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間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

2.

「胃癌治療ガイドライン」改訂のポイント~薬物療法編~/日本胃癌学会

 2025年3月、「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編)が改訂された。2021年から4年ぶりの改訂で、第7版となる。3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会では、「胃癌治療ガイドライン第7版 改訂のポイント」と題したシンポジウムが開催され、外科治療、内視鏡治療、薬物療法の3つのパートに分け、改訂ポイントが解説された。改訂点の多かった外科療法と薬物療法の主な改訂ポイントを2回に分けて紹介する。本稿では薬物療法に関する主な改訂点を取り上げる。「外科治療編」はこちら【薬物療法の改訂ポイント】原 浩樹氏(埼玉県立がんセンター 消化器内科) 内科系(薬物療法)については非常に多くの改訂があった。多くはガイドラインを一読すれば理解いただけると思うが、多くの方が関心を持っているであろうMSI、CPS、CLDN18、HER2といったバイオマーカーとそれに基づく治療選択と、今後避けて通れない高齢者診療に関する新たな推奨に絞って、改訂ポイントを紹介する。CQ12 切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法CQ12 HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤は推奨されるか?・HER2 陰性の切除不能な進行・再発胃癌/食道胃接合部癌において、一次治療として、化学療法+免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)併用療法を行うことを強く推奨する。バイオマーカー(PD-L1[CPS]、MSI/MMR、CLDN18)や患者の全身状態を考慮する。(合意率100%、エビデンスの強さA)CQ13 切除不能進行・再発胃癌におけるバイオマーカーCQ13-1 バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することは推奨されるか?・切除不能進行・再発胃癌患者に対し、バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することを強く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さA) HER2陰性切除不能進行・再発胃癌の一次治療として、「推奨される化学療法レジメン」として新たに承認された抗CLDN18.2抗体のゾルベツキシマブ、チェックポイント阻害薬(ICI)のニボルマブ・ペムブロリズマブ、それぞれの化学療法との併用レジメンが追加された。「条件付きで推奨される化学療法レジメン」としてはSOX+ペムブロリズマブが追加となった。各レジメンの推奨根拠となった試験を紹介する。・ニボルマブ+化学療法/CheckMate 649PD-L1 CPS≧5の患者群における全生存期間(OS)中央値は、ニボルマブ+化学療法群で14.4ヵ月、化学療法単独群で11.1ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.71であった。CPS≧1集団、全体集団でも改善傾向は見られたものの効果は低減する傾向だった。一方、MSI-H症例では強いOS延長効果が確認され、HRは0.34だった。ただし、MSI-Hは全体の3~4%という希少な集団である一方で、CPS<5の集団にもMSI-H症例が隠れていることに留意が必要だ。・ペムブロリズマブ+化学療法/KEYNOTE-859CPS≧1、CPS≧10、全体集団いずれにおいてもOSの有意な改善が示された。CheckMate 649試験と同様に、CPS値が高いほどHRが改善する傾向が見られた。CPS高値例にICIの効果が高いことは明らかだが、カットオフ値をどこに定めるべきかについては、引き続き議論が必要だろう。・ゾルベツキシマブ+化学療法/SPOTLIGHT・GLOW 両試験とも、ゾルベツキシマブ+化学療法群(mFOLFOX6またはCAPOX)は、主要評価項目である無増悪生存期間および重要な副次評価項目であるOSに対し統計的に有意な延長を示した。 昨年、日本胃癌学会から「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」1)が発表された。この手引きでは一次薬物療法開始前に4つのバイオマーカー(HER2、PD-L1、MSI、CLDN18)をすべて測定することを強く推奨している。ただし、施設の状況や患者の状態によっては、すべての検査が実施できない場合もあるだろう。そうした場合は、一次療法開始に不可欠なバイオマーカーであるHER2とCLDN18検査を優先して実施することが推奨される。 HER2陰性の推奨レジメンは、CLDN18陽性の場合は6つ、陰性の場合は4つあり、この使い分けが論点となっている。ガイドライン作成委員会の中で一番議論となったのがHER2陰性+CLDN18陽性のケースだ。CPS<1では抗PD-1抗体による生存延長効果がほとんどないことを考慮すると、 ・CPS<1:ゾルベツキシマブを優先 ・CPS≧1:ゾルベツキシマブおよびICI2剤のいずれも選択肢と考えられる。ここからは私見になるが、CPS≧10はICI優先、1≦CPS<10はゾルベツキシマブがやや優先かと考えている。実臨床においてはバイオマーカーのみならず、年齢、PS、全身状態、患者希望などを総合的に考慮したうえで、治療方針を決定することになる。CQ10 高齢者CQ10-2 全身化学療法の適応を決める際に、年齢を考慮することは推奨されるか?・高齢の切除不能進行・再発胃癌症例では、患者の全身状態や意欲を慎重に評価したうえで、患者本人が状態良好(fit)かつ意思決定能力を有し治療意欲があれば、化学療法を計画するときに年齢を考慮することを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さB) 日本の胃がん患者の65歳以上が85%という現状があるが、主要な臨床試験における65歳以上の参加者は3分の1程度である。一方、「一般的な若年者と同じ標準治療を受けることは難しいが、何らかの治療は受けられる」という「vulnerable」という多数派層が存在し、この層に向けた治療戦略が必要だ。この層を対象に減量投与の非劣性を報告する試験や、高齢者の状態を評価する「G8」スコア別に薬剤の有用性を評価する試験など、エビデンスも集積しつつある。高齢者の化学療法においては減量や薬剤選択による投与継続をはじめ、適切な個別化戦略が一層重要となる。

3.

切除不能進行胃がんに対するPD-L1抗体sugemalimab+化学療法の有用性(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能な進行胃がんに対する第1選択の薬物療法とは、従来、5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法が標準化学治療となっていた。最近、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無により、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが第1選択の標準治療として推奨されており、さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を追加した4剤併用療法の有用性も報告されている。一方、胃がんの80%を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にICIであるPD-1(programmed cell death-1)抗体薬であるニボルマブ(同:オプジーボ)やペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を加えた3剤併用療法が第1選択の標準治療レジメンとして確立し、さらにHER2陰性かつClaudin(CLDN)18.2陽性胃がんに対してはCLDN18.2を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。このように、手術不能進行胃がんに対する薬物療法が劇的に変化している。 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療に対して、PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5以上の高値を示すアジア人の患者を対象として、標準化学療法単独とPD-L1抗体薬であるsugemalimabの併用を比較した海外無作為化試験が施行された結果、sugemalimab併用の全生存率(OS)中央値15.6ヵ月がプラセボ群の12.6ヵ月に比べて有意に延長していた。とくにCPSが10以上の高値を示す症例のOSはさらに延長していた(2025年2月のJAMAオンライン)。 ICIに関しては、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑博士と米国テキサス大学のジェームズ・P・アリソン博士がそれぞれに発見したPD-1遺伝子とCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)に対する抗体に続いて今回報告されたPD-L1の抗体薬が開発されている。それぞれのICIは異なる機序を有しており、ほかにも新たなICIが次々と開発されつつあるのが現状である。 ICIに関する課題も判明しつつある。すなわちICIが有効性を示す患者もいる一方、効果のない患者もあり、さらに重篤な副作用の出現を認める症例も報告されていることから、今回使用された腫瘍細胞のPD-L1の発現量を示すCPSなど、実際の治療に対する反応性を予測するバイオマーカーの確立が急務であろう。なお、2024年に日本胃癌学会はバイオマーカーとしてHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18の4検査を同時に実施することを推奨している。 今後、切除不能胃がんに対する1次治療にICIを含むレジメンが一般的になるものと思われる。わが国において胃がんに対して使用されるICIはニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1抗体が主流であるが、今回の報告から近いうちにPD-L1抗体も臨床の現場に現れると思われる。

4.

高齢NSCLCへのICI、2次治療への移行率と治療成績(NEJ057)/日本臨床腫瘍学会

 高齢の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後の2次治療への移行率や、2次治療の有効性に関する報告は乏しい。そこで、75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)1)において、ICIによる治療後の2次治療への移行率および2次治療の治療成績が検討された。山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で本結果を報告した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで2018年12月~2021年3月に治療を開始した患者(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したNSCLC患者を対象として解析された。主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(779例)の内訳は、ICI+化学療法群354例、ICI単剤群425例であった。・全身状態はICI+化学療法群のほうが良好な傾向にあった。ECOG PS0/1/2以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が137/199/17/1例、ICI単剤群が100/223/102/0例であった。・PD-L1発現はICI単剤群のほうが高発現の傾向にあった。PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が111/129/75/39例、ICI単剤群が12/111/297/5例であった。・データカットオフ時点(2021年12月31日)において、病勢進行はICI+化学療法群82%、ICI単剤群77%に認められ、Best Supportive Care(BSC)以外の2次治療への移行率はそれぞれ39.3%、23.8%であった。各群の2次治療の内訳は以下のとおり。-プラチナ併用化学療法:5%、13%-単剤化学療法:39%、16%-ICI単剤:3%、1%-その他:1%未満、1%未満-BSC:52%、69%・2次治療のレジメンは、ICI+化学療法群ではドセタキセル(52例)、S-1(32例)、ドセタキセル+ラムシルマブ(23例)が多く、ICI単剤群ではS-1(21例)、カルボプラチン+ペメトレキセド(18例)、カルボプラチン+nab-パクリタキセル(18例)が多かった。・2次治療のPFS中央値、奏効割合は以下のとおり。 <ICI+化学療法群> プラチナ併用化学療法:2.5ヵ月、13% 単剤化学療法:3.7ヵ月、11% <ICI単剤群> プラチナ併用化学療法:5.3ヵ月、26% 単剤化学療法:3.7ヵ月、13%

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胸腺がんにおけるアテゾリズマブ+化学療法の有効性と安全性(MARBLE):多施設共同単群第II相試験/Lancet Oncol

 胸腺がん(TC)は、年間0.15例/10万人とされる胸腺上皮性腫瘍の15%と、非常にまれな疾患である。進行TCの1次治療は、カルボプラチン+パクリタキセルなどのプラチナ併用化学療法である。しかし、奏効割合(ORR)は30%、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約5.0~7.6ヵ月である。既治療の進行TCに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤の試験でもORRは0〜22.5%に留まる。一方、ICI+化学療法の有効性を検討した試験はない。そのような中、順天堂大学の宿谷 威仁氏らは未治療の進行TCに対するICI+化学療法の国内15施設によるオープンラベル単群第II相試験を行った。 ・対象:未治療の切除不能再発進行(III、IVA、IVB期)TC・介入:アテゾリズマブ(1,200mg)+カルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200mg/m2)3週ごと4〜6サイクル→アテゾリズマブ(1,200mg)3週ごと忍容できない有害事象の発現または進行(PD)まで・評価項目[主要評価項目]独立中央判定(ICR)評価のORR[副次評価項目]試験担当医評価のORR、全生存期間(OS)、PFS、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり・2022年6月14日〜2023年7月6日に48例が登録され、有効性および安全性の分析対象となった。・患者の年齢中央値は67.5歳で、全員アジア人であった。・追跡期間中央値15.3ヵ月でのORRは56%であった。・頻度の高いGrade3以上の有害事象は好中球減少症(56%)、白血球減少症(33%)、発熱性好中球減少症(23%)、斑状丘疹状発疹(13%)であった。治療関連死亡はなかった。 進行再発胸腺がんは予後不良であるにもかかわらず、希少性により、新たな薬物療法の開発と導入が遅れている。アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルは、未治療の進行または再発胸腺がんに対する実施可能な治療選択肢となる可能性がある。

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進行食道がんへのニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法の日本人長期追跡データ(CheckMate 648)/日本臨床腫瘍学会

 CheckMate 648試験は、未治療の根治切除不能・進行再発食道扁平上皮がんを対象に、シスプラチン+5-FUの化学療法を対照として、ニボルマブ+化学療法、ニボルマブ+イピリムマブの優越性を報告した試験である。この試験の結果をもって両レジメンは「食道癌診療ガイドライン 2022年版」においてエビデンスレベルAで推奨されている。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)のPresidential Sessionでは、虎の門病院の上野 正紀氏が、本試験の日本人サブグループにおける45ヵ月の長期フォローアップデータを報告した。・試験デザイン:国際共同ランダム化第III相試験・対象:未治療の進行再発または転移食道扁平上皮がん(ESCC)、ECOG PS 0~1・試験群:1)ニボ+イピ群:ニボルマブ(3mg/kg)+イピリムマブ(1mg/kg)2)ニボ+ケモ群:ニボルマブ(240mg)+化学療法(シスプラチン+5-FU)ニボルマブおよびイピリムマブは最長2年間投与3)ケモ群:化学療法単独(シスプラチン+5-FU)[主要評価項目]PD-L1(TPS)≧1%の患者における全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全体集団のOS・PFS、奏効率(ORR) 主な結果は以下のとおり。・ITT集団970例中日本人は394例で、ニボ+イピ群に131例、ニボ+ケモ群に126例、ケモ群に137例が割り当てられた。いずれの群でもTPS≧1の患者はほぼ半数だった。データカットオフ(2023年10月27日)時点における追跡期間中央値は45.1ヵ月だった。・日本人のTPS≧1集団におけるOS中央値は、ニボ+イピ群20.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.6~26.6)、ニボ+ケモ群17.9ヵ月(95%CI:12.1~26.6)と、ケモ群9.0ヵ月(95%CI:7.5~11.1)に対し、いずれも統計学的有意に上回った(ニボ+イピ群のケモ群に対するハザード比[HR]:0.46、ニボ+ケモ群のHR:0.58)。TPS≧1集団における48ヵ月時点の全生存率はニボ+イピ群30%、ニボ+ケモ群18%、ケモ群9%だった。・日本人の全集団におけるOS中央値は、ニボ+イピ群17.6ヵ月(95%CI:12.7~22.8)、ニボ+ケモ群15.5ヵ月(95%CI:12.1~19.3)と、ケモ群の11ヵ月(95%CI:9.1~14.0)に対し、いずれも有意に上回った(ニボ+イピ群のケモ群に対するHR:0.67、ニボ+ケモ群のHR:0.81)。・治療開始から18週時点におけるORRが高いレスポンダー群とそれ以外の群に分けた解析では、レスポンダー群はフォローアップ期間を通じて長期に予後が改善する傾向が示された。この傾向はニボ+イピ群、ニボ+ケモ群に共通していた。・Grade3~4の治療関連有害事象はニボ+イピ群37%、ニボ+ケモ群49%、ケモ群36%で発生した。 上野氏は「日本人集団はPD-L1発現にかかわらず、ニボ+イピ群・ニボ+ケモ群共に、ITT集団と同様、一部はそれを上回る改善を示した。有害事象も既報のものと一致していた。この解析結果は進行再発ESCCの1次治療としてニボ+イピ、ニボ+ケモの両レジメンが日本人においても標準治療であることを裏付けるものだ」とまとめた。 現在のガイドラインにおいては、進行再発ESCCの1次治療にはニボルマブ+イピリムマブ、ニボルマブ+化学療法に加え、ペムブロリズマブ+化学療法の3レジメンが同等の推奨とされている。これらの使い分けについて上野氏は「ニボ+ケモは腫瘍縮小効果が出るまでが速い一方で、ニボ+イピは奏効すれば長期に予後を改善できる可能性がある。患者さんの年齢や全身状態によって『少し待てる』場合であればニボ+イピ、そうでない場合はニボ+ケモを選択するのが1つの考え方だ。またニボ+ケモは入院加療となる一方、ニボ+イピは外来対応が可能だ。そうした点も踏まえ、患者さんごとに判断している」とした。

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第254回 肥満症治療薬の販売が絶好調!おかげで販売元は豊満に?

海外企業の多くは12月末が決算である。このため5月以降に佳境を迎える日本と違い、すでに主要企業の決算はほぼ出そろっている。医療に関係する企業で言うならば、やはり一番大きいのが製薬業界である。2023年実績で世界ランキング20位までの製薬企業のうち、日本企業ゆえにまだ決算が発表されていない武田薬品、大塚ホールディングスと非上場のためまだ発表されていない独・ベーリンガー・インゲルハイム以外の17社はすでに決算を発表済みだ。これら各社の決算結果では当然、各社の主要製品の売上高も公表されている。この各社発表の医療用医薬品の売上高をランキング化すると、改めて近年の傾向が見えてくる。そのトップ10を見ていきたい。なお、売上高はドル換算だが、各薬剤を円換算に表示すると、やや読みづらいと思うので、100億ドル=約1兆5,000億円を軸に各読者が概算で捉えていただければと思う。売上高トップ5、2024年で変わったことまず、2024年の売上高トップの医薬品は抗PD-1モノクローナル抗体のペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の294億8,200万ドルである。近年、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の主流を占める中で、2023年からこの薬が世界売上高トップにつけている。第2位が抗凝固薬のアピキサバン(同:エリキュース)の206億9,900万ドル(併売するブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの合算)。以下順に第3位がGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの注射薬(同:オゼンピック)の176億4,200万ドル、第4位が抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ(同:デュピクセント)の139億4,700万ドル、第5位が抗HIV薬のビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩の配合剤(同:ビクタルビ)の134億2,300万ドル。このトップ5は2023年とほぼ順位は同じなのだが1点だけ異なる点がある。2023年は第3位に抗TNFαモノクローナル抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)がランクインしていた。同薬は免疫疾患に広く使われ、ペムブロリズマブが同年にトップになるまで、医療用医薬品売上高の王座だった。で、2024年にはどうなったのかというと、売上高89億9,300万ドルでトップ10圏外の第11位までランクダウンした。それもこれも2023年に特許が失効し、バイオ医薬品版ジェネリックのバイオシミラーが登場し始めたからである。ちなみに特許失効前の2022年の売上高は212億3,700万ドル。実に過去2年間で57.7%の減収である。製薬業界ではこの特許失効時期を境に該当製品の売上が急減することを「パテントクリフ」、日本語で直訳すると「特許の崖」と評するが、まさにその状況である。もっともこれでもアダリムマブはまだましなほうである。というのも、低分子の経口薬ならば、特許失効後半年程度で売上高の6割がジェネリック医薬品に置き換わるからである。ご存じのように低分子の経口薬と違い、培養が必要なバイオ医薬品では完全に同一条件で製造ができないため、バイオシミラーは先発のバイオ医薬品の同一成分ではなく同等・同質の成分。この結果、経口薬のジェネリック医薬品に比較的寛容な欧米の医師でも処方には慎重になりがちだ。6~10位にもある変化がさて第6位以降はどうだろう。第6位が抗IL-23p19モノクローナル抗体のリサンキズマブ(同:スキリージ)の117億1,800万ドル、第7位が抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(同:ダラザレックス)の116億7,000万ドル、第8位が持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(同:マンジャロ)の115億4,000万ドル、第9位が抗IL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)の103億6,100万ドル、第10位が抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(同:オプジーボ)の93億400万ドル(ブリストル・マイヤーズスクイブ分のみの売上高)だった。第6~10位を2023年と比べると、トップ5と同じくある医薬品がトップ10外にランクダウンしている。それは一般人にとってはもはや喉元過ぎた熱さと言えるかもしれない、ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンのコミナティである。2023年には112億2,000万ドルの売上高だったが、2024年は53億5,300万ドルで52.3%の減収となった。もっとも新型コロナに限らず、感染症ワクチンはある種季節もの的な側面はあるため、取り立てて驚くような話でもない。一方、アダリムマブとコミナティのランクダウンに代わって2024年に新たにトップ10入りしたのが第6位のリサンキズマブと第8位のチルゼパチドである。前者はアダリムマブの製造販売元のアッヴィが戦略上、アダリムマブの後継品の1つに位置付けている医薬品である。現状、両薬で共通する適応症は乾癬と炎症性腸疾患だが、今後、新規患者では企業側自体がリサンキズマブに注力する可能性が高いため、アダリムマブの後退に代わって、より伸長していく可能性が高いだろう。そして第8位のチルゼパチドは前年比2.24倍という驚異的な売上伸長で初めてトップ10入りした。もともとは2型糖尿病治療薬として発売(同:マンジャロ)され、2025年4月11日に肥満症治療薬(同:ゼップバウンド)として発売が決定している。ちなみに第3位のセマグルチドも商品名としてのオゼンピックは2型糖尿病が適応だが、同一成分で肥満症を適応とするウゴービがある。ただ、以前の本連載でも触れたが、オゼンピック、マンジャロとも純粋に2型糖尿病治療薬として使われているとは言い難く、実際にはいわゆるダイエット目的の自由診療で相当程度使われ、今回の両製品の公式売上高もその分が相当含まれていると思われる。そして公式の肥満症治療薬としての2024年の製品売上高は、ウゴービが85億3,300万ドル、ゼップバウンドが49億2,600万ドルだった。それぞれ2023年比で1.86倍、24.6倍も売上高が伸長している。この調子だとウゴービ、ゼップバウンドともに2025年もかなりの売上伸長となりそうだ。ウゴービの場合は今回の集計では第12位で、2025年売上高はトップ10にGLP-1受容体作動薬関連が4製品もランクインする事態が現実味を帯びている。もちろんこれが適応症に沿って医学的に正しく使われているのならば何も問題はないが、そうではないことを否定できる人は誰もいないはずだ。もはや世界的に“なんだかなあ?”と言いたくなるような状況なのである。

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免疫チェックポイント阻害薬治療中の生存率にインスリン分泌能が独立して関連

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けているがん患者において、インスリン分泌能が良好であることが、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の延長に独立して関連しているとする研究結果が報告された。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科の渡邉真由氏、江口潤氏らが行った前向きコホート研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に12月11日掲載された。 ICIは種々のがんに対してしばしば著効を示すが、従来の抗がん剤とは異なる副作用があり、糖尿病を有する場合はインスリン分泌能低下リスクのあることが知られている。ただし、糖尿病でないがん患者に関しては、まれに劇症1型糖尿病を引き起こすリスクがあることを除き、糖代謝へどのような影響が生じるのかという点の知見は限られている。 渡邉氏らはこの点について、同大学病院の患者を対象とする前向きコホート研究により検討した。解析対象は、2017年6月~2019年8月に進行がんと診断され、ICIによる初回治療が行われた87人。ベースライン以前および研究期間中に糖尿病と診断・治療された患者、および糖代謝に影響を及ぼし得るステロイドが処方された患者などは除外されている。 主な特徴は、年齢中央値(以下、連続変数は全て中央値)が65歳(四分位範囲56~72)、男性67.8%、BMI19.2。がん種は頭頸部がん52人、胃がん19人、その他16人であり、全身状態を0~4で表すECOG PSは0~1(比較的良好なパフォーマンス)が80.5%を占めていた。糖代謝に関しては、HbA1c5.6%、空腹時血糖値97mg/dL、インスリン分泌能を表すHOMA-βが59.4(四分位範囲37.1~85.3)、Cペプチドが1.52ng/dL(同1.01~2.24)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRが1.11(0.72~2.34)であり、腎機能(eGFR)は70.9mL/分/1.73m2(63.5~87.2)と良好だった。投与されたICIは、ニボルマブが78人、ペムブロリズマブが10人、イピリムマブが1人だった(2人は2剤併用)。 ICI投与開始1カ月後、HbA1cの有意な低下(P=0.018)とCペプチドの有意な上昇(P=0.022)が観察され、ICIは非糖尿病患者の糖代謝にも影響を及ぼし得ることが示唆された。 観察期間中に82人(94.3%)が死亡し、OSは中央値7カ月、PFSは同3カ月だった。OSの中央値で2群に分けて比較すると、HOMA-βはベースラインおよび投与1カ月後の両時点で有意差があり、OSが7カ月以上の群のほうが高値だった。その他の糖代謝関連指標の群間差は非有意だった。ROC解析により、OSが7カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は64.24と計算され、AUCは0.665だった。また、PFSが3カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は66.43、AUCは0.582だった。 次に、年齢、性別、BMI(最適なカットオフ値である18.58以上)、eGFRおよびHOMA-β(64.24以上)を独立変数、OSの短縮(中央値である7カ月未満)を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を施行。その結果、BMI(ハザード比〔HR〕0.481〔95%信頼区間0.299~0.772〕)とHOMA-β(HR0.623〔同0.393~0.989〕)の2項目が、OS延長に独立して関連していることが明らかになった。続いて行ったPFSの短縮(中央値である3カ月未満)を従属変数とする解析からは、HOMA-β(66.43以上の場合にHR0.557〔0.339~0.916〕)のみが、PFS延長に独立して関連していることが明らかになった。 著者らは本研究が単施設の患者データに基づく解析であり、サンプルサイズも十分でないことなどを限界点として挙げた上で、「得られた結果は、ICI治療を受ける非糖尿病患者において、インスリン分泌能の高さがOSやPFSの延長に独立して関連することを示している。HOMA-βは、ICI投与が予定されるがん患者の予後予測指標となり得るのではないか」と結論。また、「ICIが膵β細胞機能に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される」と付け加えている。

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Nature著者に聞く!ミトコンドリアを介したがんの免疫逃避機構【Oncologyインタビュー】第48回

出演:岡山大学学術研究院医歯薬学域 腫瘍微小環境学分野 教授  冨樫 庸介氏「がん細胞の異常なミトコンドリアがT細胞に伝播し、抗腫瘍免疫応答を低下させる」という驚きの研究結果が、2025年1月にNature誌で報告された。本研究を主導した岡山大学の冨樫 庸介氏が、本研究の背景や結果を解説。研究の裏話や、研究を志す若手医師へのメッセージなどもお話しいただいた。参考Ikeda H, et al. Nature. 2025;638:225-236.岡山大学ほか. がん細胞が自らの異常なミトコンドリアで免疫系を乗っ取り、生き残りをはかっている

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MSI-H/dMMR進行大腸がんにおけるニボルマブ+イピリムマブ、アジア人にも有用(CheckMate 8HW)/日本臨床腫瘍学会

 CheckMate 8HW試験は、全身療法歴のない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)の転移大腸がん患者に対して、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法と化学療法の有用性を検討した試験である。昨年末にはニボ+イピ群が化学療法群と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが報告されたが1)、2025年3月6~8日に行われた第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)では国立がん研究センター東病院の吉野 孝之氏が、本試験のアジア人サブグループにおける解析結果を発表した。・試験デザイン:多施設共同ランダム化非盲検第III相試験・対象:切除不能または転移大腸がん(mCRC)、MSI-H/dMMR・試験群:1)ニボルマブ(240mg)+イピリムマブ(1mg/kg):ニボ+イピ群2)ニボルマブ単独:ニボ群3)化学療法(医師選択による化学療法±標的療法):ケモ群 患者は2:2:1の割合で無作為に割り付けられ、治療は疾患進行または容認できない毒性が認められるまで(全群)、最長2年間(ニボ+イピ群)継続された。今回は発表されたのはニボ+イピ群対ケモ群の中間解析であり、ニボ群の解析は追って発表予定。[主要評価項目]1次治療におけるニボ+イピ群vs.ケモ群のPFS、全期間におけるニボ+イピ群対ニボ群のPFS[副次評価項目]安全性、PFS2、全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2023年10月12日)時点において、全体集団の追跡期間中央値は31.5ヵ月、アジア人は20.2ヵ月だった。・全体集団ではニボ+イピ群に202例、ケモ群に101例が割り付けられた。うちアジア人サブグループはニボ+イピ群19例(うちMSI-H/dMMR:17例)、ケモ群11例(同:11例)含まれていた。・全体集団におけるPFS中央値は、ニボ+イピ群は未到達(95%信頼区間[CI]:38.4ヵ月~評価不能)、ケモ群は5.9ヵ月(95%CI:4.4~7.8)であった(HR:0.21)。アジア人におけるPFS中央値はニボ+イピ群は未到達(95%CI:評価不能)、ケモ群は7.4ヵ月(95%CI:1.5~評価不能)であった(HR:0.03)。・その後の全身療法を受けた患者は、全体集団ではニボ+イピ群15%、ケモ群69%であった。アジア人ではそれぞれ18%、73%だった。・全体集団におけるPFS2期間中央値は、ニボ+イピ群は未到達(95%CI:評価不能)、ケモ群は29.9ヵ月(95%CI:14.8~評価不能)であった(HR:0.27)。アジア人はいずれも未到達であった(HR:0.63)。・Grade3/4の治療関連有害事象は全体集団ではニボ+イピ群23%、ケモ群48%で発生した。アジア人はそれぞれ16%、71%だった。ニボ+イピ群で多かった有害事象は副腎機能不全(23%)、甲状腺機能低下症(21%)、食欲減退(16%)、ケモ群では悪心(57%)、下痢、好中球減少症、末梢神経障害(各43%)だった。 吉野氏は「ニボ+イピはアジア人サブグループにおいても全体集団同様に、化学療法と比較して臨床的有意なPFSの改善を示した。クロスオーバー率が高いにもかかわらず、アジア人におけるPFS2はニボ+イピが化学療法よりも優れており、治療後も臨床的ベネフィットを得られることを示唆している(24ヵ月後のPFS2率はニボ+イピ群93%対ケモ群74%)。安全性も既報と一致していた。サンプルサイズは小さいものの、本結果はアジア人においてもニボ+イピ療法がMSI-H/dMMR mCRC患者1次治療における標準治療となる可能性を支持するものだ」とした。

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TTF-1陰性Non-Sq NSCLCに対するアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(LOGIK2102)/日本臨床腫瘍学会

 非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とペメトレキセドを含む化学療法の併用療法が広く用いられている。しかし、TTF-1陰性の非扁平上皮(Non-Sq)NSCLCでは、ペメトレキセドの治療効果が乏しいことも報告されている。そこで、ペメトレキセドを含まないレジメンとして、アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する国内第II相試験「LOGIK2102試験」が実施された。第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)において、白石 祥理氏(九州大学病院 呼吸器内科)が本試験の結果を報告した。・試験デザイン:国内第II相単群試験・対象:TTF-1陰性(IHC)で、化学療法による治療歴のないStageIII/IVまたは再発Non-Sq NSCLC患者52例・試験群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセル(4サイクル)→アテゾリズマブ(病勢進行まで)・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、奏効期間(DOR)、治療継続期間、安全性など・解析計画:PFS中央値の期待値を6.7ヵ月とし、80%信頼区間の下限値が4.5ヵ月を上回った場合に主要評価項目達成とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は68歳(範囲:41~81)、男性の割合は79%、PS0/1の割合は31%/69%であった。組織型は、腺がん/非腺がん(扁平上皮がんを含まない)の割合が63%/37%であった。臨床病期は、StageIII/StageIV/再発の割合が4%/85%/12%であった。PD-L1の発現状況は、1%未満/1~49%/50%の割合が42%/35%/21%であった。・主要評価項目のPFSについて、PFS中央値は4.9ヵ月(80%信頼区間[CI]:4.3~5.9、95%CI:4.2~6.1)であり、主要評価項目は達成されなかった。・PFSのサブグループ解析において、PS0の集団、非腺がんの集団で良好な傾向にあった。PFS中央値は、PS0の集団が6.6ヵ月(95%CI:4.3~推定不能)、PS1の集団が4.4ヵ月(同:3.6~5.9)であり、非腺がんの集団が7.2ヵ月(同:5.6~9.3)、腺がんの集団が4.2ヵ月(同:2.7~5.6)であった。・OS中央値は12.9ヵ月(95%CI:9.7~推定不能)であった。・組織型別にみたOS中央値は、非腺がんの集団が未到達(95%CI:10.3~推定不能)、腺がんの集団が10.7ヵ月(同:7.3~推定不能)であった。・ORRは56.9%(いずれもPR)であり、DOR中央値は4.4ヵ月であった。・カルボプラチン+nab-パクリタキセルを4サイクル実施した患者の割合は66%であり、アテゾリズマブを8サイクル以上実施した患者の割合は35%にとどまった。・本試験における有害事象発現状況は、既報のアテゾリズマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルによる治療成績と同様であった。 本結果について、白石氏は「本試験は、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者を対象とした初の前向き試験であったが、主要評価項目は達成されなかった。TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者の予後は不良であり、治療法の開発が必要である。今後については、TTF-1陰性の進行Non-Sq NSCLC患者に対するプラチナ製剤+ペメトレキセド+抗PD-1/L1抗体のリアルワールドでの治療成績と、本試験の治療成績を比較する研究を計画・実施中である」とまとめた。なお、新規治療法の開発について、TTF-1陰性の進行・再発Non-Sq NSCLCに対するデュルバルマブ+トレメリムマブ+カルボプラチン+nab-パクリタキセルの有用性を検討する第II相試験(WJOG17223L、TURNING試験)などが、進行中である。

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術前補助療法+ニボルマブが乳がん患者の病理学的完全奏効を改善

 乳がんのタイプとして最も多いのは、エストロゲン受容体陽性(ER+)/ヒト上皮成長因子受容体2陰性(HER2−)乳がんであり、乳がん全体の70%を占める。このタイプの乳がん患者では、補助化学療法に対する病理学的完全奏効(pCR)の達成率が低いことが知られている。しかし、術前補助療法に免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)を追加することで、ER+/HER2−乳がん患者のpCR達成率が向上したとする第3相臨床試験の結果が発表された。オプジーボの製造元であるブリストル・マイヤーズ スクイブ社の資金提供を受けて米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのHeather McArthur氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「Nature Medicine」に1月21日掲載された。 多くのがん細胞は、PD-L1という分子を発現してT細胞表面のPD-1と結合することで、T細胞の攻撃から逃れることが知られている。抗PD-1抗体であるニボルマブは、T細胞のPD-1に結合してがん細胞との相互作用を阻害することで、免疫にかけられたブレーキを解除し、T細胞の免疫機能を活性化させる。 この試験では、新たに乳がんと診断された、腫瘍グレードが2または3でER発現率が1〜10%のER+/HER2−の原発性乳がん患者521人を対象に、術前補助療法にニボルマブを追加することで、患者のpCR達成率が向上するかどうかが評価された。対象者は、アントラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬をベースにした術前補助療法にニボルマブを追加する群(ニボルマブ群)とプラセボを追加する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。 ニボルマブ群では、最初の12週間は、ニボルマブ360mgを3週間ごとに、タキサン系抗がん薬のパクリタキセルを毎週投与した。その後、ニボルマブ(360mgを3週間ごと、または240mgを2週間ごと)を、アントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドと併用した。プラセボ群では、同様のプロトコルでニボルマブの代わりにプラセボを投与した。最終的に、有効性に関してはニボルマブ群257人とプラセボ群253人を対象に、安全性に関してはそれぞれ262人と255人を対象に評価された。 その結果、pCR達成率は、ニボルマブ群で24.5%であったのに対しプラセボ群では13.8%にとどまっており、前者のpCR達成率の方が有意に高いことが明らかになった(P=0.0021)。特に、PD-L1の発現率が1%以上と判定された患者でのpCR達成率は、ニボルマブ群44.3%、プラセボ群20.2%であり、ニボルマブ群で大きな効果が得られた。安全性に関しては、これまでに報告されていない有害事象は認められなかったが、ニボルマブ群では5人が死亡し、うち2人の死因はニボルマブの毒性であることが確認された。プラセボ群では死亡例は認められなかった。 McArthur氏は、「これらの結果が治療を決定する際の情報として役立ち、それにより乳がん患者の転帰が改善し、最終的には治癒率の向上につながることを期待している」と述べている。

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尿路上皮がんの遺伝子異常に基づく治療薬「バルバーサ錠3mg/4mg/5mg」【最新!DI情報】第34回

尿路上皮がんの遺伝子異常に基づく治療薬「バルバーサ錠3mg/4mg/5mg」今回は、経口FGFRチロシンキナーゼ阻害薬「エルダフィチニブ(商品名:バルバーサ錠3mg/4mg/5mg、製造販売元:ヤンセンファーマ)」を紹介します。本剤は、日本国内で初めてかつ唯一の遺伝子異常に基づく尿路上皮がん治療薬であり、FGFR遺伝子異常を有する患者の予後の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異または融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮がんの適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはエルダフィチニブとして1日1回8mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回9mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、網膜剥離(12.6%)、角膜障害(5.2%)、高リン血症(78.5%)、重度の爪障害(爪甲剥離症[23.0%]、爪囲炎[11.9%]、爪ジストロフィー[8.1%]など)、手足症候群(30.4%)、急性腎障害(3.0%)があります。その他の副作用は、下痢(54.8%)、口内炎(45.9%)、食欲減退、味覚不全、口内乾燥、脱毛症、皮膚乾燥、爪甲脱落症、ALT増加(いずれも20%以上)、貧血、低ナトリウム血症、ドライアイ、霧視、流涙増加、眼球乾燥症、鼻出血、悪心、便秘、嘔吐、口腔内潰瘍形成、爪変色、爪の障害、疲労、無力症、AST増加、体重減少(いずれも5%以上20%未満)、結膜炎、副甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症、視力低下、視力障害、眼瞼炎、白内障、血管石灰化、鼻乾燥、肝細胞融解、高ビリルビン血症、肝機能異常、腹痛、消化不良、発疹、爪線状隆起、湿疹、乾皮症、そう痒症、皮膚亀裂、爪痛、爪破損、皮膚剥脱、皮膚病変、皮膚毒性、過角化、爪の不快感、皮膚萎縮、粘膜乾燥、血中クレアチニン増加(いずれも5%未満)、手掌紅斑、爪床出血(いずれも頻度不明)があります。本剤は、ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験において、胚・胎児死亡、着床後胚損失率高値および催奇形性が報告されています。そのため、妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されます。妊娠可能年齢にある女性には、服用中および服用中止後1ヵ月間は妊娠を避けるよう指導します。また、男性には、服用中および服用中止後1ヵ月間は避妊するよう指導します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、遺伝子異常を持つ線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)というタンパク質の働きを阻害することにより、がん細胞の増殖を抑える抗悪性腫瘍薬です。2.がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異または融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮がんに用いられます。3.PD-1/PD-L1阻害薬による治療が可能な場合には、これらの治療が優先されます。4.妊婦または妊娠している可能性のある人は、必ず医師または薬剤師に伝えてください。5.視力の低下など目の異常が現れた場合には、ただちに受診してください。<ここがポイント!>尿路上皮がんは、腎盂、尿管、膀胱、尿道などに発生するがんであり、とくに膀胱に多く認められます。根治的切除が不可能、もしくは転移を有する尿路上皮がんの治療は薬物療法が主体となり、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。転移を有する尿路上皮がんと診断された患者の約20%は、FGFR遺伝子異常を有しています。エルダフィチニブは、1日1回経口投与されるFGFRチロシンキナーゼ阻害薬であり、尿路上皮がんに対する日本国内で初めてかつ唯一の遺伝子異常に基づく治療薬です。FGFR1~4のキナーゼ活性を阻害し、FGFR3融合遺伝子を有するヒト膀胱がん細胞株(RT-112およびRT-4)に対して増殖抑制作用を示します。PD-1/PD-L1阻害薬を含む治療歴のあるFGFR遺伝子異常を有する根治切除不能な尿路上皮がん患者を対象とした国際共同第III相試験(BLC3001試験コホート1)において、主要評価項目である全生存期間(OS)の中央値は、本剤群で12.06ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.28~16.36)、化学療法群で7.79ヵ月(95%CI:6.54~11.07)であり、本剤群でOSが有意に延長し、死亡リスクが36%低下しました(ハザード比:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.0050、非層別log-rank検定)。

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CDK4/6阻害薬治療中に進行したHR+HER2-転移乳がん、生存に関連する因子は?

 ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)転移乳がんにおいて、内分泌療法+CDK4/6阻害薬による治療中に病勢進行した後の実臨床における無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)をイタリア・European Institute of Oncology IRCCSのPier Paolo Maria Berton Giachetti氏らが評価した。その結果、「若年」「de novo転移病変」「内臓転移」が独立してPFS短縮と関連し、「12ヵ月を超えるCDK4/6阻害薬投与」がOS延長と関連していた。また、内臓転移のある患者には経口化学療法が有益である可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2025年2月3日号に掲載。 本研究は多施設後ろ向きコホート研究で、2015年4月22日~2023年1月31日にHR+HER2-転移乳がんと診断され、内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後に内分泌療法ベースの治療または化学療法ベースの治療を受けた506例(病勢進行後、CDK4/6阻害薬、抗体薬物複合体、免疫チェックポイント阻害薬、PARP阻害薬を投与された患者は除外)を対象とした。治療タイプ、臨床病理学的特徴、CDK4/6阻害薬の前治療期間に基づいて解析した。治療タイプについては、内分泌療法ベースの治療はエベロリムス+エキセメスタンと内分泌療法単独、化学療法ベースの治療は静注化学療法と経口化学療法に分けて解析した。主要評価項目は、実臨床におけるPFS(内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後の最初の薬剤治療開始から病勢進行/あらゆる原因による死亡までの期間)、副次評価項目は、実臨床におけるOS(内分泌療法+CDK4/6阻害薬で病勢進行後、あらゆる原因による死亡までの期間)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者506例(診断時年齢中央値:52.4歳、四分位範囲:44.6~62.8)において、PFS不良と関連する独立因子は、内臓転移(ハザード比[HR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.17~1.80、p=0.008)とde novo転移病変(HR:1.25、95%CI:1.01~1.54、p=0.04)であった。・CDK4/6阻害薬の投与期間が長いほど(OSのHR:0.55、95%CI:0.41~0.73、p<0.001)、また年齢が高いほど(PFSのHR:0.99、95%CI:0.98~1.00、p=0.03)、予後良好であった。・静注化学療法および内分泌療法の治療は、経口化学療法と比較してPFS短縮と関連していた(静注化学療法のHR:1.45、95%CI:1.11~1.89、p=0.006、エベロリムス+エキセメスタンのHR:1.38、95%CI:1.06~1.78、p=0.02、内分泌療法単独のHR:1.38、95%CI:1.05~1.89、p=0.02)。・12ヵ月超のCDK4/6阻害薬投与がOS延長と関連していた(HR:0.55、95%CI:0.41~0.73、p<0.001)。・内臓転移を有する患者では、静注化学療法は経口化学療法と比較してOS短縮と関連していた(HR:1.52、95%CI:1.03~2.24、p=0.04)。 このコホート研究の結果から、著者らは「CDK4/6阻害薬ベースの治療で得られた腫瘍制御期間と内臓転移の有無が、治療決定に影響する可能性のある主要因子として浮上した。経口化学療法は特定の患者グループに有益な可能性がある」と結論した。

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肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(1)周術期薬物療法を内科が担当【肺がんインタビュー】第111回

第111回 肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(1)周術期薬物療法を内科が担当術前免疫チェックポイント阻害薬(ICI)レジメンが使用できるようになった肺がん周術期治療。現在のエビデンスを踏まえ、医師は患者と何を話し、治療を決定するのか。内科・外科の薬物療法担当範囲が異なるご施設に所属する3名の医師に、ネオアジュバントICI適応患者への術前インフォームドコンセント(IC)の実際について伺った。

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肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(2)周術期・IV期薬物療法を外科が担当【肺がんインタビュー】第111回

第111回 肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(2)周術期・IV期薬物療法を外科が担当術前免疫チェックポイント阻害薬(ICI)レジメンが使用できるようになった肺がん周術期治療。現在のエビデンスを踏まえ、医師は患者と何を話し、治療を決定するのか。内科・外科の薬物療法担当範囲が異なるご施設に所属する3名の医師に、ネオアジュバントICI適応患者への術前インフォームドコンセント(IC)の実際について伺った。

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肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(3)周術期薬物療法を外科が担当【肺がんインタビュー】第111回

第111回 肺がん周術期ネオアジュバントIC ~何を・どこまで・どう話す?~(3)周術期薬物療法を外科が担当術前免疫チェックポイント阻害薬(ICI)レジメンが使用できるようになった肺がん周術期治療。現在のエビデンスを踏まえ、医師は患者と何を話し、治療を決定するのか。内科・外科の薬物療法担当範囲が異なるご施設に所属する3名の医師に、ネオアジュバントICI適応患者への術前インフォームドコンセント(IC)の実際について伺った。

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ASCO-GI 2025会員レポート

レポーター紹介2025年1月23~25日に米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)が米国・サンフランシスコで開催された。東北大学・腫瘍内科の笠原 佑記氏(上部消化器がん担当)と大内 康太氏(下部消化器がん担当)が重要演題をピックアップし、結果を解説する。食道がんPhase II study of neoadjuvant chemotherapy with fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel for resectable esophageal squamous cell carcinoma.(abstract#418)切除可能な局所進行食道扁平上皮がんに対する、フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル(FLOT療法)による術前化学療法の安全性と有効性を評価した、日本発の第II相多施設共同試験の結果が報告された。病理学的奏効率(pRR)は43.4%(95%信頼区間[CI]:29.8~57.7、p=0.00002)であり、主要評価項目を達成した。また、R0切除率は83.0%、病理学的完全奏効率(pCR)は13.2%と良好な結果が得られた。とくに注目すべき点として、DCF(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)療法で課題とされる発熱性好中球減少症の発生率が1.9%と相対的に低かったことが挙げられる。これにより、FLOT療法は効果と安全性のバランスに優れた新たな治療選択肢となりうる可能性が示された。胃がんNivolumab (NIVO) + chemotherapy (chemo) vs chemo as first-line (1L) treatment for advanced gastric cancer/gastroesophageal junction cancer/esophageal adenocarcinoma (GC/GEJC/EAC): 5-year (y) follow-up results from CheckMate 649.(abstract#398)ニボルマブ+化学療法の有効性と安全性について、CheckMate 649試験の5年フォローアップデータが報告された。PD-L1 CPS≧5の患者群における全生存期間(OS)中央値は、ニボルマブ+化学療法群で14.4ヵ月(95%CI:13.1~16.2)、化学療法単独群で11.1ヵ月(95%CI:10.1~12.1)であり、ハザード比(HR)は0.71(95%CI:0.61~0.82)であった。60ヵ月時点の生存割合は、ニボルマブ+化学療法群で16%、化学療法単独群で6%であった。昨年のASCO-GI 2024で報告された48ヵ月時点での生存割合(それぞれ17%、8%)と比較すると、ニボルマブ併用により生存率の改善と長期奏効がもたらされていることが示唆される。本試験の結果は、CheckMate 649試験が胃がんの1次治療の標準を大きく変えた重要な試験であることをあらためて認識させるものであった。Final analysis of the randomized phase 2 part of the ASPEN-06 study: A phase 2/3 study of evorpacept (ALX148), a CD47 myeloid checkpoint inhibitor, in patients with HER2-overexpressing gastric/gastroesophageal cancer (GC).(abstract#332)HER2陽性胃・食道胃接合部がんの2次・3次治療における、抗CD47抗体evorpacept併用療法の有効性と安全性を評価した第II相無作為化比較試験(ASPEN-06)の結果が報告された。evorpaceptは、CD47に対する高い親和性を持ちつつ、不活性化されたFc領域を有することで、従来のCD47阻害による課題の1つであった赤血球減少を回避しながら、抗体依存性細胞貪食(ADCP)を増強することが可能な薬剤である。本試験では、トラスツズマブ+ラムシルマブ+パクリタキセル(TRP群)と、これにevorpaceptを併用した群(Evo-TRP群)に患者を無作為に割り付けた。奏効率(ORR)は、Evo-TRP群で40.3%、TRP群で26.6%であり、主要評価項目であるヒストリカルコントロール(ラムシルマブ+パクリタキセル療法、想定奏効率30%)との比較では統計学的有意差を示すことはできなかった(p=0.095)。しかしながら、治療前の生検にてHER2陽性が確認された患者に限定すると、Evo-TRP群の奏効率は54.8%と高く、evorpaceptが抗HER2療法の効果を高める可能性が示唆された。evorpaceptは、その作用機序からトラスツズマブ以外の抗体薬との併用においても抗腫瘍効果の増強が期待できる薬剤であり、今後のさらなる臨床応用の発展が期待される。大腸がんASCO-GI 2025では、切除不能大腸がんにおけるTargeted TherapyとImmunotherapyの双方においてPractice changingな発表が行われた。本稿では3つの注目演題を中心に報告する。BREAKWATER: Analysis of first-line encorafenib + cetuximab + chemotherapy in BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer.(abstract#16)1つ目の注目演題は、BRAF V600E変異を有する未治療の切除不能大腸がん患者を対象に実施されたBREAKWATER試験である。 BRAF V600E変異陽性大腸がんに対しては、BEACON試験(Kopetz S, et al. N Engl J Med. 2019;381:1632-1643.)の結果から、現在は2次治療あるいは3次治療でエンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)の2剤併用療法もしくはエンコラフェニブ+セツキシマブ+ビニメチニブの3剤併用療法が標準治療として用いられている。2剤併用療法と3剤併用療法の使い分けについては、BEETS試験(abstract#164)の結果から2剤併用療法の有用性が示されたが、3ヵ所以上の遠隔転移など予後不良因子を有する群においては3剤併用療法が有用である可能性が示唆された。今回報告されたBREAKWATER試験は、 BRAF V600E変異陽性の切除不能大腸がんに対する1次治療として、EC±化学療法と標準治療を比較した非盲検多施設共同第III相試験である。本試験は当初、EC群、EC+mFOLFOX6併用療法群もしくは標準治療群の3群に割り付けを行う試験デザインで開始されたが、その後EC+mFOLFOX6併用療法群もしくは標準治療群の2群に1対1で割り付ける試験デザインに変更された。2022年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)では、Safety Lead-inパートにおける忍容性とPK(薬物動態)の解析結果に加え、少数例での予備的なデータではあるが有望な抗腫瘍効果が示され、注目を集めていた。ASCO-GI 2025では、主要評価項目の1つであるEC+mFOLFOX6併用療法群および標準治療群における盲検下独立中央判定(BICR)による奏効率の主解析結果、OSの中間解析結果および安全性に関する報告が行われた。EC+mFOLFOX6併用療法群に236例が、標準治療群に243例が無作為に割り付けられ、原発巣占居部位を含む患者背景に有意な偏りは認めなかった。データカットオフ時点での確定奏効率は、EC+mFOLFOX6併用療法群が標準治療群に比べて有意に高い結果であった(60.9%vs. 40.0%、オッズ比:2.443[95%CI:1.403~4.253]、p=0.0008)。中間解析時点でのOSの中央値は、EC+mFOLFOX6併用療法群で未到達(95%CI:19.8~NE)、標準治療群で14.6ヵ月(95%CI:13.4~NE)であり、immatureではあるがHR:0.47(95%CI:0.318~0.691)という驚くべき数値をもってEC+mFOLFOX6併用療法群で有意に延長していた(p=0.0000454)。Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)発現割合は、EC+mFOLFOX6併用療法群で69.7%、標準治療群で53.9%であり、安全性のプロファイルはこれまで報告されているものと一致していた。以上の結果を受け、FDA(米国食品医薬品局)は2024年12月に BRAF V600E変異陽性の切除不能大腸がんの1次治療としてエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6併用療法を迅速承認しており、本邦においても承認が待たれる。また、今後は BRAF阻害薬がfrontlineで投与される可能性が高いことから、 BRAF阻害薬を含む治療に耐性となった BRAF V600E変異陽性切除不能大腸がんに対する2次治療以降の治療戦略の開発にも注目していきたい。First results of nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) vs NIVO monotherapy for microsatellite instability-high/mismatch repair-deficient (MSI-H/dMMR) metastatic colorectal cancer (mCRC) from CheckMate 8HW.(abstract#LBA 143)2つ目の注目演題は、CheckMate-8HW試験である。MSI-HまたはdMMRの切除不能大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)として、現行のガイドライン(『大腸癌治療ガイドライン医師用 2024年版』大腸癌研究会編)では、第III相試験(KEYNOTE-177試験)の結果から1次治療においてはペムブロリズマブ単剤療法が、第II相試験(KEYNOTE-164試験、CheckMate 142試験)の結果からICI未投与の既治療例においてはペムブロリズマブ単剤療法、ニボルマブ(Nivo)単剤療法もしくはイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi+Nivo)併用療法がそれぞれ強く推奨されている。しかし、Nivo単剤療法とIpi+Nivo併用療法とを直接比較した試験はこれまでに行われていなかった。CheckMate-8HW試験は、ICI未投与のMSI-H/dMMR切除不能大腸がんを対象として、Ipi+Nivo併用療法の有効性と安全性をNivo単剤療法または医師選択化学療法と比較検討した多施設共同非盲検第III相試験である。昨年開催されたASCO-GI 2024では、本試験の主要評価項目の1つである1次治療におけるIpi+Nivo併用群と医師選択化学療法群とを比較したBICRの評価による無増悪生存期間(PFS)の解析結果が報告され、HR:0.21(95%CI:0.13~0.35)と大きなインパクトを伴ってIpi+Nivo併用群で有意にPFSが延長していた。ASCO-GI 2025では、もう1つの主要評価項目である、全治療ラインにおけるIpi+Nivo併用群とNivo単剤群とを比較したBICRの評価によるPFSの解析結果、および安全性に関する報告が行われた。Ipi+Nivo併用群に354例が、Nivo単剤群に353例が無作為に割り付けられ、PD-L1発現状態や遺伝子異常を含む患者背景に有意な偏りは認めなかった。データカットオフ時点でのPFSの中央値は、Ipi+Nivo併用群で未到達(53.8~NE)、Nivo単剤群で39.3ヵ月(22.1~NE)であり、Ipi+Nivo併用群で有意に延長していた(HR:0.62、95%CI:0.48~0.81、p=0.0003)。BICRに基づく確定奏効率は、Ipi+Nivo併用群で71%(95%CI:65~76)、Nivo単剤群で58%(95%CI:52~64)であり、有意にIpi+Nivo併用群で高かった(p=0.0011)。Grade3/4のTRAE発現割合は、Ipi+Nivo併用群で22%、Nivo単剤群で14%であり、安全性のプロファイルはこれまで報告されているものと一致していた。CheckMate-8HW試験の結果から、主要評価項目であるPFSの比較において、ASCO-GI 2024では標準化学療法に対する優越性が、今回のASCO-GI 2025ではNivo単剤療法に対する優越性が検証されたことから、Ipi+Nivo併用療法はMSI-H/dMMRの切除不能大腸がんに対する標準治療として確立されていくものと予想される。今後の課題としては、2剤併用療法を用いることで想定される免疫関連有害事象のリスクマネジメントが挙げられ、また本試験ではニボルマブの最長投与期間が2年に設定されていたため、長期病勢制御が得られた場合の適切な治療期間についてはさらなる検討が必要と考えられる。Final analysis of modified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab versus bevacizumab for RAS wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer: The DEEPER trial (JACCRO CC-13). (abstract#17)3つ目の注目演題は、DEEPER試験である。本試験はRAS野生型切除不能大腸がんの1次治療において、3剤併用化学療法(mFOLFOXIRI)のパートナーとして、抗EGFR抗体薬(セツキシマブ)と抗VEGF抗体薬(ベバシズマブ)のいずれがより適しているかを比較検討した無作為化第II相試験である(Shiozawa M, et al. Nat Commun. 2024;15:10217.)。主要評価項目は最大腫瘍縮小率(DpR)に設定され、2021年の米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)では、セツキシマブ(CET)併用群ではベバシズマブ(BEV)併用群に比べて有意にDpRが高いことが報告された。ASCO-GI 2025では、副次評価項目である生存期間(PFSおよびOS)に関する最終解析の結果が報告された。本試験ではCET併用群に179例、BEV併用群に180例が無作為に割り付けられ、それぞれ159例、162例がper protocol setとして解析対象となった。データカットオフ時点での左側症例におけるPFSの中央値はCET併用群で13.9ヵ月(95%CI:12.2~17.5)、BEV併用群で12.1ヵ月(95%CI:10.9~14.1)であり、両群間で有意な差は認めなかった(HR:0.81[95%CI:0.63~1.05]、p=0.11)。左側症例におけるOSの中央値はCET併用群で45.3ヵ月(95%CI:37.6~53.1)、BEV併用群で41.9ヵ月(95%CI:34.1~48.7)であり、両群間で有意な差は認めなかった(HR:0.85[95%CI:0.64~1.12]、p=0.25)。一方で、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例(178例)に対象を限定して行われた探索的な解析では、PFSの中央値はCET併用群で14.8ヵ月(95%CI:12.6~19.4)、BEV併用群で11.9ヵ月(95%CI:10.8~14.6)であり、CET併用群で有意にPFSが延長していた(HR:0.71[95%CI:0.52~0.97]、p=0.029)。OSの中央値はCET併用群で50.2ヵ月(95%CI:39.9~56.0)、BEV併用群で40.2ヵ月(95%CI:33.5~48.8)であり、CET併用群では50ヵ月を超えるOS中央値が示されたものの、統計学的有意差は認めなかった(HR:0.74[95%CI:0.53~1.05]、p=0.091)。さらに、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例から肝限局転移症例を除外して行われた探索的な解析(125例)では、OSの中央値はCET併用群で50.2ヵ月(95%CI:39.6~60.1)、BEV併用群で38.6ヵ月(95%CI:30.5~45.2)であり、CET併用群で有意にOSが延長していた(HR:0.60[95%CI:0.40~0.90]、p=0.014)。これらの結果から、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例、なかでも非肝限局転移症例においてはmFOLFOXIRI+セツキシマブ併用療法が有望な治療オプションとなる可能性が示されたが、皮疹や下痢などの有害事象発現のリスクや、あくまで探索的な解析結果である点には十分留意してdecision makingに反映する必要がある。なお、未治療のRAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例を対象とした非盲検多施設共同第III相試験(TRIPLETE試験、Rossini D, et al. J Clin Oncol. 2022;40:2878-2888.)では、抗EGFR抗体薬(パニツムマブ)に併用する化学療法として3剤併用療法(mFOLFOXIRI)の2剤併用療法(mFOLFOX)に対する優越性が検討されたが、積極的に3剤併用療法を選択するエビデンスは示されなかった。したがって、RAS/BRAF遺伝子野生型の左側症例に対する1次治療において、抗EGFR抗体薬に2剤併用療法を選択するのか、3剤併用療法を選択するのかという点についても引き続き議論が必要であるが、DEEPER試験で示された転移臓器との関連がキーポイントとなるかもしれない。今回紹介した注目演題で検討された試験治療は、いずれも有望な抗腫瘍効果を示した一方で、従来の標準治療に比べて相応の有害事象発現リスクの上昇を伴うものである。今後のトランスレーショナルリサーチ(TR)研究によって、真にベネフィットが期待される患者集団の絞り込みや、耐性克服につながる治療戦略が開発されることを期待したい。

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日本人PD-L1低発現の切除不能NSCLC、治験不適格患者へのICI+化学療法の有用性は?

 PD-L1低発現の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法の有用性は臨床試験ですでに検証されている。しかし、実臨床では臨床試験への登録が不適格となる患者も多く存在する。そこで、研究グループはPD-L1低発現の切除不能NSCLC患者を臨床試験への登録の適否で分類し、ICI+化学療法の有用性を検討した。その結果、臨床試験への登録が不適格の集団は、適格の集団よりも全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が短かったものの、ICI+化学療法が化学療法単独よりも有用であることが示唆された。ただし、PS2以上、扁平上皮がんではICI+化学療法によるOSの改善はみられなかった。本研究結果は、畑 妙氏(京都府立医科大学大学院 呼吸器内科学)らにより、Lung Cancer誌2025年2月号で報告された。 本研究は、多施設共同後ろ向きコホート研究として、日本の19施設において実施された。対象患者は、PD-L1低発現(TPS 1~49%)のStageIIIB、IIIC、IV(TNM分類第8版)のNSCLC患者のうち、ICI+化学療法または化学療法単独による治療を行った728例とした。対象患者を第III相試験への登録基準への適否で分類し(適格集団/不適格集団)、OSやPFSなどを検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者728例のうち、適格集団は333例、不適格集団は395例であった。・対象患者の年齢中央値は70歳(範囲:36~89)、男性が79%、現/元喫煙者が89%、組織型は腺がんが58%、扁平上皮がんが32%であった。・OSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。しかし、不適格集団のPS2以上、扁平上皮がんに限定した解析では、有意差はみられなかった。OS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群25.1ヵ月、化学療法群18.5ヵ月(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.54~0.97、p=0.03)<不適格集団> ICI+化学療法群18.2ヵ月、化学療法群14.9ヵ月(HR:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.018)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群12.2ヵ月、化学療法群9.2ヵ月(p=0.21)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群12.9ヵ月、化学療法群13.1ヵ月(p=0.27)・PFSは適格集団、不適格集団のいずれにおいてもICI+化学療法群が化学療法群と比べて有意に長かった。不適格集団のうち扁平上皮がんに限定した解析では、ICI+化学療法群が有意に長かったが、PS2以上に限定した解析では有意差はみられなかった。PFS中央値は以下のとおり。<適格集団> ICI+化学療法群9.3ヵ月、化学療法群6.1ヵ月(p<0.0001)<不適格集団> ICI+化学療法群7.0ヵ月、化学療法群5.1ヵ月(p<0.0001)<PS2以上の不適格集団> ICI+化学療法群5.7ヵ月、化学療法群4.0ヵ月(p=0.17)<扁平上皮がんの不適格集団> ICI+化学療法群6.1ヵ月、化学療法群5.0ヵ月(p=0.008) 本研究結果について、著者らは「PS2以上、扁平上皮がんを除き、臨床試験への登録が不適格の集団においてもICI+化学療法の有用性が示唆された」とまとめた。

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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