サイト内検索|page:6

検索結果 合計:453件 表示位置:101 - 120

101.

COPDガイドライン改訂―未診断者の早期発見と適切な管理を目指して

 COPDは、日本全体で約500万人を超える患者がいると見積もられており、多くの非専門医が診療している疾患である。そこで、疾患概念や病態、診断、治療について非専門医にもわかりやすく解説する「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」が2022年6月24日に刊行された。本ガイドラインは、2018年版からの4年ぶりの改訂で、大きな変更点としてMindsに準拠した形で安定期COPD治療に関する15のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定したことが挙げられる。本ガイドライン作成委員会の委員長を務めた柴田 陽光氏(福島県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)に改訂点や日常診療におけるCOPD診断・治療のポイントについて、話を聞いた。未診断のCOPD患者を発見するために COPD患者は、なかなか症状を訴えないことが多いという。柴田氏は、「高齢の方は『歳だから、あるいはタバコを吸っているから仕方がない』と考えていたり、無意識のうちに身体活動レベルを落としていて、息切れを感じなくなっていたりすることもある」と話す。そのような背景から、未診断のままの患者が存在し、診断がつく時点ではかなり進行していることも多い。そこで第6版では、「風邪が治りにくい」「風邪の症状が強い」などの増悪期の症状や、気道感染時の症状で医療機関を受診したときが診断の契機となることなどを強調した。 COPDの確定診断には呼吸機能検査が必要であるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や設備の問題で実施が難しい場合も多い。その場合は「長期の喫煙歴と息切れがあり、咳や痰などの慢性的な症状が併存し、他疾患を否定できればCOPDの可能性がかなり高い。病診連携などを活用して画像診断を実施し、肺気腫を発見してほしい」と述べた。また、呼吸機能検査が難しい場合の診断について、日本呼吸器学会では「COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順」を公表しており、本ガイドラインにも掲載されているので参照されたい。管理目標と安定期の治療 第6版では、COPDの管理目標に「疾患進行の抑制および健康寿命の延長」が追加された。その背景として、「疾患進行抑制の最大の要素である禁煙の重要性を強調したい」、「何らかの症状を抱えていたり、生活に不自由を感じていたりする患者の多いCOPDでは、健康寿命に影響を及ぼすフレイルに陥らないようにして、健康寿命を延ばすことの重要性を強調したい」という意図があると、柴田氏は述べた。 安定期の治療について、第6版では「安定期COPD管理のアルゴリズム」が喘息病態の合併例と非合併例に分けて記載された。柴田氏は「COPD患者の約4分の1が喘息を合併し、喘息合併例では吸入ステロイド薬(ICS)が治療の基本となるため、治療の入り口を分けた」と解説する。具体的には、日頃からの息切れと慢性的な咳・痰がある場合、喘息非合併例では「長時間作用性抗コリン薬(LAMA)あるいは長時間作用性β2刺激薬(LABA)」、喘息合併例では「ICS+LABAあるいはICS+LAMA」から治療を開始し、症状の悪化あるいは増悪がみられる場合、喘息非合併例では「LAMA+LABA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」、喘息合併例では「ICS+LABA+LAMA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」にステップアップする。 喘息非合併例では、頻回の増悪かつ末梢好酸球数増多がみられる患者には「LAMA+LABA+ICS」の使用を考慮する。なお、喘息非合併の安定期COPD治療は、LAMAまたはLABAの単剤で始めなければならないというわけではなく、「CAT(COPDアセスメントテスト)が20点以上やmMRC(modified British Medical Research Council)グレード2以上といった症状の強い患者は、LAMA+LABAで治療を開始しても問題ない。詳細はCQ5を参照してほしい」と述べた。 安定期の治療について、第6版では15個のCQが設定された。その中で「強く推奨する」となったのは、「LAMAによる治療(CQ2)」「禁煙(CQ10)」「肺炎球菌ワクチン(CQ11)」「呼吸リハビリテーション(CQ12)」の4つである。とくに「呼吸リハビリテーション」について、柴田氏は「エビデンスレベルが高く、強く推奨するという結果になったことは、まだまだ普及が進んでいない呼吸リハビリテーションを普及させるという観点から、非常に意義のあることだと考えている」と話した。 COVID-19流行期における注意点として、「COPD患者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいため、感染対策が重要となるが、身体活動性を落とさないよう定期的な運動は続けてほしい。薬物療法については、ICSを使用していてもCOVID-19の重症化リスクは上昇しないため、現在の治療を継続することが重要」とした。診断・治療共に積極的な病診連携の活用を 第6版では、病診連携の項でプライマリケア医と呼吸器専門医の役割を詳細に解説している。柴田氏は、非専門医に期待する役割について「COPD治療の基本である禁煙の徹底、併存症の管理、インフルエンザや新型コロナのワクチンに加えて肺炎球菌ワクチン接種を行ってほしい」と述べた。加えて、「COPD患者の肺がんの年間発生率は2%ともいわれるため、願わくは年1回など定期的な低線量CTを実施してほしい」とも述べた。一方、呼吸器専門医については、「呼吸機能検査を実施して診断の入口となることや、治療をしていても増悪を繰り返すような管理の難しい患者の治療、呼吸リハビリテーションの実施といった役割を期待する」と話し、病診連携を活用して呼吸器専門医に紹介してほしいと強調した。 また、COPDの薬物治療は吸入療法が中心となるため、適切な吸入指導が欠かせない。しかし、吸入薬の取り扱いや指導に不慣れな医師もいるだろう。そこで活用してほしいのが、病薬連携だという。柴田氏は「薬剤服用歴管理指導料吸入薬指導加算が算定できるため、吸入薬の取り扱いに慣れている薬局の薬剤師に、吸入指導を依頼することも可能だ。デバイスについては、患者によって向き・不向きがあり、処方変更が必要になることもあるため、病薬連携が重要となる」と述べた。COPD患者の発見と積極的な介入を 柴田氏は、非専門医の先生方へ「皆さんの思っている以上にCOPD患者は多い。70歳以上の高齢男性では4人に1人が何らかの気流閉塞があることが知られており、高血圧や循環器疾患の3人に1人はCOPDというデータもある。高齢で糖尿病を有し喫煙歴のある患者にもCOPDが多い。このような患者をどんどん発見して、治療介入してほしい。その際、本ガイドラインを活用してほしい」とメッセージを送った。COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版定価:4,950円(税込)判型:A4変型判頁数:312頁発行:2022年6月編集:日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会発行:メディカルレビュー社

102.

ADAMTS13欠損の先天性TTPにADAMTS13投与が著効した1例/NEJM

 妊娠合併症と動脈血栓症歴のある妊娠30週の27歳女性が、重度のADAMTS13欠損による急性遺伝性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断を受けた。医療チームは当初、治療的血漿交換(TPE)を実施したが、効果が乏しく中止し、遺伝子組み換えADAMTS13投与に切り替えた。その後、血小板数は正常化、胎児の成長も安定化し、妊娠37週と1日で、在胎不当過小児であったが健康な男子を帝王切開で出産した。その後も患者と生まれた男児の健康状態は良好で、遺伝子組み換えADAMTS13の投与を隔週で継続しているという。スイス・ベルン大学のLars M. Asmis氏らによる症例報告で、NEJM誌2022年12月22日号で発表された。血小板数5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、TPEから切り替え 研究グループが初回診察を行ったのは妊娠30週6日の時点。同患者に対し、当初はTPEとメチルプレドニゾロン(1mg/kg)による免疫抑制から成る免疫原性TTP向けの治療を開始した。その後、機能的ADAMTS13インヒビターとIgG・抗ADAMTS13抗体の検査で陰性が認められ、メチルプレドニゾロンの投与は中止した。 連日のTPEにより、ADAMTS13活性ピーク値は約50%だったが、血小板数は5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、妊娠週数32週で胎児成長は3パーセンタイルに落ち込んだ。こうした状況を総合的に判断し、血漿難治TTPの発症、胎盤機能不全、切迫子宮内胎児死亡の危険性が高いと判断した。 医療チームは患者とその夫の同意を得て、TPEを中止し、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の週1回注射投与を開始した。初回遺伝子組み換えADAMTS13(2,480U)は、TPE中止後36時間、妊娠32週5日で行った。遺伝子組み換えADAMTS13投与はすべて外来診療で行い、有害薬物反応は認められなかった。患者の血小板数は14~19万/μLに急激に増加し、妊娠期間中その値を維持した。正常Apgarスコア、出生体重1,865gの健康な男児を出産 予定帝王切開時までに、患者のsFlt-1/PlGF比は最大化した後、減少傾向となったが、胎児体重推定値は依然として在胎期間相当3パーセンタイルで推移していた。 帝王切開は妊娠37週1日で行われ、患者は、正常Apgarスコアで出生体重1,865g(在胎期間相当で1パーセンタイル未満)の健康な男児を出産した。出産7日後の退院時、母体血小板数は21万6,000/μLだった。 本報告書作成時点で、患者にはアスピリン投与と、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の隔週投与が継続されている。

103.

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」【下平博士のDIノート】第113回

TYK2を選択的に阻害する乾癬治療薬「ソーティクツ錠6mg」今回は、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬「デュークラバシチニブ錠(商品名:ソーティクツ錠6mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、TYK2を選択的に阻害する世界初の経口薬で、既存治療で効果が不十分であった患者や、副作用などにより治療継続が困難であった患者の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日に発売されました。光線療法を含む既存の全身療法(生物学的製剤を除く)などで十分な効果が得られず皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ場合や、難治性の皮疹や膿疱を有する場合に使用します。<用法・用量>通常、成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。なお、本剤使用前には結核・B型肝炎のスクリーニングを行い、24週以内に本剤による治療反応が得られない場合は、治療計画の継続を慎重に判断します。<安全性>国際共同第III相臨床試験(IM011-046試験)において、本剤投与群の22.0%(117/531例)に臨床検査値異常を含む副作用が発現しました。主なものは、下痢2.6%(14例)、上咽頭炎2.4%(13例)、上気道感染2.3%(12例)、頭痛1.9%(10例)などでした。なお、重大な副作用として、重篤な感染症(0.2%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、乾癬の原因となる酵素の働きを抑えることで、皮膚の炎症などの症状を改善します。2.免疫を抑える作用があるため、発熱、寒気、体がだるい、咳が続くなどの一般的な感染症症状のほか、帯状疱疹や単純ヘルペスなどの症状に注意し、気になる症状が現れた場合は速やかにご相談ください。3.本剤を使用している間は、生ワクチン(BCG、麻疹・風疹混合/単独、水痘、おたふく風邪など)の接種ができないので、接種の必要がある場合は医師にご相談ください。4.感染症を防ぐため、日頃からうがいや手洗いを行い、規則正しい生活を心掛けてください。また、衣服は肌がこすれにくくゆったりとしたものを選び、高温や長時間の入浴はできるだけ避けましょう。<Shimo's eyes>本剤は、TYK2阻害作用を有する世界初の経口乾癬治療薬です。TYK2はヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーの分子ですが、本剤のようなTYK2だけを選択的に阻害する薬剤は比較的安全に使用できるのではでないかと期待されています。乾癬の治療としては、副腎皮質ステロイドやビタミンD3誘導体による外用療法、光線療法、シクロスポリンやエトレチナート(商品名:チガソン)などによる内服療法が行われています。近年では、多くの生物学的製剤が開発され、既存治療で効果不十分な場合や難治性の場合、痛みが激しくQOLが低下している場合などで広く使用されるようになりました。現在、乾癬に適応を持つ生物学的製剤は下表のとおりです。また、同じ経口薬としてPDE4阻害薬のアプレミラスト(同:オテズラ)が「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」の適応で承認されています。臨床試験において、本剤投与群ではアプレミラストを上回る有効性を示しており、この点が評価されて薬価算定では40%の加算(有用性加算I)が付きました。安全性では、結核の既往歴を有する患者では結核を活動化させる可能性があるため注意が必要です。また、感染症の発症、帯状疱疹やB型肝炎ウイルスの再活性化の懸念もあるため、症状の発現が認められた場合にはすぐに受診するよう患者さんに説明しましょう。TYK2阻害薬は自己免疫疾患に対する新規作用機序の薬剤であり、今後の期待として潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデスなどの幅広い疾患に適応が広がる可能性があり、注目されています。

104.

非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

 日本全体で約1,000万人の潜在患者がいるとされる喘息。その約70%が何らかの症状を有し、喘息をコントロールできていないという。吸入ステロイド薬(ICS)の普及により、喘息による死亡(喘息死)は年々減少しているものの、2020年においても年間1,158人報告されているのが現状である。そこで、2020年に日本喘息学会が設立され、2021年には非専門医向けの喘息診療実践ガイドラインが発刊、2022年に改訂された。喘息診療実践ガイドライン発刊の経緯やポイントについて、日本喘息学会理事長の東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)に話を聞いた。喘息診療実践ガイドラインで2028年までに喘息死を0に 東田氏は、「均質な医療を提供することで、2028年までに喘息死を半減させる。できれば0にしたい」と語った。そのために「喘息の科学的知見に基づく情報提供をしたい」「非専門医の日常診療に役に立つガイドラインを作りたい」との思いから、喘息診療実践ガイドラインを作成したという。喘息診療実践ガイドラインは、新薬の登場などに合わせて、可能な限り毎年改訂を行う予定とのことである。喘息診療実践ガイドライン2022の問診チェックリスト活用を 従来のガイドラインでは、「喘息診断の目安」が記載されているものの、「診断基準」は明記されていない。また、喘息の診断には呼吸機能検査が必要とされているが、日常診療の場では難しい。そこで、喘息診療実践ガイドライン2022では、臨床現場で実際に活用できる診断アルゴリズムを作成している。ここで、重要となるのが「問診」である。東田氏らは、4千人超の喘息患者のデータをレトロスペクティブに解析した結果を基に、喘息患者の特徴を抽出した「問診チェックリスト」を作成し、喘息診療実践ガイドライン2022上に掲載している(p4、表2-1)。チェックリストは、大項目(喘鳴、咳嗽、喀痰などの喘息を疑う症状)と小項目(症状8項目、背景7項目の計15項目)からなり、「大項目+小項目(いずれか1つ)があれば喘息を疑う」とされている。 問診の結果、喘息を疑った場合には、「まず中用量のICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤(中用量ICS/LABA)を最低3日以上使ってほしい」という。「中用量ICS/LABAによる治療に反応し、治療開始前から喘鳴がある場合は喘息と診断して良い」とのことである。反応しない場合は、「他疾患も疑う必要があるため、迷わず専門医に紹介してほしい」と語った。喘息診療実践ガイドライン2022には喘息治療のフローを掲載 喘息診療実践ガイドライン2022の喘息治療のフローに基づくと、日常診療では診断もかねて基本的には中用量ICS/LABAで治療を開始し、それでも症状が残ってしまう場合には、症状に応じて次のステップを考える。咳・痰が続く、呼吸困難が残る、喫煙歴がある場合などは、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)がある場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を追加する。LAMAを追加する場合は、「1デバイスで3成分を吸入できるICS/LABA/LAMAの3成分配合剤が登場しているため、こちらを使用してほしい」とのことだ。 また、治療効果が不十分の場合には、吸入薬をきちんと吸えていない可能性があるという。そのため、「まず、うまく吸えているかを確認してほしい。吸入指導の動画も用意しているので活用してほしい」と述べた。各種吸入デバイスの吸入指導用動画や「ホー吸入」という薬の通り道を広く保つ吸入法が、日本喘息学会HPに掲載されているので活用されたい。喘息診療実践ガイドライン2022に医療連携の可能な病院リスト 喘息治療においては、専門医との病診連携を積極的に活用してほしいという。たとえば、「中用量ICS/LABAにLAMAまたはLTRAを追加しても効果が得られない場合」「重症喘息に該当する喘息患者に遭遇した場合」「治療のステップダウンを検討しているが、呼吸機能検査ができない場合」などは検査を行う必要があるため、「専門医で治療導入や呼吸機能検査を実施し、その後はかかりつけ医の先生に診療いただくという病診連携も可能だ」と専門医との病診連携の重要性を強調した。専門医への紹介を考慮すべきタイミングについての詳細や専門医紹介時のひな型、医療連携の可能な病院のリストが喘息診療実践ガイドライン2022上に記載されているので活用されたい(p68~p71)。COVID-19流行期こそ喘息コントロールが重要 注目を集める喘息と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係については、「喘息をきちんとコントロールできていれば、COVID-19感染リスクが高いわけではないので、必要以上に怖がることはない。ただし、喘息のコントロールが悪いと、気道に炎症が起こり感染しやすくなってしまうので、喘息をコントロールすることが最も重要である」と喘息コントロールの重要性を強調した。『喘息診療実践ガイドライン2022』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:本文72頁発行:2022年7月作成:一般社団法人日本喘息学会発行:協和企画

105.

lecanemab、FDAがアルツハイマー病治療薬として迅速承認/エーザイ・バイオジェン

 エーザイとバイオジェン・インクは2023年1月7日付のプレスリリースで、可溶性(プロトフィブリル)および不溶性アミロイドβ(Aβ)凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体lecanemabについて、米国食品医薬品局(FDA)がアルツハイマー病の治療薬として、迅速承認したことを発表した。 本承認は、lecanemabがADの特徴である脳内に蓄積したAβプラークの減少効果を示した臨床第II相試験(201試験)の結果に基づくもので、エーザイでは最近発表した大規模なグローバル臨床第III相検証試験であるClarity AD試験のデータを用い、フル承認に向けた生物製剤承認一部変更申請(sBLA)をFDAに対して速やかに行うとしている。lecanemabの米国における適応症<適応症> lecanemabの適応症はアルツハイマー病(AD)の治療であり、lecanemabによる治療は、臨床試験と同様、ADによる軽度認知障害または軽度認知症の患者において開始すること。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはない。本適応症は、lecanemabの治療により観察されたAβプラークの減少に基づき、迅速承認の下で承認されており、臨床的有用性を確認するための検証試験データが本迅速承認の要件となっている。<用法・用量(対象者・投与方法・ARIAのモニタリング)> 治療開始前にAβ病理が確認された患者に対して、10mg/kgを推奨用量として2週間に1回点滴静注。lecanemabによる治療の最初の14週間は、アミロイド関連画像異常(ARIA)についてとくに注意深く患者の様子を観察することが推奨される。投与開始前に、ベースライン時(直近1年以内)の脳MRI、および投与後のMRIによる定期的なモニタリング(5回目、7回目、14回目の投与前)が行われる。<副作用> lecanemabの安全性は、201試験においてlecanemabを少なくとも1回投与された763例で評価されている。lecanemab(10mg/kg)を隔週投与された被験者(161例)の少なくとも5%に報告され、プラセボ投与被験者(245例)より少なくとも2%高い発生率であった。主な副作用は、infusion reaction(lecanemab群:20%、プラセボ群:3%)、頭痛(14%、10%)、ARIA浮腫/滲出液貯留(ARIA-E;10%、1%)、咳(9%、5%)および下痢(8%、5%)だった。lecanemabの投与中止に至った最も多い副作用はinfusion reactionであり、lecanemab群は2%(161例中4例)に対して、プラセボ群は1%(245例中2例)だった。lecanemabの重要な安全情報<重要な安全情報(警告・注意事項)>アミロイド関連画像異常(ARIA) lecanemabはARIAとして、MRIで観察されるARIA-E、あるいはARIA脳表ヘモジデリン沈着(ARIA-H)として微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症を引き起こす可能性がある。ARIAは通常無症候であるが、まれに痙攣、てんかん重積状態など、生命を脅かす重篤な事象が発生することがある。ARIAに関連する症状として、頭痛、錯乱、視覚障害、めまい、吐き気、歩行障害などが報告されている。また、局所的な神経障害が起こることもある。ARIAに関連する症状は、通常、時間の経過とともに消失する。[ARIAのモニタリングと投与管理のガイドライン]・lecanemabによる治療を開始する前に、直近1年以内のMRIを入手すること。5回目、7回目、14回目の投与前にMRIを撮影すること。・ARIA-EおよびARIA-Hを発現した患者における投与の推奨は、臨床症状および画像判定による重症度によって異なる。ARIAの重症度に応じて、lecanemabの投与を継続するか、一時的に中断するか、あるいは中止するかは、臨床的に判断すること。・ARIAの大半はlecanemabによる治療開始後14週間以内にみられることから、この期間はとくに注意深く患者の状態を観察することが推奨される。ARIAを示唆する症状がみられた場合は臨床評価を行い、必要に応じてMRIを実施すること。MRIでARIAが観察された場合、投与を継続する前に慎重な臨床評価を行うこと。・症候性ARIA-E、もしくは無症候でも画像判定によって重度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した経験はない。無症候でも画像判定によって軽度から中等度のARIA-Eとされた場合に投与を継続した症例に関する経験は限られている。ARIA-Eの再発症例への投与データは限られている。[ARIAの発現率]・201試験において、lecanemab群の3%(5/161例)に症候性ARIAが発現した。ARIAに伴う臨床症状は、観察期間中に80%の患者で消失した。・無症候性ARIAを含めると、ARIAの発現率はlecanemab群の12%(20/161例)、プラセボ群の5%(13/245例)であった。ARIA-Eは、lecanemab群の10%(16/161例)、プラセボ群の1%(2/245)で観察された。ARIA-Hは、lecanemab群の6%(10/161例)、プラセボ群の5%(12/245例)で観察された。プラセボと比較して、lecanemab投与によるARIA-Hのみの発現率の増加は認められなかった。・直径1cmを超える脳内出血は、lecanemab群の1例で報告されたが、プラセボ群では報告されなかった。他の試験では、lecanemabの投与を受けた患者において、致死的事象を含む脳内出血の発生が報告された。[アポリポタンパク質Eε4(ApoEε4)保有ステータスとARIAのリスク]・201試験において、lecanemab群の6%(10/161例)がApoEε4ホモ接合体保有者、24%(39/161例)がヘテロ接合体保有者、70%(112/161例)が非保有者であった。・lecanemab群において、ApoEε4ホモ接合体保有者はヘテロ接合体保有者および非保有者よりも高いARIAの発現率を示した。lecanemabを投与された患者で症候性ARIAを発症した5例のうち4例はApoEε4ホモ接合体保有者であり、うち2例は重度の症状が認められた。lecanemab投与を受けた被験者で、ApoEε4ホモ接合体保有者ではApoEε4ヘテロ接合体保有者や非保有者と比較して症候性ARIAおよびARIAの発現率が高いことが、他の試験でも報告されている。・ARIAの管理に関する推奨事項は、ApoEε4保有者と非保有者で異ならない。・lecanemabによる治療開始を決定する際に、ARIA発症リスクを知らせるためにApoEε4ステータスの検査が考慮される。[画像による所見]・画像による判定では、ARIA-Eの多くは治療初期(最初の7回投与以内)に発現したが、ARIAはいつでも発現し、複数回発現する可能性がある。lecanemab投与によるARIA-Eの画像判定による重症度は、軽度4%(7/161例)、中等度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Eは画像による検出後、12週までに62%、21週までに81%、全体で94%の患者で消失した。lecanemab投与によるARIA-H微小出血の画像判定の重症度は、軽度4%(7/161例)、重度1%(2/161例)であった。ARIA-Hの患者10例のうち1例は軽度の脳表ヘモジデリン沈着症を有していた。[抗血栓薬との併用と脳内出血の他の危険因子について]・201試験では、ベースラインで抗凝固薬を使用していた被験者を除外した。アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬の使用は許可された。また、臨床試験中に併発事象の処置のため4週間以内の抗凝固薬を使用する場合は、lecanemabの投与を一時的に中断した。・抗血栓薬を使用した被験者はほとんどがアスピリンであり、他の抗血小板薬や抗凝固薬の使用経験は限られており、これらの薬剤の併用時におけるARIAや脳内出血のリスクに関しては結論づけられていない。lecanemab投与中に直径1cmを超える脳内出血が観察された症例が報告されており、lecanemab投与中の抗血栓薬または血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベーターなど)の投与には注意が必要である。・さらに、脳内出血の危険因子として、201試験においては以下の基準により被験者登録を除外している。直径1cmを超える脳出血の既往、4個を超える微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症、血管性浮腫、脳挫傷、動脈瘤、血管奇形、感染病変、多発性ラクナ梗塞または大血管支配領域の脳卒中、重度の小血管疾患または白質疾患。これらの危険因子を持つ患者へのlecanemabの使用を検討する際には注意が必要である。infusion reaction・lecanemabのinfusion reactionは、lecanemab群で20%(32/161例)、プラセボ群で3%(8/245例)に認められ、lecanemab群の多く(88%、28/32例)は最初の投与で発生した。重症度は軽度(56%)または中等度(44%)だった。lecanemab投与患者の2%(4/161例)において、infusion reactionにより投与が中止された。infusion reactionの症状には、発熱、インフルエンザ様症状(悪寒、全身の痛み、ふるえ、関節痛)、吐き気、嘔吐、低血圧、高血圧、酸素欠乏症がある。・初回投与後、一過性のリンパ球数の減少(0.9×109/L未満)がプラセボ群の2%に対して、lecanemab群の38%に認められ、一過性の好中球数の増加(7.9×109/Lを超える)はプラセボ群の1%に対して、lecanemab群の22%で認められた。・infusion reactionが発現した場合には、注入速度を下げ、あるいは注入を中止し、適切な処置を開始する。また次回以降の投与前に、抗ヒスタミン薬、アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイドによる予防的投与が検討される場合がある。

106.

褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

107.

2022年のプラクティスチェンジ【Oncology主要トピックス2022 泌尿器がん編】【Oncologyインタビュー】第42回

2022年に発表、論文化された泌尿器がんの重要トピックを国立がん研究センター東病院 腫瘍内科 近藤千紘氏が一挙に解説。今年の泌尿器がんにおけるプラクティスチェンジの要点がわかる。2022年のプラクティスチェンジ進行腎がんにおける標準治療は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の併用療法およびICIと血管新生阻害チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) の併用療法が主流になっている。2022年2月に、4種類目のICI+TKI療法である、ペムブロリズマブ+レンバチニブが適応承認となり、日常診療で用いられるようになった。この試験結果で、これまでの標準治療であったスニチニブと比較を行ったICI+TKI療法はすべて主要評価項目を達成したことになり、プラクティスチェンジとなったと結論付けられる。【CLEAR試験:307/KEYNOTE-581試験】また、腎がん領域では初となる術後薬物療法のペムブロリズマブが8月24日に保険適応を取得した。腎がんの術後薬物療法の開発は、TKIやmTOR阻害薬でこれまで評価されてきた。これらの薬剤は長期投与に伴う有害事象が問題となり、減量、中止をやむなくされることもあり、主要評価項目の無再発生存割合 (DFS)の延長は達成できても全生存割合 (OS)の改善までは示されず、各国で適応を取得するまでには至らなかった。ペムブロリズマブは、ICIで術後薬物療法の意義を検証した初の第III相試験であったが、DFSの延長という主要評価項目の達成のみで、保険適応を取得した。TKI単独療法と異なり、有害事象が比較的軽度であったことや、対象となる患者選択に成功した試験の結果を反映していると考えられる。【KEYNOTE-564試験】尿路上皮がんにおいて、ICIによる術後薬物療法として初となるニボルマブの保険適応が3月28日に承認された。尿路上皮がんのICIは、進行再発の2次治療としてペムブロリズマブが、1次治療のプラチナ併用化学療法後の維持療法としてアベルマブがすでに標準治療となっており、今回の保険承認は、さらに前の段階である術後における再発抑制効果を示したという薬物療法の歴史的な進歩の結果といえる。【CheckMate 274試験】非筋層浸潤性膀胱がんの術前化学療法では、長らくMVAC療法が無治療に比べてOSを改善する治療のエビデンスがあるとされてきた。しかしながら、毒性の強さには問題があることから、進行再発症例にて用いられるゲムシタビン+シスプラチン (GC)療法を用いることもガイドライン上では勧められてきた。進行再発症例におけるエビデンスとして、dose-dense MVAC療法は、MVAC療法に比べて安全性が高まり、病理学的奏効(pCR)割合が増加する治療法として注目され、術前化学療法での役割を期待された。2022年3月にJournal of Clinical Oncologyに出版された、筋層非浸潤性膀胱がんにおける術前療法としてのdose-dense MVAC(dd-MVAC)療法とGC療法のランダム化比較第III相試験の結果は、術前化学療法を考えさせられる重要なエビデンスであった。【VESPER試験:GETUG/AFU V05試験】【CLEAR試験; 307/KEYNOTE-581試験】1)2)CLEAR試験は、進行淡明細胞腎細胞がん患者を対象にレンバチニブ+ペムブロリズマブ併用療法(Len+Pem)および、レンバチニブ+エベロリムス併用療法(Len+Eve)をスニチニブ単剤(Sun)と比較するランダム化比較第III相試験であり、1069例の対象症例が各群に1:1:1でランダム化割付された。主要評価項目は独立中央画像判定による無増悪生存期間(PFS)であり、2つの試験治療群のSunに対するハザード比(HR)は0.714と設定されていた。Len+Pemには90%の検出力および両側α=0.045を、Len+Eveには70%の検出力および両側α=0.0049で統計設定された。3群に割り付けられた患者背景に偏りはなく、Len+Pem群のIMDC予後因子分類ではFavorable/Intermediate/Poor riskに27.0/63.9/9.0%が含まれていた。PFS中央値は、Len+Pem群は23.9ヵ月、Len+Eve群は14.7ヵ月、Sun群は9.2ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.39(95%信頼区間[CI]:0.32~0.49、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは0.65(95%CI:0.53~0.80、p<0.001)であり、いずれも優越性が示された。Key Secondary endpointのOSにもαが配分されており、中間解析時点においてLen+Pem群でα=0.0227、Len+Eve群でα=0.0320が優越性の基準とされていた。観察期間中央値26.6ヵ月の時点のOS中央値は、Len+Pem群 到達せず、Len+Eve群 到達せず、Sun群 30.7ヵ月であり、Len+Pem群のSun群に対するHRは0.66 (95%CI:0.49~0.88、p<0.001)、Len+Eve群のSun群に対するHRは1.15(95% CI:0.88~1.50、p<0.30)であり、Len+Pem群のみ優越性が示された。客観的奏効割合(ORR)は、Len+Pem群で71.0%、Sun群で36.1%であり、奏効期間中央値はそれぞれ25.8ヵ月および14.6ヵ月であった。安全性において、Grade3以上の重篤な有害事象がLen+Pem群は82.4%、Sun群は71.8%であったが、プレドニゾロン換算で40mg以上のステロイド使用は15%と比較的少ない印象の結果となっている。【KEYNOTE-564試験】3)4)この試験は、腎がん術後で再発ハイリスクの定義にあてはまる症例を、ペムブロリズマブあるいはプラセボで1年間治療を行い、主要評価項目はDFS、HR:0.67を片側α=0.025、検出力95%で検証する統計設定であった。また1回目の中間解析において、α=0.0114を消費することとしていた。報告は、1回目の中間解析、観察期間中央値24.1ヵ月時点のものである。994人の患者が2群にランダムに割り付けられた。再発ハイリスクの定義は、T2で核異型度4あるいは肉腫様分化あり、T3以上、N1、転移巣切除後(M1 NED)であったが、実際のペムブロリズマブ群の患者背景はintermediate-to-highリスクのT2-3N0M0が86.1%、high riskのT4あるいはN1が8.1%、M1 NEDが5.8%であり、プラセボ群もほぼ同等の割合であった。DFSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:0.68(95%CI:0.53~0.87、p=0.002)であり、ペムブロリズマブはプラセボと比較し再発のリスクを32%減少した。OSの結果はイベント数が少なく比較は困難であった。安全性に関し、重篤な有害事象はペムブロリズマブ群で32.4%、プラセボ群で17.7%とペムブロリズマブ群で多く認めたが、死亡はそれぞれ0.4%と0.2%と大きな差はなかった。なお、観察期間中央値30.1ヵ月時点のアップデートの結果が報告されたが、intermediate-to-highリスクのHRは0.68(95%CI:0.52~0.89)、highリスクのHRは0.60(95%CI:0.33~1.10)、M1 NEDのHRは0.28(95%CI:0.12~0.66)であり、いずれのリスクでも効果は十分ありそうだが、とくにM1 NEDにおいては治療の意義が大きいことが示唆される結果であった。【CheckMate 274試験】5)この試験は、筋層浸潤性尿路上皮がんの術後薬物療法として、ニボルマブとプラセボを比較したランダム化第III相試験であり、主要評価項目をDFSとし全体集団とPD-L1陽性(腫瘍のPD-L1発現;TPSで1%以上と定義)集団の両者に設定した。全体集団において、87%の検出力で両側α=0.025としHR:0.72、PD-L1陽性集団において、80%の検出力で両側α=0.025としHR:0.61を検証する統計設定となっていた。1回目の中間解析で全体集団ではα=0.01784、PD-L1陽性集団ではα=0.01282を消費することがあらかじめ決められていた。1回目の中間解析において、709例の患者がランダムに2群に割り付けられ、PD-L1陽性は282例であった。観察期間中央値は20.9ヵ月の時点であったが、全体集団のDFS中央値はニボルマブ群で20.8ヵ月、プラセボ群で10.8ヵ月であり、HR:0.70(95%CI:0.55~0.90)、p<0.001であった。またPD-L1陽性集団においては、HR:0.55(98.72%CI:0.35~0.85)、p<0.001と良好な結果を示した。なおOSの結果は現時点で報告はない。安全性においては、重篤な有害事象はニボルマブ群で42.7%、プラセボ群で36.8%であったが、新たなシグナルは認められなかった。本試験は、術後のニボルマブを検証した試験であったが、これまでの術後治療の試験にはない広い対象症例を含んでいた。シスプラチンに適格となる筋層浸潤膀胱がんでは術前化学療法(NAC)を行うことが標準であるため、このような集団では術後にypT2以上の残存病変がある場合に本試験に適格となった。一方シスプラチンに不適格となる筋層浸潤膀胱がんでは、NACのエビデンスはないため手術をまず行い、術後にカルボプラチンを含む化学療法を行うことを検討する。また上部尿路がんは術前の組織診断や病期診断が困難であるため、まず手術を選択することが多い。これらの手術先行症例においては、pT3以上であった場合にこの試験の対象となった。日常診療において、ニボルマブを必要な患者に届けるためには、術前からの治療計画を医療者だけでなく患者にも共有し、適切に治療を進めることが大切と思われる。【VESPER試験; GETUG/AFU V05試験】6)7)フランスで行われた周術期化学療法のランダム化比較第III相試験である。転移のない筋層浸潤性膀胱がんの患者をDose-dense MVAC療法(メトトレキサート30mg/m2 day1、ビンブラスチン3mg/m2 day2、ドキソルビシン30mg/m2 day2、シスプラチン70mg/m2 day2、G-CSF day3~9、2週ごと)6サイクルと、GC療法(ゲムシタビン1250mg/m2 day1、8、シスプラチン70mg/m2 day1、3週ごと)4サイクルの2群にランダムに割り付け、術前の症例は化学療法後に膀胱全摘術を行い、術後の症例は膀胱全摘後に化学療法を行った。主要評価項目は3年PFSであった。493例がランダム化され、PFS中央値はddMVAC群で64%、GC群で56%、HRは0.77(95%CI:0.57~1.02)、p=0.066であり、ネガティブな結果であった。副次評価項目であるpCR割合は、ddMVAC群で42%、GC群で36%(p=0.20)、OSはimmatureな段階ではあるが、ddMVAC群に良好な傾向(HR:0.74、95%CI:0.47~0.92)を認めていた。安全性では、重篤なものは両群同等であったが、ddMVAC群で多かったのは、貧血と無力症、消化器毒性であった。手術関連の合併症はGC群で20例、ddMVAC群で14例であった。NACかAdjuvantかを層別化因子に設定していたが、患者背景はAdjuvant症例においてリンパ節転移陽性がGC群73%、ddMVAC群60%、NAC症例ではcT4がGC群1.8%、ddMVAC群4.1%などと偏りがみられた。3年PFSにおける予後因子の多変量解析において、術前後の選択と化学療法の違いにinteractionがあったことから、Adjuvant症例とNAC症例は区別して検討することが望ましいと判明した。NAC症例においては、3年PFSはddMVAC群で66%、GC群で56%、HR:0.70(95%CI:0.51~0.96)、p=0.025であった。この結果を受けて米国National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでは、ddMVAC療法をPreferred regimenに指定した。このレジメンを実際に適用する場合には、本試験に登録された患者背景から、63歳前後(最高でも68歳まで)であることも考慮して十分な副作用対策を講じる必要があると考える。参考1)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.2)Motzer R, Alekseev B, Rha SY, et al. Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:1289.3)Choueiri TK, Tomczak P, Park SH, et al. Adjuvant Pembrolizumab after Nephrectomy in Renal-Cell Carcinoma. N Engl J Med 2021, 385:683.4)Powles T, Tomczak P, Park SH, et al. Pembrolizumab versus placebo as post-nephrectomy adjuvant therapy for clear cell renal cell carcinoma (KEYNOTE-564): 30-month follow-up analysis of a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol 2022,23:1133.5)Bajorin DF, Witjes JA, Gschwend JE, et al. Adjuvant Nivolumab versus Placebo in Muscle-Invasive Urothelial Carcinoma. N Engl J Med 2021, 384:2102.6)Pfister C, Gravis G, Fléchon A, et al. Dose-Dense Methotrexate, Vinblastine, Doxorubicin, and Cisplatin or Gemcitabine and Cisplatin as Perioperative Chemotherapy for Patients With Nonmetastatic Muscle-Invasive Bladder Cancer: Results of the GETUG-AFU V05 VESPER Trial. J Clin Oncol 2022, 40:2013.7)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Bladder Cancer. Version 2.2022

108.

がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022、利用者の意見反映

 『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂された。2016年の初版から分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療の知見が増えたことや腎障害にはさまざまな分野の医師が関与することを踏まえ、4学会(日本腎臓学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本腎臓病薬物療法学会)が合同で改訂に携わった。 本書は背景疑問を明確に定義する目的で16の「総説」が新たに記載されている。また、実用性を考慮して全体を「第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価」(治療前)、「第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法」(治療前)、「第3章 がん薬物療法による腎障害への対策」(治療中)、「第4章 がんサバイバーのCKD治療」(治療後)の4章にまとめている。とくに第4章は今回新たに追加されたが、がんサバイバーの長期予後が改善される中で臨床的意義を考慮したものだ。2022版のクリニカルクエスチョン(CQ)※総説はここでは割愛■第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価CQ 1 がん患者の腎機能(GFR)評価に推算式を使用することは推奨されるか?CQ 2 シスプラチンなどの抗がん薬によるAKIの早期診断に新規AKIバイオマーカーによる評価は推奨されるか?CQ 3 がん薬物療法前に水腎症を認めた場合、尿管ステント留置または腎瘻造設を行うことは推奨されるか?■第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法CQ 4 透析患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?CQ 5 腎移植患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?■第3章 がん薬物療法による腎障害への対策CQ 6 成人におけるシスプラチン投与時の腎機能障害を軽減するために推奨される補液方法は何か?CQ 7 蛋白尿を有する、または既往がある患者において血管新生阻害薬の投与は推奨されるか?CQ 8 抗EGFR抗体薬の投与を受けている患者が低Mg血症を発症した場合、Mgの追加補充は推奨されるか?CQ 9 免疫チェックポイント阻害薬による腎障害の治療に使用するステロイド薬の投与を、腎機能の正常化後に中止することは推奨されるか?CQ 10 免疫チェックポイント阻害薬投与に伴う腎障害が回復した後、再投与は治療として推奨されるか?■第4章 がんサバイバーのCKD治療CQ 11 がんサバイバーの腎性貧血に対するエリスロポエチン刺激薬投与は推奨されるか?アンケート結果で見る、認知度・活用度が低かった3つのCQ 本書を発刊するにあたり、日本腎臓学会、日本がんサポーティブケア学会、日本医療薬学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会の5学会は初版(2016年版)の使用に関する実態調査報告を行っている。回答者は1,466人で、学会別で見ると、日本腎臓学会から264人(アンケート実施時の会員数:約1万人)、日本臨床腫瘍学会から166人(同:9,276人)、日本癌治療学会から107人(同:1万6,838人)、日本医療薬学会から829人(同:1万3,750人)、日本がんサポーティブケア学会から25人(同:約1,000人)、そのほかの学会より74人の回答が得られた。 なかでも、認知度が低かった3つを以下に挙げる。これらは腎臓病学領域での認知度はそれぞれ、63.1%、69.7%、62.0%であったのに対し、薬学領域での認知度はそれぞれ52.9%、51.9%、39.5%。腫瘍学領域での認知度はそれぞれ49.5%、56.5%、43.2%と比較的低値に留まった。(1)CQ2:がん患者AKI(急性腎障害)のバイオマーカー(2)CQ14:CDDP(シスプラチン)直後の透析(3)CQ16:抗がん剤TMA(血栓性微小血管症)に対するPE(血漿交換) 認知度・活用度の低いCQが存在する理由の1つとして、「CQの汎用性の高さに比して、実用性に関しては当時十分に普及していなかった」と可能性を挙げおり、たとえば「CQ2は認知度55.2%、活用度59.8%とともに低値である。抗がん薬によるAKI予測は汎用性の高いテーマではあるが、2016年のガイドライン時点では、代表的なバイオマーカーである尿NGAL、尿KIM-1、NephroCheck(R)[尿中TIMP-2とIGFBP7の濃度の積]が保険適用外であった。しかし、尿NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)が2017年2月1日に保険適用となり、バイオマーカーの実用性が認識されてきた。加えて、エビデンスを評価できる論文も増加してきたことから、今回あらためてシステマティックレビューを行い、positive clinical utility index(CUI)が0.782でgood(0.64以上0.81未満)、negative CUIも0.915でexcellent(0.81以上)と高い評価が得られたことを、2022年のガイドラインで記載している」としている。 本ガイドラインに対する要望として最も多かったのは「腎機能低下時の抗がん薬の用量調整に関して具体的に記載してほしい」という意見であったそうで、「本調査結果を今後のガイドライン改訂に活かし、より実用的なガイドラインとして発展させていくことが重要」としている。

109.

baxdrostat、治療抵抗性高血圧で有望な降圧効果/NEJM

 治療抵抗性高血圧患者の治療において、選択的アルドステロン合成阻害薬baxdrostatは用量依存性に収縮期血圧の低下をもたらし、高用量では拡張期血圧に対する降圧効果の可能性もあることが、米国・CinCor PharmaのMason W. Freeman氏らが実施した「BrigHTN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2022年11月7日号で報告された。適応的デザインのプラセボ対照用量設定第II相試験 BrigHTN試験は、適応的デザインを用いた二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定第II相試験であり、2020年7月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングが行われた(米国・CinCor Pharmaの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、利尿薬を含む少なくとも3剤の降圧薬の安定用量での投与を受けており、座位平均血圧が130/80mmHg以上の患者であった。被験者は、3種の用量のbaxdrostat(0.5mg、1mg、2mg)またはプラセボを1日1回、12週間、経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、プラセボ群と比較したbaxdrostat群の各用量における、収縮期血圧のベースラインから12週目までの変化量とされた。副作用プロファイルは許容範囲 275例(baxdrostat 0.5mg群69例、同1mg群70例、同2mg群67例、プラセボ群69例)が無作為化の対象となり、248例(90%)が12週の試験を完遂した。各群の平均年齢の幅は61.2~63.8歳、男性の割合の幅は52~61%だった。全例が利尿薬の投与を受けており、91~96%がACE阻害薬またはARB、64~70%がカルシウム拮抗薬の投与を受けていた。 本試験は、事前に規定された中間解析で、独立データ監視委員会により顕著な有効性の基準を満たしたと結論されたため、早期中止となった。 ベースラインから12週までの収縮期血圧の最小二乗平均(LSM)(±SE)変化量は、baxdrostat群では用量依存性に低下し、0.5mg群が-12.1±1.9mmHg、1mg群が-17.5±2.0mmHg、2mg群は-20.3±2.1mmHgであった。 プラセボ群(LSM変化量:-9.4mmHg)と比較して、baxdrostat 1mg群(群間差:-8.1mmHg、95%信頼区間[CI]:-13.5~-2.8、p=0.003)および同2mg群(-11.0mmHg、-16.4~-5.5、p<0.001)では、収縮期血圧における有意な降圧効果が認められた。 一方、baxdrostat 2mg群における拡張期血圧のLSM(±SE)変化量は-14.3±1.31mmHgであり、プラセボ群との差は-5.2mmHg(95%CI:-8.7~-1.6)であった。 試験期間中に死亡例はなかった。重篤な有害事象は10例で18件認められたが、担当医によってbaxdrostatやプラセボ関連と判定されたものはなかった。副腎皮質機能低下症もみられなかった。 また、baxdrostatでとくに注目すべき有害事象は8例で10件発現し、低血圧が1件、低ナトリウム血症が3件、高カリウム血症が6件であった。カリウム値が6.0mmol/L以上に上昇した患者のうち2例は、投与を中止し、その後再投与したところ、このような上昇は発現しなかった。 著者は、「本試験により、アルドステロンは高血圧における治療抵抗性の原動力の1つであるとのエビデンスが加えられた」としている。

110.

第140回 long COVIDの偏見がまん延

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後に数週間や数ヵ月も続く不調・COVID-19罹患後症状(俗称:long COVID)の人のほとんどが社会からの偏見にも苛まれていることが英国での調査で浮き彫りになりました1,2)。英国の実に230万人がlong Covidを患っています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率は依然として高いことからその数は減っていません。long COVIDは治療がままならないこともその数の高止まりに加担しています。long COVID治療探しは一筋縄ではいかないようで、たとえば最近発表された試験結果ではプレドニゾロンのCOVID-19後嗅覚障害の改善効果は残念ながら認められませんでした3,4)。long COVIDの人はかなりの偏見に苛まれていると言われていますが、それがどれほどの負担になっているかはこれまで定かではありませんでした。そこで英国サウサンプトン大学等の研究者等は長引く不調でただでさえ生きづらくなっているlong COVIDの人がいわば泣きっ面に蜂の偏見でどれだけ難儀しているかを新たに開発された評価尺度を使って調べました。その試験はlong COVID患者団体(Long Covid Support)のからの意見も取り入れて設計されました。2年前の2020年のオンライン調査に参加した人にその1年後の2021年11月に案内を出し、以下の3種類の偏見に関する13の問いへの5択の回答をお願いしました。実際の偏見(enacted stigma):体調不良のせいで不当に扱われること内なる偏見(internalised stigma):自身の体調不良を恥じたり気にすること偏見の予感(anticipated stigma):体調不良で不利になると予想すること最終的に千人を超える1,166人から回答があり、そのほとんどを占める英国からの966人の情報が解析されました。解析の結果、ほぼ全員の95%が3種類の偏見のいずれか1つかそれ以上を少なくとも時々被っていました。また、8割近い76%の状況は深刻で、しばしばまたは常に偏見に直面していました。5人に3人(63%)は蔑ろにされたり付き合いを絶たれるなどの実際の偏見が少なくとも時々あり、91%はそういう実際の偏見の予感が少なくとも時々ありました。また、9割近い86%は体調不良を恥じたり、役立たずと感じたり、変わり者だと思い込むなどのlong COVID絡みの内なる偏見に少なくとも時々苛まれていました。そのような驚くばかりの偏見まん延2)はlong COVIDの人に肩身の狭い思いを強いているらしく、5人に3人(61%)はlong COVIDを打ち明けることに少なくとも時々は細心の注意を払っていました。また、3人に1人(34%)はlong COVIDを打ち明けたことを後悔したことが少なくとも時々ありました。今回の研究で使われた13の問い(“自身のlong COVIDのせいで相手が気まずそうだったことがある”等)への5択(ない、稀にある、時々ある、しばしばある、いつもそう)の回答結果に基づいてlong COVID患者が被る偏見のほどを表す検査が開発されています。long COVIDの人が被る偏見のほどの推移や、偏見を減らす取り組みの効果のほどを10分とかからず完了するその検査Long Covid Stigma Scale(LCSS)を使ってこれからは把握することができます。LCSSの開発を指揮した今回の試験の著者の1人Marija Pantelic 氏によると、long COVIDにつきまとう偏見はそれらの患者を害するのみならず社会や医療も損なわせもするようです。先立つ研究で喘息、うつ、HIVなどの他の長患いの偏見が社会をひどく不健全にすることがすでに示されています。偏見の恐れは人々を医療やその他の支援からおそらくより遠のかせ、その積み重ねが心身を蝕んでいきます。今回の試験では意外にもlong COVIDの診断を受けている人の方がそうではないlong COVIDの人に比べて偏見をより被っていました。その理由はわかりませんが、診断を受けた人ほど自身の体調を他の人により知らせているからなのかもしれません。その理由も含め、偏見がどこでどうやって発生するのか、どういう人が偏見を持ちやすいのか、どういうlong COVID患者が偏見を被りやすいのかを今後の試験で調べる必要があります2)。参考1)Pantelic M, et al. PLoS ONE . 2022;17:e0277317.2)Most people with long Covid face stigma and discrimination / Eurekalert3)Schepens EJA, et al.BMC Med. 2022;20:445.4)Prednisolone does not improve sense of smell after COVID-19 / Eurekalert

111.

痒みを速やかに改善するアトピー性皮膚炎抗体薬「ミチーガ皮下注用60mgシリンジ」【下平博士のDIノート】第109回

痒みを速やかに改善するアトピー性皮膚炎抗体薬「ミチーガ皮下注用60mgシリンジ」今回は、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体「ネモリズマブ(遺伝子組換え)注射剤(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、アトピー性皮膚炎に伴うそう痒を標的とした抗体医薬品であり、掻破行動による皮膚症状の悪化やそう痒の増強を防ぐことで、患者QOLの向上が期待されています。<効能・効果>アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2022年3月28日に承認され、8月8日より販売されています。本剤は、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬および抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬による適切な治療を一定期間施行しても、そう痒を十分にコントロールできない患者に投与します。<用法・用量>通常、成人および13歳以上の小児にはネモリズマブ(遺伝子組換え)として1回60mgを4週間の間隔で皮下投与します。本剤はそう痒を治療する薬剤であり、そう痒が改善した場合であっても本剤投与中はアトピー性皮膚炎の必要な治療を継続します。<安全性>国内第III相試験において、本剤投与群210例中122例(58.1%)に副作用が認められました。主な副作用は、アトピー性皮膚炎34例(16.2%)、サイトカイン異常11例(5.2%)、好酸球数増加および上咽頭炎各8例(3.8%)、蜂巣炎および蕁麻疹各7例(3.3%)でした。重大な副作用として、ウイルス、細菌、真菌などによる重篤な感染症(3.4%)、アナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難、蕁麻疹)などの重篤な過敏症(0.3%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、体内のリンパ球が産生するIL-31の働きを抑えることで、アトピー性皮膚炎のそう痒を改善します。2.血圧低下、息苦しさ、意識の低下、ふらつき、めまい、吐き気、嘔吐、発熱、咳、のどの痛みなどの症状が現れた場合はご連絡ください。3.そう痒が治まっていても、普段と異なる新たな皮疹が生じたり、悪化したりした場合は受診してください。4.刺激の強い食べ物やアルコール、タバコは控え、身体を清潔にして規則正しい生活を心がけましょう。睡眠中に皮膚をかかないように工夫して、皮膚刺激の少ない衣類を選択し、アレルゲン対策などにも留意しましょう。<Shimo's eyes>本剤は、アトピー性皮膚炎の「痒み」を誘発するサイトカインであるIL-31をターゲットとした世界初のヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体製剤です。そう痒に伴う掻破行動は、皮膚症状を悪化させ、さらに痒みが増強するという悪循環(Itch-scratch cycle)を繰り返すとともに、皮膚感染症や眼症状などの合併症を誘引する恐れがあります。また、そう痒はアトピー性皮膚炎患者において、寝られない、仕事や勉強に集中できない、など大きな悩みであり、そう痒が解消されることでQOLの改善が期待できます。アトピー性皮膚炎のそう痒に対する治療法としては、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬の併用のもとで、抗ヒスタミン薬の内服が推奨されています。シクロスポリン内服液も痒みを軽快させることが知られていますが、安全性の観点から対象患者や投与期間が限定されています。抗体医薬品としては、デュピルマブ皮下注(商品名:デュピクセント)が承認されていますが、皮疹の炎症が強い場合はデュピルマブ、そう痒を主訴とする場合はネモリズマブが選択されるなど、投与対象患者は異なると考えられます。本剤はアトピー性皮膚炎に伴うそう痒を治療する薬剤であり、本剤投与中はそう痒が改善した場合であっても、ステロイド外用薬、タクロリムス外用薬、デルゴシチニブ外用薬、保湿外用薬など、アトピー性皮膚炎の他の症状に対する治療は中止せずに継続します。経口ステロイド薬の急な中断にも注意が必要です。既存治療を実施したにも関わらず中等度以上のそう痒を有するアトピー性皮膚炎患者を対象とした国内第III相試験において、本剤投与開始16週後のそう痒変化率は、プラセボ群に比べて有意に改善しました。臨床試験において、投与翌日よりプラセボに対して有意な改善が認められ、多くの患者は治療開始から16週頃までには効果が発現しています。なお、2023年6月1日より、本剤は在宅自己注射指導管理料の対象薬剤となり、在宅自己注射が保険適用となりました。

112.

手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会

 『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き2022』が15年ぶりに改訂されるにあたり、9月17、18日にオンライン開催された第22回日本メンズヘルス医学会において、シンポジウム「LOHセッション」が開催された。本稿では検査値の改訂ポイントについて、伊藤 直樹氏(NTT東日本札幌病院泌尿器科 部長/外科診療部長)の発表内容からお伝えする(共催:株式会社コスミックコーポレーション)。 LOH症候群とは、“加齢あるいはストレスに伴うテストステロン値の低下による症候群”である。加齢に起因すると考えられる症状として大きく3つの項目があり、1)性腺機能症状(早期勃起の低下、性欲[リビドー]の低下、勃起障害など)、2)精神症状(うつ傾向、記憶力、集中力の低下、倦怠感・疲労感など)、3)身体症状(筋力の低下、骨塩量の減少、体脂肪の増加など)が挙げられる。見直された診断基準値、海外と違う理由 本手引きの改訂においてもっとも注目すべきは、主診断に用いる検査値が変わることである。2007年版の診断基準値では遊離テストステロン値(8.5pg/mL未満)のみが採用されていたが、2022年改訂版では総テストステロン値(250ng/dL未満)を主診断に用いることになる。その理由として、伊藤氏は「海外でのgold standardであること、総テストステロン値と臨床症状との関連性も認められること、健康男性のmean-2SD・海外ガイドラインも参考にしたこと」を挙げた。また、遊離テストステロン値は補助診断に用いることとし、LOH症候群が対象となり始める30~40歳代のmean-2SD値である7.5pg/mL未満とするに至った。これについて「RIA法の信頼性が問題視されていること、海外の値(欧州泌尿器学会では63.4pg/mLなど)と測定方法が異なり比較できないため」とコメントした。<LOH症候群の新たな診断基準>―――・総テストステロン値250ng/dL未満または・250ng/dL以上で遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満※各測定値にかかわらず総合的に判断することが重要で、テストステロン補充の妥当性を考慮し、「妥当性あり」と判断すれば、LOH症候群と診断する●注意点(1)血中テストステロン分泌は午前9時頃にピークを迎え夜にかけて低下するため、午前7~11時の間に空腹で採血すること。(2)2回採血について、日本では保険適用の問題もあるため、海外で推奨されているも本手引きではコメントなし。――― また、測定時に注意すべきは、総テストステロンの4割強は性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone brinding globulin)と強く結合しているため、SHBGに影響を与える疾患・状態にある患者の場合は値が左右される点である。同氏は「SHBGが増加する疾患として、甲状腺機能亢進症、肝硬変、体重減少などがある。一方で低下する疾患には、肥満、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性・糖尿病などがあるため、症状の原因となるようなリスクファクターの探索も重要であるとし、「メタボリックシンドローム(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)から悪性腫瘍などの消耗性疾患、副腎皮質・甲状腺など内分泌疾患、そしてうつ病などの精神疾患などLOH症候群に疑わしい疾患は多岐にわたるため、すぐに断定することは危険」と強調。「自覚症状、他覚的所見を総合的に判断し、ほかの疾患の存在も常に疑うべき」と指摘した。 さらに、診断基準の“測定値にかかわらず総合的に判断する”という点について、「アンドロゲン受容体の活性効率に影響するN末端のCAGリピートがアジア人は長く、活性効率が低い可能性がある。そのため、テストステロン値が基準値以上でも補充療法が有効の可能性がある」と説明した。 測定値とは別に、症状からLOH症候群か否かを定量的に判定する方法の1つとしてAMS(Aging Males' Symptoms)スコア1)が広く用いられている。これについて、同氏は「感度は高いが特異度は低いため、スクリーニングには推奨されない」と話した。一方でホルモン補充療法による臨床効果の監視には有用という報告もあることから、「全体の合計点だけを見るのではなく、それぞれの症状をピックアップし、患者に合わせて対応することが大切」と説明した。 最後に、診断を確定する前にはLOH症候群が原発性か二次性かの確認も必要なことから、「最終的にはLHおよびFSHを測定し二次性性腺機能低下症の有無を確認するために、その原因疾患を把握し、確認して欲しい」と締めくくった。

113.

ホルモン感受性前立腺がんに対するアビラテロン+プレドニゾロン+エンザルタミドの成績/ESMO2022

 転移のあるホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対して、アビラテロン+プレドニゾロン(AAP療法)にエンザルタミド(ENZ)を追加しても、全生存期間(OS)の改善はみられなかった。STAMPEDEプラットホームプロトコールの2つの無作為化第III相試験(AAP試験、AAP+ENZ試験)のメタ解析結果として、英国London's Global UniversityのGerhardt Attard氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:ADTによる標準治療を行うmHSPC患者・試験群: - ADT+AAP(アビラテロン1,000mg 1日1回+プレドニゾロン5mg 1日1回) [AAP試験 501例] - ADT+AAP+ENZ(160mg 1日1回)[AAP+ENZ試験 462例]・対照群:ADTのみ[AAP試験 502例、AAP+ENZ試験 454例]・主要評価項目:OS 主な結果は以下のとおり。・2011〜14年に1,003例の患者がAAPに(AAP試験)、2014〜16年に916例がAAP+ENZに無作為化された(AAP+ENZ試験)。・95.8ヵ月の追跡期間中央値において、ADT+AAPは対照群に対して有意にOSを改善していた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.53〜0.73、p=1.6×10-9)。・71.7ヵ月の追跡期間中央値において、ADT+AAP+ENZは対照群に対して有意にOSを改善していた(HR:0.65、95%CI:0.55〜0.77、p=1.4×10-6)。・AAP試験とAAP+ENZ試験の治療効果に関する相互作用のHRは1.05(95%CI:0.83〜1.32、p=0.71)であり、試験間に差は認められなかった(I2 p=0.7)。・無増悪生存期間(PFS)についても両試験間の差は示されなかった。・倦怠感や高血圧などの有害事象、Grade3/4の有害事象については、対照群、ADT+AAP、ADT+AAP+ENZの順で発現頻度が高い傾向があった。 以上の結果からAttard氏は、「mHSPC患者に対して、APPにENZを組み合わせてもOSの改善はみられなかった。一方で、ADPにAPPを追加することでOSの改善効果は7年間維持することが確認された」とまとめた。

114.

潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」【下平博士のDIノート】第107回

潰瘍性大腸炎治療で経口投与可能なα4インテグリン阻害薬「カログラ錠120mg」今回は、α4インテグリン阻害薬「カロテグラストメチル錠(商品名:カログラ錠120mg、製造販売元:EAファーマ)」を紹介します。本剤は、経口投与可能な潰瘍性大腸炎治療薬であり、新たな寛解導入療法の選択肢として期待されています。<効能・効果>中等症の潰瘍性大腸炎(5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2022年5月25日に薬価収載され、5月30日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはカロテグラストメチルとして1回960mg(8錠)を1日3回、食後に経口投与します。8週間投与しても、臨床症状や内視鏡所見などによる改善効果が得られない場合は、本剤の継続の可否も含めて治療法を再考します。なお、本剤と同一の機序を有する他剤において、進行性多巣性白質脳症(PML)の発現が報告されています。発現リスクを低減するため、投与期間は6ヵ月までとし、6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了します。本剤による治療を再度行う場合は、投与終了から8週間以上の間隔を空けます。<安全性>第II相試験および第III相試験の併合解析において、臨床検査値異常を含む副作用は、本剤投与群259例中48例(18.5%)で報告されました。主な副作用は、上咽頭炎5例(1.9%)、白血球数増加(4例)、頭痛、血中乳酸脱水素酵素増加各3例(1.2%)、腹部不快感、肝機能異常、発疹、関節痛、発熱各2例(0.8%)などでした。なお、重大な副作用として、進行性多巣性白質脳症(頻度不明)が設定されています。本剤投与中または投与終了後に意識障害、認知障害、麻痺症状(片麻痺、四肢麻痺)、言語障害などの症状が現れた場合は、MRIによる画像診断および脳脊髄液検査を行うとともに、投与を中止し、適切な処置を行います。<患者さんへの指導例>1.本剤は、過剰な免疫反応を抑えて腸管の炎症を抑えることで、潰瘍性大腸炎の症状を改善します。2.感染症にかかりやすくなったり悪化したりする場合があります。発熱、寒気、体がだるいなどの症状が現れた場合はご連絡ください。3.痙攣、意識の低下、意識の消失、しゃべりにくい、物忘れをする、手足の麻痺などの症状が現れた場合はご連絡ください。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性疾患であり、炎症が生じて症状が現れる「活動期」と症状が治まっている「寛解期」を繰り返すため、長期に渡る薬物療法が必要です。活動期の寛解導入治療として、軽症~中等症では経口5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が第1選択薬として広く使用されていて、効果不十分の場合は局所製剤(坐剤、注腸剤)の併用や経口ステロイド薬が用いられます。難治例では血球成分除去療法や免疫抑制薬、抗体製剤(抗TNFα抗体製剤、抗α4β7インテグリン抗体製剤、抗IL-12/23p40抗体製剤など)、あるいはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などが選択されます。本剤は、世界初の経口投与可能なα4インテグリン阻害薬であり、α4β1インテグリン、α4β7インテグリンの双方に作用し、大腸粘膜の病変部位に認められる炎症性細胞の過度な集積・浸潤を抑制することで、潰瘍性大腸炎の症状を抑えます。5-ASA製剤による適切な治療を行っても疾患に起因する明らかな臨床症状が残る中等症の患者に投与されます。活動期の炎症を抑える寛解導入療法に用いられる薬剤であり、再燃を防ぐ維持療法としては使用できないことに注意が必要です。なお、本剤と他の免疫抑制薬の併用について臨床試験は実施されていないので併用を避ける必要があります。既存のインテグリン阻害薬としては、中等症~重症患者に使用される抗α4β7インテグリン抗体製剤のベドリズマブ点滴静注用(商品名:エンタイビオ)があります。点滴を受けることが負担となっている患者にとって、本剤は大きなメリットがあると考えられます。服薬指導では、本剤はリンパ球の遊走を阻害するため、感染症に対する免疫能に影響を及ぼす可能性があるので、感染症の兆候が現れたらすぐに連絡するように伝えましょう。1回8錠を1日3回、つまり1日24錠を服用しなければならないので、アドヒアランス低下にも注意が必要です。

115.

理解されない患者の苦悩、新たなガイドライン、治療薬に期待

 2022年9月15日、アレクシオンファーマは「重症筋無力症ガイドライン改訂と適正使用に向けて」と題した重症筋無力症(以下、MG)の現状と新たなガイドラインに関するメディアセミナーを開催し、鈴木 重明氏(慶應義塾大学医学部神経内科 准教授)から「MGの現状」について、村井 弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科 部長)から「2022年5月のMG診療ガイドラインの改訂ポイントとユルトミリス適応追加の意義」について、それぞれ講演が行われた。MGの現状と患者の負担 鈴木氏は講演で、MGの現状、症状、それに伴う患者負担などを解説した。MGは、日本全国で約30,000人の患者がいると推定される最も頻度の高い神経免疫疾患で、近年では、高齢発症の患者が増加傾向にある。患者の20%は眼症状のみの眼筋型、80%が全身型とされており、疲れやすいこと(易疲労性)と筋力低下などの症状に日内変動がみられることが本疾患の特徴とされている。MGの症状で最も代表的なのが眼瞼下垂である。これに加え、目の焦点が合わない(斜視)、物が二重に見える(複視)など目の症状は多く、最初に眼科を受診するケースも多いという。このほか、構音障害や嚥下障害、椅子から立ち上がれない、腕が上がらないなどの全身症状は、患者の日常生活をさまざまな角度から脅かし、呼吸が苦しいなどのケースでは、非常に重篤なクリーゼにつながることもある。これらの症状は、一定ではなく波があることが多い。朝は調子が良く、夜にかけて症状が悪くなる、活動によりすぐ疲れてしまうものの、休むと回復する、などである。症状の波が悪化に向かった場合、レスキュー治療が必要となってしまうことから、患者は次の症状増悪への不安や、先の予定の立てにくさなどに悩まされることになる。また、周囲から理解されない、就労が困難になる、限られた日常診療で気付かれない(症状がないように見えてしまい診断に至らない)など、患者は非常につらい状況に置かれていると鈴木氏は述べた。MG診療ガイドライン改訂のポイント 2022年5月、MG診療ガイドラインが改訂された(『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』)。今回の改訂では、(1)MGの新しい分類を示した、(2)MGの診断基準を改訂した、(3)漸増・漸減の高用量経口ステロイドは推奨しないと明記した、(4)難治性MGを定義した、(5)分子標的薬(補体阻害薬)を追加した、(6)LEMS(ランバート・イートン筋無力症候群)を初めて取り上げ診断基準を示した、(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した、の7つがポイントであると村井氏は言う。新しいMGの分類では、MGを眼筋型(OMG)と全身型(gMG)に分け、全身型をAChR抗体陽性の早期発症(g-EOMG)、後期発症(g-LOMG)、胸腺腫関連(g-TAMG)、AChR抗体陰性のMuSK抗体陽性(g-MuSKMG)、抗体陰性(g-SNMG)に分けることで全6つに分類された。また、新たな診断基準では、「支持的診断所見(血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある)」が加わった。治療を行っていくうえでの基本的な考え方として、患者のQOLやメンタルヘルスを良好に保つことが重要視され、MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestationsレベル)の治療目標は踏襲、かつ完全寛解や早期MM-5mgに関連しないことから、漸増・漸減による高用量経口ステロイド療法は推奨されないと明記された。難治性MGについては、「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合と定義された。新たなMG診療ガイドラインと治療薬への期待 分子標的薬が加わったことで、治療戦略も変化した。現在では、胸腺摘除はあまり行われなくなり、ステロイドは初期から少量、免疫抑制薬の投与も初期から開始し、ステロイドを増量する代わりにEFT(早期速効性治療戦略)を繰り返していき、症状の波が抑えられない場合、分子標的薬を投与するといった治療の流れに変わってきた。今回の改訂版ガイドラインを参考にすることで、以前のようにステロイドを何十mgも使用することはなくなるだろうと、村井氏は強調した。 MGに対する新たな治療選択肢として加わったユルトミリスは、8週に1回の投与で症状の波を抑え、安定化が期待できることから、頻回な通院が大変な患者に対してとくに期待される薬剤である。村井氏は、今後MGに対してさまざまな分子標的薬が登場することが見込まれており、MG診療は新たなステージに入っている、だからこそMG患者を見逃さず、治療に結び付けていくことが重要だと訴え、講演を締めくくった。

116.

サル痘予防が追加された乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」【下平博士のDIノート】第105回

サル痘予防が追加された乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」今回は、「乾燥細胞培養痘そうワクチン(商品名:乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16[KMB]、製造販売元:KMバイオロジクス)」を紹介します。本剤は、世界で感染が拡大しているサル痘の発症予防に用いることができる国内唯一のワクチンです。<効能・効果>本剤は、2004年1月に「痘そうの予防」の適応で販売され、2022年8月に「サル痘の予防」が追加されました。<用法・用量>本剤は、添付の溶剤(20vol%グリセリン加注射用水)0.5mLで溶解し、通常、二叉針を用いた多刺法により皮膚に接種します。回数は15回程度を目安とし、血がにじむ程度に圧刺します。なお、他の生ワクチンを接種した人には、通常27日以上の間隔を置いて本剤を接種します。他のワクチンとは、医師が必要と認めた場合は同時に接種することができます。<安全性>主な副反応は、接種部位圧痛、熱感、接種部位紅斑などの局所反応ですが、約10日後に全身反応として発熱、発疹、腋下リンパ節の腫脹を来すことがあります。また、アレルギー性皮膚炎、多形紅斑が報告されています。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)、けいれん(0.1%未満)が設定されています。<使用上の注意>本剤は-20℃~-35℃で保存します。ゴム栓の劣化や破損などの可能性があるため、-35℃以下では保存できません。添加物としてチメロサール(保存剤)を含有してないため、栓を取り外した瓶の残液は廃棄します。<患者さんへの指導例>1.本剤を接種することで、痘そうウイルスおよびサル痘ウイルスに対する免疫ができ、発症や重症化を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは接種を受けることができません。3.本剤はゼラチンを含むため、これまでにゼラチンを含む薬や食品によって蕁麻疹、息苦しさ、口唇周囲の腫れ、喉の詰まりなどの異常が生じたことがある方は申し出てください。4.BCG、麻疹、風疹ワクチンなどの生ワクチンの接種を受けた場合は、27日以上の間隔を空けてから本剤を接種します。5.接種を受けた日は入浴せず、飲酒や激しい運動は避けてください。6.接種翌日まで接種を受けた場所を触らないようにしてください。接種翌日以後に、水ぶくれやかさぶたが出る場合がありますが、手などで触れないようにして、必要に応じてガーゼなどを当ててください。7.(妊娠可能な女性に対して)本剤接種前の約1ヵ月間、および接種後の約2ヵ月間は避妊してください。<Shimo's eyes>サル痘は、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによる感染症です。これまでは主にアフリカ中央部から西部にかけて発生してきました。2022年5月以降は欧米を中心に2万7千例以上の感染者が報告されていて、常在国(アフリカ大陸)から7例、非常在国からの4例の死亡例が報告されています(8月10日時点)。WHOによると、現在報告されている患者の大部分は男性ですが、小児や女性の感染も報告されています。国内では感染症法において4類感染症に指定されていて、届出義務の対象です。サルという名前が付いていますが、もともとアフリカに生息するリスなどのげっ歯類が自然宿主とされています。感染した人や動物の体液・血液や皮膚病変、飛沫を介して感染します。潜伏期間は通常7~14日(最大5~21日)で、発熱、頭痛、リンパ節腫脹などの症状に続いて発疹が出現します。ただし、常在国以外での感染例では、これまでのサル痘の症状とは異なる所見が報告されています。確定診断は水疱などの組織を用いたPCR検査で行います。通常は発症から2~4週間後に自然軽快することが多いものの、小児や免疫不全者、曝露量が多い場合は重症化することがあります。国内ではサル痘に対する治療方法は対症療法のみで、承認されている治療薬はありません。欧米では、天然痘やサル痘に対する経口抗ウイルス薬のtecovirimatが承認されています。日本でも同薬を用いた特定臨床研究が始まりました。乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」は、もともと痘そう予防のワクチンとして承認を受けていましたが、2022年8月にサル痘予防の効能が追加されました。本剤はWHOの「サル痘に係るワクチンおよび予防接種の暫定ガイダンス(2022年6月14日付)」において、安全性の高いワクチンであり、サル痘予防のために使用が考慮されるべき痘そうワクチンの1つに挙げられています。本剤は、サル痘や天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属の1つであるワクチニアウイルス(LC16m8株)の弱毒化生ワクチンです。ウイルスへの曝露後、4日以内の接種で感染予防効果が得られ、14日以内の接種で重症化予防効果が得られるとされています。接種後10~14日に検診を行い、接種部位の跡がはっきりと付いて免疫が獲得されたことを示す善感反応があるかどうかを確認します。他の生ワクチンと同様に、ワクチンウイルスの感染を増強させる可能性があるので、プレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイド、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンなどの免疫抑制薬は併用禁忌となっています。

117.

第124回 全数把握見直し、流れ弾に当たるのは肥満の自覚がない自宅療養者

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、保健所や医療機関の負担増になっていたと言われる全数把握の見直しが31日にスタートした。今回の措置は厚生労働省がわざわざ「緊急避難措置」と銘打っているが、申し出を行った都道府県では新型コロナ発生届を簡略化できる。具体的には、全数把握から患者発生届義務の対象者を▽65歳以上▽入院を要する▽重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与が必要▽重症化リスクがあり、罹患により新たに酸素投与が必要▽妊婦、の範囲に限定する。9月2日からのスタート第1陣に名乗りを上げたのは宮城、茨城、鳥取、佐賀の4県。各地で不満がたまっていただろうと思われたわりには、手を挙げた自治体は思いのほか少なかった。さて今回の緊急避難措置に関する厚生労働省の事務連絡通知を眺めてみると、やはり急ごしらえである感は否めない。たとえば新制度に切り替えた都道府県では、前述のように発生届対象は限定されるが、対象外を含めた毎日の患者総数と年代別の内訳はなるべく把握するよう求められている。この点について事務連絡通知では以下のような記述がある。「医療機関が紙又はExcelで作成し、FAX又はメールで提出を求めることが想定される。ただし、報告様式や提出方法についてはこれに限るものではなく、都道府県において工夫し、より効率的な方法で行っていただくことは差し支えない。この際、都道府県が医療機関から直接報告を受ける等、効率的な運用を工夫いただきたい」もちろん、従来の全患者を把握するために厚生労働省が開発した「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(My HER-SYS)」への入力に比べれば、対象を限定し、それ以外は総数と年代別内訳を報告すれば良いという新制度で医療機関の負荷は改善されるだろう。しかし、HER-SYSと総数報告の2ルートでの報告が必要になるわけで、それ相当に現場は混乱するだろう。しかもこれを「都道府県が医療機関から直接報告を受ける等」となると、都道府県側は紙ベース、電子ベース、あるいはその混合の膨大なデータを集計することになり、事務方で汗水を流す作業が発生することになる。それを避けるためには都道府県が独自の電子集計システムを構築し、それを各医療機関に公開して入力してもらうという手が考えられる。しかし、そのためには予算確保と実際のシステム構築、運用テストが必要であり、一朝一夕に対応できるものではない。実際にシステムが運用できる段階になったとしても医療機関への周知徹底はこれまた大変な作業である。現在、都道府県単位でみると最も医療機関数が少ない鳥取県ですら984施設もある。もちろん各地域の医師会などを通じればやや効率的だが、それでも医療機関数が1万施設を超える首都圏や近畿圏の各自治体となると、かなり労力を割かねばならなくなる。この辺が今のところ手を挙げたのが4県にとどまる1つの理由かもしれない。そしてこの新たな発生届の対象でもやや面倒が生じる可能性がある。その代表例が報告対象となる「重症化リスクがあり、新型コロナ治療薬の投与が必要」という基準だ。通知では「新型コロナ治療薬」の範囲も厚生労働省作成の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」に記載された治療薬がすべて網羅されており、文言上は至極まっとうだ。しかし、昨年のデルタ株による第5波で自宅療養者が増えた際にかなり問題となったのが、「隠れ重症化リスク」とでもいうべき肥満者の存在である。保健所のフォローアップ中に若年で重症化リスクはないと思われていたものの、実際に容体が急変して医師が駆け付けると肥満者で、血液検査を実施すると血糖値も高く、医療機関を受診したこともなかったので本人も気づいていなかったというケースだ。血糖値が高ければ、当然ながら緊急避難的なステロイド薬も使いにくい。一応、これまでの新型コロナワクチン接種の初回優先接種対象者や4回目接種対象者で「BMI 30以上」と規定はあるものの、そもそも一般人の多くは日常的に自分のBMIを計算しているわけではない。そのため自分が該当者と自覚していない人がそれなりに存在すると考えられる。というか、薄々気づいていても認めたくない人も少なくないだろう。医療従事者も「あなたは肥満ですか?」とは尋ねにくいケースも少なからず想定される。いずれにせよ、この部分は新制度では抜け落ちる危険性がある。そして都道府県による手挙げにした結果として、隣接する自治体で対応が変わってしまうケースも起こりえる。とくに首都圏のように居住地、勤務地が自治体をまたぐことが普通の地域では、そのことに伴う混乱も想定しなければならない。さらにすでに多くの自治体が懸念を示しているのが無症状・軽症者の自宅療養者の取り扱いだ。新制度を使えば、こうした人はMy HER-SYSへの登録が不要となるため、療養証明を入手できなくなる。すでに新型コロナに関わる民間医療保険では、新制度の報告対象者以外は保険金支払いの対象外にする見込みだと報じられているが、その場合、非対象者が支払った保険料の扱いはどうなるのか? さらに、勤務先などに療養証明提出などは求めないように国は再三呼び掛けているものの、それも十分ではない。ここに挙げた懸念はほんの一部に過ぎない。私個人は以前から新興感染症では逐次最適化、今風に言えば「アジャイル」な対応が必要だと主張しているが、第7波真っ盛りの中で、これほど多くの問題を置き去りにして進む今回の新制度に関しては「アジャイル」ではなく完全な「泥縄」だと言わざるを得ない。

118.

関節炎発症前のメトトレキサート、関節リウマチの発現を抑制するか/Lancet

 関節リウマチの治療は、通常、関節炎が臨床的に明らかになってから開始される。オランダ・ライデン大学医療センターのDoortje I. Krijbolder氏らは、「TREAT EARLIER試験」において、関節炎の発症前に関節の不顕性炎症がみられる段階で、関節リウマチの基本的な治療薬であるメトトレキサートの早期投与を開始すると、臨床的な関節炎の発現を予防し、疾病負担が軽減されるかについて検討を行った。その結果、プラセボと比較して、2週間以上持続する関節炎の予防効果は認められなかったものの、MRI上の炎症所見や関連症状、身体機能障害が持続的に改善したことから、疾患の経過が修飾されたと考えられた。研究の詳細は、Lancet誌2022年7月23日号に掲載された。オランダの概念実証試験 TREAT EARLIER試験は、単施設(ライデン大学医療センター)でスクリーニング、フォローアップのための受診、エンドポイントの評価が行われた二重盲検無作為化プラセボ対照概念実証試験であり、2015年4月~2019年9月の期間に、オランダ南西地域の13のリウマチ専門の外来診療所で参加者が登録された(オランダ科学研究機構[NWO]の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的に関節リウマチへの進展が疑われる関節痛を有し、MRIで関節の不顕性の炎症が検出された患者であった。 被験者は、グルココルチコイド単回筋肉内注射(メチルプレドニゾロン120mg)後に経口メトトレキサート(最大25mg/週)を52週投与する群、またはプラセボ単回筋肉内注射後にプラセボ錠剤を52週投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。フォローアップは、1年の治療期間終了後、さらに1年間継続された。 主要エンドポイントは、2週間以上持続する臨床的関節炎(関節リウマチ分類基準[2010年]を満たす、または2ヵ所以上の関節で炎症を認める)の発現とされた。副次エンドポイントは、患者報告による身体機能、症状、労働生産性で、4ヵ月ごとに評価が行われた。また、MRIで検出された炎症の経過も調査された。有害事象は既知の安全性プロファイルと一致 236例が登録され、メトトレキサート群に119例(平均年齢46歳、女性62%)、プラセボ群に117例(47歳、68%)が割り付けられた。メトトレキサート群で抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)陽性例の割合が高かった(26% vs.20%)。フォローアップ期間中に、メトトレキサート群で3例(3%)、プラセボ群で5例(4%)が脱落した。 治療開始から2年の時点で、2週間以上持続する臨床的関節炎の発症は両群で同程度であり、メトトレキサート群が119例中23例(19%)、プラセボ群は117例中21例(18%)で認められた(ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.45~1.48)。 身体機能は、最初の4ヵ月間はメトトレキサート群でより改善され、その後もプラセボ群よりも良好な状態が保持された(2年間の健康評価質問票身体機能障害指数[HAQ、0~3点]の平均群間差:-0.09点、95%CI:-0.16~-0.03、p=0.0042)。 同様に、関節痛(0[無症状]~100[考えうる最悪の症状]点で評価の平均群間差:-8点、95%CI:-12~-4、p<0.0001)、朝の関節のこわばり(0~100点で評価の平均群間差:-12点、95%CI:-16~-8、p<0.0001)、プレゼンティズム(疾病就業)(Work Productivity Impairment Scaleで評価した過去1週間の関節症状による労働生産性の低下の割合の平均群間差:-8%、95%CI:-13~-3、p=0.0007)、MRIで検出された関節の炎症所見(滑膜炎、骨炎、腱鞘滑膜炎の合計の平均群間差:-1.4点、95%CI:-2.0~-0.9、p<0.0001)も、プラセボ群に比べメトトレキサート群で持続的に改善された。 重篤な有害事象の発生は両群で同等であり(メトトレキサート群119例中13例[11%]vs.プラセボ群117例中13例[11%])、メトトレキサート群の有害事象は既知の安全性プロファイルと一致していた。フォローアップ期間中に死亡例はなかった。 著者は、「より長期の疾患の経過、疾患活動性、生物学的製剤(bDMARD)の必要性、臨床的に関節炎を発症した患者におけるDMARD-freeの寛解を評価するために、5年間のフォローアップを行う観察的継続試験が進行中である。また、今回のデータからは、有効性はメトトレキサートとグルココルチコイドのどちらによるものかが推定できないため、これを明らかにする研究が求められる」としている。

119.

マスタープロトコルという研究プログラムの事前登録のあり方(解説:折笠秀樹氏)

 マスタープロトコルという研究プログラムが、ここ5年くらいで多くみられるようになりました。最初はがん治療においてでした。がん種ごとに治療薬の比較試験を行うのではなく、分子標的マーカーが陽性か陰性かによって、がん種にこだわらず比較試験が行われました。疾患に対して比較試験を行うという従来方式ではなく、バイオマーカー陽性に対して比較試験を行う方式です。そこでは疾患は何でもよいわけです。これがバスケットデザインと呼ばれるマスタープロトコルです。NCI-MATCHの例が挙がっています。 一方、がん種は1つに固定し、その中で数種類のバイオマーカーを取り上げ、バイオマーカーごとに比較試験を組む形の臨床試験です。これをアンブレラデザインと呼んでいます。どのマーカーに反応する治療薬が効果を発揮するかわからないので、どちらかというと探索的目的が強いと思われます。ALCHEMISTの例が挙がっています。 最後のマスタープロトコルの例は、COVID-19で登場したプラットフォームデザインです。COVID-19の治療法開発というプラットフォームを考え、その中でいろんな治療法を評価するプロトコルを次々と増やしていくものです。RECOVERYの例が挙がっています。ホームページもありますが、現時点では5つほどプロジェクトが走っているようです。英国主導で立ち上がったプロジェクトで、国際共同試験が行われています。あのビルゲイツ財団も資金提供しています。COVID-19は残念ながらまだ収束しておりません。いつ強力なウイルスが誕生するとも限りません。抗ウイルス薬のほかにもステロイド薬やモノクローナル抗体薬など、いろんな可能性がこのプラットフォームの中で評価されていくことでしょう。 マスタープロトコルとは、いろんなサブスタディからなる壮大なプログラムです。複数の臨床試験の集合体ともいえます。現在は、マスタープロトコルとして事前登録されていますが、サブスタディごとに事前登録をすべきだというのが結論のようです。私も同感です。RECOVERY試験というのが始まり、日本も加わるべきだと武見参議院議員がテレビ番組で紹介しているのを聞きました。2021年の中ごろだったかと思います。どんな臨床試験かと思い、すぐに調べましたが、まったく理解できませんでした。それも無理はありません。いくつかの臨床試験をまとめたプログラムだったからです。個々の臨床試験、すなわちサブスタディごとに論文も発表されることでしょうから、サブスタディを事前登録すべきというのは当然のことではないでしょうか。

120.

中等症~重症クローン病、ウステキヌマブvs.アダリムマブ/Lancet

 生物学的製剤未使用の中等症~重症活動期クローン病患者に対する導入療法および維持療法として、ウステキヌマブ単剤療法とアダリムマブ単剤療法はいずれも高い有効性を示し、主要評価項目に両群で有意差はなかった。米国・マウントサイナイ医科大学のBruce E. Sands氏らが、18ヵ国121施設で実施した無作為化二重盲検並行群間比較第IIIb相試験「SEAVUE試験」の結果を報告した。ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体ウステキヌマブと、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体アダリムマブは、いずれもクローン病の治療薬として承認されているが、どちらもプラセボ対照比較試験の結果に基づいており、患者への説明や医師の治療選択にとっては直接比較する実薬対照試験が必要であった。Lancet誌オンライン版2022年6月11日号掲載の報告。386例をウステキヌマブ群とアダリムマブ群に無作為化 研究グループは、生物学的製剤による治療歴のない18歳以上の中等症~重症活動期クローン病患者を、ウステキヌマブ群またはアダリムマブ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。適格基準は、クローン病活動指数(CDAI)スコアが220~450点、生物学的製剤未使用で従来の治療が無効または不耐容(あるいは副腎皮質ステロイド依存性)、ベースラインの内視鏡評価で1つ以上の潰瘍を有する患者とした。 ウステキヌマブ群は、約6mg/kgを初日(Day 0)に静脈内投与し、その後56週まで8週に1回90mgを皮下投与した。また、アダリムマブ群は、初日に160mg、2週目に80mg、その後56週まで2週に1回40mgを皮下投与した。いずれも単剤投与とし、投与量は変更しないこととした。 主要評価項目は、無作為割り付けされた全患者(intention-to-treat集団)における52週時の臨床的寛解率(CDAIスコア<150を達成した患者の割合)であった。 2018年6月28日~2019年12月12日の間に、633例が適格性を評価され、386例がウステキヌマブ群(191例)またはアダリムマブ群(195例)に割り付けられた。52週時の臨床的寛解率はウステキヌマブ群65%、アダリムマブ群61% ウステキヌマブ群では191例中29例(15%)、アダリムマブ群では195例中46例(24%)が52週時までに治療を中止した。 52週時の臨床的寛解率は、ウステキヌマブ群65%(124/191例)、アダリムマブ群61%(119/195例)であり、両群間に有意差は認められなかった(群間差4%、95%信頼区間[CI]:-6~14、p=0.42)。 安全性については、両群ともこれまでの報告と一致していた。重篤な感染症は、ウステキヌマブ群で191例中4例(2%)、アダリムマブ群で195例中5例(3%)が報告された。試験開始後52週時までの死亡例はなかった。

検索結果 合計:453件 表示位置:101 - 120