サイト内検索|page:16

検索結果 合計:632件 表示位置:301 - 320

301.

スタチン不耐に関する診療指針2018」で治療中断を食い止める

 スタチンは心筋梗塞をはじめ、動脈硬化によって生ずる心血管イベントを予防するためには必要不可欠であると、日本人を含むさまざまなデータにおいて報告がある。しかし、その服用継続が困難な「不耐」については日本人のデータが確立していないどころか、適切なLDLコレステロール低下療法が実践されているのかさえ不明瞭である。2018年9月26日、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナー「スタチン不耐について」が開催され、梶波 康二氏(金沢医科大学循環器内科学主任教授/スタチン不耐ワーキンググループ委員長)が登壇し、スタチン不耐に関する診療指針2018作成の経緯について語った。スタチン不耐に該当する患者は意外にも多い スタチンの服用中断は決して稀なことではないという。スタチン服用継続困難な状態(服用に伴う有害事象、検査値異常、ほかの継続服用を妨げる事象や懸念)のことをスタチン不耐と呼び、この患者が占める割合はスタチンの服用が必要な患者の10%1)に及ぶ。また不耐には、部分不耐(ある種のスタチンのある投与量で)と完全不耐(すべてのスタチンのあらゆる投与量で)が知られている。 前述のとおり、スタチンがまったく飲めないのではなく、なんらかの理由によって飲めない患者も含まれるため、同氏は「薬が服用できない原因をしっかり確認し、それを克服することがスタチンを有効に使用するうえで重要な課題である」と問題提起した。スタチン中断に対するさまざまな問題点が指針作成へ発展 スタチン服用による有害事象は多岐に渡るが、なかでもエビデンスより明らかな筋関連障害と肝酵素の上昇に焦点が当てられメカニズムの解明が進められている。欧州ではスタチン関連筋障害の管理指針2)が発表されているが、欧州と日本では認可されている投与量が異なるため、同氏は、「日本人にこれを直接当てはめるのは注意が必要」と指摘。また、「スタチン関連筋障害には遺伝子多型の影響があるが、欧州で報告された遺伝素因は日本人における筋障害に対し影響は小さかった。日本人の中でどういう人がスタチンと相性が悪いのかを、日本人で検証することが必要である」と示唆し、「このような日本人における有害事象のデータを明らかにするために、日本肝臓学会、日本神経学会、日本薬物動態学会の協力を得て、診療指針を作成する運びとなった。スタチン継続困難な患者と共に考える道筋を学会としてアプローチしていく」とコメントした。Nocebo効果が筋関連障害の患者を増やしている スタチンの筋関連障害では、Nocebo効果が認められた論文3)が報告されており、プラセボを服用した時だけに筋症状が出た患者が、参加者の30%にも及んでいる。患者が筋関連障害を訴えた場合は、プラセボ効果とは逆のNocebo効果があることを考慮し、同氏は、「患者にもその旨を伝え、診察時は患者と共に対応を協議することが重要」と、患者の訴えを鵜呑みにした際のリスクについて語った。スタチン不耐克服のためにワーキンググループが取り組む課題と対策 不足している日本人のデータを取り揃えるため、ワーキンググループはPMDAに申請を行い、情報収集ならびに分析を開始している。これを踏まえ、同氏は「日本人のスタチン服用にまつわる有害事象の詳細な解析の第一歩を踏み出している。われわれが作成する“スタチン投与時の有害事象に対するフローチャート”を共有し、どのような患者にどういうことが起きているのかを登録する仕組みを確立したい。そして、日本人のスタチン継続困難な理由は何かについて、科学的な分析をさらに発展させたい」と述べ、「10%は不耐な患者が存在すると推測される。そのような患者にどうアプローチをしていくのかを主治医に依存するのではなく、指針作成を通して共通の方向性を設定し、問題解決の方策を見いだしていくことが、日本人の心血管予防をさらに充実させる診療につながる」とまとめた。■参考1)Nagar SP, et al.Circ J.2018;82:1008-1016.2)Stroes ES, et al.Eur Heart J.2015;36:1012-1022.3)Nissen SE, et al.JAMA.2016;315:1580-1590.■関連記事スタチン不耐容患者へのエボロクマブ vs.エゼチミブ/JAMA

302.

スタチンによる高齢者のCVイベント1次予防 DM vs.非DM/BMJ

 スタチンは、非2型糖尿病の75歳以上の高齢者の1次予防では、アテローム動脈硬化性心血管疾患および全死因死亡を抑制しないのに対し、2型糖尿病の75~84歳の高齢者の1次予防では、これらの発生を有意に低減することが、スペイン・ジローナ大学のRafel Ramos氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2018年9月5日号に掲載された。スタチンは、75歳以上の高齢者の2次予防において、心血管イベントや心血管死の抑制効果が確立されており、最近の数十年で高齢者への処方が増加しているが、とくに85歳以上の高齢者の1次予防における有効性のエビデンスは不十分だという。スタチンの効果について年齢との関連を糖尿病の有無別に後ろ向きに評価 研究グループは、高齢者および超高齢者の1次予防におけるスタチン治療の、アテローム動脈硬化性心血管疾患および死亡の抑制効果を、糖尿病の有無別に評価する後ろ向きコホート研究を行った(スペイン科学イノベーション省の助成による)。 データの収集には、600万例以上(カタルーニャ地方の80%、スペイン全体の10%に相当)の、匿名化された長期的な患者記録の臨床データベース(Spanish Information System for the Development of Research in Primary Care[SIDIAP])を用いた。 対象は、臨床的にアテローム動脈硬化性心血管疾患が確認されていない75歳以上の高齢者であり、2型糖尿病の有無およびスタチンの非使用/新規使用で層別化した。 傾向スコアで補正したCox比例ハザード回帰モデルを用いて、スタチン使用の有無別にアテローム動脈硬化性心血管疾患および全死因死亡のハザード比(HR)を算出した。また、2型糖尿病の有無別に、薄板回帰スプライン(thin plate regression splines)を用いた連続的尺度で、年齢別(75~84歳、85歳以上)のスタチンの効果を解析した。スタチンは2型糖尿病の75~84歳で死亡リスク16%低減、90代では効果消失 2006年7月~2007年12月の期間に組み入れ基準を満たした4万6,864例(75~84歳:3万8,557例、85歳以上:8,307例)が登録され、このうち7,502例(16.0%)がスタチン治療を開始していた(75~84歳:6,558例、85歳以上:944例)。7,880例(16.8%)が2型糖尿病(75~84歳:6,641例、85歳以上:1,239例)であった。ベースラインの全体の平均年齢は77歳、女性が63%だった。 非糖尿病群では、75~84歳のスタチン使用者におけるアテローム動脈硬化性心血管疾患のHRは0.94(95%信頼区間[CI]:0.86~1.04)、全死因死亡のHRは0.98(0.91~1.05)であり、いずれも有意な関連は認めなかった。また、85歳以上のスタチン使用者のHRは、アテローム動脈硬化性心血管疾患が0.93(0.82~1.06)、全死因死亡は0.97(0.90~1.05)と、いずれも有意な関連はみられなかった。 これに対し、糖尿病群では、75~84歳のスタチン使用者におけるアテローム動脈硬化性心血管疾患のHRは0.76(95%CI:0.65~0.89)、全死因死亡のHRは0.84(0.75~0.94)と、いずれも有意な関連が認められた。また、85歳以上のスタチン使用者のHRは、それぞれ0.82(0.53~1.26)、1.05(0.86~1.28)であり、有意な差はなかった。 同様に、スプラインを用いた連続的尺度における年齢別のスタチンの効果の解析では、非糖尿病群の75歳以上の高齢者では、アテローム動脈硬化性心血管疾患および全死因死亡に対するスタチンの有益な作用は認めなかった。 このように、スタチンは、糖尿病群では動脈硬化性心血管疾患および全死因死亡に対し保護的な作用を示したが、この効果は85歳以上では実質的に低下し、90代では消失した。 著者は、「これらの結果は、高齢者および超高齢者へのスタチンの広範な使用を支持しないが、75~84歳の2型糖尿病患者へのスタチン治療を支持するもの」としている。

303.

発症時年齢は1型糖尿病患者の心血管疾患リスクに関連する(解説:住谷哲氏)-917

 1型糖尿病患者の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが2型糖尿病と同様に増加することは、本論文の著者らによってスウェーデンの1型糖尿病レジストリを用いて詳細に検討されて報告された1)。今回、著者らは1型糖尿病の発症時年齢とASCVDとの関連を同じレジストリを用いて解析した。その結果、発症時の年齢は糖尿病罹病期間を調整した後も、ASCVDリスクと有意に関連することが明らかにされた。 1型糖尿病の主病態はインスリン分泌不全であり、インスリン抵抗性の寄与は2型糖尿病とは異なりほとんどない。したがって1型糖尿病患者では、高血糖そのものによりASCVDのリスクが増大していると考えられる。本論文では、とくに急性心筋梗塞のリスクが1型糖尿病患者において約30倍に増加しているのが注目される。これは2型糖尿病患者における厳格な血糖管理の影響を検討したメタ分析において、非致死性心筋梗塞が強化治療により有意に減少したことと一致しており、冠動脈疾患の発症には高血糖が強く関連することを示唆している2)。一方、脳卒中の増加は約6倍であり、加齢の影響を差し引いて考えることが当然必要であるが、同じASCVDである冠動脈疾患と脳卒中に対する高血糖の影響は大きく異なっていることが示唆される。 若年1型糖尿病患者のASCVDの発症を主要評価項目として、スタチンおよびRAS系阻害薬の有効性を検討したランダム化比較試験は存在しない。ASCVDの代用エンドポイントである内頚動脈内膜中膜複合体厚を副次評価項目として、若年1型糖尿病患者に対するACE阻害薬およびスタチンの効果を検討したランダム化比較試験としてAdDIT(Adolescent Type 1 Diabetes Cardio-Renal Intervention Trial)が昨年報告されたが3)、両薬剤ともにプラセボ群と差はなかった。しかしASCVDの発症メカニズムは1型糖尿病と2型糖尿病とに共通すると考えられることから、2型糖尿病治療における包括的心血管リスク管理のストラテジーはそのまま1型糖尿病にも適用できると思われる。1型糖尿病患者の治療は2型糖尿病患者以上に血糖管理にのみ注目してしまうことが多い。とくに若年発症の1型糖尿病患者の治療の際にはASCVDの抑制に留意した治療を心掛けることが必要である。

304.

第7回 スタチンの服薬アドヒアランスに影響する7つの要因【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 服薬アドヒアランスの改善は服薬指導における大きなテーマの1つです。とくに、すでに生じている症状の改善ではなく、将来的な発症の予防目的で長期的に服用する薬では、服薬アドヒアランスが低くなりがちですので、薬剤師としてどのような視点でアプローチすべきか試行錯誤されているのではないでしょうか。服薬アドヒアランスが低下しがちな薬剤の代表格であるスタチンは、服用6〜12ヵ月で25%〜50%の患者が服薬を中止し、2年経つころには75%に達するという推計(Brown MT, et al. Mayo Clin Proc. 2011;86:304-314.)もあります。心血管イベントリスクの高いほうではとくに服薬指導時の説明の工夫が必要です。そこで今回は、スタチンの服薬アドヒアランスに影響する要因を検討した質的研究を統合したシステマティックレビューを紹介します。なお、質的研究とは、インタビューや観察を通して被験者の行動やプロセスを分析して解釈的理解を行うことを目的とした研究です。Patient beliefs and attitudes to taking statins: systematic review of qualitative studies.Ju A, et al. Br J Gen Pract. 2018;68:e408-e419.このシステマティックレビューは、スタチンの服用に対する患者の視点、経験および態度について明らかにすべく、2016年10月6日までにPsycINFO、CINAHL、Embase、MEDLINEの各データベースや博士号論文から、スタチンに対する成人患者の視点に関する質的研究を検索し、得られた各文献からすべての文章と被験者のコメントを抽出してテーマ別に分析しています。主だった研究データをすべて反映させているため、情報の透明性は高そうです。最終的に8ヵ国、22〜93歳の888例からなる32の研究がレビューに含まれ、服薬アドヒアランスに影響する7つの要素が見い出されました。 1.予防効果の信頼(有効性の信頼、長期的な致命的心血管イベントリスクの最小化、安定したコレステロール値の獲得、高コレステロール状態の不安緩和) 2.ルーティン化(日常生活への取り込み) 3.薬理効果への疑問(効果の不認識、薬理学的メカニズムの不確実性) 4.医療に対する不信(過剰投与ないし医師の処方動機に対する疑い、治療開始へのプレッシャー) 5.健康への脅威(副作用リスク、体への毒性) 6.病気の実感(薬物に頼らざるを得ないことへの恐れ、治療意欲の喪失) 7.経済的な負担結果として、1のスタチンが心血管イベントを予防できるという期待と、2のスタチン服用を日常生活に取り入れることで服薬アドヒアランスが改善した一方で、3〜7の要素は障壁となりやすい傾向にありました。7つの要素から見えてくる具体的なアプローチ7つの要素からどのようなことが見えてくるでしょうか。たとえば、治療目的や将来期待できる効果について説明する、残薬の話から生活習慣の話へつなげて服薬の習慣への組み入れをアドバイスする、患者さんの性格や理解度別に丁寧に処方の理由や薬の作用を説明するなど、当たり前のようで漏れがちな取り組みかもしれません。残薬確認1つとっても聞き方はさまざまで、「処方薬を全部服用するのは大変かと思いますが、どのくらい飲み忘れたりしますか?」「何か事情があって中止されたお薬はありますか?」「何か気になる副作用はありましたか?」など批判的にならないように聞くのもよいでしょう。効果やリスクなどは、絶対リスク減少率など誤解をしにくい指標で期待できる効果をお伝えすることも患者さんの治療受容度に寄与しうるという研究もあります(Stovring H, et al. BMC Med Inform Decis Mak. 2008;8:25.)。冒頭の論文で例として挙げられている患者コメントの中には、「体調は悪くないので、服用すべきかわからない。効果の実感がない」「ずっと飲み続けなければならないのか不安」などネガティブなものから、「未来のために今服用する」「薬が効いているし、服用で健康になっているように感じられる」「ひげそり、コーヒーを入れるという朝のルーティンの一環で毎朝同じ時間に服用する」という積極的なものまで、アドヒアランス向上のヒントとなるような実践的な要素が散りばめられています。患者さんが日頃どのようなことを考えながら治療を受けているのかを知り、アプローチを考えてみてはいかがでしょうか。1)Brown MT, et al. Mayo Clin Proc. 2011;86:304-314.2)Ju A, et al. Br J Gen Pract. 2018;68:e408-e419.3)Stovring H, et al. BMC Med Inform Decis Mak. 2008;8:25.

305.

高血圧患者への降圧と脂質低下療法、その長期的効果は?/Lancet

 高血圧患者における、降圧療法および脂質低下療法が心血管死、全死因死亡に及ぼす長期的な効果は十分には検証されていないという。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAjay Gupta氏らは、ASCOT試験終了後に10年以上の長期フォローアップを行い(ASCOT Legacy試験)、Ca拮抗薬ベースの治療レジメンによる降圧療法と、スタチンによる脂質低下療法は、高血圧患者の死亡を長期に改善することを示した。Lancet誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。英国の参加者を16年フォローアップ ASCOT Legacy試験では、ASCOT試験の英国からの参加者において、フォローアップ期間16年の死亡に関する調査が行われた(Pfizerの助成による)。 ASCOT試験は、1998年2月~2000年5月に北欧、英国、アイルランドで患者登録が行われた2×2ファクトリアルデザインの多施設共同無作為化試験。対象は、年齢40~79歳、心血管疾患のリスク因子を3つ以上有し、直近3ヵ月以内の冠動脈性心疾患や狭心症、脳血管イベントの既往歴がない高血圧患者であり、主要評価項目は非致死的心筋梗塞および致死的冠動脈性心疾患であった。 ASCOT試験の降圧療法アーム(BPLA)に登録された患者は、ベースライン時に、アムロジピンまたはアテノロールベースの降圧療法を受ける群に無作為に割り付けられた。さらに、BPLAのうち総コレステロール値が6.5mmol/L以下で脂質低下療法歴のない患者が、脂質低下療法アーム(LLA)として、アトルバスタチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、残りの患者は非LLAとされた。 2人の医師が独立に、全死因死亡、心血管死(冠動脈性心疾患死、脳卒中死)、非心血管死の判定を行った。Ca拮抗薬は脳卒中死を、スタチンは心血管死を抑制 ASCOT Legacy試験に含まれたのは、8,580例(ベースラインの平均年齢64.1歳[SD 8])で、3,282例(38.3%)が死亡した。内訳は、アテノロールベース治療群1,640/4,275例(38.4%)、アムロジピンベース治療群1,642/4,305例(38.1%)であった。 また、LLAの4,605例中1,768例が死亡した。内訳は、アトルバスタチン治療群865/2,317例(37.3%)、プラセボ群903/2,288例(39.5%)であった。 全死亡例のうち1,210例(36.9%)が心血管関連の原因によるものであった。BPLAの患者では、全死因死亡はアテノロールベース治療群とアムロジピンベース治療群に有意な差はなかったが(補正後ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.81~1.01、p=0.0776)、脳卒中による死亡は、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ有意に少なかった(0.71、0.53~0.97、p=0.0305)。 BPLAとLLAに交互作用は認めなかったが、非LLAの3,975例では、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ心血管死が有意に少なかった(補正後HR:0.79、0.67~0.93、p=0.0046)。LLAの4,605例では有意な差はなく、2つの降圧療法の効果の差は、患者がLLAか非LLAかに依存していた(交互作用のp=0.0220)。 LLAでは、アトルバスタチン治療群がプラセボ群よりも心血管死が有意に少なかった(HR:0.85、0.72~0.99、p=0.0395)。 著者は、「全体として、ASCOT Legacy試験は、血圧とコレステロールへの介入が心血管アウトカムに長期的な利益をもたらすとの見解を支持するものである」としている。

306.

FHの発掘は内科と皮膚科・小児科の連携がカギ

 わが国における家族性高コレステロール血症(FH)の患者総数は、25万人以上と推定され、意外にも、日常診療において高頻度に遭遇する疾患と言われている。2018年8月22日に日本動脈硬化学会主催のプレスセミナー「FH(家族性高コレステロール血症)について」において、斯波 真理子氏(国立循環器病研究センター研究所病態代謝部部長)が登壇した。FHが襲った悲劇 競泳男子平泳ぎ100m 北島康介選手の最大のライバル、ノルウェーのダーレ・オーウェン選手(享年26歳)が2012年4月に急死したのをご存じだろうか。死因が遺伝性の心疾患と判定された彼は、もともと冠動脈疾患を抱え、急死する1、2ヵ月前にも軽い心臓発作を起こしていたという。にもかかわらず、治療を行っていなかった可能性があり、さらに、この選手の祖父は42歳の時に心臓病で急死しているとの報告もある。斯波氏によると、「トップアスリートは、スタチン系がもたらす運動機能低下の副作用を懸念し1)、薬物治療を拒むことがある」という。 また、FH患者は、冠動脈疾患(CAD)を発症し、その後10~15年経過後に脳血管疾患に陥る場合が多いと言われている。この理由について同氏は、「コレステロールは力が加わる部分に溜まりやすい。そのため、アキレス腱、大動脈や心臓弁に溜まり、CADを発症しやすい」と解説した。FHの種類と診断意義 FHはLDL受容体、PCSK9遺伝子の変異が原因とされ、大きく2種類に分類される。ヘテロ接合体、ホモ接合体、それぞれの主な特徴(15歳以上の場合)を以下に示す。FHヘテロ接合体・LDL受容体関連遺伝子変異・罹患率:200~500人に1人(遺伝性代謝疾患中、頻度最大)・血清総コレステロール値:230~500mg/dL・所見:皮膚および腱黄色腫・若年性動脈硬化症やCADの早期罹患FHホモ接合体・LDL受容体遺伝子変異・罹患率:100万人に1人以上・血清総コレステロール値:500~1,000mg/dL・所見:著明な皮膚および腱黄色腫・確定診断:LDL受容体活性測定やLDL受容体遺伝子解析の利用 各分類別に累積LDL-CとCADの発症を調べた研究2)における、CAD発症に係る累積LDL-C閾値到達年数は、ヘテロ接合体患者は35年、ホモ接合体患者は12.5年と報告されており、非FH患者の53年と比較しても両者のCADリスクの高さがうかがえる。同氏は「この報告が示すように、いかに早期発見し、適切な治療を開始するかがFH診断の鍵となる」と、診断の意義を語った。早期発見にはレントゲン・超音波・家系図を FHの最も有効な診断は遺伝子検査だが、同氏は「まずは、アキレス腱などの肥厚や皮膚結節性黄色腫、FHあるいは早発性CADの家族歴(2親等以内)を発見することが望ましい」と述べ、「アキレス腱厚は超音波[カットオフ値(mm):男性6.0、女性5.5]、レントゲン[カットオフ値(mm):9.0]で診断できるため、通常の診察において腹部や胸部だけでなく、アキレス腱のチェックをしてほしい」と、画像診断の有用性を訴えた。 さらに、LDL-C値が高い患者にはFHや心筋梗塞の家族歴の確認が重要となる。FHは家族を1人診断するとほかの家族の診断にも繋がるため、同氏は「医師がフリーハンドで家系図を描き、患者に家族一人ひとりをイメージしてもらいながら答えてもらう。それをカルテに残しておく」など、家族歴を尋ねるコツも紹介した。小児の健康診断に導入される日を目指して 小児の場合、腱黄色腫などの臨床症状が乏しく(ホモ接合体を除く)、健康診断などによるLDL-C値の早期発見が難しい。現時点で、10歳前後の血液検査を実施している自治体は非常に少なく、香川県や富山県の一部などにとどまることから、家族のFHから診断することが重要となる。 日本動脈硬化学会と日本小児科学会が合同でガイドラインを作成したことを踏まえ、同氏は「合併症がある場合は管理目標値140mg/dL未満を維持し、リスクが高い患児にはスタチン系を第1選択薬として考慮する」など治療ポイントについても述べた。 最後に同氏は「患者にとって、がんや高血圧の認知度は高いが、この疾患はほとんど知られていない。この疾患や早期発見、小児での血液検査の重要性を理解してもらうために、9月24日に世界FH Dayを制定し、啓発活動を行っている」と取り組みへの思いを綴った。 なお、日本動脈硬化学会では、より多くの先生方にFH診療を理解していただくために、医薬教育倫理協会(AMEE)と共同でeラーニングプログラムを開発、公開している。ケアネット医師会員は、ケアネットのID/パスワードにてこちらから受講可能である。■参考1)Sinzinger H,et al.Br J Clin Pharmacol. 2004;57:525-528.2)Nordestgaard BG et al. Eur Heart J 2013;34:3478-3490

307.

2型糖尿病の死亡リスクは高くない?/NEJM

 5つのリスク因子が、ガイドラインで定められた目標値の範囲内にある2型糖尿病患者は、死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスクが一般人口とほとんど変わらず過剰ではないことが、スウェーデン・イエーテボリ大学のAidin Rawshani氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2018年8月16日号に掲載された。2型糖尿病患者は、死亡や心血管アウトカムのリスクが一般人口に比べ2~4倍高いとされる。この2型糖尿病に関連する過剰なリスクが、現行のエビデンスに基づく治療や複数のリスク因子の修正によって、どの程度軽減し、あるいは消失する可能性があるのかは不明であった。目標値範囲外のリスク因子数とアウトカムの関連を評価 研究グループは、2型糖尿病患者における死亡および心血管イベントの過剰リスクが低減あるいは消失するかを検討するコホート研究を行った(スウェーデン地方自治体協議会[SALAR]などの助成による)。 1998年1月1日~2012年12月31日の期間に、スウェーデンの全国糖尿病登録(Swedish National Diabetes Register)の2型糖尿病患者27万1,174例(糖尿病群)と、年齢、性別、地域(県)をマッチさせた非糖尿病の地域住民135万5,870例(対照群)を解析に含めた。 年齢別(≧80、≧65~<80、≧55~<65、<55歳)および5つのリスク因子(糖化ヘモグロビン値の上昇[≧7.0%]、LDLコレステロール値の上昇[≧97mg/dL]、アルブミン尿[微量・顕性アルブミン尿]、喫煙[試験登録時]、血圧の上昇[≧140/80mmHg])の有無別に解析を行った。 Cox回帰を用いて、目標値の範囲外のリスク因子の数と関連する4つのアウトカム(死亡、急性心筋梗塞、脳卒中、心不全による入院)の過剰リスクを評価した。また、種々のリスク因子と心血管アウトカムとの関連も検討した。若年患者はリスク増分が大きい、死亡の最強予測因子は喫煙 フォローアップ期間中央値は5.7年で、この間に17万5,345例が死亡した。ベースライン時に5つのリスク因子の完全なデータが得られた2型糖尿病患者は9万6,673例(35.6%)であった。両群とも平均年齢は60.58歳で、女性が49.4%だった。 糖尿病群は対照群に比べ、目標値の範囲外のリスク因子の数が0から5つへと増加するに従って、4つのアウトカムのハザード比(HR)が段階的に上昇した。糖尿病に関連する死亡および心血管イベントのリスクの増分は、加齢に伴って段階的に減少し、<55歳の集団が最も大きく、≧80歳の集団が最も小さかった。また、急性心筋梗塞のHRは、目標値範囲外のリスク因子が1つもない≧80歳の患者が、対照群に比べ最も低かった(HR:0.72、95%信頼区間[CI]:0.49~1.07)。 5つのリスク因子がすべて目標値の範囲内の糖尿病患者は、対照群との比較における全死因死亡HRが1.06(95%CI:1.00~1.12)であり、わずかにリスクが高い傾向がみられたが、急性心筋梗塞のHRは0.84(95%CI:0.75~0.93)とむしろリスクは低く、脳卒中のHRは0.95(95%CI:0.84~1.07)と有意差を認めなかった。一方、目標値の範囲外のリスク因子がない糖尿病群の心不全による入院のリスクは、対照群よりも有意に高かった(HR:1.45、95%CI:1.34~1.57)。 死亡の最も強い予測因子は喫煙であり、次いで身体活動、婚姻状況、糖化ヘモグロビン値、スタチンの使用の順であった。同様に、急性心筋梗塞の予測因子は、糖化ヘモグロビン値、収縮期血圧、LDLコレステロール値、身体活動、喫煙の順で、脳卒中は糖化ヘモグロビン値、収縮期血圧、糖尿病罹患期間、身体活動、心房細動の順、心不全による入院は心房細動、BMI、身体活動、推定糸球体濾過量、糖化ヘモグロビン値の順だった。 著者は、「理論上、5つのリスク因子を目標値の範囲内に保持すれば、急性心筋梗塞の過剰リスクは消失するが、心不全による入院のリスクは実質的に過剰なまま残る」とまとめ、「若年患者では、目標値の範囲外のリスク因子の数が多いほど、有害な心血管アウトカムの相対的リスクが増大したことから、より積極的な治療が利益をもたらす可能性が示唆される」と指摘している。

308.

第2回 プラバスタチンの処方/カモスタットの処方/クエチアピンの処方と検査/肝硬変での検査【レセプト査定の回避術 】

事例5 プラバスタチンの処方脂質異常症の重症患者に、プラバスタチン10mg 2錠を処方した。●査定点プラバスタチン10mg 1錠が査定された。解説を見る●解説添付文書で、年齢・症状により適宜増減し、重症の場合は1日20mgまで増量できることになっていましたが、レセプトに「重症」のコメントが追記されていませんでした。コメントとして「重症」が求められます。事例6 カモスタットの処方逆流性食道炎の患者に、カモスタット100mg 6錠を処方した。●査定点カモスタット100mg 6錠が査定された。解説を見る●解説(1)カモスタットの添付文書で「カモスタット100mg 6錠」の傷病名は「慢性膵炎における急性症状の緩解」のため査定されました。(2)「逆流性食道炎」では、カモスタットの処方は認められていません。「術後」の「逆流性食道炎」では認められています。なお、「術後逆流性食道炎」では、カモスタット100mg 3錠の処方となります。事例7 クエチアピンの処方と検査統合失調症でクエチアピン錠25mg 3錠を継続処方している患者に、HbA1c検査を施行した。●査定点HbA1c検査が査定された。解説を見る●解説統合失調症にクエチアピン錠を投与すると、添付文書の「重要な基本的注意」で「著しい血糖値の上昇から、糖尿病検査」が求められています。このような場合には、糖尿病の疑いを追記するのではなく、「患者は『クエチアピン錠投与により著しい血糖値の上昇』を受けやすく、添付文書の【重要な基本的注意】によりHbA1c検査施行を必要とした」と症状詳記することが望ましいといえます。事例8 肝硬変での検査肝硬変でヘパプラスチンテストを施行した。●査定点ヘパプラスチンテストが査定された。解説を見る●解説ヘパプラスチンテストの保険請求では、「他の検査で代替できない理由を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること」となっています。コメントの記載がないため査定されています。

309.

スタチンと特発性炎症性筋炎が関連

 オーストラリア・アデレード大学のGillian E. Caughey氏らの大規模な症例対照研究によって、スタチンの使用と特発性炎症性筋炎(idiopathic inflammatory myositis:IIM)が有意に関連することが示唆された。著者らは「世界的にスタチン使用が増加していることから、このまれな副作用についての認識が高まることが必要」としている。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2018年7月30日号に掲載。 本研究は集団ベースの症例対照研究で、症例群はSouth Australian Myositis Databaseで1990~2014年に組織学的に確認された40歳以上のIIM患者(n=221)で、対照群はNorth West Adelaide Health Studyから年齢・性別でマッチ(対照:症例=3:1)させた(n=662)。条件付きロジスティック回帰を用いて、2016年6月1日~2017年7月14日にデータを分析した。主要アウトカムは、炎症性筋疾患の尤度に関する未調整のオッズ比および糖尿病・心血管疾患で調整した後のオッズ比と95%信頼区間(95%CI)。 主な結果は以下のとおり。・計221例が症例群の適格基準を満たした。平均年齢(SD)は62.2(10.8)歳で、女性が132例(59.7%)であった。・IIMの診断時のスタチン曝露は、221症例のうち68例(30.8%)、対照群662人のうち142人(21.5%)であった(p=0.005)。・IIM患者のスタチン曝露の尤度は、対照の約2倍であった(調整オッズ比:1.79、95%CI:1.23~2.60、p=0.001)。・壊死性筋炎の患者を除外しても、同様の結果が観察された(調整オッズ比:1.92、95%CI:1.29~2.86、p=0.001)。

310.

サルコペニア、カヘキシア…心不全リスク因子の最新知識【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、従来はわからなかった心不全とリスク因子の関係が解明されつつある。最近注目されるサルコペニア、カヘキシアに焦点を当て、心不全との関係を東京大学循環器内科 石田 純一氏に聞いた。近年の心不全リスク因子に関する研究の動向を教えてください。従来、心不全に併存するリスク因子、予後増悪因子としては動脈硬化の素因以外に慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、貧血、炎症が知られていました。画像を拡大するその中で、過去約20年で体組成の変化、とくに体組成減少が新たな心不全のリスク因子、予後増悪因子として注目を集め始めています。いわゆるサルコペニア、カヘキシア(悪液質)と呼ばれるものです。「サルコペニア」はギリシャ語が語源で、肉や筋肉を意味する「サルクス」と減少を意味する「ペニア」を合わせて筋肉減少を指します。一般に加齢に伴う筋肉減少が一次性サルコペニア、活動低下あるいは慢性疾患に伴うものが二次性のサルコペニアと分類されています。画像を拡大する「カヘキシア」も語源はギリシャ語の「カコス」と「ヘキス」で、英語で言えばバッド・コンディション、これを日本語にすると悪液質となります。最近の定義としては、骨格筋だけではなく、体組成全体の減少を意味します。いわゆる心不全やがんなどの慢性疾患に合併する全身性の消耗状態と捉えられます。サルコペニアの場合、従来は加齢に伴う筋肉減少はある種当然のことと考えられていましたが、実際には減少する人としない人がいます。そしてサルコペニア、カヘキシアともに心不全患者で併存する場合は、併存しない場合と比較して心不全の予後が悪いということがわかりました。サルコペニア、カヘキシアはどのように診断をするのでしょうか?サルコペニアは1989年に提唱された新しい概念である一方で、カヘキシアは用語としては長らく存在していましたが、病態としての概念ができたのは近年のことなので、まだ必ずしも統一された診断基準はありません。サルコペニアについては、2つ重要な要素があるといわれています。1つは筋肉の量的減少、もう1つが筋力あるいは身体能力の低下です。実はこの2つは同じ意味と捉えられがちですが、筋肉量減少とそのまま相関して筋力低下に反映されるものではないので、2つをそれぞれ評価することが重要だといわれています。カヘキシアについてもガイドラインなどはありませんが、心不全に併存する場合、論文などでは、過去の6~12ヵ月以内に5%以上の体重減少と定義している場合が多いと思います。ただ、カヘキシアの診断では要注意点があります。心不全やがんの場合は水分貯留による浮腫が発生しがちです。しかし、浮腫はカヘキシアの定義である体重減少とは逆の体重増加ファクターです。つまり、実際には筋肉や脂肪は減少しているのに、浮腫でそれがマスクされてしまっている可能性もあるのです。そのため前述の体重減少5%以上は、この浮腫分を含まない状態として評価しなければならない困難さがあります。これが、カヘキシアに対する取り組みを困難にしている理由の1つにもなっています。心不全に併存するサルコペニア、カヘキシアの割合はどのくらいなのでしょうか。この数字も報告によってさまざまですが、概説するとサルコペニアの併存率は30~50%、カヘキシアが5~20%といわれています。しかもこの2つはどこに着目するかという違いなので、双方が併存するケースもありえます。サルコペニア、カヘキシアが心不全の予後悪化につながる機序はどのように解釈されているのでしょうか。現在は疫学的に予後悪化因子と捉えられているのみで、まだ詳しい機序は解明されていません。そもそもサルコペニアの場合、サルコペニア自体の機序が十分に解明されていないという事情もあります。一般論的には心筋の量と働きが正常ならば血液循環も正常なので、骨格筋が減少するサルコペニアやカヘキシアでは、心筋も減少することで心臓が正常に機能しなくなり、心不全が悪化すると推定されていますが、エビデンスがあるわけではありません。ただ、がんに伴うカヘキシアでは心臓萎縮を疑わせる心臓重量低下の報告があるので、骨格筋減少と心筋減少に一定の相関があると推察されています。近年では欧米を中心に、心不全患者で肥満あるいは肥満傾向の患者のほうが、予後が良いという“obesity paradox”が報告されています。もともと肥満は心不全発症のリスク因子として確定していますが、ひとたび心不全を発症した場合は、極度の肥満は論外ですが、体重がやや多めの患者さんのほうが予後は良好とのデータがあるのは確かです。このため以前は、肥満がある心不全患者では体重減少を図るべきとされていましたが、最近の欧州でのコンセンサスではBMI 35超でなければ無理に痩せる必要はないと記述しています。しかし、人種差なども考慮すれば、これを日本人に機械的に適用することはできません。日本で欧州のコンセンサスを反映させるならば、どの程度のBMIが許容できるのかは今後の課題だと思います。一方、obesity paradoxのような現象が認められてしまうのはBMIの限界ともいえます。BMIは指標としては使いやすいのですが、筋肉と脂肪の比率や代謝状況を反映していません。心不全でBMIを考慮する際には、より多面的な視点も必要だと考えています。サルコペニア、カヘキシアへの対処、治療法の現状を教えてください。画像を拡大する現在、サルコペニアやカヘキシアでの筋肉減少は、タンパク質の分解(異化)と合成(同化)のバランスの中で、分解亢進あるいは合成低下のいずれか、またはその双方が同時に起きていると考えられています。そこで、タンパク質分解の亢進に関与しているマイオスタチンの働きを抑制する物質を治療へ応用しようとの検討が、がんのカヘキシアで行われましたが、ヒトでの臨床試験で筋肉量増加は認められたものの筋力増強は認められず、開発は頓挫しました。もう1つ注目されているのが、タンパク質の合成を促進するアナモレリン(anamoreline)です。この薬剤は、欧州で臨床の無作為比較試験まで行われています。日本でも肺がんのカヘキシア患者を対象に無作為化比較試験まで実施されています。結果、筋肉量を増加することが明らかになっています。筋力増強は明らかになっていないものの、本邦での開発は継続中です。もっとも私が知る限り、心不全に併存するサルコペニア、カヘキシアでこうした化合物の臨床試験が行われた形跡はありません。心不全で臨床試験を行えば、がんとは違った結果が出る可能性はあると思います。結局、こうした化合物は、非常に多面的な要素が大きいサルコペニアやカヘキシアのシグナリングの中の1つにアプローチするにすぎないのが、際立った臨床成績が得られない理由とも推察されています。その意味では、すでに消化器外科などで多用され、食欲増進ホルモンのグレリンに作用するほか、比較的多面的な効果も示唆されている漢方薬の六君子湯(リックンシトウ)なども、今後のサルコペニアやカヘキシアの治療に対する可能性を秘めているかもしれません。薬剤開発以外ではいかがでしょう?現時点ではまだエビデンスが十分とはいえないのですが、運動療法、いわゆる有酸素運動はサルコペニアやカヘキシアの有無にかかわらず、心不全の予後、身体能力、QOLの改善にも効果的と指摘されています。ことサルコペニアやカヘキシアに関していえば、運動療法が前述の異化・同化のバランス崩壊に効果を示しているのだろうと推測されています。ただ、激しい運動は心不全ではリスクとなりますので、安全性・有効性の観点から、従来からある心臓リハビリの法則にのっとって、個々の患者さんごとに適した運動量、運動強度を考える必要があります。プライマリケアの先生方にお伝えしたいことがあれば教えてください。サルコペニアについては、2016年に、世界保健機関(WHO)が公表している「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)」に入るようになりましたが、カヘキシアとともにまだ認知度は高くはないと思われます。その意味では、まずはサルコペニア、カヘキシアという病態があり、慢性心不全に併存した場合に予後悪化因子になるということを知っていただきたいと思います。現時点で打てる対策は、安全な運動療法になりますが、心臓を中心に考えたトータルケアで、サルコペニアやカヘキシアへの注意は欠いてはならないことを念頭に置いていただければ幸いです。講師紹介

311.

脂質代謝遺伝子の発現を調節する高脂血症治療薬「パルモディア錠0.1mg」【下平博士のDIノート】第4回

脂質代謝遺伝子の発現を調節する高脂血症治療薬「パルモディア錠0.1mg」今回は、「ペマフィブラート錠0.1mg(商品名:パルモディア)」を紹介します。本剤は、フィブラート系薬に分類される高脂血症治療薬で、核内受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体PPARαに選択的に結合し、脂質代謝遺伝子の発現を調節することで、血中の中性脂肪(トリグリセライド:TG)を低下させるとともにHDL-コレステロール(HDL-C)を増加させる作用を有します。<効能・効果>高脂血症(家族性を含む)の適応で、2017年7月3日に承認され、2018年6月1日より販売されています。本剤は、選択的にPPARαに結合した後、PPARαの立体構造変化をもたらすことで、主に肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子群の発現を選択的にモジュレート(調節)して、脂質代謝を改善します。なお、本剤をLDL-コレステロール(LDL-C)のみが高い高脂血症治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人にはペマフィブラートとして1回0.1mgを1日2回朝夕に経口投与します。年齢・症状に応じて適宜増減可能ですが、最大用量は1回0.2mgを1日2回までです。<禁忌>次の患者には投与しないこと重篤な肝障害、Child-Pugh分類B/Cの肝硬変のある患者あるいは胆道閉塞のある患者(肝障害の悪化、または本剤の血中濃度が上昇する恐れがある)胆石のある患者(胆石形成が報告されている)妊娠または妊娠している可能性のある患者シクロスポリン、リファンピシンを投与中の患者(併用により、本剤の血中濃度が著しく上昇する恐れがある)<臨床効果>第III相臨床試験であるフェノフィブラートとの比較検証試験において、TG高値かつHDL-C低値を示す脂質異常症患者223例に、本剤0.2mg/日または0.4mg/日を1日2回朝夕食後、もしくはフェノフィブラート錠106.6mg/日を1日1回朝食後で24週間投与しました。その結果、空腹時血清TGのベースラインからの変化率は、フェノフィブラート群が-39.685±1.942%であったのに対し、本剤0.2mg群は-46.226±1.977%、0.4mg群は-45.850±1.942%であり、本剤のフェノフィブラート群に対する非劣性が認められています(p≦0.01)。なお、TG高値を示す脂質異常症患者、2型糖尿病を合併した脂質異常症患者を対象とした長期投与試験において、52週にわたり空腹時血清TGの改善が維持されました。<副作用>承認時までに実施された臨床試験において、1,418例中206例(14.5%)に副作用が認められています。主な副作用は、胆石症20例(1.4%)、糖尿病(悪化を含む)20例(1.4%)、CK上昇12例(0.8%)でした。<患者さんへの指導例>1.中性脂肪を低下させ、善玉コレステロールを増やす薬です。2.足のしびれ・痙攣、力が入らない、覚えのない筋肉痛など、いつもと違う症状が現れたらすぐに連絡してください。3.禁煙・運動・食生活など、生活習慣の改善も併せて行いましょう。<Shimo's eyes>既存のフィブラート系薬は腎排泄型の薬剤であり、安全性の観点から腎機能障害患者、肝機能障害患者、スタチン系薬を服用中の患者では使用が制限されてきました。ペマフィブラートは、腎機能障害(eGFR:60mL/分/1.73m2未満)を有する高TG血症患者に1日0.4mgまで投与した場合であっても、正常腎機能被験者と比較して発現頻度が明らかに上昇するような有害事象は現時点では認められていません。また、本剤と各種スタチン系薬との相互作用が検討された臨床試験においても、併用による双方の薬剤の血中濃度には変化がなく、有害事象の発現頻度は上昇しなかったことが確認されています。これらのことから、本剤を腎機能障害患者が服用したり、スタチン系薬と併用したりすることによる横紋筋融解症の発現リスクは、ほかのフィブラート系薬と比較して低いことが予想されます。そのため、2022年10月に高度腎障害のある患者への禁忌が解除され、慎重投与に変更されました。本剤は胆汁排泄型の薬剤であるため、肝機能障害には注意が必要ですが、申請時資料において、フェノフィブラートに比べて肝機能障害の有害事象が少ないという可能性が示唆されるデータがあります。しかし、ペマフィブラートは、日本で開発された薬剤であり、海外では臨床試験が実施されているものの、まだ承認されていません。十分な臨床での使用経験がないため、今後の副作用報告に注視する必要があるでしょう。※2022年10月、添付文書改訂により一部内容の修正を行いました。

312.

第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?Q1 加齢と糖尿病の関係とは?糖尿病の頻度は加齢とともに増加します。平成28年度の国民栄養調査によると、70歳以上の高齢者で糖尿病が疑われる頻度は男性で23.2%、女性で16.8%となっています(図1)。また、糖尿病患者の中で70歳以上の割合は31.9%を占めています。加齢に伴う糖尿病患者の増加は、加齢に伴うインスリン抵抗性の増加、インスリンの追加分泌の低下、身体活動量の低下などが関係していると考えられています。画像を拡大するQ2 何歳以上を「高齢者糖尿病」として注意すべきでしょうか?高齢者糖尿病は一般に65歳以上の糖尿病を指しますが、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」では、75歳以上の後期高齢者と機能低下がある一部の前期高齢者が、「高齢者糖尿病」として、とくに注意すべき治療の対象とされています。これは、後期高齢者の糖尿病が前期高齢者の糖尿病と比較して、異なる特徴を示しているからです。第一に、高齢糖尿病患者を対象としたJ-EDIT研究における、MMSE(認知機能検査)の点数をみてみると、65~69歳の患者と比較して75歳以上の患者ではじめて有意に低下します(図2a)。また、日常生活動作であるADLも80歳以上で低下します。同じJ-EDIT研究で老研式活動能力指標を用いて、買い物、金銭管理などの手段的ADL、知的活動、社会的役割を含む高次ADLの障害数を評価したところ、80歳以上で有意に高次ADLの障害数が大きくなります(図2b)。画像を拡大するさらに、高齢者は加齢とともに体組成が大きく変化します。65歳以上の入院高齢糖尿病患者を対象に内臓脂肪面積100cm2以上の蓄積の頻度をみると、75歳以上で内臓脂肪蓄積が増加しています(図3a)。さらに、DEXA法で四肢の筋肉量(除脂肪量)をみると、男女ともに80歳以上で有意に低下しています(図3b)。この内臓脂肪の増加と筋肉量の低下は、インスリン抵抗性を大きくすることで、高齢者糖尿病の病態に大きく関わっています。画像を拡大する腎機能も75~80歳以上で有意に低下します。eGFRcreは筋肉量の影響を受けやすく、eGFRcysや血清シスタチンC濃度の加齢変化をみてみると、80歳以上で有意に増加しています(図4)。この腎機能障害は腎排泄性の薬剤(たとえばSU薬)の蓄積をもたらし、低血糖などの副作用を起こしやすくします。低血糖に関しても、80歳以上の患者で救急外来を受診する低血糖や重症低血糖が起こりやすいことが知られています。この重症低血糖の増加の原因は、上記の薬剤の蓄積しやすさに加えて、急性疾患によって食事摂取が低下しやすいこと、認知機能やADLの低下によって低血糖の対処能力が低下することが考えられます。合併症の中では、80歳以上の患者で脳卒中と心不全が起こりやすいことが知られています。上記に加えて、社会サポートが低下しやすいために、自立した生活を送ることが難しくなるだけでなく、インスリン注射などの糖尿病に関するセルフケアも困難になります。画像を拡大する Q3 「高齢者糖尿病」の治療目的・診断は若壮年者と違うのでしょうか?上記の理由から、「高齢者糖尿病」の治療目的は合併症の予防だけではなく、QOLの維持向上を目指し、さらに認知機能障害、ADL低下、サルコペニアなどの老年症候群を予防することにあります(図5)。また、QOLの維持・向上を図るためには、低血糖などを防ぎ、食のQOLを保つことも大切です。さらに、患者のみならず介護者の治療の負担を軽減することも大切です。なお、高齢者糖尿病の診断は若い人と同様に行います。画像を拡大する

313.

高血圧・高脂血症の治療は認知症を予防するか

 アルツハイマー病(AD)と血管リスク因子(VRF)の関連について疫学的エビデンスはあるが、VRFの治療が認知症やADの発症率を低下させるのか不明である。今回、スウェーデン・カロリンスカ研究所のSusanna C. Larsson氏らが、認知症およびADの発症におけるVRFの治療の影響について系統的レビューとメタ分析で検討した結果、降圧薬とスタチンが認知症やADの発症率を低下させる可能性が示唆された。Journal of Alzheimer's disease誌オンライン版2018年6月9日号に掲載。 著者らは、PubMedで2018年1月1日までに公表された関連研究から、認知症とAD発症率に対するVRF治療の影響を調査した無作為化比較試験(RCT)と前向き研究を同定した。 主な結果は以下のとおり。・8件のRCTと52件の前向き研究が同定された。・降圧治療により、RCT(5件、相対リスク[RR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.69~1.02)および前向き研究(3件、RR:0.77、95%CI:0.58~1.01)では、有意ではないが認知症リスクが低下し、前向き研究(5件、RR:0.78、95%CI:0.66~0.91)ではADリスクが低下した。・前向き研究において、スタチンによる高脂血症治療により認知症(17件、RR:0.77、95%CI:0.63~0.95)およびAD(13件、RR:0.86、95%CI:0.80~0.92)のリスクが低下したが、スタチン以外の脂質降下薬では低下しなかった。1件のRCTで、スタチンと認知症発症との関連は示されなかった。・1件のRCTおよび6件の前向き研究のデータから、血糖降下薬またはインスリン療法による認知症リスクへの有益な影響は示されなかった。

314.

高齢者の処方見直しで諸リスク低減へ

 2018年5月11日、日本老年医学会は、「高齢者とポリファーマシー」に関するメディアセミナーを都内で開催した。本学会が策定した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を踏まえ、医療現場でポリファーマシー対策に取り組む3人の演者が講演を行った。ポリファーマシーが老年症候群に拍車をかける? はじめに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)が、ポリファーマシー対策の動向について語った。わが国では6剤以上がポリファーマシーと定義され、薬剤性老年症候群などの原因として懸念されている。老年症候群は、転倒、記憶障害、意欲低下や排泄機能障害など、加齢・疾患によるものも含まれるが、その症状がポリファーマシーにより助長されている可能性を秋下氏は指摘した。 同氏は、「ポリファーマシーは、例えればさまざまなお酒を一度に飲むと悪酔いするようなもので、多剤服用のみを指すのではない。薬を減らす際には生活習慣の是正など、非薬物療法がより重要になる。医師・薬剤師を中心に、医療スタッフが連携する必要がある」と語った。3剤以上の見直しでリスク低減の可能性 次に、溝神 文博氏(国立長寿医療研究センター 薬剤部)が、院内でポリファーマシーを提案する「高齢者薬物療法適正化チーム」の活動について紹介した。チームは、内科・循環器内科の医師、薬剤師を中心に構成され、週1回カンファレンスを実施している。 チーム介入症例の解析では、薬物有害事象などが疑われる58症例に対し、平均4剤の見直し提案を行った。対象薬は降圧薬が最も多く、次いで消化器薬、糖尿病薬、スタチン系が多かった。結果、3剤以上削減した群で薬物有害事象の発生頻度が53%から9%と7日間で有意に減少し、60日後まで維持されていた。一方で、3剤未満の削減だと有意差がなく、60日後には再燃する傾向がみられた。 溝神氏は、「チーム結成によって意識変化が起こり、慎重に処方を行う医師が増加した。しかし、服薬環境も適正化されないと十分ではない。患者・家族への説明でポリファーマシーへの正しい理解を促し、地域レベルで対策する必要がある」と語った。短時間の睡眠が不眠症とは限らない? 最後に、水上 勝義氏(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授)が、向精神薬の適正使用について説明した。回復可能な認知症の原因として、1位がうつ病、2位が薬剤性という報告1)を挙げ、原則として非薬物療法を優先し、向精神薬は慎重に使用するよう呼びかけた。 高齢者が訴える不眠症に対し、水上氏は、「高齢になると深睡眠が減る傾向にある。しかし、日中の生活に支障がなければ、睡眠時間が短くても不眠症にならない」と指摘した。また、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)などに使用される抗精神病薬には、新規投与後6ヵ月まで死亡リスクが上昇するという報告2)があるという。同氏は、漢方薬の過剰投与にも言及し、「十分な治療効果が認められた患者では減量・中止を検討すべきだ」と語った。 さらに、スルピリドによる錐体外路症状、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によるアパシーの発現などの副作用を例に挙げ、「頻用される薬でも、高齢者には注意が必要。薬剤によって諸症状が出ている可能性も考慮すべき」と締めた。 本学会は、エビデンスが少ない高齢者医療における課題などに対し、具体的にどのような対応をするのか明確にするため、「健康長寿達成を支える老年医学推進5か年計画」を策定した。2018年6月、学術集会で発表予定。■参考文献1)Weytingh MD, et al. J Neurol. 1995;242:466-471.2)Arai H, et al. Alzheimers Dement. 2016;12:823-830.■参考一般社団法人 日本老年医学会第60回日本老年医学会学術集会■関連記事身体能力低下の悪循環を断つ診療

315.

スタチンと認知症・軽度認知障害リスクに関するメタ解析

 すべての認知症、アルツハイマー型認知症、血管性認知症や軽度認知障害のリスクとスタチン使用との関連について、台湾・Kaohsiung Veterans General HospitalのChe-Sheng Chu氏らが、システマティックレビュー、メタ解析を実施した。Scientific reports誌2018年4月11日号の報告。 2017年12月27日までの、成人におけるスタチンの使用と認知機能低下に関する研究を、主要な電子データベースより検索を行った。各研究の効果量を統合するため、相対リスク(RR)を算出するランダム効果メタ解析を実施した。スタチン使用はすべての認知症リスクの有意な低下と関連 成人におけるスタチンの使用と認知機能低下に関する研究の主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしていた研究は、25報であった。・スタチン使用と認知症リスクとの関連は以下のとおり。 ●すべての認知症リスクの有意な低下と関連(16報、調整RR:0.849、95%CI:0.787~0.916、p=0.000) ●アルツハイマー型認知症リスクの有意な低下と関連(14報、調整RR:0.719、95%CI:0.576~0.899、p=0.004) ●軽度認知障害リスクの有意な低下と関連(6報、調整RR:0.737、95%CI:0.556~0.976、p=0.033) ●血管性認知症と有意な関連は認められなかった(3報、調整RR:1.012、95%CI:0.620~1.652、p=0.961)・サブグループ解析では、水溶性スタチンは、すべての認知症リスク低下と関連が認められ(調整RR:0.877、95%CI:0.818~0.940、p=0.000)、アルツハイマー型認知症リスクが低くなる可能性が示唆された(調整RR:0.619、95%CI:0.383~1.000、p=0.050)。・脂溶性スタチンは、アルツハイマー型認知症リスク低下と関連が認められたが(調整RR:0.639、95%CI:0.449~0.908、p=0.013)、すべての認知症との関連は認められなかった(調整RR:0.738、95%CI:0.475~1.146、p=0.176)。 著者らは「本メタ解析では、スタチンの使用は、すべての認知症、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害のリスク低下と関連が認められたが、血管性認知症リスク低下との関連は認められなかった」としている。

316.

コレステロールの吸収と合成を阻害する初の配合錠「アトーゼット配合錠LD/HD」【下平博士のDIノート】第1回

コレステロールの吸収と合成を阻害する初の配合錠「アトーゼット配合錠LD/HD」今回は、高コレステロール血症治療薬「エゼチミブ/アトルバスタチンカルシウム水和物配合錠LD/HD(商品名:アトーゼット)」を紹介します。コレステロールの吸収と合成をともに阻害するため、単独投与よりもLDLコレステロール値を低下させる可能性、また、1剤の服用で済むのでアドヒアランス向上や患者負担の軽減が期待できます。<効能・効果>高コレステロール血症、家族性コレステロール血症の適応で、2017年9月27日に承認され、2018年4月23日より販売されています。本剤は、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬であるエゼチミブと、HMG-CoA還元酵素阻害薬であるアトルバスタチンの配合剤です。異なる作用機序の成分を配合することで、小腸でのコレステロールおよび植物ステロールの吸収阻害作用と、肝臓でのコレステロール合成阻害作用により、血液中のコレステロールを低下させることが期待されます。なお、本剤を高コレステロール血症、家族性コレステロール血症治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠を食後に経口投与します。エゼチミブ/アトルバスタチンの含量は、LD錠が10mg/10mg、HD錠が10mg/20mgとなっており、アトルバスタチンの用量は、年齢、症状により適宜増減可能です。高コレステロール血症の場合はアトルバスタチンとして最大20mg、家族性高コレステロール血症の場合は最大40mgまで増量できます。<臨床効果>日本人高コレステロール血症患者309例を対象とした国内第III相二重盲検比較試験において、ベースラインからのLDLコレステロール変化率は、エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用群はエゼチミブ10mgおよびアトルバスタチン10mgの各単独群との間、エゼチミブ10mg+アトルバスタチン20mg併用群はエゼチミブ10mgおよびアトルバスタチン20mgの各単独群との間に有意差が認められました。<副作用>国内の臨床試験では、臨床検査値異常を含む副作用が272例中4例(1.5%)に認められています。主な副作用は、胃炎、腹部膨満感、便秘などの消化器症状と、ALT増加、AST増加、γ-GTP増加、Al-P増加などの臨床検査値異常でした。<患者さんへの指導例>1.コレステロール吸収を抑える成分と、コレステロール合成を抑える成分の2種類が配合され、心血管系疾患の危険性を少なくすることが期待できます。2.一緒に飲んではいけない薬や避けたほうがよい薬がありますので、ほかに服用している薬があれば、必ず医師・薬剤師に伝えてください。3.手足のしびれ、筋力低下、筋肉痛、赤褐色の尿など[横紋筋融解症の前駆症状]がみられた場合や、これまでと違うだるさ、食欲不振、吐き気、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる症状[肝機能低下]がみられた場合はすぐに連絡してください。<Shimo's eyes>本剤を高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症の第1選択薬として使用すること、またはアトルバスタチン以外の同効薬の単独投与(ゼチーア錠も該当)からの切り替えは、原則として認められていないので注意が必要です。切り替えが下記に該当しない場合は疑義照会をする必要があります。【LD錠の適用】(1)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用、(2)アトルバスタチン10mgで効果不十分な場合【HD錠の適用】(1)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン20mg併用、(2)アトルバスタチン20mg、(3)エゼチミブ10mg+アトルバスタチン10mg併用またはエゼチミブ/アトルバスタチン配合錠LDで効果不十分な場合本剤の薬価はLD錠、HD錠ともにゼチーア錠と同額のため、ゼチーア錠とリピトール錠あるいは後発のアトルバスタチン錠をそれぞれ単剤で併用するよりも医療費が軽減されます。アドヒアランスの向上も期待できるので、両剤を必要とする患者さんにとってメリットを感じやすいでしょう。通常、新薬の発売から1年間は14日分しか投与できないという処方日数制限がありますが、本剤の場合、既存薬のゼチーア錠とリピトール錠の併用療法は実質的に1年以上の臨床使用経験があるため、処方日数制限の対象外となっています。

317.

治療前のLDL-コレステロール値でLDL-コレステロール低下治療の効果が変わる?(解説:平山篤志氏)-852

 2010年のCTTによるメタ解析(26試験、17万人)でMore intensiveな治療がLess intensiveな治療よりMACE(全死亡、心血管死、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、および血行再建施行)を減少させたことが報告された。ただ、これらはすべてスタチンを用いた治療でLDL-コレステロール値をターゲットとしたものではないこと、MACEの減少も治療前のLDL-コレステロール値に依存しなかったことから、2013年のACC/AHAのガイドラインに“Fire and Forget”として動脈硬化性血管疾患(ASCVD)にはLDL-コレステロールの値にかかわらず、ストロングスタチン使用が勧められる結果になった。 しかし、CTT解析後にスタチン以外の薬剤、すなわちコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いたIMPROVE-IT、さらにはPCSK9阻害薬を用いたFOURIER試験など、非スタチンによるLDL-コレステロール低下の結果が報告されるようになり、今回新たな34試験27万人の対象でメタ解析の結果が報告された(CTTの解析に用いられた試験がすべて採用されているわけではない)。 その結果、More intensiveな治療がLess intensiveな治療よりアウトカムを改善したことはこれまでの解析と同じであったが、全死亡、心血管死亡において治療前のLDL-コレステロール値が高いほど有意に死亡率低下効果が認められた。心筋梗塞の発症も同様の結果であったが、脳梗塞については治療前の値の差は認められなかった。治療前のLDL-コレステロール値について、CTTによれば値にかかわらず有効であるとされていたが、本メタ解析の結果はLDL-コレステロール値が100mg/dL以上であれば死亡率も低下するということを示している。 近年、IMPROVE-ITもFOURIER試験も心筋梗塞や脳梗塞の発症は有意に低下させるが、死亡率低下効果がないのは、治療前のLDL-コレステロール値が100mg/dLであることが要因であると推論している。 このメタ解析は、LDL-コレステロール値の心血管イベントへ関与を示唆するとともに、“Lower the Better”を示したものである点で納得のいくものである。しかし、4Sが発表された1994年とFOURIERが発表された2017年の20年以上の間に、急性心筋梗塞の死亡率が再灌流療法により減少したこと、心筋梗塞の定義がBiomarkerの導入で死亡には至らない小梗塞まで含まれるようになったことも、LDL-コレステロール減少効果で死亡率に差が出なくなった原因かもしれない。 今後のメタ解析は、アウトカムが同一であるというだけなく、時代による治療の変遷も考慮した解析が必要である。

318.

やはり、スタチンはACSの早期の投与が勧められる(解説:平山篤志氏)-846

 非ST上昇型急性冠症候群に対して、アトルバスタチン80mgを投与することにより心血管イベントを有意に低減するMIRACL試験の結果は、スタチンの有用性を示すものとして大きなインパクトを与えた。その後の急性冠症候群(ACS)を対象としたスタチンの効果においても、ACSのより早期に投与することの有用性を示したものであった。ただ、PCI前のスタチン投与の有用性を示したARMYDA-ACSも1群85例とごく少数例の検討であり、ACSの有用性を示しても、どの時期に投与を開始すべきかについては、明らかでなかった。 SECURE-PCIは、PCIを予定するACS患者に24時間前にアトルバスタチン80mgを投与することの有用性をプラセボ対象に検討した試験で、結果としては有用性が認められなかった。しかし、注目しなければならないのは、PCIを施行した症例が約65%で非施行群が27%であり、PCIを施行した群で有意に30日間のイベントの低減効果があったということである。この結果は、これまでの小規模ではあるがACSでPCIを施行した試験での結果と一致していた。おそらく、スタチンの投与が早期のプラークの安定をもたらし、PCIによる機械的障害に伴う合併症を減少させた可能性がある。 一方、PCI非施行群では30日間のイベント低減効果は認められなかった。ただ、プラセボ群でも、その後にはスタチンを投与されているので、PCIを施行しなくてよい症例ではスタチンを投与しなくてよいというのではなく、スタチンの早期投与の意義がなかったというだけである。いずれにしろ、ACSの早期にスタチンを投与することは、PCIを施行することの多いわが国では有用であろう。

319.

糖尿病網膜症の日本人患者への強化スタチン療法:EMPATHY試験

 冠動脈疾患の既往歴のない、糖尿病網膜症合併高コレステロール血症患者に対するスタチン単独によるLDL-C低下療法は、通常治療と強化治療とで心血管イベントまたは心血管関連死に有意差は認められなかった。慶應義塾大学の伊藤 裕氏らが、EMPATHY試験の結果を報告した。著者は、「今回の結果は当初の予想より両群におけるLDL-Cの差が少なかった(36ヵ月時で27.7mg/dL)ため」との見解を示したうえで、「高リスク患者に対するtreat-to-target治療におけるLDL-C<70mg/dL達成のベネフィットについては、さらなる研究が必要である」とまとめている。Diabetes Care誌オンライン版2018年4月6日号掲載の報告。 EMPATHY試験は多施設共同試験で、PROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法が用いられた。糖尿病網膜症および高コレステロール血症を合併し、かつ冠動脈疾患の既往歴のない30歳以上の2型糖尿病患者を、強化脂質管理群(LDLコレステロール<70mg/dLを目標、2,518例)と通常脂質管理群(LDL-C:100~120mg/dLを目標、2,524例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、心血管疾患発症または心血管疾患死であった。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間は37±13ヵ月であった。・36ヵ月時のLDL-Cは、強化脂質管理群76.5±21.6 mg/dL、通常脂質管理群104.1±22.1mg/dLであった(p<0.001)。・主要評価項目のイベントは、強化脂質管理群で129例、通常脂質管理群153例に発生した(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.67~1.07、p=0.15)。・両群のLDL-Cの差とイベント減少率との関係は、糖尿病患者の一次予防研究と一致していた。・探索的解析の結果、強化脂質管理群で脳イベントが有意に少ないことが示された(HR:0.52、95%CI:0.31~0.88、p=0.01)。・安全性は両群で差はなかった。

320.

強化脂質低下療法はベース値が高いほど有益/JAMA

 米国・Inova Heart and Vascular InstituteのEliano P. Navarese氏らは、被験者約27万例を含む34件の無作為化試験のメタ解析において、LDLコレステロール(LDL-C)低下療法の強化は非強化と比べて、ベースラインのLDL-C値がより高い患者で、総死亡(total mortality)および心血管死のリスクを低下させることを明らかにした。また、ベースラインのLDL-C値が100mg/dL未満では、この関連性は確認されず、著者は「LDL-C低下療法で最も大きなベネフィットが得られるのは、ベースラインのLDL-C値が高い患者である可能性が示唆された」とまとめている。JAMA誌2018年4月17日号掲載の報告より。無作為化試験34件、約27万例のデータをメタ解析 研究グループは、電子データベース(Cochrane、MEDLINE、EMBASE、TCTMD、ClinicalTrials.gov、major congress proceedings)を用い、2018年2月2日までに発表された、スタチン、エゼチミブおよびPCSK9阻害薬の無作為化試験を検索し、研究者2人がデータを抽出するとともにバイアスリスクを評価した。試験介入群は、「強化療法」(強力な薬理学的介入)、または「非強化療法」(弱作用、プラセボまたは対照)に分類された。 主要評価項目は総死亡率および心血管死亡率とし、ランダム効果メタ回帰モデルおよびメタ解析を用い、ベースラインのLDL-C値と死亡、主要心血管イベント(MACE)などの低下との関連性を評価した。 検索により計34試験が特定され、強化療法13万6,299例、非強化療法13万3,989例、計27万288例がメタ解析に組み込まれた。関連が確認されたのは、ベースラインLDL-C値100mg/dL以上の場合のみ 全死因死亡率は、強化療法群が非強化療法群よりも低かったが(7.08% vs.7.70%、率比[RR]:0.92、95%信頼区間[CI]:0.88~0.96)、ベースラインLDL-C値によってばらつきがみられた。 メタ回帰分析において、強化療法はベースラインLDL-C値が高いほど全死因死亡率もより低くなる関連が認められた(ベースラインLDL-C値の40mg/dL上昇当たりのRRの変化:0.91、95%CI:0.86~0.96、p=0.001/絶対リスク差[ARD]:-1.05症例/1,000人年、95%CI:-1.59~-0.51)。同様の関連は、メタ解析では、ベースラインLDL-C値が100mg/dL以上の場合にのみ確認された(相互作用のp<0.001)。 心血管死亡率も同様に、強化療法群が非強化療法群よりも低く(3.48% vs.4.07%、RR:0.84、95%CI:0.79~0.89)、ベースラインLDL-C値によってばらつきがみられた。メタ回帰分析において、強化療法はベースラインLDL-C高値ほど心血管死亡率減少との関連が示され(ベースラインLDL-C値の40mg/dL上昇当たりのRRの変化:0.86、95%CI:0.80~0.94、p<0.001/ARD:-1.0症例/1,000人年、95%CI:-1.51~-0.45)、同様の関連はメタ解析では、ベースラインLDL-C値100mg/dL以上の場合にのみ確認された(相互作用のp<0.001)。 メタ解析において、全死因死亡率が最も減少したのは、ベースラインLDL-C値が160mg/dL以上の患者を対象とした試験であった(RR:0.72、95%CI:0.62~0.84、p<0.001、1,000人年当たり死亡は4.3減少)。強化療法は、ベースラインLDL-C値が高いほど、心筋梗塞、血管再建術およびMACEのリスクもより減少する関連が認められた。

検索結果 合計:632件 表示位置:301 - 320