サイト内検索|page:11

検索結果 合計:577件 表示位置:201 - 220

201.

「外出自粛で太ってしまった」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第31回

■外来NGワード「抵抗力をつけるためにしっかり食べなさい!」(食べ過ぎてしまう)「体重が増えないようにしなさい!」(あいまいな減量指導)「お菓子を食べないようにしなさい!」(あいまいな食事指導)■解説 不要不急の外出自粛が呼び掛けられる中、家にいる時間が長くなり、「普段はそんなに食べないのに、家にいるとついお菓子などに手が伸びてしまう」と言う患者さんがいます。中には、「抵抗力をつけるためには食べたほうがよい」と誤解している人もいるようです。緊急事態宣言を受け、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言」を出しました。「生体の免疫力は栄養状態によって支えられている」として、栄養評価や低栄養患者の栄養状態改善などの指針が示されています。とくに、高齢者では微量栄養素(各種ビタミンや微量元素)の欠乏を予防することが大切です。最近の知見では、微量栄養素の欠乏が感染症の発症や重症化に関わっているとの報告もあり、食事の量だけでなく内容にも配慮する必要があります。しかし、肥満を伴う糖尿病患者さんは、体重の変動が血糖変動と深く関連しているので、食べ過ぎには注意が必要です。“やめようと思っているのにやめられない”タイプの患者さんには、「刺激統制法(先行刺激を変えることで行動の頻度を調整する方法)」を用いてみましょう。この新型コロナ対策をきっかけに、患者さんの栄養状態に合わせた“作戦”を一緒に立てることができるとよいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近はどうお過ごしですか?患者ずっと家にいるので、体重が増えています…。医師そうですか。体重が増えた原因は何だと思いますか?患者運動できていないせいもありますが、家にいるとついつい食べちゃうんです。医師動いていないからエネルギーは余っているのに、3食きちんと食べて、おやつもついついね…。わかります。(患者の行動パターンを振り返る)患者そうなんですよ。テレビで「抵抗力をつけるために食べなさい」と言っていたので、気にせずに食べていたら、案の定です。何とかしないといけないとは思っているのですが…。医師それなら、いい方法がありますよ!患者えっ、何ですか?(興味津々)医師「余分なものを食べない作戦」を考えればいいんです。患者余分なものを食べない作戦?医師そうです。目の前にあると食べたくなるので、美味しそうなものは隠しておくことです。患者確かに、なければ食べませんものね。でも、隠した場所は覚えていますよね?医師そうなんです。だから、隠し方も大切ですね。「非常用」や「来客用」と貼っておいて、取りにくい場所に置いたりするのも一案ですよ。患者なるほど。隠し方を工夫すればいいんですね。やってみます。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「この機会に、余分なものを食べない“作戦”を立ててみませんか?」

202.

非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

203.

疲れを巡る最新研究(後編)…身体の疲れ?精神疾患?PCR検査で判別する時代に

講師紹介前編へストレスが疲労感を減らす!?近藤講演などで驚かれるのが、「ストレスが疲労感を減らしている」とお話ししたときです。確かにストレスには「疲労を増す」イメージがあるので、意外な感じがすると思います。ここでは、ストレスと呼ばれているものを、その原因である「ストレッサー」とその結果生じる身体の反応「ストレス応答」という2つに分けて考えてみましょう。脳がストレスの原因となるストレッサーを感知すると、脳の視床下部が反応し、副腎からコルチゾールとアドレナリンが出ます。これがストレス応答です。コルチゾールには抗炎症作用があって疲労感の原因である炎症性サイトカインの産生を抑えます。一方のアドレナリンには興奮作用があり、この2つの物質が作用する結果として、疲労感が減ります。つまり、疲労感は身体に「休め」というブレーキをかける役割を担い、ストレス応答は「行け」とアクセルを踏む役割を担うことで、両者がバランスを取っているのです(図4)。皆さんもあまりにも仕事が忙しいと、逆にしばらく疲れを感じなかった、という経験をされたことがあるのではないでしょうか。これは、仕事のプレッシャーがストレッサーとなってストレス応答を誘導し、疲労感を抑制してしまっている状態だと考えられます。画像を拡大するやりがちな「かえってマイナス」の疲労回復法近藤しかし、視床下部や副腎は消耗しやすい組織です。使い続けるうちにコルチゾールが減少して疲労抑制効果がなくなり、強い疲労感が前面に出てきます。ここで気を付けたいのは身体の疲労がマックスなのに疲労感をあまり感じない状態でいるため、「ストレスを解消しなきゃ」と考えて、さらに身体に負担をかける行動をとってしまうことです。具体的には、強度のスポーツ、長い入浴など、身体に負担をかける行為が挙げられます。このようなストレス解消法は、身体の疲労がある場合は避けたほうがよいのです。お薦めは、散歩や軽めの運動、音楽を聴く、きれいな景色を見るなど、「身体に負担をかけないストレス解消法」です。一方、「病的疲労」といって、身体がまったく疲れていないのに、脳が疲労感を持つケースもあります。これはうつ病などの中枢神経疾患が原因で起こる場合が多く、労働や運動で生じる身体の疲労とは異なる治療が必要となります。「身体の疲労」と「病的疲労」の見分け方近藤では、どうやって身体の疲労と病的疲労を見分ければよいのでしょう?また、ヘルペスの話に戻りましょう。前回、リン酸化した疲労因子が増えてタンパク質を合成できなくなり、臓器の働きが低下したり機能障害が起きたりすることが身体の疲れの原因、と説明しました。疲労因子が増加すればHHV-6やHHV-7の再活性化が起こり、唾液中に大量のウイルスが放出されます。つまり、「唾液中のHHV-6やHHV-7が増加していれば、身体が疲れている証拠」だといえるわけです。実際、労働時間の異なるヒトの唾液を採取し、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6、HHV-7)を測定して比較したところ、「週40時間以上労働している人」(身体が疲労している人)は40時間未満労働している人(健康な人)に比べて、大幅に唾液中のウイルス量が多いことがわかりました。一方で、うつ病や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群など、「身体の疲労」以外の要因から疲労感を訴えるケースでは、ウイルス量は健康な人と比べて同じかむしろ減る傾向がありました。つまり、「強い疲れ」という主訴の患者のHHV-6やHHV-7の量を検査することで、内科的治療がよいのか精神科的疾患や神経内科的疾患を考慮すべきなのかが、すぐに判断できるというわけです(図5)。画像を拡大するこの検査は、新型コロナウイルスで有名になったPCR検査です。HHV-6/HHV-7のPCR検査は保険適用外であり、まだ限られた医療機関でしか扱っていませんが、医療者の皆さんの関心の高まりと今後の広がりを期待しています。地味だけど確実な「疲労回復法」はこれ近藤「いろいろ言ってるけれど、結局どうやったら疲れはとれるの?」というのが皆さんの最も知りたいことかと思います。疲労の原因となる疲労因子はリン酸化したelF2αでした。このリン酸化をリセットして正常な状態に戻す「eIF2α脱リン酸化酵素」というものがあります。疲労因子に対して「疲労回復因子」と呼んでいます。疲労回復因子は、軽い運動によって誘導されます。また、疲労回復因子の誘導を助ける食品は、納豆・チーズ・玄米・大麦・玉ネギ・カレーに使うターメリックなどが挙げられます。また、ビタミンB1が不足すると疲労回復因子が誘導されにくくなります。これらの共通点は「抗酸化作用が強くない」こと。いわゆる「疲労回復」のイメージがあるニンニク・ウナギ・赤身肉などはこの抗酸化作用が強いので、前回にお話ししたように疲労感をとるだけの「見せかけの疲労回復」になる可能性があるのです。「疲労回復因子(eIF2α脱リン酸化酵素)」の誘導を助ける食品をしっかり摂取して、軽い運動をし、ストレスを軽減するためのリラックス法を行うというのが、地味ながらも正しい疲労回復法だと考えられます。医療者の皆さんも疲労とその機序を知り、患者さんや皆さん自身の診療やケアに、ぜひ役立ててください。書籍紹介『疲労ちゃんとストレスさん』にしかわたく(漫画・原作)・近藤一博(監修・原作)河出書房新社近藤氏の長年の研究成果と疲労に関する複雑な仕組みを、漫画家のにしかわ氏がストーリー&漫画化。疲労がどのように起きるのか、どのように回復するのか、擬人化されたキャラクターたちでわかりやすく解説した一冊。

205.

がん患者が過剰摂取しやすいサプリメントは?

 多くのがん患者は、がん診断後に栄養補助食品を使い始める傾向にある。そのため、がんではない人と比べ、どのような栄養補助食品が、がんサバイバーの総栄養摂取量に寄与しているかを検証する必要がある。今回、米国・タフツ大学のMengxi Du氏らは「がんではない人と比較した結果、がんサバイバーへの栄養補助食品の普及率は高く、使用量も多い。しかし、食品からの栄養摂取量は少ない」ことを明らかにした。研究者らは、「がんサバイバーは食品からの栄養摂取が不十分である。栄養補助食品の短期~長期的使用による健康への影響について、とくに高用量の摂取では、がんサバイバー間でさらに評価する必要がある」としている。Journal of Nutrition誌オンライン版2020年2月26日号掲載の報告。 研究者らは、がんサバイバーの総栄養摂取量のうち栄養補助食品から摂取されている栄養素を調べ、がんではない人との総栄養摂取量を比較する目的で、2003~16年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した成人がんサバイバー2,772人と、がんではない3万1,310人を調査。栄養補助食品の普及率、用量および使用理由について評価した。 主な結果は以下のとおり。・がんサバイバーとがんではない人の栄養補助食品の普及率は70.4% vs.51.2%と、がんサバイバーで高かった。同じく、マルチビタミン/ミネラルの普及率は48.9% vs.36.6%で、ビタミン系11種類、ミネラル系8種類の使用の多さが報告された。・全体的に、がんサバイバーは栄養補助食品からの栄養摂取量が有意に多く、大部分の栄養素は食品からは取れていなかった。・がんサバイバーは、がんではない人と比較して食品からの栄養摂取量が少ないため、葉酸、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、銅、リンの摂取量が不十分な人の割合が高かった(総栄養摂取量<平均必要量[EAR:Estimated Average Requirement]または栄養所要量[AI:Adequate Intake])。・その一方で、がんサバイバーはビタミンD、ビタミンB6、ナイアシン、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛を栄養補助食品から多く取っていることから、これらを過剰摂取(総栄養摂取量≧許容上限摂取量[UL:tolerable upper intake level])している割合も高かった。・栄養補助食品を摂取するほぼ半数(46.1%)は、管理栄養士・栄養士に相談せずに独自に摂取していた。

206.

メチルマロン酸血症〔Methylmalonic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義メチルマロン酸血症は常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症である。メチルマロニルCoAムターゼという酵素の活性が低いために、身体が特定のアミノ酸(イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン)や奇数鎖脂肪酸、コレステロールを適切に処理できず、メチルマロン酸をはじめとする中間代謝産物が蓄積し、代謝性アシドーシスを伴うさまざまな症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国における新生児マススクリーニングの試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)では、本症は11万人に1人の発症頻度だった。これは有機酸代謝異常症の中ではプロピオン酸血症(5万人に1人)に次ぐ頻度だったが、プロピオン酸血症患者の中には少なくとても小児期にはほぼ無症状の最軽症型が多く含まれるため、臨床的に問題となる有機酸代謝異常症の中では本症が最多の疾患である。■ 病因メチルマロニルCoAを異化する際に必要なメチルマロニルCoAムターゼの活性低下が原因である。先天的にメチルマロニルCoAムターゼの活性が低値の場合と、補酵素であるコバラミン(ビタミンB12)の代謝に異常がある場合に分けられる。いずれの場合も常染色体劣性遺伝形式をとる。■ 症状1)代謝不全発作疾患のコントロールが良好であれば無症状だが、感染症罹患・経口摂取不良、タンパク質過剰摂取時に代謝不全発作を起こしうる。活気不良、哺乳・食事摂取不良、嘔気・嘔吐、筋緊張低下、呼吸障害(多呼吸・努力呼吸・無呼吸)、意識障害といった症状が数時間~数日単位で進行し、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスや高アンモニア血症を伴う。2)中枢神経症状急性代謝不全により高アンモニア脳症や低酸素性虚血性脳症を来すと、重度の神経学的後遺症(精神運動発達遅滞、てんかん、筋緊張亢進など)を残しうる。大脳基底核病変により不随意運動が生じることもある。急性の代謝不全発作を起こさずとも、慢性進行性に上記の症状が出現することがある。3)嘔気・嘔吐メチルマロン酸血症の患者は、臨床的に明らかな代謝不全とは言えない場合でも嘔気・嘔吐の症状を呈することが多い。4)腎機能障害尿細管間質の慢性的な障害により腎機能が徐々に低下し、腎不全に至る例が存在する。正確な発症年齢や合併率はまだ明らかではないが、メチルマロン酸血症のサブタイプにより発症頻度が異なるとの報告がある。この腎機能障害は肝移植を受けた症例でも進行することが知られている。5)その他汎血球減少や視神経委縮、拡張型・肥大型心筋症、膵炎の合併報告がある。■ 分類1)分子遺伝学的分類Mut0:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定感度以下の症例Mut-:メチルマロニルCoAムターゼの残存酵素活性が測定可能な症例cblA、cblB、cblD-variant2:コバラミンの代謝異常によるメチルマロン酸単独の増加(なお、cblC、cblE、cblF、cblGはホモシステイン増加を伴う)2)臨床的分類(1)発症前型新生児マススクリーニングにより代謝不全発作を起こす前に診断された症例。(2)急性発症型哺乳によるタンパク負荷が始まる新生児期と、食事間隔が空き、感染症罹患が増える乳幼児期に多い。前者はMut0の症例が多く、新生児マススクリーニングの結果が出る前に発症することもある。(3)遅発型成長発達遅延や食思不振、反復性嘔吐が徐々に進行する症例。小さな代謝発作を周期性嘔吐症や胃腸炎と診断されていることがある。経過中に重篤な代謝不全発作を起こすこともある。■ 予後代謝不全発作により脳症を併発した場合は重度の神経学的後遺症を残すことが少なくない。肝移植を受けた症例の多くで症状の改善が報告されているが、代謝不全発作や中枢神経症状の進行を完全に抑えられるわけではない。また、肝移植実施の有無に関わらず腎機能障害は進行し、腎移植が必要になることがある。移植の有無に関わらず、ほぼ全例でタンパク質摂取制限またはビタミン剤などの内服が生涯必要となる。代謝不全を可能な限り回避することが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 新生児マススクリーニング新生児マススクリーニングでC3またはC3/C2高値(C5-OH増加なし)を指摘された場合は、メチルマロン酸血症あるいはプロピオン酸血症を疑って精密検査を開始する。新生児マススクリーニングで指摘された時点で代謝不全になりかけている症例も存在するため、診断を詰めることよりも、まずは急性期治療が必要な状態かどうかを判断することが重要である。メチルマロン酸血症とプロピオン酸血症は、診察と一般検査のみで鑑別することは困難であり、急性期治療がほぼ同じであるため、初期治療の際に診断がついていなくても構わない。■ 外来で代謝疾患を疑う場合メチルマロン酸血症は、新生児マススクリーニングの結果が出る前に症状を呈する症例や、新生児マススクリーニングでは発見できない例が存在するため、新生児マススクリーニングで異常が無かったとしても本疾患を否定することはできない。感染症や絶食後の急激な全身状態の増悪、not doing well、努力呼吸、意識障害、けいれん、筋緊張低下といった病歴の患者を診察する際には、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症、尿路サイクル異常症、ミトコンドリア異常症を念頭に置く必要がある。メチルマロン酸血症はその重要な鑑別診断である。1)問診と診察新生児期には哺乳量と体重増加量、嘔気・嘔吐、活気不良、傾眠傾向、努力呼吸(呻吟やクスマウル呼吸、多呼吸など)といった症状が、生後数日の時点から増悪傾向にないかを特に注意する。メチルマロン酸血症などの有機酸代謝異常症は、胎児期には母親が代謝を担ってくれるため無症状で、出生後哺乳によるタンパク負荷が始まってから症状が出現する。そのため、生直後は元気だったが徐々に活気不良となった、という病歴の方が有機酸代謝異常症らしい。乳幼児期以降では、離乳食が進み食事間隔が空いたときや感染症(特に胃腸炎)に罹患したときに急性代謝発作を起こしやすい。また、代謝不全による慢性の食思不振や反復する嘔気・嘔吐を、周期性嘔吐症やケトン性低血糖症と診断されていることがある。いずれの場合もアニオンギャップ陽性の代謝性アシドーシスを起こし、糖入りの点滴で症状が軽快するため原疾患に気付きにくい。検査ではアンモニアの測定や尿中有機酸分析が鑑別に有用である。2)検査メチルマロン酸血症の鑑別に必要な検査尿中有機酸分析(最低0.5mL、-20℃冷凍)、血漿アミノ酸分析39種類(血漿0.5mL、-20℃冷凍)、血漿総ホモシステイン(0.3mL冷蔵)、ビタミンB12(血清0.6mL冷蔵)、アシルカルニチン分析(ろ紙血最低1スポット、常温乾燥、乾燥後-20℃冷凍保存可)状態の評価に必要な検査血液ガス分析、アンモニア、一般生化学検査、血糖(血液ガス分析で代用可能)、血液像、尿定性(pH、ケトン体)※乳酸・ピルビン酸、遊離脂肪酸、血中ケトン体分画、頭部MRIも全身状態の評価や他の代謝異常疾患を鑑別する際に有用な検査である。3)鑑別(図)メチルマロン酸血症と確定した後は、ビタミンB12を内服させて反応性を評価する。病型診断にはメチルマロニルCoAムターゼ活性測定と遺伝子検査が有用である。図 メチルマロン酸血症の鑑別診断フローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 慢性期の管理母乳や調整粉乳に特殊ミルク(商品名:雪印S-22、S-23)を一定の割合で混合し、自然タンパクを制限しつつ必要なカロリーを確保する。薬物療法としてはメチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるビタミンB12や、有機酸の排泄促進目的でL-カルニチンを使用する。乳酸高値の場合はビタミンCを併用することもある。メトロニダゾールやラクツロースによる腸内細菌のプロピオン酸産生抑制も有効である。経口摂取が困難な場合は経管栄養を併用する。これらの治療を行っても代謝発作を起こすリスクが高い場合は肝移植を検討する。学童期以降に問題となりやすい腎機能低下に対して腎移植が必要になることもある。■ 代謝不全発作時基本的には他の有機酸代謝異常症の代謝不全と同じ対応でよい。急性期にはタンパク質摂取を中止し、異化抑制のためブドウ糖液で十分なエネルギーを確保する。ビタミンB12とL-カルニチンの投与も行う。高アンモニア血症に対して、急性期であればカルグルミン酸も有効である。循環・呼吸不全を安定化させても代謝性アシドーシスによるアシデミア(pH5 主たる診療科小児科、神経内科、移植外科、肝臓内科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター メチルマロン酸血症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター メチルマロン酸血症(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年03月16日

207.

肝型・筋型糖原病

1 疾患概要■ 概念・定義グリコーゲン代謝経路の解糖系酵素の欠損による(表1、図)。「糖原病」は歴史的にはグリコーゲンが臓器に蓄積し腫大することから命名されたが、グリコーゲンの臓器蓄積は病型によって程度がさまざまであり、「糖原病」と呼ぶよりも「グリコーゲン代謝異常症」と呼ぶのが妥当であるが、本稿では従来使われている診断名を踏襲する。表1 糖原病の分類と一般的な特徴の一覧画像を拡大する図 解糖系代謝マップ画像を拡大する■ 疫学わが国における本症の発生頻度は不明であるが、肝型糖原病は約1:2万人と考えられている。最も多い病型はIX型で、その他ではI、II、III、V、VI型が多く、この6病型で全糖原病の約90%を占める。■ 病因・病態(表2)現在までに16種類の病型が知られている。解糖の目的は(1)ATPを産生、(2)グルコースを産生することであり解糖経路の障害により前者の障害は主に筋型で「エネルギー供給障害型」、後者の障害は主に肝型で「グルコース供給障害型」とに分けられる。表2 基本的な糖原病の病態生理画像を拡大する■ 症状・検査所見・治療酵素発現の臓器特異性により、一般的には症状の出方から肝型、筋型、肝筋型と大別する(表1)。本稿では糖原病の約90%を占める6病型を中心に概略を述べる。1)糖原病I型(フォン・ギールケ病)Ia型(グルコース-6-ホスファターゼ欠損)、Ib型(グルコース-6-P-トランスロカーゼ欠損)がある。Ia型が80~90%、Ib型が10~20%を占める。Ia型とIb型の症状は類似するが、Ib型では好中球減少、易感染性、炎症性腸疾患などを伴う。著明な肝腫大が認められるが脾腫は認めない。頬部がふっくらし、人形様顔貌を示す。成長障害がみられ、低身長となる。2次性の病態として血小板機能の障害による鼻出血、頬部のクモ様毛細血管拡張、高脂血症による黄色腫、高尿酸血症による痛風、尿酸結石もみられる。成人では肝腺腫およびその悪性化、 腎不全などの合併症が問題となる。糖新生、解糖の両経路からのグルコース産生が障害されるため、低血糖の程度は糖原病の中では強い。低血糖に伴い高乳酸血症、代謝性アシドーシスなども増悪する。低血糖の予防が重要で、血糖のコントロールを良好にすることで2次的な代謝異常、成長障害の改善が期待できる。頻回食が基本であるが糖原病治療乳(昼間用および夜間用)が開発されているので乳幼児期には有用である。未調理コーンスターチ療法と組み合わせることで一定の血糖維持が期待できる。Ib型の好中球減少に対してはG-CSFを用いる。高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる。成人になり多発性の肝腺種、悪性化を伴っているもの、内科的に代謝異常のコントロールが困難なものに対しては、肝移植が適応とされているが長期予後は不明である。2)糖原病II型(ポンペ病)発症時期により乳児型、遅発型に分けられる。乳児型は生後早期に筋緊張低下、巨舌、心拡大、肝種大がみられる。1歳前後で心不全、呼吸不全で死亡する。心電図ではPR短縮、QRSの増高、心肥大がみられる。胸部X線では著明な心拡大、心エコーでは両心室壁と心室中隔が肥厚し、左室流出路の閉塞を来す場合もある。遅発型では幼児期から成人期に主に筋力低下で発症する。心筋、肝臓の罹患は認めないか、あっても軽度である。肢帯型筋ジストロフィーと症状が類似することがあり、肢帯型筋ジストロフィーの診断症例の中に一定程度混在していると推測されている。遅発型では四肢筋力低下に比較して不釣合いに呼吸障害を強く認める例もある。治療では酵素補充療法の導入により乳児型の生命予後は劇的に改善した。本症のスクリーニングは乾燥ろ紙血を用いた簡便な検査が提供されている。3)糖原病III型(フォーブ-スコーリー病)脱分枝酵素の欠損により、分枝が多く残存したlimit dextrineが蓄積する。肝筋型のIIIa型(約85%)と肝型のIIIb型(約15%)がある。乳幼児期に肝種大、低血糖で気付かれる。I型に比較すると低血糖は軽症で、思春期以降改善する。一部肝障害が遷延し、肝硬変や肝線腫その悪性化なども報告されている。IIIa型では筋力低下、心筋障害進行する症例もあり、定期的な心機能のチェックが必要である。近年IIIa型では修正Atkins法による低炭水化物、高蛋白、高脂肪食が試され心筋障害の改善が認められている。4)糖原病V型(マッカードル病)典型例では運動時の筋痛、筋硬直、横紋筋融解症などである。まれに発症時期が乳児の例や、無症状例があり中高年では筋力低下例もある。阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験では乳酸の上昇が認められない (表3)。横紋筋融解症を来さないように日常の生活指導が大切である。なお、日本人の本症の一部ではビタミンB6が有効である。表3 前腕阻血(非阻血)運動負荷試験の評価画像を拡大する5)糖原病VI型(ハーズ病)乳幼児期に低血糖、肝種大、成長障害で気付かれる。症状は年齢と共に次第に軽快していく。6)糖原病IX型ホスホリラーゼキナーゼ(PhK)は4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)からなり(表4)、肝型(IXa、IXc)、筋型(IXd)、肝筋型(IXb)がある。最も頻度の多いIXaの予後は良好で成長と共に肝種大、低血糖などの症状は軽快する。IXcは低血糖症状も強く、後に肝硬変に進行したり、肝腺腫の報告もある。表4 糖原病IX型の亜型とその詳細画像を拡大する■ 分類1)欠損酵素による病型分類(ローマ字表記)16病型があり、基本的には報告年代順にローマ数字で命名されてきた(表1)。2)症状から見た分類肝腫大、低血糖を呈する肝型、筋力低下、運動不耐、筋硬直、横紋筋融解症などの筋症状を示す筋型、両方の症状を持つ肝筋型がある(表1の症状参照)。■ 予後I型は成人期になると、肝腫瘍、腎不全、高尿酸血症など、多臓器の障害がみられてくる。II型では特に乳児型で心不全、呼吸障害のため死に至る。遅発型では四肢筋に比較して不釣り合いな呼吸障害が認められるのが特徴である。IIIa型では肥大型心筋症により、心不全が進行する例がある。V型の典型例では筋負荷による横紋筋融解症を予防することが有用である。VI型、IX型は一般に予後は良好であるが、一部肝線維化などがみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 肝型糖原病の診断1)Fernandesの負荷テスト(表5)肝型糖原病の病型鑑別の負荷テストである。負荷物はブドウ糖、ガラクトース、グルカゴン(空腹時、および食後2時間)で行われるが、酵素診断、遺伝子診断と併用することですべての負荷が必須ではない。特にガラクトース、グルカゴン負荷はI型では異常な高乳酸血症を引き起こし、酸血症になる例も報告されているため「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」では推奨されていない。表5 肝型糖原病・病型診断:Fernandesの負荷テスト画像を拡大する2)画像検査超音波検査で輝度上昇のため、脂肪肝と診断されることが多い。肝臓CTでは信号強度の上昇がみられることから脂肪肝とは区別ができる。3)好発遺伝子変異の検索日本人Ia型患者では、好発変異c.648G>Tが90%以上の患者にみられる。また、Ib型ではp.Trp118Argが約半数にみられる。4)肝生検肝型では肝組織に正常あるいは異常グリコーゲンが蓄積するため著明なPAS染色性と、肝細胞のバルーニングが認められる。また、ジアスターゼによりPAS陽性物質が消化されない場合は糖原病IV型が疑われる。5)酵素診断表1にある検体で酵素診断は可能である。■ 筋型糖原病の診断1)阻血下(または非阻血下)前腕運動負荷試験(表3)運動負荷後に血中乳酸の上昇を認めない(ただし0型、II型、IV型、IXd型を除く)。負荷試験後の筋硬直・筋痛などの苦痛を考慮して最近では非阻血下での運動負荷試験も行われている。2)血清creatine kinase (CK)筋型糖原病では程度の差はあるがCKは上昇していることが多い。一時的なCKの上昇かどうかを判断するために、2週間後以降に再検する。3)好発遺伝子変異を持つ筋型糖原病原病V型(マッカードル病)では日本人患者の約50%にp.Phe710delが認められる。4)筋生検筋型糖原病では筋組織に程度の差はあるがグリコーゲンの増加が認められる。なかでもIIIa型の肝筋型(コーリー病)では筋組織に空胞が多発している(Vacuolar Myopathy)。5)酵素診断生検筋組織を用いた酵素診断が確定診断となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)症状で先述したが基本的には、肝型糖原病では低血糖の予防、筋型糖原病では横紋筋融解症の予防が重要である。4 今後の展望糖原病は古典的な代謝異常症であるが、近年多彩な臨床症状や新たな知見も報告され、併せて病態解明の進歩とともに病態に即した治療法の開発が進んでいる。5 主たる診療科糖原病は先天性の疾患であり、特に肝型は小児期に発見されることが多く、小児科が主たる診療科となる。筋型はその症状から学童期~成人期に診断されることから小児科、神経内科が主たる診療科となる。いずれにせよ適切な時期でのトランジションも課題となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 筋型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 肝型糖原病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)杉江秀夫(総編集). 代謝性ミオパチー.診断と治療社. 2014.p.31-83.2)日本先天代謝異常学会(編集). 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019. 診断と治療社.2019.p.181-199.3)矢崎義雄(総編集). 内科学 11版.朝倉書店.2017.公開履歴初回2020年03月16日

208.

プロピオン酸血症〔PA:Propionic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義生体内で生じる各種の不揮発酸が代謝障害によって蓄積し、代謝性アシドーシスを主徴とする各種の症状・異常所見を呈する疾患群を「有機酸代謝異常症」と総称する。主な疾患は、分枝鎖アミノ酸の代謝経路上に多く、中でもプロピオン酸血症(Propionic acidemia:PA)は最も代表的なものである。本疾患では、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸などの短鎖カルボン酸が体液中に蓄積し、典型的には重篤な代謝性アシドーシスを主徴とする急性脳症様の症状で発症するほか、各種臓器に慢性進行性の病的変化をもたらす。■ 疫学新生児マススクリーニング試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)による国内での罹患頻度は約45,000人に1人と、高頻度に発見された。ただし、これには後述する「最軽症型」が多く含まれ、典型的な症状を示す患者の頻度は約40万人に1人と推計されている。■ 病因(図)バリン・イソロイシン代謝経路上の酵素「プロピオニオニル-CoAカルボキシラーゼ(PCC)」の活性低下に起因する、常染色体劣性遺伝性疾患(OMIM#606054)である。PCCはミトコンドリア基質に発現しており、αサブユニットとβサブユニットからなる多量体である。各サブユニットは、それぞれPCCA遺伝子(MIM*232000、局在13q32.3)とPCCB遺伝子(MIM*232050、局在3q22.3)にコードされている。図 プロピオン酸血症に関連する代謝経路画像を拡大する■ 症状典型的には新生児期から乳児期にかけて、重度の代謝性アシドーシスと高アンモニア血症が出現し、哺乳不良、嘔吐、呼吸障害、筋緊張低下などから、けいれんや嗜眠~昏睡など急性脳症の症状へ進展する。初発時以降も同様の急性増悪を繰り返しやすく、特に感染症罹患が契機となることが多い。コントロール困難例では、経口摂取不良が続き、身体発育が遅延する。1)中枢神経障害急性代謝不全の後遺症として、もしくは代謝異常が慢性的に中枢神経系に及ぼす影響によって、全般的な精神運動発達遅滞を呈することが多い。急性増悪を契機に、あるいは明らかな誘因なく、両側大脳基底核病変(梗塞様病変)を生じて不随意運動が出現することもある。2)心臓病変急性代謝不全による発症歴の有無に関わらず、心筋症や不整脈を併発しうる。心筋症は拡張型の報告が多いが、肥大型の報告もある。不整脈はQT延長が本疾患に特徴的である。3)その他汎血球減少、免疫不全、視神経萎縮、感音性難聴、膵炎などが報告されている。■ 分類1)発症前型新生児マススクリーニングで発見される無症状例を指す。そのうち多数を占めるPCCB p.Y435C変異のホモ接合体は、特段の症状を発症しないと目されており、「最軽症型」と呼ばれる。2)急性発症型呼吸障害、多呼吸、意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する症例を指す。3)慢性進行型乳幼児期からの食思不振、反復性嘔吐などが認められ、身体発育や精神運動発達に遅延が現れる症例を指すが、経過中に急性症状を呈しうる。■ 予後新生児期発症の重症例は、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくない。遅発例も急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば後遺症の危険が高くなる。また、急性代謝不全の有無に関わらず、心筋症、QT延長などの心臓合併症が出現・進行する可能性があり、特に心筋症は慢性期死亡の主要な原因に挙げられている。一方、新生児マススクリーニングで発見された87例(最長20歳まで)の予後調査では、患者の大半が少なくとも1アレルにPCCB p.Y435C変異を有しており、疾患との関連が明らかな症状の回答はなかった。したがって、この群の予後は総じて良好と思われるが、より長期的な評価(特に心臓への影響)には、さらに経過観察を続ける必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)一般血液・尿検査急性期には、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをはじめ、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、汎血球減少などが認められる。高乳酸血症や血清アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)、クレアチニンキナーゼの上昇を伴うことも多い。2)タンデム質量分析法(タンデムマス、MS/MS)による血中アシルカルニチン分析プロピオニルカルニチン(C3)の増加を認め、アセチルカルニチン(C2)との比(C3/C2)の上昇を伴う。これはメチルマロン酸血症と共通の所見であり、鑑別には尿中有機酸分析が必要である。C3/C2の上昇を伴わない場合は、異化亢進状態(=アセチルCoA増加)に伴う非特異的変化と考えられる。3)ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析診断確定に最も重要な検査で、3-ヒドロキシプロピオン酸・プロピオニルグリシン・メチルクエン酸の排泄が増加する。メチルマロン酸血症との鑑別には、メチルマロン酸の排泄増加が伴わないことを確認する。4)PCC酵素活性測定白血球や皮膚線維芽細胞の破砕液を粗酵素源として測定可能であり、低下していれば確定所見となるが、実施しているのは一部の研究機関に限られる。5)遺伝子解析PCCA、PCCBのいずれにも病因となる変異が報告されている。遺伝学的検査料の算定対象である。※ 2)、3)は「先天性代謝異常症検査」として保険診療項目に収載されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性代謝不全の治療タンパク摂取を中止し、輸液にて80kcal/kg/日以上を確保する。有機酸の排泄促進に静注用L-カルニチンを投与する。未診断の段階では、ビタミンB12反応性メチルマロン酸血症の可能性に対するヒドロキソコバラミン(商品名:フレスミンS)またはシアノコバラミン(同:同名、ビタミンB12ほか)の投与をはじめ、チアミン(同:塩酸チアミン、メタボリンほか)、リボフラビン(同:強力ビスラーゼ、ハイボンほか)、ビオチン(同:同名)などの各種水溶性ビタミン剤も投与しておく。高アンモニア血症を認める場合は、安息香酸ナトリウムやカルグルミン酸を投与する。速やかに改善しない場合は、持続血液透析(CHD)または持続血液透析濾過(CHDF)を開始するか、実施可能施設へ転送する。■ 亜急性期〜慢性期の治療急性期所見の改善を評価しつつ、治療開始から24~36時間以内にアミノ酸輸液を開始する。経口摂取・経管栄養が可能になれば、母乳や育児用調製粉乳などへ変更し、自然タンパク摂取量を漸増する。必要エネルギーおよびタンパク量の不足分は、イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・グリシン除去粉乳(同:雪印S-22)で補う。薬物療法としては、L-カルニチン補充を続けるほか、腸内細菌によるプロピオン酸産生の抑制にメトロニダゾールやラクツロースを投与する。■ 肝移植・腎移植早期発症の重症例を中心に生体肝移植の実施例が増えている。食欲改善、食事療法緩和、救急受診・入院の大幅な減少などの効果が認められているが、移植後に急性代謝不全や中枢神経病変の進行などを認めた事例の報告もある。4 今後の展望新生児マススクリーニングによる発症前診断・治療開始による発症予防と予後改善が期待されているが、「最軽症型」が多発する一方で、最重症例の発症にはスクリーニングが間に合わないなど、その効果・有用性には限界も看取されている。また、臨床像が類似する尿素サイクル異常症では、肝移植によって根治的効果を得られるが、本疾患では中枢神経障害などに対する効果は十分ではない。これらの課題を克服する新規治療法としては、遺伝子治療の実用化が期待される。5 主たる診療科小児科・新生児科が診療に当たるが、急性期の治療は、先天代謝異常症専門医の下、小児の血液浄化療法に豊富な経験を有する医療機関で実施することが望ましい。成人期に移行した患者については、症状・病変に応じて内分泌代謝内科、神経内科、循環器内科などで対応しながら、小児科が並診する形が考えられる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本マススクリーニング学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)タンデムマス・スクリーニング普及協会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)先天代謝異常症患者登録制度JaSMIn(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)島根大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)福井大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」(患者とその家族および支援者の会)1)日本先天代謝異常学会編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン. 診断と治療社;2019.2)山口清次編集. よくわかる新生児マススクリーニングガイドブック. 診断と治療社; 2019.公開履歴初回2020年03月02日

209.

静注鉄剤による鉄欠乏性貧血治療、IIM vs.FCM/JAMA

 経口鉄剤に不耐・不応の鉄欠乏性貧血患者における静注鉄剤による治療では、iron isomaltoside(IIM、現在はferric derisomaltoseと呼ばれる)はカルボキシマルトース第二鉄(FCM)と比較して、低リン血症の発生が少ないことが、米国・デューク大学のMyles Wolf氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月4日号に掲載された。静注鉄剤は、鉄欠乏性貧血の迅速な改善を可能にするが、これらの製剤は線維芽細胞増殖因子23(FGF23)に関連する低リン血症を誘発する場合があるという。静注鉄剤であるIIMとFCMとで無作為化試験 研究グループは、静注鉄剤であるIIMとFCMとで、低リン血症のリスクおよびミネラル骨恒常性のバイオマーカーへの影響を比較する目的で、2つの同一デザインの非盲検無作為化臨床試験を行った(Pharmacosmosなどの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン値≦11g/dL、血清フェリチン値≦100ng/mL)で、経口鉄剤が1ヵ月以上不耐または不応の患者であった。腎機能低下例は除外された。 被験者は、IIM(1,000mg、1回[Day0])またはFCM(750mg、2回[Day0、7])を静注投与する群に無作為に割り付けられた。Day0、1、7、8、14、21、35に、血清リン濃度とミネラル骨恒常性のバイオマーカーの評価が行われた。 主要エンドポイントは、ベースラインから35日までの期間における低リン血症(血清リン濃度<2.0mg/dL)の発生とした。静注鉄剤の低リン血症の発生率はIIMがFCMに比べ低かった 2017年10月~2018年6月の期間に、米国の30施設で245例(試験A:123例[平均年齢45.1歳、女性95.9%]、試験B:122例[42.6歳、94.1%])が登録された。試験A(治療完遂率 95.1%)では、IIM群に62例、FCM群には61例が、試験B(同93.4%)では両群に61例ずつが割り付けられた。 2つの静注鉄剤の試験を合わせた35日の時点での低リン血症の発生率は、IIM群がFCM群に比べ低かった。試験AではIIM群が7.9%、FCM群は75.0%(補正後発生率の群間差:-67.0%、95%信頼区間[CI]:-77.4~-51.5、p<0.001)であり、試験Bではそれぞれ8.1%および73.7%(-65.8%、-76.6~-49.8、p<0.001)であった。 静注鉄剤による血清リン濃度は、ベースライン以降のすべての測定日において、IIM群に比べFCM群で低値であった(p<0.001)。尿中リン排泄分画は、試験期間を通じて、IIM群に比べFCM群で高く、Day14が最も高値であった(p<0.001)。 生物学的活性を有するintact FGF23の平均値は、FCM群では46.2pg/mLから151.2pg/mLに上昇し、Day8(2回目の投与[Day7]の24時間後)に頂値(343.6pg/mL)に達した後に漸減したが、すべての測定日でIIM群よりも有意に高かった(p<0.001)。また、C末端FGF23の濃度は、両群とも投与から24時間以内に低下したが、Day8~21には、FCM群がIIM群に比べ再上昇した(p<0.001)。 活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンDは、両群とも低下したが、FCM群のほうが低下の程度が大きく、試験期間を通じて一貫していた(p<0.001)。また、非活性型の24,25-ジヒドロキシビタミンDは、Day7以降、IIM群よりもFCM群で有意に増加した(p<0.001)。 静注鉄剤による有害事象の頻度は、IIM群よりもFCM群で高かった(試験A:7/63例[11.1%]vs.27/60例[45.0%]、試験B:14/62例[22.6%]vs.28/57例[49.1%])。また、副甲状腺ホルモン上昇(IIM群3.2% vs.FCM群5.1%)、頭痛(3.2% vs.4.3%)、悪心(0.8% vs.6.8%)の頻度が高かった。 著者は、「これらの知見の臨床的重要性を評価するために、さらなる検討を要する」としている。

210.

ビタミンDとオメガ3脂肪酸は糖尿病性腎臓病の進展を抑制しない(解説:住谷哲氏)-1183

 ビタミンDまたはオメガ3脂肪酸が健常人の心血管イベントやがんの発症を抑制するか否かを検討した大規模無作為化試験VITALの結果はすでに報告されているが、残念ながらビタミンDおよびオメガ3脂肪酸の両者ともに心血管イベントもがんも抑制しなかった1,2)。本試験はこのVITALに組み込まれた糖尿病患者を対象としたsupplementary trial VITAL-DKDであり、主要評価項目は治療開始5年後のeGFRの低下である。 この試験の背景には動物実験でビタミンDの投与が(1)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する、(2)腎臓での炎症および線維化を抑制する、(3)ポドサイトのアポトーシスを抑制する、(4)アルブミン尿および糸球体硬化の程度を軽減すること、ならびにオメガ3脂肪酸が抗炎症作用および抗血栓作用を有することがある。また多くの観察研究において血中25(OH)D3濃度低値、少ない魚摂取量、血中オメガ3脂肪酸濃度低値がアルブミン尿の程度およびeGFRの低下と相関することが報告されている。つまり動物実験と観察研究の結果からは、ビタミンDまたはオメガ3脂肪酸の投与による糖尿病性腎臓病の進展抑制の可能性が示唆されたことになる。 2×2要因デザインを用いてビタミンD3(2,000 IU/日)またはオメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸:1g/日)が投与された。主要評価項目である5年後のeGFRの低下はビタミンD3投与群、オメガ3脂肪酸投与群および両者の投与群とプラセボ群との間に有意な差は認められなかった。また副次評価項目である臨床的腎アウトカム(eGFRの40%以上の低下、腎不全、死亡からなる複合アウトカム)ならびに尿アルブミンについてもプラセボ群との間に有意差を認めなかった。 ビタミンDならびにオメガ3脂肪酸をサプリメントとして服用している糖尿病患者は少なくないと思われる。本試験の結果から考えると、糖尿病患者がこれらのサプリメントを摂取しても糖尿病性腎臓病進展の予防効果は期待できないだろう。やはりサプリメントに頼らず、エビデンスに基づいた治療と健康的な食生活とを目指すのが賢明だろう。

211.

第23回 意識しよう 免疫力を高めるビタミンDの食材一覧表【実践型!食事指導スライド】

第23回 意識しよう 免疫力を高めるビタミンDの食材一覧表医療者向けワンポイント解説ビタミンDは、紫外線(日光)を浴びることにより、皮膚で合成されるビタミンとしても有名です。しかし、皮膚合成だけでは不十分であるため、食事からの摂取が見直されつつあります。厚生労働省は、5年ごとに改定する「日本人の食事摂取基準」2020年版において、ビタミンDについても変更を加えています。ビタミンDの指標設定については、「骨折リスクを上昇させないビタミンDの必要量に基づき目安量を設定」とされ、2015年度に比べると18歳以上の男女ともに5.5μg/日から8.5μg/日に変更されています。ビタミンDの欠乏や不足におけるリスクは、くる病や骨軟化症のなどが有名ですが、ほかにも骨粗鬆症、感染症、自己免疫、炎症性疾患、心血管病変、がんなどが報告されています。また、ビタミンDは、自然免疫系を増強させ、獲得免疫系の制御をすると考えられ、風邪、インフルエンザ、肺炎など呼吸器感染症の予防が期待されています。また、ビタミンDの不足は糖尿病のリスクを高めるという報告もあります。しかし、糖尿病に関しては、「2型糖尿病の高リスク者に対して、ビタミンD補充をしても、リスクは低下しなかった」という報告*もあり、糖尿病に対して、ビタミンDを摂取すれば良いという考え方ではなく、日常の体づくりに対しての摂取を考えていくべきかもしれません。ビタミンDを食事から摂取しようとする場合、食材は限られており、多く含まれるのは、「魚」「きのこ類」「たまご」です。100gあたりのビタミンD量を比較すると、乾燥きくらげが圧倒的に多く85.4μgです。しかし、実際に1度の食事で摂取できる量は3g程度であり、ビタミンDに換算すると約2.6μgです。そのほか、きのこ類では、舞茸に多く含まれ、大きなパック1個分(100g)で約4.9μgとなります。魚では、サケなどが摂りやすく33μg/100gであり、切り身1枚(80g)程度でも約26.4μgと目安量を簡単に摂取することが可能です。しらす干しは大さじ1杯(5g)で約3μgのビタミンDが摂取できます。魚やきのこは嗜好や食生活の環境によって摂取量が左右されるため、毎日意識をして摂取することがカギとなります。*:Pittas AG, et al. N Engl J Med. 2019;381:520-530.

212.

ウエスト症候群〔WS:West syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウエスト症候群(West syndrome:WS)は、頭部前屈する特徴的な発作のてんかん性スパズム(以下、スパズム)と発作間欠時脳波においてヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)を呈する乳児期のてんかん症候群である。難治性の発達性てんかん性脳症の1つで、1841年にWilliam James WestがLancet誌に自身の子どもの難治な発作と退行の経過について報告し、新たな治療の示唆を求めたことが疾患名の由来となっている。“Infantile spasms”、「点頭てんかん」などの呼称もあるが、それらの用語は発作型名と症候群名の両者で使用されることから混乱を招きやすいため、国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)では診断名として「ウエスト症候群」、発作型名として「てんかん性スパズム」を用いている。なお、WSは2歳未満で群発するスパズムを発症し、ヒプスアリスミアを呈するものとされ、発作型としてのスパズムは、2歳以上でもWS以外でも認められ、それらの症例ではヒプスアリスミアを伴わないことも多い1)。■ 疫学発生頻度は出生10,000に対し3~5例、男児が60~70%を占める。■ 病因ILAEの2017年版分類において、病因は構造的、感染性、代謝性、素因性(遺伝子異常症)などに分類されており、WSの病因としてはどれもあり得る。具体的な基礎疾患としては、周産期低酸素性脳症などの周産期脳障害、先天性サイトメガロウイルス感染などの胎内感染症、結節性硬化症などの神経皮膚症候群、滑脳症、片側巨脳症、限局性皮質形成異常、厚脳回などの皮質形成異常、 ダウン症候群などの染色体異常症などと極めて多彩である。さらに近年の遺伝子研究の進歩により、ARX、STXBP1、SLC19A3、SPTAN1、CDKL5、KCNB1、GRIN2B、PLCB1、GABRA1などの遺伝子変異がWSの原因として明らかになっている。多様な原因遺伝子が判明する中、現時点ではその病態生理は解明されていない。■ 症状スパズムは四肢・体幹の短い筋収縮(0.5〜2秒)で、筋収縮の持続時間はミオクロニー発作より長く、強直発作よりも短い。頸部・体幹は前屈することが多く、四肢は伸展肢位、屈曲肢位ともみられる。数秒〜30秒程度の間隔で群発し、わが国ではシリーズ形成と表現される。重篤で難治のてんかん症候群であるにもかかわらず、乳児にみられる一瞬の運動症状で、軽微な動作のため看過されることがまれではない。発作の動画は、医学書など成書の添付資料の他、ウエスト症候群患者家族会のホームページでも一般向けに公開されている。■ 分類従来はILAEの1989年分類に基づき症候性、潜因性に2分されていた。明確な病因、脳の器質的疾患がある症例、または発症前から発達が遅滞し、既存の病因が推定される症例を症候性、それ以外は潜因性と分類され、症候性が70〜80%を占めるとされていた。 2017年に発表された新たな分類では、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群の3つのレベルの分類と、それとは異なる軸として、病因と合併症の軸で分類されている。WSはてんかん症候群の中の1つの症候群として位置付けられ、下位の分類項目は定められていない。なお、発作型は焦点性、全般性、起始不明と分類され、スパズムは3型いずれにも位置付けられている。てんかん病型としても焦点、全般、全般焦点合併、病型不明の4型に分類されており、合併発作型に応じてWSではいずれの病型分類にも属し得る。病因は先述のように、構造的、素因性、感染性、代謝性、免疫性、病因不明の6病因に分類され、WSでは構造的、素因性、感染性、代謝性病因が多い。■ 予後発作予後に関して、6~10歳時点において50~90%で何らかの発作が残存する。レノックス・ガストー症候群への移行は10~50%とされるが、近年は移行例が減少傾向にある。一般に極めて難治性であるが、まれに感染症などを契機に寛解する症例も存在する。発達予後も不良で、正常知能は10~20%に過ぎず、70~90%は中等度以上の知的障害・学習障害を呈する。また約30%に自閉症、約40%に運動障害を合併する。なお、発症後早期の治療介入が重要で、特に発症時まで正常発達の症例では早期の治療介入が長期的な発達予後を改善すると報告されている2-5)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査では脳波が最も重要である。発作間欠時の特徴的所見であるヒプスアリスミア(hypsarrhythmia)は通常、200μVを越える高振幅(hyps-)で、多形性・多焦点性の徐波と棘波が無秩序・不規則(-arrhythmia)に混在し、同期性が欠如した混沌とした外観である。WSの診断は、ヒプスアリスミアとスパズムから比較的容易である。鑑別すべきてんかん発作では、ミオクロニー発作、強直発作があげられ、非てんかん性運動現象・症状としては、モロー反射・驚愕反応、ジタリネス、生理的ミオクローヌス、身震い発作、自慰、脳性麻痺児の不随意運動などである。これらは群発の有無、発達退行、不機嫌などの合併、脳波上のヒプスアリスミアの有無からも鑑別可能であるが、確実な鑑別には発作時脳波が必要である。病因診断、および合併症診断として、身体所見、頭部画像検査、血液・尿・髄液の一般検査・生化学検査、感染・免疫検査、染色体検査、発達検査などを実施する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)WSに対して最も有効性が確立している治療法はACTH療法2,3)であるが、具体的な治療法(投与量、投与期間)は確立していない1,5)。ついで有効性が示されているのは、ビガバトリン(VGB)〔商品名:サブリル〕で、特に結節性硬化症に伴う症例では際立った有効性が報告されている2,3)。海外では、ACTH製剤が高額なため経口プレドニゾロン(PSL)大量療法が行われる事も多く、ACTH療法に次ぐ有効性が報告されている2,3)。その他、ビタミンB6大量療法、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、ニトラゼパム、ケトン食療法、免疫グロブリン療法、TRH療法などの有効例も報告されているが、いずれもACTH療法に比し有効率は低い。そのため、通常はACTH療法、VGB導入までの検査・準備期間、もしくはACTH療法、VGB導入後の治療選択肢となる。旧分類による潜因性病因の症例では、早期のACTH療法が発達予後を改善する可能性が高いことが示され 2-5)、発症後早期に有効性が高い治療法を順次導入する事が望まれている。長期的な知的予後では、ACTH療法がVGBに比し優位とされている。そのため、副作用の観点からACTH療法を控えるべき合併症の状況がなければ、原則的にはACTH療法の早期導入が望ましいだろう1)。ACTH療法を控えるべき合併症の状況としては、心臓腫瘍合併例の結節性硬化症、先天性感染症、直前にBCG、水痘、麻疹、風疹、ロタウイルスなどの生ワクチン接種症例、重度の重複障害児などがあげられ、これらの症例ではVGB先行導入を考慮すべきであろう1)。ACTH療法、VGBによる初期治療が無効の場合、ゾニサミド、バルプロ酸、トピラマート、クロナゼパム、そしてケトン食療法などを合併症と副作用を勘案し、順次試みていく。焦点性スパズムを呈する症例、限局性皮質形成異常、片側巨脳症などの片側・限局性脳病変の構造的病因症例では、焦点局在の確認を進め、早期に焦点切除、機能的半球離断術、脳梁離断術等を含めてんかん外科治療の適応を検討する。4 今後の展望WSに特化した治療ではないが、難治てんかんに関しては、世界的にはいくつかの治験が進んでいる。1つはもともと食欲抑制剤として使用され、その後に心臓弁膜症、肺高血圧症などの重大な副作用により使用が制限されたfenfluramineで、もう1つはcannabinoidの1つであるcannabidiolである。海外の使用経験からは、難治てんかんの代表であるドラベ症候群、そしてWSからの移行例が多いレノックス・ガストー症候群に対して高い有効性が報告されている。今後、治療選択肢増加の観点からもわが国における治験の進展と承認に期待したい。5 主たる診療科小児科(小児神経専門医、日本てんかん学会専門医在籍が望ましい)、小児神経科、小児専門病院の神経(内)科※ 医療機関によって診療科目の呼称は異なります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 点頭てんかん(ウエスト(West)症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウエスト症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)稀少てんかん症候群登録システム RES-R(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会(専門医検索)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本てんかん学会ホームページ(専門医名簿)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウエスト症候群 患者家族会(患者とその家族および支援者の会)1)浜野晋一郎. 小児神経学の進歩. 2018;47:2-16.2)Wilmshurst JM, et al. Epilepsia. 2015;56:1185-1197.3)Go CY, et al. Neurology. 2012;78:1974-1980.4)Hamano S, et al. J Pediatr. 2007;150:295-299.5)伊藤正利ほか. てんかん研究. 2006;24:68-73.公開履歴初回2020年02月10日

213.

心房細動後1年間の出血リスク、AIによる新予測モデルが有望(GARFIELD-AF)

 脳卒中リスクを有する心房細動患者において、ビタミンK拮抗薬(VKA)治療開始後1ヵ月のPT-INR連続測定値を使用したAIによる新予後予測モデルが、至適範囲内時間(TTR)による予測と比較して高い精度を有する可能性が示唆された。東海大学の後藤 信哉氏らが、GARFIELD-AFレジストリのデータにより検討した。Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother誌オンライン版2019年12月10日号掲載の報告。 GARFIELD-AFレジストリは、脳卒中リスクのある心房細動患者における抗血栓療法のアウトカムを検討する、最大規模の国際的な多施設共同前向き観察研究。今回、研究者らは同レジストリのデータにおける、登録後30日以内のPT-INRの連続測定値を用いて、31日目から1年までの臨床転帰を予測するための新たなAIモデルを開発した。従来の多くの臨床リスク層別化モデルは、連続測定ではなく単一時点での測定に基づいているが、AIは多次元データセットから1次元の結果を予測することができる。このモデルは、長・短期記憶と1次元の畳み込み層を含む多層ニューラルネットワークで構築されている。 本解析では、VKAで治療され、処方が確認されてから最初の30日間に少なくとも3回PT-INRの測定が行われた、AFと新たに診断された患者が対象。アウトカムとして、31~365日の間に発生した大出血、脳卒中/全身性塞栓症(SE)、全死因死亡が用いられた。 主な結果は以下の通り。・ニューラルネットワークは、治療開始後0〜30日以内のPT-INR測定値によりトレーニングされ、解析コホート(3,185例)で31〜365日にわたって臨床アウトカムが得られた。・AIモデルの精度は、検証コホートで評価された(1,523例)。・大出血、脳卒中/SE、および全死因を予測するためのAIモデルのC統計量は、それぞれ0.75、0.70、および0.61であった。TTRでは、有意な差がみられなかった。

214.

中年期の健康的な生活様式は平均余命にどう影響?/BMJ

 中年期の健康的な生活様式の順守は、主要慢性疾患(がん、心血管疾患、2型糖尿病)のない平均余命を延長することが、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のYanping Li氏らによる検討の結果、示された。これまで、修正可能な生活様式因子(喫煙、身体活動、アルコール摂取、体重、食事の質)が、平均余命および慢性疾患発症の両者に影響することは知られていた。しかし、複数の生活様式因子の組み合わせと、主要な疾患(糖尿病、心血管疾患、がんなど)のない平均余命との関わりについて、包括的に検討した研究はほとんどなかったという。BMJ誌2020年1月8日号掲載の報告。5個の様式の組み合わせと主要慢性疾患のない平均余命の関連を調査 研究グループは、米国で行われた前向きコホート研究「Nurses' Health Study」(1980~2014年、女性7万3,196人)と「Health Professionals Follow-Up Study」(1986~2014年、男性3万8,366人)の参加者データを分析し、健康的な生活様式が主要な慢性疾患のない平均余命とどのように関連するかを調べた。 「非喫煙」「BMI 18.5~24.9」「中強度~高強度(30分/日以上)の身体活動」「適度なアルコール摂取(女性5~15g/日、男性5~30g/日)」「食事の質のスコア(Alternate Healthy Eating Index:AHEI)が高い(各コホートで上位40%に属する)」の5個を「低リスク生活様式因子」と定め、その実践数別(0、1、2、3、4/5個)に、糖尿病、心血管疾患、がんのない平均余命年を算出して評価した。低リスク生活様式が多いほど平均余命は延長 女性227万411人年、男性93万201人年のフォローアップ中に、3万4,383人(女性2万1,344人、男性1万3,039人)の死亡が記録された。 低リスク生活様式因子の実践数が多い被験者は、マルチビタミンサプリメントおよびアスピリンの服用者が多い傾向がみられた。 50歳時点での総平均余命(慢性疾患の有無を問わず集計)は、低リスク生活様式因子が多いほど長く、女性は31.7年(0個)~41.1年(4/5個)、男性は31.3年(0個)~39.4年(4/5個)にわたっていた。 50歳時点での糖尿病、心血管疾患、がんのない平均余命は、女性においては低リスク生活様式因子の実践が0個の場合は23.7年(95%信頼区間[CI]:22.6~24.7)であったが、4/5個実践の場合は34.4年(33.1~35.5)であった。男性においては、実践が0個の場合は23.5年(22.3~24.7)であったが、4/5個実践の場合は31.1年(29.5~32.5)であった。 50歳時の総平均余命に対する慢性疾患のない平均余命の割合は、重度の現行男性喫煙者(紙巻きタバコ15本/日以上)や、肥満(BMI 30以上)の男性および女性で最も低く、いずれも75%以下であった。

215.

電子タバコ関連の肺障害、酢酸ビタミンEが関与か/NEJM

 米国では現在、電子タバコまたはベイピング製品の使用に関連する肺障害(electronic-cigarette, or vaping, product use-associated lung injury:EVALI)が、全国規模で流行している。同国疾病予防管理センター(CDC)のBenjamin C. Blount氏らLung Injury Response Laboratory Working Groupは、EVALIの原因物質について調査し、酢酸ビタミンEが関連している可能性が高いと報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年12月20日号に掲載された。2019年12月12日現在、米国の50州とワシントンD.C.、バージン諸島、プエルトリコで、2,400人以上のEVALI罹患者が確認されている。すでに25州とワシントンD.C.で52人が死亡し、罹患者の78%が35歳未満だという。症状は、呼吸器(95%)、全身(85%)、消化器(77%)が多く、数日から数週間をかけて緩徐に進行すると報告されているが、その原因物質は同定されていない。電子タバコ関連の肺障害患者51人と健常者99人で高優先度の毒性物質を評価 研究グループは、電子タバコ関連の肺障害に関連する毒性物質を同定する目的で、EVALI患者と健常者の気管支肺胞洗浄(BAL)液を調べた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、米国16州のEVALI患者51人と、2015年に開始され、現在も進行中の喫煙関連研究の参加者のうち、電子タバコまたはベイピング製品のみの使用者や、タバコを専用する喫煙者、これらの非使用者を含む健常者99人であった。 参加者から採取したBAL液を用い、同位体希釈質量分析法で優先度の高い毒性物質(酢酸ビタミンE、植物油、中鎖脂肪酸トリグリセライド油、ココナッツ油、石油蒸留物、希釈テルペン)の測定を行った。電子タバコ関連の肺障害患者の酢酸ビタミンE検出率:患者94% vs.健常者0% 2019年8月~12月の期間に、米国16州の電子タバコ関連の肺障害患者51人からBAL液が採取された。年齢中央値は23歳で、男性が69%を占めた。77%がテトラヒドロカンナビノール(THC)含有製品を、67%がニコチン含有製品を、51%はこれら双方を使用していた。51人のうち、25人はEVALI確定例、26人は疑い例であった。 健常者集団(99人)のBAL液は2016~19年に採取された。電子タバコ使用者は18人(年齢中央値27歳、男性67%)、喫煙者は29人(26歳、76%)、非使用者は52人(25歳、37%)であった。この集団のBAL液からは、6種の優先度の高い毒性物質は検出されなかった。 一方、電子タバコ関連の肺障害患者のBAL液からは、51人中48人(94%)で酢酸ビタミンEが検出された。1人からは、酢酸ビタミンEに加えココナッツ油が検出され、酢酸ビタミンEもTHCも検出されなかった1人からはリモネン(希釈テルペン)が検出された。これ以外の患者からは、酢酸ビタミンE以外の優先度の高い毒性物質は検出されなかった。 検査データがあり、製品の使用が報告されているEVALI患者50人中47人(94%)では、BAL液からTHCまたはその代謝産物が検出され、EVALI発症前90日以内でのベイピング用THC製品の使用が報告されていた。また、ニコチンまたはその代謝産物は、47人中30人(64%)のBAL液から検出された。 著者は、「酢酸ビタミンEが単独で、EVALI患者にみられる肺障害の直接的な原因となりうるかは、動物実験によって明らかとなる可能性がある」としている。

216.

肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」【肺がんインタビュー】 第30回

第30回 肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」がん患者では静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高い。がん患者の生命予後の改善に伴い、VTE発症も増加している。しかし、いまだに日本人がん患者におけるVTEの大規模研究はない。そのような中、肺がん患者を対象にした、日本初の大規模前向き観察試験「Rising-VTE」試験が進行中である。試験責任者である島根大学の津端 由佳里氏に試験の背景と狙いを聞いた。「この患者さんが出血で亡くなったら…」データがない日本人がん患者のVTEこの試験を行おうと考えられたきっかけは何ですか。国立がん研究センターでの研修時、両側下肢のVTEの患者さんを診たことがきっかけです。当時、指導医と相談して、その患者さんにワルファリン療法を開始しました。ところが、カンファレンスで「もしこの患者さんが出血で亡くなったらどうするの?」と、当時の上司に指摘されました。がん患者のVTEのデータは海外の研究しかなかったのです。その後、島根大学に戻ると、肺がん患者さんの生命予後の延びに伴ってVTEの患者さんも多くなっていると実感しました。「こういう治療をするなら、津端先生自身が日本人のデータを出さなければいけない」。研修当時の上司の言葉が、ずっと心に残っていました。がん患者さんにVTEが多いのはなぜですか。また、VTEの合併はどの程度ですか。がん患者さんのVTEリスクが高いのは、がん細胞が凝固促進因子を積極的に作り出して凝固傾向を招いているからです。KhoranaのVTEリスクスコア*を用いた海外の報告では、入院がん患者の20%にVTEが存在するとあります。*Khorana VTEリスクスコア:がんの部位、血小板数、ヘモグロビン値、赤血球造血刺激因子製剤の使用、白血球数、BMIをリスク因子とし、合計点からVTE発症を予測するスコアDOACの登場で臨床試験実現この試験ではDOAC(direct oral anticoagulant:直接作用型経口抗凝固薬)をお使いですが、試験の実現に至った経緯との関係はありますか。まず、ワルファリンでの臨床試験を考えましたが、抗がん剤とワルファリンは相性が良くありません。ワルファリンの代謝はCYPに影響されるため、抗がん剤との併用が問題になることが多くあります。さらに、ワルファリンの効果はビタミンなど食事の内容に影響されます。化学療法を受けている患者さんは摂食に障害が出ることも多く、ワルファリンがコントロールしにくいのです。また、がん患者さんは出血リスクも高いため、出血傾向の問題になりえます。このようなことから、ワルファリンで研究するのは難しいと思っていました。そのような中、DOACが下肢VTEに承認されました。DOACであれば、出血リスクも少なく、食事の影響も受けにくいので、がん患者さんのVTE試験ができると思いました。そこで、医師主導で臨床試験をやりたいのでご支援いただけないかと、第一三共株式会社に相談しました。ちょうど同社にも、がん患者さんのデータに対するニーズがあり、ご了承いただき、医師主導臨床試験が実現しました。試験の概要について教えてください。Rising-VTEは多施設前向き観察試験です。国内の35施設から根治的な治療を行わない肺がん患者さんを登録し、診断時にVTE合併の有無を確認します。VTE合併のある患者さんには、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の投与を行い、VTEの再発状況と治療の安全性を観察します。VTE合併のない患者さんには通常の治療を行い、2年間観察し、症候性および無症候性のVTEの発症を観察します。“医師の知りたい”に応える試験この試験で注目すべきことは何ですか?日本では、がん患者の血栓塞栓症の大規模な研究はまったくありませんでした。前向きの観察研究として、そして4期の肺がんを対象としたものとしては、初めてかつ最大規模であると考えています。医師主導臨床試験ですので、医師が知りたいと思うことをClinical Questionとして取り上げています。メーカーが考えたプロモーションのための試験ではなく、医師が知りたいと思ったことを提案し、それに関して企業からサポートを受けた試験ですので、日常診療に即した結果を大いに期待していただけると思います。「医師が知りたいと思うこと」とは、どのようなことですか。VTEの診療は、基本的にはASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインに準じて行います。この試験により、欧米人との発症の差や日本人としてのリスクをみることができます。また、がんの臨床経過とVTE発症の関係がみられると思います。がん細胞が血栓塞栓因子を出しているため、がんが良くなると血栓塞栓も良くなり、がんが悪くなると血栓塞栓も悪くなります。がんの臨床経過とVTE発症の関係をみることで、VTE治療の開始時期、中断と再開のタイミングなども検討できます。そして、4期の肺がんに特化することで、臨床に有益な細かな情報が得られます。肺がんでは、分子標的治療薬、免疫CP阻害薬、細胞障害性抗がん剤という3種の薬剤を使います。また、遺伝子変異検査を行っています。どの薬剤でどれくらい血栓塞栓が出るか、どの遺伝子変異でどれくらい血栓塞栓が出るか、そのほか、組織型などの患者背景によるリスクが明らかになってくると思います。試験のスケジュールはどのようなものですか。2016年6月から登録を開始し、2018年8月に登録は完了しました。登録症例数は1,000例を目標としましたが、最終的には1,021例の登録を頂きました。経過観察期間である2020年8月まで、VTEがどれだけ発症したか、最初にVTEがあった人の結果はどうだったかを調査します。最終結果は2021年になる予定です。最後に読者の方にメッセージをお願いします。がんとVTEは昔から非常に注目されていましたが、腫瘍を治療する医師と循環器内科医師の連携の機運も高まる中、最近はさらに注目を浴びています。当試験のベースラインのデータでも、肺がん診断時に6.4%の患者さんがVTEを合併し、そのうち80%の方が無症候性でした。目の前の患者さんにもVTE合併の可能性があることを念頭に置いて、積極的なVTEスクリーニングを心掛けていただければと思います。Rising-VTE試験世界肺癌学会(WCLC2019)での発表はこちら

217.

海洋由来オメガ3脂肪酸と大腸がん予防効果/JAMA Oncol

 オメガ3脂肪酸には植物由来と海洋由来があるが、本稿は海洋由来オメガ3脂肪酸の話題。米国・ハーバード公衆衛生大学院のMingyang Song氏らは、「Vitamin D and Omega-3 Trial:VITAL試験」で事前に設定された補助的研究において、海洋由来オメガ3脂肪酸(1日1g)の摂取は大腸がん前がん病変リスクの減少と関連しないことを明らかにした。ただし副次解析で、ベースラインのオメガ3濃度が低い参加者やアフリカ系米国人に関しては有益性を示す結果がみられ、筆者は、これらの対象についてはサプリメントの有益性についてさらなる調査が必要であると述べている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年11月21日号掲載の報告。 研究グループは2011年11月~2014年3月に、がんおよび心血管疾患の既往がない米国の一般集団2万5,871例(うちアフリカ系米国人5,106例)を登録し、海洋由来オメガ3脂肪酸1g/日(エイコサペンタエン酸[EPA]460mgとドコサヘキサエン酸[DHA]380mgを含む)およびビタミンD3(2,000 IU/日)を投与する群と、プラセボ群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、大腸の通常型腺腫(管状腺腫、管状絨毛腺腫、絨毛性腺腫および高度異形成腺腫など)または鋸歯状病変(serrated polyp:SP)(過形成性ポリープ、鋸歯状腺腫およびsessile serrated polypなど)のリスクとした。追跡調査のアンケートでポリープの診断を受けたと報告した参加者(ポリープサブグループ)については、内視鏡および病理学的記録にて診断を確認。ロジスティック回帰分析を用い、年齢、性別、ビタミンD3治療群および内視鏡検査の使用について補正後、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 主な結果は以下のとおり。・投与群とプラセボ群で患者背景は類似していた。女性50.6%、50.5%、黒人19.7%、19.8%、平均年齢は67.2歳、67.1歳。・介入は予定どおり2017年12月31日に終了。追跡期間中央値5.3年において、通常型腺腫が投与群294例、対照群301例(多変量OR:0.98、95%CI:0.83~1.15)、鋸歯状病変がそれぞれ174例、167例(OR:1.05、95%CI:0.84~1.29)が記録された。・ポリープサブグループにおいて、大きさ、位置、多発性または組織型で関連はなかった。・副次解析において、ベースラインの血漿中オメガ3指数が低い参加者で、海洋由来オメガ3脂肪酸の投与が通常型腺腫のリスク低下と関連していた(OR:0.76、95%CI:0.57~1.02、オメガ3指数による相互作用のp=0.03)。・サプリメントによる有益性は、アフリカ系米国人集団で示されたが(OR:0.59、95%CI:0.35~1.00)、他の人種/民族集団ではみられなかった(相互作用のp=0.11)。

218.

術後管理は手術を救えるか?―CABG編(解説:今中和人氏)-1156

 「人間、左前下行枝さえ保たれていれば何とかなる」とはいうものの、冠動脈バイパス手術の中・長期的便益は、ひとえに開存グラフトによってもたらされるのであり、グラフトの開存維持はまさに死活問題。その重要因子の1つは内服薬で、何をどのくらい処方すべきか、いろいろと考案されてきた。古くはアスピリン、ビタミンK拮抗薬と、それらの併用に始まり、近年ではチエノピリジン系(クロピドグレル、チカグレロル)やOACの中でもリバーロキサバンの、単剤ないし併用といったところである。 大伏在静脈グラフト(SVG)の開存性と内服薬に関するメタ解析である本論文は、3,266の候補論文を1979年から2018年の間に発表されたランダム化試験21本に絞り込み、1次アウトカムをSVG閉塞と出血イベント、2次アウトカムを全死因死亡と遠隔期心筋梗塞と定義して解析している。対象患者数は4,803例で、年齢は44~83歳、男性が83%、待期手術が83%、SVG本数は1患者当たり1.14~3.60本であった。 40年もの期間から容易に想像できるように、プロトコル、つまり処方薬剤・投与量・コンビネーション・投与期間はまったくバラバラだし、placebo対照の研究もあれば投与薬剤間の比較研究もある。この恐ろしく不統一なプロトコルを、薬剤とそのコンビネーションのみに基づいて群分けし、群間比較をしているのだが、絞りに絞った21論文とはいいながら、とくに2次アウトカムは書かれていない論文も多く、さらにたとえば流量が乏しかったのでDAPTに変更したが、群分けは当初のplacebo群のまま、といったintention to treat法に伴うbiasなどが目立ち、科学的公正性が高いのはわずか5論文とのことである。そのため、結果の信頼性はmoderate・low・very lowに3区分(highがない!)され、図表を見ると緑・黄色・赤に塗り分けられてキレイといえばキレイだが、めまいがするほど複雑である。読む側でさえそう感じるのだから、書いた側の苦労がしのばれる。 結論は、SVG閉塞に関しては、対placeboで、クロピドグレル単剤を除くすべての薬剤(単剤・併用)で有意に良好、アスピリン単剤に比し、アスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロルの併用が有意に良好で、その他の出血イベント、全死亡、遠隔期心筋梗塞は有意差がなかった。著者らはこの知見を本メタ解析の収穫として強調している。その他、SVG閉塞に関して、アスピリンへのリバーロキサバンの併用は、クロピドグレル、チカグレロルを併用した症例に有意に劣るという結果が出ているが、あまり詳述されていない。この薬剤については他の疾患や治療でも多様な結果が出ているようで、なかなか難しい。なお、古い論文も多く、スタチンをはじめ血液凝固関係以外の薬剤は検討対象外となっている。 読者として注意を要すると思われるのは、SVG閉塞の評価時期がとても早く、全4,800例のうち、3ヵ月以内の評価が600例もおり、平均観察期間が1年を超えているのは1論文216例のみであること、薬剤投与期間が観察期間未満で、やはりとても短いことである。とくに1ヵ月や50日後のSVG評価が250例もいて、これでは薬剤の効果をみているのか、吻合の質をみているのか、はたまた「術後管理は手術を救えるのか」をみているのか、かなり疑問である。ところが、これら観察期間の短い論文の多くが、著者らが収穫と強調するチエノピリジン併用に関する論文なので、どうも釈然としない。いずれにせよ、もっと長期の観察でないと、薬剤の効果をみたことになりにくいと考える。 もう1つは単剤でも併用でも、どの薬剤も対placeboで出血を有意に増やさない、という結論である。実はオッズ比2.53~5.74ながら95%信頼区間が恐ろしく広く、有意差なしということだが、理論的に大いに疑問である。ちなみにこれらのデータの信頼度はvery lowだそうで、図表は真っ赤っ赤。対placeboの疑義はともかく、アスピリンに上述の諸薬剤を併用しても、アスピリン単剤に比して出血イベントはさして増えていないようだが、何せ観察期間が短い論文ばかり。安全と鵜呑みにするのは危険である。 引き続き、あまり術後管理頼みにならない手術を心掛けて参りましょう。

219.

第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ【実践型!食事指導スライド】

第21回 コンビニで価格を抑えながら野菜を増やすコツ医療者向けワンポイント解説血糖値を考える上でも、健康的な食生活を考える上でも野菜の摂取は重要です。厚生労働省が策定した、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の栄養・食生活では、成人の野菜の摂取について「平均350g以上を目標とする」と定めています。野菜を摂取することは、1)血糖値の上昇を緩やかにする、2)ボリュームを増し満足度を高める、3)噛む回数を増やす、4)ビタミンやミネラル、食物繊維の摂取を増やす、5)水分摂取量を増やすなど、さまざまな働きとメリットがあります。野菜を食事の最初に食べる「ベジファースト」も、食事療法ではお薦めしたい方法です。しかし、野菜は「調理が必要」「外食では価格が高め」「よく行くお店にあまりメニューがない」とハードルが高いと感じる方も多く、摂取量を増やすことに対し難易度が高い面があります。そこで今回は、コンビニで価格を抑えながら手軽に野菜を増やすコツについて解説をします。野菜摂取を増やす習慣を身に付けましょう。●カップスープにはトマトジュース(無塩)手軽な野菜としてトマトジュース(無塩)があります。コンビニやスーパーで手軽に購入でき、間食などの飲料として利用することも良いでしょう。トマトジュースが少し苦手という方は、食事への応用がお薦めです。カップスープやカップ麺などを食べる際、湯ではなくレンジで温めたトマトジュースを加えます。とろみや風味が増しておいしく、食べ応えのあるスープ、汁物が出来上がります。また、栄養バランスも単体のカップ麺などに比べ、整えることができます。そのほか、トマトジュースをヨーグルトや甘酒(それぞれ1:1がおすすめ)と組み合わせることでトマトの酸味が抑えられ風味豊かなドリンクになります。●冷凍野菜をうまく活用最近のコンビニでは冷凍野菜が充実しています。とくに多いのはブロッコリーやオクラ、ほうれん草などの緑黄色野菜です。コンビニのサラダや袋入りカット野菜では緑黄色野菜が比較的少ないため、冷凍野菜で緑黄色野菜をとることは有効な方法です。コンビニのメニューはしっかりと味が付いているものが多いため、冷凍野菜はそのまま合わせるだけで味のバランスを整えることができます。たとえば、購入してきたパスタや麺に冷凍野菜をのせ、そのままレンジで温めれば、野菜たっぷりパスタ・麺に変えることができます。そのまま混ぜれば味わいも十分楽しむことができ、サラダを買ってドレッシングをかけるよりも減塩につなげることができます。●おつまみ系を組み合わせる。コンビニの野菜は、「サラダを買う」ことをつい考えがちですが、お惣菜にも目を向けてみることが大切です。パック惣菜のほか、1食分に小分けにされた惣菜などもありバリエーションが豊富です。惣菜の野菜を組み合わせ、主食をパック入り米飯にしてみることもお薦めです。パック入り米飯は、雑穀入り、玄米入りなどバリエーションが豊富に揃っており、ここでも食物繊維をプラスすることができます。上記以外にも、袋入りカット野菜を利用する方法もあります。安価で、カットされた野菜が入っているため、そのままサラダとして食べられるほか、レンジで加熱して(温める際は袋を少し開けておく)野菜をしんなりさせてから、カップスープや麺類などに加えるのも一つの方法です。なかなか「野菜を増やすことができない」「食べる機会がない」「調理が面倒」という方には、こうした方法で野菜を食べる機会を作ってみてもらうことはいかがでしょうか?

220.

2型DMの腎機能維持、ビタミンDとオメガ3脂肪酸の効果は?/JAMA

 2型糖尿病患者において、ビタミンD3あるいはオメガ3脂肪酸の補給は、プラセボと比較し、5年時の推定糸球体濾過量(eGFR)のベースラインからの変化に有意差は認められないことが示された。米国・ワシントン大学のIan H. de Boer氏らが、「Vitamin D and Omega-3 Trial:VITAL試験」の補助的研究として実施した2×2要因デザイン無作為化臨床試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「腎機能維持のためのビタミンDまたはオメガ3脂肪酸サプリメントの使用は支持されないことが示された」と述べている。慢性腎臓病(CKD)は2型糖尿病でよくみられる合併症で、末期腎不全につながり心血管高リスクと関連があるが、2型糖尿病でCKDを予防できる治療はほとんどないとされている。JAMA誌オンライン版2019年11月19日号掲載の報告。約1,300例で、ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の有効性をeGFRの変化で評価 研究グループは、2011年11月~2014年3月の期間に全米50州から募集した2型糖尿病患者1,312例を、ビタミンD3(2,000 IU/日)+オメガ3脂肪酸(エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸:1g/日)群370例、ビタミンD3(+プラセボ)群333例、オメガ3脂肪酸(+プラセボ)群289例、プラセボ群320例のいずれかに無作為に割り付け、5年間毎日投与した。 主要評価項目は、血清クレアチニンとシスタチンCから算出したeGFRのベースラインから5年時までの変化とした。5年後のeGFR変化量、プラセボと有意差なし 無作為化された1,312例(平均年齢67.6歳、女性46%)のうち、934例(71%)が試験を完遂した。ベースラインのeGFRは85.8(SD 22.1)mL/分/1.73m2であった。 5年時におけるeGFRのベースラインからの平均変化は、ビタミンD3群で-12.3mL/分/1.73m2(95%信頼区間[CI]:-13.4~-11.2)、対するプラセボ群で-13.1mL/分/1.73m2(95%CI:-14.2~-11.9)(群間差:0.9mL/分/1.73m2、95%CI:-0.7~2.5)であった。同様に、オメガ3脂肪酸群で-12.2mL/分/1.73m2(95%CI:-13.3~-11.1)、プラセボ群で-13.1mL/分/1.73m2(95%CI:-14.2~-12.0)(群間差:0.9mL/分/1.73m2、95%CI:-0.7~2.6)であり、2つの介入に有意な相互作用は確認されなかった。 有害事象は、腎結石が58例(ビタミンD3群32例、プラセボ群26例)、消化管出血が45例(オメガ3脂肪酸群28例、プラセボ群17例)発生した。

検索結果 合計:577件 表示位置:201 - 220