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高用量インフルワクチン、高リスクCVDの死亡改善せず/JAMA

 高リスク心血管疾患患者では、高用量3価不活化インフルエンザワクチンは標準用量4価不活化インフルエンザワクチンと比較して、全死因死亡率や心肺疾患による入院率を低下させないことが、米国・ミネソタ大学のOrly Vardeny氏らが行ったINVESTED試験で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2020年12月4日号で報告された。インフルエンザは、ワクチン接種への免疫応答が強くない心血管疾患患者の心肺合併症や死亡の割合を一時的に高めるという。高用量のインフルエンザワクチンは、インフルエンザによる疾患のリスクを低減する可能性が示唆されている。北米157施設が参加した実践的な無作為化実薬対照比較試験 本研究は、米国とカナダの157施設が参加した実践的な二重盲検無作為化実薬対照比較試験であり、2016年9月21日~2019年1月31日の期間の3回のインフルエンザ流行期に実施された(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成による)。 対象は、1つ以上のリスク因子(65歳以上、糖尿病、LVEF<40%、BMI≧30、CKDの既往、虚血性脳卒中、末梢動脈疾患など)を有し、過去12ヵ月間に急性心筋梗塞による入院歴または過去24ヵ月間に心不全による入院歴のある患者であった。 被験者は、高用量3価または標準用量4価の不活化インフルエンザワクチンを接種する群に無作為に割り付けられ、最大3回の流行期に再接種が可能とされた。 主要アウトカムは、各流行期における全死因死亡および心肺疾患による入院の複合が発生するまでの期間とした。最終フォローアップ日は2019年7月31日だった。4つの副次アウトカムにも差はない 3回の流行期に5,260例(平均年齢:65.5[SD 12.6]歳、男性3,787例[72%]、心不全3,289例[63%]、心筋梗塞1,960例[37%])が無作為化の対象となり、高用量ワクチン群に2,630例、標準用量ワクチン群にも2,630例が割り付けられた。総ワクチン接種回数は7,154回で、5,226例(99.4%)が試験を完了した。 主要アウトカムは、高用量群では、3,577人流行期当たり884例に975件(心肺疾患が原因の入院883件、全死因死亡92件)発生した(イベント発生率:45件/100人年)。これに対し、標準用量群では、主要アウトカムが3,577人流行期当たり837例に924件(心肺疾患が原因の入院846件、全死因死亡78件)発生した(イベント発生率:42件/100人年)。イベント発生のハザード比(HR)は1.06(95%信頼区間[CI]:0.97~1.17)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.21)。 個々の流行期(2016~17年:HR:1.08[95%CI:0.80~1.45、p=0.61]、2017~18年:1.12[0.98~1.29、p=0.10]、2018~19年:1.01[0.89~1.15、p=0.86])においても、両群間に有意差はみられなかった。また、4つの副次アウトカム(個々の流行期の心血管死および入院、全死因死亡、全流行期の心肺疾患による入院および全死因死亡、全流行期の心肺疾患による入院および全死因死亡の初回発生)にも有意な差はなかった。 ワクチン関連有害事象は、高用量群が1,449例(40.5%)、標準用量群は1,229例(34.4%)で発現した。最も頻度の高い有害事象は、注射部位の疼痛(高用量群26.1% vs.標準用量群19.1%)、筋肉痛(14.0% vs.11.8%)などであり、高用量群で高い傾向がみられた。重度の有害事象は、高用量群が55例(2.1%)、標準用量群は44例(1.7%)で、重篤な有害事象はそれぞれ2例および4例で認められた。 著者は、「この患者集団では、引き続きインフルエンザワクチン接種が強く推奨される」としている。

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第35回 新型コロナワクチン接種、医療従事者は2月下旬から開始か

<先週の動き>1.新型コロナワクチン接種、医療従事者は2月下旬から開始か2.4月から感染予防策を徹底する医療機関の診療報酬を臨時引き上げ3.来年度の薬価引き下げ幅を0.8%緩和、4,300億円削減へ4.介護報酬改定2年連続引き上げ、5つの柱を軸に5.高齢者のポリファーマシー対策強化に向けた取りまとめ1.新型コロナワクチン接種、医療従事者は2月下旬から開始か新型コロナウイルスワクチンについて、来年2月下旬をめどに医療従事者への接種を始められるよう、厚生労働省から自治体に体制整備を指示したことが報道された。18日、ファイザーがビオンテック(ドイツ)と共同開発している新型コロナワクチンの製造販売承認申請を行ったことを受け、来年のワクチン接種スケジュールと優先接種対象者について議論が進んでいる。ファイザーのワクチンは、-70度以下での流通・保管体制が必要となる。政府はワクチン保管用に、-75℃のディープフリーザーを3,000台、-20℃のディープフリーザーを7,500台確保するなど体制を整える方針。新型コロナワクチン接種は、通常の定期接種と同様に、住民票所在地の市町村での接種を原則とし、各市町村は、接種対象者に対し、接種券(クーポン券)を発行する。対象者は接種券を医療機関に持参してワクチンを接種し、医療機関は接種券を市町村への費用請求に用いる。接種後、接種券と一体の接種済証が発行され、接種情報は市町村の予防接種台帳で管理・保存される。25日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で、ワクチンの接種優先順についてなど、さらに具体的に議論される見込み。(参考)新型コロナワクチン 2月下旬の接種開始準備を指示 厚労省(NHK)新型コロナウイルスワクチンの接種体制・流通体制の構築について(厚労省)ファイザーとBioNTech、日本においてCOVID-19ワクチンの製造販売承認申請を発表(ファイザー)2.4月から感染予防策を徹底する医療機関の診療報酬を臨時引き上げ厚労省は、18日に開催された中央社会保険医療協議会で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を踏まえた診療に係る特例的な対応として、外来や入院を問わず、すべての診療に対して感染予防策の徹底を行った場合、2021年4~9月まで診療報酬を臨時で引き上げることを決めた。この改定により、初診・再診料は1回当たり5点、入院料は1日当たり10点の加算を算定できる。算定条件としては、すべての患者診療において、状況に応じて必要な個人防護具を着用した上で、感染防止に十分配慮して対応を実施する、COVID-19の感染予防策に関する職員研修を行うなどが求められる。(参考)新型コロナウイルス感染症への対応とその影響等を踏まえた診療報酬上の取扱いについて(厚労省)3.来年度の薬価引き下げ幅を0.8%緩和、4,300億円削減へ厚労省は、18日に開催された中央社会保険医療協議会において、来年度の薬価改定について討論した。2021年から毎年実施される薬価改定の品目ならびに改定幅について、乖離率が5%を超える品目(医療用医薬品のうち69%)を対象に、来年度の薬価改定(薬価の引き下げ)を行うこととした。ただし、COVID-19による影響があるのを考慮して、薬価の削減幅を0.8%緩和することを了承。この決定により、患者や保険者の負担は軽くなるが、新薬の開発コストが増加している中で、製薬企業にとっては経営上の打撃となる。日本医師会・中川 俊男会長は、従来から薬価財源は医療費本体に充当するのが基本で、「コロナ禍の現状において、国民の生命を守るために最前線で活動する医療機関支援の原資とするなど、診療報酬上で中間年に加算をし、医療費財源に充てるべき」との意見を16日の定例記者会見で発表している。(参考)全世代型社会保障検討会議の最終報告取りまとめなど最近の政府の動向について(日医)2021(令和3)年度薬価改定の骨子(案)(厚労省)4.介護報酬改定2年連続引き上げ、5つの柱を軸に18日に開催された社会保障審議会介護給付費分科会において、2021年度介護報酬改定に関する審議報告がまとめられた。改定率は、前日の田村 憲久厚生労働相と麻生 太郎財務相による折衝でプラス0.7%と決められ、2回連続のプラス改定となった。今回の改定の5つの柱として、「感染症や災害への対応力の強化」「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止に向けた取組の推進」「介護人材の確保・介護現場の革新」「制度の安定性・持続可能性の確保」を挙げ、これらを促進するような改定となる見込み。また、厚労省が廃止期限を設けていた介護療養型医療施設や有床診療所から介護医療院への移行促進なども含まれる。(参考)令和3年度介護報酬改定に関する審議報告(案)(厚労省)5.高齢者のポリファーマシー対策強化に向けた取りまとめ厚労省は、17日に「高齢者医薬品適正使用検討会」を開催し、病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方をまとめた。ポリファーマシーは、単に服用薬剤数が多いことではなく、それに付随する薬物有害事象リスクの増加や、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態。これに取り組み始める病院が、初期に直面するであろう課題を解決するためのスタートアップツールとしてまとめられた。また、第二部はポリファーマシー対策をある程度進めている病院が、業務手順書を整備し、業務をより効率的に行う参考資料としてまとめられている。この取り組みに揃えておくべき資料としては、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について」「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」が挙げられており、とくに高齢者の入院治療を行う病院に取り組み開始を求めている。(参考)病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方(案)(厚労省)第12回 高齢者医薬品適正使用検討会 資料(厚労省)

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体験ルポ・新型コロナワクチン接種―米国の日本人医師が緊急寄稿

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの接種がついに始まった。世界に先駆け、英国で12月8日から、14日からは感染者数世界最多の米国でも医療・介護従事者に対し、優先的に接種が行われている。今回、米国・ワシントンDCの病院に勤務する日本人医師の安川 康介氏が、ワクチン接種の体験についてケアネットに緊急寄稿。日本においても来年には一般接種が開始されるとみられる中、同氏の体験をぜひ参考にしていただきたい。3月から感染者数急増、全員体制でもひっ迫する診療現場 米国FDAが12月11日、Pfizer社とBioNTech社が開発したmRNAワクチン(BNT162b2)の緊急使用を認めた。これを受けて、わたしが勤務するワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにおいても、12月16日から医療従事者を対象にワクチン接種が始まった。本稿では、COVID-19に関するわたしの経験を振り返ると共に、ワクチン接種に対する個人的な所感について述べたい。 米国では3月以降に新型コロナウイルスの感染が急速に広がり、すでに29万人以上がCOVID-19で亡くなり、1日の死亡者が3,000人を超える日もある(12月13日現在)。わたしの病院でも、3月後半からCOVID-19による入院患者が増え始め、最初の約2週間で100人近い患者が入院し、一時期は常時200人近い患者が入院している状況が続いた。当初は、COVID-19専用病棟として1棟準備していたが、感染者数の増加に伴って専用病棟が次々と増え、ピーク時は約5病棟が感染者専用病棟となり、ICUの大部分も感染患者によって占められる状況であった。人員の再配置(redeployment)も必要になり、集中治療医や内科医の負担を減らすために他科の専門医やナース・プラクティショナーが「助っ人」として駆り出された。ピーク時よりも感染者が減少したものの、今ではCOVID-19診療がすっかり日常となっている。 COVID-19のさまざまな合併症については世界規模の研究で明らかになりつつあるが、3月以降、この感染症がいかに多種多様な症状・合併症を引き起こすかということを、研究論文のみならず実臨床からも多く学んだ。時に、急速に進む呼吸不全はもちろんのこと、消化器症状、肺塞栓症や脳梗塞、肝障害、腎不全など、COVID-19の恐ろしさを、同僚と共に目の当たりにしてきた。病院のスタッフでも、亡くなったり重症化したりする方もいた。深刻な症状を引き起こす一方で、軽症もしくは無症状で済むケースもまた少なくないことは確かであり、ウェブ上のCOVID-19関連の情報や意見はまさに玉石混交。医療のコミュニケーションの難しさについてもずいぶん考えさせられた。ワクチン接種はコロナと格闘してきた9ヵ月越しの「特別な日」 Pfizer/BioNTech社のmRNAワクチンを巡っては、その効果と安全性を検証した論文が12月10日付のNEJM誌に掲載され、その数日前から、FDAによる53ページに及ぶ詳細な報告書が閲覧可能となっていた。それによると、当該ワクチンの2回投与後の感染予防効果は約95%と高く、短期的な局所反応・全身反応を除いて重篤な副反応はまれであるとのことである。とはいえ、mRNAワクチンは今回初めて承認となるため、長期的およびまれな副反応については、注意深くモニタリングしていく必要がある。 さまざまな不確定要素があるが、それでも私が接種を決めた理由はいくつかあり、先述したワクチンの効果・安全性についての臨床試験の情報、自身の置かれている状況(コミュニティーにおける高い感染者数、勤務先でのCOVID-19診療)、自分が感染した場合、家族や患者、同僚への感染拡大を避けるため―などである。 12月16日(現地時間)、私の働く病院にてワクチン接種が開始された。病院は接種を推奨しているが、もちろん強制ではない。ワクチンの数量が現在のところ限られているため、院内職員でも優先順位が設けられ、COVID-19患者がとくに多い、救急科、集中治療、そして内科の医療従事者が先んじて受けることになった。事前に予約していた時間に病院内のワクチン接種会場に行くと、すでに数人の同僚が並んでいた。CDCからワクチン接種のカードが配られ、ワクチンに関する簡単な資料が渡された後、ワクチンの筋肉内注射を受けた。アレルギー反応が出ないか接種者全員が15分会場で観察され(ちなみにわたしにはアレルギー歴はない)、その後通常の仕事に戻った。その時点では、痛みはほとんどなかったが、数時間経つとインフルエンザワクチンを受けた時のような注射部位の痛みが生じた。夜になると、その痛みはやや増加し、翌日(現地時間で12月17日)もその痛みは持続しているものの、倦怠感・発熱・頭痛・悪寒などの全身症状はない。同僚の中には、受けた夜に発熱・発汗が生じた人もいたが、周りで受けた人のほとんどが主に注射部位の痛みがあった程度である。次の数ヵ月で米国では数百万人単位で今回のワクチンを受ける可能性があるので、日本で接種が開始される頃には、安全性についてより知見が蓄積していることだろう。今年3月以降、新型コロナウイルス感染者の方を日常に診療してきた。この9ヵ月を乗り越えてきた自分や同僚にとって、12月16日は特別な日となった。 2回目の接種は、2021年1月4日に予定している。次回、1回目の接種後から2回目の接種についてお伝えする。【安川 康介氏プロフィール】2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を修了後渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。現在は、ワシントンDCのMedStar Washington Hospital Centerにて、ホスピタリストとして勤務。

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Pfizer社の新型コロナワクチンの第III相試験結果/NEJM

 ファイザーとビオンテックによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「BNT162b2」について、16歳以上における30μgの2回投与の有効率は95%で、同有効率は年齢や性別、基礎疾患の有無といったサブグループでも同程度であった。また、中央値2ヵ月間の安全性は、その他のウイルスワクチンと類似していた。アルゼンチン・Fundacion INFANTのFernando P. Polack氏らによる、進行中の第II/III相国際共同プラセボ対照観察者盲検化pivotal有効性試験の結果で、NEJM誌オンライン版2020年12月10日号で発表した。BNT162b2は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のfull-lengthスパイクタンパク質をコードする脂質ナノ粒子製剤・修飾ヌクレオシドmRNAワクチンである。第III相試験はコロナワクチンBNT162b2を3週間隔で2回投与 第III相試験は、16歳以上の健康な男女を無作為に2群に分け、一方には新型コロナウイルスワクチンBNT162b2(30μg)を、もう一方にはプラセボを、それぞれ21日間隔で2回投与した。 主要エンドポイントは、検査によって確認されたCOVID-19に対するワクチンの有効性および安全性だった。第III相試験での新型コロナウイルスワクチンの有効率は95% 第III相試験では合計4万3,548例が無作為化を受け、4万3,448例が注射投与を受けた。新型コロナウイルスワクチンのBNT162b2群が2万1,720例、プラセボ群は2万1,728例だった。 2回目投与後7日以降にCOVID-19の発症が確認されたのは、プラセボ群が162例だったのに対し、BNT162b2群は8例で、BNT162b2の有効率は95%だった(95%信用区間[Crl]:90.3~97.6)。 ワクチン有効率は、65~75歳未満で94.7%であり、年齢や性別、人種、民族、ベースラインのBMI、基礎疾患の有無で分類したサブグループにおいて類似していた(概して90~100%)。 安全性プロファイルは、注射部位の短期的な軽度~中等度の疼痛、倦怠感、頭痛で特徴付けられた。重度有害イベントの発現頻度は低く、両群で類似していた。

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第36回 国家プロジェクトを司るノーベル賞候補者、金銭巡る醜聞で官邸が調査開始

内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つ、「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」研究開発プロジェクトに、ただならぬ事態が起きている。プログラムディレクター(PD)の中村 祐輔氏(がん研究会がんプレシジョン医療研究センター長)と、プロジェクトに参加する某大手企業との“癒着”が問題視されているというのだ。この件は菅 義偉首相の耳にも入っており、官邸ではすでに調査進行中だという。結果次第では、中村氏のPD解任やプロジェクトそのものを刷新する対応もあり得るという。中村氏と言えば、ヒトゲノム(全遺伝情報)研究の第一人者として知られ、今年9月には、ノーベル賞受賞が有力な研究者に贈られる「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」を受けている。そんな中村氏を巡っては、10年前にも企業絡みの問題が報じられた過去がある。朝日新聞が2010年10月15日付朝刊で、東京大学医科学研究所(医科研)が医科研病院においてがんペプチドワクチンの臨床試験を実施した際、「重篤な有害事象」(消化管出血)の情報を、ペプチドを提供した他施設に伝えなかったことを報道。紙面では、ペプチド開発者が医科研ヒトゲノム解析センター長・教授(当時)の中村氏であり、治験を実施したのが、同氏が社外取締役および筆頭株主だった東大発のベンチャー企業、オンコセラピー・サイエンス社(オンコ社)であることなどを伝えていた。これに対し、中村氏とオンコ社は同年、朝日新聞社と記者対し2億円の損害賠償と謝罪広告を求めて提訴。これに対し東京地裁は2015年、「中村氏らの名誉が傷つけられたとはいえない」として訴えを棄却したという経緯がある。この間の中村氏は、民主党政権下の2011年1月、内閣官房に新設された「医療イノベーション推進室」室長に就任するも、同年12月には退任。翌年4月には米シカゴ大学医学部教授・個別化医療センター副センター長に就いた。先述の裁判での敗訴を経て、2016年4月にはがん研がんプレシジョン医療研究センター所長、2018年にはSIPのPDに就任している。責任者を務めるAIホスピタルのプロジェクトには、200社近い企業が応募し、13社の研究が採用された。そのうち12社が大手企業で、1社だけベンチャー企業が入った。関係者は次のように話す。「中村氏は当初、この独創的な技術を持つベンチャー企業を応援していたが、日本ユニシスや日立製作所が、会議の際などにベンチャー企業に嫌がらせをするようになった。会議資料がベンチャー企業だけ用意されていなかったり、研究費の返還を求めて訴訟沙汰になったりしている。しかし、責任者である中村氏は嫌がらせを止めようとしない。日本ユニシスとの親密な関係が影響していると考えられる」。実際、中村氏は2019年に『FRIDAY』や『Foresight』といったメディアに、日本ユニシスの社長や執行役員と共に登場している。検察事情に詳しい事情通は、「中村氏は自らが役員を務める企業にプロジェクト予算の一部を環流したり、日本ユニシスと癒着したりしているのではと噂されており、東京地検特捜部も関心を寄せている」と打ち明ける。事情を知る医療人は、「また企業絡みの問題か。懲りない人だ」と苦笑いだった。

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第35回 メディアも市民も「新型コロナに有効」研究の餌食に過ぎない?

「またか」と思わずため息が出てしまった。お茶が新型コロナウイルスに有効という、この記事のことだ。まあ、読めばすぐわかるが、試験管内、in vitroの話である。一応、発表した奈良県立医科大学側のリリースによると、3種類のお茶とコントロールの生理食塩水を、一定のウイルス感染価を有する新型コロナウイルス溶液と1:1で混合して静置し、1分後、10分後、30分後にそれぞれの溶液を培養細胞に接種してウイルス感染価を測定したというもの。確かにリリースを見ると、うち1種類のお茶では1分後の時点でウイルス感染価を計算すると99.625%も低下している。これ自体は事実なのだろう。だが、今発信すべき情報なのかという点では大いに疑問がある。こう書くと、「それはメディアが不勉強だから」と言われるのは分かっている。だが、もしそれを前提にするならば、不勉強な相手への発表なのだから、発信する側もそのやり方次第で責任を問われるべきものなのではないかと従来から考えている。実際、日常的に一般紙ではこの手のin vitroの研究やマウス、ラットレベルのin vivoの研究結果を、言い方は悪いが「誇大広告」のごとくに報じているのをよく見かける。これがどのような経緯で生み出されているかの構造は、実はかなり単純である。端的に言えば、ネタが欲しくて仕方がない記者と世間に少しでも成果をアピールしたい研究者・大学の利害が一致した結果だ。ただ、大手紙と地方紙、大都市圏と地方都市などの環境によって利害状況はやや異なる。大手紙の科学部記者などはin vitro、in vivoの研究に無条件に飛びつくことは少ない。だが、専門性のない社会部記者などは科学部記者よりも「読者にインパクトを与える見出しが立つようなネタかどうか?」に、より軸足が置かれる。また、大手紙地方支局や地方紙の場合、大手紙の科学部レベルの専門性がある記者がいないことも多いうえに、日常的に地元大学の研究者や広報部門と面識があれば、半分お付き合いも兼ねて大学発表の記事化に前向きになりがちである。ちなみにこの手の記事は一般的に年度末が近くなると増える傾向がある。新たな予算獲得や既に獲得した予算の成果を大学や研究者も外部にアピールしたいからだ。今回の記事に前述のような事情があるかどうかは定かではない。だが、この記事が出てきた背景により考えを巡らせるなら、さらに2つのファクターが考えられる。まず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは既に1年近く社会機能をマヒさせ、決定打となる対処法は今のところない。ワクチンはようやくイギリスで緊急承認になったが、全世界に供給されるまでにはまだ時間を要する。感染時に使用できる承認薬は日本国内では抗ウイルス薬のレムデシビルと抗炎症薬のデキサメタゾンのみでいずれも「帯に短し、たすきに長し」である。結局のところAI実用化の現代なのに、今現在できる対策は3密回避、手洗い励行、屋内でのマスク着用という、まるでインテリジェントビルの中で暖を取るのに火打ち石で火を起こして焚火をしているかのごとくである(別に3密対策、手洗い励行、屋内でのマスク着用を馬鹿にしているわけではない)。記者とて医療者とて、この打つ手のなしの状況に何らかの光明を見いだしたい気持ちは同じだろう。そこに今回のお茶のニュースはピタッとはまってしまう。しかも、社会を混乱に陥れているCOVID-19に対抗する「武器」が誰もが身近で手にできるお茶なのだから、不特定多数に発信するメディアにとっても読者にとっても好都合である。やや余談になるが、がんの診療にかかわった経験がある医療従事者の方は、「がんに効く」とのキャッチフレーズにひかれて特定の食品や料理や健康食品にはまるがん患者に遭遇した経験があるだろう。実際、Amazonなどで一般向けのがんに関する書籍の売れ筋ランキングを見ると、上位にはかなりの頻度で「○○を食べたらがんが消えた」という類の本が登場する。特定の食品で発症したがんを治療できないことは医療従事者ならば誰もが承知のこと。しかし、がんに対する三大治療といわれる手術、放射線、抗がん剤はいずれも患者の手の届かないところにある。結局、今現状を何とかしたいと思うがん患者に手が届く対策が食事であり、そこに走ってしまうのはある意味やむを得ないこととも言える。つまり大学・研究者、メディア、一般人の鉄のトライアングルともいえる利害の一致が今回のお茶の記事を生み出していると言える。だが、この中で試験管内での現象がヒトの体内でどれだけ再現できるか、あるいはそれをヒトでより端的に効果を証明するための手法が何かを知っているのは誰だろう? それは間違いなく大学・研究者であるはずだ。だからこそまだまだヒトでの効果を期待するのは程遠い今回のファクトを発表した大学・研究者には疑問どころか軽い怒りさえ覚える。ちなみに9月に柿渋が新型コロナウイルスに有効という情報が一部メディアで流れたことがあるが、これも今回のお茶と同じ奈良県立医科大学で研究者も同じである。ちなみに大学のHPにはその後、柿渋に関して共同研究先を募集する告知が行われている。はっきり言うが、要はメディアもその読者も大学や研究者のアピール、共同研究先開拓の片棒を担がされたに過ぎない。しかも今回のケースでは特定の施設・研究者が繰り返し行っている。この手の一瞬は夢を与える耳障りのいいと情報を連発し、いつの間にか雲散霧消で実用化せずということを繰り返すことは、医学に対する不信感も醸成しかねないと敢えて言っておきたい。

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第36回 PfizerやModernaの第III相試験成功でmRNAワクチンの展望が開けた

先月11月の早くに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防ワクチン2つの期待の持てる発表がありました。広く報じられている通り、1つはPfizer/BioNTech、もう1つはModernaの開発品のどちらも第III相試験の途中解析でCOVID-19の9割超を防いだのです。2つのワクチンはどちらも90%超の有効性を引き出したことに加えて別の共通項も有します。それは成分がどちらもメッセンジャーRNA(mRNA)ということです。投与されたmRNAは体内で細胞にウイルスタンパク質を作らせ、そのタンパク質の起源であるウイルスへの免疫反応を備わらせます。理論的にはmRNAで作れないタンパク質はありません。それにmRNAは昔なじみのワクチンで使われている弱毒化ウイルスやタンパク質より手軽に製造でき、有望視されてきました。mRNAワクチンの端緒となる取り組みは30年以上前から続いており、すでに1990年にはDNAやRNAをマウスの筋肉に注射してタンパク質を作らせることに成功したことを米国の研究チームが報告しています1)。しかし単にmRNAを注射しただけではすぐに分解されてしまい、タンパク質はほんの僅かしか作られません。それにRNAはそれが生み出すタンパク質への目当ての免疫反応とは別の余計な免疫反応の心配があります。ペンシルバニア大学のmRNAワクチン研究専門家Norbert Pardi氏によるとRNAを単に注射したのでは非常に深刻な炎症を引き起こしかねません2)。2つの技術の進歩がそれらの課題を克服し、Pfizer/BioNTechやModernaのCOVID-19ワクチン誕生へと通じるmRNAワクチン開発の道を開きました。1つは体内でタンパク質をより作り、mRNA自体への免疫反応を生じ難くするようにRNA構成要素・ヌクレオシドを加工する技術が生み出されたことです。免疫分野ジャーナル最高峰のImmunity誌に2005年に報告されたその成果3)は仲間内では大手柄となっているとInternational Society for Vaccinesの会長Margaret Liu氏は科学ニュースTheScientistに話しています2)。2つめの進歩はmRNAを脂質ナノ粒子(LNP)と呼ばれる脂肪の細かな泡に封入して体内で分解されにくくする技術が開発されたことです4)。LNPのおかげで細胞内へのmRNAの輸送が改善しました。それら技術の甲斐あってmRNAワクチンは人へ投与できるまでに至り、小規模ながら狂犬病・インフルエンザ・ジカウイルス(ZIKV)などへのmRNAワクチンの試験が実施できるようになりました。しかしそれらmRNAワクチンの先駆けはどういうわけかCOVID-19へのPfizer/BioNTechやModernaのmRNAワクチンほどの効果はなく、なぜCOVID-19へのそれらmRNAワクチンがとりわけ有効なのかは今後調べていく必要があります。また、COVID-19へのmRNAワクチンの安全性も隈なく調べねばなりません。それにmRNAワクチンを世界の隅々に届けるのには保冷設備の準備も必要です。ModernaのワクチンmRNA-1273は2~8℃で30日間、マイナス20℃なら最大6ヵ月安定なので標準的な冷蔵/冷凍庫があれば事足りそうですが、Pfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b2はいまのところマイナス70℃もの低温で保管しなければなりません。そのような解決が必要な課題があるとはいえ、Pfizer/BioNTechやModernaの開発品の第III相試験のひとまずの成功はmRNAワクチンの明るい展望を切り開きました。英国はPfizer/BioNTechのBNT162b2を数日以内に承認し、注文済みの4,000万回分の投与が早ければ今月7日から始まると同国の経済紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)が先月28日に報じています5)。英国はModernaのワクチンの段階的承認審査も進めており、合計700万回投与分を注文済みです6)。mRNAワクチンはCOVID-19をはじめとする感染症への使用に加えてがんへの免疫反応を引き出す用途の開発も複数進んでおり7)、今後は多くの企業がmRNAワクチンに関心を示すだろうとCOVID-19ワクチン助成組織・Coalition for Epidemic Preparedness Innovations(CEPI) の企画/技術リーダーNick Jackson氏は言っています2)。参考1)Wolff JA, et al. Science. 1990 Mar 23;247:1465-8.2)The Promise of mRNA Vaccines / TheScientist3)Kariko K, et al. Immunity. 2005 Aug;23:165-75.4)Reichmuth AM, et al. Ther Deliv. 2016;7:319-34.5)UK set to approve Pfizer-BioNTech Covid vaccine within days / FINANTIAL TIMES6)Moderna Announces Amendment to Current Supply Agreement with United Kingdom Government for an Additional 2 Million Doses of mRNA Vaccine Against COVID-19 (mRNA-1273) / businesswire7)Pardi N, et al. Nat Rev Drug Discov. 2018 Apr;17:261-279.

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みんパピ! HPVワクチン説明補助フライヤーを無料配布

 一般社団法人HPVについての情報を広く発信する会-みんなで知ろう!HPVプロジェクト(通称みんパピ!)が11月17日に厚生労働省記者クラブで記者発表を行った。 同団体は8月から実施したクラウドファンディングで約2,600万円の資金調達を達成。その後の活動としてHPVワクチン説明補助用フライヤーの無料配布開始を報告した。 フライヤーは、小児科医をはじめとしたかかりつけ医がHPVワクチンについて説明をしやすいよう、同団体の事前アンケートに基づいて設計されている。 HPVワクチンの定期接種対象年齢は、小学校6年生~高校1年生。この年齢層の子供や保護者が予防接種について相談するのは主に小児科医だ。小児科医を対象にHPVワクチンについて聞いた事前アンケートでは、83%が家族に接種を勧めると回答した一方、患者への説明ではメディアで繰り返し報道された様々な反応への不安(40%)、注射部位の局所症状への不安(40%)といった副反応への不安が多く見受けられた。 そこでフライヤーは、接種後の反応の説明に重点を置き、限られた診察時間で医師が説明しやすいよう作成された。母子手帳に挟めるサイズの厚紙を使い、デザインにはイラストを多用している。内容からデザインまで子供と保護者が親しみやすく、接種年齢まで保管してもらえるよう設計されている。 11月から行った試験配布で、31都道府県118ヵ所に17,000枚が配布されており、使用者アンケートでは、内容のわかりやすさに100%、内容の充実度や全体的なデザインは95%の医師が満足と回答している。 小児科のほかに皮膚科や腫瘍内科からの申し込みもあり、とくに皮膚科の医師からは定期接種年齢の子供を診察することが多いため、積極的に活用しているとの声が寄せられている。 使用を希望する場合は、みんパピ! HPの問い合わせフォームから申し込みが可能だ。 申し込みの際は氏名、医療機関名、郵送先住所、電話番号、希望枚数(50~300枚、300枚以上は要相談)を明記のこと。印刷から配送まで無料で対応してもらえる。 診療科を問わず、接種世代の子供を診療する医師はぜひ活用を。

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手洗い・マスク着用、一般市民は何割が実施?/感染症に関する意識・実態調査

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博)と日本環境感染学会(理事長:吉田 正樹)は、感染症予防連携プロジェクト「FUSEGU2020」の活動として「感染症に関する意識・実態調査」と題し、首都圏に住む20~60代の男女1,000名を対象としたアンケート調査を実施。その結果、感染症予防の基本対策(手洗い、マスクの使用、手の消毒)を多くの人が実施し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を機にほかの感染症に対する関心が高まった人が6割以上に上ることが明らかとなった。手洗い87.7%、マスク使用87.4%という意識・実態調査の結果 この感染症に関する意識・実態調査は、COVID-19拡大の大きな波を経て手洗いやマスクの使用など感染症予防のための行動が浸透しているか、2~3月に実施した調査結果と比較し実態を把握することとともに、東京オリンピック・パラリンピック開催などに向け、発生・流行する可能性のあるさまざまな感染症に対する意識を調べることを目的に実施された。 手洗いやマスクの使用など、感染症に関する意識・実態調査の主な結果は以下のとおり。・アンケートはWEB調査で、2020年10月9日~12日に実施された。・感染予防策として実施していたのは、手洗いが87.7%、マスクの使用が87.4%、手の消毒が65.9%だった。・感染予防策それぞれについて「大切である」との意識は女性で高く、若い男性で低い傾向だった。・自身に発熱がある場合、「人にうつる病気であることを意識する」人が4.5割から7割に増加した。・COVID-19などの「感染症をうつされるかもしれない」と警戒心が引き締まるのは、同居する家族12.4%、別居している家族25.6%、友人33.9%、職場の同僚 39.6%で、家族間の意識が低い傾向だった。・ほかの感染症に対する関心が高まったという人が6割以上だった。・感染症への関心が高まる一方で、COVID-19以外に対する認知・理解は進んでいなかった。・ワクチン接種を感染症の予防手段の1つとして考えている人は6割以上だった。・実際にワクチン接種を受けたり、検討したりした人は約4割にとどまった。・インフルエンザ以外の感染症については、ほとんどの人がワクチン接種を受けていない、もしくは検討していなかった。

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第34回 「静かなマスク会食」前に正しいマスクの着脱法を身に付けよ

第3波とも言われる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者増加で、Go Toトラベルの札幌市、大阪市の除外、東京都では11月28日から3週間の酒類を提供する飲食店の営業時間短縮が決定した。今の局面を考えればやむなしというところだが、これに関連して最近時々報じられる、あるキーワードに強烈な違和感を覚えている。そのキーワードとは「マスク会食」である。提唱者は神奈川県知事の黒岩 祐治氏らしいが、菅 義偉首相もこれに便乗(?)して「静かなマスク会食」を呼びかけ、国が率先して宣伝までしている。そもそも今訴えるべきは、家族やごく親しい少人数の友人など、有体に言えば、万が一互いに感染して死の危険にさらされることがあっても恨みっこなしといえる関係がある者同士での最低限の会食以外は控えて欲しいということではないのか? もっとも好意的に解釈するならば、年末年始にかけて飲食機会の増加が避けられないことを踏まえた苦肉の策なのかもしれない。しかし、かなり実効性に乏しいのは多くの人の目から見て明らかだろう。食事中に会話をする時だけマスクをして、食べる時は外してなどという面倒なことを誰がするだろうか? 多少気を付けたとしても、飲酒で気分が高揚すれば、マスクはそっちのけの飛沫排出しまくりの会話になるのは目に見えている。それでも流行り言葉を使って「『静かなマスク会食』こそニューノーマルだ」としたり顔で言う御仁もいるかもしれない。だが、COVID-19パンデミック収束時、それまでニューノーマルと呼ばれた行動の中で真っ先にすたれるものは何か考えてみるといい。私ならば「マスク着用」を挙げる。同じような答えをする人は多いのではないだろうか? その意味でマスク着用はニューノーマルというより「テンポラリーノーマル」なものと言える。そのうえで今現在の市中でのマスク使用実態を思い起こしてみよう。屋外で誰とも会話しないと考えられる局面ですらマスクを着用している人だらけ。ちょっとコンビニで買い物をするだけの人が店内で会話をするのはせいぜいレジ前ぐらいで、レジカウンター前にはシールドが設置され、店員、客ともに飛沫を吸い込む危険性はほどんどない。だが、その局面でも客も店員も多くはマスクをしている。スポーツジムで壁に向かって設置され、左右に仕切りがあるトレッドミル(ランニングマシン)で走るならば、多少呼吸が荒くなっても他人の飛沫を吸い込む可能性はかなり低いはずだが、ジム側はマスク着用を義務づけている。極端な言い方をすれば限りなく3密に近い電車内でも、会話をせずに咳エチケットを徹底するならマスクは着用しなくとも限りなく感染リスクは低いはずだ。店舗の入口の客に対する呼びかけポスターに「咳エチケットを守りましょう」と「マスクの着用をお願いします」の両方が記載されているものを時々見かけるが、そもそも「咳エチケット」はマスクを着用していない人が突発的な咳やくしゃみの飛沫を他人に吸い込ませないための対策であり、細かいことを言えばこの2つの対策を並立で表記するのは矛盾しているといえる。さらに「静かなマスク会食」を訴えている現内閣閣僚の記者会見開始時のマスク着脱の様子をよく見てみよう。マスクの紐の部分ではなく、マスク正面外側を素手でつまんで外しているのを見かけることは少なくない。しかし、この着脱方法は接触感染予防対策から考えれば完全NGだ。何が言いたいかというと、マスクに関してこれだけメリハリのない使用実態が蔓延している中で、「静かなマスク会食」なるものは極めてハードルが高い行動様式なのである。掛け算の九九すら満足に覚えていない人に微分・積分を計算させるがごときである。医療従事者でも「不適切なマスク着用」や「過剰なマスク着用」に対する懸念を発信している人は一部にはいる。そしてその他の医療従事者や官公庁関係者でも、こうした発信には内心頷いている人も少なくないだろう。だが、こと過剰なマスク着用、つまりマスクをつけなくても良い局面に関しては情報発信量に変化があったという印象はない。その理由は単純に「感染リスクが低い局面が分かっていても、リスクはゼロではないから、断言的な発言で揚げ足を取られたくない」あるいは「一般人にとって感染対策やった感が満載のマスク着用で細かいことを言っても耳を貸してもらえない」と思うからではないだろうか。その気持ちは分からないわけではない。しかし、無症候感染者が一定割合で存在し、かつ症状発現前に感染性のピークがあるCOVID-19に関して、完全な防御は困難である。また、昨今、開発中のワクチンに関しては肯定的なデータも報告も多いが、これとて効果持続期間などを考えたらさらに未知数である。いずれにせよこのウイルスの特性を考慮して限りなくゼロリスクを求めるとするならば、私たちはこの先、生涯にわたってマスク着用を続けなければならなくなる。そんなこんなを考えると、この「静かなマスク会食」というある種、馬鹿馬鹿しい提唱がなされている今こそ、どのような局面ではマスクを着用しなくていいのかという情報発信量も高めていくことが必要なのではないか、メリハリのあるマスクの使用方法を推進することこそが真のニューノーマルなのではないかと個人的には感じている。

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AZ社の新型コロナワクチン有効率最大90%、貯蔵はより容易か/第II/III相試験中間解析

 アストラゼネカ社は、COVID-19に対するウイルスベクターワクチンAZD1222の第II/III相および第III相試験の中間分析の結果、最大90%の有効率が示されたことを11月23日に発表した。2つの異なる投与レジメンで有効性が示され、平均70%の有効率が示されている。条件付きまたは早期承認のためのデータを世界各国の規制当局に提出し、承認取得次第、2021年に最大30億回分のワクチンを製造できるよう準備を進めているという。 AZD1222は、SARS-CoV-2ウイルススパイクタンパク質の遺伝物質を含む、複製欠損および弱毒化されたチンパンジー由来の風邪アデノウイルスを用いて作製される。ワクチン接種後スパイクタンパク質が生成され、感染した場合に免疫系を刺激し、SARS-CoV-2ウイルスを攻撃する。 第II/III相COV002試験は英国の12,390人の参加者を対象に、第III相COV003試験はブラジルの10,300人の参加者を対象に実施されている。ともに参加者は18歳以上で健康あるいは医学的に安定した慢性疾患を有する患者。COV002では、半用量(〜2.5×1010ウイルス粒子)または全用量(〜5×1010ウイルス粒子)のAZD1222、対照群として髄膜炎菌ワクチンMenACWYを1回または2回筋肉内投与。COV003では、全用量のAZD1222またはMenACWYが2回投与される(対照群では1回目にMenACWY、2回目はプラセボとして生理食塩水を投与)。 中間分析では計131例のCOVID-19発症が確認された。今回発表された結果のうち、1回目に半用量を投与後、少なくとも1か月間隔で全用量を投与した2,741人では、90%の有効率を示した。少なくとも1か月間隔で全用量を2回投与した8,895人では、62%の有効率を示している。両投与レジメンの11,636人についての複合解析では、平均70%の有効率が示され、これらの結果はすべて統計的に有意であった(p≦0.0001)。 独立データモニタリング委員会は、2回投与を受けてから14日以上後に発生するCOVID-19からの保護を示す主要評価項目を満たしたと判断し、今回の結果が発表された。AZD1222に関連する重大な安全イベントは確認されておらず、AZD1222投与群ではCOVID-19による入院や重症例は報告されていない。 なお、AZD1222の臨床試験は、米国、日本、ロシア、南アフリカ、ケニア、ラテンアメリカでも実施されており、他のヨーロッパやアジアの国々でも試験が計画されている。また、同社はAZD1222の貯蔵について、標準的な家庭用または医療用冷蔵庫の温度である2~8℃(36~46°F)で少なくとも6ヵ月間保管、輸送、および取り扱いでき、既存の医療環境で投与可能としている。

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Pfizer社の新型コロナワクチン有効率、最終解析で95%/第III相試験

 Pfizer社とBioNTech社は2020年11月18日、COVID-19に対するmRNAベースのワクチン候補であるBNT162b2の第III相試験の有効性の最終解析で、主要有効性評価項目をすべて達成したと発表した。本ワクチンの1回目の接種から28日以降のCOVID-19発症について、SARS-CoV-2感染歴のない参加者でワクチン有効率が95%(p<0.0001)を示し、さらにSARS-CoV-2感染歴を問わない場合でも同様であった。有効率は年齢、性別、人種、民族で一貫しており、65歳以上での有効率は94%を超えていた。COVID-19重症例は10例で、9例がプラセボ群、1例がBNT162b2群だった。両社は20日、米国食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可(EUA)を申請した。 本ワクチンの安全性については、第II/III相試験における18歳以上の8,000人以上の参加者のランダム化されたサブセットからなる最終解析から、非盲検の反応原性データをレビューした結果、忍容性が良好であることが示された。発現率が2%以上のGrade3の有害事象は、2回目の接種後における倦怠感(3.8%)と頭痛(2.0%)であった。 BNT162b2の第III相試験は2020年7月27日に開始され、現在までに4万3,661人が登録され、11月13日時点で41,135人が2回目の投与を受けている。本試験の有効性と安全性のデータ収集はさらに2年間継続する予定。 課題とされる輸送・保管時の温度管理について、Pfizer社とBioNTech社は、ドライアイスを用いて-70℃±10℃の温度を維持するための特別に設計された温度管理シッパーを開発しており、ドライアイスを補充することにより15日間の一時保管ユニットとして使用可能としている。

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新型コロナ、どの国のワクチンを希望する?医師1,000人アンケート

 新型コロナワクチン接種の優先対象について、厚生労働省は11月9日の厚生科学審議会において、高齢者や基礎疾患がある人を優先的に接種する方針を固めた。今後はどのような基礎疾患を有する人を対象にするのかが話し合われる予定だ。今回の話し合いでは医療者への優先接種が見送りとなったが、医療者では接種を求める者と接種に抵抗を示す者はどの程度いるのだろうかー。そこで、ケアネットでは10月15日(木)~21日(水)の期間、会員医師1,000人に対し「医師のワクチン接種に対する心境について」に関するアンケートを実施。その結果、全回答者のうち接種を希望するのは61.2%だった。 本アンケートでは30代以上の医師(勤務医、開業医問わず)を対象とし、新型コロナワクチン接種希望の有無や投与する際の懸念点などについて調査、集計結果を年代や病床数、診療科で比較した。接種を希望する医師の年代や診療科に違いはほとんど見られなかったが、脳神経外科(44%)、神経内科(42%)、糖尿病・代謝・内分泌内科(46%)、救急科(36%)で接種希望者が半数を下回っていた。  このほか、「どこの国が開発したワクチンを希望するか」「接種したくない理由」「接種希望者が投与する上で気になること」「これまでのインフルエンザウイルスワクチンの接種状況」などを聞いた。どこの国が開発したワクチンを希望するかで最多は国内開発 接種を希望すると回答した629例(61.2%)に対し「どこの国が開発したワクチンを希望するか(複数回答可)」を聞いたところ、日本国内で開発を進めるアンジェスに票を投じたのは396人、続いて英国(アストラゼネカ/GSK)231人、米国(ファイザー/モデルナ)222人と続いた。どこ国が開発したワクチンがいいかのアンケートでは、国内開発ワクチンへの期待の高さが伺えた。 接種したくない理由、接種希望者が投与する上で気になることについては、安全性などのエビデンス不足と回答した方が863人と圧倒的に多かった。次いで、安定性の供給(151人)、投与量・投与回数の問題(134人)と続いた。ワクチン接種優先対象の基礎疾患を有する医師は約2割 今回、ワクチン接種の優先対象に基礎疾患がある人が含まれたことを踏まえ、基礎疾患を有する医師数を把握するため「医師の持病の有無」についても調査した。その結果、持病があると回答したのは26.7%(274人)だった。年代別で見ると、30代、40代ではそれぞれ15%程度に留まっていたが、50代では30%、60代では47%、70代以上では半数の46%が持病を抱えながら医療に携わっていることが明らかになった。インフルエンザワクチンは医師の9割が毎年接種 インフルエンザワクチンの接種状況が新型コロナワクチン接種の希望にどの程度影響するかを見るため、これまでのインフルエンザワクチンの接種状況を聞いたところ、年代や診療科を問わず約9割の医師が毎年接種していた。 アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中

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第33回 誰もちゃんと説明してくれない…、ファイザー社ワクチン「90%以上に効果」の効果って何?

数字にまつわる「野球」と「ワクチン」の話題こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。今週は数字にまつわる2つの大きなニュースがありました。11月11日、米メジャーリーグは今シーズンのサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を発表しました。最終候補3人にナショナル・リーグではシカゴ・カブスのダルビッシュ 有投手が、アメリカン・リーグではミネソタ・ツインズの前田 健太投手が残っており、日本人初のサイ・ヤング賞投手が誕生するのではと期待されていました(最新号の「Sports Graphic Number」誌はダルビッシュ特集です)。ダルビッシュ投手は、ナ・リーグ最多の8勝をあげており、「ひょっとすると…」と早朝からMLBサイトの生配信を観ていました。しかし、フタを開けてみるとシンシナティ・レッズで最優秀防御率1.73のトレバー・バウアー投手が27人の1位票(受賞は記者投票制)で受賞し、ダルビッシュは2位でした。一方、ア・リーグは主要3部門(勝利数、奪三振、防御率)を独占したクリーブランド・インディアンスのビーバー投手が満票で受賞しました。近年のサイ・ヤング賞は、投手主要3部門のうち勝利数はあまり重視されない傾向にあるようです。勝利は投手の力というよりもチーム力に左右される、という考え方です。それに代わりWHIP(1イニングに許した走者の数)、WAR(代替選手に比べてシーズンでどれだけ勝利数を上積みできたか)、FIP(疑似防御率)といった新たな指標が注目を集めています。計算式が複雑なものもあり、いいことなのか悪いことなのかわかりませんが、野球も数字・数字というわけです。さて、もう1つ、今週の数字にまつわる大きな話題はコロナワクチンです。米・ファイザーと独・ビオンテックは11月9日、開発中のmRNAワクチン(BNT162b2)で90%の有効性が示された、と発表しました。このニュースは全世界を駆け巡り、世界各国の株価にまで影響を及ぼしました。さらに11月16日には米・モデルナも開発中のmRNAワクチン(mRNA-1273)の臨床試験の暫定結果を発表、こちらは94.5%の有効性とのことでした。「90%」の意味をきちんと解説しないマスコミファイザーとビオンテックの発表直後、私も全国紙からNHK・民放ニュースまでいろいろチェックしましたが、どこも「90%以上」の意味をきちんと解説してくれないので、困ってしまいました。記者が理解できていないのか、あるいは難しいからあえて説明しないのか、それすらもわかりません。挙句の果て「打った90%の人に効いた」というよくわからないコメントを出す人まで現れて、もはやカオスです。さて、ここで問題です。この「ワクチンの臨床試験で90%以上に効果がある」とはどういうことでしょうか?以下の選択肢から選んでください。1)ワクチンを打った90%以上の人が新型コロナウイルス感染症を発症しなかった2)ワクチンを打った 90%以上の人に中和抗体ができた3)ワクチンを打った人の群と打たなかった人の群を比べて、打った人の群の発症が90%以上低かった発症94例、90%を超える発症予防効果誰も教えてくれないので、私もあちこち調べて勉強しました。マスコミの報道を読んだ、あるいは見た一般の人(政治家含む)の多くは1)か2)だと思ったのではないでしょうか。正解は3)です。当初、正解が3であることをきちんと解説していたメディアは私が読んだ限り、「日経バイオテク」の11月11日付の記事だけでした。ファイザーの発表では、今回の第III相試験は4万3,998例の被験者を対象として、ワクチン接種群とプラセボ接種群に1対1で割り付けた、ランダム化観察者盲検試験です。複数国で4万3,538例が登録され、3万8,955例がワクチンの2回接種を行いました。その結果、2回目接種から7日目以降(「7日後」という報道もあるようですが「7日目以降」が正しいようです)に新型コロナウイルス感染症を発症したのが94例で、ワクチン接種群とプラセボ接種群を比較して90%を超える発症予防効果が得られた、とのことです。ファイザーとビオンテックが発表した数字はここまでで、ワクチン接種群とプラセボ接種群それぞれの発症数は公表されていません。このことも解説や解釈を難しくした原因なのかもしれません。有効性はどれくらい発症を減らしたかを見た数字一般的に、ワクチンの有効性はワクチン接種群とプラセボ(もしくは非接種)群を比較して、それぞれの群における発症数を比較して出します。仮に、ワクチン群1万人中発症10人、プラセボ群1万人中発症100人だとしたら、本来100人発症するところを90人減らして10人に抑えた、ということで、ワクチンの有効性は90%となります。この考え方を今回の臨床試験の3万8,955例に当てはめると、発症したのが計94例、有効性90%超ということですから、ワクチン群の発症は8例以下、プラセボ群は86例以上という計算になります(仮に8例と86例とするなら、有効性は単純計算では[(86-8)÷ 86 ]×100=90.7%になります(2群が1対1で割り付けられた前提)。ちなみに、モデルナのワクチンの場合は、3万例を超える臨床試験の対象者のうち、ワクチン群の発症は5例、プラセボ群は90例ということですから、有効性は単純計算では[(90-5)÷90]×100=94.4%になります。まあ、投手の防御率[(自責点×9)÷投球回数]の計算くらいの易しさですね。ヒトでのチャレンジ試験のほうが簡単?今回のワクチンの臨床試験での「90%を超える」「94.5%」とは、概ね以上のような意味です。皆さん、理解していましたでしょうか?ファイザーとビオンテックの臨床試験は、参加者から感染者が164例発生した段階で最終解析を行う計画とのことで、あと70例の発症者が出るまで結論は出ません。各群の発症者がどれくらい出るのかはわからないので、90%以上という数字も大きく変わる可能性があります。モデルナも効果について「臨床試験が進むにつれて変わる可能性がある」としています。そもそも、感染症は感染しても発症しなかったりするケースがあるので、臨床試験が大変です。4万例近い被験者の臨床試験を組んで、わずか164例の発症者数で解析するというのはとても非効率に映ります。10月20日、英国政府はヒトでのチャレンジ試験(曝露試験)実施を支援するため、産官学が協力すると発表しました。チャレンジ試験とは、臨床試験の被験者にワクチンを接種したあと、新型コロナウイルスにあえて曝露させ、ワクチンの安全性や有効性を評価するというものです。こちらの方法であれば、少人数かつ効率的に結果を出せそうです。倫理的な問題も多々あるようですが、このヒトを対象としたin vivo試験の動きも注目しておきたいところです。

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HPVワクチン、国は積極的勧奨を早急に再開すべき/日本癌治療学会

 7月に9価HPVワクチンが国内承認され、10月に4価HPVワクチンの有効性を確認した論文がNEJM誌に掲載されるなど、今年に入ってHPVワクチンに関連する動きが出ている。10月に開催された第58回日本癌治療学会学術集会では、こうした動向を踏まえ、会長企画シンポジウム「HPV関連癌の疫学からみる予防戦略」が開催された。 この中で、大阪労災病院の田中 佑典氏は「HPV感染から見る子宮頸癌の現在の問題点と予防対策」と題し、国内のHPVワクチン接種に関するこれまでの経緯を振り返り、今後の予防戦略をどう行っていくべきかをテーマに講演を行った。 冒頭、田中氏は世界的に見れば、HPVワクチンの接種率90%、子宮頸がん検診の受診率70%、子宮頸がんの治療率90%のラインを保てば、2085~90年までに子宮頸がんを撲滅できるというWHOの推計を紹介。一方で、国内では2010年に13~16歳の女性を対象にHPVワクチン接種の公費助成が開始され、2013年に12~16歳を対象に定期接種化したものの、直後からワクチンによるとされる副反応に関する報道が行われ、厚生労働省は積極的接種勧奨の一時差し控えの勧告を出して以降、関連学会による度重なる勧奨再開要望にも関わらず、状況は変わっていない現在の状況を振り返った。 「子宮頸がんによる累積死亡リスクは0.3%、一方でワクチン接種後の副反応は2価・4価ワクチンともに0.01%未満(医療機関から報告があったもののうち重篤なもの)。リスクの見極めを見誤っている状況だ」(田中氏)。実際、大阪府堺市における中学1年生のHPVワクチン初回接種率は2012年65.4%だったものが2013年には3.9%、2014年には1.3%まで激減している。 HPVワクチンの安全性については、厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)が大規模な追跡調査を行っており、副反応のほとんどは軽い痛みや注射部位の腫れ、めまいなどの一時的な症状であり、累積の重篤症例の発生頻度はおよそ0.008%であることが報告されている1)。名古屋市が行った調査2)においても「ひどく頭が痛い」「身体がだるい」といった24症状の発現頻度において、HPVワクチン接種者と非接種者のあいだに有意差は見出せなかったという。 一方、HPVワクチンの有効性についても国内外のデータが蓄積されつつあり、10月にNEJM誌に掲載されたスウェーデンの研究3)では、4価HPVワクチンの接種により、浸潤性子宮頸がんのリスクが大幅に低減され、同リスクは接種開始年齢が若いほど低いことが報告されている。国内では新潟大学による研究(NIIGATA STUDY)4)で、初交前に2価HPVワクチンを接種した場合の HPV16/18型感染予防の有効率は93.9%(95%CI:44.8~99.3、p=0.01)と極めて高く、31/41/52型に対する交叉防御効果の可能性も認められた。 7月には、4価ワクチンの6/11/16/18型に加え、31/33/45/52/58の5つの型も含めた9価ワクチンが製造販売を承認された。9価ワクチンは子宮頸がんの原因となるHPV型の9割に対応し、肛門がんなどほかのがんの予防効果もあるとして先進国では男性も接種対象となっている。 田中氏は「HPVワクチンの接種率が極めて低い状況が続けば、日本の子宮頸がんの罹患率は先進国の中で最も高い水準になると想定される」とし、1)国はHPVワクチンの積極的勧奨をすみやかに再開する、2)男児もHPVワクチンの定期接種の対象とする、3)9価ワクチンを定期接種に加える、4)国および医療従事者はHPVワクチンの有効性・安全性に関する正確な情報を国民およびメディアにわかりやすく提供する、という4つの提言を行った。

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Moderna社の新型コロナワクチン、有効率94.5%を示す/第III相試験中間解析

 Moderna社は、COVID-19に対するワクチン候補であるmRNA-1273の第III相試験(COVE試験)の最初の中間分析において、ワクチンの有効率が94.5%と統計学的な有意差を示したことを11月16日に発表した。今後数週間以内に米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する予定という。 第III相COVE試験は、米国で18歳以上の参加者を対象に、用量100μgで28日間隔・2回投与でmRNA-1273の有効性を評価する無作為化1:1プラセボ対照試験。10月22日に3万人の登録を完了した。参加者には7千人以上の高齢者(65歳以上)、5千人以上の慢性疾患(糖尿病、重度の肥満、心臓病など)を有する患者が含まれる。 主要評価項目は症候性COVID-19の予防で、主要な副次的評価項目には、重症COVID-19の予防、およびSARS-CoV-2による感染の予防が含まれる。今回の中間分析は、ワクチンの2回目の投与から2週間後に確認されたCOVID-19症例の分析に基づき、独立データ安全性モニタリング委員会(DSMB)が実施した。95例のCOVID-19発症が確認され、そのうち90例がプラセボ群、5例はmRNA-1273群で観察され、ワクチン有効性の点推定値は94.5%であった(p<0.0001)。 副次評価項目として重症例を分析し、この最初の中間分析では11例の重症例(研究プロトコルでの定義による)が含まれた。11例すべてがプラセボ群で発生し、mRNA-1273ワクチン接種群では発生しなかった。中間分析には、DSMBによる安全性データのレビューが含まれ、重大な安全性の懸念は報告されていない。有害事象の多くは軽度または中等度で、1回目の投与後の頻度が2%以上のGrade 3の有害事象としては注射部位の痛み(2.7%)が、2回目の投与後は倦怠感(9.7%)、筋肉痛(8.9%)、関節痛(5.2%)、頭痛(4.5%)、痛み(4.1%)、注射部位の紅斑/発赤(2.0%)が含まれた。 今後の研究の進行に応じて、最終的な有効性の点推定値および安全性データは変更される可能性がある。2020年末までに約2千万回分を米国で、2021年に世界で5億から10億回分を製造する準備が整うと見込んでいる。 なお、同社はmRNA-1273の貯蔵について、標準的な家庭用または医療用冷蔵庫の温度である2~8℃(36~46°F)で30日間安定していることが確認されたと発表している。

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第31回 新型コロナウイルスワクチン、集団接種を検討へ

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチン、集団接種を検討へ2.オンライン診療の見直し、初診患者は過去の受診歴が条件に3.75歳以上医療費の窓口負担引き上げ、議論加速4.受診時定額負担の拡大に医療機関側から反論、年末までに議論5.医師・医療機関が守るべき保険診療ルール、新チェックリスト公開1.新型コロナウイルスワクチン、集団接種を検討へ13日の衆議院厚生労働委員会で、新型コロナウイルスのワクチンについて集団接種を検討していることを、田村 憲久厚生労働相が明らかにした。第III相試験の中間解析の結果、90%の有効性が認められるなど臨床開発が進んでいるファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンは、マイナス70度と超低温での輸送・管理が必要となる。このため、超低温冷凍庫保管設備を持たない小規模なクリニックで予防接種を行うのは困難とされ、集団接種の実施が検討されている。感染拡大防止のために集団接種体制の確立と、ワクチンの安全性の確保が求められる。すでに、政府はファイザーから1億2,000万回分、モデルナから5,000万回分のワクチンの供給を受けることで合意しており、今後、承認されるまでに検討が重ねられる。(参考)厚労相、ワクチンの「集団接種」検討 超低温の輸送・管理難しく 新型コロナ(毎日新聞)新型コロナワクチンが「90%の有効性」ってどういうこと?(日経バイオテク)新型コロナワクチン実用化秒読み マイナス70度保管必要 身近な接種困難か(産経新聞)2.オンライン診療の見直し、初診患者は過去の受診歴が条件に13日に開催された「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において、オンライン診療のガイドラインの見直しについて討議された。初診患者のオンライン診療については、安全性・信頼性の観点から、過去12ヵ月以内に受診歴のある患者について利用が可能となった。また、過去に受診歴がない場合であっても、2次医療圏外の遠隔地にいる専門医の診察を受ける場合は、患者が看護師といる状態(to P with N)で初診からオンライン診療の提供が可能となる見込み。(参考)完全初診でも、予防接種や健診で患者情報を把握できればオンライン初診を認めて良いか―オンライン診療指針見直し検討会(GemMed)「受診歴」を軸にオンラインでの初診を認める要件を議論 厚労省検討会(Med IT Tech)第12回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会 資料(厚労省)3.75歳以上医療費の窓口負担引き上げ、議論加速厚労省は、12日に開催された社会保障審議会の医療保険部会において、現役並みの所得がある後期高齢者の判断基準の見直しについて検討を行った。後期高齢者の窓口負担が3割となる現役並み所得水準としては、年収約383万円以上(課税所得145万円以上)とされている。近年、年金受給者でも就労者が増加しており、現役世代とバランスをとるため、「団塊の世代」が75歳以上となり始める2022年度までに、年齢ではなく所得に応じて負担を求める考え方について検討している。一方、基準の見直しについては、年金を収入源とする高齢者の受診抑制を懸念する医師会からは、所得が高い人に絞るよう要望している。今後、団塊世代の高齢化に伴う現役世代の負担増大を踏まえ、議論が加速していくだろう。(参考)75歳以上医療費 窓口負担引き上げ 所得の線引きなど議論加速へ(NHK)高齢者の「現役並み所得」基準、見直しは当面見送り 年内取りまとめに盛り込まず、医療保険部会(CBnews)資料 後期高齢者の窓口負担割合の在り方等について(厚労省)4.受診時定額負担の拡大に医療機関側から反論、年末までに議論12日に開催された社会保障審議会の医療保険部会において、大病院への患者集中を防ぎ、かかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大について議論された。紹介状なしの受診患者から定額負担を徴収する医療機関については、200床以上の特定機能病院や地域医療支援病院とされている。これをさらに200床以上の一般病院に広げる方針について、ほかの医療機関が存在しない地域で診療活動をする施設もあるので、医療機関側からは地域医療に支障が生じないような対応を求める声が上がった。(参考)受診時定額負担の対象拡大、病床数での区切りに反発 医療提供側、医療保険部会(CBnews)資料 大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大について(厚労省)5.医師・医療機関が守るべき保険診療ルール、新チェックリスト公開10日、厚労省保険局医療課医療指導監査室は、保険診療確認事項リスト(医科)の令和2年度改定版を公開した。病院のみならず、診療所などで行われている保険診療についても、各種事項についてチェックリスト方式で確認ができる。具体的には「診療録は、保険請求の根拠となるものなので、医師は診療の都度、遅滞なく必要事項の記載を十分に行うこと(とくに、症状、所見、治療計画等について記載内容の充実を図ること)」など、診療に当たる医師だけでなく、医療スタッフにとっても役立つ内容である。6月には改定版「適時調査実施要領」「重点的に調査を行う施設基準」なども公開されており、こちらも参考にされたい。(参考)保険診療確認事項リスト(医科) 令和2年度改定版 ver.2010(厚労省)適時調査実施要領等(同)

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第32回 P社の新型コロナワクチン報道、企業の発信内容は適切だった?

11月9日、日本中はおろか世界中を駆け巡ったニュースがある。そのニュースは米・ファイザー社と独・ビオンテック社が共同開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン候補が、第III相試験のワクチン接種者で90%以上に効果があったというもの。各国の株式市場の平均株価まで上昇するほどのビッグニュースだったが、現時点での発表内容やこれまでCOVID-19について分かっていることなどを考え合わせると、希望を持つのはまだまだ早いと感じている。そもそも、今回ファイザー側から発表があったワクチン候補のプラセボ対照第III相試験は登録者が全世界で4万3,538人、うち3万8,955人が2回接種を受けている。参加者から感染者が164例発生した段階で最終解析を行う計画で、今回発表されたのは感染者が94例発生した時点の中間解析の結果である。米国本社のプレスリリースに記載されている範囲での中間解析結果は、ワクチン接種群で90%超の予防効果を示し、これは2回目接種から7日後で最初の接種から28日後の効果としている。また、安全性に関する深刻な問題はこれまで報告されていないとのこと。リリースに記載されている具体的な内容はこれだけである。失望・絶望に至るファクターはないものの、何とも言えないというのが正直な感想である。一方で、COVID-19に関してこれまで分かっていることは、ワクチンが開発されてもそれで一気にこの事態が改善されるとは言い切れないことばかりである。たとえば中国や欧米の報告では、COVID-19患者では感染・発症から2~3ヵ月後にIgGのレベルが低下し、感染時の症状が軽いほどこの傾向が顕著だと報告されている。実際、中国で感染者を追跡したデータでは、無症状だった感染者の4割で2~3ヵ月後にIgG抗体が陰性になってしまうことが報告されている。そして、この抗体価の低下による再感染と考えられる事例もすでに報告されている。最初に報告されたのは香港の事例で、1回目の感染は3月、その5ヵ月後に再感染してしまったというもの。このケースでは1回目と2回目の感染でのウイルス遺伝子は若干異なるものだったが、その相違は劇的なものではなかった。つまり再感染はウイルスのサブタイプなどによる感染性の強弱などが影響したというよりは感染者側の免疫低下が原因ではないかと推察されている。この再感染事例についてはBNO Newsというサイト内の特設ページ「COVID-19 reinfection tracker」で確認できる。11月12日時点では25人の再感染例が掲載されているが、いずれも再感染が確実に証明された事例のみであり、実際の再感染例はこれより多く存在すると思われる。そしてこの25人のうち、1回目と2回目の重症度が判明している21人の約半数である10人は2度目の感染のほうが重症化し、うち1人は死亡している。つまり「一旦感染して免疫ができれば2度目の感染を完全には防げなくとも重症化は避けられるかも?」という希望的観測すらまったく通用しないということだ。しかも、一般論から考えれば、ある病原体に対してワクチンでできる免疫は、自然感染でできた免疫よりは強くならないことは周知のこと。今回の発表によればファイザー・ビオンテックのワクチンは少なくとも1ヵ月程度は有効ということになるが、最大有効期間は現時点では不明である。結局のところ「ワクチン接種者で90%以上に効果」はまだまだ蜃気楼的なものとさえいえる。医療従事者の中にはこうしたことを十分理解している人は少なくないはずで、同時に今回の報道に「過剰に期待をあおっている」という見方もあるだろう。しかし、いま世界中がCOVID-19にワクチン開発を注視している中で、研究開発元である大手製薬企業が発表する以上、それを報じるなとメディアに求めるのも無理な話である。報じ方を工夫しろと言われても、リリースに記載された内容が上記のような極めて限定的なものであることを考えれば、工夫の余地すらもかなり限られる。そして敢えて私見を言わせてもらえば、接種から1ヵ月後の有効性を公表することに医学的にどれだけの意味があるのかも疑問である。その意味で今回のケースは、「報道する側よりも発信する企業側がどの時点でどのような内容を発表するか」を今一度吟味する必要性を示していると個人的には感じている。

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Pfizer社の新型コロナワクチン、接種28日目以降の予防効果確認/第III相試験中間解析

 Pfizer社とBioNTech社が開発している、SARS-CoV-2に対するmRNAベースのワクチン候補BNT162b2の第III相試験の最初の中間解析で、感染歴のないボランティアへの2回目の投与(初回から21日後)の7日目以降に90%以上のワクチン有効率を示した。これは、ワクチン接種の開始から28日目以降の予防効果が達成されたことを意味する。Pfizer社とBioNTech社が11月9日に発表した。11月第3週に米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請する予定という。 BNT162b2の第III相試験は7月27日に開始。現在までに4万3,538人が登録され、そのうち3万8,955人が11月8日時点で21日間隔・2回目の投与を受けている。中間解析は、評価可能なCOVID-19症例数が94例に達した時点で外部の独立データモニタリング委員会により行われ、2回目の投与の7日目以降に90%を超えるワクチン有効率を示した。今後の研究の進行に応じて、最終的な有効率は変わる可能性がある。 この研究では、SARS-CoV-2への曝露経験者でのCOVID-19を予防する可能性および重症COVID-19に対する予防効果も評価する予定。主要有効性評価項目は、2回目の投与から7日目以降におけるCOVID-19発症で、最終解析には、副次有効性評価項目として2回目の投与から14日目以降のCOVID-19発症も追加された。安全性については引き続きデータを蓄積し、2回目の投与後2年間、長期的な予防効果と安全性について観察する。 試験への登録は継続中で、164例のCOVID-19症例が発生した時点で、最終解析が実施される予定。現在の予測に基づくと、2020年に世界で最大5,000万回、2021年には最大13億回のワクチンを生産予定と発表されている。

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