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高齢入院患者のせん妄予防に対する薬理学的介入~メタ解析

 入院中の高齢患者に対するせん妄予防への薬理学的介入の効果について、スペイン・Canarian Foundation Institute of Health Research of Canary IslandsのBeatriz Leon-Salas氏らがメタ解析を実施し、包括的な評価を行った。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2020年9~10月号の報告。 2019年3月までに公表された、65歳以上の入院患者を対象としたランダム化比較試験を、MEDLINE、EMBASE、WOS、Cochrane Central Register of Controlled Trialsの電子データベースよりシステマティックに検索した。事前に定義した基準を用いて研究を抽出し、それらの方法論的な質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・各データベースより抽出された1,855件から重複を削除し、1,250件の評価を行った。・メタ解析には、以下の25件のランダム化比較研究が含まれた。 ●抗てんかん薬(1件、697例) ●抗炎症薬(2件、615例) ●抗精神病薬(4件、1,193例) ●コリンエステラーゼ阻害薬(2件、87例) ●催眠鎮静薬(13件、2,909例) ●オピオイド(1件、52例) ●向精神薬・認知機能改善薬(1件、81例) ●抑肝散(1件、186例)・プラセボや通常ケアと比較し、せん妄の発生率を減少させた薬剤は、以下のとおりであった。 ●オランザピン(RR:0.36、95%CI:0.24~0.52、k=1、400例) ●リバスチグミン(RR:0.36、95%CI:0.15~0.87、k=1、62例) ●デクスメデトミジン(RR:0.52、95%CI:0.38~0.71、I2=55%、k=6、2,084例) ●ラメルテオン(RR:0.09、95%CI:0.01~0.64、k=1、65例)・デクスメデトミジンのみが、せん妄期間の短縮(0.70日短縮)、抗精神病薬の使用量低下(48%)と関連が認められた。・死亡率、有害事象、尿路感染症、術後合併症への影響は認められなかった。 著者らは「本メタ解析では、デクスメデトミジンが入院中の高齢患者におけるせん妄の発生率減少と期間短縮に有用であることが示唆された。各研究において、ラメルテオン、オランザピン、リバスチグミンの効果が報告されているが、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分である」としている。

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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」6年ぶりの改訂

 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』が7月22日に発刊された。今回の改訂は2014年版が発刊されてから6年ぶりで、ヒドロモルフォン(商品名:ナルサスほか)、トラマドール塩酸塩の徐放性製剤(商品名:ワントラム)などの新規薬物の発売や新たなエビデンスの公表、ガイドライン(GL)の作成方法の変更などがきっかけとなった。本書の冒頭では日本緩和医療学会理事長の木澤 義之氏が、「分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん薬物療法が目覚ましい発展を遂げていることなどを踏まえて改訂した」と述べている。 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の主な改訂点については、8月9日~10日にWeb開催された「緩和・支持・心のケア 合同学術大会」での教育講演「『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』の概要」でも発表され、馬渡 弘典氏(横浜南共済病院 緩和支持療法科)が解説した。がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインとして必要な情報に絞る まず、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの改訂版は作成方法の変更により計325ページから185ページへと大幅にボリュームダウン。大幅に絞られた臨床疑問は65項目から28項目に絞られ、Appendixには委員会で討論したが根拠が乏しく解説文に記載しなかったこと、現場の臨床疑問・現在までの研究と今後の検討課題が記載された。以前まで取り上げられていた「麻薬に関する法的・制度的知識」「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」「薬物療法以外の痛み治療法(放射線療法、神経ブロック、骨セメント)」はがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの枠組みでは扱いづらくなったとのことで2020年版では割愛されたが、「大切な事項なので書籍などで確認を」と述べた。2020年版では突出痛の定義が近年の考えを加味して変更された 馬渡氏はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版を作成する際に生じたエビデンスと推奨のギャップについて解説した上で、疼痛強度に応じた鎮痛薬の使用方法を説明した。まず、中等~高度のがん疼痛についてはCQ3~7*を示し、「中等~高度の疼痛がある患者に対して、強オピオイド間の優劣については今回のシステマティックレビューでは認められなかったため、本ガイドラインではどの薬剤を選択しても良いと結論付けられている」と説明。CQ6(がん疼痛のある患者に対して、フェンタニルの投与は推奨されるか?)については、今年6月末にフェンタニルの貼付剤(商品名:フェントステープ)がオピオイド鎮痛剤未使用のがん疼痛患者へ適応となったことにも触れた。また、それ以前に決定稿になったことを断ったうえで、フェンタニルによる初回投与は、『投与後に傾眠、呼吸抑制の重篤な有害作用の有無を継続して観察出来るとき』の条件付き推奨となったことを述べた。さらに、「添付文書にも 増量時の注意事項が書かれているので、注意して経過観察してほしい」と述べた。*CQ3~7は、「がん疼痛のある患者に対して、各薬剤(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール)の投与は推奨されるか?」について記載。 次に、2018年のWHOのガイドライン改訂で、3段階ラダーの表現が本文から付録に相当するANNEXに移ったが、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版でも中等度のがん疼痛では「強い推奨が弱オピオイドから強オピオイドに変更された」点について説明。CQ8(がん疼痛のある患者に対して、コデインの投与は推奨されるか?)やCQ9(がん疼痛のある患者に対して、トラマドールの投与は推奨されるか?)、CQ23(がん疼痛のある患者に対して、初回投与のオピオイドは、強オピオイドと弱オピオイドのどちらが推奨されるか?)の内容に反映されている。 突出痛については、「突出痛の定義は国際的に決まったものはないが、『持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強』から『定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み』へと、近年の考えを加味して変更された」と解説した。また、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにおける突出痛に投与するオピオイドの薬剤の用語の統一についても触れ、総称区分を以下のように示した。●速放性製剤:経口モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドンなど●経粘膜性フェンタニル:フェンタニル口腔粘膜吸収製剤●レスキュー薬:突出痛に投与するオピオイドの経口薬、注射剤、坐剤すべてがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点 このほか、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点として、腎機能低下時の投与や便秘時について解説。CQ17(オピオイドが原因で、便秘のあるがん患者に対して、下剤、その他の便秘治療薬の投与は推奨されるか?)やCQ22(がん疼痛のある、高度の腎機能障害患者に対して、特定のオピオイドの投与は推奨されるか?)を示し、「高度の腎機能障害患者にフェンタニルやブプレノルフィンの“注射剤”を推奨していること。コデイン、モルヒネを投与する場合は短期間で少量から投与すること。軽度から中等度の腎障害では減量すればどのオピオイドも投与可能。ただし、ブプレノルフィンは高度の腎機能障害がある時や、ほかの強オピオイドが投与できない時に限定する」と述べた。<今回からがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに追加された主な新規薬剤>・ヒドロモルフォン(商品名:ナルサス、ナルラピド、ナルペイン)・オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(同:オキシコンチンTR錠)[オキシコンチン錠の販売中止に伴う]・トラマドール塩酸塩(同:トラマールOD錠、ワントラム)とアセトアミノフェン配合剤(同:トラムセット)[カプセル剤の販売中止に伴う]・ミロガバリン(同:タリージェ)・ナルデメジン(同:スインプロイク)とその他の便秘治療薬(ポリエチレングリコール製剤、リナクロチド[同:リンゼス]、エロピキシバット[同:グーフィス])<がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから削除された主な薬剤>・モルヒネ製剤の一部(同:カディアン、ピーガード)・エプタゾシン(同:セダペイン)、ジヒドロコデインリン酸塩(同:リン酸ジヒドロコデイン)、ペチジン塩酸塩(同:ペチジン塩酸塩「タケダ」) 今後の予定として、同氏は2020年版のガイドライン作成過程で用いた各種のテンプレートを掲載した詳細資料を作成し、『本ガイドライン作成の経過やより詳細な内容を知りたい読者がインターネット上で閲覧できるようにする』『CQ、ステートメントを英文化し、国際紙に掲載する』などを掲げた。また日本緩和医療学会より一般市民向けに2017年に出版されている「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版」も改訂が必要とされれば速やかに改訂を行うこととすると述べ、「教科書などとうまく使い分けて役立ててもらえれば」と締めくくった。

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健康問題を有する患者のメンタルヘルス改善のためのオンライン心理的介入~メタ解析

 Webベースの心理的介入は、ここ15年間で大幅に増加している。健康状態に慢性的な問題を有する患者における抑うつ、不安、苦痛症状に対するWebベースの心理的介入の有効性について、オーストラリア・ディーキン大学のV. White氏らが、検討を行った。Psychological Medicine誌オンライン版2020年7月17日号の報告。 1990年~2019年5月1日に公表された研究をMedline、PsycINFO、CINAHL、EMBASE、Cochrane Databaseより検索した。健康状態に慢性的な問題を有する成人における不安、抑うつ、苦痛を軽減することを主要および副次的な目的として実施されたWebベースの心理的介入のランダム化比較試験の英語論文を分析対象とした。結果の評価には、ナラティブ分析および変量効果メタ分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・以下の主な疾患を含む17種類の健康状態における70件の適格研究が確認された。 ●がん:20件 ●慢性痛:9件 ●関節炎:6件 ●多発性硬化症:5件 ●糖尿病:4件 ●線維筋痛症:4件・CBT原理に基づいた研究は46件(66%)、ファシリテーターを含む研究は42件(60%)であった。・すべての健康状態に慢性的な問題を有する患者において、Webベースの介入は、メンタルヘルスの症状軽減により有効であった。 ●うつ症状:g=0.30(95%CI:0.22~0.39) ●不安症状:g=0.19(95%CI:0.12~0.27) ●苦痛:g=0.36(95%CI:0.23~0.49) 著者らは「患者自身によるオンライン心理的介入は、健康状態に慢性的な問題を有する患者にとって不安、抑うつ、苦痛の症状軽減に役立つと考えられるが、特定の健康状態に有効かどうかは不明であり、有効性に関するエビデンスは一貫していなかった。明確な結論を導き出すためには、より質の高いエビデンスが求められる」としている。

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多発性硬化症、オファツムマブが有意に再発抑制/NEJM

 多発性硬化症に対し、オファツムマブ(本邦では慢性リンパ性白血病の適応で承認)はteriflunomideに比べ、年間再発率を有意に低下することが示された。3ヵ月、6ヵ月時点の障害の悪化リスクも3割強低く、また6ヵ月時点で障害が改善した患者の割合は1.35倍だったという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のStephen L. Hauser氏らが、2件の二重盲検ダブルダミー第III相無作為化比較試験を行い報告した。オファツムマブは抗CD20モノクローナル抗体の皮下注射剤で、選択的にB細胞数を減少する。teriflunomideは経口ピリミジン合成阻害薬で、T細胞およびB細胞の活性化を抑制するが、両薬剤の多発性硬化症に対する相対的有効性については明らかになっていなかった。NEJM誌2020年8月6日号掲載の報告。年間再発率と障害の悪化、改善などを比較 研究グループは、多発性硬化症の患者を対象に2件の比較試験を行い、オファツムマブとteriflunomideの効果を比較した。同グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはオファツムマブ(1、7、14日目に負荷投与量20mg、その後は4週ごとに20mg)の皮下投与を、もう一方にはteriflunomide(14mg/日)の経口投与を、最長30ヵ月間実施した。 主要エンドポイントは、年間再発率だった。副次エンドポイントは、3ヵ月または6ヵ月時点の評価で確認された障害の悪化、6ヵ月時点で確認された障害の改善、T1強調MRIのスキャン1回当たりのガドリニウム増強病変の数、T2強調MRI上の新規病変または拡大病変の年間発生率、3ヵ月時点での血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)濃度、脳容積の年間減少率などとした。年間再発率、オファツムマブ群0.10~0.11、teriflunomide群0.22~0.25 被験者は2試験全体で、オファツムマブ群946例、teriflunomide群は936例で、追跡期間の中央値は1.6年だった。 オファツムマブ群とteriflunomide群の年間再発率は、試験1ではそれぞれ0.11と0.22(群間差:-0.11、95%信頼区間[CI]:-0.16~-0.06、p<0.001)、試験2では0.10と0.25(群間差:-0.15、95%CI:-0.20~-0.09、p<0.001)だった。 副次エンドポイントは、2試験全体で、3ヵ月時点で障害の悪化が確認された患者の割合はオファツムマブ群10.9%、teriflunomide群15.0%(ハザード比[HR]:0.66、p=0.002)、6ヵ月時点ではそれぞれ8.1%、12.0%(HR:0.68、p=0.01)と、オファツムマブ群で低率だった。また、6ヵ月時点で障害の改善が確認された患者の割合はそれぞれ11.0%、8.1%で、オファツムマブ群で高率だった(HR:1.35、p=0.09)。 T1強調MRIのスキャン1回当たりのガドリニウム増強病変の数、T2強調MRI上の新規病変または拡大病変の年間発生率、3ヵ月時点での血清NfL濃度については、主要エンドポイントと同様の傾向がみられ、オファツムマブ群がteriflunomide群より低率・低値だった。脳容積の年間減少率は両群で同等だった。 注射に関連した反応は、オファツムマブ群20.2%、teriflunomide群15.0%(プラセボ注射)でみられた。重篤な感染症発生率は、オファツムマブ群2.5%、teriflunomide群1.8%だった。

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ラメルテオンの術後せん妄予防効果~胃切除後高齢者を対象とした第II相試験

 高齢患者における胃がん症例数は増加しており、術後せん妄を予防する重要性は高まっている。静岡県立静岡がんセンターの本田 晋策氏らは、胃切除後の高齢患者における術後せん妄の予防に対するラメルテオンの有効性を評価するため、単施設プロスペクティブ第II相試験を実施した。Surgery Today誌オンライン版2020年7月8日号の報告。 対象は、75歳以上の高齢患者。手術の8日前から退院までラメルテオン8mg/日を投与した。術後せん妄の評価には、集中治療室におけるせん妄評価法(CAM-ICU)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・2015年9月~2017年7月までに83例が登録された。そのうち、適格基準を満たした76例を分析に含めた。・術後せん妄は、4例(5%)で認められた(60%信頼区間:3.0~8.7)。・信頼区間の上部マージンは閾値の13%よりも低く、帰無仮説は否定された。 著者らは「ラメルテオンの周術期投与は、胃切除後の高齢患者における術後せん妄の予防に、安全かつ実現可能であることが示唆された」としている。

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小児期の神経発達症に伴う入眠困難を改善する「メラトベル顆粒小児用0.2%」【下平博士のDIノート】第55回

小児期の神経発達症に伴う入眠困難を改善する「メラトベル顆粒小児用0.2%」今回は、メラトニン受容体作動性入眠改善薬「メラトニン(商品名:メラトベル顆粒小児用0.2%、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難、睡眠相後退型などの睡眠障害の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月23日より発売されています。<用法・用量>通常、小児にはメラトニンとして1日1回1mgを就寝前に経口投与します。症状により、1日1回4mgを超えない範囲で適宜増減することができますが、増量する際は睡眠状況を観察しながら1週間以上の間隔を空けて行います。なお、投与開始3ヵ月後をめどに入眠困難に対する有効性および安全性を評価し、有効性を認めない場合には投与中止を考慮します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象308例中32例(10.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、傾眠13例(4.2%)、頭痛8例(2.6%)、肝機能検査値上昇3例(1.0%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、体内時計のリズムを整え、自然な睡眠を促すことで寝つきを改善します。2.1日1回、就寝直前に飲んでください。食事と同時や食事のすぐ後に飲むと、効果が弱くなる可能性があります。就寝後に起きて作業などを行う必要があるときは飲まないでください。3.昼間の強い眠気、めまいなどが現れることがあるので、高いところに登ったり、自転車などに乗ったりする際は注意しましょう。普段と違う様子が認められた場合は医師・薬剤師に相談してください。4.良い睡眠を取るために、毎日できるだけ同じ時間に就寝するなど、規則正しく生活しましょう。眠りやすくするために、日中の活動量を高めることなども有効です。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で初めて、内因性ホルモンと同一の化学構造式を持つメラトニンを有効成分とした入眠改善薬です。メラトニン受容体に作用する既存薬剤としてはラメルテオン(商品名:ロゼレム)がありますが、小児での安全性は確認されていません。本剤は、小児期の自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)などを含む神経発達症の患児に用いることができます。眠れないことによって、「こだわりが強い」「落ち着きがない」「不注意」などの発達特性が強まり、日常生活に支障を来たしている場合などが本剤の適応の典型例と考えられます。相互作用については、抗うつ薬のフルボキサミン(同:デプロメール、ルボックス)を併用すると、本剤の主要な代謝酵素であるCYP1A2やCYP2C19が阻害され、本剤の血中濃度が上昇する恐れがあるので併用禁忌となっています。服薬指導では、「朝、日の光を浴びる」「朝ごはんを食べる」「昼間はなるべく体を動かす」「夜は部屋を暗くして早く眠る」など、生活リズムの改善を指導しましょう。カフェインを含む飲料は、眠りを妨げるだけでなく、本剤の作用に影響する場合があるため、寝る前は飲まないようにする必要もあります。また、急に服薬を中止すると、昼間の問題行動や睡眠障害の悪化が生じることがあるため、症状が改善された場合も自己判断で中止せずに必ず相談するように伝えましょう。本剤の登場により、患者さんの睡眠と日常生活が改善されて、ご家族の負担軽減にもつながることが期待されます。参考1)PMDA 添付文書 メラトベル顆粒小児用0.2%

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「リリカ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第7回

第7回 「リリカ」の名称の由来は?販売名リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg 一般名(和名[命名法])プレガバリン(JAN)効能又は効果神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛用法及び用量神経障害性疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1 日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後 1 週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日最高用量は600mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。線維筋痛症に伴う疼痛通常、成人には初期用量としてプレガバリン1日150mgを1日2回に分けて経口投与し、その後1週間以上かけて1日用量として300mgまで漸増した後、300~450mgで維持する。なお、年齢、症状によ り適宜増減するが、1日最高用量は450mgを超えないこととし、いずれも1日2回に分けて経口投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2020年7月8日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年1月改訂(改訂第13版)医薬品インタビューフォーム「リリカ®カプセル/OD錠 25mg・75mg・150mg」2)ファイザー:製品情報

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多発性硬化症治療に新しい治療薬シポニモド登場/ノバルティスファーマ

多発性硬化症は進行すると歩行障害と認知機能障害を起こす 多発性硬化症(以下「MS」という)は、中枢神経(脳・脊髄・視神経)のミエリンが破壊され軸索がむき出しになる「脱髄」と呼ばれる病変が多発し、視力障害、運動障害、感覚障害、言語障害など多様な症状があらわれる疾患。わが国のMS患者は、約1万5千人と推定され、年々増加している。発症のピークは20歳代で、女性に多いのが特徴。発症後に再発期と寛解期を繰り返す再発寛解型MS(以下「RRMS」という)として経過し、半数は次第に再発の有無にかかわらず病状が進行するSPMSに移行する。進行期に移行すると日常生活に影響をおよぼす不可逆的な身体的障害が徐々にみられ、主に歩行障害で車いす生活を余儀なくされる場合もある。また、認知機能障害が進み、社会生活に影響をもたらすこともある。多発性硬化症の進行を遅らせるシポニモド シポニモド(以下「本剤」という)は、S1P1およびS1P5受容体に選択的に結合するS1P受容体調整薬。シポニモドはS1P1受容体に作用することにより、リンパ球がリンパ節から移出することを防ぎ、その結果、それらのリンパ球が多発性硬化症患者の中枢神経系(以下「CNS」という)に移行することを防ぐことで本剤の抗炎症作用が発揮される。また、シポニモドはCNS内に移行し、CNS内の特定の細胞(オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)上のS1P5受容体と結合することで、ミエリン再形成の促進作用と神経保護作用が非臨床試験で示唆されている。 国際共同第III相臨床試験(EXPAND試験)では、1,645例のSPMS患者を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施。主要評価項目は、Expanded Disability Status Scale(EDSS)に基づく3ヵ月持続する障害進行(3m-CDP)が認められるまでの期間で、プラセボ群と比較し、シポニモド群では3m-CDPの発現リスクが21.2%有意に減少し(p=0.0134)、シポニモドが患者の障害進行を遅らせる効果が示された。また、3m-CDPが認められた患者の割合は、プラセボ群が31.7%に対し、シポニモド群では26.3%だった。また、年間再発率の負の二項回帰モデルによる推定値は、シポニモド群において、プラセボ群と比較して年間再発率が55.5%低下した(p<0.0001)。安全性について、本試験での主な副作用は、頭痛5.3%、高血圧4.5%、徐脈4.5%などが報告された。メーゼント錠の概要一般名:シポニモド フマル酸商品名:「メーゼント錠0.25mg」「メーゼント錠2mg」効能・効果:二次性進行型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制用法・用量:通常、成人にはシポニモドとして1日0.25mgから開始し、2日目に0.25mg、3日目に0.5mg、4日目に0.75mg、5日目に1.25mg、6日目に2mgを1日1回朝に経口投与し、7日目以降は維持用量である2mgを1日1回経口投与するが、患者の状態 により適宜減量する。製造販売承認日:2020年6月29日 同社では、「MSの進行期への移行というアンメットニーズを医療現場から拾い上げ、日本で初めてとなるSPMSの適応取得に挑戦した。この承認を通じ『医薬の未来を描く』という弊社のミッションを少しでも果たせることを願う」と意欲をにじませている。なお、薬価、発売日などは未定。

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入院を契機にADLが低下した患者の処方薬見直し【うまくいく!処方提案プラクティス】第22回

 今回は、入院を契機にADLが低下し、それまでの服用薬を見直した事例を紹介します。患者さんの生活様式が変わることでそれまで必要だった薬剤が不要になるケースもありますので、処方薬を点検して、現在の状態と処方薬の必要性が合致しているかを確認しましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患:心房細動、高血圧、骨粗鬆症訪問診療の間隔:2週間に1回副作用歴:エドキサバン服用による歯茎と鼻出血のため服用中止処方内容1.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1カプセル 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後4.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 週1回土曜日5.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 夕食後6.酸化マグネシウム錠330mg 1錠 分1 夕食後7.経腸成分栄養剤(2−2)液 750mL 分3 朝昼夕食後(入院中の新規開始薬)本症例のポイント患者さんは施設入居中に急性巣状腎炎と細菌性誤嚥性肺炎を発症し、入院することになりました。入院前は車いすで生活していたものの、トイレや食事も自分で行っていましたが、入院中はほぼベッド上で過ごし、トイレや食事介助が必要になるなどADLが低下しました。また、食事摂取が進まず、嚥下機能も低下したため、末梢静脈栄養が行われましたが、退院に向けた内服への切り替えとして経腸成分栄養剤(2−2)液が開始されました。退院後の訪問診療の同行の際に気になる点がいくつかあったため、まとめることにしました。1.嚥下機能低下により錠剤の服用が困難嚥下機能が低下し、錠剤の服用が困難となりました。とくにアレンドロン酸錠を起床時に上体を起こして飲むことが難しく、無理な服用から食道潰瘍のリスクにもつながる懸念がありました。注射薬への変更、もしくは骨折リスクが低いようであれば中止を提案することにしました。なお、ビスホスホネート製剤を中止した場合、活性型ビタミンD3製剤単独での治療効果も限定的であることから両剤とも中止が望ましいと考えました。2.降圧薬の服用により低血圧に入院前の血圧は、おおむね収縮期/拡張期:130〜140/70〜80で推移していましたが、ADL低下に伴い食事摂取がほとんどなくなり、血圧の低下がありました。このまま服用を続けると低血圧を起こして転倒のリスクもあるため、降圧薬の中止が妥当と判断しました。3.日中の傾眠からスボレキサントを変更スボレキサントは湿度と光の影響を受けるため粉砕不可ですので、代替薬を考えることにしました。また、看護師より日中の傾眠が強くて食事摂取が安定しないので、もう少しマイルドな薬に変更できないかという相談もありました。そこで、睡眠−覚醒リズムの改善と昼夜のメリハリ、夜間睡眠に加えて朝や日中の症状改善効果のあるラメルテオン錠を粉砕して対応することを検討しました。処方提案と経過訪問診療同行時に、医師に上記3点について口頭で相談したところ、内服薬を少なくすることで誤嚥のリスクも減らすことができるから夕食後の薬のみにまとめよう、と了承を得ました。降圧薬に関しては、食事摂取量が安定してきたところで再度血圧評価をして、再開についてはそこで再検討することになりました。内服薬変更後の血圧推移は、収縮期/拡張期:120〜130/70〜80の幅で推移しており、夜間の中途覚醒や入眠障害などもなく経過しました。食事摂取量は、経腸成分栄養剤(2−2)液を70〜80%ほど摂れるようになってきました。現在、引き続き食事摂取量や血圧推移、内服薬の服用状況をモニタリングしています。Avenell A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014:CD000227.Reid IR, et al. Lancet. 2014;383:146-155. 矢吹拓 編. 薬の上手な出し方&やめ方. 医学書院;2020.

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第10回 救える未来があるならば高額薬でもいいじゃない-ゾルゲンスマは少子化対策の切り札だ

新型コロナウイルス感染症パンデミックに伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が行われたインパクトは絶大で、その間起きていた現象やニュースはやや吹き飛ばされた感がある。その一つが5月13日の中央社会保険医療協議会(中医協)で薬価収載が了承された脊髄性筋萎縮症治療薬・ゾルゲンスマ(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)の件である。1患者当たりの薬価は1億6,707万7,222円と薬価収載品としては初の億超えを記録。従来の最高薬価はCAR-T細胞療法・キムリアの投与1回当たり3,349万3,407円であり、その5倍超の薬剤が登場したことになる。もっともこの件は、既に2019年5月に米・FDAの承認が先行し、そこで日本円にして2億3,300万円の薬価がついていたために、「ああ、やっぱり」という程度の反応だった医療関係者も少なくないだろう。この薬価収載了承時の新聞各紙の見出しを並べると、次のようになる。ゾルゲンスマ、1回1.7億円 難病治療薬、保険対象に 厚労省(朝日新聞)超高額薬「ゾルゲンスマ」保険適用を了承 国内最高の1億6707万円(毎日新聞)難病治療薬「ゾルゲンスマ」薬価1億6700万円で保険適用(読売新聞)乳幼児難病薬1.6億円 最高額、保険適用へ 脊髄性筋萎縮症(産経新聞)医療保険ゆさぶる高額薬 1億6707万円、20日保険適用(日本経済新聞)メディアの側にいる身として、こういう見出しにならざるを得ないことは重々承知している。そして記事の中身については、医療保険財政への影響に関する言及の仕方で3つに分けられる。影響を懸念:産経新聞、日本経済新聞影響はなし:読売新聞言及はせず:朝日新聞、毎日新聞もっともこれらの記事中にもあるように、ゾルゲンスマの投与対象となる患者は年25人程度で、年間売上高は42億円の見込みであるため、前述の分類で厳格に採点するならば、後二者が○になる。脊髄性筋萎縮症、そしてゾルゲンスマとは?そもそも脊髄性筋萎縮症(SMA:spinal muscular atrophy)は、ざっくり言えば、運動神経細胞生存(SMN:survival motor neuron)遺伝子の欠失あるいは変異により筋力低下、筋萎縮、深部腱反射の減弱・消失を起こす遺伝性疾患だ。小児期に発症するI型(重症型、別名:ウェルドニッヒ・ホフマン病)、II型(中間型、別名:デュボビッツ病)、III型(軽症型、別名:クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人期に発症するIV型に分類される。発症時期が早期であればあるほど重症で、生後6ヵ月ごろまでに発症するⅠ型の場合、ミルクを飲むことすら困難で、支えなしに座ることすらできない。人工呼吸器を用いなければ、ほとんどの患者が1歳半までに死亡するという厳しい予後である。ゾルゲンスマは、アデノ随伴ウイルス(AAV:Adeno Associated Virus)にSMAの原因となるSMN遺伝子を組み込んだもの。これを1回注射することで正常な遺伝子を長期的に補い、症状を改善する。I型SMA患者15例を対象に行われた海外の第Ⅰ相試験・CL-101試験では、投与後24ヵ月のフォローアップ完了時点で全員が人工呼吸器なしで生存。支えなしで座るなど、運動機能も大幅に改善されたことがわかっている。まだまだ長期評価は必要だが、ある種の治癒に近い状態が得られる可能性も指摘されている。高額新薬への財政懸念と命を天秤に掛ける?こうした薬剤が世に出るようになった背景には、製薬業界の変化と技術革新がある。従来、製薬企業各社は生活習慣病領域など、メガマーケットを軸に創薬を行ってきたが、これらの領域では近年、創薬ターゲットが枯渇しつつある。その結果、1ヵ国での患者数は少ないものの、世界的に見れば一定の患者数があり、なおかつ高薬価になる難病・希少疾患に対する創薬が活発化してきた。これを「カネ亡者」と評する向きもあることは承知しているが、結果として患者への恩恵が増えていることからすれば、私個人はどうでもいいことと思っている。むしろそれ以上に、こうした高薬価の希少疾病治療薬が登場する度にむしずが走るのが「知ったかぶりの保険財政懸念派」である。世界最速の少子高齢化が進行する日本では、将来的に医療保険財政の逼迫は確実である。しかし、その陰で飲み忘れや自己中断による残薬の額が年間推定約500億円にものぼるとの試算を代表に、数々の無駄が指摘されている。国民皆保険を維持しながら持続的な社会保障制度を維持していくとするならば、少子高齢化のうち、「高齢化」については、医療とは無縁ではいられない高齢者での医療費適正化・低減化に取り組むのは当然と言えば当然で、そのために国や現場の医療従事者が必死に取り組んでいるのは百も承知している。しかし、少子高齢化のうち「少子化」については、どうにも決定打に欠ける政策ばかりだと常に感じている。今年5月29日に閣議決定された第4次の「少子化社会対策大綱」を見ても溜息が出る。要は働き方改革・IT化による「産めよ増やせよ」でしかない。だが妊娠・出産、さらにその後の育児は男女のパートナーシップの中での価値観に左右されるもので、単に労働時間や子育て関連給付の変更で何とかなるものではないことは明らかである。少子化対策の発想転換を一方、視点を変えて厚生労働省が発表する人口動態統計2018年版を見てみよう。年齢・死因別でみると、今回のSMAに代表されるような「先天奇形、変形及び染色体異常」により亡くなる未成年は758人いる。同じく、がんで380人、心疾患で139人の未成年が命を落とす。周産期にかかわる障害などで500人弱の0歳児の命が失われている。これらは統計上、各年齢で死因トップ10に挙げられているものを集計しただけで、そのほかにも医療の進化・充実次第で失われなくて済む若年者がいる。たぶんその数は10代までで数千人はいるだろうし、これを20代まで拡大するなら万単位になるだろう。「そんな数はたかだか知れている」という御仁もいるかもしれない。しかし、考えてみて欲しい。厚生労働省が2019年12月に発表した人口動態統計の年間推計によると、同年の日本人の国内出生数は86万4,000人である。今後この数は確実に減少していく。ならば、新規出生数の1%程度の若年者数千人の命を医療で救うことができるならばそれも十分意味のあることではないだろうか?そしてもし前述のような若年者が医療のおかげで一定レベルの日常生活を取り戻せるならば、彼らが将来働くことで経済を潤すかもしれないし、直接的にお金には換算できなくとも新たな価値を生む可能性だってある。またその介護などに時間を割かれていた家族も働くことができるようになるかもしれない。さらにはこうした若年者が家庭を持って子供を持つかもしれない。その意味で「少子高齢化」対策として、若年者を死なせない医療・創薬という視点があってもいいのではないかと常に思っている。どうにも大人の世界は引き算ばかりの夢のない世界になりがちだ。実は私は過去のテレビCMで今でも時々思い出すものがある。いつの時期だったか忘れたがNTTドコモのCMだ。CMでは手塚治虫原作のSF漫画「鉄腕アトム」の白黒テレビアニメ時代の映像が登場し、その手には携帯のようなものが握られている。鉄腕アトムのテーマソングをバックに流れたキャッチフレーズは次のようなものだった。「僕たちが夢見た未来がやってきた」これまで、難病で失われていった若年者にも生きていた時に夢見た未来があったはず。それを大人の銭感情だけで汚して良いものかと、ゾルゲンスマの薬価収載に際して思うのだ。今回のSMAについては患者家族による「脊髄性筋萎縮症家族の会」がある。このホームページの背景にはSMA患者の子供たちの写真がモザイクのように配され、その多くが人工呼吸器を装着している。ゾルゲンスマは適応が2歳未満となっているため、世界各地で承認を待ちわびながらも間に合わず、やむなく気管切開して人工呼吸器を装着したSMA患者も少なくないと聞く。私はこのホームページの背景が人工呼吸器なしで笑う子供たちで埋め尽くされ、したり顔で経済性を語っていた大人が黙りこくる未来がやってくることを今期待している。

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脊髄性筋萎縮症治療に新しい治療薬登場/ノバルティス ファーマ

 5月13日、中央社会保険医療協議会は、オンラインで総会を開催し、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品としてノバルティス ファーマ株式会社が3月19日に製造販売承認取得したオナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)の薬価につき1億6,707万7,222円とすることを了承した。薬価収載は5月20日に行われ、同日に発売された。 ゾルゲンスマは、SMAの根本原因である遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法で、1回の点滴静注で治療が完了する。SMAの概要とゾルゲンスマの特性 対象疾患となるSMAとは、脊髄前角細胞の変性・消失によって進行性に筋力低下と筋萎縮を呈する下位運動ニューロン病。常染色体劣性遺伝性の希少疾病であり、発症年齢と最高到達運動機能によってI~IV型の4タイプに分類される。とくにI型(乳児型)SMAは、重症かつ高頻度にみられ、0~6ヵ月で発症し、患児の90%以上が20ヵ月前に死亡または人工呼吸器による永続的な呼吸管理が必要な状態となる。そのほかII、IIIまたはIV型においても、病状の進行により歩行機能の喪失および筋力低下により、社会生活が困難となり、QOLを著しく低下させる。 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は、平成30年度末、全国で858人(うち0~9歳は30人)と報告され、本症は遺伝性疾患による乳幼児の主な死亡原因となっている。 ゾルゲンスマは、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品。静脈内に投与され、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補い、運動ニューロンでSMNタンパク質を発現させ、運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経および筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後および運動機能を改善することが期待されている。また、導入したSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞の核内にエピソームとして留まり、運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されている。ゾルゲンスマの概要一般名:オナセムノゲン アベパルボベク製品名:ゾルゲンスマ点滴静注効能・効果:脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。用法・用量:通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと。薬価:1億6,707万7,222円承認取得日:2020年3月19日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年5月20日主な患者数:年間の投与対象患者数は15~20人程度

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第15回 治療編(1)薬物療法・その2【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第15回 治療編(1)薬物療法・その2前回は、主として末梢性疼痛に用いられる薬物療法について解説しましたが、今回は、末梢性神経障害性疼痛への除痛適応を持つ、新薬ミロガバリンプレガバリン、そして比較的副作用の少ない鎮痛薬ノイロトロピンについて説明しましょう。表に神経障害性疼痛の原因になりうる疾患を示しております。この中でも、末梢性神経障害性疼痛の代表症例として、糖尿病性末梢神経障害性疼痛、帯状疱疹後神経痛、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛が挙げられます。画像を拡大する(1)ミロガバリン<作用機序>神経前シナプスの電位依存性カルシウムイオン(Ca2+)チャネルから流入したCa2+により神経が興奮して、サブスタンスP、グルタミン酸、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)など、いわゆる神経伝達物質が放出されます。このCa2+チャネルにはいくつかのサブユニットで構成されておりますが、ミロガバリンはそのうちのでもα2δサブユニットに結合することによりCa2+チャネルの活動が抑制されることでCa2+の流入が低下します。その効果により、神経伝達物質の放出が抑制されて痛みが緩和されると考えられています。<投与上の注意>1日2回投与が基準です。2.5mg、5mg、10mg、15mg錠がありますが、基本的には5mgX2で開始しますが、患者さんが少しきついと感じられた時には2.5mgX2で開始し、副作用あるいは疼痛緩和効果が見られなければ、1~2週間ごとに10mgX2、15mgX2と漸増し、最終的には1日30mgまで投与します。副作用としては、傾眠、浮動性めまい、体重増加などがあります。高齢者では転倒・骨折の恐れがあるので、細心の注意が必要です。また、自動車運転などの機械操作は回避する必要があります。(2)プレガバリン<作用機序>前述のミロガバリンと同様の作用機序、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>ミロガバリンと同様ですが、中枢性神経障害に対する適応も有しています。元はカプセル剤でしたが、和製でOD錠になりましたので、疼痛時にはそのまま服用できるのが魅力です。25、75、150mgOD錠があり、1日4回まで、最高600mgまで処方できます。副作用もミロガバリンと同様で、眠気には注意が必要です。眠前に服用するとよく眠れるようです。(3)ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)<作用機序>ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスを摂取した家兎の炎症性皮膚組織から抽出した300種類以上非蛋白性生体活性物質を含んでおり、単一での効果成分は不明です。作用機序としては、下行性疼痛抑制系の活性化が考えられております。その他、抗炎症作用、興奮性神経ペプチドの放出の抑制、交感神経作用抑制、血流改善、神経保護作用などが推測されています。<投与上の注意>副作用には発疹、掻痒、悪心、眠気などが認められていますが、その発現頻度や重症度は極端に低いため、高齢者や長期療養者に対しても使いやすいことが特徴です。1日4錠(1錠4単位)を朝夕2回に分けて経口投与します。注射薬では1日1回1管を静脈内、筋肉内または皮下に注射します。以上、痛み治療の第1段階における薬物を取り上げ、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。痛みの患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。1)花岡一雄. ペインクリニック. 2013; 34: 1227-12372)花岡一雄. ペインクリニック. 2011; 143: 441-4443)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S168

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入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第50回

入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、不眠症治療薬「レンボレキサント(商品名:デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目のオレキシン受容体拮抗薬です。より自然に近い催眠作用によって、スムーズな入眠と睡眠維持、翌朝の覚醒改善が期待されています。<効能・効果>本剤は不眠症の適応で、2020年1月23日に承認されています。<用法・用量>通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与します。なお、患者の症状により1日1回10mgを超えない範囲で適宜増減できます。本剤とCYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)を併用する場合は、1日1回2.5mgが上限となっています。<安全性>不眠症患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤が投与された884例(日本人155例を含む)中249例(28.2%)に副作用が認められました。主な副作用は、傾眠95例(10.7%)、頭痛37例(4.2%)、倦怠感27例(3.1%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.本剤は、覚醒と睡眠リズムを調整することで寝つきをよくし、より正常な睡眠の維持を促します。2.このお薬は、食直後を避け、就寝直前に服用してください。入眠後、一時的に起床して活動する必要がある日には服用しないでください。3.眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下など、薬の影響が翌朝以降も続くことがありますので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください。4.不眠症の改善は、適度な運動を心掛けるなど、生活習慣を見直すことも大切です。起床時間と就寝時間を一定にし、睡眠リズムを整えましょう。<Shimo's eyes>不眠症治療の中心的薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬剤が長年使用されていますが、長期服用時の依存形成や薬物の不適切使用が問題となっています。近年では、より自然に近い睡眠・覚醒リズムを整える薬剤として、2010年にはメラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(同:ベルソムラ)が発売されました。本剤は、国内で2番目のオレキシン受容体拮抗薬で、オレキシン神経伝達に作用して過剰な覚醒状態を抑制するため、より自然な睡眠を促し、中途覚醒時間を短縮することが可能と考えられています。本剤の特徴として、年齢による用量の制限がなく、また調剤時の一包化が可能となっているため、高齢者にも比較的使用しやすい薬剤といえるでしょう。第III相試験においては、入眠と睡眠維持の両方の改善を示し、プラセボと比較して翌日のふらつきや記憶力においても問題となる悪化は認められず、日中機能の改善が確認され、6ヵ月投与した中止後の離脱症状は見られませんでした。なお、<用法・用量>に記載のとおり、相互作用については禁忌ではないものの、肝薬物代謝酵素CYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤と併用する場合には、本剤の投与量を1日1回2.5mgに制限する必要があります。また、中等度肝機能障害の患者に対しては、本剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、1日1回5mgが上限となっています。医薬品リスク管理計画書(RMP)における本剤の潜在的リスクとして、ナルコレプシー症状が挙げられています。副作用については、日中の過剰な眠気、睡眠時麻痺、入眠時幻覚がないかなど、細やかな聞き取りを心掛けましょう。参考1)PMDA デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg

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ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防に対する有効性

 実臨床における、せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性について、順天堂大学の八田 耕太郎氏らが、調査を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2019年12月17日号の報告。ラメルテオンとスボレキサントのせん妄予防効果が示唆された 本研究は、多施設共同プロスペクティブ観察研究である。コンサルテーションリエゾン精神科サービスでトレーニングを受けた精神科医により、2017年10月1日~2018年10月7日に実施した。対象は、急性疾患または待機手術により入院した65歳以上の、せん妄は認められていないがせん妄のリスクを有する患者(リスク患者)、および診察前夜に不眠症またはせん妄が認められた患者(せん妄患者)。対象患者に対し、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントが処方された。薬剤の処方は、各患者の裁量に委ねられた。主要アウトカムは、最初の7日間におけるDSM-Vに基づくせん妄の発症率とした。 せん妄予防に対するラメルテオンとスボレキサントの有効性を調査した主な結果は以下のとおり。・リスク患者526例では、ラメルテオンおよび/またはスボレキサントを使用した患者(15.7%)は、使用しなかった患者(24.0%)と比較し、リスク因子で制御後のせん妄発症率が有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.48、95%CI:0.29~0.80、p=0.005)。・せん妄患者422例でも、同様の結果であった(39.9% vs.66.3%、OR:0.36、95%CI:0.22~0.59、p<0.0001)。 著者らは「ラメルテオンとスボレキサントには、実臨床におけるせん妄予防効果が示唆された」としている。

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術後せん妄予防に対するメラトニンの効果~メタ解析

 術後せん妄の予防に、メラトニンやその類似体が有効なのかは、よくわかっていない。中国・南方医科大学のYunyang Han氏らは、メラトニンやその類似体の術後せん妄に対する効果を評価するため、システマティックレビューとメタ解析を実施した。Journal of Pineal Research誌オンライン版2020年3月7日号の報告。 PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Embase、CINAHLデータベースより検索を行った。主要アウトカムは、術後せん妄発生率とした。 主な結果は以下のとおり。・ランダム化比較試験6件、コホート研究2件、ケースコントロール研究1件をメタ解析に含めた。・メラトニンおよびその類似体のラメルテオンは、成人のすべての手術集団において、術後せん妄の発生率を低下させることが示唆された(オッズ比[OR]:0.45、95%信頼区間[CI]:0.24~0.84、p=0.01)。・高用量(5mg)メラトニン投与は、術後せん妄発生率の低下に効果的であった(OR:0.32、95%CI:0.20~0.52、p<0.00001)。・手術前に消失半減期5回未満のメラトニン投与により、術後せん妄発生率が有意に減少した(OR:0.31、95%CI:0.19~0.49、p<0.00001)。 著者らは「現在の文献では、メラトニンやその類似体のラメルテオンは、術後せん妄の予防に有効であることが支持された。しかし、本結果は、研究の有意な異質性により制限を受ける可能性がある。心臓および非心臓手術におけるせん妄発生に対するメラトニンおよびその類似体の予防効果を明らかにするためには、さらなる研究が必要である」としている。

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成人社交不安症に対する薬物療法~メタ解析

 社交不安症(SAD)に対する薬物療法について、治療薬の有効性や忍容性、介入効果、エビデンスの質についての評価を含めた情報をアップデートするため、南アフリカ共和国・ケープタウン大学のTaryn Williams氏らは、システマティックレビューとメタ解析を実施した。Acta Neuropsychiatrica誌オンライン版2020年2月10日号の報告。 SAD治療における薬理学的介入またはプラセボと比較したRCTを、Common Mental Disorder Controlled Trial Registerおよび2つのトライアルレジスターより検索した。ランダム効果モデルを用いて標準的なペアワイズメタ解析を、統計解析ソフトRを用いてネットワークメタ解析を実施した。また、エビデンスの質も評価した。 主な結果は以下のとおり。・67件のRCTをレビューし、21件(45の介入)についてネットワークメタ解析を実施した。・パロキセチンはプラセボと比較し、症状の重症度を軽減させる効果が最も高かった。・優れた治療反応が得られた薬剤は、パロキセチン、brofaromine、ブロマゼパム、クロナゼパム、エスシタロプラム、フルボキサミン、phenelzine、セルトラリンであった。・ドロップアウト率は、フルボキサミンでより高かった。・有害事象によるドロップアウト率がプラセボより高かった薬剤は、brofaromine、エスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、プレガバリン、セルトラリン、ベンラファキシンであった。・オランザピンの治療効果は比較的高く、あらゆる原因によるドロップアウト率はbuspironeで高かった。 著者らは「パロキセチン治療によって症状の重症度が有意に減少したことを除き、プラセボと比較した薬物療法の効果は小さかった。SADの第1選択薬には、パロキセチンが推奨されるであろう」としている。

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処方薬が自主回収に 処方理由を掘り下げた代替薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第16回

 製薬会社からの「自主回収のお知らせ」は、ある日突然アナウンスされます。「代替薬はどうしますか?」と医師に丸投げするのではなく、服用理由や副作用リスクを考慮しながら代替薬を提案しましょう。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患:慢性心不全、心房細動、高血圧症、糖尿病、症候性てんかん、甲状腺機能低下症既 往 歴:1年前に外傷性くも膜下出血で入院服薬管理:一包化処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠60mg 2錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後5.レボチロキシンナトリウム錠50μg 1錠 分1 朝食後6.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後7.メトホルミン錠250mg 2錠 分2 朝夕食後8.リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後9.テルミサルタン錠20mg1錠 分1 朝食後10.ラメルテオン錠8mg 1錠 分1 夕食後11.ミアンセリン錠10mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんの訪問薬剤管理指導を始めてから3ヵ月目に、MSDよりミアンセリン錠10mgの自主回収(クラスII)のアナウンスが入りました。理由は、安定性モニタリングにおいて溶出性が承認規格に適合せず、効果発現が遅延する可能性があるとのことで、使用期限内の全製品の回収と出荷停止が行われました。そこで、医師にミアンセリンから代替薬への変更を提案することにしました。服用契機は、入院中にせん妄が生じたため処方されたと記録されていました。また、以前からこの患者さんには不眠傾向があり、睡眠薬の代替としていることも考えられました。高齢者では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬により、せん妄や意識障害のリスクが懸念されるため、5HT2a受容体遮断作用により睡眠の質を改善するとともに、H1受容体遮断作用により睡眠の量も改善するミアンセリンが代替薬として少量投与されることがあります。なお、ラメルテオンもせん妄リスクのある患者で有効とするデータもあり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクを回避しつつ、せん妄と不眠症の両方の改善を目指していると思われました1)。これらの背景を考慮したうえで、代替薬としてトラゾドンを考えました。トラゾドンは、弱いセロトニン再取り込み阻害作用と、強い5HT2受容体遮断作用を併せ持つ薬剤です。睡眠に関しては、全体の睡眠時間を増加させ、持続する悪夢による覚醒やレム睡眠量を減らす効果を期待して処方されることもあり、せん妄と不眠症を有するこの患者さんには最適と考えました。処方提案と経過医師に「ミアンセリン自主回収に伴う代替薬」という表題の処方提案書を作成し、トラゾドンへの変更を提案しました。標準用量では過鎮静やふらつき、起立性低血圧など薬剤有害事象の懸念があると考え、少量の25mgを提案し、認知機能や運動機能低下の有害事象をモニタリング項目として観察することを記載しました。その結果、医師の承認を得ることができました。処方変更後、過鎮静やふらつきなどはなく、せん妄の再燃や入眠困難、中途覚醒などの症状もなく経過しています。1)Hatta K, et al. JAMA Psychiatry. 2014;71:397-403.2)山本雄一郎著. 日経ドラッグインフォメーション編. 薬局で使える 実践薬学. 日経BP社;2017.3)Sateia MJ, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2017:13;307-349.doi: 10.5664/jcsm.6470.

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神経疾患は自殺死のリスクを高めるか/JAMA

 1980~2016年のデンマークでは、神経疾患の診断を受けた集団は、これを受けていない集団に比べ、自殺率が統計学的に有意に高いものの、その絶対リスクの差は小さいことが、同国Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月4日号に掲載された。神経学的障害は自殺と関連することが示されているが、広範な神経学的障害全体の自殺リスクの評価は十分に行われていないという。約730万人で、神経疾患の有無別の自殺死を評価 研究グループは、神経疾患を有する集団は他の集団に比べ、自殺による死亡のリスクが高いかを検証し、経時的な関連性を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(デンマーク・Psychiatric Research Foundationの助成による)。 1980~2016年に、デンマークに居住していた15歳以上の730万395人を対象とした。1977~2016年に、頭部外傷、脳卒中、てんかん、多発ニューロパチー、筋神経接合部疾患、パーキンソン病、多発性硬化症、中枢神経系感染症、髄膜炎、脳炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、認知症、知的障害、その他の脳疾患で受診した124万8,252例のデータを用いた。 主要アウトカムは、1980~2016年の期間に発生した自殺死とした。Poisson回帰を用い、社会人口学的因子、併存疾患、精神医学的診断、自傷行為で補正した発生率比(IRR)を推算した。ALSとハンチントン病で自殺死率が最も高い 1億6,193万5,233人年の期間に、730万人以上の集団(男性49.1%)で3万5,483人(追跡期間中央値:23.6年、IQR:10.0~37.0、平均年齢:51.9[SD 17.9]歳)が自殺死した。 自殺死の77.4%が男性で、14.7%(5,141人)が神経疾患の診断を受けていた。自殺死の割合は、神経疾患群が10万人年当たり44.0、非神経疾患群は10万人年当たり20.1で、補正後IRRは1.8(95%信頼区間[CI]:1.7~1.8)であり、神経疾患群で有意に高かった。診断からの期間によって、補正後IRRには違いがみられ、診断後1~3ヵ月が3.1(95%CI:2.7~3.6)と最も高く、10年以降は1.5(1.4~1.6)であった。 自殺死の補正後IRRが最も大きい疾患は、ALS(補正後IRR:4.9、95%CI:3.5~6.9)およびハンチントン病(4.9、3.1~7.7)であった。多発性硬化症の補正後IRRは2.2(1.9~2.6)、頭部外傷は1.7(1.6~1.7)、脳卒中は1.3(1.2~1.3)、てんかんは1.7(1.6~1.8)だった。 非神経疾患群と比較して、認知症(補正後IRR:0.8、95%CI:0.7~0.9)、アルツハイマー病(0.2、0.2~0.3)、知的障害(0.6、0.5~0.8)は、自殺死の補正後IRRが低かったが、認知症では診断から1ヵ月以内の補正後IRRは3.0(1.9~4.6)と高い値を示した。 また、神経疾患群では、神経疾患による受診回数が増えるに従って自殺率が上昇した(受診回数1回の補正後IRR:1.7[95%CI:1.6~1.7]、2~3回:1.8[1.7~1.9]、4回以上:2.1[1.9~2.2]、p<0.001)。 神経疾患群の自殺死は、1980~99年の10万人年当たり78.6から、2000~16年には10万人年当たり27.3に減少し、同様に非神経疾患群では26.3から12.7に低下した。 他の死因による競合リスクを考慮すると、アルツハイマー病を除く神経疾患群は非神経疾患群に比し、診断から1~3ヵ月に自殺死の累積発生率(絶対リスク)が増加していた。神経疾患群における30年間の自殺死の絶対リスクは0.64%(95%CI:0.62~0.66)であり、そのうちハンチントン病は1.62%(1.04~2.52)、筋神経接合部/筋疾患は1.19%(1.11~1.27)だった。 著者は、「ALSとハンチントン病の自殺死リスクが最も高いが、より頻度の高い疾患である頭部外傷や脳卒中、てんかんでも高い値を示した。認知症の診断直後のリスク増加は、引き続き注目に値する」としている。

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アレキサンダー病〔Alexander disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義最初の報告は1949年にAlexanderが記載した精神遅滞、難治性痙攣、および水頭症を認めた生後15ヵ月の乳児剖検例である。この症例の病理学的特徴は、大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に認められた多数のフィブリノイド変性で、後にこれはローゼンタル線維と同一であることが判明した。以後約50年間にわたりアレキサンダー病は「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた。しかし、2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の1つであるグリア線維性酸性タンパク(GFAP)をコードする遺伝子GFAPが病因遺伝子として報告されて以降、乳児期発症例とは臨床像がまったく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された。現在ではアレキサンダー病は「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で、病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義される。■ 疫学新生児期から70歳以上の高齢者まで幅広い年齢層で発症がみられる。わが国の有病者率は270万人あたり1人と推定される。しかし、未診断の症例や他の神経変性疾患(パーキンソン症候群や脊髄小脳変性症など)と診断されている症例が、少なからず存在すると思われる。臨床病型別頻度は、延髄・脊髄優位型が約半数と最も多く、大脳優位型が1/4強、中間型が1/4弱である(臨床病型については後述の「症状・分類」を参照)。わが国での全国調査によると延髄・脊髄優位型の約65%で常染色体優性遺伝形式を示唆する家族内発症がみられるが、遺伝学的あるいは病理学的検査により確定診断された家系の報告は非常に少なく、浸透率も不明である。一方、大脳優位型はほぼ全例がde novo変異である。■ 病因GFAP遺伝子変異による機能獲得性機序が考えられているが、病態には変異GFAPの発現量増加が重要と考えられている。これは、(1)ヒト野生型GFAPを過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいてGFAP発現量に比例した寿命の短縮とローゼンタル線維の出現を認める、(2)変異GFAP遺伝子を単一コピーのみ導入したモデルマウスは臨床表現型を十分に示さない、という動物モデルの知見に基づく。ヒトのアレキサンダー病においてはGFAP遺伝子のmultiplicationの報告はなく、変異GFAPの量的変化に影響を与える遺伝的および環境因子の存在が示唆される。変異GFAPによるアストロサイトの機能障害としてプロテアソーム系の機能低下、ストレス経路への影響、異常なカルシウムシグナル変化、炎症性サイトカインの増加、グルタミン酸トランスポーターの発現低下と機能異常などが報告されている。もう1つの病理学的特徴である脱髄については、モデルマウスの研究からK緩衝系の異常によるミエリン形成や維持の障害が推測されているが詳細な機序は不明である。■ 症状・分類発症年齢により乳児型(2歳未満の発症)、若年型(2~12歳未満の発症)および成人型(12歳以上の発症)に分類されるが、近年、神経症状および画像所見に基づいた病型分類が提唱されており、本稿ではこの新しい病型分類を記載する。1)大脳優位型(1型)主に乳幼児期発症で、機能予後不良の重症例が多い。痙攣、大頭症、精神運動発達遅延が主な症状である。痙攣は難治性とされるが、コントロール良好で学童期ごろには軽減する症例も散見される。大頭症は乳児期に目立つ。経過とともに痙性麻痺、構音障害、発声障害、嚥下障害などの延髄・脊髄症状が顕在化する。新生児期発症例では水頭症、頭蓋内圧亢進、難治性痙攣を来し、生命予後は不良である。2)延髄・脊髄優位型(2型)四肢筋力低下、痙性麻痺、四肢・体幹失調、構音障害、発声障害、嚥下障害、自律神経障害(起立性低血圧、膀胱直腸障害、睡眠時無呼吸)といった延髄・脊髄症状が、種々の組み合わせで認められる。筋力低下にはしばしば左右差が認められる。上記以外の症候として約20%に筋強剛、約15%に口蓋振戦を認める(自施設解析データ)。大頭症、精神運動発達遅延は通常認めない。前頭側頭型認知症に類似した認知症を呈する症例もある。一過性の「反復性嘔吐」が唯一の症状で、MRIにて両側延髄背側に結節状病変を示す小児の報告がある。3)中間型(3型)発症時期は幼児期から成人期まで幅広い。大脳優位型および延髄・脊髄優位型の両者の特徴を有する。大脳優位型の長期生存例、および精神運動発達遅延を伴う延髄脊髄優位型のパターンが含まれる。精神運動発達遅延については、初診時まで医療機関で評価されず、小学生時に学力低下により支援学級に編入したなどの経歴をもつ症例がある。また、熱性痙攣やてんかんの既往歴をもつ症例も少なからず存在する。複視や側彎などの脊柱異常を伴うことも多い。■ 予後大脳優位型の生命予後は約14年と報告されている。新生児期発症例は、生後数週~数ヵ月で死亡することが多い。難治性痙攣や栄養障害、感染症などのため学童期までに死亡する症例が多いが、一方で学童期までに痙攣などが消失するなど、大脳症状が安定化する症例も少なからず認められる。このような症例は、学童期以降に歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状が緩徐に進行して中間型に移行する。延髄・脊髄優位型の生命予後は、約25年と大脳優位型と比較すると良好だが、無症候あるいは非常に軽微な異常にとどまる症例から運動麻痺・球症状・呼吸症状が急激に増悪する症例まで症例差が大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)頭部および脊髄MRI検査による特徴的な所見がアレキサンダー病を疑う手がかりとなる。確定診断は遺伝子検査および病理学的検査による。近年は、遺伝子検査にて確定診断が行われる傾向にあるが、新規変異や非典型例では慎重な判定が必要となる。■ MRI検査1)大脳優位型前頭部優位の広範な大脳白質異常が特徴的である。その他、脳室周囲の縁取り(T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す)、基底核と視床の異常、脳幹の異常(特に中脳と延髄)、造影効果がみられうる。2)延髄・脊髄優位型延髄・頸髄の萎縮・異常信号が特徴的である。典型的には橋が保たれた延髄・上位頸髄の著明な萎縮が認められ、その形状はオタマジャクシ様の特徴的な所見を示す(tadpole appearance)。高齢者や軽症例では延髄・頸髄の萎縮が目立たないことがあるが、このような症例では延髄錐体の異常信号と延髄外側および最後野付近の萎縮を伴い、水平断にて延髄にメダマチョウの眼状紋様の所見がみられる(eye spot sign)。大脳・中脳・橋の錘体路の異常信号は通常認めない。10代前半から20歳代の若年例では延髄の結節・腫瘤様異常がみられることが多い。その他、小脳歯状核門の信号異常やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricular rim)も高率にみられる所見である。大脳MRIではT2強調画像にて“periventricular garland”と表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が認められる。この病変は造影効果を示すこともあり、この部分にはローゼンタル線維が多いとされる。3)中間型大脳優位型と延髄脊髄優位型の両者の特徴をもつ型と定義した通り、比較的広範な大脳白質病変と延髄・頸髄の萎縮・異常信号を認める。成人症例では大脳白質病変は嚢胞化を伴う傾向があり、延髄・頸髄の萎縮は高度である。■ 遺伝子検査これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている。大多数がミスセンス変異であるが、インフレーム挿入/欠失変異、終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある。CpGが関与するR79、R88、R239、R416が置換される変異は、人種を越えて認められる。前3者が置換される変異は、大脳優位型および中間型に認められ、R416が置換される変異はすべての型で報告されている。一方、延髄・脊髄優位型において頻度の高い変異は特に存在しない。■ 病理学的検査大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では対症療法にとどまる。痙攣に対する抗てんかん薬の投与、栄養管理、併発する感染症に対する抗菌薬の投与、学習障害や認知機能障害に対する療育・ケアが行われる。痙性麻痺に対して抗痙縮薬や抗てんかん薬の投与が使用されることがある。4 今後の展望変異GFAP発現抑制を治療標的としたアンチセンス核酸とドラッグリポジショニングに関する動物実験レベルの報告がある。アンチセンス核酸を投与したモデルマウスの報告では安全性、髄液中のGFAP蛋白量の劇的な減少、ローゼンタル線維の消失が確認されている。近年、核酸医薬の技術発展は目覚ましく、神経難病領域においても脊髄性筋萎縮症では実用化されている現状を鑑みると、本症に対する治療開発も期待される。一方、ドラッグリポジショニングの候補薬剤としてセフトリアキソン、クルクミン、リチウムが報告されているが、いずれも現時点では臨床応用には至っていない。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班 ホームページ(診断基準や典型的な画像所見なども掲載)難病情報センター アレキサンダー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Alexander WS. Brain. 1949;72:373-381.2)Brenner M, et al. Nat Genet. 2001;27:117-120.3)Yoshida T, et al. J Neurol. 2011;258:1998-2008.4)Prust M, et al. Neurology. 2011;77:1287-1294.5)Messing A, et al. Am J Pathol. 1998;152:391-398.6)Hagemann TL, et al. Ann Neurol. 2018;83:27-39.公開履歴初回2020年02月17日

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視神経脊髄炎治療薬の開発最前線

今日まで、視神経脊髄炎(NMO)を適応症に掲げる薬剤はない。そのため治療はエビデンスではなく、経験的な推奨に従って行われてきた。しかし多発性硬化症の一種と考えられていたNMOが、病理学的、免疫学的に異なる疾患であると明らかになるに従い、それらにターゲットを絞った治療薬が開発されるようになった。先頭を走るのは、ヒト化抗IL-6レセプターリサイクリング抗体であるサトラリズマブだ。2019年、NMO治療薬として日米欧で申請されるに至った。この薬剤は、インターロイキン(IL)-6受容体を選択的に阻害する。NMOの特徴であるアストロサイト傷害は、抗アクアポリン4(AQP4)抗体の増加によりもたらされる。サトラリズマブはその増加をもたらすIL-6シグナル系をブロックし、アストロサイト傷害を抑制すると考えられている。このサトラリズマブの有効性は、2つのランダム化試験で示されている。1つは、標準的治療下にあるNMO・NMO関連疾患患者83例をランダム化した "SAkuraSky試験" である(NCT02028884)。サトラリズマブはプラセボに比べ再発リスクを相対的に62%、有意に抑制した(2018年、欧州多発性硬化症学会報告)。また、過去1年以内に発症歴を有するNMO・NMO関連疾患患者95例をランダム化したSAkuraStar試験(NCT02073279)においても、プラセボに比べ相対的に55%、再発リスクを有意に抑制していた(2019年、欧州多発性硬化症学会報告)。またサトラリズマブによる神経性疼痛の軽減も、2次評価項目ではあるが、両試験から報告された。ただし。血清脂質悪化による心血管系リスク増加の可能性を懸念する声もある [Paul F et al. Expert Opin Investig Drugs. 2018; 27: 265] 。サトラリズマブに続き、現在、わが国で承認申請の準備に入っているのがイネビリズマブである(米国では申請済み)。同剤は抗CD19モノクローナル抗体であり、B細胞を血中から除去する。末梢血からのB細胞除去は、すでにNMO再発リスク低減との相関が示唆されている [Jacob A et al. Arch Neurol. 2008; 65: 1443] 。イネビリズマブは抗CD20モノクローナル抗体よりも未成熟なB細胞にも作用するため、期待が集まっている。NMO関連疾患99例をランダム化した”N-MOmentum”スタディにおいて同剤は、プラセボに比べ、NMO関連疾患発作のリスクを早退的に73%、有意に低下させた [Cree BAC et al. Lancet. 2019; 394: 1352]。

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