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本当にあった医学論文

真面目な内容で、思わず吹き出してしまう1冊!「70年間心臓に残っていた弾丸」「体温13.7℃から生還した女性」といった驚きの症例報告から、「床に落ちた食べ物は安全か?」「指の関節を鳴らしすぎると関節炎になる?」という素朴な疑問を大真面目に調べた臨床試験、「直腸マッサージでしゃっくりが止まる!?」のような臨床に役立つ(かもしれない)論文まで、実在するふしぎな医学論文の数々を紹介。さまざまな領域のがんに対し、エビデンスに基づく最良のリハビリテーション(=ベストプラクティス)の紹介を試み、他に例のない意欲的なプラクティカルガイドといえます。これを読めば、あなたも明日から医学論文の検索が日課になるかも!?画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。   本当にあった医学論文定価 2,300円 + 税判型 A5判頁数 150頁発行 2014年11月著者 倉原 優Amazonでご購入の場合はこちら

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鬼の霍乱【Dr. 中島の 新・徒然草】(053)

五十三の段 鬼の霍乱「鬼の霍乱(かくらん)」とは、丈夫そうにみえる人が急病になって苦しむことです。先日、私もインフルエンザになってしまいました。「なんだか調子が悪いなあ。腹も減らないし」と思って、インフルエンザ迅速診断をすると「A+」との結果が・・・。「あらまあ!」ということで、外来のある金曜日ではありましたが同僚に頼んで帰宅することにしました。ただし、ずいぶん遠方から初診でお見えになった患者さんがいたので、1人だけ診察することになりました。1年ほど前に自動車にはねられた男の子です。お母さんに連れられてやってきました。 中島  「私がどうやらインフルエンザにかかっちまったみたいなんで」 母親 「あらまあ」 中島 「皆さん、マスクをして、私から離れて座ってくださーい」 母親 「はーい」 中島 「私もマスクをしておきまーす」 お互いに部屋の隅と隅に座ったので、ずいぶん間の抜けたやり取りになってしまいました。 中島  「お母さんによると、交通事故以来、お子さんがおかしくなってしまったと、そういうことなんですねえ」 母親 「そうなんですよ! 実はああなって、こうなって・・・」 中島 「ちょっと待ったあ。お母さんがいろいろ言いたいのはよくわかるんですがー、ここでインフルエンザがうつったら元も子もありませーん」 母親 「ええ」 中島 「ですから30秒診療でいきまーす。お母さんの感じているとおり、この子には後遺症がありまーす」 母親 「やっぱり!どこに行っても『正常だ』としか言ってもらえなかったんです」 いわゆる頭部外傷後高次脳機能障害というやつですね。記憶力の低下や人格・性格の変化が起こるのですが、なかなか診断がつきにくいのも事実です。 中島  「後遺障害の診断書作成とリハビリの計画を立てるために神経心理検査と画像検査をやりましょう」 母親 「ぜひお願いします。それでですね、あれがこうなって、これがこうなって・・・」 中島 「今日はこれでおしまいでーす。さようならー」 母親 「あ、はい」 30秒診療なので、用件のみにて終了。それでも、ついに自分の言い分を聞いてくれる医師に会えたからか、短時間の診察でもずいぶん喜んでもらえました。私の方はヘロヘロになって帰宅しましたが、タミフルを飲んでひたすら寝ていたら翌日(土曜日)の昼にはすっかり回復しました。最小限の休みで済ますことができて良かったです。最後に1句インフルで 用件のみにて 30秒

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膝OAに陸上運動療法は有効

 オーストラリア・シドニー大学のMarlene Fransen氏らによるシステマティックレビューの結果、陸上での運動療法は変形性膝関節症(膝OA)の疼痛軽減および身体機能改善に有用であり、その効果は治療終了時だけではなく、終了後2~6ヵ月まで持続することが示唆された。膝OAの治療において、運動療法は主要な非薬理学的介入の1つであり国際的なガイドラインで推奨されている。レビューの結果を踏まえて著者は、「陸上での運動療法の治療効果は中等度で比較的短期であるが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に関して報告されている結果と同程度と思われる」と結論付けた。なお「本レビューの知見が今後の研究で変わることはないと確信しているため、盲検試験は多くないがエビデンスの質は低いとはしなかった」と補足している。Cochrane Database of Systematic Reviews誌オンライン版2015年1月9日号の掲載報告。 研究グループは、5つのデータベースを用いて2013年5月までの論文などを検索し、膝OA患者において、水中ではなく陸上で行われる運動療法と非運動療法または非治療を比較したすべての無作為化試験(RCT)を選択した。 評価項目は膝痛、身体機能およびQOLで、2人のレビュアーからなる3つのチームが独立してデータの抽出、バイアスリスクの評価、エビデンスの質(GRADE)の評価を行った。 主な結果は以下の通り。・レビューには54試験が組み込まれた。・全体としてバイアスリスクは低いと思われたが、患者も盲検化されたRCTは4件のみで、多くのRCTは評価者盲検であったにもかかわらず、疼痛、身体機能およびQOLは患者の自己申告であった。・陸上運動療法は、治療終了時に疼痛を軽減することが認められた(標準化平均差[SMD]:-0.49、95%信頼区間[CI]:-0.39~-0.59)(RCT:44件、3,537例、エビデンスの質:高)。疼痛スコア(0[疼痛なし]~100ポイント)の推定値は対照群が44ポイントで、陸上運動療法群は12ポイント(95%CI:10~15)低かった。・陸上運動療法は、治療終了時に身体機能を改善することが認められた(SMD:-0.52、95%CI:-0.39~-0.64)(RCT:44件、3,913例、エビデンスの質:中)。身体機能スコア(0[機能消失なし]~100ポイント)の推定値は対照群が38ポイントで、陸上運動療法群は10ポイント(95%CI:8~13)低く改善が認められた。・陸上運動療法は、治療終了時にQOLを改善することも認められた(SMD:0.28、95%CI 0.15~0.40)(RCT:13件、1,073例、エビデンスの質:高)。QOLスコア(0~100[最良])の推定値は対照群が43ポイントで、陸上運動療法群は4ポイント(95%CI:2~5)の改善が認められた。・治療の脱落は、両群とも同程度であった(RCT:45件、4,607例、エビデンスの質:高)。脱落率は対照群15%、陸上運動療法群14%で有意差はなかった(オッズ比:0.93、95%CI:0.75~1.15)。・治療終了2~6ヵ月後のデータが、膝痛に関して12件(1,468例)、身体機能に関して10件(1,279例)あり、持続的な治療効果が示された。・疼痛は6ポイント低減(SMD:-0.24、95%CI:-0.35~-0.14)、身体機能は3ポイント改善(同:-0.15、-0.26~-0.04)であった。・個別の運動プログラム提供のほうが、グループ運動や在宅運動より、疼痛軽減および身体機能改善が大きい傾向がみられた。

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ペコロスの母に会いに行く【認知症】

今回のキーワード社会脳社会的認知進化心理学・進化精神医学DSM-5デフォルトモードネットワークヒューマンセンタードケア「認知症の人はなんで無邪気なの?」 皆さんは、認知症になった人が無邪気になっていくのを不思議に思ったことはありませんか? 単にもの忘れをするだけでなく、ちょっとずつ無邪気に幼くなっていきます。 今回は、その原因とかかわり方のコツを、進化心理学・進化精神医学のメインテーマである社会脳(社会的認知)という視点から、いっしょに考えていきましょう。また、2013年にDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)への改定に伴い、認知症の診断基準が変わりました。その内容とその理由も解説します。 取り上げるのは、2013年の映画「ペコロスの母に会いに行く」です。ペコロスとは、小さい西洋玉ねぎのことで、この映画の原作者である主人公の頭をユーモラスに表した愛称です。彼の母親が認知症を発症してからの介護生活の様子が、ありのままにそしてほのぼのと描かれています。もの忘れ―学習と記憶の障害 主人公の男やもめのゆういちは、認知症の母のみつえの介護をしながら、息子のまさきと3人で暮らしています。日常生活でゆういちとみつえの間で交わされる会話のワンシーンをみてみましょう。ゆういちが「また!母ちゃん!」(電話の)受話器ば外しっぱなしにしとったらいかんて言うたろうが」「なんかあった時に連絡のつかんやろが」と注意します。すると、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返します。 このやり取りが、日々の挨拶のように繰り返されます。みつえは、電話の受話器を戻すよう言われた体験を丸ごと忘れており、忘れたことに自覚がないのです。つまり、「忘れたことを忘れている」のです(メタ記憶の障害)。 これは、典型的な認知症のもの忘れの症状です(健忘)。この記憶障害は、従来の診断基準では、全ての認知症において絶対的な項目でした。しかし、新しい診断基準(DSM-5)では、アルツハイマー病を除く認知症において、6項目の診断基準の中の「学習と記憶の障害」の1項目として格下げされています。 その理由として、他の3つの認知症の特徴があげられます(表1)。1つ目として、脳血管性認知症はまだら認知症であり、必ずしも記憶障害が目立たないからです。2つ目として、レビー小体型認知症は認知症状が動揺性であり、記憶障害が固定されていないからです。3つ目はとして、前頭側頭型認知症は前頭葉症状が主であり、記憶障害が初期に目立たないからです。 表1 それぞれの認知症の記憶障害の特徴   アルツハイマー病 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症 記憶生涯 必ず目立つ 必ずしも目立たず 目立ったり目立たなかったりと揺れ動く 初期に目立たず 言い間違え、言葉数が少ない―言語の障害 認知症の進行に伴い、自宅介護が難しくなったため、ゆういちはみつえをグループホーム(介護施設)に入所させます。ゆういちが訊ねてきた時のワンシーンです。みつえは「ゆういち、どこにおったん?」「フリーターの仕事や(か)?」と訊ねます。ゆういちはすかさず「フリーライター!」と言い返します。これは言葉の言い間違え(音韻性錯語)です。このようなボケとツッコミのユーモアがこの映画には溢れています。その後、みつえは問いかけに対して言葉が出なかったり言葉数が少なくなっていきますが(無言症)、そんなみつえをゆういちは温かく見守ります。 これらの言葉の症状も、認知症の診断基準の1つです(言語の障害)。従来の診断基準の失語に当たります。顔が分からない― 知覚―運動の障害 ゆういちがグループホームからみつえを散歩に連れ出そうとするシーン。みつえは「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び出します。すぐにゆういちは「母ちゃん、ほら!」とゆういちが、帽子をとって薄毛の頭を目の前に向けると、「アハッ、なっ、ゆういちやったとか、あ~ハハハッ」と薄毛の頭を撫で回し、「えいえいえい」と叩き、「はげちゃび~ん!」と無邪気に騒ぎます(タイトル画像)。薄毛を確認してようやく息子のゆういちであると認識しています。しかし、ゆういちが帽子をかぶると、すぐに「誰ね?」と言い、息子の顔が分からなくなっています(相貌失認)。 みつえが大正琴を弾くシーン。「どげんやったかいな?ハハハッ」と弾き方を忘れたことを笑い飛ばしています。本来、長年体に染みついていた動きはなかなか忘れないものです。楽器の弾き方を忘れるのは症状とまでは言えません。しかし、その後にみつえは、読めない字を書くようになります。字が書けなくなるのは、認知症の症状と言えます(構成失書)。着替えや歯磨きなどの日常生活の動作ができなくなると(更衣失行、観念失行)、介護がさらに必要になってきます。 このようにものごとが認識できなくなる症状と、ものや体の動かし方が分からなくなる症状を合わせたものが、新しい認知症の診断基準の1つになっています(知覚―運動の障害)。これは、従来の診断基準の失認と失行に当たります。段取りが立てられない―実行機能障害 みつえがまだ家にいる時のワンシーン。ゆういちとまさきは夕食に弁当を買って食べています。みつえが料理できなくなっていることを間接的に描いています。料理は、献立を考え多くの段取りを経て作る必要があります。 このように、段取りを立てて計画的に行動できなくなる症状も、認知症の診断基準の1つです(実行機能障害)。これは従来と同じ診断基準です。実行機能とは、意志→計画→実行→評価(フィードバック)という一連の手順を踏んで、ものごとを実行していく脳の働きです。気付きにくい―複雑性注意の障害 さきほどの電話の受話器を戻すことをみつえが忘れているワンシーンでは、電話のそばに「受話器ば絶対にもどすこと」というメモが貼られています。しかし、みつえは、毎回、電話の対応でいっぱいいっぱいになっており、そのメモに気付かないのです。さきほどのゆういちの顔が分からなかったシーンでは、ゆういちはみつえの背後から「母ちゃん」と声をかけています。そして、みつえがゆういちを確認する前に、車イスを後ろに引いています。みつえは、目の前に見えていないゆういちの声に注意を向けることができずに混乱しています。また、みつえが夜遅くまでゆういちの帰りを駐車場で待っているワンシーンでは、ゆういちの車が間近まで迫ってきても、ゆういちを出迎える気持ちでいっぱいであるため、全く危機意識がありません。「ゆういち、お帰り~」と笑顔で迎えます。ゆういちは「母親ばひいたらシャレならんやろがっ!」「あやうくひいてしまうとこやった」と肝を冷やします。 これは、一度に複数の対象に注意を向ける力が落ちて、ものごとの変化や危機に気付きにくい症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(複雑性注意の障害)。無邪気になる―社会的認知の障害 みつえが家で留守番をしている時に電話がかかってくるワンシーン。みつえが電話に答えます。「えっ?オレって誰ね?」「アハハッ、まさき(孫)か?」「まさき、どげんしとると?」「こっちには帰ってこんとね?」「ええっ?事故ば起こしたけん帰れんて!?」「示談?」「金ば払えば良かて」「そげん大きな金、持っとらんやろ?」「それ、ばあちゃんが払うてやる」と涙ぐみます。これは、おれおれ詐欺(振り込め詐欺)に引っかかっている典型的なパターンです。電話の相手を信用し切ってしまい、言われたことにあっさりと応じています。相手から出し抜かれないようにしようと相手の気持ちを推し量る警戒心(心の理論)が鈍くなり、だまされやすくなっています。 さきほどのゆういちの頭をみつえが撫で回し叩くシーン。ゆういちが痛がっているのになかなか叩くのを止めず、「はげちゃび~ん!」とふざけています。微笑ましく見える一方、見方を変えれば、みつえはゆういちの気持ちを感じ取ること(共感、情動認知)が弱くなり、無神経で無遠慮で一方的になっています。認知症が進むにつれて、表情を読み取る能力(表情認知)も弱くなり、同時に本人も徐々に無表情になっていきます。 みつえは「父ちゃん(夫)もたかよ(子どもの時に亡くなった妹)も死んでからの方がようウチに会いに来てくれたとよ」と言います。ゆういちが「死んでるって知っとっと?」と聞くと、「何ば言うとるね!父ちゃんもたかよも死んどろうもん」と笑顔で答えます。過去にみつえの脳に紡(つむ)がれた人生の「模様」が映る記憶の「織物」が解(ほど)けていき、現在の現実世界に混じり合っています。相手(社会)との共通の時間感覚や論理性が揺らぎ、自分を適切に振り返ること(自己認識、メタ認知)が難しくなっています。 みつえは、だまされやすくなり、相手の気持ちが分かりにくくなり、自分を振り返りにくくなっています。しかし、裏を返せば、素直で天真爛漫なお人好し、つまり無邪気になっていると言えます。 これらは、人とうまくやっていくための社会的な能力が低くなっていく症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(社会的認知の障害)。従来は「理解力の低下」という曖昧な用語を使っていました。社会的認知とは、精神医学用語で、相手の気持ちを察して相手(社会)に対して適切に振る舞うという意味で、社会的能力とも呼ばれます(表2)。日常用語の社会的認知は「広く世間(社会)に知れ渡っている(認められている)」という意味ですので、この違いに注意が必要です。 表2 社会的認知   意味 心の理論 相手の気持ちを推し量る 共感性 相手の気持ちを感じ取る 表情認知 相手の表情を読み取る 社会性 相手(社会)にうまく合わせる 理性的抑制 相手(社会)のために我慢する 自己認識 自分(の気持ち)を振り返る(推し量る) 私たちはなぜ無邪気ではないのか?―新しい診断基準(DSM-5)のポイント ゆういちが、営業の仕事をサボって、出先の公園で趣味のギターの練習をしている時に、上司から電話がかかってくるシーン。何をしているかと聞かれて、「せっかくこっちに来たけんですね、いくつか広告ば取ろうと思って何件も回っとっとですよ」「えっ、どこばどげん回っとかってですか?」「いや~あの何件も回り過ぎてよう確認しとらんですね」とうまく取り繕うとしています。また、ゆういちは、みつえを自宅で介護することに限界を感じている時、施設に入所させるか思い悩んでいます。さらに、ゆういちは、認知症のみつえに冗談を交えて接しています。 このようなその場をしのぐウソ、気遣いによる苦悩、そして場を和ませるユーモアなどは、私たちがより良い人間関係を築き、立ち振る舞おうとするズルさであり賢さでもあります(社会的認知)。これは、「人間性」「人間らしさ」そのものです。これが、社会生活を送る私たちが決して無邪気ではない答えでもあります。 対照的に、みつえは無邪気です。その無邪気さとは、ウソもつけないですが、先読みや裏読みもできず、お世辞や冗談も思い付かず、悩みや葛藤がなくなるということです。 新しい診断基準では、認知症の中心的な症状のとらえ方が、従来の記憶障害から、社会的認知の障害へとシフトしていると言えます。なぜなら、そもそも認知症にまつわる困難は、物忘れそのものよりも、周囲の人の気持ちや自分の状況を分からなくなることだからです。 表3 認知症の診断基準 DSM-IV-TR DSM-5 映画のエピソード例 記憶障害 →学習と記憶の障害 電話の受話器を戻し忘れることを繰り返す 失語 →言語の障害 言葉の言い間違え、言葉数が少なくなる 失認 知覚―運動の障害 薄毛を見ないとゆういちの顔が分からなくなる字の書き方が分からなくなる 失行 実行機能障害 料理ができない ― 複雑性注意の障害 すぐそばのメモや車の動きに気付かない ― 社会的認知の障害 振り込め詐欺にだまされるゆういちが痛がっている様子が分からないすでに死んでいる夫や妹に会えると考えている 認知症の行動・心理症状(BPSD) これまで紹介してきた6項目の診断基準は、認知症状(中核症状)と呼ばれます。ここから二次的に現れる症状は、認知症の行動・心理症状(BPSD、周辺症状)と呼ばれます。これらをいくつか見てみましょう。 (1)幻覚 みつえがゆういちに「なあ、さっきたかよ(子どもの時に亡くなった妹)が来て、天草にいっしょに行こうて言うてくれたとばい」「そのあと父ちゃん(すでに亡くなった夫)が来て」「ウチの手ばずーとしっかりと握ってくれらしたと」「ごめんな~ごめんな~ヘヘヘヘッ」と楽しげにのろけます。みつえは見えないものが見えていることになります(幻覚)。この症状は、過去の記憶と現在の現実世界が区別しにくくなり(社会的認知の障害)、記憶を現実のものと認識し知覚してしまうことで起こります。 ちなみに、東北地方に伝わる「座敷わらし」は、認知症の幻覚、特にレビー小体型認知症の「幻の同居人(小人幻視)」の症状である可能性があります。「座敷わらしが出てくるとその家は栄えて、いなくなるとその家は傾き落ちぶれる」という言い伝えは、裏を返せば、経済的に恵まれている家は、認知症の人を養う余裕があり、結果的にその認知症の人が座敷わらし(幻覚)を見ることになります。逆に、貧しい家は、認知症の人を養う余裕がなく、座敷わらし(幻覚)を見てしまう認知症の人がいないということです。つまり、正確には「座敷わらしは、栄えている家には出てくるが、落ちぶれた家には出てこない」ということです。 (2)妄想 さきほどの電話の受話器の戻し忘れのシーンで、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返しています。ここから分かることは、みつえは自分に非があるという認識ができず(社会的認知の障害)、叱られた理由の辻褄を合わせようとして(合理化)、「息子が親を悪く言うようになった」とひがみっぽくなっています(被害念慮)。 さらに、ひがみっぽさから、家族からいじめられていると思い込むことがあります(被害妄想)。例えば、お金をどこかに隠した後、隠したこと自体を忘れてしまった場合、お金がないことに気付くと「(家族の誰かに)お金を盗られた」という思い込みに発展します(もの盗られ妄想)。 (3)誤認 みつえは、ちいちゃん(すでに亡くなった幼馴染み)に書いた手紙の返事が来ないと郵便配達員にたずねた過去を、グループホームで思い出しているシーン。その直後にやって来たまさき(孫)を見て、「ちょっと待っとって、郵便屋さん」「書いてますけん」と言います。これは、過去の記憶と現在の現実が区別しにくくなることに加えて(社会的認知の障害)、孫の顔の認識ができなくなっていることで(知覚―運動の障害)、目の前にいる孫を郵便配達員と人違いしています(人物誤認)。 また、グループホームの別の認知症の女性は、ゆういちの薄毛を見て、女学校時代に憧れだった教師と人違いしています。 (4)逸脱行動、感情失禁 入所中の認知症の男性が、若い女性スタッフの胸を次々と触るシーンがあります。ゆういちは思わず「あの子も触られるっとですか?」と思わずうらやましそうに言ってしまいます。これは、ルールを守るために欲求を抑える心の働き(理性的抑制)が弱まっていることで(社会的認知の障害)、性的にみだらになってしまう症状です(性的逸脱行動)。その後、この男性は叱られますが、感情を抑える心の働き(理性的抑制)が弱いことで、簡単に泣き出してもいます(感情失禁)。 社会的認知の障害はなぜ目立つのか? 「認知症の人はなんで無邪気なの?」という最初の疑問への答えは、これまで紹介してきた社会的認知の障害による症状が出てくるからであると言えます。それでは、そもそもなぜ社会的認知の障害は目立つのでしょか? このさらなる疑問を、進化心理学・進化精神医学の視点で探ってみましょう。 人間の脳において、意識的な活動のエネルギーは5%しか消費されていません。修復と維持に20%が消費されます。そして、実は残りの75%は、無意識的な活動のエネルギーに消費されていることが最近の研究で分かってきました(デフォルトモードネットワーク)。この脳活動は、何もせずに頭を働かせていないと高まり、課題などで意識的に頭を働かせると低まります。それにしても、あまりにもエネルギーを使い過ぎているようにも思えるこの無意識的な脳活動とは一体何でしょうか? それは、はっきりしたことはまだ解明されていませんが、ぼんやりと思い浮かべること(記憶の検索)、自分がいつどこにいるかなどの自分の状況を把握すること(見当識)、自分を振り返ること(自己認識)などの活動が考えらえています。これは、ちょうど世界(相手、社会)に対して自分をうまく関係付け、位置づけていくための高度な脳活動です。さらには、社会的認知につながる能力というふうにも考えられます。 例えるなら、脳という「コンピュータ」は、世界(相手、社会)という「キーボードタッチ」や新奇な状況という「コンピュータウィルス」への察知のために、脳活動全体の75%の「電力」を使い、常に「待機状態」になっているということです。そして、この「待機状態」の脳活動は、最も「電力」が費やされて動かされているため、いち早く「故障」しやすいということが考えられます。実際に、この脳活動の部位は、アルツハイマー病で脳血流が低下する部分にほぼ一致しています。これが、「認知症ではなぜ社会的認知の障害が目立つのか?」という疑問への答えです。実行機能の正体は? 実行機能障害は、認知症のもともとある診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この実行機能は、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? 社会的認知(社会脳)の進化の流れを説明します。その出発点は、原始の時代、私たちの祖先が、競争と協力をうまく使い分けるため、相手の心の視点に立つ能力を得たことです(心の理論)。すると、自分を離れて外から自分自身を見る視点が得られます(自己認識)。これは、自分は、相手を見ていると同時に相手から見られているという2つの視点に立つことでもあります(メタ認知)。さらには、同時並行的にものごとを考え記憶することができるようになります(ワーキングメモリー、作動記憶)。 複数の視点(メタ認知)を持つことで、連続的な時間軸の中で、過去・現在・未来を別々の時間帯(視点)として認識できるようにもなります。だからこそ、過去の振り返りを現在に行い、未来に生かすことができます。こうして、計画を立ててものごとをうまく成し遂げることができるようになるのです(実行機能)。 実行機能は社会的認知がつながっているという説明を端的にすると、社会的認知が相手(人)の心に視点が置かれているのに対して、実行機能は時間軸に視点が置かれているというだけの違いであるということです。複雑性注意の正体は? 複雑性注意の障害は、認知症の新しい診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この複雑性注意も、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? それは、社会的認知を源とするさきほどの同時並行的にものごとを考え記憶すること(ワーキングメモリー)とは、一度に複数の注意を向けることでもあるということです(複雑性注意)。いわゆる「ながら行動」です。 その「メモリー容量」は、数字なら約7個、文字なら約6個、単語なら約5個であることが分かっています(マジカルナンバー7±2)。この数は、注意(認知)し行動する内容の複雑さによって変わってきます。例えば、食事会で皆がいっしょに話せる人数は4人が限界ではないでしょうか? 5人以上だと、自然と4人以下の少人数に分かれていきます。また、会議での積極的な発言者は4、5人までが一般的ではないでしょうか? 残りの人たちは、「観客」と化していることが多いです。なぜなら、これが人間の脳の「メモリー容量」の限界だからです。それ以上の人数の人たちがそれぞれ違う発言をする場合、多くの人が混乱してストレスになるからです。それをみんな無意識に理解していると言えます。だからでしょうか? 暗証番号は、皆が余裕を持って覚えられる4桁が通常です。クレジットカード番号も4桁ごとに分けられています。 複雑性注意は社会的認知につながっているという説明を端的にすると、社会的認知が認知の質に力点が置かれているのに対して、複雑性注意は注意(認知)の量(数)に力点が置かれているというだけの違いであるということです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのか? みつえは、亡くなった夫が現れたと楽しげにのろけています。しかし、かつてはその夫は酒癖が悪く、みつえは大変に苦労していたのでした。良い思い出ばかりを思い出し、悪い思い出は忘れてしまっているようです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのでしょうか? 一般的にも、これは「記憶美人」と呼ばれます。 その理由は、悪い思い出は、社会的認知に関わる記憶が多いからであることが考えられます。例えば、人間関係においての苦労や後悔などです。一方、良い思い出は、より原始的な欲求に関わる記憶なので、比較的残りやすいことが考えられます。例えば、満足や愛情(愛着)などです(ドパミン系)。 認知症で悪い思い出は忘れてしまうとは、まさに「邪気」(悪意、悪感情)がなくなり、無邪気になるということです。社会的認知から考える認知症のリハビリテーションは? 認知症の問題が単なる記憶の問題だけではないことを知った今、単に記憶力のトレーニングをしても効果は限られていることに気付きます。ここからは、社会的認知を踏まえて、認知症のリハビリテーションを3つご紹介しましょう。それは、役割を担うこと、自尊心を保つこと、配慮することです(表4)。役割を担う (1)お年寄りはなぜ昔話をしたがるのか?―回想法 ゆういちがみつえに注意するシーン。ゆういちが「よかね、セールスやら来たら追い払わないかんばい」「話しやら聞かんでよかけんね」と言うと、みつえは「分かっとるて」「分かっとらんけん言いよったい」「あんましわめくと夜声八丁(夜の声が八丁先まで響く妖怪)が来っぞー!」と、子どもの時のゆういちに接しているように脅します。ゆういちは「こん頃の事ば忘れて昔の事ばっか言うとさね」と嘆いています。 認知症のあるなしにかかわらず、お年寄りは昔話をよくします。もちろん認知機能の低下により、最近のもの覚えが悪くなり(短期記憶の障害)、比較的残っている昔の思い出を代わりに話していると説明することはできます(長期記憶の保持)。しかし、それだけでしょうか? むしろ、多くのお年寄りはあえて昔話をしており、この現象には普遍性がありそうです。長期記憶が保持されることに意味があるのではないかということです。ここから考えられることとして、お年寄りが昔話をすることで心の健康がより保たれる可能性があります。この理由を進化心理学的に考えてみましょう。 私たちの祖先が言葉を話すようになった20万年前からの原始の時代、文字はまだありませんでした。文字が発明されたのはたかだか数千年前です。ましてや、現代のようなインターネットもありません。そんな中、私たちの祖先は、共同体の生存の確率を高めるため、遠い昔に起こった自然災害や部族間の戦争の記憶を、生きる知恵や戒めとして次世代に語り継ぎました。一部は、伝説や神話に形を変えたでしょう。このような言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔が私たちです。そして、生き字引としての語り部の役割を担ったのが、経験豊富なお年寄りだったのではないでしょうか? そういうお年寄りは、今でも発展途上国などの未開の地では、長老として敬(うやま)われています。つまり、お年寄りが昔話をするのを好むのは、遺伝子にプログラムされている可能性があるということです。この遺伝子によって、共同体の子孫の生存率(包括適応度)は高められたのでしょう。 現代の高度な情報化社会では、お年寄りが昔話をする必要はなくなってしまいました。しかし、お年寄りが昔話をしようとする原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、進化論的に考えれば、原始の時代の環境に適応していた心身に近付けるため、私たちが運動をして心身の健康を保っているのと同じように、お年寄り、特に認知症の人に昔話をあえてしてもらうことで、心の健康をより保つことができるということです(回想法、思い出ノート)。 (2)お年寄りはなぜ孫を見たいのか?―おばあちゃん仮説 みつえは、認知症が進む前、孫のまさきをよく気にかけています。祖父母が孫の幸せを願うのは普遍性があり、当たり前であると皆さんは思うでしょう。さらには、特に祖母が、母親を支えて孫を見ることで、心の健康が保たれるという研究仮説があります。それは、「おばあちゃん仮説」「祖母効果」と呼ばれています。 そもそもほとんどの動物は、繁殖が終わる年齢と寿命はだいたい一致しています。つまり、繁殖力がなくなった時が寿命の尽きる時です。しかし、私たち人間の女性は違います。50歳前後で閉経を迎えて繁殖力がなくなった女性が長生きすることには進化論的な意味があるということです。 その意味とは、1つには、50歳以上で出産しなくなるのは、子どもの生存率を下げない理由があるということです。たとえば、50歳以上の高齢出産では母子ともに死亡するリスクが高まります。すると、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります。たとえ出産が成功しても、その子どもがぎりぎり独り立ちできる10歳になるまでに、子育てをする母親が当時の寿命(60歳くらい?)を迎えると、子どもの生存が危うくなります。さらには、ダウン症などのように高齢出産で生まれた子どもは生存率が低いため、その育児の負担(コスト)が高まることで、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります もう1つには、繁殖を終えるのと引き換えに、まだ体力のある祖母が、子育てをする次世代の自分の娘(母親)を助けることで、娘の繁殖力を高め、孫の生存率を高めることです(包括適応度)。いわゆる「おばあちゃん子」の存在も、「祖母効果」の延長線上にあるものと考えられます。 都市化、核家族化、少子化した現代では、お年寄りが孫を見る機会はぐっと減りました。しかし、お年寄りが孫を見たいという原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、お年寄り、特に祖母が孫や地域の子どもたちを見ることで、心の健康をより保つことができるのではないかということです。例えば、最近では、グループホームなどの「託老所」(介護施設) と託児所を併設し、お年寄りと子どもがお互いに交流する仕組みがつくられています(幼老統合ケア)。また、お年寄りが、小学校の校門で挨拶をしたり通学路の信号機前で安全確保をするなど、地域の子どもを見守るボランティに参加する取り組みも行われています。自尊心を保つ―お年寄りはなぜ敬(うやま)われるべきなのか? ゆういちは息子のまさきに「ばあちゃんの下着ば買うても買うても無くなるとばってんさあ」と不思議がっていました。その後、開けたタンスの引き出しから、大量の汚れた下着があふれ出てきたのでした。ゆういちは「タンスから噴き出した!」と思わず叫びます。 お年寄りは、認知機能の低下に伴い、排泄などのセルフケアに困難が出てきます。汚れた下着を洗おうにも洗濯機の使い方が分からなくなります(知覚―運動の障害)。そして、それを恥じらう自尊心は残っているため、隠すのです。しかし、うまく隠し切ることはできないのです(社会的認知の障害)。このような時、どう接するのが認知症のリハビリテーションとして望ましいでしょうか? 認知症の人は、症状が進むにつれてどんどん無邪気な子どものようになります。そんな人に、私たちはつい子ども扱いしてしまいがちです。しかし、ここで注意することは、認知症の人は子どもではないということです。認知症介護と育児について、その共通点と相違点をそれぞれ整理してみましょう。 共通点は、両者ともに自尊心を大切にすることです。これは、頼られたり、ほめられたり、ありがたがられたりすることで高まります。一方、相違点は、育児では叱ることはありますが、高齢者介護では叱ることは望ましくないです。その理由は、3つあります。1つ目は、子どもは叱られることで禁止の学習効果を得ることができますが、認知症の人は記憶の障害により学習効果が得られないからです。2つ目は、ネズミの実験結果で確かめられていることですが、叱られるなど恐怖の心理的ストレスによって、海馬領域(記憶中枢)の神経細胞の新生が抑制され、認知症状がさらに進んでしまうからです。3つ目は、認知症の人は、叱られると、自尊心が傷付けられ、BPSDが出やすくなるからです。これは、叱られた時、叱られた理由は忘れてしまっているのに、叱られた悲しみや叱った相手の記憶は比較的残っているので、理不尽に感じるからです。叱られた理由についての記憶は理性的で複雑であるため残りにくく、叱られた時の気持ちや叱った相手の記憶は感情的で単純であるため残りやすいのです(リボーの法則)。 以上より、認知症のリハビリテーションとして望ましい対応は、敬意を持って親切に接すること、決して叱らないことです。さらには、できることはさせてほめまくること、できないことはさせないことです(満点主義)。つまり、お年寄りは、敬(うやま)われることで心の健康が保たれるのです。配慮する―お年寄りはなぜ恭(うやうや)しくもてなされるべきか? さきほどのグループホームでみつえが「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び騒ぐシーンを振り返ってみましょう。みつえのような認知症の人は、目の前に見えているものと聞こえてくる声や音とに同時に注意を向けることが難しいです(複雑性注意の障害)。それでは、この点を踏まえて、みつえが騒がなくても済む方法はなかったでしょうか?  それは、注意を高めてもらうため、視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接することです(ユマニチュード)。例えば、話しかける時、少し遠くから相手の視界に入り、近付いて、視線を合わせて(視覚)、間を置いて、なるべく肩や腕へのスキンタッチをして(触覚)、ようやく声をかけることです(聴覚)。 また、その人をよく観察して行動パターンを先読みして気遣うことです(先回り)。例えば、喉の渇きやトイレなどをうまく言葉で伝えられない場合、その人の行動パターンから、「お茶をどうぞ」「トイレに行きましょうか?」などと汲み取ることです。 さらには、トイレや入浴などの介助をするとき、たとえその人の反応が乏しくても、かかわる時は話しかけ続けることです(実況生中継)。その人が大人しいから、こちらが話しかけても無言でも変わらないとみなさんは思われるかもしれません。その時は問題ないかもしれません。しかし、その後に問題が起こる可能性が高まります。理由として、自分が何をされたか分からないことでストレスがたまり、後に混乱することが考えられるからです。また、人として扱われていないように感じられて、本人の自尊心が傷付けられることが考えられるからです。つまり、こちらからどんどん働きかけることが大切なのです。 表4 社会的認知から考える認知症のリハビリテーション   例 役割を担う 昔話をしてもらう(回想法) お年寄りが子どもを見守る環境をつくる(幼老統合ケア) 自尊心を保つ 敬意を持って親切に接する決して叱らないできることはさせてほめまくり、できないことはさせない(満点主義) 配慮する 視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接する(ユマニチュード)よく観察して行動パターンを先読みして気遣う(先回り)かかわる時は話しかけ続ける(実況生中継) なぜ認知症の症状に地域差があるのか?―敬老思想 映画の舞台は長崎です。ほのぼのとした長崎弁が交わされ、とてものどかな土地柄です。東京のようなせわしない大都市とは対照的です。実は、疫学調査から、長崎のような地方と東京のような大都市とでは、認知症の症状の出方に違いがあることが分かっています。記憶障害などの認知症状は同じなのですが、行動・心理症状(BPSD)については、地方では目立たず、大都市では目立つのです。つまり、行動・心理症状の出現率に地域差があるといことです。これはどういうことなのでしょうか? そもそも原始の時代から、お年寄りは、生き字引としての指導的立場を担い、周りから敬(うやま)われ、恭(うやうや)しくもてなされてきました。「老馬の智」「亀の甲より年の功」「おばあちゃんの知恵袋」などの言い回しはまさにこれを言い当てています。つまり、共同体のメンバー全員がお年寄りをありがたがり、大事にするという敬老思想はもともとごく当たり前のことだったのです。私たちには、もともとそうすることを望ましく感じる心理が遺伝子に組み込まれている可能性があります。 ところが、近代化し情報化した現代はどうでしょうか? 特に、大都市は、スピード、生産性、効率性、競争力、結果がとても重視されます。すると、その価値観に合わない人、つまり役に立たない人はいてはならないという発想が生まれやすくなります。それは、「ボケ」が出てきたら、早く認知症と診断してもらって、早く施設に入るべきであるという発想です。そのような人がい続ければ、敬(うやま)われるどころか、迷惑で困った人として貶(おとし)められ、蔑(さげす)まれてしまいます。こうして、認知症の人は、現代では、そして特に大都市では、より自尊心を傷付けられて、行動・心理症状をより引き起こしています。まるで、現代の価値観が、認知症の患者をつくり出し、そして追いやっているようにも思えてしまいます。これは、現代の価値観の負の側面です。 一方、助け合いや敬老の精神が比較的に残っているコミュニティがある地方では、お年寄りが認知症になっても、家族や近所の人たちが協力して温かく面倒を見るので、自尊心が保たれ、行動・心理症状(BPSD)が出にくくなるというわけです。その人らしさを支える介護とは?―パーソンセンタードケア みつえは、認知症が進むにつれて、現在の現実と過去の記憶が交錯していきます。そこには、家族の歴史や絆が描かれています。まさにこの映画の醍醐味です。認知症の介護とは、症状を見るのではなく、その人の人生、つまりその人らしさを見ることであるということに私たちは気付かされます。そして、目の前のお年寄りの人たちがどういう人生を経て今ここにいるのかという物語に思いを馳せ、その人たちの心に寄り添う気持ちにさせられます。その人のことをよく知ることで、その人らしさやその人らしい生活を支えることができます(パーソンセンタードケア)。 このような介護により、お年寄りの心は満たされ、認知症の行動・心理症状(BPSD)を減らしたり、出てくるのを防ぐことができます。また、認知症状の進行を遅らせる可能性もあります。さらには、私たちの心も満たされ、楽しさやりがいを感じることができるようになります。介護する側の心のあり方とは?―かかわり方と薬のバランス ゆういちは、行きつけの喫茶店のマスターから「(介護施設に)預けると?」「はあ、そがんことするったい」「親ば捨てるやらおれはようしきらん(とてもできない)」と言われてします。ゆういちは「おれもどげんしたらよかか分からん」と苦悩します。 世間体や後ろめたさから、家族が介護を抱え込み、「介護疲れ」(適応障害)になることはよくあります。この映画では、最終的にゆういちがみつえをグループホームに入所させ、抱え込まないモデルとして描かれています。 入所後は、ゆういちの心には余裕ができて、みつえに怒鳴ることはなくなっています。そもそも家族によって介護力には限界があります。それを踏まえて、デイケアへの通所やグループホームへの入所を見極める必要があります。ポイントは、家族の介護者が介護への負担(ストレス)からやりがいを見失っていないか?「介護疲れ」に陥っていないか?ということです。 この介護者のメンタルヘルスは、家族だけでなく、私たち医療関係者(特に介護士)にも当てはまります。これまで説明しました認知症の人へのかかわり方はもちろん重要なのですが、そのかかわり方をしたからと言って必ずしも行動・心理症状(BPSD)が全く出ないというわけではありません。 介護者がやりがいを感じ続けるためには、認知症の人にうまくかかわっていくことと合わせて薬をうまく使っていく必要があります。例えば、毎夜どうしても騒ぐ場合(夜間せん妄)、夕食後に精神科薬を飲んでもらうようにすることです。また、日中にどうしても手が出てしまう場合(暴力)、日中に精神科薬を飲む必要があります。このように、かかわり方の工夫と薬の適応のバランスをとることです。認知症の人が無邪気であることとは? ラストシーンでは、車いすに乗ったみつえとベビーカーに乗った赤ちゃんがすれ違います。みつえも赤ちゃんも、無邪気で幸せそうです。そして、ゆういちは「ボケるとも、悪か事ばっかりじゃなかかもな」とつぶやきます。 かつて孫のまさきが伸び盛ったように、これからそのまさきとさとさん(グループホームの介護士)の恋が燃え盛ろうとするように、みつえが熟し衰えていくのは自然なことであると私たちは思えてきます。 認知症は、障害という特別な状態になるというよりは、老いという自然の流れの中で見られるその人らしさであるとも言えます。そもそも私たちが年を取るとはこういうことであると受け入れることが出発点です。今、私たちが身近で見ている認知症の人は、私たちの数十年後の姿かもしれません。私たちもいずれ同じようになるかもしれません。 そう考えると、その時に私たちはどんなふうにされていたいのだろうかと現在の認知症の介護のあり方を見つめ直すことができるのではないでしょうか?そして、長生きすることが幸せであると心から思える社会にしていくことができるのではないでしょうか?1)岡野雄一:ペコロスの母に会いに行く、西日本新聞社、20122)岡野雄一:「ペコロスの母に学ぶ」ボケて幸せな生き方、小学館新書、20143)山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント、協同医書出版社、20144)伊古田俊夫:社会脳からみた認知症、講談社、20145)村井俊哉:社会化した脳、エクスナレッジ、20076)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)、医学書院、20147)本田美和子ほか:ユマニチュード入門、医学書院、2014

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骨粗鬆症骨折の治療だけで終わらせないロコモ対策

 1月20日、日本イーライリリー株式会社は、「“いつのまにか骨折”のサインを見逃すな ロコモから紐解く骨粗鬆症の予防と治療」と題して、プレスセミナーを開催した。■患者の2人に1人は骨折に気付かず はじめに同社の榎本 宏之氏(臨床開発医師/メディカルアドバイザー)が、「骨粗鬆症に関する意識・実態調査」の概要を報告した。 本調査は、2014年に医療施設を受診し、骨粗鬆症と診断された60歳以上の女性515人へのインターネットアンケート調査をまとめたもので、その結果から患者の骨粗鬆症への認識不足などが明らかとなった。 「骨折で寝たきりになることへの不安感」では75.9%が不安を感じており、「骨粗鬆症への気付き」については、自分で意識して医療機関を受診した人はわずか14.2%しかいなかった。「骨粗鬆症による骨折経験」では、23.8%と約4人に1人が経験し、また70歳以上では28.6%と、その経験値は年齢とともに上昇する傾向が報告された。さらに骨折経験のある122人への調査では「骨折への気付き」については、56.6%と約2人に1人が骨折と気付いていなかったことが報告された。 骨粗鬆症のサインである「腰の痛み」を感じて整形外科などの専門医を受診したかどうかの問いには、313人のうち49.1%が受診をしていないと回答し、骨粗鬆症への意識の低さをうかがわせた。 最後に榎本氏は、「潜在患者の多い骨粗鬆症について、疾患の認識を持ってもらうことで、適切な治療を享受できる確率を高め、健康寿命延伸に貢献するためのさまざまな疾病啓発活動を行っていきたい」と述べた。■骨折の治療がゴールではない!その先の予防へ 続いて大江 隆史氏(名戸ヶ谷病院 院長)が、「骨脆弱性骨折の意味に気づく –ロコモティブシンドローム予防の観点から- 」をテーマに、骨粗鬆症による骨脆弱性骨折とロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)への取り組みについて、レクチャーを行った。 はじめに骨脆弱性骨折について説明。X線所見で、骨粗鬆症による脊椎椎体骨折などの3つのパターンを例示した。最近ではこうした骨脆弱性骨折の患者が、女性の高齢者を中心に増加している。とくに大腿骨近位部骨折は80歳代後半の患者に多くみられ、骨折した場合、手術も大がかりなものとなり血流障害もみられるために、骨折の治療も治療後のリハビリテーションも難しいなど、臨床上の問題点を語った。また、通常骨粗鬆症の診断では骨密度の測定が必要なところ、現在では脆弱性骨折が確認されれば、それで骨粗鬆症と診断していることが説明された。 次にロコモティブシンドローム、すなわち「加齢による運動器障害(骨粗鬆症、変形性関節症、神経障害など)のため、移動機能の低下を来した状態」で「進行すると要介護状態を招く」とされる疾患への予防とその取り組みについて解説した。 現在、「要支援・要介護の原因」の第1位は「運動器の障害」となっている。整形外科で入院手術を受けた患者の年齢別割合では70歳代が最も多く、圧倒的に骨折によるものが多いことが報告された。そして、現在研究中の“ROAD study”よりロコモの原因となるコモン・ディジーズの有病率では、骨粗鬆症の有病率が60歳以上の女性で多くみられ(たとえば大腿骨頸部骨折で20%以上)、ロコモの予防では骨粗鬆症をいかに治療するかが重要となると指摘した。 ロコモの視点からみた骨脆弱性骨折の治療で大事なことは、「(1)従来の骨折治療、(2)骨折原因となった骨粗鬆症への治療、(3)骨折で移動能力が低下している患者の機能をさらに低下させない治療であるが、今後はとくに(2)と(3)が重要になる。目の前の骨折の治療で終わらせるだけでなく、その原因である骨粗鬆症の治療も進め、骨粗鬆症で1度骨折した患者がさらに2度目、3度目の骨折をしないようにすることが、ロコモの予防につながる」とレクチャーを終えた。日本イーライリリー 骨そしょう症のコーナー

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筋骨格系慢性疼痛へのウォーキングは有用?

 英国・クイーンズ大学ベルファストのSean R. O’Connor氏らは、筋骨格系慢性疼痛患者の疼痛や機能に対するウォーキングの効果を検討する目的でシステマティックレビューを行った。その結果、ウォーキングは対照と比較して疼痛や機能の有意な改善と関連していることを明らかにした。ただし、長期的な効果については不明であったとしている。著者は、「筋骨格系慢性疼痛に対する効果的な介入法としてウォーキングが推奨されるが、介入維持を目的とした戦略、ならびに健康に関連した効果に関するさらなる検討が必要」とまとめている。Archives of Physical Medicine and Rehabilitation誌オンライン版2014年12月18日号の掲載報告。 研究グループは、6つのデータベース(Medline、CINAHL、PsychINFO、PEDro、Sport Discus and the Cochrane Central Register of Controlled Trials)を用いて1980年~2014年3月までの論文を検索し、慢性腰痛、変形性関節症または線維筋痛症の成人患者を対象に、ウォーキングと非運動/非ウォーキングを比較した、ランダム化および準ランダム化試験26件(2,384例)を選択した。 データの方法論的質については、米国予防医学専門委員会(USPSTF)のシステムを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・17件がランダム効果モデルを用いたメタ解析の対象となった。・追跡期間別に解析した結果、ウォーキングは短期(無作為化後8週)、および中期(無作為化後2ヵ月超12ヵ月以内)の疼痛軽減(軽度~中等度改善)と関連した。それぞれ平均群間差(MD)は-5.31(95%信頼区間[CI]:-8.06~-2.56)、-7.92(同:-12.37~-3.48)であった。・機能については、短期(MD:-6.47、95%CI:-12.00~-0.95)、中期(同:-9.31、-14.00~-4.61)および長期(12ヵ月超)(同:-5.22、-7.21~-3.23)のいずれにおいても改善が認められた。

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重度アルツハイマー病に心理社会的介入は有効か:東北大

 重度アルツハイマー病に対する心理社会的介入は有効なのか。東北大学の目黒 謙一氏らは、重度アルツハイマー病患者に対する薬物療法に心理社会的介入を併用した際の効果を明らかにするため、介護老人保健施設入所患者を対象に前向き介入試験を実施した。その結果、意欲改善やリハビリテーションのスムーズな導入、および転倒事故の減少がみられたという。著者は、「心理社会的介入の併用治療アプローチは、重度の患者に対しても有用な効果を示した。ただし、より大規模なコホートを用いて再検証する必要がある」と述べている。BMC Neurology誌オンライン版2014年12月17日号の掲載報告。 コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー病(AD)の進行を遅らせることができ、中等度~重度ADに対する臨床的効果が、複数の臨床試験により首尾一貫して報告されている。また、軽度~中等度AD患者においては、心理社会的介入との併用による効果が報告されているが、重度AD患者に対する同薬と他の治療アプローチもしくはリハビリテーションを併用した際の効果については議論の余地が残っている。そこで研究グループは、介護老人保健施設入所患者を対象に、前向き介入試験を実施した。 2ヵ所の介護老人保健施設(N1、N2)を対象とした。N1は126床の施設で、ドネペジルでの治療は行わずに心理社会的介入のみ(現実見当識訓練[リアリティオリエンテーション]および回想法)を実施した。N2は認知症特別室50床を含む150床の施設で、ドネペジルを処方し、心理社会的介入に加えてリハビリテーションが実施された。N1およびN2の重度AD患者(MMSE<6)32例(16 vs. 16)を対象として、心理介入療法の有無別(各施設8 vs. 8)に、ドネペジル(10mg/日、3ヵ月間投与)の効果を比較した。意欲の指標としてVitality Indexを用いて日常生活行動とリハビリの導入について評価した。 主な結果は以下のとおり。・N2におけるドネペジルの奏効率(MMSEが3+)は37.5%であった。・ドネペジル+心理社会的介入は、Vitality Indexの総スコア(Wilcoxon検定のp=0.016)、およびサブスコアのコミュニケーション(p=0.038)、食事(p=0.023)、リハビリテーション(p=0.011)を改善した。・大半のリハビリテーションはスムーズに導入され、転倒事故の頻度が減少した。・薬剤を使用していないN1での心理社会的介入では、総スコアの改善のみ認められた(Wilcoxon検定、p=0.046)。関連医療ニュース 認知症患者への精神療法、必要性はどの程度か 認知機能トレーニング/リハビリテーションはどの程度有効なのか 統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大  担当者へのご意見箱はこちら

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在宅で診る肺炎診療の実際

■在宅高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎在宅高齢者の発熱の原因として最も多いのは肺炎である1)。在宅医療を受けている患者の多くは嚥下障害を起こしやすい、脳血管性障害、中枢性変性疾患、認知症を患っており、寝たきり状態の患者や経管栄養を行っている患者も含まれていて、肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎である。日本呼吸器学会は2005年に「成人市中肺炎診療ガイドライン(改訂版)」を、2008年には「成人院内肺炎診療ガイドライン」を作成したが、在宅高齢者の肺炎診療に適するものではなかった。その後、2011年に「医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」が作成された。NHCAPの定義と発症機序は表1 2)および表2 2)に示されるように、在宅療養患者が該当しており、その特徴は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、その本質は高齢者における誤嚥性肺炎を中心とした予後不良肺炎と、高度医療の結果生じた耐性菌性肺炎の混在したもの、としている。本稿では、NHCAPガイドライン(以下「ガイドライン」と略す)に沿って、実際に在宅医療の現場で行っている肺炎診療を紹介していく。表1 NHCAP の定義1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む)2.90日以内に病院を退院した3.介護を必要とする高齢者、身障者4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている・介護の基準PS3: 限られた自分の身の回りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、以上を目安とする表2 NHCAP の主な発症機序1.誤嚥性肺炎2.インフルエンザ後の2次性細菌性肺炎3.透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎(MRSA肺炎など)4.免疫抑制薬や抗がん剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎を受けている■在宅での肺炎診断在宅患者の診察では、平素より経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定しておき、発熱時には変化がないかを必ず確認する。高齢者は、咳や痰などの一般的症状に乏しいが、多くの場合で発熱を伴う。しかし、発熱を伴わない場合もあるので注意する。聴診所見では、必ずしも特異的な所見がなく、脱水を伴っている場合はcoarse crackleは聴取しにくくなる。血液検査では、発症直後でも上昇しやすい白血球数を参考にするが、数が正常でも左方移動がみられれば有意と考える。CRPは、発症直後には上昇しにくいので、発症当日のCRP 値で重症度を評価することはできない。必要に応じてX線ポータブル検査を依頼する。■NHCAPにおける原因菌ガイドラインによると原因菌として表3 2)が考えられている。表3 NHCAP における原因菌●耐性菌のリスクがない場合肺炎球菌MSSAグラム陰性腸内細菌(クレブシエラ属、大腸菌など)インフルエンザ菌口腔内レンサ球菌非定型病原体(とくにクラミドフィラ属)●耐性菌のリスクがある場合(上記の菌種に加え、下記の菌を考慮する)緑膿菌MRSAアシネトバクター属ESBL産生腸内細菌ガイドラインでは、在宅療養している高齢者や寝たきりの患者では、喀出痰の採取は困難であり、また口腔内常在菌や気道内定着菌が混入するため、起因菌同定の意義は低く、診断や治療の相対的な判断材料として用い、抗菌薬の選択にはエンピリック治療を優先すべきである、とされている。実際の現場では、喀出痰が採取できる患者は肺炎が疑われた場合、抗菌薬を開始する前にグラム染色と好気性培養検査を依頼し、初期のエンピリック治療に反応が不十分な場合、その結果を参考に抗菌薬の変更を考慮している。■ガイドラインで示された治療区分とはガイドラインでは、市中肺炎診療ガイドラインで示しているような重症度基準(A-DROP分類)では、予後との関連がはっきりしなかったため、治療区分という考え方が導入された。この治療区分(図1)2)に沿って抗菌薬が推奨されている(図2)2)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するここでのポイントは、耐性菌のリスクの有無(90日以内の抗菌薬の投与、経管栄養があり、MRSAが分離された既往歴)が、問われていることである。■在宅患者における肺炎の重症度判断PSI(pneumonia severity index)は、患者を年齢、既往歴、身体所見・検査所見の異常など20因子による総得点により、最も正確に肺炎の重症度判定ができる尺度として有名である。そこで筆者の診療所では在宅診療対象患者のみを対象に、血液検査・画像所見の結果がなくても肺炎の重症度を推定できる方法はないかを検討した。身体所見や患者背景から得られた総得点をPSI for home-care based patients(PSI-HC)と名付け、この得点を基に患者を分類したところ、血液検査や画像所見がなくても予後を反映するものであった3)。当院ではそれを基に「発熱フェイスシート」を作成し、重症度の把握と家族への説明に利用している(図3)。なお、図中の死亡率は1年間における97人の肺炎患者をレトロスペクティブにみた値であり、今後さらなる検討が必要な参考値である。画像を拡大する■在宅における肺炎治療の実際実際の現場では、治療区分で入院が必要とされるB群でも、連日の抗菌薬投与ができるようであれば在宅での治療も可能である。先述したように、喀出痰が採取できない症例が多いため、在宅高齢者の肺炎の起因菌についての大規模なデータはないが、グラム陰性菌、嫌気性菌が主な起因菌であるといわれている。グラム陰性菌に抗菌力が強く、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌や一部の嫌気性菌を広くカバーする、ニューセフェムやレスピラトリーキノロンを第1選択としている。●経口投与の場合:レボフロキサシン(商品名:クラビット[LVFX])、モキシフロキサシン(同:アベロックス[MFLX])LVFXは1日1回500mgを標準投与量・法とする。腎排泄型の抗菌薬であり、糸球体濾過量(GFR)に応じて減量する。MFLXは主に肝代謝排泄型の抗菌薬であり、腎機能にかかわらず、1日1回400mgを標準投与量とする。●静脈投与の場合:セフトリアキソン(同:ロセフィン[CTRX])血中半減期が7~8時間と最も長いので1日1回投与でも十分な効果を発揮し、胆汁排泄型であることからGFRの低下を認める高齢者にも安心して使用できる。CTRXは緑膿菌に対して抗菌力がほとんどなく、ブドウ球菌、嫌気性菌などにも強い抗菌力はないといわれており、ガイドライン上でも誤嚥性肺炎には不適と記載されているが、筆者らは誤嚥性肺炎を含む、肺炎初期治療としてほとんどの患者に使用し、十分な効果を認めている。また、過去90日以内に抗菌薬の使用がある場合にも、同様に効果を認めている。3日間投与して解熱傾向を認めないときには、耐性菌や緑膿菌を考慮した抗菌薬に変更する。嫌気性菌をカバーする目的で、クリンダマイシン内服の併用やブドウ球菌や嫌気性菌に、より効果の強いニューキノロン内服を併用することもある。■入院適用はどのような場合か在宅では、病院と比較すると正確な診断は困難である。しかし、全身状態が保たれ、介護する家族など条件に恵まれれば、在宅で治療可能な場合が多い。筆者らは、先述した在宅患者の肺炎の重症度(PSI-HC)を利用して重症度の把握、家族への説明を行ったうえで、患者や家族の意思を尊重し、入院治療にするか在宅治療にするかを決定している。在宅高齢者が入院という環境変化により、肺炎は治癒したけれども、認知機能の悪化やADL低下などを経験している場合も少なくない。過去にそのような体験がある場合には、在宅でできる最大限の治療を行ってほしいと所望されることが多い。ただ、医療的には、高度の低酸素血症、意識低下や血圧低下を伴う重症肺炎や、エンピリック治療で正しく選択された抗菌薬を使い、3日~1週間近く治療を行っても改善傾向が明らかでない場合に入院を検討している。また、介護面では重症度にかかわらず、介護量が増えて家族や介護者が対応できない場合にも入院を考慮している。■肺炎予防と再発対策誤嚥性肺炎の治療および予防として表42)が挙げられる。表4 NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針1)抗菌薬治療(口腔内常在菌、嫌気菌に有効な薬剤を優先する)2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)3)口腔ケアを行う4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE阻害薬、シロスタゾール、など)6)意識レベルを高める努力(鎮静薬、睡眠薬の減量、中止、など)7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止8)栄養状態の改善を図る(ただし、PEG〔胃ろう〕自体に肺炎予防のエビデンスはない)9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましいガイドラインではNHCAPの主な発症機序として誤嚥性肺炎のほか、インフルエンザと関連する2次性細菌性肺炎の重要性が提案されており、わが国でも高齢者施設におけるインフルエンザワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの効果がはっきり示されたこともあり、両ワクチンの接種が勧められる4)。日々の生活の中では、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションは重要であり、歯科医師・歯科衛生士や言語聴覚士との連携で、より質の高いケアを提供することができる。●文献1)Yokobayashi K,et al. BMJ Open. 2014 Jul 9;4(7):e004998.2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 2011.3)Ishibashi F, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Mar 12 . [Epub ahead of print].4)Maruyama T,et al. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.●関連リンク日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン

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Dr.ハギーの関節リウマチ手とり足とり~もっと工夫してみる~ <長期罹患編>

第1回 長期罹患患者への対応      ~時間の経過に逆らって~ 第2回 慢性的な痛みへの対応      ~「痛みに慣れる」ということは無い~ 第3回 リハビリテーション      ~患者さんを優しく導け!~第4回 注意すべきは関節外症状      ~RAは全身疾患だ!~ 第5回 合併症マネジメント     ~関節はもちろん、生活を守れ!~ 第6回 関節リウマチの手術療法     ~手術にも「機会の窓」がある!~ 第7回 リウマチ診療落ち穂拾い     ~外来診療スキルアップ~ 何十年と長期で関節リウマチを患っている患者は、近年著しく進歩した関節リウマチ診療の恩恵を十分に受けられていないのが現実です。しかしながら、長期罹患患者でも現在の関節炎と身体障害の程度を適切に評価し、可能な限り疾患活動性を低くする治療を行うことで、QOLを高めることはできます。つまり長期罹患患者に対しても、プライマリケア医ができることはたくさんあるのです。Dr.ハギーが実践している、プライマリケア医ができる長期罹患患者への診療の工夫を、手とり足とりお伝えします!第1回 長期罹患患者への対応 ~時間の経過に逆らって~ 何十年と長期にわたって関節リウマチを患っている患者さんの治療はどうすればよいのでしょうか?話題の生物学的製剤も、曲がってしまった関節を元に戻すことはできません。でも、あきらめてはいけません。適切な治療を行えば、患者の痛みをやわらげ、生活の質を高めることができるのです。Dr.ハギーが実践している、プライマリ・ケア医ができる長期罹患患者への診療の工夫を手とり足とりお伝えします。第2回 慢性的な痛みへの対応 ~「痛みに慣れる」ということは無い~ 関節が痛いと訴える患者さんに、漫然とNSAIDsやステロイドを投与していませんか?NSAIDsやステロイドは即効性に優れていますが、効きめがあるからといって長期間使用すると重篤な副作用をもたらすリスクが高まります。Dr.ハギーが推奨するのは、「可能な限りステロイドは減量し、NSAIDsの連用は避ける」ことです。そのために実践しているさまざまな工夫をレクチャーします。患者さんそれぞれに合った治療計画を考えていきましょう。第3回 リハビリテーション ~患者さんを優しく導け!~ 炎症のある関節に負担をかけると悪化するのでは?という考えから、関節リウマチ長期罹患患者へのリハビリテーション指導を躊躇される先生もいらっしゃるかもしれません。もちろん過度な関節の使用は控えなければなりませんが、関節を動かすのは関節そのものではなく付近に付着する腱・筋肉などで、その部分の無動が続くと動かしにくくなってしまいます。そのため関節を動かす筋肉のストレッチや、関節に負担をかけない「等尺性収縮運動」を指導することが大事になってくるのです。Dr.ハギーが実演する、診察室内でできるリハビリテーション指導を覚えて、明日からの診療に生かしてください。第4回 注意すべきは関節外症状 ~RAは全身疾患だ!~ 関節リウマチは関節だけの病気ではありません。実は、関節以外の様々な合併症を伴いやすい全身疾患なのです。昨今、重篤な関節外合併症は概ね減少傾向にありますが、肺疾患は依然として今日の関節リウマチ診療の中で大きな問題となっています。どんな肺疾患が起こるのか?肺に安全な抗リウマチ薬は?この回では、関節リウマチの肺合併症の中でも特に代表的な間質性肺炎を中心に、手とり足とり解説していきます。第5回 合併症マネジメント ~関節はもちろん、生活を守れ!~ 関節リウマチにおける心血管リスク因子として、「遷延する炎症」「NSAIDs/COX-2阻害薬の長期服用」「ステロイドの長期服用」が考えられます。これらリスク因子がどんな心血管疾患と結びつくのか?また、対処方法はあるのでしょうか?関節リウマチと心血管疾患とのつながりをしっかり押さえておきましょう。第6回 関節リウマチの手術療法 ~手術にも「機会の窓」がある!~ 関節リウマチの薬物療法の著しい進化はすでに解説してきましたが、近年、整形外科手術も大変進歩し、人工関節素材の向上や、3DプリンターとCT画像を組み合わせた精度の高い術前計画が立てられるようになりました。ここでのプライマリケア医が持つ重要な役割は、「整形外科医へのコンサルトのタイミングを逸さない」こと。関節リウマチ手術のタイミングは個々の症例によって異なります。どのような病態が手術適応となるのか?それによってどのくらいQOLの改善が期待できるのか?きちんと学んでいきましょう。第7回 リウマチ診療落ち穂拾い ~外来診療スキルアップ~ 長期に罹患している関節リウマチ患者に対してもできることはたくさんある、というDr.ハギーの思いのもと、適切な薬物療法や診察室でできるリハビリテーション、合併症についてなど、プライマリケア医ができる診療の工夫や知っておくべき項目を数々学んできました。最終回は、今後さらなる発展が期待できる画像検査や新規薬剤、栄養療法の3つを中心にレクチャーしていきます。「リウマチ科医の聴診器」としての地位を築きつつある関節・筋骨格の超音波検査や、新薬開発の今後など、これからの関節リウマチ診療の進展にもぜひ注目してください。

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事例25 リハビリテーション総合計画評価料の査定【斬らレセプト】

解説事例では初診患者にH003-2リハビリテーション総合計画評価料を算定したところ、A事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に査定となった。病名を含むレセプト内容を見直してみると、A事由の対象となる内容が見当たらない。同評価料の算定要件を見てみる。同評価料は、「定期的な医師の診察及び運動機能検査等の結果に基づき医師、看護師等の多職種が協働して作成し、これに基づいて行ったリハビリテーションの効果、実施方法等について共同して評価を行った場合に算定する」とある。患者は初診で、診療情報提供料1が算定されており、1日で転医したことがうかがわれる。算定留意事項のうち、複数日の診察を要する定期的な医師の診察という要件に加えて、計画に基づいて行われたリハビリテーションの効果に対する評価を行うという条件に当てはまらない。このことから、同評価料は初診時には適応がないとして、A事由で査定となったものであろう。リハビリテーションの実施があれば、同評価料が算定できるものではないことに留意を頂きたい。

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未来を担う医療系学生(19)

池田 知美さん首都大学東京健康福祉学部 作業療法学科 3年希望進路:リハビリテーション科クライアント中心の医療を提供したいです。コメント作業療法士を目指したのは母親の薦めです。母親は医療とは関わりがなかったのですが、一生仕事を続けられるようにって、一緒に色々と調べてくれたなかで、自分に一番合っているかなと思って選びました。現場に出ても勉強を続けて患者さんに寄り添った医療ができるよう頑張っていきたいです。撮影:田里弐裸衣

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