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「COVID-19ワクチンに関する提言」、日本での安全性データ等追加/日本感染症学会

 2021年2月よりわが国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まった。これを受けて、日本感染症学会(理事長:東邦大学医学部教授 舘田 一博氏)は、2月26日に「COVID-19ワクチンに関する提言」(第2版)を同学会のホームぺージで発表、公開した。 第1版は2020年12月28日に発表され、ワクチンの開発状況、作用機序、有効性、安全性、国内での接種の方向性、接種での注意点などが提言されていた。今回は、第1版に新しい知見を加え、とくにワクチンの有効性(変異株も含む)、ワクチンの安全性などに大幅に加筆があり、筋肉内注射に関する注意点の項目が新しく追加された。【ワクチンの有効性】・COVID-19ワクチンの有効性の追加 ファイザーの臨床試験:55歳以下で95.6%、56歳以上で93.7%、65歳以上で94.7%の有効率。しかし、75歳以上では対象者数が十分でなく評価できていない。 モデルナの臨床試験:65歳未満で95.6%、65歳以上で86.4%の有効率。それ以上の年齢層では評価されていない。 アストラゼネカの臨床試験:接種群における70歳以上の割合は5.1%にすぎず評価不十分。 いずれのワクチンも、75歳を超える高齢者での有効性については今後の検討課題であり、接種群で基礎疾患のある人の割合は、ファイザーの臨床試験で20.9%、モデルナで27.2%、アストラゼネカで24.7%と比較的多く含まれているものの、それぞれの基礎疾患ごとの有効性の評価は十分ではなく、今後検討が必要としている。【「変異株」とワクチンの効果】 提言では「SARS-CoV-2の変異速度は24.7塩基変異/ゲノム/年とされており、2週間に約1回変異が起き、その変異によってウイルスのタンパク質を構成するアミノ酸に変化が起こることがある」とされ、「とくにスパイクタンパク質のACE2との結合部位近くのアミノ酸配列に変化が起きると、SARS-CoV-2の感染性(伝播性)やワクチンで誘導される抗体の中和作用に影響が出る」と述べている。 また、イギリス変異株について、「感染力(伝播力)が36%から75%上昇すると推定されているものの、ファイザーのワクチンで誘導される抗体による中和作用には若干の減少がみられるが、ワクチンの有効性には大きな影響はない」としている。 一方、南アフリカおよびブラジルの変異株は、「COVID-19回復期抗体の中和作用から回避する変異であることが報告され、ワクチンの有効性に影響が出ることが懸念されている」としている。【ワクチンの安全性】・海外の臨床試験における有害事象 海外の臨床試験では、「活動に支障が出る中等度以上の疼痛が、1回目接種後の約30%、2回目接種後の約15%に、日常生活を妨げる重度の疼痛が、1回目で0.7%、2回目で0.9%報告された」と紹介している。また、「この接種後の疼痛は接種数時間後から翌日にかけてみられるもので、1~2日間ほどで軽快。注射の際の痛みは軽微と思われる」と推定している。そして、海外での高齢者や基礎疾患を有する者への接種では、「現在のところ死亡につながるなどの重篤な有害事象は問題になっておらず、COVID-19に罹患して重症化するリスクに比べるとワクチンの副反応のリスクは小さいと考えられる」と考えを示している。・わが国での臨床試験における有害事象 ファイザーのCOVID-19ワクチン「コミナティ筋注」では、海外での臨床試験の結果と比べ、「局所の疼痛、疲労、頭痛、筋肉痛、関節痛はほぼ同等、悪寒の頻度がやや高くなっている。発熱は、37.5℃以上対象(国内定義/海外定義は38℃以上)で1回目が10%、2回目が16%と高い頻度だったが、発熱者のほぼ半数を37.5~37.9℃の発熱が占めているため、その割合は海外の結果と大きな違いはなかった」としている。・mRNAワクチンによるアナフィラキシー 1回目接種直後のアナフィラキシーの報告について、米国での当初の調査では、「100万接種あたりのアナフィラキシーの頻度が、ファイザーのワクチンで11.1、モデルナのワクチンで2.5と、すべてのワクチンでの1.31に比べて高くなっている。両ワクチンのアナフィラキシーに関する報告をまとめると、女性が94.5%を占め、アナフィラキシーの既往をもつ者の割合は38.7%、接種後15分以内に77.4%、30分以内に87.1%が発症している。その症状は、ほとんどが皮膚症状と呼吸器症状を伴うもので、アナフィラキシーショックを疑わせる血圧低下は1例のみだった。なお、その後の米国の調査で、アナフィラキシーの頻度は両ワクチン合わせて100万接種あたり4.5」と報告している。【国内での接種の方向性】 優先接種対象者として(1)医療従事者などへの接種、(2)65歳以上の高齢者、(3)高齢者以外で基礎疾患を有する者、および高齢者施設など(障害者施設などを含む)の従事者の順番で接種を進める予定と追記するとともに、妊婦については、「『妊婦および胎児・出生時への安全性』が確認されていないため、現時点では優先接種対象者には含まれていない。国内外の臨床試験において『妊婦などへの安全性』が一定の水準で確認された時点で再検討すべきと考えている」と方向性を示している。【筋肉内注射に関する注意点】・接種部位と接種方法 接種部位は上腕外側三角筋中央部で、成人では肩峰から約5cm(3横指)下にあたる。標準的には22~25G、長さ25mmの注射針で、皮膚面に90℃の角度で注射。なお「COVID-19ワクチンの臨床試験ではすべて三角筋外側中央部に接種されており、その他の部位への接種の有効性については検証されていないとし、臀部への接種は、坐骨神経損傷の可能性があることと皮下脂肪のために筋肉内に針が届かない懸念もあることから推奨されていない」としている。 そのほか「逆流を確認は不要」、「接種する腕は、利き手ではない側に接種することが望ましい」、「接種後は注射部位を揉む必要はない」などの具体的な接種方法が示されている。・接種時の感染対策 接種時の感染対策として「接種者は、マスクを着用するとともに、被接種者ごとに接種前後の消毒用アルコールによる手指衛生が必要」とし、「手袋を着用する場合は被接種者ごとに交換が必要であり、手袋着用前と脱いだ後に手指消毒が必須」としている。・接種後の発熱・疼痛に対する対応 接種後の発熱や疼痛に対し「アセトアミノフェンや非ステロイド性解熱鎮痛薬を使用することは可能。ただし、発熱・疼痛の出現する前にあらかじめ内服しておくことは望ましくない」としている。その理由として「解熱鎮痛薬の投与が免疫原性に影響を与える可能性があるため」と説明している。 提言では、ワクチンの有効性と安全性を評価したうえで、ワクチン接種を望む一方で、「ワクチン接種を受けることで安全が保証されるわけではなく、接種しても一部の人の発症、無症状病原体保有者として人に感染を広げる可能性があること」についても注意をうながし、COVID-19の蔓延状況が改善するまでは、マスク、手洗いなどの基本的な感染対策の維持を推奨している。

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第44回 新型コロナワクチンの副反応疑い報告は3例、いずれも軽症

<先週の動き>1.新型コロナワクチンの副反応疑い報告は3例、いずれも軽症2.高齢者のワクチン供給は6月末まで、一般向けは7月以降か3.新型コロナ変異株の国内監視体制を強化へ4.育休促進に「男性版産休」が新設、早ければ2022年10月から5.薬事承認されていない研究用抗原検査キットに注意/日本医師会1.新型コロナワクチンの副反応疑い報告は3例、いずれも軽症医療従事者へ先行接種が開始されている新型コロナウイルスワクチンの副反応について、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会が2月26日に開催され、接種した人のうち、0.014%に当たる3例に副反応が疑われる症状が発生したことが確認された。報告された副反応疑い事例はじんましんなどの軽症であり、当初懸念されていたアナフィラキシーなどは生じていない。厚労省は今後も専門家による検討部会を定期的に開催して、ワクチンの安全性について確認を行っていく予定。(参考)第52回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第12回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)(厚労省)資料 新型コロナワクチンの接種及び副反応疑い報告の状況等について(同)新型コロナワクチンの接種実績(同)2.高齢者のワクチン供給は6月末まで、一般向けは7月以降か河野 太郎規制改革相は26日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスワクチンの供給目途が立ったとして、65才以上の高齢者向けのワクチン接種について、6月末までに全国の自治体に配送を完了する見通しを発表した。医療従事者や高齢者以外の一般向けについては7月以降となる見込み。27日にオンラインで開催された全国知事会新型コロナ対策本部の会合において、各自治体から国に対して、いつまでに国民の何割の接種を目指すのかを早期に明らかにした上で、ワクチンの種類や量、供給時期、副反応などの情報を含め、より具体的に供給スケジュールや配分量などについて速やかに示すことを求める「今後の新型コロナウイルス感染症対策についての緊急提言」が出されている。(参考)高齢者向けワクチン 6月末までに全国に配送の見通し 河野大臣(NHK)今後の新型コロナウイルス感染症対策についての緊急提言(全国知事会)3.新型コロナ変異株の国内監視体制を強化へ厚労省と文科省は、各都道府県や国立大学に対して、新型コロナウイルスの変異株について、地域で連携してPCRなどの検査体制を整備するよう求める通知を2月19日に発出した。イギリスや各国では昨年12月から新型コロナウイルスの変異株による感染者の急激な増加が報告されており、わが国でも昨年12月28日にイギリスや南アフリカから帰国した渡航者から新型コロナウイルスの変異株が検出されている。国内での変異株感染例は検疫所での検出例を含め、2月25日時点で202人に上っている。3月から全国の地方衛生研究所において、新型コロナウイルスの変異株を短時間で検出するPCR検査を実施する体制を整備し、監視を強化する予定。(参考)変異ウイルス監視体制強化 3月から全国で短時間検査実施へ(NHK)大学等と自治体が連携した地域における検査体制の整備等について(事務連絡 令和3年2月19日)(厚労省)新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者の発生について(同)4.育休促進に「男性版産休」が新設、早ければ2022年10月から政府は26日に男性が妻の出産直後に育児休業を2週間取得できる育児休業制度「出生時育休」の導入を含む、育児・介護休業法などの改正案を閣議決定した。1月27日に開催された労働政策審議会雇用環境・均等分科会で提出された「男性の育児休業取得促進策等について」の建議の中で、少子化対策の一環として、男性の育児休業取得や育児参画を促進する取り組みを推進するために、男性版産休が提案されていた。この中で、従業員1,001人以上の大企業には男性の育児休業および育児目的休暇の取得率の公表義務付けも検討されている。なお、男性の育休取得期間は、賃金の67%と通常の育休と同率が支給されることが明らかになっている。(参考)資料 男性の育児休業取得促進策等について(建議)(厚労省)出生時育休、来年10月にも 改正案を閣議決定(時事通信)5.薬事承認されていない研究用抗原検査キットに注意/日本医師会日本医師会は2月26日に開催された定例記者会見で、インターネットやドラッグストアなどで薬事承認されていない研究用の抗原検査キットが販売されており、購入者がこれにより感染の判断ができると誤認する可能性があり、きわめて大きな問題と憂慮するとともに、日本医師会の見解を発表した。(1)医療に供する、薬事承認された体外診断薬を販売するものに対しては、医療機関以外へ販売しないよう、厚生労働省による指導を徹底すべき(2)感染症法の適用範囲については、薬事承認の有無を問わず、感染症に関連した検査用製品の販売まで適用対象を拡大すべき(3)こうした法的な対応が取られるまでの間は、感染症法第16条の2の理念を踏まえ、感染症に係る研究資材を製造販売している企業は、販売先および販売数を厚労省に対して報告を行う(4)こうした製品を現に使用している者は、症状の有無、使用した結果にかかわらず医療機関に相談する厚労省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部も2月25日に、都道府県や保健所設置市などに対して、薬機法に基づく承認を受けておらず、製品の性能が確認されたものでない研究用抗原検査キットは、消費者の自己判断により、新型コロナウイルス感染症の罹患の有無を調べる目的で使用すべきでないこと、発熱などの症状がある人で、新型コロナウイルス感染症の罹患が疑われる場合には、受診相談センターまたは医療機関に相談することを求める事務連絡を通知した。(参考)感染症法にかかる検査キットの販売について(日本医師会)新型コロナウイルス感染症の研究用抗原検査キットに係る留意事項について(周知依頼)(厚労省)

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第46回 新型コロナの緊急事態宣言、感染拡大の二の舞を踏まないための最適な解除時期は?

今年1月7日、新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が首都圏の1都3県にて発令されてから7週間が経過しようとしている。1月13日には宣言対象地域を栃木県、愛知県、岐阜県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の2府5県に拡大。当初2月7日としていた期限は、栃木県を除き3月7日まで延長された。ただ、政府は延長当初から状況が改善された都府県に関しては、専門家の意見を聴取したうえで、3月7日を待たずに前倒しで宣言を解除する方針を明示。解除目安として昨年8月、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が提言した「今後想定される感染状況と対策について」で示された感染状況の分類、ステージI~IVのうちステージIIIになることとの方針も明らかにした。そして、ここにきて政府は関西3府県、中京2県について月内で宣言を解除する腹積もりがあるらしい。この記事が公開された頃には、たぶん5府県は宣言が解除されているのだろうと予想する。ちなみに前述の感染状況のステージとは、ステージIが「感染散発段階」、ステージIIが「感染漸増段階」、ステージIIIが「感染急増段階」、ステージIVが「感染爆発段階」のように分類され(カギカッコ内表記は分科会発表資料の趣旨を要約)、ステージIIIとステージIVは数値基準がある。ステージIIIは(1)入院者・重症者それぞれの病床使用率が20%以上、(2)10万人当たりの療養者数15人以上、(3)PCR陽性者率10%以上、(4)10万人当たりの新規感染報告数が1週間で15人以上、(5)直近1週間の新規感染者数が先週1週間の新規感染者数比で1倍以上、(6)新規感染者に占める感染経路不明率50%以上、となっている。ステージIVは、ステージIIIの(3)、(5)、(6)はそのままで、(1)が50%以上、(2)が25人以上、(4)が25人以上となった場合である。2月24日現在、関西3府県と中京2県の6指標はすべてステージIII以下である。具体的に説明すると、岐阜県は入院者の病床使用率が22%、愛知県は入院者病床使用率が30%で重症者病床使用率が25%、京都府は入院者病床使用率が30%で10万人当たりの療養者数16人、大阪府は入院者病床使用率が35%で重症者病床使用率が38%、兵庫県は入院者病床使用率が40%で重症者病床使用率が41%だ。これらがステージIIIに該当している以外は各項目ともステージII以下の水準である。確かに数字だけを見ればステージIII以下。ただ、改めて言うとステージIIIとは「感染急増段階」、あくまで一時的に最悪の状態を回避できているに過ぎない。ちょっとでも油断すれば、あるいは何かボタンを一つ押し間違えば一気にステージIVに達しかねないレベルである。たとえば、1日の感染者(PCR陽性者)報告で考えると、大阪府の場合、ステージIIIは189人、ステージIVが314人となる。大阪府の過去の数字に照らし合わせると、ちょうど昨年11月第1週がステージIIIに達したくらいだったが、11月第3週半ばにはステージIV水準になる。この間、要したのはわずか半月弱である。その後はスポットで感染者報告が減ることはあってもほぼステージIV水準を維持し続け、ステージIII水準に戻るのは1月第4週である。途中で緊急事態宣言という「劇薬」を使って、ざっと2ヵ月強かかっている。整理すると、わずか半月で起きた感染拡大を鎮火させるのに、半ば強制じみた措置を援用して2ヵ月以上かかったのだ。ちなみに現状の大阪府の1日当たりの新規感染者報告はすでに100人を切っているが、昨年この水準だったのは10月下旬である。そこから考えてもステージIV相当になるのに3週間である。しかも現状の大阪府の入院者、重症者の病床使用率はステージIIIの水準である。ここで感染者が増加に転じれば、感染者発生から重症者発生までの1週間強のタイムラグを考慮しても、最短で1ヵ月程度で病床使用率は再びステージIV水準に達してしまうだろう。すでに菅首相は高齢者のワクチン接種を4月12日には開始する旨を発表している。大阪府を例にとれば、いま宣言解除をすれば、下手をすると高齢者がワクチン接種のために出歩かなければならなくなる時期に感染爆発を招く恐れがある。その意味では、大阪府では1日の感染者報告数が50人前後、すべての指標がステージII水準になるぐらいが宣言解除時期としてより適切ということになるのではないだろうか?また、すべての指標がステージII段階とすれば、現時点で宣言解除の可能性が生まれ始めているのは、今の状態をあと1~2週間維持できれば、すべての指標がステージII入りすると推定できる愛知県、岐阜県ぐらいとなる。経済への影響を懸念する声があるのはもちろん承知しているが、現在の状況は1回目の緊急事態宣言発令時とは比較にならないほど感染が拡大している。1回目当時は最後まで緊急事態宣言が解除できずに残った5都道県のうち北海道と神奈川県は、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言を受けて策定した緊急事態宣言解除の数値基準を満たさなかったにもかかわらず、あれこれと理屈をつけて解除に踏み切った。結局その後2ヵ月足らずで第2波に突入し、それが収まるか収まらないかという綱引きが続くなかで、泥縄的に第3波入りし、今に至っている。もちろん緊急事態宣言が解除されたからと言って、自治体が飲食店の時短営業要請などを一気に緩和するわけではないことは百も承知している。しかし、宣言解除という事態が一般に与える心理的な効果、敢えて言えば気の緩みは小さくないものだと考えている。緊急事態宣言の解除が一部に見え始めている今だからこそ、情報を発信する側も気が抜けないと感じている。

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COVID-19ワクチンの今と筋注手技のコツ/日本プライマリ・ケア連合学会

 今月より医療者を対象に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が開始された。開始されたワクチンは、ファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)であるが、今後別の種類のワクチンの承認追加も予定されている。 実際、これらワクチンの効果や安全性はどの程度わかっているのであろう。また、現状接種は、筋肉注射による接種であるがインフルエンザの予防接種などで広く行われている皮下注射とどう異なり、接種の際に注意すべきポイントはあるのだろうか。 今後、高齢者や基礎疾患を持つ一般人への接種も始まる中で、日本プライマリ・ケア連合学会(理事長:草場 鉄周)は、2月22日に同連合学会のホームページ上で2つのコンテンツを公開した(コンテンツは予防医療健康増進委員会 感染症プロジェクトチームが監修)。 1つは、2月17日にオンライン講演で行われたものを録画した『新型コロナウイルスワクチンについて いまわかっていること、まだわからないこと』であり、COVID-19ワクチンについて次の内容がレクチャーされている。概要1. ウイルスと免疫のしくみ2. 新型コロナワクチンのしくみ3. 新型コロナワクチンの効果4. 新型コロナワクチンの副反応5. 新型コロナワクチンの具体的な接種法6. 新型コロナワクチンについてまだわからないこと7. 新型コロナワクチンについての不安やデマ8. 新型コロナワクチンみんなで気を付けること質疑応答 全体で約2時間にわたる講演であるが、臨床に携わる医療者からの質疑応答には長時間を割き、丁寧かつコンパクトに説明を行っている。 また、もう1つは『新型コロナワクチン 筋肉注射の方法とコツ』の動画である。動画では、注射針の選定からシリンジの長さ別の注射のポイント、接種部位の指定、接種時の注意点などが約8分の動画でまとめられている。 いずれの動画も視聴のうえ、今後のワクチン接種時の参考にしていただきたい。【追記】 筋肉注射の解説動画については、公開後のさまざまな意見などを踏まえ、3月15日に「2021年3月版」として新たな接種部位の紹介と接種肢位の注意点などの情報を更新し、公開している。

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第48回 コーヒーは血中脂質を増やす/イスラエル医療従事者のCOVID-19発症がワクチンで85%減少

コーヒーは血中脂質を増やす~飲むならカフェストールが抜ける濾過コーヒーが賢明重要な慢性疾患や怪我の要因を見つけることを主な目的1)とする観察試験UK Biobankの被験者36万2,571人の解析でコーヒーと血中コレステロール濃度上昇の関連が改めて示されました2,3)。コーヒーをより飲んでいる人ほど総コレステロール、それに悪名高いLDLコレステロール(LDL-C)やアポリポタンパク質B(apoB)の血中濃度がより高いという結果が得られており、コーヒーの飲みすぎを長く続けると脂質に障ってやがては心血管疾患を生じやすくする恐れがあると示唆されました。コーヒーを飲むこととコレステロール上昇の関連はノルウェーの街トロムソの住人を調べたおよそ40年前の試験(Tromso Heart Study)ですでに示されています。被験者はコーヒーといえば挽いたコーヒー豆を水で煮てその上澄みを濾過せずに飲むのを主とし、UK Biobankの試験と同様にコーヒーをより多く飲んでいる人ほど血清の総コレステロールやトリグリセリド値がより高めでした4)。それから7年後の1990年には冒頭のUK Biobank試験の著者の懸念を裏付ける中年男女およそ4万人の追跡調査結果がBMJ誌に掲載されています。Tromso Heart Studyと同様にノルウェーでの試験であり、非濾過コーヒーがしばしば飲まれていた同国でのコーヒー摂取と冠動脈心疾患による死亡の関連が示されました5)。非濾過コーヒーにはコレステロールを上げるコーヒー豆成分カフェストール(cafestol)が多く含まれます。たとえば豆の粗挽きを10分以上煮出すか熱湯で煎じた上澄みの非濾過コーヒーには紙フィルター濾過コーヒーに比べて30倍多く含まれます6)。コーヒー豆のカフェストールが血清コレステロールを上げることを発見した1994年の研究報告の引用文献によると、ノルウェーの隣国フィンランドでは非濾過から濾過コーヒーへの嗜好の変化が血清コレステロール低下に一役買い、7%の心血管疾患減少をもたらしました7,8)。上述のNEJM報告の筆頭著者Dag Thelle氏が率いたごく最近の試験9)でもどうやら非濾過コーヒーの飲み過ぎは心臓に悪そうなことが示唆されています。Thelle氏等のその新たな試験ではノルウェーの20~79歳の約51万人のデータを使ってコーヒーと心血管疾患や死亡率等との関連への抽出方法の影響が調べられました。その結果、コーヒー全般と死亡や心血管疾患を生じやすくなることの関連は認められませんでしたが、コーヒーを飲む人のうち1日に濾過コーヒーを1~4杯飲む人は死亡率が最も低く、非濾過コーヒーを1日に9杯以上飲む人は逆に死亡率が最も高くなっていました。ペーパーフィルター濾過コーヒーでもコレステロールが上昇しうることが示されている10)ので過信は禁物ですが、血中脂質にできるだけ障らないようにするにはコレステロール上昇成分カフェストールが抜ける濾過コーヒーを適度に飲むのが賢明なようです2)。イスラエルでPfizerワクチン1回目接種後15~28日間のCOVID-19発症が85%減ったPfizer(ファイザー)/BioNTech(ビオンテック)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防ワクチンBNT162b2の接種が進むイスラエルの医療従事者およそ9,000人(9,109人)を調べたところ、その1回目接種後15~28日のCOVID-19発症は非接種に比べて85%少なくて済みました11,12)。接種から1~14日のCOVID-19発症も47%少なく、非接種のおよそ半分で済みました。PCR検査でのSARS-CoV-2検出率も非接種群に比べて低下しました。1回目接種から1~14日には30%、15~28日には75%低下しています。1回目接種からすぐにCOVID-19が減った今回の結果を受けて著者はワクチンや人手不足の国では2回目接種を遅らせてもよさそうだと示唆しています11)。参考1)Batty GD,et al. BMJ. 2020 Feb 12;368:m131. 2)Deja brew? Another shot for lovers of coffee / EurekAlert3)Zhou A, et al. Clin Nutr. 2021 Jan 11:S0261-5614,00014-5. [Epub ahead of print]4)Thelle DS, et al. N Engl J Med. 1983 Jun 16;308(24):1454-7.5)Tverdal A, et al. BMJ. 1990 Mar 3;300:566-9.6)Urgert R, et al. J R Soc Med. 1996 Nov;89:618-23.7)Weusten-Van der Wouw MP, et al.J. Lipid Res. 1994. 35: 721-733.8)Salonen JT, et al.Prev Med. 1987 Sep;16:647-58.9)Tverdal A, et al. Eur J Prev Cardiol. 2020 Dec;27:1986-1993. 10)Correa TA, et al. Nutrition. 2013 Jul-Aug;29:977-81.11)Amit S,Lancet. February 18, 2021. [Epub ahead of print]12)Study finds first COVID vaccine dose lowers disease risk 30% to 85% / University of Minnesota

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第43回 麻酔科元教授が逮捕された三重大、4年前の死亡事故も隠蔽か?

<先週の動き>1.麻酔科元教授が逮捕された三重大、4年前の死亡事故も隠蔽か?2.発症から15日など、新型コロナ重症者の退院基準を新設/厚労省3.4月から非医療機関を対象に看護師の日雇い派遣が可能に4.高齢者へのワクチン接種開始、予定よりやや遅れる見込み5.コロナ禍での医師の働き方改革の進捗を報告/日医1.麻酔科元教授が逮捕された三重大、4年前の死亡事故も隠蔽か?三重大学医学部付属病院において、2017年に麻酔科医が4件の手術をかけ持ちする「並列麻酔」を行い、手術中に患者1人が死亡する医療事故が発生していたことが発覚した。並列麻酔は、医療事故のリスクが高まることなどを理由に、日本麻酔科学会が原則的に禁止している。同院の医療事故調査委員会は、並列麻酔が患者の死亡につながった遠因である可能性を言及し、今年に入ってから並列麻酔は一切行っていないとしているが、2020年までは20%前後の手術で並列麻酔が行われていたことを明らかにしている。三重大学では、臨床麻酔部の元教授らが、不正な診療報酬請求による詐欺の疑いで逮捕され、昨年から麻酔科医の退職が相次いでおり、人手の足りない手術を他病院で実施するなどで対応している。今後、再発防止策を立案するとともに、信用回復と人員確保が最優先となるだろう。(参考)【三重】三重大「並列麻酔」約1〜2割で(NHK)資格医学部附属病院における不正事案について(三重大学)2.発症から15日など、新型コロナ重症者の退院基準を新設/厚労省厚生労働省は、18日に開催された専門家会議で、新型コロナウイルスの重症者について、軽症者らとは別の退院基準を設けることを決定した。これは、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な重症者は、他人に感染させる期間が長いと考えられるため。これまでの退院基準は、重症度にかかわらず、発症後10日間が経過し、かつ症状が軽快しており、72時間以上経過した者についてはPCR検査を実施せずに退院が可能であったが、今後は重症者に限って、発症から15日が必要だとした。近く、都道府県に通知する見込み。政府は、退院基準を満たした高齢の入院患者を介護施設が受け入れた場合、1日当たり5,000円相当の介護報酬を最大30日間加算することを決めている。全国老人保健施設協会によると、都内では36施設が、新型コロナ退院患者の受け入れ態勢をすでに整えているという。(参考)コロナ重症者の退院基準 発症から15日に 厚労省(朝日新聞)コロナ 退院基準満たした高齢患者 受け入れ施設に介護報酬加算(NHK)3.4月から非医療機関を対象に看護師の日雇い派遣が可能に厚労省は、非医療機関(老人ホームや介護施設、保育所など社会福祉施設)において、看護師らが日雇いで働けるように政令改正を決めた。これは新型コロナ流行に伴い、介護施設や障害者施設での看護師ニーズが高まる中、現状では原則禁止されている看護師らの日雇い派遣についての規制を緩和し、今年の4月以降認める方向で検討している。介護施設では、看護師の人員確保などの課題に直面しており、規制緩和によって、子育てや介護のため常勤していない「潜在看護師」の短時間労働が可能となる。なお、新型コロナウイルスワクチン接種などについては、医療行為であり、医療機関への派遣についても今回の改正対象とはならない。表:保健師・助産師・看護師・准看護師と労働者派遣の法規制(2021年2月21日時点の改正見込み)画像を拡大する(参考)看護師の日雇い派遣4月以降容認へ 厚生労働省(NHK)看護師、介護施設に日雇い派遣可能に 4月から(日本経済新聞)4.高齢者へのワクチン接種開始、予定よりやや遅れる見込み21日にNHK報道番組に出演した河野 太郎規制改革担当相は、高齢者への新型コロナウイルスのワクチン接種開始について、4月はワクチンの輸入量が比較的限られるため、接種への実施が一部後ろ倒しになることを明らかにし、今週中には新たな接種計画をまとめると発表した。また同氏は、新型コロナウイルスワクチン接種について、当初は370万人程度と推計していた医療従事者が、100万人程度増えるとの見通しを明らかにしており、3月から開始される医療従事者の2回目の接種と並行して高齢者向けの接種が開始する見込みであることも併せて言及している。(参考)高齢者ら接種「週内に大枠」 企業にワクチン休暇要請も 河野氏(時事通信)ワクチン接種、遅れる可能性 河野氏言及、供給が限定的(朝日新聞)ワクチン医療従事者接種「100万人くらい増加」 河野氏 高齢者、4月開始は変更なし(日経新聞)5.コロナ禍での医師の働き方改革の進捗を報告/日医日本医師会は、17日に開催された定例記者会見で、医師の働き方改革の進捗について、松本 吉郎常任理事が報告した。医師の働き方改革については、昨年12月に厚労省の「医師の働き方改革の推進に関する検討会」が中間取りまとめを行い、今年2月に医療法等の改正法案が閣議決定され、2024年度からの医師の働き方の新制度施行からの制度の開始に向けた準備が進んでいる。今回、現場からの質問や意見の多い、(1)医療機関がおこなうべきこと、(2)2024年度からの医師の働き方の新制度施行、(3)2024年度の新制度施行に向けて取り組むこと、(4)コロナ禍と医師の働き方、(5)宿日直の許可、(6)医師の副業・兼業の取り扱い、(7)大学病院における働き方、(8)医師の働き方制度理解といった8項目についてそれぞれ説明を行った。今後、さらに医師の働き方改革を進める上でのポイントが記されており、2024年度を前に大学病院をはじめ医療機関が取り組む課題は大きいと考えられる。(参考)医師の働き方改革の進捗状況について(日医)資料 医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ(厚労省)

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第45回 新型コロナワクチン承認の恩恵にあやかりたいHPVワクチンの今

ワクチン、ようやくここまで来たか」との感慨に浸っている。そう書くと多くの皆さんは新型コロナワクチンのことだと思うだろう。もちろんそれもある。だが、それよりも感慨深いのは、9価のヒトパピロ―マウイルス(HPV)ワクチン「シルガード9」が今月24日に正式に発売となることだ。ご存じのように日本では2013年4月にHPVワクチンが小学校6年生から高校1年生の女子を対象に予防接種法に基づく定期接種化されながら、それからわずか2ヵ月後の同年6月14日の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)で一部の接種者が訴えた接種後の疼痛などの報告を審議し、厚生労働省(以下、厚労省)が「積極的な接種勧奨の差し控え」を通達、現在に至っている。日本では定期接種化時点で、180種類以上のジェノタイプがあるHPVのうち、子宮頸がんになりやすいハイリスクな16型、18型への感染を防ぐ2価ワクチン「サーバリックス」と、この2つに加えて性感染症の尖圭コンジローマの原因である6型、11型への感染も防ぐ4価ワクチン「ガーダシル」が承認されていた。一方、海外の状況を見ると、2014年12月に4価のガーダシルに、さらに子宮頸がんハイリスクのジェノタイプである31型、33型、45型、52型、58型への感染を防ぐ9価ワクチン「ガーダシル9」がアメリカで承認され、同ワクチンは2015年6月に欧州連合(EU)とオーストラリアで承認され、現在までに全世界のうち70ヵ国以上で承認されている。今回、発売されることになるシルガード9はご覧のとおり商品名が違うだけで、ガーダシル9と同じものである。従来の2価、4価ワクチンが子宮頸がんの6~7割を防げると言われるのに対し、シルガード9では約9割の子宮頸がんが防げるといわれている。すでに日本同様の定期接種化が行われている国では、この9価ワクチンを接種するのが一般的となっている。しかし、日本での今回の発売に至るまでの道のりは異常なまでに長いものだった。すでに製薬企業側からの承認申請は2015年7月に行われていながら、まったく審議が行われない棚ざらしのまま時間が経過し、審議入りはようやく昨年4月で承認取得は昨年7月。そして発売は今年2月と実に5年7ヵ月も要した。厚労省側は表向きでは無関係と称しているものの、この背景には前述の副反応を訴える人々の一部が製薬企業や国を相手取って民事訴訟を起こしていることと無縁ではないと考えられている。もっともいま現在に至るまで「積極的な接種勧奨の差し控え」ではあっても定期接種対象であることに変わりはないわけで、国民全般への目配りが求められる中央官庁としては多方面に気を遣わねばならないのは分からないではないものの、この間の審議なき棚ざらし状態に対し私はサボタージュに等しいと考えている。さて、ただ正式にシルガード9が発売されたとしても、そこからはまた先の長いことになるかもしれない。まず、現在の積極的な接種勧奨の差し控え状態のまま定期接種のワクチンにシルガード9を加えることできるかどうかが第一関門である。すでにそれに関わる審議は昨年8月の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)の「ワクチン評価に関する小委員会」でスタートしている。シルガード9を順調に定期接種へ加えることができたとしても、最大にして最後の難事業である「積極的な接種勧奨の差し控え」の中止、すなわち通常の定期接種に戻すことが残されている。ただ、厚労省関係者に定期接種の正常化に関して水を向けると、「そのためにはHPVワクチンに関して国民の理解がもう一歩進むことが必要」という答えが返ってくることがほとんど。中にはより慎重な「現在進行中の民事訴訟で原告側が副反応と訴えている症状とワクチンの因果関係が否定される判決が出ること」という意見まで出てくることさえある。本連載でも触れたように、この件では副反応を訴える人たちの登場とそれを検証不十分なまま報じたメディアの責任は問われて当然である。しかし、昨今の少なくとも大手の新聞社の報道を見る範囲では、HPVワクチンに関して接種者の一部が訴える症状をワクチンの副反応と捉えて煽るような報道は皆無に等しい。そしてたとえば全国紙4紙で「HPV」で検索し、HPVワクチンに関して直接的に報じている記事を最新から2本あげると次にようになる。<朝日新聞>「HPVワクチン接種、男性も」(2020年12月5日)「子宮頸がん死亡4千人増と推計 阪大、ワクチン接種減で」(2020年11月4日)<毎日新聞>「HPVワクチンへの不安を取り除き、女性を守りたい/上」(2021年2月18日)「子宮頸がん予防、拡充目指す 元俳優の三原じゅん子副厚労相」(2020月11月19日)<読売新聞>「HPVワクチン、男性への使用可能に…厚労省部会が了承」(2020年12月5日)「子宮頸がんワクチン 7割前向き…大阪府内の小児科医調査」(2020年11月21日、有料読者のみ閲覧可)<日本経済新聞>「子宮頸がんワクチン普及に光明、日本の接種率0.3%」(2020年11月15日)「子宮頸がんワクチン 発症リスク約6割減、スウェーデン」(2020年10月19日)見出しの一覧だけでもわかるとおり、ワクチンの否定的な記事は一本もなく、実際に各記事に目を通してもHPVワクチンに否定的な内容ではない、むしろ肯定的と言ってもいい。その意味ではHPVワクチンについては空気が大きく変わっているのが現状、あと一歩とも言える。そして個人的なことを話せば、私自身がシルガード9の定期接種ワクチンへの追加と定期接種の正常化を願う、現高校2年生の女子の父親である。前々回の連載でも書いたように私はワクチンというワクチンはほぼ打ち尽くしている自称「ワクチンマニア」だが、そんな私にある時、高校1年生当時の娘が相談してきた。「あのさ、自分もさ、あのなんていうの子宮頸がんのワクチンって言うの? 打ったほうがいいのかな?」私は娘にはHPVワクチンのことは一度も話したことはない。実はこれには明確な理由がある。別に接種させたくないわけではないし、むしろ接種させたい。ただ、それは9価ワクチン一択である。この時は娘には率直に4価ワクチンと9価ワクチンの医学的なメリットとデメリット、また現在のHPVワクチンをめぐる現状も話した。このHPVワクチンを巡る現状では、現在国内で騒がれている副反応と呼ばれる症状はこれまでの研究結果からはワクチンとの因果関係がないであろうと強く推認されるということも伝えた。そのうえで、娘には現時点であなたは定期接種対象者で4価ワクチンは無料で接種できることを話し、次の選択肢を提示した。(1)4価ワクチンを定期接種で接種してそれで終了にする(2)4価ワクチンを定期接種で接種し、9価ワクチンの承認後にそれを再接種(3)9価ワクチンの承認と定期接種組み入れを待って接種ちなみに最初にこの3つを話した段階で娘が即時に却下したのは(2)である。答えは簡単、「合計6回も注射はしたくない」ということだ。残るは(1)と(3)、娘は結構悩んでいいたが、ほぼ(3)を選びかけた。ところがこの時点で娘が私に聞いてきた。「あのさ、この9価ワクチンの承認とかが自分が高校2年生以上の時期になった場合、費用どうなるの?」おお、意外と勘が鋭い。そこでこのように説明した。「1回3万円強のワクチンを3回、合計10万円弱をお父さんが払うことになる」これには娘が絶句。ただ、私は「もし今後数年以内に9価ワクチンの承認と定期接種の組み入れ、さらには定期接種の正常化が実現すれば、高校2年生以降でも無料で受けられる可能性がある」と伝えた。なぜそう伝えたのか? これは日本脳炎ワクチンの事例を踏まえたものである。多くの医療従事者はご存じのように定期接種である日本脳炎ワクチンでは、重篤な副反応が発生した影響で、今回のHPVワクチンのように2005年度から2009年度までの間、積極的な接種勧奨が差し控えられた。その後、製法を改良して作られたワクチンで定期接種が正常化された際、この勧奨差し控え期間中に接種対象だった児童は、補償的な措置として20歳まで定期接種として無料接種が可能という措置が取られている。私はHPVワクチンについても同様の措置が取られると可能性が高いと踏んでいる。娘にもそのように伝えた。その結果、娘は(3)を選択し、私もそれを追認した。そしてこの選択にはさらに父親として「お父さん補償措置」を追加し、娘に伝えた。それは「9価ワクチンの承認と定期接種の組み入れ、さらには定期接種の正常化が実現した段階で補償措置がなかったり、その対象外となった場合、さらにはあなたが高校2年生以降、そうした政策的決定がなされる前に自分でやはり接種したいと思った時はすべてお父さんが費用を負担して9価ワクチンを接種すること」というものである。そんなこんなで私も娘も9価ワクチンの定期接種の組み入れと定期接種の正常化を待っている。いや、もしかしたら娘は待っていないかもしれない。というのも「ワクチンは痛いからなるべくなら打ちたくない」と言っているからである。実際、今回のコロナ禍に際してインフルエンザワクチンは接種しておこうと言った私に対してギリギリまで抵抗し、自分が欲しい宝塚のDVDを買うことをインフルエンザワクチン接種の条件として提示してきたくらいである(仕方なく了承したが)。まあ、そういう私も「9価ワクチン3回で10万円弱だと、居酒屋で何回飲めるだろう」と暗算したくらいなので、娘のことは非難できない。なお、もしかしたら「娘の健康のために10万円を惜しむのか?」というご批判もあるかもしれないが、緊急事態宣言下に会員クラブに行けるほどの余裕がある一部のお偉いさんと違って、ド庶民の私にとって10万円は超大金なのでご理解いただきたい、としか答えようがないのである。

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ワクチンへの対応も、コロナ禍での肺がん診療指針改訂版を発刊/日本肺癌学会

 日本肺癌学会は、2021年2月14日、「COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion」改訂版を公開した。 初版は、感染拡大(第2波)の兆しが見えた2020年7月に、肺がん診療指針を示すことの重要性に鑑み、肺がん医療を担う医療者および病院管理者を利用者として想定し作成。作成にあたっては日本肺癌学会の関連委員会メンバーが、診療ガイドラインのエビデンスを背景にCOVID-19とがん診療に関する内外の文献を参照しつつ作成し、COVID-19による特殊な診療態勢に応用ができることを意図したものであった。 第3波を迎え、COVID-19のワクチン接種が開始された現状に対応し、同ステートメントの改訂版を公表した。 作成委員長である滝口裕一氏(千葉大学)に聞いた改訂点は下記。・「背景と目的」2021年2月までの感染進捗状況を反映(第1章)・「総論」疫学データを最新情報に更新(第2章)・「肺癌治療の考え方」肺癌治療中に感染した場合の対応、隔離の原則、治療延期の原則、などの具体的記述を大幅に追加(第11章)・「COVID-19ワクチン」の項を追加(第12章) そのほか、肺癌診療ガイドライン2020年版による治療の改訂部分に応じた細かい修正を行っているという。

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「喘息患者の受診控え」に緊急提言、花粉時期はさらなる注意を

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、患者の受診控えの傾向が続いている。アストラゼネカは日本呼吸器学会と共同で「『喘息患者の受診控え』に緊急提言 ~コロナ禍が続く中で迎える花粉飛散シーズン、どう喘息悪化を防止するか~」と題したセミナーを開催した。 この中で、 高知大学の横山 彰仁氏(呼吸器・アレルギー内科学 教授)が「喘息における継続治療の重要性~ウイルスや花粉の影響~」と題した講演を行った。この中で横山氏は、・喘息は治療継続が必要な病気。受診控えや治療中断は悪化要因となる・喘息は、ウイルス感染やタバコの煙、花粉といった刺激で症状が悪化する。今年は多くの地域で昨年より花粉飛散量が大幅に増えると予測されており、注意が必要・COVID-19を理由とした受診控えが多いが、これまでの研究では喘息はCOVID-19の罹患因子でも重症化因子でもなく1)、COVID-19悪化入院患者のうち喘息患者の割合はインフルエンザ患者よりも低い2)、とし「喘息のコントロールができていればCOVID-19を過度に恐れる必要はない」と述べた。 さらに、今後予定されるCOVID-19のワクチン接種に関し、基礎疾患を持つ人は優先接種の対象となり、厚生労働省が発表した基礎疾患の基準には「慢性呼吸器疾患」が入っている。ただし、この基準に対する意見を求められた日本アレルギー学会・日本呼吸器学会は、下記の見解を伝えたことを紹介した。・気管支喘息患者は優先接種の対象とする必要はない。ただし、1)経口ステロイド薬使用患者、2)吸入ステロイド薬使用者のうち喘息コントロールが不良である(過去1年以内の入院歴がある)患者、3)過去1年以内に2回以上の予定外外来あるいは救急外来受診歴がある患者、は対象とする。・慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者、喘息患者のうちCOPD併存患者は対象とする。 続いて、慶應義塾大学の福永 興壱氏(呼吸器内科 教授)が「新型コロナウイルス流行下での喘息患者の受診状況と受診控えが喘息患者に及ぼす影響」というテーマで講演を行った。この中で福永氏はCOVID-19流行が拡大した2020年4月から10月にかけて、喘息吸入薬の処方数が激減した3)。一方で、同じ慢性疾患である糖尿病薬剤は処方数が変わっておらず3)、受診控えがさほど起きていない状況を紹介し、「喘息は症状が治まると疾患の自覚が乏しく、受診控えが起きやすいのでは」と分析した。さらに、自院での感染防止対策を紹介したうえで「治療をせずに発作を繰り返すと、リモデリングといって気管が硬化し、喘息が重症化しやすくなる。今の時期は花粉をきっかけとした重症化も多い。電話診療等を行う医療機関も増えているので、適切な受診と治療継続をしてほしい」と呼びかけた。

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「新型コロナワクチンについて 第1版」を公開/国立感染研

 国立感染症研究所が、「新型コロナワクチンについて 第1版(2021年2月12日現在)」を公開した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの国内での接種開始にあたり、現在得られている知見を概要としてまとめたもの。これまで見つかっている3種類の変異株への効果についても考察されている。 本ページには、以下の内容が引用文献とともに掲載されている。・新型コロナウイルスの感染成立のメカニズムについて・日本で使用が検討されている3つの新型コロナワクチンの種類、組成、ベクターについて・海外での臨床試験における評価項目、臨床試験成績について・有効性の持続期間と今後の接種スケジュールの展望について・新規変異株に対するワクチン有効性について

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HCVワクチン第I/II相試験、慢性感染への予防効果認めず/NEJM

 C型肝炎ウイルス(HCV)に対する2種の遺伝子組み換えワクチンを接種するワクチンレジメン戦略について、重篤な有害事象は起きずレジメンの安全性は確認され、HCV特異的T細胞反応とHCV RNAピーク値の低下は認められたことが示された。一方で、HCVの慢性感染に対する予防効果は認められなかった。米国・ニューメキシコ大学のKimberly Page氏らが、第I/II相無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。HCV感染症に対しては、現在、安全で有効な治療法があるが、注射器で薬物を使用するHCV感染者がHCVの治療を求めることはまれであるという研究が示されており、HCV感染症を撲滅する取り組みにおいては、HCVの慢性感染を予防する安全で有効なワクチンが重要な要素になる。試験の結果を踏まえて著者は、「世界的な制御を成功させるには、HCV感染症予防のための他の戦略、スクリーニングおよび治療に加えて、予防的なワクチンが必要になるだろう」と述べている。NEJM誌2021年2月11日号掲載の報告。0日目、56日目に接種するワクチンレジメン 今回の検討では、HCVの感染リスクが高いが感染不明者へのワクチン接種の安全性を評価すること、およびワクチンレジメンがプラセボよりもHCV慢性感染に有効かどうかを確認することを主な目的とした。副次目的として、ワクチンの免疫原性を評価した。 研究グループは、2012~18年にジョンズ・ホプキンズ大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、ニューメキシコ大学で、無作為化前90日以内に薬物注射歴があるHCV感染不明の健康成人(18~45歳)548例を対象に試験を実施。遺伝子組み換えチンパンジーアデノウイルス3型ベクター(ChAd3)のプライミングワクチン接種と、遺伝子組み換え改変ワクシニアアンカラ(MVA)のブースター接種のワクチンレジメンについて検討した。両ワクチンは、HCV非構造蛋白をコード化したものだった。 被験者を無作為に2群に分け、0日目と56日目に一方には前述のワクチンを、もう一方にはプラセボを接種した。 安全性の主要エンドポイントは、ワクチン関連の重篤な有害事象、重度の局所または全身性の有害事象、臨床検査値で認められる有害事象だった。有効性の主要エンドポイントは、HCV慢性感染で、6ヵ月持続するウイルス血症と定義した。per-protocol集団で両群のHCV慢性感染はいずれも14例 548例(78%が男性、61%が白人)は、ワクチン接種群、対照群それぞれ274例に無作為に割り付けられた。 HCV慢性感染の発生率について、両群に有意差は認められなかった。per-protocol集団(ワクチン群261例、プラセボ群259例)でHCV慢性感染が認められたのは、両群とも14例だった(ワクチン群vs.プラセボ群のハザード比[HR]:1.53[95%信頼区間[CI]:0.66~3.55]、ワクチン有効性:-53%[95%CI:-255~34])。 修正intention-to-treat集団(ワクチン群256例、プラセボ群257例)では、HCV慢性感染が認められたのは、ワクチン群19例、プラセボ群17例だった(HR:1.66[95%CI:0.79~3.50]、ワクチン有効性:-66%[95%CI:-250~21])。 一方、感染後HCV RNAのピーク値幾何平均には、ワクチン群とプラセボ群で差が認められた(それぞれ、152.51×103 IU/mL、1,804.93×103 IU/mL)。また、HCVに対するT細胞反応は、ワクチン群では78%で検出された。 重篤な有害事象の発現頻度は、両群で同程度だった。

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コロナワクチン「コミナティ」使用時の具体的な注意点

 「SARS-CoV-2による感染症の予防」を効能・効果として2月14日に特例承認されたファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)について、同日、本剤の使用に当たっての具体的な留意事項の通知が、厚生労働省から都道府県などの各衛生主管部(局)長宛に発出された。 本通知には、薬剤調製、接種時の具体的な注意点が記載されており、以下に一部抜粋する。■解凍方法・冷蔵庫(2~8℃)で解凍する場合は、解凍および希釈を5日以内に行う・室温で解凍する場合は、解凍および希釈を2時間以内に行う・解凍後は再冷凍しない■希釈方法・希釈前に室温に戻しておく・本剤のバイアルに日局生理食塩液1.8mLを加え、白色の均一な液になるまでゆっくりと転倒混和する。振り混ぜない・希釈後の液は6回接種分(1回0.3mL)を有する。デッドボリュームの少ない注射針または注射筒を使用した場合、6回分を採取することができる。標準的な注射針および注射筒等を使用した場合、6回目の接種分を採取できないことがある。1回0.3mLを採取できない場合、残量は廃棄する・希釈後の液は2~30℃で保存し、希釈後6時間以内に使用する。希釈後6時間以内に使用しなかった液は廃棄する■薬剤接種時の注意・通常、三角筋に筋肉内接種する。静脈内、皮内、皮下への接種は行わない また本剤の適正使用として、本剤の成分に対して重度の過敏症の既往歴のある者等は予防接種を受けることが適当でないとし、本剤の成分を示している。・トジナメラン(有効成分)・[(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル)・2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド・1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン・コレステロール・精製白糖・塩化ナトリウム・塩化カリウム・リン酸水素ナトリウム二水和物・リン酸二水素カリウム そのほか、注射による心因性反応を含む血管迷走神経反射としてあらわれる失神への対処、妊婦または妊娠している可能性のある女性への接種の考え方なども記載されている。

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第47回 COVID-19伝播の阻止や変異株への抗体反応をワクチンが助け、抗原検査が検診を一変しうる

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンを接種すればたとえ感染しても抑えが効いてウイルスは他人を感染させるほどには増え難いらしく、他人を感染させうる人のみを見分ける抗原検査はその感染(COVID-19)の検診の有り様を一変させるかもしれません。また、2社のmRNAワクチンは変異株に対抗する中和抗体をどうやら底上げするようです。PfizerのCOVID-19ワクチンはウイルス量を抑えて感染伝播を減らしうるイスラエルでPfizer/BioNTechのCOVID-19ワクチンBNT162b2接種済みの人と非接種の人の感染の程度を比較したところ1回目接種後12~28日のウイルス量はワクチン非接種の人の4分の1ほどに抑えられており、同ワクチンはすでに裏付けられている発症予防に加えて他人を感染させ難くする効果もあると示唆されました1,2)。ウイルス量が多い人ほど他人を感染させやすいことはLancet Infectious Diseases誌に最近掲載された別の試験で示されています。SARS-CoV-2に感染した282人とそれらと密接に接触した753人を調べたその試験の結果、他人を感染させたのは3人に1人(90人;32%)のみで、ウイルス量が多い人ほど他人を感染させていました3,4)。また、咳がある人とない人の他人への感染伝播に差はありませんでした。ということはウイルス量が多い感染者に接触した人の追跡がとくに重要なようであり4)、次に紹介する試験ではウイルス量が多くて他人を感染させやすい人の同定に抗原検査が重宝しうることが示唆されています。BD社の抗原検査はCOVID-19を移しうる有症者の検出でPCR検査に勝るようだCOVID-19を他人に感染させうる患者の検出を比較した試験でベクトン・ディッキンソン(BD)社のわずか15分ほどで済む抗原検査(製品名Veritor)がウイルスのRNAを検出するPCR検査を凌ぐと示唆され5,6)、抗原検査はCOVID-19検診の有り様をやがて一変させるかもしれません7)。試験にはCOVID-19発症患者251人が参加し、気道検体の抗原検査とPCR検査が培養検査の結果とどれだけ一致するかが調べられました。培養検査は増殖しうるウイルスが採取検体に存在するかどうかを調べます5)。培養細胞でウイルスが増えれば検体に生きているウイルスが存在することを意味し、感染可能なウイルスがいたことを示唆します。一方、培養細胞でウイルス増殖がなかった検体の患者には他人に移って感染しうるほどの生存ウイルスは恐らく存在しません。試験の被験者251人のうち培養検査で陽性だったのは28人でした。PCR検査では培養検査陽性28人とその他10人を含む38人が陽性でした。PCR検査では陽性で培養検査では陽性でなかったその差し引き10人は検体採取時点で他人を感染させる心配は恐らくなかったようです。PCR検査はそれら10人の検体のウイルスRNA断片か無欠だが少量のSARS-CoV-2を検出したのしょう。PCR検査とは対照的にBD社の抗原検査の陽性判定は培養検査とより一致していました。抗原検査で陽性の27人は培養検査でも陽性で、抗原検査と培養検査の陽性判定が食い違っていたのは1人のみでした。目下のCOVID-19流行下での検査の主な目標の1つは他人を感染させうる人を同定して暫く出歩かないようにしてもらうことです5)。安価でより多くに届けうる抗原検査は日々の暮らしでのCOVID-19伝播を封じることに大いに貢献すると今回の試験主導医師の1人Charles Cooper氏は言っています5)。今回の試験と同様にPCR検査が他人を感染させそうにない人を無闇に検出してしまうことは先立つ幾つかの試験でも示唆されています8-11)。それらの試験によると発症後8日の検体のほとんどは、PCR検査ではウイルスRNAが検出されたのとは対照的に感染可能ウイルスを有していませんでした。PCR検査のように感染可能なウイルスが存在しない人を無闇に陽性判定しない抗原検査を使うことで感染者の隔離期間をより短縮できるかどうかの検討が必要と今回の試験の著者は言っています6)。また、今回の試験は有症者が対象でしたが、無症状の人の抗原検査の性能を調べる試験をBD社はすでに進めています7)。Pfizer/BioNTech やModernaのワクチンで新型コロナウイルス変異株阻止抗体を底上げしうる南アフリカで見つかって広まる心配なSARS-CoV-2変異株B.1.351(南ア変異株)に対抗する中和抗体反応をPfizer/BioNTech やModernaのワクチン1回の接種で強力に底上げしうることが感染を経た人へのそれらワクチン接種前後の血液検体比較で示されました12,13)。米国・ワシントン州シアトルのがん研究センターFred Hutchinson Cancer Research CenterのAndrew McGuire氏のチームはCOVID-19を経た10人から血液を採取し、続いてPfizer/BioNTech かModernaのワクチンの1回目接種後に再び血液を採取しました。Pfizer/BioNTech とModernaのワクチンはどちらも中国の武漢市で見つかったSARS-CoV-2元祖株(Wuhan-Hu-1)スパイクタンパク質を作るmRNAでできています。採取した血液を使ってその元祖株と南ア変異株の細胞感染を阻止する中和抗体活性を調べたところ、ワクチン接種前の時点で元祖株への中和抗体活性は弱いながらもほとんど(10人中9人)が有しており、南ア変異株への中和抗体活性を有していたのは半数の5人のみでした。ワクチン接種後には元祖株と南ア変異株への中和抗体がどちらもおよそ1,000倍上昇していました。すでに感染を経ている人へのPfizer/BioNTech やModernaのmRNAワクチン接種はたとえ1回でも有意義であり、スパイクタンパク質に対してすでに備わる抗体反応を底上げすればワクチンが目当てとするウイルスのみならず新たに出現する変異株への中和抗体も有意に増強できそうです13)。参考1)Pfizer’s COVID-19 Vaccine Reduces Viral Load: Study / TheScientist2)Decreased SARS-CoV-2 viral load following vaccination. medRxiv. February 08, 20213)What makes a person with COVID more contagious? Hint: not a cough / Nature4)Marks M,et al. Lancet Infect Dis. 2021 Feb 2:S1473-3099,30985-3. [Epub ahead of print]5)New Clinical Data Shows BD Antigen Test May Be More Selective In Detecting Infectious COVID-19 Patients Than Molecular Tests / PRNewswire6)Pekosz A, et al. Clin Infect Dis. 2021 Jan 20:ciaa1706. [Epub ahead of print]7)Antigen tests could change Covid-19 screening culture / Evaluate8)Wolfel R, et al. Nature. 2020 May;581:465-469.9)La Scola B, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2020 Jun;39:1059-1061.10)Bullard J, et al. Clin Infect Dis. 2020 May 22:ciaa638. [Epub ahead of print]11)Repeat COVID-19 Molecular Testing: Correlation with Recovery of Infectious Virus, Molecular Assay Cycle Thresholds, and Analytical Sensitivity. medRxiv. August 06, 2020. 12)Vaccines spur antibody surge against a COVID variant / Nature13)Antibodies elicited by SARS-CoV-2 infection and boosted by vaccination neutralize an emerging variant and SARS-CoV-1. medRxiv. February 08, 2021

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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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新型コロナウイルスワクチンを特例承認/厚生労働省・ファイザー

 厚生労働省は、2月14日にファイザー株式会社から製造販売承認が申請されていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンについて、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の第14 条の3に基づく特例承認を行った。 特例承認とは同法の規定に基づき、「(1)疾病のまん延防止等のために緊急の使用が必要、(2)当該医薬品の使用以外に適切な方法がない、(3)海外で販売等が認められている」という要件を満たす医薬品につき、承認申請資料のうち臨床試験以外のものを承認後の提出としても良いなどとして特例的な承認をする制度。 本ワクチンの特例承認では、主要な国際共同第II/III相試験のデータと、本剤の日本人における安全性、忍容性および免疫原性を評価した国内第I/II相試験の主要なデータを含む包括的な科学的エビデンスに基づいている。 国際共同第II/III相試験では、2回目接種7日後から評価したSARS-CoV-2感染歴のない参加者の集団(1つ目の主要評価項目)、SARS-CoV-2感染歴のある参加者と感染歴のない参加者を含む集団(2つ目の主要評価項目)の両方において、本剤の発症予防効果は95%だった。また、国内第I/II相試験では、海外試験結果と同様の安全性および免疫原性が示された。本試験は継続中であり、安全性については最終接種から12ヵ月後まで収集し、試験結果は今後査読のある論文などで公表する予定としている。 これによりわが国でも医療従事者からCOVID-19ワクチンの接種が本格的に開始される。コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン概要販売名:コミナティ筋注一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)効能または効果:SARS-CoV-2による感染症の予防効能または効果に関連する注意:本剤の予防効果の持続期間は確立していない。用法および用量:日局生理食塩液1.8mLにて希釈し、1回0.3mLを合計2回、通常、3週間の間隔で筋肉内に接種する。用法および用量に関連する注意:・接種対象者:本剤の接種は16歳以上の者に行う。・接種間隔:1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施すること。製造販売承認取得日:2021年2月14日製造販売元:ファイザー株式会社技術提携:BIONTECH

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第42回 ついに始まるワクチン接種、妊婦は努力義務から除外

<先週の動き>1.ついに始まるワクチン接種、妊婦は努力義務から除外2.集団接種と個別接種を組み合わせたワクチン実施体制を/日医3.睡眠導入剤混入事件の小林化工、116日間の業務停止処分4.見送られていた100万人以上の二次医療圏、地域医療構想が進む5.「病床機能再編支援事業」かかりつけ医の定義を求める声1.ついに始まるワクチン接種、妊婦は努力義務から除外厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が12日に開催され、米・ファイザーと独・ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンを特例承認した。14日の厚労大臣による承認を経て、さっそく17日から国立病院機構など100病院の医師・看護師ら1万人以上への先行接種が実施される。その後は副反応を含めた有害事象の収集を行い、安全対策などを確立した上で、3月中旬からは全国の医療従事者、4月以降は今年度中に65歳以上となる約3,600万人の高齢者などを対象に接種が進められる。ワクチンの対象年齢である16歳以上の国民全員に接種券が送付されるが、厚労省は、妊婦については接種努力義務から除外する方針を明らかにしている。15日から、厚生労働省新型コロナワクチンコールセンターが開設された。接種時期や場所についての質問は、各市町村の相談窓口で対応することとなる。また、ファイザーは医療従事者専用サイトを開設し、情報提供している。▼厚生労働省新型コロナワクチンコールセンター電話番号:0120-761-770(フリーダイヤル)受付時間:9:00~21:00(参考)ファイザー新型コロナウイルスワクチン医療従事者専用サイト<新型コロナ>ワクチン接種努力義務から妊婦は除外 14日正式承認、16歳以上全員に接種券送付へ(東京新聞)新型コロナ ワクチン、きょう正式承認 厚労省、あすから相談窓口を設置(毎日新聞)2.集団接種と個別接種を組み合わせたワクチン実施体制を/日医10日、日本医師会・中川会長と今村副会長が総理官邸を訪れ、意見交換を行った。中川氏は、新型コロナワクチンの接種体制について、「地域の実情に応じ、集団接種と個別接種を組み合わせた柔軟な対応が必要であり、とくに基礎疾患のある高齢者に対しては、かかりつけ医による個別接種が望ましいケースもある」とし、国が主導する大掛かりなワクチン接種事業に全面的に協力する意向を菅総理に伝えた。今後、医師会などを通して各自治体への情報伝達が開始されるが、多くの自治体が準備に追われている状況。接種開始までの手続きの煩雑さについては、河野 太郎ワクチン担当大臣から、「新たに構築する予定の接種管理のためのデータベースについて、バーコードを読み取るのみで情報収集できるといった現場に負担のかからない仕組みとすることを考えている」と説明があった。(参考)菅総理にワクチン接種事業への全面協力を約束(日本医師会)COVID-19ワクチン接種体制の構築へ向けた提言(自民党)3.睡眠導入剤混入事件の小林化工、116日間の業務停止処分経口抗真菌薬イトラコナゾールに睡眠導入剤を混入した小林化工に対して、福井県は116日間の業務停止処分と業務改善命令を9日に通達した。国内の医薬品企業への行政処分としては過去最長となる。本事件では、イトラコナゾールを服用した人の7割近い239例が健康被害を報告しており、2例が死亡している。これまで明らかになっているのは、承認内容と異なった医薬品の製造工程や二重帳簿の作成、品質試験結果の捏造など、長期間にわたる「法令遵守への意識の欠如」だ。小林 広幸社長は、患者対応が一段落したら辞任する意向を示している。今回の事件により、不備が判明した製品の相次ぐ自主回収が行われており、安定供給の確保と信頼性の回復にはかなりの時間がかかるだろう。(参考)小林化工40年前から試験結果を捏造 製品の8割で「二重帳簿」作成(福井新聞)医薬品医療機器法違反業者に対する行政処分について(福井県)水虫治療薬に睡眠導入剤混入 小林化工に116日間の業務停止命令(NHK)4.見送られていた100万人以上の二次医療圏、地域医療構想が進む厚労省医政局は12日に「地域医療構想に関するワーキンググループ」を開催し、これまでは見送られていた、人口100万人以上の二次医療圏の地域医療構想について議論した。人口100万人以上の構想区域は、人口50万人以上100万人未満の構想区域より小さい面積の中に、約2倍の病院が存在する傾向である。よって、従来のアプローチではなく、まず各公立・公的医療機関などにおいて、周辺医療機関の診療実績や医療需要の推移など地域の実情に関する各種データも踏まえつつ、自らが担うべき役割・医療機能など具体的対応方針の妥当性について確認し、地域医療構想調整会議などであらためて議論するよう求めている。(参考)資料 人口100万人以上の構想区域に係る分析について(厚労省)人口100万人以上区域の病院再編、厚労省新たな関与せず 地域医療構想WG、「診療実績が少ない」は指定済み(CBnewsマネジメント)5.「病床機能再編支援事業」かかりつけ医の定義を求める声厚労省は、8日に社会保障審議会・医療部会を開催し、医療法の改正案(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案)などについて議論した。質・安全が確保された医療を持続可能な形で患者に提供するために、医師の働き方改革だけでなく、地域医療構想の実現に向けた医療機関の取り組みを支援するべく、2020年度から開始された「病床機能再編支援事業」について、今年度以降も国が全額を負担して継続される。一部の医療機関に外来患者が集中し、さまざまな課題が生じていることについては、外来医療機能の明確化・連携の推進を進め、患者の流れをより円滑にすることで、外来患者の待ち時間短縮や勤務医の外来負担の軽減、医師の働き方改革につなげる方針が打ち出された。これに対し、あらためて「かかりつけ医」の定義付けを行うべきという意見も出た。(参考)資料 良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(厚労省)外来機能連携へ、「かかりつけ医」の定義化求める意見 社保審・医療部会(CBnewsマネジメント)

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ジフテリア、破傷風、百日咳【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第7回

今回はジフテリア、破傷風、百日咳がテーマである。現在この3疾患のいずれかをカバーしうる国産ワクチンは、破傷風トキソイド、二種混合(DT:ジフテリア/破傷風混合トキソイド)、三種混合(DPT:ジフテリア/百日咳/破傷風混合)、四種混合(DPT-IPV:ジフテリア/百日咳/破傷風/不活化ポリオ)ワクチンの計4種類がある。DPT-IPVワクチンは乳幼児期(0~1歳)に計4回、DTワクチンは学童期(11~12歳)に1回、定期接種で使用されているが、その他のDPTワクチンと破傷風トキソイドは、制度として定められた接種時期はなく、主にキャッチアップワクチンとして使用されている。諸外国と比較し、わが国の現行の小児定期接種スケジュールの問題点は何だろうか。また、破傷風トキソイドおよびDPTワクチンのキャッチアップとして、接種タイミングをどう考えればよいかについては、意外に知られていない。そこで本稿では、それぞれの疾患とワクチンに触れながら、上記ポイントについて述べる。ワクチンで予防できる疾患 ~ジフテリア・百日咳・破傷風の概要~まず、ジフテリア・百日咳・破傷風、3疾患を比較して外観する。ジフテリア、百日咳、破傷風の疾患頻度は、百日咳>破傷風>>>ジフテリアの順で多く、百日咳は年間1万5,000例以上(うち入院264例、死亡は1例:2019年1))、破傷風は年間数十~100例前後2)(うち死亡は10例前後3))である。百日咳、破傷風ともに、追加接種を行わなければ、乳幼児期の予防接種の効果が減弱するため、小児や成人での感染が問題となっている。これら2疾患の追加接種については今回のメインテーマであり、次項で述べる。ジフテリアの感染事例は国内では20年以上発生していない4)。しかし、諸外国では、感染が流行している地域があるため、海外渡航時または渡航者からの輸入感染に備えるべく、ワクチンにより免疫を獲得しておくことが重要である。以下、各疾患について概説する(詳細は成書を参照)。1)ジフテリアとはジフテリアはジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による感染症で、主に上気道粘膜に感染する4)。鼻ジフテリア、咽頭ジフテリア、喉頭ジフテリアなどの病型があり、その他眼瞼結膜、中耳、陰部、皮膚などに感染することもある。わが国では1945年に約8万6 千人(うち約10%が死亡)の届出患者がいたが、ワクチン接種の普及と共に患者数は減少し、1991~2000 年の10年間では21人(うち死亡が2人)にまで激減。2類感染症・全数報告届出疾患であるが、1999年の1例(死亡例)を最後に届出はみられていない。わが国では流行がみられないジフテリアであるが、ロシアでは政権崩壊の煽りをうけて、1990年代にワクチン供給が不足した。それに伴い、住民の免疫低下から、12万5,000人の患者が発生し、4,000人以上が死亡して、欧州を巻き込むなど国際的問題となった事例がある。予後に関わる合併症としては心筋炎があり、無治療の場合の致命率は5~10%と高い。諸外国では散発的に発生していることから、ルーチンワクチンとして接種を推奨することが大切である。2)百日咳百日咳は百日咳菌による急性気道感染症で、長期にわたり続く咳が特徴である。特に新生児や乳児が罹患すると、無呼吸発作などを来たし致死的となることから、乳児の周囲の人がワクチンを接種することにより、乳児に感染させないことが大切である。また、意外に知られていないのが、百日咳の感染経路は飛沫感染だが、基本再生産数※は16-21と非常に高く、空気感染する麻疹とほぼ同等の強い感染力を持つ(麻疹の基本再生産数:12-18)。特に成人の感染者は症状が軽いため、本人が気付かないうちに、乳幼児の感染源となりうる。※基本再生産数集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力がより強いということになる百日咳は2018年1月から全数報告指定疾患となり、診断した場合は全例届出が必要となった5)。2018~2019年の届出症例数はそれぞれ年間11,190例1)、15,974例6)であった。5~15歳が全体の6割強と多く、成人の中では30~40代が最も多かった(図参照)。乳幼児期の予防接種の効果は最終接種から4~12年で低下することがわかっており、追加接種プログラムがないわが国の課題となっている。図 届け出ガイドラインの診断基準を満たした百日咳患者症例の年齢分布画像を拡大する百日咳はアジスロマイシンにて治療が可能であるが、しばしばその他ウイルス性上気道炎やマイコプラズマなどとの鑑別が困難なことから、診断されていないケースも多いことが推測される。診断するための検査方法としてLAMP法が2016年に保険収載されたため、後鼻腔(咽頭)ぬぐい液にて診療所でも検査・診断がしやすくなっている。後述する百日咳ワクチンの国内での追加接種の必要性を検討するためにも、疫学調査が重要となるため、積極的に検査・診断したい疾患といえる。3)破傷風破傷風は破傷風菌が産生する神経毒素により強直性痙攣を引き起こし、最悪の場合、呼吸筋麻痺を来たし致死的となる7)。破傷風の治療薬として抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)とペニシリンがあるが、診断早期に投与する必要があり、しばしば早期診断が難しいことから、予防することが大切である。破傷風は芽胞の状態で土壌内に潜み、外傷や土いじりなどを契機に傷口から侵入する。侵入部位が特定されていない破傷風の症例も多く、軽微な創傷部位からも感染しうる。また、破傷風菌の芽胞は土壌内に広く分布するため、接触を避けることは日常生活上ほぼ不可能である。これらのことから、ワクチン接種以外の方法で完全に破傷風感染から予防するのは難しいことがわかる。破傷風は小児期に複数回の破傷風含有(二種/三種/四種混合)ワクチンを接種していても、追加接種を行わなければ、最終接種から10年ほどで抗体価は低下する。わが国では破傷風ワクチンの追加接種プログラムがなく、任意接種となっていることから免疫を持たない成人が多数いる。そのため、破傷風感染事例の95%以上が小児期に破傷風含有ワクチンの定期接種制度が存在しなかった40歳以上の成人である。ワクチンの概要と接種スケジュール破傷風トキソイド、および二種/三種/四種混合ワクチンいずれのワクチンも安全で、ワクチン特異的な副反応はない。三種/四種混合ワクチンは、他のワクチンに比し副反応として発熱を呈することがやや多いが、2~3日の経過観察で自然に解熱する。ここでは、特に重要性の高い、破傷風トキソイドおよび三種混合ワクチンの追加接種について述べる。1)破傷風トキソイド(表1)罹患すれば効果的な治療薬がなく致死的な疾患のため、先進国であるわが国においてもすべての人が接種推奨対象者である。1967年以前に出生した人は、小児期に破傷風を含むワクチンが定期接種化されていなかった年代のため、まずは破傷風トキソイドを3回接種することにより基礎免疫を付け(0、1、6ヵ月後)、その後10年毎の追加接種(ブースト)を推奨する。1968年以降の生まれの人は、小児期に基礎免疫が終了しているため、最終接種から10年毎のブースト(追加接種)を推奨する。特に、「土」などに接触する機会の多い農作業者や工事現場の従事者、不衛生な環境に曝露しやすい被災地域での支援や災害などの際も、破傷風トキソイドの追加接種の重要性は高い。破傷風トキソイドを含むワクチンの中でも、11~12歳に定期接種とされているDTワクチンの接種率は、7~8割と定期接種ワクチンの中でも低い。破傷風の9割以上は成人発症だが、このDTワクチンを接種しなかった高校生が破傷風を発症した事例も報告されており8)、定期接種をしっかり完了させることも非常に重要である。外傷時は、傷の深さや汚染度によって、破傷風トキソイドに加え、免疫グロブリン投与の必要性を検討する9)。表1 破傷風トキソイド ワクチンの概要画像を拡大する(こどもとおとなのワクチンサイト.破傷風トキソイドの表より引用)2)百日咳含有ワクチン(三種/四種混合ワクチン)現在、小児の定期接種で使用されている百日咳含有ワクチンといえば四種混合(DPT-IPV)ワクチンであるが、2012年11月以前は三種混合(DPT)ワクチンと不活化ポリオワクチン(2012年8月までは経口ポリオワクチン)が用いられていた。現在は、三種混合ワクチンとしてトリビック(商品名)が流通しており、後述する百日咳の追加接種として、わが国で用いることができる唯一の国産ワクチンである。しかし、定期接種として使用される四種混合ワクチンとは違い、制度として接種プログラムに組み込まれていないため、三種混合ワクチンの使い所は、あまり知られていない。なお、海外にはTdap(ティーダップ)という成人用の三種混合ワクチンが広く使用されているが、わが国でも2016年2月にトリビックの添付文書が改定され、成人への接種が可能となっている。では、トリビックはどういう状況で推奨すべきだろうか。百日咳含有ワクチンは、わが国では生後3ヵ月以降にしか接種できず、複数回の接種が必要な不活化ワクチンである。そのため、免疫が付けられない新生児や乳児をケアする母親やその家族など、乳児の周りの人がワクチン接種をすることで乳児を守る“コクーン(繭)戦略”という概念が最も重要とされているワクチンの1つである。わが国では、0~1歳時に定期接種として四種混合ワクチンを4回定期接種するが、それ以降、百日咳含有ワクチンを接種する機会は、制度としては存在しない。一方、多くの諸外国では4歳以降で百日咳含有ワクチンの追加接種を行っている(表2)。その理由は、百日咳の抗体は最終接種から4~12年で低下し、再度感染しうる状態まで免疫が低下することがわかっているからである。実際にわが国でも先述の百日咳感染者の報告で、5~15歳の感染者の8割以上は、乳幼児期に4回の百日咳含有ワクチン接種していたにも関わらず、百日咳に罹患している1,6)。つまり、わが国も諸外国にならい、学童期の追加接種を行うことで、この年代の感染者を減らすことが期待できる。さらに、欧米などでは妊婦に対する百日咳含有ワクチンの接種も推奨している。実際、妊婦(妊娠後期)に対し百日咳含有ワクチンを接種することで、乳児の百日咳感染数が減少したという研究報告もある10)。乳児をケアする母親およびその同居家族は、年代に関わらず、百日咳含有ワクチンの追加接種を行うことで、乳児を百日咳から守ることが望ましい。表2 諸外国における百日咳ワクチンの接種スケジュール 接種時期と回数画像を拡大する日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)破傷風トキソイド軽微な傷を契機に、土壌中に存在する芽胞がいつ侵入してくるかわからないこと、また有効な治療法がないことからも、全年齢に免疫を付けておくことが推奨される。1967年以前に生まれた人は、3回接種(0、1ヵ月以降、6ヵ月以降)の基礎免疫を行い、その後は、1968年以降に生まれた人と同様、10年ごとの追加接種を推奨する。特に土などに接触する機会や外傷を負うリスクの高い人(農作業者、工事現場、被災地支援など)には積極的に推奨したい。三種混合ワクチン(トリビック)前述の通り、百日咳については追加接種がなければ3~4回の最終接種後、4~12年で抗体は低下し、百日咳に感染しうる状態となる。感染すると致命的となりうる乳児をケアする可能性のある家族(同居家族も含む)への追加接種を推奨する。また、2018~2019年の発生報告で最も感染者の多いことがわかっている学童期への追加接種も積極的に行うことが大切である。具体的には、下記3つの推奨タイミングがある(いずれも任意接種としての扱い)。(注:トリビックの添付文書に記載のある適応年齢は、11~12歳および成人である。つまり(1)は添付文書外使用となることに注意する)(1)5~6歳(年長):MR 2期を接種するタイミングに合わせて、トリビックの接種を推奨する(抗体価が最も低下する9歳11)の前に接種が可能なこと、2019年までの感染者報告では5~15歳が全体の8割を占めることから、接種タイミングとして理にかなっている)(2)11~12歳:DTワクチンの定期接種に相当する年代であり、DTワクチンの代わりにトリビック(三種混合ワクチン)の接種を推奨する。(3)成人:特にこれから妊娠予定や乳児をケアする家族、妊娠可能年齢の女性など(妊婦に対しての接種は、わが国の添付文書上、有益性投与となっている)今後の課題・展望今後、わが国でも諸外国のように、百日咳含有ワクチン(トリビック)の学童期に対する追加接種が定期接種化されることが望まれる。さらに、欧米のように、妊婦に接種推奨が可能な整備がされると、より早期乳児を百日咳から守ることに繋がる可能性がある。また、成人のキャッチアップワクチンとして、破傷風トキソイドを広く推奨できるよう、プライマリケア医および一般市民に対する啓発を続けることが重要と考える。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省百日咳ワクチン接種推奨ポスター 日本小児科学会1)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2019年疫学週第1週~52週-[2020年1月8日現在](国立感染症研究所)2)発生動向調査年別報告数一覧(その1:全数把握)[2013年2月16日現在報告数](国立感染症研究所)3)破傷風 2008年末現在(IASR.2009;30;p.65-66.)4)ジフテリアとは[2020年10月27日 改訂](国立感染症研究所)5)感染症法に基づく医師届出ガイドライン(初版)百日咳 [平成30年4月25日](国立感染症研究所)6)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学-2018年疫学週第1週~52週-[2019年1月7日現在](国立感染症研究所)7)破傷風とは[2021年1月12日 改訂](国立感染症研究所)8)2期のDTが未接種であった10代の破傷風発症事例(IASR.2018;39:p.27.)9)外傷後の破傷風予防のための破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与と破傷風の治療(IASR.2002;23:p.4-5.)10)海外の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと百日咳対策(IASR.2017;38:p.37-38.)11)年齢/年齢群別の百日咳抗体保有状況.2018年~2018年度感染症流行予測調査より(国立感染症研究所)講師紹介

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