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1 疾患概要2 各タイプ別の病因、診断、治療3 主たる診療科4 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)1 疾患概要■ 概念・定義ビタミンD依存症は、ビタミンDの代謝異常症であり、本症の理解のために、ビタミンD代謝について理解しておく必要がある。ビタミンDは食物から摂取されるほか、ビタミンとしては例外的に、皮膚において紫外線のエネルギーを利用して生合成される1)。ビタミンDには構造の異なるD2(菌類由来)とD3(動物由来)があるが、生物学的にはほぼ同等の活性であり、この2つを合わせて「ビタミンD」と呼ぶ。ビタミンDが生理的作用を発揮するためには、水酸化を受ける必要がある。すなわち、食物として摂取されたビタミンDおよび皮膚で生合成されたビタミンDは、まず肝臓において25位が水酸化されて25(OH)Dとなり、さらに、腎臓において1α位が水酸化されて、1α,25(OH)2Dとなる(図1)1)。1α,25(OH)2Dは最も強い生物活性を有するので「活性型ビタミンD」と呼ぶ。血中25(OH)D濃度は体内のビタミンDの貯蔵量を反映するので、ビタミンD欠乏症の診断に用いられる2)。活性型ビタミンDの血中濃度は、副甲状腺ホルモン(PTH)、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)やリン濃度により厳密にコントロールされている1)。画像を拡大する食物として摂取されたビタミンDおよび皮膚で生合成されたビタミンDは、まず肝臓において25水酸化酵素(CYP2R1あるいはCYP27A1)により25位が水酸化されて25(OH)Dとなり、さらに、腎臓において1α水酸化酵素(CYP27B1)により1α位が水酸化されて、1α,25(OH)2Dとなる。1α,25(OH)2Dは標的細胞に存在するビタミンD受容体(VDR)と結合して、遺伝子の発現を調節する。薬剤代謝酵素CYP3A4の恒常活性化により、1α,25(OH)2Dは不活性な1α,23,25(OH)3Dあるいは4-beta-25(OH)2Dに代謝される。また、24位の水酸化は、ビタミンDに特異的な不活化の経路と考えられている。ビタミンD依存症は、生理量の天然型ビタミンDでは作用が不足する病気で、「ビタミンD不応症」とも呼ばれる。腎臓の1α水酸化障害がみられる場合をビタミンD依存症1型(1A型)、ビタミンD受容体に異常のある場合をビタミンD依存症2型という3)。両疾患とも常染色体劣性遺伝形式を示す。このほか、ビタミンD抵抗性を伴うが、病気の本態は腎臓からのリンの漏出である低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病(低リン血症性くる病)がある。すなわち、ビタミンD依存症とビタミンD抵抗症はともに、代謝や受容機構の異常によりビタミンD作用が発揮されにくい疾患であるが、別疾患であり、本稿では、ビタミンD依存症のみを取り扱う。また、小児の疾患はくる病で、成人期では骨軟化症であり、ビタミンD依存性くる病・骨軟化症と呼ばれることも多いが、本稿ではこの両者をまとめてビタミンD依存症と呼ぶこととする。■ 疫学ビタミンD依存症1・2型ともに非常にまれで、国内では合わせて数十名ほどの報告がある。遺伝子変異の種類としては、2つの遺伝子ともに50種類程度と報告されている4,5)。ともに、指定難病、小児慢性特定疾病となっている。2 各タイプ別の病因、診断、治療病因、診断などはサブタイプに分けて記述する。■ ビタミンD依存症1型(vitamin D-dependent rickets type 1, pseudovitamin D deficiency rickets, OMIM264700)ビタミンD依存症1型は、腎臓における25(OH)D-1α水酸化酵素活性の障害のため、活性型ビタミンDが産生されず、生後早期よりビタミンD欠乏症を呈する。英語では、dependencyという言葉を使用せず、偽性ビタミンD欠乏性くる病などと呼ばれることもある。本酵素はシトクロムP450に属するので、コードする遺伝子はCYP27B1と命名されている。ビタミンDの活性化障害が病態であるので、生理量のビタミンDには抵抗するのに対し(4週間の3,000~4,000単位ビタミンD治療に反応しない)、活性型ビタミンDを用いれば生理量(0.01~0.05μg/kg)で治癒させうる。1961年に最初にPraderらにより報告された、通常、常染色体劣性遺伝形式をとる疾患である。まれな疾患であり、わが国では十数例程度報告されている。しかし、フランス系カナダ人には多い。ヒト-1α水酸化酵素遺伝子構造が明らかにされて、ビタミンD依存症1型の遺伝子診断が可能である3)。活性型ビタミンD合成の鍵酵素であるビタミンD-1α水酸化酵素は、その発現がきわめて低いため、酵素自身の単離精製が困難であった。しかし、1997年、分子生物学的手法を用いて複数のグループにより本酵素のcDNAがクローニングされた。1α水酸化酵素遺伝子(CYP27B1)の発現は、1α,25(OH)2Dおよび線維芽細胞増殖因子23(FGF23)により負の制御を、PTHにより正の制御を受けている。1α位の水酸化が行われる部位は近位尿細管であるが、ビタミンD結合タンパク質(DBP)と複合体を形成した25(OH)Dは、近位尿細管細胞の刷子縁に発現しているメガリンにより近位尿細管細胞内に取り込まれる。取り込まれた25(OH)Dは、ミトコンドリアで1α位あるいは24位が水酸化される。この結果、産生された1α,25(OH)2Dおよび24,25(OH)2は、血中に放出される。症状としては、O脚などの下肢変形のほか、筋力低下が著しく処女歩行が遅れ、身長、体重の増加不良がみられる。臨床検査では低カルシウム血症、低リン血症、高ALP(alkaline phosphatase)血症、血中PTH高値が認められる。血中25(OH)Dは通常では正常で、血中1α,25(OH)2D値は低値をとる。治療としては、病初期にはビタミンD欠乏症の治療に準ずるが、活性型ビタミンDの維持療法が必要である。たとえば、アルファカルシドール(商品名:アルファロール、ワンアルファほか)0.01~0.05μg/kg・分1とする。■ ビタミンD依存症1B型(vitamin D hydroxylation-deficient rickets type 1B, pseudovitamin D deficiency rickets due to 25-hydroxylase deficiency, OMIM600081)25水酸化酵素(CYP2R1)の異常により、ビタミンDに不応性を示す疾患で、現在までに10家系に満たない症例しか報告されていない、とてもまれな疾患である6)。非常に低い血清25(OH)D値を呈し、重症のビタミンD欠乏症との鑑別が困難である。なお、CYP27A1も25位の水酸化を行う酵素として報告されているが、疾患との関係は不明である。■ ビタミンD依存症2型(vitamin D-dependent rickets type 2, hereditary vitamin D-resistant rickets, OMIM277440)VDR遺伝子に異常があり、活性型ビタミンDの作用が発揮されない病気をビタミンD依存症2型と呼ぶ。ビタミンD受容体異常が本疾患の本態であるので、まずビタミンD受容体(VDR)に関して解説する。VDRはステロイドホルモン受容体スーパーファミリーに属する核タンパクの一種である。アミノ基末端側にDNA結合領域が、カルボキシル基末端側にホルモン結合領域が存在する。DNA結合領域は、8個のシステインが2個の亜鉛結合指(zinc finger)を形成し、標的遺伝子のプロモーター領域に存在するビタミンD応答配列(vitamin D response element:VDRE)に結合する。ホルモン結合領域は、疎水性の高い“ポケット”を形成し、リガンドである1α,25(OH)2Dと結合する。さらに、ホルモン結合ドメインは二量体形成にも関与している。活性型ビタミンDが結合したVDRは、retinoid X受容体(RXR)と異種二量体を形成し、標的遺伝子のプロモーター上にあるVDREを認識して直接結合する。VDREにリガンド結合型VDRが結合すると、種々のコアクチベーター複合体がリクルートされ、転写が活性化される。VDRに異常があるので、生理量の活性型ビタミンD治療に抵抗する、くる病あるいは骨軟化症がみられる(図2)。また、無治療の場合、低カルシウム血症が重度となり、テタニーや痙攣を呈することが多い。半数程度に禿頭を伴う。生化学的に、低カルシウム血症と二次性副甲状腺機能亢進症を認めるにもかかわらず、通常血中1α,25(OH)2D濃度は上昇しており、受容体異常によるホルモン抵抗症の像を呈する。ビタミンD欠乏性くる病でも血中1α,25(OH)2D濃度が上昇することがあり、また、症状の軽快に比較的大量の活性型ビタミンD投与が必要な場合があるので、鑑別診断は慎重に行う必要がある。画像を拡大するビタミンD依存症2型患者のVDRの分子学的異常は、1988年にHughesらにより初めて2家系が報告されて以来、現在のところ50種類程度が明らかにされている5)。DNA結合ドメインのpoint mutationが最も多い。VDRに異常がなく、同様な病態を示す場合をビタミンD依存症2Bとして区別する場合があるが、その本態は不明であり、本稿では割愛する。治療はビタミンDの大量療法が基本であるが、その量は症例によりさまざまである。持続する低カルシウム血症に対しては、経静脈的あるいは経口的にカルシウムを十分投与する。VDRの機能がまったく喪失していると考えられる場合には、カルシウムの十分な補充が基本となる7)。処方例としては、アルファカルシドール1~5μg/kg・分1~2、乳酸カルシウム3~6g・分3などが挙げられるが、検査データなどを指標に用量の調整が必要である。自然寛解する症例の報告もある。■ ビタミンD依存症3型2018年、薬剤代謝酵素CYP3A4の異常によるくる病が、ビタミンD依存症3型として報告された8)。本変異は、活性型変異と考えられ、本来の代謝酵素の24位水酸化酵素より強力に1α,25(OH)2Dを代謝するために、ビタミンDに不応を示す。新しい疾患単位であり、今後、臨床像がより明らかにされていくものと期待される。■ 鑑別診断ビタミンD欠乏性くる病、ビタミンD抵抗性低リン血症性くる病・骨軟化症、腎性骨異栄養症(CKD-MBD)などがある。3 主たる診療科小児科、産科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。4 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ビタミンD依存性くる病・骨軟化症の診断指針(PDF)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ビタミンD依存性くる病/骨軟化症(医療者、一般利用者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター ビタミンD依存性くる病(医療者、一般利用者向けのまとまった情報)1)Glorieux FH, et al. Bonekey Rep. 2014;3:524.2)日本小児内分泌学会 編集. 小児内分泌学 改訂第2版.診断と治療社;2016.p.480-484.3)Michalus I, et al. Clin Genet.2018. [Epub ahead of print]4)Durmaz E, et al. Clin Endocrinol. 2012;77:363-369.5)Malloy PJ, et al. Mol Genet Metab. 2014;111:33-40.6)Molin A, et al. J Bone Miner Res. 2017;32:1893-1899.7)Tamura M, et al. PLoS One. 2015;10:e0131157.8)Roizen JD, et al. J Clin Invest. 2018.[Epub ahead of print]公開履歴初回2018年05月22日