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早期乳がんへの術前抗HER2療法+アテゾリズマブ、pCR61%(Neo-PATH)/JAMA Oncol

 ERBB2(HER2)陽性早期乳がんに対して、抗HER2療法にアテゾリズマブを加えた術前療法は病理学的完全奏効率(pCR)61%を示し、毒性は穏やかであることが示された。韓国・Gachon University Gil Medical CenterのHee Kyung Ahn氏らによる第II相Neo-PATH試験の結果が、JAMA Oncology誌オンライン版2021年10月7日号に報告された。 Neo-PATH試験は、前臨床試験で相乗効果が示されたERBB2陽性早期乳がんに対するアテゾリズマブ、ドセタキセル、トラスツズマブ、ペルツズマブの術前療法の有効性を検討する非無作為化オープンラベル多施設共同第II相試験。韓国の6施設から2019年5月~2020年5月にかけて患者が登録された。対象は、Stage IIまたはIIIのERBB2陽性乳がん(原発巣サイズ2cm以上または病理学的リンパ節転移陽性、遠隔転移なし)。 3週間ごとに術前療法としてペルツズマブ(初回840mg、2回目以降420mg)、アテゾリズマブ(1,200mg)、ドセタキセル(75mg/m2)、トラスツズマブ(600mg)を6サイクル投与し、その後手術が行われた。pCRが得られた症例には、術後3週間ごとにアテゾリズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブの投与を12サイクル実施し、pCRが得られない症例には、アテゾリズマブ(1,200mg)、トラスツズマブ・エムタンシン(3.6mg/kg)を3週間ごとに14サイクル投与した。 主要評価項目はpCR率(ypT0/isN0)。副次評価項目は、臨床的客観的奏効率、pCR達成状況に応じた3年無イベント生存率、無病生存率、全生存率、毒性、QOLであった。 主な結果は以下のとおり。・計67例の女性(年齢中央値52[33~74]歳)が登録された。ホルモン受容体陽性は32例(48%)であった。・治療中に病勢が進行し、切除不能となった症例が2例あり、65例に根治手術が行われた。・全体のpCR率は61%(67例中41例)であった。・pCR率は、ホルモン受容体陽性例と比べ陰性例で高く(32例中14例[44%]vs.35例中27例[77%])、PD-L1陰性例と比べ陽性例で高かった(13例中13例[100%]vs.53例中28例[53%])。・Grade 3以上の有害事象は21例(31%)で発生し、多くみられたのは好中球減少症8例(12%)と発熱性好中球減少症5例(8%)であった。術前療法期における治療関連死は発生していない。 著者らは、ERBB2(HER2)陽性早期乳がんに対する、抗HER2療法にアテゾリズマブを加えた術前療法は許容可能なpCR率と穏やかな毒性作用を有していることが示されたとし、大規模な無作為化試験で引き続き検証する必要があるとまとめている。

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PD-L1陽性TN乳がん、ペムブロリズマブ追加でOS延長(KEYNOTE-355最終解析)/NEJM

 プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)が陽性で、複合発現スコア(combined positive score:CPS)が10点以上の進行トリプルネガティブ乳がん患者の1次治療において、化学療法に抗PD-1モノクローナル抗体製剤ペムブロリズマブを追加すると、化学療法単独と比較して全生存(OS)期間が約7ヵ月有意に延長することが、スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏らが実施した「KEYNOTE-355試験」の最終解析で示された。有効性の複合主要エンドポイントの1つである無増悪生存(PFS)期間は、ペムブロリズマブ+化学療法群で有意に優れることが、2回目の中間解析の結果としてすでに報告されている。研究の成果は、NEJM誌2022年7月21日号に掲載された。国際的な第III試験のOS最終解析 KEYNOTE-355は、PD-L1陽性・CPS 10点以上の進行トリプルネガティブ乳がんの1次治療におけるペムブロリズマブの有用性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2017年1月~2018年6月の期間に、日本を含む29ヵ国209施設で参加者の登録が行われた(MSDの助成を受けた)。 対象は、未治療の切除不能な局所再発または転移を有するトリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2がすべて陰性)乳がんで、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS)が0または1の成人患者であった。 被験者は、ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+担当医の選択による化学療法(ナノ粒子アルブミン結合[nab]-パクリタキセルパクリタキセル、ゲムシタビン+カルボプラチンのうちいずれか1つ)、またはプラセボ+化学療法を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。試験薬の投与は、病勢進行、許容できない毒性作用の発現、あるいは患者が同意を撤回するか、医師が投与中止と判断するまで継続された。 主要エンドポイントは、PD-L1陽性でCPSが10点以上の患者(CPS-10サブグループ)、PD-L1陽性でCPSが1点以上の患者(CPS-1サブグループ)およびintention-to-treat(ITT)集団という3つの集団におけるPFSとOSとされた。CPSは、腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージにおけるPD-L1免疫染色陽性細胞の数を、生存腫瘍細胞の総数で除して100を乗じた値と定義された。CPS-1サブグループでは有意差なし 847例(ITT集団)が無作為化の対象となり、ペムブロリズマブ群に566例、プラセボ群に281例が割り付けられた。CPS-10サブグループは323例(38.1%)(ペムブロリズマブ群220例、プラセボ群103例)、CPS-1サブグループは636例(75.1%)(425例、211例)であった。これら6つの群の年齢中央値は52~55歳の範囲に、閉経後女性の割合は64~68%の範囲にわたっていた。追跡期間中央値は44.1ヵ月(範囲:36.1~53.2)。 CPS-10サブグループでは、ペムブロリズマブ群の155例(70.5%)、プラセボ群の84例(81.6%)が死亡した。OS期間中央値は、ペムブロリズマブ群が23.0ヵ月、プラセボ群は16.1ヵ月(死亡のハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.55~0.95)であり、ペムブロリズマブ群で有意に長かった(両側検定のp=0.0185[有意性の基準を満たす])。18ヵ月時のOS率はそれぞれ58.3%および44.7%だった。 CPS-1サブグループのOS期間中央値は、ペムブロリズマブ群が17.6ヵ月、プラセボ群は16.0ヵ月であった(死亡のHR:0.86、95%CI:0.72~1.04、両側検定のp=0.1125[有意性なし])。また、ITT集団のOS期間中央値は、それぞれ17.2ヵ月および15.5ヵ月だった(0.89、0.76~1.05[有意性は検定されなかった])。 PFS期間中央値は、2回目の中間解析とほぼ同様の結果であった。すなわち、CPS-10サブグループでは、ペムブロリズマブ群9.7ヵ月、プラセボ群5.6ヵ月(病勢進行または死亡のHR:0.66、95%CI:0.50~0.88)、CPS-1サブグループでは、それぞれ7.6ヵ月および5.6ヵ月(0.75、0.62~0.91)、ITT集団では、7.5ヵ月および5.6ヵ月(0.82、0.70~0.98)だった。 また、奏効率は、CPS-10サブグループでは、ペムブロリズマブ群52.7%、プラセボ群40.8%、CPS-1サブグループでは、それぞれ44.9%および38.9%、ITT集団では、40.8%および37.0%であった。奏効例では、ペムブロリズマブ群で奏効期間中央値が長く、CPS-10サブグループでは、ペムブロリズマブ群12.8ヵ月およびプラセボ群7.3ヵ月だった。 一方、最も頻度の高い有害事象は、貧血(ペムブロリズマブ群49.1%、プラセボ群45.9%)、好中球減少(41.1%、38.1%)、悪心(39.3%、41.3%)であった。試験レジメン関連のGrade3、4、5の有害事象は、それぞれ68.1%および66.9%で認められ、ペムブロリズマブ群の2例(0.4%)(急性腎障害と肺炎が1例ずつ)が死亡した。ペムブロリズマブ群では、免疫介在性の有害事象が26.5%(甲状腺機能低下症15.8%、甲状腺機能亢進症4.3%、肺臓炎2.5%など)で発現し、このうち5.3%がGrade3または4であった。 著者は、「OS期間の探索的解析では、PD-L1陽性でCPSが10~19点、およびPD-L1陽性でCPSが20点以上の患者においても、ペムブロリズマブ追加による一貫した有益性が認められたことから、『CPS 10点以上』は、ペムブロリズマブ+化学療法による利益が期待される進行トリプルネガティブ乳がん患者集団を定義する適切な基準と考えられる」と指摘している。

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ICI耐性の非小細胞肺がんに対するラムシルマブ+ペムブロリズマブの2次治療(Lung-MAP S1800A)/JCO

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)耐性となった進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、ラムシルマブとペムブロリズマブの併用による2次治療が有望な成績を示した。 進行NSCLCにおけるICI耐性後の2次治療は化学療法だけであり、今もなお大きなアンメットニーズが残っている。一方、ICIとVEGF阻害薬の併用は、複数のがん種で有望な結果が得られている。ドライバー変異のないICI耐性NSCLCの2次治療に、ICIであるペムブロリズマブとVEGF阻害薬であるラムシルマブの併用を化学療法と比較したLung-MAP S1800Aが行われた。結果は米国臨床がん学会年次集会(ASCO2022)で発表され、同時にJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。・対象:1ライン以上のPD-1/L1治療+プラチナベース化学療法(後治療または併用)を受け病勢進行したバイオマーカーの適合がないStage IVまたは再発NSCLC(ICI開始後84日以上かつ最終治療から1年以内に進行した症例)・試験薬群:ラムシルマブ+ペムブロリズマブ(RP群)3週ごと35サイクルまで投与 69例・対照薬群:治験担当医が選択した標準化学治療(ドセタキセル±ラムシルマブ、ゲムシタビン、メトレキセド、SOC群)67例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]客観的奏効率(ORR)、奏効期間、治験医師評価の無増悪生存期間(PFS)、毒性など 主な結果は以下のとおり。・OS中央値はRP群で14.5か月、SOC群で11.6か月であり、RP群で有意に改善された(ハザード比[HR]0.69、80%信頼区間[CI]:0.51〜0.92、片側p=0.05)。・ほとんどのサブグループでRP群のOS改善が示された。・PFS中央値はRP群で4.5ヵ月、SOC群で5.2ヵ月であった(HR:0.86、80%CI:0.66〜1.14、片側p=0.25)・ORRはRP群で22%、SOC群で 28%であった(片側p=0.19)。・Grade3以上の治療関連有害事象は、RP群の42%、SOC群の60%で発現した。 ICIと化学療法による治療で進行したNSCLC患者に対し、ラムシルマブとペムブロリズマブの併用による2次治療は従来のSOCと比較して、OSの有意な改善が示され、安全性は両剤の既知の毒性と一致していた。

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ASCO2022 レポート 肺がん

レポーター紹介2022年のASCOは久しぶりの現地開催とWeb開催のハイブリッド形式で実施された。肺がん領域については昨年にも増して大きな話題に乏しく、Phase I試験のExpansion、Phase II試験、さらにはサブセット解析などが主体で、PivotalなPhase IIIの公表はあってもNegativeという状況であった。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。SKYSCRAPER-02試験ASCO2022の肺がん領域において、Positiveであれば肺がんだけでなく臓器横断的に大きなインパクトを残したであろう試験がSKYSCRAPER-02試験である。残念ながらProgression-free survival(PFS)、Overall survival(OS)ともにNegativeであったこの試験は、進展型小細胞肺がんにおいて、カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブというIMpower133試験で確立された標準治療に、tiragolumab(抗TIGIT抗体)を上乗せすることの優越性を検証するために実施された。TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)はT細胞やNK細胞に発現する免疫チェックポイント分子である。tiragolumabは非小細胞肺がんを対象に実施された無作為化Phase II試験であるCITYSCAPE試験の結果、PD-L1高発現の患者集団においてアテゾリズマブに対する上乗せが示され、大きな期待を集めていた。SKYSCRAPER-01試験では進行非小細胞肺がんPD-L1高発現群において、SKYSCRAPER-03試験では切除不能III期非小細胞肺がんの化学放射線療法後の地固め療法として、そして進展型小細胞肺がんにおいてはSKYSCRAPER-02試験が実施されている。その中で最も早く結果が公表されたSKYSCRAPER-02試験は、前述のとおりPFS、OSともにカルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブに対する上乗せを示すことができなかった。さらに、ASCO直前にSKYSCRAPER-01試験においても、PFSが統計学的にNegativeであり、OSの結果は追跡中というプレスリリースが発行され、大きな話題となった。SKYSCRAPER-01試験についても、PFSはNumerical improvementを示しているとされており、OSの結果は追跡中、さらにSKYSCRAPER-03試験は結果を待っている状態であり、今後の報告が待たれる。CITYSCAPE試験の成功以降、多数の薬剤が同時に開発される状況となった抗TIGIT抗体についても、今後、他の領域、他の薬剤の結果を含め注目したい。PD-L1高発現群に対するFDAのPooled analysis2021年前半にESMO virtual plenaryにおいて、Flatiron社の技術を用いた電子カルテデータの解析に基づき、免疫チェックポイント阻害薬単剤(IO-only)と、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法(Chemo-IO)が、PD-L1高発現の集団において有効性に大きな違いがないことが報告され大きく注目された。今年のASCOにおいては、FDAがこれまでの臨床試験のデータのPooled analysis結果をまとめ、ASCO2022の進行肺がんOralセッションの1番目という栄誉を得た。Chemo-IOとしては、KEYNOTE-021試験、KEYNOTE-189試験、KEYNOTE-407試験、IMpower150試験、IMpower130試験、CheckMate9LA試験が、IO-onlyとしては、CheckMate026試験、KEYNOTE-024試験、KEYNOTE-042試験、IMpower110試験、CheckMate227試験、EMPOWER-Lung 1試験が対象となっている。これらの試験に登録された9,000例以上の患者から、PD-L1 50%以上のChemo-IO 455例、IO-only 1,298例が解析対象となっている。OSはIO-onlyで20.9ヵ月、Chemo-IOで25.0ヵ月、Hazard ratio(HR)は0.82(95%信頼区間[CI]:0.62~1.08)であり、わずかにChemo-IOで良いものの信頼区間は1をまたいでいるという結果であった。とくに、年齢別のサブセットで異なる傾向を認め、65歳以下ではChemo-IOが良好な傾向があるのに対して、75歳以上ではIO-onlyが良好であった。確かにPost-hocの解析であり、限界も多いものの、PD-L1高発現の集団において、IO-onlyの治療戦略の重要性が再度示される結果であった。ニボルマブ+イピリムマブに関連したフォローアップデータPoster発表ではあったものの、CheckMate227試験の5年アップデートの結果が公表された。抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法の、進行非小細胞肺がんにおけるベンチマークとなる報告である。今回の報告では、PD-L1 1%以上と、1%未満に大別した成績が報告されている。1%以上においては、5年OS割合が24%、5年PFS割合が12%であった。1%未満においては、5年OS割合が19%、5年PFS割合が10%であり、従来指摘されてきたように、PD-L1の発現によらず、ほぼ同等の成績が5年のデータとしても確認された。PD-L1 1%以上のKEYNOTE-042試験においては、5年OS割合が16.6%、5年PFS割合が6.9%とすでに報告されている。異なる試験の結果であり直接比較は難しいものの、ニボルマブ+イピリムマブの併用により長期生存にプラスに働く可能性があることが示唆される結果といえる。今回PD-L1高発現群でのサブセット解析の結果は示されていないため、KEYNOTE-024試験との比較や、KEYNOTE-598試験などで検証されているPD-L1高発現の部分については、新たな情報がなく、今後追加の発表が期待される。さらに、同じくPosterであるが、CheckMate9LA試験については3年のアップデート結果が報告された。PD-L1の発現によらない全体集団において、化学療法2サイクル+ニボルマブ+イピリムマブは、3年OS割合27%、3年PFS割合13%を示した。この傾向はPD-L1の発現によらず維持されており、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の特徴が表れている。CheckMate9LA試験についても今後5年のフォローアップデータなどが待たれるものの、おおむねCheckMate227試験を踏襲する傾向であった。ただ、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)で実施されているJCOG2007(NIPPON)試験において、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ群の安全性の問題により登録が中断されており、実施に際しては免疫関連の有害事象を中心とした安全管理に留意が必要である(JCOG2007[NIPPON試験]における重篤な有害事象発生について)。周術期治療の話題切除可能非小細胞肺がんに対して、初めてニボルマブによる術前治療を実施した試験がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたことを記憶されている方も多いと思われる。ASCO2022では、この試験の5年フォローアップデータがPosterセッションではあるものの報告されている。20例の対象患者全体において、5年のOS割合が80%、無再発生存割合が60%であり、ニボルマブによる術前治療によりMPR(Major pathologic response、切除検体でViable tumorが10%以下)を達成した9例の患者のうち、8例(89%)が5年無再発生存しているという良好な結果であった。確かに非常に限られた症例での報告ではあるものの、現在実施中、フォローアップ中のさまざまな周術期免疫チェックポイント阻害薬の試験の結果を先取りする内容として確認しておきたい。最近の試験としては、CheckMate816試験について、術前ニボルマブ+化学療法後の病理学的奏効に基づく、EFS(Event-free survival)のサブセット解析の結果が報告されている。本試験はすでにAACR2022において、EFSにおいて術前化学療法に対してニボルマブを上乗せする意義が証明されたとする報告が行われている。AACRでの発表においても、pCR(pathologic complete response)を達成した患者において、ニボルマブの有無にかかわらず明らかにEFSが良いという結果、すなわちpCRが術前治療後の患者にとって明確な予後因子であることが報告されている。今回の報告ではその点をさらに解析し、pCRやMPRだけでなく、70%以上、20%以上などのさまざまなカットオフで評価しており、おおむね病理学的奏効の深さとEFSの良さが相関することが示された。ESMOが主導する、ESMO Virtual plenaryシリーズは、通常開催の学会とは独立して、重要演題を速報的に公開する方法として徐々にその地位を固めつつある。今年のESMO Virtual plenaryにおける肺がん領域の話題は、完全切除後の非小細胞肺がんにおいて、術後補助療法としてペムブロリズマブの意義を検証する、Phase III試験であるEORTC-1416-LCG/ETOP 8-15(PEARLS/KEYNOTE-091)試験であった。本試験においては、何よりもPD-L1高発現の集団においてペムブロリズマブの優越性が示されなかった点が話題となり、今後さまざまな観点からの解析結果が待たれる状態である。ASCO2022においてはサブグループ解析が報告され、割付調整因子に含まれていた術後プラチナ併用療法の有無において実施群のほうで明らかにペムブロリズマブの追加が良い傾向を認め、探索的な結果ながらも術後プラチナ併用療法としてカルボプラチン+パクリタキセルを実施した場合にペムブロリズマブの追加の効果が乏しいことが示されている。本試験については今後もさまざまな追加解析が実施されると思われ、それらの結果からIMpower010試験のアテゾリズマブと合わせて、周術期免疫療法の理解が深まることを期待している。

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高リスク早期TN乳がんへの術前・術後ペムブロリズマブ追加、日本人解析結果(KEYNOTE-522)/日本乳癌学会

 高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対し、術前補助療法として化学療法+ペムブロリズマブ、術後補助療法としてペムブロリズマブの投与が、化学療法のみの術前補助療法と比較して病理学的完全奏効率(pCR)および無イベント生存期間(EFS)を有意に改善することがKEYNOTE-522試験で示され、米国・FDAではすでに承認されている。今回、同試験の日本人解析結果を、国立がん研究センター東病院の向井 博文氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。高リスク早期トリプルネガティブ乳がんの術前・術後補助療法におけるペムブロリズマブ追加の有効性・対象:T1c、N1~2またはT2~4、N0~2で、治療歴のないECOG PS 0/1の高リスク早期トリプルネガティブ乳がん患者・試験群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後補助療法としてペムブロリズマブを3週ごとに最長9サイクル投与(ペムブロリズマブ群)・対照群: 術前に化学療法+プラセボ、術後にプラセボを投与(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]pCR(ypT0/Tis ypN0)、EFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など 高リスク早期トリプルネガティブ乳がんの術前・術後補助療法におけるペムブロリズマブ追加を検証した試験の日本人集団における主な解析結果は以下のとおり。・76例の日本人の高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん患者が2:1の割合で無作為化され、ペムブロリズマブ群に45例、プラセボ群に31例が割り付けられた。・年齢中央値は49歳、75例がPS 0で、全体集団と比較してPSが良好な患者が若干多かった。・あらかじめ計画されていた第4回中間解析(データカットオフ日:2021年3月23日)における追跡期間中央値は40.3ヵ月(範囲:30.1~45.8)で、pCRはペムブロリズマブ群53.3% vs.プラセボ群48.4%となり、全体集団同様ペムブロリズマブ群で向上していた。・EFSのイベントはペムブロリズマブ群で6例(13.3%)、プラセボ群で8例(25.3%)に認められ(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.16~1.36)、36ヵ月時点のEFS率は89% vs.77%となり、全体集団同様ペムブロリズマブ群で良好だった。・36ヵ月時点のOSはペムブロリズマブ群93.3% vs.プラセボ群89.3%(HR:0.67、95%CI:0.14~3.33)だった。・Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群82.2% vs.プラセボ群76.7%で、全体集団同様両群で大きな差は認められなかった。・Grade3以上の免疫関連有害事象はペムブロリズマブ群20.0% vs.プラセボ群3.3%とペムブロリズマブ群で多くみられたが、安全性プロファイルはこれまでの報告と同様であった。 向井氏は、全体集団同様日本人集団においても、同療法の有効性が示されたと結論づけている。

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ASCO2022 レポート 乳がん

レポーター紹介2022年6月3日から7日まで5日間にわたり、2022 ASCO Annual Meetingが今年はハイブリッドで実施された。日本からの現地参加者はそれほど多くなかったようであるが(筆者調べでは、乳がん関係者は10人未満の参加)、プレナリーのトップバッターを務められた国立がん研究センター東病院の吉野先生をはじめ、オーラルやポスターで発表された方々の中には現地参加された方も多かったようである。私は昨年と同じくバーチャルでの参加となったが、やはり日常診療をしながら深夜に学会に参加するのは負担が大きく、また会場の特別な空気感の中でほかの研究者と直接意見交換する機会を持てないのは寂しいものである。来年は現地で参加できることを願ってやまない。さて、2022年のテーマは“Advancing Equitable Cancer Care Through Innovation”であった。乳がん領域では昨年に引き続きプレナリーで日常臨床を変える結果が発表され、ほかにも抗体医薬複合体(antibody drug conjugates:ADCs)の演題が多く、さまざまな概念が変わった年であったといえるであろう。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Metastaticから2題、Local/Adjuvantから1題を紹介する。HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカンと主治医選択治療を比較した第III相臨床試験(DESTINY-Breast04試験, LBA2)まず1つ目に、これまで10年以上にわたって私たちがよりどころとしてきたサブタイプの概念を変えることとなったプレナリーの演題を紹介する。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は抗HER2抗体にトポイソメラーゼ阻害剤を結合したADCsであり、単群第II相試験であるDESTINY-Breast01試験の結果をもって日本を含めた各国で承認され、HER2陽性乳がんに対して使用されている薬剤である。DESTINY-Breast03試験では圧倒的な差でT-DM1よりも優れており、2次治療における標準治療と位置付けられている。本薬剤の第I相試験ではHER2低発現(HER2 IHC 1+もしくは2+かつISH陰性)に対しても有効性が認められたことから、本試験が計画された。HER2低発現は転移乳がん(MBC)の約50%を占める。DESTINY-Breast04試験は、HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対して、2~3次治療としてT-DXdと主治医選択治療(treatment of physician’s choice:TPC、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセルから選択)を、ホルモン受容体(hormone receptor:HR)陽性患者における無増悪生存期間(progression free survival:PFS)を主要評価項目として検証した第III相試験である。373例(うちHR陽性331例)がT-DXd群に、184例(うちHR陽性163例)がTPC群に割り付けられた。主要評価項目のHR陽性集団におけるPFSにおいて、10.1 vs.5.4ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.64、p<0.0001)とT-DXd群において有意に良好であった。また、全患者においても9.9 vs.5.1ヵ月とHR陽性集団と同傾向であった。さらに副次評価項目の全生存期間(overall survival:OS)において、HR陽性集団では23.9 vs.17.5ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.48~0.64、p=0.0028)と統計学的有意にT-DXd群で良好であり、全患者においても23.4 vs.16.8ヵ月とHR陽性集団と同様であった。探索的解析ではHR陰性(すなわち、これまでトリプルネガティブ乳がんと呼んでいたサブタイプ)においても、PFSで8.5 vs.2.9ヵ月、OSで18.2 vs.8.3ヵ月とHR陽性と同様にT-DXd群で良い傾向であった。サブグループ解析でも、あらゆるサブグループにおいてT-DXdの有効性が示された結果であった。腫瘍縮小においてもHR陽性で52.6 vs.16.3%、HR陰性で50.0 vs.16.7%であり、T-DXd群で高い奏効が得られた。一方、T-DXdは注意すべき有害事象の多い薬剤である。G3以上の有害事象はT-DXd群で53%、TPC群で67%であり、むしろT-DXd群で少ない傾向にあった。T-DXdでとくに注意すべき有害事象は12.1%であり、これまでの試験と大きな差は認めなかった。しかし、G5が0.8%で認められている。これはDESTINY-Breast03試験では認められなかった事象である。比較的治療歴の濃厚な症例が含まれていたことが一因かもしれないが、より詳細な検討が必要だと思われる。心毒性の頻度は低く許容範囲内であろう。本試験は、乳がんに「HER2低発現」という新たなサブタイプを築いた。今後われわれはこれまでのサブタイプの概念を捨てて、さまざまなバイオマーカーを複合的に判断しながら治療戦略を考えていく必要がある。HR陽性HER2陰性乳がんに対するsacituzumab govitecan(SG)と主TPCを比較した二重盲検無作為化第III相試験(TROPiCS-02試験, LBA1001)ADCsの試験をもうひとつ紹介する。SGはTROP-2という細胞表面タンパクを標的としたADCsであり、2020年のESMOでは、MBCに対する治療歴のあるトリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)を対象として行われたASCENT試験で、PFS、OSのいずれも改善したことが示された薬剤である。国内ではまだ開発の途上であるが、米国などでは承認され標準治療の1つとなっている。こちらも、先行して行われた第I相試験でHR陽性HER2陰性集団に対しても有効性が期待されており、本試験が計画された。TROPiCS-02試験は、内分泌療法1レジメン、CDK4/6阻害剤1レジメン、タキサン含む化学療法2~4レジメンの治療歴があるHR陽性HER2陰性MBCを対象として行われた。SGとTPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)に、それぞれ272例、271例が割り付けられた。いずれの群においても95%が内臓転移を有していた。主要評価項目のPFSにおいて5.5 vs.4.0ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83、p=0.0003)と、統計学的有意にSG群で良好であった。サブグループ解析では、いずれのサブグループにおいてもSG群で良好な結果であった。副次評価項目のOSについては中間解析が実施され有意差は認められなかったが、ややSG群で良好な傾向を認めた。奏効率についてはSG群で21%、TPC群で14%であった。G3以上の有害事象はSG群で74%、TPC群で60%であり、SGの特徴である血球減少や消化器毒性が報告された。DESTINY-Breast04試験と比べるとやや心もとない結果ではあるものの、TROPiCS-02試験のほうが治療歴はずっと濃厚であること、内臓転移のある症例がほとんどであること、全例がタキサン治療歴を有するなど、予後不良集団がエンリッチされていることが原因と考えられる。これら2試験の結果から、HR陽性HER2陰性乳がんにおいても複数のADCsが今後治療選択の中に入ってくることになるであろう。HER3を標的としたADCsであるpatritumab deruxtecanの第I/II相試験の結果(#1002)もうひとつ新しいバイオマーカーを対象とした試験を紹介しておきたい。patritumab deruxtecan(HER3-DXd)は、抗HER3抗体であるpatritumabにT-DXdと同じ殺細胞性薬剤であるデルクステカンを結合した新しいADCである。乳がんを対象として第I/II相試験が実施されていたが、その有効性の結果が発表された。なお、用量漸増パートでは最大耐用量に到達せず、最終的に6.4mg/kgが推奨用量となった。用量漸増パート、用量設定パートでは全サブタイプを対象として実施され、その後HR陽性HER2陰性またはTNBCかつHER3-highと、HR陽性HER2陰性かつHER3-lowを対象として拡大パートが実施された。全パートを統合して解析した奏効率は、HR陽性HER2陰性HER3-high and lowで30.1%(95%CI:21.8~39.4)、TNBC HER3-highで22.6%(95%CI:12.3~36.2)、HER2陽性HER3-highで42.9%(95%CI:17.7~71.1)と高い奏効を認めた。PFSはそれぞれ7.4ヵ月(4.7~8.4)、5.5ヵ月(3.9~8.4)、11.0ヵ月(4.4~16.4)であり、こちらも濃厚な治療歴のある症例を対象とした第I/II相試験としては十分良好な結果であった。毒性についてはG3以上が4.8mg/kgコホートで64.6%、6.4mg/kgコホートでは81.6%であった。とくに頻度が高い有害事象としては好中球減少、血小板減少、白血球減少、貧血などの血液毒性が多く、悪心、食欲低下、嘔吐、下痢などの消化器毒性や粘膜障害、倦怠感、脱毛などが見られていた。HER3という新たなバイオマーカーを対象としたADC出現によって、今後さらにサブタイプの概念が変わっていく可能性が高い。多くの治療選択肢からどのようにして最適な治療を選択していくか、より深い議論が必要となるであろう。乳房温存手術を受けたT1N0 Luminal A乳がんに対する放射線治療省略(LUMINA試験, LBA501)日本国内では乳房再建術が保険適用となってから乳房全切除術が増加しているものの、約半数には乳房温存手術(breast conserving surgery:BCS)が実施されている。温存乳房に対する放射線治療(radiation therapy:RT)は標準治療であり、RTによって局所再発を67%減らすことが可能である。一方、(寡分割照射の実施が増えているにせよ)毎日の照射は患者にとって負担であるし、皮膚の変化や放射線肺臓炎など、有害事象も少なくない。そこで、再発低リスクのLumina Aタイプの患者を対象として、術後RTの省略を試みた試験が本試験である。Luminal AタイプのBCS+RT後の5年局所再発率は2.8%と報告されている。LUMINA試験では低リスクのLuminal Aタイプの患者の定義として、55歳以上、T1N0、G1~2、ER≧1%、PgR>20%、HER2陰性かつKi67≦13.25%と定義した。前向き単群試験として、閾値5年局所再発率を5%未満と定義した。Ki67は中央判定で評価し、必要サンプル数は500と設定された。また試験参加者は少なくとも5年間のホルモン療法(アロマターゼ阻害剤またはタモキシフェン)を実施された。500例の患者が登録され、55~64歳が40%、65~74歳が48%、75歳以上が12%であった。主要評価項目の5年局所再発率は2.3%(95%CI:1.3~3.8)であった。局所再発は試験登録から2.5年たったところから徐々に増加していた。副次評価項目である対側乳がんの発症は1.9%(95%CI:1.1~3.2)、すべての再発は2.7%(95%CI:1.6~4.1)、5年無病生存は89.9%(95%CI:87.5~92.2%、半数が乳がん以外の2次がん)、5年OSは97.2%(95%CI:95.9~98.4%、乳がん死は1例のみ)と非常に良好な成績であった。この結果から55歳以上で増殖能が低く、また早期のLuminal Aタイプ乳がんではRT省略についても検討の余地が出てくると考えられる。

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TN乳がん1次治療でのペムブロリズマブ+化学療法、日本人でのOSとPFS(KEYNOTE-355)/日本乳癌学会

 手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療で、ペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した国際共同第III相KEYNOTE-355試験において、無増悪生存(PFS)および全生存(OS)を有意に改善したことはすでに報告されている。また、本試験の日本人患者のサブグループ解析は、2019年12月11日のデータカットオフ時点の中間解析でPFSが全体集団と大きな乖離がなかったことが2020年の日本乳癌学会で発表されている。今回、2021年6月15日のデータカットオフ時点における日本人患者での有効性と安全性の結果について、聖マリアンナ医科大学の津川 浩一郎氏が第30回日本乳癌学会学術総会で発表した。TN乳がんの日本人患者におけるペムブロリズマブ+化学療法の有効性・対象:未治療の手術不能な局所再発/転移を有するTN乳がん患者(18歳以上、PS 0/1)847例(日本人87例)・試験群:ペムブロリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセルパクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのいずれか)566例(日本人61例、うち2例が治療中)・対照群:プラセボ+化学療法 281例(日本人26例)・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)とITT集団におけるPFSとOS[副次評価項目]奏効率、奏効期間、病勢コントロール率、安全性 TN乳がんの1次治療でペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較したKEYNOTE-355試験における日本人患者での有効性と安全性の主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の特性について、TN乳がん患者の日本人集団では全体集団に比べてPS 0が多かった。また、併用する化学療法はゲムシタビン/カルボプラチンが多く、周術期(術前・術後)化学療法とは異なる患者が多かった。・OSについては、ハザード比(HR)がCPS≧10のTN乳がん患者群で0.36(95%CI:0.14~0.89)と全体集団と同様に改善を示した。CPS≧1の患者群では、全体集団では有意な改善が示されなかったが、日本人集団では0.52(同:0.30~0.91)と改善を認め、ITT解析でも0.46(同:0.28~0.77)と改善が認められた(注:国内での保険適用はCPS≧10の患者)。・PFSのHRは、CPS≧10のTN乳がん患者群で0.52(同:0.20~1.34)、CPS≧1の患者群で0.61(同:0.35~1.06)、ITT集団で0.64(同:0.39~1.05)だった。・Grade3~4の治療関連有害事象(AE)は、日本人集団でペムブロリズマブ群85.2%、プラセボ群84.6%に発現し、全体集団よりやや多かったが、いずれも管理可能だった。ペムブロリズマブ群のほうが多かったAEは、味覚異常、食欲低下、口内炎、皮膚炎などであった。 これらの結果から、津川氏は「手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性のTN乳がんの日本人患者におけるペムブロリズマブ+化学療法が支持される」と結論した。

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liso-cel、再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療に有効か?/Lancet

 早期再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の2次治療において、CD19を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法リソカブタゲン マラルユーセル(liso-cel)は従来の標準治療と比較して、無イベント生存期間を約8ヵ月延長することが、米国・コロラド大学がんセンターのManali Kamdar氏らが進めている「TRANSFORM試験」の中間解析で示された。安全性に関する新たな懸念は認めなかったという。研究の成果は、Lancet誌2022年6月18日号に掲載された。47施設の無作為化第III相試験の中間解析 TRANSFORMは、再発・難治性LBCLの2次治療におけるliso-celの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2018年10月23日~2020年12月8日の期間に、米国、欧州、日本の47施設で参加者のスクリーニングが行われた(CelgeneとBristol-Myers Squibb Companyの助成を受けた)。この試験は進行中で、今回は中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18~75歳、1次治療に抵抗性、またはアンスラサイクリン系薬剤と抗CD20モノクローナル抗体を含む1次治療で初回奏効が得られてから12ヵ月以内に再発したLBCLで、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)のスコアが0または1、自家造血幹細胞移植(HSCT)の適応があり、Lugano基準(2014年)でPET陽性の病変を有する患者であった。 被験者は、liso-celの投与群または標準治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。liso-cel群は、リンパ球除去化学療法(フルダラビン+シクロホスファミド)を3日間受けたのち、総用量100×106 CAR+T細胞を目標に、CD8+とCD4+のCAR+T細胞を2回連続で静脈内投与された。 標準治療群は、救援免疫化学療法として、担当医の裁量でR-DHAP(リツキシマブ+デキサメタゾン+シタラビン+シスプラチン)、R-ICE(リツキシマブ+イホスファミド+エトポシド+カルボプラチン)、R-GDP(リツキシマブ+デキサメタゾン+ゲムシタビン+シスプラチン)のうちいずれか1つを3サイクル施行され、このうち奏効(完全奏効、部分奏効)が得られた患者が、大量化学療法(カルムスチン+エトポシド+シタラビン+メルファラン)を1サイクルと自家HSCTを受けた。 主要エンドポイント、は無イベント生存期間とされた。奏効の評価は、独立の審査委員会がLugano基準(2014年)を用いて行った。完全奏効割合や無増悪生存期間も良好 184例が登録され、liso-cel群に92例(年齢中央値60歳[IQR:53.5~67.5]、女性52%)、標準治療群にも92例(58.0歳[42.0~65.0]、34%)が割り付けられた。多くの患者(160例[87%])が、びまん性LBCL(DLBCL)(DLBCL-NOSまたは濾胞性リンパ腫からの形質転換が117例[64%])あるいは高悪性度B細胞リンパ腫(43例[23%])であり、135例(73%)は1次治療に抵抗性、61例(33%)は65歳以上で、73例(40%)はsAAIPI≧2であった。追跡期間中央値は6.2ヵ月(IQR:4.4~11.5)だった。 無イベント生存期間中央値は、liso-cel群が10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.1~未到達)と、標準治療群の2.3ヵ月(2.2~4.3)に比べ有意に改善された(層別ハザード比:0.35、95%CI:0.23~0.53、層別Cox比例ハザードモデルの片側検定のp<0.0001)。 完全奏効割合(66% vs.39%、p<0.0001)、無増悪生存期間中央値(14.8ヵ月vs.5.7ヵ月、p=0.0001)、全生存期間中央値(未到達vs.16.4ヵ月、p=0.026)は、いずれもliso-cel群で良好であった。 最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、好中球数減少(liso-cel群80%[74/92例]vs.標準治療群51%[46/91例])、貧血(49%[45例]vs.49%[45例])、血小板減少(49%[45例]vs. 64%[58例])、遷延性血球減少(43%[40例]vs.3%[3例])であった。liso-cel群で、とくに注目すべき有害事象として、CAR-T細胞療法関連のGrade3のサイトカイン放出症候群が1%(1例)、神経学的事象が4%(4例)で発現した(Grade4、5は認めなかった)。 試験薬投与下の有害事象(無作為化の日から最終投与後90日までに発現または悪化した有害事象)のうち重篤な事象は、liso-cel群で48%(44例)、標準治療群で48%(44例)に認められた。2次治療におけるliso-celの安全性に関する新たな懸念は確認されなかった。また、治療関連死は、liso-cel群ではみられず、標準治療群では1例(敗血症)で認められた。 著者は、「これらの結果は、早期再発または難治性のLBCL患者における、新たな2次治療の推奨レジメンとして、liso-celを支持するものである」としている。

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転移のある去勢抵抗性前立腺がんに対するPSMA標的治療薬ルテチウム-177はPFSを延長(TheraP)/ASCO2022

 転移を有するドセタキセル既治療の去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対し、前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的としたルテチウム177(Lu-PSMA-617)は、カバジタキセルと比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)において、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのMichael Hofman氏から発表された。PSMA標的治療薬のLuPSMA群でPFSの有意な延長 今回のPSMA標的治療薬の効果の発表は、オーストラリアで実施されたオープンラベルの無作為化比較第II相TheraP試験の生存に関する解析結果である。・対象:ドセタキセル治療後に病勢進行を来したmCRPC症例200例(PETでPSMA高発現であり、同一の病変部位でFDG-PET陽性だがPSMA陰性といった不一致がない症例)・試験群:PSMA標的治療薬Lu-PSMA-617を6週間ごと6サイクル投与(LuPSMA群:99例)・対照群:カバジタキセル20mg/m2を3週間ごと10サイクル投与(Caba群:101例)・評価項目:[主要評価項目] PSA奏効率[副次的評価項目] PFS、奏効率、安全性など 転移のある去勢抵抗性前立腺がんに対するPSMA標的治療薬の効果を解析した主な結果は下記のとおり。・既報では、PSA奏効率はLuPSMA群66%対Caba群37%、奏効率は49%対24%、Grade3/4の有害事象は33%対53%といずれもLuPSMA群で良好な結果となっていた。・データカットオフ2020年12月時点でのPFSは、ハザード比(HR)は0.62(95%信頼区間[CI]:0.45~0.85)、p=0.0028と、LuPSMA群で有意な延長が見られた。・データカットオフ2021年12月時点、観察期間中央値36ヵ月でのOSは、HR0.97(95%CI:0.70~1.4)、p=0.99と両群間に有意な差は認められなかった。・LuPSMA群の後治療には32%にカバジタキセルが、Caba群の後治療では20%にLu-PSMA-617が投与されていた。・画像診断のスクリーニング時にPSMA低発現などで除外された症例61例を加えて、探索的にOSを検討したが、除外症例群は試験登録群に比し、予後不良であった。・観察期間中央値3年時点においても、新たな安全性の懸念は出てこなかった。 演者は「Lu-PSMA-617は、カバジタキセルと同等のOSを示し、かつPSA奏功率、PFS、安全性ではカバジタキセルより優れる治療法である。」と結んだ。

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HER2陰性乳がん術後再発の2例、心機能回復困難なのはどっち?【見落とさない!がんの心毒性】第12回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》類似した患者特性と同種のがん薬物治療を受けたにも関わらず、極めて異なる心不全治療経過をたどったHER2陰性乳がん術後再発の2症例症例1年齢・性別50代・女性既往歴心疾患、糖尿病、脂質異常症なし生活歴喫煙歴なし治療歴/経過HER2陰性乳がん術後で初発手術時の補助化学療法実施はなし。5年間のホルモン療法完遂後。術後9年目に多発他臓器転移、リンパ節に再発。再発乳がんに対してCEF (シクロフォスファミド[Cyclophosphamide]+エピルビシン[Epirubicin]+フルオロウラシル[Fluorouracil])を約半年間かけて計8クール実施(エピルビシン総積算量 800mg/m2)。積算アントラサイクリン量から心毒性を懸念しCEFを終了した。CEF終了時の左室駆出率 (LVEF)70%台と左室機能低下は認めず。パクリタキセル(PAC)+ベバシズマブ治療に移行した約1年半後にLVEFが低下した心不全 (HFrEF) を発症。急性期は肺うっ血を呈し、LVEF 20%台まで左室機能は低下しており各種検査からがん治療関連性心機能障害 (CTRCD)と診断した。HFrEF発症後は急性心不全治療および心保護治療を開始。その後の経過は良好で比較的速やかな経過をたどり、心不全治療開始後約1年の時点でLVEF 60%台とほぼ正常に回復を示した (症例1経過図)。心不全発症後最高BNP値:485 pg/mL、心不全発症後最高トロポニンI(TnI)値:20 ng/mL。※経過中に虚血性心疾患の関与は除外した。症例1経過図画像を拡大する症例2年齢・性別50代・女性既往歴糖尿病、脂質異常症なし生活歴喫煙歴なし治療歴/経過HER2陰性乳がん術後で初発手術時の補助化学療法実施はなし。術後ホルモン療法治療中にリンパ節および他臓器転移での再発を確認。PAC+ベバシズマブ治療を導入。治療後1年4ヵ月でPD判定、CEF治療へ移行した。CEF移行時のLVEFは 70%台と左室機能は維持されていた。CEF治療移行後の約半年後にHFrEF発症 (エピルビシン[EPI]600 mg/m2).HFrEF診断時、LVEF 20%台と左室機能は高度に低下し、BNP 664と上昇。速やかに利尿剤、心保護治療の導入と拡充を開始したがBNPは更に増悪傾向を示し、経過中は一時的にピモベンダン併用も余儀なくされた。その後、BNPおよびトロポニンは徐々に回復傾向を示したが、長期間に渡りLVEFの回復は極めて緩慢で、LVEF 20%前後が長期に渡り遷延し心不全治療導入後の約2年経過後もLVEF 42%程度の回復にとどまった(症例2経過図)。心不全発症後最高BNP値:1014 pg/mL、心不全発症後最高TnI値:96 ng/mL。※経過中に虚血性心疾患の関与は除外した。症例2経過図画像を拡大する2症例の対比表画像を拡大する【問題】類似した患者特性を有し類似した薬物治療を受けた2症例にも関わらず、心不全治療後の心機能回復が極めて異なる転帰をたどった。その理由について、筆者が最も疑っている2つの理由はなにか?講師紹介

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NSCLCに対するペムブロリズマブ術後補助療法の第III相試験サブグループ解析(KEYNOTE-091/PEARLS)/ASCO2022

 KEYNOTE-091試験(EORTC-1416-LCG/ETOP-8-15-PEARLS)のサブグループ解析から、ペムブロリズマブの非小細胞肺がん(NSCLC)の術後補助療法は、術式や腫瘍サイズ、リンパ節転移や術前補助療法などを問わずに有用であることが示された。英国・The Royal Marsden NHS Foundation TrustのMary E.R. O'Brien氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で報告した。 KEYNOTE-091試験は、Stage IB~IIIAの切除後NSCLCに対する術後補助療法としてのペムブロリズマブの有用性を評価した無作為化第III相試験である。中間解析においてPD-L1の発現状態に関わらず無病生存期間(DFS)を有意に延長した一方、TPS≧50%集団では有意な差を認めなかったことがプレスリリースで発表されている。今回は、術式、がんの状態、術前補助療法の有無などのサブグループ解析とともに具体的な結果も示されている。・対象:(TMN第7班による)Stage IB(≧4cm)からStage IIIAの完全切除NSCLC(1,117例)・試験群:外科的切除後にペムブロリズマブ200mg 3週ごと18回まで投与(590例)・対照群:治療薬と同様のスケジュールでプラセボを投与(587例)[主要評価項目]全集団のDFS、PD-L1 TPS≧50%のDFS[副次評価項目]PD-L1 TPS≧1%のDFS、全集団、PD-L1 TPS≧50%、≧1%の全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体集団DFS中央値は、ペムブロリズマブ群53.6ヵ月、プラセボ群42.0ヵ月、18ヵ月DFSはそれぞれ73.4%と64.3%であった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.63~0.91、p=0.0014)。・PD-L1 TPS≧50%のDFS中央値はペムブロリズマブ群、プラセボ群とも未到達、18ヵ月DFSはそれぞれ71.7%と70.2%であった(HR:0.82、95%CI:0.57~01.18、p=0.14)。・全集団のOS中央値はペムブロリズマブ群、プラセボ群とも未到達、18ヵ月OSはそれぞれ91.7%と91.3%であった(HR:0.87 、95%CI:0.67~1.15、p=0.17)。・DFSのサブグループ解析では、術後補助療法なし、術後補助療法がカルボプラチン+パクリタキセルの集団を除き、術式タイプ、pNステータス、腫瘍サイズなど一貫してペムブロリズマブ群で良好な傾向が認められていた。 著者のO'Brien氏はポスター発表の中で、全集団の有効性と安全性の結果は、Stage IB(≧4cm)からStage IIIAに対するペムブロリズマブの術後補助療法のベネフィットを支持するものだと結んでいる。

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進展型小細胞肺がんの1次治療におけるアテゾリズマブ+化学療法へのtiragolumabの併用効果(SKYSCRAPER-02)/ASCO2022

 進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)に対する、アテゾリズマブと化学療法(カルボプラチン+エトポシド)への抗TIGIT抗体tiragolumabの併用による全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の延長は見られなかった。ES-SCLCに対するSKYSCRAPER-02試験ではPFSとOSに有意差なし 同報告は、日本も参加した国際共同第III相試験SKYSCRAPER-02の初回解析結果で、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)において米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのCharles M. Rudin氏から報告された。・対象:未治療のES-SCLC症例490例・試験群:tiragolumab+アテゾリズマブ+カルボプラチン・エトポシド3週ごと4サイクル→tiragolumab+アテゾリズマブ3週ごと(Tira群:243例)・対照群:プラセボ+アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド3週ごと4サイクル投与→プラセボ+アテゾリズマブ3週ごと(Pla群:247例)・評価項目:[主要評価項目]脳転移を有さない症例群(PAS)におけるOSとPFS(主治医判定による)[副次的評価項目]すべての登録症例(FAS)によるOSとPFS、奏効率(RR)、奏効期間(DOR)、安全性など ES-SCLCに対するSKYSCRAPER-02の初回解析の主な結果は以下のとおり。・観察期間中央値は14.3ヵ月であった(データカットオフ2022年2月)。・両群共に約19%の脳転移症例を含んでいた。・PAS群のPFS中央値は、Tira群で5.4ヵ月、Pla群で5.6ヵ月、ハザード比(HR)は1.11(95%信頼区間[CI]:0.89~1.38)でp=0.3504、と両群間に有意な差は見られなかった。・PAS群のOS中央値はTira群が13.6ヵ月、Pla群が13.6ヵ月、HRは1.04(95%CI:0.79~1.36)でp=0.7963、こちらも両群間に有意差はなかった。・FAS群のPFS中央値はTiga群が5.1ヵ月、Pla群が5.4ヵ月で、HRは1.08であった。同様にOS中央値は、Tira群13.1ヵ月、Pla群12.9ヵ月、HRは1.02であった。・FASを対象としたサブグループ解析においても両群間の有意な差は見いだせなかった。・探索的に脳転移症例だけでOSを検討してみたところ、OS中央値はTira群で11.70ヵ月、Pla群で10.64ヵ月、HR0.92であった。・FAS群のRRは、Tira群が70.8%、Pla群が65.6%、DOR中央値はTira群が4.2ヵ月、Pla群が5.1ヵ月であった。・Grade3/4の治療関連有害事象は、Tira群の52.3%、Pla群の55.7%で発現した。有害事象による治療中止割合は、Tira群5.0%、Pla群5.3%であった。

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抗PD-1抗体sintilimab+化学療法のNSCLC術前補助療法、2サイクル対3サイクル/ASCO2022

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対して、抗PD-L1抗体薬sintilimabと化学療法による術前補助療法は、2サイクルよりも3サイクルでより高い病理学的奏効(MPR)率を示し、サブタイプ別ではとくに扁平上皮がんで良好なMPR率が得られた。無作為化単施設2群第II相比較試験の結果として、中国Zhejiang大学のFuming Qiu氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2022)で報告した。 免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用による術前補助療法は、切除可能なNSCLC患者に対して有望な治療選択肢となっている。しかし、術前補助療法の最適な期間は明らかではなく、臨床試験では2~4サイクルで実施されていることが多い。 一方、sintilimab単剤の術前投与は良好なMPR率が報告されている。同試験では、切除可能なNSCLC患者を対象に、sintilimabと化学療法による術前補助療法の効果を2サイクルと3サイクルで比較した。・対象:未治療のStageIB~IIIA NSCLC患者(ECOG PS 0~1)60例・治療法:手術前にsintilimab+化学療法(扁平上皮がんカルボプラチン+nab-パクリタキセル、非扁平上皮がん:カルボプラチン+ペメトレキセド)3週間ごとに2サイクル行う群と3サイクル行う群に無作為に割り付け。術前補助療法終了から4週間以内に手術を施行・評価項目:[主要評価項目]MPR[副次評価項目]病理学的完全奏効(pCR)、奏効率(ORR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は64.5歳、StageIB~IIBが46.7%でIIIAが53.3%、PD-L1(TPS)は1%未満が48.3%、1%以上が51.7%であった。・MPR率は3サイクル群41.4%、2サイクル群に26.9%で、3サイクル群で傾向を示した(p=0.260)。pCR率はそれぞれ24.1%、19.2%であった(p=0.660)。・ORRは3サイクル群55.2%、2サイクル群50.0%であった(p=0.701)。・組織形別にみると、非扁平上皮がんに比べて扁平上皮がんでMPR率が有意に高かった(51.6% vs.12.5%、p=0.002)。・扁平上皮がんにおけるMPR率は3サイクル群60.0%、2サイクル群43.8%であった(p=0.366)。・両群間ともに安全性に問題はなく、高い忍容性が示された。

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HER2低発現進行乳がん、T-DXdでPFSとOSが延長(DESTINY-Breast04)/NEJM

 HER2低発現の再発・転移のある乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師選択の化学療法と比較し、無増悪生存(PFS)期間および全生存(OS)期間を有意に延長させることが、第III相臨床試験「DESTINY-Breast04試験」で示された。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏らが報告した。HER2の増幅や過剰発現を伴わない乳がんの中には、治療の標的となる低レベルのHER2を発現しているものが多く存在するが、現在用いられているHER2療法はこれら「HER2低発現」のがん患者には効果がなかった。NEJM誌オンライン版2022年6月5日号掲載の報告。T-DXdの有効性および安全性を医師選択化学療法と比較 研究グループは、2018年12月27日~2021年12月31日の期間に、1~2ラインの化学療法歴があるHER2低発現(IHCスコア1+、またはIHCスコア2+かつISH-)の再発・転移のある乳がん患者を、T-DXd群または化学療法群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれかを医師が選択)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、盲検化独立中央評価委員会(BICR)判定によるホルモン受容体(HR)陽性患者におけるPFS、主要な副次評価項目は全例におけるPFS、HR陽性患者および全例におけるOSであった。HR陽性例でも全例でも、T-DXdでPFSが約1.9倍、OSが約1.4倍に 無作為化された患者557例のうち、494例(88.7%)がHR陽性、63例(11.3%)がHR陰性であった。 HR陽性患者におけるPFS期間中央値はT-DXd群10.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.5~11.5)、化学療法群5.4ヵ月(4.4~7.1)であり(ハザード比[HR]:0.51、95%CI:0.40~0.64、層別log-rank検定のp<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.9ヵ月(95%CI:20.8~24.8)、17.5ヵ月(15.2~22.4)であった(HR:0.64、95%CI:0.48~0.86、p=0.003)。 また、全例におけるPFS期間中央値はT-DXd群9.9ヵ月(95%CI:9.0~11.3)、化学療法群5.1ヵ月(4.2~6.8)であり(HR:0.50、95%CI:0.40~0.63、p<0.001)、OS期間中央値はそれぞれ23.4ヵ月(20.0~24.8)、16.8ヵ月(14.5~20.0)であった(HR:0.64、95%CI:0.49~0.84、p=0.001)。 Grade3以上の有害事象の発現率はT-DXd群52.6%、化学療法群67.4%であり、T-DXd群では薬剤関連間質性肺疾患/肺炎が12.1%(Grade5が0.8%)に発現した。

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悪性神経膠腫〔malignant glioma〕

1 疾患概要■ 定義脳には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して「神経膠腫(グリオーマ:glioma)」という。細胞の種類により星細胞腫(アストロサイトーマ:astrocytoma)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ:oligodendroglioma)、上衣腫(エペンディモーマ:ependymoma)などに分類される。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレード(grade)が1~4までの4つに分かれており、成人の神経膠腫はほとんどがグレード2以上のものであり、びまん性神経膠腫と呼ばれる。グレード4の神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ:glioblastoma)と呼ばれ最も予後不良である。グレード2とグレード3の神経膠腫をまとめて低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)と呼ぶが、必ずしも悪性度が低いわけではない。■ 疫学「脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008)」では、原発性脳腫瘍のうち神経膠腫全体の頻度は26.9%であった1)。神経膠腫のなかでは、グレード4の膠芽腫が約半数を占め、グレード2、3のlower grade gliomaが約40%の頻度である。Lower grade gliomaのうち、星細胞腫系と乏突起膠腫系がおよそ2:1となっており、以前の統計に比べて乏突起膠腫の頻度が増加している。グレードが上がるにつれて発症年齢も上がっていき、年齢中央値はグレード2のびまん性星細胞腫で38歳、乏突起膠腫で42歳、グレード3の退形成性星細胞腫で49歳、退形成性乏突起膠腫で54歳、グレード4の膠芽腫で63歳となっている。男女比は、膠芽腫で1.39:1、lower grade gliomaで1.34:1と男性にやや多い。■ 病因1)遺伝的素因神経膠腫のほとんどは孤発性に発生し、遺伝的な素因により発症する遺伝性腫瘍はまれである。神経膠腫を生じうる遺伝性腫瘍として、以下のような疾患がある。リ・フラウメニ症候群:生殖細胞系列にTP53遺伝子の異常を有し、家族性にがんを多発する。リンチ症候群:生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子の異常を有しており、神経膠腫のみならず大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどのリスクを有する。ターコット症候群のtype1はリンチ症候群の亜型で、神経膠腫と大腸がんを合併する。2)遺伝子異常腫瘍細胞は、前駆細胞に遺伝子異常が生じ、その結果生物学的な性格の変化を来して発生すると考えられている。神経膠腫においては、腫瘍の組織型別および悪性度別に生じている遺伝子異常に共通性と相違が認められており、その種類や生じる時期により、異なるタイプと悪性度の神経膠腫が発生するのではないかとの仮説が提唱されている。主な神経膠腫の遺伝子異常を図1に示す。図1 神経膠腫の遺伝子異常画像を拡大するびまん性神経膠腫の発生初期に起こる遺伝子異常の代表的なものとして、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子変異があげられる。網羅的な遺伝子解析の結果、lower grade gliomaおよびグレード2、3の星細胞腫から悪性転化した二次性膠芽腫に非常に高頻度にみられることが明らかになった。このIDH遺伝子変異を持つ細胞にTP53遺伝子変異やATRX遺伝子変異が加わると星細胞腫へ、第1番染色体短腕(1p)および第19番染色体長腕(19q)の全体が共に欠失する(1p/19q共欠失)変異が加わると乏突起膠腫に進展していくという仮説が広く受け入れられている。IDH変異のない膠芽腫では、EGFR遺伝子の増幅、第10番染色体の欠失、TERT遺伝子プロモーター領域の変異などが腫瘍形成に関与していると考えられている。小児悪性神経膠腫において、ヒストンテールをコードする遺伝子変異(H3F3A K27M/G34Rなど)が高頻度に認められることが判明し、この変異がエピゲノム制御を介して腫瘍化に関わっていることが示唆される。毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)や類上皮膠芽腫(epithelioid glioblastoma)に高率に認められるBRAF遺伝子変異(BRAF V600E)なども重要な遺伝子異常で、この遺伝子を標的とした分子標的薬による治療が開発されている。3)外的因子放射線照射は脳腫瘍の発生と関連性が深いと考えられており、照射後数年~数十年後に神経膠腫が発生する事例の報告がある。■ 症状神経膠腫の症状としては、(1)腫瘍による脳の圧迫や脳浮腫に由来する頭蓋内圧亢進症状、(2)発生部位の脳機能障害による局所症状、(3)腫瘍に起因する痙攣発作がある。(1)頭蓋内圧亢進症状:頭痛や嘔気・嘔吐の症状が出現し、進行すると意識障害を来す。(2)局所症状:腫瘍の部位により麻痺、感覚障害、失語症、視野障害、認知機能低下などのさまざまな高次脳機能障害が起こりうる。進行の早い膠芽腫では局所症状が起こりやすく、脳腫瘍全国集計調査報告では膠芽腫の初発症状のうち57%が局所症状である1)。(3)痙攣発作:腫瘍が発生源となる部分発作から、二次性全般化を来して全身の強直間代性発作を起こすこともある。特にlower grade gliomaで痙攣発作の頻度が高く、lower grade gliomaの初発症状のおよそ半数が痙攣発作である1)。■ 分類神経膠腫はグリア細胞起源であり、その分化組織型により星細胞腫系、乏突起膠腫系に分かれる。また、疾患予後を表す指標である組織学的悪性度は世界保健機関(WHO)のグレード分類で予後が良い方から悪い方へグレードIからIVに分類される。WHO脳腫瘍分類第4版(2007年改訂)では病理組織所見に基づいて分類され、星細胞腫系、乏突起膠腫系およびそれらの混合腫瘍に分類された(表1)。表1 成人神経膠腫の分類(WHO2007)画像を拡大する2016年にWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、腫瘍組織の遺伝子検査を加味した分類がされるようになった。神経膠腫においては、lower grade gliomaの70~100%の頻度でみられるIDH変異、乏突起膠腫系腫瘍の特徴である1p/19q共欠失を付記し、形態学的診断、悪性度、分子情報を統合したintegrated diagnosis(統合診断)が取り入れられた(表2)。表2 成人神経膠腫の分類(WHO2016)画像を拡大するまた、小児脳幹部に好発する神経膠腫ではヒストンの遺伝子変異などの異常が明らかにされて、びまん性正中神経膠腫(diffuse midline glioma、H3K27M-mutant)という分類が新設された。さらに、2021年にWHO分類の改定が行われ、成人びまん性神経膠腫は以下の3種類に統合された(表3)。グレードの記載はローマ数字からアラビア数字に変更された。表3 成人神経膠腫の分類(WHO2021)画像を拡大する(1)星細胞腫IDH変異型(グレード2、3、4)グレードは病理組織学的に決定されるが、遺伝子解析の結果CDKN2A/B遺伝子のホモ接合型欠失があればグレード4に分類される。(2)乏突起膠腫IDH変異型, 1p19q共欠失(グレード2、3)乏突起膠腫の診断にはこの遺伝子型が必須となり、グレードは病理組織学的に決定される。(3)膠芽腫IDH野生型(グレード4)IDH野生型で、[1]病理での微小血管増殖または壊死、[2]TERT遺伝子プロモーター領域の変異、[3]EGFR遺伝子増幅、[4]7番染色体増加かつ10番染色体の全欠失のいずれかを伴えば膠芽腫と診断される。IDH野生型のグリオーマでこれらの所見を伴わない場合には、小児型のびまん性神経膠腫を考慮することになるが、この分類では診断困難な腫瘍群が出てくることが課題である。■ 予後神経膠腫の予後はグレード、組織型により異なり、最も予後の悪い膠芽腫では標準治療 である放射線治療およびテモゾロミド化学療法の併用療法を行っても生存期間中央値は15~20.3ヵ月と予後不良である1、2)。脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008年)によると、神経膠腫の5年生存率は、グレード4の膠芽腫で16%、グレード3の退形成性星細胞腫で43%、退形成性乏突起膠腫で63%、グレード2のびまん性星細胞腫で77%、乏突起膠腫で92%である(表4)1)。表4 組織型・グレード別予後画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査神経膠腫の有用な腫瘍マーカーは今のところない。悪性リンパ腫に対する腫瘍マーカーとして可溶性IL-2レセプターがあり、その他各種がんの腫瘍マーカーは転移性脳腫瘍の鑑別診断の補助となる。■ 髄液検査髄腔内播種がある場合、髄液細胞診で異型細胞が検出されることがある。■ 画像検査診断のためにはCT、MRIなどの画像検査が欠かせない。1)CT腫瘍の局在に加えて、腫瘍内の出血や石灰化の有無を確認する。神経膠腫で腫瘍内の石灰化があれば、乏突起膠腫を強く疑う。2)MRI腫瘍の詳細な解剖学的位置情報のみならず、多種類の撮像方法により、病巣の質的・生物学的情報も得ることができる。T2強調画像・FLAIR画像では、病巣の広がりと脳浮腫の領域を、T1強調画像ではガドリニウムによる造影検査を行うことで、血液脳関門の破綻のある腫瘍本体の局在情報が得られる。造影される神経膠腫は、膠芽腫をはじめとした高悪性度(high grade)の腫瘍を疑う。拡散強調画像では、腫瘍細胞密度の推定や急性期脳梗塞との鑑別を行う。拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging)を用いて、錐体路、視放線、言語関連線維(弓状束や上縦束など)などの白質線維の描出が可能である。灌流画像により腫瘍の血流・血液量の評価が可能で、腫瘍の悪性度の推定や膠芽腫と悪性リンパ腫の鑑別に有用である。さらに、MR spectroscopy (MRS)では、病巣に含有される分子の成分解析を行い、腫瘍性成分の多寡、嫌気性代謝の有無などの情報が得られ、疾患の鑑別の一助となる。3)PET病巣の代謝活性を直接評価するためにPET検査が有用である。脳はブドウ糖代謝が高度であることから、一般に用いられるブドウ糖をトレーサーとするFDG-PET検査での検出力は低く、アミノ酸代謝を反映するメチオニンPETがより検出力に優れているが、現在まだ保険適用となっていないため自費での検査となる。アミノ酸をトレーサーとするフルシクロビン(18F)PETは2021年に初発悪性神経膠腫に対して薬事承認されたが、いまだ保険収載されておらず、使用できる段階にはない。■ 病理診断診断確定のためには、手術摘出検体(生検含む)を用いた病理組織診断が必要である。■ 遺伝子解析2016年のWHO脳腫瘍分類改訂第4版以降は、IDH変異や1p/19q共欠失などの遺伝子解析が診断確定に必須となる。IDH変異のうち、IDH1遺伝子のR132H変異は免疫染色で高精度に検出できるが、他のIDH変異はサンガーシークエンスやパイロシークエンスなどの解析が必要である。1p/19q共欠失は、FISH法、マイクロサテライト法、MLPA法などで解析を行うのが一般的である。現在、保険収載を目指した1p/19qのFISHプローブの開発が進められている。IDH変異、1p/19q共欠失含め神経膠腫の遺伝子解析は保険適用となっておらず、現在は主要施設において研究の一環として実施されているのが実情であり、今後の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)悪性神経膠腫に対する治療の柱は手術、放射線治療、化学療法であるが、腫瘍の組織型、グレードによりその選択は異なる。また、腫瘍治療電場療法(商品名:オプチューン)やウイルス療法(同:デリタクト)などの新規治療法が近年保険収載され、保険診療下に使用可能となった。初発膠芽腫の標準治療例について、図2に示す。図2 初発膠芽腫標準治療画像を拡大する■ 手術神経膠腫が疑われたら、原則としてまず手術による腫瘍摘出が行われる。摘出標本による病理学的確定診断が極めて重要であり、その結果により術後の補助療法の内容や適否が決定される。神経膠腫の手術は、膠芽腫においてもlower grade gliomaにおいても摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く、最大限の摘出が望ましい3、4)。ただし、手術合併症により症状を悪化させてしまうと患者QOLを大きく損なうばかりか、生命予後をかえって悪化させてしまうため、症状を悪化させない範囲での最大限の摘出(maximal safe resection)を目指すべきである。手術支援技術が発展してきたため、術中ナビゲーション、電気生理モニタリング、覚醒下手術、術中蛍光診断(5-ALA)、術中MRIなどを駆使した精度の高い手術が可能となってきている。■ 放射線治療神経膠腫への放射線治療は、腫瘍細胞の浸潤性性格から浸潤領域を含む領域に照射することが必要であるため、正常神経細胞の機能障害を最小限とするべく、局所分割照射が行われる。グレード4の膠芽腫には、手術に引き続き後述のテモゾロミド併用放射線治療を60Gy/30回分割(1回線量2Gy)で施行する。照射範囲は腫瘍周囲のT2高信号域に若干のマージンを加えた範囲とすることが一般的である。高齢者の膠芽腫に対しては、40Gy/15回分割の放射線治療の非劣性が示され、寡分割照射が推奨される5)。また、高齢者や脆弱なフレイル患者に対して25Gy/5回分割照射の40Gy/15回分割照射に対する非劣性が示され、さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得る6)。グレード3の退形成性神経膠腫には、総線量54~60Gyが照射される。摘出術後に引き続き照射を行うことが標準的であるが、予後良好な因子を持つ退形成性乏突起膠腫に対しては、照射を待機する試験的な治療も臨床試験では検討されている。グレード2の低悪性度神経膠腫の場合は、摘出度、年齢、腫瘍径、組織型などにより高リスク(high risk)例では放射線治療を行うことが推奨される。低リスク(low risk)例では術後早期の放射線治療は行わず、慎重に経過をみることが提案される。■ 化学療法わが国で神経膠腫に対して保険適用のある薬剤は、テモゾロミド(TMZ)、ニムスチン(ACNU、商品名:ニドラン)、ベバシズマブ(bevacizumab;BEV、同:アバスチン)、カルムスチン(BCNUウエハー、同:ギリアデル)、プロカルバジン(PCZ、同:プロカルバジン)、ビンクリスチン(VCR、同:オンコビン)などである。1)膠芽腫テモゾロミド(TMZ)18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対しては、手術後TMZを放射線治療期間中、ならびに放射線終了後投与するStuppレジメンが強く推奨される7)。TMZはリンパ球減少を生じやすく、その結果ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクが高まるため、ST合剤などの予防処置を行う。神経膠腫においては、O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)遺伝子プロモーター領域のメチル化があるとTMZがより有効である8)。高齢者の膠芽腫において、短期照射の放射線治療にTMZの上乗せが有効かどうか検証した第III相臨床試験において、TMZ併用の有効性が示された9)。特にMGMTメチル化のある高齢者膠芽腫に対してはTMZ併用が勧められる。ベバシズマブ(BEV)血管新生の主因となる血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するヒト化モノクローナル抗体で、2013年6月に悪性神経膠腫に対して薬事承認された。初発膠芽腫に対して、AVAglioとRTOG0825の2つの第III相臨床試験が報告され、どちらも無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長させないという結果であった10、11)。わが国では保険診療下で初発膠芽腫でのBEVの使用が可能であるが、全生存期間の延長が示されないことから必ずしも推奨されない。術後の残存腫瘍や浮腫によりperformance status(PS)を下げている患者には、浮腫軽減効果の強いBEV併用が期待できる可能性がある。一方、TMZ治療後の再発膠芽腫に対しては、国内外での臨床試験で高い奏効割合、無増悪生存期間と症状改善効果が示され、BEV単独療法は再発膠芽腫に対する有力な治療法と考えられる12、13)。これまでのところ、他剤との併用による効果増強は示されておらず、単独投与が基本である。BCNUウエハー手術時に摘出腔壁に留置してくるニトロソウレア系BCNUの徐放性ペレット剤(ギリアデル)が、2013年1月に承認された。初発および再発悪性神経膠腫に対する欧米での第III相臨床試験の結果は、BCNUウエハー留置による全生存期間が、初発時では悪性神経膠腫に対し、再発時にはサブ解析にて膠芽腫に対し、有意な延長が認められた。逆に、初発時の膠芽腫に、また再発時の悪性神経膠腫全症例には有意差はみられなかった。一方、BCNUウエハーの使用による有害事象としては、術後の脳浮腫が約25%で認められたほか、摘出腔内ガス発生、髄液漏、創感染、けいれん発作などが生じる可能性がある。現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において、90%以上の摘出が見込まれる初発膠芽腫に対して術中ランダム化してBCNUウエハー留置の有効性を検証する第III相試験が行われている(JCOG1703)。2)グレード3神経膠腫グレード3神経膠腫に対しては、術後薬物療法が推奨される。退形成性星細胞腫に対して放射線治療に同時併用(concurrent)と維持療法(adjuvant)のTMZを併用するかどうかを検証したCATNON試験では、concurrent TMZは放射線治療単独に比べて無増悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)ともに差を認めなかったが、adjuvant TMZはPFS・OSともに有意に延長するという結果であった14)。退形成性乏突起膠腫(1p/19q共欠失腫瘍)に対する放射線治療単独と放射線治療とPCV療法(PCZ+CCNU+VCR)の併用療法を比較した欧米の2つの第III相試験において、PCV療法の併用がOSを有意に延長することが示された15、16)。わが国ではCCNUが未承認であるため、ACNUを代替薬として用いるPAV療法が行われている。また、放射線治療+PCV療法と、放射線治療+TMZを比較するCODEL試験が現在行われている17)。3)グレード2神経膠腫High riskのグレード2神経膠腫に対しては、放射線治療+PCV療法の併用療法が放射線治療単独に比べてOSを延長することが示された18)。同じくhigh riskのグレード2神経膠腫に対するTMZ単独療法と放射線治療の第III相試験では、両群に差を認めなかった19)。■ 腫瘍治療電場療法(オプチューン)脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療法で、交流電場腫瘍治療システム(オプチューン)を用いる。頭皮に電極パッド(transducer arrays)を貼り、中間周波の交流電場(Tumor Treating Fields)を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する。初発テント上膠芽腫に対して、手術とTMZ併用放射線治療後、TMZ維持療法時にオプチューンを併用することで有意にPFS・OSが延長することが示され、2018年にわが国でも承認された20)。装着のために髪の毛を頻繁に剃り、約1.2kgの装置を常時持ち運びする必要が生じるため日常生活が制限される可能性がある。装着時間が長いほど治療効果が高まるが、接触性皮膚炎などの皮膚トラブルに注意が必要である。4 今後の展望■ ウイルス療法腫瘍溶解ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルスそのものが腫瘍細胞を殺しながら腫瘍内で増幅していくという新しい治療法である。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対するワクチン効果も誘発する。2021年6月、世界初の脳腫瘍に対するウイルス療法として、テセルパツレブ(デリタクト)が承認されたが、薬剤の供給が間に合わずまだ普及はしていない。■ がん遺伝子パネル、がんゲノム医療2019年6月にがん遺伝子パネル検査としてOncoGuide NCCオンコパネル(シスメックス社)とFoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(中外製薬)が保険収載され、それぞれ114遺伝子、324遺伝子の遺伝子変異などを解析することが可能となった。神経膠腫においてもがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常に応じた分子標的薬治療につなげるがんゲノム医療が進んでいくことが期待される。5 主たる診療科脳神経外科、脳脊髄腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本脳腫瘍学会オフィシャルホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト「オンコロ」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脳腫瘍ネットワーク(Japan Brain Tumor Alliance:JBTA)(患者とその家族および支援者の会)がんの子どもを守る会(患者とその家族および支援者の会)1)Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo).2017;57:9-102.2)Wakabayashi T, et al. J Neurooncol. 2018;138:627-636.3)Sanai N, et al. J Neurosurg. 2011;115:3-8.4)Smith J.S, et al. J Clin Oncol. 2008;26:1338-1345.5)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2004;22:1583-1588.6)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2015;33:4145-4150.7)Stupp R, et al. N Engl J Med. 2005;352:987-996.8)Hegi M.E, et al. N Engl J Med. 2005;352:997-1003.9)Perry J.R, et al. N Engl J Med. 2017;376:1027-1037.10)Chinot O.L, et al. N Engl J Med. 2014;370:709-722.11)Gilbert M.R, et al. N Engl J Med. 2014;370:699-708.12)Friedman H.S, et al. J Clin Oncol. 2009;27:4733-4740.13)Nagane M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:887-895.14)van den Bent M.J, et al. Lancet Oncol. 2021;22:813-823.15)Cairncross J.G, et al. J Clin Oncol. 2014;32:783-790.16)van den Bent M.J, et al. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.17)Jaeckle K.A, et al. Neuro Oncol. 2021;23:457-467.18)Buckner J.C, et al. N Engl J Med. 2016;374:1344-1355.19)Baumert B.G, et al. Lancet Oncol. 2016;17:1521-1532.20)Stupp R, et al. JAMA. 2015;314:2535-2543.公開履歴初回2022年6月16日

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転移の有るホルモン感受性前立腺がんに対するエンザルタミド投与によるOSの改善(ENZAMET)/ASCO2022

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対し、アンドロゲン遮断療法(ADT)とエンザルタミドの併用療法は、ADTと非ステロイド系抗アンドロゲン剤(NSAA)の併用療法に比べ、全生存期間(OS)を有意に改善することが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)においてオーストラリア・Monash大学のDavis Ian氏から報告された。 同試験(ENZAMET)は、オーストラリア・ニュージーランドを中心に実施された国際共同の無作為化第III相試験であり、2019年に中間解析結果として、エンザルタミドのOS改善が報告されていた。今回はその長期追跡結果報告である。・対象:mHSPC症例(1,125例)・試験群:エンザルタミド(160mg/日 連日投与)+ADT (Enza群)・対照群:NSAA+ADT (NSA群)・評価項目:[主要評価項目] OS[副次評価項目] 無増悪生存期間、安全性、QoLなど[探索的評価項目] 腫瘍量別によるOS、転移発生の時期ごとのOS、DTX併用の有無によるOSなど 主な結果は以下のとおり。・観察期間中央値は68ヵ月であった(データカットオフは2022年1月)。・OS中央値はEnza群では未到達、NSA群は73.2ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.58~0.84)、p<0.0001とEnza群で有意に良好であった。5年OS率はEnza群67%、NSA群57%であった。・治療期間中央値はEnza群で57.8ヵ月、NSA群は22.6ヵ月で、NSA群の76%は後治療としてエンザルタミドまたはアビラテロンの投与を受けていた。Enza群では26%がアビラテロンの後治療を受けていた。・主治医判断によるドセタキセル(Dtx)の併用は45%の症例(503例)であり、6サイクルまでの投与が実施された。・事前に規定されたサブグループ解析では、Dtx投与を受けたグループのOS HRは0.82で、受けていないグループでは0.60であった。(p=0.09) また、高腫瘍量グループのOSHRは0.79、低腫瘍量のグループでは0.54であった。(p=0.06)・探索的解析として、Dtx投与の有無を転移の時期(同時性か異時性か)と腫瘍量を考慮したOSのカプランマイヤー曲線を作成した。それによると、同時性転移でかつ高腫瘍量のグループでは、早期からDtx併用の有効性がみられた。 演者は、「エンザルタミド+ADT療法は臨床的に意味のあるOSの改善を示した。これは特にDTXが必要ないと判断された低腫瘍量の症例で最も有用だと考えられる。また、高腫瘍量で同時性転移を有する症例では、DTX併用投与が必要と思われる。」と結んだ。

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進行乳がん治療のパラダイムシフト、HER2低発現患者でT-DXdがPFSを大きく改善(DESTINY-Breast04)/ASCO2022

 HER2低発現で既治療の進行乳がん患者に対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が治験医師選択の化学療法と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。従来HER2陰性に分類されてきた転移を有する乳がん(mBC)患者の約55%がHER2低発現に該当すると報告されている1)。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏が第III相DESTINY-Breast04試験の結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)で発表した。なおDESTINY-Breast04試験の結果は6月5日、New England Journal of Medicine誌に掲載された2)。DESTINY-Breast04試験、全例のOSがT-Dxd群で有意に改善・対象:HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)、1~2ラインの化学療法歴のある切除不能および/または転移を有する乳がん患者(ホルモン受容体陽性[HR+]の場合は内分泌療法抵抗性) 557例 以下の2群に2対1の割合で無作為に割り付け・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれか) 184例・層別化因子:HER2発現状態(IHC 1+ vs.IHC 2+/ISH-)、化学療法歴、ホルモン受容体の状態、CDK4/6阻害薬による治療歴・評価項目:[主要評価項目]HR+患者における盲検化独立中央評価委員会(BICR)による無増悪生存期間(PFS)[主要副次評価項目]全例におけるBICRによるPFS、HR+患者および全例における全生存期間(OS)[その他の評価項目]客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性、HR-患者の探索的解析  DESTINY-Breast04試験の主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点での患者特性は、年齢中央値:T-DXd群58歳vs.TPC群56歳、アジアからの参加:39% vs.36%、IHC 1+:両群で58%、HR+:89% vs.90%、化学療法歴(1ライン):59% vs.54%、CDK4/6阻害薬による治療歴:64% vs.65%だった。・データカットオフ(2022年1月11日)時点での追跡期間中央値は18.4ヵ月。・HR+患者におけるPFS中央値は、T-Dxd群10.1ヵ月vs.TPC群5.4ヵ月、ハザード比[HR]:0.51(95%信頼区間[CI]:0.40~0.64、p<0.0001)でT-Dxd群で有意に改善した。・全例におけるPFS中央値は、9.9ヵ月vs.5.1ヵ月、HR:0.50(95%CI:0.40~0.63、p<0.0001)でT-Dxd群で有意に改善した。・HR+患者におけるOS中央値は、23.9ヵ月vs.17.5ヵ月、HR:0.64(95%CI:0.48~0.86、p=0.0028)でT-Dxd群で有意に改善した。・全例におけるOS中央値は、23.4ヵ月vs.16.8ヵ月、HR:0.64(95%CI:0.49~0.84、p=0.0010)でT-Dxd群で有意に改善した。・探索的評価項目であるHR-患者におけるPFS中央値は8.5ヵ月vs.2.9ヵ月でHR:0.46(95%CI:0.24~0.89)、OS中央値は18.2ヵ月vs.8.3ヵ月でHR:0.48(95%CI:0.24~0.95)だった。・HER2発現状態、CDK4/6阻害薬治療歴の有無を含むすべてのサブグループで、T-Dxdによるベネフィットが観察された。・HR+患者におけるORRはT-Dxd群52.6% vs.TPC群16.3%、DORは10.7ヵ月vs.6.8ヵ月。HR-患者におけるORRは50.0% vs.16.7%、DORは8.6ヵ月vs.4.9ヵ月だった。・Grade3以上のTEAEはT-Dxd群53% vs.TPC群67%で発生した。・治療期間中央値はT-Dxd群8.2ヵ月vs.TPC群3.5ヵ月、治療中止と関連したTEAEで最も一般的だったのはT-Dxd群がILD/肺炎(8.2%)、TPC群が末梢感覚神経障害(2.3%)だった。・T-Dxd群におけるILD/肺炎はGrade1が3.5%、Grade2が6.5%、Grade3が1.3%、Grade5が0.8%だった。 Modi氏は、mBC患者全体の最大約50%がHER2低発現に該当すると考えられるとし、今回のDESTINY-Breast04試験の結果は新たな治療標的となる患者群を明らかにするとともに、T-DXdがその標準治療となることを示したと結論付けている。

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標準治療にアビラテロンの上乗せ効果、転移性ホルモン感受性前立腺がんで有効(解説:宮嶋哲氏)

 転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対する現在の標準治療は、アンドロゲン除去療法(ADT)にドセタキセルや第2世代抗アンドロゲン薬、もしくは放射線治療の併用である。本研究は標準治療にアビラテロンを追加する意義を検討した多施設ランダム化第III相試験(PEACE-1)である。 欧州7ヵ国における77施設において、ECOG PSが0~2でde novo mHSPC患者を対象としている。2013年11月から2018年12月までに1,173例の患者が登録され、標準治療296例、標準治療+放射線治療293例、標準治療+アビラテロン292例、標準治療+アビラテロン+放射線治療291例に割り付けられた。なお本研究の標準治療群にはADT単独投与、またはADT+ドセタキセル併用を含んでいる。 主要評価項目は画像診断によるrPFSとOSである。本試験は2×2要因デザインとなっており、アビラテロンと放射線治療の相互作用が統計学的に認められなかったことから、アビラテロン投与群のデータを集積して、アビラテロン投与群と非投与群に分け検討を行っている。その結果、アビラテロン投与群では非投与群(標準治療群、2.2年)に比してrPFS中央値は有意に延長し(4.46年、HR:0.54、p<0.0001)、アビラテロン投与により46%PFSを低減していた。OS中央値もアビラテロン投与群では非投与群(標準治療群、4.72年)に比して有意に延長し(5.72年、HR:0.82、p=0.030)、アビラテロン投与により18%死亡リスクを低減していた。 標準治療群でドセタキセルの投与によりrPFSもOSともに延長していたが、G3以上の有害事象は63%の患者に認められた。一方で標準治療+ドセタキセル投与群にアビラテロンの上乗せにより、好中球減少、疲労感、発熱性好中球減少症の頻度に変化は認められなかった。 ADT+ドセタキセルまたは放射線治療を含む標準治療群にアビラテロンを上乗せすることで、rPFSとOSの有意な延長を認め、有害事象の増加も認めなかった点は大変意義深い。標準治療にアビラテロンを加えることは、去勢抵抗性を獲得する前段階におけるmHSPCに対する強力な治療選択の1つになると考える。

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進行/転移TN乳がんの1次治療、PD-L1発現によらずDato-DXd+デュルバルマブが奏効(BEGONIA)/ESMO BREAST 2022

 進行/転移トリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療として、トポイソメラーゼI阻害薬を含むTROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)が、PD-L1発現の有無によらず高い奏効率を示し、安全性プロファイルも管理可能であったことがBEGONIA試験で示された。英国・Queen Mary University of LondonのPeter Schmid氏が、欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2022、2022年5月3~5日)で報告した。 BEGONIA試験は、2つのPartで構成された非盲検プラットフォーム試験で、進行/転移TNBCの1次治療として、抗PD-L1抗体のデュルバルマブと他の薬剤との併用を評価している。Part1について、すでにパクリタキセル+デュルバルマブ群での客観的奏効率(ORR)が58.3%、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)+デュルバルマブ群でのORRが66.7%であったことを報告している。今回はDato-DXd+デュルバルマブ群における結果を報告した。・対象:StageIVに対する治療歴のない切除不能な進行/転移TN乳がん・方法:Dato-DXd 6mg/kg+デュルバルマブ1,120mg(3週ごと、静脈内投与)を病勢進行もしくは許容できない毒性発現まで投与・評価項目:[主要評価項目]安全性、忍容性[副次評価項目]ORR(RECIST v1.1)、奏効期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・29例がDato-DXd+デュルバルマブを投与され(24例が投与継続中)で、27例がベースライン後に2回評価を受けた。追跡期間中央値は3.9ヵ月(範囲:2~6ヵ月)。・ORRは74%(20/27例、95%CI:54~89)で、完全奏効は2例(7%)、部分奏効は18例(67%)だった。奏効はPD-L1発現の有無によらず認められた。・奏効までの期間の中央値は1.4ヵ月(95%CI:1.35~1.58)で、奏効例すべてがデータカットオフ時(2021年11月15日)も奏効を維持し、奏効期間中央値未到達である。・用量制限毒性は認められていない。・Dato-DXdの減量が4例(14%、すべて口内炎による)、Dato-DXdの投与延期が1例(3%)、デュルバルマブの投与延期が4例(14%)にみられた。・頻度が高い有害事象は、口内炎(69%)、脱毛症(66%)、悪心(66%)であった。下痢は4例(14%、すべてGrade1)と少なく、間質性肺疾患/肺炎や好中球減少は報告されなかった。 現在、本試験のPart2の Dato-DXd +デュルバルマブ群への登録が進行中であり、奏効期間、PFS、OSの評価のためのフォローアップを継続している。

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食道扁平上皮がんに対する1次治療における新たな抗PD-L1阻害薬sintilimabの有用性(解説:上村直実氏)

 切除不能進行・再発食道扁平上皮がんに対するファーストライン治療は、シスプラチンを中心とした白金製剤と5-FUないしはパクリタキセルの2剤併用化学療法であったが、最近、1次治療から化学療法に免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-L1阻害薬)を加えたレジメンの有用性が次々と報告され、日常診療における治療方針が急激に変化している。すなわち、最近のランダム化比較試験の結果、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、camrelizumab、toripalimabと化学療法の併用群が化学療法単独群と比較して安全性に差を認めない一方、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長することが示されている。今回は、すでに報告されている4剤と同様の試験デザインによって、5番目の抗PD-L1阻害薬であるsintilimabの切除不能食道扁平上皮がんに対する同様の有効性がBMJ誌に報告されている。 わが国の臨床現場でも食道学会ガイドラインに記載されるとともに、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)が保険収載され、切除不能食道がんに対する1次治療における有用性が実際の診療において役に立つ体制が整備されつつあると思われる。ただ一方では、これら高価な抗PD-L1阻害薬によるOSの延長期間は3ないしは4ヵ月間であるが、コストパフォーマンスの観点からこの延命期間がコストに適合したものかどうか議論されていることも事実である。 最後に、筆者のコメントでは必ず述べているが、日本における食道がん診療は欧米と異なる保険診療体制の下「がんの早期発見」による死亡率低下に注力しており、内視鏡検査により小さな早期がんを発見し、内視鏡的切除により根治することが可能となっていることを強調したい。

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