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心アミロイドーシス治療、タファミジスが有望/NEJM

 トランスサイレチン型心アミロイドーシスは、生命を脅かす希少疾患だが、米国・コロンビア大学アービング医療センターのMathew S. Maurer氏らATTR-ACT試験の研究グループは、トランスサイレチン型心アミロイドーシス治療において、タファミジスが全死因死亡と心血管関連の入院を低減し、6分間歩行テストによる機能やQOLの低下を抑制することを示した。本症は、ミスフォールディングを起こしたトランスサイレチン蛋白から成るアミロイド線維が、心筋に沈着することで引き起こされる。タファミジスは、トランスサイレチンを特異的に安定化させることで、アミロイド形成を抑制する薬剤で、日本ではトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの末梢神経障害の治療薬として承認されている。NEJM誌2018年9月13日号掲載の報告。対象は年齢18~90歳のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者 本研究は、タファミジスの有用性の評価を目的とし、13ヵ国48施設が参加した国際的な多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験。2013年12月~2015年8月の期間に患者登録が行われた(Pfizerの助成による)。 対象は、年齢18~90歳、生検検体の分析でアミロイド沈着が確定されたトランスサイレチン型心アミロイドーシス(トランスサイレチン遺伝子TTR変異陽性[ATTRm]および野生型トランスサイレチン蛋白[ATTRwt])の患者であった。 被験者は、タファミジス80mg、同20mg、プラセボを1日1回投与する群に、2対1対2の割合で無作為に割り付けられ、30ヵ月の治療を受けた。 主要エンドポイントとして、Finkelstein-Schoenfeld法を用いて、全死因死亡の評価を行い、引き続き心血管関連入院の頻度を評価した。副次エンドポイントは、ベースラインから30ヵ月時までの6分間歩行テストの変化およびKansas City Cardiomyopathy Questionnaire-Overall Summary(KCCQ-OS、点数が高いほど健康状態が良好)のスコアの変化とした。トランスサイレチン型心アミロイドーシス患者の30ヵ月死亡が30%低下、心血管関連入院は32%低下 トランスサイレチン型心アミロイドーシス患者441例が登録され、タファミジス群(80mg、20mg)に264例、プラセボ群には177例が割り付けられた。全体の年齢中央値は75歳で、約9割が男性であり、106例(24%)がATTRmであった。 タファミジス群の173例、プラセボ群の85例のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者が試験を完遂した。所定の治療アドヒアランス率(計画用量の80%以上を達成した患者の割合)は高く、タファミジス群が97.2%、プラセボ群は97.0%だった。 Finkelstein-Schoenfeld法による30ヵ月時の全死因死亡および心血管関連入院は、タファミジス群がプラセボ群に比べ良好であった(p<0.001)。Cox回帰分析による全死因死亡率は、タファミジス群が29.5%(78/264例)と、プラセボ群の42.9%(76/177例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.51~0.96)。また、心血管関連入院率はそれぞれ0.48件/年、0.70件/年であり、タファミジス群で有意に低かった(相対リスク比:0.68、95%CI:0.56~0.81)。 6分間歩行テストの歩行距離は、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者ともベースラインから30ヵ月時まで経時的に短縮したが、短縮距離はタファミジス群がプラセボ群よりも75.68m(標準誤差:±9.24、p<0.001)少なく、6ヵ月時には両群間に明確な差が認められた。 KCCQ-OSスコアも、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者とも経時的に低下したが、30ヵ月時の低下分のスコアはタファミジス群がプラセボ群よりも13.65点(標準誤差:±2.13、p<0.001)少なく、6ヵ月時には両群間に明確な差がみられた。 安全性プロファイルは、両群のトランスサイレチン型心アミロイドーシス患者でほぼ同様であり、タファミジス群の2つの用量の安全性にも意味のある差は認めなかった。治療中に発現した有害事象は軽度~中等度であり、有害事象の結果としての恒久的治療中止の頻度はタファミジス群のほうが低かった。 著者は、「タファミジスは、NYHA心機能分類クラスIIIを除くすべてのサブグループで心血管関連入院率を低下させたが、クラスIIIの患者の入院率の高さには、病態の重症度がより高い時期における生存期間の延長が寄与したと推測され、この致死的で進行性の疾患では、早期の診断と治療が重要であると強く示唆される」としている。

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肝臓移植ができない患者にも希望の光

 2018年6月6日、ファイザー株式会社は、「世界ATTR啓発デー(6月10日)」を前に都内においてATTRアミロイドーシスに関するプレスカンファレンスを開催した。カンファレンスでは、ATTRアミロイドーシスの診療の概要、とくに抗体治療の知見や患者からの切実な疾患への思いが語られた。1,000例以上の患者が推定されるATTR-FAP はじめに安東 由喜雄氏(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経内科学分野 教授/国際アミロイドーシス学会 理事長)を講師に迎え、「進歩目覚ましい神経難病、ATTRアミロイドーシス診療最前線」をテーマに、ATTRアミロイドーシスの概要が説明された。 アミロイドーシスは、たんぱく質が遺伝子変異や加齢などにより線維化し、臓器などに沈着することで、さまざまな障害を起こすとされ、全身性と限局性に大きく分類される。全身性は、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)や老人性全身性アミロイドーシス(SSA)が知られており、限局性ではアルツハイマー病やパーキンソン病が知られている。今回は、全身性アミロイドーシスのFAPについて主に説明がなされた。 全身性アミロイドーシスのFAPやSSAは、トランスサイレチン型アミロイドーシスと呼ばれ、FAPは遺伝型ATTRで変異型TTRがアミロイドを形成し、20代から発症、末梢神経障害、浮腫・失神、消化管症候、腎障害、眼症状などを引き起こす。SSAは、主に70代から発症し、非遺伝型ATTRと呼ばれ、野生型TTRがアミロイドを形成し、心症候、手根管症状などを引き起こす。 そして、FAPでは、最近の研究より国内で40種以上の変異型が、全世界では140種以上の変異型の報告がされ、国内患者数は1,000例以上と推定されているという。また、従来は熊本県、長野県だけでみられた変異型が全国に広がっていることも確認されていると報告した。疑ったら熊本大学へ紹介を! FAPの診断では、患者病歴(とくに家族歴)、身体所見(FAPのRed-flag[四肢の疼痛、体重減少、排尿障害、下痢・便秘、浮腫、心室壁の肥厚など])、組織病理学的検査、遺伝学的検査(TTR遺伝子変異の同定)などにより確定診断がなされる。なかでも遺伝学的検査について安東氏は「熊本大学ではアミロイドーシス診療体制構築事業を行っており、全国から診断の受付をしている。専門医師不在の病院、開業の先生も本症を疑ったら当学に紹介をしていただきたい」と早期診断、早期発見の重要性を強調した。FAP治療の新次元を開いたタファミジス FAPの治療については、以前から肝移植が推奨されているが、肝移植をしてもなお眼症候の進行や心肥大など予後不良の例もあるという。また、肝移植では、発症後5年以内という期間制限の問題、移植ドナーの待機問題もあり、条件は厳しいと指摘する。 そんな中、わが国で2013年に承認・販売されたタファミジス(商品名:ビンダケル)は、こうした問題の解決の一助になると同氏は期待を寄せる。タファミジスは、肝臓産生のTTRを安定化させることで、アミロイドの線維化を防ぐ働きを持ち、安全に末梢神経障害の進行を抑制する効果を持つ。実際、タファミジスの発売後、肝移植手術数は減少しており、ある症例では、車いすの患者が肝移植と同薬を併用することで、症状が改善し、独歩になるまで回復したと紹介した。 最近では、肝臓に着目しTTRの発現を抑えるアンチセンス核酸(ASO)などの遺伝子抑制、沈着したアミロイドを除去する抗体治療も世界的に盛んに研究されている。 おわりに同氏は、「FAPをはじめとするアミロイドーシスでは、早期に症候から本症を疑い、組織からアミロイド沈着を検出することが重要である。早期治療介入のためには、早期診断が大切であり、今後も医療者をはじめ、社会への疾患の浸透を図るために、患者とともに疾患と戦っていく」とレクチャーを終えた。 次に患者・家族の会「道しるべの会」からFAP患者が登壇し、会の活動を説明。その後、「FAPは家系での発症が多く、患者家族は発症におびえていること」「肝移植後も予後が悪く、今後の疾患の進行に不安を覚えていること」「患者の経済的格差や受診格差もあること」など疾患への苦労や悩みを語るとともに、「移植に頼らない新薬や眼病変への新薬の開発」「肝移植でも使える免疫抑制剤の保険適用の拡大」「FAPへの医療者も含めた社会の理解」など期待を述べた。■参考TTRFAP.jp(ファイザー提供)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター■関連記事希少疾病ライブラリ 家族性アミロイドポリニューロパチー

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治療薬の開発が進むアミロイドーシスの最新知見

 第3回日本アミロイドーシス研究会学術集会(大会長:安東 由喜雄氏[熊本大学大学院 生命科学研究部 神経内科学分野 教授])が、8月21日、東京都内にて開催された。今回は約60題に上る演題発表のほか、シンポジウム、特別講演が行われた。多様な症候を示すアミロイドーシス モーニングセミナーでは、山下 太郎 氏(熊本大学医学部附属病院 神経内科 アミロイドーシス診療体制構築事業 特任教授)が、「アミロイドーシスの早期診断と早期治療の重要性」と題し、レクチャーを行った。 セミナーでは、「本症は約60年前に発見されて以来、今日まで診断法と治療法の研究がされてきた」と疾患の歴史からひも解くとともに、主に家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)にフォーカスをあて解説が行われた。 アミロイドーシスは、特異なタンパクであるアミロイドがさまざまな臓器の細胞外に沈着することで、機能障害を引き起こす疾患群である。現在31種類のアミロイド前駆タンパク質が確認され、沈着する種々のタンパク質に応じて分類がされている(その1つにFAPに関連するトランスサイレチン〔TTR〕がある)。これら原因タンパクにより病型が異なり、病型により治療法も変わるために、確実な診断が重要となる。しかし、一般に全身性アミロイドーシスでは、多臓器に障害がみられ、多彩な症候を示すために、確定診断まで難渋される。 初発症状としては、全身倦怠感などの非特異的症状のほか、末梢神経障害による手足のしびれ、自律神経障害による起立性低血圧、消化管アミロイドーシスによる吐気、下痢、巨舌、心アミロイドーシスによる心肥大や不整脈、腎障害によるタンパク尿、浮腫、皮下出血などがみられる。 検査では、抗TTR抗体を用いた免疫染色などの組織診断、血清診断、遺伝子診断などが鑑別診断のため行われる。確定診断には、病理学的な検査が不可欠であり、組織の生検部位として障害臓器はもとより、消化管粘膜や腹壁脂肪での生検診断も可能である。また、近年では、レーザーマイクロダイセクションと液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析など検査機器の進歩により、沈着タンパクの同定が可能となってきた。現在、熊本大学や信州大学などの施設で病型診断が行われている。その他の所見として、心胸郭比の拡大、心エコーによる心筋肥厚や輝度上昇、BNP、NT-proBNPの上昇も参考となる。 本症では、早期診断による、迅速な治療が患者の生命予後を左右するので、専門医や専門医療機関への紹介をお願いしたい。開発が待たれる内科的治療 現在、アミロイドーシスの治療ではFAPで肝移植や内科的治療、ALアミロイドーシスに対する自家末梢血幹細胞移植、AAアミロイドーシスに対する生物学的製剤などが行われている。 とくにFAPでは、TTRが肝臓で産生されることから早期の患者には肝移植が行われている。確かに肝移植後の生命予後は改善され、病期の進行も抑制される一方で、移植後でも症候が残ること、一部の患者では症候の悪化があること、移植ドナーの不足の問題など多くの課題が残されている。こうしたこともあり、内科的治療が模索され、2013年からは、アミロイド形成に関わるTTR四量体を安定化させるタファミジス(商品名:ビンダケル)が保険適用となり、FAPの肝移植が困難な患者や移植抵抗性の患者に対し、使用されている。そして、病期の進行を抑制する有効な治療薬となっている。 その他にも、siRNAやASOによる肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬医療は、世界規模の臨床試験がスタートしており、治療への効果が期待されているほか、免疫療法として、沈着したアミロイドに対する治療の研究も現在進められている。 次回第4回学術集会は、2016年8月19日に山田 正仁 会長(金沢大学大学院 教授)のもと都内において開催される予定である。参考サイト日本アミロイドーシス研究会 熊本大学 アミロイドーシス診療体制構築事業ホームページ ケアネットの関連コンテンツ希少疾病ライブラリ 家族性アミロイドポリニューロパチー家族性アミロイドポリニューロパチー 早期診断のコツ画像を拡大する

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原因不明の神経障害→もしかして●●●?

 2015年2月28日は「Rare Disease Day 2015世界希少・難治性疾患の日」である。これに先駆けて、2015年2月13日、都内にてファイザー株式会社が「家族性アミロイドポリニューロパチー」をテーマにプレスセミナーを開催した。本セミナーでは、演者に安東 由喜雄氏(熊本大学大学院生命科学研究部 神経内科学分野 教授)を迎え、希少疾患である同疾患について、診断方法と治療方法を中心に講演が行われた。 本疾患は他の疾患との鑑別に苦慮することが多く、診断時には手遅れであることも多い。安東氏は、適切な鑑別と専門医への早期紹介の重要性を強調した。以下、セミナーの内容をレポートする。家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)とは 家族性アミロイドポリニューロパチー(familial amyloidotic polyneuropathy:FAP)は遺伝性・進行性の致死的な神経疾患である。20代後半から30代に発症するケースが多く、10:1の比率で男性が大多数を占める。症状は緩徐進行性で、肝移植を行わない場合は、発症からの平均余命は約10年である。現在、国内の推定患者数は1,000人程度と考えられており、厚生労働省による難治性疾患克服研究事業の対象疾患に指定されている。 FAPは末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などにアミロイドが沈着することで臓器障害を起こす、予後不良のアミロイド症である。常染色体優性遺伝を示すため、通常家族歴が認められるが、孤発例も少なくない。日本では熊本・長野に患者が集中しており、長年風土病とされてきた背景がある。 FAPの臨床症状は末梢神経障害、自律神経障害、臓器障害の3つからなる。初発症状として最も多いものは、多発神経炎による下肢の感覚障害である。そのほかには、自律神経障害による下痢、便秘、吐気、嘔吐などの消化器症状、起立性低血圧による失神、男性では勃起不全など多彩な症状を呈し、患者はFAPと診断されるまでにさまざまな診療科を受診している。不整脈、手根管症候群による上肢の感覚障害や、硝子体混濁による視力低下を初発症状とする症例も少なくなく、初診時の診断は困難である。家族性アミロイドポリニューロパチーの診断・標準治療とその問題点 家族性アミロイドポリニューロパチーの確定診断には胃、十二指腸、腹壁の生検組織のコンゴーレッド染色、抗TTR抗体を用いた免疫染色などの組織診断、血清診断、遺伝子診断が行われる。現在、なかでも遺伝子診断が注目されており、熊本大学・信州大学の2施設で行うことができる。 FAPの進行を抑制する手段として、肝移植と、経口剤であるタファミジスメグルミン(商品名:ビンダケル)の2つがある。肝移植は、FAPが早期発見された、若い患者には第1選択となる。しかし、深刻なドナー不足や、全身状態が不良な患者では施行できないなど問題点もある。肝移植ができない患者や、肝移植を行ったが症状が出現した患者には、経口剤を使用する。経口剤は、侵襲性がない治療方法であるが、1人につき年間約3千万円と非常に高額な薬剤である。 しかし、いずれの治療法もFAPの根治療法ではないため、根治療法の出現が望まれている。また、現在の治療法は進行したFAPには効果がないため、FAPという疾患自体を啓発し、手遅れになる前に患者自身による自発的な早期受診を促していく必要もある。家族性アミロイドポリニューロパチー治療の今後の展望 2016年をめどに家族性アミロイドポリニューロパチーの抗体医薬が臨床治験に入るとされている。この抗体医薬は臓器に蓄積したアミロイドを溶かす効果があるとされており、FAPの根治療法となる可能性がある。安全な抗体医薬の登場は、FAP患者にとって希望の光となる可能性があり、実用化が強く期待されている。家族性アミロイドポリニューロパチーを早期発見するために大切なこと 家族性アミロイドポリニューロパチーは進行性・難治性の疾患の疾患であり、進行が進むと死に至ることもある。しかし、早期に発見した場合、肝移植や経口剤により、進行を遅らせることもできる。よって、いかに早く本疾患を鑑別するかが重要である。 「日常診療において、原因不明の多発神経炎などを含む種々の臓器症状に遭遇した際はFAP を疑い、漫然と治療を行う前に早期に専門医へ紹介をすることが大切である」と安東氏は強調した。

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中国で初めて報告された鳥インフルエンザA(H10N8)のヒト感染例―既報のトリ由来H10N8とは異なるタイプと判明―(コメンテーター:吉田 敦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(185)より-

鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染し、重症となるケースがあとを絶たない。A型のH5N1やH7N9がその代表であり、H7N9は2014年1月27日までに既に中国で250例が報告され、うち70例が死亡している。 一方H10N8は、これまで北米、欧州、アジア、オーストラリアなど広い範囲で、主にカモから分離されていたものの、ヒトへの感染例はなかった。しかしながら2013年11月、中国江西省南昌市で最初の感染例が報告された。さらに、患者から分離されたH10N8は既報の鳥由来ウイルスとは異なる、新たな再集合体であることが判明した。 患者は73歳女性で、高血圧、冠動脈疾患、重症筋無力症の既往があり、11月27日(Day 0とする)から咳嗽および呼吸困難を訴え、30日(Day 3)に南昌市の病院に入院した。入院時は38.6℃の発熱を来たしており、翌31日に撮影したCTでは右下葉と左下葉にコンソリゼーションが認められた。細菌性肺炎に対する治療を行ったが、呼吸不全が進行し、12月2日にはICUに入室した。両側性の胸水とスリガラス状陰影の急速な悪化を来たし、オセルタミビル(12月3日開始)、グルココルチコイド、アルブミンの投与を行うも、重症肺炎と敗血症性ショックおよび多臓器不全を呈し、6日(Day 9)に死亡した。 検査所見上、白血球数は入院翌日(Day 4)で10,340/μLであり、好中球数は76.4%、リンパ球数は7.0%であった。リンパ球数はその後もずっと正常範囲以下であった。CRPはDay 4ですでに高値であり、またDay 4に正常範囲内にあったクレアチニン、BUN、AST、ALP、総蛋白、アルブミンはDay 7にはすべて異常値を示した。トランスサイレチンはDay 4以降すべての時点で低下していた。 本患者からDay 7とDay 9に採取した気管内吸引物からH10N8ウイルスが分離された。また痰・血液培養と吸引物のdeep sequencingの結果、細菌や真菌の同時感染は示されず、気管内でH10N8が極めて優位であったことが判明した。さらに本ウイルスのHA蛋白に対する血清抗体を測定したところ、Day 5からDay 9で上昇したことも明らかになった。病理解剖の同意は得られなかったが、H10N8による肺炎と呼吸不全、死亡と判断された。 一方、ウイルス遺伝子はすべて鳥由来で、HA、NA以外の6つの内部遺伝子は中国の家禽で流行しているH9N2に最も近縁であった(注:中国でかつて分離されたH5N1ウイルスもH9N2由来の内部遺伝子を有していた)。さらに既報の鳥・環境由来のH10N8とも異なっており、新たな再集合体のH10N8が初めてヒトに感染したと結論付けられた。さらに本症例のH10N8はその塩基配列により、家禽への病原性は低いが、哺乳類の細胞に親和性を持っていること、経過中に哺乳類への病原性が高まる変異(PB2のGlu627Lys)を獲得したこと、ノイラミニダーゼ阻害薬に感受性を示すことも判明した。 また患者は発症4日前に家禽市場を訪れており、これが感染の契機になった可能性があるが、患者に接触した者の中で、発症者、ウイルス陽性者、抗体陽性者はいずれも見つかっていない。 さらに2014年1月26日、南昌市の55歳女性がH10N8に罹患し重体となったこと、また2月までに江西で1名が感染し、死亡したことも判明した。このため現時点(3月13日)で感染者は3名、うち死亡者が2名となっている。 著者らは、「1997年に香港で最初の死亡例が報告された鳥インフルエンザH5N1の感染では、その後6ヵ月間で17例の死亡を報告した。新規のH10N8ウイルスのパンデミックの可能性が過小評価されてはならない」とまとめている。ヒトへの病原性、伝播性、ウイルスの出現・再集合のメカニズムはもちろんのこと、ヒトの感染例が今後増加するのか、どの程度家禽で流行しているのかについてもまだ全く見通しが立たない1)。 H5N1による上記の報告から15年以上が経過した現在でも、科学的な根拠を持って本ウイルスの特徴を明らかにするには、今後長い時間が必要である。

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中国の入院例から鳥インフルエンザAウイルスH10N8の新型検出/Lancet

 鳥インフルエンザA(H10N8)ウイルスについて、感染症例1例から既報のH10N8ウイルスとは異なる新規の再集合体H10N8ウイルスが分離されたことを、中国・南昌市疾病管理予防センター(CDC)のHaiYing Chen氏らが報告した。症例は73歳女性で、発症後9日目で死亡。新たなウイルスが、患者の死亡と関連している可能性についても言及している。なお、この新規ウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害薬に反応を示したという。Lancet誌オンライン版2014年2月5日号掲載の報告より。新たな再集合体H10N8ウイルスを検出 新型の鳥インフルエンザウイルス(H5N1、H9N2、H7N9など)のヒトへの感染は、世界的パンデミックの可能性に対する懸念を喚起したが、Chen氏らは今回、また新たな再集合体鳥インフルエンザA(H10N8)ウイルスの初となるヒトへの感染例が見つかったことを報告した。 調査は、2013年11月30日時点で南昌市において入院していた患者から入手した、臨床的、疫学的およびウイルス学的データを分析して行われた。気管吸引検体を用いて、インフルエンザウイルスまたは他の病原体を見つけるため、RT-PCR、ウイルス培養とシーケンス解析を行い、最尤推定法にて系統樹を作成し検討した。発症から9日目に死亡、ウイルスにより死亡の可能性 新規の再集合体H10N8ウイルスが分離されたのは、73歳女性、発熱(38.6℃)で2013年11月30日に入院した症例であった。肺CTスキャンで、右肺下葉の硬化がみられ、4日目には左肺下葉にも硬化が認められるようになった。胸部X線で、患者には6日目に両側性の胸水が認められ、8日目にスリガラス状陰影と硬化の急速な進行が認められた。 白血球数は5日目より、リンパ球が正常値範囲以下に低下、好中球は同範囲以上に上昇。C反応性蛋白(CRP)、クレアチニン値は高値で、AST、BUNは7日目以降やや上昇し肝臓、腎臓が機能不全に陥ることを示した。アルカリホスファターゼ、総蛋白、グロビン、アルブミンの血中濃度は、4日目には正常だったが、7、8日目では低下を示した。トランスサイレチンは、すべての検査時点で低下を示し、総IgG、C3は、8日目に低下が記録されている。 細菌感染症予防のための組み合わせ抗菌薬治療、機械的人工換気、糖質コルチコイド、アルブミン静注、抗ウイルス治療にもかかわらず、患者の状態は、次第に深刻になり、重篤な肺炎、敗血症性ショックおよび多臓器不全を呈し、9日目に死亡した。 新規のウイルスは、発症7日後の患者の気管吸引検体から分離されたものであった。 シーケンス解析により、ウイルス遺伝子はすべて鳥由来で、6つの内部遺伝子はH9N2ウイルス由来だった。なおこのウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害薬に反応を示した。 痰、血液培養およびより詳細な塩基配列決定解析の結果、細菌や真菌の同時感染は示されなかった。 また疫学的調査により、患者が発症4日前に家禽市場を訪れていることが確認されている。 著者は「2014年1月26日現在、南昌市ではもう1例のH10N8感染例が報告されている。1997年に香港で最初の死亡例が報告された鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス感染では、その後6ヵ月間で17例の死亡を報告した。この新規のウイルスのパンデミックの可能性が過小評価されてはならない」とまとめている。

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