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緑内障手術、線維柱帯切除術 vs.低侵襲ステント留置

 近年、緑内障手術ではステント状のデバイスを埋め込む低侵襲の手術が注目され、海外ではさまざまなデバイスが開発されている。カナダ・トロント大学のMatthew B. Schlenker氏らは、ab interno(眼の内側からの)ゼラチンマイクロステント留置の有効性および安全性について、線維柱帯切除術と比較する国際多施設後ろ向き介入コホート研究を行い、両者の間で失敗のリスクや安全性プロファイルに大きな差はないことを明らかにした。Ophthalmology誌オンライン版2017年6月7日号掲載の報告。 研究グループは、2011年1月1日~2015年7月31日の間に、カナダ・トロント、ドイツ・フランクフルト、オーストリア・ザルツブルグ、ベルギー・ルーヴェンの4つの大学病院において、マイトマイシンC併用ab internoゼラチンマイクロステント留置、またはマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を受けた、過去に切開手術の既往歴のないコントロール不良の緑内障患者連続症例354眼293例(マイクロステント185例、線維柱帯切除術169例)について、解析した。 主要評価項目は、失敗のハザード比(HR:失敗は、2回の連続した測定で眼圧低下<6mmHg、視力障害を伴う、と定義)、またはクリニックでの穿刺を含む介入にもかかわらず、手術後1ヵ月以上の時点で薬物療法を行うことなく眼圧>17mmHg(完全成功)の割合であった。副次評価項目は、眼圧閾値が6~14mmHg、6~21mmHgまたは薬物療法を受けた場合と同じ値(条件付き成功)の割合、介入、合併症、そして再手術率とした。 主な結果は以下のとおり。・マイクロステント群で、男性が多く(56% vs.43%)、年齢が若く(平均年齢-3歳)、術前視力が良好で(0.4logMAR以下の割合が22% vs.32%)、線維柱帯形成術の割合が多かった(52% vs.30%)が、ベースラインにおけるそれ以外の患者背景は類似していた。・マイクロステント失敗の線維柱帯切除術に対する補正HRは、完全成功に関して1.2(95%信頼区間[CI]:0.7~2.0)、条件付き成功に関して1.3(95%CI:0.6~2.8)、その他の評価項目に関しては類似していた。・25%失敗までの時間は、完全な成功に関してマイクロステントで11.2ヵ月(95%CI:6.9~16.1)、線維柱帯切除術で10.6ヵ月(95%CI:6.8~16.2ヵ月)、条件付き成功に関して、それぞれ30.3ヵ月(95%CI:19.0~未到達)と33.3ヵ月(95%CI:25.7~46.2ヵ月)であった。・概して、白人には失敗のリスク減少との関連があり(補正HR:0.49、95%CI:0.25~0.96)、糖尿病は失敗のリスク増加と関連していた(補正HR:4.21、95%CI:2.10~8.45)。・マイクロステントと線維柱帯切除術で、介入がそれぞれ114件および162件、穿刺施行が43%および31%あり、線維柱帯切除術眼の50%はレーザー縫合糸切離を受けた。・合併症は、それぞれ22件および30件認められたが、ほとんどは一過性であった。・再手術率は、それぞれ10%および5%であった(p=0.11)。

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多発性骨髄腫〔MM : multiple myeloma〕

1 疾患概要■ 概念・定義多発性骨髄腫(MM)は、Bリンパ球系列の最終分化段階にある形質細胞が、腫瘍性、単クローン性に増殖する疾患である。骨髄腫細胞から産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)を特徴とし、貧血を主とする造血障害、易感染性、腎障害、溶骨性変化など多彩な臨床症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国では人口10万人あたり男性5.5人、女性5.2人の推定罹患率であり、全悪性腫瘍の約1%、全造血器腫瘍の約10%を占める。発症年齢のピークは60代であり、年々増加傾向にある。40歳未満の発症はきわめてまれである。■ 病因慢性炎症や自己免疫疾患の存在、放射線被曝やベンゼン、ダイオキシンへの曝露により発症頻度が増加するが成因は明らかではない。MMに先行するMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)や無症候性(くすぶり型)骨髄腫においても免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子や13染色体の異常が認められることから、多くの遺伝子異常が関与し、多段階発がん過程を経て発症すると考えられる。■ 症状症候性骨髄腫ではCRABと呼ばれる臓器病変、すなわち高カルシウム血症(Ca level increased)、腎障害(Renal insufficiency)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)がみられる(図1)。骨病変では溶骨性変化による腰痛、背部痛、脊椎圧迫骨折などを認める。貧血の症状として全身倦怠感・労作時動悸・息切れなどがみられる。腎障害はBence Jones蛋白(BJP)型に多く、腎不全やネフローゼ症候群を呈する(骨髄腫腎)。骨吸収の亢進による高カルシウム血症では、多飲、多尿、口渇、便秘、嘔吐、意識障害を認める。正常免疫グロブリンの低下や好中球減少により易感染性となり、肺炎などの感染症を起こしやすい。また、脊椎圧迫骨折や髄外腫瘤による脊髄圧迫症状、アミロイドーシス、過粘稠度症候群による出血や神経症状(頭痛、めまい、意識障害)、眼症状(視力障害、眼底出血)がみられる。画像を拡大する■ 分類骨髄にクローナルな形質細胞が10%以上、または生検で骨もしくは髄外の形質細胞腫が確認され、かつ骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)を1つ以上認めるものを多発性骨髄腫と診断する。骨髄腫診断事象には従来のCRAB症状に加え、3つの進行するリスクの高いバイオマーカーが加わった。これらはSLiM基準と呼ばれ、骨髄のクローナルな形質細胞60%以上、血清遊離軽鎖(Free light chain: FLC)比(M蛋白成分FLCとM蛋白成分以外のFLCの比)100以上、MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)2個以上というのがある。したがって、CRAB症状がなくてもSLiM基準の1つを満たしていれば多発性骨髄腫と診断されるため、症候性骨髄腫という呼称は削除された1)。くすぶり型骨髄腫は、骨髄診断事象およびアミロイドーシスを認めず、血清M蛋白量3g/dL以上もしくは尿中M蛋白500mg/24時間以上、または骨髄のクローナルな形質細胞10~60%と定義された。MGUSは3つの病型に区別され、その他、孤立性形質細胞腫の定義が改訂された1)(表1)。表1 多発性骨髄腫の改訂診断基準(国際骨髄腫ワーキンググループ: IMWG)■多発性骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)骨髄のクローナルな形質細胞割合≧10%、または生検で確認された骨もしくは髄外形質細胞腫を認める。(2)以下に示す骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)の1項目以上を満たす。骨髄腫診断事象●形質細胞腫瘍に関連した臓器障害高カルシウム血症: 血清カルシウム>11mg/dLもしくは基準値より>1mg/dL高い腎障害: クレアチニンクリアランス<40mL/分もしくは血清クレアチニン>2mg/dL貧血: ヘモグロビン<10g/dLもしくは正常下限より>2g/dL低い骨病変: 全身骨単純X線写真、CTもしくはPET-CTで溶骨性骨病変を1ヵ所以上認める●進行するリスクが高いバイオマーカー骨髄のクローナルな形質細胞割合≧60%血清遊離軽鎖(FLC)比(M蛋白成分のFLCとM蛋白成分以外のFLCの比)≧100MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)>1個■くすぶり型骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)血清M蛋白(IgGもしくはIgA)量≧3g/dLもしくは尿中M蛋白量≧500mg/24時間、または骨髄のクローナルな形質細胞割合が10~60%(2)骨髄診断事象およびアミロイドーシスの合併がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)■ 予後治癒困難な疾患であるが、近年、新規薬剤の導入により予後の改善がみられる。生存期間は移植適応例では6~7年、移植非適応例では4~5年である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査血清および尿の蛋白電気泳動でβ-γ域にM蛋白を認める場合は、免疫電気泳動あるいは免疫固定法でクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)とタイプ(κ、λ)を決定する。BJP型では血清蛋白電気泳動でMピークを認めないので注意する。血清FLCはBJP型骨髄腫や非分泌型骨髄腫の診断に有用である。血液検査では、正球性貧血、白血球・血小板減少と塗抹標本で赤血球連銭形成がみられる。骨髄ではクローナルな形質細胞が増加する。生化学検査では、血清総蛋白増加、アルブミン(Alb)低下、CRP上昇、ZTT高値、クレアチニン、β2-ミクログロブリン(β2-MG)の上昇、赤沈の亢進がみられる。染色体異常としてt(4;14)、t(14;16)、t(11;14)や13染色体欠失などがみられる。全身骨X線所見では、打ち抜き像(punched out lesion)や骨粗鬆症、椎体圧迫骨折を認める。CTは骨病変の検出に、全脊椎MRIは骨髄病変の検出に有用である。PET-CTは骨病変や形質細胞腫の検出に有用である。■ 診断診断には、前述の国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)による基準が用いられる1)(表1、2)。また、血清Alb値とβ2-MG値の2つの予後因子に基づく国際病期分類(International Staging System:ISS)は予後の推定に有用である。最近、ISSに遺伝子異常とLDHを加味した改訂国際病期分類(R-ISS)が提唱されている2)(表3)。ISS病期1、2、3の生存期間はそれぞれ62ヵ月、44ヵ月、29ヵ月である。ただし、これは新規薬剤の登場以前のデータに基づいている。表2 意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)と類縁疾患の改訂診断基準■非IgG型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない■IgM型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%リンパ増殖性疾患に伴う貧血、全身症状、過粘稠症状、リンパ節腫脹、肝脾腫や臓器障害がない■軽鎖型MGUSの定義血清遊離軽鎖(FLC)比<0.26(λ型の場合)もしくは>1.65(κ型の場合)免疫固定法でモノクローナルな重鎖を認めない形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%尿中のM蛋白量<500mg/24時間■孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄にクローナルな形質細胞を認めない孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない■微小な骨髄浸潤を伴う孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療方針IMWGではCRAB症状を有するMMのほか、CRAB症状がなくてもSLiM基準を1つでも有する症例も治療の対象としている。この点について、わが国の診療指針では慎重に経過観察を行い、進行が認められる場合に治療を開始することでもよいとしている3)。MGUSやくすぶり型MMは治療対象としない。初期治療は、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(HDT/AHSCT)が実施可能かどうかで異なる治療が行われる3、4)。効果判定はIMWGの診断基準が用いられ、CR(完全奏効:免疫固定法でM蛋白陰性)達成例は予後良好であることから、深い奏効を得ることが、長期生存のサロゲートマーカーとなる5)。■ 大量化学療法併用移植適応患者年齢65歳以下で、重篤な感染症や肝・腎障害がなく、心肺機能に問題がなければHDT/AHSCTが行われる。初期治療としてボルテゾミブ(BOR、商品名:ベルケイド)やレナリドミド(LEN、同: レブラミド)などの新規薬剤を含む2剤あるいは3剤併用が推奨される3、4)(図2)。わが国では初期治療に保険適用を有する新規薬剤は現在BORとLENであり、BD(BOR、デキサメタゾン[DEX])、BCD(BOR、シクロホスファミド[CPA]、DEX)、BAD(BORドキソルビシン[DXR]、DEX)、BLd(BOR、LEN、 DEX)、Ld(LEN、DEX)が行われる。画像を拡大する寛解導入後はCPA大量にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を併用して末梢血幹細胞が採取され、メルファラン(MEL)大量(200mg/m2)後にAHSCTが行われる。BORを含む3剤併用による寛解導入後にAHSCTを行うことにより、60%以上の症例でVGPR(very good partial response)が得られる。自家移植後にも残存する腫瘍細胞を減少させる目的で、地固め・維持療法が検討されている。新規薬剤による維持療法は無増悪生存を延長させるが、サリドマイド(THAL)による末梢神経障害や薬剤耐性、レナリドミドによる二次発がんの問題が指摘されており、リスクとベネフィットを考慮して判断することが求められる3、4)。■ 大量化学療法併用移植非適応患者65歳以上の患者や65歳以下でもHDT/AHSCTの適応条件を満たさない患者が対象となる。これまでMELとプレドニゾロン(PSL)の併用(MP)が標準治療であったが、現在は新規薬剤を加えたMPT(MP、THAL)、MPB(MP、BOR)、LDが推奨されている3、4)(図3)。わが国でもLd、MPBが実施可能であり、BORの皮下投与は静脈投与と比較し、神経障害が減少するので推奨されている。画像を拡大する■ サルベージ療法初回治療終了6ヵ月以後の再発では、初回導入療法を再度試みてもよい。移植後2年以上の再発では、AHSCTも治療選択肢に上がる。6ヵ月以内の早期再発や治療中の進行や増悪、高リスク染色体異常を有する症例では、新規薬剤を含む2剤、3剤併用が推奨される3、4)。新規薬剤として、2015年にポマリドミド(同: ポマリスト)、パノビノスタット(同: ファリーダック)、2016年にカルフィルゾミブ(同: カイプロリス)が導入され、再発・難治性骨髄腫の治療戦略の幅が広まった。■ 放射線治療孤立性形質細胞腫や、溶骨性病変による骨痛に対しては、放射線照射が有効である。■ 支持療法骨痛の強い症例や骨病変の抑制にゾレドロン酸(同: ゾメタ)やデノスマブ(同: ランマーク)が推奨される。長期の使用にあたっては、顎骨壊死の発症に注意する。腎機能障害の予防には、十分量の水分を摂取させる。高カルシウム血症には生理食塩水とステロイドに加え、カルシトニン、ビスホスホネートを使用する。過粘稠度症候群に対しては、速やかに血漿交換を行う。4 今後の展望有望な新規薬剤として、第2世代のプロテアソーム阻害剤(イキサゾミブなど)のほか、抗体薬(elotuzumab、daratumumab、pembrolizumabなど)が開発中である。これらの薬剤の導入により、多くの症例で微少残存腫瘍(MRD)の陰性化が可能となり、生存期間の延長、ひいては治癒が得られることが期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本骨髄腫学会(医療従事者向けの診療、研究情報)患者会情報日本骨髄腫患者の会(患者と患者家族の会の情報)1)Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.2)Palumbo A, et al. J Clin Oncol.2015;33:2863-2869.3)日本骨髄腫学会編. 多発性骨髄腫の診療指針 第4版.文光堂;2016.4)日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン.金原出版;2013.p.268-307.5)Durie BGM, et al. Leukemia.2006.20:1467-1473.公開履歴初回2013年12月17日更新2016年10月04日

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新規候補薬剤neratinibがHER2陽性/HR陰性乳がんに有効な可能性(解説:矢形 寛 氏)-576

 I-SPY2試験は、新規薬剤の有効性をみるために、再発率の高い乳がんに対して、乳がん術前化学療法でpCR率を標準治療との間で比較する無作為化第II相試験である。 少ない症例数、低コスト、短い期間で効率的に候補を選び出す試験として注目を浴びている。 バイオマーカーを使って乳がんのサブタイプ分類を行い、どのサブタイプが新規薬剤に有効でありそうかを調べるのであるが、適応的ランダム化という方法を使って適宜割り付けを調整し、有効である確率が高いサブタイプを抽出して、第III相試験に移行させていこうというものである。 新規薬剤であるneratinibはチロシンキナーゼ阻害薬であるが、有効な乳がんサブタイプを本試験で検討したところ、HER2陽性/HR陰性において有効である可能性が高そうだという結果となった。このような方法論は、今後も普及していく可能性がある。

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未分化大細胞型リンパ腫〔ALCL : anaplastic large cell lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)は、1985年Steinらによって初めて特徴づけられたaggressive lymphomaである。キール大学で開発されたCD30に対するKi-1抗体によって認識される活性化T細胞由来のリンパ腫で、Ki-1リンパ腫との異名ももっていた。以前「悪性組織球症」といわれていた症例の多くがこのリンパ腫であることが判明し、リンパ球の活性化マーカーであるCD30、CD25のほか、上皮性細胞マーカーであるEMAが陽性となる特徴を有する。腫瘍細胞は胞体が豊かなホジキン細胞様で馬蹄様核をもつhallmark cellが特徴的である(図)。画像を拡大するこの多形芽球様細胞の形態を示すリンパ腫には、全身性ALCLのほか、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のanaplastic variantや病変が皮膚に限局する皮膚ALCLがある。また、豊胸手術後に乳房に発症するALCLも、最近注目されるようになった。ALCLは、あくまで末梢性T細胞リンパ腫の一病型であり、B細胞由来のものは含まれない。ALCLは、インスリン受容体スーパーファミリーの受容体型チロシンキナーゼであるanaplastic lymphoma kinase(ALK)をコードするALK1遺伝子の発現増強を認めるALK陽性ALCLと、発現増強を認めないALK陰性ALCLに分類される。皮膚ALCLや豊胸術後のALCLは共にALK陰性である。■ 疫学ALCLは、わが国で発症する非ホジキンリンパ腫の中で、3%程度を占めるまれな疾患である。ALK陽性ALCLは、ほとんどが50歳以下で発症し、発症のピークは10代の若年者である。一方、ALK陰性ALCLは、加齢とともに発症頻度が増し、50代に多い。両者ともやや男性に多く発症する。皮膚ALCLと豊胸術後のALCLについては、わが国での頻度は不明である。■ 病因ALK陽性ALCLは、t(2;5)(p23;q35)の染色体異常を80%程度に認める。2番染色体2p23に位置するALK1遺伝子が5q35のNPM遺伝子と結合して融合遺伝子を形成し、その発現増強が腫瘍の発症・維持に重要と考えられている。この転座によって生じるNPM-ALKはホモダイマーを形成し、midkineなどのリガンドの結合なしにキナーゼ活性を亢進させ、PI3KからAkt、STAT3やSTAT5などの細胞内シグナル伝達を活性化させる。ALK1遺伝子はNPM遺伝子以外にも1q21/TPM3などの遺伝子と融合するが、このような場合でもALKのホモダイマー形成が生じ、ALKの構造的活性亢進が起きるとされている。NPMは核移行シグナルをもち、NPM-ALKとNPMのヘテロダイマーは核まで移行するため、t(2;5)異常をもつALCLでは、ALKが細胞質のみならず、核も染色される。一方、ALK陰性ALCLの病因はすべて明らかにされているわけではない。アレイCGHやgene expression profilingによる解析では、ALK陰性ALCLは、ゲノム異常や遺伝子発現パターンがALK陽性ALCLとはまったく異なることがわかっている。ALK陰性ALCLの中には、t(6;7)(p25.3;q32.3)の染色体転座をもち、6p25.3に位置するDUSP22遺伝子の切断による脱リン酸化酵素機能異常が確認されている群がある。6p25には転写因子をコードするIRF4遺伝子も存在するが、末梢性T細胞性リンパ腫・非特定型や皮膚ALCLにおいても6p25転座が認められることがあり、それらとの異同も含めてまだ不確定な部分がある。皮膚ALCLはリンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis)との異同が問題となる症例があり、これらは皮膚CD30陽性リンパ増殖性疾患という範疇であって、連続性の疾患と捉える向きもある。豊胸術後のALCLについてはまだ不明な点が多い。■ 症状全身性ALCLは、診断時すでに進行期(Ann ArborシステムでIII期以上)のことが多く、B症状(発熱・体重減少・盗汗)を認めることが多い。リンパ節病変は約半数に認められ、節外病変も同時に伴うことが多い。ALK陽性ALCLでは、筋肉などの軟部組織や骨が多く、ALK陰性ALCLでは皮膚・肝臓・肺などが侵されやすい。皮膚ALCLは孤立性または近い部位に複数の皮膚腫瘤を作ることが多いが、所属リンパ節部位以外の深部リンパ節には病変をもたず、その点が全身性ALCLとは異なる。また、豊胸術後のALCLも80%以上の症例が乳房に限局しており、その中で腫瘤を作らずeffusion lymphomaの病態をとるものもある。両者とも発熱などの全身症状は認められないことが多い(表)。画像を拡大する■ 予後ALK陽性ALCLは、末梢性T細胞リンパ腫の中でも予後のよい病型である。5年の全生存割合は80%程度で、ALK陰性ALCLの40%程度と比べて、CHOP療法などのアントラサイクリン系抗生剤を含む初回化学療法によって、効果が期待できる疾患である。ヨーロッパの小児領域における3つの大規模臨床研究の結果から、(1)縦隔リンパ節病変(2)体腔内臓器浸潤(肺、脾、肝)(3)皮膚浸潤が予後不良因子として重要で、これら1項目でも満たすものを高リスク群とみなす。高リスク群は5年の全生存割合が73%と、標準リスク群の94%に比べて有意に下回る結果を示している。小児領域のALCLは、90%がALK陽性例で占められるが、成人領域と比べるとリスクに応じてかなり強度を上げた治療が施行され、高リスク群の治療成績は比較的良好な結果を示していると思われる。一方、成人例に多いALK陰性ALCLは、aggressive lymphomaで共通する国際予後指標(international prognostic index〔IPI〕: 年齢、performance status、LDH値、節外病変数、臨床病期からスコア化する)が参考となるが、(1)骨髄浸潤(2)β2ミクログロブリン高値(3)CD56陽性なども予後不良因子として認識されている。International T-cell lymphoma projectによる検討では、ALK陰性ALCLの60%程度を占めるIPI 3項目以上の患者群における5年の全生存割合は、CHOP療法主体の治療を受けても30%を下回る結果となっている。ただし、ALK陰性であっても皮膚ALCLや豊胸術後のALCLは限局例が多く、生命予後はそれほど悪くない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ほかの悪性リンパ腫と同様、ALCLの診断には、(1)組織診断による病型の確定(2)PET-CTなどの画像検査と骨髄検査による正確な臨床病期診断が必須である。また、皮膚に病変がある場合には、全身症状と病変の分布について、しっかりと把握しなければならない。■ 組織診断HE染色による腫瘍の形態観察とhallmark cellの有無を確認する。hallmark cellがあればALK染色によってALK陽性かALK陰性かを明らかにする。まれにsmall-cell variantや反応性の組織球増生が特徴的なlymphohistiocytic variantがあるので注意を要する。これらはALK陽性ALCLのうち、治療反応の乏しい形態学的亜型として注目されている。さらに腫瘍細胞の特定には、CD30、EMA、lineage marker、TIA-1、granzyme Bなどの細胞傷害性分子の発現を免疫染色で評価する。ALK陽性例についてはFISH検査で2p23の転座があるか確認する。■ 臨床病期診断ALCLはFDG-avidな腫瘍であり、FDG-PETを組み込んだPET-CT検査によって臨床病期診断のみならず治療効果の判定が可能である。皮膚に限局しているようにみえても、PETで深部リンパ節病変が指摘された場合には、全身性ALCLとして対応しなければならない。骨髄検査は、リンパ腫細胞の浸潤の有無と造血能の評価を行うことを目的とする。単なる形態診断だけでなく、免疫染色や染色体・FISH検査によって腫瘍の浸潤評価を行う必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)前述した通り、全身性ALCLは進行期例が多いことから、アントラサイクリン系抗生剤を含む多剤併用化学療法が施行される。ALK陽性ALCLでは、CHOP様レジメンで90%近くに奏効が得られ、再発・再燃の割合もALK陰性ALCLよりも低く、5年の生存割合は70%以上を維持できる。つまり、低リスク群の初回治療はCHOP様レジメンで十分といえる。高リスク群に対し、小児領域では髄腔内抗がん剤投与を含む強度を上げた治療が行われている。成人領域ではなかなか治療強度を上げることが難しいため、自己造血幹細胞移植(autologous hematopoietic stem cell transplantation: ASCT)が考慮される。また、小児領域の治療研究では、ビンブラスチン(商品名:エクザール)が単剤で再燃を延長させる効果をもつことが示されている。高リスク群では、この薬剤をいかに利用して再燃を防ぐことができるのか、今後のレジメン内容を考えるうえでも、さらなる検討が必要である。一方、成人に多いALK陰性ALCLに対しては、現時点で標準化学療法が確立した状況とはいえない。CHOP療法による奏効割合は80%程度期待できるものの、再発・再燃の割合も高く、無増悪生存割合は最終的に20%台まで落ち込んでしまう。成人領域のALCLに対する治療研究は、ほかの末梢性T細胞リンパ腫の病型と同時に含まれて対象とされるため、ALCLに限った治療法が開発されているわけではない。そのため今後も残念ながら、個々の病型に対する標準治療が確立しにくい状況なのである。ALCL患者を対象として多く含む、ドイツの複数の前向き治療研究の解析結果をまとめると、CHOP療法にエトポシド(同:ラステットほか)を加えたほうが完全奏効割合や無イベント生存割合が改善することがわかっている。また、末梢性T細胞リンパ腫全体では、治療強度を上げることが必ずしも全生存割合の向上に寄与しているとは証明されていないが、それは十分な治療効果を生む標準化学療法が確立していないことが背景にあるためと考えられる。全身放射線を前処置として用いないASCTを初回奏効例に施行する、ノルウェーから報告されたNLG-T01試験では、ALK陰性ALCLに対する5年の全生存割合は60%以上を示し、他の病型よりも期待のもてる結果を示している。小児領域のリスクに応じて強度を調節する治療研究の結果も踏まえて考えると、ALK陰性ALCLに対し、治療強度を上げることで生存に有利となる患者群がいることがわかる。こういった問題は、今後も前向き治療研究の場で確定していかなければならない。実地診療において現時点では、CHOPあるいはCHOEP、EPOCHなどのエトポシドを含むCHOP様レジメンが初回治療として選択されることになる。非常にまれな皮膚ALCLや豊胸術後のALCLについての標準治療法は確立されていない。皮膚ALCLは限局性であれば、外科的切除、電子線照射が試みられる。多発性腫瘤の場合には化学療法が行われるが、どのような治療が適切か確固たるエビデンスはない。経験的に少量メトトレキサート、少量エトポシドなどの内服治療が行われている。豊胸術後のALCLも外科的切除で、対応可能な限局期症例の予後は比較的良好であるが、両者とも進行期例に対する治療は全身性ALCLに準ずることになる。4 今後の展望小児領域のヨーロッパ・日本の共同研究で検討された中枢神経浸潤についてみると、全体の2.6%に中枢神経系のイベントが認められ、その半数に脳実質内腫瘤を認めている。ヨーロッパのintergroup(EICNHL)のBFM90試験において、メトトレキサートの投与法が24時間から大量の3時間投与として髄腔内投与を施行しなくとも、中枢神経系のイベントは変わらずに同等の治療効果を生むことが確認されている。Lymphohistiocytic variantでは、比較的中枢神経系イベントが多いとされているが、生命予後の悪い高リスク群患者に対して、いかに毒性を下げて治療効果を生むかという点について、今後も治療法の進歩が期待される。小児領域と成人領域では、治療強度とそれに対する忍容性が異なる。成人領域では治療強度を上げるためには、ASCTを考慮しなければならず、とくに10代後半~20代の患者群に対する治療をどうしていくか、まだまだ解決しなければならない課題は多い。ALK陽性ALCLはALKが分子標的となるため、ALK陽性非小細胞肺がんで効果を示しているALK阻害薬が、今後の治療薬として注目される。クリゾチニブ(同: ザーコリ)は第I相試験が海外で終了しており、今後ALCLに対する有効性の評価がなされていくことになる。わが国ではそれに先立ち、再発・難治性のALK陽性ALCLに対してアレクチニブ (同: アレセンサ) の第II相試験が現在進行中である。また、CD30を標的したマウス・ヒトキメラ抗体のSGN-30は、皮膚ALCLに対する一定の効果は認められたものの、全身性ALCLに対する効果は不十分であったため、SGN-30に微小管阻害薬であるmonomethylauristatin Eを結合させたSGN-35(ブレンツキシマブ ベドチン、同: アドセトリス)が開発された。ブレンツキシマブ ベドチンは再発・難治性のALCL58例に対し、50例(86%)に単剤で奏効を認めており(33例に完全奏効)、再発・難治例に期待できる薬剤である。有害事象として血球減少以外に、ビンカアルカロイドと同様の神経障害が問題となるが、ホジキンリンパ腫でABVD療法と併用した際に肺毒性が問題となっていて、ブレオマイシン(同:ブレオ)との併用は難しいものの、アントラサイクリン系抗生剤やビンブラスチンとの併用が可能であることを考えると、ALCLに対して化学療法との併用の可能性も広がると考えられる。5 主たる診療科血液内科、小児科、皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報European Intergroup for Childhood NHL(欧州で開催された医療従事者向けのフォーラムの内容)患者会情報グループ・ネクサス・ジャパン(悪性リンパ腫患者とその家族の会)1)Savage KJ, et al. Blood.2008;111:5496-5504.2)Kempf W, et al. Blood.2011;118:4024-4035.3)Ferreri AJ, et al. Crit Rev Oncol Hematol.2012;83:293-302.4)Ferreri AJ, et al. Crit Rev Oncol Hematol.2013;85:206-215.5)Miranda RN, et al. J Clin Oncol.2014;32:114-120.公開履歴初回2014年03月13日更新2016年08月02日

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高度催吐性化療の制吐薬としてオランザピンが有効/NEJM

 高度催吐性化学療法(highly emetogenic chemotherapy:HEC)を受けるがん患者において、オランザピンは悪心・嘔吐の予防に有効であることが、米国・インディアナ大学のRudolph M Navari氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌2016年7月14日号にて発表された。オランザピンは非定型抗精神病薬であり、中枢神経系のドパミン受容体(D1、D2、D3、D4)、セロトニン受容体(5-HT2a、5-HT2c、5-HT3、5-HT6)、アドレナリンα1受容体、ヒスタミンH1受容体など多くの神経伝達物質を遮断する。体重増加や糖尿病リスクの増加などの副作用がみられるが、とくにD2、5-HT2c、5-HT3受容体は悪心・嘔吐に関与している可能性があり、制吐薬としての効果が示唆されている。悪心・嘔吐の予防効果を無作為化試験で検証 研究グループは、HECによる悪心・嘔吐に対するオランザピンの予防効果を検証する二重盲検無作為化第III相試験を行った(米国国立がん研究所[NCI]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態(ECOG PS)0~2で、前化学療法歴がなく、シスプラチンを含むレジメンまたはシクロホスファミド+ドキソルビシンによる治療が予定されているがん患者であった。 これらの患者が、化学療法の第1~4日にオランザピン(10mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。全例に、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン、NK1受容体拮抗薬が投与された。 主要評価項目は悪心の予防とし、副次評価項目は嘔吐完全制御(CR)率などであった。「悪心なし」は、視覚アナログスケール(VAS、0~10点、点数が高いほど重度)が0点の場合とし、全期間(0~120時間)、急性期(0~24時間)、遅発期(25~120時間)に分けて評価を行った。CRは、嘔吐のエピソードがなく、かつレスキュー治療が行われなかった場合とした。 2014年8月~2015年3月までに、米国の46施設に380例が登録され、オランザピン群に192例、プラセボ群には188例が割り付けられた。第2日の鎮静が増加、食欲増進に差はない 全体の年齢中央値は57.0歳(範囲:28.0~89.0歳)、女性が72.4%を占めた。原発巣は乳がんが63.7%、肺がんが12.9%、その他が23.4%であった。化学療法は、シスプラチンを含むレジメンが35.8%、シクロホスファミド+ドキソルビシン療法は64.2%だった。 悪心なしの割合は、急性期ではオランザピン群が73.8%、プラセボ群は45.3%(p=0.002)、遅発期ではそれぞれ42.4%、25.4%(p=0.002)、全期間は37.3%、21.9%(p=0.002)であり、いずれもオランザピン群で有意に良好であった。 臨床的に問題となる悪心がない患者(VAS:0~2点)の割合も、急性期(87 vs.70%、p=0.001)、遅発期(72 vs.55%、p=0.001)、全期間(67 vs.49%、p=0.001)のすべてでオランザピン群が有意に優れた。 また、CRの割合も、急性期(86 vs.65%、p<0.001)、遅発期(67 vs.52%、p=0.007)、全期間(64 vs.41%、p<0.001)のすべてでオランザピン群が有意に良好だった。 Grade3の有害事象はオランザピン群で2件(疲労、高血糖)、プラセボ群でも2件(腹痛、下痢)にみられ、Grade4の有害事象はそれぞれ3件(そのうち2件が血液毒性)、0件だった。Grade5は認めなかった。 オランザピン群は、ベースラインと比較した第2日の鎮静の発現(5%が重度)が、プラセボ群に比べ有意に多かったが、第3、4日に継続投与しても第3~5日の鎮静の発現に有意な差はなく、鎮静による治療中止もなかった。また、第2~5日の望ましくない食欲増進の発現にも差は認めなかった。 著者は、「今後の試験では、より高用量および低用量での効果や毒性の評価、多サイクルの化学療法での効果の検討を考慮すべきである」としている。

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乳がんのI-SPY試験、neratinibは第II相を卒業し第III相へ/NEJM

 HER2陽性ホルモン受容体陰性乳がんに対する術前化学療法は、標準療法+neratinibの併用が、トラスツズマブを用いた標準療法と比較し病理学的完全奏効率が高くなる可能性が高いことが示された。米国・カリフォルニア大学のJohn W. Park氏らが、I-SPY2試験の結果、報告した。I-SPY2試験は、複数の新薬候補を同時に評価できる適応的無作為化デザインを用い、StageII/IIIの高リスク乳がんに対する標準的な術前化学療法と併用する新薬候補の有効性をバイオマーカーで評価する多施設共同第II相臨床試験。新薬候補としてチロシンキナーゼ阻害薬であるneratinibを含む7種が検討されている。本試験で、neratinibは有効性の閾値に達したことから「卒業」となり、第III相臨床試験(I-SPY3試験)へ進んでいる。NEJM誌オンライン版2016年7月7日号掲載の報告。neratinib併用の病理学的完全奏効率を適応的無作為化デザインにて比較 研究グループは、適応的無作為化デザインにより、パクリタキセル→ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)(対照群)と、neratinib+パクリタキセル→AC(neratinib併用群)を比較した。対照群でHER2陽性例にはトラスツズマブも投与した。 適格基準は、18歳以上、StageII/III、未治療、腫瘍径が臨床検査で2.5cm以上および画像で2cm以上、ECOG PSが0~1、MRIが実施可能、MammaPrint検査で高リスク、MammaPrint検査の結果に関係なくHER2陽性またはHR陰性、である。適格患者をHER2の状態、HRの状態および70遺伝子の発現プロファイル(MammaPrint検査)に基づき8つのサブタイプに分類し、10種類のバイオマーカー特性(あらゆるバイオマーカー、HR陽性、HR陰性、HER2陽性、HER2陰性、MammaPrint検査で高リスクカテゴリー2、HER2陽性/HR陽性、HER2陽性/HR陰性、HER2陰性/HR陽性、HER2陰性/HR陰性)に関して有効性を評価した。 主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)で、対照群に対するneratinib併用群の優越性のベイズ確率に基づき患者を割り付けた。1種類以上のバイオマーカー特性においてあらかじめ規定した有効性の閾値(300人規模の第III相試験で成功のベイズ予測確率が85%以上)を満たした場合に「卒業」(第III相試験へ進む)、すべてのバイオマーカー特性について成功のベイズ予測確率が10%未満の場合は登録中止とした。neratinib併用療法はHER2陽性HR陰性乳がんに対して有効である確率が高い 2010年3月~2013年1月に、計127例がneratinib併用群に、84例が対照群に割り付けられ、このうちpCRの評価可能症例はそれぞれ115例および78例であった。 neratinibは、HER2陽性/HR陰性に関してのみ事前に規定した有効性の閾値に達した。HER2陽性/HR陰性乳がん患者の推定pCR率は、neratinib群56%(95%ベイズ確率区間[PI]:37~73%)、対照群33%(95%PI:11~54%)で、第III相試験における成功予測確率は79%であった。

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ホジキンリンパ腫、中間PET-CT結果による治療変更は有効か?/NEJM

 進行期古典的ホジキンリンパ腫の患者に対し、ABVD(ドキソルビシンブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)療法2サイクル後に中間PET-CTを行い、その結果を基に治療をガイドしていくことは有効なのか。英国・サウサンプトン大学のPeter Johnson氏らが、1,214例の患者を対象に無作為化比較試験にて検討した。中間PET-CTの結果が陰性例について、ブレオマイシンを除いたAVD療法に変更した場合、ABVD療法の継続例と比較して、肺毒性発生率は低下し、有効性に有意な低下は認められなかったという。NEJM誌2016年6月23日号掲載の報告。 ABVD療法2サイクル後に中間PET-CTを実施 検討は、進行期ホジキンリンパ腫患者の治療における化学療法の効果を、中間PET-CTで早期判定することの有用性を調べることが目的だった。新たに進行期古典的ホジキンリンパ腫の診断を受けた患者1,214例を対象に、ベースラインでPET-CTを行い、ABVD療法を2サイクル施行後に再度PET-CTを行い、その画像を5ポイント制で中央評価した。 その結果、陰性と判定した患者を無作為に2群に分け、3~6サイクルの治療施行について、一方の群はABVD療法を継続し、もう一方の群はブレオマイシンを除いたAVD療法とした。また、これら陰性患者には、放射線療法は推奨しなかった。 中間PET-CTの結果が陽性だった患者については、BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)療法を行った。 主要評価項目は、無作為化群の3年無増悪生存率の群間差とし、5ポイント以上の差を除外する非劣性試験を行った。3年無増悪生存率、ABVD群85.7%、AVD群84.4% 被験者のうち中間PET-CTを行ったのは1,119例で、そのうち937例(83.7%)が陰性だった。935例が無作為化を受けた。 追跡期間中央値41ヵ月時点で、ABVD群(470例)の3年無増悪生存率は85.7%(95%信頼区間[CI]:82.1~88.6)、全生存率は97.2%(同:95.1~98.4)だった。一方AVD群(465例)は、それぞれ84.4%(同:80.7~87.5)、97.6%(同:95.6~98.7)だった。3年無増悪生存率の絶対群間差は、1.6ポイント(同:-3.2~5.3)で、わずかだが非劣性マージンを超えていた。 また中間PET-CTの結果が陽性でBEACOPPを受けた群(172例)の74.4%が、3回目のPET-CTで陰性だった。同群の3年無増悪生存率は67.5%、全生存率は87.8%だった。 全体では、試験期間中の死亡例は62例(うちホジキンリンパ腫による死亡は24例)で、3年無増悪生存率は82.6%、全生存率は95.8%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、非劣性マージンに達しなかったものの、AVD群はABVD群に比べ、肺毒性発生率は低下し、有効性は有意に低下しなかったと結論している。

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急性前骨髄球性白血病〔APL : acute promyelocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は急性骨髄性白血病の1つで、FAB分類ではM3に分類される。大部分の症例でt(15;17)(q22;q12)を認め、15番染色体q22上のpromyelocytic leukemia(PML)遺伝子と17番染色体q12上のretinoic acid receptor α(RARA)遺伝子の融合遺伝子を形成するため、WHO分類ではt(15;17)(q22;q12); PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病という一疾患単位が設定されている。線溶亢進型の播種性血管内凝固症候群(DIC)を高率に合併し、脳出血など致命的な臓器出血を来しやすく、出血による早期死亡が寛解率を低下させていたが、ビタミンAの一種である全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid: ATRA、一般名:トレチノイン、商品名:ベサノイド)を寛解導入療法に用いることで、APL細胞を分化させるとともにDICが軽減され、きわめて高い寛解率が得られるようになった。また、APL細胞はP糖蛋白の発現が低く、アントラサイクリン系薬をはじめ抗腫瘍薬に対する感受性も高い。したがって十分な寛解後療法を行えば再発の危険性も低く、急性白血病の中では化学療法により完治を得る可能性が最も高い疾患と認識されている。■ 疫学わが国において白血病は、年に10万人当たり男性で約6人、女性で約4人に発症し、その約60%が急性骨髄性白血病、さらにその10~15%がAPLといわれている。世界的にみると、イタリアやスペインなど南ヨーロッパで発症率が高い。ほかの急性骨髄性白血病よりも発症年齢が若い傾向がある。■ 病因15番染色体q22上のPML遺伝子と17番染色体q12上のRARA遺伝子は、骨髄系細胞の増殖抑制、分化の調整を行うが、相互転座の結果PML-RARA融合遺伝子が形成されると、骨髄系細胞の分化が抑制され、前骨髄球レベルで分化を停止した細胞が腫瘍性に増殖することで発症すると考えられる。■ 症状1)出血最も重要な症状は出血で、主としてDICに起因する。皮膚の紫斑・点状出血のほか、歯肉出血、鼻出血などを来す。抜歯など、観血的な処置後の止血困難もしばしば診断のきっかけになる。脳出血など、致命的な出血も少なくない。2)貧血骨髄での赤血球産生低下と出血のため貧血となり、動悸、息切れ、疲れやすさなどを自覚する。3)感染、発熱正常な白血球、とくに好中球数が低下し、発熱性好中球減少症を起こしやすい。病原微生物として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌などの細菌、カンジダやアスペルギルスなど真菌が多い。感染部位として菌血症、肺炎が多いが、起因菌や感染部位が同定できないことも少なくない。■ 予後寛解導入療法に広くATRAが用いられるようになった1990年代以後、寛解率は90%を超えている。非寛解例の多くが出血による早期死亡であり、初期にDICをコントロールできるかどうかが生存に大きく影響する。いったん寛解に入り、十分な寛解後療法を行えば再発しにくく、70%以上の患者は無再発での長期生存が可能である。とくに白血球数が少なく(≦10,000/mm3)、血小板数が比較的保たれた(>40,000/mm3)症例では再発のリスクが低い1)。一方、地固め療法後にRQ-PCR法にてPML-RARAが消失しない、あるいはいったん消失したPML-RARAが再出現する場合は、血液学的再発のリスクが高い2)。ただし、再発した場合も多くは亜ヒ酸(一般名:三酸化ヒ素、商品名: トリセノックス)が奏効し、さらに自家造血幹細胞移植も有効であるため、急性白血病の中で最も予後良好といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査所見白血球数は減少していることが多い。APL細胞はアズール顆粒が充満しており、アウエル小体が束状に存在するFaggot細胞として存在するものもある。貧血もほぼ必発で大部分が正球性である。産生低下およびDICにより、血小板数は著しく低下する。DICのため、プロトロンビン時間(PT)延長、フィブリン分解産物(FDP)およびD-ダイマー高値、フィブリノーゲン低値を示す。DICは線溶亢進型で、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)ともに高値となる。アンチトロンビンは正常のことが多い。■ 骨髄所見骨髄は末梢血と同様の形態をもつAPL細胞が大部分を占め、正常な造血は著しく抑制される。APL細胞は、ペルオキシダーゼに強く染まり、細胞表面マーカーはCD13、CD33が陽性、CD34、HLA-DR陰性である。染色体および遺伝子検査では90%以上にt(15;17)(q22;q12)が、約98%にPML-RARA融合遺伝子が証明される。t(15;17)(q22;q12)以外の非定型染色体転座にt(5;17)(q35;q12); NPM1-RARA、t(11;17)(q23;q12); ZBTB16(PLZF)-RARA、t(11;17)(q13;q12); NUMA1-RARAなどがある。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ATRAを中心とした初回寛解導入療法、寛解導入後の地固め療法や維持療法、再発例に対する治療、造血幹細胞移植などがある。■ 初回寛解導入療法診断が確定したら、ATRAを寛解到達まで内服する。ATRA単独の寛解導入療法はATRAと従来の化学療法剤との併用療法に比べ寛解率に差はないが、再発のリスクが高いとする報告もあり3)、とくに診断時白血球数の多い症例、ATRA投与中に白血球数増加を来した症例、APL分化症候群を合併した症例では積極的にイダルビシン(商品名: イダマイシン)などのアントラサイクリンやシタラビン(同:キロサイド)を併用する。初回寛解導入療法中の重篤な合併症として、DICに伴う出血とAPL分化症候群がある。DICに伴う致命的な出血を予防するため、最低でも血小板数は50,000/mm3、フィブリノーゲンは150mg/dLを保つように血小板および新鮮凍結血漿の輸血を行うとともに、トロンボモジュリン(同:リコモジュリン)などDICに対する薬物療法を行う。APL分化症候群は、ATRAや亜ヒ酸の刺激を受けたAPL細胞から過剰産生される、さまざまな炎症性サイトカインやAPL細胞の接着分子発現増強などにより発症する。80%以上の患者に発熱や低酸素血症による呼吸困難が認められるほか、体重増加、浮腫、胸水、心嚢水、低血圧、腎不全などを来す。両側の間質性肺炎様のX線あるいはCT所見は診断に有用である。好発時期は寛解導入療法開始後1~2週間であり、ATRAや亜ヒ酸投与期間中に白血球数の増加を伴って発症することが多い。治療にはステロイドが有効で、重篤な場合はATRAや亜ヒ酸を中止するとともに、未投与であればアントラサイクリンやシタラビンを投与する。■ 地固め療法寛解導入後には、地固め療法としてイダルビシン、ダウノルビシン(同:ダウノマイシン)などアントラサイクリンや同様の作用機序を有するミトキサントロン(同:ノバントロン)の3~5日間点滴を、約1ヵ月おきに2~4回繰り返す。シタラビンについては意見が分かれるが、診断時の白血球数が10,000/mm3未満の症例では、十分なアントラサイクリンが投与されればその意義は低く、むしろ再発を高める可能性もある一方で、10,000/mm3以上の症例では高用量での投与が有用と報告されている4)。■ 維持療法ATRAを中心とした維持療法は再発予防に有用である。通常、地固め療法終了後にATRA 14日間の内服を約3ヵ月間隔で2年間繰り返す。6-メルカプトプリン(同:ロイケリン)やメトトレキサート(同:メソトレキセート)の併用はさらに再発抑制効果を高める可能性がある5)。■ 再発例に対する治療亜ヒ酸が第1選択薬であり80%以上の再寛解が期待できる。ゲムツズマブ オゾガマイシン(同:マイロターグ)や合成レチノイド、タミバロテン(同:アムノレイク)も有用である。なお、血液学的寛解中であってもRQ-PCR法でPML-RARA陽性となった場合は再発と判断し、上記の再寛解導入療法を開始する。■ 造血幹細胞移植本症はATRAを中心とした化学療法が有効であり、通常第1寛解期には造血幹細胞移植は行わない。第2寛解期では造血幹細胞移植が推奨される。第2寛解期での自家造血幹細胞移植は、同種造血幹細胞移植に比べ再発率は高いものの治療関連死が少なく、全生存率は同種造血幹細胞移植を上回っている6)。そのため、地固め療法後にRQ-PCR法でPML-RARA陰性例には自家移植、陽性例には同種移植を考慮する。4 今後の展望今後もATRAを中心とした化学療法が治療の主体であると考えられる。診断時の白血球数や地固め療法後のPML-RARA融合遺伝子の有無など、リスクファクターによる層別化治療を寛解導入療法のみならず寛解後療法においても広く用いることにより、再発リスクと有害事象の軽減が図れると期待される。さらに寛解導入療法でのATRAと亜ヒ酸の併用や、地固め療法での亜ヒ酸の積極的使用により、治療成績はさらに向上する可能性がある。5 主たる診療科血液内科あるいは血液腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報JALSGホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がんプロ.comホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公益財団法人先端医療振興財団 臨床研究情報センター「がん情報サイト」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさの広場(血液疾患患者とその家族の会)海好き(白血病患者とその家族の会)1)Sanz MA, et al. Blood. 2000; 96: 1247-1253.2)Gallagher RE, et al. Blood. 2003; 101: 2521-2528.3)Fenaux P, et al. Blood. 1999; 94: 1192-1200.4)Adès L, et al. Blood. 2008; 111: 1078-1084.5)Adès L, et al. Blood. 2010; 115: 1690-1696.6)de Botton S, et al. J Clin Oncol. 2005; 23: 120-126.公開履歴初回2014年03月20日更新2016年04月26日

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悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)〔malignant soft tissue tumor / soft tissue sarcoma〕

1 疾患概要■ 定義全身の軟部組織(リンパ・造血組織、グリア、実質臓器の支持組織を除く)より発生し、骨・軟骨を除く非上皮性間葉系組織(中胚葉由来の脂肪組織、線維組織、血管・リンパ管、筋肉、腱・滑膜組織および外胚葉由来の末梢神経組織などを含む)から由来する腫瘍の総称で、良性から低悪性~高悪性まで100種類以上の多彩な組織型からなる軟部腫瘍のうち、生物学的に悪性(局所再発や遠隔転移しうる)のものを悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)と呼ぶ。■ 疫学人口10万人あたり約3人の発生率で、全悪性腫瘍の0.7~1.0%程度とまれな悪性腫瘍である(わが国では胃がんや肺がんの1/20程度)が、経年的には増加傾向にある。また、骨・軟部肉腫が通常のがん腫に比し、若年者に多い傾向があることから、20歳未満の小児悪性腫瘍の中では約7.4%を占める。発生部位は軟部肉腫全体の約60%が四肢に発生し、そのうち約2/3が下肢(とくに大腿部に最も好発)に発生するが、その他の部位(臀部や肩甲帯、胸・腹壁などの表在性体幹部、後腹膜や縦隔などの深部体幹)にも広く発生するのが、軟部肉腫の特徴である。■ 病因近年の分子遺伝学的解析の進歩により、軟部肉腫においても種々の遺伝子異常が発見されるようになった。なかでも、特定の染色体転座によって生じる融合遺伝子異常が種々の組織型の軟部肉腫で検出され(表1)、その病因としての役割が明らかになってきた。こうした融合遺伝子異常は、すべての軟部肉腫のうち約1/4で認められる。一方、融合遺伝子異常を示さない残り3/4の軟部肉腫においても、いわゆるがん抑制遺伝子として働くP53、RB1、PTEN、APC、NF1、CDKN2などの点突然変異や部分欠失による機能低下、細胞周期・細胞増殖・転写活性・細胞内シグナル伝達などを制御する種々の遺伝子(CDK4、MDM2、KIT、WT1、PDGF/PDGFR、VEGFR、IGF1R、AKT、ALKなど)異常が認められ、その発症要因として関与していると考えられる。また、NF1遺伝子の先天異常を有する常染色体優性遺伝疾患である多発性神経線維腫症(von Recklinghausen病)では神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)やその他の悪性腫瘍が発生しやすく、乳がんなどの治療後の上肢リンパ浮腫を基盤に生じるリンパ管肉腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射後に発生するpostradiation sarcomaなども知られている。画像を拡大する■ 症状無痛性のしこり(軟部腫瘤)として発見されることが最も多い。疼痛(自発痛や圧痛)や局所熱感、患肢のしびれなどは時にみられるが必発ではなく、良悪性の鑑別にはあまり役立たない。腫瘤の大きさは米粒大~20cmを超えるような大きなものまでさまざまであるが、明らかに増大傾向を示すような腫瘤の場合、悪性の可能性が疑われる。ただし、一部の腫瘍(とくに滑膜肉腫)ではほとんど増大せずに10年以上を経過し、ある時点から増大し始めるような腫瘍もあるので注意が必要である。縦隔や後腹膜・腹腔内の軟部肉腫では、相当な大きさになり腫瘤による圧迫症状が出現するまで発見されずに経過する進行例が多いが、時に他の疾患でCTやMRI検査が行われ、偶然に発見されるようなケースも見受けられる。■ 分類正常組織との類似性(分化度: differentiation)の程度により病理組織学的に分類される。脂肪肉腫、平滑筋肉腫、未分化多形肉腫(かつての悪性線維性組織球腫)、線維肉腫、横紋筋肉腫、神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)、滑膜肉腫などが比較的多いが、そのほかにもまれな種々の組織型の腫瘍が軟部肉腫には含まれ、組織亜型も含めると50種類以上にも及ぶ。■ 予後軟部肉腫には低悪性のものから高悪性のものまで多彩な生物学的悪性度の腫瘍が含まれるが、その組織学的悪性度(分化度、細胞密度、細胞増殖能、腫瘍壊死の程度などにより規定される)により、生命予後が異なる。また、組織学的悪性度(G)、腫瘍の大きさ・深さ(T)、所属リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)により病期分類が行われ、予後とよく相関する(表2)。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)軟部腫瘤の局在・局所進展度とともに、質的診断をするための画像診断としてはMRIが最も有用であり、必須といってもよい。腫瘍内の石灰化の有無、隣接骨への局所浸潤の有無、隣接主要血管・神経との位置関係をみるにはCTのほうが有用であるが、腫瘍自体の質的診断という点ではMRIよりも劣る。したがって、まずはMRIを施行し、画像診断できるもの(皮下に局在する良性の脂肪腫、典型的な神経鞘腫や筋肉内血管腫など)の場合には、外科的腫瘍切除を含め治療方針を生検なしに決定できる。しかし、軟部腫瘍の場合には画像診断のみでは診断確定できないものも少なくなく、良悪性の鑑別を含む最終診断確定のためには、通常生検が必要となる。生検はある程度の大きさの腫瘤(最大径がおおむね3cm以上)では、局麻下での針生検(ベッドサイドで、または部位によってはCTガイド下で)を行うが、針生検のみでは診断がつかない場合には、あらためて全麻・腰麻下での切開生検術が必要となることもある。また、径3cm未満の小さな表在性の腫瘍の場合、生検を兼ねて一期的に腫瘍を切除する(切除生検)こともあるが、この場合、悪性腫瘍である可能性も考慮し、腫瘍の周辺組織を腫瘍で汚染しないよう注意する(剥離の際に腫瘍内切除とならないよう気を付ける、切除後の創内洗浄は行わない、など)とともに、後の追加広範切除を考慮し、横皮切(とくに四肢原発例)は絶対に避けるなどの配慮も必要となる。皮下に局在する小さな腫瘍の場合、良悪性の区別も考慮されることなく一般診療所や病院で安易に局麻下切除した結果、悪性であったと専門施設に紹介されることがしばしばある。しかし、その後の追加治療の煩雑さや機能予後などを考えると、診断(良悪性の鑑別も含む)に迷った場合には、安易に切除することなく、骨・軟部腫瘍専門施設にコンサルトまたは紹介したほうがよい。生検により悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の確定診断がついたら、組織型・悪性度や必要に応じて肺CT、局所CT、骨シンチグラム、FDG-PET/CTなどを行い、腫瘍の局所進展度・遠隔転移(とくに肺転移)などを検索したうえで、治療方針を決定する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の原則は、外科的腫瘍広範切除(腫瘍を周囲の正常組織を含め一塊に切除する術式)であるが、必要に応じて術前あるいは術後に放射線治療を併用し、術後局所再発の防止を図る。組織型(とくに滑膜肉腫、横紋筋肉腫、未分化神経外胚葉腫瘍、粘液型脂肪肉腫など)や悪性度によっては、また、遠隔転移を有する腫瘍の場合には、抗悪性腫瘍薬による全身化学療法を併用する。4 今後の展望これまで長い間、軟部肉腫に対する有効な抗悪性腫瘍薬としてはドキソルビシン(商品名:アドリアシンなど)とイホスファミド(同:イホマイド)の2剤しかなかったが、近年ようやくわが国でも軟部肉腫に対する新規薬剤の国際共同臨床試験への参加や治験開発が進むようになってきた。2012年9月には、軟部肉腫に対する新規分子標的治療薬であるパゾパニブ(同:ヴォトリエント)が、わが国でもオーファンドラッグとして製造・販売承認され、保険適応となった。また、トラベクテジン〔ET-743〕(同:ヨンデリス/2015年9月に承認)やエリブリン(同:ハラヴェン/わが国では軟部肉腫に対しては保険適応外)など複数の軟部肉腫に対する新規抗腫瘍薬の開発も行われている。5 主たる診療科整形外科、骨軟部腫瘍科 など軟部肉腫は希少がんであるにもかかわらず、組織型や悪性度も多彩で診断の難しい腫瘍である。前述のMRIでの画像診断のみで明らかに診断がつく腫瘍以外で良悪性不明の場合、小さな腫瘍であっても安易に一般診療所や病院で生検・切除することなく、骨・軟部腫瘍を専門とする医師のいる地域基幹病院の整形外科やがんセンター骨軟部腫瘍科にコンサルト・紹介するよう心掛けてほしい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス(各種がんのエビデンスデータベース「軟部肉腫」の情報)日本整形外科学会(骨・軟部腫瘍相談コーナーの情報)日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)(骨軟部腫瘍グループの研究に関する情報)NPO骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)(医療従事者向けの診療・研究情報)患者会情報日本に「サルコーマセンターを設立する会」(肉腫患者および家族の会)1)上田孝文. 癌と化学療法. 2013; 40: 318-321.公開履歴初回2013年06月06日更新2016年01月26日

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線維柱帯切除は緑内障に対し有用

 日本緑内障学会により濾過胞感染に関する前向き多施設研究が行われている。広島大学の杉本 洋輔氏らは、その1つである「濾過胞感染発生率と治療に関する多施設共同研究(CBIITS)」において、線維柱帯切除術の有効性および安全性について解析。マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後5年にわたり眼圧低下が得られ、線維柱帯切除術は有用な治療法であることを示した。手術成功率は、過去の緑内障手術回数、術前硝子体状態および術前眼圧などにより影響されることもわかった。Ophthalmology誌2015年11月号(オンライン版2015年9月26日号)の掲載報告。線維柱帯切除術の術後5年時には平均眼圧が有意に低下 研究グループは、国内34施設にてCBIITSに登録された緑内障患者で、線維柱帯切除術あるいは線維柱帯切除術/白内障同時手術を受けた829例829眼を対象に、眼圧、手術不成功のリスク因子および手術の合併症について、術後5年まで半年ごとに評価した。 手術成功は、眼圧(IOP)値により、(A)4mmHg<IOP<22mmHg、(B)4mmHg<IOP<19mmHg、(C)4mmHg<IOP<16mmHg、(D)4mmHg<IOP<13mmHgの4レベルに分けた。主要評価項目は、レベルごとの手術成功率とした。 線維柱帯切除術の有効性および安全性についての主な解析結果は以下のとおり。・平均眼圧は、術前24.9±9.0から、線維柱帯切除術の術後5年時には12.6±5.2mmHgに有意に低下した(p<0.0001)。・線維柱帯切除術の手術成功率はレベルA、B、CおよびDでそれぞれ1年後90.1%、88.9%、77.6%および57.7%、5年後71.9%、66.7%、50.1%および29.9%であった。・3回目以降の線維柱帯切除術は、1回目および2回目と比較して効果がみられなかった。・術前の硝子体状態および高眼圧は、線維柱帯切除術の手術不成功のリスク因子であった。・穿刺および白内障手術は線維柱帯切除術の手術不成功のリスクと関連していた。・線維柱帯切除術の術後前房出血、浅前眼、房水漏出および脈絡膜剥離の割合はそれぞれ2.7%、3.1%、1.9%、および7.2%であった。

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ウィルムス腫瘍の術後補助療法、DOXは省略可/Lancet

 ステージII~IIIで中等度リスクのウィルムス腫瘍の標準的術後化学療法に関して、ドキソルビシン(商品名:アドリアシンほか)をレジメンに含む必要はないことが実証された。英国・ロンドン大学小児保健研究所のKathy Pritchard-Jones氏らが小児患者583例を対象に行った、国際多施設共同の第III相非盲検非劣性無作為化対照試験「SIOP WT 2001」の結果、示された。ドキソルビシンは標準レジメンに含まれているが、研究グループは、「ドキソルビシンの心毒性作用の回避が、術後予後が良好であった患児の長期アウトカム改善のために重要である」として、ドキソルビシンがレジメンから省略可能か検討を行った。Lancet誌オンライン版2015年7月8日号掲載の報告より。ドキソルビシンを省略可能か2年時点の無再発生存率で評価 SIOP WT 2001は、26ヵ国251病院から原発性腎腫瘍と診断された小児(生後6ヵ月~18歳)を集めて行われた。患児は、ビンクリスチン(商品名:オンコビン)とアクチノマイシンD(同:コスメゲン)による4週間の術前化学療法を受けていた。 待機的腎切除後の評価でステージII~III中等度リスクのウィルムス腫瘍と判定された患児を、最小化法を用いて、ビンクリスチン1.5mg/m2(1~8、11、12、14、15、17、18、20、21、23、24、26、27週時)+アクチノマイシンD 45μg/kg(2週目から3週間に1回)とドキソルビシン50mg/m2を5回(2週目から6週間に1回)投与する(標準治療)群またはドキソルビシン非投与(実験的治療)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、2年時点の無再発生存率の非劣性についてで、intention to treatにて解析を行い規定マージンは10%であった。 また、安全性と有害事象について評価(肝毒性と心毒性を系統的にモニタリング)した。両群差4.4%で、省略群の非劣性が認められる 2001年11月1日~2009年12月16日の間に、583例の患児(ステージIIが341例、ステージIIIが242例)が集まり、ドキソルビシンを含む標準治療群に291例を、ドキソルビシンを省略した実験的治療群に292例を無作為に割り付けた。追跡期間中央値は60.8ヵ月(IQR:40.8~79.8)であった。 2年時点の無再発生存率は、標準治療群92.6%(95%信頼区間[CI]:89.6~95.7)、実験的治療群88.2%(同:84.5~92.1)で、両群差は4.4%(同:0.4~9.3)であり事前規定のマージン10%を超えなかった。 5年全生存率は、標準治療群96.5%(同:94.3~98.8)、実験的治療群95.8%(93.3~98.4)であった。 治療関連の毒性作用による死亡の報告は4例。標準治療群の死亡は1例(<1%)で敗血症によるものであった。残る3例が実験的治療群(1%)で、水痘、代謝性の発作、再発治療中の敗血症で死亡した。 また、17例の患児(3%)で肝静脈閉塞性疾患が、心毒性作用の報告は、標準治療群291例のうち15例(5%)であった。 腫瘍が再発し死亡に至ったのは、標準治療群12例、実験的治療群10例であった。

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P3-09-01 A multicenter randomized study comparing the dose dense G-CSF-supported sequential administration of FEC→Docetaxel versus Docetaxel+Cyclophosphamide as adjuvant chemotherapy in women with HER2(-), axillary lymph node(+) breast cancer.

腋窩リンパ節転移陽性乳がんにおける補助療法としてのFEC→ドセタキセル逐次レジメンとTCレジメンの比較ギリシャの Hellenic Oncology Research Group(HORG)からの報告である。アントラサイクリンとタキサンの逐次投与は、腋窩リンパ節転移陽性乳がんの補助療法として非常に有効である。一方、非アントラサイクリンレジメンであるドセタキセル+シクロホスファミド(TCレジメン)は、4サイクルのドキソルビシン+シクロホスファミドより有効であることが示されている。この多施設ランダム化比較試験は、腋窩リンパ節転移陽性、HER2陰性の早期乳がんにおける補助療法において、FEC→ ドセタキセルとTCを比較することを目的として計画された。主要評価項目は3年のDFSであり、副次評価項目はOS、毒性および安全性である。3年のDFSが85%であると仮定し、7%の差を80%のパワー(αエラー=0.05)で検出するために、1群322例が必要であると判断された。組み入れ基準は、HER2陰性の浸潤性乳がん、外科的断端陰性、リンパ節転移1個以上、遠隔転移の所見なし、PS 0~2、重篤な心疾患がなくLVEF>50%、がんの既往や重大な薬剤の使用がなく、インフォームド・コンセントが得られていること、である。A群はFEC (500/75/500) x4→ドセタキセル (75) x4+ G-CSFサポート、B群はTC (75/600) x6である(図1)。【図1】図1を拡大するA群は326例、B群は324例で、年齢はA群のほうが若い傾向にあった(54歳:59歳、p=0.0001)が、閉経状態、リンパ節転移の程度(N1-3が各群60%と67%)、ホルモン受容体、組織型ともに差はなかった。生存率はDFS、OSともにまったく差はなかった(図2a、b)。DFSのサブグループ解析でも年齢、閉経状態、リンパ節転移の程度、組織型、ホルモン受容体で大きな違いはなかった。化学療法の完遂率はそれぞれ97%、93%でありA群で有意に良好であった(p=0.03)。減量率は1.4%と1%で差がなく、遅延率は6.4%と3.8%でありB群で有意に良好であった(p=0.0001)。グレード2~4の毒性として好中球減少性発熱はいずれも1%、貧血、粘膜炎、無力症はA群で高く、貧血、アレルギーはB群で有意に高かった。【図2a】図2aを拡大する【図2b】図2bを拡大するこの結果はUSON9735(J Clin Oncol. 2006; 24: 5381~5387.)で示されたTC4サイクルのAC4サイクルに対する優越性をより担保するものである。本臨床試験ではTCを6サイクル行っているが、過去において同一抗がん薬剤での4サイクル以上の有効性は示されておらず、かつ4サイクルで十分ACを上回っていること、6サイクルではさらに毒性が強くなることから、個人的にはTCは4サイクルで十分ではないかと考えている。

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ホジキンリンパ腫のABVD、BとDの除外は可能か/Lancet

 ドイツ・ホジキン研究グループ(GHSG)によるHD10試験では、早期ホジキンリンパ腫(HL)のfavourable risk例の治療として、ABVD(ドキソルビシンブレオマイシン+ビンブラスチン+ダカルバジン)レジメンを2サイクル施行後に総線量20Gyの放射線区域照射(IFRT)を行い、5年生存率(OS)が96.6%、5年無治療失敗(freedom from treatment failure:FFTF)率は91.2%と良好な成績が得られている。一方、HL患者の治療関連副作用は30年以上持続するとの報告があり、さらなる安全性の改善が求められている。そこで、GHSGは、ABVDからのブレオマイシンとダカルバジンの除外の可能性の検討を目的にHD13試験を行った。研究の詳細はLancet誌オンライン版2014年12月21日号に掲載された。治療強度減弱の非劣性を無作為化試験で検証 GHSG HD13試験は、HLの治療において、標準治療であるABVDレジメンの治療強度を減弱させても、有効性を低下させずに毒性や副作用の軽減が可能であるかを検証する非盲検無作為化非劣性試験(Deutsche Krebshilfe and Swiss State Secretariat for Education and Researchの助成による)。対象は、新規に診断されたStage I/IIの古典的ホジキンリンパ腫またはAnn Arbor Stage IB/IIA/IIBの結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫のfavourable risk例であった。 被験者は、ABVDを施行する群、ABVDからダカルバジンを除外したABV、ブレオマイシンを除外したAVD、2剤とも除外したAVを施行する群の4群に無作為に割り付けられた。いずれの治療群も、4週を1サイクルとして第1、15日に標準用量を投与し、2サイクルの治療が行われた。化学療法終了から4~6週後にIFRTを行った(総線量30Gy、1回1.8~2.0Gyを週5回)。主要評価項目はFFTFとした。 症例登録は2003年1月28日に開始されたが、AV群とABV群はイベント発生率が高かったため、それぞれ2005年9月30日、2006年2月10日に早期中止となり、ABVD群とAVD群は2009年9月30日まで登録を継続した。腫瘍コントロールを保持できず ドイツ、チェコ共和国、スイス、オランダ、オーストリアの405施設から登録された1,502例が解析の対象となった。内訳は、ABVD群が566例、ABV群が198例、AVD群が571例、AV群は167例であった。全体の年齢中央値は39歳、男性が60%だった。 5年FFTF率は、ABVD群が93.1%、ABV群が81.4%、AVD群が89.2%、AV群は77.1%であった。ABVD群に比べ、ダカルバジンを含まない2つのレジメンのFFTF率は有意に低く、ABV群との5年群間差は−11.5%(95%信頼区間[CI]:-18.3~-4.7)で、ハザード比(HR)は2.06(95%CI:1.21~3.52)であり、AV群との5年群間差は-15.2%(-23.0~-7.4)、HRは2.57(1.51~4.40)であった。AVD群でもABVD群に対する非劣性は確認できず、5年群間差は-3.9%(-7.7~-0.1)、HRは1.50(1.00~2.26)だった。 完全寛解率は、ダカルバジンを含むABVD群が97.2%、AVD群は98.1%であり、ABV群の95.5%、AV群の88.6%よりも良好であった。また、5年無増悪生存率(PFS)も、ABVD群が93.5%、AVD群は89.6%であり、ABV群の82.1%、AV群の78.9%に比べて高かった。一方、5年OSはABVD群が97.6%、ABV群が94.1%、AVD群が97.6%、AV群は98.1%であり、各群間に差を認めなかった。 WHO Grade III/IVの有害事象の発現率は、ABVD群が33%であり、ABV群の28%、AVD群の26%、AV群の26%よりも高かった。最も頻度の高い有害事象は白血球減少であり、ブレオマイシンを含む群で高頻度にみられた。 著者は、「ABVDからダカルバジンやブレオマイシンを除外すると、腫瘍コントロールが低下する。この知見は、今後もABVD 2サイクル+IFRTを標準治療として継続することを強く支持するもの」と結論し、「次なる課題は、予後予測マーカーとしてのPETの役割と、新たな標的治療薬の検討である」と指摘している。

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P3-12-01.Impact of treatment on quality of life (QOL) and menstrual history (MH) in the NSABP B-36

NSABP B-36におけるQOLと月経歴への治療の影響: リンパ節転移陰性乳がんにおけるFECとACを比較する第III相試験からNSABP B-36でFEC-100とACに生存率の差がないことが口演で示されたが、ポスターセッションにて毒性や無月経、QOLの違いについての評価が掲示されていた。QOL評価は、FACT-B、治療に特徴的な症状のチェックリスト、SF-36の中のvitality scaleによって行った。評価時期はベースライン、4サイクル目、6、12、18、24、30、36ヵ月目の来院時である。サンプルサイズは、QOLについては1332例、生理周期については916例であった。FACT-B Trial Outcome Index(TOI)、Symptom severity checklist summary score(SCLSUM)、vitality score(VIT)について、ベースラインのスコア、術式、ホルモン受容体で調整し、2群の比較を行った。化学療法後の無月経の定義は18ヵ月の評価のうち12ヵ月以内に出血がないことであり、手術とホルモン受容体の有無で調整した。結論として、18ヵ月後の無月経の頻度はFEC-100で高く(67.0%>58.8%)、ホルモン受容体陽性(内分泌療法の使用)と関連し、NSABP B-30の結果を担保するものであった。FEC-100は6ヵ月の時点でACよりもQOLが不良だったが、その後12ヵ月以降は差がなかった。症状はいずれも化学療法によって増加し、36ヵ月の時点でもベースラインまでの回復はみられなかった。QOL、vitality、症状は12ヵ月の時点で2群間に差はなかったが、化学療法後に子供を希望する若年者にはACのほうが好ましい、と結んでいる。QOL評価をみるときに注意する問題はSOFT試験のQOL評価(S3-09)でも述べたが、レスポンスシフト、最小重要差、評価項目と評価法の適切さについて常に意識しながらデータを解釈する必要がある、ということを付け加えておきたい。【注】AC:ドキソルビシン+シクロホスファミドFEC:フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド

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S3-02. NSABP B-36 A randomized phase III trial comparing six cycles of 5-fluorouracil (5-FU), epirubicin, and cyclophosphamide (FEC) to four cycles of adriamycin and cyclophosphamide (AC) in patients with node-negative breast cancer(Geyer Jr CE, USA)

NSABP B-36:リンパ節転移陰性乳がんにおいて6サイクルのFECと4サイクルのACを比較する無作為化第III相試験投与量はAC(60/600)x4、FEC(500/100/500) x6である(図1)。もともとはCOX2阻害剤であるセレコキシブの効果もみるための2x2要因試験であった。しかし、心毒性の問題からセレコキシブの投与は中止となり、2群として試験は継続された。主要評価項目はリンパ節転移陰性乳がんにおいてFEC-100がACよりDFSの延長において優れているかを評価するものである。副次的評価項目はOSの延長、毒性の比較、QOLの違いをみることである。統計学的仮説は、5年のDFSがACとFEC-100とで84.7%から89.2%に改善することをみるのに0.75のハザード比を検出することである。そのために80%の検出力で385のイベントが必要とされた。DFSの違いはタイプ1エラーレベル両側α=0.05で検定する層別化log rankテストで、ハザード比と信頼区間はCoxハザードモデルで評価した。【図1】図1を拡大する2014年1月31日の時点で、400のDFSイベントが報告されため、試験を終了し、予定された分析を行った。中央観察期間は82.8ヵ月(7年)であった。年齢は50歳未満が約40%、ホルモン受容体陰性が約35%、腫瘍径2cm未満が50.0%、グレード3が43~44%であった。人種は白人が約85%であった。乳房部分切除術は68%で施行され、トラスツズマブは10~11%で投与された。グレード3~4の毒性発現率は倦怠感、好中球減少性発熱、感染、口腔粘膜炎、血小板減少、血栓塞栓のイベントはいずれもFEC-100で高かった。化学療法中の死亡はACで2例(腸炎、その他の死)、FEC-100で5例(好中球減少性発熱、血栓塞栓症、心内膜炎、その他の突然死、その他の死)に認められた。DFS、OSともにまったく差を認めなかった(図2a,b)。本試験でのACのDFSは82.3%と仮説通りであり、FEC-100でも82.1%と数値上もまったく変化をもたらさなかったことから、リンパ節転移陰性陽性にかかわらず、この結果は十分われわれに意義をもたらすものである。遠隔再発もACで66例(4.8%)、FEC-100で63例(4.7%)と同等であった。サブセット解析ではERの状況で傾向に差があるが、薬剤の性質が類似していることから、この違いを意味のあるものと捉えることはできない(図3)。【図2a】図2aを拡大する【図2b】図2bを拡大する【図3】図3を拡大するつまりA(ドキソルビシン)をE(エピルビシン)にしても、投与量を増やしても、サイクル数を増やしても治療効果は上がらないということである。さて、ここで過去の報告を簡単に整理してみよう。多くのデータからAと同等の効果を及ぼすにはEは1.2から1.5程度(おそらく1.5)の増量が必要である。すなわちA60とE90がほぼ同等と推測される。一方、うっ血性心不全5%の発生頻度は、Aでは累積投与量400(Cancer. 2003; 97: 2869-2879.)、Eでは920(J Clin Oncol. 1998; 16:3502-3508.)となっているが、評価基準も対象も異なっており、安全性に関してもEがAより優っているとは安易に判断しないほうがよい。ドキソルビシンの投与量による効果の違いCALGB8541: N+において、CAFの投与量は300/30/300、400/40/400よりも600/60/600が治療効果が高い(J Natl Cancer Inst. 1998; 90: 1205-1211.)。CALGB9344: N+において、ACの投与量を60/600、75/600、90/600と上げても治療効果は変わらない(J Clin Oncol. 2003; 21: 976-983.)。Eも同様に限界を超えるとは通常考えにくいことから、E90程度が至適投与量と考えたほうがよいだろう。過去には主にCMFとの比較において、アントラサイクリンの投与量による効果が検証されているが、注意しなければならないのは、治療効果はconventional CMF>iv CMFなので、あくまでconventional CMFと比較したデータをみなければならない(conventional CMFは、classical CMF、oral CMFとも呼ばれている)。ドキソルビシンのサイクル数による効果の違いCALGB40101:N0から3ケ(N0が94%を占める)において、AC4サイクルと6サイクルで4年のRFSは変わらない(J Clin Oncol. 2012; 30: 4071-34076.)。本試験では単独のパクリタキセル(80mg/m2 毎週投与または175mg/m2 2週毎投与)でも4サイクルと6サイクルで比較しており、やはり全く差はなかった。ドキソルビシンとCMFの比較NSABP B-15: N+において、3年でAC (60/600) x4 =conventional CMF(J Clin Oncol. 1990; 8: 1483-1496.)。SWOG 8897: ハイリスクのN0において、CAF(60) x6 = conventional CMF.(J Clin Oncol. 2005; 23: 8313-8321.)。エピルビシンとCMFの比較(エピルビシンの投与量比較を含む)FASG05: N+において、10年で FEC (500/50/500) x6 < FEC (500/100/500) x6 (J Clin Oncol. 2005; 23: 2686-2693.)。N+において、4年でEC (60/500) x8 < EC (100/830) x8 = conventional CMF (J Clin Oncol. 2001; 19: 3103-3110.)。ICCG: N+ において、4.5年で FEC (600/50/600) x6 = conventional CMF (J Clin Oncol. 1996; 14: 35-45.)。NCIC.CTG MA.5: N+において、10年でCE(60x2)F = conventional CMF(J Clin Oncol. 2005; 23: 5166-5170.)。※ HER2過剰発現別にみると、HER2陰性では差がないが、陽性では有意差あり(OSにおける多変量解析)(Clin Cancer Res. 2012; 18: 2402-2412.)。Dose denseItaly: N0〜N+において、FEC(600/60/600) x6 2 weeks = 3 weeks(J Natl Cancer Inst. 2005; 97: 1724-1733.)。※ HER2過剰発現別にみると、HER2陰性で差ないが、陽性では有意差あり(OSにおける多変量解析)(Br J Cancer. 2005; 93: 7-14.)。またコントロール群がそもそも標準ではなく、何ら参考にならない試験もある。例…GEICAM: N0〜N+において、3-week FAC(500/50/500)x6 > 3-week CMF(600/60/600) x6 (Ann Oncol. 2003; 14: 833-842.)。このようにみてくると、乳がん術後補助療法においてエピルビシンがドキソルビシンに優っているとする根拠はそもそも乏しかったことがわかる。エピルビシンのコストはドキソルビシンよりも高いため、私たちはこのことを十分踏まえながら薬剤選択を行う必要があるだろう。【注】AC:ドキソルビシン+シクロホスファミドFEC:フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミドCMF:シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル

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エンテカビル、R-CHOP後のHBV関連肝炎を0%に/JAMA

 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)で、R-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)療法を受ける患者に対し、エンテカビル(商品名:バラクルード)の投与は同療法後のB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝炎の予防効果が高いことが判明した。発生率は0%に抑制できたという。中国・中山大学がんセンターのHe Huang氏らが、第III相無作為化非盲検試験の結果、報告した。JAMA誌2014年12月17日号掲載の報告より。エンテカビルvs. ラミブジンをR-CHOP療法終了後6ヵ月後まで投与 試験は2008年2月~2012年12月にかけて、中国10ヵ所の医療機関を通じて、R-CHOP療法が予定されている未治療のDLBCL患者121例について行われた。 研究グループ被験者を無作為に2群に分け、エンテカビル(0.5mg)またはラミブジン(商品名:ゼフィックス、100mg)を、1日1回、R-CHOP療法1週間前から同療法終了後6ヵ月後まで投与し、HBV再活性の予防効果を比較した。 主要有効性エンドポイントは、HBV関連肝炎の罹患率だった。副次エンドポイントは、HBV再活性化率、肝炎発生によるR-CHOP療法の中断、治療関連の有害事象発生などだった。HBV再活性化率もラミブジン群30%に対しエンテカビル群6.6% 追跡期間最終日は2013年5月25日、同中央値は40.7ヵ月だった。 結果、HBV関連肝炎の発生率は、ラミブジン群で60例中8例(13.3%)だったのに対し、エンテカビル群では61例中0例(0%)と有意に低率だった(群間差:13.3%、95%信頼区間:4.7~21.9%、p=0.003)。 また、HBV再活性もラミブジン群が30.0%だったのに対し、エンテカビル群は6.6%と大幅に低率だった(p=0.001)。化学療法中断となった割合もそれぞれ18.3%、1.6%とエンテカビル群で有意に低率だった(p=0.002)。 一方、治療関連有害事象の発生率はラミブジン群30.0%、エンテカビル群24.6%で、両群差は有意ではなかった(p=0.50)。エンテカビル群の主な同事象の報告は、悪心9.8%、めまい6.6%、頭痛4.9%、疲労感3.3%だった。

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新薬創出国“日本”を取り戻す

 イリノテカンやブレオマイシンなど、日本は世界中で広く投与されている抗がん剤を多く創出してきた。現在、アメリカ、スイスに次ぐ第3位の新薬創出国であり、日本は新薬を創出できる数少ない国として広く認知されている。しかしながら、近年、臨床で多く用いられている分子標的治療薬をみると、日本で創出された薬剤はたった2つしかない。そのため、分子標的治療薬の輸入は輸出を上回り、貿易赤字は拡大傾向にある。新薬創出国“日本”は、一体どこに行ってしまったのだろうか。 2014年7月17日~19日、福岡市で開催された日本臨床腫瘍学会において、がん研究会 がん化学療法センター 藤田 直也氏が「アカデミア創薬の橋渡し研究における課題」をテーマに、本邦における新薬創出の問題点と打開策について講演した。 創薬プロセスには、基礎研究から新薬承認までに数十年の長い月日と膨大な研究開発費(1,000億円規模)を要する。さらに、近年、新薬と承認される薬剤が減ってきており、開発成功率が下がってきている。そのため、相対的に1品目当たりの研究開発費が高騰している。しかし、本邦の基礎研究や臨床研究のレベルが下がっているわけではない。基礎研究において、薬の種(シーズ)を発見しても、それを標的にした研究・開発は海外で行われてしまっているのが現状である。 本邦における新薬創出の問題点は、シーズを臨床研究に結び付けるまでのトランスレーショナルリサーチ(TR)にある。TRとは、シーズからターゲットを見つけ、化合物のスクリーニング、動物モデルでの確認、結晶構造解析、特許取得までの一連の研究開発過程を指す。  藤田氏は、TR研究の大学・研究機関(アカデミア)側の問題点として以下を挙げている。1)スクリーニングや構造解析、個体レベルでの解析など、複数の部門が共同で研究を行う必要があるが、現時点では共同研究体の構築が不十分である。2)抗体医薬の毒性試験はサルでのみ行わなければならず、費用が5,000万円ほどかかりコストが高い。3)出口を見越した特許取得戦略が不足している。 また、企業側の問題として以下を挙げている。1)研究開発費絶対額が不足している。2)リスクを取ることに躊躇している。3)アカデミアの成果を評価する人材が不足している。4)ブロックバスターモデルからアンメット・メディカル・ニーズに対応した医薬品開発への転換ができていない。5)研究開発のクローズ手法からオープン化への転換が遅れている。6)低分子化合物に偏りがちでバイオ医薬品開発への転換が遅れている。 ここでは、アカデミアの成果を評価する人材の不足に注目したい。TR研究における日本とアメリカの大きな違いは、創薬ベンチャー企業の存在にある。アメリカでは、創薬ベンチャーがアカデミアと企業の間に入ることで、円滑に開発を進めることができ多くの薬剤を創出している。本邦では、創薬ベンチャー企業が少なく、その起業リスクなどから拡大傾向にないのが現状である。その一方で、経済産業省が推し進めるTLO[Technology Licensing Organization(技術移転機関)]という制度が整いつつある。TLOとは、アカデミアの研究成果を特許化し、それを企業へ技術移転する法人であり、いわばアカデミアと企業をつなぐ「仲介」役として注目されている。 今後、アカデミア側としてはTLOをうまく活用すること、企業側としてはアカデミアとの初期段階からのマッチング、国内アカデミアへの投資・協同を行うことで、TR研究を円滑に進めることができるのではないだろうか。 新薬創出国“日本”の復活が期待される。

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第55回米国血液学会(ASH 2013)トレンドビュー 血液腫瘍治療の最新知見

第55回米国血液学会(American Society of Hematology 2013)が2013年12月7~10日、米国ルイジアナ州ニューオリンズにて開催された。同学会の内容から血液腫瘍治療の最新のトレンドを、がん研究会有明病院 血液腫瘍科部長/がん化学療法センター臨床部部長の畠 清彦氏に聞いた。iPS細胞研究と次世代シーケンス導入今回のASHでは、まずiPS細胞の基礎研究の広がりが印象的であった。iPS細胞の臨床応用にはまだ時間を要するが、血液系の分化・増殖という方向への展開が明確にみられた。また、次世代シーケンスの導入の活発化も最近の特徴であろう。治療の前後や治療抵抗性時における遺伝子の発現状況の比較や、急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)などにおける遺伝子異常の解析が盛んに進められている。この流れはしばらく続くと予測される。急性骨髄性白血病(AML)AMLについては、有望な新規薬剤のエビデンスの報告はほとんどなかった。印象的だったのは、米国で2010年に販売中止となったゲムツズマブオゾガマイシンの自主研究が着実に進められており、投与スケジュールの変更や減量、他剤との併用により、予想以上に良好な成績が得られていることであった。販売が継続している日本でも、使用機会は減少しているが、工夫の余地は残されていると考えられる。急性リンパ性白血病(ALL)ALLに関しては、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性例(ABL-positive)に対するニロチニブと多剤併用化学療法(hyper-CVAD:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)の第II相試験で良好な成績が報告された。一方、Ph陰性例では有望な新薬は見当たらないが、B細胞性ALLに対するCD19抗体などの検討が進められている。慢性骨髄性白血病(CML)BCR-ABL遺伝子T315I変異陽性CMLの治療において、第3世代ABLキナーゼ阻害薬であるポナチニブの有効性が確認されている。米国では2012年に承認され、日本では現在申請中であるが、2次または3次治療薬として承認される見通しである。ただし、現在、T315I変異の検査が可能な施設は限られており、全国的な検査体制の構築が課題となる。慢性リンパ球性白血病(CLL)CLL領域では、プレナリー・セッションでオビヌツズマブ(GA101)+クロラムブシル(GClb)とリツキシマブ+クロラムブシル(RCbl)のhead-to-headの第III相試験(CLL11試験)の結果が報告された。GA101は糖鎖改変型タイプⅡ抗CD20モノクローナル抗体であり、B細胞上のCD20に選択的に結合し、リツキシマブに比べ抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が強く、直接的な細胞死の誘導能も高いとされる。結果は、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値が、GClb群で26.7ヵ月と、RCbl群の15.2ヵ月よりも1年近く延長し(p<0.0001)、全生存期間(OS)中央値も良好な傾向がみられた(p=0.0849)。また、経口投与が可能なBurtonチロシンキナーゼ(BTK)阻害薬であるイブルチニブとリツキシマブ+ベンダムスチン(RB)との併用に関する第Ib相試験では、良好な安全性プロフィールが確認されるとともに、奏効率が90%を超え、推定1年PFSも90%に達しており、注目を集めた。現在、イブルチニブ+RBとプラセボ+RBを比較する無作為化第III相試験が進行中である。ONO-4059は、CLLの第I相試験で有望な結果が示されており、これから第II相試験が開始される。そのほか、イデラリシブ、BAY806946、IPI-145などのPI3キナーゼ阻害薬の開発が、今後、どのように展開するかに関心が集まっている。リンパ腫前述のCLLへの有効性が確認された薬剤の多くがリンパ腫にも効果がある可能性が示唆されている。活性化B細胞(ABC)型のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対するR-CHOPへのイブルチニブの上乗せ効果を評価する第III相試験が開始されている。また、イブルチニブは単剤で再発マントル細胞リンパ腫にも有効なことが示されている。前述の経口BTK阻害薬であるONO-4059は、CLLだけでなく、リンパ腫に対する有用性も示唆されている。また、リンパ腫に対するGA101の検討も進められている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬では、RAD001やパノビノスタットの検討が進められている。DLBCLについては、胚細胞B細胞(GCB)型に有効な薬剤の開発が課題である。T細胞性リンパ腫では、CD30抗体薬であるブレンツキシマブベドチンの有効性が第II相試験で示され、日本でもまもなく承認が得られる予定である。また、ブレンツキシマブベドチンは未分化大細胞型リンパ腫やホジキンリンパ腫の治療として、多剤併用化学療法への上乗せ効果の検討が進められている。一方、BCL-2拮抗薬であるABT-199(GDC-0199)は、CLLのほか小リンパ球性リンパ腫(SLL)に有効な可能性が第I相試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)MDSの治療では、オーロラキナーゼ阻害薬の進歩がみられたが、その有用性を見極めるにはもう少し時間を要する状況である。多発性骨髄腫多発性骨髄腫の領域では、第2世代プロテアソーム阻害薬であるカーフィルゾミブを中心とする臨床試験が数多く行われている。カーフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(CRd)療法や、カーフィルゾミブ+ポマリドマイド+デキサメサゾン(CPd)療法の第II相試験で良好な成績が報告されていた。また、ダラツムマブなどいくつかの抗CD38抗体薬の開発が進められており、第I相試験で有望な成績が報告されている。さらに、経口プロテアソーム阻害薬であるMLN9708(クエン酸イクサゾミブ)とレナリドミド+デキサメタゾン(Rd)の併用療法は第I/II相試験で良好な成績が示され、現在、MLN9708+RdとRdを比較する第III相試験が進行中である。本試験は開始されたばかりであり、結果を得るには時間を要するが、有望視されている試験の1つである。最後に全体としては、BTK阻害薬のように、対象患者は限られるが有害事象が少ない薬剤を長期的に投与すると、QOLを良好に維持しつつ、徐々にCR例が増加するという状況がみられる。CML治療におけるイマチニブやダサチニブ、ニロチニブに相当する薬剤が、CLLやリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療においても確立されつつあるという印象である。ただし、単剤で十分か、他剤との併用が必要となるかは、今後の検討課題である。

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EC followed by paclitaxel(T) versus FEC followed by T, all given every 3 weeks or 2 weeks, in node-positive early breast cancer(BC) patients(pts). Final results of the Gruppo Italiano Mammella(GIM)-2 randomized phase III study -- Cognetti F, et al.

EC→T vs FEC→T:アンスラサイクリンへの5-FUの上乗せ及びタキサンdose denseの意義イタリアからの報告である。4群の無作為化比較試験(2×2要因計画)であり、リンパ節転移陽性の乳癌術後補助療法としてアンスラサイクリンとタキサンを用いる場合、1つは5-FUをアンスラサイクリンに上乗せすることの意義、もう1つはdose denseの意義を確かめるものである。レジメンとしてはEC(90/600)またはFEC(600/75/600)を4サイクル行った後、タキサンとしてパクリタキセル(P 175)を4サイクル行うものである。A群:EC x 4 → P x 4 q. 3 wB群:FEC x 4 → P x 4 q. 3 wC群:EC x 4 → P x 4 q. 2 w + PegfilgrastimD群:FEC x 4 → P x 4 q. 2 w + Pegfilgrastimプライマリエンドポイントは無再発生存率であり、セカンダリーエンドポイントは全生存率と安全性である。再発と第2の腫瘍、あるいは死亡について、20%のリスク低減が検出(OR=0.8)でき、α=0.05,1-β=0.80と仮定して、平均5.5~9年の観察期間で2,000例の必要症例数で、635例のイベントが要求された。最終的に2,091例が登録された(A:545例、B:544例、C:502例、D:500例)。閉経前後がほぼ半数ずつ、リンパ節転移1~3個が約60%、4~9個約25%、10個以上約15%であった。組織学的異型度はグレード1が6~8%、HER2陽性が20%以上に認められた。ホルモン受容体は約80%で陽性であった。治療完遂率はいずれもほぼ同様で、88~89%であった。EC(A+C)とFEC(B+D)を比較したとき、無再発生存率に差はなかった(p=0.526)。2週毎のdose denseと3週毎のstandardと比較したとき、dose denseのほうが有意に無再発生存率が高かった(p=0.002)。全生存率もdose denseで有意に良好であった。グレード3以上の有害事象は、好中球減少がdose denseに比べstandardで有意に多かったが、貧血はdose denseで有意に多かった。その他はほぼ変わりなかった。これらの結果からアンスラサイクリンとタキサンを逐次投与で併用するとき、5-FUによる生存率改善効果はないようにみえる。逆に5-FUが加わることによって、特有の有害事象が上昇する可能性はある。若干解釈を難しくしているのは、各薬剤の投与量の差である。さらに本邦の多くの施設ではFEC(500/100/500)が用いられており、EC(90/600)と比較するとE10、F500の増加および、C100の減少となる。参考になる過去の報告を挙げてみる。転移性乳癌390例におけるFEC3週毎6サイクルで、投与量500/50/500と500/100/500の比較では、奏効率はE100のほうが良いものの、無増悪生存期間、全生存期間にはまったく差がなかった(Brufman G, et al. Ann Oncol. 1997; 8: 155-162.)。このようなデータも加味すると、FEC(600/75/600、500/100/500あるいは500/50/500など)が、EC(90/600)に対して優越性をもっているとはいえない。タキサンが加わると投与量のわずかな差はさらに意味を持たなくなるだろう。またdose denseの意義であるが、本試験でのコントロールがパクリタキセル3週投与であり、これは標準とはいえない。通常臨床では術後補助療法でも転移性乳癌でもパクリタキセルの12回毎週投与が行われており、そのほうが効果も高いことが知られている(Sparano JA, et al. N Engl J Med.2008; 358:1663-1671. / Seidman AD, et al. J Clin Oncol. 2008;26: 1642-1649.)。そのことから本試験におけるdose denseが、効果面で真に現在のスタンダードレジメンより優れているかどうかは、少なくとも本試験からは不明である。後は治療期間、毒性、コスト、QOL評価も加味して今後の臨床での意義を議論していく必要があろう。過去の報告でも投与薬剤、投与量、投与スケジュールが一定していないため、何ら結論的なことを言うことはできない。本試験とは直接関係ないが、AC(60/600)とEC (90/600)ではどうだろうか。過去に治療効果と毒性の両面からしっかりした大規模な試験は残念ながら存在しない。小規模な臨床試験データを解釈するとエピルビシンのほうが毒性面(心毒性)で若干よいようにもみえるのだが、試験によって投与量や投与スケジュールが異なり、エピルビシンの明らかな優越性も証明できていない。エピルビシンはドキソルビシンに比べ高価であるという事実も加味して、日常臨床での使用を考えることが必要であろう。参考にdose denseに関する論文を2つ紹介するので、参考にしてほしい。Citron ML, et al. J Clin Oncol. 2003; 21: 1431-1439.米国からの報告で、リンパ節転移陽性乳癌に対する4群の無作為化比較試験(2×2要因計画)。1)sequential A(60) x4 → P(175) x4 → C(600) x4 with doses every 3 weeks2)sequential Ax4 → Px4 → Cx4 every 2 weeks with filgrastim3)concurrent ACx4 → Px4 every 3 weeks 4)concurrent ACx4 → Px4 every 2 weeks with filgrastim観察期間中央値36ヵ月,リンパ節転移1~3個59~60%、エストロゲン受容体陽性64~66%。無再発生存期間、全生存期間とも dose-dense>3週毎(p=0.010、p=0.013)。sequentialかconcurrentかでは差なし。Venturini M, et al. J Natl Cancer Inst. 2005; 97: 1724-1733.イタリアからの報告である。FEC(600/60/600) 6サイクルを2週毎(604例、Filgrastim使用)と3週毎(610例)で比較。リンパ節転移陰性36%、腫瘍のグレード15%、エストロゲン受容体陽性52%。観察期間中央値10.4年。死亡222例。10年生存率80%対78%(p=0.35)。無再発生存率63%対57%(p=0.31)。グレード1以上の有害事象はFEC2週群で多かったが、白血球減少は3週群で多かった(G-CSF)。グレード3以上の心毒性は両群とも0.2%。

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成人バーキットリンパ腫、低強度EPOCH-Rベース療法が非常に有効/NEJM

 成人のバーキットリンパ腫の未治療患者に対して、低強度のEPOCH-Rベース治療が非常に有効であることが報告された。米国国立がん研究所(NCI)のKieron Dunleavy氏らが行った非対照前向き試験の結果、明らかになった。バーキットリンパ腫は、小児および成人にみられるアグレッシブなB細胞リンパ腫で、大部分は集中的な抗がん剤療法で治療が可能となっている。ただし現在の治療法は、成人および免疫不全を有する患者では、小児に対するよりも有効性が低い一方、重篤な副作用があった。NEJM誌2013年11月14日号掲載の報告より。連続患者30例を対象に標準レジメンと低強度レジメンについて検討 研究グループは、未治療のバーキットリンパ腫患者について、エトポシド/ドキソルビシン/シクロホスファミド/ビンクリスチン/プレドニゾン+リツキシマブ(EPOCH-R)の低強度療法について、2つのレジメンについて検討した。 1つは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)陰性患者を対象に標準的な用量調整併用レジメン(DA-EPOCH-R群)で、もう1つは、HIV陽性患者を対象に低用量で短期間、リツキシマブを2倍量とした併用レジメン(SC-EPOCH-RR群)だった。 連続患者30例(DA-EPOCH-R群19例、SC-EPOCH-RR群11例)が治療を受けた。患者は年齢中央値33歳(範囲:15~88歳)、40歳以上は40%だった。また、疾患リスクは73%が中等度、10%が高度だった。主要中毒事象発生は標準レジメン群22%、低強度レジメン群10% フォローアップ中央値は、DA-EPOCH-R群が86ヵ月、SC-EPOCH-RR群が73ヵ月だった。同時点での無増悪率は、DA-EPOCH-R群95%、SC-EPOCH-RR群100%で、全生存率はそれぞれ100%、90%だった。バーキットリンパ腫での死亡例はなかった。 主要中毒事象は、発熱と好中球減少症で、発生はDA-EPOCH-R群22%、SC-EPOCH-RR群10%でみられた。SC-EPOCH-RR群で腫瘍崩壊症候群が1例の患者でみられたが、治療関連死はみられなかった。 ドキソルビシン/エトポシド、またシクロホスファミドの累積投与量中央値は、標準レジメンのDA-EPOCH-R群よりも低強度強化レジメンのSC-EPOCH-RR群のほうが、それぞれ47%、57%低かった。 著者は、「今回の非対照前向き試験において、散発性あるいは免疫不全関連バーキットリンパ腫では、低強度のEPOCH-Rベース療法が非常に効果的であった」と結論している。

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