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てんかん治療患者の44%が高齢者

 今年も高齢者の意識消失による交通事故が後を絶たない。事故の原因疾患に関する報道はないものの、意識消失の原因となりうる心臓疾患や脳卒中、認知症、そして、てんかんなどについて検証される必要がある。2018年11月16日にエーザイ株式会社が「認知症と間違いやすい『高齢発症てんかん』」を開催し、4名の専門医(赤松 直樹氏[国際医療福祉大学医学部神経内科教授]、塩崎 一昌氏[横浜市総合保健医療センター地域精神保健部長]、久保田 有一氏[TMGあさか医療センター脳神経外科統括部長]、下濱 俊氏[札幌医科大学医学部神経内科講座教授])による解説、ならびに患者代表者(男性・65歳)による実体験の紹介が行われた。発作がわかりにくい高齢者てんかんとその特徴 医療者でも認識しづらい高齢者のてんかん。その理由を「高齢初発てんかんの半数は意識減損で痙攣をきたさない」と語る赤松氏は、『高齢発症てんかんとは』について講演。高齢者が発症するてんかん発作と患者割合について説明した。 高齢発症てんかんは側頭葉てんかんが半数以上を占め、治療にはカルバマゼピンや第二世代薬のラモトリギン、レベチラセタム、ペランパネル、ラコサミドが有効とされる。発作には“意識減損焦点発作”と“焦点起始両側強直間代発作”の2種類が存在するが、前者は認知症と誤認されやすいため、以下に主な症状を示す。高齢発症てんかん(側頭葉てんかん)の主な症状1)吐き気2)一点凝視3)口と手の自動症(口をくちゃくちゃ、手をもぞもぞ)4)動作の停止5)意識消失後のうろつき 1)~5)の順に徐々に発作が出現するが、「発作時間は30秒~3分程度と短く、5分以上継続することは少ない」と同氏はコメントした。 同氏主導で、2008年4月~2016年12月に実施した全国の急性期医療機関(DPC病院)から成る1,785万8,022人の医療情報データベースにおける後ろ向き研究によって、日本のてんかん患者の44%が65歳以上の高齢者であると判明した。また、「脳卒中後や認知症に併発することが多い」と特徴付けた同氏は、今後、久山町研究の結果を報告する予定である。抗てんかん薬が認知機能改善にも好影響 認知症治療の立場から『認知症診断におけるてんかんの現状』について講演をした塩崎氏は、てんかんに関する情報は、他の学会ガイドラインやテキストブックにおいて「十分な注意が払われていない」と嘆く。同氏の施設では、年間1,000件の物忘れ鑑別診断を行い、初回受診時には全例へ脳波検査を実施しているという。 同氏の外来は70~80歳代の高齢の受診者が大半を占める。軽度認知障害~初期アルツハイマー型認知症(AD)の診断が多いが、約1%の患者では主診断がてんかんであった。ところが、てんかんの存在を強く示唆する発作間欠期てんかん性放電(IED)が、側頭部で認められる症例は1%より多く、同氏は「てんかんの合併が疑われる患者は認知症外来に約5%存在した」と述べた。また、認知症患者にIEDが認められても、「認知機能低下が著しい場合、てんかんが合併しても認知症診断が優先される」ことを付け加えた。 IEDが記録できた患者50例に抗てんかん薬(AED)を投与し、MMSE下位項目を検証した結果、“注意・集中・計算”を反映するシリアル7課題が有意に改善した(AED投与前:2.76±1.85、AED投与後:3.64±1.59、p

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第18回 救急科からのノルフロキサシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?赤痢菌※・・・9名下痢原性大腸菌・・・7名カンピロバクター・・・7名サルモネラ・・・7名赤痢アメーバ・・・6名腸炎ビブリオ・・・3名ノロウイルス、ロタウイルス・・・3名チフス・・・2名※細菌性赤痢の原因菌で、潜伏期1~5日(通常1~3日)で発症し、全身の倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱、水様性下痢を呈する。発熱は1~2日続き、腹痛、しぶり腹(テネスムス)、膿粘血便などの症状が現れる。全数報告対象(3類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない1)。抗菌薬から考える 奥村雪男さん(薬局)途上国旅行中に生じる下痢は、非常に多くの微生物が関与します2)。推奨される治療については、ガイドライン3)を参照すると、赤痢アメーバ腸炎、ランブル鞭毛虫症(ジアルジア症)であればメトロニダゾールを使用するクリプトスポリジウム症は免疫能が正常であれば自然治癒が見込めるサイクロスポーラ感染症ではST合剤を使用する以上から、現時点では原虫症は鑑別の上位にないように思います。また、腸管出血性大腸菌(EHEC)以外の下痢原性大腸菌は、経過観察か補液で自然軽快することがほとんどEHECでは早期にレボフロキサシンの投与を考慮するカンピロバクターは自然治癒するサルモネラは、健常者の軽症~中等症において抗菌薬の投与は推奨されていない細菌性赤痢の第一選択はレボフロキサシン、シプロフロキサシンである以上から、現時点で想定されている原因菌は、前述の原虫以外の細菌およびロタウイルスと考えます。旅行者下痢症は、特にempiric therapyを考慮するケースとされ、第一選択としてレボフロキサシン、 シプロフロキサシンが挙げられています。潜伏期間を考慮 清水直明さん(病院)現地で何かに感染したとすると、比較的潜伏期間が短い感染症を考える必要があります。厚生労働省検疫所(FORTH)によれば、フィリピンでは1 年を通じて、腸チフス(潜伏期間:1~3週)、アメーバ赤痢(2~4週)、細菌性赤痢(1~5日)、A型肝炎(2~7週)などのリスクがありますが、症状および潜伏期間から、この中で細菌性赤痢が最も当てはまります。カンピロバクター(2~4日)、サルモネラ(12~72時間)などもありえそうですが、重症度を考慮して、まずは細菌性赤痢を念頭に置いた治療で様子を見るということだと思います。処方内容、渡航先、症状を踏まえる ふな3さん(薬局)腸管毒素原性大腸菌(ETEC)、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ、コレラ、赤痢菌などを想定した処方ではないかと思います。ただし、あくまで「処方から」予想される原因菌であって、渡航先と症状からは、ロタウイルス、ノロウイルス、赤痢アメーバなども考えられます。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴と止瀉薬について 中堅薬剤師さん(薬局)副作用歴、止瀉薬の所持を必ず確認します。可能であれば、症状変化の詳細も聞いてみたいです。アレルギーや金属イオンを含む薬剤 奥村雪男さん(薬局)ニューキノロン系抗菌薬に対するアレルギーがないか確認します。酸化マグネシウムや鉄剤などの金属イオンを含む薬剤やサプリメントは、ノルフロキサシンの吸収を低下させてしまうため(併用注意記載あり)、確認します。現地での食事状況 JITHURYOUさん(病院)PPIやステロイドを服用している場合は、感染しやすくなっている可能性があります。水分や食事(薬剤)が取れるか? 発熱は? 点滴したかも確認します。赤痢菌は水系感染で、現地で水道の水などは飲んでいないと思いますが、氷でも感染する場合があります。水で汚染されている可能性がある果物類の他、魚介類や熱が十分に通っていない食材などを摂取したかも確認したいです。渡航先、渡航期間を医師に話したか ふな3さん(薬局)渡航先・渡航期間を医師に話したか、必ず確認します。渡航歴を伝えない患者、聞かない医師もいるからです。感染者が家族・職場などにいると、感染拡大する可能性もあります。できれば、菌の同定検査をしたか、同行者に同様の症状がないかも聞きたいです。食欲と水分補給について 清水直明さん(病院)「食欲はありますか? 水分は取れそうですか?」もしも食欲がなくて水分・電解質が十分取れない状況ならば、脱水を引き起こす危険性があるため、点滴などの処置が必要になるかもしれません。ロコア®テープにも注意 児玉暁人さん(病院)併用禁忌確認のため、フロベン®(フルルビプロフェン)の内服をしていないか、ロコア®テープ(エスフルルビプロフェン)を使用中でないか確認します。ロコア®テープは貼付薬ながら血中濃度が上昇するため、併用禁忌にノルフロキサシンの記載があります。Q3 疑義照会する?する・・・4人なぜノルフロキサシン? 清水直明さん(病院)細菌性赤痢であればキノロン系抗菌薬が第一選択になりますが、今どき、腸管感染症に対してノルフロキサシンを使うのかなと感じます。なぜレボフロキサシンやシプロフロキサシンではなく、ノルフロキサシンなのか聞いてみたいです。抗菌薬の用量 JITHURYOUさん(病院)ノルフロキサシンの投与量が少ないです。添付文書では腸チフスの場合、1回400mg 1日3回投与14日間とされています(症状から腸チフスではないようにも思いますが、可能性はあります)。整腸剤の変更 キャンプ人さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン服用時の乳酸菌製剤としては効果が減弱するため、ミヤBM®への変更を依頼します。想定している原因菌について 荒川隆之さん(病院)ラックビー®微粒Nはキノロン系抗菌薬で失活する恐れがありますので、ビオスリー®などへの変更を提案します。提案するときに、医師が想定している原因菌についても同時に確認すると思います。また、旅行者下痢症は通常3~5日で回復しますので、投与期間は5日で妥当と考えます。しない・・・6人やや用量は少ないが・・・ 中堅薬剤師さん(薬局)JAID/JSC 感染症治療ガイドライン―腸管感染症―2015によれば、ノルフロキサシンの投与は1回2~4mg/kg、1日3回とされていて、22歳だと1回100mgはやや少ない気がしますが、疑義照会まではしないです。耐性乳酸菌に変える必要はない 中西剛明さん(薬局)疑義照会しません。エンテロノン® -Rなどの耐性乳酸菌を使う必要はないと思います。耐性乳酸菌を使うと、併用できる抗菌薬にノルフロキサシンが入っていないので、保険で査定されてしまう恐れがあります。ちなみに、乳酸菌製剤は死菌で十分効果があるという説もあります。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?光線過敏の副作用について 中堅薬剤師さん(薬局)具合が悪いので外で紫外線を浴びることは少ないかもしれませんが、ノルフロキサシンによる光線過敏の可能性を話しておきます。止瀉薬は使わないこと、水分は経口補水液を少量ずつ摂取することなども説明します。服用方法についての説明例 ふな3さん(薬局)「抗菌薬は5日間飲みきってください。8時間ごととなっていますが、生活パターン上、服薬が難しいようなら、7~9時間の間隔であれば大丈夫です。食前・食後でも大丈夫ですが、カルシウムなどのミネラルを摂取すると薬の吸収が悪くなることがあるので、カルシウムやマグネシウムなどのサプリメントなどは控えてください。飲み忘れた場合は、すぐに1回分を飲んで、できるだけ1日3回の服用を続けてください」「帰宅後、激しい嘔吐、発熱、強い腹痛、血便、便意があるのに便がほとんど出ない状態を繰り返す(しぶり腹)など体調変化があった場合、また、3日以上経過しても症状が改善しない場合は、すぐに再受診してください」抗菌薬の服用前後2時間は牛乳などを避ける 清水直明さん(病院)「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間は、それらの摂取を避けるようにしてください。」家族の感染対策 キャンプ人さん(病院)家族などの同居者にも、感染対策するよう指導します。服用時間について わらび餅さん(病院)症状がひどいうちは食事が取れないだろうと考えて、用法を8時間ごととしたのだろうと思います。ですが、厳密に8時間ごととする必要はなく、内服は多少時間がずれても構わないことを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?脱水予防 JITHURYOUさん(病院)とにかく脱水予防が必要です。吐き気などで経口できない場合は、補液がファーストだと考えます。抗菌薬はセフトリアキソンなどでしょうか。経口可能であればニューキノロン系抗菌薬、特にレボフロキサシンなどがよいと思いますが、耐性化が進んでいるのでアジスロマイシンなども候補とします。原因菌の特定は重要であり、報告義務のある赤痢菌、コレラの検出であれば、その消失を確認しないといけない旨を伝えます。寄生虫検査は複数回行われる場合があり、周囲のへの感染予防も必要です。腸炎ビブリオの可能性 ふな3さん(薬局)なぜレボフロキサシンではなく、わざわざノルフロキサシンを選んだのか気になります。レボフロキサシンとノルフロキサシンを比較すると、レボフロキサシンでは適応菌種として腸炎ビブリオが含まれていないので(キノロン系抗菌薬ではノルフロキサシンのみに適応あり)、ひょっとしたら腸炎ビブリオが最も疑われているのかもしれない、と思います。注)添付文書上、適応菌種には記載されていないが、JAID/JSCガイドライン2015―腸管感染症―において、レボフロキサシンは腸炎ビブリオに第一選択(ただし重症例に対して)になっている。後日談(担当した薬剤師から)患者は医学生で、熱帯医療のサークルでフィリピンに滞在していたそうです。今回は4回目の渡航で、赤痢を警戒し、食事や水には非常に気を使っていたとのことです。赤痢アメーバは内視鏡で否定され、検査結果は腸炎ビブリオで、ブドウ球菌の毒素も絡んでいる可能性もあるとのことでした。帰国前に魚料理を食べており、これが原因かもしれないということでした。1)NIID 国立感染症研究所.細菌性赤痢とは.2)青木眞.レジデントのための感染症マニュアル.第2版.東京、医学書院、2008.3)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015‒腸管感染症‒.一般社団法人日本感染症学会、2016.[PharmaTribune 2017年8月号掲載]

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肺癌診療ガイドライン2018(進行再発NSCLC)/日本肺癌学会

 肺癌診療ガイドラインが改訂され、変更ポイントについて第59回日本肺癌学会学術集会で発表された。ここでは、変更点の多かった進行再発非小細胞肺がん(NSCLC)について取り上げる。全領域にGRADE方式を採用 2018年までは一部だったGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)方式が、本年から全領域の推奨度に適用された。GRADEは「行う」「行わない」という2つの方向性に対する推奨レベルを数字の1と2(推奨する=1、提案する=2)で、エビデンスレベルを英語A~D(A=強、B=中、C=弱、D=とても弱い)で示し、この数字と英語の組み合わせで推奨度を表す。ドライバー遺伝子変異/転座陽性<EGFR遺伝子変異陽性の1次治療> EGFR遺伝子変異陽性の1次治療では、FLAURA、ARCHER1050、NEJ026、NEJ009といった臨床試験が検討された。その結果、PS0~1の場合の1次治療としては下記のようになった(CQ51)。 ・オシメルチニブを行うよう推奨する(1B) ・ダコミチニブを行うよう提案する(2B) ・ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブを行うよう提案する(2A) ・エルロチニブ+ベバシズマブを行うよう提案する(2B) ・ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセドを行うよう提案する(2B) 樹形図には、従来のEGFR-TKIに替わり、上記の5種の治療法が記載された。<ALK遺伝子転座陽性の2次治療以降> ALK-TKI既治療例に対するロルラチニブの第I/II相試験の結果を踏まえ検討された。その結果、ALK-TKI1次治療耐性または増悪後のPS0〜2に対する治療法として、「ロルラチニブによる治療を行うよう提案する(CQ58、2C)」が新規追加された。<BRAF遺伝子変異陽性> BRAF遺伝子変異陽性例は「ダブラフェニブ+トラメチニブを行うよう推奨する(CQ60、1C)」に変更された。<ドライバー変異/転座陽性例に対する免疫チェックポイント阻害剤> アテゾリズマブのIMpower150試験の結果が検討されたが、最終的には、「ドライバー遺伝子変異/座陽性の患者にプラチナ製剤併用療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない(CQ49、推奨度決定不能)」という結果となった。ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明…1次治療 ドライバー遺伝子変異/転座陰性の1次治療では、細胞障害性抗がん剤+免疫チェックポイント阻害剤レジメンとして、非扁平上皮がんのKEYNOTE-189、IMpower150、扁平上皮がんのKEYNOTE-407、IMpower131試験が検討された。<PD-L1 50%以上> PS0~1に対する1次治療に対して「プラチナ製剤併用療法+PD-1/PD-L1阻害薬を行うよう推奨する(CQ62、1B)」が追加された。PS2においては、「ペムブロリズマブ単剤療法を行うよう提案する(CQ63、2D)」に加え、「細胞障害性抗がん剤を行うよう推奨もしくは提案する(CQ63、単剤 1A、カルボプラチン併用療法 2B)」、「プラチナ製剤併用療法+PD-1/PD-L1阻害剤を行うよう推奨するだけの根拠が明確でない(CQ63、推奨度決定不能)」が追加された。 PS0~1の樹形図は、「ペムブロリズマブ単独」と「プラチナ製剤併用療法+PD-1/PD-L1阻害剤」の併記、PS2では「細胞障害性抗がん剤」と「ペムブロリズマブ単独」の併記となった。<50%未満もしくは不明> プラチナ製剤併用療法へのPD-1/PD-L1阻害剤の上乗せについては、PS0~1では「プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1阻害剤を併用するよう推奨する(CQ67、1B)」、PS2では「プラチナ製剤併用療法+PD-1/PD-L1阻害剤を行うよう推奨するだけの根拠がない(CQ67、推奨度決定不能)」という結果となった。 PS0~1の樹形図は、「プラチナ製剤併用療法+PD-1/PD-L1阻害剤」が追加され、75歳未満では「プラチナ製剤併用療法±PD-1/PD-L1阻害剤」、75歳以上では「細胞障害性抗がん剤単剤」と「プラチナ製剤併用療法±PD-1/PD-L1阻害剤」の併記に変更された。ちなみに、PS2は前版と変わらず「プラチナ製剤併用療法」「細胞障害性抗がん剤」の併記。ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明…2次治療以降 ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明の2次治療以降では、新たに免疫チェックポイント阻害剤使用と未使用例に分類された。 免疫チェックポイント阻害剤未使用のPS0~2に対する2次治療においては、「PD-1阻害剤またはPD-L1阻害剤をよう推奨する(CQ72、1A)」「細胞障害性抗がん剤を行うよう提案する(CQ72、2A)」となった。 免疫チェックポイント阻害剤未使用のPS0~2の樹形図は、「PD-1/PD-L1阻害剤」と「細胞障害性抗がん剤」の併記となった。

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急性期脳梗塞治療で高知県が抜群の成績を上げている理由

 発症4.5時間までのrt-PA投与、主幹動脈閉塞に対する16時間までの血栓回収療法。2017年の脳卒中診療ガイドライン改訂で、6時間以内の血栓回収療法がグレードAの推奨となり、急性期脳梗塞治療の現場は変革を迫られているが、全国各地で診療体制が十分に整っているとはいえないのが現状だ。 そんな中、全国でも際立って多い血栓回収療法治療数を誇る県は四国にある。高知県だ。「脳卒中スクランブル」体制構築、禁忌例以外は全例rt-PA 日本では2016年の人口 10 万人当たりの血栓回収療法の治療件数は全国平均で6.06件と報告されている1)。しかし、海外文献では血栓回収療法は20件/10万人/年まで増えるだろう、との試算もあり、確実に治療できる体制を整えることが急務。また、治療件数の地域格差も問題視されている。 その中で高知県の取り組みは全国的に注目されている。人口10万人当たりの専門医数はさほど多いわけではないが、高知県の人口10万人当たりの同治療件数は非常に多い。つまり治療件数の増加に、同県の診療体制そのものが大きく影響していることが容易に想像できよう。 こうした高知の急性期脳梗塞治療の中心にあるのが高知医療センター。高知にはrt-PA投与および血栓回収療法を実施できる病院は5ヵ所しかなく、同医療センター脳神経外科診療科長の太田 剛史氏が主導し、2015年1月にスタートした「脳卒中スクランブル」が“躍進”の原動力になっている2)。 「脳卒中スクランブル」とは、救急隊が現場でその患者に脳卒中の疑いがあると判断した場合、「脳卒中スクランブル」を宣言し、病院側が一斉に体制を整えるもの。いわば、救急隊と院内各部の間で合意した取り決めだ。 具体的には、救急隊から連絡を受けた救急担当医は、「脳卒中スクランブル」がかかると、すぐに脳神経外科医に連絡。担当看護師、放射線技師にもただちに情報を共有し、当該脳卒中疑い患者への対応を病院を挙げて最優先する。CT撮影、検査などを迅速に行い、1分1秒を争うrt-PA投与、血栓回収療法までの時間を可能な限り圧縮するための措置だ。 救急隊に対しても当然そうした病院側の体制を事前に説明。「脳卒中疑い」の判断をしやすくするために、チェックすべき症状などを示した搬送前に確認すべき事項を記したカードを作成し、配布して啓発した。 たった、それだけのこと?と思われるかもしれないが、「このような体制が全県規模でしっかり取れている地域はまだまだ少ないようだ」と太田氏は言う。 さらに、rt-PA投与では、禁忌以外は基本的には全例投与という独自の適応基準を採用した。「日本では、rt-PA投与の適応が厳しく考えられすぎているように思う。2013年の報告だが、当時の基準の発症3時間以内に搬送された症例でも、16%にしかrt-PAが投与されていない。しかし、海外ではすでに積極的投与が推奨されているし、自験例で検証した結果、慎重投与例に投与してリスクがとくに高まることはなかった3)」(太田氏)。 「脳卒中スクランブル」導入前後で、rt-PAを投与した患者は飛躍的に伸びた。導入前2年半では、4.5時間以内に搬送された患者の32%だったのに対し、導入後の同期間では86%に達した。救急隊の協力などで4.5時間以内の搬送数そのものも35%から41%に向上した。独自ルールで血栓回収療法を迅速実施、転帰も飛躍的に向上 血栓回収療法も「脳卒中スクランブル」導入とほぼ同時に積極的に取り組み始めた。「それ以前は血栓回収療法の有効性を示すエビデンスがなかったが、ちょうど2015年2月に米国ナッシュビルで開催された国際脳卒中学会で立て続けに有効性を示す4つのRCT(MR CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT PRIME)が発表され、よいタイミングだった」と太田氏。 rt-PA静注療法、血栓回収療法は数分単位の遅れが転帰に大きく影響するため、施行までの時間を一刻でも短縮するために、rt-PA投与の判断ではMRIではなくCTを使用、血栓回収療法の開始までの時間もできるだけ短くなるよう、さまざまな工夫を実臨床で取り入れている。それらの結果、件数は、年間20件前後から50件へと劇的に伸び、冒頭で述べたように全国的にもトップクラスといえる病院となった。 もちろんrt-PA投与、血栓回収療法の実施件数が増えても、転帰が改善していなければ意味がない。これに関しても、きわめて良好な結果が出ている。 2012年9月から2014年12月の脳卒中スクランブル導入前と2015年1月から2017年4月の導入後の治療成績を比較したところ、退院時のmRS(modified Rankin Scale)が0または1の患者は36%から59%に増加。出血などの副作用も増えておらず、死亡率も7.0%から5.7%に、わずかだが有意に減少した。「虚血性脳卒中の6割が社会復帰できているというのは、かなり喜ばしいことだと思う」と太田氏は笑顔で語る。 高知医療センターの脳神経外科は7人全員が脳神経外科専門医であり、脳血管内治療専門医は指導医である太田氏のほかに3人。地域によって状況が違うことを考慮しても、急性期脳梗塞診療に関しては、理想に近い高いパフォーマンスを示しているといえそうだ。■参考1)Ohta T, et al.J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27:1844-1851. 2)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0003/_article/-char/ja/3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nkc/advpub/0/advpub_oa.2018-0005/_article/-char/ja/

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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多剤併用のリスク回避は患者教育が大事

 高齢者では6種類以上の薬を常用していることも珍しくなく、近年多剤併用(ポリファーマシー)の問題がクローズアップされている。そんななか、MSD株式会社は、「シニア世代における服薬・不眠症治療に関する実態調査」を行い、今回その結果を公表した。 今回の調査の目的は、多剤併用のリスクにつき、(服薬している)高齢者本人だけではなく、その配偶者も意識しているかどうかのほか、服薬に関する状況やリスク認識、不眠症治療薬に対する意識についても調査した。シニア世代(55歳以上)を配偶者に持つ男女3万20名に調査。多剤併用の目安とされる「6種類以上」服用は8.0% はじめに「(配偶者が)医師から処方された治療薬を服用しているかどうか」の問いには、54.4%が「はい」と回答、また、「(配偶者が)1日に何種類の治療薬を服用しているか」の問いには、「3種類以上」が40.2%(3~5種類/6~10種類/11種類以上の合計)」と4割にのぼり、「3~5種類」が32.2%と最も多く、多剤併用の目安とされる「6種類以上(6~10種類/11種類以上の合計)」を服用している回答者は8.0%だった。 「あなたが主体となって配偶者の服薬の管理をしているか」の問いでは、回答者が女性の場合6.5%、回答者が男性の場合2.6%(196人)と、男女間で差が見られた。 また、「配偶者に不眠症状(夜なかなか寝付けない/夜中に何度も起きるなど)が見られるケースがあるか」の問いでは、「ある」が37.7%にもかかわらず、配偶者が不眠症治療薬を服用している割合は6.9%だった。多剤併用と不眠症のリスク 不眠症治療薬を服用している55歳以上の配偶者を持つ人412名を対象とした2次調査では、「『多剤併用』という言葉やリスクについて知っているか」という問いに「知らなかったと答えた人は67.7%だった。また、多剤併用に関して、言葉もしくはリスクについて知っていた回答者のなかで、「医師に相談したことがある人」は15.1%だった。 配偶者の多剤併用について、とくに不安や心配を「感じない」または「感じていなかった」人は77.4%と約8割いた一方で、医師から処方された治療薬に関して「病気やケガを治すためとはいえ、治療薬はできる限り最小限にしたい」と考える人は69.4%だった。不眠症治療薬の服用の実態 2次調査による回答で配偶者の不眠症治療薬の服用期間で、1年以上の長期服用割合は88.6%とかなりの数の患者が長期にわたり服用している現実が明らかになった。 不眠症治療薬に抱くイメージでは、「薬を飲み始めたらなかなかやめられない」(47.3%)、「薬を飲まないと、不安でますます眠れなくなる」(41.0%)、「服用期間が長くなると、効き目が悪くなる」(37.6%)などだった。また、不眠症治療薬を服用している配偶者に「足元のふらつき」が見られる割合は17.0%と、約5人に1人が経験している結果だった。 「(配偶者には)できれば不眠症治療薬に頼らずに眠ってほしい」と思っている人が88.6%いる一方で、88.3%が「きちんと眠るためには不眠症治療薬を服用することも仕方ない」とも考えていることが判明した。 不眠症治療薬の服用をやめることを夫婦で話したことがある人は51.5%にのぼるが、配偶者が服用をやめることを医師に相談したことがある人は28.9%だった。正しく薬を使うという考え方を持つことが重要 今回の多剤併用のリスク意識についての調査結果を踏まえ秋下 雅弘氏(東京大学医学部附属病院 老年病科 教授)は、「多くの人に対して『薬の適正使用』という考えを啓発する必要性を改めて感じる。『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)』では、控えたい薬の中でよく使われるものとして不眠症治療薬も含まれているが、『薬を使わなくても良い』という訳ではなく、生活の質を向上させるために『正しく薬を使う』という考え方を持つことが重要。自分や家族に気になる様子がある場合、自己判断による服用の中断は避け、かかりつけのお医者さんに相談することが重要」とコメントを寄せている。 また、池上 あずさ氏(くわみず病院 院長)は、「不眠症治療では、不眠に悩む本人だけでなく、治療に寄り添う医療従事者、一緒に生活する家族の理解と協力が欠かせないが、薬の服用をやめることを医師に相談した人が3割弱となっていることから、悩まれながらも打ち明けることができていない姿が想像された。不眠症治療のゴールである『薬に頼らずと眠れる』ためにも、適切な治療を開始することが重要。正しい知識をより多くの人が持つためにも今回のような啓発活動は大切で、医療従事者からも、患者さんに伝えていきたい」とコメントを寄せた。●調査概要 対象:55歳以上の配偶者を持つ男女 3万20名 対象地域:全国 方法:インターネット調査 期間:2018年9月4日~12日

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リナグリプチン、高リスク2型DMでのCV・腎アウトカムは/JAMA

 心血管および腎リスクが高い2型糖尿病の成人患者では、通常治療と選択的DPP-4阻害薬リナグリプチンの併用療法は、主要な心血管イベントのリスクがプラセボに対し非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCARMELINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2018年11月9日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクの増加と関連する。これまでに実施された3つのDPP-4阻害薬の臨床試験では、心血管への安全性が示されているが、これらの試験に含まれる高い心血管リスクおよび慢性腎臓病を有する患者の数は限定的だという。心血管・腎アウトカムへの影響を評価するプラセボ対照非劣性試験 研究グループは、心血管および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において、心血管および腎アウトカムに及ぼすリナグリプチンの影響の評価を目的に、プラセボ対照無作為化非劣性試験を行った(Boehringer IngelheimとEli Lillyの助成による)。 対象は、HbA1cが6.5~10.0%で、高い心血管リスク(冠動脈疾患、脳卒中、末梢血管疾患の既往、微量・顕性アルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>30mg/g])および腎リスク(推定糸球体濾過量[eGFR]が45~75mL/分/1.73m2かつUACR>200mg/g、またはUACRにかかわらずeGFRが15~45mL/分/1.73m2)を有する2型糖尿病患者であった。末期腎不全(ESRD)患者は除外された。 被験者は、通常治療に加え、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。臨床的必要性および参加施設のガイドラインに基づき、他の血糖降下薬およびインスリンの使用は可能とされた。 主要心血管アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合の初回発生までの期間とした。非劣性の判定基準は、リナグリプチンのプラセボに対するハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)の上限値が1.3未満の場合とした。副次腎アウトカムは、腎不全による死亡、ESRD、eGFRのベースラインから40%以上の低下の持続とした。 2013年8月~2016年8月の期間に、27ヵ国605施設に6,991例が登録され、6,979例(リナグリプチン群3,494例、プラセボ群3,485例)が1回以上の試験薬の投与を受けた。このうち98.7%が試験を完遂した。主要心血管アウトカム:12.4% vs.12.1%、副次腎アウトカム:9.4% vs.8.8% ベースラインの全体の平均年齢は65.9歳、eGFRは54.6mL/分/1.73m2、UACR>30mg/gの患者の割合は80.1%であった。57%が心血管疾患を有し、74%が腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2あるいはUACR>300mg/gCr)であり、33%が心血管疾患と腎臓病の双方に罹患しており、15.2%はeGFR<30mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値2.2年における主要心血管アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が12.4%(434/3,494例)、プラセボ群は12.1%(420/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.13(95%CI:-0.63~0.90)であり、リナグリプチン群はプラセボ群に対し非劣性であった(HR:1.02、95%CI:0.89~1.17、非劣性のp<0.001)。優越性には、統計学的に有意な差はなかった(p=0.74)。 副次腎アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が9.4%(327/3,494例)、プラセボ群は8.8%(306/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.22(95%CI:-0.52~0.97)であり、優越性に関して統計学的に有意な差は認めなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.22、p=0.62)。 有害事象の発生率は、リナグリプチン群が77.2%(2,697/3,494例)、プラセボ群は78.1%(2,723/3,485例)であった。低血糖エピソードが1回以上発現した患者の割合は、それぞれ29.7%(1,036例)、29.4%(1,024例)であり、急性膵炎は0.3%(9例)、0.1%(5例)に認められた。 著者は、「本試験全体の高い主要心血管イベントの発生率(5.63/100人年)は、これまでの血糖降下薬の心血管アウトカムに関する検討の中でも最もリスクの高いコホートの1つを登録したこの試験が、2型糖尿病治療薬の心血管安全性の評価に関するFDAの必要条件に従って実施され、腎障害への臨床的影響を明らかにしたことを示すものである」としている。

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胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」【下平博士のDIノート】第14回

胎児へのトキソプラズマ垂直感染を抑制する抗原虫薬「スピラマイシン錠150万単位」今回は、「抗トキソプラズマ原虫薬スピラマイシン(商品名:スピラマイシン錠150万単位)」を紹介します。本剤は、妊娠中にトキソプラズマに初感染した妊婦が服用することで、胎児の先天性トキソプラズマ症の発症を抑制します。<効能・効果>本剤は先天性トキソプラズマ症の発症抑制の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月25日より販売されています。トキソプラズマのタンパク合成を阻害することで、増殖抑制効果を示します。<用法・用量>通常、妊婦に1回2錠(スピラマイシンとして300万国際単位)を1日3回経口投与します。抗体検査や問診などにより妊娠成立後のトキソプラズマ初感染が疑われる場合に使用します。<患者さんへの指導例>1.妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合に、胎児が感染することで発症する恐れのある「先天性トキソプラズマ症」を防ぐための薬です。2.胎児への感染が確認されないうちは、分娩まで続けて服用します。3.薬によって腸内細菌のバランスが崩れると、便が緩くなったり、おなかが痛くなったりすることがあります。4.高熱、激しい腹痛を伴う血便、めまい、動悸、胸痛などの症状がありましたら、服用をやめてすぐに医師の診察を受けてください。5.母乳中に移行することが報告されているため、本剤を服用中の授乳は避けてください。<Shimo's eyes>トキソプラズマは人畜共通の寄生原虫であり、猫を終宿主としますが、豚、牛、鶏、羊、馬などのほか、食肉用の動物以外も含めて、ほぼすべての哺乳類や鳥類に感染します。ヒトへの主な感染経路としては、加熱不十分な食肉、猫の糞便や洗浄不十分な野菜などによって、トキソプラズマ原虫を経口的に摂取することが挙げられます。また、園芸などの土いじりや砂場遊びが原因になることも考えられます。通常、健康な成人がトキソプラズマに感染した場合、風邪様の症状が出現することもありますが、多くの場合は無症状のまま潜伏感染に移行します。しかし、妊婦がトキソプラズマに初感染すると、胎盤を介して胎児に感染し、先天性トキソプラズマ症を発症する可能性があります。先天性トキソプラズマ症は流産・死産の原因になったり、生まれた子供に水頭症、網脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神・運動機能障害などといった重大な臨床症状が認められたりすることがあるため、胎児への感染を抑制する必要があります。本剤は、抗菌活性に加え、抗トキソプラズマ活性を有する16員環のマクロライド系抗菌薬で、海外の診療ガイドラインではトキソプラズマに初感染した妊婦に対し、本剤が標準的治療薬として推奨されています。しかし、わが国ではこれまでトキソプラズマを適応症として承認されている薬剤はなかったため、日本産科婦人科学会より開発の要望がなされていました。本剤の抗原虫作用はトキソプラズマに対する増殖抑制であり、感染後早期に服用を開始することで、垂直感染が約60%低下するという報告があります。ただし、殺原虫効果はないため、胎児への感染が疑われる場合には、本剤の投与・継続の適否について慎重に検討する必要があります。実際には先天性トキソプラズマ症で生まれてくる児はわずかですが、加熱不十分な食肉を食べること、素手での飼い猫の糞便の処理や土いじりは、トキソプラズマ感染を引き起こすリスクがあることを薬剤師も再認識し、妊娠中または妊娠を予定している患者さんに対して調理方法や手袋の着用、十分な手洗いなどの注意喚起を行えるとよいでしょう。

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サルコペニア嚥下障害は誤嚥性肺炎などの入院が引き金に

 元気だったはずの高齢者が、入院後に低栄養で寝たきりになるのはなぜか。2018年11月10、11日の2日間、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)が「栄養の視点からみたサルコペニアの摂食嚥下障害対策」について講演した。誤嚥性肺炎で救急搬送されサルコペニアの嚥下障害になる “嚥下障害があり、食べられないから低栄養になる”という流れはごく普通である。若林氏は、「低栄養があると嚥下障害を来すことがあり、これはリハビリテーションだけでは改善することができない。つまり、栄養改善が要」と、本来とは逆ともとれる低栄養のメカニズムについて解説した。 若林氏によると、一見、元気な老人でも実はサルコペニアを発症している可能性があるという。たとえば、喉のフレイル(嚥下障害ではないが正常より衰えている状態)が原因となり、誤嚥性肺炎を発症。その後、救急搬送され寝たきりや嚥下障害になる場合がある。この原因について同氏は、「急性期病院で誤嚥性肺炎を発症すると“根拠のない安静”や“禁食”がオーダされやすい」と、嚥下、腸管や心臓機能などの適切な評価がなされていない点を指摘。さらに、「病院内での不適切な安静臥床と栄養管理や肺炎の急性炎症による筋肉の分解でサルコペニアを生じる結果、これまで外出や食事が可能であった方でも寝たきりや嚥下障害となる」と、入院後の管理体制を問題視した。サルコペニアによる嚥下障害の定義とは 同氏らを含む4学会(日本サルコペニア・フレイル学会、日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会)は、サルコペニアによる嚥下障害を立証し、メカニズム、診断、治療、今後の展望に関する統一的見解を提言するために、ポジションペーパーを作成している1)。 この合同学会において、サルコペニアによる嚥下障害を以下のように定義している。1)全身の筋肉と嚥下関連筋の両者にサルコペニアを認める2)脳卒中など明らかな摂食嚥下障害の原因疾患が存在し、その疾患による摂食嚥下障害と考えられる場合は除外する3)神経筋疾患による筋肉量減少や筋力低下、そして摂食嚥下障害はサルコペニアの摂食嚥下障害には含めない ポジションペーパーに採用された研究の一部には、今年発表された基礎研究も含まれる。これによると、誤嚥性肺炎では舌や横隔膜で筋分解が亢進し、筋萎縮が生じることが示された2)。これについて同氏は、「人間でも同様のメカニズムにおいて呼吸筋、全身の骨格筋、嚥下筋の筋萎縮が引き起こされ、最終的に寝たきりに至るのでは」と、研究結果を踏まえた人体への影響を説明。さらに、同氏が行った嚥下関連筋のレジスタンストレーニングに関するRCT3)を示し、摂食嚥下障害の原因がサルコペニアの場合、栄養改善を行いながらレジスタンストレーニングを行うと改善しやすい傾向であることを解説した。急性期病院患者のサルコペニア嚥下障害の有病割合は32% 急性期病院の実態として、嚥下リハ患者のサルコペニア有病割合は49%を占め、患者の2人に1人がサルコペニアであることが判明している4)。さらに、患者全体ではサルコペニア嚥下障害の有病割合は32%と、3人に1人はサルコペニアの嚥下障害を有し、急性期病院で起こりがちな、“とりあえず安静”、“とりあえず禁食”、“とりあえず水電解質輸液のみ”によって引き起こされている。これを『医原性サルコペニア』と呼び、同氏は「サルコペニアによる嚥下障害の患者は、他の嚥下障害よりも予後が悪いため予防が重要」と予防の大切さを訴えた5)。サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防・治療へ攻めの栄養管理 今後の展望として、サルコペニアによる摂食嚥下障害の予防、治療への介入研究、管理栄養士の積極的な介入を必要が必要であると述べ、それに有用な“攻めの栄養管理“を以下のように提唱した。・(痩せている)実体重の場合:エネルギー必要量=エネルギー消費量±蓄積量(200~750kcal/day)・理想体重の場合:35kcal/kg/day 最後に同氏は、「サルコペニアは地域での予防、軽微な状態で発見し介入することが重要」と述べ、リハ栄養診断やゴール設定など、リハ栄養における5つのステップ5)の活用を求めた。■参考1)Fujishima I, et al. Sarcopenia and dysphagia: Position paper by four professional organizations. Geriatr Gerontol Int, in press2)Komatsu R, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018;9:643-653.3)Wakabayashi H, et al. Nutrition. 2018;48:111-116.4)Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging. 2018 Oct 16.5) Nagano A, et al. Rehabilitation nutrition for iatrogenic sarcopenia and sarcopenic dysphagia. J Nutr Health Aging, in press■関連記事初の「サルコペニア診療ガイドライン」発刊高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を「食べる」ことは高齢者には大問題

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拡張型心筋症の治療は回復後中止してよいか/Lancet

 症状および心機能が回復した拡張型心筋症患者では、薬物療法を中止すべきか否かが問題となる。英国・王立ブロンプトン病院のBrian P. Halliday氏らは、治療を中止すると再発のリスクが高まるとの研究結果(TRED-HF試験)を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月11日号で報告した。拡張型心筋症患者のアウトカムはさまざまで、多くは良好な経過をたどる。回復した患者における治療中止を前向きに調査したデータはないため、専門家のコンセンサスは得られておらず、明確な推奨を記載したガイドラインはないという。中止と継続の再発リスクを比較する無作為化パイロット試験 本研究は、回復した拡張型心筋症患者における治療中止の安全性を評価する非盲検無作為化パイロット試験(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、現在は無症状の拡張型心筋症で、左室駆出率が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、NT-pro-BNP濃度が250ng/L未満の患者であった。患者登録は、英国の病院ネットワークを通じて行われた。被験者は、治療を中止する群または継続する群に無作為に割り付けられた。 治療中止群は、4週ごとに臨床評価を行い、ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBの順に投与を中止した。治療継続群は、6ヵ月後から同様の方法で治療を中止した。6ヵ月までを無作為割り付け期、6ヵ月以降は単群クロスオーバー期とした。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の拡張型心筋症の再発であった。再発の定義は、次の4つのうち1つ以上を満たす場合とした。1)LVEFの10%以上の低下かつLVEF<50%、2)LVEDVの10%以上の上昇かつ正常範囲を超える、3)NT-pro-BNP濃度がベースラインの2倍に上昇かつ400ng/L以上、4)徴候および症状に基づく心不全の臨床的エビデンス。全体の再発率は40%、再発予測因子の確立までは治療継続を 2016年4月21日~2017年8月22日の期間に51例が登録され、治療中止群に25例(年齢中央値:54歳[IQR:46~64]、男性:64%)、治療継続群には26例(56歳[45~64]、69%)が割り付けられた。 6ヵ月までに、治療中止群の11例(44%)が再発したのに対し、治療継続群では再発は認めなかった。Kaplan-Meier法による6ヵ月時の治療中止群のイベント発生率は45.7%(95%信頼区間[CI]:28.5~67.2、p=0.0001)であった。 6ヵ月以降、治療継続群は26例中25例(96%)で治療を中止した(1例は発作性心房細動が疑われたため中止できなかった)。このうち、単群クロスオーバー期の6ヵ月のフォローアップ期間中に9例が再発し、イベント発生率は36.0%(95%CI:20.6~57.8)であった。 したがって、治療を中止した50例中20例(40%)が再発したことになる。再発の原因は、LVEF低下が12例(60%)、LVEDV上昇が11例(55%)、NT-pro-BNP濃度上昇が9例(45%)、末梢浮腫の発現が1例(5%)であった。 両群とも死亡例の報告はなく、心不全による予定外の入院や主要有害心血管イベントもみられなかった。治療中止群で重篤な有害事象3件(非心臓性胸痛、尿路性敗血症、既存疾患への待機的手技のための入院)が認められた。 無作為割り付け期では、治療中止との関連が認められた因子として、LVEF低下(p=0.0001)、心拍数増加(p<0.0001)、拡張期血圧上昇(p=0.0083)、KCCQ(カンザスシティー心筋症質問票)スコア低下(p=0.0354)が挙げられた。 著者は、「再発の頑健な予測因子が確立されるまでは、期限を設けずに治療を継続すべきと考えられるが、患者が治療中止を希望する場合は、注意深く、かつさらなる情報を得るまでは無期限に、心機能の監視を行う必要がある」とし、「今後、心不全の薬物療法を安全に中止可能な患者や、一部の薬剤のみの継続投与によって心機能の恒久的な回復が維持できる患者のサブグループを同定する検討が必要である」と指摘している。

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ESMO2018レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する後方ライン治療(1)-ATTRACTION-2試験長期成績-切除不能胃がんに対する標準治療は1次治療フルオロピリミジン+白金製剤(HER2陽性の場合にはさらにトラスツズマブ併用)、2次治療パクリタキセル+ラムシルマブである。3次(後方ライン)治療以降は、ニボルマブもしくはイリノテカンが治療選択肢である。ニボルマブは、2レジメン以上の化学療法不応の切除不能胃がん(胃食道接合部がん含む)を対象としたプラセボ群との比較第III相試験(ATTRACTION-2)で有効性が示され、本邦でも2017年9月に胃がんへと適応拡大された。ESMO2018では、ATTRACTION-2のアップデート結果が報告された。2018年2月までの2年間の長期追跡でも、ニボルマブ群はプラセボ群と比較して有意なOS延長が確認され、2年全生存(OS)割合は、ニボルマブ群10.6%、プラセボ群3.2%、2年無増悪生存(PFS)割合は、ニボルマブ群3.8%、プラセボ群0%であった。奏効例のOS中央値26.61ヵ月、2年OS割合61.3%であった。また、SD症例におけるOS中央値は、ニボルマブ群8.87ヵ月、プラセボ群7.62ヵ月(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.52~1.23)であり、有意差はないもののニボルマブ群で良好であった。本結果は、実施臨床でのニボルマブ使用においても実感できる。奏効例では長期奏効が得られることも多く、まさにノーベル賞受賞の最近の報道でなされる“奇跡の薬”との表現にも同意する。一方で胃がんでのニボルマブの奏効率はわずか10%程度であり、治療のメリットが実感できない場面が多いのも事実である。さらに、最近は約10%にhyperprogressionが認められ、むしろdetrimentalに働く集団の存在も示唆されている。抗PD-1抗体薬の効果予測バイオマーカーが必要であり、有効もしくは無効のバイオマーカーがないと、1次・2次治療や補助療法での抗PD-1抗体薬の使用は困難であろう。胃がんに対する後方ライン治療(2)-新たな治療選択肢の登場-TAGS試験(TAS-102 Gastric Study)は、2レジメン以上の前治療歴のある切除不能胃がんに対するTAS-102の有効性を検証したプラセボ対照第III相試験である。結果はすでに本年の世界消化器癌学会議(ESMO-GI)で発表されているが、ESMO2018ではサブグループ解析と腫瘍縮小効果の結果が追加された(TAS-102群:337例、プラセボ群:170例)。主要評価項目であるOS(中央値/12ヵ月OS割合)は、プラセボ群3.6ヵ月/13%に対して、TAS-102群5.7ヵ月/21%(HR:0.69、95%CI:0.56~0.85、p=0.0003)であり、TAS-102群が有意に良好であった。サブグループ解析でも、各サブグループにおいてTAS-102群が良好な結果であった。腫瘍縮小効果はTAS-102群で1例の完全奏効(CR)と部分奏効(PR)12例を認め、奏効割合(ORR)は4%であった。安定(SD)も含めた病勢制御割合(DCR)はTAS-102群44%であり、プラセボ群14%に比べ有意に良好であった。有害事象は、TAS-102群においてgrade 3以上の有害事象が多くみられ(TAS-102 80% vs.プラセボ58%)、好中球数減少(38% vs.0%)や白血球減少(21% vs.0%)、貧血(19% vs.7%)、血小板数減少(6% vs.0%)などの血液毒性が主であった。これら有害事象によるTAS-102の減量・休薬は58%で、13%の症例は試験治療中止となり、16%の症例でG-CSFが投与されていた。本試験より、TAS-102は胃がん後方ライン治療の新たな選択肢として、本邦においても使用可能となるだろう。位置付けはニボルマブと同様になると思われる。有害事象も大腸がんでの報告と同程度であり、胃がんでも比較的スムーズに臨床導入できるだろう。一方で、胃がんと大腸がんの病態の違いには注意が必要である。つまり、胃がんの方がよりaggressiveな病態を呈する患者が多く、経口摂取が困難となるケースも多い。本試験でもTAS-102後の後治療移行率は、TAS-102群25%、プラセボ群26%と両群ともきわめて低率であった。ニボルマブ、TAS-102、イリノテカンをすべて単剤療法として使い切るストラテジーよりも、併用療法の開発が期待される。大腸がん1次治療としてのTriplet療法の再検証-TRIBE2試験-大腸がん1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法は、本邦におけるガイドラインでも推奨されるレジメンの1つである。その根拠となったTRIBE試験は、FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法(Triplet)とFOLFIRI+ベバシズマブ療法との第III相試験であり、ORR 65% vs.53%(p=0.006)、PFS中央値12.1ヵ月vs.9.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.75、p=0.003)、OS中央値29.8ヵ月vs.25.8ヵ月(HR:0.80、p=0.030)と、いずれもTriplet群が有意に良好であった。しかし本試験では、FOLFIRI群の後治療のオキサリプラチン導入割合が低く、本邦の実地臨床への外挿に疑問の声もあった。ESMO2018では、続編としてTriplet+ベバシズマブ療法を1次治療および2次治療で使用する群(triplet群)と1次治療FOLFOX+ベバシズマブ療法→2次治療FOLFIRI+ベバシズマブ療法を逐次的に行う群(doublet群)を比較した第III相試験(TRIBE2試験)の結果が報告された。すべての治療は最大8コースの施行とされ、その後は、増悪まで5-FU+ベバシズマブ療法継続が実施された。679例が登録され、患者背景は両群に大きな差はなく、RAS変異型60%程度、BRAF変異型10%、右側結腸38%と、一般的な大腸がんのpopulationよりも多い傾向であった。主要評価項目であるPFS2(2次治療終了までの無増悪生存期間)中央値は、doublet群16.2ヵ月、triplet群18.9ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)とtriplet群で有意に良好であった。1次治療PFSはdoublet群9.9ヵ月、triplet群12.0ヵ月(HR:0.73、p<0.001)、2次治療PFSの中央値はdoublet群5.5ヵ月、triplet群6.0ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.70~1.05、p=0.120)と有意差を認めなかった。doublet群の86%(248/288例)、triplet群の74%(194/261例)が2次治療に移行し、規定された2次治療が、doublet群では88%(FOLFIRI±Bmab)、triplet群では76%(FOLFOXIRI±Bmab)に行われていた。有害事象は既報のとおりで、1次治療における安全性は、grade 3以上の有害事象のうち、下痢(doublet群5% vs.triplet群17%、以下同様)、好中球減少(21% vs.50%)、発熱性好中球減少症(3% vs.7%)で群間差を認めた。本発表は、初回治療におけるtripletの有効性を再現したものと考えられる。doublet群の88%で2次治療に移行できているにもかかわらずtriplet群でPFS2が良好であったことはインパクトが大きいが、その理由は明らかではない。治療早期に強いレジメンを実施し、腫瘍縮小を達成することが生存延長につながっているのであろうか。とくに本試験の対象として多く含まれているRAS/BRAF変異型や右側結腸原発症例で有用である。今後発表されるOS結果にも注目したい。大腸がんに対する免疫療法の明暗-Checkmate142試験とMODUL試験-大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害剤は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)やミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)タンパク発現消失を示すMMR機能欠損(deficient MMR:dMMR)がんとMMR機能欠損を示さないproficient MMR(pMMR)がんに分けて治療開発が行われている。dMMR例は遺伝子変異数(tumor mutation burden:TMB)が多く、腫瘍浸潤性リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)の強い免疫腫瘍環境を有することから、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる。CheckMate142試験は抗PD-1抗体薬ニボルマブ(NIVO)単剤療法、NIVOと抗CTLA-4抗体薬イピリムマブ(IPI)との併用療法を検討した第II相試験であり、ESMO2018では1次治療としてのNIVO+IPI併用療法コホートの結果が報告された。本コホートは、dMMR例を対象に、NIVO(3mg/kgを2週間隔)と低用量IPI(1mg/kgを6週間隔)の併用療法であり、既報の同薬剤併用の既治療コホート(NIVO 3mg/kg+IPI 1mg/kgを3週間隔×4回→その後はNIVO 3mg/kgを2週間隔)とは異なったスケジュールである。今回のコホートには45例が登録され、BRAF変異型38%、Lynch症候群18%が含まれていた。主要評価項目である担当医判定によるORRは60%(完全奏効[CR]:3例[7%]を含む)、DCRは84%であった。BRAF変異例17例でも、ORR 71%、DCR 88%と良好だった。解析時点において82%の症例が効果継続中であり、12ヵ月PFS割合77%、OS割合83%と、長期の生存延長効果が期待された。Grade 3以上の重篤な有害事象割合は16%であり、治療中止に至る有害事象も7%と低かった。今回の報告は既治療例通常用量のNIVO+IPIコホートと比較して有効性は同程度、重篤な有害事象は少ない傾向であった。これが、低用量IPIのおかげなのか、それとも初回治療例を対象としたものかはランダム化比較試験でないため確証はないが、個人的には有害事象と有効性のバランスが良い本投与法を実地臨床では使用したい。とくにBRAF変異型も含めた高い有効性は魅力的である。dMMRがんに対するpembrolizumabは本年度中に適応拡大予定であるが、NIVO+IPI療法もdMMR大腸がんに必要なレジメンと考えられる。一方でpMMR大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療開発は、いまだ成功していない。MODUL試験は、大腸がんにFOLFOX+ベバシズマブ導入化学療法後の維持療法に関するランダム化比較試験で、バイオマーカーに基づくアンブレラ型試験である。今回、BRAF野生型コホート(コホート2)としてフッ化ピリミジン系薬剤+Bevacizumab(Bmab)とAtezolizumabの併用療法との比較パートの結果が発表された。患者背景はRAS変異型60~65%、dMMR2%であり、本試験はpMMR大腸がんへの免疫チェックポイント阻害剤の有効性を探索する試験と言える。追跡期間中央値18.7ヵ月時点におけるupdate analysisでのPFS中央値は試験治療群7.20ヵ月、標準治療群7.39ヵ月(HR:0.96、95%CI:0.77~1.20、p=0.727)、OS中央値は試験治療群22.05ヵ月、標準治療群21.91ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.66~1.13、p=0.283)と、有意差は認められなかった。ESMO-GIでは後方ラインでのAtezolizumab(+cobimetinib)の第III相試験(COTEZO)もnegativeな結果が報告された。pMMR大腸がんへの免疫療法は、まだまだ暗い闇の中といったところである。

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ART未治療HIV-1感染患者へのドルテグラビル+ラミブジン/Lancet

 抗レトロウイルス療法(ART)歴のないHIV-1感染成人患者において、ドルテグラビル+ラミブジンによる48週間の治療は、ガイドラインで推奨される3剤レジメンに対して非劣性であることが検証された。アルゼンチン・ブエノスアイレス大学のPedro Cahn氏らによる多施設共同無作為化二重盲検非劣性第III相試験「GEMINI-1」および「GEMINI-2」の結果で、忍容性プロファイルは類似しており、著者は「2剤レジメンはHIV-1感染患者の初回治療として支持される」とまとめている。2剤レジメンは、現在の標準治療である3剤以上を併用するレジメンと比較して、長期にわたる薬物曝露やARTの毒性を減少させる可能性があると考えられていた。Lancet誌オンライン版2018年11月9日号掲載の報告。ドルテグラビル+テノホビル/エムトリシタビンの3剤レジメンと比較 GEMINI-1試験とGEMINI-2試験は、同一試験デザインで21ヵ国192施設において実施された。対象は、HIV-1 RNAウイルス量が50万コピー/mL以下のART歴のない18歳以上のHIV-1感染患者で、2剤レジメン(ドルテグラビル50mg+ラミブジン300mgの1日1回経口投与)群、または3剤レジメン(ドルテグラビル50mg+テノホビルジソプロキシルフマル酸塩300mg/エムトリシタビン200mgの1日1回経口投与)群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。患者と治験担当医は、治療の割付について盲検化された。 主要評価項目は、intention-to-treat-exposed集団における48週時のHIV-1 RNA量が50コピー/mL未満の患者の割合(Snapshotアルゴリズム解析)で、非劣性マージンは-10%とし、治験薬を1回以上服用したすべての患者(安全性解析対象集団)において安全性を評価した。2剤レジメンの3剤レジメンに対する非劣性を確認 2016年7月18日~2017年3月31日に、両試験で計1,441例が無作為に割り付けられた(2剤レジメン群719例、3剤レジメン群722例)。 48週時のHIV-1 RNA量が50コピー/mL未満の患者の割合は、GEMINI-1試験では2剤レジメン群90%(320/356例)、3剤レジメン群93%(332/358例)(補正群間差:-2.6%、95%信頼区間[CI]:-6.7~1.5%)、GEMINI-2試験ではそれぞれ93%(335/360例)、94%(337/359例)(補正群間差:-0.7%、95%CI:-4.3~2.9%)であり、両試験とも非劣性が示された(併合解析:2剤レジメン群91%[655/716例]vs.3剤レジメン群93%[669/717例]、補正群間差:-1.7%、95%CI:-4.4~1.1%)。 薬剤関連有害事象の発現率は、3剤レジメン群で2剤レジメン群より高かった(24% vs.18%)。有害事象により試験を中止した患者はいずれも少なかった(3剤レジメン群2%、2剤レジメン群2%)。GEMINI-2試験において2剤レジメン群で死亡が2例報告されたが、いずれも治験薬との関連はないと判定された。

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第12回 びまん性汎細気管支炎にマクロライド系抗菌薬が長期投与されるのはなぜ?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗菌薬は必要なときに短期間処方されるのが一般的ですが、例外もあります。その代表的なものが、マクロライド系抗菌薬の長期投与です。COPDや非嚢胞性線維症性の気管支拡張に対して行われることも多い治療法ですが、今回はびまん性汎細気管支炎(Diffuse panbronchiolitis:DPB)に対するマクロライドの少量長期療法について紹介します。DPBは呼吸細気管支と呼ばれる細い気管支を中心に慢性炎症が起こり、咳や痰、呼吸困難が生じる疾患で、ほとんどの場合で慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併するのが特徴的です1)。日本人を含む東アジア人に多く、男女差はなく、40~50代が好発年齢です2)。もともとは未治療の場合、診断から5年以内に約50%が死亡するというきわめて予後の悪い疾患でしたが3)、マクロライドの少量長期療法が行われるようになって死亡率が急速に低下しました4)。日本発の治療法で、その効果が判明したのは1980年代になってのことです。それでは、数ある抗菌薬の中でもなぜマクロライド系抗菌薬がDPBに有効なのでしょうか。その説明として考えられているのが、その抗炎症作用です。抗菌作用も期待できるとは思われますが、DPBにおける投与量は通常よりも少なく、一般的な重感染症最小発育阻止濃度を下回っているので、主に抗炎症作用を期待しての治療なのでしょう。抗炎症作用といっても多くの説があり、バイオフィルム形成、免疫調整、肺胞マクロファージによる食作用の亢進作用などが知られています。一般にマクロライド系抗菌薬は、肺胞マクロファージによって細胞内に濃縮されやすく、血清濃度よりもクラリスロマイシンで約400倍、アジスロマイシンで約800倍高いレベルになるとされていて、これが比較的低用量で奏効する理由と考えられています5)。コクランのシステマティックレビューにおいてもDPBに対するマクロライド少量長期療法の効果が検証されています6)。システマティックレビューといっても、レビューへの組み入れ基準は「DPBに対するマクロライドの効果と安全性を検討したランダム化比較試験(RCT)ないし準ランダム化比較試験」で、RCTではない観察研究や対照群のない研究が除かれた結果、最終的に残ったRCTは1件だけでした。その内容は、20~70歳(平均年齢50歳)のDPB患者19例のうち12例をエリスロマイシン600mg/日の長期投与群、7例を無治療群に割り付けて比較したというものです。エリスロマイシン群の全例において、CT画像はベースラインからの改善がみられた一方、対照群では71.4%が悪化、28.6%が変化なしという結果でした。レビュー内でエビデンスの質は低いとされていますが、予後の悪い疾患でこれほどの差が出ていることは注目に値するのではないでしょうか。14員環、15員環なら有効性は高いが、16員環は無効エリスロマイシン以外の長期療法についても紹介しましょう。10例のDPB患者を組み入れ、クラリスロマイシン200mg/日で4年間治療したオープンラベルの研究です。肺機能検査などの項目は、ほとんどの被験者で6ヵ月以内に有意な改善がみられています。また、重大な副作用は認められず、長期間安全に服用できることが示唆されました7)。エリスロマイシンやクラリスロマイシンは14員環のマクロライドですが、15員環のアジスロマイシンにおいてもDPBに対する効果を検討した試験があります。51例のDPB患者を対象とした研究では、アジスロマイシン500mg/日を静注で1~2週間投与した後、1日1回経口服用で3ヵ月継続し、さらに週に3回経口服用を6~12ヵ月継続したところ、臨床的治癒は27.5%、改善は70.6%で、5年生存率は94.1%でした8)。また、別の研究では、アジスロマイシンを60例の患者に250mg/日を週2日3ヵ月間投与したところ、多くの被験者で喀痰量および呼吸困難が減少し、有効率は84.6%でした9)。なお、16員環を有するマクロライド(ジョサマイシンなど)はDPBに無効と考えられており、ガイドラインにおいても推奨されていません2)。長期療法と言われると気になるのはどのくらい長期かということですが、その最適な期間は明確には定まっていないようです。紹介してきた臨床試験においては、ほとんどの患者さんにおいて最低6ヵ月程度は継続され、大部分は治療開始2年後までには中止に至っています。基本的には、臨床症状、X線写真所見、および肺機能測定値が改善または安定するまでということになるようです。もちろん中止後も、呼吸困難、咳、痰の程度についてモニタリングすることが望ましく、再び気管支拡張症や副鼻腔炎のような徴候が出た場合には治療が再開される可能性があることには留意しておくとよいでしょう。また、マクロライド系抗菌薬にはモチリン様作用が知られているので、低用量であっても下痢が生じる可能性があります。モチリンは消化管の蠕動運動を活発にするホルモンですが、マクロライドも同様に消化管運動を活発にすることが報告されています10)。したがって、腸内細菌叢のバランスが崩れるという以外の理由で下痢や腹痛が生じることがあり、とくに服用当日など早期に生じる下痢はこの作用による可能性が高いとされています。便秘の方には逆によいケースもあるかもしれませんが、服薬指導時に説明しておくほうが安心かと思います。1)日本呼吸器学会 びまん性汎細気管支炎2)JAID/JSC感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―3)Kudoh S, et al. Clin Chest Med. 2012;33:297-305.4)Kudoh S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998;157(6 Pt 1):1829-1832.5)Steel HC, et al. Mediators Inflamm. 2012;584262.6)Lin X, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD007716.7)Kadota J, et al. Respir Med. 2003;97:844-850.8)Li H. et al. Intern Med. 2011;50:1663-1669.9)小林 宏行ほか. 感染症学雑誌. 1995;69:711-722.10)Broad J, et al. Br J Pharmacol. 2013;168:1859-1867.

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可溶性ST2、慢性心不全の予後予測でBNPと高感度トロポニンTを超えた有用性【Dr.河田pick up】

 近年、心不全のマーカーとして血中B型(脳性)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が広く使用されているが、腎不全患者ではあまり有用でないこともある。そこで、炎症や繊維化に関するバイオマーカーである可溶性ST2(soluble suppression of tumorigenesis-2)が予後予測や心不全の管理に使われることが増えている。その有用性について、イタリアのMichele Emdin氏らがJournal of American College of Cardiology誌2018年11月号に報告しているので紹介したい。可溶性ST2は併存症の影響を受けにくい 慢性心不全の予後予測やリスクの層別化にさまざまなバイオマーカーが提唱されている。ACC/AHAのガイドラインでは予後の層別化にナトリウム利尿ペプチドとトロポニンがclass I、可溶性ST2などの心筋障害や繊維化のマーカーがClass IIbとして推奨されている。ナトリウム利尿ペプチドは主に心筋壁ストレス、血行動態機能を反映するが、トロポニンは進行中の心筋ストレスや傷害を反映する。可溶性ST2は炎症や前繊維化の経路と関連し、ナトリウム利尿ペプチドが抱えるバイオマーカーとしてのいくつかの問題点を回避できる。具体的には、可溶性ST2は年齢や性別、BMIおよび腎不全などの併存症による影響を受けにくい。本研究の目的は、可溶性ST2の慢性心不全の予後予測因子としての価値を評価することであった。4,268例の心不全患者からデータを抽出 慢性心不全でのリスク予測因子として、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)と高感度トロポニンTと共に可溶性ST2を評価した研究から、個々の患者のデータを収集した。計4,268例が評価され、患者の年齢中央値は68歳、75%が男性で、65%が虚血性心不全、87%が左室駆出率(LVEF)40%未満であった。NT-proBNP、高感度トロポニンT、可溶性ST2はそれぞれ1,360ng/L (四分位範囲:513~3,222ng/L)、18ng/L(9~33ng/L)、そして27ng/L(20~39ng/L)であった。追跡期間中央値2.4年において、全死亡は1,319例(31%)、心臓血管関連死亡は932例(22%)であった。データが入手可能であった4,118例(96%)のうち、1,029例(24%)が少なくとも2.2年の間に1回以上心不全の増悪で入院した。可溶性ST2の全死亡、心臓血管関連死亡そして心不全による入院に対するカットオフ値は28ng/mLで、カプランマイヤー生存曲線でも良好な結果を示した(log-rank:117.6/61.0/88.6、 全てでp<0.001)。可溶性ST2はほとんどのサブグループにおいて独立した予後予測因子 年齢、性別、BMI、虚血性心疾患、LVEF、NYHAクラス、糸球体濾過率、心不全に対する薬物療法、NT-proBNPそして高感度トロポニンTを含むモデルにおいて、可溶性ST2が2倍になるごとに全死亡、心臓血管関連死亡、心不全による入院がそれぞれ26%、25%、30%増えていた。可溶性ST2はほとんどのサブグループにおいて独立した予後予測因子であった。たった1回の可溶性ST2の測定は全死亡、心臓血管関連死亡、心不全による入院に対して、併存症や心不全の機序、左室機能、腎機能、NT-proBNP、高感度トロポニンTに関わらず予後の予測因子であった。 筆者らは慢性心不全患者において、可溶性ST2はNT-ProBNPと高感度トロポニンTと共にマーカーの1つとして考慮されるべきであると結論づけている。(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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かかりつけ医でうつ病の治療をする時代に気を付けたいこと(解説:岡村毅氏)-957

 今後のわが国の医療がどのように変化するかわからないが、「まずはプライマリケアあるいは総合診療医にかかり、重篤や難治なケースが専門医に紹介される」という方向におおむね進むと理解している。 精神医療はどうだろうか? 多くの国ではうつ病の治療もプライマリケアでまず行うとされる。わが国でも今後そうなるかもしれず、この論文の知見は興味深い。 うつ病が疑われる患者さんが来て、薬物治療が必要な場合まず何を使うか? これについては多くのガイドラインが明確には語れない状況にある。とはいえ、ここでもったいをつけていても仕方ないのでえいやっとまとめてみたい。つまり、ここから下は個人的見解である。 おそらく現代の大多数の専門医はファーストラインでSSRI(なかでもセルトラリンとエスシタロプラムが総合的に優れているとされる。信頼できるエビデンスがあるのだ)を使うことが多いと一致するのではないか。 十分量を十分期間使っても効果がない場合にどうするか(セカンドライン)が本論文で検証されている。他の抗うつ薬(とくに薬理的に異なるもの)への変更、一部の抗うつ薬の追加(この論文のまさに主題であるがミルタザピンが使われることが多い、多くの治療アルゴリズムでそうなっているのだ)、抗精神病薬の抗うつ作用の利用、気分安定薬の利用、などなどの選択肢がある。とはいえ人間というものは多様過ぎて、この段階ではどれが優れているとは言い難い。そしてこの論文が示したのは、セカンドラインでの「ミルタザピンの追加は効果がなかった」というものだ。 ところで、精神科医はうつ病の方が受診した場合は、どのように治療戦略を考えるのだろう? 私見だが、多くの精神科専門医が最も注意を払うのは「本当にうつ病か」という点ではないかと思う。現代社会はますます複雑化する一方で、余裕は失われている。多くの人が、多様な悩みや苦しみを抱いて精神科を受診する。うつ病ではない人を、質問票に惑わされて、間違ってうつ病治療の文脈に導いてしまうと、「うつ病が治らないのは治療が悪いからだ、今は良い治療をするべきで、他の問題解決をするべきではない」という偽りの平衡状態にしばらく陥ることになる。この平衡状態では、医師は責任を感じて焦燥するし、患者はよくならないことに焦燥する、という絶望的なゲームとなる。 個人的臨床経験では、中核的・古典的・単純なうつ病の場合は最初の抗うつ薬(それが何であれ)でほとんど軽快する。一方で、最初の抗うつ薬が効果不十分な場合(つまりこの論文の対象集団だ)は、他の抗うつ薬に変更しようが、何かを加えようがあまり効果はない。その場合、臨床医として私なら、場合によってはミルタザピンを処方はするかもしれないが―――ミルタザピンは鎮静系なので睡眠は改善するだろうし―――内心では「そもそもの見立てを再構築しよう」と焦り、「家族内の葛藤などの語られていない情報はないか」、あるいは「双極性が隠れていないか」と考え、どうやって情報を集めようかと考えはじめるだろう。 この論文を読んで、非専門家がファーストラインで治せないうつ病は抜本的に治療戦略を見直すべきであり、そこで拘泥することは患者・医師双方にとって悲劇であると感じた。そして、この論文はきわめてまっとうな結論(さっさと専門家に紹介だ)を暗に示しているように思われた。 最後に、個々の抗うつ薬についてはさまざまなエビデンスが集積されていますし、その医師にとって使い慣れた、知り尽くした抗うつ薬がある意味で最も安全といえます。筆者はミルタザピンをファーストラインで使用することもあり、決して効果がないと言っているのではありません。本コラムの内容はあくまで単純化した一般論であり、誤解なきようお願いします。また、薬物治療は、精神療法や環境調整と並ぶ治療の大きな柱ですが、すべてではありません。

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第15回 内科からのエリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Campylobacter coli属・・・11名全員Salmonella Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス)・・・1名Escherichia coli(大腸菌)・・・1名Arcobacter属・・・1名Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)・・・1名腹痛、下痢、鶏肉から 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター属が原因菌と予想されます。下痢と腹痛から市中腸管感染症で、加熱不十分の鶏肉を食べたこと、検査はおそらくグラム染色だったのではないでしょうか。カンピロバクターのグラム染色での感度は30%程度のようですが、特異度が高いので確定診断に至ったのだと考えます。カンピロバクターは一般的には補液などの対症療法で自然軽快することがほとんどとされていますが、早期治療による菌の排出期間短縮と症状軽減があったとの報告があります1)。キノロン系薬剤への耐性化が進んでいるため、マクロライド系薬剤が第一選択であり、下記が推奨されています1)。クラリスロマイシン経口 1回200mg 1日2回 3~5日間アジスロマイシン経口 1回500mg 1日1回 3~5日間エリスロマイシン経口 1回200mg 1日4回 3~5日間Q2 患者さんに確認することは?どのような検査をしたか わらび餅さん(病院)できればどのような検査をしたか聞きます。培養ではっきり菌を特定するには、通常は数日かかるからです。下痢と腹痛が主訴ですが、可能なら血便など重症だと判断する情報があるのか聞きたいです。潰瘍性大腸炎の可能性も? 中堅薬剤師さん(薬局)併用薬と副作用歴です。また、可能であれば潰瘍性大腸炎の除外診断を医師がしているかどうかも確認したいです。今回は検査結果があるので可能性はあまりないと思いますが、開業医が第六感で「感染性腸炎」と誤診し、潰瘍性大腸炎が重症化することが非常に多い、と広域病院の消化器科医の講演を聞いたことがあります。必要に応じて、潰瘍性大腸炎の可能性も考慮して対応することが重要だと考えます。併用薬について 荒川隆之さん(病院)併用薬を必ず確認します。エリスロマイシンはCYP3A4で代謝される薬剤と併用した場合、併用薬の代謝が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。また、P糖タンパクを介して排出される薬剤と併用した場合、併用薬剤の排出が阻害され血中濃度が上昇する可能性があります。ピモジドなどの併用禁忌の確認 奥村雪男さん(薬局)エリスロマイシンはマクロライド系抗菌薬の中でもCYP3A4 阻害作用が強いので、ピモジドなどの併用禁忌薬剤を服用していないか確認します。マクロライド系抗菌薬のCYP3A4阻害様式はMBI(Mechanical based inhibition)で、服用開始から数日程度で阻害作用が最大になり、服用終了から数日程度で阻害作用は消失すると考えられます2)。そのため、服薬終了後も併用薬に注意が必要です。自炊かどうか 児玉暁人さん(病院)可能なら鶏肉をどこで食べたか確認します。飲食店なのか自宅で自炊をしてなのか。一人暮らしで自炊しているのであれば、しっかり加熱する、二食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて処理や保存を行う、食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱う、食肉に触れた調理器具などは使用後洗浄・殺菌を行うなどのアドバイスができるかもしれません。Q3 疑義照会する?する・・・5人エリスロマイシンの用量 キャンプ人さん(病院)エリスロマイシンの1 回用量が多いように思うので、確認します。ガイドラインでは1回200mg 1日4回 3~5日間1)とされています。重症でなければ自然軽快する場合が多い 清水直明さん(病院)カンピロバクター腸炎の場合、重症でなければ抗菌薬の投与なしで自然に軽快する場合がほとんどです。処方医と信頼関係ができていれば、説明した上で「抗菌薬は不要かもしれません」と提案するでしょう。他剤への変更 JITHURYOUさん(病院)本症例は、重症感がなくカンピロバクター自体は自然軽快することが多いため、抗菌薬は不要ではないかと感じます。それでも医師が抗菌薬は必要だとするなら、現時点で消化器症状があるのでクラリスロマイシンに変更提案します。エリスロマイシンより消化器作用が少ないこと、添付文書上の適応のためです。併用薬がある場合には、相互作用の少ないアジスロマイシンに変更提案します。可能なら抗菌薬処方なしにもっていきたいです。しない・・・6人3日間投与は適切 中堅薬剤師さん(薬局)ガイドラインには、カンピロバクターは世界的にキノロン系薬の耐性化が進んでおり、マクロライドを第一選択にすると記載されています1)が、マクロライド耐性も問題化しつつあるようなので、まず3日間投与は適切ではないでしょうか。エンピリック処方かどうか わらび餅さん(病院)患者さんの聞き取りを踏まえ、カンピロバクターと予想した上でのエンピリック処方だと判断できれば、疑義照会しません。ただし、原因菌と特定されていればエリスロマイシンの用法を確認します。もし、アドヒアランスなどを考慮して用法を1日3回としていたら、アジスロマイシン1日1回でもよいのでは、と聞ければ聞きます。海外での使用例やPAE※も考慮 ふな3さん(薬局)エリスロマイシンは半減期が1.5時間程度と短めのため、1日3回ではちょっと不安ですが、カンピロバクターへの適応はないものの米国などでは1,000mg/2×などの処方もあるようです。PAEも期待できることから、疑義照会はしないと思います。※post-antibiotic effect。血中や組織中から抗菌薬が消失しても、一定期間、病原菌の増殖が抑制される効果1日3回が難しければ処方提案 児玉暁人さん(病院)エリスロマイシンの1回量が多く、回数も3回ですが、適宜増減の範囲内と考え、疑義照会はしません。ただし、1日3回の内服が難しそうであればクラリスロマイシン1回200mg 1日2回 3日分の処方提案をします。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?しっかり飲みきること キャンプ人さん(病院)指示されている期間しっかり服用することです。また、エリスロマイシンのモチリン様作用(消化管運動亢進作用)により、消化管の蠕動運動が活発になることを説明しておきます。服用時間について ふな3さん(薬局)1回目の分はすぐに飲み始めること。2回目は6時間程度あけて服用。1日3回、3日間飲みきることを伝えます。下痢についての説明 清水直明さん(病院)「今回、下痢止めは出されていませんが、下痢止めを服用しなくても数日で回復してくると思います。治りを遅くすることがあるので、市販の下痢止めは服用しないでください。」脱水に注意 JITHURYOUさん(病院)現時点で重症感はなさそうですが、水分補給して脱水に注意し、安静にするよう伝えます。はっきりと重症化しないとはいえませんが、年齢的に考えてみても整腸剤だけで経過観察でもよかったかもしれませんね。他院受診時にお薬手帳を持参 奥村雪男さん(薬局)今回の抗菌薬は服薬終了後も数日間程度飲み合わせに注意が必要なので、他院にかかる場合はお薬手帳を持参することを伝えます。Q5 その他、気付いたことは?ボツリヌス毒素の可能性も? ふな3さん(薬局)「古いパックの食品も疑われた」という言葉から、ボツリヌス毒素の疑いもあったのかもしれません。また、カンピロバクターからのギランバレー症候群の発症のリスクもあるため、下記のような症状が出たら、すぐに医師に連絡するよう伝えたいです。口内乾燥、嚥下困難、複視、視力低下(ボツリヌス中毒)四肢の脱力(ボツリヌス中毒、ギランバレー)エリスロマイシンの処方意図 柏木紀久さん(薬局)今回の症例はあまり抗菌薬の必要性を感じませんが、排菌の促進や消化管運動の促進を期待して3日分の処方かな?と思いました。ギランバレー症候群と菌血症 奥村雪男さん(薬局)カンピロバクター感染症の合併症に、ギランバレー症候群と菌血症が知られています。0.1%以下でギランバレー症候群の報告があり、感染後2~3週後に発症するようです3、4)。発症はまれなので不安をあおらないように伝えません。菌血症は1%程度に報告があり4)、高齢者に多いようです。若年では検査陽性になるころには自然治癒するようで、あまり心配ないかもしれませんが、知識として持っておく必要があると思います。後日談(担当した薬剤師から)調剤した日の閉局間際に「薬を飲んだら、余計にお腹の調子が悪くなりました。どうしたらいいですか?」と電話がかかってきました。実は、薬を渡すときにモチリン様作用の説明をするのを忘れていたことに気付きました。「原因の菌を退治するだけでなく、胃腸の動きを活発にさせる作用もあるお薬ですので、自然とその症状は治まります。菌の排出も早まりますので、辛抱して内服を続けてください」と返事をしました。無事治療が終了したのか、後日の来局はありませんでした。1)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―. 一般社団法人日本感染症学会、2016.2)鈴木洋史監. これからの薬物相互作用マネジメント 臨床を変えるPISCSの基本と実践. 東京、じほう、2014.3)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.4)酒見英太監. ジェネラリストのための内科診断リファレンス. 第1版. 東京、医学書院、2014.[PharmaTribune 2017年6月号掲載]

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高用量鉄剤静注は貧血改善や赤血球造血刺激因子製剤(ESA)節減には良いが…(解説:浦 信行 氏)-955

 血液透析患者において、鉄剤静注は経口鉄剤投与に比較して貧血改善やESA節減には良いとする報告は、システマティックレビューではあるが2013年のBMJに報告されている。また、5万8,058例を対象とした観察研究において、高用量鉄剤静注群では低用量静注群に比較して投与量が400mg/月を超えると死亡や心血管リスクは上昇するが、それ以下では用量依存性にそれらのリスクを減らすとの2005年のAm J Soc Nephrolの報告もある。今回の研究はそれらと軌を一にする結果であり、前向き研究で高用量群と対照の低用量群との比較で示したことに大きな意義はあり、注目に値する。 しかし、投与量が200mg/月を超えるとリスクが上昇するとの報告や、わが国の研究においては50mg/週を超えると心血管リスクが上昇し、感染症のリスクも上昇すると報告されている。前掲のレビューでも感染症のリスクは有意に上昇したと報告されている。本研究では両群の感染症のリスクに差がなかったと報告している。また、低用量群での平均血清フェリチン量は150~200mg/mLであり、確かにわが国の2015年の日本透析医学会のガイドラインでの上限の300mg/mLを超えてはいない。それまでの報告ではこの上限を超えると感染症や心血管リスクの増大、そして肝臓への重篤な鉄沈着の可能性が報告されていた。 今回は感染症だけでなく心血管疾患発症のリスクの上昇もないと報告されているが、いくつかの懸念は残る。まず、これらを評価するのに2,141例の2.1年の試験で十分であるか、次に、両群いずれも心血管疾患発症と死亡の複合エンドポイントが30%を超えており、比較的多発している対象であること、加えて筆者らも限界としているが、英国1国だけの研究であることなどが挙げられる。 基礎疾患や病態の背景、人種や環境要因の差などを考えると、わが国の貧血治療にすぐに当てはめるのは早計と思われ、わが国での同様の検討が必要と考える。

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高血圧・喫煙・糖尿病は、男性以上に女性の心筋梗塞リスクを増加/BMJ

 心筋梗塞の発生率は、男性が女性の約3倍だが、心筋梗塞とそのリスク因子である高血圧、喫煙、糖尿病との関連は女性のほうが強いことが、英国・オックスフォード大学のElizabeth R C Millett氏らの調査で明らかとなった。さらに、心筋梗塞とリスク因子の関連の強さは、男女とも加齢とともに減弱するものの、女性における過剰なリスクは相対的に低下しないことも示された。研究の成果は、BMJ誌2018年11月7日号に掲載された。心筋梗塞の発生率は、若年時には女性が男性よりも低いが、加齢に伴いその差は小さくなる。以前のメタ解析において、心筋梗塞といくつかのリスク因子の関連に性差があることが示されているが、解析に含まれた試験には交絡因子調整の水準にばらつきがあり、年齢層別の性差の検討を行っていない試験も含まれたという。英国の心血管疾患の既往のない47万人の前向きコホート研究 研究グループは、心筋梗塞のリスク因子の性差について調査し、年齢別の変動を評価する目的で、人口ベースの前向きコホート研究を行った(英国医学研究審議会[MRC]などの助成による)。 UK Biobank(2006~10年に、英国の22施設から40~69歳の50万2,628例を前向きに登録)の参加者から、心血管疾患の病歴のない47万1,998例(平均年齢:56.2歳、女性:56%)のデータを収集した。 主要評価項目は、致死的または非致死的心筋梗塞の発症とし、心筋梗塞の6つのリスク因子(血圧、喫煙状況、糖尿病、BMI、心房細動、社会経済的地位)の評価を行った。同じ20本の喫煙でもリスクは2倍、治療・予防策へのアクセスは男女同じに 平均フォローアップ期間7年の間に、5,081例(女性は1,463例[28.8%])が心筋梗塞を発症した。1万人年当たりの発生率は、女性が7.76(95%信頼区間[CI]:7.37~8.16)と、男性の24.35(23.57~25.16)に比べて低かった。心筋梗塞の発生率は、1型糖尿病を除くその他すべての因子について、女性よりも男性のほうが高かった。 男女ともに、血圧、喫煙強度、BMIの上昇および糖尿病の存在が、心筋梗塞のリスク増加と関連したが、これらの関連の強さは加齢に伴い減弱した。 女性は男性に比べ、収縮期血圧の20mmHg上昇(男女のハザード比[HR]の比:1.09、95%CI:1.02~1.16)、血圧120~129/<80mmHg(1.83、1.33~2.52)、現喫煙(1.55、1.32~1.83)、20本以上/日の喫煙(2.01、1.57~2.57)、1型糖尿病(2.91、1.56~5.45)、2型糖尿病(1.47、1.16~1.87)が、心筋梗塞の発症と、より強く関連した。これらのHRの比はいずれも、年齢の上昇とともに低下するとのエビデンスは認められなかった(p>0.2)。 著者は、「人口の高齢化が進み、生活様式に関連するリスク因子の有病率が上昇するにしたがって、女性の心筋梗塞の発生率は、男性の発生率に近づく可能性が高いだろう」と指摘し、「糖尿病および高血圧のガイドラインに基づく治療と、減量および禁煙を支援するリソースには、中高年の男女とも同じようにアクセスできるようにすべきである」としている。

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