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          皮膚科領域の医薬品市場の規模は年間2,000億円超にのぼる上、生物学的製剤が相次いで開発されるなど、製薬企業からの注目が高い診療科となっている。そのような中、「製薬マネー」の実態を検証している東北大学や仙台厚生病院、南相馬市立総合病院の研究チームが、日本皮膚科学会の診療ガイドラインの著者へ支払われた製薬企業の謝金を調査したところ、269人の医師に対し、2年間で計7億8、900万円にのぼる支払いが行われ、うち9割は利益相反の開示が不十分だった上、謝金の金額に統計学的な男女差が見られ、図らずも女性医師の相対的な地位の低さまで露呈する結果が明らかとなった。この研究結果の論文は、10月13日付でPLOS ONE誌に掲載された1)。研究チームは、日本皮膚科学会が2015~18年に発行した32の診療ガイドラインについて、計296人の著者を対象に、2016~17年度に製薬企業から支払われた謝金(講師料、原稿執筆料、コンサルティング料など)を、日本製薬工業協会のガイドラインを遵守する79社の各ホームページなどから収集、解析した。主な研究結果は以下の通りである。296人のうち、269人(90.6%)が謝金などを受け取っていた。2年間の総額は7億8,900万円で、1人当たりの平均額は300万円だった。このうち13人は、1,000万円以上の謝金を受け取っていた。男性医師は、女性医師よりも統計学的に高い謝金を受領していた。皮膚科は比較的ワークライフバランスが取りやすく、男女比はほぼ同じで、他科と比べても突出して女性医師が多い。にもかかわらず女性医師の受領金額が低かったことは、男性医師の相対的な地位の高さ、影響力の強さを反映しており、医療界における女性医師の地位の低さを表している。90%以上の診療ガイドラインで利益相反の開示が十分に行われていなかった。診療ガイドラインの著者という立場を考えれば、現在の利益相反申告・公開方法では不十分で、より強固なルール作成が必要である。具体的には、米国皮膚科学会や米国泌尿器科学会と同様に、(1)いかなる金額であっても利益相反の申告を行うこと(2)製薬企業からの支払いがあった著者数を50%以下にすること(3)利益相反申告の正確性を確認できる公的な製薬マネーデータベースの作成・活用―などが求められる。最多の謝金を支払っていたのは、マルホ(約1億5,000万円)で、次いで田辺三菱製薬(約7,200万円)、大鵬薬品工業(約5,300万円)だった。これらの製薬企業は近年、皮膚科領域で高価な生物学的製剤を販売しており、販売を促進するために診療ガイドラインの著者とのつながりを求めたことが合理的と考えられる。コロナ禍で、ボーナスや給与がカットされている医療従事者が多くいることはすでに報じられている通り。広く社会を見渡せば、安定した給与云々という以前の、未曾有の経済苦にあえぐ人々も少なくない。誠実な仕事を不透明な金で汚すようなことをしていては、世の中の不安や不満が高まっている今、後のしっぺ返しが恐ろしい。参考1)Murayama A, et al. PloS one. 2020 Oct 13.