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第29回 PPIの胃酸分泌抑制作用はどのくらい差があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌抑制薬にはさまざまな製品がありますが、なかでもPPIのボノプラザンはとりわけ強力な胃酸分泌抑制作用を有していることで知られています。インタビューフォームには、既存のPPIよりも塩基性が高く胃壁細胞に高濃度に長時間残存して酵素活性を阻害すること、作用発現が早いこと、代謝酵素の遺伝子多型に影響されないことなどの特徴が記載されています1)。ピロリ菌の除菌率の高さからも処方頻度が増えていますので、今回はそのボノプラザンの効果の程度と注意点について紹介します。効果については、エソメプラゾール、ラベプラゾールと胃酸分泌抑制作用を比較した研究があります2)。CYP2C19に遺伝子変異のない成人男性ボランティア20名における胃酸分泌抑制作用を評価したオープンラベルのクロスオーバーランダム化比較試験で、比較1としてボノプラザン20mgとエソメプラゾール20mg、比較2としてボノプラザン20mgとラベプラゾール10mgをそれぞれ1日1回7日間服用してpH holding time ratio(pH HTR:酸分泌抑制作用の指標となる胃内pHを一定以上に保つ時間の割合)や胃内平均pHの上昇を検討しています。胃酸分泌抑制作用は1日目と7日目の両時点ともにボノプラザンが有意に優れており、とくに7日目のpH4 HTRは比較1ではボノプラザン群85.8%に対してエソメプラゾール群61.2%と24.6%の差で、比較2ではボノプラザン群93.8%に対してラベプラゾール群65.1%と28.8%の差がありました。1~7日目の24時間pH4 HTRは、ボノプラザン群>0.8、ラベプラゾール群0.393、エソメプラゾール群0.370で、大ざっぱに捉えると胃酸分泌抑制作用はボノプラザン>ラベプラゾール≒エソメプラゾールなのかなという印象です。論文には胃内pHの変動グラフが掲載されていますが、ボノプラザンでは胃内pHが塩基性領域に入っている時間帯すらあり、胃酸分泌抑制作用の強さには目を見張ります。忍容性はいずれの薬剤も良好で、ボノプラザン群では発疹による中止が1例ありましたが中止後に回復しています。ただし、潰瘍や出血の予防といった臨床的なエンドポイントを設定した研究ではないことは念のため付言しておきます。pH上昇により併用薬の吸収や溶解性が低下する場合も注意点としては、ボノプラザンに限った話ではありませんが、胃内pHを変動させる薬剤はしばしば添付文書にはない間接的な相互作用を招く恐れがあること。薬剤師として留意しておきたい点です。まして、pHの変動幅が大きい薬剤であればなおさらです。胃内pH上昇によって、分子型・イオン型の比率の変化や薬の溶解性・胃内容排出速度の変化が生じることがあります。前者の例としては、胃内pHが上昇することでイオン型が多くなる弱酸性薬剤の溶解性が低下し、消化管吸収が落ちるとする報告があります3)。具体的には、バルビツール酸類、フェニトイン、プロプラノロール、プロベネシド、ワルファリン、レボドパ、カルビドパなどが該当します。ちなみに、パーキンソン病患者にレボドパを投与する際にレモン汁によって酸を補充して胃内pHを低下させることで、血中レボドパ濃度の改善が認められたという報告もあります4)。後者の例としては、胃内pH上昇により溶解性が低下するイトラコナゾール5)、チロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が該当します6)。ボノプラザンなどの作用時間の長いPPIは、日内で服用タイミングをずらしても相互作用を回避できるものではありません。抗がん剤使用時は胃酸分泌抑制薬が必須となるケースもあるため、相互作用を許容して併用するケースもありますが、こうした可能性を踏まえて効果の程度を類推できるとよいと思います。服用タイミングをずらした場合の影響などは患者さんからの頻出質問だと思いますので、メカニズムを理解して説明できるようにしておきたいものです。1)ボノプラザンフマル酸塩錠インタビューフォーム2)Sakurai Y, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;42:719-730.3)Mitra A, et al. Mol Pharm. 2013;10:3970-3979.4)Yazawa I, et al. Rinsho Shinkeigaku. 1994;34:264-266.5)Jaruratanasirikul S, et al. Eur J Clin Pharmacol. 1998;54:159-161.6)Zenke Y, et al. Clin Lung Cancer. 2016;17:412-418.

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漫画で勉強【Dr. 中島の 新・徒然草】(292)

二百九十二の段 漫画で勉強年を取ると何をするのも面倒になり、つい読書よりも漫画に走ってしまいます。そんな私が発見したのが、漫画で勉強する方法です。成人スティル病とか、皮膚筋炎とか、多発性硬化症とか。漫画家自身がかかった疾患を詳細に描写しているのです。たとえば『なんびょうにっき』さとうみゆきさんという漫画家の成人スティル病闘病記です。アマゾンキンドル版なら簡単にスマホにダウンロードできます。成人スティル病が不明熱の原因となることは、誰でも知っているところですが、40℃超えの高熱が20日間以上続いて意識もうろう髪は汗で常にズブ濡れ状態サーモンピンク色のブキミな皮疹が浮き上がりカラダは衰弱。ちょっと動いただけで激痛が走るこれらが絵になっている上に、たとえ話が面白い。灼熱の砂漠に無理矢理連れてこられて力任せにきつく縛りあげられ、逆さ吊りで釜茹でされながらムチ打ちもされるというハードな拷問を受けている感じさすがに漫画家、表現が秀逸ですね。成人スティル病のサーモンピンク疹はあまりにも有名ですが、太もも一帯がびっちりと皮疹だらけで、まるでピンク色の短パンを履いているように見えた(ぷっくり隆起している)という絵が確かに印象的で、1度みたら忘れられません。アマゾンのカスタマーレビューで、71%の人が星5つを付けただけのことはあります。最後まで一気に読んでしまいました。とにかく馴染みのない病気を手っ取り早く知るのに、漫画ほど簡単で便利なものはありません。ほかにも『ふいにたてなくなりました。おひとりさま漫画家、皮膚筋炎になる』…皮膚筋炎『難病患者になりましたっ!漫画家夫婦のタハツセーコーカショーの日々』 …多発性硬化症『漫画家、パーキンソン病になる。』…パーキンソン病『ふんばれ、がんばれ、ギランバレー!』…ギラン・バレー症候群など、色々な漫画があり、アマゾンのカスタマーレビューではいずれも高評価。とりあえず私はスマホにダウンロードし、これから読み始めようといったところです。何だかこれらの難病が、急に身近なものに思えてきました。このようなジャンルがもっと充実すると、我々医師にも有難いですね。ということで最後に1句漫画家の 難病日記 超リアル

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レビー小体病とアルツハイマー病の生存率の違い

 アルツハイマー病(AD)とレビー小体病(LBD)は、2種類の代表的な認知症である。LBD患者の臨床経過がAD患者よりも不良であるかどうかについては、よくわかっていない。中国・香港大学のYat-Fung Shea氏らは、中国人LBD患者とAD患者の生存率や合併症発症について、レトロスペクティブレビューを行った。Singapore Medical Journal誌オンライン版2019年9月6日号の報告。 2008~16年にクイーン・メアリー病院のメモリークリニックに来院したADおよびLBD患者を対象に、すべてのバイオマーカーをレトロスペクティブにレビューした。ADおよびLBD診断は、臨床診断基準およびバイオマーカーによりサポートした。LBDには、レビー小体型認知症(DLB)およびパーキンソン病認知症(PDD)を含めた。ベースライン時の人口統計、臨床的特徴、認知機能障害の重症度、特定の臨床結果を収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、AD患者31例、LBD患者25例(DLB:18例、PDD:7例)であった。・疾患発症時より測定した場合、LBD患者は、AD患者と比較し、全生存期間が短い(p=0.02)、転倒の早期発生(p<0.001)、嚥下困難(p<0.001)、肺炎(p=0.01)、褥瘡(p=0.003)、施設入所(p=0.03)といった特徴が認められた。・Cox回帰分析では、LBDは転倒(ハザード比[HR]:5.86、95%信頼区間[CI]:2.29~15.01、p<0.001)、嚥下困難(HR:10.06、95%CI:2.5~40.44、p=0.001)、褥瘡(HR:17.39、95%CI:1.51~200.1、p=0.02)、施設入所(HR:2.72、95%CI:1.12~6.60、p=0.03)、死亡(HR:2.96、95%CI:1.18~7.42、p=0.02)の予測因子であることが示唆された。 著者らは「LBD患者は、AD患者と比較し、生存期間が短く、事前に指定したいくつかの長期イベントが早期に発生していた。また、LBDは、これら長期イベントの独立した予測因子であることが示唆された」としている。

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添付文書改訂:ベージニオ錠に安全性速報発出/抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定/トリプタンに薬物乱用頭痛に関する注意追加 ほか【下平博士のDIノート】第32回

ベージニオ錠に間質性肺疾患に関する安全性速報が発出画像を拡大する<Shimo's eyes>本剤は、これまでも重大な副作用として間質性肺疾患が報告されていましたが、市販直後調査中の2018年11月~2019年5月に本剤を使用した患者において、間質性肺疾患の重篤な症例が14例報告され、このうち3例が死亡に至ったことから、安全性速報(ブルーレター)1)が発出されました。今回、「警告」に下記の注意喚起が追加され、それに伴い「慎重投与」、「重要な基本的注意」、「重大な副作用」が改訂されました。【警告】間質性肺疾患があらわれ、死亡に至った症例も報告されているので、初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱等)の確認及び胸部X線検査の実施等、患者の状態を十分に観察すること。異常が認められた場合には、本剤の投与を中止し、必要に応じて、胸部CT、血清マーカー等の検査を実施するとともに、適切な処置を行うこと。本剤を服用する患者さんやご家族に対して、もし間質性肺疾患の初期症状(呼吸困難、咳嗽、発熱など)が発現した場合には、速やかに医師・薬剤師に連絡するようしっかりと伝える必要があります。抗コリン薬の禁忌が閉塞隅角緑内障に限定画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、多くの抗コリン作用を有する薬剤(抗コリン薬)は「緑内障」が禁忌であったため、本来安全性に懸念のある閉塞隅角緑内障患者のみならず、緑内障の95%を占める開放隅角緑内障患者にも使用できませんでした。そのため、開放隅角緑内障患者では、大きな影響がなくても使用できないという不利益や、疑義照会によって医療者の時間がとられることなどが問題となっていました。今回、薬事・食品衛生審議会で、抗コリン薬の添付文書の「禁忌」に記載されている緑内障にかかわる記載の変更が了承され、閉塞隅角緑内障のみが禁忌となりました2)。しかし、実際には患者自身が自身の緑内障のタイプを正確に把握していない場合も多く、今後の疑義照会の是非については、薬剤師側が難しい判断を迫られることになるかもしれません。今回の改訂の対象薬剤は、感冒薬、鎮痙薬、抗アレルギー薬、向精神薬、抗不整脈薬、パーキンソン病治療薬、AD/HD治療薬など多岐にわたりますが、眼科用製剤は含まれないことに留意しましょう。トリプタン系薬剤に薬物乱用頭痛に関する注意追加画像を拡大する<重要な基本的注意>トリプタン系薬剤により、頭痛が悪化することがあるので、頭痛の改善を認めない場合には、「薬剤の使用過多による頭痛」の可能性を考慮し、投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。<Shimo's eyes>薬剤を過剰に使用することで起こる薬物乱用頭痛(MOH)は、緊張型頭痛、片頭痛に次いで3番目に多い頭痛といわれています。MOHの原因となる薬物には、トリプタン系薬剤以外にも、NSAIDsやエルゴタミン製剤などがありますが、トリプタン系薬剤は少ない服薬回数でMOHを発症する傾向があるとの報告があるため、今回の改訂3)に至ったと考えられます。片頭痛治療中の患者さんがMOHに陥らないために、頭痛治療薬の正しい服用タイミングや生活指導を含めた適切な服薬指導を心掛けましょう。メトホルミン含有製剤、重度の腎機能障害患者のみを禁忌へ画像を拡大する<Shimo's eyes>これまで、メトホルミン含有製剤について、乳酸アシドーシスに対するリスク回避の観点などから、1日最高投与量が2,250mgの製剤では「中等度以上」、1日最高投与量が750mgの製剤では「軽度~重度」の腎機能障害の患者に対して禁忌となっていました。今回の改訂4)では、海外の最新の科学的知見に基づいて使用制限が見直され、禁忌がeGFR30mL/min/1.73m2未満の重度腎機能障害の患者に限定されることとなりました。軽度~中等度の腎機能障害患者は「慎重投与」となり、eGFR値に応じた1日最高投与量の目安が添付文書に記載されています。製剤ごとに内容が異なるため、それぞれの薬剤の添付文書をしっかり確認しましょう。参考1)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ベージニオ錠50mg/100mg/150mgによる重篤な間質性肺疾患について(安全性速報)2)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 抗コリン作用を有する薬剤における禁忌「緑内障」等に係る添付文書の「使用上の注意」改訂について(薬生安発0618)3)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 トリプタン系薬剤の「使用上の注意」の改訂について4)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 使用上の注意改訂情報(令和元年6月18日指示分)

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急性期統合失調症治療に対する経口抗精神病薬32種類の有効性と忍容性の比較

 統合失調症は、最も一般的な疾患の1つであり、世界中の成人において負担や費用のかかる精神疾患である。統合失調症治療では、抗精神病薬が選択されるが、どの薬剤を使用するべきかについては意見が分かれている。ドイツ・ミュンヘン工科大学のMaximilian Huhn氏らは、ランダム化比較試験のデータを定量化することにより、抗精神病薬の比較とランク付けを行った。Lancet誌オンライン版2019年7月11日号の報告。抗精神病薬の比較に5万3,463例のデータを分析 プラセボ対照試験およびhead-to-headランダム化比較試験のネットワークメタ解析を実施し、32種類の抗精神病薬を比較した。各データベースより、2019年1月8日までのデータを検索した。2人の独立した著者が研究を選択し、データを抽出した。統合失調症または関連疾患の急性期症状を有する成人患者を対象としたランダム化比較試験を選択した。治療抵抗性、初回エピソード、陰性症状または抑うつ症状が主症状、併存疾患、再発予防に関する研究は除外した。主要アウトカムは、標準化された評価尺度を用いて測定された全体的な症状変化とした。8つの有効性および8つの安全性アウトカムのデータを抽出した。研究結果の差異は、メタ回帰および感度分析により調査した。エフェクトサイズの尺度は、標準化平均差(SMD)、平均差、リスク比(95%信用区間[CrI])とした。エビデンスの信頼性は、CINeMA(ネットワークメタ解析の信頼性)を用いて評価した。 抗精神病薬を比較した主な結果は以下のとおり。・402研究、5万3,463例のデータを分析した。・エフェクトサイズの推定値は、すべての抗精神病薬においてプラセボよりも全体的な症状改善が認められたが、6剤では統計学的に有意な差は認められなかった。SMDの範囲は、クロザピンの-0.89(95%CrI:-1.08~-0.71)~レボメプロマジンの-0.03(95%CrI:-0.59~0.52)であった(4万815例)。・抗精神病薬をプラセボと比較したSMDは、陽性症状(3万1,179例)においてamisulprideの-0.69(95%CrI:-0.86~-0.52)~ブレクスピプラゾールの-0.17(95%CrI:-0.31~-0.04)、陰性症状(3万2,015例)においてクロザピンの-0.62(95%CrI:-0.84~-0.39)~flupentixolの-0.10(95%CrI:-0.45~0.25)、抑うつ症状(1万9,683例)においてスルピリドの-0.90(95%CrI:-1.36~-0.44)~flupentixolの0.04(95%CrI:-0.39~0.47)であった。・抗精神病薬をプラセボと比較したリスク比は、すべての原因による中止(4万2,672例)においてclopenthixolの0.52(95%CrI:0.12~0.95)~ピモジドの1.15(95%CrI:0.36~1.47)、鎮静(3万770例)においてピモジドの0.92(95%CrI:0.17~2.03)~zuclopenthixolの10.20(95%CrI:4.72~29.41)、抗パーキンソン薬の使用(2万4,911例)においてクロザピンの0.46(95%CrI:0.19~0.88)~ピモジドの6.14(95%CrI:4.81~6.55)であった。・抗精神病薬をプラセボと比較した平均差は、体重増加(2万8,317例)においてziprasidoneの-0.16kg(95%CrI:-0.73~0.40)~ゾテピンの3.21kg(95%CrI:2.10~4.31)、プロラクチン上昇(2万1,569例)においてクロザピンの-77.05ng/mL(95%CrI:-120.23~-33.54)~パリペリドンの48.51ng/mL(95%CrI:43.52~53.51)、QT延長(1万5,467例)においてルラシドンの-2.21ms(95%CrI:-4.54~0.15)~sertindoleの23.90ms(95%CrI:20.56~27.33)であった。・効果に影響を及ぼす因子で調整または感度分析(プラセボ対照試験の除外など)においても、主要アウトカムに実質的な変化は認められなかった。・エビデンスの信頼性は、低いまたは非常に低いものであった。 著者らは「抗精神病薬は、いくつかの効果に違いがあるものの、それらの多くは段階的であり、より顕著な差は副作用にみられる。本結果は、臨床医が薬剤のリスクとベネフィットのバランスをとるうえで役立つであろう。そして、各アウトカムの重要性、患者の医学的背景や選択を考慮すべきである」としている。

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名医を紹介してくれる人【Dr. 中島の 新・徒然草】(285)

二百八十五の段 名医を紹介してくれる人紹介されてきたのは、職員の親戚の叔父さん、70代。主訴は歩行障害です。パーキンソン病とか脊柱管狭窄症とか、いろいろな疑い病名が付きました。でも、どの医療機関でも最後には「ウチじゃなさそう」と言われたそうです。もともと元気だった叔父さんも「一体、俺は何処に行ったらエエねん」と、すっかり落ち込んでしまいました。そこで、職員の間で、「中島先生に相談したら、誰か名医を紹介してくれるかも?」となったそうです。ここ間違えないように。中島先生自身が名医というわけではありません。あくまでも「名医を紹介してくれる人」という位置付けです。職員の皆さん、よく見ていますね。というわけで、とりあえず叔父さんに外来を受診してもらいました。ちょうど医学生が見学に来ていたので、良い経験になればいいのですけど。叔父さんにちょっと歩いてもらうと、確かに右足に軽い障害があります。なんでも、3年ほど前から右足ではつま先立ちができなくなったのだとか。それと、坂道を下るのは恐怖だけど、上るのは調子いいそうです。一般に、脊柱管狭窄症の人は前屈姿勢だと調子が良くなります。人間、坂を上るときは必然的に前屈姿勢になるので、この叔父さんが脊柱管狭窄症だとすると、話が合うわけです。症状からは脊柱管狭窄症ですが、持参されたMRIでは大した狭窄は見当たらず。むしろ椎間板ヘルニアが見られます。うーん、これは難しい!症状からは脊柱管狭窄症、画像からは椎間板ヘルニア。そして複数の整形外科からは「ウチじゃない」と言われてしまっています。中島「よし、人力で腰を引っ張ってみましょう」患者「なんか、整形でベルトみたいなモンを巻いて牽引したことはあるけど」中島「それ、効果ありましたか!」患者「全然あれへん」中島「角度の問題かも。真っ直ぐじゃなくて、少し前屈気味に引いたらどうでしょうか」患者「ほな、いっぺんやってみて下さい」中島「とはいっても、どないしたらエエんかな?」患者「いつもやっている通りでいいですよ」中島「これやるの、初めてなんすよ」患者「なんやて?」中島「とにかくそこの診察台に仰向けになってください」患者「こうでっか?」中島「それでちょっと上体をあげてもらって、僕が引っ張りますから」両脇に手を入れて引っ張ってみると、診察台の上をズルズルと移動するだけです。医学生の手を借りることにしました。中島「君、ちょっと足首を掴んで下に向かって引っ張ってくれるか?」医学生「こうですか」中島「そや。それでお互い反対に引っ張ってみよう」今度は上下から引っ張ったので、ズルズルとはいきませんでした。でも、冷静に考えてみると、ずいぶん間抜けな姿です。大の男が大真面目に患者さんを上と下から引っ張っているわけですから。汗だくになって脇を引っ張りながら、思わず笑いそうになりました。「でも、ここで笑っては駄目だ! 何もかもぶち壊しになる」そう思って堪えました。患者さんのほうは、なされるがままです。中島「じゃあ、もう一度歩いてみましょう」患者「はい」中島「どうですか。生まれ変わりましたか?」軽くギャグをかましたつもりでしたが。患者「生まれ変わった!」中島「なーに言ってんですか。今のは冗談ですよ」患者「ホンマやがな」確かに、さっきより歩くスピードが上がっています。恐るべし、人力牽引!患者「そない言うても、30秒で元に戻ったけどな」中島「たった30秒でも、良くなったということは凄いことですよ!」患者「確かに腰が伸びて、しばらく調子良かったわ」診断は別として、腰の牽引によって、神経根の圧迫が一時的に緩和されたのかも。ということは、少し前屈気味に腰を引っ張ったらいい、ということになります。とはいえ、どうしたら効果的に引っ張れるのか?患者「ほな、家にあるバランスボールで引っ張ったらどないでっしゃろ」中島「おっ、それいいですね。自宅でできますから」患者「うつ伏せでボールに乗ったら、自然に腰も伸びるし」中島「そうそう!」患者「どのくらいやったらエエんでっか?」中島「1分くらいでいいんじゃないですか」この辺は適当です。中島「何回でも、バランスボールで腰を伸ばしたらいいんですよ」患者「ほな、やってみます」中島「じゃあ、1ヵ月後に効果を確認しましょう。手術はあくまでも最終手段ですから、バランスボールで治ったら儲けモンですよ」患者「やっぱり手術は怖いしな。バランスボールで頑張ってみますわ」後で考えたら、感覚障害も診ておくべきでしたね。もし神経根症だったら、レベルのほうも確認できたはずでしたから。まあ、それは再診の時の楽しみにとっておきましょう。それにしても、見学に来た医学生もびっくりしたことでしょう。まさか、汗だくで足を引っ張ることになるとは想像もしていなかったと思います。私の診察を見て、足首以外にも何か大切なものを掴んでくれた、と信じたいところ。よくわからなくても、とにかく患者さんのために頑張ることが大切ですね。ということで最後に1句引っ張って 生まれ変わった 腰椎が!

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AIによる認知症診療は実現なるか、順大が日本IBMらと共同研究

 認知症の早期発見や診療において、AIは医師の強力な助っ人となるかもしれない。2019年7月10日、都内で記者説明会が開催され、AIによる新たな認知症診療システム開発と、食品介入などの臨床研究実施を目的とした産学連携プロジェクトの開始が発表された。参加企業は日本IBM、キリンホールディングス、三菱UFJリース、グローリー、日本生命、三菱UFJ信託銀行の6社。中心となる順天堂大学医学研究科神経学講座教授の服部 信孝氏をはじめ、各社の代表者が登壇し、本プロジェクトにおける役割と展望を語った。実は雑談が症状に影響? 遠隔診療でみえてきたこと 順天堂医院では、2017年からパーキンソン病をはじめとした神経難病の患者に対して、日本IBMの遠隔診療システムを一部で導入している。このシステムは、遠隔診療アプリの入ったタブレットを患者に提供し、自宅で医師の診察を受けられるというもの。患者側にはセットアップ等の必要はなく、ボタン1つで簡単に受診画面を起動できる。医師側は外来運用に合わせて予約や診察開始をコントロールでき、診察時の映像や音声データを蓄積することができる。将来的には、血圧などのデータも一元化して蓄積し、診療に活かしたいという。 費用は主に患者が負担し(プランによって異なるが月額4~5千円程度)、医師はオンライン診療料などで対応している。これまで、利用した患者の満足度はおおむね高く、医師側は症状や薬の服薬状況を会話と身体の動きから確認するほか、リラックスした状況で雑談を含めたやりとりをすることで、表情が明るくなる瞬間があるなど手応えを感じているという。 しかし日々の診察では、患者1人あたりに割ける診察時間は非常に短いのが実情だと、服部氏は指摘。パーキンソン病や認知症といった脳・神経系疾患の患者は、自宅にいる時と診察時とで状態が大きく異なったり、少しの言葉がけで大きく症状が改善したりするケースがあるとし、患者それぞれの症状・日常生活に対応した個別の介入・診療の必要性を強調した。AIを活用した診療システムで、症状やQOLを改善できるか 本プロジェクトでは、遠隔診療で得られた音声データを元に、AI(IBM Watson)を活用した会話アプリの開発を進めている。まず、医師と患者の実際の会話の中から多用される質問や声かけを抽出して、多数の会話スクリプトを準備。AIが状況を判断してその中から適切なものを選択し、学習によって精度を高めていく。医師と同じような対応ができるかどうか、実証実験を進めていく見通しだという。 さらに、それらの対応・声がけを受けた患者側にどのような影響・効果があったかの検証には、日本IBMの音声データ解析システムと、グローリーの表情認識技術を用いる。ある声がけに対して、患者の声のトーンや発語、表情にどのような変化があったかを、人間同士の対話とAIとの対話で、比較検証していく。 日本IBM常務執行役員の坪田 知巳氏は、今回の共同研究で得られたデータをもとに、対話AIによる認知症早期発見・予防効果の検証にもつなげていきたいと話す。例えば「同じ話を繰り返す」「話題が飛ぶ」「つっかえる」といった会話特性の変化、表情の変化を数値化し、将来的には、AIを使った認知症の診断基準の策定も視野に入れて支援していきたい、と展望を語った。食品や金融業界の企業が認知症研究に参画する理由 本プロジェクトのもう1つの柱として、食品や嗅覚トレーニングによる認知機能改善効果の検討が掲げられている。キリンホールディングスでは、ビールの苦み成分である熟成ホップ苦味酸と、カマンベールチーズに含まれるβラクトリンの認知機能改善効果を、ヒトを対象とした試験ですでに確認している。順天堂大学が持つ患者のバイオデータとこれらの研究結果を組み合わせ、認知症予防に関わる食事パターンの調査、食品介入による予防効果の検証を行っていく。 また、三菱UFJ信託銀行執行役員の石崎 浩二氏は、「日本の個人金融資産の70%を高齢者が保有している。認知症高齢者の保有率は6%とされるが、今後15年で倍増が見込まれており、これらが使われない資産となると日本経済への打撃は大きい」と話し、金融サービスのあり方自体に大きな変化が求められているとした。銀行窓口などで高齢者の変化に営業担当者が気づく事例が多いことにも触れ、それらを家族や専門家につなぐ役割を果たすこと、認知機能の変化に応じた新しい商品・サービスを提供することを目指すとの考えを示した。■「カマンベールチーズ認知症」関連記事認知症予防の可能性、カマンベールチーズvs.運動

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非アルツハイマー型認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬の使用

 非アルツハイマー型認知症は、すべての認知症の約30%を占め、主要な認知障害や行動障害を呈する。コリンエステラーゼ阻害薬は、脳内のアセチルコリンレベルを上昇させることにより、記憶力を改善し、アルツハイマー型認知症(AD)の対症療法に承認されている薬剤である。そして、潜在的なコリン作動性機能障害を伴う他の認知症においても研究されている薬剤である。米国・ベイルート大学のPaul Noufi氏らは、非ADに対するコリンエステラーゼ阻害薬の使用について報告を行った。Drugs & Aging誌オンライン版2019年6月14日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・レビー小体型認知症(LBD)やパーキンソン病認知症(PDD)は、ADよりも重度なコリン作動性機能障害があるとのエビデンスも報告されている。・しかし、ADとの併存疾患の増加を考えると、血管性認知症(VaD)において客観視することが困難である。・また、前頭側頭型認知症(FTD)において、コリン作動性の喪失に関するエビデンスはほとんどない。・コリンエステラーゼ阻害薬は、LBDとPDDに対する臨床試験において認知、行動、機能の有意な改善が認められたが、データに影響を及ぼす使用尺度の不均一性、試験期間、限られたサンプルサイズのため、リバスチグミンのみがPDDへ承認されている。・同様に、VaDに対する試験は、純粋なVaDについて事前に定義された包括基準の欠如、脳血管疾患の位置や程度に関する幅広い異質性によって制限される。・FTD患者では、コリンエステラーゼ阻害薬により、主に認知機能や行動症状の悪化との関連が認められた。 著者らは「非ADに対するコリンエステラーゼ阻害薬は、軽度~中等度のコリン作動性副作用の報告やVaDにおけるリバスチグミンの心血管系および脳血管系イベントの有意ではない増加傾向が報告されているが、忍容性は高く、とくにコリン作動性の欠如が認められる場合には、ケースバイケースでの慎重な使用が正当化されるべきである」としている。

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第2世代抗精神病薬経口剤の長期有効性~メタ解析

 統合失調症の維持療法においては、第2世代抗精神病薬(SGA)の使用が推奨される。しかし、各SGAの長期有効性の違いは、明らかとなっていない。慶應義塾大学の岸本 泰士郎氏らは、統合失調症および関連疾患におけるSGAの有効性を直接比較した6ヵ月以上のランダム化試験について、システマティックレビュー、メタ解析を実施した。World psychiatry誌2019年6月号の報告。 主要アウトカムは、全原因による中止とした。副次アウトカムは、精神病理、無効および忍容性に関連した中止、再発、入院、寛解、機能、QOL、有害事象を含む有効性および忍容性とした。プールされたリスク比(RR)および標準化平均差(SMD)の算出には、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・59研究(4万5,787例、持続期間47.4±32.1週[24~186週])からの有効性、忍容性の結果において、SGAの一貫した優位性は認められなかった。・全原因による中止では、クロザピン、オランザピン、リスペリドンは、他のSGAよりも有意に優れていたが(p<0.05)、クエチアピンは他のSGAよりも劣っていた。・精神病理学的側面では、クロザピン、オランザピンは他のSGAよりも優れていたが、クエチアピン、ziprasidoneは、他のSGAよりも劣っていた。・他の有効性アウトカムに関するデータは、希薄であった。・忍容性に関連した中止では、他のSGAと比較し、リスペリドンは優れており、クロザピンは劣っていた。・体重増加については、オランザピンは、クロザピンを除く他のすべてのSGAよりも悪く、リスペリドンは、いくつかのSGAよりも有意に悪かった。・パーキンソン症候群については、オランザピンは、リスペリドンよりも優れていたが、アカシジアについては有意な差が認められなかった。・鎮静および傾眠作用については、クロザピンおよびクエチアピンは、他のSGAよりも有意に悪かった。 著者らは「本検討により、さまざまなSGAの長期有効性および忍容性のパターンが明らかとなった。特定のSGAにおける長期的なリスクとベネフィットのプロファイルは、維持療法の治療効果を最適化するため、個々の患者に合わせて調整する必要がある」としている。

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第20回 意識消失発作の症例から学ぶ脈拍の異常2【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回は脈拍の異常を来した患者さん2例を紹介します。脈の乱れは「不整脈」といわれ、その不整脈が徐脈であっても頻脈であっても、患者さんの状態が「不安定」であるときに急を要します。徐脈や頻脈が認められた時、どのような点に気を付けて患者さんと接することがポイントになるでしょうか?症例を通してシミュレーションしていきましよう。患者さんGの場合◎経過──156歳、女性。施設の介護職員です。勉強会が終了し後片付けをしていたときに急に動悸が始まって、倒れそうになりました。椅子に座り苦しそうにしています。「どうしたの?大丈夫?」と職員が心配して集まってきました。◎経過──2Gさんは、以前から動悸を自覚することがあり、病院では「WPW症候群※1、発作性頻拍症」と診断されていると話してくれました。今までは動悸が長く続くことがなかったため経過を見ていました。「今日は少しひどいみたい...」その日は休みだったのですが、勉強会のために施設に来ました。今は夕方ですが、その日に限って昼食はまだ食べておらず水分もあまり摂っていなかったそうです。顔色は蒼白で冷汗をかいています。脈は非常に速くて弱く不規則でした。なんとなく少しボーッとしています。(ショックの徴候かも...)そう思いました。バイタルサインは表の通りで、顕著な頻脈の他に血圧低下が認められました。総合的にみて「循環(C:circulation)」の異常があります。※1 Wolf-Parkinson-White syndrome:ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群正常な刺激伝導(電気信号の流れるルート)では、洞結節から発した電気信号は心房から房室結節を経て心室へ至る。しかし同症候群では、通常のルート以外にKent(ケント)束と呼ばれるバイパス(副伝導路)を有するため、心室への信号は房室結節とKent束を経由することになり、心電図上デルタ波と呼ばれる波形が生じる。副伝導路が存在するため、発作性上室性頻拍を来すことがある。◎経過──3勉強会後に一時席を外していた医師と看護師が戻ってきました。WPW症候群と診断されていることを聞き、Gさんの状態とバイタルサインを見て、救急車を呼ぶことにしました。医師の指示を受けた看護師は静脈路を確保しました。まもなく救急車が到着し心電図モニターを開始しました。「偽性心室頻拍※2ですね...」医師はそう言って、近隣の病院へと向かいました。※2 WPW症候群で心房細動発作が起こると、心房からの頻回の電気信号が、信号を通しやすい副伝導路を通り心室へと伝わる。デルタ波があるために、発作時のQRS幅が広く、心室頻拍のような心電図波形を示すことから「偽性心室頻拍」と呼ばれる。心室細動に移行する危険があるため緊急を要する場合が多い。頻脈に対する診療アルゴリズム図4は頻脈の診療アルゴリズムです。頻脈が確認されたら患者さんの状態が不安定か否かを確認します。図4にあるような症状や徴候があれば「不安定」な状態と考えられ、直ちに治療を開始します。ご覧の通り、不安定か否かを判断する基準は徐脈の場合と同じですね。エピローグ頻脈のGさんは、病院に搬送された後、救急外来で抗不整脈薬による治療を受けました。その日、大事をとって入院し、後日カテーテルアブレーション※3の治療を受けました。退院後、施設に薬を届けに行くとGさんは「あなたがいる所にはいろいろ事件が起こるわね」と冗談交じりに笑顔で話しかけてくれました。※3 経皮的にカテーテルを心臓内部の標的部位に挿入し、高周波通電を行い、頻脈の原因となる異常興奮部位(Kent束)を電気的に焼灼する方法。頻脈性不整脈を根治する治療法。徐脈と頻脈、安定と不安定「徐脈と頻脈」といっても多くの種類の不整脈があります。どんな徐脈性不整脈や頻脈性不整脈であっても、それにより血圧などの循環動態が悪くなったり、図3や図4に示すような「不安定な状態」を示唆したりするような、バイタルサインに大きく影響するような不整脈は緊急度が高いということは、知っておくとよいと思います。

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パーキンソン病に対するレボドパ製剤無作為化遅延開始試験(解説:仙石錬平氏)-1034

 パーキンソン病の治療について考える際の重要な項目の1つに、進行抑制を可能とする治療法(Disease modifying therapy:DMT)が存在するのかしないのかが挙げられる。2019年時点でパーキンソン病治療に対するDMTは存在しない。DMTを間接的に評価、証明するための研究デザインの1つに今回、本論文で使用された“delayed start trial”がある。これは、試験薬剤を研究開始時から投与する群(early-start group)と投与する時期を遅らせて開始する群(delayed-start group)に割り付けて両群比較し、長期観察後にearly-start groupに症状の進行抑制が認められたかどうかをみる試験デザインである。 パーキンソン病のレボドパ治療介入をいつから始めるべきなのか。アフリカに位置するガーナと欧州に位置するイタリアのパーキンソン病患者のレボドパ初期投与時期を比較して運動合併症発現までの期間を検討した研究1)がある。この研究では運動合併症の発生を遅らせるためにレボドパ療法の開始時期を先延ばしにすることは妥当ではないと結論付けている。 そこで今回、レボドパにDMT(疾患修飾効果)があるのかどうかを明らかにすることで、疾患経過のどの時点でレボドパによる治療を開始すべきかの指針が得られるかどうか検討が行われた。研究グループは、初期パーキンソン病患者を無作為にレボドパ(100mg、1日3回)とカルビドパ(25mg、1日3回)を80週間併用投与した群222例(early-start group)と、プラセボを40週間投与後、レボドパとカルビドパを40週間併用投与した群223例(delayed-start group)の2群に分け、ベースラインから80週までの統合パーキンソン病評価尺度(UPDRS:0~176で点数が高いほど疾患が重症)の合計スコアの平均変化量の群間差を主要評価項目とした。結果は、80週時点で群間の有意差を認めず、「レボドパには、疾患修飾効果がない」ことが示唆された。 パーキンソン病治療においてdelayed start trialが行われた研究としてラサギリン(MAO-B阻害薬)ではTEMPO研究2)とADAGIO研究3)があり、プラミペキソール(ドパミンアゴニスト)ではPROUD研究4)がある。これらの研究ではラサギリン 1mgの投与であればプラセボ開始群に比しUPDRSスコアの改善が有意差をもって認められるが、2mgに増量すると差がなくなり、前述のとおり進行抑制効果は認めなかった。結論としてDMTがないことに変わりはないが、短期間においては薬剤の副作用出現はプラセボ群と有意差を認めず、早期からの治療に伴う副作用発現についての議論はされていない。また、delayed start trialには、使用した薬剤が症状改善に大きな効果を与える場合、保護効果を適切に評価できないのではないかという批判も存在する。 今回のレボドパの研究に関して見てみると、本研究はあくまでも早期パーキンソン病患者を対象としており、進行抑制効果は80週では追いつかれてしまったものの、逆に言うと治療が40週遅れてしまっても取り戻せるという解釈もできるのかもしれない。大切なことはあくまでも「早期」患者についての検討であり、「進行期」について必ずしもこの結果が当てはまるわけではないということである。また、論文中にも述べられているが、臨床診断は最大で15%誤診がありうること、対象患者に対して22%しか補助的な画像診断(ドパミントランスポーター等)が実施されていないことなどから、対象患者の純粋性に関しては限界がある。 大切なことは現時点でパーキンソン病に対する疾患修飾効果を示す薬剤がないからといって、いたずらに投与を遅らせるべきではない。適切な時期に適切な量のレボドパを投与することが肝であることは忘れてはならない。

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レビー小体型認知症のBPSD、対応のポイントは?

 2019年2月20日、大日本住友製薬主催により、レビー小体型認知症(DLB)に関するプレスセミナーが開催され、その中で2つの講演が行われた。DLBは早期介入が重要 初めに、小田原 俊成氏(横浜市立大学 保健管理センター教授・センター長)が、DLBの現状、認知機能障害、行動・心理症状(BPSD)の特徴について講演を行った。 現在、日本国内におけるDLBの推定患者数は、50~100万人程度とされている。しかし、類似疾患との鑑別が難しく、DLBと診断されていない患者も多く存在すると考えられている。実際に、臨床診断されるDLBの割合は4%程度だが、病理診断される割合は20%近いという報告もある。小田原氏によると、「アルツハイマー型認知症(AD)では初期からほとんどの症例で記憶障害を呈する一方で、DLBでは初期から記憶障害を呈するのは3分の1程度である」、「注意・遂行機能や、視知覚機能の障害が、ADよりも強く現れる」といった点がDLBに特徴的だという。さらに、DLBではADに比べ、妄想、幻覚、不安、睡眠障害といったBPSDによる弊害も多い。これらは、患者本人のみならず介護者の大きな負担やQOLの低下に直結するため、「介護者がレビー小体型認知症の特徴的症状を把握し、患者本人に受診動機を持ってもらう。そうすることで、早期に治療介入を行えるようにすることが大切である」と述べた。DLBにおけるBPSD、「運動症状への対応」がカギ 次に、服部 信孝氏(順天堂大学医学部 脳神経内科)より、DLBの非運動・運動症状の特徴について講演が行われた。 DLBの鑑別診断が難しい要因として、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)と病理学的に同一のスペクトラムであるため、両疾患の診断基準を同時に満たすケースが存在することも挙げられると、服部氏は語る。一方、両者を正確に区別することは難しいものの、DLBでは、記憶障害がみられるようになる数年前から、便秘、嗅覚障害、レム期睡眠行動異常症(RBD)、抑うつの症状などが現れる点が特徴的であるという。この中でもとくに「RBD」は、2017年に改訂されたDLBの臨床診断基準で中核的臨床特徴に位置付けられるなど、その重要性が注目されている。中核的臨床特徴には、このほかに「認知機能の変動」、「繰り返す具体的な幻視」、「特発性パーキンソニズム」があるが、パーキンソニズムは、転倒による予後の悪化や、患者のADL・QOL低下、介護者のQOL低下、社会的コストの上昇(パーキンソニズムのスコアが1上昇すると827米ドルのコスト上昇という報告もある)などがみられるため、とくに注意が必要だと服部氏は強調する。その一方で、「DLBのパーキンソニズムに対する薬物療法は、精神症状を悪化させる可能性があるため、精神症状をコントロールしつつ、運動症状を治療していくことが大切。運動症状が悪化する前に、RBDや嗅覚障害などの特徴からDLBを早期に発見し、早期に治療介入していくことが重要である」と述べ、講演を締めくくった。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は、運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムを呈し、緩徐に進行する神経変性疾患である。■ 疫学アルツハイマー病の次に頻度の高い神経変性疾患であり、平成26年に行われた厚生労働省の調査では、男性6万2千人、女性10万1千人の合計16万3千人と報告されている。65歳以上の患者数が13万8千人と全体の約85%を占め(有病率は1.5%以上)、加齢に伴い発症率が上昇する(ただし、若年性PDも存在しており、決して高齢者だけの疾患ではない)。症状は進行性で、歩行障害などの運動機能低下に伴い医療・介護を要し、社会的・経済的損失は著しい。超高齢社会から人生100年時代を迎えるにあたり、PD患者数は増え続けることが予想されており、本疾患の克服は一億総活躍社会を目指すわが国にとって喫緊の課題と言える。■ 病因これまでの研究により遺伝的因子と環境因子の関与、あるいはその相互作用で発症することが示唆されている。全体の約90%が孤発性であるが、10%程度に家族性PDを認める。1997年に初めてα-synucleinが家族性PDの原因遺伝子として同定され、その後当科から報告されたparkin、CHCHD2遺伝子を含め、これまでPARK23まで遺伝子座が、遺伝子については17原因遺伝子が同定されている。詳細はガイドラインなどを参照にしていただきたい。家族性PDの原因遺伝子が、同時に孤発性PDの感受性遺伝子となることが報告され、孤発性PDの発症に遺伝子が関与していることが明らかとなった。これら遺伝子の研究から、ミトコンドリア機能障害、神経炎症、タンパク分解障害、リソソーム障害、α-synucleinの沈着などがPDの発症に関与することがわかっている。環境因子では、性差、タバコ、カフェインの消費量などが重要な環境因子として検討されている。他にも農薬、職業、血清尿酸値、抗炎症薬の使用、頭部外傷の既往、運動など多くの因子がリスクとして報告されている。■ 病理PDの病理学的特徴は、中脳黒質の神経細胞脱落とレビー小体(Lewy body)の出現である。PDでは黒質緻密層のメラニン色素を持った黒質ドパミン神経細胞が脱落するため、肉眼でも黒質の黒い色調が失われる(図1-A、B)。レビー小体は、HE染色でエオジン好性に染まる封入体で、神経細胞内にみられる(図1-C、D)。レビー小体は脳幹の中脳黒質(ドパミン神経細胞)だけではなく、橋上部背側の青斑核(ノルアドレナリン神経細胞)、迷走神経背側運動核、脳幹に分布する縫線核(セロトニン神経細胞)、前脳基底部無名質にあるマイネルト基底核(コリン作動性神経)、大脳皮質だけではなく、嗅球、交感神経心臓枝の節後線維、消化管のアウエルバッハ神経叢、マイスナー神経叢にも認められる。脳幹の中脳黒質の障害はPDの運動障害を説明し、その他の脳幹の核、大脳皮質、嗅覚路、末梢の自律神経障害は非運動症状(うつ症状、不眠、認知症、嗅覚障害、起立性低血圧、便秘など)の責任病変である。PDのhallmarkであるレビー小体が全身の神経系から同定されることはPDが、多系統変性疾患でありかつ全身疾患であることを示しており、アルツハイマー病とはこの点で大きく異なる。家族性PDの原因遺伝子としてα-synuclein遺伝子(SNCA遺伝子)が同定された後に、レビー小体の主要構成成分が、α-synuclein蛋白であることがわかり、この遺伝子とその遺伝子産物がPDの病態に深く関わっていることが明らかとなった。図1 パーキンソン病における中脳黒質の神経脱落とレビー小体画像を拡大する■ 症状1)運動症状運動緩慢(無動)、振戦、筋強剛などのパーキンソニズムは、左右差が認められることが多く、優位側は初期から進行期まで不変であることが多い。初期から仮面様顔貌、小字症、箸の使いづらさなどの巧緻運動障害、腕振りの減少、小声などを認める。進行すると、姿勢保持障害・加速歩行・後方突進・すくみ足(最初の一歩が出ない、歩行時に足が地面に張り付いて離れなくなる)などを観察し、歩行時の易転倒性の原因となる。多くの症例で、進行期にはL-ドパの効果持続時間が短くなるウェアリングオフ現象を認める。そのためL-ドパを増量したり、頻回に内服する必要があるが、その一方でL-ドパ誘発性の不随意運動であるジスキネジア(体をくねらせるような動き。オフ時に認める振戦とは異なる)を認めるようになる。嚥下障害が進行すると、誤嚥性肺炎を来すことがある。2)非運動症状ほとんどの患者で非運動症状が認められ、前述の病理学的な神経変性、レビー小体の広がりが多彩な非運動症状の出現に関与している。非運動症状は、運動症状とは独立してQOLの低下を来す。非運動症状は、以下のように多彩であるが、睡眠障害、精神症状、自立神経症状、感覚障害の4つが柱となっている。(1)睡眠障害不眠、レム睡眠行動異常症(REM sleep behavior disorders:RBD)、日中過眠、突発性睡眠、下肢静止不能症候群(むずむず足症候群:restless legs syndrome)など(2)精神・認知・行動障害気分障害(うつ、不安、アパシー=無感情・意欲の低下、アンヘドニア=快感の消失・喜びが得られるような事柄への興味の喪失)、幻覚・妄想、認知機能障害、行動障害(衝動制御障害=病的賭博、性欲亢進、買い物依存、過食)など(3)自律神経症状消化管運動障害(便秘など)、排尿障害、起立性低血圧、発汗障害、性機能障害(勃起障害など)、流涎など(4)感覚障害嗅覚障害、痛み、視覚異常など(5)その他の非運動症状体重減少、疲労など嗅覚障害、RBD、便秘、気分障害は、PDの前駆症状(prodromal symptom)として重要な非運動症状であり、とくに嗅覚障害とRBDは後述するInternational Parkinson and Movement Disorder Society(MDS)の診断基準にもsupportive criteria(支持的基準)として記載されている。■ 分類病期についてはHoehn-Yahrの重症度分類が用いられる(表1)。表1 Hoehn-Yahr分類画像を拡大する■ 予後現在、PDの平均寿命は、全体の平均とほとんど変わらないレベルまで良くなっている一方で、健康寿命については十分満足のいくものとは言い難い。転倒による骨折をしないことがPDの経過に重要であり、誤嚥性肺炎などの感染症は生命予後にとって重要である。2 診断■ 診断基準2015年MDSよりPDの新たな診断基準が提唱され、さらにわが国の『パーキンソン病診療ガイドライン2018』により和訳・抜粋されたものを示す。これによるとまずパーキンソニズムとして運動緩慢(無動)がみられることが必須であり、加えて静止時振戦か筋強剛のどちらか1つ以上がみられるものと定義された。姿勢保持障害は、診断基準からは削除された。パーキンソン病の診断基準(MDS)■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。

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パーキンソン病へのレボドパ製剤投与、疾患修飾効果なし/NEJM

 初期のパーキンソン病患者に対するレボドパ+カルビドパの併用投与について、疾患修飾効果が認められなかったことが報告された。オランダ・Amsterdam NeuroscienceのConstant V. M. Verschuur氏らが、445例の患者を対象に行った多施設共同プラセボ対照二重盲検試験の結果を、NEJM誌2019年1月24日号で発表した。レボドパは、パーキンソン病症状に対する主要な治療薬となっているが、レボドパにも疾患修飾効果があるのかを明らかにすることで、疾患経過のどの時点でこの薬剤による治療を開始すべきか指針を得られる可能性があるとして、今回の検討が行われた。80週までのUPDRS変化量を比較 研究グループは、初期パーキンソン病患者を無作為に2群に分け、一方にはレボドパ(100mg、1日3回)とカルビドパ(25mg、1日3回)を80週間併用投与し(早期開始群)、もう一方の群にはプラセボを40週間投与後、レボドパとカルビドパを40週間併用投与した(遅延開始群)。 主要評価項目は、ベースラインから80週までの統合パーキンソン病評価尺度(UPDRS:0~176で点数が高いほど疾患が重症)の合計スコアの平均変化量の群間差だった。 副次的評価項目は、UPDRSスコアで測定した4~40週までの症状の進行と、44~80週までの治療早期開始の遅延開始に対する非劣性(非劣性マージン、0.055点/週)などだった。治療早期開始の遅延開始に対する非劣性示されず 被験者総数は445例、そのうち早期開始群が222例、遅延開始群が223例だった。ベースライン時の平均UPDRSスコアは、早期開始群が28.1(標準偏差:11.4)点、遅延開始群が29.3(同:12.1)点だった。 UPDRSスコアのベースラインから80週までの変化量は、それぞれ-1.0(標準偏差:13.1)点と-2.0(同:13.0)点だった(群間差:1.0点、95%信頼区間[CI]:-1.5~3.5、p=0.44)。80週時点で群間の有意差はなく、レボドパには、疾患修飾効果がないことが示唆された。 さらに副次的分析の結果、4~40週までの進行の程度は、早期開始群が0.04(標準偏差:0.23)点で遅延開始群が0.06(同:0.34)点と、両群で有意差はなかった(群間差:-0.02、95%CI:-0.07~0.03)。 44~80週の両群の進行程度はそれぞれ0.10(標準偏差:0.25)と0.03(同:0.28)と、群間差は0.07(両側90%CI:0.03~0.10)点で、治療早期開始の遅延開始に対する非劣性は示されなかった。 なお、ジスキネジアや、レボドパ関連の運動症状変動の発生率には、両群で有意差は認められなかった。

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認知症やパーキンソン病における幻視のマネジメント

 幻視は、認知症やパーキンソン病において発現する共通の症状であり、大幅な認知機能低下や機能低下と関連しているといわれているが、その最適なマネジメント戦略はよくわかっていない。英国・Papworth Hospital NHS Foundation TrustのPeter Swann氏らは、認知症やパーキンソン病における幻視の頻度や発現機序を再調査し、それらのマネジメントについてエビデンスベースで検討を行った。International Psychogeriatrics誌オンライン版2018年11月6日号の報告。 1980年1月~2017年7月までにPubMedに掲載された研究を対象とし、システマティックレビューを行った。検索キーワードは、「幻視(visual hallucinations)」「レビュー(review)」「認知症またはパーキンソン病(dementia OR parkinson*)」とした。 主な結果は以下のとおり。・645件の研究の関連性についてスクリーニングし、最終的に89件の研究を抽出した。内訳は、メタ解析11件、ランダム化比較試験34件、その他の試験6件、関連レビュー多数であった。・他の精神症状と区別し、幻視を評価していた研究は、6件のみであった。・非定型抗精神病薬に関する研究は頻繁に行われていたが、パーキンソン病認知症におけるクロザピンを除き、その結果は不明瞭であった。・アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が、幻視の治療に役立つ可能性があるとのエビデンスが、いくつか報告されていた。・全体として、ほとんどの治療に対するエフェクトサイズは小さく、長期フォローアップ研究はほとんど認められなかった。・治療においては、注意深くリスクを評価し、頻繁に見直しを行う必要がある。また、多くの患者は、治療することなく改善が認められた。・精神症状のグループ分けに一般的に使用される評価尺度を用いた幻視に関する研究データが不十分であった。 著者らは「幻視に関する特定の評価尺度や分析可能な他の評価尺度が欠如しており、現在の有効性や短期フォローアップによる小規模な研究に限定されていることから、将来における本分野の研究は重要である」としている。■関連記事認知症発症と関連する5つの精神症状認知症患者の精神症状に対し、抗不安薬の使用は有用か境界性パーソナリティ障害でみられる幻覚の正体は

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添付文書改訂:ゼルヤンツ錠/トレリーフ錠/リムパーザ錠【下平博士のDIノート】第7回

ゼルヤンツ錠5mg画像を拡大する<使用上の注意>過去の治療において、ほかの薬物療法(ステロイド、免疫抑制薬または生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与します。<用法・用量>導入療法では、通常、成人に、トファシチニブとして1回10mgを1日2回、8週間(効果不十分な場合はさらに8週間)投与し、維持療法では1回5mgを1日2回経口投与します。なお、維持療法中に効果が減弱した患者、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害薬無効例など)では、1回10mgを1日2回投与することができます。感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とTNF阻害薬などの生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリンなどの強力な免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<Shimo's eyes>関節リウマチ治療薬として用いられてきたJAK阻害薬のトファシチニブに、国の指定難病である潰瘍性大腸炎の適応が追加されました。潰瘍性大腸炎の国内患者数は、2016年までの10年間で約1.9倍に増えました。2016年11月にメサラジン錠(商品名:リアルダ錠1200mg)、2017年12月にブデソニド(同:レクタブル2mg注腸フォーム)が相次いで発売され、海外で広く使用されているベドリズマブ(同:エンタイビオ点滴静注)も2018年7月に承認取得しています。治療選択肢が増えることにより、治療の目標となる寛解導入や寛解維持が以前より容易になることが期待されます。また、個々の患者さんの症状・生活習慣・経済状況などに合わせた治療で、より患者さんのQOL向上が見込めるでしょう。トレリーフ錠/OD錠25mg画像を拡大する<用法・用量>通常、成人にゾニサミドとして、1日1回25mgを経口投与します。<Shimo's eyes>ゾニサミドはもともと抗てんかん薬として開発され、のちにパーキンソン病治療薬として開発された薬剤です。抗てんかん薬としてはエクセグランの商品名で、パーキンソン病治療薬としてはトレリーフの商品名で、効能・効果と用法・用量を区別して発売されています。レビー小体型認知症のパーキンソニズムは、パーキンソン病のパーキンソニズムと原因や症状が同じであることから開発が進められ、追加承認となりました。ゾニサミドは、ドパミンレベルを上昇させることで、レボドパの抗パーキンソン作用を増強・延長し、レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを改善します。通常、レボドパ含有製剤との併用療法で使用されると予想できます。レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを適応症とする初めての薬なので、患者さんの新たな選択肢として治療への貢献が期待されます。リムパーザ錠100mg/150mg画像を拡大する<使用上の注意>(1)本剤の術前・術後薬物療法としての有効性および安全性は確立していません。(2)アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬およびタキサン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法歴のある患者を対象とします。(3)承認された体外診断薬などを用いた検査により、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異(病的変異または病的変異疑い)を有することが確認された患者に投与します。<用法・用量>通常、成人にはオラパリブとして300mgを1日2回、経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。100mg錠と150mg錠の生物学的同等性は示されていないため、300mgを投与する際に100mg錠を使用することはできず、100mg錠は減量時のみ使用します。<Shimo's eyes>オラパリブは、DNA損傷応答(DDR)機能を標的とした新規の作用機序を持つ、世界初のPARP阻害薬です。DNAの相同組換え修復機構が機能していないがん細胞に対して特異的に細胞死を誘導します。もともとは白金系抗悪性腫瘍薬感受性の再発卵巣がん治療薬として発売されましたが、今回の適応追加により、国内で初めて、BRCA遺伝子陽性の遺伝性乳がん治療薬として使用されることになりました。BRCA遺伝子は、アンジェリーナ・ジョリーさんが陽性であったことでも知られています。本剤は、悪心・嘔吐が高頻度で認められているため、服薬指導の際に、脱水が起こらないように水分補給や食事の工夫などのアドバイスができるとよいでしょう。

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【第121回】ゲームリハビリ論文:任天堂 vs.マイクロソフト

【第121回】ゲームリハビリ論文:任天堂 vs.マイクロソフト いらすとやより使用 Nintendo Switchが発売されて久しいですが、医学論文の世界では、「Nintendo」といえばまだWiiなのです。神経筋疾患に対してゲームによるリハビリテーションの報告が相次いでいますが、今回はWiiとXboxを比較した論文を紹介しましょう。任天堂 vs.マイクロソフトの構図です。 Alves MLM, et al.Nintendo WiiTM Versus Xbox KinectTM for Assisting People With Parkinson's Disease.Percept Mot Skills. 2018;125:546-565.ゲームリハビリの対象疾患としてパーキンソン病がよく取り上げられます。ある程度機能障害が限定的で、進行する速度も比較的穏やかであるため、小規模な介入試験で評価しやすいというのがその理由かなと思っています。この研究は、パーキンソン病のリハビリの一環として、任天堂のWiiとマイクロソフトのXbox Kinectの有効性を疑似実験(quasi-experiment)で比較したものです。27人のパーキンソン病患者さんを、Wii群、Xbox群、コントロール群の3つに9人ずつ割り付けて、10セッションのゲームプレイを行いました(コントロール群はセッション介入なし)。その結果、任天堂のWiiに割り付けられたパーキンソン病患者さんだけで、有意に歩行テスト、不安レベル、記憶力などが改善したそうです。ゲームをまったくしていないコントロール群では、こうした改善はみられませんでした。9人ずつの小規模な検討ですし、使うソフトによっても結果が左右されそうに思うので、任天堂が勝ちかどうかはまだわかりません。しかし、時代はもうWiiからSwitchに移っているので、そろそろ医学論文でもSwitchの検討を始めていただきたいところです。

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パーキンソン病の病因は腸か!?

 2018年7月24日、武田薬品工業株式会社は、都内においてパーキンソン病治療薬ラサギリン(商品名:アジレクト)の発売を期し、「~高齢化社会により患者数が増加している神経変性疾患~ パーキンソン病の病態・治療変遷」をテーマに本症に関するプレスセミナーを開催した。セミナーでは、本症の概要、最新の研究状況、「パーキンソン病診療ガイドライン2018」の内容が紹介された。パーキンソン病の推定患者数は約6万人 はじめに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授)を演者に迎え、「パーキンソン病治療の変遷 過去・現在・未来 -新しいパーキンソン病診療ガイドラインの位置づけ-」をテーマに講演が行われた。 パーキンソン病(以下「PD」と略す)は、1,000人に1人の発症とされ、現在、患者数は約6万人と推定されている。リスク因子の中でも加齢が最も重要な因子であり、高齢になるほど発症頻度も上昇する。主な運動症状は、振戦、筋固縮、無動、姿勢反射障害などがある。また、非運動症状は、便秘、頻尿、睡眠障害、うつ傾向、認知機能障害などがある。とくに睡眠障害で「レム睡眠中の寝言などは、PDの前段階症状をうかがわせる所見であり、この段階で気付くことが大切だ」と同氏は指摘する。 Movement Disorder Society(MDS)の診断基準1)では、「寡動が存在し、静止時振戦か筋強剛のうち少なくとも1つを伴うパーキソニズムの存在」を絶対条件として掲げるとともに、「ドパミン補充療法が有効」「ドパ誘導性ジスキネジアがある」など4項目を支持基準(2項目以上で確定診断)として診断することとしている。また、絶対的除外基準として「小脳障害」「3年以上の下肢限局性のパーキソニズム」など9項目を掲げ、1項目でも該当するとPDと診断できないとし、同じく相対的除外基準として「5年以内の歩行障害」「3年以内の反復する転倒」など10項目を掲げ、3項目以上該当するとPDと診断できないとしている。診断で鑑別する場合、「とくに前期PDでは平衡感覚が保たれているため、転倒することは少ない」と同氏は診断ポイントを指摘する。 PD治療の中心としてL-ドパ含有製剤、ドパミン受容体刺激薬が使われているが、循環器障害、線維症、嘔気、過眠傾向、衝動調節障害などの副作用が問題となっている。また、治療薬の効果時間について作用している「オン」の時間を挟んで、作用していない「オフ」と過剰作用状態の「ジスキネジア」の3期の時間帯があるのがPD治療の特徴であり、病状の進行によりオンからどちらか一方に偏るという課題がある。パーキンソン病の治療薬ターゲットに「腸」の可能性 つぎに最新の研究状況について触れ、PDのリスク逓減因子であるカフェインには、PDの進行予防効果2)、運動症状改善効果があるとされている。そして、PD患者ではカフェイン代謝産物が吸収不全により低値であることが判明した。そのためカフェイン関連代謝産物をPDの診断マーカーとして利用する研究も進行しているという。また、PD発症と関係があるとされるαシヌクレインの伝播について、動物実験段階だが腸内細菌叢から神経炎症が脳に伝播し、脳全体に広がるというPD発症の仮説3)も説明され、今後の治療薬開発に腸がターゲットとなる可能性も示唆された。新しい「パーキンソン病診療ガイドライン」の特徴はCQとGRADEシステム 新しい「パーキンソン病診療ガイドライン」について触れ、その特徴は、「Clinical Question(CQ)」とともに推奨の強さ、エビデンスの確実性を示すために「GRADEシステム」を導入したことであるという。 早期PDの治療推奨としては、「特別の理由がない場合、診断後できるだけ早期に治療開始する方がよい」としながらも、「不利益に関する十分なエビデンスがないため、治療の開始に際しては、その効果と副作用、コストなどのバランスを十分考慮する必要がある」としている。また、「運動障害により生活に支障を来す場合はL-ドパで開始する方がよい」としながらも、「おおむね65歳以下発症など運動合併症のリスクが高いと推定される場合は、L-ドパ以外の薬物療法を考慮する。抗コリン薬やアマンタジンも治療薬の選択肢となり得るが、十分な根拠はない」としている。 進行期PDについては、「1日5回の服用回数、2時間のオフ時間、1時間の問題のあるジスキネジア」がみられる場合、脳深部刺激療法やレボドパ・カルビドパ配合経腸用液(LCIG)への治療法の変更を記述している。 最後に同氏は、「PDは、脳神経内科の専門医の診療により、さまざまなリスクが減り、治療成績や生命予後が良いことがジャーナル4)でも示されている。迷わずに脳神経内科医の診療を受けていただきたい」と語り、講演を終えた。

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1日1回服用のMAO-B阻害パーキンソン病治療薬「アジレクト錠1mg/0.5mg」【下平博士のDIノート】第6回

1日1回服用のMAO-B阻害パーキンソン病治療薬「アジレクト錠1mg/0.5mg」今回は、「ラサギリンメシル酸塩錠(商品名:アジレクト錠1mg/0.5mg)」を紹介します。本剤は、セレギリン(商品名:エフピーOD錠)に続く2剤目の選択的モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬です。セレギリンと同様に、レボドパ含有製剤併用の有無にかかわらず使用できますが、アンフェタミン骨格を有さないため、覚せい剤原料の規制を受けないなど薬剤管理上のメリットがあります。<効能・効果>パーキンソン病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年6月11日より販売されています。本剤は、MAO-Bと非可逆的に結合することで、脳内のドパミンの分解を抑制し、シナプス間隙中のドパミン濃度を高めることにより、パーキンソン病の症状を緩和します。<用法・用量>通常、成人にはラサギリンとして1mgを1日1回経口投与します。肝臓に軽度の障害がある患者、低体重の患者、高齢の患者では、副作用が発現する可能性があるため、低用量での投与を考慮します。セレギリン塩酸塩、トラマドール塩酸塩、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRIなどと併用すると、相加・相乗作用などによって、重篤な副作用発現の恐れがあるため併用禁忌となっています。<承認>2018年3月時点で50以上の国または地域で承認されています。<副作用>国内臨床試験において、696例中346例(49.7%)に臨床検査値の異常を含む副作用が認められています。主な副作用は、ジスキネジア(8.0%)、転倒(3.7%)、鼻咽頭炎(3.2%)でした(承認時)。重大な副作用として起立性低血圧、傾眠、突発的睡眠、幻覚、衝動制御障害、セロトニン症候群、悪性症候群が報告されています。本剤は、レボドパ含有製剤と併用されることもありますが、海外臨床試験における併用時の副作用は544例中299例(55.0%)と頻度が高まるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.本剤は脳内でドパミンの分解を抑えることで脳内のドパミン濃度を増加させ、パーキンソン病の症状を改善します。2.めまい、立ちくらみ、ふらつきなどの症状が現れたらお知らせください。3.眠気、前兆のない急な眠り込みが現れることがありますので、服用中は自動車の運転や機械の操作、高い所での作業など危険を伴う作業はしないでください。4.レボドパ含有製剤と併用することで、副作用が強まることがあります。意志に反して舌や口が動いたり、体が動いたりする症状(ジスキネジア)が現れた場合にはすぐに連絡してください。5.喫煙や、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含有する健康食品を摂取すると、本剤の作用が弱まることがあるので控えてください。6.チーズ、ビール、赤ワインなど、チラミンを多く含む飲食物の摂取により、血圧上昇が報告されているため摂取は控えてください。<Shimo's eyes>本剤は、すでに海外ではパーキンソン病治療の中心的な薬剤の1つとして幅広く使用されており、医療上の必要性が高い薬剤として「未承認薬・適応外薬の要望」が日本神経学会より出されていました。「パーキンソン病診療ガイドライン2018」(日本神経学会監修)において、「早期パーキンソン病患者に対する運動症状改善効果は、セレギリンとラサギリンで差はないが、オフ時間の短縮にはラサギリンより高いエビデンスがある」と記載されており、患者さんのQOL改善が期待されます。覚せい剤原料の規制を受けると、厳重な保管管理のほか、廃棄の際は保健所職員(覚せい剤監視員)の立ち会いが必要であったり、1錠でも紛失した際は「覚せい剤原料事故届」の提出が必要であったりするなど、管理や手続きが煩雑でした。本剤は覚せい剤原料に指定されておらず、流通上の規制を受けないため、大変取り扱いが簡便です。薬力学的相互作用については、併用薬との相加・相乗作用によるセロトニン症候群などへの注意が必要です。また、薬物動態学的相互作用については、本剤はCYP1A2で代謝されますので、喫煙によるCYP1A2の誘導などに注意する必要があります。患者さんの併用薬や生活習慣に気を配り、適切な服薬指導ができるようにしましょう。■参考日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018

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統合失調症に対するアリピプラゾールの有効性・安全性に関するシステマティックレビュー

 統合失調症に対するアリピプラゾールの有効性、安全性について、ブラジル・サンパウロ大学のEsther Leticia Amorim Ribeiro氏らが、システマティックレビューにて検証を行った。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版2018年6月15日号の報告。 2017年3月31日までに公表された論文を、PubMed、Cochrane Library、LILACS、Centre for Reviews and Disseminationより検索を行った。統合失調症に対するアリピプラゾールの有効性や安全性を評価したランダム化比較試験のメタ解析によるシステマティックレビューが対象に含まれた。研究選択、データ抽出、品質評価は、2人の独立した研究者により実施された。エビデンスの質の評価には、GARADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)、バイアスリスクの評価には、ROBIS(Risk of Bias in Systematic Review)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・包括基準を満たした研究は14件であった。・アリピプラゾールの有効性は、定型抗精神病薬およびオランザピン、amisulprideを除く非定型抗精神病薬と同等であった。・アリピプラゾールは、クロザピン、リスペリドン、オランザピンと比較し、体重増加、グルコースおよびコレステロール値の変化が有意に低かった。・アリピプラゾールは、定型抗精神病薬、リスペリドンと比較し、一般的な錐体外路系副作用、抗パーキンソン薬の使用、アカシジアが有意に少なかった。・全体的なエビデンスの質は、「非常に低い」~「中程度」であり、その主な要因は、元論文のバイアスリスク、矛盾、アウトカムの不正確性であった。・ROBISによる評価では、バイアスリスクが「高い」レビュー(4件)と「不明確」なレビュー(5件)が示された。 著者らは「アリピプラゾールは、他の抗精神病薬と同等の有効性を有することが示唆された。また、定型抗精神病薬と比較し錐体外路症状が少なく、他の非定型抗精神病薬と比較し代謝系の副作用が少ないことから、他の抗精神病薬よりも優れた安全性プロファイルを有することが示唆された」としている。■関連記事統合失調症に対する短期治療、アリピプラゾール vs.リスペリドン統合失調症患者の認知機能に対するアリピプラゾール vs.リスペリドン薬剤誘発遅発性ジスキネジアを有する統合失調症患者へのアリピプラゾール切り替え

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