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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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Cutibacterium acnes(C. acnes)【1分間で学べる感染症】第21回

画像を拡大するTake home messageC. acnesは整形外科(とくに肩関節、脊椎)や脳神経外科の人工物(インプラント)関連感染症の重要な原因菌であり、診断には長期間の培養や複数検体での確認が必要となる。Cutibacterium acnes(C. acnes)は、以前はPropionibacterium acnesとも呼ばれ、プロピオン酸を産生、尋常性ざ瘡の一般的な病原体であり、皮膚の常在菌として知られています。整形外科領域や脳神経外科領域において人工物(インプラント)関連感染症の重要な原因菌として注目されています。とくに人工関節や骨折治療用のインプラント、脳神経外科術後のシャント感染や頭蓋インプラント関連感染症で本菌が手術部位感染症(SSI)の一因として重要視されており、診断が困難なケースも少なくありません。微生物・培養C. acnesは嫌気性グラム陽性桿菌であり、非運動性です。主に皮脂腺や毛包に常在しています。C. acnesは短期間(数日)の培養では検出されない可能性があるため、整形外科および脳神経外科領域のインプラント関連感染を疑う場合は、10~14日の長期間培養が推奨されます。全体の陽性報告のうち、4日目までに血液培養で陽性となるのは25%と報告されています。さらに、C. acnesは手術部位の皮膚常在菌として混入する可能性があるため、診断根拠を強めるためには、複数検体からの培養結果が重要になります。症状・臨床所見術中に皮膚表面からインプラントへ移行し、バイオフィルムを形成することで持続的な感染を引き起こすことが特徴です。しばしばコンタミネーションとされますが、整形外科領域ではとくに肩関節や脊椎のインプラント関連感染症での関与が多く、脳神経外科領域では脳脊髄液シャント、リザーバー、脳深部刺激装置などのインプラントに関連した感染症が報告されています。そのほかにも血管系(人工弁、ペースメーカー)、乳房インプラント関連感染なども重要です。C. acnesによる感染症は発症が遅く、慢性的な経過をたどることが特徴です。薬剤感受性・治療C. acnesはβ-ラクタム系全般(ペニシリン系:ペニシリンG、アンピシリン、セファロスポリン系:セファゾリン、セフトリアキソン)のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、クリンダマイシン、ドキシサイクリンなど、さまざまな抗菌薬に感受性を有します。一方で、メトロニダゾールには耐性を示します。バイオフィルム形成のため、それぞれの病態に応じた長期間の抗菌薬投与とデブリードマン・人工物の抜去などの外科的介入が必要になることが多くあります。このようにC. acnesは皮脂腺や毛包に常在し、臨床的にコンタミネーションの場合が多い一方、整形外科(とくに肩関節、脊椎)や脳外科術後を中心としたインプラント関連では真の起因菌になることも多いため、注意が必要です。臨床状況と培養結果を総合して判断することが重要です。1)Boman J, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2022;41:1029-1037.2)Ransom EM, et al. J Clin Microbiol. 2021;59:e02459-20.3)Piggott DA, et al. Open Forum Infect Dis. 2015;3:ofv191.

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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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敗血症へのβ-ラクタム系薬+VCM、投与順序で予後に差はあるか?

 敗血症が疑われる患者への治療において、β-ラクタム系薬とバンコマイシン(VCM)の併用療法が広く用いられている。しかし、β-ラクタム系薬とVCMの投与順序による予後への影響は明らかになっていない。そこで、近藤 豊氏(順天堂大学大学院医学研究科 救急災害医学 教授)らの研究グループは、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた敗血症患者を対象として、投与順序の予後への影響を検討した。その結果、β-ラクタム系薬を先に投与した集団で、院内死亡率が低下することが示唆された。本研究結果は、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2024年12月5日号に掲載された。 研究グループは、米国の5施設において後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、救急外来到着後24時間以内に、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた18歳以上の敗血症患者2万5,391例とした。対象患者を抗菌薬の投与順に基づき、β-ラクタム系薬先行群(2万1,449例)、VCM先行群(3,942例)に分類した。主要評価項目は院内死亡率とし、傾向スコアによる逆確立重み付け法(Inverse Probability Weighting:IPW)を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・β-ラクタム系薬先行群は菌血症(β-ラクタム系薬先行群51.7%、VCM先行群46.4%)、尿路感染症(それぞれ10.3%、7.5%)、腹腔内感染症(それぞれ9.2%、7.7%)が多かった。・VCM先行群は皮膚および筋骨格系感染症(β-ラクタム系薬先行群7.8%、VCM先行群20.0%)、その他の感染症(それぞれ7.3%、10.5%)が多かった。・主要評価項目の院内死亡率は、β-ラクタム系薬先行群13.4%、VCM先行群13.6%であり、未調整の解析では両群間に有意差はみられなかった。しかし、IPW解析ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが有意に低下した(調整オッズ比[aOR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99、p=0.046)。・サブグループ解析において、敗血性ショックのない集団ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが低下した(aOR:0.80、95%CI:0.64~0.99)。その他の集団でも一貫してβ-ラクタム系薬先行群で院内死亡のオッズが低下する傾向にあったが、有意差はみられなかった。・主にVCMを用いて治療されるMRSAが陽性であった集団でも、β-ラクタム系薬先行群はVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが上昇しなかった(aOR:0.91、95%CI:0.55~1.51)。・傾向スコアマッチングを行った場合、院内死亡率について両群間に有意差はみられなかった(aOR:0.94、95%CI:0.82~1.07)。 本研究結果について、著者らは「敗血症治療においてβ-ラクタム系薬とVCMを併用する場合は、β-ラクタム系薬を優先して投与することを支持する結果であった。しかし、本研究は観察研究であり、交絡が残存する可能性を考慮すると、無作為化比較試験による評価が理想的であると考えられる」とまとめた。

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Staphylococcus saprophyticusによる膀胱炎【1分間で学べる感染症】第17回

画像を拡大するTake home messageStaphylococcus saprophyticusは膀胱炎の原因菌として重要!Staphylococcus saprophyticus(S. saprophyticus)は、聞き慣れない方も多いと思いますが、膀胱炎の原因菌として、とくに若年女性を診るときに重要な菌の1つです。今回は、このS. saprophyticusに関して一緒に学んでいきましょう。歴史的背景S. saprophyticusは、もともとは尿培養から検出された場合でもコンタミネーションと考えられていました。しかし、1960年代からとくに若年女性においてこの菌が頻繁に検出されることが認識され、膀胱炎における大腸菌以外の主要な病原菌として注目されるようになりました。微生物学的特徴S. saprophyticusはグラム陽性球菌であり、コアグラーゼ陰性、非溶血性です。古典的には、ノボビオシンに対する耐性があることが、ほかのコアグラーゼ陰性菌と区別するための重要な特徴とされてきました。もう1つの重要な特徴がウレアーゼ産生で、この特性によって腎結石および尿管結石を形成しやすいとされています。病原因子S. saprophyticusの病原因子としては、表面関連タンパク質による尿路上皮細胞への粘着やヘマグルチニン、ヘモリシンなどの産生が知られています。これらの機序により尿路において病原性を示し、尿路感染症を引き起こします。臨床症状若年女性の膀胱炎や尿路結石で多くの報告があります。まれですが、腎盂腎炎、尿道炎、副睾丸炎、前立腺炎の報告もあります。性的に活発な若年女性では、膀胱炎の原因菌として大腸菌に続いて2番目であるとも報告されています。薬剤感受性一般的にはST合剤に優れた感受性を示すとされています。そのほか、アモキシシリン/クラブラン酸塩、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、バンコマイシンなどの感受性も報告されていますが、これらの耐性増加も報告されており、感受性試験が推奨されます。S. saprophyticusは、若年女性における膀胱炎の重要な原因菌です。尿グラム染色でグラム陽性球菌が確認された際には鑑別の1つとして本菌を考慮するようにしましょう。1)Raz R, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:896-898.2)Widerstrom M, et al. J Clin Microbiol. 2007;45:1561-1564.3)Marrie TJ, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1982;22:395-397.4)Olsen RC, et al. AIM Clinical Cases. 2024;3:e230613.

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Staphylococcus lugdunensis【1分間で学べる感染症】第15回

画像を拡大するTake home messageS. lugdunensisは、ほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なる特徴を持つ。黄色ブドウ球菌と同様に侵襲性感染を引き起こすことを覚えておこう。皆さんはStaphylococcus lugdunensis(スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス:S. lugdunensis)という菌の名前を聞いたことがありますか? 今回は、この菌になじみがある方もそうでない方も、いま一度一緒に学んでいきましょう。では、なぜこの菌が重要なのでしょうか。結論から言うと、S. lugdunensisは「治療が遅れると致死率が高いから」です。皆さんは、表皮ブドウ球菌にはなじみがあるかもしれません。S. lugdunensisは表皮ブドウ球菌と同じコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるにもかかわらず、黄色ブドウ球菌に非常によく似た特徴を持っています。最も重要なポイントは、コンタミネーションが疑われることの多い表皮ブドウ球菌をはじめとするほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なり、血液培養でS. lugdunensisが検出されたら、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)と思って、その後の感染巣の検索や治療を検討しなければならない、ということです。S. lugdunensisの歴史から簡単に紹介すると、1988年にフランスのリヨンで初めて報告されました。lugdunumはリヨンのラテン語名であり、報告された土地の名が付けられました。微生物学的特徴としては、グラム陽性球菌に分類され、上記コアグラーゼ陰性を示します。コロニーはクリーム色で血液寒天培地において溶血を示すことが特徴です。粘着因子を有することが、高い病原性を示す理由でもあり、人工物が体内に存在する場合にはバイオフィルムを形成して抗菌薬が効果を発揮するのに難渋することがあります。主な臨床的な特徴としては、感染性心内膜炎や菌血症、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症など、黄色ブドウ球菌と類似の感染症を引き起こします。抗菌薬の感受性に関しては、セファゾリンを中心とした抗MSSA用の抗菌薬のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、ST合剤などにも感受性を示すことが多いとされます。以上、S. lugdunensisについて解説しました。「S. lugdunensisを見たらMSSAと思って治療する」という鉄則を念頭に置き、迅速な診断と適切な治療を心掛けるようにしましょう。1)Aldman MH, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2021;40:1103-1106.2)Heilbronner S, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;34:e00205-e00220.3)Argemi X, et al. J Clin Microbiol. 2017;55:3167-3174.

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ダプトマイシン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第12回

画像を拡大するTake home messageダプトマイシンは肺炎と中枢神経感染症には使用しにくい。ダプトマイシンを使用する際にはミオパチー/横紋筋融解に注意しよう。今回は、抗MRSA薬の1つであるダプトマイシンについて学んでいきましょう。バンコマイシンに続き、多くの施設でダプトマイシンを使用する場面が増加しています。それでは、ダプトマイシンを使用する際にはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。まずは、使用が推奨されないケースを覚えることが重要です。肺炎…ダプトマイシンが肺胞の2型サーファクタントにより不活化されるため、肺の炎症に対して効果を発揮しないことが知られています。中枢神経感染症…データは不十分ですが、脳脊髄液への通過性が不良とされています。次に、ダプトマイシンを使用する際に注意すべき副作用を知りましょう。ミオパチー/横紋筋融解…腎障害・スタチン併用・肥満などがリスクとされます。ダプトマイシンを使用する際にはスタチンを一旦中断し、CK(クレアチンキナーゼ)値を週に1回はチェックするようにしましょう。好酸球性肺炎…男性・高齢・腎障害などがリスクとされますが、ダプトマイシン使用中に咳嗽や呼吸困難を来した場合は本症を疑い、速やかに中止を検討します。胸部CTで両側のすりガラス影を来すことが特徴です。中等症から重症の場合にはステロイドによる治療も検討されます。末梢血の好酸球は増加しないこともあり、一般的には気管支肺胞洗浄液による精査が推奨されます。実施が難しい場合にはダプトマイシンの中止後に改善するかどうかをみて、臨床的に本症を疑うこともあります。最後に、ダプトマイシンはバイオフィルムへの透過性がよいとされます。したがって、中心静脈カテーテル感染症やその他の人工物関連感染などにも注意が必要です。ダプトマイシンを使用する際には、適応と主な副作用に関する上記のポイントを理解しておきましょう。1)Dare RK, et al. Clin Infect Dis. 2018;67:1356-1363.2)Haste NM, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2011;55:3305-3312.3)Hirai J, et al. J Infect Chemother. 2017;23:245-249.4)Uppa P, et al. Antimicrob Resist Infect Control. 2016;5:55.5)Raad I, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:1656-1660.

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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治療効果判定の指標を設計する【国試のトリセツ】第41回

§3 decision making治療効果判定の指標を設計するQuestion〈110B57〉32歳の男性。発熱と咳嗽とを主訴に来院した。現病歴2日前から38℃台の発熱と咳嗽が出現した。市販の解熱鎮痛薬を服用したが、37.0℃以下に解熱せず、今朝からは呼吸困難も感じるようになったため受診した。腹痛と下痢はない。既往歴27歳時に右胸部の帯状疱疹。29歳時に右側肺炎。30歳時に左側肺炎。生活歴食品加工の工場で働いている。妻と4歳の子どもがいる。喫煙は20本/日を10年間。飲酒は機会飲酒。現 症意識は清明。身長165cm、体重58kg。体温38.3℃。脈拍88/分、整。血圧86/42mmHg。呼吸数28/分。SpO295%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音に異常を認めない。右側の胸部でcoarse cracklesを聴取する。腹部は平坦で、腸蠕動音に異常を認めず、肝・脾を触知しない。検査所見血液所見:赤血球398万、Hb11.3g/dL、Ht37%、白血球3,400(桿状核好中球22%、分葉核好中球58%、好酸球3%、好塩基球2%、単球8%、リンパ球7%)、血小板15万。血液生化学所見:総蛋白7.5g/dL、アルブミン3.8g/dL、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL、尿酸5.8mg/dL、Na137mEq/L、K3.9mEq/L、Cl100mEq/L。CRP8.8mg/dL。胸部X線写真を次に示す。その後の経過胸部X線写真と喀痰のGram染色標本の検鏡結果から肺炎球菌による細菌性肺炎と診断し入院となった。入院初日からセフトリアキソンの投与を開始したところ、入院3日目までに咳嗽は減少し食欲も出てきた。入院3日目の体温は36.8℃、脈拍80/分、整。血圧116/58mmHg。呼吸数16/分。SpO296%(room air)。血液所見:白血球6,300(桿状核好中球14%、分葉核好中球61%、好酸球3%、好塩基球2%、単球7%、リンパ球13%)、血小板22万。CRP4.4mg/dL。胸部X線写真で所見の改善を認めた。初診時に採取した喀痰および血液の培養からは肺炎球菌が検出された。その後も症状は改善傾向が続き、入院4日目に採取した喀痰の細菌培養検査では肺炎球菌が陰性化していたが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出された。この患者に対する適切な治療はどれか。(a)メロペネムを追加投与する。(b)バンコマイシンを追加投与する。(c)セフトリアキソン単独投与を継続する。(d)セフトリアキソンをメロペネムに変更する。(e)セフトリアキソンをバンコマイシンに変更する。

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知見のupdateを絶えず重ね続ける【国試のトリセツ】第40回

§3 decision making知見のupdateを絶えず重ね続けるQuestion〈111G57〉82歳の女性。肺炎で入院中である。抗菌薬が投与され肺炎の症状は軽快していたが、3日前から頻回の水様下痢が続いている。高血圧症で内服治療中である。意識は清明。体温37.6℃。脈拍76/分、整。血圧138/78mmHg。腹部は平坦、軟。下腹部に軽い圧痛を認める。血液所見赤血球380万、Hb12.0g/dL、Ht 36%、白血球9,800、血小板26万。腹部X線写真で異常所見を認めない。便中Clostridium difficileトキシン陽性。この患者に有効と考えられる薬剤はどれか。2つ選べ。(a)バンコマイシン(b)クリンダマイシン(c)エリスロマイシン(d)メトロニダゾール(e)ベンジルペニシリン(ペニシリンG)※2016年に、Clostridium difficileはClostridioides difficileに名称が変更されました。第111回医師国家試験は2017年に実施されましたが、まだ以前のままの表記になっています。以降の解説では、このupdateを汲み、新しい表記で統一します。Lawson PA, et al:Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile(Hall and O’Toole 1935) Prevot 1938. Anaerobe, 40:95-99, 2016

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CPOE導入で、尿路感染症入院への広域抗菌薬の使用が減少/JAMA

 尿路感染症(UTI)で入院した非重症の成人患者では、通常の抗菌薬適正使用支援と比較して、多剤耐性菌(MDRO)のリスクが低い患者に対して標準スペクトルの抗菌薬をリアルタイムで推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)は、在院日数やICU入室までの日数に影響を及ぼさずに、広域スペクトル抗菌薬の経験的治療を有意に減少させることが、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが実施した「INSPIRE UTI試験」で示された。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。米国59施設のクラスター無作為化試験 INSPIRE UTI試験は、MDROのリスクが低い(<10%)と推定されるUTI入院患者に対して標準スペクトル抗菌薬による経験的治療を推奨するCPOEバンドル(フィードバック、教育、リアルタイムのリスクベースCPOEプロンプトから成る)の有効性を、通常の抗菌薬適正使用支援と比較するクラスター無作為化試験(米国疾病管理予防センター[CDC]の助成を受けた)。 米国の59の病院を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29施設)または通常の抗菌薬適正使用支援を行う群(30施設)に無作為に割り付けた。対象は、年齢18歳以上の非重症のUTIによる入院患者であった。試験は、18ヵ月間のベースライン期間(2017年4月~2018年9月)、6ヵ月間の段階的導入期間(2018年10月~2019年3月)、15ヵ月間の介入期間(2019年4月~2020年6月)で構成された。 主要アウトカムは、入院から3日間における広域スペクトル抗菌薬の投与日数であり、ICU以外の場所で患者1例当たりに投与された広域スペクトル抗菌薬の総数とした。バンコマイシン、抗緑膿菌薬の投与日数も良好 59の病院に入院したUTI患者12万7,403例(ベースライン期間7万1,991例、介入期間5万5,412例)を解析の対象とした。全体の平均年齢は69.5(SD 17.9)歳、男性が30.5%で、Elixhauser併存疾患指数中央値は4点(四分位範囲[IQR]:2~5)であった。 1,000日当たりの広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数は、通常の抗菌薬適正使用支援群ではベースライン期間で431.1日、介入期間で446.0日であったのに対し、CPOE介入群ではそれぞれ392.2日および326.0日といずれも少なかった。全体の率比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.77~0.89)であり、CPOE介入群で広域スペクトル抗菌薬による経験的治療の日数が有意に短縮した(p<0.001)。 副次アウトカムであるバンコマイシンによる治療日数(全体の率比:0.89、95%CI:0.82~0.96、p=0.002)および抗緑膿菌薬による治療日数(0.79、0.72~0.87、p<0.001)は、いずれもCPOE介入群で有意に短縮した。MDROの増殖は6%未満 安全性アウトカムの評価では、在院日数(全体の率比:0.96、95%CI:0.91~1.01、p=0.21)およびICU入室までの日数(0.98、0.85~1.12、p=0.77)には両群間に有意な差を認めなかった。 著者は、「MDRO関連感染の患者別リスクのデータを使用して、電子健康記録(electronic health record)から標準スペクトル抗菌薬の推奨をリアルタイムに生成することで、UTI入院患者に対する広域スペクトル抗菌薬による経験的治療を安全に削減する可能性が示された」とまとめ、注目すべき点として、試験の終盤に新型コロナウイルス感染症の流行による混乱があったにもかかわらず、ICU入室や在院期間といった安全性のアウトカムには変化がなかったこと、研究に用いたアルゴリズムによりMDROのリスクが低いと推定された患者のうち、MDROの増殖を認めたのは6%未満であったことを挙げている。

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肺炎への広域抗菌薬使用、オーダーエントリーシステムで減少/JAMA

 肺炎でICU以外に入院した成人患者において、患者特異的な多剤耐性菌(MDRO)の感染リスク推定に基づき、リスクが低い患者に対し標準スペクトラム抗菌薬を推奨するオーダーエントリーシステム(computerized provider order entry:CPOEバンドル)の使用は、通常の抗菌薬適正使用支援の実践と比較し、広域スペクトラム抗菌薬の経験的使用が有意に減少した。ICU転室までの日数および在院期間に差はなかった。米国・カリフォルニア大学アーバイン校のShruti K. Gohil氏らが、米国の地域病院59施設で実施したクラスター無作為化比較試験「INSPIRE(Intelligent Stewardship Prompts to Improve Real-time Empiric Antibiotic Selection)肺炎試験」の結果を報告した。肺炎は入院を要する一般的な感染症であり、広域スペクトラム抗菌薬過剰使用の主な要因である。MDROの感染リスクは低いにもかかわらず、臨床上の不確実性が最初の抗菌薬選択につながることがよくあり、肺炎患者に対する抗菌薬の経験的過剰使用を抑制する戦略が求められている。JAMA誌オンライン版2024年4月19日号掲載の報告。CPOEバンドル使用施設vs.通常施設、広域スペクトラム抗菌薬の使用を評価 研究グループは参加施設を、CPOEバンドルを使用するCPOE介入群(29病院)と通常の抗菌薬適正使用支援のみを行う対照群(30病院)に無作為に割り付けた。対象は、肺炎で入院した非重症成人(18歳以上)患者である。 CPOE介入群では、通常の抗菌薬適正使用支援に加え、MDRO肺炎の絶対リスクが低い(10%未満)患者には、入院の最初の3日間(経験的治療期間)は広域スペクトラム抗菌薬の代わりに標準スペクトラム抗菌薬を推奨するCPOEプロンプトの提供、ならびに臨床医の教育とフィードバック報告が行われた。 ベースライン期間を18ヵ月(2017年4月1日~2018年9月30日)、段階的導入期間を6ヵ月(2018年10月1日~2019年3月31日)、介入期間を15ヵ月(2019年4月1日~2020年6月30日)とし、ベースライン期間と介入期間のアウトカムを比較した。 主要アウトカムは、入院の最初の3日間における広域スペクトラム抗菌薬による累積治療日数(患者1人当たりに投与された広域スペクトラム抗菌薬の数×日数として算出。たとえば、最初の3日間に2種類の広域スペクトラム抗菌薬を少なくとも1回ずつ投与した場合は6日間とする)。副次アウトカムはバンコマイシンおよび抗緑膿菌薬による経験的治療など、安全性アウトカムはICU転室までの日数、在院期間などであった。CPOE介入により広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%減少 試験期間に肺炎で入院した非重症成人患者は9万6,451例(ベースライン期間5万1,671例、介入期間4万4,780例)であった。患者背景は、平均(SD)年齢68.1(17.0)歳、男性48.1%、Elixhauser併存疾患指数中央値は4(四分位範囲[IQR]:2~6)であった。 経験的治療日数1,000日当たり患者1人当たりの広域スペクトラム抗菌薬累積治療日数は、CPOE介入群ではベースライン期間613.9日から介入期間428.5日に減少したのに対して、対照群ではそれぞれ633.0日、615.2日であった。 施設および期間別にクラスタリングした率比(RR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.66~0.78、p<0.001)であり、対照群と比較してCPOE介入群では広域スペクトラム抗菌薬による経験的治療が28.4%(95%CI:22.2~34.1、p<0.001)有意に減少した。副次アウトカムも同様の結果であった。 安全性アウトカムについては、介入期間におけるICU転室までの平均日数(対照群6.5日、CPOE介入群7.1日)および在院期間(それぞれ6.8日、7.1日)に両群で差は認められなかった。

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急性感染症での安全性、CFPM vs.TAZ/PIPC/JAMA

 先行研究でセフェピム(CFPM)は神経機能障害を、タゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC)は急性腎障害を引き起こす可能性が指摘されている。米国・ヴァンダービルト大学医療センターのEdward T. Qian氏らは「ACORN試験」において、急性感染症で入院した成人患者を対象に、これら2つの抗菌薬が神経機能障害または急性腎障害のリスクに及ぼす影響を評価し、タゾバクタム・ピペラシリンは急性腎障害および死亡のリスクを増加させなかったが、神経機能障害のリスクはセフェピムのほうが高かったことを報告した。研究の成果は、JAMA誌2023年10月24・31日の合併号に掲載された。米国の単施設の実践的な無作為化試験 ACORN試験は、セフェピムとタゾバクタム・ピペラシリンの安全性の評価を目的に、ヴァンダービルト大学医療センターの救急診療部(ED)または集中治療室(ICU)に入院した感染症疑いの成人患者を対象に行われた実践的な非盲検無作為化試験であり、試験期間は2021年11月~2022年10月であった(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、来院後12時間以内にEDまたはICUで医師により抗緑膿菌セファロスポリン系またはペニシリン系の抗菌薬がオーダーされた患者を、セフェピムまたはタゾバクタム・ピペラシリンを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、14日目までの急性腎障害の最重度の病期または死亡とし、5段階(0[急性腎障害なしの生存]~4[死亡])の順序尺度で評価した。副次アウトカムは、14日目の時点での主要有害腎イベント(死亡、新規腎代替療法、持続性腎機能不全などの複合)と、14日目までのせん妄および昏睡のない生存日数で評価した神経機能障害であった。セフェピムの神経毒性、腎機能低下や敗血症で多いとの報告も 2,511例を主要アウトカムの解析の対象とした。年齢中央値は58歳(四分位範囲[IQR]:43~69)、42.7%が女性であった。94.7%はEDでの登録で、77.2%は登録時にバンコマイシンの投与を受けており、来院から登録までの時間中央値は1.2時間(IQR:0.4~3.5)、54.2%が敗血症で、最も多く疑われた感染源は腹腔内と肺であった。セフェピム群に1,214例、タゾバクタム・ピペラシリン群に1,297例を割り付けた。 最重度の急性腎障害または死亡は、セフェピム群ではステージ3の急性腎障害が85例(7.0%)、死亡が92例(7.6%)で、タゾバクタム・ピペラシリン群ではそれぞれ97例(7.5%)、78例(6.0%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.80~1.13、p=0.56)。 14日目の時点での主要有害腎イベントは、セフェピム群が124例(10.2%)、タゾバクタム・ピペラシリン群は114例(8.8%)で発生し、両群間に有意差はなかった(絶対群間差:1.4%、95%CI:-1.0~3.8)。 14日以内にせん妄および昏睡のない平均生存日数は、タゾバクタム・ピペラシリン群が12.2(SD 4.3)日であったのに対し、セフェピム群は11.9(SD 4.6)日と短かった(OR:0.79、95%CI:0.65~0.95)。また、14日目までに、セフェピム群の252例(20.8%)とタゾバクタム・ピペラシリン群の225例(17.3%)が、せん妄または昏睡を経験した(絶対群間差:3.4%、95%CI:0.3~6.6)。 著者は、「セフェピムは、血液脳関門を通過し、γ-アミノ酪酸受容体に対して濃度依存性の阻害作用を示し、症例集積研究やコホート研究において昏睡、せん妄、脳症、痙攣などの神経毒性を伴うことが報告されている。また、セフェピムによる神経毒性は、腎機能が低下している患者や、敗血症のような血液脳関門が障害された病態の患者で、より高頻度に発現するとの報告がある」と指摘している。

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関節形成術の感染予防、バンコマイシン追加は有効か/NEJM

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の保菌が確認されていない関節形成術を受ける患者において、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与にバンコマイシンを追加しても手術部位感染予防効果は改善しないことが示された。オーストラリア・モナシュ大学のTrisha N. Peel氏らが、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Australian Surgical Antibiotic Prophylaxis trial:ASAP試験」の結果を報告した。現行ガイドラインでは、関節形成術における感染予防としてセファゾリンや第2世代セファロスポリン系抗菌薬の投与が推奨されているが、MRSAやメチシリン耐性表皮ブドウ球菌の感染は予防できない恐れがある。バンコマイシンの追加で手術部位感染が減少する可能性があるが、有効性および安全性は不明であった。NEJM誌2023年10月19日号掲載の報告。術後90日以内の手術部位感染の発生を評価 研究グループは、関節形成術を受ける18歳以上の患者で、MRSAの感染/コロニー形成が証明されていない、またはその疑いがない患者を、セファゾリンによる標準的な周術期抗菌薬予防投与に加えて、バンコマイシン1.5g(体重50kg未満の患者では1g)を静脈内投与する群(バンコマイシン群)または生理食塩水を投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、術後90日以内のすべての手術部位感染(表層切開創、深部切開創および臓器/体腔感染)の発生。安全性アウトカムは、急性腎障害、抗菌薬に対する過敏反応、180日死亡などであった。 2019年1月15日~2021年10月29日に4,239例が無作為化された(新型コロナウイルス感染症の流行により手術が長期にわたり中断されたため、計画された4,450例の98.0%に当たる4,362例が登録された時点で試験終了となった)。 4,239例中、割り付けられて手術を受けた4,113例(膝関節形成術2,233例、股関節形成術1,850例、肩関節形成術30例)が修正ITT集団に組み入れられた。バンコマイシン上乗せの有効性は認められず、膝関節形成術ではむしろ感染が増加 修正ITT集団4,113例において、手術部位感染はバンコマイシン群で2,044例中91例(4.5%)、プラセボ群で2,069例中72例(3.5%)に発生し、相対リスクは1.28(95%信頼区間[CI]:0.94~1.73、p=0.11)であった。 膝関節形成術における手術部位感染の発生率は、バンコマイシン群5.7%(63/1,109例)、プラセボ群3.7%(42/1,124例)、相対リスクは1.52(95%CI:1.04~2.23)であった。一方、股関節形成術における手術部位感染の発生率はそれぞれ3.0%(28/920例)、3.1%(29/930例)、相対リスクは0.98(95%CI:0.59~1.63)であった。 有害事象は、バンコマイシン群で2,010例中35例(1.7%)、プラセボ群で2,030例中35例(1.7%)に発現した。過敏反応はそれぞれ24例(1.2%)、11例(0.5%)(相対リスク2.20、95%CI:1.08~4.49)、急性腎障害は42例(2.1%)および74例(3.6%)(相対リスク0.57、95%CI:0.39~0.83)に認められた。

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「ザイボックス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第71回

第71回 「ザイボックス」の名称の由来は?販売名ザイボックス注射液600mgザイボックス錠600mg一般名(和名[命名法])リネゾリド(JAN)効能又は効果○〈適応菌種〉本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)〈適応症〉敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎○〈適応菌種〉本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム〈適応症〉各種感染症用法及び用量<ザイボックス注射液 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに、それぞれ30分~2時間かけて点滴静注する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。<ザイボックス錠 600mg>通常、成人及び12歳以上の小児にはリネゾリドとして1日1200mgを2回に分け、1回600mgを12時間ごとに経口投与する。通常、12歳未満の小児にはリネゾリドとして1回10mg/kgを8時間ごとに経口投与する。なお、1回投与量として600mgを超えないこと。警告内容とその理由警告本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「5.効能又は効果に関連する注意」、「8.重要な基本的注意」 の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年9月29日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年6月改訂(第17版)医薬品インタビューフォーム「ザイボックス®注射液600mg・ザイボックス®錠600mg」2)Pfizer for Professionals:製品情報

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その症状もアナフィラキシーですよ!【Dr.山中の攻める!問診3step】第4回

第4回 その症状もアナフィラキシーですよ!―Key Point―皮膚や粘膜に症状がなくてもアナフィラキシーを診断するある日、中学2年生の女生徒が息苦しさを主訴に、学校から救急車で搬送されてきました。頻呼吸と喘鳴があり、唇がひどく腫脹しています。あどけない少女が救急室でおびえながら涙を流している姿を見てショックを受けました。学校で解熱鎮痛薬を飲んだ後に症状が出現したとのことです。アナフィラキシーによる呼吸器症状と血管浮腫です。改めて恐ろしい病気だと思いました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき原因はコチラ!【原因と病態生理】1)アナフィラキシーはIgEを介した即時型(I型)アレルギー反応によることが多い(薬剤、食物、虫刺され、ラテックス)。アレルゲンが肥満細胞や好塩基球の表面に存在するIgEと抗原抗体反応を起こすと、ヒスタミンやトリプターゼ、ブラジキニンなどのケミカルメディエーターが放出され全身反応が起こるIgEが介在せずに補体の活性化や未知の機序により肥満細胞が活性化されることもある(アスピリン、バンコマイシン、造影剤、運動、寒冷)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】診断へのアプローチ【診断】アナフィラキシーは頻繁に見逃されている可能性がある皮膚や粘膜に症状がなくてもアナフィラキシーと診断できる(下図)アニサキスもアナフィラキシーに関与しているとの報告がある2)(図)画像を拡大する【STEP3】治療や対策を検討する【治療】大腿前外側にアドレナリンを筋注する(大人では0.3~0.5mg、子供では0.01mg/kg)必要なら筋注を5~20分毎に繰り返すβブロッカーを内服しているとアドレナリンの反応が悪くなる。この場合はグルカゴン1A(1mg)を静注する下肢を挙上し、十分な補液(生食1000mL)をする死亡の多くの原因は循環血漿量の減少である(empty heart syndrome)軽快後に再び症状が起こる(ニ相性反応)ことが10~20%あるので、中等症以上では入院させる。帰宅する場合も4時間は院内での滞在を勧めるH1受容体拮抗薬(例:d-クロルフェニラミン[商品名:ポララミン ほか])とH2受容体拮抗薬(例:ファモチジン[同:ガスター ほか])を投与するステロイドが二相性反応を抑制するという明確なエビデンスはない3)。しかし、効果を期待してメチルプレドニゾロン(同:メドロール ほか)1~2mg/kgを静注することもある【予防】アレルゲンを明らかにするためには病歴を繰り返し聴取することが重要アナフィラキシーを起こすことが予想される患者にはエピペンを処方し携帯させる<参考文献・資料>1)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 16th. Elsevier. 2019. 1654-1658.2)国立感染症研究所:IASR.アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー3)Cochrane:Glucocorticoids for the treatment of anaphylaxis

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「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第51回

第51回 「塩酸バンコマイシン」の名称の由来は?販売名塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g※塩酸バンコマイシン散はインタビューフォームが異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])バンコマイシン塩酸塩(JAN)[日局]効能又は効果1.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、腹膜炎、化膿性髄膜炎2.<適応菌種>バンコマイシンに感性のメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)<適応症>敗血症、感染性心内膜炎、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、関節炎、腹膜炎、化膿性髄膜炎3.<適応菌種>バンコマイシンに感性のペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)<適応症>敗血症、肺炎、化膿性髄膜炎4.MRSA 又は MRCNS 感染が疑われる発熱性好中球減少症用法及び用量通常、成人にはバンコマイシン塩酸塩として1日2g(力価)を1回0.5g(力価)6時間ごと又は1回1g(力価)12時間ごとに分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。高齢者には、1回0.5g(力価)12時間ごと又は1回1g(力価)24時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。小児、乳児には、1日40mg(力価)/kgを2~4回に分割して、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。新生児には、1回投与量を10~15mg(力価)/kgとし、生後1週までの新生児に対しては12時間ごと、生後1ヵ月までの新生児に対しては8時間ごとに、それぞれ60分以上かけて点滴静注する。警告内容とその理由本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「効能・効果に関連する使用上の注意」、「用法・用量に 関連する使用上の注意」の項を熟読の上、適正使用に努めること。禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者【原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)】1.テイコプラニン、ペプチド系抗生物質又はアミノグリコシド系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者2.ペプチド系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、テイコプラニンによる難聴又はその他の難聴のある患者[難聴が発現又は増悪するおそれがある。]※本内容は2021年5月12日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年10月改訂(改訂第16版)医薬品インタビューフォーム「塩酸バンコマイシン点滴静注用0.5g」2)シオノギ製薬:製品情報一覧

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世界のICU患者、1日の感染症有病率は50%以上/JAMA

 世界88ヵ国の同じ1日における集中治療室(ICU)入室患者の感染症有病率は54%と高く、その後の院内死亡率は30%に達し、死亡リスクも実質的に高率であることが、ベルギー・エラスム病院のJean-Louis Vincent氏らが行った点有病率調査「EPIC III試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2020年3月24日号に掲載された。ICU入室患者は感染症の頻度が高い。感染症の種類、原因となる病原菌、アウトカムに関する情報は、予防や診断、治療、医療資源配分の施策の策定に役立ち、介入試験のデザインの一助となる可能性があるという。同氏らは、これまでに、同様のデザインに基づく研究(EPIC試験[1995年]、EPIC II試験[2009年])の結果を報告している。88ヵ国1,150施設で、24時間の点有病率を調査 研究グループは、88ヵ国1,150施設の参加の下、世界中のICUにおける感染症の発生とそのアウトカム、および利用可能な医療資源に関する情報を得る目的で、24時間の点有病率を調査する観察横断研究を行った。 解析には、2017年9月13日午前8時(現地時間)から24時間の期間に、ICUで治療を受けたすべての成人(年齢18歳以上)患者が含まれた。患者の除外基準は設けなかった。最終フォローアップ日は2017年11月13日だった。 主要アウトカムは、感染症有病率、抗菌薬投与(横断的デザイン)、院内全死因死亡(縦断的デザイン)とした。抗菌薬投与率は70%、VREは死亡率が2倍以上 1万5,202例(平均年齢61.1[SD 17.3]歳、男性9,181例[60.4%])が解析の対象となった。試験当日に、44%が侵襲的機械換気、28%が昇圧薬治療、11%は腎代替療法を要した。試験開始前のICU入室期間中央値は3日(IQR:1~10)、総ICU入室期間中央値は10日(3~28)だった。 感染症のデータは1万5,165例(99.8%)で得られた。ICU感染1,760例(22%)を含め、感染症疑い/確定例は8,135例(54%)であった。1万640例(70%)が1つ以上の抗菌薬の投与を受けた。このうち28%が予防的投与、51%は治療的投与で、それぞれセファロスポリン系(51%)およびペニシリン系(36%)の抗菌薬が最も多かった。 地域別の感染症疑い/確定例の割合には、オーストララシアの43%(141/328例)からアジア/中東地域の60%(1,892/3,150例)までの幅が認められた。また、感染症疑い/確定例8,135例のうち、5,259例(65%)が少なくとも1回の微生物培養で陽性を示した。このうち3,540例(67%)がグラム陰性菌、1,946例(37%)がグラム陽性菌、864例(16%)は真菌であった。 感染症疑い/確定例の院内死亡率は30%(2,404/7,936例)であった。ICU感染は、市中感染に比べ院内死亡リスクが高かった(オッズ比[OR]:1.32、95%信頼区間[CI]:1.10~1.60、p=0.003)。 また、抗菌薬耐性菌のうち、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)(2.41、1.43~4.06、p=0.001)、第3世代セファロスポリン系およびカルバペネム系抗菌薬を含むβ-ラクタム系抗菌薬に耐性のクレブシエラ属(1.29、1.02~1.63、p=0.03)、カルバペネム系抗菌薬耐性アシネトバクター属(1.40、1.08~1.81、p=0.01)は、他の菌による感染症と比較して死亡リスクが高かった。 著者は、「今回の感染症疑い/確定例の割合(54%)は、EPIC試験(45%、1992年に評価)およびEPIC II試験(51%、2007年に評価)に比べ高かった。プロトコルの変更や技術的な改善による検出率向上への影響は除外できないが、培養陽性例の割合はEPIC II試験よりも低かった(65% vs.70%)。ICU感染例の割合(22%)はEPIC試験(21%)と同等だった」としている。

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MRSA菌血症におけるβラクタム薬の併用効果(解説:吉田敦氏)-1207

 MRSA菌血症では、限られた抗菌薬の選択肢を適切に使用しても、血液培養陰性化が達成できなかったり、いったん陰性化しても再発したり、あるいは播種性病変を来してしまう割合は高い。in vitroや動物実験の結果を背景とし、抗MRSA薬にβラクタム薬を追加すれば臨床的な効果が上乗せできるのではないかと長らく期待されてきたが、実際は培養結果判明までなど短期間併用されている例は相当数存在するものの、併用のメリット・デメリットが大規模試験で前向きに評価されたことはほとんどなかった。 本試験はオーストラリアで行われ、MRSA菌血症判明例を、βラクタム薬と抗MRSA薬の併用群と抗MRSA単独投与群にランダムに割り付けた。プライマリーエンドポイントは90日後の総死亡、5日目の持続菌血症、菌血症再発、14日目以降の無菌検体からのMRSA検出とし、さらにセカンダリーエンドポイントとして14、42、90日の総死亡、2日目と5日目の持続菌血症、急性腎障害(AKI)、微生物学的な再発・治療失敗、静注抗菌薬の投与期間を解析している。なおβラクタム薬の併用期間は7日間と定めた。 最終的に、用いられた抗MRSA薬のほとんど(99%)はバンコマイシンで、3日目の血中濃度のトラフは20μg/mL程度と十分上昇しており、残りはダプトマイシンの4%であった(重複があると思われる)。βラクタム薬はflucloxacillinないしクロキサシリンが主体で、セファゾリンは少数であった。MRSA菌血症の治療効果に関する指標では、2群間で有意な差はなく、βラクタム薬による上乗せ効果は証明できなかったが、併用群でAKI発症割合が高いことが判明し、この臨床試験は途中で打ち切りとなることが決定した。なお薬剤別のAKI発症割合は、flucloxacillinは28%、クロキサシリンは24%、セファゾリンは4%であった。 途中での打ち切りのために長期的な予後や、症例数を増やした2群間差のさらなる解析は難しくなったが、仮に上乗せ効果が多少ある結果となっても、併用によってAKI発生が増加したことを鑑みると、全体としてβラクタム薬の併用を支持することにはならないと思われる。なお本研究には、抗ブドウ球菌用ペニシリンのnafcillinは含まれていない。さらに本邦は状況が異なり、クロキサシリンはアンピシリンとの合剤として発売されているのみであり、flucloxacillinとnafcillinは利用できない。現実的にはセファゾリンのデータを参考にすることになるが、セファゾリンにはそもそも中枢神経への移行が乏しいという欠点があり、黄色ブドウ球菌菌血症で中枢神経病変が合併しやすい点から好ましいとは言い難い。一方でこれまでの前向きのランダム化試験では、症例数が少ないながらバンコマイシン・flucloxacillinの併用と、バンコマイシン単剤が比較され、併用群で菌血症持続期間が短かったという1)。しかしこの菌血症持続期間は本試験ではアウトカムとされず、再現性があるかは明確にされなかった。 このように本試験自体の限界もあるが、本試験のような大規模比較試験を組み、実行することは容易ではない。過去を含めても、少なくとも併用のメリットを支持する報告(臨床的な比較試験による)が少ないのは一致するところといえ、併用療法に相当のメリットがあることが示されなければ、今後も併用に関する積極的な支持は出にくいと考える。

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