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膝OAに陸上運動療法は有効

 オーストラリア・シドニー大学のMarlene Fransen氏らによるシステマティックレビューの結果、陸上での運動療法は変形性膝関節症(膝OA)の疼痛軽減および身体機能改善に有用であり、その効果は治療終了時だけではなく、終了後2~6ヵ月まで持続することが示唆された。膝OAの治療において、運動療法は主要な非薬理学的介入の1つであり国際的なガイドラインで推奨されている。レビューの結果を踏まえて著者は、「陸上での運動療法の治療効果は中等度で比較的短期であるが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に関して報告されている結果と同程度と思われる」と結論付けた。なお「本レビューの知見が今後の研究で変わることはないと確信しているため、盲検試験は多くないがエビデンスの質は低いとはしなかった」と補足している。Cochrane Database of Systematic Reviews誌オンライン版2015年1月9日号の掲載報告。 研究グループは、5つのデータベースを用いて2013年5月までの論文などを検索し、膝OA患者において、水中ではなく陸上で行われる運動療法と非運動療法または非治療を比較したすべての無作為化試験(RCT)を選択した。 評価項目は膝痛、身体機能およびQOLで、2人のレビュアーからなる3つのチームが独立してデータの抽出、バイアスリスクの評価、エビデンスの質(GRADE)の評価を行った。 主な結果は以下の通り。・レビューには54試験が組み込まれた。・全体としてバイアスリスクは低いと思われたが、患者も盲検化されたRCTは4件のみで、多くのRCTは評価者盲検であったにもかかわらず、疼痛、身体機能およびQOLは患者の自己申告であった。・陸上運動療法は、治療終了時に疼痛を軽減することが認められた(標準化平均差[SMD]:-0.49、95%信頼区間[CI]:-0.39~-0.59)(RCT:44件、3,537例、エビデンスの質:高)。疼痛スコア(0[疼痛なし]~100ポイント)の推定値は対照群が44ポイントで、陸上運動療法群は12ポイント(95%CI:10~15)低かった。・陸上運動療法は、治療終了時に身体機能を改善することが認められた(SMD:-0.52、95%CI:-0.39~-0.64)(RCT:44件、3,913例、エビデンスの質:中)。身体機能スコア(0[機能消失なし]~100ポイント)の推定値は対照群が38ポイントで、陸上運動療法群は10ポイント(95%CI:8~13)低く改善が認められた。・陸上運動療法は、治療終了時にQOLを改善することも認められた(SMD:0.28、95%CI 0.15~0.40)(RCT:13件、1,073例、エビデンスの質:高)。QOLスコア(0~100[最良])の推定値は対照群が43ポイントで、陸上運動療法群は4ポイント(95%CI:2~5)の改善が認められた。・治療の脱落は、両群とも同程度であった(RCT:45件、4,607例、エビデンスの質:高)。脱落率は対照群15%、陸上運動療法群14%で有意差はなかった(オッズ比:0.93、95%CI:0.75~1.15)。・治療終了2~6ヵ月後のデータが、膝痛に関して12件(1,468例)、身体機能に関して10件(1,279例)あり、持続的な治療効果が示された。・疼痛は6ポイント低減(SMD:-0.24、95%CI:-0.35~-0.14)、身体機能は3ポイント改善(同:-0.15、-0.26~-0.04)であった。・個別の運動プログラム提供のほうが、グループ運動や在宅運動より、疼痛軽減および身体機能改善が大きい傾向がみられた。

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ペコロスの母に会いに行く【認知症】

今回のキーワード社会脳社会的認知進化心理学・進化精神医学DSM-5デフォルトモードネットワークヒューマンセンタードケア「認知症の人はなんで無邪気なの?」 皆さんは、認知症になった人が無邪気になっていくのを不思議に思ったことはありませんか? 単にもの忘れをするだけでなく、ちょっとずつ無邪気に幼くなっていきます。 今回は、その原因とかかわり方のコツを、進化心理学・進化精神医学のメインテーマである社会脳(社会的認知)という視点から、いっしょに考えていきましょう。また、2013年にDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)への改定に伴い、認知症の診断基準が変わりました。その内容とその理由も解説します。 取り上げるのは、2013年の映画「ペコロスの母に会いに行く」です。ペコロスとは、小さい西洋玉ねぎのことで、この映画の原作者である主人公の頭をユーモラスに表した愛称です。彼の母親が認知症を発症してからの介護生活の様子が、ありのままにそしてほのぼのと描かれています。もの忘れ―学習と記憶の障害 主人公の男やもめのゆういちは、認知症の母のみつえの介護をしながら、息子のまさきと3人で暮らしています。日常生活でゆういちとみつえの間で交わされる会話のワンシーンをみてみましょう。ゆういちが「また!母ちゃん!」(電話の)受話器ば外しっぱなしにしとったらいかんて言うたろうが」「なんかあった時に連絡のつかんやろが」と注意します。すると、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返します。 このやり取りが、日々の挨拶のように繰り返されます。みつえは、電話の受話器を戻すよう言われた体験を丸ごと忘れており、忘れたことに自覚がないのです。つまり、「忘れたことを忘れている」のです(メタ記憶の障害)。 これは、典型的な認知症のもの忘れの症状です(健忘)。この記憶障害は、従来の診断基準では、全ての認知症において絶対的な項目でした。しかし、新しい診断基準(DSM-5)では、アルツハイマー病を除く認知症において、6項目の診断基準の中の「学習と記憶の障害」の1項目として格下げされています。 その理由として、他の3つの認知症の特徴があげられます(表1)。1つ目として、脳血管性認知症はまだら認知症であり、必ずしも記憶障害が目立たないからです。2つ目として、レビー小体型認知症は認知症状が動揺性であり、記憶障害が固定されていないからです。3つ目はとして、前頭側頭型認知症は前頭葉症状が主であり、記憶障害が初期に目立たないからです。 表1 それぞれの認知症の記憶障害の特徴   アルツハイマー病 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症 記憶生涯 必ず目立つ 必ずしも目立たず 目立ったり目立たなかったりと揺れ動く 初期に目立たず 言い間違え、言葉数が少ない―言語の障害 認知症の進行に伴い、自宅介護が難しくなったため、ゆういちはみつえをグループホーム(介護施設)に入所させます。ゆういちが訊ねてきた時のワンシーンです。みつえは「ゆういち、どこにおったん?」「フリーターの仕事や(か)?」と訊ねます。ゆういちはすかさず「フリーライター!」と言い返します。これは言葉の言い間違え(音韻性錯語)です。このようなボケとツッコミのユーモアがこの映画には溢れています。その後、みつえは問いかけに対して言葉が出なかったり言葉数が少なくなっていきますが(無言症)、そんなみつえをゆういちは温かく見守ります。 これらの言葉の症状も、認知症の診断基準の1つです(言語の障害)。従来の診断基準の失語に当たります。顔が分からない― 知覚―運動の障害 ゆういちがグループホームからみつえを散歩に連れ出そうとするシーン。みつえは「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び出します。すぐにゆういちは「母ちゃん、ほら!」とゆういちが、帽子をとって薄毛の頭を目の前に向けると、「アハッ、なっ、ゆういちやったとか、あ~ハハハッ」と薄毛の頭を撫で回し、「えいえいえい」と叩き、「はげちゃび~ん!」と無邪気に騒ぎます(タイトル画像)。薄毛を確認してようやく息子のゆういちであると認識しています。しかし、ゆういちが帽子をかぶると、すぐに「誰ね?」と言い、息子の顔が分からなくなっています(相貌失認)。 みつえが大正琴を弾くシーン。「どげんやったかいな?ハハハッ」と弾き方を忘れたことを笑い飛ばしています。本来、長年体に染みついていた動きはなかなか忘れないものです。楽器の弾き方を忘れるのは症状とまでは言えません。しかし、その後にみつえは、読めない字を書くようになります。字が書けなくなるのは、認知症の症状と言えます(構成失書)。着替えや歯磨きなどの日常生活の動作ができなくなると(更衣失行、観念失行)、介護がさらに必要になってきます。 このようにものごとが認識できなくなる症状と、ものや体の動かし方が分からなくなる症状を合わせたものが、新しい認知症の診断基準の1つになっています(知覚―運動の障害)。これは、従来の診断基準の失認と失行に当たります。段取りが立てられない―実行機能障害 みつえがまだ家にいる時のワンシーン。ゆういちとまさきは夕食に弁当を買って食べています。みつえが料理できなくなっていることを間接的に描いています。料理は、献立を考え多くの段取りを経て作る必要があります。 このように、段取りを立てて計画的に行動できなくなる症状も、認知症の診断基準の1つです(実行機能障害)。これは従来と同じ診断基準です。実行機能とは、意志→計画→実行→評価(フィードバック)という一連の手順を踏んで、ものごとを実行していく脳の働きです。気付きにくい―複雑性注意の障害 さきほどの電話の受話器を戻すことをみつえが忘れているワンシーンでは、電話のそばに「受話器ば絶対にもどすこと」というメモが貼られています。しかし、みつえは、毎回、電話の対応でいっぱいいっぱいになっており、そのメモに気付かないのです。さきほどのゆういちの顔が分からなかったシーンでは、ゆういちはみつえの背後から「母ちゃん」と声をかけています。そして、みつえがゆういちを確認する前に、車イスを後ろに引いています。みつえは、目の前に見えていないゆういちの声に注意を向けることができずに混乱しています。また、みつえが夜遅くまでゆういちの帰りを駐車場で待っているワンシーンでは、ゆういちの車が間近まで迫ってきても、ゆういちを出迎える気持ちでいっぱいであるため、全く危機意識がありません。「ゆういち、お帰り~」と笑顔で迎えます。ゆういちは「母親ばひいたらシャレならんやろがっ!」「あやうくひいてしまうとこやった」と肝を冷やします。 これは、一度に複数の対象に注意を向ける力が落ちて、ものごとの変化や危機に気付きにくい症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(複雑性注意の障害)。無邪気になる―社会的認知の障害 みつえが家で留守番をしている時に電話がかかってくるワンシーン。みつえが電話に答えます。「えっ?オレって誰ね?」「アハハッ、まさき(孫)か?」「まさき、どげんしとると?」「こっちには帰ってこんとね?」「ええっ?事故ば起こしたけん帰れんて!?」「示談?」「金ば払えば良かて」「そげん大きな金、持っとらんやろ?」「それ、ばあちゃんが払うてやる」と涙ぐみます。これは、おれおれ詐欺(振り込め詐欺)に引っかかっている典型的なパターンです。電話の相手を信用し切ってしまい、言われたことにあっさりと応じています。相手から出し抜かれないようにしようと相手の気持ちを推し量る警戒心(心の理論)が鈍くなり、だまされやすくなっています。 さきほどのゆういちの頭をみつえが撫で回し叩くシーン。ゆういちが痛がっているのになかなか叩くのを止めず、「はげちゃび~ん!」とふざけています。微笑ましく見える一方、見方を変えれば、みつえはゆういちの気持ちを感じ取ること(共感、情動認知)が弱くなり、無神経で無遠慮で一方的になっています。認知症が進むにつれて、表情を読み取る能力(表情認知)も弱くなり、同時に本人も徐々に無表情になっていきます。 みつえは「父ちゃん(夫)もたかよ(子どもの時に亡くなった妹)も死んでからの方がようウチに会いに来てくれたとよ」と言います。ゆういちが「死んでるって知っとっと?」と聞くと、「何ば言うとるね!父ちゃんもたかよも死んどろうもん」と笑顔で答えます。過去にみつえの脳に紡(つむ)がれた人生の「模様」が映る記憶の「織物」が解(ほど)けていき、現在の現実世界に混じり合っています。相手(社会)との共通の時間感覚や論理性が揺らぎ、自分を適切に振り返ること(自己認識、メタ認知)が難しくなっています。 みつえは、だまされやすくなり、相手の気持ちが分かりにくくなり、自分を振り返りにくくなっています。しかし、裏を返せば、素直で天真爛漫なお人好し、つまり無邪気になっていると言えます。 これらは、人とうまくやっていくための社会的な能力が低くなっていく症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(社会的認知の障害)。従来は「理解力の低下」という曖昧な用語を使っていました。社会的認知とは、精神医学用語で、相手の気持ちを察して相手(社会)に対して適切に振る舞うという意味で、社会的能力とも呼ばれます(表2)。日常用語の社会的認知は「広く世間(社会)に知れ渡っている(認められている)」という意味ですので、この違いに注意が必要です。 表2 社会的認知   意味 心の理論 相手の気持ちを推し量る 共感性 相手の気持ちを感じ取る 表情認知 相手の表情を読み取る 社会性 相手(社会)にうまく合わせる 理性的抑制 相手(社会)のために我慢する 自己認識 自分(の気持ち)を振り返る(推し量る) 私たちはなぜ無邪気ではないのか?―新しい診断基準(DSM-5)のポイント ゆういちが、営業の仕事をサボって、出先の公園で趣味のギターの練習をしている時に、上司から電話がかかってくるシーン。何をしているかと聞かれて、「せっかくこっちに来たけんですね、いくつか広告ば取ろうと思って何件も回っとっとですよ」「えっ、どこばどげん回っとかってですか?」「いや~あの何件も回り過ぎてよう確認しとらんですね」とうまく取り繕うとしています。また、ゆういちは、みつえを自宅で介護することに限界を感じている時、施設に入所させるか思い悩んでいます。さらに、ゆういちは、認知症のみつえに冗談を交えて接しています。 このようなその場をしのぐウソ、気遣いによる苦悩、そして場を和ませるユーモアなどは、私たちがより良い人間関係を築き、立ち振る舞おうとするズルさであり賢さでもあります(社会的認知)。これは、「人間性」「人間らしさ」そのものです。これが、社会生活を送る私たちが決して無邪気ではない答えでもあります。 対照的に、みつえは無邪気です。その無邪気さとは、ウソもつけないですが、先読みや裏読みもできず、お世辞や冗談も思い付かず、悩みや葛藤がなくなるということです。 新しい診断基準では、認知症の中心的な症状のとらえ方が、従来の記憶障害から、社会的認知の障害へとシフトしていると言えます。なぜなら、そもそも認知症にまつわる困難は、物忘れそのものよりも、周囲の人の気持ちや自分の状況を分からなくなることだからです。 表3 認知症の診断基準 DSM-IV-TR DSM-5 映画のエピソード例 記憶障害 →学習と記憶の障害 電話の受話器を戻し忘れることを繰り返す 失語 →言語の障害 言葉の言い間違え、言葉数が少なくなる 失認 知覚―運動の障害 薄毛を見ないとゆういちの顔が分からなくなる字の書き方が分からなくなる 失行 実行機能障害 料理ができない ― 複雑性注意の障害 すぐそばのメモや車の動きに気付かない ― 社会的認知の障害 振り込め詐欺にだまされるゆういちが痛がっている様子が分からないすでに死んでいる夫や妹に会えると考えている 認知症の行動・心理症状(BPSD) これまで紹介してきた6項目の診断基準は、認知症状(中核症状)と呼ばれます。ここから二次的に現れる症状は、認知症の行動・心理症状(BPSD、周辺症状)と呼ばれます。これらをいくつか見てみましょう。 (1)幻覚 みつえがゆういちに「なあ、さっきたかよ(子どもの時に亡くなった妹)が来て、天草にいっしょに行こうて言うてくれたとばい」「そのあと父ちゃん(すでに亡くなった夫)が来て」「ウチの手ばずーとしっかりと握ってくれらしたと」「ごめんな~ごめんな~ヘヘヘヘッ」と楽しげにのろけます。みつえは見えないものが見えていることになります(幻覚)。この症状は、過去の記憶と現在の現実世界が区別しにくくなり(社会的認知の障害)、記憶を現実のものと認識し知覚してしまうことで起こります。 ちなみに、東北地方に伝わる「座敷わらし」は、認知症の幻覚、特にレビー小体型認知症の「幻の同居人(小人幻視)」の症状である可能性があります。「座敷わらしが出てくるとその家は栄えて、いなくなるとその家は傾き落ちぶれる」という言い伝えは、裏を返せば、経済的に恵まれている家は、認知症の人を養う余裕があり、結果的にその認知症の人が座敷わらし(幻覚)を見ることになります。逆に、貧しい家は、認知症の人を養う余裕がなく、座敷わらし(幻覚)を見てしまう認知症の人がいないということです。つまり、正確には「座敷わらしは、栄えている家には出てくるが、落ちぶれた家には出てこない」ということです。 (2)妄想 さきほどの電話の受話器の戻し忘れのシーンで、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返しています。ここから分かることは、みつえは自分に非があるという認識ができず(社会的認知の障害)、叱られた理由の辻褄を合わせようとして(合理化)、「息子が親を悪く言うようになった」とひがみっぽくなっています(被害念慮)。 さらに、ひがみっぽさから、家族からいじめられていると思い込むことがあります(被害妄想)。例えば、お金をどこかに隠した後、隠したこと自体を忘れてしまった場合、お金がないことに気付くと「(家族の誰かに)お金を盗られた」という思い込みに発展します(もの盗られ妄想)。 (3)誤認 みつえは、ちいちゃん(すでに亡くなった幼馴染み)に書いた手紙の返事が来ないと郵便配達員にたずねた過去を、グループホームで思い出しているシーン。その直後にやって来たまさき(孫)を見て、「ちょっと待っとって、郵便屋さん」「書いてますけん」と言います。これは、過去の記憶と現在の現実が区別しにくくなることに加えて(社会的認知の障害)、孫の顔の認識ができなくなっていることで(知覚―運動の障害)、目の前にいる孫を郵便配達員と人違いしています(人物誤認)。 また、グループホームの別の認知症の女性は、ゆういちの薄毛を見て、女学校時代に憧れだった教師と人違いしています。 (4)逸脱行動、感情失禁 入所中の認知症の男性が、若い女性スタッフの胸を次々と触るシーンがあります。ゆういちは思わず「あの子も触られるっとですか?」と思わずうらやましそうに言ってしまいます。これは、ルールを守るために欲求を抑える心の働き(理性的抑制)が弱まっていることで(社会的認知の障害)、性的にみだらになってしまう症状です(性的逸脱行動)。その後、この男性は叱られますが、感情を抑える心の働き(理性的抑制)が弱いことで、簡単に泣き出してもいます(感情失禁)。 社会的認知の障害はなぜ目立つのか? 「認知症の人はなんで無邪気なの?」という最初の疑問への答えは、これまで紹介してきた社会的認知の障害による症状が出てくるからであると言えます。それでは、そもそもなぜ社会的認知の障害は目立つのでしょか? このさらなる疑問を、進化心理学・進化精神医学の視点で探ってみましょう。 人間の脳において、意識的な活動のエネルギーは5%しか消費されていません。修復と維持に20%が消費されます。そして、実は残りの75%は、無意識的な活動のエネルギーに消費されていることが最近の研究で分かってきました(デフォルトモードネットワーク)。この脳活動は、何もせずに頭を働かせていないと高まり、課題などで意識的に頭を働かせると低まります。それにしても、あまりにもエネルギーを使い過ぎているようにも思えるこの無意識的な脳活動とは一体何でしょうか? それは、はっきりしたことはまだ解明されていませんが、ぼんやりと思い浮かべること(記憶の検索)、自分がいつどこにいるかなどの自分の状況を把握すること(見当識)、自分を振り返ること(自己認識)などの活動が考えらえています。これは、ちょうど世界(相手、社会)に対して自分をうまく関係付け、位置づけていくための高度な脳活動です。さらには、社会的認知につながる能力というふうにも考えられます。 例えるなら、脳という「コンピュータ」は、世界(相手、社会)という「キーボードタッチ」や新奇な状況という「コンピュータウィルス」への察知のために、脳活動全体の75%の「電力」を使い、常に「待機状態」になっているということです。そして、この「待機状態」の脳活動は、最も「電力」が費やされて動かされているため、いち早く「故障」しやすいということが考えられます。実際に、この脳活動の部位は、アルツハイマー病で脳血流が低下する部分にほぼ一致しています。これが、「認知症ではなぜ社会的認知の障害が目立つのか?」という疑問への答えです。実行機能の正体は? 実行機能障害は、認知症のもともとある診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この実行機能は、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? 社会的認知(社会脳)の進化の流れを説明します。その出発点は、原始の時代、私たちの祖先が、競争と協力をうまく使い分けるため、相手の心の視点に立つ能力を得たことです(心の理論)。すると、自分を離れて外から自分自身を見る視点が得られます(自己認識)。これは、自分は、相手を見ていると同時に相手から見られているという2つの視点に立つことでもあります(メタ認知)。さらには、同時並行的にものごとを考え記憶することができるようになります(ワーキングメモリー、作動記憶)。 複数の視点(メタ認知)を持つことで、連続的な時間軸の中で、過去・現在・未来を別々の時間帯(視点)として認識できるようにもなります。だからこそ、過去の振り返りを現在に行い、未来に生かすことができます。こうして、計画を立ててものごとをうまく成し遂げることができるようになるのです(実行機能)。 実行機能は社会的認知がつながっているという説明を端的にすると、社会的認知が相手(人)の心に視点が置かれているのに対して、実行機能は時間軸に視点が置かれているというだけの違いであるということです。複雑性注意の正体は? 複雑性注意の障害は、認知症の新しい診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この複雑性注意も、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? それは、社会的認知を源とするさきほどの同時並行的にものごとを考え記憶すること(ワーキングメモリー)とは、一度に複数の注意を向けることでもあるということです(複雑性注意)。いわゆる「ながら行動」です。 その「メモリー容量」は、数字なら約7個、文字なら約6個、単語なら約5個であることが分かっています(マジカルナンバー7±2)。この数は、注意(認知)し行動する内容の複雑さによって変わってきます。例えば、食事会で皆がいっしょに話せる人数は4人が限界ではないでしょうか? 5人以上だと、自然と4人以下の少人数に分かれていきます。また、会議での積極的な発言者は4、5人までが一般的ではないでしょうか? 残りの人たちは、「観客」と化していることが多いです。なぜなら、これが人間の脳の「メモリー容量」の限界だからです。それ以上の人数の人たちがそれぞれ違う発言をする場合、多くの人が混乱してストレスになるからです。それをみんな無意識に理解していると言えます。だからでしょうか? 暗証番号は、皆が余裕を持って覚えられる4桁が通常です。クレジットカード番号も4桁ごとに分けられています。 複雑性注意は社会的認知につながっているという説明を端的にすると、社会的認知が認知の質に力点が置かれているのに対して、複雑性注意は注意(認知)の量(数)に力点が置かれているというだけの違いであるということです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのか? みつえは、亡くなった夫が現れたと楽しげにのろけています。しかし、かつてはその夫は酒癖が悪く、みつえは大変に苦労していたのでした。良い思い出ばかりを思い出し、悪い思い出は忘れてしまっているようです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのでしょうか? 一般的にも、これは「記憶美人」と呼ばれます。 その理由は、悪い思い出は、社会的認知に関わる記憶が多いからであることが考えられます。例えば、人間関係においての苦労や後悔などです。一方、良い思い出は、より原始的な欲求に関わる記憶なので、比較的残りやすいことが考えられます。例えば、満足や愛情(愛着)などです(ドパミン系)。 認知症で悪い思い出は忘れてしまうとは、まさに「邪気」(悪意、悪感情)がなくなり、無邪気になるということです。社会的認知から考える認知症のリハビリテーションは? 認知症の問題が単なる記憶の問題だけではないことを知った今、単に記憶力のトレーニングをしても効果は限られていることに気付きます。ここからは、社会的認知を踏まえて、認知症のリハビリテーションを3つご紹介しましょう。それは、役割を担うこと、自尊心を保つこと、配慮することです(表4)。役割を担う (1)お年寄りはなぜ昔話をしたがるのか?―回想法 ゆういちがみつえに注意するシーン。ゆういちが「よかね、セールスやら来たら追い払わないかんばい」「話しやら聞かんでよかけんね」と言うと、みつえは「分かっとるて」「分かっとらんけん言いよったい」「あんましわめくと夜声八丁(夜の声が八丁先まで響く妖怪)が来っぞー!」と、子どもの時のゆういちに接しているように脅します。ゆういちは「こん頃の事ば忘れて昔の事ばっか言うとさね」と嘆いています。 認知症のあるなしにかかわらず、お年寄りは昔話をよくします。もちろん認知機能の低下により、最近のもの覚えが悪くなり(短期記憶の障害)、比較的残っている昔の思い出を代わりに話していると説明することはできます(長期記憶の保持)。しかし、それだけでしょうか? むしろ、多くのお年寄りはあえて昔話をしており、この現象には普遍性がありそうです。長期記憶が保持されることに意味があるのではないかということです。ここから考えられることとして、お年寄りが昔話をすることで心の健康がより保たれる可能性があります。この理由を進化心理学的に考えてみましょう。 私たちの祖先が言葉を話すようになった20万年前からの原始の時代、文字はまだありませんでした。文字が発明されたのはたかだか数千年前です。ましてや、現代のようなインターネットもありません。そんな中、私たちの祖先は、共同体の生存の確率を高めるため、遠い昔に起こった自然災害や部族間の戦争の記憶を、生きる知恵や戒めとして次世代に語り継ぎました。一部は、伝説や神話に形を変えたでしょう。このような言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔が私たちです。そして、生き字引としての語り部の役割を担ったのが、経験豊富なお年寄りだったのではないでしょうか? そういうお年寄りは、今でも発展途上国などの未開の地では、長老として敬(うやま)われています。つまり、お年寄りが昔話をするのを好むのは、遺伝子にプログラムされている可能性があるということです。この遺伝子によって、共同体の子孫の生存率(包括適応度)は高められたのでしょう。 現代の高度な情報化社会では、お年寄りが昔話をする必要はなくなってしまいました。しかし、お年寄りが昔話をしようとする原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、進化論的に考えれば、原始の時代の環境に適応していた心身に近付けるため、私たちが運動をして心身の健康を保っているのと同じように、お年寄り、特に認知症の人に昔話をあえてしてもらうことで、心の健康をより保つことができるということです(回想法、思い出ノート)。 (2)お年寄りはなぜ孫を見たいのか?―おばあちゃん仮説 みつえは、認知症が進む前、孫のまさきをよく気にかけています。祖父母が孫の幸せを願うのは普遍性があり、当たり前であると皆さんは思うでしょう。さらには、特に祖母が、母親を支えて孫を見ることで、心の健康が保たれるという研究仮説があります。それは、「おばあちゃん仮説」「祖母効果」と呼ばれています。 そもそもほとんどの動物は、繁殖が終わる年齢と寿命はだいたい一致しています。つまり、繁殖力がなくなった時が寿命の尽きる時です。しかし、私たち人間の女性は違います。50歳前後で閉経を迎えて繁殖力がなくなった女性が長生きすることには進化論的な意味があるということです。 その意味とは、1つには、50歳以上で出産しなくなるのは、子どもの生存率を下げない理由があるということです。たとえば、50歳以上の高齢出産では母子ともに死亡するリスクが高まります。すると、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります。たとえ出産が成功しても、その子どもがぎりぎり独り立ちできる10歳になるまでに、子育てをする母親が当時の寿命(60歳くらい?)を迎えると、子どもの生存が危うくなります。さらには、ダウン症などのように高齢出産で生まれた子どもは生存率が低いため、その育児の負担(コスト)が高まることで、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります もう1つには、繁殖を終えるのと引き換えに、まだ体力のある祖母が、子育てをする次世代の自分の娘(母親)を助けることで、娘の繁殖力を高め、孫の生存率を高めることです(包括適応度)。いわゆる「おばあちゃん子」の存在も、「祖母効果」の延長線上にあるものと考えられます。 都市化、核家族化、少子化した現代では、お年寄りが孫を見る機会はぐっと減りました。しかし、お年寄りが孫を見たいという原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、お年寄り、特に祖母が孫や地域の子どもたちを見ることで、心の健康をより保つことができるのではないかということです。例えば、最近では、グループホームなどの「託老所」(介護施設) と託児所を併設し、お年寄りと子どもがお互いに交流する仕組みがつくられています(幼老統合ケア)。また、お年寄りが、小学校の校門で挨拶をしたり通学路の信号機前で安全確保をするなど、地域の子どもを見守るボランティに参加する取り組みも行われています。自尊心を保つ―お年寄りはなぜ敬(うやま)われるべきなのか? ゆういちは息子のまさきに「ばあちゃんの下着ば買うても買うても無くなるとばってんさあ」と不思議がっていました。その後、開けたタンスの引き出しから、大量の汚れた下着があふれ出てきたのでした。ゆういちは「タンスから噴き出した!」と思わず叫びます。 お年寄りは、認知機能の低下に伴い、排泄などのセルフケアに困難が出てきます。汚れた下着を洗おうにも洗濯機の使い方が分からなくなります(知覚―運動の障害)。そして、それを恥じらう自尊心は残っているため、隠すのです。しかし、うまく隠し切ることはできないのです(社会的認知の障害)。このような時、どう接するのが認知症のリハビリテーションとして望ましいでしょうか? 認知症の人は、症状が進むにつれてどんどん無邪気な子どものようになります。そんな人に、私たちはつい子ども扱いしてしまいがちです。しかし、ここで注意することは、認知症の人は子どもではないということです。認知症介護と育児について、その共通点と相違点をそれぞれ整理してみましょう。 共通点は、両者ともに自尊心を大切にすることです。これは、頼られたり、ほめられたり、ありがたがられたりすることで高まります。一方、相違点は、育児では叱ることはありますが、高齢者介護では叱ることは望ましくないです。その理由は、3つあります。1つ目は、子どもは叱られることで禁止の学習効果を得ることができますが、認知症の人は記憶の障害により学習効果が得られないからです。2つ目は、ネズミの実験結果で確かめられていることですが、叱られるなど恐怖の心理的ストレスによって、海馬領域(記憶中枢)の神経細胞の新生が抑制され、認知症状がさらに進んでしまうからです。3つ目は、認知症の人は、叱られると、自尊心が傷付けられ、BPSDが出やすくなるからです。これは、叱られた時、叱られた理由は忘れてしまっているのに、叱られた悲しみや叱った相手の記憶は比較的残っているので、理不尽に感じるからです。叱られた理由についての記憶は理性的で複雑であるため残りにくく、叱られた時の気持ちや叱った相手の記憶は感情的で単純であるため残りやすいのです(リボーの法則)。 以上より、認知症のリハビリテーションとして望ましい対応は、敬意を持って親切に接すること、決して叱らないことです。さらには、できることはさせてほめまくること、できないことはさせないことです(満点主義)。つまり、お年寄りは、敬(うやま)われることで心の健康が保たれるのです。配慮する―お年寄りはなぜ恭(うやうや)しくもてなされるべきか? さきほどのグループホームでみつえが「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び騒ぐシーンを振り返ってみましょう。みつえのような認知症の人は、目の前に見えているものと聞こえてくる声や音とに同時に注意を向けることが難しいです(複雑性注意の障害)。それでは、この点を踏まえて、みつえが騒がなくても済む方法はなかったでしょうか?  それは、注意を高めてもらうため、視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接することです(ユマニチュード)。例えば、話しかける時、少し遠くから相手の視界に入り、近付いて、視線を合わせて(視覚)、間を置いて、なるべく肩や腕へのスキンタッチをして(触覚)、ようやく声をかけることです(聴覚)。 また、その人をよく観察して行動パターンを先読みして気遣うことです(先回り)。例えば、喉の渇きやトイレなどをうまく言葉で伝えられない場合、その人の行動パターンから、「お茶をどうぞ」「トイレに行きましょうか?」などと汲み取ることです。 さらには、トイレや入浴などの介助をするとき、たとえその人の反応が乏しくても、かかわる時は話しかけ続けることです(実況生中継)。その人が大人しいから、こちらが話しかけても無言でも変わらないとみなさんは思われるかもしれません。その時は問題ないかもしれません。しかし、その後に問題が起こる可能性が高まります。理由として、自分が何をされたか分からないことでストレスがたまり、後に混乱することが考えられるからです。また、人として扱われていないように感じられて、本人の自尊心が傷付けられることが考えられるからです。つまり、こちらからどんどん働きかけることが大切なのです。 表4 社会的認知から考える認知症のリハビリテーション   例 役割を担う 昔話をしてもらう(回想法) お年寄りが子どもを見守る環境をつくる(幼老統合ケア) 自尊心を保つ 敬意を持って親切に接する決して叱らないできることはさせてほめまくり、できないことはさせない(満点主義) 配慮する 視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接する(ユマニチュード)よく観察して行動パターンを先読みして気遣う(先回り)かかわる時は話しかけ続ける(実況生中継) なぜ認知症の症状に地域差があるのか?―敬老思想 映画の舞台は長崎です。ほのぼのとした長崎弁が交わされ、とてものどかな土地柄です。東京のようなせわしない大都市とは対照的です。実は、疫学調査から、長崎のような地方と東京のような大都市とでは、認知症の症状の出方に違いがあることが分かっています。記憶障害などの認知症状は同じなのですが、行動・心理症状(BPSD)については、地方では目立たず、大都市では目立つのです。つまり、行動・心理症状の出現率に地域差があるといことです。これはどういうことなのでしょうか? そもそも原始の時代から、お年寄りは、生き字引としての指導的立場を担い、周りから敬(うやま)われ、恭(うやうや)しくもてなされてきました。「老馬の智」「亀の甲より年の功」「おばあちゃんの知恵袋」などの言い回しはまさにこれを言い当てています。つまり、共同体のメンバー全員がお年寄りをありがたがり、大事にするという敬老思想はもともとごく当たり前のことだったのです。私たちには、もともとそうすることを望ましく感じる心理が遺伝子に組み込まれている可能性があります。 ところが、近代化し情報化した現代はどうでしょうか? 特に、大都市は、スピード、生産性、効率性、競争力、結果がとても重視されます。すると、その価値観に合わない人、つまり役に立たない人はいてはならないという発想が生まれやすくなります。それは、「ボケ」が出てきたら、早く認知症と診断してもらって、早く施設に入るべきであるという発想です。そのような人がい続ければ、敬(うやま)われるどころか、迷惑で困った人として貶(おとし)められ、蔑(さげす)まれてしまいます。こうして、認知症の人は、現代では、そして特に大都市では、より自尊心を傷付けられて、行動・心理症状をより引き起こしています。まるで、現代の価値観が、認知症の患者をつくり出し、そして追いやっているようにも思えてしまいます。これは、現代の価値観の負の側面です。 一方、助け合いや敬老の精神が比較的に残っているコミュニティがある地方では、お年寄りが認知症になっても、家族や近所の人たちが協力して温かく面倒を見るので、自尊心が保たれ、行動・心理症状(BPSD)が出にくくなるというわけです。その人らしさを支える介護とは?―パーソンセンタードケア みつえは、認知症が進むにつれて、現在の現実と過去の記憶が交錯していきます。そこには、家族の歴史や絆が描かれています。まさにこの映画の醍醐味です。認知症の介護とは、症状を見るのではなく、その人の人生、つまりその人らしさを見ることであるということに私たちは気付かされます。そして、目の前のお年寄りの人たちがどういう人生を経て今ここにいるのかという物語に思いを馳せ、その人たちの心に寄り添う気持ちにさせられます。その人のことをよく知ることで、その人らしさやその人らしい生活を支えることができます(パーソンセンタードケア)。 このような介護により、お年寄りの心は満たされ、認知症の行動・心理症状(BPSD)を減らしたり、出てくるのを防ぐことができます。また、認知症状の進行を遅らせる可能性もあります。さらには、私たちの心も満たされ、楽しさやりがいを感じることができるようになります。介護する側の心のあり方とは?―かかわり方と薬のバランス ゆういちは、行きつけの喫茶店のマスターから「(介護施設に)預けると?」「はあ、そがんことするったい」「親ば捨てるやらおれはようしきらん(とてもできない)」と言われてします。ゆういちは「おれもどげんしたらよかか分からん」と苦悩します。 世間体や後ろめたさから、家族が介護を抱え込み、「介護疲れ」(適応障害)になることはよくあります。この映画では、最終的にゆういちがみつえをグループホームに入所させ、抱え込まないモデルとして描かれています。 入所後は、ゆういちの心には余裕ができて、みつえに怒鳴ることはなくなっています。そもそも家族によって介護力には限界があります。それを踏まえて、デイケアへの通所やグループホームへの入所を見極める必要があります。ポイントは、家族の介護者が介護への負担(ストレス)からやりがいを見失っていないか?「介護疲れ」に陥っていないか?ということです。 この介護者のメンタルヘルスは、家族だけでなく、私たち医療関係者(特に介護士)にも当てはまります。これまで説明しました認知症の人へのかかわり方はもちろん重要なのですが、そのかかわり方をしたからと言って必ずしも行動・心理症状(BPSD)が全く出ないというわけではありません。 介護者がやりがいを感じ続けるためには、認知症の人にうまくかかわっていくことと合わせて薬をうまく使っていく必要があります。例えば、毎夜どうしても騒ぐ場合(夜間せん妄)、夕食後に精神科薬を飲んでもらうようにすることです。また、日中にどうしても手が出てしまう場合(暴力)、日中に精神科薬を飲む必要があります。このように、かかわり方の工夫と薬の適応のバランスをとることです。認知症の人が無邪気であることとは? ラストシーンでは、車いすに乗ったみつえとベビーカーに乗った赤ちゃんがすれ違います。みつえも赤ちゃんも、無邪気で幸せそうです。そして、ゆういちは「ボケるとも、悪か事ばっかりじゃなかかもな」とつぶやきます。 かつて孫のまさきが伸び盛ったように、これからそのまさきとさとさん(グループホームの介護士)の恋が燃え盛ろうとするように、みつえが熟し衰えていくのは自然なことであると私たちは思えてきます。 認知症は、障害という特別な状態になるというよりは、老いという自然の流れの中で見られるその人らしさであるとも言えます。そもそも私たちが年を取るとはこういうことであると受け入れることが出発点です。今、私たちが身近で見ている認知症の人は、私たちの数十年後の姿かもしれません。私たちもいずれ同じようになるかもしれません。 そう考えると、その時に私たちはどんなふうにされていたいのだろうかと現在の認知症の介護のあり方を見つめ直すことができるのではないでしょうか?そして、長生きすることが幸せであると心から思える社会にしていくことができるのではないでしょうか?1)岡野雄一:ペコロスの母に会いに行く、西日本新聞社、20122)岡野雄一:「ペコロスの母に学ぶ」ボケて幸せな生き方、小学館新書、20143)山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント、協同医書出版社、20144)伊古田俊夫:社会脳からみた認知症、講談社、20145)村井俊哉:社会化した脳、エクスナレッジ、20076)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)、医学書院、20147)本田美和子ほか:ユマニチュード入門、医学書院、2014

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骨粗鬆症骨折の治療だけで終わらせないロコモ対策

 1月20日、日本イーライリリー株式会社は、「“いつのまにか骨折”のサインを見逃すな ロコモから紐解く骨粗鬆症の予防と治療」と題して、プレスセミナーを開催した。■患者の2人に1人は骨折に気付かず はじめに同社の榎本 宏之氏(臨床開発医師/メディカルアドバイザー)が、「骨粗鬆症に関する意識・実態調査」の概要を報告した。 本調査は、2014年に医療施設を受診し、骨粗鬆症と診断された60歳以上の女性515人へのインターネットアンケート調査をまとめたもので、その結果から患者の骨粗鬆症への認識不足などが明らかとなった。 「骨折で寝たきりになることへの不安感」では75.9%が不安を感じており、「骨粗鬆症への気付き」については、自分で意識して医療機関を受診した人はわずか14.2%しかいなかった。「骨粗鬆症による骨折経験」では、23.8%と約4人に1人が経験し、また70歳以上では28.6%と、その経験値は年齢とともに上昇する傾向が報告された。さらに骨折経験のある122人への調査では「骨折への気付き」については、56.6%と約2人に1人が骨折と気付いていなかったことが報告された。 骨粗鬆症のサインである「腰の痛み」を感じて整形外科などの専門医を受診したかどうかの問いには、313人のうち49.1%が受診をしていないと回答し、骨粗鬆症への意識の低さをうかがわせた。 最後に榎本氏は、「潜在患者の多い骨粗鬆症について、疾患の認識を持ってもらうことで、適切な治療を享受できる確率を高め、健康寿命延伸に貢献するためのさまざまな疾病啓発活動を行っていきたい」と述べた。■骨折の治療がゴールではない!その先の予防へ 続いて大江 隆史氏(名戸ヶ谷病院 院長)が、「骨脆弱性骨折の意味に気づく –ロコモティブシンドローム予防の観点から- 」をテーマに、骨粗鬆症による骨脆弱性骨折とロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)への取り組みについて、レクチャーを行った。 はじめに骨脆弱性骨折について説明。X線所見で、骨粗鬆症による脊椎椎体骨折などの3つのパターンを例示した。最近ではこうした骨脆弱性骨折の患者が、女性の高齢者を中心に増加している。とくに大腿骨近位部骨折は80歳代後半の患者に多くみられ、骨折した場合、手術も大がかりなものとなり血流障害もみられるために、骨折の治療も治療後のリハビリテーションも難しいなど、臨床上の問題点を語った。また、通常骨粗鬆症の診断では骨密度の測定が必要なところ、現在では脆弱性骨折が確認されれば、それで骨粗鬆症と診断していることが説明された。 次にロコモティブシンドローム、すなわち「加齢による運動器障害(骨粗鬆症、変形性関節症、神経障害など)のため、移動機能の低下を来した状態」で「進行すると要介護状態を招く」とされる疾患への予防とその取り組みについて解説した。 現在、「要支援・要介護の原因」の第1位は「運動器の障害」となっている。整形外科で入院手術を受けた患者の年齢別割合では70歳代が最も多く、圧倒的に骨折によるものが多いことが報告された。そして、現在研究中の“ROAD study”よりロコモの原因となるコモン・ディジーズの有病率では、骨粗鬆症の有病率が60歳以上の女性で多くみられ(たとえば大腿骨頸部骨折で20%以上)、ロコモの予防では骨粗鬆症をいかに治療するかが重要となると指摘した。 ロコモの視点からみた骨脆弱性骨折の治療で大事なことは、「(1)従来の骨折治療、(2)骨折原因となった骨粗鬆症への治療、(3)骨折で移動能力が低下している患者の機能をさらに低下させない治療であるが、今後はとくに(2)と(3)が重要になる。目の前の骨折の治療で終わらせるだけでなく、その原因である骨粗鬆症の治療も進め、骨粗鬆症で1度骨折した患者がさらに2度目、3度目の骨折をしないようにすることが、ロコモの予防につながる」とレクチャーを終えた。日本イーライリリー 骨そしょう症のコーナー

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筋骨格系慢性疼痛へのウォーキングは有用?

 英国・クイーンズ大学ベルファストのSean R. O’Connor氏らは、筋骨格系慢性疼痛患者の疼痛や機能に対するウォーキングの効果を検討する目的でシステマティックレビューを行った。その結果、ウォーキングは対照と比較して疼痛や機能の有意な改善と関連していることを明らかにした。ただし、長期的な効果については不明であったとしている。著者は、「筋骨格系慢性疼痛に対する効果的な介入法としてウォーキングが推奨されるが、介入維持を目的とした戦略、ならびに健康に関連した効果に関するさらなる検討が必要」とまとめている。Archives of Physical Medicine and Rehabilitation誌オンライン版2014年12月18日号の掲載報告。 研究グループは、6つのデータベース(Medline、CINAHL、PsychINFO、PEDro、Sport Discus and the Cochrane Central Register of Controlled Trials)を用いて1980年~2014年3月までの論文を検索し、慢性腰痛、変形性関節症または線維筋痛症の成人患者を対象に、ウォーキングと非運動/非ウォーキングを比較した、ランダム化および準ランダム化試験26件(2,384例)を選択した。 データの方法論的質については、米国予防医学専門委員会(USPSTF)のシステムを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・17件がランダム効果モデルを用いたメタ解析の対象となった。・追跡期間別に解析した結果、ウォーキングは短期(無作為化後8週)、および中期(無作為化後2ヵ月超12ヵ月以内)の疼痛軽減(軽度~中等度改善)と関連した。それぞれ平均群間差(MD)は-5.31(95%信頼区間[CI]:-8.06~-2.56)、-7.92(同:-12.37~-3.48)であった。・機能については、短期(MD:-6.47、95%CI:-12.00~-0.95)、中期(同:-9.31、-14.00~-4.61)および長期(12ヵ月超)(同:-5.22、-7.21~-3.23)のいずれにおいても改善が認められた。

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重度アルツハイマー病に心理社会的介入は有効か:東北大

 重度アルツハイマー病に対する心理社会的介入は有効なのか。東北大学の目黒 謙一氏らは、重度アルツハイマー病患者に対する薬物療法に心理社会的介入を併用した際の効果を明らかにするため、介護老人保健施設入所患者を対象に前向き介入試験を実施した。その結果、意欲改善やリハビリテーションのスムーズな導入、および転倒事故の減少がみられたという。著者は、「心理社会的介入の併用治療アプローチは、重度の患者に対しても有用な効果を示した。ただし、より大規模なコホートを用いて再検証する必要がある」と述べている。BMC Neurology誌オンライン版2014年12月17日号の掲載報告。 コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー病(AD)の進行を遅らせることができ、中等度~重度ADに対する臨床的効果が、複数の臨床試験により首尾一貫して報告されている。また、軽度~中等度AD患者においては、心理社会的介入との併用による効果が報告されているが、重度AD患者に対する同薬と他の治療アプローチもしくはリハビリテーションを併用した際の効果については議論の余地が残っている。そこで研究グループは、介護老人保健施設入所患者を対象に、前向き介入試験を実施した。 2ヵ所の介護老人保健施設(N1、N2)を対象とした。N1は126床の施設で、ドネペジルでの治療は行わずに心理社会的介入のみ(現実見当識訓練[リアリティオリエンテーション]および回想法)を実施した。N2は認知症特別室50床を含む150床の施設で、ドネペジルを処方し、心理社会的介入に加えてリハビリテーションが実施された。N1およびN2の重度AD患者(MMSE<6)32例(16 vs. 16)を対象として、心理介入療法の有無別(各施設8 vs. 8)に、ドネペジル(10mg/日、3ヵ月間投与)の効果を比較した。意欲の指標としてVitality Indexを用いて日常生活行動とリハビリの導入について評価した。 主な結果は以下のとおり。・N2におけるドネペジルの奏効率(MMSEが3+)は37.5%であった。・ドネペジル+心理社会的介入は、Vitality Indexの総スコア(Wilcoxon検定のp=0.016)、およびサブスコアのコミュニケーション(p=0.038)、食事(p=0.023)、リハビリテーション(p=0.011)を改善した。・大半のリハビリテーションはスムーズに導入され、転倒事故の頻度が減少した。・薬剤を使用していないN1での心理社会的介入では、総スコアの改善のみ認められた(Wilcoxon検定、p=0.046)。関連医療ニュース 認知症患者への精神療法、必要性はどの程度か 認知機能トレーニング/リハビリテーションはどの程度有効なのか 統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大  担当者へのご意見箱はこちら

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在宅で診る肺炎診療の実際

■在宅高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎在宅高齢者の発熱の原因として最も多いのは肺炎である1)。在宅医療を受けている患者の多くは嚥下障害を起こしやすい、脳血管性障害、中枢性変性疾患、認知症を患っており、寝たきり状態の患者や経管栄養を行っている患者も含まれていて、肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎である。日本呼吸器学会は2005年に「成人市中肺炎診療ガイドライン(改訂版)」を、2008年には「成人院内肺炎診療ガイドライン」を作成したが、在宅高齢者の肺炎診療に適するものではなかった。その後、2011年に「医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」が作成された。NHCAPの定義と発症機序は表1 2)および表2 2)に示されるように、在宅療養患者が該当しており、その特徴は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、その本質は高齢者における誤嚥性肺炎を中心とした予後不良肺炎と、高度医療の結果生じた耐性菌性肺炎の混在したもの、としている。本稿では、NHCAPガイドライン(以下「ガイドライン」と略す)に沿って、実際に在宅医療の現場で行っている肺炎診療を紹介していく。表1 NHCAP の定義1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む)2.90日以内に病院を退院した3.介護を必要とする高齢者、身障者4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている・介護の基準PS3: 限られた自分の身の回りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、以上を目安とする表2 NHCAP の主な発症機序1.誤嚥性肺炎2.インフルエンザ後の2次性細菌性肺炎3.透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎(MRSA肺炎など)4.免疫抑制薬や抗がん剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎を受けている■在宅での肺炎診断在宅患者の診察では、平素より経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定しておき、発熱時には変化がないかを必ず確認する。高齢者は、咳や痰などの一般的症状に乏しいが、多くの場合で発熱を伴う。しかし、発熱を伴わない場合もあるので注意する。聴診所見では、必ずしも特異的な所見がなく、脱水を伴っている場合はcoarse crackleは聴取しにくくなる。血液検査では、発症直後でも上昇しやすい白血球数を参考にするが、数が正常でも左方移動がみられれば有意と考える。CRPは、発症直後には上昇しにくいので、発症当日のCRP 値で重症度を評価することはできない。必要に応じてX線ポータブル検査を依頼する。■NHCAPにおける原因菌ガイドラインによると原因菌として表3 2)が考えられている。表3 NHCAP における原因菌●耐性菌のリスクがない場合肺炎球菌MSSAグラム陰性腸内細菌(クレブシエラ属、大腸菌など)インフルエンザ菌口腔内レンサ球菌非定型病原体(とくにクラミドフィラ属)●耐性菌のリスクがある場合(上記の菌種に加え、下記の菌を考慮する)緑膿菌MRSAアシネトバクター属ESBL産生腸内細菌ガイドラインでは、在宅療養している高齢者や寝たきりの患者では、喀出痰の採取は困難であり、また口腔内常在菌や気道内定着菌が混入するため、起因菌同定の意義は低く、診断や治療の相対的な判断材料として用い、抗菌薬の選択にはエンピリック治療を優先すべきである、とされている。実際の現場では、喀出痰が採取できる患者は肺炎が疑われた場合、抗菌薬を開始する前にグラム染色と好気性培養検査を依頼し、初期のエンピリック治療に反応が不十分な場合、その結果を参考に抗菌薬の変更を考慮している。■ガイドラインで示された治療区分とはガイドラインでは、市中肺炎診療ガイドラインで示しているような重症度基準(A-DROP分類)では、予後との関連がはっきりしなかったため、治療区分という考え方が導入された。この治療区分(図1)2)に沿って抗菌薬が推奨されている(図2)2)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するここでのポイントは、耐性菌のリスクの有無(90日以内の抗菌薬の投与、経管栄養があり、MRSAが分離された既往歴)が、問われていることである。■在宅患者における肺炎の重症度判断PSI(pneumonia severity index)は、患者を年齢、既往歴、身体所見・検査所見の異常など20因子による総得点により、最も正確に肺炎の重症度判定ができる尺度として有名である。そこで筆者の診療所では在宅診療対象患者のみを対象に、血液検査・画像所見の結果がなくても肺炎の重症度を推定できる方法はないかを検討した。身体所見や患者背景から得られた総得点をPSI for home-care based patients(PSI-HC)と名付け、この得点を基に患者を分類したところ、血液検査や画像所見がなくても予後を反映するものであった3)。当院ではそれを基に「発熱フェイスシート」を作成し、重症度の把握と家族への説明に利用している(図3)。なお、図中の死亡率は1年間における97人の肺炎患者をレトロスペクティブにみた値であり、今後さらなる検討が必要な参考値である。画像を拡大する■在宅における肺炎治療の実際実際の現場では、治療区分で入院が必要とされるB群でも、連日の抗菌薬投与ができるようであれば在宅での治療も可能である。先述したように、喀出痰が採取できない症例が多いため、在宅高齢者の肺炎の起因菌についての大規模なデータはないが、グラム陰性菌、嫌気性菌が主な起因菌であるといわれている。グラム陰性菌に抗菌力が強く、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌や一部の嫌気性菌を広くカバーする、ニューセフェムやレスピラトリーキノロンを第1選択としている。●経口投与の場合:レボフロキサシン(商品名:クラビット[LVFX])、モキシフロキサシン(同:アベロックス[MFLX])LVFXは1日1回500mgを標準投与量・法とする。腎排泄型の抗菌薬であり、糸球体濾過量(GFR)に応じて減量する。MFLXは主に肝代謝排泄型の抗菌薬であり、腎機能にかかわらず、1日1回400mgを標準投与量とする。●静脈投与の場合:セフトリアキソン(同:ロセフィン[CTRX])血中半減期が7~8時間と最も長いので1日1回投与でも十分な効果を発揮し、胆汁排泄型であることからGFRの低下を認める高齢者にも安心して使用できる。CTRXは緑膿菌に対して抗菌力がほとんどなく、ブドウ球菌、嫌気性菌などにも強い抗菌力はないといわれており、ガイドライン上でも誤嚥性肺炎には不適と記載されているが、筆者らは誤嚥性肺炎を含む、肺炎初期治療としてほとんどの患者に使用し、十分な効果を認めている。また、過去90日以内に抗菌薬の使用がある場合にも、同様に効果を認めている。3日間投与して解熱傾向を認めないときには、耐性菌や緑膿菌を考慮した抗菌薬に変更する。嫌気性菌をカバーする目的で、クリンダマイシン内服の併用やブドウ球菌や嫌気性菌に、より効果の強いニューキノロン内服を併用することもある。■入院適用はどのような場合か在宅では、病院と比較すると正確な診断は困難である。しかし、全身状態が保たれ、介護する家族など条件に恵まれれば、在宅で治療可能な場合が多い。筆者らは、先述した在宅患者の肺炎の重症度(PSI-HC)を利用して重症度の把握、家族への説明を行ったうえで、患者や家族の意思を尊重し、入院治療にするか在宅治療にするかを決定している。在宅高齢者が入院という環境変化により、肺炎は治癒したけれども、認知機能の悪化やADL低下などを経験している場合も少なくない。過去にそのような体験がある場合には、在宅でできる最大限の治療を行ってほしいと所望されることが多い。ただ、医療的には、高度の低酸素血症、意識低下や血圧低下を伴う重症肺炎や、エンピリック治療で正しく選択された抗菌薬を使い、3日~1週間近く治療を行っても改善傾向が明らかでない場合に入院を検討している。また、介護面では重症度にかかわらず、介護量が増えて家族や介護者が対応できない場合にも入院を考慮している。■肺炎予防と再発対策誤嚥性肺炎の治療および予防として表42)が挙げられる。表4 NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針1)抗菌薬治療(口腔内常在菌、嫌気菌に有効な薬剤を優先する)2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)3)口腔ケアを行う4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE阻害薬、シロスタゾール、など)6)意識レベルを高める努力(鎮静薬、睡眠薬の減量、中止、など)7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止8)栄養状態の改善を図る(ただし、PEG〔胃ろう〕自体に肺炎予防のエビデンスはない)9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましいガイドラインではNHCAPの主な発症機序として誤嚥性肺炎のほか、インフルエンザと関連する2次性細菌性肺炎の重要性が提案されており、わが国でも高齢者施設におけるインフルエンザワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの効果がはっきり示されたこともあり、両ワクチンの接種が勧められる4)。日々の生活の中では、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションは重要であり、歯科医師・歯科衛生士や言語聴覚士との連携で、より質の高いケアを提供することができる。●文献1)Yokobayashi K,et al. BMJ Open. 2014 Jul 9;4(7):e004998.2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 2011.3)Ishibashi F, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Mar 12 . [Epub ahead of print].4)Maruyama T,et al. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.●関連リンク日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン

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Dr.ハギーの関節リウマチ手とり足とり~もっと工夫してみる~ <長期罹患編>

第1回 長期罹患患者への対応      ~時間の経過に逆らって~ 第2回 慢性的な痛みへの対応      ~「痛みに慣れる」ということは無い~ 第3回 リハビリテーション      ~患者さんを優しく導け!~第4回 注意すべきは関節外症状      ~RAは全身疾患だ!~ 第5回 合併症マネジメント     ~関節はもちろん、生活を守れ!~ 第6回 関節リウマチの手術療法     ~手術にも「機会の窓」がある!~ 第7回 リウマチ診療落ち穂拾い     ~外来診療スキルアップ~ 何十年と長期で関節リウマチを患っている患者は、近年著しく進歩した関節リウマチ診療の恩恵を十分に受けられていないのが現実です。しかしながら、長期罹患患者でも現在の関節炎と身体障害の程度を適切に評価し、可能な限り疾患活動性を低くする治療を行うことで、QOLを高めることはできます。つまり長期罹患患者に対しても、プライマリケア医ができることはたくさんあるのです。Dr.ハギーが実践している、プライマリケア医ができる長期罹患患者への診療の工夫を、手とり足とりお伝えします!第1回 長期罹患患者への対応 ~時間の経過に逆らって~ 何十年と長期にわたって関節リウマチを患っている患者さんの治療はどうすればよいのでしょうか?話題の生物学的製剤も、曲がってしまった関節を元に戻すことはできません。でも、あきらめてはいけません。適切な治療を行えば、患者の痛みをやわらげ、生活の質を高めることができるのです。Dr.ハギーが実践している、プライマリ・ケア医ができる長期罹患患者への診療の工夫を手とり足とりお伝えします。第2回 慢性的な痛みへの対応 ~「痛みに慣れる」ということは無い~ 関節が痛いと訴える患者さんに、漫然とNSAIDsやステロイドを投与していませんか?NSAIDsやステロイドは即効性に優れていますが、効きめがあるからといって長期間使用すると重篤な副作用をもたらすリスクが高まります。Dr.ハギーが推奨するのは、「可能な限りステロイドは減量し、NSAIDsの連用は避ける」ことです。そのために実践しているさまざまな工夫をレクチャーします。患者さんそれぞれに合った治療計画を考えていきましょう。第3回 リハビリテーション ~患者さんを優しく導け!~ 炎症のある関節に負担をかけると悪化するのでは?という考えから、関節リウマチ長期罹患患者へのリハビリテーション指導を躊躇される先生もいらっしゃるかもしれません。もちろん過度な関節の使用は控えなければなりませんが、関節を動かすのは関節そのものではなく付近に付着する腱・筋肉などで、その部分の無動が続くと動かしにくくなってしまいます。そのため関節を動かす筋肉のストレッチや、関節に負担をかけない「等尺性収縮運動」を指導することが大事になってくるのです。Dr.ハギーが実演する、診察室内でできるリハビリテーション指導を覚えて、明日からの診療に生かしてください。第4回 注意すべきは関節外症状 ~RAは全身疾患だ!~ 関節リウマチは関節だけの病気ではありません。実は、関節以外の様々な合併症を伴いやすい全身疾患なのです。昨今、重篤な関節外合併症は概ね減少傾向にありますが、肺疾患は依然として今日の関節リウマチ診療の中で大きな問題となっています。どんな肺疾患が起こるのか?肺に安全な抗リウマチ薬は?この回では、関節リウマチの肺合併症の中でも特に代表的な間質性肺炎を中心に、手とり足とり解説していきます。第5回 合併症マネジメント ~関節はもちろん、生活を守れ!~ 関節リウマチにおける心血管リスク因子として、「遷延する炎症」「NSAIDs/COX-2阻害薬の長期服用」「ステロイドの長期服用」が考えられます。これらリスク因子がどんな心血管疾患と結びつくのか?また、対処方法はあるのでしょうか?関節リウマチと心血管疾患とのつながりをしっかり押さえておきましょう。第6回 関節リウマチの手術療法 ~手術にも「機会の窓」がある!~ 関節リウマチの薬物療法の著しい進化はすでに解説してきましたが、近年、整形外科手術も大変進歩し、人工関節素材の向上や、3DプリンターとCT画像を組み合わせた精度の高い術前計画が立てられるようになりました。ここでのプライマリケア医が持つ重要な役割は、「整形外科医へのコンサルトのタイミングを逸さない」こと。関節リウマチ手術のタイミングは個々の症例によって異なります。どのような病態が手術適応となるのか?それによってどのくらいQOLの改善が期待できるのか?きちんと学んでいきましょう。第7回 リウマチ診療落ち穂拾い ~外来診療スキルアップ~ 長期に罹患している関節リウマチ患者に対してもできることはたくさんある、というDr.ハギーの思いのもと、適切な薬物療法や診察室でできるリハビリテーション、合併症についてなど、プライマリケア医ができる診療の工夫や知っておくべき項目を数々学んできました。最終回は、今後さらなる発展が期待できる画像検査や新規薬剤、栄養療法の3つを中心にレクチャーしていきます。「リウマチ科医の聴診器」としての地位を築きつつある関節・筋骨格の超音波検査や、新薬開発の今後など、これからの関節リウマチ診療の進展にもぜひ注目してください。

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事例25 リハビリテーション総合計画評価料の査定【斬らレセプト】

解説事例では初診患者にH003-2リハビリテーション総合計画評価料を算定したところ、A事由(医学的に適応と認められないもの)を理由に査定となった。病名を含むレセプト内容を見直してみると、A事由の対象となる内容が見当たらない。同評価料の算定要件を見てみる。同評価料は、「定期的な医師の診察及び運動機能検査等の結果に基づき医師、看護師等の多職種が協働して作成し、これに基づいて行ったリハビリテーションの効果、実施方法等について共同して評価を行った場合に算定する」とある。患者は初診で、診療情報提供料1が算定されており、1日で転医したことがうかがわれる。算定留意事項のうち、複数日の診察を要する定期的な医師の診察という要件に加えて、計画に基づいて行われたリハビリテーションの効果に対する評価を行うという条件に当てはまらない。このことから、同評価料は初診時には適応がないとして、A事由で査定となったものであろう。リハビリテーションの実施があれば、同評価料が算定できるものではないことに留意を頂きたい。

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未来を担う医療系学生(19)

池田 知美さん首都大学東京健康福祉学部 作業療法学科 3年希望進路:リハビリテーション科クライアント中心の医療を提供したいです。コメント作業療法士を目指したのは母親の薦めです。母親は医療とは関わりがなかったのですが、一生仕事を続けられるようにって、一緒に色々と調べてくれたなかで、自分に一番合っているかなと思って選びました。現場に出ても勉強を続けて患者さんに寄り添った医療ができるよう頑張っていきたいです。撮影:田里弐裸衣

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国民の3分の1はロコモ予備軍-日整会プレス説明会

 9月11日、都内において日本整形外科学会主催によるプレス説明会が10月8日の「骨と関節の日」を前に開催された。説明会では、わが国における骨・運動器関連疾患の現状や今後の対策のほか、「ロコモティブシンドロームの要因としての上・下肢の痛みとしびれ」と題して、日常の愁訴から考えるロコモティブシンドロームについてのレクチャーが行われた。■日本人の約3分の1が運動器に障害あり 最初に、同学会の理事長である岩本 幸英氏(九州大学大学院医学研究院整形外科 教授)が、理事長挨拶として骨・運動器疾患の概要を述べ、変形性腰椎症や骨粗鬆症などの患者数が4,700万人を超え、トタールでみたとき、運動器の障害が脳血管疾患や認知症を抑え寝たきり原因の1位になっていることを説明した。そして、学会では、平成19年より「運動器の障害により、移動機能の低下を来した状態」を「ロコモティブシンドローム」(以下「ロコモ」)と呼び、広く啓発してきたことを説明。さらにロコモの認識・理解の普及を行い運動機能が衰える高齢者には早めの診療を促すことで、国民の健康寿命を延長していきたいと抱負を述べた。■約6割が治療に消極的 続いて「ロコモティブシンドロームの要因としての上・下肢の痛みとしびれ」と題して、持田 譲治氏(東海大学医学部外科系整形外科学 教授)が、レクチャーを行った。 ロコモは、健康寿命を脅かすものとして、厚生労働省が提唱している「健康日本21」でも認知度の向上と足腰に痛みを持つ高齢者割合の減少がうたわれている。背骨に異常があると手足の痛みやしびれに結び付き、これが患者のQOLを低下させ、さらにロコモの要因となる。 しかし、日本整形外科学会が実施した運動器の慢性痛有症者へのアンケート調査によると「主な治療機関」は民間療法(21%)という回答が一番多く、「特になし」(57%)という回答も過半数を占め、患者自身が治療に消極的である面をうかがわせた。 その他、持田氏が監修した「からだに痛み・しびれがある成人男女」(n=1,030)のWEB調査によれば、44%の回答者が毎日症状を感じており、約57%がその期間が1年以上続いていると回答。上肢に痛み・しびれの部位があると回答した人は30.9%。そして、上肢に痛み・しびれのある318人のうち医療機関に受診している人は、わずか11.9%しかおらず、鍼灸院、接骨院や整体への通院が16.4%、市販薬の服用などが24.8%、特段対処しないが18.6%など多くの人が自己判断による対処で済ませている実態が明らかとなった。仕事や家事への影響では65.7%の人が、仕事や家事に集中力の低下や作業内容、勤務時間の変更などの影響を受けていると回答した。 ■しびれの治療は時間を要する ロコモへの病状進行は、手足の痛み・しびれの後、次第に筋力低下や筋萎縮という運動系障害が現れることが多く、その際、身体を支える機能や身体を曲げる機能の障害を合併し、運動系障害で移動機能の低下が起こり、ロコモの要因となることを説明。診療では、患者さんの自覚症状(痛み、しびれ、筋力減少、変形などの愁訴)の正確な把握が重要であると述べた。 また、一般の方にも理解してもらいたいこととして、日常生活で立位や座位を保つためにも、上肢のロコモ対策が重要であり、痛み・しびれ、筋力低下の中で「しびれ」が一番回復には時間がかかること、急性期と慢性期では、内服薬の違いなど治療法が異なること、痛み・しびれの治療におけるゴールは8割程度であることなど理解のポイントを説明した。 最後に10月8日の「骨と関節の日」には、運動器の健康が体の健康維持にいかに大切かを啓発するさまざまな催しが全国で開催されるので、この機会にロコモへの理解を深めてほしいと語りレクチャーをまとめた。

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腰椎変性疾患への手術、従来法 vs ナビシステムTLIF

 近年、最小侵襲経椎間孔腰椎椎体間固定術(MIS-TLIF)が普及してきているが、ナビゲーションシステムの使用によりさらに手術が容易になってきている。中国・清華大学のWei Tian氏らは、腰椎変性疾患に対する単椎間TLIFについて、ナビゲーションシステムを用いた方法(CAMISS-TLIF)と従来法(open-TLIF)の臨床予後をレトロスペクティブに比較。CAMISS-TLIFのほうが優れていることを報告した。CAMISS-TLIFはopen-TLIFより手術時間が長くなるものの、術中出血、術後ドレーンおよび疼痛が少なく入院期間が短縮されるなどの利点が認められたという。Journal of Spinal Disorders & Techniques誌オンライン版2014年8月1日号の掲載報告。 試験対象は、単椎間TLIFを施行した61例(CAMISS-TLIF 30例、open-TLIF 31例)であった。 患者背景、手術成績、疼痛(視覚的アナログ尺度による)および機能(Oswestry disability index:ODIによる)などを調査するとともに、CTを用いてスクリュー挿入を評価した。また、術後2年時に骨癒合を独立した研究者によって評価した。 主な結果は以下のとおり。・CAMISS-TLIF群はopen-TLIF群より、出血量、術後ドレーン、輸血の必要性および術後初期の腰痛が有意に少なく、リハビリテーションの開始時期が早く、入院期間が短かったが、手術時間は長かった。・術後3ヵ月、1年、2年における疼痛および機能は両群で差はなかった。・挿入したスクリューのうちCAMISS-TLIF群で93.33%、open-TLIF群で73.39%は椎弓根穿孔が認められなかった(p=0.016)。・骨癒合率は両群で同程度であった(p=0.787)。

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結婚できない男【空気を読まない】[改訂版]

今回のキーワードこだわり(想像力の障害)発達障害(自閉症スペクトラム障害)共感性職人気質パターン認識構造化「なんで空気を読まないの?」みなさんがかかわる患者さんやいっしょに仕事をするスタッフたちの中で、「なんで空気を読まないの?」と思わず驚きの声を上げそうになったことはありませんか? 世の中にはいろんな人がいます。できることなら誰とでもうまくやっていきたいですよね。でも、うまくいかなくなった時、どう考えたらいいのでしょうか? どうしたらいいのでしょうか?今回、2006年に放映されたドラマ「結婚できない男」を取り上げます。これは、今までにない異色の恋愛ドラマで、みなさんの中にも覚えている人が多いかと思います。婚活が社会現象となって久しく、結婚したくてもなかなかできない男女が増えた今の世の中を絶妙に映し出しています。主人公はなぜ結婚できないのでしょうか? 世の中はなぜ結婚しづらくなったのでしょうか? これらの疑問も踏まえて、これからストーリーを追って見ていきましょう。空気を読まない主人公の信介は、ルックス良く、建築家として成功し、経済的にも恵まれている39歳の独身男性です。高身長、高学歴、高収入で一時もてはやされた3高も満たしています。一見して女性を引き付けるものを持ってはいます。しかし、出会った女性はことごとく彼にうんざりし、すぐに彼の元を去っていきます。なぜでしょうか?いくつか分かりやすいシーンがあります。信介がパーティ会場で初対面の女性に接するシーンが印象的です。雨でずぶ濡れの地味な上着で登場します。部下の英治に営業をするよう頼まれていたのにもかかわらず、「(営業の相手は)キッチンの重要性を理解していない。議論にならん」と言い放ちます。女性から建築家になった理由を聞かれると、「神のお告げがありまして」と分かりにくい冗談を言います。すかさず「今のギャグです」と英治にフォローされて、何とか場が保たれています。自分の好きな映画の話を一方的に始める信介に対して、女性は苦し紛れに「そのうち見ます」と言うと、信介は「そのうちなんて言って、見たやつはいませんよ」と返します。女性は、何とか場を和ませようとして「このスパゲティおいしいですよ」と差し出すと、信介は「ちょっと冷めてる」「これちょっと細いから、厳密にはスパゲッティーニ、つまりあなたはほんとは『スパゲッティーニおいしいよ』と僕に言うべきなんです」と答えるのです。最終的に、女性はうんざりして逃げてしまいますが、信介は英治に「構わん」と言い放ちます。このように、信介は、相手の話も聞かず、一方的に話し、思ったことをそのまま口走り、うんちくをこね、そしてこりないのです。別のシーンでは、マンションの隣人であるみちるがお金に困り、水商売をやり始めた姿を見て、何とか助けたい思いからお金を貸そうとします。信介は「困ってんの見たくないから」と言いつつ、受け取るのにとまどっている彼女を見て「客も我慢している」「もっと若くて女子大生みたいなのがいいのに」ともっともらしく言い放ってしまいます。また、バスツアー参加では、バスガイドの話に割り込み、より詳しいうんちくを得意がって披露し、バスガイドを泣かせてしまいます。年下の女性とのデートの時に相手が水族館で「魚、大好き」と言うと、信介は「魚より肉が好きだな」と答えます。長年の仕事パートナー沢崎がヘッドハントされるシーンでは、引き留めようとして出た信介の言葉は「便利で都合のいいやつはお前しかいない」との本音でした。急に近付いたり、顔を近づけて話すなどの特徴もあります。どうやら、彼には「空気が読めない」「空気を読まない」という言葉が当てはまりそうです。こだわりでは、なぜ信介は「空気を読まない」のでしょうか?さらに、別のシーンをいくつか見てみましょう。人生ゲームに凝っていて1人で復刻版の人生ゲームをやります。お好み焼きはマニュアル通りに作らないと気が済みません。模型のプラモデルの部品が1つ足りないだけでもう1セット購入します。そして、花は大嫌いで、視界に入るだけでも体調を悪くしてしまいます。猫背でぎこちない歩き方も相変わらずです。これらは、全て彼の「こだわり」と言えます。さらに、「空気を読まない」のも彼のこだわりの裏返しであり、延長であると言えそうです。つまり、彼はこだわりがとても強いのです。そして、メンタルヘルスの現場では、このような「こだわり」があまりにも強過ぎて、日常生活や社会生活がうまくいかない場合、ある障害が浮かび上がってきます。それは、発達障害(自閉症スペクトラム障害)です。ただ、信介にこの診断が下り、治療が必要というほどでは全くありません。そのわけは、メンタルヘルスにおける診断や治療は、あくまで本人や周りがひどく困ってしまうことが大前提だからです。ただ、その人を取り巻く環境や周りとの相性によって困り具合が変わるので、線引きが難しいことがよくあります。ここで言えることは、信介には発達障害の傾向があり、困ってしまいやすいということです。そして、信介や周りの人が、この傾向と上手に付き合っていくためのヒントをみなさんといっしょに考えることができるのではないかということです。想像力―「硬さ」「狭さ」「独特さ」強いこだわりは、発達障害の要素の1つである想像力の「硬さ」「狭さ」「独特さ」です(想像力の障害)。つまり、想像力に柔軟性がなく、しかも想像力の広がりが狭いために、相手が何を思っているか、何を感じているかを想像すること(心の理論)にとても鈍感なのです。だからこそ、自分のことばかり考えてしまい、結果的に、対人関係においては、「空気を読まない」「不器用」な人になってしまいます。しかし、こだわりは、裏を返せば、自分にとって何が特別か悟っている「ひたむきさ」「一途さ」「才能」でもあります。実際に、信介は、自分の興味のある建築という仕事においては、とことん追求し、良い仕事をしており、「一芸」に秀でています。つまり、こだわりには二面性があるのです。その人の良さでもあり、その人らしさ、個性とも言えます。表:こだわりの二面性マイナス面プラス面こだわり融通が利かない空気を読まない(読めない)頑固、偏屈、無愛想ひたむき、一途ブレない、流されない正直、真面目、勤勉、律儀図太い、一芸に秀でるなぜ信介のような人は今の世の中で目立つのか?それでは、なぜ信介のような人は、今の世の中で目立つようになったのでしょうか? その答えは、コミュニケーション能力、つまりは気回しが求められる社会構造に変化してしまったからです。かつての士農工商の封建社会では、身分制度により仕事も結婚相手も生まれる前からほぼ決められていました。農業や工業などの製造業が主流で、この社会において求められる価値観は、「正直」「真面目」「勤勉」「律儀」です。分かりやすいイメージとしては、頑固で人付き合いは悪いけど腕は良い職人です。この職人気質は、まさに建築家の信介に当てはまります。この価値観はこだわりの特性と相性が良いのです。多少の「偏屈」は問題にされず目立たなかったのです。この特性を持った人々がその能力を発揮し、その時代に活躍しました。しかし、その後、時代は大きく変わりました。産業革命、情報革命を経て、サービス業中心の世の中になってきました。情報化し複雑化したコミュニケーション重視の新しい社会の仕組みの中、かつてなくコミュニケーション能力、「空気を読む」という気回しの能力が求められる時代に変わってきたのです。信介のような人たちは本来の居場所、行き場である製造業の仕事からあぶれてしまい、サービス業に流れていきました。しかし、こだわりは受け入れられず、ただその「偏屈さ」が目立つ結果となったのでした。実際に、建築の営業をするパートナーの沢崎が不在の時に、信介は彼女に代わって営業を全うすることはできませんでした。逆に言えば、その特性を見抜いて、向いている職種を見出すこともできます。対人的な職種は、対象が人の心そのもので「生もの」であるため、常に空気を読んで、臨機応変に動かなければならないので、信介には負担が大きいです。一方、対物的な職種は、空気を読むことそのものを対象にしないため、決められた手順通りに取り組むことができるので、才能や技術のある信介のような人には合っています。表:こだわりタイプと気回しタイプがそれぞれ向いている職種 こだわりタイプ(職人気質)気回しタイプ(商人器質)モデル信介部下の英治ライバル建築家の金田職種対物的な職種対人的な職種例一般職製造業、職人専門職(研究者、学者)、事務職サービス業(営業、接客、窓口)管理職医療職急性疾患、救命救急、手術室慢性疾患、精神疾患、リハビリテーション今の世の中の結婚に求められるものは?ヒロインとして登場する女医の夏美は、ある種の強さを持った現代的な女性で、ドラマの中で彼女が見合い結婚に嫌気が差し、恋愛結婚に憧れるのも納得がいきます。そんな夏美の診察室に、信介は、「胃がシクシクと・・・」と言い、しょっちゅう訪れます。彼は、夏美の感情の変化を読み取ることができず、たびたび怒らせてしまいます。と同時に、実は、彼はストレス性の胃炎になるくらい自分自身の感情の変化にも気付きにくいのです。端的に言うと、相手の心だけでなく、自分の心を察するのも鈍いのです。そして、自分がストレスを抱え込んでいることに気付かず、無理をしてしまいやすいです。やがて、彼は夏美に好意を寄せていきますが、その自分自身の気持ちに気付かず、噛み合わないもどかしさが私たちにも伝わってきます。実は、今の社会の仕組みは結婚にも影響を与えています。情報化され自由化された新しい恋愛結婚のシステムでは、選択肢、判断基準が増え個々人の違いが重視されるようになりました。そこで特に求められるのは相手の気持ちを推し量ること、つまりは気回しや思いやりです(共感性)。部下の英治やホスト風のライバル建築家の金田は、信介とは対照的に人当たりのいいキャラとして描かれており、信介の特性を際立たせています。逆に、ドラマでみちるを狙うストーカーが登場しましたが、相手の気持ちを全く考えない一方的な恋愛であるストーカー行為は、まさにこだわりの負の産物と言えます。信介のような人はどうすればいいのか?信介のような人たちはどうすればいいのでしょうか? それは、本人がパターン認識をして学習することです。信介は、何が悪いか分からないけれどパターン認識をして彼なりに周りとうまくやって行こうとする姿勢が見受けられます。例えば、信介に皮肉を言われたと思った夏美は激怒し立ち去るシーンがありますが、わけが分からず追いかけた信介は悪気なく尋ねます。「悪いんでしょ?」と。しかし、夏美が許してくれないので「すみません」ととりあえず謝っています。何が悪かったのかのフィードバックがなければ、同じ過ちを繰り返していきますが、ストーリーが進むにつれて、信介は夏美に「また、説教ですか?」と言いながらも、夏美の「説教」に耳を傾けていくようになっていき、いつの間にか惹かれていきます。周りの人たちはどうすればいいのか?周りの人たちはどうすればいいのでしょうか? 実は、その答えはドラマの中に散りばめられています。ドラマの回を重ねて見るうちに私たちは気付かされます。それは、、本人に悪気がないことを周りが理解することです。これは、信介のような人たちを理解する上でとても大切なことです。ドラマで夏美が言います。「言い方とかムカつくけど、悪い人ではないと思う」「心で思っていることと表に出すことが違っている場合が多い」と。彼の個性ゆえに独特の言い回しをしてしまい本心がうまく相手に伝わらないことが多いのです。時には、信介の一生懸命さやもどかしさが私たちにも伝わってきます。現に、頼まれれば、命懸けでベランダをつたい、慣れない犬の世話をし、迷子の犬探しに必死に協力します。出会って間もない女性の新しい恋人のフリをすることを承諾します。みちるのボディガードを務め、ストーカーを撃退します。もともとお金の貸し借りをしたことがなかったのに、困っているみちるに自らお金を貸そうともしました。秘密を漏らすなと言われたら絶対に漏らしません。これは信介の良さであり、さきほどの「正直」「真面目」「勤勉」「律儀」などの二面性を併せ持っていることが理解できます。「俺は自分の気持ちに正直でいたいから」という信介の言葉がそれを裏付けています。信介の良き理解者である沢崎は、その特性を見抜きうまく手なずけ仕事をやらせていました。実直であるがゆえに乗せられやすい面も見えてきます。時には、「今の(信介の発言)を翻訳すると」などと沢崎はフォローも入れます。周りが汲み取るその人らしさまた、夏美は沢崎のアドバイスを受けながら、ちょっとずつ信介を理解していきます。ある時、結婚相手に理想ばかり追い求めるみちるに「男性に求めるものは?」と聞かれて、夏美は答えます。「その人が何を考えているかちゃんと理解できること」と。発想の転換です。求めるのは、相手にではなく自分であることを悟るのです。夏美の成長ぶりが伺えます。その後、夏美はあえて信介のテレビ出演でカットされた発言の話を引き出し聞いてあげるなどして、「説教」だけではない支持的なかかわりを通して信介に歩み寄ります。そして、最後には信介に告白します。「(今までの)私たちの会話ってキャッチボールじゃなくてドッジボールばっかりだった気がします」「(これから)私はキャッチボールがしてみたいです、あなたと」と。その告白を受けて、後日、信介は夏美の診察室に訪れます。「キャッチボールしようと思って」と。関わる相手がキャッチボールできるうまい球をまず投げてあげることが大事であることも描かれています。また、信介が通うコンビニの女性店員でさえ、対応を変えてきます。いつもレジで「スプーン要りますか?」「ポイントカードありますか?」と聞くと、信介は間髪入れずに無愛想に「要りません」「ありません」と言うので、やがて「スプーン要りませんし、ポイントカードもありませんよね。」と聞くようになります。コミュニケーションのコツラストシーンで、夏美を家に誘いたい信介は、誘いの言葉を素直に言い出せず、逆に夏美に「もしかしてうちに来いって言ってますか」と言い当てられてしまい、いつもの口癖で「あなたがどうしてもとおっしゃるなら」と言ってしまいます。うわての夏美は、「あなたがどうしてもって言うなら」と切り返します。すると、最後についに、いつもはあまのじゃくな信介が素直に答えます。「じゃあ来てください。どうしても」と。このシーンは、夏美のかかわりにより信介が少しずつ変わってきていることを窺わせます。と同時に、夏美の信介へのかかわりが大きく変わったことも描かれています。とてもほのぼのとするエンディングです。もちろん、トレンディドラマにありがちなハッピーエンドではなく、これからの2人の関係も波乱に満ちたものを予感させます。実際に、主人公に共感し、自分と重ね合わせてハッとした未婚男性の視聴者はいるのではないでしょうか? 反面教師としても主人公の視点を通して、自分のあり方、生き方を客観的に見つめ直すことができます。もちろん、周りの人たちにとっても、信介のような人たちへの理解が深まり、コミュニケーションのコツが分かってきます。そのコツとは、細かく具体的で丁寧な指示を出して(視覚化)、レールを敷いて枠組みを作り(構造化)、一つ一つのパターン認識やパターン学習を手助けしてあげることなのです。また、こだわりが強ければ、急な予定の変更(新奇場面)にストレスを感じやすくなります。その対策として、予定の変更をあらかじめ伝えることも肝心です(予定告知)。ドラマはセラピーの効果このドラマは、信介のような人たちが信介を自分と重ね合わせ、同時に彼らの周りの人たちが信介をその人に重ね合わせ、どうしたらいいかを気付かせてくれるセラピーの役割を果たしています。社会が信介のような人たちの特性をもっと知り、その個性的で良い面を高く買ってあげて、口下手でコミュニケーションが苦手な面は大目に見て微笑ましく見守ってあげることができたら、世の中はきっと彼らにとっても私たちにとっても、もっと居心地の良い場所になるのではないでしょうか。今、世の中に求められているのは、彼らを理解し、彼らと「キャッチボール」をして、お互いに少しずつ成長していけるような、より心の広いコミュニケーション社会なのではないでしょうか?1)尾崎将也:結婚できない男、扶桑社、20062)吉田友子:高機能自閉症・アスペルガー症候群、「その子らしさ」を生かす子育て、中央法規出版、2009

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手湿疹リスクが高いのはどんな人?

 小児期に手湿疹やアトピー性皮膚炎との関連が高く、水仕事に就いており、乳幼児の子育てをしている28~30歳の人で、手湿疹の発生率および有病率が高いことが明らかにされた。南デンマーク大学のC.G. Mortz氏らによるコホート研究の結果で、検討では、喫煙、教育レベル、小児期のニッケルアレルギーは無関係であったことも報告されている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年8月7日号の掲載報告。 任意抽出した成人の手湿疹の発生率や有病率の評価は、いくつかの試験で行われている。しかし、任意抽出の小学生を成人まで追跡し、手湿疹発生やそのリスク因子について評価する検討は行われていなかった。 本試験では、青少年期から成人期までの手湿疹の発生率と、若年成人の手湿疹の有病率、および両者のリスク因子を推定した。 1995年に8年生(平均年齢14歳)を任意に抽出しコホートを作成、2010年に同コホートの登録者に、アンケートの記入と臨床検査(パッチテストなど)を受けるよう求め、結果について分析した。 主な結果は以下のとおり。・1,501例が1995年に任意抽出され、2010年に同コホートから1,206例が追跡を受けた。・結果、手湿疹の発生率は1,000人年当たり8.8であった。・若年成人の1年間の有病率(1-year-period prevalence)は14.3%(127/891例)、時点有病率は7.1%(63/891例)で、女性で有意に高率であった。・臨床試験では、6.4%(30/469例)で手湿疹が確認された。・成人の手湿疹について小児期の重大因子は、アトピー性皮膚炎と手湿疹であった。・成人になり水仕事に就いていること、また家庭で乳幼児の子育て中であることがリスク因子であった。・任意抽出の若者における手湿疹は、病気休暇/手当受給/リハビリテーションと関連しており、重大な社会的影響がある可能性が示された。・喫煙、教育レベル、小児期のニッケルアレルギーは無関係であった。

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6分間歩行で統合失調症患者の身体評価

 フランス・モンペリエ第1大学のP. Bernard氏らは、統合失調症患者を対象とした研究での6分間歩行試験(6MWT)の意義について、システマティックレビューにて評価を行った。その結果、統合失調症患者が6分間に早歩きできる距離(6MWD)は健常成人と比べ概して短いこと、BMIが高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬服用、身体的な自己認識が低いことと負の関係にあることなどを報告した。そのうえで著者は、統合失調症患者の身体的健康モニタリングに6MWTが使用可能であるとし、「今後の研究において、その予測因子としての役割を検討するとともに、その測定特性の評価を継続すべきである」と述べている。Disability and Rehabilitation誌オンライン版2014年8月7日号の掲載報告。 6MWTは、6MWDを測定する亜最大運動負荷試験である。研究グループは、介入効果を測定する際の6MWTの適合性を評価し、統合失調症患者の6MWDを一般集団およびマッチさせたコホートと比較、また6MWD決定要因の特定、6MWTの測定特性や品質手順などを調査した。5つのデータベースを用いて、2013年8月に公表されたフルテキスト文献をシステマティックレビューした。 主な結果は以下のとおり。・16件の研究が選択された。・6MWDの有意な増加を報告した介入研究がなかったため、介入の影響を測定する際の6MWTの適合性については評価を行わなかった。・成人統合失調症患者の歩行距離は、健常成人と比較して全般的に短いようであった。・レビュー対象となった研究の平均6MWDは、421~648mの範囲にあった。・統合失調症患者において、通常、6MWDはBMI高値、喫煙量が多い、高用量の抗精神病薬、低い身体的自己認識と負の関係にあった。・6MWTの信頼性は高かったが、これまで、その基準の妥当性について検討されていなかった。・ガイドラインが存在するにもかかわらず、レビュー対象の研究で用いられていた6MWTの方法には大きなばらつきがあった。・将来、統合失調症患者に対して推奨される身体的健康モニタリングに6MWT を含めるべきであることが示唆された。・6MWTはリハビリテーションに影響を及ぼし、統合失調症患者における機能的運動能力を評価するものであった。・治療介入の影響を6MWTで測定した患者は確認できなかった。・以上の結果を踏まえて著者は、「臨床医は、統合失調症における機能的運動能力を考える際、過体重、抗精神病薬の使用、身体に関する自己認識などを考慮に入れるべきである。また、重篤な精神疾患患者に6MWTを施行する際には、米国胸部学会などによる国際標準に従うべきである」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症に対し抗精神病薬を中止することは可能か 統合失調症患者は、なぜ過度に喫煙するのか 統合失調症患者の突然死、その主な原因は  担当者へのご意見箱はこちら

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リーダーが病院を変える~変革者たちの軌跡と挑戦~ メディカルコーチング研究会・総会開催

7月19日、東京大学(東京都文京区)においてメディカルコーチング研究会・総会が開催され、全国から200人を超える医師、医療関係者が参集した。今回は「リーダーが病院を変える~変革者たちの軌跡と挑戦~」をテーマに、メディカルコーチングを導入している医療機関より5人の演者がコーチング導入とその効果を講演した。●開会挨拶はじめにメディカルコーチング研究会 世話人代表である安藤 潔氏(東海大学医学部 血液・腫瘍内科 教授)が登壇。メディカルコーチングが対患者、対部下のものから、医療機関全体に広がっている現状について触れ、「医療が高度化、複雑化する中で、医療機関やその組織風土の在り方が問われている。組織を変えるとき、つくるときに必要となるシステミック・コーチングについて今日は実際にコーチングを取り入れている3つの組織の具体的な事例を聞くことで役立ててもらいたい」と開会挨拶を行った。■事例-海老名総合病院 (神奈川県海老名市)講演1●「変える? いや、『変わる』でした」内山 喜一郎氏(JMA海老名総合病院 院長)恩田氏が、メディカルコーチングを受講したきっかけは、院長の内山氏にステークホルダー(リーダーからコーチングを受ける人)に指名されたこと。プロジェクト参加のうえでは「考えて行動する組織づくり」を目指したという恩田氏は、部下を信頼し仕事を任せ、新しい気付きを生む質問の投げかけを心がけるとともに、目標づくりをサポートし、達成できるように行動したことなどの実体験を語った。コーチングを行っていく工夫として、失敗したらその要因分析と次への方策をステークホルダーと対話すること、部下の失敗には信頼と忍耐で見守るスタンスを取り、相手の限界を引き上げるように接していくことがカギとコーチングのコツを伝えた。メディカルコーチングの受講を経て、コミュニケーションのやり方を変えただけでリーダーとして変容し、目標達成ができるようになったと語り、「一番自分が成長させてもらった体験だった」と感想を述べた。■事例-東北大学病院 (宮城県仙台市)講演3●「高度専門医療チーム活性化におけるコーチングの活用~東北大学病院での取組み~」出江 紳一氏(東北大学大学院 医工学研究科 リハビリテーション医工学分野 教授)演者による講演終了後、質疑応答となり活発な議論が行われた。最後に世話人代表の安藤氏が、「医療機関へのコーチングの導入とその実際について、今日は示唆に富んだお話を聞くことができた。とくにコーチング効果のエビデンスについては、今後も検証し、導入時に吟味できるようにする必要がある。今日の経験を持ち帰り、役立てていただきたい」と閉会の挨拶を述べた。インデックスページへ戻る

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慢性呼吸器疾患増悪の入院症例に対する、入院中早期リハビリテーション導入についてのランダム化比較試験(解説:小林 英夫 氏)-228

本論文は、慢性呼吸器疾患による入院症例において、入院早期の呼吸リハビリテーション開始が1年間の観察期間にどのような影響を及ぼすかを検討したランダム化比較試験である。結果を概括すると、早期リハビリテーション導入は再入院リスクを低下させず(主アウトカム)、機能回復増進にも結び付かず、1年間の死亡率が高いという結果であり、早期リハビリテーション導入は推奨されない、としている。 プロトコールは良質な臨床試験で、本邦でこの臨床試験を実施することの困難さを思うと羨望せざるを得ない面がある。軽微な数字の取り間違えが4ページに数ヵ所あるが、ネガティブな結果にもかかわらず試験そのものは適切に解析されている。ただ、試験の出発点自体が妥当であろうかという疑問もあり、本論文を単純に受け入れることは難しい。種々の前提条件を踏まえたうえで読むべきであろう。冠動脈や脳血管といった急性動脈閉塞、手術後など急性疾患における早期リハビリテーション介入が機能回復に寄与することが明らかになってきているが、慢性(呼吸器)疾患において急性疾患と同様の結果が得られるかどうか、設定そのものの困難性が潜在するのではないだろうか。 また、対象群は慢性呼吸器疾患群389例で、その82%、320例がCOPDである。COPDに限定したsubgroup解析でも全例解析と差異がなかったとしているが、であるならば他疾患を混在させずCOPDのみを対象とした設定にすることで、よりすっきりした試験となったであろうことが惜しまれる。さらに、対象症例の3割は入院治療として酸素吸入が実施されていない点、平均BMI (body mass index) 26という点、副腎皮質ホルモン薬が入院前から87%の症例に全身投与されている点、現喫煙者が20%以上存在する点、これらの点は本邦での入院症例との差異が大きく、患者像が把握しにくい。次に、平均入院期間5日間(英国では平均的な日数とされる)の対象群を、入院後2日以内に早期リハビリテーションを導入する群と退院後に導入する群に分け比較しているが、数日間の導入差が慢性呼吸器疾患にどの程度の差異をもたらすものだろうか。リハビリテーションの効果は継続性によって発揮されるものであり、数日間の差異が仮に統計学的有意性を示したとしても、その理由付けが難しいように思われる。 さらに、著者らが予想していなかった結果(早期リハビリテーショが有害である)となった理由を論理的に説明できない。著者らもby chanceの可能性も記載しているが、数日程度の導入差が1年後の生存に有害な影響をもたらす解釈が困難である。1年間の追跡において、リハビリテーションによる機能改善効果が徐々に減少していくというデータも残念な成績であった。リハビリテーションの継続性、アドヒアランスの難しさが結果に影響していることが推測される。 本論ではないが、死亡原因の内訳に他臓器がんや消化器疾患が含まれている。臨床試験の取り扱いとして正しいとはいえ、リハビリテーション効果と他臓器がん死が結び付くとは評価できないので、付加的に非呼吸器疾患死亡を除外した検討も知りたいところである。また薬物治療内容も一切の記述がなかった。 筆者が初めて呼吸リハビリテーションの概念に接した1980年代初頭には、経験を積んだ理学療法士も存在せず保険点数も算定できない状況だった。2006年、独立した診療報酬項目として呼吸リハビリテーションが収載され、日本呼吸器学会COPDガイドライン第4版でもエビデンスA、Bの位置に呼吸リハビリテーションが記載されている。いまだ本邦での呼吸リハビリテーションは十分に普及しているとはいえないが、その意義が本論文によって否定されたわけではないことは、十分に留意されなければならない。呼吸リハビリテーションそのものを否定している報告ではなく、あくまで、入院後2日以内の早期開始の有効性がなかったということで、退院後の外来リハビリテーション効果は否定されていない。また本試験で用いられたリハビリテーションは2013年のBTS/ATSガイドライン以前の内容であることも、今後の検討において変更すべき点と思われる。

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COPD急性増悪への早期リハに疑問/BMJ

 COPDや喘息の慢性呼吸器疾患の急性増悪入院患者への早期リハビリテーション開始は、再入院リスクを低下せず、身体機能の回復増進にも結びつかなかったことが、英国・レスター大学病院のNeil J Greening氏らが行った前向き無作為化試験の結果、報告された。検討では介入群のほうが、12ヵ月時点の死亡率が高かったことも示されている。慢性呼吸器疾患の急性増悪で入院した患者の再入院率は高く、ガイドラインでは、増悪後の呼吸リハビリテーションが推奨されている。著者は、「今回の結果は、現行の標準的な理学療法以上の積極的な運動リハビリテーションを、急性症状の初期に始めてはならないことを示すものであった」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年7月8日号掲載の報告より。389例対象に、急性増悪入院後48時間以内リハ開始vs. 通常ケア 本検討は、慢性呼吸器疾患の急性増悪入院患者への早期リハビリテーション開始が、その後の12ヵ月の再入院率を減らし、身体パフォーマンスおよび健康状態を改善するかどうかを調べることが目的であった。 試験は、2010年1月~2011年9月に英国2施設に入院した389例を対象に行われた。被験者は45~93歳、急性増悪入院後48時間以内の患者で、早期リハビリテーション介入(入院後48時間以内に開始)群(196例)または通常ケア(対照)群(193例)に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月時点の再入院率。副次アウトカムには、入院期間、死亡率、身体パフォーマンス、健康状態などが含まれた。 早期リハビリ群に割り付けられた患者は、入院後48時間以内に開始し介入を6週間受けた。介入内容は、通常ケア(気道クリアランス、運動能の評価と管理、禁煙指導など)に加えて、有酸素運動、神経筋電気刺激療法などが複合的に実施された。再入院率62%vs. 58%、死亡率25%vs. 16% 389例のうち、主病名がCOPDであった患者は320例(82%、うち介入群169例[86%]、対照群151例[78%])であった。 その後の1年間で1回以上再入院したのは、233例(60%)であった。再入院は、介入群62%、対照群58%で、両群で有意差はみられなかった(オッズ比:1.1、95%信頼区間[CI]:0.86~1.43、p=0.4)。 一方、12ヵ月時点の死亡は、介入群49例(25%)、対照群31例(16%)で、介入群の死亡率の有意な増加がみられた(同:1.74、1.05~2.88、p=0.03)。 身体パフォーマンス、健康状態については、退院後に両群で有意な改善が認められ、1年時点で両群に有意差は認められなかった。

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睡眠と疼痛の関連には有意な個人差あり

 慢性疼痛と睡眠障害はしばしば共存していることが知られる。米国・クリーブランドクリニックのSara Davin氏らは、学際的な慢性疼痛リハビリテーションプログラム(ICPRP)を受けている患者を対象に、疼痛と睡眠の変化について同時に評価する検討を行った。結果、総睡眠時間と翌日の疼痛との関連には個人差が大きいことが明らかになったという。著者は「今回の結果は、ICPRP患者に対して、睡眠問題に注目することの有益性を示すものであり、疼痛と睡眠問題を有する患者において睡眠をターゲットとした治療に利点があることを強調するものであった」とまとめている。Pain Medicine誌2014年6月号(オンライン版2014年4月9日号)の掲載報告。 研究グループは、ICPRPに参加している患者のうち、非がん性慢性疼痛を有する50例を対象に、毎日の総睡眠時間(TST)と疼痛強度を調査し、その変化をマルチレベルモデリング分析によって評価した。 主な結果は以下のとおり。・TSTの増加は、翌治療日の疼痛強度が低いことの予測因子であった。・しかし、毎日の疼痛強度は、その夜のTSTの予測因子ではなかった。・年齢、性別、不安、抑うつを調整後も、治療時間はTSTおよび疼痛軽減の有意な予測因子であった。・TSTと翌日の疼痛強度との関係には、有意な個人差があることが認められた。 ・前夜のTSTと翌日の疼痛の関連が強い患者において、全体的に最も大きな治療効果が得られた。

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統合失調症治療に園芸療法は好影響をもたらすのか

 園芸療法は、習熟したセラピストまたは医療者による助けのもと、特別な治療目標の達成または単に健康改善のために、果物、野菜、花、木などを利用するプロセスである。同療法は認知、身体的、社会的、感情的およびレクリエーションなどにおけるベネフィットを期待して、治療またはリハビリテーションプログラムとして用いられており、身体的、心理的、精神的状態を改善させるとされている。 中国人民解放軍総医院のYan Liu氏らは、統合失調症患者の5~15%は、薬物療法にもかかわらず症状の持続が認められ、望ましくない有害事象が起こる可能性もあることから、園芸療法が有意義な可能性があるとして、統合失調症または統合失調症様疾患に対する園芸療法の効果を標準治療または他の心理社会的介入とを比較し評価するためシステマティックレビューを行った。しかし、検索されたのは1件の無作為化比較試験で、同試験では、園芸療法+標準治療群のDepression Anxiety Stress Scale(DASS21)スコアの変化は、標準治療単独群に比べ大きいことが示されていたが、試験のエビデンスレベルがきわめて低く明確な結論を導くことはできなかったと報告した。結果を踏まえて著者は、「園芸療法は確立された治療ではなく、質の高いエビデンスを集積するにも、より多くの大規模無作為化試験が必要である」とまとめている。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2014年5月19日号の掲載報告。 2013年1月にCochrane Schizophrenia Group Trials Registerを検索し、代表的な試験の著者に問い合わせて補足を行い、参照リストの手作業による検索も行った。その結果、統合失調症患者に対する、園芸療法+標準治療と標準治療単独を比較する1件の無作為化比較試験(RCT)が選択された。試験の質を評価してデータを抽出し、連続アウトカムに対しては平均差(MD)、バイナリアウトカムに対してはリスク比(RR)を算出した(両者とも95%信頼区間[CI]も算出)。バイアスリスクを評価し、GRADE (Grades of Recommendation, Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて、得られた成績のリストを作成した。 主な結果は以下のとおり。・1件の単盲検試験(合計24例)が選択された。・無作為化は適切であったが、試験のバイアスリスクは不明であった。・同試験では、1日1時間の園芸療法+標準治療を標準治療単独と比較していた。試験期間は長期ではなく2週間であった(連続10日間)。・レビューの結果、追跡不能は2例で、いずれも園芸療法群の症例であった(1 RCT、24例、RR:5.00、95%CI:0.27~94.34、エビデンスの質:きわめて低い)。・Personal Wellbeing Index(PWI-C)スコアの変化において、群間で明らかな差はみられなかったが、信頼区間は広かった(1 RCT、22例、MD:-0.90、95%CI:-10.35~8.55、エビデンスの質:きわめて低い)。・治療終了時における、園芸療法群のDASS21スコアの変化は、対照群に比べて大きかった(1 RCT、22例、MD:-23.70、95%CI:-35.37~-12.03、エビデンスの質:きわめて低い)。・介入に伴う有害事象の報告はなかった。・データの質がきわめて低いため、統合失調症患者に対する園芸療法のベネフィットまたは有害性に関する何らかの結論を下すには、エビデンスが不十分であった。関連医療ニュース 統合失調症に「サッカー療法」その効果は 統合失調症に対し抗精神病薬を中止することは可能か 統合失調症へのアリピプラゾール+リハビリ、認知機能に相乗効果:奈良県立医大  担当者へのご意見箱はこちら

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変形性股関節症への理学療法、害あって利なし/JAMA

 痛みを伴う変形性股関節症成人患者への理学療法は、痛みや機能性の改善には結びつかないことがオーストラリア・メルボルン大学のKim L. Bennell氏らが行った無作為化試験の結果、示された。また軽度ではあったが有害事象の頻度が高く、著者は、「同患者に対する理学療法プログラムの有益性について疑問を呈する結果となった」とまとめている。症候性変形性股関節症に対してガイドラインでは、薬物治療ではなく理学療法を用いる保存治療が推奨されている。しかし理学療法は、コストがかかることに加えて有効性のエビデンスがそれほど確立されておらず限定的だった。JAMA誌2014年5月21日号掲載の報告より。102例を無作為化し、12週の理学療法介入とシャム介入を行い追跡 変形性股関節症患者への痛みと身体機能に関する理学療法の有効性を評価する無作為化プラセボ対照試験(参加者、評価者ともに盲検化)は、股関節に痛み(100mm視覚アナログスケールで40mm超)を有し、またX線画像診断で股関節の変形が確認された102例の地域住民ボランティアが参加して行われた。 2010年5月~2013年2月に、49例が12週間の介入を受けその後24週間の追跡を受けた。53例は同様にシャム(プラセボ)介入を受けた。被験者は、12週間にわたって10の治療セッションに参加した。介入群には、教育、アドバイス、徒手的理学療法、自宅療法、該当者には歩行補助杖利用などが行われ、シャム群には非活動的な超音波療法とゲル薬の塗布が行われた。 治療後24週時点で、介入群は非管理下での自宅療法が続けられていた。一方シャム群は、週3回のゲル薬の自己塗布が行われていた。 主要アウトカムは、13週時点の平均疼痛度(0mmは痛みなし、100mmは最大級の痛みの可能性と定義し測定)、身体的機能(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index[WOMAC]で0[制限なし]~68[最大級の制限]と定義し測定)だった。副次アウトカムは、同36週時点の測定値、また13週および36週時点の身体的状態、全体的な変化、心理的状態、QOLについても評価した。痛み、身体的機能改善に有意差みられず、軽度だが有害事象報告は介入群が有意 13週時点の測定評価を完了したのは96例(94%)、36週時点については83例(81%)だった。 結果、両群間に痛みの改善について有意な差はみられなかった。介入群の視覚アナログスケールスコアの平均値(SD)は、ベースライン時58.8mm(13.3)、13週時点は40.1mm(24.6)だった。シャム群はそれぞれ58.0mm(11.6)、35.2mm(21.4)であり、平均差をみると、シャム群のほうが良好であった(6.9mm、95%信頼区間[CI]:-3.9~17.7)。 身体的機能のスコアも、両群間で有意な差はみられなかった。介入群のWOMACスコア(SD)は、ベースライン時32.3(9.2)、13週時点27.5(12.9)であり、シャム群はそれぞれ32.4(8.4)、26.4(11.3)であり、平均差はシャム群のほうが良好であった(1.4、95%CI:-3.8から6.5)。 副次アウトカムについても、バランスステップについて13週時点の改善が介入群で大きかったことを除き、両群間で差はみられなかった。 介入群46例のうち19例(41%)が、26件の軽度の有害事象を報告した。一方、シャム群は49例のうち7例(14%)が9件の同事象を報告した(p=0.003)。

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