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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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パーキンソン病の構音障害、音声治療LSVT LOUDが有効/BMJ

 パーキンソン病患者の構音障害の治療において、Lee Silverman音声治療(Lee Silverman voice treatment:LSVT)は、国民保健サービスの言語聴覚療法(NHS SLT)を行う場合やSLTを行わない場合(非介入)と比較して、構音障害の影響の軽減に有効であり、またNHS SLTは非介入と比較して有益性はないことが、英国・ノッティンガム大学のCatherine M. Sackley氏らPD COMM collaborative groupが実施した「PD COMM試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年7月10日号に掲載された。英国41施設の無作為化対照比較試験 PD COMM試験は、英国の41施設で実施した実践的な非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年9月~2020年3月に参加者を募集した(英国国立衛生保健研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成を受けた)。 特発性のパーキンソン病と診断され、発話または発声の問題を有する患者388例を登録した。LSVT LOUDを受ける群に130例(平均年齢69.9歳、女性30%)、NHS SLTを受ける群に129例(69.7歳、22%)、SLTを行わない非介入群(対照群)に129例(70.2歳、26%)を無作為に割り付けた。 LSVT LOUDは、対面または遠隔で行う50分のセッションで構成され、週4回、4週間行い、自宅での練習は、治療日は1日1回、5~10分まで、非治療日は1日2回、15分までとした。NHS SLTの施行時間は、患者の必要に応じて担当のセラピストが決定し、練習も許容された。 主要アウトカムは、無作為化から3ヵ月の時点での自己申告によるvoice handicap index(VHI)の総スコアとし、ITT解析を行った。VHIは、患者報告によるコミュニケーションの困難さの影響を評価する尺度であり、0~120点(点数が低いほど状態が良好)でスコア化した。VHIの感情、機能、身体的側面でも同様の結果 VHI総スコアの平均値は、LSVT LOUD群がベースラインの44.6点から3ヵ月後には35.0点に、NHS SLT群は46.2点から44.4点に、対照群は44.3点から40.5点に低下した。 対照群に比べLSVT LOUD群は改善度が有意に良好で(補正後群間差:-8.0点、99%信頼区間[CI]:-13.3~-2.6、p<0.001)、NHS SLT群との比較でもLSVT LOUD群の改善度は有意に優れた(-9.6点、-14.9~-4.4、p<0.001)。 一方、NHS SLT群と対照群の間には有意差を認めなかった(補正後群間差:1.7点、99%CI:-3.8~7.1、p=0.43)。 VHIのサブスケールである感情的側面(LSVT LOUD群vs.対照群[p<0.001]、LSVT LOUD群vs.NHS SLT群[p<0.001]、NHS SLT群vs.対照群[p=0.78])、機能的側面(それぞれp<0.001、p<0.001、p=0.97)、身体的側面(p=0.04、p=0.003、p=0.38)についても、同様の結果が得られた。有害事象(主に声のかすれ)はLSVT LOUD群で多い 有害事象は、LSVT LOUD群で36例(28%)に93件、NHS SLT群で16例(12%)に46件発生し、対照群では発現しなかった。有害事象の大部分は声のかすれであり、NHS SLT群(45件)に比べLSVT LOUD群(80件)で多かった。重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「本試験の結果は、臨床的意思決定の指針となるエビデンスをもたらし、パーキンソン病患者における言語聴覚療法のリソースの使用を最適化する必要性を強調するものである」「本試験の知見はまた、言語聴覚療法の提供が介護者に及ぼす影響についても詳しく検討するよう促すものであり、介護者を含むさらなる研究が、パーキンソン病患者に対する今後の言語聴覚療法によるケアを最適化する可能性がある」としている。

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特定の前立腺肥大症治療薬がレビー小体型認知症の予防に有効か

 特定の前立腺肥大症治療薬が、レビー小体型認知症のリスク低下に役立つ可能性のあることが新たな研究で示唆された。米アイオワ大学内科学分野のJacob Simmering氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に6月19日掲載された。Simmering氏は、「レビー小体型認知症は、神経変性により生じる認知症としてはアルツハイマー病に次いで多いが、現時点では予防や治療のための薬剤がないため、今回の結果には心が躍った。既存の薬剤がこの衰弱性疾患の予防に有効であることが確認されれば、その影響を大幅に軽減できる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 米国立老化研究所(NIA)によれば、米国でのレビー小体型認知症の患者数は100万人以上に上るという。レビー小体型認知症は、高度にリン酸化したα-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞に凝集・沈着して形成されるレビー小体が原因で発症するとされている。レビー小体型認知症では、思考力や記憶力、運動機能が障害されるほか、幻視が生じる可能性もあり、実際に、80%以上の患者では実在しないものが見えるという。 前立腺肥大症の治療では、排尿障害を改善する治療薬として、前立腺と膀胱の筋肉を弛緩させる作用のあるα1受容体遮断薬のテラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンが用いられている。研究グループによると、これらの薬剤にはまた、脳細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の産生に重要な酵素を活性化する作用もあり、過去の研究では、パーキンソン病においてこれらの薬剤が神経保護作用を有する可能性が示唆されているという。今回の研究では、パーキンソン病と密接に関連するレビー小体型認知症でもα1受容体遮断薬が同様の効果を示すのかが検討された。 Simmering氏らは、Merative Marketscanデータベースから、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性12万6,313人と、ATP産生を増大させない別の2種類の前立腺肥大症治療薬、すなわちα1受容体遮断薬のタムスロシンと5α-還元酵素阻害薬(5ARI)を使用している男性を抽出し(タムスロシン:24万2,716人、5ARI:13万872人)、レビー小体型認知症の発症リスクを比較した。 その結果、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性でのレビー小体型認知症の発症リスクは、タムスロシンを使用している男性よりも40%(ハザード比0.60、95%信頼区間0.50〜0.71)、5ARIを使用している男性よりも27%(同0.73、0.57〜0.93)低いことが明らかになった。 こうした結果を受けてSimmering氏は、「テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンの使用とレビー小体型認知症の発症リスク低下との関連を明らかにするためには、さらなる研究で長期にわたって追跡する必要がある。それでも、これらの薬剤が、高齢化に伴い多くの人が罹患する可能性のあるレビー小体型認知症に対して予防効果を持つことは期待しても良いように思う」と述べている。 研究グループは、本研究には男性しか参加していないことに触れ、「この結果が女性にも当てはまるのかどうかは不明だ」としている。NIAによると、レビー小体型認知症は女性よりも男性の方が罹患率がわずかに高いという。また、レビー小体型認知症は診断が難しいため、本研究では、全てのレビー小体型認知症の発症者が対象に含まれていなかった可能性があることにも言及している。

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人間の「脳内コンパス」の場所を特定か

 人間には、「脳内コンパス」ともいうべき、迷子にならないようにするための脳活動パターンがあることを突き止めたと、英バーミンガム大学心理学分野のBenjamin Griffiths氏らが報告した。Griffiths氏らは、空間の中での自分の位置を把握してナビゲートするために使用する体内のコンパスを人間の脳内で初めて特定したと話している。詳細は、「Nature Human Behaviour」に5月6日掲載された。この発見をきっかけに、アルツハイマー病やパーキンソン病といったナビゲーション機能や見当識がしばしば損なわれる疾患について解明が進む可能性がある。 Griffiths氏は、「自分が向かっている方向を把握することは非常に重要だ。自分がいる場所や向かっている方向に少しでも誤差があると悲惨なことになり得る」と言う。さらに同氏は、「鳥、ネズミ、コウモリなどの動物には、正しい方向に進むための神経回路があることが知られている。しかし、人間の脳が実世界でどのように対処しているのかについて分かっていることは驚くほど少ない」と話す。 人間の脳活動を追跡するためには、通常、被験者ができるだけ静止していることが求められる。しかし今回の研究では、52人の参加者を対象に、脳波(EEG)を測定する携帯型のデバイスとモーションキャプチャを使って、動き回る人々の脳波と頭部の動きを分析した。研究参加者は、頭部に携帯型EEGデバイスを装着した状態で、複数のコンピューターのモニターからの指示に応じて頭や目を動かし、その間の脳活動がEEGデバイスにより測定された。また、てんかんなどの脳の疾患のモニタリング目的で脳に電極を埋め込んだ別の10人の参加者にも同様の実験を実施した。 その結果、脳後部の中心領域できめ細かく調整された頭の方向に関する信号が確認された。また、その信号は、対象者が別の方角に頭を向ける直前に検出され、頭の向きの変化を予測できる特有のパターンを持っていることも明らかになった。Griffiths氏は、「これらの信号を読み取ることで、脳がどのようにナビゲーション情報を処理するのか、また、これらの信号が視覚的な目印など他の手がかりとどのように連動するのかに焦点を合わせることができる」と説明する。 また、Griffiths氏は、「われわれのアプローチは、これらの機能についての研究に新たな道を開くものであり、神経変性疾患の研究や、ロボット工学および人工知能(AI)におけるナビゲーション技術の改善にもつながる可能性がある」と付け加えている。 今後の研究についてGriffiths氏は、「今回の研究で得られた知見からさらに一歩進め、脳が時間をどのようにナビゲートしているのか、また、そのような脳の活動が記憶に関連しているのかどうかを解明することになるだろう」と話している。

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事例048 難病患者指導管理料(パーキンソン病)の漏れ【斬らレセプト シーズン3】

解説レセプトチェックシステムにて「パーキンソン病に対してB001 7(1)難病外来指導管理料が算定できます」とのメッセージが表示されていました。「特定医療費(指定難病)受給者証」を持参している患者が、記載された指定難病を主病として受診されている場合には、難病外来指導管理料(以下「同管理料」)が算定できます。レセプトの目視点検を行いました。レセプトの病名欄には「パーキンソン病」と症状の「振戦」が表示されています。「パーキンソン病」は、同管理料の対象ですが、「ホーン・ヤールの重症度分類3度以上で、生活機能障害度2度以上」と基準が付記されています。レセプトには基準に達していることのコメントはありません。このままでは、同導管理料の算定はできません。カルテを参照しました。患者は「特定医療費(指定難病)」の申請中であることが記載されていました。同管理料の算定要件に合致します。レセプトの傷病名に、標準病名表から選んだ「パーキンソン病Yahr3G20」を表示させ請求をしています。傷病名が「パーキンソン病」のみの場合は、基準に達していることのコメントが必須となります。この調べの過程で、身体状況にかかる補記の無い「パーキンソン」「パーキンソン症候群」のみの病名にて同管理料を認めないとする査定があったことがわかりました。医師には受給者証が無い場合には、疾患の鑑別と身体状況について補記をしていただけるようにお願いして請求漏れ防止対策としました。なお、特定医療費(指定難病)受給の基準に達していなくとも、指定難病を主病とする治療中、月ごとの医療費総額(10割)が3万3,330円を超える月が3月以上ある患者には、軽症高額該当(軽症者の特例)助成対象という負担軽減の特例があることを申し添えます。

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認知症の人と抗精神病薬、深層を読む(解説:岡村毅氏)

 実はこれは20年以上も延焼している問題だ。認知症の人のBPSD(行動心理症状)、たとえば自傷や他害、激しいイライラや怒り、幻覚といった症状は、本人にも介護者にも大変つらい体験である。非定型抗精神病薬(パーキンソン症候群などが比較的少ないとされる第2世代の抗精神病薬、具体的にはリスペリドン以降のもの)が精神科領域で使われ始めると、時を同じくして老年医学領域でも使われ始めたのは当然であった。もちろん、これは患者さんをいじめようと思って処方されたのではない。しかし、どうも肺炎や心不全などの有害事象につながっているのではということが指摘され始め、2005年に米国のFDAが死亡リスクを「ブラックボックス」で指摘してからは、使うべきではない、とされてきた。さまざまなガイドラインでも、認知症の人に抗精神病薬は使ってはならないとされている。 日本では、悪い医師が本当は処方してはならない抗精神病薬を処方して、けしからんという文脈で使われることが多い。 とは言うものの、実際には世界中で使われている。そもそも英国でもハロペリドールとリスペリドンはBPSDに対して正式に使える。 この論文は、英国のプライマリケアのデータベースを用いて、認知症と診断された人について、その後に抗精神病薬が処方された人と処方されていない人を比べたら、された人の肺炎、血栓症、心筋梗塞、心不全などのリスクが高くなったという報告である。やはり使うべきではない、という論文である。 大きなデータを扱う公衆衛生の論文では仕方がないが、いろいろ限界はある。そもそも用量がわからないデータである。一部の人が過剰に多い用量を出されており、それがリスクを上げている可能性は否定できない。また認知症に新たになった人を組み込むために、「認知症診断はついてないがドネペジルを処方されている人は除いた」とある。これは私が英国の臨床を知らないだけかもしれないが、意味がわからない。認知症でない人にドネペジルを処方することなどあるのだろうか? データセットの粗さを示しているのかもしれない。またBPSDの程度もわからない。身体疾患が悪化しているときは高次機能にも影響し、攻撃性が増すなどBPSDとして発現する可能性もある。因果はわからない。 と文句をつけたが、抗精神病薬をなるべく使うべきではない、というのは今や医療現場では常識である。 以下はあくまで個人の印象だが、シンプルに高齢者に慣れている医師は、抗精神病薬はあまりにも危険なのでなかなか使わない。どうしても使わねばならない時に、期間を限定して乾坤一擲に使う。めちゃくちゃに使っているのは、あまり高齢者に慣れていない医師が多いように思われる。 そもそも年を取って心も体も弱ってBPSDが出るのは、人間の本性であり「治せる」ものではない。老いて施設に入ることになった人においては、悲しみ、怒り、焦燥はあって当たり前で、いかに顕在化させないか、行動化させないか、ということだけが論点だ。 環境を変える(認知症の人に過ごしやすい物理環境にする、スタッフの接し方を認知症の特性を踏まえたものにする)ことが最重要である。それでもダメなら漢方、あるいは抗精神病薬以外の処方、それでもダメなら期間限定で抗精神病薬だろう。 こう書くと非道な医師だといわれてしまうかもしれないが、介護スタッフが暴力を振るわれたり、あるいは家族が疲弊したりするのを看過するほうが、よほど非道であろう。 というわけで結論は、「認知症の人に抗精神病薬は出すべきではない。肺炎や血栓症や心疾患のリスクが増えることは臨床家なら知っているし、今回の論文でも改めて示された。しかし、ケアが崩壊して本人もケアラーも破綻するくらいなら期間限定で使う」ということになろう。 延焼は止まらないようだ。だが、こうやって悩み続けるというのも「治せない」ことが前提であることが多い老年精神医学の、基本姿勢かもしれない。最後に「認知症の高齢者に抗精神病薬を処方するからには、しっかり悩み、苦しみながら処方せよ」と言っておこう。

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使用済みの油を使った揚げ物は脳に悪影響を及ぼす

 揚げ物はウエストを太くするだけでなく、脳にも悪影響を及ぼす可能性のあることが、ラットを用いた実験で示唆された。使用済みのゴマ油やヒマワリ油とともに餌を与え続けたラットでは肝臓や大腸に問題が生じ、その結果、脳の健康にも影響が及ぶことが明らかになった。タミル・ナードゥ中央大学(インド)のKathiresan Shanmugam氏は、「使用済みの油が脳の健康に及ぼす影響は、油を摂取したラットだけでなく、その子どもにも認められた」と述べている。この研究結果は、米国生化学・分子生物学会議(ASBMB 2024、3月23〜26日、米サンアントニオ)で発表された。 Shanmugam氏は、「高温で食べ物を揚げる調理法はいくつかの代謝疾患と関連付けられているが、揚げ油の摂取と健康への有害な影響に関する長期的な研究は実施されていない。われわれの知る限り、長期にわたる使用済み油の摂取が第一世代の子孫の神経変性を増加させるという報告は初めてだ」と話している。 研究グループは、食品は油で揚げることによりカロリーが大幅に増加する上に、再利用された揚げ油は、天然の抗酸化物質や健康上の利点の多くを失う一方、有害な化合物を増加させることが多いと説明する。今回、Shanmugam氏らは、揚げ油の長期にわたる摂取の影響を調べるため、雌の実験用ラットを30日にわたって、標準的な餌を与える群、未使用のゴマ油またはヒマワリ油0.1mLと標準的な餌を与える群、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油0.1mLと標準的な餌を食べる群の5群に分けた。餌の影響は、最初の子孫(第一世代)まで追跡された。 その結果、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油を摂取した群ではその他の群に比べて、総コレステロール、LDLコレステロール、およびTAG(トリアシルグリセロール)の値が有意に増加し、肝機能検査では、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値の有意な上昇が認められた。また、これらの群では、炎症マーカーのHs-CRP(高感度C反応性タンパク質)値とLDH(乳酸脱水素酵素)値が有意に上昇し、RT-PCR検査では、抗酸化物質遺伝子SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)とGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)の発現が有意に増加していることも示された。さらに、肝臓および大腸の組織学的解析では、加熱使用済みのゴマ油またはヒマワリ油を摂取した群では細胞構造に有意な損傷が見られた。ダメージを受けた大腸では、特定の細菌から放出される毒素であるエンドトキシンやリポ多糖に変化が生じ、「その結果、肝臓の脂質代謝が著しく変化し、重要な脳のオメガ-3脂肪酸であるDHAの輸送が減少し、これにより、これらのラットとその子孫では、神経変性が引き起こされた」とShanmugam氏は説明している。 Shanmugam氏は、「これらの結果は、使用済みの油の再利用が、肝臓・腸・脳の間の結合に影響を及ぼす可能性を示唆している」と述べている。ただし研究グループは、「これは初期の研究結果であり、動物実験の結果がヒトにも当てはまるとは限らない」と強調している。 研究グループは次の段階として、揚げ物の摂取がアルツハイマー病やパーキンソン病のような脳の病気、不安やうつ病のような気分障害に及ぼす潜在的な影響について研究したいと考えている。また、「これらの結果は、腸内細菌叢と脳の関係に関する新たな研究実施の可能性につながるものでもある」との見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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レム睡眠行動障害の男女差が明らかに

 レム睡眠行動障害の臨床的特徴を性別に着目して検討した結果、男性と比べて女性では、睡眠の質が悪く、抑うつ傾向が強いことが明らかとなった。愛知医科大学病院睡眠科の眞野まみこ氏らによる研究結果であり、「Journal of Clinical Medicine」に2月5日掲載された。 レム睡眠中には筋肉の活動が低下しているため、夢を見て、夢の中で行動しても手足や体は動かない。しかし、レム睡眠行動障害では筋肉の活動が抑制されず、夢の中でとっている行動がそのまま現実の行動として現れる。寝ながら殴りかかったり、暴れたりするなどの異常行動を伴い、本人や周囲の人が怪我をする危険もある。 また、レム睡眠行動障害はパーキンソン病やレビー小体型認知症などのリスク因子とされている。発症年齢の中央値は49歳と報告され、加齢とともに増加する。しかし、その特徴の男女差についてはまだ十分に研究されていない。 そこで著者らは、2013年5月~2022年3月に愛知医科大学病院睡眠科を受診し、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を用いてレム睡眠行動障害と診断された患者の臨床的特徴を後方視的に評価した。40歳未満の患者やパーキンソン病の患者などを除外し、研究対象は204人(男性133人、女性71人)となった。睡眠や抑うつなどに関する質問紙調査も行った。 その結果、男性は女性と比べて、年齢が有意に低く(平均67.9±8.0対70.5±8.2歳)、BMIが有意に高い(平均23.5±2.7対22.5±3.3)などの特徴が見られた。主観的評価では、男性と比べて女性の方が、睡眠の質が有意に悪く(ピッツバーグ睡眠質問票の平均得点:5.9±3.8対7.2±3.6)、抑うつ症状が有意に高かった(うつ病自己評価尺度の平均得点:38.0±8.7対41.7±8.5)。一方、男性の方が女性よりも、レム睡眠行動障害の症状は有意に高かった(スクリーニング問診票の平均得点:8.6±2.9対7.7±3.1)。 PSGによる客観的評価では、中途覚醒時間に男性と女性で有意な差は見られなかった(97.3±57.3対89.0±57.0分)。総睡眠時間に占めるノンレム睡眠のステージ1(N1)の割合(48.8±17.7対36.5±18.2%)およびステージ2(N2)の割合(32.1±16.4対45.4±17.4%)には有意差が認められた。最も深い睡眠段階であるステージ3(N3)の割合は、有意差はなかったものの、女性の方が高かった(0.4±1.4対1.0±2.9%)。レム睡眠時間の割合に有意差はなかった(18.7±7.7対17.1±6.6%)。無呼吸低呼吸指数(AHI:15.1±7.6対7.2±7.9回/時)および覚醒反応指数(ArI:29.5±16.3対22.3±11.8回/時)は、男性の方が有意に高かった。 さらに、ロジスティック回帰分析により、性別と睡眠の質および抑うつとの関連が検討された。年齢、BMI、AHI、ArIの差を調整した解析の結果、女性は睡眠の質の悪化(男性と比較したオッズ比2.03、95%信頼区間1.082~3.796)および抑うつ(同2.34、1.251~4.371)と有意に関連していることが明らかとなった。 研究の結論として著者らは、レム睡眠行動障害の女性は男性と比べて、PSGでN2とN3の割合が高かった一方で、主観的な睡眠の質は悪く、さらに抑うつ傾向が強いことも確認されたとしている。また、「これまで、レム睡眠行動障害が睡眠の質や抑うつに及ぼす影響についてはあまり注目されてこなかった。特に、女性患者の睡眠の質と抑うつに留意することは重要である」と述べている。

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認知症の修正可能な3大リスク因子

 認知症のリスク因子の中で修正可能なものとしては、糖尿病、大気汚染、飲酒という三つの因子の影響が特に大きいとする研究結果が報告された。英オックスフォード大学のGwenaelle Douaud氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に3月27日掲載された。 Douaud氏らは脳画像データを用いて行った以前の研究で、アルツハイマー病やパーキンソン病、および加齢変化などに対して特に脆弱な神経ネットワークを特定している。このネットワークは、脳のほかの部分よりも遅れて思春期に発達し始め、高齢期になると変性が加速するという。今回の研究では、この脆弱な神経ネットワークの変性に関与している因子の特定を試みた。 研究には、英国で行われている一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、脳画像データやさまざまなライフスタイル関連データがそろっている3万9,676人(平均年齢64±7歳)のデータを利用。認知症リスクに影響を及ぼし得る161の因子と、脆弱な神経ネットワークの変性との関連を検討した。161の因子のうち、遺伝的因子などの修正不能のもの以外は、食事、飲酒、喫煙、身体活動、睡眠、教育、社交性、大気汚染、体重、血圧、糖尿病、コレステロール、聴覚、炎症、抑うつという15種類に分類した。 年齢と性別の影響を調整後の解析により、脆弱な神経ネットワークの変性への影響が強い修正可能な因子として、医師により診断されている糖尿病(r=-0.054、P=1.13E-24)、2005年時点の居住環境の二酸化窒素濃度(r=-0.049、P=5.39E-20)、アルコール摂取頻度(r=-0.045、P=3.81E-17)という三つの因子が特定された。また、遺伝的背景は多かれ少なかれ、脆弱な神経ネットワークの変性に影響を与えていることも分かった。 Douaud氏は、「われわれは既に特定の脳領域が加齢変化の初期に変性することをつかんでいたが、今回の研究により、その領域は糖尿病と交通関連の大気汚染、および飲酒に対しても脆弱であることが示された。また、その領域の変性は心血管死、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病のリスクにも関連があるようだ」と述べている。 論文共著者の1人である米テキサス大学リオグランデバレー校のAnderson Winkler氏は、「今回の研究は、脳の『弱点』とも言える脆弱な神経ネットワークに生じる変性のリスク因子について、その寄与の程度を定量的かつ網羅的に評価し得たことに意義がある」としている。

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早期パーキンソン病へのGLP-1受容体作動薬、進行抑制効果を確認/NEJM

 診断後3年未満のパーキンソン病患者を対象とした糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬リキシセナチド療法について、第II相のプラセボ対照無作為化二重盲検試験で、プラセボと比較して12ヵ月時点での運動障害の進行を抑制したことが示された。ただし、消化器系の副作用を伴った。フランス・トゥールーズ大学病院のWassilios G. Meissner氏らLIXIPARK Study Groupによる検討結果で、NEJM誌2024年4月4日号で発表された。リキシセナチドは、パーキンソン病のマウスモデルで神経保護特性を示すことが報告されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「より長期かつ大規模な試験により、パーキンソン病患者に対するリキシセナチドの有効性および安全性を確認することが必要である」とまとめている。リキシセナチドを1日1回皮下投与、1年後のMDS-UPDRSパートIIIスコア変化を評価 試験は、パーキンソン病患者の運動障害進行に対するリキシセナチドの有効性を評価するため、パーキンソン病診断後3年未満で、対症薬の服用量が安定しており、運動合併症のない患者を無作為に2群に割り付け、一方にはリキシセナチドを1日1回皮下投与(当初14日間は10μg/日、その後は20μg/日)、もう一方にはプラセボを、それぞれ12ヵ月投与し、2ヵ月休薬した。 主要エンドポイントは、運動障害疾患学会・改訂版パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)のパートIIIスコア(範囲:0~132点、スコアが高いほど運動障害が大きい)のベースラインからの変化量で、12ヵ月時点で試験薬服薬中の患者を対象に評価した。 副次エンドポイントは、6ヵ月、12ヵ月、14ヵ月時点のMDS-UPDRSのその他のサブスコアや、レボドパ換算投与量などだった。スコア変化の群間差は3.08ポイントで有意な差 試験登録のスクリーニングは2018年2月~2020年3月に行われ、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、計156例(各群78例)が登録された時点で組み入れ中止となった。ベースラインの両群の人口統計学的および臨床的特性は類似しており、典型的な早期パーキンソン病の被験者像であった。平均年齢はリキシセナチド群59.5±8.1歳、プラセボ群59.9±8.4歳、男性被験者は同56%、62%、平均診断後期間は1.4±0.8年、1.4±0.7年で、MDS-UPDRSパートIIIスコアは両群とも約15点(14.8±7.3点、15.5±7.8点)だった。 12ヵ月時点で、MDS-UPDRSパートIIIスコアの変化量は、リキシセナチド群では-0.04ポイント(障害の改善を示す)、プラセボ群では3.04ポイント(障害の悪化を示す)だった(群間差:3.08、95%信頼区間[CI]:0.86~5.30、p=0.007)。 2ヵ月の休薬期間後14ヵ月時点で、非服薬状態でのMDS-UPDRSパートIIIスコアの平均値は、リキシセナチド群17.7点(95%CI:15.7~19.7)、プラセボ群20.6(18.5~22.8)だった。 副次エンドポイントに関するその他の結果は、両群で大きな差は認められなかった。 リキシセナチド群の46%で悪心が、13%で嘔吐が報告された。

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パーキンソン病のオフ症状のため認知症薬の減量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第59回

 今回は、第42回で紹介したパーキンソン病患者のその後の治療についてです。認知症症状とパーキンソン症状のバランスを考慮して、優先順位をつけて減量提案しました。パーキンソン病と認知症は、病態メカニズム上、どちらかの治療を優先するとどちらかの症状を悪化させかねない難しさがあります。患者さんが最も困っている症状が何であるかを丁寧に聴取して医師に話をしてみましょう。患者情報75歳、男性(施設在宅)基礎疾患パーキンソン病、レビー小体型認知症、脊柱管狭窄症、高血圧症介護度要介護2服薬管理施設管理処方内容(下記内服薬を一包化指示)1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.レボドパ・カルビドパ水和物錠 4.5錠 分3 朝昼夕食後4.ゾニサミドOD錠25mg 1錠 分1 朝食後5.リバスチグミン貼付薬18mg 1枚 朝貼付6.リマプロストアルファデクス錠5μg 6錠 分3 朝昼夕食後7.デュロキセチンカプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは施設で生活しながら、隣町の専門医のいる総合病院に2ヵ月に1回、家族の送迎で通院しています。認知症が進行して空間認知機能の低下と複視から生活負担が増加し、前回の診察でリバスチグミン貼付薬が13.5mgから18mgに増量となりました。しかし、日中のオフタイムの頻度と強度が増加し、食事や入浴の介助途中でオフ症状が出て動けなくなることで介護負担が増加しました。また、施設では意識障害かどうかの判断がつかず、ご家族を臨時受診のために呼び出しても、施設に到着したときにはすでに症状が改善していることも多く、ご家族の負担も増加していました。考えられることは、リバスチグミン貼付薬の持続的なコリン作動(線条体のコリン系神経の亢進)により、ドパミンの作用がブロックされた影響です。そこで、まず施設スタッフに、オフ症状が出たときの動画を撮影してもらうよう協力依頼しました。また本人との面談で、認知機能低下に伴う症状(複視、空間認識低下)とパーキンソン症状(オフタイムによる運動症状)のどちらが心身の負担と感じているかを聴き取りました。本人としては、動けない時間があることで迷惑をかける頻度が高く、家族の負担になってしまう懸念から、運動症状をどうにかしたいという希望を聴き取りました。そこで医師にリバスチグミンの減量を提案することにしました。処方提案と経過診察に同行し、医師に施設スタッフから提供されたオフ症状時の動画を確認してもらうとともに、運動症状の頻度や強度が増強されていて、本人にも施設スタッフにも負担があることを報告しました。また、パーキンソン病治療と認知症治療の強度バランスから、リバスチグミンを減量することで現症状を緩和できないか提案しました。医師から患者に対し、リバスチグミンを減量することで空間認知や認知機能低下が進行する可能性はあるものの、今のオフ症状の負担を減らすことを優先する治療方針でよいか説明がありました。本人もそれでよいと了承を得たので、運動症状改善を優先にリバスチグミンを漸減中止する対応となりました。リバスチグミンを減量して1週間経過すると、施設からのオフ症状の報告がなくなりました。また、食事やベッド上の生活において空間認知の悪化はなく経過しています。今後もパーキンソン病と認知症の症状経過をみながら、負担を最小限に生活を維持できることを目標にフォローアップします。

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心臓18F-ドパミンPET検査でレビー小体病を予測できる可能性

 心臓の18F-ドパミンPET(陽電子放射断層撮影)により、後に中枢性レビー小体病と診断されるリスクのある人を同定できる可能性を示した研究が、「Journal of Clinical Investigation」に10月26日掲載された。 米国立衛生研究所(NIH)のDavid S. Goldstein氏らは、3つ以上のパーキンソン病のリスク因子を有する34人を対象に、最長7.5年間あるいはパーキンソン病と診断されるまでの期間中、心臓18F-ドパミンPET検査を1.5年間隔で実施した。 その結果、研究開始時に心臓PETでの18F-ドパミン由来の放射線濃度が低い対象者は9人、正常者は25人だった。7年間追跡し、放射線濃度が低かった9人のうち8人、正常だった11人のうち1人が、中枢性レビー小体病と診断された。レビー小体病と診断された9人全員が、診断前または診断時に18F-ドパミン由来の放射線濃度が低かったが、レビー小体病と診断されなかった25人のうち放射線濃度が一貫して低かったのは1人のみだった。 Goldstein氏は、「パーキンソン病やレビー小体型認知症の多くの症例で、病気のプロセスは実際には脳では始まっていないと考えられる。自律神経の異常により、病気の進行は最終的に脳に到達する。心臓でのノルエピネフリン消失は、レビー小体病での脳のドパミン消失を予測するもので、それに先立って生じる」と述べている。

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第199回 コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見/コロナ感染でドーパミン神経が老化する

コロナ感染でくしゃみが生じる仕組みを発見新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染でよく生じる症状の1つ、くしゃみを誘発する仕組みが見つかりました。SARS-CoV-2は手持ちのプロテアーゼPLpro(パパイン様プロテアーゼ)を頼りに複製します。そのPLproが感覚神経の一員である侵害受容神経を活性化してくしゃみを誘発することがマウスを使った検討で明らかになりました1)。ウイルス感染の別の主な症状である咳をPLproが促すかどうかは検討されませんでした。というのもマウスの咳を確かめようがなかったからです2)。しかしPLproが咳も引き起こしている可能性はありそうです。PLproは侵害受容神経で発現するイオンチャネルTRPA1を介した作用により、くしゃみや痛みを誘発することが今回の研究で示されました。TRPA1活性化の咳誘発作用が先立つ研究で知られており3)、PLproが咳も誘発するかどうかを調べることは価値がありそうです。PLproはSARS-CoV-2の複製に不可欠なことから、その阻害薬の開発が進んでいます。たとえばビタミンA誘導体イソトレチノンにPLpro阻害作用があると示唆されており、Clinicaltrials.govには同剤による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療の臨床試験がいくつか登録されています。また、米国・Sound Pharmaceuticals社の開発品ebselenもどうやらPLpro阻害作用があるらしく、COVID-19患者を対象にした2つの第II相試験が進行中です。今回の結果によるとそれらPLpro阻害薬はこれまでの見込み以上の症状緩和作用や感染の拡大を防ぐ作用を担いうるかもしれません。くしゃみを誘発するウイルスはほかにもありますが、そもそもウイルス感染のくしゃみの原因はこれまでわかっていませんでした。今回見つかった仕組みはSARS-CoV-2のみならず、そのほかのウイルス感染の症状や感染の伝播を減らす手段の開発にも役立ちそうです2)。コロナ感染でドーパミン神経が老化する続いて、SARS-CoV-2が神経に支障を来す仕組みを同定し、COVID-19患者のパーキンソン病症状の発生に注意する必要があることを示唆した研究成果を紹介します。COVID-19の嗅覚/味覚障害や頭痛などの神経異常はますます広く知られるようになっています。神経のSARS-CoV-2感染のしやすさは一様ではないらしく、たとえばiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作ったドーパミン放出(DA)神経はSARS-CoV-2感染を許し、皮質神経はそうでないことが先立つ研究で示されています。新たな研究の結果、SARS-CoV-2感染したiPS細胞由来DA神経はパーキンソン病と関連する老化状態に陥ることが示されました4,5)。SARS-CoV-2感染で老化経路の活性化がみられたのはDA神経細胞のみで、肺を模す組織(肺オルガノイド)、膵臓細胞、肝臓オルガノイド、心臓細胞のSARS-CoV-2感染では老化経路遺伝子の有意な働きは認められませんでした。そういう神経老化を防ぎうる手段も早くも同定されました。検討されたのは米国FDA承認薬一揃いで、まずそれらをiPS細胞由来DA神経に与え、次にSARS-CoV-2を加えた後に細胞老化の生理指標βガラクトシダーゼ(β-gal)活性が測定されました。その結果やほかの検討により、3つの薬・リルゾール、イマチニブ、メトホルミンがDA神経へのSARS-CoV-2感染を阻止してその老化を防ぐことが判明しました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療に使われるリルゾールとSARS-CoV-2感染の関わりは知られていませんが、イマチニブのSARS-CoV-2阻止作用は肺オルガノイドを使った先立つ研究で確認されています。メトホルミンといえばSARS-CoV-2感染した肥満や2型糖尿病患者の死亡率低下と同剤使用の関連が示されており、COVID-19治療効果を担いうることが知られています。それら薬剤がSARS-CoV-2感染に伴う神経病変を解消しうるかどうかは今後調べる価値がありそうです。また、SARS-CoV-2感染した人にパーキンソン病関連症状が発生していないかどうかを注意して観察する必要がありそうです。パーキンソン病で損傷を受けやすいのが脳の黒質のDA神経A9型であるのと同様に、そのA9型はSARS-CoV-2にどうやらとくに影響を受けやすいことが今回の研究で示唆されています。参考1)Mali SS, et al. bioRxiv. 2024 Jan 11. [Epub ahead of print]2)Why does COVID-19 make you sneeze? / Science3)Grace MS, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2011;24:286-288.4)Yang L, et al. Cell Stem Cell. 2024 Jan 10. [Epub ahead of print]5)SARS-CoV-2 Can Infect Dopamine Neurons Causing Senescence / Weill Cornell Medicine

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日本人高齢者における抗コリン薬使用と認知症リスク~LIFE研究

 抗コリン薬が認知機能障害を引き起こすことを調査した研究は、いくつか報告されている。しかし、日本の超高齢社会において、認知症リスクと抗コリン薬の関連は十分に研究されていない。大阪大学のYuki Okita氏らは、日本の高齢者における抗コリン薬と認知症リスクとの関連を評価するため本研究を実施した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2023年12月号の報告。 2014~20年の日本のレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。対象は、認知症患者6万6,478例および、年齢、性別、市区町村、コホート登録年がマッチした65歳以上の対照群32万8,919例。1次曝露は、コホート登録日からイベント発生日またはそれに一致したインデックス日までに処方された抗コリン薬の累計用量(患者ごとの標準化された1日当たりの抗コリン薬総投与量)であり、各処方の抗コリン薬各種の総用量を加算し、WHOが定義した1日の用量値で除算して割り出した。抗コリン薬の累計曝露に関連する認知症のオッズ比(OR)の算出には、交絡変数で調整した条件付きロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・インデックス日の平均年齢は84.3±6.9歳であり、女性の割合は62.1%であった。・コホート登録日からイベント発生日またはインデックス日までに1種類以上の抗コリン薬が処方された割合は、認知症患者で18.8%、対照群で13.7%であった。・多変量調整モデルでは、抗コリン薬を処方されていた人は、認知症と診断されるORが有意に高かった(調整OR:1.50、95%信頼区間:1.47~1.54)。・完全多変量調整モデルでは、抗コリン作用を有する薬剤の中でも、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬、膀胱に対する抗ムスカリン薬の使用で、認知症リスクの有意な増加が確認された。 著者らは「日本の高齢者が使用するいくつかの抗コリン薬は、認知症リスクの増加と関連している」とし、「これらの集団に対して抗コリン薬を使用する際には、ベネフィットと並び、潜在的なリスクを考慮する必要がある」としている。

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アルツハイマー病に対する薬物療法~FDA承認薬の手引き

 近年、認知症の有病率は高まっており、患者および介護者のQOLを向上させるためには、認知症の病態生理学および治療法をより深く理解することが、ますます重要となる。神経変性疾患であるアルツハイマー病は、高齢者における健忘性認知症の最も一般的な病態である。アルツハイマー病の病態生理学は、アミロイドベータ(Aβ)プラークの凝集とタウ蛋白の過剰なリン酸化に起因すると考えられる。以前の治療法は、非特異的な方法で脳灌流を増加させることを目的としていた。その後、脳内の神経伝達物質の不均衡を是正することに焦点が当てられてきた。そして、新規治療では、凝集したAβプラークに作用し疾患進行を抑制するように変わってきている。しかし、アルツハイマー病に使用されるすべての薬剤が、米国食品医薬品局(FDA)の承認を取得しているわけではない。インド理科大学院Ashvin Varadharajan氏らは、研究者および現役の臨床医のために、アルツハイマー病の治療においてFDAが承認している薬剤を分類し、要約を行った。Journal of Neurosciences in Rural Practice誌2023年10~12月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・認知症の症状を緩和するための薬剤は、認知症の行動・心理症状(BPSD)と認知機能低下の緩和を目的とした薬剤に分類可能である。・BPSDに対する薬剤には、認知症に伴うアジテーションの治療に対する1日1回投与の抗精神病薬ブレクスピプラゾール、睡眠障害の治療に用いられるオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントが含まれる。・認知機能低下に対する薬剤には、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンなどのグルタミン酸阻害薬が含まれる。・ドネペジルは、最も一般的に使用されている薬剤であり、安価で忍容性が良好で、1日1回経口投与および週1回の経皮吸収投与が可能である。アセチルコリンレベルを増加させ、希突起膠細胞の分化を促進し、Aβ毒性保護効果を示す。しかし、心臓伝導系の副作用が報告されているため、定期的なモニタリングが必要とされる。・リバスチグミンは、1日2回経口投与または1日1回経皮吸収投与が可能である。ドネペジルよりも心臓に対する副作用リスクは低いが、貼付部位の局所反応が問題となる。・ガランタミンは、短期間で認知症症状を改善することに加え、BPSDの発現を遅延させると報告されている。また、複数の代謝経路を有するため、薬物相互作用を最小限に抑えることが可能である。ただし、心臓伝導系の副作用については、注意深くモニタリングする必要がある。・グルタミン酸調整物質であるメマンチンは、認知機能および神経保護の改善に加え、抗パーキンソン病薬や抗うつ薬としても作用することが期待される。即時放出製剤または徐放性経口剤での1日1回投与が可能である。・aducanumab、レカネマブなどの疾患修飾薬は、Aβの負担を軽減する。脳内のAβプラークの原線維構造と結合することで効果を発現する。これらの薬剤は、とくにApoE4遺伝子を有する患者においてアミロイド関連の画像異常を引き起こすリスクがある。aducanumabは4週間に1回、レカネマブは2週間1回の投与である。 著者らは「アルツハイマー病に対する薬剤選択では、薬剤入手の可能性、患者コンプライアンス、コスト、特定の併存疾患、特定の患者におけるリスクとベネフィットのバランスを考慮したうえで、決定する必要がある」とし「治療に対する総合的なアプローチとして、非薬物療法の使用も検討すべきである」としている。

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アルツハイマー病患者のイライラや興奮の原因は脳内炎症?

 アルツハイマー病患者にイライラ(易刺激性)や不安、興奮といった症状が現れることはよく知られているが、その原因は、アミロイドβやタウタンパク質などの従来から知られているアルツハイマー病のマーカーではなく脳内の炎症である可能性が、新たな研究で示唆された。米ピッツバーグ大学医学部のCristiano Aguzzoli氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に11月27日掲載された。 Aguzzoli氏らピッツバーグ大学の研究グループは、2023年5月に、過度の脳内炎症がアルツハイマー病発症の重要な要因であり、脳内炎症により高齢者でのアルツハイマー病の発症リスクが高いかどうかを予測できる可能性があることを明らかにしていた。 今回の研究では、高齢者109人(平均年齢71.8歳、女性66%)を対象に、アルツハイマー病患者に生じる精神神経症状と、神経炎症の代理指標としてのミクログリア活性化とアストロサイトの反応性との関連を検討した。ミクログリアは、神経炎症により活性化されると炎症性サイトカインを産生して分泌し、それがアストロサイトを活性化させて神経細胞死を引き起こす「反応性アストロサイト」を誘導すると考えられている。対象者のうち、70人は正常に年を重ねていたが、39人には認知機能障害が認められた。精神神経症状として、興奮または攻撃性、異常行動、易刺激性、高揚感または幸福感、抑うつ、不安などの12種類と、介護者の負担について、質問票(Neuropsychiatry Inventory Questionnaire;NPI-Q)を用いて評価を行った。 PET検査の結果、認知機能が正常だった21人(30%)と認知機能障害が認められた31人(79%)にアミロイドβの蓄積が認められた。解析の結果、NPI-Qの重症度スコアは、前頭葉、側頭葉、頭頂葉でのミクログリア活性化と有意に関連していることが明らかになった。次に、Leave-one-out法で一つずつ検討したところ、ミクログリア活性化と最も強く関連しているNPI-Qドメインは易刺激性であり、その他にも睡眠障害、興奮、食欲の異常または摂食障害との関連も強いことが示された。また、ミクログリア活性化に関連する易刺激性は、NPI-Qで測定された介護者の負担と関連していることも判明した。 Aguzzoli氏は、「アルツハイマー病患者での易刺激性、興奮、不安、抑うつなどの精神神経症状は治療が極めて困難だ。これらの症状は、コントロールが難しく、明確な原因も不明で、介護者が多くのサポートを受けずに家族の世話をすることを困難にしている」と指摘する。そして、「この研究により、脳内炎症がこうした症状の原因である可能性が初めて示唆された」と主張している。 研究グループは、アルツハイマー病患者の脳内炎症を治療することで、これらの症状を和らげることができる可能性があるとの考えを示す。その一例として、脳内炎症を特異的に標的とする薬剤により、アルツハイマー病患者が感じる不安やイライラを軽減できる可能性があることに言及している。 研究グループはまた、過度の易刺激性などの症状はアルツハイマー病の初期段階に現れることが多いことを指摘し、脳内炎症が初期段階のアルツハイマー病に果たす役割は、これまで考えていたよりも大きい可能性があるとの見方を示している。 さらに、今回の研究で得られた知見は、脳の他の変性疾患にも影響を及ぼす可能性があると研究グループは指摘する。論文の上席著者である、ピッツバーグ大学医学部精神医学・神経学分野のTharick Pascoal氏は、「神経炎症と精神神経学的異常の両方が、パーキンソン病患者に生じる認知症など、他のいくつかのタイプの認知症でも認められる。そのため、われわれは目下、世界中の科学者と協力して、これらの知見を他の疾患にも応用しようと努めているところだ」と話している。

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生物学的年齢は脳卒中や認知症のリスクに影響を及ぼす

 年齢には、出生からの経過年数で表す暦年齢のほかに、科学者が生物学的年齢と呼ぶものがある。これは、老化や健康状態の個人差を加味した年齢で、テロメアの長さ、エピジェネティック・クロックや多様な生物学的バイオマーカー値を基に算出される。スウェーデンの新たな研究で、この生物学的年齢が暦年齢を上回っている人では、認知症や脳梗塞(虚血性脳卒中)の発症リスクが高まることが明らかになった。カロリンスカ研究所(スウェーデン)医学疫学・生物統計学部門のSara Hagg氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に11月5日掲載された。 一般的に、心血管疾患や神経変性疾患などの慢性疾患のリスクは加齢とともに増加すると考えられているが、これまでは暦年齢を使って研究を行うことが一般的だった。しかしHagg氏は、「老化速度は人により異なるので、暦年齢は正確性に欠ける尺度ではないだろうか」と疑問を呈する。 今回の研究では、UKバイオバンク参加者のうち、試験登録時に神経変性疾患の診断歴がなかった32万5,870人(平均年齢56.4歳、女性54.2%)のデータを用いて、生物学的年齢と神経変性疾患との関連が検討された。Hagg氏らは、対象者の血中脂肪、血糖、血圧、肺機能、BMIなど18種類の臨床バイオマーカーの測定値に基づき、3種類の生物学的年齢を算出した。すなわち、生理学的な年齢を表すKDMAge、死亡リスクに関する情報を考慮したPhenoAge、それぞれの生理学的な状態を健康な基準サンプルからの偏差として計算したHDAgeの3種類である。 中央値9.0年間の追跡期間中に1,397人(0.4%)が認知症、2,515人(0.8%)が脳梗塞、679人(0.2%)がパーキンソン病、203人(0.1%)が運動ニューロン疾患と診断された。解析の結果、生物学的年齢が1標準偏差上昇するごとに、あらゆる原因による認知症リスクの有意な上昇が示され、その調整ハザード比は、KDMAgeで1.28(95%信頼区間1.21〜1.35)、PhenoAgeで1.28(同1.22〜1.35)、HDAgeで1.20(同1.13〜1.27)だった。認知症の種類別に検討すると、全ての生物学的年齢が血管性認知症と強い関連を示したが、アルツハイマー病との関連は弱かった。 また、生物学的年齢は脳梗塞リスクとも有意な関連を示した(KDMAge:調整ハザード比1.39、95%信頼区間1.34〜1.46、PhenoAge:同1.38、1.32〜1.43、HDAge:同1.28、1.22〜1.34)。運動ニューロン疾患についても弱い正の相関が見られたが、統計的に有意な関連を示したのはHDAgeだけだった(同1.22、1.06〜1.42)。生物学的年齢とパーキンソン病リスクとの間に関連は認められなかった。 研究グループは、この研究結果は因果関係を明らかにするようデザインされたものではない点を強調しながらも、「健康的になることで、脳への過剰なリスクが減少する可能性は多分にある」との見方を示している。またHagg氏は、「いくつかのバイオマーカーの数値は、生活習慣や薬の影響を受ける可能性がある」と付け加えている。

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起立性低血圧の有無で、積極的な降圧治療における心血管疾患発症や総死亡の抑制効果に違いはあるのか?(解説:石川讓治氏)

 積極的な降圧が心血管疾患発症抑制に有用であることが、いくつかの大規模無作為割り付け介入試験で報告されている。しかし、これらの研究では起立性低血圧や起立時血圧が低値である患者が除外されていることが多く、これらを有する患者における心血管疾患発症に対する抑制効果に関しては不明であった。本研究は9つの臨床試験の結果の個別参加者データを統合して、起立性低血圧(座位→起立での血圧低下)と起立時低血圧の有無によって、積極的降圧群における心血管疾患発症または総死亡の抑制効果に違いがあるかどうかを検討したメタ解析である。その結果、起立性低血圧や起立時低血圧の有無では、積極的な降圧治療による心血管疾患の発症または総死亡の抑制効果に統計学的有意差は認められなかった。しかし、起立性低血圧を認める患者における積極的な降圧治療は、有意に心血管疾患発症を抑制していたが、総死亡抑制に関しては統計学的有意差が認められなかった。同様に、起立時低血圧を有する患者における積極的降圧治療においても、心血管疾患発症や総死亡低下効果に統計学的有意差は認められなかった。 本研究の解釈には注意が必要である。起立性血圧低下(変動)と起立時に血圧(レベル)が低いことは臨床的には少し異なるものである。起立時に血圧が低いこと自体は、座位においても血圧レベルが低いことの影響を大きく強く受けており、血圧の変動性よりはレベルの問題が大きいと思われる。さらに、起立性低血圧(変動)は、座位→立位の血圧変化では十分に評価をすることは困難である。起立性低血圧は、頭部と心臓の位置関係が変化する仰臥位から立位への変化で診断されるべきであり、座位から立位での血圧変化は下肢運動機能低下やフレイルによる影響を受けやすい。大規模臨床試験では、ヘッドアップティルト試験を全員に行うことが困難なため簡易的に座位→起立での血圧で測定しているが、臨床的に問題となる血圧調整機能障害や自律神経機能低下を反映した起立性低血圧は、座位→立位への変換や起立時の血圧では評価することは困難である。 起立性血圧低下や起立時低血圧の有無にかかわらず、積極的な降圧は平均血圧レベルを低下させ、心血管疾患の発生を抑制するが、起立性低血圧患者においては、生活の質が低下し、転倒骨折リスクが増加することのほうが、イベント抑制よりも問題となることも多い。しかし、このことに関しては本研究においてはまったく評価されていない。起立性低血圧の原因となる自律神経機能低下は、臨床前段階の認知症やパーキンソン病などを併存していることが多く、感染症、老衰、低栄養などによる死亡も多い。こういった患者の多くは大規模な無作為割り付け研究には参加困難であり、積極的降圧治療によっても総死亡の減少効果は少ない。 実臨床においては、起立性低血圧を有する患者の降圧治療は、積極的降圧による心血管疾患発症抑制と、生活の質を維持することのバランスを考えながら行う必要がある。降圧治療をする意義や目的を明確にしながら、降圧目標値を設定していく必要がある。

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第186回 手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された

手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された手術で脳内に移植した電極による脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病などの重度の運動疾患や強迫性障害(強迫症)などの気分障害の治療手段として世界で広く使われています。用途の拡大も期待され、たとえば治療抵抗性うつ病やアルツハイマー病へのDBSの試験が実施されています。しかし脳手術につきものの危険性や合併症がDBSの可能性を狭めています。手術不要のDBSの実用化を目指し、頭の外側からの磁気や電気を送る手段が多くの臨床試験で検討されてきました。そのような経頭蓋磁気/電気刺激を基底核や海馬などの脳の奥深くの領域に到達させるにはそれらを覆う脳領域も広く一緒に刺激してしまうことが避けられず、余計な副作用の心配があります。そこで英国のImperial College Londonの認知症研究者Nir Grossman氏らは脳に置いた電極が発する電場によって脳の奥深くのみを遠隔刺激しうる手段を編み出し、その意図どおりの効果を示したマウス実験成果を2017年に報告しました1)。Grossman氏らがtemporal interference(TI)と呼ぶその手術不要の手段はマウスの海馬をそれに被さる領域に手出しすることなく刺激することができました。検討はその後さらに進み、先週Nature Neuroscience誌に発表された臨床試験の結果、いまやTIはマウスと同様にヒトの脳の奥深くも刺激しうることが裏付けられました2)。Grossman氏らはまず死者の脳を使った検討で電場が海馬のみ相手しうることを確認し、続いて健康な20例を募ってTIによる海馬刺激を試みました。被験者には顔と名前の組み合わせを記憶する課題をしてもらい、その最中の被験者の脳にTIを施しました。海馬は言わずもがな記憶や学習を司る脳領域であり、被験者がした課題は海馬の働きを必要とします3)。fMRIで被験者の脳の活動を測定したところ、TIは海馬の活性のみ調節し、記憶の正確さが改善しました。Nature Neuroscience誌に時を同じくして発表された別の報告4)ではヒトの線条体をTIによって活性化し、運動記憶機能が改善したことが確認されています。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が率いた研究の成果です。Grossman氏らの成果はまったく新しいアルツハイマー病治療の道を切り開くものです。初期段階のアルツハイマー病患者へのTIの臨床試験が早くもGrossman氏の指揮の下で始まっており、被験者集めが進行中です5)。アルツハイマー病で侵された脳領域の活動がTIを繰り返すことで正常化し、記憶障害の症状が改善することを期待しているとGrossman氏は述べています3)。参考1)Grossman N, et al. Cell;169:1029-1041.2)Violante IR, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]3)Surgery-free brain stimulation could provide new treatment for dementia / Imperial College London4)Wessel MJ, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]5)Recruiting to a new landmark trial to treat dementia by sending electrical currents deep into the brain.

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レビー小体病のバイオマーカーとして期待される「脂肪酸結合タンパク質」

 高齢人口の世界的な増加は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)などの認知症や運動機能障害といった、加齢に伴う疾患の増加につながる。これらの障害に関連するリスク因子の正確な予測は、早期診断や予防に非常に重要であり、バイオマーカーは疾患の診断やモニタリングにおいて重要な役割を担う。α-シヌクレイノパチーなどの神経変性疾患では、特定のバイオマーカーが疾患の有無や進行を示す可能性がある。 東北大学の川畑 伊知郎氏らは、これまでの研究でα-シヌクレイノパチーにおける脂肪酸結合タンパク質(FABP)の病原性の影響を実証しており、本試験では、FABPがレビー小体病の潜在的なバイオマーカーとなりうるかを調査した。その結果、FABPは、レビー小体病の潜在的なバイオマーカーとして機能し、疾患の早期発見や鑑別の一助となる可能性が示唆された。International Journal of Molecular Sciences誌2023年8月26日号の報告。 AD、PD、DLB、軽度認知障害(MCI)それぞれの患者群、健康対照(CN)群において、FABPの血漿レベルを測定した。主な結果は以下のとおり。・FABP3の血漿レベルはすべての群で増加が認められたが、FABP5およびFABP7のレベルはAD群で低下傾向が認められた。・FABP2のレベルは、PD群で上昇していた。・相関分析では、高いFABP3レベルは、認知機能低下と関連していることが示唆された。・タウ、GFAP、NF-L、UCHL-1の血漿中濃度は、認知機能低下との相関が認められた。・疾患の鑑別にスコアリング法を適用すると、MCI vs.CN、AD vs.DLB、PD vs.DLB、AD vs.PDの高精度な鑑別が実証された。

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