったという。ワクチンについては、引き続き対策を講じていく必要があるだろう。診断に、必ずしも迅速診断キットは必要でない 釜萢氏は、インフルエンザの診断に関して、「迅速診断検査は、必ずしも全例に実施する必要はない」と世間における認識の是正を求めた。「検査はあくまでも補助なので、一番大事なのは患者さんの症状をしっかり把握すること。周辺の流行状況や罹患者との接触の有無などを踏まえて、総合的に判断すべき」とコメントした。 迅速診断キットの判定について、最近の傾向としては、急激な発熱などの発症から約6時間以降で検出される場合が多いという。しかし、確実な判定が出るまでの時間については一概に言えないため、最終的には医師の判断となる。 「処方薬は、患者さんの希望にかかわらず、医師がきちんと判断し、同意を得たうえで処方するもの。新たな作用機序を持つバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)については、まだ十分な知見が揃っていない。耐性ウイルスの出現など考慮すべき点もあるので、従来の薬の使用も併せて検討すべき」と、新規抗インフルエンザウイルス薬については慎重な姿勢を示した。治癒証明書は医師が書かなくてもよい 児童生徒などの出席停止期間については、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」と学校保健安全法施行規則によって定められている。医師は、その基準を踏まえたうえで診断し、出席可能となる条件と日数を患者に伝えなければならない。インフルエンザに関しては、治癒証明書のために再度受診させる必要はなく、自治体や学校が作成した証明書に保護者または本人が記入して、学校に提出すれば問題ない。 インフルエンザに罹患した場合の対応は職場においても同様で、周りに感染を拡大させないことが重要である。抗インフルエンザ薬の内服によって、症状が出る時間を短縮できるが、症状がなくてもウイルスは排出されるため、感染拡大を防止するには、基準日数を厳守したほうが確実だ。“隠れインフルエンザ”から感染が拡大する可能性は低い 世間の話題として、特徴的な症状がみられないにもかかわらず、抗原検査をすると陽性判定の“隠れインフルエンザ”に対する不安が強まっている。しかし、こういった症状は流行地域でみられる場合が多く、流行していない地域では少ないという。原因としては、ウイルスと接触することで抗体が作られ、通常より症状が抑えられることなどが考えられる。しかし、患者本人は元気でも、他人にうつしてしまう危険性を理解し、通常のインフルエンザと同様の対策が求められる。

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成人のワクチンキャッチアップの重要性

講師2018年、大都市を中心に風疹が流行し、感染者は2,586人(12月12日現在)と報告されています。前回の流行が始まった2012年の2,386人をはるかに超え、2013年は14,344人であったことから、今回の流行も2019年にはさらに拡大することが予測されています。感染者の多くは、風疹ワクチンを受けていない30~50代の男性となっており、予防接種歴は「なし」(648人:25%)あるいは「不明」(1,765人:68%)が93%を占めています1)。現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50 代の男性に多い感受性者(風疹にかかったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていない者)を早急に減らす必要があり、厚生労働省は 2019年度から3年をかけて、これまで風疹のワクチンを受ける機会がなかった1962年(昭和 37 年) 4 月 2 日~1979年(昭和 54 年) 4 月 1 日生まれの男性(現在 39~56 歳)を対象に、風疹の抗体検査を前置きしたうえで、定期接種を行うことを発表しました。なぜワクチン接種にばらつきがあるのか大人に必要なワクチンは、その理由によって表のように分類できます。風疹はこの(4)「ワクチンはあったが、当時の定期接種スケジュールによって、現在の必要な回数に満たないもの」に該当します。風疹ワクチンの定期接種の歴史は、まず、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが対象となり、1989年4月~1993年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(MMR)ワクチンが選択可能となりました(対象は生後12ヵ月以上72ヵ月未満の男女)。1995年4月からは生後12ヵ月以上90ヵ月未満の男女(対象は生後12ヵ月~36ヵ月以下)に変更され、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女も定期接種の対象となりました。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女は経過措置分として定期接種可能に。2006年度からは麻疹・風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の2回接種となり、2008~12年度に中学1年生あるいは高校3年生相当年齢を対象に、2回目の定期接種がMRワクチンで行われました。現在は男女共に定期接種2回となっています(図)。今、風疹の予防にはワクチンの2回接種が必要ですが、上記のように、過去の定期接種のスケジュールによって、ワクチン未接種または1回接種のみのために感受性者が多く残っています。これが感染の原因となっているため、感染予防には感受性者を減らすために成人へのワクチンが必要となります。具体例で検討してみると前述の表の例を挙げます。(2)「幼少期にはワクチンがなくて、打つ機会がなかったもの」たとえば破傷風ワクチンが該当します。破傷風ワクチンは1969年4月に定期接種を開始しており、1968年以前の生まれの人は定期接種の機会がなかった世代であり、最近、高齢者の破傷風感染が報告されています。とくに土から感染するため、ガーデニングや水害などで罹患者が増加します。土に触れる機会がある場合は接種推奨が必要です。(3)「幼少期にワクチンがあり、接種の機会もあったが、現在の必要な回数に満たないもの」この例では麻疹ワクチンがあります。ワクチン接種率が上昇して麻疹の罹患者が減ると、ワクチンによってできた免疫が刺激されなくなります。そのため、免疫は徐々に低下し、麻疹の罹患者が増えていきます。2007年の麻疹の流行はこれが原因でした。その結果、定期接種回数が1回から2回に変更されています。風疹も同じ理由のため、接種回数が1回から2回に増えています。(5)「成人のある年齢になってから接種するワクチン」この例では成人肺炎球菌ワクチン(PPSV23)、インフルエンザワクチンが定期接種になっています。また、定期接種にはなっていませんが、50歳以降に帯状疱疹予防のため水痘ワクチンが推奨されています。ワクチンがとくに必要な人ワクチン接種の記録である母子手帳を持っている成人は多くなく、過去の接種歴を確認することは容易ではありません。しかし、定期接種の歴史からみて不足しているワクチンについては、下記の参考サイトをご参照のうえ、必要な人には接種を推奨していただきたいと思います2,3)。とくに妊婦(妊娠を希望する女性)、基礎疾患のある人、医療従事者、海外渡航前などは、ワクチン接種歴を必ず確認する必要があります。不足しているものがあれば接種を推奨し、感染を予防することが肝要です。日本から風疹を排除するためにはじめにも書いたとおり、風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に多い感受性者を早急に減らす必要があり、この世代へのワクチンを徹底するしかありません。政府はこの世代を定期接種にすることを決めましたが、対象者が確実に接種する環境が必要です。今年感染した人のほとんどが会社員でしたが、定期接種で無料になっても、勤務中に抗体検査やワクチンを打ちにいく時間が取れなかったり、MRワクチンは小児の定期接種のため、かかりつけの内科にワクチンが常備されていなくて接種しにくいことが考えられます。そのため、会社の中で接種できたり、仕事中にワクチンを受けにいけたりといった受けやすい環境整備のために企業の協力が必要ですし、内科のような成人を対象とする診療科でもMRワクチンを接種しやすくすることが大事です。ワクチン接種を希望する大人が接種しやすい環境を作ることは、VPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで防げる病気)を減らすために、今後ますます必要になってきます。●参考1)国立感染症研究所ホームページ「風疹流行に関する緊急情報:2018年12月12日現在」2)こどもとおとなのワクチンサイト「年齢でみる不足している可能性があるワクチン」3)こどもとおとなのワクチンサイト「全年齢(0歳~成人)ワクチン接種スケジュール」●予告来春より、ワクチン接種に関するコンテンツがスタートします。将来の疾病を防ぐために接種しておくべきワクチンの必要性を、家庭医、感染症専門医など、多彩なエキスパートを執筆陣に迎えお届けします。コンテンツでは、次のサイトと連動して情報をお伝えしていきます。ぜひ、ご参照ください。こどもとおとなのワクチンサイト

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第19回 小児科クリニックからのセフカペンピボキシルの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 患児の保護者に確認することは?熱の有無や熱性けいれんの既往など ふな3さん(薬局)発熱の有無は、アセトアミノフェン坐剤の処方意図(すぐに使用するか予備か)やペリアクチン®による熱性けいれん誘発リスクの推測にも利用できるため、必ず確認します。他に、熱性けいれんやてんかんの既往、副作用歴、併用薬、発疹の有無も確認したいです。検査したかどうか 清水直明さん(病院)アレルギー歴は必ず確認します。もしA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、S.pyogenes )だったら抗菌薬が必要だと思うので、「何か検査はされましたか」と確認します。セフェム系抗菌薬のアレルギーや過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか 奥村雪男さん(薬局)患児の性別や、特にセフェム系抗菌薬に対してアレルギーはないかを確認します。他にも過去1カ月以内に抗菌薬を使用したか、いつから症状があったか、全身状態はどうか、咳や鼻水などの症状、アデノウイルスなどの迅速検査や血液検査を行っているかも確認します。可能なら検査結果や白血球数やCRPなどの検査値、肺炎球菌、ヒブなどのワクチンを接種しているかも聞きます。Q2 疑義照会しますかする・・・7人フロモックス®の用量 キャンプ人さん(病院)フロモックス®細粒は1日9mg/kgですので、少し量が少ないのでは? と照会します。そのときに、抗菌薬の処方を望まれていないことを「母親が伝え忘れた」として医師へ伝えます。もちろん母親にそのように照会してよいか確認しておきます。普段から風邪に抗菌薬は不要と医師に示し続ける 荒川隆之さん(病院)保護者がなぜ抗菌薬の処方を望んでいないのか、よく聴き取りを行います。風邪に抗菌薬は不要ということで望んでいないのならば、疑義照会を行ってよいか、保護者と話をします。そして、フロモックス®の投与量がやや少ないことで疑義照会するついでに、風邪に抗菌薬は不要ではないか確認します。最初は、保護者がそのように希望していると言わず、医師から保護者の意志を聞かれた場合に回答します。ただし、この疑義照会は、医師と薬剤師のそれまでの関係も大きく関係すると思います。普段から風邪に抗菌薬は不要というスタンスを医師に示し続ける必要があります。抗菌薬は必要? 柏木紀久さん(薬局)患児の主症状が発熱と咽喉頭炎なので、あまり抗菌薬の必要性を感じません。3日後の再診時に抗菌薬の投与を考慮してもいいのではないかと思います。体重9kgでアセトアミノフェン坐剤が処方されており、発熱の期間が長い、または日内変動が強い状態でぐずったり、食欲がなかったりして状態がよくないことも考えられます。この場合、説明通り二次感染が考えられ抗菌薬処方の妥当性を感じますが、食欲や水分摂取が少なくなっている場合は、低カルニチン血症も気になります。保護者が医師に言えなかったことを薬剤師に打ち明けているので、照会してみると思います。溶連菌の可能性も 児玉暁人さん(病院)フロモックス®の投与量が少ないので確認します。ウイルス性の単なる風邪では抗菌薬は不要です。ただトランサミン®散の処方、のどの発赤から溶連菌の可能性も捨てきれず、その場合は抗菌薬が必要です。溶連菌の合併症予防を風邪の二次予防と受け取ってしまったなど、知識があるだけにややこしくしている可能性もありえます。保護者には、投与量と処方意図の再確認をしたい旨を伝え、納得と了承を頂いてから疑義照会します。あとは、疑義照会への返答内容にもよりますが、抗菌薬を服用する/しない場合のメリット・デメリットを伝えて、服用するかどうかを保護者に判断してもらうかと思います。ですので、疑義照会時に「服用を保護者の判断に任せてよいか」と確認しておきます。容態が悪化したら飲ませるつもりなら、疑義照会する ふな3さん(薬局)処方を望んでいないという意味では、疑義照会しません。医師との関係を気にしているなら、あえて蒸し返す必要はないと考えます。また、調剤の際に下記のように3種に分包して、フロモックス®だけ(もしくはラックビー®Rも)は服用しなくて済むようにできます。(1)フロモックス®(2)ラックビー®R(3)トランサミン® /ペリアクチン® /アスベリン® /ムコダイン® 混合この患者さんに限らず、普段から対症療法用の薬剤(症状改善したら中止)と、抗菌薬・整腸剤(処方日数飲みきり)は別包にしています。これらの対応をした上で、「望んではいない」と言いながらも、「容態が悪化したら飲ませるかも」と考えている場合、フロモックス®の添付文書上用量(3mg/kg)に満たないため、0.81g(~0.9g程度)/日への増量を提案するため疑義照会をします。保護者自身の風邪であれば「抗菌薬は飲まずに治せる」と簡単に割り切れると思いますが、発話できない乳児で急な発熱であれば、「この子のためにできることは?」「やっぱり抗菌薬を飲ませるべきかも」と頭をよぎるのが親心だと思います(だからこそ、小児科医も抗菌薬処方を簡単には止められないのでしょうが...)。その意味合いも含めて、抗菌薬は適切な量に修正した上で、「飲み始めたら飲みきる」の条件の下、お渡ししておきたいと思います。抗菌薬は感染が起きたと推定されるときに服用する JITHURYOUさん(病院)当然、医師の指示通りに調剤しなければならないのですが、その話をしてもなお服薬拒否ということになるのならば、医師に確認したいですね。連鎖球菌による咽頭炎でも、フロモックス®ではなくペニシリンが第一選択なので、この場合処方変更の必要性があるのではと考えます。二次感染予防目的の抗菌薬処方だとしても、臨床経過を勘案して疑義照会したいところです(遷延していたら細菌による二次感染の可能性=抗菌薬適応)。となると、症状の変化などで感染が起きたと推定されるときに服用する方がベストのような感じがします。フロモックス®はそういう場合に服用していただく方が耐性菌を増やさないという観点でも必要ではないかと考えます。よって、調剤は別包装にすべきではないでしょうか。母親の気持ちを聞き取った上で わらび餅さん(病院)フロモックス®が1日量9mg/kgではないので、疑義照会はします。また、母親からどうして抗菌薬を希望しないのかを聞きます。二次感染予防の必要性を感じてない、風邪という診断に納得してない、赤ちゃんだからあまり薬を飲ませたくないなど、理由によって対応も変わってきます。しない・・・4人処方医は不要なリスクを避けたいと考える 奥村雪男さん(薬局)抗菌薬以外の処方内容からは、典型的なウイルス性の上気道炎に見えます。全身状態が悪くないのであれば、抗菌薬なしで数日の経過観察後、悪化した場合に細菌性肺炎などの診断がついた時点で、それに応じた抗菌薬を選択するのが理想的だと思います。ただ、実際には疑義照会しないと思います。ウイルス性上気道炎に第三世代セフェムを処方するのは現在の日本の慣行であり、慣行と異なる行為はリスクを伴います。仮に抗菌薬なしの経過観察中に細菌性肺炎を発症すれば、最悪の場合、訴訟問題に発展するかもしれません。処方医は不要なリスクを負うことは避けたいと考えるはずです。遠回りのようですが、ウイルス性上気道炎に抗菌薬を処方した場合の治療必要数※などのエビデンスを国民に提示し、抗菌薬の二次感染予防は効率の悪い治療行為であることを一般常識とすることが、疑義照会に優る方法だと思います。※治療必要数NNT(number needed to treat)のこと。死亡や病気の発症などのイベント発生を1人減らすために、何人の患者を治療する必要があるか、という疫学の指標。例えばNNTが100なら、1人の患者のイベント発生を減らすためには100人に治療を行う、ということになる。フロモックス®は別包に 清水直明さん(病院)抗菌薬をどうしても持ち帰りたくないと言うのであれば、そのことを説明して取り消してもらうことも可能でしょうが、医師が必要としたものを不要と説得するだけの材料が弱いかなと思います。風邪との診断であるならば、それほど重症感はなさそうです。抗菌薬を服用させたくないのであれば、親の責任の範囲でそれでもいいと思います。フロモックス®は別包とします。そもそも、このぐらいの年齢から保育園・幼稚園ぐらいまでのお子さんは、よく風邪をひきます。これからも外界と接する機会が増えるにつれて、いろいろな感染症を拾ってくることでしょう。もし、本当に抗菌薬が必要な感染症に罹ったとき、ちゃんと効いてくれないと大変です。風邪をひくたびに予防的に抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌のリスクは上がってしまうと思います。フロモックス®など多くの抗菌薬には二次感染予防という適応はないし、そのことがよく分かっている親御さんであるならば、飲ませるか飲ませないかの判断は任せていいと思います。ただし、薬剤師の指導としては微妙ですが・・・後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?その他気付いたことを聞きます。

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麻疹ウイルスをベクターとしたチクングニアウイルスワクチンの免疫原性・安全性・忍容性(解説:吉田敦氏)-975

 チクングニア熱は、蚊媒介感染症として、いまや世界の大多数の地域に広まりつつある感染症である。以前にも増して大規模流行を来すようになっているが、これにはウイルスのエンベロープタンパク質が変異して媒介蚊であるネッタイシマカ(Aedes aegypti)により適応できるようになったことと、地球温暖化によってヒトスジシマカ(Aedes albopictus)の生息域が拡大したことが関与している。 チクングニア熱は急性熱性疾患であるが、治療法がなく、関節痛やうつ状態が後遺症として続く。一方、旅行者感染症としてウイルスを持ち帰り、帰国後に温帯地域の蚊に刺咬されることで、温帯地域の蚊がウイルスを保有することが大きな懸念となっている。実際に米国・欧州では媒介蚊が効率よくウイルスを増殖させる能力があることが判明しており、渡航者が増加している現在、その脅威も大きくなっている。このため自国内で伝播した例がないか厳重な監視が続いており1)、ワクチン開発は急務であるといえる。 今回検討されたワクチンは、チクングニアウイルスの臨床分離株の遺伝子を麻疹ウイルスベクターに導入したリコンビナント・弱毒生ワクチンである。フェーズ1で免疫原性、安全性が評価され、今回さらにボランティアを対象としたフェーズ2のランダム化二重盲検プラセボ対照試験が行われ、投与回数・スケジュールと含有ウイルス量の異なる複数のレジメンを比較し、プライマリーエンドポイントとして中和抗体の産生能が評価された。高用量で回数を増やすほど抗体獲得率は上昇したが、この抗体産生は麻疹ウイルスベクターには依存しないものであった。また副作用は軽微なもので、コントロールに比べ増加もなかった。 したがってフェーズ3の研究につながり、今後実際に臨床現場で、さまざまなウイルス株に対する有効性と、予防効果の持続期間が検討されることになろう。臨床応用に一歩近づき、有力な予防手段の候補が出現したといえるかもしれない。蚊媒介感染症のコントロール・制圧の難しさは年々増している。今後の速やかな研究の進展と評価・臨床応用に期待したい。■参考1)CDC. Chikungunya Virus. 2018 provisional data for the United States.

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新規抗インフルエンザ薬の位置付け

 インフルエンザの流行期に備え、塩野義製薬が「インフルエンザ治療の最前線」と題したメディアセミナーを都内にて開催した。本講演では、廣津 伸夫氏(廣津医院 院長)が、「抗インフルエンザウイルス薬『ゾフルーザ(一般名:バロキサビル)』の臨床経験を通じた知見」について語り、「従来の治療薬と同等の立場で選択されるべき治療薬だ」との見解を示した。既存のNA阻害薬と新規作用機序のバロキサビル はじめに、最新のインフルエンザ治療に関する自身の研究成果が紹介された。本人・家族における過去のインフルエンザ感染既往は、ワクチン接種後の抗体価上昇に良好に影響し、ウイルスの残存時間を短縮するという。既存の抗インフルエンザウイルス薬であるノイラミニダーゼ(NA)阻害薬は、薬剤によってウイルスの残存時間への影響が異なり、ウイルス残存時間が短いNA阻害薬ほど、家族内感染率を下げたと報告された。 次に、2018年3月に発売されたバロキサビルについて解説された。バロキサビルは、新規作用機序をもつ抗インフルエンザウイルス薬であり、インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を選択的に阻害し、ウイルスのmRNA合成を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する。 廣津氏は、第II相、第III相、および小児の治験から得られた、バロキサビルの利便性、抗ウイルス効果、安全性についての結果と、自ら携わった治験での臨床経験を語った。バロキサビルはインフルエンザの罹病期間を短縮する バロキサビルの、成人および青少年(12歳以上65歳未満)の患者を対象とした国際共同第III相試験において、A型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者1,064例を対象とした結果、主要評価項目であるインフルエンザ罹病期間の中央値は、プラセボ群(80.2時間、95%信頼区間[CI]:72.6~87.1)と比較して、バロキサビル群(53.7時間、95%CI:49.5~58.5)で有意に短かった(p<0.0001)。 また、副次評価項目であるウイルス力価に基づくウイルス排出停止までの時間の中央値は、オセルタミビル群(72.0時間、95%CI:72.0~96.0)と比較して、バロキサビル群(24.0時間、95%CI:24.0~48.0)で有意に短く(p<0.0001)、インフルエンザ罹患時にバロキサビルを服用すると、体内のインフルエンザウイルスが早くいなくなる可能性が示唆された。 しかし、オセルタミビルとの比較試験では、主要評価項目の基準となったインフルエンザの7症状(咳、喉の痛み、頭痛、鼻づまり、熱っぽさまたは悪寒、筋肉または関節の痛み、疲労感)の消失を基準にした罹病期間はほとんど変わらなかったが、「何よりも治療を受けた患者さんたちの『楽になった』との自覚症状の改善が印象的」と語った。低年齢の小児では、治療後に変異ウイルス発現の可能性 続けて小児(6ヵ月以上12歳未満)のA型および/またはB型インフルエンザウイルス感染症患者104例を対象とした国内第III相試験について、成人を対象とした試験と同様にインフルエンザの罹病期間の中央値を評価したところ、バロキサビル群で44.6時間(95%CI:38.9~62.5)と良好な結果が得られた。 一方で、小児では治療後にバロキサビルに対する感受性低下を示す可能性のある変異ウイルスが観察されており、低年齢(とくに5歳未満)で変異率が高くなるという報告がある。しかし、臨床効果への影響についてはまだわかっていないため、今後の検討が必要であるという旨の提言が日本感染症学会インフルエンザ委員会から出されている。これに対しては、抗体価が高いと、変異のリスクを低下させる可能性があるという治験での結果から、ワクチン接種の効果も期待できるとの見解が示された。 最後に、同氏は「インフルエンザ患者の初診時に、効果、安全性、利便性を考えたうえでの薬剤選択が必要。バロキサビルという新薬の登場で、インフルエンザ診療に新たな選択肢が増えた。バロキサビルの単回経口投与という利便性と、高い有効性と安全性から、従来の薬にとって代わる薬剤になるのではないかと思っている。ただし、変異ウイルスに関しては、今後も十分な観察・注意が必要だ」と講演を締めくくった。

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ネットワークメタ解析で評価した帯状疱疹ワクチンの有効性と安全性(解説:小金丸博氏)-959

 帯状疱疹は、神経節に潜伏感染した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化でおこる皮膚感染症である。一生涯で4分の1の人が発症するリスクがあり、発症者の3分の2は50歳以上である。高齢になるほど罹患率や死亡率が上昇し、帯状疱疹後神経痛といった日常生活に支障を来す合併症もあるため、ワクチンによる予防が推奨される。 帯状疱疹を予防するためのワクチンには、弱毒生ワクチンとアジュバント組換え型サブユニットワクチンの2種類がある。多くの先進国では50歳以上の成人に対して弱毒生ワクチンが導入されているが、70歳以上では有効性が低下することや、免疫不全者に対して接種できないなどの問題点があった。近年になって、カナダ、米国、ヨーロッパ、日本で新しいワクチンであるアジュバント組換え型サブユニットワクチンが認可されてきているが、弱毒生ワクチンとアジュバンド組換え型サブユニットワクチンの有効性をhead-to-headで直接比較した研究はない。 本研究は、50歳以上の成人における帯状疱疹ワクチンの有効性と安全性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析である。弱毒生ワクチンと、アジュバント組換え型サブユニットワクチン、プラセボ、あるいはワクチン非接種を比較検討した試験を対象とした。5つのランダム化比較試験(n=9万605)をネットワークメタ解析した結果、サブユニットワクチンはプラセボや生ワクチンと比較して、検査で確定された帯状疱疹の発症率が有意に低かった(生ワクチンとの比較ではワクチン有効性85%、95%信頼区間:31~98%)。一方で、生ワクチンはプラセボと比較して、帯状疱疹の発症率に有意差を認めなかった。2つのランダム化比較試験の結果、サブユニットワクチンはプラセボと比較して、眼部帯状疱疹の発症率が有意に低かった。また、サブユニットワクチンと生ワクチンはプラセボと比較して、ともに帯状疱疹後神経痛の発症を有意に低下させた。有害事象に関する検討では、サブユニットワクチンは生ワクチンと比較して、発赤や腫脹といった注射部位の副反応を多く認めた(相対リスク:1.79、95%信頼区間:1.05~2.34)。  本研究では、アジュバント組換え型サブユニットワクチンは弱毒生ワクチンと比較して帯状疱疹の発症を予防できるものの、注射部位の副反応が多いことが示された。サブユニットワクチンの免疫不全者に対する有効性はどうか、帯状疱疹後神経痛に対する有効性はどちらのワクチンがより優れているか、追加接種は必要か、といった疑問点が残されているものの、今後、サブユニットワクチンの利用が広がっていくことが予想される。 本邦では、2016年3月に弱毒生ワクチンが帯状疱疹予防に使用できるようになったが、それに加えて、2018年3月にアジュバント組換え型サブユニットワクチン(商品名:シングリックス)が製造販売承認を取得した。高齢者の帯状疱疹では、痛みに伴うQOLの低下や髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあり、可能な限りワクチンで予防することが望ましいと考える。

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チクングニア熱ワクチン、安全性と有効性を確認/Lancet

 麻疹ウイルスベクターを用いた弱毒生チクングニアワクチン(MV-CHIK)は、優れた安全性・忍容性と、麻疹ウイルスに対する既存免疫と独立した良好な免疫原性を発揮することが示された。ドイツ・Rostock University Medical CenterのEmil C. Reisinger氏らによる、MV-CHIKの第II相の無作為化二重盲検プラセボ/実薬対照試験の結果で、著者は、「MV-CHIKは、世界的に懸念されている新興感染症チクングニア熱の予防ワクチン候補として有望である」とまとめている。チクングニア熱は新興ウイルス性疾患で、公衆衛生上の大きな脅威となっている。チクングニアウイルスに対する承認されたワクチンはなく、治療は対症療法に限られていた。Lancet誌オンライン版2018年11月5日号掲載の報告。MV-CHIKの免疫原性、チクングニアウイルスに対する中和抗体の有無で評価 研究グループは、オーストリアとドイツの研究所4施設で、18~55歳の健康なボランティアを登録し、MV-CHIK(50%組織培養感染用量として5×104および5×105を筋肉注射)群、対照ワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の3種混合ワクチンの筋肉注射)群、麻疹ワクチン+MV-CHIK群(麻疹ワクチンを初回投与後、2つの異なる投与レジメンでMV-CHIKを筋肉注射)に無作為に割り付けた(データ管理サービスによる封筒法)。被験者と評価者は治療の割り付けについて盲検化され、プラセボは無菌食塩水を用いた。 主要評価項目は、免疫原性(56日時点[1回/2回の接種後28日]でのチクングニアウイルスに対する中和抗体の存在と定義)である。有効性の解析対象は、治験を完遂した全被験者(per-protocol集団)、ならびに無作為化され治験薬の投与を1回以上受けた全被験者(修正intention-to-treat集団)。安全性の解析対象は、治験薬の投与を1回以上受けた全被験者とした。MV-CHIKは忍容性が良好で免疫原性が高い 2016年8月17日~2017年5月31日に、被験者263例が対照ワクチン群(34例)、MV-CHIK群(195例)、麻疹ワクチン+MV-CHIK群(34例)に割り付けられ、per-protocol集団は247例であった。 チクングニアウイルスに対する中和抗体は、1回/2回の接種後の全MV-CHIK群で検出され、幾何平均抗体価は12.87(95%信頼区間[CI]:8.75~18.93)~174.80(95%CI:119.10~256.50)、抗体陽転率は投与量および投与スケジュールに応じ50.0~95.9%の範囲であった。 有害事象は両群間で類似しており、非自発的(solicited)に報告された有害事象の発現率はMV-CHIK群および麻疹ワクチン+MV-CHIK群を合わせて73%(168/229例)、対照ワクチン群で71%(24/34例)(p=0.84)、自発的(unsolicited)に報告された有害事象の発現率は、それぞれ51%(116/229例)および50%(17/34例)(p=1.00)であった。重篤な有害事象は報告されなかった。 現在、流行地域および米国におけるMV-CHIKの治験が進行中である。

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IV期扁平上皮がんへの免疫療法+化学療法併用について(解説:小林英夫氏)-950

 肺がんの組織型は非小細胞がんが多くを占め、とりわけ扁平上皮がんと腺がんが中心となっている。1980年代までは扁平上皮がん、なかでも肺門型(中枢型)の扁平上皮がんが多かったが、その後徐々に腺がんが多数となり、扁平上皮がんを診療する機会が減少していた。ところが近年になり、以前の肺門型扁平上皮がんではなく、肺野末梢に発生する扁平上皮がんを経験する機会が増加してきている。なぜ再増加しているのか理由は定かではない。また、切除不能であるIV期の非小細胞肺がんの治療面では、2000年代以降になり遺伝子変異陽性の腺がんに対しチロシンキナーゼ阻害薬などの分子標的治療薬が急速に普及し、腺がんの標準治療は大きく変化してきた。一方で、IV期扁平上皮がん治療に有効な分子標的薬は導入できておらず、細胞障害性抗腫瘍薬または免疫チェックポイント阻害薬が現時点における治療の主役だが、まだまだ十分な効果は得られていない状況にある。 本論文は、非扁平上皮がんに対する治療としてプラチナ製剤を含む化学療法+ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が生存期間延長をもたらす可能性が示された既報を受けて、扁平上皮がんへの同併用療法の効果を検証した二重盲検無作為化第III相試験である。全例がカルボプラチンをベースにした化学療法を受け、その半数にペムブロリズマブ、残りの群はプラセボが投与され、両群が比較検討された。主要エンドポイントである全生存期間中央値は、ペムブロリズマブ群15.9ヵ月がプラセボ群11.3ヵ月に比べ有意に延長した。無増悪生存期間中央値もペムブロリズマブ群が6.4ヵ月で、プラセボ群4.8ヵ月に比し良好であった。ペムブロリズマブ群がプラセボ群を上回ることはある程度予想された結果と考えられる。一方、投与薬剤が増えるため有害事象発現も重要課題で、有害事象による治療中止はペムブロリズマブ群が高かった(13.3 vs.6.4%)。治療関連死はそれぞれ3.6%、2.1%にみられた。 2018年ノーベル生理学・医学賞受賞により、がんの免疫療法、チェックポイント阻害薬がますます脚光を浴びている。かつて日本で話題になった丸山ワクチンのような免疫療法と現在の免疫チェックポイント阻害薬はまったく別の機序で作用しており、チェックポイント阻害薬が著効する症例も数多く報告されている。しかし同薬が万能薬ではないことも事実であり、今後、扁平上皮がん治療のキードラッグとしてどのような投与法が最適なのか、まさに研究が進行している。

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帯状疱疹ワクチン、弱毒生vs.組換え型/BMJ

 50歳以上における帯状疱疹ワクチンの有効性と安全性について、カナダ・St. Michael's HospitalのAndrea C. Tricco氏らは、弱毒生ワクチンとアジュバント組換え型サブユニットワクチンおよびプラセボを比較するシステマティックレビューとメタ解析を行った。これまで、弱毒生ワクチンとアジュバント組換え型サブユニットワクチンを直接比較する検討は行われていなかったが、今回の解析により、アジュバント組換え型サブユニットワクチンのほうが、より多くの帯状疱疹の発症を予防できる可能性が示された。ただし一方で同ワクチンは、注射部位での有害事象のリスクがより大きいことも示された。BMJ誌2018年10月25日号掲載の報告。システマティックレビューとメタ解析で検討 研究グループによるシステマティックレビューとメタ解析(ベイジアンメタ解析とネットワークメタ解析)は、2017年1月以降のMedline、Embase、Cochrane Libraryと、灰色文献(grey literature:検索困難・未公表の試験)や試験の参照文献リストなども検索して行われた。包含試験の適格基準は、実験的、準実験的および観察的な試験で、弱毒生ワクチンと、アジュバント組換え型サブユニットワクチン、プラセボ、あるいは非ワクチンを比較検討し、50歳以上を対象に行われた試験とした。 主要評価項目は帯状疱疹の発症で、ほかに眼部帯状疱疹の発症、帯状疱疹後神経痛、QOL、有害事象、死亡について評価した。有効性はアジュバント組換え型サブユニットワクチン 2,037のタイトルとアブストラクトおよび175の全文論文をスクリーニング後、被験者204万4,504例のデータを含む27試験(無作為化試験は22)と、18の関連試験報告(companion report)が適格基準を満たしていた。 5つの無作為化試験のネットワークメタ解析の結果、生ワクチンとプラセボの間に、検査室で確定された帯状疱疹の発症について統計的に有意差はないことが認められた。一方で、サブユニットワクチンは、生ワクチンに対しても(ワクチン有効性:85%、95%確信区間[CrI]:31~98)、プラセボに対しても(同:94%、79~98)統計的優越性が認められた(いずれもp<0.05)。 11の無作為化試験のネットワークメタ解析の結果、サブユニットワクチンは注射部位での有害事象が、統計的に有意に多いことが認められた。生ワクチンとの相対リスク(RR)は1.79(95%Crl:1.05~2.34)、リスク差は30%(95%Crl:2~51)であり、プラセボと比較したRRは5.63(95%Crl:3.57~7.29)、リスク差53%(95%Crl:30~73)であった。 9つの無作為化試験のネットワーク解析から、サブユニットワクチンはプラセボよりも、統計的に有意に全身性有害事象の発現が多いことが示された(RR:2.28、95%Crl:1.45~3.65、リスク差:20%、95%Crl:6~40)。

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高齢者の肺炎球菌ワクチン接種率に関わる3つの因子

 65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されており、2014年よりこの年齢群でのワクチン定期接種の費用の一部が補助されている。今回、宮崎医科大学の坂元 昭裕氏らが、高齢者のワクチン接種行動における関連因子を検討した。BMC public health誌2018年10月12日号に掲載。 本研究は、2017年4月に宮崎県都城市‎の65歳以上の老人クラブ会員を対象とした自記入式調査票による横断研究。参加者は研究地域のすべての老人クラブ会員の中から選出した。質問票から抽出した変数について、ロジスティック回帰分析を用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・計208人の老人クラブ会員が参加した。・平均年齢(±SD)は77.2(±5.3)歳であった。・肺炎球菌ワクチン接種率は以前の報告と比べて増加したが、53.2%とほぼ半数であった。・「医療者によるワクチン接種推奨」(調整オッズ比[aOR]:8.42、95%CI:3.59~19.72、p<0.001)、「直前3シーズンのいずれかにインフルエンザワクチン接種」(aOR:3.94、95%CI:1.70~9.13、p=0.001)、「肺炎の重症度の認識」(aOR:1.23、95%CI:1.03~1.48、p=0.026)の3つの因子が肺炎球菌ワクチン接種と有意に関連した。

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資金提供企業は臨床試験にどの程度関与しているのか?/BMJ

 インパクトファクターの高い学術雑誌において、企業が資金提供したほとんどの研究で、その計画・実施および報告に企業の社員と医療・学術機関の著者が関与している一方、データの解析はしばしば学術機関の著者が関与することなく実施されていることが、デンマーク・Nordic Cochrane CentreのKristine Rasmussen氏らによる調査の結果、明らかとなった。研究者は共同試験を有益であると考えるが、学術研究の自由が失われているとの報告もあるという。企業のほとんどが臨床試験に資金提供しており、資金提供者は、時々公益よりもむしろ経済面で、試験をどのようにデザインし報告するか影響を与える可能性があるといわれていた。BMJ誌2018年10月3日号掲載の報告。主要7医学雑誌に発表された、企業から資金提供を受けた試験200報を解析 研究グループは、企業から資金提供を受けたワクチン、薬剤、医療機器の試験における、学術機関の著者、資金提供者および開発業務受託機関の役割、ならびに学術論文の筆頭著者が資金提供企業と協力した経験について明らかにすることを目的に、インパクトファクターの高い7つの医学雑誌(New England Journal of Medicine、Lancet、JAMA、BMJ、Annals of Internal Medicine、JAMA Internal Medicine、PLOS Medicine)に公表され、著者のうち少なくとも1人は学術機関(クリニック、病院、大学、非営利学術研究施設)に属する、直近の第III相・第IV相試験200報について解析した。試験のデザイン、データ解析および報告の7~9割に資金提供企業が関与 200報中173報(87%)は、資金提供企業の社員が共著者であり、183報(92%)は試験デザインに資金提供者が関与しており、167報(84%)は学術機関の著者の関与が報告されていた。データ解析には、146報(73%)で資金提供者の関与が、79報(40%)で学術機関の著者の関与があった。試験報告には、173報(87%)で資金提供者、197報(99%)で学術機関の著者が関与していた。開発業務受託機関は、123報(62%)に関与していた。 学術機関の筆頭著者200人のうち80人(40%)が調査に回答した。80人中29人(33%)は、研究者が試験デザインの最終決定権を有していたと報告した。また、10人は、データ解析や報告において、著者名に記載のない資金提供者/CROの社員が関与していると報告した。学術機関の著者のほとんどは企業との協力が有益であると述べたが、3人(4%)は資金提供企業に起因した公表の遅延を経験し、9人(11%)は主に試験デザインおよび報告に関して資金提供企業と意見の相違があったと報告した。

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重症筋無力症〔MG : Myasthenia gravis〕

重症筋無力症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義神経筋接合部の運動終板に存在する蛋白であるニコチン性アセチルコリン受容体(nicotinic acetylcholine receptor:AChR)やMuSK(muscle specific tyrosine kinase)に対する自己抗体が産生されることにより神経筋伝達の安全域が低下することで、罹患骨格筋の筋力低下、易疲労性を生じる自己免疫疾患である。■ 疫学本症は、特定疾患治療研究事業で国が指定する「特定疾患」の1つである。1987年のわが国での全国調査では本症の有病率は、5.1人/10万人と推計されたが、2006年には11.8人/10万人(推定患者数は15,100人)に上昇した1)。男女比は1:1.7、発症年齢は5歳以下と50~55歳にピークがあり、高齢発症の患者が増えていた1)。胸腺腫の合併はMG患者の32.0%、胸腺過形成は38.4%で認められていた。眼筋型MGは35.7%、全身型MGは64.3%であり、MGFA分類ではI・IIが約80%と多数を占めていた1)。また、抗AChR抗体の陽性率は73.9%であった1)。2018年の最新の全国疫学調査では、患者数は23.1人/10万人(推定29,210人)とさらに増加している。■ 病態本症の多くは、アセチルコリン(acetylcholine:ACh)を伝達物質とする神経筋シナプスの後膜側に存在するAChRに対する自己抗体がヘルパーT細胞依存性にB細胞・形質細胞から産生されて発症する自己免疫疾患である。抗AChR抗体は IgG1・3サブクラスが主で補体活性化作用を有していることから、補体介在性の運動終板の破壊がMGの病態に重要と考えられている。しかし、抗AChR抗体価そのものは症状の重症度と必ずしも相関しないと考えられている。MGにおいて胸腺は抗体産生B細胞・ヘルパーT細胞・抗原提示細胞のソース、MHCクラスII蛋白の発現、抗原蛋白(AChR)の発現など、抗AChR抗体の産生に密接に関与しているとされ、治療の標的臓器として重要である。抗AChR抗体陰性の患者はseronegative MGと呼ばれ、そのうち、約10~20%に抗MuSK抗体(IgG4サブクラス)が存在する。MuSKは筋膜上のAChRと隣接して存在し(図1)、抗MuSK抗体はAChRの集簇を阻害することによって筋無力症を惹起すると考えられている。抗MuSK抗体陽性MGは、抗AChR抗体陽性MGと比べ、発症年齢が比較的若い、女性に多い、球症状が急速に進行し呼吸筋クリーゼを来たしやすい、眼症状より四肢の症状が先行することが多い、筋萎縮を認める例が多いなどの特徴を持つ。また、検査では反復刺激試験や単一筋線維筋電図での異常の頻度が低く、顔面筋と比較して四肢筋の電気生理学的異常が低く、胸腺腫は通常合併しない。さらに神経筋接合部生検において筋の運動終板のAChR量は減少しておらず、補体・免疫複合体の沈着を認めないことから、その病態機序は抗AChR抗体陽性MGと異なる可能性が示唆されている2)。また、神経筋接合部の維持に必要なLRP4に対する自己抗体が抗AChR抗体陰性およびMuSK抗体陰性MGの一部で検出されることが報告されているが3)、筋萎縮性側索硬化症など他疾患でも上昇することが判明し、MGの病態に関わっているかどうかについてはまだ不明確である。画像を拡大する■ 症状本症の臨床症状の特徴は、運動の反復に伴う骨格筋の筋力の低下(易疲労性)、症状の日内・日差変動である。初発症状としては眼瞼下垂や眼球運動障害による複視などの眼症状が多い。四肢の筋力低下は近位筋に目立ち、顔面筋・咀嚼筋の障害や嚥下障害、構音障害を来たすこともある。重症例では呼吸筋力低下による呼吸障害を来すことがある。MGでは神経筋接合部の障害に加え、非骨格筋症状もしばしば認められる。精神症状、甲状腺疾患や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の合併、その他、円形脱毛、尋常性白斑、味覚障害、心筋炎、赤芽球癆などの自己免疫機序によると考えられる疾患を合併することもある。とくに胸腺腫合併例に多い。MGの重症度評価にはQMGスコア(表1)やMG composite scale(表2)やMG-ADLスコア(表3)が用いられる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 分類MGの分類にはかつてはOsserman分類が使われていたが、現在はMyasthenia Gravis Foundation of America(MGFA)分類(表4)が用いられることが多い。また近年は、眼筋型MG、早期発症MG(発症年齢3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療目標は日常生活動作に支障のない状態、再発を予防して生命予後・機能予後を改善することであり、MGFA post-intervention statusでCSR (完全寛解)、PR(薬物学的寛解)、MM(最小限の症状)を目指す。MG治療は胸腺摘除術、抗コリンエステラーゼ薬、ステロイド薬、免疫抑制剤、血液浄化療法、免疫グロブリン療法(IVIg)などが、単独または組み合わせて用いられている。近年、補体C5に対するモノクローナル抗体であるエクリズマブが承認され、難治性のMGに対して適応となっている。全身型MGに対しては胸腺摘除、ステロイド・免疫抑制剤を中心とした免疫療法が一般的に施行されている。また少量ステロイド・免疫抑制剤をベースとして血漿交換またはIVIgにステロイドパルスを併用する早期速効性治療の有効性が報告されており、MGの発症早期に行われることがある。眼筋型MGでは抗コリンエステラーゼ薬や低用量のステロイド・免疫抑制剤、ステロイドパルス6)が治療の中心となる。胸腺腫を有する例では重症度に関わらず胸腺摘除術が検討される。胸腺腫のない全身型MG症例でも胸腺摘除術が有効であることが報告されているが7)、侵襲性や効果などを考慮すると必ずしも第1選択となるとは言えず、治療オプションの1つと考えられている。胸腺摘除術後、症状の改善までには数ヵ月から数年を要するため、術後にステロイドや免疫抑制剤などの免疫治療を併用することが多い。症状の改善が不十分なことによるステロイドの長期内服や、ステロイドの副作用にてQOL8)やmental healthが阻害される患者が少なくないため、ステロイド治療は必要最小限にとどめる必要がある。抗MuSK抗体陽性MGに対して、高いエビデンスを有する治療はないが、一般にステロイド、免疫抑制剤や血液浄化療法などが行われる。免疫吸着療法は除去率が低いため行わず、単純血漿交換または二重膜濾過法を行う。胸腺摘除や抗コリンエステラーゼ薬の効果は乏しく、IVIg療法は有効と考えられている。わが国では保険適応となっていないが、海外を中心にリツキシマブの有効性が報告されている。1)ステロイド治療ステロイド治療による改善率は60~100%と高い報告が多い。ステロイド薬の導入は、初期から高用量を用いると回復は早いものの初期増悪を来たしたり、クリーゼを来たす症例があるため、低用量からの導入のほうが安全である。また、QOLの観点からはステロイドはなるべく少量とするべきである。胸腺摘除術前のステロイド導入に関しては明確なエビデンスはなく、施設により方針が異なっている。ステロイド導入後、数ヵ月以内に症状は改善することが多いが、減量を急ぐと再増悪を来すことがあり注意が必要である。寛解を維持したままステロイドから離脱できる症例は少なく、免疫抑制剤などを併用している例が多い。ステロイドパルス療法は、早期速効性治療の一部として行われたり、経口免疫治療のみでは症状のコントロールが困難な全身型MGや眼筋型MGに行われることがあるが、いずれも初期増悪や副作用に注意が必要である。ステロイドの副作用は易感染性、消化管潰瘍、糖尿病、高血圧症、高脂血症、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死、精神症状、血栓形成、白内障、緑内障など多彩で、約40%の症例に出現するとされているため、定期的な副作用のチェックが必須である。2)胸腺摘除術成人の非胸腺腫全身型抗AChR抗体陽性MG例において胸腺摘除の有効性を検討したランダム化比較試験MGTX研究が行われ結果が公表された7)。胸腺摘除施行群では胸腺摘除非施行群と比較して、3年後のQMGが有意に低く(6.2点 vs. 9.0点)、ステロイド投与量も有意に低く(32mg/隔日 vs. 55mg/隔日)、治療関連の合併症は両群で同等という結果が得られ、非胸腺腫MGで胸腺摘除は有効と結論された。全身型MGの治療オプションとして今後も行われると考えられる。約5~10%の症例で胸腺摘除後にクリーゼを来たすが、術前の状態でクリーゼのリスクを予測するスコアが報告されており臨床上有用である9)(図2)。胸腺摘除術前に球麻痺や呼吸機能障害を認める症例では、術後クリーゼのリスクが高いため9)、血液浄化療法、ステロイド投与などを術前に行い、状態を安定させてから胸腺摘除術を行うのが望ましい。画像を拡大する3)免疫抑制剤免疫抑制剤はステロイドと併用あるいは単独で用いられる。免疫抑制剤の中で、現在国内での保険適用が承認されているのはタクロリムスとシクロスポリンである。タクロリムスは、活性化ヘルパーT細胞に抑制的に作用することで抗体産生B細胞を抑制する。T細胞内のFK結合蛋白に結合してcalcineurinを抑制することで、interleukin-2などのサイトカインの産生が抑制される。国内におけるステロイド抵抗性の全身型MGの臨床治験で、改善した症例は37%で、有意な抗AChR抗体価の減少が見られた。副作用としては、腎障害と、膵障害による耐糖能異常、頭痛、消化器症状、貧血、リンパ球減少、心筋障害、感染症、リンパ腫などがある。タクロリムスの代謝に関連するCYP3A5の多型によってタクロリムスの血中濃度が上昇しにくい症例もあり、そのような症例では治療効果が乏しいことが報告されており10)、使用の際には注意が必要である。シクロスポリンもタクロリムス同様カルシニューリン阻害薬であり、活性化ヘルパーT細胞に作用することで抗体産生B細胞を抑制する。ランダム化比較試験にてプラセボ群と比較してMG症状の有意な改善と抗AChR抗体価の減少が見られた。副作用として腎障害、高血圧、感染症、肝障害、頭痛、多毛、歯肉肥厚、てんかん、振戦、脳症、リンパ腫などがある。4)抗コリンエステラーゼ薬抗コリンエステラーゼ薬は、神経終末から放出されるAChの分解を抑制し、シナプス間のアセチルコリン濃度を高めることによって筋収縮力を増強する。ほとんどのMG症例に有効であるが、過剰投与によりコリン作動性クリーゼを起こすことがある。根本的治療ではなく、対症療法であるため、長期投与による副作用を考慮し、必要最小量を使用する。副作用として、腹痛、下痢、嘔吐、流嚥、流涙、発汗、徐脈、AVブロック、失神発作などがある。5)血液浄化療法通常、急性増悪期や早期速効性治療の際に、MG症状のコントロールをするために施行する。本法による抗体除去は一時的であり、根治的な免疫療法と組み合わせる必要がある。血液浄化療法には単純血漿交換、二重膜濾過法、TR350カラムによる免疫吸着療法などがあるが、いずれも有効性が報告されている。ただしMuSK抗体陽性MGでは免疫吸着療法は除去効率が低いため、単純血漿交換や二重膜濾過血漿交換療法が選択される。6)免疫グロブリン大量療法血液浄化療法同様、通常は急性増悪時に対症療法的に使用する。有効性は血液浄化療法とほぼ同等と考えられている。本療法の作用機序としては抗イディオタイプ抗体効果、自己抗体産生抑制、自己抗体との競合作用、局所補体吸収作用、リンパ球増殖や病的サイトカイン産生抑制、T細胞機能の変化と接着因子の抑制、Fc受容体の変調とブロックなど、さまざまな機序が想定されている。7)エクリズマブ補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブの有効性が報告され11)、わが国でも2017年より全身型抗AChR抗体陽性難治性MGに保険適用となっている。免疫グロブリン大量静注療法または血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限り使用を検討する。C5に特異的に結合し、C5の開裂を阻害することで、補体の最終産物であるC5b-9の生成が抑制される。それにより補体介在性の運動終板の破壊が抑制される一方、髄膜炎菌などの莢膜形成菌に対する免疫力が低下してしまうため、すべての投与患者はエクリズマブの初回投与の少なくとも2週間前までに髄膜炎菌ワクチンを接種し、8週後以降に再投与、5年毎に繰り返し接種する必要がある。4 今後の展望近年、治療法の多様化、発症年齢の高齢化などに伴い、MGを取り巻く状況は大きく変化している。今後、系統的臨床研究データの蓄積により、エビデンスレベルの高い治療方法の確立が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、内科、呼吸器外科、眼科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)日本神経免疫学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)難病情報センター 重症筋無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Myasthenia Gravis Foundation of America, Inc.(アメリカの本疾患の財団のサイト)1)Murai H, et al. J Neurol Sci. 2011;305:97-102.2)Meriggioli MN, et al. Lancet Neurol. 2009;8:475-490.3)Zhang B, et al. Arch Neurol. 2012;69:445-451.4)Gilhus NE, et al. Lancet Neurol. 2015;14:1023-1036.5)Grob D, et al. Muscle Nerve. 2008;37:141-149. 6)Ozawa Y,Uzawa A,Kanai T, et al. J Neurol Sci. 2019;402:12-15.7)Wolfe GI, et al. N Engl J Med. 2016;375:511-522.8)Masuda M, et al. Muscle Nerve. 2012;46:166-173.9)Kanai T,Uzawa A,Sato Y, et al. Ann Neurol. 2017;82:841-849.10)Kanai T,Uzawa A,Kawaguchi N, et al. Eur J Neurol. 2017;24:270-275.11)Howard JF Jr, et al. Lancet Neurol. 2017;16:976-986.公開履歴初回2013年02月28日更新2021年03月05日

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風疹にいま一度気を付けろっ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。リマインド! 成人風疹の臨床像前回は風疹の流行状況、そしてワクチン接種の重要性についてお話しいたしました。2回目となる今回は「成人風疹の臨床像」についてご紹介したいと思います。「おいおい、おまえ風疹の臨床像って、そんなに語れるほど診たことあるんかい、このダボォ!」と思われるかもしれませんが、こう見えて私、前回2013年の流行の際に風疹の症例けっこう診たんですよ。その証拠にほら、NEJMにclinical picture1)が載ってるでしょ? あ、すいません、そうです、自慢したかっただけです、はい。しかし、実際に当時かなりの患者さんを診たうえで読者の皆さまにご提言したいことは「成人風疹は教科書的な臨床像とは異なる」ということですッ! これ重要ですのでメモしておいてください!!教科書的な記載とは何かと言いますと、表のようなヤツです。風疹よりも麻疹のほうが高熱が出るとか、カタル症状が弱いとか、皮疹の癒合がないとか、色素沈着を残さないとか、そういったヤツです。画像を拡大するしかしッ! 確かに小児の臨床像はこうした違いがあるのかもしれませんが、成人ではこれらは必ずしも風疹の特徴とはいえませんッ! 高熱も出ますし、カタル症状も強く出ることがありますし、皮疹は癒合して色素沈着を残すこともありますッ!臨床経過についてはおおむね教科書的な記載と同様かと思います(ただし関節痛は成人で強く、関節炎を呈することもある)。図1は典型的な風疹の経過です。発熱、皮疹、上気道症状がみられます。画像を拡大する図2は典型的な風疹患者の皮疹で、いわゆる紅斑を呈します。しかし、図3のように癒合したり、紅丘疹となることもあります。図2 風疹の典型的な皮疹画像を拡大する画像を拡大する図3 成人風疹患者の皮疹。盛り上がりのある紅丘疹であり癒合している画像を拡大する画像を拡大するさらには、図4のように圧迫しても消退しない紫斑を呈することまであります。図4 紫斑を呈した成人風疹患者(風疹脳炎)画像を拡大するというわけで、成人風疹については皮疹の性状だけで麻疹と鑑別することは困難です。風疹では、眼球結膜充血と後頸部リンパ節腫脹がみられることが多いため、これが診断のカギとなります(図5)。図5 風疹患者の眼球結膜充血画像を拡大する画像を拡大する風疹が疑われた後の対応こうした臨床像から風疹が疑われたら、(麻疹の可能性も考慮して)できれば陰圧の個室に隔離したうえで空気感染対策を実施し、管轄の保健所に連絡をしましょう。風疹なのか麻疹なのか鑑別が困難な場合もあるかと思いますが、臨床像のみで厳密にこれらを区別する必要はないと考えます。保健所を介して都道府県の衛生研究所で検査してくれるということになれば、咽頭スワブなどの検体を採取してPCR検査を実施してもらいましょう。抗体検査のために血清も採取するのがよいと思います。保健所の検査の基準を満たさなかったものの、それでも風疹が疑われるという場合には、外注検査で風疹IgM抗体を測定することもできます。風疹と診断されれば、治療は対症療法となります。感染性がなくなるまで自宅療養していただきましょう。小児では学校保健法に「皮疹が消失するまで学校を休むこと」と定められていますが、成人についてもこれに準じて皮疹が消失するまでは会社は休んでもらいましょう。というわけで、2回にわたって現在流行中の風疹についてご紹介いたしました。次回ですが、毎回「次こそバベシアについて書きます」って書いていますが、そうなった試しがありませんので、あまり期待しないでください。※風疹の皮膚所見の掲載に当たっては、患者ご本人から許可を得ております1)Kutsuna S, et al. N Engl J Med. 2013;369:558.2)Banatvala JE, et al. Lancet. 2004;363:1127-1137.

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風疹にいま一度気を付けろっ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。忘れたころにやってくる「風疹」月日が経つのは早いもので、前回のラッサ熱から5ヵ月が経ちました。その間にコンゴ民主共和国でエボラ出血熱が流行し、終息し、そしてまたコンゴ民主共和国の別のところで流行し、そして現在落ち着いてきているところです。光陰矢の如し、ということで感染症の世界も刻一刻と疫学が変化しているわけです。当初、隔週の連載で、ということで始まったこの「新興再興感染症に気を付けろッ!」ですが、もはや5ヵ月間原稿を書かなくともまったく心が揺るがない「無の境地」に達することができました。これもひとえに読者の皆さま(少数のマニア)のおかげです。今後とも本連載を、どうぞよろしくお願い申し上げます。さて、そんな中、わが国でまた「風疹」が流行しようとしています。東京都、千葉県を中心に8月から症例数が増加してきています。2018年9月11日時点での報告数は362例となっており、これは昨年の4倍のペースです(国立感染症研究所 感染症疫学センター発表)。今回もワクチン未接種者の30~40代が罹患風疹といえば思い出されるのは2013年の大流行です。5年前も関東を中心に1万7千人を超える感染者が出たことは、記憶に新しいことと思います1)。このときは45例もの先天性風疹症候群が報告されました。前回の流行では中年男性が77%を占めたわけですが、今回の流行でも30~40代の男性に多いことがわかっています。これはなぜかと言いますと、この世代の男性(1962~1978年度生まれ:2018年現在39~55歳)は、定期接種として風疹ワクチンを接種していないからであります! 図1は、前回の流行時に風疹に罹患した男性患者を風疹ワクチン接種歴ごとに見たものです。画像を拡大するご覧のとおり、見事なまでに30~40代に集中しており、かつ症例の95%以上が「ワクチン接種歴不明、なし、1回」のいずれかです。「風疹の予防のためにはワクチンを2回接種すべしッ!」ということが、この結果からもはっきりとわかるわけです。ちなみに今回の流行でも東京都の報告によりますと30~40代の男性に多く、ワクチン接種歴不明、なし、1回の方が多いとのことです(東京都感染症情報センター)。ワクチン接種の重要性については前回の流行時にさんざん強調され、「免疫のない人はワクチンを打ちましょうッ!」つって各メディアでも取り上げられていたわけですが、流行が去ってしまえば皆、風疹ワクチンや先天性風疹症候群のことなんか忘れてしまい…結果としてわれわれは同じ過ちを繰り返しているわけです。結局のところ私たちは前回の流行から何も学んでいなかったのではないでしょうか…はっきり言ってわれわれ医療従事者一人ひとりにできることなんて、感染症の流行の前には手も足も出ないのではないか…そんな無力感にさいなまれる医療従事者も多いのではないでしょうか。そんな皆さまのために、5年前にわれわれ有志が作った超チープな風疹啓発動画(いまや完全に黒歴史)を見ていただきましょう。風疹の流行を止めるためにどうですか。めっちゃ寒いでしょう。でも何というか、若気の至りなりに「風疹の流行を止めよう!」という思いが伝わってきませんか。ちょうど当時は林修先生の「今でしょ!」が流行ってたんでしょうね。今では「今でしょ!」って言ってる人は見かけなくなりましたけど、むしろ今こそ風疹ワクチンを接種するべきタイミングでありまして、林修先生にはいま一度「今でしょ」リバイバルを巻き起こしてほしいところであります。再度確認、ワクチンの重要性画像を拡大する図2 母子手帳の予防接種歴を確認しましょうポスターこの流行を前回のような規模にしないためには、予防接種が重要であることがおわかりいただけたかと思います。では、患者さんが風疹ワクチンを接種しているかどうかという予防接種歴を確認するためにはどうすればよいかですが…几帳面な人はご自身の母子手帳を持っていると思いますので、母子手帳を確認し、風疹ワクチンの接種について記載があるかどうか確認しましょう。国立国際医療研究センター 国際感染症センターでは、「母子手帳の予防接種歴を確認しましょうポスター」を作成しております(図2)。こちらのポスターはホームページからダウンロードできますので、啓発にご活用ください。下の白い四角のところに施設名や連絡先を記載して使っていただいて結構です。そして、もし母子手帳がなくて予防接種歴がわからない場合は…抗体価を測定して低ければ接種するという方法もありますが、もう抗体価の測定をせずに打ってしまうというのも手です。仮に接種歴や十分な抗体があった場合も免疫が強化されるだけですから問題ありません。明確な接種歴が合計2回となるように接種を行いましょう。そして、これを機に風疹だけでなく麻疹、おたふくかぜ、水痘の接種歴についてもキャッチアップを行いましょう!風疹ワクチンについては、これまた国際感染症センター制作「ももたんの風疹教室」を要チェックですッ! ももたん萌え~。風疹ワクチンを打つ前に ~ももたんの風疹教室~次回は、流行する風疹の患者を早期に診断するために「成人の風疹臨床像」についてご紹介しますッ!1) CDC. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2013;62:457-462.

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