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過敏性腸症候群に対する1次治療が無効な患者に2次治療として抗うつ薬の低用量アミトリプチリンが有効(解説:上村直実氏)

 過敏性腸症候群(IBS)は便秘や下痢などの便通異常に加えて腹痛を伴う機能性の腸疾患である。IBSの診断について、一般的には国内外のガイドラインで示されるRome IV基準に従って『3ヵ月以上の腹痛と6ヵ月以上前からの便通異常を有する患者』とされるが、わが国における実際の診療現場においては、病悩期間にかかわらず『大腸がんなどの器質性疾患を除く便通異常と腹痛を伴う病態』をIBSとして取り扱うことが多い。 治療に関しては、1次治療として食事指導や生活習慣の改善および消化管運動改善薬や下剤・止痢剤など便通改善薬を用いた薬物治療を行い、症状に改善傾向を認めない場合には2次治療として抗不安薬や抗うつ薬などの抗精神薬が推奨されているが、IBSに対する抗うつ薬の有用性を示すエビデンスは乏しいのが現状であった。 今回、英国で三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンがIBSの2次治療として有効であるかどうかを評価するために、プライマリケアを中心として施行されたRCTの結果が2023年10月16日のLancet誌オンライン版に報告された。1次治療で効果のなかったIBS患者463症例を対象として低用量アミトリプチリンとプラセボを投与した結果、アミトリプチリン群において6ヵ月後のIBS重症度スコアが20%以上有意に改善した。この結果から、第一選択療法が無効なIBS患者に低用量のアミトリプチリンを提供すべきで、英国のガイドラインを更新する必要があると結論している。 日本の医療現場でIBS患者を最初に診療するのは診療所の実地医家や消化器内科医であり、心理状態を把握したうえで処方される抗うつ薬は副作用の問題などから使用されるケースは多くないと思われる。しかし、今回のRCTによるエビデンスから、消化管運動改善薬や便通異常改善薬に反応しない難治性IBSに対する2次治療として低用量の三環系抗うつ薬が使用されることが期待される。

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最新の制吐療法、何が変わった?「制吐薬適正使用ガイドライン」改訂

 『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版』が発刊された。本書は2015年10月【第2版】(Web最新版ver.2.2)を全面改訂したもので、書籍としては8年ぶりの改訂となる。悪心・嘔吐治療の基本は“過不足ない適切な発現予防を目指す”ことであることから、第3版では、がん薬物療法の催吐性リスクに応じた適切な最新の制吐療法を提示するのはもちろん、有用性が明確ではないまま行われている非薬物療法のエビデンスに基づいた評価、患者サポートとして医療現場で行うべき制吐対応などにも焦点が当てられている。今回、ガイドライン改訂ワーキンググループ委員長の青儀 健二郎氏(四国がんセンター乳腺外科 臨床研究推進部長)に主な改訂ポイントについて話を聞いた。 まず、本書は8つの章で構成されている。第I章のガイドライン概要にはアルゴリズム、用法・用量を図式化したダイアグラムが明記され(p.18)、第II章の総論では各種抗がん薬の催吐性リスク分類を掲載(p.29~35)。これらを組み合わせれば、患者のレジメンに応じた制吐対策が誰でも確認可能なのが一つの特徴である。なお、悪心・嘔吐の発現時期や状態の定義は以下のとおり前版からの変更はない。<悪心・嘔吐の定義>・急性期悪心・嘔吐:抗がん薬投与開始後24時間以内に発現する悪心・嘔吐・遅発期悪心・嘔吐:抗がん薬投与開始後24~120時間(2~5日目)程度持続する悪心・嘔吐・突出性悪心・嘔吐:制吐薬の予防的投与にもかかわらず発現する悪心・嘔吐・予期性悪心・嘔吐:抗がん薬のことを考えるだけで誘発される悪心・嘔吐*急性期と遅発期を合わせて全期間(抗がん薬投与開始から5日間程度)とする。*抗がん薬投与開始120時間後以降(6日目以降)も持続する超遅発期悪心・嘔吐(beyond delayed nausea and vomiting)も注目されている。最新のエビデンスに基づく制吐療法-オランザピンの影響力強く 第III~VII章には推奨やステートメントが盛り込まれており、Clinical Question(CQ)全12項目、Future Research Question(FQ)全3項目、Background Question(BQ)全13項目が設けられている。とくに、適応外使用されていた非定型抗精神病薬オランザピン(商品名:ジプレキサ ほか)が2017年に本邦でのみ「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」に対して保険適用となり、急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった点、予防的制吐療法としてオランザピン処方が開発された点が改訂に大きな影響を与えている(CQ1、4、5参照)。また、遅発期のデキサメタゾン投与省略のエビデンスが示されたこと(CQ2、6参照)、中等度催吐性リスク抗がん薬に対するNK1受容体拮抗薬の予防的投与について新たなエビデンスが示された(CQ3)。 同氏は「オランザピン投与に際し、傾眠などの副作用を考慮して国内では1日の投与量を5mg(1日量は最大10mg)に設定している。また、糖尿病への投与について、海外では禁忌ではないため糖尿病患者にも注意したうえで処方がなされているが、“国内では禁忌”のため、本書ではオランザピン投与の推奨を国内版にアレンジしている」とし、「この点が国内でのオランザピン処方拡大の足かせになっている」と処方におけるジレンマについても語った。非薬物療法もがん治療遂行に重要も…その評価結果は 続いて第VI章では、第2版では取り上げなかった非薬物療法による制吐療法にも踏み込み、患者から希望を受けた際にどのような根拠を基に説明するべきか、文献のシステマティックレビューに基づいた具体的な内容が記載されている(CQ10、11参照)。非薬物療法に該当するものとして、以下が挙げられる。・ショウガ   ・鍼      ・経皮的電気刺激   ・指圧   ・運動    ・漸進的筋弛緩 ・ヨガ     ・アロマ       ・食事   ・音楽   ・呼吸     ・患者教育   ・オステオパシー   ・リフレクソロジー  ・マッサージ  ・セルフケア  ・ベッドサイドウェルネス 同氏は「悪心・嘔吐ならびに予期性悪心・嘔吐に対して非薬物療法を併施しないことを弱く推奨する、で合意に至った。これまでの治療の明確化のみならず手広く実臨床でニーズがあるものを拾い集めたうえで議論を重ねた」とコメントした。なお、技法全般を総括すると、鍼治療による悪心抑制(エビデンスの強さ:C[弱])、運動療法による悪心・嘔吐抑制(同:D[非常に弱い])、アロマ療法による悪心抑制(同D[非常に弱い])で有意な効果を認め、本書にはランダム化比較試験が2編以上抽出された9つの技法について、システマティックレビューのまとめを記載している(p.120~141参照)。今後の課題、在宅療養中の“超遅発期”対応 このほか第VII章では制吐療法の評価と患者サポート、第VIII章では医療経済評価に触れている。患者サポートの例としては、昨今、世界的にも注目を集めている超遅発期への対応が該当する。超遅発期の悪心・嘔吐は退院後も尾を引き、自宅生活を送るなかで生じるため医療者の目に触れにくく、在宅療養中のためにエビデンス収集できていないのが現状である。「患者の声を受け取りしっかりフォローできるかどうか、看護師を中心にエビデンスを収集し方針を固めた。そして、超遅発期にも応用できる制吐療法を提言していきたい」と同氏は今後の課題にも触れた。一方で、医療経済面においては「日本癌治療学会で行ったアンケート調査によると、制吐療法を手厚く行う施設も散見されるため、ぜひ本書の催吐性リスク分類を参照にしたり、1サイクル目に悪心がなかった患者には2サイクル目から制吐薬を一部減らせるかなどを検討したりしてもよいのではないか」と説明した。 今後の動向として、「ガイドライン発刊前後での診療動向の変化を調査するため、改訂ワーキンググループ主導で本書の普及率に関するWebアンケート調査を行った。来年も調査を行い学会などで報告することで制吐療法の適正使用の啓発に努めていく」と締めくくった。

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第174回 2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省

<先週の動き>1.2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省2.1%の薬価引き下げで医療費抑制と処遇改善へ、製薬産業が犠牲に/厚労省3.健康保険証廃止、マイナ保険証への移行は予定通りの2024年秋か/政府4.特許切れの先発品を希望した患者の自己負担増、来年度から/厚労省5.急増する高齢者対策、2025年夏から介護保険利用料の2割負担を拡大へ/厚労省6.カテーテル治療後の死亡事例、さらに10例を追加調査へ/神戸徳洲会病院1.2024年度診療報酬改定の基本方針、医療DXと人材確保が焦点に/厚労省 厚生労働省は、12月8日に社会保障審議会の医療部会と医療保険部会で「2024年度の診療報酬改定に関する基本方針案」を提示し、大筋で了承された。今回の改定の主な柱は、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)、物価高騰を考慮した賃金上昇、人材確保、医師らの働き方改革であり、これらに取り組むとしている。改定の重点課題としては、人材確保と働き方改革の推進が挙げられ、医療従事者の賃上げを促す方向性が打ち出された。とくに「コメディカル」の賃金格差の解消と人材流出の防止を目指す。また、地域包括ケアシステムの推進や医療機能の分化・強化、連携の推進といった従来の取り組みも強化する。基本方針案では、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにデジタル化の遅延が明らかになったことを受け、マイナ保険証や電子カルテの活用による医療機能の強化を明記された。また、医療従事者の長時間労働といった厳しい勤務環境の改善も強調されている。医療部会では、医療従事者の処遇改善、医療DXの推進、高齢者の救急医療の充実などに関する意見が出されたほか、医療保険制度の持続可能性を向上させるために効率化・適正化も議論された。今後、この基本方針をもとに、来年度の当初予算案を閣僚間で最終調整する「大臣折衝」を経て、改定幅が年内に最終決定される。参考1)令和6年度診療報酬改定の基本方針(厚労省)2)診療報酬改定の基本方針案、大筋了承 社保審部会 医療DX、人材確保強化(産経新聞)3)24年度診療報酬改定の基本方針案を了承 社保審の2部会、重点課題は1つに(CB News)2. 1%の薬価引き下げで医療費抑制と処遇改善へ、製薬産業が犠牲に/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定において、医薬品の公定価格の「薬価」を市場取引価格に近付けるため、約1.0%程度の引き下げを検討している。この措置により、医療費の約4千億円が抑制され、国費1千億円程度の圧縮が見込まれている。さらに厚労省は医療従事者、とくに看護補助者らの賃上げを実施した医療機関に対して、報酬を加算する仕組みの導入を検討している。この賃上げの加算は、実績に応じて報酬を増やす仕組みであり、厚労省と財務省が対象職種や加算金額を協議している。診療報酬は、薬価部分と医師や医療従事者らの人件費に当たる「本体」部分から成り立っており、今後の本体部分の改定率が焦点となる。日本医師会は賃上げの実現に向けて増額を訴えているが、財務省は診療所の利益が多いとして引き下げを主張している。厚労省は、看護職員処遇改善評価料を超える幅広い職種の賃上げにつなげるための仕組みを中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会で検討する方針だが、具体的な処遇改善策は年明けに示される予定で、看護職員に限らず医療現場で働く全職種の賃上げが必要とされている。一方、わが国の製薬業界は、薬価の過度な抑圧により、構造的デフレ産業に陥るリスクが指摘されている。新薬開発の成功率が低く、とくにわが国の薬価制度では革新的な医薬品の価格が低く抑えられる傾向にあり、日本市場の魅力が失われたため、新薬の発売が米国や欧州市場よりも遅れる「ドラッグ・ラグ」や、まったく発売されない「ドラッグ・ロス」が問題となっている。今年4月、日本製薬工業協会(JPMA)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)からなる日米欧製薬3団体は来年度の改定にあたって、薬価制度改革への提言を行い、患者の新薬へのアクセスを確保し、企業が次世代の治療法やワクチンに再投資できるようにするために、新薬を開発する企業のイノベーションを推進するような薬価制度への移行を求めていた。なお、今年の11月に開催された中医協の薬価専門部会では、ドラッグ・ロスに陥っている医薬品86品目のうち39品目が「わが国にはその病気に対する既存薬がない」と報告されていた。参考1)「薬価」1%引き下げを検討 診療報酬改定、賃上げで加算も(共同通信)2)薬価1%引き下げ検討 診療報酬、賃上げで加算も 6年度改定、厚労省(産経新聞)3)診療報酬の処遇改善策、年明けに具体案 中医協の分科会で枠組み検討へ(CB News)4)2024年度(令和6年度)薬価制度改革への提言(製薬協)5)「薬のないニッポン」 薬価抑圧が招いた危機(日経新聞)6)薬価下落、製薬業は「構造的デフレ」 制度見直し求め自民議連が提言(朝日新聞)3.健康保険証廃止、マイナ保険証への移行は予定通りの2024年秋か/政府政府は、現行の紙の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」に切り替える方針を明らかにしている。岸田 文雄首相が12日に開催予定の「マイナンバー情報総点検本部」で、予定通り2024年秋に廃止の方針を表明する見通しという報道があった。これに対して武見 敬三厚生労働大臣は、12月8日の記者会見で「決定した事実はない」と述べ、国民の不安を払拭する発言を行った。政府は、マイナンバーカードのトラブルを受けて総点検を行い、その結果を踏まえて最終判断を下す意向。政府関係者によると、マイナ保険証への移行には問題がないと判断されている。これまでデジタル庁の「マイナンバー情報総点検本部」による点検では、マイナ保険証や障害者手帳のひも付けに関する誤りが確認されたが、政府は再発防止策を整え、国民の理解を得る方針。来秋の保険証廃止後も、最長1年間は現行の保険証が利用でき、マイナ保険証を取得していない人には「資格確認書」が発行される予定。厚生労働省は「医療DX令和ビジョン2030」の実現に向けて、マイナンバーカードの普及、さらに利活用推進を進めており、医療・介護の情報共有化に向けて「医療DXの推進に関する工程表」を公開している。医療・介護業界はさらに情報連携のためにIT投資を求められる見込み。参考1)医療DXについて(厚労省)2)医療DXの推進、マイナ保険証の利用及び電子処方箋の導入に関する状況について(同)3)健康保険証の廃止時期「方向性決定の事実ない」武見敬三厚労相(産経新聞)4)現行の健康保険証の廃止、予定通り来年秋…マイナ保険証への移行に問題なしと判断(読売新聞)5)保険証「来秋」廃止方針を維持 12日にも首相表明 政府(時事通信)4.特許切れの先発品を希望した患者の自己負担増、来年度から/厚労省厚生労働省は、12月8日に開かれた「社会保障審議会医療保険部会」で、2024年度中にも後発薬(ジェネリック医薬品)がある先発薬を希望した患者の窓口負担の金額を引き上げる方針を示した。具体的には、発売から5年以上経過した先発品を対象に、ジェネリック医薬品との価格差の一部を患者が全額自己負担する案が提案されている。たとえば、先発品が500円、ジェネリックが250円の場合、窓口負担が3割の患者では、現在150円を支払っているものが200円から250円に増える計算。厚労省は、後発薬との差額の4分の1(25%)を患者の負担に上乗せする案を中心に検討している。この方針により、国費で100~250億円の財政効果が見込まれ、創薬力強化や後発薬の安定供給策に活用される予定。また、医師が先発薬の処方を必要と判断した場合は対象外となる。病気によっては診療ガイドライン上で薬の変更が望ましくないものもあり、これらの状況には配慮されることになっている。この方針に対して、患者の追加負担に関するさまざまな意見が出されており、患者は負担増に敏感であるため、負担は広く薄くすることが望ましいとの声もある。また、薬局など現場での混乱を防ぐため、処方箋様式の見直しについても検討が進められている。参考1)第172回 社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)先発医薬品希望する患者 窓口負担引き上げの方針 厚労省(NHK)3)後発品のある先発薬利用、差額の一部自己負担 厚労省検討 来年度にも、25%程度(日経新聞)4)24年度予算編成作業本格化 長期収載品の選定療養 財政効果は「400億~1000億円」 自民党医療委(ミクスオンライン)5.急増する高齢者対策、2025年夏から介護保険利用料の2割負担を拡大へ/厚労省厚生労働省は、12月7日に「社会保障審議会介護保険部会」を開き、介護保険サービスの利用料について、2割負担の対象拡大を早ければ2025年8月から実施する方針を示した。現在、介護保険の利用者は1割負担が基本で、一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割負担となっている。政府が少子化対策の財源確保と社会保障制度の持続可能性を高めるために、負担割合の見直しを2024年度に実施する計画を立てていたが、システム改修や利用者への周知に時間が必要とされるため、実施時期が遅れることになった。厚労省では、2割負担の対象者を拡大するために、年収基準の引き下げなどを提案しているが、この提案に対して、介護サービスの利用控えや生活への影響を懸念する声が多く、審議会では慎重な判断を求める意見が出された。政府は、介護保険の制度改革は、保険制度を維持するために必要とされ、高齢者人口の増加と介護給付費の増大に対応するため不可欠であり、介護保険の1号被保険者(65歳以上)が支払う保険料の見直しや、介護医療院などの室料負担の変更も検討している。また、政府は、物価高によって生じている介護事業者の経営環境の悪化を踏まえ、介護報酬の引き上げと利用者負担の見直しを併せて議論を続け、来年度の介護報酬の改定幅を年末までに決める方針。参考1)介護保険利用料、2割負担拡大 来年度の導入を事実上断念 厚労省(朝日新聞)2)介護2割負担の範囲拡大、早ければ25年8月施行 年収基準引き下げで9類型提示、厚労省(CB News)3)介護2割負担拡大、年内決定へ 年収190万円以上で試算(日経新聞)4)第109回 社会保障審議会介護保険部会(厚労省)6.カテーテル治療後の死亡事例、さらに10例を追加調査へ/神戸徳洲会病院神戸徳洲会病院で、今年1月以降にカテーテル治療を受けた複数の患者が死亡した問題が今年の7月に発覚していたが、具体的な死亡事例の数は11件に上ることがわかった。一連の死亡事例は、循環器内科医によるカテーテル処置に関連しているとされ、神戸市保健所は今年8月に、病院の医療安全管理体制に問題があったとして行政指導を実施した。病院側は、これまで2件の死亡事例について国の医療事故調査制度に基づいて調査を進めていたが、新たに10件の死亡や合併症の事例が調査対象に追加された。病院のホームページによると、男性医師によるカテーテル処置150件のうち、11件が死亡例であったことを明らかにされた。現在、病院側は、死亡と処置の関連について外部の専門家を交えた検証を進めており、病院は当初の2例と新たな10例の結論は2024年3月末を目途に結論を出すとしている。カテーテル治療後の患者死亡を巡っては、今年の9月に被害者救済の弁護団が設立されており、民事訴訟など今後予想されている。参考1)【第2報】当院循環器内科におけるカテーテル治療・検査に関する経過報告について(神戸徳洲会病院)2)カテーテル手術で患者死亡、10件追加調査 神戸徳洲会病院(産経新聞)3)被害者支援へ弁護団を結成 神戸徳洲会病院の患者死亡(同)4)カテーテル治療後に複数死亡、神戸徳洲会病院が別の10例も調査 外部専門家ら、来年3月末をめどに結論(神戸新聞)

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投与時間短縮のペルツズマブ・トラスツズマブ配合皮下注、患者・医療者の使用感は/中外

 抗HER2ヒト化モノクローナル抗体のペルツズマブおよびトラスツズマブの配合皮下注製剤「フェスゴ配合皮下注IN(初回投与量)、同MA(維持投与量)」が11月22日に発売された。これを受けて11月30日、中外製薬は新製品発売説明会を開催。林 直輝氏(昭和大学医学部 乳腺外科)が登壇し、HER2陽性乳がん患者に対して実施された2つの臨床試験結果と現場での活用の可能性について講演した。 フェスゴはペルツズマブとトラスツズマブをそれぞれ固定用量で配合し、薬液の浸透吸収促進を目的としてボルヒアルロニダーゼアルファを配合した皮下注製剤。従来の静注製剤を続けて投与する場合、初回が約150分、2回目以降が60~150分かかるのに対し、フェスゴは初回が8分以上、2回目以降が5分以上に投与時間を短縮できる。 現在、国内ガイドラインでペルツズマブとトラスツズマブの併用療法が推奨されているのは、HER2陽性の乳がん(術前/術後療法と進行・再発乳がん1次治療)およびがん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんとなっている。従来の静注製剤と同等の血中濃度が保たれていることを確認 フェスゴと従来の静注製剤を比較した臨床試験としては、HER2陽性早期乳がん患者の術前・術後療法としてフェスゴと化学療法を併用した場合の薬物動態、有効性・安全性を検討した国際共同第III相FeDeriCa試験(日本も参加)、および患者選好度と皮下投与の満足度を評価した第II相PHranceSCa試験がある。 FeDeriCa試験における主要評価項目(サイクル7でのペルツズマブ血清中トラフ濃度[Ctrough])は、静脈注射群に対するフェスゴ群の幾何平均値の比(GMR)が1.22(90%信頼区間[Cl]:1.14~1.31)と信頼区間の下限値が非劣性マージンの0.8を上回り、非劣性が示されている。また副次評価項目である全病理学的完全奏効率(tpCR率)は、フェスゴ群59.7%(95%CI:53.3~65.8)に対し静脈注射群59.5%(95%CI:53.2~65.6)と同等の結果が得られた。 主な有害事象の発現状況はおおむね同様で、注入に伴う反応が静脈注射群13.9%に対しフェスゴ群3.6%と少なく、注射部位反応は静脈注射群0.8%に対しフェスゴ群12.9%と多くみられた。投与中止に至った有害事象は、静脈注射群10.3%、フェスゴ群6.9%であった。クロスオーバー試験で患者満足度を比較・検証 PHranceSCa試験は、HER2陽性早期乳がん患者の術後療法としてフェスゴおよび静脈注射をクロスオーバーで3サイクルずつ投与し、その後どちらかの治療を選択するデザインで実施された。主要評価項目のフェスゴに対する患者選考度について、フェスゴを選好した患者は85.0%、静脈注射を選好したのは13.8%であった。林氏は、「5~8分以上の皮下投与と聞くとはじめは不安に感じる患者さんもいるかもしれないが、臨床試験に参加した患者さんの選好度の高さから、実際行ってみて多くの人が問題ないと感じたことがうかがえる」とした。また、看護師や薬剤師などの医療従事者に、利便性のほか時間や設備といった医療資源の利用状況について聞いた質問では、いずれもおよそ8割以上がフェスゴ群を選好した。 なお、投与準備時間のサイクルごとの中央値はフェスゴ群5分に対し静脈注射群15~20分、投与時間のサイクルごとの中央値はフェスゴ群7~8分に対し静脈注射群60~150分であった。 「働きながら、あるいは育児や介護をしながら治療を続ける乳がん患者さんが多い中で、投与時間を短縮できることは生活の質の向上に大きく寄与する可能性がある」と林氏。医療者側にとっても、外来化学療法室が非常に混雑していることを挙げ、初回投与は全体で約4時間~4時間半、2回目以降は約2時間~2時間半短縮できることは医療資源・人的資源の面でメリットが非常に大きいとしたうえで、「それぞれの患者さんの状態や希望に応じて、個別に最適な剤型を選択していくことが重要」とまとめた。 なお、医療者側の注意点としては、皮下注での投与中同じ体勢を保つ必要があるため、ベッドまたは投与者自身の膝に肘を固定するなど投与しやすい方法を事前に確認し、体勢を保持できるようにすることが必要だろうと話した。

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精神科医の統合失調症薬物治療ガイドライン順守と患者の労働時間

 統合失調症は社会的機能不全を伴う精神障害であり、患者の労働時間の短縮などさまざまな課題を引き起こす。国立精神・神経医療研究センターの伊藤 颯姫氏らは、精神科医のガイドライン順守と統合失調症患者の労働時間との関連を調査した。統合失調症の薬物治療ガイドラインを精神科医がどの程度順守しているかを測定するため、本研究の研究者らは患者ごとの精神科医のアドヒアランスに関する治療適合度(individual fitness score:IFS)を最近開発した。しかし、精神科医のアドヒアランス向上が、労働時間などの患者の社会的機能アウトカムの改善にどの程度関連しているかは、依然としてよくわかっていなかった。Schizophrenia (Heidelberg, Germany)誌2023年11月7日号の報告。 自身が治療中の統合失調症患者に対する精神科医の統合失調症薬物治療ガイドライン順守と、同患者の労働時間との関連を評価するため、研究者らは統合失調症患者286例を対象に、IFSと社会的活動評価を用いてデータを収集し、IFS値と労働時間との相関関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・精神科医のガイドライン順守は、統合失調症患者の労働時間との有意かつ正の相関を示した(rho=0.18、p=0.00215)。・患者を治療抵抗性統合失調症(TRS)群(40例)と非TRS群(246例)に分類した場合、TRS群の多くで労働時間の短縮が認められた(1週間当たり0~15時間)。・TRS患者を除外した後でも、非TRS患者における精神科医のガイドライン順守と患者の労働時間との間には正の相関が認められ、依然として有意なままであった(rho=0.19、p=0.00332)。・ガイドラインで推奨されている薬物治療が実施されていた患者では、より長い労働時間が認められた。 結果を踏まえ、著者らは「統合失調症患者の機能的アウトカムを改善するためには、精神科医に対する広範な教育およびトレーニングが必要である可能性が示唆された」とまとめている。

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現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

 この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。 ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。 こうした議論のそもそもの背景には、2007年にNEJM誌に発表されたCOURAGE試験があった。この試験により、安定狭心症に対するPCIは薬物療法に比して心筋梗塞や死亡の発生率を減らすことができないことが示されたのである。以後、PCIはもっぱら症状の改善を目的として行われるようになっていた。ところがORBITA試験は、PCIでは肝心の症状の改善すら明確には望めないと断じたのである。 ただし、こうした結果を重症虚血症例にまで拡大適応してはならないことは、他ならぬCOURAGE試験のサブ解析によって示された。サブ解析については紙面の関係から深入りしないが、これはORBITA試験についてもいえることで、この試験では重症虚血例は除外されていた。 ORBITA試験の研究グループは、今回大きく視点を変えてPCI単独の効果の検討を試みた。抗狭心症薬による治療をほぼ受けておらず、かつ客観的虚血が認められる安定狭心症の患者に対してPCIを施行し、PCIにより狭心症症状スコアが有意に改善することを無作為化検定で証明したのである。発想の転換というか、「では薬物の影響を極力排除した場合、PCIは本当に単独で症状改善効果を期待できるのか?」という設問を立てたもので、PCIに対して疫学的観点から評価を与えたものといえるだろう。しかし、ORBITA試験の結果との関係を論じるとなると、難しいものがあるのが事実である。PCIが単独で症状改善効果を持つとして、ではなぜ薬物治療下では追加的な効果が期待できないのか? この疑問には何も答えていないからである。 本試験の問題点としてまず指摘されるのは、前回と同様に、重症患者が試験対象から除外されていることだろう。論文中には明記されてはいないが、血小板機能阻害薬とスタチン以外のすべての薬剤を中止することが医学的にも倫理的にも許容される安定狭心症とはどの程度の重症度であるかは、臨床に携わる医師ならば誰でもわかることである。 しかし、そうした除外規定を容認するとしても残るのが、症状を主要エンドポイントに据えたことであると思う。PCIを実際に施行されたグループでは、複数ある狭窄を含めてすべてを完全に治療されたのである。それでもプラセボ群と大きな差がついたとはいえ、無視できない数の患者が症状を訴えているのである。 こうした現象を評者はよく狭心症・心筋梗塞と脳虚血の違いを例にとって説明している。脳虚血発作の症状は傷害部位によって特徴的かつ明確であり、また発症時期も明らかである。それに対して虚血性心疾患の場合は、心筋梗塞の場合といえども症状は必ずしも典型的なものとは限らず、また発症時期も明らかにすることは難しい。心筋梗塞の治療成績の検討にdoor-to-balloon timeが用いられ、onset-to-balloon timeが用いられないのはonset timeが明確に決められないからである。狭心症についてはさらに難しい。狭心症状はある意味、大変に主観的なものなのである。虚血の発生を客観的に明示できる方法を用いない限り、この種の研究には常に限界が付きまとうのである。これはORBITA試験についてもいえることで、運動時間といっても息切れの発生や動悸の発生で運動を止めているのか、明確なST-T変化によって運動を止めているのかで意味はまったく異なってくる。両論文には、少なくとも明確なST-T変化が見られるまで続行したという、はっきりした記述は見られない。 PCIはすでに成熟した治療法である。一時は確かに業績欲しさに不必要なPCIが行われた嘆かわしい時期があったことは事実であるが、それは過去のことである。現在、冠動脈の形態は造影CTで無侵襲で見ることができ、虚血の評価はMRIだけでなく、最近はFFR-CTなどの技術も実用化している。ワイヤを冠動脈内に入れれば病変形態は冠動脈エコーにより観察できるし、OCTを用いれば石灰化の厚さ・形態、粥腫の安定性の評価も可能である。さらに、治療の必要性についてはFFR/iFRにより的確に判断できる。評者は、当たり前のことであってもきちんと証明することには常に価値があると、日頃より発言してきた。その意味からこの研究を評価するかと聞かれたとするなら、残念ながら現代の技術レベルを無視した研究には、どれだけ多くの人が関わり手間をかけたとしても、評価することはできないとお答えするしかない。この論文評を書いている2023年現在、PCIの効果をこうした疫学的手法から検討しようという時代は終わっているとしかいえないと考えるからである。

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皮膚疾患へのJAK阻害薬、心血管リスクを増加させず

 無作為化比較試験35件の皮膚疾患患者2万例超を対象としたメタ解析において、JAK阻害薬の使用はプラセボ/実薬対照と比較して、主要心血管イベント(MACE)および全死亡、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスク増加と関連しなかった。米国・New York University Grossman School of MedicineのJenne P. Ingrassia氏らが報告した。JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症などの皮膚疾患に対する有効な治療選択肢であるが、米国食品医薬品局(FDA)が経口・外用JAK阻害薬について、MACE、VTE、重篤な感染症、悪性新生物、死亡のリスク増加に関する枠囲み警告(boxed warning)を付している。しかし、この枠囲み警告は関節リウマチ患者を対象とした「Oral Rheumatoid Arthritis Trial(ORAL)Surveillance試験」の結果に基づくもので、皮膚疾患患者で同様の関連が観察されるかは明らかになっていなかった。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月1日号掲載の報告。 研究グループは、皮膚疾患患者におけるJAK阻害薬とMACE、全死亡、VTEの関連を評価するシステマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。 データベース開始日~2023年4月1日の期間にPubMed、ClinicalTrials.govに登録された研究を検索し、皮膚疾患に対してJAK阻害薬を用いた第III相無作為化比較試験を抽出した。JAK阻害薬はFDA承認または承認申請中、あるいはEUや日本で承認されている薬剤とした。対照群の設定されていない試験、ケースレポート、観察研究、レビューに関する論文は除外した。 システマティック・レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドラインに則って実施した。有害事象はランダム効果モデルとDerSimonian-Laird法を用いてオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出して評価した。2人の独立した著者によりデータの抽出と質的評価が行われた。 主要アウトカムは、MACEおよび全死亡の複合、VTEであった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューおよびメタ解析は、無作為化比較試験35件とその参加者2万651例を対象とした。・対象患者の平均年齢(標準偏差[SD])は38.5(10.1)歳、男性は54%であった。・平均追跡期間(SD)は、4.9(2.68)ヵ月であった。・MACEおよび全死亡の複合(OR:0.83、95%CI:0.44~1.57)、VTE(同:0.52、0.26~1.04)について、JAK阻害薬とプラセボ/実薬対照に有意差は認められなかった。

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医師が患者の減量を成功に導くためのアプローチとは?

 医師が患者に減量を勧める場合、楽観的な言葉や明るい調子で減量が肯定的な機会であることを伝えると、患者は減量に成功しやすいことが、新たな研究で明らかになった。英オックスフォード大学Nuffield Department of Primary Care Health SciencesのCharlotte Albury氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に11月7日掲載された。 国際的なガイドラインでは、プライマリケア医は患者の肥満度を確認し、過体重や肥満の患者には治療を提供すべきことを推奨している。患者は、医師の使う言葉や口調を重視しているものの、医師が患者の体重についてどのように話し、どのように治療を提供すれば患者が受け入れやすく、効果も見込めるのかについてのエビデンスはほとんどない。 そこでAlbury氏らは、英国の38カ所のプライマリケア診療所において246人の患者と87人の医師との間で交わされた、無料で行われる12週間の行動的体重管理プログラムに関する会話の録音データを分析した。このデータから、減量プログラムを患者に勧める医師の言葉遣いや口調に基づいて患者へのアプローチを3種類に分類し、各アプローチと患者の12カ月後の成果(減量の程度)や患者の取った行動(体重管理プログラムへの同意や参加など)との関連を検討した。 3種類のアプローチとは、1)減量のベネフィットと減量プログラムへの参加が患者にとっては好機であることを強調しながら、前向きかつ楽観的に患者とコミュニケーションを取る「グッドニュース」アプローチ、2)専門家の立場から肥満の問題点を強調し、減量という課題を残念がりながら悲観的に伝える「バッドニュース」アプローチ、3)減量について肯定的にも否定的にも伝えない「中立的」なアプローチである。「グッドニュース」アプローチでは、医師が肥満や体重、BMIを問題として取り上げることはほぼなく、減量プログラムに関する情報がスムーズかつ迅速に、興奮をもって伝えられた。 録音データを分析したところ、医師のアプローチとしては「中立的」が最も多く(102人)、「バッドニュース」(82人)と「グッドニュース」(62人)が後に続いた。「中立的」なアプローチと「グッドニュース」アプローチを比べると、後者では、プログラムへの患者の参加同意率は前者の1.25倍、参加率は1.45倍であり、体重は平均3.6kg以上多く減ったことが明らかになった。これに対して、「中立的」なアプローチと「バッドニュース」アプローチとの間で体重変化の平均値に有意な差は認められなかった。 研究グループは、「グッドニュース」アプローチを受けた患者で体重が大幅に減ったのは、減量プログラムへの参加率が高かったためだと説明している。実際、減量プログラムへの参加率は、「グッドニュース」アプローチを受けた患者で83%であったのに対し、それ以外のアプローチを受けた患者では50%に届かなかったという。 Albury氏は、「言葉が重要なことは言うまでもないが、この研究から、言葉は短期的にも長期的にも極めて重要なことが浮き彫りにされた。全体としては、本研究により、コミュニケーションの微妙な差が1年後の患者の転帰に大きな影響を与えることが示された。『グッドニュース』を構成するささやかな要素が、明確かつポジティブな影響をもたらしたと言える」と話している。

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「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」発表/日本肥満学会

 肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)が、2023年11月22日に薬価収載された。すでに発売されている同一成分の2型糖尿病治療薬(商品名:オゼンピック皮下注)は、自費診療などによる適応外の使用が行われ、さまざまな問題を引き起こしている。こうした事態に鑑み、日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学大学院医学研究院内分泌代謝・血液・老年内科学教授])は「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を11月27日に同学会のホームページで公開した(策定は11月25日)。 ステートメントでは、「肥満と肥満症は異なる概念であり、肥満は疾患ではないため、この存在のみでは本剤の適応とはならない」と適応外での使用に対し注意を喚起しており、適応としての「肥満症」、使用時に確認すべき注意点について以下のように整理している。【適応症について】1)肥満症について 肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した結果BMI25kg/m2以上を示す状態である。肥満と肥満症は異なる概念であり、肥満は疾患ではないため、この存在のみでは本剤の適応とはならない。 本剤の適応症である肥満症は「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」と定義されている(肥満症診療ガイドライン2022)。具体的には、肥満(BMI25kg/m2以上)に加え、減量によりその予防や病態改善が期待できる「肥満症の診断基準に必須の11の健康障害*(脂質異常症、高血圧など)」のいずれかを伴うものを肥満症と診断し、治療の対象とする。*11の健康障害(1)耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、(2)脂質異常症、(3)高血圧、(4)高尿酸血症・痛風、(5)冠動脈疾患、(6)脳梗塞・一過性脳虚血発作、(7)非アルコール性脂肪性肝疾患、(8)月経異常・女性不妊、(9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、(10)運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)、(11)肥満関連腎臓病2)本剤の適応となる肥満症について 本剤は肥満症と診断され、かつ、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、以下のいずれかに該当する場合に限り適応となる。 BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する場合か、BMIが35kg/m2以上の場合である。すなわち、肥満症の中でもBMIが35kg/m2以上である場合は高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する場合、27kg/m2以上35kg/m2未満である場合は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかに加えて、耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)、脂質異常症、高血圧など11の健康障害のうちのいずれか1つを含め、計2つ以上の健康障害を有する場合、保険適用となる。3)使用時に確認すべき注意点(1)本剤の使用に際しては、患者が肥満症と診断され、かつ2)の適応基準を満たすことを確認した上で適応を考慮すること。(2)肥満症治療の基本である食事療法(肥満症治療食の強化を含む)、運動療法、行動療法をあらかじめ行っても、十分な効果が得られない場合で、薬物治療の対象として適切と判断された場合にのみ考慮すること。(3)内分泌性肥満、遺伝性肥満、視床下部性肥満、薬剤性肥満などの症候性(二次性)肥満の疑いがある患者においては、原因精査と原疾患の治療を優先させること。 このほか、糖尿病治療中の患者における使用の注意点や、メンタルヘルスの変化を含む注意を払うべき副作用などが記載されている。

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第189回 エクソソーム療法で死亡事故?日本再生医療学会が規制を求める中、真偽不明の“噂”が拡散し再生医療業界混乱中

生成AIを活用して作った 「ブラック・ジャック」の新作が発表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週(11月23日)発売の週刊少年チャンピオンに、「ブラック・ジャック」の新作が発表されました。手塚治虫の漫画、「ブラック・ジャック」については、1ヵ月前、本連載の「第185回 六本木で開催中の『ブラック・ジャック展』で考えた、“黒い医者”たちと医療・医師の普遍性」でも取り上げました。この時、OpenAIの「GPT-4」やStability AIの「Stable Diffusion」などの生成AIを活用して「ブラック・ジャック」の新作を制作する試みが進行中だと書いたのですが、その新作がいよいよ発表されたのです。ということで、週刊少年チャンピオンを買おうと近所の書店に出掛けたのですが、どこにもありません。近所のコンビニも数軒覗いたのですが、やはり在庫がありません。書店もコンビニも、少年誌で置いてあったのは少年ジャンプと少年マガジンばかり。発行部数・流通量が少ない雑誌はこうまで手に入りにくいものかと驚いた次第です。ちなみに漫画雑誌の新刊はアマゾンでは冊子版は流通しておらず、電子版(Kindle)でしか読めないようです。半ば諦めていたところ、たまたま出先のコンビニに飲み物を買いに入ったところ、1冊だけ週刊少年チャンピオンが残っており、なんとか現物を入手することができました。「ブラック・ジャック」掲載を見越して発行部数や流通量にもAIを活用してほしかった…、と思いました。手塚 治虫氏の長男、手塚 眞氏が中心となった「TEZUKA2023プロジェクト」による「ブラック・ジャック」の新作、「機械の心臓-Heartbeat Mark II」(33ページの読み切り)ですが、大学のAI研究者や有名映画監督も入った大プロジェクトの割に、作品はこの程度かと少々肩透かしをくらった、というのが正直な感想です。AIといえども、やはり“神様”には勝てないのだな、と思った次第です。エクソソーム療法、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と日本再生医療学会が提言さて、今回は、一部で話題となっている「エクソソーム療法」について書いてみたいと思います。11月10日の厚生労働省の再生医療等評価部会で、日本再生医療学会はエクソソーム療法が美容クリニックなどの自由診療で広がっている現状を踏まえ、「将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と提言しました。「エクソソーム療法で死亡例が出ている」といった情報も一部に流れているようです。この情報はデマの可能性もあり、業界は混乱に陥っています。美容やアンチエイジングを目的に他家細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームを自由診療で投与エクソソームは、直径100nm程度の細胞外小胞(EVs:Extracellular Vesicles)と呼ばれるものの1種です。EVsは細胞が分泌する物質で、組織の再生を促す成長因子や細胞間の情報伝達物質を含んだエクソソームなどからなっており、医療分野での活用が期待されています。国内でも、美容やアンチエイジングを目的に、他家細胞由来の細胞培養上清液や、上清液から抽出したとされるエクソソームを自由診療で投与する医療機関が増えています。これらを通称「エクソソーム療法」と呼んでいます。もっとも、有効性や安全性が確認され、治療法として承認されているものはまだありません。インターネットで「エクソソーム療法」を検索すると、数多くの自由診療クリニックがヒットします。それらのクリニックでは、エクソソームを含んだ幹細胞由来の細胞培養上清液やエクソソームについて、皮膚の再生、創傷治癒の促進、老化防止、疲労回復、ED(勃起不全)改善などに効果ありと、まるで万能の不老薬のように宣伝しています。再生医療等安全性確保法の対象外のため提供計画の提出、副作用などの報告の義務なし11月10日の厚生労働省の再生医療評価部会で、日本再生医療学会の岡野 栄之理事長(慶應義塾大学医学部 生理学教室 教授)は、「再生医療という名目で、多くのクリニック等で自由診療として行われている現状や、感染症のリスク等を鑑み、製造過程等を含めて、将来的には何らかの規制下に置かれることが望ましい」と主張しました。同学会は、2023年10月27日、「再生医療等のリスク分類・法の適用除外範囲の見直しに関する提言」を行い、エクソソームを含むEVsを再生医療新法の対象とするよう提言していますが、それを改めて再生医療評価部会の場ででも訴えたわけです。背景には、老化防止をうたう美容クリニックなどにおいて自由診療によるエクソソーム療法が急拡大していることがあります。現状、日本では細胞培養上清液やエクソソームは細胞断片であり、細胞には当たらないと整理されており、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)の対象外となっています。同法が施行されたのは2014年、主に自由診療でがん免疫療法(自家の免疫細胞を培養し投与)を行っていた医療機関における安全性確保のためでした。この時はEVsによる治療自体がまだ認知されておらず、規制対象にはなりませんでした。そのため、現在、細胞培養上清液やエクソソームを医療機関で投与する際、同法で定められた認定再生医療等委員会の審査や再生医療等提供計画の提出、副作用の報告といった煩雑な手続きは課せられません。これがエクソソーム療法の急拡大につながっているわけです。「交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」しかし、EVsは、「主に細胞から調製されるという点において細胞加工物と類似のリスクを有しており、交差汚染管理が不十分な場合などに敗血症等重篤な事故を引き起こす可能性がある」(再生医療等評価部会・岡野氏資料より)ことから、日本再生医療学会は「科学的根拠に基づき、グローバルスタンダードに則ったEVs治療の開発を進めるために、産学官の協力が必要である。EVsの定義、効能、品質管理に基づいた安心、安全なEVsの治療応用のガイドライン作成は急務であり、その為に、何らかの班研究あるいはワーキング・グループ等を構築し、問題点の精査が必要」と提言したわけです。再生医療抗加齢学会が「幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表ところで、日本再生医療学会がエクソソーム療法の規制の必要性を求める2週間ほど前、「エクソソーム投与後に死亡」との情報が一部に流れ、関係者が色めき立ちました。情報の出どころは再生医療抗加齢学会。10月11日、同学会の森下 竜一理事長(大阪大学大学院 医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座 教授)が、同学会のウェブサイトで「幹細胞培養上清液に関する死亡事例の発生について」というタイトルで声明を出したのです。声明は、「当学会では、幹細胞培養上清液を使用した治療に関し、患者が死亡するという事象が発生したという情報に接しております」として、「幹細胞培養上清液及びエクソソームの静脈投与につきましては、医療水準として未確立の療法であり、その有効性・安全性について、エビデンスに基づく十分な検討をお願いいたします」と注意喚起をしました。前述したように、エクソソーム療法は再生医療等安全性確保法の対象外のため、仮に死亡事例が発生しても医療機関は同法に則って報告する義務はありません。ということは、そうした事例を国が把握することもできません。ということで、関連学会が注意喚起することはそれなりに意味のあることです。11月9日付のリスファクスも再生医療抗加齢学会の死亡事案の声明を受け、「エクソソーム創薬、死亡事案で規制急務」というニュースを掲載しています。ただ、その記事では、「学会は本紙に『事案』は会員外の施設と回答し、詳細や施設名は開示していない」としています。「死亡例」は本当にあったのか?噂になった医療機関、学会、厚労省も否定学会が「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表したにもかかわらず、どこの施設での事象かわからないという状況は、再生医療やエクソソーム療法に携わる関係者に少なからぬ混乱を巻き起こしているようです。「死亡はデマではないか?」という声も聞こえてきます。11月15日付の日経バイオテクは「『エクソソームの投与後に死亡』の噂を追う」と記事を掲載しています。同記事は、「同学会(再生医療抗加齢学会)によれば、学会の会員や会員企業は死亡事例に関係しておらず、外部から寄せられた情報だと言います。噂で名前が挙がっている自由診療の医療機関や、自由診療でエクソソームの投与を手掛ける医師などにも当たってみましたが、『そうした事例は無い』『全く知らない』と否定されました。(中略)。さらに、日本再生医療学会も、本誌に対して『死亡事故があったとは考えていない』とコメント。厚生労働省の関係者も『正直、分からないというのが本音だ。情報の出所が把握できていない』と話していました」と書き、取材時点で死亡事例の情報は確認できなかったとしています。学会同士の対立説、関連企業に対する牽制説も仮に「死亡」がガセ情報だとしたら、一体背後で何が起こっているのでしょうか。真偽のほどはわかりませんが、日本再生医療学会の関係者と再生医療抗加齢学会の関係者の対立説や、幹細胞培養上清液やエクソソームを製造する企業(学会幹部が株を保有している企業もあると聞きます)への牽制説も流れているようです。エクソソーム療法の規制や注意喚起が必要だ、という点は理解できます。しかし、仮にも学会という組織が情報の裏も取らないで「死亡するという事象が発生したという情報に接しております」と公表することは、無責任過ぎるのではないでしょうか。無用な混乱は、再生医療に携わる医療機関や企業の信頼性にも影響します。再生医療抗加齢学会は早急に「死亡情報」の“エビデンス”を開示するべきです。もし虚偽情報だったなら、早急に訂正を出すべきではないでしょうか。

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米国がん協会、肺がん検診の対象枠を拡大

 米国がん協会(ACS)は、前回の2013年から10年ぶりに改訂された肺がん検診ガイドラインに関するレポートを、「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に11月1日発表した。改訂版のガイドラインでは、検診対象者の年齢と喫煙歴の基準が変更され、また、喫煙をやめてからの経過年数にかかわりなく喫煙歴のある全ての人に対する年1回の検診実施が推奨されている。 米国では、肺がんはがんによる死亡原因として最も多く、また、男女ともに、がんの診断件数としても2番目に多い。ACSは、2023年には23万8,340人(男性11万7,550人、女性12万790人)が新たに肺がんと診断され、12万7,070人(男性6万7,160人、女性5万9,910人)が肺がんにより死亡すると予測している。 肺がん検診を受けることが推奨される対象の基準に関して、前回のガイドラインから今回のガイドラインで変更された主な点は以下の通り。・対象年齢:前回の55〜74歳から50〜84歳へ・喫煙歴(パックイヤー):前回の30パックイヤー(1日1箱を30年)以上から20パックイヤー以上へ・禁煙年数:前回の15年以下から、禁煙年数にかかわりなく喫煙歴のある人は全てへ ACSの早期がん発見科学(Early Cancer Detection Science)のシニア・バイス・プレジデントであるRobert Smith氏は、「これまでのガイドラインでは、喫煙歴があっても禁煙から15年が経過すれば肺がんリスクは極めて低くなり、検診の対象から外しても良いと考えられていた。しかし、喫煙歴が極めて長い人では、実際には、肺がんの絶対リスクが継続していることが明らかになった。具体的には、禁煙後に肺がんリスクは多少低下するが、やがて平坦化した後に再び上昇に転じ、最終的にはかなり急増することが示されたのだ。例えば、タバコを1日に20本吸っていた場合には、肺がんリスクは年に約9%ずつ増加していた」と話す。 Smith氏によると、これらの推奨は、基本的には2年前に発表された米国予防医療専門委員会(USPSTF)の推奨と一致する内容であるが、唯一、禁煙年数に関係なく検診を推奨している点が異なるという。そのため、検診にかかる費用が保険でカバーされない患者が出てくるケースも見込まれると同氏は話す。 さらにSmith氏は、肺がん検診の対象となる人の中に健康保険未加入者が多いことを指摘する。同氏は、「検診対象となる現喫煙者や元喫煙者は、低所得者であることが多く、医療制度の中にうまく組み込まれていないため、その恩恵もあまり受けていない。喫煙には多くのスティグマがつきものであり、中でも喫煙が原因で生じる病気としての肺がんに関わるスティグマは多い」と話す。 米ブラウン大学医学部教授で、このガイドラインレポートの付随論評の共著者であるDon Dizon氏は、「喫煙者に対する低線量CTスキャンによる肺がん検診は、肺がんによる死亡を減少させることが示されている」と述べ、肺がん検診の重要性を強調する。その一方で同氏は、「それでも、肺がんリスクを低下させる最善の方法は、非喫煙者はそれを継続し、喫煙者であれば禁煙することだ」と主張する。 Dizon氏は、米国では検診対象者の18〜30%しか検診を受けていないことを指摘し、「禁煙年数を検診の基準から外すことで、検診を受ける人が増えるだろう」と話す。同氏によると、今回の改訂により検診を受ける人は、白人、ヒスパニック系、アジア系では30%、黒人では27%の増加が見込まれているという。 米ノースウェル・ヘルス社の呼吸器専門医であるBrett Bade氏は、「肺がんは今や、検診によりがんを早期発見すれば、新しい治療法によって生存が見込める疾患だ」と述べる。同氏によると、肺がん検診により、肺がんの50%が早期発見される可能性があるという。

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女性統合失調症に対する治療~エビデンスに基づく推奨事項

 性差は、抗精神病薬の有効性や忍容性に大きな影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、現在の統合失調症スペクトラム障害(SDD)の治療ガイドラインでは、男女間の区別は行われていない。オランダ・フローニンゲン大学のBodyl A. Brand氏らは、女性に対する薬物療法の改善に寄与する可能性のある戦略について、入手可能なエビデンスを要約し、女性統合失調症患者の治療を最適化するためのエビデンスに基づいた推奨事項を報告した。Current Psychiatry Reports誌オンライン版2023年10月21日号の報告。 次の3つのトピックスに関する査読済みの研究をPubMed、Embaseよりシステマティックに検索した。トピックスは、(1)用量調節した抗精神病薬の血中濃度に関する性差、(2)症状の重症度を改善するためのエストロゲンおよびエストロゲン様化合物によるホルモン増強療法、(3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための戦略とした。 主な結果は以下のとおり。・データベース研究3件、ランダム化比較試験(RCT)1件に基づくと、ほとんどの抗精神病薬は、男性と比較し、女性において用量調節濃度が高かった。・クエチアピンは、とくに高齢女性で高濃度であった。・最近の2つのメタ解析に基づくと、エストロゲンおよびラロキシフェンにおいて全体的な症状改善が認められた。・閉経後女性におけるラロキシフェン増強療法に関する最も一貫した所見が確認された。・症状に対するエストロゲン性避妊薬の効果を評価した研究は見当たらなかった。・メタ解析2件、RCT1件に基づくと、抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための研究として、アリピプラゾール補助療法が最も研究されており、最も安全な戦略であることが示唆された。 女性SSDに対する薬物療法について、エビデンスに基づく推奨事項は次のとおりであった。 (1)治療薬のモニタリングに基づく女性特有の抗精神病薬の投与量 (2)閉経後の女性におけるラロキシフェンによるホルモン増強療法 (3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に際するアリピプラゾール補助療法 著者らは「これらの戦略を組み合わせることで、女性SSD患者の副作用を軽減し、アウトカムを改善できる可能性がある」とし、「これらの効果を今後の縦断的RCTで明らかにしていく必要がある」とまとめている。

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第172回 働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会

<先週の動き>1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県1.働き方改革で救急医療は医師不足に、厚生労働省に提言/救急医学会日本救急医学会は、医師の働き方改革に伴う救急医療の人材不足とその対策に関する要望書を厚生労働大臣に提出した。来年度から始まる「働き方改革」では、勤務医に対して労働基準法に基づく休日や時間外労働の上限規定が適用されることになっており、救急医療に従事する医師が不足し、医療体制の維持が困難になる恐れがあると指摘している。同学会は、日本の救急医療が医療者の自己犠牲により支えられてきたと述べ、働き方改革による医師不足を解消するためには、診療報酬の改定などの支援が必要だと訴えている。また、地元の医師会との連携を強化し、救急の専門医を地域の拠点病院に集約することで、効率的な救急医療体制の構築を求めている。一方、NPO法人「EMアライアンス」による調査では、救急医の約1割が深刻な燃え尽き症候群に陥っていることが明らかになった。この調査結果では、救急医療の心理的ストレスの高さと、医師の健康問題に注目が集まった。とくに若手医師や睡眠不足を抱える医師にとって、救命救急センターでの勤務が、燃え尽き症候群と高い関連性を持つことが指摘されている。救急医療の質と持続可能性を確保するためには、医師の働き方改革を通して医師の健康にも配慮する必要がある。提言では、救急医療の現場で働く医師の声を反映した、包括的な対策が必要であると指摘している。参考1)地域救急医療への影響を鑑みた医師の働き方改革に関する提言(日本救急医学会)2)医師の働き方改革 日本救急医学会が支援求める要望書提出(NHK)3)救急医の1割、深刻な燃え尽き症候群か 睡眠不足も関連?NPO調査(朝日新聞)4)1割が深刻な燃え尽き症候群とのデータも 救急医の激務、解決策は?(同)2.賃上げか負担軽減か、診療報酬改定を巡って議論が白熱/中医協厚生労働省は、11月24日に開いた中央社会保険医療協議会(中医協)の総会において、昨年度の医療経済実態調査の結果を明らかにした。その結果、病床数が20床以上の一般病院は、物価高騰の影響で経営が悪化していたが、新型コロナ患者の受け入れに対する国の補助金を含めると、収支は黒字に転じていた。具体的には、一般病院の収支は平均で2億2,424万円の赤字であったが、補助金を含めると4,760万円の黒字となっていた。国公立病院は、平均で7億8,135万円の赤字で、補助金を含めても赤字だが、医療法人が経営する民間病院は補助金を含めると6,399万円の黒字に転じていた。一方、病床が19床以下の一般診療所は、補助金を除いても医療法人が経営する診療所で1,578万円、個人経営の診療所では3,070万円と、いずれも黒字。厚労省は、とくに一般病院の収益が厳しい結果となったことを指摘し、今年度はさらに利益率が悪化している可能性を述べている。日本医師会などは、医療職や介護職員の賃上げが必要だとして「本体」部分の引き上げを求めているが、財務省は保険料負担の軽減を目指し、逆に引き下げを主張している。武見 敬三厚生労働大臣は、新型コロナが「5類」に分類され、補助金や診療報酬の加算措置が大きく見直されていることに言及し、年末に向けて医療機関の経営状況を踏まえ、賃上げや物価高騰、感染症対策などの新たな課題に対応できる診療報酬改定に努力する意向を示している。参考1)第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(厚労省)2)来年度の診療報酬改定 年内決定に向け 議論活発化へ(NHK)3)「一般病院」昨年度収支 黒字 コロナ患者受け入れ補助金含めて(同)4)一般病院・診療所、コロナ補助で黒字 22年度厚労省調査(日経新聞)3.医療機能情報提供制度の見直し、スマホ対応と多言語サポート/厚労省厚生労働省は、患者が適切な医療機関を選択できるよう支援する「医療機能情報提供制度」を見直すため、11月20日に「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」を開催した。現在、各都道府県ごとに情報提供されている医療情報ネットが刷新され、2024年4月からは全国統一システムの運用を開始されることが明らかとなった。また、かかりつけ医機能を含め、国民・患者の医療機関の適切な選択を支援するよう、スマートフォン対応も予定されている。新しいシステムでは、医療機関の基本情報や医療サービス内容、治療結果のほか、高齢者や障害者向けの情報も提供される。さらに、英語・中国語・韓国語での情報提供も行われ、用語解説も整備される予定。医療機関は、毎年1~3月に定期報告を行い、基本情報に変更があった場合は都道府県に報告することが求められる。また、「かかりつけ医機能」の情報も提供され、患者は自宅近くの医療機関を選択しやすくなる。全国統一システムへの移行により、情報提供の内容も新しくなり、利用者がより使いやすい仕組みが提供されることが期待されているほか、2025(令和7)年度から発足するかかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けて、今後も情報提供項目改修が行われていく見込み。参考1)医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について(厚労省)2)国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討について(同)3)医療情報ネット、来年1月から新たな報告に 全国統一の情報提供4月開始、スマホ対応(CB News)4)医療情報ネットを「より使いやすい仕組み」に2024年度リニューアル、今後「かかりつけ医機能」情報も充実-医療機能情報提供制度等分科会(Gem Med)4.健康リスクに配慮した「飲酒ガイドライン案」を発表/厚労省11月22日に厚生労働省は、アルコール健康障害対策基本法に基づいて、検討を重ねてきた「飲酒ガイドライン案」を発表し、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及と健康障害の防止を目指すことを明らかにした。指針は、年齢や体質に応じた飲酒量の留意点を提案し、純アルコール量での飲酒管理を重視している。とくに高齢者や若年層、アルコール分解能力が低い人々には、飲酒による健康リスクが高いと警告している。ガイドライン案では、純アルコール量の計算方法が示され、疾患ごとのリスクに応じて、少量の飲酒でも注意が必要としている。政府の「健康日本21(第3次)」計画では、1日の純アルコール摂取量を男性40g、女性20g以上と定め、60g以上の過度な飲酒や、不安・不眠解消のための飲酒、他人への強要を避けるよう勧めている。また、健康への配慮として、飲酒量の事前設定、飲酒時の食事摂取、水分補給、週に無酒日を設けることなどが推奨されている。そのほか、最近では、アルコール摂取量の自己管理を促進するため、スマートフォンアプリを利用した記録方法も普及している。ガイドラインに対する反応はさまざまで、個々の許容量に基づく飲酒量の調整を提案する声や、健康意識の高い人々にとって有益だとする意見があり、専門家は、多量飲酒時の水分摂取の重要性を強調し、飲み方の工夫を勧めている。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(案)(厚労省)2)国内初の飲酒ガイドライン案「男性40g、女性20g以上はリスク」(毎日新聞)3)国として初の飲酒ガイドライン案 ビール1杯で高まる大腸がんリスク(朝日新聞)4)飲酒リスク、初指針で周知 年齢や体質に応じ留意点(日経新聞)5)お酒の望ましい量は?「飲酒ガイドライン」厚労省が案まとめる(NHK)5.薬のネット販売全面解禁へ、2025年から規制緩和/厚労省厚生労働省は、薬のネット販売に関する規制を大幅に緩和する方針を固めた。これにより、ほぼすべての薬がインターネットで購入可能になる見込み。とくに「要指導医薬品」について、これまでは対面販売が義務付けられていたが、ビデオ通話による服薬指導を条件に非対面での購入が認められるようになる。この変更は2025年以降に実施される予定。市販薬のネット販売は、2014年から一部が販売可能になり、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、さらに拡大されていた。今回の規制緩和により、市販薬のほぼすべてがネットでの購入が可能となり、患者の利便性が大幅に向上すると期待されている。ただし、緊急避妊薬など対面での情報提供が必要な薬や乱用のリスクがある薬については、20歳未満の大量購入を禁止するなどの規制が維持される。厚労省は、この方針について専門家の会議で議論し、医薬品医療機器法の改正を目指している。現在、オンライン服薬指導による安全性の確保と利便性の向上を両立させるための仕組み作りが進められている。参考1)対面販売必要な薬 薬剤師のビデオ通話でネット販売検討 厚労省(NHK)2)市販薬ネット販売、全面解禁へ ビデオ通話での指導条件(日経新聞)3)薬のネット販売全面解禁へ、利点や注意点は?(同)6.医師確保プログラム「842万円の違約金は違法」とNPOが提訴/山梨県東京のNPO法人「消費者機構日本」は、山梨県が医師不足対策として2019年に開始した医師確保プログラムについて消費者契約法に違反するとして山梨県を11月21日に提訴した。このプログラムは、医学部学生が県内の医療機関で9年間勤務することを条件に、学費の返済を免除する内容。しかし、2021年に導入された新条項では、勤務期間を満たさない場合に最大842万円の違約金を課すことになり、この違約金条項が消費者契約法に違反するとして山梨県を提訴した。NPO法人側は、学費返済だけで十分であり、違約金は不当に高額だと主張している。一方、山梨県は、違約金が必要な措置であると反論し、プログラムの早期離脱が県に追加コストをもたらすとして長崎 幸太郎山梨県知事は争う姿勢を示した。この訴訟は、地域医療の充実を目指す県側の政策と、その実施方法の法的・倫理的妥当性を巡って議論を提起しており、違約金条項導入後、山梨大学や北里大学などから約115人の学生がプログラムに参加しており、今後の訴訟の動向が注目されている。参考1)山梨県の医学部学費貸与、「違約金840万円は違法」 NPOが提訴(朝日新聞)2)医師不足解消を図る山梨県の制度 “違約金は違法”と提訴(NHK)3)山梨県の医師確保プログラム、9年間勤務できなければ最大842万円の違約金…適格消費者団体が差し止め求め提訴(読売新聞)4)医師確保事業巡り 都内の消費者団体が県を提訴 長崎知事は争う姿勢示す 山梨県(山梨放送)

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生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

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第187回 医師の処方モラル崩壊、肥満症治療薬の発売でさらに加速か?

新たな医薬品不足騒動が勃発するのか? 11月16日、持続性GLP-1受容体作動薬で肥満症を適応とするセマグルチド製剤ウゴービ皮下注の薬価収載が中央社会保険医療協議会で了承されたことに関して私が思ったことだ。ご存じのようにセマグルチドはもともと2型糖尿病を適応とし、用量も異なる注射剤(商品名:オゼンピック)と経口薬(同:リベルサス)がすでに発売されているが、体重減少効果の高さから「GLP-1ダイエット」を謳う不適正使用の自由診療が跳梁跋扈し、その結果、在庫不足による限定出荷が続いている。実はまったくの偶然だが、数年前、セマグルチドの肥満症の治験に参加登録した友人から、冗談交じりで「参加してみる?」と誘われたことがあった。その治験参加条件は、BMIが27以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する、あるいはBMIが35以上で今のウゴービ皮下注の適応と同じである。当時の私はBMIが26.8、血圧値は150/100mmHg、検査値上は高トリグリセライド血症だったので、“もうちょっと頑張れば”基準を満たす状態だった。だが、この誘いは断った。適応上のボーダーラインにいる自分が薬の力を使って痩せようとするのはあまりにも邪道だと思ったからだ(もちろん適応を満たす人が使うことを批判はしない)。そして数ヵ月後、この友人の姿を目にし、誘いを断って良かったと思った。確かに彼は私の目から見ても驚くほど痩せた。しかし、その様をあえて言葉を選ばずに表現すると、魚の干物のようにしわがれた痩せ方だったのだ。本人はそこそこに満足気だったが、一方で周囲に「最近はビールの匂いを嗅ぐと気持ち悪くなる」と、何とも微妙な物言いをしていたらしい。結局、私は彼の姿を見たことをきっかけに運動量を増やすという地味な取り組みを行い、約2年でBMIは22、収縮期血圧が120mmHg弱、脂質検査もすべて正常値まで改善し、今もほぼ維持できている。もっともここまでに至る努力は、かなり大変だったとの実感もあるため、誰かに勧めようとも、何もしない人を怠慢とも思わない。むしろダイエット目的でGLP-1受容体作動薬を入手するために自由診療を利用する人のほうがよっぽど問題だとすら思う。今回のウゴービ皮下注に関して言えば、「最適使用推進ガイドライン」も策定され、処方できる施設要件や患者要件も定められた。製造販売元のノボ ノルディスクファーマも厚生労働省に対し、保険診療、自由診療に関係なく、同ガイドラインの施設要件を満たした施設のみでの流通を前提にすると伝えているらしい。しかし、本当にこれで今の問題が解決するのだろうか? 正直、疑問である。そもそも「オゼンピック」や「リベルサス」のほうは何も縛りがなく、しかも世の人の潜在的なダイエット願望はかなりすそ野が広いからだ。今やインターネットで「オゼンピック」「リベルサス」のキーワード検索をすれば、SNS上では一部のインフルエンサーも含む使用体験者の話がごまんと登場し、吐いて捨てるほど自由診療クリニックが引っ掛かる。希望する人もどうかと思うが、それ以上に安易に処方する医師のモラルとはいかがなものか?ちなみに以前、この件について私自身が一時期に周辺調査した情報に基づくと、GLP-1受容体作動薬を使ったダイエット目的の自由診療を受診すると、最も使用を勧められるのはオゼンピックだという。リベルサスのほうがダイエット希望者には簡便だと思ってしまいがちだが、私が話を聞いた両手指を超える受診経験者(というかこの状況、なんとかならんものか)の中でリベルサスを第一選択として勧められた人は1人しかいない。しかもそうした人に話を聞くと、オゼンピックを第一選択にする医師はほぼ一様に「経口薬は服用方法が複雑(やや少なめの水で服用し、服用後30分は飲食できない)で、これを厳守しないと効果ありませんよ。注射のほうが確実です」と言うらしい(この証言には複数の経営母体の違うクリニックの受診者が含まれている)。妙なところだけエビデンスっぽいというか、患者に寄り添うかのような言い方をするところが、正直言って不快である。さらにこの件ではあちこちから出所不明で裏取りしようのない情報が大量に発信されてくるのも特徴である。私がこれまで直接、あるいは信頼性の高い間接情報として聞いた話をざっと列挙してみよう。「正直、明らかに自由診療に使うんだろうなという発注はありますよ。ただ、保険診療も行っている医療機関だと、必要以上に詮索することはできない」(関東地方の卸関係者)「限定出荷のオゼンピックは直近の納入実績で配分され、自由診療クリニック同士で奪い合い状態。そこに糖尿病患者の多い医療機関の門前薬局が絡んで、自由診療クリニックに在庫の一部を横流ししているらしい」(東北地方の保険薬局薬剤師)「先日、知人の紹介で注射の痩せ薬を保険診療で手に入れたと喜んでいた人がいましたよ。確かにその人はオゼンピックを持っていたのですが、それ以外に医師から『飲まなくていいけど、これも出しておくね』と言われた薬があり、よく調べるとほかの経口糖尿病治療薬でした。本人は健康診断でも血糖値が高いと指摘されたことはないと言っていました」(都内の運輸系会社勤務)「自分で使ってますよ」(40代の女性医師)これは私がこの件に関連して耳にした話のほんの一部に過ぎない。こうした話を書き出したらきりがないほどだ。同時に日本の医療も「モラル・ハザードの総合商社」化がかなり進行しているのか、と残念な思いで一杯である。

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11月24日 いい尿の日【今日は何の日?】

【11月24日 いい尿の日】〔由来〕寒さが本格化してくる時期である11月の「いい(11)にょう(24)」(いい尿)と読む語呂合わせからクラシエ製薬株式会社が制定。寒さが増すと頻尿・夜間尿などの排尿トラブルが増えることから、その啓発や症状に合った治療を広く呼び掛けることが目的。関連コンテンツ女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】骨盤底筋トレーニングは排尿トラブルの快適生活術【使える!服薬指導箋】β3アドレナリン受容体に作用して膀胱容量を増大させる過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠50mg」【下平博士のDIノート】新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会尿失禁が生命予後に影響?OABに早期介入の必要性

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移動式脳卒中ユニットは脳卒中からの回復の可能性を高める

 現在、米国の一部の大都市で導入されている移動式脳卒中ユニット(mobile stroke unit;MSU)は、脳卒中が疑われる患者の病院への搬送中に検査や組織プラスミノゲンアクチベーターを用いた血栓溶解療法(t-PA療法)を行うことができる、特別な救急車だ。米ワイル・コーネル・メディシンなどの研究グループは、脳卒中疑いの患者を通常の救急車でER(救急救命室)まで搬送する場合と比べてMSUで搬送する場合では、t-PA療法が中央値で37分早く開始され、それにより患者が脳卒中から回復するか、あるいは症状が迅速に消失する可能性の高まることが示されたと、「Annals of Neurology」に10月6日発表した。 論文の共著者の一人でワイル・コーネル・メディスンのMatthew Fink氏によると、脳卒中のほとんどは血栓が原因で発症するという。「脳細胞が死滅するスピードは極めて速いため、脳卒中の予防や回復のためには迅速に血栓を除去するか溶解する必要がある。そのため、患者をもっと早く病院に運べないものかとわれわれは感じていた」とFink氏は説明している。 そこで考案されたのが、車内で治療を行える特別な救急車をニューヨーク市内に走らせることだった。ニューヨーク・プレスビテリアン病院のMSUは、ワイル・コーネル・メディスン、コロンビア大学アービング医療センター、ニューヨーク市消防局との協力体制の下で2016年に運用が開始された。なお、米国で最初にMSUが導入されたのはテキサス州のヒューストンであり、現在、約20都市でMSUのプログラムが導入されているという。 Fink氏によると、このMSUにはCT検査装置が搭載され、看護師も同乗している。また、脳卒中の専門家と常時、遠隔医療システムで用いる音声通話やビデオ通話で連絡を取ることができるという。そのため、例えば、救急医療サービス(EMS)への電話で脳卒中の症状を訴えている人の家へMSUが急行し、搬送中の車内で患者の評価と診断を行ってt-PA療法を開始することも可能だ。t-PAには脳への血流を塞いでいる血栓を迅速に溶かす作用がある。Fink氏は、「この研究で示されたように、t-PA療法を行うことで、患者が迅速に回復し、脳卒中の後遺症が残らないようにすることができる可能性が高まる」と言う。 今回の研究では、MSUが導入されている米国内の複数の大都市の2014~2020年のデータを用いて、t-PA療法が施された1,009人の患者を対象に解析した。このうちの644人はMSU車内でt-PA療法を受け(MSU治療群)、残る365人は救急搬送先でt-PA療法を受けていた(通常治療群)。患者の最終未発症確認時からt-PA療法を受けるまでの時間は中央値87分だった。 その結果、対象患者の27.4%(276人、MSU治療群の31%、通常治療群の21%)では、t-PA療法によって24時間以内に脳卒中が疑われる症状が消失し、15.8%(159人、MSU治療群の18%、通常治療群の11%)はMRIで脳損傷を示す所見が全く認められない状態にまで回復していたことが明らかになった。通常治療群に比べてMSU治療群では約37分早く治療が開始されていたため、1時間以内に治療を受けていた患者が多かった。 米ケンタッキー大学神経学部長のLarry Goldstein氏は、脳卒中に対する迅速な対応の重要性を指摘。「米国のエビデンスに基づいたガイドラインは、脳卒中発症後4.5時間以内に血栓溶解薬を使用することを推奨しているが、脳の血管が閉塞した状態が長く続くほど同薬の治療効果は低下する」とした上で、「時間をセーブ(短縮)することは脳をセーブ(助ける)ことにつながる」と話している。 ただし、Goldstein氏は、今回の研究はランダム化比較試験ではないこと、参加施設のほとんどが都市部の病院であることなどの限界がある点も指摘し、「MSUは大都市圏以外の地域には適していないかもしれない」と話している。

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小児感染症に対する抗菌薬、多くはもはや効果を見込めず

 薬剤耐性菌の増加に伴い、一般的な小児感染症の治療において長らく使用されてきた抗菌薬の多くがもはや効果を失っていることが、新たな研究で明らかにされた。論文の筆頭著者であるシドニー大学(オーストラリア)感染症研究所のPhoebe Williams氏は、「抗菌薬の使用に関する世界的なガイドラインにこの結果を反映させる必要がある」と述べるとともに、乳幼児や小児用の新しい抗菌薬の開発に重点を置くべきだと呼び掛けている。この研究結果は、「The Lancet Regional Health - Southeast Asia」に10月31日掲載された。 世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の増加を世界的な公衆衛生上の脅威のトップ10に位置付けている。世界全体では、毎年約300万人の新生児が敗血症を発症し、57万人が死亡しているが、その原因の多くは薬剤耐性菌に有効な抗菌薬がないことである。 Williams氏は、「薬剤耐性菌の問題は他人事ではなく、すぐそこに差し迫っている脅威だ。薬剤耐性菌は、われわれが考えている以上のスピードで増加している。多剤耐性の侵襲性感染症や年に何千人もの子どもの死亡を食い止めるためには、新しい解決策が早急に必要だ」と主張する。 Williams氏らの今回の研究は、東南アジアおよび太平洋地域の低・中所得世帯の子どもに処方された、経験に基づく抗菌薬治療がどの程度有効であるのかを検討したもの。研究グループは、システマティックレビューにより抽出した、11カ国で収集された6,648の細菌分離株の感受性データを使用してパラメーター化した、WISCA(weighted incidence syndromic combination antibiogram)と呼ばれる薬剤感受性のデータベースを構築。これにより、新生児と小児の敗血症や髄膜炎に対する治療において、WHOが推奨する特定の抗菌薬(アミノペニシリン、ゲンタマイシン、第3世代セファロスポリン、カルバペネム)がどの程度有効であるか(coverage)を推定した。 その結果、新生児の敗血症/髄膜炎に対して、アミノペニシリンは26%、ゲンタマイシンは45%、第3世代セファロスポリンは29%、カルバペネムは81%有効であることが示された。一方、小児の敗血症と髄膜炎に対しては、アミノペニシリンはそれぞれ37%と62%、ゲンタマイシンは39%と21%、第3世代セファロスポリンは51%と65%、カルバペネムは83%と79%有効であった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「小児や新生児に対する新たな抗菌薬による治療法の研究に、資金を優先的に投入する必要がある」との見解を示す。「抗菌薬に関する臨床研究は成人に焦点が当てられることが多く、小児や新生児は置き去りにされている。そのため、小児や新生児に対する治療法の選択肢は少なく、新しい治療法に関するデータも極めて限定的だ」と指摘する。 論文の上席著者で、アンコール小児病院(カンボジア)のカンボジア・オックスフォード・メディカルリサーチユニットのディレクターを務めているPaul Turner氏は、「この研究により、小児の重篤な感染症治療に有効な抗菌薬について、その利用可能性に関する重要な問題が浮き彫りになった。また、薬剤耐性菌の拡大状況をモニタリングするために、質の高い検査データが必要であることも明示した」と述べている。

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口腔癌診療ガイドライン 2023年版 第4版

4年ぶりの改訂で総説とCQを徹底的にブラッシュアップ!口腔癌診療に関わる医療者必携の診療ガイドライン、4年ぶりの改訂版出来。2019年版およびNCCNガイドラインを骨格とした診療アルゴリズムに添う内容に総説をブラッシュアップし、すべての診療指針を詳細に解説します。また、新たなクリニカルクエスチョン(CQ)も、GRADEアプローチをはじめ各種の方法でエビデンスを精密に解析しました。保険診療を基本とした口腔癌診療全体をカバーする、臨床でさらに使いやすくなった決定的最新版です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    口腔癌診療ガイドライン 2023年版 第4版定価4,620円(税込)判型B5判頁数252頁(図数:17枚)発行2023年11月編集口腔癌診療ガイドライン改訂合同委員会

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ワルファリン・DOAC、重大な副作用に「急性腎障害」追加/厚労省

 経口抗凝固薬の添付文書について、2023年11月21日に厚生労働省が改訂を指示。国内で販売されている直接経口抗凝固薬(DOAC)4剤(アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、リバーロキサバン)とワルファリンカリウムの添付文書の「副作用」に重大な副作用として急性腎障害が追記された。 添付文書の改訂は以下のとおり。<重大な副作用>急性腎障害 経口抗凝固薬の投与後に急性腎障害が現れることがある。本剤投与後の急性腎障害の中には、血尿や治療域を超えるINRを認めるもの、腎生検により尿細管内に赤血球円柱を多数認めるものが報告されている。 改訂理由については、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害症例を評価した結果、経口抗凝固薬のうち、ワルファリンカリウムおよびDOAC4剤について、抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例が集積したことから、経口抗凝固薬の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、アピキサバンについては抗凝固薬関連腎症を含む急性腎障害との因果関係が否定できない症例はなかったものの、文献において1)、抗凝固薬関連腎症との因果関係が否定できない海外症例が報告されている。症例※の国内症例の集積状況 【転帰死亡症例】(1)アピキサバン:7例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例)【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】(2)エドキサバン: 6例(同4例)【死亡1例(同0例)】 (3)ダビガトラン:26例(同7例)【死亡3例(同0例)】 (4)リバーロキサバン:6例(同3例)【死亡1例(同0例)】(5)ワルファリンカリウム:7例(同4例)【死亡0例】※:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例から副作用(PT)「抗凝固薬関連腎症」または「急性腎障害」で抽出されたもののうち、以下のすべての条件に該当する症例を評価対象とした。1:「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」(AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会編:日本腎臓学会、日本集中治療医学会、日本透析医学会、日本急性血液浄化学会、日本小児腎臓病学会)においてAKI診断に必要とされている腎機能値(ベースラインおよび発現時の血清クレアチニンなど)の情報があり、かつ、AKI診断基準を満たす。2:因果関係評価に必要な副作用発現後の転帰情報(経過欄、検査値欄の情報含む)がある。

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