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【CASE REPORT】腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症 症例解説

■症例:65歳 女性 腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症腰椎圧迫骨折の急性期に、NSAIDs抵抗性の侵害受容性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を段階的に導入して十分な鎮痛効果が得られ、痛みの緩和だけでなくADLの改善が達成された症例である。高齢者の腰椎圧迫骨折後の5年生存率は30%との報告(Lau E, et al. J Bone Joint Surg Am. 2008; 90: 1479-1486)もあり、腰椎圧迫骨折による疼痛(とくに体動時痛)→安静臥床の遷延→廃用症候群→寝たきり→誤嚥性肺炎→生命危機という経過が考えられる。オピオイド鎮痛薬は最も強力な鎮痛薬であることから、痛みの程度に応じて使用しADLを改善することはきわめて重要な意義を持つ。さらに、オピオイド鎮痛薬の導入にあたっては嘔気や便秘といった副作用対策も予防的に行われており、患者のオピオイド鎮痛薬に対する忍容性も達成されていた。本症例のように腰椎圧迫骨折後に痛みが遷延することは決して珍しくはない。しかしながら、このような遷延する痛みが骨折に伴う侵害受容性疼痛だといえるだろうか。言い換えると、「遷延する痛みが器質的な原因の結果として妥当であるか否か」ということだが、これは必ずしも明確に妥当であるとは言えないことが多い。確かに、本症例では、通常組織傷害が治癒すると考えられる3ヵ月を経過しても、体動とは無関係な持続痛が徐々に増悪・拡大しており、当初の腰椎圧迫骨折だけが痛みの原因とは考えにくい。したがって、われわれは非特異的腰痛症と診断した。このような症例に対して、オピオイド鎮痛薬の効果が明確では無いにもかかわらず、オピオイド鎮痛薬をやみくもに漸増し、さらに頓用薬を併用していたことは不適切であるといわざるを得ない。オピオイド鎮痛薬の使用にあたっては、1. Analgesia (オピオイド鎮痛薬を適切に使用し痛みを緩和させること)、2. Activities of daily living(オピオイド鎮痛薬の使用はADLを改善するためであることを医師が理解し患者に教育すること)、3. Adverse effects(オピオイド鎮痛薬による副作用対策を十分に実施すること)、4. Aberrant drug taking behavior(精神依存や濫用を含む不適切な使用を常に評価し、患者教育を行うこと)の頭文字をとって4Asという注意事項が知られている。本症例は急性期のAnalgesiaとAdverse effectsへの対処は適切であったと考えられるが、腰椎圧迫骨折から3ヵ月が経過した慢性期での対応については検討の余地がある。日本ペインクリニック学会が発行した「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン」では、オピオイド鎮痛薬の使用目的として、痛みを単に緩和するだけでなくADLを改善するために使用することを推奨している。したがって、組織修復(骨癒合)がある程度進んだであろう時期には、痛みが残存している状況でもオピオイド鎮痛薬を増加させずに運動療法の導入やADL改善の意義について教育すべきであったと考えられる。このことは、慢性腰痛に対して長期安静がred flagとして認識されていることと同義である。よって本症例で慢性期に痛みが残存しておりオピオイド鎮痛薬を増量しても痛みが緩和しないことから、医師が安静を指示していたことは適切であるとは言い難い。また、器質的障害による疼痛(侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛)に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合には精神依存や濫用を引き起こしにくいことが基礎研究によって示されているが、この知見は言い換えるとオピオイド鎮痛薬を非器質的な疼痛に対して使用する場合には精神依存を防止し難いことを意味する。また、オピオイド鎮痛薬の血中濃度が乱高下すると精神依存を形成しやすい。したがって、日本ペインクリニック学会の指針でも、オピオイド鎮痛薬は器質的障害が明確な疼痛疾患に対して使用し、その使用時にはオピオイド鎮痛薬の血中濃度を一定にするために徐放製剤(2013年3月現在、非がん性慢性疼痛に対して保険適応を持つ製剤は、デュロテップMTパッチ®、トラムセット®、ノルスパンテープ®である)を使用することが推奨されている。また、このようなオピオイド鎮痛薬を使用する場合にも、非がん性慢性疼痛に対しては一日量として経口モルヒネ製剤120mg換算までにとどめることも推奨されている。これは、鎮痛薬を増量することとQOLの改善効果が必ずしも線形相関にはならず天井効果が現れることがあり、高用量では精神依存や濫用への懸念があるからである。さらに、オピオイド鎮痛薬の使用期間が長くなればなるほど精神依存や濫用、不適切使用が増加することも報告されており、オピオイド鎮痛薬の使用期間は可能な限り短期間にとどめなければならない。このほか、患者自身が鎮痛薬を管理する能力が低下している場合には、家族など患者の介護者にオピオイド鎮痛薬についての知識を教育し、その管理に関与するように指導することも重要である。本症例をまとめると、急性期の腰椎圧迫骨折に対してオピオイド鎮痛薬を早期から導入し、疼痛緩和とADLの改善を達成したことは適切であった。慢性期の腰痛に対して、オピオイド鎮痛薬を増量するとともに頓用させていた点は不適切であった。したがって、オピオイド鎮痛薬の使用にあたっては、治療指針などの推奨事項を十分に理解したうえで適切に使用し、そのことを患者に教育しなければならない。つまり、オピオイド鎮痛薬に対する精神依存や濫用の形成から患者を保護することは医師の義務であると同時に、これらが疑われる患者やオピオイド鎮痛薬の不適切使用が認められる患者に対しては、痛みの重症度にかかわらずオピオイド鎮痛薬を処方しないことは医師の権利であると考えている。

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【CASE REPORT】腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症 症例経過

■症例:65歳 女性 腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症自転車で転倒して腰部を打撲した直後から、腰部の持続痛と体動時の激痛を自覚し臥床して過ごしていた。近医整形外科を受診したところ腰椎レントゲン検査によって第4腰椎圧迫骨折と診断され、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を処方された。しかし疼痛、とくに体動時痛が非常に強いことから1%リン酸コデイン40mgを処方されたものの、疼痛に変化がなかった。そこで、転倒のエピソードから2週間目に塩酸モルヒネ散20mgを導入された。吐き気と便秘に対しては適切に制吐剤や緩下剤が使用されたため、オピオイド鎮痛薬による副作用はなかった。効果不十分のためモルヒネは30→50→60mgまで約2週間かけて漸増され、転倒から約1ヵ月後には持続痛と体動時痛のいずれも著明に改善し、日中も臥床して過ごしていた状態から体動時痛が増強しない程度に家事を行えるまでにADLは改善した。残存している痛みに対してモルヒネが漸増され、20~30mgずつ増量されると1~2週間程度は疼痛が緩和するが再び増悪することを繰り返すようになった。さらに、主治医から疼痛が増強しないように安静にするように指導されたことと、患者本人が体動時痛を過度に恐れることから、再び日中もほぼ臥床して過ごすようになりADLは低下していった。また、疼痛が増強した際の頓用薬には当初NSAIDsが処方されていたが、疼痛の増強の訴えに応じてモルヒネを頓用するように指導されていた。転倒から6ヵ月目にはモルヒネの服薬量は200mgになっていたが日中も臥床していることが多くなり家事のほとんどは夫が担当し、痛み以外に緩下剤に抵抗性の便秘や口渇、不眠も出現していた。モルヒネの頓用をしても鎮痛効果を実感していなかったが1日に数回はモルヒネの頓用を続けていた。転倒から約9ヵ月後、オピオイド鎮痛薬に抵抗性の難治性腰痛として当科を紹介され夫とともに受診した。当院受診時に下肢痛はなかったが、転倒当初の腰部に限局した疼痛ではなく腰背部全体の疼痛を訴え、痛みの増減は体動とは無関係であった。疼痛部位の感覚低下はなかった。また、両下肢の筋力低下は認められなかった。痛みの訴え以外には、不眠(入眠困難感と中途覚醒)を強く述べたが、夫から日中はしばしば傾眠傾向であることや夜間はいびきをかいて寝ていることが聴取された。患者本人は気分の落ち込みが強いが食欲はあり、夫が作った食事を食べておりADLの低下・不活動状態と相まって体重は増加していた。腰部MRIでは第4腰椎椎体に圧迫骨折所見があるが、新鮮な炎症所見や偽関節はなかった。現在の腰背部痛は、腰椎圧迫骨折に伴う侵害受容性疼痛ではなく、痛みの原因として妥当な器質的な障害を伴わない非特異的腰痛と診断した。オピオイド鎮痛薬の鎮痛効果を実感していないにもかかわらず、定期内服に加えて頓用を繰り返しており、オピオイド鎮痛薬の不適切使用(aberrant drug taking behavior)状態と評価した。モルヒネの頓用を禁止するとともに、1日量200mgから30mgずつ1週間毎に漸減し、夫にもモルヒネを中心とした鎮痛薬についての知識を教育しそれらの管理を患者と一緒に行うように指導した。加えて、痛みを理由とした行動制限を解除すること(具体的には、日中の臥床時間を減らすこと、積極的に家事に参加するようにすること)を指導し、ADLの改善とともに行動目標(散歩、ショッピング、家事全般)を段階的に増加させていった。当院初診から4ヵ月程度で腰痛は軽度残存しているが許容範囲内であり、不眠は解消した。モルヒネは漸減・中止でき、ADLおよびQOLは転倒前の状態に回復した。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(83)〕 運動療法の効果:深層を読む

本研究は、重度の精神疾患の患者(統合失調症あるいは統合失調感情障害58.1%、双極性感情障害22.0%、大うつ病12.0%)で地域の精神科リハビリテーションに外来で参加している291名を対象とし、無作為に介入群(グループでの体重管理のセッション、個人での体重管理のセッション、グループでの運動セッション)と対照群(健康一般の講義)に分け、体重減少をメインアウトカムとして6、12、18ヵ月で評価したものである。 結果は、もちろん介入群での優位が示されている。18ヵ月の時点での両群の体重減少の差は3.2kgであったらしい。 確かに、一部の非定形抗精神病薬(上記全ての疾患で高い確率で使用される)においては、肥満や糖尿病が最も注意するべき有害事象である。高度に肥満した精神疾患患者を診察したことのある各科医師は多いのではないかと思う。 そのような危険な薬は使わなければいい、という意見もあるかもしれないので背景を説明すると、統合失調症は、脳内のドパミン過剰が病態と関連しているという古典的仮説があり、その治療薬として開発(発見)されたハロペリドールなどの定型抗精神病薬(Typical Antipsychotics;第1世代抗精神病薬(First Generation Antipsychotics)ともいう )は強力なドパミン遮断作用を持っていた。しかし脳内のドパミン受容体を遮断すれば、まさにパーキンソン病と同じ病態になるので、薬剤性パーキンソン症候群が出現する。かつて精神病の治療は、このパーキンソン症候群との闘いであった。パーキンソン症候群は、誤嚥・転倒リスクを高めるのみならず、独特の歩行障害や顔貌を呈するため、偏見を助長するという悪影響もあり、きわめて有害である。 パーキンソン症候群のリスクを少なくしたものが、非定型抗精神病薬(Atypical Antipsychotics;第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics)ともいう )である。当初は肥満や糖尿病に関してはそれほど注目されていなかったが、徐々に致死的な有害事象であることが判明した。しかし両者の全般的な安全性の差は明らかであり、今ではほぼすべてのガイドラインの選択肢が非定型薬に置き換わったといっても過言ではない。これにより肥満が精神科臨床のきわめて重要な論点となったのである。肥満がなぜこのように重大なこととして取り上げられたのか、お分かりいただけただろうか。 さて、以上で一般的な解説は終わりであるが、はたしてこの論文は「薬剤の有害事象と関連して注目されている肥満が、行動療法で治った」というだけのものなのであろうか?それに、この介入は激しすぎないか?個人の特性に合わせた個別のセッションをして、さらに部活まですれば、何もしない対照に比べて痩せるのが当たり前ではないだろうか?また、著者らも書いているが、現実的にこのプログラムを行うのは経済的にも無理だろう。 ここからは私個人の意見だが、この論文の隠れた重要知見は、「一般人口での類似プログラムと比較すると、一般人口では6ヵ月で効果が無くなるのに対して、重度精神疾患では18ヵ月減少し続けた」という部分ではないかと思う。 つまりこの論文は社会的排除と健康格差の論文として劇的に読み替えることができるのではないか。一般人口では6ヵ月で息切れした効果が18ヵ月も続いているのは、伸び代が大きいということである。これは精神疾患という偏見によって社会的に排除された集団においては、失われた健康も大きいと考えられないか。 イメージしてみよう、精神疾患が重度で働くことができず(経済的貧困、社会参加の減少)、住居も不安定となり、偏見のため外出機会も減り、運動機会も失われ、肥満が悪化し、生活習慣病に罹患し、人的ネットワークが小さくなり、(青年期に発症したものは)教育機会も制限されていて、遺伝負因もあり、これらは世代間で再生産される・・・まさにこれは「複合的不利」(英国ブレア政権の社会的排除対策室の定義等より)である。だからこそ、介入はとても効いたのではないか。 つまりこの集団の方が、専門家と自分の健康について語り合い、仲間とスポーツをするということは、とても貴重な、前向きな体験(大きく言えば社会的包摂)であったのではないだろうか。 そう考えると、この介入前後の主観的ソーシャルサポートの変化などは測定されていないであろうか、とても気になる。(研究全体ではなく本文のみを読んでのコメントです)  この論文から、小生は現代文明の大きな潮流を感じた。論文は深読みするのもまた面白い。

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肥満の重度精神障害者の減量に行動的介入が有効/NEJM

 過体重または肥満の重度精神障害者の減量法として、行動的減量介入が有効なことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のGail L Daumit氏らが実施したACHIEVE試験で示された。欧米では、統合失調症、双極性障害、大うつ病などの重度精神障害者は一般人口に比べ死亡率が2~3倍以上高く、主な死因は心血管疾患だという。肥満の割合も一般人口の約2倍に達しており、ライフスタイル介入が必要とされる。一方、重度精神障害者は記憶や実行機能の障害および精神症状により新たな行動の学習や実践が困難なことが多いため、一般人口を対象とするライフスタイル介入試験からは通常除外され、これまでに行われた数少ない重度精神障害者限定の試験は、試験期間が短い、症例数が少ないなどの限界を抱える。NEJM誌オンライン版2013年3月21日号掲載の報告。行動的減量介入の有用性を無作為化試験で評価 ACHIEVE(Achieving Healthy Lifestyles in Psychiatric Rehabilitation)試験は、重度精神障害患者における行動的減量介入の有用性を評価する無作為化試験。 米国メリーランド州の10地域の精神科リハビリテーション通院プログラムに参加する18歳以上の過体重および肥満者を対象とした。これらの患者が、介入群または対照群に無作為に割り付けられた。 介入群には、各患者に合わせた体重管理指導がグループおよび個別に行われ、グループでの運動指導が実施された。対照群には、ベースライン時に標準的な栄養管理と身体活動に関する情報が提供され、3ヵ月ごとに体重とは無関係の健康教室への参加機会が与えられた。主要評価項目は6ヵ月後と18ヵ月後の体重の変化とし、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月後に体重測定が行われた。対照群に比べ介入群で3.2kg有意に減量 2009年1月~2011年2月までに291例が登録された。統合失調症または統合失調感情障害が58.1%、双極性障害が22.0%、大うつ病が12.0%であり、服用中の向精神薬数の平均値は3.1剤であった。 介入群に144例[平均年齢46.6歳、男性48.6%、平均体重101.3kg、平均体格指数(BMI)36.0kg/m2]、対照群には147例(44.1歳、51.0%、104.0kg、36.5kg/m2)が割り付けられた。18ヵ月後の時点で279例(介入群137例、対照群142例)から体重の測定データが得られた。 介入群では18ヵ月にわたり徐々に体重減少が進み、3回の測定時のいずれにおいても、体重がベースライン以下であった患者の割合が対照群よりも有意に高かった(6ヵ月:62.6 vs 51.1%、p=0.05、12ヵ月:73.0 vs 53.4%、p=0.001、18ヵ月:63.9 vs 49.2%、p=0.02)。 ベースラインからの減量の平均値は各測定点において介入群で優れ、両群間の減量の差[(介入群)−(対照群)]にはいずれの測定点でも有意差を認めた[6ヵ月:−1.5kg、p=0.007、12ヵ月:−2.5kg、p=0.004、18ヵ月:−3.2kg、p=0.002]。 18ヵ月後の5%以上の減量の達成率は介入群が37.8%と、対照群の22.7%に比べ有意に優れ(p=0.009)、10%以上の減量達成率も介入群(18.5%)が対照群(7.0%)よりも有意に良好だった(p=0.007)。 試験期間中に介入群の2例、対照群の3例が死亡し、心血管イベントがそれぞれ6件および8件認められたが、試験に関連するものはなかった。精神科への入院が介入群の14.8%、対照群の20.6%から報告されたが、有害事象の発現については両群間に差はみられなかった。 著者は、「過体重または肥満の重度精神障害者に対する18ヵ月間の行動的減量介入により、治療期間を通じて有意な減量効果が得られた」と結論づけ、「この知見は、重度精神障害者に肥満や体重関連疾患が多くみられる場合には、これら高リスク群を対象に行動的減量介入を行うことを支持するもの」と指摘している。

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慢性腰痛症の高齢者、体重が痛みや歩行時間と関連

 腰痛を有する高齢者で肥満者は過体重者より、歩行および階段昇段時の疼痛が強く腰椎の強度が低いことが、米国・フロリダ大学のHeather K. Vincent氏らの比較記述的研究で示された。腰椎伸展強化を含むリハビリテーション戦略は機能的な可動性と歩行時間を改善し、そのどちらも慢性腰痛症を有する肥満高齢者の体重管理に役立つ可能性がある、とまとめている。American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation誌オンライン版2013年3月8日号掲載の報告。 対象は慢性腰痛を有する過体重以上の高齢者(60〜85歳)55人で、BMIに基づき過体重群(25~29.9kg/m2)、肥満群(30~34.9kg/m2))、高度肥満群(35kg/m2)以上)に分け、機能検査(歩行耐久、椅子立ち上がり、階段昇段、7日間の行動監視および歩行パラメータ)を行うとともに動作時の痛みの程度を評価した。  主な結果は以下のとおり。・歩行および階段昇段中の疼痛スコアは、高度肥満群が最も高く過体重群と比較して有意差を認めたが(p<0.05)、機能検査スコアにおいてはBMIによる有意差はみられなかった。・高度肥満群は、過体重群と比較して歩行時の支持基底面が36%多く(p<0.05)、片脚支持時間/両脚支持時間は3.1%~6.1%高値であった(p<0.05)。・女性は男性より椅子立ち上がりと階段昇段が緩徐で、歩行速度も遅かった。・毎日の歩数は、過体重群および肥満群と比較して高度肥満群が最も低かったが(1日当たり4,421歩 vs 3,511歩vs 2,971歩、p<0.05)、性別による差はみられなかった。・腰椎伸展、腹筋カールアップ、レッグプレスの強度は高度肥満群で最も低かった。また、3つのエクササイズすべてにおいて女性は男性より18%~34%低かった(p<0.05)。・腰椎伸展の強度は階段昇段、椅子立ち上がり、歩行耐久時間と関連していた。・BMIは、1日当たりの歩数ではなく歩行耐久時間の独立した予測因子であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」痛みと大脳メカニズムをさぐる・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート

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痛みと大脳メカニズムをさぐる

神経障害性疼痛の大脳レベルのメカニズム神経障害性疼痛のメカニズムについては、末梢神経の一次ニューロンあるいは脊髄レベルでの研究が非常に進んだのですが、その一方で大脳レベルでのメカニズムも明らかにされてきています。脳の一次体性感覚野と一次運動野には、体部位再現地図(somatotopy)があり、身体各部位からの感覚入力や身体各部位への運動指令の出力を担う脳領域が決まっています。神経障害に伴って末梢神経からの入力がなくなると、その地図が描き換わることがわかっています。具体的には、腕を切断された後に起こる幻肢痛の患者さんの体部位再現地図を調べてみると、手の領域がなくなってしまい、その代わり手の領域の隣にある顔の領域が拡大しています。脊髄損傷の患者さんの場合では、足の領域や腰の領域がなくなる代わりに顔や手の領域が拡大しています。神経障害性疼痛を発生している患者さんは体部位再現地図の描き換えが明確に現れますが、神経障害があっても痛みのない方は描き換えが非常に少ないことがわかっており、体部位再現地図の描き換えが、痛みの発症に関わっていると考えられています。リハビリテーションなどにより神経の入力を増やす治療を行うと、体部位再現地図は再び描き直されて、それとともに痛みが軽減してくることもわかっています。体部位再現地図の描き換えは、末梢からの感覚入力がなくなった神経系のために脳の神経細胞のスペースを使うのは無駄である、その代わり感覚入力のある神経系に利用してもらおう、という生体の代償的な反応と考えられます。なぜ、脳の地図が描き換わると痛みが起こるのかは今のところわかっていません。描き換わるときに、エラーとして痛みの信号を発生してしまうのだと考えられます。 画像を拡大する新しいリハビリテーションの可能性神経リハビリテーションにはさまざまなものがありますが、従来から行われている理学療法や作業療法以外に、私たちの施設では鏡を使った治療を行っています。対象となるのは、脊髄損傷や腕の切断あるいは腕神経叢引き抜き損傷といった運動麻痺を伴う神経障害性疼痛の患者さんです。身体の中央に鏡を立て掛けて健常な手あるいは足を動かすと、あたかも鏡の中で患肢が動いているようなイメージを作ることができます。この鏡を使ったイメージトレーニングにより、脳内の地図が新たに描き換えられることが示されています。われわれはこの治療法で痛みや患肢の運動麻痺が軽減した患者さんをたくさん経験しています。画像を拡大するさらに、より有効な治療法として、リハビリテーション支援ロボットスーツを開発しています。健肢の運動を、人工筋肉によって麻痺している患肢に模倣させる装置です。鏡の治療では視覚的な入力だけですが、リハビリテーション支援ロボットスーツでは実際に患肢が運動をします。したがって、視覚的な情報だけではなくて、筋肉の伸び縮みや関節の屈伸といった体性感覚情報も脳にフィードバックされるので、より強力に運動のイメージを脳内につくることができると期待しています。これから患者さんの協力を得て、臨床応用を進めたいと計画しています。痛みの破局的思考痛みと一次体性感覚野、運動野の関連性は明らかになってきたものの、実際の患者さんでは心理的要因が強く影響します。痛みの事を何度も考えてしまう、痛みを必要以上に大きな存在と考えてしまう、自分が感じている痛みは救い(治療法)がないと考えてしまう、などの性格的な傾向を持つ方がいます。こういった考え方を痛みの破局的思考と呼んでいますが、このような患者さんでは、心の問題が痛みの認識を歪め、不眠や不安、痛みに対する恐怖、抑うつ症状を引き起こし、その結果、行動制限が生じ、ひいては身体機能障害をもたらすという悪循環が起こります。近年では、このような心の問題による痛み悪化のメカニズムに、脳の扁桃体、島皮質、前頭前野という理性・感情・気分を司る領域が関連しているという事も明らかになっています。画像を拡大する脊髄刺激療法の有用性最後に脊髄刺激療法のお話をさせていただきます。神経障害性疼痛で薬物療法抵抗性であったり、あるいは高齢の患者さん等で副作用が忍容できない症例では、脊髄刺激療法を施行します。脊椎硬膜外腔に電気のリードを入れて脊髄を刺激することによって、疼痛を感じている範囲に電気的な刺激を与えて痛みを緩和させる治療法です。鎮痛効果のメカニズムとしては、痛み情報を伝える神経伝達物質の分泌を抑える、抑制性の神経伝達物質の分泌を促進する、脊髄レベルで神経細胞の興奮を抑える、といった作用が報告されています。障害されている神経レベルよりも上位の脊髄領域を電気刺激することで鎮痛効果が得られる患者さんがたくさんいますので、大脳レベルでも効果を発揮しているのではないかとわれわれは考えています。まず電気リードだけを硬膜外腔に挿入して治療効果の確認をし、効果が得られれば皮下に電気の発生装置であるジェネレーターを植え込みます。患者さんは自宅でも痛みが強くなったときにスイッチを入れることで痛みを緩和できます。合併症は、非常にまれですが感染が起こる可能性があります。薬物療法と違って眠気や便秘などの副作用は起こりません。最近は治療機器が進歩して小型化され、10年くらい電池寿命があるジェネレーターも使用できるようになり、より有用性が高くなっています。このように、研究の進歩により痛みのメカニズムが解明されると共に日々新たな治療法が開発されています。

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ポンペ病〔Pompe Disease〕

1 疾患概要■ 定義ポンペ病(OMIM232300)は糖原病II型(GSD-II)であり、1932年ポンペにより報告された。ポンペ病はライソゾームに局在する酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の酵素欠損によりライソゾーム内にグリコーゲンが蓄積する。■ 疫学遺伝形式として、常染色体劣性遺伝形式をとり、頻度は約4万人に1人といわれている。■ 病因ポンペ病では酸性α-グルコシダーゼの酵素欠損により、ほぼすべての臓器にグリコーゲンが蓄積する。肝臓、筋肉、心臓、消化器系の平滑筋、膀胱、腎臓、脾臓、血管、シュワン細胞などの細胞、組織に蓄積する。内耳の絨毛にも蓄積するために難聴も呈する。肥大型心筋症は、乳児型のポンペ病では特徴的な症状である。骨格筋の組織変化は、筋の種類、部位によりさまざまで、グリコーゲンの蓄積の程度、障害度は異なる。病初期は小さい空胞が認められ、徐々にリポフスチン、ミトコンドリア膜などが大量に蓄積し、オートファゴゾームが形成される。とくにfast-twitch type 2線維に多くみられる。組織の線維化に伴い、年齢と共に二次的な組織変化を認め、酵素治療しても不可逆的変化を来す。オートファゴゾーム内にグリコーゲンが大量に蓄積している。■ 症状ポンペ病の発症は、患者により異なり、0~60代までいずれの年齢にも発症する。臨床的には(1)乳児型、(2)遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。画像を拡大する1)乳児型通常、患児は生後1.6~2ヵ月で哺乳力の低下、発育障害、呼吸障害、筋力低下などの症状を呈し、発症する。平均診断年齢は生後4~5ヵ月である(図1)。心肥大が病初期より著明であり(図2)、心エコー上心筋の肥大、心電図ではhigh voltage、short P-R intervalなどを呈する。年齢とともに運動発達の遅れが著明となり、頸定も難しく、寝返り、座位もできない。腱反射の低下、舌が大きく、肝臓も中等度に腫大している。酵素補充療法を施行しないと、通常は平均6~8.7ヵ月で死亡する。1歳を超えて生存する患者は少ない。画像を拡大する画像を拡大する2)遅発型患者の発症年齢は残存酵素活性により異なる。生後1歳頃から62歳まで報告されている。筋力低下、歩行障害、朝の頭痛、特徴的な上ずった言葉、顔面筋の萎縮、呼吸障害、ガワーズ徴候などが比較的初期症状である(図3)。主に骨格筋、呼吸筋、舌筋、横隔膜筋、四肢の筋がさまざまな程度で障害を受ける。心筋を障害するタイプは、小児型といわれる非定形型のタイプで障害する。患者は徐々に呼吸障害、構音障害、歩行障害が強くなり、人工呼吸器の装着、車いす状態となり、最後は呼吸障害、気胸、肺炎などを合併して死亡する。通常、発症年齢は27~36歳、診断年齢は34~41歳、人工呼吸器使用年齢は37~47歳、車いす使用年齢は平均41歳である。画像を拡大する■ 分類臨床的には、前述のように乳児型と遅発型(小児型、成人型)に分類される(表1)。■ 予後とくに乳児型では心筋、ならびに骨格筋など全身の組織に蓄積することにより、心肥大、筋力低下を来し、通常心不全を呈し2歳までには死亡する。遅発型では筋力低下に伴う歩行障害から呼吸筋麻痺を来し、人工呼吸器をつける状態で肺炎、気胸などを合併し、死亡する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断としては、1)臨床的診断、2)病理学的診断、3)生化学的診断(酵素活性、バイオマーカーなど)、4)遺伝子診断などがある。1)臨床的診断(表2)特徴的な臨床症状のほか、乳児型では心電図、心エコー、血清CPKの高値を認める。遅発型でも筋力低下、血清CPK、アルドラーゼの高値を認める。心電図ではPR間隔の短縮、QRSの高電位などがみられる。筋CT、MRIは筋の萎縮、変性を評価するのに重要である。小児型、成人型では椎骨脳底動脈領域に動脈瘤を形成しやすい。画像を拡大する2)病理学的診断ポンペ病の病理学的診断は生検筋でのライソゾーム内でのグリコーゲンの蓄積に伴う空胞化で特徴づけられる。成人型ではあまり組織変化が顕著でない症例もある。乳児型では筋線維が大小不同、筋線維の崩壊、オートファジーの形成、ライソゾーム内に著明なグリコーゲンの蓄積、PAS陽性物質の蓄積が認められる。成人型でも軽度であるが、PAS陽性、酸性ホスファターゼ染色陽性である。電顕所見ではライソゾームが巨大化し、ミエリン様封入体の蓄積もみられる。筋原線維の断裂なども著明である。3)生化学的検査(1)酵素活性の測定酸性α-グルコシダーゼの活性は、人工基質である蛍光基質4- methylumbelliferone誘導体を用いて、患者乾燥濾紙血、あるいはリンパ球、皮膚線維芽細胞で測定して著明に低下する。確定診断として、リンパ球、皮膚線維芽細胞で測定する。患者の診断は比較的、酵素診断で可能であるが、正常者の中にはpseudodeficiencyもおり、正常値の20~40%の酵素活性を示す。日本人の頻度は多く、約50人に1人といわれ、遺伝子診断により患者と鑑別する。保因者は約50%の活性であり、pseudodeficiencyとの鑑別も重要である。出生前診断も可能である。(2)尿中のバイオマーカーの測定ポンペ病患者の尿では、オリゴサッカライドが排泄され、4糖を液体クロマトグラフィー、あるいはタンデムマスで測定する。4)遺伝子診断酸性α-グルコシダーゼ(GAA)の遺伝子は染色体の17q25.2-q25.3に局在する。GAA遺伝子は28kbでエクソンは20存在する。現在まで200以上の遺伝子変異が報告されている。最も多い変異は、乳児型あるいは成人型の一部でみられるc-32-13T>Gの遺伝子変異であり、欧米患者では約75%を占める。C1935C>Aは台湾に多く、cdel.525,delexon18変異はオランダなどのヨーローッパ諸国に多い。日本人ではc.1585_1589TC>GT、c1798C>Tが多くみられる変異として報告されている。pseudodeficiencyの遺伝子型としてはc1726G>A(p.G576S)、c2065 G>A (pE689K)が知られている。酵素活性は正常の20~40%程度を示す。頻度としては両者とも正常人の3~4%の頻度で見い出されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)最近、遺伝子工学により作成されたヒト型酵素アルグルコシダーゼα(商品名:マイオザイム)の酵素補充療法について、早期の治療による臨床症状の改善が報告されている。また、早期診断・治療のために新生児マス・スクリーニングの有用性が報告されている。ポンペ病の治療は、大きく分類して下記のような治療が挙げられる。1)対症療法●乳児型(1)心不全に対しての治療心筋の肥大、横隔膜の挙上などは呼吸障害の要因にもなる。心不全に対する強心薬、利尿薬などの投与、脱水に対する補液が必要。胸部X線、心エコーで病状をフォローする。(2)呼吸管理肺炎、細菌感染など起こしやすい。抗菌薬(マクロライド系)の投与、去痰薬の投与、排痰補助装置などのほか、必要に応じて酸素投与を行う。末期では人工呼吸器の装着をする。(3)嚥下障害に対する管理チューブ栄養などを行う。(4)リハビリテーション酵素補充療法とともに歩行訓練、四肢の運動などを補助する。(5)栄養管理嚥下できない患児に対しては、チューブ栄養、高蛋白食を基本として、高ビタミン、ミネラルを与える。●遅発型(1)呼吸管理初期のうちはタッピング、CPAP、人工呼吸管理など病状に応じて行う。呼吸状態を評価し、感染の予防、抗菌薬の投与、去痰薬の投与、CPAP、人工呼吸管理が必要。(2)嚥下障害の管理嚥下性肺炎の防止。(3)歩行障害に対しての管理歩行のためのリハビリ、装具の着装。(4)栄養管理高蛋白食、高ビタミン食、嚥下困難なときは刻み食、流動食。(5)感染症に対する管理感染症の管理、抗菌薬の投与。2)酵素補充療法酸性α-グルコシダーゼは、マンノース-6-リン酸あるいはIGF-IIレセプターを介して細胞内に効率良く取り込まれ、とくに肝臓、脾臓などの網内細胞に取り込まれる。しかし、心筋、あるいは骨格筋への取り込みは少ない。ポンペ病では、20mg/kgの高単位の酵素を投与することにより筋肉内に強制的に取り込みをさせている。早期治療した患者では著しい臨床症状の改善が認められている。Kishnaniは、乳児型ポンペ病(18例)において、52週の治療研究で95%の死亡率低下と侵襲的呼吸器装着を有意に低下させることができたと報告している。また、新生児マス・スクリーニングで発見され、生後1ヵ月以内に治療した患者では著明な成果が得られており、生存期間は、ほぼ正常な臨床経過を得ている。一方、遅発型の臨床試験では20mg/kg、2週間に1回の酵素補充療法により、6分間歩行ならびに呼吸機能の悪化を防ぐことができたと報告されている。ポンペ病の場合は、酵素に対する抗体産生により酵素治療に反応するgood responderあるいはpoor responderの症例が存在する。4 今後の展望1)シャペロン治療ファブリー病と同様にポンペ病患者の皮膚線維芽細胞レベルではN-butyldeoxynojirimycin(NB-DNJ)の添加により、一部の遺伝子変異のある患者で酸性α-グルコシダーゼ活性が50%以上、上昇する。しかし、いまだ臨床試験のレベルまでは達成していない。2)遺伝子治療レンチウイルスあるいはAAVベクターを用いてのin vivoポンペ病マウスでの遺伝子治療の成功例が報告されている。また、骨髄幹細胞へのex vivoでの遺伝子治療について、Lentiウイルスベクターを用いたポンペ病マウスへの治療に関しても報告されている。3)新生児スクリーニング乳児型のポンペ病では、とくに早期診断が治療と結びつき、重要と考えられる。台湾のChienらは20万6,088名の新生児を乾燥濾紙血を用いてマス・スクリーニングを行い、5名の患者を見出し、かつ生後1ヵ月以内に酵素補充療法を施行した結果、心拡大、筋に組織変化の改善を認め、いずれの症例も正常な発達ならびに呼吸障害を認めず、新生児スクリーニングの著明な成果を報告している。わが国でもパイロット的に新生児スクリーニングの開発が行われている。乳児型の早期診断、治療の重要性を示した貴重な成果と考えられる。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報日本ポンペ病研究会(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター(医療従事者向け情報と一般利用者向けのまとまった情報)患者会情報全国ポンペ病患者と家族の会1)Hirschhorn R, et al. Glycogen Storage Disease Type II: Acid-Alpha Glucosidase (Acid Maltase) Deficiency. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 8th ed. NY: McGraw-Hill; 2001. p.3389-3420.2)Engel AG, et al. Neurology. 1973; 23: 95-106.3)Kishnani PS, et al. J Pediatr. 2006; 148: 671-676.4)衞藤義勝. ポンペ病(糖原病II型):診断と治療社.2009

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「岐阜県COPDストップ作戦」一丸となってCOPDに取り組む

大林 浩幸 ( おおばやし ひろゆき )氏岐阜県COPD対策協議会 本部長(東濃中央クリニック 院長)※所属・役職は2013年2月現在のものです。岐阜県におけるCOPDの現状大規模なCOPD疫学調査NICE Study*の結果によれば、COPD患者は40歳以上の8.6%、約530万人と推定されています。COPDによる死亡者数は年々増加しており2011年の死亡者数は16,639人です。このNICEstudyの有病率に岐阜県の人口を当てはめると、岐阜県のCOPD患者数は12万3070人と推定されます。一方、岐阜県の治療中のCOPD患者数を主要なCOPD治療薬の販売量から推定すると5,000人未満となり、推測患者数の1割にも満たないことがわかりました。すべての治療患者さんが対象ではないとしても、これはあまりにも少なすぎます。残りの10万人以上の方は潜在患者として、気づかれないままでいるか、他疾患の治療のみ受けている可能性もあるわけです。また、岐阜県のCOPD死亡者数は1997年から2009年までの12年間、全国平均を常に上回っています。このように岐阜県のCOPD治療は重要な課題を抱えていました。*NICE(Nippon COPD Epidemiology)study:2004年に順天堂大学医学部の福地氏らが報告した40歳以上の男女2,343名のデータによるCOPDの大規模な疫学調査研究COPD死亡率(人口10万人対)2009年画像を拡大するCOPD死亡率(人口10万人対)岐阜VS全国画像を拡大する手をかけなければいけない疾患COPD喘息には吸入ステロイドなどの治療薬があり、適切な治療で症状改善が可能ですが、COPDには進行を遅らせる治療しかありません。具体的には、禁煙、増悪防止のための感染予防(ワクチン)、日常管理といった基本と、その上で行われる気管支拡張薬、呼吸リハビリテーションなどがそれにあたります。この中の一つでも欠けると奏功しません。このように、COPDはさまざまな医療が必要となる“手をかけなければいけない疾患”だといえます。COPDの認知度の低さCOPDの認知度はきわめて低いものです。一般の方の半数以上はCOPDをご存じありませんし、知っていたとしても名前だけで、COPDがどういう疾患かわかる方はとても少ないです。息切れは年齢のせい、喫煙者だから多少の息切れは当たり前と考えているのですから、医療機関を受診をすることはありません。このように、COPDの認知の低さにより、自分がCOPDである事を知らずに過ごしている方が数多くいることになります。また、受診してもCOPDを理解していないと治療はうまくいきません。COPDの薬剤を吸入しながら喫煙しているケースなどは、その典型例といえます。肺機能検査の普及COPDの早期発見と診断には肺機能検査が必要です。しかし、プライマリ・ケア領域では機器がない、あるいは機器があっても使っていない状況であり、肺機能検査を実施しているのはほとんどが大病院です。つまり、COPD潜在患者のほとんどが医療機関未受診かプライマリ・ケア領域に潜んでいる可能性があります。高血圧などの循環器疾患、脂質異常症や糖尿病、消化器疾患などの疾患治療患者の何割かに隠れCOPDがいると思われます。COPDストップ作戦立ち上げこのような背景の中、岐阜県としては早急にCOPDへの対策を図る必要がありました。COPDは片道切符で、一旦悪化するとなかなか元に戻りません。ブレーキの始動が遅れると終着駅は在宅酸素になります。だからこそ、重症化する前にいかに早期発見・早期診断し、いかに禁煙、薬物治療、リハビリテーションという一連の治療を導入していくのかを考えなければなりません。また、これらの治療はバラバラでは意味をなさず、全県が同じレベルでこれらの治療がカバーできるよう足並み揃えて取り組む必要がありました。そこで平成23年度に岐阜県医師会と岐阜県で協議し、委託事業として県医師会がCOPD対策事業を始めることになりました。まず岐阜県医師会COPD対策協議会を立ち上げ、その下にCOPD対策本部を設置しました。そして岐阜県を5地区に分け、各地区に対策委員会を設置しました。地域医師会との連携がスムーズに行われるように、専門医と共に、地域医師会役員も地区委員に就任していただきました。そして私、大林が岐阜県COPD対策本部長に指名され、平成23年10月に全県一斉に「COPDストップ作戦」を立ち上げ開始しました。岐阜県5ブロック画像を拡大するCOPD対策協議会画像を拡大するCOPDストップ作戦の目的は、COPD死の減少です。活動の軸は、COPDの頭文字をとって、Care COPD(COPDの早期治療)、Omit COPD(COPD発症の最大原因である喫煙習慣の排除) 、Prevent COPD(COPD発症の原因であるタバコの害を啓発し、喫煙開始させない)、Discover COPD(COPDを早期から発見し、早期治療に結びつける)の4本としました。県医師会“COPDストップ作戦”の4つのコンセプト画像を拡大するCOPDストップ作戦 第1弾COPD教育講演会ストップ作戦の第1弾はCare COPDとして、COPD教育講演会を実施しました。COPDの適切な治療法の普及を目的とし、H23年10月〜12月に第1回、翌年のH24年10月〜12月に第2回を県内5地区すべてで行っています。H25年には第3回を実施の予定です。この講演会の特徴は、外部講師を招かず、地元の専門医に座長と講師をお願いしていることです。地域の核となる先生と地域の先生が顔の見える連携を築き、今後の病診連携に役立てることを意図しています。COPDストップ作戦第2弾 スパイロキャラバン第2弾はDiscover COPDとして、スパイロキャラバンを実施しました。COPDの早期発見・早期治療の最大の障壁は肺機能検査(スパイロメトリ―)の普及不足です。肺機能検査を体験していただき、より日常診療的な検査にしていただくことを目的として行っています。まず、岐阜県下の診療所等を対象に、各地区での説明会を行い、ボランティア参加で協力診療所を募りました。肺機能検査装置のない診療所には貸し出し、患者さんに無料で肺機能検査を実施していただくというものです。検査対象者は、COPD以外の疾患で受診中の、喫煙中または禁煙歴があり、労作性呼吸困難の訴えがある40歳以上の患者さんです。この方たちに書面で同意を得て肺機能検査を実施しました。第1回はH23年10月〜12月、第二回はH24年9月〜12月の期間に実施しています。第1回のスパイロキャラバンの結果、COPD疑いありの患者さんは、検査を行った方の30.9%でした。とくに、70歳代では半数、80歳代では6割が疑いありと非常に高い頻度でした。人数でいうと、計530例の潜在患者さんを参加51施設が引き出したことになります。また、肺年齢はII期以上から実年齢に比べ有意に下がっていることもわかりました。このスパイロキャラバンの結果は、県下において積極的にCOPDストップ作戦を展開すべき根拠を明らかにしたといえます。スパイロキャラバン実施結果画像を拡大する年齢別COPD(疑)存在率(%)画像を拡大するCOPDストップ作戦第3弾 禁煙指導セミナー第3弾はOmit COPDとして、プライマリ・ケアの医師、薬剤師を対象に県5地区すべてで禁煙治療法セミナーを開講しました。目的は禁煙治療ができる施設を増やし、禁煙治療をもっと市民に身近なものにすることと、県内の禁煙治療レベルの底上げです。COPDの進行を止める最も有効かつ根本的な治療法は禁煙です。ただし、禁煙指導は標準治療に則り正しく行わないと成果が上がりません。ところが、実際は施設によって禁煙指導のやり方に差があるなど多くの課題がありました。平成24年10月~12月に第1回を行いましたが、反響が大きく、各地域とも非常に多くの先生方に参加いただきました。今年は第2回を開催する予定です。COPDストップ作戦第4弾 吸入指導セミナー第4弾はCare COPDとして、吸入指導セミナーを薬剤師会との連携により実施していきたいと考えています。このセミナーは薬局の吸入指導技術の向上と、すべての薬局で同じ指導ができるようにすることが目的です。COPD治療薬の主軸は吸入薬です。しかし、吸入指導が不十分で、患者さんが誤った吸入方法を行ったり、有効に吸入できていないケースが多くみられます。吸入デバイスもメーカーごとに異なり、すべての薬剤・デバイスを網羅したセミナーが必要とされています。東濃地区では2009年から行っていますが、薬剤師の方は非常に熱心で、成果も上がっています。これから全県下に展開していきたいと思います。COPDストップ作戦の成果と今後スパイロキャラバンで新たに多くの潜在患者から引き出し、プライマリ・ケア領域に多くのCOPD患者さんが埋もれている可能性を示したことは、大きな成果といえます。また、この作戦を通し、医療者の意識の変化も感じられます。COPD患者さんを積極的にみられる先生方も増えるなどCOPDの意識が定着し始めてきたと思います。また、肺機能検査実施の意識が高まってきたと思います。スパイロキャラバンに2回とも参加したり、数多く肺機能検査を実施される熱心な先生も増えてきました。肺機能検査の重要性や簡単さが浸透し、第1回目のスパイロキャラバン開始後、肺機能検査装置の新規購入が増えたようです。禁煙指導セミナーについては非常に反響が強く、禁煙治療の標準化が県下で底上げされたと思います。とはいえ、一般市民へのCOPDの認知率向上は今後も必要ですし、Prevent COPDとして学校での禁煙教室も非常に重要です。さらに、病診連携の実現もありますので、これら4つのコンセプトを軸にCOPD作戦を今後も進めて行きたいと考えています。COPD治療は前述のとおり、しなければならないことが多いのですが、それだけのことを行わないと、患者さんに良い医療を十分に提供できたことにはなりません。しかし、個々の施設ごとで、十分に対応できるとは限りません。そこで、これまでのような局地戦でなく、県全体が力を合わせた総力戦で行うことで、患者さんが救われるのだと思います。

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神経障害性疼痛の実態をさぐる

神経障害性疼痛が見逃されているたとえば熱いものを触ったり、刃物で切れば痛みを感じる。そういう通常の痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。末梢神経の終末にある侵害受容器が刺激されたときに感じる痛みです。侵害受容性疼痛の中には炎症に伴って起こる炎症性疼痛も含まれますが、これらを合わせて生体を守るための生理的な疼痛と呼んでいます。一方、「神経障害性疼痛」は、末梢神経から脊髄、さらに大脳に至るまでの神経系に何かの障害が起こったときに、エラーとして生じる痛みです。生体を守る意義はなく、病的な疼痛と考えられています。このように、神経障害性疼痛と炎症性疼痛は区別して考える事になっています。ただし、臨床的には炎症が遷延し持続的に痛みのシグナルが入力されるような状態では、神経系はエラーとしての過敏性を獲得するため、炎症性疼痛が続いた結果起こる痛みと神経障害性疼痛は明確に区別できないと考えられています。多くの神経障害性疼痛は痛みの重症度が高く、患者さんのQOLは著しく低下します。神経障害性疼痛は、まだまだ医療者に浸透していない痛みの概念です。神経障害性疼痛であることが疑われないで治療されているケースも多くみられ、神経障害性疼痛には特別なスクリーニングが必要だと考えます。神経障害性疼痛のスクリーニング痛みと一口にいっても、ナイフで刺された時の痛みと、炎や熱に手をかざした時の痛みは、おのずと性質が違ってきます。神経障害性疼痛の患者さんの多くは、「ヒリヒリと焼けるような痛み」「電気ショックのような痛み」「痺れたような痛み」「ピリピリする痛み」「針でチクチク刺されるような痛み」といった特徴的な性質の痛みを訴えます。一方、炎症性疼痛の患者さんでは、ズキズキする、ズキンズキンするといった、明らかに痛みの性質が異なった訴えをします。痛みの性質の違いは、痛みの発生メカニズムの違いを表していると考えられています。患者さんの自覚的な訴えから痛みの種類を鑑別するために、痛みの問診票が各国で開発されています。私たちはドイツでつくられた「PainDETECT」の日本語版を許可を得て開発し、その妥当性の検証試験を行っています。痛みの性質、重症度、場所、範囲、時間的変化を1つの質問用紙に記入する形のもので、臨床で使いやすい問診票になっています。侵害受容性疼痛なのか神経障害性疼痛なのか、あるいは両方が混合している疼痛なのかを分類することができます。画像を拡大する痛みの具体性を評価する痛みのスクリーニングにおいて、痛みの性質と共に痛みの具体性を評価することが重要です。たとえば捻挫をした患者さんにどこが痛いか聞くと、「足首のここが痛い、足首を伸ばすと痛い」と明確な答えが得られます。これは痛みの具体性が高いといえます。一方、器質的な異常を伴わない非特異的腰痛や、外傷後の頸部症候群(むち打ち症)では、「腰のあたりが全体的に痛い」とか、「何となく首の周りが痛い」といった部位を特定しにくい漠然とした痛みを訴えることがあります。そのような場合は痛みの具体性が低いと評価します。痛みの具体性が高いときには身体的な問題、器質的な異常があり、痛みの具体性が低い場合は器質的な異常がない(少ない)と判断し、心因性疼痛の要素の有無を考えます。器質的異常の有無は薬物療法の適応を考える際に重要なポイントになりますので、痛みの性質と共に具体性を聞くことは非常に有用です。神経障害性疼痛が合併しやすい疾患神経障害性疼痛が多く見られる疾患は、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症です。たとえば帯状疱疹では、神経にウイルスが棲んでいて神経の炎症や障害が起きます。日本での大規模な調査研究で、これまで神経障害性疼痛ではないと考えられていた腰痛や膝関節症を含む多くの慢性疼痛患者さんの中にも、神経障害性疼痛が含まれていることがわかってきました。首から背中、腰の痛みを訴える患者さんの実に約8割が、神経障害性疼痛だろうと推察される報告もあります。手術後の痛みは意外に調べられていない領域です。傷が治れば痛くないと医療者が思っているので、患者さんが痛みを訴えにくい環境があるようです。開胸手術後は6~8割、乳腺の術後には5~6割、鼠径ヘルニアの術後では3~4割の患者さんが傷が治った後にも痛みを持っていることがわかっています。もちろん手術後に遷延する痛みの病態のすべてが神経障害性疼痛ではありません。術後遷延痛には、神経障害性疼痛とも炎症性疼痛ともいえない独特のメカニズムがありそうだ、ということが分子生物学的な病態研究によってわかってきています。薬物療法による神経障害性疼痛の治療神経障害性疼痛の治療は、侵害受容性疼痛とは治療戦略がまったく異なります。基本的に消炎鎮痛薬は効果がありません。神経障害性疼痛の第一選択薬はCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン(商品名:リリカ)と三環系抗うつ薬です。第二選択薬としては、抗うつ薬セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のうちの一つであるデュロキセチン(商品名:サインバルタ)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン(商品名:メキシチールほか)です。第三選択薬は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)です。まず初めにプレガバリンか三環系抗うつ薬を用います。効果が不十分であれば、いずれかに切り替えるか併用する。プレガバリンは添付文書では、朝と夕方に内服することになっていますが、私たちは就寝前の服用を勧めています。神経障害性疼痛の患者さんは痛みが強く不眠を訴える方が多いのですが、プレガバリンによる眠気の作用を逆に利用した服用方法です。プレガバリンの眠気は鎮静によって生じるものではなく、生理的な睡眠作用であることがわかっています。そのためか、患者さんもぐっすり眠れたという満足感を持つことが多いようです。そして第一選択薬で効果が不十分な場合は、第二選択薬への切り替え、あるいは第二選択薬との併用を行います。ただし三環系抗うつ薬とデュロキセチンの併用では、副作用として興奮・せん妄等のセロトニン症候群を起こす危険性があるので、三環系抗うつ薬とデュロキセチンは基本的に併用はしません。第二選択薬が無効な場合は、第三選択薬として麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)を使います。非がん性の慢性疼痛に対して使えるオピオイド鎮痛薬は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(商品名:トラムセット)とフェンタニル貼付剤(商品名:デュロテップMTパッチ)が主なものです。ブプレノルフィン貼付剤(商品名:ノルスパンテープ)は変形性関節症、腰痛症のみが保険適応となっています。オピオイドは最も高い鎮痛効果を期待できますが、長期間使った場合に便秘や吐き気、日中の眠気などの副作用が問題になります。オピオイド鎮痛薬に対して精神依存を起こす患者さんもまれにですがいます。そのため、第一選択薬、第二選択薬が無効な場合にのみ使うことが推奨されています。オピオイド鎮痛薬使用における注意点非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方は、がん性疼痛とは異なります。がん性疼痛の場合は、上限を設けずに患者さんごとに投与量を設定し、痛みが続いている間は使い続けます。痛みが発作的に強まったときには頓用薬も用います。一方、非がん性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、経口のモルヒネ製剤換算で120mgを上限に設定することが推奨されています。オピオイド鎮痛薬の使用期間は極力最少期間にとどめ、痛みが強くなったときの頓用は推奨されていません。これらのオピオイド鎮痛薬の使用に制限を設けている理由は、すべて精神依存の発症リスクを抑えるためです。がん性疼痛と非がん性疼痛では、オピオイド鎮痛薬の使い方の原則が違うことをご理解いただきたいと思います。オピオイド鎮痛薬の精神依存は、器質的な痛みの患者さんでは基本的に発症しないことがわかっています。器質的ではない疼痛、すなわち痛みの具体性の低い患者さんでは精神依存を起こす可能性が高まるので、オピオイド鎮痛薬を積極的に使用すべきではないと考えています。うつ病や不安障害といった精神障害を合併している患者さんも、オピオイド鎮痛薬による精神依存を発症しやすいことがわかっています。最も強い鎮痛効果を求めるときは、われわれはオピオイド鎮痛薬とプレガバリンを併用しています。プレガバリンには抗不安作用があり、それがオピオイド鎮痛薬による吐き気の発生に対する予期不安を抑制し、制吐効果が期待できます。オピオイド鎮痛薬と三環系抗うつ薬の併用も強い鎮痛効果が期待できますが、吐き気、眠気、抗コリン作用による口渇などを相乗的に増強してしまうため推奨していません。

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石巻地域COPDネットワーク(ICON)の取り組み

喫煙に甘い地域特性とその対策石巻はCOPD、間質性肺炎、塵肺など重症の呼吸器疾患が多い地区です。タバコの購買量も多く、全国平均の1.5倍(2006年のデータ)でした。地域産業の影響もあります。石巻は漁業の街でもありますが、同時に喫煙に甘い地域でもありました。未成年の喫煙は大きな問題で、小学生高学年から中学生の時に吸い出し、高校生で常習喫煙となっている子どもも少なくありませんでした。さらに、公共施設での喫煙対策も立ち遅れており、2006年度のデータでは施設内完全禁煙率は55.4 %(宮城県平均73.9%)でした。このような問題の重大性を鑑み、地域の基幹病院として、2007年12月に石巻市や東松島市などの関係機関へ喫煙対策推進の要望書を提出しました。マスコミも巻き込み新聞などでアピールすることで要望は実現し、2008年4月から石巻市、東松島市の市立学校の敷地内禁煙と公共施設内禁煙などが始まりました。このほか、行政とともに市民医学講座などのイベント、小中学校、高校、大学での防煙教育を行いました。とくに、学校での防煙教室は今では年間20校程度に定着し、小中学生で有意な教育効果が認められるなど、子供たちの意識も確実に変わってきたといえます。学校での防煙教室の様子COPD dayの開催取り組みの一環として、一般市民に対するCOPD啓発イベント「石巻COPD day」を、宮城県、石巻市、石巻市医師会、GOLD、世界COPD Day日本委員会の後援を得て2006年より開始しました。このイベントは、震災のあった2011年を除き、本年まで最低年1回開催しています。お祭り会場、ショッピングセンター、病院などを会場とし、多い年には800名以上の参加者があります。この活動は、疾患啓発とともにCOPDの地域疫学調査の役割を担っています。COPD dayでは、参加市民全員に、質問票によるCOPDチェック(喫煙状態、COPD症状など)、COPDの認知調査、スパイロメトリー、COPD・禁煙のミニレクチャー、COPD疑いのある方には医師による医療相談などを行っています。COPD dayの疫学調査の結果、驚きの事実が明らかになりました。まず、喫煙率は男性41%、女性17%と高いものでした。なかでも20、30、40歳代の若い女性の喫煙率はそれぞれ32%、33%、39%と非常に高く、憂慮すべき事態でした。また、COPDの罹患も多く、スパイロメトリー検査による閉塞性障害は40歳代以上で13.4%(男性20%、女性6%)ということが明らかになりました。NICE study結果では40歳以上の8.6%ですので、タバコ購買量と同様これも全国の1.5倍という高いものでした。COPDの頻度画像を拡大する喫煙状況(2006年石巻COPD Dayでの調査)画像を拡大するICON立ち上げCOPDの罹患状態をそのままにしておくと、当地域での重症COPDは確実に増えてしまうと考えられました。しかし、石巻医療圏(石巻市、東松島市、女川町)は、呼吸器科医師が少ない地域で、人口22万人に対し、呼吸器内科医は当院(石巻赤十字病院)で4名、地域全体でも7名しかいません(2007年当時)。そこで、石巻COPDネットワーク「ICON(Ishinomaki COPD Network)」を2年間の準備を経て2009年10月に立ち上げました。これは石巻とその周辺においてCOPDの患者さんを、医師、看護師、リハビリ専門職、薬剤師、栄養士などが連携して支えるシステムで、ICONに登録したCOPD患者さんは登録医療機関で共通の治療を受けることができるというものです。COPDは糖尿病と同じように患者の自己管理が必須の疾患であり、医師だけでなく多くの医療従事者で診療・ケアにあたることが必要です。また、COPDは予防、早期発見、患者発掘が必要であるため、診療所との連携は不可欠だといえます。現在、基幹病院(石巻赤十字病院)、かかりつけ医、リハビリ病院、在宅医療、訪問看護、薬剤師会などの連携を始めています。医療機関の登録は60施設、うち診療所が49施設、病院が11施設です。東日本大震災で10施設ほど減りましたが(消失2件、廃業7件、脱退1件)、その後新たに7施設がICONに参加しています。登録患者数は299名です。ICONは、医療圏をはみ出し宮城県東北部の広い地域でCOPD連携し、医療資源の少なさをカバーしています。早期から在宅酸素療法も含め最重症の患者さんまでみており、基幹病院での定期的な教育と検査、増悪時の確実な入院も実現しています。さらに、吸入指導・禁煙指導での病薬連携も行っています。石巻赤十字病院ICONの活動COPD治療は、医師だけでは困難です。そのため、医師、看護師、薬剤師、療法士、栄養士という多職種でワーキンググループを作り、定期的に集まってアクションプランの作成、連携パス、教育プログラムなどを共同で作っています。ICON参加スタッフの教育も盛んで、定期的に講師を招いて講演会を実施しています。スタッフは非常に熱心で、講演会には多職種の医療従事者が100名前後集まります。テーマは広く、COPDの疾患理解、吸入指導、リハビリ、呼吸法、在宅酸素など医師以外の医療者も役立つ内容になっています。とくに吸入指導・禁煙指導については地域の保険薬局も積極的に参加していただけるようになり、効果も上がっています。ICON地域連携パスの作成ICON活動のひとつとして「ICON地域連携パス」を作成しました。専門医、プライマリケア医に加え看護師、薬剤師、療法士も加わって作っており、リハビリ、栄養・食事指導、訪問介護など広い範囲をカバーしたパスとなっています。ICON登録診療所の医師は、COPDが疑われる患者さんがいたら、基幹病院に紹介します。基幹病院に紹介された患者さんは検査を受け、COPDと診断された方はICONに登録され、治療導入や教育を受けます。その後、診療所に戻っていただきますが、診療所はICONパスに従って安定期治療を行います。その間、重症度や症状に応じて半年から1年ごとに基幹病院にて教育、COPDの状態チェック、併存症チェックが行われます。増悪時もICONパスに従い、診療所で初期診療を行い、必要と判断されれば基幹病院に紹介されます。入院が必要な場合は、必ず基幹病院(満床の場合はICON加盟の急性期病院)に入院させることを担保しています。増悪回復後は、診療所で引き続き外来治療を行う、必要ならばリハビリ病院で通院リハも行うという流れです。震災後はとくに、訪問看護ステーション、訪問診療医との連携が重要課題となっています。仮設住宅に移った後、身体活動性が低下したり、かかりつけ医が遠くなるなどの理由で医療機関の受診が減少した患者さんが多くなりました。COPDでは活動量の低下により増悪や死亡のリスクが増大することが知られており、継続的な治療や指導は重要なのです。この連携よって、病院は外来患者が減少し、増悪の入院治療や患者教育に専念できるようになり、看護師・薬剤師などメディカルスタッフ外来もできるようになりました。診療所は安定期治療と早期発見に専念でき、要入院の増悪患者さんをスムーズに基幹病院に送れるという安心感が得られるようになりました。患者さんは病・診連携により自分の病態に沿った適切な治療が受けられることとなり、お互いにメリットが共有されました。画像を拡大するICON COPDの地域連携パスICON外来前項で述べた定期的なICON登録患者さんのCOPDとその併存症の検査、ならびに自己管理項目の評価と再教育のために、「ICON外来」を行っています。石巻赤十字病院の健診センターで、患者さんの状態に応じて半年から1年ごとに予約診療されています。ここでは、低線量CTによる肺がんのスクリーニングと肺気腫病変の進行評価、肺機能、ADL(千住式)、 QOL(CAT)、6分間歩行などのCOPD関連のチェックだけでなく、心機能、糖尿病(HbA1c)、骨密度、うつ評価(HAD) 、認知機能(MMSE)など併存症の評価も行います。また、看護師による患者さんの疾患理解度の調査(LINQ*)とそれに基づく患者教育、薬剤師による吸入指導、療法士による呼吸リハビリテーション、栄養士による栄養指導も行っています。*LINQ : Lung Information Needs QuestionnaireCOPD患者が自身で管理・治療していくために必要としている情報量を測定する自己記入式質問票。疾患、自己管理、薬、禁煙、運動、栄養の6項目について、現在どの情報が不足しているのかを確認する画像を拡大するICON外来のプログラムICON手帳患者さん向けの「ICON手帳」も作成しました。これは患者さんが症状、運動量(万歩計歩数)、アクションプランなどを毎日記載していくものです。これにより患者さんは、客観的に症状の経過や運動量を確認することができます。また、ICON登録診療所を受診した際、この手帳をかかりつけ医に見せます。かかりつけ医は手帳の内容を確認し、治療介入することとなっています。医師が内容をチェックすることで、COPDの状態把握とともに増悪リスクも早期発見できる訳です。ICON手帳常に改良を続け、近々に改訂版がでる予定これらICON活動の結果はどのようなものでしょうか。当院に入院した増悪期患者さんの治療内容や転帰をみてみると、COPDの診断確定はICON登録施設からの紹介患者さんに多く、適切な治療の実施率もICON登録施設の方が高かったという結果が出ており、ICON活動が効果を現していることがわかりました。画像を拡大する禁煙を含む適切な安定期治療COPDの連携のノウハウCOPDには、GOLDや日本呼吸器学会COPDガイドラインなどの明確な指針があります。加えて、かかりつけ医、基幹病院、リハビリ病院などさまざまなスペシャリストが関与する循環型連携ですので、連携はやりやすいといえます。また、スタッフのモチベーションが上がります。教育は看護士、吸入指導は薬剤師、リハビリは療法士というように、それぞれの役割が必須かつ重要であるため張り合いがでるようです。また、潜在患者が多く、早期発見が容易で早期治療が効果的、診療所で定期的な治療されている疾患がCOPD併存症として多く存在するなど、連携は診療所にもメリットがあります。とはいえ、連携に対していくつかのコツはあると思います。私たちもICONの立ち上げにあたっては、先行してCOPD連携で成功していた前橋赤十字病院や草加市立病院の医師、看護師から連携立ち上げや運用のコツを学び、「石巻COPD Day」の結果報告会やわが国第一人者による複数回のCOPD講演会を開催するなど石巻地域におけるCOPD診療とその連携の重要性について医師の啓発を行いました。また、世話人の選出にあたっては、専門医・非専門医に加えて、看護師、療法士、薬剤師にその間口を広げています。さらに、さまざまな施策については、プレ運用を重ね時間をかけて作っていきました。COPDの連携では、地域特性に合わせた展開が重要だと思われます。石巻は呼吸器の医療資源が少ないため全面的な連携を行っていますが、増悪にポイントを絞った前橋の連携のように、東京や仙台などの都会でもそれぞれの連携方法があると思います。さらに、メディカルスタッフの役割が大きな疾患ですので、メディカルスタッフを信頼し、頼み、任せるという姿勢が重要だと思います。今後の課題60施設登録はあるものの、施設間の温度差はあります。ICON手帳のチェックなど診療所の介入が少ない患者さんは理解度が低く、再教育が必要になることも多く、医師の介入は重要です。いかにしてお忙しい診療所の先生方に介入していただくか、講演会参加の呼びかけ、かかりつけ医での待ち時間を利用した事務員、看護師による患者指導なども検討しています。なかなか進まない早期発見の対策も必要です。スパイロメトリー検査は医師だけでなく看護師への教育が重要であることから、希望する施設にはメーカーに教育に出向いてもらうなどの介入も検討しています。また、6秒量が測れる携帯型スパイロメトリーの活用も検討しています。この機器は診療点数がとれない反面、患者さんの金銭負担がなく医師も勧めやすいので、COPDが疑われる方にベッドサイドで手軽に使える呼吸機能検査にならないかと考えています。そして、現在IPAG質問表を用いていますが、もっと簡単な質問票を検討中です。看護師の指導に診療報酬がつかなかったり、COPD連携の診療報酬のメリットが多くないなど課題も多くあります。しかし、ICONではCOPDが疑われたら間違いを恐れず送っていただくようお願いしています。COPDでなくとも、間質性肺炎など重大な疾患や心臓疾患などが見つかることもあります。これからも、COPDの早期発見、早期介入が実現するよう間口を広げていきたいと思います。6秒量が測れる簡易スパイロメトリー写真は「ハイ・チェッカー」提供:宝通商株式会社

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【CASE REPORT】非器質的疼痛とオピオイド治療 症例解説

症例解説整形外科医がオピオイドを使用する場合においては、やはり最もオピオイドが効果的であることが知られている「侵害受容性疼痛」に対して治療を行うことが優先される。「侵害受容性疼痛」にはNSAIDsが効果を奏し、その効果が十分ではないときにオピオイドを使用することで治療効果が最大となる。しかし、難治性疼痛ではこのように単純な「侵害受容性疼痛」は少なく、「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」や「心因性疼痛」が存在することが知られている。心因性疼痛にはオピオイドを使用すると依存や耽溺、乱用となることが知られている。整形外科医が心因性疼痛の存在を診断することは、多科目連携治療アプローチとして精神科医が加わらない限りは難しい。がん性疼痛ならオピオイド治療には死亡という投与終了が規定されているが、非がん性疼痛の場合は、投与終了できない事もある。そのため、その適応には乱用や依存などを十分考慮することが必要である。この症例の場合、術後の難治性疼痛ということで、痛みの原因が不明であったのにもかかわらず、オピオイド治療を開始したところに問題がある。オピオイド治療はNSAIDsが効果的であり、かつその効果が不十分である症例で、つまり侵害受容性疼痛(XPなどで容易に医師が患者の痛みの程度を理解できるもの)が適切と考えられる1)、2)(表1)。画像を拡大するまたオピオイド治療は精神疾患罹患では依存、乱用の頻度が高くなること3)が知られており、その点でも不適切と考えられる。また37歳という若年では、オピオイドの依存が発生しやすいこと、60歳以上の高齢者の方がオピオイドの鎮痛効果が高いこと4)からも、オピオイドを若年に使用する時はとくに注意が必要であり、長期投与した場合のリビドーの低下や性ホルモンの低下5)なども考慮する必要がある。痛みは患者本人にしかわからないものであり、疼痛(顕示)行動から推察するしか無い。術後難治性疼痛は、その原因を明確にする事が困難である。この症例では、不動時に必ず認められる筋萎縮や骨萎縮が無いことからも精神科疾患も含めた心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能性障害性疼痛の範疇と考えられ、オピオイド治療については慎重であるべきである。参考文献1)三木健司.新薬と臨床.2011;60:1212-1218.2)三木健司ほか.運動器慢性疼痛とオピオイド.In:七川 歓次 監修. 前田 晃 ほか編.リウマチ病セミナーXXIII.永井書店;2012.p.155-161. 3)Edlund MJ, et al.Pain.2007; 129: 355-362.4)Buntin-Mushock C ,et al. Anesth Analg.2005; 100:1740-1745.5)Lin TC,et al.J Anesth. 2010;24:882-887. Epub 2010 Oct 1. << 症例経過へ

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【CASE REPORT】非器質的疼痛とオピオイド治療 症例経過

運動器慢性疼痛の分類通常、器質的な「痛み」は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類され、それ以外のものはしばしば心因性疼痛と分類される。心因性疼痛の定義は明確でなく、器質的疼痛でないものの中に機能性疼痛症候群、中枢機能障害性疼痛と心因性疼痛などが存在するという考え方を提唱するものもある(図1)。機能性疼痛症候群は、King's College LondonのSimon Wesselyが提唱した機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome :FSS)という概念に含まれるものである。FSSは諸検査で器質的あるいは特異的な病理所見を明らかにできない持続的で特徴的な身体愁訴を呈する症候群で、それを苦痛と感じて日常生活に支障を来しているために、さまざまな診療科を受診する。愁訴としては「さまざまな部位の痛み」「種々の臓器系の症状」「倦怠感や疲労感」が多く、代表例として過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症、脳脊髄液減少症、間質性膀胱炎、慢性骨盤痛などがある。FSSの病態のうち、不安、痛み、睡眠、食欲などの症状に脳内の神経伝達物質が関与していると考えられている。これらの中で中枢機能障害性疼痛(central dysfunctional pain)は痛みを主訴とするものであり、線維筋痛症はその代表例である。また整形外科で時々遭遇する術後疼痛症候群は、「痛み」の原因を特定することが難しい。痛みの機序には「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「中枢機能障害性疼痛(機能性疼痛症候群)」のように分類されるが、ヒトの「痛み」はあくまで主観的なものであり、完全に分類することができるわけではない。さらに、ほとんどの痛みはこれらが複雑に絡み合った混合性疼痛であると考えられる。痛みに含まれるこれらの構成要素のバランスを考えることは、痛みの治療選択の大きな助けになる1)。画像を拡大する不適切なオピオイド処方例症例経過37歳女性 肩腱板断裂手術後難治性疼痛転倒し発症した肩腱板断裂に対して肩関節鏡視下に腱板縫合術が行われた。術後肩関節周囲部痛が出現し、肩の可動域訓練が行えなかった。再度、肩関節の手術が行われたが、疼痛は変わらなかった。その後CRPS(複合性局所疼痛症候群)を疑い、術後難治性疼痛と診断され、NSAIDsにて効果が無かったことからオピオイドであるププレノルフィン貼付薬(商品名:ノルスパンテープ)5mgの投与が開始された。しかし、効果が無かったことから同剤が20mgまで増量された。その後も鎮痛効果が認められないため、当科を紹介受診した。肩関節の専門医の診察でも肩関節周囲部痛を説明できる器質的疾患は認められなかった。また、本人の申告では患側の上肢はまったく使用できず、常に三角巾にて固定が必要ということであったが、筋萎縮、骨萎縮は認められず、交感神経の異常を示唆する皮膚温・発汗・皮膚のツルゴール・皮膚色の異常を認めなかった。骨シンチでも異常を認めなかった。厚生労働省CRPS判定指標2)では、CRPSの診断には至らなかった。当院では、「痛み」の原因が器質的疼痛(侵害受容性疼痛および神経障害性疼痛)ではなく、心因性疼痛、機能性疼痛、中枢機能障害性疼痛を含めた非器質的疼痛と判断した。よって、ププレノルフィン貼付薬は不適切と判断し、1週間毎に15mg、10mg、5mg、0mgと減量した。さらに、「痛み」を受容しながら運動療法を行うための認知行動療法的アプローチを行った。当院での診察の経過中に精神疾患罹患があることが判明した。ププレノルフィン貼付薬を減量しても疼痛は変化しなかったが、認知行動療法的アプローチを導入したことで運動療法、可動域訓練が行えるようになり、患側上肢が日常生活動作で使用できるようになり、肩関節の可動域もほぼ正常化した。参考文献1)三木健司ほか.Practice of Pain Management.2012;3: 240-247. 2)住谷昌彦ほか.Anesthesia 21 Century.2008;10: 1935-1940.症例解説へ >>

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雪下ろしによる転落外傷、記録的な大雪に見舞われた2010年冬からの教訓

 2010年冬にフィンランドでは記録的な大雪に見舞われ、とくに南部地方で雪下ろしのために屋根に上った人の転落外傷が例年にない規模で発生したという。ヘルシンキ大学病院のM. Aulanko氏らは、その発生状況と大学病院で行われた処置およびコストなどについて解析した。Scandinavian Journal of Surgery誌2012年第4号12月15日号の掲載報告。 本研究は、ヘルシンキ大学病院外傷診療部門で治療を受けた、突発的な転落により外傷を負った患者の外傷パターン、院内治療、外科手術、および主要な入院総コストを調べることを目的とした。 同部門で2010年1月1日~3月31日の間に治療を受けた、雪下ろしで転落し外傷を負った患者をすべ登録した。年齢、性別、可能な限り飲酒の影響、安全ベルトの有無、転落した高さ、職業などが記録された。また、外傷発生の時間帯、場所、入院遅延、外傷状態、手術、ICU入室期間および入院期間もレトロスペクティブに調べた。 コストについては、6月末までのアフターケアも含めた分について検証した(仕事への影響、リハビリテーション治療などのコストは除外した)。 主な結果は以下のとおり。・屋根から転落したのは30例(65%)であり、12例ははしごからの転落であった。・屋根から転落したが、安全ベルトで地面への激突を免れた人は3例であった。・アルコールの影響が認められた人は2例であった。・調査期間の3ヵ月間に入院した患者は、46例であった。そのうち41例(89%)は2月に起きた事故であった。・大半は男性(43例、93%)であり、平均年齢は52.9歳(範囲:22~82歳)であった。・ICUに入院となったのは7例であった。平均入室期間は7日であった。・平均入院期間は4.7日であった。30日死亡率は0%であった。・46例の外傷総数は97件であり、そのうち骨折は65件(63%)であった。最も頻度の高い外傷は、上下肢と脊柱の骨折であった。・調査対象となった大学病院での治療コストは、総計約54万ユーロであり、患者1人当たり約1万2,300ユーロであった。・結果を踏まえて著者は、「同様の不必要な転落を防止するためには、外傷リスクを理解するとともに除雪の必要性についてプロフェッショナルの意見を求めることが重要である。必要であれば、適切な安全ベルトを着用すること、専門業者の助けを借りることが望ましい」とまとめている。

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関節疾患にみる慢性疼痛

関節痛の概要・特徴痛みを呈する関節で最も多いのが膝関節、次いで肩こりを含めた肩関節が多い。股関節では骨形成不全などがあると痛みが発症するが、膝関節や肩関節に比べて頻度は低い。また、肩関節、手関節および肘関節の痛みの訴えはそれ以上に少なく、治療上も問題になることは多くない。関節痛の原因としては変形性関節症が最も多く、次に痛風、偽痛風、関節リウマチなどの炎症性関節炎、そして感染性関節炎となる。関節痛の多くは、慢性的なケースが多く、継続して痛みがあるか亜急性的に痛みが悪化する患者さんが多い。関節痛のリスク因子には、下肢(股関節、膝関節、足関節)のアライメントの異常(関節の歪み)や肥満、筋力低下がある。日本人にはO脚が多いため、膝の内側が摩耗しやすく、体重増や筋力低下により摩耗が進むと関節痛がさらに悪化するというのはその典型といえる。関節痛の原因関節痛についても、痛みの原因を明らかにし、その原因に対処していくことが必要である。変形性関節症の場合、過労時や荷重時の痛みが多く、安静時痛がない。ちなみに、安静時痛のある場合は、関節リウマチや痛風などの炎症性関節炎や細菌感染などの化膿性関節炎などのこともあるので注意が必要である。炎症性関節炎の場合、痛みの原因となる内科疾患を明らかにする必要がある。痛風であれば熱感や発赤が認められるが関節液の濁りは少なく、採血でCRPおよび尿酸値の高値が認められる。偽通風であれば関節液からピロリン酸が検出される。炎症性関節炎では、感染性関節炎と鑑別しにくい場合もある。化膿性関節炎では、熱感、発赤が非常に強く、白血球は10万レベルになる。一方、炎症性関節炎であれば上がっても白血球は数千から1万程度である。また、化膿性関節炎の関節液では白色の膿が確認されるが、炎症性関節炎の関節液は少し濁っている程度である。炎症性、感染性が除外された場合、単純X線所見と併せて変形性関節症と診断することになる。また、胆嚢疾患や心疾患などの内科疾患が原因で肩関節が痛む関連痛が報告されているが、整形外科に来院する場合もあるので注意が必要である。変形性関節症の特徴的X線所見骨棘形成関節裂隙の狭小化軟骨下骨の硬化関節裂隙の消失関節痛の治療変形性関節症はセルフリミティングな疾患であり、ある程度までしか進行せず自然治癒力が期待できるため治療の緊急性は少ない。NSAIDsで効果を期待できるため、治療初期の2週間ほどはNSAIDsを処方して様子をみて、運動療法を行う。長期にわたり鎮痛効果が必要な場合は、NSAIDsの長期服用による腎障害や胃潰瘍の発現を考慮し、弱オピオイド鎮痛薬の併用あるいは切り替えを検討する。また、変形性関節症ではX線の所見と痛みの程度は必ずしも一致せず、進行した例でも薬物療法や運動療法が有効な場合がある。関節破壊が進展し十分な保存療法を行っても症状の改善が得られず、患者さんの希望するレベルの生活に障害がある場合などは手術の適応を検討する。炎症性関節炎の場合、原因となる内科疾患、関節リウマチであればその治療を、痛風であれば尿酸値を下げるなど、その疾患の治療を行う。感染性疾患は治療に緊急性を要する場合が多い。たとえば化膿性関節炎では、関節破壊が進行し、さらに敗血症で死亡する危険があるため緊急手術を要する。運動療法の積極導入ある程度痛みが軽減したら、運動療法、筋力トレーニング、関節可動域改善のトレーニングを行う。痛みがあると、その部位の筋力が低下していることが多く、運動療法で筋力を回復するだけでも随分痛みが改善することが多い。変性疾患で軟骨が摩耗している変形性膝関節症であれば、むしろ運動療法することでが機能が回復するとされている1)。「痛み=安静」という意識を変え、症状改善のためには、少し痛みが残っていても動くことを勧めるのも治療選択肢であろう。代表的な運動療法としては、肩関節周囲のコッドマン体操や滑車体操、膝関節の大腿四頭筋訓練、股関節の股関節周囲筋筋力体操などがある。いずれの場合も運動療法を導入する際は、管理下の運動療法といって、PTや整形外科医の指導・監視下で行うことが基本であり、その際には、整形外科医との連携を図っていただくべきであろう。高齢者の肩の腱板断裂関節痛とは異なるが整形外科では高齢者の肩の腱板断裂という疾患が近年多くみられるため紹介する。この疾患は、急に肩が動かなくなり、夜も寝られない程の肩の痛みを訴える。しかしながら、単純X線検査では診断がつきにくく、内科からの紹介も多い。検査としてはドロップアームサインがある。腕を上げてバンザイはできるが、肩の腱板が切れているため腕をおろしてゆくと保持できず途中でドロップする。つまり、棚の上の物が取れなくなるが、腕をおろした状態では問題がないため字は書ける。治療として、NSAIDsで痛みをある程度軽減してから、手術療法が必要なければ運動療法により肩の可動域を保持する。症例ごとに最適の疼痛診療を目指す整形外科領域の疼痛の診療にはさまざまなピットフォールがあるが、どんな場合でも痛みの原因を明らかにし、それぞれの症例に適した診療が必要となる。また、疼痛患者さんはどの診療科を受診するかわからず、他診療科からの紹介も多い。整形外科と他診療科が連携して、患者さんの痛みをうまくコントロールしていくことが、超高齢化社会に入っていくこれからの医療には重要なのではないだろうか。参考文献1)岩谷 力 (監修)ほか 変形性膝関節症の保存的治療ガイドブック;メジカルレビュー社2006年

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生活保護受給者の「医療費一部負担案」、いかがお考えですか?

不正受給問題に端を発し、生活保護のあり方が議論されている中、現在窓口負担がゼロである医療費について患者の一部負担を求める、あるいは後発医薬品の使用を義務付けるという案も出ています。今回の「医師1,000人に聞きました!」ではこれを踏まえ、現場の立場でこの問題がどのようにとらえられているのか尋ねてみました。コメントはこちら結果概要医師の7割以上が生活保護受給者の医療費一部負担に賛成医療費一部負担案に賛成したのは全体の73.1%。勤務形態別に見ると病院医師では76.2%、一般診療所医師では64.9%と、窓口業務まで管理する立場である一般診療所医師は若干低い結果となった。賛成派からは「年金生活者や、働きながら保険料を納め医療費の一部負担をしている低所得者がいることを考えると、生活保護受給者のみ全て無料というのは不公平」といった意見が見られた。「違った方法を考えるべき」医師、『いったん支払い、後日返還しては』など次いで15.6%の医師が「違った方法を考えるべき」と回答。コスト意識を持ってもらうために『いったん支払ってもらい返還する形に』、複数の施設を回って投薬を受ける患者や、悪用する施設の存在を踏まえた『受診施設の限定』などが挙げられた。「現状のままで良い」医師、『理念を維持しながら受給認定を厳密に』一方「現状のままで良い」とした11.3%の医師からは、『生活保護の本質まで変えるべきではない』『受給認定を厳格にすることで対応すべき』といった意見のほか、『現実に支払ができなければ病院の負担になるのが見えているので』といった医師もいた。"後発医薬品の使用義務付け"、病院医師の約6割が賛成、一般診療所医師では意見割れる薬の処方にあたり、生活保護受給者へは価格の安い後発医薬品を義務付けるという案に対しては全体の54.1%が賛成、「現状のままで良い」とした医師は28.9%であったが、一般診療所医師に絞ると賛成40.3%、現状維持37.3%と割れる結果となった。賛成派からは、『後発品は国が「先発品と同等」としているので問題ない』、現状維持派からは『必ずしも薬効が同じとは限らないと考えるため』『院内処方で扱いがない場合がある』『処方の裁量権は医師にある』といったコメントが寄せられた。設問詳細生活保護受給者の医療費負担についてお尋ねします。現在、生活保護受給者が医療サービスを受ける場合、その費用は直接医療機関に支払われ本人負担はありません。市町村国保の被保険者などと比べて生活保護受給者1人当たりの医療費のほうが高いことなどを理由に、適正化のための取り組みを強化すべきだという意見も挙がっています。これに関し、10月23日の日本経済新聞では『三井辨雄厚生労働相は23日の閣議後の記者会見で、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることに関して「自己負担を導入すれば必要な受診を抑制する恐れがあり、慎重な検討が必要だ」と述べた。価格が安い後発医薬品の使用を義務付けることについては「一般の人にも義務付けられていないのに生活保護受給者だけに義務付けるのは難しい」との認識を示した。 生活保護受給者の医療費は全額公費で負担しており、生活保護費の約半分は医療費が占める。財務省は22日の財政制度等審議会の分科会で、医療費を抑制するために医療費の一部自己負担の導入と後発医薬品の使用を受給者に義務付けることを提案していた。』と報じられています。そこで先生にお伺いします。Q1. 医療費適正化のため、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ2. 生活保護受給者に後発医薬品の使用を義務付けることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ3. コメントをお願いします(Q1・2の選択理由、「違った方法を考えるべき」とした方は代替案、その他患者さんとの具体的なエピソード、など、どういったことでも結構です)2012年10月26日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「先発品と後発品の効果がまったく同じと保証できない現状では後発品の義務は困難。感冒薬程度なら問題ないが高度医療を必要とするような患者さんでは問題が出ると思う。」(50代診療所勤務,消化器科)「全くの無料は無駄の原因。工夫の余地をなくす。」(50代病院勤務,内科)「後発品をとるか否かは自由意志とすべき、その代り 医薬品の5%(0.5割負担)でも徴収すべきと思う。そうすれば、安い方を望むなら自ら選択することになる。」(60代以上病院勤務,血液内科)「一部負担は、真面目な方には受診抑制になって、重症化する可能性が出る。生活保護に甘えている方は病院で怒って現場の混乱を生むだけで何の意味もない。それよりは、医療費の適正化をすすめるべきである。求められても不要なお薬は出さない。出さないからと暴れたり、怒ったりする方へのペナルティを明確化する方が良い。後発品義務付けは、治療内容の権利の侵害に当たる可能性があるので勧奨程度にすべき。例えば、糖尿病の治療であっても同じようにHbA1cを下げる薬はあるが、合併症などを防ぐそいう視点で新薬が使用できない場合、将来の合併症を増やし結局医療費の高騰につながる」(40代病院勤務,呼吸器科)「一部負担にしたとして、お金を払ってくれない人を診療拒否できるのなら生保の負担金をつくっても良い。」(50代診療所勤務,内科)「不正受給ばかりが報道されているが、大多数の受給者は後ろめたさから声を上げられないと思います。もちろんどんな医療機関にもフリーに何度でも受診できるということは良くないので、受診可能な機関を一定の生活圏内に制限することや、通院手段を制限するなどの方策も考えられます。」(40代病院勤務,内科)「救急外来への頻繁な来院はペナルティがあっても良い。」(50代診療所勤務,小児科)「負担がないことですべて許されていると考えている受給者が多く、一人ひとりに理解させることは極めて困難であり、一律に決めるべきである」(50代病院勤務,外科)「受給金をパチンコで使い果たし無料で入院、なんてことができないよう方策を考えてほしい。」(50代診療所勤務,腎臓内科)「医療費の負担増加とこれに対する原資の増加を期待する事の難しい情勢からみてやむを得ない事と思います。逆にそのことで負担が少しでも軽減されるのではないかと思います。」(50代病院勤務,産婦人科)「抗けいれん剤を後発品に変更して、ずっと起こっていなかった発作が起こったことがある。後発品を義務づけるなら、特定の薬品に限定すべきと思う。」(50代病院勤務,リハビリテーション科)「一部負担といっても幅があるのでどの程度負担させるのかによって意見が違うと思う」(60代以上病院勤務,腎臓内科)「先発薬と後発薬両方を揃えるのは医療機関に負担となるので反対。」(40代診療所勤務,腎臓内科)「一般の患者は医療費負担は上限ありになっている。生活保護者も基本的には同じ枠組みで良い。上限額に配慮するとか、いったん支払いさせて申請後(部分的に)返ってくるとか。」(40代病院勤務,耳鼻咽喉科)「自己負担をつけても支払いをたぶんしないで病院の負担になるので、現状のままでよい」(50代病院勤務,循環器科)「一律というのは如何か。生活保護を必要としてないのに受給されている人と 本当に必要な人がいることがそもそもおかしいのだが。この両者は区別して、必要ない人は切って欲しい」(40代病院勤務,消化器科)「医療費一部負担は受診抑制に繋がる。また、後発品を使用していない当院では、診察できないことになる。いまだに後発品に不安要素がある事を先に改善すべき。」(50代診療所勤務,内科)「最低保証賃金より保護費の方が高い現状は異常。ワーキングプアの方々が強いられている窮状は、生活保護の方々にも受け入れていただく必要がある。」(40代病院勤務,精神・神経科)「当院受診の生活保護者の半分は疑問に感じる人が多いのは事実、「魚釣りに行って風邪をひいた、点滴をしてくれ」などざら」(50代病院勤務,神経内科)「目に余るケースがあるから、と言って生活保護の本質まで変えるべきではない。取り締まるには人件費などかかるので、現状のままのほうがよい。」(60代以上診療所勤務,精神・神経科)「服薬指導を徹底させ、薬の無駄を少なくすることが大切だと思います。みんながその費用を負担していることを自覚する必要があります。生保患者さんが立て替えで支払うことも一つの案だと思います。」(50代診療所勤務,内科)「後期高齢の生活保護者は無料のままで、若年者は就労を図る意味でも有料化すべき。」(60代以上診療所勤務,内科)「今ほど生保の継続が必要な時期はない」(50代診療所勤務,内科)「他の患者さん同様に窓口負担分をとって、還付を検討すべきでしょう。」(40代病院勤務,内科)「『生活保護で自己負担がないから先発品を処方してくれ』と堂々と言う患者がいて腹が立った」(50代診療所勤務,整形外科)「生活保護でも本当に働きたい人もおり、そういう方はむしろ病気があってもギリギリまで我慢してしまう傾向が強いと思います。元々自分は生保でもそうでなくても基本的に必要不可欠なことしかせず、差はつけていない。この議論自体がおかしいと思う。」(40代診療所勤務,内科)「薬代がタダなので、あまり必要の無い薬を「念のため・・」などと言ってもらって無駄にしていることが有る。」(40代病院勤務,内科)「受診できる病院を限定するとか、カルテを1つにするとか、不正な薬剤処方をなくしたり、不要な受診を減らしたりの工夫が必要」(30代以下病院勤務,小児科)「コンビニ受診は避けるべきだが、本当に加療の必要なひとには受診萎縮にならないようすべき」(50代診療所勤務,口腔外科)「低収入であるが故に受診を控えて病状の悪化を招いたり、経済的理由で後発医薬品しか選択できない勤労者が存在することを考えれば、生活保護受給者が何の躊躇もハンディも無く医療を求めることは問題である」(40代診療所勤務,呼吸器科)「行政側から患者(生保受給者)に説明し、後発品使用を了解(同意)させ、医療機関にその旨「書面で」申し出る。しかし、その場合も最終的には医師の処方権は留保される。」(60代以上診療所勤務,消化器科)「小額でも一部負担とすることで、毎日不要な点滴をしたりする方は減るでしょう。」(40代病院勤務,内科)「薬品は、好みもあり人によっては効果の違いもあるので、義務付けは賛成しかねます。」(50代病院勤務,整形外科)「働ける様な若者も生活保護を受け、日中ぷらぷらしやたらと必要以上に病院へ来る方、結構見かけます。生活保護を受ける基準や負担額なども細かく等級を設けて、等級に応じて設定したらいいのではないか。」(40代診療所勤務,内科)「生活保護を受けている割に子供にピアス、アクセサリーがジャラジャラ・・・本当に必要な家族への受給を充実させ、このような家庭へ受給はしないようにしっかりした制度設計をやり直すべき」(40代病院勤務,小児科)「『どうせタダなんだから薬だしてよ、検査してよ、病院のもうけになるんでしょ』という患者もいる。町のドラッグストア感覚(それよりも手軽)みたいに思っている。一部でも自己負担させるべき。後発品は合う・合わないもあるので義務づけはちょっと乱暴。」(40代診療所勤務,内科)「どの医院も薬局もすべてのものに対応できるものではないので、義務付けではなく、やはり努力目標にせざるを得ないと思う」(50代診療所勤務,泌尿器科)「生活保護になりやすくなっている状態を検討すべき。ならなくていい人もなっている感じと一度生活保護になってしまった人がぬけたくなるような部分も必要なのではないか」(40代病院勤務,血液内科)「『おいしい』ことはなるべく少なくしていくことで、本当に必要な人が「仕方なく受ける」最後の砦にするべき。」(40代病院勤務,内科)「薬を貰うために何軒も医療機関を回るので、公的な指定医療機関を設置しては」(50代診療所勤務,循環器科)「生活保護一歩手前の患者様(化学療法中)を何人か診ているが、その方のほうが、よっぽど生活は苦しいと思います。高額の治療を断念している方もおられます。生活保護受給者は、医療に関しては恵まれすぎ!です。生保以外の方で後発薬を希望される方は多いですし、私自身も抵抗はありません。一部でも自分で負担できないなら後発薬で我慢するべきだし、一時金を払うことは、むやみな受診の抑制に効果あると思います。 上記のような何らかの対策をとらないと、さらに他の人たちの負担が増えてしまうと思います」(40代病院勤務,外科)「一部負担といっても現実に負担できない患者がいれば、それは結局支払われずに病院の負担になる。末端の医療機関への責任転嫁である。現状の後発品制度には多大な問題がある。制度自体に根本的な議論がなされない限り簡単に賛成とはいえない。」(50代病院勤務,循環器科)「国策として後発医薬品の使用を推進するのであれば、先発品にこだわる必要はないはず。生活保護とはあくまでも援助なのだから受給者に選択権はないはずである。」(40代病院勤務,皮膚科)「一旦納付→後日給付にすべき.疾患によっては(アレルギー疾患等)後発薬を使うことは避けるべきで全て義務付けというのは不適切」(40代病院勤務,内科)「風邪などの軽症疾患は自己負担を導入し、慢性疾患や重症疾患はこれまでどおりにしては。」(30代以下病院勤務,小児科)「生活保護が本当に必要な人もいることを忘れてはいけない。」(40代病院勤務,精神・神経科)「働いて健康保険料などを納め、医療費の一部負担をしている、生活保護とあまり年収のかわらない人もいるのだから、何らかの負担は必要と思います」(50代診療所勤務,内科)「ともに、大いに賛成です。 現場の目から見て、「生保だから必要のない受診を気軽に繰り返している人がいる」ということは明白。必要な受診を抑制する可能性も皆無とは言えませんが、本当に必要な場合には、収入や家庭環境などについて綿密な精査を行った上で、自己負担金の免除を決める制度を別途設ければ良いと思います。 もっといえば、不適切受診の内容や明らかに贅沢な生活実態などを医師側から通報できる制度があれば良い」(30代以下病院勤務,循環器科)「基本は後発品とし、医師の判断で変更できればと思います。一部負担で受診抑制を心配するのであれば、その前にワーキングプアといわれきちんと保険料を収めているのに窓口負担を心配して受診できない方々に補助すべきだ。生活保護は最低限の生活を保証すればよいのだから、そうしたものをもらわず働くワーキングプアの方々以上の保護は要らないはず。」(30代以下病院勤務,小児科)「一部の不心得者のために、真に保護が必要な人への援助を削るべきではない。マクロの視点しか持っていない役人やマスコミの怠慢が世の中をどんどん歪めている。不正受給をなくすべく、役人がきっちりと精査することだ」(50代診療所勤務,内科)「生活に必要なお金を受給されているのだから、医療機関の受診、薬代も他の方と同様に支払うべきである。」(40代病院勤務,内科)「不必要に多くの薬をもらって余っていてもなくなったと主張し、さらに多く持って帰る患者がいる。量や種類の制限は必要と思う。」(30代以下病院勤務,整形外科)「経済的理由からジェネリックを希望する人が多い中、全額免除の人だけが高い薬を使うのはヒトとして納得できない。」(30代以下病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者は高価な治療薬を使えるが、通常の被保険者はお金の関係で使いたい薬も使わないでいることがある。何かおかしいです。」(50代病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者が時間外に不必要な受診をすることが度々みうけられるので、時間外受診料などに自己負担を導入すればよいと思う」(30代以下病院勤務,整形外科)「多くの人に不正がないと信じるが、隣人などから薬をもらうよう頼まれてくる人もいるようである。」(50代診療所勤務,内科)「望ましいことではないが、すべてのことについて性悪説にたった制度が必要になってきていると思う。」(50代病院勤務,内科)「生活保護がsafety-netとしての役割を担っていることを考えると、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることは少し賛成しにくい。しかし生活保護を延々と受け取って無料であることを良いことに薬の処方を欲しがる患者がいることは事実であり、それを悪用して薬を無駄に処方させている病院があるのも事実なので、必要以上の処方を行なっていると判断された医師に厳罰が発生するような仕組みのほうが抑制効果があるのではないかと思う。ただし、その基準を明確にする必要があるが、その基準は非生活保護受給者よりも厳しい基準であるべきだと思う。」(30代以下病院勤務,外科)「生活保護の患者さんがブランド物のバッグをもって受診しましたが、このような人に私たちが支払った税金が使われていると思うと、憤りを感じます。」(50代診療所勤務,内科)「もともと、病気で仕事ができないことによる生保受給が多く、一般人に比べ医療費が高くなるのは当然だと思います。 むしろ、何万円ものタクシー代や、飛行機利用を許した対応など、自治体側の対応の仕方が不適切なことの方が問題かと思います。」(50代診療所勤務,消化器科)「医療費の膨張に歯止めをかけるためにはやむを得ないと思う。ただ、原疾患で働けなくて生活保護になっている人は別に扱う事が必要。」(50代診療所勤務,皮膚科)「後発品の場合、特に呼吸器系後発医薬品に変更した際に効果が落ちる例も経験している。効果が落ちた場合は、受診回数の増加や時間外受診の発生などに繋がる場合があるので、義務づけはあまり賛成できない。」(30代以下その他医師,呼吸器科)「奈良の山本病院の事例を含め悪用が目に余り歯止めが利かない」(50代診療所勤務,内科)「利益を享受する分の負担は当然」(30代以下病院勤務,神経内科)「本当に医療を必要とする患者の医療費公費負担と、無料をよいことに安易に行なわれる受診やそれを食い物にする医療機関を選別する方法が必要である。」(50代病院勤務,内科)「低所得者、年金生活者などの方たちは、少ない収入の中で保険料も払い、さらに医療費の何割かを負担している。生活費を切りつめてもいるわけで、生活保護費を丸々自由に使える生活保護者と比べると非常に不公平。 後発医薬品は、無料であるならば選択の自由はなくしてもいいと思っています。厚労省の認可していない薬ならいざ知らず、認可されている薬品なので義務付けてもいいのではないでしょうか。 」(50代病院勤務,泌尿器科)「薬を多めにもらっては売って酒代に換える患者がいますし、月の前半でパチンコをして下旬はお金がなくなり栄養失調の病名で入院、月が変わった受給日には必ず退院する無料の宿泊施設としている患者もいます。ごくごくわずかでも良いので自己負担とすれば少しは抑制できるのでは。本当に必要な人の負担にならないくらいわずかな手数料が必要。」(30代以下病院勤務,脳神経外科)「無料では不必要受診を生む。昔のお年寄りの健康保険無料化のときと同じ弊害。 後発医薬品は薬効が低いというわけではないので、生活保護に関しては当然安い薬に限定するべきでしょう。」(50代病院勤務,その他診療科)「生活保護に限らずまるっきりただはよくない。 ワンコインでも負担すべき」(50代病院勤務,小児科)「タダだからとビタミン剤や感冒薬、睡眠薬などの無駄な薬や検査など何でも要求してくる。負担金を取ったほうが医療費の抑制になる。」(50代病院勤務,内科)

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第7回 説明義務 その1:しておかないと困る!患者への説明の内容とその程度

■今回のテーマのポイント1.説明義務の内容は、原則としては、「診療情報の提供等に関する指針」(厚生労働省)に記載されている7項目である2.説明すべき治療方法は、原則として「医療水準として確立したものに限る」。したがって、原則的には、医療水準として未確立のものは、説明する義務はない3.ただし、未確立の新規治療法であっても、医学的に明白な誤りがなく、適切な方法で臨床研究がなされている新規治療法について、患者の求めがあった場合には、特別な事情があるとして、当該未確立の療法についても説明義務を負うこととなる事件の概要患者(X)(43歳女性)は、Y医院にて乳がんと診断されました。当時、乳がんの標準的手術として確立されていたのは、胸筋温存乳房切除術であり、乳房温存療法は、まだ実施している施設も少なく、確立されたエビデンスは存在していませんでした。このような時点において、A医師は、乳房温存を希望するXに対し、乳房温存療法につき十分な説明をすることなく、当時の標準手術である胸筋温存乳房切除術を施行しました。これに対し、原告Xは、A医師に乳房温存療法についての説明義務違反があった等として、約1,200万円の損害賠償請求を行いました。原審では、診療当時、いまだ乳房温存療法の安全性は確立されておらず、危険を犯してまで同療法を勧める状況ではなかったとして、Xの請求を棄却しました。これに対し、最高裁は、医師Aの説明義務違反を認め、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(43歳女性)は、平成3年1月中旬ごろ、右乳房右上部分の腋の下近傍に小さなしこりを発見したため、診療科目と並べて「乳腺特殊外来」の看板を掲げているY医院を受診しました。手術生検の結果、Xにあったしこりは、充実腺管がんと診断されました。A医師は、Xに対し、乳がんであり手術する必要があること、手術生検をしたため手術は早くした方がいいこと、乳房を残すと放射線で黒くなることがあり、再発したらまた切らなければならないことを説明しました。Xは、入院後、新聞記事で乳房温存療法の記事を読んだこと、可能ならば乳房を残して欲しいことを手紙にしたため、A医師に手渡しました。しかし、当時、乳がんの標準的手術として確立されていたのは、胸筋温存乳房切除術であり、乳房温存療法は、まだ実施している施設は全国で12.7%でした。また、同手術方法に対する厚生労働省助成による研究班が立ち上がる2年前であり、本件当時わが国においては、乳房温存療法については、確立されたエビデンスは存在していませんでした。そのため、A医師は、当時の標準手術である胸筋温存乳房切除術を施行しました。事件の判決「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される。本件で問題となっている乳がん手術についてみれば、疾患が乳がんであること、その進行程度、乳がんの性質、実施予定の手術内容のほか、もし他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などが説明義務の対象となる。本件においては、実施予定の手術である胸筋温存乳房切除術について被上告人〔A医師〕が説明義務を負うことはいうまでもないが、それと並んで、当時としては未確立な療法(術式)とされていた乳房温存療法についてまで、選択可能な他の療法(術式)として被上告人に説明義務があったか否か、あるとしてどの程度にまで説明することが要求されるのかが問題となっている。〔中略〕・・・・一般的にいうならば、実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが、他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には、医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない。とはいえ、このような未確立の療法(術式)ではあっても、医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない。少なくとも、当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法(術式)の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである。そして、乳がん手術は、体幹表面にあって女性を象徴する乳房に対する手術であり、手術により乳房を失わせることは、患者に対し、身体的障害を来すのみならず、外観上の変ぼうによる精神面・心理面への著しい影響ももたらすものであって、患者自身の生き方や人生の根幹に関係する生活の質にもかかわるものであるから、胸筋温存乳房切除術を行う場合には、選択可能な他の療法(術式)として乳房温存療法について説明すべき要請は、このような性質を有しない他の一般の手術を行う場合に比し、一層強まるものといわなければならない」(最判平成13年11月27日民集55巻6号1154頁)※〔 〕は編集部挿入ポイント解説今回は説明義務です。「インフォームド・コンセント(説明と同意)」は、アメリカでは、1957年のサルゴ事件判決(大動脈造影検査後に下半身の麻痺が生じたことから、医師が検査の危険性を説明しなかったとして争われた事件)において生まれました。わが国では、およそ半世紀遅れ、1990年代より議論が始まり、現段階では、診療契約上説明義務があることは確立しているものの、具体的な説明の範囲については揺れ動いているという状況です。説明の範囲について、現時点においてベースラインとなるのは、本判決前半部分に記載されている「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される」となります。また、より一般化したものとして、厚生労働省が示す「診療情報の提供等に関する指針」に示されている、(1)現在の症状及び診断病名(2)予後(3)処置及び治療の方針(4)処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用(5)代替的治療法がある場合にはその内容及び利害得失(患者が負担すべき費用が大きく異なる場合には、それぞれの場合の費用を含む)(6) 手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要(執刀者及び助手の氏名を含む)、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無(7) 治療目的以外に、臨床試験や研究などの他の目的も有する場合には、その旨及び目的の内容が参考となります。原則的には、上記内容を説明している場合には、医療機関が説明義務違反を問われる可能性は低いといえます。もし、説明内容に不足があった場合には、説明義務違反がある(=過失がある)ことにはなりますが、医学的に適切な治療が選択されており、十分な説明がなされていれば同じ選択をすることが通常であると言える場合には、たとえ当該治療の結果、患者の身体に損害が生じたとしても、説明義務違反と生命・身体の損害の間に因果関係がないため、医療機関は、当該生命・身体の損害に対して賠償する責任はありません。ただ、その場合においても、わが国においては、患者の治療上の自己決定権自体を人格権の一内容として保護すべき法益とし、たとえ適切な治療により生命・身体に損害がなかったとしても、この権利を侵害した結果、精神的損害を生じたとして低額ではありますが損害賠償責任が認められることとなります(最判平成12年2月29日民集54巻2号582頁)。もう一度、判決文に戻ります。この判決が問題となる点として、〔1〕説明義務の主体は医師でなければならないのか〔2〕客体は患者でなければならないのか〔3〕特別の事情とはどのような場合があるのかがあげられます。〔1〕についてですが、判決は「診療契約に基づき説明義務が生ずる」としているのですから、法的には、診療契約の当事者である医療機関が適切な方法で説明すれば足りるのであり、必ずしも医療機関の一スタッフである医師が一から十まですべてを口頭で説明をしなければならないということにはならないと考えます。もっとも、疾患一般のことについては、文書やビデオ等でも十分な説明ができますが、患者個別具体の病状に応じた部分については、主治医でなければ説明しがたいこともありますので、その点に関しては医師が行う必要があるといえます。この点については、次回に解説したいと思います。〔2〕についてですが、まず、患者に意識がない場合は、法的には一切の説明義務はなくなるのかということです。診療契約は、患者と医療機関の間で締結されていますので、患者の家族は、法律上関係のない第三者ということとなります。したがって、素直に考えると契約関係にない家族に対して説明義務は生じ得ないということになります。また、末期がんで、患者の心因的な事由等により、医学的に告知すべきでない場合も同様でしょうか。この点については、次々回第9回で実際の事例を基に解説したいと思います。そして、今回の判決において問題となったのが、〔3〕特別の事情とは何を指すのかです。本判決が示すように、「一般的にいうならば、実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが、他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には、医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない」のであり、未熟児網膜症に関する判決においても、「本症に対する光凝固法は、当時の医療水準としてその治療法としての有効性が確立され、その知見が普及定着してはいなかったし、本症には他に有効な治療法もなかったというのであり、また、治療についての特別な合意をしたとの主張立証もないのであるから、医師には、本症に対する有効な治療法の存在を前提とするち密で真しかつ誠実な医療を尽くすべき注意義務はなかった」(最判平成4年6月8日民集165号11頁)とし、光凝固療法が当時の標準的治療として確立されていなかったことを理由として説明義務及び転医義務違反を否定しています。しかし、本判決によると、「少なくとも、当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法(術式)の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである」と判示し、これらの事情がすべてそろっている場合においては、特別な事情があるとして未確立の療法についても説明義務を負うとしています。医療は日々進歩しており、次々に新しい治療方法が提唱されています。確かにがんに対する縮小手術は常にがん再発の危険を伴います。一般に再発がんの生命予後は悪く、それに引き換え、縮小手術の利点は、機能温存、入院期間の短縮、苦痛の軽減、合併症の減少等副次的なものであるため、その適用には慎重さが求められます。しかし、少なくとも、1)医学的に明白な誤りがなく、適切な方法で臨床研究がなされている新規治療法について、2)患者の求めがあった場合には、適切な情報提供はなされるべきであるということに異論はないものと思われます。本事例以外に、特別な事情があると考えられる場合としては、美容整形目的の手術や臨床研究の場合があげられます。臨床研究においては、厚生労働省より「臨床研究に関する倫理指針」が出ていますので、臨床研究に携わる場合には、必ず一度は精読してください。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます(出現順)。最判平成13年11月27日民集55巻6号1154頁最判平成12年2月29日民集54巻2号582頁最判平成4年6月8日民集165号11頁

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理学療法士が足りない

相馬中央病院整形外科石井 武彰2012年10月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 私は平成24年4月より相馬市にある相馬中央病院で整形外科医として勤務しています。初期臨床研修後に九州大学整形外科に入局し、3年間の関連病院での研修後、昨年は大学院で病理の仕事をしていました。震災後の川内村で行われた健康診断に参加したことより、福島県浜通りに関心を持っていたところ、相双地区で整形外科医が不足し求められているとの話を聞き、縁があって相馬中央病院で働く事となりました。 半年の診療を振り返ると、理学療法士不在によるもどかしさを強く感じます。相馬中央病院には理学療法士がいません。よく患者さんより「入院してちょっとリハビリさせてもらえないだろうか?」と聞かれます。他院で急性期の治療が終了して当院に転院する事を希望される方からは「相馬中央さんで、リハビリしてもう少し歩けるようになって(家に)帰りたい」との希望をうけます。入院をうけることはできても理学療法士による専門的なリハビリを提供する事はできません。看護師が看護業務の中から時間を捻出して、歩く練習、立つ練習を手伝ってもらっているのが現状です。ただでさえ病床あたりの看護師数が少ない地域です。患者さんのニーズを満たせているかはわかりません。 事務に聞いてみると募集はかけているが、なかなか理学療法士が見つからないとの事でした。関連施設から週に数回作業療法士が応援に来てくれます。ようやく見つかったリハビリスタッフとのことでした。調べてみて驚いたのですが日本理学療法士協会ホームページによると福島県(人口203万人)には理学療法士養成校が1校あります。一方、私の地元である福岡県(同507万人)には理学療法士養成が14校あるようです。相馬地区に理学療法士が不足しても無理はありません。実際に、東大国際保健の杉本さんのまとめをみると東北、東日本で理学療法士が少ないのが一目瞭然です。≪参照≫理学療法士数 人口1,000人あたり【県別】 http://expres.umin.jp/mric/mric.vol.603.jpg 言うまでもありませんが、リハビリスタッフも現在の医療には欠かす事のできない存在です。整形外科のように運動機能の落ちた方の治療だけにとどまらず、内科入院した方でも高齢者などの入院によるADL低下のリスクが高い方には理学療法士の介入が効果的です。体調に不安のある中、積極的に動こうという人は少なく、上げ膳据え膳でベッド上生活をすると、明らかに筋力が低下していきます。理学療法士が介入することで、少なくとも毎日20分程度は個別に訓練します。場合によっては1日数回訓練が行われます。看護師がリハビリのために捻出できる時間はあまりありません。患者さんの回復、ADL低下予防には大きな違いとなります。 他にも、理学療法士不在の病院には問題があります。入院中の患者さんが院内で転倒事故を起こすと、医療スタッフは責任を感じます。そのため、なんとかつたい歩きで移動していた方など歩行に不安のある方には、一人では歩かないようにお願いする事があります。しかし24時間一人の患者さんのそばにいる事は不可能です。結果として入院する事による活動度の制限が増えてしまいます。ここに理学療法士が介入できると、入院生活中に過度の活動制限を避ける事が出来るばかりか、退院後の自宅での生活について専門的なアドバイスをする事も出来ます。 最近、腰が痛くて動けないと入院を希望して受診してきた高齢の男性がいます。約3週間にわたって食事・排せつをベッド上で行う寝たきりの生活を送っていたそうです。レントゲンでは骨折はありませんでしたが、家族にも疲れがみられ、出来る限りのサポートをと思い入院して頂く事としました。話を聞くと仮設住宅暮らしで、つかまる所がなくて立つことができなかった、同じく高齢の奥さんとの二人暮らしで、奥さんに支えてもらう訳にもいかなかったとのことです。病院の環境で確認するとつかまり立ちは自立しており、歩行器歩行も可能でした。本人には動くきっかけと環境が必要だったのかもしれません。仮設住宅、そして地域には潜在的なリハビリ難民がいることが示唆されます。 仮設住宅から復興住宅に移る時に足腰が立たなくなっていては意味がありません。地域高齢者のADL維持を図るには明らかに運動器疾患をサポートする医療スタッフが不足していると感じられます。被災地にはこれらの人材も求められています。

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第6回 過失相殺:患者の過失はどこまで相殺できるか?

■今回のテーマのポイント1.医療従事者に過失があったとしても、患者自身の行為にも問題があり、その結果損害が生じた場合、または損害が拡大した場合には、過失相殺が適用され損害賠償額が減額される2.「法的な」療養指導義務の内容は、明確に示される必要がある3.されど、医療従事者には職業倫理上、「真摯(しんし)かつ丁寧な」説明、指導をする義務がある事件の概要患者(X)(72歳女性)は、2日前から左上下肢に脱力感があったため、平成13年5月7日にA病院を受診し、脳梗塞との診断にて、入院となりました。ただ、Xは、意識清明で、麻痺の程度も、MMT(徒手筋力テスト)上、左上下肢ともに“4”であり、独歩も可能でした。担当看護師は、入院時オリエンテーションを実施した際、転倒等による外傷の危険性があることを話し、トイレに行くときは必ずナースコールで看護師を呼ぶように注意しました。ところが、Xは、トイレに行く際、最初はナースコールを押していたものの、次第にナースコールをせずに一人でトイレに行くようになり、夜勤の担当看護師であるYが一人でトイレから帰るXを何回か目撃しました。Yは、その都度、トイレに行くときにはナースコールを押すよう指導しました。同月8日午前6時ごろ、Yが定時の見回りでXの病室に赴いたところ、Xがトイレに行くというのでトイレまで同行しましたが、トイレの前でXから「一人で帰れる。大丈夫」といわれたので、Yはトイレの前で別れ、別の患者の介護に向かいました。しかし、午前6時半頃、Yが定時の見回りでXの病室に赴いたところ、Xがベッドの脇で意識を消失し、倒れていました。Xは、急性硬膜下血腫にて緊急手術を行うも、意識が回復することなく、同月12日(入院6日目)に死亡しました。原審では、看護師Yに付き添いを怠った過失を認めつつも、当該過失とXの転倒に因果関係が認められないとして、Xの遺族の請求を棄却しました。これに対し、東京高裁は、看護師Yの不法行為の成立を認め、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(72歳女性)は、平成13年5月5日頃より左上下肢に脱力感が出現し、何とか家事はできたものの、体調がすぐれず、同月7日にA病院を受診しました。頭部CTを施行したところ、麻痺と一致する箇所に梗塞巣を認めたため、脳梗塞と診断されました。ただ、Xは、意識清明で、麻痺の程度も、MMT(徒手筋力テスト)上、左上下肢ともに“4”であり、独歩も可能であったことから、リハビリテーション目的にて14日の予定で同日入院となりました。担当看護師は、入院時オリエンテーションを実施した際、転倒等による外傷の危険性があることを話し、トイレに行くときは必ずナースコールで看護師を呼ぶように注意しました。A病院は2交代制を採っており、夜勤では、Xが入院したA病院2階の患者(約24名)を正看護師2名と准看護師2名の計4名で担当していました。同日の夜勤帯でXを担当する看護師Yは、同日午後6時、定時の見回りの際、「Xがトイレに行きたい」というので、病室から約15m離れたトイレに連れて行きました。午後7時、8日午前1時にもXよりナースコールがあったので、同様にYは、トイレまでの付添いをしました。しかし、午前3時にYが定時の見回りを行う際、Xが自力で歩行し、トイレから戻るところを発見しました。Yは、Xに対し、今後トイレに行くときにはナースコールを押すよう指導し、病室まで付き添いました。ところが、午前5時にもXが、トイレの前を自力歩行しているところをYは発見したため、同様の指導をしましたが、Xは「一人で何回か行っているので大丈夫」と答えました。午前6時頃、Yが定時の見回りでXの病室を訪れたところ、Xは起き上がろうとしており、トイレに行きたいといったため、Yは、トイレまで同行(直接介助はしていない)しました。そして、トイレの前でXから「一人で帰れる。大丈夫」といわれたため、Yは、Xとトイレの前で別れ、他の患者の介護に向いました。その後、午前6時半頃、Yが定時の見回りでXの病室を訪れたところ、Xがベッドの脇に倒れ、意識を消失しているのを発見しました。医師の指示で頭部CTを施行したところ、急性硬膜下血腫と診断され、同日緊急手術を行ったものの、同月12日(入院6日目)に死亡しました。事件の判決原審では、午前6時にXがトイレから帰室する際にYが付き添わなかったことに過失があるとしたものの、Xがいつ転倒したかは不明であり、当該帰室時に転倒したと認めることには、なお合理的な疑いがあるとして因果関係を否定しましたが、本判決では、因果関係を肯定し、Yの不法行為の成立を認めたうえで、下記のように判示し、過失相殺を適用して、損害額の8割を控除し、約470万円の損害賠償責任を認めました。「Xは、多発性脳梗塞により左上下肢に麻痺が認められ、医師及び看護師から、転倒等の危険性があるのでトイレに行く時は必ずナースコールで看護師を呼ぶよう再三指導されていたにもかかわらず、遅くとも平成13年5月8日の午前3時以降、その指導に従わずに何回か一人でトイレに行き来していた上、午前6時ころには、同行したY看護師に「一人で帰れる。大丈夫」といって付添いを断り、その後もナースコールはしなかったものであり、その結果、本件の転倒事故が発生して死亡するに至ったものである。Xがナースコールしなかった理由として、看護師への遠慮あるいは歩行能力の過信等も考えられるが、いずれにしてもナースコールをして看護師を呼ばない限り、看護師としては付き添うことはできない。Xは、老齢とはいえ、意識は清明であり、入院直前までは家族の中心ともいえる存在であったのであり、A病院の診断により多発性脳梗塞と診断され、医師らから転倒の危険性があることの説明を受けていたのであるから、自らも看護婦の介助、付添いによってのみ歩行するように心がけることが期待されていたというべきである。高齢者には、特に麻痺がある場合に限らず転倒事故が多いとされているが、こうした危険防止の具体策としては、まず、老人本人への指導・対応があげられている。・・・以上のほか、本件に顕れた一切の事情を勘案すると、被控訴人は損害額の2割の限度で損害賠償責任を負うものとするのが相当である」(東京高判平成15年9月29日判時1843号69頁)ポイント解説前回は、患者の疾病が損害発生(死亡等)に寄与していた場合、法的にどのように扱われるかについて説明しました。今回は、患者が医療従事者の指導に背く等患者の行為が損害の発生に寄与していた場合の法的取り扱いについて解説します。民法722条2項※1は過失相殺を定めております。すなわち、仮に不法行為が成立(加害者に過失が認められる等)した場合であっても、被害者にも結果発生または損害の拡大に対し因果関係を有する過失が存在した場合には、具体的な公平性をはかるために、それを斟酌して紛争の解決をはかることとなります。例えば、交通事故において、加害者にスピード超過の過失があったとしても、被害者にも信号無視という過失があった場合には、過失相殺を行い、被害者に生じた損害額の何割かを減額することとなります(図1)。したがって、医療者に不法行為責任が成立したとしても、患者にも問題行動があった場合には、過失相殺がなされ、損害額が減額されることとなります。人間は聖人君子ではありませんので、「わかってはいるけど」患者が医師の指示に従わないことが時々見られます。また、いわゆる問題患者もいます。しかし、交通事故と異なるのは、医師には患者に対する「療養指導義務」があり、医療機関には入院患者等院内にいる患者に対しては、転倒防止や入浴での事故を防止する等の「安全配慮義務」があることです。つまり、患者がしかるべき行動をとっていなかったとしても、それすなわち患者の過失となるのではなく、医師の療養指導義務や医療機関の安全配慮義務違反となることもあり得るのです。また、その一方で、あまりにも患者の行動に問題が強い場合には、「療養指導義務を尽くした(過失無)」または、「もはや医師が療養指導義務を尽くしても結果が発生していた」すなわち、因果関係がないということで不法行為責任が成立しないこともあります(図2~4)。図1画像を拡大する図2画像を拡大する図3画像を拡大する図4画像を拡大する本判決では、脳梗塞にて入院した日の深夜~早朝に付き添いをしなかった看護師に過失はあるものの、意識が清明な患者に対し、繰り返し指導していたにもかかわらず、独歩したことにも過失があるとして、看護師に不法行為の成立を認めた上で、過失相殺を適用し、2割の限度で看護師に賠償責任を負わせました(8割減額)。本事例以外で過失相殺に関する事例としては、(1)患者が頑なに腰椎穿刺検査の実施を拒絶したため、くも膜下出血の診断ができず死亡した事例においては、医師の検査に対する説明が足りなかったこと等を理由に過失相殺を適用しなかった判例(名古屋高判平成14年10月31日判タ1153号231頁)(2)帯状疱疹の患者に対し、持続硬膜外麻酔を行っていたところ、患者が外出時にカテーテル刺入部の被覆がはがれているにもかかわらず、医師の指示に反し、炎天下の中、肉体労働を行った結果、硬膜外膿瘍となった事例においては、医師の指導が十分ではなかったとして過失を認めつつも、患者にも自己管理に過失があるとして3割の過失相殺を認めた判例(高松地判平成8年4月22日判タ939号217頁)(3)アルコール性肝炎の患者が、医師の指導に従わず、通院も断続的で、飲酒を継続した結果、食道静脈瘤破裂及び肝硬変にて死亡した事例においては、医師の過失を認めつつも、8割の過失相殺を認めた判例(神戸地判平成6年3月24日判タ875号233頁)等があります。かつては、医師と患者の関係は、パターナリスティックな関係として捉えられていたこともあり、裁判所も患者の過失ある行動について、積極的に過失相殺を行ってきませんでした。しかし、インフォームド・コンセントの重要性が高まった現在、その当然の帰結として、医師から療養指導上の説明を受けた以上、その後、それに反する行動をとることは自己責任の問題であり、医師に「更なる(しばしば「真摯な」と表現される)」療養指導義務が課されることはないということになりますし、仮に医師に療養指導上の義務違反があったとしても、患者の行動に問題がある場合には、積極的に過失相殺を行うべきということとなります。医療従事者は、この結論に違和感を覚えるものと思われます。しかし、法的な理論構成だけでなく、法というツールを用いてインフォームド・コンセントや療養指導義務等を取り扱う場合には、誰から見ても明確な基準を持つことが必須となります。この10数年における萎縮医療・医療崩壊に司法が強く関与していることは、皆さんご存知の通りです。萎縮医療の原因は、一つには国際的にも異常なほど刑事責任を追及したことがあり、もう一つには、判例が変遷する上に、医療現場に不可能を強いるような基準で違法と断罪したことがあります。その結果、医療従事者が、目の前の患者に診療を行おうとするときに自らの行為が適法か違法かの判断ができないため、「疑わしきは回避」となり、萎縮医療、医療崩壊が生じたのです。法は万能のツールではありません。そればかりか、誤って使用すれば害悪となることは、歴史的にも、この10年をみれば明らかです。特に、すぐ後ろに刑事司法が控えているわが国においては、自らの行為が適法か違法か予見できることは必須といえます。したがって、あくまで「法的」に取り扱う場合においては、説明義務、療養指導義務の内容は「○○である」と明確に列挙されているべきであり、「そのことさえ患者に説明すれば後になってから違法と誹られることはない」ということが最も重要となるのです。そのうえで、医療従事者の職業倫理上の義務として、患者がしっかり理解できるまで懇切丁寧に、真摯に説明することが求められるのであり、この領域における不足は、あくまで、プロフェッション内における教育や自浄能力によって解決すべき問題であり、司法が介入するべき問題ではないのです。 ※1民法722条2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます(出現順)。なお本件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。リンクのある事件のみご覧いただけます。東京高等裁判所平成15年9月29日判時1843号69頁名古屋高判平成14年10月31日判タ1153号231頁高松地判平成8年4月22日判タ939号217頁神戸地判平成6年3月24日判タ875号233頁

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診療科の垣根を越えNon Cancer Pain治療の啓発

 医師を対象とした慢性疼痛学習プログラムJ-PAT(Japan Pain Assessment and Treatment/企画・運営:ヤンセンファーマ)が、8月25〜26日開催された。このプログラムは医師の慢性疼痛に対する薬物療法の理解を深め、患者さんの治療満足度向上を目的に全国主要7都市で行われており、今回は大阪国際会議場を会場として実施された。 休みにも関わらず、プログラムには約40名の医師が参加した。参加者の内訳は整形外科医が半数以上と最も多く、次に麻酔科医、そして内科、外科系医であった。参加者の傾向も整形外科における疼痛治療の盛り上がりを反映しているようである。J-PATは整形外科、麻酔科、精神科、薬理専門家など多領域の専門医による監修を受けて企画・運営されているが、今回は西宮市立中央病院 麻酔科・ペインクリニック科 前田倫氏、尼崎中央病院 整形外科 三木健司氏、愛媛大学医学部 脊椎センター・整形外科 尾形直則氏、徳島赤十字病院 麻酔科 井関明生氏、ヤンセンファーマ サイエンティフィックアフェアーズ 川井康嗣氏の5人の講師がテーマ毎に講義を行った。講演内容は痛みの概念・定義、痛みの評価法、薬物療法の全般、オピオイドの適正使用、治療法の疾患各論など幅広く、2日目後半は実症例をもとに薬物療法の実際をケーススタディ形式で紹介した。セッション後の質疑応答では、各疾患領域での疼痛治療の実際、オピオイドの使い方、鎮痛補助薬の使い方など参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が行われた。 日本の慢性疼痛患者は約2,200万人に達すると推計されている。しかし、患者さんの受診科は痛みの専門家であるペインクリニック以上に整形外科や一般内科に多く、専門外の知識が必要とされているのが現状である。 慢性疼痛においては、手術療法、薬物療法、リハビリテーション、心理療法などの多面的なアプローチが必要である。薬物療法が注目される傾向があるが、あくまで治療の一部である。痛みの原因となっている疾患の診断、がんなどリスク因子の鑑別、手術など適切な治療手段選択を検討した上で、初めて薬物療法を考慮することとなる。ここ数年、有効な薬剤が数多く登場し、薬物療法の適応は広がったものの、安易な薬物治療によるトラブルも少なくはないという。上記の原則を守った上で、適切に薬剤を使用する事が重要である。 一方で、日本における慢性疼痛に対する医学教育も十分とは言い難い。疼痛治療薬の選択を例にとっても欧米がNSAIDs、オピオイド、抗けいれん薬、抗うつ薬などの薬剤を疾患により使い分けているのに対し、日本ではどの疾患でもNSAIDsの使用比率が圧倒的に高いという結果もこの現れといえるかも知れない。痛みは、数値化しにくく、また患者さんの主観的な症状であるため、治療は非常に難しい。また、診療科や疾患によって痛みの背景も異なり、医師の捉え方も異なる。十分な知識を持ち合わせた医師を育成し、適正使用を推進する事が急務といえよう。そういう意味で、J-PATのようなセミナーを通じて、慢性疼痛を診る機会が多い麻酔科医、整形外科医、内科医が一堂に会し痛みおよびその治療についての理解を深めていくことは重要であり、画期的だといえる。慢性疼痛に対する薬物療法の理解が深まり、治療満足度の向上されることを期待したい。J-PATに関する問い合わせ先:ヤンセンファーマ株式会社 コミュニケーション・アンド・パブリックリレーションズ部(電話:03-4411-5046)または営業担当者まで

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