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アルツハイマー病患者のイライラや興奮の原因は脳内炎症?

 アルツハイマー病患者にイライラ(易刺激性)や不安、興奮といった症状が現れることはよく知られているが、その原因は、アミロイドβやタウタンパク質などの従来から知られているアルツハイマー病のマーカーではなく脳内の炎症である可能性が、新たな研究で示唆された。米ピッツバーグ大学医学部のCristiano Aguzzoli氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に11月27日掲載された。 Aguzzoli氏らピッツバーグ大学の研究グループは、2023年5月に、過度の脳内炎症がアルツハイマー病発症の重要な要因であり、脳内炎症により高齢者でのアルツハイマー病の発症リスクが高いかどうかを予測できる可能性があることを明らかにしていた。 今回の研究では、高齢者109人(平均年齢71.8歳、女性66%)を対象に、アルツハイマー病患者に生じる精神神経症状と、神経炎症の代理指標としてのミクログリア活性化とアストロサイトの反応性との関連を検討した。ミクログリアは、神経炎症により活性化されると炎症性サイトカインを産生して分泌し、それがアストロサイトを活性化させて神経細胞死を引き起こす「反応性アストロサイト」を誘導すると考えられている。対象者のうち、70人は正常に年を重ねていたが、39人には認知機能障害が認められた。精神神経症状として、興奮または攻撃性、異常行動、易刺激性、高揚感または幸福感、抑うつ、不安などの12種類と、介護者の負担について、質問票(Neuropsychiatry Inventory Questionnaire;NPI-Q)を用いて評価を行った。 PET検査の結果、認知機能が正常だった21人(30%)と認知機能障害が認められた31人(79%)にアミロイドβの蓄積が認められた。解析の結果、NPI-Qの重症度スコアは、前頭葉、側頭葉、頭頂葉でのミクログリア活性化と有意に関連していることが明らかになった。次に、Leave-one-out法で一つずつ検討したところ、ミクログリア活性化と最も強く関連しているNPI-Qドメインは易刺激性であり、その他にも睡眠障害、興奮、食欲の異常または摂食障害との関連も強いことが示された。また、ミクログリア活性化に関連する易刺激性は、NPI-Qで測定された介護者の負担と関連していることも判明した。 Aguzzoli氏は、「アルツハイマー病患者での易刺激性、興奮、不安、抑うつなどの精神神経症状は治療が極めて困難だ。これらの症状は、コントロールが難しく、明確な原因も不明で、介護者が多くのサポートを受けずに家族の世話をすることを困難にしている」と指摘する。そして、「この研究により、脳内炎症がこうした症状の原因である可能性が初めて示唆された」と主張している。 研究グループは、アルツハイマー病患者の脳内炎症を治療することで、これらの症状を和らげることができる可能性があるとの考えを示す。その一例として、脳内炎症を特異的に標的とする薬剤により、アルツハイマー病患者が感じる不安やイライラを軽減できる可能性があることに言及している。 研究グループはまた、過度の易刺激性などの症状はアルツハイマー病の初期段階に現れることが多いことを指摘し、脳内炎症が初期段階のアルツハイマー病に果たす役割は、これまで考えていたよりも大きい可能性があるとの見方を示している。 さらに、今回の研究で得られた知見は、脳の他の変性疾患にも影響を及ぼす可能性があると研究グループは指摘する。論文の上席著者である、ピッツバーグ大学医学部精神医学・神経学分野のTharick Pascoal氏は、「神経炎症と精神神経学的異常の両方が、パーキンソン病患者に生じる認知症など、他のいくつかのタイプの認知症でも認められる。そのため、われわれは目下、世界中の科学者と協力して、これらの知見を他の疾患にも応用しようと努めているところだ」と話している。

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生物学的年齢は脳卒中や認知症のリスクに影響を及ぼす

 年齢には、出生からの経過年数で表す暦年齢のほかに、科学者が生物学的年齢と呼ぶものがある。これは、老化や健康状態の個人差を加味した年齢で、テロメアの長さ、エピジェネティック・クロックや多様な生物学的バイオマーカー値を基に算出される。スウェーデンの新たな研究で、この生物学的年齢が暦年齢を上回っている人では、認知症や脳梗塞(虚血性脳卒中)の発症リスクが高まることが明らかになった。カロリンスカ研究所(スウェーデン)医学疫学・生物統計学部門のSara Hagg氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry」に11月5日掲載された。 一般的に、心血管疾患や神経変性疾患などの慢性疾患のリスクは加齢とともに増加すると考えられているが、これまでは暦年齢を使って研究を行うことが一般的だった。しかしHagg氏は、「老化速度は人により異なるので、暦年齢は正確性に欠ける尺度ではないだろうか」と疑問を呈する。 今回の研究では、UKバイオバンク参加者のうち、試験登録時に神経変性疾患の診断歴がなかった32万5,870人(平均年齢56.4歳、女性54.2%)のデータを用いて、生物学的年齢と神経変性疾患との関連が検討された。Hagg氏らは、対象者の血中脂肪、血糖、血圧、肺機能、BMIなど18種類の臨床バイオマーカーの測定値に基づき、3種類の生物学的年齢を算出した。すなわち、生理学的な年齢を表すKDMAge、死亡リスクに関する情報を考慮したPhenoAge、それぞれの生理学的な状態を健康な基準サンプルからの偏差として計算したHDAgeの3種類である。 中央値9.0年間の追跡期間中に1,397人(0.4%)が認知症、2,515人(0.8%)が脳梗塞、679人(0.2%)がパーキンソン病、203人(0.1%)が運動ニューロン疾患と診断された。解析の結果、生物学的年齢が1標準偏差上昇するごとに、あらゆる原因による認知症リスクの有意な上昇が示され、その調整ハザード比は、KDMAgeで1.28(95%信頼区間1.21〜1.35)、PhenoAgeで1.28(同1.22〜1.35)、HDAgeで1.20(同1.13〜1.27)だった。認知症の種類別に検討すると、全ての生物学的年齢が血管性認知症と強い関連を示したが、アルツハイマー病との関連は弱かった。 また、生物学的年齢は脳梗塞リスクとも有意な関連を示した(KDMAge:調整ハザード比1.39、95%信頼区間1.34〜1.46、PhenoAge:同1.38、1.32〜1.43、HDAge:同1.28、1.22〜1.34)。運動ニューロン疾患についても弱い正の相関が見られたが、統計的に有意な関連を示したのはHDAgeだけだった(同1.22、1.06〜1.42)。生物学的年齢とパーキンソン病リスクとの間に関連は認められなかった。 研究グループは、この研究結果は因果関係を明らかにするようデザインされたものではない点を強調しながらも、「健康的になることで、脳への過剰なリスクが減少する可能性は多分にある」との見方を示している。またHagg氏は、「いくつかのバイオマーカーの数値は、生活習慣や薬の影響を受ける可能性がある」と付け加えている。

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起立性低血圧の有無で、積極的な降圧治療における心血管疾患発症や総死亡の抑制効果に違いはあるのか?(解説:石川讓治氏)

 積極的な降圧が心血管疾患発症抑制に有用であることが、いくつかの大規模無作為割り付け介入試験で報告されている。しかし、これらの研究では起立性低血圧や起立時血圧が低値である患者が除外されていることが多く、これらを有する患者における心血管疾患発症に対する抑制効果に関しては不明であった。本研究は9つの臨床試験の結果の個別参加者データを統合して、起立性低血圧(座位→起立での血圧低下)と起立時低血圧の有無によって、積極的降圧群における心血管疾患発症または総死亡の抑制効果に違いがあるかどうかを検討したメタ解析である。その結果、起立性低血圧や起立時低血圧の有無では、積極的な降圧治療による心血管疾患の発症または総死亡の抑制効果に統計学的有意差は認められなかった。しかし、起立性低血圧を認める患者における積極的な降圧治療は、有意に心血管疾患発症を抑制していたが、総死亡抑制に関しては統計学的有意差が認められなかった。同様に、起立時低血圧を有する患者における積極的降圧治療においても、心血管疾患発症や総死亡低下効果に統計学的有意差は認められなかった。 本研究の解釈には注意が必要である。起立性血圧低下(変動)と起立時に血圧(レベル)が低いことは臨床的には少し異なるものである。起立時に血圧が低いこと自体は、座位においても血圧レベルが低いことの影響を大きく強く受けており、血圧の変動性よりはレベルの問題が大きいと思われる。さらに、起立性低血圧(変動)は、座位→立位の血圧変化では十分に評価をすることは困難である。起立性低血圧は、頭部と心臓の位置関係が変化する仰臥位から立位への変化で診断されるべきであり、座位から立位での血圧変化は下肢運動機能低下やフレイルによる影響を受けやすい。大規模臨床試験では、ヘッドアップティルト試験を全員に行うことが困難なため簡易的に座位→起立での血圧で測定しているが、臨床的に問題となる血圧調整機能障害や自律神経機能低下を反映した起立性低血圧は、座位→立位への変換や起立時の血圧では評価することは困難である。 起立性血圧低下や起立時低血圧の有無にかかわらず、積極的な降圧は平均血圧レベルを低下させ、心血管疾患の発生を抑制するが、起立性低血圧患者においては、生活の質が低下し、転倒骨折リスクが増加することのほうが、イベント抑制よりも問題となることも多い。しかし、このことに関しては本研究においてはまったく評価されていない。起立性低血圧の原因となる自律神経機能低下は、臨床前段階の認知症やパーキンソン病などを併存していることが多く、感染症、老衰、低栄養などによる死亡も多い。こういった患者の多くは大規模な無作為割り付け研究には参加困難であり、積極的降圧治療によっても総死亡の減少効果は少ない。 実臨床においては、起立性低血圧を有する患者の降圧治療は、積極的降圧による心血管疾患発症抑制と、生活の質を維持することのバランスを考えながら行う必要がある。降圧治療をする意義や目的を明確にしながら、降圧目標値を設定していく必要がある。

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第186回 手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された

手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された手術で脳内に移植した電極による脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病などの重度の運動疾患や強迫性障害(強迫症)などの気分障害の治療手段として世界で広く使われています。用途の拡大も期待され、たとえば治療抵抗性うつ病やアルツハイマー病へのDBSの試験が実施されています。しかし脳手術につきものの危険性や合併症がDBSの可能性を狭めています。手術不要のDBSの実用化を目指し、頭の外側からの磁気や電気を送る手段が多くの臨床試験で検討されてきました。そのような経頭蓋磁気/電気刺激を基底核や海馬などの脳の奥深くの領域に到達させるにはそれらを覆う脳領域も広く一緒に刺激してしまうことが避けられず、余計な副作用の心配があります。そこで英国のImperial College Londonの認知症研究者Nir Grossman氏らは脳に置いた電極が発する電場によって脳の奥深くのみを遠隔刺激しうる手段を編み出し、その意図どおりの効果を示したマウス実験成果を2017年に報告しました1)。Grossman氏らがtemporal interference(TI)と呼ぶその手術不要の手段はマウスの海馬をそれに被さる領域に手出しすることなく刺激することができました。検討はその後さらに進み、先週Nature Neuroscience誌に発表された臨床試験の結果、いまやTIはマウスと同様にヒトの脳の奥深くも刺激しうることが裏付けられました2)。Grossman氏らはまず死者の脳を使った検討で電場が海馬のみ相手しうることを確認し、続いて健康な20例を募ってTIによる海馬刺激を試みました。被験者には顔と名前の組み合わせを記憶する課題をしてもらい、その最中の被験者の脳にTIを施しました。海馬は言わずもがな記憶や学習を司る脳領域であり、被験者がした課題は海馬の働きを必要とします3)。fMRIで被験者の脳の活動を測定したところ、TIは海馬の活性のみ調節し、記憶の正確さが改善しました。Nature Neuroscience誌に時を同じくして発表された別の報告4)ではヒトの線条体をTIによって活性化し、運動記憶機能が改善したことが確認されています。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が率いた研究の成果です。Grossman氏らの成果はまったく新しいアルツハイマー病治療の道を切り開くものです。初期段階のアルツハイマー病患者へのTIの臨床試験が早くもGrossman氏の指揮の下で始まっており、被験者集めが進行中です5)。アルツハイマー病で侵された脳領域の活動がTIを繰り返すことで正常化し、記憶障害の症状が改善することを期待しているとGrossman氏は述べています3)。参考1)Grossman N, et al. Cell;169:1029-1041.2)Violante IR, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]3)Surgery-free brain stimulation could provide new treatment for dementia / Imperial College London4)Wessel MJ, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]5)Recruiting to a new landmark trial to treat dementia by sending electrical currents deep into the brain.

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レビー小体病のバイオマーカーとして期待される「脂肪酸結合タンパク質」

 高齢人口の世界的な増加は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)などの認知症や運動機能障害といった、加齢に伴う疾患の増加につながる。これらの障害に関連するリスク因子の正確な予測は、早期診断や予防に非常に重要であり、バイオマーカーは疾患の診断やモニタリングにおいて重要な役割を担う。α-シヌクレイノパチーなどの神経変性疾患では、特定のバイオマーカーが疾患の有無や進行を示す可能性がある。 東北大学の川畑 伊知郎氏らは、これまでの研究でα-シヌクレイノパチーにおける脂肪酸結合タンパク質(FABP)の病原性の影響を実証しており、本試験では、FABPがレビー小体病の潜在的なバイオマーカーとなりうるかを調査した。その結果、FABPは、レビー小体病の潜在的なバイオマーカーとして機能し、疾患の早期発見や鑑別の一助となる可能性が示唆された。International Journal of Molecular Sciences誌2023年8月26日号の報告。 AD、PD、DLB、軽度認知障害(MCI)それぞれの患者群、健康対照(CN)群において、FABPの血漿レベルを測定した。主な結果は以下のとおり。・FABP3の血漿レベルはすべての群で増加が認められたが、FABP5およびFABP7のレベルはAD群で低下傾向が認められた。・FABP2のレベルは、PD群で上昇していた。・相関分析では、高いFABP3レベルは、認知機能低下と関連していることが示唆された。・タウ、GFAP、NF-L、UCHL-1の血漿中濃度は、認知機能低下との相関が認められた。・疾患の鑑別にスコアリング法を適用すると、MCI vs.CN、AD vs.DLB、PD vs.DLB、AD vs.PDの高精度な鑑別が実証された。

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第31回 施設入所中の高齢者の失神、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神では食事との関連を意識しよう!2)高齢者の失神では食後低血圧も疑い、再発を防止しよう!【症例】82歳男性。施設入所中。午前9時半頃に椅子に座った状態で反応が乏しく救急要請。救急隊到着時にはほぼ普段通りの状態へと改善していた。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧118/68mmHg脈拍72回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温36.3℃瞳孔3/3 +/+失神の原因失神の原因は大きく心血管性失神(心原性失神)、起立性低血圧、反射性失神の3つに大別されます。そのうち、心血管性失神、出血に伴う起立性低血圧は常に意識し、対応する必要があります。心血管性失神の代表的なものは“HEARTS”と覚えるのでしたね。この辺りは「第13回 頭部外傷 その原因は?」で取り上げているのでそちらを参考にしてください。今回は頻度の高い反射性失神を取り上げます。緊急度、重症度の高い心血管性失神を常に意識して失神患者を対応することは大切ですが、やはり頻度が高い原因をきちんと意識して、対応することも合わせて行わなければ的確な診療はできません。意外に多い食後低血圧反射性失神のうち最も頻度が高いのは排尿失神ですが、食事関連の失神をご存じでしょうか?正確な機序は明らかでない部分もありますが、食事を摂取することによって内臓血流の増加、インスリンや胃腸管ペプチドによる血管拡張に加え、交感神経の適切な代償が行われないことなどが影響していると考えられています1)。食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか、普段から100mmHg以上ある血圧が90mmHg未満となる場合に食後低血圧と定義されます。高齢者における食後低血圧の頻度は高く、たとえば、施設入所者の高齢者の3~4人に1人は食後低血圧を認めることが報告されています2,3)。しかし、食後低血圧は軽視されていることが多く、失神の原因として意識するようにしましょう4)。食後低血圧の診断食後低血圧は前述の通り食後の血圧の程度を診て判断するわけですが、実際にはどのように評価するのでしょうか?食前に1回、食後2時間内は15分毎に1回の計9回の測定をして評価することとなっていますが、これは大変ですよね5)。そのため、食前に1回、食後75分後に測定を行い、収縮期血圧が10mmHg以上低下するかをまずは確認するのがオススメです(感度82%、特異度91%)6)。まずは疑い、そして簡便な方法でチェックし、疑わしければ詳細な評価を行うとよいでしょう。高齢者、とくに糖尿病、パーキンソン病などの基礎疾患のある方、利尿薬など多数の薬剤を内服している方では頻度が高いため、そのような患者さんでは積極的に疑い評価しましょう。食後低血圧と外傷60歳以上(平均80歳)の高齢者において、食後の収縮期血圧が20mmHg以上低下する方では失神や転倒の頻度が有意に高くなります7)。食後にフッと気を失うだけであればよいですが、それによって外傷を伴い、大腿骨近位部骨折や頭部や頸部の外傷を伴ってしまっては大変です。そのようなことが起こらないために、食後の意識消失を軽視しないようにしましょう。さいごに失神の鑑別として食後低血圧も意識しておきましょう。起立性低血圧との合併も珍しくなく、原因を1つみつけて安心してはいけません。高齢者では常に食事との関連も気にかけてくださいね。1)Son JT, et al. J Clin Nurs. 2015;24:2277-2285.2)Aronow WS, et al. J Am Geriatr Soc. 1994;42:930-932.3)Vaitkevicius PV, et al. Ann Intern Med. 1991;115:865-870.4)Luciano GL, et al. Am J Med. 2010;123:281.5)Jansen RW, et al. Ann Intern Med. 1995;122:286-295.6)Abbas R, et al. J Frailty Aging. 2018;7:28-33.7)Puisieux F, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55:M535-540.

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神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症〔HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS:hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid)は、大脳白質を病変の主座とする神経変性疾患である。ALSP(adult-onset leukoencephalopathy with spheroid and pigmented glia)やCSF1R関連脳症(CSF1R-related leukoencephalopathy)と呼ばれることもある。本稿では、HDLS/ALSPと表記する。常染色体顕性(優性)遺伝形式をとるが、約半数は家族歴を欠く孤発である。脳生検もしくは剖検による神経病理学的検査により、HDLSは従来診断されていたが、2012年にHDLS/ALSPの原因遺伝子が同定されて以降は、遺伝学的検査により確定診断が可能になっている。■ 疫学HDLS/ALSPは世界各地から報告されているが、日本人を含めたアジア人からの報告が多い。HDLS/ALSPの正確な有病率は不明である。特定疾患受給者証の保持者は、2015年13人、2016年25人、2017年35人、2018年43人、2019年54人、2020年65人と年々増加傾向にある。HDLS/ALSPの有病率が増加している可能性は否定できないが、診断基準の策定など疾患についての認知度が高まり、確定診断に至る症例が増えたことが、患者数増加の要因だと思われる。しかしながら、確定診断にまで至らないHDLS/ALSP患者が依然として少なからず存在すると推察される。■ 病因HDLS/ALSPは colony stimulating factor-1 receptor(CSF1R)の遺伝子変異を原因とする。既報のCSF1R遺伝子変異の多くは、チロシンキナーゼ領域に位置している。ミスセンス変異、スプライスサイト変異、微小欠失、ナンセンス変異、フレームシフト変異、部分欠失など、さまざまなCSF1R遺伝子変異が報告されている。ナンセンス変異、フレームシフト変異例では、片側アレルのCSF1Rが発現しないハプロ不全が病態となる。中枢神経においてCSF1Rはミクログリアに強く発現しており、HDLS/ALSPの病態にミクログリアの機能不全が関与していることが想定されている。そのためHDLS/ALSPは一次性ミクログリア病と呼ばれる。■ 症状発症年齢は平均45歳(18~78歳に分布)であり、40~50歳台の発症が多い。発症前の社会生活は支障がないことが多い。初発症状は認知機能障害が最も多いが、うつ、性格変化や歩行障害、失語と思われる言語障害で発症するなど多彩である(図1)。主症状である認知機能障害は、前頭葉機能を反映した意思発動性の低下、注意障害、無関心、遂行機能障害などの性格変化や行動異常を特徴とする。動作緩慢や姿勢反射障害を主体とするパーキンソン症状、錐体路徴候などの運動徴候も頻度が高い。けいれん発作は約半数の症例で認める。図1 HDLS/ALSPで認められる初発症状画像を拡大する■ 予後進行性の経過をとり、発症後の進行は比較的速い。発症後5年以内に臥床状態となることが多い。発症から死亡までの年数は平均6年(2~29年に分布)、死亡時年齢は平均52 歳(36~84歳に分布)である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)脳MRI検査により大脳白質病変を認めることが、診断の契機となることが多い。頭部MRI所見は、初期には散在性の大脳白質病変を呈することがあるが、病勢の進行に伴い対称性、融合性、びまん性となる。白質病変は前頭葉・頭頂葉優位で、脳室周囲の深部白質に目立つ(図2A、B)。病初期から脳梁の菲薄化と信号異常を認めることが多く、矢状断面・FLAIRの撮像が有用である(図2C)。ただし、脳梁の変化はHDLS/ALSP以外の大脳白質変性症でも認めることがある。内包などの投射線維に信号異常を呈することもある。拡散強調画像で白質病変の一部に、持続する高信号病変を呈する例がある(図2D)。ガドリニウム造影効果は認めない。CT撮像により、側脳室前角近傍や頭頂葉皮質下白質に石灰化病変を認めることがある(図2E)。この所見は“stepping stone appearance”と呼ばれ(図2F)、HDLS/ALSPに特異性が高い。石灰化は微小なものが多いため、1mm厚など薄いスライスCT撮像が推奨される。HDLS/ALSPの診断基準としてKonno基準が国内外で広く用いられている。Konno基準に基づき、厚生労働省「成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班」において策定された診断基準が難病情報ホームページに掲載されている(表)。図2 HDLS/ALSPの特徴的な画像所見画像を拡大する両側性の大脳白質病変を認める(A、B:FLAIR画像)。脳梁は菲薄化している(C:FLAIR画像)。拡散強調画像で高信号領域を認める(D)。CTでは微小石灰化を認める(E、F)。表 HDLS/ALSPの診断基準主要項目1.60歳以下の発症(大脳白質病変もしくは2の臨床症状)2.下記のうち2つ以上の臨床症候a.進行性認知機能障害または性格変化・行動異常b.錐体路徴候c.パーキンソン症状d.けいれん発作3.常染色体顕性(優性)遺伝形式4.頭部MRIあるいはCTで以下の所見を認めるa.両側性の大脳白質病変b.脳梁の菲薄化5.血管性認知症、多発性硬化症、白質ジストロフィー(ADL、MNDなど)など他疾患を除外できる支持項目1.臨床徴候やfrontal assessment battery(FAB)検査などで前頭葉機能障害を示唆する所見を認める2.進行が速く、発症後5年以内に臥床状態になることが多い3.頭部CTで大脳白質に点状の石灰化病変を認める除外項目1.10歳未満の発症2.高度な末梢神経障害3.2回以上のstroke-like episode(脳血管障害様エピソード)。ただし、けいれん発作は除く。診断カテゴリーDefinite主要項目2、3、4aを満たし、CSF1R変異またはASLPに特徴的な神経病理学的所見を認めるProbable主要項目5項目をすべてを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていないPossible主要項目2a、3および4aを満たすが、CSF1R変異の検索および神経病理学的検索が行われていない鑑別診断としては、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、多発性硬化症、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体顕性(優性)脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarct and leukoencephalopathy:CADASIL)など多彩な疾患が挙げられる。HDLS/ALSPと診断された症例で、病初期に多発性硬化症が疑われ、ステロイド治療を受けた例が複数報告されている。HDLS/ALSPはステロイド治療に効果を示さないため、大脳白質病変と運動症状を呈する若年女性を診察した場合には、HDLS/ALSPを鑑別する必要がある。HDLS/ALSPのための診断フローチャートを図3に示した。臨床的な鑑別診断は必ずしも容易ではなく、遺伝学的検査により確定診断を行う。2022年4月にCSF1R遺伝学的検査が保険収載され、かずさ遺伝子検査室に検査委託が可能である。図3 HDLS/ALSP診断のフローチャート画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)系統的な治療法は確立していない。HDLS/ALSPの経過中に出現する症状に応じた対症療法が行われる。痙性に対しては抗痙縮薬、パーキンソニズムに対して抗パーキンソン薬の使用を考慮する。症候性てんかんには抗てんかん薬を単剤で開始し、発作が抑制されなければ、作用機序が異なる抗てんかん薬を併用する。4 今後の展望HDLS/ALSPに対する造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation:HSCT)が海外で行われている。現在までに15例のHDLS/ALSP患者がHSCTを受けている。HSCTを受けた約4割の症例で臨床的効果を認めている。ドナー由来の細胞がHDLS/ALSP患者脳に到達し、衰弱したミクログリアの機能を補完している可能性が考えられる。ミクログリア機能を回復される治験としてアゴニスト効果を有する抗TREM2抗体薬を用いた治験が海外で行われている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)かずさ遺伝子検査室(本症の遺伝学的検査を受託している)患者会情報Sister’s Hope Foundation(米国のHDLS/ALSPの患者会の英語ホームページ)(米国の患者とその家族および支援者の会/ホームページは英語)1)Konno T, et al. Neurology. 2018;91:1092-1104. 2)下畑享良 編著. 脳神経内科診断ハンドブック. 中外医学社;2021.3)池内 健ほか. 日本薬理学雑誌. 2021;156:225-229.4)池内 健ほか. 実験医学. 2019;37:118-122.5)池内 健. CLINICAL NEUROSCIENCE. 2017;35:1354-1355.公開履歴初回2023年9月28日

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第176回 バラなどの芳香と共に眠ることと記憶の改善が関連

バラなどの芳香と共に眠ることと記憶の改善が関連香りで嗅覚を刺激することで頭の働きがよくなることが先立つ試験で示されています。パーキンソン病患者70例が参加した試験では数種の香りを毎日しばし嗅ぐことで言語の流暢さが改善しました1)。50~84歳の成人91例の試験ではエッセンシャルオイル4種を毎日2回嗅ぐことで言語機能が改善し、うつ症状も緩和しました2)。認知機能低下の恐れがある高齢成人68例を募った試験では9つの香りを嗅ぐことと認知症症状の抑制の関連が示されています3)。認知症をすでに発症した患者の香りを豊かにすることも認知機能に有益なようです。認知症成人65例が参加した試験の結果、40種類の香りに毎日2回接することで記憶、うつ症状、注意、言語機能などが改善しました4)。早速実践に移せればよいですが、認知症の患者が平素に40種類の香りを毎日2回嗅ぐのはおそらく容易ではありません。認知症患者が40種類のボトルを毎日2回、すなわち80回も手にとって開け閉めして嗅ぐことはおよそ非現実的ですし、認知症でなくとも手に負えるものではなさそうです。そのような込み入った手段だと長続きしません。普段の生活の中で続けてもらうにはできるだけ容易な手段にする必要があります。そこで考え出されたのがよい香りと共に眠るというおよそ苦もなく実践できそうな手段です。香りの種類もせいぜい数種類に限定しました。それらの香りを1つずつ順繰りに毎晩寝るときに部屋に漂わせる効果を少人数の試験で検討したところ願ったりかなったりの結果が得られました。試験には記憶が損なわれていない60~85歳の男女43例が参加し、よい香りと共に眠る群とそうでない対照群に無作為に振り分けられました。よい香りと共に眠る群の20例は芳香油を2時間拡散させて眠ることを毎晩繰り返しました。同様の日課を対照群の23例は実質的に香りがしない蒸留水を使って繰り返しました。芳香は7種類で、バラ、オレンジ、ユーカリ、レモン、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダーの芳香油が1つずつ毎晩順繰りに使われました。半年をそうして過ごしたところ、よい香りと共に眠る群では言語の学習や記憶の検査であるRey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT)成績が向上しました5)。対照群のRAVLT成績は逆に悪化しました。また、老化やアルツハイマー病で支障を来す脳領域である鉤状束の機能の改善が画像検査で示されました。香りを豊かにすることは脳の調子を改善する効果的で手軽な方法となりうるようであり、より大人数の試験でその効果の検討が進むことを著者は望んでいます。どうやら香りの効果は多岐にわたり、高齢者や認知機能に限ったものではなさそうです。最近発表された試験結果ではペパーミント油の香りが心臓手術後の患者の痛みを和らげ、睡眠の質を改善したことが示されています6)。ペパーミント油の主成分であるカルボン、リモネン、メンソールが痛み緩和効果の多くを担うようであり、ペパーミントの香りを漂わせるアロマセラピーを手術後に施すことを著者は勧めています。さかのぼること20年ほど前に発表された試験結果では早産児の無呼吸を減らすバニラの香り(バニリン)の効果が認められています7)。参考1)Haehner A, et al. PLoS One. 2013;8:e61680.2)Birte-Antina W, et al. J Geriatr Psychiatry Neurol. 2017;33:212-220.3)Oleszkiewicz A, et al. Behav Neurosci. 2021;135:732-740.4)Cha H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2022;22:5-11.5)Woo CC, et al. Front Neurosci. 2023;17:1200448.6)Maghami M, et al. BMJ Support Palliat Care. 2023 Aug 3. [Epub ahead of print] 7)Marlier L, et al. Pediatrics. 2005;115:83-88.

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腸内細菌叢の変化は前臨床期アルツハイマー病のサイン?

 脳内にアミロイドβ(Aβ)とタウの2種類のタンパク質が異常に蓄積しているが、認知症の症状はない前臨床期アルツハイマー病の状態にある人では、そのような状態にはない人と比べて腸内細菌叢に違いのあることが、米セントルイス・ワシントン大学神経学教授のBeau Ances氏らの研究で示された。認知症のリスクが高い人を見つけ出す方法や、認知症高リスク者に対する治療法の開発につながる可能性がある研究結果として期待が寄せられている。研究の詳細は、「Science Translational Medicine」6月14日号に掲載された。 腸内細菌叢は消化機能以外にも、免疫防御、ビタミンや抗炎症化合物、さらには脳に影響を与える化学物質の産生など、数多くの身体機能において重要な役割を果たしている。また近年、腸内細菌叢と、心疾患、うつ病、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患を含むさまざまな疾患との関連について検討した研究が急増している。先行研究では、アルツハイマー病患者の腸内細菌叢には、アルツハイマー病ではない高齢者とは異なる特徴があることが示されている。しかし、そのような違いが前臨床期アルツハイマー病の段階から認められるのかどうかについては不明だった。 Ances氏らは、同大学で実施された研究に参加した、正常な認知機能を有する68~94歳の高齢者164人(男性45%)を対象に、前臨床期アルツハイマー病の人と健常者との間で、腸内細菌叢の組成やその機能に違いがあるのかを調べた。同研究では、全例で脳の画像検査と認知機能検査、腰椎穿刺による髄液採取と便の採取のほか、試験参加者による食事記録が行われていた。 試験参加者の約3分の1(49人)は、脳内にAβとタウの異常な蓄積が認められる前臨床期アルツハイマー病と見なされた。これらの参加者の腸内細菌叢をそれ以外の健常者と比較した結果、前臨床期アルツハイマー病と見なされた参加者では、腸内に存在する細菌の種類や細菌が関与する生物学的プロセスが健常者とは異なっていることが明らかになった。さらに、これらの違いは、Aβとタウの蓄積量とは関連するが、神経変性とは関連しないことも判明した。Aβとタウの蓄積量は認知症状が現れる前に増加し、神経変性は認知スキルが低下し始めたときに明らかになる。 こうした結果からAnces氏は、「われわれは、腸内細菌叢の変化はアルツハイマー病のかなり早い段階から現れることを確認した」と話す。ただし、これだけでは、腸内細菌叢の変化がアルツハイマー病の一因であると証明したことにはならない。脳内でのアルツハイマー病発症へのプロセスが腸内細菌叢を変化させている可能性も考えられる。しかし、もし腸内細菌叢がアルツハイマー病の寄与因子であるのなら、早期アルツハイマー病に対する治療への道も開けてくる可能性がある。例えば、プロバイオティクスや糞便移植によりアルツハイマー病になりやすい腸内細菌叢の状態を変えれば、アルツハイマー病の経過も変化させられる可能性がある。 では、なぜ腸内細菌叢が脳の疾患に関係しているのだろうか。これについては、完全には明らかにされていないが、Ances氏と、今回の研究には関与していない米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のRobert Vassar氏は、アルツハイマー病を含む多くの疾患では、慢性的な炎症が大きな影響を与えていると考えられていることを指摘する。Vassar氏は、「アルツハイマー病患者の脳に認められるAβやタウなどのタンパク質の異常な蓄積は、慢性的な炎症状態をもたらす」と説明している。一方Ances氏は、一部の腸内細菌が産生する酸や化学物質が腸壁にダメージを与え、本来は腸壁を透過しないさまざまな物質が体内に漏れやすくなる「リーキーガット」という状態が引き起こされることで、腸から炎症性物質が脳へと運ばれ、脳内の炎症が悪化する可能性もあると指摘している。 Ances氏は、腸内細菌叢が問題を引き起こしていると証明されてはいなくても、アルツハイマー病のより早期の診断に役立つ可能性はあると話す。また、最終的には便検査によってアルツハイマー病リスクの高い人を特定できるようになる可能性もあると述べている。

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運動でパーキンソン病リスクが抑制される可能性

 習慣的な運動によってパーキンソン病のリスクが低下する可能性を示唆する、フランス国立衛生医学研究所のAlexis Elbaz氏らの研究の結果が、「Neurology」に5月17日掲載された。 パーキンソン病は、運動を円滑に行うために必要なドーパミンという物質を作っている、脳の中の黒質という部分の細胞が減っていく病気。ドーパミンが減ることの影響は多岐にわたり、主な症状は手の震えや硬直といった運動障害だが、抑うつや記憶力・思考力の低下などが現れることもある。 パーキンソン病の原因は明らかでなく、遺伝的な背景と環境要因の複雑な相互作用によって発症すると考えられている。修正可能な環境要因は、頭部外傷などを除いてほとんど知られていない。もし運動でパーキンソン病リスクが下がる可能性があるのなら、数少ない予防法の一つとしての期待が高まる。Elbaz氏は、「われわれの研究結果は、進行抑制以外の治療法がなく、生活の質に深刻な影響を与えるパーキンソン病という病気を、運動によって予防できるかもしれないという重要な知見である」と語っている。 同氏らの研究は、フランスの国民健康保険に加入している女性を対象に、1990~2018年に実施されたコホート研究のデータを用いて行われた。研究参加者は数年おきに、食事や運動の習慣、健康状態に関するアンケートに回答。運動習慣については、スポーツやランニングなどの高強度運動だけでなく、ウォーキング、階段昇降、あるいは家事などの日常的な生活に伴う身体活動も含めて評価されていた。 2000年時点でパーキンソン病でなかった9万5,354人の女性のうち、平均17.2年の追跡で1,074人がパーキンソン病を発症。年齢、BMI、食習慣などの影響を調整後、運動量の最も多い上位4分の1の群は下位4分の1の群に比べて、パーキンソン病の発症リスクが25%有意に低かった〔調整ハザード比0.75(95%信頼区間0.63~0.89)〕。 研究者らは、「この結果は運動がパーキンソン病発症リスクを下げたという因果関係の証明にはならない」としている。ただし、「パーキンソン病の初期段階にあった女性が、疾患の影響のために運動量が少なかったという、因果の逆転の結果を見ている可能性は低い」とも述べている。その根拠として、パーキンソン病と診断された女性の運動量を、診断から最長20年以上さかのぼって解析したデータを挙げている。その解析では、パーキンソン病を発症しなかった群との運動量の差は診断の約10年前から広がり始めていたが、それ以前のパーキンソン病の初期症状が現れているとは考えにくい時期の運動量もやはり、後年になってパーキンソン病と診断された女性の方が少なかったという。 この報告について、非営利団体であるパーキンソン病財団のMichael Okun氏は、「重大かつ重要な知見」と評価。同氏によると、運動によってパーキンソン病リスクが低下する可能性を示した研究はこれまでにもあったが、それらは女性よりもパーキンソン病罹患率の高い男性でのみ有意な関連が認められていたという。Okun氏は、「新たに報告された大規模な研究から、性別にかかわらずパーキンソン病リスクを抑制する方法として、人生の早い段階から運動の実施を検討すべきであることが示唆される」と述べている。

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軽症頭部外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第3回

今回は軽症頭部外傷の治療についてです。軽症頭部外傷で悩むことが多いのが、「頭部CTを撮るべきかどうか」ではないでしょうか? しかし、救急の教科書にはどういった場合に頭部CTを撮影することが推奨されるかという記載は充実していますが、CTがない施設や患者が撮りに行けない場合の対応に関する記載はあまりありません。今回は、私が在宅や診療所で困ったケースの対応を紹介します。まず、軽症頭部外傷は「Minimum head injury」と「Minor head injury」の2つに分かれます。この2つを表現する適切な日本語は難しいですが、Minimum head injuryは受傷機転(外傷を負った原因・経緯)が失神でなく、受傷後の意識障害を伴わないものを指します。Minor head injuryは受診時のグラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)が13~15点で、(1)受傷機転が失神、(2)健忘を伴う、(3)意識障害を伴う、のいずれかを満たすものを指します。軽症頭部外傷でCTを撮影するかどうかの判断でよく使われるのが、カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule:CCHR)です1,2)。カナダ頭部CTルール画像を拡大するカナダ頭部CTルールを使うときに、よく若手医師は65歳以上の軽症頭部外傷患者全員のCTを撮ろうとします(私もそうでした…)。しかし、カナダ頭部CTルールの選択基準はMinor head injuryであり、Minimum head injuryではありません。Minor head injuryでカナダ頭部CTルールを1つでも満たす場合はCT撮影を考慮します。こう考えるとCT撮影がやや減るのではないでしょうか。しかし、認知症がある高齢者ではそもそも受傷時のことを覚えていない場合もあり、MinorかMinimumかを鑑別することは困難です。カナダ頭部CTルールは「医学的介入(受傷7日以内に頭蓋内疾患による死亡、もしくは受傷7日以内に、開頭手術、頭蓋整復術、頭蓋内圧モニタリング)が必要な頭蓋内損傷」の否定を目的としているため、神経学的介入の必要がない脳出血は除外できないという問題もあります。また、高齢者は慢性硬膜下血腫のリスクがあり、たとえきちんと説明していたとしてもトラブルになることがあります。「軽く頭をぶつけただけなのでCTを撮影しなかった。2ヵ月後に慢性硬膜下血腫となり、家族になぜ前回の受診時にCTを撮らなかったのか文句を言われている」という経験を数例聞いたことがあります。頭部外傷で救急外来に来る患者の多くは、不安を解消するために来院します。被爆のことを考えるとなるべく撮りたくない気持ちもありますが、CTが普及している日本ではそこまでCTを回避する必要はないのかもしれません。ちなみに、CTを撮影しても頭蓋内に異常がないことがほとんどであり、帰宅後の注意点を説明して帰宅とします。CTを撮っても撮らなくてもマネジメントは同じとなることが多いです。では、すぐにCTを撮ることができない場合はどうでしょうか?<症例1>80歳、男性、施設入居中既往症:パーキンソン病、認知症訪問診療で訪れたところ、患者の右眼がパンパンに腫れあがっていて目が開けらない状態であった。話を聞くと、前日の夜に車椅子から落ちて顔面を受傷したが、すぐに反応があり、ぶつけたところを痛がるのみで異常がないため経過観察となっていた。朝には右目が腫れていたが、患者からとくに訴えはない。バイタル:Stable GCS E4V4M6(受傷前と同等)右目を何とか開いてみたところ、眼球運動に障害なし。視力も問題なし、その他の神経所見も異常なし。患者が病院に受診するには家族に来てもらわなければならないが、息子は「症状がないなら様子をみてほしい」とのこと。皆さんはこの患者さんにどう対応しますか? きっと答えはないと思います。この患者さんには認知症があり、そもそも受傷時の出来事を覚えていません。そのためOver triageして受傷時に健忘があったとみなしてカナダ頭部CTルールに組み込みました。受傷後のGCSは15点未満ですが、これは受傷前と変化がないため項目として採用しませんでしたが、「パンダの眼サイン」と「65歳以上」が当てはまり、頭部CTの考慮対象となります。とくにパンダの目徴候が出ているため、頭蓋内出血に加えて顔面骨骨折を伴っている可能性が高いです。顔面骨骨折で忘れてはいけないのが吹き抜け骨折で、外眼筋が陥頓してしまい眼球運動障害が生じます。幸い、視力障害や眼球運動障害はなかったため、やや緊急度は落ちると考えました。ちなみに、もしこの患者さんに受傷時の記憶があり、Minimum head injuryと判断してカナダ頭部CTルールに組み込まなくても、パンダの眼サインがある時点で私はCTを撮っていたでしょう。総合的に考えて、救急車を呼ぶほどの緊急性はないものの、なるべく早い受診が必要と判断しました。そこで、息子さんに電話で説明して明日の午前中に来てもらうことになり、施設職員には何か変化があればすぐに連絡するように伝えました。翌日、近くの脳神経外科を受診したところ、頭蓋内は問題なく、眼科内側壁に骨折がありましたが保存的加療となりました。2週間後の診察では若干腫れが引いていて、とくに問題なく生活することができていました。次にこの患者さんはどうでしょうか?<症例2>72歳、女性、夫と自宅で2人暮らし既往歴:認知症患者が認知症の夫の面倒をみていたが、次第に患者本人も認知症が進み、通院が困難となったため2人とも訪問診療を受けている。診察当日の朝5時ごろ、トイレに行こうと畳の上の布団から立ち上がった際に転倒。頭を机の角にぶつけて出血し、ティッシュペーパーで圧迫して止血した。日中にケアマネジャーが血まみれの患者を見つけ、緊急往診を依頼した。患者は夫を置いて病院に行くことができないので受診したくないと言っている。バイタル:Stable GCS E4V5M6後頭部に1cmくらいの挫創があるが止血済み。瞳孔は3mm 3mm ++、神経所見に異常なし。受傷機転もしっかりと覚えていて、ぶつけた先が机の角であったため出血していますが、強いエネルギーは加わっていないと考えられます。よってMinimum head injuryとなります。この場合明確にCTを撮る・撮らないという臨床予測ツールはありませんので、患者の状況とリスクを兼ね合い判断します。今回は、頭蓋内出血のリスクは低いと考え、本人も病院受診をしたくないことを加味して経過観察の方針としました。頭部の挫創は本人が注射嫌いとのことで毛髪縫合を施行しました3)。髪質によっては、合成皮膚表面接着剤(ダーマボンドなど)で縫合部を固めますが、往診セットになく、患者の髪で比較的強固に縫合できたのでその日はそのまま縫合し、髪は洗わずに翌日以降の洗浄を指示しました。1週間後に診察したところ創部はきれいで、毛髪縫合もほどけていなかったので、伸びてきた髪の根元を切りました。今回はCTを撮影することが困難な環境での軽症頭部外傷の治療を紹介しました。日本の人口当たりのCT台数は世界一であり、私はCTがない総合病院で働いたことはありません。被爆のことを考えるとなるべく撮りたくない一方で、その手軽さからCTを撮ることに年々悩まなくなっているところもあります。しかし、CTがない施設や患者が撮りに行けない場合も多々あります。「これが正しい」というものはないかもしれませんが、ご参考までに。1)Stiell IG,et al. Lancet. 2001;357:1391-1396.2)Smits M, et al. JAMA. 2005;294:1519-1525.3)Hock MOE, et al. Ann Emerg Med. 2002;40:19-26.

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片頭痛患者の血清尿酸値は痛みの強さに影響しているのか

 プリン体の最終代謝産物である尿酸は、抗酸化物質として作用し、酸化ストレスと関連している。血清尿酸(SUA)は、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症などの神経変性疾患の病因と関連している可能性が報告されている。しかし、片頭痛とSUAレベルとの関連を評価した研究は、これまでほとんどなかった。トルコ・Istanbul Basaksehir Cam ve Sakura City HospitalのYavuz Altunkaynak氏らは、片頭痛患者の痛みの特徴とSUAレベルとの関係を調査し、頭痛発作中および頭痛がない期間における片頭痛患者のSUAレベルを対照群と比較検討した。その結果、片頭痛患者の発作中と発作がない期間のSUAレベルの差は、痛みの強さと正の相関を示していることが報告された。Medicine誌2023年2月3日号の報告。 片頭痛患者78例、病院職員よりランダムに抽出した健康な対照群78例を対象に、プロスペクティブ横断研究を実施した。頭痛の特徴(発作持続時間、痛みの強さ、頻度)および社会人口統計学的特徴を収集した。片頭痛患者では頭痛発作中および頭痛がない期間の2回、対照群では1回、SUAレベルを測定した。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛患者における頭痛がない期間のSUAレベルは対照群より高かったが、その差は統計学的に有意ではなかった。・頭痛発作中および頭痛がない期間のSUAレベルの変化に、性差は認められなかった。・年齢、片頭痛の持続時間、頻度、間隔と痛みの強さの関連を調査したところ、女性の片頭痛患者においてSUAレベルの差は痛みの強さと弱い相関が認められ(p<0.05、R>0.250)、男性の片頭痛患者では中程度の相関が認められた(p<0.05、R>0.516)。・頭痛がない期間と比較した頭痛発作中のSUAレベルの差に痛みの強さとの正の相関が認められたことから、SUAはその抗酸化作用により片頭痛に関与している可能性が示唆された。

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AD治療薬lecanemab、ARIAやQOL解析結果をAD/PD学会で発表/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは3月31日付のプレスリリースにて、同社の早期アルツハイマー病(AD)治療薬の抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、第III相試験「Clarity AD試験」における最新の解析結果を、スウェーデンのイェーテボリで3月28日~4月1日に開催の第17回アルツハイマー・パーキンソン病学会(AD/PD2023)にて発表したことを報告した。lecanemab投与群では、プラセボ群よりアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現率が増加したが、抗血小板薬や抗凝固薬の使用によるARIAの発現頻度は上昇せず、ARIA-H単独の発現パターンはプラセボ群と同様だったことが明らかとなり、QOLの結果からは、lecanemab治療が被験者と介護者に有意義なベネフィットをもたらすことが示された。 早期AD患者1,795例(lecanemab群:898例[10mg/kg体重、2週ごとに静脈内投与]、プラセボ群:897例)を対象とした第III相無作為化比較試験「Clarity AD試験」において、主要評価項目ならびにすべての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成しており、その結果はNEJM誌2023年1月5日号に掲載されている1)。 AD/PD2023では、本試験における抗血小板薬/抗凝固薬使用とARIA(ARIA-E:浮腫/浸出、およびARIA-H:脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着、直径1cmを超える脳出血)の発現、ARIA-H単独の発現、介護者負担、健康関連QOLに関する最新の結果が発表された。 主な結果は以下のとおり。ARIAが発現した被験者における抗血小板薬/抗凝固薬使用の評価・lecanemab群は、プラセボ群よりARIAの発現率が増加した。・プラセボ群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合9.7%、抗凝固薬(抗凝固薬のみまたは抗血栓薬との併用)使用の場合10.8%、未使用8.9%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較してわずかに高くなった。・lecanemab群におけるARIA発現率は、抗血小板薬使用の場合17.9%、抗凝固薬使用の場合13.3%、未使用21.8%だった。抗血小板薬や抗凝固薬を使用した場合は、未使用と比較して若干低くなった。・ARIA-Eの発現率は以下のとおり。 -抗血小板薬を使用した場合は、lecanemab群10.4%、プラセボ群0.84%。 -抗凝固薬を使用した場合は、lecanemab群4.8%、プラセボ群2.7%。 -未使用の場合は、lecanemab群13.1%、プラセボ群1.5%。・lecanemab群で直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告された。ARIA-H単独(ARIA-Eを伴わないARIA-H)発現事象・ARIA-H(ARIA-Eを伴うARIA-H、およびARIA-H単独)の発現率は、lecanemab群17.3%、プラセボ群9.0%だった。・ARIA-H単独の発現率は、lecanemab群8.9%、プラセボ投与群7.8%で同程度だった。・ARIA-Eを伴うARIA-Hの多くは、ARIA-E発現と同時期である治療初期に発現するが、ARIA-H単独は、lecanemab群、プラセボ群ともに、18ヵ月の治療期間中に分散して発現した。・アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)とARIA-H単独の発現の関係性については、プラセボ群では非保有者3.8%、ヘテロ接合体保有者7.3%、ホモ接合体保有者18.0%、lecanemab群では非保有者8.3%、ヘテロ接合体保有者8.4%、ホモ接合体保有者12.1%だったが、ApoEε4ステータスはARIA-Hの発現時期には影響しなかった。・lecanemab群のARIA-H単独の発現パターンは、プラセボ投与群と同様だった。健康関連QOLに関する解析結果・被験者の健康関連QOL(HRQoL)として、ベースライン時と投与開始後6ヵ月ごとに、European Quality of Life-5 Dimensions(EQ-5D-5L)とQuality of Life in AD(QOL-AD)の指標により測定した。QOL-ADは介護者による評価も行った。6ヵ月ごとに介護者に対してZarit Burden Interviewを実施した。・lecanemab投与18ヵ月時点での被験者のEQ-5D-5LとQOL-ADのベースラインからの調整後平均変化量は、プラセボ群と比較して、それぞれ49%、56%の悪化抑制を示した。・介護者のZarit Burden InterviewとQOL-ADは、lecanemab投与18ヵ月時点でそれぞれ38%、23%の悪化抑制を示した。・これらの評価結果はApoEε4遺伝子型によらず一貫していた。

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認知症になってから何年生きられるのか?【外来で役立つ!認知症Topics】第3回

認知症臨床の場において、「あるある質問」として代表的なものには、筆者の場合、3つある。まずアルツハイマー病と認知症が同じか否かというもの。次に遺伝性の有無と、では自分は?という質問。そして今回のテーマ、「認知症になってから何年生きられるか?」という質問である。長年この問題に関して、正解とまでは言わずとも、エビデンスがしっかりした答えを知りたいと思ってきた。またこの質問の意図はそう単純ではない。長生きを望む人もあれば、逆に…という場合もありうる。今さらではあるが、2021年にLancet Healthy Longevity誌1)で優れたメタアナリシスが報告されていることを知り、丁寧に読んだ。その概要を臨床の場を鑑みながら解説する。メタアナリシスでの認知症平均余命まずメタアナリシスの素材となったのは、78の研究である。ここでは6.3万人余りの認知症があった人、15.2万人余りの認知症がなかった人のコントロールデータが扱われた。なお原因疾患はアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症である。アウトカムとして、まずあらゆる原因による「死亡率:mortality rate」、すなわち一定期間における死亡者数を総人口で割った値が用いられた。次に、認知症の診断もしくは発症から亡くなるまでの年数も用いられた。まず認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。また全体では、発症の平均年齢が68.1±7.0歳、診断された年齢は72.7±5.9歳、初発から死亡までが7.3±2.3年。さらに診断から死亡までが4.8±2.0年となされている。全体の3分の2を占めるアルツハイマー病では、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年になっている。つまりアルツハイマー病の診断がついた患者さんやその家族から「余命は何年か?」の質問を受けたなら、4~8年程度と答えることになる。もっとも本論文の対象は、われわれが対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。最も生命予後が良い/悪い認知症性疾患は?さて注目すべきは、4つの認知症性疾患の中でアルツハイマー病の生命予後が一番良いという結果である。逆にレビー小体型認知症(パーキンソン病に伴う認知症を含む)では、認知症のなかったコントロールに比べて、死亡率は17.88倍も高く、4つの認知症性疾患の中で最悪である。アルツハイマー病に比べても余命は1.12年も短い。その理由として以下に述べられている。1つには幻覚や妄想などの精神症状を伴うことである。それにより危険行為や衝動性に結び付きやすいことをよく経験する。また従来のデータでも示されてきたように、認知症性疾患のなかで、認知機能の低下率が大きく、合併疾患の割合が高く、QOLも悪いとされる。こうしたものが高い死亡率に結び付いているのではと考察している。確かにと納得できる。次に血管性認知症は、アルツハイマー病に比べて、死亡率が1.26倍高く、余命は1.33年短い。恐らくは心血管系の問題が大きく寄与していると考えられている。さらに前頭側頭葉変性症も生命予後は良くない。その理由として、運動障害に注目した面白い報告がある。近年よく知られるようになったが、前頭側頭型認知症では、パーキンソニズム、錐体外路徴候などによる運動障害を示す例が少なくない。さらにジストニアや失行も見られる。筆者はこれらによる転倒・転落を経験してきた。一方で、ある程度以上進むと、いわゆる早食いや詰め込み食いも見られることがある。こうしたことによる窒息や誤嚥性肺炎が死亡率を高めていると考察されている。自分の臨床経験では、このような突然死の多くは、盗んだり隠れたりして食べていたのである。治療のためにも早期受診が不可欠以上について、論文の著者らは注目していないが、いくつか感想がある。まず初発から診断までに、4年余りかかっているという結果である。疾患修復薬が前駆期・早期なら有用かと期待されるようになった今日、これでは治療の好機を逃してしまう。早期受診の重要性を再度認識する。次に自分が対応するアルツハイマー病の患者さんに限っても、何年経ってもほとんど変わらない人もいるが、1年以内に急速に悪化してしまう人もいる。こうしたケースはrapidly progressive Alzheimer diseaseと呼ばれることもあり、認知機能のみならず生命予後も不良である。そして現場では、主治医である筆者がその責任を厳しく問われることもある。けれども遺伝子、併存疾患、または症候学等からみて、この急速悪化群の関連因子はまだ定まっていない。こうしたsubtypeの予想も臨床的には不可欠な観点だろう。終わりに。アルツハイマー病以外の認知症性疾患に対しては、今のところこれという薬物治療法はない。それだけにこれらの疾患のある人に対する治療の場では、上に示した余命を短縮させてしまう因子に注意を払い、少しでもQOLが高く健やかな生活を実現する努力がこれまで以上に望まれる。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

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パーキンソン病の淡蒼球超音波アブレーション試験(解説:内山真一郎氏)

 淡蒼球内節の片側超音波アブレーションの非盲検試験では、パーキンソン病の運動症状を軽減する効果があった。本試験では、運動障害またはジスキネジアを有するパーキンソン病患者94例を3対1の比率で無作為割り付けし、休薬時において症状の強い側と反対側に対する超音波アブレーションを疑似手技と比較した。 一次評価項目は、パーキンソン病の運動障害重症度尺度であるMDS-UPDRS IIIまたはジスキネジア重症度尺度であるUDysRSの3ヵ月後の服薬中での3点以上の低下であった。実治療群で反応があった割合は69%であり、対照群の32%より有意に多かった。実治療群でみられた副作用は、構音障害、歩行障害、味覚脱失、視覚障害、顔面麻痺などであった。主要な外科療法として行われている脳深部刺激療法も同様の効果があるが、開頭を必要とし、頭蓋内出血や感染症のリスクがあり、拒否する患者もいる。FDAは内科的治療に反応しにくくなった本態性振戦や振戦優位型のパーキンソン病に視床超音波アブレーションを承認している。本治療法の有効性と安全性を確立するにはより長期の大規模な試験が必要である。

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パーキンソン病、片側淡蒼球内節の集束超音波で運動機能改善/NEJM

 パーキンソン病患者に対する片側淡蒼球内節の集束超音波アブレーション(FUSA)は、3ヵ月後に運動機能やジスキネジアが改善した患者の割合が高かったものの、有害事象を伴った。米国・University of North CarolinaのVibhor Krishna氏らが北米、アジアおよび欧州の16施設で実施した無作為化二重盲検シャム対照比較試験の結果を報告した。片側淡蒼球内節のFUSAは、ジスキネジアや運動変動のあるパーキンソン病患者を対象とした小規模の非盲検試験において有効性が示唆されていた。著者は、「パーキンソン病患者におけるFUSAの有効性と安全性を明らかにするためには、より長期の大規模臨床試験が必要である」とまとめている。NEJM誌2023年2月23日号掲載の報告。FUSA群とシャム群に無作為化、3ヵ月後の改善を評価 研究グループは、UK Brain Bank基準で特発性パーキンソン病と診断され、投薬オフ状態でジスキネジアまたは運動変動と運動障害を有する30歳以上の患者を、淡蒼球内節のMRガイド下FUSA群またはシャム(対照)群に3対1の割合で無作為に割り付け、患者の利き手側または運動障害が大きい側と反対側に投薬オフ状態で治療を行った。 適格基準は、MDS-UPDRSパートIII(運動)スコアが投薬オン状態に対してオフ状態では30%以上減少で定義されるレボドパ反応性を有し、MDS-UPDRSパートIIIスコアが20以上で、ジスキネジアまたは運動変動の運動障害があり(投薬オン状態でMDS-UPDRS項目4.2スコアが2以上、またはMDS-UPDRS項目4.4スコアが2以上)、パーキンソン治療薬を30日以上安定投与されている患者とした。 主要アウトカムは、治療後3ヵ月時点の改善(投薬オフ状態での治療側のMDS-UPDRSパートIII[運動]スコアまたは投薬オン状態でのジスキネジア評価スケール[UDysRS]のスコアのいずれかがベースラインから3点以上減少で定義)。副次アウトカムはMDS-UPDRSの各項目スコアのベースラインから3ヵ月時点までの変化であった。 3ヵ月間の二重盲検期の後、12ヵ月時まで非盲検期を継続した。治療3ヵ月後に運動症状が改善した患者の割合はFUSA群69%、シャム群32% 94例が登録され、FUSA群に69例、シャム群に25例が割り付けられた。このうち治療を受けたそれぞれ68例および24例を安全性解析対象集団、3ヵ月後の主要評価を完遂した65例(94%)および22例(88%)を修正intention-to-treat集団とした。 治療後3ヵ月時点で改善した患者は、FUSA群で65例中45例(69%)、シャム群で22例中7例(32%)であった(群間差:37ポイント、95%信頼区間[CI]:15~60、p=0.003)。 FUSA群の改善例45例のうち、MDS-UPDRSパートIIIスコアのみが3点以上減少した患者は19例(29%)、UDysRSスコアのみが3点以上減少した患者は8例(12%)、両スコアとも3点以上減少した患者が18例(28%)であった。一方、シャム群の改善例7例のうち、6例はMDS-UPDRSパートIIIスコアのみが3点以上減少し、1例は両スコアとも3点以上減少した。 副次アウトカムは、概して主要アウトカムと同様の結果であった。 FUSA群において、3ヵ月時点で改善した45例のうち12ヵ月時点で評価し得たのは39例で、このうち30例は改善が続いていた。 FUSA群における淡蒼球破壊術関連有害事象は、構音障害、歩行障害、味覚障害、視覚障害および顔面筋力低下であった。

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血管性認知症やパーキンソン病認知症と尿酸値との関連~メタ解析

 中国・Shenyang Medical CollegeのQian Li氏らは、尿酸値と血管性認知症(VaD)およびパーキンソン病認知症(PDD)との関連を調査するため、メタ解析を実施した。その結果、尿酸値はPDDとの関連が認められたが、VaDとは認められなかった。著者らは、本研究がVaDやPDDの病態生理に関する知識を強化し、予防や治療戦略の開発促進に役立つことが期待されるとしている。Neurological Sciences誌オンライン版2023年1月24日号の報告。 2022年5月までに公表された関連研究を、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Collaboration Databaseより検索した。プール分析、感度分析、出版バイアスの評価を実施した。すべての分析にSTATA 16を用いた。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究より2,097例を分析に含めた。・プール分析では、尿酸値はVaDとの関連は認められなかったが(WMD:-10.99μmol/L、 95%信頼区間[CI]:-48.05~26.07、 p=0.561)、PDDとは関連が認められた(WMD:-25.22μmol/L、95%CI:-43.47~-6.97、p=0.007)。・感度分析および出版バイアスの評価において、統計学的に安定性および信頼性が認められた。

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「当事者にも目を向けて」―レビー小体型認知症の多様な症状

 2023年1月17日、住友ファーマ主催のレビー小体型認知症(DLB)に関するプレスセミナーが開催され、大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室 教授の池田 学氏から「第2の認知症、レビー小体型認知症(DLB)の多彩な症状と治療法の進歩」について、近畿大学医学部 精神神経科学教室 主任教授 橋本 衛氏からは「当事者に目を向けた診療のすすめと当事者、介護者、主治医に伝えたいこと」について語られた。 多様な症状を示し、アルツハイマー型認知症と比べてケアが難しいDLBでは、当事者、介護者、主治医の3者の理解が深まることで、当事者のQOL向上と介護者の負担軽減が期待される。DLBの臨床症状 DLBは、進行性の認知機能障害や幻視、妄想、パーキンソニズム、便秘や低血圧などの自律神経障害など、きわめて多様な臨床症状を示す。これらの症状は同時に起こることも多い。これらを踏まえて池田氏は、「DLBにはさまざまな症状があるということを知り、認知機能障害以外の症状にも目を向けないと、患者さんが早期に受診しても見落とす可能性がある」と、主治医がDLBの臨床症状を把握する重要性について訴えた。DLBの薬物治療、ケアのポイント さらに池田氏は、「DLBの薬物治療では、症状に合わせて、抗認知症薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬などが用いられているが、いずれも副作用の発現や症状の悪化を引き起こす可能性があり、慎重に使用すべきである。ただ、副作用を避けながらの薬物治療は難しく、家庭では安全を保てない場合もあるため、必要に応じて入院や入所も積極的に考慮してほしい」と述べた。当事者の意向を尊重した認知症医療 従来のDLB治療では、当事者は認知症に対して自覚はなく、自分から症状を適切に判断して訴えることはできないという思い込みから、当事者不在の医療が行われることがあった。このことから橋本氏は、「当事者の半数以上は自分の治療ニーズを伝えることができる。また、当事者主体の医療・介護等の徹底について、厚生労働省の新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)でも掲げられている。介護者だけではなく、当事者にもっと目を向けた診療を心掛ける必要がある」と強調した。当事者と介護者の治療ニーズと主治医の理解度 当事者と介護者が困っている症状は多岐にわたるため、専門医であってもその症状を完璧に把握することは難しい。とくに、自律神経障害、睡眠障害は見逃されやすい。橋本氏は、「DLBの症状を理解したうえで、当事者や介護者は治療ニーズをしっかりと主治医に伝え、主治医は両者の治療ニーズにしっかりと目を向けることで、当事者の意向を尊重する診療が広まっていくことを期待している」と講演を締めくくった。

60.

統合失調症・うつ病の頓服を含む退院時処方~EGUIDEプロジェクト

 さまざまなガイドラインにおいて、統合失調症やうつ病の薬物治療では、単剤療法が推奨されている。定期処方による治療はいくつかの研究で報告されているが、頓服使用を含む薬物療法に関する報告は十分ではない。北里大学の姜 善貴氏らは、頓服使用を含む薬物療法の内容を評価し、定期処方との関連を明らかにするため、本研究を実施した。その結果、向精神薬の頓服使用を考慮すると、統合失調症およびうつ病に対する退院時の薬物治療において単剤療法率および他の向精神薬未使用率は減少することが報告された。著者らは、高い単剤療法率および定期処方での他の向精神薬の未使用は、向精神薬の頓服使用の減少につながる可能性があるとしている。Annals of General Psychiatry誌2022年12月26日号の報告。 「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」のデータを用いて、退院時における薬物カテゴリごとの向精神薬の頓服使用の有無を調査し、その割合を診断疾患別に評価した。統合失調症患者における退院時の抗精神病薬単剤療法率および他の向精神薬未使用率、うつ病患者における退院時の抗うつ薬単剤療法率および他の向精神薬未使用率を、向精神薬の頓服使用を含む定期処方ごとに医療の質指標(QI)として算出した。各診断疾患における定期処方のQI値、定期処方と頓服使用を含む処方のQI比を算出するため、スピアマン順位相関係数を用いた。 主な結果は以下のとおり。・退院時の向精神薬の頓服使用率は、統合失調症で28.7%、うつ病で30.4%であり、診断疾患による有意な差は認められなかった。・薬物カテゴリごとの頓服使用率は、統合失調症では抗精神病薬と抗パーキンソン薬が有意に高く、うつ病では抗不安薬と催眠鎮静薬が有意に高かった。・QIは、両疾患ともに、定期処方よりも頓服使用を含む退院時処方で低かった。・定期処方のQI値と、定期処方と頓服使用を含む処方のQI比との間に、正の相関が認められた。

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