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【第9回】SGLT2阻害薬による治療のキホン―どのような患者さんに適しているのでしょうか。 健康成人では、1日に約180gのグルコースが腎臓の糸球体でろ過され、一旦、尿中に排泄されますが、尿中に排泄されたグルコースは、近位尿細管の細胞膜上に発現しているトランスポーター(共輸送体)であるSGLTを介して再吸収され、血液中に運ばれます。SGLTには1~5の5つのサブタイプがあり、腎臓にはSGLT1およびSGLT2が発現していますが、近位尿細管におけるグルコースの再吸収は、約90%はSGLT2が、残りの約10%をSGLT1が担っています1)。 SGLT2阻害薬は、選択的にSGLT2を阻害し、近位尿細管におけるグルコースの再吸収を阻害して、そのまま尿中に排泄させることで、血糖を低下させます。インスリン分泌を介さずに血糖を低下させるという特徴に加え、血糖低下以外にも、尿糖排泄によるエネルギー漏出の代償として、体重減少が期待できるという特徴があります(約65~80g程度のグルコースが排出され、1日当たり260~360kcalのエネルギー消費に相当2))。尿糖排泄は血糖依存性で、血糖値が高ければ高いほど尿糖排泄量は増加するため、食後の高血糖改善に適しているように思えますが、尿細管での再吸収阻害による尿糖排泄速度が、食後の腸管からの糖の吸収速度には追いつかないため、どちらかというと食後よりも空腹時に対する効果が期待できます。そのため、空腹時血糖値が高く、肥満があり、高インスリン血症を来しているような患者さんが適しています。 単独、併用、いずれにおいても血糖低下効果は期待できますが、これまでのインスリン分泌やインスリン感受性に働きかけて血糖を低下させる薬剤とまったく異なる作用機序であるため、第1選択薬として用いるよりも、第2、第3の薬剤として用いることで、他の薬剤との併用による上乗せ効果を得やすいという特徴があります。 SGLT2阻害薬は、インスリン分泌を介さずに、尿中への糖の排泄を促進することで、強力、かつ速やかに血糖を低下させるため、糖毒性が軽減できることが明らかになっています3)。他の経口血糖降下薬を使っていても血糖コントロール不良で、高血糖が持続し、糖毒性を来していると考えられる患者さんに上乗せすることで、膵β細胞を休ませながら、速やかに血糖を低下させ、糖毒性を解除するという使い方ができます。 糖毒性が解除されると、それまで使っていた薬剤の効果が増強されます。例えば、DPP-4阻害薬を使っていても血糖コントロール不良な患者さんの場合、高血糖状態の持続により、膵β細胞のGLP-1受容体の発現が低下してしまいます。そのため、DPP-4阻害薬の効果が十分発揮できていない可能性があります。そこにSGLT2阻害薬を上乗せすると、インスリン分泌を介さない速やかかつ強力な血糖低下作用により、急速に糖毒性が解除され、ブドウ糖応答インスリン分泌(食後のインスリン追加分泌)が回復します。加えて、低下していたGLP-1受容体の発現が増加し、それにより、高血糖状態が持続していた時に効きの悪かったDPP-4阻害薬の効果が増強されるようになります。実際に、フロリジンを投与した膵切除高血糖ラットで、膵臓β細胞におけるGLP-1受容体の増加がみられたことが報告されています4)。 糖毒性が解除され、既存の薬剤の効果が増強されると、急激に血糖値が下がってくる恐れがあるため、低血糖を惹起しやすいSU薬などを併用している場合は注意が必要です。高用量のSU薬を使っている場合は、SGLT2阻害薬を併用する際には、減量を検討したほうがよいでしょう。 SGLT2阻害薬については、血糖低下作用以外に、体重減少が期待でき、体重についても、血糖低下と同様、投与初期から効果がみられるため、それを期待して肥満の患者さんに投与することがありますが、前述したように、尿糖排泄により、エネルギーが漏出するため、最初は体重が減少するものの、しばらくするとエネルギーの枯渇により空腹感が増したり、甘いものが食べたくなるなどして、体重が増加してしまうケースがあります。実際に、自由摂餌下でSGLT-2阻害薬を投与した食餌性肥満ラットにおいて、摂餌量の増加が認められたことが報告されています5)。SGLT2阻害薬を投与した患者さんでは、定期的に食事療法をチェックし、問題があれば見直す必要があります。 SGLT2阻害薬を使っていて、体重が増加してしまうような患者さんに対して、食欲抑制効果を有するGLP-1受容体作動薬を併用するのも良い方法です※。実際に、海外で行われた、GLP-1受容体作動薬エキセナチド(商品名:ビデュリオン)と、ダパグリフロジンの併用療法の効果をみたDULATION-8試験で、それぞれの単独療法よりも、血糖低下および体重減少において効果が認められたことが示されています6)。 ※現在、日本でSGLT2阻害薬との併用が認められているのは、1日1回投与のリラグルチド(商品名:ビクトーザ)と週1回投与のデュラグルチド(商品名:トルリシティ)のみ。―各製剤の特徴について教えてください。 2014年に最初のSGLT2阻害薬が発売され、今では6種類7製剤のSGLT2阻害薬が臨床使用できるようになりました(2016年3月現在)。これらSGLT2阻害薬の血糖低下作用はおおむね同等と思っていますが、私は、腎でグルコースの再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 前述したように、腎における糖の再吸収の約90%はSGLT2阻害薬が主にターゲットとしているSGLT2によりますが、残り10%はSGLT1が担っています1)。SGLT1は主に小腸上部に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています7)。SGLT2に選択性が高いSGLT2阻害薬の場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追いつかない、つまり食後の高血糖を十分是正できない、という問題が出てきます。これがSGLT2阻害薬の弱点でもあるのですが、SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、そのような薬剤では、食後の小腸における糖の吸収遅延による食後高血糖の改善が期待できます。実際に、健康成人を対象に、SGLT2に対する選択性が低いカナグリフロジン(商品名:カナグル)とプラセボを投与した無作為化二重盲検比較試験で、カナグリフロジンで、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したという報告があります8)。また、健康成人を対象に、カナグリフロジンと、カナグリフロジンに比べてSGLT2に対する選択性が高いダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)の薬力学的効果を比較した無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、カナグリフロジンで食事負荷試験後の血糖上昇を抑制したことが報告されています9)。これは、小腸における糖の吸収遅延により食後高血糖を改善するα-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。―尿路感染症や性器感染症が心配です。実際、どのくらいの頻度で発生するのでしょうか。 SGLT2阻害薬では、尿糖排泄作用により、尿中の糖が増えることで、尿路および生殖器が易感染状態となり、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなる可能性があります。発現頻度については、各薬剤の治験および市販後調査の結果が発表されていますので、そちらを参考にしていただければと思います。 SGLT2阻害薬を処方する際には、尿路感染症や性器感染症が発現しやすくなることをあらかじめ患者さんに伝えたうえで、尿意を我慢しないこと、陰部を清潔に保つことを心掛けてもらい、排尿痛や残尿感、陰部のかゆみ、尿の濁りなどがあればすぐに受診するよう、伝えます。また、適宜、問診や検査を行って発見に努めるようにします。―高齢者における安全性はどのように考えればよいのでしょうか。 尿糖排泄を促進するSGLT2阻害薬では、浸透圧利尿作用が働き、頻尿・多尿になり、体液量が減少するために、脱水症状を起こすことがあります。この循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されているため、脱水には十分注意する必要があります。高齢者は特に脱水を起こしやすいため、高齢者への投与は無理をせず、慎重に行います。 日本糖尿病学会による「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」10)では、高齢者に対するSGLT2阻害薬の使用については、「75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する」としています。 SGLT2阻害薬の尿糖排泄促進作用は、血糖に依存します。つまり、血糖値が高ければ高いほど、尿へ排泄される糖の量が多くなるため、尿量も増加します。そのため、血糖値が高い投与初期は、とくに注意する必要があります。患者さんには、SGLT2阻害薬で脱水を生じる可能性があることを伝えたうえで、意識して水分を多く摂取するよう指導します。尿量が指標になるため、尿量が多いと感じたら、いつもより水分を多めに摂取するように、というのもよいでしょう。また、夜に糖質の多い食事をたくさん食べてしまうと、夜間の尿量が増え、排尿のために睡眠が妨げられてしまうことがあります。快適な睡眠のためにも、夜は糖質の多い食事を控えるのもよいでしょう。発熱や嘔吐・下痢などがあるとき、食欲がなく、食事が十分とれないときには(シックデイ)、脱水の原因にもなりますので、休薬してもらいます。 SGLT2阻害薬を投与しているときは、血液検査所見で脱水がないかどうかを定期的に観察します。脱水の代表的な指標はヘマトクリット(Ht)値ですが、腎に作用するSGLT2阻害薬では、腎から分泌され、赤血球の産生を促すホルモンである、エリスロポエチンに影響を及ぼす可能性が指摘されていますので、合わせてBUNやCreでみるのがよいと思います。1)Fujita Y, et al. J Diabetes Investig. 2014;5:265-275. 2)羽田勝計、門脇孝、荒木栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.3)Bailey CJ. Trends Pharmacol Sci. 2011;32:63-71.4)Gang Xu et al. Diabetes 2007; 56: 1551-15585)Devemy J et al. Obesity 2012; 20(8):1645-16526)Frias JP, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:1004-1016.7)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014.8)Polidori D, et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.9)Sha S, et al. Diabetes Obes Metab. 2015;17:188-197.10)SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation. 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」