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生まれた季節と統合失調症リスク~メタ解析

 冬季出生の子供は、統合失調症リスクが増加するといわれ、100年近く経過している。統合失調症リスクと冬季出生との関連性を示す観察研究に基づき、ビタミンD欠乏症や子宮内でのウイルス曝露などの統合失調症の潜在的な病因リスク因子に関する仮説が考えられている。米国・イェール大学のSamantha M. Coury氏らは、出生の季節と統合失調症リスクとの関連を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、誕生月のデータを使用した分析では、北半球で冬季出生の子供は統合失調症リスクが高く、夏~秋に出生した子供は統合失調症リスクが低いという季節的傾向が認められた。Schizophrenia Research誌オンライン版2023年1月20日号の報告。 誕生月と統合失調症リスクとの関連を調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。南北半球で層別化し、これらの関連をさらに調査した。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析には、43件の研究(30の国と地域、統合失調症患者44万39例)を含めた。・冬季出生は、統合失調症リスクが、小さいながらも統計学的に有意な上昇と関連していた(オッズ比[OR]:1.05、95%信頼区間[CI]:1.03~1.07、p<0.0001)。また、夏季出生は、統合失調症リスクが、小さいながらも有意な低下と関連していた(OR:0.96、95%CI:0.94~0.98、p=0.0001)。・層別サブグループ解析では、出生の季節と統合失調症リスクとの有意な関係は、北半球と南半球で差は認められなかった。・誕生月のデータを使用した分析では、南半球ではなく北半球において統合失調症リスクの増加が冬季出生に関連し、夏~秋の出生では統合失調症リスクが減少するという明確な季節的傾向が示された。・誕生月と統合失調症リスクとの関連に対する潜在的な病因を明らかにするためには、さらなる研究が求められる。

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健康の大疑問

健康常識をアップデートせよNY在住・新進気鋭の専門医が、最新の知見を駆使し、健康情報の真偽を問う。白髪の原因はストレス?腸内細菌が認知機能を高める?痛風にプリン体制限は有効?高血圧の薬は一生飲み続けてOK?ウォーキングは1日何歩までがベスト?次世代エイジングケアNMNサプリの正体とは?若者の大腸がんが急増している本当の理由とは?乳酸菌は風邪予防になる?断食で長生きが可能となる?グルコサミンは変形性膝関節症の痛みを改善する?ビタミンDで骨は強くなる?音楽が健康に及ぼす影響とは? ……etc.画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    健康の大疑問定価1,100円(税込)判型新書判頁数188頁発行2023年1月著者山田 悠史

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腸からのエネルギー吸収が良いと肥満になりやすい?

 腸内細菌叢の組成によって、食べた物からのエネルギー吸収率が異なることを示す研究結果が報告された。コペンハーゲン大学(デンマーク)のHenrik Roager氏らの研究によるもので、詳細は「Microbiome」に12月12日掲載された。 この研究では、過体重の成人85人を対象に、食物が腸を通過する時間と糞便中のエネルギー密度、および腸内細菌叢との関連が検討された。研究前の仮説は、食物の腸通過時間が長いほど糞便中のエネルギー密度は低下するというものだった。しかし結果は反対に、腸通過時間と糞便エネルギー密度には正の相関が認められた。一方で、腸内細菌叢の組成と、腸通過時間や糞便エネルギー密度との関連も明らかになった。具体的には、ルミノコッカスという細菌が優勢なR型と呼ばれる細菌叢の人に比べて、バクテロイデスという細菌が優勢なB型と呼ばれる細菌叢の人は、腸通過時間が短く、糞便エネルギー密度が低いことが分かった。つまり、B型の人は食べた物からより多くのエネルギーを吸収している可能性が浮かび上がった。 この結果に関連して、論文では「まだ仮説ではあるが、腸内細菌叢の組成の違いが体重に影響を与える可能性がある」との考察が述べられている。実際に、B型の人はR型の人よりも、平均約20ポンド(約9kg)体重が重かったという。ただし、論文の上席著者であるRoager氏は、「この体重差の原因は不明であり、同じエネルギー量の食事を続けてもらい、体重に差が生じるかどうかを確認する必要がある」としている。 腸内細菌叢は、消化酵素では分解できない食物繊維の分解などに関わっている。しかし、そのような消化を助ける働きだけでなく、さまざまな働きがあることが近年、明らかになってきている。例えば、免疫や炎症反応、ビタミンの合成などであり、さらに認知機能との関連も示されつつある。腸内細菌叢の組成は、遺伝的背景、食事を中心とする生活習慣、抗菌薬を含む薬剤の服用などによって決定されると考えられている。 マウスを用いた研究からは、腸内細菌叢の組成の違いにより体重が増加しやすくなることも示されている。ただし、当然ながら人間はマウスと異なる。本研究には関与していない、米国の非営利研究機関であるシステム生物学研究所のSean Gibbons氏は、「人間はマウスより複雑であり、研究の結果も曖昧なものになりやすい」と話す。しかし、そうではあるが、「腸内細菌叢次第で食事摂取後の反応が異なることを示唆する研究結果が報告されている」と同氏は語る。例えば、プレボテラという細菌が優勢なP型と呼ばれる細菌叢の人は、食物繊維の多い食事を取ることで体重が減るというデータがあるとのことだ。 Gibbons氏らの研究グループも、食習慣やライフスタイルの変更で体重が減りやすいか否かの違いに、腸内細菌叢の違いが関与している可能性を報告している。その研究では、生活習慣を変えても体重が減りにくい人の細菌叢は、難消化性のでんぷんを吸収しやすい糖に分解する働きが強い傾向が認められたという。ただ、今回の研究発表に関しては、「腸内細菌叢のタイプがB型の人が、食物のエネルギーをより多く吸収することを証明するものではなく、体重変化との関連も明らかでない」と同氏は論評している。 Gibbons氏は、「この研究でB型よりR型の人の体重が軽かったことには、いくつかの要因が考えられる」と話す。例えばR型の人は、体重に影響を与える可能性のある全身性の炎症反応が弱い傾向があるとのことだ。しかし、そのような事実は、「腸内細菌叢の体重に及ぼすメカニズムの全容の理解には、まだ多くの不明点が残されていることを意味するものでもある」と同氏はコメントしている。 一方で、個人個人の腸内細菌叢の組成に基づく食事のアドバイスをするという「精密栄養」と呼ばれる領域の進展に、期待を抱く研究者も少なくない。ただ、Roager氏は「腸内細菌叢は驚くほど安定している」といい、Gibbons氏も「腸内細菌叢の組成に変更を加える方法に関する知見は少ない」と話す。同氏は、「野菜や魚、食物繊維が豊富で、加工食品や赤身肉が少ない伝統的な地中海式の食事は、腸に良い影響を与える可能性がある。しかし実際に変化が現れるまでには長い期間を要するのではないか」としている。

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短腸症候群〔SBS:Short bowel syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義先天性あるいは後天性のさまざまな病因により小腸が大量に切除され、栄養素・水分・電解質などの吸収が困難となる病態を総称して「短腸症候群」(SBS)という。75%以上の小腸が切除されると重度の消化吸収障害を呈することから、一般的には残存小腸長が、成人では150cm以下、小児では75cm以下の状態を指す。一方、わが国の小腸機能障害の障害者認定では、1級は小児30cm未満・成人75cm未満で必要栄養量の60%以上を常時中心静脈栄養にたよるもの、3級は小児30~75cm未満・成人75~150cm未満で30%以上を常時中心静脈栄養に頼るもの、4級は通常の経口からの栄養摂取では栄養維持が困難なために随時中心静脈栄養法または経腸栄養法が必要なものと定義されている。遺残腸管の部位や状態などのさまざまな要因により症状や病態が大きく異なるため、学問上は明確な定義はないのが現状である。■ 疫学発症率についてヨーロッパでは100万人当たり0.4~40人、米国では100万人当たり30人と国により大きな隔たりがみられる。これはすでに述べた通り明確な疾患定義がないことに起因するものと考える。わが国での平成28年の厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部の報告では、小腸機能障害の障害者手帳の所持者数は約2,000人である。この中には炎症性腸疾患や吸収不良症候群などの機能性障害も含まれるが、実際には手帳の交付条件を満たさない短腸症例も多くみられるため、明確な実数は不明である。■ 病因病因は多彩であり、多い順に先天性の要因としては多発小腸閉鎖、腸回転異常症・中腸軸捻転症、壊死性腸炎などによるものがあり、その多くは小児期に発症する。一方、成人にみられる後天性のものとしては腸間膜動脈血栓症、クローン病、放射線腸炎、手術合併症、慢性特発性偽性腸閉塞症などがある。■ 症状SBS発症後の症状としては、消化吸収障害に起因する、下痢、腹痛や電解質を含む栄養障害(低カリウム・低マグネシウム血症に伴う筋力低下・不整脈など、必須脂肪酸欠乏に伴う皮膚炎・脱毛などが主たるものである。特に回腸を大量切除している症例では、ビタミンB12欠乏に伴う貧血、亜鉛欠乏に伴う味覚異常や皮膚炎など、そして腸管循環が傷害されたことによる胆汁鬱滞型肝機能障害や顕著な脂肪吸収障害もみられるようになる。一方、臨床上はSBSの固有の症状ではないが、身体的および心理社会的負担から生じる慢性疲労や無力感から生じる余暇活動・社会生活・家族生活・性生活の制限なども問題となる。■ 分類遺残腸管の状態に応じて、(1)末端空腸瘻型(typeI):口側の遺残空腸の断端に腸瘻が増設されている病態、(2)空腸結腸吻合術後(typeII):回腸の全域が切除された後に遺残腸管が吻合されている病態、(3)空腸回腸吻合術後(typeIII)の3つの型に大別される。■ 予後中心静脈栄養(PN)管理からの離脱の有無が予後に大きく関わる。長期にPN管理が必要とされる場合には、カテーテル関連血流感染症や腸管不全関連肝障害(IFALD)などの合併症の発症により、死亡率は約30~50%と非常に高い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は上記の概念・定義の通り。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 栄養療法腸管大量切除後の腸管馴化は、腸切除後24時間以内に始まり、成人では12~18ヵ月間、小児では5歳前後まで継続する。そのため、非常に長期間にわたり多職種が協力して集学的な腸管リハビリテーション(栄養療法)を継続することが肝要となる。この間、残存小腸に負荷される栄養素量が過負荷とならないよう(1)単位時間当たりの投与量および、(2)線維・脂質投与量の制限、(3)吸収能力の低下している栄養素の投与方法の工夫など、遺残腸管の安定化を図り、腸管馴化を促すことで治療がスムーズに進むよう調整することが重要となる。■ 手術小腸移植以外の外科的治療は、吸収面積を増やすと同時に腸内容物の停滞を減らし、腸内細菌の異常増殖を予防するために行われてきた。小腸を延長する外科的処置として2つの方法が考案されている。1)Longitudinal intestinal lengthening and tailoring(LILT)法これは、1990年にBianchiらにより報告された方法である。小腸の拡張部分を長軸方向に2つに切開してそれぞれを管腔状に縫合後、これらを吻合し腸管を延長する方法である。2)Serial transverse enteroplasty(STEP)法2003年にKimらにより報告された方法である。拡張腸管を短軸方向に斜めに、内腔を保つようにジグザグに切開縫合を加え、腸管径を細くすると同時に延長する方法である。現在これらの消化管再建手術は、主に小児期に行われることが多い。一方、重症のIFALDの発症や中心静脈へのアクセス血管が喪失した場合には、小腸移植が適応される。2018年よりわが国でも保険適応となったが、長期成績をみると生存率は1年89%、5年70%、10年53%であり、グラフト生着率は1年84%、5年59%、10年41%とまだ満足できる結果には至っていない。多職種からなる腸管不全対策チームによる腸管リハビリテーションによる予後は70~85%と高いことが報告されていることから、現段階では小腸移植は最終的な救命手段として行われる治療と考える。■ 薬物療法腸管を大量に切除すると、腸管内分泌ホルモンの1つであり、腸管上皮増殖能を有するGLP-2(グルカゴン様増殖因子)の分泌も低下する。その補充療法として、GLP-2アナログ製剤であるテデュグルチド(商品名:レベスティブ)が2021年にわが国でも医薬品として承認され、SBS患者への治療的介入が始まった。短~中期の成績では、中心静脈栄養依存率の低下や下痢症状の改善などの有用性が報告されているが、長期成績がいまだ明確になっておらず、今後の検討課題である。4 今後の展望現在、遺残腸管の自己再生を促すべくさまざまな研究が開始されている。LILT手術の応用で一部の腸管をコラーゲンシートで代用して腸管延長率を上げる方法、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)から新たに腸管を培養生成する腸オルガノイド培養技術など再生医療技術はめざましく発展してきている。加えて、2019年には腸管の恒常性維持を司る幹細胞を復活させて腸上皮再生を促進する独特の幹細胞(腸復活幹細胞[revival stem cell:revSC])が発見され、その臨床応用が期待されている。ただし、これらの新たな試みが実臨床に応用されるまでには、まだ長い時間が必要である。現状としては、今臨床ですでに利用されている治療法を先に見通しながら、どの時期にどのように組み合わせて利用すべきかの検討を行うことが、SBSの治療を有利に進めていくことにつながるものと考える。5 主たる診療科小児外科、小児科、消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報SBS Life(短腸症候群に関する基礎から治療までを網羅した情報や短腸症候群患者の生活をサポートするための情報)小児慢性特定疾病情報センター 短腸症(小児の本疾病に対する助成などの情報)患者会情報短腸症候群の会(患者とその家族および支援者の会)1)Jeppesen PB, et al. Gastroenterology. 2012;143:1473-1481.2)Klek S, et al. ClinNutr. 2016;35:1209-1218.3)Kocoshis SA, et al. JPEN. 2020;44:621-631.4)Chen MK, et al. J Surg Res. 2001;99:352-358.5)Workman MJ, et al. NatMed. 2017;23:49-59.6)Ayyaz A, et al. Nature. 2019;569:121-125.公開履歴初回2023年1月26日

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超加工食品の食べすぎで認知機能が低下?

 超加工食品の摂取量が多いと、認知機能の低下が加速する可能性を示唆する研究結果が報告された。サンパウロ大学(ブラジル)のNatalia Gomes Goncalves氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Neurology」に12月5日掲載された。 超加工食品とは一般に、砂糖や塩、脂肪、人工着色料、防腐剤などの添加物や不健康な成分が多く含まれていて、例えば冷凍食品、清涼飲料、ファストフード、味の濃いスナックなどが該当する。これらの食品を好む習慣は、肥満やメタボリックシンドローム、心臓病などのリスク上昇と関連していることが報告されているが、新たな研究では、それらに加えて認知機能低下リスクとの関連が浮かび上がった。 この研究は、2008~2017年にブラジルの6都市で多施設共同前向きコホート研究として実施された。研究参加登録時に食物摂取頻度アンケートにより超加工食品の摂取量を含む食習慣を把握。1万5,105人の参加者から、認知機能の評価結果や交絡因子の情報が不足している人、摂取エネルギー量が極端な人(1日600kcal未満または6,000kcal以上)の人、および認知機能に影響を及ぼす可能性のある薬剤が処方されている人を除外して、1万775人(平均年齢51.6±8.9歳、女性54.6%、56.6%が大学卒以上)を解析対象とした。 中央値で8年(範囲6~10)追跡して、ベースライン時の超加工食品摂取量と認知機能の変化との関連を検討。その結果、超加工食品の摂取量(総摂取エネルギー量に占める割合)の多い第4四分位群(上位25%の群)は、包括的認知機能の低下の速度が第1四分位群(下位25%)に比較して28%早く(P=0.003)、実行機能の低下速度が25%速かった(P=0.01)。Goncalves氏によると、「実行機能とは目標を計画して実行する能力のことで、包括的認知機能とは実行機能、言語の流暢さ、記憶など、評価した全ての認知機能の総合的な評価の結果であり、包括的認知機能の低下は日常作業の妨げとなる」とのことだ。 得られた結果についてGoncalves氏は、「因果関係の証明にはならないが、認められた認知機能の低下速度の速さは、超加工食品の消費によって引き起こされる脳の微小血管障害、脳容積の減少、または全身性炎症に起因するものの可能性がある」と述べている。また、「何を食べるかという選択は、健康な脳機能の維持に重要なポイントとなる。中年期は特に、老後に向けてライフスタイルを変える重要な時期だ。ただし、食生活を改善するのに遅すぎるということはなく、高齢者であっても健康的なライフスタイルに変えることのメリットを期待できる」と話している。 なお、超加工食品の摂取量が多いことによって肥満が助長される可能性があるが、今回の研究ではそのような変化の影響を考慮しても、認知機能の低下に関連していたのは体重増加ではなく、超加工食品の摂取量だったという。これらの結果に基づきGoncalves氏は、「臨床医は患者に対して、出来合いの食品や菓子などを購入する代わりに、新鮮な食材を使って自宅で料理するよう助言すべきではないか」と提言している。また、超加工食品の大量摂取が直接的な脳のダメージとなるのかを確認するため、さらなる研究を計画中とのことだ。 この研究に関与していない、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスの臨床栄養士のSamantha Heller氏は、「食べているものではなくて、食べていないものが認知機能に影響を与えている可能性もある」と指摘する。同氏によると、習慣的に超加工食品を摂取している場合、炎症の抑制や健康の維持に重要な食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの摂取量が減る可能性が高く、それら微量栄養素の不足が影響を及ぼすとも考えられるとのことだ。さらに、超加工食品の過剰摂取は、高血圧、2型糖尿病、心臓病、肥満のリスクの増加を介して、脳の健康を妨げるように働くという。 「超加工食品は、それらに対する渇望を刺激するように作られており、製品広告があふれていることも購買意欲を高める。つまり、消費者が超加工食品を望むのは消費者のせいばかりではない。しかし、食品メーカーのそのような戦略を認識し、食べるものを決めるのは消費者自身だ」とHeller氏は注意を促している。

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TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

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心不全の補完代替療法についてAHAがステートメントを発表

 米国心臓協会(AHA)は、心不全の補完代替療法に関する科学的ステートメントをまとめ、「Circulation」に12月8日掲載した。魚油サプリメント、各種ビタミン、コエンザイムQ10、ヨガ、太極拳などについて、現時点のエビデンスを総括した上で、推奨や注意事項などを述べている。 米国の20歳以上の心不全患者数は約600万人であり、その3割程度が補完代替療法を利用していると推測されている。ステートメントの筆頭著者である米ウエスタン健康科学大学のSheryl Chow氏は、「補完代替療法に用いられている製品は、米食品医薬品局(FDA)の規制をほとんど受けないため、メーカーは有効性や安全性を実証する必要がない。医療専門職者と消費者の双方が、メリットの可能性と潜在的なリスクについて学び、最新の情報を共有した上で意思決定することが重要だ」と述べている。また消費者に対して、「多くの人が、それらの商品がFDAの規制対象外の製品であることを知らずに利用している。同じ成分名で販売されていたとしても、含有量や純度は製品によって大きく異なることもある。よって使用に際しては、まず医療チームに相談すべき」と助言している。 AHAのステートメントによると、心不全患者にメリットをもたらす可能性があるとされる補完代替療法の中で、最もエビデンスが強固なのは魚油(オメガ3脂肪酸)であり、医師との相談の上で適量を摂取することは安全だという。オメガ3脂肪酸サプリの有用性を示唆する、小規模な無作為化プラセボ対象試験の報告もあるとのことだ。ただし、高用量を摂取した場合に不整脈のリスクが上昇する可能性があるため、1日の総摂取量は4g未満とするとされている。 一方、心不全の一因としてチアミン(ビタミンB1)欠乏症が知られているため、チアミン摂取が心不全に有効な可能性がこれまで検討されてきている。ただし、いまだ明確なエビデンスがないことから、ステートメントには、欠乏に伴う臨床症状を生じていない心不全患者がチアミンを習慣的に摂取することは支持されないと記されている。コエンザイムQ10については、現時点では心不全に対する影響ははっきりしないとのことだ。 食品以外では、ヨガや太極拳の有望性に触れている。それらは安全であり、運動耐容能や生活の質(QOL)の改善、炎症マーカーの低下などの作用が報告されており、医療ガイドラインに基づく治療の補助的なアプローチとして利用可能とされている。 ステートメントでは上記のほかに、カフェイン、アルコール、甘草、L-アルギニン、グレープフルーツジュースなどを幅広く取り上げている。それらの中には、患者の状態によっては健康上のリスクになり得るものもあり、より確実な理解のためにさらなる研究が必要としている。なお、このステートメントは心不全患者に焦点を当てたものだが、Chow氏は、「心不全以外の健康上の問題を抱えている人にとっても重要な情報である」と述べている。 米シダーズ・サイナイ医療センターのMichelle Kittleson氏は、今回のAHAのステートメント発表を歓迎している。同氏は心不全治療のスペシャリストだが、そうであっても補完代替療法を利用している患者の管理にしばしば迷いが生じるとのことだ。「このステートメントには、参考文献として210報もの論文が掲げられている。著者らがそれらを吟味しまとめてくれたおかげで、われわれは同じことをしないで済む。多くの臨床医は、医薬品との相互作用の理解のために、このような情報を必要としているはずだ」とKittleson氏は語っている。

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ビタミンDが脳を老化から守る可能性

 脳内に存在するビタミンDの量が多い高齢者では、明晰な頭脳が維持されやすい可能性が、米タフツ大学ジーン・メイヤーUSDA加齢人間栄養研究センターのSarah Booth氏らの研究で示唆された。この研究では、脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者では記憶力や思考力の標準的な検査の成績が良い傾向があり、認知症や軽度認知障害(MCI)になる可能性の低いことが示された。この研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia」に12月7日掲載された。 ビタミンDと脳の老化については、これまでにも複数の研究が行われている。しかし、高齢者においてビタミンDの血中濃度の低さが認知症リスクの上昇と関連するという報告がある一方で、そのような関連は認められないとする報告もあり、意見の一致は得られていない。さらに、高齢者の記憶力や思考力に対するビタミンDサプリメントの効果を検証したいくつかの臨床試験でも、有益性に関する明確な証拠は得られていない。 そこでBooth氏らは、「ビタミンDはそもそも脳に到達するのか」という基本的な疑問に立ち返り、それを調べるために、ラッシュ大学による疫学研究Rush Memory and Aging Project(MAP)に生前、参加していた高齢者290人(死亡時の平均年齢92歳)の剖検脳組織を調べた。MAPは1990年代に開始された長期研究で、正常および異常な脳の老化についての解明を進めることを目的としている。同研究の参加者は、毎年認知機能の検査を受けることと、死後は研究のために脳組織を提供することに同意している。 その結果、アルツハイマー病に関連する異常が認められた2人の脳組織を含む、全ての分析対象の脳組織で、ビタミンDの存在が確認された。また、全体的に脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者は、認知機能の検査の成績が優れていた。ビタミンD濃度が2倍になるごとに、死亡する前の最後の認知機能検査時に認知症またはMCIが認められる可能性が25~33%低下していた。その一方で、脳組織中のビタミンD濃度とアルツハイマー病に関連する、アミロイド斑の蓄積などの脳の生理学的指標との間に関連は認められなかった。 研究論文の筆頭著者である、同センターのKyla Shea氏は、「この研究により、人間の脳にはある程度の量のビタミンDが存在し、それが認知機能の低下のしにくさと関連することが明らかになった。しかし、将来の介入デザインを考え始める前に、さらに研究を行い、ビタミンDが関与する脳内の神経病理を特定する必要がある」と述べている。 今回の研究には関与していない、米アルツハイマー病協会サイエンティフィック・プログラム・アンド・アウトリーチのシニアディレクターであるClaire Sexton氏は、この研究により、ビタミンDと認知症リスクの間に「興味深い関連性が存在する可能性」が示されたと話す。ただし同氏は、この研究でビタミンDそのものに認知症の予防効果があることが証明されたわけではないことを強調。また、今回の研究で評価されたアルツハイマー病に関連する脳の異常と、脳組織中のビタミンD濃度との関連は認められなかったことに言及し、ビタミンDが認知症に対して保護的に働くとしても、その機序は明らかではないと指摘している。 一部の人たちでは他の人たちと比べて、脳組織中のビタミンD濃度が高い理由も不明だ。Booth氏によると、今回の研究では、ビタミンDの血中濃度と脳組織中の濃度との間にはわずかな関連しか確認されなかったという。また、ビタミンDの血中濃度は、高齢者の認知機能検査の成績には関連していなかったという。同氏は、「今後、より多様な人種を対象にするなどして研究を重ねる必要がある」と話している。

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脱毛治療での栄養サプリ使用は、安全・有効か?

 脱毛治療のための栄養補助食品使用および食事介入は広く行われているが、安全性・有効性は不明のままである。米国・タフツ大学のLara Drake氏らはシステマティック・レビューの結果、脱毛治療における栄養補助食品使用は患者に利益をもたらす可能性があり、有害事象は報告されていないが、それらレジメンは当局の監視下にないことから、それぞれの試験デザインの条件下で安全性・有効性は解釈すべきものであるとの見解を示した。その上で、「医師は、脱毛患者にこれら治療の潜在的なリスクと利点を十分に説明して、共同意思決定をしなければならない」と述べている。また、今後の検討として、実薬比較による大規模な無作為化試験が求められると提言している。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年11月30日号掲載の報告。 研究グループは、ベースラインで栄養不足が既知ではない患者の脱毛治療における、すべての食事および栄養介入の所見を、システマティック・レビューで評価し見解をまとめた。 MEDLINE、Embase、CINAHLのデータベースを、創刊~2021年10月20日まで検索。英語で執筆され、脱毛症または脱毛を有するベースラインで栄養不足が既知ではない患者における食事・栄養介入調査の、オリジナルな所見を報告している論文を特定した。 試験の質を、Oxford Centre for Evidence Based Medicine基準で評価。注目したアウトカムは、客観的および主観的に評価した疾患経過であった。データの評価は2022年1月3日~11日に行った。 主な結果は以下のとおり。・データベースの検索で、参照リストからの11論文を加えた6,347論文の引用が得られた。総計30論文(17本が無作為化臨床試験[RCT]、11本が臨床研究[non-RCT]2本がケースシリーズスタディ)が包含された。包含基準を満たした食事ベースの介入試験はなかった。・最も質の高いエビデンスを有する栄養介入の試験では、Viviscal、Nourkrin、Nutrafol、Lamdapil、Pantogar、カプサイシンとイソフラボン、抗酸化物質を含むオメガ3と6、リンゴの栄養補助食品、シャクヤクの総グルコシド、複合グリチルリチン・タブレット、亜鉛、トコトリエノール、パンプキンシードオイルの潜在的ベネフィットが示された。・キムチとチョングクジャン、ビタミンD3、およびForti5は、疾患経過の改善に関するエビデンスの質は低かった。・有害作用は、評価を受けたすべての治療でまれで軽症であった。

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冬が近づくと多くの人が抑うつ状態になりやすくなる―AHAニュース

 冬になると木々の葉が落ち、気温が下がり、太陽が弱々しくなる。これを季節の移り変わりとして楽しむ人もいるが、一方で冬季に季節性情動障害(SAD)と呼ばれるうつ病の一種を経験する人も少なくない。「その症状は一般的なうつ病とほとんど変わらない」と米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のThea Gallagher氏は解説する。同氏によると、「両者の唯一の違いは、SADの発症が季節と関連していること。通常は日光が弱まり気温が低下して、身体活動が少なくなりがちな秋から冬に症状が現れ、春には消失する。しかし、毎年ほぼ同じ時期に再発しやすい」とのことだ。 米国立精神衛生研究所(NIMH)によると、季節に関連した大うつ病の症状を2年以上連続して経験した場合に、SADと診断される可能性が高いという。その症状は、睡眠障害や過食、人との接触の回避、持続的な気分の落ち込み、集中力や活力の低下、絶望感、自分が価値のない存在に思えてしまうといったことだ。SADの有病率を正確に割り出すことは困難だが、北米における推計値は1.4~9.7%の範囲であり、最北端に近い地域の住民では最大10%と考えられている。一般的に女性に多い。 SADの原因は不明だが、いくつかの研究では、セロトニンの働きに支障が生じている可能性が示されている。セロトニンは気分の調節を助ける神経伝達物質であり、日光曝露によってそのレベルが上昇することが知られている。ほかの研究からは、SAD患者は睡眠関連ホルモンのメラトニンが過剰に産生されていて、そのために強い眠気が生じやすくなる可能性が指摘されている。セロトニンとメラトニンはどちらも、昼夜のサイクルに合わせて体の状態を調節するように作用しているため、そのバランスが崩れると、日照時間の変化などへの適応が困難になると考えられる。また、日光曝露によって皮膚で産生されるビタミンDにもセロトニン活性を促進する作用があり、冬季にはその働きが低下する可能性もある。 SADの原因は明らかでないものの、冬の訪れとともに症状が現れて、春の訪れとともに改善することは明らかだ。トロント大学(カナダ)のRobert Levitan氏は、SADの特異な点として、「症状発現の引き金が、光の欠如にあるということが明確であり、この点において他のタイプのうつ病と区別される。大半のうつ病は症状の悪化を予測できないが、SADはそれが可能だ」と述べている。また同氏によると、SAD患者が全員、重度の抑うつ状態を経験するわけではなく、疲労感だけを訴える人もいるという。 SADを一度経験した人は、季節が変わり始める時期に治療を開始することで、発症を予防できるかもしれない。または、発症したとしても重度の抑うつ状態を避けられる可能性がある。例えば、自然光の不足を補うために、毎日明るい光に体をさらす光線療法の有効性が知られている。光線療法は一般的に、朝一番に30~45分間、屋内照明の約20倍の明るさのライトに当たるという方法で行われる。その際、安全を考慮して有害な紫外線を除去する。ただし、強い光が病状に影響をもたらし得る眼疾患患者や、皮膚が光に過敏になる作用のある薬を服用している場合は、これを受けられないことがある。 Levitan氏はそのほかに、「屋外の散歩で自然光を浴びると良い」とも提案している。外出には、人と出会う機会が生まれるというメリットもあるという。「気温が低下すると、人は自然と屋内にこもりがちになることを知っておいた方が良い」と同氏は語り、意識して外出の機会を増やすことを勧めている。そのほかに、心理療法、ストレスや不安を軽減するためのマインドフルネス、瞑想などがSADの改善に役立つ可能性があるとのことだ。 あまり一般的ではないが、夏季にSADを発症する人もいる。Gallagher氏は、SADを発症する季節にかかわらず、自分自身をケアすることの重要性を強調する。「自分への思いやりを持ってほしい。SADは自分に原因があるのではなく、季節によって起こるものではあるが、自分自身で対処しなければならない」と同氏は語っている。[2022年11月30日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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脳の強化にはベリー類などの食品が良い可能性

 ベリー類やお茶をたくさん摂取すれば、加齢に伴う認知機能の低下速度を遅らせることができるかもしれない。米ラッシュ大学医療センターのThomas Holland氏らが、900人以上の成人を対象に実施した研究で、抗酸化物質のフラボノール類を含む食品や飲料は、高齢者の脳に有益な影響をもたらすことが示された。フラボノール類は、ベリー類などの果物や緑色の葉物野菜、茶、ワインなどに含まれている。この研究結果は、「Neurology」に11月22日掲載された。 この研究でHolland氏らは、認知症がない60〜100歳の研究参加者961人(平均年齢81歳)のデータを収集した。平均6.9年にわたる追跡期間中に、これらの参加者は年に1回の頻度で食事に関する質問票に回答しており、1日当たりのフラボノール類の摂取量に応じて5群に分けられた。参加者のフラボノール類の1日当たりの平均摂取量は、最も多い群で15mg(葉物野菜で約1カップ分に相当)、最も少ない群で5mgだった。認知機能については、参加者に対して1年に1回の頻度で実施された19種類の認知機能検査の結果を基に、包括的な認知機能スコアを算出した。 その結果、年齢や性別、喫煙の有無を考慮しても、1日当たりのフラボノール類の摂取量が最も多い群では、最も少ない群に比べて記憶力の低下速度が遅いことが示された。また、フラボノール類の種類(ケンぺロール、ケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン)で分類して、それらの含有量の多い食品を調べたところ、ケンぺロールはケール、豆類、茶、ホウレンソウ、ブロッコリーに、ケルセチンはトマト、ケール、リンゴ、茶、ミリセチンは茶、ワイン、ケール、オレンジ、トマトに、イソラムネチンはナシ、オリーブ油、ワイン、トマトソースに多く含まれていることが判明した。 Holland氏は、「フラボノール類は抗炎症物質であるとともに抗酸化物質でもある。フラボノール類が含まれるこれらの食品はフリーラジカルを破壊し、脳、心血管系や腎臓、肝臓などの臓器の細胞を酸化のダメージから守ってくれる」と説明。また、同氏は、「フラボノール類はサプリメントからではなく食品から摂取するのが最も良い方法だ。食品からの方が、より多様な栄養素を摂取することができるからだ。サプリメントは、その名の通り、栄養補助食品として健康的な食事を補うものと捉えるべきだ」との考えを示している。 今回の研究では、フラボノール類の摂取量の多さと認知機能の低下速度の遅さとの間に関連が認められたが、Holland氏は、「これらが因果関係にあることを証明したわけではない」とし、慎重な解釈を求めている。また、摂取した食品に関する調査は人々の記憶に基づくものであるため、必ずしも正確ではない可能性にも言及している。 この研究には関与していない、米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルスの上級臨床栄養士であるSamantha Heller氏は、「植物性食品は、人々の健康に大きなベネフィットをもたらす効果的な栄養素の宝庫だ」と話す。 今回の研究は、食事に含まれるフラボノール類と認知機能との関連について着目したものだが、Heller氏は、「フラボノール類のみを摂取すれば良いという話ではない」と指摘。「われわれが摂取している食品にはフラボノール類以外にも、食物繊維やビタミン、ミネラルなどさまざまなファイトケミカル(植物栄養素)が含まれている。これらの栄養素の相乗的な効果が、健康にベネフィットをもたらす」と説明している。さらに、「おそらく、この研究で認知機能に最大のベネフィットを得たのは、植物由来の食品の摂取量が多かった人たちだと思う。ただ、その点については研究では検討されなかった」としている。 フラボノール類のみでは認知機能の低下を抑えるには不十分であるという点に関しては、Holland氏も同意見だ。同氏は、「心身の健康を維持する最善の方法は、果物や野菜を含む多様な食品で構成された食事を取り、運動するなどの健康的な生活習慣を心がけることに加え、日々新しいことを学ぼうと挑戦し続け、脳を鍛えることだ」と話す。さらに、「睡眠やストレス軽減といったことが全て合わさることで、全般的な健康に有益な影響がもたらされる」と説明している。

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短腸症候群患者の声は社会に届いているか/武田

 社会にはなかなか認知されていない希少疾病や難病も多く「短腸症候群」もその1つである。本症は指定難病ではないが、小児から成人まで患者層は幅広く、患者のQOLにも大きな負担をもたらしている。武田薬品工業は「短腸症候群(SBS)を知っていますか?」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、前半でSBSの病態や診療と治療について説明するとともに、後半では患者のリアルな声が届けられた。成人でもSBSになる はじめに「短腸症候群の特徴」をテーマに千葉 正博氏(昭和大学薬学部臨床薬学講座臨床栄養代謝学部門 教授/同病院外科学講座小児外科学部門兼担)が、疾患概要を説明した。 SBSとは「生まれつき、あるいは生活する中で腸が通常より短くなった方々」とされ、明確な学術的な定義がない。通常、小腸は成人で約6m(小児で約2m)ほどあるが、わが国では(1)小腸の75%以上切除、(2)成人1.5m未満(小児75cm未満)、(3)静脈栄養から離脱困難のうち1つでも該当する患者をSBSと診断している。 SBSで問題となるのは、毎日の食事制限や必要な栄養の摂取ができないことと、吸収不良による排便回数の多さである(下痢便になる)。また、この状態が長期に及ぶことで患者の心理社会的な負担や慢性疲労、QOLの低下などがある。そして、身体的には腸管不全関連肝障害やカテーテル関連血流感染症を合併するリスクも指摘されている。 患者を苦しめるのは、日々の食事制限であり、もし食べすぎた場合、消化・吸収不良に容易になってしまうことである。腸蠕動が亢進することで腸液分泌も亢進する。そして、腸粘膜が荒れることで吸収障害がさらに悪化し、負のスパイラルに陥る懸念がある。 その一方で、腸には自己修復能力(馴化)があることも知られ、小腸の維持・再生には腸管栄養素、GLP-1などの消化管ホルモン、EGFなどの血液関与ホルモンの3要素をいかに関与させて成長を促すかが保存的療法のカギとなる。 保存的治療では、十二指腸、空腸、回腸、結腸など残存部位により消化吸収できる糖、ビタミン、ナトリウムなどに違いがあるため、理解しておく必要がある。例えば、ほぼ十二指腸しか残存していない場合、ビタミンB12や胆汁酸の吸収はむずかしく、中心静脈カテーテルなどでの栄養補給を行う必要がでてくる。 注意すべきこととして中心静脈カテーテルは、腸が弱っている腸管機能不全の患者では、腸壁に腸内細菌が入り込むことで、敗血症などを容易に起こすので、可能な限り早く腸管を強く育てることが重要となる。 SBSの治療は1960年代後半に中心静脈栄養法が開発され、以降、腸管延長手術、そして、2000年代の内科治療と着実に進化している。そして、治療では、変化がみえるまで非常に長い時間がかかることを踏まえ、「ある程度先を予想し、先手を打ちつつ、限界を見極めた管理を行うこと」で患者を見守ってもらいたいと同氏は語り、レクチャーを終えた。自分の病気と体調を周りに話すことが大事 後半では、SBSの患者3人と千葉氏が登壇し、患者側からみた疾患への悩みや医療者、行政への要望などのトークセッションが行われた。 登壇した患者の発症背景もさまざまで、新生児としてすでにSBSの患者や10代で腸管壊死を来しSBSに進展した患者、30代でクローン病から腸切除を受けSBSとなった患者がセッションに参加し、生活面で旅行や学校・職場の行事に参加できない悩みや人工肛門での苦労などが語られた。 周囲のサポートで患者が期待することでは、体力がないので患者にできないことがあること、毎日点滴が必要なこと、トイレの回数が多いことなど理解して欲しいと希望を述べた。また、周囲に自分の病気を隠すことなく伝える重要性、自分の状態の様子を伝えることで周囲のサポートが得られた実情などが語られた。 最後に患者からは「新しい薬や治療法に期待している一方で完治する疾患ではないので、ポジティブに病気と向かい合っていきたい」、「国の支援では制度からこぼれている患者もいる、情報をどう届けるのかが課題」、「患者の雇用が進んでいないのが問題だし、ストーマの支援や助成が患者の要望と合っていない問題もある」などの声が聞かれ、トークセッションを終えた。

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12月13日 ビタミンの日【今日は何の日?】

【12月13日 ビタミンの日】〔由来〕1910年の今日、鈴木梅太郎博士(農芸化学者)が、米糠から抽出した成分を「オリザニン」と命名し、東京化学会で発表した。このオリザニンは後に、ビタミンB1(チアミン)と同じ物質であることが判明し、「ビタミン」と呼ばれるようになったことを記念し「ビタミンの日」制定委員会が2000年に制定。関連コンテンツビタミンEってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンCってなあに?【患者説明用スライド】葉酸ってなあに?【患者説明用スライド】ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM青年期の抑うつ症状とビタミンDレベルとの関係

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果物の摂取量が多いほどうつ病リスク低下/国立精神・神経医療研究センター

 日本のコホート研究において、野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物(リンゴ、梨、柑橘類、ブドウ、イチゴなど)の摂取が、うつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた結果、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病の発症率が低かったことを、国立精神・神経医療研究センターの成田 瑞氏らの共同研究グループが発表した。Translational Psychiatry誌2022年9月26日掲載の報告。果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方でうつ病のオッズ比が低かった 先行研究では、野菜や果物の摂取がうつ病の予防に有意である可能性が示されており、とくにフラボノイドは脳由来神経栄養因子や酸化ストレス、神経炎症の抑制作用により抗うつ効果を持つことが示唆されていた。そこで本研究では、野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取がうつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた。 調査は、1990年時点で長野県南佐久郡8町村に在住の40~59歳の1万2,219人のうち、1995年と2000年に行った2回の食事調査アンケートに回答があり、かつ2014~15年にかけて実施した「こころの検診」に参加した1,204例(男性500例、女性704例)を対象とした。野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取量によって5グループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準とした場合の、他のグループのうつ病の発症リスクとの関連を調べた。また、野菜や果物に関連する栄養素として、α-カロテン、β-カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸の平均摂取量とうつ病との関連も検討した。解析では、年齢、性別、雇用状況、飲酒量、現在の喫煙、運動習慣の影響は調整された。 野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取がうつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた主な結果は以下のとおり。・野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も多いグループでは、摂取量が最も少ないグループと比較して、高齢者、女性、未就労者、非飲酒者、非喫煙者が多かった。運動習慣に差はみられなかった。・1,204例中93例が精神科医によってうつ病と診断された。・果物全体の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループにおけるうつ病のオッズ比は0.34(95%信頼区間[CI]:0.15~0.77、p=0.04)であった。・フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループのうつ病のオッズ比は0.44(95%CI:0.20~0.97、p=0.05)であった。・フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も多いグループの中で、とくにイチゴの摂取によるうつ病のオッズ比は0.37(95%CI:0.18~0.79)と顕著であった。・野菜や関連栄養素の摂取量とうつ病との間には関連はみられなかった。 これらの結果より、同氏らは「果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方について、最も多く摂取したグループでうつ病のオッズ比が低かったことから、フラボノイド固有のメカニズムというよりも、果物が持つ抗酸化作用などの生物学的作用がうつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられる」と述べるとともに、「今後の研究では、より大きなサンプルを採用し、他の潜在的な交絡因子を調整する必要がある」とまとめた。

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ビタミンDで寿命延伸?

 ビタミンD不足のために骨がもろくなることはよく知られているが、そればかりでなく、早期死亡のリスクも高まることが、英国の30万人以上のデータを解析した結果として報告された。南オーストラリア大学(オーストラリア)のJoshua Sutherland氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に10月25日掲載された。 ビタミンDは、食べ物から栄養素として吸収される以外にも、日光を浴びた時に皮膚で合成されることから“太陽のビタミン”と呼ばれる。ビタミンDの機能性としては古くから骨代謝との関連が知られている。ただし、ビタミンDの受容体は全身のさまざまな臓器や組織に発現していて、骨代謝以外の機能調節にも関わっていることが明らかになってきている。これを背景にSutherland氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UK Biobank」のデータを用いた解析により、ビタミンDの健康維持における重要性を検討した。 イングランド、スコットランド、ウェールズに住む約50万人のUK Biobank登録者から、健康状態に関する情報と遺伝関連情報の双方を利用可能な30万7,601人を抽出し解析対象とした。この解析対象者は2006年3月~2010年7月に登録されており、登録時の年齢は37~73歳の範囲だった。 2020年6月までの14年間の追跡で1万8,700人が死亡。非線形メンデルランダム化解析という手法で検討した結果、遺伝的に予測されるビタミンDレベルと全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが、L字型の非線形の関係にあることが分かった(P<0.001)。具体的には、ビタミンDレベルが50nmol/L以下では、そのレベルが高いほど全死亡リスクが急速に低下することが示された。また、ビタミンDレベルが25nmol/Lの人と50nmol/Lの人を比べると、前者の全死亡リスクが25%高かった。 死因別に見ると、遺伝的に予測されるビタミンD欠乏は、心血管死のリスクを25%、がん死リスクを16%、呼吸器関連疾患による死亡リスクを96%上昇させる可能性が浮かび上がった。さらにビタミンDレベルと死亡リスクとの関連は用量反応関係が認められ、極端な欠乏では全死亡や心血管死リスクは6倍、がん死リスクは3倍、呼吸器関連疾患死のリスクは12倍高くなる可能性が示された。 この研究で明らかになったことのうち、ビタミンDとがん死リスクとの関連について、米ジョージア大学のEmma Laing氏は、「両者の関連を裏付ける医学的なエビデンスがある」と語る。同氏によると、ビタミンDには抗炎症作用を含む多様な生物学的作用があり、がん細胞の増殖を遅らせることが示されているとのことだ。また、「ビタミンDは、血圧や心血管の健康にも関与しているようだ。ビタミンD摂取がコレステロールと血圧を低下させることが、複数の研究で示されている。ただ、それらの研究結果には一貫性がなく、より多くの研究が必要とされている段階だ」と話す。一方、Sutherland氏は「ビタミンD受容体が全身に見られることから、ビタミンDはいくつかの特定の疾患リスクを下げるだけでなく、人体にとってより基本的で重要な意味を持っているのではないか」と話す。 Sutherland氏、Laing氏はともに、「日光を十分に浴びていない人は、脂ののった魚、キノコ、牛乳などのビタミンDが豊富な食品を食べるべき」とし、また必要に応じたサプリメントの摂取も勧めている。さらにLaing氏は、「高齢者はビタミンDの吸収が低下していることが多い。食事からビタミンDを得ることができていない懸念がある場合は、医師にサプリメントの必要性を尋ねると良い」と述べている。

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1日1回投与の新規骨形成促進薬「オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg」【下平博士のDIノート】第110回

1日1回投与の新規骨形成促進薬「オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg」今回は、骨粗鬆症治療薬「アバロパラチド酢酸塩注射剤(商品名:オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg、帝人ファーマ)」を紹介します。本剤は、骨吸収作用に対して骨形成作用がより優位な新規の骨形成促進薬であり、1日1回の皮下投与により、骨量の増加と骨折の抑制が期待されています。<効能・効果>本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の適応で、2022年8月31日に製造販売承認を取得しました。なお、オスタバロ皮下注3mgが2021年3月に同様の適応で製造販売承認されていますが、3mg製剤は28日投与の製剤であり、新薬の14日処方制限への対応が必要であったため現時点での薬価収載は見送られています。<用法・用量>通常、成人には1日1回アバロパラチドとして80μgを皮下に注射します。本剤の投与期間は18ヵ月間までです。なお、本剤は使用開始前も開始後も冷蔵庫で保管します。<安全性>国内および海外の第III相試験を統合した結果、臨床検査値異常を含む副作用は962例中357例(37.1%)で報告されました。主な副作用は、高カルシウム尿症81例(8.4%)、浮動性めまい55例(5.7%)、悪心52例(5.4%)、頭痛34例(3.5%)、動悸33例(3.4%)などでした。重大な副作用として、アナフィラキシー(頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、骨形成を促進して骨量を増やすことで、骨折を予防します。2.投与後30分程度はできる限り安静にして、高所での作業、自動車の運転など危険が伴う作業に従事する場合は注意してください。3.投与後に血圧低下、めまい、立ちくらみ、動悸、気分不良、悪心、顔面蒼白、冷汗などが生じた場合には、症状が治まるまで座ったり横になったりしてください。4.悪心、嘔吐、便秘、食欲減退、腹痛などが生じた場合は受診してください。5.(妊娠可能な女性に対して)本剤の投与期間中は避妊してください。<Shimo's eyes>骨粗鬆症に伴う骨折は、日常生活動作やQOLの低下、生命予後の悪化につながるため、初回骨折の予防に加え、すでに骨折が生じた場合は次の骨折を予防して、骨折の連鎖を起こさないための治療が重要です。本剤はヒト副甲状腺ホルモン関連蛋白質(hPTHrP)のアミノ酸配列の一部を改変したアナログ製剤で、骨代謝に関わるPTH1型受容体のRG型を選択的に刺激するため、骨量の増加と骨折抑制が期待できます。既存の副甲状腺ホルモン製剤(PTH製剤)としては、テリパラチド(遺伝子組換え)(商品名:フォルテオ皮下注キット)、テリパラチド酢酸塩(同:テリボン皮下注用、テリボン皮下注オートインジェクター)などが発売されています。また、抗体薬としては、抗ランクル抗体のデノスマブ(遺伝子組換え)(同:プラリア皮下注)、抗スクレロスチン抗体のロモソズマブ(遺伝子組換え)(同:イベニティ皮下注)が発売されており、超高齢社会に対応すべく効果の高い骨粗鬆症治療が近年続々と登場しています。本剤は、海外における骨折の危険性の高い閉経後骨粗鬆患者を対象とした海外第III相試験(BA058-05-003試験、ACTIVE試験)において、プラセボに比べて投与18ヵ月の新規椎体骨折の発生率が低く、最初の非椎体骨折の発生までの期間が有意に延長されました。また、本剤投与終了後のアレンドロネートによる継続治療により、プラセボ投与終了後のアレンドロネート治療群と比較して、ACTIVE試験の開始から投与後25ヵ月および43ヵ月までの新規椎体骨折発生率が有意に低く、最初の非椎体骨発生までの期間に有意な延長が認められました(BA058-05-005試験、ACTIVE延長試験)。本剤の電動式注入器(オスタバロインジェクター)は、製剤カートリッジを14日ごとに交換するよう設計されていて、液晶画面には操作手順、投与履歴、累計投与回数が表示されるとともに、カートリッジの交換や冷所保管忘れの通知機能なども備えられています。診察では、インジェクターに記録された投与履歴や累積回数を確認することができます。なお、本剤の使用にあたっては、インジェクターのほかに製剤カートリッジ、A型専用注射針、消毒用アルコール綿が別途必要となるので、処方の確認が必要です。安全面では、活性型ビタミンD製剤との併用は、血清カルシウム値が上昇する恐れがあるため避けることが望ましいとされています。本剤投与直後から数時間後にかけて、一過性の急激な血圧低下が現れることがあるので注意が必要です。また、一過性の血清カルシウム値上昇がみられることもあり、悪心、嘔吐、便秘、食欲減退、腹痛などが生じた場合は速やかに診察を受けるように患者さんに指導しましょう。

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11月3日 ホルモンの日【今日は何の日?】

【11月3日 ホルモンの日】イラスト・いわみせいじ氏〔由来〕ホルモンや内分泌疾患に関する正しい知識を社会に広め、早期診断・治療につなげることを目的にアドレナリンを発見した高峰譲吉博士の誕生日にちなみ日本内分泌学会が制定。関連コンテンツDr. 坂根のすぐ使える患者指導画集 Part1第128回 承認済のホルモン薬でダウン症候群患者の認知機能が改善【バイオの火曜日】手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会5年間のビタミンD補給により自己免疫疾患のリスク低減/BMJ潜在性甲状腺機能低下症併発の急性心筋梗塞患者、ホルモン療法は有効か/JAMA

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ビタミンD欠乏で筋力低下→サルコペニア発症の可能性/長寿研ほか

 ビタミンDが欠乏することで、将来的に筋力が低下してサルコペニア罹患率が上昇する可能性を、国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部の細山 徹氏や、名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の水野 隆文氏らの研究グループが発表した。 先行研究において、ビタミンDは加齢性の量的変動やサルコペニアとの関連性が指摘されていたが、それらの多くが培養細胞を用いた実験や横断的な疫学研究から得られたものであり、成熟した骨格筋に対するビタミンDの作用や加齢性疾患であるサルコペニアとの関連性を示す科学的根拠は十分ではなかった。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌2022年10月13日掲載の報告。 研究グループは、国立長寿医療研究センターで実施している老化に関する長期縦断疫学研究「NILS-LSA」のデータを用い、血中ビタミンD量低値の一般住民の4年後の筋力変化や筋量変化、新規サルコペニア発生数などについて検討した。 主な結果は以下のとおり。・NILS-LSAに登録されている1,919人のデータから傾向スコアでマッチさせたビタミンD欠乏群(血中25OHD量が20ng/mL未満、n=384)および充足群(20ng/mL以上、n=384)の比較解析の結果、ビタミンD欠乏群では握力低下が進行した(欠乏群:-1.55±2.47kg、充足群:-1.13±2.47kg、p=0.019)。・サルコペニアの新規発生率は、ビタミンD欠乏群で有意に高かった(欠乏群:3.9%、充足群:1.3%、p=0.039)。・ビタミンD受容体遺伝子Vdrを成熟した筋線維で特異的に欠損させたコンディショナルノックアウト(VdrmcKO)マウスの表現型の解析では、VdrmcKOマウスでは有意な筋力低下を認めた。なお、筋重量、筋線維径、筋線維タイプ、骨格筋幹細胞数など骨格筋の量的形質には影響はみられなかった。・VdrmcKOマウスでは、筋線維の収縮・弛緩に関わる遺伝子Serca1とSerca2aの発現が減少し、骨格筋における筋小胞体Ca2+-ATPアーゼ活性も低下していた。 これらの結果より、研究グループは「ビタミンD欠乏と将来的な筋力低下およびサルコペニア罹患率の上昇には関連性がある可能性があり、成熟筋線維におけるビタミンDシグナルは、筋量には影響を与えないものの筋力発揮へ寄与する」とまとめた。

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85歳以上で身体活動量が多い人の食習慣―慶大TOOTH研究

 85歳以上の日本人500人以上を対象に、食事の傾向や身体活動習慣を調査した結果が報告された。高齢者の食習慣の特徴が浮かび上がるとともに、多くの植物性食品を取っている人はそうでない人よりも身体活動量が有意に多いことなどが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子氏、於タオ氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に7月17日掲載された。 質の高い食生活や活発な身体活動が健康の維持・増進につながることは広く知られている。ただし、それら両者の相互関係は十分研究されておらず、また、食事や身体活動に関するこれまでの研究の多くは、非高齢者または高齢者の中でも比較的若い世代を対象に行われてきている。こうした中、同大学百寿総合研究センターの新井康通氏らは、85歳以上の高齢者の健康に関する包括的研究「TOOTH(The Tokyo Oldest Old Survey on Total Health)研究」を実施している。小熊氏らは、このTOOTH研究の参加者のベースラインデータを用いて、85歳以上の日本人の食習慣の特徴を探るとともに、身体活動量と関連のある食事パターンの特定を試みた。 TOOTH研究の参加者は、2008~2009年に同大学病院から6km以内に居住する85歳以上の住民から無作為に抽出され、研究参加に同意した542人が登録された。このうち、データ欠落のない519人を今回の研究の解析対象とした。年齢は中央値87.3歳、男性42.2%、BMI21.4、独居者33.9%であり、MMSE(認知機能の指標)は中央値27(四分位範囲25~29)、バーゼル指数〔日常生活動作(ADL)の指標〕は同100(95~100)であって、認知機能や身体機能が維持されている人が大半を占めていた。 登録時に行った、過去1カ月間での日常的な食品の摂取に関するアンケートの回答を基に、主成分分析という方法で特徴的なパターンを検討。その結果、緑黄色野菜などの多様な植物性食品、魚ときのこ、ご飯とみそ汁という3つの食品群の摂取割合の多寡により、食習慣を特徴付けられることが分かった。 1つ目の多様な植物性食品を特徴とする食事パターンの主成分得点(主成分分析で得られるスコアで-1~1の範囲で表し、1に近いほどその食事パターンへの傾向が高いことを意味する)の中央値で二分し、栄養素摂取量を比較。すると、植物性食品の摂取割合の高い群は低い群に比べて、タンパク質、脂質、食物繊維、および大半の微量栄養素(ビタミンとミネラル)の摂取量が多く、炭水化物の摂取量は少なかった。2つ目の魚ときのこの摂取割合の多寡で二分した比較も、それとほぼ同様の結果だった。3つ目の食事パターン(ご飯とみそ汁)の主成分得点の中央値で二分した比較では、タンパク質と炭水化物の摂取量は有意差がなく、脂質の摂取量はご飯・みそ汁の摂取割合が高い群の方が有意に少なかった。 次に、これら3つの違いで特徴付けられる食事パターンと、身体活動量との関連を検討。その結果、多様な植物性食品の摂取割合が高い群は低い群に比べて、ウォーキング、および、エクササイズ(筋力トレーニングや柔軟体操)による運動量(メッツ×時間)が多く、PAI(身体活動量の指標)が高いという有意差が認められた。また、2つ目の食事パターン(魚ときのこ)の高傾向群は低傾向群に比較し、エクササイズによる運動量が多いという有意差が認められたが、ウォーキングによる運動量やPAIには有意差がなかった。3つ目の食事パターンの低/高傾向群の比較では、ウォーキングやエクササイズでの運動量、PAIのいずれにも有意差がなかった。 続いて、年齢、性別、BMI、ADL、MMSE、喫煙習慣、教育歴、就労・経済状況、糖尿病・高血圧・脂質異常症・腎臓病・心臓病・がんの既往を調整後、食事パターンと身体活動との関連を検討した。すると、多様な植物性食品を特徴とする食事パターンへの傾向と、エクササイズによる運動量〔偏回帰係数(B)=0.64(95%信頼区間0.02~1.25)、P=0.04〕、およびPAI〔B=1.41(同0.33~2.48)、P=0.01〕との間に、有意な正の関連が認められた。 著者らは本研究を、「85歳以上の高齢者集団で食事パターンと身体活動量との関連を検討した初の研究」としている。限界点として、研究参加者が都心部に居住し、かつ外出可能な身体機能が維持されている人に限られていること、横断研究のため因果関係には言及できないことなどを挙げた上で、「85歳以上であっても、より健康的な食習慣が身体活動量の多さと関連していることが示唆された」と結論をまとめている。

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第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)

コロナ終息とエリザベス女王国葬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。WHOのテドロス事務局長は9月14日の記者会見で、新型コロナウイルスの世界全体の死者数が、先週、2020年3月以来の低い水準になったと指摘、「世界的な感染拡大を終わらせるのにこれほど有利な状況になったことはない。まだ到達していないが、終わりが視野に入ってきた」と述べたそうです。同日、厚生労働省の新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード」も、全国的に新規感染者数の減少が続いている、との分析を公表しました。世界的に流行が終息に向かっていることは、米国MLBの中継や、英国エリザベス女王の国葬の様子を見ても実感することができます。国葬もそうでしたし、女王の国葬に先立つウエストミンスター宮殿での公開安置の行列でも、マスクをしている人はほとんどいませんでした(デビット・ベッカム氏も!)。その点、日本人は真面目というか、融通が効かないというか、街中の屋外では、皆、まだマスクをしています。こうした、お上の言うことに真面目に従い、世間体(周囲)を気にする他人任せな点が、日本でセルフメディケーションがなかなか進まない一因なのかもしれません。アマゾンの処方薬ネット販売の背景さて前回は、米アマゾン・ドット・コム(以下、アマゾン)が日本で処方薬のネット販売に乗り出すことになった、というニュースについて書きました(「第126回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(前編)」参照)。アマゾンの処方薬ネット販売進出の背景にあるのは、オンライン診療、オンライン服薬指導の普及・定着と、来年から始まる予定の電子処方箋の運用です。電子処方箋が運用されれば、処方箋のやりとりだけでなく、処方薬の流通についても徹底した効率化が求められるようになります。近い将来やってくるであろう調剤・配送集中化の時代を見据え、アマゾンとしてはまずは同社の服薬指導のシステムを普及させることで、地域の薬局をネットワーク化しておきたいというのが、その大きな狙いとみられます。こうした動きに対し、日本保険薬局協会の首藤 正一会長(アインホールディングス代表取締役専務)は記者会見で、「リアル店舗やかかりつけ薬剤師の存在感を高めることで、アマゾンに対抗する」といった趣旨のコメントをしたそうです。その記事を読んで、私は首をかしげてしまいました。世の中で「かかりつけ薬剤師」は「かかりつけ医師」よりももっと曖昧な存在です。そんなものに力を入れることで、果たして巨大アマゾンに対抗できるのでしょうか。そんなことを考えていたら、アマゾン報道の1週間ほど前に利用した都内の零売(れいばい)薬局のことを思い出しました。大都市圏で増える零売薬局零売薬局はコロナ禍で医療機関の受診控えが起こったことなどを背景に、東京都内をはじめ、大都市圏で急増しています。「処方箋なしで病院の薬が買える」などのキャッチフレーズで、新宿、渋谷、池袋など、特に若者が多く集まる街で増えている印象です。その動きは地方にも及んでいます。東海テレビ(愛知県)は7月29日の放送で、名古屋で初めての零売薬局、「セルフケア薬局」が繁華街である地下鉄名城線栄駅・南改札すぐのところにオープンした、と報じています。「セルフケア薬局」は、東京に本拠を構える零売薬局チェーンで、東京、神奈川のほか、大阪、京都などでも店舗を展開しています。厚労省が零売を公式に認めたのは2005年そもそも零売とは、医療用医薬品を、処方箋なしに容器から取り出して顧客の必要量だけ販売することをいいます。「零」は「ゼロ」を意味する漢字ですが、「少ない」「わずか」と言う意味もあります。つまり零売とは「少数や少量に小分けして売ること」という意味なのです。厚生労働省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、すなわち零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売が行われていました。厚労省が零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚生労働省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。なお、零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました(本通知の内容は現在、2014年3月18日付薬食発0318第4号厚生労働省医薬食品局長通知「薬局医薬品の取扱いについて」に引き継がれています)。医療用医薬品約1万5,000 種類のうち半数は処方箋なしでの零売可能2005年4月施行の改正薬事法は、処方箋医薬品の零売を防ごうとしたのも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500 種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまうさて、9月初旬に私が利用したのは、都内のとある零売薬局です。いつも通っている整形外科の診療所でいつもの鎮痛剤と湿布薬を処方してもらうつもりだったのですが、外来で2時間近く待つ時間的余裕がなく、仕方なしに山手線の某駅近くにある零売薬局を利用することにしたのです。店内に入ると女性の薬剤師がカウンターに座るよう促しました。こちらの症状や、欲しい薬剤をヒアリングし、パソコンの画面を見せながら推奨する薬剤を勧めるという流れです。私は整形外科で処方してくれている鎮痛剤のエトドラク錠200mgと、ジクロフェナクテープ30mgを希望しました。しかし、「いずれも処方箋医薬品以外の医薬品ですが、当店では扱っていません」とのことで、同種のロキソプロフェンNa錠60mgとロコアテープを勧められ、それらを購入することにしました。また、雑談(!)の中で、二日酔いの薬やビタミン剤、虫刺されの薬などの話も出たので、ついでだからとリンデロンVG軟膏5mgも買ってしまいました。リンデロンVGは、山登りや沢登りでの虫刺されにてきめんに効く薬ですが、ステロイドの含有量が多いこともあって普通の薬局・薬店では買えません。「前は調剤薬局にいたが、今の仕事のほうが面白い」と、なんだかんだで薬剤師と20分近く会話をして、約4,000円の買い物をしてしまいました。薬局を出てから、今までかかってきた整形外科でも、その門前にある調剤薬局でも、鎮痛剤や湿布薬についてここまで詳しく説明を聞いたことがなかったことに気付きました。エトドラク錠と、ジクロフェナクテープがなかったのは、単にこの薬局が仕入れる薬剤リストに入っていないためか、あるいは薬効や副作用などから自主的に販売していなためかはわかりませんが、少なくとも代替薬を勧める薬剤師の説明は理には適っていました。症状を自分で聞いて、薬を選択するアドバイスをし、客の人となりを見て他の薬剤も勧めるには、それなりの知識とコミュニケーション力が要るでしょう。私を担当した薬剤師は最後に、「前は調剤薬局で働いていたが、今の仕事のほうが面白い」と話していました。零売薬局の不適切事例に厚労相が注意喚起の通知というのが私の零売薬局体験なのですが、調べてみるとコロナ禍で急増した零売薬局の中には、不適切事例も相次いでいるようです。厚労省は2022年8月5日、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の薬局での販売の不適切な販売事例について、都道府県などに再周知を促す通知「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)を発出、不適切な事例について指導を徹底するよう求めています1)。前述したように2005年の通知、それを引き継いだ2014年の通知で、零売は「一般用医薬品の販売等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合」に例外的な販売が認められていますが、そうした“考慮”をすることなく販売されている事例を、「不適切」として注意喚起したわけです。私自身のケースも考えてみればそうでした。今回の通知ではまた、「同様の効能・効果を有する一般用医薬品等がある場合は、まずはそれらを販売すること」、「在庫がない場合は他店舗の紹介などによる対応を優先すること」され、さらに販売に当たっての遵守事項として「反復継続的に医薬品を漫然と販売等することは、医薬品を不必要に使用する恐れがあり不適切」とも改めて明示されました。さらに、広告やホームページなどで次のような表現を用いて処方箋医薬品以外の医療用医薬品の購入を消費者等に促すことは不適切ともされました。「処方箋がなくても買える」「病院や診療所に行かなくても買える」 「忙しくて時間がないため病院に行けない人へ」 「時間の節約になる」 「医療用医薬品をいつでも購入できる」 「病院にかかるより値段が安くて済む」…。コモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれるこの通知は増える零売薬局への強烈な牽制と考えられます。実は厚労省は同様の指摘を2021年に一般社団法人日本零売薬局協会に対して行っており、同協会は12月、「厚生労働省からのご指摘について」という文書を会員に対して配布、広告表現等について注意するよう促しています2)。私自身は、ここまで零売に足かせをはめる必要はないと思います。医療保険が使えず、現状極めてアナログなシステムと言えますが、少なくともコモンディジーズならば医療機関の受診をはしょれます。患者は勝手知ったる薬を手早く入手できますし、国の医療費削減にも寄与します。一方、薬剤師も医師の処方にただ従って調剤するのではなく、自らの判断で薬剤を選ばなければならないので、説明も責任をもって行うようになるかもしれません。プリントされた薬剤情報提供書を機械的に渡すだけの調剤薬局の薬剤師とは異なる職能も求められ、仕事としての面白味も増しそうです。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”DXの最先端であるアマゾンとアナログの極みとも言える零売薬局。日本の薬局や処方箋調剤が抱える“欠点”に対するアンチテーゼという意味でも共通点があります。その“欠点”とは服薬指導です。処方薬の場合、現状、すべてのケースで服薬指導を行わないと、処方薬を患者に渡すことはできません。もし、患者の希望によって、あるいは一部の薬剤においてそのプロセスをはしょることができれば、電子処方箋の運用はもっとスムーズなものになるはずです。患者はオンライン診療を受けるだけで(オンライン服薬指導を受けなくても)、薬剤が手元に届くことになるからです。一方、リアルでアナログな薬局である零売薬局ですが、そこで行われている服薬指導のほうが薬剤師は熱心だし、責任をもってやっている、というのも皮肉な話です。OTC販売では構築できなかった新しい「患者-薬剤師関係」が生まれる可能性もあります。何より、零売は医療機関を受診しない(保険診療ではない)ことで、医療費の削減につながります。国が言う、セルフメディケーション推進の流れにも合っているわけで、風邪や下痢などのコモンディジーズや患者自身も十分に理解している疾患に限っては、零売は「規制」よりも「推進」があるべき形だと考えられます。10月にも岸田 文雄首相を本部長とする「医療DX推進本部」がいよいよ発足します。現状の仕組みをすべてシステムの中に落とし込もうとするのではなく、服薬指導や医療機関受診といった現在のプロセスの中のはしょれる部分を大胆にはしょった上で、新たにシステムを組み直すほうが真のDXになると思いますが、皆さんいかがでしょう。ドラゴンクエストの世界のような、エリザベス女王の国葬をテレビ中継で観ながら、そんなことを考えていた雨の週末でした。参考1)処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について/厚生労働省2)厚生労働省からのご指摘について/一般社団法人日本零売薬局協会

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