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ヒブ(Hib)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第10回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)としてヒブを取り上げる。ヒブ(Hib)は、“Haemophilus influenzae type b”(インフルエンザ菌b型)の頭文字をとった呼称で、髄膜炎などにより多くの子供たちの命を奪ってきた病原体の1つである。しかし、2008年にワクチンが国内に導入されてからHib感染症の報告数は激減し、2014年以降、5歳未満のHib侵襲性感染症は報告されていない。あまりに目覚ましい発症予防効果のため、Hib感染症そのものが忘れ去られつつある今、本稿では改めてこの疾患の特徴と疫学、成人におけるワクチンの活用について取り上げる。ヒブワクチンで予防できる疾患Hibは気道を介して感染する(飛沫感染と接触感染)。乳幼児の上気道に定着し、ほとんどの場合は無症状である。ワクチンが導入される前の保菌率は、15歳以下の17%、16~30歳の5.1%であった。しかし、気道から血流感染を起こすと、図に示すように髄膜炎、肺炎、敗血症、喉頭蓋炎、中耳炎などさまざまな臓器に侵襲性感染症を起こす。なかでもHib髄膜炎の致死率は5%と高く、4人に1人にてんかん、難聴、発育障害などの後遺症を残す1)。1996~1998年の調査ではHib髄膜炎は年間約600人で、罹患リスクの高い生後2ヵ月~5歳までの間に2,000人に1人の割合で罹患していると推測されていた。インフルエンザ菌による侵襲性感染症は感染症法において、第5類感染症全数届出疾患となっている2)。図 ワクチン導入前のHib感染症の病型画像を拡大する細菌学的にみるとHibはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の1つで、インフルエンザ菌はa~f型の6つの莢膜菌型と、これらに該当しない型別不能の菌(Non-typable H. influenzae:NTHi)に分かれる。感染防御にあたって最も重要な宿主因子は莢膜多糖体(PRP/polyribosylribitol phosphate)に対する抗体である。通常は5歳以上になるとワクチン未接種であっても抗PRP抗体価が自然に上昇するため、感染リスクが低くなる。逆に乳児は感染リスクが高く、実際にワクチン導入前の侵襲性感染症の93%が5歳未満で、ピークは生後8ヵ月であった。このことから、生後早期に免疫を獲得しておくことが重要であるとわかる。ワクチンの概要表 ワクチンの概要と接種スケジュール画像を拡大する1)開発、普及の歴史ヒブワクチンは1980年代に開発が進んだ。はじめに開発されたのは莢膜多糖体(PRP)を抗原としたワクチンで、18ヵ月以上の小児を対象として導入されたが、効果は限定的で、また最も侵襲性感染症のリスクが高い2歳未満の小児への免疫原性が弱かった。その後、2歳未満の小児への免疫原性が改善された、PRPにキャリア蛋白を結合させた結合型ワクチン(conjugate vaccine)が開発され、現在わが国ではこのワクチンが採用されている。2006年、WHOが乳児期のワクチンとして推奨し、日本では2008年12月に販売開始となった。2010年11月には「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」により多くの自治体で公費助成の対象となり、さらに2013年4月からは定期接種(A型疾病)が開始された。2)効果発症予防効果は90%以上と高い。米国ではワクチン導入5年で、5歳未満の侵襲性感染症の罹患率が99%減少したと報告されている。日本でも1道9県における疫学調査により、公費助成後のHib髄膜炎の減少率は100%と示されている3,4)。3)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。4)注意点ヒブワクチンによるアナフィラキシーを起こしたことがある場合には禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント【5歳以上のワクチンについて】無脾症、待機的脾摘手術予定者、脾機能低下症、造血幹細胞移植者において、ヒブワクチンの接種が推奨される。前述の通り通常5歳以上では、ワクチン未接種であっても抗RPR抗体が上昇するため、ワクチン接種が不要である。しかしながら、上記のハイリスク群では、ワクチンによって十分な抗体価を維持する必要がある。米国の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)では、ヒブワクチン未接種の無脾症、待機的脾摘手術予定者では1回接種(脾摘術の場合は、術前14日前に接種)、造血幹細胞移植者ではヒブワクチン接種歴に関わらず移植後6~12ヵ月からの3回接種を推奨している。今度の課題、展望ヒブワクチンは、侵襲性Hib感染症の発症予防効果が非常に高く、Hib髄膜炎は今や過去の病気になりつつある。しかしながら臨床で遭遇することが減ったのは、高いワクチン接種率の恩恵であることを忘れてはならない。今後も肺炎球菌ワクチンと共に、ヒブワクチンの重要性を伝え、乳児期および高リスク者への接種を推奨してもらいたい。Hib感染症の減少とともに、非b型のインフルエンザ菌および無莢膜型(non-typable H. infuenzae:NTHi)による侵襲性感染症の増加が報告されている。2019年度感染症流行予測調査では、検討された58株のうち、3株がe型、4株がf型、その他の51株はNTHi であった。臨床診断名では26名が肺炎で最も多く(45%)、NTHiによる高齢者の肺炎が課題となっている。現在NTHiに対する複数のワクチン開発が進んでおり、今後の実用化が期待される。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集2020.インフルエンザ菌b型(Hib)感染(pdf)1)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018.2)国立感染症研究所. 令和元年度(2019年度)感染症流行予測調査報告書.(最終アクセス2021.7.15)3)厚生労働科学研究費補助金. 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成26年度 総括・分担研究報告書 庵原俊昭、「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)(厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム)4)菅秀. ワクチンの実地使用下における有効性・安全性及びその投与方法に関する基礎的 ・ 臨床的研究 平成28年度 委託研究開 発成果報告書(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)(最終アクセス2021.7.27)5)CDC. MMWR. 2014;63:1-14.講師紹介

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ブレークスルー感染、死亡・入院リスクが高い因子/BMJ

 英国・オックスフォード大学のJulia Hippisley-Cox氏らは、英国政府の委託で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行の第2波のデータを基に作成した、ワクチン接種後の死亡・入院のリスクを予測するアルゴリズム(QCovid3モデル)の有用性の検証を行った。その結果、ワクチンを接種しても、COVID-19関連の重症の転帰をもたらすいくつかの臨床的なリスク因子が同定され、このアルゴリズムは、接種後の死亡や入院のリスクが最も高い集団を、高度な判別能で特定することが示された。研究の成果は、BMJ誌2021年9月17日号に掲載された。アルゴリズムの妥当性を検証する英国の前向きコホート研究 本研究は、COVID-19ワクチンを1回または2回接種後のCOVID-19関連の死亡・入院のリスクを推定するリスク予測アルゴリズムの妥当性の検証を目的とする、英国の全国的な人口ベースの前向きコホート研究である(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。 解析にはQResearchデータベースが用いられた。このデータベースには、約1,200万例の臨床研究および薬剤の安全性研究に基づく個々の患者の臨床・薬剤に関するデータが含まれ、COVID-19ワクチン接種、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査結果、入院、全身性抗がん薬治療、放射線治療、全国的な死亡・がんのレジストリデータと関連付けられた。 2020年12月8日~2021年6月15日の期間に、COVID-19ワクチンを1回または2回接種した年齢19~100歳の集団(解析コホート)が対象となった。 主要アウトカムはCOVID-19関連死、副次アウトカムはCOVID-19関連入院とされ、ワクチンの初回および2回目の接種後14日から評価が行われた。また、解析コホートとは別の一般診療の検証コホートで、妥当性の評価が実施された。 ワクチンを接種した解析コホート695万2,440人(平均年齢[SD]52.46[17.73]歳、女性52.23%)のうち、515万310人(74.1%)が2回の接種を完了した。COVID-19関連死は2,031人、COVID-19関連入院は1,929人(最終的に446人[23.1%]が死亡)で認められ、2回目の接種後14日以降の発生はそれぞれ81人(4.0%)および71人(3.7%)だった。 最終的なCOVID-19関連死のリスク予測アルゴリズムには、年齢、性別、民族的出自、貧困状態(Townsend剥奪スコア[点数が高いほど貧困度が高い])、BMI、合併症の種類、SARS-CoV-2感染率が含まれた。早期介入の優先患者の選択に有用な可能性 COVID-19関連死の発生率は、年齢および貧困度が上がるに従って上昇し、男性、インド系とパキスタン系住民で高かった。COVID-19関連死のハザード比が最も高い原因別の因子として、ダウン症(12.7倍)、腎移植(慢性腎臓病[CKD]ステージ5、8.1倍)、鎌状赤血球症(7.7倍)、介護施設入居(4.1倍)、化学療法(4.3倍)、HIV/AIDS(3.3倍)、肝硬変(3.0倍)、神経疾患(2.6倍)、直近の骨髄移植または固形臓器移植の既往(2.5倍)、認知症(2.2倍)、パーキンソン病(2.2倍)が挙げられた。 また、これら以外の高リスクの病態(ハザード比で1.2~2.0倍)として、CKD、血液がん、てんかん、慢性閉塞性肺疾患、冠動脈性心疾患、脳卒中、心房細動、心不全、血栓塞栓症、末梢血管疾患、2型糖尿病が認められた。 一方、イベント数が少な過ぎて解析できなかった疾患を除き、COVID-19関連入院にも死亡と類似のパターンの関連性がみられた。 初回と2回目の接種後で、死亡・入院との関連性が異なるとのエビデンスは得られなかったが、2回目以降のほうが絶対リスクは低かった(初回接種のみと比較した2回目接種の死亡ハザード比[HR]:0.17[95%信頼区間[CI]:0.13~0.22]、入院HR:0.21[0.16~0.27])。 検証コホートでは、QCovid3アルゴリズムにより、COVID-19関連死までの期間の変動の74.1%(95%CI:71.1~77.0)が説明可能であった。D統計量は3.46(95%CI:3.19~3.73)、C統計量は92.5と、判別能も良好だった。このモデルの性能は、ワクチンの初回と2回目の接種後も同程度であった。また、COVID-19関連死のリスクが高い上位5%の集団では、70日以内のCOVID-19関連死を同定する感度は78.7%だった。 著者は、「このリスク層別化の方法は、公衆衛生上の施策の推進に役立ち、早期介入の対象となる患者の優先的な選択に有用となる可能性がある」としている。

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ハイブリッド・ワクチンは同種ワクチンより優れているか?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 1回目のワクチン接種(priming)と異なったワクチンを2回目に接種(booster)する方法は異種ワクチン混在接種(heterologous prime-boost vaccination)と呼称されるが、論評者らはハイブリッド・ワクチン接種と定義し、以前の論評でそれまでの論文を紹介した(山口, 田中. CareNet論評-1429)。しかしながら、その時の論評で取り上げることができなかった重要な論文がその後に出版された(Liu X, et al. Lancet. 2021;398:856-869.)。本論評では、Liu氏らの論文に焦点を絞りハイブリッド・ワクチンの臨床的意義について再考する。Liu氏らの論文の総括 Liu氏らは、AstraZenecaのadenovirus-vectored vaccineであるChAdOx1(ChAd)とPfizerのmRNA vaccineであるBNT162b2(BNT)の組み合わせにおいて野生株S蛋白に対する特異的IgG抗体価と中和抗体価、IFN-γを指標としたT細胞数の動態を解析した。主要な解析は、同種ワクチンに対するハイブリッド・ワクチンの非劣性検定であり、各指標においてChAd/ChAdとChAd/BNT、BNT/BNTとBNT/ChAdの比較が行われた(2回目ワクチン接種28日後の比較)。ChAd/ChAd(priming、booster共にChAdの同種ワクチン)とChAd/BNT(primingにChAd、boosterにBNTを用いるハイブリッド・ワクチン)の比較では、すべての指標においてハイブリッド・ワクチンのほうが勝っていた。BNT/BNT(priming、booster共にBNTの同種ワクチン)とBNT/ChAd(primingにBNT、boosterにChAdを用いるハイブリッド・ワクチン)の比較では、S蛋白IgG抗体価、中和抗体価において同種ワクチンのほうが勝っていた。しかしながら、T細胞数には両群間で有意差を認めなかった。以上の結果から、1回目にChAdを接種した場合には、2回目にBNTを接種するハイブリッド・ワクチンは有用で、同種ワクチン(ChAd/ChAd)に比較して液性、細胞性免疫を増強する効果を有することが判明した。一方、1回目にBNTを接種した場合には、2回目にChAdを接種するハイブリッド・ワクチンの有用性を認めなかった。ハイブリッド・ワクチンに関するLiu氏らの解析には以下の諸問題が存在する:(1)Delta株などの変異株に対する中和抗体価の動態が解析されていない、(2)ハイブリッド・ワクチンで有用性が高いと判定されたChAd/BNTの組み合わせによってreal-worldでのDelta株を中心とする変異株に対する感染/発症予防効果、重症化予防効果がChAd/ChAdに比べどの程度上昇するかが検討されていない、(3)ハイブリッド・ワクチンで賦活化されたS蛋白IgG抗体、中和抗体、T細胞数がどの程度の期間持続するのかが検討されていない。ハイブリッド・ワクチンの考えを今後も推し進めていくためには、上記の諸問題に答えられるようなstudy design下での解析が必要であろう。ハイブリッド・ワクチン開発の背景 ハイブリッド・ワクチンの試みは、1回目のワクチン接種として廉価なChAdを多用した欧州諸国を中心に検討されてきた。この1年間における検討で変異株に対する各ワクチンの効果の差(同種ワクチンの2回目接種後)が徐々に明らかにされた。たとえば、Delta株に対する中和抗体産生能は、mRNA-1273(Moderna)とBNTの比較において両者は同等、あるいは、mRNA-1273のほうが少し優れていると報告された(Edara VV, et al. N Engl J Med. 2021;385:664-666.、Richards NE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124331.)。しかしながら、BNTとmRNA-1273の差は本質的な差ではなく各ワクチンの投与量の差(BNT:30μg、mRNA-1273:100μg)に起因すると考えるべきである。一方、ChAdとBNTの比較では、すべての変異株に対してChAdの中和抗体価は2倍以上低く、かつ、時間経過に伴う低下速度も大きいことが示された(Wall EC, et al. Lancet. 2021;398:207-209.、Shrotri M, et al. Lancet. 2021;398:385-387.)。この中和抗体産生能(液性免疫原性)の差は、各ワクチンの変異株に対する予防効果に反映され、感染/発症予防効果はmRNA-1273>BNT>ChAdの順であった(しかし、入院などの重症予防効果は3つのワクチンで同等)(Sheikh A, et al. Lancet. 2021;397:2461-2462.、Puranik A, et al. medRxiv. 2021 August 21.)。以上のように、液性免疫原性ならびに感染/発症予防効果において、ChAdはmRNAワクチン(BNT、mRNA-1273)に比べ劣っており、ChAdを中心にしたハイブリッド・ワクチンを導入する医学的根拠は存在しない。しかしながら、ChAdは廉価であり医療経済的側面からはハイブリッド・ワクチンを導入する意義がある。ハイブリッド・ワクチンの今後 Delta株の世界的まん延を受け、現状では、Delta株を中心とする病原性の高い変異株を今後どのように制御していくかに医学的興味は移っている。その方法の一つとして、ワクチンを2回接種で終了しないで3回目の追加接種を行う方向で世界各国の方針がまとまりつつある。その意味で、医療経済的メリットはあるものの医学的メリットが少ないハイブリッド・ワクチンを2回の接種の中で考えるのではなく、3回目、あるいは、必要に応じて4回目、5回目接種の状況下で考慮していくべきではないだろうか? たとえば、ChAdの2回接種を終了した対象には、3回目以降mRNAワクチン(BNT、mRNA-1273)を接種する方法は医学的にも医療経済的にも意味がある。mRNAワクチンの2回接種を終了した対象には、ワクチン接種の公平性を考慮し、3回目以降の接種はChAdを用いて施行する方法はどうであろうか? 後者に対する医学的正当性は低いが社会的正当性は担保されていると論評者らは考えている。 Delta株など病原性の高い変異株を効率よく制御していくためには、ワクチン接種に関する方法論の違い(同種あるいはハイブリッド)とは別にワクチン接種と社会規制の相加/相乗効果の問題を考えておく必要がある。ワクチン接種の進行とともに集団免疫の効果が(不完全ながら)発現し、感染者数は減少するであろう。しかしながら、ワクチンの効果が確実な形で出現するためには、ある一定レベル以上の社会的規制を継続することが前提条件となる。すなわち、ワクチン接種による感染予防は、社会的規制を継続するという条件下で初めて達成できるものであることを認識しておく必要がある。以上の事柄は、新型コロナの感染が発症した時点から社会医学の分野で強調されている内容であり、現在でもその論点に間違いはない。感染者数が減少したからといって社会的規制を緩和すると数ヵ月後には感染者数が再増加する可能性が高いことを念頭に置く必要がある(Patel MD, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2110782.)。

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第72回 コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ/今季もインフルワクチンの積極的接種を

<先週の動き>1.コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ、国内でも早期承認を目指す2.今季もインフルワクチンの積極的接種を推奨/日本感染症学会3.子宮頸がんワクチン接種再開に向け、議論再開/厚労省4.岸田内閣の厚労大臣とワクチン担当相が内定、今日発足へ5.マイナンバー保険証、10月20日から本格運用へ/厚労省1.コロナ内服薬molnupiravirがFDA申請へ、国内でも早期承認を目指す米・メルク社がリッジバック・バイオセラピューティクス社と共同で開発中の経口抗ウイルス薬「molnupiravir」について、近く食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可申請を行う見込みであることが明らかとなった。本剤は、今年の春からわが国を含めた国際共同治験が開始されており、中間解析では外来で軽症~中等症の新型コロナ患者に対して、プラセボと比較して入院・死亡リスクを約50%低減させたとの結果が報告された。日本国内でも早期承認を目指し開発が進められている。molnupiravirは新型コロナ治療薬として世界初の内服薬となるだろう。(参考)米メルク 経口新型コロナ治療薬候補molnupiravir 第3相臨床試験の中間解析で入院・死亡リスク低減 米FDAにEUA申請へ(ミクスonline)コロナ「飲み薬」、入院・死亡リスク半減 米メルクが緊急使用許可を申請へ(CNN)米メルクのコロナ飲み薬、年内に日本調達へ 軽症者向け特例承認(毎日新聞)新型コロナの飲み薬、臨床試験で高い効果 入院半減、米メルク株急伸(朝日新聞)2.今季もインフルワクチンの積極的接種を推奨/日本感染症学会日本感染症学会のインフルエンザ委員会は、9月28日に「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」を発表した。今年の秋以降も新規コロナ患者が増えることが予想されるため、インフルエンザについてはなるべくワクチン接種を行い、医療現場の負担軽減を求めている。また、COVID-19罹患者ならびに濃厚接触者へのインフルエンザワクチン接種は、観察期間が終了してからの接種を、さらに中等症以上のCOVID-19で入院している人は、急性期症状から完全に回復してからの接種を推奨している。なお、厚生労働省が9月に発表した「季節性インフルエンザワクチンの供給について」では、今冬は昨年よりも遅れたペース(10月末時点では出荷見込み量全体の65%程度の供給)にとどまる一方、11月~12月中旬頃まで継続的にワクチンが供給される見込みだという。(参考)2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方(感染症学会)3.子宮頸がんワクチン接種再開に向け、議論再開/厚労省厚労省は、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するワクチン接種について、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を1日に開催した。海外におけるHPVワクチンの有効性や安全性データについて検討し、接種後の症状との関係を裏付ける根拠は認めなかった。またわが国における若年女性のHPVワクチン接種後症状についても検討され、接種群における有害事象の発現率の有意な上昇を認めなかった。このため「積極的勧奨を妨げる要素はない」との意見で一致した。今後は、接種の再開時期や接種後に症状を訴えた人への支援体制の拡充について議論を行っていく。(参考)接種の積極的呼びかけ 中止から8年 再開めぐる議論始まる(NHK)HPVワクチン勧奨、厚労省部会再開一致 接種後症状、医療体制強化(毎日新聞)資料 HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンスについて(厚労省)4.岸田内閣の厚労大臣とワクチン担当相が内定、今日発足へ自民党の岸田 文雄新総裁は3日、新たに発足する岸田内閣の厚生労働大臣に後藤 茂之氏を、新型コロナワクチン担当大臣に堀内 詔子氏を起用する人事を固めた。後藤氏は初の入閣。また、堀内氏は、オリンピック・パラリンピック担当大臣も兼務する見通し。野田 聖子氏は少子化担当相に起用されるとともに、新たに創設される「こども庁」も担当することになった。また、岸田氏は自民党総裁選に勝利した後の記者会見において、看護師・介護士等の給与を「適正に引き上げる」と表明したことも話題になっている。仕事に見合う処遇改善を目的に、賃上げにも力を入れる意向。総裁選では、エッセンシャルワーカーの報酬引き上げに向け「公的価格評価検討委員会」の設置を掲げていた。なお、財源については「医療の市場は40兆円、介護の市場は10兆円。市場自体を大きくすることもしっかり考えながら、この市場の中での分配のあり方、適正に分配されているかどうかを考えることも重要だと思う」と述べた。(参考)自民 岸田総裁 厚生労働相に後藤茂之氏 起用の意向固める(NHK)岸田新内閣きょう発足へ 閣僚の顔ぶれ固まる(同)岸田氏「介護士給与、思い切って引き上げないと」(産経新聞)岸田新総裁、介護職の賃上げに取り組む意向を表明 「公的価格を率先して上げる」(JOINT)5.マイナンバー保険証、10月20日から本格運用へ/厚労省厚労省は、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるように準備を進めてきたが、全国での本格運用を10月20日から開始することを発表した。今年の3月より一部の医療機関で先行して運用開始したが、トラブルが発生し、本格運用は延期されていた。今月中には、「マイナポータル」で特定健診の結果や処方された薬の情報が閲覧が可能となり、来年以降はさらに自治体の検診や学校検診の結果、電子処方箋の情報などが閲覧可能となる見通し。一方、医療機関でのマイナンバーカードのリーダーの普及率が伸び悩むなど、厚労省・地方自治体はさらに病院団体や医師会に対して補助金の活用を働きかけている。なお、マイナンバーカードを保険証として利用するには、マイナポータルでマイナンバーカードの健康保険証利用の申し込みが必要となるため、普及の促進には利用者に対する周知徹底が課題となる。(参考)マイナンバーカードを健康保険証で利用 20日から本格運用へ(NHK)マイナ保険証10月20日本格運用 対応済み医療機関は6%(日経新聞)マイナンバーカードの保険証利用について(厚労省)資料 データヘルス改革に関する工程表について(同)

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IgG monoclonal抗体製剤はワクチンの代替薬になりえるか?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本論評では、遺伝子組み換えIgG monoclonal抗体治療の基礎をなす回復期血漿治療の変遷を考慮しながらmonoclonal抗体治療の臨床的意義について考察する。コロナ感染症に対する回復期血漿治療-無効かつ有害? 長年、インフルエンザ肺炎に対して古典的回復期血漿治療が施行されてきた。また、2002~03年のSARSに対しても回復期血漿治療が試みられたが満足いく結果が得られず、抗体依存感染増強(ADE:antibody-dependent enhancement of infection)を呈した症例が少なからず存在した。新型コロナに対しても回復期血漿治療が試行錯誤されたが、今年になって発表された2つの論文は新型コロナに対する回復期血漿治療が無効、あるいは、逆に、病態を悪化させる可能性があることを指摘した。RECOVERY Trialでは、ランダム化から28日目までの死亡率、機械呼吸導入率、腎透析導入率など重要な指標は血漿投与群と対照群の間で有意差を認めず、回復期血漿治療は無効であることが示された(RECOVERY Collaborative Group. Lancet 2021;397:2049-2059.)。Begin氏らの報告によると、ランダム化から30日以内の気管挿管と死亡の比率は血漿投与群と対照群の間で有意差はなく、さらに、重要な知見としてADEに相当する重篤な副反応の頻度が血漿投与群で高いことが示された(Begin P, et al. Nat Med. 2021 Sep 9. [Epub ahead of print])。 回復期血漿はコロナ以外の微生物などに由来する種々の抗原に対するIgG、IgA、IgMなどの抗体を含有する。たとえば、IgAはIgGと拮抗しHIVワクチン接種時にHIV感染を増悪させることが報告されている(Haynes BF, et al. Engl J Med. 2012;366:1275-1286.)。また、回復期血漿が含有するS蛋白に対するIgG抗体には中和作用を有さない“非機能的(不完全)IgG抗体”が含まれる。非機能的IgG抗体のFc(fragment crystallizable)部位と免疫細胞/食細胞に発現しているFc受容体(FcγR)との結合は不完全で、ウイルスは免疫細胞/食細胞内で完全に処理されず、その一部は感染性を有したまま細胞外に排出される(回復期血漿投与時のADE発生)。一方、S蛋白を構成する種々なる抗原決定基(epitope)に対するIgG monoclonal抗体はウイルスに対する中和作用が強く、非機能的IgG抗体は基本的に存在しない。それ故、IgG monoclonal抗体投与時にはADEが発生し難い。以上の考察を支持する知見として、S蛋白に対するIgG monoclonal抗体に関する複数の治験においてADE発症の報告がない事実を強調しておきたい。半減期が短いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬 現在、米国では6種類のIgG monoclonal抗体が緊急使用の許可を得ている。その中の2種類ずつを併用する2つの抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ[REGEN-COV]とbamlanivimab+etesevimab[BEカクテル])の緊急使用をFDAは承認している。本邦においても2021年7月19日、REGEN-COVが特例承認された(商品名:ロナプリーブ点滴静注セット)。 カシリビマブとイムデビマブ(REGEN-COV)はウイルスが生体に侵入する際生体細胞のACE2と結合するRBD-motif(RBM)に存在する互いに重なりがない複数のepitopeと非競合的に結合し抗ウイルス作用を発現する(Baum A, et al. Science 2020;369:1014-1018.)。本論評で取り上げたコロナ感染患者と濃厚接触した家族を対象としたREGN-COV 2069治験において(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)、対照群の全感染リスクが14.2%であったのに対しREGEN-COV群では4.8%と有意に低かった。さらに、感染者の症状持続期間もREGEN-COV群で2週間短縮されるなど抗ウイルス薬として高い効果が示された。この治験で特記すべき事項はREGEN-COVを従来の点滴投与ではなく皮下注で投与しても何ら問題となる不都合が観察されなかったことである。以上の結果はIgG monoclonal抗体を簡便な皮下注で投与できる可能性を示した点で臨床的に価値がある。 Monoclonal抗体治療の最も魅力的側面はDelta株を中心とする変異株に対する抗ウイルス作用である。変異株における免疫回避作用を発現するS蛋白遺伝子変異の主たる部位は417位(Beta株、Gamma株)、452位(Delta株)、478位(Delta株)、484位(Beta株、Gamma株)である(山口. 日本医事新報 2021;5053:32-38,)。REGEN-COVにあって、カシリビマブは417位、478位、484位をepitopeとして認識するがイムデビマブはこれら部位を認識しない。両monoclonal抗体ともDelta株にあって最も重要な452位を認識せずREGEN-COVはDelta株に対して高い中和作用を示すことが示唆された(Corti D, et al. Cell. 2021;184:3086-3108.)。 REGEN-COVを構成する2つのmonoclonal抗体の血中半減期は約30日で抗ウイルス薬としては十分な期間有効性が持続する(O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021;385:1184-1195.)。しかしながら、以下に提示するIgG monoclonal抗体をワクチン代替え療法として考えていく場合には30日という半減期は短過ぎる。 REGEN-COV使用に関する本邦の指針は米国FDAの指針に追従したもので、本薬剤の投与対象が“重症化リスク因子を有する酸素投与を要しない患者(軽症~中等症-I)”となっており、“重症例”は基本的に対象外とされた(厚生労働省. Aug. 13, 2021)。この記述は、回復期血漿治療で認められるADEがIgG monoclonal抗体投与時にも発生する可能性を配慮したものであるが、monoclonal抗体薬投与に起因するADEの発生が非常にまれであることが判明しつつある現在、REGEN-COVの投与対象を重症例にも広げていくべきであろう。さらに、ワクチン接種で中和抗体価が上昇しない免疫不全患者のコロナ感染時の治療にはIgG monoclonal抗体治療が最優先されるべきことも明記されるべきである(米国FDA. Press Release Aug. 12, 2021)。 BEカクテルにあってbamlanivimabはRBDの452位、484位を、etesevimabは452位近傍をepitopeとして認識するため(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)、BEカクテルはBeta株、Gamma株、Delta株に対する中和作用が弱く、変異株抑制を目的とした抗ウイルス薬としてはREGEN-COVよりも劣る。REGEN-COVと同様BEカクテルの半減期も短い。半減期が長いIgG monoclonal抗体-抗ウイルス薬、ワクチン代替え薬 2021年9月6日、グラクソ・スミスクラインは単剤で使用できるIgG monoclonal抗体ソトロビマブの特例承認を厚生労働省に申請し、9月27日に承認された(商品名:ゼビュディ点滴静注液500mg)。この製剤は他のmonoclonal抗体製剤と異なり、変異が発生しやすいRBMではなく変異が起こり難く多くのコロナウイルスでアミノ酸配列が普遍的に保存されている部位(S蛋白の332~361位)を抗体の標的として設計されている(Corti D, et al. Cell 2021;184:3086-3108.)。すなわち、ソトロビマブが認識するepitopeはDelta株を中心とする変異株を特徴付ける種々なる変異とは無関係な部位に位置する。それ故、ソトロビマブは現状の変異株のみならず今後形成されることが予想される新たな変異株に対しても高い中和作用を発揮するものと考えられる(Gupta A, et al. medRxiv. 2021 May 28.)。ソトロビマブのもう一つの特徴はIgGの分解を抑制し血中IgG抗体価の半減期を延長させるためにIgG抗体のFc領域に人工的変異が挿入されていることである(Cathcart AL, et al. bioRxiv. 2021 Aug 6.)。その結果、ソトロビマブは投与後少なくとも6~8ヵ月間は抗ウイルス作用を持続するものと考えられ、ワクチン接種が困難な人、あるいは、免疫不全でワクチンによる抗体産生が期待できない人に対するワクチン代替え療法になりえるものと期待できる。ただし、IgG monoclonal抗体治療の費用はワクチン2回接種の100倍に達する高額治療であることに留意する必要がある。 AstraZenecaの抗体カクテル(AZD7442:AZD1061+AZD8895)も注目に値する製剤である。AZD7442を構成する2つのIgG monoclonal抗体のFc領域には人工的変異が挿入されておりソトロビマブと同様にIgGの半減期が延長する(抗ウイルス作用:約1年持続)。それ故、AZD7442もソトロビマブと同様にワクチン代替え療法として期待できる。

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mRNAワクチン有効率、基礎疾患の有無で差なし/NEJM

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクがある集団や、COVID-19の世界的大流行の影響を過度に受けている人種/民族集団を含む米国の医療従事者において、実臨床下でのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]、mRNA-1273[Moderna製])の接種は、症候性COVID-19の予防に関して高い有効性を発揮し、年齢や基礎疾患、感染者との接触の程度が異なる集団でも有効率に差はないことが、米国疾病予防管理センターのTamara Pilishvili氏らVaccine Effectiveness among Healthcare Personnel Study Teamの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年9月22日号に掲載された。米国50万人以上の医療従事者の症例対照研究 研究チームは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の検査を受けた米国の医療従事者を対象に、COVID-19の発症予防におけるmRNAワクチン接種の有効性の評価を目的に症例対照研究を実施した(米国疾病予防管理センターの助成を受けた)。本研究には、2020年12月28日~2021年5月19日の期間に、米国25州の33施設で50万人以上の医療従事者が参加した。 医療従事者の定義は、職場で感染者と直接接触する可能性がある、または感染した医療器具に間接的に接触する可能性のある、すべての有給または無報酬で医療に携わる者とされた。 症例は、COVID-19様の症状が1つ以上認められ、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査や他の核酸増幅検査、または抗原ベースの検査でSARS-CoV-2が陽性の集団とされた。対照は、症状の有無を問わず、PCRまたは検査室での他の核酸増幅検査でSARS-CoV-2陰性の集団であった。検査を行った週に各参加施設において、症例1人に対し対照3人の割合を目標にマッチングが行われた。 年齢、人種/民族、基礎疾患、COVID-19感染者との接触で補正した条件付きロジスティック回帰を用い、ワクチン非接種者との比較において、部分接種者(初回接種後14日~2回目接種後6日までに評価)および完全接種者(2回目接種後7日以降に評価)のワクチン有効率が推定された。ワクチン有効率:77.6~96.3%、基礎疾患などのリスク因子で差はない 症例群1,482人(年齢中央値37歳、女性82%)および対照群3,449人(37歳、83%)が解析に含まれた。全体の69%が急性期病院(緊急治療部を設置)、31%は外来または専門診療施設の医療従事者であった。 症例群の76%、対照群の75%が、重症COVID-19のリスク増加と関連する基礎疾患を1つ以上有していた。最も頻度の高い基礎疾患は肥満(症例群36%、対照群31%)であり、次いで過体重(29%、28%)、喘息(14%、18%)、高血圧(15%、14%)の順だった。症例群には妊婦が62人含まれた。 ワクチン非接種者と比較した部分接種者のワクチン有効率は、BNT162b2ワクチンが77.6%(95%信頼区間[CI]:70.9~82.7)、mRNA-1273ワクチンは88.9%(78.7~94.2)であり、完全接種者ではそれぞれ88.8%(84.6~91.8)および96.3%(91.3~98.4)と、いずれも高値を示した。 年齢(50歳未満、50歳以上)、人種/民族、基礎疾患、感染者との接触の程度別のサブグループ間で、ワクチン有効率は同程度であった。また、14週の追跡期間を2週ごとに分けてワクチン有効率の推移を解析したところ、2回目接種後3~4週が96.3%と最も高く、その後徐々に低下した。3~8週よりも9~14週のほうがワクチン有効率は低かったが、9~14週はCIの範囲が広く、この2つの期間でCIはほぼ重複していた。 著者は、「これらの結果は、一般集団を対象とした2つのワクチンの第III相試験(C4591001試験[BNT162b2ワクチン]、COVE試験[mRNA-1273ワクチン])の結果と一致するとともに、これまでの観察研究で得られたエビデンスをさらに裏付けるものである」としている。

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12~17歳でのmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を考える(解説:田中希宇人氏、山口佳寿博氏)

 COVID-19の小児例は成人例に比べ症例数も少なく、ほとんどが無症状や軽症例であることがわかっている。COVID-19の臨床像を小児も含めた年齢層別に検討したイタリアからの報告では入院率、重症例の割合は年齢を重ねるごとに増加し、無症状例や軽症例は年齢とともに減少していた。3,836例の小児例の解析では約40%が無症状であり、ごく軽症や軽症を含めると95%以上という結果であった。ここで報告されている4例の小児死亡例は全例が6歳以下で、心血管系や悪性腫瘍の基礎疾患を併存している症例のみであり、新型コロナウイルスが原因とは考えられていなかった(Bellino S, et al. Pediatrics. 2020;146:e2020009399. )。本邦でも国立成育医療研究センターと国立国際医療研究センターの共同研究『COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)』を利用したCOVID-19の小児例が報告されている(Shoji K, et al. J Pediatric Infect Dis Soc. 2021 Sep 6. [Epub ahead of print] )。1,038例の18歳未満のCOVID-19例では約30%が無症状であり、症状を認めた730例のうち酸素投与まで必要となってしまう小児は15例(2.1%)であったとの報告である。 新型コロナワクチンの小児に対する報告はすでにファイザー製mRNAワクチンBNT162b2において安全性や有効性が示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250. )。この研究では12~15歳の若年者2,260例が試験に参加しており、そのうち1,131例がBNT162b2ワクチンを接種している。副反応は一過性かつ軽度~中等度であり、注射部位の疼痛(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%)の頻度が高かったとの結果であった。またワクチン2回目接種後にCOVID-19を発症した症例はプラセボ群では1,129例中16例で認めたのに対し、BNT162b2ワクチン接種群では1例も認められずワクチン有効率は100%とされ、小児においても新型コロナワクチンの高い効果が示された結果となった。 本論評で取り上げた米国DM Clinical ResearchのAli氏らの論文『Teen COVE試験:Teen Coronavirus Efficacy trial』は2020年12月9日~2021年2月28日における12~17歳の健康な若年者3,732例を対象にモデルナ製新型コロナワクチンmRNA-1273ワクチンの安全性と有効性を確認するために行われた試験の中間解析結果を報告した。結果は12~17歳の若年者においても良好な安全性と18~25歳の若年成人と非劣性の免疫反応を示したとのことであった。 本研究に参加した若年者3,732例はmRNA-1273ワクチン接種群2,489例とプラセボ接種群1,243例に2対1でランダムに割り付けられ、28日間隔で2回接種された。主要評価項目は安全性と18~25歳の若年成人を対象にした臨床試験との免疫反応の非劣性を示すこととされ、副次評価項目としてはCOVID-19の発症予防やコロナウイルスの無症候性感染に対する有効性などが調査された。 まずワクチン接種の安全性としては局所の副反応として注射部位の疼痛が1回目の接種後93.1%、2回目の接種後92.4%、全身性のさまざまな副反応全体としては1回目の接種後68.5%、2回目の接種後86.1%が報告され、なかでも頭痛(1回目44.6%、2回目70.2%)、疲労感(47.9%、67.8%)、筋肉痛(26.9%、44.6%)、悪寒(18.4%、43.0%)が頻度の高い副反応として挙げられた(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021 Aug 11. [Epub ahead of print])。ワクチン接種群の局所および全身性の副反応は約4日続き、1週間を越える局所での副反応はワクチン群でより高く、1回目接種後のほうが2回目接種後よりも頻度が高かった。また『COVE試験』(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416. )での18~25歳の若年成人と比較して、局所および全身性の副反応の頻度はほぼ同等の結果であったが、皮膚の紅斑は若年者のほうが高かった。本研究では小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や死亡、そして心筋炎や心膜炎など特記すべき有害事象は認められなかった。 ワクチンの効果は若年成人に対する血清中和抗体の幾何平均力価比、応答率の差で評価され、それぞれ1.08(95%信頼区間:0.94~1.24)、0.2%(若年群98.8%、若年成人群98.6%)であり若年成人と同等の免疫原性が示された形となった。 Ali氏らは若年者に対する新型コロナワクチン接種は若年成人と同様の安全性を示し、免疫原性も非劣性であると述べているが、小児は重症化率や死亡者数が少なく正確な有効性を評価することは困難だとしている。小児では重症化率や死亡者数が少なく、無症状や軽症例が多いことは上記の本邦の報告でも同様の結果であり、小児に対するワクチンのメリットは成人者のそれとは異なることを理解する必要がある。また本研究が行われたのは2020年12月~2021年2月であり、現在本邦で問題になっているデルタ株を含めた変異株に対する有効性は評価することができない。 今回論評で取り上げたAli氏らの論文が解析された時点では、心筋炎・心膜炎の副反応は報告されていない。しかしながら英国ではBNT162b2ワクチン100万回接種当たり2.6件の心筋炎、2.0件の心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり8.2件の心筋炎や心膜炎の発症が報告されている(厚生労働省「副反応疑い報告の状況について」 2021年7月21日)と発表している。本邦においてもBNT162b2ワクチン100万回接種当たり0.5件の心筋炎・心膜炎、mRNA-1273ワクチン100万回接種当たり0.6件の心筋炎・心膜炎の発症が報告されている。いずれもmRNAワクチン接種との因果関係は現時点では不明とされているが、年齢別にはmRNA-1273ワクチンでは10代の男性が症例は限られているものの100万回接種当たり17.1件と最も頻度が高い結果となっている(第68回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会「副反応疑い報告の状況について」)。BNT162b2ワクチン接種後の小児で心筋炎を発症した15例のケースシリーズでは、93%が男性、全例で胸痛と血清トロポニン値の上昇を認め、20%で心エコー上の心拍出量の低下を認めたが、死亡例は認められず良好な経過をたどったと報告している(Dionne A, et al. JAMA Cardiol. 2021 Aug 10. [Epub ahead of print] )。 現在2021年9月末で第5波は収束しつつある状況にあるが、学校における児童を発端としたクラス内感染や児童間での感染伝播の報告が散見された。またデルタ株流行下においては小児から家庭内に感染が広がるケースも認められた。ワクチンに対する感染予防効果や発症予防効果を考えれば、小児で影響の強いCOVID-19パンデミック下でのストレスや学校閉鎖などを防ぐために重要と捉えることができる。ただし成人のCOVID-19と比べると圧倒的に無症状や軽症例の多い小児において、きわめてまれなワクチン接種後の副反応であったとしても慎重に対応せざるを得ないと考える。

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モデルナ製ワクチン第III相最終解析、重症化予防効果は/NEJM

 mRNA-1273ワクチン(Moderna製)は、2回接種後5ヵ月以上にわたり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症および重症化の予防に有効で、無症候性感染も減少した。米国・Baylor College of MedicineのHana M. El Sahly氏らが、mRNA-1273ワクチンの安全性および有効性を検証した無作為化観察者盲検プラセボ対照第III相試験における盲検期の最終解析結果を報告した。mRNA-1273ワクチンは、この試験の中間解析で有効率94.1%を示し、緊急使用が許可された後、プロトコールが修正され非盲検期が追加されていた。NEJM誌オンライン版2021年9月22日号掲載の報告。約3万人を対象にmRNA-1273ワクチンの有効性と安全性を評価 研究グループは、2020年7月27日~10月23日の期間に、米国の99施設において、SARS-CoV-2感染の既往がなく、SARS-CoV-2に感染するリスクが高いあるいは重症化するリスクが高い18歳以上の参加者を、mRNA-1273(100μg)群またはプラセボ群に1対1の割合に割り付け、28日間隔で2回筋肉注射した。 主要評価項目は、SARS-CoV-2感染歴がない参加者における2回目接種後14日以降でのCOVID-19発症予防とし、有効性の評価は盲検下で独立判定委員会が行った。データカットオフ日は、2021年3月26日であった。 3万415例が登録され、mRNA-1273群1万5,209例、プラセボ群1万5,206例に割り付けられた。約5ヵ月間のCOVID-19予防効果は93.2%、重症化予防効果は98.2% 参加者の96%以上が2回の接種を受け、2.3%がベースラインでSARS-CoV-2感染が確認された。盲検期の追跡期間中央値は5.3ヵ月で、COVID-19は799例確認され、プラセボ群が744例(5.3%)、mRNA-1273群が55例(0.4%)であった。mRNA-1273のCOVID-19発症予防効果は93.2%(95%信頼区間[CI]:91.0~94.8)、発症頻度はmRNA-1273群が9.6例/1,000人年(95%CI:7.2~12.5)、プラセボ群が136.6例/1,000人年(95%CI:127.0~146.8)であった。 重症COVID-19の予防効果は98.2%(95%CI:92.8~99.6)で、重症例はmRNA-1273群で2例、プラセボ群で106例であった。接種後14日以降の無症候性感染例はmRNA-1273群214例、プラセボ群498例で、無症候性感染予防効果は63.0%(95%CI:56.6~68.5)であった。mRNA-1273の有効性は、人種/民族、年齢、併存疾患等にかかわらず一貫していた。安全性に関する懸念は認められなかった。

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第77回 想定の範囲外!? 「人流増加でも感染者減少」で問われる専門家の説明責任

人流増加にかかわらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が一気に減少したことについて、感染者増加のシミュレーションを描いていた専門家は納得のいく分析ができていない。このことは、専門家への信頼を揺るがすだけでなく、感染症対策に関しては人流抑制を前提にできないことも示している。数理モデルでは予測できなかった行動変容9月16日に開かれた厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーホードで、新規感染者数の減少要因の可能性として(1)連休・夏休み・長雨の影響などで外出が減少した(2)感染者急増・医療逼迫などの報道によるメディア効果で行動変容が起きた(3)ワクチン接種が現役世代を含めて進んだ―ことが要因として挙げられた。数理モデルでCOVID-19の流行を分析している西浦 博氏(京都大学大学院医学系研究科社会健康医学系専攻教授)は、あるテレビ番組で「デルタ株の流行で他国の状況を見ていると、人出がこれだけある中で減らすのは、もう無理かもしれないと本気で思っていた」と述べた上で、「医療が大変な状況であることなど、リスクを皆さんが認識した。データに基づく分析は未完成だが、これが相当大きかったと考えている」と人々の行動変容の影響を強調した。西浦氏は、8月の東京の新規感染者数について、1日1万人を超え、8月末には3万人を上回ると予測していたが、実際は8月中旬の約5,800人をピークに下降している。9月になって新学期が始まり、連休もあったが、9月27日現在の東京の新規感染者数は154人にまで減少している。西浦氏ら専門家に対して、元大阪府知事で弁護士の橋下 徹氏は、別のテレビ番組の中で、「予想が外れたなら、なぜ外れたのか言ってもらえないと信用できない。彼らの計算はあくまで机上論だと感じる。この人たちの予測が当たる確率がどのくらいの程度か。100%正しいと思って、危ない、危ないと言っていたけれど、その感覚はやめないといけない」と批判した。複製のエラー増加でウイルス自体が自滅、という説もまた、西浦氏がCOVID-19拡大防止策として、「人との接触8割減」を国に提言し「8割おじさん」として知られるだけに、橋下氏は新規感染者数の減少について「ウイルスが自然に減少することもあるのではないか。人流抑制の一本槍ではいけない」と述べた。ウイルスの自然減少に関しては、ドイツの生物物理学者でノーベル化学賞受賞者の故マンフレート・アイゲン氏が1971年に発表した「エラーカタストロフの限界」という考え方が今、改めて注目されている。ウイルスが増殖する際にコピーミスが起き、変異株が出現する。中には増殖の速いタイプのウイルスが生まれ、急速に感染が拡大。しかし、増殖が速ければコピーミスも増える。一定の閾値を超えると、ウイルスの生存に必要な遺伝子まで壊してしまい、ウイルスが自壊するという考え方だ。この考え方に基づくと、新型コロナウイルスのコピーミスにより7月以降に急速に感染拡大したが、8月中旬にコピーミスが「エラーカタストロフの限界」を超えたため、ウイルスの自壊が始まり、感染が急速に減少したのではないか、ということになる。あくまで仮説の1つだが、検証してみる価値はあるのではないか。反省から生まれる「リスク評価」「リスク管理」の軌道修正西浦氏の予測には過激なものもあるだけに、『週刊新潮』では「『8割“狼”おじさん』は怖がらせるのがお仕事」という見出しの記事まで掲載された。数値的データ中心の予測には、人々の行動変容を変数にすることは難しいかもしれないが、予測が外れたことを説明しない理由にはならないはずだ。そもそも専門家は、どうリスクを評価し、それをどう政治家や国民に伝えるべきか。専門家は、未知のリスクに対して科学的に最悪のケースを含めた選択肢を示すのが責務だ。政治から独立した姿勢が国民の信頼を高めるだろう。一方、専門家のリスク評価をどう政策に活かすかというリスク管理は、政治家の責務だ。専門家も政治家も、言いっぱなし、やりっぱなしではなく、説明責任の義務を負うべきだ。それがメディアを通した発信であればなおさらである。自身の言動に真摯に向き合った結果分析や反省によって、より正しいリスク評価やリスク管理への軌道修正が可能となるだろう。

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ファイザー製ワクチン、3回目接種後の副反応は?

 米国食品医薬品局(FDA)は9月22日、ファイザー/ビオンテック社製COVID-19ワクチン(BNT162b2)の3回目接種(ブースター接種)について、65歳以上や重症化リスクの高い人などを対象に緊急使用許可を承認した1)。この承認に当たり開催されたFDAの諮問委員会でファイザー社が提出した資料2)には、ブースター接種による免疫応答と安全性についてのデータが含まれた。本稿では、安全性データについてまとめる。※なお、9月30日更新の米国疾病予防管理センター(CDC)からの推奨事項では3)、BNT162b2ブースター接種の対象は、65歳以上、18歳以上の介護施設の居住者、基礎疾患のある者、リスクの高い環境で働く者、リスクの高い環境に住む者とされている。対象:phase1試験から12人(65~85歳)、phase2/3試験から306人(18~55歳)試験概要:参加者はBNT162b2 30μgの2回接種の後、phase1試験参加者は約7~9ヵ月後、phase2/3試験参加者は約6ヵ月後にBNT162b2 30μgの3回目接種を受けた。安全性の評価:参加者はブースター接種後1日~7日目まで副反応と解熱鎮痛薬の使用についてe-diaryで報告した。副反応には、接種部位反応(痛み、発赤、腫れ)および全身性反応(発熱、倦怠感、頭痛、悪寒、吐き気、下痢、筋肉痛、関節痛)が含まれる。その他の安全性評価には、各投与後30分以内に発生する副反応、1回目投与からブースター接種後1ヵ月間の非重篤な未確認の副反応、およびブースター接種からデータカットオフ日(phase1:2021年5月13日、phase2/3:2021年6月17日)までの重篤な副反応が含まれた。 dose1(16~55歳、2,899人)、dose2(16~55歳、2,682人)のデータと比較したdose3接種後の副反応報告は以下のとおり。・phase1試験の12人(65~85歳)、phase2/3試験の289人(18~55歳)からe-diaryによる報告が得られた。接種部位反応・痛み:dose1(83.7%)、2(78.3%)、3(18~55歳:83.0%、65~85歳:66.7%)・腫れ:dose1(6.3%)、2(6.8%)、3(18~55歳:8.0%、65~85歳:0.0%)・発赤:dose1(5.4%)、2(5.6%)、3(18~55歳:5.9%、65~85歳:0.0%)全身性反応・倦怠感:dose1(49.4%)、2(61.5%)、3(18~55歳:63.8%、65~85歳:41.7%)・頭痛:dose1(43.5%)、2(54.0%)、3(18~55歳:48.4%、65~85歳:41.7%)・筋肉痛:dose1(22.9%)、2(39.3%)、3(18~55歳:39.1%、65~85歳:33.3%)・悪寒:dose1(16.5%)、2(37.8%)、3(18~55歳:29.1%、65~85歳:16.7%)・関節痛:dose1(11.8%)、2(23.8%)、3(18~55歳:25.3%、65~85歳:16.7%)・下痢:dose1(10.7%)、2(10.0%)、3(18~55歳:8.7%、65~85歳:0.0%)・嘔吐:dose1(1.2%)、2(2.2%)、3(18~55歳:1.7%、65~85歳:0.0%)・発熱(≧38.0℃):dose1(4.1%)、2(16.4%)、3(18~55歳:8.7%、65~85歳:0.0%)・解熱鎮痛薬の使用:dose1(27.8%)、2(45.2%)、3(18~55歳:46.7%、65~85歳:33.3%) ブースター接種から1ヵ月後までのphase2/3試験参加者(306人)において報告された副反応のうち、最も多かったのはリンパ節腫脹(5.2%)で、最初の2回(0.4%)よりも多かった。その他複数の参加者で報告されたのは、悪心(0.7%)、注射部位の痛み(0.7%)、痛み(0.7%)、腰痛(0.7%)、首の痛み(0.7%)、頭痛(0.7%)、 不安感(0.7%)、および接触性皮膚炎(0.7%)だった。 ブースター接種後1ヵ月以上が経過した後のモニタリング期間中に、1件の急性心筋梗塞が重篤な副反応として報告されたが、ファイザー社は因果関係は認められないと評価し、FDAもそれに同意している。その他の重篤な副反応、死亡例は報告されていない。 報告書では、ブースター接種後に報告された副反応の頻度および重症度は、2回目接種後と差がみられなかったとしている。(2021年10月1日 記事内容を一部修正いたしました)

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いよいよ総裁選!医師が希望する次期総裁は?…会員1,000人アンケート

 9月29日、自民党総裁選の開票が行われる。出馬する4氏のうち次期総裁になって欲しい人物や、次期総裁に期待する政策について、会員医師1,000人を対象にアンケートを行った(2021年9月22日実施)。 「出馬を表明した4氏のうち、次の総裁になってほしいのは誰ですか?」との問いには河野 太郎氏(行政改革担当大臣)が54%の支持を集めトップで、続く21%の高市 早苗氏(前総務相)に倍以上の差をつけた。岸田 文雄氏(前政務調査会長)は高市氏と僅差の20%、野田 聖子氏(幹事長代行)は5%と伸び悩んだ。 回答者の勤務先別で見ると、20床以上の病院に勤務する層では20床未満の層よりも河野氏の支持率が高く、高市・岸田両氏の支持率が低かった。年代別で見ると20~30代では河野氏の支持率が60%と高い一方、60代以上は同53%となり、河野氏の代わりに岸田氏の支持率が上がっていた。新型コロナ対策よりも経済政策を優先 「次期総裁について、最も注力すべきとお考えの政策は何ですか?」との問いでは、「経済・財政政策」が43%と最多で、「新型コロナ対策」の33%を10%上回る結果となり、新規感染者数に減少傾向が続き、緊急事態宣言の解除が見込まれる状況において、経済再生への期待が強い状況を反映する結果となった。 「最も注力すべき政策」では、支持する候補別に傾向の違いも顕著となった。河野氏の支持者は「新型コロナ対策」が42%と最多だが、高市氏の支持者は「経済・財政政策」が42%で最多、「外交・安全保障政策」が38%でこれに続き、「新型コロナ対策」は12%に留まった。岸田氏は「経済・財政政策」が52%と4候補の中で唯一過半を占め、野田氏は「新型コロナ対策」が36%で最多ながら、他候補では1%未満の「ジェンダーや多様性」が4%となるなど、強調する政策の違いが現れた。 「新型コロナウイルス感染症対策の中で、最も注力すべきとお考えの政策は何ですか?」との問いには「医療体制の整備、病床確保」「ワクチン・治療薬の開発・確保」がそれぞれ約40%という結果となった。 自由回答には「今回の総裁選は面白い」「初の女性宰相誕生に期待」とのコメントが集まり、久しぶりに白熱する総裁選に注目する声が集まった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。『いよいよ総裁選!医師が希望する次期総裁は?…会員1,000人アンケート』

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第71回 3回目ワクチン早ければ年内にも/コロナ特例加算9月で廃止

<先週の動き>1.3回目ワクチン、早ければ年内にも医療従事者から開始/厚労省2.コロナ特例加算は今月末で廃止、補助金で代替へ/厚労省3.浸透しないオンライン診療、患者負担が割高で敬遠か4.来年度の診療報酬改定に診療側と支払い側で議論紛糾/中医協5.胃・大腸の進行がん症例増加、がん検診控えの影響か6.病院を選ぶ理由の1位は? 受療行動調査で明らかに/厚労省1.3回目ワクチン、早ければ年内にも医療従事者から開始/厚労省厚生労働省は、22日に自治体向けの説明会を開催し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種について、早ければ年内の12月から3回目接種の実施に向けて準備を開始するように働きかけた。追加接種は2回接種完了からおおむね8ヵ月以上経過した人を対象に想定しており、まずは医療従事者から開始となる。高齢者への接種は年明け以降の見通し。ワクチンの種類は2回目までと同じものを基本としながら、別の種類も認めるかはあらためて検討される。(参考)ワクチン3回目接種、年内は医療従事者104万人 高齢者は年明け(朝日新聞)新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保について(厚労省)2.コロナ特例加算は今月末で廃止、補助金で代替へ/厚労省厚労省は、特例的に上乗せしていた診療・介護報酬における新型コロナ感染症対策実施加算について、今年9月末までとする方向で、財務省と検討していることが報道された。外来診療で1例当たり50円、入院1日当たり100円などの加算は時限的措置であったため、医療介護団体は10月以降も継続を求める要望書を厚労省に宛てて提出しているが、財務省は「新型コロナの対応に当たる医療機関に限定すべき」として打ち切りを主張していた。このため、特例措置は9月末までが期限となり、今年末までは経過措置として補助金で支援を継続する方針。このほか、新たに発熱外来などの対応を行う医療機関への診療報酬の加算も検討されている。(参考)診療や介護報酬、特例打ち切りへ コロナ患者非対応も加算に批判(日経新聞)新型コロナ 特例加算、月末で廃止 診療・介護報酬 補助金で代替(毎日新聞)コロナ対応の特例延長で要望書続出 日医、四病協、日看協や全老健など医療・介護団体(CBnewsマネジメント)3.浸透しないオンライン診療、患者負担が割高で敬遠か新型コロナウイルス感染拡大の中、政府によって初診患者についても規制緩和されているオンライン診療について、各医療機関が保険診療の点数が低いために、これとは別に利用料を請求している事例があることを日本経済新聞が報道した。厚労省はオンライン診療を「補完的」と位置付け、診療報酬を低くしているが、医療機関側は患者に対して、システム利用料や通信費の名目で平均約900円の負担を求めているという。また、日本医師会も対面での診療が基本とする姿勢を崩していない。政府の規制改革推進会議では、引き続きオンライン診療の規制緩和を求めているが、厚労省には、安全性・信頼性の担保のほか、令和4年度の診療報酬改定も含めた議論が求められる。(参考)オンライン診療・オンライン服薬指導に関する検討状況について(厚労省)ネット診療の患者負担が割高 平均900円加算、普及阻む(日経新聞)患者「便利だが」割高敬遠 ネット診療、システム利用コスト 医療機関「対面より手間」(日経新聞)4.来年度の診療報酬改定に診療側と支払い側で議論紛糾/中医協22日に中央社会保険医療協議会・診療報酬基本問題小委員会が開催され、入院医療等の調査・評価分科会の中間とりまとめを基に、2022年度の診療報酬について議論が行われた。入院診療の医療費をめぐって、コロナの影響か前回の診療報酬改定の影響か判断がつかない中、診療現場に大きな影響が出るような改定に診療側は懸念を示すものの、支払い側は、コロナ禍であっても必要と、一般病棟入院基本料など見直すべき課題を列挙した。今後、中医協でさらなる検討を重ね、年内の取りまとめに動く見込み。(参考)診療報酬調査専門組織入院医療等の調査・評価分科会からの報告について(中医協)入院医療の中間とりまとめ受け意見対立、中医協 診療側「病床削減避けるべき」、支払側「やるべきはやる」(中医協)5.胃・大腸の進行がん症例増加、がん検診控えの影響か日本対がん協会は、今年上半期のがん検診受診者数は156万6,022人と、大幅に減少していた去年の同時期に比べて2.2倍に増加したが、感染拡大前の一昨年に比べると17%減少しており、コロナの余波がまだ残っていることを明らかにした。また、横浜市立大学の研究チームは、コロナウイルス感染拡大により、胃や大腸の早期がんの診断者数が減少し、進行がんの症例が増えたと報告しており、検診控えにより、早期がんの診断が遅れ、症状が発現してから発見に至る症例が増えたことも考えられる。今後、各自治体による働きかけが求められるが、自治体もコロナの影響で対応が遅れており、さらなる対策が必要だろう。(参考)がん検診の受診者が回復傾向 コロナ禍前には及ばず 日本対がん協会(朝日新聞)自治体実施のがん検診受診者 去年より回復もコロナ前に戻らず(NHK)進行した大腸がん増加、患者調査 コロナで検診、受診控え(東京新聞)6.病院を選ぶ理由の1位は? 受療行動調査で明らかに/厚労省厚労省が3年おきに行なっている受療行動調査の結果が公表された。全国の一般病院484施設を利用する患者(外来・入院)約16万人を対象として、10月に調査を実施。受診した医療機関を選んだ理由が「ある」と回答した人のうち、外来・入院ともに「医師による紹介」が最多で、外来は38.7%、入院は55.5%だった。次いで、外来では「交通の便が良い」が27.5%、入院では「専門性が高い医療を提供している」が26.5%であった。また、外来で「予約をした」患者は77.4%となっており、前回(2017年)と比べて6.0ポイント上昇していた。全体として、医療を受けた病院に「満足」と回答した患者は、外来64.5%、入院68.9%であり、「不満」と回答した患者は、外来3.8%、入院4.9%だった。病院の種類別で「満足」と回答した患者は、外来・入院ともに特定機能病院が最も高かった。(参考)令和2(2020)年受療行動調査(概数)の概況(厚労省)20年の受療行動調査結果を公表 厚労省(CBnewsマネジメント)小規模病院や療養病床持つ病院で「社会的入院」が増加、背景を地域ごとに探る必要あり―2020年受療行動調査(Gem Med)

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ファイザー製ワクチンの6ヵ月の有効性と安全性、第II/III相試験データ/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)について、6ヵ月間でワクチンの有効性は徐々に低下するものの安全性プロファイルは良好であり、COVID-19予防効果は高い。米国・ニューヨーク州立大学のStephen J. Thomas氏らが、現在進行中の国際共同無作為化観察者盲検プラセボ対照第II/III相試験の結果を報告した。BNT162b2ワクチンは現在、世界各国で承認、条件付き承認または緊急使用が正式に認められているが、最初の認可の時点で接種後2ヵ月を超えるデータは得られていなかった。NEJM誌オンライン版2021年9月15日号掲載の報告。16歳以上の4万4,165例、12~15歳の2,264例で、プラセボと比較 研究グループは2020年7月27日~10月29日の期間に、152施設(米国130、アルゼンチン1、ブラジル2、南アフリカ4、ドイツ6、トルコ9)において、健康または安定慢性疾患を有する16歳以上の4万4,165例を、また2020年10月15日~2021年1月12日の期間に米国の29施設にて12~15歳の2,264例を、BNT162b2ワクチン群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1回30μgを21日間隔で2回接種した。 安全性評価項目は、接種後7日間の局所反応・全身性イベント・解熱剤の使用、初回接種後から2回目接種後1ヵ月後までに発生した自発的な有害事象、初回接種後から2回目接種後1ヵ月後および6ヵ月後までに発生した重篤な有害事象とし、少なくとも1回接種を受けた16歳以上の参加者を対象に解析した。 有効性評価項目は、2回目接種後7日以内の血清学的またはウイルス学的SARS-CoV-2陰性参加者、および過去の感染の有無に関係ない参加者における、2回目接種後7日以上経過後の検査で確認されたCOVID-19感染で、少なくとも1回接種を受けた12歳以上のすべての参加者を解析対象とした。BNT162b2ワクチンの6ヵ月間の有効性は91.3%、安全性は良好 BNT162b2の安全性は良好で、有害事象プロファイルは許容可能なものであった。重篤な有害事象や試験中止に至った有害事象はほとんどなかった。 初回接種後以降、BNT162b2群で2万1,926例中15例(0.068%)、プラセボ群で2万1,921例中14例(0.064%)の死亡が認められたが、死因は両群で一致しており、BNT162b2に関連した死亡はなかった。 SARS-CoV-2感染陰性で評価可能な12歳以上の4万2,094例において、データカットオフ日(2021年3月13日)までに2回目接種後7日以上経過後のCOVID-19発症例は、BNT162b2群で77例、プラセボ群で850例であり、有効率は91.3%(95%信頼区間[CI]:89.0~93.2)であった。 期間別に見たBNT162b2の有効率は、2回目接種後7日~2ヵ月未満で96.2%(95%CI:93.3~98.1)、2回目接種後2~4ヵ月未満で90.1%(86.6~92.9)、2回目接種後4ヵ月~データカットオフ日までで83.7%(74.7~89.9)であった。 重症のCOVID-19に対するBNT162b2の有効性は、96.7%であった(95%CI:80.3~99.9)。 本試験ではサブグループ別の有効性を評価する検出力はなかったが、年齢、性別、人種・民族、併存疾患の有無、国別のサブグループにおける2回目接種後のBNT162b2の有効性は、全体集団とおおむね一致していた。また、懸念されているSARS-CoV-2変異株B.1.351(またはβ株)が確認された南アフリカにおいて、ワクチン有効性は100%(95%CI:53.5~100)であることが示された。

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第76回 総裁選でも気になるコロナ対策、4氏の具体策は現実的?

最近はテレビのニュースの時間になると同じ4人の顔を見ることが増えてきた。言わずと知れた自民党総裁選に出馬した岸田 文雄氏、河野 太郎氏、高市 早苗氏、野田 聖子氏の4人のことである。ちなみにこの順番で表記したのは男尊女卑でも何でもなく、単純に50音順である。総裁選後には任期満了に伴う衆議院選挙が控えているが、現在の衆議院で政権与党の自民党と公明党の占める議席が465議席中304議席(竹下 亘氏の死去による欠員分を除く)であり、現下の情勢では多少議席を減らしたとしても与党側が過半数を大きく割る可能性はほぼないと思われる。つまるところ、この総裁選の勝者が当面の次期総理大臣となることは99%確実である。実は過去の本連載でも取り上げたことがあるが、この総裁選立候補者の政策を新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策に限定して俯瞰してみたい。ちなみに4氏のうち野田氏以外は全員が総裁選用の特設サイトを開設している。岸田氏:声をかたちに。信頼ある政治河野氏:日本を前にすすめる。温もりのある国へ高市氏:政策9つの柱これと、各人の著書、具体的には岸田氏の「岸田ビジョン 分断から強調へ」(講談社)、河野氏の「日本を前に進める」(PHP新書)、高市氏の「美しく、強く、成長する国へ。―私の『日本経済強靱化計画』―」(WAC)、野田氏の「みらいを、つかめ 多様なみんなが活躍する時代に」(CCCメディアハウス)や、日本記者クラブでの総裁選候補討論会の動画、テレビ朝日での全員出演動画などを参考に各人の主張を紹介するとともに、そこに若干の論評を加えてみたい。ちなみに予め言っておくと、私がこれら候補に関する主張や報道を読んで、各人の底流に流れる政治思想を「○○主義」と名づけるなら、岸田氏は「協調主義」、河野氏は「合理主義」、高市氏は「国粋主義」、野田氏は「女性活躍主義」と表現する。さてその各人の考える新型コロナ対策だが、実はテレビ朝日への出演では、番組サイドが「何をコロナ対策の一丁目一番地と考えるか?」を尋ねている。岸田氏は「病床・医療人材の確保を徹底」を挙げた。これについてはこれまでの岸田氏の主張やそれにかかわる報道から解説が必要だろう。まず、岸田氏は今後もワクチン接種を推進して行く中で11月には希望者全員のワクチン接種が終了し、経口治療薬の登場までの間隙を縫って第6波が来ることも想定し、そこに向けた対策として病床・人材の確保を主張する。この点は岸田氏の政策集の『コロナ対策 岸田4本柱』にもあるように、重症者は国公立病院のコロナ重点病院化、一般的な発熱患者や新型コロナの自宅療養者は開業医で対応し、この間をつなぐものとして政府による野戦病院的臨時医療施設の開設や借り上げした大規模宿泊施設などを中間設置して第6波に備えるというもの。基本は現状とあまり変わらないが、「病床・医療人材の確保を徹底」とは、要はこの中間施設のハードとソフトの確保を謳っていると思われる。もっとも東京都の例を挙げると、開設を予定した臨時医療施設の一部で稼働が遅れた主な原因が人員確保に手間取ったゆえだった。このことを考えると、それをここ2~3ヵ月で解決するのは容易ではない。そして今回のコロナ禍では第5波まで経験しながら、感染拡大局面で病床がひっ迫することについて世論からは一貫して疑問を呈せられてきた。この点の解決策については日本記者クラブでの記者会見で各人が考えを表明している。「臨時病院の設置も含め非常時の指揮命令系統と権限というのは、これは見直さなければいけない。今回痛切に感じたのは、ベッドはあるけれども高度な治療ができる人材やチームがいないこと。また、重症から回復した人を臨時病院や軽症・中等症の病床に移していくことがうまく動かなかった。そこはやはり国や都道府県の調整をしなければならなかった。国と都道府県、どちらが何をやるのかというのを決めなければいけない」(河野氏)「病床確保については国が総合調整機能を持って調整することになっているが、将来的により強力な調整機能を発揮のために新たなこの工夫が必要になる。一方的に強制すると現場の反発を買ってしまう。平素から診療報酬等の上乗せで優遇を与える『感染症危機中核病院』のようなものを設置し、危機の際には国のコントロールによって 半強制的にこうした病院に病床を提供してもらい、それに応じない場合はペナルティも考えていく仕掛けも必要」(岸田氏)「国民皆保険制度の下である以上、緊急事態では国や地方自治体が医療機関や医療従事者に対して、病床確保等の必要な対応を命令する権限を持つことも含めて法案化を考えたい」(高市氏)「急変時に医療の手が届かないことを考えると自宅療養という仕組みはもう無理。入院できないならば危機的な時だけ国がサブホスピタルを作る必要がある」(野田氏)4氏のコロナ政策、主張あれこれテレビ朝日で「コロナ対策一丁目一番地」として河野氏が主張したのは「政府による製造支援も念頭に置いた、簡易検査キットの低コストでの大量調達と供給。薬局での販売解禁」である。簡易検査はたぶん抗原検査を意味していると思われる。河野氏は「どんどん検査をすることで、見える景色が大きく変わってくると思います」と述べているが、どのような着地点を持ってこの主張をしているかが不明である。第5波では膨大な数の検査陽性者が発生したことで、保健所も医療機関もキャパシティーをオーバーし、半ば機能不全に陥った例もある。実際、河野氏が言う簡易検査を不特定多数に行った場合、かなりの陽性者が判明するはずで、そうした人を自宅待機にするのか、その場合誰がどうフォローアップするのかなど抱えている課題は多い。ちなみに岸田氏も『コロナ対策 岸田4本柱』で「予約不要の無料PCR 検査所の拡大と、簡易な抗原検査など在宅検査手段の普及促進」を謳っているが、PCR検査ともなるとそこにも人材の配置が必要になるため、前述の河野氏のところで指摘した課題に加え、再び人材確保という壁にぶち当たる。一方、高市氏と野田氏がテレビ朝日で第一に主張したのは、ともに感染者の重症化を予防するための「治療薬の確保」。ちなみに高市氏はわざわざ「国産の治療薬」としていたのが、彼女らしいとも言える。日本記者クラブでの討論会では「ワクチンまた治療薬の国産化に向けてとくに生産設備に対するしっかりとした投資(支援)をする」との考えも示している。この点は政策集などで河野氏も「治療薬と国産ワクチンの確保」を主張し、岸田氏も年内の治療薬登場に期待するコメントを日本記者クラブでの会見で述べている。現在、第III相試験中と最も開発が先行しているmolnupiravirは外資系のメルク社のものであり、それも年内中の上市については未知の部分は残されている。そして国産の治療薬、ワクチンに関しては、塩野義製薬のプロテアーゼ阻害薬が第I/II相、第一三共のmRNAワクチン、塩野義製薬の組み換えタンパクワクチン、KMバイオロジクスの不活化ワクチンのいずれもがやはり第I/II相と初期段階に過ぎない。アンジェスのDNAワクチンが第II/III相だが、最近になって高用量での第I/II相を開始したことから考えると、第II/III相まで進行した当初の用量での臨床試験は芳しいものとは言えなかったと見る向きもある。いずれにせよ国産化まではまだ相当時間を要する見通しで、この点は各人ともやや楽観的過ぎるともいえる。なおワクチン接種に関しては各人とも推進の方針。この中で河野氏はワクチン担当相ということもあってか、3回目のブースター接種開始への意欲を示したほか、来年以降に現行のmRNAワクチンが生後6ヵ月以上に適応拡大が進む見通しについて言及。野田氏も現在ワクチン接種対象外の11歳以下の小児に対し、希望者へのワクチン接種推進を訴えている。ちなみに野田氏のこの主張の背景には2010年にアメリカで卵子提供を受け妊娠、2011年1月に出産した障害児の息子を抱えることも念頭にあっての発言だろうと推察される。コロナの先を見据える女性陣その意味ではテレビ朝日での4氏討論の際は次なる感染拡大時のロックダウンの可否について、野田氏だけが否定的な見解を示した。その理由については現時点で法制度上不可能なこと、ワクチン接種、病床確保などそれ以前に行うべきものがあると挙げながら、「人がウイルスを運んでいるようなものですが、人は生きていくために動かなければいけません。とくに子供は動き回らなければいけないので、そこは冷静に判断していかなければいけません」と述べている。やはりここでも「子供」が出てくるところは少子化対策に熱心な野田氏らしい視座とも言える。一方、高市氏と河野氏は、どちらかというとより強力な新興感染症が登場することを念頭に法令上の整備が必要という考え。岸田氏はいわゆる外出禁止やそれに伴う刑事罰などを含めた厳密な意味でのロックダウンは日本に合わないとして、「ワクチン接種証明や陰性証明を組み合わせて、人流抑制をお願いする日本型のロックダウン政策」を述主張する。岸田氏は「電子的なワクチン接種証明の積極活用」も政策として掲げていることから、先日政府が発表した行動制限緩和策の「ワクチン・検査パッケージ」に何らかの法的な位置付けを与えて人流抑制に活用しようというものらしい。菅首相にチクリの男性陣今回の自民党総裁選で菅首相の不出馬というサプライズが起こる前から一番手で立候補に名乗りを上げていただけあって、岸田氏の場合、政策集に書かれていることは実現の可否は別にして充実している。その中で公衆衛生上の危機発生時に国・地方を通じた強い司令塔機能を有する「健康危機管理庁(仮称)」と「臨床医療」「疫学調査」「基礎研究」を一体的に扱う「健康危機管理機構(仮称)」の創設を謳っている。また、菅首相の対応をやんわり批判した発言も目に付く。今回のコロナ対応について岸田氏は「国民への丁寧な説明」と「楽観的な見通し」が課題だったと各所で指摘している。この点について日本記者クラブでの公開討論会では「国民の協力が必要な中では納得感のある説明、(政策決定の)結果だけではなく、そこに至るプロセスなどを丁寧に説明する必要があった」と指摘している。これは菅首相による複数回の緊急事態宣言の発出時のことが念頭にあることは明らかである。同時に別の場所では、楽観的な見通しについて緊急事態宣言解除の時期などを挙げている。もし、岸田氏が自民党総裁となり、その後総理大臣となることがあったら、この点がどの程度実現できるかは注視したいところである。一方、河野氏も国民への説明については自らの政策集で「新型コロナウイルスについて、最新の科学的知見に基づいたわかっていること、わからないこと、できること、できないことをしっかりと国民と共有し、謙虚に、わかりやすい対話をしながら決めていきます」としている。時にはスタンドプレーになりがちな河野氏のことは本連載でも指摘してきたが、一大臣と総理大臣では求められるものの質と許容されることの幅も異なってくる。さてさて最終的にどうなることやら。個人的にはかなり注目しているところである。

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ファイザー製ワクチン、60歳以上で3回目接種の効果は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech製)について、2回接種を5ヵ月以上前に完了した60歳以上の高齢者に対する3回目ブースター接種は、COVID-19感染および重症化リスクが大幅に低下することを、イスラエル・Weizmann Institute of ScienceのYinon M. Bar-On氏らが報告した。イスラエルでは2021年7月30日に、5ヵ月以上前にBNT162b2の2回接種を完了した60歳以上の高齢者への、3回目接種が承認されている。研究グループは、追加免疫のデータを収集するため3回目ブースター接種を行った同国約114万例の高齢者を対象に試験を行った。NEJM誌オンライン版2021年9月15日号掲載の報告。ブースター接種後4~6日、12日以上経過の有効性も比較 研究グループは2021年7月30日~8月31日に、イスラエル保健省のデータベースを基に、60歳以上でBNT162b2の2回接種を5ヵ月以上前に完了した113万7,804例を対象に、3回目ブースター接種の予防効果を検証した。 主要解析では、COVID-19感染率と重症化率について、ブースター接種後12日以上経過者(ブースター群)と、ブースター非接種者(非ブースター群)を比較した。2次解析では、ブースター接種後4~6日群と、12日以上経過群について同発生率を比較した。 すべての解析は、交絡因子補正後Poisson回帰分析を用いて行った。ブースター接種後12日以上群、4~6日群に比べ感染率5倍超低下 ブースター群のCOVID-19感染率は、非ブースター群に比べ11.3倍低かった(補正後率比:11.3、95%信頼区間[CI]:10.4~12.3)。重症率についても、ブースター群は非ブースター群に比べ、19.5倍低かった(補正後率比:19.5、95%CI:12.9~29.5)。 2次解析では、ブースター接種後12日以上経過群が、4~6日経過群に比べ、感染率は5.4倍低かった(率比:5.4、95%CI:4.8~6.1)。

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第76回 「ブレインフォグ」に見るCOVID-19後遺症の社会的影響

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡り、後遺症に関するデータが徐々に蓄積されてきている。後遺症として確認されている症状は、200種類以上にのぼるという。睡眠障害などの精神神経症状、筋力低下などの全身症状、呼吸苦などの呼吸器症状、胃腸障害などの消化器症状、そして味覚障害や嗅覚障害、脱毛などだ。中でも、比較的若い世代で増えていると言われているのが「ブレインフォグ」だ。脳に霧がかかったような認知機能障害の一種で、主な症状としては記憶障害、集中力不足、精神疲労、不安などの症状が挙げられる。コロナ感染により、脳に炎症が起きてアルツハイマー病に起こるような変化が脳細胞に生じ、脳機能が低下、認知機能障害などが起きると見られている。日常生活や勤務にも大きな影響社会的・経済的な影響も大きい。昨年8月にCOVID-19の症状が出た30代女性は、何か作業をするとすぐに頭痛が生じ、店で考えながら買い物をしただけで疲れて寝込むこともあるという。今年5月にCOVID-19の症状が出た40代女性は、文章が書けなくなったり、文字は読めても内容が理解できなくなったりして、会社を退職した。フランスの大学病院が実施したコロナ入院患者の調査によると、患者の38%が入院から4ヵ月経過後も認知障害を認める結果が出た。一方、キングス・カレッジ・ロンドンが2020年12月~2021年7月までの約220万人のデータを分析したところ、ワクチンを2回接種した場合、後遺症リスクが49%減少したという。また、LongCovidSOSによると、4月にワクチン接種を受けた約900人を調査したところ、後遺症があっても57%が改善したという。後遺症のメカニズムはどの症状も解明途上にあるが、これらの調査によると、コロナ後遺症の転帰に関しては「ワクチン接種」が1つの重要なカギを握るようだ。「コロナ後遺症外来」を設けている都内のクリニック院長は「COVID-19は男性のほうが重症化しやすいと指摘されているが、後遺症については20〜40代の女性が多い。世界的に見ても、女性は男性の約1.5倍多くなっている。女性に自己免疫系疾患が多いことと関連しているのかもしれない」と話す。6ヵ月後も3割超で症状が残存東京・世田谷区が今月公表した、コロナ感染者を対象に今年7〜8月に実施した調査によると、回答があった3,710人のうち48.1%が「後遺症がある」と回答。年代別では10代で30%、10歳未満でも14%など、若い世代や子供でも後遺症が見られることが明らかになった。全体で最も多かったのは嗅覚障害(54%)で、次いで全身の倦怠感(50%)、味覚障害(45%)などが続き、ブレインフォグと見られる集中力低下(24%)や記憶障害(10%)を訴える人もいた。また厚生労働省のアドバイザリーボードは、2020年1月~2021年2月に入院した525症例を対象にした研究の中間報告を今年6月に公表。退院時までに疲労感・倦怠感、筋力低下、息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力の低下などの症状があった患者の3割以上で、6ヵ月後にも同じ症状が認められた。世田谷区、厚労省の調査・研究のいずれにも、記憶障害や思考力・集中力が低下するブレインフォグの症状が認められる。症状の類似性から筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)との関連も指摘されているように、COVID-19の後遺症はさまざまな要因の症状が同時多発的に起きている。しかも影響が多岐にわたる懸念があり、原因解明に向けたサーベイランスや、後遺症治療のための地域医療体制も必須である。一命は取り留めても、その後の社会生活を困難なものに変える懸念をはらむコロナ後遺症。長期的経過を注意深く見ていく必要がありそうだ。

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交互接種・コアリング防止など追記、新型コロナ予防接種の手引き/厚労省

 厚生労働省は、2021年9月21日に「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(4.1版)」を公開した。 この手引きは、2020(令和2)年12月17日に初版が公開され、逐次新しい知見やエビデンスを追加し、ほぼ毎月改訂を重ねてきた。妊婦や交互接種、接種時のコアリングについて追記 今回の主な改訂点は下記の通りである。【第3章 3(10):妊娠中の者等への接種体制の確保について追記】 妊娠中に新型コロナウイルスに感染すると、特に妊娠後期は重症化しやすく、早産のリスクも高まるとされている。妊娠中の者及び配偶者等(以下「妊娠中の者等」という)が希望する場合には、できるだけ早期に、円滑に新型コロナワクチンの接種を受けることができるよう、例えば、予約やキャンセル待ちに当たって妊娠中の者等を可能な範囲で優先する、現時点で妊娠中の者等が年齢等によって必ずしも接種予約の対象となっていない場合には妊娠中の者等を接種予約の対象とする、といった方法により、特段の配慮をすること。【第3章 3(11):交互接種への対応について追記】(交互接種への対応) 新型コロナワクチンについては、原則として同一の者には、同一のワクチンを使用することとしているが、被接種者に対し1回目及び2回目に同一の新型コロナウイルスワクチンを接種することが困難である場合については、1回目に接種した新型コロナワクチンと異なる新型コロナワクチンを2回目に接種すること(以下「交互接種」という)ができる。そのため、やむを得ず交互接種を受ける者に対して、適切に接種機会を提供できるよう予約対応やコールセンターでの対応等に留意すること。【第4章 3(1)ア:新型コロナワクチンの接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかである者を追記】 予防接種を行うことが不適当な状態にある者※1 明らかな発熱を呈している者とは、通常37.5℃以上の発熱をいう。※2 いずれかの新型コロナワクチンの接種液の成分によってアナフィラキシーを呈したことが明らかである者については、当該者に対し、当該新型コロナワクチンと同一の新型コロナワクチンの接種を行うことができない。※3 アストラゼネカ社ワクチンの接種を行う接種会場では、上記血栓症及び毛細血管漏出症候群の既往歴の有無を確実に確認するために、必ずアストラゼネカ社ワクチン専用の予診票を用いて予診を尽くすこと。【第4章 3(5):コアリングの防止について追記】 コアリング(ゴム栓に対して斜めに針を刺すと、針のあご部でゴム栓が削り取られてしまうこと)を防ぐために、注射針をバイアルに穿刺する際は、ガイドマーク(中心円)の内側に、針を垂直に押し込むこと。また、刺しながら注射針を回転させたり、同じ場所に何度も穿刺したりしないこと。【第6章 4:交互接種について追記】(交互接種) 新型コロナワクチンについては、原則として、同一の者には、同一のワクチンを使用すること。ただし、新型コロナワクチンの接種を受けた後に重篤な副反応を呈したことがある場合や必要がある場合には、1回目に接種した新型コロナワクチンと異なる新型コロナワクチンを2回目に接種すること(交互接種)ができること。「必要がある場合」とは、以下の場合をいう。(1)接種対象者が1回目に接種を受けた新型コロナワクチンの国内の流通の減少や転居等により、当該者が2回目に当該新型コロナワクチンの接種を受けることが困難である場合(2)医師が医学的見地から、接種対象者が1回目に接種を受けた新型コロナワクチンと同一の新型コロナワクチンを2回目に接種することが困難であると判断した場合(接種間隔) 交互接種をする場合においては、1回目の接種から27日以上の間隔をおいて2回目の接種を実施すること。前後に他の予防接種を行う場合においては、原則として13日以上の間隔をおくこととし、他の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行わないこと。 以上のほかにも図の改訂、予診票、16歳未満の接種の保護者の同意なども改訂されているので、一読を願いたい。

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リレー小説、有名作家の皆さまによる新型コロナ座談会【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第40回

第40回 リレー小説、有名作家の皆さまによる新型コロナ座談会本日は高名な作家のせんせい方にご参集いただき、代表作の登場人物とともに新型コロナウイルス感染症やワクチンについて語り戯れていただきます。あまり意味のない中川の言葉遊びの作文です。私は、このような文学遊びが大好きです。こんな意味のない作業に耽溺できる生活にあこがれます。一番バッター、中島敦せんせい(山月記)滋賀の義久は浅学非才、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、COVID-19に甘んずるを潔しとしなかった。覚えず、自分は声を追うて走り出した。無我夢中で駈けて行く中に、何か身体中に力が充ち満ちたような感じで、軽々と岩石を跳び越えて行った。気が付くと、手先や肱のあたりに毛を生じているらしい。少し明るくなってから、谷川に臨んで姿を映して見ると、既に虎となっていた。これは夢に違いないと考えた。どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、自分はコロナウイルスとの闘いに身を投ずる覚悟を得た。ICUから病院屋上に躍り出た虎は、月を仰いで、二声三声咆哮したかと思うと、ワクチン接種会場に躍り入って、再びその姿を見なかった。しかし、何故こんな事になったのだろう。分らぬ。全く何事も我々には判らぬ。二番バッター、五木寛之せんせい(青春の門)「織江!」信介は博多駅で荷物の整理をしている間に、織江がいなくなったのに気付いた。信介が織江を見つけたのは、丁度織江が橋を渡ろうとしているところだった。織江は信介の姿に気付くと一瞬逃げようとしたが、なぜか再び信介の方を振り向いた。「馬鹿野郎! 一体何を考えているんだ、なんでワクチンを打たないんだ!」「信介しゃんなんかに、うちの気持ちは分からんとよ!」信介は思いもかけなかった織江の言葉に、思わず、つかまえた織江の手を放した。腕には、猫の引っ掻き傷から血が滲んでいた。三番バッター、庄司薫せんせい(赤頭巾ちゃん気をつけて)「薫クンじゃないの?」ぼくは驚いてじっとこのなんていうかイカレたようなすごい美人の顔をまじまじとみつめた。ぼくは彼女に引きずられるように話に入っていった。「COVID-19は感染症の一種なの、本当に大事なことは理解されていないのね。ワクチンを打つことが決め手なのよ!」ぼくは女性と多くつきあってきた方で(もっとも、どこからが多く、どこからが多くないかは、良く分らないけれども)知り合いの女性はたくさんいるんだけど、この女性ほど自らに厳しさを求める人は知らなかった。今日はワクチン2回目の日。彼女はぼくの手を掴んで(本当に掴むという表現がピッタリなほど強く)接種会場の正面玄関に向かって足早に歩き始めた。四番バッター、小川洋子せんせい(博士の愛した数式)彼のことを、私と息子は博士と呼んだ。そして博士は息子を、ルートと呼んだ。息子の頭のてっぺんが、ルート記号のように平らだったからだ。「おお、賢い心が詰まっていそうだ」博士は、そういいながら息子をみつめた。「COVID-19は、憎むべきウイルス感染症ですが、素数が含まれていますね」この世で博士が最も愛したのは、素数だった。素数というものを私も一応知っていたが、それが愛する対象になるとは考えたためしもなかった。しかし彼の素数への愛し方は正統的だった。相手を慈しみ、無償で尽くし、敬いの心を忘れず、博士は素数のそばから離れようとしなかった。「しかし、COVID-19に素数が含まれているのは許せませんね」博士の瞳には決意がやどっていた。五番バッター、宮澤賢治せんせい(雨にも負けず)雨にも負けず 風にも負けず パンデミックにも負けぬ 丈夫なからだを持ち 欲は無く 決して瞋からず 何時も静かに笑っている 東にコロナに感染した子供あれば 行って看病してやり 西に疲れた医療者あれば 行って防護服を着て手伝いをし 南に死にそうな人あれば 行ってECMO管理を手伝い 北にワクチンの流言飛語があれば つまらないからやめろと言い ICUの中をオロオロ歩き 皆にデクノボーと呼ばれ 誉められもせず苦にもされず そういう者に 私はなりたい。六番バッター、川上宗薫せんせい(赤い夜)弥生が、「わたしには秘密があるの」と言った時、浦川はギョッとなった。「わたしは、これだけは言うまいと思ってたんだけれど、やはり隠しておれないわ」「ぼくが驚くようなことかね」「驚くとおもうわ」「ぼくが驚くとしたら、殺人をやったとか、そういうことだよ」弥生は笑った、なのに眼には涙がたまっている。「やっぱりワクチンを打つことにしたの」浦川は、狼狽を露わにした。七番バッター、フロイトせんせい、(精神分析入門 高橋義孝訳)そのワクチン接種者の副反応を皆さんにお話する前に、その方が私に語った彼自身が見た夢の話をせねばなりません。私にこう語ってくれたのです。「私は気が付くとなにか暗い闇の中を彷徨うような気持ちでした。もがいていると一筋の光がすうっーと刺し込んできたのです。猫の瞳が輝くような光です。アセトアミノフェンを口にすると嘘のように再び眠りに帰ったのです」さて皆さん、ここまでくるとあなた方の中には、この患者の夢の内容が、私がこれまで述べてきた「リビドー」の観念で容易に分析できると考えるひとが出てくるでしょう。八番バッター、宇能鴻一郎せんせい(むちむちぷりん)そうなんです。あたし、ワクチンを打ったんです。初めはワクチンなんか、とっても厭だったの、あたし。だって恐ろしかったんですもの。ワクチンを打つと不妊症になるってSNSで読んだの。でも、今考えてみると、あなたが大丈夫って言ってくれて、打つ勇気がでたの。ワクチンを早く受けておいてよかったわ。COVID-19のこと知ってる? この病気のこと。コロナウイルスに捕まっちゃう病気なの。感染症っていうのね、分った? お家にいる子猫さんは大丈夫かしら。あたし、心配なんです。九番バッター、太宰治せんせい(走れメロス)メロスは激怒した。必ず、かのワクチンのデマを流布する主を除かなければならぬと決意した。「待て」「何にをするのだ。私は陽の沈まぬうちに接種会場へ行かなければならぬ。放せ」「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け」「私にはいのちの他には何も無い」「その、いのちが欲しいのだ」山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃を食らわせた。もっと多くのせんせい方にも登場いただきたいのですが、このあたりでさようなら。

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第78回 COVID-19ワクチンと月経異常の関連について調査が必要

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンのよくある副反応に月経の変化や不意な膣出血などの月経異常は含まれていませんが、そういう事態があったという訴えが増えています。英国はCoronavirus Yellow Card1)というウェブサイトを開設し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連医療の副反応らしき事態を広く収集しています。月経がいつもよりきつい、遅れている、不意な膣出血などのCOVID-19ワクチン接種後の月経異常の報告が今月初旬(9月8日時点)までにそのデータベースに3万件以上(34,633件)集まっています。幸いなことに、ワクチン接種後の月経異常のほとんどは後の周期で正常化しています。それに、COVID-19ワクチン接種が女性の受胎へ悪影響を及ぼす恐れは認められていません。Coronavirus Yellow Cardに集まった月経異常は専門家グループによって検討され、COVID-19ワクチンとの関連は認められないと判斷されました2)。しかし英国の大学Imperial College Londonの生殖免疫学の専門家Victoria Male氏によるとCoronavirus Yellow Cardで集めた情報から確実な結論を導くのは困難であり、ワクチン接種者の月経異常の発生率を非接種の人と比べる別口の取り組みが必要です3,4)。Male氏も言及しているとおり米国ではCOVID-19ワクチンの月経への影響を調べる試験がすでに計画されており、同国政府はその取り組みに2億円近く(167万ドル)を提供することを約束しています5)。米国での試験では不規則な月経やその欠如、いつもより多い出血などの月経異常とCOVID-19ワクチン接種の関連性、月経異常の持続期間、ワクチンと関連しうる月経異常の仕組みが検討されます。COVID-19ワクチン接種後の月経異常はおおむね一過性とはいえ軽視すべきでなく、COVID-19ワクチン忌避の元凶である誤謬を払拭してワクチン接種の普及を成功させるにはその検討が不可欠です3)。将来の妊娠に害をもたらすというデマが若い女性のCOVID-19ワクチン忌避を主にもたらしています。COVID-19ワクチン接種後の月経異常を隈無く調べることを怠ればワクチン忌避女性の心配がいっそう助長しかねません。もし今後の検討でワクチンと月経異常が関連するとわかれば、その手立てを前もって心づもりする事が可能になります。きっちりと試験を実施してCOVID-19ワクチンが月経に及ぼしうる影響を把握して知らせれば月経がある若い女性はワクチン接種後にどうなるかをより見通せるようになり、ワクチン忌避を減らすことも可能でしょう5)。月経異常はmRNAワクチンとアデノウイルスが下地のワクチンの両方で認められており、もしワクチンと関連するならワクチンの成分によるのではなくワクチンへの免疫反応を原因としそうです3)。実際、月経周期はウイルス感染を含む種々の要因への免疫活性化の影響を受けうることが知られています。SARS-CoV-2もそういう要因の1つかもしれず、COVID-19女性およそ4人に1人に月経異常が認められたことを中国のチームが昨年報告しています3,6)。参考1)Coronavirus Yellow Card reporting site2)Coronavirus vaccine - weekly summary of Yellow Card reporting3)Male V.BMJ 2021;374:n2211.4)Link between menstrual changes after covid-19 vaccination is plausible and should be investigated / Eurekalert5)Item of Interest: NIH funds studies to assess potential effects of COVID-19 vaccination on menstruation / NIH6)Li K,et al. Reprod Biomed Online. 2021 Jan;42:260-267.

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医療者のブレークスルー感染が増加、接種後の期間は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症に対して、現在使用されているmRNAワクチンの有効性について、デルタ変異株に対しては低く、経時的に減少する可能性を示唆する医療者での調査結果を、米国・カリフォルニア大学San Diego Health(UCSDH)のJocelyn Keehner氏らがNEJM誌オンライン版2021年9月1日号のCORRESPONDENCEで報告した。 UCSDHでは、2020年12月中旬からBNT162b2(ファイザー)とmRNA-1273(モデルナ)による予防接種を開始し、2021年3月までに全職員の76%がワクチン接種を完了、7月には87%が完了した。新型コロナウイルスの感染者は2021年2月初旬までに減少し、3~6月は検査陽性者が月30人未満だった。しかし、6月15日にカリフォルニア州のマスク着用義務が解除され、7月末にはデルタ変異株がUCSDH分離株の95%以上を占めるようになり、ワクチン接種完了者を含めて感染者が急増した。 UCSDHではワクチン接種の有無に関係なく、毎日、1つ以上の症状もしくは曝露があれば鼻腔スワブのRT-PCR検査が実施されている。2021年3月1日~7月31日に227人が陽性となり、そのうち130人はワクチン接種2回完了しており、7人が接種1回のみ、90人が未接種だった。症状が見られたのは、接種2回完了者130人中109人(83.8%)、未接種者90人中80人(88.9%)であった。死亡者はおらず、入院は1人(ワクチン未接種)だった。 ワクチン有効性を月別にみると、3~6月は90%を超えていたが、7月は65.5%(95%信頼区間[CI]:48.9~76.9)に急激に低下した。7月の発症率をワクチン接種完了月で分けて算出すると、1~2月に接種完了した職員の1,000人当たりの発症率は6.7(95%CI:5.9〜7.8)、3~5月に接種完了した職員では3.7(95%CI:2.5〜5.7)で、1~2月に完了した職員のほうが高かった。なお、ワクチン未接種者の7月の発症率は16.4(95%CI:11.8~22.9)だった。 著者らは、6月から7月にかけてのワクチン有効性の大きな減少はデルタ変異株の出現と免疫力低下の両方が原因で、カリフォルニア州でのマスク着用義務の終了とそれによるコミュニティでの曝露リスク増大により悪化した可能性を指摘し、「この結果は、回避可能な疾患や死亡を防ぎ、社会の混乱を回避するために、ワクチン接種の拡大のほか、屋内でのマスク着用や集中的な検査をすぐに復活させることの重要性を強調している」とまとめている。

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