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「ω-3多価不飽和脂肪酸、ビタミンD、筋力トレーニング運動による治療は効かない」ってほんと?(解説:島田俊夫氏)-1341

 ω-3多価不飽和脂肪酸の中でもEPA、DHAが、心脳血管障害、がんの予防に効果があるか否かについては、議論の多いところである1)。しかしながら、ちまたではこれらのサプリメントへの嗜好が強くなっている。さらにビタミンDに関しても実臨床の中で、すでに骨粗鬆症の治療にあまねく使用されている2)。また、筋力トレーニングの運動プログラムは健康改善に寄与する3)との考えが生活の中に定着している。 このような状況の中で今回取り上げる2020年JAMA誌324巻18号に掲載されたBischoff-Ferrari HA等による論文は、有効と信じられている3つの因子を考慮した、二重盲検2×2×2要因無作為ランダム化比較試験デザインに基づく臨床研究論文である。研究対象者は、研究開始5年前から大病の既往のない70歳以上の、スイスとドイツからの健康成人2,157例であった。 介入はω-3脂肪酸投与、ビタミンD投与、筋力トレーニング運動プログラム実施のそれぞれの3因子の有/無を考慮した8グループ(コントロールを含む)で行われた。 標的アウトカムとして6項目が取り上げられた。3年間にわたる収縮期および拡張期血圧、運動能力(SPPB)、認知機能(MoCA)、非脊椎骨骨折および感染の発生頻度の6項目について評価された。2,157例(平均年齢74.9歳、女性が61.7%)中1,990例(88%)が研究を完遂した。観察期間の中央値は2.99年で、約3年にわたり、標的6アウトカムに関して個別または組み合わせ介入に対して、いずれのアームでも統計学的に有意な利便性を認めなかった。全体で25例の死亡が確認されたが、全アームにおいてもほぼ同様の結果であった。 大きな合併症のない70歳以上の成人中、ビタミンD、ω-3脂肪酸の補充療法、筋力トレーニング運動プログラムの実施グループでは、収縮期および拡張期血圧、非脊椎骨骨折、身体能力、感染率、認知機能の改善に統計学的有意差は認めなかった。これらの知見は、標的アウトカムに対する3つの介入の有効性を支持する結果と一致しなかった。 しかしながら、上記の結論を必ずしもうのみにすべきではない。 サプリメントを補充する類の研究では、対象者がビタミンD、ω-3脂肪酸欠乏、運動不足が背景にあるか否かで結果が大きく左右される。対象者がいわゆる高齢健常者である場合、欠乏状態は相対的に軽いと考えられる。このため、3つの要因のすべての組み合わせを考慮しても欠乏がわずかであれば研究対象として必ずしも適切ではなく、結果に差がないから有効でないと結論するのは早計である。 研究デザインを考えるときに、補充療法の効果を判定したければ欠乏確認済対象で研究するのが必要であり、今回の研究は3つの要因の臨床的利便性を否定するのに十分なデザインではない。本論文の結論は、欠乏の軽微な対象では効果が出にくいとのメッセージとして受け止めるべきではないか。

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免疫も老化、その予防が新型コロナ対策に重要

 国内初の新型コロナウイルスのワクチン開発に期待が寄せられるアンジェス社。その創業者でありメディカルアドバイザーを務める森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座教授)が、12月15日に開催された第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー「感染症と免疫」において、『免疫老化とミトコンドリア』について講演した。風邪と混同してはいけない理由 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策やワクチン開発を進めていく上で世界中が難局に直面している。その最大の問題点について森下氏は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のモデルが作れないこと」だという。その理由として、「マウスはSARS-CoV-2に感染しない。ハムスターやネコは感染するものの肺炎症状が出ないため、治療薬に最適なモデルを作り出すことが難しい。つまり、従来の開発方法に当てはめられず、未知な領域が多い」と同氏は言及した。 そんな中、同氏率いるアンジェス社は同社が培ってきたプラスミドDNA製法の技術を活かし、新型コロナのDNAワクチンを開発中である。これは、ウイルスのスパイク部分(感染の足掛かりとなるタンパク質)の遺伝子情報を取り込んだプラスミドDNAをワクチンとして接種することで、スパイク部分のみを体内で発現させて抗体を産生させる仕組みである。12月23日現在、国内で500例を対象としたワクチンの用法・用量に関する安全性や免疫原性評価のための第2/3相臨床試験が行われている。ワクチン完成までは一人ひとりが自然免疫の強化を 国内でのワクチン(海外製含む)接種の開始時期は、2021年2月とも言われているが、実際のところ未だ見通しが立っていない。その間、個人でできる感染対策(手洗い・消毒、マスク着用、うがいなど)だけで感染を凌ぐにはもはや限界にきている。そこで同氏は人間のもともとの免疫力に着目し、「人間の体内で最初に働く自然免疫の強化」を強調した。しかし、自然免疫の機能は18~20歳でピークを迎え低下の一途をたどる。また、免疫機能の中で最も重要なT細胞の分化場所である胸腺は体内で一番老化が早いため、「加齢は自然免疫の低下だけではなく、胸腺の退縮がT細胞の老化につながり、獲得免疫の衰えの原因にもなる」と指摘した。加えて、「睡眠不足、ストレス、肥満、そして腸内細菌叢の構成異常なども免疫力の低下として問題だが、とくに“免疫の老化”が問題」とし、高齢者の重症化の要因の1つに免疫力の老化を挙げた。免疫老化を防ぐにはミトコンドリアをCoQ10で助けよ この免疫老化を食い止めるための方法として、同氏はミトコンドリアの老化を助けることが鍵だと話した。ミトコンドリアは細胞の中のエネルギー生産工場で、中和抗体を作るB細胞などあらゆる細胞の活性化に影響する、いわば“免疫を正常に働かせる司令塔”の役割を司る。そのため主要な自然免疫経路はすべてミトコンドリアに依存している。しかし、ミトコンドリアも加齢とともに減少傾向を示すことから、この働きを助けるコエンザイムQ10(CoQ10)の補充が重要1)だという。また、自然免疫のなかでも口腔内に多く存在し、口腔内に侵入したSARS-CoV-2を速やかに攻撃、粘膜への付着や体内への侵入阻止するIgAもこのCoQ10の摂取により増加傾向が示唆された2)ことを踏まえ、医療用医薬品のユビデカレノン製剤(商品名:ノイキノンほか)をはじめ、サプリメントや機能性食品として販売されているCoQ10(とくに還元型)の摂取が有効であることを説明した。 最後に同氏は「ワクチン導入には時間を要するので、現時点ではまず基本的な感染対策、生活習慣の改善から免疫力UPに注力してほしい。そのなかで免疫を上げる工夫として還元型CoQ10の多い食品(イワシ:約6.4mg、豚肉:約3.3mg[各100g中の含有量])を食べたり、プラスαとしてサプリメントなどを活用したりして、体内のCoQ10量を増やすことを心がけてほしい」とし、医療者に対しては「CoQ10量や唾液内のIgAは検査で測定可能であるため、患者の体質確認には有用」と締めくくった。

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冬の健康管理は3つのキープ(3K)に注目

 2020年11月18日(水)に大塚製薬株式会社より発行された、冬の健康管理についての最新情報に関するニュースレターで、「距離」「衛生」「体内の水分」の3つのキープ(3K)が冬の健康管理の新習慣として重要であること、体内の水分はイオン飲料での補給が効果的であることなどが紹介された。 その中で、東京女子医科大学 呼吸器内科学教授の多賀谷 悦子氏は「線毛輸送機能を維持し、ウイルス感染を防ぐには水分補給が重要となる。乾燥しやすい冬に効率のよい水分補給として、水分保持率の高いイオン飲料が有用である」と述べている。 ウイルスの脅威に立ち向かうため、空気の乾燥、暖房機器使用により湿度が低下した冬の水分摂取は重要である。やみくもな水分摂取ではなく、イオン飲料による効率的な水分摂取で、3つのキープ(3K)を意識した冬の健康管理が浸透することを期待したい。知らず知らずの乾燥 生活するうえで快適な湿度は40~60%といわれているが、冬の湿度は約50%、最小湿度で10~20%まで低下する。空気中の水蒸気量が少なく乾燥しやすいうえに、暖房機器の使用はさらなる乾燥を引き起こす。密閉性の高い近年の住環境も乾燥に拍車を掛けており、乾燥がウイルス活動の活性化の要因の1つとされている。冬のカラダは水分不足 私たちのカラダは1日に約2.5Lの水分を失う。皮膚や粘膜、呼気から失われる不感蒸泄は1日約900mLといわれており、気温が低く乾燥した冬の環境では消失量が増加する。夏と比較して汗をかきにくく、水分摂取の機会も減ることから、冬でも脱水を引き起こす可能性がある。ウイルスからカラダを守る「線毛運動」 線毛には、鼻やノドから入るウイルスの体内への侵入を防ぐ最前線の防御機能があり、気道に侵入したウイルスは粘液で捕らえられ線毛によって運搬・排除される。線毛は乾燥に弱く、湿度が低い環境下では運動能力が低下するため、湿度の維持とカラダの水分量を保つことが重要とされる。イオン飲料による水分補給の効果 低湿度環境下において、鼻腔粘液線毛輸送機能に対するイオン飲料の効果を「サッカリンテスト」にて検討1)したところ、「何も摂らない」「ミネラルウォーターを摂取」「イオン飲料を摂取」の3条件の中で、イオン飲料の摂取が線毛輸送機能の低下を有意に抑えた。また、イオン飲料と水を摂取し2時間後の体内保持率を比較した結果2)でもイオン飲料のほうが高く、イオン飲料は体内の水分量、線毛輸送機能を維持するために重要であると示唆されている。今冬は「3つのキープ(3K)」に注目 冬は気温が低く乾燥しやすい季節であり、ウイルス感染が心配されるため、「3つのキープ(3K)」を意識した健康管理が必要であるとして、下記の対策を大塚製薬は推奨している。・対策(1):KEEP DISTANCE(距離を保とう)・対策(2):KEEP CLEAN(衛生を保とう)・対策(3):KEEP WATER(水分を保とう)まとめ 2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私たちの日常は大きく変化した。引き続きウイルスによる脅威に曝されている環境下にあるため、ソーシャルディスタンス、手洗い・うがいに加えて、イオン飲料による小まめな水分摂取を意識して、ウイルスに負けない健康管理に取り組む必要がある。

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認知機能の改善作用を示したビフィズス菌株とは?

 脳と腸が自律神経などを通じて強く関連し、その状態に影響を及ぼしあう脳腸相関がいわれるようになって久しく、腸内細菌が認知症に関連するとの報告も多いが、因果関係の証明にはいたっていない。今回、2本の二重盲検無作為化比較試験を経て、ビフィズス菌MCC1274摂取による認知機能の維持・改善作用が示唆された。2020年11月24日、「ビフィズス菌MCC1274の認知機能改善作用とその可能性」と題したメディアセミナー(主催:森永乳業)が開催され、佐治 直樹氏(国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)、清水 金忠氏(森永乳業株式会社研究本部 基礎研究所)、新井 平伊氏(アルツクリニック東京)が登壇し、試験の概要や関連研究、今後の展望について講演した。認知症の有無で腸内細菌叢の構成は異なる 佐治氏は、認知機能と腸内細菌の関連について調べる国内のレジストリ研究(Gimlet study)から得られた知見をいくつか紹介。腸内細菌叢の構成を調べた結果、認知症の人では、認知症でない人よりもバクテロイデス(常在菌)が減り、その他の不明な細菌の割合が増えていることが明らかになった1)。さらに、その変化は認知症の前段階(軽度認知障害[MCI])からみられることも確認された2)。 なぜ腸内細菌が認知症と関連するかについては、神経反射、循環器系、免疫系という大きく3つの経路における機序が考えられている。加えて、同レジストリ研究からは、腸内細菌の代謝産物が認知症に関連することが示唆された。代謝産物の濃度が1SD上昇した場合のオッズ比をみると、アンモニアで1.60(95%信頼区間:1.04~2.52)と認知症との関連性が高かったが、乳酸では0.28(0.02~0.99)と低かった3)。軽度認知障害の疑いのある50歳以上で有意にスコア改善 清水氏は、ビフィズス菌MCC1274の臨床試験の経緯について紹介。まずはじめに、同社が保有するビフィズス菌株の中からアルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性がある菌株としてMCC1274を特定した。アルツハイマーモデルを用いたプレ臨床試験では、MCC1274投与による認知機能改善作用および脳内炎症抑制作用が観察された4)。 続いて実施された二重盲検プラセボ対照群間比較試験では、物忘れが気になる120人の被験者をMCC1274カプセル(200億/日)群またはプラセボ群に無作為に割り付け、12週間摂取後の認知機能(MMSEおよびRBANSによる評価)を比較した。その結果、全被験者対象の解析では群間有意差がみられなかったが、認知機能が低下したサブグループ(RBANS総合スコア41点未満)解析では、MMSEおよびRBANSで有意な改善が認められた5)。 この結果を受け、認知症ではなく(MMSEスコア22点以上)、かつRBANSスコアが低く軽度認知障害の疑いのある50歳以上80歳未満の80人を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験が実施された。その結果、MCC1274カプセル(200億/日)の16週間の摂取により、主要評価項目であるRBANSスコア合計の摂取後の実測値、そして前後の変動値とも有意な改善がみられ、即時記憶、視空間・構成、遅延記憶を司る認知領域の点数も有意に向上した6)。 今後は、作用機序解析や認知症発症者に対する寄与について研究を続ける見通しだという。アルツハイマー病以外への効果や菌の特異性など、今後の展開にも期待感 新井氏は、今回のビフィズス菌MCC1274の研究報告について、何より研究プロセスが治療薬開発に匹敵するアプローチであると高く評価。「サプリメントとして分類されているものの中で、ここまで徹底して検討し、エビデンスを積み重ねてきているものは他にない」と話し、サプリや特保食品としての展開は十分に準備ができた状態だと期待感を示した。 そのうえで、今後解明が期待される点として、1)抗炎症作用、2)特異性(菌の特異性、疾患特異性)、3)アミロイド仮説を挙げた。1)については、血液(末梢血)だけでなく、脳脊髄液や脳内炎症マーカーで検討できないかと指摘。2)については、今回のMCC1274 vs.乳酸菌や、他のビフィズス菌ではどうなのか、臨床家として大変興味があると話した。また、MCI群はアルツハイマー病だけではない点から、脳画像も含めて診断し、均一性を高めて検討してもらえたらと提案。3)については、経口摂取で腸内に投与されたビフィズス菌が、アミロイドβの沈着にどんな効果が実際にあるのかは大変興味深い、と話した。■参考1)Saji N, et al. Hypertens Res. 2019 Jul;42:1090-1091.2)Saji N, et al. Sci Rep. 2019 Dec 18;9:19227.3)Saji N, et al. Sci Rep. 2020 May 18;10(1):8088.4)Kobayashi Y, et al. Sci Rep. 2017 Oct 18;7:13510.5)Kobayashi Y, et al. Benef Microbes. 2019 May 28;10:511-520.6)Xiao J, et al. J Alzheimers Dis. 2020;77:139-147.

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finerenone、2型糖尿病合併CKD患者で心血管リスクを抑制/NEJM

 2型糖尿病を併発する慢性腎臓病(CKD)患者において、finerenoneの投与はプラセボに比べ、CKDの進行と心血管イベントのリスクを低減させることが、米国・シカゴ大学病院のGeorge L. Bakris氏らが行った「FIDELIO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年12月3日号に掲載された。2型糖尿病はCKDの主要な原因であり、2型糖尿病患者のCKD管理ガイドラインでは、高血圧や高血糖の管理とともにさまざまな薬物療法が推奨されているが、CKDの進行のリスクは解消されておらず、新たな治療が求められている。finerenoneは、非ステロイド性選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬で、CKDと2型糖尿病を併発する患者を対象とする短期試験でアルブミン尿を減少させると報告されている。finerenoneがCKDの進行を抑制するとの仮説を検証 研究グループは、2型糖尿病を合併するCKD進行例において、finerenoneはCKDの進行を抑制し、心血管系の併存疾患や死亡を低下させるとの仮説を検証する目的で、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を行った(Bayerの助成による)。2015年9月~2018年6月の期間に、48ヵ国でスクリーニングと無作為化が行われた。 対象は、年齢18歳以上のCKDと2型糖尿病を有する患者であった。尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはmg、クレアチニンはg単位で測定)が≧30~<300、推算糸球体濾過量(eGFR)が≧25~<60mL/分/1.73m2体表面積で糖尿病性網膜症を有する患者、または尿中アルブミン/クレアチニン比が300~5,000でeGFRが≧25~<75mL/分/1.73m2の患者が適格例とされた。全例がレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療を受け、無作為化の前に、投与量を製薬会社の添付文書に記載された忍容できない副作用を起こさない最大用量に調節された。 被験者は、finerenoneを経口投与する群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから40%以上の持続的な低下、腎臓死とし、time-to-event解析で評価された。主要な副次複合アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院であり、time-to-event解析で評価が行われた。finerenone群で主要複合アウトカムのイベントが有意に低下 5,674例が解析に含まれ、2,833例がfinerenone群(平均年齢[SD]65.4±8.9歳、男性68.9%)、2,841例がプラセボ群(65.7±9.2歳、71.5%)に割り付けられた。98.1%がACE阻害薬、98.8%がARBの忍容できない副作用を起こさない最大用量による治療を受けていた。フォローアップ期間中央値は2.6年だった。 主要アウトカムのイベントは、finerenone群が2,833例中504例(17.8%)、プラセボ群は2,841例中600例(21.1%)で発生し、finerenone群で有意に低下した(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.93、p=0.001)。各構成要素の発生は、eGFRのベースラインから40%以上の持続的な低下(0.81、0.72~0.92)と腎不全(0.87、0.72~1.05)はfinerenone群で低い傾向があり、腎臓死は両群とも2例ずつで認められた。 主要な副次アウトカムのイベントは、finerenone群が367例(13.0%)、プラセボ群は420例(14.8%)で発生し、finerenone群で有意に良好だった(HR:0.86、95%CI:0.75~0.99、p=0.03)。各構成要素の発生は、非致死的脳卒中(1.03、0.76~1.38)を除き、心血管死(0.86、0.68~1.08)、非致死的心筋梗塞(0.80、0.58~1.09)、心不全による入院(0.86、0.68~1.08)はいずれもfinerenone群で低い傾向がみられた。 試験期間中に発現した有害事象の頻度は両群で同程度であり(finerenone群87.3% vs.プラセボ群87.5%)、重篤な有害事象はそれぞれ31.9%および34.3%で発生した。高カリウム血症関連の有害事象の頻度は、finerenone群がプラセボ群の約2倍(18.3% vs.9.0%)で、試験レジメン中止の原因となった高カリウム血症の頻度もfinerenone群で高かった(2.3% vs.0.9%)。 著者は、「finerenoneの有益性は、部分的にナトリウム利尿作用の機序を介していることが示唆される」とし、「本試験の参加者は多くがCKD進行例で、アルブミン尿がみられない患者や2型糖尿病に起因しないCKDは除外しており、黒人の参加者は4.7%にすぎないことから、今回の知見の一般化可能性は限定的と考えられる」と指摘している。

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1日1回の経口服用で腎性貧血を治療する「バフセオ錠150mg/300mg」【下平博士のDIノート】第63回

1日1回の経口服用で腎性貧血を治療する「バフセオ錠150mg/300mg」今回は、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬「バダデュスタット錠(商品名:バフセオ錠150mg/300mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、保存期・透析期にかかわらず、1日1回の経口服用で腎性貧血を改善し、患者さんのQOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、腎性貧血の適応で、2020年6月29日に承認され、2020年8月26日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはバダデュスタットとして1回300mgを開始用量とし、1日1回経口投与します。以後は、患者の状態に応じて最高用量1日1回600mgを超えない範囲で適宜増減します。増量する場合は、150mg単位を4週間以上の間隔を空けて行います。休薬した場合は、1段階低い用量で投与を再開します。なお、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)で未治療の場合、本剤投与開始の目安は、保存期の慢性腎臓病(CKD)患者および腹膜透析患者ではヘモグロビン濃度で11g/dL未満、血液透析患者ではヘモグロビン濃度で10g/dL未満とされています。<安全性>CKD患者を対象とした国内全臨床試験において、副作用(臨床検査値異常を含む)は、総症例数481例中61例(12.7%)に認められました。主な副作用は、下痢19例(4.0%)、悪心8例(1.7%)、高血圧7例(1.5%)、腹部不快感、嘔吐各4例(0.8%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、血栓塞栓症(4.2%)、肝機能障害(頻度不明)が現れることがあります。本剤の投与開始前に血栓塞栓症のリスクを評価し、本剤投与中も血栓塞栓症が疑われる徴候や症状を確認する必要があります。<相互作用>本剤はOAT1およびOAT3の基質であり、BCRPおよびOAT3に対して阻害作用を有します。したがって、BCRPの基質となる薬剤(ロスバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、サラゾスルファピリジンなど)、OAT3の基質となる薬剤(フロセミド、メトトレキサートなど)との相互作用には注意が必要です。また、多価陽イオンを含有する経口薬(カルシウム、鉄、マグネシウム、アルミニウムなどを含む製剤)と併用した場合にキレートを形成し、本剤の作用が減弱する恐れがあるため、併用する場合は本剤の服用前後2時間以上を空けて投与します。<患者さんへの指導例>1.この薬は、赤血球のもとになる細胞を刺激し血液中の赤血球を増やすことで、貧血を改善します。2.吐き気、嘔吐、手足の麻痺、しびれ、脱力、激しい頭痛、胸の痛み、息切れ、呼吸困難などが現れた場合は、すぐに医師に連絡してください。3.この薬には飲み合わせに注意が必要な薬があります。新たに薬やサプリメントを使用する場合は、必ず医師または薬剤師に本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>腎性貧血は、腎機能の低下に伴いエリスロポエチン(EPO)の産生が減少することによって生じる貧血です。これまで、腎性貧血の治療にはEPOの補給を行うために、ダルベポエチンアルファ(商品名:ネスプ)やエポエチンベータペゴル(同:ミルセラ)などのESAが投与されてきました。これらの製剤は注射薬ですが、近年は内服薬であるHIF-PH阻害薬が開発され、患者さんの負担を軽減し、QOLが維持されやすくなりました。HIF-PH阻害薬は、低酸素応答機構がEPO産生を調節することを利用した、まったく新しい機序の腎性貧血治療薬であり、その機構解明の功績により、William G. Kaelin Jr.、Sir Peter J. Ratcliffe、Gregg L. Semenzaが2019年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。2020年11月時点でロキサデュスタット錠(同:エベレンゾ)、ダプロデュスタット錠(同:ダーブロック)、エナロデュスタット錠(同:エナロイ)、そして本剤の4種類が発売されています。それぞれ適応、服用回数、腎機能などによる投与量、増量段階の回数や間隔、食事の影響などに違いがあります。本剤は食事の影響が比較的少なく、どのタイミングでも服用できます。また、CKD保存期でも透析期でも同じ投与量であり、腎機能によって投与量が異なることもありません。調節範囲も4段階と比較的少なくなっています。腎性貧血患者は、リン吸着剤などの併用により服用時点が多くなりがちなので、シンプルな服用方法はアドヒアランスの向上に役立つと考えられます。HIF-PH阻害薬の登場によって、腎性貧血治療が薬局薬剤師にとって身近なものになります。日本腎臓学会から「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation」が公表されていますので、一度目を通しておくとよいでしょう。参考1)PMDA 添付文書 バフセオ錠150mg/バフセオ錠300mg2)日本腎臓学会 HIF-PH 阻害薬適正使用に関するrecommendation

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「ミオコールスプレー」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第25回

第25回 「ミオコールスプレー」の名称の由来は?販売名ミオコール®スプレー0.3mg一般名(和名[命名法])ニトログリセリン効能又は効果狭心症発作の寛解用法及び用量通常、成人には、1回1噴霧(ニトログリセリンとして0.3mg)を舌下に投与する。なお、効果不十分の場合は1噴霧を追加投与する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)1.重篤な低血圧又は心原性ショックのある患者[血管拡張作用により更に血圧を低下させ、症状を悪化させるおそれがある。]2.閉塞隅角緑内障の患者[眼圧を上昇させるおそれがある。]3.頭部外傷又は脳出血のある患者[頭蓋内圧を上昇させるおそれがある。]4.高度な貧血のある患者[血圧低下により貧血症状(めまい、立ちくらみ等)を悪化させるおそれがある。]5.硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者6.ホスホジエステラーゼ5阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物、タダラフィル)又はグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者[本剤とこれらの薬剤との併用により降圧作用が増強され、過度に血圧を低下させることがある。※本内容は2020年11月11日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2014年11月改訂(第10版)医薬品インタビューフォーム「ミオコール®スプレー0.3mg」2)トーアエイヨー:製品情報

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持続的腎代替療法時の抗凝固療法、クエン酸 vs.ヘパリン/JAMA

 急性腎障害を伴う重症患者への持続的腎代替療法施行時の抗凝固療法において、局所クエン酸は全身ヘパリンと比較して、透析フィルター寿命が長く、出血性合併症は少ないが、新規感染症が多いことが、ドイツ・ミュンスター大学病院のAlexander Zarbock氏らが行った「RICH試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2020年10月27日号で報告された。欧米の現行ガイドラインでは、重症患者への持続的腎代替療法時の抗凝固療法では局所クエン酸が推奨されているが、この推奨のエビデンスとなる臨床試験やメタ解析は少ないという。ドイツの26施設が参加、試験は早期中止に 研究グループは、持続的腎代替療法施行時の局所クエン酸投与が透析フィルター寿命および死亡に及ぼす影響を、全身ヘパリンと比較する目的で、多施設共同無作為化試験を実施した(ドイツ研究振興協会の助成による)。本試験はドイツの26施設が参加し、2016年3月~2018年12月に行われた。 対象は、年齢18~90歳、KDIGOステージ3の急性腎障害または持続的腎代替療法の絶対適応とされ、重症敗血症/敗血症性ショック、昇圧薬の使用、難治性の体液量過剰のうち1つ以上がみられる患者であった。 被験者は、持続的腎代替療法施行時に、局所クエン酸(イオン化カルシウムの目標値1.0~1.40mg/dL)または全身ヘパリン(活性化部分トロンボプラスチン時間の目標値45~60秒)の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 フィルター寿命と90日死亡率を複合主要アウトカムとした。副次エンドポイントには出血性合併症や新規感染症が含まれた。 本試験は、596例が登録された時点で、中間解析の結果がプロトコールで事前に規定された試験終了に達したため、早期中止となった。フィルター寿命が15時間延長、死亡への影響の検出力は低い 638例が無作為化の対象となり、596例(93.4%、平均年齢67.5歳、183例[30.7%]が女性)が試験を終了した。局所クエン酸群が300例、全身ヘパリン群は296例だった。 フィルター寿命中央値は、局所クエン酸群が47時間(IQR:19~70)、全身ヘパリン群は26時間(12~51)であり、有意な差が認められた(群間差:15時間、95%信頼区間[CI]:11~20、p<0.001)。90日の時点での全死因死亡は、局所クエン酸群が300例中150例、全身ヘパリン群は296例中156例でみられ、Kaplan-Meier法による推定死亡率はそれぞれ51.2%および53.6%であり、両群間に有意な差はなかった(補正後群間差:-6.1%、95%CI:-12.6~0.4、ハザード比[HR]:0.79、95%CI:0.63~1.004、p=0.054)。 38項目の副次エンドポイントのうち34項目には有意差がなかった。局所クエン酸群は全身ヘパリン群に比べ、出血性合併症(15/300例[5.1%] vs.49/296例[16.9%]、群間差:-11.8%、95%CI:-16.8~-6.8、p<0.001)が少なく、新規感染症(204/300例[68.0%] vs.164/296例[55.4%]、12.6%、4.9~20.3、p=0.002)が多かった。 局所クエン酸群は、重度アルカローシス(2.4% vs.0.3%)および低リン血症(15.4% vs.6.2%)の頻度が高く、全身ヘパリン群は、高カリウム血症(0.0% vs.1.4%)および消化器合併症(0.7% vs.3.4%)の頻度が高かった。これら以外の有害事象の頻度は両群間に差はなかった。 著者は、「本試験は早期中止となったため、抗凝固療法戦略が死亡に及ぼす影響に関して、結論に至るに十分な検出力はない」としている。

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第30回 医師も知っておきたい、ニューノーマルで生き残りを賭ける製薬企業の活路とは

コロナ禍が始まってから盛んに耳にするようになったキーワード「ニューノーマル」。医療で言えば、感染対策を契機に時限的に始まったオンライン診療の拡大が恒久化へと動きつつあるのも「ニューノーマル」と言える。ただ、今回のコロナ禍に関係なく、本来はもっと変わっていてしかるべきにもかかわらず、変わっていない世界も散見される。医療とその周辺で言うと、私がその筆頭にあげたいのは製薬企業の在り方である。競合戦略SOVはもう古い?製薬企業の基本的なビジネスモデルは研究開発に時間をかけて新薬を市場に送り、MR(医薬情報担当者)が盛んに医師にコールして処方を増やし、売上を獲得するというもの。従来は1つの新薬が世に登場するまでの期間は約10年、コストは約100億円と言われてきた。ちなみにMRから医師へのコールはSOV(Share of Voice:シェア・オブ・ボイス)という概念が重視されてきた。日本語に直訳すれば、「声のシェア」で、ある商品・サービスのシェアは、同一カテゴリーの競合商品・競合サービスの広告・宣伝量との比較で決まるという考え方。平たく言えば競合商品などよりも宣伝量が多ければ多いほどシェアが獲得できるというロジックである。それゆえMRは医師を頻回に訪問し、担当する医薬品のキーメッセージを連呼する。もちろんそれゆえに医師からうんざりされるケースもあるが、総じてみればそうしたMRの行動と売上は比例していたのである。というのも、患者数の多さから、かつてはほとんどの製薬企業が研究開発の軸を置いていた高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病領域は、同一作用機序ながら若干有効成分が違う複数の医薬品が競合するのが常で、製品同士の差は「どんぐりの背比べ」の様相。医師にとってはどれを選んでも大差はなく、結果としてMRによるSOVが高い製品ほど医師に選ばれ、売上も高くなりがちだったからだ。ところがこの構図は既に約10年前から変化している。まず、これまで製薬企業の売上を支えてきた生活習慣病領域はもはや創薬ターゲットが枯渇し、継続的に新薬を生み出しにくくなった。この結果、創薬ターゲットはまだまだ薬剤の選択肢が少ないがんや難病などに移行している。もっともその結果として新薬の上市までの難易度は高くなり、現在では期間約20年、コスト約200億円とまで言われるようになった。ビジネスモデルを阻む新薬開発期間とジェネリック普及ここで大きな課題が発生する。製薬企業のビジネスモデルのもう一つの特徴として、一つの製品のライフサイクル終焉期、具体的には物質特許が切れてジェネリック医薬品が出てくるタイミングに後継新薬を市場に送り出し、売上の穴を作らないようにすることが挙げられる。ところが研究開発にかかる時間が以前よりも長くなった今、タイミングよく後継新薬を送り出すことは難しくなった。もっとも、こと日本市場の場合はそれでもどうにかこうにかやりくりは可能だった。それは日本では医師のジェネリック医薬品への忌避傾向が強く、長期収載品と呼ばれる特許失効後の新薬もそれなりに売上を獲得できていたからだ。しかし、国の薬剤費抑制策に伴うジェネリック医薬品の使用推進策でそれも難しくなった。現在では特許失効後の新薬は半年程度でシェアの半分がジェネリック医薬品に置き換わる。しかも、がんや難病といった生命予後に直結する領域へのシフトで、MRを通じたSOV向上は売上に直結しなくなった。製薬企業にとってはことごとく既存のモデルは封じられ、もはや泣きっ面に蜂といってもいい。その結果、製薬企業各社が取り始めた戦略が「選択と集中」である。要は医療用医薬品の研究開発領域を絞り込み、そこに集中的にリソースを投じ、研究開発の成功率上昇を狙うという形である。この結果、医療用医薬品以外の事業や医療用医薬品の中でも特許失効後の長期収載品を各社は整理・売却し始めた。革新のための本気が見える武田薬品と他社の将来性その動きを最も先鋭化させたのは日本の製薬業界のキング・オブ・ザ・キングスの武田薬品である。長期収載品は早々にジェネリック医薬品世界最大手のテバ社との合弁会社に移管させ、新たな製品と研究開発シーズの獲得のため、乾坤一擲の大勝負ともいえる日本史上最大約7兆円の巨額買収でアイルランドのシャイアー社を傘下に収め、武田の代名詞ともいわれたアリナミン・ブランドを有する一般用医薬品事業を売却した。武田以外の国内各社はここまで極端な形ではないものの、長期収載品の切り離しは準大手、中堅でも追随している。ただ、そのように新薬に集中したとしても世界の大波の中で生き残れる国内製薬企業はごくわずかだと言っていい。現在の世界トップ10の製薬企業の年間研究開発費規模は5,000億円以上、絞り込んだとはいっても平均の研究開発重点領域は5領域以上。現在この条件を満している国内製薬企業は武田のみだが、将来にわたって条件を満たしそうな企業もあと1~2社あるかないかという状況だ。ではどうすればよいのか? ここからは完全な私見だが、グローカルな総合ヘルスケアソリューション企業になることが最善の生き残る道だと考えている。グローカルとは、「グローバル+ローカル」の造語である。端的に言えば国内準大手・中堅企業に製薬企業そのものを完全に辞めろと言うのはナンセンスだ。ただ、こうした製薬企業でも製品単位で世界に伍していくことは可能であるが、そのようなグローバル製品を常時5品目以上、切れ目なく上市していくことは難しい。もっとストレートに言えば、通称メガファーマと呼ばれる世界大手の製薬企業とボーダレスな環境で伍していくのは逆立ちしても無理がある。つまるところ、グローバルで通用する1~2製品を有しながら、大きな基盤は日本国内、すなわちローカルに置き、医薬品だけでなくさまざまなソリューションを提供するという企業形態が私の前述した「グローカルな総合ヘルスケア企業」というイメージである。“薬は治療の一手段”と考えた先に見えるもの薬というのは治療の中で重要かつ欠くことができないソリューションではあるものの、そもそも薬は患者の状態を改善するソリューションの1つでしかない。従来からこれらに加え、手術やさまざまな医療機器を使った治療手段が存在するし、最近ではこれに加えITを駆使してアプリで治療するという考えも登場してきている。また、製薬企業は薬による治療を通して対象疾患やその患者を巡る多種多様な情報を有している。それを単に治療だけでなく社会的な課題解決に生かす道も考えられる。今後日本は人口減少社会に突入し、それに伴い労働人口も減少する。こうした中でITを駆使して必要となる労働力を効率化する試みは今後も進行してくだろうが、それでも人としての労働力が不足する状況は避けられない。こうなると解決策は、1)各人が今の2倍働く、2)専業主婦が家事以外の労働を始める、3)高齢者が働く、4)外国人労働者をさらに受け入れる、が主な焦点になってくる。ただ、これ以外に、これまで労働市場の中でやや冷や飯をくらわされている存在が一部の慢性疾患患者である。こうした人たちは一定の配慮があれば、労働市場で活躍できる素地があるにも関わらず、効率性を重んじるフルタイム労働市場では忌避されてきた傾向がある。製薬企業はこうした患者が置かれている状況、配慮しなければならないポイントは治療薬を提供している観点から一般の企業に比べて知識・理解はある。その意味ではこうした人を労働力としてあっせんする、あるいは雇用主側のコンサルティングを行うにはうってつけの存在でもある。また、日本は世界でトップを走る高齢化社会を有するため、そこから他国にも応用できるさまざまなビジネスモデルを考える最適な環境にあるなど、このほかにも製薬企業から派生した業態が考えられる。実際、そうした活動に既に手を付け始めている製薬企業は少数だが存在する。そして、こうした事業に手を染めてない製薬企業、あるいは手を染めている企業の中からも、こうした動きには「それで儲かるの?」という声は根強い。大胆な舵切りをした他業種の成功事例この「儲かるの?」の根底にあるのは、既存の製薬中心の利益構造である。ちなみに営業利益率ベースでみると、現在の国内の主要製薬企業の営業利益率は13~14%前後で、実はこの利益率は過去約20年ほとんど変わっていない。それゆえ、もはや既存のビジネスモデルが多方面で限界に達しつつあるにもかかわらず、頭の中は過去の栄光で満ち満ちているのである。むしろ今求められているのは、既存概念からの転換である。その意味で参考となるモデルが富士フイルムである。ご存じのように、もともと同社は一般向けの写真用フィルムとカメラ、レンズを主力商品としてきた。しかし、デジタルカメラの登場とともに写真用フィルムは市場からほぼ消え去り、その代わりにフィルム製造で持っていた化学合成技術などを軸に、液晶ディスプレイ材料、医療・医薬品、機能性化粧品、サプリメントなどを販売する企業へと転換した。富士フイルムの連結ベースの営業利益率は、1998年3月期は11.5%だったが、2017年3月期には7.9%まで低下している。しかし、この間、連結ベースの売上高は1.4兆円から2.4兆円と拡大している。利益率は低下しても多角的な事業展開で売上高が増加しているため、営業利益の絶対額は増加しているのである。製薬企業の場合、薬というモノがなくなるわけではないので、ここまでの転換を求められることはない。逆に言えば、それだけまだ恵まれているともいえる。にもかかわらず、ビジネスモデルの限界が10年前ぐらいから見え始めているのに最初の一歩が踏み出せないであるのだ。もっとも現在製薬業界の経営層には、旧来型のブロックバスターモデルといわれる巨額の売上を生む新薬が会社の屋台骨を支えるビジネスモデルの中で評価されてきた人たちがまだどっかりと鎮座しているため、それもやむを得ないと言えるかもしれない。しかし、これから5年後にもこの「儲かるの?」議論をやっているようだったら、もはや国内の製薬企業はこびりついたプライドを捨てきれない、流行遅れの一張羅の高級スーツをまとった冴えない紳士のごときものである。

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アンチエイジングのためのHealthy Statement作成が始動/日本抗加齢医学会

 近年、EBM普及推進事業Mindsの掲げるガイドライン作成マニュアルが普及したこともあり、各学会でガイドラインの改訂が活発化している。さまざまな専門分野の医師が集結する抗加齢医学においても同様であるが、病気を防ぐための未病段階の研究が多いこの分野において、ガイドライン作成は非常にハードルが高い。Healthy Statement-ガイドライン作成の第一歩 そこで、日本抗加齢医学会は第20回総会を迎える節目の今年、ワーキング・グループを設立し、今後のガイドライン作成、臨床への活用を目的にコンセンサス・レポートとしてHealthy Statement(以下、ステートメント)の作成を始めた。ステートメントの現況は、9月25日(金)~27日(日)に開催された第20回日本抗加齢医学会の会長特別プログラム1「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」にて報告された。 ステートメントは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)が検討されており、今回、新村 健氏(兵庫医科大学内科学総合診療科)、宮本 健史氏(熊本大学整形外科学講座)、阿部 康ニ氏(岡山大学脳神経内科学)、堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学/日本抗加齢医学会理事長)らが、各部門の作成状況を発表した。各分野、抗加齢に特化したデータ抽出進む 『食事・カロリー制限とアンチエイジング』について講演した新村氏は、「抗加齢医学の領域において、食事療法・カロリー制限に関するエビデンスは十分と言えず、ガイドライン・診療の手引きを作成するだけの材料が揃っていないのが現状」とし、「食事療法の選択としては日本人での実行性と重要性を重視し、健常者または重篤な疾患を持たない者を対象者に想定している」と述べた。さらに今後の方針として「1つの食事療法に対して、複数のアウトカムから評価し、アンチエイジング医学の多様性を意識する」と話した。 『運動・エクササイズとアンチエイジング』については宮本氏がコメント。「運動介入と高齢者の骨密度、認知症や寿命延伸に関するデータをまとめ、CQを作成した。とくに運動介入は高齢者の骨密度の軽度の増加、認知症予防に強く推奨される。また要介護化の予防に中等度、寿命・健康寿命の延伸には弱く推奨される」など話した。 『サプリメント・機能性表示WGからの報告』について阿部氏が講演。「本ワーキング・グループは感覚器、歯科、循環器、消化器/免疫、皮膚科、脳神経の6領域において活動を行っている。サプリメントは分類上では機能性表示食品に該当するが、医薬品のように観察研究や介入研究が多くデータが豊富に揃っていた。評価文、根拠文献、評価上の要点、エビデンスグレードの各案が出揃い、完成近い品目もある」と解説した。このほか、アルツハイマー病治療において、アミロイドβの根本治療が全滅している現在、サプリメント活用のメリットにも言及した。 『テストステロン(男性ホルモン)』については堀江氏が既存のエビデンスとして、テストステロン低値の人の早逝、内蔵脂肪との関連、そのほか低テストステロンが惹起する身体機能の低下や合併症について説明。「テストステロンはメタボリックシンドローム、耐糖能異常、うつ病、フレイルなどの疾患との関連において十分なエビデンスが存在する。これらのデータを踏まえ、テストステロンは未病のための明日の健康指標になる。さらには、社会参画や運動量など人生のハツラツ度に影響するホルモンであることから、今日の健康指標にもつながる」とし、「今後、性ホルモン分野としてエストロゲン、テストステロンの両方について報告していく」と締めくくった。抗加齢医学の目標、ステートメント完成は2021年を目処 講演後、大会長の南野氏は「抗加齢医学は集団も然り、研究疾患もヘテロである。このヘテロジェナイティを認識したうえで、足りないエビデンスをわれわれで補うことが最終目標である」と述べた。これに堀江氏は「われわれは疾患ではなく、疾患に至る前段階を捉えて研究を行っている。診療ガイドラインの疾患アウトカムと異なるエビデンスが必要であり、それゆえ研究対象も従来の研究とは異なる。たとえば、高齢者の認知機能ではなく40歳くらいの若年者の機能探索がその1つである」と補足し、今後の抗加齢医学会の進むべき道について強調した。Healthy Statementは来年6月頃までにまとめられ、2021年の本学術集会にて発表される予定である。 なお、本講演は10月8日(木)~21日(水)の期間限定でケアネットYouTubeにて配信している。

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初回訪問で服用薬の処方経緯を確認し、減薬を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第28回

 今回は、新しく担当することになった在宅患者さんの処方薬を整理した事例を紹介します。患者さんとの面談で、どのような経緯があって処方された薬剤なのかをよく確認してみると、減薬のヒントを見つけられることが多々あります。漫然処方を解消するためにも、薬剤師がヒアリングして情報収集することは非常に重要です。患者情報90歳、女性(個人在宅)基礎疾患高血圧症介護度要支援2既往歴半年前に血便あり(精査なし)訪問診療の間隔2週間に1回介護サービスの利用週1回、通所介護在宅訪問開始の理由前任の薬局が閉局したため、当薬局で引き継いだ。備考過去に降圧薬を後発医薬品に変更して血圧が上昇したことがあり、降圧薬は先発医薬品がいいというこだわりがある。処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.カンデサルタン シレキセチル錠8mg 1錠 分1 朝食後3.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 1錠 分1 朝食後4.クロチアゼパム錠5mg 1錠 分1 就寝前5.ファモチジン錠20mg 2錠 分2 朝夕食後6.ジフェニドール塩酸塩錠25mg 3錠 分3 毎食後7.ビフィズス菌製剤散 3g 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは長年訪問診療を利用していましたが、前任の薬局が閉局したため、当薬局で引き継ぐことになりました。ご高齢者の独居ということで、これらの薬剤をしっかりと服用できているかどうか確認が必須だと考えました。初回訪問時に服薬管理状況と残薬を確認したところ、薬剤はピルケースに1週間分をセットしてご自身で管理されていました。しかし、降圧薬は飲み忘れなく服薬しているものの、他の薬剤は自己調節していました。服用理由は曖昧で、効果も評価もされないまま飲み続けていることもわかりました。そこで、患者さんとの面談で、各薬剤が処方された経緯や服薬状況、残薬を確認し、整理してみると下表のようになりました。画像を拡大するこのように、症状や処方の経緯、薬に対する考え方を聴取しました。減らせる薬剤があれば減らしたいという患者さんの想いも確認し、医師に処方整理を提案することにしました。処方提案と経過医師に、トレーシングレポートで残薬の状況と現在の服用状況を報告しました。ファモチジンとジフェニドールについては、服用していなくても症状が出ていないことから中止を提案し、クエン酸第一鉄ナトリウムについては一度血液検査をして貧血項目および血清鉄やフェリチン、総鉄結合能(TIBC)の評価を行うことを提案しました。医師より返事があり、ファモチジンとジフェニドールは中止の承認を得ることができ、クエン酸第一鉄ナトリウムについては採血して評価をするという返答がありました。患者さんからは、薬剤師に相談したことで薬剤数が減り、服薬の煩雑さが軽減されて良かったと喜んでもらえました。現在は降圧薬のみ定期内服しており、クロチアゼパム錠とビフィズス菌製剤散を頓用で継続しています。服薬アドヒアランスは維持できていて、経過も安定しています。

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偶然おもしろいことに出会える、こんな学会ほかにない

2020年9月25~27日の3日間、第20回日本抗加齢医学会総会がWEB開催(一部会場開催)される。今回は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、初めてのWEB開催となるが、第18、19回総会のプログラム委員長を務め、本大会長としてプログラムの選定に携わった南野 徹氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授)に、本総会をどのように盛り上げていくのか話を聞いた。日本のアンチエイジング、老年・予防医学が主体『抗加齢』という言葉はアンチエイジングと英訳されます。その影響なのか、日本では医学的根拠のない一般向け情報と捉える方が多いようで、この印象を覆すことがわれわれの使命の1つであると考えています。たとえば、本学会の総会が今年で20回目を迎えるにあたり、診療所の医師に患者指導時に活用してもらえるようなステートメントの作成を開始します。これまで、抗加齢医学の分野において高血圧症などのように診療ガイドラインが策定されておらず、研究成果のほとんどが実臨床で活用されていなかった点もアンチエイジングのイメージを印象付けているのかもしれません。この取り組みは世界初ですが、本学会は世界の抗加齢医学の組織と比べ、各分野の枠を越えて医師たちが集い、協力し合える強みが作用しています。海外の場合、大きな美容系集団といくつかの小さな診療科系集団に分かれているため、さまざまな診療科の先生の意見を踏まえた研究を行うことが難しいと言われています。一方、本学会は老年医学と若さを保つ・美を追求する医学の間に位置し、病気や加齢から身体を守る予防医学の概念を持って活動する、世界的にもまれな学会として、この組織力を活かし、抗加齢に関するさまざまな研究を行うことで、成果を発揮しています。Healthy Agingのためのステートメントその成果の1つとして、ガイドラインの前進となるステートメントの作成を行うわけですが、まずは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)の内容が検討されています。本総会の会長特別プログラムとして「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」を開催し、各分野のステートメント進捗状況や今後の方針について発表する予定です。アカデミア×臨床医、内科医×歯科医…が混じり合える学会また、研究内容がとても彩り豊かな本学会の総会の一番の魅力は、面白いことが学べる機会やアイデアを見つけ出すチャンスに出会えることだと自負しています。研究範囲は基礎から臨床まで、その内容は内科領域のみならず、整形外科、皮膚科、歯科領域などと多岐にわたります。一般的な学術集会は専門医や専門領域に従事する医療者を対象として行われるため、診療科に特化した内容に絞って情報提供される傾向があります。それと比べ、つい自分の興味分野にだけ注目してしまう方でも、本総会に参加することで「興味がなかった」「考えてもみなかった」ようなワクワクする新しい関心事に、偶然遭遇するかもしれません。言うならば、新聞で医療面を読むためにページをめくっていた時にテクノロジーの記事に目が留まり、新しい発見に心が弾んだ-そんな感覚でしょうか。プログラムを選定する上では、プログラム委員長の経験を踏まえて工夫を凝らしました。臨床医とアカデミアの双方が楽しめるよう、1日目にはアカデミアの方を対象とした演題を多く盛り込みました。実地医家の方が参加しやすい3日目の日曜日には、実臨床ですぐ実践できる演題を準備しています。3密回避を確保した会場セッティングや3ハイブリッド会議(ライブ配信、オンタイム配信、オンデマンド配信)形式の導入により、これまでにないくらい多くのプログラムが受講しやすくなっています。多分野の医師、薬剤師や看護師などの医療者が垣根を超えて交流を深められるという本学会ならではの総会作りも目指していますので、ぜひ、第20回日本抗加齢医学会総会のWEB聴講へのご参加、浜松町コンベンションホールへのご来場をお待ちしております。

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うつを予防する方法(解説:岡村毅氏)-1278

 ビタミンDにうつ病を予防する効果はないという残念な結果であった。これを深掘りしてみよう。 まず、前提としてさまざまなビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸等がうつ病を予防するのではないかという小さなエビデンスは集積されている。ビタミンDでも同様である。 ただし、たとえばビタミンDを摂っている健康な人は、運動もするし、友人も多いし、健康情報もよく知っているのでうつになりにくい可能性はあるだろう(これらを交絡因子という)。したがってうつ病の人と、そうでない人を比べるとビタミン摂取量に差がある可能性はある。 要するに「うつではない人はビタミンを摂っている」と「ビタミンを摂るとうつにならない」のとり違いの可能性である。 真実を知りたい。そこで、この研究のように、対象者をランダムにある地点で2つの同じようなグループに分けて、「その時点から」片方にはビタミンDを追加投与、片方には偽薬を与えるという研究をする。本研究は、なんと2万人近い50歳以上の人が対象になっている。もちろんうつ病だけを狙った研究ではなく、本研究はがんや心血管系の疾患を主な対象にしているのだが。 この結果を受けて、ビタミンDは関係ないのかというと、そうとも言い切れない。 これまでの研究で「ビタミンDは関係ある」という結果が出たのには理由がある。前述の「交絡」である。どんなものが考えられるだろうか? 以下は私の勝手な推測だが、ビタミンDを多く摂っている人は、1)健康に気を使っている【情報】、2)自分を大事にしている【自尊心】、3)(1人でカップラーメンを食べたりするのではなく)みんなで食卓を囲む機会が多い【ソーシャルネットワーク】、4)幼少期からきちんとしたご飯を食べる機会が多かったので習慣化している【安定した幼少期】、5)(野菜は高いので)経済的に困窮していない【経済】、といった可能性があるので、うつになりにくいのかもしれない。また、うつ病になると意欲が低下して食生活が乱れるので、ビタミンDも摂らなくなる、という逆の因果もあろう。 さて、臨床的には明らかに生活習慣が乱れていることが精神的不調の原因の人がいる。そういう人にはうつ病と診断して精神科治療を始める「前に」、まずはまともな生活をすることを指導する(獨協医科大学の井原先生のご著書で世間でもこのような考え方は広く知られるようになってきた)。毎日塩辛いものを食べまくっていて血圧が高い人には、まず適度の減塩を指導するのと同じである。 というわけで、本論文を読んで「ビタミンは関係ないのだ、明日からカップラーメンでいいや」というのは間違った解釈である。真実はとても地味だ。つまり、あえてサプリメントを摂ることはないが、健康に気を付けて、自分を大切にして、3食きちんと食べなさい、栄養バランスは考えて野菜も摂るのよ、夜は寝ろ、疲れたら休め、無理はするな、…帰省できなかった若者の皆さんに地元のおじさん(おばさん)みたいなアドバイスを送りたい。

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アドヒアランス不良でアセトアミノフェン分3から変更提案した薬剤は?【うまくいく!処方提案プラクティス】第23回

 今回は、アセトアミノフェンの複数回投与が開始になったものの、アドヒアランス不良のため疼痛コントロールが困難であった症例です。良好な疼痛コントロールとアドヒアランスを得るために提案した代替薬とその根拠を紹介します。患者情報93歳、男性(在宅)基礎疾患:うっ血性心不全、右被殻出血(左麻痺あり)、前立腺肥大症、高尿酸血症訪問診療の間隔:2週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、ヘルパーによる毎日の訪問介護時に服薬処方内容1.タムスロシン塩酸塩錠0.2mg 1錠 分1 夕食後2.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後3.トリクロルメチアジド錠1mg 1錠 分1 夕食後4.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 夕食後5.センノシド錠12mg 2錠 分1 夕食後6.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 2錠 分1 夕食後7.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 朝昼夕食後8.ピコスルファート内用液0.75% 便秘時 就寝前7〜8滴本症例のポイントこの患者さんは、脳出血後の左麻痺によって手先の不自由さがあり、ほぼベッド上で生活していました。そのため、服薬回数をすべて1日1回で統一して一包化し、毎日夕方の訪問介護の時間に服薬していました。ところが先日、トイレへ移動する際に転倒して受傷し、睡眠時や排泄時の疼痛のため、アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後が開始となりました。朝・昼のアセトアミノフェンは、ヘルパーさんが夕方の訪問介護時にベッド近くに置いておいて、患者さんご自身で服薬することになりました。しかし、2回分を重複して服用したり服薬を忘れてしまったりと服薬アドヒアランスが維持できず、疼痛が管理できないという問題がありました。同じタイミングでケアマネジャーから、薬をなんとか1回にまとめられないものかと相談があり、アセトアミノフェンの変更提案を検討することにしました。1日1回の服用に適したNSAIDsを検討1日複数回服用することで重複投薬のリスクがあり、飲み忘れによって疼痛コントロールも不十分であるため、ほかの定期薬に合わせて服用できる鎮痛薬を検討しました。ここで候補に挙がったのは長時間作用型NSAIDsのメロキシカムです。長時間作用型という性質上、1日1回で疼痛コントロールできることに加え、服薬回数の負担も軽減できることから当該患者さんの処方薬として妥当だと考えました。半減期が長いため、高齢者や腎・肝機能が低下している場合は注意が必要ですが、この患者さんは心不全の状態が安定していて、直近の検査結果からも腎機能は年齢相応(Scr:0.78mg/dL、eGFR:57.8mL/min/1.73m2)で大きな悪化もないことから薬物有害事象の懸念は少ないと考えました。処方提案と経過医師に上記内容をトレーシングレポートで相談したところ、疼痛コントロールもしっかり行う必要があるが、誤薬のリスクを下げるためにも変更しようと了承いただきました。提案当日に変更対応となり、アセトアミノフェン錠の回収とメロキシカム錠10mgを夕食後投与としてカレンダーにセットしました。そして、患者さんとヘルパーさんへ鎮痛薬の変更があることを説明し、今後は朝・昼の薬はなくなることをお伝えしました。患者さんも複数回の服薬や飲み忘れ、重複投薬のことを気にしていたので、今回の変更を受けて安心していました。その後、患者さんは疼痛コントロールも良好で、疼痛による苦痛も有害事象もなく生活を続けています。

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「ガスモチン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第5回

第5回 「ガスモチン」の名称の由来は?販売名ガスモチン®錠5mg/2.5mg、ガスモチン®散1%一般名(和名[命名法])モサプリクエン酸塩水和物(JAN)効能又は効果○慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)○経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助用法及び用量〈慢性胃炎に伴う消化器症状(胸やけ、悪心・嘔吐)〉通常、成人には、モサプリクエン酸塩として1日15mgを3回に分けて食前または食後に経口投与する。〈経口腸管洗浄剤によるバリウム注腸X線造影検査前処置の補助〉通常、成人には、経口腸管洗浄剤の投与開始時にモサプリクエン酸塩として20mgを経口腸管洗浄剤(約180mL)で経口投与する。また、経口腸管洗浄剤投与終了後、モサプリクエン酸塩として20mgを少量の水で経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由設定されていない※本内容は2020年6月24日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年4月改訂(改訂第24版)医薬品インタビューフォーム「ガスモチン®錠5mg/2.5mg、ガスモチン®散1%」2)大日本住友製薬:製品基本情報

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亜鉛欠乏症診療ガイドライン、味覚障害など症例別の治療効果が充実

 亜鉛欠乏症は世界で約20億人いるものの、世界的に認知度が低い疾患である。そして、日本も例外ではないー。日本臨床栄養学会ミネラル栄養部会の児玉 浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授・学科長)が委員長を務め、2018年7月に発刊された『亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018』の概要がInternational Journal of Molecular Sciences誌2020年4月22日号に掲載された。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018にて、同氏らは亜鉛欠乏症の診断基準を以下のように示した。(a)症状(皮膚炎、口内炎、味覚障害など)/検査所見(ALP:血清アルカリホスファターゼ低値)のうち、1項目以上を満たす(b)他の疾患が否定される(c)血清亜鉛が低値-血清亜鉛値60μg/dL未満:亜鉛欠乏症、血清亜鉛値60~80μg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏とする。(d)亜鉛補充により症状が改善する。亜鉛欠乏症診療ガイドラインは亜鉛投与による治療効果、基礎疾患ごとの症例を豊富に記載 亜鉛欠乏症はさまざまな病態で併発する。その症状はさまざまで、とくに皮膚炎や味覚障害、貧血、易感染などを訴える患者については血清亜鉛濃度の測定が望ましい。一方、慢性肝疾患、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、腎不全では、しばしば血清亜鉛値が低値であるにも関わらず、前述のような症状を訴えない場合もある。亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善する場合があることから、亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018には「これら疾患を有する患者では亜鉛欠乏症状が認められなくても、亜鉛補充を考慮してもよい」と記載されている。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018の一番の特徴は、投与前後の血清亜鉛値や改善率などが書かれているため処方時に有用である点だ。治療効果を“亜鉛欠乏の症状がある患者に対する亜鉛投与の治療効果”と“基礎疾患の改善を目的に行う亜鉛投与の治療効果”に区分し、表で示している。 前者には低身長症、皮膚炎、口内炎、骨粗鬆症などの症例を提示、後者では慢性肝疾患、糖尿病などの症例を挙げている。 このほか、亜鉛補充時の注意事項として「亜鉛投与の効果はすぐには現れないため、治療は少なくとも3ヵ月間の継続が必要」「亜鉛投与による有害事象として、消化器症状(嘔気、腹痛)、血清膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)上昇、銅欠乏による貧血・白血球減少、鉄欠乏性貧血が報告されているため、これらの臨床症状や検査値が見られた場合には亜鉛投与量の減量・中止、銅や鉄補充などの対処が必要」などが盛り込まれている。  亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018では、2016年版からの改訂にあたり、炎症性腸疾患(IBD)と肝硬変にも焦点が当てられた。研究者らは「亜鉛欠乏症はマクロファージの活性化を介して腸の炎症を促進するので、IBDでの炎症や亜鉛欠乏症の病理学的メカニズム検討している」とし、「肝硬変患者の窒素代謝障害にも影響している可能性がある。亜鉛補給は、アンモニア代謝だけでなく、タンパク質の代謝も改善することができる」とも述べている。

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ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬併用で、HFrEF患者の生存延長/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、疾患修飾薬による早期からの包括的な薬物療法で得られるであろう総合的な治療効果は非常に大きく、新たな標準治療として、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)および選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の併用が支持されることが示された。米国・ハーバード大学のMuthiah Vaduganathan氏らが、慢性HFrEF患者を対象とした各クラスの薬剤の無作為化比較試験3件を比較した解析結果を報告した。3クラス(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の薬剤は、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬を併用する従来療法よりも、HFrEF患者の死亡リスクを低下させることが知られている。これまでの研究では、それぞれのクラスは異なる基礎療法と併用して検証されており、組み合わせにより予測される治療効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2020年5月21日号掲載の報告。MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する3つの臨床試験をクロス解析 研究グループは、包括的疾患修飾薬物療法と従来療法の無イベント生存期間と全生存期間の増分を推定する目的で、従来療法へのMRA追加を検討したEMPHASIS-HF試験(2,737例)、ARNIと従来療法を比較したPARADIGM-HF試験(8,399例)および従来療法へのSGLT2阻害薬追加を検討したDAPA-HF試験(4,744例)の3つの臨床試験のクロス解析を行った。 慢性HFrEF患者における包括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)および従来療法(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)の有効性を推算し、間接的に比較した。 主要評価項目は、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントとし、それぞれのエンドポイントと全死因死亡率も同様に評価した。これらの相対的な治療の影響は長期にわたり一貫していると仮定し、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)に対する、包括的疾患修飾薬物療法による無イベント生存期間および全生存期間の長期的な増分を推算した。ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は全生存期間も延長 包括的疾患修飾薬物療法vs.従来療法の主要評価項目に関するハザード比(HR)は、0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.47)であった。心血管死(HR:0.50、95%CI:0.37~0.67)、心不全による初回入院(0.32、0.24~0.43)および全死因死亡(0.53、0.40~0.70)も包括的疾患修飾薬物療法が好ましい結果であった。 ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は従来療法と比較し、心血管死または心不全による初回入院までの無イベント期間を推定2.7年(80歳時)~8.3年(55歳時)延長し、全生存期間は推定1.4年(80歳時)~6.3年(55歳時)延長した。

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第37回 味覚障害に対する亜鉛の有効性と必要用量は?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 味覚障害は実に多くの原因によって起こります。少し古いデータですが、「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」で紹介されている味覚障害の原因別頻度によると、薬物性味覚障害が最も多く(21.7%)、特発性(15.0%)、亜鉛欠乏性(14.5%)、心因性(10.7%)と続き、嗅覚障害、全身疾患性、口腔疾患、末梢神経障害、中枢性神経障害による味覚障害も報告されています1)。直近では、SARS-CoV-2感染による軽症COVID-19患者では味覚や嗅覚に異常を来すケースが64.4%あることが報告されているため、より不安を覚える患者さんもいるかもしれません2)。今回は、比較的頻度が高い亜鉛欠乏性味覚障害の治療に関する研究を紹介します。試験は多くありますが、コクランのシステマティックレビューがあるので、こちらを読めばまとめて概要がつかめます3)。ここでは、10試験(581例)が対象で、そのうち9試験(566例)を解析に含めています。このレビューでは、特発性か亜鉛欠乏、または慢性腎不全に起因する味覚障害に関する研究のみを対象として、9試験544例の味覚障害患者に対して、亜鉛サプリメントとプラセボで比較しています。2試験の参加者は平均年齢10歳と11.2歳の小児と青少年で、残りの7試験の参加者は成人です。システマティックレビューはアウトカムごとに評価しますが、いくつかアウトカムを取り上げましょう。1つ目にVAS質問紙を用いて味覚障害の改善を評価し、平均3ヵ月間の追跡調査期間中にVASスコアが5%以上改善したと定義した場合の2試験119例における味覚改善の患者報告アウトカムは、亜鉛群ではプラセボ群と比較して40%味覚改善が相対的に増えています。これは1,000人当たりにすると407人の改善が569人に増えたという結果です(リスク比:1.40、95%信頼区間[CI]:0.94~2.09)。ただし、ランダム化が不明瞭であったり、脱落があったりするなどエビデンスの質としてはとても低いとされています。2つ目に、特発性および亜鉛欠乏性味覚障害患者で、ろ紙ストリップ法とろ紙ディスク法で評価した味覚の改善度合いを平均3ヵ月間追跡調査した3試験366例の客観的アウトカムでは、標準化平均差(SMD):0.44、95%CI:0.23~0.65です。ただし、出版バイアス、選択バイアスおよび信頼区間が広く不精確であることから、エビデンス総体の質はとても低いとされています。なお、ろ紙ディスク法は、舌の測定部位に甘味、塩味、酸味、苦味の4つの味の溶液を浸した小さなろ紙を置き、感じた味を答えてもらうという比較的一般的に行われている試験です。実臨床では亜鉛の用量も気になるところですので、2つ目のアウトカムで引用されているわが国のSakagamiの論文を見てみましょう4)。こちらは、亜鉛含有製剤であるポラプレジンクの多施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験です。血清亜鉛値が低い患者を含む特発性味覚障害患者の治療における亜鉛含有化合物の有効性と安全性を評価するため、味覚障害患者109例をプラセボ群と亜鉛用量の異なる3つの治療群に割り付けています。各群の患者は、プラセボ(28例)、ポラプレジンク製剤17mg(27例)、同34mg(26例)、同68mg(28例)のいずれかを12週間毎日服用しました。亜鉛の1日の平均摂取推奨量は成人男性で11mg、成人女性で8mgですので5)、亜鉛摂取量はいずれもそれを大きく上回る量です。主観的な症状のスコアは、34mg群と68mg群でプラセボ群よりも改善しました。ポラプレジンクの適応症は胃潰瘍ですが、添付文書にはフリーラジカルに対する作用や創傷治癒促進作用の記載もあり、味覚障害、嗅覚障害、皮膚障害のほか、顆粒はがん治療に伴う口内炎にうがい薬として使われることもあるので併せて押さえておくとよいでしょう6)。効果の程度や検査方法など背景を知ったうえで、患者さんに安心してもらえる説明をするための参考になれば幸いです。1)「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害」, 厚生労働省.2)Spinato G, et al. JAMA. 2020 Apr 22. [Epub ahead of print]3)Kumbargere Nagraj S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;12:CD010470.4)Sakagami M, et al. Acta Otolaryngol. 2009;129:1115-1120.5)厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』6)小林敦. 日口診誌. 2016;29:8~12.

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イソ吉草酸血症〔IVA:isovaleric aciduria〕

1 疾患概要■ 概念・定義イソ吉草酸血症(isovaleric aciduria:IVA)は、ミトコンドリアマトリックスに存在するロイシンの中間代謝過程におけるイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)の障害によって生じる有機酸代謝異常症であり、常染色体劣性の遺伝性疾患である。■ 疫学わが国における罹患頻度は約65万出生に1人と推定されている。非常にまれだと思われていたが、新生児マススクリーニング(タンデムマススクリーニング)が開始されてから無症状の患児や母体が見つかっている。欧米では新生児スクリーニングで診断された患者の約2/3でc.932C>T(p.A282V)変異を認めており、この変異とのホモ接合体もしくは複合へテロ接合体を持つ場合、無症候性が多い。■ 病因遺伝性疾患であり原因遺伝子はIVD(isovaleryl-CoA dehydrogenase)であり、15q14-15にコードされている。この変異によってIVDH活性が低下することに起因する。IVDHはイソバレリルCoAから3-メチルクロトニルCoAが生成する反応を触媒している。この代謝経路は、飢餓やストレスによりエネルギー需要が高まるとロイシン異化によりクエン酸回路へアセチルCoAを供給してエネルギー産生を行うが、本症ではIVDH活性が低下しているためイソ吉草酸などの急激な蓄積とエネルギー産生低下を来し、尿素サイクル機能不全による高アンモニア血症や骨髄抑制を伴う代謝性アシドーシスを引き起こす。■ 症状1)特有の臭い急性期に「足が蒸れた」とか「汗臭い」と表現される強烈な体臭がある。2)呼吸障害急性期に見られ多呼吸や努力性呼吸、無呼吸を呈する。3)中枢神経症状意識障害、無呼吸、筋緊張低下、けいれんなどで発症する。急性期以降、もしくは慢性進行性に発達遅滞を認めることがある。4)消化器症状、食癖哺乳不良や嘔吐を急性期に呈することは多い。また、しばしば高タンパク食品を嫌う傾向がある。5)骨髄抑制汎血球減少、好中球減少、血小板減少がしばしばみられる。6)その他急性膵炎や不整脈の報告がある。■ 分類臨床病型は主に3つ(発症前型、急性発症型、慢性進行型)に分かれる。1)発症前型新生児マススクリーニングや、家族内に発症者がいる場合の家族検索などで発見される無症状例を指す。発作の重症度はさまざまである。2)急性発症型出生後、通常2週間以内に嘔吐や哺乳不良、意識障害、けいれん、低体温などで発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する。有症状例の約3/4を占めたとする報告がある。また、生後1年以内に感染やタンパクの過剰摂取などを契機に発症する症例もある。3)慢性進行型発達遅滞や体重増加不良を契機に診断される症例を指す。経過中に急性発症型の症状を呈することもある。■ 予後新生児・乳児の高アンモニア血症、代謝性アシドーシスをうまく予防・治療できればその後の神経学的予後は良好である。本症発症の女性の出産例も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査急性発症時にはアニオンギャップの開大する代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、高血糖、低血糖、低カルシウム血症を認める。高アンモニア血症の程度で他の有機酸血症や尿素サイクル異常症と区別をすることはできない。汎血球減少、好中球減少、血小板減少もしばしば見られる。高アンモニア血症は、細胞内のアセチル-CoAの減少によりN-アセチルグルタミン酸合成酵素活性が阻害され、尿素サイクルを障害するためと考えられている。■ 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス法)イソバレリルカルニチン(C5)の上昇が特徴的である。■ 尿中有機酸分析イソバレリルグリシン、3-ヒドロキシイソ吉草酸の著明な排泄増加が見られる。■ 酵素活性末梢血リンパ球や皮膚線維芽細胞などを用いた酵素活性測定による診断が可能であるが、国内で実際に施行できる施設はほぼない。■ 遺伝子解析原因遺伝子のIVDの解析を行う。日本人患者8例のIVD解析では15アレルに点変異、1アレルにスプライス変異が同定されているが、同一変異はない。欧米におけるp.A282Vのような高頻度変異は報告されていない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性期の治療診断を行いつつ、下記の治療を進め代謝クライシスを脱する。1)状態の安定化(1)気管挿管を含めた呼吸管理、(2)血液浄化療法を見据えた静脈ルート確保、(3)血圧の維持(昇圧剤の使用)、(4)生食などボリュームの確保2)タンパク摂取の中止最初の24時間はすべてのタンパク摂取を中止する。24~48時間以内にタンパク摂取を開始。3)異化亢進の抑制十分なカロリーを投与する(80kcal/kg/日)。糖利用を進めるためにインスリンを使用することもある。脂肪製剤の投与も行う(2.0g/kg/日まで可)。4)L-カルニチンの投与有機酸の排泄を図る。100mg/kgをボーラスで投与後、維持量として100~200mg/kg/日で投与。5)グリシンの投与イソ吉草酸とグリシン抱合させ、排泄を促す。150~250mg/kg/日分3。6)高アンモニア血症の治療迷わずカルグルミン酸(商品名:カーバグル)の投与を開始する(100mg/kgを初回投与し、その後100~250mg/kg/日で維持。経口、分2-4)。フェニル酪酸Naや安息香酸Naを100~250mg/kg/日で使用しても良い。7)代謝性アシドーシスの補正炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)で行い、改善しない場合は血液浄化療法も行う。8)血液浄化療法上記治療を数時間行っても代謝性アシドーシスや高アンモニア血症が改善しない場合は躊躇なく行う。■ 未発症期・慢性期の治療ロイシンを制限することでイソバレリルCoAの蓄積を防ぐことを目的とするが、食事制限の効果は不定である。1)自然タンパクの制限:1.0~2.0g/kg/日程度にする。2)L-カルニチン内服:100~200mg/kg/日分3で投与。3)グリシンの投与:150~250mg/kg/日分3で投与。4)シック・デイの対応:感染症などの際に早めに医療機関を受診させ、ブドウ糖などの投与を行い異化の亢進を抑制させる。本疾患は急性期に適切な診断・治療がなされれば、比較的予後は良好であり思春期以降に代謝クライシスを起こすことは非常にまれである。急性期を乗り切った後(または未発症期)に、本疾患児をフォローしていく際は、一般に精神運動発達の評価と成長の評価が中心となる。■ 成人期の課題1)食事療法一般に小児期よりはタンパク制限の必要性は低いと思われるが、十分なエビデンスがない。2)飲酒・運動体調悪化の誘因となり得るため、アルコール摂取や過度な運動は避けた方が良い。3)妊娠・出産ほとんどエビデンスがない。今後の症例の積み重ねが必要である。4)医療費の問題カルニチンの内服は続けていく必要がある。2015年から指定難病の対象疾患となり、公的助成を受けられるようになった。4 今後の展望本症はタンデムマススクリーニングの対象疾患に入っている。一例一例を確実に積み重ねることにより、今後わが国での臨床型や重症度と遺伝子型などの関連が明らかになってくると思われる。5 主たる診療科代謝科、新生児科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会ホームページ(新生児マススクリーニング診療ガイドラインは有用)公開履歴初回2020年05月26日

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ホモシスチン尿症〔homocystinuria〕

1 疾患概要■ 概念・定義ホモシスチン尿症は先天性アミノ酸代謝異常症の一種であり、メチオニンの代謝産物であるホモシステインが血中に蓄積することにより発症する1)。図にメチオニンの代謝経路を示す。メチオニンは、メチオニンアデノシルトランスフェラーゼによりS-アデノシルメチオニン(SAM)に変換、さらに脱メチル化することでS-アデノシルホモシステイン(SAH)が生成される。SAHが加水分解されるとホモシステインが生成される。ホモシステインはシスタチオニンβ合成酵素(CBS)によりシスタチオニン合成されるだけでなく、メチオニン合成酵素(MS)、もしくはベタインホモシステインによる再メチル化経路をたどり、メチオニンに変換される。CBSの異常は、ホモシスチン尿症I型もしくは古典的ホモシスチン尿症と称され、血中ホモシステイン値、メチオニン値が高値となる。II型はMSの補酵素である細胞内コバラミン(ビタミンB12、Cb1)の代謝異常、III型はN5、N10-メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)の障害による葉酸代謝異常であり、II型、III型ともに再メチル化によるメチオニン合成が障害されるため、メチオニン値が低下し、ホモシステイン増加する。ホモシスチン尿症I型は頻度が最も多いとされており、新生児マススクリーニングではメチオニン増加を指標としてスクリーニングが行われている。図 メチオニン代謝経路画像を拡大する■ 疫学CBS欠損症は常染色体劣性遺伝を呈する疾患であり、発症頻度は1,800~90万人に1人と推測されているが、わが国での患者発見頻度は、約80万人に1人である1,2)。■ 病因CBSの活性低下によりホモシステインが蓄積すると、ホモシステインは酸化されて二量体であるホモシスチンが尿中に排泄される。また、蓄積したホモシステインはメチオニンへと再メチル化が促され、血中メチオニンが上昇し、シスタチオニンとシステインが欠乏する。ホモシステインはチオール基を介して生体内の種々のタンパクとも結合する。その過程で生成されるスーパーオキサイドなどにより、血管内皮細胞障害を来すと考えられている。また、ホモシステインがフィブリリンの機能を障害するため、マルファン症候群様の、眼症状や骨格異常を発現すると考えられている1)。■ 症状古典的ホモシスチン尿症の臨床症状は骨格系の異常、眼症状、中枢神経症状、血管系の障が認められる1)。1)中枢神経系異常知的障害、てんかん、精神症状(パーソナリティ障害、不安、抑うつなど)2)骨格異常骨粗鬆症、高身長、くも状指、側弯症、鳩胸、凹足、外反膝(マルファン症候群様体型)3)眼症状水晶体亜脱臼に伴う近視(無治療では10歳までに80%以上の症例で水晶体亜脱臼を呈する)、緑内障4)血管系障害冠動脈血栓症、肺塞栓、脳血栓塞栓症、大動脈解離血栓症■ 分類CBSはビタミンB6(ピリドキシン)を補酵素とする。CBS欠損症には大量のビタミンB6投与により血中メチオニン、ホモシステインが低下するビタミンB6反応型と、低下しないビタミンB6不応型がある。欧米白人ではビタミンB6反応型が約半数を占めるが、日本人ではまれである1)。■ 予後早期に治療導入され、適切にコントロールが行われた症例では、全般的に予後良好とされているが、長期的予後は明らかにされていない。ビタミンB6不応型において無治療の場合には、生命予後は著明に悪化する。ビタミンB6反応型の生命予後は明らかになってない3)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般血液検査・尿検査では特徴的な所見は認めない。以下の診断の根拠となる特殊検査のうち、血中メチオニン高値(1.2mg/dL〔80μmol/L〕)以上、かつ総ホモシステイン基準値(60μmol/L)以上を満たせば、CBS欠損症の確定診断とする1)。■ 診断の根拠となる特殊検査1)血中メチオニン高値:1.2mg/dL(80μmol/L)以上〔基準値:0.3~0.6mg/dL(20~40μmol/L)〕2)高ホモシステイン血症:60μmol/L以上(基準値:15μmol/L以下)3)尿中ホモシスチン排泄:基準値が検出されない。4)線維芽細胞、あるいはリンパ芽球でのCBS活性低下5)遺伝子解析:CBS遺伝子の両アレルに病因として病原性変異を認める。■ 鑑別診断臨床症状からはマルファン症候群や血栓性疾患との鑑別が必要である3)。生化学的検査所見からの診断を以下に示す、メチオニン高値、またはホモシステイン高値を来す疾患が鑑別に挙がる1)。1)高メチオニン血症を来す疾患(1)メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症(2)シトリン欠損症(3)新生児肝炎などの肝機能異常2)高ホモシステイン血症(広義の「ホモシスチン尿症」)を来す疾患(1)メチオニン合成酵素欠損症(2)MTHFR欠損症(ホモシスチン尿症II型)(3)ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸血症(コバラミン代謝異常症C型など)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ホモシスチン尿症の治療目標は、臨床症状の緩和や発症リスクを減らすために、血中ホモシステイン値を正常範囲でコントロールすることである。■ 食事療法メチオニンの摂取制限を実施し、血中メチオニン濃度を1mg/dL(67μmol/L)以下に保つようにする。ヨーロッパのガイドラインにおいては、ビタミンB6反応性ホモシスチン尿症では、総ホモシステイン<50μmol/Lを目標とすることが推奨されている3)。新生児・乳児期には許容量かつ必要量のメチオニンを母乳、一般粉乳、離乳食などから摂取し、不足分のカロリー、必須アミノ酸などは治療乳メチオニン除去粉乳(商品名:雪印S-26)から補給する1)。幼年期以降の献立は、食事療法ガイドブック(特殊ミルク事務局のホームページより入手可能)を参考にする1)。血中ホモシステイン値のコントロールが不良(100μmol/L以上)の場合には、血栓塞栓症のリスクが高まるため、厳格な食事療法を継続する必要性がある。■ L-シスチン補充ホモシステインの下流にあるL-シスチンを補充する。メチオニン除去乳(同:雪印S-26)にはL-シスチンが添加されている。市販されているL-シスチンのサプリメントを併用することもある1)。■ ビタミンB6大量投与ビタミンB6反応型か否かの確認は、ホモシスチン尿症の確定診断後、まず低メチオニン・高シスチン食事療法を行い、生後6ヵ月時に検査を行う。入院のうえ、食事を普通食にした後に、ピリドキシン40mg/kg/日を10日間経口投与する。血中メチオニン、ホモシスチン値の低下が認められた場合には投与量を漸減し、有効最小必要量を定め継続投与する。反応がなければ食事療法を再開し、体重が12.5kgに達する2~3歳時に再度ピリドキシン500mg/日の経口投与を10日間試みる1)。ビタミンB6反応型では、CBS活性を上昇させるためにピリドキシンの大量投与(30~40mg/kg/日)を併用する。ビタミンB6を併用することで食事療法の緩和が可能であることが多い。■ ベタインベタイン(同:サイスタダン)は再メチル化の代替経路を促進し、過剰なホモシステインをメチオニンへと変換し、血中ホモシステイン値を低下させることができる。ベタインの投与量は11歳以上には1回3g、11歳未満では50mg/kg/日を1日2回経口投与する。ただしベタイン単独でホモシステイン値を50μmol/L以下にコントロールすることは困難であり、食事療法との併用が必要である。ベタイン投与により血中メチオニン上昇を伴う脳浮腫が報告されており、メチオニン値が15mg/dL(1,000μmol/L)を超える場合には、ベタインや自然蛋白摂取量を減量する1)。■ 葉酸、ビタミンB12CBS欠損症では、血中葉酸、ビタミンB12が低下する場合があり、適宜補充する。4 今後の展望CBS欠損症の新規治療法として、ケミカルシャペロン療法の検討がなされている4)。また酵素補充療法の治験が欧米で進行中であり、結果が待たれる。5 主たる診療科小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特殊ミルク事務局(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019.2019.p.35-42.2)Jean-Marie Saudubray, et al. Inborn Metabolic Diseases Diagnosis and Treatment 6th Ed.Springer-verlag.;2016.p.314-316.3)Morris AA, et al. J Inherit Metab Dis. 2017;40:49-74.4)Melenovska P, et al. J Inherit Metab Dis. 2015;38:287-294.公開履歴初回2020年05月12日

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