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細胞外液補充液と維持輸液【ケースで学ぶ輸液オーダー】第1回

細胞外液補充液と維持輸液研修医が病院で初めて自らオーダーを立てる薬剤はおそらく点滴でしょう。いろいろな種類があり戸惑うかもしれませんが、原則は難しくありません。オーダーを受けた看護師から「輸液、わかってないな」と呆れられないよう、今一度原則を確認しましょう。症例洗面器約1杯分の鮮血を吐いた患者さんが救急搬入され、指導医とともに緊急で呼び出しされた初期研修医A君。指導医が緊急上部消化管内視鏡検査で出血性胃潰瘍と診断し、確実な止血処置を実施しました。現在の輸液内容は、救急科初療医が開始した細胞外液補充液(以下「外液」)です。治療終了時のバイタルサインは血圧120/60mmHg、脈拍90/分、ヘモグロビン値は正常範囲でした。「食事は明日からにしよう。じゃ、輸液オーダーは頼んだよ」と言って指導医は去っていきました。A君は翌日まで外液を継続する指示を出しました。このままでよいでしょうか。考えかたの整理輸液は「目的」によって以下の2つに整理できます1)。出血時など循環血漿量の補充外液絶食中の水分、電解質、糖の補充維持輸液イメージ的には、血液の代わりが外液、ごはんの代わりが維持輸液です。止血が得られ、循環動態が安定した時点で「失血に対する輸液」は役目を終えています。出血分を補えたら、止血後も外液を続ける理由はありません。一方、絶食が続く患者にブドウ糖を含まない輸液だけを投与すると、飢餓状態による低血糖を回避するために蛋白異化が進んでしまいます2)。図1 外液、維持輸液の組成の違いと輸液時の体液分画における分布画像を拡大する細胞内外を比較すると、細胞外はNaが多く、細胞内はKが多いのがポイントです。輸液の組成上、理論的には外液は細胞外へ、維持輸液は細胞内外へ分布するため役割が異なります。本症例の対応本症例では、出血は止血済み、バイタル安定、経口摂取は翌日から再開が予定されています。したがって、外液は減量・終了、維持輸液へ切り替えが妥当です。一方、止血されていたとしてもそれまでの出血量が多く、外液の投与量が出血量に追いついていなければ、維持輸液に並行して外液も投与すべきです。図2 臨床現場でよく見られる輸液療法の流れ画像を拡大する輸液は漫然と「昨日と同じ」にせず、目的を考えてオーダーしましょう。初期輸液は「とりあえずの輸液」英国のNICEガイドラインでは、routine maintenanceの目的の輸液組成には、25~30mL/kg/日の水分、1mmol/kg/日のNa、K、Cl、50~100g/日の糖(5%ブドウ糖液)が必要とされています3)。本邦で絶食時に頻用される維持輸液の3号液は合計2,000mL投与することにより、成人男性の1日の必要水分、電解質、最低限のブドウ糖を補える設定になっています4)。しかし、これら維持輸液のNa濃度は外液よりも低く、医原性の低Na血症が懸念されるため、海外ではNa濃度が外液並みの5%糖含有等張液の使用を提案する5)意見があります。こちらは3号液よりもK濃度が著しく低いため、長期の継続には低K血症に注意が必要です。いずれにしても初期輸液は居酒屋のお通し的立場の「とりあえずの輸液」と割り切り、数日間以上の絶食が予測される場合は、漫然と同じ輸液メニューを続けずに、電解質異常のチェックや補正、本格的な栄養輸液への移行を怠らないようにしましょう。輸液においては初回で満点を目指さず、追試上等と考えて大丈夫です。1)森本康裕. 【総論】輸液の基本のキ 輸液の調節をしてみよう. In:森本康裕. レジデントノート:羊土社;2017.p505-509.2)Gamble JL, et al. 水と電解質. 医歯薬出版;1957.p134-147.3)National Institute for Health and Care Excellence(NICE):Intravenous fluid therapy in adults in hospital. London4)室井延之. 静脈栄養剤の種類と組成、特徴. In:日本臨床栄養代謝学会. JSPENテキストブック:南江堂;2021.p.288-289.5)Moritz ML, et al. N Engl J Med. 2015;373:1350-1360.

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(4):孤立性拡張期高血圧【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q162

高血圧管理・治療ガイドライン2025(4):孤立性拡張期高血圧Q162診療所へとくに既往のない35歳男性が高血圧の相談で受診した。家族が高血圧症で自宅に血圧計があることから、律儀に自分も一緒に血圧を測定していたという。家庭血圧の平均をとると130/100mmHgと拡張期血圧が高い。とくに自覚症状はなく、特筆すべき家族歴もない。介入をどうしようか。

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うつ病診療ガイドラインの効果的な使い方

 日本うつ病学会は、2025年12月25日に『うつ病診療ガイドライン2025』1)を公開した。そこで、本ガイドラインの改訂のポイントについて、作成ワーキンググループの代表・責任者を務める加藤 正樹氏(関西医科大学医学部精神神経科学講座)、統括を務める渡邊 衡一郎氏(杏林大学医学部精神神経科学教室)、馬場 元氏(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック)の3名に話を聞いた。「改訂の背景と概要、重症度別の治療」について取り上げた前編に続き、後編では「治療過程のフェーズ別の治療、サブタイプ・ライフステージ別の治療」について、紹介する。難治例の新たな概念「DTD」 これまで、標準的な抗うつ薬治療を行っても改善しない症例は「治療抵抗性うつ病(Treatment Resistant Depression:TRD)」と呼ばれてきた。TRDは主に「2剤以上の抗うつ薬に反応しない」という薬剤への反応性に焦点を当てた定義である。これに対し、本ガイドラインでは「難治性抑うつ(Difficult-to-Treat Depression:DTD)」という概念を導入した。DTDは、単なる薬剤抵抗性だけでなく、機能回復の遅れ、副作用による治療困難、再発頻度なども包括した、より広い臨床概念である。この概念の導入について、加藤氏は「こだわったポイントの1つ。従来のTRDよりも幅広く、社会機能が戻らない、副作用で薬が使いにくい、再燃を繰り返すといったケースも含めて対策を考えようというものである」と語った。 本ガイドラインでは、「初期治療」、初期治療で十分な効果が得られなかった場合の「後続治療」、「さらなる段階の治療」、寛解を維持するための「維持期治療」という縦軸を採用している。DTDには「後続治療」「さらなる段階の治療」の2つが含まれる。これは、従来のTRDとは異なり、再燃・再発が反復する不安定な経過を有する患者、抗うつ薬の忍容性に問題がある患者なども包含する。 後続治療について、渡邊氏は「1剤目が効かなかった場合に、治療の強化が注目されがちであるが、まずは効果や副作用、服薬アドヒアランスなどを確認してほしい」と指摘する。具体的な確認事項については「半年で約半数が服用しなくなるというデータもあるため、そもそも薬を服用していない可能性もある。また、初期用量からの増量が行われず、適切な用量に至っていない場合もあるため、用量の確認も必要だ」と述べる。このようなことをすべて確認したうえで、薬剤の増量や変更、薬剤の追加、精神療法の付加などを検討することが、後続治療の基本となる。ライフステージ別の治療戦略は? 今回の改訂において「児童・思春期」「周産期」「老年期」の各ライフステージについて独立した章が設けられた。その背景について、馬場氏は「それぞれのステージで配慮すべき事柄が多く、それぞれ大きく異なる。しかし、臨床試験ではこれらの集団は除外されていることが多い。そこで、一般成人と同じ治療戦略で良いのかという疑問に答える必要があった」と述べる。<児童・思春期> 児童思春期のうつ病は、成人のような抑うつ気分よりも「易怒性」として表現されることが多い。馬場氏は「これを知らないとそもそも診断に至らない」と指摘する。治療においては、環境調整や心理教育などの基礎的介入、精神療法が優先され、新規抗うつ薬の使用は「選択肢のひとつ」にとどまる。<周産期> 周産期のうつ病は、強い不安、幻覚・妄想といった精神症の症状など、特有な精神症状を伴うことがある。約10%が周産期に抑うつを経験するとされ、重要な集団といえる。治療については、中等度以上であれば抗うつ薬を「使用することを弱く推奨する」としている。授乳中についても、母乳への移行率が低い薬剤が多く、抗うつ薬を「使用することを提案する」としている。なお、本ガイドラインには、母乳への移行率を示す相対的乳児投与量をまとめた表が掲載されているため、参考にされたい。周産期の治療について、馬場氏は「胎児の奇形リスクや発達への影響はほとんど上昇せず、逆に治療しないリスクの方が高いというエビデンスがある。授乳中の服薬についても、母乳への移行が少ない薬剤が多く、使用を提案している」と述べた。<老年期> 高齢者では、身体疾患や脳器質性疾患による抑うつ状態、低活動性せん妄、アパシー(意欲低下)などがみられることがあり、鑑別が重要となる。また、高齢者の場合は薬物治療による有害事象も発現しやすいため注意が必要である。これについて、馬場氏は「高齢者の場合は、薬物治療を控えたほうが良いのではないかと考える方もいるかもしれないが、中等度以上の場合は、抗うつ薬治療を行うことが強く推奨されている」と述べ、有害事象に注意しながらも、適切な治療を検討することの重要性を指摘した。 ライフステージについて、馬場氏は「中等度以上のうつ病に対する薬物療法をみても、児童・思春期では『選択肢のひとつ』、周産期であれば『弱く推奨する』、老年期では『強く推奨する』と異なっており、ライフステージに対する配慮が必要である」と語った。ガイドラインの効果的な使い方 馬場氏は「ガイドラインは治療を決定するルールブックではなく、治療方針を患者と一緒に決めるために情報を共有するツールである」と強調する。たとえば、重症度が中等度で、ライフステージは老年期に該当し、不眠症状を伴う患者の例を考える。この場合は、中等度/重度に関するClinical Question(CQ)3、老年期に関するCQ6、不眠症状に関するCQ8が該当する。これらの情報を患者と共有して、SDMを行う。 実際に各CQをみると、CQ3では新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨され、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の併用療法を行わないことが弱く推奨されている。老年期に関するCQ6でも、新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨され、睡眠に関する記載はない。一方で、不眠症状に関するCQ8では、まずは睡眠衛生指導を行ったうえで、必要があれば抗うつ薬に睡眠薬を併用することが弱く推奨されている。これらの情報を患者と共有したうえでの治療方針の一例として、馬場氏は「新規抗うつ薬を使い、不眠に対しては睡眠衛生指導を実践してみよう。それでも不眠が改善しない場合は、ベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬を併用しようといった選択が考えられるのではないか」と述べた。 本ガイドラインは膨大な情報を含むが、実臨床での使いやすさを重視して設計されている。各章にCQX-1(治療開始に際して考慮すべきこと)とCQX-2(治療概説)が配置され、ここを参照するだけで標準的な診療方針が把握できるようになっている。そのため馬場氏は、非専門医の先生方に向けた活用法として「まずは第1章を読んでうつ病診療の原則を理解していただきたい。そのうえで、実際の診療では該当する章の『CQX-1』と『CQX-2』だけでも見ていただければ、適切な診療方針が立てられる」と活用法を述べた。

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がん患者の心血管疾患リスクに糖尿病が影響か

 がん治療の進歩により、生存期間が延びる患者が増える一方で、治療後に心血管疾患(CVD)を発症するリスクが新たな課題として注目されている。しかし、どのような患者がCVDを発症しやすいのかは、十分に明らかになっていない。今回、大阪府の大規模がん登録データを用いた解析で、がんの初回診断時に糖尿病を併存する患者では、CVDの新規発症および全死亡リスクが有意に高いことが示された。研究は、大阪国際がんセンターがん対策センターの桒原佳宏氏、宮代勲氏らによるもので、詳細は1月22日付で「PLOS One」に掲載された。 がん治療の進歩により生存期間が延び、がんサバイバーが増加する一方、がんとCVDは共通の危険因子を多く持ち、治療自体もCVDリスクを高めることから、治療後のCVD発症が重要な課題となっている。しかし、がん患者においてCVD発症に影響する因子は十分に明らかではない。糖尿病は一般集団でCVDリスクを高めることが知られているが、がんの初回診断時にCVDを有さない患者における影響は不明である。欧州心臓病学会(ESC)が策定した心臓とがん医療に関するガイドラインでは、がん患者の糖尿病管理の重要性が示されているが、十分なエビデンスはそろっていない。本研究は、糖尿病併存がCVD発症および死亡に与える影響を明らかにすることを目的とした。 本研究は多施設の後ろ向きコホート研究であり、大阪府がん登録をDPCデータと連結した集団ベースのデータを用いた。2010~2015年にがんと診断され、初回診断時にCVDのない患者を対象とした。糖尿病の有無は糖尿病治療薬の処方歴から判定し、CVD発症はICD-10コードで同定した。がん診断後3年間追跡し、がん診断時の糖尿病併存の有無と全死亡およびCVD発症との関連を、年齢、性別、がん種、病期、BMIなどで調整したCox比例モデルおよび競合リスク解析で評価した。 本研究の解析対象12万1,997人のうち、4,317人は、がんの初回診断時に糖尿病を併存していた。糖尿病を併存する群は、併存しない群と比較して男性の割合が高く、比較的高齢の患者が多かった。また、遠隔転移を有する患者の割合も高かった。 糖尿病を併存する群の3年生存率は61.5%で、併存しない群の78.2%を下回っていた。交絡因子を調整したCox比例ハザードモデルの結果、糖尿病を併存する群では、併存しない群と比較して全死亡リスクが有意に高く(調整ハザード比1.40〔95%信頼区間1.33~1.48〕)、予後不良との関連が示された。がん部位別解析では、糖尿病の併存は一部のがん種を除き、ほとんどのがん部位で予後不良と関連していた。がん診断後に糖尿病と診断された患者を除外した感度解析でも、結果は一貫していた。 死亡を競合リスクとして考慮した競合リスク回帰分析では、糖尿病を併存する患者は、併存しない患者と比較して全CVDの発症リスクが有意に高かった(同1.43〔1.34~1.53〕)。また、心血管イベントの種類やがん種によって関連の強さには差がみられたが、がん種別解析でも全体解析と同様の傾向が認められた。なお、がん診断後に糖尿病と診断された患者を除外して解析しても、主要な結果は変わらなかった。 死亡直前2か月以内に入院歴のあった2万1,292人を対象に死因を推定した解析では、糖尿病を併存する群でCVDによる死亡割合が高かった(6.94% vs. 4.57%)。交絡因子を調整したロジスティック回帰分析でも、糖尿病の併存はCVDによる死亡リスクの上昇と有意に関連していた(オッズ比1.47〔95%信頼区間1.19~1.81〕)。がん種別では、胃がんおよび胆嚢がんでこの関連が有意であった。 著者らは、「がん診断時に心血管疾患のない患者でも、糖尿病を併存している場合、その後の心血管疾患の発症や予後に悪影響を及ぼす可能性が示された。糖尿病管理ががん患者の転帰改善につながるかどうか、今後の検証が必要である」と述べている。 なお、本研究の限界として、診療報酬データに基づく後ろ向き観察研究である点、糖尿病やCVDの誤分類や未調整の交絡因子の影響を否定できない点などを挙げている。

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うつ病診療ガイドライン、ゼロベースの改訂でどう変わったか

 日本うつ病学会は、2025年12月25日に『うつ病診療ガイドライン2025』1)を公開した。今回の改訂は、既存のガイドラインへの加筆修正ではなく、ゼロベースからの再構築となっている。そこで、本ガイドラインの改訂のポイントについて、作成ワーキンググループの代表・責任者を務める加藤 正樹氏(関西医科大学医学部精神神経科学講座)、統括を務める渡邊 衡一郎氏(杏林大学医学部精神神経科学教室)、馬場 元氏(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック)の3人に話を聞いた。改訂のポイントについて「改訂の背景と概要、重症度別の治療」と「治療過程のフェーズ別の治療、サブタイプ・ライフステージ別の治療」に分け、前編と後編の2回にわたって紹介する。ゼロベースで作成、実臨床に即したガイドラインに 今回の改訂では、国際的なガイドライン作成基準であるMindsに準拠し、科学的妥当性と透明性を担保する作成方法へと一新された。そのため、システマティックレビューに基づくエビデンス評価を基盤としながら作成されているが、実臨床での思考過程に焦点を当てた構成とするため、ナラティブな記載も織り交ぜられている。また、作成グループには薬剤師・看護師・心理師などのメディカルスタッフ、当事者やその家族も含まれる。 推奨の決定にあたっては、推奨決定会議において投票者の70%以上の合意形成を必須とするルールが採用され「強く推奨」「弱く推奨」という推奨度と、推奨までには至らない「提案」「選択肢のひとつ」が設定された。診療の「現在地」が把握できるマトリクス構造 本ガイドラインの特徴は、複雑化するうつ病診療を整理するために導入された「横軸」と「縦軸」によるマトリクス構造である。横軸:重症度(軽度、中等度・重度)、ライフステージ(児童・思春期、周産期、老年期)、サブタイプ(不眠症状を伴ううつ病、特定用語:不安性の苦痛、混合性の特徴など)縦軸:初期治療、後続治療、さらなる段階の治療、維持期治療 この構造について、加藤氏は「うつ病治療では、どの薬が良いか、目の前の患者にどうフィットさせるか悩みやすい。そこで、患者を横軸と縦軸に当てはめて読めるようにした」と意図を述べた。実際に、目の前の患者をガイドラインの項目に当てはめながら読めるようにするため、うつ病診療のアルゴリズムが掲載されている。 第1章「治療計画の策定」は、あえてナラティブな記載とし、臨床の原則を網羅している。さらに「診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソード」など、エビデンスを基に作成するのは難しいものの臨床上重要なテーマは、トピックスとして7テーマ取り上げている。 今回の改訂では、Clinical Question(CQ)の構成にも工夫が施されている。各章のCQX-1では「治療に際して何を考慮すべきか?」という臨床的視点からの問いかけが提示され、CQX-2では「システマティックレビューの概要など、治療の総論」がまとめられている。すなわち、CQX-1、X-2を読むことで、各章の治療方針の立て方がわかるような構成になっている。これについて、馬場氏は「すべて読むことが難しい場合は、まずは第1章を必須として読んでもらい、以降は診療する患者に該当する章のCQX-1、X-2を読んでほしい」と述べた。軽度うつ病の薬物療法は「選択肢のひとつ」 軽度うつ病への介入は、支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育などの基礎的介入が基本となる。本ガイドラインでは、これらを実施したうえで、新規抗うつ薬を使用することを「選択肢のひとつ」と位置付けている。 これについて、加藤氏は「軽度うつ病のみを対象とした無作為化比較試験、システマティックレビューおよびメタ解析は存在しなかった。そこで、本邦で実施された新規抗うつ薬の無作為化比較試験について、2,464例を対象とした個人データのメタ解析を実施したところ、重症度と抑うつ症状の改善には相互作用がなかった。つまり、重症度にかかわらず抗うつ薬は有効と考えることができる。また、軽度うつ病では症状の改善の余地が小さいため、プラセボとの差はみられにくいが、抗うつ薬によりいずれの試験でも症状が改善していた。これらを考慮して、安全性の高い新規抗うつ薬は『選択肢のひとつ』となると判断した」と根拠を述べた。 そのほか、認知行動療法、それを基盤とした集団プログラムやガイド付きのプログラム、集団あるいは指導下での運動療法も「選択肢のひとつ」となっている。中等度・重度うつ病への抗うつ薬は強く推奨 中等度・重度のうつ病に対しては、新規抗うつ薬による単剤治療を「行うことを強く推奨する」としている。一方、治療初期からの抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の併用療法※については「行わないことを弱く推奨する」となっている。ただし、カタトニアを伴ううつ病の治療法に関するCQ7-6-2では、急性期の薬物療法としてベンゾジアゼピン系薬剤による補助療法は「提案する」とした。これについて、馬場氏は「全体としては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用は勧められないが、使用すべき患者もいる。このようにサブタイプ別にも見ることで、より適切な治療を行うことができるというのが、本ガイドラインの特徴である」と述べた。 構造化された精神療法や電気けいれん療法(ECT)については、有用性に関するエビデンスがあるものの、推奨度は「提案する」にとどまっている。これについて、加藤氏は「エビデンスは存在するが、実施可能な施設が限られることなどから『提案する』にとどめる判断となった」と述べた。※:本ガイドラインでは、治療初期から同時に開始することを併用療法と定義している。どのように治療を使い分けるか? うつ病治療の基本は、共同意思決定(SDM)に基づいて患者自身が積極的に治療に関わるようにすることである。SDMでは、病状や各種治療選択肢、予想される経過などについて治療者が説明し、リスク・ベネフィットを共有したうえで、患者の意見や価値観も聞きながら治療を選択していくことが重要となる。 本ガイドラインでは、抗うつ薬の副作用に関するヒートマップや、薬物相互作用をまとめた表が掲載された。これらは、SDMを通じた抗うつ薬の使い分けにも、用いることが可能である。これらを用いた使い分けの例として、加藤氏は「会社に行きながら治療するのであれば、眠気の少ない薬を提案する。一方で、睡眠が十分に取れていない場合は、副作用として眠気が出てしまうかもしれないが、しっかりと睡眠が取れる薬を提案する。薬物相互作用については、高齢者や併用薬の多い患者には薬物相互作用の少ない薬剤を提案するといった使い分けができる」と説明した。治療の質を向上させる「MBC」 本ガイドラインでSDMと共に強調しているのが、測定に基づく診療(Measurement-Based Care:MBC)の実践である。MBCは、標準化された評価尺度を用いて治療反応を定期的に評価し、その結果を共有しながら治療を調整するアプローチである。MBCを実践することで、MBCを用いない標準治療と比較して寛解率が45%向上したという研究結果も存在する2)。 MBCの実践に当たっては「自己記入式の評価尺度を用いるのが良い。自己記入式の評価尺度は、患者の自己洞察や意思決定を促進するほか、症状の伝え漏れを防ぐことができる」と加藤氏は述べる。 評価の頻度と使用しやすい評価尺度について、渡邊氏は「最初に寛解を達成するまでは、できるだけ毎回、少なくとも2週間に1回は評価するのが良いのではないか。自己記入式の評価尺度としては、QIDSやPHQ-9が推奨される。これらは、うつ病の診断基準に合った9項目で構成されており、残遺症状のピックアップができるというメリットもある」と語った。(後編に続く)

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1型糖尿病とCKD併存、フィネレノンがUACRを改善/NEJM

 1型糖尿病患者における慢性腎臓病(CKD)の治療では、30年以上前の研究に基づき、生活習慣、血糖値、血圧の最適化に重点が置かれ、レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬が推奨されてきたが、これらの介入はCKDの進行を抑制する効果はあるものの、完全に阻止することはできないとされる。オーストラリア・University of New South WalesのHiddo J.L. Heerspink氏らは「FINE-ONE試験」において、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンはプラセボと比較して、有効性と安全性の代替指標としての尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させ、高カリウム血症が多くみられるものの重篤な有害事象の頻度に大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌2026年3月5日号で報告された。9ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 FINE-ONE試験は、9ヵ国で実施した国際的な二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(Bayerの助成を受けた)。2024年2月~2025年2月に参加者を登録した。 対象は、18歳以上、1型糖尿病と診断され、CKD(推算糸球体濾過量[eGFR]:25~<90mL/分/1.73m2)およびアルブミン尿(UACR[アルブミンはmg、クレアチニンはgで測定]200~<5,000)を有し、ACE阻害薬またはARBの投与を受けている患者であった。 被験者を、フィネレノンまたはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けた。フィネレノンの用量は、スクリーニング時eGFR≧60mL/分/1.73m2の患者は20mg/日、同25~<60mL/分/1.73m2の患者は10mg/日で開始した。 主要アウトカムは、6ヵ月の時点におけるベースラインからのUACRの相対的な変化量とした。UACRの減少率が25%高い 242例を登録し、フィネレノン群に120例(平均[±SD]年齢51.3[±14.2]歳、女性34.2%)、プラセボ群に122例(51.9[±13.2]歳、35.2%)を割り付けた。 UACR中央値は、フィネレノン群でベースラインの574.6から6ヵ月時に373.5へ低下し、プラセボ群では506.4から475.6へ低下した。 この6ヵ月間で、UACRは、フィネレノン群で34%の減少(ベースラインとの最小二乗幾何平均比:0.66、95%信頼区間[CI]:0.60~0.73)、プラセボ群で12%の減少(0.88、0.79~0.98)であった。これは、プラセボ群に比べフィネレノン群で25%高い減少率を示したことになり、有意に優れた(6ヵ月時のプラセボ群との最小二乗幾何平均比:0.75、95%CI:0.65~0.87、p<0.001)。血圧、HbA1c値、体重の変化に差はない 最も頻度の高い有害事象は高カリウム血症であった(フィネレノン群12例[10.1%]、プラセボ群4例[3.3%])。高カリウム血症のためフィネレノンの投与を中止した患者は2例(1.7%)だった。また、重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であった(14例[11.8%]、14例[11.5%])。 6ヵ月時のeGFRの変化量は、フィネレノン群で-5.6mL/分/1.73m2、プラセボ群で-2.7mL/分/1.73m2であった(群間差:-2.9mL/分/1.73m2、95%CI:-5.1~-0.7)。6ヵ月以降のウォッシュアウト期間中に、フィネレノン群のeGFR値はベースラインの値に近づいた。 6ヵ月の時点で、収縮期血圧のベースラインからの変化量の両群間の差は-0.9mmHg(95%CI:-4.3~2.6)、拡張期血圧の変化量の差は-1.3mmHg(-3.4~0.9)であり、いずれもフィネレノン群のほうが変化量は大きかったが、有意な差はなかった。また、両群とも、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値や体重に有意な変化を認めず、群間差は小さかった。高リスクのサブグループでも有効な可能性 著者は、「ガイドラインに基づく薬物療法(ACE阻害薬、ARBなど)に加えフィネレノンを投与すると、プラセボに比べより大きなUACRの低下が得られ、この効果は、ベースラインのeGFRが最も低い(<45mL/分/1.73m2)集団(最小二乗幾何平均比:0.74、95%CI:0.57~0.97)およびUACRが最も高い(>1,000)集団(0.91、0.70~1.18)といった腎および心血管の有害なアウトカムのリスクがきわめて高いサブグループにおいても同様であった」としている。 なお、著者は考察で「本試験は地理的に多様なCKD合併1型糖尿病患者を対象としたものの、被験者の約3分の2が男性であったことから、これらの知見は試験コホートと同様の特徴を共有する患者にのみ適用可能であり、一般化はできない」と指摘している。

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急性期統合失調症、24種の抗精神病薬をネットワークメタ解析/Lancet

 急性期統合失調症の薬物療法では、抗精神病薬の有効性には各薬剤間で臨床的に意義のある小~中の違いが存在し、忍容性はドパミンパーシャルアゴニストが全般的に良好で、新たな薬剤クラスのムスカリン受容体作動薬xanomeline-trospium(ドパミン受容体を主な標的としない初めての抗精神病薬[2024年にFDA承認])はドパミン拮抗薬にみられる有害作用を伴わないものの、コリン作動性および抗コリン作動性の有害事象を引き起こすことが、ドイツ・ミュンヘン工科大学のJohannes Schneider-Thoma氏らの調査で示された。研究の成果はLancet誌2026年2月28日号に掲載された。24種の抗精神病薬のネットワークメタ解析 研究グループは、急性期統合失調症に対する抗精神病薬の有効性と忍容性に関して、統計学的有意性だけでなく臨床的に重要な治療効果を重視した最新知見の提示を目的に、系統的レビューとネットワークメタ解析を実施した(ドイツ研究振興協会などの助成を受けた)。 対象とした抗精神病薬は、ドパミン受容体遮断薬を主とする23種と、ムスカリン受容体作動薬xanomeline-trospiumの24種の薬剤であった。医学関連データベースを用いて、2024年7月26日までに発表された、これらの薬剤に関する試験の論文を抽出した。適切な無作為化が行われた試験のみを解析に含めた。 主要アウトカムは、評価尺度で測定された統合失調症の全体的症状(有効性)とし、変量効果モデルを用いた頻度論的ネットワークメタ解析で分析した。副次アウトカムは、さらに32項目の有効性および忍容性のアウトカムで構成された。有効性はクロザピンが最も高い 438件の無作為化臨床試験を解析の対象とした。このうち388件(参加者7万8,193例[女性2万8,448例・36.4%、男性4万9,745例・63.6%]、年齢中央値37.28歳[四分位範囲:33.58~40.50]、二重盲検試験315件[81%])が、少なくとも1つのアウトカムについて使用可能なデータを提供した。5,117件の中国の試験が特定されたが、その多くで、著者が問い合わせに応答しなかったか、方法論上の懸念が報告されていたため、採用されたのは24件のみだった。 主要アウトカムに関して、256件の二重盲検試験(参加者5万8,948例)が使用可能なデータを提供した。 24種の抗精神病薬のすべてが、プラセボに比べ症状を軽減し、各薬剤の標準化平均差(SMD)は、クロザピンの-0.90(95%信頼区間[CI]:-1.03~-0.77)からlumateperoneの-0.23(95%CI:-0.39~-0.06)の範囲であった。 とくに、クロザピン、amisulpride(SMD:-0.68、95%CI:-0.81~-0.55)、オランザピン(-0.57、-0.62~-0.52)、リスペリドン(-0.53、-0.57~-0.48)は、他の3種以上の抗精神病薬より有効性が高かった。xanomeline-trospium(-0.57、-0.76~-0.37)の有効性は上位6番目だった。 また、23種の抗精神病薬のすべてが、プラセボに比べ陽性症状を軽減し(SMD:-0.90[95%CI:-1.06~-0.73]~-0.16[-0.67~0.34])、陰性症状も軽減した(-0.65[-0.95~-0.34]~-0.16[-0.27~-0.05])。体重増加が83%で 有害事象は、各薬剤で多岐にわたっていた。ドパミンパーシャルアゴニスト(アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine)は、有効性では上位に含まれなかったが、全体としてドパミン拮抗薬よりも良好な忍容性を示した。 22種の抗精神病薬のうち12種(55%)で、コリン作動性有害事象のオッズがプラセボより高く、「非常に小さい」以上のオッズ比(OR)は、xanomeline-trospiumの4.11(95%CI:2.27~7.43)からスルピリドの1.27(0.40~4.02)の範囲であった。 また、24種の抗精神病薬のうち18種(75%)で、抗コリン作動性有害事象のオッズがプラセボより高く、ORはゾテピンの3.55(95%CI:1.31~9.66)からリスペリドンの1.28(1.03~1.59)の範囲であった。 プラセボと比較した体重増加は、23種の抗精神病薬のうち19種(83%)にみられ、平均差はゾテピンの3.21kg(95%CI:2.21~4.22)からペロスピロンの0.51kg(-1.36~2.39)の範囲だった。 著者は、「本研究で明らかとなった各種抗精神病薬の有効性の臨床的に意義のある違いについては、臨床ガイドラインにおいて、より強調し具体的に記述すべきであり、個別の薬剤選択の際には忍容性の重要な差異を考慮する必要がある」「今後の研究では、xanomeline-trospiumの有効性を確認するために、他の抗精神病薬との直接比較を行うべきである。また、統合失調症の初期段階におけるクロザピン使用に関する先進的な試験を実施し、アウトカムの改善や疾患の慢性化の予防効果を確立する必要がある」としている。

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子どもの食物アレルギー、原因は遺伝だけではない

 子どもが食物アレルギーを発症するかどうかを決める要因は、遺伝子だけではないようだ。新たな研究で、抗菌薬の使用や他の免疫疾患の存在、アレルゲンとなる食品の導入が遅れることも、子どもの食物アレルギーの発症に関与している可能性のあることが示された。マクマスター大学(カナダ)のDerek Chu氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Pediatrics」に2月9日掲載された。Chu氏は、「われわれの研究結果は、食物アレルギーの傾向を遺伝だけで完全に説明することはできず、遺伝子、皮膚の健康、マイクロバイオーム、環境要因が重なり合って食物アレルギーの発症に関与していることを示している」とニュースリリースで述べている。 この研究では、6歳未満の子どもを対象にした世界40カ国の190件の研究データ(対象者は総計280万人)が分析された。食物経口負荷試験を用いた16件の研究を統合して解析した結果、IgE媒介性アレルギーの6歳までの平均発症率は4.7%と推定された。176件の研究で342種類のリスク因子が特定されていたが、エビデンスの確実性が高く、IgE媒介性アレルギーとの関連が最も強いと判断されたのは、乳児期のアレルギー性疾患の既往であった。具体的には、生後1年以内のアトピー性皮膚炎(オッズ比3.88)、アレルギー性鼻炎(同3.39)、喘鳴(同2.11)が、いずれも大幅なリスク上昇と関連していた。 また、食物アレルギーの家族歴もリスク因子であり、特に、両親(同2.07)やきょうだい(同2.36)にアレルギーがある場合にはリスクが2倍以上に上昇した。さらに、ピーナッツ、ナッツ類、卵などのアレルゲン食品の導入が遅いことも関連因子であり、例えば、1歳を過ぎてからピーナッツを食べた場合にピーナッツアレルギーになるオッズは2倍以上であった(同2.55)。このほか、妊娠中の母親の抗菌薬使用(同1.32)や、生後1カ月以内(4.11)、または1年以内(1.39)の乳児の抗菌薬使用でもリスク上昇が見られた。 一方で、食物アレルギーに関与すると疑われていた多くの要因、例えば低出生体重や予定日超過の出産、母乳育児をしていないこと、母親の妊娠中の食事やストレスとIgE媒介性アレルギーとの間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、食物アレルギーのリスクがある乳児を特定し、早期予防に役立つ可能性がある」と述べている。また、Chu氏は、「この結果は、食物アレルギーに対するわれわれの理解を広げるものだ。今後の研究では、同じ主要因子を測定・調整し、より多様な集団を対象とし、食物経口負荷試験をもっと活用すべきだ」と述べている。さらに同氏は、「今回の発見を実際に活かすためには、新たなランダム化臨床試験とガイドラインを早急に更新することが必要だ」と付け加えている。

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胃がん術後の早期経口摂取、ガイドライン記載も実施は2割/日本胃癌学会

 胃がん術後の早期経口摂取は、ガイドラインで提唱されているにもかかわらず、実際に導入している施設は約2割に留まることがわかった。水戸済生会総合病院の丸山 常彦氏らはDPCデータを用いて全国472施設・2万6,097例を解析し、早期経口摂取の実施状況と臨床的意義を検討した。本研究「本邦における胃癌手術後の早期経口摂取の現状と臨床的意義―全国DPCデータ26,097例の解析」は、2026年3月4~6日に行われた第98回日本胃癌学会総会で発表され最優秀演題に選ばれるとともに、Surgical Oncology誌2026年2月号に掲載された。 丸山氏らは2017年8月~2022年7月の全国472施設のDPCデータベースより、ICD-10コードC16(胃の悪性腫瘍)に該当し、胃がん手術を施行された患者2万6,097例を抽出し、解析対象とした。術後2日までに1食でも食事のレセプトコードがある症例を「早期経口開始群」と定義し、それ以外を「非早期経口開始群」とした。両群の背景因子および術後入院期間を比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・早期経口開始群は5,422例(20.8%)、非早期経口開始群は2万675例(79.2%)であった。・術式別の検討では、早期経口開始群には腹腔鏡下手術の症例が有意に多く含まれていた。幽門側胃切除では、腹腔鏡下手術の場合は開腹手術と比較して早期経口症例が有意に多かった(開腹:19.0%、腹腔鏡:24.7%)。しかし、胃全摘および噴門側胃切除においては、腹腔鏡下と開腹で有意差はなかった。・がん診療連携拠点病院、大規模病院において有意に早期経口症例が多く、術後経口開始時期は施設の運用方針に強く依存していると考えられた。・術後在院日数は早期経口開始群で有意に短縮した(9日vs.12日)。 本研究を主導した丸山氏に話を聞いた。――今回の研究に取り組んだきっかけや問題意識は? まずは、「ビッグデータ」が必要だと考えたことだ。「術後回復強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)」の概念は、消化器外科領域における周術期管理において広く普及してきているが、日本全体における現状や実態については十分に明らかにされていない。これまでの類似研究は単施設や多施設共同研究で症例数が限られており、実臨床とかけ離れてしまうリスクがあった。 DPCデータは全国の急性期病院をカバーしており、今回データを提供してもらったメディカル・データ・ビジョンはその約4割を保有しているため、全国472施設、2万6,000例という大規模データを解析することができた。加えてDPCデータには患者背景、既往歴や入院後の合併症、入院中に行われた医療行為すべてがレセプトコードとして残っており、医療行為に関してさまざまな解析が可能となった。――早期経口摂取を実施していた施設は2割に留まったが、この結果をどうみるか? 解析前は、全国の施設でそれほどばらつきはないと考えていた。私の施設ではほぼ100%の実施率であり、『胃癌治療ガイドライン2025年版』でも「2日目から経口摂取が可能」と明記されている。それにもかかわらず実施率2割というのは驚きだった。 早期経口摂取が広まっていない理由はいくつか考えられる。ガイドラインの記載には「特に離床に問題ない場合、第1日目からの飲水、第2病日からのsoft dietの開始、第7病日から第10病日の退院が可能と考えられる」とされているが、その前には「ただし、経口摂取時期を早めることにより合併症が増加するとの報告もあり、各施設において実施の是非に関して検討が必要である」という一文がある。この「各施設の検討」部分を重視しているケースがあるのだろう。――施設ごと、術式ごとの実施率の差をどうみるか? そもそも、早期経口摂取の大本となるERASプロトコルは、消化器分野では大腸がんで先行して広がった。一方で、胃の縫合部を伴う胃がん手術では、術後感染症などの懸念から早期経口摂取に慎重になる医師が多かった経緯がある。しかし、最近では、ランダム化比較試験でも早期経口摂取が腸管機能の回復に有利で、かつ安全に行えるとの報告があり1)、今回の研究も含め、早期経口摂取の利点がエビデンスとして蓄積しつつある。症例数の多い大規模施設では、こうしたエビデンスをクリニカルパスに取り入れ、実施していると考えられる。 腹腔鏡下手術において、幽門側胃切除術では実施率に有意差があったが、全摘術や噴門側胃切除術では差がなかった。これは全摘術や噴門側胃切除の場合には、吻合部の合併症が若干多いため、外科医が安全性を考慮して実施を控えていると考えられる。――今後、早期経口摂取の実施率を高めるために何が必要か? 今回の研究では、早期経口摂取と入院期間短縮に関連がみられたが、患者背景を適切に調整できていないという制限がある。大規模前向き試験の実施が難しい分野なので、DPCデータからどこまで患者背景をそろえられるかについて、現在取り組んでいる状況だ。エビデンスの質を高め、周知していくことが必要だろう。――学会発表の反応や質疑応答は? どの医師も自施設のデータしか知らないため、全国のデータは驚きをもって受け止められたようだ。座長からも「実施率2割は少ないですね」とのコメントが寄せられた。術式によって実施率が大きく違うこと、全摘術では腹腔鏡であっても早期経口摂取の実施率が低い点も関心を呼んだ。 質疑応答では、海外の医師から「早期経口開始によって肺炎などの合併症が増えないか?」という質問を受けた。今回は早期経口摂取と合併症発症との関連を解析できていない。DPCデータから合併症を抽出するのがやや煩雑になることが理由だが、ここは重要なポイントなので、今後の課題として取り組んでいく予定だ。

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身体活動習慣を維持することが中年期の累積ストレスの少なさと関連

 成人期の初期から日常的に運動などで体を使っていないと、中年期に入った時点で累積ストレスによる身体への影響が強く現れるとする研究結果が報告された。オウル大学(フィンランド)のMaija Korpisaari氏らが、累積ストレスの程度を意味する「アロスタティック負荷」をスコア化して過去の身体活動習慣との関連を検討した結果であり、詳細は「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載された。 この研究で検討したアロスタティック負荷とは、慢性的なストレスによって引き起こされる心身の生理学的な消耗を指す。アロスタティック負荷の標準化された評価方法はまだ確立されていないが、本研究では先行研究を基に、13項目(BMI、ウエスト周囲長、血圧、血清脂質、空腹時血糖値、HbA1c、心拍数、高感度C反応性蛋白、コルチゾールなど)からスコア化する指標と、より絞り込んだ5項目からスコア化する指標を用いて評価した。 解析対象は1966年にフィンランドで生まれ、31歳および46歳になった時点で調査に参加した3,358人(男性42.6%)。世界保健機関(WHO)の身体活動に関するガイドラインの推奨(週に中~高強度運動を150分以上)を満たしているか否かに基づき、全体を以下の4群に分類した。一つ目は31歳と46歳のいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていた運動維持群(12.4%)、二つ目はいずれの時点においてもガイドラインの推奨を満たしていなかった非運動群(55.4%)、三つ目は31歳時点では満たしていなかったものの46歳時点では満たしていた運動量増加群(19.4%)、四つ目は31歳時点では満たしていたものの46歳時点では満たしていなかった運動量減少群(12.8%)。 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、教育歴、婚姻状況、仕事上のストレスの認識)の影響を調整し、運動維持群を基準とする解析の結果、身体活動量が少ない群ではアロスタティック負荷が強いことが明らかになった。例えば13項目のスコアでは、非運動群は負荷が18%高く、運動量減少群は10%高いことが示された。また5項目のスコアでは、非運動群は17%高く、運動量減少群は有意差がなかった。運動量増加群に関しては、13項目の指標と5項目の指標のいずれにおいても、運動維持群と有意差がなかった。 論文の筆頭著者であるKorpisaari氏は、「この研究結果は、身体活動はライフステージの特定の時期のみに重要というわけではなく、成人期を通して習慣的に運動を続けることで、慢性的なストレスの有害な影響から身体を守ることができる可能性を示唆している」と述べている。ただし研究者らは、この関連性を確認し、身体活動がストレス負荷をどのように軽減するかをより深く理解するため、さらなる研究の必要性も指摘している。

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エクソーム解析で家族性高コレステロール血症の遺伝子変異保有者を特定可能

 エクソーム解析により、家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia;FH)の遺伝子変異保有者を特定できるという研究結果が、「Circulation: Genomic and Precision Medicine」に11月12日掲載された。 米メイヨー・クリニックのN. Jewel Samadder氏らは、地理的にも人種的にも多様な米国内の3地域から参加者を募集し、エクソーム解析を用いた生殖細胞系列遺伝子検査によってFH遺伝子変異保有者を特定できるかを検討した。研究には、計8万4,413人が参加した。 解析の結果、FH関連遺伝子の病的バリアントおよび病的である可能性の高いバリアントを有する対象者が419人特定され(有病率0.50%)、内訳はAPOBが116人、LDLRが298人、PCSK9が5人であった。対象者の66%が女性で、平均BMIは27.3kg/m2、12.3%が糖尿病の既往を報告した。39.5%が高トリグリセライド血症(150mg/dL以上)を、56.7%がHDLコレステロール低値(50mg/dL未満)を呈していた。コレステロール低下薬を服用していなかったのは27.5%で、FHキャリアのうちLDLコレステロールの目標値を達成していたのは10%にとどまった。さらに、コホートの22.4%が冠動脈疾患の既往を報告していた。遺伝学的に新規にFHキャリアと診断された人が約90%を占め、そのうち現行の臨床診断基準を満たしていたのは30.8%にとどまった。 Samadder氏は、「現行のガイドラインでは血中コレステロール値や家族歴に基づいて遺伝学的検査の対象者を判定しているが、今回の研究結果はそのアプローチに盲点があることを示している」と述べている。 なお、複数の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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わが国初の「男性性機能障害診療ガイドライン 2025年版」

 男性の勃起障害(ED)の患者は、約1,130万例と推定されていたが、近年の調査ではそれ以上の患者数と推定されている。また、若者の草食化が昨今言われているなかで「性欲低下」や「射精障害」を訴える人が多いことも、さまざまな調査でわかってきた。そこで、2018年に上梓された『ED診療ガイドライン 第3版』を拡大し、今回『男性性機能障害診療ガイドライン 2025年版』が発刊された。 本稿では、ガイドラインの作成委員長である辻村 晃氏(順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科 教授)にガイドライン作成の経緯や内容、ガイドラインの活用などについて聞いた。早漏へのドラッグ・ラグ問題を提起--今ガイドラインの領域拡大の狙いについて 男性の泌尿器科診療における性機能領域ではEDを主訴とする患者が圧倒的に多かった。そこで、2008年に『ED診療ガイドライン』が発刊され、2012、18年と第3版まで改訂された。そして、第4版を制作するかどうかという議論のなかで、2024年に『男性不妊症診療ガイドライン』(日本泌尿器科学会編、日本生殖医学会後援)が発刊され、少子化が進む現在、男性不妊症の原因として極めて増加している性機能障害の注目度が高まっていた。その一方で、日本性機能学会は、臨床研究促進委員会がシルデナフィル(商品名:バイアグラ)が発売された1998年から25年経った2023年、男性性機能障害の現状を明確にするため、6,000人超に全国調査を実施した。調査の結果、「性欲低下」や「射精の問題」で悩んでいる方や治療を希望する方がかなり多いことが判明した。こうした経緯から第4版とはせずに、さらに疾患領域を広く「男性性機能障害」と捉えて、今回のガイドラインを制作した。--ガイドラインの読み方:CQ、BQ、FQの使い分け 男性の性機能障害に関する研究論文やエビデンスは、他の疾患領域と比較して少ないものの、そのなかからエビデンスの比較的多い内容をクリニカルクエスション(CQ)、一般的な知識として共有しておくべき内容をバックグラウンドクエスション(BQ)とし、ここまでは教科書的な内容とした。そして、現時点では標準的ではなく、推奨を議論する段階ではないものの、最新情報として理解しておくべき内容をフューチャークエスション(FQ)として解説している。また、臨床的な知見のCQでは、エビデンスレベルと推奨グレードを入れているが、BQとFQは解説にとどめている。とくにFQは、今はまだわが国では臨床で応用するようなレベルではないが、たとえば海外で発表されたことや近い将来起こり得ることを特徴としている。そのほか、目次には推奨グレードとエビデンスレベルを記載することで、一目でわかるように表記も工夫している。--新項目(射精障害、性欲低下など)の具体的な内容について 「射精障害」について触れると、射精障害が世界的に非常に問題となっている。それは、「早漏か遅漏か」ということになる。「早漏」に関しては、世界的に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ薬の薬物治療が全世界でなされている一方で、それらの薬剤はわが国では保険適用になっていないため、早漏への薬物治療の選択肢がわれわれにはないのが現状。先述した臨床研究促進委員会の2023年のアンケート調査で「早漏が気になるか」「早漏の治療が気になる」「早漏に対する治療意欲があるか」などを聞いたが、早漏に対する治療意欲がかなり高い結果だった。回答者の約25%が早漏を自覚し、そのうち半分以上が治療を希望していた。ただ、そうした状況にもかかわらず治療選択肢がないのが今日のわが国の現状であり、本ガイドラインで示唆するとともに、今後さまざまなジャーナルなどでこの問題を提起していく。 「性欲低下」については、先に紹介した『男性不妊症診療ガイドライン』を制作したときの調べで、1997年に性機能障害が原因で不妊になっている方が約3%いた。その後、2015年の調査では4倍以上に急増し、約13%であった。同じく若年男性で「性機能障害のために子供ができない」と訴える方が、この20年ぐらいで増えた。その1つの原因にEDもあるが、配偶者や恋人などに対する性的な欲求をまったく感じないとか、性欲が低下しているというようなことも明確になってきた。こうした性欲低下の最大の原因としては、ウェブ社会における性的な動画の過剰な接触であり、動画や仮想現実のなかで十分になってしまっていることがある。これは将来のさらなる少子化の原因ともなり得ることであり、治療をしなければいけないということで今回追加を行った。--非専門医の活用法や今後の展望について 非専門の医師には、BQのところをとにかく最初に読んでいただき、性機能障害の基礎知識を付けてもらいたい。そのうえで、目の前の患者にどう診療していくのかは、CQを読んで対応していただきたい。 次回のガイドライン改訂は、5年後ぐらいをめどと考えている。その一方で、わが国は性機能分野の研究が諸外国と比較し、だいぶ遅れている。世界では、普通に行われている治療内容がわが国では保険適用になっていないなどのドラッグ・ラグがある。同様にMinds診療ガイドラインに準拠した作成を行いたいが、エビデンスレベル、エビデンスを持ったジャーナルなどが非常に少なく、今回は近い形で制作を行った。これからの5年で新しい治療薬、治療法の登場も期待されるので、5年後をめどに学会などでよく検討し、改訂することになる。【目次】第I章 性欲低下第II章 ED第III章 射精障害第IV章 ペロニー病第V章 持続勃起症索引【CQなどの項目総数】CQ:24項目BQ:19項目FQ:9項目

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HFpEF診療で期待のフィネレノン、適格患者と注意点とは/バイエル

 非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、これまで2型糖尿病かつ慢性腎臓病患者の心不全発生予防に対し有効性が示されていたが、2025年12月22日、新たに「慢性心不全」の適応を取得した。 これを受け、バイエル薬品は2月19日にプレセミナーを開催。昨年の第89回日本循環器学会学術集会で本剤の研究結果や日本人サブ解析データを発表した絹川 弘一郎氏(富山大学第二内科 教授/日本心不全学会理事長)と佐藤 直樹氏(かわぐち心臓呼吸器病院 副院長/循環器内科)が登壇し、心不全治療の課題やフィネレノン処方時の注意点などについて解説した。HFpEFに投与を考慮すべき、異例のスピードでガイドライン推奨 2025年3月発刊の『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』において、フィネレノンの位置付けは大きく変貌を遂げた。従来の適応に加え、左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)や左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)における薬物治療の推奨とエビデンスが加わった(症候性のHFpEFに対して、心血管死または心不全増悪イベントの抑制を目的としてMRA(フィネレノン)の投与を考慮する[推奨クラスIIa・エビデンスレベルB-R])。この適応拡大に至った背景について、絹川氏は「FINEARTS-HF試験で予後改善効果が示された」と説明し、適応取得前にガイドラインに掲載された異例のスピード感について、「それだけ現場の期待が大きかったことの表れ」と述べた。非ステロイド骨格による炎症/線維化抑制への期待 上記を踏まえ、絹川氏は「心不全診療の現状と課題:左室駆出率の保たれた心不全とは?」と題し、HFpEF診療におけるフィネレノンの可能性を解説。これまで心不全診療の中心はHFrEFであり、心不全~全身臓器の機能低下や各種ホルモンの上昇といった多臓器連関をブロックするため、近年ではARNI(ACE阻害薬/ARB)、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の4剤を併用するファンタスティック・フォーが基本治療とされてきた。その一方で、この20年で増加傾向にあるHFpEFには、HFrEFに準じた治療で有効性が見いだせていなかった。 また以前より、HFpEFの背景にある生活習慣病などのリスク因子を有する患者では、ミネラルコルチコイド受容体(MR)が過剰活性化を起こし、これが心不全の増悪・進行の原因であることは示されていたため、これまで、MRAの1つでステロイド骨格を有するスピロノラクトンでHFpEFに対する有効性が試験されるも、予後改善のエビデンスを得るには至らなかった。これに対して、非ステロイド骨格のフィネレノンは、FINEARTS-HF試験で有効性を示したのである。その理由について同氏は「ステロイド骨格の有無による効果の違いは現時点では明らかではないが、非ステロイド骨格のMRAは、炎症/線維化遺伝子発現を誘導するcofactor(共役因子)と結合しない点が大きいのではないか」と見解を示した。1年予後改善のため、安易な中止は逆効果に 続いて佐藤氏は、「心不全治療はケレンディアによってどう変わるのか?―ケレンディアの対象となる患者像は?―」と題し、フィネレノンのガイドラインでの推奨根拠となったFINEARTS-HF試験に基づき、日本人の適格患者を以下のように示した。<適格患者>―――――――――――――・年齢≧40歳・NYHA心機能分類 II~IV・左室駆出率≧40%・eGFR≧25mL/min/1.73m2・血清カリウム値≦5.5(5.0mmol/L)・SGLT2阻害薬併用可――――――――――――――――――― フィネレノンは、上述のようにガイドラインにおいて“投与を推奨すべき”という位置付けが示されたものの、腎機能やカリウム値のモニタリングが不可欠である。同氏は「除外基準としてeGFR、血清カリウム値について考慮する必要がある」と前置きし、「非ステロイド性MRAを開始できない、あるいはすぐに中止してしまうといった処方医の過度な慎重さが逆に患者の不利益につながりかねない」と注意喚起し、処方医らの不安を払拭する材料として、AHA2024で発表された知見に触れ、血清カリウム値が一時的に5.5mmol/Lを超えた症例においても、フィネレノンの臨床的効果が維持されていたデータを示した。また、FINEARTS-HF試験サブグループ解析結果から、フィネレノンをSGLT2阻害薬服用患者にアドオンすることによる利点、有効性・安全性についても言及した。 最後に同氏は「予後改善目的でフィネレノンを投与することを常に念頭に置いて処方検討を行うことが重要」とし、「フィネレノンは血清カリウム5.5mmol/Lまでは投与可能だが、フィネレノン、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬で血清クレアチニン値の急な上昇がみられることがある。ただし、これは必ずしも腎機能悪化を示すものではなく、これらの治療は腎機能改善と関連している。そして、心不全診療において、安易な反射的中止が課題になっており、診療ガイドラインに基づく薬物療法(GDMT)の中止が心不全の転帰悪化に影響する」と患者の利益を最優先した基準の順守ならびにモニタリングの実施をHFpEF診断にあたる医師に向けて訴えた。 

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日本におけるアルコール使用障害に対する薬物療法の開始率はどの程度か

 アルコール使用障害(AUD)は、世界的に広く認められる疾患である。しかし、薬物療法が行われている患者の割合は依然として低いままである。また、日本におけるAUDに対する薬物療法開始パターンは、これまで十分に解明されていなかった。京都大学の北村 美智氏らは、日本で新たにAUDと診断された患者における薬物療法開始の累積発生率を定量化し、評価を行った。Alcohol and Alcoholism誌2026年1月14日号の報告。 日本の保険請求データベースを用いて記述的研究を実施した。2012~21年度にかけて新たにAUDと診断された20~64歳の成人を対象とした年次コホートを作成した。薬物療法開始の累積発生率は、死亡を競合リスクとして、推定した。 主な結果は以下のとおり。・本研究の対象患者数は1万3,936例。・2012~21年度のコホート全体での平均年齢は43.3~44.8歳、各コホートでの男性の割合は72.6~79.3%であった。・コホート登録時(0日目)における薬物療法開始の累積発生率は、2012年度の18.0%から2021年度には35.2%に上昇した。・1年間の対応する累積発生率は、それぞれ28.1%と44.9%であった。・アカンプロサート(2013年度)とナルメフェン(2018年度)の承認および日本のAUD治療ガイドライン(2018年度)の策定に伴い、薬物療法開始はそれぞれ前年比で顕著に増加した。 著者らは「薬剤処方前にAUDの診断を義務付ける日本の保険償還制度により、今回観察された発症率は過大評価されている可能性があるものの、薬物療法の開始件数は他国で報告されている件数を上回り、2012年度以降着実に増加している。新薬の導入とガイドラインの普及により、治療開始が加速し、治療方法が大きく変化したと考えられる。これらの知見は、臨床医や政策立案者が根深い治療ギャップを埋めるうえで役立つ可能性がある」と結論付けている。

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乳がん検診、超音波併用で長期罹患率低下(J-START)/Lancet

 日本人女性における乳がん罹患率は40歳以降に著しく増加する。マンモグラフィは死亡率の低下が証明されている唯一の乳がん検診の方法だが、高濃度乳房の女性では、病変が乳腺に隠れマンモグラフィの感度が低下するとされ、40~49歳の日本人女性の約60~70%が高濃度乳房組織を有するという。一方、補助的超音波検査は高濃度乳房でも病変を描出する可能性があり、検診の感度とがん検出率を向上させることが示されている。東北大学大学院の原田 成美氏らJ-START investigatorsは「J-START試験」において、マンモグラフィ単独と比較してマンモグラフィ+乳房超音波検査の併用による検診が、40~49歳の日本人女性における進行乳がんの累積罹患率を低下させることを示した。研究の成果は、Lancet誌2026年2月21日号に掲載された。7万2,000例超の女性で超音波併用検診vs.マンモ単独、累積罹患率を評価 J-START試験は、日本の42施設で実施した無作為化対照比較試験であり、2007年8月~2011年3月に、年齢40~49歳で、過去5年間に乳がんの既往がなく、5年以上の余命が期待でき、症状がみられない女性7万2,661例(平均年齢44.0歳、閉経前75.6%)を登録した(厚生労働省および日本医療研究開発機構の助成を受けた)。 被験者を、マンモグラフィ+乳房超音波検査の併用による検診を受ける群(介入群:3万6,723例)、またはマンモグラフィ単独による検診を受ける群(対照群:3万5,938例)に無作為化した。これらの参加者は、初回検診から2年後に2回目の検診を受けるよう要請された。 今回の事前に規定された2回目の解析では、データカットオフ日(2024年10月4日)の時点における、進行乳がん(TNM分類のステージ2以上[リンパ節転移陽性、T2以上、またはこれら両方])の累積罹患率を評価した。ステージ0または1は早期がんと定義した。進行乳がん罹患率、4年目ごろから有意な差 追跡期間中央値は、介入群で11.4年(範囲:0.0~16.1、四分位範囲[IQR]:9.3~12.9)、対照群で11.3年(0.0~16.1、8.9~12.9)であった。 初回検診からデータカットオフ日までに、介入群の894例で乳がんが検出され、このうち234例(26.2%)が進行乳がんであった。同様に、対照群の843例で乳がんが検出され、277例(32.9%)が進行乳がんだった。進行乳がんの累積罹患率は、対照群に比べ介入群で有意に低かった(ハザード比[HR]:0.83、95.6%信頼区間[CI]:0.70~0.98、p=0.026)。 Kaplan-Meier曲線を用いた解析では、進行乳がん罹患率の両群間の有意差は、初回検診後4年目(48ヵ月)ごろに現れ、8年目(96ヵ月)まで差の拡大が続き、それ以降はほぼ一定であった。 また、進行乳がんの10年累積罹患率は、介入群で0.64%(95%CI:0.56~0.73、イベント発生数:246件)、対照群で0.79%(0.69~0.89、286)だった。乳がん全体では差がない 介入群では646/894例(72.3%)が早期乳がんであったのに対し、対照群では551/843例(65.4%)が早期乳がんと診断された。 1回目と2回目の検診の間に診断された中間期乳がんは、介入群で36例に認め、このうち19例(52.7%)が早期乳がんであった。対照群では、中間期乳がんの49例中32例(65.4%)が早期乳がんだった。 また、追跡期間中に、介入群で297例、対照群で280例の死亡が確認され、このうち各群21例ずつが乳がんによる死亡であった。 乳がん全体の累積罹患率については両群間に差を認めなかった(HR:1.02、95%CI:0.93~1.13)。介入群における乳がん全体の5年間累積罹患率は1.33%(95%CI:1.21~1.46、イベント発生数902件)、対照群では1.20%(1.09~1.33、848件)であった。検診への超音波検査導入の価値を強調する知見 著者は、「初回検診後49~96ヵ月における介入群での進行がんの減少は、2年間隔の補助的超音波検査が、将来進行がん化する症例を検出したことを示唆する可能性がある」「これらの知見は、とくにアジア人集団において、高濃度乳房組織を有する女性の検診プログラムへの補助的超音波検査導入の潜在的価値を強調するものであり、将来の乳がん検診ガイドラインの策定に資する可能性がある」としている。 また、「がん検診の試験では死亡率低下の検証が重要となるが、本研究の知見は進行乳がん罹患率を死亡率の潜在的な代替指標として使用する一助となりうる。補助的超音波検査が乳がん死亡率を低下させるか否かを確認するには、継続的な追跡調査が必要である」と指摘している。

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第285回 診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省

<先週の動き> 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に 1.診療科名に「睡眠障害」追加へ 18年ぶり見直し、受診導線改善狙う/厚労省厚生労働省は、医道審議会医道分科会の専門部会で、医療機関が看板や広告で掲げる診療科名に「睡眠障害」を追加することを了承した。診療科名の見直しは2008年以来で、政令改正を経て、今春にも施行される見通し。医療機関は「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」など、既存の基本診療科名と組み合わせた形で標榜できるようになる。診療科名は医療法に基づき規制されており、医療機関が自由に名乗ることはできない。現在は「内科」「外科」「小児科」など約20の基本診療科名に加え、「糖尿病」「腫瘍」など疾患名や臓器名を組み合わせる形で標榜が認められている。今回の見直しで「睡眠障害」もこの組み合わせ名称の1つとして追加される。背景には、睡眠に関する医療ニーズの拡大がある。不眠症や睡眠時無呼吸症候群、過眠症など睡眠障害は多様で、成人の約5人に1人が何らかの睡眠問題を抱えるとされる。その一方で、どの診療科を受診すればよいか、わかりにくいことから受診が遅れるケースも多いとされ、日本睡眠学会が診療科名の追加を要望していた。睡眠障害の診療は内科、精神科、耳鼻咽喉科など複数の領域にまたがる。精神科受診への心理的抵抗から適切な診療につながるまで時間を要する例もあり、診療科名として明示することで受診先の選択が容易になり、早期診断や治療につながることが期待されている。一方、制度上は専門資格がなくても「睡眠障害科」を標榜できるため、専門性を伴わない医療機関が患者集めを目的に掲げる可能性も指摘されている。睡眠障害治療では、睡眠薬の長期使用による依存や離脱症状の問題もあり、専門的な診断や治療体制の整備が課題とされる。日本睡眠学会の専門医は約660人にとどまり、地域偏在も大きい。診療科名の追加を契機に、専門医育成や診療体制整備をどう進めるかが今後の課題となる。 参考 1) 第8回医道審議会医道分科会診療科名標榜部会(厚労省) 2) 病院の診療科名に「睡眠障害」追加 厚労省部会が了承(日経新聞) 3) 「睡眠障害」の診療科名追加を了承、今春にも導入…通院先選びの利便性向上期待(読売新聞) 4) 「睡眠障害」診療科名に追加へ、受診の目印に 08年以来の見直し(朝日新聞) 2.MMRワクチン承認へ、麻疹再拡大で接種体制強化が課題に/厚労省厚生労働省は3月2日に開かれた薬事審議会医薬品第二部会で、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹を防ぐ3種混合ワクチン(MMRワクチン)の製造販売承認を了承した。開発した第一三共の製品「ミムリット皮下注用」が正式に承認されれば、わが国で使用可能なMMRワクチンは約30年ぶりとなる。今後、定期接種に組み込むかどうかの検討が進められる。わが国では1989年にMMRワクチンが導入されたが、おたふく風邪成分に関連した無菌性髄膜炎の報告が相次ぎ、1993年に使用が中止された経緯がある。今回のワクチンは、無菌性髄膜炎の発生頻度が極めて低い株を使用しており、臨床試験でも重大な副作用は確認されていないとされる。海外では100以上の国・地域でMMRワクチンが定期接種として導入されており、わが国でも接種回数の減少など接種体制の効率化が期待される。その一方で、麻疹の感染は国内外で拡大の兆しを見せている。国内では愛知県で高校を中心に感染が広がり、2026年に入ってすでに20例以上の感染が確認された。東京都や埼玉県、神奈川県、岐阜県、鹿児島県などでも散発的な患者が報告され、医療機関や商業施設で不特定多数と接触した可能性のある事例も相次いでいる。海外渡航歴のない患者も複数確認されており、地域内感染の可能性も指摘されている。麻疹は、空気感染で感染する極めて感染力の強いウイルス感染症で、発熱や咳、結膜充血などの症状の後に高熱と発疹が出現する。肺炎や脳炎を合併すると重症化することがあり、ワクチン接種が最も有効な予防策とされる。海外でも流行は深刻化している。米国では、今年に入り約2ヵ月で1,100例以上の感染が報告され、前年の年間患者数を上回る可能性が指摘されている。患者の大半はMMRワクチン未接種、または2回接種を完了していない人だった。米疾病対策センター(CDC)はワクチン接種を改めて呼びかけている。国内でのMMRワクチン承認は、麻疹対策の強化に向けた制度的転換となる可能性がある。麻疹排除状態の維持には、2回接種率の向上とともに、集団免疫を維持するためのワクチン政策の整備が重要となりそうだ。 参考 1) 新薬等15製品が承認へ 第一三共のMMRワクチン・ミムリットなど 薬事審・第二部会が了承(ミクスオンライン) 2) 麻疹・おたふく・風疹の3種混合ワクチン承認へ…かつて報告された無菌性髄膜炎の発生頻度、極めて少なく(読売新聞) 3) はしか感染の20歳代男性、2月21日に日本医科大付属病院で不特定多数と接触か…東京都が注意呼びかけ(同) 4) 愛知県内で新たに2人が「はしか」に感染(NHK) 5) 米はしか感染 2カ月で1、100人 高水準だった去年の年間2,300人を上回る見通し(東日本放送) 6) 米CDC所長代理、はしかワクチン接種呼びかけ(ロイター) 3.急性期病院の要件厳格化 救急・手術実績で拠点化進める/厚労省令和8(2026)年度の診療報酬改定の詳細が明らかになってきた。今回の改定では、急性期入院医療の評価軸が「病棟単位」から「病院全体の急性期機能」へと変更され、実質的に急性期の担い手は急性期A、看護・多職種協働加算を組み合わせた急性期B、急性期1、同様の急性期4に集約される流れが強まった。厚生労働省は、3月5日に「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」として通知を発出し、その中で急性期病院Bの実績要件として救急搬送1,500件以上、または500件以上+全麻手術500件以上などを示し、さらに急性期総合体制加算では、総合性と高い手術実績を備えた拠点病院を評価する仕組みに再編した。中央社会保険医療協議会(中医協)でも、人口の少ない地域では救急搬送の受入件数に加え、外来・在宅診療体制の確保を支援する拠点病院を評価する方向性が示されている。その一方で、人口減少地域への影響は大きい。地域の急性期病床を持つ病院が同時に高度急性期を目指せば、看護師やリハビリスタッフ、症例数が分散し、どこも基準を満たせず、かえって経営不振や医療の質の低下を招きかねない。仮に50床の病棟で多職種7対1を実現するには看護師24人に加え、多職種約10人が必要で、人材が少ない地域の病院にはハードルが高くなる。結果として、急性期機能は一部病院へ集約され、周辺病院は包括期医療や在宅医療へ役割転換を迫られる可能性が高い。住民にとっては、高度急性期病院へのアクセスが遠のく一方で、地域内での「救急受け止め→早期転院→在宅復帰」の流れが整えばメリットもある。ただし、その前提は地域のかかりつけ医や在宅医療機関や介護施設の協力医療機関が軽症の救急患者の受け入れ、退院後のフォロー、看取りの支援を担えることだ。今回、介護施設の入所者の救急搬送は、協力医療機関で対応可能な例を原則として急性期A・Bの実績に算入しない方針も示され、急性期病院と地域密着病院で役割分担する発想がより鮮明になった。過疎地では、病院再編だけでなく、クリニックや訪問看護ステーションとの連携強化、訪問診療、余剰病床の介護施設への転換を含めた検討が不可欠になる。 参考 1) 基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(厚労省) 2) 急性期入院医療の提供主体は「急性期A、多職種7対1の急性期B、急性期1、多職種7対1の急性期4」に集約されるのでは(Gem Med) 3) 急性期総合体制加算の施設基準詳細、「総合的かつ高度な体制を整え、小児・周産期含めた十分な手術実績」持つ病院が加算1を取得(同) 4) 救急患者応需係数で底上げ、地ケア病棟は対象外 看護必要度 C項目に腰椎穿刺など追加(CB news) 4.医師偏在対策が次の段階へ 地域医療構想と医師養成を一体で見直し/厚労省厚生労働省は、3月3日に「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開き、2040年を見据えた「新たな地域医療構想」についてガイドラインを取りまとめた。また、医師の偏在について「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」での検討を重ねてきていた第8次「医師確保計画」の見直し方針をとりまとめ、公開した。今回の2つの検討会の取りまとめは、病床数の議論だけでなく、医師偏在対策や医師養成過程の見直しまで一体で進める点にある。人口減少と高齢化、医療人材不足を前提に、地域ごとに「どの病院が急性期を担い、どこが高齢者救急や在宅を支えるか」を再設計する考えだ。まず、新たな地域医療構想では、人口減少と高齢化を前提とした医療提供体制の再編を進めるため、2040年の必要病床数を最新のNDBデータで推計し、高度急性期79%、急性期84%、包括期89%、慢性期92.5%の病床稼働率で換算する。急性期は少なめ、包括期は厚めに見積もる方向で、厚労省はこの数値を「必要病床数を算定するための換算値」であって、各病院が目標とすべき経営指標ではないと明示した。また、2028年度までに全病院・有床診療所が将来担う医療機関機能を整理し、地域で協議する枠組みを示している。医師確保計画の見直しでは、従来の「目標医師数」だけでなく、「地域で不足する診療科」などの定量指標を導入する。さらに、医師数は極端に少なくなくても、へき地尺度(RIJ)が高くアクセスに課題のある地域を新たに支援対象とする。小児科や産科に加え、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科なども、人口減少地域では常勤確保が難しい診療科として位置付けられ、遠隔医療の活用も検討対象となる。医師にとって重要なのは、外来医師過多区域への新規開業で、地域に不足する医療機能の提供を要請する仕組みが本格化する。その一方で、医療資源が乏しい地域では、承継支援や医師派遣、代替医師確保への支援が行われる。また、国は都道府県任せにせず、運用状況を毎年度把握し、必要なフォローを行う方針も示している。今後は、病院の再編だけでなく、診療所が休日夜間対応、在宅医療、退院後フォロー、遠隔診療をどう担うかが、地域医療構想の実効性を左右しそうだ。医師養成では、医学部の地域枠、臨床研修、専門研修、総合的な診療能力を持つ医師の育成を組み合わせる方向性が整理された。政府は、2040年の医療提供体制を「病床再編」と「医師配置」、さらに「医師の育て方」まで連動させて作り直そうとしている。2040年に向けた医療体制は、急性期医療の集約、高齢者救急への対応、在宅医療との連携、医師偏在是正を一体で進める形となる。病院にとっては、自院が地域で担う医療機能を明確にすることが求められ、外来患者数減少に直面する開業医は、医師会や地域の病院と連携して、地域で何を担うかがこれまで以上に問われる局面に入った。今後は限られた医療人材の中で、どう医療提供体制を維持するか重要な課題となりそうだ。 参考 1) 第12回地域医療構想及び医療計画等に関する検討会(厚労省) 2) 「医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程における取組のとりまとめ」(同) 3) 急性期病床2040年の必要数、稼働率84%で推計 高度急性期79%、包括期89%、慢性期92.5%(CB news) 4) 2040年の必要病床数、病床利用実態・業務効率化等加味し「急性期は少なめ・包括期は多め」に推計-地域医療構想・医療計画検討会(Gem Med) 5.社会保険料抑制へ制度改革 OTC類似薬と高額療養費が焦点/政府政府が進める医療保険制度改革により、公的医療保険の加入者1人当たりの社会保険料が年間約2,200円減少する見通しであることがわかった。上野 賢一郎厚生労働大臣が3月6日の閣議後の会見で明らかにした。改革の柱は、高額療養費制度の見直しと、市販薬と成分や効能が類似する「OTC類似薬」の保険給付の見直しなどで、医療費の抑制を通じて保険料負担の軽減を図る狙いがある。高額療養費制度では、医療費が高額になった場合の患者自己負担の月額上限を段階的に引き上げる。2026年8月と2027年8月の2段階で実施され、最終的には現行より最大38%引き上げられるケースも想定される。厚生労働省は、この見直しにより医療費を年間約2,450億円削減できると試算しており、保険料は加入者1人当たり年間約1,400円程度の軽減効果が見込まれるとしている。薬剤費の見直しも改革の柱となる。市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」については、保険給付を受ける場合でも薬剤費の4分の1を患者が「特別の料金」として負担する制度を新設する。対象は鼻炎、胃痛、解熱鎮痛薬など77成分、約1,100品目とされ、2027年3月の施行を予定している。これにより社会保険料は年間約400円の減少が見込まれる。また、後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず先発薬を選択した場合の追加負担も拡大する。現在は差額の4分の1を患者が負担しているが、これを差額の2分の1まで引き上げる方針だ。こうした薬剤関連の見直し全体では年間約800円の保険料軽減効果が見込まれている。その一方で、高額療養費の上限引き上げに対しては、患者団体や野党から「重症患者の負担増につながる」との批判も出ている。国会審議では、保険料軽減が月額150円程度にとどまるとの指摘もあり、受診控えが生じる可能性への懸念も示された。政府は制度の持続可能性確保のための改革と説明するが、患者負担と保険財政のバランスをどう取るかが引き続き議論となりそうだ。 参考 1) 医療保険制度改革で保険料1人当たり年2,200円減、高額療養費制度やOTC類似薬の負担見直し(読売新聞) 2) 高額療養費見直しなどで社会保険料年2,200円減 厚労相が見通し(毎日新聞) 3) OTC類似薬の負担見直し、保険料減は月額33円程度 高額療養費は117円減 上野厚労相(CB news) 4) 「ペットボトル1本分の社会保険料負担軽減のために、高額療養費の負担増やすのか」共産議員が見直し迫る 衆院予算委で質疑(ABEMA TIMES) 6.美容クリニックの再生医療で訴訟相次ぐ 安全性と説明責任が焦点に美容医療を巡る訴訟が相次いでいる。焦点となっているのは、顔のしわやたるみ改善をうたう「プレミアムPRP皮膚再生療法」を受けた後に、頬や目の下にしこりや隆起が残ったとする事案だ。2026年2月には女性3人が東京都内のクリニックを東京地裁に提訴し、施術費用の返還、原状回復のための治療費、慰謝料など計約1,850万円を求めた。原告側は、施術前に重い合併症や除去の困難さ、使用成分の実態について十分な説明がなく、安全性を強調する宣伝の下で同意が取られたと主張している。被害相談の増加を受け、医療問題弁護団は3月1日にプレミアムPRP皮膚再生療法の被害者救済を目的に無料ホットラインも開設し、同種事案の掘り起こしを進めている。この訴訟で争点となるのは、単なる仕上がり不満ではなく、説明義務違反と再生医療法令への適合性だ。報道では、「bFGFを加えたPRP療法は未承認の再生医療に当たり、患者への説明事項は省令で定められているのに、同意書や説明内容が不十分だった可能性」が指摘されている。実際、2025年1月には同種の美容目的再生医療を巡る別件で、東京地裁が医療法人の責任を認める決定が確定した。そこでは、「施術の有効性に十分な科学的根拠が乏しいこと」、「bFGFによる長期のしこりや隆起が起こりうることを説明すべき義務があったのに尽くされなかった」と判断され、解決金支払いと再発防止が求められた。今回の3人提訴は、この先行事例を踏まえ、同種施術の説明体制や広告表示を改めて司法の場で問う意味合いが大きい。美容医療トラブルが急増する背景として、過度な広告、一括払いの勧誘、十分な訓練を経ない医師の参入が挙げられる。消費者保護の視点から患者側は施術を受ける前に「専門医かどうか」「リスク説明が十分か」を見極める必要性がある。今回の訴訟は、その問題が個人の後悔ではなく、説明不足を伴う構造的な消費者被害として司法判断の対象になり始めたことを示している。美容医療では、適応外使用や未承認技術を含む施術ほど、インフォームド・コンセントの質そのものが法的責任の核心になる。 参考 1) 「鏡向くたびに絶望」顔にしこりなど副作用…美容医療受けた女性ら、都内のクリニック提訴(産経新聞) 2) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 3) 3月1日(日)プレミアムPRP皮膚再生療法被害ホットラインを実施しました(医療問題弁護団) 4) 「美容目的の再生医療で合併症」 医療法人の責任認定、訴訟が終結(朝日新聞) 5) トラブル急増・美容医療の見極め方 消費者保護に取り組む医師・大塚篤司(TBS)【動画】 6) プレミアムPRP皮膚再生療法で被害相談ホットライン開設 医療問題弁護団が3月1日に電話受付 2026年2月には3人の女性が美容クリニックを提訴

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大腸がん術後の運動プログラム、初のガイドライン推奨に/ESMO

 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は、2026年1月27日付で、術後の局所進行大腸がん患者に対し、術後の「構造化された身体的運動プログラム」を臨床的介入として正式に推奨するガイドライン更新を発表した。従来から、がん患者の生存改善に運動が寄与するとの報告はあったものの、明確なエビデンスを基に治療ガイドラインにおける正式な推奨となったのは初めて。 今回のガイドライン更新の根拠となったのは、カナダの治験グループが実施したCHALLENGE試験。StageIIIおよび高リスクStageII大腸がんに対する構造化された運動プログラムが無病生存期間(DFS)を有意に改善し、全生存期間(OS)の有意な延長をもたらすことを示した。この結果は2025年の米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2025)で発表されると同時にNEJM誌に掲載され1)、話題を集めた。CHALLENGE試験の概要と結果・対象:StageIIIおよび高リスクStageII大腸がん患者、切除術を受け、その後2~6ヵ月に補助化学療法を完了:889例・介入:構造化運動プログラム+行動支援を3年vs.標準的健康教育のみに1:1の割合で無作為に割り付け。運動介入は週当たり約150分の中等度~高強度運動量(目安として10MET・時間/週程度)を目標としたプログラム。・主要評価項目:DFS、OS・追跡期間中央値7.9年において、運動プログラム群はDFSの改善を示し(5年DFS率:80%対74%)、OSも運動プログラム群で有意に改善した(HR:0.63[95%信頼区間:0.43~0.94])。・介入中は筋骨格系の軽微な副作用は観察されたが、重度イベントはまれであった。これらの結果は、運動が単なる健康教育ではなく、構造化された介入として腫瘍学的な利益をもたらす可能性を示した。 CHALLENGE試験を受けた今回のESMOガイドラインExpress Updateにおける新たな推奨は以下のとおり。推奨事項・StageIII/高リスクStageIIの大腸がんを切除した患者には、構造化された運動プログラムによる生存率の延長を示唆する入手可能なエビデンスについて知らせるべきである。・医療従事者は、対象患者に構造化された運動プログラムへの参加資格を明確に伝え、必要なインフラとサポート内容を明確に説明する必要がある。また、医療従事者は、患者の病歴、希望、態度、そして運動プログラムの実施における潜在的な課題(アドヒアランスや経済的負担など)についても評価する必要がある。・運動の強度と実行可能性について話し合い、共同で意思決定を行った後、対象となる患者には構造化された運動プログラムへの参加が推奨される。・行動支援および運動プログラムの実施能力とインフラの構築、ならびに患者に対する必要な支援と指導のために、協調的な保健システム投資が推奨される。・局所性大腸がんを切除した患者には、運動(週10MET・時間)、禁煙、過度のアルコール摂取の回避、野菜、果物、ベリー類を豊富に含む健康的な食事(胃腸機能に適応したもの)の採用など、健康的なライフスタイルの維持を奨励する必要がある。 今回のESMOガイドライン更新は、運動が薬物治療と同様に、術後管理の重要な柱となる可能性を示している。とくに再発抑制や生存改善という臨床転帰の改善がエビデンスとして認められたことは、日本を含む臨床現場で注目される変化だろう。一方、運動プログラムの実装法や医療体制への統合、患者の長期的な遵守支援などにおける課題も多い。また、個々の患者に適した運動形式や強度の調整、合併症を持つ患者への安全なプログラム設計などの面でも、さらなる試験によるデータを蓄積する必要がありそうだ。

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冠動脈疾患の画像診断、放射線被曝量に世界的格差/JAMA

 近年、冠動脈疾患(CAD)の画像検査は世界中で著しく増加しているが、画像検査による患者被曝線量には大きなばらつきがあることが明らかとなった。米国・コロンビア大学アービング医療センターのAndrew J. Einstein氏らINCAPS 4 Investigators Groupが、世界101ヵ国の742施設が参加して行われた横断研究「IAEA Noninvasive Cardiology Protocols Study(INCAPS)4」の解析結果を報告した。著者は、「今回の結果は、世界的に放射線量低減のための研修、標準化されたプロトコール、そして最新機器の導入がきわめて重要であることを示している。これは、とくに低・中所得国の患者ならびに冠動脈CT血管造影(CCTA)を受ける患者に影響を与えるだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2026年2月25日号掲載の報告。2023年10~12月の1週間にデータを収集 研究グループは、2023年10月15日~12月10日のいずれか1週間において、参加施設で実施された冠動脈疾患画像検査(SPECTまたはPET心臓核医学検査、冠動脈石灰化スコア[CACS]評価のための心臓CT、またはCCTA)の情報を分析した。収集した情報は、各検査の実施件数、患者背景、撮像プロトコール、放射線関連パラメータであった。 主要アウトカムは、患者への放射線量(実効線量)、およびガイドライン推奨値である実効線量中央値が9mSv以下の施設の割合。 101ヵ国の742施設から1万9,302例のデータ(核医学検査1万1,061例[SPECT:1万295例、PET:726例]、CT検査8,241例[CCTA:6,939例、CACS:6,631例])が報告された。患者の実効線量中央値が最も高いのはCCTA、施設間でもばらつき大 1万9,302例の患者背景は、女性が8,515例(44%)、年齢中央値63歳(四分位範囲[IQR]:54~71)であった。 患者の実効線量は検査によって大きく異なり、中央値(IQR)でCACSが1.2(0.7~2.2)mSv、PETが2.0(1.6~2.4)mSv、SPECTが6.5(3.9~8.6)mSv、CCTAが7.4(3.5~15.5)mSvであった。施設別の実効線量中央値にもばらつきが認められた。 患者の実効線量中央値9mSv以下の施設は、核医学検査実施施設で81%(355施設)、CCTAで56%(216施設)であり、核医学検査実施施設が有意に多かった(p<0.001)。また、実効線量中央値9mSv以下の患者は、核医学検査を受けた患者がCCTAを受けた患者より有意に多かった(79%vs.56%、p<0.001) 同一検査における線量(中央値[IQR])は地域間で有意差が認められ、西ヨーロッパが最も低く(核医学心臓検査で4.8[2.3~7.3]mSv、CCTAで4.6[2.4~9.8]mSv)、核医学心臓検査は中南米(7.8[5.3~9.7]mSv)、CCTAはアフリカ(25.2[14.7~35.3]mSv)で最も高かった(いずれもp<0.001)。 回帰モデルでは、国の所得水準と線量の間に逆相関の関係が認められた。患者線量は、低・中所得国において高所得国より核医学検査が20%(95%信頼区間[CI]:3.6~38.4)、CCTAが最大96%(95%CI:41.7~170.8)高かった(いずれもp<0.001)。ただし、所得水準や地域間で顕著なばらつきが認められている。

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市中肺炎への抗菌薬、72時間以内の経口剤への切り替えは安全?

 市中肺炎の入院治療において、注射用抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えは、入院期間や抗菌薬投与日数の短縮につながることが報告されている。そのため、本邦の『成人肺炎診療ガイドライン2024』でも「市中肺炎治療において、症状・検査所見の改善に伴い、注射用抗菌薬から経口抗菌薬への変更(スイッチ療法)を行うことは推奨されるか」というクリニカルクエスチョンが設定され、推奨は「症状・検査所見の改善が得られればスイッチ療法を行うことを強く推奨する(エビデンスの確実性:B)」となっている1)。 米国・Iowa City Veterans Affairs Health Care SystemのLogan Daniels氏らの研究グループは、実臨床における経口抗菌薬への早期切り替えの実施状況の検討を目的として、米国退役軍人省が運営する124の急性期病院を対象とした調査を実施した。その結果、72時間以内の早期切り替えは約半数の症例で実施されており、切り替えが積極的に行われた施設と積極的ではなかった施設で、転帰に差は認められなかった。このことから、早期切り替えの安全性が改めて示唆された。本報告は、Infection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2026年2月2日号に掲載された。 研究グループは、2018~23年に急性期病院に入院し、入院時に注射用抗菌薬で治療が開始された市中肺炎患者を対象として、後ろ向きコホート研究を実施した。入院後72時間以内に注射用抗菌薬から経口抗菌薬へ切り替えた患者の割合、30日以内の死亡および再入院の複合などを評価した。施設ごとの患者構成の違いを調整するため、各施設における早期切り替えの観察値/期待値(O:E)比を算出した。さらに、このO:E比に基づいて施設を四分位(Q1~Q4)に分類し、30日以内の死亡および再入院の複合を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった入院3万1,183件のうち、55.4%(1万7,282件)が72時間以内に経口抗菌薬へ切り替えられた。・早期切り替えが行われた1万7,282件のうち、87.4%(1万5,113件)が3日目までに退院し、12.6%(2,169件)は3日目時点で入院継続中であった。・30日以内の死亡および再入院の複合は、全体で18.1%(5,629件)に認められた。・施設ごとの早期切り替えのO:E比は、Q1群0.78、Q4群1.23であり、施設間で実施状況に差がみられた。・施設ごとの早期切り替え実施の度合い(O:E比の四分位)別にみた場合、30日以内の死亡および再入院の複合に有意差は認められなかった。・3日目まで入院を継続していた患者において、早期切り替えが行われにくい因子として、βラクタム系薬+非定型病原体をカバーする抗菌薬の併用によるエンピリック治療(オッズ比[OR]:0.808、95%信頼区間[CI]:0.725~0.900)、広域抗菌薬によるエンピリック治療(OR:0.657、95%CI:0.594~0.727)、最近の入院(2022年のOR:0.779、95%CI:0.681~0.891、2023年のOR:0.668、95%CI:0.582~0.767)が抽出された。・早期切り替えと関連する因子としては、高齢(OR:1.009、95%CI:1.004~1.013)、フルオロキノロン単独によるエンピリック治療(OR:1.619、95%CI:1.378~1.902)が抽出された。 本研究結果について、著者らは「注射用抗菌薬から経口抗菌薬への早期切り替えが積極的に行われた施設でも、転帰の悪化がみられなかったことから、早期切り替えの安全性が示唆された。早期切り替えを推進するために、組織的な取り組みが求められる」とまとめた。

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急性単純性虫垂炎、手術か抗菌薬か?APPAC 10年追跡(解説:寺田教彦氏)

 虫垂切除術は、100年以上にわたり虫垂炎における唯一の治療法とされ、現在も虫垂炎の主要な治療法である。一方で、CTで合併症を伴わない急性単純性虫垂炎に限れば、抗菌薬による保存的治療が一定の成績を示す研究が蓄積し、近年のガイドラインでも「特定集団では選択肢になりうる」と整理されるようになった(Podda M, et al. JAMA Surg. 2026 Jan 28. [Epub ahead of print] )。 2026年1月にJAMA誌に掲載された本論文で扱われているAPPAC試験は、フィンランドの6施設で実施した非盲検無作為化非劣性試験で、2009年11月から2012年6月に、18歳から60歳までの、CTで合併症がない急性単純性虫垂炎と診断された患者を虫垂切除群と抗菌薬治療群に無作為に割り付けた試験であり、今回は10年追跡解析を報告している。これまでにも5年間の追跡の結果を報告しており(Salminen P, et al. JAMA. 2018;320:1259-1265.)、保存的治療を選択するエビデンスを提供してきたが、今回の10年追跡解析結果により、適切な患者選択を行えば、抗菌薬治療が長期経過でも安全でかつ合理的な選択肢になりうるエビデンスを追加した。 従来、抗菌薬による保存的治療が手術より劣ると懸念されていた点には、(1)保存的治療を選択時は手術を回避できても、その後に手術が必要となるのではないか?(2)手術の遅れにより合併症のリスクが増大するのではないか?(3)虫垂腫瘍の見逃しが起きないか? といった点があっただろう。 本研究結果を基に整理すると、次のようになる。(1)再発と手術回避:抗菌薬治療群の10年間の再発率は37.8%、累積虫垂切除率は44.3%で、再発や虫垂切除は主に2年以内に集中していた。つまり、再発の大半は2年以内に集中しており、半数以上の患者(55.7%)は10年後も手術を回避できていた。(2)安全性:合併症は、腸閉塞や創部感染などを含む合併症発生率が手術群で27.4%、抗菌薬群が8.5%と報告されている。適切な患者選択と経過観察を行えば、再燃がただちに重篤な合併症に直結する懸念は乏しいだろう。(3)腫瘍リスク:抗菌薬群における腫瘍発見率は0.9%(MRI追跡含む)であり、初めから手術を行った群(1.5%)と統計的な差はなかった。発見された腫瘍も低悪性度であり、待機的な手術で完治している。 本結果を日本で適用するに当たり次の2点は検討が必要かもしれない。1点目は、対照群の手術様式とそれに伴う合併症率である。本研究の手術群で合併症発生率が高い理由として、当時行われていた開腹手術に起因したヘルニアや創部感染が関与している可能性がある。現在の日本で行われる腹腔鏡を含めた手術では、合併症率がより低いことが予測され、手術の優位性は本研究より高いかもしれない。2点目は、使用する抗菌薬の種類である。本研究で使用されたertapenemは、広域抗菌薬として知られるカルバペネム系抗菌薬であり、AMRの観点などからは全例での使用は推奨しがたい。また、内服治療で使用されているレボフロキサシンは日本では大腸菌の耐性化が進んでおり、こちらは治療失敗のリスクの点から推奨しにくい場合がある。抗菌薬による治療を選択する場合も、各施設のアンチバイオグラムや患者の全身状態を参考にしながら、日本ではセフメタゾールなどの薬剤が検討されることになるだろう。

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