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食物繊維は何から摂取するのがベスト?

 普段の食事に食物繊維が不足している人は、摂取源が何であろうと食物繊維の摂取量を増やすことで腸への良い影響が期待できることが、米デューク大学のLawrence David氏らの研究で示された。この研究結果は、「Microbiome」7月29日号に発表された。 食物繊維は便通を良くする栄養素として広く知られている。その一方で、食物繊維は腸内細菌叢の構成にも大きな影響を及ぼしている。腸内では細菌が食物繊維を分解する際、大腸の細胞の主な栄養源となる短鎖脂肪酸が産生される。短鎖脂肪酸は、代謝や免疫防御といった重要な機能の調節にも関わっていることが示されている。しかし、数ある食物繊維のサプリメント(以下、サプリ)の中で、腸内細菌に対する作用が他よりも優れているものがあるのかどうかについては明らかになっていなかった。 そこでDavid氏らは今回、現在広く使用されている3種類の粉末タイプの食物繊維サプリが腸内細菌叢に与える影響について調べた。研究に使用したのは、1)イヌリン(チコリの根から抽出される食物繊維)、2)小麦由来のデキストリン(Benefiberの商品名で販売されているサプリ)、3)ガラクトオリゴ糖(Bimunoの商品名で販売されているサプリ)の3種類だった。1日当たりの用量は、イヌリンと小麦デキストリンが9g、ガラクトオリゴ糖が3.6gであった。研究参加者である28人の健康な成人には、これらの3種類のサプリをそれぞれ1週間ずつ摂取してもらった。あるサプリを1週間摂取してから別のサプリの摂取を開始する前には、1週間の間隔が設けられた。 その結果、研究参加者の腸内細菌叢に対する影響に関して、3種類のサプリの中で他の2種類よりも優れていることを示したものはなかった。いずれのサプリも、短鎖脂肪酸の一種である酪酸の産生量を増加させていた。酪酸は、腸壁のバリヤー機能を高めて病原体の侵入を防いだり、炎症抑制に重要な働きを担うとされている。ただし、サプリの種類による結果の違いはなくとも、サプリを摂取する人による違いは認められた。サプリによる酪酸の産生量増加が確認されたのは、普段の食事で食物繊維の豊富な食品をほとんど食べていない研究参加者のみであった。 この結果についてDavid氏は、「普段から食物繊維を多く摂取していた参加者では、どのサプリを摂取しても腸内細菌叢の変化があまり見られなかった。これはおそらく、これらの参加者ではすでに腸内細菌叢の最適なバランスが保たれていたためだろう。これに対して、食物繊維の摂取量が最も少なかった参加者では、摂取したサプリの種類に関わりなく、サプリの摂取による酪酸の産生量の増加が最も大きかった」と述べている。 なお、専門家らは、1日当たり女性で25g、男性で38gの食物繊維の摂取を推奨している。しかし、平均的な米国成人の食物繊維の摂取量はその30%程度であり、ほとんどの米国人で食物繊維の摂取量が不足していることを研究グループは指摘している。 この研究には関与していない専門家の一人で、栄養と食事のアカデミー(米国栄養士会)のスポークスパーソンを務めるNancy Farrell Allen氏は、「食物繊維を摂取するのであれば、サプリよりも食品からの摂取が望ましい」と指摘。その理由として、植物性の食品には食物繊維だけでなく、ビタミンやミネラル、さらに健康に有益なファイトケミカルが含まれていることを挙げている。 この点については研究グループの一員で同大学のJeffrey Letourneau氏も同意見で、「天然の未加工食品には、サプリでは補えない真の有益性がある」としている。しかし、食物繊維の重要性や食物繊維が不足した米国人の食事を考慮すれば、「摂取源にこだわらずに、できる限り多くの食物繊維を摂取することが望ましい」との見解を示している。

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リウマチ性心疾患AF、ビタミンK拮抗薬がリバーロキサバンより有効/NEJM

 リウマチ性心疾患のAF(心房細動)患者において、ビタミンK拮抗薬治療はリバーロキサバン治療よりも、心血管イベントまたは死亡の複合発生率が低く、出血の発生率は両群で有意差はないことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らによる4,565例を対象とした非盲検無作為化試験の結果、示された。リウマチ性心疾患の心房細動患者における心血管イベントの予防について、第Xa因子阻害薬の試験は限られていた。NEJM誌オンライン版2022年8月28日号掲載の報告。リバーロキサバンのビタミンK拮抗薬に対する非劣性を検証 研究グループは、心エコーでリウマチ性心疾患が確認された心房細動で、CHA2DS2VAScスコアが2以上(スコア範囲0~9、高スコアほど脳卒中リスクが高い)、僧帽弁口面積2cm2以下、左心房もやもやエコー、左房血栓のいずれかが認められた患者を登録し試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはリバーロキサバン標準量を、もう一方には用量調節にてビタミンK拮抗薬を投与した。 有効性に関する主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血管疾患(心臓性、非心臓性)または原因不明による死亡の複合だった。安全性に関する主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血。 研究グループは、リバーロキサバンがビタミンK拮抗薬に対し、非劣性であると仮説を立て検証した。死亡率もリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率 被験者は4,565例で、うち4,531例(リバーロキサバン群2,275例、ビタミンK拮抗薬群2,256例)を対象に最終解析を行った。被験者の平均年齢は50.5歳、72.3%が女性だった。 試験薬を完全に中止した割合は、すべての評価時点でリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率だった。 ITT解析では、主要複合アウトカムの発生は、リバーロキサバン群2,275例中560例、ビタミンK拮抗薬群2,256例中446例で認められた(比例ハザード比:1.25、95%信頼区間[CI]:1.10~1.41)。生存曲線は非比例であったため、境界内平均生存期間(RMST)分析を行った。主要複合アウトカムのRMSTは、ビタミンK拮抗薬群が1,675日に対し、リバーロキサバン群は1,599日で有意差が認められた(群間差:-76日、95%CI:-121~-31、p<0.001)。 死亡率は、リバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高かった(RMST:リバーロキサバン群1,608日vs.ビタミンK拮抗薬群1,680日、群間差:-72日、95%CI:-117~-28)。 大出血発生率は、両群で有意差は認められなかった。リバーロキサバン群40例、ビタミンK拮抗薬群56例で発生が認められ(比例ハザード比:0.76、95%CI:0.51~1.15)、RMSTはそれぞれ1,965日、1,954日だった(群間差:11、95%CI:-5~28、p=0.18)。

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骨を強くする効果が見込めるチーズとは?

 ヤールスバーグチーズのスライスを毎日2枚ほど食べるだけで、骨粗鬆症を予防できる可能性のあることが、ノルウェーの小規模研究で示唆された。研究を実施したスケッテン医療センター(ノルウェー)のHelge Einar Lundberg氏らは、「こうした骨に対するチーズの効果はヤールスバーグチーズのみで得られ、1日当たり57gの摂取で骨の健康を守るには十分と思われる」と報告した。この研究結果は、「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に8月2日発表された。 ヤールスバーグチーズとは、ノルウェー東部のヤールスバーグ産の牛乳から作られた、マイルドなセミソフトチーズのこと。Lundberg氏によると、ヤールスバーグチーズとカマンベールチーズは含有する脂肪分やタンパク質が似ているが、ヤールスバーグチーズは、メナキノン(MK)とも呼ばれるビタミンK2を豊富に含む点がカマンベールチーズとは異なる。中でも、ヤールスバーグチーズに含まれる特定の細菌種が産生する長鎖MK-9とMK-9(4H)が豊富だという。MK-9(4H)を産生する細菌は、1, 4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)と呼ばれる物質も産生する。DHNAは複数の研究で、骨がもろくなるのを防ぐとともに、骨形成における中心的な役割を担うタンパク質(オステオカルシン)の増加をもたらすことが示されている。 Lundberg氏らは今回の研究で、66人の健康な若年女性を、6週間にわたって毎日ヤールスバーグチーズを57g食べる群(ヤールスバーグ群)と、25〜50gのカマンベールチーズを食べる群(カマンベール群)のいずれかに2対3の割合でランダムに割り付けた。その後さらに6週間、それぞれの群で食べるチーズの種類を入れ替えて実験を行った。対象者から6週間ごとに血液検体を採取し、オステオカルシンや骨代謝に関わるペプチド(I型プロコラーゲン-N-プロペプチド;PINP)の濃度の他、ビタミンK2値や血中の脂質値なども測定した。 その結果、6週間後にヤールスバーグ群ではオステオカルシンやPINP、ビタミンK2といった骨代謝マーカーが有意に増加していた。カマンベール群では、PINPの値に変化は見られず、オステオカルシンとビタミンK2については有意に減少していた。しかし、カマンベールチーズからヤールスバーグチーズの摂取へ切り替えた後では、オステオカルシンとビタミンK2の増加が認められた。血中の脂質値は、ヤールスバーグ群とカマンベール群の両群でわずかに上昇したが、カマンベールチーズからヤールスバーグチーズの摂取に切り替えた後には、総コレステロール(TC)値とLDL-コレステロール値が有意に低下した。血糖値(HbA1c)は、6週間後にヤールスバーグ群では3%有意に低下していた。これに対して、カマンベール群では2%上昇していたが、ヤールスバーグチーズの摂取に切り替えた後には有意に低下した。 こうした結果を受けてLundberg氏は、「ヤールスバーグチーズには、骨減少症や代謝疾患に対する予防効果を期待できる可能性がある」との見解を示した上で、「骨粗鬆症の発症リスクがある高齢の男女の大規模集団を対象に長期研究を実施し、さらに検討を進める必要がある」としている。 専門家の一人で米ノースウェル・ヘルスの内分泌科医であるStuart Weinerman氏は、「この研究ではヤールスバーグチーズの摂取が骨粗鬆症の予防や骨の強化、骨折予防につながることは示されておらず、ヤールスバーグチーズが骨の健康に有益であることは証明されていない」と指摘。「骨粗鬆症や骨折予防効果を期待してヤールスバーグチーズを食べるべきではない」としている。 米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスの臨床栄養士であるSamantha Heller氏も、「われわれにはチーズの摂取量を増やす口実は不要だ」と話し、すでに米国人のチーズの摂取量は多いこと、チーズには飽和脂肪酸や塩分が多く含まれ、カロリーも高いことを指摘。「定期的な体重負荷運動やさまざまな健康的な食品の摂取が骨の形成や維持に役立つ」と助言している。

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毎日コーヒーを飲む高血圧患者は血管の機能が良好

 コーヒー摂取習慣のある高血圧患者は、血管の内皮と平滑筋の機能が良好であることを示すデータが報告された。広島大学病院未来医療センターの東幸仁氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に6月29日掲載された。 適量のコーヒー摂取には健康上のさまざまなメリットのあることが報告されているが、高血圧の治療に対する有益性の研究結果は一貫性がない。東氏らはこの点について、血管内皮機能と血管平滑筋機能の面から検討を加えた。 動脈血管の最も内側の層に当たる内膜の内皮細胞は、血管を拡張する一酸化窒素(NO)を産生するなどの役割を担い、中膜の平滑筋は血管のしなやかさに関与している。動脈硬化の初期段階では内皮機能が低下し、続いて平滑筋機能が低下してくる。これらを測定することで、血管が狭くなるなどの形態学的な変化や臓器障害が現れる前に、動脈硬化のリスクを把握でき早期介入が可能となる。 一般に内皮機能は、上腕(二の腕)の血流を一時的に駆血(遮断)し、それを開放した時に血流の刺激を受けた内皮細胞がNOを産生することで起こる血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;FMD)で評価する。測定結果は、ベースライン(駆血前)の血管径を基準に開放後の血管径を比較してパーセントで表す。一方の平滑筋機能は、ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation;NID)で評価し、やはりベースラインからの血管径の変化の割合で結果を表す。いずれも数値が大きい方が、内皮や平滑筋の機能が良好と判定される。 研究の対象は、2016年4月~2021年8月に同大学病院で健診を受けた高血圧患者462人。血管拡張作用のある硝酸薬が処方されている患者、NYHA分類III以上の心不全患者、コーヒー摂取習慣に関する情報のない患者は除外されている。FMDとNID測定値への影響を避けるため、研究参加者には一晩の絶食のほか、検査の12時間前からは、アルコール、カフェイン(コーヒーなど)、抗酸化ビタミン、喫煙を控えてもらった。 研究参加者の主な特徴は、年齢65±13歳、男性59.7%、BMI24.4±3.8で、血圧は130±17/79±12mmHgであり、糖尿病患者が29.2%、心血管疾患既往者が20.6%、喫煙者(現喫煙者と前喫煙者の合計)が54.7%含まれていた。コーヒー摂取習慣のある患者が84.6%で、その平均摂取量は1日2杯だった。コーヒー摂取習慣の有無で比較すると、摂取習慣のある群は、男性の割合、クレアチニン、心血管疾患既往者の割合が低く、LDL-コレステロールと糖尿病の有病率が高いという有意差があり、年齢やBMIなど、その他の指標は有意差がなかった。 FMDは全体の平均が3.2±2.9%、NIDは11.0±5.4%であった。コーヒー摂取習慣の有無別に見ると、FMD(2.6±2.8対3.3±2.9%、P=0.04)、NID(9.6±5.5対11.3±5.4%、P=0.02)ともに、摂取習慣のある群の方が有意に高値だった。 次に、FMDの三分位で3群に分け、第1三分位群(FMD1.6%未満)を内皮機能障害と定義。ロジスティック回帰分析により内皮機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、喫煙、脂質異常症・糖尿病・心血管疾患の既往)を調整後、習慣的なコーヒー摂取群では内皮機能障害該当者が有意に少ないことが分かった〔オッズ比(OR)0.55(95%信頼区間0.32~0.95)〕。 NIDの第1三分位群(NID8.4%未満)を平滑筋機能障害と定義して解析した結果も同様に、習慣的なコーヒー摂取群では平滑筋機能障害該当者が有意に少なかった〔OR0.50(同0.28~0.89)〕。コーヒーの摂取量との用量反応関係を解析した結果、1日に0.5~2.5杯(約100~500mL)の範囲で、内皮・平滑筋機能障害のオッズ比が最も低いことが分かった。 著者らは本研究が単施設での横断研究であること、コーヒー摂取者でも海外からの報告に比べて摂取量が少なく、大量摂取した場合にマイナスの影響が生じる可能性が不明であることなどを限界点として挙げた上で、「適量のコーヒー摂取は高血圧患者の血管内皮機能と平滑筋機能にメリットをもたらす可能性がある」と結論付けている。また、その機序として、カフェインに含まれているポリフェノールであるクロロゲン酸による抗酸化作用、カフェインによる内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性上昇などが考えられるとの考察を加えている。

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耳介の外傷(耳介血腫)の処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第11回

第11回 耳介の外傷(耳介血腫)の処置《解説》今回は、柔道など格闘技の選手によく起こる耳介の外傷「耳介血腫」の処置について解説します。耳介は側頭面より聳立(しょうりつ)しているため、とくに外傷を受けやすい部位です。構造も複雑で、一度変形を生じると再建が困難となるため、適切な初期治療が求められます。耳介軟骨は軟骨膜によって血液が供給されているため、鈍的外力により耳介が外傷を負うと、軟骨膜下の血腫を引き起こすことがあります。血腫の排液に失敗したり、治療をせず放置したりすると、血腫は吸収されずに器質化し、不可逆的な耳介変形を引き起こすので迅速に対処しましょう!処置の前に行う洗浄や局所麻酔については、以前の記事を参考にしてください。耳介ブロックも知っていると便利です。画像を拡大する(1)耳介血腫の処置耳介血腫は、耳介前面の軟骨膜下に血液が溜まった状態です。耳介前面の上半部(舟状窩)に起こりやすいです。単なる穿刺吸引では再発するので、絶対に固定を行ってください!!!急性期であれば、血腫を穿刺吸引後に脱脂綿、ガーゼなどを使用して耳介の凸凹に合わせて枕縫合(漫画参照)を行い、血腫腔(つまり血が溜まるスペース)を残さないようにします。縫合はドレナージが効くように、あえて間隔を空けてナイロン糸で縫合します。ペンローズドレーンも有効です。2~3日経過したものは切開をやや広くして内部を掻爬(そうは)し、血腫とフィブリンを除去した後、同様に固定します。再発性のものや凝固してしまっている血腫については、耳介後面から皮膚軟骨を切開して血腫を排出し、同様に圧迫固定するか形成外科外来に紹介してください。(2)耳介裂傷の処置耳介裂傷のうち、耳介軟骨が露出していない耳輪辺縁のみの軽傷例であれば保存的治療でも治癒しますが、多くは縫合が必要です。血行は良好なので、受傷後24時間以内であれば一次縫合が可能であるとされています。しかし、耳介から完全に、または部分的に剥離してしまった組織片がある場合は、受傷後数時間以内に縫合を行わないと生着率が低下してしまうので、速やかに形成外科等に紹介しましょう。縫合は、漫画にあるように前後の皮膚と耳介軟骨の3層をそれぞれ行います。軟骨は裂けやすいため、しっかり縫合するというよりも正しい位置に戻すというイメージです。参考波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.福田 修、荻野 洋一編著. 耳介の形成外科. 克誠堂出版;2005.市田 正成著. スキル外来手術アトラス. 第3版. 文光堂;2006.岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード. 羊土社;2019.

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日本人男性では米飯が心血管死リスクを下げる?

 日本人男性では、米の摂取量が多い方が心血管疾患による死亡リスクが低いという、有意な関連のあることが報告された。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学の和田恵子氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に5月30日掲載された。なお、女性ではこの関連は認められないとのことだ。 日本人は欧米人より心血管疾患リスクが低いことが古くから知られている。日本人の主食は米であり、その消費量は欧米よりはるかに高い。これまで、米の摂取量と心血管死リスクとの関連を前向きに解析した研究の結果は一致しなかった。和田氏らは岐阜県高山市で行われている「高山スタディ」のデータを用いて、主食としての米の摂取量と心血管死リスクとの関連を、日本でよく食べられる他の主食であるパンや麺と比較しながら検討した。これら3つの主食と関連する食事パターンについても検討した。 高山スタディは同市の住民対象コホート研究であり、1992年9月に35歳以上の住民(入院患者以外)、3万1,552人が参加した。今回の研究では、登録時に食事摂取頻度に関する質問票に回答し、心血管疾患の既往のなかった2万9,079人(男性45.9%)を解析対象とした。 ベースライン時の米摂取量の四分位で性別ごとに4群に分けると、男性は米の摂取量が少ない群で、糖尿病や高血圧の既往者が多く、身体活動量が少なく、飲酒量や食物繊維、塩分の摂取量が多い傾向があった。女性の米摂取量が少ない群は、教育歴が長く、飲酒やコーヒーの摂取量、および食物繊維と塩分の摂取量が多い傾向があった。 また、男性と女性の双方で、米摂取量は大豆製品と海藻の摂取量と正の相関があり、肉と卵の摂取量とは負の相関が見られた。一方、パンの摂取量は果物や乳製品の摂取量と正の相関があり、大豆製品の摂取量とは負の相関があった。麺の摂取量は、いも類、肉類、魚介類、卵の摂取量と正の相関があった。 2008年10月1日までの追跡(平均14.1年)で、1,685人(男性46.2%)の心血管死が発生。米摂取量の第1四分位群(米摂取量が最も少ない下位25%)を基準に、他群の年齢調整後の心血管死リスクを比較すると、第3四分位群はハザード比(HR)0.77(95%信頼区間0.62~0.96)、第4四分位群はHR0.81(同0.66~0.99)であり、米摂取量が多いほど心血管死リスクが低いという有意な関係が認められた(傾向性P=0.004)。 調整因子に、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病・高血圧の既往、婚姻状況、教育歴、コーヒー・塩分摂取量を加えても、この関連は引き続き有意だった(傾向性P=0.013)。さらに、追跡開始から最初の2年以内の心血管死を除外した解析の結果も同様であり〔第4四分位群でHR0.77(同0.60~0.98)、傾向性P=0.012〕、ベースライン時点の健康状態が結果に影響を及ぼしている可能性は低いと考えられた。 一方、パンの摂取量は男性の心血管死リスクと有意な関連がなかった。麺の摂取量は調整因子が年齢のみの場合、摂取量が多いほど心血管死リスクが高いという関連が見られたが(傾向性P=0.034)、前記の全ての因子で調整後は有意性が消失した。 女性に関しては、米、パン、麺のいずれの摂取量も、心血管死リスクとの有意な関連が認められなかった。 以上より著者らは、「米の摂取量が多いことが日本人男性の心血管死リスクの低さと関連している」と結論付けている。この背景として、「米摂取量が、健康的な食品とされる大豆や海藻の摂取量と正相関していることの影響が考えられる」という。ただし、「それらの摂取量を調整後にもなお、心血管死リスクの低さとの有意な関連が維持されており、米に含まれている食物繊維やビタミンB6が男性の心血管リスクに対して保護的に働くのではないか」との考察が加えられている。 なお、女性ではこの関連が有意でないことに関しては、「男性は米摂取量と菓子摂取量が逆相関するのに対して女性では正相関することや、米や炭水化物の高摂取と糖尿病や脂質代謝異常との関連が女性は男性より大きく表れることなどの影響ではないか」と述べられている。

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第124回 ワルファリン解毒酵素が半世紀超を経てついに判明

1936年にデンマークの生化学者Henrik Dam氏が発見したビタミンKは同氏の母国語で凝固を意味するkoagulationにちなんで名付けられ、その由来の通り血液凝固を促します1)。ビタミンKがとる姿はいくつかありますが、血液凝固に携わるのは1つで、ビタミンKヒドロキノン(VKH2)と呼ばれる還元型です。VKH2へのビタミンKの還元には世界で最もよく使われている抗凝固薬ワルファリンによって阻害されるビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)またはワルファリンに邪魔されない別の還元経路が携わります。ワルファリンに阻害されない(warfarin-resistant)ビタミンK還元酵素は半世紀以上前にその存在が予想されましたが今までわからずじまいでした。ドイツ・ミュンヘンのヘルムホルツ研究所のチームによる新たな研究でVKH2の抗酸化作用がフェロトーシスと呼ばれる細胞死を防ぐ役割を担い、VKH2を維持してそのフェロトーシス阻止作用を支えるビタミンK還元酵素FSP1が同定されました。そしてその還元酵素FSP1こそ半世紀以上前にその存在が予想されたワルファリンに阻害されないビタミンK還元酵素であることが判明しました2,3)。高用量のビタミンKはワルファリン過剰による脳出血などの副作用(ワルファリン中毒)を食い止める解毒作用があります。そのビタミンKのワルファリン中毒解消作用をFSP1が介することもマウス実験で示されています。ワルファリン過剰投与FSP1欠損マウスをビタミンK治療してもプロトロンビン時間は非常に長いままであり、ほぼ全頭が主に脳出血により死なねばなりませんでした。一方、FSP1遺伝子があるマウスは高用量ビタミンK治療で救われ、FSP1はワルファリン中毒の解毒作用に携わることが裏付けられました。フェロトーシスの新たな抑制因子FSP1を発見した今回の成果はアルツハイマー病や急な臓器損傷などのフェロトーシスと関連するらしい病気の数々の新規治療の開発に役立つでしょう。また、フェロトーシスは原核生物や植物から哺乳類に至る種々の生物に備わり、どうやら最古の細胞死の一つらしく、ゆえにそのフェロトーシス阻止を担うビタミンKは自然界で最初に誕生した抗酸化成分の一つかもしれません3)。 参考1)Long-sought mediator of vitamin K recycling discovered / Nature2)Mishima E, et al. Nature. 2022 Aug 3. [Epub ahead of print]3)Vitamin K prevents cell death: a new function for a long-known molecule / Eurekalert

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ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM

 ビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症を有していない概して健康な中高年以上の集団では、ビタミンD3を摂取してもプラセボと比較し骨折リスクは有意に低下しないことが、米国・ハーバード・メディカル・スクールのMeryl S. LeBoff氏らが行った「VITAL試験」の補助的研究で示された。ビタミンDサプリメントは、一般集団において骨の健康のために広く推奨されている。しかし、骨折予防に関するデータは一貫していなかった。NEJM誌2022年7月28日号掲載の報告。米国人男性50歳以上、女性55歳以上の計2万5,871例で骨折発生をプラセボと比較 VITAL試験は米国の50歳以上の男性と55歳以上の女性を対象に、ビタミンD3(2,000 IU/日)、n-3系脂肪酸(1g/日)、またはその両方の摂取により、がんや心血管疾患を予防できるどうかをプラセボと比較した2×2要因デザインの無作為化比較試験である。選択基準にビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症は含まれていない。 年1回、質問票によりレジメンの遵守、副作用、他のサプリメント(例:カルシウム、ビタミンD)や薬剤の使用、大きな病気、骨粗鬆症または関連する危険因子、身体活動、転倒、および骨折について調査し、骨折を報告した参加者にはさらに詳細な質問票を送付して調査するとともに、骨折の治療を行った施設から医療記録(股関節または大腿骨骨折の場合は放射線画像を含む)を入手し、中央判定を行った。 主要評価項目は全骨折、非椎体骨折、股関節骨折の初回発生で、intention-to-treat集団を解析対象として比例ハザードモデルを用いて治療効果を推定した。 計2万5,871例(女性50.6%、黒人20.2%)がビタミンD3+n-3系脂肪酸、ビタミンD3+プラセボ、n-3系脂肪酸+プラセボ、プラセボ+プラセボの4群に無作為に割り付けられた。全骨折、非椎体骨折および股関節骨折、いずれもプラセボ群と有意差なし 追跡期間中央値5.3年において、1,551例に1,991件の骨折が確認された。 初発全骨折は、ビタミンD群(ビタミンD3+n-3系脂肪酸群およびビタミンD3+プラセボ群)で1万2,927例中769例、プラセボ群(n-3系脂肪酸+プラセボ群およびプラセボ+プラセボ群)で1万2,944例中782例に認められた(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.89~1.08、p=0.70)。同様に非脊椎骨折はそれぞれ721例および744例(0.97、0.87~1.07、p=0.50)、股関節骨折は57例および56例(1.01、0.70~1.47、p=0.96)に認められ、いずれもビタミンD群とプラセボ群で有意差はなかった。 年齢、性別、人種/民族、BMI、血清25-ヒドロキシビタミンD値などベースラインの患者背景は、この結果に影響しなかった。 また有害事象は親試験で評価されたとおり、両群間で差はなかった。 なお、著者は研究の結果は限定的なものであり、骨粗鬆症または骨軟化症患者、高齢の施設入所者には一般化されない可能性があるとしている。

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「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?【Dr.山中の攻める!問診3step】第16回

第16回 「味覚が変です」今、こんな患者に遭遇したらどうする?―Key Point―食事は人生最大の楽しみの一つである。味覚障害があると食欲が低下する複雑な風味を味わうには味覚と嗅覚が正常でなければならない味覚は年齢、食事、喫煙、薬剤によって影響を受ける症例:83歳 男性主訴)味覚障害現病歴)3ヵ月前から倦怠感と手足のしびれを自覚している。2ヵ月前から徐々に食べ物の味がわかりにくくなり、食欲が低下してきた。最近2週間は体動時の息切れを感じている。既往歴)10年前に胃がんのため胃全摘術、高血圧症内服薬)アムロジピン身体所見)意識清明、体温 36.8℃、血圧 132/68mmHg、脈拍 96回/分、呼吸回数 18回/分、SpO2 95%(室内気)眼瞼結膜:軽度の蒼白あり、舌:発赤あり、舌乳頭萎縮あり胸部:収縮期雑音(Levine 3/6)を心尖部で聴取する、腹部:正中に手術痕あり下肢:両側に軽度の浮腫と末梢優位の感覚障害あり経過)血液検査でWBC 3300/μL、Hb 8.3g/dL、MCV 110fL、血小板 15万/μL、Cr 0.7mg/dL、血糖 102mg/dL、CRP 0.25mg/dLであった10年前の胃全摘術の既往、下肢末梢優位の感覚障害、ハンター舌炎を示唆する舌所見、汎血球減少からビタミンB12欠乏を疑った1)血清ビタミンB12は75pg/mL(基準値:180~914)であったビタミンB12欠乏症による味覚障害と診断し、ビタミンB12の補充を行うと味覚障害は徐々に改善した◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!COVID-19感染症の流行初期には、味覚障害と嗅覚障害がよくみられた味覚障害の多くは嗅覚障害が原因である薬剤は味覚障害を起こすことが多い【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】味覚のメカニズムを理解する2)舌表面には約8,000個の味蕾(みらい)と呼ばれる味覚受容器官があり、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を感じる甘味は舌の先端、塩味は舌前方の側面、酸味は舌後方の側面、苦味は舌後方で感じる嚥下時に後鼻腔にある嗅覚レセプターが刺激され、味覚と一緒に複雑な風味を感じる症状を訴える多くの患者は味覚ではなく嗅覚が障害されている<参考文献・資料>1)Stabler SP, et al. N Engl J Med. 2013;368:149-160.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022. p232-238.3)UpToDate:Taste and olfactory disorders in adults: anatomy and etiology

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原因不明の小児急性肝炎、英国44例の臨床像/NEJM

 2022年1月~3月に、英国・スコットランドの中部地域で小児の原因不明の急性肝炎が10例報告され、世界保健機関(WHO)は4月15日、Disease Outbreak Newsでこれに言及した。WHOはさらに、4月5日~5月26日までに33ヵ国で診断された同疾患の可能性例が少なくとも650例存在するとし、このうち222例(34.2%)は英国の症例であった。同国・Birmingham Women’s and Children’s NHS Foundation TrustのChayarani Kelgeri氏らは、今回、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎44例の臨床像、疾患の経過、初期のアウトカムについて報告した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年7月13日号に掲載された。3つのカテゴリーの臨床アウトカムを評価 研究グループは、2022年1月1日~4月11日の期間に、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎の小児について後ろ向きに検討を行った。 対象は、年齢10歳以下で、英国健康安全保障庁(UKHSA)による確定例の定義(2022年1月1日以降に10歳以下の小児で発症し、A~E型肝炎ウイルスや代謝性・遺伝性・先天性・機械的な原因に起因しない肝炎で、血清アミノトランスフェラーゼ値>500 IU/L)を満たした急性肝炎の患児であった。 これらの患児の医療記録が精査され、人口統計学的特性や臨床的特徴のほか、肝生化学検査、血清検査、肝臓指向性およびその他のウイルスの分子検査の結果と共に、画像上のアウトカムと臨床アウトカムが記録された。 治療は、同施設の急性肝不全プロトコールに準拠して実施され、広域スペクトル抗菌薬、抗真菌薬、プロトンポンプ阻害薬、ビタミンKの投与などが行われた。 臨床アウトカムは、(1)病態の改善(ビリルビン値およびアミノトランスフェラーゼ値の持続的な低下と、血液凝固能の正常化)、(2)肝移植、(3)死亡の3つのカテゴリーについて評価が行われた。90%でヒトアデノウイルスを検出、14%で肝移植、死亡例はない 急性肝炎で紹介された50例のうち、44例(年齢中央値4歳[範囲:1~7]、女児24例[55%])が確定例の定義を満たす肝炎を有していた。このうち13例が同施設に転院し、残りの患児は地元の施設で治療を受けた。2022年1月~4月の同施設への原因不明の急性肝炎による入院数および原因不明の急性肝不全による肝移植数は、いずれも2012~21年における年間症例数よりも多かった。 医療記録が入手できた患児(80%)は全例が白人であった。受診の主な理由は黄疸(93%[41/44例])が最も多く、次いで嘔吐(54%[24例])、下痢(32%[14例])、白色便(30%[13例])、腹痛(27%[12例])、嗜眠(23%[10例])の順だった。 ヒトアデノウイルスの分子検査を受けた30例では、27例(90%)が陽性であった。サイトメガロウイルス(CMV)は全例が陰性で、エプスタイン-バーウイルス(EBV)のカプシド抗原は2例が陽性で、核抗原は1例が陽性だった。 腹部超音波検査では、胆嚢壁肥厚が45%(20例)、軽度肝腫大が27%(12例)、軽度脾腫が18%(8例)で認められた。 38例(86%)は自然回復した。残りの6例(14%)は肝機能が持続的に悪化して急性肝不全に進展し、全例が肝移植を受けた。この6例中5例は急速に進行性の脳症を来し、黄疸発生から脳症発現までの間隔は6~7日だった。死亡例はなかった。肝移植を受けた6例を含む全例が自宅退院した。 UKHSAは、血液と肝組織のメタゲノム解析を行い、アデノ随伴ウイルス2やヘルペスウイルスを検出した。これらの所見の重要性については、現在、さらなる評価が進められている。 著者は、「多くの患児でヒトアデノウイルスが分離されたが、この疾患の病因におけるその役割は確立されていない」としている。

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妊娠中のビタミンD補充、児のアトピー性皮膚炎を予防?

 母体へのビタミンD補充が、出生児の4歳時までのアトピー性湿疹リスクを減少させたことが、英国・サウサンプトン大学のSarah El-Heis氏らによる無作為化試験「UK Maternal Vitamin D Osteoporosis Study(MAVIDOS)」で示された。これまで、母体へのビタミンD補充と出生児のアトピー性湿疹リスクとを関連付けるエビデンスは一貫しておらず、大半が観察試験のデータに基づくものであった。著者は、「今回のデータは、乳児のアトピー性湿疹リスクに対する胎児期のビタミンD(コレカルシフェロール)補充の保護効果に関する無作為化試験初のエビデンスであり、保護効果が母乳中のコレカルシフェロール値上昇による可能性を示唆するものであった」と述べ、「所見は、アトピー性湿疹への発育上の影響と、アトピー性湿疹への周産期の影響は修正可能であることを支持するものである」とまとめている。British Journal of Dermatology誌オンライン版2022年6月28日号掲載の報告。 研究グループは、二重盲検無作為化プラセボ対照試験「MAVIDOS」の被験者データを用いて、妊娠中の母体へのコレカルシフェロール補充と、出産児のアトピー性湿疹リスクへの影響を月齢12、24、48ヵ月の時点で調べる検討を行った。 MAVIDOSでは、妊産婦は、コレカルシフェロールを投与する群(1,000 IU/日、介入群)または適合プラセボを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付けられ、おおよそ妊娠14週から出産まで服用した。主要アウトカムは、新生児の全身の骨ミネラル含有量であった。 主な結果は以下のとおり。・出生児のアトピー性湿疹(UK Working Party Criteria for the Definition of Atopic Dermatitisに基づく)の有病率の確認は、月齢12ヵ月で635例、同24ヵ月で610例、同48ヵ月で449例を対象に行われた。・母体および出生児の特性は、介入群のほうで授乳期間が長期であったことを除けば、両群で類似していた。・母乳育児期間を調整後、介入群の出生児のアトピー性湿疹のオッズ比(OR)は、月齢12ヵ月時点では有意に低かった(OR:0.55、95%信頼区間[CI]:0.32~0.97、p=0.04)。・介入の影響は徐々に減弱し、月齢24ヵ月時(OR:0.76、95%CI:0.47~1.23)、月齢48ヵ月時(0.75、0.37~1.52)は統計学的な有意差は認められなかった。・月齢12ヵ月時の湿疹に関連した介入と母乳育児期間の統計学的相互作用について、有意性はみられなかった(p=0.41)。・ただし、介入群の乳児湿疹リスクの低下は、母乳育児期間が1ヵ月以上の乳児では有意差が認められたが(OR:0.48、95%CI:0.24~0.94、p=0.03)、1ヵ月未満の乳児では有意差は認められなかった(0.80、0.29~2.17、p=0.66)。

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青年期の抑うつ症状とビタミンDレベルとの関係

 クウェートは、ビタミンD欠乏症の有病率が高い国の1つである。また、ビタミンD不足はうつ病のリスク因子であるといわれている。クウェート大学のReem Al-Sabah氏らは、同国の青年期における25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)と抑うつ症状との関連を調査した。その結果、ビタミンDの状態は、青年期の抑うつ症状と関連していないことを報告した。しかし著者らは、他の健康へのベネフィットを考慮し、青年期に十分なビタミンDレベルを維持することは重要であるとしている。Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health誌2022年6月27日号の報告。ビタミンD不足と抑うつ症状との間に有意な関連は認められず クウェートの中学校でランダムに選択された青年704人を対象に、学校ベースの横断的研究を実施した。抑うつ症状に関するデータは、小児抑うつ尺度(CDI)を用いて収集した。共変量に関するデータは、対象の青年より対面式インタビューで、その両親より自己記入式アンケートを用いて収集した。血液サンプルの分析は、認定された研究所で実施した。25[OH]Dの測定には、液体クロマトグラフィータンデム質量分析を用いた。 ビタミンD不足はうつ病のリスク因子であるかを研究した主な結果は以下のとおり。・抑うつ症状(CDIスコア19以上)が認められた青年は、94人(13.35%、95%CI:10.35~17.06)であった。・ビタミンDの状態の違いによるCDIスコア(中央値)に、有意差は認められなかった(p=0.366)。・血清25[OH]D濃度とCDIスコアとの間に有意な関連は認められなかった(Spearman's rank correlation=0.01、p=0.825)。・さまざまな分析でも、25[OH]Dと抑うつ症状との間に有意な関連は認められなかった。●25[OH]Dを連続変数として適応(粗オッズ比:0.99、95%CI:0.98~1.01、p=0.458)(調整オッズ比:1.01、95%CI:0.99~1.02、p=0.233)●許容可能なカットオフ値によるカテゴリ変数(粗分析:p=0.376、調整済み分析:p=0.736)●四分位数によるカテゴリ変数(粗分析:p=0.760、調整済み分析:p=0.549)

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サプリメントのCVDやがん予防効果に関するエビデンスは不十分

 心血管疾患(CVD)やがんの予防効果を期待してビタミンなどのサプリメント(以下、サプリ)を摂取している人は多い。こうした中、米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、ビタミンやミネラル、マルチビタミンなどのサプリの効果についてシステマティックレビューを実施し、CVDやがんの予防効果を裏付けるエビデンスは不十分であるとの結論に至ったことを発表した。CVDやがんの予防を目的としたサプリの摂取に関する今回の勧告は、2014年に発表された勧告の改訂版で、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に6月21日掲載された。 今回のUSPSTFの勧告は、妊婦を除いた健康な成人におけるマルチビタミンや1種類または2種類のサプリの摂取とCVDやがんの発症リスクの関係に関する84件の研究のシステマティックレビューに基づき策定された。その要点は、以下の通りである。 マルチビタミンを毎日摂取することで、がんのリスクがわずかに低下する可能性を示した研究はいくつかあるが、大局的に見ると、サプリがCVDやがんの予防に役立つと言うにはエビデンスが不十分である。これに対して、βカロテンとビタミンEのサプリについては、CVDやがんの予防に役立たないことを示すエビデンスが十分にあった。また、βカロテンに関しては、喫煙者やアスベストへの職業性曝露がある肺がんのハイリスク者において肺がんの発症リスクを高める可能性のあることを示す十分なエビデンスがあった。βカロテンはさらに、CVDによる死亡リスクを高める可能性も示された。 USPSTFの副委員長で米マサチューセッツ総合病院のMichael Barry氏は、「これはネガティブなメッセージではない。CVDやがんの予防において、ビタミンやミネラルの摂取は無益であると言っているわけではない」と説明し、慎重な解釈を求めている。その上で、「今後、より長期間にわたって追跡する研究や、異なる人種や民族を対象とした研究を重ねていき、結果にばらつきがあるかどうかを明らかにする必要がある」と付け加えている。 今回の勧告の策定に当たって実施された研究データの分析に関わった、米カイザー・パーマネンテEvidence-Based Practice Centerの副所長であるElizabeth O'Connor氏は、「ほとんどの場合、ビタミンやミネラルの補充によりがんやCVDの発症リスクが低下することはなかった」と説明している。 マルチビタミンのサプリを摂取した人では、プラセボを摂取した人と比べてがんの発症リスクがわずかに低下する(オッズ比0.93)ことを示す研究はあった。ただ、こうした研究には追跡期間が短いなどの限界があった。 また、重要な点として、今回の勧告は、栄養不足の人やその疑いがある人、妊娠中あるいは妊娠の可能性があり葉酸の摂取が必要な人などには当てはまらないことに留意しておく必要がある。 付随論評の執筆者で米ノースウェスタン大学のJenny Jia氏は、「ビタミンやミネラルのサプリは健康な米国人にとっては特効薬とはならない」と指摘。サプリに頼るのではなく、果物や野菜が豊富なバランスの取れた食事や日常的な運動を心がけ、推奨されている検診を受けることが、CVDやがんの予防につながると話す。 一方、マルチビタミンに関しては、Jia氏とは異なる見方を示す専門家もいる。今回の研究には関与していない米ミシガン大学医療センターのMark Moyad氏は、「マルチビタミンはがんの発症リスクを低下させる可能性があり、その程度がわずかであっても小さなこととはいえない」と話している。

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砂糖入りのコーヒーも死亡リスクを下げる可能性

 コーヒーに少量の砂糖を入れて飲む習慣も、健康にとってプラスに働く可能性を示唆する研究結果が報告された。南方医科大学(中国)のChen Mao氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に5月31日掲載された。 これまでの観察研究から、コーヒーを摂取するという習慣が死亡リスクの低さに関連していることが示唆されている。ただし、それらの研究はコーヒーをブラックで飲むか、砂糖を入れて飲むかといった区別をしておらず、砂糖を入れて飲むと健康へのプラスの影響が相殺される可能性も考えられる。そこでMao氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」を用いてこの点を検討した。 ベースラインで心血管疾患やがんのない17万1,616人(平均年齢55.6歳±7.9歳)を対象として、2009年から2018年まで追跡。ブラックコーヒー、砂糖または人工甘味料を添加したコーヒーの摂取量を、自己申告に基づき把握。全死亡、がん死、心血管死のリスクを比較した。中央値7.0年の追跡で3,177人の死亡が記録されていた(がん死1,725人、心血管死628人)。 1日当たりのブラックコーヒーの摂取量が、0~1.5杯、1.5杯超~2.5杯、2.5杯超~3.5杯、3.5杯超~4.5杯、4.5杯超の群に分け、交絡因子を調整後に、コーヒーを飲まない群を基準として全死亡リスクを比較。すると、前記の順にハザード比は0.79、0.84、0.71、0.71、0.77となり、全群とも有意に低リスクであることが示された。砂糖入りコーヒーの場合のハザード比は同順に、0.91、0.69、0.72、0.79、1.05であり、1.5杯超~2.5杯と2.5杯超~3.5杯の群は有意なリスク低下が観察され、その他の群は非有意だった。がん死や心血管死についても、全死亡とほぼ同様の関連が認められた。人工甘味料入りのコーヒーについては、死亡リスクとの関連に一貫性がなかった。 ジャーナルの副編集長であるChristina Wee氏は、本論文に対する付随論評の中で、「少量の砂糖をコーヒーに加え、甘くして飲んだとしても潜在的に有益であり、少なくとも有害ではないようだ」と述べている。 ただし、キャラメルマキアートのように多量の砂糖を使って良いわけではない。Wee氏や米クリーブランド・クリニックのAnthony DiMarino氏によると、コーヒー1杯に対して小さじ1杯の砂糖までが適量だという。「小さじ1杯の砂糖は16kcal程度であり、追加されるエネルギー量として、それほど多いものではない。それに対してキャラメルマキアートのようなコーヒー飲料では、砂糖と脂肪から数百kcalが追加される」とDiMarino氏は説明する。 DiMarino氏によると、「コーヒーには1,000種類近くの植物性化合物が含まれているが、そのほとんどはまだ研究されていない。しかし、健康に不可欠なビタミンB群、カリウムなどの栄養素や、がんのリスク低減につながる複数の抗炎症物質が含まれている」とのことだ。また、覚醒や記憶、精神機能を改善する作用が示されており、「われわれが物事に気づきやすくなり、間違いを減らすのに役立つのではないか」という。 さらにWee氏は、コーヒーにクロロゲン酸が含まれていることを指摘する。クロロゲン酸は血液の凝固能を抑える作用があり、血栓による心臓発作や脳卒中のリスクを抑制する可能性があるとのことだ。これらに加えて米マウントサイナイ・モーニングサイドのAlan Rozanski氏は、「コーヒーは腸の健康を改善したり、過剰な脂肪蓄積を抑制して、肝臓を保護するといった経路を介しても、死亡リスクを下げるのではないか」と話す。 一方、Wee氏は「コーヒーに含まれるカフェインについて懸念する医師は少なくない」と述べる。カフェインは心拍数を上げたり、代謝を変化させる可能性がある。この点について同氏は、「常識的な摂取量であれば害はないと考えられる。とは言え、コーヒー嫌いな人が、今回の報告を根拠としてコーヒーを飲み始めるべきかどうかについては、何とも言えない」と語っている。

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活性型ビタミンD3は耐糖能異常患者の2型糖尿病発症を予防しない(解説:住谷哲氏)

 後ろ向きの観察研究で有効性が示唆されたが、前向きのランダム化比較試験で有効性が否定されることは少なくない。ビタミンD3物語もその1つだろう。がん、心血管病、認知症などの発症を予防できるのではないかと期待されたが、残念ながら現時点でビタミンD3がこれらの疾患の発症を予防するエビデンスは存在しない。今回、新たにその物語に追加されたのが2型糖尿病発症予防効果である。 わが国で多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施することはかなりの困難があると思われる。2型糖尿病発症予防における活性型ビタミンD3エルデカルシトールの有効性を検証した本試験は、結果は否定的であったが、その点で貴重な報告と思われる。 ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果を検証した試験としては、既にD2d試験の結果が報告されている1)。天然型ビタミンD3を用いたこの試験においても、ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果は認められなかった。この研究におけるサブグループ解析では、ビタミンD3欠乏症のグループ(血清ビタミンD3<12ng/mL)では、2型糖尿病発症のハザード比[HR]は0.38(95%信頼区間[CI]:0.18~0.80)であり有効である可能性が示唆されていた。したがって次のステップとしては、ビタミンD3欠乏症を有する耐糖能異常患者を対象としたRCTを実施したほうがよかったかもしれない。しかし本試験とD2d試験はほぼ同時進行で実施されており、本試験で患者の組み込み基準に血清ビタミンD3が入っていないのは無理からぬことと思われる。しかし本試験で、多変量分数多項式Cox回帰分析を用いた事後解析で有効性が示唆されたのは、組み込み時の血清ビタミンD3低値ではなく、基礎インスリン分泌量低値であった。したがってこの結果が正しいとすると、インスリン分泌能の低下した耐糖能異常患者においてはビタミンD3が2型糖尿病発症予防効果を有する可能性もある。しかし、これもそのような患者を対象としたRCTの結果が出るまでは仮説にとどままるだろう。 本試験においてもエルデカルシトールの投与により腰椎と大腿骨頸部の骨密度および血清オステオカルシン濃度が有意に上昇した。現時点ではビタミンD3には骨密度増加作用のみを期待するのが妥当と思われる。

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第119回 英国のサル痘の症状は先立つ流行と異なる/ウイルス感染者の匂いが蚊を呼ぶ

英国のサル痘といえば西アフリカ帰りの人発端に限られていましたが今やそうではないサル痘が同国や他の幾つかの国の性保健(sexual health)診察で確認されることが急に増えています。今年2022年5月14日から25日の12日間に英国ロンドンで性保健診察されてサル痘が判明した患者54人の症状はこれまでの典型的なサル痘感染とは異なっており1-3)、適切な治療や感染拡大予防のせっかくの機会を診断ミスで逃さないようにするためにもこれまでとは異なりうるという心構えが必要なようです。調べられた54人は全員が男性とセックスする男性(men who have sex with men;MSM)であり、先立つ流行に比べて性器や肛門領域の皮膚に病変が認められることがより多く、発熱や疲労感は逆に少なくて済んでいました。54人の全員に近い94%(51人)が性器や肛門領域に少なくとも1つの皮膚病変を有し、疲労/倦怠感と発熱の発生率はそれぞれ67%(36/54人)と57%(31/54人)でした3)。38℃以上の発熱や疲労を含む英国の目下のサル痘同定の目安4)は見直しが必要だろうと著者は言っています。他の特徴として性感染症(STI)・淋病やクラミジアの併発も多く、4人に1人がそうでした。サル痘は進行過程でヘルペスや梅毒などのよくあるSTIに似通うこともありうるのでそれらと見間違わないように用心する必要があります1)。ペニスや肛門領域の皮膚病変やSTIの併発が多いことから察するに性行為などでの皮膚や粘膜の密着の際にサル痘は伝播するようです。54人の約10人に1人(9%;5/54人)は主に痛みや細菌性蜂窩織炎の治療のために入院を要しました。死亡した患者はいません。サル痘患者が性的にかなり活発なことは本連載の前号で紹介したのと同様に今回の報告でもうかがわれ、性行為に関する質問に答えた52人の9割47人(90%)は発症前の3週間に新たな人との性交渉があり、半数を超える29人はサル痘診断に先立つ12週間に5人を超える性交渉の相手がいました。ジカ/デングウイルス感染は蚊を引き付ける匂いをより作らせるジカ熱やデング熱を引き起こすウイルスは蚊に運ばれてヒトからヒトに移ります。そのためにそれらフラビウイルスは感染者の皮膚の細菌を手入れして蚊がより好む匂いをどうやら放たせるようです5-7)。フラビウイルス感染マウスは甘い香りの揮発性成分アセトフェノン(acetophenone)を非感染マウスに比べておよそ10倍多く放ち、蚊はアセトフェノンで嗅覚が強力に刺激されて引き寄せられると分かりました。デング熱患者がアセトフェノンをより多く放つことも確認されています。アセトフェノンの主な出どころは皮膚の共生細菌であり、フラビウイルスは皮膚の抗菌タンパク質RELMα発現を抑制することでアセトフェノン生成共生細菌を増やし、その結果アセトフェノンが多くなります。RELMαの合成はビタミンA誘導体で増えます。そこでビタミンA誘導体イソトレチノイン(isotretinoin)をマウスに与えたところアセトフェノンが減って蚊に見つかり難くなって感染の伝播を減らすことができました。イソトレチノインでヒトのアセトフェノン生成も減るかどうかを調べることが今後の課題の一つとなっています5)。London School of Hygiene & Tropical Medicineの研究者James Logan氏によると今回の結果は診断を刷新しうる可能性を秘めています6)。デング熱やジカ熱の診断には結果判明までしばらくかかる血液検査が今のところ必要ですが、それら患者が放つアセトフェノンを嗅ぐ装置を使えば血液検査なしですぐに診断が可能になるかもしれません。Logan氏はマラリアを匂いで同定しうるセンサーを開発する会社を興しており、似た技術がジカ熱やデング熱にも通用しうると言っています6)。参考1)Monkeypox symptoms in patients attending London sexual health clinics differ from previous outbreaks, study of May 2022 UK outbreak suggests / Eurekalert2)Monkeypox symptoms differ from previous outbreaks - UK study / Reuters3)Girometti N, et al. Lancet Infect Dis. 2022 July 01. [Epub ahead of print]4)Monkeypox: case definitions /UK Health Security Agency5)Some viruses make you smell tastier to mosquitoes / Eurekalert6)Zika, dengue viruses make victims smell better to mosquitoes / Science7)Zhang H, et al.Cell. 2022 Jun 28;S0092-8674.00641-9. [Epub ahead of print]

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役目を果たすと体内で溶解するペースメーカーの研究が前進

 必要な期間だけ機能し、不要になれば体内で自然に溶けて消失する“スマート”ペースメーカーの開発に向けて、研究が前進しつつある。研究を率いる米ノースウェスタン大学のJohn Rogers氏らが、溶解型ペースメーカーの開発に向けた最新の研究結果を、「Science」5月26日号に発表した。同氏は、「このペースメーカーは少量の鉄、マグネシウム、シリコンといったビタミン剤にも使われている物質で作られているため、体内で安全に分解される」と説明している。なお、同氏らは2021年に、一時的なペーシングのために現在使われているペースメーカーの代わりとなり得る、ワイヤレスの溶解型ペースメーカーの開発に向けた初期段階の研究成果を報告していた。 電気刺激を送ることで心臓の異常なリズムをコントロールするペースメーカーは通常、恒久的に使用することを前提に体内に植え込まれる。しかし、数日間だけの一時的な心臓のペーシングで事足りるケースもある。昨年、Rogers氏らが発表したペースメーカーは、このような一時的な使用を念頭に開発されたものだ。電極を内蔵する層で構成されたこのペースメーカーは、数週間のうちに体内で分解される素材でできており、薄くて柔軟性がある。ただし、「この時点での焦点は、ペースメーカー自体にあった」と同氏は話す。 Rogers氏らは今回、この溶解型ペースメーカーの新たな構成要素として、4つの柔らかくてしなやかなワイヤレスのセンサーと皮膚の上に装着するコントロールユニットのネットワークを追加。センサーは互いに通信しあって、心臓の電気的活動や体温、酸素飽和度、呼吸数などの生体プロセスをモニタリングする。これらの情報はアルゴリズムにより解析され、心拍の異常を検出した場合には、ペースメーカーをいつどの速度で作動させるかが決められる。また、こうした重要な情報は全て、スマートフォンやタブレットなどに転送されるので、医師が遠隔地から患者の状態をチェックできるという。 Rogers氏によると、従来の恒久的ペースメーカーは、ジェネレーターとリードと呼ばれる電線で構成されている。ジェネレーターは胸の皮下に植え込まれ、ジェネレーターに接続されたリードの先端を心臓に接触させる。一時的な心臓のペーシングのみが必要な患者には、体外式のジェネレーターが使われるが、その場合でも、ジェネレーターに接続したリードを心臓の表面に留置する必要がある。このシステムについてRogers氏は、「良く機能するが、リードが正しい位置からずれてしまったり、感染の原因となったりするなどのリスクがある。また、患者は病院の設備から離れられなくなる」と指摘。「ワイヤレスのシステムであれば、患者は動き回ることができ、自宅で回復を待つことも可能になるかもしれない」と話す。 ただし、実用化には数多くの課題が残されている。これまで、動物やヒトの心臓組織を用いた研究は実施されたが、この溶解型ペースメーカーを実際の患者に使った研究はまだ実施されていない。 この報告を受けて、米ワイルコーネル医科大学の循環器医であるJim Cheung氏は、「非常に興味深く、創造的な研究だ」とコメントしている。なお同氏によると、一時的ペーシングが必要となる患者は少数で、その典型例としては心臓の手術を受けた後、短期間だけ心拍が遅くなった患者が考えられるという。また、恒久的ペースメーカーを植え込んだ後に感染が理由で抜去が必要になった患者も、一時的ペーシングの対象となり得る。その場合は、感染が治癒して新たな恒久的ペースメーカーを留置するまでの“橋渡し”として一時的ペーシングが行われるのだという。

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ICUでのビタミンC投与は敗血症に有効か/NEJM

 敗血症では、ビタミンC投与による抗酸化作用が酸化ストレスによる組織障害を軽減すると考えられているが、集中治療室(ICU)で昇圧薬治療を受けている敗血症の成人患者への、ビタミンC静脈内投与を評価した先行研究の結果は、相反するものだという。カナダ・シャーブルック大学のFrancois Lamontagne氏らは今回「LOVIT試験」において、ICUでの敗血症患者へのビタミンC投与はプラセボと比較して、28日の時点での死亡または持続的な臓器障害のリスクが有意に高いという、予想外の結果を確認した。研究の詳細は、NEJM誌2022年6月23日号で報告された。3ヵ国35のICUで、プラセボ対照無作為化第III相試験 LOVIT試験は、ICUで昇圧薬治療を受けている敗血症の成人患者への高用量ビタミンC投与の有効性の評価を目的とする多施設共同プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2018年11月~2021年7月の期間に、3ヵ国(カナダ、フランス、ニュージーランド)の35ヵ所のICUで参加者の登録が行われた(カナダ・Lotte and John Hecht記念財団の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、ICU入室から24時間以内で、主診断として感染症が証明または疑われ、昇圧薬の投与を受けている患者であった。被験者は、最長96時間にわたり6時間ごとに1回30~60分でビタミンC(50mg/kg)またはプラセボの静脈内投与を受ける群(すなわち200mg/kg/日、最大16回)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、28日の時点における死亡または持続的な臓器障害(昇圧薬、侵襲的人工呼吸器、腎代替療法の使用と定義)の複合とされた。主要アウトカム:44.5% vs.38.5% 863例が主解析の対象となり、ビタミンC群が429例(平均[±SD]年齢65.0±14.0歳、女性35.2%)、プラセボ群は434例(同意前に無作為化され、同意前に死亡した1例を除く433例で、65.2±13.8歳、40.0%)であった。全体の96.7%の患者が、予定された用量の90%以上の投与を受け、入室期間中央値は6日(IQR:3~12)、入院期間中央値は16日(IQR:8~32)だった。ICU入室中に併用された介入や生命維持療法の使用状況や期間は両群で同程度であった。 試験開始から28日の時点での複合アウトカム(死亡または持続的な臓器障害)の発現は、ビタミンC群が429例中191例(44.5%)で認められ、プラセボ群の434例中167例(38.5%)と比較して、リスクが有意に高かった(リスク比:1.21、95%信頼区間[CI]:1.04~1.40、p=0.01)。 複合アウトカムの個々の構成要素については、28日時点の死亡はビタミンC群が429例中152例(35.4%)、プラセボ群は434例中137例(31.6%)で発生し(リスク比:1.17、95%CI:0.98~1.40)、持続的な臓器障害はそれぞれ429例中39例(9.1%)および434例中30例(6.9%)でみられた(リスク比:1.30、95%CI:0.83~2.05)。 また、臓器障害スコア、バイオマーカー(組織低酸素症、炎症、血管内皮細胞傷害)、6ヵ月生存率、健康関連の生活の質(6ヵ月時のEQ-5D-5Lスコア)、ステージ3の急性腎障害、低血糖の発現に関しては、両群でほぼ同様であった。 事前に規定された安全性のアウトカムに、重大な群間差はなかった。有害事象は、ビタミンC群で4件、プラセボ群で1件みられた。ビタミンC群では、重篤なアナフィラキシーと重症低血糖が1例ずつ発現した。 著者は、「これらは予想外の知見であり、7日目までに測定された5つのバイオマーカーの評価を含む2次解析では、有害性について推定されるメカニズムは確認されなかった」としている。

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イソフラボンの摂取量が多い女性は頭痛が少ない―東京医科歯科大学

 イソフラボンの摂取量が多い閉経期以降の女性は、頭痛が少ないことが明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座の寺内公一氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に3月14日掲載された。 イソフラボンは大豆などのマメ科の植物に多く含まれている栄養素であり、抗酸化作用に加えて女性ホルモンであるエストロゲンに似た作用を持つことから、“植物性エストロゲン”と言われることもある。これまでの研究から、女性の健康を保護するように働く可能性が示唆されている。 一方、頭痛は女性に多い症状で、特に閉経期の更年期症状の一つとして現れやすい。頭痛の起こりやすさの一因として食事スタイルの関与を指摘した研究報告があるが、閉経期の頭痛と栄養素摂取量との関連はよく分かっていない。寺内氏らは、同大学病院の更年期外来受診者を対象とする横断研究により、その関連の有無を検討した。 更年期外来で実施されている健康栄養教育プログラムの参加者から、ホルモン補充療法を受けている人、年齢が40歳未満または60歳以上の人、および解析に必要なデータが欠落している人を除外した409人の女性(平均年齢50.1±3.8歳)を解析対象とした。 頭痛の頻度を「月に1回以下」、「週に1~2回」、「週に3~4回」、「ほぼ毎日」の中から四者択一で選択してもらったところ、14.7%が「ほぼ毎日」と回答。この14.7%を「頻繁な頭痛のある群」、前三者を対照群として、生活習慣、閉経状態(閉経前/閉経期/閉経後)、血管運動神経症状(寝汗やホットフラッシュなどの更年期症状)、精神症状、および栄養素の摂取量などを比較した。 その結果、頻繁な頭痛のある群は、血管運動神経症状や不眠症、不安、うつレベルを表すスコアが対照群に比べて有意に高いことが分かった。一方、年齢や閉経状態、BMI、体脂肪率、喫煙・飲酒・運動習慣、基礎代謝量、体温、カフェイン摂取量などは有意差がなかった。 栄養素摂取量については、検討した43種類の栄養素のうち、主要栄養素と大半の微量栄養素は有意差がなく、イソフラボンとビタミンKのみ摂取量に有意差が見られ、いずれも頻繁な頭痛のある群の方が少なかった。それらの摂取量は以下のとおり。イソフラボンは頻繁な頭痛のある群が20.7±15.7mg/1,000kcal/日、対照群が24.8±14.5mg/1,000kcal/日(P=0.009)、ビタミンKは同順に198±149μg/1,000kcal/日、209±101μg/1,000kcal/日(P=0.044)。 多変量ロジスティック回帰分析により、イソフラボンの摂取量は頻繁な頭痛の独立した有意な負の関連因子として抽出された〔1mg/1,000kcal/日多いごとにオッズ比(OR)0.974(95%信頼区間0.950~0.999)、P=0.036〕。ビタミンKは有意な関連因子でなかった。栄養素摂取量以外では、不眠症と血管運動神経症状が頻繁な頭痛とそれぞれ独立して関連しており、不安やうつレベルのスコアは有意でなかった。 次に、閉経前(過去3カ月間に定期的な月経あり)と、閉経期(過去3カ月間に月経がないか不規則)~閉経後(過去12カ月間に月経なし)に層別化して検討。すると、閉経期~閉経後の群では全体解析の結果と同様に、頻繁な頭痛の有無によりイソフラボンの摂取量に有意差が認められた(P=0.011)。しかし閉経前の群では、頻繁な頭痛の有無でイソフラボン摂取量に有意差は認められなかった(P=0.391)。 この結果を基に著者らは、「閉経期以降の女性の頭痛の頻度は、イソフラボンの摂取量と逆相関している。イソフラボンの豊富な食事が中年期以降の頭痛を抑制する可能性がある」と結論付けている。またその機序として、既報研究を基に、「イソフラボンのエストロゲン様作用が更年期の血管運動神経症状や不眠症を抑制することを介して、頭痛を軽減するという経路が想定される」と考察。ただし本研究ではイソフラボンの摂取量と頻繁な頭痛との独立した関連が示されたことから、「イソフラボンの抗酸化作用やエストロゲン様作用が、頭痛抑制に直接寄与するとも考えられる」と付け加えている。

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2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」【下平博士のDIノート】第99回

2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」提供:ユーシービージャパン(2022年4月現在)今回は、ヒト化抗ヒトIL-17A/IL-17Fモノクローナル抗体製剤「ビメキズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、乾癬の症状の原因となる炎症性サイトカインIL-17AとIL-17Fを選択的かつ直接的に阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年1月20日に承認され、同年4月20日から発売されています。なお、次のいずれかを満たす患者に投与されます。光線療法を含む既存の全身療法(生物製剤を除く)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者。難治性の皮疹または膿疱を有する患者。<用法・用量>通常、成人にはビメキズマブ(遺伝子組換え)として、1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射します。なお、患者の状態に応じて16週以降も4週間隔で皮下注射可能です。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、口腔カンジダ症(13.2%)、鼻咽頭炎(5.1%)、毛包炎(1.7%)、上気道感染(1.5%)、中咽頭カンジダ症(1.2%)、咽頭炎・結膜炎(1.1%)などでした。また、重大な副作用として、重篤な感染症、好中球数減少(各0.5%)、炎症性腸疾患(0.1%未満)、重篤な過敏症反応(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の症状の原因となる炎症性物質の働きを抑えることで皮膚の炎症などの症状を改善します。2.薬の使用により感染症にかかりやすくなる場合があるので、発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合には、医師にご連絡ください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.口腔内や舌の痛み、白い苔のようなものが付着する、味覚がおかしく感じるなどの症状が現れた場合には、医師にお申し出ください。5.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選びましょう。高温や長時間の入浴によりかゆみが増すことがあるので、温度はぬるめにして長い入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売され乾癬に適応を持つ生物学的製剤は、本剤と同様にIL-17Aの作用を阻害するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)、イキセキズマブ(同:トルツ)およびブロダルマブ(ルミセフ)、IL-23阻害薬のグセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ)、ウステキヌマブ(ステラーラ)、チルドラキズマブ(イルミア)、TNF阻害薬のアダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード)およびセルトリズマブ ペゴル(シムジア)などがあります。本剤の特徴は、IL-17Aに加えてIL-17Fにも結合することです。乾癬の病態において、IL-17AとIL-17Fはそれぞれ独立して炎症を増幅すると考えられているため、両方を直接阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待できます。また、16週以降の投与間隔は8週間隔、患者さんの状態に応じて16週以降も4週間隔を選択することができます。安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。投与に際しての安全上の留意点については、日本皮膚科学会「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2018年版)」「ビメキズマブ使用上の注意」等で参照できると思います。本剤には2種類の剤形(シリンジ、オートインジェクター)が存在しますが、2022年6月時点においては医療機関で投与が行われます。薬局では感染症や口腔カンジダ症の兆候がないか聞き取り、必要に応じて生活上のアドバイスを伝えるなど、治療中の患者さんをフォローしましょう。参考1)PMDA 添付文書 ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/ビンゼレックス皮下注160mgオートインジェクター2)UCB Japan 医療関係者向けサイト

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