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薬剤耐性菌の菌血症による死亡、国内で年8千例超

 これまで、わが国における薬剤耐性による死亡者数は明らかになっていなかった。今回、国立国際医療研究センター病院の都築 慎也氏らは、薬剤耐性菌の中でも頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)について、日本におけるそれらの菌血症による死亡数を検討した。その結果、MRSA菌血症の死亡は減少している一方で、FQREC菌血症による死亡が増加していること、2017年には合わせて8,000例以上が死亡していたことがわかった。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2019年12月1日号に掲載。 本研究では、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータから、2011~17年における日本全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究に基づいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定した。 主な結果は以下のとおり。・黄色ブドウ球菌による菌血症での死亡は、2011年は1万7,412例、2017年は1万7,157例と推定された。このうち、MRSA菌血症による死亡は、2011年は5,924例(34.0%)、2017年は4,224例(24.6%)と減少した。・大腸菌による菌血症での死亡は、2011年は9,044例、2017年は1万4,016例と増加した。このうち、FQREC菌血症は、2011年は2,045例(22.6%)、2017年は3,915例(27.9%)と増加した。

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スティーブンス・ジョンソン症候群〔SJS : Stevens-Johnson Syndrome〕、中毒性表皮壊死症〔TEN : Toxic Epidermal Necrolysis〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬疹(薬剤性皮膚障害)は軽度の紅斑から重症型までさまざまであるが、とくにスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)型薬疹と中毒性表皮壊死症(Toxic epidermal necrolysis:TEN)型薬疹は重篤な経過をたどり、死に至ることもある。両疾患はウイルス感染症や細菌感染症に続発して生じることもあるが、原因の大半は薬剤であるため、本稿では両疾患をもっぱら重症型薬疹の病型として取り扱う。■ 疫学近年、薬剤による副作用がしばしばマスコミを賑わせているが、薬疹は目にみえる副作用であり、とくに重症型薬疹においては訴訟に及ぶこともまれではない。重症型薬疹の発生頻度は、人口100万人当たり、SJSが年間1~6人、TENが0.4~1.2人と推測されている。2009年8月~2012年1月までの2年半の間に製薬会社から厚生労働省に報告されたSJSおよびTENの副作用報告数は1,505例(全副作用報告数の1.8%)で、このうち一般用医薬品が被疑薬として報告されたのは95例であった。原因薬剤は多岐にわたり、上記期間にSJSやTENの被疑薬として報告があった医薬品は265成分にも及んでいる。カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛消炎薬、セフェム系やニューキノロン系抗菌薬、アロプリノールなどの痛風治療薬、総合感冒薬、フェノバルビタールなどの抗不安薬による報告が多いが、それ以外の薬剤によることも多く、最近では一般用医薬品による報告が増加している。■ 病因薬疹は薬剤に対するアレルギー反応によって生じることが多く、I型(即時型)アレルギーとIV型(遅延型)アレルギーとに大別できる。I型アレルギーによる場合は、原因薬剤の投与後数分から2~3時間で蕁麻疹やアナフィラキシーを生じる。一方、大部分を占めるIV型アレルギーによる場合は、薬剤投与後半日から2~3日後に、湿疹様の皮疹が左右対側に生じることが多い。薬剤を初めて使用してから感作されるまでの期間は4日~2週間のことが多いが、場合によっては10年以上安全に使用していた薬剤でも、ある日突然薬疹を生じることがある。患者の多くは薬剤アレルギーの既往がなく突然発症するが、重症型薬疹の場合はウイルスなど感染症などが引き金になって発症することも多い。男女差はなく中高年に多いが、20~30代もまれではない。近年、免疫反応の異常が薬疹の重症化に関与していると考えられるようになった。すなわち、免疫やアレルギー反応は制御性T細胞とヘルパーT細胞とのバランスによって成り立っており、正常な場合は、1型ヘルパーT細胞による免疫反応を制御性T細胞が抑制している。通常の薬疹では(図1)、1型ヘルパーT細胞が薬剤によって感作されて薬剤特異的T細胞になり、同じ薬剤の再投与により活性化されると薬疹が発症する。画像を拡大するしばらく経つと制御性T細胞も増加・活性化するため、過剰な免疫反応が抑制され、薬疹は軽快・治癒する。ところが、重症型薬疹の場合(図2)は、ウイルス感染などにより制御性T細胞が抑制され続けているため、薬疹発症後も免疫活性化状態が続く。薬剤特異的T細胞がさらに増加・活性化しても、制御性T細胞が活性化しないため、薬剤を中止しても重症化し続ける。画像を拡大する細胞やサイトカインレベルからみた発症機序を示す(図3)。画像を拡大する医薬品と感染症によって過剰な免疫・アレルギー反応を生じ、活性化された細胞傷害性Tリンパ球(CD8 陽性T細胞)や単球、マクロファージが表皮細胞を傷害してネクロプトーシス(ネクローシスの形態をとる細胞死)を誘導し、表皮細胞のネクロプトーシスが拡大することによりSJSやTENに至る、と考えられている。■ 症状重症型薬疹に移行しやすい病型として、とくに注意が必要なのは多形滲出性紅斑で、蕁麻疹に似た標的(ターゲット)型の紅斑が全身に生じ、短時間では消退せず、重症例では皮膚粘膜移行部にびらんを生じ、SJSに移行する。SJSは、全身の皮膚に多形滲出性紅斑が多発し、口唇、眼結膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部や口腔内の粘膜にびらんを生じる。しばしば水疱や表皮剥離などの表皮の壊死性障害を来すが、一般に体表面積の10%を超えることはない。38℃以上の発熱や全身症状を伴うことが多く、死亡もまれではない。TENは最重症型の薬疹で、全身の皮膚に広範な紅斑と、体表面積の30%を超える水疱、表皮剥離、びらんなど表皮の重篤な壊死性障害を生じる。眼瞼結膜や角膜、口腔内、外陰部に粘膜疹を生じ、38℃以上の高熱や激しい全身症状を伴い、死亡率は30%以上に及ぶ。救命ができても全身の皮膚に色素沈着や視力障害を残し、失明に至ることもある。また、皮膚症状が軽快した後も、肝機能や呼吸器などに障害を残すことがある。なお、表皮剥離が体表面積の10%以上30%未満の場合、SJSからTENへの移行型としている。■ 予後SJS、TENともに、薬剤を中止しても適切な治療が行われなければ非可逆的に増悪し、ステロイド薬の全身投与にも反応し難いことがある。皮疹の経過は多形滲出性紅斑 → SJS → TENと増悪していく場合と、最初からSJSやTENを生じる場合とがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)薬疹は皮疹の分布や性状によってさまざまな病型に分類されるが、重症型薬疹は一般に、(1)急激に発症し、急速に増悪、(2)全身の皮膚に新鮮な発疹や発赤が多発する、(3)結膜、口腔、外陰などの粘膜面や皮膚粘膜移行部に発赤やびらんを生じる、(4)高熱を来す、(5)全身倦怠や食欲不振を訴える、などの徴候がみられることが多い。皮膚のみならず、肝腎機能障害、汎血球・顆粒球減少、呼吸器障害などを併発することも多いため、血算、白血球分画、生化学、非特異的IgE、CRP、血沈、尿検査、胸部X線撮影を行う。また、ステロイド薬の全身投与前に糖尿病の有無を調べる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療の実際長年安全に使用していた薬剤でも、ある日突然重症型薬疹を生じることもあるため、基本的に全薬剤を中止する。どうしても中止できない場合は、治療上不可欠な薬剤以外はすべて中止するか、系統(化学構造式)のまったく異なる、患者が使用した経験のない薬剤に変更する。急速に増悪することが多いため、入院させて全身管理のもとで治療を行う。最強クラスの副腎皮質ステロイド薬(クロベタゾールプロピオン酸など)を外用し、副腎皮質ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン 30~60mg/日)を行う。治療効果が乏しければ、ステロイドパルス(メチルプレドニゾロン 1,000mg/日×3日)およびγグロブリン(献血グロベニン 5g/日×3日)の投与を早急に開始する。反応が得られなければ、さらに血漿交換や免疫抑制薬(シクロスポリン 5mg/kg/日)の投与も検討する。■ 原因薬剤の検索治癒した場合でも再発予防が非常に重要である。原因薬剤の検索は、皮疹の軽快後に再投与試験を行うのが最も確実であるが、非常にリスクが大きい。入院させて通常処方量の1/100程度のごく少量から投与し、漸増しながら経過をみるが、薬疹に対する十分な知識や経験がないと、施行は困難である。再投与試験に対する患者の了解が得られない場合や、安全面で不安が残る場合は、皮疹消退後にパッチテストを行う。パッチテストは非常に安全な検査で、しかも陽性的中率が高いが、感度は低く60%程度しか陽性反応が得られない。また、ステロイド薬の内服中は陽性反応が出にくくなる。In vitroの検査では「薬剤によるリンパ球刺激試験」(drug induced lymphocyte stimulation test:DLST)が有用である。患者血清中のリンパ球と原因薬剤を反応させ、リンパ球の幼若化反応を測定するが、感度・陽性的中率ともにパッチテストよりも低い。DLSTは薬疹の最盛期にも行えるが、発症から1ヵ月以上経つと陽性率が低下する。したがって、再投与試験を行えない場合はパッチテストとDLSTの両方を行い、両者の結果を照合することにより原因薬剤を検討する。現在、健康保険では3薬剤まで算定できる。4 今後の展望近年、重症型薬疹の発症を予測するバイオマーカーとして、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen:HLA)(主要組織適合遺伝子複合体〔MHC〕)の遺伝子多型が注目されている。すなわち、HLAは全身のほとんどの細胞の表面にあり免疫を制御しているが、特定の薬剤による重症型薬疹(SJS、TEN)の発症にHLAが関与しており、とくに抗痙攣薬(カルバマゼピンなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノール)による重症型薬疹と関連したHLAが相次いで発見されている。さらに、同じ薬剤でも人種・民族により関与するHLAが異なることが明らかになってきた(表)。画像を拡大するたとえば、日本人のHLA-A*3101保有者がカルバマゼピンを使用すると、8人に1人が薬疹を発症するが、もしこれらのHLA保有者にカルバマゼピン以外の薬剤を使用すると、薬疹の発症頻度が1/3になると推測されている。また、台湾では、カルバマゼピンによる重症型薬疹患者のほぼ全員がHLA-B*1502を保有しており、保有者の発症率は非保有者の2,500倍も高いといわれている。そのため台湾では、カルバマゼピンとアロプリノールの初回投与前には、健康保険によるHLA検査が義務付けられている。このようにあらかじめ遺伝子多型が判明していれば、使用が予定されている薬剤で重症型薬疹を起こしやすいか否かが予測できることになる。5 主たる診療科複数の常勤医のいる基幹病院の皮膚科、救命救急センター※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報医薬品・医療機器等安全性情報 No.290(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.293(医療従事者向けのまとまった情報)医薬品・医療機器等安全性情報 No.285(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報SJS患者会(SJSの患者とその家族の会)1)藤本和久. 日医大医会誌. 2006; 2:103-107.2)藤本和久. 第5節 粘膜症状を伴う重症型薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症). In:安保公介ほか編.希少疾患/難病の診断・治療と製品開発.技術情報協会;2012:1176-1181.3)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会. 日皮会誌. 2016;126:1637-1685.公開履歴初回2014年01月23日更新2019年10月21日

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キノロン系薬に末梢神経障害などの使用上の注意改訂指示

 フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の添付文書について、2019年9月24日、厚生労働省より使用上の注意の改訂指示が発出された。今回の改訂は、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬のアキレス腱や精神、末梢神経障害に関連した副作用に関するもので、米国や欧州の添付文書が改訂されたことを受け、日本国内症例、公表論文等の情報に基づき添付文書改訂の必要性が検討されたことによるもの。製剤ごとの改訂内容記載の違いに注意改訂の概要は以下のとおり。・「重大な副作用」の項に「末梢神経障害」「精神症状」を追記する。・「重大な副作用」の項に「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」を追記する。・「重大な副作用」の項の「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」の初期症状などの記載を整備する。または、「腱炎、腱断裂等の腱障害」の項を「アキレス腱炎、腱断裂等の腱障害」とし、初期症状等の記載を整備する。◆該当薬剤の一覧(商品名:承認取得者)オフロキサシン[経口剤] (タリビット:アルフレッサファーマ、ほか)メシル酸ガレノキサシン水和物 (ジェニナック:富士フィルム富山化学)シタフロキサシン水和物 (グレースビット:第一三共、ほか)シプロフロキサシン (シプロキサン:バイエル薬品、ほか)シプロフロキサシン塩酸塩水和物 (シプロキサン:バイエル薬品、ほか)トスフロキサシントシル酸塩水和物[経口剤] (オゼックス:富士フィルム富山化学、トスキサシン:マイランEPD、ほか)ノルフロキサシン[経口剤] (バクシダール:杏林製薬、ほか)パズフロキサシンメシル酸塩 (パシル:富士フィルム富山化学、パズクロス:田辺三菱製薬)ピペミド酸水和物 (ドルコール:日医工)プルリフロキサシン (スオード:MeijiSeikaファルマ)モキシフロキサシン塩酸塩[経口剤] (アベロックス:バイエル薬品)レボフロキサシン水和物[経口剤、注射剤] (クラビット:第一三共、ほか)塩酸ロメフロキサシン[経口剤] (バレオン:マイランEPD、ほか)薬剤ごとに注意喚起が異なるのはなぜか? 腱障害および精神症状については、すべてのフルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の添付文書において注意喚起がなされるよう改訂が適切と判断された。これは、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬の多くの成分の現行添付文書で一定の注意喚起がなされているものの、腱障害についてはコラーゲン組織の障害が、精神症状についてはGABA神経の抑制などが発現機序として考えられ、当該抗菌薬に共通のリスクと判断されたためである。 一方、末梢神経障害については、フルオロキノロン系およびキノロン系抗菌薬に共通のリスクであることを示す発現機序や疫学的知見は乏しく、現時点で一律の改訂は不要と考えられている。しかし、トスフロキサシントシル酸塩水和物、レボフロキサシン水和物、メシル酸ガレノキサシン水和物については国内症例が集積していること、オフロキサシンは国内症例の集積はないもののレボフロキサシンのラセミ体であることから、改訂が適切と判断された。■「添付文書記載要領」関連記事4月の添付文書記載要領改正、実物の記載例公表

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第28回 生菌製剤は本当に抗菌薬関連下痢症に効果があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗菌薬(antibiotics)と生菌製剤(probiotics)の併用は日常的に見掛ける定番処方だと思います。双方の英語の語源からも対になっているイメージがあります。抗菌薬は腸内細菌叢を障害し、Clostridium difficile(以下、CD)感染症を含む抗菌薬関連下痢症を引き起こすことがありますので、生菌製剤によって腸内細菌叢のバランスを改善し、下痢症を予防することを期待した処方です。健康成人ではとくに併用しなくても問題ないことが多いですが、安価ですのでよく用いられています。今回は、抗菌薬とよく併用される生菌製剤の効果について紹介します。まず代表的な生菌製剤として、耐性乳酸菌製剤(商品名:ビオフェルミンR、ラックビーR)があります。「耐性」とあるように、商品名の「R」はresistanceの頭文字で、普通錠にはない抗菌薬への耐性が付加されています。これらはとにかく多用されていますので、適応のないニューキノロン系やペネム系などとの誤併用に対して疑義照会をした経験がある方は多いのではないかと思います。そのような場合、代替薬として何を提案すべきか迷いますよね。「R」の製剤ではなく普通錠を提案しがちですが、普通錠で抗菌薬投与時の下痢を予防できるのでしょうか?この疑問に関するエビデンスとして、PLACIDEという多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を紹介します。生菌製剤の抗菌薬関連下痢症の予防効果を検証した、それまでになかった大規模な試験です1)。対象は1剤以上の抗菌薬を投与された65歳以上の入院患者2,941例(99.9%が白人)です。対象患者は、乳酸菌2株とビフィズス菌2株を含む生菌製剤(総菌数6×1010)群またはプラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、1日1回21日間服用しました。主要評価項目は、8週以内の抗菌薬関連下痢症または12週以内のCD関連下痢症でした。8週以内の抗菌薬関連下痢症の発現率は、生菌製剤群10.8%(159例)、プラセボ群10.4%(153例)であり、有意差はありませんでした(RR:1.04、95%信頼区間[CI]:0.84~1.28、p=0.71)。また、CD関連下痢症の発現率はそれぞれ0.8%(12例)、1.2%(17例)であり、こちらも有意差はありませんでした(RR:0.71、95%CI:0.34~1.47、p=0.35)。抗菌薬の内訳はペニシリン72%、セファロスポリン24%、カルバペネムまたは他のβラクタム2%、クリンダマイシン1%、キノロン13%でした。ただし、検出力を考慮すると、本当は有意差があるのに有意差なしとなるβエラーが生じている可能性があり、実際には生菌製剤の効果があるのに無効と判断されているケースも除外できないので、乳酸菌とビフィズス菌には抗菌薬関連下痢症の予防効果がないと判断するのは注意が必要かもしれません。酪酸菌には抗菌薬関連下痢症を減少させるエビデンスありでは、他の菌株ではどうなのでしょうか? 酪酸菌(宮入菌)製剤(商品名:ミヤBM)を用いた研究がありますので紹介します。上気道感染症または胃腸炎の小児110例を、(1)抗菌薬のみ服用する群27例、(2)抗菌薬治療の中間時点から酪酸菌製剤を併用する群38例、(3)抗菌薬治療の開始と同時に酪酸菌製剤を併用する群45例の3グループに分けて腸内細菌叢の変化を調査しています2)。抗菌薬のみを服用した群では下痢が59%で観察され、総糞便嫌気性菌とくにビフィズス菌が減少していました。一方で、抗菌薬治療の中間時点または開始時から酪酸菌製剤を併用した群では、酪酸菌製剤が嫌気性菌を増加させるとともにビフィズス菌の減少を防ぎ、下痢の発現率はそれぞれ5%および9%に減少しました。本剤は酪酸菌の芽胞製剤で、胃酸によって死滅せず、腸で発芽して効果を発揮するため効果が期待できるというのは製剤特性からも説明できます。酪酸菌に加えて、糖化菌とラクトミンを配合した酪酸菌配合剤(商品名:ビオスリー配合錠)も同様に有効であるものと推察されます。薬局にいたときは、これらの生菌製剤を併用処方される患者さんもよく見掛けました。もしこれらの生菌製剤が無効の場合は、ラクトミン+ガゼイ菌で抗菌薬関連下痢症およびCD関連下痢症の頻度が減ることを示唆した研究も参考になります3)。抗菌薬関連下痢症は頻度が高く、治療継続への影響も大きいので、より適切な生菌製剤を提案できるようにしておくとよいかと思います。1)Allen SJ, et al. Lancet. 2013;382:1249-1257.2)Seki H, et al. Pediatr Int. 2003;45:86-90.3)Gao XW, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:1636-1641.

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結核のDOTにもスマートフォン導入か(解説:吉田敦氏)-1032

 抗結核療法は長期にわたる。不完全な内服は、治療効果を下げるばかりか、耐性出現と周囲への感染リスクを少なくするためにもできる限り避けるべきであり、アドヒアランスの保持を目的としたDOT(Direct observed therapy)は世界的にも主流となっている。しかし直接会って内服を確認するのは、患者、医療従事者双方にとって負担である。スマートフォンの普及がDOTにプラスに働くかどうか―スマートフォンとアプリを使って内服状況を本人がビデオ撮影し、医療従事者に送信してアドヒアランスを確認するVOT法が英国で試みられ、従来の対面によるDOTとVOT法のランダム化比較試験の結果が発表された。 本検討では、過去にホームレス、懲役刑、薬物乱用、アルコールやメンタルヘルスの問題の既往のある患者が約6割を占め、また多くが英国外出生であった。DOTは週3~5日の確認(約半数は家において)、VOTは毎日の確認であり、VOTでは何らかの症状がある場合それについても報告可能とした。プライマリーエンドポイントは、ランダム化後の2ヵ月でスケジュールどおりの内服率が80%以上に達することとしたが、DOT群ではアドヒアランスはランダム化後すみやかに低下してしまい、プライマリーエンドポイント達成割合はVOT群で70%、DOT群で31%であった。なお有症状報告患者数は両群ともほぼ同数であったが、報告数でみるとVOTのほうが多かった。またVOTに関わる時間は、医療従事者・患者ともにDOTよりも少なかったわけであるが、コストは週5回のDOTに比較して、VOTは3分の1以下となった。 アドヒアランスに支障が生じやすい患者を相当数含んだ今回の検討において、得られた達成率を鑑みるとVOTは評価できるとみてよいであろう。とくに(英国外生まれの)34歳以下の男性で差が大きく、いわばスマートフォンになじみやすい世代に有効であったことがうかがえる。アドヒアランスを高める“動機”はさまざまであることがわかっているが、より個人に合い、簡便で、かつ自発性を促すものが望まれるかもしれない。一方で提供されたVOTにはリマインドや内服確認、症状報告メッセージなど細かなサービスが要求されていた。VOTのサービスの質的改良はこれからも続き、それによるアドヒアランス向上も期待できると考えられるが、VOTが果たしうる役割は、文化的・社会的背景が異なるそれぞれの国によっても差があるであろう。ロンドンではすでに多剤耐性結核患者にもこのVOTが導入されたと聞く。世界各国での今後の展開と応用に期待したい。

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プライマリケアにおける高齢者の尿路感染症には速やかな抗菌薬処方が有効(解説:小金丸博氏)-1023

 尿路感染症は高齢者における最も代表的な細菌感染症である。重症度は自然軽快する軽症のものから、死亡率が20~40%に至る重症敗血症まで幅広い。高齢者では典型的な臨床経過や局所症状を認めないことも多く、診断は困難である。そのうえ、65歳以上の女性の20%以上に無症候性細菌尿を認めることが尿路感染症の診断をさらに困難にする。 現在、薬剤耐性菌を減らすための対策として世界中で抗菌薬の適正使用を推進する動きがある。最近の英国からの報告によると、2004年~2014年の間にプライマリケアにおける高齢者の尿路感染症に対する広域抗菌薬の処方は減少していたが、その一方でグラム陰性菌による血流感染症が増加しており、その関連性が議論されている。 本研究は、高齢者の下部尿路感染症患者に対する抗菌薬治療介入の方法と治療成績の関係を検討した後ろ向きコホート研究である。英国のプライマリケアを受診した65歳以上の患者のうち、下部尿路感染症と確定診断、あるいは疑われた全患者を対象とした。無症候性細菌尿、複雑性尿路感染症、入院例などは除外された。抗菌薬の処方タイミングによって、即時処方群(初回診断日に処方)、待機処方群(初回診断日から7日以内に処方)、処方なし群の3群に分類し、診断から60日以内の血流感染症、全死亡率などを比較した。その結果、60日以内の血流感染症の発生率は即時処方群が0.2%だったのに対し、待機処方群は2.2%、処方なし群は2.9%と有意に高率だった(p=0.001)。共変量で補正すると、即時処方群と比較した待機処方群の血流感染症のオッズ比は7.12(95%信頼区間:6.22~8.14)、処方なし群のオッズ比は8.08(同:7.12~9.16)だった。60日以内の全死亡率は、即時処方群が1.6%、待機処方群が2.8%、処方なし群が5.4%だった。多変量Cox回帰モデルで解析した結果、高齢、男性、Charlson併存疾患指数、喫煙などが60日以内の死亡と関連があった。特に、85歳以上の男性において死亡リスクが高かった。 本研究において、高齢者の下部尿路感染症に対して抗菌薬を即時処方することで、その後の血流感染症発生率や死亡率を減らすことが示された。後ろ向き研究であるものの、英国のデータベースを用いた非常に患者数の大きい研究であり、結果の信頼度は高い。研究のlimitationとして、菌名や耐性菌の割合など原因微生物の情報がないこと、患者の服薬遵守率が不明なこと、続発した血流感染症の侵入門戸が尿路かどうか不明なことなどが挙げられる。耐性菌を蔓延させないために抗菌薬の使用量を減らす努力は重要であるが、高齢者の尿路感染症に対して抗菌薬を投与することは妥当と考える。ただし、無症候性細菌尿に対して抗菌薬を投与することは厳に慎まなければならない。 本研究の結果をみると即時処方群が86.6%を占めていたが、本邦では高齢者の尿路感染症に対してもっと高率に抗菌薬を処方していると思われる。処方された抗菌薬をみてみると、トリメトプリム、ニトロフラントインがセファロスポリンやペニシリン系より多かった。キノロン系抗菌薬の割合が4.4%と少なかったことは、日本のプライマリケアの現場でも大いに見習うべき点であろう。

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リファンピシン耐性結核に短期レジメンが有望/NEJM

 リファンピシン耐性結核の治療において、高用量モキシフロキサシンを含む9~11ヵ月の短期レジメンは、2011年のWHOガイドラインに準拠した長期レジメン(20ヵ月)に対し、有効性が非劣性で安全性はほぼ同等であることが、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAndrew J. Nunn氏らが実施したSTREAM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月13日号に掲載された。バングラデシュのコホート研究では、多剤耐性結核患者において、2011年のWHOの推奨治療よりも治療期間が短いレジメンを用いた既存薬の投与により、有望な治癒率が得られたと報告されている。アフリカとアジア4ヵ国の非劣性試験 本研究は、多剤耐性結核の治療における、バングラデシュ研究と類似の短期レジメンの、2011年版WHOガイドライン準拠の長期レジメンに対する非劣性を検証する無作為化第III相試験である(米国国際開発庁[USAID]などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、フルオロキノロン系およびアミノグリコシド系抗菌薬に感受性で、リファンピシン耐性の肺結核患者であった。被験者は、高用量モキシフロキサシンを含む短期レジメン(9~11ヵ月)または2011年版WHOガイドライン準拠の長期レジメン(20ヵ月)を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは132週時の「良好な状態」とした。その定義は、132週時の培養および試験期間中の培養でMycobacterium tuberculosisが陰性で、不良なアウトカム(割り付けレジメンに含まれない2剤以上による治療の開始、許容期間を超える治療の延長、死亡、直近の2つの検体のうち1つで培養陽性、76週以降の受診がない)を認めないこととした。群間差の95%信頼区間(CI)上限値が10%以下の場合に、非劣性と判定した。 2012年7月~2015年6月の期間に、424例(エチオピア:126例、モンゴル:33例、南アフリカ共和国:165例、ベトナム:100例)が割り付けの対象となり、383例(短期レジメン群:253例、長期レジメン群:130例)が修正intention-to-treat(mITT)解析に含まれた。mITT集団の主要アウトカム:78.8% vs.79.8% ベースライン時に全体の32.6%でHIV感染が、77.2%でcavitationが認められた。治療期間中央値は、短期レジメン群が40.1週(5パーセンタイル値37.0、95パーセンタイル値46.3)、長期レジメン群は82.7週(72.1、102.3)だった。 mITT解析による主要アウトカムは、短期レジメン群が78.8%(193例)、長期レジメン群は79.8%(99例)に認められ、HIV感染で補正した群間差は1.0(95%CI:-7.5~9.5)であり、非劣性が示された(非劣性:p=0.02)。また、per-protocol集団(321例)においても、短期レジメン群の長期レジメン群に対する非劣性が確認された(補正群間差:-0.7%、95%CI:-10.5~9.1、非劣性:p=0.02)。 Grade3~5の有害事象は、短期レジメン群が48.2%、長期レジメン群は45.4%に、重篤な有害事象は、それぞれ32.3%、37.6%にみられた。8.5%、6.4%が死亡した。 短期レジメン群で、QT間隔または補正QT間隔(Fridericia法で補正)の500msecまでの延長が多く認められたため(11.0% vs.6.4%、p=0.14)、厳重なモニタリングとともに、一部の患者では投薬の調整が行われた。フルオロキノロン系またはアミノグリコシド系抗菌薬への獲得耐性が、短期レジメン群の3.3%(8例)、長期レジメン群の2.3%(3例)にみられた(p=0.62)。 著者は、「今回の結果は有望だが、多剤耐性結核の治療では、薬剤感受性結核と同等の有効性と安全性をもたらす短期の簡便なレジメンを見つけ出すことが、依然として重要である」としている。

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結核治療、スマホによる監視が有望/Lancet

 直接監視下治療(DOT)は、1990年代初頭から結核の標準治療とされるが、患者や医療サービス提供者にとっては煩雑である。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのAlistair Story氏らは、スマートフォンを利用するビデオ監視下治療(VOT)はDOTよりも有効であり、簡便で安価な結核治療の監視アプローチであることを示した。WHOは、2017年、DOTの代替法としてVOTを条件付きで推奨したが、無作為化対照比較試験がほとんどないためエビデンスのグレードは低いという。Lancet誌オンライン版2019年2月21日号掲載の報告。イングランドの22施設が参加、治療監視の完遂率を比較 本研究は、VOTのDOTに対する優越性の検証を目的とする解析者盲検無作為化対照比較試験であり、2014年9月~2016年10月の期間にイングランドの22施設で患者登録が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 対象は、年齢16歳以上、肺または肺外の活動性結核に罹患し、各施設の規定でDOTが適格と判定された患者であった。スマートフォンの充電設備がない患者は除外された。 被験者は、VOT(毎日、スマートフォンのアプリケーションを用いて遠隔監視を行う治療)またはDOT(週に3~5回、自宅、地域[薬局など]または診療所で直接監視下に行う治療)を受ける群に無作為に割り付けられた。DOTでは、医療従事者などが治療の監視を行い、患者は毎日、自分で薬剤を投与した。VOTは、ロンドンからの集中型の医療サービスにより提供された。 VOTでは、患者が動画を撮影して送信し、研修を受けた治療監視者が、パスワードで保護されたウェブサイトを介してこれらの動画を評価した。また、患者は、動画で薬剤の有害事象を報告するよう奨励された。スマートフォンとデータプランは担当医から無料で提供された。 主要アウトカムは、試験登録から2ヵ月の期間における予定された治療監視の80%以上の完遂とした。intention-to-treat(ITT)解析および限定解析(1週間以上の監視が行われた患者のみを含む)を行った。ITT解析:70% vs.31%、限定解析:77% vs.63% 226例が登録され、VOT群に112例、DOT群には114例が割り付けられた。全体として、英国以外の国で出生した若年成人が多かった。また、ホームレス、禁固刑、薬物使用、アルコールや精神的健康の問題の経歴を持つ患者の割合が高かった。1週間以上の監視を完遂した患者は、VOT群が101例(90%)と、DOT群の56例(49%)に比べ多かった。 ITT解析では、2ヵ月間に予定された治療監視の80%以上を完遂した患者の割合は、VOT群が70%(78/112例)と、DOT群の31%(35/114例)に比べ有意に良好であった(補正後オッズ比[OR]:5.48、95%信頼区間[CI]:3.10~9.68、p<0.0001)。 限定解析でも、80%以上を完遂した患者は、VOT群が77%(78/101例)であり、DOT群の63%(35/56例)と比較して有意に優れた(補正後OR:2.52、95%CI:1.17~5.54、p=0.017)。 VOT群は、試験期間を通じて80%以上の完遂率が高い状態が継続したが、DOT群は急速に低下した。また、最長6ヵ月の全フォローアップ期間における予定監視の完遂率は、VOT群が77%(1万2,422/1万6,230件)であったのに対し、DOT群は39%(3,884/9,882件)と、有意な差が認められた(p<0.0001)。限定解析でも、VOT群が有意に良好だった(83% vs.61%、p<0.0001)。 有害事象は、VOT群の32例から368件、DOT群の15例から184件が報告された。両群とも胃痛・悪心・嘔吐の頻度が高く、VOT群で16例(14%)、DOT群では9例(8%)に認められた。 1回の投与に要する時間は、医療サービス提供者および患者ともVOT群のほうが短く、患者1例当たりの6ヵ月間の費用はVOT群のほうが低額であった。 著者は、「VOTは、さまざまな状況にある多くの患者にとってDOTよりも好ましく、薬剤投与の監視において受け入れやすく有効であり、より安価な選択肢となる可能性がある」としている。

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高齢者の尿路感染症、抗菌薬即時処方で死亡リスク減/BMJ

 プライマリケアにおいて尿路感染症(UTI)と診断された高齢患者では、抗菌薬の非投与および待機的投与は、即時投与に比べ血流感染症および全死因死亡率が有意に増加することが、英国・Imperial College LondonのMyriam Gharbi氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年2月27日号に掲載された。大腸菌(Escherichia coli)による血流感染症の約半数が、原疾患としてのUTIに起因し、高齢患者はリスクが高いとされる。また、自然治癒性の疾患(上気道感染症など)では抗菌薬の「非投与」「待機的または遅延投与」は重度の有害アウトカムとはほとんど関連しないが、若年女性のUTI患者ではわずかだが症状発現期間が延長し、合併症が増加するとの報告がある。しかし、これらの研究は症例数が少なく、その一般化可能性は限定的だという。投与開始時期と血流感染症、入院、死亡との関連を評価 研究グループは、イングランドにおける高齢UTI患者への抗菌薬治療と重度有害アウトカムとの関連の評価を目的に、住民ベースの後ろ向きコホート研究を実施した(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成による)。 英国のClinical Practice Research Datalink(2007~15年)のプライマリケアのデータを、イングランドの全入院情報を含むhospital episode statisticsおよび死亡記録と関連付けた。2007年11月1日~2015年5月31日の期間に、プライマリケア医を受診し、下部UTI疑い、または確定診断が1回以上なされた65歳以上の患者15万7,264例が解析の対象となった。 主要アウトカムは、UTIのインデックス診断日から60日以内の血流感染症、入院ならびに平均入院期間、全死因死亡率とした。抗菌薬の即時投与(初回UTI診断時または同日)、待機的投与(初回UTI診断から7日以内)、非投与の患者に分けて比較した。とくに85歳以上の男性患者でリスクが高い 全体の平均年齢は76.7(SD 9.2)歳で、22.1%が85歳以上、78.8%が女性であった。UTIエピソード31万2,896件(15万7,264例)のうち、7.2%(2万2,534件)で抗菌薬処方の記録がなく、6.2%(1万9,292件)では遅延投与の処方が記録されていた。 初診時に処方された抗菌薬(27万1,070件)は、トリメトプリム(54.7%)が最も多く、次いでnitrofurantoin(19.1%)、セファロスポリン系(11.5%)、アモキシシリン/クラブラン酸(9.5%)、キノロン系(4.4%)の順であった。 初回UTI診断から60日以内に、1,539件(0.5%)の血流感染症エピソードが記録されていた。血流感染症の発症率は、初診時に抗菌薬が処方された患者の0.2%に比べ、初診から7日以内の再診時に処方された患者は2.2%、処方されなかった患者は2.9%であり、いずれも有意に高率だった(p=0.001)。 主な共変量で補正すると、抗菌薬の即時投与群と比較して、待機的投与群(補正後オッズ比[OR]:7.12、95%信頼区間[CI]:6.22~8.14)および非投与群(8.08、7.12~9.16)は、いずれも血流感染症を経験する可能性が有意に高かった。 また、抗菌薬即時投与群と比較した血流感染症の有害必要数(number needed to harm:NNH)は、非投与群が37例と、待機的投与群の51例よりも少なく、非投与のリスクがより高いことが示された。これは、抗菌薬即時投与群では発症しないと予測される血流感染症が、非投与群では37例に1例、待機的投与群では51例に1例の割合で発症することを意味する。 入院の割合は、待機的投与群が26.8%、非投与群は27.0%と、いずれも即時投与群の14.8%の約2倍であり、有意な差が認められた(p=0.001)。平均入院日数は、非投与群が12.1日であり、待機的投与群の7.7日、即時投与群の6.3日よりも長かった(p<0.001)。 60日以内の全死因死亡率は、即時投与群が1.6%、待機的投与群が2.8%、非投与群は5.4%であった。死亡リスクは、60日のフォローアップ期間中のどの時期においても、即時投与群に比べ待機的投与群(補正後OR:1.16、95%CI:1.06~1.27)および非投与群(2.18、2.04~2.33)で有意に高かった。 85歳以上の男性は、血流感染症および60日以内の全死因死亡のリスクが、とくに高かった。 著者は、「イングランドでは、大腸菌による血流感染症が増加していることを考慮し、高齢UTI患者に対しては、推奨される1次治療薬の早期の投与開始を提唱する」としている。

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新規のアミノグリコシド系抗菌薬plazomicinの複雑性尿路感染症に対する効果(解説:吉田敦氏)-1013

 腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の薬剤耐性は、現在、われわれが日常最も遭遇する薬剤耐性と言ってよいであろう。たとえば本邦で分離される大腸菌の約4割はフルオロキノロン耐性、約2割はESBL産生菌である。実際に複雑性尿路感染症の治療を開始する際に、主原因である腸内細菌科細菌の抗菌薬耐性をまったく危惧しない場合は、ほぼないと言えるのではないだろうか。そして結果としてβラクタム系およびフルオロキノロン系が使用できないと判明した際、残る貴重な選択肢の1つはアミノグリコシド系であるが、腎障害等の副作用が使用を慎重にさせている点は否めない。 今回の検討では、腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症例をアミノグリコシド系であるplazomicin群(1日1回静脈内投与)とメロペネム群にランダムに割り付け、少なくとも4日間以上続けた後、およそ8割の例で経口抗菌薬に変更し、合計7~10日の治療期間としている。なお投与開始から5日目、および15~19日目の臨床的、微生物学的改善がプライマリーエンドポイントとして設定された。そして結果としてplazomicinはおおよそメロペネムに劣らなかったが、特に15~19日目における臨床的、微生物学的改善率がplazomicin群において高かった。 本検討において最も関心が持たれる点はおそらく、(1)薬剤耐性菌の内訳と、それらへの効果、(2)plazomicinの副作用の有無と程度、(3)経口抗菌薬による影響、そして(4)再発に対する効果ではないだろうか。今回の検討例ではレボフロキサシン耐性は約4割、ESBL産生は約3割、カルバペネム系耐性(CRE)は約4%であるから、本邦の現在よりやや耐性株が多い。そしてESBL産生菌、アミノグリコシド(AMK、GM、TOBのいずれか)耐性株ともにplazomicin群がメロペネム群よりも微生物学的改善率が高かった。検討例はクレアチニンクリアランスが30mL/min以上の者であるが、うち30~60mL/minが35%、60~90mL/minが38%、90mL/min以上が26%を占める。このような集団でのCr 0.5mg/dL以上の上昇例がplazomicin群で7%、メロペネム群で4%認められた。一方、経口抗菌薬の第1選択はレボフロキサシンであるが、実際にはレボフロキサシン耐性株分離例の60%でレボフロキサシンが選択されていた。また治療後の無症候性細菌尿と、それに関連する再発がplazomicin群で低かった。 ほかにも結果解釈上の注意点がある。まず微生物学的改善の基準は、尿路の基礎状態にかかわらず、治療前に尿中菌数が105CFU/mL以上であったものが、治療後104CFU/mL未満になることと定義している点である。尿中菌数とその低下は基礎状態にも左右されるし、実際の低下度合いについては示されていない。さらに微生物学的改善の評価における重要な点として、当初から検討薬に耐性である例は除外されていることである(plazomicin感性は4μg/mL以下としている)。また治療前に感性であったものが、治療後に耐性になった例はplazomicin群の方がやや多かった。 以上のような注意点はあるものの、多剤耐性菌が関わりやすい複雑性尿路感染症の治療手段として有用な選択肢が増えた点は首肯できると言えよう。なおplazomicinはアミノグリコシド修飾酵素によって不活化されにくい点が従来のアミノグリコシドに勝る利点であるが、リボゾームRNAのメチル化酵素を産生するNDM型カルバペネマーゼ産生菌には耐性であり1)、ブドウ糖非発酵菌のPseudomonas、Acinetobacterについては従来のアミノグリコシドを凌駕するものではないと言われている2)。反面、尿路感染症では関与は少ないが、MRSAに対する効果が報告されている3)。本邦への導入検討に際しては、本邦の分離株を対象とした感受性分布ならびに耐性機構に関するサーベイランスが行われるのが望ましいと考える。そのような検討が進むことに期待したい。

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国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」【下平博士のDIノート】第18回

国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」今回は、慢性便秘症治療薬「マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム(商品名:モビコール配合内用剤)」を紹介します。本剤は、慢性便秘症に対する国内初のポリエチレングリコール(PEG)製剤で、併用薬などの使用制限もなく、小児や腎機能が低下した高齢者にも使いやすい薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月29日より販売されています。本剤は、PEG(マクロゴール4000)の浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させることで、便の軟化と便容積の増大を促し、用量依存的に便の排出を促進します。<用法・用量>本剤は、水で溶解して経口投与します。通常、成人および12歳以上の小児には、初回用量として1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、最大投与量は1日に6包(1回量として4包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日2包までです。2歳以上7歳未満の幼児では、初回用量1回1包、7歳以上12歳未満の小児では、初回用量1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、いずれも最大投与量は1日4包(1回量として2包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日1包までです。<副作用>承認時までの国内の臨床試験(成人、小児それぞれを対象とした第III相試験)では、192例中33例(17.2%)に副作用が認められています。主な副作用は、下痢7例(3.6%)、腹痛7例(3.6%)でした。なお、重大な副作用としてショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.お薬によって腸管内の水分量を増やし、便を軟らかくして排便を促します。2.この薬は、1包当たりコップ3分の1程度(約60mL)の水に溶かして服用します。飲みにくい場合は、ジュースなどに溶かしても構いません。3.溶かした後すぐに服用しない場合や飲み切れなかった場合は、ラップをかけて冷蔵庫に保管し、当日中に飲み切るようにしてください。4.腹痛、おなかの張り、腹部の不快感が現れた場合には、主治医か薬剤師までご連絡ください。5.蕁麻疹、喉のかゆみ、息苦しさ、動悸、顔のむくみなどが現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で初めて慢性便秘症に適応を持つPEG製剤です。塩化ナトリウムなどの電解質を含有しており、浸透圧性下剤に分類されます。海外では欧州を中心に、小児を含めた慢性便秘症治療薬として広く用いられており、ガイドラインでも使用が推奨されています。わが国では、日本小児栄養消化器肝臓学会から、小児慢性便秘症に対する開発要請が出され、2015年5月に開発が開始されました。従来、浸透圧性下剤として酸化マグネシウムが汎用されていますが、高齢者などの腎機能低下患者では高マグネシウム血症に注意が必要であったり、ビスホスホネート製剤やニューキノロン系抗菌薬などとの相互作用が問題となったりすることがあります。さらに、酸化マグネシウムは胃酸分泌抑制時に効果が減弱するため、プロトンポンプ阻害薬などを服用している場合や胃切除後では効果が低下する可能性もあります。本剤の主薬であるPEG(マクロゴール4000)には併用禁忌、併用注意の薬剤はありません。本剤は2歳から使用でき、水に溶解して服用しますが、味などが気になって服用しにくい場合は、ジュース、スポーツドリンク、お茶などの冷たい飲料で溶解することも可能です。効果は用量依存的なので、患者さんの便秘の状態に応じて適切な服用量に調節することができます。とくに小児や、高マグネシウム血症が問題となる高齢患者でも安心して使える薬と考えられるでしょう。

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フルオロキノロン系薬に大動脈瘤・解離に関する使用上の注意改訂指示

 フルオロキノロン系抗菌薬の添付文書について、2019年1月10日、厚生労働省より使用上の注意の改訂指示が発出された。フルオロキノロン系抗菌薬と大動脈瘤および大動脈解離との関連性を示唆する疫学研究や非臨床試験の文献が報告されたことによるもので、改訂の概要は以下のとおり。1.「慎重投与」の項に、「大動脈瘤又は大動脈解離を合併している患者、大動脈瘤又は大動脈解離の既往、家族歴若しくはリスク因子(マルファン症候群等)を有する患者」を追記する。2.「重要な基本的注意」の項に、観察を十分に行うとともに、腹部、胸部又は背部に痛み等の症状があらわれた場合には直ちに医師の診察を受けるよう患者に指導する旨、上記 1.にて追記する患者では、必要に応じて画像検査の実施も考慮する旨を追記する。3.「重大な副作用」の項に「大動脈瘤、大動脈解離」を追記する。■該当薬剤の一般名(商品名:承認取得会社)・モキシフロキサシン塩酸塩(アベロックス:バイエル薬品)・トスフロキサシントシル酸塩水和物(オゼックス:富士フイルム富山化学、トスキサシン:マイラン EPD、ほか)・レボフロキサシン水和物(クラビット:第一三共、ほか)・シタフロキサシン水和物(グレースビット:第一三共、ほか)・シプロフロキサシン塩酸塩水和物(シプロキサン:バイエル薬品、ほか)・シプロフロキサシン(シプロキサン:バイエル薬品、ほか)・メシル酸ガレノキサシン水和物(ジェニナック:富士フイルム富山化学)・プルリフロキサシン(スオード:MeijiSeika ファルマ)・オフロキサシン(タリビッド:第一三共、ほか)・ノルフロキサシン(バクシダール:杏林製薬、ほか)・塩酸ロメフロキサシン(バレオン:マイラン EPD)・パズフロキサシンメシル酸塩(パシル:富士フイルム富山化学、パズクロス:田辺三菱製薬)

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第18回 救急科からのノルフロキサシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?赤痢菌※・・・9名下痢原性大腸菌・・・7名カンピロバクター・・・7名サルモネラ・・・7名赤痢アメーバ・・・6名腸炎ビブリオ・・・3名ノロウイルス、ロタウイルス・・・3名チフス・・・2名※細菌性赤痢の原因菌で、潜伏期1~5日(通常1~3日)で発症し、全身の倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱、水様性下痢を呈する。発熱は1~2日続き、腹痛、しぶり腹(テネスムス)、膿粘血便などの症状が現れる。全数報告対象(3類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない1)。抗菌薬から考える 奥村雪男さん(薬局)途上国旅行中に生じる下痢は、非常に多くの微生物が関与します2)。推奨される治療については、ガイドライン3)を参照すると、赤痢アメーバ腸炎、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)であればメトロニダゾールを使用するクリプトスポリジウム症は免疫能が正常であれば自然治癒が見込めるサイクロスポーラ感染症ではST合剤を使用する以上から、現時点では原虫症は鑑別の上位にないように思います。また、腸管出血性大腸菌(EHEC)以外の下痢原性大腸菌は、経過観察か補液で自然軽快することがほとんどEHECでは早期にレボフロキサシンの投与を考慮するカンピロバクターは自然治癒するサルモネラは、健常者の軽症~中等症において抗菌薬の投与は推奨されていない細菌性赤痢の第一選択はレボフロキサシン、シプロフロキサシンである以上から、現時点で想定されている原因菌は、前述の原虫以外の細菌およびロタウイルスと考えます。旅行者下痢症は、特にempiric therapyを考慮するケースとされ、第一選択としてレボフロキサシン、 シプロフロキサシンが挙げられています。潜伏期間を考慮 清水直明さん(病院)現地で何かに感染したとすると、比較的潜伏期間が短い感染症を考える必要があります。厚生労働省検疫所(FORTH)によれば、フィリピンでは1 年を通じて、腸チフス(潜伏期間:1~3週)、アメーバ赤痢(2~4週)、細菌性赤痢(1~5日)、A型肝炎(2~7週)などのリスクがありますが、症状および潜伏期間から、この中で細菌性赤痢が最も当てはまります。カンピロバクター(2~4日)、サルモネラ(12~72時間)などもありえそうですが、重症度を考慮して、まずは細菌性赤痢を念頭に置いた治療で様子を見るということだと思います。処方内容、渡航先、症状を踏まえる ふな3さん(薬局)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ、コレラ、赤痢菌などを想定した処方ではないかと思います。ただし、あくまで「処方から」予想される原因菌であって、渡航先と症状からは、ロタウイルス、ノロウイルス、赤痢アメーバなども考えられます。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴と止瀉薬について 中堅薬剤師さん(薬局)副作用歴、止瀉薬の所持を必ず確認します。可能であれば、症状変化の詳細も聞いてみたいです。アレルギーや金属イオンを含む薬剤 奥村雪男さん(薬局)ニューキノロン系抗菌薬に対するアレルギーがないか確認します。酸化マグネシウムや鉄剤などの金属イオンを含む薬剤やサプリメントは、ノルフロキサシンの吸収を低下させてしまうため(併用注意記載あり)、確認します。現地での食事状況 JITHURYOUさん(病院)PPIやステロイドを服用している場合は、感染しやすくなっている可能性があります。水分や食事(薬剤)が取れるか? 発熱は? 点滴したかも確認します。赤痢菌は水系感染で、現地で水道の水などは飲んでいないと思いますが、氷でも感染する場合があります。水で汚染されている可能性がある果物類の他、魚介類や熱が十分に通っていない食材などを摂取したかも確認したいです。渡航先、渡航期間を医師に話したか ふな3さん(薬局)渡航先・渡航期間を医師に話したか、必ず確認します。渡航歴を伝えない患者、聞かない医師もいるからです。感染者が家族・職場などにいると、感染拡大する可能性もあります。できれば、菌の同定検査をしたか、同行者に同様の症状がないかも聞きたいです。食欲と水分補給について 清水直明さん(病院)「食欲はありますか? 水分は取れそうですか?」もしも食欲がなくて水分・電解質が十分取れない状況ならば、脱水を引き起こす危険性があるため、点滴などの処置が必要になるかもしれません。ロコア®テープにも注意 児玉暁人さん(病院)併用禁忌確認のため、フロベン®(フルルビプロフェン)の内服をしていないか、ロコア®テープ(エスフルルビプロフェン)を使用中でないか確認します。ロコア®テープは貼付薬ながら血中濃度が上昇するため、併用禁忌にノルフロキサシンの記載があります。Q3 疑義照会する?する・・・4人なぜノルフロキサシン? 清水直明さん(病院)細菌性赤痢であればキノロン系抗菌薬が第一選択になりますが、今どき、腸管感染症に対してノルフロキサシンを使うのかなと感じます。なぜレボフロキサシンやシプロフロキサシンではなく、ノルフロキサシンなのか聞いてみたいです。抗菌薬の用量 JITHURYOUさん(病院)ノルフロキサシンの投与量が少ないです。添付文書では腸チフスの場合、1回400mg 1日3回投与14日間とされています(症状から腸チフスではないようにも思いますが、可能性はあります)。整腸剤の変更 キャンプ人さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン服用時の乳酸菌製剤としては効果が減弱するため、ミヤBM®への変更を依頼します。想定している原因菌について 荒川隆之さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン系抗菌薬で失活する恐れがありますので、ビオスリー®などへの変更を提案します。提案するときに、医師が想定している原因菌についても同時に確認すると思います。また、旅行者下痢症は通常3~5日で回復しますので、投与期間は5日で妥当と考えます。しない・・・6人やや用量は少ないが・・・ 中堅薬剤師さん(薬局)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―腸管感染症―2015によれば、ノルフロキサシンの投与は1回2~4mg/kg、1日3回とされていて、22歳だと1回100mgはやや少ない気がしますが、疑義照会まではしないです。耐性乳酸菌に変える必要はない 中西剛明さん(薬局)疑義照会しません。エンテロノン® -Rなどの耐性乳酸菌を使う必要はないと思います。耐性乳酸菌を使うと、併用できる抗菌薬にノルフロキサシンが入っていないので、保険で査定されてしまう恐れがあります。ちなみに、乳酸菌製剤は死菌で十分効果があるという説もあります。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?光線過敏の副作用について 中堅薬剤師さん(薬局)具合が悪いので外で紫外線を浴びることは少ないかもしれませんが、ノルフロキサシンによる光線過敏の可能性を話しておきます。止瀉薬は使わないこと、水分は経口補水液を少量ずつ摂取することなども説明します。服用方法についての説明例 ふな3さん(薬局)「抗菌薬は5日間飲みきってください。8時間ごととなっていますが、生活パターン上、服薬が難しいようなら、7~9時間の間隔であれば大丈夫です。食前・食後でも大丈夫ですが、カルシウムなどのミネラルを摂取すると薬の吸収が悪くなることがあるので、カルシウムやマグネシウムなどのサプリメントなどは控えてください。飲み忘れた場合は、すぐに1回分を飲んで、できるだけ1日3回の服用を続けてください」「帰宅後、激しい嘔吐、発熱、強い腹痛、血便、便意があるのに便がほとんど出ない状態を繰り返す(しぶり腹)など体調変化があった場合、また、3日以上経過しても症状が改善しない場合は、すぐに再受診してください」抗菌薬の服用前後2時間は牛乳などを避ける 清水直明さん(病院)「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間は、それらの摂取を避けるようにしてください。」家族の感染対策 キャンプ人さん(病院)家族などの同居者にも、感染対策するよう指導します。服用時間について わらび餅さん(病院)症状がひどいうちは食事が取れないだろうと考えて、用法を8時間ごととしたのだろうと思います。ですが、厳密に8時間ごととする必要はなく、内服は多少時間がずれても構わないことを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?脱水予防 JITHURYOUさん(病院)とにかく脱水予防が必要です。吐き気などで経口できない場合は、補液がファーストだと考えます。抗菌薬はセフトリアキソンなどでしょうか。経口可能であればニューキノロン系抗菌薬、特にレボフロキサシンなどがよいと思いますが、耐性化が進んでいるのでアジスロマイシンなども候補とします。原因菌の特定は重要であり、報告義務のある赤痢菌、コレラの検出であれば、その消失を確認しないといけない旨を伝えます。寄生虫検査は複数回行われる場合があり、周囲のへの感染予防も必要です。腸炎ビブリオの可能性 ふな3さん(薬局)なぜレボフロキサシンではなく、わざわざノルフロキサシンを選んだのか気になります。レボフロキサシンとノルフロキサシンを比較すると、レボフロキサシンでは適応菌種として腸炎ビブリオが含まれていないので(キノロン系抗菌薬ではノルフロキサシンのみに適応あり)、ひょっとしたら腸炎ビブリオが最も疑われているのかもしれない、と思います。注)添付文書上、適応菌種には記載されていないが、JAID/JSCガイドライン2015―腸管感染症―において、レボフロキサシンは腸炎ビブリオに第一選択(ただし重症例に対して)になっている。後日談(担当した薬剤師から)患者は医学生で、熱帯医療のサークルでフィリピンに滞在していたそうです。今回は4回目の渡航で、赤痢を警戒し、食事や水には非常に気を使っていたとのことです。赤痢アメーバは内視鏡で否定され、検査結果は腸炎ビブリオで、ブドウ球菌の毒素も絡んでいる可能性もあるとのことでした。帰国前に魚料理を食べており、これが原因かもしれないということでした。1)NIID 国立感染症研究所.細菌性赤痢とは.2)青木眞.レジデントのための感染症マニュアル.第2版.東京、医学書院、2008.3)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015‒腸管感染症‒.一般社団法人日本感染症学会、2016.[PharmaTribune 2017年8月号掲載]

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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第15回 内科からのエリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Campylobacter coli属・・・11名全員Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)・・・1名Escherichia coli(大腸菌)・・・1名Arcobacter属・・・1名Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)・・・1名腹痛、下痢、鶏肉から 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター属が原因菌と予想されます。下痢と腹痛から市中腸管感染症で、加熱不十分の鶏肉を食べたこと、検査はおそらくグラム染色だったのではないでしょうか。カンピロバクターのグラム染色での感度は30%程度のようですが、特異度が高いので確定診断に至ったのだと考えます。カンピロバクターは一般的には補液などの対症療法で自然軽快することがほとんどとされていますが、早期治療による菌の排出期間短縮と症状軽減があったとの報告があります1)。キノロン系薬剤への耐性化が進んでいるため、マクロライド系薬剤が第一選択であり、下記が推奨されています1)。クラリスロマイシン経口 1回200mg 1日2回 3~5日間アジスロマイシン経口 1回500mg 1日1回 3~5日間エリスロマイシン経口 1回200mg 1日4回 3~5日間Q2 患者さんに確認することは?どのような検査をしたか わらび餅さん(病院)できればどのような検査をしたか聞きます。培養ではっきり菌を特定するには、通常は数日かかるからです。下痢と腹痛が主訴ですが、可能なら血便など重症だと判断する情報があるのか聞きたいです。潰瘍性大腸炎の可能性も? 中堅薬剤師さん(薬局)併用薬と副作用歴です。また、可能であれば潰瘍性大腸炎の除外診断を医師がしているかどうかも確認したいです。今回は検査結果があるので可能性はあまりないと思いますが、開業医が第六感で「感染性腸炎」と誤診し、潰瘍性大腸炎が重症化することが非常に多い、と広域病院の消化器科医の講演を聞いたことがあります。必要に応じて、潰瘍性大腸炎の可能性も考慮して対応することが重要だと考えます。併用薬について 荒川隆之さん(病院)併用薬を必ず確認します。エリスロマイシンはCYP3A4で代謝される薬剤と併用した場合、併用薬の代謝が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。また、P糖タンパクを介して排出される薬剤と併用した場合、併用薬剤の排出が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。ピモジドなどの併用禁忌の確認 奥村雪男さん(薬局)エリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬の中でもCYP3A4 阻害作用が強いので、ピモジドなどの併用禁忌薬剤を服用していないか確認します。マクロライド系抗菌薬のCYP3A4阻害様式はMBI(Mechanical based inhibition)で、服用開始から数日程度で阻害作用が最大になり、服用終了から数日程度で阻害作用は消失すると考えられます2)。そのため、服薬終了後も併用薬に注意が必要です。自炊かどうか 児玉暁人さん(病院)可能なら鶏肉をどこで食べたか確認します。飲食店なのか自宅で自炊をしてなのか。一人暮らしで自炊しているのであれば、しっかり加熱する、二食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行う、食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う、食肉に触れた調理器具などは使用後洗浄・殺菌を行うなどのアドバイスができるかもしれません。Q3 疑義照会する?する・・・5人エリスロマイシンの用量 キャンプ人さん(病院)エリスロマイシンの1 回用量が多いように思うので、確認します。ガイドラインでは1回200mg 1日4回 3~5日間1)とされています。重症でなければ自然軽快する場合が多い 清水直明さん(病院)カンピロバクター腸炎の場合、重症でなければ抗菌薬の投与なしで自然に軽快する場合がほとんどです。処方医と信頼関係ができていれば、説明した上で「抗菌薬は不要かもしれません」と提案するでしょう。他剤への変更 JITHURYOUさん(病院)本症例は、重症感がなくカンピロバクター自体は自然軽快することが多いため、抗菌薬は不要ではないかと感じます。それでも医師が抗菌薬は必要だとするなら、現時点で消化器症状があるのでクラリスロマイシンに変更提案します。エリスロマイシンより消化器作用が少ないこと、添付文書上の適応のためです。併用薬がある場合には、相互作用の少ないアジスロマイシンに変更提案します。可能なら抗菌薬処方なしにもっていきたいです。しない・・・6人3日間投与は適切 中堅薬剤師さん(薬局)ガイドラインには、カンピロバクターは世界的にキノロン系薬の耐性化が進んでおり、マクロライドを第一選択にすると記載されています1)が、マクロライド耐性も問題化しつつあるようなので、まず3日間投与は適切ではないでしょうか。エンピリック処方かどうか わらび餅さん(病院)患者さんの聞き取りを踏まえ、カンピロバクターと予想した上でのエンピリック処方だと判断できれば、疑義照会しません。ただし、原因菌と特定されていればエリスロマイシンの用法を確認します。もし、アドヒアランスなどを考慮して用法を1日3回としていたら、アジスロマイシン1日1回でもよいのでは、と聞ければ聞きます。海外での使用例やPAE※も考慮 ふな3さん(薬局)エリスロマイシンは半減期が1.5時間程度と短めのため、1日3回ではちょっと不安ですが、カンピロバクターへの適応はないものの米国などでは1,000mg/2×などの処方もあるようです。PAEも期待できることから、疑義照会はしないと思います。※post-antibiotic effect。血中や組織中から抗菌薬が消失しても、一定期間、病原菌の増殖が抑制される効果1日3回が難しければ処方提案 児玉暁人さん(病院)エリスロマイシンの1回量が多く、回数も3回ですが、適宜増減の範囲内と考え、疑義照会はしません。ただし、1日3回の内服が難しそうであればクラリスロマイシン1回200mg 1日2回 3日分の処方提案をします。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?しっかり飲みきること キャンプ人さん(病院)指示されている期間しっかり服用することです。また、エリスロマイシンのモチリン様作用(消化管運動亢進作用)により、消化管の蠕動運動が活発になることを説明しておきます。服用時間について ふな3さん(薬局)1回目の分はすぐに飲み始めること。2回目は6時間程度あけて服用。1日3回、3日間飲みきることを伝えます。下痢についての説明 清水直明さん(病院)「今回、下痢止めは出されていませんが、下痢止めを服用しなくても数日で回復してくると思います。治りを遅くすることがあるので、市販の下痢止めは服用しないでください。」脱水に注意 JITHURYOUさん(病院)現時点で重症感はなさそうですが、水分補給して脱水に注意し、安静にするよう伝えます。はっきりと重症化しないとはいえませんが、年齢的に考えてみても整腸剤だけで経過観察でもよかったかもしれませんね。他院受診時にお薬手帳を持参 奥村雪男さん(薬局)今回の抗菌薬は服薬終了後も数日間程度飲み合わせに注意が必要なので、他院にかかる場合はお薬手帳を持参することを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?ボツリヌス毒素の可能性も? ふな3さん(薬局)「古いパックの食品も疑われた」という言葉から、ボツリヌス毒素の疑いもあったのかもしれません。また、カンピロバクターからのギランバレー症候群の発症のリスクもあるため、下記のような症状が出たら、すぐに医師に連絡するよう伝えたいです。口内乾燥、嚥下困難、複視、視力低下(ボツリヌス中毒)四肢の脱力(ボツリヌス中毒、ギランバレー)エリスロマイシンの処方意図 柏木紀久さん(薬局)今回の症例はあまり抗菌薬の必要性を感じませんが、排菌の促進や消化管運動の促進を期待して3日分の処方かな?と思いました。ギランバレー症候群と菌血症 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター感染症の合併症に、ギランバレー症候群と菌血症が知られています。0.1%以下でギランバレー症候群の報告があり、感染後2~3週後に発症するようです3、4)。発症はまれなので不安をあおらないように伝えません。菌血症は1%程度に報告があり4)、高齢者に多いようです。若年では検査陽性になるころには自然治癒するようで、あまり心配ないかもしれませんが、知識として持っておく必要があると思います。後日談(担当した薬剤師から)調剤した日の閉局間際に「薬を飲んだら、余計にお腹の調子が悪くなりました。どうしたらいいですか?」と電話がかかってきました。実は、薬を渡すときにモチリン様作用の説明をするのを忘れていたことに気付きました。「原因の菌を退治するだけでなく、胃腸の動きを活発にさせる作用もあるお薬ですので、自然とその症状は治まります。菌の排出も早まりますので、辛抱して内服を続けてください」と返事をしました。無事治療が終了したのか、後日の来局はありませんでした。1)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―. 一般社団法人日本感染症学会、2016.2)鈴木洋史監. これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践. 東京、じほう、2014.3)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.4)酒見英太監. ジェネラリストのための内科診断リファレンス. 第1版. 東京、医学書院、2014.[PharmaTribune 2017年6月号掲載]

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第14回 内科からのST合剤の処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・11名全員Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・8名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・3名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。大腸菌か腐性ブドウ球菌 清水直明さん(病院)若い女性の再発性の膀胱炎であることから、E.coli、S.saprophyticusなどの可能性が高いと思います。中でも、S.saprophyticusによる膀胱炎は再発を繰り返しやすいようです1)。単純性か複雑性か 奥村雪男さん(薬局)再発性の膀胱炎と思われますが、単純性膀胱炎なのか複雑性膀胱炎※3 なのか考えなくてはいけません。また、性的活動が活発な場合、外尿道から膀胱への逆行で感染を繰り返す場合があります。今回のケースでは、若年女性であり単純性膀胱炎を繰り返しているのではないかと想像します。単純性の場合、原因菌は大腸菌が多いですが、若年では腐性ブドウ球菌の割合も高いとされます。※3 前立腺肥大症、尿路の先天異常などの基礎疾患を有する場合は複雑性膀胱炎といい、再発・再燃を繰り返しやすい。明らかな基礎疾患が認められない場合は単純性膀胱炎といQ2 患者さんに確認することは?妊娠の可能性と経口避妊薬の使用 荒川隆之さん(病院)妊娠の可能性について必ず確認します。もし妊娠の可能性がある場合には、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(ST合剤)の中止、変更を提案します。妊婦の場合、抗菌薬の使用についても再度検討する必要がありますが、セフェム系薬の5~7 日間投与が推奨されています2)。ST合剤は相互作用の多い薬剤ですので、他に服用している薬剤がないか必ず確認します。特に若い女性の場合、経口避妊薬を服用していないかは確認すると思います。経口避妊薬の効果を減弱させることがあるからです。副作用歴と再受診予定 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬の副作用歴と再受診予定の有無を確認し、医師からの指示がなければ、飲み切り後に再受診を推奨します。また、可能であれば間質性膀胱炎の可能性について医師から言われていないか確認したいところです。中高年女性だと過活動膀胱(OAB)が背景にあることが多いですが、私の経験では、若い女性では間質性膀胱炎の可能性が比較的あります。ストレス性やトイレを我慢してしまうことによる軽度の水腎症※4のようなケースを知っています。※4 尿路に何らかの通過障害が生じ、排泄されずに停滞した尿のために腎盂や腎杯が拡張し、腎実質に委縮を来す。軽症の場合は自然に軽快することが多いが、重症の場合は手術も考慮される。相互作用のチェック 奥村雪男さん(薬局)併用薬を確認します。若年なので、薬の服用は少ないかも知れませんが、ST合剤は蛋白結合率が高く、ワルファリンの作用を増強させるなどの相互作用が報告されています。併用薬のほか、初発日や頻度 ふな3さん(薬局)SU薬やワルファリンなどとの相互作用があるため、併用薬を必ず確認します。また、単純性か複雑性かを確認するため合併症があるか確認します。可能であれば、初発日と頻度、7日分飲みきるように言われているか(「3日で止めて、残りは取っておいて再発したら飲んで」という医師がいました)、次回受診予定日、尿検査結果も聞きたいですね。治療歴と自覚症状 わらび餅さん(病院)可能であれば、これまでの治療歴を確認します。ST合剤は安価ですし、長く使用されていますが、ガイドラインでは第一選択薬ではありません。処方医が20歳代の女性にもきちんと問診をして、これまでの治療歴を確認し、過去にレボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬を使ってそれでも再発し、耐性化や地域のアンチバイオグラムを考慮して、ST合剤を選択したのではないでしょうか。発熱がないとのことですが、自覚症状についても聞きます。メトトレキサートとの併用 児玉暁人さん(病院)ST合剤は妊婦に投与禁忌です。「女性を見たら妊娠を疑え」という格言(?)があるように、妊娠の有無を必ず確認します。あとは併用注意薬についてです。メトトレキサートの作用を増強する可能性があるので、若年性リウマチなどで服用していないか確認します。また、膀胱炎を繰り返しているとのことなので、過去の治療歴がお薬手帳などで確認できればしたいところです。Q3 疑義照会する?する・・・5人複雑性でない場合は適応外使用 中西剛明さん(薬局)疑義照会します。ただ、抗菌薬の使用歴を確認し、前治療があれば薬剤の変更については尋ねません。添付文書上、ST合剤の適応症は「複雑性膀胱炎、腎盂腎炎」で、「他剤耐性菌による上記適応症において、他剤が無効又は使用できない場合に投与すること」とあり、前治療歴を確認の上、セファレキシンなどへの変更を求めます。処方日数について 荒川隆之さん(病院)膀胱炎に対するST合剤の投与期間は、3日程度で良いものと考えます(『サンフォード感染症ガイド2016』においても3日)。再発時服用のために多く処方されている可能性はあるのですが、日数について確認のため疑義照会します。また、妊娠の可能性がある場合には、ガイドラインで推奨されているセフェム系抗菌薬の5~7日間投与2)への変更のため疑義照会します。具体的には、セフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルです。授乳中の場合、ST合剤でよいと思うのですが、個人的にはセフジニルやセフカペンピボキシル、セフポドキシムプロキセチルなど小児用製剤のある薬品のほうがちょっと安心して投薬できますね。あくまで個人的な意見ですが・・・妊娠している場合の代替薬 清水直明さん(病院)もしも妊娠の可能性が少しでもあれば、抗菌薬の変更を打診します。その場合の代替案は、セフジニル、セフカペンピボキシル、アモキシシリン/クラブラン酸などでしょうか。投与期間は7 日間と長め(ST合剤の場合、通常3 日間)ですが、再発を繰り返しているようですので、しっかり治療しておくという意味であえて疑義照会はしません。そもそも、初期治療ではまず選択しないであろうST合剤が選択されている段階で、これまで治療に難渋してきた背景を垣間見ることができます。ですので、妊娠の可能性がなかった場合、抗菌薬の選択についてはあえて疑義照会はしません。予防投与を考慮? JITHURYOUさん(病院)ST合剤は3日間の投与が基本になると思いますが、7日間処方されている理由を聞きます。予防投与の分を考慮しているかも確認します。しない・・・6人再発しているので疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)ST合剤は緑膿菌に活性のあるニューキノロン系抗菌薬を温存する目的での選択でしょうか。単純性膀胱炎であれば、ガイドラインではST合剤の投与期間は3日間とされていますが、再発を繰り返す場合、除菌を目的に7日間服用することもある3)ので、疑義照会はしません。残りは取っておく!? ふな3さん(薬局)ST合剤の投与期間が標準治療と比較して長めですが、再発でもあり、こんなものかなぁと思って疑義照会はしません。好ましくないことではありますが、先にも述べたように「3日で止めて、残りは取っておいて、再発したら飲み始めて~」などと、患者にだけ言っておくドクターがいます...。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?服用中止するケース 清水直明さん(病院)「この薬は比較的副作用が出やすい薬です。鼻血、皮下出血、歯茎から出血するなどの症状や、貧血、発疹などが見られたら、服用を止めて早めに連絡してください。」薬の保管方法とクランベリージュース 柏木紀久さん(薬局)「お薬は光に当たると変色するので、日の当たらない場所で保管してください」と説明します。余談ができるようなら、クランベリージュースが膀胱炎にはいいらしいですよ、とも伝えます。発疹に注意 キャンプ人さん(病院)発疹などが出現したら、すぐに病院受診するように説明します。処方薬を飲みきること 中堅薬剤師さん(薬局)副作用は比較的少ないこと、処方分は飲み切ることなどを説明します。患者さんが心配性な場合、副作用をマイルドな表現で伝えます。例えば、下痢というと過敏になる方もいますので「お腹が少し緩くなるかも」という感じです。自己中断と生活習慣について JITHURYOUさん(病院)治療を失敗させないために自己判断で薬剤を中止しないよう伝えます。一般的に抗菌薬は副作用よりも有益性が上なので、治療をしっかり続けるよう付け加えます。その他、便秘を解消すること、水分をしっかりとり、トイレ我慢せず排尿する(ウォッシュアウト)こと、睡眠を十分にして免疫を上げること、性行為(できるだけ避ける)後にはなるべく早く排尿することや生理用品をこまめに取り替えることも説明します。水分補給 中西剛明さん(薬局)尿量を確保するために、水分を多く取ってもらうよう1日1.5Lを目標に、と説明します。次に、お薬を飲み始めたときに皮膚の状態を観察するように説明します。皮膚障害、特に蕁麻疹の発生に気をつけてもらいます。Q5 その他、気付いたことは?地域の感受性を把握 荒川隆之さん(病院)ST合剤は『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015』などにおいて、急性膀胱炎の第一選択薬ではありません。『サンフォード感染症ガイド2016』でも、耐性E.coli の頻度が20%以上なら避ける、との記載があります。当院においてもST合剤の感受性は80%を切っており、あまりお勧めしておりません。ただ、E.coli の感受性は地域によってかなり異なっているので、その地域におけるアンチバイオグラムを把握することも重要であると考えます。治療失敗時には受診を JITHURYOUさん(病院)予防投与については、説明があったのでしょうか。また、間質性膀胱炎の可能性も気になります。治療が失敗した場合は、耐性菌によるものもあるのかもしれませんが、膀胱がんなどの可能性も考え受診を勧めます。短期間のST合剤なので貧血や腎障害などの懸念は不要だと思いますが、繰り返すことを考えて、生理のときは貧血に注意することも必要だと思います。間質性膀胱炎の可能性 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎の種類が気になるところです。間質性膀胱炎ならば、「効果があるかもしれない」程度のエビデンスですが、スプラタストやシメチジンなどを適応外使用していた泌尿器科医師がいました。予防投与について 奥村雪男さん(薬局)性的活動による単純性膀胱炎で、あまり繰り返す場合は予防投与も考えられます。性行為後にST合剤1錠を服用する4)ようです。性行為後に排尿することも推奨ですが、カウンターで男性薬剤師から話せる内容でないので、繰り返すようであれば処方医によく相談するようにと言うに留めると思います。後日談(担当した薬剤師から)次週も「違和感が残っているので」、ということで来局。再度スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠1回2錠 1日2回で7日分が継続処方として出されていた。その後、薬疹が出た、ということで再来局。処方内容は、d-クロルフェニラミンマレイン酸塩2mg錠1回1錠 1日3回 毎食後5日分。スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠は中止となった。1)Raz R et al. Clin Infect Dis 2005: 40(6): 896-898.2)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015.一般社団法人日本感染症学会、2016.3)青木眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第2版.東京、医学書院.4)細川直登.再発を繰り返す膀胱炎.ドクターサロン.58巻6月号、 2014.[PharmaTribune 2017年5月号掲載]

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第12回 内科からのホスホマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Salmonella enterica(サルモネラ)・・・10名Campylobacter(カンピロバクター)・・・9名Escherichia coli(大腸菌)・・・8名ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスなどのウイルス・・・4名大腸菌へのホスホマイシン投与 奥村雪男さん(薬局)ひどい下痢・腹痛、食事内容から、細菌性腸炎の可能性があります。起因菌は疫学的にはカンピロバクター、サルモネラ、下痢原性大腸菌の場合が多いですが、ユッケは通常生の牛肉を使用していること、ホスホマイシンが選択されていることから、大腸菌が最も疑われている、もしくは警戒しているかも知れません。「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015─腸管感染症─」では、成人の細菌性腸炎のエンピリックセラピーとして、第一選択にはレボフロキサシン、シプロフロキサシンといったキノロン系抗菌薬、アレルギーがある場合の第二選択としてアジスロマイシンやセフトリアキソンが挙げられています。O157 などの腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)の場合、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ;HUS)※発症が問題となりますが、「発症から2日以内のホスホマイシンの使用はHUSの発症リスク低下と関連していた(補正後オッズ比0.15, 95%CI 0.03~0.78)」という報告1)があり、処方の際、それを意識されたのかも知れません。※ベロ(志賀)毒素を産生するO157などのEHEC感染をきっかけに、下痢症状を伴った溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を主な症状とする可能性は低いがノロウイルスかも JITHURYOUさん(病院)O111、O157などのEHEC、カンピロバクター、サルモネラ、貝類等を食している可能性を否定できないので、可能性は低いですがノロウイルス、ロタウイルスも考えられます。大腸菌がもっとも疑わしい 荒川隆之さん(病院)生肉による食中毒と思われるので、大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどが原因菌として考えられます。ただ、サルモネラの場合はニューキノロン系抗菌薬、カンピロバクターの場合はマクロライド系抗菌薬が第一選択となります。今回の症例はホスホマイシンを使用していることから、大腸菌が最も疑わしいかと思います。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴、併用薬、採便をしたか 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬関連の副作用歴、併用薬と、採便をしたかどうかを確認します。基礎疾患の有無 奥村雪男さん(薬局)薬(特にキノロン系抗菌薬)のアレルギーがあるか確認します。重症化のリスク因子となる免疫不全などの基礎疾患の有無も確認します。経過をもう一度確認 キャンプ人さん(病院)単なる胃腸炎の可能性もあるかもしれないので症状発現までの時間を確認します。便の培養結果はどうだったか。ノロウイルスの迅速結果はどうだったか(自費なので行わない施設もあるかもしれません)。便の色 柏木紀久さん(薬局)併用薬、便の色や状態(血が混じっているかどうか)、尿は出ているか、また尿の色などの状態はどうか、嘔吐や発熱はあるか、水分は摂取できているか。食事は摂れるか 中西剛明さん(薬局)食事の摂取が可能かどうか聞きます。用法に関連するからです。家族の情報も聞き出す わらび餅さん(病院)妻と子供の症状を尋ねます。患者と同じか、いつからか、血便や腹痛の場所、発熱の有無など患者や家族の症状詳細を聞き、家族としての原因菌や重症度の評価をします。また、妻や子供は現在、何の点滴をしているか、家族に処方箋は出たのかも確認したいです。脱水状態 JITHURYOUさん(病院)利尿薬やSGLT2阻害薬の併用確認をすることは重要だと思います。感染性胃腸炎では脱水により急性腎障害リスクが高くなり、これらの薬剤はもともとの薬理作用からそのリスクを助長する可能性があります。もしこれらの薬剤を使用していたら、一時休薬する必要性があると思います。他にも休薬すべき糖尿病治療薬はありますが、とりわけ脱水という視点で言うとこれらの薬剤になります。本症例では、現在意識清明で、脱水としても重症感はないのですが、ツルゴール反応※や尿量など確認したいと思います。※ ツルゴールとは皮膚の緊張のことで、前腕あるいは胸骨上の皮膚をつまみ上げて放し、2秒以内に皮膚が元の状態に戻れば正常と判断し、2秒以上かかるようであれば脱水症の可能性がある。Q3 疑義照会する?する・・・6人ホスホマイシンの使用量 荒川隆之さん(病院)ホスホマイシンの使用量が少ないので疑義照会します。ただEHECの場合、抗菌薬使用により菌の毒素放出が亢進されHUS発症の危険性が増すとの報告もあるので、使用量を加減しているのかもしれません。海外においては、EHECの場合に抗菌薬の使用を推奨しないことが多いのですが、国内ではホスホマイシンが有効であったとの報告1)もあり、議論の残るところです。腎障害を考慮しての減量の場合もあるかもしれませんが、もともと経口では血中濃度が上がりにくい抗菌薬ですので、ある程度ならば通常用量でよいと考えています。医師の処方意図、真意を探ることも意識して疑義照会を行います。用法の提案も 中西剛明さん(薬局)抗菌薬が必要か確認します。うっかり投与すると菌の破壊で毒素放出量が増加し、HUSを発症するかもしれないからです。個人的には、ホスホマイシンは使用しない方が安心できます。ホスホマイシンを投与するなら、食事を取れない可能性を考慮して、用法は食後ではなく、8時間ごとを提案します。抗菌薬は必要? JITHURYOUさんホスホマイシン投与量1.5g/日と投与期間について疑義照会します。仮にEHECとしても、抗菌薬治療に対しては要・不要双方の見解があります。本症例は、救急外来で点滴後に朝一番の来局ということもあり、重症感があまり感じられないこと、ホスホマイシン投与量が絶対的に少ないことなどを勘案すると、抗菌薬自体不要ではないのでしょうか。仮に必要だとして、このままホスホマイシンを続けるのか、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015では1日2gとなっていること、第一選択薬であるニューキノロン系抗菌薬にしないのかを確認したいです。抗菌作用以外の効果(HUS予防や炎症性サイトカイン抑制)を狙っているのかも併せて確認したいです。しない・・・4人EHECの可能性の場合もあるので現状で様子見 清水直明さん(病院)疑義照会はしません。入院はしていないようなので、症状は軽症~中等症だと想定すると、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌やノロウイルス・サポウイルスなどのウイルス性の場合、抗菌薬投与は不要であると思います。しかしながら、万が一、O157を代表とするEHECの可能性がある場合には、HUSや脳炎などを併発して重篤化することが多いので、ホスホマイシンの投与で様子を見てもいいと思います。ただし、EHECに対する抗菌薬投与の是非については、専門家の間でも意見が分かれているようです。投与量はやや少なめですが、腸管内での作用を期待しており、ホスホマイシンのバイオアベイラビリティは比較的低く(吸収率は12%)、腸管内に高濃度でとどまるのでそのままとします。用量で迷うが・・・ ふな3さん(薬局)ホスホマイシンの量が少ない(2~3g/日が適当)と思います。微妙な量なので、疑義照会をするか非常に悩ましいところです。ホスホマイシンの有効性については議論があるところなので、疑義照会はしないと思います。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬の服用タイミング、抗菌薬を飲みきる 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬は食後である必要はなく、食事できない場合でも、普段の食事の時間に合わせて服用してよいことを伝えます。採便をしたことが分かれば、ホスホマイシンはつなぎの治療であることを説明します。もし採便しておらず、再受診指示もないのであれば、自ら再受診した方がよいと助言します。再受診の目安 柏木紀久さん(薬局)注意してもらうのは脱水と二次感染、EHECだった場合はHUSへの移行が心配です。また、「血尿、浮腫、貧血、痙攣などが出たら再度受診してください」とも伝えます。下痢止めは使用しないこと 清水直明さん(病院)「指示された通りに正しく最後まで服用してください。ただし、服用の途中であっても、便に血が混じってきたり、意識障害など普段と違った様子が見られた場合は、すぐに救急外来を受診してください。市販の下痢止めは症状を悪化させることがあるので、使用しないでください。」水分補給と二次感染予防 ふな3さん(薬局)「食欲がなく食事が取れなくても、1日3回5日分、しっかり飲みきってください。下痢によって脱水症状が心配されますので、経口補水液などで、しっかり水分補給をしてください。(外出先での排便により感染を広げる可能性があるので)下痢が治まるまでは、自宅で過ごすようにしてください。自宅に他の同居家族がいる場合には、ドアノブ・便器の消毒やタオルの共用を避けるなど注意してください。」Q5 その他、気付いたことは?検査結果までのつなぎ 中堅薬剤師さん(薬局)経験上ですが、開業医は便検査結果が出るまでの「つなぎ」として、ホスホマイシンを数日分処方することがあります。本症例でも、夜間救急で対応した医師も専門ではなく、便検査もできないため、同じような意図で対応したのではないか、と推測します。重篤化のリスクと再受診について 荒川隆之さん(病院)小児ではないので可能性は低いと思うのですが、EHECでは、5~10%の患者さんでHUSを起こし重篤化することが知られているため、元気がない、尿量が少ない、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠傾向などの症状が見られた場合にはすぐに受診するように伝えます。時間経過の重要性 キャンプ人さん(病院)菌やウイルスにより潜伏期間が異なるため、丁寧に時間経過を聞くことが大切だと思います。原因菌や経過は分からないことが多い わらび餅さん(病院)実際、このような腸管感染の原因菌は培養提出しないとはっきりせず、ほとんどの場合分からないままです。すぐに元気になってほしいと願うばかりで、正しい選択だったのか経過の確認も難しいです。とりあえず抗菌薬? JITHURYOUさん(病院)本症例は軽症である可能性があり、前述したように抗菌薬投与が必須ではないと考えることもできます。水分を取っても吐くような状況であれば、点滴が必要となります。対症的に五苓散(柴苓湯)などの併用の提案も考慮したいです。ひどい下痢ということから、整腸剤も最大投与量を提案したいです。また考えたくないのですが、夜間診療ということで「とりあえず抗菌薬を処方しておけばなんとかなる」という考えもあったかもしれません。後日談(担当した薬剤師から)用量について疑義照会をしましたが、処方医が外部の非常勤の医師で、既に当直を終えて帰宅しており、回答が得られませんでした。本来は、疑義が解決していないのでこのまま調剤してはいけないのですが、カルテを確認してもらい、特に不自然な点もないことから、急性疾患の患者を待たせることはできないという状況もあり、やむなくそのまま調剤しました。1回きりの来局で、その後の経過は不明です。1)Clin Nephrol 1999; 52(6): 357-362. PMID:10604643

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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第10回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)・・・全員Bordetella pertussis(百日咳菌)・・・6名Chlamydophila pneumoniae(クラミジア・ニューモニエ)・・・4名Mycobacterium tuberculosis(結核菌)・・・3名マクロライド耐性の肺炎マイコプラズマ 奥村雪男さん(薬局)母子ともに急性の乾性咳嗽のみで他に目立った症状がないこと、およびテトラサイクリン、ニューキノロン系抗菌薬が選択されていることから、肺炎マイコプラズマ感染症、それもマクロライド耐性株による市中肺炎を想定しているのではないかと思います。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされています。マイコプラズマと百日咳 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともマイコプラズマか百日咳と予想します。しつこい乾性咳嗽(鎮咳薬が2週間も処方されていることから想像)もこれらの感染症の典型的症状だと思います。結核の可能性も わらび餅さん(病院)百日咳も考えましたが、普通に予防接種しているはずの13 歳がなる可能性は低いのではないでしょうか。症状からは結核も考えられますが、病歴など情報収集がもっと必要です。百日咳以外の可能性も? 清水直明さん(病院)発熱がなく2週間以上続く「カハっと乾いた咳」、「一度咳をし出すとなかなか止まらない」状態は、発作性けいれん性の咳嗽と考えられ、百日咳に特徴的な所見だと考えます。母親を含めた周囲の方にも咳嗽が見られることから、周囲への感染性が高い病原体であると予想されます。百日咳は基本再生産数(R0)※が16~21とされており、周囲へ感染させる確率がかなり高い疾患です。成人の百日咳の症状は小児ほど典型的ではないので、whoop(ゼーゼーとした息)が見られないのかもしれません。また、14日以上咳が続く成人の10~20%は百日咳だとも言われています。ただし、百日咳以外にもアデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどでも同様の症状が見られることがあるので、百日咳菌を含めたこれらが原因微生物の可能性が高いと予想します。※免疫を持たない人の集団の中に、感染者が1人入ったときに、何人感染するかを表した数で、この数値が高いほど感染力が高い。R0<1であれば、流行は自然と消失する。なお、インフルエンザはR0が2~3とされている。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーやこれまでの投与歴など JITHURYOUさん(病院)母子ともにアトピー体質など含めたアレルギー、この処方に至るまでの投薬歴、ピロリ除菌中など含めた基礎疾患の有無、併用薬(間質性肺炎のリスク除外も含めて)、鳥接触歴を確認します。さらに、母親には妊娠の有無、子供には基礎疾患(喘息など)の有無、症状はいつからか、運動時など息苦しさや倦怠感の増強などがないかも合わせて確認します。併用薬・サプリメントについて  柏木紀久さん(薬局)車の運転や機械作業などをすることがあるか。ミノサイクリンやレボフロキサシンとの相互作用のあるサプリメントを含めた鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの含有薬品の使用も確認します。結核の検査 ふな3さん(薬局)母には結核の検査を受けたか、結果確認の受診はいつかを聞きます。子にはNSAIDs などレボフロキサシンの併用注意薬の服用の有無、てんかん、痙攣などの既往、アレルギーを確認します。お薬手帳の確認 わらび餅さん(病院)母は前医での処方が何だったのか、お薬手帳などで確認したいです。Q3 疑義照会する?母の処方について疑義照会する・・・2人子の処方について疑義照会する・・・全員ミノサイクリンの用法 キャンプ人さん(病院)ミノサイクリンの副作用によるめまい感があるので、起床時から夕食後または眠前へ用法の変更を依頼します。疑義照会しない 中堅薬剤師さん(薬局)母については、第1選択はマクロライド系抗菌薬ですが、おそらく他で処方されて改善がないので第2 選択のミノサイクリンになったのでしょう。というわけで、疑義照会はしません。ミノサイクリン起床時服用の理由 ふな3さん(薬局)疑義照会はしません。ミノサイクリンが起床時となっているのは、相互作用が懸念される鉄剤や酸化マグネシウムを併用中などの理由があるのかもしれません。食事による相互作用も考えられるため、併用薬がなかったとしても、起床時で問題ないと思います。ミノサイクリンのあまりみない用法 中西剛明さん(薬局)母に関しては、疑義照会しません。初回200mgの用法は最近見かけませんが、PK-PD理論からしても、時間依存型、濃度依存型、どちらにも区分できない薬剤ですので、問題はないと考えます。加えて、2回目の服用法が添付文書通りなので、計算ずくの処方と考えます。起床時の服用も見かけませんが、食道刺激性があること、食物、特に乳製品との相互作用があることから、この服用法も理にかなっていると思います。レボフロキサシンは小児で禁忌 児玉暁人さん(病院)13歳は小児で禁忌にあたるので、レボフロキサシンについて疑義照会します。代替薬としてトスフロキサシン、ミノサイクリンがありますので、あえてレボフロキサシンでなくてもよいかと思います。キノロン系抗菌薬は切り札 キャンプ人さん(病院)最近の服用歴を確認して、前治療がなければマクロライド系抗菌薬がガイドラインなどで推奨されていることを伝えます。小児肺炎の各種原因菌の耐性化が進んでおり、レボフロキサシンはこれらの原因菌に対して良好な抗菌活性を示すため、キノロン系抗菌薬は小児(15 歳まで)では切り札としていることも伝えます。マクロライド系抗菌薬かミノサイクリンを提案 荒川隆之さん(病院)子に対して、医師がマイコプラズマを想定しているならクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、マクロライド耐性を危惧しているなら、母親と同じくミノサイクリンを提案します。ミノサイクリンの場合、歯牙着色などもあり8 才未満は特に注意なのですが、お子さんは13才ですので選択肢になると考えます。そもそも抗菌薬は必要か JITHURYOUさん(病院)子の抗菌薬投与の必要性を確認します。必要なら小児の適応があるノルフロキサシンやトスフロキサシンなどへの変更を提案します。咳自体はQOLを下げ、体力を消耗し飛沫感染リスクを上げることに加え、患者が投与を希望することがあり、心情的に鎮咳薬の必要性を感じます。効果不十分なら他の鎮咳薬も提案します。子の服薬アドヒアランスについて わらび餅さん(病院)体重56kgと言っても、まだ13歳。レボフロキサシンは禁忌であることを問い合わせる必要があります。処方医は一般内科なので、小児禁忌であることを知らないケースは有り得ます。ついでに、なぜ母と子で抗菌薬の選択が異なるのか、医師からその意図をききだしたいです。母の前医での処方がマクロライド系抗菌薬だったら、その効果不良(耐性)のためだと納得できます。子供だけがキノロン系抗菌薬になったのは、1日1回の服用で済むため、アドヒアランスを考慮しての選択かと思いました。学童が1日2~3回飲むのは、難しいこともありますが、母子でミノマイシンにしても1日2回になるだけで、アドヒアランスは維持できるものと思います。あくまで第1選択はマクロライド系抗菌薬 清水直明さん(病院)母と子は基本的に同じ病原体によって症状が出ていると考えられるので、同一の抗菌薬で様子を見てもよいのではないでしょうか。ミノサイクリン、レボフロキサシンともにマイコプラズマ、クラミジアなどの非定型菌にも効果があると思いますが、百日咳菌をカバーしていないので、これらをカバーするマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどへの変更を打診します。マイコプラズマのマクロライド耐性化が問題になっていますが、それでも第1選択薬はマクロライド系抗菌薬です。13歳の小児にレボフロキサシン投与は添付文書上、禁忌とされていますが、アメリカでは安全かつ有効な他の選択肢がない場合、小児に対しても使用されているようです。前治療が不明なので何とも言えませんが、他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「適正に」受けていたとすると、第2選択肢としてミノサイクリン、レボフロキサシン(15歳以上)が選択されることは妥当かもしれません。他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「不適切に」(過少な投与量・投与期間)受けていたとすると、十分な投与量・投与期間で仕切り直してもよいのではないでしょうか。後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?、その他気付いたことを聞きます。

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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