サイト内検索|page:92

検索結果 合計:2935件 表示位置:1821 - 1840

1821.

抗血小板療法を受けていない集団の大出血リスクは?/JAMA

 抗血小板療法を受けていない集団における、大出血および非致死的大出血の推定年間発生リスクを、ニュージーランド・オークランド大学のVanessa Selak氏らが算出した。同国のプライマリケア受診患者を対象とした前向きコホート研究の結果で、著者は「今回の結果を、心血管疾患(CVD)1次予防のための集団レベルのガイドラインに示すことができるだろう」と述べている。アスピリン治療開始の決定には、同治療によるベネフィットと有害性を考慮する必要がある。最も重大な有害性は大出血であるが、至適な地域集団における出血リスクのデータは不十分であった。JAMA誌2018年6月26日号掲載の報告。プライマリケア受診しCVDリスク評価を受けた30~79歳集団を前向きに評価 研究グループは、CVDを有しておらず抗血小板療法を受けていない集団における大出血リスクを調べるため、2002〜15年にニュージーランドのプラリマリケアを受診しCVDリスク評価を受けた30~79歳35万9,166例(ベースライン集団)を対象に前向きコホート研究を行った。被験者の初回大出血イベント日、死亡日、あらゆるベースライン集団除外基準に達した日、あるいは試験終了到達(2015年12月31日)の状況を調べ、1)ベースライン集団(35万9,166例)、2)非ハイリスク集団(出血リスク増大と関連する病状を有する人を除外した集団:30万5,057例)、3)非薬物療法集団(出血リスク増大と関連する他の薬物療法服用者を除外した集団:24万254例)について、性別および10歳単位年齢群(30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~69歳、70~79歳)に分けて、大出血イベント(出血に関連した入院または死亡)、非致死的消化管出血、消化管出血関連の致命率(case fatality)を評価した。ベースライン集団の大出血イベント発生は1.1% 被験者の平均年齢は54歳(SD10)、女性が44%、ヨーロッパ系が57%であった。追跡期間の中央値は2.8年。 ベースライン集団(35万9,166例)において、128万1,896人年のフォローアップ中、大出血イベントの発生は3,976例(集団の1.1%)で、そのうち最も多かったのは消化管出血で2,910例(73%)であった。致死的出血は274例(7%)で、そのうち153例が脳内出血であった。 非致死的消化管出血イベントリスクは、1,000人年当たり、ベースライン集団で2.19(95%信頼区間[CI]:2.11~2.27)、非ハイリスク集団1.77(1.69~1.85)、非薬物療法集団1.61(1.52~1.69)であった。消化管出血イベント関連致命率は、それぞれの集団で3.4%(2.2~4.1)、4.0%(3.2~5.1)、4.6%(3.6~6.0)であった。

1822.

『てんかん診療ガイドライン2018』発刊

 前回のガイドライン発刊から約8年。その間に、新規治療薬の登場や適応追加、改正道路交通法など、てんかんを取り巻く環境は大きく変化している。2018年7月2日、大塚製薬株式会社が主催したプレスセミナー「てんかん診療ガイドライン2018」にて、てんかん診療ガイドライン作成委員会委員長の宇川 義一氏(福島県立医科大学 神経再生医療学講座教授)が登壇し、日本神経学会が監修したガイドラインの主な改訂点について語った。てんかん診療ガイドライン2018はGRADEシステムを採用 本ガイドラインは、2部で構成されている。第1部は診療ガイドライン、第2部では3つのクリニカルクエスチョン(CQ)に対してシステマティック・レビュー(SR)を行っている。また、エビデンスの質の評価は、GRADE working groupが提唱する方法で行い、「高(high)」「中(moderate)」「低(low)」「非常に低(very low)」にグレーディングされている。“けいれん”と“てんかん” “けいれん”とは「全身または一部の骨格筋が、不随意な硬直性または間代性収縮を起こすこと」であり、患者は持続的あるいは断続的なぴくつきを訴える。眼瞼けいれんなど、てんかんと無関係な病態でもけいれんを起こす。一方、“てんかん”とは「大脳神経細胞群の突発的・同期性過剰放電に基づく現象」を示し、けいれんを起こす時も起こさない時もある。宇川氏によると、「“epilepsy”はてんかんという病名を意味し、発作そのものを意味しない。さらに“convulsion”と“spasms”はいずれもけいれんと訳されるが、前者は[てんかんによるけいれん]を指し、後者は[末梢神経由来・筋肉由来のものなど]を指す」と指摘。また、同氏は「てんかんという日本語は、病名として使う場合と症状として使う場合がある。これには英語の概念を日本語訳したことによる混乱が影響している」と日本語訳の解釈について言及した。てんかん診療ガイドラインに薬物開始時期が追加 薬物療法を開始するに当たり、開始時期とその予後についてしばしば議論される。本ガイドラインでは「初回てんかん発作で薬物療法を開始すべきか」というCQにおいて、「初回の非誘発性発作では、ある条件を除き原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。ただし、高齢者では初回発作後の再発率が高いため、初回発作後に治療を開始することが多い」と記されるようになった。ただし、「医学的根拠があれば初回発作から開始する場合もある」と同氏は述べている。第2世代薬も第1選択へ 2006年以降、日本において第2世代に分類される薬剤では、11剤が承認・販売された。これらは全般てんかん・部分てんかん、それぞれの新規発症患者だけでなく、高齢発症患者に対しても使用が推奨されるようになった。てんかんとの鑑別に注意が必要な疾患 成人において、てんかんと鑑別されるべき疾患は11項目に上る。なかでも、失神(神経調節性、心原性など)と心因性非てんかん発作(PNES)は突然発症の意識消失で救急外来を訪れる患者の40%を占めるため、これらの患者のてんかんを否定することが必要である。失神発作は発作後に意識変化や疲労、倦怠感を伴わない点が特徴であるため、鑑別には一般の検査(脳波、MRI、CT)だけでなく、心血管性の原因を精査することが重要とされる。それでも鑑別が難しい場合はビデオ脳波同時記録も行う。これらの診断を誤ると「間違って、てんかん患者として抗てんかん薬を服用し続ける原因につながる」と同氏は注意を促している。 そして、てんかんを誘発する原因として、1)脳卒中、2)睡眠不足、3)急性中毒(薬物、アルコール)・薬物離脱・アルコール離脱の3項目が該当する。これについて同氏は「まずは原疾患治療に抗てんかん薬をオンして治療を行っていくが、症状の改善に応じて抗てんかん薬をオフすることが可能」と説明した。てんかん診療ガイドラインの今後の課題 最後に同氏は「毎年は改訂できないが、年に1回の頻度で追補版を学会ホームページに公開している。これからも先生方の意見を基にガイドラインをブラッシュアップしていきたい」と締めくくった。

1823.

ASCO2018レポート 肺がん-1

レポーター紹介2018 ASCO(American Society Clinical Oncology)Annual Meetingが、2018年6月1日~5日、米国・イリノイ州シカゴで開催された。第54回を数える今回の年次総会には、世界中からがん医療に関わる医師、看護師、薬剤師、患者、製薬企業などが多数参加しており、がんに関する幅広い研究成果や教育講演に接することができた。ここ数年、肺がん領域は毎年標準治療を変えるエビデンスが創出されているが、今年のASCOでもその勢いは続き、今年のガイドラインに掲載されうるエビデンスが多数報告された。免疫療法の到達点非小細胞肺がんの2次治療において、ニボルマブがドセタキセルに対して歴史的な勝利をおさめて3年ほどで、PD-L1高発現の患者集団の1次治療においてペムブロリズマブがプラチナ併用療法を凌駕することが示された。そして昨年末のESMO IO、今年に入ってからのAACR、そしてASCOと立て続けに、PD-L1の発現によらず、免疫チェックポイント阻害薬が1次治療を席巻するエビデンスが報告された。KEYNOTE-042PD-L1 TPS 1%以上の進行非小細胞肺がん患者を対象に、ペムブロリズマブとプラチナ併用療法を比較した第III相試験である。同様の患者集団に対しては、すでにニボルマブを用いたCheckMate 026試験が実施されており、ニボルマブは化学療法と同等であったが優越性を示すことはできなかった。KEYNOTE-042においてはそれに反して、hazard ratio 0.81(95%信頼区間:0.71~0.93)と統計学的にも有意に、ペムブロリズマブ単剤が化学療法に勝る結果が報告された。生存期間中央値では、ペムブロリズマブ群が16.7ヵ月、化学療法群が12.1ヵ月であった。CheckMate 026との違い、とくにニボルマブとペムブロリズマブの薬剤としての有効性の違いがあるのか、という点に注目が集まる結果である。試験の詳細を比較すると、KEYNOTE-042試験において、PD-L1 TPS 50%以上の患者集団の割合が高いこと、試験が免疫チェックポイント阻害薬未承認の国を中心として実施されているため、後治療でのクロスオーバーの割合が低いこと、などの点を考慮すると、薬剤の違いよりも他の相違点が結果に影響しているという考察がなされている。また、PD-L1 TPS 1~49%のサブセットにおいては、ペムブロリズマブの有効性は必ずしも化学療法よりも明らかに優れる結果ではなかったことから、化学療法実施不可の患者を除き、KEYNOTE-189で示された化学療法+ペムブロリズマブの選択が妥当とする見解が主流である。いずれにせよ、PD-L1陰性を除き、すべての非小細胞肺がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬単剤療法の使用を支持する結果が得られたことに高い評価が集まった。Pembrolizumab(pembro)versus platinum-based chemotherapy(chemo)as first-line therapy for advanced/metastatic NSCLC with a PD-L1 tumor proportion score(TPS)≧1%:Open-label, phase 3 KEYNOTE-042 study.(Abstract No: LBA4)Gilberto LopesKEYNOTE-407AACRで非扁平上皮非小細胞肺がんに対して実施されたKEYNOTE-189試験の結果が報告され、PD-L1の発現によらずプラチナ併用療法+ペムブロリズマブが新たな標準治療となる方向性が示された。KEYNOTE-407試験は、扁平上皮非小細胞肺がんに対して、PD-L1の発現によらずプラチナ併用療法+ペムブロリズマブの有効性を検証した第III相試験である。559人の患者を登録した本試験の結果、Co-primary endpointのOSとPFSともにペムブロリズマブ併用群が有意に生存を延長するという結果が得られた。OSではhazard ratio 0.64(95%信頼区間:0.49~0.85)、PFSではhazard ratio 0.56(95%信頼区間:0.45~0.70)であった。サブセット解析ではPD-L1の発現割合が高いほど有効性が増す傾向が示されたものの、PD-L1の発現によらない全集団でのOS、PFSの優越性が認められていることの意義は大きく、扁平上皮非小細胞肺がんの新たな標準治療が創出された試験となった。Phase3study of carboplatin-paclitaxel/nab-paclitaxel(Chemo)with or without pembrolizumab(Pembro)for patients(Pts)with metastatic squamous(Sq)non-small cell lung cancer(NSCLC).(Abstract No: 105)Luis G. Paz-AresIMpower 131PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブとプラチナ併用療法を用いた試験のうち、扁平上皮非小細胞肺がんを対象としたものがIMpower 131試験である。本試験はアテゾリズマブ、カルボプラチン、パクリタキセルのArm A、アテゾリズマブ、カルボプラチン、アブラキサンのArm B、カルボプラチン、アブラキサンのコントロールとしてのArm Cを含む、3群のランダム化試験である。今回報告されたのは、その中でもArm BとArm Cの比較である。primary endpointであるPFSのhazard ratio 0.71(95%信頼区間:0.60~0.85)と、統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が示された。一方、OSの中間解析も併せて報告されたがイベント数が不足しており、若干アテゾリズマブ群が良い傾向がみられたが、最終解析の結果を待つ必要がある結果であった。IMpower131: Primary PFS and safety analysis of a randomized phase III study of atezolizumab + carboplatin + paclitaxel or nab-paclitaxel vs carboplatin + nab-paclitaxel as 1L therapy in advanced squamous NSCLC.(Abstract No: LBA9000)Robert M. JotteCheckMate 227ニボルマブ、イピリムマブ併用療法、ニボルマブ、化学療法の併用療法、そして標準治療としての化学療法の3群のランダム化試験であるCheckMate 227試験からは、今回PD-L1陰性の進行非小細胞肺がん患者において化学療法と化学療法+ニボルマブを比較した解析結果が報告された。PFSのhazard ratioが0.74(95%信頼区間:0.58~0.94)と、ニボルマブと化学療法の併用によって、PD-L1陰性の患者集団においても無増悪生存期間が延長されるという結果が示されている。CheckMate 227試験に関しては、AACRにおいてTumor Mutation Burden(TMB)が高い患者集団におけるニボルマブ、イピリムマブ併用療法の良好な成績が報告されるなど、さまざまな解析が進行中である。最も重要な全集団におけるニボルマブ+化学療法の有効性に関する解析結果はまだ行われておらず、結果が待たれる。Nivolumab(Nivo)+platinum-doublet chemotherapy(Chemo)vs chemo as first-line(1L)treatment(Tx)for advanced non-small cell lung cancer(NSCLC)with<1% tumor PD-L1 expression:Results from CheckMate-227.(Abstract No: 9001)Hossein Borghaei

1824.

動脈硬化学会がFHの啓発にeラーニング導入

 日本動脈硬化学会が、家族性高コレステロール血症(FH)を医師に正しく理解してもらうために、eラーニングを用いた啓発活動を開始した。FHは遺伝性疾患として最も頻度が高いにもかかわらず、わが国では一般医に十分認知されていないため、診断率がきわめて低いのが問題になっている。 日本動脈硬化学会理事長の山下 静也氏(りんくう総合医療センター 院長)にFHに対する問題意識、今回の学会の取り組みの狙いなどを聞いた。―FHとはどのような疾患なのでしょうか FHは主として常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患です。著明なLDLコレステロール(LDL-C)高値を示し、家族内にLDL-Cの高い人がおり、アキレス腱黄色腫を特徴とします。FHでは早発性冠動脈疾患が高頻度で発症します。 また、FHの発生頻度は、200~500人に1人とされており、遺伝性疾患としては最も頻度の高い疾患だと言えます。脂質異常症を数多く診療されている先生であれば、患者さんの中にFHが含まれている可能性は高いと思います。―なぜFHの啓発活動を行う必要があるのですか? 学会がもっとも深刻な課題だと認識しているのが、その診断率の低さです。FH診断率は、もっとも高いオランダでは71%に達していますが、日本では1%以下であり、ほとんどのFH患者さんは見逃されてしまっている状態です。ですので、1人でも多くの医師にFHに関する基本的な情報を提供し、FH診断率の向上につながれば、早発性冠動脈疾患を防ぐことも可能と考え、今回の取り組みを始めました。―FHを見逃すべきではない理由は何でしょうか? どんな疾患も見逃すべきではありませんが、なかでもFHは最も見逃してほしくない疾患です。FHは遺伝性疾患ですので、胎児の時から高いLDL-Cに曝露されています。これが、他の脂質異常症に比べ、きわめて早期に冠動脈疾患を発症する理由です。 男性では30代、女性では40代から冠動脈疾患を発症し始めます。FHを早期に診断し、適切な治療介入を行うことで、冠動脈疾患の発症を予防していくことがきわめて重要です。―FHの診断は難しいのでしょうか? FHの病態を正しく理解し、健診や脂質異常症の診療時に疑っていただければそれほど難しくはありません。LDL-C値が180mg/dL以上の患者さんがいたら、まずアキレス腱を触診してみてください。肥厚が認められれば(X線軟線撮影によりアキレス腱9mm以上)、FHの診断基準を満たします。アキレス腱肥厚がない場合でも、早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)があれば、FHと診断されます。LDL-Cが250mg/dL以上の場合はFHを強く疑いますし、若いときからLDL-Cが高い場合にはFHを疑うべきで、家族にLDL-Cの高い人がいないかどうかを問診します。 また、急性冠症候群(ACS)の約10~20%にアキレス腱肥厚が認められますので、ACSで運び込まれた患者さんのアキレス腱を触診するのもとても大切なことです。―FHの疾患啓発について学会の取り組みを教えてください 日本動脈硬化学会では、より多くの先生方にFH診療を理解していただくために、2017年1月に小児FH診療ガイドを、6月に家族性高コレステロール血症診療ガイドラインを公開しています。また、世界FH dayである9月24日に合わせ、市民公開講座や医療者向けセミナー、プレスセミナーなどを実施するなどの活動もしてきました。 今回はさらに、医師に広くFHを理解いただくために、医薬教育倫理協会(AMEE)と共同で、eラーニングプログラムを開発、2018年6月に公開いたしました。FHの病態・診断・治療を実際の症例を盛り込み、臨床医目線でわかりやすく解説しています。 日本動脈硬化学会の認定単位対象プログラムですが、医師であればどなたでも視聴することができます。ぜひご覧いただき、FHに対する理解を深め、日常診療に役立てていただければと思います。■ケアネット医師会員は、ケアネットのID/パスワードにてこちらから受講可能です。

1825.

今だから聞きたいバイオシミラーの基礎

 2018年6月20日、ファイザー株式会社は、「バイオ医薬品・バイオシミラーの基礎と医療制度を取り巻く環境について」をテーマに、第1回バイオシミラー勉強会を都内で開催した。 バイオ医薬品は、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造される医薬品であり、「生物学的製剤」とも呼ばれる。2000年頃から医薬品市場に登場して以来、関節リウマチの寛解率やがん患者の生存率を改善するなど、医療の質を大きく向上させた。近年、売上高は右肩上がりで大幅に推移しており、今後も重要な治療選択肢となりうる。バイオシミラーはバイオ医薬品と同等の品質管理体制 バイオ医薬品の特性の1つとして、不均一性がある。微生物や細胞を用いて製造するため、製品に含まれる薬効成分は、わずかに構造がばらついた分子の混合物と考えられている。しかし、この不均一性に対しては、あらかじめ許容域が定められており、各種の試験結果が許容範囲内に収まる製品のみが市場に出ている。 バイオシミラーとは、国内ですでに承認されたバイオ医薬品(先行品)の後続品である。バイオシミラーの開発ガイドラインは、バイオ医薬品の製造工程変更に関する国際的なガイドライン(ICH Q5E)に基づいて策定されており、先行品と「同等/同質」の品質、安全性、有効性を有する医薬品として、バイオシミラーが開発・承認される。同等/同質とは、まったく同一ということではなく、品質特性において類似性が高く、安全性・有効性に有害な影響を及ぼさないことを示している。 つまり、バイオシミラーの開発では、臨床的に同等/同質であることを検証する必要があり、品質特性解析に重点が置かれ、非臨床試験、臨床薬理試験、臨床試験と段階的に試験が行われる。また、承認・販売後は、免疫原性の問題などに留意し、製造販売後調査の実施も求められる。バイオシミラー市場の拡大で、医療費の負担軽減へ 本セミナーでは、益山 光一氏(東京薬科大学 薬学部 薬事関係法規研究室 教授)が、講演を行った。同氏は、バイオ医薬品について「生命を脅かす重篤な疾患や慢性疾患の治療薬として、多大な恩恵をもたらした」とたたえたが、同時に、2017年における世界の医薬品売り上げで、トップ3をバイオ医薬品が占めることなど、医療費にかかる負担を指摘した。わが国の国民医療費は、2013年以降40兆円を超えているが、バイオ医薬品の市場が今後も拡大していくことを考えると、医療費が下がるとは考えにくい。そこで、平等な医療制度を継続していくためにも、バイオシミラーの存在が重要になるという。 売り上げ上位のバイオ医薬品における特許期間は、2020年までに続々と終了していく見込みであり、国の支援方針としては、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針)に、「2020年度末までに、バイオシミラーの品目数倍増(成分数ベース)を目指す」と明記されている。しかし、安かろう悪かろうと思われてしまうとバイオシミラー使用率の向上は難しいため、国民への認知推進とともに、医療者が、有効性だけでなく、免疫原性など安全性についての情報も、収集・提供していくことが重要である。 益山氏は、厚生労働省で勤務していた頃を振り返り、「ジェネリック医薬品の使用推進には20年かかった。バイオシミラーではもう少し早く達成できるように発信していきたい。バイオシミラーについて、まず医療に携わる者が正しい知識を身に付け、新規バイオ医薬品とバイオシミラーを適切に選択し、バイオ医療の発展による治療アウトカムのいっそうの向上を期待する」と、講演を締めくくった。 同社によるバイオシミラー勉強会は、8月に第2回、9月に第3回が開催予定(全3回)。■参考ファイザー株式会社 医薬開発部門の取り組み

1826.

偶発腫の検出頻度が高い画像検査は?悪性の割合は?/BMJ

 偶発腫(incidentalomas)は、急速に現代の医療危機の1つになりつつあるという。英国・オックスフォード大学のJack W. O'Sullivan氏らは、偶発腫の検出頻度が高い画像検査は、胸部CT、大腸CT、心臓MRIであり、偶発腫が悪性腫瘍である可能性が高い臓器は乳房、卵巣、甲状腺であるとの研究結果を、BMJ誌2018年6月18日号で報告した。画像検査の需要が急速に増大するとともに、画像の解像度の改善が進み、偶発腫に遭遇する機会が急上昇しているが、その有病率やアウトカムの評価にはばらつきがあることが知られている。20件の系統的レビューを包括的にレビュー 研究グループは、偶発的画像所見(incidental imaging finding)として見つかった“偶発腫”の有病率とそのアウトカムの全体像を知るために、240試験(62万7,073例)に関する20件の系統的レビューについて、包括的レビュー(umbrella review)を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2017年8月までに医学データベースに登録された論文を検索し、入手した論文の引用文献も調査した。偶発的異常(incidental abnormality)=“偶発腫”の有病率に関する観察研究の系統的レビューおよびメタ解析を対象とした。 偶発的画像所見は、健常者、無症状の患者における画像上の異常、および有症状患者における症状とは明確な関連がない画像上の異常と定義した。感度分析には、悪性腫瘍の既往歴のある患者における偶発腫の有病率を評価した試験も含めた。6種の画像法と、データが得られた10の臓器について解析した。有病率、アウトカムとも各データ間に大きな異質性 解析の対象となった20件の系統的レビューのうち、15件は偶発腫の有病率を定量的に評価し、18件は偶発腫のアウトカムを定量的に評価した研究であった(13試験は両方)。 偶発腫の有病率は、画像法によって実質的にばらつきが認められた。胸部CTによる偶発的な肺塞栓症の有病率は2%であった。X線および超音波による偶発腫の有病率を検討した系統的レビューおよびメタ解析はなかった。 偶発腫の有病率が最も低い画像法は全身PET/PET-CTの2%(甲状腺、大腸)であった。これに対し、偶発腫の有病率が最も高い画像法は、胸部CTの45%(胸部、腹部、脊椎、心臓)であり、次いで大腸CTが38%(大腸外)、心臓MRIが34%(心臓外)の順であり、3分の1を超えていた。脊椎MRIの偶発腫の有病率は22%(脊椎)、脳MRIも22%(脳)だった。 偶発腫のアウトカムについては、臓器によって悪性腫瘍が占める割合に大きなばらつきがみられた。悪性腫瘍の有病率は、脳が0%、副腎が0.0007%、耳下腺が5%と低く、大腸外が14%、前立腺が11%、大腸は17%であった。これに対し、腎臓は25%、甲状腺は28%、卵巣は28%といずれも約4分の1を占め、最も悪性腫瘍の割合が高かったのは乳房の42%であった。 研究データ間には高い異質性が認められ、20件のメタ解析のうち15件がI2>50%であった。一貫性があり、異質性のないエビデンスと大規模データを持つメタ解析はほとんどなかった。 著者は、「これらの知見は、画像検査を要請する際に、医師と患者がその長所と短所を勘案する一助となり、偶発腫診断後の管理の決定に役立つと考えられる。今回の結果は、これらの決定を支援するガイドラインの策定を支持するものである」と指摘している。

1827.

第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第1回 高齢者糖尿病は何歳から? 何に注意が必要?Q1 加齢と糖尿病の関係とは?糖尿病の頻度は加齢とともに増加します。平成28年度の国民栄養調査によると、70歳以上の高齢者で糖尿病が疑われる頻度は男性で23.2%、女性で16.8%となっています(図1)。また、糖尿病患者の中で70歳以上の割合は31.9%を占めています。加齢に伴う糖尿病患者の増加は、加齢に伴うインスリン抵抗性の増加、インスリンの追加分泌の低下、身体活動量の低下などが関係していると考えられています。画像を拡大するQ2 何歳以上を「高齢者糖尿病」として注意すべきでしょうか?高齢者糖尿病は一般に65歳以上の糖尿病を指しますが、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」では、75歳以上の後期高齢者と機能低下がある一部の前期高齢者が、「高齢者糖尿病」として、とくに注意すべき治療の対象とされています。これは、後期高齢者の糖尿病が前期高齢者の糖尿病と比較して、異なる特徴を示しているからです。第一に、高齢糖尿病患者を対象としたJ-EDIT研究における、MMSE(認知機能検査)の点数をみてみると、65~69歳の患者と比較して75歳以上の患者ではじめて有意に低下します(図2a)。また、日常生活動作であるADLも80歳以上で低下します。同じJ-EDIT研究で老研式活動能力指標を用いて、買い物、金銭管理などの手段的ADL、知的活動、社会的役割を含む高次ADLの障害数を評価したところ、80歳以上で有意に高次ADLの障害数が大きくなります(図2b)。画像を拡大するさらに、高齢者は加齢とともに体組成が大きく変化します。65歳以上の入院高齢糖尿病患者を対象に内臓脂肪面積100cm2以上の蓄積の頻度をみると、75歳以上で内臓脂肪蓄積が増加しています(図3a)。さらに、DEXA法で四肢の筋肉量(除脂肪量)をみると、男女ともに80歳以上で有意に低下しています(図3b)。この内臓脂肪の増加と筋肉量の低下は、インスリン抵抗性を大きくすることで、高齢者糖尿病の病態に大きく関わっています。画像を拡大する腎機能も75~80歳以上で有意に低下します。eGFRcreは筋肉量の影響を受けやすく、eGFRcysや血清シスタチンC濃度の加齢変化をみてみると、80歳以上で有意に増加しています(図4)。この腎機能障害は腎排泄性の薬剤(たとえばSU薬)の蓄積をもたらし、低血糖などの副作用を起こしやすくします。低血糖に関しても、80歳以上の患者で救急外来を受診する低血糖や重症低血糖が起こりやすいことが知られています。この重症低血糖の増加の原因は、上記の薬剤の蓄積しやすさに加えて、急性疾患によって食事摂取が低下しやすいこと、認知機能やADLの低下によって低血糖の対処能力が低下することが考えられます。合併症の中では、80歳以上の患者で脳卒中と心不全が起こりやすいことが知られています。上記に加えて、社会サポートが低下しやすいために、自立した生活を送ることが難しくなるだけでなく、インスリン注射などの糖尿病に関するセルフケアも困難になります。画像を拡大する Q3 「高齢者糖尿病」の治療目的・診断は若壮年者と違うのでしょうか?上記の理由から、「高齢者糖尿病」の治療目的は合併症の予防だけではなく、QOLの維持向上を目指し、さらに認知機能障害、ADL低下、サルコペニアなどの老年症候群を予防することにあります(図5)。また、QOLの維持・向上を図るためには、低血糖などを防ぎ、食のQOLを保つことも大切です。さらに、患者のみならず介護者の治療の負担を軽減することも大切です。なお、高齢者糖尿病の診断は若い人と同様に行います。画像を拡大する

1828.

第2回 「抜歯したら抗菌薬」は本当に必須か【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 先日、歯科医師の友人から、抜歯後に抗菌薬を処方しなかったことで薬剤師からクレームを受けた、という話を聞きました。次のような経緯だったようです。・某日午前、ある女性患者さんの上顎第3大臼歯(親知らず)の残根を抜歯し、術後疼痛対策としてアセトアミノフェンを処方したが、抗菌薬は処方しなかった。・同日夕方、救急外来にこの女性患者さんの旦那さんである薬剤師からクレームの電話が入り、「抜歯したのになぜ抗菌薬を処方しないのか」と言われた。はたして抜歯をする際は感染症を予防するための抗菌薬は必須なのでしょうか。今回は、抜歯時の抗菌薬の有用性について検討したコクランのシステマティックレビューを紹介します。Antibiotics to prevent complications following tooth extractions.Lodi G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;11:CD003811.論文では、「抜歯処置を受ける患者さんが、術前あるいは術後に抗菌薬を服用すると、抗菌薬なしまたはプラセボ服用に比べて、感染症の発生リスクが下がるか」という疑問が検討されています。本論文で組み入れられた研究では、主にアモキシシリン(±クラブラン酸)、エリスロマイシン、クリンダマイシンなどが投与されています。なお、日本感染症学会、日本化学療法学会による「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016―歯性感染症―」でも、歯性感染症ではペニシリン系、リンコマイシン系、マクロライド系などが推奨されています。日本ではルーティンで第3世代セフェム系薬を処方する歯科医師が多いと感じていますが、これらは必ずしも歯性感染症に適するわけではないですし、概して吸収率も高くはありません。抗菌薬を服用すると12例中1例で感染予防さて、システマティックレビューの評価ポイントはいくつかあります。過去の研究を網羅的に集めているか、集めた研究の評価が適切になされているか、それらの研究の異質性は検討されたか、出版バイアスはないか、情報は適切に統合されたか、などの点を確認することが大切です。本論文では1948年~2012年1月25日までにMEDLINE、EMBASE、CENTRAL、CHSSSといったデータベースに登録されている関連論文を網羅的に集めています。集められた試験のデザインはランダム化比較試験で、うち1件はインターバルが6週間以上のクロスオーバーランダム化比較試験です。クロスオーバーは同じ被験者がウォッシュアウト期間を十分に設けた後に、異なる介入を受けることを意味します。そう何回も抜歯をやるの? という疑問もあるかもしれませんが、スプリットマウスデザインという、同一被験者の口内の左右では条件差がさほどないことを利用して、左右の歯でウォッシュアウト期間をおいて抜歯を行ったものと考えられます。出版バイアスの有無はファンネルプロットを用いて検討されていますが、術後および術前・術後におけるプロットが少ないため判定がやや難しいところです。なお、コクランのハンドブックによれば、一般的にプロットの数が10個以下だとファンネルプロットの左右対称性から出版バイアスを見極めることは難しいとされています。集められた各研究の評価は、2人のレビュアーにより独立して行われ、解釈に食い違いが生じた場合には議論のうえで合意を形成しているため、一定の客観性があると考えてよさそうです。なお、レビュアー名を検索したところ、両名とも歯科医師のようです。最終的に、集められた研究のうち、18件(患者合計2,456例)の研究が採用され、15件がメタ解析されています。システマティックレビューの結果は、通常Summary of Findings(SoF)テーブルとフォレストプロットにまとめられているので、ここを真っ先に見るとよいでしょう。エンドポイントに関する結果を紹介します。抗菌薬を投与した場合、プラセボと比較して抜歯後の局所感染症を約70%減らす(相対リスク:0.29、95%信頼区間:0.16〜0.50)とあり、エビデンスの質としては中程度の確信となっています(p<0.0001)。これは、約12例で抗菌薬を服用すれば、1例は感染症を予防できるという割合です。痛み、発熱、腫れには有意差はありませんでした。有害事象に関しては、抗菌薬投与でほぼ倍増(相対リスク:1.98、95%信頼区間:1.10~3.59)しますが、軽度かつ一時的ということ以外の具体的な内容は本文献ではわかりません。抗菌薬の必要性は侵襲性の程度や患者要因で変わりうるシステマティックレビューは既存の知見を網羅的に集めて質的評価を行い、統計学的に統合することから、しばしばエビデンスの最高峰に位置付けられますが、統合することで対象患者などの細かいニュアンスが省略されるため、その結果を応用する際は外的妥当性を十分に考えねばなりません。本結果を素直に解釈すれば、感染予防のベネフィットがややあるものの、抜歯処置の侵襲性の程度や感染症リスクによっては抗菌薬が処方されないことも十分考えられます。もし服用を検討するのであれば、アレルギーや副作用歴がない限りはペニシリン系やクリンダマイシンなどが比較的妥当な選択となりそうです。現実には下痢の頻度や抗菌薬アレルギーのリスク、冒頭の例であれば歯科医師と患者の関係なども抗菌薬が必要かどうかの考慮事項となりうるでしょう。いずれにせよ、短絡的に抜歯=抗菌薬と断定するのではなく、患者の状態や歯科医師の意図をくみ取ったうえで適切なアクションをとりたいものです。画像を拡大するAntibiotics to prevent complications following tooth extractions.Lodi G, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;11:CD003811.

1829.

遺伝性ジストニア〔Dystonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義ジストニアは、捻転性・反復性のパターンを持った異常な筋収縮により姿勢や動作が障害される病態と定義されているが、その本態は姿勢や自動運動など意識せずに遂行できる運動のプログラム単位の異常ということができる。(1)動作(または姿勢)特異性、(2)一定のパターンを持った動作である、(3)感覚トリックを有する(たとえば軽く健側の手で患側の手を触れることで症状が軽減するなど)という3点がそろう不随意運動である。過去には心因性疾患の1つとして捉えられることも多かったが、現在では基底核疾患の1つとされている。ジストニアを主徴として遺伝性を示す疾患には(1次性)遺伝性ジストニアと遺伝性神経変性疾患、遺伝性代謝疾患がある。遺伝性ジストニアは浸透率の低いものが多く、孤発性とみなされているものも多い。また、同じ遺伝子による病態であっても発症年齢などによる修飾が大きく同じ疾患と診断できない場合も多いとされている。■ 疫学難治性疾患研究の「ジストニアの病態と疫学に関する研究」研究班での調査によると、ジストニアの頻度は人口10万人あたり15~20例とされ、その中で遺伝性ジストニアの頻度は人口10万人あたり0.3例とされている。わが国における遺伝性ジストニアではDYT5ジストニア(瀬川病)の頻度が最も高く、次いでDYT1ジストニアが多いとされている。確定診断は遺伝子診断で行うが、「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009」(日本神経学会)に示された手順に準じて行う必要がある。■ 病因ジストニアの発症メカニズムとしては、特定の姿勢や自動運動に際して不必要な筋の活動が見られ、基底核運動ループの筋を収縮させる直接路とその周辺の筋を抑制する間接路のバランスの破綻が想定されている。同じ基底核疾患であるパーキンソン病が、ドパミンの相対的な欠乏によって運動が遅く、小さくなるのと逆であるといえる。ジストニアにおいて、遺伝性ジストニアと孤発性ジストニアの原因がどう異なっているかは、まだ解明されていない。よって、両者の区分も実際は非常に難しく、遺伝性の判別が比較的容易であった発症年齢の若いタイプのジストニアから順に抽出され、定義され、遺伝性ジストニアというカテゴリーが確立されてきたといえる。よって、いまだ見出されていないタイプの遺伝性ジストニアが存在する可能性が示唆され、孤発性として分類されているものがあると予想される。■ 症状遺伝性ジストニアにおいて、DYTシリーズでは現在1~20まで分類があり、本稿では比較的頻度が高く、治療法の報告がある群を中心に症状を述べる。DYT1ジストニアは、全身性捻転性ジストニアで10歳前後の発症の場合に考慮すべきジストニアである。ジストニアが下肢か腕から始まり、全身に広がる。下肢発症の症例のほうが、より若年発症で全身に広がる頻度が高いといえる。進行により罹患部位の変形を来す。瀬川病(DYT5)は、わが国で発見されたドーパ反応性の遺伝性ジストニアで、常染色体優性遺伝形式をとるが不完全浸透で女性優位(4:1またはそれ以上)に発症する。家系により遺伝子変異部位は異なる。発症年齢は10歳以下が多く、下肢ジストニアで発症し、歩行障害を示す。体幹捻転の要素はない。尖足、内反尖足などの足の変形が多い。著明な日内変動を示し、昼から夕方にかけて症状が悪化し、睡眠によって改善する。固縮、姿勢時振戦があり低用量のL-dopaにより著明に改善する。DYT8ジストニア(発作性非運動誘発性ジスキネジア1)は、不完全浸透の常染色体優性遺伝であり、小児期に発症する。非運動誘発性の発作性のジストニア、舞踏アテトーゼが症状で、一側の上下肢に生じることが多いが、両側のことも体幹や顔面を含むこともある。アルコール・カフェイン摂取、緊張感、疲労などが誘因になるとされる。DYT10ジストニアは、反復発作性運動誘発性ジスキネジアであり、常染色体優性で小児期から成人期に発症する。急激な随意運動に伴って発作性のジストニアを一側の上下肢に生じ転倒する。両側のこともある。10~30秒で5分を超えない発作を1日に数十回~数日に1回の頻度で繰り返すとされる。DYT11ジストニアは、不完全浸透の常染色体優性遺伝で、小児期~青年期にミオクローヌスとジストニアを来す。ミオクローヌスは頸部、上肢に見られ、ジストニアは捻転ジストニア、頸部ジストニア、書痙などである。アルコールで著明に改善するとされており、精神科的異常を伴うことが多いとされる。DYT12ジストニアは、不完全浸透の常染色体優性遺伝であり、14~45歳に急性に発症し、数分~1ヵ月で症状は完成し、症状が固定するとされる。顔面口部に強いジストニアを呈する。肉体的あるいは心理的なストレスの後に発症する傾向がある。DYT18ジストニアは、小児期に発症する。運動練習、持続的な運動、とくに歩行の後でジストニア、舞踏アテトーゼ、バリスムなどの不随意運動を生じる。てんかん発作を伴うものが多い。頭部MRI検査で多系統萎縮症様の被殻尾側の異常所見やFDG-PET検査で異常側視床の取り込み低下を認める。■ 分類遺伝性ジストニアは、遺伝様式、ジストニアの発症年齢、全身性か局所性か、持続性か発作性かで分類される(表)。表 遺伝性ジストニアの分類I 1次性捻転ジストニア1)全身性ジストニアDYT1ジストニア、DYT2ジストニア、 DYT17ジストニア2)局所性・分節性ジストニアDYT4ジストニア、DYT6ジストニア、 DYT7ジストニア、DYT13ジストニアII ジストニア-パーキンソニズム1)ドパ反応性ジストニアDYT5ジストニア・DYT12ジストニア・DYT16ジストニア2)ミオクローヌスジストニアDYT11ジストニア・DYT15ジストニアIII 発作性ジストニアDYT8ジストニア・DYT9ジストニア・DYT10ジストニア・DYT18ジストニア・DYT19ジストニア・DYT20ジストニアIV 2次性ジストニア1)神経変性疾患(遺伝性神経変性疾患、遺伝性代謝性疾患に伴うジストニア)で頻度の高い疾患DYT3ジストニア・SCA1、2、3、17、PARK2、6、15、家族性痙性対麻痺、PANK(pantothenate kinase associated neurodegeneration)、有棘赤血球舞踏病、ハンチントン病、レーバー病、GM1ガングリオシドーシス、GM2ガングリオシドーシス(テイ・サックス病)、ニーマン・ピック病C型、レット症候群2)代謝性疾患ウィルソン病■ 予後ジストニア自体で生命が脅かされることはない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先述のように、「神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009」(日本神経学会)に示された手順に準じて、確定診断は遺伝子診断で行う必要がある。DYT1は、常染色体優性遺伝で原因遺伝子は9q34の150kbの領域に位置しており、TorsinA遺伝子のアミノ酸コード領域中のCAG欠失が見出された。この変異がDYT1の原因である。DYT5は、日本の瀬川 昌也氏らによってはじめて報告された。常染色体優性遺伝をとるが不完全浸透で女性に多い。GCH1遺伝子上の機能喪失型変異によって引き起こされることがわかっている。GCH1遺伝子は、ドパミン合成速度を制御する機能を持つ。GCH1遺伝子の機能喪失型変異による酵素活性の不足は、黒質線条体のドパミン作用性ニューロンにおけるドパミン減少を導き、このようなドパミン減少によってジストニア症状が引き起こされていると推測されている。これまでGCH1遺伝子には60以上の異なった変異が報告されている。このような高い変異率が実現されるメカニズムはいまだ不明である。DYT8は、不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はMR-1(MIM609023)である。DYT10の原因遺伝子はPRRT2(proline-rich transmembrane protein 2)である。DYT11は、不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、病因遺伝子産物はSGCE(ε-sarcoglycan)で平滑筋、神経系に分布する。DYT12は不完全浸透型の常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はATP1A3である。DYT18は常染色体優性遺伝形式を示し、原因遺伝子はSLC2A1である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)局所性ジストニアの場合は、ボツリヌス治療が第1選択となる。とくに眼瞼痙攣と痙性斜頸に対するボツリヌス治療は高いエビデンスがある。ボツリヌス治療以外の薬物治療としては、眼瞼痙攣などの顔面ジストニアに対しては塩酸トリヘキシフェニジル(商品名:アーテン、トレミン)などの抗コリン薬、クロナゼパム(同:リボトリール、ランドセン)、ジアゼパム(同:ダイアップ)などのベンゾジアゼピンの効果が報告されている。痙性斜頸に対しては抗コリン薬、クロナゼパムやジアゼパムなどのベンゾジアゼピン、バクロフェン(同:ギャバロン、リオレサール)などが使われる。重症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。書頸などの上肢ジストニアにおいても、他の局所ジストニアと同様の内服治療を行う以外に、神経ブロックなどが効果的な場合もあるが、有効性は低いといわれている。全身性ジストニアにおいても、特定部位の筋弛緩が生活の質の改善または合併症の進行予防にボツリヌス治療は有効である。また、DYT1は淡蒼球のDBSが著効を呈する。DYT5などのドパ反応性ジストニアは少量のL-dopa(同:ドパストン、ドパゾール)が劇的に奏効する。ボツリヌス毒素の筋肉注射治療は、大量反復投与では毒素に対する抗体産生が作用を無効化するため問題になる。なお、使用に当たっては講習会出席により得られる資格が必要である。4 今後の展望ジストニアに対するボツリヌス治療単独では、治療困難な例も多く、そのような治療抵抗性のジストニアに対しては薬物治療の併用がすすめられる。ゾルピデム(商品名:マイスリーほか)は不眠症などの治療に用いられるが、50~70mg/日という高濃度のゾルピデム治療が視床や視床下核のGABAA受容体に結合し、また淡蒼球にもなんらかの影響を及ぼす結果、大脳基底核-視床-大脳皮質運動野の経路を直接的に、あるいは間接的に改善することでジストニアの治療につながっている可能性があり、治療抵抗性のジストニアに対し、ゾルピデムによる治療も新たな治療方法として期待できる。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遺伝性ジストニア(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)梶龍兒ほか. 臨床神経. 2008;48:844-847.2)田宮元. Brain Nerve. 2005;57:935-944.3)長谷川一子. ジストニア. 中外医学社;2012.p.20-52.4)梶龍兒 編集. ジストニアのすべて―最新の治療指針. 診断と治療社;2013.p.93-94.公開履歴初回2018年06月26日

1830.

PBCに対するベザフィブラートの有用性がフランスで証明された(解説:上村直実氏)-876

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、原因不明の胆管に対する自己免疫疾患で国の特定疾患に指定されており、現在、日本における患者数は5〜6万人で軽症の症例が増加している。男女比は約1:7であり、50~60歳の中年以降の女性に最も多くみられる疾患である。 PBCに対する根治的な治療法は確立しておらず、薬物療法が奏効せずに顕著な黄疸を伴う肝硬変へと進展して肝不全状態に至った場合に肝移植が考慮される。薬物療法に関しては1980年代から使用されているウルソデオキシコール酸(UDCA)が肝硬変への進展を遅くする成績を有して一定の評価を得ているが、UDCAが無効な患者に対して有効な薬剤に関するエビデンスはなかった。 今回NEJM誌に掲載された論文では、UDCAで効果不十分な患者100例を対象としてフランスで施行されたRCTの結果、ベザフィブラート併用群はプラセボと比較して、生化学的完全奏効(総ビリルビン、ALP、AST、アルブミンがいずれも正常値かつプロトロンビン指数が正常値を示す場合)が有意に高率であった。すなわち、24ヵ月後の完全奏効率はプラセボ群では皆無であったのに対して併用群31%であり、患者さんに勇気を与えるものである。なお、リスクに関しては有害事象として腎機能に対する悪影響が懸念されると考察されている。 高脂血症に使用されているベザフィブラートがPBCに対して有用である可能性については20年以上前に日本から報告1,2)されていた。PBC診療ガイドラインの2017年改定版では、UDCA無効例に対してベザフィブラートの使用を検討する旨が明記されている。すなわち、古くからある薬剤の意外な有用性に関して日本から発信された治療法がフランスで施行されたRCTにより証明されたものである。PBCは長期経過が重要な疾患であるので、今後、長期的な有用性と安全性に関するエビデンスはなんとしても日本から発信してもらいたいものである。さらにベザフィブラートが有効である患者を抽出可能な宿主因子を探求することも重要である3)。

1831.

ProACT試験-プロカルシトニン値を指標とした抗菌薬使用(解説:小金丸博氏)-877

 抗菌薬の過剰な使用は、医療費の増加や薬剤耐性菌の出現に関連する公衆衛生上の問題である。プロカルシトニンは、ウイルス感染よりも細菌感染で上昇しやすいペプチドであり、上昇の程度は感染の重症度と相関し、感染の改善とともに経時的に低下する。いくつかの欧州の試験において、抗菌薬を投与するかどうかをプロカルシトニンの結果に基づいて決定することで抗菌薬の使用を抑制できることが示されており、2017年、米国食品医薬品局(FDA)は下気道感染症が疑われる場合に抗菌薬の開始または中止の指標としてプロカルシトニンを測定することを承認した。しかしながら、プロカルシトニン値を日常臨床へ適用できるかは明らかでなかった。 本研究は、プロカルシトニン値に基づく抗菌薬処方ガイドラインを用いて抗菌薬の投与を決定することで、抗菌薬の使用を減らすことができるかどうかを検討したランダム化比較試験である。下気道感染症疑いで受診し、抗菌薬を投与すべきかどうかはっきりしない患者を対象とし、プロカルシトニン使用群と通常治療群に無作為に割り付けた。プロカルシトニン使用群の診療医には、プロカルシトニンの測定値に応じた推奨治療が記載された抗菌薬使用ガイドラインが提供された。その結果、intention-to-treat(ITT)解析では、30日までの平均抗菌薬投与日数はプロカルシトニン使用群が4.2日、通常治療群が4.3日であり、両群間に有意差を認めなかった(差:-0.05日、95%信頼区間[CI]:-0.6~0.5、p=0.87)。また、ITT解析による有害なアウトカムを発症した患者の割合は11.7%と13.1%であり、両群間に有意差を認めなかった(差:-1.5ポイント、95%CI:-4.6~1.7、非劣性:p<0.001)。 本試験の結果は過去の研究と異なり、下気道感染症疑いの患者に対してプロカルシトニン値を指標として抗菌薬投与の適応を決定しても、指標としない群と比較して抗菌薬の使用を抑制できなかった。その理由として、通常治療群の臨床医はプロカルシトニン値の結果を知らないにもかかわらず、プロカルシトニン高値例に比べ、低値例での抗菌薬処方が少なかった点が挙げられている。プロカルシトニン値が低い患者では感染症の臨床症状を呈することが少なく、通常の臨床判断で十分抗菌薬の適応を決定できたと考えられる。 プロカルシトニンは抗菌薬を投与すべきかどうか判断するのに有用な指標となりうるが、プロカルシトニンの値だけで治療方針を決定できるわけではない。まずは注意深い問診と診察から正しく臨床情報を整理することが重要であり、そのうえでプロカルシトニン値を用いることが適切な抗菌薬使用につながると考える。

1832.

がん悪液質ガイド日本語翻訳版を公開/日本がんサポーティブケア学会

 一般社団法人 日本がんサポーティブケア学会は、2018年5月22日、「JASCCがん支持医療ガイド翻訳シリーズ」として「がん悪液質:機序と治療の進歩 初版日本語版(編集:日本がんサポーティブケア学会 Cachexia 部会)」を公開した。 「がん悪液質:機序と治療の進歩 初版日本語版」は、がん悪液質の概要、機序や治療選択肢など5章88ページからなる。 同学会サイトでPDFデータが閲覧でできる。日本がんサポーティブケア学会 刊行物・ガイドライン

1833.

日本の児童・思春期におけるADHD治療薬の処方率に関する研究

 児童・思春期における注意欠如多動症(ADHD)の有病率は、地域差が小さいが、ADHD治療薬の処方率には、大きな地域差があるといわれている。薬剤処方の地域差を理解することで、潜在的に過剰または過小な処方の状況に関する示唆が得られる。しかし、日本人におけるADHD治療薬の処方率についてはよくわかっていない。医療経済研究機構の奥村 泰之氏らは、日本の児童・思春期におけるADHD治療薬の処方、新規処方、継続率を明らかにするため、調査を行った。Epidemiology and psychiatric sciences誌オンライン版2018年5月28日号の報告。 対象は、2014年4月~2015年3月にADHD治療薬であるメチルフェニデート塩酸塩徐放錠(OROS-MPH)、アトモキセチン塩酸塩(ATX)を処方された、18歳以下の患者。厚生労働省が構築している、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を活用し、分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・データベースより、ADHD治療薬処方患者8万6,756例、新規処方患者3万449例が抽出された。・ADHD治療薬の人口1,000人当たりの年間処方率は4.1%(95%CI:4.1~4.2)であり、男女ともに7~12歳でピークが認められた。・処方患者のうち、64%にOROS-MPHを処方されていた。・新規処方患者のうち、60.8%(95%CI:60.3~61.4)が150日目において薬物治療を継続していた。・ADHD治療薬の継続率は、7~12歳で最も高く(64.7%、95%CI:64.0~65.3)、16~18歳(42.8%、95%CI:40.8~44.7)で最も低かった。 著者らは、本研究結果のポイントとして、以下を挙げている。【ADHD治療薬の処方率について】・日本におけるADHD治療薬の人口当たりの年間処方率は、0.4%であった。この処方率は、米国(5.3%)、ノルウェー(1.4%)と比較して低く、イタリア(0.2%)、フランス(0.2%)、英国(0.5%)と同程度であった。・日本をはじめ処方率の低い国では、ADHD治療薬の処方制限施策を導入している。たとえば、日本では、ADHD治療に精通した医師のみが、OROS-MPHを処方することができる。このような処方制限施策が、相対的に低い処方率に影響を及ぼしていると考えられる。・ただし、この低い処方率が過小な処方状況の可能性を示唆している点には、留意が必要である。現状の処方が、過小なのか適正であるかについては、さらなる検討が必要である。【メチルフェニデート(MPH)の処方状況について】・日本において、ADHD治療薬が処方された患者のうち、64%にOROS-MPHが処方されていた。この処方率は、英国(94%)、ノルウェー(94%)、ドイツ(75~100%)と比較し、著しく低かった。・日本でMPHの処方が少ない要因として、以下の3点が考えられる。(1)短時間作用型MPHのADHDに対する承認が得られていない。(2)ATXに処方制限がない一方で、MPHのみ処方制限がある。(3)診療ガイドラインにおいて、MPHとATXの両方を第1選択薬としている。■関連記事2つのADHD治療薬、安全性の違いはADHDに対するメチルフェニデートは有益なのか日本における抗認知症薬の処方量に関する研究

1834.

「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」5年ぶりの改訂

CKD診療ガイドラインが全面改訂 日本腎臓学会は6月、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発行した。今回は専門医だけではなく、かかりつけ医や非専門医の利用を想定して制作されており、全面改訂する際に「CKD診療ガイド2012」と「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」を一元化させている。 前回同様、全章がクリニカルクエスチョン(CQ)形式の構成。CKD診療ガイドライン2018の主な改訂ポイントとして“STOP-DKD宣言”で注目を集めた、糖尿病性腎臓病(DKD)が章立てられているほか、高血圧・心血管疾患(CVD)、高齢者CKDについても詳しく取り上げられている。CKD診療ガイドラインの役割 本ガイドラインはすべての重症度のCKD患者を対象とし、診療上で問題となる小児CKDの特徴と対処法、CKD患者の妊娠時についても簡潔に記載されている。ただし、末期腎不全(ESKD)に達した維持透析患者や急性腎障害(AKI)患者は除外されているため、必要に応じて他のガイドラインを参照する必要がある。本来であれば病診連携が必要とされる疾患だが、本ガイドラインは専門医が不在とする地域での、かかりつけ医によるCKD診療のサポートに配慮した構成となっている。CKD診療ガイドライン2018では75歳以上は150/90mmHg未満を推奨 CKD診療ガイドライン第4章の「高血圧・CVD」では、血圧基準値を「糖尿病の有無」「尿蛋白の有無(軽度尿蛋白[0.15g/gCr]以上を尿蛋白ありと判定)」「年齢(75歳で区分)」の3つのポイントで定めている。・75歳未満の場合 CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無で判定 糖尿病なし:尿蛋白(-)140/90mmHg未満、尿蛋白(+)130/80mmHg未満 糖尿病あり:尿蛋白(+)130/80mmHg未満・75歳以上の場合 糖尿病、尿蛋白の有無にかかわらず150/90mmHg未満 起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指すが、80歳以上の120/60mmHg以下での管理において、Jカーブ現象が見られたという研究報告もあることから過降圧への注意も提案されている。CKD診療ガイドライン2018では高齢者への対応に変化 CKD診療ガイドライン第12章「高齢者CKD」では、高齢者CKDの年齢が“75歳以上”と改訂されており、これは2017年に日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ において、「75歳以上を高齢者」と定義付けたことが反映されている。また、同章にはフレイルに対する介入のCQが盛り込まれており、これは厚生労働省が今年度より本格実施を始めた「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進」に沿った改訂であることが伺える。DKDの推奨検査項目と管理目標値 CKD診療ガイドライン第16章「糖尿病性腎臓病(DKD)」では4つのCQが挙げられており、「尿アルブミン尿の測定」「浮腫を伴うDKDへのループ利尿薬投与」「HbA1c7.0%未満」「集約的治療」を推奨している。とくに血管合併症の発症・進行抑制ならびに総死亡率抑制のために集約的治療が重要とされ、以下の管理目標値を推奨としている。・BMI 22(生活習慣の修正[適切な体重管理、運動、禁煙、塩分制限食など])・HbA1c7.0%未満(現行のガイドラインで推奨されている血糖)・収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満・LDLコレステロール120mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、中性脂肪150mg/dl未満(早朝空腹時) ただし、「多因子の厳格な治療を推奨することで、投与薬剤数の増加や薬剤に関連する低血糖、過降圧、浮腫、高カリウム血症などのリスクが高まることにも注意が必要であり、適切なモニタリングと患者背景や生活環境を十分に勘案するように」といった注意事項も明記されている。PKD病診連携の架け橋に 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は透析導入原因の第4位となる疾患であるが、指定難病のため腎臓専門医・専門医療機関への紹介が必要となる。CKD診療ガイドライン第17章-3には、かかりつけ医による診療ポイントとして「脳動脈瘤」「トルバプタンによる治療」「血圧管理」について記載されているが、詳細については「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2017」を参照とされている。今後の方針 今後の方針として「同改訂委員会が継続しメディカルスタッフや患者を利用者に想定したCKD療養ガイド2018を作成、出版する」と記され、医療者と患者が一体となって治療に取り組むことで、透析導入予防や医療費抑制につながることが期待される。

1835.

ウエアラブル技術と遠隔コーチングを用いた家庭での運動療法は、末梢動脈疾患患者の6分間歩行距離を延ばさなかった(解説:佐田政隆氏)-872

 現在、循環器疾患患者の生命予後、生活の質を改善するうえで、心臓リハビリテーションが非常に注目されている。末梢動脈疾患患者においても、監視下の運動療法が歩行距離を延ばすことが報告され、ガイドラインでも推奨されている。しかし、そのためには頻回に医療機関に通院しないといけないが、それは遠方在住者や末梢動脈疾患患者にとってはしばしば困難なことである。 一方、家庭で運動療法が継続できれば、便利であり、現実的である。しかし、患者に家庭での運動療法を勧めても、実際には、1人もしくは家族のサポート下ではなかなかできずに、せっかく入院中に改善した心肺機能が、退院後、家庭に戻って低下していることを、心臓リハビリテーションの診療でよく経験する。 そこで、本研究では、現在話題のウエアラブル技術と電話によるコーチングによって、家庭での運動療法が効果的に行えるかどうかを調べている。200例の末梢動脈疾患患者を2群に分けた。99例は運動介入群で、最初の1ヵ月間は週1回の頻度で計4回、メディカルセンターで運動指導を受け、その後、ウエアラブル活動モニターを装着して家庭で歩行訓練を継続した。その間、週1回~月1回の頻度で電話によるコーチングを受けた。残りの101例はそのような介入を受けず通常ケア群であった。主要評価項目である9ヵ月後の6分間歩行距離の変化は、介入群が5.5mだったのに対し、通常ケアのほうは14.4mであり、介入による改善効果は認められなかった。9ヵ月後のPROMISの痛みの影響に関するスコアは、介入群で逆に悪化した。 介入群で良い結果が得られなかった原因としては、やはり、電話によるカウンセリング下の家庭での運動療法が、メディカルセンターでの直接顔を合わせた、手取り足取りの監視下運動ほど効果的でなかったためと思われる。今後、ICTの活用やより高度なウエアラブル装置の開発により、遠隔からの運動指導が効果的に行えるシステムの確立が期待される。

1836.

80歳以上の収縮期血圧、死亡リスク最低は129mmHg/BMJ

 中国で行われたコミュニティベースの長期前向き試験で、80歳以上の超高齢者では、収縮期血圧値と全死因死亡リスクとの関連はUカーブを示し、収縮期血圧値が129mmHgで同リスクが最低であることが示された。中国疾病管理予防センターのYue-Bin Lv氏らが、同国22省に居住する80歳以上4,658例を対象に行った試験で明らかにし、BMJ誌2018年6月5日号で発表した。Uカーブの関連結果については、収縮期血圧値107~154mmHgを基準に、同値よりも高値では心血管死リスクの上昇が、低値では非心血管死リスクの上昇が関与している可能性があるという。著者は「今回の結果は、超高齢者では高血圧治療が再び重要になり、同年齢群のガイドラインを整備する重要性を強調するものである」とまとめている。3年間追跡し、血圧値などと死亡リスクの関連を検証 研究グループは2011~14年にかけて、80歳以上の4,658例を対象に、縦断的寿命調査を行った。被験者の平均年齢は92.1歳だった。 主要評価項目は、3年追跡時の全死因死亡率および死因別死亡率だった。血圧値や動脈圧などと、全死因死亡リスク、死因別リスクとの関連を検証した。収縮期血圧154mmHg超では心血管死リスクは1.5倍に 追跡期間中の死亡は1,997例だった。収縮期血圧値、平均動脈圧、脈圧と死亡率はUカーブの関連を示し、それぞれ143.5mmHg、101mmHg、66mmHgで最も死亡リスクが低かった。共変量補正後、収縮期血圧値のみで死亡率とのUカーブの関連が示され、129mmHgで最も死亡リスクが低かった。 129mmHgを基点に、収縮期血圧値が107mmHgより低値では全死因死亡リスクは減少した(ハザード比[HR]:75mmHgの1.47[95%信頼区間[CI]:1.01~2.17]から106mmHgの1.08[1.01~1.17]に低下)。一方、154mmHg超では、同値が上がるにつれて全死因死亡リスクの増大が認められた(HR:155mmHgの1.08[1.01~1.17]から190mmHgの1.27[1.02~1.58]に上昇)。 死因別分析では、収縮期血圧が中程度(107~154mmHg)に比べ、154mmHg超では心血管死リスクが増大した(補正後HR:1.51、95%CI:1.12~2.02)。一方で107mmHg未満では、非心血管死リスクの増大がみられた(同:1.58、1.26~1.98)。

1837.

発症時間不明の脳梗塞、MRIミスマッチを根拠とするrt-PA静注療法で転帰改善か(中川原譲二氏)-871

 現行ガイドラインの下では、アルテプラーゼ静脈療法は、発症から4.5時間未満であることが確認された急性脳梗塞だけに施行されている。ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのGotz Thomalla氏らは、発症時間が不明だが、MRIによって発症が直近の脳梗塞と示唆された患者について、アルテプラーゼ静脈療法にベネフィットがあるかを検討した(多施設共同無作為化二重盲険プラセボ対照試験「WAKE-UP試験」)。その結果、発症時間不明の急性脳卒中患者において、脳虚血領域のMRIによる拡散強調画像(DWI)とFLAIR画像のミスマッチを根拠に行ったアルテプラーゼ静脈療法は、プラセボ投与と比べて、90日時点の機能的転帰は有意に良好であることが示された。ただし、頭蓋内出血は数的には多く認められた(NEJM誌オンライン版2018年5月16日号)。MRIミスマッチを根拠に介入、90日時点の機能的転帰を評価 研究グループは、ヨーロッパの8ヵ国で発症時間が不明の脳卒中患者を集め、アルテプラーゼ静脈内投与群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。すべての患者についてMRIが施行され、DWIで虚血病変が認められるが、FLAIR画像では明らかな高信号域(hyperintensity)が認められず、脳卒中発症がおそらく4.5時間未満と示唆された。なお、被験者のうち、血栓除去術が予定されていた患者は除外した。主要評価項目は、修正Rankinスケール(mRS)による90日時点の神経学的障害スコア(0[障害なし]~6[死亡])が、0または1で定義される良好な転帰とした。副次評価項目は、シフト解析による、アルテプラーゼ群がプラセボ群よりも、mRSのスコアを低下させる尤度とした。治療群で機能的アウトカムは有意に改善、一方で死亡・頭蓋内出血例が上昇 試験は、当初800例を見込んでいたが、無作為化を受けた503例(アルテプラーゼ群254例、プラセボ群249例)の登録時点で、試験継続の資金調達が困難と予想され早期に中止となった。90日時点で転帰良好であった患者は、アルテプラーゼ群131/246例(53.3%)、プラセボ群102/244例(41.8%)であった(補正後オッズ比:1.61、95%信頼区[CI]:1.09~2.36、p=0.02)。90日時点のmRSスコアの中央値は、アルテプラーゼ群1、プラセボ群2であった(補正後共通オッズ比:1.62、95%CI:1.17~2.23、p=0.003)。一方で、死亡は、アルテプラーゼ群10例(4.1%)、プラセボ群3例(1.2%)が報告された(オッズ比:3.38、95%CI:0.92~12.52、p=0.07)。また症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群2.0%、プラセボ群0.4%で認められた(オッズ比:4.95、95%CI:0.57~42.87、p=0.15)。アルテプラーゼ静脈療法の治療根拠にtissue-baseの適応が加わる 現行のアルテプラーゼ静脈療法は、当初は発症から3時間未満であることが確認された急性脳梗塞だけが適応とされ(NINDS trial、1995年)、その後、time windowが発症から4.5時間未満まで延長された(ECASS III trial、2008年)。すなわち、アルテプラーゼ静脈療法については、time-baseの適応基準のみが確立されてきた。これに対して、今回の研究は、発症時間が不明であっても、MRIでDWIとFLAIR画像のミスマッチが見られる症例では、アルテプラーゼ静脈療法が有効であることが示され、tissue-baseの適応基準が加わったことになる。脳梗塞の成立には、発症からの時間と虚血組織の残存脳血流が関与することは言うまでもない。DWIとFLAIR画像のミスマッチは、発症からの時間が間もないことを反映する。しかし、残存脳血流がきわめて乏しい症例のDWIでは高信号病変(不可逆病変)がただちに出現するが、FLAIR画像では高信号病変の出現に時間がかかる。急性期のFLAIR画像に高信号病変が見られないことは、必ずしも組織の不可逆的変化の程度を反映しない。本研究におけるアルテプラーゼ群の死亡や症候性頭蓋内出血の増加が、FLAIR画像に高信号病変が見られない重症脳虚血症例に対するtime window外の治療開始を反映している可能性があることを考慮する必要がある。

1838.

高度異型腺腫の有無で大腸がんリスクが有意に異なる(解説:上村直実氏)-868

 日本で大腸がんは肺がんに次いで2番目に多い死亡原因であり、大腸がんによる死亡リスクを低下するために便潜血による大腸がん検診が施行されている。一方、欧米では、大腸内視鏡検査(CF)を行うことにより大腸がんによる死亡率およびその発症率が低下する研究成果が数多く報告され1,2)、最近では死亡リスク低下に必要なCFの間隔が話題になっている。米国のガイドライン3)では、10年に1度のCFにより大腸がん死亡リスクが大幅に低下するとされており、大腸がんスクリーニングにCFを取り入れるべきで、ポリープ(腺腫)があれば5~10年後のCFが推奨されている。 今回JAMAに掲載された報告では、CFを行った時点で高度異型の腺腫すなわち腫瘍径1cm以上ないしは、tubulovillousやvillous腺腫を認めたものは、1cm以下の低異型度腺腫を有するものや腺腫を認めないものに比べて、その後13年間の大腸がん発症および大腸がん死亡リスクが有意に高いことが示された。すなわち、CFによるスクリーニングの重要性と大腸がんのリスクには腺腫の異型度が重要であることが強調されている。日本の消化器内視鏡診療は種々の特殊内視鏡により、世界を圧倒する高精度の内視鏡診断と圧倒的な内視鏡治療技術を有することは、世界中で周知されている。しかし、上記したように検診は便潜血検査でCFによる住民検診は行われていない現状は、医学的に大きな問題と言える。 一方、大腸がんにとって重要な本論文に引用されている38文献に、日本発の研究論文が皆無であることも重大な課題であろう。年間1,500万件の消化器内視鏡が施行されているわが国における内視鏡診療現場では新たな技術優先の傾向が強く、エビデンスを創出するためのデザインされた臨床研究が少ないことが従来からの課題と言えた。現在、日本全国の内視鏡ビッグデータを一括して日本消化器内視鏡学会で管理するシステムのJapan Endoscopy Database(JED)プロジェクトが進行中である。このデータベースが完成すれば、Propensity scoreなどを用いた解析により正確な成績を得ることが可能となり、わが国から精度の高い研究成果が世界のエビデンスとして排出されるものと期待される。

1839.

TIA患者の脳卒中リスクは5年後まで減らない(解説:内山真一郎氏)-870

 TIAregistry.orgは発症後7日以内の一過性脳虚血発作(TIA)または軽症脳梗塞(minor stroke)を登録して観察する前向きコホート研究であった。私は日本の研究代表者であり、該当患者を年間100例以上診療している日本の6施設に参加していただいた。 1年間の追跡調査の結果は2016年にNew England Journal of Medicine誌に発表している。この時の結果では、1年後までの血管イベント発症率は、ガイドラインを順守した脳卒中専門医の救急対応により10年前の歴史的対照と比べて半減していた。しかしながら、今回の2~5年後までの累積発症率は、それ以上減衰することなく直線的に推移していた。 この結果は、現状のガイドラインを順守しても、長期の残余リスクは依然として高く、より厳格な危険因子の管理目標達成と、より強力な再発予防対策が必要であることを示唆している。ただし、日本人のサブ解析では背景因子、病型、動脈病変、診療体制、予知因子が非日本人と異なっており、独自の対策も必要であると考えている。

1840.

日本における抗認知症薬の処方量に関する研究

 2015年時点で、世界で認知症を有する人は4,700万人いるといわれている。認知症の有病者数は、2050年には1億3,200万人に達すると予想されており、そのうちアジア諸国が51%を占めると予想されている。日本は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最も認知症の有病率が高く、人口の2%(約500万人)が認知症に罹患している。 リアルワールドでの抗認知症薬の有効性に関しては、いまだ重要なアンメットニーズがある。抗認知症薬の臨床試験における参加者は、85歳以上が除外されているなど、実臨床と異なる。また、抗認知症薬使用によるベネフィットがリスクを上回るか否かについて、現在も議論がある。 このようなベネフィットとリスクに関する見解の相違は、診療ガイドライン間における、抗認知症薬処方に関する推奨度に影響している。米国や英国の診療ガイドラインでは、抗認知症薬処方に関する推奨度は弱い。一方で、日本の診療ガイドラインでは、アルツハイマー型認知症の治療において、臨床医に抗認知症薬の処方を強く推奨している。日本の診療ガイドラインによる推奨は、実臨床における抗認知症薬処方に影響を及ぼす可能性がある。そこで、医療経済研究機構の奥村 泰之氏らは、日本における抗認知症薬の処方状況を明らかにするため、検討を行った。International journal of geriatric psychiatry誌オンライン版2018年5月20日号の報告。 日本のほぼすべてのレセプト情報をカバーしているレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて分析を行った。データベースには、処方などに関する情報が含まれている。2015年4月~2016年3月の期間における、抗認知症薬(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)の処方をすべて確認した。患者の識別番号を用いて、処方患者数を集計した。抗認知症薬の人口当たりの処方率は、1年間で1度でも処方された患者数を、人口で割ることにより算出した。抗認知症薬の年間総処方量は、世界保健機構により規定された1日維持用量(DDD:defined daily dose)を算出した。さらに、年間総処方量を人口当たりの1日維持用量(DID:defined daily dose per inhabitants)へ変換した。 主な結果は以下のとおり。・抗認知症薬を処方された患者数は、173万3,916例(人口の1.4%)であった。・抗認知症薬の人口当たりの処方率は、65歳以上では5.1%、85歳以上では17.0%であり、年齢とともに増加していた。・抗認知症薬の総処方量の46.8%は、85歳以上が占めていた。・85歳以上の住民の13%に、毎日、抗認知症薬の維持用量が処方されていることに相当する処方量であった。 著者らは「本研究は、日本における抗認知症薬処方の現状を確認した、初めての研究である。ドイツで行われた研究と比較し、日本の85歳以上の高齢者に対する抗認知症薬の処方率はきわめて高い。しかし、抗認知症薬の臨床試験では、主に85歳未満の患者を対象としており、臨床試験と実臨床の間で大きなギャップがある」とし、「エビデンスの非直接性と、加齢に伴う有害事象発生リスクの増大を考慮すると、超高齢者を対象としたエビデンスが確立しない限り、診療ガイドラインにおける抗認知症薬の処方に関する推奨度は弱い推奨とする、あるいは強く推奨する年齢層を85歳未満に限定する必要がある」としている。■関連記事抗認知症薬と抗コリン薬の併用、アジア太平洋諸国の現状日本では認知症への抗精神病薬使用が増加抗認知症薬は何ヵ月効果が持続するか:国内長期大規模研究

検索結果 合計:2935件 表示位置:1821 - 1840