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神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛へのプレガバリン、費用対効果は良好

 神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛(CLBP-NeP)の治療におけるプレガバリン(商品名:リリカ)の費用対効果について、東京大学大学院 薬学系研究科・薬学部 准教授の五十嵐 中氏らが、公的医療費支払者および社会の視点から分析した。日常的な臨床診療のデータと仮定を用いた結果、わが国においてCLBP-NePに対するプレガバリンによる治療は、費用対効果が良好であることが示されたという。ClinicoEconomics and Outcomes Research誌オンライン版2015年10月7 日号の掲載報告。 研究グループは、CLBP-NePに対するプレガバリンと通常治療の費用対効果を、増分費用対効果比(ICER)を用いて検討した。 効果はEQ-5D-5L調査より算出した質調整生存年(QALYs)で測定し、医療費および生産性損失を算出して、状態遷移モデル(軽度、中等度および重度疼痛の状態推移を表す)を用いた12ヵ月間のコホートシミュレーションを行った。疼痛重症度の分布は8週間の非介入研究から、また、各重症度に関する直接医療費を推計するための医療資源の消費は医師調査から得た。 1QALY獲得当たりのICERを算出するとともに、感度解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・直接医療費および入院費はいずれも、通常治療群と比較してプレガバリン群が低かった。・基本ケースにおいて、プレガバリンによる1QALY獲得当たりのICERは、公的医療費支払者の立場で約202万5,000円、社会の立場(生産性損失に関連した間接費を含む)で143万5,000円であった。・非介入研究から得られた術後疼痛スコア、最初の疼痛重症度レベルおよび現時点のEQ-5D-5Lスコアに関する代替値を使用した感度解析により、費用対効果解析の結果の頑健性が認められ、ICERsは基本ケースと類似していた。・費用対効果受容曲線を描出した結果、プレガバリンの費用対効果が良好となる確率は高かった(≧75%)。

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脊髄性筋萎縮症〔SBMA : Spinal and Bulbar Muscular Atrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義緩徐進行性の筋力低下・筋萎縮や球麻痺を示す成人発症の遺伝性運動ニューロン疾患である。単一遺伝子疾患であり、発症者には後述する原因遺伝子の異常を必ず認める。本疾患の病態にはテストステロンが深く関与しており、男性のみに発症する。国際名称はSpinal and Bulbar Muscular Atrophy(SBMA)であるが、報告者の名前からKennedy diseaseとも呼ばれる1)。わが国ではKennedy-Alter-Sung症候群と呼ばれることも多いが、本症は単一疾患であるため、症候群という表現は適切ではないとの意見もある。■ 疫学有病率は10万人あたり2人程度で、わが国の患者数は2,000~3,000人程度と推定されている。人種や地域による有病率の差は明らかではない。■ 病因X染色体上にあるアンドロゲン受容体(AR)遺伝子のCAG繰り返し配列の異常延長が原因である。正常では36以下の繰り返し数が、SBMA患者では38以上に延長している。このCAG繰り返し数が多いほど、早く発症する傾向が認められる。CAG繰り返しの異常延長の結果、構造異常を有する変異ARが生じる。この変異ARは男性ホルモン(テストステロン)依存性に下位運動ニューロンなどの核内に集積し、最終的には神経細胞死に至る。同様の遺伝子変異はハンチントン病や脊髄小脳変性症などの疾患でも認められ、CAGはグルタミンに翻訳されることから、これらの疾患はポリグルタミン病と総称される。SBMAでは他のポリグルタミン病とは異なり、世代を経るに従って発症が早くなる表現促進現象は軽度である。■ 症状1)神経症状初発症状として手指の振戦を自覚することが多く、しばしば筋力低下に先行する。四肢の筋力低下は30~60代で自覚され、下肢から始まることが多い。同じ時期に有痛性筋痙攣を認めることも多い。脳神経症状として代表的なものは、嚥下障害や構音障害などの球麻痺である。むせなどの嚥下障害の自覚がなくても、嚥下造影などで評価すると潜在的な嚥下障害を認めることが多い。喉頭痙攣による短時間の呼吸困難を自覚することもある。その他の脳神経症状として、顔面筋や舌の筋力低下・線維束性収縮を認める。線維束性収縮は安静時には軽度であるが、筋収縮時に著明となり、contraction fasciculationと呼ばれる。顔面や舌のほか、四肢近位部でも認められる。眼球運動障害は認めない。感覚系では下肢遠位部で振動覚の低下を認めることがある。腱反射は低下、消失し、Babinski徴候は一般に陰性である。小脳機能には異常を認めない。高次機能は保たれることが多いが、一部障害を認めるとした報告もある。2)随伴症状代表的な随伴症状として、女性化乳房を半数以上に認める。また、肝機能障害、耐糖能異常、高脂血症、高血圧症などをしばしば合併する。女性様皮膚変化、睾丸萎縮などを認めることもある。■ 分類とくに分類はされていない。同じ運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、球麻痺型など発症部位で分類することもあるが、SBMAでは一般的に行われていない。■ 予後四肢の筋力低下は緩徐に進行し、筋力低下の発症からおよそ15~20年の経過で、歩行に杖を必要としたり、車いすでの移動になったりすることが多い2)。進行に伴い球麻痺も高度となり、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染が死因の大半を占める。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省の神経変性疾患に関する調査研究班が作成した診断基準を表に示す。家族歴がない症例の場合、特徴的な症状から臨床的な診断は可能だが、特定疾患の申請には遺伝子検査が必要となる。血液検査では、血清CKが異常高値を示す。また、血清クレアチニンは異常低値となることが多い。随伴症状に伴い、血液検査でもALT(GOT)やAST(GPT)、グルコース、HbA1c、総コレステロールの上昇などがしばしば認められる。髄液検査は正常である。筋電図では高振幅電位、interferenceの減少など神経原性変化を認める。感覚神経伝導検査において、活動電位の低下や誘発不能がみられることが多い3)。SBMA患者の約10%においてBrugada型心電図異常を認める報告がある4)。特に、失神の既往歴や突然死の家族歴がある症例では、検出率を上げるため右側胸部誘導を一肋間上げて、心電図を測定することが推奨される。病理学的には、下位運動ニューロンである脊髄の前角細胞および脳幹の神経核の神経細胞が変性・脱落するとともに5)、残存する神経細胞には核内封入体を認める6)。CAG繰り返しの異常延長によって生じる変異ARが、この核内封入体の主要構成成分である。筋生検では、小角化線維や群集萎縮といった神経原性変化が主体であるが、中心核の存在など筋原性変化も認める。鑑別診断として、ALSや脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)の軽症型であるKugelberg-Welander病、多発性筋炎などがあげられる。とくに、進行性筋萎縮症(progressive muscular atrophy: PMA)と呼ばれる成人発症の下位運動ニューロン障害型の運動ニューロン疾患は、ALSよりも進行がやや遅いことがあり、SBMAとの鑑別が重要である。本症の臨床診断は、遺伝歴が明確で、本疾患に特徴的な身体所見を呈していれば比較的容易であるが、これらが不明瞭で鑑別診断が困難な症例では、遺伝子検査が有用である。現在、遺伝子検査は保険適用となっている。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)かつては男性ホルモンの補充療法や蛋白同化ステロイド投与、TRH療法などが試みられたこともあるが、これらの治療の有効性は確認されていない。現在のところ有効な治療法はなく、耐糖能異常や高脂血症などの合併症に対する対症療法が中心である。また、四肢の筋力低下に対する対症療法として、筋力維持のためのリハビリテーションを行うことも多い。球麻痺に対し、嚥下リハビリを行うこともある。これらのリハビリの具体的内容に関するエビデンスは確立されていない。重度の嚥下障害がある場合、胃瘻を造設するなどして経管栄養を導入する。呼吸障害が進行した症例では、NIPPVや気管切開を行ったうえでの人工呼吸管理が必要となるが、患者本人や家族に対するインフォームド・コンセントが重要となる。SBMAのモデルマウスを用いた研究によって、変異ARが下位運動ニューロンの核内に集積する病態が、男性ホルモン(テストステロン)依存性であることが解明された。テストステロンの分泌を抑制する目的でオスのSBMAモデルマウスに対して去勢術を施行したところ、核内に集積する変異ARの量は著しく減少し、運動障害などの神経症状が劇的に改善した。この治療効果は、黄体形成ホルモン刺激ホルモン(LHRH)アゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリンほか)の投与による薬剤的去勢でも再現された7)。リュープロレリン酢酸塩は前立腺がんなどの治療薬として、すでに保険適用となっている薬剤であるため、SBMA患者で薬剤の有効性と安全性を検討するフェーズII試験が行われ、さらにフェーズIII試験に相当する医師主導治験(JASMITT)が実施された。その結果、リュープロレリン酢酸塩がSBMAの病態を反映するバイオマーカーとして重要な陰嚢皮膚における変異ARの核内集積を抑制するとともに、血清CKも低下させることが判明した8)。また、有意差は認めなかったものの嚥下機能の改善を示唆する結果が得られたため、追加の治験も実施され、今後の承認申請を目指している。リュープロレリン酢酸塩とは作用機序は異なるものの、男性ホルモン抑制作用をもつ5α還元酵素阻害薬であるデュタステリド(同:アボルブ)の臨床応用を目指した第II相試験が、アメリカで実施された。この試験でも嚥下機能などで改善傾向が示されるなど、前述したリュープロレリン酢酸塩の治験に近似した結果が得られたが、これも承認には至っていない9)。4 今後の展望最近では、SBMA患者からもiPS細胞が樹立され10)、治療薬のスクリーニングやSBMAの病態解明に寄与することが期待されている。また、マイクロRNAや片頭痛の治療に用いられるナラトリプタンもSBMAモデルマウスの表現型を改善することが報告されており、今後の臨床応用が期待されているが、具体的な臨床試験の計画には至っていない。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究情報難病情報センター 球脊髄性筋萎縮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SBMAの会(患者とその家族向けのまとまった情報)1)Kennedy WR, et al. Neurology.1968;18:671-680.2)Atsuta N, et al. Brain.2006;129:1446-1455.3)Suzuki K, et al. Brain.2008;131:229-239.4)Araki A, et al. Neurology.2014;82:1813-1821.5)Sobue G, et al. Brain.1989;112:209-232.6)Adachi H, et al. Brain.2005;128:659-670.7)Katsuno M, et al. Nat Med.2003;9:768-773.8)Katsuno M, et al. Lancet Neurol.2010;9:875-884.9)Fernandez-Rhodes LE, et al. Lancet Neurol.2011;10:140-147.10)Nihei Y, et al. J Biol Chem.2013;288:8043-8052.公開履歴初回2013年04月25日更新2015年11月17日

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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多発性硬化症再発へのステロイド、経口が静注に非劣性/Lancet

 多発性硬化症の再発に対し、高用量メチルプレドニゾロンの経口投与は静注投与に対して非劣性であることが判明した。フランス・レンヌ大学病院のEmmanuelle Le Page氏らが、199例を対象に行った二重盲無作為化比較試験の結果、報告した。高用量メチルプレドニゾロンの静注投与は、多発性硬化症の再発治療として推奨されているが、経口投与に比べて利便性に乏しく高価なことが指摘されていた。検討の結果、安全性についても同等であった。Lancet誌オンライン版2015年6月26日号掲載の報告より。治療開始28日後の改善率を比較 研究グループは、2008年1月29日~2013年6月14日にかけて、フランス13ヵ所の医療機関を通じて、多発性硬化症の再発から15日以内の18~55歳の患者199例を対象に試験を行い、高用量メチルプレドニゾロン経口投与の静注投与に対する非劣性を検証した。被験者は、Kurtzke機能評価尺度スコアの1項目以上で、1ポイント以上の増加が認められた。 検討では被験者を無作為に2群に分け、メチルプレドニゾロン1,000mg/日の3日間投与を、一方の群には経口投与(100例)、もう一方の群には静注投与(99例)にて行った。 主要エンドポイントは、28日時点の評価でコルチコステロイドによる再治療の必要性がなく改善が認められた人(Kurtzke機能評価尺度スコアの最も影響のあった部位で、1ポイント以上減少)の割合とした。 非劣性のマージンは15%と規定されていた。主要エンドポイント達成率は同等、経口群で不眠発生が高率 被験者の再発から治療開始までの平均期間は、経口群が7.0日、静注群が7.4日だった。 主要エンドポイントを達成した人の割合は、経口群が81%(82例中66例)、静注群が80%(90例中72例)で、経口投与の非劣性が示された(絶対差:0.5%、90%信頼区間:-9.5~10.4)。 有害事象発生率は、不眠症発生率が静注群で64%に対し経口群で77%と高率だったほかは、両群で同程度だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「経口投与は静注投与に対して非劣性であり、安全性も類似していた」とまとめつつ、「治療へのアクセス、患者の快適性そしてコストは重要である。しかし、常に臨床医は再発の徴候について適切に判断する必要がある」と慎重を期すよう指摘している。

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メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか

 統合失調症や双極性障害患者における長期のベンゾジアゼピン使用について、徐放性メラトニンを使用することで容易な離脱を促すかどうか、デンマーク・コペンハーゲン大学のLone Baandrup氏らは検討した。The world journal of biological psychiatry誌オンライン版2015年6月18日号の報告。 24週間のランダム化プラセボ対照並行優越性試験。対象者を、徐放性メラトニン群(2mg/日)とプラセボ群に無作為に振り分け、通常のベンゾジアゼピン用量から連続的に漸減を行った。主要転帰は、24週後のベンゾジアゼピン1日投与量とした。副次的転帰は、ベンゾジアゼピン投与量の経時的パターン、中止率、離脱症状とした。 主な結果は以下のとおり。・86例(21~74歳)がエントリーされ、徐放性メラトニン群42例、プラセボ群44例に無作為に振り分けた。・24週時の平均ベンゾジアゼピン投与量は、両群間で有意な差が認められなかった(徐放性メラトニン群:8.01mg、プラセボ群:5.72mg[ジアゼパム換算]、平均差:-2.29、95%CI:-5.78~1.21、p=0.20)。・ベンゾジアゼピン中止率は、徐放性メラトニン群38.1%(16/42例)、プラセボ群47.7%(21/44例)であった(OR:0.64、95%CI:0.26~1.56、p=0.32)。・徐放性メラトニンは、ベンゾジアゼピンの離脱症状に影響を及ぼさなかった。 著者らは「ベンゾジアゼピン投与量は、漸減24週間後において、両群ともに比較的低い値であった。本研究では、徐放性メラトニンにより、ベンゾジアゼピン中止を容易にすることはできなかった」としている。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン使用は何をもたらすのか 統合失調症治療にベンゾ併用は有用なのか ベンゾジアゼピン処方、長時間型は大幅に減少  担当者へのご意見箱はこちら

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第21回

第21回:全般性不安障害とパニック障害のアプローチ監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 プライマリケアの場において、原因がはっきりしないさまざまな不安により日常生活に支障を生じている患者を診療する経験があるのではないかと思います。またとくに若い患者たちの中でみることの多いパニック障害もcommonな疾患の1つと思われ、その数は年々増加しているともいわれています。厚労省の調査1)では、何らかの不安障害を有するのは生涯有病率が9.2%であるとされ、全般性不安障害1.8%、パニック障害0.8%という内訳となっています。医療機関を受診する患者ではさらにこの割合が高くなっていると考えられ、臨床では避けて通れない問題となっています。全般性不安障害とパニック障害の正しい評価・アプローチを知ることで患者の不要な受診を減らすことができ、QOLを上げることにつながっていくと考えられます。 タイトル:成人における全般性不安障害とパニック発作の診断、マネジメントDiagnosis and management of generalized anxiety disorder and panic disorder in adults.以下、American Family Physician 2015年5月1日号2)より1. 典型的な病歴と診断基準全般性不安障害(generalized anxiety disorder:GAD)典型的には日常や日々の状況について過度な不安を示し、しばしば睡眠障害や落ち着かなさ、筋緊張、消化器症状、慢性頭痛のような身体症状と関係している。女性であること、未婚、低学歴、不健康であること、生活の中のストレスの存在がリスクと考えられる。発症の年齢の中央値は30歳である。「GAD-7 スコア」は診断ツールと重症度評価としては有用であり、スコアが10点以上の場合では診断における感度・特異度は高い。GAD-7スコアが高いほど、より機能障害と関連してくる。パニック障害(panic disorder:PD)明らかな誘因なく出現する、一時的な予期せぬパニック発作が特徴的である。急激で(典型的には約10分以内でピークに達する)猛烈な恐怖が起こり、少なくともDSM-5の診断基準における4つの身体的・精神的症状を伴うものと定義され、発作を避けるために不適合な方法で行動を変えていくことも診断基準となっている。パニック発作に随伴する最もよくみられる身体症状としては動悸がある。予期せぬ発作が診断の要項であるが、多くのPD患者は既知の誘因への反応が表れることで、パニック発作を予期する。鑑別診断と合併症内科的鑑別:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、不整脈や閉塞性肺疾患などの心肺疾患、側頭葉てんかんやTIA発作などの神経疾患その他の精神疾患:その他の不安障害、大うつ病性障害、双極性障害物質・薬剤:カフェイン、β2刺激薬、甲状腺ホルモン、鼻粘膜充血除去薬、薬物の離脱作用GADとPDは総じて気分障害、不安障害、または薬物使用などの少なくとも1つの他の精神的疾患を合併している。2. 治療患者教育・指導配慮のある深い傾聴が重要であり、患者教育自体がとくにPDにおいて不安症状を軽減する。また生活の中で症状増悪の誘因となりうるもの(カフェイン、アルコール、ニコチン、食事での誘因、ストレス)を除去し、睡眠の量・質を改善させ、身体的活動を促す。身体的活動は最大心拍数の60%~90%の運動を20分間、週に3回行うことやヨガが推奨される。薬物療法第1選択薬:GADとPDに対してSSRIは一般的に初期治療として考慮される。三環系抗うつ薬(TCA)もGADとPDの両者に対して有効である。PDの治療において、TCAはSSRIと同等の効果を発揮するが、TCAについては副作用(とくに心筋梗塞後や不整脈の既往の患者には致死性不整脈のリスクとなる)に注意を要する。デュロキセチン(商品名:サインバルタ)はGADに対してのみ効果が認められている。buspironeのようなazapirone系の薬剤はGADに対してはプラセボよりも効果があるが、PDには効果がない。bupropionはある患者には不安を惹起するかもしれないとするエビデンスがあり、うつ病の合併や季節性情動障害、禁煙の治療に用いるならば、注意深くモニターしなければならない。使用する薬剤の容量は漸増していかなければならない。通常、薬剤が作用するには時間がかかるため、最大用量に達するまでは少なくとも4週間は投与を続ける。症状改善がみられれば、12ヵ月間は使用すべきである。ベンゾジアゼピン系薬剤は不安の軽減には効果的だが、用量依存性に耐性や鎮静、混乱や死亡率と相関する。抗うつ薬と抗不安薬の併用は迅速に症状から回復してくれる可能性はあるが、長期的な予後は改善しない。高い依存性のリスクと副作用によってベンゾジアゼピンの使用が困難となっている。NICEガイドライン3)では危機的な症状がある間のみ短期間に限り使用を推奨している。中間型から長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤はより乱用の可能性やリバウンドのリスクは少ない。第2選択薬:GADに対しての第2選択薬として、プレガバリン(商品名:リリカ)とクエチアピン(同:セロクエル)が挙げられるが、PDに対してはその効果が評価されていない。GADに対してプレガバリンはプラセボよりは効果が認められるが、ロラゼパム(同:ワイパックス)と同等の効果は示さない。クエチアピンはGADに対しては効果があるが、体重増加や糖尿病、脂質異常症を含む副作用に注意を要する。ヒドロキシジン(同:アタラックス)はGADの第2選択薬として考慮されるが、PDに対しては効果が低い。作用発現が早いため、速やかな症状改善が得られ、ベンゾジアゼピンが禁忌(薬物乱用の既往のある患者)のときに使用される。精神療法とリラクゼーション療法精神療法は認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)や応用リラクゼーションのような多くの異なったアプローチがある。精神療法はGADとPDへの薬物療法と同等の効果があり、確立されたCBTの介入はプライマリケアの場では一貫した効果が立証されている。精神療法は効果を判定するには毎週少なくとも8週間は続けるべきである。一連の治療後に、リバウンド症状を認めるのは、精神療法のほうが薬物療法よりも頻度は低い。各人に合わせた治療が必要であり、薬物療法と精神療法を組み合わせることで2年間の再発率が減少する。3. 精神科医への紹介と予防GADとPD患者に対して治療に反応が乏しいとき、非典型的な病歴のもの、重大な精神科的疾患の併発が考慮される場合に、精神科医への紹介が適用となる。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 川上憲人ほか. こころの健康についての疫学調査に関する研究(平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業). こころの健康についての疫学調査に関する研究,総合研究報告書). 2007. 2) Locke AB, et al. Am Fam Physician. 2015;91:617-624. 3) NICEガイドライン. イギリス国立医療技術評価機構(The National Institute for Health and Care Excellence:NICE).

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慢性腰痛は神経障害性疼痛の有無で治療薬を使い分け

 慢性腰痛の治療にプレガバリン(商品名:リリカ)やオピオイドが用いられることがあるが、これまで両者の有効性を比較した研究はない。独立行政法人 国立長寿医療研究センター 整形外科脊椎外科医長の酒井 義人氏らは高齢患者において検討し、全体の有効率に差はないものの神経障害性疼痛や下肢症状の有無で、効果に違いがみられることを示した。著者は、「鎮痛か日常生活動作(ADL)の改善かなど、治療の主たる目的を明確にしておくことが大切」とまとめている。European Spine Journal誌オンライン版2015年2月15日号の掲載報告。 対象は65歳以上の慢性腰痛で治療を継続している患者65例で、プレガバリン投与期とオピオイド投与期を実施し、いずれも4週間投与した後、疼痛およびADLについて視覚アナログスケール(VAS)、日本整形外科学会腰痛治療判定基準(JOAスコア)、ローランド・モリス障害質問票(RDQ)、簡易版マックギル疼痛質問票(SF-MPQ)、EuroQOL-5D、高齢者用うつ尺度(GDS)を用い評価した。また、神経障害性疼痛スクリーニング質問票も神経障害性疼痛の評価に用いた。 主な結果は以下のとおり。・有効率は、プレガバリン73.3%、オピオイド83.3%で、有意差は認められなかった。・効果発現までの平均日数は、プレガバリン10.2日、オピオイド6.1日で、有意差はなかった。・プレガバリンは神経障害性疼痛、オピオイドは非神経障害性疼痛を伴う腰痛患者で、より有効であった。・ADLの改善は、プレガバリンよりオピオイドで大きかった。・プレガバリンは下肢症状を有する腰痛患者、オピオイドは下肢症状を有さない腰痛患者で、より効果的であった。

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4価HPVワクチン接種、多発性硬化症と関連なし/JAMA

 4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種は、多発性硬化症などの中枢神経系の脱髄疾患の発症とは関連がないことが、デンマーク・Statens Serum研究所のNikolai Madrid Scheller氏らの調査で示された。2006年に4価、その後2価ワクチンが登場して以降、HPVワクチンは世界で1億7,500万回以上接種されているが、多発性硬化症のほか視神経炎、横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎、視神経脊髄炎などの脱髄疾患との関連を示唆する症例が報告されている。ワクチンが免疫疾患を誘発する可能性のある機序として、分子相同性や自己反応性T細胞活性化が指摘されているが、HPVワクチンが多発性硬化症のリスクを真に増大させるか否かは不明であった。JAMA誌2015年1月6日号掲載の報告。2国の10~44歳の全女性のデータを解析 研究グループは、2006~2013年のデンマークおよびスウェーデンの10~44歳の全女性における4価HPVワクチンの接種状況および多発性硬化症などの中枢神経系の脱髄疾患の発症に関するデータを用い、これらの関連を検証した(Swedish Foundation for Strategic Research、Novo Nordisk Foundation、Danish Medical Research Council funded the studyの助成による)。 ポアソン回帰モデルを用いて、ワクチン接種者・非接種者に関するコホート解析および自己対照ケースシリーズ(self-controlled case-series)解析を行った。接種後2年(730日)のリスク期間におけるイベント発生率を比較し、発症の率比を推算した。 398万3,824人(デンマーク:156万5,964人、スウェーデン:241万7,860人)の女性が解析の対象となった。そのうち78万9,082人が合計192万7,581回の4価HPVワクチン接種を受けた。接種回数は、1回が78万9,082人、2回が67万687人、3回が46万7,812人であった。2つの解析はともに有意差なし 全体のフォローアップ期間は2,133万2,622人年であった。接種時の平均年齢は17.3歳であり、デンマークの18.5歳に比べスウェーデンは15.3歳と約3歳年少だった。フォローアップ期間中に多発性硬化症が4,322例、その他の脱髄疾患は3,300例に認められ、そのうち2年のリスク期間内の発症はそれぞれ73例、90例であった。 コホート解析では、多発性硬化症、その他の脱髄疾患の双方で、4価HPVワクチン接種に関連するリスクの増加は認めなかった。すなわち、多発性硬化症の粗発症率は、ワクチン接種群が10万人年当たり6.12件(95%信頼区間[CI]:4.86~7.69)、非接種群は21.54件(95%CI:20.90~22.20)であり、補正後の率比は0.90(95%CI:0.70~1.15)と有意な差はなかった。また、その他の脱髄疾患の粗発症率は、それぞれ7.54件(95%CI:6.13~9.27)、16.14件(95%CI:15.58~16.71件)、補正率比は1.00(95%CI:0.80~1.26)であり、やはり有意差は認めなかった。 同様に、自己対照ケースシリーズ解析による多発性硬化症の発症率は1.05(95%CI:0.79~1.38)、その他の脱髄疾患の発症率は1.14(95%CI:0.88~1.47)であり、いずれも有意な差はみられなかった。また、年齢別(10~29歳、30~44歳)、国別、リスク期間別(0~179日、180~364日、365~729日、730日以降)の解析でも、有意な差は認めなかった。 著者は、「4価HPVワクチンは多発性硬化症や他の脱髄疾患の発症とは関連がない。本試験の知見はこれらの因果関係への懸念を支持しない」と結論している。

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疼痛を伴うMSにデュロキセチンが有効

 米国・コロラド大学ヘルスサイエンスセンターのTimothy L. Vollmer氏らは、神経障害性疼痛をしばしば有する多発性硬化症(NP-MS)患者における疼痛処置としてのデュロキセチン(商品名:サインバルタ)の有効性と忍容性を評価する無作為化二重盲検試験を行った。その結果、NP-MS患者に対してデュロキセチンは有効であることを報告した。安全性プロファイルも他の患者集団で報告されたものと一致していた。NP-MS患者へのデュロキセチン治療は適応承認されていない。Pain Practice誌2014年11月号の掲載報告。 検討は、239例のNP-MS患者を対象に行われた。まず、被験者を、デュロキセチン60mg/日投与群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付け、1日1回投与の6週間にわたる急性期治療フェーズの検討を行った(デュロキセチン投与群は30mgを1週間、60mgを5週間投与された)。その後、12週間の非盲検延長フェーズ(デュロキセチン30~120mg/日投与)の検討を行った。 被験者は、無作為化以前に、MSを有して1年以上、1日の平均疼痛(API)評価スコアが4以上の日が7日間のうち4日以上あった。なお患者の毎日のAPI評価は、電子日記において11ポイント制(0[疼痛なし]~10[最大級の痛み])で行われた。 主要有効性評価は週ごとのAPI評価の変化で、ミックスモデル反復測定分析により分析が行われた。治療完了や治療中断理由、治療関連有害事象の発生は、Fisher's 正確確率検定で比較した。 主な結果は以下のとおり。・デュロキセチン群は118例、プラセボ群は121例であった。・6週時点で、デュロキセチン群の患者はプラセボ群の患者と比較して、API評価における統計的改善が有意に大きかった(-1.83 vs. -1.07、p=0.001)。・治療完了について、群間で有意な差は認められなかった。・有害事象による中断は、デュロキセチン群がプラセボ群よりも統計的に有意に多かった(13.6% vs. 4.1%、p=0.012)。・食欲減退の報告頻度が、デュロキセチン治療患者で有意に高かった(5.9% vs. 0%、p=0.007)。

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原発性側索硬化症〔PLS : primary lateral sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義明らかな特定された原因がなく、緩徐に神経細胞が変性脱落していく神経変性疾患のうち、運動ニューロン特異的に障害が起こる疾患群を運動ニューロン病(motor neuron disease:MND)と呼ぶ。上位運動ニューロン(大脳皮質運動野→脊髄)および下位運動ニューロン(脊髄前角細胞→筋肉)の両方が選択的に侵される筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)がよく知られているが、経過中症状および所見が一貫して上位運動ニューロンのみの障害にとどまるものを原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis:PLS)と呼ぶ。病初期にはALSとの鑑別が問題となるが、多くの例で進行が遅く呼吸筋麻痺もまれとされている。病理学的にはALSに特徴的な封入体などを欠き、背景病理上もALSとは別疾患と考えられていた一方で、一部の遺伝性痙性対麻痺などの他の錐体路変性を起こす疾患との鑑別が必要となる。近年、ALSの自然歴や臨床病態が明らかになるにつれ、長期生存例などのさまざまな臨床経過を取るALSの存在がまれでないことがわかり、上位運動ニューロン障害が強いALS (UMN-dominant ALS) との鑑別がますます重要になってきた。常染色体劣性遺伝性家族性筋萎縮性側索硬化症のALS2の原因遺伝子alsin が、若年型 PLS、家族性痙性対麻痺の原因遺伝子であると報告されたが、すべてのPLSがalsin変異によるものではなく、多くの孤発症例の原因は依然不明である。■ 疫学きわめてまれであり世界的には運動ニューロン病全体の1~3%と考えられている。2006年の厚生労働省のPLSの全国調査結果では患者数は144 人、有病率は 10万人当たり 0.1人、ALSの2%であった。■ 病因大多数のPLSの病因は同定されていない。若年型PLSの一部や乳児上行性家族性痙性対麻痺(IAHSP)の症例が、成人発症ALSの1型であるALS2の原因遺伝子alsinの変異を持つことがわかっている。若年型PLSは2歳中に上位運動ニューロン徴候が出現し、歩けなくなる疾患であり、IAHSPは2歳までに下肢の痙性が出現し、7歳で上肢に広がり10代には車いすの使用を余儀なくされる疾患で、いずれも成人期に症状が出現する孤発性のPLSとは病状が異なっている。■ 症状運動ニューロン病一般でみられる、感覚障害などを伴わずに緩徐に進行する運動障害が主症状である。通常50歳以降に発症し、下肢に始まる痙性対麻痺を示す例が多く、ALSと比較して球麻痺型が少ないとされるが、仮性球麻痺や上肢発症の例も報告されている。遺伝性痙性対麻痺に類似した臨床像で下肢の突っ張りと筋力低下により、階段昇降などが初めに障害されることが多い。進行すると上肢の巧緻性低下や構音障害、強制泣き/笑いなどの感情失禁がみられることもある。2006年の厚生労働省のPLSの全国調査結果では、1人で歩くことができる患者は約15%で、約20%は支持歩行、約30%は自力歩行不可能であった。また、経過を通して下位運動ニューロン障害を示唆する高度な筋萎縮や線維束性収縮がみられにくい。■ 分類Gordonらは剖検で確定したPLS、clinically pure PLSに加え、発症後4年未満で上位運動ニューロン障害が優位であるが、診察または筋電図でわずかな脱神経所見を呈し、かつALSの診断基準は満たさないものを“UMN-dominant ALS”としてclinically PLSと厳密に区別し、予後を検討したところ、ALSとPLSの中間であったと報告している。また、上位運動ニューロン障害に加えパーキンソニズム、認知機能障害、感覚障害をPLS plusとして別に分類している。■ 予後経過はALSと比較してきわめて緩徐で、進行しても呼吸筋麻痺を来す可能性は、診断が真のPLSであれば高くないとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)PLSという病態が、ALSと病理学的に異なる疾患として真に存在するかは依然として議論があるところである。TDP-43病理を伴わない臨床的PLSの報告例も存在する一方で、典型的な封入体などは伴わないものの、上位運動ニューロン優位にTDP-43病理が確認される報告例も増加している。また、FTLD-MNDとして捉えたとき病理学的に錐体路が障害されている症例はまれではない。歴史的には1992年に“Brain”誌に報告されたPringleらの診断基準が用いられることが多いが、報告例の一部が遺伝性痙性対麻痺などの他疾患とその後診断されたこと、3年以内に下位運動ニューロン症状が出現しないことの記載があるものの、Gordonらの検討では3~4年に筋電図での脱神経所見が現れる症例が多かったことなどから、必ずしも特異性が高い診断基準とはいえない。現在のところclinically PLSはheterogeneousな疾患概念であるが、典型的ALSに比べ予後がよいことから、臨床的にALSと鑑別することが重要であるとの立場を取ることが妥当と考えられる。表に示した厚生労働省の診断基準は、Pringleらの基準を基にしたものであり、上記の事実を理解したうえで使用することが望ましい。表 原発性側索硬化症 診断基準(厚生労働省)*「確実例」および「ほぼ確実例」を対象とするA:臨床像1緩徐に発症する痙性対麻痺。通常は下肢発症だが、偽性球麻痺や上肢発症もある2成人発症。通常は40歳代以降3孤発性(注:血族婚のある症例は孤発例であっても原発性側索硬化症には含めない)4緩徐進行性の経過53年以上の経過を有する6神経症候はほぼ左右対称性で、錐体路(皮質脊髄路と皮質延髄路)の障害で生じる症候(痙縮、腱反射亢進、バビンスキー徴候、痙性構音障害=偽性球麻痺)のみを呈するB:検査所見(他疾患の除外)1血清生化学(含ビタミンB12)が正常2血清梅毒反応と抗HTLV-1抗体陰性(流行地域では抗ボレリア・ブルグドルフェリ抗体(ライム病)も陰性であること)3髄液所見が正常4針筋電図で脱神経所見がないか、少数の筋で筋線維収縮やinsertional activityが時にみられる程度であること5MRIで頸椎と大後頭孔領域で脊髄の圧迫性病変がみられない6MRIで脳脊髄の高信号病変がみられないC:原発性側索硬化症を示唆する他の所見1膀胱機能が保たれている2末梢神経の複合筋活動電位が正常で、かつ中枢運動伝導時間(CMCT)が測れないか高度に延長している3MRIで中心前回に限局した萎縮がみられる4PETで中心溝近傍でのブドウ糖消費が減少しているD:次の疾患が否定できる(鑑別すべき疾患)筋萎縮性側索硬化症家族性痙性対麻痺脊髄腫瘍HAM多発性硬化症連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏性脊髄障害)その他(アルコール性ミエロパチー、肝性ミエロパチー、副腎白質ジストロフィー、fronto-temporal dementia with Parkinsonism linked to chromosome 17 (FTDP-17)、Gerstmann-Straussler-Scheinker症候群、遺伝性成人発症アレキサンダー病など)■診断・臨床的にほぼ確実例(probable):A:臨床像の1~6と、B:検査所見の1~6のすべてを満たし、Dの疾患が否定できること・確実例(definite):臨床的に「ほぼ確実例」の条件を満たし、かつ脳の病理学的検査で、中心前回にほぼ限局した変性を示すこと(Betz巨細胞などの中心前回錐体細胞の高度脱落を呈し、下位運動ニューロンに変性を認めない)臨床的には一般的なALSと同様に他の原因によらず、他の系統の異常のない神経原性の進行性筋力低下があり、(1)障害肢には上位運動ニューロン障害のみがみられ、(2)四肢、球筋、頸部、胸部、腰部の傍脊柱筋に、少なくとも発症後4年経っても診察および針筋電図検査で活動性神経原性変化がみられないことを証明することが必要である。わずかな筋電図異常の存在を認めるかどうかは意見が分かれている。また、鑑別診断として頸椎症性脊髄症、多発性硬化症、腫瘍性疾患などを除外するために、頭部および脊髄のMRIは必須である。髄液検査、血清ビタミンB12、血清梅毒反応、HIV抗体価、HTLV-1抗体価、ライム病抗体価などに異常がないことを確認する。また、傍腫瘍神経症候群による痙性対麻痺除外のために悪性腫瘍検索も推奨されている。画像診断技術の進歩により、頭部MRIのvoxel based morphometryでの中心前回特異的な萎縮、FDG-PETでの運動皮質の糖代謝低下、diffusion tensor imagingでの皮質脊髄路などの障害など、次々と特徴的な所見が報告されてきており、診断の補助としても有用である。また、PLSは基本的に孤発性疾患とされているが、家族歴が疑われる場合は、遺伝性痙性対麻痺を除外するために遺伝子診断を考慮すべきである。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)疾患の進行を抑制する治療法は開発されておらず、個々の症状に対する対症療法が主体となる。ALSと比べ下肢の痙縮が主体であるため、歩行障害に対してバクロフェン(商品名:リオレサール、ギャバロン)、チザニジン(同:テルネリンなど)、ダントロレン(同:ダントリウム)などが考慮されるが、筋力低下による膝折れや転倒に注意する必要がある。経過が長く高度な痙縮がADLを阻害している例では、ITB療法(バクロフェン髄注療法)も考慮される。頸部や体幹筋の痙縮に伴う疼痛にはNSAIDsなどの鎮痛剤やジアゼパム(同:セルシンなど)やクロナゼパム(同:ランドセン、リボトリール)などのベンゾジアゼピン系薬剤も使用される。また、痙縮に対して理学療法による筋ストレッチおよび関節可動域訓練が痙縮に伴う疼痛の予防や関節拘縮の抑制に有用であり、専門的な指導による毎日の家庭での訓練が有用である。2015(平成27)年より特定疾患に指定されるため、医療サービスには公的な援助が受けられるようになる。疾患の末期に嚥下障害や呼吸筋麻痺が起こった場合は、ALSと同様に胃瘻造設や人工呼吸器の使用も考慮すべきだが、PLSからALSへの進展を疑うことも重要となる。 患者教育としては、ALSと異なり経過が長いことと、ALSに進展しうることを考え、定期的な経過観察が必要であることを理解させる必要がある。4 今後の展望現在、本疾患に特異的な治験は、検索する限りされていない。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Pringle CE, et al. Brain. 1992; 115: 495-520.2)Gordon PH, et al. Neurology. 2006; 66: 647-653.3)Panzeri C, et al. Brain. 2006; 129: 1710-1719.4)Iwata NK, et al. Brain. 2011; 134: 2642-2655.5)Kosaka T, et al. Neuropathology. 2012; 32: 373-384.

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女性の痛みを理解する

 2014年10月28日、ファイザー株式会社、エーザイ株式会社 プレスセミナー「性差と痛み」にて、順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 井関 雅子氏が「女性に多い痛みとその最新治療動向」について紹介した。女性は長年にわたり痛みの問題を抱える 日本の平均寿命は世界的にみても長く、女性は世界第一位である。しかし、平均寿命と健康寿命の差をみると、女性は12.4年と、男性(男性は9.02年)以上に長い。 一方、日本の慢性疼痛は26.4%、2,700万人と多い。とくに女性は月経痛をはじめリウマチ、変形性関節症など生涯を通して、さまざまな疼痛疾患を経験する。上記の健康寿命との差からみても、女性は長期間痛みの問題を抱えて生きていることになる。知られていない女性の痛み 女性に多い痛みとして、井関氏は頭痛、手根管症候群、乳房切除後疼痛症候群、線維筋痛症を紹介した。 頭痛、なかでも女性の片頭痛の有病率は12.9%と高い。男性(3.6%)の3.6倍である。それにも関わらず、医療機関未受診の女性は69.4%と多い。 手根管症候群は何らかの原因で正中神経が圧迫されることで発症する。患者は圧倒的に女性に多く、欧州の統計では男性の3~10倍である。初期には痛みやだるさなどを訴えるが、進行すると筋力の低下から筋委縮にいたることもあり放置は危険である。 乳房切除後疼痛症候群では、手術側の乳房や腋下、上腕内側に神経障害性疼痛特有のアロディニア(異痛症)*が見られる。デンマークの調査では、乳癌手術後5~7年後に痛みを訴えた患者は37%。本邦でも術後8年以上経過した患者の21%が乳房切除後疼痛症候群と思われる慢性疼痛を訴えている。しかしながら、乳房切除後疼痛症候群に対する医師の認識は低いという。神経障害性疼痛薬での治療が可能であるにも関わらず、患者の65%が治療を諦めているという実態を紹介した。 井関氏は、女性は生涯を通し痛みに悩む機会が多いこと、痛みには種類があり種類に応じた治療法があるため早期の専門家の診断および適切な治療が求められること、また、長引く痛みは完治しなくても改善を目指す治療を行うことを強調した。*アロディニア:通常では疼痛をもたらさない微小刺激が、すべて疼痛としてとても痛く認識される感覚異常

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認知症の不眠にはメラトニンが有用

 認知症で不眠症を有する人には標準治療に徐放性メラトニン(prolonged-release melatonin:PRM)を追加投与することで、認知機能と睡眠維持にポジティブな効果をもたらすことが示された。英国・CPS Research社のAlan G Wade氏らが無作為化プラセボ対照試験の結果、報告した。最近の報告で、眠りが浅い熟眠障害とアルツハイマー病(AD)との関連が示されていた。研究グループは、ADの前臨床期においてすでに内因性メラトニン値が低下していることから、メラトニンの補充がADに有益となるのか、またその効果が睡眠障害に影響を及ぼすのかを調べた。Clinical Interventions in Aging誌オンライン版2014年6月18日号の掲載報告。 認知機能と睡眠についての標準治療へのPRM(2mg)の上乗せ効果を検討した試験は、6ヵ月間にわたって多施設共同二重盲検並行群比較にて行われた。被験者はプラセボ投与を2週間受けた後、PRMを毎夜2mgまたはプラセボを受ける群に割り付けられ24週間投与された。その後プラセボを2週間投与された。認知機能の評価は、AD評価尺度・認知機能検査(AD Assessment Scale-Cognition:ADAS-Cog)、手段的日常生活動作(IADL)、Mini-Mental State Examination(MMSE)にて、睡眠の評価についてはピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、睡眠日記により行われた。また安全性についても評価した。 主な結果は、以下のとおり。・被験者は80例であった。男性50.7%、平均年齢75.3歳(範囲:52~85歳)、軽度~中等度ADの診断を受けており、不眠症あり・なし、標準治療(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬単独またはメマンチンを併用)を受けていた。・結果、PRM 24週治療群は、IADL(p=0.004)、MMSE(p=0.044)の評価において、プラセボ群と比べて認知機能の有意な改善が認められた。平均ADAS-Cogについては両群に差はみられなかった。・PSQIの4項目で評価した睡眠効率についても、PRM群が良好であることが示された(p=0.017)。・睡眠障害(PSQI≧6)を有する患者の分析では、PRM治療はプラセボと比べて、有意かつ臨床的に意義のある効果に結び付くことが、平均IADL(p=0.032)、MMSEスコア(+1.5ポイントvs. -3ポイント、p=0.0177)、睡眠効率(p=0.04)の評価において示された。ADAS-Cog中央値の評価において、PRM群は有意に良好であった(-3.5ポイントvs. +3ポイント、p=0.045)。・両群間の有意差は、治療期間が長期であるほど顕著であった。・PRMは忍容性も良好で、有害事象のプロファイルは、プラセボと類似していた。・今回の結果について著者は、「とくに不眠症を有するAD患者において、PRMはプラセボと比べて認知機能および睡眠維持にポジティブな効果があることが示された」と結論したうえで、「今回の結果から、熟眠障害と認知機能の低下には因果関係があることが示唆される」と述べている。関連医療ニュース 睡眠薬、長期使用でも効果は持続 自殺と不眠は関連があるのか 期待の新規不眠症治療薬、1年間の有効性・安全性は

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多発性硬化症におけるシンバスタチン高用量の有用性/Lancet

 二次性進行型多発性硬化症(MS)患者に対し、シンバスタチンの高用量投与により、全脳萎縮率は約4割低下することが明らかにされた。英国・ロンドン大学のJeremy Chataway氏らが、140例の二次性進行型MS患者を対象に行った第II相臨床試験の結果で、忍容性、安全性も良好であり、第III相試験を進める根拠が得られたと報告した。二次性進行型MSについては満足いく治療法がなく障害を有しているのが現状である。シンバスタチンは血管性疾患に広く用いられており、安全性プロファイルに優れ、免疫調整や神経保護の特性を有していることが知られていた。Lancet誌オンライン版2014年3月18日号掲載の報告より。シンバスタチン80mgを24ヵ月投与 Chataway氏らは2008年1月28日~2011年11月4日の間に、英国3ヵ所の神経科学センターを通じ、18~65歳の二次性進行型MS患者140例を対象に、二重盲検無作為化比較試験を行った。被験者を1対1の割合で無作為に2群に分け、一方にはシンバスタチン80mgを、もう一方にはプラセボをそれぞれ24ヵ月間投与した。被験者の平均年齢は51~52歳、女性の割合は69~70%だった。 主要アウトカムは、容積MRI検査による年換算全脳萎縮率だった。シンバスタチン群とプラセボ群の年換算全脳萎縮率の差は-0.254ポイント その結果、年換算全脳萎縮率は、プラセボ群0.584%(標準偏差:0.498)に対し、シンバスタチン群は0.288%(同:0.521)と有意に低率だった。同萎縮率の補正後群間格差は-0.254ポイント(95%信頼区間:-0.422~-0.087、p=0.003)で、年換算43%の減少だった。 なお、重度有害事象の発生率は、プラセボ群で14例(20%)、シンバスタチン群で9例(13%)であり、両群で有意差はなかった。 これらの結果を踏まえて研究グループは、「第III相臨床試験の実施を支持するものだった」と結論づけた。

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レストレスレッグス症候群におけるプレガバリンの可能性/NEJM

 レストレスレッグス症候群(RLS、むずむず脚症候群、Willis–Ekbom病)の治療薬として、プレガバリン(商品名:リリカ)はプラセボよりも有意に治療アウトカムを改善し、プラミペキソール(同:ビ・シフロールほか)に比べ症状の増強(augmentation)が少ないことが、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のRichard P Allen氏らの検討で確認された。RLSの症状はプラミペキソールなどの短時間作用型ドパミン作動薬によって軽減するが、長期間投与すると医原性の悪化(症状の増強)の原因となる可能性がある。プレガバリンは、鎮痛作用および抗痙攣作用を有する非ドパミン作動性の薬剤であり、最近、無作為化試験でRLSに対する効果が示されている。NEJM誌2014年2月13日号掲載の報告。プレガバリンの有用性を無作為化試験で評価 研究グループは、RLSに対するプレガバリンの有用性を評価する二重盲検無作為化試験を実施した。対象は、年齢18歳以上、国際RLS(IRLS)研究グループ判定基準で中等度~重度のRLSと診断され、主に夜間に発現する症状が月に15日以上みられ、6ヵ月以上持続している患者とした。 これらの患者が、プレガバリン300mg/日(52週)群、プラミペキソール0.25mg/日(52週)群、プラミペキソール0.5mg/日(52週)群、またはプラセボを12週間投与後に無作為に割り付けた実薬を40週投与する群のいずれかに無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、1)12週投与後のプレガバリンとプラセボのIRLS研究グループ評価スケール(0~40点、スコアが高いほど症状が重度)、2)改善度の臨床全般印象(Clinical Global Impression of Improvement; CGI-I)の「きわめて大きく改善(very much improved)」または「大きく改善(much improved)」の割合、3)プレガバリンとプラミペキソールの40週または52週投与後の症状増強の発現であった。主要評価項目がすべて改善、長期投与の制限因子も 2008年12月~2011年6月に、欧米の102施設から719例が登録され、プレガバリン群に182例、プラミペキソール0.25mg群に178例、同0.5mg群に180例、プラセボ群には179例が割り付けられた。ベースラインの患者背景や治療完遂率は、各群間に差はみられなかった。 12週の投与後のIRLSスケールの平均スコアは、プレガバリン群がプラセボ群に比べ4.5点低下し、有意な改善効果が認められた(p<0.001)。プラミペキソール0.5mg群も、プラセボ群より3.2点低下したが(p<0.001)、0.25mg群では改善効果はみられなかった(p=0.36)。 CGI-Iで症状が「きわめて大きく改善」「大きく改善」の患者の割合も、プレガバリン群がプラセボ群よりも有意に良好であった(71.4 vs. 46.8%、p<0.001)。プラミペキソール0.5mg群も、プラセボ群に比べ有意に改善したが(p=0.002)、0.25mg群では改善効果は認めなかった(p=0.439)。 40週または52週投与後の全体の症状増強率は、プレガバリン群がプラミペキソール0.5mg群よりも有意に低かったが(2.1 vs. 7.7%、p=0.001)、0.25mg群との間には有意差はなかった(2.1 vs. 5.3%、p=0.08)。 治療中止の理由となった有害事象の発現率は、プレガバリン群(27.5%)がプラミペキソール群(0.25mg群18.5%、0.5mg群23.9%)よりも高かった。頻度の高い有害事象として、プレガバリン群でめまい(21.4%)、眠気(17.6%)、疲労(12.6%)、頭痛(12.1%)が、プラミペキソール群では頭痛、悪心、疲労、鼻咽頭炎が認められた。 有害事象の94.0%が軽度~中等度であり、重篤な有害事象は37例(50件)にみられた(プレガバリン群11件、プラミペキソール0.25mg群20件、0.5mg群12件、プラセボ群7件)。また、自殺念慮が11例に認められた(プレガバリン群6例、プラミペキソール0.25mg群3例、0.5mg群2例)。 著者は、「プレガバリンは、プラセボに比べ治療アウトカムを有意に改善し、症状増強率はプラミペキソール0.5mgよりも有意に低かった」とまとめ、「自殺念慮や眩暈、眠気が、プレガバリンの長期投与の制限因子となる可能性もある」と指摘している。

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日本人多発性硬化症患者における認知機能障害の関連要因は:北海道医療センター

 多発性硬化症(MS)患者では認知機能障害がQOLに影響を及ぼしていること、また認知機能は抑うつや疲労感などと相関している可能性が示唆されていた。国立病院機構北海道医療センター臨床部長の新野 正明氏らは、日本人MS患者の認知機能障害について調べ、認知機能と無気力、疲労感、抑うつとの関連について評価を行った。その結果、同患者ではとくに情報処理速度の障害がみられ、認知機能障害が無気力や抑うつと関連していることなどを明らかにした。BMC Neurology誌2014年1月6日号の掲載報告。 患者184例と健康対照(年齢、性、教育レベルで適合)163例について、Brief Repeatable Battery of Neuropsychological(BRB-N)テストを行い、また、Apathy Scale(AS)、Fatigue Questionnaire(FQ)、ベックうつ病評価尺度第2版(BDI-II)を用いて評価を行った。両群の比較にはt検定を用いた。ピアソン相関分析にて2因子間の相関性を検討し、重回帰分析にて各因子がBRB-Nスコアに及ぼす影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・患者184例(うち女性135例)は、全国18施設から登録され、平均年齢は39.3歳(SD 10.1歳)、罹病期間は平均9.3年(SD 7.2年)、神経症状評価尺度(EDSS)は2.38(SD 2.04)であった。・BRB-Nテストは9項目について行ったが、そのすべてにおいて、MS患者群のほうが対照群よりも得点が有意に低く認知機能障害が大きかった。9項目の中では、Symbol Digit Modalities Test(SDMT)の得点差が最も大きかった。・AS(p<0.001)、FQ(p<0.0001)、BDI-II(p<0.0001)のスコアは、いずれもMS患者群で有意に高かった。・MS患者では、BRB-Nテストの大半のスコアと、ASおよびBDI-IIのスコアに相関が認められた。一方でFQのスコアとは相関がみられなかった。・以上のように、日本人MS患者では、認知機能の障害、とくに情報処理速度の障害がみられ、認知機能の低下と無気力、抑うつとが関連していた。ただし認知機能は、無気力/抑うつによる影響以上の低下がみられた。一方で、主観的疲労感と認知障害には関連がみられなかった。・これらの結果を踏まえて著者は、「MS患者の主観的疲労感や認知機能を改善しQOL向上を図るためには、それぞれ異なる治療アプローチが必要であることが示唆された」とまとめている。関連医療ニュース てんかん合併アルツハイマー病患者、より若年で認知機能が低下 多発性硬化症とてんかんの併発は偶然ではない!? −大規模人口ベースの記録照合研究より 統合失調症の寛解に認知機能はどの程度影響するか:大阪大学

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多発性硬化症とてんかんの併発は偶然ではない!? −大規模人口ベースの記録照合研究より

 多発性硬化症とてんかんの併発は、偶然より高い頻度で起こっており、その理由として多発性硬化症の病変部がてんかん発作の焦点となりうることが考えられると、英国オックスフォード大学のAlexander N Allen氏らが報告した。BMC neurology誌2013年12月4日号掲載の報告。 多発性硬化症とてんかんは、しばしば同じ患者での併発が観察されてきた。そこで、同一患者における多発性硬化症とてんかんによる入院頻度が偶然よりも高い頻度で起こるのかについて検討を行った。 解析対象は、オックスフォード記録照合研究(ORLS)(1963-1998)と全英記録照合研究(1999-2011)の入院記録データ。各データにおいて、多発性硬化症で入院した患者がその後てんかんで入院する頻度を、コントロール群(標準人口)におけるてんかんでの入院頻度と比較し、それぞれの予測値と実測値から相対リスク(RR)を算出した。主な結果は以下のとおり。・多発性硬化症による入院患者がその後てんかんで入院する相対リスクは、全英コホート群で3.3(95%信頼区間: 3.1~3.4)、ORLSの患者群で4.1(同: 3.1~5.3)と有意に高かった。・多発性硬化症による初回入院から10年以上後にてんかんで初回入院となる相対リスクは、ORLS群において4.7(同: 2.8~7.3)、全英コホート群で3.9(同: 3.1~4.9)であった。・逆に、てんかんによる入院後、多発性硬化症により入院する相対リスクは、ORLS群において2.5(同: 1.7~3.5)、全英コホート群において1.9(同: 1.8~2.1)であった。 著者らは、「臨床医は多発性硬化症患者において、てんかん発症のリスクが高まることに注意すべきである」としたうえで、「今回得られた知見は二つの疾患の潜在的メカニズムに関する仮説を発展させるための糸口となる可能性がある」と結論づけた。

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新規の抗てんかん薬16種の相互作用を検証

 英国・UCL Institute of NeurologyのPhilip N. Patsalos氏らは、1989年以降に臨床導入された16種の新規の抗てんかん薬について、製剤間の薬物動態学的および薬力学的な相互作用に関するレビューを行った。てんかん患者の治療は生涯にわたることが多く、また複数の抗てんかん薬が処方されているのが一般的である。そのため相互作用がとくに重要になるが、今回のレビューでは、より新しい抗てんかん薬では相互作用が少ないことなどが明らかにされた。Clinical Pharmacokinetics誌2013年11月号の掲載報告。 本レビューの対象となった16種の抗てんかん薬は、レベチラセタム(イーケプラ)、ガバペンチン(ガバペン)、ラモトリギン(ラミクタール)、ルフィナミド(イノベロン)、スチリペントール(ディアコミット)、トピラマート(トピナ)、ゾニサミド(エクセグラン、エクセミド)、プレガバリン(本疾患には国内未承認)、エスリカルバゼピン酢酸塩、フェルバメート、ラコサミド、オクスカルバゼピン、ペランパネル、レチガビン、チアガビン、ビガバトリン(以上、国内未承認)であった。研究グループは、特定の相互作用の臨床的重要性の可能性について、わかりやすく相互作用試験の詳細を述べた。 主な知見は以下のとおり。・薬力学的相互作用は、主として相乗作用の副作用に関するものであったが、主な薬物動態学的相互作用は、肝酵素誘導または阻害に関するものであった。ただし、相乗作用の抗けいれんの例も存在した。・全体として、新しい抗てんかん薬は相互作用が少ないようであった。理由は大半が、腎に排出され肝代謝はされず(例:ガバペンチン、ラコサミド、レベチラセタム、トピラマート、ビガバトリン)、ほとんどが肝代謝誘導や阻害をしない(または最小限である)ためであった。・抗てんかん薬間の薬物動態学的相互作用については、総計139の詳述があった。・ガバペンチン、ラコサミド、チアガビン、ビガバトリン、ゾニサミドは、薬物動態学的相互作用が最も少なかった(5例未満)。・一方、多かったのは、ラモトリギン(17例)、フェルバメート(15例)、オクスカルバゼピン(14例)、ルフィナミド(13例)であった。・現時点では、フェルバメート、ガバペンチン、オクスカルバゼピン、ペランパネル、プレガバリン、レチガビン、ルフィナミド、スチリペントール、ゾニサミドは、あらゆる薬力学的相互作用が認められていなかった。関連医療ニュース 難治性の部分発作を有する日本人てんかん患者へのLEV追加の有用性は? 検証!向精神薬とワルファリンの相互作用 抗精神病薬アリピプラゾール併用による相互作用は?

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視神経脊髄炎で出現する脳幹症状とは?

 視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica、以下NMO)において、高頻度に発現する脳幹症状は嘔吐としゃっくりであり、これら脳幹症状の有病率が白人以外の人種で高かったことが、フランス・ストラスブール大学病院のL. Kremer氏らによって報告された。Multiple sclerosis誌オンライン版2013年10月7日掲載の報告。 NMOは、脊髄や視神経の病変を特徴とする中枢神経系の重篤な自己免疫疾患であり、近年、脳幹症状が出現することが報告されている。 本研究は、2006 Wingerchuk基準によりNMOと診断された258例を対象に行った前向き多施設共同研究である。目的は、NMOの患者群を人種や抗アクアポリン4抗体の血清学的状態に分け、脳幹症状の発現時期や、頻度、特徴を評価することである。 主な結果は以下のとおり:・脳幹症状は81例(31.4%)に認められた。・最も頻度が高かった症状は、嘔吐(33.1%)、しゃっくり(22.3%)などであり、続いて眼球運動障害(19.8%)、掻痒(12.4%)、その他、聴力損失(2.5%)、顔面神経麻痺(2.5%)、めまい、前庭性運動失調(それぞれ1.7%)、三叉神経痛(2.5%)、他の脳神経徴候(3.3%)であった。・44例の患者(54.3%)では、これらの症状が初めに出現した症状であった。・これらの脳幹症状の有病率は、白人(26%)よりも白人以外の人種(36.6%)において有意に高く(p<0.05)、抗アクアポリン4抗体陰性患者(26%)よりも陽性患者(32.7%)のほうが高い傾向にあった(有意差なし)。

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