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心血管病の証拠のない2型糖尿病患者への予防的ω-3多価不飽和脂肪酸の投与効果は期待はずれか(ω-3PUFA効果は夢か幻か?)(解説:島田俊夫氏)-926

 多価不飽和脂肪酸(PUFA)が心血管病に良い影響を与えるということが巷でささやかれており、サプリメントも広く普及している。PUFAにまつわる話はグリーランドのイヌイット(エスキモー)に心血管病が少ないことに着目した研究に端を発している1)。この研究以降、精力的に研究が行われてきたが、PUFAサプリメントの投与と心血管病の予防・治療への有効性は、いまだ確立されていない。とくに1次予防に関しては、悲観的な結果が優勢であるがわが国の大規模研究JELIS2)は、高コレステロール血症に対してスタチン投与中の集団を無作為にEPA(1,880mg/day)、プラセボに割り付けることにより、主冠動脈イベント発症率は19%有意に低下した。2次予防サブ解析では累積冠動脈イベントが23%低下した。脳卒中に関しては1次予防効果は認めず、2次予防効果において20%の抑制効果が認められた。しかし、この研究がprobe法を用いた研究であったことが信憑性に疑念を抱かせる結果となっている。 NEJM誌オンライン版の2018年8月26日号に掲載された英国・オックスフォード大学のLouise Bowman氏らの論文は、PUFAの予防投与における有用性に疑問を投じる貴重な報告と考え、私見を述べる。研究の概略 観察研究では、ω-3PUFAの摂取増加は心血管病リスク低下に関係している。 ところがこれらの所見は、ランダム化試験においていまだ是認されていない。ω-3PUFAサプリメントが糖尿病患者の心血管リスクに便益をもたらすか、いまだ解決されていない。 明らかな動脈硬化性疾患の証拠を持たない糖尿病患者1万5,480例を、ω-3PUFA1gカプセル服用群(PUFA群)、オリーブオイル服用群(プラセボ群)のいずれかの群に無作為に割り付けを行った。1次アウトカムは、初回の重篤な血管イベントとした(つまり、確定した脳内出血を除いた非致死的心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作または血管死)。 7.4年のフォローアップ期間中(アドヒアランス:76%)、重篤な血管イベントが脂肪酸群で689例(8.9%)、プラセボ群で712例(9.2%)に発生した(率比:0.97、95%CI:0.87~1.08、p=0.55)。重篤な血管イベントあるいは血管再建複合アウトカムは、それぞれ882例(11.4%)、887例(11.5%)に起こった(率比:1.00、95%CI:0.91~1.09)。全死因死亡は脂肪酸群で752例(9.7%)、プラセボ群で788例(10.2%)に起こった(率比:0.95、95%CI:0.86~1.05)。非致死的重篤有害イベント率に関しては有意差を認めなかった。筆者コメント 結論として、心血管病の証拠のない糖尿病患者は、ω-3PUFAサプリメント群、プラセボ群に無作為に割り付けられた2群間比較で、重篤な心血管イベントリスクに有意差を認めなかった。本論文のメッセージは、心血管病予防にこれまで期待の大きかったPUFAサプリメントの1次予防への投与が無作為に割り付けられた糖尿病患者で、かつ明らかな心血管疾患の証拠のない患者の2群間(ω-3PUFAサプリメント群とプラセボ群)比較で有意差を認めなかった事実から、PUFAの予防投与は思いの外、糖尿病患者の心血管病予防への期待を裏切る結果となった。高コレステロール血症治療中の患者を対象とした研究、2型糖尿病治療群を対象とした本研究での結果の乖離が、単なる対象疾患の差にもとづくものか慎重な判断が必要である。1次予防に関する研究は追跡期間、人口構成らが大いに結果に影響し、至適追跡期間が不適切であれば検出力不足のために陰性になる恐れもあり、本研究の平均追跡期間7.4年が1次予防効果を評価するに十分であったか多少の疑問が残る。これまでの多くのエビデンスを考えると多価不飽和脂肪酸サプリメントへの過大な期待に対する警鐘と理解するのが、現段階では妥当な解釈かと考えている。効果を否定するのは早計と考える。

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「脂肪が燃えるサプリ」表示に根拠なし ドラッグストアに措置命令【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第9回

食品を販売している薬局では、この夏は熱中症対策として経口補水液や塩分補給の飴などのニーズが高かったのではないでしょうか。薬局が医薬品だけでなく食品や医療材料なども取り扱うことは、地域の方々の健康を支えるために必要なことだと思っています。ところが、ある健康食品の販売に関して気になる記事がありました。サプリメントの広告で合理的根拠がないのに「脂肪の消費を大幅UP」などと宣伝したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、消費者庁は9月5日までに、関西を中心にドラッグストアを展開する「キリン堂」(大阪市)に再発防止を求める措置命令を出した。消費者庁などによると、対象となった商品は「グラリスゴールド」。(中略)摂取するだけで特段の運動や食事制限をしなくても体脂肪が燃焼し、痩せる効果が得られるような表示をしていた。(2018年9月5日付 日本経済新聞WEB)薬局で販売する健康食品の店頭表示物(いわゆるPOP広告)に関して、消費者庁から不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)に基づく措置命令が出されました。問題になったPOP広告には、太った人物が腹部をつかんでいるイラストや細身の人物がサイズの大きなズボンを履いているイラストなどとともに、「食べるの大好き&運動嫌い でも燃えた!!」「脂肪燃焼力を大幅UP」「脂肪を減らしながら基礎代謝を上げる」など、運動しなくても痩身効果が得られるかのように表示されていました。消費者庁は当該表示の根拠を示すよう求めましたが、同社から提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠とは認められなかったため、表示内容が景品表示法に違反していたことの一般消費者への周知や、再発防止策の構築などを命じました。根拠なく優良誤認させるのは景品表示法違反 薬機法違反の可能性もご存じのように、医薬品や医薬部外品などは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)により、エビデンスや承認された効能効果に基づいて表示できる範囲が決められています。では、健康食品の広告には何を書いてもいいか、というとそんなことはありません。健康食品はあくまで食品ですので、薬機法で直接制限されるものではありませんが、一般消費者が誤った情報によって商品を選んで不利益を被ることがないよう、景品表示法で不当な表示をして販売してはならない旨が定められています。今回問題となったPOP広告は、景品表示法第5条第1号に抵触しました。これは、商品やサービスが実際のものよりも著しく優良であるとアピールして、一般消費者の選択を阻害するような不当な表示を禁止するものです。実際、当該健康食品を広告どおりの効果があるものだと期待して購入した方もいただろうと思います。しかも当該POP広告が表示されていた場所は薬局やドラッグストアですので、薬剤師や従業員が「これはダイエットにオススメですよ」と言ったら、一般の方は「効果があるんだ!」と信じてしまうでしょう。薬局で薬剤師が健康食品を販売するとなると、一般のスーパーで売られているものより説得力が増してしまうため、より表現に注意しなければなりません。なお、健康食品は薬機法の範疇ではないといっても、病気の治療や予防、身体機能の増強・増進を目的とする効能効果をうたった場合(暗示的な表現含む)には薬機法違反になります。今回のPOP広告はほぼ明示的に脂肪の消費を促したり、代謝をアップさせたりする効果があると表示されていますので、かなりクロに近いのではないかと思います。「本当にこれを掲示して一般の方は誤解を受けないだろうか?」「本社がそう言っているが、そのエビデンスはあるのだろうか?」「そもそもこれは食品? 医薬部外品?」と意識して、薬機法、景品表示法を守ることも薬剤師として必要な仕事です。皆さんの薬局のPOP広告は大丈夫でしょうか?

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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妊娠・授乳期のビタミンD投与は胎児・乳児に有益か/NEJM

 分娩前のビタミンD欠乏症や胎児・乳児の発育不全が広く認められる集団において、妊娠中期から分娩時までまたは分娩後6ヵ月まで、母体にビタミンDサプリメント投与を行っても、胎児や乳児の成長は改善されなかった。カナダ・トロント大学のDaniel E. Roth氏らが、バングラデシュで行った無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌2018年8月9日号で報告した。ビタミンD欠乏症が蔓延している地域において、妊娠中および授乳期の母体へのビタミンD投与が、胎児や乳児の成長を改善するかどうかは確認されていなかった。5つの投与パターンで検証 検討は、分娩前(妊娠17~24週から出産まで)および分娩後の、週1回のビタミンD投与の効果を評価するため、2014年3月~2015年9月に、バングラデシュの公的病院1施設で行われた。 被験者は無作為に次の5群に割り付けられた。1)分娩前、分娩後ともにビタミンD投与を受けない(プラセボ群)、2)分娩前のみ用量4,200IUを受ける群(分娩前4,200群)、3)同1万6,800IUを受ける群(分娩前1万6,800群)、4)同2万8,000IUを受ける群(分娩前2万8,000群)、5)分娩前および分娩後26週間に用量2万8,000IUを受ける群(分娩前・分娩後2万8,000群)。 主要アウトカムは、1年(364~420日)時点の年齢別身長zスコア(WHO Child Growth Standardsに基づく)であった。また副次アウトカムとして、乳児の身体諸計測値、早産(妊娠37週未満)、妊娠高血圧症、分娩特性、死産、母体および乳児の罹患や入院、死亡、先天奇形などについて評価した。1歳時の年齢別身長zスコア、群間の有意差は認められず 総計1,300例の妊婦が登録され、5群のうちの1つに無作為に割り付けられた。全体でビタミンD欠乏症の女性は64%。群間で授乳パターンなどに有意差はなかった。 1歳時のフォローアップを受けたのは1,164例(89.5%)であった。それら被験者において、群間の年齢別身長zスコアの有意差は認められなかった。スコアは、プラセボ群:-0.93±1.05、分娩前4,200群:-1.11±1.12、分娩前1万6,800群:-0.97±0.97、分娩前2万8,000群:-1.06±1.07、分娩前・分娩後2万8,000群:-0.94±1.00であった(全体的な群間差検定のp=0.23)。その他の身体諸計測指数(年齢別体重zスコア、身長別体重zスコアなど)、出生アウトカム、罹患率にも有意差がみられなかった。 一方で、ビタミンD投与による予想どおりの用量依存効果が、母体と乳児の血清25ヒドロキシビタミンD値および血清カルシウム値、母体の尿中カルシウム排出量、母体の副甲状腺ホルモン(iPTH)濃度に認められた。分娩後6ヵ月時点の母体iPTHは、分娩前・分娩後2万8,000群が他の群と比べて有意に低値であった。 また、最大量投与群で高カルシウム尿症の割合が高率となる可能性を除き、群間の有害事象の発現頻度について有意差は認められなかった。

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第5回 食事から摂る水分【実践型!食事指導スライド】

第5回 食事から摂る水分医療者向けワンポイント解説夏の暑い時期に、糖尿病の方が水分摂取を意識することは大切です。体重に対する水分量は、乳児で約70〜80%、成人で60%、高齢者は約50〜55%と言われています。年齢とともに、カラダに保有する水分量が減っている分、意識して水分摂取を心がけることが大切です。カラダから出て行く水分は、尿や便で約1.5L、汗で約0.7L、呼気で0.3L、合計で2.5Lと言われています。この水分量を補う必要があるのですが、代謝によって体内で作られる水分が約0.3Lと言われているので、実際に口から補給するべき水分は、2.2L程度と考えられます。これを全て、飲み水で摂取するのは、大変ですが、この水分量には、食事からの水分摂取も含まれます。環境省の熱中症環境保健マニュアル2018には、食事からの水分を1.0L、飲み水を1.2L程度と記載されています。コップ1杯150mlとすると、1日にコップ8杯程度の水を摂取する必要があり、そのほかに食事からの水分を考える必要があります。飲み水は、糖分の入ったものではなく、水や麦茶などで摂取することが良いですが、水を飲むことが苦手、困難な方の場合、水分の摂取が不足しがちになることがあります。この場合は、食事からの水分摂取を増やすことを意識すると良いでしょう。●ポイント1「水分の多い食材を意識する」夏野菜は、水分を豊富に含んだものが多く、特に豊富なのが「ぶら下がり野菜」と呼ばれる幹からぶら下がっている野菜です。トマト、なす、きゅうり、冬瓜、ズッキーニなどがあり、きゅうりは95%が水分、トマトは94%が水分です。食べることで、水分や汗でなくなるミネラルを自然と補給することができます。果物であるスイカ、桃、ぶどう、なしなども水分が豊富であり、食欲の落ちたときには、果糖が豊富な果物はエネルギー補給にも役立ちます。●ポイント2「パンよりも米」パンの水分量は、30〜35%ほどですが、米飯の場合、60%が水分、粥にすると83%が水分です。これより、食事の水分量が、パンと米では倍以上違うことがわかります。パンよりも米飯やおかゆ、リゾットなどを主食にすることで、無理せず水分を補給できます。おかずには、味噌汁やスープ、煮物、カレー、シチュー、あんかけなど、水分を豊富に含む調理法のものがオススメです。●ポイント3「粘性のある水分を選ぶ」さらりとした水が飲みづらいと感じる場合、粘性をつけた水分を取り入れると摂取しやすくなります。牛乳や豆乳などに変えることで、食欲が落ちた時にもたんぱく質やビタミン、ミネラルの補給ができます。また、甘酒やゼリーなどでもエネルギーの補給に効果が期待できます。カフェラテや麦茶ラテ、トマトジュースをヨーグルトや牛乳、甘酒で割った飲み物も、水分だけでなく多くの栄養素を同時に補給できるため、夏場の栄養補給としても効果的です。水分摂取というと、水やお茶を飲むことに意識が向いてしまいがちですが、食事からの水分量を増やすということも意識に入れることで、脱水を防ぐことに繋がります。参考環境省:熱中症予防情報サイト

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第4回 水分摂取と各飲料水の糖分について【実践型!食事指導スライド】

第4回 水分摂取と各飲料水の糖分について医療者向けワンポイント解説水分摂取と各飲料水の糖質比較これからの時期、水分摂取を意識することが増え、ペットボトルを購入する機会も多くなりますが、ここに水分摂取の落とし穴があります。1日の水分摂取量の目安として、水分制限がない場合は約1.5~2.0Lといわれています。これは、コップ1杯を200mLと換算して、8~10杯ほどです。水分には、「酸素や栄養素を運ぶ働き」「老廃物を排泄する働き」「血液を循環させる働き」「汗として体温を調整する働き」「体液の性状を一定に保つ働き」など多くの働きがあります。朝、起きがけの1杯から始め、こまめな水分摂取が必要です。夏の時期、「電解質の多いスポーツドリンクを飲んだほうが良い」と考えている糖尿病患者さんなどが、無意識下で清涼飲料水による糖分の過剰摂取で高血糖や清涼飲料水ケトーシスを引き起こすケースもあります。大手2社のスポーツドリンク(ペットボトル500mL)で清涼飲料水の糖質を比較した場合、A社は23.5g、B社は31gでした。これを1本3gのスティックシュガーで換算すると、A社は約8本分、B社は約10本分に相当します。また、最近では、水と間違えてしまうような清涼飲料水もあります。これでは、水分を摂取しているつもりで、糖質を大量に摂取してしまうことになります。飲料に入っている糖分の問題点は、もう1つあります。裏の表示を見ると「果糖ぶどう糖液糖」「果糖 砂糖」などの表記があります。果糖(フルクトース)やブドウ糖(グルコース)は単糖類に分類され、それ以上加水分解されない糖のため、体内に入るとすぐに腸管から吸収されます。また、液糖であることでより吸収がされやすくなります。吸収された糖は、血糖値の急上昇へつながるため、血糖コントロールへの影響、糖化など、生活習慣病のリスクが高くなります。また、果糖は、内臓肥満やメタボへの影響が強く、米国・カリフォルニア大学デービス校のStanhope氏らは「ヒトにエネルギー比25%のフルクトースを10週間摂取させると、内臓脂肪の増加、脂質代謝異常、インスリン抵抗性の発症が引き起こされる」と報告しています1)。さらに、フルクトースはグレリンの抑制作用がなく、満腹中枢にも働かないため、その点においても肥満を助長させる大きな要因となります。空調のきいた室内にいることが多い、運動などをあまりしないなど、大量に汗をかくような環境ではない方や、食事がきちんと食べられている方は、食事から塩やミネラルが摂れるので、水、お茶、麦茶(ミネラル含有)などを中心に水分を摂取してもらいましょう。まずは清涼飲料水の糖質量の多さを認識してもらうこと、清涼飲料水に多く含まれる果糖摂取のリスクを患者さんに認識してもらうことが大切です。飲み物を買う際には、原材料名が記載されたラベルの確認を習慣にするよう伝えることもお勧めします。1)Stanhope KL, et al. J Clin Invest. 2009;119:1322-1334.

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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第3回 「ベジファースト」の第一歩【実践型!食事指導スライド】

第3回 「ベジファースト」の第一歩医療者向けワンポイント解説野菜の摂取量は日々不足しています。『健康日本21』でも1日の野菜の摂取目標量を350gと定めていますが、実際に摂取できている方は少ないのが現実です。『平成28年 国民健康・栄養調査』の結果では、「野菜摂取量の平均値は 276.5g(男性:283.7g、女性:270.5g)であり、この10年間で有意に減少している」と報告されています。最近では、「ベジファースト」という言葉が患者さんの間にも浸透してきています。これは言葉通り、「食事の最初に野菜を食べる」ということです。これによって以下の3つが期待できます。(1)ビタミンやミネラルなどの栄養素の補給緑黄色野菜に含まれる、抗酸化ビタミンであるβ-カロテン(ビタミンA)やビタミンE、ビタミンCをはじめ、ナトリウムの排泄作用があるカリウム、ミネラルが摂取できます。(2)血糖値の上昇緩和と脂質の吸収阻害食物繊維は、水溶性と不溶性の2種類があり、水溶性食物繊維の摂取は糖の吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇の抑制や脂質の吸収阻害に効果的です。また、不溶性食物繊維は、腸内の善玉菌を増やす働きに効果が期待できます。(3)料理のカサや噛みごたえが増加低カロリーである野菜は、カロリーや脂質などを気にせず、料理のボリュームや噛みごたえを増やすことができます。これにより食べ過ぎを予防する働きがあります。しかし、糖尿病患者さんに「野菜を食べましょう」と伝えた場合、実行するハードルが高いと感じる方が多くいます。原因としては、(1)野菜を切るのが面倒くさい、切れない、(2)外食で野菜(サラダ)を頼むと食費がかさむ、(3)野菜が苦手、が挙げられますが、今回は、(1)(2)のハードルを下げるコツを紹介します。(1)「そのまま野菜」を持ち歩くプチトマトやキュウリなどの野菜は、洗ったらそのまま食べることができる「そのまま野菜」です。コンビニやスーパーでも手軽に手に入り、価格も安定しているため、こうした野菜を冷蔵庫にストックしておくことや、外出先で購入することをオススメします。(2)「カット野菜」を手軽にオン!カット野菜は、「栄養価がないのでは?」と懸念される方もいますが、各社のデータによるとビタミンやミネラルの残存率も比較的高いと報告されています。何より、食物繊維は残っているので、「『繊維』を食べる」「ボリュームを増やす」と考えると食べるメリットが出てくると思います。また、価格が安定しているため、購入しやすいのが特徴です。カップラーメンや即席スープに入れる際は、袋を開けて電子レンジで1分ほど加熱することで、ボリュームが抑えられ、たっぷりと入れることができます。(3)「男前サラダ」を作る患者さんの中には、「皿も包丁もまな板も使いたくない」という方がいます。職場などで野菜を安く食べたい場合、カット野菜にドレッシングをかけ、そのまま食べることも良いと思います。しかし、せっかくなので、栄養補給を考慮し、ナッツやサラダチキン、ゆで卵などを投入してみましょう。たんぱく質やビタミンなどが補給できるサラダが作れます。さらに、オリーブオイルを加えることで、余計な塩分を抑えることも可能です。こうした野菜の食べ方は、栄養バランスが全て整うとは言い切れませんが、野菜を食べる習慣を促す第一歩になります。

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これからの心不全治療、認識新たに【東大心不全】

高齢化に伴い急増する心不全。今後も、より大きな問題となる心不全に、どう対応していくべきか。東京大学循環器内科学 教授 小室一成氏に聞いた。わが国の心不全の現状について教えてください。画像を拡大する画像を拡大する日本の心不全患者数は、現在、推計100万人。その数は2030年まで増え続け、130万人を超えるといわれています。増加は日本だけでなく、米国、欧州などの先進諸国やアジア、アフリカ諸国でもみられます。理由は高齢化です。心不全の発症は高齢者、とくに65歳を超えると急増します。わが国は高齢化が最も進んでいますので、心不全が今後大きな問題になることは間違いないといえます。わが国の心不全治療の現状について教えていただけますか。心不全の治療は、あらゆる疾患の中で最も確立されています。心不全リスク群であるステージAおよびBでは、器質的心疾患の発症・進展予防を、症候性の心不全であるステージCでは、症状コントロールを行います。とくに、ACE、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、心不全に対する複数の大規模臨床試験によって、生存予後を20~30%改善するというエビデンスがあります。また、最重症のステージDでは、適応があれば、心臓移植となりますが、わが国はこの分野でも成績は良好で、海外の心移植後5年生存率が8割程度なのに対し、日本では9割を超えます。さらに、移植待機中のLVAD治療についても良好な結果を示しています。しかし、問題点もあります。薬剤は有効であるものの、すべて対症療法です。移植についても、わが国ではドナーが少なく、移植までの待機期間は平均3年。世界でも飛び抜けて長いといえます。この待機期間は今後さらに伸びると予想され、ドナーを増やすよう活動していく必要があると思っています。学会としての取り組みについて教えていただけますか。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する一昨年(2016年)、日本循環器学会と脳卒中学会を中心に「脳卒中と循環器病克服5ヵ年計画」を作成しました。“健康寿命の延伸”と“5年で5%の死亡率減少”を大目標とし、5戦略(医療体制の充実、人材育成、予防・国民への啓発、登録事業の促進、臨床・基礎研究の強化)と3疾患を定めました。3疾患は脳卒中、血管病、そして、現在、循環器疾患の死亡で最も多い心不全です。心不全における5戦略、1つ目は医療体制の構築です。心不全患者さんの多くは、入院治療により改善して退院しますが、退院後の生活習慣、服薬指導が重要なのです。これを怠ると、急性増悪を繰り返しながら悪化し、最終的に命を落とすことになります。これを防ぐためには、専門病院から慢性期、在宅までの診療をシームレスに行える、心不全を念頭に置いた医療体制を作ることが必要です。2つ目は人材育成です。このように心不全は退院後が非常に重要なので、患者さんと密接な関係にある、実地医家の医師やメディカルスタッフの人材育成が重要になります。画像を拡大する3つ目は、予防・国民への啓発です。心不全は重症度に応じて4つの予防チャンスがあります。塩分・脂質過多、喫煙、多量飲酒、運動不足といった生活習慣の改善による0次予防。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常の改善による心臓病にならないための、ハイリスク群の1次予防。そして、心不全の早期治療と再発予防による2~3次予防。最後は突然死の予防です。しかし、このチャンスも、患者さんに“心不全は予防できる”、ということをご理解いただかないと活かせません。そのために、アニメキャラクター「ハットリシンゾウ」を啓発大使とし、「シン・シン(心臓・身体)健康プロジェクト」を展開しています。そこでは、一般の方にわかりにくかった心不全の定義を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」とし、疾患としての認知促進を図っています。4つ目は登録事業の促進です。前述のとおり、日本の心不全患者数は100万人とされますが、この数字は新潟県佐渡市の統計から推計したものです。正確な統計ではありません。心不全患者がわが国に何人おり、どのような治療が行われていて、どのような地域差があるのか、こういった実態をレジストリで明らかにすることを考えています。5つ目は基礎研究です。これも前述のとおり、心不全の治療薬は有効であるものの、対症療法です。心不全発症の分子機序を解明して、それに基づいた新薬や新デバイスの開発をしないと、急増する心不全を減らすことはできません。そのためにも、メカニズムを明らかにする基礎研究が重要だと考えています。今年(2018年)の日本循環器学会学術集会で、「急性・慢性心不全診療ガイドライン」の改訂が発表されました。今回のガイドラインの大きな改訂ポイントは、急性と慢性の統合、ステージングの明確化、予防の重要性の強調です。急性と慢性を統合した理由は、急性心不全の多くは慢性心不全の増悪であるからです。心不全では、急性期に入院し、回復して退院しますが、その状態は慢性心不全の継続です。状態は入院前よりも悪化しています。それが理解されないと、入退院の繰り返しにつながります。今回のガイドラインでは、症状とリスク因子などを示し、患者さん自身が、どのステージングにおり、何をすべきか一目でわかるように工夫しています。東京大学での取り組みについて教えていただけますか。わが国の心臓移植は、東京大学、大阪大学、国立循環器病研究センターの3施設で8割、東京大学では、全国の4分の1を担っています。また、東京大学は交通の便が良いこともあり、遠方からも多くの心不全患者さんが受診されます。そのような中、2017年12月、新病棟に高度心不全治療センターを開所しました。同センターでは、移植待機、移植後など多くの重症心不全患者さんを、心臓外科と循環器内科がワンフロアで診療しています。場合によっては、3~4年入院して移植を待つこともあるため、快適な病室やリハビリテーション設備に工夫を凝らしています。また、東京大学では、循環器内科と心臓外科が一体となって、心不全を含めたあらゆる循環器疾患の最後の砦になるため、ほかの施設では治療できない重症患者さんを引き受けて治療しています。多くの施設から相談を受けますが、必要があれば、施設に伺って患者さんを拝見させていただきますし、場合によっては当院への入院を勧めています。最後に先生方にメッセージをお願いします。大学・大病院では心不全の急性増悪患者さんを診療します。それらの患者さんの多くは退院されますが、2度と急性増悪しないことが、最も重要です。とはいえ、退院していったケースは、大学や大病院では十分に管理できません。患者さんと密接な関係にある実地医家の方々に、患者さんの日常生活や服薬などを注意していただくことで、初めて急性増悪が防げるのです。このように、心不全治療は、専門施設と実地医家が連携を深め、一体となって行う必要があります。実地医家の先生方にも心不全をご理解いただき、共に診療にあたっていただければと思います。講師紹介

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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第1回 外食で陥りがちな“1人前”の落とし穴【実践型!食事指導スライド】

第1回 外食で陥りがちな“1人前”の落とし穴医療者向けワンポイント解説その1杯、本当に「1人前」ですか?普段の食生活で、問題となってくるのが主食です。主食量を意識することで、カロリーや糖質量などに大きく違いが出てくるため、栄養指導などでも、主食量についての分量をお話しする機会も多くあります。1回量を考えて食べている糖尿病患者さんも多くいますが、そんな患者さんたちでも気付かない落とし穴、「自分の1人前と外食での一人前の違い」があります。一般的に、自宅などで食べる1人前に比べ、外食で提供される「1人前」は圧倒的に量が多くなっています。とくに主食(米飯、麺類、パン類)は顕著です。患者さんの多くは、その落とし穴に気付かず、当たり前のように1人前として食べてしまい、知らないうちにバランスを崩している場合があります。また、外食での量の誘惑に負けてしまい、「ちょっと多いかな…」と思いつつ、食べる量が増えてしまうこともあります。今回は、外食の中でも丼物、うどん、そばといった単品で急いで食べるメニューに特化し、外食の主食量を調べました。牛丼並は、店によって320g、230gと設定が異なりますが、いずれにしても確実に家で食べる1膳(約150g、3単位)よりも多くなります。うどんやそばの場合も同様です。こうした丼物、麺類は「急いで食べる」シチュエーションで選ぶことが多いため、普段よりも多くの量を食べても満足感が低いことが多く、さらに「大盛り」を求める場合もあります。これを防ぐ最大の方法は、「ゆっくり食べること」なのですが、それを伝えても実行できない患者さんのほうが多いのが実情です。ここで食行動変化を起こさせるポイントは、「トッピングをすること」です。トッピングとしては、低カロリーでビタミンやミネラル食物繊維を含むネギやほうれん草、わかめ類、タンパク質が豊富な卵などがお薦めです。ご飯や麺の量を増やすのではなく、トッピングをすることで栄養バランスが整うほか、噛みごたえや食感の変化が生まれ、満足度を高めることができます。外食が多い患者さんには、「外食での主食は多く摂取しがちであること」「せめて主食量だけは、家で食べている量を思い出して調整すること」「丼や麺類は、トッピングをすること」をポイントに指導されると、食行動が変わりやすくなります。

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心不全ガイドラインを統合·改訂(後編)~日本循環器学会/日本心不全学会

 3月24日、日本循環器学会/日本心不全学会が、新たな心不全診療ガイドラインを公表した。本ガイドラインの主要な改訂ポイントを2回にわたってお伝えする。今回は後編。(前編はこちら)新たな心不全ガイドラインは診断フローチャートを簡略化 慢性心不全診断のフローチャートは、2010年版ガイドラインから大幅に簡略化された。基本的には欧州心臓病学会(ESC)の2016年版ガイドライン(Ponikowski P, et al. Eur Heart J.2016;37:2129-2200)を下敷きとしながらも、わが国の実態を踏まえ、画像診断を重視するチャートになっている。急性心不全治療のフローチャートも新規作成 「時間経過と病態を踏まえた急性心不全治療フローチャート」や、「重症心不全に対する補助人口心臓治療のアルゴリズム」の作成、「併存症の病態と治療」に関する記載の充実も新たな心不全診療ガイドラインの主要な改訂ポイントのひとつである。併存症は、心房細動、心室不整脈、徐脈性不整脈、冠動脈疾患、弁膜症、高血圧、糖尿病、CKD・心腎症候群、高尿酸血症・痛風、COPD・喘息、貧血、睡眠呼吸障害について記載されている。心不全合併高血圧には、4種薬剤が推奨クラスI、エビデンスレベルA 新たな心不全診療ガイドラインでは、高血圧を合併したHFrEFに対する薬物治療は、ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)の[推奨クラス、エビデンスレベル]が[I、A]、利尿薬が同上[I、B]、カルシウム拮抗薬が同上[IIa、B]とされた。なお、長時間作用型のジヒドロピリジン系以外のカルシウム拮抗薬は陰性変力作用のため使用を避けるべきと注記されている。 高血圧を合併したHFpEFに対する治療は、適切な血圧管理が同上[I、B]、基礎疾患の探索と治療が同上[I、C]とされた。心不全合併糖尿病には、包括的アプローチとSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)を推奨 心不全を合併した糖尿病に対する治療は、食事や運動など一般的な生活習慣の改善も含めた包括的アプローチが同上[I、A]、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)が同上[IIa、A]、チアゾリジン薬が同上[III、A]とされた。CKD合併心不全は、CKDステージで推奨レベルが異なる CKD合併心不全に対する薬物治療は、CKDステージ3とステージ4~5に分けて記載されている。 CKDステージ3においては、β遮断薬、ACE阻害薬、MRAが同上[I、A]、ARBが同上[I、B]、ループ利尿薬が同上[I、C]となっている。CKDステージ4~5においては、β遮断薬が同上[IIa、B]、ACE阻害薬が同上[IIb、B]、ARB、MRAが同上[IIb、C]、ループ利尿薬が同上[IIa、C]とされた。新たな心不全ガイドラインでは血清尿酸値にも注目 心不全を伴う高尿酸血症の管理においては、血清尿酸値の心不全の予後マーカーとしての利用が[IIa、B]、心不全患者における高尿酸血症への治療介入が[IIb、B]とされた。国内未承認の治療法も参考までに紹介 海外ではすでに臨床応用されているにもかかわらず、国内では未承認の治療薬やデバイスがある。ARB/NEP阻害薬(ARNI)や、Ifチャネル阻害薬などだ。これらの薬剤は「今後期待される治療」という章で、開発中の治療と並び紹介されている。

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APROCCHSS試験-敗血症性ショックに対するステロイド2剤併用(解説:小金丸博氏)-831

 敗血症性ショック患者に対するステロイドの有効性を検討した研究(APROCCHSS)がNEJMで発表された。過去に発表された研究では、「死亡率を改善する」と結論付けた研究(Ger-Inf-051))もあれば、「死亡率を改善しない」と結論付けた研究(CORTICUS22)、HYPRESS3)、ADRENAL4))もあり、有効性に関して一致した見解は得られていなかった。 本研究は、敗血症性ショックに対するヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与の有効性を検討した多施設共同二重盲検ランダム化比較試験である。敗血症性ショックでICUへ入室した患者のうち、SOFAスコア3点、4点の重篤な臓器障害を2つ以上有し、ノルエピネフリンなどの血管作動薬を0.25μg/kg/min以上投与が必要な患者を対象とした。研究開始時は、活性化プロテインCとヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの2×2要因デザインで患者を組み込んでいたが、活性化プロテインCは試験途中で市場から撤退したため、その後はステロイド投与群とプラセボ投与群の2群で試験を継続した。その結果、プライマリアウトカムである90日死亡率はヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群で43.0%、プラセボ投与群で49.1%であり、ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった(p=0.03)。また、セカンダリアウトカムであるICU退室時死亡率、退院時死亡率、180日死亡率もヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与群が有意に低率だった。 本論文の考察の中で、敗血症性ショックに対するステロイドの有効性に関する見解が一致しない理由が2つ挙げられている。1つは、投与するステロイドの種類の違いである。ステロイドの有効性を示したAPROCCHSSとGer-Inf-05では、ヒドロコルチゾンにミネラルコルチコイドであるフルドロコルチゾンが併用投与されている。フルドロコルチゾンを投与することによってアドレナリン作動薬の反応改善が期待できるとされており、アドレナリン作動薬が必要な敗血症性ショックに対して有効性を示した可能性がある。2つ目は、患者重症度の違いである。本試験では高用量の血管作動薬投与が必要な患者が対象となっており、プラセボ投与群の90日死亡率は49.1%と高率だった(ADRENALのプラセボ投与群の90日死亡率は28.8%)。重篤な敗血症性ショック患者に対してステロイド投与が有効である可能性がある。現行の敗血症ガイドラインでは、十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態が安定しない患者に対してはステロイド投与が推奨されており、重症敗血症例に対してステロイドを投与することは妥当性があると考える。

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高齢者のCaやビタミンD補給、骨折を予防せず/JAMA

 自宅で生活する高齢者について、カルシウム、ビタミンD、またはその両方を含むサプリメントの使用は、プラセボや無治療と比較して骨折リスクの低下と関連しないことが、中国・天津病院のJia-Guo Zhao氏らによるシステマティックレビューとメタ解析の結果で明らかにされた。骨粗鬆症関連の骨折による社会的および経済的負荷が世界的に増加しており、骨折を予防することは公衆衛生上の大きな目標であるが、カルシウム、ビタミンDまたはそれらの併用と、高齢者における骨折の発生との関連性については、これまで一貫した結果が得られていなかった。著者は、「施設外で暮らす一般地域住民である高齢者に対し、こうしたサプリメントの定期的な使用は支持されない」と結論付けている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。カルシウム/ビタミンDとプラセボ/無治療を比較した無作為化試験についてメタ解析 研究グループは、PubMed、Cochrane Library、Embaseを用い、「カルシウム」「ビタミンD」「骨折」のキーワードで2016年12月24日までに発表された論文を系統的に検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 組み込まれた研究は、50歳以上の地域在住高齢者を対象とした、カルシウム・ビタミンD・カルシウム+ビタミンD併用サプリメントとプラセボまたは無治療とで骨折の発生を比較した無作為化臨床試験。なお、新たに公表された無作為化試験の追加検索を、2012年7月16日~2017年7月16日の期間で実施した。 2人の独立した研究者がデータを抽出し、研究の質を評価した。メタ解析では、ランダム効果モデルを用いてリスク比(RR)、絶対リスク差(ARD)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主要評価項目は股関節骨折で、副次評価項目は非脊椎骨折、脊椎骨折および全骨折であった。カルシウム、ビタミンD、またはその併用は、骨折リスクと関連なし 33件の無作為化試験(計5万1,145例)が、基準を満たし組み入れられた。プラセボ/無治療と比較し、カルシウム/ビタミンD使用と股関節骨折リスクとの有意な関連は認められなかった。カルシウム使用群のRR:1.53(95%CI:0.97~2.42)、ARD:0.01(95%CI:0.00~0.01)、ビタミンD使用群のRR:1.21(95%CI:0.99~1.47)、ARD:0.00(95%CI:-0.00~0.01)。 同様に、カルシウム+ビタミンD併用群も股関節骨折リスクと関連していなかった(RR:1.09[95%CI:0.85~1.39]、ARD:0.00[95%CI:-0.00~0.00])。また、カルシウム、ビタミンD、またはカルシウム+ビタミンD併用は、非脊椎骨折、脊椎骨折または全骨折の発生とも有意な関連は確認されなかった。 サブグループ解析の結果、これらの結果は、カルシウム/ビタミンDの用量、性別、骨折歴、食事からのカルシウム摂取量、ベースライン時の血清25-ヒドロキシビタミンD濃度にかかわらず一貫していることが示された。

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ビタミンDはがんを予防するのか?/BMJ

 ビタミンDの血中濃度とがんリスクに因果関係は存在するのか。ギリシャ・University of IoanninaのVasiliki I Dimitrakopoulou氏らは、同関連を明らかにするため、大規模遺伝子疫学ネットワークのデータを用いたメンデルランダム化試験にて検討を行った。その結果、評価を行った7種のがんいずれについても、線形の因果関係を示すエビデンスはほとんどなかったという。ただし、臨床的に意味のある効果の関連を、完全に否定はできなかった。BMJ誌2017年10月31日号掲載の報告。大規模遺伝子疫学ネットワークを用いて、7種のがんについて関連を評価 検討は、がんにおける遺伝的関連とメカニズム(Genetic Associations and Mechanisms in Oncology:GAME-ON)、大腸がんの遺伝的研究・疫学コンソーシアム(Genetic and Epidemiology of Colorectal Cancer Consortium:GECCO)、前立腺がんのゲノム変異に関する研究グループ(Prostate Cancer Association Group to Investigate Cancer Associated Alterations in the Genome:PRACTICAL)とMR-Baseプラットホームを通じて、がん患者7万563例とその対照8万4,418例のデータを入手し評価を行った。 がん患者の内訳は、前立腺がん2万2,898例、乳がん1万5,748例、肺がん1万2,537例、大腸がん1万1,488例、卵巣がん4,369例、膵臓がん1,896例、神経芽細胞腫1,627例であった。 ビタミンDと関連する4つの一塩基遺伝子多型(rs2282679、rs10741657、rs12785878、rs6013897)を用いて、血中25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)のマルチ多型スコアを定義し評価した。 主要アウトカムは、大腸がん、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、神経芽細胞腫の発生リスクで、逆分散法を用いて特異的多型との関連を評価した。尤度ベースアプローチでの評価も行った。副次アウトカムは、性別、解剖学的部位、ステージ、組織像によるがんサブタイプに基づく評価であった。関連を示すエビデンスはほとんどない 7種のがんおよびそのサブタイプすべてにおいて、25(OH)Dマルチ多型スコアとの関連を示すエビデンスは、ほとんどなかった。 具体的に、25(OH)D濃度を定義した遺伝子の25nmol/L上昇当たりにおけるオッズ比は、大腸がん0.92(95%信頼区間:0.76~1.10)、乳がん1.05(0.89~1.24)、前立腺がん0.89(0.77~1.02)、肺がん1.03(0.87~1.23)であった。この結果は、その他2つの解析アプローチの結果と一致していた。なお、試験の相対的効果サイズの検出力は中程度であった(たとえば、大部分の主要がんアウトカムについて、25(OH)Dの25nmol/L低下当たりのオッズ比は1.20~1.25であった)。 著者は、「これらの結果は、既報文献と合わせて、がん予防戦略として、ビタミンD不足の広範な集団スクリーニングとその後の広範にわたるビタミンDサプリメントの推奨をすべきではないとのエビデンスを提供するものであった」とまとめている。

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原因は何?食欲不振から始まる「負の連鎖」

 食欲の秋と形容されるこの季節。食べたいと思えるのは、味覚や嗅覚で「おいしい」と感じられてこそだが、その味覚に異常を来す原因の1つが亜鉛の不足によるもの。今月4日、都内で開催されたセミナー「食欲の秋に考える、味覚異常や食欲不振からおこる負の連鎖―亜鉛不足からはじまるフレイルへの道―」(ノーベルファーマ株式会社主催)では、この点に着目して、2人の専門家が講演を行った。このうち、味覚異常に特化した外来診療に携わる任 智美氏(兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科)は、「高齢者においては、薬剤性の味覚障害が多いのが特徴。患者さんが最も自覚しやすい不調であり、亜鉛補充で好転するケースも多いので、丁寧に訴えを聞いて、解決に導いてほしい」と述べた。亜鉛摂取が難しい現代日本の食事情 セミナーでは始めに、更年期の患者を中心とした診療に当たる平澤 精一氏(マイシティクリニック院長)が、現代人が陥る栄養不足、なかでも亜鉛不足が引き起こす不定愁訴などについて解説した。 亜鉛は、人体に必要な5大栄養素の1つであるミネラルの一種で、細胞代謝を促すため、小児の発育はもとより、皮膚や毛髪、爪の健康維持、アルコール分解促進、肝機能保護などに欠かせないのは周知のことだろう。こうしたさまざまな作用の1つに、味覚の維持が含まれている。昔ながらのベーシックな日本食には亜鉛が豊富な食品が多く使われていたため、取り立てて亜鉛不足が指摘されることはなかったが、加工食品の摂取頻度が高く、土壌の質的変化による食材自体の貧弱化が進む現代においては、食生活次第で容易に亜鉛不足に陥るという。 厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準 2015年版」において、亜鉛の1日の必要量として推奨されているのは、成人男性10mg、成人女性8mg、妊婦10mg、授乳婦11mgであるが、例えば、亜鉛が豊富に含まれている食材として挙げられる牡蠣でも5粒(60g)で亜鉛含有量7.9mgであり、日常的に食卓に上がる白米(茶碗1杯)や木綿豆腐(半丁)で0.9mg、納豆(1パック)で0.8mg程度なので、推奨量を達成するにはかなり意識的な心がけが必要だ。一方で、不足栄養素を市販のサプリメントで補う人も多いが、過度の摂取は逆に慢性的亜鉛過剰症を引き起こし、貧血や免疫障害のほか、過剰症によってもやはり味覚・嗅覚低下といった症状を来すのだという。こうした観点から、「安易なセルフメディケーションが危険なこともある」と平澤氏は指摘する。「味覚異常は日々の食事で自覚しやすい不調のサイン」 続いて登壇した任氏は、味覚外来を訪れる患者の中でも割合の多い高齢者に焦点を当て、さまざまな症例を挙げながら味覚障害の原因分析などについて解説した。この中で、65歳以上の高齢者における味覚障害の原因を分類したところ、もっとも多いのが「特発性・亜鉛欠乏症」で、次いで「心因性」なのはほかの世代と同じ傾向だが、ほかの世代と異なるのは「薬剤性」の多さである。この薬剤性味覚障害の機序として挙げられるのは、(1)唾液分泌能の低下、(2)口内炎による粘膜障害性、(3)神経毒性、(4)味細胞障害、(5)薬物自体、または代謝物の唾液分泌、(6)亜鉛キレート作用による亜鉛排泄亢進、である。任氏によると、亜鉛製剤による補充療法や補中益気湯などの漢方による治療により、味覚外来を訪れる患者の7割以上が治癒に至るものの、「原因薬剤については、添付文書に掲載されていても原因とは限らず、また記載がないから原因ではないとも言えないので注意が必要である」と指摘する。 本セミナーで両氏が詳説した味覚障害は、それ自体が生命に直結するものではないが、健康的な生活の根幹にかかわる食事を十分に楽しめないことは、食事にまつわる生活習慣の変調(個食や孤食が増えるなど)のみならず、鬱傾向や筋力低下、フレイル、さらには要介護へとつながる悪循環の発端になりうる点は見逃せない。一方で、日々の食事で自覚できる自身の不調のサインが味覚異常である。任氏は、「家庭にある砂糖や食塩など、はっきりと甘い・辛いが認識できる調味料を舐めてみるだけでも確かめられる。患者自身で不調を自覚してもらい、それをかかりつけ医が丁寧にすくい上げてほしい」と述べた。

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妊婦のマルチビタミン摂取、児のASDリスク減/BMJ

 妊娠中のマルチビタミン・サプリメントの摂取は、出産児の知的障害を伴う自閉症スペクトル障害(ASD)と、逆相関となる可能性が示された。米国・ドレクセル大学のElizabeth A. DeVilbiss氏らが、スウェーデン・ストックホルムの登録住民をベースにした前向き観察コホート研究の結果を報告した。著者は、「母体栄養と自閉症発症への影響を、さらに詳しく調査することが推奨される」とまとめている。母体のマルチビタミン、鉄分または葉酸のサプリメント摂取が、出産児のASDを予防するかについて、これまでの観察研究では一貫したエビデンスは得られていない。ASDの原因は知的障害の有無によって異なるが、認知機能レベルをベースに栄養サプリメントとASDの関連を調べた研究は、ほとんどなかった。BMJ誌2017年10月4日号掲載の報告。マルチビタミン、鉄分、葉酸サプリの摂取とASDとの関連を調査 研究グループは、住民レジスターから試験サンプルとして、1996~2007年に生まれた4~15歳の子供とその母親のペア27万3,107例を特定し、2011年12月31日まで追跡調査を行った。被験者の母親は、妊娠中の初回受診時に、マルチビタミン、鉄分、葉酸のサプリメントの摂取について報告していた。 主要評価項目は、2011年12月31日までのレジスターデータで確認された、知的障害の有無を問わずASDと診断された子供の割合で、多変量ロジスティック回帰分析にてオッズ比を算出して栄養サプリメントとASDの関連を評価した。兄弟姉妹および傾向スコア適合群を対照とする検討も行った。鉄分または葉酸サプリメントの摂取では逆相関の関連は認められず 知的障害を伴うASDの有病率は、母体マルチビタミン摂取群0.26%(158/6万1,934例)、栄養サプリメント非摂取群0.48%(430/9万480例)であった。 栄養サプリメント非摂取群との比較において、母体マルチビタミン摂取群は鉄分や葉酸の追加摂取を問わず、知的障害を伴うASDのオッズ比が低かった(オッズ比:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.84)。同様の結果は、傾向スコア適合対照群でも認められた(0.68、0.54~0.86)。兄弟姉妹対照群においても認められたが(0.77、0.52~1.15)、信頼区間値が1.0を超えており統計的に有意ではなかった。 鉄分または葉酸サプリメントの摂取では、ASD有病率と逆相関を示す、一貫したエビデンスはみられなかった。

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問15

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問15 重回帰式で求められた回帰係数の解釈は?前回は、重回帰分析の際の説明変数の選び方についてご説明しました。今回は、重回帰式で求められた回帰係数を、どのように解釈すればよいのかについてご説明いたします。回帰係数は、実績値と理論値をできるだけ近くする値であることを述べました。ところが、回帰係数の役割はそれだけではなく、それぞれの説明変数の目的変数に及ぼす貢献度も導いてくれます。■回帰係数を解釈するまず、回帰係数にはデータ単位があり、目的変数のデータ単位と同じになることを知っておいてください。「サプリメントXの売上事例」の重回帰式を再掲します。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.1481.148を「定数項」といいます。回帰係数は売上額のデータ単位が1千万円なので、回帰係数は次のようになります。広告費の回帰係数 0.00786(千万円)→ 7.86万円店員数の回帰係数 0.539 (千万円)→ 539万円定数項      1.148 (千万円)→1,148万円広告費のデータ単位は「1万円」、店員数のデータ単位は「1人」でした。つまり、上記の回帰係数から、広告費を1万円使うと売上額が7.86万円、店員数を1人投入すると売上額が539万円増えることがわかります。このように、回帰係数から「説明変数の目的変数に対する貢献度」がわかります。※貢献度:説明変数のデータ単位当たりの売上額表1の定数項1,148万円は、広告費を0、店員数を0としたときの売上額です。表1 説明変数の目的変数に対する貢献度■標準回帰係数で重要度を把握する「サプリメントXの売上事例」の重回帰式を再掲します。売上額=0.00786×広告費+0.539×店員数+1.148ここで、回帰係数の値は店員数のほうが広告費より大きいので、売上額を高めるのに重要な要因は「店員数のほうである」といってよいでしょうか?結論は「いえない!」です。では、この理由を次で確かめてみましょう。表2は、「サプリメントXの売上事例」で、売上額と店員数のデータ単位はそのままで、広告費のデータ単位を「万円」から「百万円」にして重回帰分析を行った結果です。表2 広告費の単位を「百万円」に変更した重回帰式表3は、広告費の単位を「万円」に戻した「サプリメントXの売上事例」データと重回帰式です。表3 広告費の単位を「1万円」に戻した重回帰式上記の表2と表3のデータは同じものなのに、広告費のデータ表記の仕方を変えただけで、広告費の回帰係数は異なる値となりました。このことから、「説明変数間の回帰係数を比較し、値の大小で重要度を見ることはできない」といえます。回帰係数は、説明変数の売上貢献度を把握できますが、説明変数間の重要度の比較には適用できません。上記の2つのケースについて、広告費の売上貢献度を調べてみます。表2 広告費のデータ単位が百万円のときに見込める売上額は、0.786(千万円)より786万円です。表3 広告費のデータ単位が1万円のときに見込める売上額は、0.00786(千万円)より7.86万円です。「データ単位1万円→売上貢献度7.86万円」と「データ単位百万円→売上貢献度786万円」は同じ意味で、データ表記を変えても売上貢献度は同じとなります。■標準回帰係数説明変数のデータ単位の取り方によって回帰係数の値は変わるので、回帰係数の大小を比較しても、どの説明変数が重要なのかを明らかにすることはできません。データ単位が同じならば、係数を大きい順に並べて、大きい説明変数ほど重要であるといえます。したがって、各説明変数のデータ単位が異なっていれば、データ単位を同じにして重回帰分析を行い、回帰係数を求めればよいのです。基準値あるいは偏差値によってデータ単位をそろえることができます。表4で「サプリメントXの売上事例」データの基準値と偏差値を求めてみます。表4 サプリメントXの売上事例データの基準値と偏差値基準値のデータに重回帰分析を行います。売上額=0.687×広告費+0.449×店員数+0.000※定数項は0になります。※重回帰分析を偏差値で行っても、回帰係数は基準値で求めた値と同じです。データの単位をそろえたので、説明変数間の回帰係数は比較できます。売上額との関係(影響度)において、具体的には、売上をアップするための要因または売上を予測するための要因として、広告費のほうが店員数より重要であるといえます。基準化したデータに重回帰分析を行い、求められた回帰係数を「標準回帰係数」といいます。標準回帰係数は、データを基準値にして重回帰分析を行うという面倒なことをせずに求めることができます。※偏差平方和は質問9 その2を参照「サプリメントXの売上事例」の標準回帰係数は次のようになります。この結果から、売上をアップするための要因または売上を予測するための要因としては、広告費のほうが店員数より重要だといえます。次回は、重回帰分析が変数相互の影響を除去した真の関係を見いだすことができる、とても便利なツールであることをご説明いたします。今回のポイント1)重回帰式の回帰係数は、それぞれの説明変数の目的変数に及ぼす貢献度を導いてくれる!2)回帰係数にはデータ単位があり、目的変数のデータ単位と同じになる!3)回帰係数の値からどの説明変数が重要な要因であるとはいえない!4)基準化したデータに、重回帰分析を行い求められた回帰係数である標準回帰係数の値からであれば、どの説明変数が重要な要因であるといえる!インデックスページへ戻る

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問14

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問14 重回帰分析の説明変数の選び方は?前回は、重回帰分析で求められた重回帰式(モデル式)の予測精度について、説明しました。今回は、重回帰分析の際の説明変数の選び方について、説明していきます。重回帰分析の説明変数は何でもよいということではありません。説明変数の選び方にはルールがあります。そのルールについて説明します。■選択肢が3つ以上のカテゴリーデータではできない説明変数に適用できるデータは数量データです。「年齢」、「朝食習慣の有無」、「飲むお酒の種類」から「体脂肪率」の値を予測したいと思います。次の表1のデータが重回帰分析に適用できるかどうかを考えてみてください。表1 年齢などの条件から体脂肪値を予測できるか?「朝食を食べる習慣の有無」、「普段よく飲むお酒の種類」は、カテゴリーデータなので重回帰分析は適用できません。ただし、カテゴリー数が2つの場合は、「朝食習慣あり→1/朝食習慣なし→0」として、数量データとして扱えます(「朝食習慣なし→1/朝食習慣あり→0」でも扱えます)。すべての説明変数を使いたい場合、年齢を40代以下、50代、60代以上の分類(カテゴリー)に変換すると、説明変数は全部カテゴリーとなるので数量化1類で解析できます。※数量化1類はこのサイトを参照※目的変数が数量データ、説明変数が数量データとカテゴリーデータが混在している場合、拡張型数量化1類が適用できます(このサイトを参照)■データがすべて同じ値の説明変数は、重回帰分析に適用できないアンケート調査で段階評価(1.良い/2.どちらともいえない/3.悪い)を用いた場合などで、回答者全員が「2.どちらともいえない」に回答する、といったことがたまにあります。この場合、この変数のデータはすべて「2」となり、この変数は重回帰分析に使えません。データがすべて同じだと標準偏差が0になるので、重回帰分析を行う前に標準偏差を計算してチェックしてください。■説明変数の個数は「個体数-1」より少なくなければならない説明変数の数をq、個体数をnとしたとき、重回帰分析では次の式を満足させなければなりません。q<n-1先ほどの体脂肪率のデータで説明変数を「年齢」、「朝食習慣の有無」とした場合、重回帰分析が適用できるかを調べてみます。n-1は4で、q=2なので、q<n-1が成立し、重回帰分析が適用できます。この例においてはnが3以下だと重回帰分析は行えません。■数値以外のデータがある個体は分析から除外されるブランク、記号、文字などの数値以外のデータがある個体は分析から除外されます。表2のデータの個体数は8人ですが、数値以外のデータがある個体数は4人存在するので、解析に適用できるデータは右表となります。表2 解析に適用できるデータ、できないデータ■将来設定ができない説明変数は?今、ドラッグストアのサプリメントXの売上予測を行うために、広告費、店員数、他社競合商品の売上額を説明変数にとり、重回帰分析を行い、重回帰式を求めました。さっそくこの式を用いて、来年度の売上予測を行うことにしました。ところが、広告費、店員数については来年度の設定ができたものの、競合商品の売上額が来年どうなるのかわからず、先へ進むことができませんでした。このような結果を避けるために、重回帰分析を予測に使う場合、将来設定ができない説明変数は用いないのが一般的です。ただし、「競合商品の売上額がいくらまで上がると、わが社の売上額がこれだけ下がる」といったシミュレーション分析を行う場合は、将来設定ができない説明変数を意図的に用いることもあります。次回は、重回帰式で求められた回帰係数をどのように解釈すればよいのかについて、説明いたします。今回のポイント1)重回帰分析の説明変数は選択肢が3つ以上のカテゴリーデータではできない!2)データがすべて同じ値の説明変数は、重回帰分析に適用できない!3)説明変数の個数は「個体数-1」より少なくなければならない!4)数値以外のデータがある個体は分析から除外される!5)将来設定ができない説明変数は用いないのが一般的!インデックスページへ戻る

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