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2022年のプラクティスチェンジ【Oncology主要トピックス2022 泌尿器がん編】【Oncologyインタビュー】第42回

2022年に発表、論文化された泌尿器がんの重要トピックを国立がん研究センター東病院 腫瘍内科 近藤千紘氏が一挙に解説。今年の泌尿器がんにおけるプラクティスチェンジの要点がわかる。2022年のプラクティスチェンジ進行腎がんにおける標準治療は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法およびICIと血管新生阻害チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の併用療法が主流になっている。2022年2月に、4種類目のICI+TKI療法である、ペムブロリズマブ+レンバチニブが適応承認となり、日常診療で用いられるようになった。この試験結果で、これまでの標準治療であったスニチニブと比較を行ったICI+TKI療法はすべて主要評価項目を達成したことになり、プラクティスチェンジとなったと結論付けられる。【CLEAR試験:307/KEYNOTE-581試験】また、腎がん領域では初となる術後薬物療法のペムブロリズマブが8月24日に保険適応を取得した。腎がんの術後薬物療法の開発は、TKIやmTOR阻害薬でこれまで評価されてきた。これらの薬剤は長期投与に伴う有害事象が問題となり、減量、中止をやむなくされることもあり、主要評価項目の無再発生存割合 (DFS)の延長は達成できても全生存割合 (OS)の改善までは示されず、各国で適応を取得するまでには至らなかった。ペムブロリズマブは、ICIで術後薬物療法の意義を検証した初の第III相試験であったが、DFSの延長という主要評価項目の達成のみで、保険適応を取得した。TKI単独療法と異なり、有害事象が比較的軽度であったことや、対象となる患者選択に成功した試験の結果を反映していると考えられる。【KEYNOTE-564試験】尿路上皮がんにおいて、ICIによる術後薬物療法として初となるニボルマブの保険適応が3月28日に承認された。尿路上皮がんのICIは、進行再発の2次治療としてペムブロリズマブが、1次治療のプラチナ併用化学療法後の維持療法としてアベルマブがすでに標準治療となっており、今回の保険承認は、さらに前の段階である術後における再発抑制効果を示したという薬物療法の歴史的な進歩の結果といえる。【CheckMate 274試験】非筋層浸潤性膀胱がんの術前化学療法では、長らくMVAC療法が無治療に比べてOSを改善する治療のエビデンスがあるとされてきた。しかしながら、毒性の強さには問題があることから、進行再発症例にて用いられるゲムシタビン+シスプラチン (GC)療法を用いることもガイドライン上では勧められてきた。進行再発症例におけるエビデンスとして、dose-dense MVAC療法は、MVAC療法に比べて安全性が高まり、病理学的奏効(pCR)割合が増加する治療法として注目され、術前化学療法での役割を期待された。2022年3月にJournal of Clinical Oncologyに出版された、筋層非浸潤性膀胱がんにおける術前療法としてのdose-dense MVAC(dd-MVAC)療法とGC療法のランダム化比較第III相試験の結果は、術前化学療法を考えさせられる重要なエビデンスであった。【VESPER試験:GETUG/AFU V05試験】【CLEAR試験; 307/KEYNOTE-581試験】1)2)CLEAR試験は、進行淡明細胞腎細胞がん患者を対象にレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法(Len+Pem)および、レンバチニブ+エベロリムス併用療法(Len+Eve)をスニチニブ単剤(Sun)と比較するランダム化比較第III相試験であり、1069例の対象症例が各群に1:1:1でランダム化割付された。主要評価項目は独立中央画像判定による無増悪生存期間(PFS)であり、2つの試験治療群のSunに対するハザード比(HR)は0.714と設定されていた。Len+Pemには90%の検出力および両側α=0.045を、Len+Eveには70%の検出力および両側α=0.0049で統計設定された。3群に割り付けられた患者背景に偏りはなく、Len+Pem群のIMDC予後因子分類ではFavorable/Intermediate/Poor riskに27.0/63.9/9.0%が含まれていた。PFS中央値は、Len+Pem群は23.9ヵ月、Len+Eve群は14.7ヵ月、Sun群は9.2ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.39(95%信頼区間[CI]:0.32~0.49、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは0.65(95%CI:0.53~0.80、p<0.001)であり、いずれも優越性が示された。Key Secondary endpointのOSにもαが配分されており、中間解析時点においてLen+Pem群でα=0.0227、Len+Eve群でα=0.0320が優越性の基準とされていた。観察期間中央値26.6ヵ月の時点のOS中央値は、Len+Pem群 到達せず、Len+Eve群 到達せず、Sun群 30.7ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.66 (95%CI:0.49~0.88、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは1.15(95% CI:0.88~1.50、p<0.30)であり、Len+Pem群のみ優越性が示された。客観的奏効割合(ORR)は、Len+Pem群で71.0%、Sun群で36.1%であり、奏効期間中央値はそれぞれ25.8ヵ月および14.6ヵ月であった。安全性において、Grade3以上の重篤な有害事象がLen+Pem群は82.4%、Sun群は71.8%であったが、プレドニゾロン換算で40mg以上のステロイド使用は15%と比較的少ない印象の結果となっている。【KEYNOTE-564試験】3)4)この試験は、腎がん術後で再発ハイリスクの定義にあてはまる症例を、ペムブロリズマブあるいはプラセボで1年間治療を行い、主要評価項目はDFS、HR:0.67を片側α=0.025、検出力95%で検証する統計設定であった。また1回目の中間解析において、α=0.0114を消費することとしていた。報告は、1回目の中間解析、観察期間中央値24.1ヵ月時点のものである。994人の患者が2群にランダムに割り付けられた。再発ハイリスクの定義は、T2で核異型度4あるいは肉腫様分化あり、T3以上、N1、転移巣切除後(M1 NED)であったが、実際のペムブロリズマブ群の患者背景はintermediate-to-highリスクのT2-3N0M0が86.1%、high riskのT4あるいはN1が8.1%、M1 NEDが5.8%であり、プラセボ群もほぼ同等の割合であった。DFSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:0.68(95%CI:0.53~0.87、p=0.002)であり、ペムブロリズマブはプラセボと比較し再発のリスクを32%減少した。OSの結果はイベント数が少なく比較は困難であった。安全性に関し、重篤な有害事象はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%とペムブロリズマブ群で多く認めたが、死亡はそれぞれ0.4%と0.2%と大きな差はなかった。なお、観察期間中央値30.1ヵ月時点のアップデートの結果が報告されたが、intermediate-to-highリスクのHRは0.68(95%CI:0.52~0.89)、highリスクのHRは0.60(95%CI:0.33~1.10)、M1 NEDのHRは0.28(95%CI:0.12~0.66)であり、いずれのリスクでも効果は十分ありそうだが、とくにM1 NEDにおいては治療の意義が大きいことが示唆される結果であった。【CheckMate 274試験】5)この試験は、筋層浸潤性尿路上皮がんの術後薬物療法として、ニボルマブとプラセボを比較したランダム化第III相試験であり、主要評価項目をDFSとし全体集団とPD-L1陽性(腫瘍のPD-L1発現;TPSで1%以上と定義)集団の両者に設定した。全体集団において、87%の検出力で両側α=0.025としHR:0.72、PD-L1陽性集団において、80%の検出力で両側α=0.025としHR:0.61を検証する統計設定となっていた。1回目の中間解析で全体集団ではα=0.01784、PD-L1陽性集団ではα=0.01282を消費することがあらかじめ決められていた。1回目の中間解析において、709例の患者がランダムに2群に割り付けられ、PD-L1陽性は282例であった。観察期間中央値は20.9ヵ月の時点であったが、全体集団のDFS中央値はニボルマブ群で20.8ヵ月、プラセボ群で10.8ヵ月であり、HR:0.70(95%CI:0.55~0.90)、p<0.001であった。またPD-L1陽性集団においては、HR:0.55(98.72%CI:0.35~0.85)、p<0.001と良好な結果を示した。なおOSの結果は現時点で報告はない。安全性においては、重篤な有害事象はニボルマブ群で42.7%、プラセボ群で36.8%であったが、新たなシグナルは認められなかった。本試験は、術後のニボルマブを検証した試験であったが、これまでの術後治療の試験にはない広い対象症例を含んでいた。シスプラチンに適格となる筋層浸潤膀胱がんでは術前化学療法(NAC)を行うことが標準であるため、このような集団では術後にypT2以上の残存病変がある場合に本試験に適格となった。一方シスプラチンに不適格となる筋層浸潤膀胱がんでは、NACのエビデンスはないため手術をまず行い、術後にカルボプラチンを含む化学療法を行うことを検討する。また上部尿路がんは術前の組織診断や病期診断が困難であるため、まず手術を選択することが多い。これらの手術先行症例においては、pT3以上であった場合にこの試験の対象となった。日常診療において、ニボルマブを必要な患者に届けるためには、術前からの治療計画を医療者だけでなく患者にも共有し、適切に治療を進めることが大切と思われる。【VESPER試験; GETUG/AFU V05試験】6)7)フランスで行われた周術期化学療法のランダム化比較第III相試験である。転移のない筋層浸潤性膀胱がんの患者をDose-dense MVAC療法(メトトレキサート30mg/m2 day1、ビンブラスチン3mg/m2 day2、ドキソルビシン30mg/m2 day2、シスプラチン70mg/m2 day2、G-CSF day3~9、2週ごと)6サイクルと、GC療法(ゲムシタビン1250mg/m2 day1、8、シスプラチン70mg/m2 day1、3週ごと)4サイクルの2群にランダムに割り付け、術前の症例は化学療法後に膀胱全摘術を行い、術後の症例は膀胱全摘後に化学療法を行った。主要評価項目は3年PFSであった。493例がランダム化され、PFS中央値はddMVAC群で64%、GC群で56%、HRは0.77(95%CI:0.57~1.02)、p=0.066であり、ネガティブな結果であった。副次評価項目であるpCR割合は、ddMVAC群で42%、GC群で36%(p=0.20)、OSはimmatureな段階ではあるが、ddMVAC群に良好な傾向(HR:0.74、95%CI:0.47~0.92)を認めていた。安全性では、重篤なものは両群同等であったが、ddMVAC群で多かったのは、貧血と無力症、消化器毒性であった。手術関連の合併症はGC群で20例、ddMVAC群で14例であった。NACかAdjuvantかを層別化因子に設定していたが、患者背景はAdjuvant症例においてリンパ節転移陽性がGC群73%、ddMVAC群60%、NAC症例ではcT4がGC群1.8%、ddMVAC群4.1%などと偏りがみられた。3年PFSにおける予後因子の多変量解析において、術前後の選択と化学療法の違いにinteractionがあったことから、Adjuvant症例とNAC症例は区別して検討することが望ましいと判明した。NAC症例においては、3年PFSはddMVAC群で66%、GC群で56%、HR:0.70(95%CI:0.51~0.96)、p=0.025であった。この結果を受けて米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは、ddMVAC療法をPreferred regimenに指定した。このレジメンを実際に適用する場合には、本試験に登録された患者背景から、63歳前後(最高でも68歳まで)であることも考慮して十分な副作用対策を講じる必要があると考える。参考1)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.2)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.3)Choueiri TK, Tomczak P, Park SH, et al. Adjuvant Pembrolizumab after Nephrectomy in Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 385:683.4)Powles T, Tomczak P, Park SH, et al. Pembrolizumab versus placebo as post-nephrectomy adjuvant therapy for clear cell renal cell carcinoma (KEYNOTE-564): 30-month follow-up analysis of a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol 2022,23:1133.5)Bajorin DF, Witjes JA, Gschwend JE, et al. Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:2102.6)Pfister C, Gravis G, Fléchon A, et al. Dose-Dense Methotrexate, Vinblastine, Doxorubicin, and Cisplatin or Gemcitabine and Cisplatin as Perioperative Chemotherapy for Patients With Nonmetastatic Muscle-Invasive Bladder Cancer: Results of the GETUG-AFU V05 VESPER Trial. J Clin Oncol 2022, 40:2013.7)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Bladder Cancer. Version 2.2022

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がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022、利用者の意見反映

 『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂された。2016年の初版から分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療の知見が増えたことや腎障害にはさまざまな分野の医師が関与することを踏まえ、4学会(日本腎臓学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本腎臓病薬物療法学会)が合同で改訂に携わった。 本書は背景疑問を明確に定義する目的で16の「総説」が新たに記載されている。また、実用性を考慮して全体を「第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価」(治療前)、「第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法」(治療前)、「第3章 がん薬物療法による腎障害への対策」(治療中)、「第4章 がんサバイバーのCKD治療」(治療後)の4章にまとめている。とくに第4章は今回新たに追加されたが、がんサバイバーの長期予後が改善される中で臨床的意義を考慮したものだ。2022版のクリニカルクエスチョン(CQ)※総説はここでは割愛■第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価CQ 1 がん患者の腎機能(GFR)評価に推算式を使用することは推奨されるか?CQ 2 シスプラチンなどの抗がん薬によるAKIの早期診断に新規AKIバイオマーカーによる評価は推奨されるか?CQ 3 がん薬物療法前に水腎症を認めた場合、尿管ステント留置または腎瘻造設を行うことは推奨されるか?■第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法CQ 4 透析患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?CQ 5 腎移植患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?■第3章 がん薬物療法による腎障害への対策CQ 6 成人におけるシスプラチン投与時の腎機能障害を軽減するために推奨される補液方法は何か?CQ 7 蛋白尿を有する、または既往がある患者において血管新生阻害薬の投与は推奨されるか?CQ 8 抗EGFR抗体薬の投与を受けている患者が低Mg血症を発症した場合、Mgの追加補充は推奨されるか?CQ 9 免疫チェックポイント阻害薬による腎障害の治療に使用するステロイド薬の投与を、腎機能の正常化後に中止することは推奨されるか?CQ 10 免疫チェックポイント阻害薬投与に伴う腎障害が回復した後、再投与は治療として推奨されるか?■第4章 がんサバイバーのCKD治療CQ 11 がんサバイバーの腎性貧血に対するエリスロポエチン刺激薬投与は推奨されるか?アンケート結果で見る、認知度・活用度が低かった3つのCQ 本書を発刊するにあたり、日本腎臓学会、日本がんサポーティブケア学会、日本医療薬学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会の5学会は初版(2016年版)の使用に関する実態調査報告を行っている。回答者は1,466人で、学会別で見ると、日本腎臓学会から264人(アンケート実施時の会員数:約1万人)、日本臨床腫瘍学会から166人(同:9,276人)、日本癌治療学会から107人(同:1万6,838人)、日本医療薬学会から829人(同:1万3,750人)、日本がんサポーティブケア学会から25人(同:約1,000人)、そのほかの学会より74人の回答が得られた。 なかでも、認知度が低かった3つを以下に挙げる。これらは腎臓病学領域での認知度はそれぞれ、63.1%、69.7%、62.0%であったのに対し、薬学領域での認知度はそれぞれ52.9%、51.9%、39.5%。腫瘍学領域での認知度はそれぞれ49.5%、56.5%、43.2%と比較的低値に留まった。(1)CQ2:がん患者AKI(急性腎障害)のバイオマーカー(2)CQ14:CDDP(シスプラチン)直後の透析(3)CQ16:抗がん剤TMA(血栓性微小血管症)に対するPE(血漿交換) 認知度・活用度の低いCQが存在する理由の1つとして、「CQの汎用性の高さに比して、実用性に関しては当時十分に普及していなかった」と可能性を挙げおり、たとえば「CQ2は認知度55.2%、活用度59.8%とともに低値である。抗がん薬によるAKI予測は汎用性の高いテーマではあるが、2016年のガイドライン時点では、代表的なバイオマーカーである尿NGAL、尿KIM-1、NephroCheck(R)[尿中TIMP-2とIGFBP7の濃度の積]が保険適用外であった。しかし、尿NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)が2017年2月1日に保険適用となり、バイオマーカーの実用性が認識されてきた。加えて、エビデンスを評価できる論文も増加してきたことから、今回あらためてシステマティックレビューを行い、positive clinical utility index(CUI)が0.782でgood(0.64以上0.81未満)、negative CUIも0.915でexcellent(0.81以上)と高い評価が得られたことを、2022年のガイドラインで記載している」としている。 本ガイドラインに対する要望として最も多かったのは「腎機能低下時の抗がん薬の用量調整に関して具体的に記載してほしい」という意見であったそうで、「本調査結果を今後のガイドライン改訂に活かし、より実用的なガイドラインとして発展させていくことが重要」としている。

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baxdrostat、治療抵抗性高血圧で有望な降圧効果/NEJM

 治療抵抗性高血圧患者の治療において、選択的アルドステロン合成阻害薬baxdrostatは用量依存性に収縮期血圧の低下をもたらし、高用量では拡張期血圧に対する降圧効果の可能性もあることが、米国・CinCor PharmaのMason W. Freeman氏らが実施した「BrigHTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月7日号で報告された。適応的デザインのプラセボ対照用量設定第II相試験 BrigHTN試験は、適応的デザインを用いた二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験であり、2020年7月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングが行われた(米国・CinCor Pharmaの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、利尿薬を含む少なくとも3剤の降圧薬の安定用量での投与を受けており、座位平均血圧が130/80mmHg以上の患者であった。被験者は、3種の用量のbaxdrostat(0.5mg、1mg、2mg)またはプラセボを1日1回、12週間、経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、プラセボ群と比較したbaxdrostat群の各用量における、収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とされた。副作用プロファイルは許容範囲 275例(baxdrostat 0.5mg群69例、同1mg群70例、同2mg群67例、プラセボ群69例)が無作為化の対象となり、248例(90%)が12週の試験を完遂した。各群の平均年齢の幅は61.2~63.8歳、男性の割合の幅は52~61%だった。全例が利尿薬の投与を受けており、91~96%がACE阻害薬またはARB、64~70%がカルシウム拮抗薬の投与を受けていた。 本試験は、事前に規定された中間解析で、独立データ監視委員会により顕著な有効性の基準を満たしたと結論されたため、早期中止となった。 ベースラインから12週までの収縮期血圧の最小二乗平均(LSM)(±SE)変化量は、baxdrostat群では用量依存性に低下し、0.5mg群が-12.1±1.9mmHg、1mg群が-17.5±2.0mmHg、2mg群は-20.3±2.1mmHgであった。 プラセボ群(LSM変化量:-9.4mmHg)と比較して、baxdrostat 1mg群(群間差:-8.1mmHg、95%信頼区間[CI]:-13.5~-2.8、p=0.003)および同2mg群(-11.0mmHg、-16.4~-5.5、p<0.001)では、収縮期血圧における有意な降圧効果が認められた。 一方、baxdrostat 2mg群における拡張期血圧のLSM(±SE)変化量は-14.3±1.31mmHgであり、プラセボ群との差は-5.2mmHg(95%CI:-8.7~-1.6)であった。 試験期間中に死亡例はなかった。重篤な有害事象は10例で18件認められたが、担当医によってbaxdrostatやプラセボ関連と判定されたものはなかった。副腎皮質機能低下症もみられなかった。 また、baxdrostatでとくに注目すべき有害事象は8例で10件発現し、低血圧が1件、低ナトリウム血症が3件、高カリウム血症が6件であった。カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇した患者のうち2例は、投与を中止し、その後再投与したところ、このような上昇は発現しなかった。 著者は、「本試験により、アルドステロンは高血圧における治療抵抗性の原動力の1つであるとのエビデンスが加えられた」としている。

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第140回 long COVIDの偏見がまん延

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後に数週間や数ヵ月も続く不調・COVID-19罹患後症状(俗称:long COVID)の人のほとんどが社会からの偏見にも苛まれていることが英国での調査で浮き彫りになりました1,2)。英国の実に230万人がlong Covidを患っています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率は依然として高いことからその数は減っていません。long COVIDは治療がままならないこともその数の高止まりに加担しています。long COVID治療探しは一筋縄ではいかないようで、たとえば最近発表された試験結果ではプレドニゾロンのCOVID-19後嗅覚障害の改善効果は残念ながら認められませんでした3,4)。long COVIDの人はかなりの偏見に苛まれていると言われていますが、それがどれほどの負担になっているかはこれまで定かではありませんでした。そこで英国サウサンプトン大学等の研究者等は長引く不調でただでさえ生きづらくなっているlong COVIDの人がいわば泣きっ面に蜂の偏見でどれだけ難儀しているかを新たに開発された評価尺度を使って調べました。その試験はlong COVID患者団体(Long Covid Support)のからの意見も取り入れて設計されました。2年前の2020年のオンライン調査に参加した人にその1年後の2021年11月に案内を出し、以下の3種類の偏見に関する13の問いへの5択の回答をお願いしました。実際の偏見(enacted stigma):体調不良のせいで不当に扱われること内なる偏見(internalised stigma):自身の体調不良を恥じたり気にすること偏見の予感(anticipated stigma):体調不良で不利になると予想すること最終的に千人を超える1,166人から回答があり、そのほとんどを占める英国からの966人の情報が解析されました。解析の結果、ほぼ全員の95%が3種類の偏見のいずれか1つかそれ以上を少なくとも時々被っていました。また、8割近い76%の状況は深刻で、しばしばまたは常に偏見に直面していました。5人に3人(63%)は蔑ろにされたり付き合いを絶たれるなどの実際の偏見が少なくとも時々あり、91%はそういう実際の偏見の予感が少なくとも時々ありました。また、9割近い86%は体調不良を恥じたり、役立たずと感じたり、変わり者だと思い込むなどのlong COVID絡みの内なる偏見に少なくとも時々苛まれていました。そのような驚くばかりの偏見まん延2)はlong COVIDの人に肩身の狭い思いを強いているらしく、5人に3人(61%)はlong COVIDを打ち明けることに少なくとも時々は細心の注意を払っていました。また、3人に1人(34%)はlong COVIDを打ち明けたことを後悔したことが少なくとも時々ありました。今回の研究で使われた13の問い(“自身のlong COVIDのせいで相手が気まずそうだったことがある”等)への5択(ない、稀にある、時々ある、しばしばある、いつもそう)の回答結果に基づいてlong COVID患者が被る偏見のほどを表す検査が開発されています。long COVIDの人が被る偏見のほどの推移や、偏見を減らす取り組みの効果のほどを10分とかからず完了するその検査Long Covid Stigma Scale(LCSS)を使ってこれからは把握することができます。LCSSの開発を指揮した今回の試験の著者の1人Marija Pantelic 氏によると、long COVIDにつきまとう偏見はそれらの患者を害するのみならず社会や医療も損なわせもするようです。先立つ研究で喘息、うつ、HIVなどの他の長患いの偏見が社会をひどく不健全にすることがすでに示されています。偏見の恐れは人々を医療やその他の支援からおそらくより遠のかせ、その積み重ねが心身を蝕んでいきます。今回の試験では意外にもlong COVIDの診断を受けている人の方がそうではないlong COVIDの人に比べて偏見をより被っていました。その理由はわかりませんが、診断を受けた人ほど自身の体調を他の人により知らせているからなのかもしれません。その理由も含め、偏見がどこでどうやって発生するのか、どういう人が偏見を持ちやすいのか、どういうlong COVID患者が偏見を被りやすいのかを今後の試験で調べる必要があります2)。参考1)Pantelic M, et al. PLoS ONE . 2022;17:e0277317.2)Most people with long Covid face stigma and discrimination / Eurekalert3)Schepens EJA, et al.BMC Med. 2022;20:445.4)Prednisolone does not improve sense of smell after COVID-19 / Eurekalert

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痒みを速やかに改善するアトピー性皮膚炎抗体薬「ミチーガ皮下注用60mgシリンジ」【下平博士のDIノート】第109回

痒みを速やかに改善するアトピー性皮膚炎抗体薬「ミチーガ皮下注用60mgシリンジ」今回は、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体「ネモリズマブ(遺伝子組換え)注射剤(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒を標的とした抗体医薬品であり、掻破行動による皮膚症状の悪化やそう痒の増強を防ぐことで、患者QOLの向上が期待されています。<効能・効果>アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2022年3月28日に承認され、8月8日より販売されています。本剤は、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬および抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬による適切な治療を一定期間施行しても、そう痒を十分にコントロールできない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および13歳以上の小児にはネモリズマブ(遺伝子組換え)として1回60mgを4週間の間隔で皮下投与します。本剤はそう痒を治療する薬剤であり、そう痒が改善した場合であっても本剤投与中はアトピー性皮膚炎の必要な治療を継続します。<安全性>国内第III相試験において、本剤投与群210例中122例(58.1%)に副作用が認められました。主な副作用は、アトピー性皮膚炎34例(16.2%)、サイトカイン異常11例(5.2%)、好酸球数増加および上咽頭炎各8例(3.8%)、蜂巣炎および蕁麻疹各7例(3.3%)でした。重大な副作用として、ウイルス、細菌、真菌などによる重篤な感染症(3.4%)、アナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難、蕁麻疹)などの重篤な過敏症(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、体内のリンパ球が産生するIL-31の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎のそう痒を改善します。2.血圧低下、息苦しさ、意識の低下、ふらつき、めまい、吐き気、嘔吐、発熱、咳、のどの痛みなどの症状が現れた場合はご連絡ください。3.そう痒が治まっていても、普段と異なる新たな皮疹が生じたり、悪化したりした場合は受診してください。4.刺激の強い食べ物やアルコール、タバコは控え、身体を清潔にして規則正しい生活を心がけましょう。睡眠中に皮膚をかかないように工夫して、皮膚刺激の少ない衣類を選択し、アレルゲン対策などにも留意しましょう。<Shimo's eyes>本剤は、アトピー性皮膚炎の「痒み」を誘発するサイトカインであるIL-31をターゲットとした世界初のヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体製剤です。そう痒に伴う掻破行動は、皮膚症状を悪化させ、さらに痒みが増強するという悪循環(Itch-scratch cycle)を繰り返すとともに、皮膚感染症や眼症状などの合併症を誘引する恐れがあります。また、そう痒はアトピー性皮膚炎患者において、寝られない、仕事や勉強に集中できない、など大きな悩みであり、そう痒が解消されることでQOLの改善が期待できます。アトピー性皮膚炎のそう痒に対する治療法としては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬の併用のもとで、抗ヒスタミン薬の内服が推奨されています。シクロスポリン内服液も痒みを軽快させることが知られていますが、安全性の観点から対象患者や投与期間が限定されています。抗体医薬品としては、デュピルマブ皮下注(商品名:デュピクセント)が承認されていますが、皮疹の炎症が強い場合はデュピルマブ、そう痒を主訴とする場合はネモリズマブが選択されるなど、投与対象患者は異なると考えられます。本剤はアトピー性皮膚炎に伴うそう痒を治療する薬剤であり、本剤投与中はそう痒が改善した場合であっても、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、デルゴシチニブ外用薬、保湿外用薬など、アトピー性皮膚炎の他の症状に対する治療は中止せずに継続します。経口ステロイド薬の急な中断にも注意が必要です。既存治療を実施したにも関わらず中等度以上のそう痒を有するアトピー性皮膚炎患者を対象とした国内第III相試験において、本剤投与開始16週後のそう痒変化率は、プラセボ群に比べて有意に改善しました。臨床試験において、投与翌日よりプラセボに対して有意な改善が認められ、多くの患者は治療開始から16週頃までには効果が発現しています。なお、2023年6月1日より、本剤は在宅自己注射指導管理料の対象薬剤となり、在宅自己注射が保険適用となりました。

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手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会

 『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き2022』が15年ぶりに改訂されるにあたり、9月17、18日にオンライン開催された第22回日本メンズヘルス医学会において、シンポジウム「LOHセッション」が開催された。本稿では検査値の改訂ポイントについて、伊藤 直樹氏(NTT東日本札幌病院泌尿器科 部長/外科診療部長)の発表内容からお伝えする(共催:株式会社コスミックコーポレーション)。 LOH症候群とは、“加齢あるいはストレスに伴うテストステロン値の低下による症候群”である。加齢に起因すると考えられる症状として大きく3つの項目があり、1)性腺機能症状(早期勃起の低下、性欲[リビドー]の低下、勃起障害など)、2)精神症状(うつ傾向、記憶力、集中力の低下、倦怠感・疲労感など)、3)身体症状(筋力の低下、骨塩量の減少、体脂肪の増加など)が挙げられる。見直された診断基準値、海外と違う理由 本手引きの改訂においてもっとも注目すべきは、主診断に用いる検査値が変わることである。2007年版の診断基準値では遊離テストステロン値(8.5pg/mL未満)のみが採用されていたが、2022年改訂版では総テストステロン値(250ng/dL未満)を主診断に用いることになる。その理由として、伊藤氏は「海外でのgold standardであること、総テストステロン値と臨床症状との関連性も認められること、健康男性のmean-2SD・海外ガイドラインも参考にしたこと」を挙げた。また、遊離テストステロン値は補助診断に用いることとし、LOH症候群が対象となり始める30~40歳代のmean-2SD値である7.5pg/mL未満とするに至った。これについて「RIA法の信頼性が問題視されていること、海外の値(欧州泌尿器学会では63.4pg/mLなど)と測定方法が異なり比較できないため」とコメントした。<LOH症候群の新たな診断基準>―――・総テストステロン値250ng/dL未満または・250ng/dL以上で遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満※各測定値にかかわらず総合的に判断することが重要で、テストステロン補充の妥当性を考慮し、「妥当性あり」と判断すれば、LOH症候群と診断する●注意点(1)血中テストステロン分泌は午前9時頃にピークを迎え夜にかけて低下するため、午前7~11時の間に空腹で採血すること。(2)2回採血について、日本では保険適用の問題もあるため、海外で推奨されているも本手引きではコメントなし。――― また、測定時に注意すべきは、総テストステロンの4割強は性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone brinding globulin)と強く結合しているため、SHBGに影響を与える疾患・状態にある患者の場合は値が左右される点である。同氏は「SHBGが増加する疾患として、甲状腺機能亢進症、肝硬変、体重減少などがある。一方で低下する疾患には、肥満、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性・糖尿病などがあるため、症状の原因となるようなリスクファクターの探索も重要であるとし、「メタボリックシンドローム(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)から悪性腫瘍などの消耗性疾患、副腎皮質・甲状腺など内分泌疾患、そしてうつ病などの精神疾患などLOH症候群に疑わしい疾患は多岐にわたるため、すぐに断定することは危険」と強調。「自覚症状、他覚的所見を総合的に判断し、ほかの疾患の存在も常に疑うべき」と指摘した。 さらに、診断基準の“測定値にかかわらず総合的に判断する”という点について、「アンドロゲン受容体の活性効率に影響するN末端のCAGリピートがアジア人は長く、活性効率が低い可能性がある。そのため、テストステロン値が基準値以上でも補充療法が有効の可能性がある」と説明した。 測定値とは別に、症状からLOH症候群か否かを定量的に判定する方法の1つとしてAMS(Aging Males' Symptoms)スコア1)が広く用いられている。これについて、同氏は「感度は高いが特異度は低いため、スクリーニングには推奨されない」と話した。一方でホルモン補充療法による臨床効果の監視には有用という報告もあることから、「全体の合計点だけを見るのではなく、それぞれの症状をピックアップし、患者に合わせて対応することが大切」と説明した。 最後に、診断を確定する前にはLOH症候群が原発性か二次性かの確認も必要なことから、「最終的にはLHおよびFSHを測定し二次性性腺機能低下症の有無を確認するために、その原因疾患を把握し、確認して欲しい」と締めくくった。

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ホルモン感受性前立腺がんに対するアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミドの成績/ESMO2022

 転移のあるホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対して、アビラテロン+プレドニゾロン(AAP療法)にエンザルタミド(ENZ)を追加しても、全生存期間(OS)の改善はみられなかった。STAMPEDEプラットホームプロトコールの2つの無作為化第III相試験(AAP試験、AAP+ENZ試験)のメタ解析結果として、英国London's Global UniversityのGerhardt Attard氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:ADTによる標準治療を行うmHSPC患者・試験群: - ADT+AAP(アビラテロン1,000mg 1日1回+プレドニゾロン5mg 1日1回) [AAP試験 501例] - ADT+AAP+ENZ(160mg 1日1回)[AAP+ENZ試験 462例]・対照群:ADTのみ[AAP試験 502例、AAP+ENZ試験 454例]・主要評価項目:OS 主な結果は以下のとおり。・2011〜14年に1,003例の患者がAAPに(AAP試験)、2014〜16年に916例がAAP+ENZに無作為化された(AAP+ENZ試験)。・95.8ヵ月の追跡期間中央値において、ADT+AAPは対照群に対して有意にOSを改善していた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.53〜0.73、p=1.6×10-9)。・71.7ヵ月の追跡期間中央値において、ADT+AAP+ENZは対照群に対して有意にOSを改善していた(HR:0.65、95%CI:0.55〜0.77、p=1.4×10-6)。・AAP試験とAAP+ENZ試験の治療効果に関する相互作用のHRは1.05(95%CI:0.83〜1.32、p=0.71)であり、試験間に差は認められなかった(I2 p=0.7)。・無増悪生存期間(PFS)についても両試験間の差は示されなかった。・倦怠感や高血圧などの有害事象、Grade3/4の有害事象については、対照群、ADT+AAP、ADT+AAP+ENZの順で発現頻度が高い傾向があった。 以上の結果からAttard氏は、「mHSPC患者に対して、APPにENZを組み合わせてもOSの改善はみられなかった。一方で、ADPにAPPを追加することでOSの改善効果は7年間維持することが確認された」とまとめた。

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潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」【下平博士のDIノート】第107回

潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」今回は、α4インテグリン阻害薬「カロテグラストメチル錠(商品名:カログラ錠120mg、製造販売元:EAファーマ)」を紹介します。本剤は、経口投与可能な潰瘍性大腸炎治療薬であり、新たな寛解導入療法の選択肢として期待されています。<効能・効果>中等症の潰瘍性大腸炎(5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2022年5月25日に薬価収載され、5月30日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはカロテグラストメチルとして1回960mg(8錠)を1日3回、食後に経口投与します。8週間投与しても、臨床症状や内視鏡所見などによる改善効果が得られない場合は、本剤の継続の可否も含めて治療法を再考します。なお、本剤と同一の機序を有する他剤において、進行性多巣性白質脳症(PML)の発現が報告されています。発現リスクを低減するため、投与期間は6ヵ月までとし、6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了します。本剤による治療を再度行う場合は、投与終了から8週間以上の間隔を空けます。<安全性>第II相試験および第III相試験の併合解析において、臨床検査値異常を含む副作用は、本剤投与群259例中48例(18.5%)で報告されました。主な副作用は、上咽頭炎5例(1.9%)、白血球数増加(4例)、頭痛、血中乳酸脱水素酵素増加各3例(1.2%)、腹部不快感、肝機能異常、発疹、関節痛、発熱各2例(0.8%)などでした。なお、重大な副作用として、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)が設定されています。本剤投与中または投与終了後に意識障害、認知障害、麻痺症状(片麻痺、四肢麻痺)、言語障害などの症状が現れた場合は、MRIによる画像診断および脳脊髄液検査を行うとともに、投与を中止し、適切な処置を行います。<患者さんへの指導例>1.本剤は、過剰な免疫反応を抑えて腸管の炎症を抑えることで、潰瘍性大腸炎の症状を改善します。2.感染症にかかりやすくなったり悪化したりする場合があります。発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合はご連絡ください。3.痙攣、意識の低下、意識の消失、しゃべりにくい、物忘れをする、手足の麻痺などの症状が現れた場合はご連絡ください。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性疾患であり、炎症が生じて症状が現れる「活動期」と症状が治まっている「寛解期」を繰り返すため、長期に渡る薬物療法が必要です。活動期の寛解導入治療として、軽症~中等症では経口5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が第1選択薬として広く使用されていて、効果不十分の場合は局所製剤(坐剤、注腸剤)の併用や経口ステロイド薬が用いられます。難治例では血球成分除去療法や免疫抑制薬、抗体製剤(抗TNFα抗体製剤、抗α4β7インテグリン抗体製剤、抗IL-12/23p40抗体製剤など)、あるいはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などが選択されます。本剤は、世界初の経口投与可能なα4インテグリン阻害薬であり、α4β1インテグリン、α4β7インテグリンの双方に作用し、大腸粘膜の病変部位に認められる炎症性細胞の過度な集積・浸潤を抑制することで、潰瘍性大腸炎の症状を抑えます。5-ASA製剤による適切な治療を行っても疾患に起因する明らかな臨床症状が残る中等症の患者に投与されます。活動期の炎症を抑える寛解導入療法に用いられる薬剤であり、再燃を防ぐ維持療法としては使用できないことに注意が必要です。なお、本剤と他の免疫抑制薬の併用について臨床試験は実施されていないので併用を避ける必要があります。既存のインテグリン阻害薬としては、中等症~重症患者に使用される抗α4β7インテグリン抗体製剤のベドリズマブ点滴静注用(商品名:エンタイビオ)があります。点滴を受けることが負担となっている患者にとって、本剤は大きなメリットがあると考えられます。服薬指導では、本剤はリンパ球の遊走を阻害するため、感染症に対する免疫能に影響を及ぼす可能性があるので、感染症の兆候が現れたらすぐに連絡するように伝えましょう。1回8錠を1日3回、つまり1日24錠を服用しなければならないので、アドヒアランス低下にも注意が必要です。

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理解されない患者の苦悩、新たなガイドライン、治療薬に期待

 2022年9月15日、アレクシオンファーマは「重症筋無力症ガイドライン改訂と適正使用に向けて」と題した重症筋無力症(以下、MG)の現状と新たなガイドラインに関するメディアセミナーを開催し、鈴木 重明氏(慶應義塾大学医学部神経内科 准教授)から「MGの現状」について、村井 弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科 部長)から「2022年5月のMG診療ガイドラインの改訂ポイントとユルトミリス適応追加の意義」について、それぞれ講演が行われた。MGの現状と患者の負担 鈴木氏は講演で、MGの現状、症状、それに伴う患者負担などを解説した。MGは、日本全国で約30,000人の患者がいると推定される最も頻度の高い神経免疫疾患で、近年では、高齢発症の患者が増加傾向にある。患者の20%は眼症状のみの眼筋型、80%が全身型とされており、疲れやすいこと(易疲労性)と筋力低下などの症状に日内変動がみられることが本疾患の特徴とされている。MGの症状で最も代表的なのが眼瞼下垂である。これに加え、目の焦点が合わない(斜視)、物が二重に見える(複視)など目の症状は多く、最初に眼科を受診するケースも多いという。このほか、構音障害や嚥下障害、椅子から立ち上がれない、腕が上がらないなどの全身症状は、患者の日常生活をさまざまな角度から脅かし、呼吸が苦しいなどのケースでは、非常に重篤なクリーゼにつながることもある。これらの症状は、一定ではなく波があることが多い。朝は調子が良く、夜にかけて症状が悪くなる、活動によりすぐ疲れてしまうものの、休むと回復する、などである。症状の波が悪化に向かった場合、レスキュー治療が必要となってしまうことから、患者は次の症状増悪への不安や、先の予定の立てにくさなどに悩まされることになる。また、周囲から理解されない、就労が困難になる、限られた日常診療で気付かれない(症状がないように見えてしまい診断に至らない)など、患者は非常につらい状況に置かれていると鈴木氏は述べた。MG診療ガイドライン改訂のポイント 2022年5月、MG診療ガイドラインが改訂された(『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』)。今回の改訂では、(1)MGの新しい分類を示した、(2)MGの診断基準を改訂した、(3)漸増・漸減の高用量経口ステロイドは推奨しないと明記した、(4)難治性MGを定義した、(5)分子標的薬(補体阻害薬)を追加した、(6)LEMS(ランバート・イートン筋無力症候群)を初めて取り上げ診断基準を示した、(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した、の7つがポイントであると村井氏は言う。新しいMGの分類では、MGを眼筋型(OMG)と全身型(gMG)に分け、全身型をAChR抗体陽性の早期発症(g-EOMG)、後期発症(g-LOMG)、胸腺腫関連(g-TAMG)、AChR抗体陰性のMuSK抗体陽性(g-MuSKMG)、抗体陰性(g-SNMG)に分けることで全6つに分類された。また、新たな診断基準では、「支持的診断所見(血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある)」が加わった。治療を行っていくうえでの基本的な考え方として、患者のQOLやメンタルヘルスを良好に保つことが重要視され、MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestationsレベル)の治療目標は踏襲、かつ完全寛解や早期MM-5mgに関連しないことから、漸増・漸減による高用量経口ステロイド療法は推奨されないと明記された。難治性MGについては、「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合と定義された。新たなMG診療ガイドラインと治療薬への期待 分子標的薬が加わったことで、治療戦略も変化した。現在では、胸腺摘除はあまり行われなくなり、ステロイドは初期から少量、免疫抑制薬の投与も初期から開始し、ステロイドを増量する代わりにEFT(早期速効性治療戦略)を繰り返していき、症状の波が抑えられない場合、分子標的薬を投与するといった治療の流れに変わってきた。今回の改訂版ガイドラインを参考にすることで、以前のようにステロイドを何十mgも使用することはなくなるだろうと、村井氏は強調した。 MGに対する新たな治療選択肢として加わったユルトミリスは、8週に1回の投与で症状の波を抑え、安定化が期待できることから、頻回な通院が大変な患者に対してとくに期待される薬剤である。村井氏は、今後MGに対してさまざまな分子標的薬が登場することが見込まれており、MG診療は新たなステージに入っている、だからこそMG患者を見逃さず、治療に結び付けていくことが重要だと訴え、講演を締めくくった。

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サル痘予防が追加された乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」【下平博士のDIノート】第105回

サル痘予防が追加された乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」今回は、「乾燥細胞培養痘そうワクチン(商品名:乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16[KMB]、製造販売元:KMバイオロジクス)」を紹介します。本剤は、世界で感染が拡大しているサル痘の発症予防に用いることができる国内唯一のワクチンです。<効能・効果>本剤は、2004年1月に「痘そうの予防」の適応で販売され、2022年8月に「サル痘の予防」が追加されました。<用法・用量>本剤は、添付の溶剤(20vol%グリセリン加注射用水)0.5mLで溶解し、通常、二叉針を用いた多刺法により皮膚に接種します。回数は15回程度を目安とし、血がにじむ程度に圧刺します。なお、他の生ワクチンを接種した人には、通常27日以上の間隔を置いて本剤を接種します。他のワクチンとは、医師が必要と認めた場合は同時に接種することができます。<安全性>主な副反応は、接種部位圧痛、熱感、接種部位紅斑などの局所反応ですが、約10日後に全身反応として発熱、発疹、腋下リンパ節の腫脹を来すことがあります。また、アレルギー性皮膚炎、多形紅斑が報告されています。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)、けいれん(0.1%未満)が設定されています。<使用上の注意>本剤は-20℃~-35℃で保存します。ゴム栓の劣化や破損などの可能性があるため、-35℃以下では保存できません。添加物としてチメロサール(保存剤)を含有してないため、栓を取り外した瓶の残液は廃棄します。<患者さんへの指導例>1.本剤を接種することで、痘そうウイルスおよびサル痘ウイルスに対する免疫ができ、発症や重症化を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは接種を受けることができません。3.本剤はゼラチンを含むため、これまでにゼラチンを含む薬や食品によって蕁麻疹、息苦しさ、口唇周囲の腫れ、喉の詰まりなどの異常が生じたことがある方は申し出てください。4.BCG、麻疹、風疹ワクチンなどの生ワクチンの接種を受けた場合は、27日以上の間隔を空けてから本剤を接種します。5.接種を受けた日は入浴せず、飲酒や激しい運動は避けてください。6.接種翌日まで接種を受けた場所を触らないようにしてください。接種翌日以後に、水ぶくれやかさぶたが出る場合がありますが、手などで触れないようにして、必要に応じてガーゼなどを当ててください。7.(妊娠可能な女性に対して)本剤接種前の約1ヵ月間、および接種後の約2ヵ月間は避妊してください。<Shimo's eyes>サル痘は、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによる感染症です。これまでは主にアフリカ中央部から西部にかけて発生してきました。2022年5月以降は欧米を中心に2万7千例以上の感染者が報告されていて、常在国(アフリカ大陸)から7例、非常在国からの4例の死亡例が報告されています(8月10日時点)。WHOによると、現在報告されている患者の大部分は男性ですが、小児や女性の感染も報告されています。国内では感染症法において4類感染症に指定されていて、届出義務の対象です。サルという名前が付いていますが、もともとアフリカに生息するリスなどのげっ歯類が自然宿主とされています。感染した人や動物の体液・血液や皮膚病変、飛沫を介して感染します。潜伏期間は通常7~14日(最大5~21日)で、発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの症状に続いて発疹が出現します。ただし、常在国以外での感染例では、これまでのサル痘の症状とは異なる所見が報告されています。確定診断は水疱などの組織を用いたPCR検査で行います。通常は発症から2~4週間後に自然軽快することが多いものの、小児や免疫不全者、曝露量が多い場合は重症化することがあります。国内ではサル痘に対する治療方法は対症療法のみで、承認されている治療薬はありません。欧米では、天然痘やサル痘に対する経口抗ウイルス薬のtecovirimatが承認されています。日本でも同薬を用いた特定臨床研究が始まりました。乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」は、もともと痘そう予防のワクチンとして承認を受けていましたが、2022年8月にサル痘予防の効能が追加されました。本剤はWHOの「サル痘に係るワクチンおよび予防接種の暫定ガイダンス(2022年6月14日付)」において、安全性の高いワクチンであり、サル痘予防のために使用が考慮されるべき痘そうワクチンの1つに挙げられています。本剤は、サル痘や天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属の1つであるワクチニアウイルス(LC16m8株)の弱毒化生ワクチンです。ウイルスへの曝露後、4日以内の接種で感染予防効果が得られ、14日以内の接種で重症化予防効果が得られるとされています。接種後10~14日に検診を行い、接種部位の跡がはっきりと付いて免疫が獲得されたことを示す善感反応があるかどうかを確認します。他の生ワクチンと同様に、ワクチンウイルスの感染を増強させる可能性があるので、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンなどの免疫抑制薬は併用禁忌となっています。

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第124回 全数把握見直し、流れ弾に当たるのは肥満の自覚がない自宅療養者

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、保健所や医療機関の負担増になっていたと言われる全数把握の見直しが31日にスタートした。今回の措置は厚生労働省がわざわざ「緊急避難措置」と銘打っているが、申し出を行った都道府県では新型コロナ発生届を簡略化できる。具体的には、全数把握から患者発生届義務の対象者を▽65歳以上▽入院を要する▽重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与が必要▽重症化リスクがあり、罹患により新たに酸素投与が必要▽妊婦、の範囲に限定する。9月2日からのスタート第1陣に名乗りを上げたのは宮城、茨城、鳥取、佐賀の4県。各地で不満がたまっていただろうと思われたわりには、手を挙げた自治体は思いのほか少なかった。さて今回の緊急避難措置に関する厚生労働省の事務連絡通知を眺めてみると、やはり急ごしらえである感は否めない。たとえば新制度に切り替えた都道府県では、前述のように発生届対象は限定されるが、対象外を含めた毎日の患者総数と年代別の内訳はなるべく把握するよう求められている。この点について事務連絡通知では以下のような記述がある。「医療機関が紙又はExcelで作成し、FAX又はメールで提出を求めることが想定される。ただし、報告様式や提出方法についてはこれに限るものではなく、都道府県において工夫し、より効率的な方法で行っていただくことは差し支えない。この際、都道府県が医療機関から直接報告を受ける等、効率的な運用を工夫いただきたい」もちろん、従来の全患者を把握するために厚生労働省が開発した「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(My HER-SYS)」への入力に比べれば、対象を限定し、それ以外は総数と年代別内訳を報告すれば良いという新制度で医療機関の負荷は改善されるだろう。しかし、HER-SYSと総数報告の2ルートでの報告が必要になるわけで、それ相当に現場は混乱するだろう。しかもこれを「都道府県が医療機関から直接報告を受ける等」となると、都道府県側は紙ベース、電子ベース、あるいはその混合の膨大なデータを集計することになり、事務方で汗水を流す作業が発生することになる。それを避けるためには都道府県が独自の電子集計システムを構築し、それを各医療機関に公開して入力してもらうという手が考えられる。しかし、そのためには予算確保と実際のシステム構築、運用テストが必要であり、一朝一夕に対応できるものではない。実際にシステムが運用できる段階になったとしても医療機関への周知徹底はこれまた大変な作業である。現在、都道府県単位でみると最も医療機関数が少ない鳥取県ですら984施設もある。もちろん各地域の医師会などを通じればやや効率的だが、それでも医療機関数が1万施設を超える首都圏や近畿圏の各自治体となると、かなり労力を割かねばならなくなる。この辺が今のところ手を挙げたのが4県にとどまる1つの理由かもしれない。そしてこの新たな発生届の対象でもやや面倒が生じる可能性がある。その代表例が報告対象となる「重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与が必要」という基準だ。通知では「新型コロナ治療薬」の範囲も厚生労働省作成の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」に記載された治療薬がすべて網羅されており、文言上は至極まっとうだ。しかし、昨年のデルタ株による第5波で自宅療養者が増えた際にかなり問題となったのが、「隠れ重症化リスク」とでもいうべき肥満者の存在である。保健所のフォローアップ中に若年で重症化リスクはないと思われていたものの、実際に容体が急変して医師が駆け付けると肥満者で、血液検査を実施すると血糖値も高く、医療機関を受診したこともなかったので本人も気づいていなかったというケースだ。血糖値が高ければ、当然ながら緊急避難的なステロイド薬も使いにくい。一応、これまでの新型コロナワクチン接種の初回優先接種対象者や4回目接種対象者で「BMI 30以上」と規定はあるものの、そもそも一般人の多くは日常的に自分のBMIを計算しているわけではない。そのため自分が該当者と自覚していない人がそれなりに存在すると考えられる。というか、薄々気づいていても認めたくない人も少なくないだろう。医療従事者も「あなたは肥満ですか?」とは尋ねにくいケースも少なからず想定される。いずれにせよ、この部分は新制度では抜け落ちる危険性がある。そして都道府県による手挙げにした結果として、隣接する自治体で対応が変わってしまうケースも起こりえる。とくに首都圏のように居住地、勤務地が自治体をまたぐことが普通の地域では、そのことに伴う混乱も想定しなければならない。さらにすでに多くの自治体が懸念を示しているのが無症状・軽症者の自宅療養者の取り扱いだ。新制度を使えば、こうした人はMy HER-SYSへの登録が不要となるため、療養証明を入手できなくなる。すでに新型コロナに関わる民間医療保険では、新制度の報告対象者以外は保険金支払いの対象外にする見込みだと報じられているが、その場合、非対象者が支払った保険料の扱いはどうなるのか? さらに、勤務先などに療養証明提出などは求めないように国は再三呼び掛けているものの、それも十分ではない。ここに挙げた懸念はほんの一部に過ぎない。私個人は以前から新興感染症では逐次最適化、今風に言えば「アジャイル」な対応が必要だと主張しているが、第7波真っ盛りの中で、これほど多くの問題を置き去りにして進む今回の新制度に関しては「アジャイル」ではなく完全な「泥縄」だと言わざるを得ない。

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関節炎発症前のメトトレキサート、関節リウマチの発現を抑制するか/Lancet

 関節リウマチの治療は、通常、関節炎が臨床的に明らかになってから開始される。オランダ・ライデン大学医療センターのDoortje I. Krijbolder氏らは、「TREAT EARLIER試験」において、関節炎の発症前に関節の不顕性炎症がみられる段階で、関節リウマチの基本的な治療薬であるメトトレキサートの早期投与を開始すると、臨床的な関節炎の発現を予防し、疾病負担が軽減されるかについて検討を行った。その結果、プラセボと比較して、2週間以上持続する関節炎の予防効果は認められなかったものの、MRI上の炎症所見や関連症状、身体機能障害が持続的に改善したことから、疾患の経過が修飾されたと考えられた。研究の詳細は、Lancet誌2022年7月23日号に掲載された。オランダの概念実証試験 TREAT EARLIER試験は、単施設(ライデン大学医療センター)でスクリーニング、フォローアップのための受診、エンドポイントの評価が行われた二重盲検無作為化プラセボ対照概念実証試験であり、2015年4月~2019年9月の期間に、オランダ南西地域の13のリウマチ専門の外来診療所で参加者が登録された(オランダ科学研究機構[NWO]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的に関節リウマチへの進展が疑われる関節痛を有し、MRIで関節の不顕性の炎症が検出された患者であった。 被験者は、グルココルチコイド単回筋肉内注射(メチルプレドニゾロン120mg)後に経口メトトレキサート(最大25mg/週)を52週投与する群、またはプラセボ単回筋肉内注射後にプラセボ錠剤を52週投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。フォローアップは、1年の治療期間終了後、さらに1年間継続された。 主要エンドポイントは、2週間以上持続する臨床的関節炎(関節リウマチ分類基準[2010年]を満たす、または2ヵ所以上の関節で炎症を認める)の発現とされた。副次エンドポイントは、患者報告による身体機能、症状、労働生産性で、4ヵ月ごとに評価が行われた。また、MRIで検出された炎症の経過も調査された。有害事象は既知の安全性プロファイルと一致 236例が登録され、メトトレキサート群に119例(平均年齢46歳、女性62%)、プラセボ群に117例(47歳、68%)が割り付けられた。メトトレキサート群で抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)陽性例の割合が高かった(26% vs.20%)。フォローアップ期間中に、メトトレキサート群で3例(3%)、プラセボ群で5例(4%)が脱落した。 治療開始から2年の時点で、2週間以上持続する臨床的関節炎の発症は両群で同程度であり、メトトレキサート群が119例中23例(19%)、プラセボ群は117例中21例(18%)で認められた(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.45~1.48)。 身体機能は、最初の4ヵ月間はメトトレキサート群でより改善され、その後もプラセボ群よりも良好な状態が保持された(2年間の健康評価質問票身体機能障害指数[HAQ、0~3点]の平均群間差:-0.09点、95%CI:-0.16~-0.03、p=0.0042)。 同様に、関節痛(0[無症状]~100[考えうる最悪の症状]点で評価の平均群間差:-8点、95%CI:-12~-4、p<0.0001)、朝の関節のこわばり(0~100点で評価の平均群間差:-12点、95%CI:-16~-8、p<0.0001)、プレゼンティズム(疾病就業)(Work Productivity Impairment Scaleで評価した過去1週間の関節症状による労働生産性の低下の割合の平均群間差:-8%、95%CI:-13~-3、p=0.0007)、MRIで検出された関節の炎症所見(滑膜炎、骨炎、腱鞘滑膜炎の合計の平均群間差:-1.4点、95%CI:-2.0~-0.9、p<0.0001)も、プラセボ群に比べメトトレキサート群で持続的に改善された。 重篤な有害事象の発生は両群で同等であり(メトトレキサート群119例中13例[11%]vs.プラセボ群117例中13例[11%])、メトトレキサート群の有害事象は既知の安全性プロファイルと一致していた。フォローアップ期間中に死亡例はなかった。 著者は、「より長期の疾患の経過、疾患活動性、生物学的製剤(bDMARD)の必要性、臨床的に関節炎を発症した患者におけるDMARD-freeの寛解を評価するために、5年間のフォローアップを行う観察的継続試験が進行中である。また、今回のデータからは、有効性はメトトレキサートとグルココルチコイドのどちらによるものかが推定できないため、これを明らかにする研究が求められる」としている。

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マスタープロトコルという研究プログラムの事前登録のあり方(解説:折笠秀樹氏)

 マスタープロトコルという研究プログラムが、ここ5年くらいで多くみられるようになりました。最初はがん治療においてでした。がん種ごとに治療薬の比較試験を行うのではなく、分子標的マーカーが陽性か陰性かによって、がん種にこだわらず比較試験が行われました。疾患に対して比較試験を行うという従来方式ではなく、バイオマーカー陽性に対して比較試験を行う方式です。そこでは疾患は何でもよいわけです。これがバスケットデザインと呼ばれるマスタープロトコルです。NCI-MATCHの例が挙がっています。 一方、がん種は1つに固定し、その中で数種類のバイオマーカーを取り上げ、バイオマーカーごとに比較試験を組む形の臨床試験です。これをアンブレラデザインと呼んでいます。どのマーカーに反応する治療薬が効果を発揮するかわからないので、どちらかというと探索的目的が強いと思われます。ALCHEMISTの例が挙がっています。 最後のマスタープロトコルの例は、COVID-19で登場したプラットフォームデザインです。COVID-19の治療法開発というプラットフォームを考え、その中でいろんな治療法を評価するプロトコルを次々と増やしていくものです。RECOVERYの例が挙がっています。ホームページもありますが、現時点では5つほどプロジェクトが走っているようです。英国主導で立ち上がったプロジェクトで、国際共同試験が行われています。あのビルゲイツ財団も資金提供しています。COVID-19は残念ながらまだ収束しておりません。いつ強力なウイルスが誕生するとも限りません。抗ウイルス薬のほかにもステロイド薬やモノクローナル抗体薬など、いろんな可能性がこのプラットフォームの中で評価されていくことでしょう。 マスタープロトコルとは、いろんなサブスタディからなる壮大なプログラムです。複数の臨床試験の集合体ともいえます。現在は、マスタープロトコルとして事前登録されていますが、サブスタディごとに事前登録をすべきだというのが結論のようです。私も同感です。RECOVERY試験というのが始まり、日本も加わるべきだと武見参議院議員がテレビ番組で紹介しているのを聞きました。2021年の中ごろだったかと思います。どんな臨床試験かと思い、すぐに調べましたが、まったく理解できませんでした。それも無理はありません。いくつかの臨床試験をまとめたプログラムだったからです。個々の臨床試験、すなわちサブスタディごとに論文も発表されることでしょうから、サブスタディを事前登録すべきというのは当然のことではないでしょうか。

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中等症~重症クローン病、ウステキヌマブvs.アダリムマブ/Lancet

 生物学的製剤未使用の中等症~重症活動期クローン病患者に対する導入療法および維持療法として、ウステキヌマブ単剤療法とアダリムマブ単剤療法はいずれも高い有効性を示し、主要評価項目に両群で有意差はなかった。米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが、18ヵ国121施設で実施した無作為化二重盲検並行群間比較第IIIb相試験「SEAVUE試験」の結果を報告した。ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体ウステキヌマブと、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体アダリムマブは、いずれもクローン病の治療薬として承認されているが、どちらもプラセボ対照比較試験の結果に基づいており、患者への説明や医師の治療選択にとっては直接比較する実薬対照試験が必要であった。Lancet誌オンライン版2022年6月11日号掲載の報告。386例をウステキヌマブ群とアダリムマブ群に無作為化 研究グループは、生物学的製剤による治療歴のない18歳以上の中等症~重症活動期クローン病患者を、ウステキヌマブ群またはアダリムマブ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。適格基準は、クローン病活動指数(CDAI)スコアが220~450点、生物学的製剤未使用で従来の治療が無効または不耐容(あるいは副腎皮質ステロイド依存性)、ベースラインの内視鏡評価で1つ以上の潰瘍を有する患者とした。 ウステキヌマブ群は、約6mg/kgを初日(Day 0)に静脈内投与し、その後56週まで8週に1回90mgを皮下投与した。また、アダリムマブ群は、初日に160mg、2週目に80mg、その後56週まで2週に1回40mgを皮下投与した。いずれも単剤投与とし、投与量は変更しないこととした。 主要評価項目は、無作為割り付けされた全患者(intention-to-treat集団)における52週時の臨床的寛解率(CDAIスコア<150を達成した患者の割合)であった。 2018年6月28日~2019年12月12日の間に、633例が適格性を評価され、386例がウステキヌマブ群(191例)またはアダリムマブ群(195例)に割り付けられた。52週時の臨床的寛解率はウステキヌマブ群65%、アダリムマブ群61% ウステキヌマブ群では191例中29例(15%)、アダリムマブ群では195例中46例(24%)が52週時までに治療を中止した。 52週時の臨床的寛解率は、ウステキヌマブ群65%(124/191例)、アダリムマブ群61%(119/195例)であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差4%、95%信頼区間[CI]:-6~14、p=0.42)。 安全性については、両群ともこれまでの報告と一致していた。重篤な感染症は、ウステキヌマブ群で191例中4例(2%)、アダリムマブ群で195例中5例(3%)が報告された。試験開始後52週時までの死亡例はなかった。

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2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」【下平博士のDIノート】第99回

2種のIL-17を直接阻害する乾癬治療薬「ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター」提供:ユーシービージャパン(2022年4月現在)今回は、ヒト化抗ヒトIL-17A/IL-17Fモノクローナル抗体製剤「ビメキズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/オートインジェクター、製造販売元:ユーシービージャパン)」を紹介します。本剤は、乾癬の症状の原因となる炎症性サイトカインIL-17AとIL-17Fを選択的かつ直接的に阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年1月20日に承認され、同年4月20日から発売されています。なお、次のいずれかを満たす患者に投与されます。光線療法を含む既存の全身療法(生物製剤を除く)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者。難治性の皮疹または膿疱を有する患者。<用法・用量>通常、成人にはビメキズマブ(遺伝子組換え)として、1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射します。なお、患者の状態に応じて16週以降も4週間隔で皮下注射可能です。<安全性>臨床試験で報告された主な副作用は、口腔カンジダ症(13.2%)、鼻咽頭炎(5.1%)、毛包炎(1.7%)、上気道感染(1.5%)、中咽頭カンジダ症(1.2%)、咽頭炎・結膜炎(1.1%)などでした。また、重大な副作用として、重篤な感染症、好中球数減少(各0.5%)、炎症性腸疾患(0.1%未満)、重篤な過敏症反応(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の症状の原因となる炎症性物質の働きを抑えることで皮膚の炎症などの症状を改善します。2.薬の使用により感染症にかかりやすくなる場合があるので、発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合には、医師にご連絡ください。3.この薬を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種はできないので、接種の必要がある場合には医師に相談してください。4.口腔内や舌の痛み、白い苔のようなものが付着する、味覚がおかしく感じるなどの症状が現れた場合には、医師にお申し出ください。5.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選びましょう。高温や長時間の入浴によりかゆみが増すことがあるので、温度はぬるめにして長い入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>乾癬の治療として、副腎皮質ステロイドあるいはビタミンD3誘導体の外用療法、光線療法、または内服のシクロスポリン、エトレチナートなどによる全身療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在発売され乾癬に適応を持つ生物学的製剤は、本剤と同様にIL-17Aの作用を阻害するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)、イキセキズマブ(同:トルツ)およびブロダルマブ(ルミセフ)、IL-23阻害薬のグセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ)、ウステキヌマブ(ステラーラ)、チルドラキズマブ(イルミア)、TNF阻害薬のアダリムマブ(ヒュミラ)、インフリキシマブ(レミケード)およびセルトリズマブ ペゴル(シムジア)などがあります。本剤の特徴は、IL-17Aに加えてIL-17Fにも結合することです。乾癬の病態において、IL-17AとIL-17Fはそれぞれ独立して炎症を増幅すると考えられているため、両方を直接阻害することで、強力な炎症抑制効果が期待できます。また、16週以降の投与間隔は8週間隔、患者さんの状態に応じて16週以降も4週間隔を選択することができます。安全性に関しては、ほかの生物学的製剤と同様に、結核の既往歴や感染症に注意する必要があります。投与に際しての安全上の留意点については、日本皮膚科学会「乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2018年版)」「ビメキズマブ使用上の注意」等で参照できると思います。本剤には2種類の剤形(シリンジ、オートインジェクター)が存在しますが、2022年6月時点においては医療機関で投与が行われます。薬局では感染症や口腔カンジダ症の兆候がないか聞き取り、必要に応じて生活上のアドバイスを伝えるなど、治療中の患者さんをフォローしましょう。参考1)PMDA 添付文書 ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ/ビンゼレックス皮下注160mgオートインジェクター2)UCB Japan 医療関係者向けサイト

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高リスクIgA腎症への経口ステロイドで転帰改善、用量は?/JAMA

 高リスクIgA腎症患者において、経口メチルプレドニゾロンによる6~9ヵ月の治療は、プラセボと比較して、腎機能低下・腎不全・腎疾患死亡の複合アウトカムのリスクを有意に低下させた。ただし、経口メチルプレドニゾロンの高用量投与では、重篤な有害事象の発現率が増加した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らが、オーストラリア、カナダ、中国、インド、マレーシアの67施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Therapeutic Effects of Steroids in IgA Nephropathy Global study:TESTING試験」の結果を報告した。本試験は、重篤な感染症が多発したため中止となったが、その後、プロトコルが修正され再開されていた。JAMA誌2022年5月17日号掲載の報告。メチルプレドニゾロンの用量を0.6~0.8mg/kg/日から0.4mg/kg/日に減量し、試験を再開 研究グループは、2012年5月~2019年11月の期間に、適切な基礎治療を3ヵ月以上行っても蛋白尿1g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)20~120mL/分/1.73m2のIgA腎症患者503例を、メチルプレドニゾロン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 メチルプレドニゾロン群は、当初、0.6~0.8mg/kg/日(最大48mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~6ヵ月で減量・離脱(8mg/日/月で減量)するレジメンであったが、メチルプレドニゾロン群に136例、プラセボ群に126例、計262例が無作為化された時点で重篤な感染症の過剰発生が認められたため、2015年11月13日に中止となった。その後、プロトコルを修正し、メチルプレドニゾロン群は、0.4mg/kg/日(最大32mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~7ヵ月で減量・離脱(4mg/日/月で減量)するレジメンに変更するとともに、ニューモシスチス肺炎に対する抗菌薬の予防的投与を治療期間の最初の12週間に追加した。 2017年3月21日に修正プロトコルで試験が再開され、2019年11月までに241例(メチルプレドニゾロン群121例、プラセボ群120例)が登録された。 主要評価項目はeGFR40%低下・腎不全(透析、腎移植)・腎疾患死亡の複合で、副次評価項目は腎不全などの11項目とし、2021年6月まで追跡調査した。メチルプレドニゾロン群で複合アウトカムが有意に減少、高用量では有害事象が増加 無作為化された503例(平均年齢:38歳、女性:198例[39%]、平均eGFR:61.5mL/分/1.73m2、平均蛋白尿:2.46g/日)のうち、493例(98%)が試験を完遂した。 平均追跡期間4.2年において、主要評価項目のイベントはメチルプレドニゾロン群で74例(28.8%)、プラセボ群で106例(43.1%)に認められた。ハザード比(HR)は0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.72、p<0.001)、年間イベント率絶対群間差は-4.8%/年(95%CI:-8.0~-1.6)であった。 メチルプレドニゾロン群の各用量について、それぞれのプラセボ群と比較して主要評価項目に対する有効性が確認された(異質性のp=0.11、HRは高用量群0.58[95%CI:0.41~0.81]、減量群0.27[95%CI:0.11~0.65])。 事前に規定された11項目の副次評価項目のうち、腎不全(メチルプレドニゾロン群50例[19.5%]vs.プラセボ群67例[27.2%]、HR:0.59[95%CI:0.40~0.87]、p=0.008、年間イベント率群間差:-2.9%/年[95%CI:-5.4~-0.3])などを含む9項目で、メチルプレドニゾロン群が有意に好ましい結果であった。 重篤な有害事象の発現は、メチルプレドニゾロン群がプラセボ群より多く(28例[10.9%]vs.7例[2.8%])、とくに高用量群で高頻度であった(22例[16.2%]vs.4例[3.2%])。

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甲状腺クリーゼ〔Thyrotoxic storm or crisis〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺クリーゼ(Thyrotoxic storm or crisis)とは、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかの強いストレスが加わったときに、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。■ 疫学甲状腺クリーゼはまれな病態で、入院した甲状腺中毒症の1~2%を超えないと言われている。日本甲状腺学会と日本内分泌学会の共同委員会(赤水班)による2009年の全国調査では、わが国での発生率は入院患者10万人あたり0.2人であり、推計患者数は確実例が約150人/年、疑い例が約40人/年と算出された。致死率は約11%である。■ 病因病因は不明であり、クリーゼの発症は必ずしも甲状腺ホルモンの血中濃度によらない。急激な甲状腺ホルモンの放出や、交感神経系の活性化、重症疾患でみられる甲状腺ホルモンの感受性上昇や蛋白結合能の低下などの関与が考えられている。甲状腺疾患としてバセドウ病が最も頻度が高いが、機能性甲状腺腫瘍、アイソトープ治療、甲状腺手術、破壊性甲状腺疾患などでも報告されている。甲状腺外の誘因としては、感染症、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、虚血性心疾患、ヨード系造影剤の投与、強いストレスなど多岐にわたる。■ 症状甲状腺クリーゼでは複数臓器の機能不全が起きるが、代表的な症状は以下の通りである。1)甲状腺腫バセドウ病ではびまん性腫大を示すことが多く、結節性の甲状腺機能亢進症では、結節を触知することがある。亜急性甲状腺炎では局所の圧痛を示す。2)中枢神経症状甲状腺クリーゼの中心的な症状であり、意識障害、不穏、譫妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡がある。3)発熱基礎代謝亢進にともない、発熱(38℃以上)とともに多汗を生じる。4)循環器症状高度の頻脈、心房細動、心不全症状、ショックを起こすことがある。5)消化器症状腸管蠕動運動亢進による下痢、嘔気・嘔吐、肝障害に伴う黄疸を示すことがある。また、肝機能不全による肝障害・黄疸を呈することがある。■ 予後現在においても致死率は高く、10~75%と言われていたが、わが国での全国疫学調査の結果では致死率10%以上であった。死因は、多臓器不全、腎不全、呼吸不全などで、また不可逆的な神経学的障害が残存することもある。予後規定因子として、ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全があり、入院時に重症度に応じて予後が不良となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)甲状腺クリーゼの診断には、古くからのBurch-Wartofskyの診断スコアが使用されてきたが、必ずしも科学的エビデンスに裏付けされたものではなかった。より一層科学的根拠に基づく診断基準を求めて、わが国では、赤水らによる甲状腺クリーゼの診断基準が策定された。必須項目は甲状腺中毒症の存在であり、(1)中枢神経症状、(2)発熱、(3)頻脈、(4)心不全症状、(5)消化器症状の5項目が主要な症状・症候として選択された(表1)。表1 甲状腺クリーゼの診断基準画像を拡大する甲状腺中毒症の存在下に、「中枢神経症状+他の症状項目が1つ以上あるもの」か、「中枢神経症状以外の症状項目が3つ以上あるもの」を、甲状腺クリーゼ確実例とする。中枢神経症状以外の症状項目2つ、または夜間・休日など甲状腺中毒症が確認できない状況下で、甲状腺疾患の既往、眼球突出、甲状腺腫の存在があり、確実例の条件を示す者を疑い例とする。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)診断基準の確定の後、甲状腺クリーゼの予後改善を目指して、診療ガイドライン2017年版が作成された。甲状腺クリーゼと診断された場合、二次ABCDE評価(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of central nervous system, and Exposure & environmental control)を行ない、Acute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアに基づき集中治療の要否を判断する。冷却・解熱剤の投与とともに抗甲状腺薬、無機ヨードならびに副腎皮質ステロイドを開始する(図)。また、APACHEIIスコア9以上では集中治療室(ICU)での管理が勧められる。図 甲状腺クリーゼ治療のアルゴリズム画像を拡大する甲状腺クリーゼに至った誘因の除去を行い、感染症などの合併に関しては個別に治療を行なう。中枢神経症状に対する治療は精神科救急医療ガイドラインなどに準じて行うが、器質的疾患(脳血管障害・髄膜炎・代謝異常・中毒など)がクリーゼの誘因となりうるので鑑別診断を必ず行う。心拍数150/分以上の洞性頻脈や頻拍性心房細動を認める場合、β1選択性短時間作動型β遮断薬やジギタリス製剤で心拍数を管理し、必要に応じて電気的除細動も考慮する(表2)。表2 甲状腺クリーゼの各々の病態に対する治療の概要画像を拡大するその他、うっ血性心不全、急性肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性腎不全、横紋筋融解症、成人型呼吸促拍症候群(ARDS)などがみられる場合があり、予後不良となるので、各々の病態に応じた集学的治療が必要とされる。甲状腺クリーゼにおける治療的血漿交換の絶対的適応は、急性肝不全合併例で、相対的適応はクリーゼに対する治療開始24~48時間後においてもコントロール不能の甲状腺中毒症である。APACHEIIスコアならびにSOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment)スコアが予後と関連する。4 今後の展望今回のガイドライン作成にあたり、国内の多くの施設に症例報告収集の支援をいただいたが、ガイドライン発行後、治療の方法ならびに生存率なども変化しているため、現在日本甲状腺学会により前向きの全国調査が行われている。5 主たる診療科内分泌・代謝内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会 甲状腺クリーゼ(一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター 甲状腺中毒クリーゼ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)(医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017年版Digest版(医療従事者向けのまとまった情報)1)Akamizu T, et al. Thyroid. 2012;22:661-679.2)Burch HB, et al. Endocrinol Metab Clin North Am. 1993;22:263-277.3)Isozaki O, et al. Clin Endocrinol(Oxf). 2016;84: 912-918.4)Satoh T, et al. Endocr J. 2016;63:1025-1064.5)日本甲状腺学会・日本内分泌学会. 甲状腺クリーゼガイドライン2017.南江堂,2017.公開履歴初回2022年5月26日

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クッシング症候群の高コルチゾール血症を改善する「イスツリサ錠1mg/5mg」【下平博士のDIノート】第98回

クッシング症候群の高コルチゾール血症を改善する「イスツリサ錠1mg/5mg」今回は、副腎皮質ホルモン合成阻害剤「オシロドロスタットリン酸塩(商品名:イスツリサ錠1mg/5mg、製造販売元:レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン)」を紹介します。本剤は、副腎でのコルチゾール生合成を抑制し、高コルチゾール血症を是正することでクッシング症候群の症状を改善します。<効能・効果>本剤は、クッシング症候群(外科的処置で効果が不十分または施行が困難な場合)の適応で、2021年3月23日に承認され、同年6月30日に発売されました。<用法・用量>通常、成人にはオシロドロスタットとして1回1mgを1日2回経口投与から開始し、その後は患者の状態に応じて最高用量1回30mg(1日2回)を超えない範囲で適宜調節します。なお、用量を漸増する場合は1~2週間に1回、増量幅は1回1~2mgを目安とします。中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類クラスB)では1回1mgを1日1回、重度(Child-Pugh分類クラスC)では1回1mgを2日に1回を目安に投与を開始し、服用タイミングは夕方とすることが望ましいとされます。<安全性>国内外の臨床試験では、主な副作用として疲労(30%以上)、低カリウム血症、食欲減退、浮動性めまい、頭痛、低血圧、悪心、嘔吐、下痢、男性型多毛症、ざ瘡、血中コルチコトロピン増加、血中テストステロン増加、浮腫、倦怠感(5~30%未満)が報告されています。なお、重大な副作用として低コルチゾール血症(53.9%)、QT延長(3.6%)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.体内で過剰に分泌されている副腎からのコルチゾール合成を抑えて、高コルチゾール血症を改善する薬です。2.悪心、嘔吐、疲労、腹痛、食欲不振、めまいなどが認められた場合には、体内のコルチゾール濃度が低下し過ぎている恐れがあるので、すぐに主治医に連絡してください。3.この薬の服用により低カリウム血症になる可能性があります。体の力が抜ける感じ、手足のだるさ、こわばり、筋肉痛、呼吸困難、むくみ、高血圧などが現れた場合には医師に連絡してください。4.(妊娠する可能性がある人の場合)この薬の使用期間中および使用中止後1週間は適切な避妊をしてください。妊婦または妊娠している可能性のある方は服用できません。5.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>クッシング症候群は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)による刺激または副腎皮質の機能亢進により、副腎皮質からコルチゾールが過剰分泌されることで、慢性的に高コルチゾール血症を呈する疾患です。治療しない場合、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などの合併症や、免疫力の低下により易感染状態をまねきます。治療の第一選択は、国内外ともに原因となる病変の外科的切除であり、手術できない場合や切除後に寛解に至らなかった場合には、薬物療法および放射線療法が選択されます。また、速やかな高コルチゾール血症の是正が必要な場合にも薬物療法が適応となります1)。本剤は、クッシング症候群の原因となるコルチゾールの生合成の最終段階である11-デオキシコルチゾールからコルチゾールへの変換を担う11β-水酸化酵素の阻害剤です。この機序により原疾患によらず、すべての内因性クッシング症候群患者において本剤の有効性が期待されます。血中濃度を安定させるため、本剤を1日2回で服用する場合は12時間間隔で、なるべく毎日同じ時間帯に服用する必要があります。服用し忘れた場合は、1回飛ばして次の回から服用を再開するように伝えましょう。重大な副作用として低コルチゾール血症が現れることがあり、副腎皮質機能不全に至る恐れがあります。そのため、定期的に血中・尿中コルチゾール値の測定が求められています。また、QT延長が現れることがあるので、投与開始前および投与開始後1週間以内、または増量時など、必要に応じた心電図検査が行われます。とくに高ストレス状態ではコルチゾール需要が増加するため、副腎不全症候群を発症する可能性があります。服薬フォローの際には、全身倦怠感、食欲不振、脱力などの症状が現れていないか聞き取ることが大切です。1)クッシング症候群診療マニュアル 改訂第2版. 診断と治療社;2015.(J Clin Endocrinol Metab. 2015;100:2807-2831.)参考1)PMDA 添付文書 イスツリサ錠1mg/イスツリサ錠5mg

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コロナ治療薬の早見表2種(年代別およびリスク因子有無別)

年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がある人ー・重症化リスク因子とは、65歳以上の高齢者、悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙、固形臓器移植後の免疫不全、妊娠後期などのこと軽症~中等症薬剤対象者内服点滴ラゲブリオパキロビッドパックロナプリーブゼビュディ(モルヌピラビル)(ニルマトレルビル・リトナビル)(カシリビマブ/イムデビマブ)(ソトロビマブ)発症から5日以内に5日間服用発症から5日以内に服用(1回に2種3錠を5日間服用)薬剤の大きさは約2cm薬の飲み合わせに注意が必要のため「お薬手帳」を持参して服用中のすべての薬を医療者に伝えましょう(とくに高血圧や不整脈治療薬、睡眠薬など)オミクロン株には無効アナフィラキシーや重篤な過敏症を起こす恐れがあるので投与~24時間は観察が必要発症から5~7日を目安に投与オミクロン株のBA.2系統には有効性減弱12歳以上かつ40㎏以上小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女発症から7日以内に投与子供を望む男女が服用する場合、服用中と服用後4日間の避妊を推奨※※※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.年齢別で使用できるコロナ治療薬ー新型コロナ重症化リスク因子がない人ー・薬剤が使用できる方は、重症度分類が中等症II以上(酸素投与が必要)の場合に限ります軽症※~重症薬剤対象者中等~重症点滴内服/点滴点滴内服ベクルリーステロイド薬アクテムラオルミエント(レムデシビル)(デキサメタゾン)(トシリズマブ)(バリシチニブ)投与目安は軽症者が3日間中等症以上が5日間(最大10日間)重症感染症の適応で使用発症から7日以内に使用。ステロイド薬と併用、人工呼吸器管理・ECMO導入を要する方に入院下で投与入院から3日以内に投与。総投与期間は14日間、レムデシビルと併用肝/腎機能障害、アナフィラキシーなどに注意投与目安は10日間血糖値が高い方、消化性潰瘍リスクがある方は注意が必要結核、B型肝炎の既往、糞線虫症リスクを確認。また、心疾患や消化管穿孔リスクがある方は注意が必要抗凝固薬の投与等による血栓塞栓予防を行う結核・非結核性抗酸菌症やB型肝炎リスクを確認※軽症は適応外使用小児妊婦・授乳婦子どもを望む男女3.5㎏以上※プレドニゾロン40㎎/日に変更※65歳未満65歳以上※妊婦:治療上の有益性が危険性を上回る時に服用可、授乳婦:授乳の継続又は中止を検討出典:各添付文書、新型コロナウイルス感染症診療の手引き第7.2版、COVID-19 に対する薬物治療の考え方第13.1版Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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経口困難になったがん末期患者のモルヒネを持続皮下注へ切り替え【うまくいく!処方提案プラクティス】第46回

 今回は、がん末期患者の服薬負担を考慮して、モルヒネの内服薬から持続皮下注へ切り替えた症例を紹介します。一度は疼痛および服薬負担が解消され、患者さんに安心していただくことができましたが…。患者情報70歳、男性(施設入居)基礎疾患咽頭がん(骨転移、肺内転移)、糖尿病、脊柱管狭窄症、末梢動脈硬化症服薬管理施設管理処方内容1.モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル30mg 2カプセル 朝夕食後2.ベタメタゾン錠0.5mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠30mg 1錠 朝食後4.ジアゼパム錠2mg 3錠 毎食後5.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 毎食後6.ナルデメジントシル酸塩錠0.2mg 1錠 夕食後7.エスゾピクロン錠1mg 1錠 就寝前8.モルヒネ塩酸塩水和物内服液10mg/5mL 疼痛時 1回1包本症例のポイントこの患者さんは、咽頭がんの進行に伴う突発的な疼痛と呼吸苦がありました。レスキュー薬としてモルヒネ塩酸塩水和物内服液を5〜6回/日服用していて、痛みはNRS(Numerical Rating Scale)6〜7から3程度まで改善していました。しかし、咽頭の閉塞による通過障害があり、内服薬を服用するのが心身共に苦しいという状態が続いていました。訪問診療の前日にこれらの訴えを本人からヒアリングし、現況の痛みも服薬の苦痛も緩和したい、そして施設で最期を迎えたいという希望を確認しました。訪問看護師やケアマネジャーと注射薬への切り替えも手ではないかと話し合い、現行のオピオイド内服薬から持続皮下注へのスイッチをどのように提案するかを検討しました。オピオイドの換算<現行>ベース薬モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 60mg/日レスキュー薬モルヒネ塩酸塩水和物内服液 50〜60mg/日1日オピオイド総量目安110〜120mg/日単純な等価換算では、モルヒネ注50〜60mg/日相当となりますが、この等価換算はあくまで目安です。切り替え後のコントロール目標や副作用の懸念、24時間サイクルでの投与設計の都合で約50mg/日を提案することとしました。<切り替え提案内容:モルヒネ塩酸塩注射液48mg/日>モルヒネ塩酸塩注射液200mg/5mL 2管 10mLモルヒネ塩酸塩注射液50mg/5mL 2管 10mL生理食塩液 28mL総量48mL 0.2mL/時間、LOT15分、レスキュー0.2mL/回、10日間相当*1日量4.8mL→モルヒネ約10mg/mL<切り替えタイミング>モルヒネ硫酸塩水和物徐放カプセル 夕方服用時刻から切り替え処方提案と経過翌日の訪問診療に同行し、患者は通過障害から内服が困難な状況にあり、心身共に苦痛があることを医師に共有しました。そこで、内服薬から持続皮下注への切り替えについて意向を確認しました。医師も介護士や訪問看護師の報告から切り替えを検討していたようですが、具体的に何をどの程度投与するのがよいか頭を悩ませていたところだったそうです。上記の処方提案を文書で提示したところ、選択薬剤、用量も含めて提案の内容で始めることになりました。また、内服薬に関してはすべて中止し、持続皮下注のモルヒネのみの管理とする指示もありました。すぐに訪問看護師とPCAポンプの手配と接続時間を確認し、当日の夕方から切り替えたところ、レスキューボタンの使用回数は平均4〜5回/日で、患者さんも内服時の苦痛がなくなり安心している様子でした。しかし、切り替えから1週間経過するとせん妄が強くなりました。PCAポンプの接続チューブを自己抜去するなどの危険行動があったため中止となり、外用薬での治療コントロールに切り替えることになりましたが、切り替えの翌日にお亡くなりになりました。一度は疼痛コントロールができ、服薬の負担も解消することができましたが、せん妄について十分な管理ができず、反省点の残る事例でした。日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン.金原出版株式会社;2020.

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