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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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アレルギー総合ガイドライン2022

“total allergist”に必携の1冊!アレルギー疾患の診療には、各種のアレルギー疾患の病態を踏まえた治療が必要です。また、アレルギー疾患は合併しやすいことから、アレルギー疾患全般を診療できる “total allergist”と表現される総合アレルギー医が求められます。本書は、診療科や年齢、性別を超えて横断的に出現するアレルギー疾患に対して、円滑に対処できるよう実用性を重視して作成された2019年版の全面改訂版で、各診療ガイドラインのエッセンスを精選して幅広いアレルギー診療の基本をまとめることで、前版より300ページ以上減のコンパクト化を実現しています。“total allergist”をはじめ、アレルギー疾患の診療に携わるすべての医療従事者のためのより実用的な1冊となっています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    アレルギー総合ガイドライン2022定価5,060円(税込)判型B5判頁数419頁発行2022年10月作成一般社団法人日本アレルギー学会

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第121回 大都市、大学病院離れ鮮明に、医師臨床研マッチング結果/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.大都市、大学病院離れ鮮明に、医師臨床研マッチング結果/医師臨床研修マッチング協議会2.75歳以上の医療保険、所得に応じた負担増へ/厚労省3.マイナンバーと健康保険証の一体化に向け、検討会を立ち上げ/政府4.すべての医師にHPKIカード(医師資格証)の所有を促進/日本医師会5.総合診療医の育成コース、年収2,500万円で支援/新潟県津南町6.医療事故多発の赤穂市民病院に専門医の施設認定の停止/日本脳神経外科学会1.大都市、大学病院離れ鮮明に、医師臨床研マッチング結果/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は10月27日に、令和4年度の研修医マッチングの結果を発表した。これによると、大都市部の6都府県(東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県)を除く道県での内定は59.6%、大学病院以外の臨床研修病院での内定は63.5%と、地方での研修や大学病院以外での研修が増えている傾向だった。マッチング開始直後の2004年度にはそれぞれ、大都市以外は50.6%、大学病院以外は47.3%だった。また、同日に厚生労働省は「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を開催し、医師偏在指標の算出結果(速報値)を公表し、医師多数区域においては医師偏在指標が減少する区域が多くなっていることが明らかにされた。新たな医師偏在指標では、全体的に医師偏在指標そのものは増加しており、これらを元に、令和4年度末に、国が、次期医師確保計画策定ガイドラインとあわせて都道府県に提供する医師偏在指標(暫定値)より、上位および下位1/3の閾値を決定する。また、令和元年度に9,420人に達した医学部の定員については、令和6年度も、令和元年度の定員数を上限とし、令和5年度の枠組みを暫定的に維持することになった。(参考)令和4年度 研修医マッチングの結果(医師臨床研修マッチング協議会)地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(厚労省)第9回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(同)2016年から2020年にかけて「医師の地域偏在」が進んでしまった!強力な偏在対策推進を!?地域医療構想・医師確保計画WG(1)(Gem Med)2023年4月からの医師臨床研修、都市部6都府県「以外」での研修が59.6%、大学病院「以外」での研修が63.5%に増加-厚労省(同)新医師偏在指標、平均値など多くの項目で増加 地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(日経メディカル)2.75歳以上の医療保険、所得に応じた負担増へ/厚労省厚生労働省は、10月28日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度について、年金収入が年間153万円を超える所得の高い人の年間保険料の上限引き上げなどを含む案を提案した。同時に国民健康保険の保険料の上限を2万円引き上げて104万円にする方針も示された。2025年までに団塊の世代が全て後期高齢者となるため、現在の後期高齢者医療費の約17兆円が急増することが見込まれており、その前に、高所得の高齢者に負担を求め、現役世代の負担を抑制する方針。(参考)第156回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)75歳以上の医療保険、負担増を諮問…年金153万円超が対象の可能性(読売新聞)中高所得層の負担増 75歳医療保険料引き上げへ(産経新聞)医療、所得に応じ負担増 高齢者・現役の両方で 厚労省審議会、保険制度見直し着手(日経新聞)3.マイナンバーと健康保険証の一体化に向け、検討会を立ち上げ/政府岸田文雄総理は、10月28日の記者会見で、2024年の秋に予定しているマイナンバーカードと健康保険証の一体化に向け、関連省庁で検討会を設置することを表明した。これは保険証の廃止につながるとして医師会などから懸念の声が上がっているため。また、紛失などで手元にカードがなくても保険診療を受けられる制度を用意することも明らかにした。(参考)カード一体化の検討会 マイナと保険証、首相表明(日経新聞)「マイナ保険証」紛失でも保険診療 岸田首相(時事通信)4.すべての医師にHPKIカード(医師資格証)の所有を促進/日本医師会日本医師会は10月26日に定例記者会見を開催し、来年1月から、オンライン資格確認を活用した電子処方箋の運用開始を前に、全医師に対する公開鍵認証基盤(HPKI)に基づく医師資格証の発行を日本医師会が促進していく方針を示した。今年9月末の時点で、医師資格証の発行枚数は2万5,000枚を超え、現在3,000件以上の申請に対応しており、今後、すべての医師に取得してもらえるよう取り組むことを示した。なお、医師資格証の発行・更新費は医師会員であればすべて無料であり、非会員であっても実費のみで取得可能であること、新規の医師免許取得者も無料での取得が可能である。(参考)医師資格証、全医師への発行を「強力に加速」 日医・長島常任理事(MEDIFAX)医師資格証の全医師への発行について(日本医師会)医師資格証について(日本医師会 電子認証センター)5.総合診療医の育成コース、年収2,500万円で支援/新潟県津南町新潟県津南町は、深刻な医師不足に直面しており、若手総合診療専門医を育成するため、町立津南病院ならびに県立十日町病院で研修する場合、通常の給与に加えて年間1,000万円を最大4年間支給する研修プログラムを来年度から開始することを発表した。研修終了後も津南病院で2年働くことなどが条件。また、海外留学にも最大1,550万円の奨学金で支援する。専門医取得後は、病院の幹部として登用する。11月10日にオンライン説明会を実施する。(参考)地域で育成する日本初の総合診療医育成プログラムを開始します(津南町)「総合診療医」好待遇で志願者募集、新潟・津南病院が全国初の研修制度 幹部候補、海外留学を支援、年収2倍(新潟日報)「年収2,500万円で病院長候補を…」医師不足“全国最下位”の新潟県で始まる日本初の育成プログラム(新潟放送)6.医療事故多発の赤穂市民病院に専門医の施設認定の停止/日本脳神経外科学会兵庫県の赤穂市民病院は、2019年9月以降に同院の脳神経外科で多発した医療事故のため、日本脳神経学会は専門医指定訓練施設の認定を停止したことを明らかにした。これは以前、脳神経外科で勤務していた男性医師(依願退職済み)による医療事故が相次いだことを受け、学会側として対応したものとみられる。学会側は再認定には、医療安全管理体制の整備や医療事故の発生当時の問題点を総括することを求めている。(参考)医療事故相次ぎ8件→学会は11件指摘 赤穂市民病院脳神経外科の認定を停止 専門医の研修できなくなる(神戸新聞)市民病院医療事故多発 学会が訓練施設認定を停止(赤穂民報)

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小児滲出性中耳炎診療ガイドライン 2022年版 第2版

滲出性中耳炎の臨床を強力にサポートする充実のアップデート!小児の滲出性中耳炎は、難聴を引き起こして言語発達の遅れや学習の妨げを生じさせるなど重大な結果に繋がりかねない疾患で、正確な診断と適切な治療が求められます。治療では薬物療法、鼓膜換気チューブ留置術やアデノイド切除術の適応の見極めなどで難しい判断を求められます。本書では、解説項目と前版以降に集積したエビデンスも加えたCQを用いて、治療の選択や実際について詳しく解説することで、実地臨床を強くサポートします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    小児滲出性中耳炎診療ガイドライン 2022年版 第2版定価2,860円(税込)判型B5判頁数120頁・図数:8枚・カラー図数:29枚発行2022年9月編集日本耳科学会/日本小児耳鼻咽喉科学会電子版でご購入の場合はこちら

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レビー小体病の睡眠障害~システマティックレビュー

 レビー小体病(LBD)は、レビー小体型認知症(DLB)とパーキンソン病型認知症(PDD)の両方を含む疾患である。LBDでは、睡眠の質の低下、日中の過度な眠気(EDS)、急速眼球運動行動障害(RBD)などの睡眠障害が高頻度で認められるにもかかわらず、他の認知症との比較研究は十分に行われていない。英国・ノーザンブリア大学のGreg J. Elder氏らは、LBDの睡眠障害の特性を調査し、睡眠障害に対する治療研究の効果、将来の研究に必要な具体性および方向性を明らかにするため、システマティックレビューを実施した。その結果、LBD患者は、高頻度に睡眠障害を合併しており、主観的な睡眠の質の低下、EDS、RBDなどが他の認知症患者よりも多く、より重度であることを報告した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2022年10月号の報告。 2022年6月10日までに英語で公表された研究をPubMed、PSYCArticlesデータベースより検索した。本研究は、PRISMAガイドラインに従って実施された。 主な結果は以下のとおり。・全文レビュー後、70件の研究が含まれた。・主観的な睡眠に焦点を当てた研究が20件、RBD関連が14件、EDS関連が8件、客観的な睡眠に焦点を当てた研究が7件、概日リズム障害関連が1件であった。・治療に関連する18件の研究の大部分は、薬理学的介入であった(12件)。また、非盲検試験は8件あり、研究の質は低~中程度であった。・多くの研究(55件)は、DLB患者のみで構成されていた。・研究の不均一性が大きく、メタ解析には至らなかった。・LBD患者の90%は、1つ以上の睡眠障害を有している可能性が示唆された。・LBD患者は、他の認知症患者と比較し、主観的な睡眠の質の低下、EDS、RBDの頻度が高く、より重度であることが示唆された。

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論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患【知って得する!?医療略語】第22回

第22回 論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患ITPの和訳がよく分かりません。教えてください。ITPには現在「特発性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少症」の3つの和訳が存在するようです。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】    ITP【日本語/英字】特発性血小板減少性紫斑病/idiopathic thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少性紫斑病/immune thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少症/immune thrombocytopenia【分野】    血液【診療科】   血液内科・小児科【関連】    ―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が学生の頃、血小板減少疾患であるITPは、特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)と覚えました。しかし、近年ITPが「免疫性血小板減少性紫斑病:immune thrombocytopenic purpura」と訳されているのを見かけるようになりました。医師国家試験関連の参考書を参照しても、ITPは「免疫性血小板減少性紫斑病」で記載されています。ITPの和訳は変更されたのでしょうか。調べてみると、成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版1)が存在します。また難病情報センターの登録難病の病名2)も特発性血小板減少性紫斑病となっています。一方、小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版というものも存在し、小児慢性特定疾病情報センターのサイトを見ると、免疫性血小板減少性紫斑病が告示病名3)となっています。また同サイトによれば、ITPは血小板減少があっても必ずしも紫斑を伴わないため「紫斑病」は除き、免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia: ITP)と表記するとの記載があります。しかし、それぞれの資料で疾患概要を調べてみると、特発性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少症は、同一の疾患です。ちなみに厚生労働省保険局が運営する傷病名マスター4)には、「特発性血小板減少性紫斑病」は存在しますが、「免疫性血小板減少性紫斑病」は登録されていません。ITPと同じように、同一疾患(病態)に複数の病名が存在して困惑するのが血球貪食症候群(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HPS)、血球貪食性リンパ組織球症 (hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)です5)。医学的知見の集積で、より適切な病名に変更されていくことに異義はありません。しかし、同一の疾患や病態に複数の病名が併存することは、少なからず混乱を生じます。まず、それぞれの病名で一見すると別疾患のように誤解を生じます。また、学会発表や論文作成をする時にどちらの用語を用いれば良いか迷いますし、症例集積などの臨床研究や文献検索においても支障を来すと考えられます。昨今注目される医療データ活用の観点でも、同一疾患に複数の病名が存在することは、医療データの活用を阻害しかねません。この問題は日本に医療用語の整備、統一病名変更を告知する組織がないことが原因だと思います。学会の垣根を越えて、用語の統一が図られることを切に願います。1)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版2)難病情報センター:特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)3)小児慢性特定疾病情報センター:免疫性血小板減少性紫斑病4)厚生労働省保険局:診療報酬情報提供サービス5)熊倉 俊一. 血栓止血誌. 2008;19:210-215.

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10月26日 弾性ストッキングの日【今日は何の日?】

【10月26日 弾性ストッキングの日】〔由来〕1848年10月26日にウィリアム・ブラウン氏が「弾性ストッキング」の特許をイギリスで取得したことにちなみ、「日本静脈学会 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会」が弾性ストッキングを広く一般にPRするために制定。関連コンテンツ浮腫の見分け方、発症形式と部位を押さえよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】「災害としてのCOVID-19と血栓症Webセミナー」ホームページで公開中/日本静脈学会浮腫による蜂窩織炎の再発予防、圧迫療法は有効か/NEJM新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会静脈瘤治療、5年後のQOLと費用対効果を比較/NEJM

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化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?【見落とさない!がんの心毒性】第15回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別50代・女性主訴動悸、労作時息切れ現病歴約10年前に健診で不整脈を指摘されていた。2ヵ月前に労作時息切れが出現し、慢性心不全と診断された。カルベジロールを開始すると心不全症状の改善を認めた。1ヵ月前に汎血球減少が出現し精査が行われ、急性前骨髄性白血病(APL)と診断された。化学療法前の心エコーでは左室拡張末期径64mm、左室駆出率53%、軽度僧帽弁閉鎖不全症を認めた。イダルビシン(48mg/m2)、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)投与による寛解導入療法が施行され、治療開始後6週目に寛解となった。続いて、ダウノルビシン(100mg/m2)、ATRA投与による地固め療法が1コース施行された後、動悸、労作時息切れが出現し、心電図で心室期外収縮(PVC:premature ventricular contraction)頻発、心エコーで左室収縮能低下を認め、精査加療のため入院となった。現症血圧 90/52mmHg、脈拍数 70bpm 不整、SpO2 98%(酸素投与なし)、結膜貧血なし、頚静脈怒張なし、心音I音減弱、III音あり、心雑音なし、呼吸音清、下腿浮腫なし採血BNP 570.7pg/mL胸部X線CTR 57%、肺うっ血なし、胸水なし心電図洞調律、II・III・aVF・V4-6誘導でST低下・平坦〜陰性T波、PVC頻発(左脚ブロック型・正常軸、右脚ブロック型・右軸偏位の2種類)(図1上)心エコーびまん性左室壁運動低下 (左室拡張末期径/収縮末期径 66/56 mm、左室駆出率 28%)、中等度僧帽弁閉鎖不全症、肺高血圧症疑い (三尖弁圧較差 39 mmHg、下大静脈径 13 mm、呼吸性変動良好)ホルター心電図総心拍数12万6,988拍/日、心室期外収縮(PVC)4万8,780拍/日 (総心拍数の38%、うち最多波形20%、2番目に多い波形18%、最長12連発)、上室期外収縮22拍/日 (総心拍数の0.1%未満)(図1下)(図1)画像を拡大する画像を拡大する上)12誘導心電図における2種類のPVC。赤枠:左脚ブロック型・正常軸、青枠:右脚ブロック型・右軸偏位下)ホルター心電図におけるPVCのパターン。赤枠と青枠はそれぞれ12誘導心電図におけるPVCに一致する。【問題】今後の治療に関する下記の選択肢について、正しいものはどれか?a. β遮断薬を減量する。b. ATRAを中止する。c. アントラサイクリンを減量し継続する。d. 血清K+4.0mEq/L以下を目標に調整する。e. PVCに対しカテーテルアブレーションを施行する。1)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022 Aug 26.[Epub ahead of print]2)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン3)Fonarow GC, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;52:190-199.4)Buza V, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017;10:e005443.5)Montesinos P, et al. Blood. 2009;113:775-783.6)Dubois C, et al. Blood. 1994;83:3264-3270.7)Lacasse Y, et al. Can J Cardiol. 1992;8:53-56.8)Kishi S, et al. Int J Hematol. 2000;71:172-179.9)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2018年改訂版 不整脈非薬物治療ガイドライン講師紹介

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1人より2人〜DPNPに対する併用療法という選択肢〜(解説:永井聡氏)

 糖尿病患者の4人に1人に合併しうる糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、QOLに大きな影響を及ぼし、海外の多くのガイドライン1)では、アミトリプチリン(A)、デュロキセチン(D)、プレガバリン(P)、ガバペンチン(G)が第一選択となっており、日本においても同様である2)。これらの推奨は、システマティックレビューからのエビデンスの強さでなされ、単剤としてデュロキセチンが中等度の推奨、アミトリプチリンおよびプレガバリンが低い推奨とされている。ただし、最適な薬剤あるいは併用すべきかについてのある程度の規模の比較試験は行われていなかった。 そのような背景の中、DPNPに対する単剤および併用療法の有効性について、多施設共同無作為化二重盲検クロスオーバー試験、OPTION-DMが報告され、検討されたどの治療方針でも鎮痛効果は同等であり、併用療法の鎮痛効果は単剤療法を継続した患者より大きいことが示された。 本試験で用いられた薬剤の最大投与量は、アミトリプチリン75mg、デュロキセチン120mg、プレガバリン600mgであるが、単剤での投与量は6週の時点で各群のおよそ半数の患者において、アミトリプチリンが56mg、デュロキセチンが76mg、プレガバリンが397mgで投与されており、デュロキセチンは本邦のDPNPに対する最大投与量を超え、プレガバリンでも標準投与量である300mgを超えていたことから、短期間に投与量の積極的な増量を行うことが重要であることが再確認されている。それでも多くは併用療法へ移行していて、「十分に第一選択薬を投与した」のでは十分とはいえず、「第一選択薬の併用療法」を行うことでさらなる鎮痛効果が期待できる、という新たなエビデンスが登場したことは、臨床的にインパクトのある報告である。 ただし、本試験の結果を実臨床に活用するにはいくつか注意する点がある。どの組み合わせでも「効果は同等」という結果であるが、実際にはどうだろうか。副作用の点からは、プレガバリンではめまい、デュロキセチンでは悪心、アミトリプチリンでは口渇が多く、患者背景上副作用が起きやすい選択は避けるほうが無難であろう。投与量の点からは、本邦でのデュロキセチンの投与上限は60mgであることに注意が必要である。また、プレガバリンは300mg上限のプラセボ対照試験において有効性を証明しえない報告も多かった3)ことから「十二分に」増量することが改めて重要な薬剤であるが確認された。薬価の点ではアミトリプチリンが有利であるが、抗コリン作用のため高用量単剤での高齢者への投与は慎重に考えたい。 本試験の結果の解釈で注意する点も挙げておきたい。DPNPでは1年以内に半数が自然軽減するという報告もある4)。DPNPのプラセボ対照試験におけるプラセボ効果は一般的に高いことから本試験における単剤の奏効率が約40%、併用療法さらに14〜19%に「鎮痛効果を認めた」中には「自然軽減」や「プラセボ効果」も含まれている。また、二重盲検ではあるが医療者には投与量がマスクされておらず患者に「投与量の増量」が認知されプラセボ効果を生じる可能性がある。 それでも、これまでは効果が「不十分」であれば第一選択薬を他剤に切り替えたり、エビデンスや長期的安全性も不足している第二選択薬であるオピオイドを投与したりしていたことを考えると、本試験の「第一選択薬を併用する」新しい治療の「選択肢」は「糖尿病のない人と同じQOL」を目指す糖尿病の合併症治療を考える上で貴重なエビデンス、といえるのではないかと思う。

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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双極性障害の精神症状と転帰への影響~システマティックレビュー

 双極性障害(BD)患者の半数以上に認められる精神症状は、疾患経過、転帰、治療に対して悪影響を及ぼす可能性がある。しかし、さまざまな研究が行われているにもかかわらず、精神症状がBDに及ぼす影響は解明されておらず、システマティックレビューはほとんど行われていなかった。インド・Postgraduate Institute of Medical Education and ResearchのSubho Chakrabarti氏らは、BD患者の精神症状の程度とBDのさまざまな側面への影響を明らかにするため、システマティックレビューを実施した。その結果、精神症状は、BD患者において一般的に認められるが、それが疾患経過や治療転帰に悪影響を及ぼすとは限らないことを報告した。World Journal of Psychiatry誌2022年9月19日号の報告。 本研究は、PRISMAガイドラインに従い実施された。1940~2021年までに公表されたBD患者の精神症状に関する研究を、6つの英語データベースより電子文献検索および手動検索により収集した。関連するMeSH用語を組み合わせて検索を行った。対象研究は、スクリーニング後に選択し、全文レビューを行った。研究の方法論的質およびバイアスリスクの評価には、標準的なツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・本システマティックレビューには、339件の研究が含まれた。・半数~3分の2のBD患者は生涯に精神症状が認められ、半数弱では現在精神症状が認められた。・BDのいずれのステージにおいても、幻覚よりも妄想の頻度が高かった。・BD患者の3分の1は、とくに躁病エピソード中に、第1級の精神症状または気分に合致しない精神症状が認められた。・精神症状の発生率は、双極II型障害よりも双極I型障害で多く、双極性うつ病よりも躁病または混合エピソードで多かった。・BD患者の精神症状は、それほど重篤ではなかったが、精神病性BD患者の重症度は一貫して高かった。・精神疾患は、主に洞察力低下、興奮、不安、敵意の増加と関連していたが、精神医学的併存疾患との関連は認められなかった。・精神疾患は、入院率および入院期間、うつ病への転換、気分に合致しない症状を伴う転帰不良の増加と関連が認められた。・対照的に、精神疾患がラピッドサイクラー、罹病期間の長さ、自殺リスクの増大につながる可能性は低かった。・疾患経過や他の転帰のパラメータに対する精神疾患の重大な影響は確認されなかった。

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脳底動脈閉塞の予後改善、発症12時間以内の血栓除去術vs.薬物療法/NEJM

 中国人の脳底動脈閉塞患者において、脳梗塞発症後12時間以内の静脈内血栓溶解療法を含む血管内血栓除去術は、静脈内血栓溶解療法を含む最善の内科的治療と比較して90日時点の機能予後を改善したが、手技に関連する合併症および脳内出血と関連することが、中国科学技術大学のChunrong Tao氏らが中国の36施設で実施した医師主導の評価者盲検無作為化比較試験の結果、示された。脳底動脈閉塞による脳梗塞に対する血管内血栓除去術の有効性とリスクを検討した臨床試験のデータは限られていた。NEJM誌2022年10月13日号掲載の報告。発症後12時間以内の症例で、90日後のmRSスコア0~3達成を比較 研究グループは、18歳以上で発症後推定12時間以内の脳底動脈閉塞による中等症~重症急性期虚血性脳卒中患者(NIHSSスコアが10以上[スコア範囲:0~42、スコアが高いほど神経学的重症度が高い])を、内科的治療+血管内血栓除去術を行う血管内治療群と内科的治療のみを行う対照群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 内科的治療は、ガイドラインに従って静脈内血栓溶解療法、抗血小板薬、抗凝固療法、またはこれらの併用療法とした。血管内治療は、ステント型血栓回収デバイス、血栓吸引、バルーン血管形成術、ステント留置、静脈内血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはウロキナーゼ)、またはこれらの組み合わせが用いられ、治療チームの裁量に任された。 主要評価項目は、90日時点の修正Rankinスケールスコア(mRS)(範囲:0~6、0は障害なし、6は死亡)が0~3の良好な機能的アウトカム。副次評価項目は、90日時点のmRSが0~2の優れた機能的アウトカム、mRSスコアの分布、QOLなどとした。また、安全性の評価項目は、24~72時間後の症候性頭蓋内出血、90日死亡率、手技に関連する合併症などであった。良好な機能的アウトカム達成、血管内治療群46%、対照群23% 2021年2月21日~2022年1月3日の期間に507例がスクリーニングを受け、このうち適格基準を満たし同意が得られた340例(intention-to-treat集団)が、血管内治療群(226例)と対照群(114例)に割り付けられた。静脈内血栓溶解療法は血管内治療群で31%、対照群で34%に実施された。 90日後の良好な機能的アウトカムは、血管内治療群104例(46%)、対照群26例(23%)で認められた(補正後率比:2.06、95%信頼区間[CI]:1.46~2.91、p<0.001)。症候性頭蓋内出血は、血管内治療群では12例(5%)に発生したが、対照群では発生しなかった。 副次評価項目については、概して主要評価項目と同様の結果であった。 安全性に関して、90日死亡率は、血管内治療群で37%、対照群で55%であった(補正後リスク比:0.66、95%CI:0.52~0.82)。手技に関連する合併症は、血管内治療群の14%に発生し、動脈穿孔による死亡1例が報告された。

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ESMO2022 レポート 乳がん

レポーター紹介今年度のESMOでは、現在の臨床を変えたり、今後の方向性に大きな影響を与えたりする重要な演題が発表されました。その中で、今回、進行乳がんではTROPiCS-02試験のOSの結果、MONARCH-3試験の中間解析でのOSの結果、経口SERDのランダム化比較試験の結果、周術期乳がんではDATA試験の結果を取り上げます。TROPiCS-02試験:sacituzumab govitecanがOSを改善sacituzumab govitecanは、抗Trop-2抗体とSN-38の抗体薬物複合体です。ランダム化比較第III相試験であるASCENT試験1)では、転移・再発ホルモン受容体(HR)陰性HER2陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん:TNBC)に対して2治療以内の化学療法歴がある症例が対象となりました。この結果、sacituzumab govitecanは、医師選択治療と比較して無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の改善を示したため、すでにTNBCに対してFDAから承認されています。今回のTROPiCS-02試験(ClinicalTrials.gov、ID:NCT03901339)は、内分泌療法抵抗性のHR陽性HER2陰性進行乳がん患者において、sacituzumab govitecan(SG群)(n=272)と医師選択治療(TPC群)(n=271)を比較したランダム化比較第III相試験です。タキサン、内分泌療法、およびCDK4/6阻害薬、ならびに転移乳がんに対して2~4種類の化学療法レジメンを受けた患者が適格でした。TPC群の治療選択肢は、カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン、またはエリブリンでした。2022年のASCO年次集会では、追跡期間中央値10.2でのPFSの最終解析結果が報告されており、SG群は、TPC群よりもPFSの中央値が良好で、それぞれSG群5.5ヵ月に対してTPC群は4.0ヵ月でした(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.53~0.83、p=0.0003)2)。6ヵ月PFS割合はそれぞれ46%対30%、12ヵ月PFS割合はそれぞれ21%対7%と、いずれもSG群で良好な結果でした。OSについては第1回中間解析で、immatureな状況で、統計学的な有意差は認めませんでした。有害事象は、SG群で好中球減少症が51%、下痢9%といった結果でしたが、治療中断に至る重篤な有害事象はSG群で6%、TPC群で4%と大きな差を認めませんでした。今回、半年と経たず、2回目の中間解析結果として、OSのupdate結果が公表されました。今回のESMOでの発表は、追跡期間の中央値が12.5ヵ月時点で、OSはSG群で有意に良好でした。OSの中央値は、SG群で14.4ヵ月、TPC群で11.2ヵ月でした(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。また、12ヵ月のOS割合はそれぞれ61%と47%でした。奏効割合はSG群で21%に対してTPC群は14%(p=0.035)と、有意にSG群が良好でした。sacituzumab govitecanは、HR陽性HER2陰性進行乳がんに対して、他の抗がん剤と比較してPFSに加えてOSの改善を示した数少ない薬となりました。これにより、HR陽性HER2陰性進行乳がんに対しても標準治療の一つとして位置付けられることになります。現在、日本においてもギリアド・サイエンシズによる企業治験が実施中ですので、日本での承認が待たれます。また、一部はHER2低発現のHR陽性HER2陰性乳がんで、トラスツズマブデルクステカン(Destiny Breast 04試験3))と症例対象が重なっています。今後、両剤の位置付けについても、検討が進められると考えられます。MONARCH3試験:第2回中間解析では統計学的有意差は検証されなかったがアベマシクリブ群で良好な結果サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬であるアベマシクリブは、プラセボ対照ランダム化比較第III相試験であるMONARCH3試験で、主要評価項目である無増悪生存期間の有意な改善をもとに、HR陽性HER2陰性閉経後進行乳がん患者に対する初回内分泌療法として非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI)と組み合わせて承認されています4)。本試験における副次的評価項目であるOSについて、2回目の中間解析結果が公表されました。既にEMAの添付文書に記載されている結果が、明確に発表されたことになります。2回目の中間解析結果は追跡期間の中央値は5.8年時点で解析されました。全体集団(ITT集団)では、アベマシクリブ+NSAIのOS中央値は67.1ヵ月に対して、プラセボ+NSAIは54.5ヵ月でした(ハザード比:0.754、95%CI:0.584~0.974、p=0.0301)。中間解析の事前設定されたp値は下回らず、統計学的な有意差は検証されていません。一方で、内臓転移あり患者のサブグループ(n=263)でも、アベマシクリブ+NSAIのOS中央値が65.1ヵ月であったのに対し、プラセボ+NSAIは48.8ヵ月であり(HR:0.708。95%CI:0.508~0.985、p=0.0392)、予後不良と考えられる内臓転移ありのサブグループでも全体集団のアベマシクリブによるOS改善傾向は維持されていました。まだOSにまで差があるとは言えないものの、最終解析が期待される結果でした。最終OS解析結果は来年発表される予定であり、現時点で臨床でのCDK4/6阻害薬の使い分けは決定的な差がない状況です。ただし、2022年ASCO年次集会で発表され、OSに統計学的有意差を認めなかったPALOMA-2試験の最終OS結果とは、今回の結果は異なっています。サブグループ解析も、内臓転移症例のような予後不良症例においてアベマシクリブの上乗せ効果が際立っており、これまでのPFSやMONARCH2のOS結果の特徴が維持されています。Adjuvantの様々なCDK4/6阻害薬の結果を含め、これまで同等と考えられていたパルボシクリブとアベマシクリブの薬剤の違いについて、より深い考察が求められます。acelERA BC試験とAMEERA-3試験:経口SERD単剤のPhase2試験が複数negative選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(SERD)は、フルベストラントが実臨床で用いられますが、筋注製剤であることが一つのハードルとなっています。また、AI治療中に出現し、AI耐性に関わるESR1遺伝子変異に対する耐性克服としても、経口SERDが期待され、その開発が進んでいます。先行しているelacestrantは、オープンラベルランダム化比較第III相試験において、医師選択の内分泌療法よりもelacestrantによるPFS改善が既に検証されています5)。一方で、複数の製薬企業が経口SERDの開発を進めており、今回は2つの経口SERD単剤のオープンラベルランダム化第II相試験の結果が報告されました。acelERA BC試験では、1-2ラインの治療歴を有するエストロゲン受容体陽性HER2陰性の局所進行または転移乳がんにおいて、経口SERDのgiredestrantが、医師選択の内分泌療法単剤(TPC群)と比較されました。この結果、giredestrantはPFSの有意な改善を示すことはできませんでした。追跡期間中央値は7.89ヵ月で、PFS-INV中央値はgiredestrant群5.6ヵ月、TPC群5.4ヵ月でハザード比は0.81(95%信頼区間:0.60~1.10、p=0.1757)で有意差はありません。6ヵ月PFS率はそれぞれ46.8%、39.6%でgiredestrant群において良好な傾向でした。ESR1遺伝子変異陽性例におけるPFS中央値はgiredestrant群(51例)5.3ヵ月、TPC群(29例)3.5ヵ月で(ハザード比は0.60 95%CI; 0.35-1.03、p=0.0610)で、全集団よりもgiredestrant群で良好な傾向でしたが、有意差を認めませんでした。AMEERA-3試験では、閉経後女性あるいはLHRHアゴニストの投与を受けている閉経前女性または男性のER陽性HER2陰性進行乳がんで、進行乳がんに対する2ライン以下の内分泌療法、1ライン以下の化学療法あるいは1ライン以下の標的治療による前治療歴を有し、ECOG PS 0-1の患者を対象に、amcenestrantと医師選択内分泌療法の有効性と安全性が比較されました。この結果、PFS中央値はamcenestrant 群3.6ヵ月、医師選択内分泌療法群3.7ヵ月(ハザード比 1.051, 95%CI 0.789-1.4、p=0.6437)と、有意差を認めませんでした。さらに、ESR1遺伝子変異陽性例におけるPFSはamcenestrant群においてTPC群よりも良好な傾向で、中央値はそれぞれ3.7ヵ月対2.0ヵ月でハザード比は0.9(95%CI; 0.565-1.435、p=0.6437)でしたが、有意差を認めませんでした。以上をまとめると下記の表のようになります。画像を拡大する経口SERDの開発は、現在よりフロントラインで、初回治療の第III相試験が多数行われていますが、今回の結果で若干の暗雲が立ち込めています。ESR1遺伝子変異症例における経口SERDの有効性は、一貫してありそうと感じられました。ただし、今後も、既存のAIを始めとした内分泌療法やフルベストラントよりも本当に有効なのか、現在行われている第III相比較試験の結果が待たれます。(AMEERA-5試験は既にnegative trialであると発表されています)DATA試験の最終解析結果:一部の症例でExtended ANAの恩恵を受ける可能性DATA試験(ClinicalTrials.gov:NCT00301457)は、オランダで行われたタモキシフェンによる術後内分泌療法2〜3年投与後に再発がなかったHR陽性閉経後乳がん患者における追加AI治療の至適投与期間を調べるべく計画されたオープンラベルランダム化比較第III相試験です。患者は、アナストロゾール3年間の治療またはアナストロゾール6年間の治療のいずれかに無作為に割り付けられました。6年群の827人の患者と3年群の833人の患者が登録されました。この研究の主要評価項目はadapted DFS(aDFS)で、無作為化後3年後以降のDFSとして定義されました。10年aDFS割合はそれぞれ6年治療群69.1%および3年治療群66.0%(HR:0.86、95%CI:0.72~1.01、p=0.073)と、有意差は認めませんでした。同様に、10年型adapted OS(aOS)割合は、6年治療群で80.9%、3年治療群で79.2%(HR:0.93、95%CI:0.75~1.16、p=0.53)と、こちらも有意差を認めませんでした。サブグループ分析において、6年治療群が良い傾向を示したサブグループとして、腫瘍がER陽性およびプロゲステロン受容体(PR)陽性の患者 (HR:0.77、95%CI:0.63~0.93、p=0.018)、リンパ節転移陽性かつER陽性およびPR陽性疾患の患者(HR:0.74、95%CI:0.59~0.93、p=0.011)、腫瘍径2cm以上の腫瘍、かつリンパ節転移陽性、ならびにER陽性およびPR陽性の疾患を有する患者(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.005)といった因子が挙げられました。しかし、これらのサブグループのいずれにおいても、10年間のaOS率に有意な改善は認めませんでした。リンパ節転移陽性かつER陽性およびPR陽性疾患の患者(HR:0.74、95%CI:0.59~0.93、p=0.011)、腫瘍径2cm以上の腫瘍、かつリンパ節転移陽性、ならびにER陽性およびPR陽性の疾患を有する患者(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.005)DATA試験は以前のフォローアップ中央値5年時点の報告ではDFSの有意差が認められなかった6)ところ、今回の最終報告においてもDFSはnegative resultでした。これまで、5年の内分泌療法に対して、AIの5年以降投与(7-8年または10年)の有効性を検討した試験は、AERAS、MA17、NSABP-B33、NSABP-B42、DATA、GIM4、などの大規模ランダム化比較試験が存在します。乳がん学会診療ガイドライン2022年版では、これらの統合解析がなされているように、5年内分泌療法対5年以降にAI投与(extended AI)がなされた場合となると、5年以上の投与によるDFSは改善傾向が認められます。ただし、OSの改善が示されたランダム化比較試験はGIM4のみであり、統合解析でもextended AIは有意ではありませんでした。今回のDATA試験はnegative trialであった一方で、DFSでextended AI群で良好であるというこれまでと一貫した結果であったことから、上記の統合解析も大きな変化がないであろうと想定されます。さらに、extended AIによる骨粗鬆症の悪化や心血管イベントの増加など、有害事象も増えることが分かってきている現状から、ベースラインの再発リスクの見積もり、アロマターゼ阻害薬の忍容性、有害事象の追加といった要素をもとに、総合的にextended AIは検討されるべきと考えられます。一方で、近年は5年以上のアロマターゼ阻害薬投与の有効性を推定する指標が検討されてきました。FFPE検体を用いてRT- PCRから計算するBreast Cancer Index(BCI)、腫瘍径、グレード、年齢、リンパ節転移の個数から再発リスクを算出し、閉経後症例の5年目以降の内分泌療法の追加効果を予測するCTS5などが、晩期再発のリスク見積もりに有用であるとされています7)。日本ではBCIは使用しづらいですが、こういった指標も参考にしつつ、extended AIを検討するべきと考えられます。1)Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.2)Rugo HS, et al. J Clin Oncol. 2022 Aug 26. [Epub ahead of print]3)Modi S, et al. N Engl J Med.2022;387:9-20.4)Goetz MP,et al. J Clin Oncol. 2017;35:3638-3646.5)Bidard FC,et al.J Clin Oncol. 2022;40:3246-3256.6)Tjan-Heijnen VCG, et. al. Lancet Oncol.2017;18:1502-1511.7)Andre F,et al. J Clin Oncol 2022; 40:1816-1837.

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初のHSP90阻害作用を有するGIST治療薬「ジェセリ錠40mg」【下平博士のDIノート】第108回

初のHSP90阻害作用を有するGIST治療薬「ジェセリ錠40mg」今回は、Heat Shock Protein 90(HSP90)阻害薬「ピミテスピブ錠(商品名:ジェセリ錠40mg、製造販売元:大鵬薬品)」を紹介します。本剤は、世界初の選択的HSP90阻害作用を有する医薬品であり、標準治療薬に不応または不耐と判断された消化管間質腫瘍(GIST)患者の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、がん化学療法後に増悪したGISTの適応で、2022年6月20日に製造販売承認を取得し、同年8月30日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはピミテスピブとして1日1回160mgを空腹時に投与します。5日間連続経口投与したのち2日間休薬し、これを繰り返します。なお、患者の状態により適宜減量することができます。<安全性>国内第III相試験(10058030試験/CHAPTER-GIST-301試験)の盲検投与期間および/または非盲検投与期間において、75例中70例(93.3%)で臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主なものは、下痢54例(72.0%)、食欲減退22例(29.3%)、血中クレアチニン増加21例(28.0%)、倦怠感20例(26.7%)、悪心19例(25.3%)、腎機能障害10例(13.3%)などでした。なお、重大な副作用として、重度の下痢(16.0%)、眼障害(夜盲[12.0%]、霧視[5.3%]、視力障害[5.3%]、網膜静脈閉塞[1.3%]、網膜症[1.3%]、後天性色素障害[1.3%]など)、出血(腹腔内出血[1.3%]、出血性十二指腸潰瘍[1.3%]など)が報告されており、副作用のグレードによって休薬・減量基準が定められています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、がん細胞の増殖や生存などに関与するタンパクの働きを阻害することで、抗腫瘍効果を示します。2.5日間服用し、2日間休薬するというスケジュールで服用します。服薬スケジュールは自己判断せず、医師の指示をしっかり守ってください。3.食事前1時間から食事後2時間の服用は避けてください。4.強い腹痛を伴う下痢、激しい下痢、長く続く下痢などが生じた場合、一旦服用をやめてすぐにご連絡ください。5.夜になると目が見えにくい、全体的にかすんで見える、遠くや近くのものが見えにくいことなどの症状が現れた場合はご連絡ください。6.吐しゃ物に血が混じる、黒い便や血の混じった便が出ることなどがあればご連絡ください。7.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を服用中および服用終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。<Shimo's eyes>GISTは、胃や小腸などの消化管壁に発生し、転移・再発を起こす悪性の肉腫です。日本における年間罹患数は、約1,500~2,500例と推定されていて、希少がんの1つです。「GIST診療ガイドライン」では、組織診断でGISTと確定した場合は外科的治療が第1選択となり、初発GISTでは完治の可能性もあります。切除不能または転移性GISTの場合はイマチニブが第1選択となり、イマチニブ耐性GISTの場合はスニチニブやイマチニブ増量、スニチニブ耐性GISTの場合はレゴラフェニブが検討されます。GIST患者の多くはKITまたはPDGFRAに変異を有していますが、いずれもKITやPDGFRAなどのチロシンキナーゼを阻害する薬剤であり効果が得られにくかったり、副作用のため使用できなかったりする患者も存在するため、既存薬とは作用機序の異なる治療薬が望まれていました。本剤は、既存薬と異なりHSP90を阻害することで、HSP90が関与するKITやEGFRなどのタンパクを減少させて、がん細胞の増殖抑制やアポトーシスを誘導することで抗腫瘍効果を示します。なお、イマチニブ、スニチニブおよびレゴラフェニブによる治療が行われていない患者は本剤による治療の対象とはなりません。副作用では、重度の下痢、眼障害、出血に注意が必要です。下痢は国内第III相試験において72.0%と高頻度で報告されていて、グレード 3以上の下痢も16.0%となっています。脱水による重篤な腎障害の発現にも注意が必要です。眼障害はHSP90阻害作用に由来する副作用であり、本剤投与開始前および投与中は定期的に眼の異常の有無を確認し、必要に応じて検査を行う必要があります。腹腔内出血や出血性十二指腸潰瘍なども現れることがありますが、GISTは原疾患由来の消化管出血の頻度も高く、約30%〜40%の患者で生じるとされています。食後に本剤を投与した場合、CmaxおよびAUCが上昇して副作用の恐れが高まるため、食事前1時間から食事後2時間の服用は避けます。服薬指導の際は、「夕食が19時の場合、18~21時は服用を避ける」など、具体的な指導を行いましょう。

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第130回 手放しに喜べない?新たな認知症治療薬の良好な臨床成績

長らく続くコロナ禍で医療系学会の取材はこの間ご無沙汰していたが、先日久しぶりに学会に参加した。たまたま開催地が実家から近いこともあり、両親と昼食をとる機会に恵まれた。以下、今回はかなり私事を交えることになるが、お付き合いいただきたい。私の場合、地元で開催された学会の取材に赴く際でも実家に宿泊することはほとんどない。あくまで仕事で来ているという線引きが必要だというのが表向きの理由だが、実のところはある種、鬱陶しいからという事情もある。すでに私が50代になっているとはいえ、80代半ばの両親にとっては子供なので、実家でパソコンを開いて仕事をしていても何かと話しかけられるし、食事の時間になると「○○があるから食え」だの、とくに食べたいものでもないのに勧められるのは正直言うならば厄介なことこの上ない。それでも両親を食事に誘ったのは、近年急速に弱ってきている父親が賑やかなところが好きな人だからだ。実家は地元の繁華街から離れた田園地帯にある。父親本人は常に外出したくて仕方ないのだが、すでに足腰も弱り、その牛歩に毎回付き添うのは母親がくたびれるため、週末ぐらいしか外出できない。加えて父親は軽度認知障害(MCI)の診断を受けている。それでも元が几帳面な性格だったことも手伝ってか、現時点でも買い物では小銭から計算して使いたがるので、まだましなほうかもしれない。とはいえ、緩やかに症状は進行しており、先日は銀行に出かけた際にATM前から母親に「使い方がわからなくなった」と連絡があったという。昼時、待ち合わせ場所の寿司屋近くの路上にいると、人混みの向こうから両親がゆっくりと歩いてきた。視界に入ってきた両親はなかなか近づいてこない。父親のゆっくりとした歩みに母親が合わせざるを得ないからである。それでも数年前から介護保険を使って理学療法士のお世話になってからはかなり改善している。一時は「カタツムリか?」と思うほどの歩みだったのだから。私は路上に立ったまま両親が近くに来るのを待った。ようやく顔が良く見える距離になって私を見つけた父親は、「破顔一笑」とも言える表情を見せた。私も微笑んで見せたが、内心はこの上なく複雑だった。幼少期の記憶の中の父親は口下手で喜怒哀楽に乏しく、私に笑顔を向けてきた記憶がほとんどない。常にむすっとしていて、時に激しく叱られることが私の記憶のデフォルトである。母親がよく話題に出すのは、私が2歳ぐらいの時の父親と私のやり取りだ。父親が私を大声で呼びつけた際に登場した私は頭に座布団を乗せていたという。叱られて叩かれると勘違いしたらしい。やや長くなってしまったが、なぜこうつらつらと書いてしまったかというと、今話題のエーザイ・バイオジェン共同開発のアルツハイマー病(AD)治療薬候補lecanemab(以下、レカネマブ)について、こうしたMCI患者を持つ家族と医療ジャーナリストという職業の狭間で揺れ動く自分がいるからだ。ご存じのようにADに関しては、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させるというAβ仮説に基づき、過去20年近く新薬開発が進められてきた。Aβ仮説は、Aβ前駆タンパク質から酵素のβセクレターゼ(BACE)の働きで、Aβの一量体(モノマー)が作り出され、そこからモノマーが重合した重合体(オリゴマー)、高分子オリゴマーである可溶性プロトフィブリル、そこから形成されたアミロイド線維である不溶性フィブリルへと進行し、最終的にアミロイド線維から形成されるアミロイドプラークが神経細胞を死滅させADに至るというのが大まかな理論だ。これまでのAβ仮説に基づく新薬開発では、BACE阻害薬と脳内の神経細胞に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体が2つの大きな流れだったが、ほとんどが事実上失敗している。唯一飛び抜けていたとも言えるのが、同じエーザイとバイオジェンが共同開発していた抗Aβ抗体のアデュカヌマブ。Aβの生成過程の中でもフィブリルに結合する抗体で第II相試験での成績が良好だったことから期待されたが、2019年3月に独立データモニタリング委員会が主要評価項目を達成できる見通しがないと勧告した結果、進行中の2件の第III相試験が中止された。しかし、勧告後に入手できた症例データを加えて再解析した結果、うち1件では、高用量群でプラセボ群との比較で、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の有意な低下が認められた。このためバイオジェンは一転して米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDA諮問委員会の評決では、ほぼ否定的な評価を下されていたものの、社会的要請の高さなどを理由に新たな無作為化比較試験の追加実施とそのデータ提出を求める条件付き承認となった。もっともこの承認には専門家の中でも批判が多く、米国ではメディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)がアデュカヌマブの保険償還対象を特定の臨床試験参加者のみに限定。さらにヨーロッパと日本では現状の臨床試験結果では効果が十分確認されていないとして承認見送りとなった。まさにジェットコースターのようなアップダウンを繰り返して、ほぼ振出しに戻ったのがAD治療薬開発の現状である。もちろんレカネマブの開発が続いていたことは承知していた。しかし、前述のような開発を巡るドタバタを知っている身としては、必死に開発を行っていた人たちには申し訳ないが、期待はせずに横目で見ていたというのが実状である。そんな最中、エーザイがレカネマブの第III相試験「Clarity AD」の主要評価項目で有意差を認め、記者発表するとのニュースリリースを9月28日早朝に発表した。今回はあの抗寄生虫薬イベルメクチンの時と違って、すでに結果がポジティブだったことはわかっている。要はどの程度のポジティブだったかがカギだ。当日、オンラインで記者会見に参加した私はディスプレイに釘付けになった。ちなみにClarity AD の登録症例は1,795例。脳内Aβ病理が確認され、スクリーニングおよびベースラインの認知症ミニメンタルステート検査(MMSE)が 22~30点、論理的記憶検査(WMS-IV LM II:Wechsler Memory Scale-IV logical memory II)の点数が年齢調整済み平均値を少なくとも1標準偏差を下回り、エピソード記憶障害が客観的に示されることが認められるADによるMCIと軽度ADが対象だ。これを2群に分け、レカネマブ10mg/kgの点滴静注を2週に1回とプラセボ点滴静注を2週に1回行い、主要評価項目は、ベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SBの変化を比較したものだ。アデュカヌマブとレカネマブの最大の違いは、レカネマブはフィブリル形成直前の可溶性プロトフィブリルが標的となっていることに加え、アデュカヌマブでは漸増投与が必要だったのに対し、レカネマブは初回から有効用量の投与が可能なことである。公表された結果ではプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は27%、詳細は発表されなかったが副次評価項目すべてでプラセボに対して統計学的有意差が認められたという。また、抗Aβ抗体では付き物の副作用がアミロイド関連画像異常(ARIA)だが、その発現率はARIAのうち脳浮腫をさすARIA-Eが12.5%(症候性2.8%)、脳微小出血をさすARIA-Hが17.0%(同0.7%)。アデュカヌマブが高用量群でプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は23%(低用量群では14%)で、ARIA発現率がレカネマブの約3倍であることを考えれば、確かに成績は良いと言える。しかも、あくまでエーザイ側の説明に依拠するが、プラセボと比較したCDR-SB変化量の差は治験開始6ヵ月後に発現しているというのだ。私が驚いたのはむしろこの効果発現の早さだ。さてエーザイではこの結果をもって日米欧で2022年度中のフル申請、2023年度中のフル承認を目指すという。「フル」というのはアデュカヌマブの時のような条件付き承認ではないということである。ちなみに米国では、すでにClarity AD以外の試験結果で迅速承認制度の指定を受け、その結果は来年1月上旬までに明らかになる予定だが、この試験結果を追加提出することで、アデュカヌマブのような「失敗」はしないという意味である。CMSはアデュカヌマブの保険償還制限に当たって、同薬のような“条件付きの迅速承認の場合”とこちらも条件を付けている。では、このまま承認に至った際の課題は…やはり投与対象と薬価の問題である。米国でアデュカヌマブが承認された際の年間薬剤費は約600万円となった。前述のCMSの付けた条件が制限となったため、現実にはほとんど売上と言えるほどの数字にはなっていない。抗体医薬品である以上、どんなに頑張ってもレカネマブの年間薬剤費が100万円以下というのは世界のどの国でも考えにくい。たとえば仮に年間100万円としても、現在日本には推定約700万人の認知症患者がいる。日本国内でこのうちの1%強に当たる10万人が処方を受けたとすると、年間薬剤費は1,000億円となる。世界最速とも言える少子高齢化が進み、社会保障費の増大に危機感が募るばかりの昨今の状況を考えれば、簡単に容認できる話ではない。これまでの経緯を考えれば、承認されたあかつきに厚生労働省は最適使用推進ガイドラインなどでかなり投与対象を絞り込んでくるだろう。それに仮に成功しても、その先が相当厄介である。まず、投与開始後にどのような状態を有効・無効と判定するのか。かつて話題になった免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名:オプジーボ)の場合ならば、画像診断での腫瘍縮小効果という指標もあった。では、レカネマブでは1回数十万円もするアミロイドPETでAβ量を定量化するのか? それともある程度ばらつきもあるMMSEで判定するのか?有効基準が決まったとして、投与はいつまで続けるのか? そもそもADは高齢者の病気である。期待余命は長くはなく、悪化抑制効果が最大限得られたとしても患者本人の社会的・経済的生産性の向上が見込めるかと言えば、そこには「?」がつく。とはいえ、MCIの父親を持つ自分にとってみれば、たとえ3割弱の遅延抑制効果とはいえ、老老介護となっている母親の肉体的・精神的負担を考えれば、使える物なら使ってみたいという気持ちもある。約束した寿司屋でうまそうに漬け丼をほおばる父親を見ながら、そんなことばかりを考えていた。寿司屋を出て両親と一緒に牛歩で駅に向かった。とくに何時の新幹線に乗るかは決めていなかった。アーケード街を歩きながら、途中でベンチが見えると父親はそこに腰を掛けて休むと言い出した。母親は私に気を遣って、「私たちはゆっくり行くから、あなたは先に帰りなさい」と促した。私は父親に「またね?」と言ってその場を後にした。父親はまた破顔一笑。そのまま後ろを振り返らずにまっすぐ駅へと向かった。医療経済性、社会保障費の増大、患者家族としての思いがぐるぐる頭を巡りながら、今日この時点でも結論は出ていない。たぶんこの先も容易に結論は出ないだろう。正直、メディアの側にいるというだけで私たちは他人から忌み嫌われることは少なくない。とはいえ、それでも自分で自分の仕事を嫌だと思ったことは、こと私自身に関しては数えられるほど少ない。ただ、この日ばかりは「何も知ならきゃ良かった。本当に因果な商売だな」と自分の仕事が嫌になった数少ない日として、生涯忘れられない日になりそうである。

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がん治療による放射線関連心疾患、弁膜症を来しやすい患者の特徴/日本腫瘍循環器学会

 9月17、18日に開催された第5回日本腫瘍循環器学会にて、塩山 渉氏(滋賀医科大学循環器内科)が「放射線治療による冠動脈疾患、弁膜症」と題し、放射線治療後に生じる特異的な弁膜症とその治療での推奨事項について講演した(本シンポジウムは日本放射線腫瘍学会との共催企画)。 がんの放射線治療による放射線関連心疾患(RIHD:radiation-induced heart disease)の頻度は医学の進歩により減少傾向にあるが、それでもなお、食道がんや肺がん、縦隔腫瘍でのRIHD発症には注意を要する。2013年にNEJM誌に掲載された論文1)によると、照射から20年以上経過してもなお、主要心血管イベントリスクが8.2%(95%信頼区間:0.4~26.6)も残っていたという衝撃的な報告がなされた。それ以来、RIHDは注目されるようになり、その1つに弁膜症が存在する。放射線治療時の心臓への影響予測にAMC これら放射線治療時の心臓の予後予測のために見るべき点として、「上記のような弁膜症を発症する症例にはAorto-mitral curtain(AMC、大動脈と僧帽弁前尖の接合部)に進行性の弁の肥厚や石灰化が進行しやすいという特徴がある」と同氏は述べ、「肥厚をきたしている場合は予後が悪いとの報告2)もあることから、放射線治療時の診断マーカーになるのではないかとも言われている」とコメントした。また、心臓手術による死亡率を予測する方法として用いられるEuroSCORE(European System for Cardiac Operative Risk Evaluation)は本来であればスコアが高ければ予後が悪いと判定されるが、「AMCが肥厚している症例ではスコアにかかわらず予後不良である」と汎用される指標から逸脱してしまう点についても触れた。放射線治療における心毒性に対するESCガイドラインでの推奨 先日行われた欧州心臓病学会(ESC)2022学術集会において、初となる腫瘍循環器ガイドラインが発刊された。そこでは放射線治療における心毒性に関してもいくつか推奨事項が触れられており、がん治療患者の急性冠症候群(ASC)に対するPCI施行の可否についてはその1つである。ガイドラインによれば、「STEMIまたは高リスクのNSTE-ACSを呈し、予後6ヵ月以上のがん患者には侵襲的な治療戦略が推奨される(クラスI、レベルB)」とされ、予後6ヵ月未満の方については薬物療法を検討することが記載されているが、「がん治療による血小板減少を伴う患者に対しては、抗血小板薬の使用を慎重にならざるを得ないため、“アスピリンやP2Y12阻害薬の使用は推奨されない”(クラスIII、レベルC)」と薬物療法介入時の注意点を説明した。心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無で分類 次に、がんサバイバーの外科治療による予後はどうか。外科的弁置換術(SAVR)において、放射線治療を受けた重度の大動脈弁狭窄症患者では放射線治療歴のない患者と比較して長期死亡率が有意に高いことが明らかになっているため、2020年改訂版『弁膜症治療のガイドライン』(p.69)でも、TAVIを考慮する因子として“胸部への放射線治療の既往 (縦隔内組織の癒着)”と明記されている。さらに、胸部放射線照射後の予後を調査した論文3)によると、胸部放射線照射群におけるTAVIは、対照群と比較して30日死亡率、安全性、有効性が同等であるものの、1年死亡率や慢性心不全の増悪が高いことが示された。ただし、両治療法の転帰について比較した報告4)を踏まえ、TAVI群では完全房室ブロックの発症やペースメーカーの挿入率が多かったことを念頭に置いておく必要がある。 そのほか、放射線治療の平均心臓線量と関連する心毒性を確認する推奨項目としてESCガイドラインに掲載されている「ベースラインCVリスク評価とSCORE2またはSCORE-OPによる10年間の致死的および非致死的CVDリスクの推定が推奨される(クラスI、レベルB)」「心臓を含む領域への放射線治療前に、CVDの既往のある患者にはベースライン心エコー検査を考慮するべきである(クラスIIa、レベルC)」「重症弁膜症を有するがんサバイバーの手術リスクを協議し、その判定を行うために、多職種チームによるアプローチが推奨される(クラスI、レベルC)」「放射線による症候性重度大動脈弁狭窄症で、手術リスクが中程度の患者にTAVI手術を行う(クラスIIa、レベルB)」を紹介。最後に同氏は「MHD(Mean heart dose)による評価が大切であり、心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無などで低リスク~超ハイリスクの4つに分類する点などもESCガイドラインに記載されているので参考にして欲しい」と締めくくった。

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せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです【非専門医のための緩和ケアTips】第37回

第37回 せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです「せん妄」って緩和ケアに限らず、どの分野でも遭遇しますよね。でも、緩和ケアではとくにせん妄の対応って大切なのです。今回は緩和ケアで必ず対応が必要になる、せん妄のお話です。今日の質問看取りにも対応する在宅医療を行っています。先日、終末期の患者さんが興奮した様子となり、家族が驚いてしまいました。「在宅療養の継続は難しい」と判断して緊急入院となりました。もともと家族は「自宅で最後まで過ごさせてあげたい」と言っており、「本当に入院してよかったのか」と感じます。こういった場合、どのように対応しますか?在宅緩和ケアでは、しばしばこういった難しい状況に直面します。ご質問からの推測になりますが、終末期せん妄の状態だったのでは、と感じます。入院や在宅で緩和ケアを実践していると、よく遭遇する徴候です。皆さんは終末期患者さんがどの程度、せん妄を発症するかご存じでしょうか? データにもよるのですが、「がん患者が亡くなる数日前には88%に発症する」と言われています。これ、すごく高頻度ですよね。なので、日単位の予後のがん患者さんに意識の変容が生じた場合は、せん妄である可能性が非常に高いのです。せん妄に対しては重要な点がたくさんあるのですが、その一つが「気付く」ことです。今回のように興奮が強いタイプのせん妄は気付きやすいのですが、活気がないように見えるタイプのせん妄については、気付きにくいことが知られています。せん妄に対しての介入は、まずは「原因となっている身体疾患の中で改善できるものがないか」を考えます。たとえば、高カルシウム血症のような電解質異常がせん妄を助長しているのであれば、補正を検討します。ただ、予後日単位の状況だと、現実的になかなか改善が難しいことが多いですね。薬物療法としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)などの抗精神病薬を用います。それでも興奮が強い時には、より鎮静作用の強い薬剤を用いることもあります。さらに、せん妄は家族のつらさも助長します。「大切な家族が、人が変わったようになってしまった…」というのは、せん妄患者の家族からよく聞かれる嘆きです。死別が近いことによる悲嘆の中にある家族にとって、さらにつらさを増す状況であることは想像するに難くありません。そうした意味では、せん妄は在宅療養の継続が難しくなる徴候の一つです。興奮の強いせん妄の場合、私自身も薬物療法をしながら、入院の相談をすることがよくあります。近年、せん妄に対しては書籍やガイドラインが増えました。それだけ医療現場では切実な問題なのでしょう。どれもお薦めなのですが、日本サイコオンコロジー学会の「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」(金原出版)が2022年6月に改訂されていますので、まずはこれから読んでみてはいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsせん妄への対応は、緩和ケアの分野でも重要なスキルです。

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10月13日 世界血栓症の日【今日は何の日?】

【10月13日 世界血栓症の日】〔由来〕国際血栓止血学会が、血栓症の認識を高め、診断、治療を促進し、最終的に血栓症による障害、死亡を低下させることを目的に制定。わが国では日本血栓止血学会が血栓症の啓発活動に取り組んでいる。関連コンテンツ咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】動脈硬化のナレノハテ【患者説明用スライド】急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

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高齢者におけるポリピル(スタチン、ACE阻害薬、アスピリン)の使用が通常処方よりも心筋梗塞後の患者の予後を改善する(解説:石川讓治氏)

 高齢者においては、年齢と共にポリファーマシーが増加し、薬物有害事象や転倒のリスクが増加するだけではなく、認知機能や生活の質の低下、独居などが誘因となり、服薬アドヒアランスが低下することも問題になっている。服薬アドヒアランスの低下した患者においては、処方の単純化、合剤による服薬数の減少などが有効であるとされており、家族や訪問介護者などを介し服薬アドヒアランスを改善させることが可能になるとされている。 本研究は、心筋梗塞後(平均8日後)の65歳以上の高齢者に対して、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンといった心筋梗塞後の患者に対する推奨度の高い内服薬を、ガイドラインに沿って主治医がテーラーメードで別々に処方するよりも、ポリピル(合剤)として投与するほうがプライマリーエンドポイントを減少させたことを報告した。ポリピル群と通常投与群の間では、スタチン、心保護薬、抗血小板薬、他の薬剤の投与率や、血圧やLDLコレステロールのコントロールレベルにはまったく有意差がなかったにもかかわらず、ポリピル群のほうが服薬アドヒアランスや患者満足度が有意に高く、そのことが予後の改善につながったのではないかと推測されている。 日常臨床においては、合剤の使用時には投与量の調整が厄介になる。わが国で現在、使用可能なスタチンとカルシウムチャネル阻害薬の合剤は、番号でそれぞれの投与量の組み合わせを変更できるようになっているが、慣れるまでは投与時に番号と投与量の差を確認する必要があって、処方する側としては少しわずらわしさを感じることがある。本研究のポリピル群においても、スタチンとACE阻害薬の投与量を6つのパターンで変更しながらポリピルが調整されるプロトコールになっている。実際の臨床では、同じ配合薬の6つの投与量のパターンを覚えて使い分けることは容易ではないことが推測される。少し簡便に投与量が調整できる仕組みが、将来的にはできればいいと感じた。本研究の高齢者は、ほとんどが仕事をリタイアした患者であった。現在のわれわれの日常臨床では、服薬アドヒアランスの改善のため薬局で内服薬の一包化をしてもらうことがあるが、一包化とポリピルで差があるのか疑問が残った。「良薬は口に苦し」ということわざがあるが、内容が同じであれば、処方は数が少なく飲みやすいのがいいようである。

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手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会

 『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き2022』が15年ぶりに改訂されるにあたり、9月17、18日にオンライン開催された第22回日本メンズヘルス医学会において、シンポジウム「LOHセッション」が開催された。本稿では検査値の改訂ポイントについて、伊藤 直樹氏(NTT東日本札幌病院泌尿器科 部長/外科診療部長)の発表内容からお伝えする(共催:株式会社コスミックコーポレーション)。 LOH症候群とは、“加齢あるいはストレスに伴うテストステロン値の低下による症候群”である。加齢に起因すると考えられる症状として大きく3つの項目があり、1)性腺機能症状(早期勃起の低下、性欲[リビドー]の低下、勃起障害など)、2)精神症状(うつ傾向、記憶力、集中力の低下、倦怠感・疲労感など)、3)身体症状(筋力の低下、骨塩量の減少、体脂肪の増加など)が挙げられる。見直された診断基準値、海外と違う理由 本手引きの改訂においてもっとも注目すべきは、主診断に用いる検査値が変わることである。2007年版の診断基準値では遊離テストステロン値(8.5pg/mL未満)のみが採用されていたが、2022年改訂版では総テストステロン値(250ng/dL未満)を主診断に用いることになる。その理由として、伊藤氏は「海外でのgold standardであること、総テストステロン値と臨床症状との関連性も認められること、健康男性のmean-2SD・海外ガイドラインも参考にしたこと」を挙げた。また、遊離テストステロン値は補助診断に用いることとし、LOH症候群が対象となり始める30~40歳代のmean-2SD値である7.5pg/mL未満とするに至った。これについて「RIA法の信頼性が問題視されていること、海外の値(欧州泌尿器学会では63.4pg/mLなど)と測定方法が異なり比較できないため」とコメントした。<LOH症候群の新たな診断基準>―――・総テストステロン値250ng/dL未満または・250ng/dL以上で遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満※各測定値にかかわらず総合的に判断することが重要で、テストステロン補充の妥当性を考慮し、「妥当性あり」と判断すれば、LOH症候群と診断する●注意点(1)血中テストステロン分泌は午前9時頃にピークを迎え夜にかけて低下するため、午前7~11時の間に空腹で採血すること。(2)2回採血について、日本では保険適用の問題もあるため、海外で推奨されているも本手引きではコメントなし。――― また、測定時に注意すべきは、総テストステロンの4割強は性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone brinding globulin)と強く結合しているため、SHBGに影響を与える疾患・状態にある患者の場合は値が左右される点である。同氏は「SHBGが増加する疾患として、甲状腺機能亢進症、肝硬変、体重減少などがある。一方で低下する疾患には、肥満、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性・糖尿病などがあるため、症状の原因となるようなリスクファクターの探索も重要であるとし、「メタボリックシンドローム(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)から悪性腫瘍などの消耗性疾患、副腎皮質・甲状腺など内分泌疾患、そしてうつ病などの精神疾患などLOH症候群に疑わしい疾患は多岐にわたるため、すぐに断定することは危険」と強調。「自覚症状、他覚的所見を総合的に判断し、ほかの疾患の存在も常に疑うべき」と指摘した。 さらに、診断基準の“測定値にかかわらず総合的に判断する”という点について、「アンドロゲン受容体の活性効率に影響するN末端のCAGリピートがアジア人は長く、活性効率が低い可能性がある。そのため、テストステロン値が基準値以上でも補充療法が有効の可能性がある」と説明した。 測定値とは別に、症状からLOH症候群か否かを定量的に判定する方法の1つとしてAMS(Aging Males' Symptoms)スコア1)が広く用いられている。これについて、同氏は「感度は高いが特異度は低いため、スクリーニングには推奨されない」と話した。一方でホルモン補充療法による臨床効果の監視には有用という報告もあることから、「全体の合計点だけを見るのではなく、それぞれの症状をピックアップし、患者に合わせて対応することが大切」と説明した。 最後に、診断を確定する前にはLOH症候群が原発性か二次性かの確認も必要なことから、「最終的にはLHおよびFSHを測定し二次性性腺機能低下症の有無を確認するために、その原因疾患を把握し、確認して欲しい」と締めくくった。

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