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NSCLCに対するICI+化学療法、日本人の血栓リスクは?

 がん患者は血栓塞栓症のリスクが高く、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)やプラチナ製剤などの抗がん剤が、血栓塞栓症のリスクを高めるとされている。そこで、祝 千佳子氏(東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻)らの研究グループは、日本の非小細胞肺がん(NSCLC)患者におけるプラチナ製剤を含む化学療法とICIの併用療法の血栓塞栓症リスクについて、プラチナ製剤を含む化学療法と比較した。その結果、プラチナ製剤を含む化学療法とICIの併用療法は、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクを上昇させたが、動脈血栓塞栓症(ATE)のリスクは上昇させなかった。本研究結果は、Cancer Immunology, Immunotherapy誌オンライン版2023年8月4日号で報告された。 DPCデータを用いて、2010年7月~2021年3月にプラチナ製剤を含む化学療法を開始した進行NSCLC患者7万5,807例を抽出した。対象患者をICI使用の有無で2群に分類し(ICI併用群7,177例、単独療法群6万8,630例)、プラチナ製剤を含む化学療法開始後6ヵ月以内のVTE、ATE、院内死亡の発生率を検討した。背景因子を調整するため、生存時間分析には傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いた。 主な結果は以下のとおり。・VTEの発生率はICI併用群1.3%(96例)、単独療法群0.97%(665例)であった。ATEの発生率はそれぞれ0.52%(38例)、0.51%(351例)であった。院内死亡率はそれぞれ8.7%(626例)、12%(8,211例)であった。・傾向スコアオーバーラップ重み付け法による解析の結果、ICI併用群は単独療法群と比較してVTEリスクが有意に高かったが(部分分布ハザード比[SHR]:1.27、95%信頼区間[CI]:1.01~1.60)、ATEリスクに有意差はみられなかった(同:0.96、0.67~1.36)。・使用したICI別に同様の解析を行った結果、ペムブロリズマブを使用した場合にVTEリスクが有意に高かったが(SHR:1.29、95%CI:1.01~1.64)、アテゾリズマブを使用した場合にはVTEリスクに有意差はみられなかった(同:0.91、0.49~1.66)。・院内死亡リスクはICI併用群が有意に低かった(ハザード比:0.67、95%CI:0.62~0.74)。

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肝細胞がん1次治療、camrelizumab+rivoceranibがPFS改善/Lancet

 切除不能な肝細胞がんの1次治療において、抗PD-1抗体camrelizumabとVEGFR-2を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)rivoceranibの併用療法は、標準治療であるソラフェニブと比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に長く、全生存期間(OS)も延長しており、安全性は管理可能で新たな安全性シグナルは確認されなかったことが、中国・Nanjing Medical UniversityのShukui Qin氏らが実施した「CARES-310試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月24日号に掲載された。13の国と地域の無作為化試験、8割以上がアジア人 CARES-310試験は、13の国と地域の95施設で実施された非盲検無作為化第III相試験であり、2019年6月28日~2021年3月24日に参加者の無作為化が行われた(中国・Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsと米国・Elevar Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上の肝細胞がん患者で、バルセロナ臨床肝がん(Barcelona Clinic Liver Cancer:BCLC)病期分類のBまたはCであり、手術または局所領域療法後に病勢が進行し、全身療法による治療歴がなく、肝機能の障害度がChild-Pugh分類A、全身状態が良好(ECOG PS 0/1)な患者であった。 被験者を、camrelizumab(200mg、静注、2週ごと)+rivoceranib(250mg、経口、1日1回)、またはソラフェニブ(400mg、経口、1日2回)の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、PFS(RECIST 1.1に基づき盲検下に独立審査委員会が評価)とOSの2つであり、後者は中間解析の結果を報告した。 543例を登録し、camrelizumab+rivoceranib併用群に272例(年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:48~66]、男性83%、アジア人83%)、ソラフェニブ群に271例(56歳[47~64]、85%、83%)を割り付けた。全体の75%がB型肝炎ウイルスに起因する肝細胞がんであり、74%が脈管浸潤または肝外転移、あるいはこれら双方を有していた。客観的奏効率も良好 追跡期間中央値7.8ヵ月(IQR:4.1~10.6)の時点におけるPFS中央値は、ソラフェニブ群が3.7ヵ月(IQR:2.8~3.7)であったのに対し、併用群は5.6ヵ月(5.5~6.3)と有意に改善した(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.41~0.65、片側検定のp<0.0001)。 また、追跡期間中央値14.5ヵ月(IQR:9.1~18.7)の時点(2022年2月8日のOSに関する中間解析)でのOS中央値は、ソラフェニブ群の15.2ヵ月(IQR:13.0~18.5)に対し、併用群は22.1ヵ月(19.1~27.2)であり、有意に長かった(HR:0.62、95%CI:0.49~0.80、片側検定のp<0.0001)。 客観的奏効率(最良総合効果としての完全奏効または部分奏効の割合)は、併用群が25%(69/272例)、ソラフェニブ群は6%(16/271例)であり、併用群で有意に優れた(群間差:19%、95%CI:14~25、片側検定のp<0.0001)。 最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象は、高血圧(併用群38%[102/272例]vs.ソラフェニブ群15%[40/269例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(12%[33例]vs.15%[41例])、AST値上昇(17%[45例]vs.5%[14例])であった。 重篤な治療関連有害事象は、併用群24%(66例)、ソラフェニブ群6%(16例)で報告された。治療関連死が各群で1例ずつ認められた(併用群:多臓器不全症候群、ソラフェニブ群:呼吸不全と循環虚脱)。 著者は、「camrelizumab+rivoceranib併用療法は良好なベネフィット-リスクプロファイルを示したことから、切除不能肝細胞がんに対する新たな1次治療の選択肢となると考えられる。免疫併用レジメンに経口投与の抗血管新生TKIを組み込むことで、臨床医がより柔軟に治療法を選択できるようになる可能性がある」としている。

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日本人NSCLCへのICI、PPI使用者は化学療法の併用が必要か/京都府立医大ほか

 現在、PD-L1高発現の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する初回治療の選択肢として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、複合免疫療法が用いられている。しかし、その使い分けの方法は明らかになっていない。また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗菌薬の使用歴があるNSCLC患者は、ICI単剤療法の効果が減弱する可能性が指摘されている1,2)。そこで、京都府立医科大学大学院の河内 勇人氏らは、ペムブロリズマブ単剤療法、複合免疫療法の効果と各薬剤の使用歴の関係について検討した。その結果、PPIの使用歴がある患者は、複合免疫療法の効果がペムブロリズマブ単剤療法と比較して良好であった。一方、PPIの使用歴がない場合は、治療効果に有意差は認められなかった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月11日号で報告された。 国内13施設において、初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)またはペムブロリズマブと化学療法の併用療法(併用療法群)を受けたPD-L1高発現(TPS≧50%)のNSCLC患者425例を後ろ向きに追跡し、治療開始時の薬剤使用歴(PPI、抗菌薬、ステロイド)を含む患者背景と治療効果の関連を検討した。単剤療法群と併用療法群の比較は、傾向スコアマッチングにより背景因子を揃えて行った。 主な結果は以下のとおり。・単剤療法群は271例(年齢中央値[範囲]:72歳[43~90]、男性:215例)併用療法群は154例(同:69歳[36~86]、男性:121例)が対象となった。・多変量解析の結果、単剤療法群においてPPI使用歴は、無増悪生存期間(PFS)の短縮に有意な関連があった(ハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.00~1.91、p=0.048)。一方、併用療法群では関連が認められなかった(同:0.83、0.48~1.45)。・多変量解析において、単剤療法群と併用療法群のいずれも、抗菌薬使用歴やステロイド使用歴とPFSには有意な関連が認められなかった。・PPI使用歴のある患者集団において、PFS中央値は単独療法群が5.7ヵ月であったのに対し、併用療法群は19.3ヵ月であり、併用療法群は単独療法群と比較してPFSが有意に改善した(HR:0.38、95%CI:0.20~0.72、p=0.002)。・同様に、全生存期間(OS)中央値は単独療法群が18.4ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であり、併用療法群は単独療法群と比較してOSが有意に改善した(HR:0.43、95%CI:0.20~0.92、p=0.03)。・PPI使用歴のない患者集団において、PFS中央値は単独療法群が10.6ヵ月であったのに対し、併用療法群は18.8ヵ月であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.81、95%CI:0.56~1.17、p=0.26)。・同様に、OS中央値は単独療法群が29.9ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.75、95%CI:0.48~1.18、p=0.21)。 著者らは、「PPIの使用歴が、PD-L1高発現のNSCLCに対するペムブロリズマブ単剤療法と複合免疫療法の治療選択の予測因子として、有用であるであることが示唆された。すなわち、いずれの治療選択肢も選択可能な患者では、PPIの使用歴がある場合、複合免疫療法が推奨される治療法であると考えられた」とまとめた。

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未治療の早期NSCLC、定位放射線+ニボルマブが有効/Lancet

 未治療の早期非小細胞肺がん(NSCLC)およびリンパ節転移陰性の孤立性肺実質再発NSCLC患者の治療において、定位放射線治療(SABR)+ニボルマブの併用(I-SABR)はSABR単独と比較して、4年無イベント生存率が有意に優れ、毒性は忍容可能であることが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJoe Y. Chang氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月18日号に掲載された。テキサス州3病院の無作為化第II相試験 本研究は、米国テキサス州の3つの病院で実施された非盲検無作為化第II相試験であり、2017年6月~2022年3月の期間に参加者の無作為化が行われた(Bristol-Myers SquibbとMDアンダーソンがんセンターの提携機関などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、未治療の早期NSCLC(American Joint Committee on Cancer[AJCC]第8版の病期分類でStageI~II[N0M0])、または孤立性の肺実質再発NSCLC(根治手術または化学放射線療法の施行前にTanyNanyM0)で、全身状態が良好(ECOG PSスコア0~2)な患者であった。 被験者を、I-SABRまたはSABRを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。I-SABR群では、ニボルマブ(480mg)を4週ごとに静脈内投与した。 主要評価項目は、4年無イベント生存率であった。イベントは、局所、領域、遠隔での再発、2次原発性肺がん、死亡とされた。PP集団とITT集団の双方で良好な結果 無作為化の対象となったのは156例(intention-to-treat[ITT]集団)で、割り付けた治療を実際に受けたのは141例(per-protocol[PP]集団)であった。PP集団では66例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:66~75]、女性70%)がI-SABR群、75例(年齢中央値72歳[IQR:66~78]、女性55%)がSABR群だった。 フォローアップ期間中央値33ヵ月の時点でのPP集団における4年無イベント生存率は、SABR群が53%(95%信頼区間[CI]:42~67)であったのに対し、I-SABR群は77%(66~91)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.38、95%CI:0.19~0.75、p=0.0056)。また、ITT集団でも同様の結果が示された(HR:0.42、95%CI:0.22~0.80、p=0.0080)。 SABR群では、Grade2の有害事象を3例(4%)に認めたのみで、Grade3以上の有害事象は発現しなかった。一方、I-SABR群では、10例(15%)でニボルマブに関連するGrade3の免疫関連有害事象(疲労2例、甲状腺機能亢進症1例など)を認めたが、Grade3の肺臓炎はなく、Grade4以上の毒性の発現もなかった。 著者は、「SABRへの免疫療法の追加により、治療歴のない早期NSCLCおよび孤立性肺実質再発NSCLC患者の転帰が改善することが示唆され、I-SABRはこれらの患者における治療選択肢となる可能性がある。本試験の結果は、現在進行中の第III相試験の重要な先例となるだろう」としている。

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包括的がんゲノムプロファイリングリキッドバイオプシーGuardant360 CDx がん遺伝子パネル販売開始

 ガーダントヘルスジャパンは、固形がん患者を対象とした包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)用リキッドバイオプシー Guardant360 CDx がん遺伝子パネルについて、2023年7月24日より保険償還が開始され、同日より販売すると発表した。併せて、エスアールエルによる検査の受託が開始される。 Guardant360 CDx がん遺伝子パネルは、血中循環腫瘍DNA (ctDNA) を次世代シークエンサーによって解析するがん遺伝子パネル検査として、2022年3月10日に厚生労働省より承認されている。固形がん患者の血液検体から、がんに関連の74遺伝子を網羅的に調べることが可能。 Guardant360 CDx がん遺伝子パネルは、また、下記のコンパニオン診断としても承認されている。・KRAS G12C:(非小細胞肺がん)ソトラシブ・MSI-High:(結腸・直腸がん)ニボルマブ・MSI-High:(固形がん)ペムブロリズマブ

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メルケル細胞がんの術後補助療法、ニボルマブが有望(ADMEC-O)/Lancet

 メルケル細胞がん(MCC)の完全切除後の補助療法として、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブは、補助療法を行わない観察群と比較して、無病生存(DFS)に関する絶対リスクを1年後に9%、2年後には10%低下し、新たな安全性シグナルは認められなかったことから、術後補助免疫療法は臨床的に実行可能と考えられることが、ドイツ・エッセン大学病院のJurgen C. Becker氏らが実施した「ADMEC-O試験」の中間解析で示唆された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月11日号に掲載された。ドイツとオランダの無作為化第II相試験 ADMEC-O試験は、ドイツとオランダの20の医療センターで実施された2群を比較する非盲検無作為化第II相試験であり、2014年10月~2020年8月に参加者を登録した(Bristol Myers Squibbの助成を受けた)。今回は、中間解析(データカットオフ日:2022年4月5日)の結果が報告された。 MCCと診断され、試験への登録前に外科的切除術または外科的切除術+根治的放射線治療を受け、全身状態が良好(ECOG PS 0/1)な患者が、術後補助療法としてニボルマブ480mg(4週ごと、1年間)の投与を受ける群、または補助療法なしで観察を行う群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は12ヵ月および24ヵ月の時点におけるDFSであり、副次評価項目は全生存(OS)と安全性であった。 179例(ニボルマブ群118例、観察群61例)を登録した。116例(65%)がStageIII/IV、122例(68%)が65歳以上、111例(62%)が男性だった。切除術後に放射線治療を受けた患者(50% vs.74%)は観察群で多かった。OSのデータは未成熟 追跡期間中央値24.3ヵ月(四分位範囲[IQR]:19.2~33.4)の時点で、両群ともDFS期間中央値には未到達であった(群間のハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.30~1.12、p=0.10)。1年DFS率はニボルマブ群85%、観察群77%、2年DFS率はそれぞれ84%、73%だった。ニボルマブを用いた術後補助療法により、DFSに関する絶対リスクが1年後に9%(95%CI:-2~20)、2年後には10%(-2~24)低下した。 死亡例はニボルマブ群が10例、症例数が半数の観察群は6例で、OSのデータは未成熟であり、結論を出すには不十分であった(OSの結果は最終解析で報告の予定)。 Grade3/4の有害事象は、ニボルマブ群が115例中48例(42%)、観察群は61例中7例(11%)で発現し、31%の差が認められた。 ニボルマブ群では、治療関連有害事象が85例(74%)で発現し、このうち23例(20%)がGrade3/4であった。免疫関連有害事象は70例(61%)でみられ、18例(16%)がGrade3/4だった。ニボルマブ投与中止の原因となった有害事象は25例(22%)で認められ、このうち17例(15%)が治療関連と判定され、6例(5%)はGrade3/4であった。治療関連死の報告はなかった。新たな安全性シグナルは認められなかった。 著者は、「データが十分ではないものの両群ともOS率は約95%であることから、ニボルマブによる術後の免疫療法は生存に明らかな悪影響を及ぼすことはないと示唆される。したがって、この中間解析におけるベネフィットとリスクのバランスを考慮すると、MCCの術後補助免疫療法は実行可能であり、再発リスクを抑制する効果を有すると考えられる」と結論している。

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ASCO2023 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介2023 ASCO Annual Meeting2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)は6月2日から6日にかけてシカゴを舞台に開催されました。今年の泌尿器がん領域のScientific Programは、前立腺がん領域においてmCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験結果が多く発表されていたのが印象的でした。そのほか、尿路上皮がん領域では周術期化学療法としてのdd-MVAC、FGFR変異陽性例におけるerdafitinib、膀胱全摘における拡大リンパ節郭清の意義に関する重要なデータが発表されました。腎がんでも免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のリチャレンジに焦点を当てた、他に類を見ない試験の結果が発表され注目を集めました。そのうちのいくつかを紹介いたします。CAPTURE試験(Abstract # 5003)mCRPC患者の最大30%でDNA損傷修復(DDR)遺伝子の病的変異が観察されます。BRCA2の変異はmCRPCを含むさまざまな前立腺がんの段階において一貫して不良な生存転帰と関連しているだけでなく、PARP阻害薬の効果予測因子となることも知られています。一方で、ほかの生殖細胞系列DDR変異の予後因子としての意義は未解明の部分も多く残されています。本試験は、mCRPCの1次治療としてドセタキセル、カバジタキセル、酢酸アビラテロン/プレドニゾン、またはエンザルタミドの投与を受けた患者の前向き観察研究PROCUREに登録されているmCRPC患者を対象として行われました。ATM、BRCA1/2、BRIP1、CDK12、CHECK2、FANCA、HDAC2、PALB2、RAD51B、およびRAD54Lを含むDDR遺伝子の生殖細胞系列変異および体細胞変異(腫瘍FFPE検体を使用)を解析し、画像上無増悪生存期間(rPFS)、2次治療を含めた無増悪生存期間(PFS2)、および全生存期間(OS)との関連が検証されました。遺伝子変異は、変異遺伝子のカテゴリー(BRCA1/2>HRR non-BRCA>non-HRR)、生殖細胞系列・体細胞変異の別(Germline>Somatic>None)、片アレル・両アレルの別(Bi-allelic>Mono-allelic>None)に基づき階層的に分類されました。解析の結果、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較して、2次治療を受けた割合が高いということがわかりました(92%、79%、79%)。にもかかわらず、BRCA1/2変異患者はHRR non-BRCA変異患者およびnon-HRR変異患者と比較してrPFS、PFS2、OSが不良でした。BRCA1/2変異患者に限定した探索的サブグループ解析では、BRCA1/2変異のタイプ(生殖細胞系列変異か体細胞変異か、片アレルか両アレルか)と腫瘍学的転帰(rPFS、PFS2、およびOS)の間に有意な関連は見られませんでした。1次治療として新規ARシグナル阻害薬またはタキサンのいずれかを投与されたmCRPC患者では、ほかのDDR遺伝子と比較してBRCA1/2変異がrPFS、PFS2、OSの短縮と関連していました。BRCA1/2変異陽性患者の不良な転帰は、変異のタイプにかかわらず観察され、また治療への曝露が低いことが原因ではないことが示唆されました。これらの結果は進行前立腺がんの治療において、とくにBRCA1/2の生殖細胞系列および体細胞変異をスクリーニングすることの重要性を示しています。TALAPRO-2試験(Abstract # 5004)TALAPRO-2試験(NCT03395197)は、mCRPC患者の1次治療としてtalazoparib+エンザルタミドとプラセボ+エンザルタミドの併用を評価した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はtalazoparib 0.5mgを1日1回(標準の1.0mgから減量)+エンザルタミド160mgを1日1回投与する群と、プラセボ+エンザルタミドを投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。TALAPRO-2は、PROpelと同様に「オールカマー」のバイオマーカー未選択コホート(HRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず組み入れ)を対象とした試験として注目を集めました。バイオマーカー未選択コホート(コホート1、805例)の主解析の結果はすでに報告されており(Agarwal N, et al. Lancet. 2023 Jun 2. [Epub ahead of print])、talazoparib+エンザルタミド併用群のrPFSは、プラセボ+エンザルタミド群と比較して有意に良好でした(中央値:未到達vs.22ヵ月、HR:0.63、95%CI:0.51~0.78、p<0.001)。今回は、コホート1におけるHRR遺伝子変異陽性患者(169例)に、新たにリクルートしたHRR遺伝子変異陽性患者(230例)を加えたコホート2(399例)のデータが公表されました。コホート2もコホート1と同様、talazoparib+エンザルタミド群とプラセボ+エンザルタミド群とに1:1で無作為に割り付けられました。変異HRR遺伝子の内訳は、BRCA2(34%)が最多で、ATM(20~24%)、CDK12(18~20%)がこれに続きました。観察期間中央値16.8~17.5ヵ月の時点で、talazoparib+エンザルタミドの併用はrPFSの有意な改善と関連しており、rPFS中央値は介入群では未達だったのに対し、プラセボ+エンザルタミド群では13.8ヵ月でした(HR:0.45、95%CI:0.33~0.81、p<0.0001)。変異HRR遺伝子に基づくサブグループ解析では、rPFSの有意な延長は BRCA(とくにBRCA2)変異患者に限定されており、PALB2、CDK12、ATM、およびそのほかのHRR遺伝子変異患者ではrPFSの有意な改善は見られないことが本試験でも示されました。PROpel試験のPROデータ(Abstract # 5012)PROpel試験(NCT03732820)はmCRPCに対する1次治療としての、アビラテロン+オラパリブとアビラテロン+プラセボを比較した第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、患者はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく登録され、アビラテロン(1,000mgを1日1回、プレドニゾン/プレドニゾロンを併用)に加えて、オラパリブ(300mgを1日2回)またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為(1:1)に割り付けられました。主要評価項目であるrPFSに関しては、オラパリブ+アビラテロン群がプラセボ+アビラテロン群と比べて有意に良好でした(中央値:24.8ヵ月vs.16.6ヵ月、HR:0.66、95%CI:0.54~0.81、p<0.001)。rPFSの延長はHRR遺伝子の変異ステータスに関係なく観察されましたが、効果の大きさはHRR変異陽性患者(HR:0.50、95%CI:0.34~0.73)では、HRR変異陰性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)と比べて高いことが示されました。OSに関しては現在のところ有意差を認めていません。初回の報告ではFACT-Pで評価された健康関連QOL(HRQOL)に有意差はありませんでしたが、今回最終解析時点におけるHRQOLデータが報告されました。本報告でもFACT-Pで評価されたHRQOLに有意差は認められませんでした。また、BPI-SFで評価された疼痛スコアの平均、悪化までの期間も両群間に有意差を認めませんでした。さらに、初回の骨関連有害事象までの期間や麻薬系鎮痛薬使用までの期間にも有意差を認めませんでした。結論として、アビラテロン単独と比較して、アビラテロン+オラパリブの併用はHRQ OL転帰の悪化とは関連していないことが示唆されました。TALAPRO-2試験のPROデータ(Abstract # 5013)上述のTALAPRO-2試験(NCT03395197)のコホート2の腫瘍学的アウトカムの報告に続いて、Patient Reported Outcome(PRO)の結果も発表されました。PROはEORTC QLQ-C30とその前立腺がんモジュールQLQ-PR25を用いて、ベースラインからrPFSに到達するまで4週間ごと(54週以降は8週ごと)に評価されました(BPI-SFおよびEQ-5D-5Lも使用されたようですが、今回は報告されませんでした)。個々のドメインスコアのベースラインからの平均変化および臨床的に意味のある(10ポイント以上) 悪化までの時間(TTD)が解析されました。その結果、EORTC QLQ-C30における全般的なQOLを示すGHS/QOLスコアのTTDはプラセボ+エンザルタミド群と比較して、talazoparib+エンザルタミド群で有意に長くなりました(HR:0.78、95%CI:0.62~0.99、p=0.038)。ベースラインからのGHS/QOLスコアの推定平均変化も同様にtalazoparib+エンザルタミド群で有意に良好でしたが、その差は臨床的に意味のあるものではありませんでした。さらに、両群間で身体面、役割面、感情面、認知面、社会面の各機能スケールに有意な差は観察されませんでした。また、個々の症状スケールにも臨床的に意味のある差異は認められませんでした。プラセボ+エンザルタミドと比較して、talazoparib+エンザルタミドの併用は、全体的な健康状態とQOLの改善に関連している可能性がありますが、その差は臨床的に意味のあるものではないことが示されました。ここ数年で、mCRPCにおける1st-line治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験に関する報告が相次いでいます。今回紹介したPROpel(アビラテロン+オラパリブ)、TALAPRO-2(talazoparib+エンザルタミド)のほかに、MAGNITUDE試験(ニラパリブ+アビラテロン)の中間解析結果も公表されています(Chi KN, et al. J Clin Oncol. 2023;41:3339-3351.、Chi KN, et al. Ann Oncol. 2023 Jun 1. [Epub ahead of print])。これらの新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法が、mCRPCにおいてHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらずベネフィットをもたらすのかどうかが最大の焦点と言えますが、現在のところ共通して言えるのは、(1)いずれの併用療法においても効果の大きさは、BRCA2-associated mCRPC>all HRR-deficient mCRPC>unselected mCRPC>non-HRR-altered mCRPCの順に大きいこと。(2)現在のところベネフィットが示されているのはrPFSまでで、OSではベネフィットが示されていないこと。(3)新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用は新規ARシグナル阻害薬単剤と比べて、QOL悪化までの期間を延長すること。(4)新規ARシグナル阻害薬+PARP阻害薬と新規ARシグナル阻害薬+プラセボの各群間のQOLスコアに、有意差あるいは臨床的に意味のある差は報告されていないこと。などです。(1)からは、併用療法をHRR遺伝子の変異ステータスにかかわらず(つまり「オールカマー」に)適応した場合、その効果はその集団に占めるHRR遺伝子(とくにBRCA2)変異陽性症例の占める割合によって影響を受けることを意味します。このことはHRR遺伝子(あるいはBRCA2)変異の頻度が低いといわれている日本人集団への適応を考える際に重要です。(2)と併せて、本治療が本邦で承認される場合、どのような条件が付くことになるのか注視したいと思います。(3)はrPFSの延長と無関係ではないと思われますが、OSのベネフィットが示されない状況で、rPFS延長の意義を高めるデータではあります。少なくとも(4)からは、mCRPC患者が同様のHRQOLを維持しながら、新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用療法を継続可能であることを示していると言えるでしょう。GETUG/AFU V05 VESPER試験(Abstract # LBA4507)GETUG/AFU V05 VESPER試験(NCT01812369)は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期化学療法として、dd-MVACとGCを比較する試験で、すでにdd-MVACがGCと比較して3年のPFSを改善することが報告されています。2013年2月から2018年2月まで、フランスの28施設で500例が無作為に割り付けられ、3週間ごとに4サイクルのGC、または2週間ごとに6サイクルのdd-MVACのいずれかを手術前(術前補助療法群)または手術後(補助療法群)に受けました。今回は5年のOSを含む最終解析の結果が報告されました。OSはdd-MVAC群で改善され(64% vs.56%、HR:0.77、95%CI:0.58~1.03、p=0.078)、疾患特異的生存期間(DSS)も改善しました(72% vs.59%、HR:0.63、95%CI:0.46~0.86、p=0.004)。とくにネオアジュバント群においてdd-MVACはGCよりも有意に優れていました(OS:66% vs.57%、HR:0.71、95% CI:0.52~0.97、p=0.032、DSS:75% vs.60%、HR:0.56、95%CI:0.39~0.80、p=0.001)。MIBCの周術期化学療法において、dd-MVACはGCに比べてOS、DSSを有意に改善することが示されました。今後、本邦でも標準治療となっていくかどうか動向が注目されます。THOR試験(Abstract # LBA4619)FGFR変異は転移性尿路上皮がん患者の約20%で観察され、ドライバー変異として機能していると考えられています。THOR試験(NCT03390504)は、プラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者を対象とし、erdafitinibと化学療法を比較するランダム化第III相試験でした。266例の患者が無作為化され、そのうち136例がerdafitinib、130例が化学療法を受けました。今回は、追跡期間の中央値15.9ヵ月時点での主要評価項目のOSのデータが発表されました。erdafitinibは化学療法と比較してOSを有意に延長し、死亡リスクを減少させました(12.1ヵ月vs.7.8ヵ月、HR:0.64、95%CI:0.47~0.88)。さらに、erdafitinibと化学療法によるOSのベネフィットは、サブグループ全体で一貫して観察されました。さらに、客観的奏効率(ORR)はerdafitinibのほうが有意に良好でした(45.6% vs.11.5%、相対リスク:3.94、95%CI:2.37~6.57、p<0.001)。安全性に関しても新たな懸念は見いだされませんでした。erdafitinibはプラチナ含有化学療法および抗PD-(L)1治療後に進行した、FGFR3/2 変異を有する局所進行性または転移性尿路上皮がん患者における標準治療になりうると考えられます。SWOG S1011試験(Abstract # 4508)MIBCに対する膀胱全摘除術(RC)におけるリンパ節郭清の範囲に関する前向き試験であるSWOG S1011(NCT01224665)の結果が報告されました。詳細は別項に譲りますが、主要評価項目であるDFS、副次評価項目であるOSともに両群間に有意差を認めませんでした。この結果は数年前に報告された同様の試験であるLEA AUO AB 25/02試験(NCT01215071、Gschwend JE, et al. Eur Urol. 2019;75:604-611.)と同様でしたが、サンプルサイズ、観察期間などの不足から検出力が不足しているとの指摘(Lerner SP, et al. Eur Urol. 2019;75:612-614.)もあり、今後より大規模なデータベース研究や長期フォローアップの結果が待たれます。いずれにせよ、RCにおける拡大郭清がDFS、OSに与える影響はそれほど大きくはないということが示唆されました。CONTACT-03試験(Abstract # LBA4500)CONTACT-03試験(NCT04338269)は、ICI治療中または治療後に進行した、切除不能または転移性の淡明細胞型または非淡明細胞型RCC患者を対象とし、アテゾリズマブ(1,200mg IV q3w)とカボザンチニブ(60mg 経口 qd)の併用またはカボザンチニブ単独の治療に1:1に無作為に割り付けました。RECIST 1.1に基づくPFSおよびOSが主要評価項目でした。552例が無作為化され、263例がアテゾリズマブ+カボザンチニブ群に、259例がカボザンチニブ単独群に割り付けられました。観察期間の中央値15.2ヵ月の時点で、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群にOS、PFSに関するベネフィットは認められませんでした。Grade3/4の有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群の68%(177/262)およびカボザンチニブ単独群の62%(158/256)で報告されました。Grade5のAEは6%と4%で発生しました。治療中止につながる有害事象は、アテゾリズマブ+カボザンチニブ群で16%、カボザンチニブ単独群では4%で発生しました。本試験は、ICI治療中あるいは治療後に進行した腎がん患者に対してカボザンチニブにアテゾリズマブを追加しても臨床転帰は改善されず、毒性が増加するという残念な結果に終わりましたが、ICIのリチャレンジを検証する初のランダム化第III相試験として注目度も高く、論文はLancet誌に掲載されています(Pal SK, et al. Lancet. 2023;402:185-195.)。おわりに本年のASCO Annual Meetingでは、泌尿器腫瘍各領域で今後の治療の在り方に重要な示唆を与える報告が多数見られました。前立腺がん領域では、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬とPARP阻害薬の併用に関する試験以外にも、mCRPCの1次治療としての新規ARシグナル阻害薬と放射線治療および化学療法の併用に関するPEACE-1試験の放射線治療のベネフィットに関するデータも公表されました。総じて、ここ10年で開発されてきた治療法の併用による治療強度の増強に関する研究が多かったように思います。これらの治療は、対象患者、治療レジメンともに、さらなる最適化が必要と考えられます。今後の動向にも注目していきたいと思います。

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男性ではY染色体の喪失で膀胱がんの増殖が加速?

 男性では、加齢に伴い毛髪や筋肉の張りが失われ、視力や聴力が低下していくだけでなく、男性を生物学的に男性たらしめているY染色体そのものも徐々に失われていく。こうした中、米シダーズ・サイナイ医療センターのDan Theodorescu氏らが、加齢に伴うY染色体の喪失はがん細胞が免疫の攻撃を回避するのに役立ち、その結果、Y染色体を喪失した男性はがんに対して脆弱な状態になり得ることを、「Nature」に6月21日報告した。研究グループは、「Y染色体の喪失とがんに対する免疫システムの反応との関連を示した初めての研究」と説明している。 人間の性別はX染色体とY染色体の2種類の性染色体の組み合わせで決まり、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持っている。ところが、男性では加齢に伴い、細胞分裂の過程で一部の細胞からY染色体がなくなることがある。米モンテフィオーレ医療センターの情報によると、一部の白血球にY染色体の喪失が認められた人の割合は、70歳の男性で約40%、93歳の男性で57%に上るという。一方、シダーズ・サイナイ医療センターのグループは、今回の研究の背景として、男性ではY染色体の喪失が複数のがん種で確認されており、このうち膀胱がんでは10~40%の患者のがん細胞で認められると説明。また、Y染色体の喪失と心疾患やアルツハイマー病との関連が指摘されている点にも言及している。 Y染色体には特定の遺伝子の設計図が含まれている。同医療センターのグループは今回、膀胱内膜の正常な細胞におけるこれらの遺伝子の発現の仕方を調べ、それに基づき膀胱がん患者におけるY染色体の喪失を測定するためのスコアリングシステムを開発した。その上で、浸潤性膀胱がん患者のうち、膀胱摘出術を受けたが免疫チェックポイント阻害薬による治療は受けていない患者のグループと、膀胱摘出術に加えて免疫チェックポイント阻害薬による治療も受けた患者のグループのデータを分析した。その結果、前者のグループでは、Y染色体の喪失がある患者の方が予後不良だったが、後者のグループでは、Y染色体の喪失がある患者の方が、全生存率が大幅に高いことが示された。 その理由を明らかにするため、マウスのがん細胞を免疫細胞に曝露させずにシャーレで増殖させ、またT細胞と呼ばれる免疫細胞を欠失させたマウスの体内でもがん細胞を増殖させた。その結果、いずれのケースでも、Y染色体を喪失したがん細胞と喪失していないがん細胞の間で、増殖スピードに違いは認められなかった。しかし、免疫細胞を欠失させていないマウスの体内では、Y染色体を喪失したがん細胞の方が、喪失していないがん細胞よりも増殖スピードがはるかに速いことが観察された。 「免疫システムが作動している場合にのみがん細胞の増殖スピードに差が認められたということは、Y染色体の喪失が膀胱がんに与える影響を考える上で重要なポイントだ」とTheodorescu氏は指摘。「この結果は、細胞がY染色体を失うとT細胞が疲弊し、がん細胞を攻撃できるT細胞が存在しないとがん細胞が急速に増殖することを示唆している」と述べる。研究グループは、「Y染色体を喪失したがんはより悪性度が高いが、免疫チェックポイント阻害薬に対しては脆弱で反応しやすい」と結論付けている。 現在、膀胱がんには主な治療法が二つあるが、その一つで免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法は、T細胞の疲弊を回復させ、免疫システムががんを攻撃するよう仕向ける治療法だ。研究グループは、「今後の研究で、Y染色体の喪失とT細胞の疲弊の遺伝的な関係について解明を進める必要がある」との見解を示している。また、Theodorescu氏は、「そのメカニズムを明らかにできれば、T細胞の疲弊を阻止できる可能性がある」とした上で、「T細胞の疲弊は免疫チェックポイント阻害薬によって部分的には元に戻すことができるが、最初からそれが起こらないようにすることができれば、患者の予後向上につながる可能性が高い」と期待を示している。

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ASCO2023 レポート 肺がん

レポーター紹介2023年のASCOはCOVID-19の影響をまったく感じさせず、ハイブリッド形式とはいえ現地をベースとした印象を強く打ち出した形で実施された。肺がん領域では、ここ数年肺がんの演題がなかったPlenaryでADAURAのOverall survival(OS)が採択されるなど、久しぶりに話題の多い年であったといえる。引き続き周術期の演題が大きな注目を集めているものの、進行肺がんにおいてもAntibody-drug conjugate(ADC)を用いた治療開発がさらに進展、成熟の段階を迎えており、免疫療法や分子標的薬についても新たな取り組みが報告されている。本稿では、その中から重要な知見について解説したい。ADAURA試験EGFR遺伝子変異陽性、完全切除後のStageIB、II、IIIA非小細胞肺がんを対象として、オシメルチニブを試験治療(36ヵ月)とし、プラセボと比較した第III相試験がADAURA試験である。プラチナ併用療法による標準的な術後療法を受けていない患者の登録も許容されており、両群とも約半数が術後療法を受けている。682例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目はII期、IIIA期の患者における無病生存割合、副次評価項目として全患者集団での無病生存期間(DFS)、全生存期間(OS)等が設定されている。2020年のASCOで、DFSがハザード比0.17、95%信頼区間0.12~0.23という驚異的な結果と共にPlenaryで発表された。従来、試験治療群のDFSが36ヵ月の投与期間後に明らかに悪化していること、CTONG1104やIMPACT試験等の第1、2世代のEGFR-TKIを用いた術後療法の試験がOS延長を示さなかったことなどから、オシメルチニブを用いたADAURAのOS結果への注目が高まる一方であった。3年を経て今年のASCOで、2度目のPlenaryでOSの最終解析の結果が報告された。II期、IIIA期のOSは、ハザード比0.49、95%信頼区間0.33~0.73で有意な延長を示し、5年時点での生存割合は術後オシメルチニブ群で85%、プラセボ群で73%と、12%の上乗せを示している。最も懸念されていた、DFSのような観察期間の後半、とくに36ヵ月を過ぎた後の試験治療群での悪化は今回の解析では明らかではなかったことも、好印象であった。フォローアップ期間は術後オシメルチニブ群で61.7ヵ月、プラセボ群で60.4ヵ月といずれも5年を超えて一見十分のように見えるが、OSのイベントは、オシメルチニブ群で15%、プラセボ群で27%と両群合わせても21%であり、報告された生存曲線を見ても48ヵ月時点以降は打ち切りの表示が多数存在していた。幸いなことに、今回の「最終解析」以降も、OSについてはフォローアップ結果を報告することが触れられていた。DFSで認められたような解析後半での試験治療群の動向を、OSで確認するためにはおそらく7年や8年のフォローアップが必要になる可能性が高いことから、より成熟した解析結果から得られる情報も重要になってくる。従来と同様のサブセット解析結果も同時に報告されており、IB期を加えた全患者で、プラチナベースの術後療法の有無で分けた解析、いずれにおいてもハザード比はほぼ変わらず、いずれの切り口でも術後オシメルチニブの優越性が示されている。発表後に世界中の肺がん専門家の間で、「思ったよりも良かった」OSの結果についてさまざまな議論が巻き起こっている。その中でも最も強く指摘されている点が、プラセボ群での再発後の治療としてのオシメルチニブの実施割合である。後治療の解析において、プラセボ群で再発し後治療が行われた184例中、オシメルチニブが使用されたのは79例(43%)にとどまり、114例(62%)は他のEGFR-TKIで治療されていることが報告された。この点について、批判的な意見として「OSの違いはオシメルチニブを術後に使用したかしなかったかではなく、タイミングによらずオシメルチニブが使用できたか否かを反映しているだけ」という点が提起されている。一方、擁護的な意見として、「オシメルチニブでないにしても何らかのEGFR-TKIがほとんどの患者の後治療で使用されているため大きな問題ではない」という見解も存在する。議論はあるものの、大局的には、術後にEGFR遺伝子変異をチェックし、術後オシメルチニブにアクセスできない国や地域を減らすことが重要と考えられる。KEYNOTE-671試験病理学的に確認された臨床病期II、IIIA、IIIB(N2)期、切除可能非小細胞肺がんを対象として、術前ペムブロリズマブ+プラチナ併用療法最大4サイクル後の切除、術後ペムブロリズマブ(13サイクル)を試験治療とし、術前プラセボ+プラチナ併用療法最大4サイクル後の切除、術後プラセボ(13サイクル)による標準治療と比較する第III相試験がKEYNOTE-671試験である。割付調整因子として、II期vs.III期、PD-L1 50%未満vs.以上、組織型、東アジアかそれ以外か、が設定されている。786例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目は無イベント生存(EFS)とOSのCo-primaryであり、副次評価項目としてmPR、pCR、安全性等が設定されている。今回発表されたEFSはハザード比0.58、95%信頼区間0.46~0.72でペムブロリズマブによる術前、術後療法を行ったほうが有意に延長するという結果であった。24ヵ月時点のEFSの点推定値は術前術後ペムブロリズマブ群で62.4%、術前術後プラセボ群で40.6%であり、22%程度の上乗せを認めている。OSはまだ未成熟であるものの、ハザード比0.72と術前術後ペムブロリズマブ群が良好な傾向を示している。病理学的な奏効に応じたサブセット解析において、pCRが達成された患者、達成されなかった患者、いずれにおいてもペムブロリズマブを術前術後に上乗せすることでEFSの延長傾向が示されていた。mPRで行われた同様の解析でも、同じ傾向が示されている。24ヵ月時点のEFSの点推定値は、すでに発表され実地診療にも導入されているニボルマブ+プラチナ併用療法を術前に3サイクルのみ実施したCheckMate 816試験において65%と報告されており、術前術後ともにペムブロリズマブを実施したKEYNOTE-671の62.4%という結果は異なる試験、異なる患者集団の比較ではあるもののほぼ同一であった。病理学的な奏効に基づくサブセット解析において、とくにpCRやmPRを達成した患者でもペムブロリズマブの上乗せ効果が存在する可能性がある点は注目に値するものの、標準治療がプラチナ併用療法であることから、術前だけでなく術後にペムブロリズマブを追加することの意義を示すことは、本試験のこの解析だけでは難しいと考えられる。いずれにせよ、まずは初回解析の結果が得られたところであり、今後のアップデートに注目したい。NEOTORCH試験臨床病期II、III期、切除可能非小細胞肺がんを対象として、術前toripalimab+プラチナ併用療法3サイクル後の切除、術後toripalimab+プラチナ併用療法1サイクル、術後toripalimab(13サイクル)を試験治療とし、術前プラセボ+プラチナ併用療法3サイクル後の切除、術後プラセボ+プラチナ併用療法1サイクル、術後プラセボ(13サイクル)による標準治療と比較する第III相試験がNEOTORCH試験である。術前3サイクルだけでなく、術後にもtoripalimabもしくはプラセボとプラチナ併用療法を1サイクル実施した後に、toripalimabもしくはプラセボによる術後療法を実施するという、少し変わったレジメンが設定されている。主要評価項目であるIII期でのEFS、II~III期でのEFS、III期でのmPR、II~III期でのmPRについて、αをリサイクルしながら順に評価するデザインであり、副次評価項目としてOS、pCR、DFS、安全性等が設定されている。500例が1:1に両群に割り付けられている。中国で開発された薬剤を用いた、中国国内で実施された試験であるが、これだけの大規模試験を単一の国で立案し、このスピード感で実施できることは驚くべきことである。実施の背景を反映して、喫煙率が8割以上と非常に高く、扁平上皮がんが8割を占める点が、結果の解釈にも影響するポイントといえる。また、解析方法も変則的であり、今回の初回解析ではIII期のみが対象となっている。III期のEFSは、ハザード比0.40、95%信頼区間0.277~0.565と、有意に試験治療群が良好な結果であり、24ヵ月時点のEFS点推定値は試験治療群で64.7%、標準治療群で38.7%であった。KEYNOTE-671試験同様に、CheckMate 816試験と24ヵ月時点のEFSの点推定値は同等ともいえるが、今回はIII期のみの解析であること、扁平上皮がんの割合が非常に高いことなどが、結果の解釈を複雑にしている。病理学的奏効に基づくサブセット解析も報告されており、mPRとなった集団においてもtoripalimabの上乗せが示されているが、KEYNOTE-671同様、標準治療がプラチナ併用療法であることから術後ICIの意義を検証できるデザインとはなっていない。toripalimabが日本国内で使用可能になる可能性は高いとはいえないものの、他のGlobal trialとは異なる特徴を持った試験として、今後のアップデートに注目したい。KEYNOTE-789試験EGFR-TKIで治療後のEGFR ex19delもしくはL858R遺伝子変異を有する進行非小細胞肺がんを対象として、ペムブロリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ併用療法最大4サイクル後のペムブロリズマブ(最大31サイクル)+ペメトレキセド維持療法を試験治療とし、プラセボ+ペメトレキセド+プラチナ併用療法最大4サイクル後のプラセボ(最大31サイクル)+ペメトレキセド維持療法による標準治療と比較する第III相試験がKEYNOTE-789試験である。割付調整因子として、PD-L1 50%未満vs.50%以上、オシメルチニブ投与歴の有無、東アジアかそれ以外か、が設定されている。492例の患者が1:1で両群に割り付けられた。主要評価項目はPFSとOSのCo-primaryであり、副次評価項目として奏効割合、DOR、安全性、PRO等が設定されている。PFSのハザード比は0.80、95%信頼区間は0.65~0.97で、事前に設定された有効性の判断規準であるp=0.0117に対してp=0.0122と、Negativeであったことが報告されている。PFSの中央値も、試験治療群で5.6ヵ月、標準治療群で5.5ヵ月とほぼ一致しており、12ヵ月時点のPFS割合も試験治療群14.0%、標準治療群10.2%と大きな違いはなかった。OSについても同様の結果であり、昨年のESMO Asiaで報告されたCheckMate 722試験と同様Negativeな結果であった。サブグループ解析において、PD-L1が1%以上の群でPFSが良好な傾向が示されているものの、ハザード比は0.77とそれほど大きな違いではなかった。EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の意義については、IMpower150試験のサブセット解析で良好な結果が示されて以来注目されてきたが、検証的な試験では軒並み結果が出せていない。EGFR-TKI耐性化後の治療については、耐性機序に基づく分子標的薬、ADC等による戦略への期待がさらに高まる状況となっている。TROPION-Lung02試験TROP2を標的としたADCであるdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の第 Ib相試験の中で、Dato-DXdとペムブロリズマブの併用療法にプラチナ併用療法を追加した群(Triplet群)と、追加しなかった群(Doublet群)を評価した試験がTROPION-Lung02試験である。Dato-DXdは4mg/kgもしくは6mg/kg、ペムブロリズマブは200mg 3週おきで実施されている。初回治療の患者において、Doublet群での奏効割合が44%、Triplet群での奏効割合が55%であった。安全性については、Grade3以上の治療関連の有害事象がDoublet群で31%、Triplet群で58%に発生している。試験治療に関連した死亡はなかったものの、Dato-DXdとペムブロリズマブの併用療法でとくに留意すべき口内炎Grade3以上はDoublet群8%、Triplet群6%、間質性肺炎All gradeはDoublet群17%(Grade3以上3%)、Triplet群22%(Grade3以上3%)と報告されている。TROP2に対するADCは、TROP2がNSCLCにおいて幅広く発現する良い標的蛋白であることから注目されているが、分子標的薬とは異なりADCでは細胞障害性抗がん剤の毒性も加味されることから安全性については留意が必要となることが、本試験の結果でも明らかにされている。現在、TROPION-Lung07試験(PD-L1 50%未満でのKEYNOTE-189レジメンと、Doublet、Tripletの3群比較試験)、TROPION-Lung08試験(PD-L1 50%以上でのペムブロリズマブとDoubletの比較試験)が実施されている。sunvozertinibEGFR exon20 insertionに対して開発が進められているsunvozertinib(DZD9008)を用いた、単群WU-KONG6試験の結果が報告された。EGFR exon20 insertion変異が確認され、3ラインまでの前治療歴を有する97例の患者が登録されている。年齢中央値は58歳、女性が59.8%、非喫煙者が67%、変異のタイプは769_ASVが39.2%、770_SVDが17.5%、プラチナ併用療法のほかにEGFR-TKIが26.8%、免疫チェックポイント阻害薬が35.1%で実施されていることが患者背景として報告された。独立評価委員会による奏効割合はPRが60.8%、SDが26.8%であり、exon20 insertion変異のタイプによらず有効性が示されている。主なGrade3以上の毒性は、下痢7.7%、CK上昇17.3%、貧血5.8%などであり、皮疹や爪囲炎等のEGFR wild typeの阻害に基づく有害事象の頻度は比較的低く抑えられている。EGFR exon20 insertionを標的とする薬剤の開発はこのところ過熱しており、EGFR wild type阻害に基づく有害事象を抑制しつつ、高い奏効割合を示す薬剤に期待が集まっている。SCARLET(WJOG14821L)試験SCARLET(WJOG14821L)試験は、KRAS G12C変異を有する、未治療進行非小細胞肺がん患者を対象として、ソトラシブとカルボプラチン+ペメトレキセドを併用する第II相試験である。期待奏効割合を65%、閾値奏効割合を40%と設定し、α0.1、β0.1として30例を必要症例数として実施された。患者背景からは、年齢中央値は70歳、男性/女性25/5、非喫煙/喫煙1/29であり、KRAS G12Cらしい患者集団であることが報告されている。主要評価項目であるBICRによる奏効割合は88.9%、80%信頼区間は76.9~95.8と統計学的にPositiveな結果であった。PFSの中央値はBICRで5.7ヵ月であり、6ヵ月時点のOS割合は87.3%と報告されている。KRAS G12Cに対する、ソトラシブ単剤の奏効割合は30%から35%と報告されており、必ずしも満足できる水準ではないことから、本試験の高い奏効割合は注目を集めている。一方、同じく今年報告された、KontRASt-01試験における新たなKRAS G12C阻害薬であるJDQ443により、Early phaseの試験ではあるものの57.1%という良好な奏効割合も報告されている。さらに、KRASやRASを対象とした薬剤開発は加速しており、Pan-KRAS阻害薬、Pan-RAS阻害薬などが次々と早期臨床試験に入り、有効性の向上が期待されている。

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ASCO2023 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ数年、ASCO annual conferenceにおいて高齢がん患者に関するpivotal trialが次々と発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げている。これに伴い、高齢者機能評価(Geriatric Assessment)という用語が市民権を得てきたように感じる。今年のASCOでは、高齢者機能評価を単に実施するのではなく、その結果をどのように使うべきかを問うような試験が多かったように思う。その中から、興味深い研究を抜粋して紹介する。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』の費用対効果分析(THE 5C STUDYの副次的解析: #120121))THE 5C STUDYは、ASCO 2021 annual conferenceで発表されたランダム化比較試験である2)。70歳以上の高齢がん患者を対象として、標準診療である「通常の診療(Standard of Care:SOC)」と比較して、試験診療である「高齢者機能評価を実施し、通常の腫瘍学的な治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるサポートを行う診療(Geriatric Assessment and Management:GAM)」が、健康関連の生活の質(EORTC QLQ-C30のGlobal health status)において、優越性を示すか否かを検証したランダム化比較試験である。残念ながら、QOLスコアの変化は両群で差がなくnegative trialであった。今回、事前に設定されていた費用対効果分析の結果が公表された。カナダの8つの病院から350例の参加者が登録され、SOC群に177例、GAM群に173例が割り付けられた。EQ-5D-5Lは、登録時、登録6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後に評価され、医療費(入院費、救急外来受診費、検査や手技の費用、化学療法や放射線治療の費用、在宅診療の費用、保険外医療費)は患者の医療費用ノートなるものから抽出された。Primary endpointは増分純金銭便益(incremental monetary benefit:INMB)とした(INMB=(λ*ΔQALY)−ΔCosts、閾値は5万ドル)。結果として、患者当たりの総医療費は、SOC群で4万5,342ドル、GAM群で4万8,396ドルであった。全適格患者におけるINMBはマイナス(-3,962ドル、95%CI:-7,117ドル~-794ドル)であり、SOCと比較してGAMの費用対効果は不良という結果であった。サブグループ解析では、根治目的の治療をする集団におけるINMBはプラス(+4,639ドル、95%CI:61ドル~8,607ドル)、緩和目的の治療をする集団におけるINMBはマイナス(−13,307ドル、95%CI:-18,063ドル~-8,264ドル)であった。以上から、根治目的の治療をする集団においては、SOCと比較してGAMの費用対効果は良好であったと結論付けている。「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の費用対効果分析を行った初めての試験である。個人的な意見だが、とても勇気のある研究だと思う。これまで、高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療の有用性を評価するランダム化比較試験の結果が複数公表されており、NCCNガイドラインなどの老年腫瘍ガイドラインでもこれが推奨されている。つまり、老年腫瘍の領域において、高齢者機能評価を実施すること、また高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療を浸透させることは、暗黙の了解であった。しかし、このタイミングでGAMの費用対効果分析を実施するあたり、THE 5C STUDYの研究代表者であるM. Putsは物事を客観的に見ることができる研究者であることがわかる(高齢者機能評価を浸透することに尽力している研究者でもある)。本研究では、根治目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が悪いこと、緩和目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が良いことが示された。もちろん費用対効果分析の研究にはlimitationが付き物であり、またサブグループ解析の結果をそのまま受け入れるべきではないが、この結果はある程度は臨床的にも理解可能である。すなわち、根治を目的とする治療ができるような高齢者は早期がんかつ元気であることが想定され、この集団はGAMに鋭敏に反応するかもしれない。たとえば、手術や根治的(化学)放射線治療などの根治を目的とする治療を実施する場合、早期のリハビリ(術前リハビリを含む)や栄養管理などはADLの自立に役立つだろうし、有害事象の予防・早期発見に役立つだろう。一方、緩和を目的とする治療を実施するような高齢者は進行がんかつフレイルな高齢者あることが想定され、この集団はGAMをしても反応が鈍いのかもしれない。GAMには人材や時間という医療資源もかかるため、GAMを導入する場合、優先順位は手術などを受ける患者から、という議論をする際の参考資料になりうる結果である。老年科医によるコーチングの有用性を評価した多施設ランダム化比較試験(G-oncoCOACH study: #120003))明鏡国語辞典によると、「コーチング」とは、「(1)教えること。指導・助言すること。(2)コーチが対話などのコミュニケーションによって対象者から目的達成のために必要となる能力を引き出す指導法。」とある。G-oncoCOACH studyは、「G(Geriatrician、老年科医)」が「oncoCOACH(腫瘍学も含めたコーチング)」することの有用性を検証したランダム化比較試験である。本試験はベルギーの2施設で実施された。主な適格規準は、70歳以上、固形腫瘍の診断を受け、がん薬物治療が予定されており(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、余命6ヵ月以上と予測されている集団であった。登録後は、高齢者機能評価によるベースライン評価ができた患者のみが、標準診療群(腫瘍科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)と試験診療群(老年科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)にランダム化された。具体的には、標準診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に簡素なケアプランが提示されるのみで、それを実践するか否かは腫瘍科医に委ねられていた。一方、試験診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に詳細なケアプランが提示され、また老年科医チームによる集中的な患者指導、綿密なフォローアップにより、ケアプランを診療に実装し、再評価および継続できるようなサポートが徹底された。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(GHS)。登録時から登録6ヵ月時点での臨床的に意味のある差を10ポイントと定義し、α5%(両側)、検出力80%とした場合の必要登録患者数は195例。ベースラインからの差として、3ヵ月、6ヵ月のデータを基に、6ヵ月時点の両群の最小二乗平均値を推定し、その群間差をベースラインの因子を含めて調整したうえでprimary endpointが解析された。結果として、背景因子で調整した登録時から登録6ヵ月後のGHSの変化は、標準診療群で-8.2ポイント、試験診療群で+4.5ポイントであり、その差は12.8ポイントであった(95%CI:6.7~18.8、p<0.0001)。この結果から、高齢がん患者の診療において、老年科医が患者指導(コーチング)をする診療を推奨すると結論付けている。いくら高齢者機能評価を実施して、それに対するケアプランを提示しても、それが実践されていなかったり継続的なサポートがなされていなかったりすれば意味がないだろう、という考えの下に行われた研究である。つまり、「腫瘍科医による患者指導(コーチング)」 vs.「老年科医による患者指導(コーチング)」を比較した試験ではあるが、その実、「ケアプランの実践と、その後のサポートを徹底するか否か」を評価している試験である。実際、本試験が実施されたベルギーでは、ケアプランを策定しても、それを日常診療に使用する腫瘍科医は46%程度と低いものだったようである。腫瘍科医に任せると完全にはケアプランが実践されないが、老年科医に任せればケアプランが実践され、継続性もサポートされるだろうということである(筆者が研究代表者から個人的に聞いた内容も含まれる)。結果、高齢者機能評価は単に実施するだけでは十分ではなく、その使い方に精通した医療者(本試験の場合は老年科医)がリーディングするのが良いというものであった。本邦には、がん治療に精通した老年科医が少ないため、現時点では「老年科医による患者指導(コーチング)」を取り入れるのは難しいだろう。しかし、腫瘍科医では想像できないような老年科医の「コツ」なるものがあるのは容易に想像できる。老年腫瘍を発展するために老年科医の存在は必須であり、老年科医らとの協働は引き続き進めてゆくべきであろう。日本発の高齢者機能評価+介入のクラスターランダム化比較試験(ENSURE-GA study: #4094))非小細胞肺がん患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の有用性を患者満足度で評価した日本発のクラスターランダム化比較試験*である。*地域や施設を1つのまとまり(クラスター)としてランダム化する研究デザイン主な適格規準は、75歳以上、非小細胞肺がんの診断を受けている、根治的治療ができない、PS 0〜3、初回化学療法未実施、登録時の高齢者機能評価で脆弱性を有するとされた患者であった。本試験は、病床数とがん診療連携拠点病院の指定の有無および施設の所在地域で層別化し、同層の中で「施設」のランダム化が行われた。標準診療群は「通常の診療(高齢者機能評価の結果は医療者に伝えない)」、試験診療群は「高齢者機能評価の結果に基づき脆弱な部分をサポートする診療」である。primary endpointは、治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標で評価:35点満点[点数が高いほど満足度が高い])。必要患者登録数は1,020例であった。結果、治療開始「前」の患者満足度は、標準診療群で29.1ポイント、試験診療群で29.9ポイントであった(p<0.003)。米国の老年腫瘍学の大家にS. Mohileがいる。本試験は、彼女が2020年にJAMA oncologyに公表した試験の日本版である(がん種のみ異なる)5)。Mohileらの試験と同じとはいえ、「患者」ではなく「施設」をランダム化(クラスターランダム化)したところが本試験の特徴である。通常のランダム化、すなわち「患者」をランダム化する場合、同じ施設、同じ主治医が、異なる群に割り付けられた患者を診療する可能性がある。薬物療法の試験であれば、またprimary endpointが全生存期間などの客観的な指標であれば、この設定でも問題ないだろう。しかし、本試験のように、高齢者機能評価を実施するか否かを評価するような試験、また、primary endpointが主観的な指標である場合は、この設定だと問題が生じる可能性がある。すなわち、通常の「患者」をランダム化するデザインにすると、ある登録患者で高齢者機能評価の有用性を実感した医療者がいた場合、次の登録患者が標準診療群だとしても臨床的に高齢者機能評価を実施してしまうことはありうる(その逆もありうる)。そうなると、両群で同じことをしていることになり、その群間差は薄まってしまうのである。これを解決するのが「施設」のランダム化、すなわちクラスターランダム化であるが、その方法が煩雑であること、サンプルサイズが増えてしまうことなどから、それほど日本では一般的ではない6)。しかし、本試験では、クラスターランダム化デザインを選択したことにより、その科学性が高まったといえる。一方、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標)としたことについては疑問が残る。Mohileらの試験でもprimary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの是非は問われたが、老年腫瘍の黎明期でもあり、高齢者機能評価のエビデンスを蓄積するためにやむを得ないと考えていた。しかし、時代は変わり、高齢者機能評価のエビデンスが蓄積されつつある現在で、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの意義は変わってくる。登録から治療開始前までに高齢者機能評価を実施し、それについてサポートを受けられるのであれば、患者の満足度が高いことは自明であろう。また、本試験では、HCCQの群間差は0.8ポイントであるが、この差が臨床的に意味のある差か否かは不明である。さらに、ポスターに掲載されているFigureを見る限り、登録3ヵ月後のHCCQは両群で差がないように見える。しかし、本邦から1,000例を超す老年腫瘍のクラスターランダム化比較試験が発表されたことは称賛に値する。参考1)Cost-utility of geriatric assessment in older adults with cancer: Results from the 5C trial2)Impact of Geriatric Assessment and Management on Quality of Life, Unplanned Hospitalizations, Toxicity, and Survival for Older Adults With Cancer: The Randomized 5C Trial3)A multicenter randomized controlled trial (RCT) for the effectiveness of Comprehensive Geriatric Assessment (CGA) with extensive patient coaching on quality of life (QoL) in older patients with solid tumors receiving systemic therapy: G-oncoCOACH study4)Satisfaction in older patients by geriatric assessment using a novel tablet-based questionnaire system: A cluster-randomized, phase III trial of patients with non-small-cell lung cancer (ENSURE-GA study; NEJ041/CS-Lung001)5)Communication With Older Patients With Cancer Using Geriatric Assessment: A Cluster-Randomized Clinical Trial From the National Cancer Institute Community Oncology Research Program6)小山田 隼佑. “クラスター RCT”. 医学界新聞. 2019-07-01. (参照2023-07-03)

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StageIII NSCLC、周術期ニボルマブ上乗せで生存改善(NADIM II)/NEJM

 切除可能なStageIIIA/IIIBの非小細胞肺がん(NSCLC)における術前補助療法について、ニボルマブ+化学療法は化学療法のみの場合と比べ、病理学的完全奏効(CR)の割合は有意に高率(相対リスク5.34)で、生存延長にも結び付くことが示された。スペイン・Puerta de Hierro-Majadahonda大学病院のMariano Provencio氏らが、非盲検第II相無作為化比較試験の結果を報告した。NSCLC患者の約20%がStageIIIを占める。これら患者の最も至適な治療についてコンセンサスが得られていなかった。NEJM誌オンライン版2023年6月28日号掲載の報告。病理学的CR、PFS、OSなどを検証 研究グループは、切除可能なStageIIIA/IIIBのNSCLCの患者を無作為に2群に分け、一方には術前補助療法としてニボルマブ+プラチナ製剤ベースの化学療法(実験群)を、もう一方には、同様の化学療法のみを行い(対照群)、両群ともにその後手術を実施した。実験群でR0切除を受けた被験者に対しては、術後6ヵ月間、ニボルマブ補助療法を行った。 主要評価項目は、病理学的CR(切除した肺・リンパ節残存腫瘍0%)だった。副次評価項目は、24ヵ月時点の無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)で安全性も評価した。2年推定PFSは実験群67.2%、対照群40.9% 86例が無作為化され、実験群は57例、対照群は29例だった。病理学的CRが認められたのは、実験群37%、対照群7%だった(相対リスク:5.34、95%信頼区間[CI]:1.34~21.23、p=0.02)。手術を受けたのは、実験群93%、対照群69%だった(相対リスク:1.35、95%CI:1.05~1.74)。 24ヵ月時点のKaplan-Meier法による推定PFSは、実験群67.2%、対照群40.9%で、実験群で有意に高率だった(病勢進行・再発・死亡ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.25~0.88)。同様のOSは、実験群85.0%、対照群63.6%だった(死亡HR:0.43、95%CI:0.19~0.98)。 Grade3または4の有害事象の発生は、実験群11例(19%、何例かは両グレードを報告)、対照群3例(10%)だった。

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ASCO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年も世界最大級の腫瘍学学会の1つであるASCO2023が、6月2日から6日に現地米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催された。消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。ATTRACTION-5: A phase 3 study of nivolumab plus chemotherapy as postoperative adjuvant treatment for pathological stage III (pStage III) gastric or gastroesophageal junction (G/GEJ) cancer. #4000本試験は胃切除術+D2郭清以上の手術を受けたStageIIIの胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する術後治療として、化学療法に対するニボルマブの上乗せを検証した第III相試験であり、本邦の静岡県立がんセンターの寺島先生より報告された。主要評価項目は中央判定の無再発生存期間、副次評価項目は研究者判定の無再発生存期間、全生存期間(OS)および安全性であった。日本、韓国、台湾、中国の東アジアの4ヵ国から755例が登録され、377例が化学療法+ニボルマブ群に、378例が化学療法群に登録された。患者背景は65歳以上が約40%、男性が約70%、PS0が約80%、StageIIIA〜Cが3分の1ずつ、胃全摘が43%、病理diffuse typeが56%、日本からの登録が48%あった。化学療法の内訳はS-1が35%でcapeOXが65%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は1%以上が10%程度で、両群の患者背景に偏りは認められなかった。主要評価項目である中央判定の3年無再発生存率は、化学療法+ニボルマブ群で68.4%、化学療法群で65.3%と統計学的な有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.69〜1.18、p=0.4363)。サブグループ解析ではニボルマブの上乗せ効果はPS0、食道胃接合部/噴門部、StageIIIA/IIIB、intestinal typeおよびS-1群で乏しい傾向があった。副次評価項目である研究者判定の3年無再発生存率は64.9% vs.59.3%(HR:0.87、95%CI:0.69〜1.11)、3年生存率が81.5%vs.78.0%(HR:0.88、95%CI:0.66〜1.17)であった。新規の有害事象は認められなかった。Perioperative PD-1 antibody toripalimab plus SOX or XELOX chemotherapy versus SOX or XELOX alone for locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer: Results from a prospective, randomized, open-label, phase II trial.  #4001前述のATTRACTION-5試験に続き、中国から周術期化学療法における抗PD-1抗体薬の上乗せを探索したランダム化第II相試験が報告された。本研究ではcT3a-4aでN因子陽性かつM0の胃がんおよび食道胃接合部がんを対象にして、SOXもしくはcapeOXに抗PD-1抗体薬であるtoripalimabを上乗せする試験であった。通常治療群は術前治療としてcapeOX/SOXを3コース、術後にcapeOX/SOXを5コース行った。試験治療群は周術期capeOX/SOXにtoripalimabを上乗せした後に、6ヵ月間toripalimab単剤が継続された。主要評価項目はtumor regression grade rate(TRG rate)でTRG0(腫瘍細胞なし)もしくはTRG1(1細胞もしくは小グループの腫瘍細胞残存)の割合であり、副次評価項目は原発巣の病理学的完全奏効率、完全切除率、無再発生存率、event free survival、全生存期間および安全性であった。各群54例、108例が登録され、今回、主要評価項目のTRG rateと安全性が報告された。化学療法+toripalimab群と化学療法群の割合は、食道胃接合部がんでは31%と37%、diffuse typeでは33%と37%、cT3では39%と31%、cN3では22%と11%、SOX治療群では61%と46%であった。TRG rateは試験治療群44%、通常治療群20%であり、試験治療群で統計学的に有意な改善を認めた(p=0.01)。また、化学療法+toripalimab群でのTRG rateの上乗せは、腫瘍部位や病理Lauren分類にかかわらず認められた。術後の病理学的評価を見ると、ypT0~2の割合は、化学療法+toripalimab群46%、化学療法群22%と、化学療法+toripalimab群で良い傾向を認めたが、yp0~1の割合は57% vs.59%と大きな差は認められなかった。周術期合併症や治療強度は両群に有意差はなかった。有害事象について見ると、免疫関連有害事象は化学療法群に比べ、化学療法+toripalimab群で多く認めたが(全Gradeでは13% vs.2%、Grade3以上では2% vs.0%)、重篤な治療関連有害事象に関しては大きな差がなかった(Grade3/4で36% vs.30%)。胃がんにおける今学会の注目演題は周術期の試験である。ATTRACTION-5は胃がんにおいて最も注目されていた発表だったが、StageIII胃がんにおける術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果は認められなかった。現在、周術期の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は多数行われている。この試験では、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬toripalimabの上乗せによって、TRG rateは改善を認めた。しかし本研究はまだ観察期間が短く、無再発生存期間や全生存期間のデータはない。欧米では周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験、FLOT療法にデュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORN試験などが行われている。DANTE試験は2022年のASCOで中間解析が報告され、副次評価項目であるTRG rateはPD-L1がCPSで高値の群やMSI-High集団で、アテゾリズマブの上乗せ効果が強く認められた。またMSI-Highの胃がんの術前治療としてイピリムマブ+ニボルマブの有効性を探索した第II相試験(GERCOR NEONIPIGA)も行われており、pCR率58.6%、TRG1は73%で認められている。今回の両研究ではバイオマーカー解析の結果はないため、今後の解析が待たれる。また、周術期化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するKEYNOTE-585試験において、病理学的完全奏効率は有意に改善したものの、主要評価項目であるevent free survivalは統計学的有意な改善が示されなかったことが、MSD社のプレスリリースで報告された。現在進行中の試験も、いまだ全生存期間や無再発生存期間のデータはないため、今後、周術期治療の免疫チェックポイント阻害薬が胃がん患者の本当の予後改善につながるのかも含め、いずれの試験においても慎重な検討が必要であると考えられる。Liposomal irinotecan + 5-fluorouracil/leucovorin + oxaliplatin (NALIRIFOX) versus nab-paclitaxel + gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC): 12- and 18-month survival rates from the phase 3 NAPOLI 3 trial. #40062023年のASCO-GI で発表されたNAPOLI-3試験において、リポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート療法のNALIRIFOX療法は、主要評価項目の全生存期間中央値11.1ヵ月vs.9.2ヵ月と、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法に対する統計学的に有意な改善が報告された。今回、追加解析の結果がASCO2023で報告された。主要評価項目である全生存期間は11.1ヵ月vs.9.2ヵ月(HR:0.83、p=0.04)であり、12ヵ月生存率は45.6% vs.39.5%、18ヵ月生存率は26.2% vs.19.3%と、いずれもNALIRIFOX群で良好な結果であった。事前に設定されたサブグループ解析結果も報告され、PS、肝転移の有無、年齢にかかわらず無増悪生存期間と全生存期間の双方でNALIRIFOX療法の有効性が示された。重篤な有害事象については骨髄抑制には大きな差はないものの、Grade3/4の有害事象で下痢(20.3% vs.4.5%)、嘔気(11.9% vs.2.6%)、低K血症(15.1% vs.4.0%)などがNALIRIFOX群で多い傾向であった。本研究よりNALIRIFOX療法はGnP療法への優越性が示されているが、ディスカッサントも触れていたように、有効性はFOLFIRINOX療法の第III相PRODIGE/ACCORD試験と同等で(全生存期間11.1ヵ月、12ヵ月生存率48.4%および18ヵ月生存率18.6%)、下痢はNALIRIFOXでより高率であった。NALIRIFOX療法の有効性と安全性に関する本邦のデータはないが、使用対象は全身状態良好な症例になると思われる。本邦における現状を考えると、全身状態の良好な膵がん症例にはGnP療法およびFOLFIRINOX療法(もしくはリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート)を使い切る戦略を考慮することが肝要と考える。NALIRIFOX療法については、今後、QOLやバイオマーカー解析の結果も待たれる。Tucatinib and trastuzumab for previously treated HER2-positive metastatic biliary tract cancer (SGNTUC-019): A phase 2 basket study.  #4007Results from the pivotal phase (Ph) 2b HERIZON-BTC-01 study: Zanidatamab in previously-treated HER2-amplified biliary tract cancer (BTC).  #4008今回、HER2陽性の胆道がんに対して2つの研究が発表された。1つ目のSGNTUC-019試験は、国立がん研究センター東病院の中村先生より報告された。本研究は、HER2陽性例に対するHER2 チロシンキナーゼ高選択的経口阻害薬であるtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有効性を探索する、臓器横断的なバスケット試験(第II相試験)における胆道がんコホートの報告である。対象は、抗HER2療法の既往がない1レジメン以上の全身化学療法を受けた、病理組織でIHC/FISHでHER2陽性症例もしくは組織か血液におけるNGS検査でHER2増幅を認めた症例であり、30例が登録された。奏効率は46.7%、病勢制御率は76.7%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月で、全生存期間中央値は15.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は嘔気、食欲不振および胆管炎であった。zanidatamabはHER2タンパクの細胞外ドメインであるECD2とECD4の2ヵ所に結合するbispecific antibodyで、前臨床研究ではトラスツズマブとペムブロリズマブの併用療法よりも期待される有効性を示した。HERIZON-BTC-01試験はゲムシタビンを含むレジメンに不応となり、中央判定で組織学的にHER2陽性と判定された胆管がんを対象にzanidatamabの有用性を探索した第II相試験である。80例が登録され、奏効率は41.3%、病勢制御率は68.8%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は下痢、心機能低下および貧血であった。HER2高発現の胆道がんは5~30%程度といわれており、注目される治療標的の1つである。バスケット型試験であるMyPathway試験のHER2陽性胆道がんコホートでは、ペルツズマブ+トラスツズマブで奏効率が23.1%と報告されている。また、昨年のASCO2022では、本邦からトラスツズマブ デルクステカンの第II相試験(HERB試験)も報告され、奏効率は36.4%であった。今回の新たな2つの治療もHER2陽性例に対し有用性を示したことから、胆道がんにおける抗HER2療法の一日も早い臨床導入が期待される。PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048). #LBA2ASCO2023消化器がんにおける、唯一のplenary session発表である。欧米では遠隔転移を伴わない進行直腸がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法、Total Mesorectal Excision(TME:直腸間膜全切除)を伴う手術、そして術後補助化学療法である。しかし、術前化学放射線療法に伴う晩期毒性(腸管・膀胱・性機能障害、骨盤骨折、2次発がんなど)も問題となっていた。今回、cT2でN因子陽性もしくはcT3の直腸がんに対する術前治療として、骨盤内化学放射線療法(50.4Gy)群に対するFOLFOX±選択的化学放射線療法群の非劣性を検証するランダム化第III相試験(PROSPECT試験)が報告された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目は局所再発率、全生存期間、R0切除率、病理学的完全奏効率、PROによる毒性、QOLであった。非劣性マージンは片側α0.049、power85%で、1.29と設定された。対象群では術前化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法が施行された。試験治療群では、FOLFOX6サイクル施行後20%以上の腫瘍縮小が得られた症例には、手術と術後化学療法が、腫瘍縮小20%未満およびFOLFOX不耐例には、術前化学放射線療法が施行され、その後手術と術後補助化学療法が行われた。FOLFOX±選択的化学放射線療法群に585例、化学放射線療法群に543例が登録された。患者背景に大きな偏りはなく、術前MRI施行例は84%、cT3N(+)症例が約50%、肛門縁から腫瘍までの距離は中央値で8cmであった。5年無再発生存率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で80.8%、化学放射線療法群で78.6%であり、非劣性マージンの1.29を95%信頼区間の上限が超えず、統計学的有意に非劣性が証明された(HR:0.92、95%CI:0.74〜1.14)。また、年齢とN因子の有無で調整しても同様に非劣性が証明された。局所再発なしに5年生存した症例の割合は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で98.2%、化学放射線療法群で98.4%、5年生存率は89.5%と90.2%であった。病理学的完全奏効率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で22%、術前化学放射線療法群で24%であった。術後化学療法も両群とも約80%で施行された。また、FOLFOX±選択的化学放射線療法で化学放射線療法を受けた症例は9%であった。術前治療における毒性は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で倦怠、嘔気、食欲不振などが多く、化学放射線療法群では下痢が多かった。QOLに関する有意差はなく、腸管機能や性機能に関してはFOLFOX±選択的化学放射線療法群で良好であった。以上の結果より、cT2N(+)、cT3N(-)、cT3N(+)症例に対してFOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢の1つとなりうると報告された。今回の報告では、FOLFOX±選択的化学放射線療法群では、約90%の症例で術前化学放射線療法を回避できた。腸管機能や性機能への影響も軽減されている。本研究の適格基準を満たす直腸がんの術前治療として、FOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢となりうる。ただ、cT4症例、リンパ節転移が本試験の基準より高度であるなど、さらに進行した局所直腸がんでの有効性は明らかではない。より進行した局所進行直腸がんに対しては放射線療法も含めたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)が注目されている。本邦でも、T3〜4/N(-)もしくはTanyN(+)の局所進行直腸がんに対して、short courseの放射線治療(5Gy×5回)からcapeOXを行う群とcapeOXIRIを行う群を比較するランダム化第III相試験(ENSEMBLE試験)が進行している。TNTでは、化学療法と放射線療法を組み合わせて行うことにより手術を避けるNon Operative Management(NOM)も注目されており、局所進行直腸がんに対する、さらなる治療開発が期待される。Efficacy of panitumumab in patients with left-sided disease, MSS/MSI-L, and RAS/BRAF WT: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial. #3508最後に、本邦で行われたPARADIGM試験のバイオマーカー解析について報告する。RAS/BRAFのみならずMSIのステータスも含めて解析された結果であり、より実臨床に近い対象に絞った報告であった。MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異を認める症例は、左側で10.3%、右側で43.2%と、右側で多く認められ、治療開始前のctDNAのBRAF V600E変異も左側4.3%、右側31.3%と、右側で多く認められた。左側のMSSかつRAS/BRAF変異野生型の全生存期間は、FOLFOX+パニツムマブ群40.6ヵ月に対しFOLFOX+ベバシズマブ群34.8ヵ月と、パニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では15.4ヵ月 vs.25.2ヵ月と、ベバシズマブ群で良好であった。右側でもMSSかつRAS/BRAF野生型では全生存期間37.9ヵ月 vs.30.9ヵ月および奏効率70.7% vs.63.6%とパニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では全生存期間13.7ヵ月 vs.17.9ヵ月および奏効率37.8% vs.69.4%と、ベバシズマブ群で良好であった。PFSも左側、右側にかかわらず、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型ではベバシズマブ群で良好な傾向があった。奏効率もMSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では左側、右側にかかわらず、ベバシズマブ群で統計学的有意に高かった。本結果より、抗EGFR抗体薬を使用する前にRAS/BRAF変異のみならずMSIを測定することが重要であることが示唆される。また本研究を含め複数の研究で、組織検査のRASは野生型であっても、ctDNAでRAS変異を認める症例が10%程度存在することが示唆され、このような症例では抗EGFR抗体薬の効果が乏しいことが、PARADIGM試験を含め報告されている。将来的には組織だけでなく、ctDNAによるゲノム検査が治療前に行えるようになることが期待される。

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進行肺がんに対する免疫療法は2年で十分の可能性

 進行肺がん患者の予後は、免疫チェックポイント阻害薬の登場によって大幅に改善した。しかし、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対して同薬による治療をどの程度の期間、継続する必要があるのかについては明らかになっていなかった。こうした中、新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬による治療開始から2年後の時点でがんが進行していない安定した状態の患者であれば、同薬の使用を中止しても生存期間に影響しないことが示された。米ペンシルベニア大学血液・腫瘍科学分野のLova Sun氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023、6月3~7日、米シカゴ)で発表され、「JAMA Oncology」に6月4日、同時掲載された。 免疫システムの重要な武器の一つであるT細胞には、がん細胞を死滅させる力がある。しかし、肺がんを発症すると、がん細胞の表面のタンパク質がT細胞の表面の特定のタンパク質を見つけて結合し、T細胞の働きにブレーキをかけてしまう。免疫チェックポイント阻害薬は、この結合を防ぐことでT細胞の活性化抑制を解除する作用を持つ。 Sun氏らは今回、全米の電子医療記録データベースを用いて2016~2020年に進行NSCLCと診断された1万4,406人の患者データを収集し、免疫療法の継続期間と患者の全生存率との関連を、2年で治療を中止した患者とそれ以降も治療を継続した患者との比較で検討した。対象患者は、全例が免疫チェックポイント阻害薬による治療を受け、一部の患者はそれに加えて化学療法を受けていた。 治療開始から700日後の時点で免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けており、追跡(760日後以降)が可能だったのは1,039人だった。このうち188人は治療開始から2年後(700〜759日後)に同薬の使用が中止され(治療中止群)、851人は2年後以降も同薬による治療が継続されていた(治療継続群)。最終的に、追跡開始前にがんの進行が認められた患者と、治療中止の同月または翌月に死亡した患者(治療中止群のみ)を除外した、治療中止群113人(年齢中央値69歳、女性54.9%)と治療継続群593人(年齢中央値69歳、女性47.6%)が解析の対象とされた。 解析の結果、追跡開始後2年間の全生存率は、治療中止群で79%、治療継続群で81%であった。治療継続群と比べた治療中止群の死亡の調整ハザード比は1.33(95%信頼区間0.78〜2.25、P=0.29)であり、統計学的な有意差は認められなかった。 この結果について、Sun氏は「かなり魅力的だ」と評する。また、2年後に治療を中止し、その後、がんが進行した患者もわずかにいたが、同じ治療薬の使用を再開することで臨床的なベネフィットを得ることができた点に言及し、「これらの結果は、免疫チェックポイント阻害薬の使用を中止した患者に対しても経過観察を続けるべきであること、また免疫療法の再チャレンジについても考慮すべきことを示すものだ」と付け加えている。 Sun氏は、長期間の免疫療法が大きな毒性のリスクを伴うほか、免疫療法の費用は高額で、治療期間が長くなればなるほど患者の負担額も増える傾向にある点も指摘している。米国立がん研究所(NCI)によると、免疫チェックポイント阻害薬には、皮疹や下痢、倦怠感などさまざまな副作用のリスクがある。まれにではあるが、同薬による治療によって全身に炎症が起こり、臓器の正常な機能が損なわれることもある。 今回の研究には関与していない米ティッシュがん研究所のThomas Marron氏によると、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、肺がん患者の平均余命は基本的に2倍延長し、患者の10~30%ではがんが治癒する可能性もあるという。その一方で、居住地域や加入している保険にもよるが、患者にとってはがん治療に伴う経済的な負担による「経済毒性」が大きな問題となり、長期間の治療による副作用も懸念されるべき問題だと同氏は指摘している。 Marron氏は、治療が奏効しているときにその治療を中止することに対してナーバスになる患者や医師がいることを認めた上で、「治療開始から2年の時点で寛解している患者のほとんどは、治療を中止してもその状態が維持されることが多くの研究で示されている」と説明している。

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ASCO2023 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2023の年次総会(6月2日~6日)は、ようやくCOVID-19が感染症法上の5類扱いとなったことで海外への渡航もしやすくなり、米国シカゴで現地参加された日本人の先生方もおられたと思います。今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年と同様に、現地まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間や終了後に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病/MDS関連3演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連SWOG S1826, a randomized study of nivolumab(N)-AVD versus brentuximab vedotin(BV)-AVD in advanced stage (AS) classic Hodgkin lymphoma (HL). (Abstract #LBA4)本臨床試験は、プレナリーセッションで発表された注目演題である。昨年のASCO2022にて、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、それまでの標準治療であったABVD療法と、ブレンツキシマブ ベドチンとブレオマイシンを置き換えたA-AVD療法を比較したECHELON-1試験の6年のフォローアップの結果が示され、全生存率でもA-AVDがABVDよりも優れていたという結果が発表された。今回の試験では、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブとAVDを併用したN-AVDと、新たな標準治療となったA-AVDを比較した試験の中間解析結果が報告された。N-AVD(496例)、A-AVD(498例)に割り付けられた。本試験では、ECHELON-1試験には組み入れられなかった12~17歳の未成年患者が約4分の1含まれていた。主要評価項目のPFS(1年時点)は、94%と86%でHRは0.48と有意にN-AVDが優れていた。また、副作用として、G-CSFの1次予防の実施がA-AVDではほぼ全例、N-AVDでは約半数だったことで、好中球減少はN-AVDで多く認められたが、感染症の発症率はほぼ同等であった。末梢性神経障害はA-AVDで多く認められた一方、ニボルマブによる免疫関連の副作用(IrAE)は、ほとんど問題なかった。今後、フォローアップを継続し、晩期の副作用の発現や再発後の治療選択なども見ていく必要がある。Results of a phase 3 study of IVO vs IO for previously untreated older patients (pts) with chronic lymphocytic leukemia (CLL) and impact of COVID-19 (Alliance). (Abstract #7500)未治療高齢CLL患者に対し、イブルチニブ(I)とオビヌツズマブ(O)併用後のI治療継続(IO)と、IOにベネトクラクス(V)を12ヵ月間併用し、MRD陰性の場合は治療を終了し、MRDが残存する場合はI治療を継続する(IVO)治療を比較する第III相試験の中間解析結果が報告された。465例(IO群:232例、IVO群233例)がエントリーされ、18ヵ月時点でのPFSは、IO群87%、IVO群85%で差を認めなかった。14サイクル終了時点でのCR率とMRD陰性率は、IO群で31.3%と33.3%、IVO群で68.5%と86.8%であり、IVO群で高かった。18ヵ月時点でのIVO群のMRD陰性例と陽性例のPFSには差がみられなかった。有害事象としては、両群ともCOVID-19による死亡例が最も多く(IVO群>IO群)、COVID-19の流行により、臨床試験の結果は大きな影響を受けることとなった。今後、長期のフォローアップにより、MRD陰性例(治療中止例)のPFSのデータが出た時点で、Vの併用の意義が明らかになると考える。A phase 2 trial of CHOP with anti-CCR4 antibody mogamulizumab for elderly patients with CCR4-positive adult T-cell leukemia/lymphoma. (Abstract #7504)日本からの発表。同種移植の適応とならない高齢アグレッシブCCR4陽性ATL患者に対するモガムリズマブ(Moga)とCHOP-14の併用療法(Moga-CHOP-14)の第II相試験の結果である。アグレッシブATLは難治性の疾患であり、同種移植の適応とならない患者の生命予後はきわめて不良である。寛解導入療法のCHOP療法は、奏効率も低く、生命予後の改善も乏しい。50例のATL患者(年齢中央値74歳)にMoga-CHOP-14×6サイクル+Moga×2サイクルが実施された。1年PFSが36.2%、ORRが91.7%(CRが64.6%)、1年OSが66.0%であった。主な有害事象は、血球減少とFN(G3以上64.6%)、皮疹(G3以上20.8%)であった。Moga-CHOP-14療法は、高齢ATL患者に対する治療オプションとして有用と考えられる。Epcoritamab + R2 regimen and responses in high-risk follicular lymphoma, regardless of POD24 status. (Abstract #7506) 再発・難治の濾胞性リンパ腫(FL)に対し、CD20×CD3の二重特異性抗体薬epcoritamab(Epco)とリツキシマブ・レナリドミド(R2)を併用した治療の第II相試験(Epcoの投与スケジュールが異なる2群)の統合解析結果が報告された。2つの試験の対象となった111例が解析された。患者の年齢中央値は65歳で、CS III/IVが22%/60%であり、FLIPIの3〜5が58%であった。57%は前治療のライン数が1であり、POD24は38%が該当した。全奏効率は98%、完全代謝奏効(CMR)は87%であった。POD24に該当するハイリスク患者においてもそれぞれの奏効率は98%/75%と、治療効果は良好であった。有害事象は、CRSと好中球減少をそれぞれ48%で認めたが、CRSは46%がGrade1〜2であり、Grade3は2%であった。また、有害事象によって治療中止となった例はなかった。現在、第III相試験(EPCORE FL-1試験、EPCORE NHL-2試験)が行われている。多発性骨髄腫関連Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KRd) versus elotuzumab and KRd in transplant-eligible patients with newly diagnosed multiple myeloma: Post-induction response and MRD results from an open-label randomized phase 3 study. (Abstract #8000)未治療の多発性骨髄腫(MM)患者に対するKRd療法とエロツズマブ(E)を併用したE-KRd療法の第III相比較試験(DSMM XVII試験)が行われた。試験デザインは6サイクルの寛解導入後、1回の自家移植(CRが得られない場合あるいはハイリスク染色体異常の場合は2回)を実施し、4サイクルの地固め実施後、レナリドミド(R)あるいはエロツズマブ+レナリドミド(ER)の維持療法を行うこととなっている。579例がランダム化された。寛解導入後の効果について、主要評価項目の1つでもあるVGPR以上でMRD陰性例の割合は、KRd/E-KRdで、35.4/49.8%であり、Eの併用効果を認めた。Grade3以上の有害事象もE併用により、66.3%から75.3%に増えているが、感染症による死亡例はそれぞれ0.3/1.2%で差はなく、COVID-19例も4.4/3.2%で差を認めなかった。未治療MMに対し、Eの併用の有用性が初めて示された試験である。First results from the RedirecTT-1 study with teclistamab (tec) + talquetamab (tal) simultaneously targeting BCMA and GPRC5D in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM). (Abstract #8002)トリプルクラス抵抗性のMM患者の生命予後は、きわめて不良であり、それらの患者に二重特異性抗体薬が高い有効性を示すことが報告され、欧米では承認されている。標的分子が異なるそれらの治療薬を併用することで、さらなる治療効果の増強が期待される。本発表では、BCMA×CD3の二重特異性抗体薬のteclistamab(Tec)とGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)の併用治療の第Ib相試験(RedirecTT-1試験)の結果が報告された。93例の再発・難治MM患者(前治療のライン数:4、33.3%がハイリスクの染色体異常を有し、79.6%がトリプルクラスレフラクトリー、37.6%が髄外腫瘤を有していた)が参加している。本試験は用量設定試験であり、用量は4段階あるが、有効性は全奏効率が86.6%、CR以上が40.2%であり、第II相の推奨用量(Tec:3.0mg/kg+Tal:0.8mg/kg Q2W)では、全奏効率が96.3%、CR以上が40.7%と、優れた治療成績が示された。また、CRSや骨髄抑制などの有害事象は単剤治療とほぼ変わりなかった。今後のさらなる開発が期待される。Talquetamab (tal) + daratumumab (dara) in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated TRIMM-2 results. (Abstract #8003)再発・難治MM患者に対するGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)とダラツムマブ(Dara)を併用した試験(TRIMM-2試験)のアップデート成績が報告された。65例(前治療のライン数:5、トリプルクラス抵抗性:60%、抗CD38抗体薬抵抗性:78%、二重特異性抗体薬抵抗性:23%、BCMA標的治療歴:54%)が参加した。追跡期間中央値16ヵ月時点の成績は、全奏効率81%(VGPR以上:70%、CR以上:50%)であり、奏効が得られた症例の80.9%で、12ヵ月時点で奏効が持続しており、PFSの中央値は19.4ヵ月、1年PFS率は70%、1年OS率は92%であった。有害事象は既知のものであり、CRSも78%で認められたが、すべてGrade1〜2であった。TalとDaraの併用は、トリプルクラス抵抗性(とくに抗CD38抗体薬抵抗性)のMMに対し、新たな治療オプションとして注目される。白血病/MDS関連Efficacy and safety results from the COMMANDS trial: A phase 3 study evaluating lus patercept vs epoetin alfa in erythropoiesis-stimulating agent (ESA)-naive transfusion dependent (TD) patients (pts) with lower-risk myelodysplastic syndromes (LR-MDS). (Abstract #7003)赤血球輸血依存のLow-リスクMDS患者に対するluspatercept(Lus)とエリスロポエチン製剤(ESA)との第III相比較試験の中間解析結果が報告された。対象となった患者は、IPSS-RでのLow-リスクであり、環状鉄芽球の有無は問わず、血清Epo値が500U/L未満であり、ESAの投与歴がない輸血依存(4~12単位の輸血を8週間以上継続している)状態の患者であった。Lusは3週に1回の皮下注、ESAは週1回の皮下注にて投与され、24週以上継続した。Lusは178例、ESAは176例の患者が割り付けられた。主要評価項目である開始24週以内における12週以上の輸血非依存の達成率(Hb 1.5g/dL以上上昇を伴う)は、Lusで58.5%、ESAで31.2%であった。治療薬関連の副作用は、Lusで30.3%、ESAで17.6%に認められ、副作用による中止はLusで4.5%、ESAで2.3%であった。また、AMLへの進行は、それぞれ2.2%と2.8%であった。Lusは、輸血依存のLow-リスクMDSに対し、貧血の改善効果がESAよりも優れていることが示された。A first-in-human study of CD123 NK cell engager SAR443579 in relapsed or refractory acute myeloid leukemia, B-cell acute lymphoblastic leukemia, or high-risk myelodysplasia. (Abstract #7005)CD123(IL-3レセプターのα鎖)を発現している細胞とNK細胞を結び付けるSAR443579(SAR)の再発・難治AML、およびCD123陽性HighリスクMDS、B-ALL患者に対する第I/II相試験の結果が発表された。SARは、週2回と週1回の静脈内投与で2週間投与され(10~3,000μg/kg/dose)、その後、週1回(100~3,000μg/kg)の投与スケジュールとなり、寛解導入期は3ヵ月、その後、維持療法期には約28日ごとの投与となる。23例の患者(全員AMLの診断)が登録され、最高用量の3,000μg/kgまで用量制限毒性は認められなかった。有害事象で最も多かったのはIRR(13例)であり、CRSは1例(Grade1)のみに認められた。有効性は、3例でCR/CRiが得られており、その3例は1,000μg/kgの投与量であった(1,000μg/kgでは8例中3例がCR/CRi:37.5%)。新たなNK細胞エンゲージャー治療薬の今後の開発の進展が期待される。Chemotherapy-free treatment with inotuzumab ozogamicin and blinatumomab for older adults with newly diagnosed, Ph-negative, CD22-positive, B-cell acute lymphoblastic leukemia: Alliance A041703. (Abstract #7006)未治療Ph陽性のALLに対し、TKIとブリナツモマブ(Blina)を併用したケモフリーレジメンの有用性が示されているが、本研究では、未治療Ph陰性、CD22陽性のB-ALLの同種移植の適応とならない高齢患者に対し、イノツズマブ オゾガマイシン(Ino)とBlinaの併用によるケモフリーレジメンが試験されている。Inoを1~2サイクル投与し、その後、Blinaで地固めを行う。33例(年齢中央値:71歳)が試験に参加し、最良治療効果のCRcは96%、1年EFS率が75%、1年OS率が84%であった。主な有害事象は骨髄抑制(Grade3以上の好中球減少:87.9%、血小板減少:72.7%)で、FNは21.2%にみられ、有害事象での死亡例は2例(脳症と呼吸不全)のみにみられた。通常の化学療法と比較し、とくに寛解期での死亡例が少なく、移植非適応のPh陰性ALL患者には、安全性の高い治療法である。おわりに以上、ASCO2023で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。ASCO2021、ASCO2022でも10演題を紹介しましたが、今年も昨年、一昨年と同様、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2024にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、円安が続く今日この頃[笑])。

75.

IL-6R阻害薬、irAE改善効果とICIの効果への影響

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、広範ながん種において生存率の向上をもたらし、使用が拡大している。しかし、ICIによって生じる免疫関連有害事象(irAE)が治療の中断・中止の原因となるため、その管理が重要である。irAEに対する標準治療は副腎皮質ステロイドであるが、高用量かつ長期間の使用は、抗腫瘍免疫の減弱や有害事象の原因となる可能性がある。そこで、米国・Laura and Isaac Perlmutter Cancer CenterのFaisal Fa'ak氏らは、後ろ向き研究によりIL-6受容体(IL-6R)阻害薬のirAEに対する有効性と、ICIの抗腫瘍効果への影響を検討した。その結果、IL-6R阻害薬は、ICIの抗腫瘍効果を減弱せずにirAEを改善することが示唆された。本研究結果は、Journal for ImmunoTherapy of Cancer誌2023年6月11日号で報告された。 がん治療のためにICIを投与された患者のうち、ICI投与後にirAEが発現または自己免疫疾患が再燃し、IL-6R阻害薬(トシリズマブまたはサリルマブ)が投与された患者92例を対象に、後ろ向き解析を実施した。主要評価項目は、irAEの臨床的改善(irAEや自己免疫疾患の再燃の消失、またはGrade1以下への改善)であった。副次評価項目は、IL-6R阻害薬に関連する有害事象、RECIST v1.1に基づくICIの奏効率(ORR)であった。 主な結果は以下のとおり。・主な患者背景は、ICI投与開始時の年齢中央値61歳、男性63%で、ICIによる治療は抗PD-1抗体薬単剤が69%、抗CTLA-4抗体薬と抗PD-1抗体薬の併用療法が26%であった。主ながん種(5%以上)は、悪性黒色腫(46%)、泌尿生殖器がん(35%)、肺がん(8%)であった。・IL-6R阻害薬投与の理由となった主なirAE(2例以上に発現)は、炎症性関節炎(73%)、胆管炎/肝炎(7%)、筋炎/重症筋無力症/心筋炎(5%)、脳炎(5%)、リウマチ性多発筋痛症(4%)であった。・irAEの発現からIL-6R阻害薬投与開始までの期間の中央値は3ヵ月(範囲:0.03~51.0)であった。対象患者のうち91%は、副腎皮質ステロイドや疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)による十分な治療効果が得られなかったことから、IL-6R阻害薬が投与された。・IL-6R阻害薬によりirAEの臨床的改善に至った患者の割合は73%であり、IL-6R阻害薬による治療開始からirAEの臨床的改善までの期間の中央値は2.0ヵ月(範囲:0.03~23.0)であった。・ICIのORRは、IL-6R阻害薬投与前66%、投与後66%であったが、完全奏効の割合はIL-6R阻害薬投与後が投与前と比較して8%高かった。・IL-6R阻害薬投与後のICIのORRは、50歳超が50歳以下と比較して高かった(調整オッズ比:3.53、95%信頼区間:1.17~10.65、p=0.02)。同様に、IL-6R阻害薬を24週間以上投与した群は24週間未満の群と比較してICIのORRが高かった(同:3.21、1.03~9.96、p=0.04)・評価可能な病変を有する悪性黒色腫患者34例におけるICIのORRは、IL-6R阻害薬投与前56%から投与後68%に上昇した(p=0.04)。・IL-6R阻害薬の投与中止に至った有害事象は6例(7%)に認められた。 著者らは、「IL-6Rを標的としたアプローチは、抗腫瘍免疫を減弱させることなくirAEを効果的に治療することが可能な手法であると考えられる。本研究結果は、抗IL-6R抗体薬トシリズマブとICIの併用の有効性および安全性の評価を目的とした、現在進行中の臨床試験を支持するものである」とまとめた。

76.

ペムブロリズマブ+ラムシルマブの非小細胞肺がん術前補助療法(EAST ENERGY)/ASCO2023

 切除可能なPD-L1陽性StageIB~IIIAの非小細胞肺がん(NSCLC)に対する術前補助療法として、ペムブロリズマブとラムシルマブの併用療法が有効であることが、多施設共同の単群第II相試験であるEAST ENERGY試験の結果から示唆された。国立がん研究センター東病院の青景 圭樹氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法は、切除可能NSCLC患者に対する標準的な術前補助療法の1つとして認識されている。しかし、プラチナ製剤不適格患者に対する、この薬剤の組み合わせは十分に検証されていない。一方、ICIと血管新生阻害薬の併用は、進行期NSCLCにおいて有効性と安全性が報告されている。 ICI+血管新生阻害薬を術前補助療法に適用できないか。EAST ENERGY試験では、PD-L1陽性NSCLCに対し、ICIであるペムブロリズマブと血管新生阻害薬(VEGFR2阻害薬)であるラムシルマブの併用術前補助療法の有効性と安全性が検討された。・対象:PD-L1≧1%の切除可能なStageIB〜IIIA(AJCC8版)NSCLC患者24例・介入:ペムブロリズマブ(200mg)+ラムシルマブ(10mg/kg) 3週ごと2サイクル→手術・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央病理学審査(BIPR)評価による主要な病理学的奏効(MPR)率[副次評価項目]病理学的完全奏効(pCR)率、R0切除率、奏効率(ORR)、無再発生存期間(RFS)、PD-L1発現別の全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・BIPR評価のMPR率は50.0%(24例中12例)で、事前に設定したMPR率の基準(MPR 9例以上[37.5%以上])を超え、主要評価項目を達成した。・pCR率は25%(24例中6例)であった。・観察期間中央値23.6ヵ月時点でのRFS中央値は未到達、12ヵ月RFS率は91.1%、24ヵ月RFS率は75.6%であった。・同期間でのOS中央値は未到達、12ヵ月OS率は100%、24ヵ月OS率は94.4%であった。・Grade3の治療関連有害事象(TRAE)は23例中7例に発現、そのうち5例が重篤だった(Grade4以上はなし)。・Grade3の免疫関連有害事象は、23例中3例(急性腎障害2例、リウマチ性多発筋痛症1例)に発現した(Grade4以上はなし)。・Grade3の術中・術後合併症は22例中3例(肺ろう、術中肺動脈出血、術後胸腔内血腫)に発現した。 青景氏は、この新しいレジメンはPD-L1陽性NSCLCの術前補助療法として、プラチナ不適格患者や高齢患者に適用できるだろうと述べた。

77.

KRAS G12C変異陽性NSCLCに対するソトラシブ+化学療法の有効性(SCARLET)/ASCO2023

 KRAS G12C変異陽性の進行非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、KRAS G12C阻害薬であるソトラシブとカルボプラチン、ペメトレキセドとの併用療法が有用である可能性が示された。国内単群第II相試験として実施されたSCARLET試験の主要評価項目の解析結果として、和歌山県立医科大学の赤松 弘朗氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 KRAS G12Cは進行非扁平上皮NSCLCのdruggableターゲットで、免疫チェックポイント阻害薬(±プラチナダブレット化学療法)、ソトラシブ、細胞障害性抗がん剤単剤が標準治療とされてきた。SCARLET試験では、化学療法治療歴のないKRAS G12C変異陽性の進行非扁平上皮NSCLCに対して、ソトラシブ、カルボプラチン、ペメトレキセドの併用療法の有効性と安全性について評価した。・対象:未治療のKRAS G12C変異陽性の進行非扁平上皮NSCLC患者30例・介入:ソトラシブ(960mg)+カルボプラチン(AUC 5)+ペメトレキセド(500mg/m2)3週ごと4サイクル→ソトラシブ+ペメトレキセドを病勢進行まで継続・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会(BICR)判定による奏効率(ORR)[副次評価項目]病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)、全生存期間(OS)および有害事象(AE) 主な結果は以下のとおり。・2021年10月~2022年7月に登録された30例中、29例が安全性、27例が有効性解析の対象となった。・観察期間中央値4.1ヵ月における、BICR判定ORRは88.9%(80%信頼区間[CI]:76.9~95.8、95%CI:70.8~97.6)であった。事前設定のORR基準(閾値40%、期待値65%)を満たし、主要評価項目を達成した。・BICR判定によるPFS中央値は5.7ヵ月、6ヵ月PFS率は49.6%、治験担当医判定によるPFS中央値は7.6ヵ月、6ヵ月PFS率は56.7%であった。・OS中央値は未到達で、6ヵ月OS率は87.3%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は72.4%に発現し、そのうち20%以上の項目は貧血(37.9%)、好中球数減少(24.1%)、血小板数減少(24.1%)、白血球数減少(20.7%)であった。 KRAS G12C変異陽性の進行非扁平上皮NSCLCにおける、ソトラシブと化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)の併用は良好な有効性と忍容性を示した、と赤松氏は結んだ。

78.

腎細胞がん、ニボルマブ+イピリムマブによるアジュバント療法のサブグループ解析(CheckMate 914)/ASCO2023

 未治療の進行期腎細胞がん(RCC)に対するニボルマブ+イピリムマブ療法は、長期にわたる有効性と忍容性が報告されている。一方、術後RCCにおいて同レジメンのアジュバント療法を評価するCheckMate 914試験(PartA)では、無病生存期間(DFS)への恩恵は示されていない。 米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)では、この理由を明らかにするため、CheckMate 914試験(PartA)のサブグループ解析について、米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのRobert J. Motzer氏が発表した。・対象:根治的腎摘除術または腎部分切除術を施行された再発リスクが中等度~高度の限局性淡明細胞型RCC症例・試験群:ニボルマブを2週ごと、イピリムマブを6週ごと24週間投与(NivoIpi群:405例)・対照群:2種のプラセボを2週ごとと6週ごとに24週間投与(Pla群:411例)・評価項目:[主要評価項目] 盲検下独立中央判定(BICR)によるDFS[副次評価項目] 安全性、全生存期間 主な結果は以下のとおり。・重要なサブグループ解析としてTNMステージ、病理グレード、肉腫様、PD-L1発現を取り上げたが、TNMステージ、病理グレードについては、DFSとの明らかな関連が認められなかった。・PD-L1≧1%症例(102例)におけるNivoIpi群対Pla群のDFS HRは0.40(95%信頼区間[CI]:0.19~0.84)、一方、PD-L1<1%症例(625例)におけるDFS HRは1.14(同:0.85~1.54)であった。・肉腫様症例(40例)におけるDFS HRは0.29(95%CI:0.09〜0.91)であった。・NivoIpi群における早期治療中断を投与回数6回以下と6回超で評価した。結果、投与回数6回以下に対する6回超のDFS HRは0.74(95%CI:0.48~1.13)と、早期治療中断でDFSが不良な傾向にあった。・患者報告による健康関連QOLは、全般的評価スケールであるEQ-5D-3Lと、腎がん治療に特化した機能評価スケールであるFKSI-19で評価した。結果、両スケールともに臨床上意義のある差は認められなかった。

79.

進行腎細胞がん、免疫チェックポイント阻害薬の再投与は有効か/Lancet

 免疫チェックポイント阻害薬の投与中または投与後に病勢が進行した腎細胞がん患者の治療において、免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブとチロシンキナーゼ阻害薬カボザンチニブの併用療法はカボザンチニブ単独療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を改善せず、重篤な有害事象が増加したことが、米国・シティ・オブ・ホープ総合がんセンターのSumanta Kumar Pal氏らが実施した「CONTACT-03試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月5日号に掲載された。15ヵ国の無作為化第III相試験 CONTACT-03試験は日本を含む15ヵ国135施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2020年7月~2021年12月に患者のスクリーニングが行われた(F Hoffmann-La RocheとExelixisの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態が良好(Karnofsky performance statusスコア70%以上)で、組織学的に局所進行または転移性腎細胞がんと確定され、1次または2次治療において免疫チェックポイント阻害薬の投与中または投与後に画像上で病勢の進行が認められた患者であった。 被験者は、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと、静脈内投与)+カボザンチニブ(60mg、1日1回、経口投与)の投与を受ける群(併用群)、またはカボザンチニブ単独の投与を受ける群(単独群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、PFS(盲検下に独立の中央判定による)およびOSの2つで、intention-to-treat解析が行われた。奏効率は同じ、奏効期間は2ヵ月短い 522例が登録され、併用群に263例(年齢中央値62歳、女性22%)、単独群に259例(63歳、24%)が割り付けられた。追跡期間中央値は15.2ヵ月だった。前治療で投与された免疫チェックポイント阻害薬は、1次治療ではイピリムマブ+ニボルマブ(併用群31%、単独群27%)、2次治療ではニボルマブ単独(それぞれ87%、93%)が使用されていた。 PFS中央値は、併用群10.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.8~12.3)、単独群10.8ヵ月(10.0~12.5)であり、両群間に有意な差は認められなかった(増悪または死亡のハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.83~1.28、p=0.78)。また、OS中央値は、併用群25.7ヵ月(21.5~評価不能)、単独群は評価不能(21.1~評価不能)であり、両群間に有意差はみられなかった(死亡のHR:0.94、95%CI:0.70~1.27、p=0.69)。 客観的奏効(中央判定)は、併用群105例(41%)、単独群104例(41%)で得られた。奏効期間中央値は、それぞれ12.7ヵ月、14.8ヵ月だった。 頻度の高い有害事象として、両群とも下痢(併用群171例[65%]、単独群181例[71%])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(101例[39%]、105例[41%])、食欲減退(100例[38%]、97例[38%])がみられた。 重篤な有害事象は、併用群の262例中126例(48%)、単独群の256例中84例(33%)で発現した。試験薬の投与中止の原因となった有害事象はそれぞれ41例(16%)、10例(4%)、減量/中断の原因となった有害事象は240例(92%)、223例(87%)、死亡の原因となった有害事象は17例(6%)、9例(4%)で認められた。 著者は、「これらの結果は、臨床試験以外では、腎細胞がん患者においては免疫チェックポイント阻害薬の逐次的な使用を控えるべきであることを示唆する。また、免疫チェックポイント阻害薬の再投与があらゆるがん種で標準治療とならないうちに、前向き臨床試験で評価することの重要性を強調するものである」としている。

80.

高齢NSCLCのICI治療に化学療法の併用は必要か?(NEJ057)/ASCO2023

 75歳以上の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と化学療法の併用の有効性と安全性は明らかになっていない。そこで、日本国内の58施設における75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)が実施された。その結果、ICIと化学療法の併用はICI単剤と比較して、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を改善せず、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)の発現率を増加させた。本研究結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)において、植松 真生氏(がん・感染症センター 都立駒込病院)が発表した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで治療を開始した1,245例(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR・ALK遺伝子変異を有する患者は除外)・評価項目:レジメン別にみたOSとPFS、PD-L1発現状況別にみたOSとPFS(傾向スコアマッチングを実施)、安全性 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値78歳(範囲:75~95歳)、男性78%、ECOG PS 0または1が84%、PD-L1陰性(Tumor Proportion Score[TPS]1%未満)/低発現(TPS 1~49%)/高発現(TPS 50%以上)/不明がそれぞれ22%/31%/33%/14%であった。・レジメンの割合は、ICI+化学療法28%、ICI単剤34%、プラチナダブレット25%、単剤化学療法12%であった。・レジメン別にみたOS中央値は、ICI+化学療法群20.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:17.1~23.6)、ICI単剤群19.8ヵ月(95%CI:16.5~23.8)、プラチナダブレット群12.8ヵ月(95%CI:10.7~15.6)、単剤化学療法群9.5ヵ月(95%CI:7.4~13.4)であった。・レジメン別にみたPFS中央値は、ICI+化学療法群7.7ヵ月(95%CI:6.5~8.7)、ICI単剤群7.7ヵ月(95%CI:6.6~8.8)、プラチナダブレット群5.4ヵ月(95%CI:4.8~5.7)、単剤化学療法群3.4ヵ月(95%CI:2.6~4.0)であった。・傾向スコアマッチング後のPD-L1発現状況別にみたOSについて、ICI単剤群に対するICI+化学療法群のハザード比[HR]は、PD-L1陽性(TPS 1%以上)が0.98(95%CI:0.67~1.42)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)が1.11(95%CI:0.65~1.91)、PD-L1高発現(TPS 50%以上)が0.92(95%CI:0.55~1.56)であり、いずれのサブグループにおいても有意差は認められなかった。・PD-L1発現状況別にみたPFSについて、ICI単剤群に対するICI+化学療法群のHRは、PD-L1陽性(TPS 1%以上)が0.92(95%CI:0.67~1.25)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)が1.22(95%CI:0.71~1.91)、PD-L1高発現(TPS 50%以上)が0.86(95%CI:0.56~1.31)であり、いずれのサブグループにおいても有意差は認められなかった。・Grade3以上のirAEは、ICI+化学療法群24.3%(86例)、ICI単剤群17.9%(76例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.03)。・肺臓炎の発現率(全Grade)は、ICI+化学療法群23.4%(83例)、ICI単剤群15.6%(66例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.006)。・ステロイドを必要としたirAEは、ICI+化学療法群32.5%(115例)、ICI単剤群24.7%(105例)に認められ、ICI+化学療法群が有意に高率であった(p=0.02)。 植松氏は、「リアルワールドにおいて、ICIと化学療法の併用はICI単剤と比較して、高齢NSCLC患者の生存成績を改善せず、Grade3以上のirAEの発現率を増加させた。本結果から、PD-L1陽性の高齢NSCLC患者には、ICI単剤での投与が推奨される可能性がある」とまとめた。

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