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喘息患者の3 人に1 人は救急経験あり

 アストラゼネカ株式会社は、気管支喘息患者を取り巻く現状や喘息治療の実態を明らかにすることを目的とした患者調査を全国3,000名の患者に実施し、その結果が公表された。 調査結果は今回発表の「喘息患者さんの予定外受診・救急受診・救急搬送の現状」編のほか、「喘息患者さんの通院・服薬の現状」編、「重症喘息患者さんの現状」編という3つのテーマで公開される。監修は東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)が担当した。●調査概要調査実施日:2019年4月15~26日実施方法:インターネット調査対象:全国の気管支喘息患者 3,000名(気管支喘息と診断されて直近1年以内に通院または入院の経験あり)性別:男性1,539名、女性1,461名発作で救急搬送されたことを主治医に伝える患者は半数 「気管支喘息の症状のコントロールについて」という問いでは、「症状がコントロールされた状態」と回答した患者が73.6%、「少し不十分」が24.1%、「まったくコントロールされていない」が2.2%と、おおむねコントロールできている患者が多数を占めた。 「現在の喘息治療で、喘息のない人と同じ日常生活を送れているか」という問いでは、「非常にそう思う」と回答した患者が20.8%、「どちらかというとそう思う」が48.8%、「どちらともいえない」が16.3%、「どちらかというとそうは思わない」が10.9%、「まったくそう思わない」が3.2%と、約7割の患者が健康な人と同じ日常生活を送っていると回答した。 「気管支喘息のために予定外受診、救急受診、入院などを経験した頻度はどれくらいか」という問いでは、「月1回以上」と回答した患者が12.3%、「月1回未満~年1回以上」が26.2%、「ここ1年はない」が61.5%だった。約6割の患者が急変した状況の診療がないと回答した。地域別でみると九州・沖縄地方(19.7%)、中部地方(12.1%)、四国地方(12.0%)で「月1回以上」と回答した患者が多かった。 「これまでに、気管支喘息の発作で救急搬送されたり、救急受診をしたことがあるか」という問いでは、「ある」と回答した患者が34.6%、「ない」が65.4%だった。地方別では、九州・沖縄地方(40.3%)、近畿地方(37.2%)、四国地方(36.1%)の順で多かった。 救急受診・救急搬送経験者(n=1,038)に「主治医に救急受診したことを伝えたか」という問いでは、「はい」と回答した患者が53.7%、「いいえ」が27.4%、「わからない」が18.9%だった。 「医師から説明を受けて、気管支喘息の悪化に関連しているものは何か」という問いでは、「好酸球の増加」(76.5%)、「ダニなどのアレルゲン」(62.5%)、「喫煙」(59.8%)、「妊娠」(58.3%)、「過去の重篤な発作」および「鼻炎・副鼻腔炎」(52.1%)の順で多かった。さらなる医師と患者のコミュニケーションの進展が治療のカギ これらの調査を踏まえ監修の東田 有智氏は「今回の調査結果から、6割に上る患者が、自分の症状はコントロールされている、あるいは、喘息の無い人と同じ日常生活を送れている、と感じていながら、ガイドラインで『コントロール不十分』『コントロール不良』と定義される状態にあると考えられることが示された。さらに、患者の3人に1人が喘息発作で救急搬送や救急受診などを経験している実態も明らかとなったほか、救急搬送を経験した患者の半数は主治医にその旨を伝えていた。そのほか、自分の症状悪化の要因が『好酸球の増加』であると、医師から説明を受けて認識している人が7割に上るなど、患者と主治医との間のコミュニケーションの現状もわかった。引き続き患者と主治医とがコミュニケーションを取り、患者がそれぞれの症状にあった治療に出会い、健康な人と変わらない日常生活を送ることを願う」とコメントを寄せている。

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高血圧治療戦略、心血管疾患予防にはQRISK2準拠が望ましい/Lancet

 心血管疾患リスクスコアに基づいた治療戦略「QRISK2≧10%」は、NICEガイドライン2011年版の約1.4倍、同2019年版の約1.2倍多く心血管疾患を予防可能であるという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のEmily Herrett氏らが、英国で用いられている高血圧治療戦略の意義を検証した後ろ向きコホート研究の結果を報告した。血圧スペクトル全体での血圧低下が有益であるという強力なエビデンスにもかかわらず、世界中で広く推奨されている降圧療法は主に血圧閾値を目標としており、リスクに基づいて治療を決定することの効果とその後の心血管疾患の発生については明らかになっていなかった。Lancet誌オンライン版2019年7月25日号掲載の報告。4つの異なる治療戦略を比較検証 研究グループは、Hospital Episode Statistics(HES)および国家統計局(Office for National Statistics:ONS)の死亡データとリンクしているプライマリケアのデータベースClinical Practice Research Datalink(CPRD)を用い、30~79歳の心血管疾患を伴わないプライマリケア患者について後ろ向きに解析し、NICEガイドラインの2011年版および2019年版、血圧値(閾値≧140/90mmHg)のみ、または心血管疾患10年リスク予測スコア(QRISK2スコア≧10%)のみの4つの異なる治療戦略について比較検証した。 患者は、心血管疾患の診断、死亡、追跡調査の終了(2016年3月31日)のいずれかまで追跡調査を受けた。各戦略について、治療対象となる患者の割合と、当該治療で予防可能な心血管イベント数を推定した後、英国の全人口における10年間の適格性と発生イベント数を推定した。QRISK2に基づいた治療戦略でより多くの心血管イベントを回避 2011年1月1日~2016年3月31日の期間で、122万2,670例を中央値4.3年(IQR:2.5~5.2)追跡した。治療対象は、NICEガイドライン2011年版で27万1,963例(22.2%)、2019年版で32万7,429例(26.8%)、血圧値(≧140/90mmHg)のみで48万1,859例(39.4%)、QRISK2スコア(10%以上)のみで35万7,840例(29.3%)であった。 追跡期間中に、3万2,183例が心血管疾患と診断された(7.1/1,000人年、95%信頼区間[CI]:7.0~7.2)。各戦略の治療対象と判断された患者における心血管イベント発生率(/1,000人年)は、NICEガイドライン2011年版で15.2(95%CI:15.0~15.5)、2019年版で14.9(95%CI:14.7~15.1)、血圧値のみで11.4(95%CI:11.3~11.6)、QRISK2スコアのみで16.9(95%CI:16.7~17.1)であった。 英国の全人口に当てはめると、推定された回避可能なイベント数は、NICEガイドライン2011年版で23万3,152件(10年間に1件のイベント発生を回避するための治療必要数28例)、2019年版で27万233件(29例)、血圧値のみで30万1,523件(38例)、QRISK2スコアのみで32万2,921件(27例)であった。

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労力に比して得るものが少なかった研究(解説:野間重孝氏)-1094

 本論文は年齢・性別・狭心症のタイプ・pretest probability・CTの列数の観点から冠動脈造影CT(CTA)の有用性を、65本の既出論文のメタアナリシス(一部著者らが集めた未出版データも含む)によって検討したものである。 ご存じのように現在、世界のCTの10台に1台はわが国にある。高性能なものに限ればこの数はもっと多くなると推察される。これは他国とはかなり異なった医療状況を生み出しているのではないかと思う。SCCTが発表しているデータによれば、CTAの診断能は感度86%~99%、特異度95%~97%であるものの、陽性適中率は66%~87%にとどまる。本論文中では前者で97.2%~100%、後者で87.4%~89%との数字を別のメタアナリシスデータから引用している。しかし陰性適中率が98%~100%と、とてつもなく高い数字になることには言及していない。考えていただきたいのだが、ここに比較的安全でかつ陰性適中率がきわめて高い検査が比較的容易に行えるとしたら、疾病の確率が何パーセントかと論ずる前に、さっさとその検査を行ってしまうのではないだろうか。それが現在のわが国の実情なのだと思う。もっともこの論文も警告しているように、安易な検査のやり過ぎは国家医療財政に大きな負担となる。これも現在のわが国の現状そのものといえる。 本論文ではpretest probabilityが重要な要素として論じられている。しかし、その算出方法についてはdiscussionの中でDiamond and Forester modelを利用したこと、ESCのガイドラインも参照していること、また運動負荷の成績から見積もったものもあると述べるにとどまっており、methodsの中で詳細に論じられてはいない。評者も評者の周囲も日常診療においてあまりこのような数字の議論をしないので、これが一部の医師たちの間では常識になっているものかどうか言及できない。著者の中に日本人も含まれていることを考えると、欧米とわが国の違いだけとはいえないとも考えられるが、評者には論評できない。ただし、重要な構成要素について説明不足であることは指摘しておきたい。 また、年齢や性別がなぜ診断成績に影響を与えるかについても考察されていない。これについては近年、雑誌が推測による記述を抑制するようになったからだという見方もできるが、結論部分に書かれている内容について十分なdiscussionをしないというのはいかがなものなのだろうか。これに関連して考えるのは、本論文では石灰化指数(カルシウムスコア)が検討されていないことである。性別については何ともいえないが、年齢と石灰化指数には強い相関が認められることはよく知られており、年齢による診断能の低下の有力な説明になったのではないだろうか。この問題から離れても、CTの診断能を議論する場合、石灰化指数は重要な要素であり、本論文でこの議論が抜けていることには非常に不満を感じる。 CTの列数の議論には違和感を感じた。これは原理的な問題であり、実際の開発においては実験・実証によって議論されるべき問題であって、臨床データのメタアナリシスが利用される余地はない問題だと考えるからである。ちなみに、旧式のCTでも意外に診断に有効利用できるといったデータなら、統計を利用する意味がある。この辺は統計をとるという行為をどう考えるかにかかっている。 結論を言えば、多くの国の多くの学者たちが交流を持ったことに意義を感じるものの、大変な労力をかけた論文としては得るものが少なかったと言わざるをえない。

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第26回 化学療法時に用いられる各制吐薬の有用性をエビデンスから読み解く【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 がん化学療法では、疼痛管理や副作用の予防などさまざまな支持療法を行うため、それぞれのレジメンに特徴的な処方があります。代表的な副作用である悪心・嘔吐に関しては、日本癌治療学会による制吐薬適正使用ガイドラインや、ASCO、NCCN、MASCC/ESMOなどの各学会ガイドライン1)に制吐療法がまとめられていますので、概要を把握しておくと患者さんへの説明やレジメンの理解に有用です。悪心・嘔吐は大きく、化学療法から24時間以内に出現する急性悪心・嘔吐、25~120時間に出現する遅発性悪心・嘔吐、予防薬を使用しても出現する突出性悪心・嘔吐、化学療法を意識しただけでも出現する予期性悪心・嘔吐に分けられ、化学療法の催吐リスクに応じて制吐薬が決められます。今回は主な制吐薬である5-HT3受容体拮抗薬のパロノセトロン、NK1受容体拮抗薬のアプレピタント、MARTAのオランザピンのエビデンスを紹介します。パロノセトロンまずは、2010年に承認された第2世代5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンを紹介します。本剤は従来のグラニセトロンやオンダンセトロンとは異なる構造であり、5-HT3受容体への結合占有率、親和性、選択性が高く、半減期も約40時間と長いことから遅発性の悪心・嘔吐にも有効性が高いとされています。2018年版のNCCNガイドラインでは、パロノセトロンを指定しているレジメンもあります1)。パロノセトロンとグラニセトロンの比較試験では、CR(Coplete Response)率、すなわち悪心・嘔吐がなくレスキュー薬が不要な状態が、急性に関しては75.3% vs.73.3%と非劣性ですが、遅発性に関しては56.8% vs.44.5%(p<0.0001、NNT 9)とパロノセトロンの有効性が示されています2)。また、同薬剤によりデキサメタゾンの使用頻度を減らすことができる可能性も示唆されています3)。添付文書によると、便秘(16.5%)、頭痛(3.9%)のほか、QT延長や肝機能値上昇が比較的高頻度で報告されているため注意が必要ですが、悪心の頻度が多いと予期性の悪心・嘔吐を招きやすくなるため、体力維持や治療継続の点でも重要な薬剤です。院内の化学療法時に静注される薬剤ですので院外では見落とされることもありますが、アプレピタント+デキサメタゾンの処方があれば、5-HT3受容体拮抗薬の内容を確認するとよいでしょう。アプレピタント2009年に承認されたアプレピタントは、中枢性(脳内)の悪心・嘔吐の発現に関与するNK1受容体に選択的に結合することで、悪心・嘔吐を抑制します。一例として、NK1受容体拮抗薬を投与された計8,740例を含む17試験のメタアナリシスを紹介します4)。高度または中等度の催吐性化学療法に対して、それまで標準的だった制吐療法(5-HT3拮抗薬、副腎皮質ステロイド併用)に加えてNK1受容体拮抗薬を追加することで、CR率が全発現期において54%から72%(OR=0.51、95%信頼区間[CI]=0.46~0.57、p<0.001)に増加しています。急性/遅発性の両方で改善効果があり、なおかつ、この高い奏効率ですので、本剤が標準的に用いられるようになったのも納得です。一方で、因果関係は定かではありませんが、重度感染症が2%から6%に増えています(1,480例を含む3つのRCT:OR=3.10、95%CI=1.69~5.67、p<0.001)。また、CYP3A4の基質薬剤なので相互作用には注意です。オランザピンMARTAのオランザピンは、D2受容体拮抗作用および5-HT3受容体拮抗作用によって有意な制吐作用を示すと考えられており、2017年に制吐薬としての適応が追加されました。直近のASCOやNCCNのガイドラインの制吐レジメンにも記載があります1)。従来の5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤併用と、同レジメンにオランザピンまたはプラセボを上乗せして比較した第3相試験5)では、シスプラチンまたはシクロホスファミド、およびドキソルビシンで治療を受けている乳がんや肺がんなどの患者を中心に約400例が組み入れられました。併用の5-HT3受容体拮抗薬はパロノセトロンが約75%で、次いでオンダンセトロンが24%でした。ベースの制吐薬3剤は、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬に加えて、デキサメタゾンが1日目に12mg、2~4日目は8mg経口投与でガイドラインのとおりです。エンドポイントである悪心なしの状態は0~10のビジュアルアナログスケールで0のスコアとして定義され、化学療法後0~24時間、25~120時間、0~120時間(全体)で分けて解析されました。いずれの時点においてもオランザピン併用群で悪心の発生率が低く、化学療法後24時間以内で悪心がなかった割合はオランザピン群74% vs.プラセボ群45%、25~120時間では42% vs.25%、0~120時間の5日間全体では37% vs.22%でした。嘔吐やレスキューの制吐薬を追加する頻度もオランザピン群で少なく、CR率もすべての時点で有意に改善しています。なお、忍容性は良好でした。論文内にあるグラフからは、2日目に過度の疲労感や鎮静傾向が現れていますが、服用を継続していても後日回復しています。うち5%は重度の鎮静作用でしたが、鎮静を理由として中止に至った患者はいませんでした。服用最終日およびその前日には眠気は軽快しています。以上、それぞれの試験から読み取れる制吐薬の効果や有害事象を紹介しました。特徴を把握して、患者さんへの説明にお役立ていただければ幸いです。1)Razvi Y, et al. Support Care Cancer. 2019;27:87-95.2)Saito M, et al. Lancet Oncol. 2009;10:115-124.3)Aapro M, et al. Ann Oncol. 2010;21:1083-1088.4)dos Santos LV, et al. J Natl Cancer Inst. 2012;104:1280-1292.5)Navari RM, et al. N Engl J Med. 2016;375:134-142.

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抗凝固療法終了後のVTE、10年で3分の1以上が再発/BMJ

 非誘発性の静脈血栓塞栓症(VTE)の初回エピソードを発症し、3ヵ月を超える抗凝固療法を終了した患者における累積VTE再発率は、2年で16%、5年で25%、10年では36%に達することが、カナダ・オタワ大学のFaizan Khan氏らMARVELOUS共同研究グループの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年7月24日号に掲載された。抗凝固療法は、非誘発性VTEの初回エピソード後のVTE再発リスクの抑制において高い効果を発揮するが、この臨床的な有益性は抗凝固療法を中止すると維持されなくなる。抗凝固療法を無期限に中止または継続すべきかの判断には、中止した場合のVTE再発と、継続した場合の大出血という長期的なリスクとのバランスの考慮が求められるが、中止後のVTE再発の長期的なリスクは明確でないという。中止後の長期のVTE再発率をメタ解析で評価 研究グループは、非誘発性VTEの初回エピソード例において、抗凝固療法中止後のVTE再発を評価し、最長10年の累積VTE再発率を検討する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成による)。 2019年3月15日までに、医学データベースに登録された文献を検索した。対象は、非誘発性VTEの初回イベントを発症し、3ヵ月以上の抗凝固療法を終了した患者において、治療中止後の症候性VTEの再発について報告した、無作為化対照比較試験または前向きコホート研究とした。 2人の研究者が独立的に試験選出・データ抽出を行い、バイアスリスクを評価。適格と判定された試験のデータについて、各論文執筆者に確認を求めた。個々の研究の抗凝固療法中止後のVTE再発イベントの発生率および追跡期間の人年を算出し、変量効果メタ解析でデータを統合した。男性で再発率が高い傾向、再発による死亡は4% 18件の研究(7,515例)が解析に含まれた。4件が前向き観察コホート研究、14件は無作為化対照比較試験であった。すべての研究が、Newcastle-Ottawaスケールで「質が高い」と判定された。 抗凝固療法中止後100人年当たりのVTE再発率は、1年時が10.3件(95%信頼区間[CI]:8.6~12.1)、2年時が6.3件(5.1~7.7)、3~5年が3.8件/年(3.2~4.5)、6~10年は3.1件/年(1.7~4.9)であった。また、累積VTE再発率は、2年時が16%(13~19)、5年時が25%(21~29)、10年時は36%(28~45)であった。 男女別の抗凝固療法中止後1年の100人年当たりのVTE再発率は、男性が11.9件(95%CI:9.6~14.4)、女性は8.9件(6.8~11.3)であり、10年時の累積再発率はそれぞれ41%(28~56)および29%(20~38)であった。 VTE再発率は、孤立性肺塞栓症患者と比較して、近位深部静脈血栓症患者(率比:1.4、95%CI:1.1~1.7)および肺塞栓症+深部静脈血栓症患者(1.5、1.1~1.9)で高かった。また、遠位深部静脈血栓症患者における中止後1年時の100人年当たりのVTE再発率は1.9件(95%CI:0.5~4.3)であった。VTE再発による死亡率は4%(2~6)だった。 著者は、「これらのデータは、非誘発性VTEの診療ガイドラインの策定に役立ち、患者に予後を説明する際の信頼度を高め、長期のマネジメントに関する意思決定の支援に有用と考えられる」としている。

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Evidence Based Medicine追求への神髄を見た(解説:岡慎一氏)-1092

 ホルモン薬を使った避妊方法はいくつかある。その中で、黄体ホルモン製剤であるメドロキシプロゲステロン酢酸エステル剤の筋注薬(DMPA-IM)は、避妊には有効であるが、30年来の観察研究からHIV感染のリスクを高める可能性があるとされていた。とくに、2つのメタアナリシスの結果では、この避妊法は他の方法に比べ40~50%もHIV感染リスクを高めるとされていた。しかし、WHOの見解では、対象となった多くの論文は、重大なlimitationを抱えており、有効で安全な避妊法の質の高いエビデンスを出すためには、追加の研究が必要であると結論付けた。 問題はここからである。この研究では、Evidenceを追究するために、どの避妊法がHIV感染率を高めるのかを比較するRCTを行ったのである。対象者は、避妊を希望するsexually activeな若い女性である。倫理的な問題はかなり議論されたようである。3つの方法を比較しているが、各群2,600人以上を組み入れている。もちろん、HIVに感染しないためのsafer sex promotion packageも十分行っている。DMPA-IM群には、4.19/100PYのHIV感染が起こり、他の2群3.94/100PY、3.31/100PYよりやや高めに見えるが、3群間に有意な差はなかった。この結果から、EBMとしてガイドラインには、3つの避妊法はいずれも有効で、HIV感染予防を一緒に行うことが推奨されるであろう。アフリカの女性にとって避妊も大事である。あっぱれな研究である。

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ミネブロ錠:3剤目のミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬

2019年5月13日、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、ミネブロ錠(一般名:エサキセレノン)が高血圧治療薬として新たに販売開始となった。高血圧治療に残された課題日本の高血圧患者は4,300万人と推計され、そのうち治療によって適切に血圧がコントロールされているのはわずか1,200万人。残りの3,100万人は治療をしていてもコントロール不良、もしくは治療を行っていないという。このような状況の中、日本高血圧学会は2019年に、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を発表し、高血圧対策を進めていく必要性を訴えた。今回の改訂では合併症のない75歳未満の成人、脳血管障害患者、冠動脈疾患患者は130/80mmHg未満に、75歳以上の高齢者は140/90mmHg未満に、それぞれ降圧目標値が10mmHgずつ引き下げられている。降圧目標達成のためには個人レベルでの取り組みだけでなく、社会全体での積極的な取り組みが必要であることが強調されており、降圧目標達成率や疾患啓発など、高血圧治療に課題が残されていることがうかがえる。新しく登場したミネブロ錠は高血圧治療の新しい選択肢となり、課題解決に寄与する可能性がある。MR拮抗薬の作用機序について尿細管に存在するMRへ、アルドステロンが過剰に結合し続けると、尿中のナトリウム再吸収とカリウム排泄を促進させ、循環血量の増加により、血圧が上昇する。ミネブロ錠はMRをブロックし、ナトリウム排泄を促進することで血圧低下効果を発揮する。このMRをブロックするという作用機序から、食塩感受性高血圧の患者さんや原発性アルドステロン症の患者さんで有効性を示すことが期待されている。国内臨床試験成績:中等度腎機能障害に使えるMR拮抗薬国内第III相試験において、I度またはII 度の本態性高血圧症患者を対象に、単剤および他の降圧薬との併用の両方で試験が行われた。単剤投与では2.5mgを1日1回、12週間投与した結果、収縮期血圧は13.7mmHg低下し、エプレレノン(投与量:50mg)に対する非劣性が検証された。また、長期投与試験では52週を通して安定した降圧効果の持続が確認されただけでなく、ARBやCa拮抗薬との併用でも観察期に比べて有意な降圧効果を示している。さらに、中等度腎機能障害を合併した患者やアルブミン尿を有する2型糖尿病を合併した患者を対象とした試験では1.25mgを1日1回投与し、どちらの患者でも収縮期血圧は10mmHg以上低下している。ARBやCa拮抗薬を用いても降圧目標を達成できず、あと10mmHg程度を下げたいケースに追加する薬剤として良いだろう。そして、最大の特徴の1つは、これまでのMR拮抗薬では禁忌であった中等度腎障害の患者にも使用できるようになっている点である。ただし、副作用である高カリウム血症には注意が必要であり、とくに腎機能が低下している患者では、注意を払いながら使用していくことが求められる。カリウム値のモニタリングを行うなどして、患者に合わせて投与量を調整しながら使用していくことが重要となってくる。今後の可能性ミネブロ錠は単独投与、併用投与どちらでも10mmHg以上の血圧低下効果を示している。今後は、あともう少し血圧を下げたい場合や、これまでMR拮抗薬を使いたいが使えなかった症例において、新しい選択肢の1つとなるのではないか。さらに、MR拮抗薬はアルドステロンの作用を阻害するため、腎臓や心臓などの臓器保護効果を示す可能性があり、ミネブロ錠は高血圧症以外の適応拡大を目指して、糖尿病性腎症患者を対象とした第III相臨床試験が進められている。

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人工呼吸器からのウィーニング方法についての検討(解説:小林英夫氏)-1091

 病態が改善してきた人工呼吸器装着症例において、どのような手順でウィーニングを成功させるかというテーマは、数十年前から議論されてきたが今もって完全な結論は得られていない。本論文を簡潔化すると、圧制御換気(pressure support換気)がTピース換気よりも人工呼吸から離脱しやすいようである、と結論している。この結論は、近年の多くの論文、総説と同様の結果であり、解説者も特段の異論は有していない。 さて、集中治療領域は別にして、大半の本サイト閲覧氏にとって人工呼吸は日々関わることのない特殊分野であろう。圧制御換気は吸気時に一定圧を機械で補助する方式、Tピース換気はT字型に組み合わせたチューブを取り付ける昔ながらの方式である。これまで種々の見解が報告されてきたが、今世紀の論文では圧制御換気優位とする見解が主流で、2017年の米国胸部・呼吸器学会合同作成ガイドラインも圧制御換気優位としていた(Ouellette DR, et al. Chest. 2017;151:166-180. 、Girard TD, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195:120-133. )。しかしその後もウィーニング関連研究は続き、本論文はJAMA当該号のEditorialで取り上げられた。一般論では、人工呼吸は非生理的であり可及的早期に解放すべき手技であるが、拙速な離脱は病態再悪化に結び付いてしまう。適切なタイミングとウィーニング法の選択が求められるが、多数の検討でも最終結論に至っていない。その理由には、多様な原疾患が混在する対象群、他臓器障害の程度、ウィーニング後治療が標準化されていない、制御圧の値が種々、対象群をランダマイズしても治療法は盲検ではない、自発呼吸トライアル時間も未定、など未解決要素が多々存在する。現実的には難しいものの、これらのバイアスを解消できる研究がなされなければ、本論文のような繰り返しが続くのであろう。同時に、人工呼吸管理の適応病態自体もこれまで以上に検討すべき重要課題である。 なお、人工呼吸器から離脱することはweaning、ウィーニング、ウイニングなどとの記載が一般的であったが、上記2017年のガイドラインではliberation(解放)との表現を用いている。

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本邦初、高齢者のがん薬物療法ガイドライン発行/日本臨床腫瘍学会

 約3年をかけ、高齢者に特化して臓器横断的な視点から作成された「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」が発行された。第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月18~20日、京都)で概要が発表され、作成委員長を務めた名古屋大学医学部附属病院の安藤 雄一氏らが作成の経緯や要点について解説した。なお、本ガイドラインは日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会が共同で作成している。高齢者を一律の年齢で区切ることはせず、年齢幅を持たせて評価 本ガイドラインは「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014」に準拠し、臨床試験のエビデンスとともに、益と害のバランス、高齢者特有の価値観など多面的な要因に基づいて推奨の強さが検討された。作成委員会からは独立のメンバーによるシステマティックレビュー、専門医のほか非専門医・看護師・薬剤師・患者からの委員を加えた推奨パネルでの投票により、エビデンスの強さ(4段階)と推奨の強さ(2段階+推奨なし)が決定されている。 対象となる高齢者については、一部のCQを除き具体的な年齢で示すことはしていない。各薬物療法の適応になる基本的な条件を満たしており、PS 0または1、明らかな認知障害を認めず、主な臓器に機能異常を認めない患者が対象として想定されている。“実臨床で迷うことが多い”という観点で12のCQを設定 12のクリニカルクエスチョン(CQ)は、CQ1が総論、CQ2~3が造血器、CQ4~6が消化管、CQ7~9が呼吸器、CQ10~12が乳腺という構成となっている(下記参照)。各CQは実臨床で遭遇し判断に迷うもの、そして臨床アウトカムの改善が見込まれるものという観点で選定。例えば呼吸器のCQ7は、予防的全脳照射(PCI)を扱っており、薬物療法ではないが、実臨床で迷うことが多く重要、との判断から取り上げられた。 推奨パネルでの投票で意見が割れ、最終的な決定にあたって再投票を実施したCQも複数あった。呼吸器のCQ8では、高齢者の早期肺がんに対する術後補助化学療法としてのシスプラチン併用について検討している。報告されている効果は5年生存率で+10%と小さく、1%の治療関連死が報告されている。判断について意見が分かれたが、最終的に、「実施することを明確に推奨することはできない(推奨なし)」とされている。 本ガイドラインでは、関連のエビデンス解説や推奨決定までの経緯についての記述を充実させており、巻末には各CQについて一般向けサマリーを掲載している。患者ごとに適した判断をするために、また患者にリスクとベネフィットを正確に伝えるために、これらの情報を活用することが期待される。独自のメタアナリシスを実施したCQも そもそも高齢者は臨床試験の選択基準から除外されることが多く、エビデンスは全体的に乏しい。評価できるエビデンスがサブグループ解析に限られ、直接高齢者を対象としたRCTは存在しないものが多かった。消化器のCQ5では、70歳以上の結腸がん患者に対する術後補助化学療法について検討しているが、70歳以上へのオキサリプラチン併用療法は、現状の報告から明確な上乗せ効果は確認できず、一方で末梢神経障害の増加が認められることから、「オキサリプラチン併用療法を行わないことを提案(弱く推奨)」している。 独自のメタアナリシスを行ったCQもある。乳がん領域のCQ11では、高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法で、アントラサイクリン系抗がん剤の省略が可能かどうかを検討している。2つの前向き試験(CALGB49907とICE II-GBG52)のメタアナリシスを行い、アントラサイクリン系抗がん剤を省略することで生存期間と無再発生存期間が短縮する可能性が示唆された。その他心毒性についての観察研究結果などのエビデンスも併せて検討された結果、「アントラサイクリン系抗がん薬を省略しないことを提案(弱く推奨)」している。各領域で取り上げられているCQ[総論] CQ1 高齢がん患者において,高齢者機能評価の実施は,がん薬物療法の適応を判断する方法として推奨されるか?[造血器] CQ2 高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療方針の判断に高齢者機能評価は有用か? CQ3 80才以上の高齢者びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してアントラサイクリン系薬剤を含む薬物療法は推奨されるか?[消化器] CQ4 高齢者では切除不能進行再発胃がんに対して,経口フッ化ピリミジン製剤とシスプラチンまたはオキサリプラチンの併用は推奨されるか? CQ5 結腸がん術後(R0切除,ステージIII)の70才以上の高齢者に対して,術後補助化学療法を行うことは推奨されるか?行うことが推奨されるとすれば,どのような治療が推奨されるか? CQ6 切除不能進行再発大腸がんの高齢者の初回化学療法においてベバシズマブの使用は推奨されるか?[呼吸器] CQ7 一次治療で完全奏効(CR)が得られた高齢者小細胞肺がんに対して,予防的全脳照射(PCI)は推奨されるか? CQ8 高齢者では完全切除後の早期肺がんに対してどのような術後補助薬物療法が推奨されるか? CQ9 高齢者非小細胞肺がんに対して,免疫チェックポイント阻害薬の治療は推奨されるか?[乳腺] CQ10 高齢者ホルモン受容体陽性,HER2陰性乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬を投与すべきか? CQ11 高齢者トリプルネガティブ乳がんの術後化学療法でアントラサイクリン系抗がん薬の省略は可能か? CQ12 高齢者HER2陽性乳がん術後に対して,術後薬物療法にはどのような治療が推奨されるか?

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この耳鳴りは治療が必要な耳鳴りか

 2019年7月18日、『耳鳴診療ガイドライン 2019年版』の発刊に寄せ、金原出版はメディアセミナーを都内で開催した。 一般外来でも耳鳴の主訴は多いが、自然に改善することもあるために放置されるケースもあり、見過ごされている。しかし、高齢社会となり、耳鳴にともなう難聴や生活・認知機能への影響なども指摘され、これらへの対応として今回、耳鳴診療ガイドラインが日本聴覚医学会耳鳴研究会により編集された。ガイドラインが「強く推奨する」耳鳴りの治療法 講演では、「耳鳴りに悩む患者さんたちへ~標準的な診断と治療~」をテーマに神崎 晶氏(慶應義塾大学医学部 耳鼻咽喉科学教室 専任講師)を講師に迎え、耳鳴の診療とともにガイドラインの概要が説明された。 耳鳴患者の有病者数は全人口の15~20%(うち65歳以上が約30%)とされ、わが国では2~3%(約300万人)いると推定されている。診断では一般的な問診のほか耳鳴苦痛度質問表での評価、耳内の所見観察、純音聴力検査、耳鳴検査などが行われる。また、臨床では非拍動性の耳鳴が多く、その多くは加齢に伴う難聴と診断される場合が多いという。専門医への紹介のメルクマールとしては、難聴の有無がその1つとされ、患者が生活への支障を訴えた場合も治療介入の対象になる。 現在の標準的治療としては、教育的カウンセリングが行われ、次に音響療法や認知行動療法、そして条件付きながら薬物療法として抗うつ薬、抗不安薬などの処方、サウンドジェネレーターの装着、人工内耳の手術などが行われる。また、教育的カウンセリングと認知行動療法は、耳鳴診療ガイドラインの中で「実施を強く推奨する」に位置付けられている(ただし認知行動療法は現時点で保険未適応)。耳鳴診療ガイドラインに記載されたCQ つぎに耳鳴診療ガイドラインの内容について、「クリニカルクエスチョン(CQ)は10項目が記載され、システマティックレビューは1,214の文献を抽出。MINDS診療ガイドラインに準拠した作成がされている」と説明を行った。 たとえばCQ3「それぞれの治療の長所と短所は何か」では、「薬物療法は、エビデンスが低く、副作用を伴うものもあり」とされ、「耳鳴り順応療法、補聴器、音響療法は、デバイスによる効果と補聴器による難聴への有効性がある」とされる。 CQ6では「薬物療法(漢方を含む)は耳鳴に効果があるか」では、「エビデンスがなく不適当としながらも、併存するうつ病、不眠、不安障害を軽減する」としているほか、「間接的に治療効果を高める可能性がある」などが記載されている。耳鳴診療ガイドラインの効果の検証が課題 最後に同氏は今後の課題として、耳鼻科領域で大規模臨床研究が遅れているわが国の現状から「新しい治療に関するエビデンス収集のための他施設大規模調査の必要性」、「本ガイドラインの効果の検証」、「治療選択アルゴリズムの作成」、「わが国における認知行動療法の開発とエビデンスの集積」、「複合補聴器の効果の検証」、「治療における費用対効果の検証」と6項目を挙げ、「今後、知見の集積ができれば、ガイドラインの改訂を行うこともある」と展望を示し、講演を終えた。

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循環器医もがんを診る時代~がん血栓症診療~/日本動脈硬化学会

 がん患者に起こる“がん関連VTE(Venous Thromboembolism、静脈血栓塞栓症)”というと、腫瘍科のトピックであり、循環器診療とはかけ離れた印象を抱く方は多いのではないだろうか? 2019年7月11~12日に開催された、第51回日本動脈硬化学会総会・学術集会の日本腫瘍循環器病学会合同シンポジウム『がん関連血栓症の現状と未来』において、山下 侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科)が「がん関連静脈血栓塞栓症の現状と課題~COMMAND VTE Registryより~」について講演し、循環器医らに対して、がん関連VTE診療の重要性を訴えた。なぜ循環器医にとって、がん関連VTEが重要なのか 循環器医は、虚血性心疾患、不整脈、および心不全などの循環器疾患を主に診療しているが、血栓症/塞栓症のような“血の固まる病気”への専門家として、わが国ではVTE診療における中心的な役割を担っている。VTEは循環器医にとって日常臨床で遭遇する機会の多い身近な疾患であり、山下氏は「VTE診療は循環器医にとって重要であるが、その中でもがん関連VTEの割合は高く、とくに重要である」と述べた。発症原因のはっきりしないVTEでは、がんに要注意! 「循環器医の立場としては、VTEの発症原因が不明で、なおかつVTEを再発するような患者では、後にがんが発見される可能性があり、日常臨床で経験する事もある」と述べた同氏は、VTE患者でのがん発見・発症割合1)を示し、VTEの原因としての“がん”の重要性を注意喚起した。さらに同氏は、所属する京都大学医学部附属病院で2010~2015年の5年間に、肺塞栓症やDVT(Deep Vein Thrombosis、深部静脈血栓症)の保険病名が付けられた診療科をまとめた資料を提示し、循環器内科を除外した場合には、産婦人科、呼吸器科、消化器科および血液内科などの腫瘍を多く扱う診療科でVTEの遭遇率が高かったことを説明した。 近年では、がん治療の進歩によりがんサバイバーが増加し、経過観察期間にVTEを発症する例が増えているという。がん患者と非がん患者でVTE発症率を調査した研究2)でも、がん患者のVTE発症率が経年的に増加している事が報告されており、VTE患者全体に占めるがん患者の割合は高く、循環器医にとって、「VTEの背景疾患として、がんは重要であり、日常臨床においては、循環器医と腫瘍医との連携・協調が何よりも重要」と同氏は強調した。がん関連VTEの日本の現状と課題 本病態が重要にも関わらず、現時点での日本における、がん関連VTEに関する報告は極めて少なく、その実態は不明点が多い状況であった。そこで同氏らは、国内29施設において急性症候性VTEと診断された3,027例を対象とした日本最大規模のVTEの多施設共同研究『COMMAND VTE Registry』を実施し、以下のような結果が明らかとなった。・活動性を有するがん患者は、VTE患者の中で23%(695例)存在した(がんの活動性:がん治療中[化学療法・放射線療法など]、がん手術が予定されている、他臓器への遠隔転移、終末期の状態を示す)。・がんの原発巣の内訳は、肺16.4%(114例)、大腸12.7%(88例)、造血器8.9%(62例)が多く、欧米では多い前立腺5.2%(36例)や乳房3.7%(26例)は比較的少数であった。・がん患者のVTE再発率は非常に高く、活動性を有するがん患者ではVTE診断後1年時点で11.8%再発し、なかでも遠隔転移を起こしている患者では22.1%と極めて高い再発率であった。・がん患者の総死亡率は極めて高く、とくに活動性を有するがん患者では49.6%がVTE診断後1年時点で亡くなっていた。・死亡した活動性を有するがん患者(464例)の死因は、がん死が81.7%(379例)で最多であったが、それに次いで、肺塞栓症4.3%(20例)、出血3.9%(18例)であった。 この結果を踏まえ、「再発率だけでなく、死亡率も高いがん関連VTE患者を、どこまでどのように介入するか、今後も解決しなければならない大きな問題である」とし、がん治療中のVTEマネジメントが腫瘍医および循環器医の双方にとって今後の課題であることを示した。 欧米でVTE治療に推奨されている低分子ヘパリンは、残念ながら日本では使用できず、ワルファリンやDOACが使用されている。しかし、ワルファリンは化学療法の薬物相互作用などによりINRの変動が激しく、用量コントロールにも難渋する。また、前述の研究の結果によると、活動性を有するがん患者ではワルファリンによる治療域達成度は低かった。このような患者に対し、VTE治療のガイドライン3)では抗凝固療法の長期継続を推奨しているが、「実際は中止率が高く、抗凝固療法の継続が難しい群であった」と現状との乖離について危惧し、「DOAC時代となった日本でも、がん関連VTEに対する最適な治療方針を探索する研究が必要であり、わが国から世界に向けた情報発信も期待される」と締めくくった。

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免疫CP阻害薬のやめ時は?最終サイクル後の30日死亡率/日本臨床腫瘍学会

 進行・難治性がん患者に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を使用する機会が増えているが、明確な中止基準は確立されていない。2011 national cancer strategy for Englandでは、回避可能な全身性抗がん剤治療(SACT)による害の臨床指標として、30日死亡率を提唱している。今回、一宮市立市民病院 龍華 朱音氏らが、ICI治療の最終サイクル後30日以内に死亡した患者について調査したところ、PS不良の患者にICI治療が選択される傾向があり、また、最終サイクルの治療費が従来の治療の約10倍となっていることが明らかになった。第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月18~20日、京都)で報告された。 本研究では、2016年1月~2018年6月にSACTを受けたすべてのがん患者のデータを同定し、最終サイクル後30日以内に死亡した患者を後ろ向きに収集した。ICIの最終サイクル後30日以内に死亡した患者(ICI群)と、主に細胞障害性抗がん剤による従来のSACTの最終サイクル後30日以内に死亡した患者(非ICI群)の2群に分け、死因、臨床的特徴、治療関連因子を比較した。なお、経口抗がん剤および局所動脈/髄腔内注射の投与患者は除外した。 主な結果は以下のとおり。・SACTを受けた1,442例のうち90例が、最終レジメンをICIで治療されていた。・ICIの最終サイクル後30日以内に16.7%(15/90例)が死亡し、ICI以外のレジメンで治療され死亡した1.6%(22/1,352例)より死亡率が高かった。・ICI群の年齢中央値(範囲)は71歳(60~86歳)、男性14例/女性1例、最終サイクル時のECOG PSが0~1が4例、2~4が11例であった。死因は、腫瘍の進行11例、感染症3例、その他(免疫関連肝炎)1例であった。・ICI群は非ICI群と比べて、男女の割合(14/1 vs. 13/9、p=0.028)、PS 2~4の割合(73.3% vs.40.9%、p=0.040)、治療費中央値(821,310円vs.87,610円、p<0.001)が有意に高かった。 龍華氏は、抗がん剤治療後早期死亡を引き起こす主因として、治療関連死および積極的治療適応外の2点を挙げた。また、ICI治療における30日死亡率が高い理由として、細胞障害性抗がん剤に忍容性がない患者にICIが投与されている可能性を指摘した。さらに、医療資源の浪費抑制のために、上記の積極的治療適応外に該当する緩和ケアが有用な患者においては、ICI中止のための適切なガイドラインが必要である、と結論した。 発表後の質疑において、龍華氏は、肺癌診療ガイドライン2018年版では、PS 3~4の患者(ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明、PD-L1発現は問わない)へは薬物療法を行わないよう推奨されているが、実臨床では、ICIは免疫関連有害事象が発現しなければ投与できてしまうこと、治療効果が得られず腫瘍増大を来した症例にもPseudo-Progressionであることを期待して4サイクルまで継続しようとするなど、やめ時が難しいという問題を提起した。

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地域全員への抗HIV療法は有効か/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の予防において、複合的予防介入と地域のガイドラインに準拠した抗レトロウイルス療法(ART)の組み合わせは、標準治療に比べ新規HIV感染を有意に抑制するが、地域住民全員を対象とするARTは標準治療と差がないことが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のRichard J. Hayes氏らが行ったHPTN 071(PopART)試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌2019年7月18日号に掲載された。新規HIV感染を抑制するアプローチとして、地域住民全員を対象とする検査と治療は有効な戦略となる可能性が示唆されているが、これまでに行われた試験の結果は一貫していないという。21の地域で3種の介入法を比較する無作為化試験 本研究は、2013~18年の期間に、ザンビアと南アフリカ共和国の21の地域共同体(総人口約100万人)で実施されたコミュニティー無作為化試験である(米国国立アレルギー感染症研究所[NIAID]などの助成による)。 21の地域(ザンビア12地域、南アフリカ9地域)は、複合的予防介入と地域住民全員を対象とするARTを行う群(A群)、複合的予防介入と地域のガイドラインに準拠したART(2016年以降は全員が対象)を行う群(B群)、または標準治療群(C群)に無作為に割り付けられた。 予防的介入には、地域の医療従事者によって提供される在宅HIV検査が含まれ、HIV治療への連携やARTアドヒアランスの支援も行われた。 主要アウトカムは、12~36ヵ月の期間における新規HIV感染の発生とし、無作為に抽出された1つの地域当たり約2,000例の成人(18~44歳)コホートで評価を行った。また、24ヵ月時に、HIV陽性の全参加者においてウイルス抑制(HIV RNA<400コピー/mL)を評価した。地域ガイドラインARTで新規感染が30%減少 4万8,301例が登録され、このうち36ヵ月時の最終調査は72%で実施された。ベースライン時に、女性が71%、男性が29%で、40%が25歳未満(18~24歳)であった。HIV陽性者の割合は22%(女性26%、男性12%)であった。ARTはA群33%、B群41%、C群35%で行われていたが、ウイルス抑制が達成されていたHIV陽性者の割合はそれぞれ56%、57%、54%だった。 12~36ヵ月の期間に、3万9,702人年で553件の新規HIV感染が認められ(100人年当たり1.4件、女性1.7件、男性0.8件)、100人年当たりA群が1.5件、B群が1.1件、C群は1.6件であった。C群と比較した新規HIV感染発生の補正率比は、A群が0.93(95%信頼区間[CI]:0.74~1.18、p=0.51)と有意差はなかったが、B群は0.70(0.55~0.88、p=0.006)であり、新規感染が30%有意に低下した。 24ヵ月時に、ウイルス抑制が達成されたHIV陽性者の割合は、A群71.9%、B群67.5%、C群60.2%であった。C群と比較したウイルス抑制達成の補正率比は、A群が1.16(95%CI:0.99~1.36、p=0.07)、B群は1.08(0.92~1.27、p=0.30)であり、いずれも有意な差はみられなかった。また、24ヵ月時のウイルス抑制の割合は、A、B群とも女性が男性に比べて高く、25歳以上が18~24歳よりも高かった。 36ヵ月時に、ARTを受けているHIV陽性者の割合は、A群が81%、B群は80%と推定された。HIV陽性者のART受療状況は、A群とB群で類似しており、男性が女性に比べて低く、若年者が高齢者よりも低かった。 著者は、「全員が対象のARTが無効であったことは予想外であり、ウイルス抑制のデータとは一致しなかった。この試験では、全員を対象とする検査と治療を含む複合的予防介入によって、住民レベルにおける新規HIV感染の抑制が可能であった」とまとめ、「A群で効果が得られなかった理由はいくつか考えられるが、試験地域の定性的および定量的データと、進行中の系統発生的研究のデータの解析を進めることで、予想外の結果の説明が可能と考えられる」としている。

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がん免疫療法ガイドライン第2版発刊【Oncologyインタビュー】第9回

がん免疫療法ガイドライン第2版が本年(2019年)3月に発刊された。第1版から2年3ヵ月のスピード改訂である。本版制作の実務を担った日本臨床腫瘍学会がん免疫療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ長である九州大学 馬場 英司氏に、第2版の改訂ポイントを聞いた。2年3ヵ月(第1版は16年12月、第2版は19年3月に発刊)という短期間で第2版を発刊されていますが、その背景について教えてください。このガイドラインの対象は主に免疫チェックポイント阻害薬で、それらを適正に使用することを目的にしています。この分野は新しい薬剤が次々に登場し、適応疾患も急速に拡大しています。そのため、早めの改訂を行いました。改訂の準備段階で、web版で出すか冊子として出すかを検討しました。当初は部分的なものを想定していましたが、実際に始めてみると改訂すべきボリュームがかなり多いことがわかり、web版ではなく第2版として冊子にしようということとなりました。第1版からの改訂ポイントはどのようなところでしょうか。全体の構成は第1版と同様です。1つ目が「がん免疫療法の分類と作用機序」、2つ目は「免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理」、最後に「がん免疫療法の癌種別エビデンス」という3つの大項目からなっています。まずがん免疫療法の概論、次に副作用の説明、最後に各臓器における免疫療法の使い方という組み立てです。1つ目の「がん免疫療法の分類と作用機序」は、全体的に大きく変わっていませんが、より詳細な記載になっています。2つ目の「免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理」については、各項目でボリュームが増しています。なかでも「15.心筋炎を含む心血管障害」については、頻度が高くないという理由から、第1版では独立させていませんでしたが、今回は新たな項目として独立させ、より詳細に記載しました。この分野は腫瘍循環器学(Onco-Cardiology)と呼ばれ、がん治療、あるいはがんそのものによる循環器系の合併症対策として、腫瘍と循環器との連携の重要性についての認識が高まっています。免疫療法においてもこの分野は重要なものとなっています。3つ目の「がん免疫療法の分類と作用機序」で特徴的なことは「19.高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能の欠損(dMMR)を有する切除不能・転移性の固形癌」を加えたことです。このテーマは第2版作成当初から重要性に注目し、準備していました。MSI-H検査が保険診療で使えるようになったのは、この第2版が出る数ヵ月前(2018年12月)であり、タイミング良く載せられたと思います。このような臓器横断的な遺伝子変化を対象とした治療薬は今後もでてきますので、他学会と協力した取り組みも進めています。副作用対策も治療エビデンスも広範囲にわたります。貴学会内だけでなく、他学会のサポートもあったのでしょうか制作に関わっていただいたのは全部で23名です。適応がん種は幅広いので、日本臨床腫瘍学会のがん種横断的な先生方の協力をいただいています。また、他学会からの協力もいただいており、日本免疫学会から玉田耕治先生、日本臨床免疫学会から鳥越俊彦先生に代表として入っていただき、腫瘍循環器学の分野からは向井幹夫先生にご協力いただきました。医療者の方々に有効に活用いただくためのアドバイスをお願いします。免疫チェックポイント阻害薬は非常に期待されている薬剤である一方、従来の抗がん剤とはまったく異なる副作用が発現します。これらの有害事象を上手にマネジメントしないとせっかくの薬が有効活用できません。また循環器や内分泌など、腫瘍専門家に馴染みの少ない分野の有害事象への対応も必要となります。このガイドラインを活用し、さまざまな臓器の有害事象を頭に入れ、対策に役立てていただきたいと思います。そして、ガイドラインの活用と共に、他の専門家とのネットワーク構築などを進めていただければ、期待される薬剤をさらに有効に活用できると思います。

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ICU患者のせん妄、家族の自由面会で減少せず/JAMA

 集中治療室(ICU)における家族の面会時間を自由にしても、制限した場合と比較してせん妄発生の有意な低下は確認されなかった。ブラジル・Hospital Moinhos de VentoのRegis Goulart Rosa氏らが、ICUにおける家族の面会がせん妄の発生に及ぼす影響を検証したクラスター・クロスオーバー無作為化臨床試験の結果を報告した。ICUにおける家族の面会時間を自由にする方針は、患者および家族中心のケアの重要なステップとして、米国クリティカルケア看護師協会(AACN)や米国集中治療医学会(SCCM)のガイドラインにより推奨されているが、その影響ははっきりしていなかった。JAMA誌2019年7月16日号掲載の報告。患者、家族、医師を組み込んだクラスター・クロスオーバー無作為化試験を実施 研究グループはブラジルの、面会時間が制限(1日4.5時間未満)されている成人ICU 36施設において、患者、家族および医師を対象としたクラスター・クロスオーバー無作為化臨床試験を実施した。 2017年4月~2018年6月の期間に参加者を募り、被験者を自由面会群(19施設、1日最長12時間、患者837例、家族652例、医師435例)または制限面会群(17施設、中央値1.5時間/日、患者848例、家族643例、医師391例)のいずれかに無作為化して、2018年7月まで追跡調査した。 主要評価項目は、ICU入室中のせん妄発生率で、Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(CAM-ICU)を用いて評価した。副次評価項目は、患者のICU感染、家族の不安と抑うつ(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADSで評価、範囲:0[良好]~21[最悪])、ICUスタッフのバーンアウト(燃え尽き症候群)(Maslach Burnout Inventoryで評価)などであった。せん妄発生率、家族の自由面会19%vs.制限面会20%で有意差なし 患者1,685例、家族1,295例、医師826例が登録され、患者1,685例全員(100%)(平均年齢58.5歳、女性47.2%)、家族1,060例(81.8%)(平均年齢45.2歳、女性70.3%)、医師737例(89.2%)(平均年齢35.5歳、女性72.9%)が試験を完遂した。 1日の平均面会時間は、家族の自由面会群で有意に長かった(4.8時間 vs.1.4時間、補正後群間差:3.4時間、95%信頼区間[CI]:2.8~3.9、p<0.001)。ICU入室中のせん妄発生率は、家族の自由面会群と制限面会群との間に有意差は認められなかった(18.9% vs.20.1%、補正後群間差:-1.7%、95%CI:-6.1%~2.7%、p=0.44)。 事前に定義した9つの副次評価項目のうち、ICU感染(3.7% vs.4.5%、補正後群間差:-0.8%、95%CI:-2.1%~1.0%、p=0.38)、スタッフのバーンアウト(22.0% vs.24.8%、補正後差:-3.8%、95%CI:-4.8%~12.5%、p=0.36)などを含む6つの項目でも、両群に有意差はなかった。家族に関しては、不安(スコア中央値:6.0 vs.7.0、補正後群間差:-1.6、95%CI:-2.3~-0.9、p<0.001)および抑うつ(スコア中央値:4.0 vs.5.0、補正後群間差:-1.2、95%CI:-2.0~-0.4、p=0.003)のいずれも、自由面会群が有意に良好であった。

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高血圧症、閾値を問わず心血管転帰の独立リスク因子/NEJM

 高血圧症は、その定義(収縮期・拡張期血圧値)が130/80mmHg以上または140/90mmHg以上にかかわらず、有害心血管イベントのリスク因子であることが、一般外来患者130万例を対象に行ったコホート試験で示された。収縮期高血圧および拡張期高血圧はそれぞれ独立したリスク因子であることや、収縮期血圧上昇のほうがアウトカムへの影響は大きいことも示されたという。米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニア(KPNC)のAlexander C. Flint氏らによる検討で、NEJM誌2019年7月18日号で発表された。外来での収縮期・拡張期血圧値と心血管アウトカムの関連は不明なままである中、2017年に改訂された高血圧症のガイドラインでは2つの閾値が示され、治療における複雑さが増していた。8年間の有害心血管イベント発生リスクを検証 研究グループは、KPNC(カリフォルニア州北部を中心に400万人超が加入する)の会員データを用いて、一般外来成人患者130万例を対象に試験を行った。 多変量Cox生存分析により、8年間にわたる収縮期・拡張期高血圧の複合アウトカム(心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中)への影響の大きさを調べた。解析では、人口統計学的特性と併存疾患について調整を行った。140mmHg以上、zスコア1上昇で心血管リスクは1.18倍 収縮期・拡張期高血圧の負担は、それぞれが有害アウトカムの独立予測因子であることが示された。生存モデルにおいて、収縮期高血圧の持続的負担は、同値140mmHg以上の場合で、zスコア1上昇におけるハザード比(HR)は1.18(95%信頼区間[CI]:1.17~1.18)だった。また、拡張期高血圧の持続的負担については、同値90mmHg以上の場合で、zスコア1上昇におけるHRは1.06(同:1.06~1.07)だった。 同様の予測結果は、高血圧症の閾値が低い場合(130/80mmHg以上)や、高血圧症の閾値を使わずに収縮期・拡張期血圧値を予測因子として用いた場合でも得られた。 また、拡張期血圧とアウトカムにはJカーブの関連性が認められた。その関連性には年齢およびその他共変量のいずれか1つ以上の関与が示唆され、また拡張期血圧が最低四分位範囲の人では、収縮期高血圧の影響がより大きいことが見てとれた。

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HIV感染の1次治療、4剤cARTは3剤より優れるか/BMJ

 未治療のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者の治療において、4剤による併用抗レトロウイルス薬療法(cART)の効果は、3剤cARTと比較して高くないことが、中国・香港中文大学のQi Feng氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年7月8日号に掲載された。4剤と3剤のcARTを比較する無作為化試験は、過去20年間、継続的に行われてきた。その一方で、同時期の診療ガイドラインでは、標準的1次治療として3剤cARTが継続して推奨されており、4剤cARTへの言及はまれだという。HIV治療における4剤と3剤のcARTの有効性を比較するメタ解析 研究グループは、未治療のHIV感染患者の治療における4剤と3剤のcARTの効果を比較し、臨床および研究における既存の試験の意義を検証する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2001年3月~2018年6月の期間に医学データベースに登録された文献を検索し、選出された研究および関連する総説の引用文献リストも調査した。 対象は、未治療のHIV感染患者において4剤と3剤のcARTを比較した無作為化対照比較試験であり、1つ以上の有効性または安全性のアウトカムの評価を行った試験とした。 関心アウトカムは、検出限界未満のHIV-1 RNA量(<50コピー/mL)、CD4陽性T細胞数(/μL)の増加、ウイルス学的失敗、新たなAIDS関連イベント、全死因死亡、重症有害事象(≧Grade 3)とした。変量効果モデルを用いてメタ解析を行った。HIV感染患者4,251例の6つのアウトカムのすべてで、両cART群に差がない 12件の試験(HIV感染患者4,251例、このうち4剤cART群1,693例)が解析に含まれた。12試験の登録患者数中央値は214例(範囲:30~1,216例)で、平均年齢が37.1歳(32.9~43.5歳)、男性割合中央値が77.1%(58~100%)、フォローアップ期間中央値は48週(48~144週)であった。 対象のHIV感染患者について、すべての有効性および安全性のアウトカムに関して、4剤cART群と3剤cART群の効果は類似していた。3剤cART群を基準としたリスク比は、検出限界未満のHIV-1 RNA量が0.99(95%信頼区間[CI]:0.93~1.05)、ウイルス学的失敗が1.00(0.90~1.11)、新たなAIDS関連イベントが1.17(0.84~1.63)、全死因死亡が1.23(0.74~2.05)、重症有害事象は1.09(0.89~1.33)であった。また、CD4陽性T細胞数増加の2群間の平均差は、-19.55/μL(-43.02~3.92)だった。 結果は全般に、cARTのレジメンにかかわらず類似しており、すべてのサブグループおよび感度分析において頑健であった。 著者は、「これらの知見は、HIV感染患者の1次治療として3剤cARTを推奨する現行のガイドラインを支持するものである」とし、「この主題に関するこれ以上の試験は、既存のエビデンスの適正な系統的レビューで新たな研究が正当化された場合にのみ行うべきであるが、新たなクラスの抗レトロウイルス薬の登場により4剤cARTが3剤cARTを凌駕する可能性を排除するものではない」と指摘している。

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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欧米と日本における切除可能進行胃がんに対する周術期化学療法の大きな乖離(解説:上村直実氏)-1079

 日本と西欧における胃がんの化学療法に大きな乖離が存在することを示す研究論文である。日本の胃がん治療ガイドラインでは手術可能な進行胃がんに対する周術期化学療法については欧米とまったく異なるレジメンが推奨されている。すなわち、日本における切除可能な進行胃がんに対する周術期化学療法は主に術後補助化学治療として施行されており、その主役はS-1である。手術可能な進行がんを対象として日本で行われたS-1+ドセタキセル併用療法と標準治療とされていたS-1単独を比較したRCT(JACCRO GC-07試験)において、主要評価項目である3年無再発生存(RFS)率は併用療法群が65.9%、S-1単独群が49.5%であり、前者が有意に優れていた。その結果、現在ではS-1+ドセタキセル併用療法が標準的な術後補助化学治療と考えられる。 一方、欧米における標準的周術期化学療法は術前および術後ともに行う方法が一般的であり、さらにS-1は承認されていないために主役どころかレジメンに含まれることはない。ドイツで施行されたFLOT4-AIO試験では、切除可能な局所進行胃・胃食道接合部腺がんの治療において、欧米における標準的周術期化学療法(術前・術後)とされているECF療法(エピルビシン+シスプラチン+フルオロウラシル)とドセタキセルベースの3剤併用レジメン(FLOT群)両群の有効性と安全性をRCTにより検討した結果、FLOTによる術前後の化学療法はECF療法群と比較して、全生存(OS)期間を1年以上延長すること(50ヵ月vs.35ヵ月)が示されたものであり、この結果は欧米においては驚くべき有効な治療選択肢が得られたとの評価を受けている。 以上のように、術前術後化学療法は欧米での標準的治療であるが、日本ではまだ術後の補助化学療法が主体であり、術前療法については手術不能胃がんに対する術前治療で手術可能な状態になるかをアウトカムとする臨床研究が進行中である。

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