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子宮頸がん、hrHPV検査が高検出率/BMJ

 子宮頸がんの1次検査として、高リスク型ヒトパピローマウイルス(hrHPV)検査では液状化検体細胞診(LBC法)と比較し、子宮頸部上皮内病変(CIN)のグレード3以上(CIN3)の検出率が約40%、子宮頸がんの検出率は約30%上昇し、3年後のCIN3以上の発生率は非常に低値で、検診間隔の延長を支持する結果が示された。英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のMatejka Rebolj氏らが、イングランドのプライマリケアでのhrHPV検査による定期の子宮頸がん検診について検討した、観察研究の結果を報告した。15年以上にわたる無作為化比較試験で、現行の標準検査であるLBC法と比較し、CIN2以上の検出に関してhrHPV検査の優越性が示されたことから、他国では検診ガイドラインを改訂し、hrHPVトリアージ検査を併用したLBC法での1次検査から、LBC法のトリアージ検査を併用したhrHPV検査による1次検査に切り替えたところもある。イングランドでは、2019年末までの全国導入を目指しているという。BMJ誌2019年2月6日号掲載の報告。子宮頸がん検診を受けた女性約57万人で、LBC法とhrHPV検査のアウトカムを評価 研究グループは、2013年5月~2014年12月にプライマリケアで子宮頸がん検診を受けた女性57万8,547例を2017年5月まで追跡調査した。18万3,970例(32%)はhrHPV検査による検診を受けていた。 hrHPV検査とLBC法によるトリアージ検査を併用した子宮頸がんの定期検診を行い、hrHPV陽性でLBC陰性の女性に対しては、2回(12ヵ月、24ヵ月時)の早期再受診を推奨した。 主要評価項目は、コルポスコピー(子宮膣部拡大鏡診)受診紹介の頻度、早期再受診の順守、連続した2回の検査においてLBC法と比較した場合のhrHPV検査によるCIN2以上の検出であった。hrHPV検査で、子宮頸がんの検出率が約30%上昇 ベースライン時のhrHPV検査および早期再受診では、約80%以上がコルポスコピーを必要としたが(補正後オッズ比[aOR]:1.77、95%CI:1.73~1.82)、LBC法と比較し、CIN(CIN2以上でaOR:1.49[95%CI:1.43~1.55]、CIN3以上でaOR:1.44[95%CI:1.36~1.51])および子宮頸がん(aOR:1.27、95%CI:0.99~1.63)の検出頻度が高かった。 早期再受診の順守とコルポスコピー紹介受診は、それぞれ80%および95%であった。その後の子宮頸がん発生スクリーニング検査では、hrHPV検査を受けた女性(3万3,506例)のほうが、LBC法を受けた女性(7万7,017例)よりも、CIN3以上の検出がきわめて少なかった(aOR:0.14、95%CI:0.09~0.23)。

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脳梗塞急性期:早期積極降圧による転帰改善は認められないが検討の余地あり ENCHANTED試験

 現在、米国脳卒中協会ガイドライン、日本高血圧学会ガイドラインはいずれも、tPA静注が考慮される脳梗塞例の急性期血圧が「185/110mmHg」を超える場合、「180/105mmHg未満」への降圧を推奨している。しかしこの推奨はランダム化試験に基づくものではなく、至適降圧目標値は明らかでない。2019年2月6~8日に米国・ハワイで開催された国際脳卒中会議(ISC)では、この点を検討するランダム化試験が報告された。収縮期血圧(SBP)降圧目標を「1時間以内に130~140mmHg」とする早期積極降圧と、ガイドライン推奨の「180mmHg未満」を比較したENCHANTED試験である。その結果、早期積極降圧による「90日後の機能的自立度有意改善」は認められなかった。ただし、本試験の結果をもって「早期積極降圧」の有用性が完全に否定されたわけではないようだ。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Craig Anderson氏(ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア)とTom Robinson氏(レスター大学、英国)が報告した。早期積極降圧群とガイドライン順守降圧群を比較するも、想定した血圧差は得られず ENCHANTED試験の対象は、tPAの適応があり、脳梗塞発症から4.5時間未満で、SBP「150~185mmHg」だった2,196例である。74%がアジアからの登録だった(中国のみで65%)。平均年齢は67歳、NIHSS中央値はおよそ8。アテローム血栓性が45%弱、小血管病変が約30%を占めた。 これら2,196例は、「1時間以内にSBP:130〜140mmHgまで低下させ、72時間後まで維持」する「早期積極」降圧群(1,072例)と、ガイドラインに従い「SBP<180mmHg」へ低下する「ガイドライン順守」降圧群(1,108例)にランダム化され、オープンラベルで追跡された。 血圧は、ランダム化時に165mmHgだったSBPが、「早期積極」群で1時間後には146mmHgまでしか下がらなかったものの、24時間後に139mmHgまで低下した。一方「ガイドライン順守」群でも、1時間後には153mmHg、24時間後には144mmHgと、研究者が想定していた以上の降圧が認められた。ランダム化後24時間のSBP平均値は、「早期積極」群:144mmHg、「ガイドライン順守」群:150mmHg(p<0.0001)とその差は6mmHgしかなかった。1次評価項目では両群間に有意差を認めず その結果、1次評価項目である「90日後の修正ランキンスケール(mRS)」は、ITT解析、プロトコール順守解析のいずれにおいても、両群間に有意差を認めなかった。年齢、性別、人種、ランダム化時のSBP(166mmHgの上下)やNIHSS、脳梗塞病型などで分けたサブグループ解析でも、この結果は一貫していた。 ただし、頭蓋内出血のリスクは、「早期積極」群(14.8%)で「ガイドライン順守」群(18.7%)に比べ、有意に低くなっていた(オッズ比[OR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.60~0.94)。医師が「重篤な有害事象」と認識した頭蓋内出血も同様である(OR:0.59、95%CI:0.42~0.82)。なお、脳出血のORは0.79(95%CI:0.62~1.00)だった。 出血以外の有害事象は、群間に有意差を認めなかった。また、90日間死亡率は「早期積極」群:9%、「ガイドライン順守」群:8%だった。新たなランダム化試験を計画中 Robinson氏は、本試験の結果から、現行ガイドラインの大幅な変更を必要とするエビデンスは得られなかったと結論する一方、本試験の問題点として、1)両群の血圧差が小さかった、2)血管内治療の施行率が低かった、などを挙げ、至適降圧目標についてはさらなる検討が必要だと述べた。現在、大血管閉塞/血管内治療例のみを対象としたENCHANTED2試験を計画中だという。 本試験は、主としてオーストラリア政府機関と英国慈善団体から資金が提供され、そのほか、ブラジル政府機関、韓国政府機関、ならびにTakedaからも資金提供を受けた。 本研究は報告と同時に、Lancet誌にオンライン公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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第6回 体温、意識レベルの評価方法【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても、急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。4─体温の測定方法通常は、腋窩体温計を用いて腋に挟んで測定しますが、汗で濡れている時には体温が低く計測されることがありますから、タオルなどで拭くなど注意が必要です。耳(鼓膜)で測定する体温計や、最近では皮膚に接触させることなく額で体温を測定できる機器もあります。正しい使い方をすればいずれを使用してもよいです。口腔内の温度は腋窩と比べ0.2〜0.5℃高いことや、朝方起床前後には体温は低く、身体の活動度の高い午後から夕方に上昇することなども知っておくとよいでしょう。また一般的に、体温が1℃上昇すると脈拍も10回/分ほど増加します。計測された体温は表4のように分類されます。表4 体温の評価5─意識レベルの評価方法独居の老人宅に訪問した時、患者さんが倒れていたという状況を考えてみましょう。びっくりしてしまいますが、近寄る前に、まず周囲の安全を確認してください。まさかガス漏れでは?吐物など感染の危険はありませんか。そんなことは滅多にないでしょうが、自分を危険な状態にさらしてはいけません。周囲が安全であれば声をかけてみましょう。返事がなければ、周りの人(近所の人)を呼んで119番通報してください。自分ひとりで何とかしようと思ってはいけません。呼吸と脈がなければ心肺蘇生法を開始しますが、この話はまた次回以降にしましょう。患者さんの家族から「今日は呼んでもなかなか返事をしてくれないのですが...」と相談された時には、意識レベルを評価してみましょう。意識レベルがいつもより低下しているようなら、医師・看護師への連絡が望ましいです。その際に、どの程度意識レベルが低下しているのかを伝えられるとよいと思います。意識障害の分類には(表5)、(表6)などの尺度がありますが、(表5)のJapan coma scaleが多く用いられています。以下に評価方法を示します。表5 意識障害の評価 (JCS:Japan coma scale)2,4)表6 意識障害の評価 (GCS:Glasgow coma scale)3)意識レベルを評価する(表5)I.刺激しないでも覚醒している状態眼を開けている時には、見当識障害(周囲の状況、時間、場所など自分自身が置かれている状況などが正しく認識できない状態)の有無や指示に従うことができるかどうかを調べます。「ここがどこかわかりますか?今日は何月何日ですか?」などに答えられなければ見当識障害がありますからI−2となります。「お名前を言ってみてください。生年月日はいつですか?」などに答えられなければ、I−3です。II.刺激で覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態眼を閉じていたら、呼びかけたり、ゆさぶったり、痛み刺激を与えたりします。これらで眼を開ければ、それぞれII−10、II−20、II−30です。患者さんの苦痛(痛み)を伴う手技などは、家族の目がありますから、よりよい関係を維持するためにも医師や看護師に依頼した方がよいと思います。III.刺激しても覚醒しない状態痛み刺激を与えても眼を開けない時には、その時の身体の動作で3段階に分類します。痛み刺激はこぶしで胸骨を押して与えますが、痛みを伴いますので、呼びかけや軽く肩をたたいても開眼しないような意識の障害があれば、その時点で主治医や看護師に連絡しましょう。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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ASCO-GI2019レポート

レポーター紹介2019年1月17日~19日まで、米国・サンフランシスコにて米国臨床腫瘍学会消化器がん会議(ASCO-GI)が開かれた。今年は連日雨で、とくに1日目は風が強く、一部の国内線はキャンセルになるほど天候が良くなかった。そんな中、連日朝7時から始まるRapid-Fire Abstract Sessionには多くの聴衆が詰め掛けていた。本稿では、Oral Presentation、Rapid-Fire Abstract Session、Poster Presentationから注目すべき演題をいくつか紹介し、<マイコメント>として私見も述べさせていただく。KEYNOTE-181試験(abstract #2)進行性食道がんの2次治療として免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブが有効であるかを検証したKEYNOTE-181試験の結果が報告された。事前にプレスリリースされていたため、試験結果がpositiveであることはわかっていたが、詳細の発表について注目が集まった。1次治療後の進行性食道がん(扁平上皮がんまたは腺がん)628例が1:1にペムブロリズマブ群(200mg、3週ごと)と化学療法群(PTX、DTX、またはIRI)に分けられた。プライマリ・エンドポイントは3つ、PD-L1 CPS(combined positive score)≧10での全生存期間、扁平上皮がんでの全生存期間、全症例での全生存期間であった。扁平上皮がんの割合が、ペムブロリズマブ群63%、化学療法群65%、PD-L1 CPS≧10の症例は、それぞれ34%と37%であった。PD-L1 CPS≧10において、全生存期間中央値は9.3 vs.6.7ヵ月(HR:0.69、p=0.0074)で、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった。一方、扁平上皮がんにおいては、8.2 vs.7.1ヵ月(HR:0.78、p=0.0095)とペムブロリズマブ群で中央値は良好であったが、事前に設定した統計解析上では統計学的に有意差がない結果となった。しかしながら、奏効率は良好で、PD-L1 CPS≧10で21.5% vs.6.1%、扁平上皮がんでも16.7% vs.7.4%とペムブロリズマブ群で高い奏効率であった。毒性評価においては、ペムブロリズマブ群においてこれまで同様の毒性がみられた程度であった。マイコメント統計学的にはPD-L1 CPS≧10症例だけにおいてペムブロリズマブの優越性が示されたが、扁平上皮がんにおいても臨床的有用性を認めるような結果であった。今後、本邦においてどのような対象に薬事承認がされるのかが注目される。PD-L1 CPS≧10であれば腺がんでもペムブロリズマブが有用であることになるが、CPS≧10におけるサブ解析では、腺がん症例におけるHRが1.0付近であり、有用であるかどうかには慎重な判断が必要であろう。CPS≧10かつ扁平上皮がん症例が確実な“responder”のようにみえる。ACTS-CC 02試験(abstract #484)本邦から大腸がん術後補助化学療法のレジメンを検証した第III相試験の結果が報告された。N2を有するHigh-risk StageIII結腸がんの症例を対象に、UFT/LV療法(5週ごと、5コース)とSOX(オキサリプラチン100mg/m2、3週ごと、8コース)療法が比較検証され、プライマリ・エンドポイントは無病生存期間であった。966例が1:1にランダム化され、UFT/LV群でStageIIIB/IIIC(TNM分類7th)が51%/48%、SOX群で49%/50%であった。フォローアップ期間中央値58.4ヵ月、396イベントが確認され、3年無病生存率は、それぞれ60.6% vs.62.7%でHR:0.90、p=0.278とSOXレジメンの優越性は証明されなかった。サブグループ解析では、Nファクター、Stageにおいて進行症例ほどSOX群が良好の傾向を認めたが、統計学的に有意な差は示されなかった。マイコメント本邦で汎用されているSOXレジメンが結腸がん術後補助化学療法レジメンとして加わるかを検証した重要な試験であった。残念ながらnegativeな結果となったが、StageIII結腸がんに対するオキサリプラチンの上乗せ効果が否定された結果ではないと判断する。オキサリプラチンの量が100mg/m2ではなく、130mg/m2であったらどうだったか? 『大腸癌治療ガイドライン』が2019年版に改訂されたが、補助療法のpreferredレジメンはCapeOXまたはFOLFOXである。TAS-102±Bev比較試験(abstract #637)デンマークからTAS-102にベバシズマブ(Bev)を上乗せする効果を検証した比較試験の結果が報告された。TAS-102+BevレジメンはC-TASK FORCE試験(Kuboki Y, et al. Lancet Oncol. 2017;1172-1181.)で有用性が示されているが、Bevの上乗せ効果に関してはこれまで比較試験がなく、エビデンスがない状態であった。80例の症例が、TAS-102群41例、TAS-102+Bev群39例にランダム化され、プライマリ・エンドポイントとして無増悪生存期間が評価された。両群とも約60%の症例が3次治療まで受けており、80~85%の症例で前治療までにBevが使用され、約60%がRAS変異型であった。無増悪生存期間中央値は、TAS-102群で2.6ヵ月、TAS-102+Bev群で5.6ヵ月、HR:0.51、p=0.01で統計学的有意にTAS-102+Bev併用群で良好であった。全生存期間中央値はそれぞれ6.7ヵ月、10.3ヵ月、奏効率は0%、3%であった。毒性評価では、TAS-102群に比べてTAS-102+Bev群で好中球減少、下痢、発熱性好中球減少症が多い傾向だった。この試験のほかに、TAS-102+Bevレジメンを評価した本邦の第II相試験の結果が2つ報告されていた。TAS-CC3試験(abstract #617)では奏効率6.3%、無増悪生存期間中央値4.5ヵ月、全生存期間中央値9.2ヵ月、BiTS試験(abstract #647)では奏効率0%、無増悪生存期間中央値4.3ヵ月、全生存期間中央値8.7ヵ月であった。マイコメントTAS-102+Bevレジメンは本邦のC-TASK FORCE試験で有効性が示されたものの、試験の症例数の少なさから施設によってはレジメン登録が難しいところもあったことであろう。Bev併用効果を検証した前向き試験が望まれていた中での大変貴重な試験結果である。少数例の第II相試験ではあるが、positiveな結果はTAS-102+Bevの日常臨床での使用を大きくサポートするものであり、本邦からの2つの第II相試験結果も既報と同様のものであることから、TAS-102+Bevはほぼ確立したレジメンとして考えてよいであろう。Prep-02/JSAP-05試験(abstract #189)切除可能膵がんにおける周術期治療に関する重要な試験結果が本邦より報告された。現在の標準治療である術後補助化学療法S-1に対して、術前ゲムシタビン+S-1(GS)併用療法(3週ごと)2コースの追加により予後延長効果が得られるかを検証した試験である。S-1治療群の2年生存率を35%、GS併用療法群の2年生存率を50%として、α-エラー0.05、パワー0.8で、両群で360症例が必要のところ、364症例が登録された。本試験は第II/III相試験であり、第II相試験パートでは切除率が検証され、S-1治療群(術前化学療法なし)82%のところGS併用療法群93%と良好な結果が示され、その後第III相パートに進んだ。S-1治療群180症例のうち129症例で治癒切除が施行され、GS併用療法群では182症例のうち140症例で治癒切除が施行された。プライマリ・エンドポイントの全生存期間中央値は、S-1治療群で26.65ヵ月、GS併用療法群で36.72ヵ月、HR:0.72(95%CI:0.55~0.94、p=0.015)で、術前GS併用療法の有用性が示された。手術に関するファクター(出血量、手術時間、合併症など)において両群に有意な差は認めなかった。病理学的評価では、pN1症例がS-1治療群で81.5%であったのに対し、GS併用療法群で59.6%と有意に低かった。また、再発形式では、肝転移再発が47.5% vs.30.0%とGS併用療法群で有意に低かった。マイコメント本邦の切除可能膵がんの標準治療を変えうる、とても重要な試験結果である。術前にGS療法2コースを行うことで、これほど大きな生存期間延長効果が得られたことは正直驚きであった。今後、日常臨床で本試験結果をどのように反映させるか、各施設での議論が必要になるが、試験結果の詳細・論文発表にも注目すべきである。まとめ今年は全体的に上部(1日目)や肝胆膵領域(2日目)に注目演題が集まっており、下部(3日目)の演題に話題性は乏しかったものの、日本からの臨床試験の発表もあり、蓋を開けてみれば連日面白い学会であった。食道がんの標準治療として今後免疫チェックポイント阻害薬が入ってくることや、本邦の膵がん診療の標準治療が変わりうる演題があり、これらの演題に関する今後の論文発表に注目すべきである。

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無症候性の頸動脈高度狭窄例に対するCASで、CEAと転帰の差を認めず:CREST/ACTⅠメタ解析

 米国では、頸動脈インターベンションの最大の適応は無症候性の高度狭窄だという。しかし、米国脳卒中学会など関連14学会による2011年版ガイドラインでは、外科高リスク例を除き、無症候性頸動脈高度狭窄例に対しては、頸動脈ステント留置術(CAS)よりも頸動脈内膜剥離術(CEA)が推奨されている。 しかし同ガイドライン策定後、CREST試験とACTI試験という2つの大規模ランダム化試験において、末梢塞栓保護下CASは、死亡・脳卒中・心筋梗塞抑制に関し、CEAに対する非劣性が示された。 2019年2月6~8日に、米国・ハワイにて開催された国際脳卒中会議(ISC)では、これら2試験の個別患者データをメタ解析した結果が報告され、CAS施行後の転帰はさまざまな評価項目においてCEAと有意差がないと確認された。7日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、Jon Matsumura氏(ウィスコンシン大学、米国)が報告した。評価項目を事前設定のうえ、個別患者データを用いてメタ解析 本メタ解析は両試験の研究者が合意のもと、あらかじめ評価項目を定めたうえで(後述)、個々の患者データを用いて行われた。ACTⅠ試験では80歳以上が除外されていたため、CREST試験参加2,502例中試験開始時に80歳未満だった1,091例と、ACTⅠ試験に参加した1,453例が、今回のメタ解析の対象となった。 試験開始時における、CAS群(1,637例)とCEA群(907例)の患者背景は、CAS群で喫煙者が有意に多い(25.6% vs.21.8%、p=0.033)以外、有意差はなかった。平均年齢は68歳で、65歳以上が約70%を占めている。1次評価項目でCASとCEAに有意差は認められず これらをメタ解析した結果、本解析の1次評価項目とされた「周術期の死亡・脳卒中・心筋梗塞、ランダム化後4年間の同側性脳卒中」(CREST試験と同様)の発生率は、CAS群:5.3%、CEA群:5.1%となり、有意差を認めなかった(p=0.91)。ただしその内訳は、脳卒中(CAS群:2.7% vs.CEA群:1.5%)と死亡(同、0.1% vs.0.2%)、4年間同側性脳卒中(同、2.3% vs.2.2%)には群間差を認めなかったものの(いずれもNS)、心筋梗塞に限ればCAS群が0.6%と、CEA群の1.7%に比べ有意に低値となっていた(p=0.01)。 次に、2次評価項目とされたランダム化後4年間の「脳卒中非発生生存率」だが、同様に、CAS群:93.2%、CEA群:95.1%で有意差はなかった(p=0.10)。「全生存率」で比較しても同様だった(CAS群:91% vs.CEA群:90.2%、p=0.923)。 本メタ解析は、デバイス製造・販売会社からのサポートは受けていない。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「ISC 2019 速報」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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MRと自由に話せない時代がやってきた!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第18回

薬局において、最新情報の収集は業務のキモです。情報提供元の1つである製薬会社で変化がありそうです。MR認定センターは1月29日、昨年12月に実施した第25回MR認定試験の結果を発表した。受験者数は2,539人で、そのうち1,927人が合格。合格率は75.9%だった。前回と比べると受験者数は▲677人、合格者数は▲319人で、それぞれ過去最少となった。(2019年1月30日付 RISFAX)製薬会社の医薬情報担当者であるMRの認定試験は毎年12月に実施されます。最近ではMS(医薬品卸会社の営業担当者)が受験することもありますが、主に新人MRが受験することから、受験者数には製薬会社がMRとして採用した人数が反映されていると考えられます。その受験者数が過去最少であったということは、MRとして採用される人数が減ったということなのでしょう。ここ数年、MRの新卒採用数は減少傾向にありますが、なぜそのようなことが起こっているのでしょうか。考えられる1つ目の理由は、製薬会社の厳しい経営状態です。ご存じのとおり、日本では医療用医薬品は薬価制度をとっています。その薬価は基本的に2年に1度引き下げられるため、長期収載品を多く抱える製薬会社はだんだん収益確保が難しくなります。毎年改定が始まれば、さらに厳しい環境になることも予想できます。また、後発医薬品の普及やスペシャリティ領域の新薬が増えたことなどもあり、製薬会社はMRを多く抱えることを避けるようになりました。2つ目の理由として、ここ数年、医療用医薬品のプロモーション活動に関する行動基準が厳格化されていることも考えられます。業界の自主ルールに加えて、2018年9月25日には、厚生労働省から「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」が発出されました。このガイドラインでは、適正に情報提供を行ううえでの要件や、経営陣の責務がまとめられています。接待禁止などのこれまでの自主規制でもジワジワとMR数や業務に影響がありましたが、このガイドラインによってさらにプロモーションに制限がかかり、MR数減少の傾向は続くのではないかと思います。MRとの会話は録音・録画される!?MR数が減少すると薬局への訪問が減るため、タイムリーに情報を入手することが難しくなることは容易に想像できますが、このガイドラインによって入手できる情報の質まで変わるかもしれません。このガイドラインでは、社内の審査で適切と認められた資材以外は用いてはならないと定められており、MRオリジナルの資材やパワーポイントなどは使用できなくなります。気の利いたMRはわかりやすい資材を独自に作っていましたが、今後は作成不可です。また、プロモーション現場のモニタリングも義務化されるため、MRの情報提供時に不適切なプロモーションを行っていないか録音・録画させることも考えられます。自分が監視されていることから医療者とコミュニケーションを図ることに消極的になり、決められた資材だけを置いて帰るMRが増えるのではないかとも危惧されます。MRに質問したとしても、おそらく正確性と適切性を重んじて、回答のスピードは遅くなるでしょう。MRが直接回答するのではなく、本社の情報提供部門などから改めて回答をするという場面も増えるのではないでしょうか。MR数の減少や適切な情報提供のための規制強化がやむを得ないこともわかりますが、私はわりとコミュニケーションをとりたいタイプなので、なんだかやりにくいなぁと思わざるを得ません。

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第5回 呼吸数、脈拍、血圧の測定方法 【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても、急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。1─呼吸数の測定方法呼吸の観察をする時には、患者さんに観察していることを知られないようにします。気付かれてしまうと、呼吸数や呼吸の様式が変わってしまうことがあるからです。方法としては、例えば脈拍を数えた後、脈をとり続けながら、胸や腹部の動きをみて呼吸数を数えます。30秒間の回数を2倍して1分あたりの回数にするとよいでしょう。通常、成人では1分間の呼吸回数はおよそ12~20回であり、12回未満の時は徐呼吸、24回以上の時は頻呼吸と言います(表1)。つまり、1回の呼吸に5~6秒以上かかっていたり、1回目の呼吸の始まりから3秒以内に次の呼吸が始まったりした時には異常といえます。具合の悪い患者さんでは、意識がなくなり、あごを上下させるような呼吸をすることがあります(下顎呼吸とか死戦期呼吸といいます)が、生命の危険性が差し迫った時にみられ、通常の呼吸ではありませんから注意が必要です。表1 呼吸数の評価2─脈拍の測定方法脈拍は、患者さんの動脈(手首内側の親指側の動脈)に、第2・3・4指をあてて測定します(写真1)。脈拍数は1分あたりの脈の数ですが、15秒間測定して4倍しても、20秒間測定して3倍してもよいです。正常の脈は規則的で、1分間に60~100回程度です。60回/分未満を徐脈、100回/分以上を頻脈といいます(表2)。熟練した医師は、脈拍数だけでなく、脈の強さや振幅の大きさ、脈の立ち上がりの速さまでも感じ取りますが、その域に達するにはそれなりの修行が必要です(笑)。写真1 橈骨動脈の触知の仕方 / 表2 脈拍数の評価3─血圧の測定方法水銀血圧計(写真2)を使いこなすには、少々練習が必要です。マンシェット(腕に巻く布製の部分)を巻き、ゴム球とバルブ(ネジの部分)を片手で扱いながら、水銀柱の圧を見つつ、聴診器を使って肘窩の動脈の音(コロトコフ音といいます)を聴いて...、などなど。しかし、今はボタンひとつで血圧と脈拍を測定してくれる自動血圧計がありますから、それを使用するとよいと思います。簡便な自動血圧計でも注意は必要です。マンシェットを巻く前に、血液透析用の血管の手術(シャント手術)を受けていないかを確認しましょう。その場合は他方の腕で血圧を測定します。また、まくりあげた衣服の袖が上腕を締め付けていないかを確認しましょう。腕は少し持ちあげて、肘窩の上腕動脈が心臓の高さ(およそ左右の乳頭を結んだ線の高さ)になるようにします。マンシェットは、上腕に、その下端が肘窩から1~3cmくらいになるように巻きます。きつすぎず、ゆるすぎず、指が1、2本入るくらいとします。緊張したり運動したりすると血圧が上がってしまいますから、少なくとも5分間は静かに座り、リラックスした状態で測定します。緊張して血圧が高く出てしまったと考えられる場合は、時間をおいて再度測定します。安定した値の2回の平均を血圧値としますが、医療従事者が測定した値だけでなく、本人が日頃測定する家庭血圧も有用です。手首で血圧を測定することもできますが、高血圧治療ガイドライン1)では上腕での測定が推奨されています。現在のガイドラインで示されている血圧値の分類を(表3)に示します。表3 成人における血圧値の分類日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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結節性硬化症〔TS : tuberous sclerosis, Bourneville-Pringle病〕

1 疾患概要■ 概念・定義主に間葉系起源の異常細胞が皮膚、中枢神経など全身諸臓器に各種の過誤腫性病変を起こす遺伝性疾患である。従来、顔面の血管線維腫、痙攣発作、知能障害が3主徴とされているが、しばしば他に多くの病変を伴い、また患者間で症状に軽重の差が大きい。疾患責任遺伝子としてTSC1とTSC2が同定されている。■ 疫学わが国の患者は約15,000人と推測されている。最近軽症例の報告が比較的多い。■ 病因・発症機序常染色体性優性の遺伝性疾患で、浸透率は不完全、突然変異率が高く、孤発例が60%を占める。軽微な症例は見逃されている可能性もある。本症の80%にTSC1(9q34)遺伝子とTSC2(16p13.3)遺伝子のいずれかの変異が検出される。TSC1遺伝子変異は生成蛋白のtruncationを起こすような割合が高く、また家族発症例に多い。TSC2遺伝子変異は孤発例に、また小さな変異が多い。一般に臨床症状と遺伝子異常との関連性は明らかではない。両遺伝子産物はおのおのhamartin、tuberinと呼ばれ、前者は腫瘍抑制遺伝子産物の一種で、低分子量G蛋白Rhoを活性化し、アクチン結合蛋白であるERMファミリー蛋白と細胞膜裏打ち接着部で結合する。後者はRap1あるいはRab5のGAP(GTPase-activating protein)の触媒部位と相同性を有し、細胞増殖抑制、神経の分化など多様で重要な機能を有する。Hamartinとtuberinは複合体を形成してRheb(Ras homolog enriched in brain)のGAPとして作用Rheb-GTPを不活性化し、PI3 kinase/S6KI signaling pathwayを介してmTOR(mammalian target of rapamycin)を抑制、細胞増殖や細胞形態を制御している。Hamartinとtuberinはいずれかの変異により、m-TOR抑制機能が失われることで、本症の過誤腫性病変を惹起すると推定されている。近年、このm-TOR阻害薬(エベロリムスなど)が本症病変の治療に使われている。■ 臨床症状皮膚、中枢神経、その他の諸臓器にわたって各種病変がさまざまの頻度で経年齢的に出現する(表1)。画像を拡大する1)皮膚症状学童期前後に出現する顔面の血管線維腫が主徴で80%以上の患者にみられ頻度も高い。葉状白斑の頻度も比較的高く、乳幼児期から出現する木の葉状の不完全脱色素斑で乳幼児期に診断価値の高い症候の1つである。他に結合織母斑の粒起革様皮(Shagreen patch)、爪囲の血管線維腫であるKoenen腫瘍、白毛、懸垂状線維腫などがある。2)中枢神経症状幼小児早期より痙攣発作を起こし、精神発達遅滞、知能障害を来すことが多く、かつての3主徴の2徴候である。2012年の“Consensus Conference”で(1)脳の構造に関与する腫瘍や皮質結節病変、(2)てんかん(痙攣発作)、(3)TAND(TSC-associated neuropsychiatric disorders)の3症状に分類、整理された。(1)高頻度に大脳皮質や側脳室に硬化巣やグリア結節を生じ、石灰化像をみる。数%の患者に上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が発生する。SEGAは小児期から思春期にかけて急速に増大することが多く、脳圧亢進症状などを来す。眼底の過誤腫や色素異常をみることもあり、通常は無症状であるが、時に視力障害を生ずる。(2)TSC患者に高頻度にみられ、生後5、6ヵ月頃に気付かれ、しばしば初発症状である。多彩な発作で、治療抵抗性のことも多い。点頭てんかんが過半数を占め、その多くが精神発達遅滞、知能障害を来す。(3)TSCに合併する攻撃的行動、自閉症・自閉的傾向、学習障害、他の神経精神症状などを総括した症状を示す。3)その他の症状学童期から中年期に後腹膜の血管筋脂肪腫で気付かれることもある。無症候性のことも多いが、時に増大して出血、壊死を来す。時に腎嚢腫、腎がんが出現する。周産期、新生児期に約半数の患者に心臓横紋筋腫を生ずるが、多くは無症候性で自然消退すると言われる。まれに、腫瘍により収縮障害、不整脈を来して突然死の原因となる。成人に肺リンパ管平滑筋腫症(lymphangiomyomatosis:LAM)や多巣性小結節性肺胞過形成(MMPH)を生ずることもある。前者は気胸を繰り返し、呼吸困難が徐々に進行、肺全体が蜂の巣状画像所見を呈し、予後不良といわれる。経過に個人差が大きい。後者(MMPH)は結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。■ 予後と経過各種病変がさまざまな頻度で経年的に出現する(表1)。それら病変がさまざまに予後に影響するが、中でも痙攣発作の有無・程度が患者の日常生活、社会生活に大きく影響する。従来、生命的予後が比較的短いといわれたが、軽症例の増加や各種治療法・ケアの進展によって生命的、また生活上の予後が改善方向に向かいつつあるという。死因は年代により異なり、10歳までは心臓横紋筋腫・同肉腫などの心血管系異常、10歳以上では腎病変が多い。SEGAなどの脳腫瘍は10代に特徴的な死因であり、40歳以上の女性では肺のLAMが増加する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)遺伝子診断が確実であり、可能であるが、未知の遺伝子が存在する可能性、検査感度の問題、遺伝子変異と症状との関連性が低く、変異のホットスポットもない点などから一般的には通常使われない。遺伝子検査を受けるときは、そのメリット、デメリットをよく理解したうえで慎重に判断する必要がある。実際の診断では、ほとんどが臨床所見と画像検査などの臨床検査による。多彩な病変が年齢の経過とともに出現するので、症状・病変を確認して診断している。2018年に日本皮膚科学会が、「結節性硬化症の新規診断基準」を発表した(表2)。画像を拡大する■ 診断のポイント従来からいわれる顔面の血管線維腫、知能障害、痙攣発作の3主徴をはじめとする諸症状をみれば、比較的容易に診断できる。乳児期に数個以上の葉状白斑や痙攣発作を認めた場合は本症を疑って精査する。■ 検査成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので、定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。顔面の結節病変、血管線維腫は、通常病理組織検査などはしないが、多発性丘疹状毛包上皮腫やBirt-Hogg-Dube syndromeなどの鑑別に、また、隆起革様皮でも病理組織学的検査で他疾患、病変と鑑別することがある。痙攣発作を起こしている患者あるいは結節性硬化症の疑われる乳幼児では、脳波検査が必要である。大脳皮質や側脳室の硬化巣やグリア結節はMRI検査をする。CTでもよいが精度が落ちるという。眼底の過誤腫や色素異常は眼底検査で確認できる。乳幼児では心エコーなどで心臓腫瘍(横紋筋腫)検査を、思春期以降はCTなどで腎血管筋脂肪腫を検出する必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 基本治療方針多臓器に亘って各種病変が生ずるので複数の専門診療科の連携が重要である。成長・加齢とともに各種臓器病変が漸次出現するので定期的診察と検査を、あるいは適宜の検査を計画する。本症の治療は対症療法が基本であるが、各種治療の改良、あるいは新規治療法の開発が進んでいる。近年本症の皮膚病変や脳腫瘍、LAMに対し、m‐TOR阻害薬(エベロリムス、シロリムス)の有効性が報告され、治療薬として使われている。■ 治療(表3)画像を拡大する1)皮膚病変顔面の血管線維腫にはレーザー焼灼、削皮術、冷凍凝固術、電気凝固術、大きい腫瘤は切除して形成・再建する。最近、m-TOR阻害薬(シロリムス)の外用ゲル製剤を顔面の血管線維腫に外用できるようになっている。シャグリンパッチ、爪囲線維腫などは大きい、機能面で問題があるなどの場合は切除する。白斑は通常治療の対象にはならない。2)中枢神経病変脳の構造に関与する腫瘍、結節の中では上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA)が主要な治療対象病変である。一定の大きさがあって症状のない場合、あるいは増大傾向をみる場合は、外科的に切除、あるいはm-TOR阻害薬(エベロリムス)により治療する。急速進行例は外科的切除、頭蓋内圧軽減のためにシャント術も行う。本症の重要な症状である痙攣発作の治療が重要である。点頭てんかんにはビガバトリン(同:サブリル)、副腎皮質(ACTH)などが用いられる。ケトン食治療も試みられる。痙攣発作のフォーカス部位が同定できる難治例に、外科的治療が試みられることもある。点頭てんかん以外のてんかん発作には、発作型に応じた抗てんかん薬を選択し、治療する。なお、m-TOR阻害薬(エベロリムス)は、痙攣発作に対して一定の効果があるとされる。わが国での臨床使用は今後の課題である。精神発達遅滞や時に起こる自閉症に対しては、発達訓練や療育などの支援プログラムに基づいて適切にケア、指導する。定期的な受診、症状の評価などをきちんとすることも重要である。また、行動の突然の変化などに際しては、結節性硬化症の他病変の出現、増悪などがないかをチェックする。3)その他の症状(1)後腹膜の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)腫瘍径が4cm以上、かつ増大傾向がある場合は出血や破裂の可能性もあり、腫瘍の塞栓療法、腫瘍切除、腎部分切除などを考慮する。希少疾病用医薬品としてm-TOR阻害薬(エベロリムス)が本病変に認可されている。無症候性の病変や増大傾向がなければ検査しつつ経過を観察する。(2)周産期、新生児期の心臓横紋筋腫収縮障害、伝導障害など心障害が重篤であれば腫瘍を摘出手術する。それ以外では心エコーや心電図で検査をしつつ経過を観察する。(3)呼吸器症状LAMで肺機能異常、あるいは機能低下が継続する場合は、m-TOR阻害薬(エベロリムス)が推奨されている。肺機能の安定化、悪化抑制が目標で、治癒が期待できるわけではない。一部の患者には、抗エストロゲン(LH-RHアゴニスト)による偽閉経療法、プロゲステロン療法、卵巣摘出術など有効ともいわれる。慢性閉塞性障害への治療、気管支拡張を促す治療、気胸の治療など状態に応じて対応する。時に肺移植が検討されることもある。MMPHは、結核や肺がん、転移性腫瘍との鑑別が必要であるが、通常治療を要せず経過をみるだけでよい。4 今後の展望当面の期待は治療法の進歩と改良である。本症病変にm-TOR阻害薬(エベロリムス)が有効であることが示され、皮膚病変、SEGAとAMLなどに使用できる。本症治療の選択肢の1つとしてある程度確立されている。しかしながら効果は限定的で、治癒せしめるにはいまだ遠い感がある。病態研究の進歩とともに、新たな分子標的薬剤が模索され、より効果の高い創薬、薬剤の出現を期待したい。もとより従来の診断治療法の改善・改良の努力もされており、今後も発展するはずである。患者のケアや社会生活上の支援体制の強化が、今後さらに望まれるところである。5 主たる診療科小児科(神経)、皮膚科、形成外科、腎泌尿器科、呼吸器科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本結節性硬化症学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)結節性硬化症のひろば(主に患者と患者家族向けの診療情報)患者会情報TSつばさ会(患者とその家族および支援者の会)1)金田眞理ほか. 結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン-改訂版.日皮会誌. 2018;128:1-16.2)大塚藤男ほか. 治療指針、結節性硬化症. 厚生科学研究特定疾患対策研究事業(神経皮膚症候群の新しい治療法の開発と治療指針作成に関する研究).平成13年度研究報告書.2002:79.3)Krueger DA, et al. Pediatric Neurol. 2013;48:255-265.4)Northrup H, et al. Pediatric Neurol. 2013;49:243-254.公開履歴初回2013年2月28日更新2019年2月5日(謝辞)本稿の制作につき、日本皮膚科学会からのご支援、ご協力に深甚なる謝意を表します(編集部)。

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国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」【下平博士のDIノート】第18回

国内初の慢性便秘症PEG製剤「モビコール配合内用剤」今回は、慢性便秘症治療薬「マクロゴール4000/塩化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム/塩化カリウム(商品名:モビコール配合内用剤)」を紹介します。本剤は、慢性便秘症に対する国内初のポリエチレングリコール(PEG)製剤で、併用薬などの使用制限もなく、小児や腎機能が低下した高齢者にも使いやすい薬剤として期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の適応で、2018年9月21日に承認され、2018年11月29日より販売されています。本剤は、PEG(マクロゴール4000)の浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させることで、便の軟化と便容積の増大を促し、用量依存的に便の排出を促進します。<用法・用量>本剤は、水で溶解して経口投与します。通常、成人および12歳以上の小児には、初回用量として1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、最大投与量は1日に6包(1回量として4包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日2包までです。2歳以上7歳未満の幼児では、初回用量1回1包、7歳以上12歳未満の小児では、初回用量1回2包を1日1回経口投与します。症状に応じて1日1~3回まで適宜増減可能ですが、いずれも最大投与量は1日4包(1回量として2包)までです。増量は2日以上空けて行い、増量幅は1日1包までです。<副作用>承認時までの国内の臨床試験(成人、小児それぞれを対象とした第III相試験)では、192例中33例(17.2%)に副作用が認められています。主な副作用は、下痢7例(3.6%)、腹痛7例(3.6%)でした。なお、重大な副作用としてショック、アナフィラキシー(頻度不明)が現れることがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.お薬によって腸管内の水分量を増やし、便を軟らかくして排便を促します。2.この薬は、1包当たりコップ3分の1程度(約60mL)の水に溶かして服用します。飲みにくい場合は、ジュースなどに溶かしても構いません。3.溶かした後すぐに服用しない場合や飲み切れなかった場合は、ラップをかけて冷蔵庫に保管し、当日中に飲み切るようにしてください。4.腹痛、おなかの張り、腹部の不快感が現れた場合には、主治医か薬剤師までご連絡ください。5.蕁麻疹、喉のかゆみ、息苦しさ、動悸、顔のむくみなどが現れた場合はすぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、日本で初めて慢性便秘症に適応を持つPEG製剤です。塩化ナトリウムなどの電解質を含有しており、浸透圧性下剤に分類されます。海外では欧州を中心に、小児を含めた慢性便秘症治療薬として広く用いられており、ガイドラインでも使用が推奨されています。わが国では、日本小児栄養消化器肝臓学会から、小児慢性便秘症に対する開発要請が出され、2015年5月に開発が開始されました。従来、浸透圧性下剤として酸化マグネシウムが汎用されていますが、高齢者などの腎機能低下患者では高マグネシウム血症に注意が必要であったり、ビスホスホネート製剤やニューキノロン系抗菌薬などとの相互作用が問題となったりすることがあります。さらに、酸化マグネシウムは胃酸分泌抑制時に効果が減弱するため、プロトンポンプ阻害薬などを服用している場合や胃切除後では効果が低下する可能性もあります。本剤の主薬であるPEG(マクロゴール4000)には併用禁忌、併用注意の薬剤はありません。本剤は2歳から使用でき、水に溶解して服用しますが、味などが気になって服用しにくい場合は、ジュース、スポーツドリンク、お茶などの冷たい飲料で溶解することも可能です。効果は用量依存的なので、患者さんの便秘の状態に応じて適切な服用量に調節することができます。とくに小児や、高マグネシウム血症が問題となる高齢患者でも安心して使える薬と考えられるでしょう。

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第12回 アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第12回:アナタはどうしてる? 術前心電図(前編)内科医であれば、外科系の先生方から術前心電図の異常について、一度はコンサルテーションされたことがありますよね? 循環器内科医なら日常茶飯事のこの案件、もちろん“正解”は一つじゃありません。前編の今回は、症例を通じて術前心電図の必要性について、Dr.ヒロと振り返ってみましょう。症例提示67歳、男性。変形性膝関節症に対して待機的手術が予定されている。整形外科から心電図異常に対するコンサルテーションがあった。既往歴:糖尿病、高血圧(ともに内服治療中)、喫煙:30本×約30年(10年前に禁煙)。コンサル時所見:血圧120/73mmHg、脈拍81/分・整。HbA1c:6.7%、ADLは自立。膝痛による多少の行動制限はあるが、階段昇降は可能で自転車にて通勤。仕事(事務職)も普通にこなせている。息切れや胸痛の自覚もなし。以下に術前の心電図を示す(図1)。(図1)術前の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しいものを2つ選べ1)洞(性)徐脈2)左軸偏位3)不完全右脚ブロック4)(第)1度房室ブロック5)左室高電位(差)解答はこちら3)、5)解説はこちら術前心電図でも、いつも通りに系統的な心電図の判読を行いましょう(第1回)。1)×:R-R間隔は整、P波はコンスタントで、向きも“イチニエフの法則”に合致しますから、自信を持って「洞調律」です(第2回)。心拍数なら“検脈法”が簡便です。左半分(肢誘導)のみ、あるいは左右全体(肢誘導・胸部誘導)で数えても60/分ですから、「徐脈」基準を満たしません。Dr.ヒロ的な“境界線”は「50/分」でしたね。2)×:QRS電気軸は、“スパイク・チェック”にて、QRS波の「向き」を確認するのでした(第8回)。I、II、aVF誘導いずれも上向き(陽性)で、軸偏位はありません(正常軸)。ちなみに、以前紹介した“トントン法Neo”だと、「+40°」と計算されます(TPは、III [+120°]と-aVL [+150°]の間で前者よりの「+130°」)。3)○:典型的ではないですが、一応「不完全右脚ブロック」でいいでしょう。V1誘導の特徴的な「rSr'型(r<r')」と、イチエルゴロク(とくにI、aVL、V5)でS波が軽めに“主張”する感じです(Slurという)。QRS幅が0.12秒(3目盛り)以内なら、“不完全”という言葉を冠します(自動診断でQRS幅は0.102秒です)。4)×:「(第)1度房室ブロック」はPR(Q)間隔が延長した所見であり、“バランスよし!”の部分でチェックします。P波とQRS波の距離はちょい長め(≒0.20秒)ですが、これくらいではそう診断しません(目安:0.24秒以上)。「PR(Q)延長」との指摘にとどめるべき範疇でしょうか。5)○:QRS波の「高さ」は“高すぎ”ですね。具体的な数値も知っていて損はないですが、V4~V6あたりの誘導、とくにゴロク(V5、V6)のR波が突き抜けて直上の誘導に突き刺さる“重なり感”にボクはビビッときます(笑)。加えて、軽度ですがII、V4~6誘導に「ST低下」があり、高電位所見とあわせて「左室肥大(疑い)」とジャッジしたいものです。【問題2】術前心電図(図1)の意義について考察せよ。解答はこちら意義:耐術性や心合併症リスク評価の観点では「低い」解説はこちら非心臓手術の術前検査で何をどこまで調べるか? 心電図に限らず、これは全ての検査に言えることなので、純粋な心電図の読みから少し離れてお話しましょう。非心臓手術における術前検査に関するガイドラインは、米国では10年以上前*1、2から、そして最近ではわが国でも欧米のものを参考に作成*3されています。これらのガイドラインによると、今回のように日常生活や仕事などで特別な症状もなく十分に“動ける”ケースの場合、心電図検査のみならず、術前心血管系評価そのものが「適応なし」とされます。従って、心電図に「意義」を求めるのは“筋違い”なのかもしれません。ただ、現実はどうでしょう? 皆さんの病院の診療はガイドライン通りに行われていますか…? おそらく「NO」なのではないでしょうか?欧米では、こうした“見なくて良かった”心電図異常のコンサルト、手術の対象疾患とは無関係な心臓の追加検査が、コスト的にムダとみなされています。これは、検査技師やナースにも無駄な仕事をさせているともとらえることができますよね?*1:Fleisher LA, et al.Circulation.2014;130:e278-333.*2:Feely MA, et al.Am Fam Physician.2013;87:414-8.*3:日本循環器学会ほか:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン2014年改訂版.(注:*1は2019年1月に一部改訂)循環器内科医・内科医にとって、外科医からの術前心電図のコンサルテーションは非常によくあります。実際に、日本の病院では、非心臓手術をする前に心電図を“(ほぼ)全例”やっているのではないでしょうか。そんな状況下で、術前心電図をすべきか否かを論じるのは正直ナンセンスな気もします。心電図検査をすること自体に、一見、悪いことなんて見当たりません。採血の痛みもレントゲンの被曝もない安全・安心な検査ですから。前述のガイドライン*1でも、低リスク手術でなければ心電図検査は年齢を問わず“考慮”(considered)となっています(ただし、膝手術を低リスクと見なす文献もあり)。ほかにも、「65歳以上」なら心電図を“推奨”(recommended)、今回のように「糖尿病」や「高血圧」を有するなら“考慮”(considered)とする文献もあります。「よく調べてもらっている」という患者さん側のプラスな印象も相まって、わが国の医療・保険制度上では、オーダーする側の医師のコスト意識も、諸外国に比べて断然低いと想像できます。“ルーチンでやっちゃえ”的な発想が根付くのにも納得です。でも、本当にそうでしょうか?少し古いレビューですが、次の表を見て下さい(図2)。(図2)ルーチン心電図の検査意義画像を拡大する既往歴や動悸・息切れ、胸痛などの心疾患を疑う思わせぶりな自覚症状があってもなくても、あまり深く考えずに術前に“ルーチン”で心電図検査をすると、4.6~31.7%に“異常”が見つかります。中央値は12.4%で、これは実に8人に1人の割合です。どうりで術前コンサルトが多いはずです。もしも、何も考えずに自動診断のところに何か所見が書いてあったら、循環器(内科)に相談しておこう、という外科医がいたとしたら、ボクたちの“通常業務”も圧迫しかねない“迷惑な相談”です(いないと信じたい)。でも、実際には臨床的意義のある心電図所見は約3分の1の4.6%、そして驚くなかれ、治療方針が変わったのは全体の0.6%なんです!より具体的に言うと、仮に200人の非心臓手術を受ける患者さんに、盲目的に術前心電図をオーダーすると、約25人に何らかの自動診断による所見があります。でも、治療方針に影響を与えるような重大な結果があるのはせいぜい1人。つまり大半の24人には大局に影響しない、ある意味“おせっかい”な指摘なんです。自分の診療を振り返ってみても、確かにと納得できる結果です。心電図をとってもデメリットはないと言いましたが、たとえば癌で手術を受けるだけでも不安な患者さんに、心電図が余計な“心配の種”になっていたら本末転倒だと思いませんか?今回の67歳男性も整形外科で膝の手術を受けるわけですが、心疾患の既往やそれを疑うサインもない中で、なかば“義務的”に心電図検査を受けたがために、「不完全右脚ブロック」と「左室肥大(疑い)」という“濡れ衣”を着せられようとしています。これはイカン。“ボクたちの仕事増やすな”という冗談は置いといて、今回、ボクが皆さんに投げかけたいテーゼはこれです。緊急性を要さない心電図異常、とくに「波形異常」の術前コンサルトの場合、循環器内科医(または内科医)のとるべきスタンスは…1)心電図異常=心臓病とは限らない2)今の心臓の状態は、今回の手術を優先して問題ないので、追加検査は原則必要ないと言ってあげること。これが非常に大事です。しいて言えば、所見の重症度や外科医の意向などから、せいぜい心エコー検査を追加するくらいでしょうか。この辺は一様ではなく、病院事情やコンサルタントの裁量で決めることになろうかと思います。ボクなりのコメント例を示します。「今回は手術を受けるために心電図検査を受けてもらいました。○○さんの検査結果には多少の所見がありましたが、ほかの人でもよくあることです。心臓病の既往や疑いもないですし、普段も自覚症状がないようなので手術には影響のないレベルです。必要に応じて、手術が済んでから調べても問題ないのですが、外科の先生の希望もあるため、念のためエコー検査だけ受けてもらえませんか?」患者を安心させ、コンサルティ(外科医)の顔もつぶさず、かつ病院の“慣習”にも逆らわない“正解”は様々でしょう。けれど、このような内容を知っているだけで対応も変わってくるのではないでしょうか。今回は、ルーチン化している術前検査の意義について、心電図を例に提起してみました。次回(後編)も引き続き、術前心電図をテーマに一歩進んだ異常所見の捉え方についてお伝えします。お楽しみに!Take-home Messageルーチンの術前心電図では高率に異常所見が見つかるが、大半は精査・急な処置ともに不要!【古都のこと~夕日ヶ浦海岸~】本連載では、京都市内ないし近郊の名所をご紹介してきましたが、今回は少し遠出します。おとそ気分覚めやらぬ1月初旬、京丹後市の夕日ヶ浦(浜詰)海岸を訪れました。京都縦貫自動車道を使って片道3時間(往復300km)の道のりですが、立派に府内です。春すら感じてしまう天候、はるかな水平線、海、空、そして数km続く白浜…。そこには、前年に訪れた際の小雨降る青黒い日本海とは“別の顔”がありました。“何をそんな小さなコト・モノ・ヒトにこだわっているの?”日本屈指のサンセット・ビーチのダイナミックなパノラマビューを眺めれば、誰でもそんな声が聞こえるはず。かに料理に舌鼓を鳴らし露天風呂につかれば、至高の休日です。

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第24回 「高齢者の安全な薬物療法GL」執筆薬剤師が語るGLより大切なこと【週刊・川添ラヂオ】

動画解説今回のゲストは国立長寿医療研究センターの溝神文博先生。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の作成に薬剤師として参加した溝神先生ですが、ガイドラインを生かすには、自ら臨床に立って患者さんと対話することが大切だと言います。このプロジェクトに加わったきっかけ、執筆秘話、そして薬剤師という仕事に対する思いを語ります。

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非代償性肝硬変を伴うC型肝炎に初の承認

 平成元年(1989年)に発見されたC型肝炎ウイルス(HCV)。近年、経口の直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals:DAA)が次々と発売され、C型慢性肝炎や初期の肝硬変(代償性肝硬変)の患者では高い治療効果を得られるようになったが、非代償性肝硬変を伴うHCV感染症に対する薬剤はなかった。そのような中、平成最後の今年、1月8日にエプクルーサ配合錠(一般名:ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠、以下エプクルーサ)が、「C型非代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」に承認された。また、DAA治療失敗例に対する適応症(前治療歴を有するC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善)も取得した。ここでは、1月25日に都内で開催されたギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーで、竹原 徹郎氏(大阪大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学 教授)が講演した内容をお届けする。予後の悪い非代償性肝硬変で初めて高い治癒率を実現 HCV感染者は長い期間を経て、慢性肝炎から代償性肝硬変、非代償性肝硬変へと進行する。非代償性肝硬変患者の予後は悪く、海外データ(J Hepatol. 2006)では、2年生存率が代償性肝硬変患者では約90%であるのに対し、非代償性肝硬変患者では50%以下という。国内データ(厚生労働科学研究費補助金分担研究報告書)でも、Child-Pugh分類A(代償性肝硬変)では3年生存率が93.5%に対して、非代償性肝硬変であるB、Cではそれぞれ71.0%、30.7%と低い。しかし、わが国では非代償性肝硬変に対して推奨される抗ウイルス治療はなかった(C型肝炎治療ガイドラインより)。 このような状況のもと、非代償性肝硬変に対する治療薬として、わが国で初めてエプクルーサが承認された。 非代償性肝硬変患者に対する承認は、エプクルーサ単独とリバビリン併用(ともに12週間投与)を比較した国内第 3 相臨床試験(GS-US-342-4019)の結果に基づく。竹原氏は、「海外試験ではリバビリン併用が最も良好なSVR12(治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効率)を達成したが、この国内試験では両者のSVR12に差がみられなかったことから、有害事象の少なさを考慮して併用なしのレジメンが承認された」と解説した。 本試験でエプクルーサ単独投与群には、年齢中央値67歳の51例が組み入れられ、うち24例はインターフェロンやリバビリン単独投与などの前治療歴を有する患者であった。主要評価項目であるSVR12は92.2%で、患者背景ごとのサブグループ解析でも高いSVR12が認められ、治療歴ありの患者で87.5%、65歳以上の患者でも96.6%であった。同氏は、「より進行した状態であるChild-Pugh分類Cの患者で若干達成率が低かったが、それでも約80%で治癒が確認されている」とその有効性を評価。有害事象は9例で認められ、主なものは発疹、皮膚および皮下組織障害、呼吸器・胸郭および縦郭障害(それぞれ2例で発現)であった。他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性例でも効果 一方、DAA治療失敗例に関しては、DAA既治療のジェノタイプ1型および2型患者を対象とした試験(GS-US-342-3921)において、リバビリン併用の24週間投与により96.7%のSVR12率を達成している。「DAA既治療失敗例は、複雑な耐性変異を有する場合が多いが、これらの患者さんでも95%以上の治癒が得られたのは非常に大きい。とくに他の薬剤で治癒が確認されていない特殊な薬剤耐性P32欠損についても、5例中4例で治癒が確認された」と同氏は話した。また有害事象に関しては、リバビリンに伴う貧血の発現が約20%でみられたが、「貧血が起こっても、薬剤の量を調整することで症状を抑えることが可能。貧血が原因で投与中止となった例はない」と話している。 最後に同氏は、「非代償性肝硬変とDAA治療失敗例という、これまでのアンメットメディカルニーズを満たす治療薬が登場したことを、広くすべての医療従事者に知ってもらい、専門医と非専門医が連携して、治療に結び付けていってほしい」とまとめた。

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世界初、IgG4関連硬化性胆管炎診療ガイドライン

 世界で初めての「IgG4関連硬化性胆管炎診療ガイドライン」が完成した。 本症は、2003年に神澤 輝実氏(東京都立駒込病院)が提唱した、新しい全身性疾患であるIgG4関連疾患の胆管病変と考えられ、その特徴として、胆管狭窄を来し、黄疸や肝機能障害するほか、画像所見上では、胆管がんや原発性硬化性胆管炎との鑑別が非常に困難で診療に苦慮する例があるとされる。 本症では、ステロイドが奏効するため確定診断がなされれば治療に問題ない例が多いが、診療上、先の2つの疾患との鑑別が非常に重要となる。すなわち誤った診断がなされれば、「胆管がんの診断で手術をしたら、病理学的にはIgG4関連硬化性胆管炎で、手術する必要がなかった」といった、患者に多大なリスクを負わせる例を起こしかねないからである。 そこで、今回診療ガイドラインを定めることで、こうした誤診のリスクを回避し、標準的な診療が行われ、疾患の概念が医療者をはじめ社会に広がることを期待するものである。 ガイドラインの一端を紹介すると本症の確定診断については、病理組織学的診断が最も有用だが、胆管は細く、生検で十分な検体を取ることが難しく、病理診断が困難であるため、血中IgG4値、胆管像所見、胆管内超音波検査などを組み合わせることで診断する。また、臨床的に本症か胆管がんかの鑑別診断では、2週間のステロイド投与を行い、その反応性で診断するステロイドトライアルを行うこともあるとされる。 このような診療上の注意点などを解説した「IgG4関連硬化性胆管炎の診療ガイドライン」は、日本胆道学会と厚生労働省の2つの研究班(班長:神澤 輝実)が合同して、2年半をかけ作成し、世界で初めて完成したものである。 今後、日本語版も制作し、日本胆道学会のホームページから配信する予定。■関連記事今後も拡大が予想される新たな疾患概念「IgG4関連疾患」IgG4関連疾患

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強迫症治療に関する国際的な展望

 強迫症(OCD)治療に用いられる向精神薬、心理療法、新規治療法に関する国際的な傾向について、オーストラリア・シドニー大学のVlasios Brakoulias氏らが、調査を行った。Human Psychopharmacology誌オンライン版2019年1月10日号の報告。 OCD分野の研究者らにより、サンプル特性に関する要約統計量(Summary Statistics)が収集された。各国間の要約統計量の一貫性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・調査参加国は15ヵ国(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、ドイツ、ギリシャ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ポルトガル、南アフリカ共和国、スペイン、英国、米国)であった。・19の専門施設より、OCD患者7,340例のデータを収集した。・最も一般的に用いられる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、fluoxetine(972例、13.2%)とフルボキサミン(913例、12.4%)であった。・最も一般的に用いられる抗精神病薬は、リスペリドン(428例、7.3%)とアリピプラゾール(415例、7.1%)であった。・経頭蓋磁気刺激療法などの神経刺激術、脳深部刺激療法、ガンマナイフ手術、精神科外科手術の実施は、1%未満であった。・OCDに対する曝露反応妨害法(ERP)の実施やアクセスには、有意な違いが認められた。 著者らは「OCD治療の各国間の違いについては、さらなる評価が必要である。OCDに対するERPは、ガイドラインで推奨されているほど頻繁には実施されておらず、多くの国でアクセス困難であると考えられる。OCD治療では、最新の治療ガイドラインが推奨される」としている。■関連記事強迫症の最適治療に関する研究SSRIで著効しない強迫性障害、次の一手は治療抵抗性強迫症に対する増強治療に関するメタ解析

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第4回 重症度と緊急度、救急のABC【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

薬剤師である皆さんが患者さんのご自宅を訪問する時、患者さんは慢性的な病態であることが多く、容態の急変はないと思いがちです。しかし、慢性疾患であっても,急に容態が変化・悪化することはあります。そのような時、主治医や訪問看護師にすぐに連絡した方がよいかどうか迷うことがあるかもしれません。今回は、急を要するか否かの判断の仕方と、その判断に必要なバイタルサインの測定法について紹介します。急を要するか否かの判断の仕方◎重症度と緊急度まず、「重症度」と「緊急度」の違いについて説明しましょう。「重症度が高い」とは、「生命の危険や後遺症の危険が高い」状態を指します。それに対して、緊急度は時間の要素を加えた概念です。「緊急度が高い」とは、「速やかに治療が行われないと生命の危険や後遺症の危険が高い」ことを意味します。私たち医療従事者が具合の悪そうな患者さんを前にする時、「急がなくてはならないかどうか」、つまり「緊急度が高いかどうか」をまず判断しなくてはいけません。例えば、末期がんの患者さんについて考えてみましょう。末期がんであることは生命の危険性が高いわけですから重症度は高いといえます。しかし小康状態を保っていれば、今すぐに新たな治療を開始しなくてはならない状態ではないので、緊急度は高くありません。一方で、この患者さんがご飯を食べている時に食物をのどに詰まらせて呼吸ができなくなってしまったとすると、一刻も早く詰まったものを取り除かなくては命にかかわります。つまり緊急度が高いということになります。◎急を要するか否か? 「緊急度」の判断のために救急のABCを知っていますか?気道(A:Airway)・呼吸(B:Breathing)・循環(C:Circulation)です。生命を維持させるためには、これらが安定していることが必須の条件であるため、このABCが危機に陥っている時、急を要する状態(緊急度が高い)と判断します。そこで、ABCの状態を評価するために、私たちはバイタルサインといわれる5つの生命徴候(呼吸・脈拍・血圧・体温・意識レベル)をチェックします。バイタルサインを観察・評価することにより、気道・呼吸・循環の状態を知り、それにより急を要するか否かを判断します。すなわち、バイタルサインに異常がある時には「緊急度が高い」と考えられるわけです。日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2014.東京,ライフサイエンス出版,2014.太田富雄,他.急性期意識障害の新しいgradingとその表現方法.第3回脳卒中の外科研究会講演集.東京,にゅーろん社,1975,61-69.Teasdale G, et al. Assessment of coma and impaired consciousness: a practical scale. Lancet.1974; 2: 81-84.脳卒中合同ガイドライン委員会.脳卒中治療ガイドライン2009.東京,協和企画,2009.

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スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

今回のキーワード解離性同一性障害トラウマ体験PTSD境界性パーソナリティ障害憑依寝た子は起こさないみなさんは、ふと思い出して「あいつ~!」と急に腹が立ったり、自分の恥ずかしい失敗を思い出して「自分のバカ!」と一人で叫んでしまったりしたことはありませんか? または、あまりの怖さや怒り、興奮で、その時のことを思い出せなかったことはありませんか? さらには、記憶がない間に、実はもう1人の自分がいて、何かしていたらどうでしょう?このように、われを忘れたり、記憶がなくなったり、別人格が出てくるなど、程度の違いはありますが、自分が自分ではなくなることを精神医学では解離と言います。解離とはどんなものでしょうか? なぜ解離するのでしょう? そもそもなぜ解離は「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか?これらの疑問を解き明かすために、今回は、2017年の映画「スプリット」を取り上げます。ファンタジーを含んだエンターテイメントの要素もありますが、解離が出てくるメカニズムを分かりやすく描いています。この映画を通して、解離を進化精神医学的に掘り下げ、解離性障害の理解を深め、私たちにも身近な解離への対策を一緒に考えていきましょう。解離とは?ストーリーは、3人の女子高生が、見知らぬ男に拉致監禁されるところから始まります。その男性の元々の名前はケビン。密室に入ってくるたびに、人相や振る舞いがまったく変わっていきます。彼には、23の人格が1つの体に宿り、それぞれが別々の名前を名乗っているのでした。このように、意識から人格が分離してしまうのは、解離性同一性障害と言います。もともと「多重人格」と呼ばれていました。分離した別人格は、人格部分と言います。もともと「交代人格」と呼ばれていました。これは、人格のつながり(統合)がうまくいっていない状態です。人格部分が存在せず、単純に記憶がない場合もあります。これは、意識から記憶が分離してしまう解離性健忘です。特定の記憶だけを思い出せない場合(選択的健忘)と、いわゆる「記憶喪失」のように自分が何者で今までどんな生活をしていたのか、自分の生活史の全てを思い出せない場合(全般性健忘)があります。これは、記憶のつながり(連想)がうまくいっていない状態です。記憶がないわけではなく、何となくぼんやりして体の感覚や実感に違和感がある場合もあります。これは、意識から身体感覚が分離してしまう離人症です。例えば、いわゆる「幽体離脱」のように、自分が上から自分自身を見ている感覚です(離人感)。また、周りがぼんやりとして、スローモーションのように動いている感覚です(現実感喪失)。これは、身体感覚のつながり(連動)がうまくいっていない状態です。以上の解離性障害、解離性健忘、離人症の3つをまとめて、解離性障害と言います。人格、記憶、身体感覚などの精神機能が意識から解き離れてしまった状態です。意識の分離、意識の統合の機能不全、簡単に言えば、自分で自分をコントロールできなくなるとも言えます。なぜ解離するの?ケビンの主治医のフレッチャー先生は、今まで落ち着いていた人格部分が次々と出てきている事態に仮説を立てます。「この前、職場で事件があったわよね。校外学習に来た女子高生2人が、あなたに近付いて、手を取って、服の下から自分たちの胸に当てて、笑いながらいなくなった。一種の度胸試しだと思うけど」「それが、あなたの子どもの時の虐待を思い出させてしまった」と。実際に、別のシーンで彼は「3歳児のしつけに、母は厳しすぎる罰を与えていた」「怒られないためには何でも完璧にこなすしかない」と語っています。彼の回想シーンでは、ベッドの下に隠れている幼い彼に、母親が「散らかしたわね。出てきなさい!」とムチを持って怒鳴りながら迫ってきていました。このように、解離が起きる原因として、虐待など身の危険を感じる極度のストレス(トラウマ体験)が考えられています。とくに、幼少期の子どもの脳は発達途中でとても不安定です。複数の記憶を結び付けたり、関連付けたりすることが難しいです。この点で、子どもはその瞬間を反射的に生きており、意識はその瞬間でころころ変わっているとも言えます。そのため、虐待が繰り返されると、そのたびにその時の記憶が思い出せなくなります。その体験が封印・密閉された人格部分として、次々と心の奥底で眠ってしまい、何事もなかった人格として、けろっとしてしまうのです。その後に、その人格部分が、似たような体験やストレスで次々とまた目を覚ましてしまうというわけです。実際に、解離性同一性障害の90%に小児期の虐待があるとの報告があります。大人になって極度のストレスを受けた場合は、記憶がなくなることはあっても、もはや別人格ができることは少なくなります。なぜなら、大人の脳は十分に発達していて、子どもと比べて人格は分離しにくくなるからです。ただし、記憶がない中、名無しのまま、本人のゆかりがない場所で保護されたりする場合はあります(解離性遁走)。これは、トラウマの現場から無意識に離れようとする心理が働いているからです。また、ストレスのレベルが比較的軽かった場合は、記憶がなくならず、ぼんやりとして体の感覚に違和感があるだけにとどまっていると言えるでしょう。なぜ解離しないの?拉致された女子高生の1人のケイシーは、ほかの2人とは振る舞いが明らかに違っていました。彼女は、観察力が鋭く、最初から冷静です。ケビンの幼い人格部分と交渉したり、欺こうとしています。しかし、単に賢いわけではなく、彼女には陰があります。そのわけが彼女の回想シーンが進むにつれて明らかになります。彼女は、幼い時に親を失ったあと、育ての親となった叔父から性的虐待を受けていたのでした。これは、回想というよりは、フラッシュバックとも言えるでしょう。そんなケイシーの体中にリストカット痕があることを知ったケビンの人格部分は、「おまえはほかの連中とは違う」と言うのでした。トラウマ体験により、極限状況を生き抜いてきたという点では、2人は似た者同士だったのです。それでは、なぜケイシーは解離しなかったのでしょうか? 彼女の生い立ちから解き明かしてみましょう。幼い時のケイシーが、近付いてくる叔父に銃を向けて、取り上げられるシーンがあります。親代わりとなった叔父は、決して安全を守ってくれる安心感のある存在ではないことが分かります。むしろ真逆で、自分を脅かす存在です。彼女には味方がいませんでした。やがて思春期になり、家出を繰り返し、学校では反抗的で、問題児扱いされています。彼女は「学校でわざとトラブルを起こす。そうすると、居残りさせられて、みんなと離れられるから。独りになれるから」と打ち明けています。心のよりどころがないことから、空虚感や周りへの過剰な警戒心を抱き、人間関係を避けています。そして、そのやるせない思いを自傷行為によってかき消そうとしていたのです。彼女は、トラウマ症状(PTSD)から、傷つきやすい性格になってしまったのでした(境界性パーソナリティ障害)。同時に、極限状況を生き延びるサバイバルスキルとして、観察力と演技力が研ぎ澄まされてしまったのです。そして、ラストシーンで迎えに来た叔父を拒絶することで、叔父に支配されない自分の人生を歩むことを決意したことが見てとれます。ケイシーは、苦悩に堪えて、傷付きながらも自分の人生に向き合っています。一方、ケビンは、苦悩に堪えられなくなり、楽になるために自分の人生から逃げ隠れています。これが解離しなかったケイシーと解離してしまったケビンの違いです。解離は、良かれ悪しかれ、傷ついた自分の心を守り、その極限状況に順応するための無意識の心理戦略であるとも言えるでしょう。なぜ解離は「ある」の?それでは、そもそもなぜ解離は「ある」のでしょうか? そのメカニズムを大きく3つに分けて、進化精神医学的に考えてみましょう。(1)ぼんやりして生き延びる約5億年前に誕生した魚類は、天敵などの危険に警戒する扁桃体を進化させました。この反応は、「戦うか逃げるか(fight or flight)」という興奮性に働くだけでなく、天敵に気付かれないために身を潜める、息を凝らすという抑制的にも働くように進化しました(警戒性徐脈)。つまり、「戦うか逃げるか、固まるか(”fight, flight, or freeze”)」という反応です。これが、ぼんやりして体の感覚に違和感が出てくる離人症の起源です。つまり、解離の一症状である離人症は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。(2)記憶をなくして生き延びる約2億年前に誕生した哺乳類は、あまりにも驚いたら気絶するという反応を進化させました(迷走神経反射)。例えば、タヌキは天敵に捕らえられた時に気絶して死んだふりをします。そして、目覚めて、スキを見て逃げます。いわゆるタヌキ寝入りです。捨て身の生存戦略とも言えます。気絶して精神状態が一旦リセットされたほうが、慌てずに対応できるでしょう。また、イルカや渡り鳥は、ずっと泳いだり飛び続けるために、大脳半球を交互に眠らせることができます(半球睡眠)。最近の研究では、人間の睡眠も、脳全体で一様ではなく局所で多様に行われている、そして起きている時にストレスのかかった脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきました(ローカルスリープ)。つまり、極度のストレスで、記憶中枢が部分的にも全般的にも睡眠状態になると説明できます。約700万年前、ついに人類が誕生して、300-400万年前にアフリカの森からサバンナに出て、集団になって社会をつくりました(社会脳)。災害や争いで、自分の家族が死んだり殺された時、その記憶やそれまでの人生の記憶をいっそ思い出せないほうが、その後の新しい家族や敵の部族の中で馴染めて、新しい生活ができて、子孫を残す確率を高めます。そもそも、原始の時代、その瞬間を生きていて、過去とのつながりは現代ほど重要ではなかったとも言えます。これが、記憶がなくなるという解離性健忘の起源です。つまり、解離の一症状である解離性健忘は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。ちなみに、解離性健忘は記憶を消去するメカニズムであるのに対して、PTSD(心的外傷後ストレス障害)によるフラッシュバックや悪夢は記憶を強化するメカニズムです。記憶について、症状としてはあたかも真逆ですが、生存戦略としては同じと言えるでしょう。そして、フラッシュバックも自分が自分ではなくなる点では、解離とつながっているとも言えるでしょう。実際に、PTSDや、ケイシーがなった境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)には、解離症状も含まれています。(3)別人格になって生き延びる20万年前に、喉の構造が進化して、言葉を話すようになりました。10万年前に、抽象的思考ができるようになりました(概念化)。この時、ようやく神の存在や死後の世界を想像できるようになりました。宗教の誕生です。記憶をなくして別の人生を生き延びるのと同じように、宗教という文化の中で、別人格を全うすることが受け入れられるようになりました。それが、神の預言者、死者と交流する霊媒師、エクソシストなどです(憑依)。これが、別人格が出てくる解離性同一性障害の起源です。つまり、解離の一症状である解離性同一性障害は、生存に必要なメカニズムだから、「ある」と言えるでしょう。ちなみに、社会脳の進化によって、人類は相手の視点に立つ想像力を手に入れました(メタ認知)。さらに、自分自身を離れて自分自身を見る視点も持つようになり、自分と周りの世界を区別できるようになりました。これが極度のストレスによって過剰になると、周りから自分自身を見る視点が自分から周りを見る視点を圧倒して、あたかも幽体離脱している感覚になります。これが、先ほどの離人症の症状の1つの離人感です。解離に対してどうすれば良いの?それでは、解離に対して、どうすれば良いでしょうか? 治療のポイントを大きく3つに分けてみましょう。(1)寝た子は起こさない -心のゆとりケビンは、23の人格が1つの体に、うまく「同居」することで、動物園の飼育係として10年間真面目に働いてきました。治療のポイントの1つ目は、寝た子は起こさないことです。「寝た子」である健忘や人格部分は、日常生活や社会生活で大きな問題が起きなければ、そっとしておくことです。また、「寝た子」が起きないような落ち着いた暮らしをすることです(環境調整)。ケビンの人格部分の出現には、女子高生のいたずらが引き金になっていました。いたずらは避けられなかったかもしれませんが、このようなストレスをなるべく避けた生き方を本人に見いだしてもらうことです。これは、ちょうど恐怖症の治療と同じです。例えば、高所恐怖があるからと言って、無理に高い所を克服する訓練は必要ないです。高い所を避ければ良いだけの話です。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、そのこと自体はあまり気にせず、代わりに解離が起こらない生活を心がける、つまり心のゆとりが治療的であると言えるでしょう。(2)寝た子が起きたら、ほどほどにあやして寝かす -心の風通しケビンの主治医のフレッチャー先生は、診療の中で、「今のあなたは誰?」「今、話してるのはバリーじゃなくて、デニスだと思う」「デニス、あなたはいつ誕生したの?」と尋ねています。1990年代までは、この治療アプローチが脚光を浴びていました。しかし、現在の欧米の治療ガイドラインには「名前のない人格部分に名前を付けたり、現在の人格部分が今以上に精緻化されることには慎重になるべき」との記載があります。つまり、現在では、この治療アプローチは望ましくないとされています。治療のポイントの2つ目は、寝た子が起きたら、ほどほどにあやして寝かすことです。周りの家族や医療者が安心感のある態度でほどほどに接して受け止めることです(支持療法)。これは、過保護や過干渉をしない「ほどほど」の母親が望ましいとされる子育てにも通じます。逆に言えば、フレッチャー先生のように寝た子が起きても、よりはっきりと起こさないことです。人格部分の名付けをしないだけでなく、たとえ人格部分が自ら名乗っていたとしても、その名前については触れないことです。名前とは、本来付けられるものであり、勝手に名乗るものではないです。名前で呼ぶと言う行為は、その人格部分を一個の人格として分けて扱うことになり、解離をより促進してしまうおそれがあります。ましてや人格部分の正体や原因を追求しないことです。ただし、だからと言って、主人格を呼んだり、人格部分に消えるよう拒絶したり、無視したりもしないことです。これは、統合失調症の関わり方に似ています。例えば、幻聴や被害妄想について根掘り葉掘り聞いてしまうと、その症状を悪化させてしまいます。逆に、その症状は実在しないと否定してしまうと、信頼関係は築けないです。その症状の細かい内容については置いておいて、まずは症状のつらさに共感して、受け止めることです。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、掘り下げず、代わりに解離とは関係のない日々の生活の話を自分の理解者にする、つまり心の風通しが治療的であると言えるでしょう。(3)寝た子の親である自覚をさせる -心の割り切り主人格であるケビンに戻った時、ケビンはケイシーに「何が起きたの?」「何かしてしまった?」と問います。彼は、ケイシーたちを拉致したことの記憶がまったくなかったのでした。治療のポイントの3つ目は、寝た子の親である自覚をさせることです。寝た子である人格部分が問題行動を起こしたとしても、それは自分の体が起こしたことには変わりがなく、社会のルールとして責任をとる必要があることを伝えることです(行動療法)。これは、親がいないところで、未成年の子どもが何かやらかしても、親が謝り償うという社会通念にも通じます。逆に言えば、自覚をさせないで、責任がないと特別扱いしてしまうと、都合が悪いことには責任逃れをするという心理戦略(疾病利得)が無意識に発動されてしまい、解離を促進してしまうおそれがあります。これは、依存症の治療に通じます。例えば、アルコール依存症の発症には本人の責任はないのですが、その治療、つまり断酒を続けることには本人の責任があるのと同じです。私たちも同じように、自分に解離が起きたとしても、受け身にならず、自分の人生に向き合って責任をとる、つまり心の割り切りが治療的であると言えるでしょう。解離はどうなっていくの?フレッチャー先生は、学会で、「それぞれの人格部分によって、コレステロール値が上がったり、蜂アレルギーになったり、糖尿病になったりする」「体力も違う」「苦悩を通じて脳の潜在能力を開放したのかも」「超能力は彼らに由来するかも」と大げさに語ります。実際にケビンは、人知を超えたモンスターになってしまいます。動物園での勤務中に動物たちの野生を取り込んでしまったというストーリー設定です。さすがに、これら全ては実際とは違います。解離によって、精神機能が変わり、身体機能が落ちることはあっても、身体機能が高まったり別の機能に変化することはないです。それでは、実際に解離はどうなっていくのでしょうか?解離の予後は、年齢を経て自然に落ち着いていきます。20代をピークに、40代以降は消えてしまいます。これは、運動能力などの身体機能や、記憶力などの精神機能が加齢によって衰えていくプロセスにも重なります。そうなるまでの間を、なるべく「寝た子を起こさない」サポートするのが、医療としての役割でしょう。フレッチャー先生のように、治療者の個人的な好奇心や野心で人格部分を掘り起こすべきでないです。ケビンがモンスターになってしまったのは、治療が不適切であったことを暗喩しているようにも思えます。解離を身近に感じる解離は、もともと原始の時代までに、環境に不適応を起こすどころか、むしろ適応的だったことが分かりました。しかし、18世紀の産業革命以降に、解離は、社会に不適応を起こし、病として問題視されるようになってしまったのでした。なぜでしょうか?その答えは社会構造の変化です。進化の歴史からすれば、私たちの脳、つまり精神は、ほとんど原始の時代のままです。それなのに、産業革命以降に個人主義や合理主義から「人格は1つで理性的である」という考え方が広がってしまいました。しかし、それは、私たちがただそう思い込んでいるだけにすぎないかもしれません。そう思い込んでいる人が多いから、あたかもそれが真実のように世の中に受け入れられてしまっているのかもしれません。実は、私たちの心は、思っている以上に、バラバラで一貫しておらず、曖昧な感情や記憶の断片からなる複合体であると言えるかもしれません。この映画を通して、私たちの心の不透明さや不確かさをよく理解した時、解離とは、得体の知れない訳の分からない心の病気ではなく、私たちの心の揺らぎが際立った先にある1つの形でもあると思えるのではないでしょうか? そして、その時、解離をより身近に感じることができるのではないでしょうか?1)解離新時代:岡野憲一郎、岩崎学術出版社、20152)こころの科学「解離」:田中究、日本評論社、2007

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高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン、8年ぶりに改訂

 2018年12月28日、日本痛風・核酸代謝学会は『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(GL) 第3版』を発刊した。改訂は2010年以来8年ぶりとなる。近年、尿酸値の上昇は、痛風だけではなく、脳・心血管疾患や腎障害にも影響を及ぼすとの報告が増えているため、これらのイベント予防も目的として作成されている。高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版の特徴とは 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版は全3章で章立てられており、第1章は作成組織・作成方針、第2章は、診療上重要度の高い7つのクリニカルクエスチョン(CQ)と、それに対するエビデンスならびに推奨度が示されている。第3章は治療マニュアルとして、リスク因子、診断、治療などが項目ごとに記載され、「医療経済」の項が新規で追加されている点などが主な特徴である。治療アルゴリズムにはこれらのCQが盛り込まれており、高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインの集大成と言っても過言ではないそうだ。 また、これまでの病型分類は、尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型の2つのタイプであった。今回の高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインには、腸からの排泄低下により血清尿酸値が上昇するという“腎外排泄低下型”の概念が追加されている。 以下に第2章の各CQのみを高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインより抜粋して示す。第2章 クリニカルクエスチョンと推奨CQ1)急性痛風関節炎(痛風発作)を起こしている患者において、NSAID・グルココルチコイド・コルヒチンは非投薬に比して推奨できるか?CQ2)腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ3)高尿酸血症合併高血圧患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ4)痛風結節を有する患者に対して、薬物治療により血清尿酸値を6.0mg/dL以下にすることは推奨できるか?CQ5)高尿酸血症合併心不全患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?CQ6)尿酸降下薬投与開始後の痛風患者に対して、痛風発作予防のためのコルヒチン長期投与は短期投与に比して推奨できるか?CQ7)無症候性高尿酸血症の患者に対して、食事指導は食事指導をしない場合に比して推奨できるか? 高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインはCQにおいて、とくに重要なポイントはCQ2、3で、腎機能低下を抑制する目的での尿酸降下薬の使用を条件付きで推奨している(欧米のGLでは推奨されていない)。一方、心血管発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は、条件付きで推奨されない。ただし、降圧薬使用中の高血圧患者では痛風や腎障害を合併しやすいため、痛風や腎障害の抑制を目的に尿酸降下薬の投与が推奨されている。

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心筋梗塞患者、薬剤費負担なしの継続支援策は有効か/JAMA

 心筋梗塞(MI)患者において、P2Y12阻害薬の薬剤費の一部自己負担を補う商品券(バウチャー)を提供した場合、商品券を提供しなかった場合と比較して、患者報告によるP2Y12阻害薬服薬継続率の増加は3.3%であり、1年時における主要有害心血管イベント(MACE)について有意な低下は認められなかった。米国・Duke Clinical Research InstituteのTracy Y. Wang氏らが、18歳以上の急性MI患者を対象に、薬剤費自己負担の障壁を取り除くことによるP2Y12阻害薬服薬継続率とMACEリスクを検討した無作為化試験「ARTEMIS(Affordability and Real-World Antiplatelet Treatment Effectiveness After Myocardial Infarction Study)」の結果を報告した。ガイドラインではMI後1年間のP2Y12阻害薬治療が推奨されているが、推奨よりも早く中断する患者が多く、その理由として費用の問題が大きいことが推察されていた。JAMA誌2019年1月1・8日号掲載の報告。薬剤費自己負担分商品券提供の有無で、1年後の服薬継続とMACEを評価 研究グループは2015年6月5日~2016年9月30日の期間で、成人急性MI患者を登録している病院301施設においてクラスター無作為化臨床試験を実施した。患者は退院後1年間追跡調査を受け、MACEの判定は盲検化された(最終追跡期間は2017年10月23日)。 P2Y12阻害薬の選択は、主治医によって決定された。介入群に割り付けられた病院(131施設、患者6,436例)では、クロピドグレル/チカグレロルの薬剤費自己負担分の商品券が1年間患者に提供され(30日分薬剤費の中央値137ドル[25th~75thパーセンタイル値:20~339])、標準ケア(対照)群に割り付けられた病院(156施設、患者4,565例)では商品券は提供されなかった。 主要評価項目は、患者報告によるP2Y12阻害薬の服薬継続(30日以上の使用で、服薬中断のない継続治療と定義)、ならびにクロピドグレル/チカグレロルが処方された患者の退院後1年時のMACE(死亡、再発MI、脳卒中)とした。商品券あり群の服薬継続率は3.3%増加、MACE発生率は有意差なし 登録患者は1万1,001例(年齢中央値62歳、女性3,459例[31%])で、退院時にクロピドグレル/チカグレロルが処方された患者(主要解析集団)は計1万102例であった。退院時にクロピドグレルが処方されたのは、介入群2,317例(36.0%)、対照群2,497例(54.7%)であった。 主要解析集団(介入群6,135例、対照群3,967例)において、提供された商品券を使用した患者は4,393/6,135例(72%)であった。また、1年時の追跡調査データが利用できたのは1万802例(98.2%)であった。 1年時点でP2Y12阻害薬を中断なく継続していると報告した患者は、介入群が対照群より多かった(補正前群間比:5,340例/6,135例[87.0%] vs.3,324例/3,967例[83.8%]、p<0.001、補正後群間差:2.3%[95%信頼区間[CI]:0.4~4.1]、補正後オッズ比:1.19[95%CI:1.02~1.40])。 また、1年時点のMACEに関して、介入群と対照群の間に有意差は確認されなかった(補正前累積発生率:10.2% vs.10.6%、p=0.65、補正後群間差:0.66%[95%CI:-0.73~2.06]、補正後ハザード比:1.07[95%CI:0.93~1.25])。

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第9回 同等性を示すための試験方法は?【統計のそこが知りたい!】

第9回 同等性を示すための試験方法は?臨床試験において通常の解析では、p値が0.05よりも小さければ「差がある」と判断し、0.05以上であれば「差がない」と判断します。前回、統計的仮説検定は帰無仮説を棄却することだけにあり、帰無仮説が棄却できなかった場合は、「2つの薬剤(従来薬と新薬)の効果が等しい」と積極的に証明できたわけではなく、「結論は保留」、つまり「有意差がなかった」、あるいは「効果があったかどうかはわからなかった」というのが、結果の正しい解釈であることをご紹介しました。それでは、2つの薬剤の効果が等しいということを明らかにしたい場合、どうすればよいのでしょうか。今回は、同等性を示すために、どのような解析をすればよいのかを解説します。■p値から同等性を示すことはできない例:解熱剤である新薬Y(8例)と従来薬X(10例)を割り付けた臨床試験において、薬剤投与前後の低下体温平均値が新薬Yで1.0℃、従来薬Xで0.7℃であった(表1)。表1●問題 表1の臨床試験データに仮説検定を行った。帰無仮説 新薬Yの低下体温平均値は従来薬Xと同等である。対立仮説 新薬Yの低下体温平均値は従来薬Xと違いがある。p値=0.27p値>0.05により、帰無仮説を棄却できず、対立仮説を採択できない。以上により、この解析結果を正しく表しているのは次の3つのうちどれでしょうか?1)新薬Yの低下体温平均値は従来薬Xと同等である。2)新薬Yの低下体温平均値が従来薬Xと違いがあるとはいえない。3)新薬Yの低下体温平均値が従来薬Xより低いといえる。解答を見る 解答 2p値は、「違いがあるといえない」ということは証明できても「同等である」ということを証明することはできないのです。■同等性を示すにはどうすればいいか下記に2つの臨床試験A(表2)とB(表3)を示します。AとBどちらも低下体温平均値は同じで、p=1.00>0.05でした。これよりどちらも帰無仮説は棄却できず、低下体温平均値は、YとXでは違いがあるということはできません。そして、この結果から、YとXが同等だということもいえません。表2 臨床試験結果A表3 臨床試験結果B同等性はp値では把握できないのですが、信頼区間を使って同等性をみることができるのです。では、この臨床試験AとBの信頼区間をみてみましょう。Aは、-0.55~0.55でBは、-0.09~0.09でした。p値は同じでも、このように信頼区間は、BのほうがAより幅が狭くなっています。一方、Aは幅が広すぎてYとXは同等といえそうにありませんが、Bは幅が狭いので同等といえそうですね。Bにおいて信頼区間が-0.09~0.09と狭く、臨床的に同等だとみなしてよいという判断ができれば、YとXは同等ということがいえます。ただし、この判断の基準になる「信頼区間がこのくらいであれば許容できる」という同等性の許容範囲は、研究を始める前に決めて、研究計画書に記載しておくことが義務付けられています。この許容範囲を「同等性マージン」と言います。図に示しましたようにBは同等性マージンの範囲に入っているので、同等性があるといえるのです。図 信頼区間と同等性マージンですから、論文を読む際には、何を示しているデータなのか、試験方法や同等性マージンの設定域、n数(サンプルサイズ)などをきちんとみなければなりません。このように同等性を示す場合には、信頼区間の上下限とも同等性マージンの幅の中に入らなければなりませんが、そのためには信頼区間がかなり小さくなるようにn数(サンプルサイズ)をいくつにするかを試験の前に設定し、十分なn数(サンプルサイズ)での試験をしなければなりません。そのため、その解決策として非劣性試験が行われることが多いのです。同等性試験については、後発医薬品などの申請に際し、添付すべき生物学的同等性試験のガイドラインが厚生労働省から示されており、そのガイドラインにおいて、試験方法、同等性評価パラメーター、生物学的同等の許容域(同等性マージン)、統計学的解析、同等性の判定などをどのようにすべきかなど、詳細に明記されています(参考:後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン)。次回は非劣性試験について解説いたします。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション7 信頼区間とはセクション8 信頼区間による仮説検定セクション10 p値による仮説検定

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