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第24回 心電図の壁~復刻版~(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第24回:心電図の壁~復刻版~(前編)今でこそ心電図に関するさまざまなテキストを出版し、多くの講義・セミナーの機会をいただいているDr.ヒロですが、かつては心電図や不整脈が不得手だったのです…多くの人と同じか、それ以上に苦労して何度もくじけそうになりました。そんなボクだからこそ、いかにして困難を乗り越えたかを語ることで、心電図学習で悩む人へ勇気を与えられるのではないかと、かつて、医学書院の「内科医の道」という若手医師向けのシリーズ企画の中で、あるエッセイ*を執筆しました。このシリーズは、著名な先生方が若手に向けたメッセージをWEB上で発信するもので、ボク自身も時々興味深く読んでいた企画でした。もちろん自分には分不相応だとは思いつつ…当時のボクは承諾してしまいました。その時つけたタイトルが『心電図の壁』。大先輩でもある養老 孟司先生の影響を受けていないとは言いません(笑)。*杉山裕章. 内科医の道[電子版エッセイ]. 医学書院;2012.第48回. (※2018年に公開終了)ニガテ・キライ・ムリの状態から、どう“壁”を乗り越えてきたか-そのプロセスが心電図を学びたい“迷える子羊”たちのお役に少しでも立てればと懸命に書きました。この自分の成長日記とも言えるエッセイも、今では時の流れで“閲覧不能”となってしまいましたが、医学書院と交渉し、自らツッコミ的な補足も追加しつつ、本連載の番外編として2回シリーズでお届けできることになりました。いつものようなレクチャー調でもなく、気軽にご笑読いただけたら嬉しいです。では、はじまり、はじまり~。注)黄緑枠部分がエッセイ、グレー枠部分が現在のDr.ヒロによるツッコミです。原稿依頼をいただいた時、若手医師へ向けたWebエッセイ企画とのことで、本当はお断りしたかった。なぜって、自分こそ“読者”たるべき若者1)だから。でも、いろいろと考えた挙句、心電図についての“苦労話”を皆さんに聞いてもらうことで、少しはお伝えできることもあろうかと思ってお引き受けした。学生時代を思い返してみると、お世辞にも真面目とは言えなかったと思う。でも、外部病院実習2)で配属になった循環器の先生方のカテーテル室やCCUを駆け回るパワフルな姿がとてもカッコ良く見え、自分もやってみたくなったのだ3)。でもオレって…シンデンズとか全然ダメじゃん(泣)。当時は何だかよくわからないけれど心電図が循環器の“象徴”な気がして、試験そのほかでもひどい目にあった記憶が頭から離れなかったからかもしれない。とにかく心電図が大のニガテだった。1:当時33~34歳。冷静になってみるとそんなに若くはないか…。2:とくに印象的だったのは、T病院とM病院の2つ。3:今も最前線で活躍されておられる某医師。当時、若くてバリバリの彼に向けられたナースたちの眼差しはとても印象的だった。容姿もカッコよく、しかもデキる…まさに“完璧”!そんな自分を少しだけ変えたのは、ひょんなことから参加した学内の“心電図ゼミ”だった。有志の勉強会なんてものに参加したことなんて一度もなかったが、わらをもつかみたい気持ちが背中を押してくれたか4)。それは毎週1人1枚、ナマの心電図波形が与えられ、ノーヒントの状態で担当教授と十数人の同級生の前で自分なりの診断・解釈を述べるものであった。ボクが普段やっている“マルチョイ”方式のクイズとはレベルが違う。今で言う、“リアル・ガチ”だ(頼みの綱の自動診断結果も消されていた…)。ほかの人が読んできた心電図もコピーして配布されるため、1回このゼミに行くと、必ず十数個の新しい課題が生まれた。正しく読み切れたときもあれば、全然アサッテの診断をしてしまったことも多々あった5)。出席者の多くも皆、それなりに間違った。しかし、その教授は、たとえ間違った診断をしても決してけなすことなく、その場で“どう読むのか”を、逐一教えてくれた6)。プロ(循環器)の視点に触れた瞬間はしばしば身震いがした。4:実は、当時仲良くしていた友人が参加すると言ったため、何か不安になって一緒について行った。5:今でこそ「系統的判読法」などと1枚の心電図から漏れなく所見を拾い上げることの重要性を強調してるが、当時は指定教科書とブツ(心電図)とをウンウンうなって見比べながら恥をかきたくない一心で必死でやっていたっけなぁ(その甲斐なく敗れさったことも数知れず)。6:同教授は退官されるまで毎年同ゼミを開催されていたそう。心電図はいわんや、まさに教育のプロフェッショナル!約半年間、なぜだか休まず通った。必修の授業だってサボることのあった“劣等生”が。いつしか、自分が担当でない問題にも自分なりの所見をつけてからセッションに参加するようにもなった7)。ただ、その後は苦労の連続だった。国家試験にどうにか通って医師1年目、大学病院で入院サマリーや諸雑用に追われ、心電図はおろか、ほとんど勉強なんてできなかった。もともと自分の要領が悪く、種々のストレスや疲労にも悩まされることもあったのだが。ゼミで築いた“土台”も見事に退化してしまった。7:学生時代に用いていた教科書の大半は廃棄したが、この心電図“教材”は捨てずにファイリングして残してあるほど愛着アリ。2年目は“野戦病院”8)に出た。当然、心電図の講義なんてない。でも、そこでダメ研修医に再度転機が訪れた。1つ上の先生が、「あなた、循環器に興味があるのなら、心電図の“下読み”してみたら? ○○先生が添削してくれるから勉強になるわよ」と勧めてくれたのがキッカケだった9)。それは、院内で毎日記録される山のような心電図の所見を他科のドクターにもわかるよう紙に記載する仕事だった10)。この“下読み”に、コワモテ循環器部長が目を通し、間違っていれば赤ペンで修正してくれるというのだ。しかも、生理検査室の人は、訂正が入った心電図と“正解”できたものとを別に分けておいてくれた11)。それ以後1年近くの間、頼まれてもないのに院内ほぼすべての心電図に目を通す、出来の悪い下読み工場をオープンさせた。はじめのうちはドン引きするくらい直され、不整脈やペースメーカーの心電図などは最後までまったく歯が立たなかった。だが、毎回ドキドキしながら添削結果と向き合った経験は貴重ではあり、一度は失いかけた心電図への“情熱”が徐々に湧き上がってくるのを感じた12)。 8:飲み屋街としても有名な神楽坂付近の病院で、名称は変わっても現在も同じ場所にある。 9:何度か一緒に飲みに行き(ご馳走になっていた)、「腎臓内科の紹介でこの病院に来たんですけど、今更ながらやっぱり循環器やりたいなぁって思ってるんです」なーんて相談したような気が…。10:当時はまだ電子カルテはなく、複写式の短冊状の紙にボールペンで所見を書いた。個々人に“ポケベル”が手渡されており、それが鳴るたび近くの電話機にダッシュしていたなぁ…。11:悩みに悩んでつけた所見が予想通り“誤り”であったもの、そして逆に自分では難なく診断できたと思っていたのに訂正が入り、「そう考えるのか」と多々学ぶことも。悩んだ末に出した回答が“正解”だった時は、ニコニコとスキップして病棟に戻るくらい喜んだなぁ。12:現在でも循環器レジデントなどのdutyとして心電図“下読み”があるようだが、“添削”まで入る環境は比較的少ないのでは。研修自体はいろいろ苦労もしたけれど、この点は恵まれていたと思う。今回はここまで。今振り返ると、かつての教授や部長と同じような立ち居振舞いや試みは、現時点でのボクにはできていません。時勢も変化も踏まえ、Dr.ヒロが選んだのは書籍やWEBでの連載による講義に重点を置くという道です。ただ、それでも“胸のうちは一つ。医学生や研修医・レジデント諸氏に以下のTake home messageを実践してもらいたい―それだけです。今回はDr.ヒロのライフ・ワークの根幹に触れる話をお届けしました。次回は、循環器医になってからの“心電図の壁”への挑戦ストーリーをお届けします。お楽しみに!Take-home Message教科書や問題集だけではなく“生”の心電図に数多く触れよ!心電計の自動診断や先輩の読みに頼らず、自分なりの所見・診断をつける“訓練”をすべし!自分がわからなかった心電図をプロ(循環器医)がどう読んだかチェックして真似よ!【古都のこと~心リハ学会2019教育講座】今回は夏休み特別編をお送りします。2019年7月13日、大阪国際会議場にて第25回日本心臓リハビリテーション学会学術集会(大会長:木村 穣氏[関西医科大学健康科学科])が開催され、Dr.ヒロは教育基礎講座『心電図とのつき合い方、教えます!~心臓リハビリテーション編~』*のレクチャーをする機会に恵まれました。実は、本学術集会への参加は初めてだったのですが、医師もさることながら、理学療法士や看護師などのコメディカルの方々の熱気がダイレクトに伝わってくる、本当に素晴らしい学会であり、今まで不参加であった自分を恥じました。当日は600人収容の会場が超満員、立ち見が数十人どころか会場の外まで人がギッシリ! こうした状況で講演をさせてもらえることは非常に光栄に感じます。さらに、ボクがレジデント時代を過ごした際の恩師が座長という別のプレッシャーもありました(笑)。ただ、いざ始まってしまえば、いつも通り「心電図・不整脈が好きだー」という情熱を前面に押し出す“熱血講義”スタイルで行うことができました。写真はタイトルスライドで、本連載での著者紹介イラスト、背景は伏見稲荷大社(伏見区)の千本鳥居の様子です。心電図は循環器領域の“言葉”の一つであり、その重要性はもちろん心臓リハビリテーションの世界でも変わらないと思います。聴講してくださった皆さんが、レクチャーから何かしらの「ヒント」を感じ取り、ひいては彼ら彼女らが担当する患者さんの健康回復につながるとしたら、演者冥利に尽きるものです。*:当日使用したスライド資料はこちらから

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宇宙医学研究の成果を高齢者医療に役立てる

 骨密度低下と聞けば高齢者をイメージするが、無重力空間に滞在する宇宙飛行士もそれが問題視されている。しかし、宇宙飛行士と高齢者の骨密度減少の原因と程度にはどのような違いがあるのだろうか? 2019年6月14日、大島 博氏(宇宙航空研究開発機構、整形外科医)が「非荷重環境における骨・筋肉の減少と対策」において、宇宙飛行士に対する骨量減少と筋萎縮の実態と対策について講演した(第19回日本抗加齢医学会総会 シンポジウム2)。高齢者と宇宙飛行士の骨量減少の違いは? 高齢者の骨粗鬆症と30~60歳の宇宙飛行士の骨量減少の原因は異なる。高齢者では加齢によるCa吸収の低下や女性ホルモン減少により骨吸収亢進と骨形成低下から、骨量は年間1~2%ずつ低下する。一方で、宇宙飛行や長期臥床では骨への荷重負荷が減少し、著しい骨吸収亢進と骨形成低下が生じる。そのため、骨粗鬆症とともに尿路結石のリスクも高まる。 宇宙飛行士の大腿骨頚部の骨量を1ヵ月単位でみると、骨密度(DXA法で測定)は1.5%、骨強度(QCT法で測定)は2.5%も減少していた。大島氏は「宇宙飛行士の骨量は骨粗鬆症患者の約10倍の速さで減少する。骨量減少は荷重骨(大腿骨転子部や骨盤など)で高く、非荷重骨(前腕骨など)では少ない」とし、「体力ある宇宙飛行士でも半年間の地球飛行を行うと、帰還後の回復に3~4年も要し、次の飛行前までに回復しないケースもある」と、報告した。宇宙飛行士×ビスフォスフォネート薬 宇宙飛行士の骨量減少を地上で模擬し医学的な対策法の妥当性を検証するため、JAXAは欧州宇宙機関などと共同で“90日間ベッドレスト研究”を実施。この地上での検証結果をもとに、宇宙飛行における骨量減少予防対策としてJAXAとNASA共同による“ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少予防研究”を行った。長期宇宙滞在の宇宙飛行士から被験者を募りアレンドロネートの週1回製剤(70mg)服用群と非服用群に割り付けた。それぞれ、食事療法(宇宙食として2,500kcal、Ca:1,000mg/日と、ビタミンD:800IU/日含む)と運動療法(筋トレと有酸素運動を2時間、週6日)は共通とした。その結果、ビスフォスフォネート剤を予防的に服用すれば、骨吸収亢進・骨量減少・尿中Ca排泄は抑制され、宇宙飛行の骨量減少と尿路結石のリスクは軽減できることが確認された1)。宇宙で1日分の筋萎縮変化は高齢者の半年分 加齢に伴い、60歳以降では2%/年の筋萎縮が生じる。宇宙飛行では、背筋や下腿三頭筋などの抗重力筋が萎縮しやすく、約10日間の短期飛行で下腿三頭筋は1%/日筋肉は萎縮した。同氏は「宇宙で1日分の筋萎縮変化は、臥床2日分、高齢者の半年分に相当する。宇宙飛行士には、専属のトレーナーから飛行前から運動プログラムが処方され、飛行中も週6回、1日2時間、有酸素トレーニングと筋力トレーニングからなる軌道上運動プログラムを実施し、筋萎縮や体力低下のリスクを軽減している。」という2)。宇宙医学は究極の予防医学を実践 「宇宙飛行は加齢変化の加速モデル。予防的対策をきちんと実践すれば、骨量減少や筋萎縮のリスクは軽減できる」とコメント。「骨・筋肉・体内リズムなどは、宇宙飛行士と高齢者に共通する医学的課題であり、宇宙医学は地上の医学を活用して宇宙飛行の医学リスクを軽減している。宇宙医学の成果は、中高年者の健康増進の啓発に活用できる」と地上の医学と宇宙医学の相互性を強調した。「宇宙医学は、ガガーリン時代にサバイバル技術として始まったが、現在は究極の予防医学を実践している。地上の一般市民に対しては、病気を俯瞰して理解し、予防対策の重要性の啓発に利用できる」と締めくくった。

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慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー〔CIDP:chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)は、2ヵ月以上にわたる進行性、または再発性の経過を呈し、運動感覚障害を特徴とする免疫介在性の末梢神経疾患(ニューロパチー)である。診断は、主に臨床所見と電気生理所見に基づいて行われ、これまでにいくつかの診断基準が提唱されている。とくに有名なものとして、“American Academy of Neurology(AAN)”の診断基準と“European Federation of Neurological Societies/Peripheral Nerve Society(EFNS/PNS)”の診断基準の2つがあり、現在はEFNS/PNSの診断基準が頻用されている。■ 疫学わが国におけるCIDPの有病率と発症率は、EFNS/PNSの診断基準より以前に作成されたAANの診断基準を採用した調査によると、それぞれ10万人当たり1.61人と0.48人であった。AANの診断基準は、現在頻用されているEFNS/PNSの診断基準と比較すると、より厳格で感度が低いことから、実際の患者数はさらに多いと考えられる。■ 病因自己免疫性の機序が推測されているが、後述するように多様な病型が存在し、複数の病態が関与していると考えられており、詳細は明らかになっていない。病理学的にはマクロファージが、末梢神経系の髄鞘を貪食することによって生じる脱髄像が本疾患の特徴であり、髄鞘の障害が神経の伝導障害を引き起こすと考えられてきた(図1)1)。近年、CIDP患者の1割程度で、傍絞輪部の髄鞘終末ループと軸索を接着させる機能を持つneurofascin 155とcontactin 1に対する抗体が陽性となることが明らかになった。これらの抗体陽性例では、マクロファージによる髄鞘の貪食像がみられず、抗体の沈着によって傍絞輪部における髄鞘の終末ループと軸索の接着不全が生じることが明らかにされている(図2)2)。一方、古典的なマクロファージによる脱髄と関連した自己抗体はいまだ明らかになっていない。画像を拡大する髄鞘を囲む基底膜(矢頭)内に入り込んだマクロファージ(M印)の突起(矢印)が髄鞘を破壊している。有髄線維の軸索を★印で示す。腓腹神経生検電顕縦断像。酢酸ウラン・クエン酸鉛染色。Scale bar=1μm。画像を拡大する髄鞘の終末ループと軸索の間隙を矢印で、有髄線維の軸索を★印で示す。腓腹神経生検電顕横断像。酢酸ウラン・クエン酸鉛染色。Scale bar=0.3μm。■ 症状現在頻用されているEFNS/PNS診断基準では、2ヵ月以上にわたる慢性進行、階段状増悪、あるいは再発型の経過を呈し、四肢対称でびまん性の筋力低下と感覚異常を来すものを典型的CIDP(typical)と定義している。典型的CIDPでは感覚障害よりも運動障害が目立つ場合が多く、自律神経症候は通常みられない。感覚障害に関しては、四肢のしびれ感を自覚する場合が多いが、痛みを訴えることは少ない。CIDPに類似した症状を有する患者で痛みを訴える場合は、リンパ腫やPOEMS症候群や家族性アミロイドポリニューロパチーなどの他疾患の可能性を考慮して、精査を進める必要がある。また、次に述べるような左右非対称や遠位部優位の障害分布を呈するCIDP患者も存在する。■ 分類EFNS/PNS診断基準では、先に述べたようなtypical CIDPのほかに、非典型的CIDP(atypical CIDP)として、遠位優位型(distal acquired demyelinating symmetric:DADS)、非対称型(multifocal acquired demyelinating sensory and motor neuropathy:MADSAM)、局所型、純粋運動型、および純粋感覚型の5種類の亜型を挙げている。近年報告されるようになった抗neurofascin 155抗体と抗contactin 1抗体陽性の患者は、typical CIDPかDADSの病型を呈するが、経静脈的免疫グロブリン(intravenous immunoglobulin:IVIg)療法に対して抵抗性であり、感覚性運動失調や振戦が高率にみられるなどの特徴を有し、従来型のCIDPとは異なる一群と考えられるようになってきている。■ 予後多くの患者は免疫治療によって症状の改善がみられるが、再発性の経過をとることが多く、症状が持続することによって軸索障害も生じると考えられている。軸索障害が目立つ患者では、筋萎縮がみられるようになり、免疫治療への反応性が不良であることが知られている。また、治療抵抗性で重度の機能障害に陥ることもあり、なかには呼吸障害や感染症により死亡することもある。一方、短期間の治療で長期間の寛解が得られたり、自然寛解もみられることが知られており、CIDPの予後は多様である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先に述べたtypical CIDP、DADS、MADSAM、局所型、純粋運動型、純粋感覚型といった臨床病型に照らし合わせながら、神経伝導検査、脳脊髄液検査、MRIなどの所見を併せて総合的に診断する。EFNS/PNS診断基準では、神経伝導検査所見に基づいた電気診断基準が定められており、伝導速度の遅延、終末潜時の延長、伝導ブロック、時間的分散、F波の異常など、末梢神経の脱髄を示唆する所見を見いだすことが重要である。脳脊髄液検査では、細胞数の増多を伴わない蛋白の上昇、いわゆる蛋白細胞解離がみられる。典型例の神経生検では節性脱髄、再髄鞘化、オニオンバルブなどの脱髄を示唆する所見と神経内鞘の浮腫がみられることがある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CIDP患者に対する第1選択の治療としてはIVIg療法、副腎皮質ステロイド薬、血漿浄化療法があり、効果は同等といわれている。IVIg療法は効果の発現が早く、簡便に施行できることから、最初の治療として選択されることが多いが、一定の割合で無効例が存在することと、再発を繰り返す患者も多いことを念頭に置く必要がある。IVIg療法は、1回目に明らかな効果がみられない場合でも、2回目の投与で有効性を示す場合もあることから、無効と判断するには2回までの投与は試みる価値があるとされている。抗neurofascin 155抗体や抗contactin 1抗体陽性の患者は、IVIg療法に対する反応性が乏しい場合が多い反面、副腎皮質ステロイド薬や血漿浄化療法は有効とされている。これらの抗体の主な免疫グロブリンサブクラスはIgG4であり、免疫吸着療法はIgG4を吸着しにくいことを考慮に入れる必要がある。4 今後の展望先に述べたとおりIVIg療法は、効果発現が早く簡便に施行できることから臨床の現場で頻用されているが、再発を生じることが多く、再発の度に繰り返しのIVIg療法を必要とすることも多い。IVIg療法で再発を繰り返す場合には、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の併用や血漿浄化療法への切り替えやIVIgの追加という選択肢もあるが、再発前にIVIgを定期的に投与する方法、すなわち維持療法の有用性も報告されており、わが国でも承認された。IVIgによる維持療法は疾患の増悪を未然に防ぎ、軸索障害の進行も抑制すると考えられることから、今後広く用いられるようになることが予想される。また、2019年3月に効能が追加され使用できるようになったハイゼントラ皮下注のように高濃度の免疫グロブリン製剤の皮下投与も、CIDPに対して有効であることが示されており、近い将来、治療の選択肢の1つとなることが予想される。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国CIDPサポートグループ(患者とその家族および支援者の会)1)Koike H, et al. Neurology. 2018;91:1051-1060.2)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2017;88:465-473.公開履歴初回2019年5月28日

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第8回 腹部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第8回 腹部の痛み腹痛の愁訴は外来診療ではよく見られ、誰もが経験する痛みでもあります。治療の必要性がないケースも多いのですが、急性的な痛みや重症度の高い痛みは、重篤な腹部疾患を疑わなければならないこともあり得るので、十分注意する必要があります。なかには生命を脅かすケースもあり、迅速な診断と外科的な処置が必要となることもあります。今回は、この腹部の痛みを取り上げたいと思います。腹痛の発生源は3分類で考える腹部の痛みの発生源は、大きく分けて内臓痛、体性痛、関連痛に分類されます。1)内臓痛自律神経を主とした腹部臓器に由来する痛みですので、そのものの局在性は不明確です。また、その特徴は鈍い、しくしくした、不快な痛みです。時に疝痛(せんつう)と呼ばれる非常に痛い思いをすることもあります。胃腸など管腔臓器では、内腔壁の痛み受容器が伸展拡張に対して過敏であるためです。腸管閉塞による疝痛がこれに当たります。しかも、内腔壁に炎症や充血などが生じていれば、ほんのわずかな刺激によっても激痛として感じることになります。2)体性痛壁側腹膜に刺激を受けると突き刺すような鋭い痛みを感じます。これはAδ神経線維を主体とする、体性神経が刺激されるためです。感染などによって惹起される炎症刺激に反応します。痛みの程度は内臓痛よりも強く、持続性です。したがって、鋭い痛みで局在性が明確です。そのため、疼痛部位は病変臓器あたりに限局していますし、非対称的な痛みになります。3)関連痛内臓痛そのものの局在性は不明確ですが、同じ脊髄節支配の皮膚に投射されて痛みを感じる「関連痛」が存在します。この関連痛は、痛みの部位が明確です。図に、内臓の知覚支配と関連痛の現れる部位を示します。この関連痛の投射部位である皮膚におきましては、疼痛過敏や異常知覚を伴なったり、筋肉の緊張、自律神経の異常興奮が見られることもあります。画像を拡大する腹痛の部位と鑑別診断については、表に示しております。それぞれの疾患が疑われれば、それに対応する検査、身体所見を詳細にとり対応します。必要があれば、専門診療科に委ねることも大切です。画像を拡大する次回は腰痛について述べます。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143: 142-1432)山村秀夫ほか編集 痛みを診断する 有斐閣選書1984;143:20-38

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腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?

 2019年5月13日、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、腰痛診療ガイドライン策定委員会)が発刊された。本ガイドラインは改訂第2版で、初版から実に7年ぶりの改訂となる。いまだに「発展途上」な腰痛診療の道標となるガイドライン 初版の腰痛診療ガイドライン作成から現在に至るまでに、腰痛診療は大きく変遷し、多様化した。また、有症期間によって病態や治療が異なり、腰痛診療は複雑化してきている。そこで、科学的根拠に基づいた診療(evidence-based medicine:EBM)を患者に提供することを理念とし、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』で推奨されるガイドライン策定方法にのっとって腰痛診療ガイドライン2019は作成された。腰痛診療ガイドライン2019は9つのBackground Questionと9つのClinical Question 腰痛診療ガイドライン2019では、疫学的および臨床的特徴についてはBackground Question (BQ)として解説を加え、それ以外の疫学、診断、治療、予防についてはClinical Question (CQ)を設定した。それぞれのCQに対して、推奨度とエビデンスの強さが設定され、益と害のバランスを考慮して評価した。推奨度は、「1.行うことを強く推奨する」、「2.行うことを弱く推奨する(提案する)」、「3.行わないことを弱く推奨する(提案する)」、「4.行わないことを強く推奨する」の4種類で決定する。エビデンスの強さは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」、「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」、「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」、「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」の4種類で定義される。腰痛診療ガイドライン2019では腰痛の定義がより明確に 腰痛診療ガイドライン2019において、腰痛は「疼痛の部位」、「有症期間」、「原因」の3つの観点から定義された。疼痛の部位からの定義では、「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも1日以上継続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある」とされた。有症期間からは、発症から4週間未満のものを急性腰痛、発症から4週間以上3ヵ月未満のものを亜急性腰痛、3ヵ月以上継続するものを慢性腰痛と定義した。原因別の定義では、「脊椎由来」、「神経由来」、「内臓由来」、「血管由来」、「心因性」、「その他」に分類される。とくに「悪性腫瘍」、「感染」、「骨折」、「重篤な神経症状を伴う腰椎疾患」といった重要疾患を鑑別する必要がある。腰痛診療ガイドライン2019では運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨 腰痛診療ガイドライン2019では、運動療法については「急性腰痛」、「亜急性腰痛」、「慢性腰痛」のそれぞれについて評価され、そのうち「慢性腰痛」に対しては、「運動療法は有用である」として強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。それに対して、「急性腰痛」、「亜急性腰痛」に対してはエビデンスが不明であるとして推奨度は「なし」とされた。腰痛診療ガイドライン2019では各薬剤の推奨度とエビデンスの強さを評価 腰痛診療ガイドライン2019が初版と大きく異なる点は、推奨薬の評価方法である。まず、腰痛診療ガイドライン2019では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。そのうえで、腰痛を「急性腰痛」、「慢性腰痛」、「坐骨神経痛」に区別して、各薬剤についてプラセボとのランダム化比較試験のシステマティックレビューを行うことでエビデンスを検討し、益と害のバランスを評価して推奨薬を決定した。オピオイドについては、過量使用や依存性を考慮して弱オピオイドと強オピオイドに分けられている。 腰痛診療ガイドライン2019での各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおり。●急性腰痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さA<筋弛緩薬> 推奨度2、エビデンスの強さC<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さC<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC●慢性腰痛に対する推奨薬<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さA<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さA<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度2、エビデンスの強さB<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<強オピオイド>(過量使用や依存性の問題があり、その使用には厳重な注意を要する) 推奨度3、エビデンスの強さD<三環系抗うつ薬> 推奨度なし*、エビデンスの強さC(*三環系抗うつ薬の推奨度は出席委員の70%以上の同意が得られなかったために「推奨度はつけない」こととなった)●坐骨神経痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さB<Caチャネルα2δリガンド> 推奨度2、エビデンスの強さD<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さC

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エーラス・ダンロス症候群〔EDS:Ehlers-Danlos syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome:EDS)は、皮膚・関節の過伸展性、各種組織の脆弱性を特徴とする遺伝性結合組織疾患の総称である。■ 疫学EDS全体としての頻度は1/5,000人程度と推定されている。古典型EDSでは1/2万人、関節過可動型EDSでは1/5,000~2万人、血管型EDSでは1/5~25万人、後側弯型EDSでは1/10万人とされる。それ以外の病型ではさらに頻度は低くまれとなる。詳しい病型は後述する。■ 病因コラーゲン分子、もしくは修飾酵素の遺伝子変異などにより発症する。古典型EDSはV型コラーゲン遺伝子変異、血管型EDSはIII型コラーゲン遺伝子変異によるdominant negative効果またはハプロ不全に基づき発症する。筋拘縮型EDSでは、デルマタン4-0-硫酸基転移酵素-1またはデルマタン硫酸エピメラ-ゼの欠損に基づき、代表的なデルマタン硫酸(DS)含有プロテオグリカンであるデコリンのグリコサミノグリカン鎖の組成が変化し(DSの消失、コンドロイチン硫酸への置換)、デコリンが媒介するコラーゲン細線維のassembly不全を来すことによって進行性の結合組織脆弱性を生じる。関節過可動型EDSでは、いまだ原因遺伝子は同定されていない。■ 症状EDSの各病型の臨床症状は、後述する表2の診断基準のとおりである。血管型EDSでは、薄く透けて見える皮膚、易出血性、特徴的な顔貌、動脈・腸管・子宮の脆弱性を特徴とする。血管破裂・解離、腸管破裂、臓器破裂は70%の成人例における初発症状となる(平均年齢23歳)。新生児期には、内反足、先天性股関節脱臼を、小児期には鼠径ヘルニア、気胸、反復性関節脱臼・亜脱臼を合併しうる。妊婦では分娩前後の動脈・子宮破裂により、死亡する危険性がある(~12%)。古典型EDSでは、滑らかでベルベット様の皮膚、過伸展性、脆弱性が目立ち、創傷治癒が遅れ瘢痕が薄く伸展する(萎縮性瘢痕:シガレットペーパー様と称される)。また、縫合部位は離開しやすい。肩、膝蓋骨、指、股、橈骨、鎖骨などが容易に脱臼するが、自然整復または自力で整復できることが多い。運動発達遅延を伴う筋緊張低下、易疲労性、筋攣縮、易出血性がみられることがある。妊婦は前期破水・早産(罹患胎児の場合)、会陰裂傷、分娩後の子宮・膀胱脱を生じうる。関節過可動型EDSでは、皮膚の過伸展性は正常もしくは軽度であるが、関節過伸展性が顕著であり、脱臼・亜脱臼の頻度も高い。変形性関節症もよくみられる。関節痛を含めた慢性疼痛が深刻であり、身体的・精神的な障害となりうる。しばしば胃炎、胃食道逆流、過敏性腸症候群といった消化器合併症を呈する。筋拘縮型EDSでは、先天性多発関節拘縮(内転母指、内反足)、顔貌上の特徴、内臓や眼の先天異常など先天異常関連症状、そして、皮膚の脆弱性、関節の易脱臼性、足・脊椎の変形、巨大皮下血腫、大腸憩室など進行性の結合組織疾患脆弱性関連症状を呈する。■ 分類1998年に発表された国際命名法により、6つの主病型に分類されてきたが,近年新たな病型がその生化学的・遺伝学的基盤とともに報告されており、2017年に新たな国際分類が定められ13の病型に分類された(表1)。表1 2017年に発表された新たなEDSの国際分類画像を拡大する■ 予後予後は各病型によりさまざまである。血管型EDSでは生涯を通じて易出血性を呈する。20歳までに25%の症例が、40歳までに80%の症例が深刻な合併症を発症し、死亡年齢の中央値は48歳とされる。とくに誘因もなく突然発症し、突然死、脳卒中、急性腹症、ショックといった形で現れることも多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断では、表2に示したEDSの各病型の診断基準を参照されたい。関節過可動型EDSを除きいずれの病型でも、最終診断には分子遺伝学的検査が必須となってくる。関節過可動性の評価としては、Beightonの基準を用いる。(1)小指の他動的背屈>90°(片側1点)、(2)母指が他動的に前腕につく(片側1点)、(3)肘の過伸展>10°(片側1点)、(4)膝の過伸展>10°(片側1点)、(5)前屈で手掌が床につく(1点)(計9点中5点以上で関節過可動性ありと判断)。表2 EDS各病型の診断基準画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)各病型に共通している診療のポイントは、医療者(関係各科、救急)と患者・家族が疾患についてあらゆる情報を共有し、起こりうる合併症の早期発見・早期治療を行うことである。病型にもよるが皮膚裂傷や関節過伸展性・脆弱性に対しては、激しい運動を控えサポーターなどで保護を行う。関節過可動型EDSでは、関節保護の理学療法、補装具の使用、鎮痛薬投与なども必要であり、重症患者では身体障害や難治性疼痛への負担に配慮した心理カウンセリング、抗うつ薬の投与などの対応が必要な時もある。血管型EDSでは動脈合併症予防のためセリプロロール(商品名:セレクトール)投与を考慮する。急性の動脈病変(瘤、解離)が生じた場合、可能な限り保存的に対処するが、病状が進行する場合は、血管内治療を考慮する。手術を行う場合は、血管および組織脆弱性を考慮し、細心の注意が必要になる。患者の妊娠はハイリスクであり、カップルに対し十分な情報提供を行ったうえで、心臓血管外科のバックアップができる施設において、陣痛開始前のコントロールされた分娩(おそらくは帝王切開のほうが安全)を行う。古典型EDSの裂傷の予防対策として、小児で皮膚裂傷を予防するためには、前頭部、膝、頸部を保護する。縫合に際しては、張力をかけない、できれば2層で縫合するなど十分注意を払う。さらに瘢痕を広げないよう、抜糸までの期間を通常の2倍程度に延ばす、テープで補強するなどの工夫が必要となる。また、遺伝カウンセリングについてふれると、これは「臨床遺伝専門医を中心に認定遺伝カウンセラー、担当医、看護・心理職種が協力して、患者自身または家族の遺伝に関する問題を抱える患者を対象に、臨床情報の収集に基づき正確な診断と発症・再発リスク評価を行い、わかりやすく遺伝に関する状況の整理と疾患に関する情報提供を行うこと、同時に患者が遺伝に関連したさまざまな負担に、その人らしく向き合い、現実的な意思決定を行っていけるような継続的な心理社会的支援を行うことを含んだ診療行為」とされる。EDSの病型は常染色体優性遺伝が多く、この場合、本症と診断されることは、患者自身が難治性疾患であることに加え、次世代が罹患する確率が50%であることを示すものである。また、稀少病型の多くは常染色体劣性遺伝であり、発症者の同胞への再発率は25%とされる。診断の時点、家族計画の相談が出た時点など診療の局面で、遺伝子医療部門への紹介を考慮したい。4 今後の展望次世代シークエンスを活用した、網羅的な遺伝学的検査の運用が始まっている。現在、唯一原因遺伝子が同定されていない関節過可動型EDSの原因遺伝子同定に向けた研究が進行中である。5 主たる診療科小児科、皮膚科、整形外科、循環器内科、心臓血管外科、消化器内科、消化器外科、眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、リハビリテーション科、麻酔科(ペインクリニック)、リウマチ科、救急科、遺伝子医療部門など関与する診療科は多岐にわたる。各科との連携が重要である。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター エーラス・ダンロス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Gene Reviews(医療従事者向けの研究情報:英文のみ)Gene Review Japan(医療従事者向けの研究情報。血管型、古典型、関節可動型について詳細説明あり)患者会情報日本エーラスダンロス症候群協会(友の会)(患者とその家族および支援者の会)公開履歴初回2019年5月14日

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血栓溶解を用いた低侵襲脳内血腫除去術の有効性と安全性(MISTIE-III)/Lancet(解説:中川原譲二氏)-1031

 テント上の脳内出血による急性脳卒中は、高いmorbidityとmortalityを伴う。開頭血種除去術は、大きなRCTで何らの有効性も得られていない。本研究(minimally invasive surgery with thrombolysis in intracerebral haemorrhage evacuation: MISTIE-III)では、血種サイズを15mL以下に低下させることを目標とする低侵襲脳内血腫除去術(MISTIE)が、脳内出血患者の機能的転帰を改善するかどうかを検討した。約500例を対象に、365日時のmRSスコア0~3を2群で評価 MISTIE-IIIは、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験である。対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標にイメージガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIE群では、血栓溶解薬アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与した。主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。365日時のmRS 0~3達成率:45% vs.41%で2群間に有意差なし 全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、GCSは10(8~13)、NIHSSは19(15~23)だった。mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群:45%、標準治療群:41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。7日時の死亡率は、MISTIE群:1%(2/255例)、標準治療群:4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、その件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。今後のサブ解析にMISTIEの活路を見いだせるか? 血栓溶解を用いたMISTIEは、脳内出血患者の機能的転帰を改善する治療法として大きな期待を持たれてきたが、MISTIE-III研究では、その明確な有効性を示すことができなかった。研究の詳細を見ると、MISTIE群では、血腫の大きさが最終的に15mL以下となった症例数が146例(58%)と記載されているが、このサブグループの成績がどのような結果になっているかが知りたいところである。また、約500例の発症から治療開始までの時間が、<36時間:143例、36~<48時間:127例、48~60時間:118例、>60時間:111例と4分割され、発症から治療開始までの時間が<36時間のグループの治療成績が比較的良いことが示されているが、発症から治療開始までの時間に関しても詳細な分析が知りたいところである。MISTIE-III研究を、今後どのような研究に引き継ぐことができるか、研究者の動向をしばらく注目したい。

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第7回 頸部・肩・上肢の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第7回 頸部・肩・上肢の痛み頸部の痛みは、誰もが経験する痛みでありますし、一般的な受診理由の1つでもあります。また、それに引き続いて生じる肩痛や上肢痛はQOLの低下にも大いに関連しますので、患者さんの訴えを理解するために必要な知識であろうと思います。今回は、この頸部・肩・上肢の痛みを取り上げたいと思います。頸部の痛みの鑑別の重要性頸部の痛みの発生源としては、頸部の筋・筋膜、腱・靭帯、椎骨、椎間関節、椎間板、上位頸神経根など頸部の構成組織が関連しております。いわゆる筋・骨格系の痛みに通常の日常診療ではよく遭遇します。重要なのは、これらの良性疾患による痛みと、腫瘍、感染など重大な病変をもつ腫瘍浸潤や頸椎骨転移・病的骨折、また、椎間板炎、化膿性脊椎炎、頸部硬膜外膿瘍などの鑑別診断になります。筋・骨格系の痛みの場合、通常は患者さんの訴える部位を圧迫すると、いわゆる圧痛がみられます。加えて明確な神経学的欠損はほとんどみられません。そのほか、患者さんの訴えと神経学的所見が一致しない場合には、心因性疼痛が疑われます。「五十肩」「肩こり」発生のメカニズム肩の痛みは、下部頸椎性の原因に基づく場合もありますが、肩関節周囲炎がよく取り上げられます。肩関節は、体の中で最大の可動域を有する球関節です。そのためにさまざまな関節が関与して、この可動域を生み出しております。加齢とともに変性が加わり、さらに外傷や運動によって、関節内の炎症や損傷をもたらします。肩関節には上腕二頭筋長頭腱の走行があります。結節間溝表面は横上腕靭帯が覆い、腱鞘のような構造になっております。この部分では長頭腱は炎症や摩耗変性を生じやすい状態になっており、まさにこのようにして生じた一連の障害が肩関節周囲炎です。いわゆる「五十肩」は複雑な病変部位が明確でない場合に付けられる病名です。圧痛部は複雑な病変部を推定するのに役立ちます。頸肩部でよくみられ、いわゆる「肩こり」と呼ばれる筋・筋膜疼痛症候群もよくある疾患です。また、頸肩腕部の痛みを主訴とするものも、明確な原因を特定できない場合には、頸肩腕症候群として診断されます。上肢の痛みには2つタイプがある上肢の痛みは、頸椎由来の痛みと上肢に限定される痛みがあります。上肢が原因として生じる痛みとしては、上腕骨内側上顆炎・外側上顆炎、変形性肘関節症、変形性手関節症、母指CM関節症、正中神経が関連する手根管症候群や回内筋症候群、尺骨神経が含まれるギヨン管症候群や肘部管症候群、橈骨神経が関連する橈骨神経管症候群などの絞扼性末梢神経障害などがあります。いずれも知覚障害が初期症状として出現します。それに対して、頸部由来の上肢痛や痺れも珍しくありません。図に示しますように頸部由来の上肢痛が、それぞれの皮膚分節に沿ってみられます。疑うべき疾患としては頸椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア、外傷性頸部症候群、頸椎手術後疼痛症候群、頸椎椎間関節症、パンコースト腫瘍などが挙げられます。腫瘍疾患は高齢者に多いのですが、夜間痛、安静時痛が特徴です。図 皮膚の分節(Cは頸髄神経を示す)画像を拡大する次回は、「腹痛」を取り上げます。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:124-125.2)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:136-137.3)花岡一雄ほか編集. ペインクリニック療法の実際. 南江堂;1996.p.331-345.

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次世代JROADでバイオマーカーの予測目指す/日本循環器学会

 高齢化とともに心不全罹患率は上昇傾向を示し、治療の発展からその予後は短期的から長期的へ変遷する。2018年12月には、「脳卒中・循環器病対策基本法」が成立し、がん患者以外の緩和ケア医療も進んでいくだろう。2019年3月29~31日、横浜で開催された第83回日本循環器学会学術集会で、井手 友美氏(九州大学医学研究院循環器病病態治療講座准教授)が、循環器疾患診療時実態調査(JROAD)を活用した心不全に対する新たな取り組みについて講演した。JROADが新たな時代へ始動 JROAD研究がスタートしたのは2004年。全国的に循環器診療の実態調査を展開して診療実態を具体的な数で把握、得られたデータは会員や社会へ発信し、循環器診療の質を向上させることが目的であった。そして、この研究を行ったDPC対象施設のデータからデータベース構築を2014年から開始したのが、JROAD-DPC databaseである。 このJROAD-DPCから心不全による過去の報告では、男性:75±12歳、女性:81±12歳と、男女ともに高齢化が進んでいることが報告され、NYHA分類で重症なほど、死亡退院数は増加傾向であった。これに対し、井手氏は「心不全患者の老化、重症化、とくに女性の心不全患者が非常に多い」と、現況について懸念した。ほかの心不全レジストリ研究との比較 しかし、JROAD-DPCのデータからは、本当にその患者が心不全であるかどうか、また具体的な心不全の基礎疾患、長期予後については不明である。そこで、患者・施設・地域レベルの横断的かつ縦断的な分析を可能とする全国的データベースの構築を目的として、“JROADHF”を開始。これは、日本循環器学会が実施しているJROAD登録施設をランダム抽出し、2013年1月1日~12月31日の1年間にDPCによって急性心不全による入院とされた、心不全入院患者1万例を対象とした多施設共同後向き観察研究である。実際には、1万4,847例(128施設)が登録され、各施設にてDPCデータに追加してカルテレビューを行い、心不全の臨床情報の詳細、さらには2017年12月31日までの予後調査を追加で行った。約10.2%(1,515例)は非心不全症例であり、これに対し同氏は、「DPCからの急性心不全病名での入院症例のうち約90%が心不全症例であることが確認された」とし、「全症例の詳細な再調査により、短期予後は1万3,238例を、長期予後は、入院中の死亡例7.7%(1,024例)と予後調査データ欠測症例8%(1,078例)を除いた1万1,136例を解析対象症例とした」と述べた。 このJROADHF研究をこれまでの後向きレジストリと比較すると、心不全の診断精度が高く、入院中の医療介入のすべての情報が正確に得られる、患者数が大規模、全国調査が可能、短期・長期予後の調査も可能、データ取得に要する時間の早さなど、さまざまな点で質の高さが伺える。 一方、後向き研究が故に、現在問題視されるような評価項目を入れる事ができないため、新たな研究として“JROADHF-NEXT”が立ち上げられた。フレイル、認知・運動機能について評価 JROADHF-NEXTは、急性心不全による入院患者を対象に、JROADHF研究では得られなかった、最近の知見や治療内容を反映したデータベースを構築。臨床情報やバイオマーカーを用いた心不全発症・重症化の新たな予測指標・リスク層別化法を開発するとともに、その有効性を検証することを目的とした、多施設共同前向き登録観察研究である。患者登録は2019年4月より開始している。 この研究によって、心不全患者の全国規模のフレイル、サルコペニアを含めた新たな臨床情報に加え、バイオバンク(血漿、血清、尿)を構築することで新たなバイオマーカーなどの新規予後予測因子の同定を行う。そして、日本での心不全診療における新たなエビデンスの創出が期待されている。 最後に同氏は、「JROADHF研究は、全国の先生方にご参加・ご尽力いただき、質の高い全国規模の心不全レジストリ研究としてデータベース作成が可能となった。JROADHF研究における今後の解析を進めて、わが国発のエビデンスの構築を行う予定である。前向き研究であるJROADHF-NEXT研究も、全国の先生方と力を合わせて世界に誇れるわが国の心不全レジストリとしたい」と締めくくった。■参考日本心不全学会JROADHF-NEXT参議院法制局:健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法■関連記事HFrEF患者へのivabradine、日本人でも有用(J-SHIFT)/日本循環器学会サルコペニア、カヘキシア…心不全リスク因子の最新知識【東大心不全】

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骨折の介護は介護者の働き方を変える

 高齢者の骨粗鬆症による骨折は、患者自身のQOLを悪化させるだけでなく、予後も悪化させる。と同時に家族など介護者に多大な負担を強いることになり、わが国でも問題となっている。今回、介護の実情、介護者の本音について、アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社は、50歳以上で骨粗鬆症に起因すると思われる骨折患者を介護する家族介護者の男女にアンケートを実施し、その詳細を公開した。 アンケートは、本年2月にインターネットで、全国3,071名に行われた。介護者の4人に1人が離職や転職を経験 質問で「お世話をするために、ご自身の働き方を変えたことがありますか」(複数回答)では、「有給の取得」(38.3%)、「時短勤務の実施」(29.7%)、「離職」(14.7%)の順で多く、介助・介護のために4人に1人が離職(退職、休職)や転職、部署変更など、労働環境の大きな変化を経験していることがわかった。 また、「お世話のために現在離職・休職中で、社会復帰がしたいか、働くことが難しいか」(n=359)を質問したところ、「社会復帰がしたい」を思う回答者は47.9%いる一方で、「働くことが難しい」と思う回答者は76.0%と4人に3人以上が就業の困難さを自覚している結果となった。介護で一番大変なのは「トイレへの移動、お風呂に入れること」 「介護期間について」尋ねたところ全体では「5年以上」(24.0%)、「1年以上~2年未満」(22.0%)、「2年以上~3年未満」(19.3%)だった。また、現在休職中(n=359)では「5年以上」(33.7%)、「3年以上~5年未満」(20.3%)、「2年以上~3年未満」(17.0%)と介護期間が長いほど、離職の割合も高くなる関係がみられた。 つぎに「お世話が必要になった骨折部位について(不明な場合は、近い部位)」(複数回答)を尋ねたところ、「背骨」(26.6%)、「足の付け根」(19.2%)、「手首」(14.9%)の順で多く、骨粗鬆症の主要な骨折部位を反映した回答結果であった。 また、介護者が負担に感じていることを具体的に尋ねたところ、「トイレへの移動、お風呂に入れること」(38.1%)」、「外出の付き添い・サポート」(36.3%)、「自分自身が疲れてしまい、寝込みそうになる/寝込んだことがある」(27.5%)の順で回答が多く、介護者が自身の体力へ不安を感じる声が寄せられた。同じく精神的負担については、約45%の介護者が、「自分の事をいつも後回し」「休息が取れない」ことを負担に感じており、「自分自身の人生を憂うことがある」という回答も多く、介護者の精神的疲弊の実情も明らかになった。患者介護は社会全体で取り組む課題 今回のアンケート結果について調査を監修した萩野 浩氏(鳥取大学医学部保健学科 教授)は、「今回の調査からは、骨折を経験された患者さんを支えているご家族の負担や苦労が顕在化された。また、介護負担の大きさから離職を余儀なくされている介護者が多いことも示され、骨粗鬆症に伴う介護負担についても、社会全体で取り組む課題であることが示唆された。世界トップクラスの長寿国に生きる私たちにとり、医療専門家とともにしっかりとご自身やご家族の健康と向き合い、健康寿命を延ばすために積極的にアクションを取っていくことが肝要」とコメントを行っている。■参考アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社 プレスルーム■関連記事骨粗鬆症の再骨折リスクを抑える新たな一手患者向けスライド 骨粗鬆症

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第8回 肝硬変で同時施行の検査が査定/脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限/アムロジンの添付文書外処方で査定/筋筋膜性腰痛症の治療で査定【レセプト査定の回避術 】

事例29 肝硬変で同時施行の検査が査定肝硬変で、「プロトロンビン時間(PT)」と「トロンボテスト」の検査を請求した。●査定点「トロンボテスト」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「プロトロンビン時間(PT)とトロンボテストを同時に施行した場合は、主たるもののみ算定する」となっています。併用での2検査の請求はできないので注意が必要です。事例30 脳性Na利尿ペプチド検査の回数制限心不全の診断目的で、脳性Na利尿ペプチド(BNP)を月2回で請求した。●査定点脳性Na利尿ペプチド(BNP)1回分が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「脳性Na利尿ペプチド(BNP)は、心不全の診断又は病態把握のために実施した場合に月1回に限り算定する」となっています。なお、心不全の診断目的時には、他の検査として心電図や胸部画像診断も行われていないと査定の対象になります。事例31 アムロジンの添付文書外処方で査定高血圧症で、アムロジピン(商品名:アムロジン錠)10mg 1日2錠(朝・夕)で請求した。●査定点アムロジン錠10mg 1日1錠が査定された。解説を見る●解説添付文書の「用法・用量」には、「通常、成人にはアムロジピンとして2.5~5mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じ適宜増減するが、効果不十分な場合には1日1回10mgまで増量することができる」となっています。アムロジン錠10mg 1日2錠は、過剰投与として査定されました。事例32 筋筋膜性腰痛症の治療で査定筋筋膜性腰痛症で、「消炎鎮痛等処置(1日につき)マッサージ等の手技による療法」と「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」を請求した。●査定点「腰部又は胸部固定帯固定(1日につき)」が査定された。解説を見る●解説点数表の解釈では、「腰部又は胸部固定帯固定」に、「同一患者につき同一日において、腰部又は胸部固定帯固定に併せて消炎鎮痛等処置、低出力レーザー照射又は肛門処置を行った場合は、主たるものにより算定する」となっています。同日に、両処置の請求はできませんので注意が必要です。

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低侵襲血腫除去+血栓溶解、脳内出血の予後を改善するか/Lancet

 30mL以上の脳内出血の治療において、MISTIEと呼ばれる画像ガイド下経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチは、標準治療と比較して1年後の機能的アウトカムを改善しないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のDaniel F. Hanley氏らが行ったMISTIE III試験で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年3月9日号に掲載された。テント上脳出血による急性脳卒中は、合併症や死亡のリスクが高い。本症への開頭術による血腫除去は有益でないことが、大規模な無作為化試験で示されている。約500例対象に試験、1年後のmRSスコアを評価 研究グループは、低侵襲性の経カテーテル血腫除去術後に血栓溶解療法を行うアプローチ(MISTIE)の、脳内出血患者の機能的アウトカムの改善効果を検証する目的で、非盲検エンドポイント盲検無作為化対照比較第III相試験を行った(米国国立神経疾患・脳卒中研究所とGenentech社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上の非外傷性テント上脳内出血(30mL以上)の患者であった。被験者は、血腫の大きさ15mL以下を目標に画像ガイド下MISTIEを施行する群、または標準治療群に無作為に割り付けられた。MISTIEの血栓溶解療法は、アルテプラーゼ1.0mgを8時間ごとに最大9回投与することとした。 主要アウトカムは良好な機能的アウトカムとし、365日時の修正Rankinスケール(mRS)のスコアが0~3と定義され(事前に規定されたベースラインの共変量で補正)、修正intention to treat(mITT)解析が行われた。 2013年12月~2017年8月の期間に、北米、欧州、オーストラリア、アジアの78施設で506例が登録され、499例(MISTIE群:250例、標準治療群:249例)がmITT解析に含まれた。365日mRS 0~3達成率:45% vs.41% ベースラインの全体の年齢中央値は62歳(IQR:52~71)、61%が男性であった。血腫の部位は、大脳基底核が307例(62%)、lobar regionが192例(38%)で、脳内の血腫量は41.8mL(IQR:30.8~54.5)であり、グラスゴー昏睡尺度(GCS)スコアは10(8~13)、NIH脳卒中尺度(NIHSS)は19(15~23)だった。 mITT解析による365日時のmRS 0~3の達成率は、MISTIE群が45%、標準治療群は41%と、両群間に有意な差を認めなかった(補正リスク差:4%、95%信頼区間[CI]:-4~12、p=0.33)。 7日時の死亡率は、MISTIE群が1%(2/255例)、標準治療群は4%(10/251例)であり(p=0.02)、30日時はそれぞれ9%(24例)、15%(37例)であった(p=0.07)。 症候性脳出血(MISTIE群2% vs.標準治療群1%、p=0.33)および脳細菌感染(1% vs.0%、p=0.16)の発生はいずれも同等であったが、無症候性脳出血はMISTIE群で有意に多かった(32% vs.8%、p<0.0001)。また、30日時までに1件以上の重篤な有害事象が発現した患者は、それぞれ30%(76例)、33%(84例)であり、件数は126件、142件と、有意な差がみられた(p=0.012)。 著者は、「これらの知見は、血腫量15mL以下の達成に、より重点を置いたうえで、MISTIE技術のさらなる検討を求めるものである」としている。

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日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

 2019年3月22日、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の報告書とりまとめを了承した。昨年4月より策定検討会にて議論が重ねられた今回の食事摂取基準は、2020年~2024年までの使用が予定されている。策定検討会の構成員には、日本糖尿病学会の理事を務める宇都宮 一典氏や日本腎臓学会理事長の柏原 直樹氏らが含まれている。日本人の食事摂取基準(2020年版)の主な改定ポイントは? 日本人の食事摂取基準(2020年版)の改定では、2015年版をベースとしつつ、『社会生活を営むために必要な機能の維持および向上』を策定方針とし、これまでの生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病)の重症化予防に加え、高齢者の低栄養・フレイル防止を視野に入れて検討がなされた。主な改定点として、・高齢者を65~74歳、75歳以上の2つに区分・生活習慣病における発症予防の観点からナトリウムの目標量引き下げ・重症化予防を目的としてナトリウム量やコレステロール量を新たに記載・フレイル予防の観点から高齢者のタンパク質の目標量を見直しなどが挙げられる。日本人の食事摂取基準(2020年版)、まずは総論を読むべし 報告書やガイドラインなどを活用する際には、まず、総論にしっかり目を通してから、各論や数値を理解することが求められる。しかし、メディアなどは総論を理解しないまま数値のみを抜粋して取り上げ、問題となることがしばしばあるという。これに対し、策定検討会のメンバーらは「各分野のポイントが総論だけに記載されていると、それが読まれずに数値のみが独り歩きし、歪んだ情報が流布されるのではないか」と懸念。これを受け、日本人の食事摂取基準(2020年版)の総論には、“同じ指標であっても、栄養素の間でその設定方法および活用方法が異なる場合があるので注意を要する”と記載し、総論以外にも各項目の目標量などがどのように概算されたのかがわかるように『各論』を設ける。メンバーらは「各指標の定義や注意点はすべて総論で述べられているため、これらを熟知したうえで各論を理解し、活用することが重要である」と、活用方法を強調した。 以下に日本人の食事摂取基準(2020年版)の各論で取り上げられる具体的な内容を抜粋する。タンパク質:高齢者におけるフレイルの発症予防を目的とした量を算定することは難しいため、少なくとも推奨量以上とし、高齢者については摂取実態とタンパク質の栄養素としての重要性を鑑みて、ほかの年齢区分よりも引き上げた。また、耐容上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきではあるが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから、設定しなかった。脂質:コレステロールは、体内でも合成される。そのために目標量を設定することは難しいが、脂質異常症および循環器疾患予防の観点から過剰摂取とならないように算定が必要である。一方、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満に留めることが望ましい。炭水化物:炭水化物の目標量は、炭水化物(とくに糖質)がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、アルコールを含む合計量として、タンパク質および脂質の残余として目標量(範囲)を設定した。ただし、食物繊維の摂取量が少なくならないように、炭水化物の質に留意が必要である。脂溶性ビタミン:ビタミンDは、多くの日本人で欠乏または不足している可能性があるが、摂取量の日間変動が非常に大きく、摂取量の約8割が魚介類に由来し、日照でも産生されるという点で、必要量を算出するのが難しい。このため、ビタミンDの必要量として、アメリカ・カナダの食事摂取基準で示されている推奨量から日照による産生量を差し引いた上で、摂取実態を踏まえた目安量を設定した。ビタミンDは日照により産生されるため、フレイル予防を図る者を含めて全年齢区分を通じて可能な範囲内での適度な日照を心がけるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には高齢化問題が深刻さを増す 日本では、2020年の栄養サミット(東京)開催を皮切りに、第22回国際栄養学会議(東京)や第8回アジア栄養士会議(横浜)などの国際的な栄養学会の開催が控えている。また、日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には団塊世代が75歳以上になるなど、高齢化問題が深刻さを増していく。 このような背景を踏まえながら1年間にも及ぶ検討を振り返り、佐々木 敏氏(ワーキンググループ長、東京大学大学院医学系研究科教授)は、「理解なくして活用なし。つまり、どう活用するかではなく、どう理解するかのための普及教育が大事。食事摂取基準ばかりがほかの食事のガイドラインよりエビデンスレベルが上がると、使いづらくなるのではないか。そうならないためにも、ほかのレベルを上げて食事摂取基準との繋がり・連携を強化するのが次のステージ」とコメントした。また、摂取基準の利用拡大を求めた意見もみられ、「もっと疾患を広げるべき。次回の改定では、心不全やCOPDも栄養が大事な要素なので入れていったほうがいい。今回の改定では悪性腫瘍が入っていないが、がんとともに長生きする時代なので、実際の現場に合わせると病気を抱えている方を栄養の面でサポートすることも重要(名古屋大学大学院医学系研究科教授 葛谷 雅文氏)」、「保健指導の対象となる高血糖の方と糖尿病患者の食事療法のギャップが、少し埋まるのではと期待している。若年女性のやせ、骨粗鬆症も栄養が非常に影響する疾患なので、次の版では目を向けていけるといい(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授 勝川 史憲氏)」、など、期待や2025年以降の改定に対して思いを寄せた。座長の伊藤 貞嘉氏(東北大学大学院医学系研究科教授)は、「構成員のアクティブな発言によって良い会・良いものができた」と、安堵の表情を浮かべた。 なお、厚労省による報告書(案)については3月末、パブリックコメントは2019年度早期に公表を予定している。

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医療者と患者とメーカーの結束が創薬へ

 2月27日、ファイザー株式会社は、「世界希少・難治性疾患の日」に合わせ、「希少・難治性疾患を取り巻く現状と課題 筋ジストロフィー治療の展望・患者さんの体験談を交えて」をテーマにプレスセミナーを開催した。セミナーでは、筋ジストロフィーの概要や希少疾病患者の声が届けられた。希少疾病の解決に必要なエンパワーメント はじめに「筋ジストロフィーの現実と未来」をテーマに小牧 宏文氏(国立精神・神経医療研究センター 病院臨床研究推進部長)が、筋ジストロフィーの中でも予後が悪い、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに焦点をあて講演を行った。 神経筋疾患の多くは進行性で、遺伝子変異に由来し、脊髄前角、末梢神経、神経筋接合部、骨格筋などに影響を及ぼし、さまざまな運動機能を奪う疾患である。最近では、脊柱固定術など対症療法の進歩、人工呼吸器など医療機器の向上もあり、平均死亡年齢は17歳(1976年)から30歳以上(2006年)に伸びている。また、主な死因でみても1980年代では呼吸不全、心不全の順位だったものが、現在では心不全が1位となるなど変化をみせているという。 筋ジストロフィーは、骨格筋だけでなく、呼吸筋、心筋、平滑筋、咀嚼、骨格などに関係する全身性疾患であり、診断から治療、そして予後のフォローまで包括的な診療体制が必要となる。そのため小児科にとどまらず、脳神経内科、整形外科、リハビリテーション科など多領域にわたる連携が必要であり、自然歴を踏まえた定期検査、そして患者のケアを積み重ねていくプロアクティブケア(先回りの医療)が必要と語る。 同時に、治療薬の開発も大切で、そのためには各診療科が連携し、患者の早期発見、臨床研究の実施と個々の患者から得られる臨床データや患者の声を蓄積・シェアし、治療研究に関わることで、その結果を分かちあう仕組み作りが大切だと提案する。そして、この医薬品開発について、期限が限られた大きな目標と捉え、集団で取り組むプロジェクトと説明。成果を出すためにも医療者、患者、企業、公的機関がエンパワーメントを持って取り組むことが期待されると展望を語り、講演を終えた。患者の声を社会に届ける仲立ちに つぎに遠位型ミオパチーという希少疾病患者として織田 友理子氏(NPO法人PADM[遠位型ミオパチー患者会] 代表)が車椅子で登壇し、「超希少疾病とともに歩んだ10年」と題し講演が行われた。講演では、本症の確定診断がついた後、患者の要望などを社会に届けるべく患者会を発足させたこと、治療薬創薬に製薬メーカーへ患者の声を届けるためにNPOを立ち上げるとともに、Webサイト「車椅子ウォーカー」を開設し、同じ境遇の患者がより外へ気軽に出られるように情報提供を行っていることなどを語った。最後に同氏は「自分が今できることは患者として話すことである。患者が個々に持っている、それぞれの幸せが実現できるように、今後も“RDD JAPAN 2019”のような場で病気のこと、患者のことが社会に伝えられるように活動を続けていきたい」と抱負を語った。■参考RDD JAPAN 2019NPO法人PADM車椅子ウォーカー■関連記事希少疾病・難治性疾患特集デュシェンヌ型筋ジストロフィー

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骨粗鬆症の再骨折リスクを抑える新たな一手

 50歳以上では、骨粗鬆症により、女性の3人に1人、男性の5人に1人が脆弱性骨折を起こすといわれ、さらに、一度骨折した患者の再骨折リスクは大きく上昇する。高齢者の骨折は、患者・家族にとってだけでなく、社会にとっても大きな負担となるが、治療率は20%程度と決して高くない。 2019年3月14日、国内初のヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤である骨粗鬆症治療薬ロモソズマブ(商品名:イベニティ)が発売されたことを機に、アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社がセミナーを開催した。そこで、松本 俊夫氏(徳島大学 藤井節郎記念医科学センター 顧問)、宮内 章光氏(医療法人 宮内内科クリニック 理事長)、浜谷 越郎氏(同社 研究開発本部 シニアメディカルアドバイザー)の3名が「骨粗鬆症治療における課題と治療成績向上に向けて」をテーマに講演を行った。骨折リスクに合わせて治療薬を使い分ける 松本氏は、現状の骨粗鬆症治療にはアンメットニーズが存在するとして、以下の3つを提示した。1.治療目標を達成できる患者数は限定的である2.部位によっては治療による骨強度改善が不十分な場合もある3.再骨折の頻度が最も高い骨折後2年以内におけるリスク低減が実現しにくい とくに3について、骨折した1年後の再骨折リスクは通常の5.3倍にもなるといわれるが、従来の治療では効果の発現に時間を要するため、対策が間に合っていない可能性が指摘された。 ロモソズマブは、骨の構造的劣化などを来さず骨量を増加させる作用を持つため、再骨折リスクが高い患者でも、骨折後1~2年以内の骨強度改善が期待されている。 治療薬の使い分けについて「既存骨折がない低骨折リスクの場合には従来の治療を、既存骨折があるなど高骨折リスクを持つ場合にはロモソズマブを使用後に骨吸収抑制剤を使用するなど、患者さんの状況に合わせて選択できる」との考えを述べた。主な臨床試験成績(FRAME試験、ARCH試験) 次に、宮内氏によって、ロモソズマブの国際多施設共同第III相臨床試験データが紹介された。FRAME試験では、55~90歳の閉経後骨粗鬆症患者7,180例(うち日本人492例)を対象に、新規椎体骨折の発生率が評価された。その結果、ロモソズマブを12ヵ月間皮下投与することで、新規椎体骨折の相対リスクはプラセボと比較して73%低下した。また、その後の骨吸収抑制剤(デノスマブ)による継続治療を行うことで、有意な相対リスクの低下は24ヵ月時点でも75%と維持された。 標準治療(アレンドロネート)と比較したARCH試験では、55~90歳の閉経後骨粗鬆症患者4,093例を対象に、ロモソズマブを12ヵ月間皮下投与後アレンドロネートを12ヵ月経口投与した場合と、アレンドロネートを単剤投与した場合を比較した。その結果、24ヵ月時点の新規椎体骨折、主要解析時点の非椎体骨折および大腿骨近位部骨折において相対リスクはいずれも低下し、有意差が認められた。 FRAME試験の日本人集団において、海外データと有効性、安全性は同等であったが、国内におけるデータは必ずしも十分でないため、副作用などについては今後時間をかけて検証していく必要がある。「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の基準 最後に、浜谷氏がロモソズマブの製品特性について解説した。ロモソズマブの標的であるスクレロスチンは、骨芽細胞による骨形成を抑制し、破骨細胞による骨吸収を促進する糖タンパク質である。これを阻害することで、骨形成促進と骨吸収抑制の2つの作用(デュアルエフェクト)により骨強度を改善すると考えられている。 ロモソズマブの効能・効果は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」であり、使用に当たっては、WHOにおける重症骨粗鬆症の定義(骨密度値が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折を有する)や、原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版)で、“骨折の危険性の高い骨粗鬆症を単一の危険因子で規定できるもの”として示されている(1)腰椎骨密度が-3.3SD未満、(2)既存椎体骨折の数が2個以上、(3)既存椎体骨折の半定量評価法によるグレード3などを目安に、適切な症例を判断することが望ましいとされる。 同氏は「従来は、進行を遅らせる治療が主体だった。しかし、ロモソズマブは、1年という短期間で著明な骨量の増加と骨構造の改善が期待できる。骨形成促進剤であるロモソズマブを最初に12ヵ月間投与した後、適切な骨吸収抑制剤を継続することで、その後も骨量・骨強度を維持できるため、これまでの治療パラダイムが大きく変わる可能性がある」と期待を語った。

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6年ぶりの改訂!『頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)』発表

 3月8日、第42回日本脳神経外傷学会において、6年ぶりの改訂となる『頭部外傷治療・管理のガイドライン(第4版)』(委員長:冨永 悌二氏[東北大学病院副病院長]、委員57名)の概要が、刈部 博氏(仙台市立病院脳神経外科部長)から発表された。なお、本ガイドラインの出版は、本年秋を予定している。頭部外傷診療現場の変化にガイドラインが対応 現在、頭部外傷の診療現場は、初期診療~後療法~社会復帰支援といった一連の診療が求められるとともに、初期診療に救急医や研修医が占める割合が増加するなど大きな変化が起こっている。この状況に対応するため、新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』では、画像診断、凝固障害、多発外傷、高次脳機能障害および早期リハビリテーションの項目を充実することに力が注がれた。ガイドラインの対象が広がり、タイトルも「頭部外傷」に変更 以前に比べ、頭部外傷患者として、高齢者軽症例や抗血栓薬使用例が増加していることも大きな変化である。それを受け、新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』では、対象患者が広がった。具体的には、従来は「成人頭部外傷の中等症・重症」であったが、新ガイドラインではさらに「軽症・中等症からの重症化例」が追加された。 また、対象患者の広がりに合わせてガイドラインのタイトルも従来の「重症頭部外傷」から「頭部外傷」に変更された。新ガイドラインは新たに「頭部外傷における凝固障害」の項目が追加 新たな『頭部外傷治療・管理のガイドライン』は、項目が大きく増え、全12項目、補追4項目から成る。前回に比べ「小児頭部外傷」「高齢者頭部外傷」「スポーツ頭部外傷」「外傷に伴う高次脳機能障害」「外傷に伴う低髄液圧症候群」の項目が充実し、新たに「頭部外傷における凝固障害」「早期リハビリテーション」「外傷急性期の精神障害」「多発外傷」の項目が作られた。 また、推奨グレード、エビデンスレベル、600超の引用文献が明記された点も大きな変更点である。

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心不全にスタチンを推奨できない理由

 心不全患者の浮腫が改善、体重が減少して一安心…と思ったら、実は低栄養に陥っていた。そんな経験をお持ちではないだろうか? 心不全における体重管理の落とし穴について、心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント策定委員のメンバーである、鈴木 規雄氏(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院循環器内科)が「臨床現場における心臓悪液質に対するアプローチ」と題し、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会(2019年2月14日)で講演した。静かに忍び寄る心臓悪液質とは 心臓悪液質とは、心不全において負の窒素・エネルギーバランスが生じ、骨格筋の減少を伴った体重減少をきたす予後不良の病態である。この患者割合についての日本人データは乏しいが、欧州臨床栄養代謝学会議(ESPEN)のガイドラインによると、世界ではNYHAII~IV分類の12~16%に存在していると言われている。同氏が自施設の2018年外来心不全患者における心臓悪液質の有症率を調べたところ「14%という結果。これはESPENガイドラインとほぼ一致する数値。つまり心不全患者の10人に1人が予後不良患者に該当する」と述べ、「このような患者の8割強はフレイルや低栄養を呈している」と現況を危惧した。 さらに、500日の生命予後を全死亡と心不全による複合アウトカムで調べたところ、心臓悪液質患者のハザード比は3.74と圧倒的に予後が悪く、「独立した危険因子であることが証明された」と心臓悪液質を有するリスクを強調した。心臓悪液質をどのように疑うのか 心臓悪液質の診断基準は存在するものの、これを簡便に用いることは非常に難しい。同氏らは、栄養やフレイルで用いられる指標から逆算することを試みたところ、アルブミンや体重などを含むGNRI(Cut off 95.3)、体重減少率の一部がオーバーラップするMNA-SF(簡易栄養状態評価表、Cut off 9)や基本チェックリスクスコア(Cut off 12)の3つの指標が強く関連したという。そのため、「これらのCut off値に引っ掛かる患者は悪液質を疑う」と、診療時の介入方法を説明した。心臓悪液質は“浮腫”の存在が厄介 がん悪液質とは異なり、“浮腫”の存在が厄介な心臓悪液質。これは、うっ血性心不全による変化の一つとして腸管浮腫が出現し、さらには腸管浮腫も心不全の増悪や心臓悪液質の進行を助長する 、という相互関係による影響と考えられている。この心不全で生じる腸管浮腫が、バリア機能を破綻しリポポリサッカライド(LPS)産生を招いているという。一方で、LPSにはコレステロールに結合する機序も考えられており、「LPSが炎症性サイトカインを惹起するレセプターに結合する前にコレステロールと結合してしまえば、悪液質の進行が抑えられる」と同氏は提唱した。心不全患者にはスタチンを推奨しない理由 心不全における総コレステロールと予後の解析1)では、コレステロール値が高い患者の予後が良いと示されたほか、心不全で問題となる左室収縮能が低下した例での血清コレステロール低値や心筋梗塞患者の低栄養によるLDL-C低値では予後が不良であることも報告2)されている。また、心不全ではうっ血(後方障害)のほかに、血液の拍出量低下(前方障害)が問題になるが、腸管血流低下によってもLPS上昇が引き起こされる。これを踏まえ同氏は、「血流障害は炎症を上げるだけではなく、LPSの濃度の上昇も示している。そして、左室駆出率が低い患者のようなLPSが上がりやすい病態でコレステロールが低いと、LPSの上昇により圧倒的に予後が悪いことを、われわれの研究結果から確認している」と、同氏は心不全患者へスタチンが推奨できない理由を腸内浮腫の観点から説明「“不要な”スタチン内服を避けることが望まれる」ことを強調し、「ただし、脂質異常を呈する場合や冠血管疾患管理に重点を置く必要があるなど、服用のメリットが高い症例にはスタチンが必要」と付け加えた。 最後に同氏は、「アメリカの心不全ガイドラインでは、心不全治療薬としてのスタチンの積極的な使用はClassIII(望まれていない)、日本でも心不全の治療に対するエビデンスはないので、使用しないことが言われている。そして、βブロッカーやACE阻害薬の導入率が上昇したことで体重が増加するようになったことは良いが、それは、心不全の改善により結果的に体重増加が得られたことを示し、栄養改善によるものではない。心臓悪液質の患者の体重を増やすことだけが治療目的ではない」と締めくくった。■参考1)Rauchhaus, M et al. J Am Coll Cardiol 2003; 42: 1933-1940.2)Ya-WenLu, et al. Clin Nutr. 2018;18:32479-3278.日本心不全学会:心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント日本循環器学会:「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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外傷性脳損傷に対するSB623の第II相試験の結果を米国脳神経外科学会で発表/サンバイオ

 サンバイオ株式会社およびその子会社である SanBio, Inc.は、2019年3月6日、現地時間 2019 年4月13日~17日に米国サンディエゴで行われる米国脳神経外科学会(American Association of Neurological Surgeons)の年次総会にて、同グループが日米グローバルで行ったSB623の外傷性脳損傷を対象にした第II相試験(STEMTRA試験)の結果を発表する予定であると発表した。 STEMTRA試験は、2018年4月に被験者(61名)の組み入れを完了し、同年11月に「SB623の投与群は、コントロール群と比較して、統計学的に有意な運動機能の改善を認め主要評価項目を達成」という良好な結果を得た。これをもって、日本の慢性期外傷性脳損傷プログラムにおいては、国内の再生医療等製品に対する条件および期限付承認制度を活用し、2020年1月期(2019年2月~2020年1月)中に、再生医療等製品としての製造販売の承認申請を目指している。■関連記事【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(5)

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加齢で脆くなる運動器、血管の抗加齢

 2月18日、日本抗加齢医学会(理事長:堀江 重郎)はメディアセミナーを都内で開催した。今回で4回目を迎える本セミナーでは、泌尿器、内分泌、運動器、脳血管の領域から抗加齢の研究者が登壇し、最新の知見を解説した。年をとったら骨密度測定でロコモの予防 「知っておきたい運動器にかかわる抗加齢王道のポイント」をテーマに運動器について、石橋 英明氏(伊奈病院整形外科)が説明を行った。 厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2016)によると、65歳以上の高齢者で介護が必要となる原因は、骨折・転倒によるものが約12%、また全体で関節疾患も含めると約5分の1が運動器疾患に関係するという。とくに、高齢者で問題となるのは、気付きにくい錐体(圧迫)骨折であり、外来でのFOSTAスコアを実施した結果「25歳時から4cm以上も身長が低下した人では、注意を払う必要がある」と指摘した。また、「骨粗鬆症治療薬のアレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブによる大腿骨近位部骨折の予防効果も、近年報告されていることから、積極的な治療介入が望ましい」と同氏は語る。 そして、「50代以降で骨の検査をしたことがない人」「体重が少ない人」など6つの条件に当てはまる人には、「骨粗鬆症の早期発見のためにも、骨密度検査を受けさせたほうがよい」と提案する。また、筋力は「加齢、疾患、不動、低栄養」を原因に減少し、40歳以降では1年間に0.5~1%減少すると、筋力低下についても注意喚起。この状態が続けばサルコぺニアに進展する恐れがあり、予防のため週2~3回の適度な運動とタンパク質などの必須栄養の摂取を推奨した。 そのほかロコモティブシンドローム防止のため日本整形外科学会が推奨するロコモーショントレーニング(スクワット、片脚立ち運動など)は、運動機能の維持・改善になり、実際に石橋氏らの研究(伊奈STUDY)1)でも、運動機能の向上、転倒防止に効果があったことを報告し、レクチャーを終えた。血管からみた認知症予防の最前線 同学会の専門分科会である脳血管抗加齢研究会から森下 竜一氏(同会世話人代表、大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、「血管からみるアンチエイジング」をテーマに、血管の抗加齢や認知症診断の最新研究について説明した。 はじめに最近のトピックスである食後高脂血症(食後中性脂肪血症)について触れ、多くの人々が6時間後に中性脂肪がピークとなるため1日の大部分を食後状態で過ごす中で、食後の中性脂肪値を抑制することが重要だと指摘する。実際、食後高脂血症は動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスク因子となる研究報告2)もある。また、即席めんやファストフードに多く含まれる酸化コレステロールについて、これらはとくに肥満者や糖尿病患者には酸化コレステロールの血中濃度を上昇させ、動脈硬化に拍車をかけると警鐘を鳴らしたほか、食事後の短時間にだけ、人知れず血糖値が急上昇し、やがてまた正常値に戻る「血糖値スパイク」にも言及。こうした急激な血糖値の変動が高インスリン血症をまねき、過剰なインスリン放出が認知症の原因とされるアミロイドβを蓄積させると指摘する。 そして、認知症については、軽度認知障害(MCI)の段階で発見、早期治療介入により予防する重要性を強調した。その一方で、認知症の評価法について現在使用されている簡易認知機能検査(MMSE)、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)などでは、検査に時間要すだけでなく、被験者の心理的ストレス、検査者の習熟度のばらつきなどが問題であり、スクリーニングレベルで使用できる簡便性がないと指摘する。そこで、森下氏らは、被験者の目線を赤外線で追うGazefinder(JCVKENWOOD社)を使用した視線検出技術を利用する簡易認知機能評価法の研究を実施しているという。最後に同氏は「今までの認知症の評価法のデメリットを克服できる評価法を作り、疾患の早期発見・予防に努めたい」と展望を述べ、講演を終えた。■参考文献1)新井智之、ほか. 第2回日本予防理学療法学会学術集会.2015.2) Iso H, et al. Am J Epidemiol. 2001;153:490-499.■参考脳心血管抗加齢研究会日本抗加齢医学会

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がんマネジメントに有用な栄養療法とは?

 2019年2月14、15日の2日間にわたり、第34回日本静脈経腸栄養学会学術集会が開催された。1日目のシンポジウム3「がんと栄養療法の実際-エビデンス?日常診療?」(司会:比企 直樹氏、鍋谷 圭宏氏)では、岡本 浩一氏(金沢大学消化器・腫瘍・再生外科)が「食道がん化学療法におけるCAWLと有害事象対策としての栄養支持療法」について講演。自施設での食道がん化学療法におけるがん関連体重減少(CAWL)・治療関連サルコペニア対策としての栄養支持療法について報告した。がん患者、体重減少の2つの理由 がん患者における体重減少の原因は主に2つに分類することができる。まず、がん誘発性体重減少(CIWL)。これは、がん細胞から分泌される炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-α)やホルモンによる代謝異常、タンパク質分解誘導因子(PIF)の増加が影響しているため、従来管理での改善や維持は、現段階でエビデンスが乏しい。一方、もう1つのCAWLは、消化管の狭窄や閉塞による通過障害、がん治療の有害事象(AE)に起因する体重減少のため、「タンパク質やエネルギーの補給、AE対策によって改善が可能」と岡本氏は述べた。化学療法前にサルコペニアを意識する 抗がん剤の投与量決定に重要となる体表面積を求めるには、体重が必要となる。「この時に筋肉量まで考慮しないと、AE発現率に影響が生じる恐れがある」と同氏はコメント。実際、筋肉量が少ない患者における化学療法では、AEが高率に発現するとの報告*もあり、この事象が原因でサルコペニアの増悪にまで発展してしまうのである。これは、抗がん剤治療によって小腸などの消化管でグルタミン消費量が増加すると、骨格筋分解によってグルタミンが消費され、筋タンパク分解・筋萎縮亢進に至るためである。よって、筋肉量の少ない患者では、「AE発現リスクが高くなるため、治療開始前に患者のサルコペニア有無を認識しておく必要がある」と、同氏は語った。 同氏らの施設では、食道がん患者の化学療法マネジメントとして、栄養バンドル療法(Oral cryotherapy、予防的G-CSF投与、Pharmaconutritionの概念に基づいた栄養補助)を実施し、対策に取り組んでいる。サルコペニアへの対応が長期予後に影響 同氏の施設では食道がん術前・導入化学療法として、2008年よりcStage II以上のSCCに対してFP療法(Day1:CDDP 80mg/m2、Day1~5:5-FU 800mg/m2)を、2012年よりcStage III以上のSCCに対してDCF療法(Day1:DTX 60mg/m2、CDDP 60mg/m2、Day1~5:5-FU 800mg/m2)を実施している。 これらの治療を施行した食道がん患者176例を対象とし、栄養バンドル療法に含まれる栄養剤の有用性を検討するために、2011年3月~2018年7月の期間、HMB・アルギニン・グルタミン配合飲料(以下、配合飲料)非投与群(76例)と配合飲料投与群(100例)に割り付け、後ろ向き研究を実施。方法は2012年5月以降、化学療法開始7日以上前より1日2包を経口もしくは経管投与とし、評価項目はAE発生率、重症度、腸腰筋面積、栄養学的指標の変化とした。その結果、DCF療法を行った配合飲料非投与群(15例)vs.配合飲料投与群(81例)で、総合効果判定PR以上:20% vs.54.3%(p=0.023)、腫瘍縮小割合:-11% vs.29.4%(p=0.065)と改善。同氏は「有意差はつかなかったものの、AEの軽減と奏効率の向上が望める」とし、腸腰筋面積の減少を有意に抑制(-5.2% vs.2.8%、p<0.001)したことを踏まえ、「サルコペニアの予防・治療の介入に有用であった」とコメントした。 また、3年生存率は26.7% vs.46.7%(p=0.098)と、サルコペニア対策が長期予後にも密接に関連していることが裏付けられる結果となった。 化学療法時の栄養バンドル療法導入を振り返り、同氏は「サルコペニアと体重減少の改善を図りながら、化学療法をより安全に行うことが可能となった。この方法によりCAWLやサルコペニアのみならず、QOL、さらなる奏効率向上も期待できる」と締めくくった。■参考*Prado CM, et al.Clin Cancer Res. 2007;13:3264-3268

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