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心血管疾患を持つCOVID-19患者、院内死亡リスク高い/NEJM

※本論文は6月4日に撤回されました。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心血管疾患を有する集団で過度に大きな影響を及ぼす可能性が示唆され、この臨床状況におけるACE阻害薬やARBによる潜在的な有害作用の懸念が高まっている。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らは、国際的なレジストリに登録された入院患者8,910例(日本の1施設24例を含む)のデータを解析し、基礎疾患として心血管疾患を有するCOVID-19患者は院内死亡のリスクが高いことを示した。また、院内死亡へのACE阻害薬およびARBの有害な影響は確認できなかったとしている。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究 研究グループは、Surgical Outcomes Collaborative(Surgisphere)に登録されたアジア、欧州、北米の11ヵ国169病院のデータを用いた観察研究を行った(ブリガム&ウィメンズ病院の助成による)。 対象は、2019年12月20日~2020年3月15日の期間に、COVID-19で入院し、2020年3月28日の時点で院内で死亡または生存退院した患者であった。 解析時に退院状況が確認できたCOVID-19患者8,910例(北米1,536例、欧州5,755例、アジア1,619例)のうち、515例(5.8%)が院内で死亡し、8,395例は生存退院した。ベースライン時に有意差がみられた背景因子 院内死亡例は生存例に比べ、高齢(平均年齢55.8±15.1歳vs.48.7±16.6歳、群間差:-7.1、95%信頼区間[CI]:-8.4~-5.7)で、白人(68.2% vs.63.2%、-5.0、-9.1~-0.8)および男性(女性34.8% vs.40.4%、5.6、1.3~10.0)が多く、糖尿病(18.8% vs.14.0%、-4.8、-8.3~-1.3)、脂質異常症(35.0% vs.30.2%、-4.8、-9.0~-0.5)、冠動脈疾患(20.0% vs.10.8%、-9.2、-12.8~-5.7)、心不全(5.6% vs.1.9%、-3.7、-5.8~-1.8)、心臓不整脈(6.8% vs.3.2%、-3.6、-5.8~-1.4)の有病率が高く、COPD(6.2% vs.2.3%、-3.9、-6.1~-1.8)や現喫煙者(8.9% vs.5.3%、-3.6、-6.2~-1.1)の割合が高かった。 入院時の薬物療法は、院内死亡例に比べ生存例でACE阻害薬(3.1% vs.9.0%、5.9、4.3~7.5)とスタチン(7.0% vs.9.8%、2.8、0.5~5.1)の使用が多かった。独立のリスク因子は高齢、冠動脈疾患、心不全、喫煙など 院内死亡リスクの増加と独立の関連が認められた因子は以下のとおり。 年齢65歳超(院内死亡率:65歳超10.0% vs.65歳以下4.9%、オッズ比[OR]:1.93、95%CI:1.60~2.41)、冠動脈疾患(10.2% vs.冠動脈疾患のない患者5.2%、2.70、2.08~3.51)、心不全(15.3% vs.心不全のない患者5.6%、2.48、1.62~3.79)、心臓不整脈(11.5% vs.心臓不整脈のない患者5.6%、1.95、1.33~2.86)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(14.2% vs.COPDのない患者5.6%、2.96、2.00~4.40)、現喫煙者(9.4% vs.元喫煙/非喫煙者5.6%、1.79、1.29~2.47)。 院内死亡の増加には、ACE阻害薬(院内死亡率:2.1% vs.ACE阻害薬非投与例6.1%、OR:0.33、95%CI:0.20~0.54)およびARB(6.8% vs.ARB非投与例5.7%、1.23、0.87~1.74)の使用との関連はみられなかった。スタチンの使用(4.2% vs.スタチン非投与例6.0%、0.35、0.24~0.52)は、ACE阻害薬と同様に、院内死亡のリスクが低かった。 また、女性は男性に比べ、院内死亡リスクが低かった(5.0% vs.6.3%、OR:0.79、95%CI:0.65~0.95)。 著者は、「これらの知見は、COVID-19で入院した患者では、基礎疾患としての心血管疾患は院内死亡リスクの増加と独立の関連を示したとする既報の観察研究の結果を裏付けるものである」としている。

202.

エピジェネティック制御薬は心血管疾患の残余リスクを低下させない(解説:佐田政隆氏)-1217

 冠動脈疾患に対する薬物療法の進歩には目を見張るものがあり、患者の長期予後を大きく改善させた。その中でも高用量のストロングスタチンは心血管イベントを3割から4割低下させるという数々のエビデンスが積み重ねられて、現在、標準的治療となっている。しかし、逆にいうと6割から7割の人が至適な薬物療法を行っても心血管イベントを起こしてしまうことになる。これが残余リスクとして非常に問題になっている。 LDLコレステロールを積極的に低下させた後の残余リスクとしては、2型糖尿病、低HDLコレステロール血症、高感度CRPの上昇などが注目されている。高感度CRPが上昇している心筋梗塞患者にインターロイキン-1βの中和抗体が有効であったという衝撃的な報告は記憶に新しい。また、急性心筋梗塞患者に、抗炎症効果のあるコルヒチンの少量投与が有効であったという報告が昨年された。しかし、どちらも現在一般的に使用される治療法とはなっていない。 さて、本研究では、エピジェネティックスに関する薬剤の効果が検討された。細胞の種類や状態によって、どの遺伝子が、どの細胞で、いつ、どのくらい発現するかを制御するシステムがエピジェネティックスである。DNAのメチル化やヒストンのアセチル化、メチル化が、どの遺伝子の転写を促すのか、抑制するのかを制御する。ブロモドメインタンパク質は、“読み取りタンパク質”として転写を活性化して、がんや炎症疾患と関連することが知られている。apabetaloneはブロモドメインタンパク質の選択的な阻害薬であり、動物モデルなどで抗動脈硬化作用が報告されている。本研究では、急性冠症候群で、2型糖尿病、低HDLコレステロール血症を合併した、いわゆる残余リスクが高いと考えられる患者にapabetaloneもしくは偽薬が標準治療に追加投与された。残念ながら、apabetaloneは主要有害心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞または脳卒中)を有意に低下させることができなかった。残余リスクを低下させるために、スタチン導入以来の革新的新薬の開発が期待される。

203.

コレステロール降下薬のCutting Edge(解説:平山篤志氏)-1215

 1994年にシンバスタチンの投与により心血管死亡が減少するという4S試験の報告以来スタチンによるコレステロール低下は動脈硬化性疾患の発症抑制、とくに冠動脈疾患の発症リスクを低下させてきた。しかし、最大量の強力なスタチンを用いてもコレステロール低下効果には限界があり、残余リスクの一因であった。コレステロール吸収阻害薬エゼチミブ、そしてPCSK9阻害薬の登場により、スタチンの限界を超えてコレステロールを低下することが可能となり、それに伴い心血管イベントの減少がもたらされた。しかし、薬剤の服用中止により、心血管イベントが増加することから、継続的な治療が必要であり、アドヒアランスをいかに維持するかが重要である。とくに、PCSK9阻害薬は2週間から4週間に1度の注射が必要であること、高額であることから治療への逡巡および継続が難しいとされていた。 今回のORION-10およびORION-11の2つの第III相試験の結果から、肝臓でのPCSK9産生を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)製剤のinclisiranは、6ヵ月ごとの皮下投与によりLDLコレステロール値を約50%低下させることが認められた。また、570日という期間ではあるが、注射部位の副作用以外の重大な副作用は認められなかった。 今後長期間の投与で副作用がなければ、新たなコレステロール治療薬となり、6ヵ月に1度という期間を考えれば、注射をするという患者負担が軽減される点でアドヒアランスの向上に大きく寄与するであろう。ただ、核酸薬という新たなジャンルの薬剤であり、価格が医療経済の枠組みで許容できるかが大きな問題である。さらに、これまで核酸薬になじみのなかった生活習慣病を扱う医師の意識がどのように変わるかも、この薬剤の普及の大きな焦点である。

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スタチンと降圧薬の併用と認知症リスク

 脂質異常症や高血圧症は、アルツハイマー病やこれに関連する認知症(ADRD:Alzheimer's disease and related dementia)の修正可能なリスク因子である。65歳以上の約25%は、降圧薬とスタチンを併用している。スタチンや降圧薬が、ADRDリスクの低下と関連するとのエビデンスが増加する一方で、異なる薬剤クラスの併用とADRDリスクに関するエビデンスは存在しない。米国・ワシントン大学のDouglas Barthold氏らは、異なる薬剤クラスの組み合わせによるスタチンと降圧薬の併用とADRDリスクとの関連について、検討を行った。PLOS ONE誌2020年3月4日号の報告。 本研究は、米国のメディケア受給者でスタチンと降圧薬を併用する69万4,672例を分析したレトロスペクティブコホート研究(2007~14年)。スタチンと降圧薬の異なる薬剤クラスの併用に関連するADRD診断を定量化するため、年齢、社会経済的地位、併存疾患で調整したロジスティック回帰を用いた。スタチンの分類は、アトルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンとし、降圧薬の分類は、2つのRAS系降圧薬(ACE阻害薬、ARB)、非RAS系降圧薬とした。 主な結果は以下のとおり。・プラバスタチンまたはロスバスタチンとRAS系降圧薬との併用は、非RAS系降圧薬とスタチンとの併用と比較し、ADRDリスクの低下と関連が認められた。 ●プラバスタチン+ACE阻害薬:オッズ比(OR)=0.942(信頼区間[CI]:0.899~0.986、p=0.011) ●ロスバスタチン+ACE阻害薬:OR=0.841(CI:0.794~0.892、p<0.001) ●プラバスタチン+ARB:OR=0.794(CI:0.748~0.843、p<0.001) ●ロスバスタチン+ARB:OR=0.818(CI:0.765~0.874、p<0.001)・ARBとアトルバスタチンおよびシンバスタチンとの併用は、プラバスタチンまたはロスバスタチンとの併用と比較し、わずかなリスク減少と関連していたが、ACE阻害薬では関連が認められなかった。・ヒスパニック系の患者では、スタチンとRAS系降圧薬との併用は、非RAS系降圧薬の併用と比較し、リスク低下が認められなかった。・黒人患者では、ロスバスタチンとACE阻害薬との併用は、他のスタチンと非RAS系降圧薬との併用と比較し、ADRDオッズが33%低かった(OR=0.672、CI:0.548~0.825、p<0.001)。 著者らは「米国の高齢者では、脂質異常症の治療にプラバスタチンやロスバスタチンを使用することはシンバスタチンやアトルバスタチンより一般的に少ないが、RAS系降圧薬、とくにARBと併用することで、ADRDリスクの低下に寄与することが示唆された。ADRDリスクに影響を及ぼす血管の健康のための薬物療法が、米国のADRD患者数を減少させる可能性がある」としている。

205.

inclisiran、家族性高コレステロール血症でLDL-Cを50%低下/NEJM

 家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体の成人患者の治療において、低分子干渉RNA製剤inclisiranの非頻回投与レジメンはプラセボに比べ、LDLコレステロール(LDL-C)値をほぼ半減させ、安全性プロファイルは許容範囲内であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォーターズランド大学のFrederick J. Raal氏らによる「ORION-9試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月18日号に掲載された。FHは、LDL-C値の上昇と、早発性のアテローム動脈硬化性心血管疾患のリスク増大を特徴とする。前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を標的とするモノクローナル抗体は、LDL-C値を50%以上低下させるが、2~4週ごとの投与を要する。一方、inclisiranは年2回の投与により、FHヘテロ接合体成人患者においてPCSK9の肝臓での合成を阻害すると報告されている。非頻回投与の有用性を評価する無作為化試験 本研究は、FHヘテロ接合体患者の治療におけるinclisiranの非頻回投与レジメンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年9月の期間に実施された(Medicines Companyの助成による)。 対象は、遺伝学的確認またはSimon Broome基準でFHと診断され、エゼチミブ併用の有無にかかわらず、最大許容量のスタチンを投与してもLDL-C値が100mg/dL(2.6mmol/L)以上の患者であった。被験者は、inclisiran(300mg)またはプラセボを、第1、90、270、450日に皮下注射する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、ベースラインから510日までのLDL-C値の変化率と、ベースラインから90日および540日までのLDL-C値の時間で補正した変化率の2つであった。LDL-C値が39.7%低下、プラセボとの差は-47.9ポイント 482例が登録され、inclisiran群に242例、プラセボ群には240例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均年齢は56歳、47%が男性で、94%が白人であった。冠動脈疾患の既往は25%、糖尿病の既往は10%に認められた。 ベースラインで90%がスタチンの投与を受けており(全体の75%が高強度スタチン)、50%強がエゼチミブを併用していた。平均LDL-C値は153.1±54.0mg/dLだった。inclisiran群の91.7%、プラセボ群の96.3%が540日間の試験を完遂した。 ベースラインから510日までのLDL-C値の変化率は、inclisiran群が39.7%(95%信頼区間[CI]:-43.7~-35.7)低下したのに対し、プラセボ群は8.2%(4.3~12.2)増加し、群間差は-47.9ポイント(-53.5~-42.3、p<0.001)であった。また、90日と540日のLDL-C値の時間平均変化率は、inclisiran群が38.1%(95%CI:-41.1~-35.1)低下したのに対し、プラセボ群は6.2%(3.3~9.2)増加し、群間差は-44.3ポイント(-48.5~-40.1、p<0.001)だった。 ベースラインから510日までのLDL-C値の平均絶対変化量は、inclisiran群が59.0mg/dL(95%CI:-64.8~-53.2)低下したのに対し、プラセボ群は9.9mg/dL(4.1~15.8)増加し、群間差は-68.9mg/dL(-77.1~-60.7、p<0.001)だった。 一方、ベースラインから510日までのPCSK9値の変化率は、inclisiran群が60.7%(95%CI:-64.4~-57.0)低下、プラセボ群は17.7%(13.9~21.4)増加し、群間差は-78.4ポイント(-83.7~-73.0、p<0.001)であった。また、510日までのPCSK9値の平均絶対変化量は、inclisiran群が282.6μg/L(-297.9~-267.2)低下、プラセボ群は54.5μg/L(39.1~70.0)増加し、群間差は-337.1μg/L(-358.9~-315.3、p<0.001)だった。 有害事象は、inclisiran群が76.8%、プラセボ群は71.7%で報告され、そのうち94.6%および91.9%は軽症~中等症であった。重篤な有害事象の頻度は、inclisiran群で低かった(7.5% vs.13.8%)。両群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験介入との関連はないと判定された。inclisiran群で頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(11.6%)、注射部位反応(9.1%)、背部痛(7.1%)、上気道感染症(6.6%)、インフルエンザ感染症(5.4%)であった。 著者は、「inclisiranの大部分は、主なPCSK9産生臓器である肝臓で働くため、FH患者におけるLDL-C低下効果は抗PCSK9モノクローナル抗体製剤とほぼ同等である。最大許容量スタチン治療を受けた患者のLDL-C値を、年2回投与でほぼ半減することから、アドヒアランスを改善する可能性がある」としている。

206.

inclisiran、LDLコレステロールが50%低下/NEJM

 肝臓でのPCSK9産生を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)製剤のinclisiranは、6ヵ月ごとの皮下投与によりLDLコレステロール値を約50%低下させることが認められた。ただし、プラセボと比較してinclisiranは穿刺部位の有害事象の発現が多かった。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのKausik K. Ray氏らが、inclisiranの2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の解析結果を報告した。これまでの研究で、inclisiranは少ない投与頻度でLDLコレステロール値を持続的に低下させることが示唆されていた。NEJM誌オンライン版2020年3月18日号掲載の報告。inclisiranの有効性をORION-10およびORION-11試験で評価 研究グループは、最大耐量のスタチン療法を受けているにもかかわらずLDLコレステロールが高値のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)患者(ORION-10試験)、ならびにASCVDまたはASCVDと同等のリスクを有する患者(ORION-11試験)を対象に、inclisiran(284mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。いずれも、1日目、90日目、その後は6ヵ月ごとに540日間、皮下投与した。 各試験の主要評価項目は、ベースラインから510日目までのLDLコレステロール値の変化率(プラセボで調整)と、ベースラインから90日後および最大540日までのLDLコレステロール値の時間調整済み変化率であった。inclisiranの6ヵ月ごと皮下投与で、LDLコレステロール値が約50%低下 ORION-10試験で1,561例、ORION-11試験で1,617例が無作為化された。ベースライン時の平均(±SD)LDLコレステロール値は、それぞれ104.7±38.3mg/dL(2.71±0.99mmol/L)および105.5±39.1mg/dL(2.73±1.01mmol/L)であった。 510日目に、inclisiran群ではLDLコレステロール値が、ORION-10試験で52.3%(95%信頼区間[CI]:48.8~55.7)、ORION-11試験で49.9%(46.6~53.1)低下し、時間調整済み変化率はそれぞれ53.8%(51.3~56.2)および49.2%(46.8~51.6)であった(いずれもプラセボとの比較のp<0.001)。 有害事象は、両試験ともinclisiran群とプラセボ群で概して類似していた。穿刺部位の有害事象は、プラセボ群と比較してinclisiran群で高頻度(ORION-10試験:2.6% vs.0.9%、ORION-11試験:4.7% vs.0.5%)であったが、いずれも軽度であり、重度または持続性の有害事象は確認されなかった。

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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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毎日1個の卵、アジア人は心血管疾患リスク低下の可能性/BMJ

 卵の中等度の消費(最大1日1個まで)は、心血管疾患全般のリスクを増加させず、アジア人ではむしろリスクを低下させる可能性があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJean-Philippe Drouin-Chartier氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。卵の消費と心血管疾患リスクの関連は、この10年間、激しい議論を呼ぶ主題となっているが、これまでに得られた知見では結論が出ていないという。コホート研究とこれを含むアップデートメタ解析 研究グループは、卵の摂取と心血管疾患リスクの関連を評価する目的で前向きコホート研究を行い、この研究結果を含めたアップデートメタ解析を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 米国の3つのコホート研究(Nurses’ Health Study[NHS、1980~2012年]、NHS II[1991~2013年]、Health Professionals’ Follow-Up Study[HPFS、1986~2012年])のデータが用いられた。ベースライン時に心血管疾患や2型糖尿病、がんに罹患していない集団(NHS[女性]8万3,349例、NHS II[女性]9万214例、HPFS[男性]4万2,055例)が解析に含まれた。 卵摂取の頻度で6つの群(月1個未満、月1~4個未満、週1~3個未満、週3~5個未満、週5~7個未満、1日1個以上)に分けた。卵は、卵黄を含む全卵とし、焼いた製品(例 ケーキ)や液状卵、卵白のみの場合は除外された。 主要アウトカムは、初発の心血管疾患(非致死的心筋梗塞、致死的冠動脈性心疾患、脳卒中)とした。 次いで、今回の研究と既報の前向きコホート研究のアップデートメタ解析が行われた。卵消費量が相対的に低い点に留意 米国の3つのコホート研究では、最長32年のフォローアップ期間(554万人年以上)に、1万4,806例が初発の心血管疾患を発症した。卵の消費量は、多くの参加者が週に1~5個未満だった。 卵の摂取量が多い参加者ほど、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙者が多かった。また、卵摂取量の多い参加者は、スタチン治療の割合や心筋梗塞の家族歴が少なく、2型糖尿病が多かった。さらに、高い卵摂取量は、高いカロリー摂取量と関連し、未加工の赤身肉、ベーコン、その他の加工肉、精製穀物、ジャガイモ、高脂肪分牛乳、コーヒー、砂糖入り飲料の摂取量が多かった。 多変量統合解析では、卵摂取と関連のある生活様式や食事因子で補正すると、1日1個以上の卵消費は、初発心血管疾患のリスクと関連しなかった(1日1個以上と月1個未満の比較のハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.82~1.05、p=0.16、1日1個増加のHR:0.98、0.92~1.04)。冠動脈性心疾患(p=0.22)および脳卒中(p=0.53)にも有意な関連は認められなかった。 一方、アップデートメタ解析では、この研究を含む28件の前向きコホート研究(日本のNIPPON DATA80、NIPPON DATA90などのデータを含む)が対象となった。 このアップデートメタ解析(リスク指標[risk estimate]33個、参加者172万108例、心血管疾患イベント13万9,195件)では、1日の卵摂取が1個増えても、心血管疾患リスクは増加しなかった(統合相対リスク[RR]:0.98、95%CI:0.93~1.03、I2=62.3%)。同様に、卵摂取量が最も多い集団と少ない集団の間にも、心血管疾患リスクには差がなかった(0.99、0.93~1.06、52.9%)。 冠動脈性心疾患(リスク指標21個、参加者141万1,261例、イベント5万9,713件、統合RR:0.96、95%CI:0.91~1.03、I2=38.2%)および脳卒中(22個、105万9,315例、5万3,617件、0.99、0.91~1.07、71.5%)についても、1日の卵摂取が1個増えた場合のリスクに差はなかった。いずれの疾患も、最高摂取量集団と最低摂取量集団の間にリスクの差はみられなかった。 卵摂取の1日1個増加と心血管疾患リスクの関連に関する地理的な層別解析(相互作用のp=0.07)では、米国(RR:1.01、95%CI:0.96~1.06、I2=30.8%)と欧州(1.05、0.92~1.19、64.7%)のコホートでは関連がなかったのに対し、アジア人のコホート(リスク指標10個、参加者68万5,147例、イベント9万100件、0.92、0.85~0.99、I2=44.8%)では逆相関の関係が認められた。 著者は、「この研究に含まれるコホートの平均的な卵消費量は相対的に低い。週に1~5個未満の参加者が多く、1日1個以上の参加者は相対的に少ないため、結果を解釈する際は、この消費レベルを考慮する必要がある」と指摘している。

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第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?Q1 治療介入の必要な値、介入後の目標値は? 80歳以上でも同じように管理しますか?心血管イベントの発症はADL低下や要介護状態を招き、QOLを低下させうるため、予防が重要です。高齢者においてもスタチンは冠動脈疾患の2次予防効果のエビデンスがありますので、2次予防の患者さんには年齢にかかわらずできるだけ投与、継続しています。患者さんの忍容性があれば、動脈硬化性疾患診療ガイドラインに準拠して通常の成人同様にLDL-C<100mg/dLを目標としています。1次予防については、少なくとも前期高齢者においては、高LDL-C血症に対するスタチン投与による心血管イベント減少が認められていることから、投与を考慮します。レベルとしては、やはりガイドラインに従い、糖尿病患者では冠動脈疾患高リスク群になりますので、LDL-C<120mg/dLを目標としています。75歳以上の高齢者に対する1次予防介入エビデンスはほとんどありません。Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationの最新のRCTのメタアナリシスでも、2次予防では有効でしたが、1次予防では有効性が示されませんでした1)。一方で、2019年に本邦75歳以上のハイリスク高LDL-C血症患者に対する、エゼチミブ単独投与の有用性を検討したEWTOPIA75の結果が発表され、エゼチミブ投与群では心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中の複合イベントが34%減少しました2)。これは糖尿病患者に限った研究ではありませんが、治療を考慮する年齢が引き上げられる可能性があります。ただし、これら介入試験の多くは外来通院可能な比較的健康な患者さんを対象としています。認知症やフレイルがあったり施設入所されている患者さんに対し、スタチンが1次、2次にかかわらず心血管イベントを減少させたという明確なエビデンスはありません。80代や90代の患者さんについても同様です。私は、これらの患者さんには2次予防の場合はできるだけ治療を行うが、1次予防には厳格なコントロールは不要ではないかと考えています。Q2 TG高値への介入は? 定期的なエコーが必要な症例TG高値自体が高齢者の心血管疾患を増やすという明確なエビデンスはありません。ただし、とくに肥満を伴う高TG血症では低HDL-C血症や高nonHDL-C血症を伴うことが多く、本邦の観察研究におけるサブ解析において、前期高齢者で高nonHDL-C血症が致死的冠動脈疾患の発症と関連したという報告があります3)。高齢糖尿病患者への介入研究(J-EDIT, 平均年齢71歳)の2次解析でも、nonHDL-Cが高値の群(≧163mg/dL)で全死亡や糖尿病関連イベントが増加しました(図)4)。肥満症例ではメタボリック症候群(Mets)を伴っていることが多く、Metsはインスリン抵抗性を生じ、前期高齢者では心血管疾患発症と関連するという報告が複数あります。後期高齢者のMetsと心血管疾患発症の関連は明らかではありません。画像を拡大するしたがって、前期高齢者でMets合併例やnonHDL-Cが高い症例では治療を考慮します。この場合、運動、アルコール/糖質の過剰摂取是正指導に加え、必要によりフィブラート等を併用し、nonHDL-C<150mg/dLを目指します。TGの値が下がりすぎて問題となることはほとんどありませんが、もともとTGが著明に低い人の中に低栄養が隠れていることがあるので注意が必要です。一方後期高齢者、および前期高齢者でもMetsや低HDL-C血症・高nonHDL-C血症を伴わないTG単独高値の場合はよほどの高値でない限り経過をみることもあります。なお、著明なTG高値は膵炎発症のリスクとなり、発症時の重症度にも影響するといわれているため、TGが500mg/dLを超えるものには膵炎予防の観点からも介入を考えます。一方、TG高値のものの中に、肝機能障害を伴っているものがあります。アルコール多飲は原因の1つとなりますが、飲酒がなくても肥満、脂肪肝をきたし、インスリン抵抗性を呈して肝炎や線維化が進行する病態(NASH)があります。NASHは肝硬変、肝細胞がんに至ることもあるため、このような症例では定期的に肝臓のエコーを行っておくとよいでしょう。Q3 薬剤選択と投与量の考え方について教えてくださいQ1で述べたように心血管イベント予防に対し最もエビデンスがあるのはスタチンですが、EWTOPIA75の結果により、エゼチミブ投与の有効性も注目されています。PCSK9阻害薬は FHまたは冠動脈2次予防でスタチン最大量にエゼチミブ併用でもLDL-Cが目標値に達しない場合に使用され、かつ2週間あるいは4週間に1回自己注射を行わなければならず、高齢者で適応となる症例は一部に限られます。やはりスタチン投与が中心になるでしょう。米国心臓協会(AHA)が2019年1月に発表した、「スタチンの安全性と有害事象に関する声明」によると、スタチン投与による重篤な横紋筋融解症の発症頻度は0.01%程度ときわめてまれです(AHA)5)。高齢者ではリスクが上昇することが知られているものの、年齢だけでスタチンを回避する理由にはしていません。またCKD患者自体が冠動脈疾患のハイリスクになっているので、腎疾患患者でもスタチンは投与します。腎機能低下例だからといって、使用できないスタチンはありませんが、横紋筋融解症の多くは高用量のスタチン使用と関連するため、高齢者では常用量の最小量からはじめ漸増しています。また脱水を避けるように指導します。スタチンとフィブラートの併用はともに横紋筋融解症のリスクがあるため、腎機能低下リスクの高い高齢者ではとくに注意して投与します。LDL-CとTGの両者が高い場合は、スタチン使用を優先し、フィブラートに変えてEPA含有製剤やエゼチミブを併用する場合もあります。なお、フィブラートは中等度以上の腎不全では単独でも横紋筋融解症のリスクがあるため中止します。スタチンが重篤な肝障害を起こすことはさらにまれであり、0.001%程度と報告されています5)。肝機能障害を懸念して投与を行わない、ということは通常ありません。Q4 逆に減薬できるのはどんなときか前述のとおり、冠動脈疾患の2次予防症例ではできる限りスタチンは継続としています。75歳以上の1次予防で投与されている場合には、老年医学会も主治医判断としているように、ケースバイケースです。最近、スタチンの中断によって、心血管イベントによる入院が増えるという後ろ向きコホート研究の結果が報告されましたが6)、白人のデータで、糖尿病患者でのサブ解析では有意差が認められず、まだまだエビデンスが不足していると考えられます。私たちはまず、コレステロールが明らかに低値の患者さんには減量、中止を試みています。長期間減量することによるリバウンドが懸念される場合は、次回外来の1週間前から減量するなどして変化を確かめています。コレステロールが比較的高値のものでも、たとえば認知機能の低下があるポリファーマシーの患者さんで、服薬間違いがむしろリスクになるという患者さんなどでは中止を考慮しています。また余命が1年以内と見込まれるエンドオブライフの患者さんにおいても、投薬の中止はむしろQOL向上に寄与する可能性があり、中止を考慮します。一方、認知機能やADLが保たれている患者で、LDLがかなり高値だったり(たとえば≧180mg/dL)、頸動脈に不安定プラークがあったりするものでは継続することが多いです。1)Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet. 393: 407-415, 2019.2)Ouchi Y, et al.Circulation.140: 992-1003, 2019.3)Ito T, et al. Int J Cardiol.220: 262-267, 2016.4)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int.12.Suppl 1:18-28, 2012.5)Newman CB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.39: e38-e81, 2019.6)Giral P, et al. Eur Heart J.40:3516-3525, 2019.

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スタチンは卵巣がんの発生を抑制するか/JAMA

 スタチン治療薬のターゲット遺伝子の抑制は、上皮性卵巣がんのリスク低下と有意に関連することが、英国・ブリストル大学のJames Yarmolinsky氏らによるメンデルランダム化解析の結果、示された。ただし著者は、「今回の所見は、スタチン治療薬がリスクを低減することを示す所見ではない。さらなる研究を行い治療薬においても同様の関連性が認められるかを明らかにする必要がある」と述べている。これまで前臨床試験および疫学的研究において、スタチンが上皮性卵巣がんリスクに対して化学的予防効果をもたらす可能性が示唆されていた。JAMA誌2020年2月18日号掲載の報告。HMG-CoA還元酵素、NPC1L1、PCSK9の治療的抑制をGWASメタ解析データで解析 研究グループは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素(HMG-CoA還元酵素の機能低下と関連する遺伝子異型、スタチン治療薬のターゲット遺伝子)と、一般集団における上皮性卵巣がんの関連性、およびBRCA1/2変異遺伝子との関連性を調べる検討を行った。 HMG-CoA還元酵素、Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)、proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)の治療的抑制の代替として、HMGCR、NPC1L1、PCSK9における一塩基遺伝子多型(SNPs)とLDLコレステロール低下との関連が示されている、ゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析データ(19万6,475例以下で構成)を用いた。 このGWASメタ解析のデータを用いたOvarian Cancer Association Consortium(OCAC)による浸潤上皮性卵巣がんの症例対照解析での上記SNPsに関するサマリー統計(6万3,347例)と、Consortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA)によるBRCA1/2変異遺伝子キャリアにおける上皮性卵巣がんの後ろ向きコホート解析のサマリー統計(3万1,448例)を入手して評価した。2つのコンソーシアムにおける被験者は、1973~2014年に登録され、2015年まで追跡を受けていた。OCAC被験者は14ヵ国から、CIMBA被験者は25ヵ国から参加していた。 SNPsは、multi-allelicモデルに統合され、ターゲットの終身阻害を意味するメンデルランダム化推定値を、逆分散法ランダム効果モデルを用いて算出した。 主要曝露は、HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害、副次曝露は、NPC1L1とPCSK9の遺伝的プロキシ阻害および遺伝的プロキシLDLコレステロール値で、主要評価項目は、総合的および組織型特異的な浸潤上皮性卵巣がん(一般集団対象)、上皮性卵巣がん(BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象)、卵巣がんオッズ(一般集団対象)およびハザード比(BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象)とした。HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害は卵巣がんリスク低下と有意に関連 OCACのサンプル例は浸潤上皮性卵巣がんの女性2万2,406例と対照4万941例であり、CIMBAのサンプル例は上皮性卵巣がんの女性3,887例と対照2万7,561例であった。コホート年齢中央値は41.5~59.0歳の範囲にわたっており、全被験者が欧州人であった。 主要解析において、遺伝的プロキシLDLコレステロール値1mmol/L(38.7mg/dL)低下に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害が、上皮性卵巣がんのオッズ低下と関連することが示された(オッズ比[OR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.43~0.83]、p=0.002)。 また、BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象の解析では、HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害と卵巣がんリスク低下の関連が示された(ハザード比[HR]:0.69、[95%CI:0.51~0.93、p=0.01)。 副次解析では、NPC1L1(OR:0.97[95%CI:0.53~1.75]p=0.91)およびPCSK9(0.98[0.85~1.13]、p=0.80)の遺伝的プロキシ阻害、LDLコレステロール値(0.98[0.91~1.05]、p=0.55)のいずれも上皮性卵巣がんとの有意な関連は認められなかった。

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「しょっちゅうこむら返りになる」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第29回

■外来NGワード「この薬さえ、飲んでおけば大丈夫です!」(運動療法に触れない)「何か、運動しなさい!」(あいまいな運動指導)「糖尿病の合併症ですよ。もっと血糖値を下げないと!」(医学的脅し)■解説 有痛性筋痙攣(muscle cramp)、いわゆる「足がつる」状態や「こむら返り」は、健康な人でも久しぶりに運動したときなどに起こります。一方、糖尿病や肝硬変の患者さんでは、ふくらはぎなどの下肢だけでなく、上肢に起こる人もいます。高齢者糖尿病ではとくに頻度が高く、日中にも症状が出現することが報告されています。また、利尿薬、スタチン、β2刺激薬(吸入薬)を使用している人は、リスクが高まるといわれています。この有痛性筋痙攣は、時に睡眠を妨げ、患者さんのQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。しかし、この「こむら返り」をかかりつけ医に相談していない事例も多いようです。高リスクの患者さんには、よく眠れているか確認してみましょう。症状が出たときの対処法としては、膝を押さえ下腿三頭筋を他動的に伸展させる方法がよく用いられています。芍薬甘草湯などの漢方薬が汎用されますが、寝る前のストレッチや足の軽い運動なども効果があるので、運動療法と併せて治療を行うことが大切です。 ■患者さんとの会話でロールプレイ患者最近、夜中に足がつることが多くて…。医師それは大変ですね。最近、血糖が高い状態が続いているので、何か関係しているのかも。患者やっぱり、糖尿病のせいなんですか?(やや不安そうな顔)医師影響は考えられますね。整形外科的な疾患ではないと思うので…。患者夜中に、痛くて目が覚めてしまうんです。どうしたらいいですか?医師漢方薬などもありますが、もっといい方法がありますよ。患者なるべく薬は増やしたくないので、教えてほしいです!(興味津々)医師寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?患者(実際に足を動かして)これぐらいなら、一人でもできそうです。医師お風呂上がりやテレビを見ているとき、歯磨きの後などでもいいので、寝る前にぜひやってみてください。患者はい。わかりました。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「寝る前にできる、簡単な足の運動です。ちょっと、一緒にやってみませんか?」1)餘目千史ほか.日本糖尿病教育・看護学会誌. 2016;20:211-220.

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アルツハイマー病へのスタチンの効果~RCTのメタ解析

 アルツハイマー病の治療としてのスタチンの使用について広く議論されている。中国・Anhui Medical UniversityのKun Xuan氏らは、アルツハイマー病治療におけるスタチンの効果について無作為化比較試験(RCT)のメタ解析を行ったところ、短期間(12ヵ月以内)のスタチン投与がMMSEスコアに有益な効果をもたらすことが示された。また、スタチンはアルツハイマー病患者の神経精神症状の悪化を遅らせ、日常生活能力を有意に改善した。一方、ADAS-Cogスコアの変化において効果はみられなかった。Neurological Sciences誌オンライン版2020年1月13日号に掲載。 本研究では、2019年3月31日までのPubMed、Embase、Cochraneライブラリ、OvisdSP、Web of Science、Chinese Nation Knowledge Infrastructure(CNKI)、Chinese Biomedical Database(CBM)のデータベースから対象となるRCTを検索。Mini-Mental State Examination(MMSE)、Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive(ADAS-Cog)、Neuropsychiatric inventory(NPI)、日常生活動作(ADL)のスコア、その他の情報を抽出した。統合された加重平均差(WMD)と95%信頼区間(95%CI)は、ランダム効果モデルまたは固定ランダム効果モデルで計算した。 主な結果は以下のとおり。・1,489例(スタチン群742例、対照群747例)を含む合計9件のRCTを解析した。・MMSEを使用した研究が9件、ADAS-Cogを使用した研究が5件、NPIを使用した研究が4件、ADLを使用した研究が6件あった。・MMSEを使用した9件の研究のメタ解析では、スタチン群が対照群と比較して有意な効果がないことが示された(統合されたWMD:1.09、95%CI:-0.00~2.18、p=0.05、I2=87.9%)。・ADAS-Cogを使用した5件の研究のメタ解析でも、スタチン群が対照群と比較して有意な効果がないことが示された(統合されたWMD:-0.16、95%CI:-2.67~2.36、p=0.90、I2=80.1%)。・NPIを使用した4件の研究のメタ解析では、スタチンによる治療がNPIスケールスコアの増加を遅らせることができることが示された(統合されたWMD:-1.16、95%CI:-1.88~-0.44、p=0.002、I2=45.4%)。・ADLを使用した6件の研究のメタ解析では、スタチンによる治療が患者の日常生活能力を改善することが示された(統合されたWMD:-4.06、95%CI:-6.88~-1.24、p=0.005、I2=86.7%)。・サブグループ解析の結果から、短期間(12ヵ月以下)のスタチン使用がMMSEスコアの変化に関連することが示された(統合されたWMD:1.78、95%CI:0.53~3.04、p=0.005、I2=79.6%)。・感度分析と出版バイアス検定はどちらもネガティブであり、結果は比較的信頼性が高く安定していた。

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第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったか【高齢者糖尿病診療のコツ】

第16回 新ガイドラインで総エネルギー摂取量の設定法はどう変わったかQ1 高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量の決め方は?1)高齢者の栄養状態をどうとらえるか高齢糖尿病患者の栄養状態は個人差が大きく、低栄養と過栄養が混在しています。J-EDIT研究によると、高齢糖尿病患者の実際の総エネルギー摂取量は、男性で1,802±396kcal(31.0±6.8 kcal/kg体重)、女性で1,661±337kcal(33.7±6.9kcal/kg体重)であり、指示量よりも多くとっていました1)。この値は、これまで高齢者に指示していた標準体重当たりエネルギー指示量の25~30kcal/kg体重と乖離しています。一方、高齢糖尿病患者は低栄養を起こしやすく、体重減少やBMI低値となり、総エネルギー摂取量が低下している人もいます。これまでの考え方では、(身長)2×22で求めた標準体重に活動係数をかけて総エネルギー量を求めていました。その根拠は、高齢者を除いた一般住民の疫学調査から、死亡のリスクが最も低いBMIが22であることに基づいています。また、JDCSとJ-EDITの糖尿病患者のプール解析では、最も死亡リスクが低いBMIは22.5以上、25前後であるという結果でした。一方、75歳以上ではBMI 18.5未満の群の死亡リスクが8.1倍と75歳未満と比べて高くなり、後期高齢者では低栄養が死亡リスクに及ぼす影響が著しいことが示されました2)。高齢糖尿病患者ではサルコペニアやフレイルをきたしやすくなりますが、これらの成因には低栄養が大きく関わっており、とくにエネルギー摂取量とタンパク質摂取量の低下が関係しています。2)総エネルギー摂取量の設定の仕方は?上記のことから、高齢糖尿病患者の総エネルギー摂取量は過栄養だけでなく、低栄養やサルコペニア・フレイル予防の観点も考慮しながら決める必要があります。日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で食事療法について改訂を行い、標準体重ではなくて、年齢を考慮した目標体重を用いた新たな総エネルギー摂取量の設定法を提案しました3)。総エネルギー摂取量(kcal/日)は目標体重(kg)にエネルギー係数(kcal/kg)をかけて求めます(表1)。目標体重の目安は65歳未満では従来通り[身長(m)]2×22ですが、前期高齢者は[身長(m)]2×22~25、後期高齢者も[身長(m)]2×22~25となっています。身体活動レベルと病態によるエネルギー係数(kcal/kg)は、(1)軽い労作:25~30、(2)普通の労作:30~35、(3)重い労作:35~のように設定します。肥満症やフレイルがある場合は、エネルギー係数を柔軟に変えることができるとされています。画像を拡大する3)目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係高齢糖尿病患者の追跡調査であるJ-EDIT研究では、目標体重当たりのエネルギー摂取量と6年間の死亡リスクとの間にU字型の関連が認められました(図1)4)。すなわち、約25kcal/kg体重未満の群と約35kcal以上の群で死亡リスクが上昇し、高齢糖尿病患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/目標体重が最も死亡のリスクが低いという結果です。目標体重にかけるエネルギー係数は高齢者では25~35になることがほとんどですので、この結果は目標体重をもとにしたエネルギー量の設定が妥当であることを示唆しています。標準体重当たりの摂取エネルギー量の場合も、同様にU字型の関係が認められました。しかし、最も死亡リスクが小さい摂取エネルギー量は31.5~36.4kcal/kgであり、25~30kcal/kg標準体重で摂取エネルギー量を設定すると、摂取量不足になる可能性があります。また、目標体重当たりのエネルギー摂取と死亡の関係は、実体重と死亡との関係に近似していますので、これも目標体重当たりで考えた方がいいという理由の1つになります。画像を拡大する4)従来よりも指示量は増える? 実際に総エネルギー量を算出してみる目標体重による計算法では、従来の標準体重による計算法と比べて総エネルギー摂取量の指示量が多くなることが予想されます。身長150cm、体重53kgの76歳の女性で、目標体重が1.5×1.5×24=54.0kgとなったとき、軽い運動を行っている場合には30をかけてエネルギー摂取量は1,620kcalとなり、1,600kcalを処方することになります。従来であれば標準体重49.5 kgから28をかけて1,386kcalとなり、1,400kcalの食事を処方したと思われ、200~300kcal多い食事を処方することになります。こうした目標体重によるエネルギー量の設定法は、高齢者においてメタボ対策から低栄養・フレイル対策にシフトしていく観点からみると有用である可能性があります。しかし、現在の食事量や体重をみながら段階的に設定することと、身体機能、心理状態、体重、血糖コントロール状況、食事内容などの推移を見ながら、適宜変更していく必要があります。また、十分に摂取できない高齢者に対して、エネルギー摂取量を増やす方法についても個別に検討すべきであると思います。Q2 タンパク質摂取量はどのように決めますか?1)フレイル・サルコペニア予防の観点からは?フレイルやサルコぺニアの発症や進行を予防するためには、十分なタンパク質の摂取が大切です。欧州栄養代謝学会(ESPEN)のガイドラインでは、高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには少なくとも1.0~1.2 g/kg体重/日のタンパク質摂取が推奨されています5)。また、急性疾患または慢性疾患がある高齢者では1.2~1.5 g/kg体重のタンパク質摂取が勧められています。高齢糖尿病女性の3年間の追跡調査でも1.0g/kg体重以上のタンパク質摂取の群の方が1.0g/kg体重未満の群と比べて膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られています6)。2)タンパク質摂取を勧める理由タンパク質を十分にとる理由は、タンパク質中のアミノ酸であるロイシンが、筋肉のタンパク質合成に働くためです。ロイシンは肉類だけでなく、魚、乳製品、卵、大豆製品にも多いので、さまざまなタンパク質をバランス良くとるよう勧めることが大切です。なかなかタンパク質がとれない高齢者には、温泉たまご、魚の缶詰、プロセスチーズなどタンパク質やロイシンの多い食品を付加するような指導を行います。朝のタンパク質摂取の割合が低いとフレイル・サルコペニアになりやすいという報告もあるので、朝にタンパク質をとることを勧めるといいと思います。3)タンパク質摂取と腎機能との関係一方、タンパク質の摂取量を増やした場合には腎機能の悪化が懸念されます。しかしながら、高齢者のタンパク質摂取増加と腎機能低下との関係は明らかではありません。高齢者の追跡調査ではタンパク質摂取量とシスタチンCから求めたeGFRcys低下との関連は認められませんでした7)。顕性アルブミン尿がない2型糖尿病患者6,213人(平均年齢65歳)の追跡調査でもタンパク質摂取の最も低い群ではむしろ、CKDの悪化が見られています8)。高齢者のタンパク質制限に関してもエビデンスが乏しく、13のRCT研究のメタ解析ではタンパク質制限がeGFR低下を抑制しましたが9)、うち高齢者の研究は2件のみです。進行したCKDを合併した糖尿病患者のタンパク質制限は腎機能の悪化を抑制したという報告もありますが10)、MDRD trialのようにタンパク質制限群では死亡率の増加が認められた報告もあります11)。また、本邦の糖尿病を含むCKD患者にタンパク質制限を行った報告では65歳以上ではタンパク質摂取が最も多い群で死亡リスクが減少しています12)。したがって、重度の腎機能障害がなければ、フレイル・サルコぺニア予防のためには充分なタンパク質を摂ることが望ましいように思われます。腎症4期の患者では腎機能、骨格筋量、筋力などの変化をみながら、タンパク質制限か十分なタンパク質摂取の確保かを個別に判断する必要があります。また、高齢者ではタンパク質制限のアドヒアランスが不良であることが多いことにも注意する必要があります。1)Yoshimura Y, et al. Geriatr Gerontol Int. 2012; Suppl: 29-40.2)Tanaka S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99: E2692-2696.3)日本糖尿病学会 編著.糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,東京, 31-55, 2019.4)Omura T, et al. Geriatr. Gerontol. Int. 2019;1–7.5)Deutz NE, et al. Clin Nutr. 2014; 33:929-936.6)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739.7)Beasley JM, et al. Nutrition. 2014; 30:794-799.8)Dunkler D, et al. JAMA Intern Med. 2013; 173:1682-1692.9)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013 May 28 [Epub ahead of print].10)Giordano M, et al. Nutrition. 2014 Sep;30:1045-9.11)Menon V, et al. Am J Kidney Dis. 2009 Feb;53:208-17.12)Watanabe D, et al. Nutrients. 2018 Nov 13;10: E1744.

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尿酸値を本気で下げる方法とは?

高尿酸血症の治療には食生活を中心とした生活習慣改善が欠かせないが、無症状の場合も多く、継続的に取り組むことは容易ではない。患者を“本気にさせる”尿酸値を下げる方法や、乳酸菌による尿酸値の上昇抑制効果とは? 2019年11月29日、「疾病リスクマーカーとして注目すべき尿酸値に関する新知見」と題したメディアセミナー(主催:明治)が開催された。久留 一郎氏(鳥取大学大学院医学系研究科)、野口 緑氏(大阪大学大学院医学系研究科)、藏城 雅文氏(大阪市立大学大学院医学研究科)が登壇し、高尿酸値と疾病リスクの関係や患者指導のポイント、生活習慣改善にまつわる新旧のエビデンスについて講演した。高尿酸値で怖いのは痛風より合併症、尿酸値を下げないと全身で臓器障害を引き起こす 尿酸値が7.0mg/dLを超える高尿酸血症患者のうち、痛風発作を起こすのは約1割。残り9割は無症候性だが、痛風以上に心配すべきは合併症で、高尿酸値は心血管代謝疾患発症のリスク因子となる。高尿酸値と各疾患の関連は数多く報告されているが、合併症のない日本人の無症候性高尿酸血症患者を対象とした5年間のコホート研究では、男女問わず高血圧、脂質異常症、CKDの発症リスクと関連したほか、男性の肥満、女性の糖尿病の発症リスクと関連したことが明らかになっている1)。久留氏は「症状のない場合でも、5年間でこれらの疾患発症リスクが増加してしまうことは見逃せない」と指摘した。 同時に、尿酸はヒトにとって必要不可欠な物質でもある。血中に存在し、生理的濃度(5.0mg/dL程度)で血管内皮機能の維持に働いているとされ、2.0mg/dL以下の低尿酸血症の状態は避けなければならない。しかし、尿酸が血中に溶けることができる限界濃度は7.0mg/dLで、それ以上に尿酸値が高まると関節だけでなく、全身の細胞内に取り込まれて臓器障害を引き起こす。その機序としては、細胞内に蓄積した尿酸により活性酸素が産生されるルート、体内での尿酸合成に伴いキサンチンオキシダーゼ(XO)が活性化されて活性酸素が増加するルートの2つが考えられるという。患者を本気で尿酸値を下げる気にさせる“具体的で実感が湧く”情報とは 続いて登壇した野口氏は、尼崎市に保健師として在任中、独自の指導方法などによって毎年数例あった職員の脳・心血管疾患での在職死亡を“0”にした経験を持つ。尿酸値を下げる方法として、健診結果の数値を見せて、ただ「減らしてください」と言っても行動にはつながりにくく、いかに具体的なイメージを持ってもらうかが重要と強調した。 たとえば高尿酸血症の場合は、「痛風発作につながる可能性がある」と言われても患者は想像がつかないことが多い。しかし「血管をどう傷つけるか」を説明すると反応があるといい、そもそも尿酸はどんな物質で、体内のどこをどうめぐり、最終的に痛みにつながる可能性があることを図示した指導用資料を活用しながら、「何が原因となって体内でどうダブついてしまうのか」を説明するという。 米国でスタチン服用経験のある1万例以上を対象に、尿酸値を下げる治療を中断しないための条件を調査した研究では、「食事や運動の相談」「web情報」といった方法論の伝達だけでは継続者は少なく、「治療の説明に対する満足」「治療コントロール目標の説明に対する同意」「心臓や動脈に対する影響の説明」といった項目で、中断が継続を上回っていた2)。尿酸値上昇にサウナ+ビールはてきめん、尿値値を下げるには豆乳よりも牛乳? 尿酸値を下げるための具体的な生活指導の方法としては、高プリン食(肉類・魚介類など)を極力控えること、十分な水分摂取(尿量2,000mL/日以上)、アルコール(特にビール)の制限、軽い有酸素運動などが推奨されている3)。藏城氏は、関連のエビデンスをメカニズムと併せていくつか紹介。自転車エルゴメーターと尿酸値の関連を調べた研究では、実施時間が長くなるほど尿酸値が上昇し4)、激しい運動は尿酸値を下げるのとは真逆の効果をもたらすと説明した。アルコール摂取に関しては、低プリン発砲酒でも尿酸値は上昇するものの、その幅は通常のものよりも低く抑えられる5)、サウナ+ビールの組み合わせは脱水とプリン体摂取とにより大きく尿酸値が上昇する6)といったデータが紹介された。 逆に摂取が推奨されるものの1つが乳製品で、痛風の発症抑制に有効であることが報告されている7)。手軽に摂取できる牛乳は有用だが、豆乳では血中尿酸値を下げる効果が確認されなかったという8)。同氏はこの背景として、牛乳にはプリン体が含まれないが、豆乳には含まれることが影響しているのではないかと話した。乳酸菌が腸内でプリン体を栄養源として利用か 最後に藏城氏は、乳酸菌による尿酸値の上昇抑制効果について、新たなデータを紹介。プリン体の吸収抑制効果に着目して選定された乳酸菌(Lactobaccillus gasseri PA-3;以下PA-3株)を含むヨーグルトと、通常のヨーグルトの抑制効果を比較した結果について解説した。20歳以上の健康な男性14人対象のプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験の結果、ともに1日1パック(112g)のヨーグルトを摂取した場合、食後(プリン体摂取後)30分、60分時において、PA-3株を含むヨーグルトが、通常のヨーグルトと比較して尿酸値の上昇量を有意に抑制した9)。 同氏は、同じ乳製品でも、牛乳と乳酸菌による尿酸値抑制メカニズムが異なる可能性を指摘。牛乳の場合は、摂取後の尿中の尿酸排泄量が増加するが、PA-3株では尿中排泄量の変化はみられなかった。しかし血清尿酸値は抑制されていることから、「乳酸菌は消化管からのプリン体吸収抑制に寄与し、腸管内でプリン体を取り込み、増殖のための栄養源として利用している可能性がある」と話した。■参考1)Kuwabara M, et al. Hypertension. 2017 Jun;69:1036-1044.2)Cohen JD, et al. J Clin Lipidol. 2012 May-Jun;6:208-15.3)日本痛風・核酸代謝学会. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.診断と治療者;2018.4)Yamamoto T, et al. Horm Metab Res. 1994 Aug;26:389-91.5)Yamamoto T, et al. Metabolism. 2002 Oct;51:1317-23.6)Yamamoto T, et al. Metabolism. 2004 Jun;53:772-6.7)Choi HK, et al. N Engl J Med. 2004 Mar 11;350:1093-103.8)Dalbeth N, et al. Ann Rheum Dis. 2010 Sep;69:1677-82.9)Kurajoh M, et al. Gout and Nucleic Acid Metabolism. 2018;42:31-40.

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脳梗塞、一過性脳虚血発作発症後の脂質管理はどの程度まで(解説:吉岡成人氏)-1164

脳卒中治療ガイドライン2015 脳梗塞は適切な内科治療が行われなければ、最初の1年で10人に1人が再発する。一方、TIAも発症後90日以内の脳卒中発生率は15~20%である。脳梗塞、TIAの再発予防においては、抗血栓療法と内科的リスク(血圧、脂質、血糖)の管理が重要である。日本における『脳卒中治療ガイドライン2015』においても、脳梗塞患者の慢性期治療における脂質異常のコントロールが推奨されており、高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に有用であると記されている(グレードB:行うように勧められる)。また、低用量のスタチン系薬剤で治療中の患者においてはEPA製剤の併用が脳卒中の再発予防に有効であることも併記されている(グレードB)。LDL-Cを70mg/dL未満に管理することの有用性と問題点 脳梗塞、TIA発症後の患者におけるLDL-Cの管理をどの程度にすべきかについての臨床研究が、NEJM誌オンライン版(2019年11月18日号)に掲載された。 3ヵ月以内に脳梗塞ないしは15日以内にTIAを発症した成人患者を対象として、フランスの61施設、韓国の16施設が参加した無作為化並行群間試験で2,860例が登録されている。LDL-Cを90~110mg/dLに管理する高目標群と70mg/dL未満に管理する低目標群の2群に分け、主要エンドポイントを複合心血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、冠動脈ないしは頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな徴候、心血管死)として治療の有用性を検討した結果が示されている。追跡期間の中央値は3.5年(フランス5.3年、韓国2.0年)で、期間中に高目標群では平均LDL-C値が136mg/dLから96mg/dLとなり、低目標群では135mg/dLから65mg/dLとなった。追跡期間においてLDL-C値が目標域に維持されていた割合は高目標群で32.2%、低目標群で52.8%であった。 主要エンドポイントの発症率は高目標群で10.9%(2.98/100人・年)、低目標群で8.5%(2.27/100人・年)であり、厳格に脂質管理を行う群でのリスクの低下が示された(補正後ハザード比HR:0.78、95%信頼区間:0.61~0.98)。 サブグループ解析では、フランスの施設では低目標群で優位なリスク減少が認められ(HR:0.73、95%信頼区間:0.57~0.95)、韓国の施設ではHR 1.11と群間における差がなかった。また、既往に脳梗塞があった群では低目標群で有意にリスクが減少した(HR:0.67、95%信頼区間:0.52~0.87)が、TIA群ではリスクの減少は認められなかった(HR:2.06、95%信頼区間:1.03~4.12)。さらに、頻度は少なく、有意差はないものの、頭蓋内出血は低目標群で多く(1.3% vs.0.9%、HR:1.38、95%信頼区間:0.68~2.82)、観察期間中の糖尿病の発症率も低目標群で高かった(7.2% vs.5.7%、HR:1.27、95%信頼区間:0.95~1.70)。厳格なLDL-C管理は有用なのか 脳梗塞患者の再発予防に、厳格なLDL-C管理はどの程度有用なのであろうか。観察期間の長短がフランスと韓国での脂質管理の有用性に差異をもたらしたのであろうか、人種差は関連がないのであろうか。また、脂質の管理が示す再発予防の効果に関して、脳梗塞の患者とTIAの患者で異なっているのは、基礎となる病態が脳梗塞とTIAとで違ったものだからなのだろうか。LDL-Cを厳格に管理することと頭蓋内出血や新規の糖尿病の発症は統計学的に有意ではないが、臨床の現場では、どのように対応すべきなのであろうか。 主要エンドポイントが385例に達するまで継続する予定のevent-driven試験であったが、運営資金の不足により277例で早期中止となってしまったようである。日本人の脳梗塞患者、TIA患者における再発予防のためのLDL-C値はいかにあるべきか、その指針となる新たな臨床試験が必要なのかもしれない。

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第32回 血管拡張薬による頭痛、潰瘍はどれくらいの頻度で生じるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 血管拡張薬による薬剤誘発性頭痛は比較的よく知られている副作用で、私も患者さんから強度の頭痛について相談されたことが何度もあります。NSAIDsを併用することもありますが、効果が不十分なケースもあるため対応に困ることがありました。今回は、血管拡張薬の中でも特徴的な作用を持つニコランジルについて紹介します。頭痛のため9人中1人は脱落ニコランジルを用いた長期のプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験として、5,126例(平均年齢67歳)を組み入れて、平均1.6年追跡したIONA試験があります1)。これはニコランジル唯一の大規模ランダム化試験で、組み入れ基準は、男性は45歳以上、女性は55歳以上、心筋梗塞、冠動脈バイパス術の既往または過去2年間の運動負荷試験陽性例で、次のリスク因子のうち少なくとも1つを有する被験者でした。条件:心電図による左室肥大、EF≦45%、拡張終期径>55mm、糖尿病、高血圧、その他の血管疾患薬局では、心臓カテーテル治療によりステントを留置している患者さんの対応も多いと思いますが、この試験の対象ではないことに注意が必要です。介入群はニコランジル10mg×2回/日を2週間服用後、20mg×2回/日に増量した2,565例で、比較対象はプラセボ服用の2,561例でした。いずれの群もベースラインで他の標準療法(抗血小板薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、スタチンおよびACE阻害薬)を受けています。主解析項目は、冠動脈心疾患死、非致死性心筋梗塞、胸痛による緊急入院の複合エンドポイントで、ニコランジル群337例(13.1%)、プラセボ群398例(15.5%)で、ハザード比:0.83、95%信頼区間[CI]:0.72~0.97、p=0.014でした。NNTは100/(15.5-13.1)≒42ですので、複合エンドポイントでは有意差が出ています。しかし、中に入っている各イベント自体は同列に扱えるものではないことに留意が必要です。二次解析項目では、冠動脈性心疾患死および非致死性心筋梗塞を見ています。こちらはニコランジル群107例(4.2%)に対してプラセボ群134例(5.2%)で、ハザード比:0.79、95%CI:0.61~1.02、p=0.068と有意差はありませんでした。総死亡はハザード比:0.85、95%CI:0.66~1.10と減少傾向であるものの、こちらも有意差はありませんでした。頭痛による脱落は、プラセボ群の81例(3.1%)に対して、ニコランジル群では364例(14.2%)ですので、9人服用すれば1人が頭痛で脱落するという計算になります。本研究に限った話ではないのですが、このように副作用の頻度に偏りが大きいと事実上盲検化が維持できないケースもあります。高用量であるほど潰瘍が早期にできて治りにくい添付文書に頻度不明の副作用として記載がある潰瘍の頻度については、IONA試験の各種コホート研究およびIONA試験の著者から収集した未公表データを含めたシステマティックレビューが2016年に発表されています2)。ここでは、Kチャネル開口作用を持つニコランジルに特徴的な潰瘍について紹介されています。同文献によれば、口腔潰瘍は被験者の0.2%で発症し、肛門潰瘍は0.07~0.37%で発症するとされています。口腔潰瘍を発症するまでの期間は、30mg/日未満群では74週間であるのに対し、高用量群では7.5週間(p=0.47)と用量依存性がありました。また、用量と潰瘍治癒時間にも有意な相関関係がみられています。重症の場合は医師と相談のうえで中止されることがあるため、口内炎が悪化するようなら報告を求めるよう伝える必要があります。実際に口腔内や舌に生じた潰瘍の症例報告の文献がありますが3)、ニコランジルを中止後4週間前後で治癒しています。まれな副作用ではありますが、同文献内に症例写真が掲載されていますので、ご覧いただきイメージをつかむとよいと思います。1)IONA Study Group. Lancet. 2002;359:1269-1275.2)Pisano U, et al. Adv Ther. 2016;33:320-344.3)Webster K, et al. Br Dent J. 2005;198:619-621.

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超悪玉脂肪酸はコントロールできるのか?/日本動脈硬化学会

 超悪玉脂肪酸の別名を持つトランス脂肪酸。この摂取に対し、動脈硬化学会が警鐘を鳴らして早1年が経過したが、農林水産省や消費者庁の脂肪酸の表示義務化への姿勢は、依然変わっていないー。2019年12月3日、日本動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「飽和脂肪酸と動脈硬化」が開催され、石田 達郎氏(動脈硬化学会評議員/神戸大学大学院医科学研究科循環器内科学)が「食事由来(外因性)の脂質を考える」について講演。脂質過多な患者と過少な患者、それぞれの対応策について語った。脂質コントロールの落とし穴 日本人の血中コレステロール上昇の原因は“食生活の欧米化”で片付けられがちである。そこで、石田氏は食事による血中コレステロール濃度の変動に影響する因子(1:飽和脂肪酸の過剰摂取、2:トランス脂肪酸の摂取、3:不飽和脂肪酸の摂取不足、4:コレステロールの摂取量と吸収効率、5:植物ステロールや食物繊維などによる影響)を提示。「これまでの指導は卵など単独食品の摂取制限を強調するものだった」とし、「食事による種々の因子があるなかで、医療者は血中コレステロール値の変動をさまざまな角度で見ることが大切。以前のようにLDL-CやHDL-Cなどのコレステロールにだけ着目して指導するのは理想的ではない」と、述べた。また、「脂質の種類(コレステロール、中性脂肪、脂肪酸[飽和、不飽和])の区別がつかない患者には、何にどんな成分がどのくらい含まれているのかを含めた丁寧な指導が必要」と、説明した。 たとえば、飽和脂肪酸は過剰摂取すると血中LDL-C値の上昇や炎症を惹起する作用があり、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』第4章の包括的リスク管理の食事療法のCQにおいて、“適正な総エネルギー摂取量のもとで飽和脂肪酸を減らすこと、または飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置換することは血清脂質の改善に有効で、冠動脈疾患発症予防にも有効である(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)”と、記載されているが、 “飽和脂肪酸摂取を極度に制限することは、脳内出血の発症と関連する可能性がある”と併記されている。また、厚生労働省が策定し来年発刊予定の『食事摂取基準2020年版』1)では、飽和脂肪酸の目標量は18歳以上では7%未満(エネルギー比率として)と設定されている。 この目標量を達成するために有用なのが、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版』である。このガイドではコレステロールと飽和脂肪酸の含有比率の表が掲載され、コレステロール含有量は低いが飽和脂肪酸含有量が高い食品としてチーズやバラ肉など、コレステロール含有量も飽和脂肪酸含有量も低いものとして赤肉や牛乳などが記されている。しかし、ここで問題なのは、日本の加工食品には脂肪酸の含有量が明記されていないこと、コレステロール含有量の低い食品を摂取しても、トランス脂肪酸摂取によりコレステロールが上昇してしまうことである。これに対し同氏は、「食品1つ1つに脂肪酸含有量が明記されていないため、摂取過多・過少に関する問題は医療者と患者だけでは解決できない」と、国民の力だけでは基準順守が不可能なことを言及した。結局、誰の仕事?脂肪酸摂取の適正化 では、誰が脂肪酸摂取の適正化を行うべきなのか。本来は身体に良い不飽和脂肪酸も工場での加工段階でトランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)に変化してしまうのだから、製造・販売過程での適正化がなされなければ、医療者や患者の努力は水の泡である。同氏は「日本の現状では個人の意思に関係なく摂取してしまう。食品産業全体が責任を持って減少に取り組むべき。何らかの法規制も必要」と、主張した。 海外では脂肪酸の表記は当たり前となっており、国全体で摂取を避ける取り組みが行われている。近年、日本人においても超悪玉脂肪酸の心血管疾患へのリスクが報告されている2)。そして、つい先日発表された日本の久山町研究でも、認知症リスクへ超悪玉脂肪酸の影響が示され3)、海外メディアに取り上げられ脚光を浴びた。この研究では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高い人ではアルツハイマー病リスクが75%も上昇することが明らかとなった。同氏によると、この研究は古典的な食事内容調査ではなく、トランス脂肪酸の血中濃度に注目した点が科学的信頼性を高めたと評価されたのだという。実際に、マーガリン、コーヒークリーム、アイスクリーム、せんべい類などのように超悪玉脂肪酸を多く含む食品を摂取している人では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高くなる傾向があった。  一方で、飽和脂肪酸自体はエネルギー源としても重要であり、適度に摂取することに問題はない。同氏は「食事摂取量が少なくなる高齢者はフレイルリスクも高いため、若者と同じような脂肪の摂取制限だけの指導を行ってはいけない」とし、患者対応時には以下の点に留意し、複合的に指導するよう求めた。・飽和脂肪酸は、血中コレステロールを増やすため、動物性脂肪の食べ過ぎに注意する。・トランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)は、飽和脂肪酸よりさらにコレステロール増加作用が強い。・不飽和脂肪酸のなかでもオリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸紅花油は血清脂質の改善作用が報告されている。・青魚に含まれるEPAやDHAは最も身体に良い。・2型糖尿病患者、腎不全/透析患者、スタチン長期服用患者、高コレステロール血症患者、冠動脈疾患患者などではコレステロール吸収が亢進しており、血中コレステロールが上がりやすい。・高齢者のように脂肪の摂取量が極めて少ない方もいる。 最後に同氏は、「脂質異常治療戦略のあり方には、欧米化する食生活の中で国民全体の摂取量を適正化することと、個々の患者の脂質値を改善することの2つ視点を分けて考え、臨床現場ではリスクに応じたきめ細やかな指導を心がけるべき」と、締めくくった。

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術後管理は手術を救えるか?―CABG編(解説:今中和人氏)-1156

 「人間、左前下行枝さえ保たれていれば何とかなる」とはいうものの、冠動脈バイパス手術の中・長期的便益は、ひとえに開存グラフトによってもたらされるのであり、グラフトの開存維持はまさに死活問題。その重要因子の1つは内服薬で、何をどのくらい処方すべきか、いろいろと考案されてきた。古くはアスピリン、ビタミンK拮抗薬と、それらの併用に始まり、近年ではチエノピリジン系(クロピドグレル、チカグレロル)やOACの中でもリバーロキサバンの、単剤ないし併用といったところである。 大伏在静脈グラフト(SVG)の開存性と内服薬に関するメタ解析である本論文は、3,266の候補論文を1979年から2018年の間に発表されたランダム化試験21本に絞り込み、1次アウトカムをSVG閉塞と出血イベント、2次アウトカムを全死因死亡と遠隔期心筋梗塞と定義して解析している。対象患者数は4,803例で、年齢は44~83歳、男性が83%、待期手術が83%、SVG本数は1患者当たり1.14~3.60本であった。 40年もの期間から容易に想像できるように、プロトコル、つまり処方薬剤・投与量・コンビネーション・投与期間はまったくバラバラだし、placebo対照の研究もあれば投与薬剤間の比較研究もある。この恐ろしく不統一なプロトコルを、薬剤とそのコンビネーションのみに基づいて群分けし、群間比較をしているのだが、絞りに絞った21論文とはいいながら、とくに2次アウトカムは書かれていない論文も多く、さらにたとえば流量が乏しかったのでDAPTに変更したが、群分けは当初のplacebo群のまま、といったintention to treat法に伴うbiasなどが目立ち、科学的公正性が高いのはわずか5論文とのことである。そのため、結果の信頼性はmoderate・low・very lowに3区分(highがない!)され、図表を見ると緑・黄色・赤に塗り分けられてキレイといえばキレイだが、めまいがするほど複雑である。読む側でさえそう感じるのだから、書いた側の苦労がしのばれる。 結論は、SVG閉塞に関しては、対placeboで、クロピドグレル単剤を除くすべての薬剤(単剤・併用)で有意に良好、アスピリン単剤に比し、アスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロルの併用が有意に良好で、その他の出血イベント、全死亡、遠隔期心筋梗塞は有意差がなかった。著者らはこの知見を本メタ解析の収穫として強調している。その他、SVG閉塞に関して、アスピリンへのリバーロキサバンの併用は、クロピドグレル、チカグレロルを併用した症例に有意に劣るという結果が出ているが、あまり詳述されていない。この薬剤については他の疾患や治療でも多様な結果が出ているようで、なかなか難しい。なお、古い論文も多く、スタチンをはじめ血液凝固関係以外の薬剤は検討対象外となっている。 読者として注意を要すると思われるのは、SVG閉塞の評価時期がとても早く、全4,800例のうち、3ヵ月以内の評価が600例もおり、平均観察期間が1年を超えているのは1論文216例のみであること、薬剤投与期間が観察期間未満で、やはりとても短いことである。とくに1ヵ月や50日後のSVG評価が250例もいて、これでは薬剤の効果をみているのか、吻合の質をみているのか、はたまた「術後管理は手術を救えるのか」をみているのか、かなり疑問である。ところが、これら観察期間の短い論文の多くが、著者らが収穫と強調するチエノピリジン併用に関する論文なので、どうも釈然としない。いずれにせよ、もっと長期の観察でないと、薬剤の効果をみたことになりにくいと考える。 もう1つは単剤でも併用でも、どの薬剤も対placeboで出血を有意に増やさない、という結論である。実はオッズ比2.53~5.74ながら95%信頼区間が恐ろしく広く、有意差なしということだが、理論的に大いに疑問である。ちなみにこれらのデータの信頼度はvery lowだそうで、図表は真っ赤っ赤。対placeboの疑義はともかく、アスピリンに上述の諸薬剤を併用しても、アスピリン単剤に比して出血イベントはさして増えていないようだが、何せ観察期間が短い論文ばかり。安全と鵜呑みにするのは危険である。 引き続き、あまり術後管理頼みにならない手術を心掛けて参りましょう。

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脳卒中後、CVイベント抑制のためのLDL-C目標値は?/NEJM

 アテローム性動脈硬化が証明され、虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)を発症した患者では、LDLコレステロール(LDL-C)の目標値を70mg/dL未満に設定すると、目標値90~110mg/dLに比べ、心血管イベントのリスクが低下することが、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のPierre Amarenco氏らが行った「Treat Stroke to Target試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年11月18日号に掲載された。アテローム性動脈硬化に起因する虚血性脳卒中やTIAの患者では、スタチンを用いた強化脂質低下療法が推奨されている。一方、脳卒中発症後の心血管イベントの抑制におけるLDL-Cの目標値については、十分に検討されていないという。LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群または90~110mg/dLとする群に割り付け 本研究は、フランスの61施設と韓国の16施設が参加した無作為化並行群間比較試験であり、2010年3月~2018年12月の期間に患者の割付が行われた(フランス連帯・保健省などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上(韓国は20歳以上)、直近3ヵ月以内に虚血性脳卒中または15日以内にTIAを発症し、脳血管または冠動脈のアテローム性動脈硬化が証明されている患者であった。 被験者は、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする群(低目標値群)または90~110mg/dLとする群(高目標値群)に無作為に割り付けられ、スタチンまたはエゼチミブ、あるいはこれら双方による治療を受けた。 主要エンドポイントは、主な心血管イベント(虚血性脳卒中、心筋梗塞、冠動脈または頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな症状、心血管死)の複合とした。 本試験は、主要エンドポイントが385例で発生するまで継続する予定のevent-driven試験であるが、運営上の理由で2019年5月26日に早期中止となった。この時点でイベントを発生していた277例について解析が行われた。LDL-C低目標値群と高目標値群の主要複合エンドポイント:8.5% vs.10.9% 虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作を発症した患者2,860例が登録され、LDL-C目標値を70mg/dL未満とする低目標値群に1,430例(平均年齢66.4±11.3歳、男性67.9%)、高目標値群にも1,430例(67.0±11.1歳、67.3%)が割り付けられた。 試験期間中に、LDL-C低目標値群65.9%、高目標値群94.0%がスタチンのみの投与を受け、それぞれ33.8%、5.8%はエゼチミブ+スタチンの投与を受けていた。追跡期間中央値2.7年の時点で、低目標値群30.3%、高目標値群28.5%が治療を中止していた。 ベースラインの平均LDL-C値は両群とも135mg/dL(3.5mmol/L)であった。追跡期間中央値3.5年の時点で、平均LDL-C値は、低目標値群が65mg/dL(1.7mmol/L)、高目標値群は96mg/dL(2.5mmol/L)に低下していた。 主要複合エンドポイントの発生率は、LDL-C低目標値群が8.5%(121/1,430例)と、高目標値群の10.9%(156/1,430例)に比べ有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.61~0.98、p=0.04)。 主要複合エンドポイントのイベントの多くは非致死的脳梗塞または原因不明の脳卒中(低目標値群5.7%、高目標値群7.0%)であり、これに比べると、心血管死(1.2%、1.7%)、非致死的急性冠症候群(1.0%、1.6%)、緊急冠動脈血行再建術(0.3%、0.4%)、緊急頸動脈血行再建術(0.2%、0.2%)の頻度は低かった。 副次エンドポイント(心筋梗塞または緊急冠動脈血行再建術、脳梗塞または頸動脈/脳動脈血行再建術、脳梗塞またはTIA、血行再建術[頸動脈、冠動脈、末梢動脈]、死亡、脳梗塞または頭蓋内出血、頭蓋内出血、新規に診断された糖尿病)は、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。このうち、頭蓋内出血(1.3%、0.9%)と糖尿病(7.2%、5.7%)の発生率は低目標値群で高い傾向がみられたが、他の項目は低目標値群で低い傾向が認められた。 著者は、「韓国は患者登録の開始がフランスよりも遅く、追跡期間中央値はそれぞれ2.0年および5.3年と差があり、韓国人患者では有意な効果の検出力はない可能性がある」とし、「今回の試験結果の解釈では、試験の早期中止を考慮する必要がある」と指摘している。

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DPP-4阻害薬の心血管安全性はSU薬と同等(解説:吉岡成人氏)-1146

 DPP-4阻害薬であるリナグリプチンの心血管アウトカムに関する試験として、プラセボを対照として非劣性を示したCARMELINA(Cardiovascular and Renal Microvascular Outcome Study With Linagliptin)試験の結果がすでに報告されている(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019;321:69-79.)。今回、SU薬であるグリメピリドを対照として心血管アウトカムについて検証したCAROLINA(Cardiovascular Outcome Study of Linagliptin Versus Glimepiride in Patients With Type 2 Diabetes)試験の結果が、JAMA誌に掲載された(Rosenstock J, et al. JAMA. 2019 Sep 19. [Epub ahead of print])。 心血管疾患の既往ないしは心血管リスクを有する2型糖尿病で、未治療ないしはメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬のいずれかまたは併用で治療されているHbA1c 6.5~7.5%の患者を対象としている。リナグリプチン投与群とグリメピリド投与群をランダムに割り付け、3ポイントMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合)の初発までの期間を主要評価項目として、中央値で6.3年間にわたって追跡したものである。 3ポイントMACEはリナグリプチン群、グリメピリド群ともに2.1/100人・年で、グリメピリドに対するリナグリプチンの非劣性が示されたものの、優越性は認められなかった。全死亡、非心血管死のリスクに対しても両群で差はなかった。試験期間を通じて、脂質プロフィールや血圧に差はなく、低血糖の発現頻度はリナグリプチン群2.3/100人・年、グリメピリド群11.1/100人・年であり、リナグリプチン群で有意に少なかった(HR:0.23、95%信頼区間:0.21~0.26)。第三者の助けが必要な重症低血糖はグリメピリド群で0.5/100人・年、リナグリプチン群で0.1/100人・年であった。 罹病期間6.3年(中央値)、メトホルミンが83%に投与されている2型糖尿病患者で、心血管疾患のリスク軽減のためにアスピリン50%、スタチン64%、RA系阻害薬75%、降圧薬88%と比較的十分な薬物治療が行われている場合には、DPP-4阻害薬を投与してもグリメピリドに勝る心血管安全性が示されなかったことが確認された。 日本においてDPP-4阻害薬は糖尿病患者の半数以上に広く用いられており、インクレチンを介した心血管保護作用も期待されている。しかし、スタチンやRA系阻害薬など心血管疾患のリスクを軽減することが十分に立証された薬剤で治療されている患者にとって、相加的な心血管保護作用を示すかどうか、慎重に見極めなくてはいけない。

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