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免疫CP阻害薬、心血管障害スクリーニングの結果/腫瘍循環器学会

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の免疫関連有害事象(irAE)としての心血管障害は、報告数は少ないものの、発症すると重篤化する。しかし、真の発生頻度や種類、発生時期については明らかになっていない。国際医療福祉大学三田病院の古川 明日香氏らは、腫瘍循環器学会において、同院の腫瘍循環器外来におけるICI使用時における心血管障害イベントのスクリーニングの意義について発表した。 スクリーニングの検証は、Active Screening Protocolを作成して行われた。このProtocolは、ICI投与開始前に腫瘍循環器外来を予約。ベースライン(投与開始前)、投与開始後、定期的に、血液学的検査(CK、CK-MB、トロポニンI、BNP、D-dimerなど)、心電図、胸部レントゲン、心エコー検査のフォローアップを行うというもの。 対象は2018年10月31日までに同院でICIの投与を受けたがん患者。対象患者は、Passive Consultation群(ICI投与後、心血管障害出現時に同科紹介となったケース)と、Active Screening群(投与開始前からプロトコールに準じてモニタリングしたケース)に分けて評価された。評価項目は、イベント(症候性で循環器治療介入を要するもの)、心血管関連検査異常(循環器特異的治療介入を要しない検査値のみの異常のもの)であった。 主な結果は以下のとおり。・同院でICI投与を受けた症例は91例。そのうちPassive Consultation群は28例、Active Screening群は63例であった。・Passive Consultation群では、2例7.1%に致死的イベントを認めた。・Active Screening群では、27例42.9%に心血管関連検査異常を認めたが、致死的イベントは認めなかった。・検査異常出現までの日数は、平均30.4日と比較的早期の発現が多かった。・治療開始前の心血管疾患既往・合併の有無による心血管関連検査異常の発生に差は認めなかった。・重篤化した症例では、症状に出現に先行してCK上昇を認めており、CK上昇を放置すると、その後 心筋傷害が進行する可能性が示唆された。 Active Screeningにより、心血管関連検査異常を確認できた。また、CK上昇の早期発見と介入により、致死的イベントを回避できる可能性が示唆された。治療開始前の心血管疾患合併の有無にかかわらず、プロトコール化されたモニタリングが重要であると考えられる。

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ACS疑い例の高感度心筋トロポニン測定は、心筋梗塞を抑制するか/Lancet

 心筋トロポニンIの高感度アッセイは、心筋障害または心筋梗塞の約6分の1を再分類するが、1年以内の心筋梗塞または心血管死の発生には影響を及ぼさないことが、英国心臓財団Centre for Cardiovascular ScienceのAnoop SV Shah氏らが行ったHigh-STEACS試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年8月28日号に掲載された。心筋梗塞のUniversal Definitionは、トロポニン測定値の健常基準集団の99パーセンタイル以上への上昇を、心筋梗塞の診断の閾値とするよう推奨しているが、この推奨値が臨床アウトカムを改善するかは不明だという。ACS疑いの入院患者で、2つのアッセイの診断能を評価 本研究は、急性冠症候群(ACS)疑い例において、男女別の99パーセンタイル診断閾値を用いた高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)アッセイの導入が、心筋梗塞や心血管死を抑制するかを評価するstepped-wedge, cluster-randomized controlled trialであり、スコットランドの2次・3次病院10施設が参加した(英国心臓財団の助成による)。 対象は、ACS疑いで救急診療部に入院し、contemporary心筋トロポニンI(cTnI)アッセイおよびhs-cTnIアッセイの双方の測定が行われた患者であった。6~12ヵ月の検証期間中は、hs-cTnIアッセイの結果は医師に知らされず、cTnIアッセイが治療のガイドに用いられた。 参加施設は、初期導入群(5施設)と後期導入群(5施設)に無作為に割り付けられ、前者は検証期間終了直後にhs-cTnIアッセイと男女別の99パーセンタイル診断閾値(女性:>16ng/L、男性:>34ng/L)が導入され、後者は6ヵ月後に導入された。 主要評価項目は、初発入院後1年以内の心筋梗塞(タイプ1、タイプ4b)または心血管死であった。補正後の一般化線形混合モデルを用いて、hs-cTnIアッセイ導入の前後で、hs-cTnIアッセイによって再分類された患者のアウトカムを比較した。高感度アッセイの99パーセンタイル診断閾値に疑問が生じる 2013年6月10日~2016年3月3日の期間に、ACS疑いの4万8,282例(平均年齢61[SD 17]歳、女性47%)が登録された(検証期間:1万8,978例[39%]、導入期間:2万9,304例[61%])。 このうち1万360例(21%)が、心筋トロポニンI濃度が正常範囲の99パーセンタイル以上であることが、cTnIアッセイまたはhs-cTnIアッセイで同定された。hs-cTnIアッセイは、心筋障害または心筋梗塞と判定された1万360例のうち、cTnIアッセイで同定されなかった1,771例(17%)を再分類した。 再分類された患者における1年以内の心筋梗塞または心血管死の発生率は、検証期間が15%(105/720例)、導入期間は12%(131/1,051例)であった(導入期間の検証期間に対する補正オッズ比:1.10、95%信頼区間:0.75~1.61、p=0.620)。 著者は、「これらの知見は、心筋梗塞の診断閾値は健常基準集団の99パーセンタイルとしてよいか、との疑問を生じさせる」としている。

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CVリスク患者の術前運動耐容能評価にご用心/Lancet

 心臓以外の大手術前に行う運動耐容能の評価には、主観的評価は用いるべきではないことが、カナダ・Li Ka Shing Knowledge InstituteのDuminda N. Wijeysundera氏らによる国際共同前向きコホート試験の結果、示された。運動耐容能は大手術リスクアセスメントの重要な項目の1つであるが、それに対する医師の臨床上の主観的評価は必ずしも正確ではない。研究グループは、術前の主観的評価と、死亡や合併症を予測する代替フィットネスマーカー(心肺運動負荷試験[CPET:cardiopulmonary exercise testing]、DASI:Duke Activity Status Index、NT pro-BNP)を比較する検討を行った。Lancet誌オンライン版2018年6月30日号掲載の報告。主観的評価と代謝マーカー測定値の予測分類を比較 検討は、25病院(カナダ5、英国7、オーストラリア10、ニュージーランド3)で、心臓以外の大手術を予定しており、1つ以上の心臓合併症リスク(心不全、脳卒中、糖尿病の既往など)または冠動脈疾患があるとみなされた40歳以上の成人患者を対象に行われた。 被験者の運動耐容能は、術前評価クリニックで信頼できる麻酔科医によって、代謝当量(metabolic equivalents)の単位で評価・分類された(<4:不良、4~10:中等度、>10:良好)。また、質問票に基づくDASIスコア、CPETでの最大酸素摂取量、血液検査による血漿NT pro-BNP値の測定も行われた。手術後には、術後3日間または退院までの連日、心電図および血液検査によるトロポニン値とクレアチニン値の測定が行われた。 主要アウトカムは、術後30日間の死亡または心筋梗塞の発生で、CPETと手術の両方を受けた全患者について評価した。予後の精度はロジスティック回帰法、ROC曲線、およびネットリスク再分類を用いて評価した。DASIスコアの評価が有用 2013年3月1日~2016年3月25日に、CPETと手術を受けた1,401例が試験に包含された。年齢中央値は65歳(IQR:57~72)、女性は39%、91%がAmerican Society of Anesthesiologists Physical Status(ASA-PS)分類でClass 2または3であり、大半が主要な腹部、骨盤領域または整形外科の手術を受けた患者であった。 術後30日間に死亡または心筋梗塞を発症した患者は28/1,401例(2%)であった。 CPETで運動耐容能が不良(代謝当量<4)と識別された患者について、主観的評価による識別の感度は19.2%(95%信頼区間[CI]:14.2~25)、特異度は94.7%(93.2~95.9)であった。 1,401例のうち、DASIスコアの評価を完了していたのは1,396例(99.6%)であったが、同スコアのみが、主要アウトカムを有意に予測した(補正後オッズ比:0.96、95%CI:0.83~0.99、p=0.03)。 著者は、「臨床医にとって心臓に関するリスクアセスメントでは、DASIなどが客観的指標として代替できるだろう」と述べている。

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ダビガトランが非心臓手術後心筋障害の合併症リスク抑制/Lancet

 非心臓手術後心筋障害(MINS:myocardial injury after non-cardiac surgery)を呈した患者に対し、ダビガトラン(商品名:プラザキサ)110mgの1日2回投与が、重大出血の有意な増大を認めることなく主要血管合併症(血管死、非致死的心筋梗塞など)のリスクを抑制することが、カナダ・マックマスター大学のP J Devereaux氏らによる国際無作為化プラセボ対照試験「MANAGE試験」の結果、明らかにされた。ダビガトランは周術期静脈血栓塞栓症を予防するが、MINS患者の血管合併症に有用であるかはこれまで検討されていなかった。MINS患者は世界で年間800万人に上ると推計され、術後2年間に心血管合併症や死亡リスクの増大が認められている。著者は今回の結果を受けて、「ダビガトラン110mgの1日2回投与により、それら患者の多くを助ける可能性が示された」とまとめている。Lancet誌2018年6月9日号掲載の報告。19ヵ国84病院で、ダビガトラン110mgの1日2回経口投与 vs.プラセボ ダビガトランの主要血管合併症の抑制効果を検討するMANAGE試験は、19ヵ国84病院から、45歳以上で非心臓手術後35日以内にMINSを呈した患者を登録して行われた。 被験者を無作為に1対1の割合で、ダビガトラン110mgを1日2回経口投与する群、または適合プラセボ投与を受ける群に割り付け、投与は最長2年間または試験終了までとした。また、MANAGE試験では部分的2×2ファクトリアルデザイン法が用いられ、プロトンポンプ阻害薬の非服用患者を、オメプラゾール20mgを1日1回投与する群、または適合プラセボ投与を受ける群に1対1の割合で割り付け、主要上部消化管合併症への効果の評価も行われた。無作為化は、試験担当者によって中央施設の24時間コンピュータ無作為化システムを利用したブロック無作為化、層別化が行われ、患者、医療従事者、データ収集者、アウトカム判定者は、治療割付をマスキングされた。 主要有効性アウトカムは、主要血管合併症(血管死、非致死的心筋梗塞、非出血性脳卒中、末梢動脈血栓症、下肢切断、症候性静脈血栓塞栓症)の発生で、主要安全性アウトカムは、致命的・重大・重要臓器出血の複合で、intention-to-treat法に基づき解析が行われた。主要血管合併症の発生ハザード比は0.72、ダビガトラン群で有意に減少 2013年1月10日~2017年7月17日に、1,754例がダビガトラン(877例)またはプラセボ(877例)の投与を受けた。平均年齢はともに70歳、男性はそれぞれ52%、51%。MINSの診断基準は、両群とも80%がトロポニン値評価によるものだった。MINSの診断は術後1日、無作為化は診断後5日に行われた。MINS発症前の手術タイプは整形外科が両群とも最も多かった(38%、39%)。 試験薬の投与は、ダビガトラン群401/877例(46%)で、プラセボ群380/877例(43%)で中断となった。投与期間中央値は、ダビガトラン群80日(IQR:10~212)、プラセボ群41日(6~208)。中断とならなかった患者の投与期間中央値は、それぞれ474日(237~690)、466日(261~688)であった。 主要有効性アウトカムの発生は、ダビガトラン群(97/877例[11%])がプラセボ群(133/877例[15%])よりも有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.55~0.93、p=0.0115)。 主要安全性複合アウトカムは、ダビガトラン群29例(3%)、プラセボ群31例(4%)で発生した(HR:0.92、95%CI:0.55~1.53、p=0.76)。 なお、オメプラゾールに関する割り付けが行われた患者は556例。結果は別途報告される予定という。

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心不全を予防するために何をすべきか/日本循環器学会

 高齢者の増加と共に心不全患者数も増加し、わが国は、心不全パンデミック時代に直面しようとしている。そのような中、今後、心不全については治療だけでなく、予防という観点が重要となる。2018年3月23~25日に大阪で開催された、第82回日本循環器学会学術集会プレナリーセッションで、わが国の心不全予防について、佐賀大学 循環器内科 田中 敦史氏が講演した。バイオマーカーによるプレ・クリニカルからの先制医療 心不全の発症には、さまざまな要素が関連することから、患者それぞれのステージに合った、適切な介入が必要になってくる。田中氏はNT-proBNPの活用について紹介した。 久山町研究において、NT-proBNP値の上昇は、たとえ軽度でも、将来的な心血管疾患のリスク上昇に関連していることが報告されている。また、平成20~21年に佐賀県浦之崎病院(現:伊万里松浦病院)において実施した、就労世代におけるNT-proBNPと各検査項目との関連解析では、全体の20%がリスク群まで上昇していることが判明した。NT-proBNPはhs-トロポニンTなどの心筋障害マーカーとも相関する事から、一般就労世代のバイオマーカーとして、先制医療に活用可能であると考えられる。心不全予防に有望なSGLT2阻害薬 心不全予防では、基礎疾患管理も重要である。SGLT2阻害薬は今回改訂された心不全ガイドラインでもハイリスク糖尿病患者の心不全予防の第1選択の1つとして捉えられている。EMPA-REG試験、CANVAS試験、いずれにおいても心不全死または心不全入院を減少させている。さらに、現在、カナグリフロジンを用いて、慢性心不全を合併した2型糖尿病においてNT-proBNPの変化を評価するCANDLE研究が始まっている。再入院予防の戦略 心不全は、入院を繰り返すことで、悪化していく。心不全の再入院の頻度は退院後30日以内で25%に上る。カナダの研究では、心不全入院患者、心血管系のアウトカムに関しては、平均5~6日の入院期間が最も良好であった。限られた期間の中で、患者の医学的、社会的側面を含むさまざまな要素を評価すること。また、地域に戻った後のシームレスなケアが、心不全再入院予防の鍵となるであろうと田中氏は述べた。

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「わかりにくさ」が招く誤解と混乱(解説:今中和人氏)-783

 古今東西の常識として、わかりにくい情報提示では物事を正しく伝えることは難しいが、このわかりにくい論文は以下の4つを検討している。(1)2009~2015年のnon-randomizedな大動脈弁置換(約1/4で冠動脈バイパス[CABG]を併施)症例を、午前手術した群と午後手術した群に分け、短期・中期成績を検討(2)2016年の単独大動脈弁置換 88例を午前群と午後群の各44例にrandomizeし、短期成績を検討(3)上記(2)の88例中30例程度で術中に心房組織を採取し、虚血・再灌流後の収縮力の実験的検討と、多数の遺伝子の発現程度の検討(4)マウスのLangendorffモデルにおける、虚血・再灌流と遺伝子Rev-Erbαの検討 preliminary な検討のはずの(1)が大々的に、また(1)~(3)は渾然と記載されており、(1)の結果なのか(2)・(3)の結果なのか、相当わかりにくい。 本論文を一層わかりにくくしているのは、(1)、(2)とも短期のイベントの大多数が周術期心筋梗塞(PMI)なのだが、ガイドラインにあっても大多数の読者に馴染みがないtype 5 AMIという、本来はCABG後のPMIを若干modifyして定義している。この定義は曲者で、バイオマーカーとして用いた高感度トロポニンTは、CABGでは術前から上昇している症例があるので、閾値が「変動係数の10倍以上の上昇」と数値が明示されず、並列要件である「退院時の心エコー図での壁運動異常」の内容も定義されていないので、PMIと言われても実情が把握し難いことがひとつ。もうひとつは(2)でトロポニンを72時間後まで6回測定し、数値としてはそのarea under the curve(AUC)しか提示されておらず、普通はそんなデータの取り方はしないので、PMIを自分の経験と対照して把握できない。いずれの手法も先例があったり、ガイドラインに記されていたり、論文内でPMIの定義を使い分けるのもヘンだ、などと理由付けはしうるが、ともかく結果的に実にわかりにくい。 そもそもタイトルが、手術症例でRev-Erbαなる遺伝子を操作したかのような錯覚を招く、わかりにくいものである。 ちなみに最重要な(2)の結果は、死亡は両群ゼロで在院日数も同じ12日で臨床的には同等だが、72時間のトロポニンのAUCは午後群が有意に低く、PMIは午後群が有意に少なく(16% vs. 4%)、退院時駆出率45%未満症例も午後群が有意に少なかった(11% vs. 4%)--なお、術前はこの比較はなく、術前後の変化でもない。 ただ、トロポニンのAUC値は午後群が午前群の80%で、統計学的に有意でも臨床的意義は大いに疑問である。極端な高値でなければ(例えばCKMBの50と40)臨床的には枝葉末節だが、著者の主張どおりこの差は概日リズムの影響なのかもしれない。 ところが、この「わかりにくさ」と有名誌のゆえか、困った展開になっているのである。 手術患者は誰しも予後に大いに関心があるので、この論文はLancetの本国イギリスはもとより日本でも一般向けのメディアにも多数とり上げられ、論旨を忠実に反映した記事もあるが、多くはパッとしないrandomized study の(2)を黙殺し、(3)と実は直接の関係がないnon-randomizedの(1)とを密に関係付け、著者らがPMIとする症例の実態が把握し難いことも無視して、概日リズムのおかげで午後の手術はイベントが半分に減ると報じている。ひどいのになると「午後は生存率が2倍になる」とか「手術するなら午後にしてくれと担当医に頼みなさい」などと、意図的な曲解や扇動のようなことが書かれているのだ。こんな記事を読んだ患者さんや御家族に説明するなんて、想像するだけでうんざりするのは私だけではあるまい。 なお、この論文には他にも気になる点はいくつかあるが、何よりもまず、多くの心臓外科医に尋ねてみると、案の定、結論が大多数の現場の臨床医の感覚に合致せず、多数の追試は必須である。個人的には、患者の概日リズムより医療者の概日リズムの方がはるかに影響が大きいように思う(本論文では所要時間だけを根拠に否定している)が、いかがであろうか?

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高感度トロポニンIが陰性だったら、胸痛患者を安心して帰宅させることができるのか?(解説:佐田 政隆 氏)-779

 1人で当直をしていて、胸痛を主訴に来院した患者に対して、帰宅させて大丈夫かどうかと悩んだことがある医師も多いと思う。何も異常ありませんので、明日、昼間に再来院して精密検査をしましょうと言って帰したところ、急性冠症候群で、家で心肺停止になることなどは絶対に避けなければならない。通常、心電図、胸部レントゲン、心エコーなどが施行されると思うが、非常に些細な変化で、非循環器専門医では、判断に迷うことがたびたびあるのではないだろうか。また、心電図、通常の心エコーではまったく異常を来さない、左回旋枝の急性心筋梗塞や不安定狭心症があるのも事実である。 そういった状況で、血液検査は有用である。白血球、CPK、CPK-MB、AST、LDH、CRPなどが上昇していれば急性冠症候群が強く疑われる。また、全血で迅速診断できる、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)とトロポニンT検出キットも臨床で頻用されている。しかし、このような検査は発症から数時間経過しないと上昇しないことがあり、感度、特異度とも十分とはいえない。そういった中、近年注目されているのが、高感度トロポニンI検査である。 本論文においては、9ヵ国からの19試験のシステマティックレビューが行われ、22,457症例に関してメタ解析が行われた。心筋トロポニンI値5ng/L未満は、30日時点の心筋梗塞/心臓死の陰性適中率が99.5%と高く、有用であるとの報告である。しかし逆にいうと、心筋トロポニンI値5ng/L未満であった11,012例中0.5%に当たる60例が、30日以内に、心筋梗塞もしくは心臓死を経験している。 以上を踏まえると、胸痛を訴えて受診した患者で、心筋トロポニンI値が5ng/L未満であるから、急性冠症候群を否定できるので帰宅させることは決してできないと考えられる。受診していながらも、急性冠症候群を見落とされ、命を失う患者が1人でもあってはならない。私は、特異度は低くても、感度を100%にするようにと、学生や医局員にはいつも話している。そのためには、丁寧な問診、各種検査を駆使することが重要である。高感度トロポニンI検査が利用できる現在でも、急性冠症候群をあやしいと思ったら、取りあえず入院させて、心電図や血液検査の、数時間おきのフォローアップが重要である。

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ACS疑い患者のイベント指標は高感度心筋トロポニンI値5ng/L/JAMA

 急性冠症候群(ACS)疑い患者で高感度心筋トロポニンI値が5ng/L未満の場合は、30日以内の心筋梗塞や心臓死のリスクが低いことが示された。英国・エディンバラ大学のAndrew R. Chapman氏らが、ACS疑い患者におけるリスク層別化ツールとして、受診時の心筋トロポニンIの閾値5ng/Lの性能を評価したシステマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。高感度心筋トロポニンI検査はACS疑い患者の評価に広く使用されており、5ng/L未満は低リスクとみなされているが、至適閾値であるかは明らかになっていない。JAMA誌2017年11月11日号掲載の報告。約2万2,500例のACS疑い患者についてメタ解析 研究グループは、2006年1月1日~2017年3月18日の期間で、MEDLINE、EMBASE、Cochrane、Web of Scienceのデータベースを用い、心筋梗塞の一般的な定義によって診断されたACS疑い患者において、高感度心筋トロポニンI値を測定した前向き研究を検索した。 1万1,845報が特定され、このうち104報について全文を調査し、9ヵ国からの19件のコホートがシステマティックレビューに組み込まれた。個々の患者のデータは、17件については筆頭著者から入手して他の2件のデータと統合し、計2万2,457例(平均年齢62[SD 15.5]歳、女性9,329例[41.5%])がメタ解析に組み込まれた。 主要アウトカムは、30日時点の心筋梗塞/心臓死であった。リスク層別化は、個々の患者データを用い、サブグループおよびトロポニン値の範囲で実施された。心筋トロポニンI値5ng/L未満は、30日時点の心筋梗塞/心臓死の陰性適中率99.5% 計2万2,457例のうち、主要アウトカムである30日時点の心筋梗塞/心臓死は2,786例(12.4%)に発生した。受診時の心筋トロポニンI値が5ng/L未満であった患者は1万1,012例(49%)、このうち60例で登録時イベントまたは30日イベントを見逃していた(59例が登録時の心筋梗塞、1例が30日時点の心筋梗塞、心臓死の見逃しはなし)。 主要アウトカムの陰性適中率は99.5%(95%信頼区間[CI]:99.3~99.6)であった。心臓死の陰性適中率は99.9%(95%CI:99.7~99.9)で、30日心臓死の発生はなく、1年心臓死は7例(0.1%)であった。 著者は、すべてのコホートが同じプロトコールを使用しているわけではないこと、発症後すぐに受診した患者の割合が10%と低いことなどを研究の課題として挙げたうえで、「今回のリスク層別化法の臨床的有用性や費用対効果を理解するために、さらなる研究が必要である」と述べている。

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トロポニン検査、陽性適中率を上げる方法は?/BMJ

 高感度心筋トロポニン検査を、幅広く、事前の臨床評価もなく行った場合、トロポニン値の上昇を認める患者がよくみられ、その大部分は心筋梗塞よりも心筋障害を反映したものであることが明らかにされた。英国・エディンバラ大学のAnoop S. V. Shah氏らが、ヘルスケア設定が異なる患者集団を対象とした前向きコホート試験の結果で、BMJ誌2017年11月7日号で発表した。高感度心筋トロポニン検査は心筋梗塞の診断を改善するが、急性冠症候群を伴わない患者の心筋障害検出を増大する可能性が示唆されていた。非選択集団(英国)、選択的集団(英米国)で、陽性適中率を検証 研究グループは、高感度心筋トロポニン検査を受ける患者の選択方法が、心筋梗塞の診断に与える影響を調べた。英国と米国の2次および3次機能病院で高感度心筋トロポニンIの測定を受けた、3つの独立した連続患者集団(計8,500例)を前向きに評価した。具体的には、緊急部門を受診し検査を受けた非選択的患者集団(英国1,054例)と、主治医の要請で検査を受けた2つの選択的集団(英国5,815例、米国1,631例)であった。 被験者を、それぞれの定義に基づき判定した最終診断で、Type1心筋梗塞(定義:急性冠症候群が疑われる心筋壊死と心電図上で心筋虚血の所見を認める)、Type2心筋梗塞(定義:頻拍性不整脈、低血圧症、貧血などによる心筋虚血と心筋壊死を認める)、心筋障害(定義:心筋虚血のあらゆる特性が認められないが心筋壊死が認められる)に分類し評価した。 主要評価項目は、Type 1心筋梗塞の診断に関する心筋トロポニン値上昇(>99thパーセンタイル値)の陽性適中率であった。99thパーセンタイル値上限参照値は、男性34ng/L、女性16ng/Lであった。選択的集団でも陽性適中率に差 心筋トロポニン値上昇は、非選択的患者群では13.7%(144/1,054例)で認められた。Type1心筋梗塞の有病率は1.6%(17/1,054例)で、陽性適中率は11.8%(95%信頼区間[CI]:7.0~18.2)であった。 一方、選択的患者群については、英国の患者群で心筋トロポニン値上昇が認められたのは24.1%(1,403/5,815例)。Type1心筋梗塞の有病率は14.5%(843/5,815例)で、陽性適中率は59.7%(95%CI:57.0~62.2)であった。米国の患者群では25.4%(415/1,631例)、Type1心筋梗塞の有病率は4.2%(68/1,631例)で、陽性適中率は16.4%(95%CI:13.0~20.3)であった。 2つの選択的患者群で、陽性適中率が最も高かったのは胸痛、心電図上での虚血、虚血性心疾患歴のある患者であった。 著者は、「今回観察された所見は、さまざまなヘルスケア設定がある中で心筋トロポニン検査について“患者の選択方法”が重要で、それが心筋梗塞の診断に関する陽性適中率に著しい影響を与えることを示すものであった」とまとめている。

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心原性ショックを伴う急性心筋梗塞、まずは責任病変のPCIを/NEJM

 心原性ショックを伴う多枝病変の急性心筋梗塞(AMI)患者において、同時多枝経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施した患者よりも、最初に責任病変のみにPCIを実施した患者のほうが、死亡または腎代替療法につながる重症腎不全の30日複合リスクが低かった。ドイツ・ライプチヒ大学病院のHolger Thiele氏らが、CULPLIT-SHOCK試験の結果を報告した。心原性ショックを伴うAMI患者では、PCIによる責任動脈の早期血行再建が予後を改善するが、心原性ショック状態の患者の多くは多枝病変を有しており、非責任動脈の狭窄に対してPCIをただちに行うかどうかについては、なお議論の的となっていた。NEJM誌オンライン版2017年10月30日号掲載の報告。AMI患者約700例を、責任病変単独PCI群と多枝PCI群に無作為化 CULPLIT-SHOCK試験(Culprit Lesion Only PCI versus Multivessel PCI in Cardiogenic Shock trial)は、欧州で行われた多施設共同無作為化非盲検試験である。対象は心原性ショックを伴う多枝病変のAMI患者706例で、責任病変のみにPCIを施行する責任病変単独PCI群(段階的に非責任病変の血行再建術も行う選択肢を伴う)と、責任病変と同時に非責任病変に対してもPCIを施行する多枝PCI群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、無作為化後30日以内の死亡または腎代替療法を要する重症腎不全の複合で、安全性エンドポイントは、出血(BARC出血基準でタイプ2・3・5)および脳卒中などとした。intention-to-treat解析を行い、カイ2乗検定を用いて事象発生率を比較した。責任病変単独PCI群で死亡/重症腎不全リスクが17%減少 30日時点で、主要複合エンドポイントは、責任病変単独PCI群344例中158例(45.9%)、多枝PCI群341例中189例(55.4%)に認められた(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.71~0.96、p=0.01)。多枝PCI群に対する責任病変単独PCI群の死亡の相対リスクは0.84(95%CI:0.72~0.98、p=0.03)で、腎代替療法の相対リスクは0.71(95%CI:0.49~1.03、p=0.07)であった。 血行動態安定までの期間、カテコラミン療法のリスクとその期間、トロポニンT値、クレアチニンキナーゼ値、および出血/脳卒中の発生率に関しては、両群間で有意差は確認されなかった。 著者は研究の限界として、非盲検試験であり、最終同意を得られず評価できなかった患者がいたこと、割り付けられた治療から他の治療に変更した患者が75例いたことなどを挙げている。

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大動脈弁置換術、午後のほうが成績よい?/Lancet

 大動脈弁置換術を受ける患者について調べたところ、手術を午後に行った患者のほうが午前に行った患者に比べ、心血管死や心筋梗塞などの主要有害心血管イベントの発生リスクが低かった。この現象には時計遺伝子発現の日内変動が関与しており、核内受容体Rev-Erbαアンタゴニストが、心保護の薬理学的戦略となりえることが示唆されたという。フランス・リール大学のDavid Montaigne氏らが、観察試験と無作為化比較試験、および生体外心筋モデルなどを用いた前臨床試験の結果、明らかにした。on-pump心臓手術が、周術期心筋虚血-再灌流傷害を引き起こすことはあらかじめわかっているが、臨床的アウトカムとの関連性についてはほとんどわかっていない。研究グループは、大動脈弁置換術を受ける患者の周術期心筋障害の発生について日内変動があるのか、またその分子機構を明らかにする検討を行った。Lancet誌オンライン版2017年10月26日号掲載の報告。観察試験と無作為化試験、心筋モデル試験で評価 研究グループは2009年1月1日~2015年12月31日にかけて、重度大動脈弁狭窄があり左室駆出率(LVEF)が50%超に保持され、リール大学に紹介されて大動脈弁置換術を受けた連続患者を対象に、前向き観察試験を行った。被験者は、傾向スコアでマッチングを行った596例(午前に手術298例、午後に手術298例)だった。 また、2016年1月1日~2017年2月28日にかけて、大動脈弁狭窄で大動脈弁置換術を実施予定の患者88例を対象に無作為化試験を行った。手術を午前に行う群(44例)と午後に行う群(44例)に無作為に割り付け、周術期心筋障害の検査と心筋サンプル採取を行い評価した。 さらに、生体外(ex vivo)低酸素・再酸素化モデルでヒトおよびマウス心筋を評価し、無作為化試験被験者の心筋サンプルについてトランスクリプトーム解析を行い、関連するシグナル経路の特定を試みた。 試験の主要目的は、大動脈弁置換術を受けた時間(午前または午後)による、虚血-再灌流の心筋耐性が異なるのか、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、急性心不全による入院)の発生により評価することだった。周術期心筋トロポニンT放出幾何平均値、午後群は午前群の8割 前向き観察試験において、術後500日の追跡期間中、主要有害心血管イベントの発生率は、午後群が午前群に比べ有意に低かった(ハザード比:0.50、95%信頼区間[CI]:0.32~0.77、p=0.0021)。 無作為化試験では、周術期心筋トロポニンT放出幾何平均値は、午後群が午前群に比べ有意に低かった(午後群の午前群に対する推定幾何平均値比:0.79、95%CI:0.68~0.93、p=0.0045)。 ヒト心筋ex vivo解析では、低酸素・再酸素化耐性が午前と午後で変動すること、および核内受容体Rev-Erbαの時計遺伝子発現の転写が午前中に最大になることが示された。 また、低酸素・再酸素化により心筋障害を起こしたランゲンドルフ・マウスモデルの検討で、Rev-Erbα遺伝子欠失またはアンタゴニストによる治療により、虚血・再灌流修復因子CDKN1a/p21の発現が増加し、睡眠・覚醒移行期の損傷が減ることが示された。

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低酸素血症でない心筋梗塞疑い例に酸素療法は無効/NEJM

 低酸素血症のない急性心筋梗塞が疑われる患者に酸素療法を行っても、1年全死因死亡率は低下せず効果は確認されなかった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のRobin Hofmann氏らが、スウェーデンの全国レジストリを用いた多施設非盲検無作為化比較試験「DETO2X-AMI試験」の結果、明らかにした。これまで1世紀以上にわたり、酸素療法は急性心筋梗塞疑い患者の治療に用いられ、臨床ガイドラインでも推奨されている。酸素療法は梗塞サイズを縮小するとされていたからだが、ST上昇型心筋梗塞患者を対象にしたAVOID試験で、酸素療法群のほうが梗塞サイズが大きいことが報告され、さらに最新のコクランレビューで心筋梗塞患者へのルーチンの酸素療法は支持するエビデンスはないことが示され、低酸素血症のない急性心筋梗塞疑い患者に対する酸素療法の臨床的効果はきわめて不透明であった。NEJM誌オンライン版2017年8月28日号掲載の報告。SpO2≧90%の急性心筋梗塞疑い約6,600例を、酸素療法群と室内気群に無作為化 研究グループは、2013年4月13日~2015年12月30日に、急性心筋梗塞が疑われ(発症後6時間未満)、酸素飽和度90%以上で、虚血を示唆する心電図所見またはトロポニン値上昇を認める30歳以上の患者6,629例を、酸素療法群(オープンフェイスマスクで6L/分、6~12時間)、または酸素療法を行わない室内気群に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者登録とデータ収集には、スウェーデンにおけるエビデンスに基づいた心疾患治療の向上と発展のためのウェブシステム(SWEDEHEART)を利用した。 主要評価項目は、無作為化後1年以内の全死因死亡(intention-to-treat解析)、副次評価項目は無作為化後30日以内の全死因死亡、心筋梗塞による再入院などであった。1年全死因死亡率、心筋梗塞による再入院率は、両群で有意差なし 酸素療法期間の中央値は11.6時間、治療期間終了時の酸素飽和度中央値は酸素療法群99%、室内気群97%であった。 低酸素血症の発症は、酸素療法群で62例(1.9%)、室内気群で254例(7.7%)に認められた。入院中のトロポニン最高値の中央値は、酸素療法群で946.5ng/L、室内気群で983.0ng/Lであった。 主要評価項目である無作為化後1年以内の全死因死亡率は、酸素療法群5.0%(3,311例中166例)、室内気群5.1%(3,318例中168例)で、有意差はなかった(ハザード比[HR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.79~1.21、p=0.80)。1年以内の心筋梗塞による再入院は、それぞれ126例(3.8%)、111例(3.3%)で、酸素療法の効果は認められなかった(HR:1.13、95%CI:0.88~1.46、p=0.33)。事前に定義した全サブグループにおいて、結果は同様であった。

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高感度心筋トロポニンT、非心臓手術後の死亡と関連/JAMA

 非心臓手術施行例では、術後3日間の高感度心筋トロポニンT(hsTnT)のピーク値が30日死亡リスクと関連することが、カナダ・マックマスター大学のP.J.Devereaux氏らが行ったVISION試験で示された。心筋虚血の臨床所見がみられない場合でも、hsTnT値上昇は30日死亡と関連したという。研究の成果は、JAMA誌2017年4月25日号に掲載された。非心臓手術後心筋障害(myocardial injury after noncardiac surgery:MINS)は、術後30日以内に発症した心筋虚血に起因する心筋障害と定義され、死亡との独立の関連が確認されている。非高感度心筋トロポニンTアッセイに基づくMINSの診断基準が確立されているが、米国食品医薬品局(FDA)は最近、hsTnTの使用を承認し、世界的に多くの病院でhsTnTアッセイが用いられている。13ヵ国の2万例以上を対象とする前向きコホート試験 本研究は、非心臓手術時の周術期hsTnT値と、術後30日死亡および心筋障害との関連を検討する前向きコホート試験であり、13ヵ国23施設の参加の下、2008年10月に開始され2013年12月にフォローアップを終了した(Roche Diagnostics社など60件以上の助成を受けた)。 年齢45歳以上、全身または局所麻酔下に非心臓手術を受け、術後1晩以上入院した患者2万1,842例が対象となった。術後6~12時間にhsTnT値を測定し、1日1回、3日間の測定が行われた。 修正Mazumdarアプローチ(hsTnT値の閾値を探索する反復的プロセス)を用いて、独立して30日死亡と関連し、補正ハザード比(HR)≧3.0、30日死亡率≧3%を満たす、予後予測に重要な術後hsTnTの閾値の最低値を確定した。 また、MINSの診断基準を明らかにするために、診断には術後hsTnT値上昇とともに、30日死亡に関連する心筋虚血の臨床所見(虚血性症状または心電図所見)が必要かを確定する回帰分析を行った。hsTnT値≧20ng/L、絶対値≧5ng/L上昇で死亡リスク増大 対象の平均年齢は63.1(SD 10.7)歳、49.1%が女性であった。術後30日以内に266例(1.2%、95%信頼区間[CI]:1.1~1.4)が死亡した。 多変量解析では、参照群(ピークhsTnT値<5ng/L)と比較して、術後ピークhsTnT値20~<65ng/L、同65~<1,000ng/L、同≧1,000ng/Lの群の30日死亡率は、それぞれ3.0%(123/4,049例、95%CI:2.6~3.6%)、9.1%(102/1,118例、95%CI:7.6~11.0)、29.6%(16/54例、95%CI:19.1~42.8)であり、補正後HRは23.63(95%CI:10.32~54.09)、70.34(95%CI:30.60~161.71)、227.01(95%CI:87.35~589.92)と、ピーク値が上昇するほど死亡リスクが高くなった。 hsTnT値の変化の絶対値≧5ng/Lの上昇は、30日死亡リスクの増大と関連が認められた(補正HR:4.69、95%CI:3.52~6.25)。また、虚血の臨床所見のない場合でも、術後hsTnT値上昇(術後ピークhsTnT値20~<65ng/Lの群のうち絶対値で≧5ng/L上昇した例および≧65ng/L群)は30日死亡と関連した(補正後HR:3.20、95%CI:2.37~4.32)。MINSを発症した3,904例のうち、3,633例(93.1%、95%CI:92.2~93.8)には虚血性症状がみられなかった。 著者は、「術後ピークhsTnT値≧20ng/LおよびhsTnT値の絶対値で≧5ng/Lの上昇が、30日死亡リスクの上昇と関連した」とまとめ、「これらの知見に基づき、MINSの診断基準は、虚血の臨床所見を要さない心筋虚血(非虚血性の病因のエビデンスはない)の結果と判定される術後hsTnT値の上昇であり、MINSは重大な心血管合併症リスクの増加と関連した」としている。

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善玉ナトリウム利尿ペプチドは急性心不全には効かない?(解説:絹川 弘一郎 氏)-671

 心不全の悪玉は交感神経系とレニン・アンジオテンシン系である、といわれてきた。一方、診断や重症度分類に有用なナトリウム利尿ペプチドはANPとBNPが代表であり、血管拡張作用とあわせて善玉ではないかと推察されている。もっとも、この善玉は通常、悪玉に負ける弱いヒーローであるが、ネプリライシンという善玉分解酵素を抑制することで助け舟を出すとやっと力を発揮して、ついに(条件付きではあるけれども)ACE阻害薬を上回る効果を有する薬剤(sacubitril/valsartan)の開発に結実した。 では、そもそもANPやBNPを静注してみたらどうなのだろうと思うのは、当然わく疑問である。わが国においてはカルペリチドというANP静注製剤が急性心不全治療薬として非常にポピュラーであり、ほとんど無意識・無批判のうちに投与されてきたが、一転、海外に目を向けるとBNP静注製剤nesiritideはASCEND-HFという大規模臨床試験による検証を経て、そのシェアを著しく減らした。今回、同様のナトリウム利尿ペプチドであるularitideの大規模な検証が、このTRUE-AHF試験である。 結論から言うと、またもナトリウム利尿ペプチドは急性心不全に使用しても予後改善効果が得られず、ASCEND-HF試験と同じ結果に終わった。おそらく、ularitideは認可されることはないと思われる。この試験でNT-proBNPはularitide群で有意に低下しており、その利尿効果や血管拡張作用は心不全の血行動態改善に寄与していると考えられるが、それでも予後は差がない。 このようなことを考えると心不全のサロゲートマーカーとして観察研究では非常に有用である血中BNP濃度であるが、いつも予後のマーカーになるとは限らないわけである。この意味でBNPをエンドポイントにおいて一旦有用とされても、その後ハードエンドポイントで否定されることもありうる。その実例はアリスキレンのALOFT試験と、その後のATMOSPHERE試験である。急性心不全に対する治療薬は、ごく最近serelaxinも第3相試験で予後改善効果が認められなかったことが発表されて、新規薬剤承認の見通しが立たない様相を呈している。このようなグローバルの現況を受けて、わが国においてカルペリチドの予後改善効果について大規模臨床試験を行おうという声が、まったく出てこないのはどういうわけであろうか?

75.

ウラリチド、急性心不全における心血管死の減少示せず/NEJM

 ナトリウム利尿ペプチドのularitideは急性心不全患者において、心筋トロポニン値に影響を及ぼすことなくBNP低下など好ましい生理的作用を示したが、短期間の治療では臨床的な複合エンドポイントや長期の心血管死亡率を減少させることはなかった。米国・ベイラー大学医療センターのMilton Packer氏らが、急性心不全患者に対するularitide早期投与の長期的な心血管リスクへの影響を検証したTRUE-AHF試験の結果を報告した。急性心不全に対してはこれまで、心筋壁応力(cardiac-wall stress)と潜在的な心筋傷害を軽減し、長期予後を改善するための治療として、血管拡張薬静脈投与による早期介入が提唱されていた。NEJM誌オンライン版2017年4月12日号掲載の報告。急性心不全患者約2,000例で、ウラリチド早期投与の有効性をプラセボと比較 TRUE-AHF(Ularitide Efficacy and Safety in Acute Heart Failure)試験は、2012年8月~2014年5月の期間、23ヵ国156施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験である。対象は、18~85歳の急性心不全患者2,157例で、標準治療に加えularitide(15ng/kg/分、48時間持続点滴)を投与する群と、プラセボを同様に投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、初回臨床評価から12時間以内に試験薬の投与を開始することとした。 主要評価項目は、全試験期間における心血管死と、当初の48時間における臨床経過を階層的に評価した複合エンドポイント(当初48時間における死亡、静注または機械的な介入を要する心不全の持続または悪化、6・24・48時間後の総合評価)であった。心血管死や心筋トロポニン値の変化に両群で有意差なし 試験薬の投与開始時間中央値は最初の評価から6.1時間後(四分位範囲:4.6~8.4)、追跡期間中央値は15ヵ月であった。 心血管死は、ularitide群で236例、プラセボ群で225例発生した(21.7% vs.21.0%、ハザード比:1.03、96%信頼区間:0.85~1.25、p=0.75)。intention-to-treat解析において、両群間で階層的複合エンドポイントに有意差は認められなかった。 ularitide群ではプラセボ群と比較して、収縮期血圧とN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が低下した。一方で、対応データを有した患者(55%)において、試験薬投与中の心筋トロポニンT値の変化は両群間で差はなかった。 著者は、「試験薬の投与が最初の評価から1~3時間以内のより早期の介入であればさらに良好な結果が得られた可能性や、トロポニンT値を投与前後で測定できたのは約半数など研究の限界があり結果の解釈には注意を要するが、ularitideは心筋障害を軽減せず疾患の進行に影響を及ぼさなかった」とまとめている。

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低心機能合併の開心術に予防的強心薬投与がイベントを減らすか?(解説:絹川 弘一郎 氏)-670

 冠動脈バイパス術や弁膜症の開心術は術前の心機能が低下している例があり、人工心肺による侵襲ともあわせて、周術期に低心拍出量症候群で難渋することがある。ドブタミンをはじめとしたカテコラミンはほぼルーチンでそのような場合に使用されているが、必ずしも心筋保護という観点で良いものとは考えられていない。カテコラミンの心筋に対する好ましくない作用というのは、その強心作用が心筋酸素消費量の増大を常に伴うという点にあると考えられている。また、静注強心薬では不足で、機械的補助循環を余儀なくされるものもあり、低心拍出量症候群を効果的に回避しうる手段が待たれて久しい。そこで、心筋の酸素消費量を増大させずに強心作用を有する薬剤というのが、以前から開発のターゲットとなってきた。その1つがこの試験で使用されたlevosimendanである。 levosimendan自体は1990年代に開発された静注薬で、そんなに新しいものではない。心筋トロポニンCと結合して収縮蛋白のCa2+感受性を高める作用により、細胞内のCa2+の増加もなく、またATP消費も増加させずに(したがって、酸素消費量を増やさずに)より大きな張力を発生できるとされている。Ca2+センシタイザーという呼び方もある。一方で、血管平滑筋細胞のKチャンネルオープナーでもあり、血管を弛緩させるため、後負荷軽減をもたらし、心不全の血行動態改善に貢献するとされる。あわせて、inodilator(強心血管拡張薬)とも呼ばれる。 従来、levosimendanは急性心不全の治療においてドブタミンの代わりになるか、さらにドブタミンより優れた効果があるかが主として検証されてきた。いくつかの小規模な臨床試験では血行動態の改善や短期予後の改善なども示唆されてきたが、 REVIVE II(プラセボと比較)とSURVIVE(ドブタミンと比較)という2つのRCTでそれぞれ90日、180日の予後が改善せず、FDAが認可するに至っていない。わが国でも導入されていないことは周知の通りである。メタ解析では死亡率改善の結果が出ているが、エビデンスの読み方の難しさというか、メタ解析のレベルを問う必要性があると痛感する。 それはさておき、急性心不全の領域ではドブタミンに代わりうるものとの可能性が薄れた後、最初に述べた低心機能症例の開心術における予防投与という観点が注目され始めた。その検証を行ったのがこのLEVO-CTS試験である。対象はプラセボであり、カテコラミンなどを術前に併用することは基本的に主治医判断となっている。術前に割り付けを行い、プラセボまたは実薬の投与は24時間継続する。levosimendanに割り付けられた群では術後の低心拍出量症候群の発症が少なく、強心薬を追加投与する必要のある症例も当然少なかったものの、30日以内の死亡に有意差がなく、術後5日目までの機械的補助を必要とした群を減らすこともできなかったため、levosimendanの予防投与が有効であるとは位置付けられなかった。どうやら、この薬剤は内科治療的にも外科周術期的にも明確な有効性を証明することが難しいようである。 カテコラミンの悪が強調されており、酸素消費量を増やさないこの手の薬剤がいつも話題となる。そして、omecamtiv mecarbilというミオシンアクチベーターが今臨床試験の最中であるが、どうすれば強心作用と予後改善の2つを共に手に入れられるのか、まだ手探り状態である。

77.

透析にコエンザイムQ10、どう関係する?

 酸化ストレスは、末期腎疾患患者の心血管リスク増大に関連している。酸化ストレスを軽減する治療は、透析患者の心血管イベント発生を改善する可能性がある。そこでコエンザイムQ 10(CoQ10)が維持血液透析下の患者の酸化ストレスを抑制するかが検討された。American Journal of Kidney Diseases誌オンライン版2016年12月4日号掲載の報告。<試験デザイン> プラセボ対照、3アーム、二重盲検、無作為化、臨床試験<方法> 試験対象は週に3回の維持血液透析を受けている患者65例。 対象者を、CoQ101日1回600mg投与群、1,200mg投与群、プラセボ群に無作為かつ均等に割り付けた。 ベースラインおよび1、2、4ヵ月目に、F2-イソプロスタンおよびイソフランを酸化ストレスの血漿マーカーとして、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチドおよびトロポニンTを心臓バイオマーカーとして測定した。 主要評価項目は、血漿中F2-イソプロスタン濃度として定義された、血漿中の酸化ストレスとした。 副次評価項目は、血漿イソフラン、心臓バイオマーカーのレベル、透析前の血圧および安全性/忍容性とした。 主な結果は以下のとおり。・4ヵ月時点のCoQ101,200mg投与群では、プラセボ群と比較して、血漿中F2-イソプロスタン濃度が有意に低下した(調整平均変化は、1,200mg投与群:-10.7[95%信頼区間、-7.1~-14.3]pg/mL[p<0.001]、プラセボ群:-8.3[95%信頼区間、-5.5~-11.0]pg/mL[p=0.1])。・血漿イソフラン、心臓バイオマーカー、透析前の血圧においては、CoQ10治療の有意な効果は認められなかった。・治療に関連した重大な有害事象は発生しなかった。 維持血液透析下の患者において、CoQ101,200mgを毎日摂取することで酸化ストレスのマーカーである血漿中F2-イソプロスタン濃度の減少が認められた。また安全性も認められた。 今回の試験では無作為化グループ間のベースライン特性の差異があるため、小さな治療効果は検出しなかった。そのため、今後はCoQ10の摂取により臨床的アウトカムが改善されるか検討がなされるべきである。

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CAD-Man試験:冠動脈CT(CTCA)は虚血性心疾患診療適正化のゲートキーパーになれるか?(解説:中野 明彦 氏)-614

【はじめに】 CTCAは冠動脈狭窄の評価に加え、positive remodelingに隠されたプラークの検出(内腔のみを判定する冠動脈造影[CAG]では冠動脈硬化症の重症度が過小評価になってしまう)、胸痛を呈する非冠動脈疾患(肺梗塞・大動脈解離・心膜炎・肺炎胸膜炎・食道裂肛ヘルニアなど)の鑑別を非侵襲的に行える利点を有する。有意狭窄判定の感度・特異度は報告によりばらつきがあるが、陰性適中率については100%近い精度を示し虚血性心疾患のルールアウトに有用というのが共通認識となっている。これらの利点により、CTCAはすでに日本の津々浦々の循環器専門病院やクリニックで導入されているが、臨床現場でどう使っていくかについてのスタンスは施設ごとにまちまちであり、これからの課題と考えられる。 その指標となる本邦での直近の指針「冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン(JCS 2009)1)」を整理してみると、以下のようになる。(UAP;不安定狭心症、NSTEMI;非 ST上昇型急性心筋梗塞、STEMI;ST上昇型急性心筋梗塞) *:安定狭心症のリスク層別化は検査前有病予測を意味し、胸痛の性状や臨床所見から推測する急性冠症候群の短期リスク評価とは異なる。胸痛の特徴(1.胸骨後部に手のひらで押されたような圧迫感,重苦しさ、2.労作に伴って出現、3.安静により治まる)を満たす項目数により典型的狭心症・非典型的狭心症・非狭心症性胸痛に分類し、年齢・性別を加味して層別化するが、非典型的狭心症の大半と非狭心症性胸痛で男性(>40歳)/高齢女性(>60歳)が中リスク群に分類される2)。検査前有病予測ではDuke clinical score2)がよく知られている。 【CAD-Man試験について】 ドイツから報告された CAD-Man(Coronary Artery Disease Management)試験は、特定のクリニカルシナリオ(30歳以上の非典型的狭心症および非狭心症性胸痛;2つ以上の負荷試験陽性例を除く)を対象としたCTCAとCAGとの無作為比較試験である。中リスクが多い対象群であり、上記「IIa 安定狭心症」に重なる。 詳細は、別項(本ページ上部:オリジナルニュース)に譲るが、要約すると、CTCAを選択しても放射線被曝量・3年間の心血管イベントの発生頻度は変わらず、QOL(入院期間・満足度)が高かった。CTCA群で最終診断ツールであるCAGが実施された割合は14%であり、当然のことながらその正診率(75%)は高く、CAG群の5倍だった。さらに、一連の検査・治療による大合併症(1次エンドポイント)は不変、小合併症は有意に抑制された。 わずか329例、single centerでの研究がBMJ誌に掲載されたことに驚かされたが、これまでCTCAとCAGとの直接比較が少なかったことや、特定のシナリオを設定しその有用性を示した点が評価されたのだろう。 本研究への疑問点・課題をいくつか提示しておきたい。 まずは、有病率の低さ(CTCA群11%、CAG群15%)である。トロポニンI/T値や心電図変化を対象外とせず、したがって急性冠症候群(UAP/NSTEMI)を許容する一方、全症例の平均年齢は60歳、半数が女性で糖尿病合併率は20%未満、虚血性心疾患の既往症例は除外された。さらに非典型的狭心症も半数以下だったことから、実際にはCTCA・CAGの適応とならない低リスク群が多数含まれていたと推察される。Duke clinical scoreから34.3%と予測した筆者らにとっても誤算だったであろうが、対象症例の有病率の低さは、検査に伴う合併症や長期予後の点に関してCTCA群に有利に働いた可能性があるし、被曝の観点からも問題である。 次に、血行再建術適応基準が示されていない点が挙げられる。CTCA群のみMRIでの当該領域心筋バイアビリティー≧50%が次のステップ(CAG)に進む条件となっているが、血行再建術の適応はCAG所見のみで決定されている。負荷試験の洗礼を受けない対象症例達は生理的・機能的評価なしに解剖学的要件のみで“虚血”と判断されたことになり、一部overindicationになっている可能性がある。 さらに、研究施設の日常臨床の延長線上で行われた本研究では、CTCAはすべて入院下で施行された。この点は、外来で施行されることが多い本邦の現状とは異なる。同様の試験を日本で行えば、入院期間やコスト面で、CTCA群での有効性にさらなる上積みが期待される。【冠動脈診療の適正化とCTCA】 高齢化社会の到来や天井知らずに膨らみ続ける医療経済的観点から、諸外国では医療の標準化・適正化(appropriateness)が叫ばれて久しい。虚血性心疾患診療の分野でも、治療のみならず診断の段階から appropriateness criteriaが提示されている3)。翻って、日本はどうだろうか。循環器疾患診療実態調査報告書(2015年度実施・公表) 4)から2010年と2014年のデータを比較すると、CTCAが34.6万件から42.4万件へと増加しているのに対し、CAGはいずれも49.8万件であった。待機的PCI数やCABG数があまり変化していないことを考え合わせれば、CTCAを有効かつ適正には活用できていないことになる。 CAD-Man試験は、CTCAが“不要な”CAGを減少させる可能性を示し、また反面教師として、 症例選択の重要性も示唆した。一方、血行再建症例の適応基準が課題として残っている。 多少横道にそれるが、新時代を切り開く技術としてFFRCTが注目されている。FFRCT法は CTCAのボリュームデータを使い、数値流体力学に基づいて血行動態をシミュレーションし FFRを推定する方法で、解剖学的判定と生理的・機能的評価を非侵襲的に行うことができる理想的なモダリティーである。実臨床に普及するには多くのハードルがあるが、昨年Duke大学から報告された「FFRCT版CAD-Man試験」ともいうべきPLATFORM試験5)6)では、臨床転帰を変えることなくCAGの正診率向上やコスト低減・QOL改善効果が示された。  日本でもappropriatenessの議論が始まっていると聞くが、CAD-Man試験が示したように現在のCTCAにはまだまだ課題が多い。適切な症例選択とFFRCT、これが融合すればCTCAが真のゲートキーパーとなる、と確信する。参考文献1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007―2008年度合同研究班報告)―冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン(PDF)2)Pryor DB, et al. Ann Intern Med. 1993;118:81-90.3)Hendel RC, et al. J Am Coll Cardiol. 2006;48:1475-1497.4)循環器疾患診療実態調査報告書 (2015年度実施・公表)(PDF)5)Douglas PS, et al. Eur Heart J. 2015;36:3359-3367.6)Douglas PS, et al. J Am Coll Cardiol. 2016;68:435-445.

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非ST上昇型急性冠症候群への早期侵襲的治療、15年追跡結果/Lancet

 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)に対する早期侵襲的治療は、非侵襲的治療と比較して死亡または心筋梗塞の発生を平均18ヵ月、虚血性心疾患による再入院を37ヵ月延長させた。NSTE-ACSへの早期侵襲的治療は死亡または心筋梗塞の発生率を減少させることがFRISC-II試験で初めて示されたが、今回、スウェーデン・ウプサラ大学のLars Wallentin氏らは、早期侵襲的治療の長期的な有益性について評価すべく、残存寿命の観点からFRISC-II試験の15年間の追跡調査におけるすべての心血管イベントについて解析した。結果を踏まえて著者は、「ほとんどのNSTE-ACS患者において、早期侵襲的治療は優先すべき治療選択肢であることが裏付けられた」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年8月25日号掲載の報告。NSTE-ACS患者約2,400例で早期侵襲的治療と非侵襲的治療を比較 FRISC-II試験は、スウェーデン・デンマーク・ノルウェーの58施設で実施された多施設前向き無作為化試験である。1996年6月17日~1998年8月28日にNSTE-ACS患者2,457例が登録され、7日以内の冠動脈造影で70%以上狭窄を認めた場合は血行再建を行う早期侵襲的治療群(侵襲群)と、至適薬物療法を行うも不応性または症状再発あるいは退院前の症候限界性運動負荷試験で重度の虚血が確認された場合に冠動脈造影を行う非侵襲的治療群(非侵襲群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付け時にバイオマーカー分析のため血漿を採取。長期転帰は全国医療登録のデータで確認した。 主要評価項目は、死亡または心筋梗塞の複合エンドポイントであった。追跡期間中の致死的イベント発生はKaplan-Meier法にて推算し、平均累積イベント曲線間の面積として算出した2次性イベント(再発を含む)延期期間を比較した(intention-to-treat解析)。15年間で、早期侵襲的治療は致死的イベントの発生を平均1年半延長 最低15年間追跡した2014年12月31日時点において、2,457例中2,421例(99%)で生存に関するデータが、2,182例(82%)で2年後の他のイベントに関するデータが得られた。 追跡期間中、非侵襲群と比較して侵襲群では死亡または2次性の心筋梗塞の発生が平均549日間遅延した(95%CI:204~888、p=0.0020)。この効果は、非喫煙患者(平均809日、95%CI:402~1,175、交互作用のp=0.0182)、トロポニンT値上昇を伴う患者(平均778日、95%CI:357~1,165、交互作用のp=0.0241)、増殖分化因子-15(GDF-15)濃度上昇を伴う患者(平均1,356日、95%CI:507~1,650、交互作用のp=0.0210)でより大きく、両群の差は主に新たな心筋梗塞の発生遅延によるものであった。 一方、死亡率のみでは最初の3~4年間に差がみられたものの、これは心臓死の差によるもので、時間とともに差は認められなくなった。侵襲群では、死亡または虚血性心疾患による2次性の再入院を平均1,128日(95%CI:830~1,366)遅らせ、これは全サブグループで一貫していた(p<0.0001)。

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特発性拡張型心筋症〔DCM : idiopathic dilated cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義拡張型心筋症(idiopathic dilated cardiomyopathy: DCM)は、左室の拡張とびまん性の収縮障害を特徴とする進行性の心筋疾患である。心不全の急性増悪を繰り返し、やがて、ポンプ失調や致死性不整脈により死に至る。心筋症類似の病像を呈するが、病因が明らかで特定できるもの(虚血性心筋症や高血圧性心筋症など)、全身疾患との関連が濃厚なもの(心サルコイドーシスや心アミロイドーシスなど)は特定心筋症と呼ばれ、DCMに含めない。■ 疫学厚生省特発性心筋症調査研究班による1999年の調査では、わが国における推計患者数は約1万7,700人、有病率は人口10万人あたり14.0人、発症率は人口10万人あたり3.6人/年とされる。男女比は2.5:1で男性に多く、年齢分布は小児から高齢者まで幅広い。■ 病因DCMの病因は一様ではない。一部のDCMの発症には、遺伝子異常、ウイルス感染、自己免疫機序が関与すると考えられているが、その多くがいまだ不明である。1)遺伝子異常DCMの20~30%程度に家族性発症を認めるが、孤発例でも遺伝要因が関与するものもある。心機能に関与するどのシグナル伝達経路が障害を受けても発症しうると考えられており、心筋のサルコメア構成蛋白や細胞骨格蛋白をコードする遺伝子異常だけでなく、Caハンドリング関連蛋白異常の報告もある。2)ウイルス感染心筋生検検体の約半数に、何らかのウイルスゲノムが検出される。コクサッキーウイルス、アデノウイルス、C型肝炎ウイルスなどのウイルスの持続感染が原因の1つとして示唆されている。3)自己免疫機序βアドレナリン受容体抗体や抗Caチャネル抗体といったさまざまな抗心筋自己抗体が、患者血清に存在することが判明した。DCMの発症・進展に自己免疫機序が関与する可能性が指摘されている。■ 症状本疾患に疾患特異的な症状はない。初期には無症状のことが多いが、病状の進行につれて、労作時息切れ、易疲労感、四肢冷感などの左心不全症状を認めるようになり、運動耐容能は低下する。また、動悸、心悸亢進、胸部不快感といった頻脈・不整脈に伴う症状を訴えることもある。一般には、低心拍出所見よりもうっ血所見が前景に立つことが多い。両心不全へ至ると、全身浮腫、頸静脈怒張、腹水などの右心不全症状が目立つようになる。右心機能が高度に低下している重症例では、左心への灌流低下から、肺うっ血所見を欠落する例があり、重症度判断に注意を要する。■ 予後一般に、DCMは進行性の心筋疾患であり、予後は不良とされる。5年生存率は、1980年代には54%と低かったが、最近では70~80%にまで改善したとの報告もある。標準的心不全治療法が確立し、ACE阻害薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬といった心筋保護薬の導入率向上がその主たる要因と考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)DCMの診断は、特定心筋症の除外診断を基本とすることから、二次性心筋症を確実に除外することがDCMの診断に直結する。■ 身体所見一般に、収縮期血圧は低値を示すことが多く、脈圧は小さい。聴診所見では、心尖拍動の左方偏移、ギャロップリズム(III・IV音)、心雑音および肺ラ音の聴取が重要である。■ 胸部X線多くの症例で心陰影は拡大するが、心胸郭比は低圧系心腔の大きさに依存するため、正常心胸郭比による本疾患の除外はできない。心不全増悪期には、肺うっ血像や胸水貯留を認める。Kerley B line、peribronchial cuffingが、肺間質浮腫所見として有名である。■ 心電図疾患特異度の高い心電図所見はない。ST-T異常、異常Q波、QRS幅延長、左室側高電位、脚ブロック、心室内伝導障害など、心筋病変を反映した多彩な心電図異常を呈する。また、心筋障害が高度になると、不整脈を高頻度に認めうる。■ 血液生化学検査心不全の重症度を反映し、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびその前駆体N末端フラグメントであるNT-proBNPの上昇を認める。また、交感神経活性の指標である血中カテコラミンや微小心筋障害を示唆するとされる高感度トロポニンも上昇する。低心拍出状態が進行すると、腎うっ血、肝うっ血を反映し、クレアチニンやビリルビン値の上昇を認める。■ 心エコー検査通常、びまん性左室収縮障害を認め、駆出率は40%以下となる。心リモデリングの進行に伴い、左室内腔は拡張し、テザリングや弁輪拡大から機能性僧帽弁逆流の進行をみる。最近では、僧帽弁流入血流や組織ドップラー法を用いた拡張能の評価、組織ストレイン法を用いた収縮同期性の評価など、より詳細な検討が可能になっている。■ 心臓MRI検査シネMRIによる左室容積や駆出率計測は、信頼度が高い。ガドリニウムを用いた心筋遅延造影パターンの違いによるDCMと虚血性心筋症との鑑別が報告されており、心筋中層に遅延造影効果を認めるDCM症例では、心イベントの発生率が高く、予後不良とされる。■ 心筋シンチグラフィ123I-MIBGシンチグラフィによる交感神経機能評価では、後期像での心臓集積(H/M比)の低下や洗い出し率の亢進を認める。201Tlあるいは99mTc製剤を用いた心筋シンチグラフィでは、patchy appearanceと呼ばれる小欠損像を認め、その分布は、冠動脈支配に一致しない。心電図同期心筋SPECTを用いて、左室容積や駆出率も計測可能である。■ 心臓カテーテル検査冠動脈造影は、冠血管疾患、虚血性心筋症の除外を目的として施行される。血行動態の評価目的に、左室内圧測定や左室造影による心収縮能評価、肺動脈カテーテルを用いた右心カテーテル検査も行われる。左室収縮能(最大微分左室圧: dP/dtmax)の低下、左室拡張末期圧・肺動脈楔入圧の上昇、心拍出量低下を認める。■ 心筋生検DCMに特異的な病理組織学的変化は確立されていない。典型的には、心筋細胞の肥大、変性、脱落と間質の線維化を認める。心筋炎や心サルコイドーシス、心ファブリー病などの特定心筋症の除外目的に行われることも多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DCMに対する根本的な治療法は確立していない。そのため、(1) 心不全、(2) 不整脈、(3) 血栓予防を治療の根幹とする。左室駆出率の低下を認めるため、収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠する。■ 心不全の治療1)心不全の生活指導生活習慣の是正を基本とする。適切な水分・塩分摂取量および栄養摂取量の教育、適切な運動の推奨、禁煙、感染予防などが指導すべきポイントとされる。2)薬物療法収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠し、薬剤を選択する。心臓のリバースリモデリングおよび長期予後改善効果を期待し、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といったレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬とβ遮断薬、抗アルドステロン薬を導入する。原則として、β遮断薬は、カルベジロールあるいはビソプロロールを用い、忍容性のある限り、少量より漸増する。さらに、うっ血症状に応じて、利尿薬の調節を行う。急性増悪期には、入院下に、強心薬・血管拡張薬といったより高度な点滴治療を行う。3)非薬物療法(1)心室再同期療法(CRT)左脚ブロックなど、心室の収縮同期不全を認める症例に対し、心室再同期療法が行われる。除細動機能を内蔵したデバイス(CRT-D)も普及している。心拍出量の増加や肺動脈楔入圧の低下、僧帽弁逆流の減少といった急性期効果だけでなく、慢性期効果としての心筋逆リモデリング、予後改善が報告されている。CRTによる治療効果の乏しい症例(non-responder)も一定の割合で存在することが明らかになっており、その見極めが課題となっている。(2)陽圧呼吸療法、ASVわが国では、心不全患者に対するASV(adaptive servo ventilation)換気モード陽圧呼吸療法の有用性が多く報告されており、自律神経活性の改善、不整脈の減少、運動耐容能およびQOLの向上、心および腎機能の改善などが期待されている。しかし、海外で行われた大規模臨床試験ではこれを疑問視する研究結果も出ており、いまだ議論の余地を残す。(3)心臓リハビリテーション“包括的心臓リハビリテーション”の概念のもと、運動のみならず、薬剤、栄養、介護など各領域からの多職種介入による全人的心不全管理が急速に普及している。(4)和温療法遠赤外線均等温乾式サウナを用いた低温サウナ療法が、心不全患者に有用であるとの報告がある。心拍出量の増加、前負荷軽減、肺動脈楔入圧の低下といった急性効果のみならず、慢性効果として、末梢血管内皮機能の改善、心室性不整脈の減少も報告されている。(5)僧帽弁形成術・置換術、左室容積縮小術高度の僧帽弁逆流を伴うDCM例では、僧帽弁外科的手術を考慮する。しかしながら、その有効性は議論の余地を残すところであり、左室容積縮小術の1つに有名なバチスタ手術があるが、中長期的に心不全再増悪が多いことから、最近は推奨されない。(6)左室補助人工心臓(LVAD)重症心不全患者において、心臓移植までの橋渡し治療、血行動態の安定を目的として、LVAD装着が考慮されうる。2011年以降、わが国でも植込型LVADが使用可能となり、装着患者のQOLが格段に向上した。現在、植込型LVAD装着下に長期生存を目指す“destination therapy”の是非に関する議論も始まっており、今後、重症心不全治療の選択肢の1つとして臨床の場に登場する日も近いかもしれない。しかし、ここには医学的見地のみならず、医療倫理や医療経済、日本人の死生観も大きく関わっており、解決すべき課題も多い。(7)心臓移植重症心不全患者の生命予後を改善する究極の治療法である。わが国における原疾患のトップはDCMである。不治の末期的状態にあり、長期または繰り返し入院治療を必要とする心不全、β遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA3度ないし4度から改善しない心不全、現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例が適応となる。(8)緩和医療高齢化社会の進行につれ、有効な治療効果の得られない末期心不全患者へのサポーティブケアが、近年注目されつつある。このような患者のエンドオブライフに関し、今後、多職種での議論・検討を重ねていく必要がある。■ 不整脈の治療致死性不整脈の同定と予防が重要となる。DCMによる心筋障害を基盤として発生し、心不全増悪期により出現しやすい。また、電解質異常も発生要因の1つである。そのため、心不全そのものの治療や不整脈誘発因子の是正が必要である。DCMにおける不整脈治療には、アミオダロンがよく使用される。カテーテルアブレーションが選択されることもあるが、確実に突然死を予防できる治療手段は植込型除細動器(ICD)であり、症候性持続性心室頻拍や心室細動既往を有する心不全患者の二次予防あるいは一部の心不全患者の一次予防を目的として適応が検討される。また、心房細動も高率に合併する。これまでリズムコントロールとレートコントロールで死亡率に差はないと考えられてきたが、近年これを否定するメタアナリシス結果もでており、さらなる研究結果が待たれる。■ 血栓予防治療非弁膜症性心房細動合併例では、ワルファリンのみならず、新規経口抗凝固薬の使用が考慮される。また、左室駆出率30%以下の低心機能例では、心腔内血栓の予防目的に抗凝固療法が望ましいとされるが、新規経口抗凝固薬の適応はなく、ワルファリンが選択される。4 今後の展望現在のところ、確立された根本治療法のないDCMにおける究極の治療法は、心臓移植であるが、わが国では、深刻なドナー不足により汎用性の高い治療法としての普及にはほど遠い。そのため、自己の細胞あるいは組織を用いた心筋再生治療の研究・臨床応用が進められている。しかしながら、安全な再生医療の確立には、倫理面などクリアすべき課題も多く、医用工学技術を応用した高性能・小型化した人工機器の開発研究も進められている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性拡張型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)友池仁暢ほか. 拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009−2010年度合同研究班報告).2)奥村貴裕, 室原豊明. 希少疾患/難病の診断・治療と製品開発. 技術情報協会; 2012:pp1041-1049.3)奥村貴裕. 心不全のすべて.診断と治療(増刊号).診断と治療社;2015:103.pp.259-265.4)松崎益徳ほか. 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).5)許俊鋭ほか. 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン.日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告).公開履歴初回2014年11月27日更新2016年05月31日

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