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第50回 「また接種券が届いたが接種すべき?」にどう答える

新型コロナワクチンの推奨が相次いで追補Pixabayより使用最近、「6回目の接種券が届いたんですけど…接種したほうがよいでしょうか?」と患者さんから質問を受けることが増えました。今日も外来だったのですが、10人以上に質問を受けました。これまでは、接種券が届いたら周囲に相談することなく接種していた患者さんのほうが多かったのですが、最近は「本当に接種し続ける意味があるのか」と疑問を持っている人が増え、躊躇しておられる印象です。そんな国民の逡巡を見越してか、日本感染症学会と日本小児科学会から相次いでワクチンに関する提言が追補されました。■日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して1)「わが国での流行はまだしばらく続くためワクチンの必要性に変わりはありません。COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性を慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています。」■日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)2)「国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在することから、これを予防する手段としてのワクチン接種については、日本小児科学会としての推奨は変わらず、生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を推奨します。」新型コロナワクチンのエビデンスは驚異的なスピードで積み上げられていて、パンデミック初期の頃と比べると不明な点が減りました。患者さんを相手に診療をしていると、リスクとベネフィットを天秤にかける瞬間というのは何度か経験しますが、新型コロナワクチンについてはほぼエビデンスは明解を出しているので接種推奨の意見を持つ人のほうが多いはずですが、なぜか医療従事者でも接種しなくなった人が増えている現状があります。EBM副反応がしんどいというのは1つの理由です。「しんどい思いをしてまで接種する理由がない」というのはまっとうな理由ですし、私もそれに否定的な見解は持っていません。そのほかの理由として、「もういいや」といワクチン疲れしている人が増えていることです。ワクチン接種に懐疑的な報道やSNSのコメントがあるという理由で、「もう接種しなくていいと思う」と患者さんに持論を伝える医療従事者も次第に増えてきました。さすがに政府や学会が上記のような推奨を出しているさなか、それはまずいなと思います。私は対象の集団が多いほどエビデンスの威力は大きいと思っていて、たとえば喘息の初期治療にロイコトリエン受容体拮抗薬単剤を使うより吸入ステロイドを使うほうが患者さんのQOLは向上しますし、市中肺炎のエンピリック治療ではテトラサイクリン系抗菌薬よりもβラクタム系抗菌薬のほうがおそらく多くの人を救えます。普段の診療でわりとEBMを重視するのに、対象の集団が多いワクチンについてEBMを軽視するというのが、私にはよく理解できないです。まとめ繰り返しますが、個々でワクチンを接種しないと決めるのは個人の自由です。ただ、医療機関に勤務している人については通常の推奨度よりも高く、また基礎疾患のある患者さんに対しては学会も接種を推奨しているということは、納得できないとしても「医療従事者として理解しておく」必要があります。おそらく次第に接種間隔を空けていくことになるでしょうが、ひとまず9月以降はXBB対応ワクチンを接種することになります。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会:「COVID-19ワクチンに関する提言(第7版)」の公表に際して2)日本小児科学会:小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)

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女性の尋常性ざ瘡、スピロノラクトンが有効/BMJ

 尋常性ざ瘡の女性患者の治療において、カリウム保持性利尿薬スピロノラクトンはプラセボと比較して、12週時の尋常性ざ瘡特異的QoL(Acne-QoL)の症状スコアが良好で、24週時にはさらなる改善が認められ、標準的な経口抗菌薬の代替治療として有用な可能性があることが、英国・サウサンプトン大学のMiriam Santer氏らが実施した「SAFA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年5月16日号に掲載された。イングランド/ウェールズの実践的な無作為化試験 SAFAは、イングランドおよびウェールズの10施設で実施された実践的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年6月~2021年8月の期間に参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、顔面のざ蒼が6ヵ月以上持続し、担当医によって経口抗菌薬による治療を要すると判定され、担当医の全般的評価(IGA)が2(軽症または悪化)の女性患者であった。 被験者は、スピロノラクトン(50mg/日)またはプラセボを6週間経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。忍容性が確認された場合は、100mg/日に増量し、24週まで投与が継続された。両群とも、通常の外用薬の使用は容認された。 主要アウトカムは、12週の時点でのAcne-QoLの症状サブスケールスコア(0~30点、点数が高いほどQoLが良好)であった。副次アウトカムには、24週時のAcne-QoL症状サブスケールスコア、患者の自己評価による改善度、IGAに基づく治療成功、有害事象などが含まれた。患者自己評価による改善度も、24週には有意に良好 410例(平均[SD]年齢29.2[7.2]歳、軽症46%、中等症 40%、重症 13%)が登録され、スピロノラクトン群に201例、プラセボ群に209例が割り付けられた。主要アウトカムのデータは342例(スピロノラクトン群176例、プラセボ群166例)で得られた。 平均Acne-QoL症状スコアは、スピロノラクトン群がベースラインの13.2(SD 4.9)点から12週後には19.2(6.1)点に、プラセボ群は12.9(4.5)点から17.8(5.6)点にいずれも上昇し、ベースラインの変量で補正後の平均差は1.27点(95%信頼区間[CI]:0.07~2.46)と、スピロノラクトン群で改善度が大きかった。 24週時には、スピロノラクトン群が21.2(SD 5.9)点、プラセボ群は17.4(5.8)点へとそれぞれ上昇し、補正平均差は3.45点(95%CI:2.16~4.75)と、12週時よりも差が大きくなり、スピロノラクトン群で改善度が高かった。 患者の自己評価による全般的改善度(6段階Likert scaleの3~6点の達成率)は、12週時がスピロノラクトン群72%、プラセボ群68%(補正後オッズ比[OR]:1.16、95%CI:0.70~1.91)と両群間に有意差はなかったが、24週時にはそれぞれ82%、63%(2.72、1.50~4.93)となり、統計学的に有意な差が認められた。 12週時の治療成功(IGA分類)の割合は、スピロノラクトン群が19%(31/168例)、プラセボ群は6%(9/160例)だった(補正後OR:5.18、95%CI:2.18~12.28)。 有害事象の頻度(64% vs.51%、p=0.01)はスピロノラクトン群で高く、とくに頭痛(20% vs.12%、p=0.02)とめまい(19% vs.12%、p=0.07)が多かったが、ほとんどが軽度であった。試験薬に関連した重篤な有害事象の報告はなかった。 著者は、「スピロノラクトンは、第1選択の局所治療で効果がない持続性のざ蒼を有する女性において、経口抗菌薬に代わる有用な選択肢となる可能性がある」とまとめ、「スピロノラクトンは妊娠に注意を要し、参加者は受診時に避妊に関する助言を受けたが7件の妊娠が報告された。スピロノラクトンは、若年女性で頻用されているテトラサイクリン系の経口抗菌薬に比べ催奇性は低いと考えられ、通常の治療ではとくに避妊以外の制限は必要ないだろう」と指摘している。

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『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版』が発刊

 日本がんサポーティブケア学会が作成した『がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版』が10月20日に発刊した。外見(アピアランス)に関する課題は2018年の第3期がん対策推進基本計画でも取り上げられ、がんサバイバーが増える昨今ではがん治療を円滑に遂行するためにも、治療を担う医師に対してもアピアランス問題の取り扱い方が求められる。今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂は、分子標的薬治療や頭皮冷却法などに関する重要な臨床課題の新たな研究知見が蓄積されたことを踏まえており、患者ががん治療に伴う外見変化で悩みを抱えた際、医療者として質の高い治療・整容を提供するのに有用な一冊となっている。 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版は、これまで“がん患者に対するアピアランスの手引き 2016年版”として公開してきたものをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に準拠し作成、ガイドラインに格上げされたものだが、この作成委員長を務めた野澤 桂子氏(目白大学看護学部 看護学科/国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター)に注目すべき点やアピアランスケアにおける患者への寄り添い方について伺った。アピアランスケアガイドラインと医学的エビデンス 今回、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版を発刊するにあたり、野澤氏は「僅少の研究からエビデンスとなるものを抽出し推奨度を決定するのは困難を極めた。さらに、下痢や発熱などの副作用と異なり、直接は命に関わらない外見の副作用に対するケアを患者QOLと医学的エビデンスとのバランスの中でどうアピアランスケアガイドラインに反映させるか、今回の課題だった」と言及した。その一方で、エビデンスを重視し過ぎる医療者に危機感も感じたという。「支持療法の評価を、がん治療の効果を評価するのとまったく同じ手法で評価する必要がどこまであるのだろうか。ハードルが高すぎて、同じ労力なら支持療法より治療法の研究をしようとする研究者も増えるかも知れない」とし、「医療者は、ゼロリスクにするために少しでも危険を避けようとするが、たとえば、日用整容品の注意事項に書かれている“病中病後の使用はお控えください”という言葉もがん患者のエビデンスがあるとは限らない」と指摘した。また、「炎症や肌荒れがなく患者さんの希望があれば挑戦してほしい。医療者は、患者さんがその挑戦のメリットデメリットを判断できるような情報を提供することが重要」と説明した。アピアランスケアガイドラインが医療者のエビデンス呪縛を解く また、同氏は医療者のアピアランスケアの現状について「医療者は根拠なく患者さんの生活を限定させるような指導を行うべきではない。人間は息をするためだけに生きているのではない。その人らしく豊かに過ごすための時間にできなければ、患者さんにとって意味がないともいえる」と強調した。 そんな野澤氏も以前はざ瘡様皮疹が出現した患者さんには、当時言われていたように、症状の悪化を懸念してフルメイクではなくポイントメイクを推奨していた。しかし、ある患者さんの一言でケアの在り方を見直したのだという。“ポイントメイクでは隠したいブツブツが隠せない。私は可愛いおばあちゃんと言われることが生きがいだったのに、これでは孫に会えない。効いてる限り死ぬまで使う薬なのに、そもそも生きている意味がないじゃない”と患者さんに迫られた経験談を話し、「その時にケアに対する認識の転換期を迎えた。アピアランスケアがほかの副作用対策と異なるのは、“命に直接関わらない”ということ。ケアに挑戦して何かあってもそれに対する対策はある。重要なのは、患者さんが納得した選択ができること、その人らしさを表現できることではないか」と語った。がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版はある意味、医療者のエビデンス呪縛を解くための指南書の役割もあるのだろう。アピアランスケアガイドライン、治療に応じた患者管理がスムーズに 今回のがん治療におけるアピアランスケアガイドライン改訂では、各章の項目がひと目でわかる「項目一覧」というページが追加されている。ここでは分類(症状や部位)、番号(BQ:background question、CQ:clinical question、FQ:future research question)の項目分類が一覧になっており、研究の状況がわかると同時に、気になるページにすぐたどり着くようになっている。また、各章に総論が設けられており、治療ごとの現状など、本書の読者の理解が促される仕様になっている。たとえば、化学療法編では、「レジメン別脱毛の頻度」や「レジメン別の手足症候群の頻度」が表として掲載され副作用の発現率に注目することで、実際の治療に応じた患者管理がしやすくなっている。 各章の変更点については、5月に開催された日本がんサポーティブケア学会の特別シンポジウム『アピアランスケア研究の現状と課題~アピアランスケアガイドライン2021最新版を作成して~』にて、作成委員会の各領域リーダーらがトピックを解説。そこで挙げられた注目すべき点やアピアランスケアガイドラインの改訂にて変更されたquestionを以下に示す。<アピアランスケアガイドライン項目ごとの追加・改訂点>―――治療編(化学療法)・CQ1:化学療法誘発脱毛の予防や重症度軽減に頭皮クーリングシステムは勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→周術期化学療法を行う乳がん患者限定。また、レジメンごとの脱毛治療の成功・不成功を踏まえた上で患者指導やケアが必要とされる。・CQ8:化学療法による手足症候群の予防や重症度の軽減に保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[とても弱い]、合意率:94%)・CQ10:化学療法による手足症候群の予防や発現を遅らせる目的で、ビタミンB6を投与することは勧められるか(推奨の強さ:3、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:94%)治療編(分子標的療法)・CQ17:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹の予防あるいは治療に対してテトラサイクリン系抗菌薬の内服は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B[中]、合意率:100%)→皮膚障害のなかで代表的なのが「ざ瘡様皮疹」だが、無菌性であることが特徴。テトラサイクリン系は抗菌作用のみならず抗炎症作用を持ち合わせており、この効果を期待して使用される。・FQ16:分子標的治療に伴うざ瘡様皮疹に対して過酸化ベンゾイルゲルの外用は勧められるか。治療編(放射線療法)・CQ28:放射線治療による皮膚有害事象に対して保湿薬の外用は勧められるか(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[弱]、合意率:乳がん-100%、頭頸部-94%)→強度変調放射線治療(IMRT)の普及に伴い、線量に関する規定が削除され、“70Gy相当”の文言が削除された。・FQ31:軟膏等外用薬を塗布したまま放射線治療を受けてもよいか日常整容編スキンケア(洗顔やひげ剃りなど)、カモフラージュとしてのメイクやつけまつげに関する項目は漠然としていたので今回は項目より削除。また、手術瘢痕へのテーピングについてはカモフラージュという表現から“顕著化を防ぐ方法”に変更されている。・BQ32:化学療法中の患者に対して、安全な洗髪等の日常的ヘアケア方法は何か→頭皮を清潔→決まった回数は存在せず、臭いや痒みに応じてでも構わない。シャンプーも指定品があるわけではないので患者の嗜好に応じたものをアドバイスする。・BQ37:がん薬物療法中の患者に対して勧められる紫外線防御方法は何か→前回あまり触れられていなかった衣服について盛り込まれた。・FQ42:乳房再建術後に使用が勧められる下着はあるか――― 今回は43項目(FQ:19、CQ:10、BQ:14)が出来上がったものの、患者の生命に直接関わるわけではない点がボトルネックとなりエビデンスレベルの高い研究が今後望まれる。次回の課題として「研究の蓄積、免疫チェックポイント阻害剤の皮膚障害に関する項目が盛り込まれること」と同氏は話した。アピアランスケア実践でがん患者を治療ストレスから開放 アピアランスケアを実践することは患者の自己表現を容認するものであり、治療効果ひいては生存率にもかかわってくるのではないだろうか。同氏は「患者さんにはもっと安心して治療をしてもらいたい。今は外見の副作用コントロールのための休薬・減量のスキルも進歩してきており、不安なことはケア方法含めて医療者に聞いて欲しい。そして、医療者はエビデンスをベースとしつつも、個々に応じた対応を心がけることが必要」と締めくくった。

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化膿性汗腺炎〔HS:Hidradenitis suppurativa〕

1 疾患概要■ 定義化膿性汗腺炎(Hidradenitis suppurativa:HS)は臀部、腋窩、外陰部、乳房下部などに有痛性の皮下結節、穿掘性の皮下瘻孔、瘢痕を形成する慢性の炎症を繰り返す慢性炎症性再発性の毛包の消耗性皮膚疾患で難治性疾患である。アポクリン腺が豊富に存在する部位に好発する。Acne inversa (反転型ざ瘡)とも呼ばれている。集簇性ざ瘡、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎とともに毛包閉塞性疾患の1型と考えられている。従来からの臀部慢性膿皮症は化膿性汗腺炎に含まれる。■ 疫学発症頻度は報告者によってさまざまであるが、欧米では0.1~4%で平均約1%程度と考えられている。わが国では大規模調査が行われていないので、明らかではないが、日本皮膚科学会研修施設を対象とした調査で100例1)、300例2)の報告がある。性差については欧米からの報告では男女比が1:3で女性に多く3)、わが国では男女比が3:1で男性に多い1,2)。好発年齢は20~30歳代に発症し、平均年齢は海外で36.8歳、わが国では40.1歳である1)。発症から正しい診断に至るまでの罹病期間は約7年である1,2)。好発部位は臀部、外陰部、腋窩に多い。男性では肛囲、臀部に多く、女性では腋窩、外陰部に多い1,2)。■ 病因明らかな病因は不明であるが、遺伝、毛包の閉塞、嚢腫形成などの病変に炎症が加わって起こる再発性の慢性の自己免疫性炎症性疾患である。遺伝的因子について、海外では家族性の場合が多く、約30~40%に家族歴があるが3,4)、わが国では2~3%と海外に比べて、非常に低い1,2,4)。家族性HSの場合、γ-セクレターゼの欠損が関連していると考えられている3,4)。TNFα、IL-1β、IFN-γ、IL-12、IL-23、IL-36などのTh1細胞とIL-17を産生するTh17細胞が化膿性汗腺炎の病変部で発現し、これらのサイトカインが重要な役割を演じていることが明らかになってきている3,4)。二次的に細菌感染を合併することもある。悪化因子として喫煙、肥満、耐糖能異常、内分泌因子、感染、機械的刺激などが関連している1,2,3,4)。合併する疾患として、毛包閉塞性疾患である集簇性ざ瘡、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎、毛巣洞がある1,4)。併存疾患として糖尿病、壊疽性膿皮症、自己炎症症候群、クローン病、外痔瘻、有棘細胞がんがある4)。■ 症状多くは単発性の疼痛を伴う深在性の皮下結節で始まる。皮下結節は増大、多発して、血性の排膿がみられる。皮疹は黒色面皰がかなり高率にみられる。排膿後は皮下瘻孔を形成し、慢性に再発、寛解を繰り返す。隣接する瘻孔は皮下で交通し、穿掘性の皮下瘻孔を形成し,瘻孔の開口部より滲出液、血性膿、粥状物質などを排出し、悪臭を伴う(図1)。排膿後は皮下瘻孔を形成し、慢性に再発、寛解を繰り返す。瘻孔が破裂し、真皮に角層などの異物が流出すると肉芽形成が起こり、肥厚性瘢痕、ケロイドを形成する(図1)。重症では蜂巣炎から敗血症を合併することもある。生活のQOLが著しく低下し、疼痛、うつ、性生活、Dermatology Life Quality Index(DLQI)も低下する。図1 化膿性汗腺炎の臨床所見画像を拡大する腋窩に皮下瘻孔、肥厚性瘢痕がみとめられる■ 分類重症度分類として、Hurleyのステージ分類が重症度の病期分類として最も用いられて3期に分類される。第I期 単発、あるいは多発する皮下膿瘍形成。皮下瘻孔、瘢痕はなし。第II期再発性の皮下膿瘍、皮下瘻孔、瘢痕。 単発あるいは多発性の孤立した複数の病巣。第III期広範なびまん性の交通した皮下瘻孔と皮下膿瘍。とされている。その他、修正Sartorius分類が用いられている。Sartoriusらは(1)罹患している解剖学的部位、(2)病巣の数とスコア、(3)2つの顕著な病巣間の最長距離、(4)すべての病巣は正常の皮膚から明確に離れているか否かという4項目について点数化する方法をHSの重症度として提唱している4)。治療の重症度スコアの評価指標として国際的HS重症度スコアリングシステム(IHS4)とHiSCR(Hidradenitis Suppurativa Clinical Response)がある。IHS4(International Hidradenitis Suppurativa Severity Score System)3)は炎症性結節、膿瘍、瘻孔・瘻管の数で評価される。中等度から重症の症例の鑑別、早期発見を可能にする。また、HiSCRと組み合わせて使いやすい。HiSCRは化膿性汗腺炎の薬物治療に対する“反応性”を数値化して指標で治療前後での12部位の炎症性結節、膿瘍、排膿性瘻孔の総数を比較する。HiSCRが達成されていれば、症状の進行が抑えられていると判定する。治療前の炎症性結節、膿瘍の合計が50%以上減少し、さらに膿瘍、排膿性瘻孔がそれぞれ増加していなければ、HiSCR達成となる。PGA(Physician Global Assessment)(医師総合評価)は薬物療法の臨床試験での効果判定に最も広く用いられている。■ 予後化膿性汗腺炎は慢性に経過し、治療に抵抗する疾患である。まれに有棘細胞がんを合併することもある。頻度は0.5~4.6%で男性に多く、臀部、会陰部の発症が多いとされている4)。化膿性汗腺炎の発症から平均25年を要するとされている4)。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)■ 確定診断化膿性汗腺炎の確定診断には以下の3項目を満たす必要がある。1)皮膚深層に生じる有痛性結節、膿瘍、瘻孔、および瘢痕などの典型的皮疹がみとめられる。2)複数の解剖学的部位に1個以上の皮疹がみとめられる。好発部位は腋窩、鼠径、会陰、臀部、乳房下部と乳房間の間擦部である。3)慢性に経過し、再発を繰り返す。再発は半年に2回以上が目安である。病理組織所見病初期は毛包漏斗部の角化異常より角栓形成がみられる。その後、好中球を主体として毛包周囲の炎症性細胞浸潤が起きる。毛包漏斗部の皮下瘻孔は次第に深部に進展し、皮膚面と平行に走り、隣接する皮下瘻孔と交通し、穿掘性の皮下瘻孔を形成する(図2)。炎症細胞浸潤が広範囲に及び、瘻孔壁が破裂すると、角質、細菌などの内容物が真皮に漏出して、異物肉芽腫が形成される。ときに遷延性の皮下瘻孔より有棘細胞がんが生じることがあるので、注意を要する。図2 化膿性汗腺炎の病理組織学的所見画像を拡大する一部、上皮をともなう皮下瘻孔がみとめられる(文献5より引用)。■ 鑑別診断表皮嚢腫:通常、単発で皮下瘻孔を形成しない。せつ:毛包性の膿疱がみられ、周囲の発赤、腫脹をともなう。よう:毛包性の多発性の膿疱がみられ、巨大な発赤をともなう結節を呈する。蜂巣炎、皮下膿瘍:発赤、腫脹、熱感、圧痛、皮下硬結をともなう。毛巣洞: 臀裂部正中に好発し、皮下瘻孔がみられる。皮下血腫:斑状出血をみとめ、穿刺にて凝固塊の排出をみとめる。クローン病による皮膚症状:肛門周囲に皮膚潰瘍をみとめ、皮下瘻孔を形成し、肛門との交通があることがある。■ 問診で聞くべきこと家族歴、喫煙、肥満、糖尿病の有無。■ 必要な検査とその所見採血(赤血球数、白血球数、白血球の分画、CRP、血沈、ASOなど)、尿検査を行う。蜂巣炎の合併の有無に必要である。 皮膚生検  有棘細胞がんの有無の確認に重要である。細菌検査  好気、嫌気培養も行う。蜂巣炎を合併している場合、細菌の感受性を検査して、抗菌剤の投与を行う。超音波エコー病巣の罹患範囲を把握し、手術範囲の確定に有用である。3 治療病初期には外用、内服の薬物療法が試みられる。局所的に再発を繰り返す場合は外科的治療の適応となる。病変部が広範囲に及ぶ場合には薬物療法の単独、あるいは外科的療法との併用が適している。薬物療法としては抗菌剤、レチノイド、生物学的製剤があるが、わが国において生物学的製剤で化膿性汗腺炎に保険適用があるのはアダリムマブだけである4)。■ 具体的な治療法抗菌剤の内服、外用、あるいは外科的治療と併用される。抗菌剤の外用は軽症の場合に有効であることがある。クリンダマイシン、フシジンレオ酸が用いられている4)。抗菌剤の内服は細菌培養で好気性菌と嫌気性菌が検出される場合が多いのでセフェム系、ペネム系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系抗薗剤が用いられる。ステロイド局所注射:一時的な急性期の炎症を抑えるのに有効である。デ・ルーフィング(天蓋除去):皮下瘻孔の屋根を取り除くことも有効である。局所の切開、排膿、生理食塩水による洗浄、タンポンガーゼによるドレナージも一時的に有効な処置である。 生物学的製剤としてアダリムマブが有効である。適応として既存の治療が無効なHurley stageII、IIIが対象となる。外科的治療:外科的治療は特に重症例に強く推奨される治療法である。病巣の範囲を正確に把握し,切除範囲を決めることが 重要である。CO2レーザーによる治癒も軽症~中等症に対して有効である。広範囲切除はHurleyの第III期が適応となる。切除範囲は病変部だけの限局した切除は十分でなく、周囲の皮膚を含めた広範囲な切除が必要である。有棘細胞がんが合併した場合は外科的切除が最優先される。■ その他の補助療法1)対症療法疼痛に対して、消炎鎮痛剤などの投与を行う。重複感染の管理を行う。生活指導:喫煙者は悪化因子である喫煙をやめる。肥満については減量、糖尿病があれば、原疾患の治療を行う。深在性の皮下瘻孔があり、入浴で悪化する場合、入浴を避け、シャワーにする。2)その他、治療の詳細については文献(4)を参照されたい。4 今後の展望今後、治験中の薬剤としてインフリキシマブ、IL-17阻害薬, IL-23阻害薬などがある。5 主たる診療科皮膚科、形成外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)皮膚の遺伝関連性希少 難治性疾患群の網羅的研究班1)Kurokawa I, et al. J Dermatol. 2015;42:747-749. 2)Hayama K, et al. J Dermatol. 2020;47:743-748.3)Zouboulis CC, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2015;29:619-644.4)葉山惟大、ほか. 日皮会誌.2021;131;1-28.5)Plewig G, et al. Plewig and Kligman’s Acne and TRosacea. Springer.2019;pp.473.公開履歴初回2021年2月26日

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GERDを増悪させる薬剤を徹底見直しして負のスパイラルから脱出【うまくいく!処方提案プラクティス】第32回

 今回は、胃食道逆流症(GERD)を悪化させる薬剤を中止することで症状を改善し、ポリファーマシーを解消した事例を紹介します。GERDは胸焼けや嚥下障害などの原因となるほか、嚥下性肺炎、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、慢性咳嗽などの呼吸器疾患を発症・増悪させることもあるため、症状や発症時期を聴取して薬剤を整理することが重要です。患者情報70歳、女性(外来患者)基礎疾患発作性心房細動、慢性心不全、高血圧症、逆流性食道炎診察間隔循環器内科クリニックで月1回処方内容<循環器内科クリニック(かかりつけ医)>1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.ビソプロロール錠2.5mg 1錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.ニフェジピン徐放錠40mg 1錠 分1 朝食後(1ヵ月前から増量)5.エソメプラゾールマグネシウム水和物カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後<内科クリニック>1.モンテルカスト錠10mg 1錠 分1 就寝前(2週間前に処方)2.テオフィリン徐放錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前(2週間前に処方)本症例のポイントこの患者さんは、なかなか胸焼けが治らないことを訴えて、半年前にGERDの診断を受けました。プロトンポンプ阻害薬による治療によって症状は改善したものの、最近はまた症状がぶり返しているとお悩みでした。患者さんの生活状況を聴取したところ、喫煙や飲酒はしておらず、高脂肪食なども5年前の心房細動の診断を機に気を付けて生活していました。心不全を併発していますが、体重は47.5kg程度の非肥満で増減もなく落ち着いていて、とくにGERD増悪の原因となる生活習慣や体型の問題は見当たりませんでした。さらに確認を進めると、最近の変化として、血圧が高めで推移したため1ヵ月前にニフェジピン徐放錠が20mgから40mgに増量になっていました。また、2週間前に咳症状のため、かかりつけの循環器内科クリニックとは別の内科クリニックを受診し、喘息様発作でモンテルカストとテオフィリンを処方されていました。GERDにおける食道内への胃酸の逆流は、嚥下運動と無関係に起こる一過性の下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)弛緩や腹腔内圧上昇、低LES圧による食道防御機構の破綻などにより発生します1)。また、GERDを増悪させる要因として、Ca拮抗薬やテオフィリン、ニトロ化合物、抗コリン薬などのLES弛緩作用を有する薬剤、NSAIDsやビスホスホネート製剤、テトラサイクリン系抗菌薬、塩化カリウムなどの直接的に食道粘膜を障害する薬剤があります1,2)。Ca拮抗薬は平滑筋に直接作用してCaイオンの流れを抑制することで、LES圧を低下させるとも考えられています3)。上記のことより、1ヵ月前に増量したCa拮抗薬のニフェジピン徐放錠がGERD症状の再燃に影響しているのではないかと考えました。その食道への刺激によって乾性咳嗽が生じて他院を受診することになり、そこで処方されたテオフィリンによってさらにLESが弛緩してGERD症状が増悪するという負のスパイラルに陥っている可能性も考えました。かかりつけ医では他院で処方された薬剤の内容を把握している様子がなかったため、状況を整理して処方提案することにしました。処方提案と経過循環器内科クリニックの医師と面談し、別の内科クリニックから乾性咳嗽を主体とした症状のためモンテルカストとテオフィリンが処方されていることと、患者さんの胸焼けや咳嗽がニフェジピン増量に伴うLES弛緩により出現している可能性を伝えしました。医師より、ニフェジピン増量がきっかけとなってGERD症状から乾性咳嗽に進展した可能性が高いので、ニフェジピンを別の降圧薬に変更しようと回答をいただきました。そこで、ACE阻害薬は空咳の副作用の懸念があったため、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を提案し、医師よりニフェジピンをオルメサルタン40mgに変更する指示が出ました。また、現在は乾性咳嗽がないため、心房細動への悪影響を考慮してテオフィリンを一旦中止し、モンテルカストのみ残すことになりました。変更した内容で服用を続けて2週間後、フォローアップの電話で胸焼け症状は改善していることを聴取しました。その後の診察でモンテルカストも中止となり、患者さんは乾性咳嗽や胸焼け症状はなく生活しています。1)藤原 靖弘ほか. Medicina. 2005;42:104-106.2)日本消化器病学会編. 患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド. 2018.3)江頭かの子ほか. 週刊日本医事新報. 2014;4706:67.

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細菌性皮膚感染症に新規抗菌薬、MRSAにも有効/NEJM

 新規抗菌薬omadacyclineの急性細菌性皮膚・軟部組織感染症への効果は、リネゾリドに対し非劣性で、安全性プロファイルはほぼ同等であることが、米国・eStudySiteのWilliam O’Riordan氏らが行ったOASIS-1試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌2019年2月7日号に掲載された。急性細菌性皮膚・軟部組織感染症は合併症の発症率が高く、高額な医療費を要する。omadacyclineは、抗菌薬耐性株を含め、この種の感染症を高い頻度で引き起こす病原菌に活性を有する。本薬は、1日1回の経口または静脈内投与が可能なアミノメチルサイクリン系抗菌薬で、テトラサイクリン系薬剤由来の抗菌薬だが、テトラサイクリン耐性の機序である薬剤排出およびリボソーム保護を回避するという。早期臨床効果を無作為化非劣性試験で評価 本研究は、米国、ペルー、南アフリカ共和国および欧州諸国の55施設が参加し、2015~16年に実施された二重盲検ダブルダミー無作為化非劣性第III相試験(Paratek Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上の皮膚感染症患者であり、創感染(辺縁部からの最短距離が5cm以上)、蜂巣炎/丹毒、大膿瘍(辺縁部からの最短距離が5cm以上、試験集団の最大30%に制限)が含まれた。 被験者は、omadacycline群(100mgを12時間ごとに2回静脈内投与し、以降は24時間ごとに投与)またはリネゾリド群(600mgを12時間ごとに静脈内投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。3日間静脈内投与を行った後、それぞれomadacycline経口投与(300mgを24時間ごと)およびリネゾリド経口投与(600mgを12時間ごと)への移行を可とした。総投与期間は7~14日であった。 主要エンドポイントは、48~72時間の時点での早期臨床効果(救済抗菌薬治療を受けず、病変が20%以上縮小し、生存していることと定義)であった。副次エンドポイントは、最終投与から7~14日後の投与終了後評価時の担当医評価による臨床効果(徴候または症状がそれ以上の抗菌薬治療が不要な程度にまで消失または改善し、生存していることと定義)とされた。非劣性マージンは、10ポイントであった。MSSA、MRSAでの臨床効果はほぼ同等 645例が登録され、omadacycline群に323例(年齢中央値:48歳[範囲:19~88]、女性:37.2%)、リネゾリド群には322例(46歳[18~90]、33.9%)が割り付けられた。修正intention-to-treat(ITT)集団として、それぞれ316例、311例が解析に含まれた。 早期臨床効果の達成率は、omadacycline群が84.8%、リネゾリド群は85.5%と、omadacyclineのリネゾリドに対する非劣性が示された(差:-0.7ポイント、95%信頼区間[CI]:-6.3~4.9)。また、投与終了後評価で担当医が臨床効果ありと評価した患者の割合は、修正ITT集団ではそれぞれ86.1%、83.6%(差:2.5ポイント、-3.2~8.2)、臨床per-protocol集団では96.3%、93.5%(2.8ポイント、-1.0~6.9)であり、いずれにおいてもomadacyclineの非劣性が確認された。 また、病原菌別の投与終了後評価では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA、omadacycline群84% vs.リネゾリド群82%)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA、83% vs.86%)に対する臨床効果は、両群でほぼ同等であった。 有害事象は、omadacycline群が48.3%、リネゾリド群は45.7%と報告された。治療関連有害事象はそれぞれ18.0%、18.3%に、重篤な有害事象は3.7%、2.5%に認められた。 消化器系有害事象の頻度が最も高く(それぞれ18.0%、15.8%)、なかでも吐き気(12.4%、9.9%)および嘔吐(5.3%、5.0%)の頻度が高かった。omadacycline群の1例(オピエート過量摂取)およびリネゾリド群の2例(心停止、心不全)が死亡した。 著者は、「早期臨床効果を達成した患者のうちomadacycline群の93.7%およびリネゾリド群の90.2%が、投与終了後評価で臨床効果ありと評価された。これは他試験の結果と一致しており、経口薬治療への移行と早期退院の潜在的な臨床ツールとして、リアルワールド設定で早期臨床効果を検討する好機の到来を示唆するものであった」としている。

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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ミノサイクリンは多発性硬化症進展リスクを抑制するか/NEJM

 初回の局所性脱髄イベント(clinically isolated syndrome:CIS)の発症後は、多発性硬化症への進展リスクが増大する。カナダ・カルガリー大学/フットヒルズ医療センターのLuanne M. Metz氏らは、CIS発症時にミノサイクリン投与を開始すると、6ヵ月時にはこの進展リスクが抑制されたが、24ヵ月時には効果は消失したとの研究結果を、NEJM誌2017年6月1日号で報告した。テトラサイクリン系抗菌薬ミノサイクリンは免疫調節特性を持ち、予備的なデータでは多発性硬化症への活性が示され、2つの小規模な臨床試験で有望な成果が提示されている。副作用として発疹、頭痛、めまい、光線過敏症がみられるものの、安全性プロファイルは良好とされ、まれだが重篤な合併症として偽脳腫瘍や過敏症症候群があり、長期の使用により色素沈着が生じる可能性があるという。カナダの142例が対象のプラセボ対照無作為化試験 研究グループは、脱髄イベントから多発性硬化症への進展リスクに及ぼすミノサイクリンの効果を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した(カナダ多発性硬化症協会の助成による)。 初回CISの発現から180日以内の患者が、ミノサイクリン(100mg、1日2回)を経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。治療は、多発性硬化症の診断が確定するか、無作為割り付けから24ヵ月のいずれかまで継続した。 主要評価項目は、無作為割り付けから6ヵ月以内の多発性硬化症(2005年版McDonald診断基準で診断)への進展とした。副次評価項目は、無作為割り付けから24ヵ月以内の多発性硬化症への進展、そして6ヵ月および24ヵ月時のMRI上の変化(T2強調MRI上の病巣の体積、T1強調MRI上の新たに増強された病巣[増強病巣]の累積数、個々の病巣の累積合計数[T1強調MRI上の新規増強病巣、およびT2強調MRI上の新規病巣と新たに増大した病巣])などであった。 2009年1月~2013年7月に、カナダの12の多発性硬化症クリニックで142例が登録され、ミノサイクリン群に72例、プラセボ群には70例が割り付けられた。さらなる試験で検証を ベースライン(CIS発症時)の全体の平均年齢は35.8(SD 9.2)歳、68.3%が女性であった。脊髄病巣(ミノサイクリン群:34.7%、プラセボ群:51.4%、p=0.04)およびMRI上の増強病巣数≧2(9.7 vs.25.7%、p=0.04)がミノサイクリン群で少なかったが、これ以外の因子は両群に差はなかった。 6ヵ月以内にミノサイクリン群の23例、プラセボ群の41例が多発性硬化症を発症した。6ヵ月以内の多発性硬化症への進展の未補正リスクは、ミノサイクリン群が33.4%と、プラセボ群の61.0%に比べ有意に低かった(群間差:27.6%、95%信頼区間[CI]:11.4~43.9、p=0.001)。ベースラインの増強病巣数で補正すると、進展リスクの差は18.5%(95%CI:3.7~33.3)と小さくなったが、有意な差は保持されていた(p=0.01)。 副次評価項目である24ヵ月時の進展の未補正リスクには、有意差は認めなかった(ミノサイクリン群:55.3% vs.プラセボ群:72.0%、群間差:16.7%、95%CI:-0.6~34.0、p=0.06)。 6ヵ月時のMRI関連の副次評価項目は3項目とも、未補正ではミノサイクリン群がプラセボ群よりも有意に良好であり、補正後も有意差は保持された。これに対し、24ヵ月時は、未補正ではミノサイクリン群がいずれも有意に良好であったが、補正後は有意な差はなくなった。 有害事象の頻度は、ミノサイクリン群がプラセボ群に比べて高かった(86.1 vs.61.4%、p=0.001)。とくに発疹(15.3 vs.2.9%、p=0.01)、歯の変色(8.3 vs.0%、p=0.01)、めまい(13.9 vs.1.4%、p=0.005)には有意な差がみられた。4例(両群2例ずつ)に臨床検査で検出された一過性のGrade 3/4の有害事象が、4例(ミノサイクリン群:1例、プラセボ群:3例)に5件の重篤な有害事象が認められた。 著者は、「これらの結果は、事前に規定された6ヵ月時の未補正リスクの25%の絶対差を満たし、補正すると差は縮小したものの有意差は保持されており、MRI関連の転帰も良好であったが、この差は24ヵ月時までは持続しなかった」とまとめ、「さらなる試験による検証が求められる」と指摘している。

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リケッチア症に気を付けろッ!その3【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第25回となる今回は、「リケッチア症に気を付けろッ! その3」です。前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、おそらく誰も気付いていないと思いますので、何食わぬ顔で続けたいと思います。今回は、ツツガムシ病と日本紅斑熱の診断と治療についてですッ!鑑別診断あれこれツツガムシ病と日本紅斑熱は、流行地域が一部重複しており、また臨床像も似ています。痂皮の大きさ、リンパ節腫脹の有無、皮疹の分布など細かい差異があることについては前回(第24回)ご説明しました。さて、それではリケッチア症以外に鑑別診断として考えるべき疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。よく流行地域で問題になっているのは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)との鑑別ですね。SFTSは第1、2回でご紹介したとおり、西日本で発生がみられるマダニ媒介性感染症です。発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの臨床像がリケッチア症と共通しており、またまれにSFTSでも皮疹がみられることもあるようです。流行地域は異なりますが、同様の臨床像を呈する疾患として、これまた第3、4回でご紹介したBorrelia miyamotoi感染症も挙げられます。これまでのところ報告は北海道に限られていますが、北海道以外の都道府県でもmiyamotoiを保有するマダニは分布しているといわれています。さらにさらに、第22回でご紹介したヒト顆粒球アナプラズマ症も臨床像は酷似しています。これらのマダニ媒介感染症は、リケッチア症における重要な鑑別診断すべき疾患といえるでしょう。しかし、これらのマニアックな鑑別診断だけではありません。それ以外にも発熱+皮疹があり、気道症状があれば麻疹、風疹、水痘、パルボウイルスB19感染症、髄膜炎菌感染症などを考えなければなりませんし、海外渡航歴があればデング熱、チクングニア熱、ジカ熱などを考えなければなりません。これらに加えて、いわゆる「フォーカスがはっきりしない発熱」を呈する患者さんを診た場合には、表のような感染症を考えるようにしましょう。画像を拡大するどうするリケッチア症の確定診断さて、ツツガムシ病と日本紅斑熱の診断はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査または抗体価検査で診断します。コマーシャルベースでの検査としては、ツツガムシ病の血清抗体検査があります。国内のリケッチア症検査において、ツツガムシ病の血清型Orientia tsutsugamushi Kato、Karp、Gilliamの3種の抗原のみが血清診断の体外診断薬として承認、保険適用となっています。急性期血清でIgM抗体が有意に上昇しているとき、あるいは、ペア血清で抗体価が4倍以上上昇したときが陽性となりますが、注意点としては1回の抗体検査では診断がつかないことが多いため、1回目が陰性であったとしても2〜4週後にペア血清を提出すべしッ! です。また、もはや遠い過去になりましたが「リケッチア症に気を付けろッ! その1」でお話したとおりタテツツガムシによる血清型Kawasaki/Kurokiに関しては交差反応による上昇で診断するしかなく、Kato、Karp、Gilliamの3種が上昇していないからといってツツガムシ病を否定することができないのが悩ましいところです。すなわちッ! これらの抗体検査が陰性であっても強くツツガムシ病を疑う場合や日本紅斑熱を疑った際には、保健所を介して行ういわゆる「行政検査」になりますッ! 最寄りの保健所に連絡して、検査を依頼しましょう。地方衛生研究所では、抗体検査以外にもPCRが可能なことがあります。PCRを行うための検体は一般的には全血を用いますが、痂皮のPCRも有用であるという報告があります。地方衛生研究所によっては、痂皮のPCRを施行してくれるかもしれませんので確認しましょう。リケッチア症の治療このように、ツツガムシ病や日本紅斑熱は、ただちに診断がつくものではありません。だからといって診断がつくまで治療をせずにいると、重症化することも多々ありますので、これらのリケッチア症を疑った際には、エンピリック治療を開始すべきでしょう。「治療開始の遅れが、重症化のリスクファクターとなっていた」という報告もありますので、リケッチア感染症を疑い次第、ミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)点滴もしくはドキシサイクリン(同:ビブラマイシン)内服での治療を開始しましょう。点滴であればミノサイクリン100mgを12時間ごと、内服であればドキシサイクリン100mgを1日2回になります。通常であれば72時間以内に解熱がみられることが多いとされています。妊娠や年齢などの問題でテトラサイクリン系が使用できない場合、ツツガムシ病ではアジスロマイシン(同:ジスロマック)が、日本紅斑熱ではニューキノロン系薬が第2選択薬になります。リケッチア症の種類によって第2選択薬が異なりますので、お間違えのないようにご注意ください。というわけで、3回にわたって国内の代表的なリケッチア症であるツツガムシ病と日本紅斑熱についてご紹介してきました。次回は、日本国内でみつかっているまれなリケッチア症についてご紹介したいと思いますッ! まだまだ日本には、あまり知られていないリケッチア症が存在するのですッ!!1)Lee N, et al. Am J Trop Med Hyg. 2008;78:973-978.2)Kim DM, et al. Clin Infect Dis. 2006;43:1296-1300.

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ヒト顆粒球アナプラズマ症に気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第22回となる今回は「ヒト顆粒球アナプラズマ症」です。もう一度言いますが、ヒト顆粒球アナプラズマ症です。読者の皆さまは「オイオイ、そんな訳のわからん病気、気を付ける必要ねえだろ!」とお思いかもしれませんが、決して私の頭がおかしくなったわけではなく、本当にヒト顆粒球アナプラズマ症に、われわれ日本人は気を付けないといけないのですッ!!名前から疾患をひもとくそもそも名前の意味がわからないですよね。「何だよヒト顆粒球アナプラズマ症って」って思いますよね。僕もそう思います。「こういう時は1つずつかみ砕いて考えればいいっ」てお母さんに教わりましたので、かみ砕いていってもよろしいでしょうか。とくに反対意見がないようなのでかみ砕いていこうと思います。まず、「ヒト」からいきましょう。ヒトって何かわかりますか? いわゆる1つのヒューマンですね。これは説明しなくてもわかるか。すいません。では次、「顆粒球」とは何でしょう。これは好中球、好酸球、好塩基球の総称であります。最後にアナプラズマ症ですが、これはリケッチアの一種であるアナプラズマによる感染症でありまして、マダニにより媒介されます。ウシとかシカの赤血球に感染する動物の病気なんですね。ということで、これをつなげて考えると、ヒトの顆粒球に感染するアナプラズマによる感染症ということになりますッ! さらに通は“Human Granulocytic Anaplasmosis”、略して“HGA”と呼んでいます。爆笑問題の薄毛のCMみたいですね。HGAの特徴と日本での広がりさて、HGAは顆粒球に特異的に感染する偏性寄生性のグラム陰性桿菌であるAnaplasma phagocytophilumによる感染症です。このA. phagocytophilumもウマやヒツジに感染しアナプラズマ症を起こすので、人畜共通感染症と考えられています。HGAが最初に見つかったのは、わりと最近で1991年のことです。アメリカで発熱性疾患患者の好中球の中にエーリキア様細菌の感染が認められ、1996年にはその病原体が分離報告されました。こうして今まで知られていなかった疾患が認知されるようになり、今ではアメリカで年間1,800例以上のHGAが報告されています。とくに、ロードアイランド州、ミネソタ州、コネチカット州などで多く発生しています。「いやー、アメリカっていろんな感染症があるんだなあ、日本は平和で何よりだ…」と思ったあなたッ! 安心してはいられませんッ! 日本でもHGAに感染するかもしれないのですッ! 2006年の時点で、すでに日本の静岡県、山梨県のマダニがA. phagocytophilumを保有することが疫学調査によって明らかになっていました。近年の調査ではさらに三重県、和歌山県、鹿児島県、長崎県のマダニもA. phagocytophilumを保有していることが判明しています。ということは…日本でもHGAに感染する可能性があるということですッ!!(ドヤッ)とか言ってたら、最近、実際に日本でHGAが報告されました。最初の2例は高知県での診断例です。どちらも山の中でマダニに咬まれている事例であり、テトラサイクリン系抗菌薬を投与され治癒しています。1例は日本紅斑熱との共感染でした。今では高知県以外でも数例の症例が報告されています。日本でもHGAに感染する可能性があるのですッ!HGAの診療それではHGAは、どのような臨床症状を呈するのでしょうか。ぶっちゃけ「煮え切らない症状」です、HGA。発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛って感じの、特定の臓器の症状がなく、非特異的発熱を呈するのが典型的であります。臨床症状だけだと日本紅斑熱によく似ていますが、日本紅斑熱で頻度の高い皮疹はHGAではまれだと言われています。血液検査では白血球減少や血小板減少がみられることがあり、この辺も日本紅斑熱に似ています。診断は、抗体検査またはPCR法によります。保健所を介した行政検査ではできないんですが、国内の特定の研究施設で検査することができます。そこにいきなり検査が集中するとご迷惑をおかけするかもしれないので、もしHGAを疑う患者さんがいらっしゃいましたら、まずは忽那までご連絡くださいッ!※HGAの検査を希望される場合は、skutsuna@hosp.ncgm.go.jp まで!治療は、テトラサイクリン系抗菌薬が有効と考えられています。ドキシサイクリン 100mg 1日2回を10日間というのが、今のところよく行われている治療です。ここまでのところでお気付きかと思いますが、日本紅斑熱といろいろと似ているところが多い疾患です。マダニに咬まれて1週間くらいで発症するところも、皮疹以外の臨床症状も、血液検査所見も、テトラサイクリンが効くところも、クリソツですッ! ということは、マダニ刺咬後に発熱を呈し、日本紅斑熱が疑われた事例で、とくに皮疹がない症例ではHGAを疑うべしッ!ということになります。もしかしたら、われわれはすでにHGA症例を見逃しているのかもしれません…。そして日本には、まだまだわれわれの知らない病原体が潜んでいるのかもしれません…。「いや~、新興再興感染症って本当に奥が深いですねえ」(水野晴郎っぽい締め)。1)大橋典男. IASR.2006;27:44-45.2)Gaowa, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:338-340.3)Ohashi N, et al. Emerg Infect Dis.2013;19:289-292.

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Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q35

Q35 急性前立腺炎を疑って治療を開始する際に、前立腺炎への移行性を考慮してフルオロキノロンで治療を開始するべきですか? 「急性」前立腺炎であれば、基本的に移行性について考慮する必要はありません。大腸菌のフルオロキノロン耐性割合の多さを考えると、初期治療としてフルオロキノロン単剤治療は勧められるものではありません。 「臓器移行性」という言葉は一人歩きしやすいキーワードです。抗菌薬選択の際に考慮するべき要素ではありますが、それだけで決まるものではありません。前立腺は炎症がない状態では組織内へ移行する抗菌薬が限られていますが、急性炎症の存在下ではほとんどの抗菌薬が移行します1)。ですので、「急性」前立腺炎の初期治療を考えるうえでは臓器移行性はことさら考慮する必要はなく、地域や施設での耐性菌状況に応じて選択するべきだと思います。2014年のJANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)のデータでは、レボフロキサシンに耐性を示す大腸菌の割合は36.1%でした2)。「移行性」だけで抗菌薬を選択すると失敗しかねません。初期治療としてはセフトリアキソンやセフタジジムといった第3世代のセファロスポリン(後者は院内発症で緑膿菌を考慮する場合)を選択することが多いです。敗血症性ショックでESBL産生菌まで外せない場合は初期治療としてカルバペネムを使用するのも妥当だと思います(感受性検査判明後にde-escalationします)。これに対して「慢性」前立腺炎は組織の炎症が乏しいため、組織内に移行する抗菌薬は限られます。耐性がなければフルオロキノロンが良い選択薬になります。フルオロキノロンに耐性がある場合は、ST合剤やテトラサイクリン系抗菌薬が移行性の観点からは使用可能です1)。 1)Lipsky BA, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:1641-1652.2)公開情報 2014年1月~12月年報 院内感染対策サーベイランス検査部門.厚生労働省 院内感染対策サーベイランス事業.(参照 2016.6.20)

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教育講演「分子標的薬の現状と展望―副作用対策を含めて―」

座長 清原 祥夫氏 (静岡がんセンター 皮膚科)中川 秀己氏(東京慈恵会医科大学 皮膚科学講座)ビスフォスフォネートの抗腫瘍効果についてはいまだ賛否両論がある。現在までにいくつかの臨床試験の結果が報告されており、システマティックレビューとメタ分析が行われた。ここでは、主にチロシンキナーゼ阻害薬による皮膚症状の特徴と対処法、抗体医薬使用時の注意すべき副作用について前編、後編に分けてレポートする。皮膚科医とチロシンキナーゼ阻害薬・抗体医薬の関わりとは?本教育講演では、まず、自治医科大学皮膚科学教室 大槻マミ太郎氏が分子標的薬の概要について講演を行った。初めに、大槻氏は、今後、シェアを確実に伸ばしていく薬剤として低分子のチロシンキナーゼ阻害薬や高分子の抗体医薬などを挙げ、これらの薬剤がターゲットを絞り込む分子特異的治療の両輪となっていると述べた。キナーゼ阻害薬は主に抗がん剤として用いられており、皮膚科領域でも、悪性黒色腫などに対する開発に期待が高まっている一方、現時点では、その副作用として高頻度に発現する皮膚症状とその対処法に注目が集まっている。また、抗体医薬は免疫疾患のQOL改善に貢献度が高く、皮膚科では乾癬治療薬としてTNFαやIL-12、IL-23を標的とした生物学的製剤に期待が寄せられているが、ほかの適応疾患における使用により、乾癬型の薬疹の発現が報告されており、その対処も議論されている。このことを踏まえ、乾癬の治療に関しては、新しい分子標的薬は標的がピンポイントであるため、副作用も絞り込まれると期待されているが、特定の経路のみ抑制すると別の経路が活性化される可能性があり、未知なる「逆説的副作用」が生じる可能性がある。一方で、シクロスポリンなど作用点は多岐にわたるがさまざまな経路を幅広く抑制しうる薬剤は、副作用も経験的に熟知されており、古典的であるがゆえに、使い勝手の良い薬剤ともいえる、と大槻氏は述べた。EGFR阻害薬の皮膚症状と対処法:主にざ瘡様発疹について滋賀医科大学皮膚科学講座 藤本徳毅氏はEGFR(上皮増殖因子受容体)阻害薬による皮膚症状と対処法について、考察を述べた。EGFR阻害薬には、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やエルロチニブ(同:タルセバ)などのチロシンキナーゼ阻害薬と、セツキシマブ(同:アービタックス)やパニツムマブ(同:ベクティビックス)などのモノクローナル抗体があり、非小細胞肺がんや大腸がん、膵がんなどに使用されている。これらの薬剤は、EGFRシグナルを阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制し、原疾患への効果を発揮する。一方でEGFRは正常皮膚の表皮基底細胞や外毛根鞘細胞などにも発現することがわかっており、EGFR阻害により、活性化EGFRが減少し、ケラチノサイトの角化異常、角質の菲薄化、角栓の形成が亢進することで高頻度で皮膚障害が生じると言われている。EGFR阻害薬の皮膚症状としては、主にざ瘡様発疹や乾皮症、爪囲炎などが多く、稀なものとしては脱毛性病変などが挙げられる。これら皮膚症状は、重症度が高いほど、原疾患に対するEGFR阻害薬の有効性が高い、つまり生存期間が長いことが示されており、治療効果をはかる指標となる可能性も示唆されている。ざ瘡様発疹の対処法とは?続いて、それぞれの皮膚障害の特徴や対処法について言及した。ざ瘡様発疹はEGFR阻害薬投与後、数日で発現し、4~6週でピークを迎え、6~8週で軽快するケースが多い。また、顔面や体幹に好発し、掻痒や疼痛を伴うが面疱は認められず、大半が無菌性であると言われている。藤本氏は、ざ瘡様発疹は高頻度に発現することがわかっているが、チロシンキナーゼ阻害薬よりもモノクローナル抗体のほうが重症な皮疹が出る印象がある、とつけ加えた。重症度については、日本臨床腫瘍研究グループによって公表されている「有害事象共通用語規準ver4.0 日本語訳JCOG版」(CTCAE v4.0 - JCOG)を用いるのが一般的である。ここでは、体表面積と社会的要素を中心に5段階のGradeに分類されている。ほかにも、各製品の適正使用ガイド等に、掻痒、疼痛の有無によるGradeの目安や発疹出現時の用量調節の基準などが掲載されており、参考にできるとした。対処法については、基本的に、皮膚症状による薬剤の休薬や減量は避けたいとしながら、確立していないものの経験的に実施されているいくつかの治療法について紹介した。ざ瘡様発疹の場合、炎症性ざ瘡の治療に準じて、外用抗菌薬が用いられる。また、局所療法の1つとして、ステロイド外用薬が使用されており、藤本氏は、顔面については、Grade2の場合はstrong class、Grade3でvery strong classを使用すると述べた。しかし、これまでの国内外の文献を見てみると、その評価は一定していないことにも触れ、ステロイド外用薬は即効性はあるが、上手に使いこなすことが重要であると強調した。さらに、Grade2以上または細菌感染合併例には、テトラサイクリン系抗菌薬内服(とくにミノサイクリン)が有効であることも述べた。ミノサイクリンに関しては、海外から、「6週間程度の服用を推奨する」、「皮膚症状の予防効果がある」などの報告がある一方で、「そのエビデンスレベルは不明」とする報告もあるとした。ほかにも、免疫抑制剤の外用薬を使用し、有効性が認められた報告やアダパレンゲルについても言及したが、いずれも一定の評価は得られていないとした。その他の副作用への対処法は?乾皮症は4~35%程度の発現頻度であり、EGFR阻害薬投与後、1~2ヵ月で症状が発現することが多い。治療としては、まずはヘパリン類似物質やワセリン、尿素製剤外用などによって保湿を行い、効果が得られない場合は、ステロイド外用薬を併用する。この症状に関しては、保湿による予防が重要である、と述べた。また、爪囲炎は6~12%程度の発現頻度であり、薬剤投与後2~4ヵ月くらいから見られる症状である。基本的には、浸出液が見られる場合、洗浄、クーリング、テーピング、保湿剤等による処置を行うが、発赤や腫脹が見られる場合には、初期から、very strong~strong classのステロイド外用薬を積極的に用いることが重要である。そのほか、細菌感染合併例には短期間のミノサイクリン内服、さらに外科的処置として部分抜爪や人口爪も考慮されるとした。毛髪異常に関しては、薬剤投与開始後2、3ヵ月で見られることが多いが、頻度は不明であり、中にはまつ毛や眉毛が伸びる症例も見られる。基本的には、EGFR阻害薬を中止しないことには改善しないが、患者さんからの訴えも多くはないため、中止・休薬するケースは少ないと述べた。このようなEGFR阻害薬による皮膚症状では、予防が重要であると言われている。スキンケアの指導は、清潔、保湿、刺激からの保護を基本とし、たとえば、「保湿剤はこすらずに、手のひらでおさえて塗る(スタンプ式塗布)」「外出時は日焼け止めを使用する」「爪は長く伸ばしてまっすぐ切る」などこまめな指導が必要となってくる。藤本氏は、これらスキンケアの方法を患者にわかりやすく説明し、薬剤の写真が入った説明書を配布するなどして、皮膚症状が出ても患者があわてずにすむように指導を行うことも重要である強調し、講演を締めくくった。

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