サイト内検索|page:2

検索結果 合計:129件 表示位置:21 - 40

21.

ミトコンドリア超複合体の「見える化」で筋力を高める薬物を発見

 筋肉でエネルギーを産生する際に重要な「ミトコンドリア超複合体」の可視・定量化(見える化)に成功したとする、東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏らの論文が、「Nature Communications」に1月25日掲載された。ミトコンドリア超複合体を増やして筋肉の持久力を高める薬剤も見つかったという。 筋肉は運動のために大量のエネルギーを必要とし、そのエネルギーは細胞内小器官であるミトコンドリアによって作られている。ミトコンドリアの内部では「複合体」と呼ばれるタンパク質同士が結合して、さらに大きな「ミトコンドリア超複合体」という集合体を作ることで、より多くのエネルギーを産生している。ただ、これまでは生きた細胞(生体内)のミトコンドリア超複合体を観察することができず、研究の足かせとなっていた。そこで井上氏らは、まず、ミトコンドリア超複合体の可視化に取り組んだ。 ミトコンドリア超複合体の構成因子であるIとIVという複合体に、それぞれ緑色と赤色の蛍光タンパク質を連結したマウス由来の筋肉細胞を作製。この細胞は、IとIVが距離的に離れているときには単色で光るが、ミトコンドリア超複合体を形成して両者が近接すると、蛍光タンパク質同士も近づくためにエネルギーの移行が起こり、緑色で蛍光刺激すると赤色に光るという現象が生じる。この現象を、レーザー顕微鏡で観察することにより、生体内ミトコンドリア超複合体を定量的に観察すること、いわゆる「見える化」に成功した。 次に、マウスの筋肉細胞を見える化し、ミトコンドリア超複合体を増やす薬物を探索。1,000種類を超える薬物で実験を繰り返した結果、リン酸化酵素阻害薬(SYK阻害薬)という薬物が、ミトコンドリア超複合体の量を増やし、エネルギー代謝を高める可能性のあることが明らかになった。 続いて、SYK阻害薬をマウスの腹腔内に週2回投与。5週間後、生理食塩水を同様に投与したマウス(対照群)と比べると、筋肉のミトコンドリア超複合体の量が多く、筋持久力(懸垂持続時間、走行距離、走行速度)が高いという有意差が確認された。なお、SYK阻害薬を投与したマウスに、体重減少を含む悪影響は観察されなかった。また、筋肉量は対照群と有意差がなかったことから、筋持久力アップは筋肉の質が向上したことによるものと推察された。 近年、加齢や疾患に伴い筋肉量や筋力の低下した状態である「サルコペニア」が、生活の質(QOL)低下や死亡リスク上昇の一因として問題になっている。著者らは、「本研究の成果は、加齢に伴う筋力の低下や筋疾患のメカニズムの解明と、その診断・治療薬開発の応用につながるばかりでなく、運動能力の向上に伴う健康増進、スポーツパフォーマンスの向上にも役立つと考えられる」と述べている。

22.

日本人のサルコペニア予防には地中海食より日本食?

 日本人中高齢者の食生活と握力との関連を検討したところ、より日本食らしい食事パターンの人ほど、握力低下が少ないことが明らかになった。一方、地中海食らしい食事パターンは、握力低下に対する保護的な効果は見られなかったという。長野県立大学健康発達学部の清水昭雄氏、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部の遠又靖丈氏、三重大学医学部附属病院リハビリテーション部の百崎良氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月3日掲載された。 日本食と地中海食はどちらも健康的な食事パターンとして知られており、それらを順守している人ほど心血管疾患や全死亡リスクが低いことが報告されている。ただ、日本を含む先進諸国では人口の高齢化を背景に、筋力や筋肉量が低下した状態であるサルコペニアを予防することの重要性が増している。そこで清水氏らは、日本食または地中海食の順守と、サルコペニアの主要な関連因子である握力低下との関連を横断的に検討した。 研究には、独立行政法人経済産業研究所などが行っている中高齢者対象調査「くらしと健康の調査(JSTAR)」のデータを用いた。JSTARは、国内10都市の50歳以上の地域住民から無作為に抽出された人を対象とするパネル調査であり、その参加者のうち今回の研究で解析に必要なデータがそろっている6,031人(平均年齢62.8±7.0歳、女性53.6%、BMI23.1±3.1)が対象とされた。 日本食らしさは、「日本食指数改訂版(rJDI12)」という指標で評価。これは、12種類の食品群の摂取量を基に0~12点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより日本食らしい食事パターンと判定する。地中海食らしさは、「代替地中海食(aMED)スコア」という指標で評価。これは、9種類の食品群の摂取量を基に0~8点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより地中海食らしい食事パターンと判定する(ただし、aMEDスコアの算出に必要なナッツの摂取量が本調査では把握されていなかったため、8種類の食品群の摂取量で評価した)。握力は、アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づき、男性は28kg未満、女性は18kg未満を「握力低下」と判定した。 rJDI12スコアの四分位数で4群に分類すると、より日本食らしい食事パターンの群は、高齢で喫煙者が少なく、歩行時間が長く、摂取エネルギー量が多かった(傾向性P<0.001)。性別(女性の割合)やBMI、飲酒習慣とは有意な関連がなかった。一方、aMEDスコアの四分位数で4群に分類すると、より地中海食らしい食事パターンの群は、高齢で摂取エネルギー量が多く(傾向性P<0.001)、喫煙者が少ない(傾向性P=0.001)という点ではrJDI12スコアでの分類と同様だが、女性の割合が少なく、習慣的飲酒者が多かった(傾向性P<0.001)。また歩行時間とは有意な関連が認められなかった。 握力低下の該当者率を、rJDI12スコアの第1四分位群を基準として、年齢と性別のみを調整して比較すると、第2四分位群でもオッズ比が有意に低く、全体としてrJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。一方、aMEDスコアの第1四分位群を基準として比較すると、第3四分位群のオッズ比のみが有意に低く、全体としてaMEDスコアと握力低下該当者率との関連は有意性が認められなかった(傾向性P=0.191)。 次に、握力低下に影響を及ぼし得る交絡因子〔年齢、性別、BMI、手段的日常生活動作(IADL)スコア、歩行時間、飲酒・喫煙習慣、摂取エネルギー量、脳血管疾患・冠動脈性心疾患・糖尿病・がんの既往〕を調整するモデルで検討。その結果、rJDI12では第4四分位群で有意に低いオッズ比となり、年齢・性別のみを調整した解析結果と同様に、rJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P=0.031)。aMEDスコアと握力低下該当者率との関連は、年齢・性別のみを調整したモデル同様、非有意だった(傾向性P=0.242)。 以上より著者らは、「地中海食ではなく、日本食らしい食事パターンが、筋力低下の該当者率の低さと関連していた。日本人の食生活の評価にはaMEDスコアよりもrJDI12スコアの方が優れている可能性がある」と結論付けている。ただし、本研究が横断研究であること、aMEDスコアでの評価にナッツの摂取量を考慮しなかったことなどの限界点を挙げ、「日本食らしい食事パターンが日本人の筋力低下につながるのか否か、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。

23.

骨転移診療ガイドライン改訂、薬剤などのエビデンス蓄積を反映

 『骨転移診療ガイドライン』の改訂第2版が2022年12月に発刊された。2015年に初版発刊後、骨修飾薬の使用方法や骨関連事象のマネジメントなどの医学的エビデンスが蓄積されてきたことを踏まえ、7年ぶりの改訂となる。今回、本ガイドライン作成ワーキンググループのリーダーを務めた柴田 浩行氏(秋田大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学講座)に、改訂ポイントや疫学的データの収集などの課題について話を聞いた。患者は延命に加え機能維持を求めている がん治療で病巣を取り除けたとしても身体機能の低下によって生活の質(QOL)が低下してしまっては、患者の生きがいまでも損なわれてしまうかもしれない。骨転移はすべてのがんで遭遇する可能性があり1)柴田氏らはがん患者の骨転移がもたらす身体機能の低下をいかにして防ぐことができるのかを念頭に置いてガイドライン(GL)を作成した。「骨転移が生じる患者の多くはStageIVではあるが、外科的介入に対するエビデンスが蓄積されつつあることから、今回の改訂には多くの整形外科医にご参加いただき、外科領域のClinical Questionを増やした」と話し、「作成メンバーが、診断・外科・放射線・緩和・リハビリテーションと看護の5領域に分かれて取り組んだ点も成果に良く反映されている」と作成時の体制について説明した。 治療については、上市から10年が経過した骨修飾薬(BMA:ビスホスホネート製剤、RANKL抗体薬)に関する長期経過報告がまとめられ、近年では骨修飾薬を投与することで骨関連事象の発生が低下していること、骨修飾薬投与前の歯科検診や投与中のカルシウム値の補正が行われていることなどが示された(p.15 総説3)。一方で、その投与間隔や至適投与期間を有害事象やコスト面から検討する必要性も指摘され課題になっている。 それらを踏まえ、「標準的な診療の概要を示し、骨転移患者の診療プロセスの改善や患者アウトカムの改善を期すること」を目的とし、4つの総説(1.骨転移の病態、2.骨転移の診断、3.骨転移の治療とケア、4.高齢者・サルコペニア・フレイル患者の骨転移治療)、Background Question(36個)、Clinical Question(38個)、Future Research Question(41個)を盛り込んだ。骨転移の実数が見えにくい現状 GLを作成し、その成果をモニターする上で疫学的な情報は不可欠であるが、「骨転移の実態を知ることはなかなかに困難である」と同氏は話した。がんの罹患状況は2016年に厚生労働省がスタートさせた『全国がん登録』2)の集計結果などを参考にするが、そこには遠隔転移の記載のみで、骨転移を含む個別の転移部位については登録されない。結果、がんの『転移部位』はすべて“転移”に包含されてしまい、どの部位への転移なのかを入力する項目がないことから、「その集計結果から骨転移の実数などを把握できない。現在の骨転移に関する必要情報はカルテを直接調べるしかないのが実情」と残念がった。なお、本GLには日本の調査例として胸椎~腰椎の組織学的骨転移の剖検報告3)が示されており、それによると乳がんや前立腺がんでは75%、肺がんや甲状腺がんでは50%、消化器がん(消化器、肝胆膵)では20%前後の骨転移が認められている。このデータは約25年前のものであるが、2010~16年に米国の医療保険データベースを用いた研究結果と傾向は同様であった(p.2 総説1)。 このほか、読んでおきたい項目は以下のとおり。・CQ5「骨転移を有する原発不明がん患者において、骨転移巣を用いた遺伝子パネル検査は原発巣の同定に有効か?」・CQ8「病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨の骨転移に手術は有効か?」・CQ19「過去に外照射を受けた骨転移の痛みの緩和に再照射は有効か?」・CQ37「去勢抵抗性前立腺がん骨転移においてラジウム-223内用療法は有効か?」・FRQ31「骨転移の治療に外照射と骨修飾薬(BMA)の併用は有効か?」・FRQ32「骨代謝マーカーは骨転移を有するがん患者の治療モニタリングに有用か?」・FRQ39「病的骨折のある患者の外科的治療後にリハビリテーション医療は有用か?」・FRQ40「痛みのある骨転移患者に対するマネジメント教育は有効か?」ガイドラインの作成から患者の未来を変えたい さらに同氏は「GLの改訂というのは医療者側の知識のアップデートだけではなく、患者への骨転移の病態啓発や、骨転移に関する症状の有無を問診する際などの医師と患者の医療面接おいても重要」だと話した。さらにGLの内容を基に同氏は患者が理解を深めやすい資料作成にも意欲的に取り組み、秋田大学医学部附属病院ではオリジナル漫画を患者に配布している。また、昨今、盛んに行われる骨転移キャンサーボードも「多施設間で行うことも新たな情報や知識、視点が加わることになるので実施することをお薦めする」と話した。 GLは発刊後もその使用状況や患者アウトカムの改善についてモニタリングが必要で、作成して終わりではない。本GLの場合は発刊1年以降を目途に、臨床的アウトカム(1:骨転移のがん種別頻度、2:外科的介入の割合、3:放射線治療の割合、4:骨修飾薬の使用割合、5:ADLの評価[通院、入院治療の別]など)への影響に関して調査を行う予定である点にも触れた。 最後に同氏はGLを山登りに例え、「GLは“山岳ガイド”のようなもの。トップクライマーは遭難のリスクを冒してでも前人未踏の頂きを目指すかもしれないが、山岳ガイドは登山客を遭難させる冒険はできない。派手さはなくとも、安全に、確実に登頂できるように先導することが重要。もちろん、もっと高い頂きを目指す必要は常にあるが、現状でそれが無理なら技術を磨いたりルートを開拓したりする必要がある」と話し、医師の知識のアップデートに留まらず、患者一人ひとりの病態に応じて参考にされることやGLの課題が新たな臨床試験の推進力になることを願った。

24.

2月1日 フレイルの日【今日は何の日?】

【2月1日 フレイルの日】〔由来〕フレイルの概念、予防の重要性を多くの人に認識してもらい、健康長寿社会の実現を図ることを目的に、2月1日を「フ(2)レ(0)イ(1)ル」と読む語呂合わせから、スマートウエルネスコミュニティ協議会、日本老年学会、日本老年医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の4団体が共同で制定した。関連コンテンツフレイル予防のための食事スライド毎日の2つの運動でロコモを防ぐ【患者説明スライド】フレイル【診療よろず相談TV】糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】肺炎およびフレイルと認知症リスク~日本老年学的評価研究

25.

高齢ドライバーの事故リスクとなり得る疾患有病率の実態―多施設共同研究

 高齢ドライバーの交通事故のリスクを高める可能性のある疾患の有病率を、多施設の外来患者を対象に調査した結果が報告された。岡山大学病院総合内科・総合診療科の萩谷英大氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に10月11日掲載された。 高齢ドライバーの交通事故がしばしばニュースになる。そのような事故を減らすために、免許更新時の認知機能テストの施行や免許返納の働きかけなどが行われている。しかし、公共交通機関の少ない地方の高齢者の場合、自分で運転しなければ生活が困難なことが多いという問題もある。一方、高齢ドライバーの事故の原因として、医学的要因が関与しているケースが少なくないことが報告されている。具体的には、身体機能や認知機能の低下、多剤併用(ポリファーマシー)などが事故リスクを押し上げる可能性が指摘されている。ただし、国内の高齢ドライバーがそれらの問題をどのくらい抱えているのかは明らかでない。このような状況を背景として、萩谷氏らは医療機関受診者を対象とする多施設共同研究による実態把握を試みた。 この研究は、岡山県、広島県、香川県の11の医療機関が参加し、2021年1~5月に行われた。外来受診者に対する自記式アンケートにより、自動車運転や事故経験などに関する情報を把握。また、事故リスクを高める可能性のある医学的要因に関する情報を、簡単なテストや一般的な身体検査によって把握した。 評価した医学的要因は、ポリファーマシー、サルコペニア、認知機能障害、フレイルおよびオーラルフレイル。このうち、ポリファーマシーは6種類以上の薬剤を1カ月以上服用していることで定義し、「お薬手帳」を医療スタッフが確認して評価。サルコペニアは、指輪っかテスト(両手の指で作った輪でふくらはぎを囲み隙間ができるか否か)、および30秒椅子立ち上がりテストで判定した。認知機能障害はMini-Cogテストに基づいて判定した。 161人がこの調査に参加。そのうち既に免許を返納していた人や、ペーパードライバーなどを除外し、127人を解析対象とした。年齢は中央値73歳(四分位範囲70〜78)、男性64.6%、女性35.4%であり、介護保険の利用状況は、95.3%が未利用で、要支援認定1が1人(0.8%)、同2が3人(2.4%)だった。 運転の頻度は、60.6%が「日常的に運転をする」と回答し、その他の39.4%は「時々運転する」と回答した。この2群で比較すると、年齢、性別、介護保険の利用状況に有意な群間差はなかったが、外出頻度は日常的に運転する群の方が有意に高かった。他方、同居家族数、歩行時間、自宅から最寄り駅やバス停までの距離、友人などとの交流の頻度、整形外科や眼科の受診頻度、補聴器の使用率などには有意差が認められなかった。 ポリファーマシーの該当者率は27.6%で、そのうち眠気を催すことの多い薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬や抗不安薬の一種)は12.5%に、抗ヒスタミン薬(アレルギー症状などの治療薬)は3.1%に処方されていた。運転頻度別でポリファーマシー該当者率を見ると、日常的に運転をする群が31.2%、時々運転する群は22.0%で前者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。 サルコペニアの該当者率は全体で8.7%であり、日常的に運転をする群は13.0%、時々運転する群は2.0%であって前者の方が高かった。 認知機能障害(Mini-Cogテストが3点以下)の該当者率は全体で16.4%であり、前記と同順に18.2%、14.0%だった。フレイルの該当者率は全体で15.0%、オーラルフレイルは54.3%であり、これらはいずれも運転頻度で比較した場合の群間差は非有意だった。 過去の交通事故の体験については、62.2%が「経験あり」と回答した。その割合は、日常的に運転をする群が29.9%、時々運転する群は46.0%であって、後者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。免許返納の意思がある人の割合は同順に2.6%、14.0%であり、時々運転する群で高いという有意差が見られた。 著者らは本研究について、認知機能障害やサルコペニアなどを簡便な方法で判定しており確実な診断に基づく解析ではないことや、サンプル数が十分でないことを限界点として挙げている。その上で結論を、「地域在住高齢ドライバーの交通事故に関連する可能性のある医学的要因の有病率が明らかになった。多くの高齢者が何らかのリスクのある状態で運転している現状において、高齢ドライバーの交通事故抑止のために、より厳格なスクリーニングの実施などの措置が必要と考えられる。同時に、地方に住む高齢者の生活を守る手段も確保されなければならない」とまとめている。

26.

仲間と行う運動は認知機能低下を抑制する/筑波大学・山口県立大学

 高齢者にとって運動習慣を維持することは、フレイルやサルコペニアの予防に重要な役割を果たすとともに、認知症予防に有効であることが知られている。ただ、近年では孤立しがちな高齢者も多く、こうした高齢者が1人で運動した場合とそうでない場合では、認知機能の障害に違いはあるのであろうか。 大藏 倫博氏(筑波大学体育系 教授)らの研究グループは、高齢者4,358人を対象に「1人で行う運動や仲間と行う運動は、どの程度実践されているのか」および「どちらの運動が認知機能障害の抑制に効果があるのか」について、4年間にわたる追跡調査を行った。 その結果、高齢者の多くが実践しているのは、1人で行う運動であり、週2回以上の実践者が40%を超える一方で、仲間と行う運動の週2回以上の実践者は20%未満にとどまることがわかった。また、認知機能障害の抑制効果については、どちらの運動についても週2回以上の実践では、統計的な抑制効果が認められたが、1人で行う運動(22%のリスク減)よりも、仲間と行う運動(34%のリスク減)の方がより強い抑制効果を示すことが判明した。Archives of Gerontology and Geriatrics誌2022年12月23日号(オンライン先行)からの報告。週2回以上の運動は1人運動でも認知機能障害発生を抑制〔研究の背景〕 従来の研究では、運動サークルなどの集団運動に注目され、夫婦や友人など2人以上で行う運動が認知機能にどのような影響を与えるかは検討されていなかった。また、同様に運動の頻度についても考慮されていないことから、高齢者を対象に、1人で行う運動および仲間と行う運動の実践状況を調査し、認知機能障害の抑制に効果的な運動スタイルと頻度を明らかにすることを目的とした。〔研究対象と方法〕対象:茨城県笠間市在住の高齢者4,358人(平均年齢:76.9歳、男女比はほぼ等分)方法:郵送による調査解析:運動実践状況の調査と「認知症高齢者の日常生活自立度」を用い認知機能障害を判定、Cox比例ハザードモデルを用い、運動形態と認知障害発症の関連を調べ、集団起因分率(PAF)を算出〔結果〕 高齢者の運動実践状況の確認につき、1人で行う運動については、非実践者(52.4%)、週1回実践者(5.8%)、週2回以上実践者(41.8%)の割合だった。また、仲間と行う運動については、非実践者(75.2%)、週1回実践者(6.1%)、週2回以上実践者(18.7%)の割合だった。1人で行う運動の方が広く行われていることが明らかになった。 1人で行う運動と仲間と行う運動が認知機能障害の抑制に与える影響については、追跡期間中に認知機能障害が確認されたのは337人(7.7%)であり、どちらの運動においても週2回以上の運動実践が認知機能障害の発生を有意に抑制した。しかし、効果の大きさという点では、1人で行う運動(22%のリスク減)よりも、仲間と行う運動(34%のリスク減)の方がより強い抑制効果を示した。 以上から、高齢者の認知症予防では、1人で行う運動の意義を認めつつも、仲間と行う運動を推奨していくことが重要と示唆された。 同研究グループでは「運動における仲間の具体的な構成についての考慮、運動中の他者とのかかわり方(例:夫婦、老若男女が混在)による認知機能への影響の違いを今後検討する必要がある」と今後の展開を示している。

27.

除脂肪量指数でサルコペニアをスクリーニング

 比較的簡便な体組成の評価方法である、生体インピーダンス(BIA)法で測定した除脂肪量指数〔FFMI(除脂肪量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕が、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングに利用できる可能性を示唆するデータが報告された。早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員・明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Medical Directors Association」に9月27日掲載された。 サルコペニアは筋肉量や筋力が低下した状態のことで、要介護などのリスクが上昇するため、早期介入による是正が重要。サルコペニア診断の低筋肉量判定には、二重X線エネルギー吸収測定(DXA)法または生体インピーダンス法による四肢筋肉量(ASM)の測定が必要とされる。このうち特に前者のDXA法は、測定機器が大型で可動性が乏しく健診会場などへ移動が困難なことや、コストや被曝の懸念があることが、現場での利用のハードルとなっている。後者のBIA法は機器に可動性があり、比較的低コストで被曝の懸念もないものの、ASMの測定が可能な機器はあまり普及していない。その一方で、除脂肪量指数(FFMI)であれば家庭用に普及している体組成計でも評価可能である。 これまで、FFMIが四肢筋量指数〔ASMI(四肢筋量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕と相関するとの報告がある。ただし、FFMIでサルコペニアの低筋肉量スクリーニングが可能か否かという視点での研究は、まだ行われていない。川上氏らの研究は、このような背景の下で実施された。 この研究には、早稲田大学の卒業生の健康状態を長期間観察している「WASEDA'S Health Study」のデータが用いられた。2015年3月~2020年2月に、BIA法とDXA法の両方で体組成が評価されていた、40~87歳の日本人成人1,313人が解析対象で、平均年齢は55±10歳、男性66.4%、BMI23.0±3.1、握力33.4±8.1kg、ふくらはぎ周囲長36.5±2.9cm。体組成の測定は、12時間以上の絶食後の午前中に実施した。 アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づく低筋肉量該当者の割合は、BIA法で5.2%、DXA法で9.9%だった。BIA法によるFFMIとBIA法によるASMI(r=0.96)、およびBIA法によるFFMIとDXA法によるASMI(r=0.95)は、ともに強固な相関が見られた。より詳細に、年齢(60歳未満/以上)、肥満の有無(DXA法による体脂肪率が男性は25%以上、女性は30%以上を肥満と定義)でサブグループ化した解析の結果も、FFMIとASMIの相関係数(r)は0.93~0.95の範囲であり、いずれのサブグループでも強固な相関が認められた。 次に、DXA法によるASMIで定義された低筋肉量該当者を、BIA法によるFFMIでどのくらいスクリーニングできるかをROC解析で検討。その結果、ROC曲線下面積(AUC)は、男性で0.95(95%信頼区間0.93~0.97)、女性では0.91(同0.87~0.94)と高い値を示した。低筋肉量該当者スクリーニングのためのFFMIの最適なカットオフ値は、男性17.5kg/m2(感度89%、特異度88%)、女性14.6kg/m2(感度80%、特異度86%)と計算された。 以上より著者らは、「FFMIは年齢や肥満の有無にかかわりなく、BIA法やDXA法で測定されたASMIと強い正の相関を示した。FFMIを、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングの代替マーカーとして利用できるのではないか。その際のFFMIのカットオフ値は男性18kg/m2未満、女性15kg/m2未満と推定される」と結論付けている。なお、本研究の限界点としては、対象者が単一大学の卒業生であり一般住民から無作為に抽出されたサンプルではないこと、使用したBIA測定器が1タイプのみであって他の機種では結果が異なる可能性のあることなどを挙げている。

28.

ビタミンD欠乏で筋力低下→サルコペニア発症の可能性/長寿研ほか

 ビタミンDが欠乏することで、将来的に筋力が低下してサルコペニア罹患率が上昇する可能性を、国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部の細山 徹氏や、名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の水野 隆文氏らの研究グループが発表した。 先行研究において、ビタミンDは加齢性の量的変動やサルコペニアとの関連性が指摘されていたが、それらの多くが培養細胞を用いた実験や横断的な疫学研究から得られたものであり、成熟した骨格筋に対するビタミンDの作用や加齢性疾患であるサルコペニアとの関連性を示す科学的根拠は十分ではなかった。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌2022年10月13日掲載の報告。 研究グループは、国立長寿医療研究センターで実施している老化に関する長期縦断疫学研究「NILS-LSA」のデータを用い、血中ビタミンD量低値の一般住民の4年後の筋力変化や筋量変化、新規サルコペニア発生数などについて検討した。 主な結果は以下のとおり。・NILS-LSAに登録されている1,919人のデータから傾向スコアでマッチさせたビタミンD欠乏群(血中25OHD量が20ng/mL未満、n=384)および充足群(20ng/mL以上、n=384)の比較解析の結果、ビタミンD欠乏群では握力低下が進行した(欠乏群:-1.55±2.47kg、充足群:-1.13±2.47kg、p=0.019)。・サルコペニアの新規発生率は、ビタミンD欠乏群で有意に高かった(欠乏群:3.9%、充足群:1.3%、p=0.039)。・ビタミンD受容体遺伝子Vdrを成熟した筋線維で特異的に欠損させたコンディショナルノックアウト(VdrmcKO)マウスの表現型の解析では、VdrmcKOマウスでは有意な筋力低下を認めた。なお、筋重量、筋線維径、筋線維タイプ、骨格筋幹細胞数など骨格筋の量的形質には影響はみられなかった。・VdrmcKOマウスでは、筋線維の収縮・弛緩に関わる遺伝子Serca1とSerca2aの発現が減少し、骨格筋における筋小胞体Ca2+-ATPアーゼ活性も低下していた。 これらの結果より、研究グループは「ビタミンD欠乏と将来的な筋力低下およびサルコペニア罹患率の上昇には関連性がある可能性があり、成熟筋線維におけるビタミンDシグナルは、筋量には影響を与えないものの筋力発揮へ寄与する」とまとめた。

29.

摂食速度の速い高齢糖尿病患者は筋肉量が減りにくい

 一般に「早食いは体に良くない」とされている。しかし、高齢2型糖尿病患者のサルコペニア予防という視点では、そうとは限らない可能性を示唆するデータが報告された。自己申告で「食べるのが速い」と回答した人は、筋肉量の低下速度が緩徐だという。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の小林玄樹氏、松下記念病院糖尿病・内分泌科の橋本善隆氏、京都府立医科大学の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に6月23日掲載された。 糖尿病患者に対しては、食欲にまかせた大食いを防いだり、食後高血糖の抑制のために、ゆっくり食べるように勧められることが多い。一方で近年、人口の高齢化に伴い、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)を併発している糖尿病患者が増加し、高血糖による合併症ではなく、サルコペニアが予後を左右するようなケースの増加が指摘されている。サルコペニアの予防や改善には、タンパク質を中心とする栄養素の十分な摂取と、筋力トレーニングが必要とされる。加えて同研究グループでは、摂食速度がサルコペニアリスクと関連があることを、横断研究の結果として既に報告している。ただし、2型糖尿病患者の摂食速度が筋肉量の変化に影響を及ぼすか否かは不明であった。そこで小林氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いた縦断的解析を行った。 同コホートの参加者のうち、生体インピーダンス法により筋肉量が複数回測定されている患者284人を解析対象とした。年齢により推奨される摂取エネルギー量が異なるため、解析は65歳未満(91人)と65歳以上の高齢者(193人)に分けて行った。なお、摂取エネルギー量が極端な患者(600kcal/日未満または4,000kcal/日超)、体組成に影響を及ぼし得るステロイドが長期処方されている患者、および追跡期間が6カ月未満や解析に必要なデータの欠落している患者は除外されている。 参加者の主な特徴は、65歳未満の群は平均年齢54.0±8.7歳、男性48.4%、BMI26.6±5.3kg/m2、骨格筋量指数(SMI)7.3±1.0kg/m2、HbA1c7.8±1.7%、糖尿病罹病期間9.2±6.8年。高齢者群は平均年齢72.2±5.2歳、男性56.5%、BMI23.8±3.9kg/m2、SMI6.9±1.0kg/m2、HbA1c7.2±1.0%、糖尿病罹病期間15.9±10.0年であった。 「食べる速さは?」との質問に、「かなり速い」または「やや速い」と答えた人を摂食速度が「速い」群と定義し、「普通」と答えた人を摂食速度が「普通」の群、「やや遅い」または「かなり遅い」と答えた人を摂食速度が「遅い」群と定義した。65歳未満では摂食速度が「速い」群50.5%、「普通」群42.9%、「遅い」群6.6%であり、65歳以上では同順に40.4%、38.3%、21.3%であった。 65歳未満群は1.6±0.6年、高齢者群は1.7±0.7年後に追跡調査を実施。年齢、性別、喫煙・運動・飲酒習慣、インスリン・SGLT2阻害薬の処方、摂取エネルギー量およびタンパク質摂取量で調整後の1年あたりのSMI低下率は、65歳未満群では摂食速度が「速い」群は0.67%、「普通」群は0.58%、「遅い」群は-1.84%であり、群間に有意差はなかった。一方、高齢者群では摂食速度が「速い」群はSMI低下率が-1.08%とSMIの上昇を認めたのに対して、「普通」群は0.85%、「遅い」群は0.93%とSMIは低下しており、摂食速度「速い」群との間に有意差が存在した。 次に、既報研究に基づき、年0.5%以上の筋量低下を「SMI低下」と定義し、「SMI低下」の発症について検討した。解析に際しては前記の交絡因子に加え、BMI、HbA1cを独立変数として設定した。その結果、65歳未満群では摂食速度は「SMI低下」と有意な関連がなかった。一方、高齢者群では、摂食速度「遅い」群と比較して「速い」群では、「SMI低下」のオッズ比(OR)が0.42(95%信頼区間0.18~0.98)と有意に低かった。摂食速度「普通」群はOR0.82(同0.36~2.03)と有意差を認めなかった。 65歳未満群では摂取エネルギー量および摂取タンパク質量が多いこと、HbA1c高値、および飲酒習慣が、SMI低下に対する有意な保護因子として抽出された。高齢者群では摂食速度以外の関連因子は特定されなかった。 以上より著者らは、「高齢2型糖尿病患者では、遅い摂食速度が筋肉量の減少と関連していた。サルコペニア対策の観点からは、摂食速度にも細心の注意を払う必要があるのではないか」と述べている。なお、早食いが筋肉量の維持に有利に働く機序としては、ゆっくり食べることでGLP-1やペプチドYYなどの食欲を抑制するように働くホルモンが分泌され摂取量が減ることや、食事誘発性熱産生が亢進することなどの影響が考えられるという。さらに、筋肉量が減少しているために嚥下機能が低下していて摂食速度が遅くなるという、因果の逆転の影響も想定されるとしている。

30.

クレアチニン/シスタチンC比で糖尿病患者の動脈硬化を評価可能

 血清クレアチニンとシスタチンCの比が、2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と有意な関連があるとする論文が報告された。松下記念病院糖尿病・内分泌内科の橋本善隆氏、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」に6月23日掲載された。 糖尿病が動脈硬化の強力なリスク因子であることは古くから知られており、心血管イベントの発症前に動脈硬化進展レベルを評価した上での適切な治療介入が求められる。一方、近年は高齢化を背景に、糖尿病患者のサルコペニアも増加している。サルコペニアの診断には歩行速度や骨格筋量の測定が必要だが、より簡便な代替指標として、血液検査値のみで評価可能な「サルコペニア指数(sarcopenia index;SI)」が提案されている。SIは、血清クレアチニンをシスタチンCで除して100を掛けた値であり、低値であるほどサルコペニアリスクが高いと判定される。またSIは、心血管イベントリスクと相関するとの報告がある。ただし、SIと動脈硬化進展レベルとの関連は明らかでない。 これを背景として橋本氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いて、SIによる糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化を検出可能か検討した。2016年11月~2017年12月に登録された患者から、データ欠落者、および動脈硬化性疾患〔虚血性心疾患、脳卒中、末梢動脈疾患(ABI0.9未満)〕や心不全、腎機能障害(血清クレアチニン2.0mg/dL超)の既往者などを除外した174人を解析対象とした。動脈硬化進展レベルは上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)で評価した。 解析対象者は平均年齢66.9±10.1歳、男性56.3%、BMI23.5±3.5kg/m2、糖尿病罹病期間17.7±11.6年、HbA1c7.3±0.9%であり、血清クレアチニンは0.76±0.23mg/dL、シスタチンCは0.99±0.26mg/dLで、SIは77.6±15.8、baPWVは1,802±372cm/秒だった。baPWVが1,800cm/秒を超える場合を無症候性アテローム性動脈硬化と定義すると、43.7%が該当した。 相関を検討した結果、SIは男性(r=-0.25、P=0.001)、女性(r=-0.37、P=0.015)ともに、baPWVと有意な負の相関が認められた。性別を区別せずに全患者を対象としてROC解析を行ったところ、無症候性アテローム性動脈硬化の検出能は、AUC0.66(0.57〜0.74)であり、SIの最適なカットオフ値は77.4(感度0.72、特異度0.58)と計算された。 続いてロジスティック回帰分析にて、共変量(年齢、性別、BMI、喫煙・運動習慣、収縮期血圧、HbA1c、降圧薬・血糖降下薬・スタチンの使用)を調整後に、無症候性アテローム性動脈硬化の存在に独立して関連する因子を検討。その結果、年齢〔オッズ比(OR)1.19(95%信頼区間1.11~1.28)〕、収縮期血圧〔OR1.06(同1.03~1.09)〕が有意な正の関連因子として抽出され、反対にスタチン使用〔OR0.33(同0.13~0.86)〕とSI〔1上昇するごとにOR0.95(同0.91~0.99)〕が有意な負の関連因子として抽出された。性別や喫煙・運動習慣、HbA1cなどは有意でなかった。 以上より著者らは、「SIは2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と関連しており、患者のイベントリスク評価に有用と考えられる」とまとめている。両者の関連のメカニズムについては、サルコペニアと動脈硬化に、身体活動量の低下、酸化ストレス、炎症、インスリン抵抗性などの共通の病因が存在しているため、SI低下と動脈硬化が並行して進行する可能性を考察として述べている。その上で、「因果関係を明らかにするには、さらなる大規模な前向き研究が必要」と付け加えている。

31.

1型糖尿病にSGLT2阻害薬を使用する際の注意点/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、2014年に策定された「SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」を改訂し、2022年7月26日に公開した。改訂は7度目となる。 今回の改訂は、2022年4月よりSGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病患者の在宅での血中ケトン体自己測定が可能となったことに鑑み、これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されることを目的としている。 具体的には、【ケトアシドーシス】の項で「SGLT2阻害薬使用中の1型糖尿病患者には、可能な限り血中ケトン体測定紙を処方し、全身倦怠感・悪心嘔吐・腹痛などの症状からケトアシドーシスが疑われる場合は、在宅で血中ケトン体を測定し、専門医の受診など適正な対応を行うよう指導する」という文言が追加された。1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用はケトアシドーシスが増加していることに留意1)1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。2)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。3)75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。4)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する。5)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。また、手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する。6)全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬使用では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。7)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。8)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。

32.

体重が実際より重いと思っている人は筋量で評価したサルコペニアに該当する可能性が高い―大阪府摂津市での研究

 サルコペニアとは筋量や筋力が低下し、疾患や要介護のリスクが高い状態である。自分の体重が実測値よりも重いと思っている人はサルコペニアの診断基準の1つである低筋量に該当する可能性が高いことを示す研究結果が報告された。医薬基盤・健康・栄養研究所 身体活動研究部の中潟崇氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Physiological Anthropology」に5月5日掲載された。 体重の自己認識の誤り(実際より軽い、または重いとの誤解)が、さまざまな疾患のリスクと関連していることが報告されている。ただし、自己認識の誤りと筋量との関連はまだ報告がないため、中潟氏らは大阪府摂津市の地域住民を対象とした、大阪府との共同事業「大阪府健康格差の解決プログラム促進事業」で得られた研究データを解析し、この点を検討した。 研究参加者は、40~91歳の成人525人(年齢の中央値72歳、83%が女性、平均BMIは22.5)であり、同市の広報誌などを通じて募集された。指標として、「サルコペニア」の診断基準の1つである「腕と脚の筋量を身長の2乗で除した骨格筋指数(SMI)」を用いた。アジア人のサルコペニアの診断でのSMIの基準値は、男性7.0未満、女性5.7未満(生体電気インピーダンス法による)で、本研究の参加者の該当者割合は9.3%だった。 研究参加者に、まず自分の体重を0.1kg単位で申告してもらい、その後に体重を測定。自己申告の体重から実測値を減算して誤差を割り出し、その誤差の幅を実測値に対する比率として評価した。例えば、自己申告が65.0kgで実際の体重が66.0kgの場合、〔-1.0÷66.0×100=-0.51〕で、誤差は-0.51%。 参加者全体の誤差は、中央値0.9%(四分位範囲-0.3~2.0)だった。体重の過小評価から過大評価の幅で男女ごとに3群に分類すると、過小評価群は中央値-0.8%(過小評価)、中央群は同0.9%(過大評価)、過大評価群は2.4%(過大評価)だった。平均BMIは同順に、23.5、22.3、21.6で、自分の体重を過大評価している群は、実際のBMIが低い傾向だった。 SMIがサルコペニア基準値未満の割合は、全体では前述のように9.3%であり、これを3群別に見ると、過小評価群から順に、4.6%、6.8%、16.6%となった。つまり、自分の体重が実際よりも重いと思っている人ほど、低筋量に該当する割合が高かった。 次に、年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、自己申告に基づく体力・健康度・社会経済的状況の影響を調整し、中央群を基準として、SMIがサルコペニア基準値未満に該当するオッズ比を計算。結果、過大評価群はオッズ比2.37(95%信頼区間1.03~5.44)とオッズ比が統計的に有意に高かった。過小評価群はオッズ比0.97(同0.34~2.86)で、中央群と有意差は見られなかった。 以上より、自分の体重が実際よりも重いと思っている40歳以上の日本人は、サルコペニアの診断基準の1つである低筋量に該当するオッズ比が2.37倍高いことが明らかになった。著者らは、「われわれの研究結果は、人々が自分自身の体重を正しく認識することへの働きかけが、公衆衛生上の重要な戦略である可能性を示唆している」と結論付けている。 なお、体重の過大評価が低筋量に該当する可能性が高いことの理由として、著者らは「横断研究のためこれらの因果関係は不明であるが、体重を過大申告する人はBMIが低い傾向にあり、このことはエネルギー摂取量がエネルギー必要量を下回っている可能性があること、また、体重測定をあまり行わない人ほど誤差が大きくなることなどの影響があるのではないかと考察している。 医薬基盤・健康・栄養研究所は、医薬基盤研究所(大阪府茨木市)と国立健康・栄養研究所(東京都新宿区)が平成27年に統合されて国立研究開発法人としてスタートを切り、今年度中に著者らの所属する国立健康・栄養研究所が現在の東京から本研究が行われた大阪府摂津市に移転予定。中潟氏らは健康な日本人を対象とした腸内細菌叢に関する研究も展開しており、「移転後の北大阪健康医療都市(健都)からも、日本人の健康寿命延伸に資するエビデンスを発信していきたい」と述べている。

33.

テストステロン低下が肥満のない非アルコール性脂肪性肝疾患の要因か/日本抗加齢医学会

 テストステロン欠乏により生じる病態と言えば男性更年期(疲れやすい、肥満、うつ、性欲低下…)をまず思い浮かべるが、実は、加齢による骨格筋量の減少(サルコペニア)の原因の1つであり、脂肪肝の発症にも深いかかわりがあるというー。6月17~19日に大阪で開催された第22回日本抗加齢医学会総会のシンポジウム「男性医学」において、濱口 真英氏(京都府立医科大学 内分泌・代謝内科学助教)が『脂肪肝とテストステロン』と題し、骨格筋量の低下とテストステロン欠乏、そして脂肪肝への影響について講演した。肥満のない脂肪肝なら起こる可能性-サルコペニア 肝臓と筋肉には肝筋連関というつながりがあり、2型糖尿病を例にとると、高血糖はもちろんのこと、過栄養による脂肪肝や運動不足による筋肉量低下が引き金となり糖尿病を発症する。濱口氏は「肝筋連関のせいで肝臓と筋肉が互いに足を引っ張り合ってさらなる悪循環を来し、サルコペニアが脂肪肝を助長する」と説明。これを立証するものとして、『脂肪肝と肥満と糖尿病の関係性』に関する研究1)を紹介し、「肥満でなくても脂肪肝があればサルコペニアのリスクはある。過体重を伴わない脂肪肝は、サルコペニアがあることで見掛け上の体重が減少していると考えられる」と解説した。脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高い サルコペニアにも負の影響をもたらす脂肪肝。近年では単なる内臓脂肪ではなく、筋肉、心臓、肝臓、膵臓の4つの部位に主に発生し、さまざまな細胞に障害を及ぼす “異所性脂肪蓄積”の1種として重要視されている。さらに、脂肪肝は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へ進展することもあるため「NASHのリスク因子である男性更年期(LOH症候群)やサルコペニアを早期に改善させる必要がある」と同氏は指摘した。実際に国内の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の年代別割合グラフ2)を見ると、男女ともに20代から増加し50~60代でピークを迎え、とくに男性の場合は50代をピークに逆U字を描く傾向にあり、「肝筋連関に加えて、血清テストステロンの低下が脂肪肝に影響しているのではないか」とコメントした。また、海外データ3)で、脂肪肝指数はテストステロン高値群より低値群で高く、トリグリセリド/HDL-C比はテストステロン高値群より低値群で高いことが示唆されている。 同氏はそれを裏付けるものとして、去勢モデルマウスとテストステロン補充に関する研究4)を示し、これによると去勢モデルにテストステロンを補充することで骨格筋量の回復、耐糖能異常の改善がみられた。さらにエストラジオールを補充することで最も高い改善が見られ、脂肪肝も抑制することが示された。ただし、「実臨床においてLOH症候群でサルコペニアと糖尿病を伴う受診者にエストラジオールを補充することの是非については議論がある」ため、同氏らはエストラジオールの代替として大豆イソフラボンおよびエクオールの可能性について検討を深めている。 最後に同氏は以上をまとめ、「テストステロンの補充で骨格筋量が回復しさらにエストラジオールの補充が脂肪肝の改善に効果を有することから、エストラジオールの代替として大豆イソフラボンを補充することは脂肪肝・サルコペニア・糖代謝改善に期待できるのではないか。今後、研究結果が待たれる」と締めくくった。

34.

地域一般住民におけるフレイルな高齢者に対する多因子介入が運動機能障害を予防する(解説:石川讓治氏)

 日本老年医学会から提唱されたステートメントでは、Frailtyとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念であるとされている。わが国においてはフレイルと表現され、要介護状態や寝たきりになる前段階であるだけでなく、健康な状態に戻る可逆性を含んだ状態であると考えられている。フレイルの原因は多面的であり、運動、栄養改善、社会的なサポート、患者教育、ポリファーマシー対策といった多因子介入が必要であるとされているが、加齢という最大のフレイルのリスク要因が進行性であるため、フレイルの要介護状態への進行の抑制は困難を要する場合も多い。 SPRINTT projectは、欧州の11ヵ国16地域における1,519人の一般住民(70歳以上)を対象として、SPPBスコア3~9点、四肢骨格筋量低下、400m歩行機能などから身体的フレイルやサルコペニアと見なされた759人に対して、多因子介入(中等度の身体活動をセンターにおいて1週間に2回および家庭において週に4回、身体活動量の測定、栄養に関するカウンセリング)を行った群とコントロール群(1ヵ月に1回の健康的な老化に関する教育)を比較した。1次評価項目は運動機能低下(400mを15分未満で歩行困難)、副次評価項目は運動機能低下持続(400m歩行機能、身体機能、筋力、四肢骨格筋量の24~36ヵ月後の変化)であった。1次評価項目はSPPBスコア3~7の対象者において評価され、追跡期間中に身体機能低下は多因子介入群で46.8%、コントロール群で52.7%に発症し、多因子介入によって22%(p=0.005)の有意なリスク低下が認められた。運動機能低下持続は多因子介入群で21.0%、コントロール群で25.0%に認められ、多因子介入によって21%のリスク低下が認められる傾向があった(p=0.06)。 本研究の結果は、フレイルやサルコペニアを有する地域一般住民に対する多因子介入の有用性を示したものであり、地方自治体などが行っている“通いの場”、“集いの場”などでの運動教室や栄養教室をサポートするエビデンスになると思われる。またデイサービスなどの老人福祉施設においても、本研究の介入方法は参考になると思われる。比較的健康であると思われた地域一般住民のデータにおいても、約3年の間に対象者の約半数が運動機能低下を来しており、心不全(7.2%)、がん(13.4%)、糖尿病(22.4)など併存疾患の多いことが驚きであった。現在、病院に通院中で何らかの疾患を要するフレイル患者の場合、6ヵ月以上の慢性期リハビリ介入は、医療保険診療では困難な場合が多い。そのため、病院通院中の患者でありながら、フレイルに対する多因子介入は老人保健施設にお願いせざるを得ない状況がある。病院でフレイル患者を診療する医師としては、医療機関においても慢性期リハビリが継続できるような医療保険システムの構築を願っている。 本研究において、運動機能低下の発症がコックスハザードモデルで評価されているが、登録時はフレイルで、運動機能低下の発症後に、多因子介入で健常に戻った場合でも、運動機能低下発症ありと評価されていることに多少の違和感がある。フレイルは可逆性のある状態であるにもかかわらず、解析上はあたかもエンドポイントであるかのように評価されている。定義上、フレイルは可逆性で、要介護状態は非可逆の要素が多いとされているが、日常臨床では可逆性と非可逆の境界を見極めるのは困難な場合が多い。身体機能低下は悪化と改善を繰り返しながら、徐々に要介護状態へ進行していく。本研究の運動機能低下は、400m歩行が15分以内に困難な状態として定義されているが、これをもって運動機能低下(不可逆なポイント)と定義していいのかどうかも疑問が残った。日常臨床上における要介護状態は、介護保険制度の要介護度を用いて判断される場合が多いが、基本的ADLの低下をもって判断され、本研究の運動機能低下の判定基準とは異なることに注意が必要である。

35.

虚弱高齢者への運動+栄養介入、運動障害の発生を約2割減/BMJ

 身体的フレイルおよびサルコペニアが認められるShort Physical Performance Battery(SPPB)スコアが3~9の70歳以上に対し、中等度身体的アクティビティ指導(対面週2回、家庭で週4回以下)と個別栄養カウンセリングを実施することで、運動障害の発生が減少したことが示された。イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのRoberto Bernabei氏らが、技術的サポートと栄養カウンセリングによる身体活動ベースの多面的介入が、身体的フレイルとサルコペニアが認められる高齢者の運動障害を予防するかを確認するため検討した無作為化試験「SPRINTT project」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「身体的フレイルとサルコペニアは、虚弱高齢者の可動性を維持するターゲットになりうることが示された」とまとめている。BMJ誌2022年5月11日号掲載の報告。SPPBスコア3~9、400m自力歩行可能な70歳以上を対象に試験 研究グループは2016年1月~2019年10月31日に、欧州11ヵ国、16ヵ所の医療機関を通じて、身体的フレイルとサルコペニアを有し、SPPBスコアが3~9、除脂肪体重が低く、400mの自力歩行が可能で、地域に居住する70歳以上の男女1,519例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(介入群)には中等度身体アクティビティを試験センターで週2回、家庭で週4回まで実施。身体アクティビティは、アクチメトリ(活動量)データを用いて個別に調節した。また、個別に栄養カウンセリングも行った。もう一方(対照群)には、月1回、健康的なエイジングに関する教育を行った。介入と追跡は最長36ヵ月にわたった。 主要アウトカムは運動障害で、15分未満での400m自力歩行不可で定義された。事前に規定した副次アウトカムは、運動障害の持続(400m自力歩行が2回連続で不可)、ベースラインから24ヵ月および36ヵ月時点の身体機能・筋力・除脂肪体重の変化などだった。 主要比較は、ベースラインSPPBスコアが3~7の1,205例を対象に行い、SPPBスコアが8/9の被験者314例については探索的目的で別に解析を行った。運動障害発生率は介入群46.8%、対照群52.7%でハザード比0.78 被験者1,519例(うち女性1,088例)の平均年齢は78.9歳(SD 5.8)、平均追跡期間は26.4ヵ月(9.5)だった。 SPPBスコア3~7の被験者における運動障害の発生は、介入群283/605例(46.8%)、対照群316/600例(52.7%)だった(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.67~0.92、p=0.005)。運動障害の持続が認められたのは、介入群127/605例(21.0%)、対照群150/600例(25.0%)だった(HR:0.79、95%CI:0.62~1.01、p=0.06)。 24ヵ月時点および36ヵ月時点でのSPPBスコアの群間差も、それぞれ0.8ポイント(95%CI:0.5~1.1、p<0.001)、1.0ポイント(0.5~1.6、p<0.001)といずれも介入群を支持する結果が示された。 24ヵ月時点の握力低下は、介入群の女性で対照群よりも有意に小さいことが示された(0.9kg、95%CI:0.1~1.6、p=0.028)。 除脂肪体重の減少は、24ヵ月時点で介入群が対照群よりも0.24kg少なく(95%CI:0.10~0.39、p<0.001)、36ヵ月時点では0.49kg少なかった(0.26~0.73、p<0.001)。 重篤な有害事象は、介入群237/605例(39.2%)、対照群216/600例(36.0%)報告された(リスク比:1.09、95%CI:0.94~1.26)。 なお、SPPBスコア8/9の被験者では、運動障害の発生は介入群46/155例(29.7%)、対照群38/159例(23.9%)だった(HR:1.25、95%CI:0.79~1.95、p=0.34)。

36.

朝食にタンパク質で筋力維持、何を食べるのがベスト?

 朝食でのタンパク質摂取量は、筋力を維持するために重要であることが示唆されているが、朝食で取るタンパク質の『質』による影響は不明なままである。そこで、国立長寿医療研究センター研究所フレイル研究部の木下 かほり氏、老化疫学研究部の大塚 礼氏らは、朝食時のタンパク質の質と筋力低下の発生率の関連について縦断的研究を行った。その結果、タンパク質の摂取量とは独立して、朝食のタンパク質の質が高いほど高齢者の筋力低下抑制に関連していることが示唆された。この結果はJournal of the American Medical Directors Association誌2022年1月7日号オンライン版に掲載された。朝食のタンパク質の質と筋力低下との関連を健康な高齢者701例で調査 筋力の低下は、将来の健康障害や死亡を予測する重要な指標であることから、サルコペニアの診断では握力の評価が筋肉量の評価よりも優先されている。本研究は、国立長寿医療研究センターが行っている地域住民対象の長期縦断疫学研究(NILS-LSA)のデータを用いて行われ、ベースライン時点で脳血管疾患、関節炎、パーキンソン病、筋力低下のない60〜83歳の健康な高齢者701例を対象として朝食のタンパク質の質と筋力低下(weakness)との関連を調査した。最大追跡期間は9.2年、最大参加回数は5回だった。 Weaknessは改定アジアサルコペニア診断基準(AWGS*2019)を基に定義(握力は男性:28kg未満・女性:18kg未満)。朝食のタンパク質の質については、3日間の食事記録から計算したタンパク質消化性補正アミノ酸スコア(PDCAAS)を用いて評価を行った。PDCAASはスコアが高いほどタンパク質の質が高いことを示す。参加者は朝食PDCAASの性別三分位で分類された(低グループ、中グループ、高グループの3群)。PDCAASとweaknessとの関連は、一般化推定方程式(GEE:generalized estimating equation)を用いて分析し、性別、フォローアップ期間、およびベースライン時の年齢、握力、BMI、身体活動、認知機能、教育歴、喫煙歴、経済状況、病歴、昼食と夕食のPDCAAS、3食(朝・昼・夕)のエネルギーとタンパク質摂取量で調整した。*AWGS:Asian Working Group for Sarcopenia朝食のタンパク質のPDCAASが高いほどweaknessは発生しない 朝食のタンパク質の質と筋力低下との関連を調査した主な結果は以下のとおり。・分析された701例のうち男性は53.5%(375例)だった。・平均追跡期間±SDは 6.9±2.1年、参加した追跡調査の平均回数は3.1±1.1回。累積参加者数は3,019例で282例が weaknessになった。・PDCAAS低グループを参照にした場合、中グループおよび高グループでのweakness発生の調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、それぞれ0.71(95%CI:0.43~1.18)および0.50(同:0.29~0.86)だった。・昼食、夕食、1日の総摂取量においても同様にPDCAASを解析したが、朝食のタンパク質のみが有意な関連を示した。・朝食の食品群を比較すると、朝食PDCAASが高いグループほど、豆類、魚介類、牛乳・乳製品、卵を多く摂取しており、低いグループほど砂糖・甘味料、油脂類を多く摂取していた。 研究者らは、「今回の発見は、高齢者の筋力維持、すなわち高齢者のQOL維持のための栄養学的アプローチに対して価値ある識見を提供するかもしれない」としている。

37.

標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性【令和時代の糖尿病診療】第5回

第5回 標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性今回のテーマであるビグアナイド(BG)薬は、「ウィキペディア(Wikipedia)」に民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史が記されているように、なんと60年以上も前から使われている薬剤である。一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であることは周知の事実である。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性もご紹介しようかと思う。なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べる。作用機序から考えるその多面性まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制である。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されている。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されている。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などが知られる。作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっている2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待される(下図)。図1:用量を増やすとAMPキナーゼの活性化が促進され、作用が増強する1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施された。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになった。これにより、わが国においても(遅ればせながら)2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたという経緯がある。メトホルミンの作用ポイントと今後の可能性それでは、メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみよう。(1)多面的な血糖降下作用メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられない。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められている(下図)。また、体重への影響はなしと先述したが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされている。図2:1,500mg/日での効果不十分例の2,250mg/日への増量効果画像を拡大するさらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されている。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものである(下図)3)。図3:メトホルミンによるGLP-1分泌促進機構(仮説)画像を拡大するまた、in vitroではあるが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されている4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれている。(2)脂質代謝への影響あまり知られていない(気に留められていない?)脂質代謝への影響だが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させる。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告がある5)。下に示すとおり、国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられない。糖尿病専門医以外の多くの先生方は500~1,000mg/日までの使用が多いであろうことから、この恩恵を受けられていない可能性も考えられる。図4:TC、LDL-C、TGは、1,500mg/日投与群で有意な低下がみられる画像を拡大する(3)心血管イベントの抑制作用メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されている。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられている8)。ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もある。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきている。しかし、どんな薬物治療にも限界がある。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方をお願いしたい。今や医学生でも知っている乳酸アシドーシスのリスクだが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだ。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されている。乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とあるが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以上1~4の事項に留意する。とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたい。図5:腎機能(eGFR)によるメトホルミン最高投与量の目安画像を拡大するBasal drug of Glucose control&Beyond Glucose、それがBG薬まとめとして、最近の世界動向をみてみよう。米国糖尿病学会(ADA)は昨年12月、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表した。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されている。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになった。これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更された。メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合だ。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていない。もちろん、日本糖尿病学会の推奨は現時点で以前と変わらないことも付け加えておく。メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いない。ぜひ、Recommendationに忠実に従った上で、用量依存性のメリットも感じていただきたい。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)松岡 敦子,廣田 勇士,小川 渉. PHARMA MEDICA. 2017;35:Page:37-41.3)草鹿 育代,長坂 昌一郎. Diabetes Frontier. 2012;23:47-52.4)Cho YM, et al. Diabetologia. 2011;54:219-222.5)河盛隆造編. 見直されたビグアナイド〈メトホルミン〉改訂版. フジメディカル出版;2009.6)UKPDS Group. Lancet. 1998;352:854-865.7)Roussel R, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1892-1899.8)Kipichnikov D, et al. Ann Intern Med. 2002;137:25-33.9)Yasuko Morita, et.al. Diabetes Care. 2020;43:1796-1802.

38.

第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第25回 糖尿病診療における高齢者総合機能評価の活用法Q1 糖尿病診療における高齢者総合機能評価とは?なぜ重要なのですか?高齢者糖尿病では老年症候群の認知機能障害、フレイル、ADL低下、転倒、うつ状態、低栄養、ポリファーマシーなどが約2倍きたしやすくなります1)。また、疾患としては認知症、サルコペニア、脳卒中、骨関節疾患などの併存症も多くなります。さらに、孤立、閉じこもり、経済的な問題など社会的な問題も伴いやすくなります。こうした多岐にわたる診療上の問題点に対して、疾患よりも心身機能に焦点を当てて、多職種でその機能を改善する老年医学的アプローチが高齢者総合機能評価です。英語のComprehensive geriatric assessmentを略してCGAと呼ばれています。糖尿病におけるCGAは身体機能、認知機能、栄養、薬剤、心理状態、社会状況の6つの領域を評価するのがいいと考えています。そうした場合、栄養のことは栄養士、薬剤のことは薬剤師、心理と社会のことは看護師、心理士、ケースワーカーなどと協力して評価すると詳細に評価できると思います。入院患者のCGAの場合は、こうした多職種が分担して評価し、カンファレンスを行って、6つの領域に対する対策をチームで立てることができます。高齢者にチームでCGAを行うと、死亡や施設入所のリスクを低下させることができるというメタ解析の結果が得られています2)。Q2 糖尿病診療における高齢者総合機能評価で実際に評価すべき項目、用いるツールは?身体機能では手段的ADL、基本的ADL、フレイル、サルコぺニア、転倒、視力、聴力、巧緻機能などを評価します。手段的ADLと基本的ADLはLawtonの指標やBarthel指標で評価できますが、簡易に評価する場合はDASC-8(第7回参照)の質問の一部を使うことができます。フレイルはJ-CHS基準または基本チェックリストで評価しますが、歩行速度の測定が難しい施設では簡易フレイルインデックス(表1)が便利です。J-CHS基準や簡易フレイルインデックスは3項目以上、基本チェックリストでは8点以上がフレイルです。サルコペニアはAWGS2019による診断基準で診断しますが、臨床的には握力測定か5回椅子立ち上がりテストを行うのがいいと思います。握力は男性で28kg未満、女性で18kg未満が低下となります(第24回参照)。視力や巧緻機能はインスリン注射が可能かの判断に重要です。画像を拡大する認知機能では認知機能全般だけでなく、記憶力、遂行機能(実行機能)、注意力、空間認識など糖尿病で低下しやすい領域を評価することもあります。認知機能全般はMMSEまたは改訂長谷川式知能検査で評価する場合が多いです。DASC-21またはDASC-8は日常生活に関して質問する指標なので、メディカルスタッフや介護職が行うのがいいと思います。DASC-21は31点以上が認知症疑いとなります。MMSEがそれほど低下しなくてもインスリン注射などの手技ができない場合は、時計描画試験を行って遂行機能が障害されていないかを確かめます。MoCAは糖尿病患者のMCIのスクリーニング検査として有用です。MoCA25点以下がMCI疑いですが、臨床的には23点以下が実態に合っているように思います。心理状態はうつ状態、不安、QOL低下があるかをチェックします。うつはGDS15で評価しますが、短縮版のGDS5や基本チェックリストの5問の質問も利用できます。栄養では低栄養として体重減少、BMI低値、食事摂取の低下などを評価します。MNA-SFは低栄養のスクリーニングとして利用できます。また、腹部肥満の指標として腹囲を測定します。薬剤では、服薬や注射のアドヒアランス低下、ポリファーマシー、有害事象の有無を評価します。社会状況では、孤立、閉じこもり、社会参加、家族サポート、介護保険の要介護認定、住宅環境、経済状況などをチェックします。孤立や閉じこもりは社会的フレイルの重要な要素で、それぞれ同居家族以外の人の交流が週1回未満、外出が1日1回未満が目安となります。高齢糖尿病患者におけるCGAは入院患者の治療方針を決める場合に行い、外来では可能ならば年に1回、あるいは心身機能に変化があると考える場合に施行することが望ましいと考えます。Q3 外来診療で簡易に高齢者総合機能評価を行う方法はありますか?Q2でご紹介した高齢者総合機能評価(CGA)の項目は入院患者などが対象で、評価する時間と人手がある場合に行うものです。外来診療で簡易にCGAを行う例をご紹介したいと思います(図1)。画像を拡大するまず、身体機能と認知機能を簡易にスクリーニングするために、DASC-8またはDAFS-8を行います。DASC-8は以前にご紹介したように認知(記憶、時間見当識)、手段的ADL(買い物、交通機関を使っての外出、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問を4段階で評価し、合計点を出します(第7回参照)。DAFS-8は知的活動(新聞を読む)、社会活動(友人を訪問)、手段的ADL(買い物、食事の用意、金銭管理)、基本的ADL(食事、トイレ、移動)の8問からなり、知的・社会活動、手段的ADLは老研式活動能力指標から5問、Barthel指標から3問をとっています(表2)。DAFS-8はDASC-8と比べて基本的ADL以外は2者択一の質問なので聞きやすいという利点があります。DASC-8とDAFS-8のいずれも総合点によって3つのカテゴリー分類を行うことができ、血糖コントロール目標を設定することができます3,4)。画像を拡大するカテゴリーII以上で認知機能の精査を希望する場合はMMSEや改訂長谷川式知能検査を行います(第4回参照)。また、カテゴリーII以上はフレイル・サルコペニアがないかをチェックします。まず、握力の測定をします。さらに、簡易フレイルインデックスの体重減少、物忘れ、疲労感、歩行速度の低下、身体活動の低下の有無を質問し、フレイルをスクリーニングします。座位時間が長くなっていないかも身体活動を評価するのに参考になります。さらに、糖尿病の診療で従来から行っている栄養、薬剤、心理、社会面の評価を追加すればCGAとなります。外来でも多職種で分担すると効率的にCGAを行うことができます。当センターの糖尿病外来では初診時の問診項目にDASC-8を加えて、看護師が聴取するようになっています。Q4 評価結果を実際どのような考え方で治療・介入に結びつけていますか?こうしたCGAでは領域ごとに対策を立てることが大切です。カテゴリーII以上では身体活動量低下、フレイル・サルコペニア、アドヒアランス低下、社会ネットワーク低下の頻度が増加することが明らかになっています5)。したがって、カテゴリーII以上では、適正なエネルギーと十分なタンパク質を摂り、坐位時間を短くするように指導し、レジスタンス運動を含む運動を週2回以上行うことを勧めます。服薬アドヒアランス低下の対策は治療の単純化であり、服薬数や服薬回数を減らすこと、服薬タイミングの統一、一包化(SU薬を除く)、配合剤の利用などが挙げられます。インスリン治療の単純化は複数回のインスリン注射を(1)1日1回の持効型インスリン、(2)週1回のGLP-1受容体作動薬、または(3)持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更していくことです。この治療の単純化はアドヒアランスの向上だけでなく、血糖のコントロールの改善や低血糖の防止を目指して行うことが大切です。カテゴリーIIIの場合は減薬・減量の可能性も考慮します。社会的な対策として、カテゴリーII以上で孤立や閉じこもりがある場合には社会参加を促し、通いの場などで運動、趣味の活動、ボランティアなどを行うことを勧めます。介護保険の要介護認定を行い、デイケア、デイサービスを利用することも大切です。また、訪問看護師により、インスリンなどの注射の手技の確認や週1回のGLP-1受容体作動薬の注射を依頼することもできます。1)Araki A, Ito H. Geriatr Gerontol Int 2009;9:105-114.2)Ellis G, et al. BMJ. 2011 Oct 27;343:d6553. 3)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1458-1462.4)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int 2021;21:512-518.5)Toyoshima K, et al. Geriatr Gerontol Int 2020; 20:1157-1163.

39.

骨格筋量維持が術後の高齢食道がんの生命予後を改善/日本癌治療学会

 手術後の高齢食道がんの生命予後は、骨格筋量減少が減少が小さい患者で良好なことが、第59回日本癌治療学会学術集会で報告された。 骨格筋量の減少はがん患者の生命予後に影響する。消化器がん領域では、患者の高齢化でサルコペニアが増加しており、骨格筋量への注目は高い。 そのような中、完全切除後の高齢食道がん患者における術後の骨格筋量の変化が、生命予後に与える影響を調査するため、単施設の後ろ向き研究が行われた。国立がん研究センター東病院の原田剛志氏が試験結果を発表した。 2016~2020年に根治的手術および周術期リハビリテーションを受けた、70歳以上の食道癌患者が166が分析の対象となった。 完全切除4ヶ月後の骨格筋量指数(SMI)の減少が小さかった群(6.05%未満)は、大きかった群(6.05%以上)に比べ、3年全生存(3yOS)率が有意に良好であった(p=0.0073)。SMIの変化と3yOS率の関係は用量依存的であり、また、SMIの大幅な減少(6.05%以上)は、独立した危険因子であった。 この後ろ向き研究では、周術期リハビリテーションを受けた高齢食道がん患者において、手術後の骨格筋量の変化は生命予後に影響することが示された。発表者の原田氏は 、手術後の継続したリハビリテーションが骨格筋量を維持する可能性を示唆した。

40.

GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択【令和時代の糖尿病診療】第1回

第1回 GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1 RA)、その登場は10年前にさかのぼる。ちなみに、今年はインスリン発見から100年という、糖尿病分野において記念すべき歴史的な年である(にもかかわらず、コロナの影響で大々的なイベントは開催できていない)。それに比べ、たかだか生誕10年ではあるものの、これまでに数多くのGLP-1 RA製剤が登場し、エビデンスもそろってきており、大きな注目を集めている。ここで知識の整理として、GLP-1の生理作用を見てみよう。図1:GLP-1の多彩な生理作用(間接的作用を含む)画像を拡大する非常に多彩ではあるが、GLP-1 RAは、主に膵臓において血糖依存的にインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制、肝臓においてグルコース産生を抑制、胃においては胃内容物排出の遅延により、血糖コントロールを行うという作用機序である。次に、分類を見てみよう。図2:GLP-1受容体作動薬の分類分類としては、まずヒトGLP-1由来かExendin-4由来かに大別され、各々1日1~2回もしくは週1回の投与方法があり、それに対応する製剤が存在する。さらに、今まではGLP-1 RAといえば注射薬という位置付けだったが、2021年に経口薬も加わったのである。これには大きな衝撃を受けた。重要な3つのポイント:適応患者の選択、合併症の管理、体重減少効果GLP-1 RAを使用するに当たって、重要なポイントが3つあるので、順に説明する。(1)作用機序から考えた適応患者の選択と早期導入この薬剤の作用機序は、「インスリン分泌促進系」の中でも「血糖依存性」に分類1)されるため、膵機能が保たれているインスリン非依存状態であることが必須である。すなわち、この薬剤の醍醐味を感じていただけるのは、罹病歴が比較的短く、内因性インスリン分泌能が保たれている、SU薬を多量に服用していない患者ということになる。一方、血糖依存性といえども万能ではなく、高血糖毒性を伴いインスリンの絶対的適応となるようなケースには不向きであることをご理解いただきたい。こういった場合は、糖毒性解除後に使用するとうまくいくことが多い。ひとつ症例で考えてみよう。63歳男性。脳梗塞で脳神経内科入院となり、救急外来時の随時血糖値283mg/dL、HbA1c 10.6%とコントロール不良の糖尿病を認め、血糖コントロール依頼で当科受診となった。未治療の患者で、体重85.0kg、BMI 31.2で、2度肥満を認めた。入院後に強化インスリン療法を開始、その後リハビリ目的にて転院となっている。リハビリ病院では混合型インスリン2回打ちに変更になり、3ヵ月後、当科に今後の治療につき相談があった。この時は随時血糖値141mg/dL、HbA1c 6.9%まで改善しており、体重79.0kg、BMI 29.0の1度肥満まで改善していた。総インスリン量は、22単位から12単位まで減量となっており、軽度の右不全マヒがあるものの、インスリン自己注射は問題なくできた。そこで主治医は、患者への負担を少しでも軽くしようと考え、インスリン分泌能も保たれていたため、週1回のGLP-1 RAへの切り替えを選択した。その後、3ヵ月間単剤での管理で3.1kgの減量に成功し、HbA1cも5.9%まで改善、患者さんも減量の成功を大変喜び、継続を希望したとのことである。この例は、GLP-1 RAの早期導入が功を奏したと考えられる。実際のところ、JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータを見ると、GLP-1 RAの処方は年々増加しているものの、HbA1cの目標到達率はインスリンと大きく変わらず、あまりよくない(私も言える立場ではないが反省の意味も込めて)。もしかしたら導入が遅いため、十分な効力が発揮できていないのかもしれない。(2)合併症抑制を考慮した治療選択治療選択の際、合併症(大血管症、細小血管症)を考慮できているだろうか? 2008年から米国FDA(食品医薬品庁)で、新規の血糖降下薬は心血管合併症を増やさないことの証明が必須になっているが、最近はむしろ血糖コントロール改善とは異なる機序で、糖尿病合併症を抑制する薬剤が注目を集めてきている。実際、GLP-1 RAは2021年ADAのStandards of Medical Care in Diabetes2)にも記載されているように、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)やCKDの合併、または高リスクがある場合は、メトホルミン使用とは無関係に優先的に使用すべき薬剤の1つになっている。わが国において薬剤の使用優先順位までは決められていないが、エビデンスのある薬剤の1つとして位置付けられているため、より処方するベネフィットが大きいと考えられる。図3:2型糖尿病における血糖降下薬:総括的アプローチ(ADA2021)画像を拡大する(3)体重減少、食欲抑制に対する効果GLP-1 RAの生理作用は、糖代謝改善作用以外に、胃内容物排出の遅延作用と中枢における食欲抑制作用があり、それには消化管で産生されたGLP-1が主に迷走神経を介して中枢へ作用する系、および中枢で産生されたGLP-1が作用する系の2つが関与するといわれている3)。いずれにせよ体重減少効果は大きく、米国では抗肥満薬としても上市されている(糖尿病薬の用量とは異なる)。セマグルチドの最近のエビデンスとして、太り過ぎまたは肥満成人に対する集中的行動療法の補助として有意な体重減少をもたらし4)、また従来の薬剤の約2倍の減量効果があり5)、肥満外科手術に匹敵するといわれるほどである。近年、高齢化が進むにつれ高齢者糖尿病患者も増加し、サルコペニアの問題も大きく取り沙汰されている。体重減少効果が筋肉量の減少を誘発していないかの問題も言われる中、経口セマグルチドにおける2型糖尿病患者のエネルギー摂取量、食事の嗜好、食欲、体重の効果についての論文が発表されている6)。表1:Changes from baseline in body weight and body composition as measured by Bodpod※ and waist circumference at week 12(day 3)※Bodpod:体脂肪測定装置(イタリア・COSMED SRL社製)表によると、12週で体重2.7kg、ウエスト2.4cmが減少しており、脂肪量は-2.6kg、除脂肪量-0.1kgと、減量のほとんどを脂肪量の減少が占めた。さらに、摂取エネルギーが減少するのはもちろんのこと、高脂肪食や甘味が有意に減少していたという嗜好の変化が非常にユニークな結果であった。また、GLP-1 RAの効果について、さらに細かい話にはなるが、ショートアクティングとロングアクティングでは、作用時間だけでなく血糖降下作用も異なるといわれている。まずロングアクティングは、主にインスリン分泌促進およびグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮し、ショートアクティングに比べて空腹時血糖値やHbA1cの改善効果が大きいとされる。一方、ショートアクティングは主に胃内容物排出遅延作用やグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮するとされる。実際、ロングアクティングの血糖改善効果は残存膵β細胞機能に依存するのに対し、ショートアクティングでは血糖改善効果と残存β細胞機能に明確な関連性を認めない。New Normal Selection GLP-1 RAさて、今回のタイトル「GLP-1受容体作動薬のNew Normalな選択」に対して、「何だろう?」と思って読んでくれた方の疑問にお答えしよう。コロナで流行ワードとなった「New Normal」、すなわち新しい生活様式のように、あらゆる行動を時勢に合わせてアップデートして動く中で、薬物治療の新たな選択肢としてGLP-1 RAの登場、そしてこの治療の幅が非常に広がったことで、新しい糖尿病診療が始まったことを意味する。たとえば、今までWeeklyのGLP-1 RA製剤は用量調節ができなかったが、セマグルチドではDaily製剤のように用量調節ができるようになった。実際は初期投与量・維持量・コントロール困難例と分けられているものの、消化器系症状が出やすい人や体重をあまり落としたくない高齢者など、人によっては初期投与量が維持量になるなど、使用範囲が広がる。また、過体重でとにかく減量させたい人やインスリンを減量したい人に高用量を使用するといった方法もあるかと思う。さらには、注射製剤をかたくなに拒否する患者さんには経口薬を選ぶこともでき、こちらも同様に3つの規格が使用できる。注射指導にハードルを感じる非専門医にとっても、経口薬なら処方しやすいのではないかと考えられる。いずれにせよ、まさにNew Normalな世界が広がる。ぜひ、ワクワクしながらこの薬剤を使用してみてはいかがだろうか?1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)American Diabetes Association. Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-S124.3)上野 浩晶ほか. 日本糖尿病学会誌. 2017;60:570-572.4)Wadden TA, et al. JAMA. 2021;325:1403-1413.5)Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021;384:989.6)Gibbons C, et al. Diabetes Obs Metab. 2021;23:581-588.

検索結果 合計:129件 表示位置:21 - 40