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第60回 コロナワクチン接種を優先すべき意外な職種とは?

海外に比べて接種率が低いと言われる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチン接種率だが、6月1日時点で医療従事者等と高齢者の1回目接種完了者合計は931万4,956回。現在のワクチン接種対象年齢から計算しても総対象者はほぼ1億2,000万人となるので、国民全体で見れば、接種率はまだ1割にも達していないことになる。政治主導で決まった1日100万回接種という目標に対して、現状(6月1日)で52万回強。政府は今月中に職域接種や大学での接種なども開始して目標達成を目指すとみられる。今回の接種で優先順位が最も高かった「医療従事者等」の接種回数は6月1日時点で1回目が465万3,566回、2回目が313万9,628回に達した。この括りでの優先接種対象者は約480万人と推定されているため、1回目接種の完了者はすでに9割超に達している。そして、約3,600万人と推計される高齢者のうち1回目接種が完了したのは620万人強で、ようやく6人に1人という計算だ。ところが、ここにきて国や地方自治体が設置した大規模接種会場では、すでに予約の空きも目立つことが報じられている。その典型が防衛省の運営する大手町の大規模接種センターで、東京都民の高齢者向けに用意した予約枠に空きが目立ったことから、周辺3県の高齢者の受付を前倒しした。こうした現象はほかの地域でも起きている。「仙台会場は予約に空き 大規模接種、1000人以上余裕ある日も」(河北新報)「大規模接種の予約「4割空き」 愛知で準備急ピッチ」(朝日新聞)「大阪市の大規模接種会場、予約埋まらず 利便性低い?」(日本経済新聞)大規模接種会場の予約に空きが出やすい主な理由は、会場のアクセスがあまり良くない、あるいはミスマッチな場所(大手町は現役世代にとってはアクセスが良いが、自宅を中心に生活している高齢者にとっては必ずしもアクセスが良いとは言えない)ためと言われる。ところがこうした予約の空きが報じられるたびに、市区町村の集団接種やかかりつけ医接種の予約者の一部がより早い接種に期待をかけて大規模接種会場に予約を入れ、結果的に二重予約になる問題が指摘されている。そして自治体側ではその予約取り消しに職員がさらに四苦八苦し、さらに一部の個別接種医療機関では逆にワクチン予約の空きが出て埋まらないという何とも酷な状況が起きている。すでに余剰ワクチンの扱いについては、前回、国も最終的には誰に接種しても問題なしという趣旨の通知を出したことを紹介している。ただ、各自治体とも接種券がまだ発行されていない住民や他の自治体の住民を接種対象とすると、後の事務作業が煩雑になることが予想されるためか、余剰ワクチン接種の対象者にも細かく優先順位を付けたりしているところが少なくない。たとえば、ネットメディアの「BUSINESS INSIDER」が記事公開している東京23区の余剰ワクチン対応もかなりまちまちだ。概して言えば、優先接種対象の高齢者で代わりを探す、高齢者の付き添い者、高齢者施設職員、小中学校教職員などが「次点」対象者となっている。ただ、私個人は医療従事者等の接種完了が見えてきたからこそ、高齢者以外の新たな優先接種の対象を設定すべきではないかと考えている。ちなみに最優先だった「医療従事者等」については、リンク先を見れば分かる通り、単純に医師や看護師だけでなく、広く新型コロナ患者に接する人が対象になっている。では、誰を新たな優先接種の対象とするべきかというと、それは「新型コロナ対応に欠かせない人」である。「『新型コロナ患者に接する人』と何が違うのか?」という人もいるかもしれない。だが、患者には接しなくとも対応に必要な人たちはいるはずである。私は次のニュースを見た時にまさにそう思ったのである。「札幌市コールセンターでクラスター 受付時間変更に」(テレビ朝日)札幌市が大手企業へ業務委託したワクチン接種予約のコールセンターでクラスターが発生したというもの。このニュースに対して一部では「民間に丸投げするからこうなる」との指摘もあるようだが、それは筋違いである。そもそも自治体側はマンパワーが不足しているから委託をせざるを得ないケースがほとんどだ。ちなみにこのケースは関係者によると、コールセンター内でのフェイスシールドやマスクの着用が徹底されていなかったことがクラスター発生の原因だったらしいが、そもそもこれらの人たちが1回でもワクチン接種を行っていれば、発生が避けられた可能性は十分にある。「たかだかコールセンター?」という人もいるかもしれないが、これからワクチン接種回数をより増やしていくためには、こうした人たちが安全に業務できる環境を整備することは重要である。また、実は各自治体などが設けている発熱相談コールセンターの担当者も実は優先接種対象者ではない。あるコールセンターで勤務し、医療従事者の国家資格も持つ人は「よく周囲から『あなたは優先接種対象なんだよね?』と聞かれますが、現時点で1回もワクチン接種をしていないと話すと、すごく驚かれます」と明かす。これ以外にもワクチンや医薬品を輸送する運送関係者や医薬品卸関係者も対象とはなっていない。新型インフルエンザ等対策特措法では国民生活や経済安定に資する業者として「特定接種」という対象を設け、これに医薬品卸関係者も入っているのだが、あくまで患者との接触の有無を前提に今回の優先接種対象からは外れている。また、自治体でワクチン接種などの関連業務に従事する公務員も自治体によってかなりワクチン接種状況が異なると言われている。有効なワクチンが登場してきたとはいえ、今も一旦感染すれば決定的な治療薬もないのが新型コロナの現状だ。しかも、こうした関連業務の従事者から感染者が報告されれば、二次感染に対する警戒レベルは高くせねばならず、当然ながら濃厚接触者追跡などもより厳格になる。そうすれば当然のことながらその業務がマヒする可能性が高まる。いずれにせよ、これらの人たちは大規模接種会場や個別接種医療機関の近隣の小中学校教職員よりも優先度が高い人であるはず。国や各自治体にはより現実的な対応を望みたいところだ。

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コロナワクチン接種の最新版手引き、対象拡大やモデルナが追記/厚労省

 厚生労働省は6月1日付で、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(3.0版)」を公開した。今回の改版では、ファイザー社のワクチン接種対象者が「16歳以上」から「12歳以上」へ変更となったことや、や、5月21日に特例承認されたモデルナ社のコロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」についての記載などが追記された。 本改版の改訂内容は以下のとおり。・ファイザー社のワクチンのドライアイスを用いた保管方法について削除・ファイザー社のワクチンが2~8℃で1ヵ月保管可能になったことに伴う改訂・ファイザー社のワクチンの対象者が12歳以上の者になったことに伴う改訂・接種単価、超低温冷凍庫の適正使用、武田/モデルナ社のワクチン、基礎疾患を有する者の確認方法、電話や情報通信機器を用いた診療の活用、意思確認を行うことが難しい場合の対応、保冷バッグの取扱い、在宅療養患者等に係る対応、副反応疑い報告についての追記・接種順位、新型コロナワクチンの各社情報、予診票の様式の更新 手引き(3.0版)のほか、最新の臨時接種実施要領や予診票などは、厚生労働省のホームページに掲載されている。

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第60回 立法措置のないコロナワクチン「打ち手」拡大に保団連が疑義

政府は新型コロナワクチン接種を加速するため、不足している「打ち手」を救急救命士や臨床検査技師にまで広げようとしている。医師や看護師以外の職種で最初に候補に挙がった歯科医師に対し、厚生労働省が4月26日付で事務連絡を発出、歯科医師による新型コロナワクチン接種について法的な整理を示した。これに対し、全国の医師・歯科医師10万7,000人で構成する全国保険医団体連合会(保団連)は5月21日、宇佐美 宏副会長(歯科代表)名で、「歯科医師による新型コロナワクチン接種は法律により適法性を確保して実施すべき」との声明を発表、問題点を指摘した。行き当たりばったりの職種拡大方針に疑問歯科医師法第1条は歯科医師の任務を「公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保する」と規定している。声明では「新型コロナウイルス感染症が国民の生命と健康を脅かす中で、その対策に参画することは歯科医師の職業的使命である。必要に応じ、安全性を確保してワクチン接種に協力することは、歯科医師としてやぶさかではない」と、打ち手としての役割には前向きな姿勢を示した。一方、打ち手不足問題については「新型コロナワクチン接種のための体制確保は、ワクチンの開発・供給を巡る動向の中で十分に想定しえた課題である」と指摘。「厚労省が、円滑に対応できるようあらかじめ法律による対応に動かず、人材の逼迫が起こってから緊急避難的に解釈による対応をとったことには問題がある」と、行き当たりばったりの職種拡大方針に疑問を呈した。厚労省は事務連絡で、ワクチン接種のための筋肉内注射は医行為に該当し、医師法第17条に違反するとした上で、以下の3点の条件を示している。(1)歯科医師の協力なしにはワクチン接種が実施できない(2)歯科医師に筋肉内注射の経験があるか必要な研修を受けている(3)被接種者の同意がある。この3条件を満たす場合、「公衆衛生上の観点からやむを得ないものとして、医師法第17条との関係では違法性が阻却され得るものと考えられる」とした。そして集団接種会場に限り、医師の監督下で歯科医師によるワクチン接種の筋肉内注射を可能とした。これは、歯科医師によるPCR検査の検体採取についての法的整理と同じ手法だ。声明では「新型コロナワクチンについては、接種後一定頻度でのアナフィラキシーの発生や、死亡事例も報告されている。PCR検査の検体採取以上に深刻なリスクを伴うことは明らかであり、同じ医行為であっても検討には一層の慎重さが求められる。それにもかかわらず、PCR検査の検体採取と同様に、行政解釈により歯科医師の実施を可能とすることは不適切である」と、行政解釈による対応を批判した。国は解釈と条件を示すだけ、責任は現場任せ…その上で、「本来的に、国会審議を通じて必要性と安全性について広く合意し、立法により適法性を確保した上で実施されるべきものである」と提案。「医師法の定めを超えて歯科医師の協力が必要と判断するのであれば、責任を現場任せにして解釈と条件だけを示すのではなく、法律を根拠に実施できる条件を整えることが行政の責任である」と、現場視点からの問題点を示した。様々な職種の協力を得て新型コロナワクチンの接種が進んでも、今後も新たなウイルスの感染拡大が起こる可能性がある。声明では「これからも起こり得る緊急事態への対応も視野に、協力に当たる歯科医師の法律上の位置付けを明確にするよう、厚労省の責任ある対応を求める」と結んでいるが、ほかの職種に関しても同様の措置が必要だろう。医療人の善意に頼るだけでなく、安心して対応できる体制づくりが必要だ。

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ファイザー社の新型コロナワクチン、接種対象が12歳以上に

 米国・ファイザー社の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用ワクチン「コミナティ筋注」の接種対象者が、「16歳以上」から「12歳以上」に変更・拡大された。厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(分科会長:脇田隆字・国立感染症研究所所長)が5月31日、新型コロナウイルス感染症にかかる予防接種の実施について指示した厚生労働大臣通知の一部改正案の諮問を受け、これを了承した。適用は6月1日付。 新たに接種対象となった12~15歳について、同ワクチンの国内治験は実施されておらず、審議に当たっては海外の臨床試験データが提示された。それによると、ワクチンの有効性は、接種前から2回目接種後7日以前にSARS-CoV-2感染歴がない場合は100.0%(95%信頼区間[CI]:75.3~100.0)、同感染歴を問わない場合も100.0%(95%CI:89.9~97.3)だった。 また、2回目接種後1ヵ月のSARS-CoV-2血清中和抗体価の評価については、12~15歳(190例)の中和抗体幾何平均値は1239.5(95%CI:1095.5~1402.5)で、16~25歳(170例)の中和抗体幾何平均値705.1 (95%CI:621.4~800.2)に対する非劣性が示された。有害事象の頻度および種類については、16~25歳と同様だった。 「コミナティ筋注」については、5月31日付で添付文書が改訂され、「用法及び用量に関する注意」「接種回数」「特定の背景を有する者に関する注意」「副反応」「適用上の注意」の項にそれぞれ内容の追加・改訂の記載がある。

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中国のコロナワクチン2種、初の第III相試験中間解析/JAMA

 中国で開発された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化ワクチン2種の、第III相二重盲検無作為化試験の事前規定中間解析の結果が、アラブ首長国連邦・Abu Dhabi Health Services CompanyのNawal Al Kaabi氏らによって発表された。試験は中国Sinopharmの子会社であるChina National Biotec Group(CNBG)に属する武漢生物製品研究所と北京生物製品研究所がデザインし、中東4ヵ国で被験者を集めて行われた。中間解析にはうち2ヵ国(アラブ首長国連邦とバーレーン)の被験者4万例超のデータが包含された。ワクチンの症候性COVID-19に対する予防効果はプラセボ接種の対照群と比較し72.8~78.1%であり、重篤な有害事象発生率は0.4~0.5%で対照群と同等だったという。JAMA誌オンライン版2021年5月26日号掲載の報告。SARS-CoV-2・WIV04株/HB02株からの不活化ワクチンを投与 試験に用いられたワクチンは、中国・武漢の金銀潭医院(Jinyintan Hospital)の2人の患者からそれぞれ採取されたSARS-CoV-2分離株(WIV04株とHB02株)を基に開発されたものである。 研究グループは、SARS-CoV-2等への感染歴がない18歳以上を無作為に3群に分け、WIV04株から作った不活化ワクチン(5μg/回)、HB02株から作った不活化ワクチン(4μg/回)、および水酸化アルミニウム(対照群)を、それぞれ2回、21日間隔で投与した。 主要アウトカムは、無作為化時にSARS-CoV-2感染が認められなかった被験者における、ワクチン2回投与から14日以降の症候性COVID-19(検査により確認)に対する有効性だった。副次アウトカムは、重症COVID-19に対する有効性とした。 有害事象・副反応に関するデータは、1回以上投与した被験者を対象に集計した。重症COVID-19、対照群で2人に対しワクチン群では0人 ワクチンまたはプラセボ1回以上投与を受けたアラブ首長国連邦とバーレーンの被験者は計4万382例(WIV04群1万3,459例、HB02群1万3,465例、対照群1万3,458例)で、平均年齢は36.1歳、男性が84.4%だった。このうち2回投与を受け、2回投与後14日以降に1回以上のフォローアップを実施し、また試験開始時に、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染が陰性だった3万8,206例(94.6%)を対象に分析を行った。 追跡期間中央値77日(範囲:1~121)において、症候性COVID-19が確認されたのは、WIV04群26例(12.1/1,000人年)、HB02群21例(9.8/1,000人年)であり、対照群は95例(44.7/1,000人年)だった。対照群と比較したワクチンの有効性は、WIV04群72.8%(95%信頼区間[CI]:58.1~82.4)、HB02群78.1%(64.8~86.3)だった(いずれもp<0.001)。 重症COVID-19の発生は、対照群で2例報告されたが、不活化ワクチン群では発生しなかった。 接種後7日間の副反応の報告は、WIV04群44.2%、HB02群41.7%、対照群46.5%だった。重篤な有害事象はまれで、WIV04群64例(0.5%)、HB02群59例(0.4%)、対照群78例(0.6%)と3群で同等だった。 なお、最終解析では、さらにエジプトとヨルダンの被験者データも包含して分析する予定となっているが、両国からの被験者数が3,469例であったことから結果が大幅に変わる可能性は低いなどとして、最終解析のためのデータ収集については未確定だとしている。

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BNT162b2(コミナティ筋注)のReal-World Settingにおける予防効果はなぜ国/地域によって異なるのか?(解説:山口佳寿博氏)-1400

 mRNAワクチンであるBNT162b2(以下、ワクチン)の第III相試験が終了した後、real-world settingでの実際の予防効果が、ワクチン接種が早期に開始された中東諸国(イスラエル、カタール)、英国、米国などから相次いで報告されている。各国で報告された予防効果は、必ずしも一致せず背景因子に何らかの差が存在するものと考えられる。本論評では、Angel氏らの論文(Angel Y, et al. JAMA. 2021 May 6. [Epub ahead of print])を基礎としながら、なぜ、各国からの報告でワクチンの予防効果に差を認めたのか、その原因について考察する。Angel氏らは、2020年12月20日~2021年2月25日の2ヵ月の間にワクチンを2回接種したイスラエルの医療従事者を対象(接種者:5,517人、非接種者:757人)として2回目ワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染、無症候性感染に対するワクチンの予防効果を検討した。その結果、有症候性感染に対する予防効果は97%、無症候性感染に対する予防効果は86%であることが示された。一方、Dagan氏らは、ほぼ同じ時期(2020年12月20日~2021年2月1日)にワクチンを接種したイスラエルの一般住民を対象(接種者と非接種は同数で各59万6,681人、総数はイスラエルの総人口の13%に相当)とした解析で、2回目のワクチン接種後7日以上経過した時点での有症候性感染に対する予防効果が94%、無症候性感染を含む感染全体に対する予防効果が92%、入院予防効果が87%、重症化予防効果が92%であると報告した(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)。対象者数、従事する仕事の内容に差を認める両解析ではあるが、最も信頼できる有症候性感染予防効果に関しては2つの論文でほぼ同じ値が報告された。この時期のイスラエルでは、従来株(D614G株)から英国株(B.1.1.7)に蔓延ウイルスの置換が進んでいた時期で、上記の2つの論文は、従来株と英国株が混在した状況下でのワクチンの有効性を示したものだと判断できる。この予防効果は、従来株が主流を占めた2020年の夏から秋にかけて施行されたワクチンの第III相試験によって示された予防効果(95%)とほぼ同じであり(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)、英国株に対するワクチンの予防効果は従来株に対するそれと同等であると結論できる。 英国株が主体を占めた英国からの報告では、80歳以上の高齢者にあって、有症候性感染に対するワクチン2回接種後の予防効果は89%であり、年齢と無関係にワクチンの予防効果はほぼ維持されることが判明した(Bernal JL, et al. BMJ. 2021;373:n1088.)。 カタールでは、2021年3月31日までに26万5,410人が2回目のワクチン接種を終了した。この時期、カタールを席巻していたウイルスは、44.5%が英国株、50%が南アフリカ株(B.1.351)であり、同じ中東のイスラエルとは異なったウイルス分布を示していた。このような状況下で、Abu-Raddad氏らは英国株、南アフリカ株に対するワクチンの予防効果を検証した(Abu-Raddad LJ, et al. N Engl J Med. 2021 May 5. [Epub ahead of print])。ワクチン2回接種後14日以上経過した時点での英国株の有症候性感染に対する予防効果は89.5%、南アフリカ株の有症候性感染に対する予防効果は75%で、南アフリカ株に対するワクチンの予防効果は英国株に対する予防効果より14.5ポイント低いことが示された。この結果は、南アフリカ株が液性免疫回避変異を有し(山口. J-CLEAR論評-1381, 2021 April 28)、ワクチン接種後のウイルス中和作用を抑制したことが原因の一つであることを示唆する。 2020年12月17日~2021年3月20日の間に米国で施行されたワクチン予防効果に関する検討では(2回接種:2,776人、1回接種:3,052人、非接種:2,165人)、有症候性感染に対する予防効果が84%、無症候性感染に対する予防効果が72%であることが示された(Tang L, et al. JAMA. 2021 May 6. [Epub ahead of print])。これらの値はAngel氏らがイスラエルから報告した値に比べ13~14ポイント低い。米国において蔓延しているウイルスの種類は複雑で、米国CDCは、2021年4月30日現在、米国全土で英国株、米国株(B.1.427/429)、ブラジル株(P.1)、南アフリカ株と多数の変異ウイルスが混在して流布していると報告した(CDC COVID-19 Vaccine Breakthrough Case Investigations Team. MMWR; Vol. 70, 2021 May 25)。これらの変異ウイルスの多くは、ワクチン接種によって形成される中和抗体に対して抵抗性を有し、ワクチンの予防効果を低下させる(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38)。 以上のように、ワクチンの予防効果は国によって異なり、その地域に流布しているウイルスの種類が主たる規定因子として作用する。それ故、いかなるウイルスが蔓延しているかを念頭に置いて各国から報告された予防効果に関するデータを読み解く必要がある。

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キャリアを進める上で不可欠な推薦状、米国人の評価は日本よりシビア?【臨床留学通信 from NY】第21回

第21回:キャリアを進める上で不可欠な推薦状、米国人の評価は日本よりシビア?こちらニューヨーク州では、コロナ陽性者が1日5,000人くらいであった1ヵ月前に比べ、2,000人台まで減少してきました。そして5月16日現在、12歳までワクチン接種が可能になっていますが、打ちたがらない人も少なくないようで、接種率は思うように上がっていないのが実情です。そのため、ワクチン接種者に対し、ハンバーガーショップShake Shackのフリーポテトサービスや、Krispy Kreme Doughnutsのフリードーナッツサービスなど、あの手この手の優遇施策が取られているようです。さて、こうした状況下ですが、今年のフェロー候補者は現在、7月中旬までに出さなければならないアプリケーションの書類整理に追われています。私もコロナ禍の中、去年同じプロセスを経験しました。フェローのマッチングの書類は基本的にはレジデントの時と同じです。重要なのは推薦状4通で、そのほかにもCurriculum Vitae(履歴書)の充実、そしてPersonal Statement(なぜ自分がその道のフェローになりたいか、その後目指すゴールは、など)の作成があります。レジデントのマッチングにおいては、日本国内で働いていると、どうしても米国からの推薦状を得にくいことが不利になります。あらゆる手段で米国の病院の指導医からオブザーバーシップ等で推薦状を作ってもらうほか、海軍病院に勤務して推薦状をもらうなどの方法があります。ただ、いったんレジデントに入ってしまうとその先の心配はありません。大事なのは、どのような内容を誰からもらうかです。スケジュールとしては、レジデント3年目早々にアプリケーションを揃えなければいけないため、実質2年しか準備期間がありません。まず、内科のプログラムディレクター(PD)に作成してもらう書類ですが、このPDレターをいかに良い内容にしてもらうかが最も重要です。例えば普段の病棟業務も、指導医からの評価、インターン(1年目)であれば、2年目もしくは3年目のレジデントとの相互評価になります。日本と違ってweb basedの指導医からは実名ですが、レジデント同士は匿名の評価なので、悪いことを書かれると、おのずとPDからのレターのレベルも下がってしまいます。しかし、そこは日本人の勤勉さで日々真面目に働いていれば、とくに問題になることはありません。また年に1度、7~8時間ほど掛けてACP(American College of Physicians)の模試を受けるのですが、この点数も良いに越したことはないので、試験直前はMKSAP18で勉強しておきました。これは内科専門医試験の勉強にも使える教材ですが、内容は日本の専門医試験より格段に難しいです。私自身としては、真面目に働いてきたつもりで、模試の点数も悪くはなかったので、PDレターはStrongという評価だったようです(候補者には非公開で推薦者がウェブ上にアップロードするので、最後までレターの内容はわからない仕組みです)。参考1)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33987794/2)https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1806-8/Column画像を拡大するCOVID-19患者約9,500例の患者のデータを使用し、回復期血漿についてRで解析した論文が先日オンラインとなりました1)。結果はeven、RCTの結果に沿う形となりました。昨年は入院時の血清antibodyが陰性なら全員に使用していましたが、現在、私の病院では、high titerを免疫不全の場合のみ、と限定されています。今回2,000万行を超えるデータを扱う解析のためにRを一から勉強したのですが、この本2)が大変参考になりました。お勧めです。

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第60回 スギ、亀田、セコム…。“ずる賢い”医療者たちの“抜け駆け”接種で垣間見えた病院経営のダークサイド

“抜け駆け”ワクチン接種で大騒ぎこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週は神宮球場にセ・パ交流戦のヤクルト−日ハム戦を観戦に行って来ました。ヤクルト球団に勤める友人に頼んで5,000人限定のチケットを確保、友人との2年ぶりのプロ野球観戦が実現しました。小雨降る中、カッパ、マスク、飲酒なしの観戦は、なかなか辛いものがありましたが、入団2年目、星稜高校出身の奥川 恭伸投手の好投を間近で観ることができ、満足の一日でした。観戦後、外苑前で一杯、と思ったのですが、当然ながらどこの飲食店もやっておらず、空きっ腹のまま現地解散になったのは少々残念でした…。さて、東京や大阪など9都道府県に出されていた緊急事態宣言が6月20日まで延長となりました。東京都、京都府、大阪府、兵庫県は4月25日からですから、実に2ヵ月近く緊急事態宣言下にあることになります。各地の新規陽性者数が引き続き高い水準であること、関西圏や北海道などで病床逼迫が続いていること、インドで発生した変異株の流行が懸念されること、などが延長の理由とされています。そんな中、医療従事者に続き、65歳以上の高齢者のワクチン接種が遅々として、ではあるものの進んでいます。予約電話がつながらない、高齢者には到底できないと思われるインターネット予約の煩雑さなどが話題となっていますが、まあ新しい試みには困難が付きものです。高齢者以外の一般人が打つころには、もう少しスムーズに予約ができるシステムになっていることを願うばかりです。今回は、高齢者接種が始まってから大騒ぎとなった”抜け駆け”ワクチン接種について考えてみたいと思います。スギ薬局を経営するスギホールディングス会長夫妻による地元・愛知県西尾市での”抜け駆け”接種未遂や、いくつかの市町村の首長の接種が話題となりましたが、先々週は亀田総合病院、先週はセコム医療システムの”抜け駆け”接種が週刊誌やTVなどで報道されました。ただ、それぞれの“抜け駆け”の意味合いや悪質性は微妙に異なっているようです。医療従事者よりVIPを優先した亀田総合病院千葉県鴨川市の医療法人鉄蕉会・亀田総合病院の”抜け駆け”接種は、週刊文春の5月27日号(5月20日発売)でスッパ抜かれました。同誌の報道によれば、東証一部上場のシステム関連会社、オービックの代表取締役会長夫妻(共に80歳代、東京都大田区在住)が、亀田総合病院に割り当てられた医療従事者枠の新型コロナウイルス・ワクチンを4月に接種していたとのことです。会長夫妻が接種した時点で、同病院の医療従事者の接種は完了していませんでした。おそらく、同病院の従業員によるタレコミで週刊文春が動いたのでしょう。同誌によれば、会長夫妻は同病院にとってのVIPであり、亀田医療大学の開学に際しての寄付など、毎年多額の寄付を行っているとのことです。会長夫妻への接種を勧め、医療従事者用のワクチンの使用を決めたのは、鉄蕉会理事長の亀田 隆明氏とされています。亀田総合病院は週刊文春に対し書面で「ご夫妻には亀田医療大学設立当初から理事にもなっていただき、以来個人として寄付をいただき何とか経営が成り立っています。(中略)ご夫妻の年齢を考慮し、早めのワクチン接種は不可欠と判断しました。(中略)当院職員の接種希望者全員分のワクチン確保の目途が立った上で、余剰分を使用しています。当院配布分の『対象となる医療従事者等』の枠を使用しました」と回答していますが、鴨川市以外の住民に、医療従事者用を自院で働くスタッフよりも先に打つのは明らかにアウトですね。なお、この件よりも前に発覚したスギ薬局の会長夫妻の接種未遂は、会長夫妻側から西尾市への強固な要請があったということです。夫妻は薬剤師の免許は持っているようですが現場には出ていないわけですから、こちらもアウトですね。亀田が位置する医療圏の高齢化、人口減は深刻さて、私は記者時代に何度も亀田総合病院を取材し、理事長の亀田氏にも取材を行ったことがあります。週刊文春は、亀田総合病院が、米週刊誌Newsweekが患者満足度などを基に毎年発表している「World's Best Hospitals 2021」で国内第3位にランクインしたことや、亀田氏が、2019年『カンブリア宮殿』(テレビ東京)に「革新経営者」として登場した、といった“明”の部分に触れていますが、地元の地銀や都銀などからの巨額な借り入れの存在や、医療以外の事業の失敗といった“暗”の部分は書かれていません。亀田氏はまだ副理事長だったバブル時代、関連企業で千葉県・幕張に「ホテルフランクス」を開業、ホテル事業に乗り出しましたが、結局失敗し、ホテルは売却に至っています。「革新経営者」は言い過ぎのような気もします。現在、亀田総合病院が位置する医療圏の高齢化や人口減は深刻で、病院経営にも少なからぬ影響を及ぼしているでしょうし、成田空港に近いことから力を入れていたメディカルツーリズムもコロナで開店休業状態でしょう。従業員のタレコミのリスクを負い、ルールを曲げてまでVIP(いわゆるパトロン)のワクチン接種を敢行しなければならないほどに、医療法人鉄蕉会の経営は苦しいのかもしれません。セコム役員が提携先の病院で接種と報道もう一つニュースになった“抜け駆け”接種は、セコムの常務で子会社・セコム医療システムの取締役会長である布施 達朗氏によるものです。5月21日、TBS(JNN系列)は警備大手セコムの役員である布施氏が、提携先の病院で“医療従事者向け”の新型コロナワクチンを接種していた、と報じました。この報道によれば布施氏は、千葉県松戸市の医療法人誠馨会・新東京病院で、3月13日と4月1日の2回、医療従事者向けに優先的に割り当てられたワクチンを接種したということです。JNNの取材に対し、セコム医療システムは「3月初旬に新東京病院から『ワクチンに余剰が出た』として、接種のお誘いを受けた」「布施会長は医師と席を同じにする機会も多く、接種の必要があるとの病院側の判断だったが、軽率であり、お断り申し上げるべきだった」とコメントしたとのことです。また、報道では、新東京病院では、ほかにも病院職員ではない取引先など、少なくともおよそ80人が医療従事者向けワクチンの接種を受けたとされています。新東京病院は「セコムの病院」このケース、亀田と似ているようで構造はまったく違います。JNNの記者はその点もきちんと報道すべきだったと思いますが、気がついていなかった可能性もあります。報道では、ワクチンを接種したのは「提携先の病院」とされていますが、新東京病院は「セコムの病院」であり、布施氏は自分が“経営する”病院でワクチン接種を行ったのです。医療関係者なら既知のことだと思いますが、セコムは「提携病院」と称して多くの病院を実質的に経営しています。セコム医療システムはセコムのさまざまな医療事業を束ねる会社であると同時に、病院経営を行う会社でもあります。その先駆けは東京都世田谷区にある久我山病院で1992年から経営に当たっています。その後も経営が傾いたり、経営者が手放したりした病院などに支援の手を差し伸べてきました。その経営スキームはさまざまですが、基本、セコムが言う「提携」とは、債務保証を含む経営支援であり、土地や建物をセコムが賃貸したり、医療機器などをセコムの関連会社が販売・リースをしたりすると共に、医療法人に経営スタッフを送り込む、という仕組みになっています。かねてから循環器系が強かった新東京病院は、2006年にセコム医療システムの提携病院となり、2008年に前から提携法人であった千葉県の医療法人誠馨会が吸収し、現在に至っています。なお、セコムの提携医療機関はセコム医療システムのサイトで見ることができます。病院については現在、北海道から兵庫まで20病院が提携先となっています。札幌で有名な手稲渓仁会病院、あの長嶋 茂雄氏もリハビリをした東京都渋谷区の初台リハビリテーション病院も提携医療機関です。アウトとセーフの間、グレーの“抜け駆け”そう見てくると、「ほかにも病院職員ではない取引先などの少なくともおよそ80人が医療従事者向けワクチンの接種を受けた」というのは、病院に出入りするセコムの関連会社の社員たちがワクチンの接種を受けた、と考えられなくもありません。善意で解釈すれば、関東地区の提携病院の中の基幹病院とも言える新東京病院でセコムの関連社員たちをまとめて受けさせ、出入りする病院で感染したり感染させたりすることを予防するのが目的であったとも考えられます。市町村の首長が優先接種の際に語る理由、「私は病院の管理者だから」というのと同じロジックです。新東京病院のホームページには「一部報道につきまして」として、今回の件について中村 淳病院長のお詫びの文章が掲載されています。そこでは「不当又は軽率な新型コロナワクチン接種はしておりません」として、「報道の一部にありました『非職員』というのは派遣業務、委託業者等で病院内部に頻回に出入りし、医療機関としての業務に携わっている者であり、患者さまにも接触する可能性のある方々です。医療従事者等に含まれうる非職員らを守るためにワクチンを接種したのではなく、あくまで病院内部で入院しておられる患者さまを守るために、通常医療を適正に提供するために」接種した、と弁明しています。他の病院では、クラークや清掃担当、そして首長も医療従事者として接種を受けているのですから、この接種はアウトとセーフの間、グレーだったと解釈できます。もっとも布施氏が既に病院にはほとんど赴かない立場だったとしたら問題ですが。 観客制限なし、マスクなしでビール飲みまくりの米国球場それにしても、日本のこのワクチン接種を巡るドタバタ振りはなんでしょう。この日曜(5月30日)、NHKBSでMLBのヒューストン・アストロズ対サンディエゴ・パドレスを観戦していたのですが、ヒューストンにあるミニッツメイド・パークはもはや観客制限はなく、ほとんどの観客はマスクなしで、ビールを飲みまくり観戦していました(州によって基準は違うようですが)。米国疾病予防管理センター(CDC)はワクチンの接種を完了すれば、屋内外を問わず、マスクを着用しなくてもよいとする新たな指針を5月13日に発表(バスや飛行機、病院など混雑した屋内では引き続きマスク着用が求められる)、それがもう全米で浸透しつつあります。全米の1日の新規感染者はまだ2万人近くもいるのに、です。私も早くワクチンを打って、神宮球場恒例の「生ビール半額ナイター」に行きたい、と切に思ったこの週末でした。

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ワクチン接種で役立つ地方発の知恵/首相官邸・戸田市

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の一般向けのワクチン接種が、全国的に始まり、軽微な不備はあるものの、現在は順調に進んでいる。 接種に際しては、会場設営、人口構成、医療者の分布など地域の個々の事情に応じた対応がなされている。 こうした状況の中で、首相官邸の「新型コロナウイルス感染症対策」の特設ページでは、一部の自治体だけでなく、他の自治体でも利用できる活動について収集したものを「ワクチン接種これいいね。自治体工夫集」としてまとめ、公開している。地域の状況に合わせて工夫する自治体の接種体制 工夫集は「医療従事者確保」「効率的な接種体制」「予約システム、円滑な予約体制」「大規模接種会場」の4つのパートに分かれ、各自治体の取り組みが紹介されている。【医療従事者確保】(研修医の活用や医師などのチーム編成接種会場の設置、潜在看護師の活用など)・集団接種会場への研修医の派遣(奈良県)・医師・歯科医師・看護師の「別動隊」による接種機会の拡大(神奈川県大和市)・潜在看護師の掘り起こし(滋賀県)【効率的な接種体制】(予約なしで地区ごとに接種、接種センター作り集中化、地域モデルの共有、医師が巡回して接種など)・地区ごとの集団接種(福島県相馬市)・ワクチンの集中管理(岡山県岡山市)・県内市町村のモデル事例の共有(長野県)・会場内医師巡回方式の導入(東京都調布市)【予約システム、円滑な予約体制】(独自のWEB抽選システムで申込受付)・予約抽選申込方式の導入(兵庫県加古川市)【大規模接種会場】(地元大学との連携やワクチン接種センターの設置、期間限定の高齢者接種センターの設置など)・県・市・国立大学の連携によるワクチン接種センターの開設(宮城県・仙台市)・空港・大学における大規模接種会場の設置(愛知県)・県営ワクチン接種センターの設置(群馬県)・大規模接種会場の設置(兵庫県神戸市)・県高齢者ワクチン接種センターの設置(埼玉県)いつあってもおかしくないワクチン接種のアクシデントはこれ! 埼玉県戸田市は、一般報道をもとにまとめたワクチン接種現場でのアクシデント事例集を作成し、市内の医療機関に配布した。この事例集は、ワクチン接種に携わる医療従事者向けにまとめられたもので、今後のワクチン接種活動での注意喚起を込め、同市の危機管理防災課が作成した。 アクシデント事例として「ワクチンの使用期限(6時間)の認識不足」、「保管・解凍・搬送に関する認識不足」「希釈・分注に関す認識不足」「バイアルの取り扱いに関する認識不足」「注射器の取り扱いに関する認識不足」「本人確認ミス」に分かれ、現在36項目の事例と原因が記載されている。 具体的事例として、「ワクチンに生理食塩水を注入する際、量を間違え使えなくなった。原因として調製方法がしっかりと伝わっていなかった」「中身が空である注射器を誤って接種した。原因として使用済みの注射器を廃棄せずにテーブルに置いてしまった」「集団接種会場で男性に1日2回接種した。原因として接種の案内係が男性の予診票を確認しなかった。接種した直後に誤りに気付いた」 などが記載されている。 いずれもどこの現場でも起りうる事例なので、先述の工夫集とともに今後の対策に役立てていただきたい。なお、首相官邸の工夫集、戸田市の事例集は今後も随時更新をしていく予定。

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冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」【下平博士のDIノート】第75回

冷蔵保存しやすい新たな新型コロナワクチン今回は、新たに特例承認された新型コロナウイルスワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:スパイクバックス筋注、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、冷蔵状態での保存可能期間が長く、希釈の必要がないため、大規模接種会場などで活用がしやすいと考えられます。※本剤の販売名は、販売当初は「COVID−19ワクチンモデルナ筋注」でしたが、2021年12月、3回目接種(追加免疫)の用法・用量追加の特例承認に伴い、「スパイクバックス筋注」と変更されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2021年5月21日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。12歳未満についての有効性、安全性は確立されていないため、本剤の接種は12歳以上が対象です。<用法・用量>《初回免疫》1回0.5mLを2回、通常4週間の間隔を置いて筋肉内に接種します。本剤は2回接種することで効果が確認されていることから、ほかのSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく、本剤を2回接種する必要があります。1回目の接種から4週を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施します。《追加免疫》前回の接種から少なくとも5ヵ月経過した後1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性>海外第II/III相試験および国内第I/II相試験で報告された主な副反応は、疼痛(92.7%)、疲労(70.7%)、頭痛(66.5%)、筋肉痛(60.5%)、関節痛(44.6%)、悪寒(46.0%)、悪心・嘔吐(23.7%)、リンパ節症(21.9%)、発熱(15.5%)、腫脹・硬結(16.6%)、発赤・紅斑(12.3%)、遅発性反応(疼痛、腫脹、紅斑など)(1%以上)、そう痒感、じん麻疹、発疹および顔面腫脹(すべて1%未満)、急性末梢性顔面神経麻痺(頻度不明)でした。重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診や検温、診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。4.副反応として、注射した場所の痛み・腫れ・発赤などの局所症状、発熱、頭痛、疲労、筋肉痛などが現れることがあります。これらの症状の多くは、接種後1~2日以内に発現し、1~3日持続した後に回復します。症状が4日以上続く場合はご相談ください。5.心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で2番目に承認された新型コロナウイルスワクチンであり、有効成分はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードするmRNA(CX-024414)です。米国で実施された第III相試験(COVE試験)で認められた発症予防効果は94.1%であり、すでに国内で接種が進められているファイザー製ワクチン(商品名:コミナティ筋注)の94.6%と同程度です。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、重大な副反応として懸念されているアナフィラキシーは、2021年1月時点で758万1,429回接種のうち19件(2.5件/100万回)と報告されています。本剤は、公的接種の対象として「予防接種実施規則」および「新型コロナウイルス感染症に係る臨時の予防接種実施要領」に準拠して使用することが求められており、当面は大規模接種会場を中心に接種を進める方針が厚生労働省により示されています。保管については、-20℃±5℃の冷凍状態なら半年間の保存が可能で、冷蔵温度(2~8℃)では2時間半で解凍後30日間、また室温(15~25℃)1時間での解凍後、8~25℃で12時間の保存が可能です。調製方法について、本剤は希釈の必要はありません。接種直前は室温で15分放置します。本剤の1バイアルには10回接種分の用量が充填されており、一度針を刺したバイアルは6時間以内に使い切る必要があります。本剤は、2021年12月に18歳以上における3回目接種が特例承認され、2022年4月に4回目接種が承認されました。追加免疫の投与量は1回目、2回目の半量(0.25mL)とされています。※2021年7月と12月、2022年4月、厚生労働省の情報などを基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 スパイクバックス筋注(旧販売名:COVID-19ワクチンモデルナ筋注)2)武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて(厚労省)

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第62回 UberがCOVID-19ワクチン接種送迎を支援

来月の独立記念日7月4日までに米国成人の70%が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種を少なくとも1回目は済ませるというバイデン大統領の目標達成に配車や食事配達で知られるUber(ウーバー)やそのライバル企業Lyftが協力しています1,2)。ワクチン接種を予約した人はワクチン接種会場への送迎の配車をUberのスマートフォンアプリを使って頼むことができ、先週の月曜日5月24日から7月4日までは片道の費用が25ドル以下であれば無料、それを超える場合は片道当たり25ドルの値引きを受けることができます。米国で利用可能な3つのCOVID-19ワクチンのうち2つは2回の接種が必要なことから、1人当たり最大100ドル(25ドル×4回)の値引きを受けることができます。ライバル会社のLyftは片道当たり15ドルの値引きを提供します。1人当たりの値引き最大額は30ドルです。乗客は無料か定価より安い値段になりますが、ドライバーはタダ働きするわけではなく満額の報酬を得ることができます。また、利用者は感謝の意を込めてドライバーに心付け(チップ)を払うことも可能とUberは言っています。米国疾病管理センター(CDC)のCOVID-19情報提供サイトによると米国成人のおよそ63%が少なくとも1回のワクチン接種を済ませています3)。日本と同様に米国でのCOVID-19ワクチン接種も無料です。Uberは薬局チェーンWalgreenと協力して配車をするドライバーのワクチンも助けています。カリフォルニア、イリノイ、バージニア、ニュージャージーなどの幾つかの州の24万人を超えるドライバーはUberから提供された整理番号を使ってWalgreenでのワクチン接種を予約できるようにしました4)。COVID-19流行の自粛を背景にしてUberの去年2020年の売り上げはその前年2019年に比べて16%低下しました5)。ドライバーや乗客の往来を回復させて売り上げを増やすことを目指すUberはワクチン接種送迎支援を好機の一つと捉えたことでしょう。参考1)Uber, Lyft launch U.S. vaccine rides program in White House partnership/Reuters 2)The Road to 70 Percent: Free Vaccination Rides Begin Today/Uber3)COVID Data Tracker/CDC 4)Uber, Lyft use rides to vaccines to get drivers, customers back on the platform/Reuters5)Uber Announces Results for Fourth Quarter and Full Year 2020/Uber

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ファイザーとAZのコロナワクチン、英国約63万人の副反応データ

 英国で3月までに新型コロナワクチンを接種した62万7,383例を対象に、副反応について調査したデータが集計され、The Lancet Infectious Diseasesオンライン版4月27日号に掲載された。 この前向き観察研究では、専門アプリを使って「BNT162b2」(ファイザー・BioNTech社製、以下ファイザー製)の1回または2回接種者、「ChAdOx1 nCoV-19」(アストラゼネカ製、以下AZ製)の1回接種者を対象に、接種後8日以内に自己申告された全身および局所の副反応の確率と比率を調べた。また、PCR検査等で接種群と未接種群の感染率を比較した。全解析は年齢(55歳以下vs.55歳以上)、性別、医療従事者か否か、肥満(BMI 30未満vs.30以上)、併存疾患の有無で調整した。 主な結果は以下のとおり。・2020年12月8日~2021年3月10日に、62万7,383例が65万5,590回の接種を受けたと報告された。28万2,103例がファイザー製の1回接種、そのうち2万8,207例が2回接種を受け、34万5,280例がAZ製の1回接種を受けた。・全身性の副反応は、ファイザー製1回目接種後に13.5%(3万8,155/28万2,103)、2回目接種後に22.0%(6,216/2万8,207)、AZ製接種後に33.7%(11万6,473/34万5,280)で報告された。・局所的な副反応は、ファイザー製1回目接種後に71.9%(15万23/20万8,767)、2回目接種後に68.5%(9,025/1万3,179)、AZ製接種後に58.7%(10万4,282/17万7,655)で報告された。・全身性の副反応は、既感染者で未感染者よりも多かった(AZ製接種後1.6倍、ファイザー製1回接種後2.9倍)。・局所的な副反応も、既感染者で未感染者よりも多かった(AZ製接種後1.4倍、ファイザー製1回接種後1.2倍)。・検査を受けたワクチン接種群10万3,622例中3,106例(3%)、未接種の対照群46万4,356例中5万340例(11%)が陽性となった。・感染リスクの有意な低下は、1回目接種後12日目から見られ、21~44日目にはAZ製60%(95%CI:49~68)、ファイザー製69%(66~72)、45~59日目にはファイザー製72%(63~79)に達した。 研究者らは、2つのワクチンの接種後の副反応は第III相試験で報告されたものよりも頻度が低かったこと、またどちらも12日後に感染リスクが低下したことが確認できたとしている。

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第56回 新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に

<先週の動き>1.新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に2.2020年4月~1月の概算医療費4%減、200床以上の病院に大打撃3.来年度予算に医療機関財政救済基金の創設を要望/四病協4.経営条件の厳しい地域の公立病院の支援を拡充へ/総務省5.142本の論文不正で、麻酔科学講座講師が懲戒解雇/昭和大学1.新様式のワクチン予診票、かかりつけ医の確認項目が削除に菅 義偉首相は、5月28日に新型コロナウイルス感染症対策本部が開催された後の記者会見で、65歳以上の高齢者向けワクチン接種完了の目処が立った自治体から、6月中に基礎疾患を持つ人を含む一般向け接種に移行する考えを述べた。厚生労働省は同日、「新型コロナワクチン予診票の確認のポイントVer2.1」を発表。ファイザー社ワクチンに加え、武田/モデルナ社ワクチンの接種に際して、確認すべきポイントが解説されている。また、予診票の見直しにより、「その病気を診てもらっている医師に今日の予防接種を受けてよいと言われましたか」という項目が削除され、接種可否の判断に、かかりつけ医の事前確認が不要となった。これに合わせて、電話や情報通信機器を用いた予診の実施を可能とする事務連絡が発出された。(参考)ワクチン接種「6月には広く一般にも開始」 菅首相、見通し示す(毎日新聞)ワクチン予診簡素に、かかりつけ医への事前確認不要(日経新聞)2.2020年4月~1月の概算医療費4%減、200床以上の病院に大打撃厚労省は、27日に「最近の医療費の動向」1月号を公表し、2020年度(2020年4月~2021年1月)の概算医療費は34.9兆円と、対前年同期比から4.0%減少していることを明らかにした。また、1月の医療費は3.5兆円と対前年同月比-4.7%であり、コロナウイルス感染拡大の影響はその後も続いていると考えられる。病床規模別の医療費の伸び率を見ると、200床未満が-2.1%であるのに対して、200床以上が-4.5%と、大病院ほど影響が大きいことがうかがえる。(参考)概算医療費20年度4-1月、マイナス幅拡大▲4.0% 厚労省、1月が下期最大のマイナス(CBnewsマネジメント)資料 最近の医療費の動向(令和2年度1月)(厚労省)3.来年度予算に医療機関財政救済基金の創設を要望/四病協26日に日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会からなる四病院団体協議会(四病協)は、厚労省に対して2022年度の予算編成に、新型コロナウイルス感染症対策、働き方改革、地域医療介護総合確保基金、医療機関のICT化などを含む13項目の要望を出した。医療ICTをめぐっては、オンライン資格認証の補助金拡充の延長や、オンライン遠隔診療補助の新設などを求めた。また、コロナウイルス感染拡大の影響により、経営が困難となっている医療機関に対して、都道府県による財政救済基金の設立を求めている。(参考)資料 令和4年度予算概算要求に関する要望(四病協)コロナ経営破綻防止で財政補助を要望、四病協 診療報酬増額なども(CBnewsマネジメント)コロナ対策、働き方改革、標準的電子カルテ導入、オンライン資格確認等システム導入など幅広い病院経営支援を―四病協(GemMed)4.経営条件の厳しい地域の公立病院の支援を拡充へ/総務省総務省は、28日、民間病院の立地が困難な経営条件の厳しい地域に所在する公立病院(不採算地区病院)について、新型コロナウイルス感染症のまん延の中、病院機能を維持し、地域医療提供体制を確保するため、2021年度分の特別交付税措置の拡充を行うことを発表した。武田 良太総務相は、記者会見で「不採算地区の病院の機能を維持し、地域医療提供体制の確保に支障が生じないよう基準額を引き上げる」と表明。該当する病院の条件は以下のとおり。(第1種)当該病院から最寄りの病院までの移動距離が15km以上(第2種)当該病院の半径5km以内の人口が10万人未満(参考)公立病院の支援拡充 総務省、交付上限3割上げ(日経新聞)資料 不採算地区病院等に対する財政措置の拡充について(総務省)5.142本の論文不正で、麻酔科学講座講師が懲戒解雇/昭和大学昭和大学は、28日に、麻酔科学講座講師による研究活動の不正行為に関する調査結果概要を公表した。これは、日本麻酔科学会が公開した調査結果報告書に基づいたもの。大学側は、学外の専門家を交えた調査委員会を組織し、2015〜20年にかけて発表された論文のうち142本の論文に不正があったことを発表。当人の懲戒解雇と投稿論文の取り下げを勧告し、共著者であった教授の降格処分を行ったことを明らかにした。(参考)データ捏造、薬の名前偽る…不正論文142本 昭和大医学部講師を懲戒解雇(東京新聞)本学における研究活動の不正行為に関する調査結果の公表について (昭和大学)2021.05.28ニュース(日本麻酔科学会)

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妊娠中のコロナワクチン接種で乳児にも効果の可能性/JAMA

 妊娠中の女性はCOVID-19の罹患率や死亡率が高くなるが、ワクチンの臨床試験の対象から外されており、これまで妊婦に対するCOVID-19ワクチンの有効性と安全性のデータは限られていた。妊娠中・授乳中の女性103例を対象にイスラエルで実施された試験の結果がJAMA誌オンライン版2021年5月13日号に掲載された。 2020年12月~2021年3月にワクチンを接種した18歳以上の女性103例と、2020年4月~2021年3月にSARS-CoV-2感染が確認された女性28例が対象となった。ワクチン接種群103例はmRNA-1273(Moderna)またはBNT162b2(Pfizer-BioNTech)のいずれかを接種し、内訳は妊娠中30例、授乳中16例、非妊娠57例で、接種前のSARS-CoV-2感染が確認された参加者を除外した。感染群の内訳は妊娠中22例、非妊娠6例だった。 主要アウトカムはSARS-CoV-2に対する免疫応答で、検体採取は2回目接種後に非妊娠群中央値21(IQR:17~27)日 、妊娠中群21(IQR:14~36)日、授乳中群26(IQR:19~31)日後に行った。9例が期間中に出産し、乳児の臍帯血を提供した。感染群のPCR検査陽性判定から検体採取までの期間中央値は非妊娠群12(IQR:10~20)日、妊娠群41(IQR:15~140)日だった。 主な結果は以下のとおり。・ワクチン接種者103例は18~45歳で、非ヒスパニック系白人が66%だった。・ワクチン2回接種後の抗体価は妊娠中、授乳中、非妊娠群いずれもベースラインより上がり、その値は感染者群よりも高かった。また、乳児の臍帯血や母乳にも抗体が認められた。・英国および南アフリカ変異株に対しては抗体価の低下が見られたものの、T細胞応答は維持された。・2回目のワクチン接種後、妊娠中4例(14%)、授乳中7例(44%)、非妊娠27例(52%)で発熱が報告されたが、重篤な有害事象や妊娠・新生児合併症は認められなかった。 研究者らは、COVID-19ワクチンは妊娠・授乳中の女性に対しても有用性が確認され、さらに抗体は乳児の臍帯血と母乳に移行し、妊娠中にワクチンを接種することで接種資格のない新生児にも同様の効果がもたらされる可能性があるとしている。

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第59回 「余剰ワクチンの取り扱い通知」は出し忘れ?それとも大臣お墨付きなら不要?

以前、本連載の第57回で触れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、新型コロナ)の余剰ワクチン問題。ついに5月25日付で厚生労働省健康局健康課予防接種室から『新型コロナワクチンの余剰が発生した場合の取り扱いについて』と題する事務連絡通知が出された。その中身はキャンセルなどで余剰となったワクチンについては、接種券の有無にかかわらず幅広い接種対象を検討すべし、という内容である。縮めて言えば、「誰に打っても良し。ただ、接種券のない人に打った場合は個人情報を控えておきなされ」ということだ。実はこの通知が出たと聞いて私は非常に驚いた。というのも、前日の24日夜、私はオンラインで開催された記者向けワクチン勉強会でパネリストになった地方自治体担当者に「『余剰ワクチンを誰に打っても良い』と言っている河野 太郎大臣の発言を裏付ける通知は出ているのか?」と質問したのに対して、この時点では「否」という回答を得ていたからだ。通知が出た25日夜、河野大臣も通知を写メしたツイートをしている。このツイートには「さすが河野大臣は迅速だ」的な反応が多い。そうした空気を逆なでして申し訳ないが、私はこの対応がどこも「迅速」だとは思っていない。本連載では、4月13日付の会見で河野大臣が余剰ワクチンを誰に打っても良いと発言したことに触れているが、この3日後の4月16日の会見でもこの問題は質疑応答が行われていた。質問ワクチンの廃棄問題について伺います。火曜日の記者会見で、余剰分の廃棄を極力減らす観点から、現場判断で高齢者以外も含めて柔軟な接種を行うように河野大臣は促されたんですけれども、これについては厚労省が明確な見解を示さないこともあって、医療現場から運用の観点から困惑の声も上がっています。改めて、大臣としては、廃棄を減らすことを最優先に、どうしても余ってしまう、そういう場合は、若者など高齢者以外も含めた接種を行うべきという考えに変わりはないでしょうか。回答これは厚労省の出している手引きの中に既に明確に書いてありますので、厚労省を含め、政府としての判断はもう明確に示されております。さらに4月20日の会見でも関連した質疑は行われている。質問あともう一点なんですけれども。先ほど自治体のサポートに注力したいということですけれども。高齢者接種が始まってまだ1週間で量も限られていますけれども、これまで1週間で見えてきた課題というのはございますでしょうか。回答余ったワクチンは非常に貴重なワクチンですから、廃棄することなく柔軟に自治体で対応していただきたいと思っております。これは1バイアル当たり現在4回分、6回接種になれば5回分が最大量ですけれども、万が一停電が起きたり何が起きたりという、もう少し大きく対応しなきゃいけないということも起こり得るわけですから、そういう時にどうするかというところも考えながら、日々予診で今日は打たないほうがいいですという方が恐らく必ず出ると思います。ワクチンが余るというのは、これは定常的に起きることだと思いますので、無駄にすることなく自治体で柔軟にしっかり対応していただきたいと思っています。そして直近の5月21日の会見では冒頭の概説で河野大臣自らこのように話している。いくつかの自治体、保健所等で、接種券がない者には打てないという誤った指導を行っているところがございます。そうした誤った指導の結果、貴重なワクチンが廃棄されているというのは極めて許し難い状況だと思います。保健所なり自治体の関係の皆様は、認識を新たにしていただいて、16歳未満の方には打てませんけれども、接種券の有無にかかわらず、しっかりと記録だけ取っておいていただければ、後日接種記録を入れていただければよいだけの話でございますので、貴重なワクチンが廃棄されることがゆめゆめないように、しっかりと対応していただきたいと思います。河野大臣の余剰ワクチンに対する姿勢は基本的に一貫し、私もそれに賛同している。しかし、4月中旬以来、この件に関して同じことを繰り返し発言していることに私はやや疑問を持っていた。その時、ハッと思った。私は21日の会見の内容が報じられた直後、自分のTwitterで河野大臣が余剰ワクチンを優先接種対象者以外の誰でもいいから接種するようにと言っている内容を厚労省から自治体向けに文書で通知しているのだろうか?という趣旨のツイートをしている。これはお役所とやり取りをしたことがある人ならば分かると思うが、国家公務員であれ地方公務員であれ、お役人というものは「無謬性」を重視し、明確に文書等で指示があること以外は行わない。もし文書で明示のないことを行って問題が生じれば、「無謬性」は破綻するからだ。そんなことはお役所の非効率をしばしば歯に衣着せぬ物言いでバッサリ切って捨てる河野大臣も熟知していることだろう。問題はこうした状況を前提に4月13日の会見での発言当初、河野大臣が「やっぱり念のため通知を出しておくよう働きかける」と考えたか、「大臣の俺が言ってるんだから通知がなくとも良い」と考えたかという点だ。私は河野大臣が後者を選んでいたのではないかと疑っている。そのように疑ってしまうのは、過去にも書いたが、河野大臣がきわめて合理主義者で、政治家にありがちな根回し・忖度が苦手であると知られていることがベースにある。そして4月16日付の会見の質疑応答をより突っ込むと、私の中ではその疑いはより強くなる。繰り返しの引用になるが、この時に河野大臣は余剰ワクチンの扱いについて「厚労省の出している手引きの中に既に明確に書いてありますので、厚労省を含め、政府としての判断はもう明確に示されております」と答えている。そこで厚労省が出している自治体向けの「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(2.2版)」(4月15日付)の内容を以下に紹介する。同手引きの67ページには余剰ワクチンが発生した場合として以下のような記述となっている。新型コロナワクチンの接種予約がキャンセルされた等の理由で余剰となったワクチンについては、可能な限り無駄なく接種を行っていただく必要があることから、別の者に対して接種することができるような方法について、各自治体において検討を行う。たとえば、市町村のコールセンターや医療機関で予約を受ける際に、予約日以外で来訪可能な日にちをあらかじめ聴取しておき、キャンセルが出たタイミングで、電話等で来訪を呼びかけるなどの対応が考えられる。なお、キャンセルの生じた枠で接種を受けられるのは、接種券の送付を受けた対象者とする。それでもなお、ワクチンの余剰が生じる場合には、自治体において検討いただきたい。これのどこが「明確」と言えるのだろうか? 最後は「自治体において検討」と事実上の丸投げである。そもそも日本の公務員制度では長らく地方公務員は中央の言うことを忠実に実行することが是とされてきた。一部の地方公務員の怒りを招くことを承知で敢えて分かりやすさを重視した表現にすると、地方公務員の業務遂行とは「うっすら線が入っているお絵描き帳で絵を描く」がごとしである。地方分権と言われて久しいが、この名残はいまだ根強い。だから「自前で検討せよ」が実は地方自治体が最も苦手とするものなのだ。実際、2025年を目標に地方自治体が自前で構築すべしとなっている「地域包括ケア」に関しては多くの自治体が未だ右往左往している。それでも「地域包括ケア」の構築はまだ時間的な余裕がある。しかし、ワクチン接種は待ったなし。その意味ではより踏み込んだ明示が必要である。ちなみに前述の手引きの最後の一文を大臣発言に沿って突っ込んだ一例を示せば次のようになるだろう。「それでもなお、ワクチンの余剰が生じる場合には、廃棄に至らないよう接種券の有無にかかわらない接種対象者の選定を自治体において検討いただきたい」いずれにせよ4月13日の会見での発言から、それが通知という形で具現化するまで軽く1ヵ月以上を有しており、このタイムラグの原因が何であれ、とても迅速とは言い難い。もし河野大臣発言の直後に前述の事務連絡通知が出ていれば、これまでに発生したワクチンの廃棄は相当程度防げていたのではないだろうかと考えている。

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新型コロナワクチン、接種会場での各病院の工夫とは?

 メディカル・データ・ビジョン株式会社は自社の病院向け経営支援システムを導入している病院に対して、接種会場での工夫点について緊急調査を実施。その結果、病院ごとに予診票の事前記入の促し、院内導線やスペース確保などを工夫していることが明らかになった(5月20日付プレスリリース)。 同社はこの調査を5月14日~19日の期間にウェブで実施、21病院から回答を得た。ワクチン接種体制で困っている点や課題に感じた点を聞いた(複数回答可)ところ、予約管理(66.7%)が最も多く、次いで接種人材の確保・役割分担(57.1%)、院内での接種会場の確保(52.4%)、円滑に接種するための動線(47.6%)、受付・問診(42.9%)だった。 同社の調査で明らかになった取り組みの一例を以下に紹介する。会場/動線・午後休診の診療科や院外の関連施設を活用した ・接種後の待機場所にはリラックスできるビデオや音楽を流した・予約時間まで車で待機してもらい、混雑を防いだ・待機場所は、必ず医療者が近くにいる場所にした・接種の流れや接種後の注意点などがわかるように映像を作成し、院内各所のモニターに映し出し、受付待ち、問診待ち、接種待ちしている間に見てもらえるようにした・受付後は接種会場の座席に着座のまま、医師・看護師が巡回し予診~接種~待機まで行っている。接種者が移動・待機を繰り返すことをなくし、会場をコンパクトにした受付/問診・予約制のため、事前に予診票を配り書いてもらった・当日受付票を発行し、接種時間・待機時間を記入できるようにした・役割ごとに、受付を3つに分けた(1:予約確認受付…指定された日時に来院しているかの確認/必要な持ち物の確認、2:接種受付…本人確認/予診票の記載確認、3)接種後受付…接種済証の記載/発行)副反応への対応・職員向けの接種で、副反応が出る可能性を考慮し、金曜日により多くの接種枠を設けた・(ワクチン接種で通常業務が滞らないよう、)同日に同部署から何人も接種しないようにした・外来看護師は極力、金/土曜日に接種するようにし、翌日が休日となるようにした・休みがとりやすいように副反応でつらい時は、特別休暇扱いとした 病院関係者の声・接種をしていない職員(医師・看護師)が高齢者への接種を行うケースが発生している。こういったことに国・都道府県・市町村・医師会は目を向けるべきだと思う ・職員向けの接種で、2回目の接種後はなるべく2日間休めるようにしたが、あまりに副反応が出たため、看護職員が手薄になった ・キャンセル時の代替接種者は確保していたが、そもそもリソースを最小限にしているため、忘れているだけなのかキャンセルなのか、確認自体に労力を要した。・予約管理については自院で受け付けず、接種者には自治体のシステムをご利用いただいているが、予約情報が断片的(カナ氏名なし、性別なし、住所なし)で困っている。またシステムが不安定で、電話問合せが多く現場が疲弊している

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COVID-19診療の手引きの第5版を公開/厚生労働省

 5月26日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第5版」を公開した。 同手引きは診療の手引き検討委員会が中心となって作成され、第1版は2020年3月17日に、第2版は5月18日に、第3版は9月4日に、第4版は12月4日に公表され、細かい改訂など随時最新の内容に更新されている。 今回の改訂では、前版以降の知見の拡充を行い、とくに血栓対策の治療、投与すべきでない薬剤(ヒドロキシクロロキンなど)の記載、新しく追加承認されたバリシチニブの追加、ファビピラビルの観察研究結果の更新などが反映されている。今回の主な改訂点【病原体・疫学】・変異株について感染性や重篤度、ワクチンへの影響などの情報を更新【臨床像】・剖検の調査による報告を追加・重症化リスク因子に妊娠後期を追加・血栓塞栓症、小児家庭内感染、小児多系統炎症性症候群の国内データを追加【症例定義・診断・届出】・病原体診断を更新(新型コロナウイルス感染症病原体検査の指針・第3.1版に対応)・届出は原則としてHER-SYSを活用することと記載【重症度分類とマネジメント】・中等症IIにおけるネーザルハイフロー・CPAP使用回避の記述を削除・自宅療養者に対して行う治療プロトコールを追加・血栓症対策の治療内容を更新【薬物療法】・投与すべきでない薬剤(ヒドロキシクロロキン、リトナビル)について記載・国内で承認されている医薬品にバリシチニブ(2021年4月23日追加承認)を追加・ファビピラビルの国内での観察研究結果を更新【院内感染対策】・感染者の授乳について更新・ネーザルハイフロー使用時の感染対策を記載【退院基準・解除基準】・懸念される変異株(VOC)感染者も同様の退院基準であることを記載・人工呼吸器などによる治療を行った場合を追加

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新型コロナ既感染者、1年後の抗体保有状況は?/横浜市立大

 横浜市立大学の山中 竹春氏(学術院医学群 臨床統計学)率いる研究グループは、「新型コロナウイルス感染12ヵ月後における従来株および変異株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体の保有率に関する調査」の記者会見を5月20日に開催。回復者のほとんどが6ヵ月後、12ヵ月後も従来株に対する抗ウイルス抗体および中和抗体を保有していたことを報告した。調査概要と結果 本調査は同大学が開発した「hiVNTシステム」を用いて、新型コロナウイルス感染症からの回復者(2020年2~4月に自然感染した既感染者で、研究への参加同意を取得)約250例を追跡した国内最大規模の研究である。2021年3月末までの期間に採血・データ解析を行い、感染から6ヵ月後と12ヵ月後の抗ウイルス抗体と中和抗体の保有率を確認した。従来株(D614G)ならびに変異株4種[イギリス株(B.1.1.7)、ブラジル株(P.1)、南アフリカ株(B.1.351)、インド株(B.1.617)]を調査した。中和抗体の測定はシュードウイルス法*を用いて行われた。*SARS-CoV-2スパイクを持つ偽ウイルスを用いてLuciferase活性を定量する方法で、危険性が低く、短期間で検出が可能。 主な結果は以下のとおり。・参加者250例の平均年齢は51歳(範囲:21~78歳)だった。・重症度別の内訳は、軽症・無症状は72.8%(182例)、中等症は19.6%(49例)、重症は7.6%(19例)だった。・従来株に対する6ヵ月後の中和抗体の陽性率は98%(245/250例)、12ヵ月後では97%(242/250例)だった。・自然感染から6ヵ月後と12ヵ月後の参加者の中和抗体陽性率は重症度別では、軽症・無症状(97%、96%)、中等症(100%、100%)、重症(100%、100%)で、中和抗体の量は6ヵ月から12ヵ月で大きく低下しなかった。・変異株の中和抗体の保有率はいずれの時点でも従来株に比べ低下傾向だったものの、多くの人が検出可能な量の中和抗体を有していた[イギリス株(6ヵ月:88.4%、12ヶ月:84.4%)、ブラジル株(同:85.6%、同:81.6%)、南アフリカ株(同:75.2%、同:74.8%)、インド株(同:80.4%、同:75.2%)]。 ・変異株の場合は軽症・無症状者の抗体保有率が低く、南アフリカ株やインド株の抗体保有率は70%前後だった。 また、山中氏はモデルナ製ワクチンの海外データ1)を踏まえ「ワクチン接種を行うことで自然感染と同様の中和抗体が残っている可能性が示唆されている。自然感染者よりワクチン接種者のほうが効率よく中和抗体を上げることができるので、1年後に再接種し免疫強化を図るのが良いのでは」とも見解を述べた。

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