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ツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術:既存の経尿道的前立腺切除術とのランダム化比較試験(解説:宮嶋哲氏)-1269

 現在、前立腺肥大症(BPH)に対して薬物治療抵抗性ないしは尿閉を来した症例に対する治療法として経尿道的前立腺切除術(TURP)は、ゴールドスタンダードの1つである。本研究は2014年から2016年にかけて英国の7病院においてBPHによる下部尿路症状を来した410症例を対象に、BPHに対するTURPとツリウムレーザーを用いた経尿道的前立腺蒸散術(ThuVARP)を比較検討したRCTである。主要評価項目は術後12ヵ月目における最大尿流率(Qmax)と国際前立腺症状スコア(IPSS)の改善である。TURP術後Qmax(平均23.2mL/s)はThuVARP術後Qmax(平均20.2mL/s)より優れていたが、IPSSの改善は同等な結果であった。術後在院期間は両群ともに48時間で差を認めず、合併症の頻度も同等であった。 BPHに対するツリウムレーザー手術は2015年にわが国に導入され、2017年の『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』では、治療の推奨レベルBとして位置付けられている(TURPは推奨レベルA)。ツリウムレーザーの波長は1,940-2,013nmであり、水分子に吸収されやすく前立腺組織への深達長は0.2mmと浅い。連続波で照射可能であり、高い蒸散効果、凝固能力、そして切開能を有するのでThuVARPのような蒸散術に適する。わが国で広く普及しているホルミウムレーザーは波長が2,100nmとツリウムレーザーに近いが、非連続波として照射されるため、そのエネルギーは衝撃波として前立腺内の剥離、核出に利用されている。しかし、ツリウムレーザーのような蒸散および切開能は乏しいと考えられている。KTPレーザーの波長は532nmとヘモグロビンの吸収域にあり、止血効果が高いが予想以上に凝固層が深くなる欠点がある。 現在、さまざまなレーザーが前立腺手術のモダリティとして応用されているが、そのメリットとデメリットを理解したうえで使用することが望ましい。

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COVID-19パンデミック時の不安やうつ症状の有症率とその予測因子

 COVID-19による世界的なパンデミックの効果的なマネジメントのため、厳格な移動制限の実施とソーシャルディスタンスを保つことが求められている。キプロス大学のIoulia Solomou氏らは、一般集団におけるCOVID-19パンデミックの心理社会学的影響を調査し、メンタルヘルスの変化を予測するリスク因子と保護因子の特定を試みた。また、ウイルス蔓延を阻止するための予防策の準拠についても調査を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2020年7月8日号の報告。 社会人口統計学的データ、予防策の準拠、QOL、全般性不安障害尺度(GAD-7)およびこころとからだの質問票(PHQ-9)を用いたメンタルヘルスの状態を、匿名のオンライン調査で収集した。 主な結果は以下のとおり。・調査を完了した参加者は、キプロス島在住の成人1,642人(女性の割合:71.6%)。・重大な経済上の懸念が報告されたのは48%、QOLの有意な低下が認められたのは66.7%であった。・不安に関連する症状は、軽度が約41%、中等度~重度が23.1%報告された。・うつ病に関連する症状は、軽度が48%、中等度~重度が9.2%報告された。・不安やうつ病のリスク因子は、女性、若年(18~29歳)、学生、失業、精神疾患の既往歴、QOLへの悪影響の大きさであった(p<0.05)。・予防策の準拠レベルは、最も若い年齢層および男性で低かった。・予防策の準拠レベルが高いほど、うつ病スコアの低下が認められたが(p<0.001)、個人的な衛生状態の維持に関する不安は増加した。 著者らは「本研究により、COVID-19アウトブレイクがメンタルヘルスやQOLに及ぼす影響が明らかとなった。政策立案者は、効果的なメンタルヘルスプログラムおよび公衆衛生戦略としての予防策を実施するためのガイドラインを検討する必要がある」としている。

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不安感増悪の原因がデュロキセチンかプロピベリンか見極めて変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第24回

 複数の薬剤を服薬している患者さんでは、有害事象の原因薬剤の特定が困難なことが多くあります。しかし、症状や時期を聴取し原因を推論することで、必要な薬剤が削除されたり、不要な薬剤が追加されたりすることが回避できることがあります。今回は、有害事象を早期に察知して、影響の少ない薬剤に変更したケースを紹介します。患者情報90歳、男性(在宅)基礎疾患:高血圧症、過活動膀胱訪問診療の間隔:1週間に1回服薬管理:お薬カレンダーで管理し、訪問スタッフが声掛け処方内容1.アムロジピン5mg 1錠 分1 朝食後2.テプレノンカプセル50mg 1カプセル 分1 朝食後3.酸化マグネシウム錠250mg 1錠 分1 朝食後4.プロピベリン塩酸塩錠10mg 2錠 分1 朝食後5.デュロキセチン塩酸塩カプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後6.ピコスルファートナトリウム錠2.5mg 1錠 便秘時7.経腸成分栄養剤(2−2)液 250mL 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは5年前に奥様が亡くなってから独居で生活されていて、家族との交流はほとんどありません。日常的に不安感が強く、うつ病の診断でデュロキセチンが開始されると同時に、薬剤師の訪問介入が開始となりました。その際、服薬アドヒアランスは不良で、ほとんど薬に手を付けていない状況でした。認知機能は改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)で 25点と正常であったものの、薬剤と服薬回数の多さを負担に感じていたようです。そこで、当初は朝と夕に服用する薬剤が処方されていましたが、服薬を確実に行うことを優先して朝1回の服用に用法をまとめることを提案し、今回から上記の処方となりました。薬剤はカレンダーに1週間分をセットし、毎日の訪問スタッフ(訪問介護員、訪問看護師、訪問薬剤師、ケアマネジャー)が協力して声掛けを行うことで服薬アドヒアランスが安定しました。しかし、1週間後に口渇と不安感が増強したため、医師より新規開始薬のデュロキセチンが影響している可能性はないかという電話相談がありました。ここで、私が考えたアセスメントについてまとめると下記のようになります。服薬アドヒアランスが良好になったことによる有害事象アドヒアランスが安定することで初めて薬剤の本来の治療効果が生じることは多くありますが、今回は効果よりも有害事象が現れたのではないかと考えました。口渇および不安感増強で評価すべきポイントは、(1)新規開始薬のデュロキセチンによる影響、(2)プロピベリンの抗コリン作用による影響の2点です。デュロキセチンなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、投与開始2週間以内や増量後に賦活症候群1)2)が生じやすいことが知られています。この患者さんはアドヒアランスが安定したことで同じような状態になり、不安や焦燥感が増悪したとも考えられました。しかし、賦活症候群の診断基準は曖昧であり、ほかの代表的な症状である不眠や攻撃性、易刺激性、アカシジアなどはなく、口渇が同時期に出ていることから可能性は低いと考えました。むしろ、口渇こそが患者さんに苦痛を与えており、これが不安につながっていると考えるのが自然だと感じました。そこで、アドヒアランスが改善したことで、プロピベリンの抗コリン作用の影響が強く出てしまっているのではないかと考えました。現在の排尿障害について患者さんに確認すると、昼間の頻尿はなく、夜間の尿意で起きることは1〜2回/日であり、それほど苦痛には感じていないとのことでした(過活動膀胱スコア[OABSS]3)は3点と軽症)。それよりも、「とにかく喉が渇いてしょうがない、口の中が気持ち悪い、変な病気になったんじゃないかと不安」と聴取し、プロピベリンがきっかけとなっていることがうかがえました。また、抗コリン薬は長期的には認知機能低下や便秘、嚥下機能低下、転倒4)などの懸念があり、変更が望ましいと考えました。処方提案と経過医師に電話で折り返し、患者さんとの上記のやりとりを含めて報告し、今回の不安感増大はプロピベリンによる口渇が原因となっている可能性を伝え、過活動膀胱治療薬をミラベグロン錠25mg 1錠へ変更することを提案しました。提案根拠としては、ミラベグロンは膀胱のβ3受容体刺激作用から蓄尿期のノルアドレナリンによる膀胱弛緩作用を増強することで膀胱容量を増大させるという蓄尿作用を示しますが、抗コリン作用がないからです。その結果、医師よりプロピベリンを中止し、ミラベグロンを開始するよう指示がありました。また、患者さんが服用錠数の多さを負担に感じていましたが、胃炎や胃潰瘍などの明白な病歴や症状を聴取できなかったため、テプレノンの必要性を医師に確認したところ、飲み切り終了の指示もありました。その後、ミラベグロンへの変更から7日目には口渇は消失し、不安や焦燥感も軽減していました。また排尿障害もOABSSは3点と変動はなく、代替薬への変更が奏効しました。1)浦部晶夫ほか編集. 今日の治療薬2020. 南江堂;2020.2)サインバルタカプセル20mg/30mg インタビューフォーム3)日本老年医学会ほか編集. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015;2015.4)日本排尿機能学会 過活動膀胱診療ガイドライン作成委員会編集. 過活動膀胱診療ガイドライン第2版;2015.

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医療機関への寄付、 患者側の受け止め方は?/JAMA

 米国では、医療機関支援の資金源として、フィランソロピー(主に寄付による活動支援)の重要性が増しているが、倫理的ガイドラインの策定に資する実証的なエビデンスはほとんどないという。そこで、米国・ミシガン大学のReshma Jagsi氏らは、病院や医師に感謝の思いを持つ患者に慈善的な寄付を促す方法について、一般の人々の受け止め方を評価するための調査を行った。その結果、多くの人々が、寄付をする可能性のある患者を特定したり、寄付を促したり、寄付者に感謝の念を伝えるための法的に許容されているアプローチを支持しないことが明らかとなった。JAMA誌2020年7月21日号掲載の報告。ウェブベースの質問票を用いた記述的解析 研究グループは、米国人を代表する、確率に基づくサンプル(Ipsos KnowledgePanel)を用いて、一般集団を代表する主要コホートと、3つの補足的コホート(高額所得者、がん患者、心疾患患者)から意見を募った(米国・Greenwall財団の助成による)。意見の収集には、ウェブベースの質問票を使用した。 記述的解析(人口統計学的に米国人を代表するサンプルとなるように重み付け)により、次の3つの問題に関して、回答者の考え方を評価した。(1)病院が、寄付を行う可能性のある患者を特定し、寄付を要請し、謝意を伝えるために使用する戦略の受容性、(2)医師が患者と寄付について話し合うことの影響に関する理解、(3)寄付金の使用と管理に関する見解。 一般集団513人(女性51.6%、非ヒスパニック系白人63.5%)、年収25万ドル以上の253人(46.0%、72.2%)、がんの診断を受けた260人(51.4%、82.2%)、心疾患の既往歴を有する256人(40.6%、77.2%)が調査を完了した。83.2%が、「寄付の話題は患者-医師関係を損なう」 「患者が参加する可能性のある公的会合で、医師が寄付を募る」に同意を表明したのは、一般集団が55.5%、高額所得者が65.5%、がん患者が57.4%、心疾患患者は58.0%であり、「病院の待合室に、資金調達の担当職員が、寄付の方法に関する情報を掲示する」への同意は、それぞれ76.2%、77.8%、77.2%、73.1%だった。 一般集団では、47.0%が「医師が、患者に許可を得た後、病院の資金調達の担当職員に患者の名前を伝える」ことを、明確に許容する、または高い確実性で許容すると回答し、8.5%は「許可を得なくても紹介してよい」を支持していた。これらへの高額所得者の支持は、それぞれ58.6%および10.9%、がん患者は53.3%および6.3%、心疾患患者は41.0%および6.0%だった。 一般集団の79.5%は、「患者が寄付を話題にした場合には、医師が患者に寄付について話してもよい」とし、14.2%は「患者が話題にしなくても、寄付について話してよい」と回答した。これらへの高額所得者の支持は、それぞれ87.6%および19.5%、がん患者は83.6%および14.5%、心疾患患者は87.6%および11.1%だった。 また、9.9%が「多額の寄付が可能な患者を特定するために、病院の資金調達担当職員が、公的に利用できるデータを用いて資産の審査を行うことを許容する」と答えた。高額所得者の19.9%、がん患者の6.5%、心疾患患者の9.3%が、これを許容した。 一般集団の83.2%は、「医師が患者に寄付の話をすることは、患者-医師の関係を損なう可能性がある」との見解に同意した。また、44.5%が「すべての医師は、金銭の寄付について患者と話し合う方法に関する研修を受けるべき」に同意し、53.3%は「研修は資金調達に関心のある医師だけでよい」とした。 ある患者が100万ドルを寄付したと仮定すると、一般集団の50.1%は、「病院がその患者に、より快適な病室を提供することで謝意を伝えるのを許容する」と回答し、26.0%は謝意の表明として「優先的な診察の予約の提供」を、19.8%は「医師の携帯電話番号の提供」を許容すると答えた。 また、ある患者が100万ドルを寄付した場合に、高額所得者の37.5%、がん患者の23.6%、心疾患患者の23.3%が、「病院が、優先的な診察の予約の提供によって謝意を表す」ことを許容するとした。 著者は、「これらの知見は、現在の資金調達の実践が、利害関係者(とくに、一部の一般集団や患者)が許容できると考えていることと、どこで乖離しているかを明らかにすることで、資金調達の実践や施策の策定に有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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水痘、帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第2回

今回は、ワクチンで予防できる疾患、VPD(vaccine preventable disease)の第2回のテーマとして、「水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹」を取り上げる。医療者の多くにとって、水痘と帯状疱疹は気にも留めないようなありふれた疾患かもしれない。しかし、水痘は、時に重症化し、しかも空気感染によって容易に伝播する。成人、中でも妊婦にとっては最も避けたい感染症の1つである。また、同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって発症する帯状疱疹は、神経痛によりQOLを大きく低下させてしまう。このような水痘・帯状疱疹を予防するには、ワクチンが有効かつ重要である。現在、VZVに対してわが国で使用できるワクチンは2種類ある。従来の水痘生ワクチンと、2020年1月に発売された、帯状疱疹予防に特化した不活化ワクチンである。本稿では、水痘と帯状疱疹の特徴と疫学、そしてワクチンの活用法と注意点について取り上げたい。水痘、帯状疱疹の概要1)水痘(1)水痘の概要感染経路:空気感染、飛沫感染潜伏期:約14日間周囲に感染させうる期間:水疱が痂疲化するまで感染力(R0:基本再生産数):8-101)学校保健法:第2種(出席停止期間:すべての発しんがかさぶたになるまで)感染症法:5類(入院例に限る)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。(2)水痘の臨床症状全身性の水疱性発疹と発熱を来たし、多くは軽症で自然に軽快する。しかし成人では、肺炎などの皮膚外病変により重症化しやすく、成人の死亡率は小児の約8倍にもなる2)。成人の中でも最もハイリスクなのは、妊婦である。妊娠第1・2三半期の初感染では先天性水痘症候群(胎児水痘症候群)のリスクとなり、妊娠第3三半期の初感染では10~20%で水痘肺炎を併発し、時に致死的となる3)。さらに分娩5日前から48時間後では重篤な新生児水痘を生じうる3)。そのため、水痘未感染の妊婦への感染予防は、極めて重要である。しかしながら、水痘は感染が広がりやすく、1人の感染者から平均8~10人に感染させうる。家庭や職場での空気感染対策は困難であり、ワクチン接種は重要な感染予防策である。(3)水痘の疫学水痘の罹患率は、ワクチンの定期接種化により激減している(図)。ワクチンギャップや、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)への曝露機会の減少により、水痘の抗体を獲得しないまま成人する層が一定数いると思われる。現在、水痘の報告者数のほとんどは小児だが、今後は成人の水痘例が増加するかもしれない。図 水痘の年間患者数の推移画像を拡大する2)帯状疱疹について(1)帯状疱疹の概要と臨床症状感染経路:接触感染、空気感染周囲に感染させうる期間:皮疹が痂疲化するまでVZVは水痘罹患後に仙髄・腰髄の後根神経節に潜伏感染し、宿主の加齢や免疫力低下に伴う細胞性免疫の低下により再活性化し、帯状疱疹を起こす。発症すると皮膚分節に沿ったチクチクとした痛みに続いて、水疱を伴う皮疹を生じる。多くの場合は片側性であるが、免疫抑制者では全身に広がる汎発性帯状疱疹となりうる。皮疹は7~15日前後で痂疲化し、感染性がなくなる。合併症としては帯状疱疹後神経痛(Post herpetic neuralgia:PNH)が最も多く、ほかにラムゼイ・ハント症候群、脊髄炎、遅発性の脳梗塞などがある。(2)帯状疱疹の疫学帯状疱疹は、約3人に1人が一生のうちに1度以上経験するとされる5)。小豆島における50歳以上の成人を対象とした前向きコホートによると、帯状疱疹の罹患率は4~10人/1,000人年、PHNは2.1/1,000人で、いずれも年齢が上がるにつれて罹患率も上がる6)。帯状疱疹の罹患率は、水痘ワクチン導入後に増えており7,8)、水痘の流行規模の縮小により、自然感染によるブースターの機会が減ったことが原因ではないかと考えられている。実際に、水痘を発症した小児と暮らす成人では、10~20年後に帯状疱疹が発症するリスクは約30%減ると報告されている9)。ワクチンの概要(効果、副反応)と接種スケジュール水痘の予防には水痘生ワクチンが、帯状疱疹の予防には、水痘生ワクチンと帯状疱疹不活化ワクチンの2種類が使用される。1)水痘の予防(表1)画像を拡大する(1)効果発症予防効果は、1回接種で約80%、2回接種で93%である。重症化は、1回接種で約99%、2回接種で100%予防する1)。(2)副反応ワクチン接種により一般的な副反応のほか、水痘ワクチンに特異的な副反応としては、接種後1~3週間後に発熱、3~5%に水痘様発疹がみられることがある。(3)禁忌妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人(4)注意事項生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。2)帯状疱疹の予防2種類のワクチンを使用することができる(表2)。発症予防効果は不活化ワクチンでより高い。費用が高額であること、副作用が多いことを許容できるならば、不活化ワクチンを活用したい。画像を拡大する以下、不活化ワクチンについて述べる。(1)効果帯状疱疹の発症予防効果は、水痘生ワクチンより不活化ワクチンで高いことが知られている。不活化ワクチン2回接種による帯状疱疹の発症予防効果は50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%、帯状疱疹後神経痛は50歳以上で100%、70歳以上で85.5%である10)。一方の水痘生ワクチンでは、50歳以上における帯状疱疹発症抑制率は51%、帯状疱疹後神経痛の減少率は66%である 。ただし、いずれも免疫原性の持続が証明されているのは10年未満11,12)であり、今後は追加接種などが議論になる。(2)副作用不活化ワクチンの方が、生ワクチンよりも副作用の頻度が高い。生ワクチンの臨床試験の結果では、局所性(注射部位)の副反応が80.8%に認められ、主なものは疼痛(78.0%)、発赤(38.1%)、腫脹(25.9%)であった。全身性の副反応は64.8%に認められ、主なものは筋肉痛(40.0%)、疲労(38.9%)、頭痛(32.6%)であった。他のワクチンに比較して局所性副反応の頻度は高いが、いずれも3日前後で消失することがわかっている10)。(3)禁忌両者とも、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往のある人。水痘生ワクチンでは妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人。(4)対象対象は慢性疾患をもつ50歳以上の成人で、とくに慢性腎不全、糖尿病、関節リウマチ、慢性呼吸器疾患をもつ人に推奨される13)。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠を希望する女性に対する、水痘ワクチン先に述べたように、妊婦の水痘は重症化のリスクが高い。妊娠中の水痘は何としても防ぎたい。水痘の罹患歴がなく、かつ水痘ワクチンの接種歴のない女性が妊娠を希望する際には、プレコンセプションケアの1つとして水痘ワクチンを接種しておきたい。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるように伝える必要もある。2)50歳以上に対する帯状疱疹予防のワクチン水痘の罹患歴がある50歳以上の成人には、帯状疱疹不活化ワクチンの2回接種もしくは水痘ワクチンの1回接種を勧めたい(免疫抑制者など生ワクチンが禁忌とされる場合には、帯状疱疹不活化ワクチンを選択する)。帯状疱疹は高齢者ほどリスクが高く、帯状疱疹後神経痛を発症すると著明にQOLが低下する。なお、帯状疱疹は約6.4%に再発が認められる14)ため、帯状疱疹の罹患歴がある場合の再発予防としても有効である。今後の課題・展望小児における水痘ワクチンの定期接種化により、水痘の発症者は今後も減り続けるだろう。一方で、水痘の罹患歴のある者のブースター機会も減るため、今後しばらく帯状疱疹の罹患率は上昇することが予測される。水痘はR0が8-101)と非常に感染力が強く、ワクチン接種による予防が重要である。妊婦の水痘を予防し、帯状疱疹後神経痛を予防するために、妊娠を希望する女性、また、50歳以上の高齢者へのワクチン接種を忘れないようにしたい。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト国立成育医療センター プレコンセプションケアセンター1)水痘ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)国立感染症研究所.2)Meyer PA, et al. J Infect Dis. 2000;182:383-390.3)日本産婦人科学会、日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン-産科編2017.p.374-376.4)Morino S, et al. Vaccine. 2018;36:5977-5982.5)Schmader K, et al. Ann Intern Med. 2018;169:ITC19-ITC31.6)Takao Y et al. J Epidemiol. 2015;25:617-625.7)病原微生物検出情報(IASR).2018;39.p.139-141.8)Leung J,et al. Clin Infect Dis. 2011;52:332-340.9)Forbes H, et al. BMJ. 2020;368:l6987.10)帯状疱疹ワクチンファクトシート(平成29年2月10日版)国立感染症研究所.11)Cook SJ, et al. Clin Ther. 2015;37:2388-2397.12)Shwartz TF, et al. Hum Vaccin Immunother. 2018 ;14:1370-1377.13)David K Kim DK,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019;68:115-118.14)Shiraki K, et al. Open Forum Infect Dis. 2017;4:ofx007.講師紹介

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第17回 安楽死? 京都ALS患者嘱託殺人事件をどう考えるか(前編)

医師2人を嘱託殺人の容疑で逮捕こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。梅雨空とGo To トラベルキャンペーンに翻弄され、結局、越後の山にはいきませんでした。それなら、とやっと開幕した米国のメジャーリーグをテレビで何試合か観戦しました。大谷 翔平選手やダルビッシュ 有選手はさておき、今年、満を持して米国に渡った筒香 嘉智、秋山 翔吾の2選手には、「日本人野手の大成は難しい」という常識を覆すよう、頑張ってほしいと思います。開幕については2人ともまあまあの立ち上がりで、少し安心しました。さて、この週末は、大きなニュースが飛び込んで来ました。医師によるALS患者の嘱託殺人です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者から依頼を受け、京都市内の患者自宅で薬物を投与して殺害したとして、京都府警は7月23日、宮城県で診療所を開業する男性医師(42)と、東京都の男性医師(43)の2人を、嘱託殺人の容疑で逮捕しました。各紙の報道をまとめると、2人は昨年11月、京都市の女性のマンションに知人を装って訪問、薬物(バルビツール酸系の睡眠薬)を投与し、殺害したとのことです。女性は24時間介護が必要な状態であり、当日はヘルパーもいましたが、2人と女性だけになった瞬間に胃ろうから薬物を投与した、とみられています。滞在時間はわずか10分程度だったとのことです。2人の帰宅後、部屋に戻ったヘルパーが意識不明になっている女性を発見、駆けつけた主治医が119番通報し、病院に運ばれた後、死亡が確認されています。体内で普段使っていない薬物が検出されたことなどから事件性が疑われ、京都府警が捜査を開始。SNS上での女性と医師とのやりとりや金銭授受の証拠などが明らかとなり、事件から約8カ月後の先週、逮捕に至ったわけです。「安楽死」議論の流れをおさらいするさて、この事件、SNSで女性が嘱託殺人の依頼をしていた点や、宮城県の医師のブログでの発信内容の過激さ(自身のものとみられるブログに「高齢者を『枯らす』技術」とのタイトルで、安楽死を積極的に肯定するかのような死生観をつづっていたそうです)、さらには東京都の男性医師の医師免許不正取得疑いなども出てきて、事件の本筋が見えにくくなってきていますが、一般向けメディア含め、ALS患者の置かれた状況や、この事件が安楽死にあたるかどうかに注目が集まっているようです。報道によれば、京都府警は、女性の死期が迫っていなかったことや2人が主治医ではなかったことなどを挙げて、「安楽死とは考えていない」としているようです。しかし、この事件をきっかけに、安楽死の是非が改めて議論されることは間違いありません。ということで今回は、日本における「安楽死」に関係するこれまでの代表的な事件と、その時に医師に課せられた「罪」について、簡単に整理しておきたいと思います。家族の要望あっても殺人罪確定の2例「安楽死」については、回復が見込めない患者の死期を医師が薬剤を使用するなどして早める「積極的安楽死」と、終末期の患者の人工呼吸器や人工栄養などを中止する「消極的安楽死」の2つの概念があり、前者の「積極的安楽死」は、現在の日本においては殺人罪や嘱託殺人罪などに問われます。積極的安楽死の罪の根拠となっているのは、1991年に起きた「東海大学安楽死事件」と 1998年に起きた「川崎協同病院事件」です。東海大学安楽死病院事件では、家族の要望を受けて末期がんの患者に塩化カリウムを投与して、患者を死に至らしめた医師が殺人罪に問われました。1995年、横浜地裁は、被告人を有罪(懲役2年執行猶予2年)とする判決を下しました(控訴せず確定)。患者自身による死を望む意思表示がなかったことから、罪名は嘱託殺人罪ではなく、殺人罪になりました。この判決では、医師による積極的安楽死が例外的に許容されるための要件として、1)患者が耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること2)患者は死が避けられず、その死期が迫っていること3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと4)生命の短縮を承諾する患者の意思表示が明示されていることという4つが提示されています。もう一つの川崎協同病院事件は、医師が気管支喘息重積発作から心肺停止へ陥り昏睡状態となっていた患者から、家族の要請を受けて人工呼吸器を外したところ、患者の苦悶様呼吸が続いたため、最終的に看護師に筋弛緩剤を静脈注射させ、死に至らしめたという事件です。2007年、東京高裁は家族の要請があったとしても余命が明らかではなく、患者自身の治療中止の意思も不明だとして殺人罪を認め、懲役1年6ヵ月(執行猶予3年)を言い渡しました。医師は上告しましたが、最高裁でも医師の行為は「法律上許容される治療中止にはあたらない」とされ、上告は棄却され刑が確定しました。なお、棄却理由として最高裁は「十分な治療と検査が行われておらず、回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況にはなかったこと」「家族に適切な情報が伝えられた上での行為ではなく、患者の推定的意思に基づくということもできないこと」の2点を挙げています。終末期ガイドラインのきっかけとなった事件一方、終末期の患者の人工呼吸器や人工栄養などを中止する「消極的安楽死」については、日本において「認められている」というか、少なくとも「刑事責任を問わない」という一定のコンセンサスが形成されてはいます。ただ、そのコンセンサスは、何十年も前からあったわけではなく、ほんのここ15年あまりの間に起きたいくつかの事件を経て、なんとか形づくられてきたものです。延命治療中止については、2004年の「北海道立羽幌病院事件」と、2006年に発覚した「射水市民病院事件」が有名です。いずれも医師が人工呼吸器を外して患者(羽幌は90歳男性、射水は50代~90代の男女7人でうち5人は末期がん)が死亡した事件で、ともに医師は殺人容疑で書類送検されましたが、その後不起訴になっています。これらの事件をきっかけに、終末期や救命救急の医療現場で「刑事責任を問われかねない」との懸念が広がり、行政や学会で終末期医療に関するガイドラインを作る動きが活発化、そこで厚生労働省が検討会を組織し、2007年に策定、公表したのが「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」1)です。「消極的安楽死」は繰り返しの本人確認を重視このガイドラインにおいては、医療・ケアチームと患者・家族らによる慎重な手続きを踏まえた決定の必要性が強調されています。なお、このガイドラインの冒頭には「生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は対象としない」と書かれており、消極的安楽死に関する指針であることが明示されています。その後、日本救急医学会や日本老年医学会も、治療を中止する手順を盛り込んだ消極的安楽死に関する指針を公表しています。厚労省のガイドラインは、最期まで本人の生き方を尊重し、医療・ケアの提供について検討することが重要であることから、2015年に「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へと名称変更され、さらに、2018年には内容が大きく改訂2)されています。この時の改訂のポイントはACP(アドバンスド・ケア・プランニング)の考え方が盛り込まれたことで、特に以下の3つの点が強調されています。1)本人の意思は変化しうるものであり、医療・ケアの方針についての話し合いは繰り返すことが重要であることを強調すること。2)本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、その場合に本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて、事前に繰り返し話し合っておくことが重要であること。3)病院だけでなく介護施設・在宅の現場も想定したガイドラインとなるよう、配慮すること。さて、以上の流れを踏まえ、この事件についてもう少し考えてみようと思いましたが、長くなってきましたので、今回はここまでとします。京都の事件は、先述したように、逮捕された医師のSNSやインターネット上での発言や金銭授受の事実、主治医でないこと、身元を偽っての女性宅訪問、医師免許不正取得など、いかにも事件事件しており、ある有識者は「安楽死議論の対象にもならない」と語っています。でも、果たして本当にそうでしょうか。少なくとも、医療関係者も目を逸らしてきた、積極的安楽死についての議論を再開するきっかけにはなると思うのですが、どうでしょう(この項続く)。参考サイト1)終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン/厚生労働省2)人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン/厚生労働省

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“do処方”を見直そう…?(解説:今中和人氏)-1263

 誰しもが駆け出しとして医師人生をスタートする。医療におけるさまざまな処置や処方には、往々にして歴史的な変遷や患者限定の根拠があったりして実に奥深く、駆け出しがすべてを理解して対応するのは事実上不可能だが、何でもかんでも先輩に尋ねるわけにもゆかない。まして「これは本当に必要なんですか?」なんて、一昔前の「仕分け」のような質問をすればうっとうしがられること必定だから、いわゆる“do処方”の乱発が起きる。もちろん、自分なりに意味付けをしてのことだが、世の中には実はほとんどアップデートされておらず、もはや伝統芸能の域に達しているような処置や処方も存在する。 黎明期から見れば、開心術は医療器材的にも技術的にも異次元とすらいえる進歩を遂げた。人工心肺による循環変動、コンタクト・サーフェスに由来する著明な炎症反応がサイトカイン・ストーム状態と、それに伴う臓器障害や凝固異常を惹起する、といった触れ込みで昔から使われてきたのがステロイドである。ステロイドには免疫抑制や過血糖などの作用もあるため、誰しも一度は必要性を疑ったはずだが、私が属したほぼすべての施設で人工心肺症例には一律、成人でも小児でも相当な量のステロイドが投与されていたし、それでもサイトカイン・ストームを疑う、妙にFP ratioの低い症例は存在した。だが指導的立場になった後、積極的に「伝統」を廃する決断は、「意外と効いているかも」「自分が知らないだけかも」となかなか難しく、当施設でステロイド投与をやめたのは約10年前からである。やめたところでプラスにもマイナスにも変化を感じていないが、その後2012年にDECS study、2015年にSIRS trialという成人症例対象の大規模RCTが発表され、いずれも大量ステロイド投与に便益なしと結論付けられた。2019年のEACTS等の成人対象のガイドラインでは、ステロイドの一律使用はclass IIIとなっている。 本論文は、一昔前BRICsと注目されたうちの3ヵ国・4施設における約3年間の乳児開心術394例(中央値6ヵ月、新生児5%)に対するRCTで、9割以上はロシアの2施設の症例だった。麻酔導入後、study群はデキサメタゾン1mg/kgを、control群は生食を静注した。平均人工心肺時間は各50分と46分、直腸温36℃で、術後30日以内または在院中死亡、心筋梗塞、ECMO、急性腎障害などをprimary、人工呼吸期間、カテコラミン補助、出血量などをsecondaryエンドポイントと定義した。最終的に10例が人工心肺非使用術式に変更になり、各群15%、22%が主にアレルギー疑いでステロイドを追加投与された。結論は、サブグループ解析も含め、各項目とも大量ステロイドの一発打ちに有意な便益はなかったが、感染症も各2%、1.5%と増えなかった(血糖値は論じられていない)。要するに投与してもしなくてもあまり違わなかったわけだが、小児心臓外科の世界ではステロイド投与に関して見解が割れており、昨今も54%と半数以上の患児がステロイド投与を受けているそうである。評者は、薬剤は投与必要性を吟味すべきで“do処方”は見直そう、という意見だが、最近、コロナ肺炎でサイトカイン・ストームの難治性がクローズアップされている一方、多くの症例で早めのステロイド投与が有効という、理論的に納得しやすい報告もあるので、ステロイドに関しては、相当な大量でも有害事象がほとんど増えないなら、便益も証明されてはいないが、典型的compromised hostである小児開心術患者には投与しておく、でもよいのかも…と、思わず腰が引けてしまう。 諸先生はいかがであろうか?

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第18回 待望のプラセボ対照無作為化試験でCOVID-19にインターフェロンが有効

中国武漢での非無作為化試験1)や香港での無作為化試験2)等で示唆されていたインターフェロン1型(1型IFN)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果が小規模ながら待望のプラセボ対照無作為化試験で裏付けられました3,4)。先週月曜日(20日)の速報によると、英国のバイオテクノロジー企業Synairgen社の1型IFN(インターフェロンβ)吸入薬SNG001を使用したCOVID-19入院患者が重体になる割合はプラセボに比べて79%低く、回復した患者の割合はプラセボを2倍以上上回りました。わずか100人ほどの試験は小規模過ぎて決定的な結果とはいい難いと用心する向きもありますが、SNG001は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)食い止めに大いに貢献する吸入薬となりうると試験を率いた英国・サウサンプトン大学の呼吸器科医Tom Wilkinson教授は言っています5)。Synairgen社を率いるCEO・Richard Marsden氏にとっても試験結果は朗報であり、COVID-19入院患者が酸素投与から人工呼吸へと悪化するのをSNG001が大幅に減らしたことを喜びました。投資家も試験結果を歓迎し、Synairgen社の株価は試験発表前には36ポンドだったのが一時は236ポンドへと実に6倍以上上昇しました。この記事を書いている時点でも200ポンド近くを保っています。Synairgen社は入院以外でのSNG001使用も視野に入れており、COVID-19発症から3日までの患者に自宅でSNG001を吸入してもらう初期治療の試験をサウサンプトン大学と協力してすでに英国で始めています6)。米国では1型IFNではなく3型IFN(Peginterferon Lambda-1a)を感染初期の患者に皮下注射する試験がスタンフォード大学によって実施されています7)。インターフェロンは感染の初期治療のみならず予防効果もあるかもしれません。中国・湖北省の病院での試験の結果、インターフェロンを毎日4回点鼻投与した医療従事者2,415人全員がその投与の間(28日間)COVID-19を発症せずに済みました8)。インターフェロンはウイルスの細胞侵入に対してすぐさま強烈な攻撃を仕掛ける引き金の役割を担います。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はどうやらインターフェロンを抑制して複製し、組織を傷める炎症をはびこらせます4,9)。ただしSARS-CoV-2がインターフェロン活性を促すという報告10)や1型IFN反応が重度COVID-19の炎症悪化の首謀因子らしいとする報告11)もあり、インターフェロンは場合によっては逆にCOVID-19に加担する恐れがあります。米国立衛生研究所(NIH)のガイドライン12)では、重度や瀕死のCOVID-19患者へのインターフェロンは臨床試験以外では使うべきでないとされています。2003年に流行したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVや中東で依然として蔓延するMERS-CoVに感染したマウスへのインターフェロン早期投与の効果も確認されており13,14)、どの抗ウイルス薬も感染初期か場合によっては感染前に投与すべきと考えるのが普通だとNIHの研究者Ludmila Prokunina-Olsson氏は言っています15)。参考1)Zhou Q, et al. Front Immunol. 2020 May 15;11:1061.2)Hung IF, et al. Lancet. 2020 May 30;395:1695-1704.3)Synairgen announces positive results from trial of SNG001 in hospitalised COVID-19 patients / GlobeNewswire 4)Can boosting interferons, the body’s frontline virus fighters, beat COVID-19? / Science 5)Inhaled drug prevents COVID-19 patients getting worse in Southampton trial 6)People with early COVID-19 symptoms sought for at home treatment trial 7)OVID-Lambda試験(Clinical Trials.gov)8)An experimental trial of recombinant human interferon alpha nasal drops to prevent coronavirus disease 2019 in medical staff in an epidemic area. medRxiv. May 07, 2020 9)Hadjadj J, et al. Science. 2020 Jul 13:eabc6027.10)Zhuo Zhou, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2020 Jun 10;27(6):883-890.11)Lee JS, et al. Sci Immunol. 2020 Jul 10;5:eabd1554.12)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines,NIH 13)Channappanavar R, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2016 Feb 10;19:181-93. 14)Channappanavar R, et al. J Clin Invest. 2019 Jul 29;129:3625-3639.15)Seeking an Early COVID-19 Drug, Researchers Look to Interferons / TheScientist

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小児精神疾患における80種の向精神薬の安全性~メタ解析

 精神疾患は、小児期や青年期にしばしば発症する。小児精神疾患の治療に適応を有する向精神薬はさまざまあり、適応外での使用が往々にして行われる。しかし、これら向精神薬の副作用については、発達途上期間中であることを踏まえ、とくに注意が必要である。イタリア・パドヴァ大学のMarco Solmi氏らは、小児および青年の精神疾患に対する抗うつ薬、抗精神病薬、注意欠如多動症(ADHD)治療薬、気分安定薬を含む19カテゴリ、80種の向精神薬における78の有害事象を報告したランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析およびメタ解析、個別のRCT、コホート研究をシステマティックに検索し、メタ解析を行った。World Psychiatry誌2020年6月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・ネットワークメタ解析9件、メタ解析39件、個別のRCT90件、コホート研究8件が抽出され、分析対象患者は33万7,686例であった。・78の有害事象について20%以上のデータを有していた薬剤は以下のとおりであった。 ●6種の抗うつ薬:セルトラリン、エスシタロプラム、パロキセチン、fluoxetine、ベンラファキシン、vilazodone ●8種の抗精神病薬:リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、ルラシドン、パリペリドン、ziprasidone、オランザピン、アセナピン ●3種のADHD治療薬:メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン ●2種の気分安定薬:バルプロ酸、リチウム・これらの薬剤のうち、カテゴリごとにより安全なプロファイルを有していた薬剤は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:エスシタロプラム、fluoxetine ●抗精神病薬:ルラシドン ●ADHD治療薬:メチルフェニデート ●気分安定薬:リチウム・入手可能な文献より、安全性の懸念が最も高かった薬剤は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:ベンラファキシン ●抗精神病薬:オランザピン ●ADHD治療薬:アトモキセチン、グアンファシン ●気分安定薬:バルプロ酸・カテゴリごとに最も関連が認められた有害事象は以下のとおりであった。 ●抗うつ薬:悪心・嘔吐、有害事象による中止 ●抗精神病薬:過鎮静、錐体外路症状、体重増加 ●ADHD治療薬:拒食、不眠 ●気分安定薬:過鎮静、体重増加 著者らは「本結果は、臨床診療、研究、治療ガイドライン作成を行ううえで役立つであろう」としている。

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精神科入院患者のリハビリテーション、マインドフルネスグループの導入効果

 精神科リハビリテーションサービスを受けている患者は、複雑な長期にわたる問題を抱えており、しばしば治療抵抗性といわれる。このような患者では、統合失調症などのメンタルヘルス診断と合わせて、複雑なトラウマ歴、アルコール依存や薬物乱用、認知障害が頻繁にみられる。治療抵抗性統合失調症の治療では、クロザピン療法以外の効果的な治療法は知られていないが、マインドフルネスがストレス体験に対処する能力を向上させることが予備的エビデンスで示されている。英国・エディンバラ大学のAudrey Millar氏らは、マインドフルネスプラクティスグループが、入院患者のリハビリ環境下で許容できる治療介入であるかについて検討を行った。また、ウェルビーイングのモニタリングも実施した。BMC Psychiatry誌2020年6月20日号の報告。 マインドフルネスプラクティスグループは、精神科病院の15床のリハビリテーション病棟で実施した。A区では3回/週、5ヵ月間実施し、B区では1回/週、18ヵ月間実施した。介入は、臨床心理士より行った。A区では、Warwick-Edinburgh well-being scaleを用いたウェルビーイングの測定も行った。介入の許容可能性に関する補足情報として、患者、グループファシリテーター、スタッフより定性的インタビューを行った。 主な結果は以下のとおり。・A、B区ともに1回以上参加した患者は約3分の2(65%および67%)、定期的に参加した患者は約3分の1であった。・ウェルビーイングへの影響は認められなかった。・質的インタビューでは、参加した患者には多くのベネフィットがあり、グループが病棟内の治療文化を強化する可能性が示唆された。 著者らは「臨床ガイドラインでは、精神疾患と診断されたすべての患者に心理療法が利用されるべきであることが示唆されているが、入院患者のリハビリテーションでの心理療法の利用は困難な場合がある。マインドフルネスプラクティスグループは、許容可能な介入であり、治療抵抗性精神疾患に対するマインドフルネスの有効性を検討するためのさらなる研究は価値がある」としている。

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第16回 医師不在で議論進むオンライン初診、裏には経済界の皮算用が?

政府にとって都合良く専門家集団を使うのは、新型コロナウイルスの専門家会議(現・分科会)だけではないようだ。今回のコロナ禍で、初診からのオンライン診療が可能となったが、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」(座長=山本 隆一・医療情報システム開発センター理事長)の構成員から上がった反対意見の多くは無視された形だ。オンライン診療のガイドラインを定期的に見直していた検討会は3月11日、新型コロナ対策の方向性を出していた。しかし、内閣府の規制改革推進会議(議長=小林 善光・三菱ケミカルホールディングス会長、元経済同友会代表幹事)から「初診対面原則の見直し」などの要請を受け、急きょ4月2日に検討会(ビデオ通話によるオンライン形式)が開かれた。構成員に開催が知らされたのは2日前、具体的な議題や資料が明らかになったのは会議開始の10分前だったという。会合の検討内容は、「継続した発熱等、新型コロナウイルスへの感染を疑う患者の治療」と「軽度の発熱、上気道症状、腹痛、頭痛等について、対症療法として解熱剤等の薬を処方」だった。議論の焦点となったのは、初診でオンライン診療を認めるケースとして、以下の4項目が妥当か否かであった。(1)既に診断され、治療中の慢性疾患で定期受信中の患者に対し、新たに別の症状についての診療・処方を行う場合(2)過去に受診歴のある患者に対し、新たに生じた症状についての診療・処方を行う場合(3)過去に受診歴のない患者に対して診療を行う場合(4)過去に受診歴のない患者に対し、かかりつけ医などからの情報提供を受けて、新たに生じた症状についての診断・処方を行う場合そもそも、新型コロナの感染症はPCR検査などをしないでは診断できない。責任感のある医師ならば、過去に一度も診ていない患者をオンラインで判断することにはためらいがあるだろうし、患者としてもオンライン診療のみで判断されることに不安を感じるだろう。ある構成員は「オンライン初診でできるのは『相談』と『受診勧奨』で、『診療』にまでは至らないのではないか」と現実的な意見を述べている。実際、オンライン診療を行っている医師も含め、医療関係者が大半を占める構成員の多くは、(3)を認めることに反対した。しかし2日後、官邸と規制改革推進会議は検討会の反対意見を無視し、新型コロナが収束するまでの時限措置とはいえ、(3)についてもオンラインの「診療」を認めることを決めた。同会議は企業人と学者が委員の大半を占め、医師の代表はおろか、医療現場を知る委員もほとんどいない。にもかかわらず、同会議は7月2日、オンライン初診の恒久化を見据えた、さらに踏み込んだ検討を安倍 晋三首相に答申。経団連も9日、同様の趣旨の提言書を公表した。新型コロナの院内感染を防ぎたい医療人が声を上げるのならわかるが、企業人がオンラインの初診診療に前のめりになるのはなぜなのか。社員のテレワーク化に伴う対応という側面もあるかもしれないが、オンライン診療に対応する医療機関は、7月1日時点で約1万6,000施設(厚労省調べ)と少なく、伸びしろの大きい分、医療機関による専用機器やアプリなどの購入による経済効果も期待しているのではないだろうか。経済優先の結論ありきでの専門家への諮問は、専門家に対し非礼であるだけでなく、国民の健康と命を犠牲にする「規制改革」と称した“悪巧み”とさえ受け取れる。

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双極性障害の薬理学的マネジメント~日本の専門医のコンセンサス

 慶應義塾大学の櫻井 準氏らは、双極I型障害および双極II型障害の精神薬理学的治療に関する日本臨床精神神経薬理学会が認定する専門医によるコンセンサスガイドラインを作成することを目的に本研究を行った。Bipolar Disorders誌オンライン版2020年6月17日号の報告。 日本臨床精神神経薬理学会が認定する専門医を対象に、双極性障害治療における19の臨床状況について、9段階のリッカート尺度(同意しない「1」~同意する「9」)を用いて、治療オプションの評価を依頼した。119件の回答が得られた。治療オプションを、1次、2次、3次治療に分類した。 主な結果は以下のとおり。・双極I型障害の治療では、以下の第1選択として、リチウム単剤療法が推奨された。 ●躁病エピソード(平均±標準偏差:7.0±2.2)●うつ病エピソード(7.1±2.0)●維持期(7.8±1.8)・リチウムと非定型抗精神病薬の併用療法は、以下の場合に推奨された。●躁病エピソード(7.7±1.7)●うつ病エピソード(7.1±2.0)●混合性の特徴を伴わない(6.9±2.2)●維持期(6.9±2.1)・双極II型障害の治療では、以下の第1選択として、リチウム単剤療法が推奨された。 ●躁病エピソード(平均±標準偏差:7.3±2.2)●うつ病エピソード(7.0±2.2)●維持期(7.3±2.3)・リチウムと非定型抗精神病薬の併用療法は、躁病エピソード(6.9±2.4)に推奨された。・抗精神病薬単独療法または抗うつ薬治療は、いずれの場合においても第1選択として推奨されなかった。 著者らは「本知見は、現在のエビデンスを反映しており、双極性障害に対するリチウム治療のエキスパートコンセンサスが得られた。また、双極性障害に対する抗精神病薬および抗うつ薬の使用では、有効性と忍容性を考慮する必要がある」としている。

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大学の昇進人事で出産や病気による休業期間の考慮には驚いた(解説:折笠秀樹氏)-1258

 アカデミア、つまり大学における昇進基準に関する調査報告です。生物医学の教師陣が昇進あるいはテニュア(終身雇用)の基準ですが、指針を持つ大学は92/146(63%)でした。ランキングの高い大学ほど持っていました。 従来型と非従来型の昇進基準について調査しています。従来型としては、1)論文、2)著者の順序、3)インパクトファクター(IF)、4)研究費獲得、5)名声です。私たちの基準もほぼ同じだと思います。教授の基準で見ると、論文(95%)、研究費(67%)、名声(47%)、著者順(34%)、IF(28%)の順でした。まあ納得できる結果かと思います。 非従来型の基準としては、1)引用索引DBの使用割合、2)データ共有の割合、3)オープンアクセス論文の割合、4)研究登録の割合、5)報告ガイドラインの遵守割合、6)研究結果共有の割合、7)休業期間の考慮割合です。こちらはあまり聞いたことがありません。研究者としての姿勢を問うた基準のようです。同じように教授の基準で見ると、休業考慮(35%)、引用索引(28%)、研究共有(2%)、データ共有(1%)、残りは0%でした。出産や病気などによる休業期間を考慮しているのが35%というのは驚きでした。 教授昇進に関して、従来型の基準は3個(中央値)、非従来型の基準は1個(中央値)でした。従来型は論文、研究費、名声が上位3位です。非従来型は1個のようですが、休業か引用索引かどちらかなのでしょう。 休業期間を昇進の際に考慮しているのは、教授選考だけでなく、助教・准教授・テニュアすべてで35~50%と高いです。女性には出産の負担が多いため、女性ならではの実情を配慮した基準になっています。日本では決まり文句、「男女共同参画を推進しています。女性研究者の積極的な応募を期待します」を目にします。これはマイノリティ配慮の方針だと思われますが、女性だからといった配慮より、研究に携われなかった期間を考慮するほうが公平に感じます。日本でも、応募書類に休業期間とその理由を含めるべきかもしれません。

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第16回 乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議

<先週の動き>1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議足立区・柳原病院の乳腺外科医が準強制わいせつ罪に問われ、13日の控訴審で言い渡された懲役2年の実刑判決をめぐって、日本医師会の今村 聡副会長は見解を示した。裁判では、独自の基準でせん妄や幻覚の可能性を否定した原告側の医師の見解を採用したこと、全身麻酔からの回復過程で生じるせん妄や幻覚は通常の医療現場でも生じていること、検察側が根拠としたDNA鑑定などの証拠がずさんな検査に基づくことなどを指摘し、控訴審の有罪判決に強く抗議した。同様に、東京保健医協会からも、「医師団体としても一般市民としても絶対に許容できない」として、抗議の見解を声明として発表している。(参考)乳腺外科医控訴審判決に関する日医の見解について(日本医師会)東京高裁 第10刑事部の乳腺外科医裁判逆転有罪判決に対する声明(東京都保険医協会)2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に厚生労働省は、オンラインで健康保険証の確認ができるように、健康保険法施行規則の改正に乗り出すことを決定し、省令案を公表した。本年10月に施行予定であり、医療機関などで療養の給付を受ける際、被保険者はマイナンバーカードをカードリーダーにかざすことで、資格確認することが可能となる見込み。なお、オンライン資格確認や特定健診情報の閲覧は2021年3月から、薬剤情報の閲覧は2021年10月から開始される予定。医療機関向けのカードリーダーは、「医療機関等向けポータルサイト」で申し込むことができる。医療情報化支援基金により補助されるため、原則医療機関の負担は生じない。(参考)医療情報化支援基金に関するポータルサイト開設のお知らせについて(厚労省)オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)(同)オンライン資格確認で健康保険法施行規則改正へ 厚労省が省令案公表、10月に施行予定(CBnews)3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など厚労省は、16日に第5回循環器病対策推進協議会を開催し、第1期循環器病対策推進基本計画案をとりまとめた。2019年12月に施行された「脳卒中・循環器病対策基本法」に基づいて策定され、国の循環器病対策の基本的な方向について明らかにするものである。主に「循環器病の予防や正しい知識の普及啓発」、「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」、「循環器病の研究推進」の3つの施策を実施することにより、「2040年までに3年以上の健康寿命の延伸及び循環器病の年齢調整死亡率の減少」を目指す。(参考)循環器病対策推進基本計画(案)(厚労省)循環器病対策の現状等について(同)4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始厚労省は「医療扶助に関する検討会」の第1回会合を15日に開催した。これは、2019年12月に閣議決定された「新デジタル・ガバメント実行計画」において、個人番号カードを利用したオンライン資格確認について、2023年度の導入を目指し検討を進めることとなっている。このため、生活保護受給者の医療扶助資格について、オンライン資格確認導入に向けた議論が開始される。今年中に取りまとめ、年度内を目処に頻回受診対策などの議論が行なわれる見込み。(参考)第1回 医療扶助に関する検討会(厚労省)5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?東京都では連日多くの新型コロナウイルス感染者が確認されており、経路不明者も多い。一方、政府は22日から開始されるGo Toキャンペーンの内容や条件について、直前に変更を発表したが、再度の緊急事態宣言については否定するコメントを出すなど、難しい状況が続いている。感染拡大の防止対策として、PCR検査の積極的な実施、保健所の体制強化、感染防止のガイドライン徹底などを事業者に求め、利用者にはガイドラインを守った店の利用を求めている。海外のように再度の規制強化には動いてはいないが、屋内のイベント開催における人数制限の撤廃などを見直す可能性もある。さらに、夜の繁華街などに立ち入り検査を行うことや、新型コロナ対策特別措置法の再改正などにより、今後新しい動きが出てくる可能性は高い。(参考)接待伴う飲食店対応 経済再生相 1都3県知事に協力要請 コロナ(NHK)コロナ感染防止図り 社会経済活動の段階的な引き上げ目指す(同)

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第43回 心電図中級への道:右心系を“チラ見”するテクニック(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第43回:心電図中級への道:右心系を“チラ見”するテクニック(後編)前回は「心室肥大」、なかでも右室に関して肥大の病態について考えました。心電図は肥大の診断精度の面では心エコーに及びませんが、実臨床で右室肥大(RVH)を思わせる所見に出くわした時、どう考え対処すれば良いのかを考えていきましょう。実際の心電図を用いてDr.ヒロなりの実用的な診断手順を丁寧にレクチャーします!【問題1】歩行時の息切れを主訴に紹介受診した80歳、女性。膠原病の加療中。来院時心電図(図1)に関して、以下の文章を埋めよ。基本調律は、心拍数約80/分の(A:異所性心房調律、洞調律、心房細動)である。QRS電気軸は(B:  )°と(C:正常軸、左軸偏位、右軸偏位)を示し、V1誘導に「高いR波」を(D:認めない、認める)。また、同誘導には“ストレイン型”を思わせるST-T変化を(E:認めない、認める)。また、V5、V6誘導で(F:R≒S、R>S、R<S)の所見も認められる。右房拡大の所見は(G:認めない、認める)。以上から総合するに、本心電図は「右室肥大」と診断(H:できない、できる)。(図1)来院時の心電図画像を拡大する解答はこちらA:洞調律、B:120(130)、C:右軸偏位、D:認める、E:認める、F:R<S、G:認めない、H: できる解説はこちら今回は実際の心電図を用いて前回から引き続き「右室肥大」(RVH)について考えてみたいと思います。Dr.ヒロ流の心電図の系統的判読(第1回)に触れつつ解説していきましょう。Aこれは“イチニエフの法則”そのものですね(第2回)。B出た!電気軸の数値を求める問題。これは“トントン法”でしょう。aVRが“トントン・ポイント”(TP)で良ければ「+120°」、もう少し欲張ってaVL、Iに続いて「-aVR」はまだ下向き、TPは続くIIよりも「-aVR」サイドと読んで「+130°」と答えてくれたら熱心な“ドキ心”受講生ですかね(トントン法Neo、第9回、第11回)。CQRS波がIは下向き、II(aVF)は上向きです(第8回)。D「右軸偏位」とともに「RVH」診断の根幹をなす所見です。絶対値では「7mm」ですが、本来「rS型」(第17回)が標準的なV1誘導にあって、陽性(上向き)成分がこれだけ目立つのは異常です(波形はやや非典型の「qRS型」です)。E「ストレイン型」という言い方はあまり推奨されませんが、説明や理解には好都合です。“寝そべった2の字”を思い出してください(第39回)。FV5やV6では本来左室収縮をモロに反映した“ご立派”なR波がテッパンですが、これが逆転(R<S)してしまうのが「RVH」の特徴の1つです。G左室肥大(LVH)でも「左房拡大」は参考所見でした(第39回)。心臓そのものを直接画像化して診断する心エコーとは異なる、心電図なりの“苦肉の策”は、周囲(心房)の状況から推察するというものです。う~ん、なんか“探偵”チックですね(笑)H以上から心電図(図1)は「RVH」に該当します。精査の結果、膠原病に起因する肺高血圧症を認める症例でした。“とにかくニガテなんです”問題1はどうでしたか? 日々の臨床現場で皆さんが遭遇する心電図には、“(ごく)たまに”このようなモノが混じります。ここでは問題を“穴埋め”としましたが、実際ノーヒントでこうした考察が自然にできますか? そうです。実臨床にはヒント付きの問題文も“選択肢”もないのです。う~ん…それが冒頭で『RVH心電図の克服は“中級”へのパスポート』と述べた理由です。意外に難しいんですよ、実際。かつてのボクもそうでしたが、“時たま”しか出会わない異常な所見にアンテナを作動させ、拾い集めた所見を総合して「RVH」と診断するのは難しい、というかニガテだという方は少なくないと推察します。しかし、人間だけではなく、心電図自体も「RVH」の診断が得意ではないんです。一部に特異度はまずまずとする報告がありますが1)、とにかく感度が低いんです。心エコーに比べて心電図による「左室肥大」の診断力は見劣りしますが、「RVH」となるとそれに輪をかけて差が開くわけです。この理由はいくつかありますが、一番大きいのは左室と右室の重量の差からくる“筋力”(より正確には筋量)の違いです。医学部生の時、心臓のサイズはたしか“握りこぶし”(手拳大)くらい、重さは約300gと習いました(ボクは今でも患者さんにそう説明しています)。では、心室つまり右室や左室の重さってどうなんでしょう? もちろん、性別や体格(骨格筋量)にもよるでしょうね。海外データでは心室中隔を除いた「自由壁」(free wall)と呼ばれる部分の場合、右室は約45g、左室はその2.5倍くらいと報告されています2)。現実的には心室中隔も左室の“所有物”ですから、左室の重量は右室の3倍超であることがわかります。心電図の世界では、波高が心筋重量を反映するので、この比を信じるのなら私たちが普段目にするQRS波形は、“8割方”ほぼ左室成分で構成されていると考えられるわけです。「肥大」の心電図は極論したら “目立つ”(QRS)波形になるということなので、RVHが成立するには、ちょっとやそっとの筋量アップではダメで、正常な左室でも3倍超、左室に肥大があればさらに高いハードルを乗り越える必要があるわけです。もともとの頻度の差に加えて、左室の影響で“薄まって”しまい、程度が弱いものは心電図に表出しにくいというRVHの背景を知っておきましょう。■「RVH」心電図が難しいワケ■1)もともと疾患(病態)頻度が低く見慣れない2)左室の影響で所見が薄まりがち3)「右脚ブロック」とややこしい最後の「右脚ブロック」とややこしいという点は、同じことを意識されている方も多いかもしれません。かつてのボクも似ている所見にかなり困惑した記憶があります。この点について次回に詳しく述べたいと思います。“2大所見から押さえよう”悲観的な話ばかりするのはボクの本意ではありません。稀にでも出くわした時、ビシッと見逃さずに「RVH」と指摘するための基本からお話します。拙著から抜粋した図をご覧ください(図2)。(図2)代表的なRVHの心電図基準画像を拡大する左室の場合もそうでしたが、単一の心電図所見で「RVH」の診断を下すことはできず、複数の所見の“合わせ技”が基本となります。左室肥大では、あの“浪費エステ”として有名なRomhilt-Estesポイントでも注目点が5つくらいありましたよね(笑)。基本はそれの“左⇔右チェンジ”を行えばいいのです。まずは必須の2所見から。■1:右軸偏位-これはほぼマスト(MUST)1つ目は「右軸偏位」です。定性的には、QRS波の「向き」がI誘導で下向きとなります。基本的には“右軸偏位なくしてRVHなし”と考えてもらってOKなくらい重要な所見です。「左室肥大」では「左軸偏位」は補助基準の一つであったのと対照的です。これは、しばしば右室と左室の“綱引き”で例えられますが、普通なら「1人 vs. 3人」で試合している圧倒的不利な状況なはずが、自分のゾーン(右方)に引っ張り込んでいるという状況は、「RVH」があるなら相当のもんだということ。実は「+110°以上」という条件もついているのですが、“トントン法Neo”を知らない場合は、自動計測結果に頼らざるを得ないでしょう(第11回)。「左軸偏位」で「-30~0°」なら“軽度の”と呼んだように、正常者(とくに若年者)でも時に認める「+90°+α」くらいの軽い変化ではなく、ガッツリ右軸に向いていることが重要だというわけです。「右軸偏位」では、普通はII(とaVF)のQRS波は上向きですが、「RVH」がキツイ例ではここも下向きになることがあります。“ドキ心”では「高度の軸偏位」ゾーンに該当しますが、その場合は右側から“振り切れて”この領域に達したという「強い右軸偏位」ととらえるようです。代表的には「S1S2S3パターン」というI、II、IIIすべてで陰性成分が優勢となる所見も右心系負荷を示唆する所見の一つですが、軸偏位と関連付けて覚えておけば良いと思います。■2:V1はキーとなる誘導2つ目は波高に関してです。これも「肥大」では大切な所見です。ボクは人間の選り好みは基本しませんが、こと誘導に関しては「V1誘導」がかなり好きです。不整脈から波形診断まで随所で活躍してくれるブイワン君は「RVH」でもキーとなる誘導です。もちろんそれは、位置的に右室のド真ん前に電極を貼るからです。左室肥大では「(左室)高電位」が特徴でしたが、“左方面”の代表であるV5(またはV6)の反対側に視点を移しましょう。それが“右方面の雄”V1で見られます。V1誘導では、正常ですと「rS型」(右室パターン)が見られるのですが(第17回)、「RVH」では普段小さい「r波」が高い「R波」に“変身”します。絶対値では「7mm以上」ですが、定性的な「RV1>SV1」*1も相対的なR波増高ととらえてください3)。*1:「R>S in (lead) V1」や「R:S ratio in V1>1」などの表現もすべて同義。この所見は、Dr.ヒロ流の判読語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”でスパイク・チェックをする時に行うと良いでしょう。側胸部誘導(V4~V6)の波高や全体的な振幅に加えて胸部誘導は「R波の増高過程」(R-wave progression)を確認しますよね? V1から下方に行くに連れ徐々にR波は大きくなり、逆にS波はすぼんでいくというヤツです。はじめは小さい「r波」であるはずが、スタート(V1)からいきなりドンッと7mmもあると、目にギョッときます。これで気づいてください。そのほか、何かと足し算が好きで“そこのライオン”でも登場したSokolow & Lyonペアの「RV1+SV5(V6)>10.5mV」という基準4)まで知っている人は少々マニアックかな。現実的には11mm以上ですが…。昔に比べて格段に記憶力の衰えたDr.ヒロはこうした細かな数字を逐一覚えられません。先ほどの心筋重量が右室は左室の3~4分の1だと知っておいて、「左室肥大」の基準Sokolow-Lyon index「SV1+RV5(V6)≧35mV」や単体の「RV5(V6)≧25~30mm」(諸家で多少の差あり)の数値を同じくらいの“縮尺”にして考えるというイメージ作戦で「10.5」も「7」も何とかなっております(笑)。これらの所見を1つでも満たす場合、個人的には“右室高電位(差)”とでも呼びたいところなんですが、正式には「高いR波(V1)」という所見になります。■3:「高いR波」インスピレーションこれはおまけです。V1誘導で「高いR波」を見た時に考える病態を5つ言えますか? ボクがレジデントか大学院生になりたての頃、ある先生に質問されました。解答は以下通り。■高いR波(V1誘導)を見たら何を考える?■右室肥大(RVH)(陳旧性)後壁梗塞WPW症候群(A型)完全右脚ブロック反時計回転(小児・若年成人≒正常亜型)実はコレ、見逃しやすい疾患の“備忘録”的にも使えるんです。当時とても感動したように思います。後年、BMJ誌でほぼ同様のリストが列挙されていた5)ことに“身震い”し、それ以来、決して忘れることはありません。それぐらいインパクトのある内容だと思います。“補助所見も知っておくと強い”「RVH」に関しては上の2つはほぼ“must”と言える所見です。そのほか以下の所見も参考にしてください。■「RVH」の参考所見■(a)2次性ST-T変化(V1ほか:右前胸部誘導)(b)V5、V6で“目立つ”S波(c)右房拡大(d)R peak time(V1)≧0.04秒(40ms)(a)いわゆる“ストレイン型”ですね。右室への圧負荷で求心性肥大を呈する場合が典型的で、「高いR波」が出るV1誘導でこれも確認すれば良いでしょう。心電図所見としては、“お隣”(V2)以下、V3くらいまで(右前胸部誘導)見られることもあります。(b)上記1の「高いR波」所見を反対側から見るイメージですか。V1・V2の「R波」は反対側(V5・V6)で言う「S波」で、そこが出張ってきます。まぁ結局同じことととらえても悪くないですが、「RVH」では胸部誘導が上から下までS波が目立ち、V5(またはV6)でも「R<S」(反時計回転)というケースをまとめ(図2)の3つ目の条件として挙げています。心電図(図1)の胸部誘導も全部「rS型」になっていますでしょ。これがポイントなんです。「deep S(-wave)」と呼べる絶対値基準の「10mm」(V5)、3mm(V6)はメチャクチャ余裕がある方だけでOKです。ボクはV5で勝負することにしているので、前者は“1cm”として頭に記憶させています。(c)これも「左室肥大」の時の「左房拡大」を“左⇔右チェンジ”するだけです。負荷が心室から心房へ波及することを想定しています。II、III、aVF(下壁誘導)やV1(V2)誘導でP波高が高くなるのでした。(d)「左室肥大」でQRS幅がややワイドになる、という話をしましたが、その時に“(delayed onset of) intrinsicoid defletion”や“R peak time”と呼んだQRS波の「はじまり」~「頂点」までの時間です。これが1mm(0.04秒[40ms])以上*2でやや右室興奮が“もたつく”様子を反映していると考えて下さい。ただしQRS幅全体としては幅広(wide)の基準(0.12秒[120ms]:横幅3mm)には至らないことも大事です(右脚ブロックとの大きな違いがココ)。*2:正確には>0.035秒[35ms]。“本日のまとめ”今回の原稿を書くにあたり、愛用している教科書や論文・ガイドライン4)、6)、7)を見直してみました。ただ、「RVH」の心電図については、明快に統一された診断基準を見つけることはできませんでした。「右軸偏位」と「高いR波(V1誘導)」の2つを中核に、「+α的な補助所見が何個あったら」みたいなのもありません。国内の心電計メーカーの自動診断法も参照しましたが、人間にはおよそわかりにくい数値基準であることを除いては類似の要素を組み合わせたスコアリングシステムが採用されているようでした。という訳で、Dr.ヒロは普段どのように「RVH」の心電図と向き合っているのかを図式化してみました。LVHの解説に際して作成したような実践的なフローチャート(図3)を提示してレクチャーを終わろうと思います。もちろん論文レベルのエビデンスはないですし、そういう意味で「信じるか否かはアナタ次第」(笑)という面がぬぐえませんが…。一人の若き“心電図職人”のアタマの中がどんなものか興味本位で見てもらったら幸いです。(図3)Dr.ヒロオリジナル右室肥大[RVH]の診断フローチャート画像を拡大するはじめに「wide QRS」、とくに「右脚ブロック」はひとまず除いて議論する点と、やはり「RVH」と診断するには中核2所見を中心に全体的に3つ以上は基準を満たして欲しいと思っています。ここでも得意の「あり」(definite)と「疑い」(probable)で自分なりの“重みづけ”もしています。「右軸偏位」と「高いR波(V1)」のどちらを先に見るかですが、Dr.ヒロ流ではQRS波のスパイク・チェックを「向き」「高さ」「幅」の順で捉えていきます。まず「右軸偏位」に気づいて右心系負荷を疑い、次に「高さ」で胸部誘導のR波増高過程を確認してください。その段階で「高いR波(V1)」もあったら、いよいよ「右室肥大(RVH)」が怪しいという風に考えましょう。補助所見の中では、(図2)で取り上げたV1(またはV2)“ストレイン所見”(2次性ST-T変化)とV5・V6での「深いS波」が特に重要ですが、もともと感度が低いわけですから、病歴・背景疾患や心エコー・MRI・CTなど、ほかの画像所見などもしながら考える姿勢を身に付けることで臨床的に深い洞察が可能になると信じています。では、また次回。次回は「右脚ブロック」での状況などを話したいと思います!Take-home Message心電図による「右室肥大」(RVH)の診断感度は低く、過剰な期待は禁物!「右脚ブロック」と混同せず、「右軸偏位」と「高いR波(V1)」に補助所見、自動診断結果や他の画像検査も合わせて総合的に判断するのが大事。1:Lehtonen J, et al. Chest. 1988;93:839-842. 2:Doherty NE 3rd, et al. Am J Cardiol. 1992;69:1223-1228. 3:Myers GB, et al. Am Heart J. 1948;35:1-40. 4:Sokolow M, et al. Am Heart J 1949;38:273-294.5:Harrigan RA, et al. BMJ. 2002:324:1201-1204. 6:Hancock EW, et al. Circulation 2009;119:e251-61.7:Buxton AE, et al. J Am Coll Cardiol 2006;48:2360-2396.【古都のこと~今宮神社】新型コロナウイルスが猛威を振るう中、アマビエという疫病退散の妖怪が話題になりましたね。長い歴史において多くの疫病に悩まされるたびに人々は祈りを捧げてきましたが、今宮神社(北区)も鎮疫の神として有名です。ボクが京都に移住してまだ間もない頃、市内(紫野付近)を運転中、道路沿いに一際目立つ楼門の存在感に圧倒された記憶があります。今まさに行きたい―そう思ったある日に早起きして訪れました。この地には平安遷都よりも前から摂社・疫神社*1があったとされます。994年(正暦5年)、一条天皇は二基の神輿(みこし)とともにその疫神を船岡山に奉安し、神慮を慰め悪疫退散を祈る御霊会(ごりょうえ)*2を斎行しました。その後、再び疫病の流行った1001年(長保3年)、現社地に新たに三柱*3を祀る神殿(本社)を建造し、「今宮社」と名付け御霊会を営まれました。これが今宮神社の創祀なのですが、1000年以上経っても“新しい宮”の名称が残っていることに感動しつつも、今なお疫病に苦しめられる我々の現状に複雑な気持ちも介在します。本社と摂社それぞれにお参りし、平成29年10月の台風被害により解体となった今宮の大鳥居の再建もお祈りし、休日の職務に向かいました。*1:祭神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)。*2:古くは疫病などの災いは、不慮の死を遂げた人の御霊(怨霊)に由来すると考えられており、これを鎮め災厄を祓うための儀礼。この紫野御霊会が今宮祭の起源とされる。*3:御祭神である大己貴命(おおなむちのみこと)、事代主命(ことしろぬしのみこと)、奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)。

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ASCO2020レポート 老年腫瘍

レポーター紹介高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療の有用性を評価した臨床試験1)高齢がん患者を包括的に評価&サポートする診療社会の高齢化に伴い、がんを罹患している高齢者(以下、高齢がん患者)は増加し続けている。これまで、がん治療については腫瘍科医が、高齢者の一般診療については老年科医が別々に行ってきたが、この連携は必ずしも十分でなかった可能性がある。高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は、老年医学領域では日常的に行われている、患者が有する身体的・精神的・社会的な機能を多角的に評価し、脆弱な点が見つかれば、それに対するサポートを行う診療手法である2)。具体的な評価項目(ドメイン)としては、生活機能、併存症、薬剤、栄養、認知機能、気分、社会支援、老年症候群(転倒、せん妄、失禁、骨粗鬆症など)である(表1)。画像を拡大するがん領域ではCGAに慣れている医療者が少ないため、まずは評価だけでも実施してみる、というのが世界的な流れであった(注:がん領域では、CGAから「総合的」が抜け、高齢者機能評価[geriatric assessment:GA]と表記されることが多い)。さまざまな研究の結果、GAは、1)重篤な有害事象を予測する因子になりうる、2)生命予後を予測する因子になりうる、3)通常の診療では気付かない障害を明らかにする、4)治療方針を決定する際の参考情報となる、ことが示された。この結果、国内外のガイドラインでは、高齢がん患者に対してGAを実施することが推奨されている3,4)。しかし、がん領域ではGAによる「評価」ばかりが注目されており、「脆弱性に対するサポート」は注目されてこなかった。今回いよいよ、がん領域でもGAによる評価だけでなく、脆弱性に対するサポートも含めた診療の有用性を評価すべくランダム化比較試験が施行され、その結果がASCO2020で発表された。「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」の有用性を評価した多施設共同クラスター・ランダム化比較試験米国のMohileらは、「通常のがん診療」と比較して、「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすか否かを検討するために、多施設共同クラスター・ランダム化比較試験を実施した。主な適格規準は、70歳以上、根治不能III期またはIV期の全がん種、治療前に行われたGAで少なくとも1つに障害がある、がん薬物治療が予定されている、などであった。standard armは通常診療(治療前に行われたGAの結果すら伝えない通常の診療)であり、test armは介入ケア(GAを実施し、その結果とサポート方法の提案を患者と医療者に伝える診療)であった。なお、国内外のガイドラインでGAが推奨されているにもかかわらず、standard armがGAを実施しない通常診療とされている理由は、現時点では、米国でも日常診療でGAを実施していないためである。介入ケア群での提案内容については、現時点では公表されておらず、また介入ケア群では、あくまで提案を伝えるのみであり、提案によって治療法を変更するよう強制したものではなかった。試験デザインとして、「施設」をランダム化するクラスター・ランダム化デザインを採用した。これは、通常の試験のように「患者」を両群に割り付けると、同じ医療者または同じ施設にもかかわらず、患者によって異なるアプローチを取ることになり、患者によっては不満を募らせる可能性があること、医療者がどちらか良い印象を持った診療を行ってしまうことで診療の効果が薄まることが予想されたためである。primary endpointは3ヵ月以内にGrade3~5の有害事象を経験した患者の割合、secondary endpointは6ヵ月時点での生存期間などであった。2013年から2019年にかけて、41施設が登録された(患者数:718例)。通常診療群と比較して介入ケア群では、消化器がんが多く(30.9% vs.38.1%)、肺がんが少なく(31.4% vs.18.1%)、黒人が多く(3.3% vs.11.5%)、既治療例が多かった(22.7% vs.30.8%)。Grade3~5の有害事象は、通常診療群で71.0%、介入ケア群で50.1%であり、介入ケア群で有意に低かった。相対リスク比(RR)は0.74(95%CI:0.63~0.87、p=0.0002)であり、この差はほとんどが非血液毒性によるものであった(RR:0.73、95%CI:0.53~1.0、p<0.05)。secondary endpointの1つである6ヵ月時点での生存期間は、通常診療群で74.3%、試験診療群で71.3%であった。介入ケア群では、1コース目でより多くの患者が強度を下げた治療を受けた(35.0% vs.48.7%)。治療開始3ヵ月以内の投与量変更は介入ケア群のほうが少なかった(57.5% vs.42.1%)。Mohileらは、GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝えることで、生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした、1コース目での治療強度の低下でこれらの結果を説明できる可能性がある、と結論付けている。感想「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」が、重篤な有害事象発生割合を減らすことが示された。現時点では、具体的なサポート方法が公表されていないため、最も重要な部分がわからないが、丁寧に高齢者を評価してサポートすれば、重篤な有害事象が減少するのは理解しやすいと思われる。一方、Mohileらは、「生存期間を大きく損なうことなく、Grade3~5の有害事象を減らした」と結論付けているが、これは全面的に受け入れられないと考える。今回公表されたのは「6ヵ月」時点での生存期間であり、余命が短い高齢者とはいえ、「6ヵ月」時点の生存期間だけを比較して、生存期間は同じくらいであったというのは無理があるように思う。追跡期間は1年とのことなので、今後1年時点の生存期間に大きな差がないかは確認する必要はあるだろう。また、本試験の特性上、施設をクラスター・ランダム化するしかなかったので仕方ないとはいえ、がん種や治療レジメンなどの背景因子が両群でそろっていない状態での群間比較であるため、有害事象や生存期間などの結果を全面的に信じることはできないと考える。しかし、「通常のがん診療」と「GAの結果とサポート方法を患者と医療者に伝える診療」を比較する場合はクラスター・ランダム化比較試験を選択するのは間違いではなく、それが故に背景因子がそろわないことはやむを得ないともいえる。つまり、今後もこれ以上、質の高い臨床試験は現れない可能性があることになる。したがって、今回の結果をうのみにしないまでも、Mohileらの結論に臨床的な違和感を覚えないのであれば、「高齢がん患者にとってつらいGrade3~5の非血液毒性が減り、そこまで生存期間が短くならない可能性がある」ということくらいは言ってもよいかもしれない。参考1)Gupta Mohile S, et al. ASCO 2020.2)健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス―3)NCCN GUIDELINES FOR SPECIFIC POPULATIONS: Older Adult Oncology4)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.

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単極性と双極性うつ病における自殺念慮の比較

 青年期の単極性うつ病(UD)と双極性うつ病(BD)における自殺念慮や自殺企図のリスクについて、米国・Griffin Memorial HospitalのRikinkumar S. Patel氏らが検討を行った。Psychiatry Research誌オンライン版2020年6月15日号の報告。 対象は、米国入院患者サンプルより抽出した12~17歳の青年患者13万1,740例(UD:92.6%、BD:7.4%)。自殺行動のオッズ比(OR)を算出するため、人口統計学的交絡因子および併存疾患で調整したロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・入院患者全体で、自殺念慮が14.5%、自殺企図が38.6%に認められた。いずれもUD患者で高かった。・女性は、男性と比較し、自殺企図の割合が高かった(OR:1.13、95%CI:1.09~1.16)。・交絡因子で調整した後、UD患者はBD患者と比較し、自殺企図のORがわずかに高く(OR:1.06、95%CI:1.02~1.11)、自殺念慮のORは1.2倍高かった(95%CI:1.11~1.26)。・自殺企図が認められた患者では、93.2%がBD、6.8%がUDであった。・自殺企図の大部分は、BDの入院女性患者(74.6%)で認められた(UD:67.3%)。 著者らは「自殺行動を最小限に食い止める適切な治療を行うには、UDとBDの早期鑑別診断が重要であり、治療ガイドラインに基づいたマネジメントやさらなる研究が求められる」としている。

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75歳以上のCVD1次予防にスタチン導入は有効か/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のない75歳以上の米国退役軍人(多くが白人男性の集団)では、新規スタチンの導入により、全死因死亡と心血管死のリスクが低下し、ASCVD発生のリスクも改善することが、米国・退役軍人局ボストン保健システムのAriela R. Orkaby氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年7月7日号に掲載された。ASCVDの発生率と有病率は加齢とともに上昇し、死亡、QOL低下、医療費増加の主な原因となっている。世界的なASCVD負担の大部分を高齢者が占めるにもかかわらず、予防や治療のガイドラインのエビデンスとなる臨床試験への高齢者の参加はほとんどない。また、米国では、スタチンはASCVDの1次予防の支柱となっているが、ガイドラインでは75歳以上の患者におけるスタチンの役割は、主にデータが少ないことを理由に、曖昧なままだという。75歳以上で、スタチンの役割を評価する後ろ向きコホート研究 研究グループは、75歳以上の退役軍人を対象に、死亡およびASCVDの1次予防におけるスタチンの役割を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(筆頭著者は米国国立老化研究所などの助成を受けた)。 解析には、2002~12年の期間に、ASCVDを有していなかった年齢75歳以上の患者の受診に関する退役軍人保健局(VHA)のデータを用いた。フォローアップは2016年12月31日まで継続された。 これらのデータを、メディケアやメディケイドの保険請求および薬剤データと関連付けた。対象はスタチンの新規使用患者に限定され、使用歴のある患者はすべて除外された。 Cox比例ハザードモデルを用いてスタチンの使用とアウトカムの関連を評価した。解析では、ベースラインの背景因子のバランスを取るために、傾向スコアによる重み付けを用いた。 主要アウトカムは、全死因および心血管疾患による死亡とした。副次アウトカムは、ASCVDイベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈バイパス術[CABG]/経皮的冠動脈インターベンション[PCI]による血行再建)の複合であった。心筋梗塞・虚血性脳卒中には差がない 32万6,981例(平均年齢81.1[SD 4.1]歳、97%が男性、91%が白人)が解析に含まれ、このうち試験期間中に5万7,178例(17.5%)が新たにスタチン治療を開始した。平均フォローアップ期間6.8(SD 3.9)年の時点で、全体で20万6,902例が死亡し、このうち5万3,296例が心血管疾患で死亡した。 全死因死亡の発生は、スタチン使用群が1,000人年当たり78.7件と、非使用群の98.2件に比べ有意に低かった(重み付け発生率差[IRD]/1,000人年:-19.5、95%信頼区間[CI]:-20.4~-18.5、ハザード比[HR]:0.75、95%CI:0.74~0.76、p<0.001)。 また、心血管疾患による死亡も、スタチン使用群が1,000人年当たり22.6件、非使用群は25.7件であり、使用群で有意に低下した(重み付けIRD/1,000人年:-3.1、95%CI:-3.6~-2.6、HR:0.80、95%CI:0.78~0.81、p<0.001)。 複合ASCVDアウトカムのイベント発生は12万3,379例で、スタチン使用群は1,000人年当たり66.3件、非使用群では70.4件と、使用群で有意に少なかった(重み付けIRD/1,000人年:-4.1、95%CI:-5.1~-3.0、HR:0.92、95%CI:0.91~0.94、p<0.001)。 複合ASCVDアウトカムのうち、心筋梗塞(2万4,951例、スタチン使用群13.2% vs.非使用群12.6%、p=0.94)および虚血性脳卒中(3万5,630例、18.4% vs.18.2%、p=0.20)の発生には両群間に差はみられなかったが、CABG/PCIによる血行再建(7万4,362例、35.2% vs.39.2%、p<0.001)の発生は、スタチン使用群で有意に少なかった。 著者は、「高齢患者のASCVDの1次予防におけるスタチン治療の役割を、より信頼性の高いものにするには、無作為化臨床試験を含め、さらなる研究を要する」としている。

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第15回 コロナ禍での面談で自己啓発本に溺れるMRの多さが浮き彫りに?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる受診患者減少が医療機関の経営を直撃していることは繰り返し伝えられている。従来、医療は景気の波や社会情勢などに左右されにくい安定職種と考えられてきたものの、今回は院内・院外での感染回避のため、社会全体で外出自粛のような非常に原始的な戦略がとられた結果、慢性疾患患者を中心とする受診抑制という予想もしなかった事態にさらされた。同時に、この事態は医療機関周辺の患者以外のステークホルダーにも影響を及ぼしている。代表例が製薬企業、とりわけ医療機関を訪問し、医師に直接自社製品の情報提供を行う医薬情報担当者(MR)だ。彼らが感染源となって医療機関で感染者が発生した場合、業界全体の信用低下となってしまうこともあり、2~4月にかけて各社とも訪問を自粛するようになった。この訪問自粛を契機に各社とも盛んに行っているのがMicrosoft Teams、Zoom、Cisco WebexなどのWeb会議システムを通じた医師とのリモート面談である。企業によっては、チャットボットを利用したリモート面談予約機能を備えたり、AIを利用した音声での情報提供などを行ったりしている。医師にとっては自分が聞きたい時間に聞きたいことが聞ける、MRにとっては移動の手間暇がないメリットが挙げられる。もっとも、新型コロナパンデミック以降、知り合いの医師やMRに接触するたびにリモート面談の“使い心地”を尋ねているのだが、双方ともになかなかの“鬼門”だという。結局、こうしたシステムを利用して話すことは日時を設定したアポイントメント面談と同じで、互いに身構えて向き合わなければならない。全体の傾向を代表していそうな個別感想を紹介すると次のようになる。「結局、病院内でMRさんが出待ちして声をかけられるのは自分たちもある種、気が楽だったんですよ。とくに聞くべき情報がない時は歩きながら形式的な会話をして『ごめん、今日は忙しいんで』とほどほどに切り上げればいいし、ちょうど聞きたいことがあったら『ねえねえ…』と聞けばいいし。Webシステムを使って1週間先の日時のアポイントメントを入れたいと提案されると、『なんか聞きたいことあったっけ? まあ、今は思い当たらないし、別にいいや』となっちゃうんですよね」(30代:循環器内科医)「難なくリモート面談ができる医師というのは、ほとんどが普段から対面でそこそこ以上に話せる関係ができている医師です。結局、人間関係ができているので、その時々に応じてコンタクト手段を変えることができるということ。だから、今春に転勤で担当医療機関が変わった他社のMRなんかを見ていると苦労してますよね」(30代:外資系製薬企業MR)昨今では厚生労働省がMRによる不適正な情報提供を是正するため「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を策定し、一部ではMR不要論もささやかれている。では、本当にMRは不要なのだろうか? このコロナ禍の最中に私が接触した医師たち(ざっと30人程度)に尋ねた結果を総合すると、「いなくてもめちゃくちゃ困ることはないが、いたほうがいい」という何とも曖昧な結果となった。ある基幹病院勤務の産婦人科医が絶妙な言い方をしてくれた。「簡単に言うと、風呂の蓋なんですよね。『要る(風呂に入る)時に要らなくて、要らない(風呂を出る)時に要る』みたいな。何か聞きたいことがある時ほど院内にいなくて、忙しくて話をしている時間もない時に限って『先生、先生』って追いかけてくるみたいな。でも聞きたいことがあると言ってもその内容は千差万別で、わざわざMR本人にメールや電話をしたり、製薬企業のDI部門に電話して聞きたいことも多かったり。だから結局、アポを取ってもらってまで訪問してもらうほどではないんです。なんかうまくかみ合わず難しいんですよね」では、MRから聞けるならばぜひ聞きたい情報は何かと尋ねると、意外にも共通していたのは“ほかの医師がどのような処方を行っているか”。「医学部の同級生や研修医時代の同期などに聞いても同じような悩みを抱え、彼らから答えは得られない。しかも、いわゆるKOL医師が講演会などで語る処方の考え方は建前であることも多く、必ずしも参考にはならない」(40代精神科医)からだという。要は、医師は必ずしも自分の処方に自信満々というわけではないということだ。もっともこうしたほかの医師の処方に関する情報をどの程度提供できるかは、製薬業界の自主基準(プロモーションコード)や各社のコンプライアンスに照らすと微妙な側面もある。ただ、いずれにせよ医師側は「今までのような訪問頻度は必要ない」という点でほぼ一致する。そして直接面談の一部がリモート面談に置き換わるだけでなく、医療機関によっては今回の訪問自粛を契機にMR訪問の意義を再検討し、今まで以上に訪問規制をする動きも容易に想像できる。最終的にはMRと医師のコンタクト総量そのものが減少することは必至だろう。もっともMRから聞きたい情報とて、どんなMRからでもいいというわけではない。大学病院の消化器内科で長らく勤務し、現在は開業する50代の医師は次のようにもらした。「基本的にMRの皆さんは一様に賢くて真面目なんですよね。でも、それだけなんですよ。話を聞くと、いろいろとセミナーに行って勉強している人も少なくないのに深みを感じない。非常に酷な言い方をすれば、頭は良いはずなのに教養は高くない。たとえば、私たち医師は多様な患者さんに接して単純にエビデンスで割り切れないことを数多く経験している。在宅医療をやっている開業医は亡くなる患者の看取りもするので生や死のことも考える。そんなことはMRの皆さんは百も承知なはずなのに、なぜか話していて、彼らに共感することも、彼らに共感されたと感じることもないんです。うるさいこと言っていると思われるかもしれないけど、どうせ直接面談するならそうした感性が共有できるMRさんと面談したいですよね」知り合いの製薬企業関係者には不快に思われてしまうかもしれないが、実は私はこの言葉に大きくうなずいてしまった。しかもこのコロナ禍の最中にそれを顕著に感じた瞬間があった。外出自粛で在宅勤務の人が増え、Web上ではこの退屈な雰囲気の中で楽しみながら人とつながるという動きが顕在化した。それがZoomなどを利用したオンライン飲み会であり、SNS上であるテーマについて人をつないで投稿する“バトン”である。このバトンの一つに自分が感銘を受けた本の表紙を1週間にわたって紹介する「ブックカバーチャレンジ」というものがあった。私自身も私の周囲もFacebookでブックカバーチャレンジの投稿をしていたが、私がFacebookでつながっている製薬企業関係者(私のつながっている友達の2割弱)の取り上げる本にはある種の共通した特徴があった。それは老いも若きも紹介する本は、事実上、ビジネスハウツーや自己啓発系に著しく偏るのである。少なくとも私のFacebook上では他の業界の人と比べ、あまりにも顕著過ぎた。これをn=1の事例と言ってしまえばそれまでだが、実は似たような経験は過去にもある。私は製薬産業や医療業界に関わるある研究会の裏方を務めているが、そこで開催する講演会では、まさにハウツー的なテーマではすぐ満席になるが、倫理などやや概念的なテーマになるとあっという間に閑古鳥が鳴く。さらに言えば、私の見立てでは製薬業界の人はかなりの比率でMBA(経営学修士)の取得を目指す人が目立つ。要は“人に勝つため”のテクニックに異常なまでに興味を示す。あまりに“現金”過ぎて思わず笑ってしまうほどだ。だが、医療はいま大きな変革期にある。これまではどちらかというとエビデンスという名の正義に押しやられていた患者個人の価値観が台頭し、国内の医療制度では「地域包括ケア」という概念が登場している。端的に言えば、医療の中に多様化の波が押し寄せ、“解”は一つではなくなっている。しかし、製薬企業関係者はその波に逆行するかのように、やたらと唯一絶対の“解”を求めているかのようだ。しかも、その求める“解”とは患者や医療をより高めるものというよりは、あまりにも自分を高みに置くことにより過ぎているように映る。そんなこんなでふと思い出した言葉がある。それはイギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルがケンブリッジ大学教授となった際に唱えた「Cool head but warm heart(冷静な頭脳と温かい心)」。経済学とはお金の動きも含め、世の経済現象を探求する学問。ロンドンの貧民街を目にしたマーシャルは、冷静に経済を分析することで苦難にあえぐ人々を助けるのが経済学者の矜持だと指摘したのである。ちなみに経済学の世界では有名なケインズ経済学で有名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズはこのマーシャルの直弟子である。この“warm heart”は共感と読み解くことができる。泥臭いと言われるかもしれないが、私はAI時代、直接面談減少時代に生き残れるMRに必要な資質の一つはこの“warm heart”なのではないかとの意を強くしている。

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身体活動ガイドライン順守で、全死因・原因別死亡リスク減/BMJ

 米国では、「米国人の身体活動ガイドライン2018年版(2018 Physical Activity Guidelines for Americans)」で推奨されている水準で、余暇に有酸素運動や筋力強化運動を行っている成人は、これを順守していない集団に比べ、全死因および原因別の死亡リスクが大幅に低いことが、中国・山東大学のMin Zhao氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2020年7月1日号に掲載された。本研究の開始前に、身体活動ガイドラインの推奨を達成することと、全死因死亡や心血管疾患、がんとの関連を評価した研究は4件のみで、その結果は一致していなかった。また、身体活動ガイドラインと他の原因別の死亡(アルツハイマー病や糖尿病などによる死亡)との関連を検討した研究は、それまでなかったという。推奨順守で4群に分け、全死因と原因別の死亡を評価 研究グループは、米国の成人を代表するサンプルを用いて、米国人の身体活動ガイドラインの2018年版で推奨されている身体活動と、全死因死亡および原因別死亡の関連を評価する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(責任著者は山東大学から研究支援を受けた)。 国民健康聞き取り調査(National Health Interview Survey)の1997~2014年のデータと、国民死亡記録(National Death Index)の2015年12月31日までのデータを関連付けた。成人(年齢18歳以上)47万9,856人が解析に含まれた。 調査参加者の自己申告に基づき、1週間の余暇時間のうち有酸素運動および筋力強化運動に費やした時間を集計し、身体活動ガイドラインに従って、4つの群(運動不足、有酸素運動のみ、筋力強化運動のみ、有酸素運動+筋力強化運動)に分類した。 主要アウトカムは、国民死亡記録から得た全死因死亡と原因別死亡とした。原因別死亡には、8つの疾患(心血管疾患、がん、慢性下気道疾患、事故/負傷、アルツハイマー病、糖尿病、インフルエンザ/肺炎、腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼ)が含まれた。有酸素+筋力強化運動で、死亡リスク40%減 47万9,856人中7万6,384人(15.9%)が有酸素運動+筋力強化運動群、11万3,851人(23.7%)が有酸素運動群、2万1,428人(4.5%)が筋力強化運動群、26万8,193人(55.9%)は運動不足群に分類された。 ガイドライン2018年版の推奨を完全に満たした成人の割合は、男女とも年齢が上がるに従って低下した。ベースラインの背景因子のすべてで、4つの群に有意な差が認められた。ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群に比べ、これを満たした3群の参加者は、年齢が若く、男性や白人、未婚者、非喫煙者、少量~中等量の飲酒者が多く、学歴が高く、正常体重者が多く、慢性疾患を有する者が少なかった。 追跡期間中央値8.75年の期間中に、5万9,819人が死亡した。このうち、1万3,509人が心血管疾患、1万4,375人ががん、3,188人が慢性下気道疾患、2,477人が事故/負傷、1,470人がアルツハイマー病、1,803人が糖尿病、1,135人がインフルエンザ/肺炎、1,129人が腎炎/ネフローゼ症候群/ネフローゼで死亡した。 全死因死亡のリスクは、ガイドラインの推奨を満たさなかった運動不足群と比較して、筋力強化運動群が11%(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.85~0.94)、有酸素運動群が29%(0.71、0.69~0.72)低く、有酸素運動+筋力強化運動群(0.60、0.57~0.62)では、さらに大きな生存に関する利益が認められ、リスクは40%減少していた。 また、同様の関連が、心血管疾患死(筋力強化運動群のHR:0.82[95%CI:0.74~0.92]、有酸素運動群:0.65[0.62~0.69]、有酸素運動+筋力強化運動群:0.50[0.46~0.56])、がん死(0.85[0.77~0.95]、0.76[0.73~0.80]、0.60[0.56~0.65])、慢性下気道疾患死(0.76[0.62~0.93]、0.42[0.37~0.47]、0.29[0.23~0.37])で観察された。 著者は、「これらのデータは、ガイドラインで推奨されている身体活動の水準が、重要な生存上の利益と関連していることを示唆する」としている。

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