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副腎白質ジストロフィー〔ALD:adrenoleukodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)は、1923年に副腎萎縮を伴う進行性脱髄疾患として報告された。X連鎖性遺伝形式をとり、臨床的には男性患者で大脳半球の進行性の炎症性脱髄を特徴として、5〜10歳に発症して数年で寝たきりになる小児大脳型や、思春期以降に痙性歩行で発症するadrenomyeloneuropathy(AMN)など、遺伝子型と相関しない複数の臨床型を有している。大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植であり、予後改善には早期診断が極めて重要である。また、女性保因者でも加齢とともにAMN類似の脊髄症を発症することがある。■ 疫学2016年度に厚生労働省難治性疾患政策研究班において実施した全国調査で260人程度の国内患者の存在が推測されている。一方、米国・ニューヨーク州の3年間の新生児スクリーニングからは男女15,000出生に1人の患者が報告されている。■ 病因ペルオキシソーム膜に存在するトランスポータータンパク質をコードするABCD1の遺伝子異常によるX連鎖性の遺伝性疾患である。ABCD1タンパクは飽和極長鎖脂肪酸のペルオキシソーム内への輸送に関与し、患者では極長鎖脂肪酸のβ酸化が障害され、全身の臓器に蓄積を認める。しかし、病態はほとんど解明されておらず、脱髄の発症機序や飽和極長鎖脂肪酸蓄積による病態への関与も不明である。■ 病型分類と症状男性患者では遺伝子型や極長鎖脂肪酸値と相関しない複数の臨床病型を有している。また女性保因者発症も相関せず、いずれも同一家系内であっても発症前の予後の予測は難しい。1)小児大脳型(CCALD)発症年齢は3~10歳で、6、7歳にピークがある。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能の障害、歩行障害などで発症し、数年で寝たきりに至ることが多い。最も多い臨床病型である。2)思春期大脳型(AdolCALD)発症年齢は11~21歳。小児大脳型に類似も、やや緩徐に進行する傾向にある。3)adrenomyeloneuropathy(AMN)10代後半~成人。痙性対麻痺で発症し、緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことがある。軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎を伴うこともある。4)成人大脳型(ACALD)性格変化、認知機能低下、精神症状で発症し、小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。精神病、脳腫瘍、他の白質ジストロフィー、多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。AMNや小脳・脳幹型からACALDに進展する場合もある。5)小脳・脳幹型小脳失調、下肢の痙性などを示し、脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。6)アジソン型無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。神経症状は示さない。大脳型やAMNに進展する場合もある。7)女性発症者女性保因者の一部は加齢とともにAMNに似た臨床症状を呈する場合があり、下肢の痙縮、痛みから歩行障害を来すこともある。また、末梢神経障害や尿・便失禁の症状を呈することもある。8)発症前男性生下時より極長鎖脂肪酸は増加しており、診断は可能であるが、予後予測は不可能である。■ 予後男性大脳型患者では無治療の場合、急速に進行して数年で寝たきりになることもあるため、早く疑い、診断して、速やかに移植を実施することがその後のQOLの向上につながる。一方、AMNは緩徐に進行するが一部で大脳型に進展して急速に進行する。すべての男性ALD患者では、副腎機能を定期的に評価し、早期にステロイド補充計画を進めることは生命予後に重要である。女性保因者では、加齢とともに脊髄症状を来すことがあり、オランダの報告では軽微な症状を含めると60歳以上では80%の女性保因者で神経症状を来しているとの報告もある。一方で、副腎不全や大脳型を来すことはほとんどまれである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)男性患者では病型ごとに発症時期や症状も多彩であるため、以下の臨床所見に留意した上で、早期に診断検査を行うことが重要である。■ 臨床所見1)高次脳機能障害小児・思春期大脳型では幼稚園や学校等での落ち着きのなさや行動異常、成績低下、書字やしゃべり方の異常から注意欠陥/多動性障害(ADHD)や学習困難として対応されている症例がみられる。成人大脳型では社会性の欠如や性格変化、行動異常、認知機能低下などの症状で発症する。2)眼科的症状(視知覚異常)小児大脳型では途中から気付く斜視や、見づらそうな様子から眼科を受診する症例もみられる。斜視や視線が合わない、見えにくそうにしている以外に、物や人にぶつかりやすい、転びやすいなどの視覚性注意障害としての症状がみられることもある。3)耳鼻科的症状(聴覚異常)聞き返しが多い、電話などでは会話が理解できないなどの症状から耳鼻科を受診する症例もみられる。4)歩行障害歩行障害は大脳型やAMN、女性発症者など比較的広くみられる。錐体路症状としての痙性麻痺以外に、視覚性注意障害として転びやすいなどの症状や小脳・脳幹型では両下肢の痙性歩行や小脳失調によるふらつき歩行がみられる。5)自律神経障害AMNや女性発症者では排尿・排便障害、AMNでは陰萎がみられることがある。6)副腎不全症状非特異的な症状である易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などさまざまな症状を訴える。■ 検査1)脳MRI検査大脳型では脳MRIで異常が検出される。典型例ではT2強調、またはFLAIR法にて後頭葉の側脳室周囲の白質から脳梁膨大部に左右対称の病変が確認される。また、ガドリニウム造影にて病変境界部が線状に造影される。一方、前頭葉から後方に進展する例も10%程度みられる。2)副腎機能検査副腎不全症状がなくても男性ALD患者の80%に副腎皮質機能不全を認めるとの報告もあり、非ストレス刺激下での早朝ACTH、コルチゾール値と迅速ACTH負荷試験を行う。3)血中極長鎖脂肪酸検査(保険収載)副腎白質ジストロフィー男性患者では血中極長鎖脂肪酸の増加を認める。一方、女性保因者では10%程度は正常範囲に入るため、極長鎖脂肪酸検査が正常だけでは保因者を否定することはできず、発端者で同定されたABCD1遺伝子変異の有無を確認する必要がある。2020年度の保険診療の改定により衛生検査所でも保険診療による検査が可能である。4)ABCD1遺伝子検査(保険収載)2020年度より副腎白質ジストロフィー遺伝学的検査が保険収載されている。かずさ遺伝子検査室などの衛生検査所以外に、岐阜大学でも「ALDペルオキシソーム病ホームページ」にて極長鎖脂肪酸検査とABCD1遺伝学的検査を病的意義などのコメントを添えて保険診療で受託しており、大脳型発症早期疑い例では数日で解析結果を提供して迅速な治療に繋げている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、移植の可否や時期は知的・生命予後を左右する。また、アジソン型でも早期のステロイド補充療法が予後に繋がるため早期介入が重要である。1)ステロイド補充療法副腎不全は病状や生命予後にも深くかかわるため、負荷試験も実施して定期的に副腎機能を評価しながら治療を管理していく必要がある。これは移植施行後も含めたすべてのALD男性患者に対して必要である。2)造血幹細胞移植現在、大脳型ALDに対して、唯一有効な治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、小児・思春期以外に成人大脳型にも有効との報告がある。また、骨髄非破壊的前処置による低リスクの移植や、臍帯血による移植例も比較的良好な治療成績を挙げている。その機序はドナー由来の単球から分化したマクロファージ系細胞が脳内で機能する可能性が示唆されている。3)遺伝子改変造血幹細胞移植2009年にフランスのグループが、適合する移植ドナーが得られなかった2例の大脳型ALD患者に対して、患者本人から血液幹細胞を採取して、レンチウィルスベクターにより正常ABCD1遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植を施行し、その後の観察にて進行停止を確認し、従来の造血幹細胞移植と同等の効果を得たことを報告した。その後、米国Bluebird bio社の支援により治験が実施されている。4 今後の展望■ 新生児スクリーニングの導入大脳型や副腎不全の進行を阻止して予後改善に繋げるにはできる限り早期の診断が望まれる。海外では新生児スクリーニングがすでに実施されており、米国・ニューヨーク州では2013年末から新生児スクリーニングが開始され全米に広がりつつあり、オランダも2019年10月より男児のみのパイロット研究が開始されている。国内でも令和3年度より一部の自治体で有償での選択的スクリーニングがパイロット研究として開始が検討されている。■ 予後予測法の開発大脳型発症の病態はほとんど解明されておらず、発症前患者の予後予測が不可能なため、定期的なMRI検査で異常を確認してから治療を施行している現状にあり、確実な発症阻止に繋げるためには、大脳型発症因子の探索から発症予測法の開発、さらには大脳型発症動物モデルの開発が重要になる。5 主たる診療科小児科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ALD info(医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学ALD&ペルオキシソーム病ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 副腎白質ジストロフィー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ALDの未来を考える会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会編. 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019. 診断と治療社.東京.2019.2)Kato K, al. Mol Genet Metab Rep. 2018;18:1-6.3)Cartier N, et al. Science. 2009;326:818-823.公開履歴初回2021年03月08日

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多発性硬化症の病態に関わる免疫細胞の新知見

 2021年2月17日、ノバルティス ファーマは、『MS病態への関与が示唆される「B細胞」とは? ~免疫の仕組みとMS治療の課題~』と題するメディアセミナーを開催した。 多発性硬化症(以下、MS)は自己免疫疾患の1つとして知られている。国内の推定患者数は約1万5千人以上と考えられており、女性の患者数が男性の約2.9倍といわれている。平均発症年齢は30歳前後、発症のピークは20代であり、就職や出産、育児などのライフイベントが多い時期と重なるため、社会への影響が大きい疾患であると考えられる。 本セミナーでは、野原 千洋子氏(東京都保健医療公社荏原病院 神経内科 部長)が、近年MS病態に直接関与していると注目されている「B細胞」にフォーカスしながら、MSと免疫の仕組みについて講演を行った。周囲から理解されにくい症状に悩まされる MSは、中枢神経における神経細胞の軸索を覆うように存在しているミエリンが破壊され、「脱髄」と呼ばれる病変が多発する疾患である。ミエリンは、動作や感覚などの情報が神経を通じてスムーズに伝達されるように助ける役割を持つ。脱髄が起こると、中枢神経における情報伝達に障害が生じ、さまざまな症状を引き起こしてしまう。 MSでは、脱髄の起こった部位によって異なる症状が現れる。歩行障害や運動障害といった周囲から見てもわかりやすい症状がある一方で、視野障害や感覚障害、認知機能障害、排尿・排便障害といった周りから見えづらい症状が起こる場合もある。野原氏は、「MSは周囲から理解されにくい症状が多く、早期の診断、治療が重要である」と指摘した。T細胞だけではない? MS病態へのB細胞の関与 MSの発症原因の詳細はいまだ不明であるが、獲得免疫であるT細胞/B細胞の免疫寛容の破綻が原因とされている。従来、MSはT細胞が主に関わる自己免疫疾患のモデルであるといわれていた。しかし、近年MSの発症前から進行期へと至る一連のステージにおいて、B細胞による病態への関与も示唆されるようになったという。 MSの発症においては、ヘルパーT細胞は二次リンパ組織内で抗原提示細胞により活性化された後、Th1細胞やTh17細胞として血液脳関門を通過する。そうして中枢神経系に侵入したTh1細胞やTh17細胞は、炎症性サイトカインを産生し、マクロファージやキラーT細胞を活性化させる。その結果、神経が傷害され脱髄を引き起こす、という発症メカニズムが考えられていた。 しかし、このメカニズムの中で、T細胞のTh1細胞やTh2細胞への分化、炎症性サイトカインの産生を介したT細胞の活性化、Th1細胞の自己増殖の促進にB細胞が寄与していることが明らかになった。さらに、こうしたB細胞とT細胞の相互作用に加えて、B細胞が中枢神経系において単独で自己抗体を産生し、脱髄を引き起こすことも明らかになったという。 実際にMSの発症や再発において、B細胞の自己抗体産生を反映したオリゴクローナルバンドの検出率が上昇したとされる報告や、B細胞の活性化マーカーであるCXCL13(ケモカインの一種)の髄液中での濃度上昇が認められた報告もあるという。さらに、二次進行型MS患者においてはB細胞のリンパ濾胞様構造が認められたという報告もあり、野原氏は「MSの臨床経過の一連のステージにおいて、B細胞は大きな役割を担っている」と語った。B細胞をターゲットにした治療への期待 B細胞がMSの病態に関わるのであれば、当然B細胞が治療のターゲットとして考えられる。実際にB細胞除去療法を行った結果では、T細胞の異常な活性化を抑えることで、IL-17やIFN-γといったMS病態を進行させるサイトカインの産生が抑制されるという。野原氏は「MSの病態にはB細胞が深く関与していることが明らかになってきており、海外ではB細胞をターゲットにした治療薬の承認も得られている。今後、B細胞に関わるさらなる知見が得られることに期待したい」と締めくくった。

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【GET!ザ・トレンド】変わる多発性硬化症診療

多発性硬化症(MS)治療薬の開発が目覚ましい。2000年に再発抑制薬(疾患修飾薬:DMD)としてインターフェロンが登場し、病状・病態の進展抑制が注目されるようになった。その後もたくさんのDMDの開発が進み、近々B細胞除去薬の登場も期待されている。そこで神経内科以外の先生方が読まれることを念頭に、MS診断の要点と今後期待される治療について概説したい。診断のコツわが国におけるMS患者は増加の一途をたどっており、現在国内における推計患者数はおよそ1万8000人である。以前から発症リスクは女性の方が高いと言われてきたが、近年では男性1に対し女性3まで増えているという。若年成人,特に20~30代の発症が多く、つまり典型的な患者像は、「出産年齢の女性」となろう。MSを疑うべき症状は多様である。典型的な症状(障害部位)としては、視力障害(視神経)、複視(脳幹)、ふらつき(小脳)、手足の痺れや痛み、脱力(脳及び脊髄)などを挙げ得るが、排尿障害や認知機能障害も見逃したくない。初診時に注意深く聞き出したいのが、「神経症状の既往」である。数年前までさかのぼり、同様の症状がなかったか問診する。たとえ患者さんが「今回初めて」と言っても鵜呑みにはしない。また問診の結果、同じような症状はなかったことが明らかになった場合でも、他の神経症状の既往の有無を尋ねる。その際には、必ず具体的な症状を挙げながら問診するようにする。また「ウートフ現象」の有無も確認する。「ウートフ現象」とは、「体温上昇に伴う一過性の症状増悪」である。MS患者ではこの症候が認められることが多い。入浴後や外気温が高い時期の痺れや脱力、一過性の視力低下が多い。このような症状からMSを疑い、MRI撮像や髄液検査を行う。MSの分類MSは大別すると「再発寛解型」(増悪と寛解を繰り返す)と「1次性進行型」(はじめから症状は徐々に進行)、「2次性進行型」(後出)の3タイプに分けられる。うち、MS初期に分類されるのは「再発寛解型」と「1次性進行型」だが、日本では9割以上が「再発寛解型」である。なお「再発寛解型」の数割は「2次性進行型」(徐々に症状が増悪。ただし、途中、再発や進行が停止する時期があっても良い。)へ進展する。再発寛解型MSに対する治療には、現在6種類のDMD、すなわち、グラチラマー酢酸塩、インターフェロン(IFN)β-1b、IFNβ-1a、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブ、が使用可能である。また、最近、二次性進行型に対するDMD,シポニモドが承認された。これらの薬剤は併用することはないため、疾患活動性や患者のライフプラン等を考慮し、適切な薬剤を選択する必要がある。早期からの疾患活動性抑制が重要まず疾患活動性の高いMSでは、早期から再発抑制効果の高いDMD使用を考慮する。そのような例では、転帰が不良だからである [Leray E et al. Brain 2010; 133: 1900] 。早期治療開始の有用性を示すエビデンスとしては、EDSS 4.0に到達する期間が、診断1年以内にDMDを使用した群の方が、3年以上経過してから使用した群よりも有意に長かったとの報告がある[Kavaliunas et al., Mult Scler. 23: 1233-1240, 2017]。さらに、大規模な前向き観察研究において、早めにDMDを、特にグラチラマー酢酸塩やインターフェロンよりもより強力なフィンゴリモドやナタリズマブといったDMDを使用することで、その後の二次性進行型への移行を有意に抑えられたと報告されている[Brown et al., JAMA. 321: 175-187, 2019]。ただし有効性の高い薬剤は、有害事象リスクも高いことが多いので、症例ごとにリスク・ベネフィットをよく見極める必要がある。臨床所見だけで治療効果を評価しないさて再発寛解型に対するDMDの有効性評価には、臨床所見に加え、MRI所見も必須である。臨床上再発が抑制されているにもかかわらず、MRI上で病巣が増加・拡大している患者は決して珍しくない。そしてMS初期のMRI上病変増加や脳萎縮は、ボディーブローのようにMS患者の長期予後に悪影響を及ぼす。事実、MS初期のMRI上病変数は、約15年後の2次性進行型MSや身体障害のリスクであるとされる[Brownlee WJ et al. Brain. 2019; 142: 2276] 。したがってDMD使用下で臨床的な増悪を認めなくとも、半年に1回はMRIで評価すべきである。進行性多巣性白質脳症(PML)リスクのあるDMDを用いているならば、3~6カ月に1回が望ましい。加えて、患者の希望や疾患活動性がないとの判断によりDMDを使用しない患者においても、6カ月~1年に1回は必ずMRIで定期的に病巣を評価する。再発まで放置した結果、MRI上の病巣が著明に増加していたというケースも経験している。患者にMRI上の病巣を見せ、増加の可能性を説明し、目の前で次回MRIの予約を入れる。こうすれば薬剤処方の必要がない患者でも、次回来院の可能性は飛躍的に高くなる。なお、個人的には、認知機能の経時的評価も必要ではないかと考えている。タブレットを用いた簡便な検査方法が開発されているので、余裕があれば評価していただきたい。新しい治療薬「B細胞をターゲットとした治療薬」の可能性海外では現在、B細胞除去薬であるオクレリズマブが広く用いられている。しかし、わが国に導入の予定はない。同じくB細胞除去薬であるリツキシマブも、スウェーデンでは適用外使用だがMSに汎用されており、その有用性が報告されている[Granqvist M et al. JAMA Neurol. 2018; 75: 320] 。わが国では、現在、慢性リンパ性白血病に用いられているB細胞除去薬オファツムマブが、近々使用可能になると言われている。MS例におけるオクレリズマブの再発抑制作用はナタリズマブと差がないと報告されており[Lucchetta RC et al. CNS Drugs. 2018; 32: 813] 、同じB細胞除去薬であるオファツムマブの効果にも注目したい。ただしオクレリズマブ同様、オファツムマブも感染症リスクへの注意は必要であろう。なお、ナタリズマブは近時、投与間隔を標準的な4週間よりも長くとる "Extended Infusion Dosing" (EID)を用いると、PMLリスクが低減すると報告されており[Ryerson LZ et al. Neurology. 2019; 93: e1452]、抗JCウイルス抗体陽性患者へのナタリズマブ投与の際には、検討の価値はあると思われる。後遺症への薬剤も開発中現在、MSを完治し得る薬剤は、開発の糸口さえ見つかっていない。そのため上記のようにDMDの開発が盛んだが、それに加え、後遺症軽減を目指した薬剤の開発も進んでいる。その一つが、MSで障害された神経再生を介して後遺症の軽減を目指す薬剤である。先行していたLINGO-1(神経再生阻害因子)阻害剤であるオピシヌマブ(opicinumab)は、残念ながら、第二相試験で神経修復作用にプラセボと有意差を認めなかったが [Cadavid D et al. Lancet Neurol. 2017; 16: 189] 、LINGO-1以外に介入する神経再生薬の開発も進んでおり、今後の成果を待ちたい。最後にMSはすぐに生死に直結する疾患ではない。しかしながら若年発症が多いこともあり、患者さんの人生にとってはかなりの重荷である。したがって、診断・治療に難渋、あるいは迷った場合は、いたずらに経過観察することなく、遠慮せず専門医に相談、紹介していただければ幸いである。

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国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」【下平博士のDIノート】第67回

国内初の1日2回投与型トラマドール製剤「ツートラム錠50mg/100mg/150mg」今回は、慢性疼痛治療薬「トラマドール塩酸塩徐放錠(商品名:ツートラム錠50mg/100mg/150mg、製造販売元:日本臓器製薬)」を紹介します。本剤は、1日2回(12時間間隔)の投与に最適化された徐放性製剤であり、非オピオイド鎮痛薬で十分な効果が得られない患者の疼痛緩和やアドヒアランス向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な慢性疼痛における鎮痛の適応で、2020年9月25日に承認され、2021年1月8日より発売されています。なお、2022年5月に「疼痛を伴う各種がん」の効能・効果が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはトラマドール塩酸塩として1日100~300mgを2回(朝、夕が望ましい)に分けて経口投与します。症状に応じて1回200mg、1日400mgを超えない範囲で適宜増減できますが、1回50mg、1日100mgずつ行うことが推奨されています。なお、初回投与は1回50mgから開始することが望ましく、ほかのトラマドール塩酸塩経口薬から切り替える場合は、切り替え前の薬剤の1日投与量、鎮痛効果および副作用を考慮して本剤の初回投与量を設定します。<安全性>国内で日本人を対象に実施された第II、III相試験(慢性疼痛6試験併合)において、本剤との因果関係を否定できない有害事象は749例中597例(79.7%)で報告されています。主なものは、悪心329例(43.9%)、便秘308例(41.1%)、傾眠160例(21.4%)、嘔吐113例(15.1%)、浮動性めまい81例(10.8%)、口渇58例(7.7%)、食欲減退43例(5.7%)でした。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、呼吸抑制、痙攣、依存性、意識消失(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内への痛みの伝達を抑え、一般的な鎮痛薬では治療困難な痛みを和らげます。2.眠気、めまい、意識消失が起こることがあるので、本剤を服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作をしないでください。3.この薬はゆっくり効く部分を持っていますので、割ったり、粉砕したり、かみ砕いたりせずに、そのまま服用してください。4.悪心・嘔吐、便秘、めまい、口が乾く、食欲が低下するなどの症状が現れることがあります。症状が重く、持続する場合はすぐに受診してください。5.有効成分が出た後の錠剤が糞便中に排泄されることがありますが心配ありません。6.飲酒により薬の作用が強くなり、呼吸抑制が起こることがあります。服用中の飲酒は避けてください。<Shimo's eyes>本剤は、速やかに有効成分が放出される速放部と、徐々に有効成分が放出される徐放部の2層錠にすることで、安定した血中濃度推移が得られるように設計された国内初の1日2回投与のトラマドール製剤です。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され、製造販売会社に開発が要請されました。トラマドールを含有する既存の経口薬としては、1日4回服用の速放性製剤(商品名:トラマール)、1日1回服用の徐放性製剤(同:ワントラム)、アセトアミノフェン配合製剤(同:トラムセットなど)が販売されていています。なお、トラマドールはWHO三段階除痛ラダーで「ステップ2」に位置付けられる弱オピオイド鎮痛薬ですが、わが国では麻薬の指定は受けていません。適応症である「慢性疼痛」は、腰痛症、変形性膝関節症、関節リウマチ、脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群など幅広い原因によって引き起こされます。本剤は、慢性疼痛治療で汎用されているプレガバリンやセレコキシブなどと同じ1日2回投与ですので、併用薬や生活様式に合わせた薬剤を選択することでアドヒアランスが維持・向上できると期待されます。22年5月の改訂で、がん患者の疼痛管理にも本剤が使えるようになりました。本剤を定時服用していても疼痛が増強した場合や突出痛が発現した場合は、即放性のトラマドール製剤(商品名:トラマール錠など)をレスキュー薬として使用します。なお、レスキュー投与の1回投与量は、定時投与に用いている1日量の8~4分の1とし、総投与量は1日400mgを超えない範囲で調節します。鎮痛効果が不十分などを理由に本剤から強オピオイドへの変更を考慮する場合、オピオイドスイッチの換算比として本剤の5分の1量の経口モルヒネを初回投与量の目安として、投与量を計算することが望ましいとされています。禁忌となるのは、ほかのトラマドール製剤と同様に、12歳未満の小児、本剤に対する過敏症、アルコールや睡眠薬、鎮痛薬、オピオイド鎮痛薬または向精神薬による急性中毒、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬を投与中または投与中止後14日以内、ナルメフェン塩酸塩水和物を投与中または投与中止後1週間以内、てんかん患者などです。副作用としては、高頻度で悪心・嘔吐、便秘が報告されています。必要に応じて制吐薬や下剤の併用を提案するようにしましょう。※2022年6月、添付文書改訂の内容を基に、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ツートラム錠50mg/ツートラム錠100mg/ツートラム錠150mg

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低用量アスピリンによる胃潰瘍リスク低減の提案薬【うまくいく!処方提案プラクティス】第30回

 今回は、意外と見落としがちな低用量アスピリンによる消化管出血の予防についてです。低用量アスピリンはNSAIDsと同様に消化管障害の危険因子であり、原疾患の治療で継続的な服用が避けられない場合には、予防投与としてPPI(プロトンポンプ阻害薬)やH2受容体拮抗薬の併用が必要となります。その際は、年齢や腎・肝機能によって薬剤を使い分けましょう。患者情報96歳、男性(施設入居)基礎疾患陳旧性心筋梗塞、慢性心不全、前立腺肥大症、気分障害、右前胸部皮下腫瘤、大腸がん(ESD後の狭窄あり)介護度要介護4訪問診療の間隔2週間に1回処方内容1.フロセミド錠20mg 2錠 分2 朝昼食後2.アスピリン錠100mg 1錠 分1 朝食後3.ミラベグロン錠50mg 1錠 分1 朝食後4.プレガバリン口腔内崩壊錠25mg 2錠 分2 朝夕食後5.アセトアミノフェン錠200mg 2錠 分1 就寝前6.アルプラゾラム錠0.4mg 1錠 分1 就寝前7.センノシド錠12mg 1錠 分1 夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 5滴から調節本症例のポイントこの患者さんは、施設入居前に上記を含む多数の薬剤を服用していましたが、別の薬剤師の介入により薬剤数が減り、定期内服薬は7種類となりました。今回、私が初めて訪問診療に同行することになりましたが、陳旧性心筋梗塞の既往から低用量アスピリンを継続的に服用し続けているにもかかわらず、消化管出血予防の支持療法が併用されていないことが気になりました。胃痛や胃部不快感、黒色便などの自覚症状こそないものの、もし消化管障害を併発した場合は超高齢で基礎疾患の増悪などリスクが高いと考え、医師と直接話すことにしました。なお、過去にPPIやH2受容体拮抗薬を服用していたかどうかは、薬歴やお薬手帳を確認しても不明でした。処方提案と経過同行時、この患者さんの部屋に入る前に医師に処方内容について相談がある旨を伝え、時間をもらいました。そこで、陳旧性心筋梗塞を基礎疾患として低用量アスピリンの服用を継続しているため、消化性潰瘍の支持療法の検討は必要かどうかを確認しました。現在はとくに自覚症状もなく困っているわけではありませんが、もし低用量アスピリン服用による消化性潰瘍を併発した場合にクリティカルになりかねず、患者さんもできるだけ長く施設で余生を過ごしたいと思っていることを伝えたところ、医師よりそもそもの消化性潰瘍の予防薬が入っていないことを見落としていたと返答がありました。そこで、併用薬についてはPPIのランソプラゾール口腔内崩壊錠15mgの処方追加を提案しました。H2受容体拮抗薬を提案しなかったのは、高齢者においては認知機能低下の懸念があり、この患者さんは腎機能が低下(Scr:1.86mg/dL)しているため肝代謝を主としたPPIのほうが望ましいと考えたからです。医師より提案事項の承認を得ることができ、早々にランソプラゾールを開始することになりました。その後、とくに胃部不快感などの症状や、下痢や肝機能障害などのPPIによる有害事象の出現もなく経過しています。Sugano K, et al. J Gastroenterol. 2011;46:724-735.

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「ロゼレム」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第19回

第19回 「ロゼレム」の名称の由来は?販売名ロゼレム®錠8mg一般名(和名[命名法])ラメルテオン(JAN)効能又は効果不眠症における入眠困難の改善用法及び用量通常、成人にはラメルテオンとして 1 回 8mg を就寝前に経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(1)本剤の成分に対する過敏症の既往歴のある患者(2)高度な肝機能障害のある患者[本剤は主に肝臓で代謝されるため、本剤の血中濃度が上昇し、作用が強くあらわれるおそれがある。](3)フルボキサミンマレイン酸塩を投与中の患者※本内容は2020年9月30日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年7月改訂(第9版)医薬品インタビューフォーム「ロゼレム®錠8mg」2)武田薬品工業:医療関係者向け情報

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高齢入院患者のせん妄予防に対する薬理学的介入~メタ解析

 入院中の高齢患者に対するせん妄予防への薬理学的介入の効果について、スペイン・Canarian Foundation Institute of Health Research of Canary IslandsのBeatriz Leon-Salas氏らがメタ解析を実施し、包括的な評価を行った。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2020年9~10月号の報告。 2019年3月までに公表された、65歳以上の入院患者を対象としたランダム化比較試験を、MEDLINE、EMBASE、WOS、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの電子データベースよりシステマティックに検索した。事前に定義した基準を用いて研究を抽出し、それらの方法論的な質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・各データベースより抽出された1,855件から重複を削除し、1,250件の評価を行った。・メタ解析には、以下の25件のランダム化比較研究が含まれた。 ●抗てんかん薬(1件、697例) ●抗炎症薬(2件、615例) ●抗精神病薬(4件、1,193例) ●コリンエステラーゼ阻害薬(2件、87例) ●催眠鎮静薬(13件、2,909例) ●オピオイド(1件、52例) ●向精神薬・認知機能改善薬(1件、81例) ●抑肝散(1件、186例)・プラセボや通常ケアと比較し、せん妄の発生率を減少させた薬剤は、以下のとおりであった。 ●オランザピン(RR:0.36、95%CI:0.24~0.52、k=1、400例) ●リバスチグミン(RR:0.36、95%CI:0.15~0.87、k=1、62例) ●デクスメデトミジン(RR:0.52、95%CI:0.38~0.71、I2=55%、k=6、2,084例) ●ラメルテオン(RR:0.09、95%CI:0.01~0.64、k=1、65例)・デクスメデトミジンのみが、せん妄期間の短縮(0.70日短縮)、抗精神病薬の使用量低下(48%)と関連が認められた。・死亡率、有害事象、尿路感染症、術後合併症への影響は認められなかった。 著者らは「本メタ解析では、デクスメデトミジンが入院中の高齢患者におけるせん妄の発生率減少と期間短縮に有用であることが示唆された。各研究において、ラメルテオン、オランザピン、リバスチグミンの効果が報告されているが、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分である」としている。

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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」6年ぶりの改訂

 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』が7月22日に発刊された。今回の改訂は2014年版が発刊されてから6年ぶりで、ヒドロモルフォン(商品名:ナルサスほか)、トラマドール塩酸塩の徐放性製剤(商品名:ワントラム)などの新規薬物の発売や新たなエビデンスの公表、ガイドライン(GL)の作成方法の変更などがきっかけとなった。本書の冒頭では日本緩和医療学会理事長の木澤 義之氏が、「分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん薬物療法が目覚ましい発展を遂げていることなどを踏まえて改訂した」と述べている。 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の主な改訂点については、8月9日~10日にWeb開催された「緩和・支持・心のケア 合同学術大会」での教育講演「『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』の概要」でも発表され、馬渡 弘典氏(横浜南共済病院 緩和支持療法科)が解説した。がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインとして必要な情報に絞る まず、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの改訂版は作成方法の変更により計325ページから185ページへと大幅にボリュームダウン。大幅に絞られた臨床疑問は65項目から28項目に絞られ、Appendixには委員会で討論したが根拠が乏しく解説文に記載しなかったこと、現場の臨床疑問・現在までの研究と今後の検討課題が記載された。以前まで取り上げられていた「麻薬に関する法的・制度的知識」「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」「薬物療法以外の痛み治療法(放射線療法、神経ブロック、骨セメント)」はがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの枠組みでは扱いづらくなったとのことで2020年版では割愛されたが、「大切な事項なので書籍などで確認を」と述べた。2020年版では突出痛の定義が近年の考えを加味して変更された 馬渡氏はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版を作成する際に生じたエビデンスと推奨のギャップについて解説した上で、疼痛強度に応じた鎮痛薬の使用方法を説明した。まず、中等~高度のがん疼痛についてはCQ3~7*を示し、「中等~高度の疼痛がある患者に対して、強オピオイド間の優劣については今回のシステマティックレビューでは認められなかったため、本ガイドラインではどの薬剤を選択しても良いと結論付けられている」と説明。CQ6(がん疼痛のある患者に対して、フェンタニルの投与は推奨されるか?)については、今年6月末にフェンタニルの貼付剤(商品名:フェントステープ)がオピオイド鎮痛剤未使用のがん疼痛患者へ適応となったことにも触れた。また、それ以前に決定稿になったことを断ったうえで、フェンタニルによる初回投与は、『投与後に傾眠、呼吸抑制の重篤な有害作用の有無を継続して観察出来るとき』の条件付き推奨となったことを述べた。さらに、「添付文書にも 増量時の注意事項が書かれているので、注意して経過観察してほしい」と述べた。*CQ3~7は、「がん疼痛のある患者に対して、各薬剤(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール)の投与は推奨されるか?」について記載。 次に、2018年のWHOのガイドライン改訂で、3段階ラダーの表現が本文から付録に相当するANNEXに移ったが、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版でも中等度のがん疼痛では「強い推奨が弱オピオイドから強オピオイドに変更された」点について説明。CQ8(がん疼痛のある患者に対して、コデインの投与は推奨されるか?)やCQ9(がん疼痛のある患者に対して、トラマドールの投与は推奨されるか?)、CQ23(がん疼痛のある患者に対して、初回投与のオピオイドは、強オピオイドと弱オピオイドのどちらが推奨されるか?)の内容に反映されている。 突出痛については、「突出痛の定義は国際的に決まったものはないが、『持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強』から『定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み』へと、近年の考えを加味して変更された」と解説した。また、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにおける突出痛に投与するオピオイドの薬剤の用語の統一についても触れ、総称区分を以下のように示した。●速放性製剤:経口モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドンなど●経粘膜性フェンタニル:フェンタニル口腔粘膜吸収製剤●レスキュー薬:突出痛に投与するオピオイドの経口薬、注射剤、坐剤すべてがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点 このほか、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点として、腎機能低下時の投与や便秘時について解説。CQ17(オピオイドが原因で、便秘のあるがん患者に対して、下剤、その他の便秘治療薬の投与は推奨されるか?)やCQ22(がん疼痛のある、高度の腎機能障害患者に対して、特定のオピオイドの投与は推奨されるか?)を示し、「高度の腎機能障害患者にフェンタニルやブプレノルフィンの“注射剤”を推奨していること。コデイン、モルヒネを投与する場合は短期間で少量から投与すること。軽度から中等度の腎障害では減量すればどのオピオイドも投与可能。ただし、ブプレノルフィンは高度の腎機能障害がある時や、ほかの強オピオイドが投与できない時に限定する」と述べた。<今回からがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに追加された主な新規薬剤>・ヒドロモルフォン(商品名:ナルサス、ナルラピド、ナルペイン)・オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(同:オキシコンチンTR錠)[オキシコンチン錠の販売中止に伴う]・トラマドール塩酸塩(同:トラマールOD錠、ワントラム)とアセトアミノフェン配合剤(同:トラムセット)[カプセル剤の販売中止に伴う]・ミロガバリン(同:タリージェ)・ナルデメジン(同:スインプロイク)とその他の便秘治療薬(ポリエチレングリコール製剤、リナクロチド[同:リンゼス]、エロピキシバット[同:グーフィス])<がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから削除された主な薬剤>・モルヒネ製剤の一部(同:カディアン、ピーガード)・エプタゾシン(同:セダペイン)、ジヒドロコデインリン酸塩(同:リン酸ジヒドロコデイン)、ペチジン塩酸塩(同:ペチジン塩酸塩「タケダ」) 今後の予定として、同氏は2020年版のガイドライン作成過程で用いた各種のテンプレートを掲載した詳細資料を作成し、『本ガイドライン作成の経過やより詳細な内容を知りたい読者がインターネット上で閲覧できるようにする』『CQ、ステートメントを英文化し、国際紙に掲載する』などを掲げた。また日本緩和医療学会より一般市民向けに2017年に出版されている「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版」も改訂が必要とされれば速やかに改訂を行うこととすると述べ、「教科書などとうまく使い分けて役立ててもらえれば」と締めくくった。

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健康問題を有する患者のメンタルヘルス改善のためのオンライン心理的介入~メタ解析

 Webベースの心理的介入は、ここ15年間で大幅に増加している。健康状態に慢性的な問題を有する患者における抑うつ、不安、苦痛症状に対するWebベースの心理的介入の有効性について、オーストラリア・ディーキン大学のV. White氏らが、検討を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2020年7月17日号の報告。 1990年~2019年5月1日に公表された研究をMedline、PsycINFO、CINAHL、EMBASE、Cochrane Databaseより検索した。健康状態に慢性的な問題を有する成人における不安、抑うつ、苦痛を軽減することを主要および副次的な目的として実施されたWebベースの心理的介入のランダム化比較試験の英語論文を分析対象とした。結果の評価には、ナラティブ分析および変量効果メタ分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・以下の主な疾患を含む17種類の健康状態における70件の適格研究が確認された。 ●がん:20件 ●慢性痛:9件 ●関節炎:6件 ●多発性硬化症:5件 ●糖尿病:4件 ●線維筋痛症:4件・CBT原理に基づいた研究は46件(66%)、ファシリテーターを含む研究は42件(60%)であった。・すべての健康状態に慢性的な問題を有する患者において、Webベースの介入は、メンタルヘルスの症状軽減により有効であった。 ●うつ症状:g=0.30(95%CI:0.22~0.39) ●不安症状:g=0.19(95%CI:0.12~0.27) ●苦痛:g=0.36(95%CI:0.23~0.49) 著者らは「患者自身によるオンライン心理的介入は、健康状態に慢性的な問題を有する患者にとって不安、抑うつ、苦痛の症状軽減に役立つと考えられるが、特定の健康状態に有効かどうかは不明であり、有効性に関するエビデンスは一貫していなかった。明確な結論を導き出すためには、より質の高いエビデンスが求められる」としている。

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多発性硬化症、オファツムマブが有意に再発抑制/NEJM

 多発性硬化症に対し、オファツムマブ(本邦では慢性リンパ性白血病の適応で承認)はteriflunomideに比べ、年間再発率を有意に低下することが示された。3ヵ月、6ヵ月時点の障害の悪化リスクも3割強低く、また6ヵ月時点で障害が改善した患者の割合は1.35倍だったという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のStephen L. Hauser氏らが、2件の二重盲検ダブルダミー第III相無作為化比較試験を行い報告した。オファツムマブは抗CD20モノクローナル抗体の皮下注射剤で、選択的にB細胞数を減少する。teriflunomideは経口ピリミジン合成阻害薬で、T細胞およびB細胞の活性化を抑制するが、両薬剤の多発性硬化症に対する相対的有効性については明らかになっていなかった。NEJM誌2020年8月6日号掲載の報告。年間再発率と障害の悪化、改善などを比較 研究グループは、多発性硬化症の患者を対象に2件の比較試験を行い、オファツムマブとteriflunomideの効果を比較した。同グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはオファツムマブ(1、7、14日目に負荷投与量20mg、その後は4週ごとに20mg)の皮下投与を、もう一方にはteriflunomide(14mg/日)の経口投与を、最長30ヵ月間実施した。 主要エンドポイントは、年間再発率だった。副次エンドポイントは、3ヵ月または6ヵ月時点の評価で確認された障害の悪化、6ヵ月時点で確認された障害の改善、T1強調MRIのスキャン1回当たりのガドリニウム増強病変の数、T2強調MRI上の新規病変または拡大病変の年間発生率、3ヵ月時点での血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)濃度、脳容積の年間減少率などとした。年間再発率、オファツムマブ群0.10~0.11、teriflunomide群0.22~0.25 被験者は2試験全体で、オファツムマブ群946例、teriflunomide群は936例で、追跡期間の中央値は1.6年だった。 オファツムマブ群とteriflunomide群の年間再発率は、試験1ではそれぞれ0.11と0.22(群間差:-0.11、95%信頼区間[CI]:-0.16~-0.06、p<0.001)、試験2では0.10と0.25(群間差:-0.15、95%CI:-0.20~-0.09、p<0.001)だった。 副次エンドポイントは、2試験全体で、3ヵ月時点で障害の悪化が確認された患者の割合はオファツムマブ群10.9%、teriflunomide群15.0%(ハザード比[HR]:0.66、p=0.002)、6ヵ月時点ではそれぞれ8.1%、12.0%(HR:0.68、p=0.01)と、オファツムマブ群で低率だった。また、6ヵ月時点で障害の改善が確認された患者の割合はそれぞれ11.0%、8.1%で、オファツムマブ群で高率だった(HR:1.35、p=0.09)。 T1強調MRIのスキャン1回当たりのガドリニウム増強病変の数、T2強調MRI上の新規病変または拡大病変の年間発生率、3ヵ月時点での血清NfL濃度については、主要エンドポイントと同様の傾向がみられ、オファツムマブ群がteriflunomide群より低率・低値だった。脳容積の年間減少率は両群で同等だった。 注射に関連した反応は、オファツムマブ群20.2%、teriflunomide群15.0%(プラセボ注射)でみられた。重篤な感染症発生率は、オファツムマブ群2.5%、teriflunomide群1.8%だった。

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ラメルテオンの術後せん妄予防効果~胃切除後高齢者を対象とした第II相試験

 高齢患者における胃がん症例数は増加しており、術後せん妄を予防する重要性は高まっている。静岡県立静岡がんセンターの本田 晋策氏らは、胃切除後の高齢患者における術後せん妄の予防に対するラメルテオンの有効性を評価するため、単施設プロスペクティブ第II相試験を実施した。Surgery Today誌オンライン版2020年7月8日号の報告。 対象は、75歳以上の高齢患者。手術の8日前から退院までラメルテオン8mg/日を投与した。術後せん妄の評価には、集中治療室におけるせん妄評価法(CAM-ICU)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・2015年9月~2017年7月までに83例が登録された。そのうち、適格基準を満たした76例を分析に含めた。・術後せん妄は、4例(5%)で認められた(60%信頼区間:3.0~8.7)。・信頼区間の上部マージンは閾値の13%よりも低く、帰無仮説は否定された。 著者らは「ラメルテオンの周術期投与は、胃切除後の高齢患者における術後せん妄の予防に、安全かつ実現可能であることが示唆された」としている。

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小児期の神経発達症に伴う入眠困難を改善する「メラトベル顆粒小児用0.2%」【下平博士のDIノート】第55回

小児期の神経発達症に伴う入眠困難を改善する「メラトベル顆粒小児用0.2%」今回は、メラトニン受容体作動性入眠改善薬「メラトニン(商品名:メラトベル顆粒小児用0.2%、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難、睡眠相後退型などの睡眠障害の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月23日より発売されています。<用法・用量>通常、小児にはメラトニンとして1日1回1mgを就寝前に経口投与します。症状により、1日1回4mgを超えない範囲で適宜増減することができますが、増量する際は睡眠状況を観察しながら1週間以上の間隔を空けて行います。なお、投与開始3ヵ月後をめどに入眠困難に対する有効性および安全性を評価し、有効性を認めない場合には投与中止を考慮します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象308例中32例(10.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠13例(4.2%)、頭痛8例(2.6%)、肝機能検査値上昇3例(1.0%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、体内時計のリズムを整え、自然な睡眠を促すことで寝つきを改善します。2.1日1回、就寝直前に飲んでください。食事と同時や食事のすぐ後に飲むと、効果が弱くなる可能性があります。就寝後に起きて作業などを行う必要があるときは飲まないでください。3.昼間の強い眠気、めまいなどが現れることがあるので、高いところに登ったり、自転車などに乗ったりする際は注意しましょう。普段と違う様子が認められた場合は医師・薬剤師に相談してください。4.良い睡眠を取るために、毎日できるだけ同じ時間に就寝するなど、規則正しく生活しましょう。眠りやすくするために、日中の活動量を高めることなども有効です。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて、内因性ホルモンと同一の化学構造式を持つメラトニンを有効成分とした入眠改善薬です。メラトニン受容体に作用する既存薬剤としてはラメルテオン(商品名:ロゼレム)がありますが、小児での安全性は確認されていません。本剤は、小児期の自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)などを含む神経発達症の患児に用いることができます。眠れないことによって、「こだわりが強い」「落ち着きがない」「不注意」などの発達特性が強まり、日常生活に支障を来たしている場合などが本剤の適応の典型例と考えられます。相互作用については、抗うつ薬のフルボキサミン(同:デプロメール、ルボックス)を併用すると、本剤の主要な代謝酵素であるCYP1A2やCYP2C19が阻害され、本剤の血中濃度が上昇する恐れがあるので併用禁忌となっています。服薬指導では、「朝、日の光を浴びる」「朝ごはんを食べる」「昼間はなるべく体を動かす」「夜は部屋を暗くして早く眠る」など、生活リズムの改善を指導しましょう。カフェインを含む飲料は、眠りを妨げるだけでなく、本剤の作用に影響する場合があるため、寝る前は飲まないようにする必要もあります。また、急に服薬を中止すると、昼間の問題行動や睡眠障害の悪化が生じることがあるため、症状が改善された場合も自己判断で中止せずに必ず相談するように伝えましょう。本剤の登場により、患者さんの睡眠と日常生活が改善されて、ご家族の負担軽減にもつながることが期待されます。参考1)PMDA 添付文書 メラトベル顆粒小児用0.2%

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「リリカ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第7回

第7回 「リリカ」の名称の由来は?販売名リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg 一般名(和名[命名法])プレガバリン(JAN)効能又は効果神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛用法及び用量神経障害性疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1 日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後 1 週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高用量は600mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。線維筋痛症に伴う疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増した後、300~450mgで維持する。なお、年齢、症状によ り適宜増減するが、1日最高用量は450mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2020年7月8日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年1月改訂(改訂第13版)医薬品インタビューフォーム「リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg」2)ファイザー:製品情報

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多発性硬化症治療に新しい治療薬シポニモド登場/ノバルティスファーマ

多発性硬化症は進行すると歩行障害と認知機能障害を起こす 多発性硬化症(以下「MS」という)は、中枢神経(脳・脊髄・視神経)のミエリンが破壊され軸索がむき出しになる「脱髄」と呼ばれる病変が多発し、視力障害、運動障害、感覚障害、言語障害など多様な症状があらわれる疾患。わが国のMS患者は、約1万5千人と推定され、年々増加している。発症のピークは20歳代で、女性に多いのが特徴。発症後に再発期と寛解期を繰り返す再発寛解型MS(以下「RRMS」という)として経過し、半数は次第に再発の有無にかかわらず病状が進行するSPMSに移行する。進行期に移行すると日常生活に影響をおよぼす不可逆的な身体的障害が徐々にみられ、主に歩行障害で車いす生活を余儀なくされる場合もある。また、認知機能障害が進み、社会生活に影響をもたらすこともある。多発性硬化症の進行を遅らせるシポニモド シポニモド(以下「本剤」という)は、S1P1およびS1P5受容体に選択的に結合するS1P受容体調整薬。シポニモドはS1P1受容体に作用することにより、リンパ球がリンパ節から移出することを防ぎ、その結果、それらのリンパ球が多発性硬化症患者の中枢神経系(以下「CNS」という)に移行することを防ぐことで本剤の抗炎症作用が発揮される。また、シポニモドはCNS内に移行し、CNS内の特定の細胞(オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)上のS1P5受容体と結合することで、ミエリン再形成の促進作用と神経保護作用が非臨床試験で示唆されている。 国際共同第III相臨床試験(EXPAND試験)では、1,645例のSPMS患者を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施。主要評価項目は、Expanded Disability Status Scale(EDSS)に基づく3ヵ月持続する障害進行(3m-CDP)が認められるまでの期間で、プラセボ群と比較し、シポニモド群では3m-CDPの発現リスクが21.2%有意に減少し(p=0.0134)、シポニモドが患者の障害進行を遅らせる効果が示された。また、3m-CDPが認められた患者の割合は、プラセボ群が31.7%に対し、シポニモド群では26.3%だった。また、年間再発率の負の二項回帰モデルによる推定値は、シポニモド群において、プラセボ群と比較して年間再発率が55.5%低下した(p<0.0001)。安全性について、本試験での主な副作用は、頭痛5.3%、高血圧4.5%、徐脈4.5%などが報告された。メーゼント錠の概要一般名:シポニモド フマル酸商品名:「メーゼント錠0.25mg」「メーゼント錠2mg」効能・効果:二次性進行型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制用法・用量:通常、成人にはシポニモドとして1日0.25mgから開始し、2日目に0.25mg、3日目に0.5mg、4日目に0.75mg、5日目に1.25mg、6日目に2mgを1日1回朝に経口投与し、7日目以降は維持用量である2mgを1日1回経口投与するが、患者の状態 により適宜減量する。製造販売承認日:2020年6月29日 同社では、「MSの進行期への移行というアンメットニーズを医療現場から拾い上げ、日本で初めてとなるSPMSの適応取得に挑戦した。この承認を通じ『医薬の未来を描く』という弊社のミッションを少しでも果たせることを願う」と意欲をにじませている。なお、薬価、発売日などは未定。

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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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第10回 救える未来があるならば高額薬でもいいじゃない-ゾルゲンスマは少子化対策の切り札だ

新型コロナウイルス感染症パンデミックに伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が行われたインパクトは絶大で、その間起きていた現象やニュースはやや吹き飛ばされた感がある。その一つが5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)で薬価収載が了承された脊髄性筋萎縮症治療薬・ゾルゲンスマ(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)の件である。1患者当たりの薬価は1億6,707万7,222円と薬価収載品としては初の億超えを記録。従来の最高薬価はCAR-T細胞療法・キムリアの投与1回当たり3,349万3,407円であり、その5倍超の薬剤が登場したことになる。もっともこの件は、既に2019年5月に米・FDAの承認が先行し、そこで日本円にして2億3,300万円の薬価がついていたために、「ああ、やっぱり」という程度の反応だった医療関係者も少なくないだろう。この薬価収載了承時の新聞各紙の見出しを並べると、次のようになる。ゾルゲンスマ、1回1.7億円 難病治療薬、保険対象に 厚労省(朝日新聞)超高額薬「ゾルゲンスマ」保険適用を了承 国内最高の1億6707万円(毎日新聞)難病治療薬「ゾルゲンスマ」薬価1億6700万円で保険適用(読売新聞)乳幼児難病薬1.6億円 最高額、保険適用へ 脊髄性筋萎縮症(産経新聞)医療保険ゆさぶる高額薬 1億6707万円、20日保険適用(日本経済新聞)メディアの側にいる身として、こういう見出しにならざるを得ないことは重々承知している。そして記事の中身については、医療保険財政への影響に関する言及の仕方で3つに分けられる。影響を懸念:産経新聞、日本経済新聞影響はなし:読売新聞言及はせず:朝日新聞、毎日新聞もっともこれらの記事中にもあるように、ゾルゲンスマの投与対象となる患者は年25人程度で、年間売上高は42億円の見込みであるため、前述の分類で厳格に採点するならば、後二者が○になる。脊髄性筋萎縮症、そしてゾルゲンスマとは?そもそも脊髄性筋萎縮症(SMA:spinal muscular atrophy)は、ざっくり言えば、運動神経細胞生存(SMN:survival motor neuron)遺伝子の欠失あるいは変異により筋力低下、筋萎縮、深部腱反射の減弱・消失を起こす遺伝性疾患だ。小児期に発症するI型(重症型、別名:ウェルドニッヒ・ホフマン病)、II型(中間型、別名:デュボビッツ病)、III型(軽症型、別名:クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人期に発症するIV型に分類される。発症時期が早期であればあるほど重症で、生後6ヵ月ごろまでに発症するⅠ型の場合、ミルクを飲むことすら困難で、支えなしに座ることすらできない。人工呼吸器を用いなければ、ほとんどの患者が1歳半までに死亡するという厳しい予後である。ゾルゲンスマは、アデノ随伴ウイルス(AAV:Adeno Associated Virus)にSMAの原因となるSMN遺伝子を組み込んだもの。これを1回注射することで正常な遺伝子を長期的に補い、症状を改善する。I型SMA患者15例を対象に行われた海外の第Ⅰ相試験・CL-101試験では、投与後24ヵ月のフォローアップ完了時点で全員が人工呼吸器なしで生存。支えなしで座るなど、運動機能も大幅に改善されたことがわかっている。まだまだ長期評価は必要だが、ある種の治癒に近い状態が得られる可能性も指摘されている。高額新薬への財政懸念と命を天秤に掛ける?こうした薬剤が世に出るようになった背景には、製薬業界の変化と技術革新がある。従来、製薬企業各社は生活習慣病領域など、メガマーケットを軸に創薬を行ってきたが、これらの領域では近年、創薬ターゲットが枯渇しつつある。その結果、1ヵ国での患者数は少ないものの、世界的に見れば一定の患者数があり、なおかつ高薬価になる難病・希少疾患に対する創薬が活発化してきた。これを「カネ亡者」と評する向きもあることは承知しているが、結果として患者への恩恵が増えていることからすれば、私個人はどうでもいいことと思っている。むしろそれ以上に、こうした高薬価の希少疾病治療薬が登場する度にむしずが走るのが「知ったかぶりの保険財政懸念派」である。世界最速の少子高齢化が進行する日本では、将来的に医療保険財政の逼迫は確実である。しかし、その陰で飲み忘れや自己中断による残薬の額が年間推定約500億円にものぼるとの試算を代表に、数々の無駄が指摘されている。国民皆保険を維持しながら持続的な社会保障制度を維持していくとするならば、少子高齢化のうち、「高齢化」については、医療とは無縁ではいられない高齢者での医療費適正化・低減化に取り組むのは当然と言えば当然で、そのために国や現場の医療従事者が必死に取り組んでいるのは百も承知している。しかし、少子高齢化のうち「少子化」については、どうにも決定打に欠ける政策ばかりだと常に感じている。今年5月29日に閣議決定された第4次の「少子化社会対策大綱」を見ても溜息が出る。要は働き方改革・IT化による「産めよ増やせよ」でしかない。だが妊娠・出産、さらにその後の育児は男女のパートナーシップの中での価値観に左右されるもので、単に労働時間や子育て関連給付の変更で何とかなるものではないことは明らかである。少子化対策の発想転換を一方、視点を変えて厚生労働省が発表する人口動態統計2018年版を見てみよう。年齢・死因別でみると、今回のSMAに代表されるような「先天奇形、変形及び染色体異常」により亡くなる未成年は758人いる。同じく、がんで380人、心疾患で139人の未成年が命を落とす。周産期にかかわる障害などで500人弱の0歳児の命が失われている。これらは統計上、各年齢で死因トップ10に挙げられているものを集計しただけで、そのほかにも医療の進化・充実次第で失われなくて済む若年者がいる。たぶんその数は10代までで数千人はいるだろうし、これを20代まで拡大するなら万単位になるだろう。「そんな数はたかだか知れている」という御仁もいるかもしれない。しかし、考えてみて欲しい。厚生労働省が2019年12月に発表した人口動態統計の年間推計によると、同年の日本人の国内出生数は86万4,000人である。今後この数は確実に減少していく。ならば、新規出生数の1%程度の若年者数千人の命を医療で救うことができるならばそれも十分意味のあることではないだろうか?そしてもし前述のような若年者が医療のおかげで一定レベルの日常生活を取り戻せるならば、彼らが将来働くことで経済を潤すかもしれないし、直接的にお金には換算できなくとも新たな価値を生む可能性だってある。またその介護などに時間を割かれていた家族も働くことができるようになるかもしれない。さらにはこうした若年者が家庭を持って子供を持つかもしれない。その意味で「少子高齢化」対策として、若年者を死なせない医療・創薬という視点があってもいいのではないかと常に思っている。どうにも大人の世界は引き算ばかりの夢のない世界になりがちだ。実は私は過去のテレビCMで今でも時々思い出すものがある。いつの時期だったか忘れたがNTTドコモのCMだ。CMでは手塚治虫原作のSF漫画「鉄腕アトム」の白黒テレビアニメ時代の映像が登場し、その手には携帯のようなものが握られている。鉄腕アトムのテーマソングをバックに流れたキャッチフレーズは次のようなものだった。「僕たちが夢見た未来がやってきた」これまで、難病で失われていった若年者にも生きていた時に夢見た未来があったはず。それを大人の銭感情だけで汚して良いものかと、ゾルゲンスマの薬価収載に際して思うのだ。今回のSMAについては患者家族による「脊髄性筋萎縮症家族の会」がある。このホームページの背景にはSMA患者の子供たちの写真がモザイクのように配され、その多くが人工呼吸器を装着している。ゾルゲンスマは適応が2歳未満となっているため、世界各地で承認を待ちわびながらも間に合わず、やむなく気管切開して人工呼吸器を装着したSMA患者も少なくないと聞く。私はこのホームページの背景が人工呼吸器なしで笑う子供たちで埋め尽くされ、したり顔で経済性を語っていた大人が黙りこくる未来がやってくることを今期待している。

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脊髄性筋萎縮症治療に新しい治療薬登場/ノバルティス ファーマ

 5月13日、中央社会保険医療協議会は、オンラインで総会を開催し、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品としてノバルティス ファーマ株式会社が3月19日に製造販売承認取得したオナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)の薬価につき1億6,707万7,222円とすることを了承した。薬価収載は5月20日に行われ、同日に発売された。 ゾルゲンスマは、SMAの根本原因である遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法で、1回の点滴静注で治療が完了する。SMAの概要とゾルゲンスマの特性 対象疾患となるSMAとは、脊髄前角細胞の変性・消失によって進行性に筋力低下と筋萎縮を呈する下位運動ニューロン病。常染色体劣性遺伝性の希少疾病であり、発症年齢と最高到達運動機能によってI~IV型の4タイプに分類される。とくにI型(乳児型)SMAは、重症かつ高頻度にみられ、0~6ヵ月で発症し、患児の90%以上が20ヵ月前に死亡または人工呼吸器による永続的な呼吸管理が必要な状態となる。そのほかII、IIIまたはIV型においても、病状の進行により歩行機能の喪失および筋力低下により、社会生活が困難となり、QOLを著しく低下させる。 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は、平成30年度末、全国で858人(うち0~9歳は30人)と報告され、本症は遺伝性疾患による乳幼児の主な死亡原因となっている。 ゾルゲンスマは、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品。静脈内に投与され、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補い、運動ニューロンでSMNタンパク質を発現させ、運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経および筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後および運動機能を改善することが期待されている。また、導入したSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞の核内にエピソームとして留まり、運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されている。ゾルゲンスマの概要一般名:オナセムノゲン アベパルボベク製品名:ゾルゲンスマ点滴静注効能・効果:脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。用法・用量:通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと。薬価:1億6,707万7,222円承認取得日:2020年3月19日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年5月20日主な患者数:年間の投与対象患者数は15~20人程度

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第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

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入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第50回

入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、不眠症治療薬「レンボレキサント(商品名:デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目のオレキシン受容体拮抗薬です。より自然に近い催眠作用によって、スムーズな入眠と睡眠維持、翌朝の覚醒改善が期待されています。<効能・効果>本剤は不眠症の適応で、2020年1月23日に承認されています。<用法・用量>通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与します。なお、患者の症状により1日1回10mgを超えない範囲で適宜増減できます。本剤とCYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)を併用する場合は、1日1回2.5mgが上限となっています。<安全性>不眠症患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤が投与された884例(日本人155例を含む)中249例(28.2%)に副作用が認められました。主な副作用は、傾眠95例(10.7%)、頭痛37例(4.2%)、倦怠感27例(3.1%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.本剤は、覚醒と睡眠リズムを調整することで寝つきをよくし、より正常な睡眠の維持を促します。2.このお薬は、食直後を避け、就寝直前に服用してください。入眠後、一時的に起床して活動する必要がある日には服用しないでください。3.眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下など、薬の影響が翌朝以降も続くことがありますので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください。4.不眠症の改善は、適度な運動を心掛けるなど、生活習慣を見直すことも大切です。起床時間と就寝時間を一定にし、睡眠リズムを整えましょう。<Shimo's eyes>不眠症治療の中心的薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬剤が長年使用されていますが、長期服用時の依存形成や薬物の不適切使用が問題となっています。近年では、より自然に近い睡眠・覚醒リズムを整える薬剤として、2010年にはメラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(同:ベルソムラ)が発売されました。本剤は、国内で2番目のオレキシン受容体拮抗薬で、オレキシン神経伝達に作用して過剰な覚醒状態を抑制するため、より自然な睡眠を促し、中途覚醒時間を短縮することが可能と考えられています。本剤の特徴として、年齢による用量の制限がなく、また調剤時の一包化が可能となっているため、高齢者にも比較的使用しやすい薬剤といえるでしょう。第III相試験においては、入眠と睡眠維持の両方の改善を示し、プラセボと比較して翌日のふらつきや記憶力においても問題となる悪化は認められず、日中機能の改善が確認され、6ヵ月投与した中止後の離脱症状は見られませんでした。なお、<用法・用量>に記載のとおり、相互作用については禁忌ではないものの、肝薬物代謝酵素CYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤と併用する場合には、本剤の投与量を1日1回2.5mgに制限する必要があります。また、中等度肝機能障害の患者に対しては、本剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、1日1回5mgが上限となっています。医薬品リスク管理計画書(RMP)における本剤の潜在的リスクとして、ナルコレプシー症状が挙げられています。副作用については、日中の過剰な眠気、睡眠時麻痺、入眠時幻覚がないかなど、細やかな聞き取りを心掛けましょう。参考1)PMDA デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg

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ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防に対する有効性

 実臨床における、せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性について、順天堂大学の八田 耕太郎氏らが、調査を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2019年12月17日号の報告。ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果が示唆された 本研究は、多施設共同プロスペクティブ観察研究である。コンサルテーションリエゾン精神科サービスでトレーニングを受けた精神科医により、2017年10月1日~2018年10月7日に実施した。対象は、急性疾患または待機手術により入院した65歳以上の、せん妄は認められていないがせん妄のリスクを有する患者(リスク患者)、および診察前夜に不眠症またはせん妄が認められた患者(せん妄患者)。対象患者に対し、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントが処方された。薬剤の処方は、各患者の裁量に委ねられた。主要アウトカムは、最初の7日間におけるDSM-Vに基づくせん妄の発症率とした。 せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性を調査した主な結果は以下のとおり。・リスク患者526例では、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントを使用した患者(15.7%)は、使用しなかった患者(24.0%)と比較し、リスク因子で制御後のせん妄発症率が有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.48、95%CI:0.29~0.80、p=0.005)。・せん妄患者422例でも、同様の結果であった(39.9% vs.66.3%、OR:0.36、95%CI:0.22~0.59、p<0.0001)。 著者らは「ラメルテオンとスボレキサントには、実臨床におけるせん妄予防効果が示唆された」としている。

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