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デルタ株(インド株)の遺伝子変異と臨床的特徴(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

原著論文【Lancet】SARS-CoV-2 Delta VOC in Scotland: demographics, risk of hospital admission, and vaccine effectiveness 2019年12月末に中国・武漢で発生した新型コロナ感染症の原因ウイルスを武漢原株(第1世代)と定義する。ウイルスは2.5塩基/月の速度で変異を繰り返し(Meredith LW, et al. Lancet Infect Dis.2021;20:1263-1271.)、2020年2月下旬にはS蛋白614位のアミノ酸がアスラギン酸(D)からグリシン(G)に置換されたD614G株(第2世代、従来株)が発生した。D614G株は変異を繰り返し、D614G株から数多くの変異株が形成されたが2020年の秋口まではD614G株自体が世界を席巻する主たるウイルスであった。しかしながら、2020年の秋以降、D614G株のS蛋白501位のアミノ酸がアスパラギン(N)からチロシン(Y)に置換されたN501Y株ならびにN501Y変異を有さない非N501Y株がD614G株を凌駕し、コロナ感染症は第2世代から第3世代変異株の時代に突入した。WHOは、第3世代の変異株にあってAlpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類をVOC(Variants of Concern)と定義し、世界的な監視/警戒を呼び掛けている。 Alpha株は2020年9月以降、Beta株は2020年11月以降、Gamma株は2020年12月以降に世界的播種が始まった。インド株は2020年10月にインドにおいて初めて検出されたN501Yを有さない第3世代変異株であるが、初期には、S蛋白にE484QとL452Rという2つの液性免疫回避作用の原因となる遺伝子変異を有するB.1.617.3が主流を占めていた。しかしながら、2021年4月末以降、B.1.617.3の頻度が低下、代わってB.1.617.1とB.1.617.2による感染頻度が増加した。5月に入り、B.1.617.1が衰退し、現在ではB.1.617.2がインド株の中心的ウイルスとして世界に播種している(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 May 11.)。 Delta株のS蛋白には遺伝子変異が8ヵ所認められ(T19R、G142D、157/158欠損、L452R、T478K、D614G、P681R、D950N)、L452R変異が強力な液性免疫回避作用を発現する。157/158欠損、T478Kも液性免疫回避作用を有するがL452Rほど強力ではない。P681R変異はS2領域のFurin切断部位近傍に存在し、ウイルスと生体膜との融合を強めウイルスの感染性を上昇させる。Delta株は変異/進化を続け、現在、B.1.617.2から派生したAY.1、AY.2、AY.3も検出されるようになった(B.1.617.2のSublineage、Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。AY.1、AY.2はB.1.617.2にK417T変異が加わったもの、AY.3はB.1.617.2にI1371V(ORF1aの変異)変異が挿入されたものである。2021年5月以降、Alpha株からDelta株への置換が進行し、2021年7月20日現在、インド、英国、米国、南アフリカ、ロシア、中国など世界の多くの国/地域で直近1ヵ月における新型コロナ感染の75%をDelta株が占めるようになっている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 20.)。本邦にあっては、3月初旬より第2世代のD614G株から第3世代のAlpha株への置換が始まり、5月末には感染ウイルスの85%をAlpha株が占めるようになった。しかしながら、6月初旬よりAlpha株感染の低下が始まり、7月中旬にはDelta株感染が新規感染の50%に達するものと予測されている。6月28日現在、関東圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)においては新規感染者の30%、関西圏(大阪、京都、兵庫)においては新規感染者の5%がDelta株に起因すると推定されている(国立感染症研究所. 2021年7月6日)。 本論評で取り上げたSheikhらの論文は、スコットランドにおけるPfizer社のBNT162b2(RNAワクチン)ならびにAstraZeneca社のChAdOx1(Adeno-vectoredワクチン)のAlpha株、Delta株に対する発症/重症化予防効果を解析したものである。解析施行時(2021年4月1日~6月6日)のスコットランドでは、背景ウイルスがAlpha株からDelta株に置換されつつあった時期であり、コロナ感染者の39.5%、入院患者の35.5%がDelta株感染であり、Delta株感染による入院リスクはAlpha株感染の1.85倍であった。スコットランドにおける解析終了時点でのワクチン完全接種率(2回のワクチン接種終了)は65歳以上の高齢者で88.8%、国民全体で39.4%であり、Alpha株感染の75%、Delta株感染の70%はワクチン非接種者に認められた。Pfizer社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して92%、Delta株に対して79%、AstraZeneca社ワクチンの発症予防効果はAlpha株に対して73%、Delta株に対して60%であり、両ワクチンともDelta株に対する予防効果が有意に減弱していることが示された。他のワクチンを含めた各種ワクチンのVOC変異株に対する中和抗体価、予防効果に関しては次の論評で詳細に検討する予定であるので、それを参照していただきたい。本論文の興味深い点は、5月1日から5月27日までの約1ヵ月間におけるAlpha株とDelta株感染の推移が具体的に提示されていることであり(論文の補遺参照)、スコットランドでは1ヵ月という非常に短い期間でAlpha株はDelta株にほぼ置換されたことを示している。本論文で明らかにされたDelta株の感染性、病原性の増強ならびにワクチン抵抗性は、Delta株のS蛋白における複数の遺伝子変異から説明可能である。 本論文ならびに他の論文で明らかにされた、Delta株に対するワクチンの効果以外の臨床的特徴について考察する。感染性の指標である実効再生産数(Rt)の野生株あるいは従来株に対する比は、Alpha株で1.41倍、Beta株で1.36倍、Gamma株で1.11倍である(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 March 21.)。一方、Delta株のRtは野生株・従来株の1.97倍、Alpha株の1.55倍になると報告された(Campbell F, et al. Euro Surveill. 2021;26:2100509.)。すなわち、Alpha株、Beta株では発生から75%の感染率に達するまでには約3ヵ月の期間を要するのに対し、Delta株ではスコットランドの研究で示されたように約1ヵ月で75%の感染率に達する。一方、Gamma株では約6ヵ月を要して75%の感染率に達する。 Delta株感染時の生体へのウイルス負荷量は野生株/従来株感染時の1,200倍にも達し、ウイルス感染からPCRが陽性になるまでの潜伏期間は6日から4日に短縮される(Li B, et al. medRxiv. 2021;2021.07.07.21260122.)。その結果、野生株/従来株感染に比べ、Delta株感染では一般的入院リスクが1.2倍、ICU入院リスクが2.9倍、死亡リスクが1.4倍上昇すると報告されている(Fishman DN, Tuite AR. medRxiv. 2021;2021.07.05.21260050.)。別の論文では、野生株/従来株感染に比べてDelta株感染ではウイルス陽性期間が長く、肺炎発症リスクが1.9倍、ICU入院/死亡リスクが4.9倍に達すると報告された(Ong SWX, et al. Social Science Research Network. 2021.)。 Delta株感染の年齢分布、性差の影響に関する確実な報告は現時点では存在しない。これは、ワクチン接種という人為的要因が加わったためにDelta株の自然感染時のデータ集積が困難になっているためである。Delta株の感染性、病原性は野生株/従来株、Alpha株より強いものであることは間違いないが、それに対して年齢、性差が影響するという科学的根拠はない。それ故、Delta株の自然感染における年齢分布、性差の影響は、ワクチン接種が始まる前に集積された野生株/従来株、Alpha株に対する影響と質的に同じと考えるべきであろう。もしこの考えが正しいならば、性差によってDelta株感染に著明な差を認めず、感染者数の年齢分布はダイヤモンド型を呈するものと推察される。すなわち、Delta株感染者数は、小児、高齢者で少なく、活動度の高い20~50代で多い(Public Health England)。Delta株感染者数がこのダイヤモンド形態から外れる場合には、各世代のワクチン接種率の差が人為的要因として関与しているものと考えるべきである。

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第70回 五輪然りPCR検査済みなら修学旅行はOK?大阪府教育委員会の見解は…

新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が東京都に発令され、東京都だけでなく全国各地で過去最高の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者数を記録し続ける最中に開催された東京オリンピック2020が8月8日に終了した。原則無観客開催であったことも幸いしてか、今のところオリンピックを直接のきっかけとする感染拡大は起きてはいないとみられる。そのせいか、菅 義偉首相も丸川 珠代東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣もオリンピックが感染拡大につながっていないと繰り返し強調している。「菅首相“オリンピック 感染拡大 つながっているわけではない“」(NHK)「『五輪開催 感染拡大の原因にはなっていない』丸川五輪相」(NHK)少なくとも現時点ではこの見解を覆すエビデンスはないが、過去に例を見ない感染状況の最中に本来感染対策に向けるべきリソースをオリンピックの円滑な開催に振り向けたであろうことは、これまた疑いの余地がないのではないかと思っている。この感染状況にもかかわらずオリンピックを開催したことは紋切り型の表現で恐縮だが、「国民に適切な感染対策を取るよう求めるメッセージが伝わりにくくなる」という現実もある。そうした最中、私が注目したのは以下のニュースだ。「緊急事態でも修学旅行実施 大阪市長『五輪やっている』」(朝日新聞)簡単に要約すると緊急事態宣言中ではあるが、8月に予定されている大阪市立の中学校4校の修学旅行は、生徒に事前のPCR検査を受けさせて陰性の生徒のみで予定通り実施するというニュースだ。記事の見出しにもある「五輪やっている」は、実はこの記事だけだと真意が分かりにくいが、大阪市のホームページにある市長会見の全文を見ればより理解がしやすい。松井 一郎市長が言っていることを要約すると、「大会期間中も定期的なPCR検査を実施して陰性者のみでオリンピックを開催できているのだから、修学旅行も事前のPCR検査実施で陰性者のみで実施するならばそれは構わないのではないか」という見解だ。松井市長はこれに関連して「僕も悩みましたけども」「子どもたちの一生の思い出に残るような事業、行事についてはできる限り実施をしたい」と発言しているように少なくとも短絡的に決めたわけではなさそうだ。かくいう私もコロナ禍で娘の修学旅行中止を経験している。昨春に予定されていた娘の修学旅行はコロナ禍により初冬に日程を短縮したうえで延期。ところがその時期に第3波の感染拡大が始まったことで、実施1週間前に突如中止となった。娘は表面上ヘラヘラしていたが、どれだけ辛かったろうと今でも思っている。その意味では本音ではあまり無粋なことは言いたくない。ただ、どうしてもPCR検査に対する過剰な期待と陰に隠れた危険性を認識していないのではないかと思ってしまうのだ。まず、読者の皆様には明らかに釈迦に説法なのだが、PCR検査は万能ではない。感染から4日以内ならば感度は50%に満たない。結果として参加者に偽陰性者が紛れ込む可能性があり、修学旅行中に生徒内や滞在先の関係者に感染させてしまう恐れがある。また、当然ながら出発時に陰性だったとしても滞在先で感染してしまうケースもある。だが、私がそれ以上に気になったのは、事実上「修学旅行不参加=新型コロナ感染者」と丸わかりになってしまう怖れだ。松井市長は記者との質疑応答内で感染していれば修学旅行に行けないのは「インフルエンザでも一緒ですよね」とあっさり言っている。しかし、ワクチンが登場したとはいえ、一般人からすれば新型コロナはまだまだ未知の感染症のイメージだ。インフルエンザに罹ったことで周囲から白眼視されることはほぼないが、新型コロナ感染では白眼視も含め不利益を被る可能性はまだ十分にあることを念頭に置かねばならない。そもそも同じ感染症でもインフルエンザとは状況が異なるから、わざわざ事前にPCR検査をすると言っているわけだからこの例えは問題をやや矮小化している。また、事前のPCR検査で陽性と判明した生徒と濃厚接触者の認定を受けた生徒が発生した場合どうするのか? これについても松井市長と記者との質疑応答がある。以下、その部分を引用する。記者そこで一部、陽性の方が出てしまったっていう場合には、当然その陽性の方は行けないだろうというのは分かるんですが。市長だから、それ何度も言うけどインフルエンザも駄目でしょそれは。記者濃厚接触者の特定というのは保健所を通じてやって、そういう方については行けないということになるわけですかね。市長うん、申し訳ないけどね。だから行けない子どもはそら本当に可哀想や思うよ。でもそのことをもってね、全て行事中止かといえば、それはちょっと違うでしょと思ってます。もちろん松井市長の考え方も一つだ。しかし、PCR検査で陽性となった生徒も濃厚接触となった生徒も罪はない。だが、双方の生徒ともその後も続くかもしれない心理的傷を負う可能性はあるし、とりわけ友人に感染させた可能性を持つ生徒の心痛は計り知れない。大阪市教育委員会に電話をし、指導部の担当者に尋ねてみた。―報道でも発表があった8月の市立中学校4校の修学旅行(行先は岐阜県の学校と長野県の学校がある)の実施は予定通りですか?担当者現時点では岐阜のほうに関しては調整中なので、行くことは行くけれども延期ということになっています。―4校すべて延期ですか?担当者いえ、岐阜県を行き先とした学校は延期ということです。―延期というのは受け入れ先の要望ですかね?担当者受け入れ先と言いますか、県ですね。―念のため確認をしたいのですが、報道ではPCR検査で陰性となった生徒のみが修学旅行に参加できると伺っていますが、間違いありませんか?担当者はい、そうですね。―ちなみに陽性と分かった生徒と学校内で濃厚接触と認定された生徒についてはどうなりますか?担当者今は夏季休暇中でもあるので、もしあるとするならば部活動ですかね。その場合は個別にどのような状況だったかを確認したうえで保健所などとの調整になるかとは思うのですが、授業とかをやっているわけではないので、その辺の可能性は低いのではないかと考えています。―修学旅行への不参加ということでPCR検査陽性者が特定できる可能性はありますよね?担当者すでに過去にさまざまな形で感染の例を経験しています。そのうえで誰がということではなく、さまざまな事情でお休みすることがあったりはするので、その都度の個別の対応で結果として感染者が誰かが分かることはあるかもしれません。そのことでマイナスイメージを持たれる、あるいはトラブルになることも想定できますし、正直避けては通れない問題であることは確かですので、従来から学校のほうで慎重に取り扱うことにはなっています。―過去の感染発生のケースも含め、個人情報の扱い方や対応について何か市ではマニュアル等の作成は行っているのでしょうか?担当者そもそも感染が判明した場合だけでなく、感染が怖いため登校を見合わせるケースなどさまざまなケースが考えられるため、それらも含めて慎重に対応するよう昨年度から大阪市教育委員会でも「学校園における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を策定しており、完全に学校任せにはしていません。―ちなみに、延期により9月以降の修学旅行を実施する学校もありますよね?その場合は生徒内で濃厚接触者も発生する可能性もあります。自分が行けなくなってしまっただけでなく、友達を行けなくさせてしまったことで心理的に相当つらい思いをする生徒も発生する可能性があります。その場合を想定した対策は考えていらっしゃいますか?担当者基本的には従来と対応は変わりません。というのも、それぞれ個々の感染状況があると思うので一概に決められるものではないからです。また、今回のPCR検査については基本的に業者に依頼するもので、陽性になった場合でもさらに保健所と対応を協議することを念頭に余裕も持たせたスケジュールで行う予定で、その上で修学旅行自体は延期をベースにしつつも、内容を変えた実施も含めて検討します。誰かのせいで行けなかったということが極力ないような形で実施したいと思っています。この回答を聞いて単なる官僚答弁というつもりはない。むしろ当初はこのPCR検査の結果の運用次第で生徒に与える影響についてほとんど考えていないのではないかとやや斜に構えた見方をしていたのだが、思ったよりは教育委員会もさまざまなケースを想定していたのだと感じている。よどみなくしかも嫌がらずに答える担当者の対応にもそうした空気を感じた。私がこの問題にこだわったのは自分の娘の経験もあるが、ある医師から修学旅行にまつわるエピソードを聞き、そのことが頭からは離れなかったためである。この医師はある中学校の先生から「修学旅行を何とか実施したい、ついては生徒全員にPCR検査をし、全員が陰性だった場合のみ実施しようと思うがどう考えるか?」との相談を受けたという。医師は次のように答えたという。「PCR検査は感染性が失われた隔離解除期間後も陽性となることがある。つまり流行中に中学生たちに一斉に検査をするとリアルに感染性がある子どもたちを発見する可能性がある一方で、治癒後の生徒たちもかなり見つかる。では治癒後と思われる子は修学旅行に行かせないのでしょうか? 行かせないだけならまだしも、陽性の生徒が発生したクラスや部活はどうするんですか?濃厚接触者ならば、同じクラスの生徒や同じ部活の生徒も行かせることはできないですよね。しかもどの子が陽性だったからみんなが行けなくなったのか分かります。その時に『お前が感染してたからみんなが修学旅行に行けなくなったんだ』ということをその子に背負わせることができますか?」この医師が示唆する対応、すなわち修学旅行を実施しないは最も誰も傷つかない、あるいはみな平等に傷つく対応といえ一つの解と言える。その一方でギリギリの判断をする前述の大阪市教育委員会の解も完全に的外れではないと思う。ただ、一つだけ言えることはPCR検査も含めその結果がもたらす医学的確からしさ、科学的確からしさは時に極めて残酷な結論をもたらし、かつその影響を長期にわたって引きずることになるかもしれないということを、この件を通じて改めて思い知った次第である。

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重症COVID-19入院患者への新たな治療薬検証する臨床試験開始へ/WHO

 WHOは、8月11日付で発表したプレスリリースにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院した重症患者に対し、マラリアやがん治療などに使われている既存薬3種の治療効果を検証する臨床試験(Solidarity PLUS trial)を開始することを明らかにした。臨床試験は52ヵ国600超の病院から数千人規模の入院患者を登録し、実施される見通し。 WHOは、既存候補薬のCOVID-19入院患者への有効性を検証するため、オープンラベルのランダム化比較試験(Solidarity trial)を2020年3月から実施。単一のプロトコルを使用して同時に複数の治療法を評価するもので、試験の過程を通じて効果のない薬剤については評価を打ち切る一方、新たな候補薬を逐次追加できるデザインだ。これまでに、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル、インターフェロンβ-1aの4剤について評価が行われ、いずれも有効性が確認されず、すでに試験が打ち切られている。 今回、評価の対象となる1つ目の候補薬は、抗マラリア薬のアルテスネートで、本試験では重症マラリア治療に推奨される標準的な用量で7日間静脈内投与される。2つ目の候補薬は、慢性骨髄性白血病などのがん治療に使用されるイマチニブで、本試験では1日1回、14日間経口投与される。3つ目の候補薬は、クローン病など免疫疾患の治療に使用されるインフリキシマブで、本試験では、単回で静脈内投与される。これらはいずれも独立した専門家パネルによって選択された候補薬だという。 COVID-19を巡っては、感染力の強さと急激な症状悪化が見られるデルタ株のまん延により、人口の多くでワクチン接種が進んだ国においても感染制御に苦慮している。WHOのテドロス事務局長は、「COVID-19患者に対する、より効果的でアクセス可能な治療法を見つけることは依然として重要なニーズだ」とコメントしている。

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ワクチン突破新規感染(Breakthrough infection)の原因ウイルスは病原性の高い変異ウイルスが中心?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 新型コロナ感染症に対する主たるワクチン(Pfizer社のBNT162b2、Moderna社のmRNA-1273、AstraZeneca社のChAdOx1、Johnson & Johnson/Janssen社のAd26.COV2.S、Novavax社のNVX-CoV2373)の予防効果は、播種する主たるウイルスが野生株(武漢原株とそれから派生したウイルスの機能に影響を与えない株を含む:第1世代)からD614G変異株(従来株:第2世代)に置換されつつあった2020年の夏から秋にかけて施行された第III相試験の結果を基に報告された(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.; Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416.; Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:99-111.; Sadoff J, et al. N Engl J Med. 2021;384:2187-2201.; Heath PT, et al. N Engl J Med. 2021 Jun 30. [Epub ahead of print])。 各ワクチンの第III相試験の結果は満足いくもので、有症候性感染に対する発症予防効果は、BNT162b2で94.8%、mRNA-1273で94.1%、ChAdOx1で81.5%、Ad26.COV2.S(単回接種)で72%、NVX-CoV2373で85.6%であった。さらに、無症候性感染予防効果、重症化(ICU入院/死亡)予防効果においても臨床的に満足いく結果が報告された。しかしながら、2021年の1月以降、世界を席巻する主たるウイルスはD614G株からさらに変異/進化を遂げた第3世代のウイルスに置換されつつある。第3世代変異株は、従来株に比べ感染性、病原性が高く、WHOは広範囲の地域に播種し世界レベルで多大な健康被害をもたらす可能性がある変異ウイルスをVariants of Concern(VOC)と定義した(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 April 27.)。 VOCとして定義された変異株には、Alpha株(英国株:B.1.1.7)、Beta株(南アフリカ株:B.1.351)、Gamma株(ブラジル株:P.1)、Delta株(インド株:B.1.617.2)の4種類が含まれる。7月27日現在、Alpha株は世界182ヵ国、Beta株は131ヵ国、Gamma株は81ヵ国、Delta株は132ヵ国で検出されており(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 27.)、7月13日現在、本邦を含む世界41ヵ国で4種のVOCすべてが共存することが確認されている(Weekly epidemiological update on COVID-19. WHO. 2021 July 13.)。さらに、WHOは局地的に蔓延している4種類の変異株をVariants of Interest(VOI)、13種類の変異株をVariants of Alert(VOA)に分類し、今後の持続的注意を呼び掛けている(Tracking SARS-CoV-2 Variants. WHO. 2021 July 18.)。VOC、VOI、VOAに分類された21種類の変異株は、感染性増強、ウイルス複製増加、あるいは、液性免疫回避を惹起する変異を有し、武漢原株のS蛋白を原型として作成された現状ワクチンの予防能力を減弱させる。すなわち、ワクチンの効果は地域/国によって異なり、その地域にあっていかなる変異株が優勢的に蔓延しているかを背景因子として考えておかなければならない。ワクチン接種後の新規感染は、Breakthrough infection(ワクチン突破新規感染)と呼称されるが、このBreakthrough infectionを形成する原因ウイルスも、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されることを念頭に置く必要がある。 本論評で取り上げたThompsonらの論文は、米国でワクチン接種が開始された2020年12月14日から2021年4月10日までの期間に集積されたReal-world settingにおけるワクチン接種の効果をワクチン非接種群と比較検討したものである。RNAワクチン(BNT162b2:67%、mRNA-1273:33%)の1回目接種後14日以上で2回目接種後14日未満の対象をワクチン不完全接種群、2回目接種後14日以上経過した対象をワクチン完全接種群と定義し、両者の感染予防効果(症状とは無関係に鼻腔拭い液のPCR陽性患者に対する予防効果)とワクチン接種に抗して発生したBreakthrough infectionの動態について解析している。 本論文で明らかにされた重要な事項は、(1)ワクチン完全接種群の感染予防効果は91%(BNT162b2:93%、mRNA-1273:82%)、不完全接種群の感染予防効果は81%(BNT162b2:80%、mRNA-1273:83%)、(2)ワクチン接種後のBreakthrough infectionのウイルスRNA量はワクチン非接種群の新規感染者に較べ40%低く、ウイルス検出期間はワクチン非接種群より66%低下していたという事実である。以上の結果は、ワクチン接種群では、たとえBreakthrough infectionが発生したとしても原因ウイルスの病原性はワクチン非接種群における同じウイルスの病原性よりも低く抑えられていることを意味し、これもワクチン接種の重要な効果の1つと考えることができる。本論文から推測できるワクチン完全接種による疑似感染後の新規感染率は0.19%であり、この値は新型コロナ自然感染後の再感染率(0.2%)と一致した(Rosemary RJ, et al. Lancet. 2021;397:1161-1163.)。以上の事実は、mRNAワクチン接種による疑似感染後の液性・細胞性免疫反応と自然感染後のそれらには質的な差が存在するにもかかわらず(Arunachalam PS, et al. Nature. 2021 Jul 12. [Epub ahead of print])、両者の感染予防効果はほぼ同等であることを示唆する。 Thompsonらの論文は、2021年4月初旬までの期間に集積されたワクチン接種群と非接種群における新規感染者の解析結果であり、背景ウイルスは7月現在の状況とは異なる。Thompsonらの論文に添付された補遺によると、ワクチン非接種群から判定される解析時点で米国を席巻していた背景ウイルスは、本論評で定義した第1世代に相当する野生株が90%を占め、WHOが定義したVOC(B.1.1.7)とVOA(B.1.427、B.1.429、P.2)が10%を占めた。一方、ワクチン接種群におけるBreakthrough infectionの原因ウイルスは、野生株が70%、VOA(B.1.429)が30%を占めた。ワクチン接種群と非接種群におけるVOC、VOA感染率が有意な差であるか否かは解析されていないので正確なところは不明であるが、Thompsonらの報告は、ワクチン接種後には、ワクチン抵抗性であるが故に高病原性のVOC、VOAの感染率が相対的に高くなる可能性を示唆している。 Thompsonらの論文では、5月以降、米国で感染が急上昇しているWHO分類のVOCの1つであるDelta株(インド株:B.1.617.2)が一例も検出されていないことに注意する必要がある。New York Times紙は、(1)米国では、新規感染者におけるDelta株の占める割合が5月初旬に数%であったものが2.5ヵ月後の7月14日時点では85%に達し、VOCにあってAlpha株から病原性の高いDelta株への置換が急速に進行している、(2)大規模なワクチン接種の励行によって一度低下した重症患者数が7月に入り再度増加に転じている、(3)Delta株による自然感染はワクチン接種率が低い州でより著明である、と報じた(The New York Times. 2021 July 17.)。2021年7月30日、米国CDCは、ワクチン接種率(接種ワクチン:BNT162b2、mRNA-1273、Ad26.COV2.S)が69%であったマサチューセッツ州のバーンスタブル郡で、ワクチン完全接種群においてDelta株感染のクラスターが発生したことを報告した(Brown CM, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70:1059-1062.)。CDCの報告によると、7月中に上記の地域で469例の新規コロナ感染者が検出され、うち346例(74%)がワクチン完全接種者におけるBreakthrough infectionであり、その90%がDelta株感染であった(B.1.617.2:89%、AY.3:1%)。この報告は衝撃的で、代表的な3つのワクチンに対するDelta株の高い抵抗性と、その結果として、ワクチン接種後のDelta株感染率が相対的に上昇する可能性を示唆している。 本邦における2021年4月1日から6月30日までのBreakthrough infectionの実態については、国立感染症研究所が報告している(国立感染症研究所. 2021年7月21日)。この時期、本邦を播種していたウイルスの主体はAlpha株であり、Delta株感染は上昇傾向を示していたものの主たるウイルスには至っていない。報告によると、27都道府県から130例のBreakthrough infectionが検出されたとのことである。原因ウイルスはAlpha株が77%、Delta株が10%、R.1株が10%、Gamma株が2.6%であった。Breakthrough infectionを形成する原因ウイルスは、その地域/国に蔓延しているウイルスの種類によって規定されるので、本邦においても背景ウイルスのさらなる厳密なモニターを念願するものである。

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第70回 医療者が危惧する国産コロナワクチン・治療薬の「条件付き早期承認」

新型コロナウイルスを巡っては、国産のワクチンや治療薬の登場が見えてきた。第一三共が開発中のmRNAワクチン「DS-5670」は、年内にも最終の臨床試験を行い、来年後半の実用化を目指す。塩野義製薬が開発中の治療薬「S-217622」は、年内に100万〜200万人分の提供体制を整える方針だ。いずれも「条件付き早期承認制度」の適用を受け、国に承認を申請する。同制度は、国産薬剤を早期に承認するため治験の条件を緩和するものだが、販売後に評価を行う条件で承認するため、拙速な審査を懸念する声が医療現場から出ている。治療薬も国内外で開発競争が激化政府は、海外製ワクチンに依存している現状を打破し、国産ワクチンの開発を進めるため、今年6月に「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定し、薬事承認プロセスの迅速化や戦略的研究費の配分などを打ち出した。その流れに沿って、第一三共は従来数万人規模で行う最終臨床試験を、国内外の数千人規模で実施。接種後の抗体価などをファイザー製やモデルナ製のワクチンと比較する方法で有効性を確認することなどにより、開発に要する期間を短縮する。塩野義の治療薬は、承認されれば軽症者用の経口薬としては国内初。自宅で簡単に服用できる飲み薬のニーズは大きい。感染初期に1日1回、5日間服用することで重症化を防ぎ、発熱などの症状を改善する。7月に臨床試験を開始、第1段階を9月、第2段階を11月に終了する予定だ。国内で承認されている4つの新型コロナ治療薬のうち、軽症者用は「抗体カクテル療法」だけで、入院患者が対象だ。そのため、入院前に重症化を防ぐ治療薬が求められていた。 自宅でこうした薬を飲むことで入院しなくて済めば、医療の逼迫も抑えられる。ちなみに、塩野義以外の新型コロナ治療薬の経口薬候補には、中外製薬の「AT-527」、富士フイルムホールディングスの「アビガン」、MSDの「モルヌピラビル」が最終段階にある。また、米ファイザーも米国で第1段階の治験を進めており、国内外で開発競争は激化している。塩野義は経口治療薬の海外への供給に向け、米国の生物医学先端研究開発局と協議を進めている。拙速承認と市販後評価におけるリスク条件付き早期承認制度について、新型コロナ感染症患者を診ているクリニックの理事長は「早期承認は、国際的には評価が定まっていない方法。抗体価は免疫のパワーを測定する数値だが、それが全てではない。発病予防効果の有無について市販して実際人々に打ってからデータを集めるとなると、海外から売ってくれということにはならないだろう。私も第1選択にはしない」と言う。一方、薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)では、日本を含む30ヵ国の薬事承認担当者でタスクフォースを作り、新たに開発するワクチンに関わる迅速な承認の国際ルールについて協議し、年末をめどに合意する方向にあるという。ある自民党議員は「将来的には日本で作ったワクチンを30ヵ国に売り込むことができる。ワクチンには戦略も重要だ」と話す。接種率が低くても世界3番目のワクチン供与国際社会での影響力を強めるため、米中がワクチン供与でしのぎを削る中、日本は世界3番手の“ワクチン外交”を展開している。主要7ヵ国でワクチン接種率が最も低調であるにもかかわらず、である。それだけに、国産ワクチン・治療薬の開発が国民のためだけではない“思惑”を感じる。前述の理事長は「科学的データに基づき、感染・発病・重症化に対する予防効果がしっかり評価されたワクチンを患者のために選んでいきたい。メーカーには、市場における勝ち負けよりも、患者のためという基本理念に忠実であってほしい」と述べる。

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第70回 真夏のホラー、コロナ患者「重症者以外自宅療養」方針めぐるドタバタで考えた“野戦病院”の必要性

「重症患者や重症化リスクの特に高い方以外の方は自宅で」と菅首相こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は、諸々危ない東京を離れ、こっそりテントを担いで山に籠ろうと考えていたのですが、台風の接近で渋々断念。秋山に備え、山道具のメンテナンスで時間を潰しました。結構へたった道具も見つかり、それはそれで有意義な時間でした。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、7月30日には緊急事態宣言の対象府県が追加され、8月8日からはまん延防止等重点措置の適用地域に福島、茨城、栃木、群馬、静岡、愛知、滋賀、熊本の8県が追加されました。これによって、重点措置の適用地域は13道府県となりました。そんな中、8月2日に政府が打ち出した「新型コロナウイルスの感染者は重症患者などを除き自宅療養を基本とする」とした方針が、医療界だけでなく、政治の世界でも大混乱を引き起こしました。菅 義偉首相はこの日の記者会見で「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。(自宅療養者には)地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします」と語ったわけですが、国民の多くには“患者切り捨て”と聞こえてしまったのです。私自身もニュースで菅首相の発言を聞いていました。重大なことを国民に伝えようとしているのに目は死んだ鯉のようで、事態の深刻さは伝わってきません。どうやら、菅首相は自分が話している言葉の意味を理解していないことが多いようです。8月6日の広島の平和記念式典での挨拶でも、肝心の部分を読み飛ばし、意味不明のことを話していましたし…。「究極の棄民政策だ」と舛添氏それにしても、中等症(肺炎症状が相当深刻な人もいます)を入院させないなんて…。これはもはや真夏のホラー映画です。野党は「患者を放棄する無責任な対応だ」と猛反対、自民党の新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチーム内からも「事前に知らされていなかった」と不満が吹き出し、撤回を求める動きも起こりました。前東京都知事で厚生労働大臣も務めたことがある舛添 要一氏はツイッターで「究極の棄民政策だ」と強く批判しました。混乱が起こった理由の一つは、この方針が全国一律で行われるとみられたことです。2日の菅首相の記者会見を聞き直しても、「全国一律の方針」に聞こえました。その後、あまりの大反対の声に政府は方針を転換、4日の記者会見で菅首相は「東京や首都圏など爆発的な感染拡大が生じている地域であり、全国一律ではない」と強調するに至りました。「重症者以外自宅療養」のトーン弱まる「地域の診療所に往診やオンライン診療でなどで状況把握を行ってもらう」という方針に対しても、医療現場からは「急変した時に、確実に入院させられるか保証がない」「往診はそもそも手間と時間がかかり、対応人数にも限りがある」など、批判が相次ぎました。「重症者以外切り捨てようとしている」という批判に政府も流石に焦ったのか、菅首相は8月3日に行われた医療関係団体との意見交換で、病床確保や自宅・宿泊療養の強化への協力を要請した際、中等症患者については入院対応の方針を示しました。MEDIFAX等の報道によれば菅首相は、「酸素投与が必要な人、糖尿病などの疾患がある人は確実に入院していただき、それ以外の人で症状が悪くなった場合には、必ずすぐに入院できる体制を整備していく」と語ったとのことです。同日には厚生労働省から「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」と題する事務連絡が出され、 その中で「入院治療は、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い人に重点化することも可能である」との解釈が示されました。事務連絡も2日後に内容修正、「中等症は原則入院」にさらにこの事務連絡、2日後の8月5日、「中等症も原則入院対象とする」という内容に追加資料で修正するに至りました。上記の事務連絡の3枚目に1枚追加されているパワーポイントの資料がそれです。与党が問題視した対象地域について、当初は「患者が急増している地域」となっていましたが、「東京都をはじめ感染者が急増している地域」と地域名が追加され、全国一律の対応ではないことが強調されました。患者対応の方法についても、「感染者急増地域において可能とする新たな選択肢」という名称になり、「緊急的な対応として自治体の判断で対応を可能とする」となりました。そして肝心の入院については、当初「重症患者や特に重症化リスクの高い者に重点化」としていたものが、修正資料では「入院は重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者に重点化(最終的には医師の判断)」となり、「医師の判断」も明記されました。つまり、「中等症は原則入院」ということになったのです。ただし、「入院させる必要がある患者以外は自宅療養を基本」の方針は変わっていません。3日の事務連絡そのものは撤回せず、追加資料において事実上の軌道修正を行った格好ですが、政府と厚労省の混乱ぶりがうかがえます。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」与党である自民党、公明党にも知らされず、政府対策分科会の尾身 茂会長にも事前相談がなかったとされるこの方針決定。政府が2日の関係閣僚会議で打ち出した、とのことですが、どういった議論を経て決定し、公表に至ったのかは不透明なままです。報道等によれば、尾身会長に相談しなかったことに関して田村 憲久厚生労働大臣は、「病床のオペレーションの問題なので政府で決めた」と語ったとのことです。厚労省も入って検討したということですが、厚労省の幹部が本当に、中等症含む自宅療養者を往診とオンライン診療でカバーするというような、稚拙かつ現実味のない対応策を提案したのでしょうか。8月6日付の朝日新聞は、「厚労省幹部によると、入院制限は今週後半に公表する予定で東京都と調整していたが、都内の感染拡大を受けて前倒しで発表。資料を精査しきれず、根回しも十分行わない見切り発車だった」と報道しています。また、同日付の日本経済新聞は、政府と与党の連絡不足を指摘、「首相は官房長官を務めていた時期、自民党本部などにしばしば足を運んだ。菅政権ではこのような調整役不足が指摘される」と書いています。厚労省は「精査不足」で、政府は「調整役不足」って、一体この政権、大丈夫なのでしょうか。入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは誰かそれにしても気になるのは厚労省の「精査不足」です。在宅医療は医師が患者宅に出向く必要があるため効率が悪く、X線やCTを用いての肺炎の診断もできません。患者数が多い場合は在宅には限界があることや、そもそも地域で在宅医療(や往診)を積極展開している医療機関の数は決して多くはないことを、厚労省の幹部も認識しているはずです。そう考えると、入院制限、重症者以外自宅療養を打ち出したのは、厚労官僚ではなく、菅首相取り巻きの内閣府の官僚ではないか、という推測も成り立ちます。厚労省幹部が在宅での対応の限界を菅首相に進言したにもかかわらず一蹴され、引き下がってしまったのだとしたら、それもまたホラーです。各地の体育館などに“野戦病院”的施設をつくったら?そんな混乱の中、8月5日の尾身会長の厚生労働委委員会での発言は、とても建設的で意味があると感じました。尾身氏は「入院か在宅か、という議論になりつつあるが、今の感染状況の中で国民のニーズに応えるためには一本足打法は駄目だ。一つ目は医療を病院だけでなく、地域全体でさらに強化する。二つ目は、宿泊療養施設の強化。最後に、自宅療養で軽症の人も重症化するリスクがあるから、すぐに医療に結びつけるようなシステム。この3点を総合的にやることが必要だ」と語ったとのことです。「尾身氏は感染症の専門家であり、医療提供体制の専門家ではない」という批判もあるようですが、関係閣僚会議で出された方針よりも、はるかに理にかなっています。中等症、軽症と診断され、自宅で療養するというのはとても不安なものです。自宅療養者が増え過ぎ、保健所や自治体のフォローアップ機関が対応できないなら、症状や重症度を的確に判断できる医療スタッフの下で集団療養してもらうほうが、「安全・安心」ではないでしょうか。仮に宿泊療養施設の確保や、そこでの医療提供が難しいとするなら、ここは割り切って各地の体育館などに即席の“野戦病院”的な療養施設をつくり、必要な医療機器も配置し、そこに地域の開業医をはじめとする医療スタッフたちを持ち回りで常駐させたらどうでしょう。今が有事とするならば、療養環境は後回しにして、より多くの中等症、軽症患者を効率よく診察し、必要に応じて重症病床のある病院に送る(在宅死を招かない)仕組みの構築は待ったなしだと思います。災害時の福祉避難所のイメージ尾身氏の発言を聞いてふと頭に浮かんだのは、東日本大震災の時に取材した、石巻市の福祉避難所「遊学館」です。「遊学館」は、元々はスポーツアリーナ・コンサートホール・室内プール多目的会議室等を有する複合施設だったのですが、震災直後は、介護度が高い高齢者や医療が必要な人が、広い体育館の中で寝かされ、必要な医療・介護サービスを受けていました。当然ながら他の避難所よりも医療・介護スタッフが多く、自宅で療養するよりも「安全・安心」の医療・介護が提供されていました。そもそも、今年1月以降、医療提供体制の不備が批判され始めた時に、最悪の状況に対応するための仕組みを各地で準備しておくべきだったのです。仮にデルタ株の感染拡大が収まったとしても、脅威となる新たな変異株が出現する可能性もあります。ぜひとも、国や医療関係団体は、体育館等を活用した“野戦病院”的療養施設の開設と地域の開業医動員についての検討を進めてほしいと思います。

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コロナワクチン接種後の心膜炎、高齢者でも発症か?

 新型コロナワクチンの接種が世界各国で進むなか、副反応症状として心筋炎などの心臓関連の病態も明らかになりつつある。米国・Providence Regional Medical Center EverettのGeorge A. Diaz氏らはワクチン接種後の心筋炎や心膜炎の症例を識別するため、ワクチン接種者のカルテを検証した。その結果、心筋炎は若い患者で主に2回目接種後早期に発症することが明らかになった。一方の心膜炎は初回接種後20日(中央値)または2回目接種後に影響を及ぼし、とくに高齢者で注意が必要なことが示唆された。JAMA Network Open誌2021年8月4日号リサーチレターでの報告。 研究者らは、ワクチン接種前(2019年1月~2021年1月)とワクチン接種期間(2021年2~5月)において、初回病院診断(2018年1月~2019年1月以前に診断された患者を除く)の月の平均診断率を比較した。米国内の40病院(ワシントン州、オレゴン州、モンタナ州、カリフォルニア州ロサンゼルス郡)の電子医療記録(EMR)データを基に検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナワクチン接種を1回は受けたことのある200万287例のカルテを利用した。そのうち女性は58.9%で、年齢中央値は57歳(四分位範囲[IQR]:40~70歳)、2回目接種完了者は76.5%だった。・接種者のワクチンの内訳はファイザー製が52.6%、モデルナ製が44.1%、J&J製が3.1%だった。・20例がワクチン関連の心筋炎(10万人あたり1.0、95%信頼区間[95%CI]:0.61~1.54)、37例が心膜炎(10万人あたり1.8、95%CI:1.30~2.55)だった。・心筋炎の発症について、ワクチン接種後の中央値は3.5日(IQR:3.0~10.8日)で、モデルナ製で11例(55%)、ファイザー製では9例(45%)だった。・20例中15例(75%、95%CI:53~89%)は男性、年齢中央値は36歳(IQR:26~48歳)だった。・4例(20%、95%CI:8~42%)は初回接種後に症状を発症し、16例(80%、95%CI:58~92%)は2回目接種後に症状を発症した。・19例(95%、95%CI:76~99%)は入院したものの、中央値2日後(IQR:2〜3日)に全員が退院した。再入院や死亡なかった。・2例は心筋炎発症後に2回目接種を受けたが、どちらも症状の悪化はみられなかった。・フォローアップ期間の中央値は症状発現後23.5日(IQR:4.8~41.3日)で、13例(65%、95%CI:43~82%)は症状の消失を認め、7例(35%、95%CI:18~57%)は症状の改善が得られた。・次に心膜炎については、15例(40.5%、95%CI:26~57%)は初回接種後、22例(59.5%、95%CI:44~74%)は2回目接種後に発症した(モデルナ製:12例[32%]、ファイザー製:23例[62%]、J&J製:2例[5%])。・発症の中央値は、初回接種から20日(IQR:6.0〜41.0日)だった。・27例(73%、95%CI:57~85%)は男性で、年齢中央値は59歳(IQR:46~69歳)だった。・13例(35%、95%CI:22~51%)が入院し、滞在期間の中央値は1日(IQR:1~2日)だった。集中治療室への入室はなかった。・心膜炎の7例は2回目接種を受けたが、死亡者はなかった。・フォローアップ期間の中央値は28日(IQR:7~53日)で、7例(19%、95%CI:9~34%)は症状が消失し、23例(62%、95%CI:46~76%)は改善した。・ワクチン接種前の心筋炎の平均月間症例数は16.9例(95%CI:15.3~18.6)だった。一方で、ワクチン期間中は27.3例(95%CI:22.4~32.9)と増加傾向だった(p<0.001)。また、同期間の心膜炎の平均月間症例数は、ワクチン接種前が49.1例(95%CI:46.4~51.9)、ワクチン期間中は78.8例(95%CI:70.3~87.9)だった(p<0.001)。

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COVID-19に対する薬物治療の考え方 第8版、中和抗体薬を追加/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田一博氏[東邦大学医学部教授])は、8月6日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬について指針として「COVID-19に対する薬物治療の考え方第8版」をまとめ、同会のホームページで公開した。 今回の改訂では、前回7版からの知見の追加のほか、先日承認された中和抗体薬の項目が追加された。また、デルタ株の猛威に対し「一般市民の皆様へ ~かからないために、かかった時のために~」を日本環境感染学会と連名で公開した。中和抗体薬を新たに追加 第8版では「中和抗体薬」として下記を追加した(一部を抜粋して示す)。【機序】中和抗体薬は単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られたSARS-CoV-2スパイク蛋白の受容体結合ドメインに対する抗体。【海外での臨床報告】中和抗体薬は、発症から時間の経っていない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示され、また投与時にすでに自己の抗体を有する患者では効果が期待できないことが示されている。重症化リスク因子を1つ以上持つCOVID-19外来患者4,057人を対象としたランダム化比較試験では、カシリビマブ/イムデビマブの単回投与により、プラセボと比較して、COVID-19による入院または全死亡がそれぞれ71.3%、70.4%有意に減少した。また、症状が消失するまでの期間(中央値)は、両投与群ともプラセボ群に比べて4日短かった。【投与方法(用法・用量)】通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)およびイムデビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注。【投与時の注意点】1)SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと。2)高流量酸素または人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある。3)本剤の中和活性が低いSARS-CoV-2変異株に対しては本剤の有効性が期待できない可能性があるため、SARS-CoV-2の最新の流行株の情報を踏まえ、本剤投与の適切性を検討すること。4)SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。5)重症化リスク因子については、その代表的な例として、承認審査での評価資料となった海外第III相試験(COV-2067試験)の組み入れ基準、新型コロナウイルス感染症に係る国内の主要な診療ガイドラインである「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」または特例承認の際に根拠とした米国の緊急使用許可(EUA)において例示されている重症化リスク因子が想定される。外来で聞かれたら答えたい4項目 一般向けとして公開された「私たちからのメッセージ」では、・COVID-19 に関して知っておきたいこと・かからないためにわたしたちは何をすべきなのか・かかってしまった人に・皆さんへのお願いの4項目を示し、解説としてデルタ株の特性、現況の感染状況、医療体制への悪影響、ワクチンの重要性、感染しないために個人ができる対策を記している。また、最後に「皆さんへのお願い」では、ワクチン接種と感染対策の励行、正しい情報の共有、他人への気遣い、ワクチン未接種者への理解を訴えている。

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ブレークスルー感染も、ワクチンが変異株の重症化を抑制か/CDC

 新型コロナウイルスの変異株であるデルタ株は感染性が高く、このほど米国でワクチン接種完了者によるブレークスルー感染が報告された。しかし、この報告からワクチンの効果がないと言えるのだろうかー。 CDC COVID-19 Response TeamのCatherine M. Brown氏らによると、マサチューセッツ州バーンスタブル群で発生した大規模クラスターの74%はファイザー製ワクチン接種完了者であったことが明らかになった。ただし、入院患者の割合は1.2%と、ワクチンが普及する前の既存株による重症化率と比較すると少ない傾向であることも示された。米国疾病予防管理センター(CDC)のMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)8月6日号での報告。 2021年7月3~17日、マサチューセッツ州バーンスタブル郡の町において、複数のイベントや大規模な集会に関連した新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)469例が確認された。この症例はマサチューセッツ州公衆衛生局(MADPH)が同州のCOVID-19監視システムを利用して7月10〜26日の旅行履歴データから特定したもので、追加症例は調査を通じて地域の保健管轄区域で特定された。クラスター関連の症例は、居住者または7月3日からバーンスタブル郡の町への旅行滞在者で、新型コロナウイルス検査(リアルタイムPCR[PT-PCR法]または抗原検査)で陽性判定が行われた。 主な結果は以下のとおり。・469件の新型コロナ症例が確認され、陽性検体の採取日付は7月6~25日までの期間だった。・感染者の大半が男性(85%)で、年齢中央値は40歳だった。・199例(42%)はバーンスタブル郡の町の居住者だった。・感染者のうち346例(74%)は新型コロナワクチンの接種完了者(ブレークスルー感染)だった。・ブレークスルー感染者346例のうち男性は301例(87%)、年齢中央値は42歳だった。・5例が入院したが、7月27日の時点で死亡例はなかった。・入院患者5例(年齢範囲:50〜59歳)のうち4例がワクチン接種完了者で、2名は基礎疾患を有していた。・ブレークスルー感染者が接種していたワクチンは、ファイザー製が159例(46%)、モデルナ製が131例(38%)、J&J製(米国ではヤンセン)が56例(16%)だった。・274例(79%)で新型コロナの感染徴候または症状を報告し、主な症状は咳、頭痛、喉の痛み、筋肉痛、および発熱だった。・ブレークスルー感染者において、ワクチン2回目接種後14日以降から症状発症までの期間中央値は86日だった(範囲:6〜178日)。・ワクチン完了者(127例)、ワクチン未接種者とワクチン1回目完了/接種状況不明者84例のリアルタイムPCRのCt値(中央値)は、それぞれ22.77、21.54だった。・133例から採取した検体を遺伝子解析したところ、119例(89%)でデルタ株関連が同定された。 以上の報告からCDCは、デルタ株は非常に感染性が高く、新型コロナワクチンの予防接種は“重度の病気や死を防ぐための最も重要な戦略”としている。また、7月27日からはすべてのワクチン接種完了者にも“新型コロナ感染が高い地域の屋内・公共の場でのマスク着用を推奨する”としている。

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コロナワクチン、1回目でアレルギー出現も2回目接種できる?

 海外では新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン接種後のアレルギー反応は2%も報告され、アナフィラキシーは1万人あたり最大2.5人に発生している。国内に目を向けると、厚生労働省の最新情報1)によれば、アナフィラキシー報告はファイザー製で289件(100万回接種あたり7件)、モデルナ製で1件(100万回接種あたり1.0件)と非常に稀ではあるが、初回投与後に反応があった場合に2回目の接種をどうするかは、まだまだ議論の余地がある。 今回、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのMatthew S Krantz氏らは、ファイザー製またモデルナ製ワクチンの初回接種時にアナフィラキシーまたは遅発性のアレルギー反応を経験した被接種者において、2回目接種の安全性を検証するため投与耐性について調査を行った。その結果、2回目の接種を受けた患者の20%で軽度の症状が報告されたが、2回目接種を受けたすべての患者が安全に一連のワクチン接種を完了したことを明らかにした。また、必要に応じて将来も新型コロナのmRNAワクチンを使用できることも示唆した。JAMA Network Open誌2021年7月26日号のリサーチレターでの報告。 本研究は、2021年1月1日~3月31日に米・マサチューセッツ総合病院、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院、ヴァンダービルト大学医療センター、イェール大学、テキサス大学サウスウェスタン・メディカル・センターが合同で後ろ向き研究を実施。ファイザー製またはモデルナ製ワクチンに対してアナフィラキシー反応を示し、(1)初回投与4時間以内に発症 (2)少なくとも1つ以上のアレルギー症状を有した(3)アレルギー/免疫専門医へ紹介された人が患者として定義づけられた。アナフィラキシーはブライトン分類およびNIAID/FAAN(米国・国立アレルギー感染症研究所/ Food Allergy and Anaphylaxis Network criteria)の基準のうち、1つ以上を満たすものとした。 主要評価項目は2回目接種の耐性で、(1)2回目の投与後アナフィラキシー症状がない(2)症状が軽度、自然治癒したおよび/または抗ヒスタミン薬のみで解消した症状、のいずれかと定義した。 主な結果は以下のとおり。・参加者は189例(平均年齢±SD:43±14歳、女性:163例[86%])だった。・評価されたmRNAワクチンの初回投与反応のうち、モデルナ製を投与したのは130例(69%)、ファイザー製は59例(31%)だった。・最も頻繁に報告された初回投与反応は、紅潮または紅斑で53例(28%)、めまい・立ちくらみは49例(26%)、接種部位のうずき・ヒリヒリ感は46例(24%)、喉の圧迫感は41例(22%)、じんましんは39例(21%)、喘鳴または息切れは39例(21%)だった。・32例(17%)はアナフィラキシーの基準を満たしていた。・参加者のうち159例(84%)が2回目の接種を受け、前投薬として抗ヒスタミン薬(30%)を投与したのは47例(30%)だった。・初回投与後にアナフィラキシーと診断された19例を含む159例が2回目の投与に耐えられた。・32例(20%)は2回目の接種によるアナフィラキシーや遅発性のアレルギーを報告したが、自然治癒・症状軽度および/または抗ヒスタミン薬のみで解決した。 研究者らは、「今回の報告は初回投与後にアナフィラキシーや遅発性のアレルギー反応を報告する患者に対し、ファイザー製またはモデルナ製ワクチンの2回目の投与の安全性を支持する。初回投与後に反応を示した多くの被接種者がすべて真のアレルギー反応ではないか、または非IgE依存性アレルギー反応だったため、症状が前投薬で軽減できた」と主張した。

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第69回 コロナワクチン接種者の74%がブレークスルー感染!一体どんな状況だった?

現在、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の変異株であるデルタ株。従来の新型コロナウイルスの基本再生産数が1.4~3.5と言われるなか、米国疾患予防管理センター(CDC)がデルタ株に関しては水痘と同程度の5~9.5との内部資料を作成していたことが明らかになった。日本でも東京都をはじめとする首都圏を中心に過去最高を更新する感染者数の報告が続いているが、国立感染症研究所によると7月27日時点で新型コロナ陽性検体に占めるデルタ株の割合は関東地方で75%を占めると推定されている。現在、アメリカでもデルタ株による感染は急増中と伝わってきているが、そんな最中、ぎょっとする以下のようなニュースを目にした。多くの皆さんも目にしていると思われる。「米東部クラスター、ワクチン接種者が74% 当局分析 「重症化防ぐ」接種は推奨」(日本経済新聞)まず、記事から読める事実関係を箇条書きする。マサチューセッツ州バーンスタブル郡でクラスターが発生同郡では7月初旬、数千人の観光客が訪れた大規模イベントを開催報告された感染者は469人感染者のうち74%(346人)がワクチン接種を終えたブレークスルー感染ブレークスルー感染者346人のうち79%(274人)はせき、頭痛、のどの痛み、筋肉痛、熱といった通常のコロナ感染と同じ症状27日時点で死者はいないブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が46%、モデルナ製が38%、J&J製が16%デルタ型に感染したワクチン接種者からは、未接種者と同等のウイルス量これらから、CDCは「ワクチン接種完了者も屋内でマスクを着用するよう推奨」をしたという。正直、私も一瞬は見出しにあった「74%」という数字の大きさにぎょっとした。そしてSNS上ではワクチン忌避者を中心に「それみたことか」とばかりにこの記事の引用が目についた。しかし、どうにもすっきりしない。そこで実際、CDCのホームページを訪れたら詳細な報告が掲載されていた。新たに分かった情報を以下に箇条書きで追記する。イベント開催は7月3~17日感染者133人から採取した検体の遺伝子解析ではデルタ株関連が89%入院者5人のうち4人はワクチン接種完了者ワクチン接種完了者の入院4人は20~70歳、うち2人は基礎疾患あり死亡例なしワクチン接種完了者127人、ワクチン未接種者・部分接種者・ワクチン接種状況不明者84人の各リアルタイムPCR(RT-PCR法)の Ct値(中央値)は22.77、21.54でほぼ同様感染者はバー、レストラン、ゲストハウス、レンタルホームなどで行われる屋内外の密集したイベントに参加症例の多くは男性(85%)で年齢中央値は40歳感染者の半数近い199人(42%)がバーンスタブル郡の町に居住ブレークスルー感染者のうち87%は男性で、年齢中央値は42歳ブレークスルー感染者346人の接種ワクチンはファイザー製が159人、モデルナ製が131人、J&J製が56人ブレークスルー感染者でのワクチン接種完了14日後以降から発症するまでの期間の中央値は86日(範囲:6~178日)ただ、そこはやはりCDCと言うべきか、この報告にはリミテーションが4つ記述されていた。 簡単に要約して記述すると(1)集団レベルでのワクチン接種率が上昇すればブレークスルー感染が新型コロナ感染者のより大きな割合を占めるようになる、(2)検出バイアスのために無症候性のブレークスルー感染が過小評価されている可能性がある、(3)成人男性を対象としたイベントで感染者の属性は一般的な市中感染の属性を反映していない、(4)RT-PCR法で得られたCt値はサンプル中に存在するウイルス量との粗い相関関係を示す可能性があり、ウイルス量以外の要因にも影響される可能性がある、というものだ。まず、私は(1)の要素は見逃せないと考える。今回、クラスターでの全感染者報告数の約4分の3(346人)がブレークスルー感染者という数字だけを見て驚いたのは私だけではないと思う。しかし、確かにワクチン接種が進むほど見かけ上のブレークスルー感染者数の絶対値が大きくなるのは確かだ。そこでこのブレークスルー感染がどの程度の頻度で起きるかだが、最近、イスラエルから報告された日本でのコミナティ筋注、すなわちファイザー製のワクチン接種完了14日後以降、PCR検査で追跡が可能だった医療従事者1,497例での研究からは、ブレークスルー感染(無症候を含む)発生率は2.6%と分かっている。もっともこの2.6%は、一般人よりも感染対策がソフィストケートされている医療従事者での数字あり、しかもアルファ株流行時のもの、さらにファイザー製に限定した結果という点は注意する必要がある。それでも仮としてこの確率を使うと、ワクチン接種完了者が100人ならばブレークスルー感染者は2~3人発生することになるが、1万人ならば260人。つまり母集団の規模によって評価は変わる。前述のように今回のマサチューセッツ州のクラスターではファイザー製ワクチン接種者でのブレークスルー感染者は159人で、ブレークスルー感染率2.6%を援用すれば、母集団のワクチン接種完了者が6,115人以上ならば何も問題はない数字である。では今回のクラスター事案は母集団がどれくらいになるかだが、前述のように全米から観光客だけで数千人が集まったことが明らかになっている。開催地のマサチューセッツ州バーンスタブル郡の人口は約21万6,000人だが、調べていくうちにこのイベントの開催地は人口約3,000人のプロビンスタウンと判明した。この町に全米から数千人が押し寄せたことになるわけで、ほぼ町全体を巻き込んだイベントだろうと考えられた。そこでまず数千人を5,000人と仮定し、ワクチン接種完了率をマサチューセッツ州の約70%、全米の約50%という数字を使って計算すると、ワクチン接種完了者はプロビンスタウン住民で2,100人、参加者で2,500人、合計4,600人となる。この数字から逆に今回のブレークスルー感染率を逆算すれば約10%となる。やや高めにも思えるが、一般人では医療従事者ほど日常的な感染対策が徹底されていない、基本再生産数から見るデルタ株の感染力が従来株の3倍弱、アルファ株との比較でデルタ株の感染力が約1.6倍と言われていること、J&J製はファイザー製やモデルナ製と比べ、有効率が低いことなどを考慮すればあり得ない数字ではない。もっともブレークスルー感染率が仮に10%だったとしても、その他大勢はワクチンによって守られていることになるし、入院以上を重症と考えた場合、今回のブレークスルー感染者での重症化率は1.2%という計算になり、一般的な新型コロナの重症化率の20%からはかなり低く、重症化予防効果は十分にある。ワクチン接種のメリットはまだまだ高いと言えるだろう。そんなこんなを考えながら、そもそもこのイベントとは何なのだという疑問が浮かんできた。答えはインターネット上の検索で容易に判明した。すでに前述した発生地の地名を見て気づいていた人もいるかもしれない。私は検索でようやく知ったのだが、プロビンスタウンは世界的にも有名なゲイ・タウンで同性婚も認められており、感染者多発の原因になったイベント自体がゲイ向けのもの。全米から駆け付ける参加者も例年は1万人超で、前述の数千人=5,000人という設定も過少かもしれない。過去の同様のイベント写真なども見つけたが、肩が触れ合うほど密集した場所で連日ダンスなどをして楽しむなど、誤解を恐れずに言えば三密・濃厚接触前提。ワクチン接種完了者全員が同一のブレークスルー感染率ならば、当然三密状態にある人はそうでない人に比べ、感染リスクは高まる。もっともCDCがリミテーションで指摘しているように無症候感染者が十分にカウントされていないため、そこまで補足すればさらにブレークスルー感染率は上昇するだろう。だが、いずれにせよこれまで指摘した諸条件から考えれば今回のクラスター発生そのものは特段不思議なものではないし、ワクチンの信頼性を低下させるようなものではないと考えられるだろう。

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ファイザー製とシノバック製ワクチン、中和抗体価に差はあるのか

 中国・シノバック製の新型コロナワクチンの有効性について、ファイザー製やモデルナ製のmRNAワクチンより低いとする報告が多いが、免疫原性に違いはあるのか。今回、香港の医療従事者を対象に、ファイザー製のBNT162b2ワクチンまたはシノバック製の不活化ウイルス(vero細胞)ワクチンを2回接種し中和抗体価を測定したところ、ファイザー製ワクチンのほうが大幅に上昇していた。WHO協力センターである中国・香港大学のWey Wen Lim氏らが、Lancet Microbe誌オンライン版2021年7月16日号で報告した。 本研究の対象は、香港の公立および私立病院と診療所における1,442人の医療従事者。ワクチン接種前、初回接種後(2回目接種前)、2回目接種後(21〜35日後)に採血し、ELISAでスパイクタンパク質受容体結合ドメインに結合する抗体価を、また代替ウイルス中和試験(sVNT)およびプラーク減少中和試験(PRNT)で中和抗体価を測定した。ここでは、ワクチン接種前、初回接種後、2回目接種後のデータが揃っている93人における予備的な試験結果を報告した。 主な結果は以下のとおり。・93人の医療従事者のうち、ファイザー製ワクチン接種したのは63人(男性55.6%、年齢中央値37歳[範囲26〜60歳])、シノバック製ワクチン接種したのは30人(男性23.3%、年齢中央値47歳[範囲31〜65歳])であった。・ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者では、ELISAおよびsVNTで測定した抗体価は、初回接種後に大幅に上昇し、2回目接種後に再上昇した。PRNTの結果が得られた12人のサブセットにおいて、2回目接種後のPRNT50力価の幾何平均値は269、PRNT90力価の幾何平均値は113だった。・一方、シノバック製ワクチンを接種した医療従事者では、ワクチン接種後にELISAおよびsVNTで測定された抗体価は低く、2回目接種後に中程度に上昇した。PRNTの結果も得られた12人のサブセットにおいて、2回目接種後のPRNT50力価の幾何平均値は27、PRNT90力価の幾何平均値は8.4だった。 著者らは「中和抗体価と新型コロナワクチンにおける防御との関連が提案されている。ここで示された中和抗体価の差は、ワクチンの有効性の差につながる可能性がある」と考察している。なお、本研究では、T細胞や抗体依存性細胞傷害抗体などの防御の関連については検討されていない。

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第69回 コロナ中等症自宅療養、AZワクチン接種推進―政策転換に求められるエビデンスある説明

東京都の新型コロナウイルスの新規感染者が4,000人台を突破、自宅療養者も1万人超となる中、政府は中等症以上の患者の「原則入院」を見直し、重症以外は自宅療養を基本とする方針に突然転換した。これに対し、医療現場からは「重症化リスクを誰がどう管理するのか」「患者を見捨てる政策ではないか」といった批判の声が上がっている。中等症自宅療養で懸念される重症化新型コロナ感染者は、発症からの日数と経過を概括すると、1週間は軽症(約80%)、1週間~10日位は中等症(15%)、10日以降は重症(約5%)となる。中等症はIとIIに分かれるが、自宅療養だと、中等症I(息切れ、肺炎所見)の場合、入院していれば投与できる抗ウイルス薬「レムデシビル」が使用できなくなり、中等症II(呼吸不全)の場合、重症化を防ぐ抗炎症薬の使用が遅れると、救える命も救えなくなる可能性が出てくる。中等症感染者を見捨てないためには、入院の必要性がある人を早く見つけ、入院させる体制を構築するのが急務だ。今後、感染者が爆発的に増えて、自宅療養中に重症化する人が増加した場合、発見が遅れたり、入院先も見つからなかったりするケースも増えるだろう。実際このような状況は、第3波では東京で、第4波では大阪ですでに起きている。とくに今回の新型コロナ第5波では、若年者の中等症IIが増えている点が問題になっている。感染層として一番多い年代が中等症化しており、背景にあるのは、感染力の強いインド型変異ウイルス「デルタ株」の感染拡大である。インドでは、感染者が酸素を求めて病院に押し寄せるなど、医療用酸素の不足も深刻化しており、日本においても危機感を感じている医療人は少なくない。ある医療人は「新型コロナ第5波では、いつ重症化するかわからない中等症患者の予備軍が大勢いる。感染状況を正確に把握しないかぎり根本的に解決しない問題だ。政府はどのようなエビデンスに基づいて、方針転換したのだろうか」と疑問を呈する。AZ製ワクチンではプラス情報が不足十分な説明のない新型コロナ政策の転換は、アストラゼネカ(AZ)製ワクチン接種を原則40歳以上に進める方針にも言える。AZ製ワクチンは接種後、まれに血栓症が生じる懸念が報告され、国民の間にはマイナスイメージが強い。自治体からは「住民の接種に使わない」との声も上がっているという。接種のめどが立たない中、コロナ感染が急拡大してワクチンが不足した台湾に、日本政府はAZ製ワクチンを供給したが、一部の台湾国民からは「日本人が使わないワクチンを台湾人に使わせるのか」といった批判も出た。今後、国内においてもAZ製ワクチンの接種を進めるならば、マイナスイメージを払拭するプラスの情報が必要なはずだ。安全性のエビデンスや副反応対策を示すほか、2回目接種にAZ製ワクチンを打つと、抗体がより多くできるといった研究をスルーせず、真摯に検証してみることも必要だろう。新型コロナ政策を巡っては、休業要請や緊急事態宣言などをとってみても、論理的根拠を示せないまま国民に要請するばかり。エビデンスを示し、納得のいく説明と強いメッセージを発することで医療人や国民に行動を促すのは、なにもコロナに限ったことではない、きわめてシンプルな政治の基本だと思う。

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コロナのブレークスルー感染、感染前の中和抗体価と関連か/NEJM

 BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech製)を完全接種した健康な医療従事者1,497例のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)へのブレークスルー感染が認められたのは39例で、いずれの感染者も非感染者に比べて、感染前(SARS-CoV-2検出前1週間以内)の中和抗体価が低いことが、イスラエル・Sheba Medical Center Tel HashomerのMoriah Bergwerk氏らによる検討で示された。また、ブレークスルー感染者のほとんどが軽症か無症状だったが、持続的な症状を呈するという。BNT162b2 mRNAワクチンはSARS-CoV-2に対する高い有効性にもかかわらず、まれなブレークスルー感染が報告されている。研究グループは、これらの感染を特徴付け、ブレークスルーと感染性の相関関係を調べた。NEJM誌オンライン版2021年7月28日号掲載の報告。ケース・コントロールで感染相関関係要因を検証 研究グループは、イスラエル最大の医療センターに勤務する医療従事者を対象に、無症状者も含め、ワクチン完全接種後のブレークスルー感染者の特定を行った。ブレークスルー感染の定義は、ワクチンの2回目接種後11日以降のRT-PCR検査によるSARS-CoV-2の検出で、最初の6日以内に明らかな曝露や症状があった場合には除外した。 症候性(軽症を含む)、あるいは感染者との接触が確認された被験者について、疫学的調査、RT-PCR検査、抗原迅速診断法(Ag-RDT)、血清検査、ゲノム解析など詳細な検査を行った。 感染者と非感染者についてケース・コントロール解析を行い、ブレークスルー感染との相関関係要因を検証した。具体的には、SARS-CoV-2検出前1週間以内に抗体価を測定したブレークスルー感染者と、非感染者のマッチング・コントロール4~5例について、一般化推定方程式を用いて、感染群とコントロール群の幾何平均抗体価と両群抗体価の比率を予測した。感染と中和抗体価、N遺伝子増幅に必要なサイクル数(Ct値)との関連性についても検証した。ほとんどのブレークスルー感染者が軽症・無症状、19%は6週間以上症状継続 ワクチン完全接種者でRT-PCR検査結果が得られた1,497例の医療従事者のうち、SARS-CoV-2のブレークスルー感染が認められたのは39例だった。 感染群のSARS-CoV-2検出前1週間以内の中和抗体価は、非感染のコントロール群に比べ低値だった(感染群のコントロール群に対する率比:0.361、95%信頼区間[CI]:0.165~0.787)。感染前の中和抗体価の高値は、感染性の低下(Ct値がより高い)と関連していた。 ほとんどのブレークスルー感染者が軽症か無症状だったが、うち19%で症状が6週間以上続いた。 検査を行った85%が、B.1.1.7(α)株だった。 感染群の74%が、感染中のウイルス負荷が高かった(Ct値30未満)が、同時に行ったAg-RDTで陽性結果が出たのはそのうち59%(17例)だった。2次感染は認められなかった。

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第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性

首都圏に緊急事態宣言再発令も手詰まり感、ロックダウン法制化も現実味こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。オリンピックの競技が佳境に入る中、新型コロナ感染症の新規感染者数もうなぎ登りになって来ました。首都圏の病床の逼迫具合も深刻さを増しており、菅 義偉首相が繰り返し国民に約束してきた「安全、安心」のオリンピック開催は既に破綻状態と言えます(オリンピック関係者の陽性者も増えています)。7月28日、東京都の新規感染者数が初めて3,000人を超え、3,177人と発表された日、テレビ朝日系列の報道ステーションは興味深い指摘をしていました。約1ヵ月前に厚生労働省が発表したシミュレーションでは、緊急事態宣言を出した場合、東京都の7月の新規感染者数は1,000人程度のピークで留まり、その後は減少していく、という予測だったそうです。一方、緊急事態宣言を出さずに人流も減らなかった場合は、28日の段階で3,000人規模になり、その後も上昇する、という予測でした。つまり、現在の東京の感染状況は、「緊急事態宣言を出さなかった場合の予測」とほぼ同じになっているのです。それにも関わらず、8月2日から埼玉、千葉、神奈川の各県と大阪府に再び緊急事態宣言が発令されました。もはや感染拡大を抑える効果がほとんどない緊急事態宣言は、国が国民に感染拡大の責任の一部を押し付けるためのエクスキューズのようにも見えます。政府が首都圏での緊急事態宣言発令を決定する前日の7月29日には、日本医師会、日本病院会など9つの医療関係団体が、緊急事態宣言の対象を全国にすることも検討するよう、政府に求める緊急声明を発表しています。年初から散々、コロナ対応病床不足や地域での連携不足を指摘され、その反省のもと医療体制を整えてきたはずなのに、この慌てぶりは何なのでしょう。政府も日医をはじめとする医療関係団体も、ワクチン接種に過大な期待をかける一方で、デルタ株の恐ろしさ(7月末に明らかになった疾病対策センターの内部資料では「デルタ株はより重篤な症状を引き起こし、水痘と同じくらい容易に蔓延するとみられる」とされています)を甘く見ていたのではないでしょうか。7月30日の政府の基本的対処方針分科会では、将来的にはロックダウン(都市封鎖)を可能とする法整備の検討を求める声も出たようです。菅首相はこの時点では否定的な考えだったとのことですが、このまま感染拡大が収まらなければ、日本でもロックダウンの法制化があるかもしれません。8月2日に開かれた関係閣僚会議では、重症患者や重症化リスクの高い人には、必要な病床を確保するとともに、それ以外の人は自宅療養を基本とし、症状が悪化すれば、すぐに入院できる体制を整備する方針が示されました。自宅などを医師が往診した場合、診療報酬が950点増額されるとのことですが、これで新たに往診を始めよう、件数を増やそうという医療機関がそれほど出てくるとは思えません(往診に取り組んでいるところはもうやっているでしょう)。むしろ、コロナ患者の往診や訪問診療に慣れておらず感染対策も不十分な医師の新規参入は、逆に地域で感染を拡大させる危険性すらあります。「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」をフィーチャーさて、前回に続き、政府が臨時閣議で決定した「経済財政運営と改革の基本方針2021」(「骨太の方針2021」)について、気になったことを書いていきます。「骨太の方針2021」では、感染症拡大の緊急時の対応を、より強力な体制と司令塔の下で推進する考えが示されました。中でも医療提供体制については、感染症に対応するため、医療定休体制の「平時」と「緊急時」の体制を迅速・柔軟に行うべき、としています。そのための具体的方策としては「かかりつけ医」と「地域医療連携推進法人」がフィーチャーされています。前回は日本医師会が頑なに制度化を反対する「かかりつけ医」について書きました。今回はもう一つの要となりそうな制度、地域医療連携推進法人について考えてみたいと思います。連携推進法人制度を活用し、病院の連携・機能強化と集約化進める「骨太の方針2021」では、地域医療連携推進法人について「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の中で、「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」と明記されました。地域医療連携推進法人制度がスタートして4年、当初は「単なる医療機関の統廃合の促進策」「経済的なメリットがほとんどなく手を挙げるところは少ないのでは」などと医療関係者の多くから揶揄され、認定される数も全国で年数法人程度と超スローペースでした。しかしここに来て、コロナ禍の中、地域医療連携推進法人に参加している病院・施設間で、コロナ患者の重症度による患者振り分けを行っているところも出てきており、より有機的な医療連携のモデルとして改めて着目されています。コロナ禍にあっても設立を検討する医療法人や自治体が増えていると聞きます。制度ができる前から、各地で地域医療連携推進法人の設立をサポートしてきた知人の医療コンサルタントは、閣議決定直後、「雌伏4年、やっと連携法人の時代がやって来る!」とわざわざ連絡してきたくらいでした。危機感を持つ医療法人同士が連携と効率化を自発的に進める仕組みでは、地域医療連携推進法人とはいったいどんな制度なのでしょうか。簡単におさらいしておきましょう。この制度は、「医療機関相互の機能の分担および業務の連携を推進し、地域医療構想を達成するための一つの選択肢」として、2015年の医療法改正で創設が決まり、2017年4月から制度がスタートしました。「競争よりも協調を進め、地域において質が高く効率的な医療提供体制を確保」するため、それまで個々の経営理念、方針に基づき運営されてきた複数の病院などを一つの方向性に導き、より良い機能分担や連携、経営効率化を進めるための仕組みが制度に盛り込まれています。元々は「ホールディングカンパニー型」を提案もっとも、国は当初、違った思惑と目的を持って制度化を検討していました。今から8年前の2013年8月、「社会保障制度改革国民会議報告書」は、「地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である」とし、制度改革の一例としてホールディングカンパニー型を提案しました。そもそも医療法人には、合併制度はあるもののハードルが高く、一方、公的病院は合併制度自体が存在しません。こうした状況を踏まえての提案でした。その後、2014年6月に閣議決定した「日本再興戦略(改訂2014)」で、「複数の医療法人や社会福祉法人等を、社員総会等を通じて統括し、一体的な経営を可能とする『非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)』を創設する」として新制度創設に向けて議論が本格的に動き出しました。しかし、紆余曲折を経て、最終的には現行の医療法の枠組みの中で「新型法人」として検討が進み、地域の医療機能の連携強化や資源効率化のための手段、という役割が全面に出された今の制度に落ち着いたわけです。「地域医療構想を達成するための一つの選択肢」という役割も付与されています。地域医療連携推進法人の3つの業務地域医療連携推進法人の主な業務内容は、1)統一的な医療連携推進方針の決定2)医療連携推進業務等の実施3)参加法人の統括の3つです。1)の「統一的な医療連携推進方針」とは、複数の医療機関で、診療内容や病床機能、在宅復帰への流れなどについて統一した方針を定めるということです。核となる2)の「医療連携推進業務」は、診療科・病床の再編、医療従事者らの共同研修、医師の配置換え、医薬品等の共同交渉・共同購入、医療機器の共同利用等、かなり幅広い業務が認められています。なお、診療科・病床の再編に関しては、参加法人内の病院間の病床の融通も可能です。ある病院で産科病床を閉めて病床が余った場合、他の病院のがんの病床の増床に振り向ける、といったこともできるわけです。経営者のセンスが試される「医療連携推進業務等の実施」つまり、参加した医療法人が有する病院間で、診療科や医療機能の棲み分けを行い、より効率的に地域医療を展開するためのツールが地域医療連携推進法人なのです。医師ばかりでなく、看護師や診療放射線技師などの医療スタッフを必要に応じて法人間で融通したり、地域フォーミュラリーを策定して薬剤を共同購入したりしている地域医療連携推進法人もあります。参加法人の了解を取り、「医療連携推進業務」をどこまで広げられるかが活用のポイントであり、経営者のリーダーシップやセンスが試される制度と言えるでしょう。北海道から鹿児島県まで28法人が認定2021年7月1日現在、北は北海道から南は鹿児島県まで28法人が地域医療連携推進法人として認定されています。厚生労働省のサイトには、その一覧が掲載されています。各都道府県の当該サイトでは、個々の地域医療連携推進法人の詳細を見ることもできます。大病院を核に中小病院や介護保険施設などが集まり、地域包括ケアシステムの構築を視野に入れるもの(山形県の日本海ヘルスケアネットなど)から、へき地において医師の確保に主眼を置くもの(広島県の備北メディカルネットワークなど)、県立病院と民間病院の統合をスムーズに進める前段階として認可を受けたもの(兵庫県のはりま姫路総合医療センター整備推進機構)まで、制度の活用の仕方はさまざまです。大学病院が主導して地域医療連携推進法人をつくる例もあります。愛知県の藤田医科大学が中心となってつくった尾三会や、大阪府の関西医科大学が主導してつくった北河内メディカルネットワークなどがそれに当たります。大学病院から退院する患者の受け皿整備が狙いとみられます。各地の地域医療連携推進法人に共通するのは、将来への危機感を持つ病院が生き残りをかけて集まっていることです。国や都道府県が進める地域医療構想では医療機能の棲み分けや、経営効率化が進まないことから、リーダーシップのある病院経営者が地域の医療機関を説得し、地域医療連携推進法人の設立を考えるケースもあるようです。日医は「株式会社の参入につながる」と懸念を表明地域医療連携推進法人は、医療法において5年ごとに制度見直しを行うことが決まっており、2022年度から厚労省は制度見直しに着手する予定です。政府の「成長戦略フォローアップ工程表」では、国は2021年度中に資金融通等の制度面・運用面の課題を把握し、2022年度から検討を踏まえ措置する、とされており、地域医療連携推進法人の取り組みに対しインセンティブが働くような制度に改善されるでしょう。そうなると、生き残りをかける地域の医療機関にとっては、なくてはならない制度になる可能性もあります。もっとも、「骨太」で脚光を浴び、制度も改善の方向で動き始めた一方で、日本医師会はこの制度の普及・発展にはあまり乗り気ではないようです。中川 俊男会長は6月23日の定例記者会見で「骨太の方針2021」に明記された事項に対する日医の見解を説明しましたが、地域医療連携推進法人については、国や都道府県主導M&Aの推進、更には病院経営への株式会社の参入につながることへの懸念を表明したとのことです。医療機関が自主的に連携を強化し、機能の役割分担をしようという動きをも牽制するとは、相変わらずの守旧派ぶりと言えるでしょう。そう言えば、この制度がスタートしたばかりの2017年、九州のある県の医療審議会に、乳がん専門病院と泌尿器科の専門病院同士が地域医療連携推進法人を設立しようと認定を申請したことがありました。しかし、結果は「認定見送り」でした。書類等は完全に揃っていたにもかかわらず「見送り」となった理由は、「地元の医師会への事前の挨拶がなかったなど、医師会への配慮不十分だったため」(乳がん専門病院理事長の話)とのことでした。前回のかかりつけ医の制度化だけでなく、地域医療連携推進法人にまで横槍を入れる日本医師会。未曾有の医療危機にあっても変革をことごとく嫌うその姿勢には、正直呆れるほかありません。

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ワクチン接種後の感染例、疫学的・ウイルス学的特徴は?/感染研

 日本国内で確認されたワクチン接種後の感染例130例について、積極的疫学調査が実施され、2回目のワクチン接種後14日以降が経過した症例でも、一部で感染性のあるウイルスが気道検体中に検出された。7月21日開催の第44回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、国立感染症研究所感染病理部の鈴木 忠樹氏が、「新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査(第一報)」について報告した。 本調査の主な目的は、1)ワクチン接種後感染の実態把握、2)ワクチンにより選択された(可能性のある)変異株の検出、3)ワクチン接種後感染者間でのクラスターの探知であり、今回の報告は2021年6月30日時点における疫学的・ウイルス学的特徴の暫定的なまとめと位置付けられている。[調査方法]・2021年4月1日~6月30日までに1)医療機関・自治体からワクチン接種後感染として感染研に直接報告があった症例2)新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)に登録のあった感染者(ワクチン2回目接種日を0日として最初に検査陽性検体が採取された日まで14日以上経過)で、感染研から医療機関・自治体への問い合わせで協力が得られた症例について、患者・疫学情報や検体を収集した。・症例情報については本調査独自の症例報告書様式を作成し収集した。・気道検体は、N2領域のPCR再検での陽性例について、N501Y(アルファ株、ベータ株、ガンマ株等で認める)、E484K(ベータ株、ガンマ株等で認める)、L452R(デルタ株等で認める)変異を検出するPCRスクリーニング(変異検出PCR)およびウイルス分離試験を実施し、検体中のウイルスN2領域のPCRの結果、ウイルスRNA量が十分量あると判断された検体については、ウイルスゲノム解析を実施した。・1回目接種後14日~2回目接種後13日まで、2回目接種後14日以降について分けて解析した。※ただし現状では、集団の違い(医療従事者および高齢者の割合、接種時期、感染時期等)から、単純にこれらの2群を比較して解釈すべきではない。  主な結果は以下のとおり。・27都道府県から130例(うち2回目接種後14日以降67例)が報告された。医療従事者が106例(81.5%)を占める。・年齢中央値は44.5(20~98)歳、男性37例(28.5%)、女性93例(71.5%)であった。 ・免疫不全のある者(原発性免疫不全症、後天性免疫不全症候群など、[狭義の]免疫不全の診断を受けた者)はいなかったが、ステロイド等の免疫抑制剤の使用歴は3例(2.4%)で認めた。・接種していたワクチンは、121例(97.6%)がファイザー社製であった。・接触歴ありが92例(75.4%)を占めた(うち2回目接種後14日以降50例)。・症例報告書提出時点での重症度は、65例(50%)が無症状、60例(46.2%)が軽症、5例(3.8%)が中等症で、重症例はいなかった。・6月30日時点で、気道検体については101例(うち2回目接種後14日以降50例)が収集され、N2領域のPCR再検で68例が陽性となり、Ct値の中央値(範囲)は29.4(15.9~38.4)であった。・ウイルス分離可能であったのは分離を試行した58例中16例。変異検出PCRは68例で実施し、ウイルスゲノム解析が完了したのは39例であった。・ウイルスゲノム解析を実施した39例中、B.1.1.7系統(アルファ株)30例(うち2回目接種後14日以降12例)、R.1系統4例(0例)、B.1.617.2系統(デルタ株)4例(2例)、P.1系統(ガンマ株)1例(0例)を認めた。また、各系統特異的なスパイクタンパクの変異を除いては、免疫を逃避する可能性のあるスパイクタンパクへの新規の変異は認めなかった。 中間解析時点では、特殊な疫学的特徴はみられず 本報告では症例の大多数が優先接種対象の医療従事者であり、若年層が多く、無症状でも検査対象となる機会が比較的多いことなどもあり、多くが軽症および無症状であったと考察。高齢者への接種も現在では進んでおり、今後はそれらの知見も収集していくことが重要としている。 男女比については、内閣官房HPに公開されているワクチン接種記録システムの集計値において4月12日~4月25日の2週間で、(医療従事者が想定される)65歳未満の男女比は1:3程度と本報告の男女比と同程度であった。免疫不全や免疫抑制剤を使用している者は1割未満であった。 上記より、中間解析の時点では、特殊な疫学的特徴をもつ集団ではないことが示唆されたと考察されている。2回目接種後も感染性のあるウイルス検出 ワクチン1回目接種後のみならず2回目接種後14日以降においても、一部の症例では感染性のあるウイルスが気道検体中に検出されたことから、二次感染リスクも否定できないことがわかった。また、ワクチン接種後感染例から検出されたウイルスは、ワクチン接種により付与された免疫を回避できる新規の変異を有するウイルスではなく、同時期に国内各地域で流行しているウイルスであった。これらの結果より、ワクチン接種後であっても、その時点で流行しているウイルスに感染することがあること、および、ワクチン接種後感染例の一部では二次感染しうることが示唆され、ワクチン接種者における感染防止対策の継続は重要と考えられた。 今後は、ワクチン接種後であっても、新型コロナウイルス感染の疑いがある場合(有症状・接触者等)は積極的に検査を実施し、陽性検体の一部については、免疫逃避能を有する新たな変異ウイルスの出現の監視など、病原体解析を継続して実施していく必要があるとしている。

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初の軽症~中等症COVID-19の抗体カクテル療法「ロナプリーブ点滴静注セット300/1332」【下平博士のDIノート】第79回

初の軽症~中等症COVID-19の抗体カクテル療法「ロナプリーブ注射液セット300/1332」今回は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「カシリビマブ(遺伝子組み換え)/イムデビマブ(遺伝子組み換え)(商品名:ロナプリーブ注射液セット300/1332、製造販売元:中外製薬)」を紹介します。本剤は、2種類の中和抗体を組み合わせて投与する抗体カクテル療法であり、SARS-CoV-2の宿主細胞への侵入を阻害し、ウイルスの増殖を抑制すると考えられています。※本剤の販売名は、販売当初は「ロナプリーブ点滴静注セット300/1332」でしたが、2021年11月添付文書改訂による用法の変更に伴い、「ロナプリーブ注射液セット300/1332」と変更されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2021年7月19日に特例承認され、7月22日に発売されました。また、SARS-CoV-2による感染症の発症抑制の適応が2021年11月5日に追加されました。なお、本剤の適用は、臨床試験における経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者が対象となります。<用法・用量>通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組み換え)およびイムデビマブ(遺伝子組み換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注します。また、2021年11月の適応追加と同時に、単回皮下注射の用法が追加されました。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていないため、SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与する必要があります。<安全性>重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症(頻度不明)、infusion reaction(0.2%)が現れることがあります。上記が認められた場合には、投与速度の減速、投与中断または投与中止し、アドレナリン、副腎皮質ステロイド薬、抗ヒスタミン薬を投与するなど適切な処置を行うとともに、症状が回復するまで患者の状態を十分に観察します。<患者さんへの指導例>1.本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬です。1回の点滴で2種類の中和抗体を投与し、ウイルスの増殖を抑えます。2.過去に薬剤などで重篤なアレルギー症状を起こしたことのある方は必ず事前に申し出てください。3.投与中または投与後に、発熱、悪寒、吐き気、不整脈、胸痛、脱力感、頭痛のほか、過敏症やアレルギーのような症状が現れた場合は、すぐに近くにいる医療者または医療機関に連絡してください。<Shimo's eyes>わが国ではこれまで、COVID-19治療薬としてレムデシビル(商品名:ベクルリー)、デキサメタゾン(同:デカドロン)、バリシチニブ(同:オルミエント)の3剤が承認されています。いずれも別の疾患で承認されていた薬剤が転用されたものであり、対象は重症患者に限られています。本剤は、国内で初めて軽症から中等症患者を対象とするCOVID-19治療薬です。2021年11月に「SARS-CoV-2による感染症の発症抑制」の適応が追加され、初の予防的治療薬となりました。患者との濃厚接触者や無症状陽性者に対して、静脈内投与および皮下投与で予防的に投与されます。ただし、COVID-19の予防の基本はワクチン接種であり、本剤はワクチンに置き換わるものではありません。COVID-19の原因となるSARS-CoV-2は、その表面に存在するスパイクタンパク質(Sタンパク質)が宿主細胞表面の酵素に結合することで宿主細胞に侵入し、感染に至ります。本剤は、このSタンパク質と宿主細胞表面の酵素との結合を阻害し、宿主細胞への侵入を阻害することでウイルスの増殖を抑制します。変異を繰り返すウイルスに対しては、抗体が1種類だけでは期待する効果が得られにくいことから、2種の抗体が組み合わされました(抗体カクテル療法)。本剤は、アルファ株(B.1.1.7系統)、ベータ株(B.1.351系統)、ガンマ株(P.1系統)、デルタ株(B.1.617.2系統)などのSタンパク質の主要変異にも中和活性を保持していることが示唆されています。投与対象者は「重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者(軽症~中等症I)」とされています。厚生労働省の事務連絡により、当初は入院治療を要する患者に限られましたが、2021年8月より、対象が宿泊療養中の患者にも拡大されました。なお、臨床試験において、高流量酸素や人工呼吸器管理を要する患者では症状が悪化したという報告があり、重症患者は対象ではありません。《COVID-19の重症化リスク因子》65歳以上の高齢者悪性腫瘍慢性閉塞性肺疾患(COPD)慢性腎臓病2型糖尿病高血圧脂質異常症肥満(BMI30以上)喫煙固形臓器移植後の免疫不全妊娠後期引用:新型コロナウイルス感染症 診療の手引き第5.1版より海外の第III相試験では、重症化リスク因子を有し、酸素飽和度93%(室内気)以上の患者が対象とされました。主要評価項目である入院または死亡に至った割合は、本剤群(736例)では1.0%、プラセボ群(748例)では3.2%であり、リスクが70.4%減少しました。症状消失までの期間短縮も示されています。なお、別の臨床試験では感染予防効果を示す報告もありますが、今回の適用は感染した患者への投与に限られています。薬剤調整時は、希釈前に約20分間室温に放置します。11.1mLバイアルには、2回投与分(1回5mL)の溶液が含まれ、1回分の溶液を抜き取った後のバイアルは、25℃以下の室温で最大16時間、または2~8℃で最大48時間保存可能で、最大保存期間を超えた場合は廃棄することとされています。新しいCOVID-19治療薬の登場により感染患者の重症化を防ぐことができ、ひいては医療機関の負担が軽減されることが期待されます。※2021年8月と11月、厚生労働省の情報などを基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ロナプリーブ注射液セット300/ロナプリーブ注射液セット1332

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第71回 デルタ株を警戒する米国がマスク着用へ方針転換

先月7月の初めから中旬(7月3日~17日)に米国・マサチューセッツ州バーンスタブル郡で開催された幾つかの催しに同国全域から数千人が訪れ、それらの催しの最中に同郡に居合わせた同州住民469人の新型コロナウイルス感染(COVID-19)が7月26日までに確認されており、必要な回数のワクチン投与後2週間以上過ぎて接種完了状態(fully vaccinated)の人がそれら感染者のほとんど74%(346人)を占めました1)。133人の検体のウイルス配列を調べたところほとんど(120人、90%)がデルタ変異株(デルタAY.3株を含む)でした。7月3日時点でのマサチューセッツ州のCOVID-19ワクチン接種完了者の割合は69%であり、感染者469人のワクチン接種完了者の割合74%とだいたい同じでした。配列解析から示唆されるように469人の感染のほとんどがデルタ変異株で、催しに接した人々が同州の人口統計と一致すると仮定するなら接種完了者とそうでない人のデルタ変異株の感染しやすさはほぼ同程度だったのでしょう。感染者469人のうち先月27日時点で死亡例はなく、入院したのは5人で、そのうち4人はワクチン接種を完了しており、残り1人は非接種でした。また、ワクチン接種完了者とそうでない人のウイルス量にどうやら差はないようでした。米国疾病予防管理センター(CDC)はこれまでワクチン接種完了者のマスク着用はおよそ不要との見解を示していましたが、MMWR掲載の上記の解析を含む情報を受け、COVID-19が相当またはかなり多発している郡(areas of substantial and high transmission)の公の場の室内ではワクチン接種が済んでいようといまいと誰もがマスク着用を要するとの方針を先月27日に新たに示しました2)。COVID-19が相当またはかなり多発している郡の割合は先月末31日時点で約79%3)ですので、米国のほとんどの地域はCDCの新たなマスク着用方針の対象になります。ワクチン接種完了者のCOVID-19はたとえ感染ウイルスがデルタ変異株でも全体のほんの一握りであり、たいてい軽症で済みます。しかし、MMWRの報告が示すようにデルタ変異株感染者のウイルス量はワクチン接種が完了していても非接種と同様に多くなり、接種完了者でもデルタ変異株にひとたび感染すれば他の人を感染させてしまう恐れがあります4)。それゆえ、知らぬ間にうっかりウイルスを他人に広めてしまわないようにするためにCDCは今回の新たなマスク着用方針を決めました。CDCのマスク着用方針はあくまでもCOVID-19が相当またはかなり多発している郡に限りますが、マスク着用を含む予防対策の実行はそうでない地域でも検討すべきかもしれないとMMWR報告の著者は言っています1)。米国ではデルタ変異株が感染の増加を助長していますが、同国感染症対策リーダーAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏によると感染のほとんどはワクチン非接種のおよそ1億人における出来事です5)。ワクチン普及はCOVID-19流行を消し去るほどのものではないが昨冬のような事態の回避に十分なレベルに達しているに違いなく、再度の足止め(ロックダウン)はしないと同氏は言っています。参考1)Outbreak of SARS-CoV-2 Infections, Including COVID-19 Vaccine Breakthrough Infections, Associated with Large Public Gatherings - Barnstable County, Massachusetts, July 2021. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR). July 30, 2021.2)When You’ve Been Fully Vaccinated / CDC3)COVID-19 Integrated County View / CDC4)Statement from CDC Director Rochelle P. Walensky, MD, MPH on Today’s MMWR / CDC5)U.S. will not lock down despite surge driven by Delta variant, Fauci says / REUTERS

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新型コロナワクチン、デルタ株への有効性は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンであるBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)またはChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製)の2回接種後の有効性は、アルファ株とデルタ株で大きな差は認められなかった。ただし、初回接種後の両株に対するワクチンの有効性には顕著な差がみられ、デルタ株で低かった。英国・公衆衛生局のJamie Lopez Bernal氏らによる、診断陰性例コントロール試験の結果で、著者は結果を踏まえて、「したがって、脆弱な集団では2回のワクチン接種を最大化するよう努力する必要がある」と述べている。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2のB.1.617.2変異株(デルタ株)はインドでの感染者急増の一因で、現在、感染者の増加が顕著なイギリスを含め世界中で検出されている。この変異株に対するBNT162b2およびChAdOx1 nCoV-19ワクチンの有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2021年7月21日号掲載の報告。診断陰性例コントロール試験によりワクチンの変異株に対する有効性を検討 研究グループは、ワクチン(BNT162b2またはChAdOx1 nCoV-19)接種によるデルタ株への影響を推定する目的で、診断陰性例コントロール試験により、デルタ株が流行し始めた期間における優勢株(B.1.1.7またはアルファ株)と比較したデルタ株の症候性疾患に対するワクチンの有効性を推定した。 検討では、症候性のCOVID-19患者のワクチン接種状況と、症状を有するPCR検査陰性者のワクチン接種状況を比較。また、英国におけるすべての症候性COVID-19患者の症例データを用い、患者のワクチン接種状況に応じた変異株保有症例の割合を推定した。 変異株は、全ゲノムシークエンス解析を用いるとともに、TaqPath PCR法によるスパイク遺伝子標的の状態(陽性の場合はデルタ株、陰性の場合はアルファ株を保有)に基づいて同定した。デルタ株に対するワクチンの有効性、2回接種後で67~88% ワクチン初回接種後の有効性は、アルファ株保有者で48.7%(95%信頼区間[CI]:45.5~51.7)、デルタ株保有者で30.7%(95%CI:25.2~35.7)であり、デルタ株保有者で低かった。この結果は、両ワクチンで同様であった。 一方、2回接種後の有効性は、BNT162b2ワクチンでアルファ株93.7%(95%CI:91.6~95.3)、デルタ株88.0%(95%CI:85.3~90.1)、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンでそれぞれ74.5%(95%CI:68.4~79.4)、67.0%(95%CI:61.3~71.8)であった。

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中和抗体薬などについて追加、COVID-19診療の手引き/厚生労働省

 7月30日、厚生労働省は「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.2版」を公開した。 今回の改訂では、以下の4点が追記・修正された。・「1 病原体・疫学」の「海外発生状況」の更新・「2 臨床像」の「合併症」に、心筋炎・心膜炎、真菌感染症について追記・「4 重症度分類とマネジメント」で「中和抗体薬カシリビマブ/イムデビマブ」を追記・「5 薬物療法」で「各種薬剤の項目」を一部追記 また、同省は7月26日、「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(3.3版)」を改訂し、公開した。主に「海外在留邦人等に対するワクチン接種事業」、「ホームレス等の接種機会の確保」、「特設会場で一時的に同時期に複数種類のワクチンを使用する場合の取扱い」、「接種後の経過観察について、具体的な対応方法等」、「予防接種証明書」などが追記・修正された。 さらに、8月2日には「同(4版)」が公開され、本版では「アストラゼネカ社ワクチン用の予診票」、「接種不適当者」などが追記された。

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