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ESMO2022 レポート 肺がん

レポーター紹介ESMO2022は2022年9月9日~13日まで現地(フランス、パリ)とオンラインのハイブリッドで開催されました。胸部疾患に関して注目をされていた重要な演題について取り上げてみたいと思います。Osimertinib as adjuvant therapy in patients (pts) with resected EGFR-mutated (EGFRm) stage IB-IIIA non-small cell lung cancer (NSCLC): Updated results from ADAURA(LBA47)国立がんセンター東病院坪井先生のご発表でした。日本でも、2022年8月に本試験の結果に基づいてオシメルチニブ(タグリッソ)はII~III期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)術後補助化学療法の適応を受けました。しかし、DFSに関して公表されたデータは2020年の論文(N Engl J Med 2020;383:1711-1723.)公表後初とのことで注目を集めました。イベントにおいて50%の成熟度に到達したことに伴う結果公表です。フォローアップ期間の中央値はオシメルチニブ群で44.2ヵ月(range 0~67、n=233)、プラセボ群で19.6ヵ月 (range 0~70、n=237)でした。主要評価項目であった、II期/IIIA期を対象としたDFS(Disease free survival, 無病生存期間)中央値はオシメルチニブ群65.8ヵ月(95%CI:54.4~算出不能) vs.プラセボ群21.9ヵ月(95%CI:16.6~27.5),(hazard ratio[HR]:0.23、95% CI:0.18~0.30)でした。DFS、OSのデータを見ると、フォローアップ期間が延びても術後補助化学療法としてのオシメルチニブの有用性はより手堅いデータになっていると感じます。「再発してからオシメルチニブ」では何故追いつかないのか?一つの仮説として、再発時にオシメルチニブ群では「遠隔」転移が少なく、その後の治療も組み立てやすかったのではないかと予想します。さらにイベントが集積されてからOSベネフィットについても議論されるでしょうが、再発予防としては十分に魅力的なデータと感じました。今後、より早期の症例におけるデータ創出などが予定されています。PD-L1 expression and outcomes of pembrolizumab and placebo in completely resected stage IB-IIIA NSCLC: Subgroup analysis of PEARLS/KEYNOTE-091(930MO)周術期のデータをもう一つ。WCLC2022でも取り上げられていましたが、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)を用いた術後補助化学療法の有用性を検討する試験です。PD-L1の発現ごとに詳細なデータが公表されました。既に承認を得ているアテゾリズマブ(テセントリク)ではIMpower010の中でPDL1発現によって治療効果が異なる傾向が示されていましたが、ペムブロリズマブは少し様子が異なるようです。以下の表を見てみましょう。すでに報告されている通り、KEYNOTE-091試験の全体の結果として、ペムブロリズマブはプラセボに比較して無病生存期間を有意に延長しています。主要評価項目の一つである(co-primary end point)TPS>0におけるDFSにおいてはプラセボと比較し統計学的には有用性が証明されませんでした。殺細胞性抗がん剤使用の有無など背景の違いに応じて、化学療法の今後、術後補助化学療法においてもPD-L1の発現をどの抗体で調べるのか、そしてその結果に応じてどう使い分けるのか議論がしばらく続きそうです。今のデータでは、PDL1高発現であれば○○、という使い分けではなく、ドライバーなしの症例では“化学療法使用にフィットするかどうか”が鍵になるような気がします。Sotorasib versus docetaxel for previously treated non-small cell lung cancer with KRAS G12C mutation: CodeBreaK 200 phase III study(LBA10)KRAS G12C阻害剤のソトラシブ(ルマケラス)は、治療歴のあるNSCLC患者に対するドセタキセル治療と比較して、12ヵ月時点での無増悪生存率を2倍にし、進行または死亡のリスクを34%低減しました。追跡期間の中央値は17.7ヵ月で、12ヵ月のPFS率は、ドセタキセル10.1%に対して、ソトラシブは24.8%でした。無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ソトラシブで 5.6ヵ月(95%CI:4.3~7.8)、ドセタキセルで4.5ヵ月(95%CI:3.0~5.7) でした (HR:0.66、95%CI:0.51~0.86、p=0.002)。化学療法と比較して、KRAS G12C 阻害薬によるグレード3以上の治療関連有害作用(TRAE)はソトラシブ群で少ない傾向にありました(33.1% vs.40.4%)。クロスオーバーもあり、OSデータは参考ながらソトラシブ群10.6ヵ月(95%CI,:8.9~14.0)ドセタセル群11.3ヵ月(95% CI:9.0~14.9)(HR:1.01、95%CI:0.77~1.33、p=0.53)でした。日本でもKRAS G12C変異をもつ既治療NSCLに対して承認を得ています。今後ソトラシブの高い忍容性から単剤での使用だけでなく、さまざまな薬剤との併用試験が行われており、結果が待たれます。Mechanism of Action and an Actionable Inflammatory Axis for Air Pollution Induced Non-Small Cell Lung Cancer: Towards Molecular Cancer Prevention.(LBA1)薬剤開発ではなく、予防の話題がLBAで取り上げられておりました。本発表は、TRACERx(NCT01888601)、The PEACE(NCT03004755)、Biomarkers and Dysplastic Respiratory Epithelium (NCT00900419)の3つの研究を統合したもので、40万人以上の症例が解析の対象となりました。大気汚染と肺がんの発症にはいくつかのエビデンスがあると報告されていますが、非喫煙者における肺がんの発症と大気汚染の関連について分子生物学的な解析は十分ではありませんでした。まず研究者らは2.5μmの粒子状物質 (PM2.5 )への暴露が増加すると、肺がんの発症が増加することを突き止めました。次に、247例の肺組織のディープシークエンスを行うことにより、正常肺にもそれぞれ15%と53%の頻度でEGFRとKRASドライバーの突然変異を発見しました。しかし、これらの変異は加齢などに伴って存在するものであり、がん化への影響は少ないようでした。しかし、PM2.5への暴露を受けた細胞はその後がん化が促進され、その機序としてインターロイキン(IL)-1βの関与が予想されました。今回得られた知見は、非喫煙者において正常細胞のEGFR変異などを検知し、IL-1βなどを標的とする治療で予防が可能になるかもしれない、という期待を持たせてくれる内容ですが、まだまだ未知のことも多く、検討の余地があります。低線量CTを用いた早期発見の取り組みと並行し、大気汚染による非喫煙者のがんを予防、治療が出来る時代が来るのかもしれません。Durvalumab (D) ± tremelimumab (T) + chemotherapy (CT) in 1L metastatic (m) NSCLC: Overall survival (OS) update from POSEIDON after median follow-up (mFU) of approximately 4 years (y).(LBA59)POSEIDON試験からのOSの最新の探索的解析によると、1次治療におけるtremelimumabとデュルバルマブおよび化学療法の併用療法は、転移を伴うNSCLC患者にOS延長のベネフィットがあったことが報告されました。長期フォローアップ(中央値46.5ヵ月[範囲0.0~56.5])の結果に基づく報告です。3剤併用療法では、OS中央値が14.0ヵ月(95%CI:11.7~16.1)、化学療法単独では11.7カ月(95%CI:10.5~13.1)となり、死亡リスクを25%低減しました(HR:0.75、95%CI:0.63~0.88)。36ヵ月OS率は、それぞれ25%対13.6%でした。併存する変異状態別のOS は、トレメリムマブとデュルバルマブおよび化学療法による治療が継続的に有利でした。STK11変異を有する患者では、3剤併用により死亡リスクが 38% (HR:0.62、95% CI:0.34~1.12) 減少し、OSの中央値は15.0ヵ月(95%CI:8.2~23.8)でした。化学療法単独で10.7ヵ月(95%CI:6.0~14.9)。3年後のOS率は、それぞれ25.8%対4.5%でした。同様に、KEAP1変異を有する患者では、トリプレット療法により死亡リスクが57%減少し (HR:0.43、95%CI:0.16~1.25)、OS中央値が 13.7ヵ月(95% CI:7.2~26.5)、化学療法単独では8.7ヵ月(95%CI:5.1~評価不能)でした。最後に、KRAS変異を有する患者は、トレメリムマブ+デュルバルマブおよび化学療法により、死亡リスクが45% 減少し(HR:0.55、95%CI:0.36~0.85)、OS中央値は25.7ヵ月(95%CI:9.9~36.7)に対し、化学療法単独では10.4ヵ月(95%CI:7.5~13.6)でした。WCLCでも、3剤併用療法は特に遺伝子変異を有す症例においてベネフィットが大きい可能性を指摘されていました。checkmate9LAやCheckmate227など、抗PDL1抗体+化学療法に抗CTLA4抗体を上乗せすべき対象をどのように目の前で選択するのか?遺伝子検査の結果がその一つの答えになるように思います。問題は、現在の日本では1次治療の前に保険診療でこれらの遺伝子を測定出来ないことでしょう。エビデンスの積み重ねで、免疫チェックポイント阻害薬の使い分けにも遺伝子検査が有用、となる時期が遠くないと感じています。

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第130回 手放しに喜べない?新たな認知症治療薬の良好な臨床成績

長らく続くコロナ禍で医療系学会の取材はこの間ご無沙汰していたが、先日久しぶりに学会に参加した。たまたま開催地が実家から近いこともあり、両親と昼食をとる機会に恵まれた。以下、今回はかなり私事を交えることになるが、お付き合いいただきたい。私の場合、地元で開催された学会の取材に赴く際でも実家に宿泊することはほとんどない。あくまで仕事で来ているという線引きが必要だというのが表向きの理由だが、実のところはある種、鬱陶しいからという事情もある。すでに私が50代になっているとはいえ、80代半ばの両親にとっては子供なので、実家でパソコンを開いて仕事をしていても何かと話しかけられるし、食事の時間になると「○○があるから食え」だの、とくに食べたいものでもないのに勧められるのは正直言うならば厄介なことこの上ない。それでも両親を食事に誘ったのは、近年急速に弱ってきている父親が賑やかなところが好きな人だからだ。実家は地元の繁華街から離れた田園地帯にある。父親本人は常に外出したくて仕方ないのだが、すでに足腰も弱り、その牛歩に毎回付き添うのは母親がくたびれるため、週末ぐらいしか外出できない。加えて父親は軽度認知障害(MCI)の診断を受けている。それでも元が几帳面な性格だったことも手伝ってか、現時点でも買い物では小銭から計算して使いたがるので、まだましなほうかもしれない。とはいえ、緩やかに症状は進行しており、先日は銀行に出かけた際にATM前から母親に「使い方がわからなくなった」と連絡があったという。昼時、待ち合わせ場所の寿司屋近くの路上にいると、人混みの向こうから両親がゆっくりと歩いてきた。視界に入ってきた両親はなかなか近づいてこない。父親のゆっくりとした歩みに母親が合わせざるを得ないからである。それでも数年前から介護保険を使って理学療法士のお世話になってからはかなり改善している。一時は「カタツムリか?」と思うほどの歩みだったのだから。私は路上に立ったまま両親が近くに来るのを待った。ようやく顔が良く見える距離になって私を見つけた父親は、「破顔一笑」とも言える表情を見せた。私も微笑んで見せたが、内心はこの上なく複雑だった。幼少期の記憶の中の父親は口下手で喜怒哀楽に乏しく、私に笑顔を向けてきた記憶がほとんどない。常にむすっとしていて、時に激しく叱られることが私の記憶のデフォルトである。母親がよく話題に出すのは、私が2歳ぐらいの時の父親と私のやり取りだ。父親が私を大声で呼びつけた際に登場した私は頭に座布団を乗せていたという。叱られて叩かれると勘違いしたらしい。やや長くなってしまったが、なぜこうつらつらと書いてしまったかというと、今話題のエーザイ・バイオジェン共同開発のアルツハイマー病(AD)治療薬候補lecanemab(以下、レカネマブ)について、こうしたMCI患者を持つ家族と医療ジャーナリストという職業の狭間で揺れ動く自分がいるからだ。ご存じのようにADに関しては、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させるというAβ仮説に基づき、過去20年近く新薬開発が進められてきた。Aβ仮説は、Aβ前駆タンパク質から酵素のβセクレターゼ(BACE)の働きで、Aβの一量体(モノマー)が作り出され、そこからモノマーが重合した重合体(オリゴマー)、高分子オリゴマーである可溶性プロトフィブリル、そこから形成されたアミロイド線維である不溶性フィブリルへと進行し、最終的にアミロイド線維から形成されるアミロイドプラークが神経細胞を死滅させADに至るというのが大まかな理論だ。これまでのAβ仮説に基づく新薬開発では、BACE阻害薬と脳内の神経細胞に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体が2つの大きな流れだったが、ほとんどが事実上失敗している。唯一飛び抜けていたとも言えるのが、同じエーザイとバイオジェンが共同開発していた抗Aβ抗体のアデュカヌマブ。Aβの生成過程の中でもフィブリルに結合する抗体で第II相試験での成績が良好だったことから期待されたが、2019年3月に独立データモニタリング委員会が主要評価項目を達成できる見通しがないと勧告した結果、進行中の2件の第III相試験が中止された。しかし、勧告後に入手できた症例データを加えて再解析した結果、うち1件では、高用量群でプラセボ群との比較で、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の有意な低下が認められた。このためバイオジェンは一転して米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDA諮問委員会の評決では、ほぼ否定的な評価を下されていたものの、社会的要請の高さなどを理由に新たな無作為化比較試験の追加実施とそのデータ提出を求める条件付き承認となった。もっともこの承認には専門家の中でも批判が多く、米国ではメディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)がアデュカヌマブの保険償還対象を特定の臨床試験参加者のみに限定。さらにヨーロッパと日本では現状の臨床試験結果では効果が十分確認されていないとして承認見送りとなった。まさにジェットコースターのようなアップダウンを繰り返して、ほぼ振出しに戻ったのがAD治療薬開発の現状である。もちろんレカネマブの開発が続いていたことは承知していた。しかし、前述のような開発を巡るドタバタを知っている身としては、必死に開発を行っていた人たちには申し訳ないが、期待はせずに横目で見ていたというのが実状である。そんな最中、エーザイがレカネマブの第III相試験「Clarity AD」の主要評価項目で有意差を認め、記者発表するとのニュースリリースを9月28日早朝に発表した。今回はあの抗寄生虫薬イベルメクチンの時と違って、すでに結果がポジティブだったことはわかっている。要はどの程度のポジティブだったかがカギだ。当日、オンラインで記者会見に参加した私はディスプレイに釘付けになった。ちなみにClarity AD の登録症例は1,795例。脳内Aβ病理が確認され、スクリーニングおよびベースラインの認知症ミニメンタルステート検査(MMSE)が 22~30点、論理的記憶検査(WMS-IV LM II:Wechsler Memory Scale-IV logical memory II)の点数が年齢調整済み平均値を少なくとも1標準偏差を下回り、エピソード記憶障害が客観的に示されることが認められるADによるMCIと軽度ADが対象だ。これを2群に分け、レカネマブ10mg/kgの点滴静注を2週に1回とプラセボ点滴静注を2週に1回行い、主要評価項目は、ベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SBの変化を比較したものだ。アデュカヌマブとレカネマブの最大の違いは、レカネマブはフィブリル形成直前の可溶性プロトフィブリルが標的となっていることに加え、アデュカヌマブでは漸増投与が必要だったのに対し、レカネマブは初回から有効用量の投与が可能なことである。公表された結果ではプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は27%、詳細は発表されなかったが副次評価項目すべてでプラセボに対して統計学的有意差が認められたという。また、抗Aβ抗体では付き物の副作用がアミロイド関連画像異常(ARIA)だが、その発現率はARIAのうち脳浮腫をさすARIA-Eが12.5%(症候性2.8%)、脳微小出血をさすARIA-Hが17.0%(同0.7%)。アデュカヌマブが高用量群でプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は23%(低用量群では14%)で、ARIA発現率がレカネマブの約3倍であることを考えれば、確かに成績は良いと言える。しかも、あくまでエーザイ側の説明に依拠するが、プラセボと比較したCDR-SB変化量の差は治験開始6ヵ月後に発現しているというのだ。私が驚いたのはむしろこの効果発現の早さだ。さてエーザイではこの結果をもって日米欧で2022年度中のフル申請、2023年度中のフル承認を目指すという。「フル」というのはアデュカヌマブの時のような条件付き承認ではないということである。ちなみに米国では、すでにClarity AD以外の試験結果で迅速承認制度の指定を受け、その結果は来年1月上旬までに明らかになる予定だが、この試験結果を追加提出することで、アデュカヌマブのような「失敗」はしないという意味である。CMSはアデュカヌマブの保険償還制限に当たって、同薬のような“条件付きの迅速承認の場合”とこちらも条件を付けている。では、このまま承認に至った際の課題は…やはり投与対象と薬価の問題である。米国でアデュカヌマブが承認された際の年間薬剤費は約600万円となった。前述のCMSの付けた条件が制限となったため、現実にはほとんど売上と言えるほどの数字にはなっていない。抗体医薬品である以上、どんなに頑張ってもレカネマブの年間薬剤費が100万円以下というのは世界のどの国でも考えにくい。たとえば仮に年間100万円としても、現在日本には推定約700万人の認知症患者がいる。日本国内でこのうちの1%強に当たる10万人が処方を受けたとすると、年間薬剤費は1,000億円となる。世界最速とも言える少子高齢化が進み、社会保障費の増大に危機感が募るばかりの昨今の状況を考えれば、簡単に容認できる話ではない。これまでの経緯を考えれば、承認されたあかつきに厚生労働省は最適使用推進ガイドラインなどでかなり投与対象を絞り込んでくるだろう。それに仮に成功しても、その先が相当厄介である。まず、投与開始後にどのような状態を有効・無効と判定するのか。かつて話題になった免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)の場合ならば、画像診断での腫瘍縮小効果という指標もあった。では、レカネマブでは1回数十万円もするアミロイドPETでAβ量を定量化するのか? それともある程度ばらつきもあるMMSEで判定するのか?有効基準が決まったとして、投与はいつまで続けるのか? そもそもADは高齢者の病気である。期待余命は長くはなく、悪化抑制効果が最大限得られたとしても患者本人の社会的・経済的生産性の向上が見込めるかと言えば、そこには「?」がつく。とはいえ、MCIの父親を持つ自分にとってみれば、たとえ3割弱の遅延抑制効果とはいえ、老老介護となっている母親の肉体的・精神的負担を考えれば、使える物なら使ってみたいという気持ちもある。約束した寿司屋でうまそうに漬け丼をほおばる父親を見ながら、そんなことばかりを考えていた。寿司屋を出て両親と一緒に牛歩で駅に向かった。とくに何時の新幹線に乗るかは決めていなかった。アーケード街を歩きながら、途中でベンチが見えると父親はそこに腰を掛けて休むと言い出した。母親は私に気を遣って、「私たちはゆっくり行くから、あなたは先に帰りなさい」と促した。私は父親に「またね?」と言ってその場を後にした。父親はまた破顔一笑。そのまま後ろを振り返らずにまっすぐ駅へと向かった。医療経済性、社会保障費の増大、患者家族としての思いがぐるぐる頭を巡りながら、今日この時点でも結論は出ていない。たぶんこの先も容易に結論は出ないだろう。正直、メディアの側にいるというだけで私たちは他人から忌み嫌われることは少なくない。とはいえ、それでも自分で自分の仕事を嫌だと思ったことは、こと私自身に関しては数えられるほど少ない。ただ、この日ばかりは「何も知ならきゃ良かった。本当に因果な商売だな」と自分の仕事が嫌になった数少ない日として、生涯忘れられない日になりそうである。

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腎細胞がんに対するbempegaldesleukin+ニボルマブ1次治療の成績(PIVOT-09)/ESMO2022

 未治療の腎細胞がん患者を対象に、インターロイキン2(IL-2)作動薬であるbempegaldesleukinとニボルマブの併用療法を、スニチニブまたはカボザンチニブと比較検討した無作為化第III相試験PIVOT-09において、主要評価項目とした奏効率(ORR)と全生存期間(OS)に差が認められなかった。米国・MDアンダーソンがんセンターのNizar Tannir氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:未治療の進行・転移腎細胞がん・試験群:bempegaldesleukin+ニボルマブ3週ごと(311例)・対照群:医師が選択したTKIスニチニブまたはカボザンチニブ(312例)・主要評価項目:盲検独立中央判定(BICR)の評価によるORR、OS 主な結果は以下のとおり。・623例が無作為に対照群(312例)ではスニチニブ225例、カボザンチニブ87例に割り付けられた。・患者背景は両群間でおおむね一致しており、年齢中央値は62歳、男性比率は約75%で、IMDCリスク分類では17%が低リスク、63%が中リスク、20%が高リスクであった。・中リスクおよび高リスクの患者が有効性評価の解析対象となり、ORRは試験群で23.0%、対照群で30.6%であった。・試験群のOS中央値は29.0ヵ月で、対照群では未到達であった(ハザード比:0.82、95%信頼区間:0.61〜1.10、p=0.1915)。・全患者を解析対象とした安全性解析では、Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)が試験群では25.8%、対照群では56.5%に発現し、TRAEによる治療中止は試験群と対照群でそれぞれ7.7%と7.2%であった。・試験群のTRAEで主なものは、発熱(32.6%)、痒み(31.3%)、悪心(24.2%)、好酸球増加(23.9%)、甲状腺機能低下症(22.9%)、発疹(22.9%)、関節痛(20.0%)などであった。

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皮膚扁平上皮がんの術前cemiplimab、病理学的完全奏効は5割以上/NEJM

 切除可能な皮膚扁平上皮がん患者の術前補助療法において、抗プログラム細胞死1(PD-1)モノクローナル抗体cemiplimabは、約半数の患者で病理学的完全奏効を達成し、安全性の新たなシグナルは特定されなかったことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのNeil D. Gross氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年9月12日号で報告された。3ヵ国の非無作為化単群第II相試験 本研究は、皮膚扁平上皮がん患者の術前補助療法におけるcemiplimabの有効性と安全性の評価を目的とする検証的非無作為化単群第II相試験であり、2020年3月~2021年7月の期間に、オーストラリア、ドイツ、米国の施設で参加者の登録が行われた(Regeneron PharmaceuticalsとSanofiの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、切除可能なStageII、III、IV(M0)の皮膚扁平上皮がんで、実臨床で手術が推奨されている患者であった。被験者は、治癒目的の手術を受ける前に、12週間でcemiplimab(350mg)を3週ごとに4回(1、22、43、64日目)、静脈内に投与された。 主要評価項目は、独立審査委員会の中央判定による病理学的完全奏効(手術検体に生存腫瘍細胞が存在しないことと定義)とされ、主な副次評価項目には、独立審査委員会の中央判定による病理学的著効(手術検体に残存する生存腫瘍細胞が≦10%と定義)、各施設の担当医判定による病理学的完全奏効と病理学的著効、画像検査での客観的奏効(完全奏効、部分奏効)、有害事象などであった。画像検査での客観的奏効割合は68% 79例が登録された。年齢中央値は73歳(範囲:24~93歳)で、67例(85%)が男性だった。腫瘍部位は72例(91%)が頭頸部、全身状態の指標であるECOG PSはスコア0が60例(76%)で、ステージはIIが5例(6%)、IIIが38例(48%)、IV(M0)が36例(46%)であり、47例(60%)はリンパ節転移を有していた。 術前cemiplimab療法により、病理学的完全奏効が40例(51%、95%信頼区間[CI]:39~62)で、病理学的著効は10例(13%、6~22)で得られた。担当医の評価による病理学的完全奏効は42例(53%、42~65)で、病理学的著効は10例(13%、6~22)で達成され、独立審査委員会の判定結果と一致していた。また、画像検査での客観的奏効は54例(68%、57~78)で得られ、このうち完全奏効が5例(6%)、部分奏効は49例(62%)だった。 手術を受けた70例のうち、画像検査で5例が完全奏効、44例が部分奏効、16例は安定であった。画像検査で完全奏効の5例はすべて病理学的完全奏効で、部分奏効の44例では30例(68%)が病理学的完全奏効、8例(18%)は病理学的著効だった。 試験期間中に発現した全Gradeの有害事象は69例(87%)で認められた。最も頻度の高い有害事象は疲労(24例[30%])で、次いで下痢、悪心、斑状丘疹状皮疹が11例(14%)ずつで発現した。試験期間中に、Grade3以上の有害事象は14例(18%)でみられ、このうちGrade3が8例(10%)、4が2例(3%)、5は4例(5%)だった。 死亡した4例のうち、1例が治療関連の有害事象による死亡(うっ血性心不全の悪化[93歳の女性])と判定され、3例は治療とは関連しない有害事象による死亡であった。また、免疫関連有害事象は12例(15%)で発現した。 著者は、「機能温存手術の可能性と、高い病理学的完全奏効の割合を考慮すると、この患者集団におけるcemiplimabによる術前補助療法の使用は支持される」と結論している。

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腎細胞がん周術期ニボルマブの有用性(PROSPER、ECOG-ACRIN EA8143試験)/ESMO2022

 腎摘出術を受ける再発リスクの高い腎細胞がん患者に対して、抗PD-1抗体ニボルマブによる周術期療法で無増悪生存期間(PFS)の改善はみられなかった。米国の臨床試験ネットワークによる無作為化第III相試験の結果として、米国・ジョンズホプキンス大学のMohamad Allaf氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:T2以上M0/1の腎摘出術が予定された腎細胞がん(淡明細胞がん/非淡明細胞がん)患者・試験群:腎摘出術+ニボルマブ周術期投与(術前480mg×1、術後4週ごと480mg×9)[404例]・対照群:腎摘出術[415例]・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、淡明細胞がん患者のPFS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群間でほぼ一致しており、年齢中央値は61歳、臨床病期はT1とT2で50%超、N1が15%、M1が3%であった。・中央値16ヵ月の追跡期間において、両群間でRFSに差は認められなかった(ハザード比:0.97、95%信頼区間:0.74〜1.28、片側検定p=0.43)。なお、いずれのサブグループにおいても両群間にPFSの差は示されなかった。・治療関連有害事象(TRAE)は試験群で78%、対照群で27%に認められ、主な有害事象は疲労感、腹痛、悪心、クレアチニン値上昇、痒みなどだった。Grade3/4のTRAEは試験群で15%、対照群で4%に認められ、Grade5はそれぞれ3%、1%であった

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TN乳がんの免疫チェックポイント阻害薬によるOS延長(解説:下村昭彦氏)

 2022年7月21日のNew England Journal of Medicine誌にKEYNOTE(KN)-355試験の全生存期間(OS)についての結果が公表された。すでにCPS(combined positive score)が10以上のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の初回化学療法に対するペムブロリズマブの上乗せが、無増悪生存期間(PFS)を延長することは発表され、国内でも標準治療として実施されている(Cortes J, et al. Lancet. 2020;396:1817-1828.)。 KN-355試験ではCPS 10以上のグループにおけるOSが9.7ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.50~0.88)と統計学的有意にペムブロリズマブ群で良好であった。一方、ITT集団やCPS 1以上のグループではその差を検出できなかった。 KN-355試験では併用化学療法のパクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセル、ゲムシタビン+カルボプラチンが選択可能であったが、併用化学療法ごとのサブグループ解析のハザード比はパクリタキセルで最も顕著(28.6 vs.8.5ヵ月、HR:0.34、95%CI:0.16~0.72)、ゲムシタビン+カルボプラチンではその差がはっきりとは示されていなかった(19.1 vs.16.2ヵ月、HR:0.88、95%CI:0.61~1.25)。薬剤ごとに差が見られる理由は明確ではないが、パクリタキセル+プラセボ群のOSが極端に悪いこと、ゲムシタビン+カルボプラチン群には無病期間(DFI)が12ヵ月未満の症例が多く入ったことが原因として考察される。 現在TNBCでは2種類の免疫チェックポイント阻害薬が使用されているが、OSの延長を統計学的に証明したのはKN-355試験が初である。もうひとつの免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブとはPD-L1の評価方法が異なること、併用化学療法が異なること(アテゾリズマブはアルブミン結合パクリタキセルの併用のみ)であり、有効性の結果を考慮しながら、両方の方法でPD-L1を評価し、投与スケジュールなども加味して治療方針を決定していくことが重要であろう。

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dMMR大腸がん術前療法としてニボルマブとイピリムマブの併用が有用な可能性(NICHE-2)/ESMO2022

 DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の大腸がんに対する術前療法としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の有用性が、オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMyriam Chalabi氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 2020年にNICHE-1試験において両剤併用の術前療法としての有用性は報告されている。今回は同様にオランダ国内で実施されたNICHE-2試験の結果も統合しての解析結果発表である。・対象:他臓器転移のないdMMR大腸がん(T3以上またはN+)(112例)・試験群:ニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを1回投与、その2週間後にニボルマブ3mg/kgを1回投与初回投薬から6週以内に手術を施行・評価項目:[主要評価項目]安全性、忍容性、3年無病生存率(DFS)[副次評価項目]病理学的効果、ctDNA解析など病理学的奏効率(pRR:原発巣の残存腫瘍が50%以下)、主要病理学的奏効率(mPR:原発巣の残存腫瘍が10%以下)、病理学的完全奏効率(pCR:原発巣とリンパ節の両方共に残存腫瘍が0%) 主な結果は以下のとおり。・NICHE-1試験からの32例とNICHE-2試験からの80験の全症例が安全性解析の対象となり、5例が除かれた107例が有効性判定に用いられた。・症例背景は、年齢中央値が60歳、病期分類は高リスクIII期が74%であった。高リスクの内訳はT4aが35%、T4bが28%、N2が62%、T4かつN2だったのが48%だった。・免疫関連性有害事象については61%の症例に認められ、Grade3以上の事象は膵臓機能障害、肝炎、筋炎、皮膚障害などで4%に発現した。・全症例で中央値5.4週間以内にR0切除術が施行された。・各奏効率はpRRが99%、mPRが95%、pCRは67%と高率であった。とくにリンチ症候群症例ではpCRが78%であった。・14例で術後化学療法が追加され、追跡期間中央値13.1ヵ月時点で、1例も再発の報告は無かった。 演者は「dMMR大腸がんに対する術前の免疫チェックポイント阻害薬の使用は、今後の標準治療となる可能性を示した」と結んだ。

309.

肝細胞がん1次治療 レンバチニブ+ペムブロリズマブの成績(LEAP-002)/ESMO2022

 切除不能な肝細胞がん(aHCC)に対する1次治療としてのレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法は、レンバチニブ単独に比べ、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)ともに統計学的な有意差は認められなかった。 日本も参加した国際共同の二重盲検第III相LEAP-002試験の解析結果である。米国・カリフォルニア大学のRichard S. Finn氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:前治療歴を持たない切除不能なaHCC症例・試験群:ペムブロリズマブ3週ごと+レンバチニブを連日投与(Pem群:395例)・対照群:プラセボ3週ごと+レンバチニブを連日投与(Len群:399例)ペムブロリズマブとプラセボは最大35サイクルまで・評価項目:[主要評価項目]OS、独立評価委員会判定によるPFS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・最終解析のデータカットオフ(2022年6月)での観察期間中央値は32.1ヵ月であった。・両群の患者背景に偏りはなく、ウィルス性病因が約6割、肝外病変ありが約6割、BCLC病期分類のBが約2割であった。・OS中央値は、Pem群21.2ヵ月、Len群19.0ヵ月、ハザード比(HR)は0.840(95%信頼区間[CI]:0.780~0.997)、p=0.0227であったが、事前に規定されたOSのp=0.0185を超えることはできなかった。24ヵ月OS率はPem群が43.7%、Len群が40.0%だった。・中間解析時のPFS中央値は、Pem群8.2ヵ月、Len群8.0ヵ月、HRは0.867(95%CI:0.734~1.024)、p=0.0466と、こちらも事前規定のp=0.002を超えることはなかった。・最終解析時点のPFSのHRは0.834で、1年PFS率はPem群34.1%、Len群29.3%、2年PFS率は16.7%と9.3%であった。・ORRはPem群26.1%、Len群17.5%、DoR中央値は、Pem群16.6ヵ月、Len群10.4ヵ月であった。・両剤併用による新たな安全性シグナルは報告されなかった。Grade3/4の有害事象はPem群で61.5%、Len群で56.7%に発現した。有害事象により投薬を中止した割合は18.0%と10.6%であった。・ステロイドが投与された免疫原性の有害事象症例は、Pem群で9.6%、Len群で1.8%であった。・試験の後治療として免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた割合は、Pem群で14.4%、Len群で22.8%であった。

310.

ソトラシブ、KRAS G12C変異陽性NSCLCのPFSを有意に延長(CodeBreaK-200)/ESMO2022

 KRAS G12C変異陽性の既治療の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、ソトラシブがドセタキセルよりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが、米国・Sarah Cannon Research InstituteのMelissa L. Johnson氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 ソトラシブの有効性は単群試験のCodeBreaK100で示されていたが、今回発表されたのは、日本も参加した国際共同無作為化比較第III相試験CodeBreaK 200試験の主解析の結果である。・対象:免疫チェックポイント阻害薬と化学療法薬の治療歴を有するKRAS G12C変異陽性のNSCLC(過去の脳転移治療例は許容)・試験群:ソトラシブ960mgx1/日(Soto群:171例)・対照群:ドセタキセル75mg/m2を3週ごと(DTX群:174例)DTX群からSoto群へのクロスオーバー投与は許容・評価項目:[主要評価項目]独立評価委員会評価によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性、患者報告アウトカムなど 主な結果は以下のとおり。・試験は2020年6月から開始されたが、2021年2月にプロトコール修正が行われ、登録症例数が650例から330例へと変更になり、DTX群のSoto群へのクロスオーバー投与も認められた。・DTX群からSoto群へのクロスオーバー率は26.4%で、DTX治療の後治療として別のKRAS阻害薬の投与を受けた割合は7.5%であった。・両群の年齢中央値は64.0歳、脳転移の既往有りが約34%、前治療歴は2ライン以上が55%であった。・データカットオフ時(2022年8月)のPFS中央値はSoto群が5.6ヵ月、DTX群が4.5ヵ月で、ハザード比(HR)は0.66(95%信頼区間[CI]:0.51~0.86)、p=0.002と有意にSoto群が良好であった。1年PFS率は、Soto群24.8%、DTX群10.1%だった。・ORRはSoto群が28.1%、DTX群が13.2%、p<0.001とSoto群が有意に高かった。腫瘍縮小効果があった割合は、それぞれ80.4%と62.8%であった。・DoR中央値はSoto群8.6ヵ月、DTX群は6.8ヵ月で、奏効までの期間中央値は、それぞれ1.4ヵ月と2.8ヵ月であった。・症例数が大幅に減ったこととクロスオーバー投与が許容されたことで、OSにおける両群間の差は検出されなかった。OS中央値は10.6ヵ月と11.3ヵ月、HRは1.01(95%CI:0.77~1.33)であった。・Grade3以上の有害事象は、Soto群で33.1%、DTX群で40.4%に発現した。重篤な有害事象はそれぞれ10.7%と22.5%であった。・Soto群で多く認められたGrade3以上の有害事象は、下痢、肝機能障害で、DTX群で多く認められたものは、倦怠感、貧血、脱毛、好中球減少(発熱性好中球減少症含む)などであった。・患者報告アウトカムは、Soto群で良好であり、がん関連の身体症状悪化までの期間もSoto群の方がDTX群よりも長かった。

311.

中・高リスクの進行腎細胞がんに対するカボザンチニブ+ニボルマブ+イピリムマブの3剤併用が有意にPFSを延長(COSMIC-313)/ESMO2022

 中・高リスクの進行腎細胞がん(RCC)に対する1次治療として、カボザンチニブ+ニボルマブ+イピリムマブの3剤併用療法とニボルマブ+イピリムマブの2剤併用療法の比較結果が、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのToni K. Choueiri氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 これは国際共同の二重盲検第III相のCOSMIC-313試験の第1回目の報告である。・対象:前治療のない淡明細胞型RCCで、IMDCリスク分類の中間リスクまたは高リスクの症例・試験群:カボザンチニブ連日投与にニボルマブ+イピリムマブを3週間隔で4コース併用投与。その後、カボザンチニブ+ニボルマブ(4週間隔)をメンテナンス投与(Cabo群:428例)・対照群:プラセボ連日投与にニボルマブ+イピリムマブを3週間隔で4コース投与。その後プラセボ+ニボルマブ(4週間隔)をメンテナンス投与(Pla群:427例)両群ともニボルマブの投与は最長2年間まで・評価項目:[主要評価項目]独立評価委員会による無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)[追加評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・PFS解析対象の症例群(Cabo群276例とPla群274例)の追跡期間中央値は20.2ヵ月で、全症例では、17.7ヵ月であった。・両群の患者背景には偏りはなく、両群共に中間リスクが75%、高リスクが25%で、腎摘除術を受けていた症例は65%であった。主な転移部位は肺、リンパ節、肝臓、骨であった。・PFS中央値は、Cabo群は未到達で、Pla群は11.3ヵ月、ハザード比(HR)は0.73(95%信頼区間[CI]:0.57~0.94)、p=0.013とCabo群で有意な延長を認めた。12ヵ月時のPFS率は57%と49%だった。・ORRはCabo群43%(うちCR:7%)、Pla群36%(CR:3%)であった。・DoR中央値は両群とも未到達であった。腫瘍縮小を認めた症例は、Cabo群で90%、Pla群で75%、30%以上の腫瘍縮小があった症例は55%と45%であった。・中間リスクグループのPFS中央値はCabo群は未到達、Pla群は11.4ヵ月、HRは0.63(95%CI:0.47~0.85)であり、ORRは45%と35%であった。また、高リスクグループでのPFS中央値はCabo群9.5ヵ月、Pla群11.2ヵ月、HRは1.04(95%CI:0.65~1.69)で、ORRはそれぞれ37%と38%であった。・Cabo群の安全性プロファイルに新たな事象はなく、全般的に管理可能であったが、Pla群に比し肝機能障害、下痢、皮膚障害が多く認められた。有害事象治療のために、ステロイド剤の投与を受けた症例はCabo群で58%、Pla群で35%であった。また、有害事象によってすべての治療を中止した症例の割合はCabo群で12%、Pla群で5%であった。

312.

TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例・試験群:ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける・評価項目:[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

314.

深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法【見落とさない!がんの心毒性】第14回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》63歳男性。1年前に大腸がん(臨床病期III期)を発症し、横行結腸切除術と術後化学療法を受けた。高血圧と下肢深部静脈血栓症(以下VTE)を合併しており、オルメサルタンとエドキサバンを服用している。最近になり、咳・息切れが現れ、精査したところ肺腺がんと診断された。胸水、肝転移および微少な脳転移があり、臨床病期IVB期であった。大血管浸潤や中枢気道への露頭病変は認められなかった。ドライバー遺伝子変異は陰性で、PD-L1 TPS 1%であった。血痰や神経症状はなく、Performance statusは0であった。一次治療として、中心静脈ポートを留置した上で、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+パクリタキセル+カルボプラチン療法(IMpower150レジメン)を行う方針とした。【問題】本症例のベバシズマブ投与に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選んでください。a. 肺腺がんの適応はない。b. 脳転移があり禁忌である。c. 治療中のVTEがあり禁忌である。d. 投与後は高血圧の悪化に注意する。e. 中心静脈ポートの留置は禁忌である。最新の『肺癌診療ガイドライン2021年度版』において、プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを併用した治療を行うよう提案されています(CQ74 推奨の強さ: 2、エビデンスの強さ: A)。メタアナリシスでは、プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを追加することでPFSやOSの延長が認められています12,13)。本症例で紹介したIMpower150レジメンは、化学療法未治療の非小細胞肺がん患者の、とくにEGFR遺伝子変異や肝転移を有する症例において良好な成績をおさめています14)。近年の研究15)において、VEGFには免疫系への関与が示唆されており、抗VEGF薬による免疫活性化と血管正常化による遊走促進といった機序により、免疫チェックポイント阻害薬との併用(複合免疫療法)においても重要な位置付けとなってきました。一方、本稿でも紹介した通り、ベバシズマブには薬理作用に準じた特徴的な副作用が存在するため、リスクベネフィットを十分考慮した上で投与を検討すべきと思われ、投与後については徹底した副作用モニタリングが必要となります。(謝辞)本文の作成に際し、新潟県立がんセンター新潟病院・呼吸器内科 三浦 理氏に監修いただきました。1)Johnson DH, et al. J Clin Oncol. 2004;22:2184-2191.2)Sandler AB, et al. J Clin Oncol. 2009;27:1405-1412.3)Socinski MA, et al. J Clin Oncol. 2009;27:5255-5261.4)Srivastava G, et al. J Thorac Oncol. 2009;4:333-337.5)Hurwitz HI, et al. J Clin Oncol. 2011;29:1757-1764.6)Zaborowska-Szmit M, et al. J Clin Med. 2020;9:1268.7)Nalluri SR, et al. JAMA. 2008;300:2277-2285.8)Yan LZ, et al. J Oncol Pharm Pract. 2018;24:209-217.9)Dahlberg SE, et al. J Clin Oncol. 2010;28:949-954.10)Zawacki WJ, et al. J Vasc Interv Radiol. 2009;20:624-627.11)吉野 真樹ほか.日本病院薬剤師会雑誌. 2012;48:307-311.12)Lima AB, et al .PLoS One. 2011;6:e22681.13)Soria JC, et al. Ann Oncol. 2013;24:20-30.14)Socinski MA, et al. N Engl J Med. 2018;378:2288-2301.15)Manegold C, et al. J Thorac Oncol. 2017;12:194-207.講師紹介

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ニボルマブ+化学療法による肺がん術前後補助療法が生存改善(NADIM II) /WCLC2022

 ニボルマブ+化学療法による非小細胞肺がん(NSCLC)の術前後補助療法の第II相試験NADIM IIの成績が世界肺癌学会(WCLC2022)で発表された。スペイン・University Hospital Puerta de Hierro-MajadahondaのProvencio氏から発表された結果は無病生存期間(PFS)、全生存期間(OS)とも良好であった。・対象:切除可能なStage IIIA~III B (AJCC 第8版) NSCLC(EGFR/ALK変異なし)・試験群:ニボルマブ(360mg)+パクリタキセル(200mg/m2)+カルボプラチン(AUC5)3週ごと3サイクル→手術→ニボルマブ(480mg)4週ごと6ヵ月・対照群:パクリタキセル(200mg/m2)+カルボプラチン(AUC5)→手術→観察12週・評価項目:[主要評価項目]ITT集団における病理学的完全奏効(pCR)[副次評価項目]主要な病理学的奏効(MPR)、OS、PFS、バイオマーカーなど 主な結果は以下のとおり。・追跡期間の中央値は 26.1ヵ月であった。・根治的手術を受けた患者はニボルマブ+化学療法群は93%、化学療法群は69.0%であった(OR:5.96、95%CI:1.65〜21.56、p=0.00807)。・追跡期間中央値26.1ヵ月のPFS中央値はニボルマブ+化学療法群は未到達、化学療法群は18.3ヵ月であった(HR:0.48、95%CI:0.25〜0.91、p=0.025)。12ヵ月PFSはそれぞれ89.3%と60.7%、24ヵ月PFSはそれぞれ66.6%と42.3%であった。・OS中央値はニボルマブ+化学療法群、化学療法群とも未到達(HR:0.40、95%CI:0.17〜0.93、p=0.034)、12ヵ月OSはそれぞれ98.2%と60.7%、24ヵ月OSはそれぞれ84.7%と63.4%であった。・ニボルマブ+化学療法群の安全性と忍容性は維持されていた。 NADIM II試験は切除可能なStage IIIA~IIIB NCSLCに対する免疫治療薬ベースの術前補助療法によるOS改善を示した最初の臨床試験であるとProvencio氏は結んだ。

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ニボルマブ+イピリムマブによる腎がんアジュバントの成績(CheckMate -914)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは2022年7月29日、限局性腎細胞がん(RCC)の術後補助療法として、ニボルマブとイピリムマブの併用療法を評価した第III相CheckMate-914試験のパートAにおいて、同併用療法が盲検下独立中央評価委員会(BICR)評価による無病生存期間(DFS)の主要評価項目を達成しなかったことを発表した。 CheckMate -914試験は、根治的腎摘除術または腎部分切除術後の再発リスクが中等度から高度の限局性RCC患者を対象に、ニボルマブとイピリムマブの併用療法をプラセボと比較評価(パートA)およびニボルマブ単剤療法をプラセボと比較評価(パートB)した無作為化二重盲検プラセボ対照第III相臨床試験である。同試験の両パートの主要評価項目は、BICRの評価によるDFS、主な副次評価項目は、全生存期間(OS)および有害事象(AE)の発現率である。 ブリストル マイヤーズ スクイブは、CheckMate -914試験のパートAのデータの評価を完了させ、治験担当医師と連携して学会で結果を発表する予定で、本試験のパートBは進行中である。

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ASCO2022 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2022 ASCO Annual MeetingCOVID-19の影響で2年続けてバーチャル開催だったASCO Annual Meetingですが、本年は3年ぶりに現地開催(オンラインもあり)となりました。本年のPresidential Themeは“Advancing Equitable Cancer Care Through Innovation”でした。会長のDr. Everett E. Vokesによれば、腫瘍学におけるイノベーションは、新規治療法だけでなく、既存の治療法の改良、遠隔医療によるアクセスの改善、さらには臨床試験の適格基準の見直しなどにも及ぶとのことです。今年の泌尿器がん領域のScientific Programは、大規模臨床試験の長期フォローアップデータやpost-hoc解析の報告が多かったように思います。そのうちいくつかを紹介いたします。ENZAMET 5年フォローアップデータ(Abstract # LBA5004)ENZAMET[試験(NCT02446405)では、転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)患者の1次治療として、アンドロゲン除去療法(ADT)にエンザルタミドを上乗せすることで、標準治療(ADT+第1世代抗アンドロゲン薬)と比べてOSを改善すること(HR:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.86、p=0.002)がすでに報告されています(Davis ID, N Engl J Med. 2019)。今回1,125例の組み入れ患者のうち、470のOSイベントが発生した約5年のフォローアップデータが公表されました。標準治療群の5年OSは57%だったのに対し、エンザルタミド群の5年OSは67%と有意な改善効果が示されました(HR:0.70、95%CI:0.58~0.84、p<0.001)。サブグループ解析でもほぼ一貫してエンザルタミド群のOSに対するベネフィットが示されました。中でも低腫瘍量かつドセタキセル非併用の患者においてエンザルタミド上乗せのベネフィットが顕著であったと報告されています。TheraP 3年フォローアップデータ(Abstract # 5000)TheraP試験(NCT03392428)からは3年フォローアップのデータが報告されました。本試験はドセタキセル治療後の転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者に対する、177Lu-PSMA-617 (LuPSMA)とカバジタキセルの有効性を比較したもので、すでにPSA response rate(66% vs.37%)、RECIST response rate(49% vs.24%)、PFS(HR:0.63)、Grade3~4 の有害事象の発生頻度(33% vs.53%)、そしてPRO(patient-reported outcomes)においてLuPSMAが有意に優れていたことが報告されています(Lancet. 2021)。今回は3年フォローアップに基づくOSのデータが公表されました。36ヵ月時点までのRestricted mean survival time(RMST)で評価されたOSは19.1ヵ月vs.19.6ヵ月で有意差を認めませんでした。ARAMIS post-hoc解析による転移進行パターン(Abstract # 5044)ARAMIS試験(NCT02200614)は高リスク(PSA-DT≦10ヵ月)の非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)に対するダロルタミドの有効性を検証したもので、プラセボ群と比較してMFS(metastasis-free survival)を約2年延長することがすでに報告されています(Fizazi F, et al. N Engl J Med. 2019;380:1235-1246.)。今回はPSA上昇を伴う転移進行と臨床的進行(疼痛の出現が先行)についての検討結果が公表されました。データカットオフ時点でダロルタミド群の13.6%、プラセボ群の28.5%が転移進行を来していました。そのうち骨転移のみを示した患者はダロルタミド群で46.2%、プラセボ群で39.2%、リンパ節転移のみを示した患者はダロルタミド群で31.5%、プラセボ群で39.9%でした。転移進行前のPSA値はダロルタミド群で16.7ng/mL、プラセボ群で48.0ng/mLで、ダロルタミド群では、ベースラインよりも低かった(-0.71ng/mL、-3.2%)のに対し、プラセボ群では高い値(+29.5ng/mL、+181%)でした。PSA上昇を伴う転移進行を示した患者の割合は、ダロルタミド群では45.4%と、プラセボ群の63.9%より低い値でした。PSA上昇を伴う転移進行を示した患者においてPSA上昇から転移出現までの期間はダロルタミド群では7.0ヵ月、プラセボ群では5.6ヵ月でした。疼痛の出現による進行を示した患者の割合はダロルタミド群で16.9%、プラセボ群で17.7%といずれの群においても少数でした。結論として、nmCRPCに対するダロルタミド治療においては、とくにPSA上昇を伴わずに転移進行を来す患者の割合が高いため、PSA測定だけでなく、定期的な画像検査も含めてフォローアップを行うことの重要性が強調される結果となりました。REASSURE研究によるRa-223治療を受けたmCRPC患者におけるALP低下とOSとの関連(Abstract # 5041)REASSURE研究は、骨転移性CRPC患者におけるラジウム223(Ra-223)の長期安全性を評価するためのグローバル前向き観察研究で、今回は治療前(ベースライン)の血清アルカリフォスファターゼ(ALP)値、治療開始後12週時点でのALP値の変化とOSとの関連に関する解析結果が報告されました。ベースラインALPが147U/L以下の患者においては、ALPが低下した場合のOSの中央値は23.0ヵ月だったのに対し、低下しなかった場合のOSの中央値は16.4ヵ月でした。またベースラインALPが147U/L超の患者においては、ALPが低下した場合のOSの中央値は12.9ヵ月だったのに対し、低下しなかった場合のOSの中央値は8.1ヵ月でした。年齢、ヘモグロビン値、前治療の内容はOSに対して直接的な影響は示しませんでした。ベースラインALP値にかかわらず、治療開始後12週時点におけるALP低下は良好なOSを予測する所見となることが示されました。ARCHES post-hoc解析によるDNA損傷修復遺伝子異常(Abstract # 5074)ARCHES試験(NCT02677896)では、転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)患者の1次治療として、アンドロゲン除去療法(ADT)にエンザルタミドを上乗せすることで、標準治療(ADT+プラセボ)と比べてOSを改善すること(HR:0.66、95%CI:0.53~0.81、p<0.001)がすでに報告されています(Armstrong AJ, J Clin Oncol. 2022)。今回は、post-hoc解析として、生殖細胞系列のDNA損傷修復(DDR)遺伝子異常の有無と患者背景因子との関連が報告されました。全患者1,150例のうち652例が今回の解析の対象となりました(全体集団と背景因子に大きな差はなし)。652例中34例(5.2%)にCHEK2(n=8)、BRCA1/BRCA2/PALB2(n=5)、ATM(n=4)といったDDR遺伝子異常が検出されました。DDR遺伝子変異の有無と腫瘍量や診断時転移の有無といった背景因子の間には関連は見られませんでした。今回のARCHES集団における生殖細胞系列のDDR遺伝子異常の頻度はmCRPCで報告されている頻度(7~12%)(Lozano et al. Br J Cancer 2021、Pritchard et al. N Engl J Med 2016)と比べて低いものでした。KEYNOTE-426 のPFS2(Abstract # 4513)KEYNOTE-426試験(NCT02853331)は転移性のccRCCに対する1次治療としてペムブロリズマブ+アキシチニブがスニチニブと比較してOS、PFS、ORR等のアウトカムを改善することがすでに報告されています(Rini BI, et al. N Engl J Med. 2019, Powles T, et al. Lancet Oncol. 2020)。今回はいわゆるPFS2(Randomizationから後治療に対する抵抗性獲得までの期間)の解析結果が公表されました。今回の解析におけるフォローアップ期間は42.8ヵ月で、ペムブロリズマブ+アキシチニブ群の47.2%(204/432)およびスニチニブ群の 65.5%(281/429)が少なくとも1ライン以上の後治療を受けていました。後治療の内訳はペムブロリズマブ+アキシチニブ群では82.8%がVEGF/VEGFR阻害薬だったのに対し、スニチニブ群では54.8%がPD-1/PD-L1阻害薬でした。PFS2 はペムブロリズマブ+アキシチニブ群で40.1ヵ月だったのに対し、スニチニブ群では27.7ヵ月と前者で有意に良好でした(HR:0.63、95%CI:0.53~0.75)。本結果はIMDC favorable risk、intermediate/poor risk患者別のサブグループ解析においても一貫していました。CheckMate-274の膀胱がんサブグループ解析(Abstract # 4585)CheckMate-274試験(NCT02632409)では、術後再発高リスクの筋層浸潤性尿路上皮がん(膀胱・腎盂・尿管)の術後無再発生存期間(DFS)がアジュバント・ニボルマブ治療によって改善することがすでに報告されています(Bajorin DF, et al. N Engl J Med. 2021)。今回は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に絞った解析結果が報告されました。全709例中560例がMIBCを有し、279例がニボルマブ、281例がプラセボによる治療を受けていました。12ヵ月時点でのDFSはニボルマブ群で66%、プラセボ群で45%と前者で有意に良好でした。本結果は、年齢・性別・ECOG PS・リンパ節転移の有無・PD-L1発現別のサブグループ解析でも一貫していました。Grade3~4の有害事象の発生率はニボルマブ群で17%、プラセボ群で6%でした。MIBCでも全体集団と同様あるいはより顕著なDFS延長効果が示されたことになりますが、逆に上部尿路腫瘍における結果が気になるところです。EV-301の24ヵ月フォローアップデータ(Abstract # 4516)EV-301試験(NCT03474107) では、化学療法・チェックポイント阻害薬治療後の切除不能尿路上皮がんのOSをエンフォルツマブ・ベドチン(EV)が改善することがすでに報告されています(Powles T, et al. N Engl J Med. 2021)。今回は24ヵ月の追跡フォローアップデータが公表されました。OSの中央値はEV群で12.91ヵ月、化学療法群で8.94ヵ月と前者が有意に良好でした(HR:0.704、 95%CI:0.581~0.852、1-sided p=0.00015)。EV群のCR率は6.9%、ORRは41.3%でした。治療関連有害事象発生率は全Gradeで93.9% vs.91.8%、重篤な治療関連有害事象発生率は 22.6% vs.23.4%、Grade3以上の治療関連有害事象発生率は両群とも約50%と有意な差を認めませんでした。初回報告とほぼ同様の結果が今回の追跡調査でも確認されたといえます。ATRANTISの最終解析結果(Abstract # LBA4505)ATRANTIS試験(ISRCTN25859465)はプラチナベースの1次化学療法4~8サイクル後に進行を来さなかった転移性尿路上皮がん(mUC)に対するスイッチメンテナンス・カボザンチニブの有効性を検証する無作為割り付け第II相試験で主要評価項目はPFSでした。30例がカボザンチニブ群(40mg/日)、31名がプラセボ群に割り付けられました。PFSはカボザンチニブ群で13.7週、プラセボ群で15.8週とOSともに有意差を認めませんでした。また、有害事象は疲労(56.7% vs.32.2%)、高血圧(43.3% vs.12.9%)、嘔気(30.0% vs.19.4%)、下痢(40.0% vs.6.5%)等が認められました。結論としてこのセッティングにおけるスイッチメンテナンス・カボザンチニブの有効性は証明されませんでした。おわりに総じて、本年のASCO Annual Meetingでは、泌尿器腫瘍領域に関してはすでに初回報告がなされている大規模臨床試験のフォローアップデータやpost-hoc解析の結果がほとんどであり、大きなブレークスルーは乏しかった印象があります。来年はどのような開催形式で、どのような発表がなされるのか楽しみに待ちたいと思います。

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ICI耐性の非小細胞肺がんに対するラムシルマブ+ペムブロリズマブの2次治療(Lung-MAP S1800A)/JCO

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)耐性となった進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、ラムシルマブとペムブロリズマブの併用による2次治療が有望な成績を示した。 進行NSCLCにおけるICI耐性後の2次治療は化学療法だけであり、今もなお大きなアンメットニーズが残っている。一方、ICIとVEGF阻害薬の併用は、複数のがん種で有望な結果が得られている。ドライバー変異のないICI耐性NSCLCの2次治療に、ICIであるペムブロリズマブとVEGF阻害薬であるラムシルマブの併用を化学療法と比較したLung-MAP S1800Aが行われた。結果は米国臨床がん学会年次集会(ASCO2022)で発表され、同時にJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。・対象:1ライン以上のPD-1/L1治療+プラチナベース化学療法(後治療または併用)を受け病勢進行したバイオマーカーの適合がないStage IVまたは再発NSCLC(ICI開始後84日以上かつ最終治療から1年以内に進行した症例)・試験薬群:ラムシルマブ+ペムブロリズマブ(RP群)3週ごと35サイクルまで投与 69例・対照薬群:治験担当医が選択した標準化学治療(ドセタキセル±ラムシルマブ、ゲムシタビン、メトレキセド、SOC群)67例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]客観的奏効率(ORR)、奏効期間、治験医師評価の無増悪生存期間(PFS)、毒性など 主な結果は以下のとおり。・OS中央値はRP群で14.5か月、SOC群で11.6か月であり、RP群で有意に改善された(ハザード比[HR]0.69、80%信頼区間[CI]:0.51〜0.92、片側p=0.05)。・ほとんどのサブグループでRP群のOS改善が示された。・PFS中央値はRP群で4.5ヵ月、SOC群で5.2ヵ月であった(HR:0.86、80%CI:0.66〜1.14、片側p=0.25)・ORRはRP群で22%、SOC群で 28%であった(片側p=0.19)。・Grade3以上の治療関連有害事象は、RP群の42%、SOC群の60%で発現した。 ICIと化学療法による治療で進行したNSCLC患者に対し、ラムシルマブとペムブロリズマブの併用による2次治療は従来のSOCと比較して、OSの有意な改善が示され、安全性は両剤の既知の毒性と一致していた。

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ASCO2022 レポート 肺がん

レポーター紹介2022年のASCOは久しぶりの現地開催とWeb開催のハイブリッド形式で実施された。肺がん領域については昨年にも増して大きな話題に乏しく、Phase I試験のExpansion、Phase II試験、さらにはサブセット解析などが主体で、PivotalなPhase IIIの公表はあってもNegativeという状況であった。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。SKYSCRAPER-02試験ASCO2022の肺がん領域において、Positiveであれば肺がんだけでなく臓器横断的に大きなインパクトを残したであろう試験がSKYSCRAPER-02試験である。残念ながらProgression-free survival(PFS)、Overall survival(OS)ともにNegativeであったこの試験は、進展型小細胞肺がんにおいて、カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブというIMpower133試験で確立された標準治療に、tiragolumab(抗TIGIT抗体)を上乗せすることの優越性を検証するために実施された。TIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)はT細胞やNK細胞に発現する免疫チェックポイント分子である。tiragolumabは非小細胞肺がんを対象に実施された無作為化Phase II試験であるCITYSCAPE試験の結果、PD-L1高発現の患者集団においてアテゾリズマブに対する上乗せが示され、大きな期待を集めていた。SKYSCRAPER-01試験では進行非小細胞肺がんPD-L1高発現群において、SKYSCRAPER-03試験では切除不能III期非小細胞肺がんの化学放射線療法後の地固め療法として、そして進展型小細胞肺がんにおいてはSKYSCRAPER-02試験が実施されている。その中で最も早く結果が公表されたSKYSCRAPER-02試験は、前述のとおりPFS、OSともにカルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブに対する上乗せを示すことができなかった。さらに、ASCO直前にSKYSCRAPER-01試験においても、PFSが統計学的にNegativeであり、OSの結果は追跡中というプレスリリースが発行され、大きな話題となった。SKYSCRAPER-01試験についても、PFSはNumerical improvementを示しているとされており、OSの結果は追跡中、さらにSKYSCRAPER-03試験は結果を待っている状態であり、今後の報告が待たれる。CITYSCAPE試験の成功以降、多数の薬剤が同時に開発される状況となった抗TIGIT抗体についても、今後、他の領域、他の薬剤の結果を含め注目したい。PD-L1高発現群に対するFDAのPooled analysis2021年前半にESMO virtual plenaryにおいて、Flatiron社の技術を用いた電子カルテデータの解析に基づき、免疫チェックポイント阻害薬単剤(IO-only)と、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法(Chemo-IO)が、PD-L1高発現の集団において有効性に大きな違いがないことが報告され大きく注目された。今年のASCOにおいては、FDAがこれまでの臨床試験のデータのPooled analysis結果をまとめ、ASCO2022の進行肺がんOralセッションの1番目という栄誉を得た。Chemo-IOとしては、KEYNOTE-021試験、KEYNOTE-189試験、KEYNOTE-407試験、IMpower150試験、IMpower130試験、CheckMate9LA試験が、IO-onlyとしては、CheckMate026試験、KEYNOTE-024試験、KEYNOTE-042試験、IMpower110試験、CheckMate227試験、EMPOWER-Lung 1試験が対象となっている。これらの試験に登録された9,000例以上の患者から、PD-L1 50%以上のChemo-IO 455例、IO-only 1,298例が解析対象となっている。OSはIO-onlyで20.9ヵ月、Chemo-IOで25.0ヵ月、Hazard ratio(HR)は0.82(95%信頼区間[CI]:0.62~1.08)であり、わずかにChemo-IOで良いものの信頼区間は1をまたいでいるという結果であった。とくに、年齢別のサブセットで異なる傾向を認め、65歳以下ではChemo-IOが良好な傾向があるのに対して、75歳以上ではIO-onlyが良好であった。確かにPost-hocの解析であり、限界も多いものの、PD-L1高発現の集団において、IO-onlyの治療戦略の重要性が再度示される結果であった。ニボルマブ+イピリムマブに関連したフォローアップデータPoster発表ではあったものの、CheckMate227試験の5年アップデートの結果が公表された。抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法の、進行非小細胞肺がんにおけるベンチマークとなる報告である。今回の報告では、PD-L1 1%以上と、1%未満に大別した成績が報告されている。1%以上においては、5年OS割合が24%、5年PFS割合が12%であった。1%未満においては、5年OS割合が19%、5年PFS割合が10%であり、従来指摘されてきたように、PD-L1の発現によらず、ほぼ同等の成績が5年のデータとしても確認された。PD-L1 1%以上のKEYNOTE-042試験においては、5年OS割合が16.6%、5年PFS割合が6.9%とすでに報告されている。異なる試験の結果であり直接比較は難しいものの、ニボルマブ+イピリムマブの併用により長期生存にプラスに働く可能性があることが示唆される結果といえる。今回PD-L1高発現群でのサブセット解析の結果は示されていないため、KEYNOTE-024試験との比較や、KEYNOTE-598試験などで検証されているPD-L1高発現の部分については、新たな情報がなく、今後追加の発表が期待される。さらに、同じくPosterであるが、CheckMate9LA試験については3年のアップデート結果が報告された。PD-L1の発現によらない全体集団において、化学療法2サイクル+ニボルマブ+イピリムマブは、3年OS割合27%、3年PFS割合13%を示した。この傾向はPD-L1の発現によらず維持されており、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法の特徴が表れている。CheckMate9LA試験についても今後5年のフォローアップデータなどが待たれるものの、おおむねCheckMate227試験を踏襲する傾向であった。ただ、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)で実施されているJCOG2007(NIPPON)試験において、化学療法+ニボルマブ+イピリムマブ群の安全性の問題により登録が中断されており、実施に際しては免疫関連の有害事象を中心とした安全管理に留意が必要である(JCOG2007[NIPPON試験]における重篤な有害事象発生について)。周術期治療の話題切除可能非小細胞肺がんに対して、初めてニボルマブによる術前治療を実施した試験がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたことを記憶されている方も多いと思われる。ASCO2022では、この試験の5年フォローアップデータがPosterセッションではあるものの報告されている。20例の対象患者全体において、5年のOS割合が80%、無再発生存割合が60%であり、ニボルマブによる術前治療によりMPR(Major pathologic response、切除検体でViable tumorが10%以下)を達成した9例の患者のうち、8例(89%)が5年無再発生存しているという良好な結果であった。確かに非常に限られた症例での報告ではあるものの、現在実施中、フォローアップ中のさまざまな周術期免疫チェックポイント阻害薬の試験の結果を先取りする内容として確認しておきたい。最近の試験としては、CheckMate816試験について、術前ニボルマブ+化学療法後の病理学的奏効に基づく、EFS(Event-free survival)のサブセット解析の結果が報告されている。本試験はすでにAACR2022において、EFSにおいて術前化学療法に対してニボルマブを上乗せする意義が証明されたとする報告が行われている。AACRでの発表においても、pCR(pathologic complete response)を達成した患者において、ニボルマブの有無にかかわらず明らかにEFSが良いという結果、すなわちpCRが術前治療後の患者にとって明確な予後因子であることが報告されている。今回の報告ではその点をさらに解析し、pCRやMPRだけでなく、70%以上、20%以上などのさまざまなカットオフで評価しており、おおむね病理学的奏効の深さとEFSの良さが相関することが示された。ESMOが主導する、ESMO Virtual plenaryシリーズは、通常開催の学会とは独立して、重要演題を速報的に公開する方法として徐々にその地位を固めつつある。今年のESMO Virtual plenaryにおける肺がん領域の話題は、完全切除後の非小細胞肺がんにおいて、術後補助療法としてペムブロリズマブの意義を検証する、Phase III試験であるEORTC-1416-LCG/ETOP 8-15(PEARLS/KEYNOTE-091)試験であった。本試験においては、何よりもPD-L1高発現の集団においてペムブロリズマブの優越性が示されなかった点が話題となり、今後さまざまな観点からの解析結果が待たれる状態である。ASCO2022においてはサブグループ解析が報告され、割付調整因子に含まれていた術後プラチナ併用療法の有無において実施群のほうで明らかにペムブロリズマブの追加が良い傾向を認め、探索的な結果ながらも術後プラチナ併用療法としてカルボプラチン+パクリタキセルを実施した場合にペムブロリズマブの追加の効果が乏しいことが示されている。本試験については今後もさまざまな追加解析が実施されると思われ、それらの結果からIMpower010試験のアテゾリズマブと合わせて、周術期免疫療法の理解が深まることを期待している。

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ASCO2022 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ2年ほど、ASCOでは、「高齢者総合的機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を評価するランダム化比較試験が続けて発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げた。今年のASCOでは、老年腫瘍に関するpivotal studyは少なかったものの、その数および質は高まっているように思えた。その中から、老年腫瘍の観点から興味深い研究を抜粋して紹介する。PS:2または70歳以上の進行非小細胞肺がんに対するカルボプラチン併用療法とニボルマブ+イピリムマブのランダム化比較第III相試験(Energy-GFPC 06-2015: #90111))今回のASCOにて、CheckMate-227の長期フォローアップの結果が公表された2)。具体的には、PD-L1陽性の進行非小細胞肺がんに対してニボルマブ+イピリムマブを投与された集団は化学療法と比較して長期生存が認められた(5年OS:24%vs.14%)。しかし、CheckMate-227の対象集団はPS:0~1であり、75歳以上の高齢者は10%程度しか登録されていないため、いわゆる脆弱な集団において、ニボルマブ+イピリムマブが有用なのかはわかっていない。実は、セカンドライン以降のニボルマブにおいても同様のクリニカルクエスチョンがあり、欧州における承認条件として実施されたCheckMate-171という、PS:2および70歳以上の高齢者進行非小細胞肺がんを対象とした単群試験が行われており、2020年にEuropean Journal of Cancerにその結果が掲載されている(いずれの集団においてもニボルマブの忍容性が示された)3)。PS:2および70歳以上の高齢者のみを対象としているのは、いわゆる「脆弱な集団」でもニボルマブが有用か否か評価したかったようである。前置きが長くなってしまったが、今回のASCOにて、CheckMate-171のクリニカルクエスチョンと同様に、PS:2および70歳以上の高齢者を対象として、カルボプラチン併用療法とニボルマブ+イピリムマブの有効性を評価するランダム化比較試験の結果が発表された。主な適格規準は、IV期または術後再発の非小細胞肺がん、「70歳以上かつPS:0~1」または「年齢不問かつPS:2」、治療歴なし、driver mutationなしなど。登録した患者は、標準治療群(化学療法群)および試験治療群(ニボルマブ+イピリムマブ群)に1対1で割り付けられた。Primary endpointを全生存期間(overall survival:OS)として、化学療法群と比較して、ニボルマブ+イピリムマブ群が優越性を示すことができるかを検証するデザインであった。当初、予定登録患者数は242例であったが、PS:2の集団の予後が不良であったため、効果安全評価委員会の勧告にて登録が途中で中止されている。217例が登録され、不適格例1例を除く216例が解析対象となった。結果、化学療法群と比較して、ニボルマブ+イピリムマブ群の生存曲線は上回っていたものの、ハザード比[HR]は0.85(95%信頼区間[CI]:0.62~1.16、p=0.2978)と優越性を示すことはできなかった。サブグループ解析において、「年齢不問かつPS:2」では化学療法群が有効な傾向であり、「70歳以上かつPS:0~1」ではニボルマブ+イピリムマブ群の方が有効な傾向にあった。セカンドライン以降のニボルマブの有用性を評価したCheckMate-171でも、「年齢不問かつPS:2」と比較して「70歳以上かつPS:0~1」はOSが良好(MST:5.2ヵ月vs.10.0ヵ月)であり、「75歳以上かつPS:0~1」の集団にいたってはMSTが11.2ヵ月と最も良好であった。臨床試験に登録する高齢者は一般的な高齢者よりも元気である可能性はあるとはいえ、本試験においてもCheckMate-171と同様の傾向がみられたことから、やはり「PS:2」と「暦年齢で規定された高齢者」を1つの集団とするのは無理があるのかもしれない。日常診療と同じように、「脆弱な集団」は暦年齢以外で規定する必要がありそうである。70歳以上の乳がん患者に対する術後補助化学療法のランダム化比較試験(ASTER 70s trial: #5004))HER2陽性の高齢者乳がん患者に対する術後補助化学療法については、本邦で実施されたランダム化比較試験の結果が2020年のJCOに掲載されている(試験治療群であるトラスツズマブ+化学療法は、標準治療群であるトラスツズマブ単剤と比較して全生存期間において非劣性を示せなかった)5)。今回、フランスの臨床研究グループが、ER陽性、HER2陰性の高齢者乳がん患者に対する術後補助化学療法の有用性を評価するランダム化比較試験の結果を公表した。結果だけみるとnegative studyではあるが、本試験は高齢がん患者を対象とする臨床試験デザインとしてはモデルになりうると考えるため、ここで紹介する。主な適格規準は、70歳以上の乳がん術後患者、ER陽性、HER2陰性、術後補助化学療法を検討されているなど。遺伝子発現解析としてGenomic Grade Index(GGI)を用いられており、再発リスクが高いとされる集団(GGIがhighまたはequivocal)はランダム化比較試験に登録、再発リスクが低いとされる集団(GGIがlow)は前向き観察研究に登録された。ランダム化比較試験に登録した患者は、標準治療群(エストロゲン単独療法)と試験治療群(化学療法4コース後にエストロゲン単独療法)に1対1に割り付けられた。割付調整因子は、pN、施設、G8(高齢者における脆弱性のスクリーニングツール)。Primary endpointをOSとして、標準治療群と比較して、試験治療群の優越性を検証するデザインであった。Secondary endpointsは、乳がん特異的生存期間や無浸潤疾患生存期間などの一般的なものに加えて、健康関連QOL(QLQ C-30、ELD-14)、費用対効果などであった。前向き観察研究に登録した患者は、ET療法を5年以上実施することとしていた。1,089例の患者がランダム化比較試験に登録され、880例の患者が前向き観察研究に登録された(今回の発表では前向き観察研究の結果は示されなかった)。患者背景として、IADL(手段的日常生活動作)、Mini-Mental State Examination(認知機能)、Charlson Comorbidity Index(併存症)、Lee Index(推定余命)、G8などは両群で大きな差はなかった。結果、標準治療群に対して試験治療群はOSにおいて優越性を示すことができなかった(HR:0.79[95%CI:0.60~1.03、p=0.08])。Grade3以上の有害事象は試験治療群で明らかに多く、治療関連死亡は、標準治療群で1名、試験治療群で3名であった。本試験は、高齢がん患者を対象とする臨床試験のデザインとして興味深い。まず、割付調整因子にG8が含まれている。G8は8つの質問で患者自身の脆弱性を評価するツールであり、14点以下は脆弱の疑いがあると判断される。多くのがん種で、G8は高齢がん患者の予後因子であることが知られているが、G8を割付調整因子にしている高齢者試験は少ない。これは、他に有用な予後因子があるためG8を割付調整因子としていない場合もあるだろうが、G8を日常診療で使用していないため、これを割付調整因子とすることに抵抗がある場合もあるだろう。フランスは老年腫瘍学先進国であり、高齢者機能評価を日常的に行っているため、これを割付調整因子にすることに抵抗がなかった可能性がある。次に、背景因子として、G8、IADL(手段的日常生活動作)、Charlson Comorbidity Index(併存症)、居住状況、Lee Index(推定余命)、ポリファーマシーの有無、Mini-Mental State Examination(認知機能)などを評価している。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は前4者を高齢者研究では実施することを推奨しているが6)、本試験ではさらに項目を追加している。データを収集することの負担とメリットのバランスは重要だが、フランスでは高齢者機能評価が日常的に行われているため、これらを収集することが過大な負担にならなかった可能性がある。最後に、健康関連QOLとして、高齢がん患者に特異的なEORTC ELD-14を評価している。EORTC ELD-14自体は14の質問に回答するのみだが、EORTC C-30とともに回答する必要があるため、合計44の質問に回答しなくてはならない。これを3ヵ月ごとに回答するというのは患者にとって負担であり、回答割合が低くなる可能性がある。また、これら全てに回答できる集団が果たして一般の高齢者を代表できるのかという疑問もある。とはいえ、高齢がん患者にとってはOSだけでなく健康関連QOLも重要であるため、データの回収割合なども含めて、今後の結果公表が待たれる。PD-L1≧50%の進行非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬単剤と免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の有効性に関するpooled analysis(#90007))進行非小細胞肺がんの1次治療において、化学療法(chemo群)、免疫チェックポイント阻害薬単剤(IO単剤群)、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法(Chemo-IO群)を比較したランダム化比較試験のうち、PD-L1≧50%の集団のみを抜き出して解析したpooled analysisが公表された。ただし、FDAで承認されている薬剤に関する試験のみが対象である。PD-L1≧50%の進行非小細胞肺がん患者3,189例が解析対象とされた(chemo群:1,436例、IO単剤群:455例、Chemo-IO群:1,298例)。今回の発表では、IO単剤群とChemo-IO群を比較した結果が示された。OSの中央値は、Chemo-IO群で25.0ヵ月、IO単剤群で20.9ヵ月(HR:0.82、95%CI:0.62~1.08)、PFSの中央値は、9.6ヵ月vs.7.1ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.55~0.87)であった。サブグループ解析において、75歳以上の集団のOSおよびPFSはIO単剤群で良好な傾向であった。対象試験が限定されていること、また、あくまでpooled analysisなのでOSで統計学的な有意差が出なかったことから、この試験の結果をもってIO単剤が標準治療になることはないと考えている。それよりも、老年腫瘍学的には、75歳以上のデータが公表されたことに意義がある。多くの論文では、65歳以上/未満のサブグループ解析しか掲載されてないため、70歳以上や75歳以上の、日常診療で困っている集団に対するデータが乏しいのである。今回、75歳以上の集団でIO単剤群が良好な傾向であった。しかし、75歳以上の集団は185例で1割程度と少ないため、この結果の解釈は注意が必要である。とはいえ、少しでもChemo-IOに不安を覚えるような脆弱な高齢者にIO単剤を勧める根拠にはなりそうである。参考1)Randomized phase III study of nivolumab and ipilimumab versus carboplatin-based doublet in first-line treatment of PS 2 or elderly (≧70 years) patients with advanced non-small cell lung cancer (Energy-GFPC 06-2015 study).2)Five-year survival outcomes with nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) versus chemotherapy (chemo) as first-line (1L) treatment for metastatic non-small cell lung cancer (NSCLC): Results from CheckMate 227.3)Felip E, Ardizzoni A, Ciuleanu T, Cobo M, Laktionov K, Szilasi M, et al. CheckMate 171: A phase 2 trial of nivolumab in patients with previously treated advanced squamous non-small cell lung cancer, including ECOG PS 2 and elderly populations. European journal of cancer (Oxford, England : 1990). 2020;127:160-72.4)Final results from a phase III randomized clinical trial of adjuvant endocrine therapy ± chemotherapy in women ≧70 years old with ER+ HER2- breast cancer and a high genomic grade index: The Unicancer ASTER 70s trial.5)Sawaki M, Taira N, Uemura Y, Saito T, Baba S, Kobayashi K, et al. Randomized Controlled Trial of Trastuzumab With or Without Chemotherapy for HER2-Positive Early Breast Cancer in Older Patients. Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology. 2020:Jco20001846)JCOG高齢者研究委員会 推奨高齢者機能評価ツール7)Outcomes of anti–PD-(L)1 therapy with or without chemotherapy (chemo) for first-line (1L) treatment of advanced non–small cell lung cancer (NSCLC) with PD-L1 score ≥ 50%: FDA pooled analysis.

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