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COPD罹患頻度COPDと肺がんは、双方とも喫煙との関連が高く、併存例も多くみられます。呼吸器外科では手術前のスパイロメトリーは必須検査であるため、実際の両者の併存状況もわかります。当施設は他施設に比べCOPD患者さんの比率が若干多いかも知れませんが、肺がん手術対象の患者の30%がCOPDを合併していることがわかりました。合併するCOPDの重症度はGOLD分類1(軽症)が半数、GOLD分類2(中等症)以上が半数というものでした。COPD患者の肺の状態COPD患者さんの肺は、そうでない方とは圧倒的な違いがあります。正常な肺は上葉、中葉、下葉とも同じ柔らかさ(コンプライアンス)を持ち、肺は均等に広がります。しかし、COPDの肺は、気腫状になり破壊された部分が極端に膨らんで正常な肺が潰されてしまうのです。正常な肺の気腔が狭くなってしまうと、換気不足により静脈血が動脈にそのまま還ってしまう肺内シャントに近い状態となり、VQミスマッチ(換気血流不均等)から低酸素血症にいたることもあります。手術の際も違いがわかります。COPD肺は破壊されているため、ステープラーで切っているときに針穴から空気漏れが起こることがあります。肺は弾力性のある臓器ですが、COPDでは肺の弾力性がなくなっているためステープラー操作によって組織が裂けてしまうわけです。こういう現象は、COPDを併存したほとんどの例でみられます。また手術時、肺を虚脱させる際にも違いがでます。CODPでは、吸気時は気道が広がり空気が入っていくものの、気道が狭窄しているため呼気時に気道が細くなると空気が出ていかないチェックバルブ現象が起きます。そのため、COPD肺では虚脱しようとしても気道が塞がって肺胞に残った空気がでていかず、潰れにくいのです。気管支のチェックバルブ現象画像を拡大するCOPD併存による弊害COPDの肺は喫煙により、組織の破壊と再生が繰り返されています。つまり、細胞分裂が非常に活発に行われているわけです。がんはDNAのミスマッチコピーですので、細胞分裂が多いほどがんが発生する率が高くなるため、COPD患者では肺がんの発症が多くなるのです。しかも、COPDに発生する肺がんはきわめてアグレッシブな低分化がんです。COPDと肺がん発症率Mannino DM, et al. Arch Intern Med. 2003;163:1475-1480.画像を拡大するCOPD患者では経年的に肺がんの発症数が上昇。この傾向は中等症から重症で顕著である呼吸器外科にとって手術のリスクファクターとしてCOPDほど重要なものはありません。COPDでダメージを受けた肺を切り取るという操作を加えること自体きわめて大きなリスクファクターですが、COPDの患者さんは術後合併症の発生率も非常に高いのです。たとえば、術後の難治性肺瘻(肺からの空気漏れ)の発生率はCOPD併存例で12%に対し非併存例では4%と4倍、肺炎発生率はCOPD併存例で6%に対し非併存例では1%と6倍も高くなります。また、術後QOLが悪くなり、これも大きな問題だといえます。また、前述の通り低分化がんで進行が速いため、通常であれば肺葉切除で済むケースでも、COPD併存例ではリンパ節への転移が進んで手術範囲が大きくなることも少なくありません。COPDと肺がん死亡率画像を拡大するCOPDでは手術の可否の判断も複雑です。肺がんの手術適応基準は術後残存呼吸機能FEV1が800cc以上というものですが、COPDでは術後の呼吸機能が想定以上に悪くなることがあります。たとえば、肺がん切除後にCOPD病変部分が残る場合、正常の肺部分が少なくなるため、術後呼吸機能は想定以上に悪くなり、患者さんによっては手術ができないということが起こります。逆にCOPD病変と肺がんが同部位だと、肺の良い部分を残して悪い部分をとることになるため呼吸機能が劇的に良くなります。このように、COPDでは呼吸機能だけでなく手術部位を考慮してから、手術の可否を判断しないと危険です。呼吸機能の悪さ、耐術性の乏しさ、アグレッシブな低分化がん、と肺がん治療にとってCOPDは三重の障害をもたらすのです。COPDでは、がん以外の併存症にも重要なものがあります。COPDの死因の第1位は呼吸不全ですが、第2位は循環器疾患です。つまり、重症化して呼吸不全になる前に心臓の合併症が問題になるわけです。肺が悪ければ心臓とくに右心系に負荷がかかるため、心筋梗塞や心不全が起こりやすくなります。そのため、COPDの治療をすることで、心臓合併症死を減らさなければいけないわけです。最悪のオーバーラップ…CPFECOPDと間質性肺炎は双方とも喫煙が原因であるためオーバーラップすることがあります。この病態は気腫合併肺線維症CPFE(Combined Pulmonary Fibrosis and Emphysema)とよばれ、近年注目されています。COPDの一部に存在し、典型的には上葉に気腫、下葉に間質性肺炎がある新しい疾患概念です。このポピュレーションは、低酸素血症が著明に起こり、非常に予後も悪く術後の合併症も多いのが特徴です。さらに厄介な事に、呼吸機能が正常であることが多いのです。気腫と線維化が相殺して呼吸機能(1秒率)が見かけ上、正常なのです。呼吸機能だけを指標に手術に踏み切ると、落とし穴にはまる事もあります。今後、この病態の研究は盛んに行われるでしょう。COPD患者180例における各表現型の比率画像を拡大するCPEEの死亡率画像を拡大するCOPD併存肺がん症例での臨床試験COPDは未診断の患者が多い疾患ですが、呼吸器外科では必ずスパイロメトリーを行うため潜在的なCOPD患者を把握できる確率は高いのです。それも手術可能な症例なので、内科でのCOPDよりも軽症の患者さんが多くおられます。COPDには、チオトロピウム(商品名:スピリーバ)のUPLIFTなど大規模な研究が数多くあるものの、外科が主体となった研究はなく、呼吸器外科医が診る軽症例における、有用性や予後改善効果はわかっていません。さらに、手術適応ボーダーライン上の患者にチオトロピウムを投与することでFEV1が改善し手術可能となるか? また、それに長期的な意義があるのか? といったことも明らかにはなっていません。そのため、現在は当施設だけの小規模な試験ですが、多施設共同で300例を目標に術後合併症発生率をエンドポイントとした第3相試験を始めています。がんとCOPDのフォローアップを両輪で行う呼吸器外科の手術後、がん再発のフォローアップは通常10年程度ですが、COPD合併患者さんは術後もCOPDの状態であるため、生涯フォローアップが必要です。また、手術前はモチベーションがあるので治療薬を使ってくれるものの、症状がないため手術後薬物治療をやめてしまう患者さんも数多くいます。そのため、内科と連携を図り、がんとCOPDのフォローアップを両輪で行えるようなシステムが実現できると良いと思います。COPDもがんも世界的に増えていく疾患です。知識豊富な呼吸器内科の力をお借りし、今後は診療科を超えた連携対策を実施していく必要があると思います。