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微量元素含有の高カロリー経腸栄養剤「イノラス配合経腸用液」【下平博士のDIノート】第28回

微量元素含有の高カロリー経腸栄養剤「イノラス配合経腸用液」今回は、経口・経管両用の経腸成分栄養剤「イノラス配合経腸用液」を紹介します。本剤は、1袋(187.5mL)で1日に必要なビタミン・微量元素の約3分の1が摂取できるように配合設計された半消化態経腸栄養剤です。経口での栄養摂取が困難または不十分な場合であっても、少量で効率的に栄養を補給することができます。<効能・効果>本剤は、手術後患者の栄養保持、とくに長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給の適応で、2019年3月26日に承認され、2019年6月6日より発売されています。なお、経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食に切り替えます。<用法・用量>通常、成人標準量として、本剤を1日562.5~937.5mL(3~5袋)を経管または経口投与します。経管投与の場合は、投与速度50~400mL/hで持続的または1日数回に分け、経口投与の場合は、1日1回または数回に分けて投与します。なお、年齢、体重、症状により投与量、投与速度を適宜増減します。<副作用>第III相比較試験(検証的試験)の安全性評価対象107例のうち、副作用発現数は11例(10.3%)でした。その内訳は、消化器系の副作用が下痢5例(4.7%)、軟便、便秘各1例(各0.9%)であり、その他は血中ナトリウム減少、血中ブドウ糖増加1例、血中トリグリセリド増加、白血球数増加が各1例(各0.9%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.経口での食事が摂れない場合や通常の食事だけでは十分な栄養が摂れない場合に、必要なエネルギーや栄養分を補うことができます。2.胃ろうや栄養チューブを使って投与する場合、最初は少量から始めてください。3.ヨーグルト風味とりんご風味の2種類がありますので、好みのフレーバーを医師または薬剤師に伝えてください。4.開封前はよく振ってください。開封後、飲む際はコップなどの容器に移し、残った場合はクリップなどで止めて冷蔵庫に保管して、24時間以内に飲みきってください。5.温めて使用する場合は、未開封の状態で70℃未満の湯せんで温めてください。温め過ぎるとタンパク質が変性する恐れがあります。6.下痢、便秘など、おなかの調子が普段と異なる場合は、1回量を減らすなどの調節をしてください。<Shimo's eyes>経腸栄養剤は、経口での食事摂取が困難または不十分な患者さんに使用することで、栄養状態を維持・改善させることができます。一般的にそのような患者さんは、活動性が低く、必要な維持エネルギー量が少ないですが、本剤は3袋(187.5mL×3=562.5mL)で900kcalのエネルギーに加えて、ビタミンと微量元素もほぼ充足できるように配合されています。本剤は高濃度(1.6kcal/mL)の半消化態経腸栄養剤であり、既存のエンシュア、ラコール、エネーボと比較して、同じカロリーを摂取する際の用量が少なくなります。1回量が少ないことで誤嚥のリスクが低減し、さらに運搬・保管も容易というメリットもあります。なお、本剤は濃縮乳蛋白質とカゼインナトリウムを含むため、牛乳アレルギーの患者さんには禁忌です。また、ビタミンK(メナテトレノン)を含むため、ワルファリンを服用中の患者さんでは、相互作用に注意が必要です。経口栄養剤を摂取している患者さんでは、下痢などを引き起こす可能性があるので、服薬指導ではおなかの調子を具体的に確認するようにしましょう。

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宇宙医学研究の成果を高齢者医療に役立てる

 骨密度低下と聞けば高齢者をイメージするが、無重力空間に滞在する宇宙飛行士もそれが問題視されている。しかし、宇宙飛行士と高齢者の骨密度減少の原因と程度にはどのような違いがあるのだろうか? 2019年6月14日、大島 博氏(宇宙航空研究開発機構、整形外科医)が「非荷重環境における骨・筋肉の減少と対策」において、宇宙飛行士に対する骨量減少と筋萎縮の実態と対策について講演した(第19回日本抗加齢医学会総会 シンポジウム2)。高齢者と宇宙飛行士の骨量減少の違いは? 高齢者の骨粗鬆症と30~60歳の宇宙飛行士の骨量減少の原因は異なる。高齢者では加齢によるCa吸収の低下や女性ホルモン減少により骨吸収亢進と骨形成低下から、骨量は年間1~2%ずつ低下する。一方で、宇宙飛行や長期臥床では骨への荷重負荷が減少し、著しい骨吸収亢進と骨形成低下が生じる。そのため、骨粗鬆症とともに尿路結石のリスクも高まる。 宇宙飛行士の大腿骨頚部の骨量を1ヵ月単位でみると、骨密度(DXA法で測定)は1.5%、骨強度(QCT法で測定)は2.5%も減少していた。大島氏は「宇宙飛行士の骨量は骨粗鬆症患者の約10倍の速さで減少する。骨量減少は荷重骨(大腿骨転子部や骨盤など)で高く、非荷重骨(前腕骨など)では少ない」とし、「体力ある宇宙飛行士でも半年間の地球飛行を行うと、帰還後の回復に3~4年も要し、次の飛行前までに回復しないケースもある」と、報告した。宇宙飛行士×ビスフォスフォネート薬 宇宙飛行士の骨量減少を地上で模擬し医学的な対策法の妥当性を検証するため、JAXAは欧州宇宙機関などと共同で“90日間ベッドレスト研究”を実施。この地上での検証結果をもとに、宇宙飛行における骨量減少予防対策としてJAXAとNASA共同による“ビスフォスフォネート剤を用いた骨量減少予防研究”を行った。長期宇宙滞在の宇宙飛行士から被験者を募りアレンドロネートの週1回製剤(70mg)服用群と非服用群に割り付けた。それぞれ、食事療法(宇宙食として2,500kcal、Ca:1,000mg/日と、ビタミンD:800IU/日含む)と運動療法(筋トレと有酸素運動を2時間、週6日)は共通とした。その結果、ビスフォスフォネート剤を予防的に服用すれば、骨吸収亢進・骨量減少・尿中Ca排泄は抑制され、宇宙飛行の骨量減少と尿路結石のリスクは軽減できることが確認された1)。宇宙で1日分の筋萎縮変化は高齢者の半年分 加齢に伴い、60歳以降では2%/年の筋萎縮が生じる。宇宙飛行では、背筋や下腿三頭筋などの抗重力筋が萎縮しやすく、約10日間の短期飛行で下腿三頭筋は1%/日筋肉は萎縮した。同氏は「宇宙で1日分の筋萎縮変化は、臥床2日分、高齢者の半年分に相当する。宇宙飛行士には、専属のトレーナーから飛行前から運動プログラムが処方され、飛行中も週6回、1日2時間、有酸素トレーニングと筋力トレーニングからなる軌道上運動プログラムを実施し、筋萎縮や体力低下のリスクを軽減している。」という2)。宇宙医学は究極の予防医学を実践 「宇宙飛行は加齢変化の加速モデル。予防的対策をきちんと実践すれば、骨量減少や筋萎縮のリスクは軽減できる」とコメント。「骨・筋肉・体内リズムなどは、宇宙飛行士と高齢者に共通する医学的課題であり、宇宙医学は地上の医学を活用して宇宙飛行の医学リスクを軽減している。宇宙医学の成果は、中高年者の健康増進の啓発に活用できる」と地上の医学と宇宙医学の相互性を強調した。「宇宙医学は、ガガーリン時代にサバイバル技術として始まったが、現在は究極の予防医学を実践している。地上の一般市民に対しては、病気を俯瞰して理解し、予防対策の重要性の啓発に利用できる」と締めくくった。

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骨粗鬆症治療薬が筋力を左右する?

 骨粗鬆症治療を受けている患者は骨折リスクだけではなく、筋力の低下も問題である。そんな患者を抱える医師へ期待できる治療法の研究結果を紹介すべく、2019年6月14日、第19回日本抗加齢医学会総会にて宮腰 尚久氏(秋田大学大学院整形外科学講座 准教授)が「骨粗鬆症治療薬による筋力とバランスの変化」について講演した。骨粗鬆症治療薬が筋にも影響? 近年、骨粗鬆症治療薬である活性型ビタミンD3薬において、筋やバランスに対する効果が報告されている。骨粗鬆症治療には、骨折の予防だけではなく、転倒リスクの軽減も求められる。そのため、転倒予防として筋力の低下やバランス障害の改善も視野に入れなければならない。既存の骨粗鬆症治療薬においては、間接的作用として、骨折抑制による廃用予防や鎮痛作用による身体活動の維持が検証されてきた。宮腰氏は、「直接作用である筋・バランスに対する何らかの効果を検証する必要がある」とし、それらの臨床試験が実施された薬物(活性型ビタミンD3、アレンドロネート、ラロキシフェン)を提示した。 ラロキシフェンの場合、閉経後女性に対する投与後の体組成と筋力の変化をみた研究によると、Fat-free massと水分量でプラセボ群と有意な差がみられたが、膝の伸展筋力や握力には有意差がみられなかった。一方で、アレンドロネートを投与すると握力が増える、あるいはサルコペニアのバイオマーカーであるIL-6の減少が報告されているが、この効果を発揮させるためにビタミンDを併用する場合がある。同氏が今回引用した研究1)でも、アレンドロネートにカルシトリオールが併用されており、「筋力とIL-6の変化はビタミンDによる影響が大きい」とコメント。また、海外文献のメタアナリシスより天然型ビタミンD、活性型ビタミンD3で有意な転倒抑制効果があると報告した。日本人の骨粗鬆症患者にもビタミンD併用は有用か? このような海外データを踏まえ、同氏らは活性型ビタミンD3による影響を国内でも検証するために、『多施設共同研究による活性型ビタミンD3薬の転倒関連運動機能に対する効果の検討』を実施。75歳以上の閉経後骨粗鬆症患者のうち、易転倒性を有すると考えられる利き手の握力が18kg未満の患者を対象とし、転倒回数と転倒関連運動機能について6ヵ月間の活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール、アルファカルシドールのみ)投与の介入前後で比較した試験2)を行った。その結果、観察期間から最終評価時において握力と5m歩行速度、Timed up&goテストにおいて有意な改善が得られた。エルデカルシトールではどうか ビタミンDの筋に対する基礎研究から、ビタミンD受容体に作用して筋の同化に関わるジェノミック作用、カルシウム代謝などのさまざまな経路を介するラピッドエフェクト(ノンジェノミック作用)があり、それらをもって筋肉に作用することが明らかになっている。 しかし、エルデカルシトール(ELD)を用いた研究が世界的になされていないことから、同氏らはELDが筋力や動的バランスに有効性を発揮するか否かについて、ラットによる動物実験ののち、臨床試験にて検証。閉経後女性をアレンドロネート35mg/週単独群14例とELD0.75μg/日併用群17例に割り付け、握力、背筋力、腸腰筋力、動的座位バランスなどを測定した。その結果、動的バランス能力、外乱負荷応答の各指標であるTUGテスト、動的座位バランスが改善した。このことから同氏は「ELDは動的バランス能力の改善に寄与している可能性がある」と示唆した。 同氏はビタミンDと運動を併せた動物実験なども行ったうえで、骨粗鬆症治療薬における「ビタミンDの筋に対する効果を期待するためには“運動療法との併用”が実践的かもしれない」と締めくくった。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪市立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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ビタミンDは消化管のがんに有用なのか?(解説:上村直実氏)-1059

 脂溶性ビタミンであるビタミンDはカルシウムとともに骨代謝における重要な役割を担っているが、最近、動物実験において細胞増殖の抑制および細胞死の促進作用を示す成績が報告され、臨床研究においても国立がん研究センターによる住民コホート研究や欧米の観察研究の結果から血中ビタミンD濃度が高値を示す場合はがんの罹患リスクが低下することが報告されており、ビタミンDの補充療法によるがん予防や再発予防効果が期待されている。 今回、ビタミンDの補充に関する介入試験のRCT 2論文がJAMA誌に掲載された。1つは消化管がんの手術後患者を対象として日本で施行されたRCTの結果で、ビタミンDの補充はプラセボ群と比較して、術後の再発に関して統計学的に有意な有効性を示すことができなかった。他方、切除不能大腸がん患者を対象として標準化学療法へのビタミンDの上乗せ効果を検討する目的で米国において施行されたRCTの結果でも、高用量のビタミンDの補充療法は低用量群と比較して大腸がんの増悪抑制効果は認められなかった。すなわち、観察研究の結果からビタミンDの血中濃度とがんのリスクには関連性が疑われるものの、介入試験ではビタミンDの投与ががんの予防や再発抑制に明らかな効果を示すことができなかったといえる。 これら介入試験の結果から認識しなければならないことは、ビタミンDの血中濃度が高い患者はがんのリスクが低いことを示唆している疫学研究の結果は、がんの発症原因やがんの予防効果を証明するものでなく関連性を示すものであることである。観察研究を主体とする疫学研究の結果を解釈する際、病態の原因や疾患の予防効果を論ずることは困難であり、調査因子と疾患の関連性の有無が何に起因するものかを検討する材料とすべきである。一方、介入試験の結果を解釈する際には、研究対象と研究方法に注意すべきである。民族差、性差、年齢など限定された集団における研究成績であることを熟知した解釈が必要である。したがって、コホート研究などの観察研究と介入試験の結果が乖離している、がんに対するビタミンDの影響については、今後、報告された研究結果を慎重に分析したうえでの解釈が必要である。

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第15回 いい油を使おう~身近にある油とその特徴~【実践型!食事指導スライド】

第15回 いい油を使おう~身近にある油とその特徴~医療者向けワンポイント解説脂質は三大栄養素のひとつであり、体内で重要な働きをしています。また、油脂の種類や酸化の状態によっても、カラダに対する影響が異なります。今回は、日常でよく使われる植物油の種類と特徴についてまとめました。油の働き脂質は、9kcal/gと、三大栄養素の中では一番効率的にカロリーを補給できる栄養素です。そのため、「太る」という印象を持っている方が多くいますが、脂質の働きはそれ以外にもあります。細胞膜やホルモンなどの材料になるほか、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を助ける働きもあります。脂肪酸の種類によっては、コレステロールバランスの改善、血流改善、炎症予防などの働きもあります。また、胃への滞在時間が長く、消化に時間がかかるため、油脂を入れた食事のほうが、腹持ちが良く 、便通の改善効果に期待できます。油脂の取り過ぎは肥満を招く要因にもなりますが、いい油を適量摂取することは、カラダを健康に保つための重要なポイントになります。1)キャノーラ油原料はアブラナ(菜の花)の種子。ナタネ油とも呼ばれ、世界でも生産量が多い植物油。透明で無臭のため、いろいろな料理に活用ができ、日本でも一番使われている。人体に悪影響を及ぼすエルカ酸やグルコシノレートが多く含まれていたが、最近では、オレイン酸を多く含むハイオレイックタイプなどが増えている。2)ゴマ油原料はゴマの種子。オレイン酸とリノール酸をそれぞれ40%程度含む。強い抗酸化物質セサミンを含んでいる。焙煎したゴマを使い、精製しないのが茶色のゴマ油。焙煎せずに精製した透明のゴマ油もある。日本では、中華料理、天ぷらなどに用いることが多い。3)ヒマワリ油原料はヒマワリの種子。品種改良されたハイオレイックタイプ(オレイン酸75〜85%)などが流通している。サンフラワーオイルとも呼ばれ、似たような名称のサフラワーオイルと混同しがちだが、サフラワーはベニバナ油をさす。4)エキストラバージンオリーブオイルオリーブの実を絞っただけのものをエキストラバージンオリーブオイルという。精製したオリーブオイルにエキストラバージンオリーブオイルを加え、加工した油をピュアオイルという。オレイン酸を主体とし、酸化に強くコレステロール改善効果が期待できる。独特の風味や色、香りを持ち、ミネラルやポリフェノールを豊富に含む。和食、イタリアン、フランスパンなどと相性が良い。5)グレープシードオイル原料はぶどうの種子。オリーブオイルと混同されがちだが、オレイン酸は20%、リノール酸が70%の割合。ビタミンEがオリーブオイルの2倍以上含まれている。グリーンの天然色素には、ポリフェノールが豊富。クセがなく和食や卵料理にも相性が良い。6)ココナッツオイル原料はココナッツ。ほかの植物油と違い、消化の早い中鎖脂肪酸が含まれ、エネルギーに変換しやすいと話題になった。メインの脂肪酸は肉などに多く含まれる飽和脂肪酸である。また、1gあたりのカロリーは、ほかのものと同じ9kcal。独特の風味があり、カレー、コーヒーやお菓子などと相性が良い。7)エゴマ油原料はシソ科エゴマの種子。体内でDHAやEPAに変換されるオメガ3系脂肪酸を多く含む。血流改善や炎症予防などに効果が期待できる。酸化に弱く加熱調理不可。開封後は早めに使うことが必須。

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「豪華盛り合わせ」のパワーとオトク感(解説:今中和人氏)-1056

 ひと昔前は「80代に心臓手術の適応があるか? ないか?」と真剣に議論されていた(ちなみに結論は「ケース・バイ・ケース」がお約束)が、手術患者は明らかに高齢化しており、そんなのいまや日常的。ただ、高齢者に多い併存症の1つに貧血がある。一方、心臓外科の2割前後はいわゆる「急ぎ」の症例で、その方々は自己血貯血どころではなく、昨今の情勢では待期手術でも、まったりした術前入院など許されない。だから心臓手術の患者に貧血があって、何か即効性のある良いことができないか、というのはきわめて現実的なシナリオである。 本論文は、貧血を男性Hb 13、女性Hb 12(g/dL)未満、鉄欠乏を血清フェリチン100(ng/mL)未満と定義し、スイスのチューリッヒ大学病院での約3年半の開心術(バイパス、弁、バイパス+弁)約2,000例のうち、上記の定義に該当した505例に対する前向き二重盲検試験である。平均年齢は68歳とやや若く、35%が女性。平均BMIは27前後と肥満傾向で、貧血に該当する患者と、鉄欠乏に該当する患者がほぼ同数だったため、術前Hbは12.8~12.9と実はさほど低くなかった。実薬群は、手術前日に20mg/kgの鉄剤の静注、40,000単位のエリスロポエチンαの皮下注、1mgのビタミンB12の皮下注、5mgの葉酸薬の経口投与を行い、対照群にはplaceboを投与した。この投薬の赤血球輸血節減効果(輸血関係の研究だが、例によってFFPと血小板はほぼ無視)と採血データ等が、90日後まで検討された。 輸血基準は術中とICUではHb 7~8未満、ICUを出てからはHb 8未満であった。 この投与量だが、鉄剤は許容最高用量(本邦の用量は40~120mgだが化合物が異なり、比較が難しい)で、エリスロポエチンαは本邦では通常3,000~12,000単位、自己血貯血時のみ24,000単位が許容されていることから、これは相当な大量。ビタミンB12と葉酸も最高用量なので、要するに「豪華盛り合わせ」。上天丼に海老天を2本追加した、ぐらいのイメージである。 結果は、有害事象はなかった。赤血球輸血量は7日時点で実薬群1.5±2.7単位、対照群1.9±2.9単位、90日時点だとそれぞれ1.7±3.2単位(中央値0)、2.3±3.3単位(中央値1)で、ともに有意差がつき、赤血球1単位を節減できたと結論している。ところが赤血球1単位は212.5スイス・フランなのに、「豪華盛り合わせ」のお値段は682スイス・フラン。本稿執筆時点で1スイス・フランは108.57円なので、約51,000円の赤字である。 さらに貧血と鉄欠乏と区別してサブグループ解析すると、貧血患者では同様の輸血節減効果がある(ただしn数減少のため有意差は消滅)が、鉄欠乏患者では7日時点での輸血量が実薬群1.0±2.2単位、対照群1.3±2.8単位、90日時点でそれぞれ1.1±2.5単位(中央値0)、1.7±3.1単位(中央値0)と差がなく、薬価分74,000円はほぼ完全な「持ち出し」になった。著者らは、実薬群では後日のHbが上がっているから、この増加分を金銭換算すると赤字は相殺される、と、なかなか苦しい主張を展開しているが、少なくともオトク感は皆無に近い。おまけに本邦では保険も通らない。 エリスロポエチンの効果が出始めるのに2~3日はかかるといわれているのを、本論文は前日の投与でもなにがしかの違いがあることを示したわけで、立派な成果だとは思う。しかしHb 9以下など高度貧血では輸血はどだい不可避で、今回のように大柄な患者さんでちょっと貧血、なんていう場合に無輸血でいける可能性が上がる、という程度のパワーである。少々コスパが悪くても輸血合併症が多ければ輸血量削減の意義は大きいし、心臓外科医は私も含め輸血に関してPTSD状態で、つい無輸血にこだわってしまうが、日赤はじめ関係各位にあらためて感謝すべきことに、近年の深刻な輸血合併症は素晴らしく低率である(「PTSD心臓外科医のこだわりと肩すかし」)。 今回の造血薬「豪華盛り合わせ」のお金は、膨らむ一方の医療費の節減か、食の「豪華盛り合わせ」でないまでも、別の使途に振り向けたほうがよろしいのではないだろうか。

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新生児アトピー予防戦略、ビタミンD補給よりも紫外線曝露

 ビタミンDとアトピー性疾患の関連はさまざまに取り上げられている。オーストラリア・西オーストラリア大学のKristina Rueter氏らは、新生児におけるビタミンD補給による湿疹および免疫能への効果を明らかにするため、二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施。その結果、ビタミンD補給と湿疹罹患率との間に有意な関連はみられなかった。一方で、一部の対象児について行った紫外線曝露量との関連評価(非無作為の探索的解析)から、その曝露量が多い児では湿疹罹患率が低く、炎症誘発性免疫マーカー値が低値であったことを報告した。著者は今回の検討は紫外線量と湿疹罹患率などの関連を初めて明らかにしたものだとしたうえで、「生まれて間もない時期のアレルギー予防策として、紫外線曝露がビタミンD補給よりも有益と思われることを示すものである」とまとめている。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌2019年3月号掲載の報告。 試験は西オーストラリア州の州都パース(南緯32度[日本では鹿児島県が北緯32度])で、第一度近親者(両親・兄弟)がアトピー性疾患を有し、37週以降に生まれた生後28日未満の児を集めて行われた。 被験児は、ビタミンD(介入)群(400IU/日)またはプラセボ(ココナッツおよびパーム核油)群に無作為に割り付けられ、生後6ヵ月まで投与が行われた。 また、非無作為に選択した一部の被験児にパーソナルUV線量計を割り当て、生後3ヵ月までの紫外線(290~380nm)曝露量を測定した。 ビタミンDレベルを生後3ヵ月と6ヵ月時点で、湿疹および喘息ならびに免疫機能については6ヵ月時点で評価した。 主な結果は以下のとおり。・2012年10月9日~2017年1月23日の期間に計195例(介入群97例、プラセボ群98例)が参加し、そのうち紫外線曝露量の測定は86例に行われた。・ビタミンD値は、介入群がプラセボ群よりも、生後3ヵ月(p<0.01)、6ヵ月時点(p=0.02)いずれにおいても有意に高値だった。・いずれの評価時点においても、湿疹罹患率に差は認められなかった(3ヵ月:介入群10.0% vs.プラセボ群6.7%、6ヵ月:21.8% vs.19.3%)。・紫外線曝露量が測定された被験児において、湿疹を呈した児は呈さなかった児よりも、紫外線曝露量が有意に少量であった(中央値555J/m2[四分位範囲:322~1,210]vs.998J/m2[676~1,577]、p=0.02)。・また、TLRリガンドを介したサイトカイン(IL-2、GM-CSF、eotaxin)産生と紫外線曝露量に逆相関の関連が認められた。

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国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」【下平博士のDIノート】第25回

国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」今回は、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アンタゴニスト製剤「レルゴリクス錠(商品名:レルミナ錠40mg)」を紹介します。本剤は、フレアアップ現象を生じることなく子宮筋腫に基づく諸症状を改善する国内初の経口薬です。<効能・効果>本剤は、子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月1日より発売されています。また、2021年12月に「子宮内膜症に基づく疼痛の改善」の適応が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはレルゴリクスとして40mgを1日1回食前に経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。本剤の投与によって、エストロゲン低下作用に基づく骨塩量の低下がみられることがあるので、6ヵ月を超える投与は原則として行われません。<副作用>国内第III相試験で認められた主な副作用は、不正子宮出血(46.8%)、ほてり(43.0%)、月経異常(15.5%)、頭痛、多汗、骨吸収試験異常(各5%以上)などでした。なお、重大な副作用としてうつ状態(1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、狭心症(1%未満)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、下垂体に作用して卵巣からの女性ホルモンの分泌を低下させることで、子宮筋腫に基づく過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの症状を改善します。2.初回は、月経が始まった日から5日目までの間に服用を開始してください。3.食後の服用では薬の効き目が低下するため、食事の30分以上前に服用してください。4.この薬を服用している間はホルモン性避妊薬以外の方法で避妊をしてください。5.長期に使用すると骨塩量が低下することがあるため、日ごろから適度な運動を心がけ、カルシウムやビタミンD、ビタミンKを含む食材を積極的に取りましょう。6.気分が憂鬱になる、悲観的になる、思考力が低下する、眠れないなど、うつ様の症状が現れた場合にはご連絡ください。7.女性ホルモンの低下によって、ほてり、頭痛、多汗などの症状が現れることがあります。症状がつらいときはご相談ください。<Shimo's eyes>従来、子宮筋腫の薬物療法としてGnRHアゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリン注)やブセレリン酢酸塩(同:スプレキュア皮下注/点鼻液)などが用いられています。GnRHアゴニストは、下垂体前葉にあるGnRH受容体を継続的に刺激することで本受容体を減少させ、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制させます。投与開始初期にはFSHやLH分泌が一過性に増加するため、不正性器出血や月経症状の増悪などのフレアアップ現象が生じやすいことが知られています。これに対しGnRHアンタゴニスト製剤である本剤は、GnRH受容体を選択的に阻害することでFSHとLHの分泌を抑制します。このため、投与開始初期であってもフレアアップ現象を生じることなく女性ホルモンであるエストラジオールおよびプロゲステロンの産生を低下させます。本剤は1日1回服用の経口薬であり、子宮筋腫に伴う諸症状に悩んでいる患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待できます。投与に当たっては、妊娠中や授乳中でないかを確認するとともに、服用タイミングなどの指導をしっかり行ってこまめに経過を観察するようにしましょう。※2021年12月の添付文書改訂に伴い、一部内容の修正を行いました。

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貧血/鉄欠乏の心臓手術患者、術前日の薬物治療で輸血量減少/Lancet

 鉄欠乏または貧血がみられる待機的心臓手術患者では、手術前日の鉄/エリスロポエチンアルファ/ビタミンB12/葉酸の併用投与により、周術期の赤血球および同種血製剤の輸血量が減少することが、スイス・チューリッヒ大学のDonat R. Spahn氏らの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年4月25日号に掲載された。貧血は、心臓手術が予定されている患者で高頻度に認められ、赤血球輸血量の増加や、死亡を含む有害な臨床アウトカムと関連する。また、鉄欠乏は貧血の最も重要な要因であり、鉄はエネルギーの産生や、心筋機能などの効率的な臓器機能に関与する多くの過程で中心的な役割を担っている。そのため、貧血と関連がない場合であっても、術前の鉄欠乏の治療を推奨する専門家もいるという。術前の超短期間の薬物併用治療による、輸血量削減効果を評価 本研究は、術前の超短期間の薬物併用投与による、周術期の赤血球輸血量の削減と、アウトカムの改善の評価を目的に、単施設(チューリッヒ大学病院臨床試験センター)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験であり、2014年1月9日~2017年7月19日に患者登録が行われた(Vifor Pharmaなどの助成による)。 対象は、貧血(ヘモグロビン濃度が、女性は<120g/L、男性は<130g/L)または鉄欠乏(フェリチン<100mcg/L、貧血はない)がみられ、待機的心臓手術(冠動脈バイパス術[CABG]、心臓弁手術、CABG+心臓弁手術)が予定されている患者であった。 被験者は、手術の前日(手術が次週の月曜日の場合は金曜日)に、カルボキシマルトース第二鉄(20mg/kg、30分で静脈内注入)+エリスロポエチンアルファ(40,000U、皮下投与)+ビタミンB12(1mg、皮下投与)+葉酸(5mg、経口投与)を投与する群(併用治療群)またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、手術施行日から7日間の赤血球輸血とした。赤血球輸血コストは低いが、総コストは高い 修正intention-to-treat集団は484例であった。243例(平均年齢69歳[SD 11]、女性35%)が併用治療群に、241例(67歳[12]、34%)はプラセボ群に割り付けられた。 手術日から7日間の赤血球輸血中央値は、併用治療群では0単位(IQR:0~2)であり、プラセボ群の1単位(0~3)に比べ、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.036)。また、術後90日までの赤血球輸血も、併用治療群で有意に少なかった(p=0.018)。 輸血された赤血球の単位が少なかったにもかかわらず、併用治療群はプラセボ群に比べ、術後1、3、5日のヘモグロビン濃度が高く(p=0.001)、網赤血球数が多く(p<0.001)、網赤血球ヘモグロビン含量が高かった(p<0.001)。 新鮮凍結血漿および血小板輸血量は、術後7日および90日のいずれにおいても両群で同等であったが、同種血製剤の輸血量は術後7日(0単位[IQR:0~2]vs.1単位[0~3]、p=0.038)および90日(0[0~2]vs.1[0~3]、p=0.019)のいずれにおいても併用治療群で有意に少なかった。 術後90日までの赤血球輸血の費用は、併用治療群で有意に安価であったが(中央値0スイスフラン[CHF、IQR:0~425]/平均値370 CHF[SD 674]vs.231 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p=0.018)、薬剤費を含む総費用は、併用治療群で有意に高額であった(682 CHF[682~1,107]/1,052 CHF[674]vs.213 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p<0.001)。 副次アウトカムは、重篤な有害事象(併用治療群73例[30%]vs.プラセボ群79例[33%]、p=0.56)および術後90日までの死亡(18例[7%]vs.14例[6%]、p=0.58)を含め、そのほとんどで両群に有意差はみられなかった。 著者は、「待機的心臓手術を受ける患者では、ヘモグロビンと鉄のパラメータをルーチンに測定し、手術前日であっても貧血/鉄欠乏への併用薬物治療を考慮する必要がある。この点は、急性心イベントから数日以内に行われる待機的心臓手術の割合が増加している現状との関連で、とくに重要と考えられる」としている。

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応援歌で前向きに生きる乾癬の患者

 2019年4月9日、アッヴィ合同会社は、ミュージシャン・音楽プロデューサーとして人気を博すヒャダインこと前山田 健一氏とのコラボレーションにより完成した乾癬患者への応援ソング『晴れゆく道』の発表を記念し、都内においてメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、最新の乾癬診療の概要や今回の応援ソング制作の経緯などが説明された。なお、前山田氏も乾癬患者として現在、治療を受けている。患者は身体だけでなく心にもダメージ はじめに「乾癬を取り巻く社会問題と乾癬治療のパラダイムシフト」をテーマに多田 弥生氏(帝京大学医学部皮膚科学講座 主任教授)が乾癬の診療について説明した。 乾癬は、紅斑、皮膚の肥厚、鱗屑を主症状とする慢性の炎症性疾患で、時に皮膚の痒みや痛みを伴うほか、関節の腫れ、関節破壊を合併することもある。わが国には、約43万人の患者が推定され、初診時の平均年齢は56.7歳、男性に多いとされる。好発部位は、被髪頭部、四肢伸側、腰臀部で、紫外線が当たる顔面には症状が現れにくいとされる。また、本症は外見に関わる身体症状から多くの患者は、精神的なQOLの障害も抱えているという。 重症度の評価では、BSA(Body Surface Area)などの評価基準で重症度が判定され、治療が行われる。広く、長く効果が持続するリサンキズマブ 本症の治療では、活性型ビタミンD、ステロイドなどの外用療法を基本に、重症度に応じて光線療法、シクロスポリン(カルシニューリン阻害薬)、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、レチノイドなどの内服療法、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブなど7つの生物学的製剤による注射・点滴薬の治療が現在行われている。その一方で、アドヒアランス不良、効果の持続性、経済的な負担などの問題から、安全に長期間効果が持続する治療薬の登場が患者から望まれていた。 そうした声をうけ、本年3月にリサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注)が登場した。リサンキズマブは、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症を対象に、1回150mgを初回に、4週後、以降12週間隔で皮下投与する治療薬である(患者の状態に応じて1回75mgを投与することができる)。広い対応疾患と長い効果、皮下注という短時間の治療という特徴をもつ。 その効果について国際共同第III相臨床試験(UltIMMa-2試験)でリサンキズマブ(n=294)、ウステキヌマブ(n=99)、プラセボ群(n=98)を16週と52週時のPASI(乾癬の活動性・重症度評価)90の達成率で比較した場合、16週時点でリサンキズマブでは75%、ウステキヌマブでは47%、プラセボ群では2%だった。また、52週ではリサンキズマブは81%、ウステキヌマブでは51%とリサンキズマブは有意に改善を示した。安全性につき有害事象として、上気道感染などがみられたが、死亡にいたる重篤なものは報告されなかった。 同氏は今後の乾癬治療について「PASIのさらなる達成を実現するともに、治療薬の用法の改善、患者の要望の実現を目指したい」と展望を語った。患者会が患者の孤立を救う 後半では、「患者からの声」ということで「乾癬患者さんの精神的負担とアンメットニーズ」をテーマに2名の患者が登壇し、乾癬発症から現在までの悩みや医療者への要望を語った。 乾癬にかかると「自己肯定感」が低くなり、前向きに人生を歩もうという気がなくなるという。しかし、こうした気持ちが改善されるきっかけとなったのが患者会であり、「診療情報の共有化や孤立しないことで、患者が前向きになれる」と語る。最後に今後の診療への要望として、生物学的製剤の副作用、治療抵抗性への対応、薬価改善などを挙げ、「とくにコストに見合った効果を望む」と希望を述べた。 つづいて前山田氏が乾癬患者さんから募集した「夢ツイート」を基に制作した、乾癬患者さん応援ソング『晴れゆく道』を発表し、自身の疾患の体験談や楽曲に込めた想いを語った。

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第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!【実践型!食事指導スライド】

第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!医療者向けワンポイント解説タンパク質摂取の必要性と手軽に食べられる高タンパク質の食品について、前2回(第12回、第13回)でお伝えしてきました。食事バランスの中で、摂取が最も過多になりがちな栄養素は、手軽に食べられる米飯、パン、麺類などの「炭水化物」です。一方で、不足しがちな栄養素の中で多くの方が意識しているのは、ビタミンやミネラル、食物繊維が摂取できる「野菜」です。しかし、タンパク質が豊富な肉や魚、卵、大豆製品などは、食べる習慣のある方とない方に大きく分かれるため、食習慣によって摂取を進めるのか、脂質過多に気をつけてもらうべきかが分かれてきます。それほど不足していない場合でも、「肥満があり、摂取量を調整したい」など、ダイエットを目的とする場合でも、良質なタンパク質を見直すことは、食欲を正常化させ、脂質量を抑えることにも役立ちます。今回は、コンビニやスーパーなどで手軽に買える豆腐の簡単アレンジについて、ご紹介します。種類豊富な豆腐の中でも、コンビニなどで多く見かける3連パックの豆腐は、水切り不要なものが多く、手軽にサラダなどとも組み合わせることができる便利で良質なアイテムです。しかし、豆腐というと、そのまま冷奴として食べることが多くなり、毎日は飽きる、冷たいのでカラダが冷えるという意見もよく聞かれます。豆腐や納豆などは良質なタンパク質であるほか、大豆ペプチドには、血圧を下げる効果や大豆ファースト(食事の最初に大豆を食べること)により血糖値の上昇を抑制する効果があることもわかっていますので、積極的に食べたい食品です。「コンビニ食材のみで作ることができ、1)調理不要、2)器1つ、3)レンチン*でできる」手軽で満足感のある上手な豆腐の食べ方を3つご紹介しますので、ぜひ、毎日のメニューに加えてみてください(*電子レンジでチンするという意)。大きなポイントは、豆腐を温める「温奴」にすることです。これは、湯豆腐ではなく、電子レンジなどで温めるだけで大丈夫です。温かい食材は、冷たい食材よりも同じカロリーでも食べた満足度がぐっと上がります。◎スープ耐熱カップに、豆腐、市販のスープのもと(今回は、お吸い物のもと)、刻み青ネギ、レトルトのもち麦を加え、湯を注ぎ入れる。電子レンジで30秒ほど加熱すると、満足度の高いスープ雑炊の完成です。スープのもとはお好みで変えてもらうことで、毎日でも飽きずに食べることができます。◎副菜耐熱皿に、豆腐、冷凍野菜、チーズや明太子、しらすなどをふりかけて電子レンジで50秒ほど加熱します。ボリュームアップでき、食べたときの満足度が上がります。低脂肪にしたいけれど、ボリュームが欲しい方にもオススメです。◎デザート深めの耐熱皿に、豆腐、豆乳をかけ、電子レンジで30秒加熱をします。あんこをのせれば、ヘルシーなデザートのでき上がりです。黒蜜やシロップ、バニラアイスなどでも美味しく食べることができます。いかがでしたでしょうか? 手軽に購入できる3連豆腐パックを活用して、手軽に栄養バランスアップをしてみましょう。

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家族性アミロイドポリニューロパチー〔FAP: familial amyloid polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、代表的な遺伝性全身性アミロイドーシスである1,2)。組織の細胞外に沈着したアミロイドは、コンゴレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を生じる。電子顕微鏡で観察すると、直径8~15nmの枝分かれのない線維状の構造物として観察される。現在までに、36種類以上の蛋白質がヒトの体内でアミロイド沈着を形成する蛋白質として同定されている3)。FAPを生じるアミロイド前駆蛋白質として、トランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポリポ蛋白質A-Iが知られているが、大部分のFAP患者は、TTRの遺伝子変異によるため、以下はTTRを原因とするFAP(TTR-FAP)に関して概説する。近年、国際アミロイドーシス学会は、TTR-FAPに代わる病名として「遺伝性TTR(ATTRv)アミロイドーシス」の使用を推奨しているが3)、わが国ではFAPの病名が現在も使用される場合が多いため、本稿ではFAPの病名を用いて概説する。本疾患の原因分子であるTTRは、主に肝臓から産生され血中に分泌される血清蛋白質である。その他のTTR産生部位として、脳脈絡叢、眼の網膜色素上皮、膵臓ランゲルハンス島のα細胞が知られている。血中に分泌された本蛋白質は、127個のアミノ酸から構成されるが、豊富なβシート構造を持つことにより、アミロイド線維を形成しやすいと考えられている。TTR遺伝子には150種類以上の変異型が報告されており、その大部分がFAPの病原性変異として同定されてきた。TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が、最も高頻度に認められる1,2)。生体内では、通常TTRは四量体として機能し、四量体の中心部には1分子のサイロキシン(T4)が強く結合し、T4の運搬を担っている。また、TTRはレチノール結合蛋白質との結合を介して、ビタミンAの輸送も担っている。■ 疫学以前はFAP ATTR Val30Metの大きな家系が、ポルトガル、スウェーデン、日本(熊本県と長野県)に限局して存在すると考えられていたが、近年、世界各国からFAP ATTR Val30Met患者の存在が確認されている1,2)。また、明確な家族歴がなく高齢発症のFAP が日本各地から報告されており4)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄症などの非遺伝性末梢神経障害の鑑別疾患として本症を考えることが重要である。スウェーデンでは、FAP ATTR Val30Met遺伝子保因者の3~10%しか発症しないことが知られているが、わが国においても、TTR遺伝子に変異を持ちながら、終生FAPを発症しない症例も存在する。Val30Met以外の変異型TTRによるFAPもわが国から多く報告されている(図1)。わが国の疫学調査の結果では、国内の推定患者数は約600人であるが、的確に診断されていない症例が多く存在する可能性がある。画像を拡大する■ 病因TTRに遺伝子変異が生じると、TTR四量体が不安定化し、単量体へと解離することが、アミロイド形成過程に重要であると、in vitroの研究で示されている。しかし、アミロイドがなぜ特定の部位に沈着するのか、どのように細胞や臓器の機能を障害するのかは、明らかにされていない。アミロイド線維を形成するTTRの一部は断片化されており、アミロイド線維形成への関与が議論されている。■ 症状1)神経症状末梢神経障害は、軸索障害が主体で神経軸索が細胞体より最も遠い両下肢遠位部の症状が初発症状となる場合が多い。また、神経症状は一般に自律神経、感覚(温痛覚低下)、運動(両側末梢優位)の順で症状が出現することが多い。これは、アミロイド沈着により小径無髄線維から大径有髄線維の順に障害が進行するためと考えられている。病初期には、下肢末梢部である足首以下で、温痛覚の低下を認めるが触覚は正常である解離性感覚障害を認める場合が多い。温痛覚障害のため、足の火傷や怪我に患者本人が気付かない場合がある。筋萎縮、筋力低下など運動神経障害は、感覚障害より2~3年遅れて出現する場合が多いが、まれに運動神経障害が主体で感覚障害が軽い症例もある。進行期には、高度の末梢神経障害による四肢の感覚障害と筋力低下や呼吸筋麻痺などを呈する。アミロイド沈着による手根管症候群を呈する場合がある。とくに家族歴が明らかでない症例では、病初期にCIDP、糖尿病性ニューロパチー、腰部脊柱管狭窄症などと誤診されることが多く、注意が必要である。症例によっては、脳髄膜や脳血管のアミロイド沈着による意識障害や脳出血など中枢神経症候を呈する場合がある。2)消化器症状重度の交代性下痢便秘や嘔気などの消化管症状が出現する。末期には持続性の下痢となり、吸収障害や蛋白質の漏出も生じる。3)循環器系障害早期より自律神経障害による起立性低血圧や、アミロイド沈着による房室ブロック、洞不全症候群、心房細動などの不整脈が生じる。心筋へのアミロイド沈着により心不全を生じ、心室の拡張障害が収縮障害に先行すると考えられている。TTR変異型により心症候が主体で、末梢神経障害が目立たないタイプがある。4)眼症状変異型TTRは肝臓のみならず網膜からも産生されており、アミロイド沈着による硝子体混濁はFAP患者に多く認められる。硝子体混濁が本症の初発症状である症例もある。前眼部へのアミロイド沈着による緑内障を来し、進行すると失明の原因となる。また、涙液分泌低下によるドライアイも生じる。5)腎障害アミロイド沈着によるネフローゼ症候群や腎不全を呈するが、症例によりその程度は異なる。病初期には目立たない場合が多い。■ 分類TTR変異型により症候が異なる場合がある。アミロイドポリニューロパチー(末梢神経障害)が主体となるタイプ(Val30Metなど)、心アミロイドーシスにより不整脈や心不全が主体となるタイプ(Ser50Ile、Thr60Alaなど)、脳髄膜・眼アミロイドーシスにより一過性の意識障害や脳出血、白内障や緑内障が強く生じるタイプ(Ala25Thr、Tyr114Cysなど)がある。また、同じATTR Val30Metを持つFAP患者でも、ポルトガルでは若年発症(20~30代で発症)が多く、スウェーデンでは高齢発症(50歳以降)が多い。わが国でも、本疾患の集積地である熊本や長野のFAP患者は若年発症が多いが、他の地域では高齢発症で家族歴が確認できない症例が多く、70歳以降の発症も少なくない。■ 予後未治療の場合は、発症からの平均余命は若年発症のFAP ATTR Val30Metは約10~15年1)、高齢発症のFAP ATTR Val30Metは約7年4)である。進行期には、呼吸筋麻痺、重度の起立性低血圧、心不全、致死的な不整脈、ネフローゼ症候群、腎不全、蛋白漏出性胃腸症、重度の緑内障などを呈する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断基準を表に示す。病初期に各治療法の効果が高いため、早期診断、早期治療が重要である。臨床症候や各種の臨床検査により本症が疑われる場合には、生検によりアミロイド沈着を検索すること、および専門施設に依頼し、免疫組織化学染色や質量分析法でTTRがアミロイドの構成成分であることを確認する必要がある(図2)。生検部位は、侵襲度の比較的低い消化管(胃、十二指腸、直腸)、腹壁脂肪、口唇の唾液腺、皮膚などが選択されるが、病初期にはアミロイド沈着が検出されない場合もある。本症の疑いが強い場合は、繰り返し複数部位からの生検を行うことが重要である。また、前述の部位からアミロイド沈着が確認できない場合は、障害臓器である末梢神経や心筋からの生検も考慮する必要がある。TTRがアミロイド原因蛋白質として同定された場合は、野生型TTRが非遺伝性に生じる老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(野生型TTR[ATTRwt]アミロイドーシス)との鑑別のため、遺伝子検査や血液中TTRの質量分析によりTTR変異の解析を必ず行う(図3)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAPに対する治療は、近年、劇的に進歩している。長く実施されてきた肝移植療法に加えて、TTR四量体の安定化剤であるタファミジス(商品名: ビンダケル)が、国内でも2013年9月に希少疾病用医薬品として承認され、現在、本疾患に対し広く使用されている。また、核酸医薬によるTTR gene silencing療法の国際的な臨床試験が終了し、良好な結果が得られている。図4にFAPに対する治療法を研究中のものを含めて示した。画像を拡大する■ 肝移植療法本疾患の病原蛋白質である変異型TTRの95%以上が肝臓で産生されていることから、1990年にスウェーデンで本疾患に対する治療法として肝移植が初めて行われ、その有効性が示されてきた5)。FAP患者の血液中の変異型TTRは、正常肝が移植された後に速やかに検出感度以下まで低下する。しかし、肝移植で本疾患が完全に治癒するわけではなく、末梢神経障害を含めて、症候の大部分は移植後も残存する。また、発症から長期間経過し、病態が進行した症例や、高齢患者、BMIが低値(低栄養状態)であると、移植後の予後が不良であるため、肝移植が実施できない場合も少なくない。そして、症例によっては、肝移植後も症候(とくに心アミロイドーシス)が進行するケースもある。眼の網膜色素上皮細胞や脳脈絡叢からは、肝移植後も継続して変異型TTRが産生され続けているため、眼や脳・脊髄では、肝移植後も変異型TTRによるアミロイドが形成され、症候も悪化する症例が報告されている。他の治療法が開発されたことにより、本症に対する肝移植の実施数は減少傾向にある。■ TTR四量体安定化剤(タファミジス)TTR四量体が不安定となり単量体へと解離することが、TTRのアミロイド形成過程に重要な過程と考えられている。TTR四量体の安定化作用を持つ薬剤が、本症の新たな治療薬として研究開発されてきた。非ステロイド系抗炎症薬の1つであるジフルニサルなどにTTR四量体の安定化作用が確認され、本症の末梢神経障害に対する進行抑制効果が確認された6)。ジフルニサルには、非ステロイド系抗炎症薬が元来持つCOX阻害作用があり、腎障害などの副作用が出現する可能性が想定されたため、COX阻害作用を持たずにTTR四量体のより強い安定化作用を示す新規化合物としてタファミジスが新たに開発された。本薬剤の国際的な臨床治験が実施され、生体内でもTTR四量体を安定する作用が確認されるとともに、末梢神経障害の進行を抑制する効果が確認されている7)。また、心症候に対する効果も報告された8)。わが国では2013年9月に本症による末梢神経障害の進行抑制目的で承認されている。■ 核酸医薬(TTR gene silencing療法)9, 10)Small interfering RNA(siRNA)9) やアンチセンスオリゴ(ASO)10) を用いて、肝臓におけるTTRの発現抑制を目的としたgene silencing療法の開発が行われ、強いTTR発現抑制効果と良好な治療効果が確認されている9, 10)。これらのgene silencing療法では、変異型TTRに加えて、野生型TTRの発現抑制も標的としている。これらの治療法は、今後、本疾患に対する標準的な治療法となることが期待されている。■ その他の研究段階の治療法前述のごとく、肝移植療法の実施やTTR四量体安定化剤の臨床応用、gene silencing療法によるTTR発現抑制法の開発など、本疾患に対する治療法は近年急激に発展しているが、いずれもアミロイド原因蛋白質であるTTRの発現抑制および安定化を標的としており、沈着したアミロイドを除去する治療法は確立していない。さらなる治療法の改善を目指して、図4に示した方法をはじめとした多くの治療法の開発が精力的に行われている。■ 対症療法本症では、心伝導障害の進行は必発であるため、I度房室ブロックの段階でペースメーカーの植え込みを考慮する場合がある。致死的な不整脈が発生する場合には、植込み型除細動器を積極的に検討する必要がある。起立性低血圧に対して、弾性ストッキングや腹帯の使用を考慮する。手根管症候群に対しては、手術療法を考慮する。眼アミロイドーシスによる白内障や緑内障に対しても手術療法が必要となる。そのほかにも、自律神経症状や消化管症状、心不全などに対して内服薬による対症療法を試みるが、十分な効果が得られない場合が少なくない。4 今後の展望肝移植療法がFAPに対して実施され始めて28年以上が経過し、その有効性とともに治療法としての限界や関連する問題点が明らかになってきた。TTR四量体の安定化剤が臨床応用され、広く使用されるにつれて、本症に対する肝移植実施数は減少傾向にある。また、肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬によるgene silencing療法の臨床治験で良好な結果が得られ、わが国でも承認が待ち望まれる。これらの治療法の長期的な効果に関しては、まだ不明な点が多く残されているため、長期予後に関する調査が必要である。さらに、すでに組織に沈着したアミロイド線維を除去できる根治療法の研究開発が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、循環器内科、眼科、移植外科、消化器内科、腎臓内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(日本神経学会)(医療従事者向け診療情報)難病情報センター:全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 大学院生命科学研究部 脳神経内科学分野(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)信州大学 医学部第3内科 アミロイドーシス診断支援サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(Pub Med)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)GeneReviews(日本語版)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)FAP WTR(FAPに対する肝移植に関する国際的レジストリ)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)THAOS(TTRアミロイドーシスの自然経過に関する国際的調査)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)The Registry of Mutations of Amyloid Proteins(TTR変異の国際的レジストリ)(医療従事者向けの研究情報)OMIM(医療従事者向けの診療・研究のレビュー情報)日本アミロイドーシス学会(医療従事者向けの研究情報)国際アミロイドーシス学会(ISA)(医療従事者向けの研究情報)厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究」班(医療従事者向けの研究情報)患者会情報道しるべの会 second step あゆみ ブログ(患者のブログ)1)Ando Y, et al. Arch Neurol. 2005;62:1057-1062.2)Ueda M, et al. Transl Neurodegener. 2014;3:19.3)Benson MD, et al. Amyloid. 2019 [Epub ahead of print]4)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83:152-158.5)Yamashita T, et al. Neurology. 2012;78:637-643.6)Berk JL, et al. JAMA. 2013;310:2658-2667.7)Coelho T, et al. Neurology. 2012;79:785-982.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med, 2018;379:1007-1016.9)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.10)Benson MD, et al. N Engl J Med. 2018;379:22-31.公開履歴初回2013年08月08日更新2019年04月23日

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大腸がん治療へのビタミンD補充、高用量 vs.標準用量/JAMA

 切除不能大腸がんの治療における標準化学療法へのビタミンD3補充療法の併用では、高用量は標準用量と比較して無増悪生存を改善しないことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のKimmie Ng氏らが行ったSUNSHINE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年4月9日号に掲載された。転移を有する大腸がんの前向き観察研究により、血漿25ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)値が高いほうが、生存は良好と報告されている。この知見を確証するための無作為化試験の実施が求められていた。高用量のPFS改善効果を評価する米国の無作為化第II相試験 本研究は、米国の11施設で行われた多施設共同二重盲検無作為化第II相試験であり、2012年3月~2016年11月の期間に患者登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、病理学的に確認された切除不能な局所進行または転移を有する大腸腺がんの患者139例(平均年齢56歳、女性43%)であった。全例に、修正FOLFOX6(mFOLFOX6)+ベバシズマブが、14日(1サイクル)ごとに投与された。これらの患者が、ビタミンD3の高用量(69例)または標準用量(70例)を投与する群に無作為に割り付けられた。 高用量群には、1サイクル目に8,000IU/日(4,000IUカプセルを2つ)を投与し、その後のサイクルでは4,000IU/日を投与した。標準用量群には、全サイクルで400IU/日(400IUカプセル1つとプラセボカプセル1つ)を投与した。治療は、病勢進行、耐用不能な毒性、同意撤回のいずれかが発生するまで継続した。 主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)とした。副次エンドポイントには、客観的奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、血漿25(OH)D値の変化が含まれた。25(OH)D値は高用量群で有意に高い 全体のフォローアップ期間中央値は22.9ヵ月であった。両群とも、ビタミンD3の服用率の中央値は98%で、アドヒアランスは高かった。 PFS期間中央値は、高用量群が13.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~14.7)、標準用量群は11.0ヵ月(9.5~14.0)であり、有意な差は認めなかった(非補正log-rank検定p=0.07)。多変量ハザード比(HR)は0.64(0~0.90、p=0.02)であり、有意差が認められた。 ORR(高用量群58%vs.標準用量群63%、差:-5%、95%CI:-20~100、p=0.27)およびOS期間中央値(24.3 vs.24.3ヵ月、log-rank検定p=0.43)にも、両群に有意差はみられなかった。 ベースラインの25(OH)Dの中央値は、高用量群が16.1ng/mL、標準用量群は18.7ng/mLであり、有意差はなかった(差:-2.6ng/mL、95%CI:-6.6~1.4、p=0.30)。1回目の病期再評価時(4サイクル終了時、約8週後)には、高用量群で有意に高値となり(32.0ng/mL vs.18.7ng/mL、差:12.8ng/mL、95%CI:9.0~16.6、p<0.001)、2回目の病期再評価時(8サイクル終了時、約16週後、35.2ng/mL vs.18.5ng/mL、16.7ng/mL、10.9~22.5、p<0.001)および治療終了時(34.8ng/mL vs.18.7ng/mL、16.2ng/mL、9.9~22.4、p<0.001)も、高用量群で有意に高い値を示した。 化学療法+ビタミンD3による最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、両群とも好中球減少(高用量群35% vs.標準用量群31%)と高血圧(13% vs.16%)であった。Grade 3以上の下痢は高用量群で少なかった(1% vs.12%)。ビタミンD3関連の可能性がある有害事象として、高リン血症(高用量群の1例)と腎臓結石(標準用量群の1例)がみられたが、高カルシウム血症は認めなかった。 著者は、「これらの知見は、より大規模な多施設共同無作為化臨床試験によって、さらに検討を進めることを正当化するものである」としている。

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消化管がんの2次予防にビタミンD補充は有効か/JAMA

 消化管がんの2次予防において、ビタミンD補充はプラセボと比較して、5年無再発生存率を改善しないことが、東京慈恵会医科大学の浦島 充佳氏らが実施したAMATERASU試験で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年4月9日号に掲載された。消化管がんの2次予防では、ビタミンD補充の有用性を示唆する観察研究の報告があり、無作為化試験の実施が求められていた。術後ビタミンD3補充の有用性を評価する日本の無作為化試験 本研究は、消化管がんにおける術後ビタミンD3補充療法の有用性の評価を目的に、単施設(国際医療福祉大学病院)で行われた二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(国際医療福祉大学病院と東京慈恵会医科大学の助成による)。 対象は、年齢30~90歳、Stage I~IIIの消化管がん(食道から直腸まで)の患者であった。被験者は、ビタミンDカプセル(2,000IU/日)またはプラセボを経口投与する群に、3対2の割合で無作為に割り付けられた。投与は、術後の初回外来受診時(術後2~4週)に開始され、試験終了まで継続された。 主要評価項目は、無再発生存期間(割り付けからがんの再発または全死因死亡までの期間)とした。また、ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)値で3群(<20ng/mL、20~40ng/mL、>40ng/mL)に分けてサブグループ解析を行った。 患者登録は2010年1月~2016年4月に行われ、フォローアップは2018年2月に終了した。417例が登録され、ビタミンD群に251例、プラセボ群には166例が割り付けられた。5年無再発生存率:77% vs.69%、年齢で補正すると有意に良好 患者はすべて日本人であった。フォローアップ率は99.8%で、フォローアップ期間中央値は3.5年(四分位範囲[IQR]:2.3~5.3)、最長7.6年であった。ベースラインの全体の年齢中央値は66歳で、34%が女性であった。がんの部位は、食道が9.6%、胃が41.7%、小腸が0.5%、大腸が48.2%で、StageはIが44%、IIが26%、IIIは30%だった。 再発または死亡は、ビタミンD群が50例(20%)、プラセボ群は43例(26%)で発生し、死亡はそれぞれ37例(15%)、25例(15%)だった。 5年無再発生存率は、ビタミンD群が77%、プラセボ群は69%であり、両群に有意な差は認めなかった(再発または死亡のハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.50~1.14、p=0.18)。また、5年全生存率は、それぞれ82%、81%であり、有意差はなかった(死亡のHR:0.95、0.57~1.57、p=0.83)。 サブグループ解析では、ベースラインの25(OH)D値が20~40ng/mLの集団において、5年無再発生存率がプラセボ群に比べビタミンD群で有意に優れた(85% vs.71%、再発または死亡のHR:0.46、95%CI:0.24~0.86、p=0.02、交互作用のp=0.04)。 また、ベースラインの年齢中央値がビタミンD群で高かった(67歳vs.64歳)ため、事後解析として年齢の四分位でHRを補正したところ、再発または死亡の累積ハザードが、ビタミンD群で有意に良好だった(補正HR:0.66、95%CI:0.43~0.99、p=0.048)。 骨折が、ビタミンD群3例(1.3%)、プラセボ群5例(3.4%)で、尿路結石が、ビタミンD群2例(0.9%)で発現した。また、入院を要した有害事象はビタミンD群19例(8.4%)、プラセボ群9例(6.1%)で、原発がんの部位以外の臓器に新たに発現したがんは、それぞれ15例(6.6%)、8例(5.4%)で認められた。 著者は、「ビタミンD補充は、ベースライン25(OH)D値20~40ng/mLの集団で有効であったが、これは探索的な検討であるため解釈には注意を要する」と指摘し、「生存に関して、至適な25(OH)D値の範囲はがん種によって異なる可能性がある。また、2,000IU/日という用量は、低25(OH)D値のサブグループでは、ビタミンD値を十分に上昇させるには不十分だった可能性もある」と考察している。

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原発性硬化性胆管炎〔primary sclerosing cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、小胆管周囲にonion-skin様の結合織に囲まれる炎症により特徴付けられる肝の慢性炎症である。結合織の増加により胆管は狭窄、閉塞を起こし、胆汁うっ滞を来し、閉塞性黄疸となり、最終的には肝硬変、肝不全に進展する。PSCの発症・進展には、自己免疫機序が深く関わることが推定されているものの、血清学的に特異的な免疫指標は残念ながら同定されておらず、病因は現在も不明である。■ 疫学2012年の全国疫学調査によると、国内症例数は2,300名前後、人口10万人当たりの有病率は0.95程度と推測されている。しかし、欧米諸国で近年発症率の増加が報告されていること、画像検査の進歩により診断率が向上していることにより、実際の患者数はもう少し多いことが推察される。患者は、男性にやや多く、20代と60代の二峰性を示す。わが国では肝内・肝外胆管両者の罹患症例が多く、潰瘍性大腸炎の罹患合併が34%で、とくに若年者に高率である。また、胆管がんの合併を7.3%に認めている。■ 病因PSCには炎症性腸疾患との関連が認められており、欧米ではPSC患者の80%で合併がみられるが、わが国ではその頻度は低く、とくに高齢者では合併例は少ない。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%がPSCを発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例:抗平滑筋抗体、核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から、免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから、細胞性免疫の障害が示唆されている。家系内で集積傾向がみられ、自己免疫疾患との相関もしばしば報告され、HLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから、遺伝的素因の存在が示唆されている。遺伝的素因のある人々では、おそらく原因不明の誘因(例:細菌感染、虚血性の胆管傷害など)によってPSCが引き起こされると考えられている。■ 症候病初期には無症状で、偶然の機会に胆道系酵素の上昇などで発見されることもある。発症は通常潜行性で、進行性の疲労や掻痒感が認められる場合が多い。約10~15%の症例では、右上腹部痛と発熱を認める。診断時の症状についての全国アンケート調査では、黄疸28%、掻痒感16%が認められるとの報告がある。病態が進行すれば、脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏を来す場合があり、持続性の黄疸により病態は進行し、肝硬変の症状を呈する。約75%の症例で症状を伴う胆石や総胆管結石症を伴うことが報告されている。なお、一部の症例では晩期まで無症状のまま経過し、肝脾腫、肝硬変の状態で診断される場合もあるが、本疾患は緩徐ながら確実に進行し、末期には非代償期肝硬変に至る。診断から肝不全に至るまでの期間は、約12年とされている。なお、合併が多い炎症性腸疾患とは独立した経過をたどり、潰瘍性大腸炎はPSCに数年遅れて発現するケースがあり、合併が認められた場合、潰瘍性大腸炎は比較的軽症の経過をとる傾向があるとされている。結腸全摘術を施行された場合でも、PSCの経過には変化がないことが報告されている。そのほか、PSCと炎症性腸疾患両者が存在すると大腸がんのリスクが上昇し、このリスクはPSCに対して肝移植を施行しても変わらないことが報告されている。■ 予後わが国の全国調査によれば、肝移植なしの5年生存率は75%とされている。肝移植症例では、とくに近親者からの移植症例で再発が高頻度であるとの報告がある。早期症例では、肝硬変に至るまでの期間は15~20年とされているが、8~10%の症例では胆管がんの合併があるので注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)確定診断に至る臨床的特異的マーカーは存在せず、また、肝生検でも確定診断は困難である。診断は、肝内外胆管病変の画像診断によるが、類似の画像所見を示す疾患、とくに自己免疫性膵炎(AIP)に伴う胆管炎との鑑別が重要である。診断に当たっては、以下の臨床像に十分留意する。(1)胆汁うっ滞に基づく腹痛、発熱、黄疸などの症状、(2)炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎の存在、(3)6ヵ月以上持続する胆道系酵素、AlPの正常上限2~3倍以上の持続上昇。 また、画像所見や超音波検査では、(1)散在する胆管内腔の狭窄と拡張、(2)散在する胆管壁肥厚に留意が必要となる。そして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では(1)肝内外胆管の散在する輪状、膜状、帯状狭窄および憩室様突出、数珠状狭窄、(2)肝内外胆管の毛羽立ち、刷子縁様の不整像、(3)肝内胆管分枝像の減少、(4)肝外胆管狭窄に符合しない肝内胆管拡張、などの特徴的所見が認められ、ERCP施行によりこれら所見はより明確になる(図1、2)。(図1、2入る)画像を拡大する画像を拡大するなお、診断確定に当たっては、以下の(1)~(9)の疾患の除外が重要であり、IgG4関連硬化性胆管炎の鑑別も重要である(下に挙げた厚生労働省研究班の診断基準を参照)。(1)IgG4関連硬化性胆管炎、(2)胆道感染症による胆管炎、(3)胆道悪性腫瘍、(4)胆管結石、(5)腐食性硬化性胆管炎、(6)先天性胆道異常、(7)虚血性胆管狭窄、(8)胆道外科手術後状態、(9)floxuridine動注による胆管障害。病変の広がりにより、1)肝内型、2)肝外型、3)肝内外型に分類される。2016年原発性硬化性胆管炎診断基準厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班(滝川班)【原発性硬化性胆管炎の疾患概念】原発性硬化性胆管炎は病理学的に慢性炎症と線維化を特徴とする慢性の胆汁うっ滞を来す疾患であり、進行すると肝内外の胆管にびまん性の狭窄と壁肥厚が出現する。病因は不明である。胆管上皮に強い炎症が惹起され、胆管上皮障害が生ずる。診断においてはIgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、悪性腫瘍を除外することが重要である。わが国における原発性硬化性胆管炎の診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では高率に炎症性腸疾患を合併する。持続する胆汁うっ滞の結果、肝硬変、肝不全に至ることがある。有効性が確認された治療薬はなく、肝移植が唯一の根治療法である。【原発性硬化性胆管炎の診断基準】IgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要である。A.診断項目I.大項目A. 胆管像1)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。2)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。B. アルカリフォスファターゼ値の上昇II.小項目a. 炎症性腸疾患の合併b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)B.診断上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。*IgG4関連硬化性胆管炎は、“Clinical diagnostic criteria of IgG4-related sclerosing cholangitis 2012”(Ohara H,et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012;19:536-542.)により診断する。**2次性硬化性胆管炎は以下の通りである(Nakazawa T, et al. World J Gastroenterol. 2013;19:7661-7670.)。先天性カロリ病Cystic fibrosis慢性閉塞性総胆管結石胆管狭窄(外科手術時の損傷によるもの、慢性膵炎によるもの)Mirizzi症候群肝移植後の吻合狭窄腫瘍(良性、悪性、転移性)感染性細菌性胆管炎再発性化膿性胆管炎寄生虫感染(cryptosporidiosis、microsporidiosis)サイトメガロウイルス感染中毒性アルコールホルムアルデヒド高張生理食塩水の胆管内誤注入免疫異常好酸球性胆管炎AIDSに伴うもの虚血性血管損傷外傷後性硬化性胆管炎肝移植後肝動脈塞栓肝移植後の拒絶反応(急性、慢性)肝動脈抗がん剤動注に関連するもの経カテーテル肝動脈塞栓術浸潤性病変全身性血管炎アミロイドーシスサルコイドーシス全身性肥満細胞症好酸球増加症候群Hodgkin病黄色肉芽腫性胆管炎通常、肝生検は診断に必須ではないが、施行した場合には、胆管増生、胆管周囲の線維化、炎症、および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて、胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき、最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。なお、小児症例では、自己免疫性肝炎との鑑別が困難な症例が多数存在することに、注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確立された治療法は現在なく、進行した場合は、肝移植が唯一の治療法となる。通常、無症状の患者はモニタリング(身体診察と肝機能検査を年2回など)のみで経過観察する。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ[5mg/kg、1日3回、経口、最大15mg/kg/日])は、掻痒を緩和し、生化学マーカー値を改善し、現在第1選択薬となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されているが、残念ながら、生存率は改善できない。脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(同:ベザトール)のPSCに対する有効性も報告されているが、報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではないが、ウルソデオキシコール酸治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されている。慢性胆汁うっ滞および肝硬変に至った場合には、支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には、抗菌薬が必要であり、必要に応じて治療的ERCPも施行する。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄、約20%の患者にみられる)は、ERCPによる拡張術(腫瘍の確認のための擦過細胞診も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。PSC患者では、肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり、治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例:難治性腹水、門脈大循環性脳症、食道静脈瘤出血)には、肝移植が妥当な適応である。脳死肝移植が少ない本邦では生体肝移植が主に行われているが、生体肝移植後PSCの再発率が高い可能性が、わが国から報告されている。4 今後の展望診断に有用な臨床マーカーの確立、病態の解明とそれに基づいた治療法の確立が大きな課題である。5 主たる診療科消化器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 原発性硬化性胆管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nakazawa T, et al. J Gastroenterol. 2017;52:838-844.2)Chapman R,et al. Hepatology. 2010;51:660-678.公開履歴初回2019年4月9日

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骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」【下平博士のDIノート】第22回

骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」今回は、世界に先駆けて日本で承認・発売されたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体「ロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注105mgシリンジ)」を紹介します。本剤は、骨吸収抑制作用と骨形成促進作用の2つの作用で骨密度を高め、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者の骨折リスクを低減することが期待されています。<効能・効果>本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月4日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはロモソズマブとして210mg(シリンジ2本分)を1ヵ月に1回、12ヵ月皮下投与します。なお、投与は病院、診療所などで行われます。<臨床効果>プラセボと比較した臨床試験では、閉経後骨粗鬆症患者7,180例(うち日本人492例)において、投与開始12ヵ月後に新規椎体骨折リスクを73%低減し、その効果は24ヵ月まで持続しました。<副作用>骨粗鬆症患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験で、本剤の投与を受けた3,744例中615例(16.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、関節痛(1.9%)、注射部位疼痛(1.3%)、注射部位紅斑(1.1%)、鼻咽頭炎(1.0%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として低カルシウム血症、顎骨壊死・骨髄炎(頻度不明)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、骨形成を促すとともに骨吸収を抑えることで、骨密度を高めて骨折を予防します。2.本剤を投与中は、ブラッシングなどで口腔内を清潔に保ち、定期的に歯科検診を受けてください。顎の痛み、歯の緩み、歯茎の腫れなどを感じた場合は、主治医に連絡してください。3.本剤を使用中に歯の診察を受ける場合は、この薬を使っていることを必ず歯科医師に伝えてください。4.この薬により、低カルシウム血症が現れることがあります。指先や唇のしびれ、痙攣などの症状が見られた場合、すぐに医師・薬剤師に相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の抗スクレロスチン抗体製剤です。スクレロスチンは、破骨細胞による骨吸収を促進し、骨芽細胞による骨形成を抑制する糖タンパク質です。本剤はこのスクレロスチンを阻害することで骨量を増加させ、骨折リスクを低下させます。本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症に対して月1回皮下投与します。投与中は、副作用である低カルシウム血症の発現リスクを軽減するために、カルシウムおよびビタミンDの補給を行います。とくに重度の腎機能障害や透析を受けている患者さんでは、低カルシウム血症が発現しやすいので、積極的に検査値などを確認するようにしましょう。本剤による治療を終了・中止する場合、骨吸収が一過性に亢進する懸念があるため、原則として骨吸収抑制薬が使用されます。なお、海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験では、本剤投与群における虚血性心疾患または脳血管障害の発現割合が高い傾向にありました。使用に関しては、脆弱性骨折の有無、骨密度値や原発性骨粗鬆症の診断基準などを目安として、投与が適切かどうか判断することが望ましいとされています。骨粗鬆症による高齢者の骨折は、要介護・要支援の原因となり、健康寿命の延伸、QOLの維持などを妨げることから、本人・家族だけでなく社会にも大きな影響を及ぼします。本剤は、著しく骨密度が低い場合やすでに骨折部位がある場合など、数年以内に骨折するリスクが高い患者さんの新たな治療選択肢となるでしょう。なお、2019年4月時点において、本剤は米国と欧州では審査中であり、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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第19回 スタチンに片頭痛の予防効果はあるか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 スタチン系薬はコレステロールを降下させるための薬であることは言うまでもありませんが、片頭痛の予防にも有効なのではないかという説があります。脂質異常症も片頭痛も有病率が高いため、意図して、もしくは意図せずコレステロール値の高い片頭痛患者さんにスタチンが処方されていることもあるのではないかと思います。慢性頭痛の診療ガイドライン2013には、片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある場合は片頭痛の予防療法を検討するという記載があり、第1選択薬としてバルプロ酸やトピラマートなどの抗てんかん薬、プロプラノロールやメトプロロールなどのβ遮断薬、アミトリプチリンなどの抗うつ薬が推奨されています(保険適用外含む)。予防療法の効果判定には少なくとも2ヵ月を要し、有害事象がなければ3〜6ヵ月継続し、コントロールが良好になれば薬を漸減・中止するというのがガイドラインの推奨です。私が調査した限りにおいては、現時点で日米英のガイドラインにスタチンについて特段の言及はありません。実際のところ、スタチンは片頭痛に有用なのでしょうか? 片頭痛が月6回以上生じる女性を対象に、プロプラノロール60mg群またはシンバスタチン20mg群に割り付け、比較したオープンラベルの試験では、いずれの群においても有効性が示されています。プラセボ効果が寄与した可能性も考慮しなければなりませんが、50%の頭痛発作減少のアウトカムを達成したのはプロプラノロール群で88%、シンバスタチン群で83%といずれも高率でした1)。またアトルバスタチンとプロプラノロールのランダム化比較試験でも、反復性片頭痛の予防効果は同等でした2)。二重盲検ランダム化比較試験もありますので紹介します。月に4日以上、反復性片頭痛がある成人患者57例をシンバスタチン20mg1日2回+ビタミンD3(コレカルシフェロール)1000IU群(実薬群)またはプラセボ群に割り付け、24週間フォローアップした研究です3)。なお、ビタミンDが併用されているのは、血漿中ビタミンD濃度が高いほうが、重度頭痛または片頭痛発作の発生が少ないという報告があるためです4)。この試験では、プライマリアウトカムとして、1ヵ月間に片頭痛を認めた日数のベースラインからの変化を観察しています。実薬群では、服用12週時点では8例(25%)で50%の頭痛発作減少のアウトカムが達成され、24週時点では9例(29%)で同様の結果が得られています。対して、プラセボ群ではそれぞれ1名(3%)のみでした。なお、以前から用いている片頭痛予防薬の使用は制限しておらず、有意差はなかったものの実薬群で予防薬の使用が多い傾向にあるので解釈に注意が必要です。また、24週以降は検討外であることから、長期的効果については判断できません。当初予定したサンプルサイズを下回る症例数で試験されていますが、実際の試験どおり介入群28例、プラセボ群29例の事後分析で85%の検出力(α=5%)ですので、症例数が増えればより確かなことが言えそうです。スタチンの抗酸化作用や抗炎症作用が片頭痛に影響かスタチンで頭痛が改善しうる理由の仮説として、スタチンのプレイオトロピック効果が挙げられています。スタチンには本来の脂質低下作用とは別に、抗酸化作用、血管内皮機能改善、血小板凝集抑制、血管の緊張や炎症の抑制など多面的な作用があるのではないかと考えられており、それがなんらかの形で片頭痛発作の減少に寄与したのかもしれないというものです。私が調査した限りにおいては、スタチンの種類によって効果が異なるのか、十分な根拠は見つけることができませんでした。いずれにしても、ビタミンD欠乏症だと片頭痛頻度が多いという説もありますから5)、まず十分な血清ビタミンD濃度が確保されているか確認することも大切です。あくまでもスタチンは片頭痛への効果を期待して処方されるものではありませんが、片頭痛の頻度に影響があるかもしれないということを知っていると、服薬指導で役に立つかもしれません。1)Medeiros FL, et al. Headache. 2007;47:855-856.2)Marfil-Rivera A, et al. Neurology. 2016;86:P2.2163)Buettner C, et al. Ann Neurol. 2015;78:970-981.4)Buettner C, et al. Cephalalgia. 2015;35:757-766.5)Song TJ, et al. J Clin Neurol. 2018;14:366-373.

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ACS発症またはPCI施行のAF患者、アピキサバンは有益か/NEJM

 直近に急性冠症候群(ACS)を発症または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けP2Y12阻害薬を投与される心房細動患者において、アピキサバン(商品名:エリキュース)を含む抗血栓療法(アスピリンは非併用)は、ビタミンK拮抗薬+アスピリン療法またはアスピリン単剤療法と比べて、出血および入院が減少し、虚血イベントの発生において有意差はみられないことが示された。米国・デューク大学のRenato D. Lopes氏らによる2×2要因デザイン法の国際多施設共同無作為化試験「AUGUSTUS試験」の結果で、NEJM誌オンライン版2019年3月17日号で発表された。ACS発症またはPCIを受けた心房細動患者に対し、適切とされる抗血栓療法は明確にはなっていない。大出血または臨床的に重要な非大出血を主要アウトカムとして検証 試験では、ACS発症またはPCIが施行され、P2Y12阻害薬服用が予定されている心房細動患者を、アピキサバンまたはビタミンK拮抗薬の投与を受ける群、およびアスピリンまたは適合プラセボの投与を受ける群に無作為化し6ヵ月間治療した。 主要アウトカムは、大出血または臨床的に重要な非大出血とした。副次アウトカムは、死亡、入院、および複合虚血イベントなどであった。アピキサバンのビタミンK拮抗薬に対する主要アウトカムの発生ハザード比は0.69 33ヵ国から4,614例が登録された。主要または副次アウトカムに関して、2つの無作為化要因間に有意な相互作用はみられなかった。 大出血または臨床的に重要な非大出血の発生率は、アピキサバン群10.5%、ビタミンK拮抗薬群14.7%であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.58~0.81、非劣性および優越性ともにp<0.001)。アスピリン群は16.1%、プラセボ群は9.0%であった(HR:1.89、95%CI:1.59~2.24、p<0.001)。 アピキサバン群の患者はビタミンK拮抗薬群よりも、死亡および入院の発生率が低率であった(23.5% vs.27.4%、HR:0.83、95%CI:0.74~0.93、p=0.002)。虚血イベントの発生率は同程度であった。 なおアスピリン群の患者の死亡、入院および虚血イベントの発生率は、プラセボ群と同程度であった。

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日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

 2019年3月22日、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の報告書とりまとめを了承した。昨年4月より策定検討会にて議論が重ねられた今回の食事摂取基準は、2020年~2024年までの使用が予定されている。策定検討会の構成員には、日本糖尿病学会の理事を務める宇都宮 一典氏や日本腎臓学会理事長の柏原 直樹氏らが含まれている。日本人の食事摂取基準(2020年版)の主な改定ポイントは? 日本人の食事摂取基準(2020年版)の改定では、2015年版をベースとしつつ、『社会生活を営むために必要な機能の維持および向上』を策定方針とし、これまでの生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病)の重症化予防に加え、高齢者の低栄養・フレイル防止を視野に入れて検討がなされた。主な改定点として、・高齢者を65~74歳、75歳以上の2つに区分・生活習慣病における発症予防の観点からナトリウムの目標量引き下げ・重症化予防を目的としてナトリウム量やコレステロール量を新たに記載・フレイル予防の観点から高齢者のタンパク質の目標量を見直しなどが挙げられる。日本人の食事摂取基準(2020年版)、まずは総論を読むべし 報告書やガイドラインなどを活用する際には、まず、総論にしっかり目を通してから、各論や数値を理解することが求められる。しかし、メディアなどは総論を理解しないまま数値のみを抜粋して取り上げ、問題となることがしばしばあるという。これに対し、策定検討会のメンバーらは「各分野のポイントが総論だけに記載されていると、それが読まれずに数値のみが独り歩きし、歪んだ情報が流布されるのではないか」と懸念。これを受け、日本人の食事摂取基準(2020年版)の総論には、“同じ指標であっても、栄養素の間でその設定方法および活用方法が異なる場合があるので注意を要する”と記載し、総論以外にも各項目の目標量などがどのように概算されたのかがわかるように『各論』を設ける。メンバーらは「各指標の定義や注意点はすべて総論で述べられているため、これらを熟知したうえで各論を理解し、活用することが重要である」と、活用方法を強調した。 以下に日本人の食事摂取基準(2020年版)の各論で取り上げられる具体的な内容を抜粋する。タンパク質:高齢者におけるフレイルの発症予防を目的とした量を算定することは難しいため、少なくとも推奨量以上とし、高齢者については摂取実態とタンパク質の栄養素としての重要性を鑑みて、ほかの年齢区分よりも引き上げた。また、耐容上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきではあるが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから、設定しなかった。脂質:コレステロールは、体内でも合成される。そのために目標量を設定することは難しいが、脂質異常症および循環器疾患予防の観点から過剰摂取とならないように算定が必要である。一方、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満に留めることが望ましい。炭水化物:炭水化物の目標量は、炭水化物(とくに糖質)がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、アルコールを含む合計量として、タンパク質および脂質の残余として目標量(範囲)を設定した。ただし、食物繊維の摂取量が少なくならないように、炭水化物の質に留意が必要である。脂溶性ビタミンビタミンDは、多くの日本人で欠乏または不足している可能性があるが、摂取量の日間変動が非常に大きく、摂取量の約8割が魚介類に由来し、日照でも産生されるという点で、必要量を算出するのが難しい。このため、ビタミンDの必要量として、アメリカ・カナダの食事摂取基準で示されている推奨量から日照による産生量を差し引いた上で、摂取実態を踏まえた目安量を設定した。ビタミンDは日照により産生されるため、フレイル予防を図る者を含めて全年齢区分を通じて可能な範囲内での適度な日照を心がけるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には高齢化問題が深刻さを増す 日本では、2020年の栄養サミット(東京)開催を皮切りに、第22回国際栄養学会議(東京)や第8回アジア栄養士会議(横浜)などの国際的な栄養学会の開催が控えている。また、日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には団塊世代が75歳以上になるなど、高齢化問題が深刻さを増していく。 このような背景を踏まえながら1年間にも及ぶ検討を振り返り、佐々木 敏氏(ワーキンググループ長、東京大学大学院医学系研究科教授)は、「理解なくして活用なし。つまり、どう活用するかではなく、どう理解するかのための普及教育が大事。食事摂取基準ばかりがほかの食事のガイドラインよりエビデンスレベルが上がると、使いづらくなるのではないか。そうならないためにも、ほかのレベルを上げて食事摂取基準との繋がり・連携を強化するのが次のステージ」とコメントした。また、摂取基準の利用拡大を求めた意見もみられ、「もっと疾患を広げるべき。次回の改定では、心不全やCOPDも栄養が大事な要素なので入れていったほうがいい。今回の改定では悪性腫瘍が入っていないが、がんとともに長生きする時代なので、実際の現場に合わせると病気を抱えている方を栄養の面でサポートすることも重要(名古屋大学大学院医学系研究科教授 葛谷 雅文氏)」、「保健指導の対象となる高血糖の方と糖尿病患者の食事療法のギャップが、少し埋まるのではと期待している。若年女性のやせ、骨粗鬆症も栄養が非常に影響する疾患なので、次の版では目を向けていけるといい(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授 勝川 史憲氏)」、など、期待や2025年以降の改定に対して思いを寄せた。座長の伊藤 貞嘉氏(東北大学大学院医学系研究科教授)は、「構成員のアクティブな発言によって良い会・良いものができた」と、安堵の表情を浮かべた。 なお、厚労省による報告書(案)については3月末、パブリックコメントは2019年度早期に公表を予定している。

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