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理学療法士が足りない

相馬中央病院整形外科石井 武彰2012年10月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 私は平成24年4月より相馬市にある相馬中央病院で整形外科医として勤務しています。初期臨床研修後に九州大学整形外科に入局し、3年間の関連病院での研修後、昨年は大学院で病理の仕事をしていました。震災後の川内村で行われた健康診断に参加したことより、福島県浜通りに関心を持っていたところ、相双地区で整形外科医が不足し求められているとの話を聞き、縁があって相馬中央病院で働く事となりました。 半年の診療を振り返ると、理学療法士不在によるもどかしさを強く感じます。相馬中央病院には理学療法士がいません。よく患者さんより「入院してちょっとリハビリさせてもらえないだろうか?」と聞かれます。他院で急性期の治療が終了して当院に転院する事を希望される方からは「相馬中央さんで、リハビリしてもう少し歩けるようになって(家に)帰りたい」との希望をうけます。入院をうけることはできても理学療法士による専門的なリハビリを提供する事はできません。看護師が看護業務の中から時間を捻出して、歩く練習、立つ練習を手伝ってもらっているのが現状です。ただでさえ病床あたりの看護師数が少ない地域です。患者さんのニーズを満たせているかはわかりません。 事務に聞いてみると募集はかけているが、なかなか理学療法士が見つからないとの事でした。関連施設から週に数回作業療法士が応援に来てくれます。ようやく見つかったリハビリスタッフとのことでした。調べてみて驚いたのですが日本理学療法士協会ホームページによると福島県(人口203万人)には理学療法士養成校が1校あります。一方、私の地元である福岡県(同507万人)には理学療法士養成が14校あるようです。相馬地区に理学療法士が不足しても無理はありません。実際に、東大国際保健の杉本さんのまとめをみると東北、東日本で理学療法士が少ないのが一目瞭然です。≪参照≫理学療法士数 人口1,000人あたり【県別】 http://expres.umin.jp/mric/mric.vol.603.jpg 言うまでもありませんが、リハビリスタッフも現在の医療には欠かす事のできない存在です。整形外科のように運動機能の落ちた方の治療だけにとどまらず、内科入院した方でも高齢者などの入院によるADL低下のリスクが高い方には理学療法士の介入が効果的です。体調に不安のある中、積極的に動こうという人は少なく、上げ膳据え膳でベッド上生活をすると、明らかに筋力が低下していきます。理学療法士が介入することで、少なくとも毎日20分程度は個別に訓練します。場合によっては1日数回訓練が行われます。看護師がリハビリのために捻出できる時間はあまりありません。患者さんの回復、ADL低下予防には大きな違いとなります。 他にも、理学療法士不在の病院には問題があります。入院中の患者さんが院内で転倒事故を起こすと、医療スタッフは責任を感じます。そのため、なんとかつたい歩きで移動していた方など歩行に不安のある方には、一人では歩かないようにお願いする事があります。しかし24時間一人の患者さんのそばにいる事は不可能です。結果として入院する事による活動度の制限が増えてしまいます。ここに理学療法士が介入できると、入院生活中に過度の活動制限を避ける事が出来るばかりか、退院後の自宅での生活について専門的なアドバイスをする事も出来ます。 最近、腰が痛くて動けないと入院を希望して受診してきた高齢の男性がいます。約3週間にわたって食事・排せつをベッド上で行う寝たきりの生活を送っていたそうです。レントゲンでは骨折はありませんでしたが、家族にも疲れがみられ、出来る限りのサポートをと思い入院して頂く事としました。話を聞くと仮設住宅暮らしで、つかまる所がなくて立つことができなかった、同じく高齢の奥さんとの二人暮らしで、奥さんに支えてもらう訳にもいかなかったとのことです。病院の環境で確認するとつかまり立ちは自立しており、歩行器歩行も可能でした。本人には動くきっかけと環境が必要だったのかもしれません。仮設住宅、そして地域には潜在的なリハビリ難民がいることが示唆されます。 仮設住宅から復興住宅に移る時に足腰が立たなくなっていては意味がありません。地域高齢者のADL維持を図るには明らかに運動器疾患をサポートする医療スタッフが不足していると感じられます。被災地にはこれらの人材も求められています。

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第6回 過失相殺:患者の過失はどこまで相殺できるか?

■今回のテーマのポイント1.医療従事者に過失があったとしても、患者自身の行為にも問題があり、その結果損害が生じた場合、または損害が拡大した場合には、過失相殺が適用され損害賠償額が減額される2.「法的な」療養指導義務の内容は、明確に示される必要がある3.されど、医療従事者には職業倫理上、「真摯(しんし)かつ丁寧な」説明、指導をする義務がある事件の概要患者(X)(72歳女性)は、2日前から左上下肢に脱力感があったため、平成13年5月7日にA病院を受診し、脳梗塞との診断にて、入院となりました。ただ、Xは、意識清明で、麻痺の程度も、MMT(徒手筋力テスト)上、左上下肢ともに“4”であり、独歩も可能でした。担当看護師は、入院時オリエンテーションを実施した際、転倒等による外傷の危険性があることを話し、トイレに行くときは必ずナースコールで看護師を呼ぶように注意しました。ところが、Xは、トイレに行く際、最初はナースコールを押していたものの、次第にナースコールをせずに一人でトイレに行くようになり、夜勤の担当看護師であるYが一人でトイレから帰るXを何回か目撃しました。Yは、その都度、トイレに行くときにはナースコールを押すよう指導しました。同月8日午前6時ごろ、Yが定時の見回りでXの病室に赴いたところ、Xがトイレに行くというのでトイレまで同行しましたが、トイレの前でXから「一人で帰れる。大丈夫」といわれたので、Yはトイレの前で別れ、別の患者の介護に向かいました。しかし、午前6時半頃、Yが定時の見回りでXの病室に赴いたところ、Xがベッドの脇で意識を消失し、倒れていました。Xは、急性硬膜下血腫にて緊急手術を行うも、意識が回復することなく、同月12日(入院6日目)に死亡しました。原審では、看護師Yに付き添いを怠った過失を認めつつも、当該過失とXの転倒に因果関係が認められないとして、Xの遺族の請求を棄却しました。これに対し、東京高裁は、看護師Yの不法行為の成立を認め、下記の通り判示しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者(X)(72歳女性)は、平成13年5月5日頃より左上下肢に脱力感が出現し、何とか家事はできたものの、体調がすぐれず、同月7日にA病院を受診しました。頭部CTを施行したところ、麻痺と一致する箇所に梗塞巣を認めたため、脳梗塞と診断されました。ただ、Xは、意識清明で、麻痺の程度も、MMT(徒手筋力テスト)上、左上下肢ともに“4”であり、独歩も可能であったことから、リハビリテーション目的にて14日の予定で同日入院となりました。担当看護師は、入院時オリエンテーションを実施した際、転倒等による外傷の危険性があることを話し、トイレに行くときは必ずナースコールで看護師を呼ぶように注意しました。A病院は2交代制を採っており、夜勤では、Xが入院したA病院2階の患者(約24名)を正看護師2名と准看護師2名の計4名で担当していました。同日の夜勤帯でXを担当する看護師Yは、同日午後6時、定時の見回りの際、「Xがトイレに行きたい」というので、病室から約15m離れたトイレに連れて行きました。午後7時、8日午前1時にもXよりナースコールがあったので、同様にYは、トイレまでの付添いをしました。しかし、午前3時にYが定時の見回りを行う際、Xが自力で歩行し、トイレから戻るところを発見しました。Yは、Xに対し、今後トイレに行くときにはナースコールを押すよう指導し、病室まで付き添いました。ところが、午前5時にもXが、トイレの前を自力歩行しているところをYは発見したため、同様の指導をしましたが、Xは「一人で何回か行っているので大丈夫」と答えました。午前6時頃、Yが定時の見回りでXの病室を訪れたところ、Xは起き上がろうとしており、トイレに行きたいといったため、Yは、トイレまで同行(直接介助はしていない)しました。そして、トイレの前でXから「一人で帰れる。大丈夫」といわれたため、Yは、Xとトイレの前で別れ、他の患者の介護に向いました。その後、午前6時半頃、Yが定時の見回りでXの病室を訪れたところ、Xがベッドの脇に倒れ、意識を消失しているのを発見しました。医師の指示で頭部CTを施行したところ、急性硬膜下血腫と診断され、同日緊急手術を行ったものの、同月12日(入院6日目)に死亡しました。事件の判決原審では、午前6時にXがトイレから帰室する際にYが付き添わなかったことに過失があるとしたものの、Xがいつ転倒したかは不明であり、当該帰室時に転倒したと認めることには、なお合理的な疑いがあるとして因果関係を否定しましたが、本判決では、因果関係を肯定し、Yの不法行為の成立を認めたうえで、下記のように判示し、過失相殺を適用して、損害額の8割を控除し、約470万円の損害賠償責任を認めました。「Xは、多発性脳梗塞により左上下肢に麻痺が認められ、医師及び看護師から、転倒等の危険性があるのでトイレに行く時は必ずナースコールで看護師を呼ぶよう再三指導されていたにもかかわらず、遅くとも平成13年5月8日の午前3時以降、その指導に従わずに何回か一人でトイレに行き来していた上、午前6時ころには、同行したY看護師に「一人で帰れる。大丈夫」といって付添いを断り、その後もナースコールはしなかったものであり、その結果、本件の転倒事故が発生して死亡するに至ったものである。Xがナースコールしなかった理由として、看護師への遠慮あるいは歩行能力の過信等も考えられるが、いずれにしてもナースコールをして看護師を呼ばない限り、看護師としては付き添うことはできない。Xは、老齢とはいえ、意識は清明であり、入院直前までは家族の中心ともいえる存在であったのであり、A病院の診断により多発性脳梗塞と診断され、医師らから転倒の危険性があることの説明を受けていたのであるから、自らも看護婦の介助、付添いによってのみ歩行するように心がけることが期待されていたというべきである。高齢者には、特に麻痺がある場合に限らず転倒事故が多いとされているが、こうした危険防止の具体策としては、まず、老人本人への指導・対応があげられている。・・・以上のほか、本件に顕れた一切の事情を勘案すると、被控訴人は損害額の2割の限度で損害賠償責任を負うものとするのが相当である」(東京高判平成15年9月29日判時1843号69頁)ポイント解説前回は、患者の疾病が損害発生(死亡等)に寄与していた場合、法的にどのように扱われるかについて説明しました。今回は、患者が医療従事者の指導に背く等患者の行為が損害の発生に寄与していた場合の法的取り扱いについて解説します。民法722条2項※1は過失相殺を定めております。すなわち、仮に不法行為が成立(加害者に過失が認められる等)した場合であっても、被害者にも結果発生または損害の拡大に対し因果関係を有する過失が存在した場合には、具体的な公平性をはかるために、それを斟酌して紛争の解決をはかることとなります。例えば、交通事故において、加害者にスピード超過の過失があったとしても、被害者にも信号無視という過失があった場合には、過失相殺を行い、被害者に生じた損害額の何割かを減額することとなります(図1)。したがって、医療者に不法行為責任が成立したとしても、患者にも問題行動があった場合には、過失相殺がなされ、損害額が減額されることとなります。人間は聖人君子ではありませんので、「わかってはいるけど」患者が医師の指示に従わないことが時々見られます。また、いわゆる問題患者もいます。しかし、交通事故と異なるのは、医師には患者に対する「療養指導義務」があり、医療機関には入院患者等院内にいる患者に対しては、転倒防止や入浴での事故を防止する等の「安全配慮義務」があることです。つまり、患者がしかるべき行動をとっていなかったとしても、それすなわち患者の過失となるのではなく、医師の療養指導義務や医療機関の安全配慮義務違反となることもあり得るのです。また、その一方で、あまりにも患者の行動に問題が強い場合には、「療養指導義務を尽くした(過失無)」または、「もはや医師が療養指導義務を尽くしても結果が発生していた」すなわち、因果関係がないということで不法行為責任が成立しないこともあります(図2~4)。図1画像を拡大する図2画像を拡大する図3画像を拡大する図4画像を拡大する本判決では、脳梗塞にて入院した日の深夜~早朝に付き添いをしなかった看護師に過失はあるものの、意識が清明な患者に対し、繰り返し指導していたにもかかわらず、独歩したことにも過失があるとして、看護師に不法行為の成立を認めた上で、過失相殺を適用し、2割の限度で看護師に賠償責任を負わせました(8割減額)。本事例以外で過失相殺に関する事例としては、(1)患者が頑なに腰椎穿刺検査の実施を拒絶したため、くも膜下出血の診断ができず死亡した事例においては、医師の検査に対する説明が足りなかったこと等を理由に過失相殺を適用しなかった判例(名古屋高判平成14年10月31日判タ1153号231頁)(2)帯状疱疹の患者に対し、持続硬膜外麻酔を行っていたところ、患者が外出時にカテーテル刺入部の被覆がはがれているにもかかわらず、医師の指示に反し、炎天下の中、肉体労働を行った結果、硬膜外膿瘍となった事例においては、医師の指導が十分ではなかったとして過失を認めつつも、患者にも自己管理に過失があるとして3割の過失相殺を認めた判例(高松地判平成8年4月22日判タ939号217頁)(3)アルコール性肝炎の患者が、医師の指導に従わず、通院も断続的で、飲酒を継続した結果、食道静脈瘤破裂及び肝硬変にて死亡した事例においては、医師の過失を認めつつも、8割の過失相殺を認めた判例(神戸地判平成6年3月24日判タ875号233頁)等があります。かつては、医師と患者の関係は、パターナリスティックな関係として捉えられていたこともあり、裁判所も患者の過失ある行動について、積極的に過失相殺を行ってきませんでした。しかし、インフォームド・コンセントの重要性が高まった現在、その当然の帰結として、医師から療養指導上の説明を受けた以上、その後、それに反する行動をとることは自己責任の問題であり、医師に「更なる(しばしば「真摯な」と表現される)」療養指導義務が課されることはないということになりますし、仮に医師に療養指導上の義務違反があったとしても、患者の行動に問題がある場合には、積極的に過失相殺を行うべきということとなります。医療従事者は、この結論に違和感を覚えるものと思われます。しかし、法的な理論構成だけでなく、法というツールを用いてインフォームド・コンセントや療養指導義務等を取り扱う場合には、誰から見ても明確な基準を持つことが必須となります。この10数年における萎縮医療・医療崩壊に司法が強く関与していることは、皆さんご存知の通りです。萎縮医療の原因は、一つには国際的にも異常なほど刑事責任を追及したことがあり、もう一つには、判例が変遷する上に、医療現場に不可能を強いるような基準で違法と断罪したことがあります。その結果、医療従事者が、目の前の患者に診療を行おうとするときに自らの行為が適法か違法かの判断ができないため、「疑わしきは回避」となり、萎縮医療、医療崩壊が生じたのです。法は万能のツールではありません。そればかりか、誤って使用すれば害悪となることは、歴史的にも、この10年をみれば明らかです。特に、すぐ後ろに刑事司法が控えているわが国においては、自らの行為が適法か違法か予見できることは必須といえます。したがって、あくまで「法的」に取り扱う場合においては、説明義務、療養指導義務の内容は「○○である」と明確に列挙されているべきであり、「そのことさえ患者に説明すれば後になってから違法と誹られることはない」ということが最も重要となるのです。そのうえで、医療従事者の職業倫理上の義務として、患者がしっかり理解できるまで懇切丁寧に、真摯に説明することが求められるのであり、この領域における不足は、あくまで、プロフェッション内における教育や自浄能力によって解決すべき問題であり、司法が介入するべき問題ではないのです。 ※1民法722条2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます(出現順)。なお本件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。リンクのある事件のみご覧いただけます。東京高等裁判所平成15年9月29日判時1843号69頁名古屋高判平成14年10月31日判タ1153号231頁高松地判平成8年4月22日判タ939号217頁神戸地判平成6年3月24日判タ875号233頁

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診療科の垣根を越えNon Cancer Pain治療の啓発

 医師を対象とした慢性疼痛学習プログラムJ-PAT(Japan Pain Assessment and Treatment/企画・運営:ヤンセンファーマ)が、8月25〜26日開催された。このプログラムは医師の慢性疼痛に対する薬物療法の理解を深め、患者さんの治療満足度向上を目的に全国主要7都市で行われており、今回は大阪国際会議場を会場として実施された。 休みにも関わらず、プログラムには約40名の医師が参加した。参加者の内訳は整形外科医が半数以上と最も多く、次に麻酔科医、そして内科、外科系医であった。参加者の傾向も整形外科における疼痛治療の盛り上がりを反映しているようである。J-PATは整形外科、麻酔科、精神科、薬理専門家など多領域の専門医による監修を受けて企画・運営されているが、今回は西宮市立中央病院 麻酔科・ペインクリニック科 前田倫氏、尼崎中央病院 整形外科 三木健司氏、愛媛大学医学部 脊椎センター・整形外科 尾形直則氏、徳島赤十字病院 麻酔科 井関明生氏、ヤンセンファーマ サイエンティフィックアフェアーズ 川井康嗣氏の5人の講師がテーマ毎に講義を行った。講演内容は痛みの概念・定義、痛みの評価法、薬物療法の全般、オピオイドの適正使用、治療法の疾患各論など幅広く、2日目後半は実症例をもとに薬物療法の実際をケーススタディ形式で紹介した。セッション後の質疑応答では、各疾患領域での疼痛治療の実際、オピオイドの使い方、鎮痛補助薬の使い方など参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が行われた。 日本の慢性疼痛患者は約2,200万人に達すると推計されている。しかし、患者さんの受診科は痛みの専門家であるペインクリニック以上に整形外科や一般内科に多く、専門外の知識が必要とされているのが現状である。 慢性疼痛においては、手術療法、薬物療法、リハビリテーション、心理療法などの多面的なアプローチが必要である。薬物療法が注目される傾向があるが、あくまで治療の一部である。痛みの原因となっている疾患の診断、がんなどリスク因子の鑑別、手術など適切な治療手段選択を検討した上で、初めて薬物療法を考慮することとなる。ここ数年、有効な薬剤が数多く登場し、薬物療法の適応は広がったものの、安易な薬物治療によるトラブルも少なくはないという。上記の原則を守った上で、適切に薬剤を使用する事が重要である。 一方で、日本における慢性疼痛に対する医学教育も十分とは言い難い。疼痛治療薬の選択を例にとっても欧米がNSAIDs、オピオイド、抗けいれん薬、抗うつ薬などの薬剤を疾患により使い分けているのに対し、日本ではどの疾患でもNSAIDsの使用比率が圧倒的に高いという結果もこの現れといえるかも知れない。痛みは、数値化しにくく、また患者さんの主観的な症状であるため、治療は非常に難しい。また、診療科や疾患によって痛みの背景も異なり、医師の捉え方も異なる。十分な知識を持ち合わせた医師を育成し、適正使用を推進する事が急務といえよう。そういう意味で、J-PATのようなセミナーを通じて、慢性疼痛を診る機会が多い麻酔科医、整形外科医、内科医が一堂に会し痛みおよびその治療についての理解を深めていくことは重要であり、画期的だといえる。慢性疼痛に対する薬物療法の理解が深まり、治療満足度の向上されることを期待したい。J-PATに関する問い合わせ先:ヤンセンファーマ株式会社 コミュニケーション・アンド・パブリックリレーションズ部(電話:03-4411-5046)または営業担当者まで

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寄稿 線維筋痛症の基本

廿日市記念病院リハビリテーション科戸田克広痛みは原因の観点から神経障害性疼痛(神経障害痛)と侵害受容性疼痛(侵害受容痛)およびその合併に分類され、世界標準の医学では心因性疼痛単独は存在しないという考えが主流である。通常、日本医学ではこれに心因性疼痛が加わる。線維筋痛症(Fibromyalgia、以下FM)およびその不全型は日本医学の心因性疼痛の大部分を占めるが、世界標準の医学では神経障害痛の中の中枢性神経障害痛に含まれる。医学的に説明のつかない症状や痛みを世界の慢性痛やリウマチの業界はFMやその不全型と診断、治療し、精神科の業界は身体表現性障害(身体化障害、疼痛性障害)と診断、治療している。FMの原因は不明であるが、脳の機能障害が原因という説が定説になっている。器質的な異常があるのかもしれないが、現時点の医学レベルでは明確な器質的異常は判明していない。脳の機能障害が原因で生じる中枢性過敏症候群という疾患群があり、うつ病、不安障害、慢性疲労症候群、FM、むずむず脚症候群、緊張型頭痛などがそれに含まれる。先進国においてはFMの有病率は約2%であるが、その不全型を含めると少なくとも20%の有病率になる。FMおよび不全型の診断基準は「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント -」に記載されている1)。医学的に説明のつかない痛みを訴える場合には、FMあるいはその不全型を疑うことが望ましい。FMもその不全型も治療は同一であるため、これらを区別する意義は臨床的にはほとんどない。薬物治療のみならず、禁煙、有酸素運動、患者教育、認知行動療法などが有効である。ただし、認知行動療法は具体的に何をすればよいかわからない部分が多く、それを行うことができる人間が少ないため、実施している施設は少ない。人工甘味料アスパルテームによりFMを発症した症例が報告されたため、その摂取中止が望ましい1)。当初は必ず一つの薬のみを上限量まで漸増し、有効か無効かを判定する必要がある。副作用のために増量不能となった場合や、満足できる鎮痛効果が得られた場合には、上限量を使用する必要はない。つまり、上限量を使用せずして無効と判断することや、不十分な鎮痛効果にもかかわらず上限量を使用しないことは適切ではない(副作用のために増量不能の場合を除く)。一つの薬の最適量が決まれば、患者さんが満足できる鎮痛効果が得られない限り、同様の方法により次の薬を追加する。これは国際疼痛学会が神経障害痛に一般論として推奨している薬物治療の方法である。2、3種類の薬を同時に投与することは望ましくない。どの薬が有効か不明になり、同じ薬を漫然と投与することになりやすいからである。世界標準のFMでは有効性の証拠の強い順に薬物を使用することが推奨されているが、その方法は臨床的にはあまり有用ではない。投薬の優先順位を決定する際には有効性の証拠の強さのみならず、実際に使用した経験も考慮する必要がある。さらに論文上の副作用、実際に経験した副作用、薬価も考慮する必要がある。FMは治癒することが少ない上に、FMにより死亡することも少ないため、30年以上の内服が必要になることがしばしばあるからである。FMの薬物治療においては適用外処方は不可避であるが、保険請求上の病名も考慮する必要がある。さらに、日本独特の風習である添付文書上の自動車運転禁止の問題も考慮する必要がある。抗痙攣薬、抗不安薬、睡眠薬、ほとんどの抗うつ薬を内服中には添付文書上自動車の運転は禁止されているが、それを遵守すると、少なくない患者さんの生活が破綻するばかりではなく、日本経済そのものが破綻する。以上の要因を総合して、薬物治療の優先順位を決めている1)。これにより医師の経験量によらず、ほぼ一定の治療効果を得ることができる。ただし、それには明確なエビデンスはないため、各医師が適宜変更していただきたい。副作用が少ないことを優先する場合や自動車の運転が必須の患者さんの場合には、眠気などの副作用が少ない薬を優先投与する必要がある。すなわち、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン) 、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、デキストロメトルファンを優先使用している。痛みが強い場合には、有効性の証拠が強い薬、すなわちアミトリプチリン、プレガバリン、ミルナシプラン、デュロキセチンを優先使用している。抗不安薬は常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的には使用せず、パニック発作の抑制目的にのみ使用し、かつ3ヵ月以内に中止すべきである。FMにアルプラゾラムが有効と抄録に書かれた論文2)があるが、本文中では有効性に関して偽薬と差がないという記載があるため、注意が必要である。ステロイドはFMには有害無益であり、ステロイドが有効な疾患が合併しない限り使用してはならない。昨年、日本の診療ガイドラインが報告された。筋緊張亢進型、腱付着部炎型、うつ型、およびその合併に分類する方法および各タイプ別に優先使用する薬は世界標準のFMとは異なっており、私が個人的に決めた優先順位と同様に明確なエビデンスに基づいていない。たとえば、腱付着部炎型にサラゾスルファピリジンやプレドニンが有効と記載されているが、それはFMに有効なのではなく、腱付着部炎を引き起こすFMとは異なる疾患に有効なのである。糖尿病型FMにインシュリンが有効という理論と同様である。薬を何種類併用してよいかという問題があるが、誰も正解を知らない。私は睡眠薬を除いて原則的に6種類まで併用している。1年以上投薬すると、中止しても痛みが悪化しないことがある。そのため、1年以上使用している薬は中止して、その効果が持続しているかどうかを確かめることが望ましい。引用文献1) CareNetホームページ カンファレンス Q&A:戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」2)Russell IJ et al: Treatment of primary fibrositis/fibromyalgia syndrome with ibuprofen and alprazolam. A double-blind, placebo-controlled study. Arthritis Rheum. 1991;34:552-560.

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患者指導、診療チーム力向上のカギはコーチングで鍛える「対話力」!

医療におけるコーチングの展望 日米の視点から日本コーチ協会主催の第14回年次大会が、2012年6月23日、日本橋三井ホールにおいて開催された。同大会は、各分野でのコーチング活用の発表の場として、また最新のコーチング情報を提供する目的で毎年開催されているものである。はじめに、日本コーチ協会理事長の桜井一紀氏より「コーチングは社会のさまざまな場面で取り入れられている。とくにリーダーが部下との関係性向上や、組織全体の活性化のためにコーチングを取り入れる例が多くみられている。具体例として、キリンビールや東北大学でコーチングが採用され、効果を上げている。医療現場では、名古屋第二赤十字病院などで導入され、病院スタッフの“対話力”が向上していると聞く。今日は、国内外のいろいろな事例を聞いて、参考にしてもらいたい」と開会の挨拶を行った。行動変容の基本原理 ~コーチング手法の活用~基調講演としてElizabeth Pegg Frates 氏(ハーバード大学 准教授)が「行動変容の基本原理 ~コーチング手法の活用~」と題して、基調講演を行った。はじめに米国の生活習慣病に関する概要を示した後、自身が経験した患者ヘの生活習慣指導のコーチングを例にわかりやすく解説した。氏がレジデントの頃、「患者に一方的に上から指導・アドバイスを行うことが患者のためになる」と思っていたが、それでは患者は従わず、医療者にも患者にもフラストレーションが溜まる結果となった。しかし、コーチングの手法を学んだことで、まず患者の声を傾聴し、表情や声色から患者の思いを読み取ることで、患者の行動変容を促していけるようになり、指導の実を挙げていると報告した。一例として肥満患者へのコーチングをあげ、ライフスタイルコーチングをすることでまず食習慣が改善され(肉食から野菜・魚食へ)、次に運動習慣も身についたと紹介した。「患者が最高のQOLで過ごせるようになること」がコーチングの成果であり、生活習慣指導の分野では非常に効果があるという。次に、コーチングに関する医学論文を紹介し、コーチングが多様な分野で活用されているとレポートした。疾患領域では、「ぜんそく、がん、うつ、脊髄小脳変性症、糖尿病、循環器系疾患、疼痛」などの分野で効果が報告されており、一例として循環器疾患領域でコレステロールの大幅な改善があったと紹介した。最後にこれからの展望として、コーチングによってどのような影響があったのか長期フォローアップと大規模化・集中化が求められる研究が必要だと述べ、講演を終えた。チーム医療にコーチングを活かす 患者中心の医療に向けてセッション1として、出江紳一氏(東北大学大学院医工学研究科 リハビリテーション医工学 教授)が、「チーム医療にコーチングを活かす 患者中心の医療に向けて」と題して自身の研究室で行ったコーチングをテーマに講演を行った。出江氏は、「コミュニケーションはキャチボール」というコーチングの概念を紹介し、日常診療で診断、予後、治療を扱う医療面接において「将来への希望となる質問や布石を行っている」と自身の貴重な臨床での経験を披露した。出江氏によると、コーチングの特徴は、「双方向のコミュニケーション」、「相手に合ったコミュニケーション」、「継続的なコミュニケーション」の3つを柱として行うもの。診療におけるコミュニケーションだけでなく、研究室の研修医・大学院生への教育にも活用している。講演では、医学部教員研修にコーチングスキルの修得を導入した経験と、脊髄小脳変性症患者へのコーチング介入のランダム化比較試験を紹介。前者では継続的なフォローによりコーチング指導の意義・継続を浸透させることができ、コミュニケーションに変化が生じたこと、後者では、患者の自己効力感が増大したことなどが報告された。また、チーム医療向上へのコーチング導入の例を紹介。「コーチング理論に基づく医療コミュニケーション教育法の確立」の研究成果をレポートした。従来の研修医教育システムにコーチングの手法を導入し、研修医のコミュニケーションを看護師が評価し、その結果をテーマとして指導医が研修医をコーチしたものである。指導医にはやや負担が増えるものの、手法の中で行われる研修医との面談でコミュニケーションの緊密化が図られた。その結果、研修医は他者からの評価が把握でき、指導医は臨床以外の場面でコミュニケーションができるため、院内コミュニケーションに関してお互いによい影響がでていると報告した。個人にコーチングを行うことで、組織内のコミュニケーションに変化が生じ、組織のパフォーマンスによい変化が生まれる。とりわけ医療の現場では、「コミュニケーション力の増大は、安全管理の向上とも相関する可能性があることから、今後も実践と研究の両面で行っていく」と講演を終えた。遅発型食物アレルギー陽性者に対するコーチングセッション2では、澤登雅一氏(三番町ごきげんクリニック 院長)が、「遅発型食物アレルギー陽性者に対するコーチング」として“対患者コーチング”をメインに講演を行った。

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「一般名処方加算」新設、その後の実施率は

今回の「医師1,000人に聞きました」、テーマは “一般名処方”。2012年4月より、2012年4月の診療報酬改定における後発医薬品使用促進策の一つとして「一般名処方加算」が新設されたことは先生方ご存知の通りです。この改定を受けて先生方の意識はどう変化したのか?「4月以降実施するようになった」医師は全体でどれくらい?病院と診療所、実施率はどう違う?CareNet.comで2011年12月に実施した一般名処方の実施率調査も比較しながらご覧ください。結果概要はこちらコメントはこちら設問詳細「一般名処方」についてお尋ねします。4月6日付の『日刊薬業』によると、『4月の診療報酬改定で加算点数が新設されたことをきっかけに、全国各地で一般名処方を含む処方箋が増加している。当初は加算新設の効果に懐疑的な見方もあったが、改定施行直後からクリニックを中心に一般名処方が広がっているもようだ。この急増ぶりに東京都薬剤師会は3日付で、処方医や薬局薬剤師が一般名処方に不慣れな中では調剤過誤につながる恐れもあることから、傘下薬局に注意喚起の事務連絡を出した。4月の診療報酬改定では後発医薬品使用促進策の一つとして「一般名処方加算」が新設。医師が一般名処方を含む処方箋を発行した場合、交付1回当たり2点を保険請求できるようになった。一般名処方を含む処方箋について全国の調剤薬局からは、「前年に比べ2割ほど増加した」(札幌市の調剤薬局)、「すごく多い。混乱している」(広島県の調剤薬局チェーン)との声が出ている。大阪府薬剤師会の乾英夫副会長は「府内でも増えている。混乱しているのは確か」と話す。東京都薬は「一般名記載の処方薬を含む処方箋がかなり多い。ここまで来るとは思っていなかった」(事務局)と、予想以上の急増を指摘している。台東区の薬局の薬剤師は「一般名処方の処方箋は全体の25~30%。処方箋発行元医療機関の約9割が一般名処方を出している」と説明する。(略)』とのこと。そこで先生にお尋ねします。Q1. 先生の勤務施設では、一般名処方を行なっていますか?1.行なっている2.一部行なっている3.行なっていないQ2. Q1で「行なっている」「一部行なっている」と回答した先生にお尋ねします。一般名処方に関して、以下当てはまるものを全てお答え下さい。これまで行なっていなかったが、4月以降行なうようになった以前から行なっていたが、4月以降増えたレセコンの設定で自動的に一般名処方となる後発薬のある薬剤はほぼ全てを一般名処方としている処方薬のうち少なくとも1種類は一般名処方としている処方箋の書き方に難しさを感じるどの後発薬を調剤するかは調剤薬局に任せる調剤薬局からの問合せが増えた当てはまるものはないQ3. Q1で「行なっていない」と回答した先生にお尋ねします。今後一般名処方を行なう予定はありますか?1.行いたい2.薬剤によっては一般名処方でも良い3.行いたくないQ4.コメントをお願いします。今回の診療報酬改定、ご勤務施設の方針、処方箋を書く際やレセコンについて感じること、一般名処方の浸透に対してのお考えなど、一般名処方に関することでしたらどういったことでも結構です。アンケート結果Q1. 先生の勤務施設では、一般名処方を行なっていますか?Q1で「行なっている」「一部行なっている」と回答した先生にお尋ねします。一般名処方に関して、以下当てはまるものを全てお答え下さい。Q3. Q1で「行なっていない」と回答した先生にお尋ねします。今後一般名処方を行なう予定はありますか?2012年6月15日(金)~20日(水)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員結果概要一般名処方を行なっている医師は3割超、前回調査時より倍増 診療所医師では半数を超える勤務施設での現在の実施状況では、「行なっている」との回答が15.1%(昨年5.7%)、「一部行なっている」が19.3%(同11.5%)。何らかの形で実施している医師は17.2%から34.4%と、昨年12月の調査時と比較すると倍増した結果になった。また、そうした医師に状況を尋ね「これまで行なっていなかったが、4月以降行なうようになった」との回答が60.8%。「以前から行なっていたが4月以降増えた」が14.8%であった。また施設規模別で見ると、病院医師で合計30.1%、診療所医師で56.0%の実施率となった。今後について、現在行なっていない医師の6割が「行いたい」「薬剤によっては」と回答一方、現在「行なっていない」と回答した医師に今後の意向を尋ねたところ、「薬剤によっては一般名処方でも良い」51.4%、「行いたくない」40.5%、「行いたい」8.1%という結果となった。『後発薬の信頼性に問題がある』『商品名で覚えていたものを新たに覚えなおすのは難しい』といった回答が多く見られた。「行いたい」とした中では、『自動変換してくれるなら』『面倒なので』など、レセコンに関するコメントを寄せた医師が多かった。「後発薬のある薬剤はほぼ全て一般名処方」としている医師は11.6%その他、現在行なっている医師の状況として「レセコンの設定で自動的に一般名処方となる」との回答が16.3%いる一方で、「処方箋の書き方に難しさを感じる」との回答が16.0%とほぼ同程度となった。「処方箋のうち少なくとも1種類は一般名処方としている」は15.7%、「後発薬のある薬剤はほぼ全てを一般名処方としている」との回答が11.6%。CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「成分・効能が同じでも患者さんの方からすれば違ったものと捉えることが多いようです。医療費高騰の観点からのみでジェネリックにするのは考え物です。」(60代,病院勤務,リハビリテーション科)「後発品と先発品で適応疾患が異なるのが問題。当院では一般名では印字できないのですべて手書きになります。一般名処方は現状では普及しないと思います。」(50代,病院勤務,精神・神経科)「後発品の数が多すぎて、後発品の商品名で処方しても薬局によっておいているものが違い、その度変更可かどうかと問い合わせがくる。それも面倒なのだが、一般名はなじみがなく処方する際に手間がかかる。先発品の名称で処方しても、「変更可」とチェックを入れれば一般名処方と意味は同じになると思うので、かならずしも一般名でなくていいと思う。もう少し現場のことを考えてほしい。」(30代,病院勤務,外科)「仕事が煩雑になり大変迷惑。」(40代,病院勤務,精神・神経科)「処方された薬剤名を電子カルテに残したほうが良いと思うので手間が増えている。」(50代,その他,内科)「処方箋が長くなるので、印刷されているとはいえ、見づらい。コンピューター入力できない項目(例えば、不均等な服用、汎用しない頓服項目)など、つい書き加えるのを忘れる。医療機関はたいへんな思いをして2点しか加算されない。薬局ばかりが得をしていると感じている。」(40代,診療所勤務,精神・神経科)「移行期は作業が増えるが、将来的には効率的かと思う。」(30代,病院勤務,精神・神経科)「病院全体の問題なので当科の一存では決められない。やるならやるでいいし、やらなくても良い。」(50代,病院勤務,泌尿器科)「一般名処方をしてでも2点を稼がなければいけない保険制度に問題あり。一般名処方が一般化すればやがては2点加算も無くなり、逆に商品名処方だと減点される方向に動くだろう。製薬メーカーのMR活動は消滅。対薬局MS活動が中心になるだろう。医薬品の精度、安全性はどのように担保し、薬害時の補償はどうするのだろうか。」(50代,病院勤務,泌尿器科)「一般名を調べるのに時間をとられて、業務に支障あり。 」(50代,病院勤務,整形外科)「血圧関係では、慣れたARBを使用したいので一般名処方はしたくない。」(60代,その他,産婦人科)「一般名で構わないと思うが、この無理やりなやり方には反発を感じる」(40代,診療所勤務,精神・神経科)「点眼ビンの使いやすさや点眼時の刺激などが各薬剤にて全く異なるので、眼科的にはなじまない」(40代,診療所勤務,眼科)「調剤薬局からの問い合わせが多く、非常に手間を感じている」(30代,診療所勤務,腎臓内科)「一般名処方出来る薬と出来ない薬があるので、混乱している。4月に入って直ぐに後発薬のあるものすべてを一般名処方に変えたが月の半ばでレセコン会社から半分以上出来無いとの連絡があり戻して混乱した。その根拠が分からない。」(50代,その他,眼科)「加算につながることなので、経営上やらざるを得ないが、露骨なジェネリックへの誘導措置であり、気分はあまりよくない。」(40代,診療所勤務,内科)「電子カルテが、製品名を入力しても一般名が選べるとか、サポート機能が充実すれば一般名処方はやぶさかではない」(50代,病院勤務,外科)「自分がわざと安いジェネリック薬を選んで処方しても,薬局で高いジェネリックに変更されている.これまでと逆のことがおこっている.」(30代,病院勤務,神経内科)「いままでよりわかりやすくていいです。ただ、患者さんに商品名を伝えるべきなのか、一般名にするのかは、どちらにしても名前が変わってくることが多いため、患者がどう感じているか心配ではある。」(30代,診療所勤務,膠原病科)「商品名に慣れ親しんだ患者さんやベテラン医師に受け入れられるまで時間はかかると思うが、一般名処方をすると、先発品と後発品を同じ名前で処方できる、一般名で学んだ薬学の知識を新人医師がそのまま使えるというメリットがある。いずれ世間は一般名処方に移行していくと思う。」(30代,病院勤務,呼吸器科)「他の医療機関から来た患者の処方を見るときは、一般名処方の方が、聞いたこともないジェネリック薬品の製品名よりはるかに良いと思います。」(50代,診療所勤務,代謝・内分泌科)「電子カルテの動きが遅くなるため実施していない。」(40代,診療所勤務,耳鼻咽喉科)「いちいち薬局からこの薬にしましたと連絡を受けるのは面倒」(60代,その他,泌尿器科)「後発品の普及をさせたい意図はわかるが 現場の状況を厚生省はよく検討して欲しい」(30代,病院勤務,麻酔科)「いろいろな医療機関で様々な薬を処方されていてその患者が入院した場合何の薬を処方されていたのか調べるのが大変な労力がいる。またすべて同じ効果があるのか疑問。」(60代,病院勤務,外科)「レセコンでは一般名→商品名、商品名→一般名いずれも変換できますので、特に困ることはないのですが、保険点数2点ですからねえ、労力の割には報われないような気がします。」(50代,病院勤務,外科)「一般名が複雑な名称の場合があり(例えばxxxxリン酸塩、など)、また馴染みの少ない名称の場合も少なくなく、処方ミスに繋がる可能性がある。」(50代,病院勤務,代謝・内分泌科)「アップデートの必要がある情報が山のように有るので、覚えないですむ情報に時間を費やすのはさけたい」(40代,病院勤務,外科)「他施設から紹介されてくるケースで、後発品の処方がなされているケースだと何が投与されているのか一々調べなければならない。それなら一般名処方のほうがましに感じる。 」(40代,病院勤務,整形外科)「電子カルテのソフトで対応していかないと,何の薬が出ているのかわからないので,医療事故の原因になるはず…」(50代,病院勤務,呼吸器科)「薬剤師、医師とも不慣れな一般名より、商品名での処方が良いと考えている。現状の「どちらでも良い」という中途半端な状態がもっとも危険。」(50代,その他,外科)「当院の処方は全て自動的に(変更不可)になっている」(50代,診療所勤務,整形外科)「いまだ過渡期になるのでしょうか?かなり前から議論されていますが、いまだに統一した見解、取り決めがなされていないのは疑問に思います」(40代,病院勤務,麻酔科)「これだけ医療ミスが問題とされているのに、 わざわざ一般名にしてミスをするリスクをあげる必要性があるのだろうか?」(40代,病院勤務,膠原病科)「医師になったばかりの頃は、一般名の処方の方が判りやすかったが、段々、経験を積むにつれて、メーカーごとに違う薬剤名の方に慣れ親しんで行った。だから、これから医師になる人々にとっては一般名処方は良い傾向だと思う。」(50代,病院勤務,産婦人科)「一般名のほうがよいが、コメディカル(看護師など)の方々にも浸透するにはまだまだ時間が掛かると思う」(30代,病院勤務,その他)「コンピュータで一般名が選択できるので処方は簡単。」(30代,診療所勤務,産婦人科)「院内処方なので、一般名にするメリットは感じない。制度でそうするというのなら従うが、慣れるまではしんどいな。」(40代,病院勤務,精神・神経科)「処方された薬剤に関する責任の所在を明確にしてほしい」(40代,病院勤務,精神・神経科)「長い目で見れば、製品名と一般名の2種類を記憶する必要がなくなるので、一般名処方は推進されるべきと思います。 」(30代,病院勤務,腎臓内科)「今から、以前覚えた商品名に対する一般名を覚える余力がない。」(40代,病院勤務,血液内科)「後発薬の場合、実際に効果が違うように思うものがあるのも確かであり、指定が必要なものもあるかと思います。 また、患者さん側も薬の名前が違うことに不安を感じるのでは。 混乱を招かないためにも後発薬は一般名そのものや一般名をもじったものにして欲しいものです。」(30代,病院勤務,整形外科)「現場が混乱し、インシデントの原因となるので、一般名処方が必要だとか一般名が定着しているものに限って行なうべきと思います。」(30代,病院勤務,整形外科)「この制度はおかしい。「後発品への変更可」から、「後発品への変更不可」に変化し、ここで一般名にしたところで、現場が混乱するだけ。後発品変更不可としない処方箋に2点つくようにしさえすればよかったのに」(40代,病院勤務,内科)「先発薬にこだわりたい。」(40代,病院勤務,内科)「たった2点のためやるかと思うと、情けないです。」(40代,診療所勤務,産婦人科)「昔ながらによく使用している薬剤を、一般名でいまさら覚えるのがおっくうです。」(40代,病院勤務,呼吸器科)「電子カルテのオプション整備費としてかなりの金額が必要ですので、考慮中です。」(60代,病院勤務,消化器科)「一般名をすぐに連想させるような商品名であると覚えやすいため使用してもよいと考える」(20代,病院勤務,産婦人科)「以前は紛らわしい名前の薬の書き間違いによる医療事故が取りざたされていましたが、ジェネリックや一般名処方ではますます間違いが増えることが明らかです。(処方している医師仲間が言っているので間違いないです。)今は患者の命よりも医療費の抑制が優先される時代なんだと理解しています。」(50代,病院勤務,呼吸器科)「とくに勤務施設からの指示はありませんが、ジェネリック医薬品の採用品がころころ変わるこの頃、一般名での処方のほうが便利かもしれない」(40代,病院勤務,内科)

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慢性めまいに、小冊子ベースの前庭リハビリテーションが有効

慢性めまいに対する小冊子を配布し自宅で行うよう指導する前庭リハビリテーションは症状の改善効果に有効で、プライマリ・ケアにおいて簡易で費用効果に優れた方法であることが報告された。英国・サウサンプトン大学のLucy Yardley氏らが、慢性めまいに対し一般に行われているケアと、小冊子ベースの前庭リハビリテーション(電話サポートあり/なし)の臨床効果と費用対効果を評価することを目的とした単盲検無作為化試験を行った結果で、BMJ誌6月9日号(オンライン版2012年6月6日号)で発表した。前庭リハビリテーションは、前庭機能障害によるめまいの最も効果的な治療法で、簡単な自己エクササイズ法からなるが、自宅で実践可能な適格患者でも本療法を教授されるケースはほとんどないのが現状だという。一般的ケア群、小冊子前庭リハ群、+電話サポート群で評価試験は、2008年10月~2011年1月に南イングランドの35のかかりつけ医(GP)の協力の下、18歳以上で慢性めまいを平均5年以上有し、前庭機能障害が疑われ(GPによる診断で)、頭部運動(患者自身による)で症状が悪化する患者を対象に行われた。被験者は、無作為に一般的ケア群、小冊子ベースの前庭リハビリテーション群、+電話サポートあり群に割り付けられた。小冊子リハ群は、記述されている総合的なアドバイスに基づき自宅で毎日12週間にわたって治療に取り組み、電話サポートあり群はさらに、前庭リハビリテーションセラピストから3つのセッションを受けた。主要評価は、めまい症状スケールのVertigo symptom scale-short form(VSS-SF)、QALY当たりのめまい関連の総医療費とした。臨床的有効性解析はintention to treatにて、介入後の群間比較のため、基線症状スコアを調整し、共分散分析法を用いて行った。電話サポートありの小冊子前庭リハを5人が受ければ1人は1年時点で改善337例が無作為化され、276例(82%)が12週間の治療を完了し主要エンドポイントを受けた。また、263例(78%)が1年時点の追跡評価を受けた。12週間時点で、電話サポート群のVSS-SFスコアは、一般的ケア群と有意に異ならなかった(補正後平均差異:-1.79、95%信頼区間:-3.69~0.11、P=0.064)。1年時点では、電話サポート群(同:-2.52、-4.52~-0.51、P=0.014)、小冊子のみ群(同:-2.43、-4.27~-0.60、P=0.010)ともに、一般ケア群と比較して有意な改善が認められた。また、解析の結果から、両介入群の非常に高い費用対効果が認められた。すなわち、QALY当たりの医療費が非常に低く抑えられ、小冊子のみアプローチが最も費用対効果に優れ、電話サポートによるアプローチが加えられても1,200ポンド(1,932ドル)以上のQALY価値がある費用対効果があることが示された。電話サポートありの小冊子アプローチ療法を5(3~12)人が受ければ1人は、1年時点で主観的な改善を報告することが示された。

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鍼灸の現状と問題(2) 保険外併用療養費の考察

北海道鍼灸マッサージ柔整協同組合 理事 健保対策委員長NPO法人 全国鍼灸マッサージ協会 理事 広報/渉外局 健保推進担当渡邊 一哉2012年6月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 鍼灸が現状の健康保険法の87条、療養費の枠組みで健保の支払いが償還払いになって久しい。昭和の30年代には日本鍼灸師会が健保の推進を掲げて運動している事からそれ以前、戦後マッカーサーが鍼灸禁止の発令をしようと、日本の医療者と論議になっているのが昭和25年前後と思われる事から、それから数年で健康保険を使っての鍼灸が始まってる事になる。 現在の日本の鍼灸は医業行為とは呼ばれず、法的には医業類似行為と言われている。これに不服を感じ、医業になるべきだ、医療行為となぜ言われないのか?と鍼灸の業界団体もまた、ここ数年で相次いで設立された鍼灸系の大学などでも、盛んに研究が行われ、EBMの確立に躍起になっている。 おそらく、数年の後にはある程度EBMの確立を生むかもしれない。それはそれで素晴らしい事だし、そうなる事を願ってはいる。鍼灸が病院内医療として行われ、それが患者さんに使われる事で、医療経済の側面からも薬剤や、リハビリテーションと並び、鍼灸は強力な武器にもなる可能性がある。 製薬会社から妨害があるのではないか?とか、薬剤師会と対立するのではないか?と言うような声もあるにはあるが、だとしても医療の選択肢として患者さんが医師と話し合いの上で、もしくは患者の意思を尊重してとなるのであれば、それはそれで問題のある事だとは思えない。 仮にEBMが確立をして医療に参入するとなるとどういう事が起こってしまうのか。病院内で行われる医療行為はすべて医師法に遵守した形で行われている。1.医師法第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。第18条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。 このように医師に業務独占、名称独占を与えている。今の病院医療は、医師が業務独占があるために、他のメディカルスタッフはすべて医師の処方で業務をこなしている。しかも請求は保険給付である。現物給付と言われる給付の方法で請求は医師が行うのはご承知の通りである。 あまり今のところ、鍼灸の医療参入に関してはせいぜい混合診療の問題が発生しているくらいのもので、鍼灸という業務としての問題を提起する方はいない。 今の時点で鍼灸が健保を適応しているのは制度上は健康保険法の第87条の療養費の部分である。(療養費)第八十七条 保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行 うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合におい て、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。 この療養費の87条は療養の給付が困難であると認める時と条文上では書かれている。現在のこの条文に関しての運用は、厚労省から通知がでている。 最新の厚労省の鍼灸に関しての疑義解釈資料(平成24年2月13日発布)によれば、療養の給付等が困難な場合とは慢性病であり、医師による適当な医療手段のないもので主として神経痛、五十肩、腰痛など他類焼疾患となっており、漫然と医療を受け続けても、治癒に至らないものとされている。 この解釈を巡っては様々な論議があるが、今のところは医師の同意書が発行されれば、その条件に関してはあまり言わない保険者が大半を占める。一部、保険医療機関担当規則を持ち出してくる保険者もいるにはいるが、そもそも日本の行政は裁量行政であり、その場その場、時代時代に、条文を無理矢理都合を合わせて行く事が日本の行政であり、そうでないと時代が移行する度に、条文改正や、国会での論議という事になるのは大変な事で、それである程度、幅を持たせて解釈をしている。 時に拡大し過ぎ、飛躍し過ぎという話もあるが、それをある程度調整をつけていくのが医療であれば厚労省の役割でもあろうと思う。 話を戻すが、この療養費は、償還払いが原則で、現物給付は請求権は医師にあるのに対し、償還払いは被保険者請求である。 それを代理請求して鍼灸師、もしくは第3者が行っている現状がある。これはこれで複雑で煩雑な書類を被保険者が行う手間を、慣れている者が行うことでガードが下がり国民の受療が進むというメリットはある。 これがEBMが進み、医療になるとすると、医師以外は医療を行えないという医師法の原則からいくと鍼灸師は医師の処方下でないと鍼灸治療が行えなくなるという現実がある。あくまで条文を条文通りに行くとという事であるが。 事、医師法に関しては、他の法律と違い、かなりコンプライアンスを守らなければいけないし、医師法は日本の医療に関しては統治している法律である。ここの医師以外で医療を行うという部分に鍼灸師が参入する事を医師はおろか、他の医療関連職種も黙っているわけには行かないだろうと思う。 この問題は、くしくもEBMがある程度確立し、日本で鍼灸が認められ、病院内医療として行われ始めると同時に発生する。 この問題をいったいどうしていくのがいいのか。日本の現存の開業鍼灸師は、病院内医療が始まるとどうなるのか?ここに解決の道はないのか。 私案であるが、保険外併用療養費に鍼灸を選定療養としてでも入れる事で、病院内では保険外併用療養費として、病院外では健康保険法87条の療養費払いとして、支払う事が可能になるのであれば、病院医療と開業鍼灸師との共存が可能である。あくまで法律上ではあるが。 保険外併用療養費に鍼灸が認められれば、混合診療問題も鍼灸に関しては除外される事になる。鍼灸が医療参入できないのはひとつには混合診療問題からだと言われている事からそれは問題回避する事ができる。 現在の保険外併用療養費は下記になる。●評価療養(7種類)・先進医療(高度医療を含む)・医薬品の治験に係る診療・医療機器の治験に係る診療 ・薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用・薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用・適応外の医薬品の使用・適応外の医療機器の使用●選定療養(10種類)・特別の療養環境(差額ベッド)・歯科の金合金等・金属床総義歯・予約診療・時間外診療・大病院の初診・小児う触の指導管理・大病院の再診 ・180日以上の入院・制限回数を超える医療行為 この指定は厚労大臣が認定して行う事になっていて、そこに鍼灸が参入というのはもっとも今の法律を変えず、開業鍼灸師も打撃を大きくはうけず、病院医療で行う事からさらにEBMの確立に向けていけると思うし、国民のアクセスのしやすくなる。 医療経済的にどうなのか?と問われれば、やってみないとわからない事が多く、予想としては薬剤やその他の医療と基本的には併用はできない仕組み作りにして行くと経済効果もあるとは思うのだが、厚労省側で、一部地域やもしくは時限的にとかで選定療養としてやってみないと医療経済的にはわからない。 とりあえず、地域を限定してやってみるというのも方法である。その際、開業鍼灸師には、同意書の発行など医師が渋る事のないように便宜をはかる必要があり、あくまで、選択は患者さんが、国民にあるという姿勢で行く事が必要ではないかと思われる。料金的にも保険外併用療養費であれば、はり術きゅう術 電療合わせて1525円になり、開業鍼灸師であれば、その割合負担が患者さんの負担である。厚労省の裁量行政でなんとかなる話なのである。

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境界性人格障害患者の自殺予防のポイントはリハビリ

境界性人格障害では自殺行為を繰り返すことが大きな問題となる。多くの患者は寛解まで時間を要するため、約10%が自殺により死亡するといわれている。Soloff氏らは境界性人格障害患者の長期予後改善のために、自殺の予測因子を検証した。そのうえで「自殺リスクを減少させ、長期の転帰を改善するには、社会的かつ職業的リハビリテーションによる心理社会的介入が重要である」と結論づけている。Am J Psychiatry誌2012年5月号掲載の報告。境界性人格障害患者90例に対し6年以上の追跡調査を実施、縦断的研究をおこなった。分析にはCox比例ハザードモデルを用いた。主な結果は以下のとおり。 ・25例(27.8%)において、少なくとも1回以上の自殺企図がみられた。・自殺企図者の大部分は、発症後2年目以内であった。・自殺企図リスクの増加要因は、社会経済的地位の低さ、心理社会的適応の低さ、自殺の家族歴、精神科入院歴、自殺前の外来診療の不足であった。・総合評価尺度(GAS)が高いほど自殺リスクは低かった。・自殺の危険因子は時間とともに変化し、短期(12ヵ月)では大うつ病性障害などの急性ストレス、長期的には心理社会的機能の低さとの関係が示唆された。(ケアネット 鷹野 敦夫)

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COPDの悪液質患者のグレリン治療

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)の悪液質患者にグレリンを投与することにより、症状や呼吸筋力が改善する可能性があることを国立病院機構 刀根山病院の三木 啓介氏らが報告した。肺の悪液質は、病態が進行したCOPDでは一般的な徴候であり、死亡の独立した危険因子である。グレリンは新たな成長ホルモン放出ペプチドであり、成長ホルモンの独立した効果を有している。 研究グループはCOPDの悪液質患者33例を対象にグレリン投与群とプラセボ投与群に割り当て、多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行った。試験期間中、両群とも呼吸リハビリテーションが並行して行われた。 主要アウトカムは6分間歩行距離とSGRQ(St. George Respiratory Questionnair)であった。 主な結果は以下のとおり。・フォロー期間は7週間であった。・投与開始3週後(95%Cl: -37~48、p=0.81)、7週後(95%Cl:-15~73、p=0.19)ともに6分間歩行距離に両群間で有意差は認められなかった。・SGRQでは7週後の「症状項目」のみ、両群間で有意差が認められた(95%Cl:-29.5~2.1、p=0.026)。・副次アウトカムでは7週後のMRC息切れスケール(95%Cl: -1.4~-0.1、p=0.030)と最大呼気筋力(95%Cl: 4.1~35.6、p=0.015)で有意差が認められた。

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重度外傷性脳損傷へのアマンタジンのプラセボ対照試験

外傷後意識障害を有する患者に対し、アマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレルほか)は、機能回復を早めることが示された。米国・JFKジョンソン・リハビリテーション研究所のJoseph T. Giacino氏らが報告した。アマンタジンは、外傷性脳損傷後の遷延性意識障害患者に最も多く処方される薬剤の一つで、予備的研究で、アマンタジンが機能回復を促進する可能性があることが示唆されていた。NEJM誌2012年2月29日号より。アマンタジン4週間投与の期間と投与後2週間の機能回復速度を比較研究グループは、外傷性脳損傷後4~16週間にわたって植物状態または最小意識状態(MCS)にあり、入院リハビリテーションを受けていた184例の患者を登録した。患者は4週間、アマンタジンまたはプラセボを投与されるよう無作為に割り付けられ、投与終了後2週間追跡された。評価は混合効果回帰モデルを用いて、4週間の投与期間(主要アウトカム)と、2週間のウオッシュアウト期間について、Disability Rating Scale(DRS:0~29の範囲で、スコアが高いほど機能障害が強い)に基づく機能回復速度を比較した。投与期間中は有意に速い回復示すDRSスコアで測定された4週の投与期間中の回復速度は、アマンタジン群がプラセボ群より有意に速く(傾きの差:0.24ポイント/週、P=0.007)、主要アウトカムの評価項目に関する有益性が示された。事前に特定したサブグループ解析では、治療効果は、植物状態の患者とMCSの患者で同等だった。回復速度は、投与終了後2週間(第5週と6週)でアマンタジン群は低下していったが、プラセボ群と比べてその低下は有意に緩徐だった(傾きの差:0.30ポイント/週、P=0.02)。ベースラインと6週(投与終了2週間後)の間のDRSスコア全体の改善度合いは、両群で同程度だった。また、重篤な有害事象の発生率に有意差はなかった。(朝田哲明:医療ライター)

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慢性腰椎神経根症へのステロイドまたは生理食塩水注射は推奨できない

慢性の腰椎神経根症に対する仙骨部硬膜外ステロイドまたは生理食塩水注射は「推奨されない」と結論する多施設盲検無作為化試験の結果が報告された。ノルウェー・北ノルウェー大学病院リハビリテーション部門のTrond Iversen氏らによる。腰椎神経根症への硬膜外ステロイド注射は1953年来の治療法だが、長期有効性のエビデンスは乏しかった。それにもかかわらず、例えば米国では1994年から2001年に10万患者当たり553例から2,055例へと使用が増加、英国では2002~2003年の最も頻度の高い脊椎注射処置の1つとなっていた。本試験では、同注射の有効性について、短期(6週)、中期(12週)、長期(52週)の評価が行われた。BMJ誌2011年9月17日号(オンライン版2011年9月13日号)掲載報告より。シャム群、生理食塩水注射群、ステロイド注射群に無作為化し短中長期に評価試験は、ノルウェーの5つの病院付属外来クリニックにて被験者を募り行われた。被験者は無作為に、0.9%生理食塩水2mLの皮下シャム注射群、0.9%生理食塩水30mLの仙骨部硬膜外注射群、0.9%生理食塩水29mL中にトリアムシノロンアセトニド(商品名:ケナコルト)40mgの仙骨部硬膜外注射群の3群に割り付けられ追跡評価された。主要評価項目は、オスウェトリー障害指数スコア(oswestry disability index scores)とし、副次評価項目は、ヨーロッパQOL尺度、腰痛と下肢痛の視覚アナログスケールスコアとした。2005年10月~2009年2月の間に461例の患者(>12週の腰椎神経根症を呈する)が登録されたが、328例は評価から除外された。馬尾症候群、重度の麻痺、痛みが激しい、脊髄注射または手術の既往、奇形、妊娠、母乳育児中、ワルファリン治療中、NSAID治療中、BMI>30、精神状態が不安定、重症の共存症といった理由からであった。また、試験結果の適切な評価のためには、各群に41例の被験者を含む必要があったが、試験に適格であった133例のうち17例は、無作為化の前に症状改善が認められ割り付けができず解析は116例(皮下シャム注射群40例、生理食塩水注射群39例、ステロイド注射群37例)にて行われた。3群ともに症状改善、統計的・臨床的な差は認められず結果、介入後3群ともに症状の改善が認められ、統計的および臨床的格差は認められなかった。シャム群のオスウェトリー障害指数は、基線補正後、6週時点で-4.7(95%信頼区間:-0.6~-8.8)、12週時点で-11.4(同:-6.3~-14.5)、52週時点で-14.3(同:-10.0~-18.7)とそれぞれ低下が推定された。生理食塩水注射群の各時点の同指数は、シャム群と比較して6週時点は-0.5(同:-6.3~5.4)、12週時点は1.4(同:-4.5~7.2)、52週時点は-1.9(同:-8.0~4.3)だった。ステロイド注射群は、それぞれ-2.9(同:-8.7~3.0)、4.0(同:-1.9~9.9)、1.9(同:-4.2~8.0)となっていた。下肢痛、腰痛、または病気により休薬した期間で補正後も、この傾向は変わらなかった。

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戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

1985年新潟大学医学部卒業。現在、廿日市記念病院リハビリテーション科勤務。2001年1月~2004年2月までアメリカ国立衛生研究所に勤務した際、線維筋痛症に出会い、日本の現状を知る。帰国後、線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群などの治療にあたっている。日本線維筋痛症学会評議員。著書に『線維筋痛症がわかる本』(主婦の友社)。線維筋痛症の現状先進国の線維筋痛症(fibromyalgia : FM)の有病率はわずか2%だが、グレーゾーンを含めると約20%になる。そのため、患者数が多いと予想される。また、先進国や少なくない非先進国ではFMは常識だが、日本ではまだよく知られていない。この疾患特有の愁訴を訴える患者さんを、プライマリ・ケア医や勤務医が診察する機会が多いと予測される。今回、FMの標準的な診療について、正しく理解していただくために診療のサマリーと診療スライドを公開させていただく。よりよい治療成績を求めることが臨床医の努めと考えているので、是非実践していただきたい。線維筋痛症の疫学・病態画像を拡大する腰痛症や肩こりから慢性局所痛症(chronic regional pain: CRP)や慢性広範痛症(chronic widespread pain: CWP)を経由してFMは発症するが、それまで通常10~20年かかる(図1)。FMの有病率は先進国では約2%、FMを含むCWPの有病率は約10%、CRPの有病率はCWPのそれの1-2倍である*1。FMの原因は不明だが、中枢神経の過敏状態(中枢性過敏)が原因であるという説が定説である*1。中枢性過敏によって起こった中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome)にはうつ病、不安障害、慢性疲労症候群、むずむず脚症候群などが含まれるが、FMはその代表的疾患である(図2)。画像を拡大する女性がFM患者の約8割を占める。未就学児にも発生するが、絶対数としては30歳代~60歳代が多数を占める。線維筋痛症の症状全身痛、しびれ、疲労感、感覚異常(過敏や鈍麻)、睡眠障害、記憶力や認知機能の障害などいわゆる不定愁訴を呈する。中枢性過敏症候群に含まれる疾患の合併が多い。痛みや感覚異常の分布は神経分布とは一致せず、痛みやしびれの範囲は移動する。天候が悪化する前や月経前後に症状がしばしば悪化する。症状の程度はCRP<CWP<FMとなる(図1)。線維筋痛症の検査・診断(2012年1月30日に内容を更新)画像を拡大する圧痛以外の他覚所見は通常存在せず、理学検査、血液検査、画像検査も通常正常である。従来はアメリカリウマチ学会(ACR)による1990年の分類基準(図3)が実質的に唯一の診断基準となっていたが、2010年(図4)*2と2011年*3に予備的診断基準が報告された。ACRが認めた2010年の基準は臨床基準であり、医師が問診する必要がある。ACRが現時点では認めていない2011年の基準は研究基準であり、医師の問診なしで患者の回答のみでも許容されるが、患者の自己診断に用いてはならない。2011年の基準は2010年の基準とほぼ同じであるが、「身体症状」が過去6カ月の頭痛、下腹部の痛みや痙攣、抑うつの3つになった。共に「痛みを説明できる他の疾患が存在しない」という条件がある*2、*3。1990年の分類基準は廃止ではなく、使用可能である*2、*3。CRPやCWPにFMと同じ治療を行う限り、FMの臨床基準には存在意義がほとんどない。どの診断基準がどのくらいの頻度で、どのように使用されるのかは現時点では不明である。画像を拡大する1990年の分類基準によると、身体5カ所、つまり、左半身、右半身、腰を含まない上半身、腰を含む下半身、体幹部(頚椎、前胸部、胸椎、腰部)に3カ月以上痛みがあり、18カ所の圧痛点を約4kgで圧迫して11カ所以上で患者が「痛い」といえば他にいかなる疾患が存在しても自動的にFMと診断される*1(図3)。つまり、圧痛以外の理学検査、血液検査、画像検査の結果は、診断基準にも除外基準にもならない。通常、身体5カ所に3カ月以上痛みがあれば広義のCWPと、CWPの基準を満たさないが腰痛症のみや肩こりのみより痛みの範囲が広い場合にはCRPと診断される。FMとは異なり他の疾患で症状が説明できる場合には、通常CRPやCWPとは診断されない。~~ ここまで2012年1月30日に内容を更新~~従来の基準を使う限り、FMには鑑別疾患は存在しないが、合併する疾患を見つけることは重要である。従来、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)、心因性疼痛、仮面うつ病と診断されたかなりの患者はCRP、CWP、FMに該当する。線維筋痛症の治療(2012年7月24日に内容を更新)画像を拡大する世界ではCWPに対して通常FMと同じ治療が行われており、CRPやCWPにFMと同じ治療を行うとFM以上の治療成績を得ることができる*1。FMの治療は肩こり、慢性腰痛症、慢性掻痒症、FM以外の慢性痛にもしばしば有効である。他の疾患を合併している場合、一方のみの治療をまず行うのか、両方の治療を同時に行うのかの判断は重要である。FMの治療の基本は薬物治療と非薬物治療の組み合わせである。非薬物治療には認知行動療法、有酸素運動、減量、禁煙(受動喫煙の回避を含む)、人工甘味料アスパルテームの摂取中止*4が含まれる(図5)。鍼の有効性の根拠は弱く高額であるため、週1回合計5回行っても一時的な効果のみであれば、中止するか一時的な効果しかないことを了解して継続すべきである。薬物治療の基本は一つずつ薬の効果を確認することである。一つの薬を少量から上限量まで漸増する必要がある。効果と副作用の両面から最適量を決定し、それでも不十分な鎮痛効果しか得られなければ次の薬を追加する。上限量を1-2週間投与しても無効であれば漸減中止すべきで、上限量を使用せず無効と判断してはならない。メタ解析や系統的総説により有効性が示された薬はアミトリプチリン〔トリプタノール〕、ミルナシプラン〔トレドミン〕、プレガバリン〔リリカ〕、デュロキセチン〔サインバルタ〕である*1、4。二重盲検法により有効性が示された薬はガバペンチン〔ガバペン〕、デキストロメトルファン〔メジコン〕、トラマドールとアセトアミノフェンの合剤〔トラムセット配合錠〕などである*1、4。ノルトリプチリン〔ノリトレン〕は体内で多くがアミトリプチリンに代謝され、有効性のエビデンスは低いが実際に使用すると有効例が多い。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕、ラフチジン〔プロテカジン〕は対照群のない研究での有効性しか示されていないが、有効例が多く副作用が少ない。抗不安薬はFMに有効という証拠がないばかりか常用量依存を引き起こしやすいため、鎮痛目的や睡眠目的で使用すべきではない*1、4。また、ステロイドが有効な疾患を合併しない限りステロイドはFMには有害無益である*1。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は通常無効であるが、個々の患者では有効なことがある。個々の薬物の有効性のレベルは文献*1、4を参照していただきたい。論文上の効果や副作用、私自身が経験した効果や副作用、費用の点を総合的に考慮した私の個人的な優先順位は〔ノイロトロピン〕、アミトリプチリン、デキストロメトルファン、ノリトレン、メコバラミンと葉酸の併用、イコサペント酸エチル、ラフチジン、ミルナシプラン、ガバペンチン、デュロキセチン、プレガバリンである。これには科学的根拠はないが、薬物治療が単純になる。不都合があれば各医師が優先順位を変更すればよい。日本のガイドラインにも科学的根拠がないことはガイドラインに記載されている*5。筋付着部炎型にステロイドやサラゾスフファピリジン〔アザルフィジン〕が推奨されているが、それらはFMに有効なのではなくFMとは別の疾患に有効なのである。肺炎型FMに抗生物質を推奨することと同じである。線維筋痛症の治療成績画像を拡大する2007年4月の時点で3カ月以上私が治療を行った34人のFM患者のうち薬物を中止できた人は5人(15%)、痛みが7割以上改善した人が4人(12%)、痛みが1割以上7割未満改善した人が17人(50%)、不変・悪化の人が8人(24%)であった*1。CRPやCWPにFMとまったく同じ治療を行えば、有意差はないがFMよりはよい治療成績であった*1(図6)。※〔 〕内の名称は商品名です文献*1 戸田克広: 線維筋痛症がわかる本. 主婦の友社, 東京, 2010.*2 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity. Arthritis Care Res (Hoboken) 62: 600-610, 2010. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20461783*3 Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA et al: Fibromyalgia Criteria and Severity Scales for Clinical and Epidemiological Studies: A Modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Rheumatol 38: 1113-1122, 2011. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21285161*4 戸田克広: エビデンスに基づく薬物治療(海外の事例を含む). 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 93-105.*5 西岡久寿樹: 治療総論. 日本線維筋痛症学会編, 線維筋痛症診療ガイドライン2011. 日本医事新報, 東京, 2011; 82-92.質問と回答を公開中!

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戸田克広 先生の答え

麻薬の使用法治療としていわゆる麻薬はどのような状況、症状の時に使うべきなのでしょうか。また、投与中止はどのようにおこなうべきでしょうか。非癌性慢性痛に麻薬を使用することは依存を引き起こすのではないかと危惧する意見があります。しかし、痛みがある患者さんに適切に使用する限りは、依存は起こらないと考えられています。後者の仮説には明確なデータはないため麻薬の使用は慎重におこなうべきです。しかし、適切な治療を1年以上おこなっても鎮痛効果が不十分な場合や、初診時に激烈な痛みがあり、自殺の恐れがある場合には麻薬を使用してもよいと思います。喫煙者などの物質依存者や約束を守らない人格と判断される場合には麻薬を使用しないことが望ましいと思います。モルヒネには「天井効果がないため上限量はない」という考えもありますが、「200mg / 日を超える場合にはさらに十分な評価が必要」という意見もあります。ペインクリニック専門医ではない場合には200mg / 日を超えるモルヒネは査定される可能性が高いという非公式の制度があるため注意が必要です。ブプレノルフィン、ペンタゾシンは使用すべきではありません。トラマドール塩酸塩〔トラムセット〕またはコデイン、モルヒネ、フェンタニル〔デュロテップパッチ〕の順で使用することが一般的です。モルヒネは薬価が高いため、1回量が20mgになれば薬価の安い散剤にした方が良いと思います。麻薬が有効な場合、その他に有効な薬を見つけて麻薬を減量または中止する努力が必要です。減量とは1回量の減量であって、投与間隔を延長してはいけません。モルヒネであれば1回量を2-4週間ごとに10mgずつ減量し、痛みが悪化すれば再び増量することが望ましいと思います。※〔 〕内の名称は商品名です 中枢性過敏についてこの概念と定義はどなたが提唱したものなのでしょう。概念をもう少し詳しくお聞かせください。御多忙中とは存じますが、どうぞ宜しくお願いいたします。Woolfが中枢性過敏(central sensitization: CS)を提唱しました。CSにはさまざまな定義があります。Woolfは「侵害受容刺激により中枢の侵害受容経路のシナプス効果と興奮性が長期間ではあるが可逆的に増加すること」と定義していますが、国際疼痛学会は「正常あるいは閾値下の求心性入力に対する中枢神経系内の侵害受容ニューロンの反応性の増加」と定義しています。私は次のように考えています。侵害受容性疼痛や末梢性神経障害性疼痛という痛み刺激のみならず、精神的ストレスなどの刺激が繰り返し脳に送られ続けると、中枢神経に機能障害が起こってしまいます。機能障害ではなく器質的障害なのかもしれませんが、現時点の医学レベルではよくわかっていません。中枢神経に機能障害が起こるとさまざまな刺激に対して過敏になり、痛みを感じない程度の刺激が中枢神経に入っても痛みを感じさせてしまいます。また、中枢神経に起こった機能障害の部位そのものが痛みなどの症状の原因になる、つまり機能障害の部位から痛みなどの情報が流れてしまうと推測しています。一方、Yunusが中枢性過敏症候群(central sensitivity syndrome: CSS)を提唱しました。CSSの主な原因はCSと推測されています。CSは主に痛みに関する理論ですが、CSSには痛みを主訴とするFM以外にも、慢性疲労症候群、異常感覚を主訴とするむずむず脚症候群、化学物質過敏症、うつ病、外傷後ストレス障害なども含まれます。CSSの代表疾患の一つがFMなのです。CSは日本でも知られていますが、CSSはFM以上に日本では知られていません。CSSに含まれる疾患は定まっていません。不安障害、皮膚掻痒症、機能性胃腸障害、更年期障害、慢性広範痛症、慢性局所痛症などもCSSに含まれると私は考えています。(日本医事新報No4553, 84-88, 2011)FMの症状について口の中が痛くて、硬いものがかめない症状や、下肢痛があり車や電車に乗ると悪化するような症状はFMに該当するでしょうか?口の症状はFMの症状です。FMでは身体のどこにでもアロジニア(通常痛みを引き起こさない程度の刺激により痛みが起こること)が起こります。口腔内にそれが起これば、硬いものをかめない症状が生じます。口の症状のみがある場合には舌痛症と診断すべきかもしれませんが、舌痛症はFMの部分症状と考えることも可能です。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化すると訴えるFM患者を私は知りませんが、FMの症状と考えても矛盾はありません。FMでは、歩行時より下肢を動かさない状態の時に痛みが強い場合が多いからです。自動車や電車に乗ると下肢痛が悪化する場合には、むずむず脚症候群の可能性もあります。むずむず脚症候群では歩行時よりも安静時に下肢のむずむず感が強くなるため、自動車や電車に乗るとそれが強くなる場合があります。むずむず感などの違和感を痛みと表現する患者さんもいます。FMとむずむず脚症候群はしばしば合併するため注意が必要です。者の性差について患者で女性が8割を占める理由について病態の解明は進んでおりますでしょうか。現在わかっている範囲でお教えください。FMの原因は脳の機能障害という説が定説ですが、厳密にはわかっていません。そのため、女性が8割を占める理由も当然わかっていません。FMの原因解明が進めば、その理由もわかるのではないかと期待しています。FMを含むFMよりも広い概念の慢性広範痛症においては双子を用いた研究により半分が遺伝要因、半分が環境要因と報告されています。性ホルモンはFMに影響を及ぼす要因の一つと考えられています。ただし、性ホルモンは遺伝子により大きな影響を受けるため、性ホルモンの差と遺伝子の差を厳密に区別することは困難です。なお、FM患者の中で女性と男性でどちらの症状が強いかに関しては、男女差はないという報告、女性の症状が強いという報告、男性の症状が強いという報告があり、何ともいえません。治療選択について非薬物療法を患者さんが選択し、希望する場合、一番効果的なものはどれでしょうか。先生の私見でも結構ですのでご教示願えますか。非薬物療法の中では禁煙、有酸素運動、認知行動療法、温熱療法、減量、患者教育が有用です。激しい受動喫煙を含めた喫煙者では、禁煙が一番有効と考えていますが、非喫煙者では有酸素運動が一番有効と考えています。患者本人の喫煙継続は論外ですが、間接受動喫煙防止のため配偶者には禁煙、その他の家族には屋外喫煙が必要です。有酸素運動は、技術や人手が不要、安価で、誰でもできるという長所があるため、非喫煙者では最も有効と考えています。散歩や水中歩行のみならずヨガ、太極拳も有効です。歩行すると痛みが悪化する人では、深呼吸で代用も可能です。安静が有効な場合もありますが、これは痛みが起こらない程度の安静を保つことを意味するのであって、過度な安静は逆に有害です。痛みに対する認知行動療法は、論文上有効なのですが、実際に何をすれば良いのかよくわからないこと、適切な治療を行う施設が少ないこと、費用が高いことが欠点です。欧米を中心にしたインターネットによる調査では約8%の人しか認知行動療法を受けておらず、患者さんが自己評価した有効性もあまりよくありませんでした。温熱療法には、温泉療法、温水中の訓練、遠赤外線サウナ、近赤外線の照射などが含まれます。FMは心因性疼痛ではなく、恐らく脳の機能障害が原因であろうことの説明や痛いときには無理をしないことの説明などが患者教育です。星状神経節ブロックを含む交感神経ブロックが有効という根拠はありません。対照群のない研究では鍼は有効なのですが、適切な対照群のある研究では鍼の有効性が証明されていません。交感神経ブロックも鍼も、5回行って一時的な鎮痛効果しかなければ、それ以上継続しても一時的な効果しかないと私は考えています。トリガーポイントブロックの長期成績は不明です。非薬物治療は組み合わせて行うことが望ましく、さらに言えば、非薬物治療は薬物治療と併用することが望ましいと報告されています。線維筋痛症の患者とうつ病同症の患者では精神疾患(特にうつ病)を併発されている方も多いと聞きます。その場合のケアと薬剤の処方のポイントについてご教示ください。抑うつ症状あるいはうつ病に痛みが合併した場合、痛みはうつ病の一症状であるという理論は捨てる必要があります。痛みと、抑うつや不安症状は対等の症状と見なすことが重要です。FMとうつ病(または不安障害)が合併した場合、当初はより重症な症状のみを治療することをお勧めします。一方の症状がある程度軽減した後に、他方の症状を治療した方が治療は容易です。抗うつ作用がまったくない薬で痛みが軽減しても、抑うつ症状が軽減することはありふれたことです。しかし、両症状とも強い場合には、両方を同時に治療せざるを得ないこともあります。その場合には抑うつ症状に対する治療と、痛みに対する治療は分けた方がよいと思います。SSRIと短期間の抗不安薬を抑うつ症状に対する治療と考え、その他の薬は痛みに対する治療と考えた方がよいと思います。三環系抗うつ薬とSNRIは抑うつにも痛みにも有効ですが、痛みのみに有効と見なし、抑うつがついでに軽減すれば「儲け物」という程度に考えた方がよいと思います。なお、三環系抗うつ薬では鎮痛効果を発揮する投与量より抗うつ効果を発揮する投与量の方が多いのですが、SNRIでは両効果を発揮する投与量は同程度です。SSRIも痛みに対する薬も通常漸増する必要があります。それらを同日投与や同日増量すると副作用が生じた場合に、原因薬物の特定が困難になる場合があります。そのため、投与開始や増量は少なくとも中2日は空けたほうがよいと思います。抗不安薬は、SSRIが抗うつ効果や抗不安効果を発揮するまでの一時しのぎとして抗不安薬を使用すべきです。抗不安薬を半年以上投薬する場合には、転倒や骨折の増加、運動機能の低下、理解力の低下、認知機能の低下、抑うつ症状の悪化、新たな骨粗鬆症の発症、女性での死亡率の増加を説明する必要があります。抗不安薬を半年以上使用すると常用量依存が起こりやすく、その場合中止が困難になります。薬物療法とガイドライン解説の中で薬物療法について「ガイドラインでは科学的根拠がない」と記されていますが、近々に発表される、または欧米のものが翻訳される見込みはございますか。教えていただける範囲でお願いします。「線維筋痛症のガイドライン」は、アメリカ、ドイツ、ヨーロッパ、カナダ、スペインから発表されています。日本語に翻訳されて発表される見込みは現在不明です。日本のガイドラインの改訂版は今後発表される予定ですが、いつになるのか未定です。アメリカ、ドイツ、ヨーロッパのガイドラインは各治療方法の有効性のエビデンスを記載しています。カナダのガイドラインはエッセイ様式です。スペインと日本のガイドラインはサブグループに分けています。スペインのガイドラインは修正デルフィ法(参加者の匿名のアンケートとそれに対する評価を繰り返し一つの結論を出す方法)によりGieseckeらの分類方法を採用しています。日本のガイドラインの最大の特徴はFMをサブグループに分けて、サブグループごとに治療方法を変える点です。世界では、FMのサブグループ分けは多くの研究者により行われています。痛み、抑うつ状態などのさまざまな指標により得られたデータによりサブグループ分けが行われていますが、報告により異なるサブグループに分けられています。ただし、日本のガイドラインに含まれる「筋付着部炎型」は私が知る限り、報告された分類方法のどのサブグループにも存在しません。また、前回と今回の日本のガイドラインでは同じサブグループの推奨薬物が異なっていますが、その変更の根拠が記載されていません。「分類の根拠、およびサブグループごとに推奨する薬物が異なる根拠は論文化されていない」由が、今回のガイドラインに記載されています。日本のガイドラインでは各執筆者は自分自身の執筆した部分のみに責任を持つことも特徴の一つです。睡眠薬との関連痛みがひどくて眠れない患者さんに睡眠薬を処方することもあるかと思います。その場合、注意する点などご教示ください。FMに限らず、痛みのために不眠の患者さんの睡眠改善目的にまず処方する薬は、睡眠薬ではなく鎮痛薬です。もちろん非ステロイド性抗炎症薬ではなく神経障害性疼痛に対する鎮痛薬です。鎮痛薬が主で、睡眠薬は従の関係です。当初は睡眠薬を処方せず、鎮痛薬を私は処方しています。三環系抗うつ薬、ガバペンチン〔ガバペン〕、プレガバリン〔リリカ〕は鎮痛効果が強い上に、眠気の副作用が強いのでその副作用を睡眠改善に使用することも可能です。しかし、眠気の副作用がほとんどないワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液〔ノイロトロピン〕やデキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物〔メジコン〕により痛みが改善すれば、結果的に睡眠が改善することもあります。FMの不眠に有効な睡眠薬はゾピクロン〔アモバン〕、ゾルピデム酒石酸塩〔マイスリー〕ですが、副作用報告の少ないゾピクロンを私は優先使用しています。FMの睡眠障害に対して抗不安薬を使用することは避けるべきです。常用量依存を作りやすいからです。特に、作用時間が短く抗不安作用が強いため常用量依存を作りやすいエチゾラム〔デパス〕を睡眠薬として使用することは避けるべきです。※〔 〕内の名称は商品名です。日本での患者数わが国における患者の推定数はどのくらい見積もられておりますでしょうか、また、欧米の患者数、人種差、性差なども合わせてお教え下さい。日本における地域住民の有病率は約1.7%と報告されていますが、その報告には調査人数や具体的な調査方法が記載されていません。今後、科学的根拠の高い日本人の有病率が世界に知られることを期待しています。日本の病院敷地内での女性就労者の2.0%、男性就労者の0.5%がFMと報告されています。アジア、欧米を中心とした報告によるとFMの有病率は約2%、そのグレーゾーンの有病率は約20%と推測されます。圧痛点の数は経時的に変動することや論文上の有病率は一時点の有病率であることを考えると、真の有病率は約2%、日本では250万人程度のFM患者がいると推測しています。中国での有病率は0.05%という報告がありますが、調査方法や診断能力に原因があるのかもしれません。同一の研究チームが異人種を調べた研究は3つあり、ブラジル(非白人2.65%と白人2.26%)とイラン(Caucasians0.6%とトルコ人0.7%)では人種差がなく、マレーシア(マレー系1.19%、インド系2.58%、中国系0.33%)では人種差がありました。そのため有病率に人種差があるのかどうかは不明です。FM患者の約8割は女性であり、性比には大きな人種差はないようです。医師以外の関与線維筋痛症について、ナースやコメディカルが介入できる余地はありますでしょうか。例えば理学療法士がストレッチを指導する、ナースが話を聞くなどで患者の日常生活から改善していくなどです。その際の保険点数など参考になるものがございましたらご教示お願いします。薬物治療以外では、コメディカルが介入できる余地がたくさんあります。ただし、FMという病名では保険点数はつきません。理学療法士や作業療法士は、有酸素運動、筋力増強訓練、ストレッチ、水中訓練などを指導できます。しかし、FMなどの痛みを引き起こす疾患では保険点数は取れません。関節の変性疾患、関節の炎症性疾患、運動器不安定症などが合併していれば運動器リハビリテーション料を請求することができます。ナースが患者の話を聞いたり、患者の痛みや生活の質を評価するアンケートの記載方法の説明を行うことができます。ただし、ナースが患者の話を聞いても保険点数を請求できません。うつ病に対する認知行動療法に対して、厳しい条件はあるものの2010年から保険点数が取れるようになりました。しかし、FMなどの痛みに対する認知行動療法では保険点数を請求できません。総括FMが知られていない日本医学は世界の標準医学から大きく乖離しています。FM以上に中枢性過敏症候群は、日本では知られていません。FMのみならず中枢性過敏症候群を認めて世界の標準医学に追いつく必要があります。FMの治療はFMのみならずそのグレーゾーン、つまり人口の約20%に有効です。グレーゾーンにもFMの治療を行うのですから、臨床の観点ではFMの診断は厳密に行う必要はありません。心因性疼痛、仮面うつ病、身体表現性障害(疼痛性障害、身体化障害)と診断するより、FMやそのグレーゾーンと診断する方が、有効な治療方法が多いためほぼ間違いなく治療成績が向上します。異なる医学理論が衝突した場合には、「脚気論争」と同様に治療成績がよい医学理論を採用すべきです。自分が長年信じていた医学理論を捨てることは困難ですが、臨床医は自分が信じる医学理論を守ることより、よりよい治療成績を求めるべきです。戸田克広先生「「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して! - まず知ろう診療のポイント-」

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脳卒中後の体重免可トレッドミルトレーニングはPT訪問リハビリより有効か

米国で脳卒中後リハビリテーションとして取り入れられるようになっている、体重支持吊り下げ装置付きトレッドミル運動機器を用いた歩行訓練(体重免可トレッドミルトレーニング:BWSTT)の有効性について、理学療法士(PT)による訪問リハビリでの漸進的エクササイズとの比較での無作為化試験が行われた。米国NIHから助成金を受け脳卒中後リハビリの有効性、時期、強度、期間について調査研究をしているデューク大学地域・家庭医学部門のPamela W. Duncan氏らLEAPS(Locomotor Experience Applied Post-Stroke)研究グループが行った。BWSTTは、パイロット試験や小規模臨床試験で効果が示唆されている程度だが商業ベースに乗り導入が増えており、早急な無作為化試験の実施が求められていたという。NEJM誌2011年5月26日号掲載より。早期BWSTT群、後期BWSTT群、訪問リハ群に割り付け評価研究グループは、以下を仮定し第3相単盲検無作為化試験を行った。(1)標準的理学療法に加えてのBWSTTは、早期提供(脳卒中後2ヵ月)あるいは後期提供(同6ヵ月)とも1年時点の歩行機能レベルの高い患者の割合が、PTにより脳卒中後2ヵ月に行われる漸進的強度・バランス運動による割合よりも多い。(2)BWSTTの早期実施は同後期実施よりも歩行速度を改善(なぜならパイロット試験で早期の回復程度が最も大きいと示されているから)し、6ヵ月時点までに申し分ないものとなる。被験者は、脳卒中後2ヵ月未満の408例(62.0±12.7歳、男性54.9%、4,909例を2回のスクリーニングで絞り込んだ)で、歩行障害の程度に応じて中等度(0.4~0.8m/秒歩行可能、53.4%)か重度(<0.4m/秒、46.6%)に階層化し、3つのトレーニング群(早期BWSTT群:139例、後期BWSTT群:143例、訪問リハ群:126例)のいずれかに無作為に割り付けた。各群介入は90分のセッションを週3回、36回(12~16週の間に)行われた。主要アウトカムは、各群の1年時点の歩行機能改善者の割合とした。歩行機能改善について3群で有意差なし、歩行速度など改善同程度1年時点で歩行機能が改善したのは、被験者全体では52.0%だった。早期BWSTT群と訪問リハ群の改善について有意差はなかった(補正後オッズ比:0.83、95%信頼区間:0.50~1.39)。後期BWSTT群と訪問リハ群についても有意差はなかった(同:1.19、0.72~1.99)。3群の、歩行速度、運動機能回復、バランス感覚、機能状態、QOLの改善は同程度だった。また、BWSTT介入が遅いことや、初期の歩行障害が重度であることは、1年時点のアウトカムに影響はなかった。関連する重篤有害事象は10件報告された(早期BWSTT群2.2%、後期BWSTT群3.5%、訪問リハ群1.6%)。軽度有害事象は、訪問リハ群と比較して両BWSTT群で介入期間中、めまいや失神の発生頻度が高かった(P=0.008)。また歩行障害が重度の被験者において複数回転倒する人が、早期BWSTT群で他の2群よりみられた(P=0.02)。研究グループは「BWSTTが、PT訪問リハでの漸進的エクササイズよりも優れていることは立証されなかった」と結論。「訪問リハのほうがリスクが小さく、適しているといえるかもしれない。また重度歩行障害者に早期BWSTTを行った場合の複数回転倒の割合が高いことは、これら患者には歩行機能改善に加えてバランス感覚を改善するプログラムを組み込むべきであることを示唆するものである」と報告をまとめている。(武藤まき:医療ライター)

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地域ベースのCOPD予防・マネジメント介入で肺機能低下を抑制:中国

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、喫煙や空気汚染など複数の因子が重なって起きる慢性進行性の疾患であり、一つの因子への介入では十分な効果が得られない。これまで、早期ステージでの地域ベースの介入にはほとんど関心が示されていなかったが、中国・広州医科大学のYumin Zhou氏らグループが、COPDの早期予防とマネジメントを目的に、地域ベースの統合的介入がもたらす効果を評価するクラスター無作為化比較試験を行った。BMJ誌2010年12月4日号(オンライン版2010年12月1日号)掲載より。872例を統合的介入群と通常ケア群に割り付け追跡試験は、2地域8つの保健単位1,062例のうち試験適格・除外基準を満たした40~89歳の872例(COPD患者101例、非COPD患者771例)を、統合的介入プログラム群(介入群)または通常ケアプログラム群(対照群)に割り付け行われた。介入群には、体系的な保健教育、個別の集中的介入と治療、リハビリテーションが行われた。主要評価項目は、気管支拡張薬投与前の努力呼気1秒量(FEV1)の年低下率とした。FEV1の年低下率が介入群の方が有意に低い結果、FEV1の年低下率は、介入群の方が対照群よりも有意に低かった。補正後のFEV1の年低下率の差は19mL/年(95%信頼区間:3~36、P

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膝前十字靱帯断裂の急性期は、まずリハビリを

米国では毎年20万件以上の膝前十字靱帯(ACL)再建手術が行われ、直接医療費は約30億ドルに上ると推計されるが、ACL再建が他の治療に比べて優れているとのエビデンスは、質の高い無作為化試験によっても明らかにはなっていない。ACL断裂は、若年者の活動性に重大な損傷をもたらすため、特にスポーツ愛好者・選手は、スポーツ再開を望み断裂修復こそが最良であるとみなし手術を受けるが、治療の中心はあくまで保存療法(体系的リハビリテーション)である。ただし現状では必ずしもリハビリは行われていない。そこで、スウェーデンのランド大学臨床科学整形学部門のRichard B. Frobell氏らは、ACL断裂の至適な治療戦略に関する検討を行った。NEJM誌2010年7月22日号掲載より。リハビリ+早期ACL再建 vs.リハビリ+必要に応じたACL再建Frobell氏らが検討した治療戦略は、体系的リハビリテーション+早期ACL再建(早期再建術群)と、体系的リハビリテーション+必要に応じて行うACL再建(待機的再建術群)の2つで、無作為化試験にて行われた。対象は急性期のACL断裂を有した活動的な若年者121例。主要アウトカムは、ベースラインから2年時点までの、KOOS(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score)の、4つのサブスケール(疼痛、症状、スポーツ・レクリエーション時の機能、膝に関係するQOL)の平均スコア(0~100;点が高いほど良好)の変化とした。副次アウトカムには、KOOSのサブスケール5つすべて(前述+ADL機能)、SF-36健康調査票の結果、Tegner Activity Scaleスコアを含んだ。2年時の主要アウトカムの差は0.2ポイント早期再建術群に割り付けられた被験者62例のうち、1例は手術を受けなかった。一方、待機的再建術群に割り付けられた被験者59例は、手術を受けたのは23例で、36例はリハビリテーションのみで手術は必要としなかった。KOOS(4)の平均スコアの変化は、2年時点で、早期再建術群が39.2ポイント、待機的再建術群が39.4ポイントで、両群の絶対差は0.2ポイント(95%信頼区間:-6.5~6.8、P=0.96)だった。副次アウトカムについても、両群治療戦略間に有意な違いは認められなかった。有害事象は両群で同等に認められた。実際に行われた治療に基づき分析した結果も同様だった。これらからFrobell氏は、「ACL断裂を有した活動的な若年者では、リハビリ+早期ACL再建術の治療戦略が、リハビリ+必要に応じたACL再建術の治療戦略と比べ、優れているとは認められなかった。また後者の治療戦略を取ることで、再建手術がかなり減った」と結論している。(医療ライター:武藤まき)

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足首捻挫時は、安静よりも運動療法

4年に一度のサッカーの祭典W杯が間もなく始まる。そのサッカー選手でも頻度が高い、足首捻挫の治療について、受傷後は安静、アイシング、加圧、固定をするよりも、すぐに運動療法を始めた方が、短期間で機能が快復することが報告された。イギリス・北アイルランドのUlster大学健康科学校健康・リハビリテーション科学研究所のChris M Bleakley氏らが、無作為化試験を行い明らかにした。BMJ誌2010年5月22日号(オンライン版2010年5月10日号)掲載より。101例の急性足首捻挫患者を無作為化し16週間追跡Bleakley氏らは、2007年7月~2008年8月に大学病院の救急外来もしくはスポーツ外傷クリニックを受診した、急性(受傷後7日未満)足首関節捻挫グレード1、2の101例の患者を対象に、アウトカムの評価者盲検無作為化試験を行った。被験者は、すぐに運動療法の介入を受ける群(運動群、50例、平均25.3歳)か、標準的ケア(安静、アイシング、加圧、固定)の介入を受ける群(標準群、51例、26.6歳)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、下肢機能スケールを用いた足首関節機能の自覚状態。副次評価項目は、基線および傷害後1、2、3、4週時点の、安静時と運動時の疼痛、腫脹の程度、身体活動度だった。足首関節機能、再受傷率の評価は、16週時点で行われた。治療効果は一貫して運動群に治療効果は一貫して、運動群の方が認められた(P=0.0077)。1週時点での両群間の治療効果の差は5.28(98.75%信頼区間:0.31~10.26、P=0.008)、2週時点では4.92(同:0.27~9.57、P=0.0083)だった。活動レベルは、いずれの測定時点でも運動群で有意に高かった。歩行時間は運動群1.6時間に対し、標準群は1.2時間、歩数は同7,886歩対5,621歩、軽い運動時間は76分対53分。安静時・運動時疼痛および腫脹について、群間差は認められなかった。再受傷率は4%だった(両群とも2例)。

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外傷性脳障害後の1年間、患者の半分以上が大うつ病性障害を発症

外傷性脳障害を負った人の半数以上が、その後1年間に大うつ病性障害(MDD)を発症していることがわかった。なかでも、障害を負った時点やそれ以前にMDD歴のある人が、障害後の発症リスクが高かった。米国ワシントン大学リハビリテーション部門のCharles H. Bombardier氏らが、外傷性脳障害を負った500人超について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2010年5月19日号で発表した。53.1%がMDD発症、事故当時MDDの人はリスクが1.6倍同氏らは、2001年6月~2005年3月にかけて、中等度から重度の外傷性脳障害で入院した559人について、事故発生後1、6、8、10、12ヵ月時点に、それぞれ電話によるインタビューを行った。その結果、いずれかの調査でMDDの症状が認められたのは、全体の53.1%にあたる297人に上った。MDD発症率は、事故1ヵ月後が31%、同6ヵ月後が21%だった。なかでも、事故当時にMDDを有していた人は、事故後1年間の同発症リスクが大きく、リスク比は1.62(95%信頼区間:1.37~1.91)だった。事故当時はMDDを有していなかったが、それ以前にMDD歴のある人の同リスク比も高く、1.54(同:1.31~1.82)だった。MDD発症者の不安障害リスクはそうでない人の約9倍また、年齢が60歳以上だと、18~29歳に比べ、事故後1年間のMDD発症リスクは小さく、リスク比は0.61(同:0.44~0.83)だった。一方、アルコール依存症歴のある人の同リスクは大きく、リスク比は1.34(同:1.14~1.57)だった。事故後1年間にMDDを発症した人の不安障害の発症率は60%で、MDDを発症しなかった人の同7%に比べ、リスク比は8.77倍(同:5.56~13.83)にも上った。なお、MDDを発症した人のうち、抗うつ薬の処方やカウンセリングを受けたのは、44%にとどまっていた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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急性期、回復期では約6割の医師が地域連携は進んだと評価、一方で維持期では4割未満にとどまる

ファイザー株式会社は5月21日、脳卒中治療に携わる急性期、回復期、維持期の医師359人を対象に実施した「脳卒中治療に関する意識調査」の結果を発表した。それによると、急性期病院との連携を、半数以上の回復期、維持期の医師が「満足」「まあ満足」と回答している。一方、回復期病院との連携は、急性期、維持期ともに3割程度の回答だった。また一般診療所との連携では、急性期、回復期の医師は2割程度と、連携の満足度に差が見られた。自治体との地域連携に対しては、「満足」「まあ満足」の回答が1割程度にとどまり、さらに維持期での脳卒中地域連携クリティカルパスの使用率は36.9%と、急性期(57.0%)、回復期(69.8%)と差がある結果となった。 t-PAの実施に関しては、急性期医師(脳神経外科・神経内科・救急・ICUなど)が勤務する医療機関の83.1%が「t-PAを実施している」と回答する一方、200床未満の病院になるとt-PA実施の割合は50.0%にとどまった。このほか、回復期の医師(リハビリテーション科・整形外科など)の75.4%は、脳卒中患者の自宅復帰率は「50%程度以上」と回答。しかし、「70%程度以上」とすると、44.3%にとどまった。 また、維持期の医師(内科・循環器内科など)の半数以上が、脳卒中既往患者が「必要なリハビリをあまり受けていない/受けていない」と回答し、さらに維持期の医師の半数以上が、自身の脳卒中既往患者の服薬アドヒアランスが70%未満と感じ、50%未満と回答とした医師も3割いた。 ●詳細はプレスリリースへhttp://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2010/2010_05_21.html

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