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麻疹患者が世界的に急増、2022年の死者数は13万6,000人に

 麻疹(はしか)の予防接種率が数年にわたり低下し続けた結果、2021年と比較して、2022年には麻疹の患者数が18%、死亡者数が43%増加したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月17日号に発表した報告書で明らかにされた。この報告書によると、2022年の麻疹患者数は900万人、死亡者数は13万6,000人と推定され、そのほとんどは小児であったという。 CDCの世界予防接種部門のディレクターであるJohn Vertefeuille氏は、「麻疹のアウトブレイク(突発的な発生)と死亡者数の増加は驚異的であるが、残念ながら、ここ数年の麻疹ワクチンの接種率の低下に鑑みると、予想された結果ではある」とCDCのニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「場所を問わず、麻疹患者の発生は、ワクチン接種が不十分なあらゆる国や地域社会に危険をもたらす。麻疹の発生と死亡を予防するためには、緊急かつ的確な取り組みが重要となる」と語る。 報告書では、大規模または破壊的な麻疹のアウトブレイクが発生した国の数は、2021年には22カ国だったのが2022年には37カ国に増えたことが指摘されている。2022年にアウトブレイクが発生した国を地域ごとに見ると、最も多かったのはアフリカで28カ国、次いで、東地中海地域6カ国、東南アジア2カ国、ヨーロッパ1カ国の順だった。 麻疹は予防接種を2回受けることで予防可能な疾患だが、麻疹ワクチン未接種の小児の数は3300万人(初回接種を受けていない小児が約2200万人、2回目の接種を受けていない小児が約1100万人)に上ると推定されている。2022年の世界全体でのワクチン接種率は、初回が83%、2回目が74%であり、集団免疫を獲得し、地域社会を麻疹のアウトブレイクから守るのに必要な2回目接種率(95%)を大きく下回っていた。特に、低所得国では、麻疹ワクチンの初回接種率が、2019年から2021年の間に71%から67%へ低下し、2022年にはさらに低下して66%と、経時的に低下し続けている。 さらに、麻疹ワクチンの初回接種を受けなかった2200万人の小児の半数以上が、わずか10カ国に住んでいることも示された。それらの国は、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、インド、パキスタン、アンゴラ、フィリピン、インドネシア、ブラジル、マダガスカルである。 WHOの予防接種・ワクチン・生物製剤部門長であるKate O’Brien氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、低所得国での麻疹ワクチン接種率が回復していないことは、行動を起こすべきことを伝える警鐘だと言える。麻疹ウイルスが不公平なウイルスと言われるのは、麻疹に罹患するのがワクチンによる保護を受けていない人だからだ。どこの国の子どもも、住んでいる場所にかかわりなく、命を救う麻疹ワクチンで守られる権利がある」と話している。

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第77回 mRNAワクチン技術でまさかの「がん治療」

悪性黒色腫・膵がんに対するmRNAワクチン技術Unsplashより使用mRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対して有効性や安全性が検証されましたが、がん細胞を対象とした研究が世界各国で進められています。がん細胞に特異的なタンパクを作るmRNAを接種することで、がん細胞を攻撃する細胞性免疫が成立するというメカニズムです。さて、mRNA-4157/V940は、がんの遺伝子変異に基づいて設計された、腫瘍特異的変異抗原(ネオアンチゲン)をコードするmRNAベースの個別化ワクチンです。完全切除後の再発リスクが高い病期のStageIII/IVの悪性黒色腫において、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して、疾患の再発または死亡のリスクを有意に減少させたことが1年前に話題となりました。2023年12月14日のModerna社(米国)のプレスリリースでは、当該追跡3年の結果が報告されています。mRNA-4157/V940とペムブロリズマブ併用による術後補助療法によって、ペムブロリズマブ単剤より無再発生存期間の延長が確認され、再発または死亡のリスクが49%減少したことが報告されました(ハザード比[HR]:0.510、95%信頼区間[CI]:0.288~0.906、片側p=0.0095)。また、無遠隔転移生存期間も有意に延長し、遠隔転移の発生または死亡リスクを62%減少させました(HR:0.384、95%CI:0.172~0.858、片側p=0.0077)。―――かなり効果があると言っても差し支えのない成績です。生存期間が非常に短い膵がんにおいても、mRNAベースの個別化ワクチンによってT細胞応答がみられた症例では、生存期間が長くなるのではないかと期待されています1)。「mRNAワクチンを接種したらターボがんになる」というデマmRNAワクチンといえば、「遺伝子が書き換えられて発がんする」という根も葉もないウワサが流れ、一部トンデモがん情報提供インフルエンサーで騒がれたことがありました。とくに、がんの急速な進行のことを独自に「ターボがん」などと名付け、デマが流布されました。そもそも「ターボがん」自体がコンセンサスのない概念なので、二重デマなわけですが…。何億回と接種されてきた新型コロナワクチンですが、現時点で発がんに関する安全性シグナルは検知されていません。アメリカの国立がん研究所においても、「新型コロナワクチンが発がんを引き起こし、再発やがんの進行につながることを支持するデータはない」と明記されています2)。そんなmRNAワクチン技術によって、発がんどころか、がんの治療が行えるというのは、誠に興味深い現象です。参考文献・参考サイト1)Rojas RA, et al. Personalized RNA neoantigen vaccines stimulate T cells in pancreatic cancer. Nature. 2023 Jun;618(7963):144-150.2)National Cancer Institute:COVID-19 Vaccines and People with Cancer

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12月27日 国際疫病対策の日【今日は何の日?】

【12月27日 国際疫病対策の日】〔由来〕新型コロナウイルス感染の初確認から約1年となる2020年、疫病の大流行に対する備えの必要性を国際社会が認識し続ける狙いをこめて、国連総会の本会議で採択し、制定。関連コンテンツ新興再興感染症に気を付けろッ!コロナの症状、ワクチン回数による違い【患者説明用スライド】年齢別、コロナ後遺症の発生頻度【患者説明用スライド】コロナ再感染、高齢者よりも若年層で増加コロナとインフルの死亡リスク、最新研究では差が縮まる

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次世代mRNAコロナワクチン、国内第III相で有効性・安全性を確認/Meiji Seika

 Meiji Seika ファルマは12月21日付のプレスリリースにて、同社が国内における供給・販売を担う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)「コスタイベ筋注用」(ARCT-154)について、追加免疫国内第III相試験の結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月20日号に掲載されたことを発表した。 本試験は、既存mRNAワクチンを接種済みの成人を対象とし、次世代mRNAワクチンと既存mRNAワクチンの追加接種を比較した初めての臨床試験だ。本試験の結果、ARCT-154の5μgの追加接種が、コミナティ(ファイザー製)の30μgの追加接種と比較して、武漢株(Wuhan-Hu-1)に対して非劣性を示し、オミクロン株BA.4/5株に対して優越性を示すことが認められた。 次世代mRNAワクチンのARCT-154は、新規のsa-mRNA技術を使用しており、細胞内に送達されたmRNAが増幅されるように設計されている。そのため、既存ワクチンよりも少ない接種量で高い中和抗体価、高い安全性と有効性、効果の持続が期待される。 本試験では、既存mRNAワクチンを3ヵ月以上前に3回接種した18歳以上の健康成人828例を対象に、1回の追加接種としてARCT-154を5μg(420例)、あるいはコミナティを30μg(408例)接種し、免疫原性および安全性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追加接種から4週間後の武漢株に対する中和抗体価の幾何平均(GMT)は、ARCT-154群:5,641(95%信頼区間[CI]:4,321~7,363)vs.コミナティ群:3,934(2,993~5,169)であった。GMT比:1.43(95%CI:1.26~1.63)。・武漢株に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:65.2%(95%CI:60.2~69.9)vs.コミナティ群:51.6%(46.4~56.8)で、差は13.6%(95%CI:6.8~20.5)となり、非劣性が示された。・オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価のGMTは、ARCT-154群:2,551(95%CI:1,687~3,859)vs.コミナティ:1,958(1,281~2,993)であった。GMT比:1.30(95%CI:1.07~1.58)。・BA.4/5に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:69.9%(95%CI:65.0~74.4)vs.コミナティ群:58.0%(52.8~63.1)となり、優越性が示された。・ARCT-154またはコミナティの追加接種により、重度または重篤な有害事象は認められず、忍容性は等しく良好だった。・特定局所反応については、ARCT-154群の95%、およびコミナティ群の97%から報告された。特定全身有害事象については、同じく66%および63%から報告された。 本試験結果は、ベトナムで実施された海外第I/II/IIIa相試験と海外第IIIb相試験、米国・シンガポールで実施された海外第II相試験などと合わせて申請資料として提出され、2023年11月28日に「コスタイベ筋注用」として厚生労働省より製造販売承認された。本試験は、接種後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月での安全性および免疫応答の持続性や細胞性免疫を検討するため現在も進行中。変異株対応の試験も進められており、2024年秋冬接種に向けて実用化を目指している。

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コロナワクチン全額公費接種を3月31日に終了/ヌバキソビッド供給終了/厚労省

 厚生労働省は12月25日、新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会にて、2024年3月31日に新型コロナワクチンの特例臨時接種による全額公費の接種を終了することを発表した1)。2023年9月20日以降は、生後6ヵ月以上のすべての人を対象に、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの全額公費による接種が行われていたが、2024年4月1日以降(令和6年度)から、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳(インフルエンザワクチン等の接種対象者と同様)を対象に、秋冬に自治体による定期接種が行われる。特例臨時接種終了の情報提供として、リーフレットも掲載された2)。 厚労省は、低所得者以外の接種対象者の自己負担額は、7,000円(ワクチン価格:3,260円、手技料:3,740円)を標準として、各自治体にて検討するよう呼びかけた。接種を受ける努力義務や自治体からの接種奨励の規定はない。接種対象者以外は、任意接種として、時期を問わず自費で接種することとなる。 また同日、厚労省は、武田薬品工業が国内で製造販売する組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「ヌバキソビッド筋注」(従来株対応)について、現在流通しているものの有効期限を迎えた2023年12月25日をもって、供給を終了することも発表した3)。同ワクチンは、何らかの理由でXBB.1.5対応ワクチンが接種できない12歳以上に対して、公費接種で供給されていた。同ワクチンの活用状況として、同社により供給された約824万回分のうち、国内に配送されたのが約110万回分、廃棄されるのが約714万回分だとしている。なお、同社が11月20日に発表した「ヌバキソビッド筋注の供給に関するお知らせ」によると、2024年度以降の供給再開に向けて、変異株の流行状況を考慮したワクチンの準備に取り組んでいるという。

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新型コロナ、免疫回避能の高いJN.1へ急速に進化

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株BA.2.86(ピロラ)から派生したJN.1は、フランス、米国、シンガポール、カナダ、英国など全世界で急速に拡大しており、世界保健機構(WHO)は2023年12月18日付で、JN.1をVOI(注目すべき変異株)に追加した1)。中国・北京大学のSijie Yang氏らの研究グループは、JN.1のウイルス学的特徴を解析したところ、親株のBA.2.86よりも高い免疫回避能を獲得しており、それが受容体結合ドメインの変異(L455S)によるものである可能性が示唆された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月15日号に掲載の報告。新型コロナJN.1は抗体に対する広範な耐性を急速に獲得 本研究では、XBB感染後に回復した人の血漿を用いて、疑似ウイルスに基づく中和アッセイを行い、JN.1の体液性免疫回避能を調べた。対象となったのは、不活化ワクチン(Sinovac製)を3回接種後にXBBにブレークスルー感染(XBB BTI)していた27例、および、ワクチン3回接種後にBA.5またはBF.7に感染し、その後XBBに再感染(XBB再感染)していた54例。 新型コロナJN.1のウイルス学的特徴を解析した主な結果は以下のとおり。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、受容体結合ドメインの変異(L455S)が1つ追加したものとなっている。・JN.1はBA.2.86と比較して免疫回避能が有意に亢進していた。JN.1に対するXBB再感染血漿の50%中和力価値(NT50)は、BA.2.86に対するものより2.1倍低下していた。JN.1に対するXBB BTI血漿のNT50は、BA.2.86に対するものより1.1倍低下していた。・JN.1の免疫回避能は、競合する変異株のHV.1やJD.1.1を上回っていた。・JN.1の受容体結合ドメイン変異(L455S)によって、ACE2との結合親和性が顕著に低下していることが表面プラズモン共鳴法で認められた。これは、免疫回避能の向上がACE2結合の低下と引き換えになっていることを示している。・8種類のXBB.1.5中和クラス1モノクローナル抗体に対するJN.1の回避能を擬似ウイルス中和アッセイで調べたところ、クラス1抗体に対する回避能が高まっていることが示された。・治療用抗体に関しては、SA55(Singlomics製)は、JN.1を含むすべての変異株に対して中和効果を維持していた。 JN.1は、BA.2.86の抗原的多様性を受け継ぎ、L455Sを獲得することにより、抗体に対する広範な耐性を急速に獲得し、ヒトACE2結合の低下と引き換えに、より高い免疫回避能を示した。著者らは、高い免疫回避能は持たないものの、ヒトACE2結合親和性が高く、明確な抗原性を持つBA.2.86やBA.2.75のような株を監視することの重要性を強調している。このような株は、抗原性の違いから優勢株とは異なる集団を標的にすることができ、免疫回避性の高い変異を急速に蓄積して感染拡大する可能性があると指摘している。

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第176回 紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府

<先週の動き>1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府政府は、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ移行して、2024年12月2日に現行の健康保険証を廃止することを閣議決定した。この変更により、現行の保険証は最長1年間使用可能な経過措置が設けられるが、新規発行は停止される。マイナ保険証を持たない人には、保険証の代わりとなる「資格確認書」が発行され、その有効期限は5年間となる。この政策に対して、ネット上では、政府の方針に対して「取得は任意だったはず」「進め方が詐欺的」といった不満が噴出している。政府は、医療機関や保険者、事業主と連携して利用促進に努めるとともに、マイナ保険証の利用率増加に応じた支援金の周知や、保険証の不安払拭やマイナンバーカード取得の円滑化に向けた取り組みを進めていく方針を明らかにしている。閣議決定では保険者の準備や窓口での円滑な対応を考慮して決定されたが、実際にマイナ保険証が使えなかったケースも報告されており、政府は引き続き周知広報を進めるとしている。マイナ保険証への変更は、わが国の社会保障制度におけるデジタル化の一環として注目されているが、利用率は4.5%に止まり、さらなる普及には国民の理解が不可欠となる。デジタル庁は、来年度の予算でマイナンバーカードの利便性向上・利活用シーンの拡大をさらに推進するするとともに、個人情報保護の体制強化に乗り出す方針を明らかにしている。参考1)健康保険証、来年12月2日に廃止 経過措置1年(CB news)2)紙の健康保険証は24年12月2日に廃止「マイナ保険証」へ一本化する期日を閣議決定(ITmedia NEWS)3)マイナ保険証移行で医療効率化へ 利用率は4.5%どまり(日経新聞)4)マイナンバー制度の普及推進継続 個人情報保護の体制強化に21億円(朝日新聞)2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府政府は、65歳以上の高齢者と一定の基礎疾患を持つ60~64歳を対象とする、来年度の新型コロナウイルスワクチン定期接種の標準的な自己負担を7,000円とする方針を決定した。低所得者には接種費用の一部を助成し、実際の自己負担額が7,000円より低くなる可能性もある。一方、定期接種の対象者は65歳以上の高齢者と60~64歳で基礎疾患のある人で、それ以外の任意接種者は助成対象外となり、原則全額自己負担となる見込み。今年度までのコロナワクチンは全世代を対象に公費で全額負担されていたが、来年度からは年1回、秋から冬に接種する定期接種となる。政府は、ワクチン価格が3,260円、診察など接種にかかる手技料が3,740円の計7,000円と見積もっており、来年2月ごろにメーカー各社から価格を聞き取り、超過する場合は対応を検討する。この政策に対し、全国知事会からは負担軽減策を求める声が上がっている。米国ではワクチンの価格と手技料を合わせて2万円前後とされており、来年度以降、定期接種が高額になるケースが想定されている。政府は、接種費用の一部を助成し、市町村に助成金を交付して、国民の負担を軽減を目指している。参考1)コロナワクチン、自己負担7千円に 来年度、高齢者ら対象の定期接種(朝日新聞)2)コロナワクチン定期接種、自己負担の上限7,000円に…自治体が補助上乗せなら減額(読売新聞)3)コロナワクチン定期接種の自己負担7千円 来年度、政府が超過分助成へ(産経新聞)3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府政府は12月24日、2024年度の予算案を閣議決定し、社会保障関係費が過去最大の37兆7,193億円に達することが確認された。この中で、医療費は12兆3,668億円を占める。来年度の診療報酬改定においては、本体部分が0.88%プラスに設定され、これにより看護師や医療関係職種の賃上げが実現される見込み。なお、賃上げ率は定期昇給を含めて約4%になると予測されている。一方、薬価は1%引き下げられ、診療報酬全体の改定率はマイナス0.12%となり、医療費の抑制効果は限定的となる見通し。また、後発薬の供給不足に対応するため636億円が投入され、医療や介護のデジタル化推進にも30億円が割り当てられる。このほか、特許切れの先発医薬品に対する後発薬との差額の25%が新たな患者負担となる見込み。介護分野では、報酬の引き上げにより賃金体系の底上げを図り、人手不足の解消を目指す方針。しかし、介護保険サービス利用者の自己負担引き上げは見送られ、高齢化に伴う費用増加への対応には課題が残されている。政府は、医療費の抑制と賃上げのバランスを考慮しながら、次世代への負担を軽減する持続可能な医療体系の構築を目指しているとのこと。参考1)令和6年度予算政府案(財務省)2)24年度予算案、社保費膨張で初の37兆円 総額112兆円(日経新聞)3)社会保障費、過去最大の37.7兆円 来年度予算案決定(CB news)4)来年度予算案 閣議決定 一般会計総額 2年連続110兆円超(NHK)4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所国立社会保障・人口問題研究所が12月22日に公表した2050年の地域別将来推計人口によると、わが国の総人口は2,146万人減の1億468万人になる見込みで、東京を除く46道府県で人口が減少する。とくに秋田、青森、岩手など11県では、30%以上の人口減が予測されており、25道県では65歳以上の人口割合が4割を超えるとされている。地方の人口減少と高齢化は加速度的に進行し、東京への一極集中が深刻化すると予想されている。市区町村別では、全体の95.5%で2050年の人口が2020年に比べて減少し、19.7%は半数未満になると推計。また、全国的に人口減のスピードは加速し、とくに地方では社会基盤の維持が困難になる可能性が指摘されている。2050年には、全体の2割にあたる11の県で30%以上減少し、多くの地域で高齢者も減少し、人口減少が進むペースに地域差が出ることが明らかになった。専門家は、とくに人口減少のペースが早い地域では、インフラや公共交通機関が過剰なサービスにならないか、人口の規模に見合うよう見直すきっかけにするべきだと指摘している。また、地方の人口減少を止めるためには企業の役割が重要で、新たな投資を行い、地域で事業を継続・発展させ、雇用を生み出すことが必要だとも述べている。参考1)『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』(国立社会保障・人口問題研究所)2)2050年の人口、東京への一極集中が深刻化…46道府県で減少(読売新聞)3)人口減少の日本 2050年にはどうなる 最新データからわかること(NHK)4)2050年の人口、11県で3割減予測 25道県で高齢者4割に(毎日新聞)5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会」が新たにまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表された。公表された睡眠ガイドでは、睡眠の量と質の確保を目的とし、年代別に睡眠時間の目標を設定しており、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間、成人には毎日6時間以上の睡眠を推奨している。一方、高齢者に対しては8時間以上の寝床時間を避けることが推奨されている。また、睡眠の質を向上させるための具体的なアドバイスも提供されており、日中の日光浴、寝室の暗さの確保、カフェイン摂取の制限などが挙げられている。日本人の睡眠時間は、世界的にみても短い傾向にあり、睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛などの心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連した作業効率の低下・学業成績の低下など、多岐にわたる影響を及ぼし、事故など重大な結果を招く場合もある。さらに睡眠不足が慢性化すると肥満や心疾患などのリスクが高まることも指摘されている。睡眠の質を高めるためには、寝始めから3時間の睡眠が重要であり、適切な生活習慣の維持が求められている。さらに、睡眠に関する悩みを持つ人々のための専門的なサポートや、睡眠に特化したサービスを提供する施設の充実が求められている。参考1)健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)(厚労省)2)睡眠時間の推奨 成人は6時間 “睡眠の質”上げるポイントは?(NHK)3)成人は6時間以上… 「健康に良い睡眠」ガイド案 厚労省検討会(毎日新聞)4)成人は睡眠6時間以上推奨 健康づくりで厚労省ガイド(日経新聞)6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターで勤務していた26歳の専攻医、高島 晨伍氏が過労に伴い自殺した問題に関連して、西宮労働基準監督署は病院の運営法人「甲南会」や院長、上司だった医師を労働基準法違反の疑いで書類送検した。高島氏は、長時間労働が原因で2022年5月に自宅で自死した。同氏の直前1ヵ月間の時間外労働は207時間50分に及び、約100日間休日がなかったとされている。この事件を受けて、同氏の遺族らは「医師の過労死家族会」を立ち上げ、厚生労働省に医師の働き方改革を進めるよう強く求めた。家族会は、医師の労働時間が正確に反映されるよう要求し、すべての医療従事者に労務管理についての研修を義務付けることなどを含む請願書を提出した。母親である高島 淳子氏は、「患者の命を守る医師が命を落とすことはあってはならない」と述べ、労働環境の改善を強く希望した。武見 敬三厚生労働省大臣は、悪質な労基法違反には厳正に対処すると述べ、医師の働き方改革が重要な議題であると強調した。また、医師臨床研修病院に指定されている甲南医療センターで専攻医の過労自殺が起きたことについて、適切な労働時間と健康の管理が重要な課題であると指摘した。この事件は、医師の過重労働が医療安全に及ぼす影響と、医師自身の健康と命を守るための労働環境改善の必要性を浮き彫りにした。また、家族会の活動と政府の対応は、医師の過労死を防ぐための働き方改革の進展に向けた重要な一歩となることが期待されている。なお、医師の過労死家族会では、全国的活動、労災支援、行政訴求などの活動のための寄付を募っている。参考1)医師の過労死家族会2)甲南医療センター医師の過労自殺、病院側と院長らを書類送検 西宮労基署、労働基準法違反容疑(神戸新聞)3)「悪質な労基法違反は厳正に対処」厚労相 若手医師の過労自殺うけて(朝日新聞)4)神戸の病院で過労死した医師の母親など 家族会結成し国に要望(NHK)

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50~64歳へのインフルエンザワクチン、4価遺伝子組換えvs.標準用量/NEJM

 50~64歳の成人において、高用量の遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチンは、鶏卵を用いた標準用量のワクチンに比べ、PCR検査で確認されたインフルエンザに対する防御効果が高いことが示された。米国・カイザーパーマネンテ・ワクチン研究センターのAmber Hsiao氏らが、163万例超を対象としたクラスター無作為化観察試験の結果を報告した。遺伝子組み換え4価インフルエンザワクチンには鶏卵を用いた標準用量のワクチンの3倍量のヘマグルチニン蛋白が含まれており、遺伝子組み換え製剤は製造過程の抗原ドリフトに影響を受けにくい。65歳未満の成人におけるインフルエンザ関連アウトカムについて、遺伝子組み換えワクチンを標準用量のワクチンと比較した相対的有効性に関するデータが求められていた。NEJM誌2023年12月14日号掲載の報告。2018~19年、2019~20年のインフルエンザシーズンに試験 研究グループは、カイザーパーマネンテ・北カリフォルニアの傘下である施設を通じ、2018~19年と2019~20年のインフルエンザシーズン中に、高用量の遺伝子組み換えインフルエンザワクチン(商品名:Flublok Quadrivalent)、または標準用量インフルエンザワクチン(2種類中1種類)を、50~64歳の成人(主要年齢群)および18~49歳の成人に接種した。各施設は施設の規模で同等になるよう遺伝子組み換えワクチンから開始、標準用量ワクチンから開始のいずれかに無作為化され、2つのワクチン投与は各施設で1週間ごとに入れ替えた。 主要アウトカムは、PCR検査で確認されたインフルエンザ(AまたはB)だった。副次アウトカムは、インフルエンザA、インフルエンザB、インフルエンザ関連入院アウトカムとした。 Cox回帰分析を用いて、各アウトカムについて標準用量ワクチンと比較した遺伝子組み換えワクチンのハザード比(HR)を推定した。相対的なワクチン有効率は、1-HRで算出した。遺伝子組み換えワクチンの有意な防御効果を確認、ただし入院については同等 試験対象集団に包含されたのは、18~64歳のワクチン接種者163万328例であった。そのうち遺伝子組み換えワクチン群は63万2,962例、標準用量群は99万7,366例だった。 試験期間中にPCRで確認されたインフルエンザ症例は、遺伝子組み換えワクチン群1,386例、標準用量群2,435例だった。 50~64歳の参加者でインフルエンザ陽性が認められたのは、遺伝子組み換えワクチン群559例(2.00例/1,000例)、標準用量群925例(2.34例/1,000例)(相対的ワクチン有効率:15.3%、95%信頼区間[CI]:5.9~23.8、p=0.002)。同年齢群において、インフルエンザAに対する相対的ワクチン有効率は15.7%(95%CI:6.0~24.5、p=0.002)だった。 インフルエンザ関連入院に対する遺伝子組み換えワクチンの防御効果について、標準用量ワクチンと比べて有意差は認められなかった(相対的有効率15.9%、95%CI:-9.2~35.2、p=0.19)。

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第76回 海外で新型コロナJN.1が急増

もう来ないでほしい「波」Unsplashより使用日本で現在流行している新型コロナはオミクロン株のEG.5系統(通称エリス)であり、全体の6~7割くらいがこれです。現在インフルエンザの流行で陰に隠れていますが、水面下で感染が広がりつつあるのではないかという見解が増えてきました。懸念されるのは、諸外国で急激に増えているJN.1です(図)。画像を拡大する図. 世界の新型コロナウイルス変異株流行状況GISAIDに登録された各国からのゲノムデータ報告数と国別流行株(10月30日~11月30日)1)諸外国の感染状況アメリカでは12月中旬で1日約3万人の感染者数が報告されており、入院患者数もじわじわと増えてきている状況です。オミクロン株の変異株であるBA.2.86(通称ピロラ)が台頭していますが、ピロラからさらに派生したJN.1(BA.2.86.1.1)が急速に増えています。一応これもピロラの仲間になるわけですが、ややこしいのでJN.1と呼びます。たとえばオランダでは、現在JN.1が最も流行していますが、下水の新型コロナウイルス量が過去最高を記録しており、感染が相当広がっていることがわかります。そのほか、フランスやイタリアにおいても、JN.1が優勢になった直後に急激な入院増加が観察されています。イタリアはこの1年で最多水準の新型コロナ患者数を記録しています。JN.1は、感染性や免疫逃避能がこれまでの変異ウイルスの中で最も強力であることがわかっています(当然といえば当然なのですが)2)。肺炎が多くないのはこれまでのオミクロン株と同様ですが、数が多いと医療逼迫の懸念が生じます。日本もこの波に飲み込まれるのではないかと考えられます。実際、すぐ近くのシンガポールでは呼吸器系の入院のほとんどがJN.1で占められている状況で、マレーシアでも感染者数が倍増しています。ゆえに、同じ島国である日本が、EG.5系統の流行のみでこの冬を乗り切る可能性は低いと考えられます。JN.1は、XBB.1.5やEG.5系統の感染で成立した免疫や、XBB.1.5ワクチンによる免疫を逃避しやすいことから3)、しばらく人類は、このいたちごっこを続けないといけないのかもしれません。ごく軽症であればもう騒がなくてよいのですが、これまでと同じメカニズムで医療逼迫が起こるなら、インフルエンザと同じように警戒し続ける必要があります。参考文献・参考サイト1)東京都健康安全研究センター:世界の新型コロナウイルス変異株流行状況2)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. bioRxiv preprint. 2023 Dec 9. 3)※WHOはXBB.1.5対応ワクチンでJN.1に対しても接種効果ありとコメントしているWHO:Initial Risk Evaluation of JN.1, 19 December 2023

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腎機能を考慮して帯状疱疹治療のリスク最小化を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第56回

 帯状疱疹治療はアメナメビルの登場により大きく変わりました。しかし、すべての患者さんがアメナメビル1択でよいわけではありません。既存の治療薬であっても腎機能を適切に評価することで安全に治療を行うことができます。ただし、過剰投与によるアシクロビル脳症や急性腎障害は重篤な副作用であることから、薬剤師のチェックが非常に重要です。患者情報75歳、女性(施設入居)体重40kg基礎疾患高血圧症、大動脈弁狭窄症、慢性心不全帯状疱疹ワクチン接種歴なし主訴腰部の疼痛と掻痒感直近の採血結果血清クレアチニン 0.75mg/dL処方内容1.バラシクロビル錠500mg 6錠 分3 毎食後 7日分2.ロキソプロフェン錠60mg 疼痛時 1回1錠 5回分3.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後4.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後5.カルベジロール錠10mg 1錠 分1 朝食後6.ダパグリフロジン錠10mg 1錠 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは慢性心不全を基礎疾患として、循環器系疾患の併用薬が複数あります。今回、帯状疱疹と診断され、バラシクロビルとロキソプロフェンが追加となりました。しかし、この患者さんは低体重であり、かつ腎機能が低下(CG式よりCcrを算出したところ推算CCr40.9mL/min)していることから、腎排泄型薬剤の投与量の補正が必要と考えました。表1 バラシクロビル添付文書画像を拡大する現在のバラシクロビルの処方量では、代謝産物の9-carboxymethoxymethylguanine(CMMG)の蓄積による精神神経系(アシクロビル脳症)の副作用の発症リスクが高くなる可能性があります1)。利尿薬を併用していることから、腎機能増悪の懸念もありました。さらに、疼痛コントロールで処方されているロキソプロフェンも腎機能の増悪につながるので、できる限り腎機能への負担を軽減した治療薬へ変更する必要があると考え、処方提案することにしました。処方提案と経過医師に電話で疑義照会を行いました。腎機能に合わせたバラシクロビルの推奨投与量は1,000mg/回を12時間ごとの投与であり、現在の処方量(1,000mg/回を毎食後)では排泄遅延によるアシクロビル脳症や腎機能障害が懸念されることを説明しました。また、ロキソプロフェンは腎機能に影響が少ないアセトアミノフェンへの変更についても提案しました。医師より、肝代謝のアメナメビル200mg 2錠 夕食後に変更するのはどうかと聞かれました。治療薬価(表2)に差があるため、今度は費用対効果の問題が生じることを伝えたところ、バラシクロビル1,000mg/回を12時間ごとに変更するという指示がありました。また、ロキソプロフェンはアセトアミノフェン300mgを疼痛時に2錠服用するように変更すると返答がありました。その後、発症4日目に電話でフォローアップしたところ、腰部の疼痛および掻痒感は改善していて、その後も意識障害や精神症状の出現はなく経過しています。表2 治療薬価(著者作成、2023年12月時点)画像を拡大する1)筒井美緒ほか. 2006. 富山大学医学会誌;17:33-36.

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mRNAベースのRSVワクチン、高齢者への有用性を確認/NEJM

 mRNAベースのRSウイルス(RSV)ワクチン「mRNA-1345」について、60歳以上の高齢者への単回接種はプラセボとの比較において、明白な安全性の懸念が生じることなく、RSV関連下気道疾患およびRSV関連急性呼吸器疾患の発生率を低下したことが示された。米国・ModernaのEleanor Wilson氏らが、第II-III相の無作為化二重盲検プラセボ対照試験(22ヵ国で実施、現在進行中)の結果を報告した。高齢者におけるRSV感染が重大な疾患と死亡を増加させていることが報告されている。mRNA-1345は、安定化させたRSV融合前F糖蛋白をコードするmRNAベースのRSVワクチンで、臨床研究中の新たなワクチンである。NEJM誌2023年12月14日号掲載の報告。プラセボ対照試験で、下気道疾患の予防の有効性を評価 研究グループは、60歳以上の高齢者を、mRNA-1345(50μg)またはプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 主要エンドポイントは2つで、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防と、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患の予防とした。重要な副次有効性エンドポイントは、RSV関連急性呼吸器疾患の予防とした。安全性も評価した。有効性82.4~83.7%、年齢や併存疾患で定義のサブグループ間も有効性は一致 2021年11月17日~2022年10月31日に、計3万5,541例が無作為化された(mRNA-1345ワクチン群1万7,793例、プラセボ群1万7,748例)。両群のベースライン特性はバランスが取れており、登録時の参加者の平均年齢は68.1歳、49.0%が女性、36.1%が非白人、34.5%がヒスパニック/ラテン系。1つ以上の併存疾患がある患者は29.3%、うっ血性心不全既往1.1%、COPD既往5.5%であった。21.9%が虚弱またはフレイルの状態であった。 追跡期間中央値は112日(範囲:1~379)。主要解析は、予想されたRSV関連下気道疾患症例の50%以上が発生した時点で行われた。 ワクチンの有効性は、少なくとも2つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては83.7%(95.88%信頼区間[CI]:66.0~92.2)であり、少なくとも3つの徴候・症状を伴うRSV関連下気道疾患に対しては82.4%(96.36%CI:34.8~95.3)であった。また、RSV関連急性呼吸器疾患に対するワクチンの有効性は68.4%(95%CI:50.9~79.7)だった。 防御効果は2つのRSVサブタイプ(AおよびB)いずれに対しても観察され、年齢および併存疾患で定義したサブグループ間でも概して一致していた。 mRNA-1345群ではプラセボ群よりも、局所副反応(58.7% vs.16.2%)、全身性副反応(47.7% vs.32.9%)の発現率が高かったが、ほとんどの副反応は軽度~中程度で、一過性のものだった。重篤な副反応の発現率は、各群とも2.8%であった。

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腎移植患者に対する帯状疱疹ワクチン接種の推奨/日本臨床腎移植学会

 日本臨床腎移植学会は、2023年11月7日付の「腎移植患者における帯状疱疹予防に関するお知らせ」にて、腎移植患者に対する帯状疱疹発症予防のための乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)の接種を積極的に検討するよう同学会の会員に向けて通達した。 米国疾病予防管理センター(CDC)の勧告や海外の最新のガイドラインにおいて、固形臓器移植患者に対するワクチンの接種は、原則、移植前に接種するよう推奨されており、移植前にワクチン接種が不可能な場合は、移植後少なくとも6~12ヵ月後に接種することが望ましいとされている1,2)。 2023年6月に本ワクチンの適応が「帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者」へ拡大された。本ワクチンは、50歳以上を対象とした臨床試験において、2回の接種による帯状疱疹への高い予防効果と、約10年間にわたる予防効果の持続が確認されている3-5)。 接種対象者拡大の追加承認は、腎移植患者や自家造血幹細胞移植患者における臨床試験結果6,7)に基づいており、本ワクチンは不活化ワクチンのため生ワクチンが禁忌となる免疫抑制剤使用中の患者でも接種が可能とされる。現時点で、腎移植患者における帯状疱疹発症予防を検証したデータはないが、腎移植患者を対象とした臨床試験6)において免疫原性が確認されている。問題となる副反応や、拒絶反応を増加させる報告はない。また、同学会は通達の中で、自家造血幹細胞移植患者を対象とした臨床試験7)で検証された予防効果(約2年間の観察期間において68.2%)は、腎移植患者においても参考になりうるデータと考えている、としている。■参考文献・参考サイト1)CDC, Clinical Considerations for Use of Recombinant Zoster Vaccine (RZV, Shingrix) in Immunocompromised Adults Aged ≧19 Years. Last Reviewed: January 20, 2022.2)カナダ・アルバータ州予防接種方針|予防接種の特別な状況(2023年12月4日改訂)3)Lal H, et al. N Engl J Med. 2015;372:2087-2096.4)Cunningham AL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1019-1032.5)Strezova A, et al. Open Forum Infect Dis. 2022;9:ofac485.6)Vink P, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:181-190.7)Bastidas A, et al. JAMA. 2019;322:123-133.

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日本人コロナ患者で見られる肥満パラドックス

 日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。 古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。 解析対象は1,105人でほぼ全員(99.3%)が日本人であり、半数(50.1%)が男性だった。主要評価項目は入院から29日以内の全死亡(あらゆる原因による死亡)とし、副次的評価項目として侵襲的呼吸管理(IRC)の施行を設定。年齢、性別、BMI、体表面積、ワクチン接種の有無、レムデシビル・デキサメタゾンの使用、化学療法施行、好中球/リンパ球比(NLR)などとの関連を解析した。なお、IRCは酸素マスクによる5L/分以上での酸素投与にもかかわらず、SpO2が93%未満の場合に施行されていた。また、年齢、BMI、NLRなどの連続変数は、ROC解析により予後予測のための最適な値を算出した上で、年齢は72.5歳、BMIは19.6、NLRは3.65をカットオフ値とした。 入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。 IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。 著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。

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BMIが高いとコロナワクチンの抗体応答が低い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが普及し、その効果に関してさまざまな報告がなされている。ワクチンと体型、とくにBMI高値の肥満の人にはどのように関係するのであろう。この疑問に対し、オーストラリア・クイーンズ大学化学・分子バイオサイエンス学部のMarcus Zw Tong氏らの研究グループは、COVID-19から回復した被験者から血液サンプルを採取し、ワクチン接種前後の抗体反応を測定・解析した。その結果、高いBMIがワクチンの抗体応答低下と関連することが示唆された。Clinical & Translational Immunology誌2023年12月3日号の報告。BMIの上昇がワクチンの体液性免疫応答の障害と関連 方法としてSARS-CoV-2感染から約3ヵ月後および13ヵ月後に回復した被験者から血液サンプルを採取(これらの対象者はSARS-CoV-2に曝露されておらず、また、その間にワクチン接種も受けていない)。そして、2回目のCOVID-19ワクチン接種後約5ヵ月経過した人(大多数はSARS-CoV-2感染歴なし)から血液サンプルを採取。SARS-CoV-2に対する体液性反応を測定し、BMIが25以上かそれ以下かでグループ分けし、結果を解析した。 主な結果は以下のとおり。・年齢および性差を考慮した場合、高いBMI(25以上)がSARS-CoV-2感染後のワクチン抗体応答の低下と関連することが示された。・感染後3ヵ月では、高いBMIはワクチン抗体価の低下と関連していた。・感染後13ヵ月では、高いBMIはワクチン抗体価の低下およびスパイク陽性B細胞の割合の低下と関連していた。・2次ワクチン接種後5ヵ月目では、BMI≧25とSARS-CoV-2に対する体液性免疫との間に有意な関連は認められなかった。 これらの結果を受けて、Tong氏らは「高いBMIはSARS-CoV-2感染に対する体液性免疫応答の障害と関連していることが示された。BMIが25以上の人における感染誘導性免疫の障害は、感染誘導性免疫に依存するのではなく、ワクチン接種のさらなる促進を示唆する」と結論付けている。

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第75回 今冬新型コロナは再び流行するのか?

インフルエンザの流行が爆発中Unsplashより使用新型コロナはどこにいったのかというくらい、インフルエンザの感染が流行しています。うちの子供の学校でも学級閉鎖が相次いでいます。しかし、何となく一山越えた感じがあって、そろそろ落ち着いてくれるんじゃないかと期待しています。画像を拡大する図. インフルエンザと新型コロナの定点医療機関当たりの患者数(人)(筆者作成)1、2)新型コロナは定点医療機関当たりの患者数が2.75人とじわじわと増えてきているような印象があって、もしかしてこれは…と警戒しています。アルファ株やデルタ株のときほど怖がらなくてもよいと思っていますが、ワクチン接種を続けている人もだんだんと減ってきていますから、実生活に与える感染のインパクトは、まだ大きいかもしれません。ママ友に聞くと、子供に至ってはインフルエンザワクチンだけで2回受診しないといけませんし、ここに新型コロナワクチンは無理というのが本音のようです。ワクチン接種の手間が大きいので、早く混合ワクチンが登場してほしいところです。もはや複数回感染は新型コロナでは当たり前のように起こっているので、「もうかかっても大したことない」と思われる方が多いですが、どうも複数回感染するほど後遺症リスクは高くなってくるという報告もあって3)、そんな単純な問題ではなさそうです。咽頭結膜熱、溶連菌感染症、マイコプラズマ、そして…さらに、国内では小児を中心に咽頭結膜熱、溶連菌感染症が流行しています。いずれも過去最多水準で推移しており、小児科は大忙しです。にしても、それほどコロナ禍の感染対策が小児の免疫に影響を与えたのかと驚くばかりです。韓国や中国ではさらにマイコプラズマが流行し、そしてイギリスでは百日咳の報告数が増えていると報道されています。いやー、そんなに病原微生物が流行ったら、困りますね。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザの発生状況2)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~3)Kostka K, et al. “The burden of post-acute COVID-19 symptoms in a multinational network cohort analysis.” Nat Commun. 2023;14:7449.

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うがいと鼻洗浄がコロナ感染による入院リスクを低減か

 新型コロナウイルスに感染した際には、生理食塩水でうがいと鼻洗浄(鼻うがい)をすることで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院リスクを低減できる可能性のあることが、小規模研究で明らかになった。米テキサス大学ヒューストン医療科学センター産婦人科・生殖科学分野教授のJimmy Espinoza氏らによるこの研究結果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次総会(ACAAI 2023 Annual Scientific Meeting、11月9~13日、米アナハイム)で発表された。 この研究では、2020年から2022年の間に新型コロナウイルスのPCR検査で陽性が確認された58人(18〜65歳)を、低濃度(27人、平均年齢39歳)または高濃度(28人、同41歳)の生理食塩水でうがいと鼻洗浄をする群にランダムに割り付け、COVID-19の症状の発症頻度や持続期間、転帰(入院、集中治療室入室、機械的人工換気によるサポート、死亡)について比較を行った。対照者は、本試験期間中に新型コロナウイルスに感染した9,398人(平均年齢45歳)とした。生理食塩水は、8オンス(約237mL)のお湯に2.13gの塩を溶かした場合を低濃度、6gを溶かした場合を高濃度とし、対象者には1日4回、14日にわたってうがいと鼻洗浄を行ってもらった。対象者のうちの3人は追跡不能となった。 その結果、入院率は低濃度群で18.5%、高濃度群で21.4%であったのに対して対照群では58.8%であり、生理食塩水によるうがいと鼻洗浄を行った群では濃度の高低にかかわらず、対照群よりも入院率が有意に低いことが明らかになった(P<0.001)。それ以外の検討項目については、いずれの群でも対照群との間に有意な差は認められなかった。 Espinoza氏は、「われわれの目的は、生理食塩水によるうがいと鼻洗浄が、新型コロナウイルス感染に伴う呼吸器症状の改善と関連するかどうかを確認することだった。検討の結果、高濃度または低濃度のいずれであっても生理食塩水でうがいと鼻洗浄を行った人では、対照群と比べてCOVID-19による入院率が低いことが明らかになった」と話す。その上で同氏は、「この生理食塩水によるうがいと鼻洗浄の効果に関する結果は、より大規模な試験で検証する必要がある。また、この方法が新型コロナウイルスのあらゆる株に有効であるかどうかについての検討も必要だ」と述べている。 ただしEspinoza氏は、生理食塩水によるうがいや鼻洗浄がワクチン接種や抗ウイルス薬に取って代わるものではないことを強調している。同氏は、「うがいや鼻洗浄は非常に単純な介入だが、われわれが臨床で行っている介入に取って代わるものではない。しかし、実施の容易さから、補完的な介入にはなるだろう。実際、塩は安価な上にどこででも入手可能だ」と話す。 一方、この研究には関与していない、米ノースショア大学病院の感染症専門医であるBruce Hirsch氏は、「生理食塩水によるうがいや鼻洗浄をCOVID-19の治療の一部とするには時期尚早だ」との見方を示す。同氏は、「ささいな介入ではあるが、私は、生理食塩水によるうがいや鼻洗浄を患者に勧めるのはもう少し様子を見てからにしたいと考えている」とコメントしている。

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生後6ヵ月~4歳へのコロナワクチン、救急受診・入院予防に40%有効/CDC

 米国では2022年6月より、新型コロナウイルスの起源株に対する1価mRNAワクチンが、生後6ヵ月~4歳児に推奨となった。米国疾病予防管理センター(CDC)は、2022年7月~2023年9月における乳幼児への新型コロナワクチンの有効性を評価したところ、ワクチン未接種と比較すると、2回以上のコロナワクチン接種は、救急外来受診と入院の予防に40%有効であることが認められた。本結果はCDCのMorbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)誌2023年12月1日号に掲載された。 生後6ヵ月~4歳への新型コロナワクチンは、2022年6月に起源株対応1価ワクチン、2022年12月~2023年4月にオミクロン株BA.4/5対応2価ワクチンが米国にて承認された。この年齢層におけるワクチン接種率は成人よりも著しく低く、2023年1月以降、幼児における新型コロナワクチンの1次接種完了の割合は米国で約5%となっている。なお、1次接種の回数は、ファイザー製では3回、モデルナ製では2回。 本研究では、7つの小児医療センターの急性呼吸器感染症(ARI)に関する集団ベースの前向きサーベイランスであるNew Vaccine Surveillance Network(NVSN)にて、2022年7月1日~2023年9月30日の期間に登録された6ヵ月~4歳の小児7,434例を対象とした。COVID-19によるARI患児の救急外来受診および入院を予防するワクチンの有効性(VE)を、ロジスティック回帰モデルを用いて推定し、ワクチン未接種者と1回または2回以上のワクチン接種を受けた者のオッズをSARS-CoV-2陽性患者とSARS-CoV-2陰性患者で比較した。 主な結果は以下のとおり。・試験期間中、救急外来または病院で登録されたARIを有する6ヵ月~4歳児7,434例のうち、387例(5.0%、年齢中央値15ヵ月)がSARS-CoV-2検査で陽性となり、7,047例(95.0%、22ヵ月)が陰性となった。・SARS-CoV-2陽性群の140例(36.2%)でほかの呼吸器ウイルスが検出され、ライノウイルス/エンテロウイルス(RV/EV)がその約50%、RSウイルスが21.4%を占めていた。一方、SARS-CoV-2陽性群(7,047例)では、RV/EVが全体の36.7%、RSウイルスが17.1%を占めていた。・ARIを発症した乳幼児の85.8%が新型コロナワクチンを接種していなかった。1回接種者は3.8%、2回以上接種者は10.4%であった。・2回目接種率は地域差および人種差が大きかった。地域差は各施設で3.9~27.9%、白人で19.0%、黒人/アフリカ系で2.5%だった。・ワクチンを2回以上接種した小児は、未接種の小児よりも年齢が高かった(年齢中央値 2回以上接種:27ヵ月vs.未接種:21ヵ月)。・未接種者と比較した場合、ワクチンを2回以上接種した乳幼児のワクチンの有効性(VE)は、COVID-19関連の救急外来受診および入院の予防に対して40%(95%信頼区間[CI]:8~60)であり、最終接種からの間隔の中央値は93日(IQR:51~172)であった。・COVID-19関連の救急外来受診および入院の予防に対するワクチン1回接種の有効性は31%(95%CI:-27~62)であったが、95%CIにnull値が含まれていた。 著者は本結果について、ARIで救急受診または入院した乳幼児において、ワクチン2回以上の接種率は10.4%と低いものの、SARS-CoV-2陽性も5%と低い割合であり、この年齢層が過去に軽度のCOVID-19を経験するなど、免疫防御を有する可能性を示唆している。乳幼児へのワクチンは有効だが、ワクチン接種率と医療行為を受けたCOVID-19発生率が低いため、ワクチン効果の推定値の精度は制限されていると述べている。

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パクスロビド投与後のCOVID-19再発リスクは高い?

 抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化予防に有効ではあるが、その反面、再発リスクを著しく高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。パクスロビドを投与されたおよそ5人に1人で、そのようなウイルス学的なリバウンドが認められたという。米マサチューセッツ総合病院の感染症専門医であるMark Siedner氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に11月14日掲載された。 この研究では、新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受けたCOVID-19患者127人を対象として、ウイルス学的リバウンドの発生率を、パクスロビドによる治療を受けた患者(72人、投与群)と受けていない患者(55人、非投与群)との間で比較した。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、1)新型コロナウイルス検査で陰性の判定後に陽性の判定が出た場合、2)ウイルス量が前回の測定値から1.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10個)以上増加し、4.0 log10 copies/mL(1mL当たりのウイルスのコピー数が10の4乗個)未満であったウイルス量が、検査で2回連続して4.0 log10 copies/mL以上になった場合、と定義された。 投与群には、非投与群に比べて平均年齢と新型コロナワクチン接種率が高く、免疫抑制状態にある人が多いという特徴が認められた。新型コロナウイルスのウイルス学的リバウンドは、投与群の20.8%、非投与群の1.8%で確認された(絶対差19.0%、95%信頼区間9.0〜29.0%、P=0.001)。多変量解析では、投与群のみウイルス学的リバウンドと有意に関連することが示された(調整オッズ比10.02、95%信頼区間1.13〜88.74、P=0.038)。また、ウイルス学的リバウンドの発生率は、パクスロビドによる治療開始時期が診断と同日(0日)の場合で29.3%、診断から1日後で16.7%、2日以上後で0%と、開始時期が早いほど高いことも判明した。さらに、リバウンドしなかった患者でのウイルス排出期間(中央値)は3日であったのに対し、リバウンドが生じた患者での排出期間は14日と長かった。 Siedner氏は、「われわれの研究から、パクスロビドを投与された人の20%以上でウイルス学的リバウンドという現象が認められ、この現象が予想よりもはるかに頻繁に生じていることが明らかになった。また、リバウンドが生じた人ではウイルスの排出期間も長かった。このことは、これらの人が、COVID-19から回復後もウイルスを伝播させる可能性のあることを示唆している」と述べている。 なお、これまでの臨床試験では、パクスロビドを投与された患者の中でウイルス学的リバウンドが生じたのは1〜2%であったことが報告されている。研究グループは、この数字の違いは、過去の臨床試験が2つの時点でしか患者を評価していないことに起因する可能性があるとの見方を示す。これに対して今回の研究では、新型コロナウイルス感染から治療を経てウイルス学的リバウンドが生じるまで、患者が注意深く観察された。論文の共著者である、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJonathan Li氏は、「われわれは、週に3回、時には数カ月にわたって患者をフォローアップし、自宅でのサンプル採取を行った。ウイルスRNAレベルとウイルス培養データの両方があることで、パクスロビドを使用した患者の経験をより包括的、かつ詳細にとらえることができた」と述べている。 ウイルス学的リバウンドのリスクがどの程度のものであれ、研究グループは、パクスロビドの有用性を支持している。Li氏は、「私にとって、パクスロビドがCOVID-19重症化リスクの高い患者に対する救命薬であることに変わりはない」と話す。同氏は、「この研究は重要な情報を提供するものではあるが、パクスロビドが入院や死亡の予防に優れた効果を発揮するという事実を変えるものではない。むしろ、パクスロビドを投与された患者に関する貴重な洞察を提供する結果であり、同薬の投与後の患者の転帰を予測するのに役立つ」と話している。

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第174回 2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省

<先週の動き>1.2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省2.1%の薬価引き下げで医療費抑制と処遇改善へ、製薬産業が犠牲に/厚労省3.健康保険証廃止、マイナ保険証への移行は予定通りの2024年秋か/政府4.特許切れの先発品を希望した患者の自己負担増、来年度から/厚労省5.急増する高齢者対策、2025年夏から介護保険利用料の2割負担を拡大へ/厚労省6.カテーテル治療後の死亡事例、さらに10例を追加調査へ/神戸徳洲会病院1.2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省 厚生労働省は、12月8日に社会保障審議会の医療部会と医療保険部会で「2024年度の診療報酬改定に関する基本方針案」を提示し、大筋で了承された。今回の改定の主な柱は、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)、物価高騰を考慮した賃金上昇、人材確保、医師らの働き方改革であり、これらに取り組むとしている。改定の重点課題としては、人材確保と働き方改革の推進が挙げられ、医療従事者の賃上げを促す方向性が打ち出された。とくに「コメディカル」の賃金格差の解消と人材流出の防止を目指す。また、地域包括ケアシステムの推進や医療機能の分化・強化、連携の推進といった従来の取り組みも強化する。基本方針案では、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにデジタル化の遅延が明らかになったことを受け、マイナ保険証や電子カルテの活用による医療機能の強化を明記された。また、医療従事者の長時間労働といった厳しい勤務環境の改善も強調されている。医療部会では、医療従事者の処遇改善、医療DXの推進、高齢者の救急医療の充実などに関する意見が出されたほか、医療保険制度の持続可能性を向上させるために効率化・適正化も議論された。今後、この基本方針をもとに、来年度の当初予算案を閣僚間で最終調整する「大臣折衝」を経て、改定幅が年内に最終決定される。参考1)令和6年度診療報酬改定の基本方針(厚労省)2)診療報酬改定の基本方針案、大筋了承 社保審部会 医療DX、人材確保強化(産経新聞)3)24年度診療報酬改定の基本方針案を了承 社保審の2部会、重点課題は1つに(CB News)2. 1%の薬価引き下げで医療費抑制と処遇改善へ、製薬産業が犠牲に/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定において、医薬品の公定価格の「薬価」を市場取引価格に近付けるため、約1.0%程度の引き下げを検討している。この措置により、医療費の約4千億円が抑制され、国費1千億円程度の圧縮が見込まれている。さらに厚労省は医療従事者、とくに看護補助者らの賃上げを実施した医療機関に対して、報酬を加算する仕組みの導入を検討している。この賃上げの加算は、実績に応じて報酬を増やす仕組みであり、厚労省と財務省が対象職種や加算金額を協議している。診療報酬は、薬価部分と医師や医療従事者らの人件費に当たる「本体」部分から成り立っており、今後の本体部分の改定率が焦点となる。日本医師会は賃上げの実現に向けて増額を訴えているが、財務省は診療所の利益が多いとして引き下げを主張している。厚労省は、看護職員処遇改善評価料を超える幅広い職種の賃上げにつなげるための仕組みを中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会で検討する方針だが、具体的な処遇改善策は年明けに示される予定で、看護職員に限らず医療現場で働く全職種の賃上げが必要とされている。一方、わが国の製薬業界は、薬価の過度な抑圧により、構造的デフレ産業に陥るリスクが指摘されている。新薬開発の成功率が低く、とくにわが国の薬価制度では革新的な医薬品の価格が低く抑えられる傾向にあり、日本市場の魅力が失われたため、新薬の発売が米国や欧州市場よりも遅れる「ドラッグ・ラグ」や、まったく発売されない「ドラッグ・ロス」が問題となっている。今年4月、日本製薬工業協会(JPMA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)からなる日米欧製薬3団体は来年度の改定にあたって、薬価制度改革への提言を行い、患者の新薬へのアクセスを確保し、企業が次世代の治療法やワクチンに再投資できるようにするために、新薬を開発する企業のイノベーションを推進するような薬価制度への移行を求めていた。なお、今年の11月に開催された中医協の薬価専門部会では、ドラッグ・ロスに陥っている医薬品86品目のうち39品目が「わが国にはその病気に対する既存薬がない」と報告されていた。参考1)「薬価」1%引き下げを検討 診療報酬改定、賃上げで加算も(共同通信)2)薬価1%引き下げ検討 診療報酬、賃上げで加算も 6年度改定、厚労省(産経新聞)3)診療報酬の処遇改善策、年明けに具体案 中医協の分科会で枠組み検討へ(CB News)4)2024年度(令和6年度)薬価制度改革への提言(製薬協)5)「薬のないニッポン」 薬価抑圧が招いた危機(日経新聞)6)薬価下落、製薬業は「構造的デフレ」 制度見直し求め自民議連が提言(朝日新聞)3.健康保険証廃止、マイナ保険証への移行は予定通りの2024年秋か/政府政府は、現行の紙の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を明らかにしている。岸田 文雄首相が12日に開催予定の「マイナンバー情報総点検本部」で、予定通り2024年秋に廃止の方針を表明する見通しという報道があった。これに対して武見 敬三厚生労働大臣は、12月8日の記者会見で「決定した事実はない」と述べ、国民の不安を払拭する発言を行った。政府は、マイナンバーカードのトラブルを受けて総点検を行い、その結果を踏まえて最終判断を下す意向。政府関係者によると、マイナ保険証への移行には問題がないと判断されている。これまでデジタル庁の「マイナンバー情報総点検本部」による点検では、マイナ保険証や障害者手帳のひも付けに関する誤りが確認されたが、政府は再発防止策を整え、国民の理解を得る方針。来秋の保険証廃止後も、最長1年間は現行の保険証が利用でき、マイナ保険証を取得していない人には「資格確認書」が発行される予定。厚生労働省は「医療DX令和ビジョン2030」の実現に向けて、マイナンバーカードの普及、さらに利活用推進を進めており、医療・介護の情報共有化に向けて「医療DXの推進に関する工程表」を公開している。医療・介護業界はさらに情報連携のためにIT投資を求められる見込み。参考1)医療DXについて(厚労省)2)医療DXの推進、マイナ保険証の利用及び電子処方箋の導入に関する状況について(同)3)健康保険証の廃止時期「方向性決定の事実ない」武見敬三厚労相(産経新聞)4)現行の健康保険証の廃止、予定通り来年秋…マイナ保険証への移行に問題なしと判断(読売新聞)5)保険証「来秋」廃止方針を維持 12日にも首相表明 政府(時事通信)4.特許切れの先発品を希望した患者の自己負担増、来年度から/厚労省厚生労働省は、12月8日に開かれた「社会保障審議会医療保険部会」で、2024年度中にも後発薬(ジェネリック医薬品)がある先発薬を希望した患者の窓口負担の金額を引き上げる方針を示した。具体的には、発売から5年以上経過した先発品を対象に、ジェネリック医薬品との価格差の一部を患者が全額自己負担する案が提案されている。たとえば、先発品が500円、ジェネリックが250円の場合、窓口負担が3割の患者では、現在150円を支払っているものが200円から250円に増える計算。厚労省は、後発薬との差額の4分の1(25%)を患者の負担に上乗せする案を中心に検討している。この方針により、国費で100~250億円の財政効果が見込まれ、創薬力強化や後発薬の安定供給策に活用される予定。また、医師が先発薬の処方を必要と判断した場合は対象外となる。病気によっては診療ガイドライン上で薬の変更が望ましくないものもあり、これらの状況には配慮されることになっている。この方針に対して、患者の追加負担に関するさまざまな意見が出されており、患者は負担増に敏感であるため、負担は広く薄くすることが望ましいとの声もある。また、薬局など現場での混乱を防ぐため、処方箋様式の見直しについても検討が進められている。参考1)第172回 社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)先発医薬品希望する患者 窓口負担引き上げの方針 厚労省(NHK)3)後発品のある先発薬利用、差額の一部自己負担 厚労省検討 来年度にも、25%程度(日経新聞)4)24年度予算編成作業本格化 長期収載品の選定療養 財政効果は「400億~1000億円」 自民党医療委(ミクスオンライン)5.急増する高齢者対策、2025年夏から介護保険利用料の2割負担を拡大へ/厚労省厚生労働省は、12月7日に「社会保障審議会介護保険部会」を開き、介護保険サービスの利用料について、2割負担の対象拡大を早ければ2025年8月から実施する方針を示した。現在、介護保険の利用者は1割負担が基本で、一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割負担となっている。政府が少子化対策の財源確保と社会保障制度の持続可能性を高めるために、負担割合の見直しを2024年度に実施する計画を立てていたが、システム改修や利用者への周知に時間が必要とされるため、実施時期が遅れることになった。厚労省では、2割負担の対象者を拡大するために、年収基準の引き下げなどを提案しているが、この提案に対して、介護サービスの利用控えや生活への影響を懸念する声が多く、審議会では慎重な判断を求める意見が出された。政府は、介護保険の制度改革は、保険制度を維持するために必要とされ、高齢者人口の増加と介護給付費の増大に対応するため不可欠であり、介護保険の1号被保険者(65歳以上)が支払う保険料の見直しや、介護医療院などの室料負担の変更も検討している。また、政府は、物価高によって生じている介護事業者の経営環境の悪化を踏まえ、介護報酬の引き上げと利用者負担の見直しを併せて議論を続け、来年度の介護報酬の改定幅を年末までに決める方針。参考1)介護保険利用料、2割負担拡大 来年度の導入を事実上断念 厚労省(朝日新聞)2)介護2割負担の範囲拡大、早ければ25年8月施行 年収基準引き下げで9類型提示、厚労省(CB News)3)介護2割負担拡大、年内決定へ 年収190万円以上で試算(日経新聞)4)第109回 社会保障審議会介護保険部会(厚労省)6.カテーテル治療後の死亡事例、さらに10例を追加調査へ/神戸徳洲会病院神戸徳洲会病院で、今年1月以降にカテーテル治療を受けた複数の患者が死亡した問題が今年の7月に発覚していたが、具体的な死亡事例の数は11件に上ることがわかった。一連の死亡事例は、循環器内科医によるカテーテル処置に関連しているとされ、神戸市保健所は今年8月に、病院の医療安全管理体制に問題があったとして行政指導を実施した。病院側は、これまで2件の死亡事例について国の医療事故調査制度に基づいて調査を進めていたが、新たに10件の死亡や合併症の事例が調査対象に追加された。病院のホームページによると、男性医師によるカテーテル処置150件のうち、11件が死亡例であったことを明らかにされた。現在、病院側は、死亡と処置の関連について外部の専門家を交えた検証を進めており、病院は当初の2例と新たな10例の結論は2024年3月末を目途に結論を出すとしている。カテーテル治療後の患者死亡を巡っては、今年の9月に被害者救済の弁護団が設立されており、民事訴訟など今後予想されている。参考1)【第2報】当院循環器内科におけるカテーテル治療・検査に関する経過報告について(神戸徳洲会病院)2)カテーテル手術で患者死亡、10件追加調査 神戸徳洲会病院(産経新聞)3)被害者支援へ弁護団を結成 神戸徳洲会病院の患者死亡(同)4)カテーテル治療後に複数死亡、神戸徳洲会病院が別の10例も調査 外部専門家ら、来年3月末をめどに結論(神戸新聞)

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ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン、流行中の各変異株に有効

 2023年9月に欧米諸国や日本で承認となったファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応新型コロナワクチン(BNT162b2 XBB.1.5)の効果を検証するため、ドイツ・Hannover Medical SchoolのMetodi V Stankov氏らの研究チームは、ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン30μgを接種した医療従事者53人について、接種から8~10日後の免疫応答を解析した。その結果、すべてのファイザーXBB.1.5対応コロナワクチン接種者において抗スパイクIgG抗体が大幅に増加し、現在流行しているSARS-CoV-2の各系統に対する強力な中和反応が誘発されたことが示された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年11月20日号掲載の報告。ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後に変異株の中和反応率が増加 本調査では、対象者の65人の医療従事者のうち、2023年9月にファイザーのオミクロン株XBB.1.5対応ワクチンを接種した53人について免疫応答をモニタリングし、接種から8~10日後を解析した。65人中43人(66%)が過去に4回以上のワクチン接種を受けており、19人(29%)がBA.4/5対応2価ワクチンの接種を受けていた。53人(82%)がSARS-CoV-2感染を経験していた。擬似ウイルス中和試験にて、SARS-CoV-2の8系統(起源株、B.1、BA.5、XBB.1.5、XBB.1.16、EG.5.1、XBB.2.3、BA.2.86)に対する中和反応を解析した。 ファイザーXBB.1.5対応コロナワクチンの効果を検証した主な結果は以下のとおり。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチンの接種により、起源株へのIgG抗体は2~9倍、オミクロン株BA.1へのIgG抗体は3~6倍に有意に増加した(p<0.001)。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、受容体結合ドメインに結合するメモリーB細胞の総割合は、有意に増加した(平均頻度0.88%、p<0.0001)。全体として42.3%の増加がみられ、うち90.4%は交差反応性メモリーB細胞の増加によるものであった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前の中和反応率は、B.1で100%、BA.5で91%、XBB.1.5で55%、EG.5.1で43%、BA.2.86で77%であった。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種後、B.1の中和反応率は100%のままだったが、そのほかすべての変異株で中和反応率が増加した。とくに、XBB.1.5で44倍、XBB.1.16で32倍、EG.5.1で34倍、XBB.2.3で48倍、BA.2.86で17倍の増加を示した。・ファイザーXBB.1.5対応ワクチン接種前、IFN-γ陽性CD4T細胞およびCD8T細胞のスパイクタンパクに反応する頻度は比較的低かったが、接種後は、起源株およびXBB.1.5に対するIFN-γ陽性CD4T細胞の頻度が有意に増加した(p=0.026、p<0.0001)。XBB.1.5に反応するCD8T細胞でも有意な増加が認められた(p=0.0225)。TNF-αの有意な増加は認められなかった。・中和活性がワクチン接種後から次第に低下し、ウイルスが免疫逃避する可能性がある一方で、T細胞媒介の免疫反応はより持続的で強固だと考えられる。

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