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急性期統合失調症に対する認知リハビリテーションの可能性

 多くの研究において、統合失調症患者に対する認知リハビリテーションが有用なアウトカムを示しているが、日常的および社会的機能に対する認知リハビリテーションの有効性は、よくわかっていない。また、認知リハビリテーションの内容や方法に関する検討は不可欠ではあるが、実施するタイミングも重要であると考えられる。東邦大学の根本 隆洋氏らは、急性期統合失調症患者に対する認知リハビリテーションの実現可能性および受容性について調査を行った。Early Intervention in Psychiatry誌オンライン版2020年3月26日号の報告。 入院病棟へ急性期入院した患者を15ヵ月間連続でエントリーし、入院後14日以内に8週間の認知リハビリテーションプログラムに参加できるかどうかを評価した。患者の状態や負担を考慮し、ワークブック形式の認知リハビリテーションプログラムを行った。 主な結果は以下のとおり。・エントリー期間中に新規入院した83例のうち、49例(59.0%)の患者が対象となった。・そのうち、22例(44.9%)が認知リハビリテーションプログラムへの参加に同意し、プログラムを開始した。・プログラムを完了した16例に対し、2回目の評価を行った。・実際に研究プログラムを完了した患者の割合は、適格患者の32.7%(49例中16例)であった。・参加者は、プログラムに対し、非常に満足していた。 著者らは「急性期統合失調症患者に対する認知機能改善の実現可能性および受容性を示す有望な結果が得られた。初回エピソード統合失調症患者に対する認知リハビリテーションの提供は、より良い機能アウトカムにつながることが期待できる」としている。

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主要な学術集会の開催予定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、今春開催の多くの学術集会が延期または開催方式の変更を余儀なくされている。COVID-19終息の道筋が見えない状況の中、夏以降に開催が予定されている学術集会も軌道修正が余儀なくされ、会合方式の変更からWEB開催に移行した学術集会もある。CareNet.com編集部では、主要な臨床系医療学会の学術集会をピックアップ。現在の各学術集会の開催概要をまとめた。今後、参加予定の学会などがあれば参考にしてもらいたい(内容は7月3日現在)。主要な学術集会の開催予定第117回 日本内科学会会期 8月7日(金)~9日(日)会場 東京国際フォーラム ホールA第60回 日本呼吸器学会学術講演会会期 9月20日(日)~22日(火)会場 神戸コンベンションセンター第84回 日本循環器学会学術集会会期 7月27日(月)~8月2日(日)(オンライン開催)第50回 日本心臓血管外科学会学術総会会期 8月17日(月)~19日(水)(オンライン開催)第106回 日本消化器病学会総会会期 8月11日(火)~13日(木)(オンライン開催)第63回 日本腎臓学会学術総会会期 8月19日(水)~21日(金)会場 パシフィコ横浜アネックスホール・ノースおよびオンライン開催の併用第63回 日本糖尿病学会年次学術集会会期 10月5日(月)~16日(金)(オンライン開催)第54回 糖尿病学の進歩会期 9月2日(水)~3日(木)(オンライン開催)第93回 日本内分泌学会学術総会会期 7月20日(月)~8月31日(月)(オンライン開催)第82回 日本血液学会学術集会会期 10月9日(金)~11日(日)(オンライン開催)第42回 日本血栓止血学会学術総会会期 6月18日(木)~20日(土)(オンライン開催)第94回 日本感染症学会学術講演会会期 8月19日(水)~21日(金)会場 グランドニッコー東京(台場)ほかオンライン開催と併用第18回 日本臨床腫瘍学会学術集会会期 2021年2月18日(木)~20日(土)会場 国立京都国際会館ほか※2020年は開催予定なし第58回 日本癌治療学会学術集会会期 10月22日(木)~24日(土)会場 国立京都国際会館・グランドプリンスホテル京都第69回 日本アレルギー学会学術大会会期 9月17日(木)~20日(日)会場 国立京都国際会館第64回 日本リウマチ学会総会・学術集会会期 8月17日(月)~9月15日(火)(オンライン開催)第61回 日本神経学会学術大会会期 8月31日(月)~9月2日(水)岡山コンベンションセンターほかオンライン開催と併用第116回 日本精神神経学会学術総会会期 9月28日(月)~30日(水)会場 仙台国際センターほかオンライン開催と併用第25回 日本心療内科学会総会・学術大会2020年は開催せず、2021年に下記にて開催会期 2021年10月23日(土)・10月24日(日)会場 東北大学大学院医学系研究科星陵オーディトリウム緩和・支持・心のケア合同学術大会2020会期 8月9日(日)・10日(月)(WEB開催のみ)日本脳神経外科学会 第79回学術総会会期会場開催 10月15日(木)~17日(土)Web開催 10月15日(木)~11月末予定会場 岡山コンベンションセンターほかとオンライン開催の併用第120回 日本外科学会定期学術集会会期 8月13日(木)~15日(土)(オンライン開催)第28回 日本乳癌学会学術総会会期 10月13日(火)~15日(木)会場 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)第93回 日本整形外科学会学術総会会期 6月11日(木)~8月31日(月)(オンライン開催)第108回 日本泌尿器科学会総会会期 12月22日(火)~25日(金)会場 神戸ポートピアホテルほか第123回 日本小児科学会学術集会会期 8月21日(金)~23日(日)会場 神戸コンベンションセンターほかオンライン開催と併用第121回 日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会会期 10月6日(火)・7日(水)会場 岡山コンベンションセンターほか第67回 日本麻酔科学会年次学術集会会期 7月1日(水)~8月末日(WEB開催、詳細は検討中)第48回 日本救急医学会総会・学術集会会期 11月18日(水)~20日(金)会場 長良川国際会議場ほか第57回 日本リハビリテーション医学会学術集会会期 8月19日(水)~22日(土)会場 国立京都国際会館第11回 日本プライマリ・ケア連合学会学術大会会期 7月23日(木・祝)〜 8月31日(月)オンデマンド配信 7月23日(木・祝)〜8月31日(月)ライブ配信 8月29日(土)・30日(日)第20回 日本抗加齢医学会総会会期 9月25日(金)〜9月27日(日)会場 浜松町コンベンションホールおよびオンライン開催

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自転車通勤は負傷リスクを上げるか?/BMJ

 自転車通勤は、公共交通機関や自動車による通勤と比較して、がんの診断や心血管イベント、死亡が少ない一方で、負傷で入院するリスクが高く、とくに輸送関連事故による負傷リスクが高いことが、英国・グラスゴー大学のClaire Welsh氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月11日号に掲載された。英国では、自転車通勤は傷病への罹患や死亡のリスクが低いとされてきた。また、国民の自転車通勤への理解の主な障壁は、主観的および客観的な交通の危険性だが、これまでに得られた自転車と負傷に関するエビデンスの質は高くないという。通勤手段別の負傷リスクを評価する前向きコホート研究 研究グループは、自転車通勤と負傷のリスクの関連を評価する目的で、地域住民ベースの前向きコホート研究を行った(Chest, Heart, and Stroke Association Scotlandの助成による)。 解析には、UK Biobankのデータが用いられた。対象は、英国の22の地域から登録された通勤者23万390人(平均年齢52.4歳、女性52.1%)。典型的な一日で、往復の通勤に利用する輸送方式別に比較した。 徒歩、自転車、徒歩を含む混合型(非活動型+徒歩)、自転車を含む混合型(自転車+他の輸送方式)の通勤と、非活動型(自動車/エンジン駆動の乗り物、公共交通機関)の通勤とを比較した。 主要アウトカムは、初回の負傷による入院とした。自転車移動距離が長いと、負傷リスクも高い 5,704人(2.5%)が、自転車が主な通勤の輸送方式と答えた。非活動型通勤者(17万8,976人[77.5%])と比較して、自転車通勤者は年齢がわずかに若く、BMIが低く、白人男性が多く、現喫煙者や心血管疾患、糖尿病、がん、長期の疾患の病歴を持つ者が少なかった。 フォローアップ期間中央値は8.9年(IQR:8.2~9.5)で、この間に全体で1万241人(4.4%)が負傷による入院または負傷で死亡(29人)した。負傷の内訳は、自転車通勤が397人(7.0%)、非活動型通勤は7,698人(4.3%)だった。負傷の発生率は、自転車通勤が1,000人年当たり8.06件と、非活動型通勤の1,000人年当たり4.96件に比べて高く(p<0.001)、自転車を含む混合型通勤(6.99件/1,000人年)でも高い傾向がみられた。 社会人口統計学や健康、生活様式に関連する主要な交絡因子を補正すると、自転車通勤は非活動型通勤に比べ、負傷のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.30~1.61)。自転車を含む通勤でも、同様の傾向が認められた(1.39、1.29~1.50)。徒歩は、負傷のリスク上昇とは関連がなかった。 自転車通勤と自転車を含む通勤では、通勤中の自転車での移動距離が長いほど、負傷のリスクが高くなったが、非活動型通勤では、通勤距離は負傷のリスクとは関連しなかった。また、自転車通勤は、外的要因が輸送関連事故の場合は、負傷者数が非活動型通勤の約3.4倍多く(発生率比:3.42、95%CI:3.00~3.90、p<0.001)、自転車を含む通勤でも約2.6倍だった(2.62、2.37~2.91、p<0.001)。 自転車通勤と自転車を含む通勤は、自転車以外での通勤に比べ、心血管疾患(HR:0.79、95%CI:0.69~0.90)、がんの新規診断(0.89、0.84~0.94)、全死因死亡(0.88、0.78~1.00)のリスクが低かった。また、10年間に1,000人が自転車または自転車を含む通勤に変更した場合、負傷による新規入院は26件(1週間以内の入院23件、1週間以上の入院3件)増加するのに対し、がんの新規診断は15件減少し、心血管イベントは4件、死亡は3件減少すると推定された。 著者は、「これらの自転車通勤のリスクは、活動的な通勤による健康上の有益性との関連において考察すべきであり、英国における自転車のより安全な基盤設備の必要性を強調するものである」と指摘している。

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進行性核上性麻痺〔PSP:progressive supranuclear palsy〕

1 疾患概要■ 概念・定義進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、中年期以降に発症し、核上性の垂直性眼球運動障害や偽性球麻痺、構音障害、筋強剛、易転倒性を呈し、パーキンソン病などとの鑑別診断を要する緩徐進行性の神経変性疾患である。1964年に掲載1)された3名の提唱者の名前を取りSteel-Richardson-Olszewski症候群とも呼ばれる。病理学的には、異常リン酸化タウが蓄積したtufted astrocytesが特異的な所見である。■ 疫学わが国での有病率は、人口10万対10~20人とされている2)。■ 病因病因はいまだ不明であるが、病理学的には黒質や淡蒼球、視床下核、中脳被蓋、橋などに程度の強い神経細胞脱落や、これらの脳幹、基底核のほか、大脳皮質にも神経原線維変化を認め、タウ蛋白の異常沈着や遺伝子異常が指摘され、タウオパチーの1つと考えられている。神経生化学的にはドパミン、アセチルコリン、ガンマアミノ酪酸(GABA)、ノルアドリンなどの複数の神経伝達物質の異常を認めている。多くが孤発例である。■ 症状臨床症状としては、易転倒性が特徴的であり、通常は発症1年以内の初期から認められる。病名の由来である垂直方向の眼球運動障害は、とくに下方視の障害が特徴的であるが、病初期には目立たないことや羞明や複視と訴えることもあり、発症3年以内程度で出現するとされている。核上性の麻痺のため、随意的な注視が障害される一方で、頭位変換眼球反射は保たれている。四肢よりも頸部や体幹に強い傾向の筋強剛を示し、進行すると頸部が後屈して頸部後屈性ジストニアを呈する。偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害を中期以降に認める。失見当識や記銘力障害よりは、思考の緩慢化、情動や性格の変化などの前頭葉性の認知障害を呈する3)。■ 分類典型例であるRichardson症候群の他に多様な臨床像があり、以下に示す非典型例として分類されている。1)Richardson症候群(RS):易転倒性や垂直性核上性注視麻痺を呈し、最も頻度の高い病型である。2)PSP-Parkinsonism(PSP-P):パーキンソン病と似て左右差や振戦を認める一方で、初期には眼球運動障害がはっきりせず、パーキンソン病ほどではないがレボドパ治療が有効性を示し、RSより生存期間が長い。3)PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF):わが国から報告された「純粋無動症(pure akinesia)」にあてはまり、無動やすくみ足などを呈し、RSより罹病期間は長い。4)PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS):失行や皮質性感覚障害、他人の手徴候などの大脳皮質症状と明瞭な左右差のあるパーキンソニズムといった大脳皮質基底核変性症に類似した症状を呈する。5)PSP-progressive non-fluent aphasia(PSP-PNFA):失構音を中心とした非流暢性失語を示す。6)PSP with cerebellar ataxia(PSP-C):わが国から提唱された非典型例で、病初期に小脳失調や構語障害を呈する。■ 予後分類された臨床像による差や個人差が大きい。平均して発症2~3年後より介助歩行や車椅子移動、4~5年で臥床状態となり、平均罹病期間は5~9年という報告が多い。肺炎などの感染症が予後に影響することが指摘されている4)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)指定難病としての本疾患の診断基準は、40歳以降で発症することが多く、また、緩徐進行性であることと、主要症候として、(1)垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれ上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)、(2)発症早期(おおむね1~2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立直り反射障害、突進現象)が目立つ、(3)無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つ、の3項目の中から2項目以上があること、および以下の5項目の除外項目、すなわち、(1)レボドパが著効(パーキンソン病の除外)、(2)初期から高度の自律神経障害の存在(多系統萎縮症の除外)、(3)顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)、(4)肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)、(5)脳血管障害、脳炎、外傷など明らかな原因による疾患、を満たすこととされている4)。2017年には、Movement Disorder Societyから、多様な臨床像に対応した新たな臨床診断基準が提唱されている5)。頭部MR冠状断で中脳や橋被蓋部の萎縮や、矢状断で上部中脳が萎縮することによる「ハチドリの嘴様」に見える(humming bird sign)画像所見は、本疾患に特徴的とされ、鑑別診断の際に有用である。MIBG心筋シンチでは、心臓縦隔の取り込み比(H/M比)が低下するパーキンソン病やレビー小体型認知症と異なり、本疾患では原則としては低下せず、正常対照と差がない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現在までのところ、根本的な治療法や症状進行を遅延させる予防法は確立されていない。初期には抗パーキンソン病薬が有効性を示すこともある。三環系抗うつ薬、抗コリン薬、コリン作動薬などの有効性を指摘する報告もあるが、効果が短期間であったり副作用を生じるなど経験の範囲を出ない。より早期からのリハビリテーションによるADLに対する有用性が示唆されている。残存機能の維持や拡大にむけた理学療法、作業療法、言語・摂食嚥下訓練などが行われている。4 今後の展望タウ蛋白をターゲットとした免疫療法などが試みられてきたが、有効性の認められた薬剤は現在ない。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 進行性核上性麻痺(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(研究代表者:中島健二)(サイト内では「PSP進行性核上性麻痺 診断とケアマニュアル」、「進行性核上性麻痺の臨床診断基準(日本語版)」、「進行性核上性麻痺評価尺度(日本語版)」などの閲覧ができる医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PSPのぞみの会(患者とその家族および支援者の会)1)Steele JC, et al. Arch Neurol. 1964;10:333-359.2)Takigawa H, et al. Brain Behav. 2016;6:e00557.3)中島健二,古和久典. 日本医師会雑誌. 2019;148(特別号(1)):S85-S86.4)難病情報センター(ホームページ). 進行性核上性麻痺. https://www.nanbyou.or.jp/entry/4115.(2020年2月閲覧).5)Hoglinger GU, et al. Mov Disord. 2017;32:853-864.公開履歴初回2020年03月16日

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Dr.飯島の在宅整形

第1回 顎関節脱臼の整復第2回 在宅外傷学第3回 在宅腰椎圧迫骨折第4回 在宅転倒学第5回 在宅リハビリ第6回 在宅リウマチ第7回 在宅装具学 在宅診療で必ず出合う、腰痛や外傷などの整形外科トラブルにどう対処するのか?在宅整形外科医・飯島治氏が、在宅あるあるシチュエーションを厳選し、明日から使える診断・治療・リハビリのノウハウを伝授します。顎関節脱臼の整復方法、在宅患者が続けられるリハビリ体操、転倒した患者の起こし方などのベッドサイドでできる手技を実演しながら解説。どれも簡単に行うことができるので、患者家族や在宅ケアチームと共有することもおすすめです。病院でのやり方が通用しない在宅診療での悩みを解決し、安心して在宅のメジャートラブルに対処できる知識とスキルを身に付けてください!第1回 顎関節脱臼の整復顎関節脱臼は、在宅診療のメジャートラブルの1つ。今回はこの整復方法をDr.飯島が体を張って伝授します。さらに、患者家族にどう教えるかも解説。在宅診療で確実に役立つ技をぜひ身に付けてください!第2回 在宅外傷学訪問診療で出合う外傷TOP5は、肋骨骨折、大腿骨近位部骨折、手首・足首の捻挫、内出血、臀部挫傷。これらの診察と対処方法を実技を交えてコンパクトに解説します。患者によく聞かれる「骨はいつくっつくのか?」の質問に飯島先生がどうやって答えているかは必見。在宅ならではの患者・家族との信頼関係につながる診察や声掛けも併せて学びましょう。第3回 在宅腰椎圧迫骨折整形外科医でも苦手意識を持つ、腰椎圧迫骨折。病院に搬送してX線を撮れない場合にどのように診断するのか。入院せず在宅で診続ける場合にどんな治療ができるのか。診察で注意すべきポイントは実演で解説します。治療については、飯島先生が自身の体験から、効果的であった方法を紹介します。第4回 在宅転倒学転倒は、骨折や怪我につながる在宅患者の生活を一変させる大事件です。転倒予防のキモはどんな患者が転びやすいかを知ること。飯島先生が自院の患者を研究して発見した、転倒しやすい患者の特徴、そして医療保険・介護保険でできる転倒対策を伝授します。さらには転んでしまった患者の起こし方・ベッドまで連れて行く方法は明日から使えること間違いなしの超実践的方法です。ぜひご覧ください!第5回 在宅リハビリリハビリの目的は時代のニーズで変化してきました。これからのリハビリで求められるのは、身体機能の回復だけではなく、尊厳を取り戻しその人らしい生活を送ること。とはいえ、やはり運動もリハビリの重要な構成要素です。病院仕込みの運動療法が通用しない在宅ではどんな運動なら継続できるのか?飯島先生が長年の経験から編み出した在宅ならではの楽しく・簡単に続けられる体操を伝授します。患者・家族・多職種を巻き込んで楽しく在宅リハビリを続けるノウハウを身に付けてください!第6回 在宅リウマチ最新のリウマチ治療と異なり、在宅で必要なのはすでに関節が変形している患者のQOLを向上させる治療です。ステロイドの用量調節はもちろん、簡単な運動リハビリや生活上の工夫など、実際に数多くのリウマチ患者さんを診てきた飯島先生ならではのノウハウを惜しみなく伝授します。第7回 在宅装具学入院期間の短縮に伴って、在宅で増加しているのが「装具」作成の相談。そもそも装具って何?というところから、適応の判断方法、種類の選択、装具士に必ず尋ねられる質問への答え方など、在宅医に必要十分な在宅装具の基礎知識を10分でコンパクトに伝授します。

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オリーブ橋小脳萎縮症〔OPCA: olivopontocerebellar atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義オリーブ橋小脳萎縮症(olivopontocerebellar atrophy:OPCA)は、1900年にDejerine とThomasにより初めて記載された神経変性疾患である。本症は神経病理学的には小脳皮質、延髄オリーブ核、橋核の系統的な変性を主体とし、臨床的には小脳失調症状に加えて、種々の程度に自律神経症状、錐体外路症状、錐体路徴候を伴う。現在では線条体黒質変性症(striatonigral degeneration:SND)、Shy-Drager症候群とともに多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)に包括されている。多系統萎縮症として1つの疾患単位にまとめられた根拠は、神経病理学的にこれらの3疾患に共通してα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion:GCI)が認められるからである。なお、MSAという概念は1969年にGrahamとOppenheimerにより1例のShy-Drager症候群患者の詳細な臨床病理学的報告に際して提唱されたものである。OPCA、SND、Shy-Drager症候群のそれぞれの原著、さらにMSAという疾患概念が成立するまでの歴史的な経緯については、高橋の総説に詳しく紹介されている1)。その後、2回(1998年、2008年)のコンセンサス会議を経て、現在、MSAは小脳失調症状を主体とするMSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とパーキンソン症状を主体とするMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)に大別される2)。MSA-Cか、MSA-Pかの判断は、患者の評価時点での主症状を基になされている。したがって従来OPCAと診断された症例は、現行のMSA診断基準によれば、その大半がMSA-Cとみなされる。この点を踏まえて、本稿ではMSA-CをOPCAと同義語として扱う。■ 疫学欧米ではMSA-PがMSA-Cより多いが(スペインでは例外的にMSA-Cが多い3))、わが国ではこの比率は逆転しており、MSA-Cが多い3-6)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている7)。特定医療費(指定難病)受給者証の所持者数で見ると平成30年度末にはMSA患者は全国で11,406人であるが、この中には重症度基準を満たさない軽症者は含まれていない。そのうち約2/3はMSA-Cと見積もられる。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症と共にα-シヌクレイノパチーと総称される。神経症状が見られないpreclinical MSAというべき時期にも黒質、被殻、橋底部、小脳には多数のGCIの存在が確認されている(神経細胞脱落はほぼ黒質、被殻に限局)8)。このことはGCIが神経細胞脱落に先行して起こる変化であり、MSAの病因・発症に深く関与していることを推察するものと思われる。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析からCOQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている9)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が推察されている。また、Mitsuiらは、MSA患者ではGaucher病の原因遺伝子であるGBA遺伝子の病因変異を有する頻度が健常対照者に比べて有意に高いことを報告している10)。このことは日本人患者のみならず、ヨーロッパ、北米の患者でも実証されており、これら3つのサンプルシリーズのメタ解析ではプールオッズ比2.44(95%信頼区間:1.14-5.21)であった。しかも変異保因者頻度はMSA-C患者群がMSA-P患者群よりも高かったとのことである。GBA遺伝子の病因変異は、パーキンソン病やレビー小体型認知症の危険因子としても知られており、MSAが遺伝学的にもパーキンソン病やレビー小体型認知症と一部共通した分子基盤を有するものと考えられる。さらにこの仮説を支持するかのように、中国から日本人MSA患者に高頻度に見られるCOQ2遺伝子のV393A変異がパーキンソン病と関連するという報告が出ている11)。■ 症状MSA-Cの発症は多くは50歳代である3-6)。通常、小脳失調症状(起立時、歩行時のふらつき)で発症する。中には排尿障害などの自律神経症状で発症する症例が見られる。初診時の自覚症状として自律神経症状を訴える患者は必ずしも多くないが、詳細な問診や診察により排尿障害、起立性低血圧、陰萎(勃起不全)などの自律神経症状は高率に認められる。初診時にパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は低い(~20%)6)。診断時には小脳失調症状および自律神経症状が病像の中核をなす。経過とともにパーキンソン症状や錐体路徴候が見られる頻度は上がる。パーキンソン症状が顕在化すると、小脳症状はむしろ目立たなくなる場合がある。パーキンソン症状は動作緩慢、筋強剛が見られる頻度が高く、姿勢保持障害や振戦はやや頻度が下がる。振戦は姿勢時、動作時振戦が主体であり、パーキンソン病に見られる古典的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は通常見られない2)。パーキンソン病に比べて、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、抑うつ、レム睡眠期行動異常、認知症(とくに遂行機能の障害など、前頭葉機能低下)、感情失禁などの非運動症状を伴うことがある。注意すべきは上気道閉塞(声帯外転麻痺など)による呼吸障害である12)。吸気時の喘鳴、いびき(新規の出現、従来からあるいびきの増強や変質など)、呼吸困難、発声障害、睡眠時無呼吸などで気付かれる。これは病期とは関係なく初期でも起こることがある。上気道閉塞を伴う呼吸障害は突然死の原因になりうる。■ 予後日本人患者230人を検討したWatanabeらによれば、MSA全体の機能的予後では発症から歩行に補助具を要するまでが約3年、車いす生活になるまでが約5年、ベッド臥床になるまでが約8年(いずれも中央値)とされる5)。また、発症から死亡までの生存期間は約9年(中央値)である。発症から診断まではMSA全体で3.3±2.0年(MSA-Cでは3.2±2.1年、MSA-Pは3.4±1.7年)とされており5)、したがって診断がついてからの生命予後はおよそ6年程度となる。MSA-CのほうがMSA-Pよりもやや機能的予後はよいとされるが、生存期間には大差がない。発症から3年以内に運動症状(小脳失調症状やパーキンソン症状)と自律神経症状の併存が見られた患者では、病状の進行が速いことが指摘されている5)。The European MSA Study Groupの報告でも、発症からの生存期間(中央値)は9.8年と推定されている4)。また、予後不良の予測因子として、MSA-Pであること、尿排出障害の存在を挙げている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)広く普及しているGilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)を表に示す2)。表 probable MSA(ほぼ確実なMSA)の診断基準2)孤発性、進行性、かつ成人発症(>30歳)の疾患で以下の特徴を有する。自律神経機能不全―尿失禁(排尿のコントロール不能、男性では勃起不全を伴う)、あるいは起立後3分以内に少なくとも収縮期血圧30mmHg、あるいは拡張期血圧15 mmHgの降下を伴う起立性低血圧― かつ、レボドパ薬に反応が乏しいパーキンソニズム(筋強剛を伴う動作緩慢、振戦、あるいは姿勢反射障害)あるいは、小脳失調症状(失調性歩行に構音障害、四肢失調、あるいは小脳性眼球運動障害を伴う)ここで強調されているのは孤発性、進行性、成人発症(>30歳)である点と自律神経症状が必須である点である。したがって、本症を疑った場合には起立試験(Schellong試験)や尿流動態検査(urodynamic study)が重要である。他疾患と鑑別するうえでもMRI検査は必ず施行すべきである。MSAではMRI上、被殻、中小脳脚、橋、小脳の萎縮は高頻度に見られ(図)、かつ特徴的な橋の十字サイン(hot cross bun sign、図)、被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)、被殻後部の低信号(posterior putaminal hypointensity)(いずれもT2強調像)が見られる。概してMSA-CではMSA-Pに比べて、橋十字サインを認める頻度は高く、一方、被殻外側部の線状高信号を認める頻度は低い。また、MSAでは中小脳脚の高信号(T2強調像、図)も診断の助けになる。画像を拡大するKikuchiらは[11C]-BF-227を用いたpositron emission tomography(PET)にて、MSA患者では対照者に比べて大脳皮質下白質、被殻、後部帯状回、淡蒼球、一次運動野などに有意な集積が見られたことを報告している13)。BF-227は病理切片にてGCIを染め出すことから、これらの所見はMSA患者脳内のGCI分布を捉えているものと推察されている。上記したようにGCIはMSAのごく早期から生じる病変であることから、[11C]-BF-227 PETは早期診断に有用な画像バイオマーカーになる可能性がある。MSA-Cの鑑別上、最も問題になるのは、皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)である。CCAは孤発性のほぼ純粋小脳型を呈する失調症である。とくに病初期のMSA-Cで自律神経症状やパーキンソン症状が見られない時期(GilmanらのMSA診断基準では“疑い”をも満たさない時期)では両者の鑑別は困難である。仮にCCAと診断しても発症後5年程度はMSAの可能性を排除せず、小脳外症状(特に自律神経症状)の出現の有無やMRI上の脳幹・中小脳脚の萎縮、橋十字サインの出現の有無について注意深く経過観察すべきである。この点は運動失調症研究班で提唱した特発性小脳失調症(idiopathic cerebellar ataxia: IDCA、IDCAは病理診断名であるCCAに代わる臨床診断名である)の診断基準でも強調している14)。なお、桑原らは、MSA-Cにおいては橋十字サインの方が起立性低血圧より早期に出現する、と報告している15)。MSA-CではCCAに比べて臨床的な進行は圧倒的に速い16)。また、Kogaらは臨床的にMSAと診断された134例の剖検脳を検討したが、このうち83例(62%)は病理学的にもMSAと確定診断されたものの、他の51例にはレビー小体型認知症が19例、進行性核上性麻痺が15例、パーキンソン病が8例含まれたと報告している17)。レビー小体型認知症やパーキンソン病がMSAと誤診される最大の理由は自律神経症状の存在によるとされ、一方、進行性核上性麻痺がMSAと誤診される最大の理由は小脳失調症状の存在であった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名:ヒルトニン)やタルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬はα1受容体遮断薬であるウラピジル(同:エブランチル)やコリン作動薬であるべタネコール塩化物(同:ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、参考になるサイトの「SCD・MSAネット」のSCD・MSAリハビリのツボを参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である12)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、グルタミン酸受容体の阻害薬リルゾール(同:リルテック)、オートファジー促進作用が期待されるリチウム、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサギリン、ノルエピネフリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄あるいは脂肪織由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている18, 19)。これらのうちリルゾール、ミノサイクリン、リチウム、リファンピシン、ラサギリンについては、無作為化比較試験においてMSA患者での有用性が証明されなかった18)。間葉系幹細胞移植に関しては、MSAのみならず、筋萎縮性側策硬化症やアルツハイマー病など神経変性疾患において数多くの臨床試験が進められている20)。韓国では33名のMSA患者を対象に無作為化比較試験が行なわれた21)。これによると12ヵ月後の評価において、対照群(プラセボ群)に比べると間葉系幹細胞治療群ではUMSARS (unified MSA rating scale)の悪化速度が遅延し、かつグルコース代謝の低下速度や灰白質容積の減少速度が遅延することが示唆された21)。ただし、動注手技に伴うと思われる急性脳虚血変化が治療群29%、対照群35%に生じており、安全性に課題が残る。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、国内ではMSA患者に対してコエンザイムQ10の無作為化比較試験(医師主導治験)が進められている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科、リハビリテーション科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018.(監修:日本神経学会・厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」.南江堂.2018)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター オリーブ橋小脳萎縮症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族および支援者の会)1)高橋昭. 東女医大誌. 1993;63:108-115.2)Gilman S, et al. Neurology. 2008;71:670-676.3)Kollensperger M, et al. Mov Disord. 2010;25:2604-2612.(Kollenspergerのoはウムラウト)4)Wenning GK, et al. Lancet Neurol. 2013;12:264-274.5)Watanabe H, et al. Brain. 2002;125:1070-1083.6)Yabe I, et al. J Neurol Sci. 2006;249:115-121.7)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis. 2012;2:7-18.8)Kon T,et al. Neuropathology. 2013;33:667-672.9)The Multiple-System Atrophy Research Collaboration. N Engl J Med. 2013;369:233-244.10)Mitsui J, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2015;2:417-426.11)Yang X, et al. PLoS One. 2015;10:e0130970.12)磯崎英治. 神経進歩. 2006;50:409-419.13)Kikuchi A, et al. Brain. 2010;133:1772-1778.14)Yoshida K, et al. J Neurol Sci. 2018;384:30-35.15)桑原聡ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「運動失調症の医療基盤に関する調査研究」2019年度研究報告会プログラム・抄録集. P30.16)Tsuji S, et al. Cerebellum. 2008;7:189-197.17)Koga S, et al. Neurology. 2015;85:404-412. 18)Palma JA, et al. Clin Auton Res. 2015;25:37-45.19)Poewe W, et al. Mov Disord. 2015;30:1528-1538.20)Staff NP, et al. Mayo Clin Proc. 2019;94:892-905.21)Lee PH, et al. Ann Neurol. 2012;72:32-40.公開履歴初回2015年04月09日更新2020年03月09日

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中條・西村症候群〔NNS:Nakajo-Nishimura syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義1939年に東北帝国大学医学部皮膚科泌尿器科の中條により報告された血族婚家系に生じた兄妹例に始まり、1950年に和歌山県立医科大学皮膚科泌尿器科の西村らが血族婚の2家系に生じた和歌山の3症例も同一疾患としたことで確立した「凍瘡ヲ合併セル続発性肥大性骨骨膜症」(図1)が、中條・西村症候群(Nakajo-Nishimura syndrome:NNS)の最初の呼称である。図1 中條先生と西村先生の論文画像を拡大する2009年に本疾患が稀少難治性疾患として厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業研究奨励分野の対象疾患に採択された際に、中條‐西村症候群との疾患名が初めて公式に用いられ、2011年のPSMB8遺伝子変異の同定を報告した論文により国際的に認められた。その後も厚生労働科学研究において継続的に本疾患の病態解明や診断基準の策定が行われ、「中條・西村症候群」として2014年に小児慢性特定疾病19番、2015年に指定難病268番に登録された。1985年に大阪大学皮膚科の喜多野らが、自験4症例を含む中條の報告以来8家系12症例について臨床的特徴をまとめ、わが国以外で報告のない新しい症候群“A syndrome with nodular erythema,elongated and thickened fingers,and emaciation”として報告したのが、英文で最初の報告である。さらに、1993年に新潟大学神経内科の田中らが、皮膚科領域からの報告例も合わせてそれまでの報告症例をまとめ、新しい膠原病類似疾患あるいは特殊な脂肪萎縮症を来す遺伝性疾患として、“Hereditary lipo-muscular atrophy with joint contracture,skin eruptions and hyper-γ-globulinemia”として改めて報告した。これらの報告を受け、国際的な遺伝性疾患データベースであるOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)に、1986年にNakajo syndromeとして登録番号256040に登録された。本症は長くわが国固有の疾患と考えられてきたが、2010年に脂肪萎縮症を専門とするアメリカのグループによって、類症がjoint contractures,muscular atrophy,microcytic anemia and panniculitis-induced lipodystrophy(JMP)症候群として、わが国以外から初めて報告された。症例はポルトガルとメキシコの2家系4兄妹例のみであり、いずれも発熱の記載はなく、全身の萎縮と関節拘縮が目立つ(図2)。程なく原因としてPSMB8遺伝子変異が同定された。図2 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の臨床像画像を拡大するさらに、2010年にスペインの皮膚科医のTorreloらによって報告されたヒスパニックの姉妹例を含む4症例に始まり、脱毛を伴うイスラエルの症例、バングラデシュの姉妹例、ブラジルの症例など、世界中から報告された類症が、chronic atypical neutrophilic dermatosis with lipodystrophy and elevated temperature(CANDLE)症候群である。未分化なミエロイド系細胞の浸潤を伴う特徴的な皮膚病理所見から命名され、スイート症候群との鑑別を要する。冬季の凍瘡様皮疹の有無は明らかでないが、肉眼的にNNSと酷似する(図2)。それらの症例の多くに、JMP症候群と同じ変異を含む複数のPSMB8遺伝子変異が同定されたが、ヘテロ変異や変異のない症例、さらにPSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子に変異が見出される症例も報告されている。これら関連疾患の報告と共通する原因遺伝子変異の同定を受け、NNS・JMP症候群・CANDLE症候群をまとめてプロテアソーム関連自己炎症性症候群(proteasome-associated autoinflammatory syndrome:PRAAS)と呼ぶことが提唱され、OMIM#256040に再編された。現在では、PSMB8以外のプロテアソーム関連遺伝子変異によるPRAAS2や3と区別し、PRAAS1と登録されている。これらの疾患名の変遷を図3にまとめた。図3 プロテアソーム関連自己炎症性症候群の疾患名の変遷画像を拡大する■ 疫学既報告・既知例は東北・関東(宮城、東京、秋田、新潟)の5家系7症例と関西(和歌山、大阪、奈良)の19家系22症例であるが、現在も通院中で生存がはっきりしている症例は関西のみであり、10症例ほどである。中国からもNNSとして1例報告があるほか、諸外国からJMP症候群、CANDLE症候群、PRAASとして25例ほど報告されている。■ 病因・病態NNSは、PSMB8遺伝子のp.G201V変異のホモ接合によって発症する常染色体劣性遺伝性疾患である。わが国に固有の変異で、すべての患者に同じ変異を認める。JMP症候群においては、ヒスパニックの症例すべてにPSMB8 p.T75M変異がホモ接合で存在する。一方、CANDLE症候群においては、ヒスパニック、ユダヤ人、ベンガル人などの民族によって、PSMB8の異なる変異のホモ接合が報告されている。PRAASとして、PSMB8の複合ヘテロ変異を持つ症例も報告されているが、さらに、PSMB8とPSMA3やPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB9とPSMB4のダブルヘテロ変異、PSMB4単独の複合ヘテロ変異、複合体形成に重要なシャペロンであるPOMP単独のヘテロ変異などさまざまな変異の組み合わせを持った症例もCANDLE/PRAASとして報告されている。PSMB8遺伝子は、細胞内で非リソソーム系蛋白質分解を担うプロテアソームを構成するサブユニットの1つである、誘導型のβ5iサブユニットをコードする。ユビキチン-プロテアソーム系と呼ばれる、ポリユビキチン鎖によってラベルされた蛋白質を選択的に分解するシステムによって、不要・有害な蛋白質が除去されるだけでなく、細胞周期やシグナル伝達など多彩な細胞機能が発揮される。特に、プロテアソーム構成サブユニットのうち酵素活性を持つβ1、β2、β5が、誘導型のより活性の高いβ1i、β2i、β5iに置き換わった免疫プロテアソームは、免疫担当細胞で恒常的に発現し、炎症時にはその他の体細胞においてもIFNαやtumor necrosis factor(TNF)αなどの刺激によって誘導され、効率的に蛋白質を分解し、major histocompatibility complex(MHC)クラスI提示に有用なペプチドの産生に働く。NNSでは、PSMB8 p.G201V変異によって、β5iの成熟が妨げられそのキモトリプシン様活性が著しく低下するだけでなく、隣接するβ4、β6サブユニットとの接合面の変化のために複合体の形成不全が起こり、成熟した免疫プロテアソームの量が減少するとともに、β1iとβ2iがもつトリプシン様、カスパーゼ様活性も大きく低下する。その結果、NNS患者の炎症局所に浸潤するマクロファージをはじめ表皮角化細胞、筋肉細胞など各種細胞内にユビキチン化・酸化蛋白質が蓄積し、このためにIL-6やIFN-inducible protein(IP)-10などのサイトカイン・ケモカインの産生が亢進すると考えられる。MHCクラスI提示の障害による免疫不全も想定されるが、明らかな感染免疫不全は報告されていない。一方、JMP症候群では、PSMB8 p.T75M変異によりβ5iのキモトリプシン様活性が特異的に低下し、発現低下は見られない。したがって、本症発症にはプロテアソーム複合体の形成不全は必ずしも必要ないと考えられる。種々の変異を示すCANDLE症候群においても、酵素活性低下の程度はさまざまだが、ユビキチン蓄積やサイトカイン・ケモカイン産生亢進のパターンはNNSと同様であり、さらに末梢血の網羅的発現解析からI型IFN応答の亢進すなわち「I型IFN異常」が示されている。プロテアソーム機能不全によってI型IFN異常を来すメカニズムは明らかではないが、最近、Janusキナーゼ(JAK)阻害薬の臨床治験において、I型IFN異常の正常化とともに高い臨床効果が示され、I型IFN異常の病態における役割が明らかとなった。NNS患者由来iPS細胞から分化させた単球の解析においても、β5iの活性が有意に低下するIFNγ+TNFα刺激下においてI型IFN異常を認めた。ただ、この系においては、IFNγ-JAK-IP-10シグナルとTNFα-mitogen-activated protein(MAP)キナーゼ-IL-6シグナルが双方とも亢進しており、酸化ストレスの関与や各シグナルの細胞内での相互作用も示唆されている。これらの結果から想定されるNNSにおける自己炎症病態モデルを図4に示す。図4 中條・西村症候群における自己炎症病態画像を拡大する■ 症状NNSは、典型的には幼小児期、特に冬季に手足や顔面の凍瘡様皮疹にて発症し、その後四肢・体幹の結節性紅斑様皮疹や弛張熱を不定期に繰り返すようになる。ヘリオトロープ様の眼瞼紅斑を認めることもある。組織学的には、真皮から筋層に至るまで巣状にリンパ球・組織球を主体とした稠密だが多彩な炎症細胞の浸潤を認め、内皮の増殖を伴う血管障害を伴う。筋炎を伴うこともあるが、筋力は比較的保たれる。早期より大脳基底核の石灰化を認めるが、精神発達遅滞はない。次第に特徴的な長く節くれだった指と顔面・上肢を主体とする脂肪筋肉萎縮・やせが進行し、手指や肘関節の屈曲拘縮を来す。やせが進行すると咬合不全や開口障害のため摂食不良となり、また、嚥下障害のため誤嚥性肺炎を繰り返すこともある。LDH、CPK、CRP、AAアミロイドのほか、ガンマグロブリン特にIgGが高値となり、IgEが高値となる例もある。さらに進行すると抗核抗体や各種自己抗体が陽性になることがあり、I型IFN異常との関連から興味を持たれている。早期より肝脾腫を認めるが、脂質代謝異常は一定しない。胸郭の萎縮を伴う拘束性呼吸障害や、心筋変性や心電図異常を伴う心機能低下のために早世する症例がある一方、著明な炎症所見を認めず病院を受診しない症例もある。■ 予後NNSの症例は皆同じ変異を持つにもかかわらず、発症時の炎症の程度や萎縮の進行の速さ、程度には個人差が認められる。小児期に亡くなる症例もあるが、成人後急速に脂肪筋肉萎縮が進行する例が多く、手指の屈曲拘縮のほか、咬合不全や重度の鶏眼などによりQOLが低下する。心肺のほか肝臓などの障害がゆるやかに進み、60歳代で亡くなる例が多いが、早期から拘束性呼吸障害や心機能低下を来して30歳代で突然死する重症例もあり、注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)難病指定の基準となるNNSの診断手順と重症度基準を表に示す。臨床症状8項目のうち5項目以上陽性を目安にNNSを疑って遺伝子解析を行い、PSMB8に疾患関連変異があれば確定(Definite)、変異がなくても臨床症状5項目以上陽性で他疾患を除外できれば臨床診断例(Probable)とする。わが国の症例ではPSMB8 p.G201V以外の変異は見つかっていないが、CANDLE症候群やPRAASで報告された変異や新規変異が見出される可能性も考慮されている。進行性の脂肪筋肉萎縮が本疾患で必発の最大の特徴であるが、個人差が大きく、皮疹や発熱などの炎症症状が強い乳幼児期には目立たない。むしろ大脳基底核石灰化が臨床診断の決め手になることがあり、積極的な画像検査が求められる。ただ、凍瘡様皮疹と大脳基底核石灰化は、代表的なI型IFN異常症であるエカルディ・グティエール症候群の特徴でもあり、鑑別には神経精神症状の有無を確認する必要がある。神経症状のない家族性凍瘡様ループスも鑑別対象となり、凍瘡様皮疹は各種I型IFN異常症に共通な所見と考えられる。臨床的に遺伝性自己炎症性疾患が疑われるも臨床診断がつかない場合、既知の原因遺伝子を網羅的に検討し遺伝子診断することも可能であるが、新規変異が見出された場合、その機能的意義まで確認する必要がある。表 中條・西村症候群診断基準と重症度分類画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド全身投与は発熱、皮疹などの炎症の軽減には有効だが、減量によって容易に再燃し、また脂肪筋肉萎縮には無効である。むしろ幼小児期からのステロイド全身投与は、長期内服による成長障害、中心性肥満、緑内障、骨粗鬆症など弊害も多く、慎重な投与が必要である。メトトレキサートや抗IL-6受容体抗体製剤の有効性も報告されているが、ステロイドと同様、効果は限定的で、炎症にはある程度有効だが脂肪筋肉萎縮には無効である。CANDLE症候群に対してJAK1/2阻害薬のバリシチニブのグローバル治験が行われ、幅広い年代の10例の患者に3年間投与された結果、5例が緩解に至ったと報告されている。4 今後の展望2020年よりPSMB8遺伝子解析が保険適用となり、運用が待たれる。また、NNS患者末梢血の遺伝子発現解析にてI型IFN異常が見られることが明らかとなりつつあり、診断への応用が期待されている。治療においても、NNSに対してJAK1/2阻害薬が有効である可能性が高く、適用が期待されているが、病態にはまだ不明な点が多く、さらなる病態解明に基づいた原因療法の開発が切望される。5 主たる診療科小児科・皮膚科その他、症状に応じて脳神経内科、循環器内科、呼吸器内科、リハビリテーション科、歯科口腔外科など。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 中條・西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)自己炎症性疾患サイト 中條-西村症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)金澤伸雄ほか. 日臨免会誌.2011;34:388-400.2)Kitano Y, et al. Arch Dermatol.1985;121:1053-1056.3)Tanaka M, et al. Intern Med. 1993;32:42-45.4)Arima K, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2011;108:14914-14919.5)Kanazawa N, et al. Mod Rheumatol Case Rep.2018;3:74-78.6)Kanazawa N, et al. Inflamm Regen.2019;39:11.7)Shi X, et al. J Dermatol.2019;46:e160-e161.8)Okamoto K, et al. J Oral Maxillofac Surg Med Pathol.(in press)公開履歴初回2020年03月09日

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アキレス腱断裂の治療効果、石膏ギプスvs.機能的装具/Lancet

 アキレス腱断裂で保存療法を受ける患者の管理では、早期の荷重負荷(アキレス腱断裂スコア[Achilles tendon rupture score:ATRS]で評価)において、従来の石膏ギプスは機能的装具に優越せず、資源利用の総費用はむしろ高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のMatthew L. Costa氏らが行った無作為化試験「UKSTAR試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年2月8日号に掲載された。保存療法を受けるアキレス腱断裂患者では、従来、数週間にわたり石膏ギプスで腱を固定する治療が行われてきた。機能的装具は、より早期に運動を可能にする非手術的な代替療法であるが、有効性と安全性のエビデンスは十分ではないという。経済的評価を含む無作為化試験 研究グループは、保存療法を受けるアキレス腱断裂患者において、ギプスと機能的装具の機能・QOLアウトカムおよび資源利用の費用を比較する目的で、実用的な無作為化対照比較優越性試験を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術評価計画の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、初発のアキレス腱断裂の患者であった。患者は外科医とともに、標準的な処置として保存療法が適切かを検討し、患者が手術をしないと決めた場合に、試験への参加が可能とされた。 被験者は、ギプスまたは機能的装具による治療を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。介入の期間は8週間だった。 主要アウトカムは、9ヵ月時の患者報告によるATRSとし、修正intention-to-treat(ITT)集団で解析した。ATRSは、アキレス腱関連の症状、身体活動性、疼痛を評価する10項目からなるスコア(0~100点、100点が最も良好)である。安全性アウトカムとして再断裂の評価を行った。また、患者は資源利用質問票に回答し、資源利用の値を費用に変換した。9ヵ月時ATRS:ギプス群74.4点vs.機能的装具群72.8点 2016年8月~2018年5月の期間に540例(平均年齢48.7[SD 13.8]歳、男性79%)が登録され、ギプス群に266例、機能的装具群には274例が割り付けられた。断裂の原因は70%がスポーツ活動であった。527例(98%)が修正ITT集団に含まれた。 受傷後9ヵ月時の平均ATRSは、ギプス群が74.4(SD 19.8)点、機能的装具群は72.8(20.4)点であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後平均群間差:-1.38点、95%信頼区間[CI]:-4.9~2.1、p=0.44)。8週時のATRSは機能的装具群で優れた(ギプス群35.3点vs.機能的装具群40.3点、補正後平均群間差:5.53、95%CI:2.0~9.1、p=0.0024)が、この差に臨床的な意義があるかは不明であった。また、3および6ヵ月時にも有意な差はなかった。 健康関連QOL(EQ-5D-5L)は、ATRSと同様のパターンを示し、受傷後8週時は機能的装具群で有意に良好であったが、それ以降は両群間に差はみられなかった。 合併症(腱再断裂、深部静脈血栓症、肺塞栓症、転倒、踵の痛み、足部周辺の感覚異常、圧迫創傷)の発現にも差はなかった。腱再断裂は、ギプス群が266例中17例(6%)、機能的装具群は274例中13例(5%)で発現した(p=0.40)。 介入の直接費用の平均額は、ギプス群が36ポンドと、機能的装具群の109ポンドに比べ有意に安価であった(平均群間差:73ポンド、95%CI:67~79、p<0.0001)。一方、医療と個別の社会サービスの総費用の平均額は、それぞれ1,181ポンドおよび1,078ポンドであり、機能的装具群でわずかに低いものの有意な差はなかった(平均群間差:103ポンド、95%CI:-289~84)。 著者は、「早期の荷重負荷において、ギプスの安全で費用効果が優れる代替法として、機能的装具を考慮してもよいと考えられる」としている。

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本特集に寄せられたコメント

遭遇の可能性があるので、学習したい。(東京都/内科/50代)変えれる症状に気づける目の数を増やしてください。(広島県/外科/60代)自分の知識を発展させるために応援します。(鹿児島県/内科/50代)医師の常識範囲として知っておきたい(神奈川県/小児科/70代以上)希少疾患の、新たな診断、治療方法の開発に期待します。(山梨県/内科/50代)より多くの症例を診たご経験がある先生方の知見やお話を伺えることを楽しみにしています。(茨城県/呼吸器外科/50代)最新の治療指針について学習していきたいと思います。(大阪府/神経内科/60代)患者発見の糸口を学習して備えたい(東京都/小児科/60代)希少疾患は、経験値も高まりにくいですので、頑張っていただきたいです。(大阪府/内科/50代)良く知らない症状の患者に役立つことを期待している。(東京都/腎臓内科/60代)なかなか忙しくて見れないが、時間が有ったら、是非じっくり見たい。(東京都/内科/60代)難病疾患に悩む患者さんの支えに少しでもなれる医師を増やすために(大阪府/外科/50代)微力ながら、お手伝いできればと思っています。(山口県/放射線科/30代)今後遭遇する可能性があり勉強したい。(兵庫県/麻酔科/60代)知らないより知っている方が良いと思います。(東京都/精神科/60代)地方では希少疾病であっても大都市の病院に通えず,頑張っている患者さんや診療しているスタッフがいます.そのためwebは力強いアイテムです.応援します.(長野県/外科/50代)貴重な内容なので、ぜひ勉強したいです(東京都/呼吸器内科/40代)日本全体として応援したほうが良いと思う(山形県/内科/30代)学生への講義に反映させます。(愛知県/病理診断科/50代)なかなか勉強する機会が少ないので楽しみにしています(埼玉県/循環器内科/40代)知識として持っていたいと思います(奈良県/耳鼻咽喉科/50代)ぜひ最新の診断,治療を知りたい(長崎県/循環器内科/50代)診察する機会は少ないが重要な臨床課題(静岡県/消化器内科/40代)日常診療で難病を思い浮かべ難いので学習したい。(神奈川県/乳腺外科/40代)まず知ることが大事と思う。(沖縄県/臨床研修医/30代)知らない病気は診断できない(大阪府/小児科/50代)知らなければ、疑わなければ助けられない。非常に医者にとって責任の重い疾患。(山形県/小児科/50代)希少疾患に対する認知の普及に期待します(石川県/消化器内科/40代)非専門医が実臨床で役立つ情報を期待します(奈良県/内科/40代)有識者の声、患者の声を参考にしたいと思う(京都府/血液内科/30代)顧みられにくい疾患への理解が深まることを願います(福岡県/病理診断科/20代)患者数が少ないほど情報も少ない。医療に関しては需要供給バランスでなく、少数であっても情報に対して需要があるので情報発信をしていただきたい。(長野県/整形外科/30代)難解になりがちな難病の講義ですが、わかりやすい解説を期待しています。(新潟県/皮膚科/30代)今後の治療展望を明らかにしてくれることを期待します(愛知県/腎臓内科/30代)知識の獲得で応援します。(茨城県/脳神経外科/50代)知識の再構築に使用したい。(京都府/呼吸器内科/30代)これを機にぜひ知識をブラッシュアップしたいと思います(千葉県/臨床研修医/30代)最新の知見解説で学習します 動画楽しみです(群馬県/内科/30代)そもそも疾患を知らないと診療できないので、しっかり学習していきたい(北海道/内科/20代)できるだけ勉強して困っている方を助けたいです。(長崎県/内科/60代)希少疾患の知見を得て治療に役立てたい(福岡県/その他/50代)最新の知見解説等で学習したいと思います。(神奈川県/内科/50代)エビデンスに基づいた臨床的知見を勉強したいです(佐賀県/臨床研修医/20代)一般啓発活動の参考にしたい(埼玉県/小児科/60代)医師の中でも認識されていないので、是非とも。(山口県/消化器内科/50代)忘れがち、見逃しがちの疾患を思い起こしたいと思います(神奈川県/糖尿病・代謝・内分泌内科/50代)少しでも症例が蓄積して集学的治療につながっていくことを願っています。(埼玉県/呼吸器外科/60代)自身の知見が少しでも増すことを期待しています。(新潟県/内科/60代)他に勉強できる機会があまりなく、今後の診療の参考にできればと思います。(岡山県/腎臓内科/40代)少なくとも、見逃しの無いようにしたい(大阪府/リハビリテーション科/60代)治療方法を患者に示すことが出来るので、助かります。(青森県/産婦人科/40代)深く理解でき、勉強になります。有難うございます。(岐阜県/腎臓内科/60代)応援します。参考になるサイトを開設してください。(徳島県/泌尿器科/40代)希少疾患の教科書として期待しています。(京都府/内科/50代)希少疾病・難病に対する最新の知見が周知できるとよいと思います(福井県/小児科/40代)日常診療に役立つ情報を共有する機会を作りましょう!(埼玉県/内科/50代)新たな展開が始まることを期待しています(東京都/神経内科/40代)情報共有することでより理解が進むことを期待します(静岡県/心臓血管外科/40代)難病、希少疾患の原因究明および有効な治療法開発に期待します。(佐賀県/麻酔科/40代)動画などの学習は繰り返しもしやすいので期待してます(三重県/眼科/40代)何とか勉強してしかるべき疾患の発見をしたいと思います。(青森県/内科/60代)知らないでは済まされない。(愛知県/精神科/30代)インパクトのある情報提供をお願いします。(青森県/小児科/60代)最新の知見を吸収するように努力したい。(北海道/耳鼻咽喉科/40代)未経験、未知の疾患について、知識を得たい。(静岡県/脳神経外科/60代)教科書では得られない希少疾患の患者さんの実生活(どんなことに困るのかなど)を、様々なメディアを通じて知るようにしたいと思います。(東京都/内科/40代)情報発信を期待しています(宮城県/内科/60代)どうしても専門分野に偏りますが最新の知見解説で学習したい。(大阪府/内科/60代)小さい病院なので診ることがすくないのですが、勉強させてください。(千葉県/整形外科/60代)是非日常診察の参考にさせて頂きたい(静岡県/内科/50代)ケアネットの希少疾患の特集は、極めて内容が良い(福島県/神経内科/70代以上)もしかしたら身近に存在するかもしれない希少疾患です。知識を持っておきたいのでぜひ教えてください。(滋賀県/乳腺外科/40代)希少疾患・難病の患者様がhappyになると良いと思います(神奈川県/神経内科/30代)希少疾患であっても苦しんでいる患者さんへの助けになればいいと思います(福岡県/内科/50代)意外に身近にいる希少疾患の見つけ方、ぜひ応援したい。(愛媛県/内科/50代)難病疾患について、正しい情報発信に期待しています。(神奈川県/皮膚科/60代)この機会に最新の知識をしっかり勉強したいと思います(東京都/眼科/30代)普段勉強する機会がすくないので、とてもありがたいです。(福岡県/麻酔科/40代)これを機にあまり知識のない稀な疾患を勉強します。(山口県/内科/50代)ライブラリーの数が増えるのが楽しみです。(東京都/循環器内科/40代)有意義な情報提供になると確信しています。(新潟県/内科/50代)徴候を見逃さないための勉強をしたいと思います。(大阪府/消化器外科/60代)自分の分野の難病の知識を深めていきたい。(広島県/精神科/30代)難しいですが頑張ってください(京都府/泌尿器科/30代)勉強して患者さんに役立てていきたいと思います。(大分県/精神科/40代)知識を身に着けるために参考にしたいです(神奈川県/消化器外科/50代)最新の動画配信にて学習します。(京都府/消化器外科/60代)発見することが、治療の第一歩と思います。動画で勉強したいと思います。(東京都/糖尿病・代謝・内分泌内科/20代)過去の難病の中には難病でなくなっている疾患もあるので、今後に期待しながら勉強させていただきます。(静岡県/その他/50代)少しでも手伝えるよう、情報の発信を(福岡県/小児科/40代)ぜひとも。この機会にに勉強させて欲しい。特集とか、機会作って下さい。(香川県/内科/40代)様々な症例報告の蓄積をきたいします。(静岡県/消化器外科/30代)希少疾患は疑うところから知るところからですので、知識の吸収に努めます。(愛知県/血液内科/30代)治療のある病気も増えてきているので,早期診断できるよう意識します.(東京都/神経内科/40代)難病について正しい疾患知識を発信して下さい。(東京都/皮膚科/30代)動画だと知識が入りやすいのでありがたいです(愛知県/呼吸器内科/30代)こういった企画はありがたいです。勉強させていただきたいと思います。(千葉県/脳神経外科/40代)興味深い内容を期待(神奈川県/腎臓内科/30代)診断に役立つコンテンツに期待します(東京都/小児科/30代)みなさんの関心が高まることを期待(東京都/循環器内科/30代)その他のコメントはこちら

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希少疾病ライブラリ

これらは、希少疾病に関してケアネットドットコムの会員医師から寄せられたご意見の一部です。このような先生方に少しでもお役に立てることを目指して、疾病の基本情報・診断・治療などを解説した「希少疾病ライブラリ」を立ち上げました。今後も随時、追加・更新していきますので、ぜひご活用ください。呼吸器科▼詳細はこちら循環器内科/心臓血管外科▼詳細はこちら消化器科▼詳細はこちら腎臓内科▼詳細はこちら糖尿病・代謝・内分泌科▼詳細はこちら血液内科▼詳細はこちら感染症内科▼詳細はこちら腫瘍科▼詳細はこちらアレルギー科▼詳細はこちら膠原病・リウマチ科▼詳細はこちら神経内科▼詳細はこちら精神科/心療内科▼詳細はこちら脳神経外科▼詳細はこちら外科/乳腺外科▼詳細はこちら整形外科▼詳細はこちら泌尿器科▼詳細はこちら産婦人科▼詳細はこちら小児科▼詳細はこちら皮膚科▼詳細はこちら耳鼻咽喉科▼詳細はこちら眼科▼詳細はこちら放射線科▼詳細はこちら麻酔科▼詳細はこちら救急科▼詳細はこちらリハビリテーション科▼詳細はこちら■掲載疾患についてわが国では、国内における患者数が5万人未満で、難病など重篤な疾病や医療上の必要性が高い疾病であることが、希少疾病用医薬品/医療機器の指定条件に挙げられています。本ライブラリでは、「希少疾病」について厳密には定義せず、「患者数が少なく、重篤な疾病や医療上の必要性が高い疾病」と考え、順次追加していく予定です。厚生労働省では、希少疾病などにさまざまな医療費助成の施策を行っています。代表的なものを下記に示しますが、各地方自治体の施策も用意されていますので、患者・家族等からお問い合わせがありました際は、「自治体の窓口にてご相談ください」とお伝えください。高額療養費制度を利用される皆さまへ小児慢性特定疾患情報センター先進医療の概要について

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第5回 サルコペニアを合併する高齢患者に必要な心リハとは?【今さら聞けない心リハ】

第5回 サルコペニアを合併する高齢患者に必要な心リハとは?今回のポイント高齢心不全患者では半数以上でサルコペニアを合併しているサルコペニアは生活の質を低下させるだけでなく、生命予後の不良因子である高齢心不全患者こそ、心リハでの積極的介入が重要第2回でも紹介しましたが、心臓リハビリテーション(以下、心リハ)は、現在、心筋梗塞や狭心症だけではなく心不全患者にも保険適用となっています。日本人口の高齢化に伴い、心不全患者が増加し続けており、2020年には120万人を超えると予想されています。最近の日本の急性心不全入院患者の多施設前向き研究では、心不全入院患者の年齢中央値は80歳でした1)。さて、読者の皆さまは、高齢の急性心不全入院患者に心リハを行うべきと考えるでしょうか? よく内科医の方から、『高齢の急性心不全患者では足腰の問題もあり、エルゴメータやトレッドミルの運動ができないので、心リハは適応外ではないですか?』『急性心不全入院患者では循環動態が不安定なので、できるだけ負担をかけないために安静にしているほうがいいのでは?』といった質問を受けます。果たして、高齢の急性心不全入院患者では安静が良いのでしょうか? このような患者は、退院後も運動療法が適応外なのでしょうか?心リハ=エルゴメータ運動ではない通常、心リハの運動療法では、大腿四頭筋群を中心に使う律動的な運動を行いやすいエルゴメータ運動が用いられます。しかし、当然ながらエルゴメータの上で座位を保持できるバランス力に加え、自転車こぎ運動ができる最低限の筋力・持久力が必要になります。エルゴメータでは負荷量を調整できますが、通常のエルゴメータには機器の重みとして最低10W(ワット)の負荷がかかります。このため、10Wの負荷で持久的な自転車こぎ運動ができる患者でなければ、通常のエルゴメータによる有酸素運動の適応にはなりません。高齢者に限らず、重症心不全患者などで運動耐容能が高度に低下し通常のエルゴメータ運動ができない場合には、椅子からの立ち上がり運動(スクワット)やつま先立ち運動(カーフレイズ)などのごく軽度の筋力トレーニングを行ってもらいます。このような筋力トレーニング5~10回を1セットとして1日に頻回に行う方法により、体幹・下肢の筋量増加を目指します(「少量頻回」の原則)。また、このような患者では、歩行をはじめ日常生活動作(ADL)が不安定な患者も多いので、歩行訓練や移乗訓練などADL訓練を行います。いわゆる廃用症候群のリハビリと似たトレーニング内容となりますが、心不全患者ではリスク管理が重要です。リハビリを実施する際には、心電図モニタリング・血圧・Borg指数を確認し、専門医の監督のもとで行います。急性心不全では安静臥床が適切か?急性心不全により循環動態が悪化している際には安静が必要です。病状によっては、トイレ動作ですら、さらなる循環動態の悪化を招くことがあります。しかし、最近では循環動態のモニタリング機器の性能が格段に向上し、循環器救急患者のリハ中のリスク管理が容易になりました。そのような中で、リスク管理下での超急性期リハの安全性や有効性が検討された結果、現在では急性心不全患者でも「初期治療により循環動態の改善が認められれば、速やかに心リハを開始すべきである」と考えられています。安静臥床は筋萎縮だけでなく、せん妄や・無気肺・肺炎・自律神経機能異常などの合併症を来しやすく、それらの合併症により、治療は一層複雑化してしまいます。したがって、超急性期の心リハでは、初期治療により循環動態および自覚症状の改善傾向を認めたら速やかに(できれば治療開始後48時間以内に)リハ介入し、ベッド上あるいはベッド周囲での運動を開始することを目指します。循環動態・自覚症状の速やかな改善は心不全患者の長期予後とも関連することが知られており、早期の循環動態改善を目指した治療薬も開発が進められています。これらの治療に並行した早期リハ介入は、とくにサルコペニアに陥りやすい高齢心不全患者にとって重要です。近年の臨床研究にて、心不全患者の体重減少、すなわちサルコペニアはADLを低下させるだけではなく、生命予後不良因子であることがわかっています2)。心リハでサルコペニアの進行を予防することは、心不全患者のADLのみならず生命予後にも関わる重要な介入であるといえます。とくに高齢心不全患者では同化抵抗性によりトレーニングを行っても筋肉量が増加しにくいことや社会的事情により回復期の通院心リハへ参加することが困難なことも多いため、入院中に低下した筋量・身体機能を退院後に回復させることは容易ではありません。介護を要する高齢患者の増加を防ぐために、また介護負担を少しでも軽減するために、入院中の心リハがカギとなると考えられます。最後に臨床の現場では、入院中に積極的なリハがないまま、退院日前日まで“原則安静”とされている心不全患者が多いようです。退院後、患者は必要に応じて身体を動かす必要がありますが、医師の大半はそれに無関心で、「きつい活動は控えましょう」の一言のみ。疾患管理において安静や運動制限が本当に重要と考えるのであれば、入院中から患者がどの程度の身体活動を症状・循環動態の悪化なく行えるのかを医学的に評価した上で、退院時に「あなたはここまでの活動は問題なくできますが、これ以上のきつい活動は控えてくださいね」というように具体的に指導するべきではないでしょうか。高齢者診療に関わる医療者は、安静のもたらす功罪について今以上に意識を高める必要がありそうです。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>「心リハ=エルゴメータ運動ではない」と書きましたが、運動耐容能の低下した高齢心不全患者では通常のエルゴメータ運動が困難でも、ストレングスエルゴ8®(アシスト機能付きエルゴメータ)や、てらすエルゴ®(仰臥位用負荷量可変式エルゴメータ)などを用いれば、自転車こぎ運動が可能になることも多く、当院でもこれらの機器を用いて高齢心不全患者に対して有酸素運動の指導を行っています3)。また、当院では導入していませんが、アームエルゴ®など上肢を使うエルゴメータもあります。患者ごとに適切な運動の種類を検討することも運動処方のポイントです。運動に用いる器具はいくつかバリエーションを用意し、どのような器具を用いるのか、患者ごとに指導できると良いですね(図1)。画像を拡大する1)Yaku H, et al. Circ J. 2018;82:2811-2819.2)Anker SD, et al. Lancet. 2003;361:1077-1083.3)Ozasa N, et al. Circ J. 2012;76:1889-1894

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第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?

第3回 そのコミュニケーション・エラー、本当に自分のせいですか?初見の方は、ぜひ第1回からお読みください患者・医療者それぞれの視点から描かれたコミュニケーション・エラー原案:エピソードNo.1 「転院/退院」(患者視点)漫画:【入賞】「転院/退院」/作者:LOGLINEさん原案:エピソードNo.1 「転院/退院」(医療者視点)漫画:【入賞】「転院/退院」/作者:ヒヅキオキナさん大塚:このイベント、すごくおもしろいんですが、ただ1つ(いい意味での)不満があって。全員、医療現場のコミュニケーション・エラーを、全部自分の問題として落とし込んでいるんですよね。市原(ヤンデル):あぁ~、わかるなぁ…!大塚:これって、ある意味議論として成り立たないというか。もっと、人のせいにする人が世の中にはたくさんいますよね。自分が患者側としてできることはなんだろう? と考える幡野さんのような方もいらっしゃいますが、声が大きい人は「病院や医療従事者のせいだ」と言う人が多いと思いませんか?幡野:たしかに、コミュニケーション・エラーは医療者側ばかり責められがちですが、そもそもコミュニケーションは双方向のものですよね。僕が患者の立場で考えると、自分が悪いなと思ってしまいますし、患者側にも往々にして問題があるのではないかと感じています。お互いに相手の立場を考えることが1番大切で、そのうえで、コミュニケーション上の問題点が見えてくるのではないでしょうか。僕はちょうど2年前に病気が発覚して、初めて入院しました。その病棟で、あるとき同年代の医師・看護師と雑談をしていたんですよ。そうしたら、80代前後の患者さんに「うるさいぞ! ここをどこだと思ってるんだ!」とすごく怒られてしまって。それ以降、“しゃべっていると怒られる”という雰囲気になってしまいました。こういうことが続くと、初診の患者さんが来たとき、医療者は地雷を踏まないように、遠慮したコミュニケーションになってしまう。このように、患者や家族がコミュニケーションの弊害になるケースもありますよね。これにストレスを感じる医療従事者もいるでしょうし、そのストレスが患者さんにはね返ることもあります。お互いが嫌な気持ちになる環境で、悪循環に陥っているのではないかと、よく感じたのを覚えています。幡野:今だから言えますが、入院した当時、一人すごく苦手な看護師さんがいたんですよ。ほとんど相手にしてもらえなかったので、多分嫌われてたんですよね。僕が週末に外泊希望を出したときに、きちんと説明もなく拒否されてしまって、「まいったな」と思って。そこで、怒ったり誰かに報告したりしてもよかったのですが、僕は「その人のことを周りに対してめちゃくちゃ褒める」という行動をとりました。「あの看護師さんとてもいい人で、すごくよくやってくれている」と、周りのスタッフに毎日伝えるんです。そうしたら、冷たい対応がぴたっと止まったんですよ。参加者:へえぇ…!幡野:そりゃそうですよね。自分のことを褒める人に対して、わざわざ嫌がることはしないです。その後、外泊ができるようになったんですよ(笑)。こういう一種の優しさから、全体が良い方向に変わるんだなと、この経験を通して思ったんです。もしかしたら、患者さんも家族も医療者も、それぞれに少し嫌なことがあって、悪循環のなかで苦しんでいるのかもしれません。どこかで一つ優しさを始めれば、好循環が始まるんじゃないかな。大塚:それって、多分、優しさから始まった「スキル」の一つだと思うんですよ。僕がやっている例としては、「僕らは患者さんの病気だけじゃなくて、普段の生活にも興味を持っていますよ」と伝える一つの手段として、“カルテに患者さんと話した雑談の内容を書くこと”を意識しています。たとえば、前回「孫の運動会に行く」と言っていた患者さんのカルテにメモしておいて、次来たときに「お孫さんの運動会はどうでしたか?」とひと言聞くんです。患者さんは、その後話しやすくなりますよね。こういう行動って、一種のスキルだと思うんですけど、表面的に捉えるだけで終わっちゃダメなんですよね。市原(ヤンデル):うんうん。言いたいことわかりますよ。大塚:幡野さんの行動も、発端が優しさであってとても素晴らしいのですが、それが「スキル」として一人歩きしてしまうと、単に「医者とうまくやるため」の手段になってしまうのが難しいところだと思います。その行動は、お互いに「気持ちよく病院で過ごしたい」という思いがあってこそのものじゃないですか。それをしっかり言葉として伝えられる、幡野さんのような人はすごく貴重だと思います。市原(ヤンデル):大塚先生は、かなり慎重な言い方をしていますが、周りの人に広めるのは、直接言うのに比べて、声の総量を上げることになりますよね。つまり、幡野さんは病院のなかのネットワークを活用したんですよ。これは、得手不得手がある「スキル」と言うよりも、そこに存在する「ネットワーク」を使うかどうかという話じゃないですか? 誰にでもできるし、まさに、どこででも役に立ちそうな話ですが、それをすんなり言語化した幡野さんが素晴らしいですね。―次回は、「医療マンガはどうあるべきか」について。白熱した議論は、どうまとまるのでしょうか。第4回はこちら参考横浜市医療局「医療の視点」

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第4回 現代の「医療マンガ」とはどうあるべきか

第4回 現代の「医療マンガ」とはどうあるべきか初見の方は、ぜひ第1回からお読みください患者視点のエピソードは視聴者の共感を得られない?大塚:幡野さんから見て、これからの医療漫画って、どうあってほしいのでしょうか。幡野:結局、漫画とかドラマって、読むときの立場によって見方が変わってしまうんですよね。わかりやすく「サザエさん」で例えると、僕が子供の頃はカツオの目線で読んでたんですよ。普段怒られてばかりのカツオが、作文テストで100点を取る話があって。普通だったら、すぐにでも親に見せびらかして、お小遣いとかお菓子の要求をしそうですけど、カツオはそうしなかったんです。カツオは以前、家にある壺の中に、自分が壊した波平の大事なものを隠していて、100点のテストをその壺のふたに使ったんですよ。それで、バレて「バッカモーン!」と怒られるのですが、その作文が家族を褒めたたえる内容で、結果的に「まぁいいだろう」と許されるんです。「すごい、コイツ天才だな」と思って、こういう生き方をしようと思いましたね(笑)。今は子供ができて、親戚と付き合っていると、マスオさん目線で読んじゃうんですよね。これだけ大人数の家族とうまく付き合って、とんでもない人格者だなぁとかって。参加者:(笑)幡野:よくある医療ドラマの場合、医療従事者が視聴者として感情移入する先って、やはり主役の医療者になりませんか? でも、患者さんはやっぱり、患者側の気持ちで見ますよね。僕は以前から、患者目線のストーリーって成り立つのか? と疑問を持っていて。なぜなら、視聴者における患者さんの割合って圧倒的に少ないから。誰しもがいずれ病気になるけれど、病院にいる患者さんってほとんどが高齢者でしょう? だから、医療ドラマが患者さんをターゲットにしても、視聴者の共感はなかなか得られないのではないかと思います。それよりも、患者さんの家族や医療者の視点のほうが、想像しやすいんですよね。市原(ヤンデル):そういえば山本先生って、ドラマ解説を一般向けに書いていますよね。ドラマと現実の違いに触れつつ、ドラマの世界観を崩さないという絶妙なバランスを保っていますが、医療ドラマを創作物として成り立たせるために、どうすればいいと思いますか?山本(けいゆう):医療ドラマは、制作者側の意図がそれぞれ違うので、難しいですよね。たとえば『コウノドリ』は、日本産科婦人科学会と厚生労働省がバックアップしています。明らかに産科婦人科疾患の啓発が目的だとわかるので、視聴者もそのつもりで見ますよね。また、『コード・ブルー』は、ドラマのおかげでドクター・ヘリの認知度が上がって、今や全都道府県に配備されていますし、救急医療の現場について広く知られるようになりました。一方で、『ドクターX』は完全にエンタメとして作られているので、視聴者としても純粋にエンタメドラマとして楽しめますよね。僕自身は、すべてのドラマにおいて、「ドラマを題材に病気や医療の知識に興味を持ってもらう」という目的で解説を書いています。ドラマの意図が何であれ、僕の目的はそこにありますね。市原(ヤンデル):なるほど、そこは一貫しているということですね。共感できる“怒り”と共感できない“怒り”市原(ヤンデル):少し戻りますが、患者目線の医療ドラマは成り立ちにくいのでは? という幡野さんの話がありました。今回、「医療マンガ大賞」では患者視点にもスポットを当てて、漫画による患者目線の共有にチャレンジしているのですが、実際はどう思いますか?幡野:厳しい意見かもしれないですが、患者視点のエピソードって、いろいろなところで発信されているんですよ。「闘病ブログ」というカテゴリもありますし。でも、闘病ブログって、患者が書いた文章を、同じく病気と闘っている患者が読んでいるんですよね。でも、僕らが目指す情報の拡散というのは、「患者の視点をいかに患者以外の人に伝えるか」というところですよね。医療者も実は同じで、医療者が書いた論文は医療者しか読まない。学会や患者会がそれぞれ発足していますが、本当は双方の情報と視点を、健康な人と共に共有することが大切ですよね。幡野:仕方のないことですが、患者が発する情報は、基本的に“怒り”がベースになっています。病気になると、ストレスが多い生活になってしまうので、怒りっぽくなってしまう。患者同士は気持ちがわかるから、“怒り”に対しても共感できるのですが、知らない人にとって、共感できない“怒り”って不快に感じるんですよね。たとえば、女性が痴漢被害を受けて怒ったら、女性は共感できますよね。でも、男性は痴漢被害を受けた機会が少ないから、話を聞くことはできても共感まではできないんですよ。だから、性被害に関する情報を発信する女性に対して、不快感を覚える男性もいます。怒りという感情は、共感を得られればすごく広まるのですが、共感されない怒りは、賛否両論になってしまう。だから、がん患者が情報発信するときに、不満や怒りに似た感情をベースにしていると、健康な人には理解されにくくなってしまう。そこでコミュニケーション・エラーが生じてしまう。人生会議のポスターで、多くの患者さんが怒りを表しましたが、大多数の健康な人は「何に問題があるの?」という反応でした。情報発信する側は、怒る気持ちもわかるけれど、そこをぐっと抑えて、相手の立場や目的などを打算的に考えたほうが、遠くまで伝わるんじゃないかと僕は思います。市原(ヤンデル):うわぁ、おもしろい…! 幡野さんは、発信だけでなく受信・拡散もすべて自分の力でやっていて、ネットワークを活用しているんだなという実感が持てました。改めて尊敬します。今回は、医療×漫画という、組み合わせとしてはよくあるコラボではありますが、そこにさらにSNSをかけ合わせるという新しい取り組みでした。横浜市という行政の協力もあり、素晴らしい成果が出たと思います。イベント自体はまだ始まったばかりなので、ぜひ継続させていきたいですね。ありがとうございました!※トークセッション登壇者・医療マンガ大賞審査員・受賞者の皆さん―4回にわたりお送りした「医療マンガ大賞」アフタートークイベントレポートは以上です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。参考横浜市医療局「医療の視点」

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第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話

第2回 患者になって『ブラック・ジャック』を読んだらつらかった話第1回はこちら幡野 広志氏が語る、患者視点で読む医療漫画とは市原(ヤンデル):ここからは、写真家・幡野 広志さんを迎えて、患者視点で読み解く「医療漫画」について聞いていきましょう。大塚:僕、幡野さんがイベントに来ると聞いたとき、「幡野さんは医療漫画をどういう視点で読んでいるんだろう?」とすごく気になったので、今日はそれを聞くために来たんですよ。幡野:ありがとうございます。漫画は結構好きで、家の本棚には『国境を駆ける医師イコマ』(作者:高野洋)があります。国境なき医師団をテーマにした漫画で、絵はあんまり…ですが、すっごくおもしろいです。将来、息子に読んでほしくて置いてありますね。あと、『ブラック・ジャック』(同:手塚治虫)は、中学時代から何度も読んでいます。ところが、最近読み直したとき、少し見え方が変わっていました。前はすごくおもしろかったのですが、今になって読んだら、結構つらいんですよ。参加者:へぇ~…!幡野:ブラック・ジャックという医者はほとんどのケースで、患者の家族や友人など、周りの人から頼まれて、問答無用で病気や怪我を治してしまいます。ブラック・ジャックは患者とほぼコミュニケーションをとらないし、かと思いきや「死にたい」と言った患者をぶっ叩くこともある。エピソードには患者の意思がほとんど反映されていなくて、周囲の人にスポットが当てられた感動ドラマだと感じます。だから、患者視点で読むと、結構つらい。病気が発覚する前は、ブラック・ジャックみたいな医者が正しいと思っていました。でも、今もしも自分がブラック・ジャックの患者だったら、正直勘弁だなと思ってしまいます。病気って“治したら幸せ”というものではないんですよね。病気になったことで仕事を失ったとか、人間関係が壊れたとか、婚約が破棄されたとか…。そこでまず、自分が思い描いていた人生が壊れているんです。病気だけ治しても、仕事や人間関係が戻るわけではない。むしろ、その後どうやって生活していくのかという問題が残ります。現実は、漫画のように「病気を治してハッピーエンド」とはならない。それは普段から感じることですね。大塚:なるほど。幡野:その点、「医療マンガ大賞」は、患者さん視点も医療従事者視点も、両方から見たというのがすごくよかったですね。終末期の対応から考える、患者視点と医療者視点の違い原案:エピソードNo.3 人生の最終段階(患者視点)漫画:【大賞】人生の最終段階/作者:油沼さん幡野:大賞作品について、ひとつ気になった点がありました。終末期の患者さんの意識がなくなり、ご家族が「先生、何とかしてください!」と言ったとき、実際の現場で、医師が「何もしない」という状況はありえないのではないですか?患者本人が延命を望んでいなくとも、家族からそう言われたら、医師は「何かしなくては」と思うでしょう。この作品は、「(患者の意思を尊重して)何もしなかった」というレアケースだからこそ、心に刺さるエピソードなのではないでしょうか。山本(けいゆう):ご高齢の患者さん本人が延命を望んでいなくて、ご家族も承諾していた場合、最期に「何とかしてください」と言われる展開になることは少ないように思います。逆にそのような状況になった場合、われわれの説明に問題があったのかもしれません。つまり、患者さん本人は延命治療を望んでいないという事実を、ご家族と医療従事者で共有できていなかったということになるので。幡野:なるほど。山本(けいゆう):ご指摘の部分に関しては、医療従事者の視点で考えると、まずそこに1つの反省点があるはずです。もちろん、「何とかしてください!」と言われたとき、あっさりとした対応はできません。家族の求めに応じて治療をして、長期的な延命が望めない場合には、もう一度説明する必要があると思います。堀向(ほむほむ):僕はどちらかと言うと“死”には慣れていないので、少し違う視点かもしれません。僕が診ている新生児は、そこから人生が始まるので、「全員蘇生」という意識を持っています。このエピソードは亡くなる前の蘇生ですが、僕が関わるのは生まれたときの蘇生です。その後どうなるか、誰にも予測がつかないので、あきらめることはできないですね。たとえば、意識のない妊婦から生まれた新生児が(チアノーゼで)真っ黒でも、僕らが呼ばれた時点で治療しないことは基本的にありません。ただ、あきらめないことがいいかと言われると、自分でもわからくなってしまう部分もあります。幡野:すごいですね。これって、なかなか普段は表に出てこない本音ですよね。市原(ヤンデル):全部本音ですね。大賞作品の話から始まりましたが、それぞれの視点によってどんどん自分事にしていくのは、この会の醍醐味ですよね(笑)。―次回は、引き続き幡野さんとのトークセッションをお送りします。第3回はこちら参考横浜市医療局「医療の視点」

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医師数32万7,210人、増えた科や多い都道府県は?―厚労省調査

 厚生労働省は19日、「医師・歯科医師・薬剤師統計」の最新結果を取りまとめ、公表した。それによると、全国の医師数は、32万7,210人で、前回調査(16年)に比べ2.4%増となり、一貫して増加傾向が続いている。このうち、女性医師は7万1,758人で、前回よりも6.3%増と大きく数字を伸ばし、過去最多を更新した。一方、医療施設に従事する医師の平均年齢は上がり続けており、診療所に従事する医師の平均年齢は初めて60歳代となり、高い年齢層が支えていることがわかる。 「医師・歯科医師・薬剤師統計」は、厚労省が2年おきに実施しており、今回は2018(平成30)年12月31日時点に調査を行ったもの。それによると、全国の医師数は32万7,210人(前回比で7,730人、2.4%増)、歯科医師数は10万4,908人(同375人、0.4%増)、薬剤師数は31万1,289人(同9,966人、3.3%増)であった。都道府県別にみた医師数が最も多いのは徳島県 医師数を男女別にみると、男性医師は25万5,452人(前回比で3,465人、1.4%増)、女性医師は7万1,758人(同4,265人、6.3%増)となっており、女性医師数の躍進が顕著であった。 医師のうち、医療施設従事者は31万1,963人(総数の95.3%)で、前回比で7,204人(2.4%)増加した。平均年齢は49.9歳。このうち、病院は44.8歳で前回調査時から0.3ポイント上昇し、診療所は60.0歳で前回から0.4ポイント上昇して、初めて60歳代となった。 主たる診療科別にみると、前回調査時より従事者が増えたのは、美容外科が最も多く(対前回比で130%)、以下、産科(同112%)、腎臓内科・救急科(同111%)、リハビリテーション科(同109%)などとなっている。一方、従事者が減ったのは、気管食道外科が最も多く(対前回比で94%)、以下、外科(同95%)、肛門外科(同97%)、内科・産婦人科・臨床検査科(同99%)などとなっている。なお、本稿で紹介した診療科別の統計結果においては「臨床研修医」や「不詳」および「その他」の回答はいずれも除外している。 従業地の都道府県別にみた医療施設に従事する人口10万人当たりの医師数は、全国では246.7人で、前回比で6.6人増加した。このうち、医師数が最も多いのは徳島県(329.5人)で、次いで京都府(323.3人)、高知県(316.9人)などとなっている。一方、最も少ないのは埼玉県(169.8人)で、次いで茨城県(187.5人)、千葉県(194.1人)などとなっている。

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第1回 漫画から読み解く、患者と医療者の「視点の違い」

第1回 漫画から読み解く、患者と医療者の「視点の違い」―「医療マンガ大賞」では、患者や医療従事者が体験したエピソード(全10本のうち、一般募集として応募総数156本から4本を選出)に対し、11日間で55本の漫画作品の応募がありました。市原(ヤンデル):ここからは、漫画作品の原案エピソードを選んだ先生方に、選出に至るまでの裏話を聞いていきます。「SNS医療のカタチ」のお三方、よろしくお願いいたします。まずはほむほむ先生からどうぞ。何気ない言葉/堀向 健太氏(アレルギー専門医ほむほむ)選出原案:エピソードNo.8 何気ない言葉(患者視点)漫画:【特別賞】何気ない言葉/作者:ひびのしさん堀向(ほむほむ):うちは医者家系ではないので、家族は医者のことを知りません。家にいると、家族から受診したときの話をよくされるんです。そういうのを聞くと、僕の診療も「あんないいことを言われた」とか「今日はこんな悪いことを言われた」とか、家族団らんのネタになっているんだろうな、というのを実感します。僕は小児科医ですので、子供のことを1番に考えています。お子さんがどうやったら良くなるのだろうと、いつも考えています。たとえば、診察して処方箋が出たら僕のハンコを代わりに押してくれる子、診察室に入ったらまず僕の椅子に座る子などがいて。ご両親は慌てますが、「気にしなくていいですよ」と対応し、診察が終わったらお子さんに「頑張ったね」とハイタッチをします。このように、お子さんに対してはいろいろな形で向き合っているはずですが、この作品を読んだとき、「ご両親にも、もう少しうまく話ができていればよかったかもしれない。もうひと言、何か言えたのではないか」と思ったのです。心が動かされたんだなと感じました。お子さんも頑張っているけれど、もちろんご両親も毎日頑張っています。僕がよく診るアレルギーは慢性の病気ですので、毎日ご両親に頑張っていただくことで、お子さんの体に結果が出てきます。そこで、自分のなかで考えた結果、ご両親が退室するときに、「お父さんお母さんも、よく頑張ってくださいましたね」と伝えようと決めました。このひと言があるだけで、今までと何かが少しだけ違うかもしれません。こういった形で心を動かされたので、この作品を選出させていただきました。努力の向こう側/大塚 篤司氏選出原案:エピソードNo.10 努力の向こう側(患者視点)漫画:【特別賞】努力の向こう側/作者:ブリ猫さん大塚:たくさんの応募作品を全部読むのはめちゃくちゃ大変だったのですが、すごくおもしろかったです。すべて読み終わったときに、「医療って人生だな」と思いました。良いときもあれば、悪いときもある。感謝の気持ちもあれば、人を恨むような気持ちもある。怒ったり、泣いたり、笑ったり…。読んで、そういう感情が一気に入ってきました。それぞれの切り口でいいメッセージがあるので、このなかから選ぶというのはとても難しかったです。そこで、僕が医療で大事にしているのはなんだろう? と考えたとき、患者さんの立場から「優しい」と言える人に対して、すごいと思っている自分に気付きました。病院の中って、医者は忙しくて余裕がないし、患者さんもつらい、苦しい、痛いなどで余裕がない。その状況で、立場にかかわらず「優しさ」を出せる人は強い人だと思います。「優しさ」を書いている作品で、今回選んだエピソードが一番心に刺さりました。看護師が点滴に失敗して、自分が痛くて嫌だなと思っているなかで、「洗髪が上手」と伝えた患者さんの優しさって、強さもあってこそだと思います。そういうちょっとした優しさを皆が持ち寄れば、病院という空間はもっと過ごしやすくなるのではないかと感じたので、この作品を選びました。わたしのスタートライン/山本 健人氏(外科医けいゆう)選出原案:エピソードNo.7 わたしのスタートライン(医療者視点)漫画:【入賞】わたしのスタートライン/作者:コジママユコさん山本(けいゆう):このエピソード、すごく好きなんですよ。自分が医者になってしばらくした頃にぶち当たった壁と同じものが書かれているというか。僕は“医者の努力のおかげで病気がよくなって、患者さんからの「ありがとう」という感謝の気持ちを全面で受け止める”という幻想に期待して医者になったように思います。ところが、現実は医者が直接患者さんにできることって少なくて、患者さん自身で努力をして、病気を治していく。そのサポートをするのが医療従事者なのだということを知りました。この作品は作業療法士が主人公ですが、医療従事者すべてに当てはまるエピソードだと思います。医療従事者は黒子で、主役は患者さんなんです。僕らが外来で患者さんと会えるのは、せいぜい週1回が限度ですよね。それ以外の6日間は、患者さんとご家族が意欲的に治療に取り組まなければならない。患者さん自身が前に向かって進んでいくのを、われわれはサポートしかできないんです。かつて、「医者のおかげで患者が治るなんて考えはすごくおこがましい」と思い知った経験がありました。ラストシーンの「スタート地点に立てた気がした」というのが、そのときの感覚にとても近いなと思いました。「病は気から」とも言いますが、患者さんの意欲をどう高めるか考えることも、医療従事者の大事な仕事です。患者さんの気持ちを前向きにしていく、という思いを一番感じることができたので、この作品を選びました。市原(ヤンデル):前半お二人は患者視点のエピソードを選ばれました。選んだ理由が人それぞれでおもしろいですね。患者視点の話を医者の立場で読み解くことは、すごく複雑ですが興味深いです。まず堀向先生は、ご自身の選んだエピソードによって、今後の診療方針にまで影響があったようです。また、大塚先生が「優しさが少し増えてほしい」という思いで選んだエピソードが、漫画化されることでさらに広がっていく。これって素晴らしいことですよね。一方、山本先生は、医療従事者視点のエピソードを選ばれました。ただ、三人とも単に患者の視点だけとか、医療従事者の視点だけではなく、複数の視点でそれぞれのエピソードを語ってくださったように思います。さすが、日頃よりコミュニケーションエラーに興味があるメンバーですね。コミュニケーションの糧になりそうなエピソードが見事に選ばれたと思います。僕の後悔/市原 真氏(病理医ヤンデル)選出※都合により写真の一部を加工しています。原案:エピソードNo.9 僕の後悔(医療者視点)漫画:【入賞】僕の後悔/作者:ワダシノブさん市原(ヤンデル):僕は、応募作品を読む前から、どうせ選ぶならとことん悲しいエピソードにしようと思っていました。日頃から、「医療漫画がハッピーエンドで終わると非現実的だと感じてしまう」という面倒な性格の持ち主でもあります。そうしたら、単に悲しいわけでもなく、かといって成功体験だけでもない、複合的なエピソードが多く見られました。最終的に選んだエピソードも、要約すれば「患者さんが大事なときに立ち会えなかった」というシンプルな話ではあるのですが、実際にはさまざまな視点から読み解くことができます。それだけに難しいエピソードでもあります。編集者の佐渡島 庸平さんが、医療マンガ大賞のスタートアップイベントで、「このエピソードを漫画にできたらそれだけですごいよね」と発言されたらしいですね。その影響もあってか、非常に多くの人が漫画化にチャレンジしてくれました。今回受賞した作品以外も本当におもしろいので、ぜひ目を通していただきたいですね。大塚:少し話が戻りますが、堀向先生って、すごく特別な存在ですよね。小児科の患者さんが帰るとき、患者さんのご両親に「頑張りました」と声を掛ける医者は、本当に少ないと思います。僕がそんなことを言われたら泣いてしまうかもしれない。でも、こうやって発信し続けていくことで、いずれこれがスタンダードになるかもしれないと思うところもあります。堀向先生は、「小児科の先生はこういう対応をすると、ご両親に安心してもらえる」というモデルケースを見せてくれているように感じます。市原(ヤンデル):なるほど。今の話からも伝わるのですが、大塚先生は医療マンガ大賞のエピソードに対しても、あるいは登壇者の発言ひとつに対しても、「それを受け止めた医療者がどう変わるか」という視点をお持ちになっていますね。とてもおもしろいです。「医療マンガ大賞でエピソードを募集」と聞くと、患者さん視点のエピソードばかり集まるかと思っていましたが、医療をめぐる視点は本当にさまざまですね。こういう話がどんどん聞けそうなので、次のセッションも楽しみです。―次回は、写真家・幡野 広志さんを交えたトークセッションの様子をお伝えします。第2回はこちら参考横浜市医療局「医療の視点」

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要支援高齢者に対するリハビリテーション専門職主導の短期集中型自立支援プログラムの効果

 医療経済研究機構の服部 真治氏らは、介護保険サービスを利用する必要がなくなり、その利用を終了(介護保険サービスから卒業)するための短期集中型自立支援プログラムの有効性を評価した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2019年10月17日号の報告。 短期集中型自立支援プログラムの構成は、一般的な通所型サービスCと同様であるが、今回のプログラムは、リハビリテーション専門職が中心となり、随時、管理栄養士、歯科衛生士も加わり、毎回20分間(状況に応じて10~30分間)の動機付け面談を実施することにより、利用者が自身の可能性に気付き、元の生活を取り戻すための日々の暮らし方を知り、意欲的に自分自身を管理できるようにすることを目的に開発されている。 大阪府寝屋川市にて、2群間並行ランダム化比較優越性試験を実施した。対象は、介護保険における要支援の認定を受けた65歳以上の高齢者のうち、参加同意が得られた介護保険サービス利用者。対象者は、短期集中型自立支援プログラムを追加で受ける介入群と通常の介護保険サービスのみを受ける対照群にランダムに割り付けられた。主要アウトカムは、介護保険サービスからの卒業とした。 主な結果は以下のとおり。・対象者375例は、介入群190例、対照群185例にランダムに割り付けられた。・介護保険サービスからの卒業の割合は、介入群11.1%、対照群3.8%であった(絶対差:7.3、95%CI:2.0~12.5)。・重篤な有害事象リスクは、両群間で差は認められなかった。 著者らは「本研究で開発した短期集中型自立支援プログラムの追加的な利用により、介護保険サービスからの卒業を促進できることが示唆された」としている。

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第4回 動脈硬化で死なないためには?【今さら聞けない心リハ】

第4回 動脈硬化で死なないためには?今回のポイント心血管疾患患者にとって、食習慣の改善は運動と同様に大切画一的な指導ではなく、病状に応じた栄養指導が重要動脈硬化疾患の予防には〇〇を断つべし!?動脈硬化予防に良い食事とは?本連載の第1~3回では、主に運動療法について書きましたが、今回は心疾患患者に対する栄養指導についてお話します。心臓リハビリテーション(以下、心リハ)において、心疾患患者は何を食べるべきか(あるいは何を食べないべきか)ということは、実は運動と同じくらい、あるいはそれ以上に大切と考えられています。わが国の心血管疾患の治療ガイドラインには、食事についての記載はほとんど認められません。わずかに、減塩や適正なカロリーの摂取についての記載があるのみです。一方、米国のガイドラインではかなり多くのページが食事・栄養に割かれており、総説や論文も多数、毎年のように出されています。日本がフィットネス後進国と言われていることは第1回でも話しましたが、実は運動だけではなく食事についても関心のある医師が少ない状況です。高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病の発症は、運動不足も関係しますが、食事が最も重要であるのは自明のことです。運動不足でも、食べなければ太れません。それでも、食事の根本的改善のないままに、各管理目標値を目指して薬物治療が開始されることが多いのではないでしょうか。では、動脈硬化の予防には実際どのような食事をとれば良いのでしょう。避けるべき食品はなんでしょうか。動脈硬化は、食事と運動だけでも改善できるのでしょうか?徹底的な食事療法と運動療法により冠動脈のプラーク(動脈硬化病変)が退縮することを実際に示した有名な臨床研究があります。カリフォルニア大学のOrnish氏らが1998年のJAMA誌に発表したもので、Ornish氏とその関係者は、現在もカリフォルニアを拠点にこの研究で示された有効性をもとに食事・運動療法の啓発活動を続けています。この研究では、中~高度の冠動脈疾患患者を「徹底的な食事療法・運動療法を行う介入群:28例」と、「ガイドラインで推奨されるレベルの食事療法・運動療法を行う対照群:20例」にランダムに割り付けし、冠動脈造影検査による冠動脈狭窄率の変化を5年間追跡しました。徹底的な食事療法とは、ホールフード・ベジタリアンダイエット、つまり未加工の野菜中心に油脂を使わず少ない調味料で調理するもので、脂質が占めるエネルギー量は全体の10%未満と非常に少ないものでした。また、介入群では食事療法とともに週5時間の有酸素運動を実施しました。一方、対照群でも食事中の脂質は30%未満に抑えられ、週3時間程度の有酸素運動を実施しました。1年後、介入群では37%の血清LDLコレステロール低下を認めるとともに評価部位の冠動脈の平均狭窄率が40%から37.8%に改善したのに対して、対照群ではLDLコレステロールは6%低下したものの、冠動脈の平均狭窄率は42.7%から46.1%に悪化しました。その後、対照群では過半数の患者において脂質異常症治療薬の内服が開始されましたが、5年後の両群の冠動脈狭窄率差はより顕著でした(介入群:37.3%、対照群:51.9%)。後に、同氏らはこのプログラムを冠動脈疾患の進行抑制だけではなく改善させるものとして、Intensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)と名付けています(図1)。(図1)画像を拡大するこの研究データには説得力があり、すでに1,854もの論文で引用されています(2019/11/21時点)。私の知る限り、ほかにはこのように明確に食事・運動療法の動脈硬化改善効果を示した研究はありません。Ornish食を続けるコツと適した人ホールフード・ベジタリアンダイエットは、いわゆる高血圧研究で有名なDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食とは異なり、乳製品や魚すらとりません。DASH食でさえ毎日続けるのは難しそうと感じた方には、よりハードルが高そうですが、研究に参加した患者の7割以上が、5年間この食事療法を継続できたようです。同氏によると、継続率が高いのは、これを実践した患者が速やかに自覚症状の改善を感じたからだそうです。ホールフード・ベジタリアンダイエットを本気で実践しようとすると、あれもこれも食べられませんし、それを理想と考えるなら、通常の入院食も不適切な食事です。それに、野菜は高いし調理も面倒…さまざまな事情により、実践を諦める人が多いでしょう。多くの患者にとって、同氏らの研究の中で対照群が実施したような、脂質30%未満という通常の診療で推奨されている一般的な食事療法が、許容できるぎりぎりのレベルかもしれません(一般的な食事療法でも、きっちりと指導を受け、さらに実践できている患者は多くないと思われます)。ただし、同氏の研究はあくまで中年の肥満型冠動脈疾患患者を対象にしたものであり、日本で診療する患者の多数派である高齢者を対象としていないことに注意が必要です。高齢の心疾患患者では低栄養のことも多く、そもそも野菜をかむ力すら衰えてしまっているようなオーラル・フレイルの患者も多いので、多量の野菜を摂取する必要のあるOrnish食は適応にならないでしょう。画一的な指導ではなく、患者の病状や生活環境に応じた指導が必要です。高齢の心疾患患者の場合には、少量でもしっかりとカロリーやタンパク質を補うことができるような食事のメニューを組む必要があります。これについては、第5回で詳しく説明しましょう。動脈硬化予防に食べてはいけない物最後に、“何を食べてはいけないか”―最近JACCで発表された心血管疾患予防のための栄養に関する臨床ガイドの記事を紹介します。ここでは、避けるべき食品、積極的に摂取すべき食品についてのリストとともに、詳細に記述されています。この臨床ガイドの中で、避けるべき食品としてまず挙げられているのが、「砂糖」。とくに果糖ブドウ糖液糖をはじめとする合成糖類です。砂糖の1日摂取量上限は25gまで、合成糖類は基本とらない、甘い飲料は飲んではいけないことが、エビデンスとともに記されています。詳しくリストを確認したい方は、原著をお読みください。塩のとり過ぎは高血圧を発症させるので減塩が大切ということは広く知られていますが、砂糖のとり過ぎに気を付けることも大事なのですね。ちなみに、私は甘いお菓子が大好きです。こうした情報を知ってからは、なるべく気を付けるようにしています…が、さっき頂き物のクッキーの小袋を食べてしまいました(汗)。徹底的な食事療法の実践は、なかなか難しいですね。「moderation kills」という言葉がありますが、よほどの決心がつかないと、「なるべく気を付ける」くらいの食事療法で満足してしまいそうです。読者の皆さまは、いかがでしょうか?<Dr.小笹の心リハこぼれ話>医師による栄養指導と真の対価心リハのメインは運動、食事は重要だけれど補助的役割。運動処方は医師がチェックするけれど、栄養指導は管理栄養士任せ…。心リハに携わり始めた頃は、正直、栄養については知識不足でした。そのため、患者さんに聞かれても、「塩分に気を付けてバランスの良い食事をとりましょう、具体的には栄養指導で聞いてくださいね」という、間違ってはいないものの何にも具体性がないことしか言えませんでした。現在、医学部には栄養学の講義はほとんどありません。栄養指導は管理栄養士任せという医師は多いと思われます。しかし、長年心リハで患者指導をするうちに、運動だけではだめなんだ、と気付かされるようになりました。毎日2時間も速歩でウォーキングしていてもHbA1cが8%を下回らない糖尿病患者さん、外来心リハに週3回通い、かつ自宅でも指導通り運動しているのに体重がまったく変わらないどころか逆に増えるような肥満患者さん。これらの患者さんたちは、明らかに食事に問題があるのです。今では、心リハの患者さんの栄養指導も管理栄養士にすべてお任せではなく、管理栄養士と一緒に個々の症例について介入ポイントを話合っています。それにしても、運動だけではなく、栄養指導や心リハで重要な心理ケア(ストレスマネジメントプログラム:SMP)について、1回1時間の心リハで行うことは時間的にかなり厳しいものがあります。今回紹介したOrnish氏の心リハプログラムは、米国で保険適応とされています。通常の心リハプログラムが1回1時間、週3回、12週間(合計36時間)の運動を中心としたものであるのに対して、包括型心リハでは1回4時間で運動、栄養指導、SMPを各1時間、そして残りの1時間がグループでの対話セッションで構成され、週2回、9週間(合計72時間)というもののようです(図1)。このような心リハを日本で実践するには、診療報酬制度の見直し、そして心リハを支えるマンパワーが必要です。日本でIntensive Cardiac Rehabilitation(包括型心リハ)を実現するには、今以上にコストがかかるということですね。でも、その投資は、冠動脈疾患の再発や悪化によりPCIやCABGなどの血行再建術を実施するコストに比べたら、十分価値があるのではないでしょうか。何より、患者さんにとっては疾患の再発や悪化がないことこそがHappyですよね!

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