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過去のSARS-CoV-2感染に伴う再感染に対する防御効果:系統的レビューとメタアナリシス(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2022年9月31日まで(原文ママ)に報告されたプレプリントを含む、後ろ向きコホート研究、前向きコホート研究および検査陰性症例対照研究の中で、SARS-CoV-2罹患歴の有無によるCOVID-19感染のリスクを比較した研究を特定し、システマティックレビューおよびメタ解析を行っている。 結果の要約は、「コロナ感染による免疫、変異株ごとの効果は~メタ解析/Lancet」で紹介されているが、簡潔に研究結果をまとめると、「再感染や症候性再感染は、初期株、アルファ株、ベータ株、デルタ株に対しては高い予防効果を示したが、オミクロンBA.1株では再感染や症候性再感染の予防効果が低かった。ただし、重症化予防効果については、既感染1年後までアルファ株、ベータ株、デルタ株、オミクロンBA.1株のいずれも維持していた」と筆者は論じている。 現在、SARS-CoV-2の主流株は世界でも本邦でも、オミクロン株であり、COVID-19患者が増加した際の対策を考える場合は、オミクロン株を対象に想定するべきであろう。 さて、医療現場の感覚としても、本研究結果のとおり、オミクロン株では、COVID-19に罹患してから数ヵ月で再感染するケースが増えたことを実感しているのではないだろうか。また、オミクロン株の1年以内の再感染患者で、高齢者などの余力が乏しい患者やワクチン未接種のリスク患者でなければ、重症化することがほとんどなくなったことも感覚と合致するのではないだろうか。 今後のCOVID-19再流行に備える場合に、本研究を参考にすることができる事項として、(1)新型コロナワクチンの追加接種タイミング、(2)抗ウイルス薬の投与判断、(3)病院や高齢者施設における感染対策があると考える。 1つ目の、新型コロナワクチンの接種タイミングについて考える。 直近の本邦における、COVID-19に対するワクチン接種は、「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の議論を踏まえた方針」を参考にすると、高齢者(65歳以上)、基礎疾患を有する者(5~64歳)、医療従事者・介護従事者等(5~64歳)を対象に5~8月以降の追加接種が議論されている(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001069231.pdf)。WHOの方針では、高優先集団である高齢者や高度な免疫不全のある若年者や医療従事者では4回目以降の追加ブースターは12ヵ月おき、超高齢者や重症化リスクのある高齢者、月齢6ヵ月以上の小児と中等度以上の免疫不全を伴う成人では6ヵ月おきでの定期接種を推奨している(WHO SAGE Roadmap for prioritizing uses of COVID-19 vaccines.https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-Vaccines-SAGE-Roadmap,(参照2023-04-02).)。 新型コロナウイルスワクチンの効果は、感染予防効果や発症予防効果もあるが、オミクロン株流行以降はこれらに対するワクチンの効果も時間経過とともに低下し、重症化予防効果を期待して接種する面も大きいように思われる。本研究の結果を参考にすると、オミクロン株流行下におけるCOVID-19罹患後は、再感染時の重症化リスクは低下していると考えられる。本論文の筆者も指摘しているように、ワクチンのメリットと副反応のデメリットを勘案のうえ、COVID-19に罹患した場合、その患者のリスクの程度によってはワクチン接種をするタイミングを遅らせるという選択肢もでてくるのではないかと考える。 次に2つ目の抗ウイルス薬治療対象の判断について考える。 NIHガイドラインでは、軽症から中等症Iで治療薬の使用を優先させるべきリスク集団として3つの優先度を設けている(Prioritization of Anti-SARS-CoV-2 Therapies for the Treatment and Prevention of COVID-19 When There Are Logistical or Supply Constraints. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/overview/prioritization-of-therapeutics/ Last Updated: December 1, 2022, (参照2023-04-02).)。このガイドラインでは、ワクチン接種の有無はリスク評価に用いられているが、COVID-19罹患歴はリスク評価に用いられていない。抗ウイルス薬のニルマトレルビル/リトナビルやモルヌピラビルは、重症化予防効果を期待して投与されているが、本研究を参考にすると、COVID-19罹患後は、1年近く重症化予防効果が低下することを期待できる。抗ウイルス薬の投与目的が、重症化予防効果である場合は、過去の感染歴の有無も抗ウイルス薬投与の判断時に参考としてよいかもしれない。 さて、上記の2つについては重症化リスク軽減の観点のみから議論を展開したが、COVID-19がインフルエンザなどの他のウイルス感染症と異なる点として後遺症や自己免疫疾患のリスク増加(Chang R, et al. EClinicalMedicine. 2023;56:101783.)といった問題がある。後遺症に関しては、オミクロン株になり、デルタ株より頻度は低下したものの(Antonelli M, et al. Lancet. 2022;399:2263-2264.)、生活に影響を与える後遺症のために通院を要する患者もいる。COVID-19後遺症は、ワクチンや(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023 Mar 23. [Epub ahead of print])、抗ウイルス薬(Suran M. JAMA. 2022;328:2386.)(Xie Y, et al. JAMA Intern Med. 2023 Mar 23. [Epub ahead of print])の効果も報告されている。現時点では、COVID-19罹患後後遺症を主目的にワクチン接種や抗ウイルス薬の投与はされていないと思うが、今後、COVID-19罹患後後遺症や免疫異常のハイリスク患者グループが特定され、ワクチンや抗ウイルス薬に伴う明らかなメリットが判明したり、薬剤の費用が安価になったりする場合は、重症化予防効果以外の目的で投与されることがあるかもしれない。 最後に、病院や高齢者施設における感染対策について考える。 かつては、COVID-19感染後、3ヵ月間は再感染しないと考えられていた時期があった。しかし、プレプリントではあるが、デンマークのグループから、オミクロン株であるBA.1やBA.2では1ヵ月以内でも再感染を起こしうることが報告された(Stegger M, et al. medRxiv. 2022 Feb 22.)。同時期頃から本邦でも、短期間で再燃を来す患者の診療をする機会がみられるようになったように感じている。PCR検査は、COVID-19の診断に有用な検査ではあるが、一度罹患すると、高齢者や幼児、細胞性免疫が低下している患者で、陰性化にしばらく時間がかかることがある。かつてのように、原則90日間は再感染しないと考えることができた場合は、罹患後90日以内の発熱、感冒様症状はCOVID-19以外を考えることができたが、短期間で再感染すると考える場合は、PCR検査だけではなく、患者の症状や行動歴、COVID-19接触歴などを把握し、他の鑑別疾患も考慮しながら総合的に判断する必要がでてくる。 今後、オミクロン株の再流行がみられた際には、2~3ヵ月以内に感染を起こしたからといって、安易にCOVID-19の再感染ではないだろうと考えるのは、病院や高齢者施設の感染管理としては避けたほうがよいだろう。 さて、本邦の第8波も落ち着いてきたが、今後はXBB.1.5を含めたXBB系統などの株が流行する可能性もあるだろう(CLEAR!ジャーナル四天王-1648「2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴」)。米国(Vogel L. CMAJ. 2023;195:E127-E128.)やシンガポール(Ministry of Health,Shingapore. UPDATE ON COVID-19 SITUATION AND MEASURES TO PROTECT HEALTHCARE CAPACITY. 15 OCTOBER 2022.)でXBB.1.5が流行したころのデータからは、重症化リスクに大きな変化はなさそうだが、再感染を起こしやすい株であることが想定される。新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株となって、重症化リスクは低下したとはいえ、感染力はインフルエンザなどの呼吸器感染症よりも強く、また高齢者、免疫不全者を含めたハイリスク患者ではいまだに重症化しうる感染症であることも考えると、医療機関では、新型コロナウイルス感染症が院内で流行することがないよう、適切な感染対策を継続する必要がある。

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5月8日から何が変わる? コロナ5類化に向けた医療機関の対策まとめ

2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に位置付けられる。医療機関や医師は、どう対応すればいいのか。ケアネットでは「COVID-19 5類移行でどう変わる?」と題したCareNeTVライブを3月22日に配信した1)。講師の黒田 浩一氏(神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科 副医長)が、制度の変更点、院内感染対策の工夫、早期診断・早期治療の重要性、発症早期の治療における薬剤の選択などについて解説した。臨床面における対応策を中心に、ポイントをまとめて紹介する(フル動画はこちらから[60分・CareNeTVプレミアムの登録要])。5月8日以降、医療体制における主な変更点1)医療提供体制【全体】入院措置を原則とした行政の関与を前提とする限られた医療機関による特別な対応から、幅広い医療機関による自律的な通常の対応へ。ほかの疾病同様に、入院可否を医療期間が判断し、医療機関同士での調整を基本とする。COVID-19診療に対応する医療機関の維持・拡大を強力に促す。「地域包括ケア病棟」も含めた幅広い医療機関での受け入れを促進する。病床稼働状況を地域の医療機関で共有するためのIT(例:新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム:G-MIS)の活用を推進する。マスク着用は個人の判断に委ねられるが、医療機関・介護施設は「マスクの着用が効果的である場面」とされ、医療者は引き続きマスク着用が推奨される。事業者(病院・高齢者施設)が利用者にマスクの着用を求めることは許容される(新型コロナウイルス感染症対策本部方針より)。【個別事項】【外来】COVID-19(疑いを含む)を理由とした診療拒否は「正当な事由」に該当せず、応召義務違反となる(診療体制が整っていない場合は、他機関を紹介する必要がある)。【外来】現在約4.2万のCOVID-19対応医療機関を最大6.4万(インフルエンザ対応と同数)まで増やすことを目標とする。【入院】行政による入院措置・勧告がなくなる。【入院】全病院でのCOVID-19対応を目指しつつ、病院機能ごとの役割分担や、高齢者を中心とした地域包括ケア病棟での受け入れを推進する。2)診療報酬・病床確保料【外来】発熱外来標榜:250点→終了、COVID-19患者診療:950点→147点【在宅】緊急往診2,850点→950点など減額【入院】中等症~重症患者の入院:従前の半額、病床確保料:従前の半額など減額(2023年9月まで。10月以降の措置は今後検討される)3)患者に対する公費支援【外来医療費】2023年9月まで抗ウイルス薬は公費負担継続(10月以降の措置は今後検討される)【入院医療費】高額療養費制度の自己負担限度額から2万円を減額検査費用の公費支援は終了相談窓口は継続、宿泊療養施設は終了医療機関が準備すべきこと1)院内感染対策の継続とレベル向上【基本】職員のワクチン接種(3回以上かつオミクロン対応2価ワクチン1回以上。医療従事者は2023年5~8月と9月以降に2価ワクチン接種が可能となる)施設内でのユニバーサルマスキング(症状にかかわらず全員がマスク着用)と適切な換気目の防護のルーティン化、手指衛生の徹底体調不良時にすぐに休める文化・制度の醸成スタッフの旅行・会食制限は不要。但し、職員の感染者・濃厚接触者増加のため病院機能を維持できなくなる可能性がある場合は期間を決めて検討体液・排泄物を浴びる可能性が低い場合(問診/診察/検温、環境整備、患者搬送)はガウン・手袋は不要【流行期に検討される追加の対策】ルーティンでN95マスクを使用大部屋にHEPAフィルターを設置2)診療体制の構築行政による入院調整がなくなるため、これまで以上に地域の病病連携・病診連携が重要となる。大規模な流行が起こった場合に、入院患者の受け入れ先が見つからない可能性があるため、早期診断・早期治療を可能とする外来診療体制の構築(重症化予防)、夜間も含めた施設連携医・往診医による診療の充実、行政機関による病床利用率共有システムの構築と入院・紹介ルールの明確化(円滑な医療機関の連携)、COVID-19入院対応可能な病院を増やすことが重要である。現在、保健所が行う療養中の患者の健康観察と受診調整も診断した医療機関が対応することになるため、医療機関の業務は増加する見込み。【外来】診察スペースの確保検査能力の確保(抗原/PCRの使い分けも医療機関ごとに検討)治療ガイドラインの作成電話/オンライン診療によるフォローアップの検討【入院】COVID-19対応可能な病床の適切な運用職員・COVID-19以外の理由で入院した患者がCOVID-19に感染していたとしても、院内感染伝播が起こりにくい感染対策の実施院内感染事例への対応(早期診断、早期隔離、早期治療の徹底)COVID-19治療薬の最新情報医療ひっ迫の原因となる救急搬送・入院症例・高次医療機関への搬送を減らすためには、ワクチン接種と並び、軽症・中等症Iの患者に対する早期診断・早期治療が非常に重要となる。患者の年齢、ワクチン接種回数、重症化リスク因子、免疫不全の有無などから薬物治療の必要性を判断し、ガイドライン、および現在の科学的証拠に基づいて、適切な抗ウイルス治療を選択する。現在軽症~中等症Iの患者で重症化リスクがある場合に適応となる、承認済の抗ウイルス薬は以下のとおり。なお、2023年4月時点では、軽症・中等症Iの患者に対する中和抗体薬・抗炎症薬の使用は推奨されていない。・ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビット、内服)発症5日以内、成人または12歳以上かつ40kg以上。重症化予防効果は非常に高い。呼吸不全、腎障害等の場合は使用できず、併用注意薬も多いものの、実際に使用できないケースは限られる。・レムデシビル(商品名:ベクルリー、点滴)発症7日以内、成人または12歳以上かつ40kg以上。ワクチン未接種者に対する重症化予防効果は非常に高いことが示されているが、ワクチン接種者への効果はほとんど検討されていない。3日間の点滴投与となり、入院が必要。・モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ、内服)発症5日以内、18歳以上。重症化予防効果は上記2剤に劣るため、上記2剤が利用できない場合に使用する。・エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ、内服)発症3日以内、成人または12歳以上。妊婦または妊娠の可能性のある女性は禁忌。現時点ではワクチン接種者への重症化予防効果の有無やほかの薬剤との使い分けははっきりしていない。参考1)COVID-19 5類移行でどう変わる?/CareNeTV(※視聴はCareNeTVプレミアムへの登録が必要)(配信:2023年3月22日、再構成:ケアネット 杉崎 真名)

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4月20日 腰痛ゼロの日【今日は何の日?】

【4月20日 腰痛ゼロの日】〔由来〕「腰(4)痛(2)ゼロ(0)」と読む語呂合わせから「420の会」代表の本坊 隆博氏が制定。腰痛で悩んでいる人をゼロにしたいとの思いが込められており、腰痛に対する対処法、予防法が指導されている。関連コンテンツ外来でできる肩こり・腰痛対策【Dr.デルぽんの診察室観察日記】腰部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?慢性腰痛の介入、段階的感覚運動リハビリvs.シャム/JAMA急性腰痛に筋弛緩薬は有効か/BMJ

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2型DMの追加処方に有益なのは?~816試験をメタ解析/BMJ

 中国・四川大学のQingyang Shi氏らはネットワークメタ解析を行い、2型糖尿病(DM)成人患者に対し、従来治療薬にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を追加投与する場合の実質的な有益性(心血管系および腎臓系の有害アウトカムと死亡の減少)は、フィネレノンとチルゼパチドに関する情報を追加することで、既知を上回るものとなることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、2型DM患者の診療ガイドラインの最新アップデートには、科学的進歩の継続的な評価が必要であることを強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年4月6日号掲載の報告。24週以上追跡のRCTを対象に解析 研究グループは、2型DM成人患者に対する薬物治療として、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノンを含む)とチルゼパチド(二重GIP/GLP-1受容体作動薬)を既存の治療オプションに追加する有益性と有害性の比較を目的にシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 Ovid Medline、Embase、Cochrane Centralを用いて、2022年10月14日時点で検索。無作為化比較試験で、追跡期間24週以上を適格とし、クラスの異なる薬物治療と非薬物治療の組み合わせを体系的に比較している試験、無作為化比較試験のサブグループ解析、英語以外の試験論文は除外した。エビデンスの確実性についてはGRADEアプローチで評価した。816試験、被験者総数47万1,038例のデータを解析 解析には816試験、被験者総数47万1,038例、13の薬剤クラスの評価(すべての推定値は、標準治療との比較を参照したもの)が含まれた。 SGLT2阻害薬と、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、全死因死亡を抑制した(それぞれオッズ比[OR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.83~0.94]、0.88[0.82~0.93]、いずれも高い確実性)。 非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬については、慢性腎臓病を併存する患者へのフィネレノン投与のみが解析に含まれ、全死因死亡抑制の可能性が示唆された(OR:0.89、95%CI:0.79~1.00、中程度の確実性)。その他の薬剤については、おそらくリスク低減はみられなかった。 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の追加投与については、心血管死、非致死的心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全を抑制する有益性が確認された。フィネレノンは、心不全による入院、末期腎不全をおそらく抑制し、心血管死も抑制する可能性が示された。 GLP-1受容体作動薬のみが、非致死的脳卒中を抑制することが示された。SGLT2阻害薬は他の薬剤に比べ、末期腎不全の抑制に優れていた。GLP-1受容体作動薬は生活の質(QOL)向上に効果を示し、SGLT2阻害薬とチルゼパチドもその可能性が示された。 報告された有害性は主に薬剤クラスに特異的なもので、SGLT2阻害薬による性器感染症、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬による重症胃腸有害イベント、フィネレノンによる高カリウム血症による入院などだった。 また、チルゼパチドは体重減少がおそらく最も顕著で(平均差:-8.57kg、中程度の確実性)、体重増加がおそらく最も顕著なのは基礎インスリン(平均差:2.15kg、中等度の確実性)とチアゾリジンジオン(平均差:2.81kg、中等度の確実性)だった。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンの絶対的有益性は、ベースラインの心血管・腎アウトカムリスクにより異なった。

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若年性ポリポーシス症候群〔JPS:Juvenile Polyposis Syndrome〕

1 疾患概要■ 定義若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis syndrome:JPS)は消化管に若年性ポリープが多発する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性の遺伝性ポリポーシス症候群である。臨床診断基準および2つの原因遺伝子の生殖細胞系列の遺伝子検査により診断する。本疾患は小児慢性特定疾病に指定されており、医療費助成の対象となる(20歳未満まで)。■ 頻度と平均発症年齢発症頻度は10~16万人に1人程度。わが国の推定患者数は750~1,200人。平均発症年齢は18.5歳とされる1)。■ 原因遺伝子JPSの原因遺伝子にはSMAD4遺伝子あるいはBMPR1A遺伝子の2つが知られている。臨床的若年性ポリポーシス症例において、この2つの遺伝子に病的バリアントが同定されるのは約60%とされる。SMAD4遺伝子は遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT[オスラー病])の原因遺伝子でもあり、SMAD4病的バリアント症例では、若年性ポリポーシスとHHTの症状を併発していることもある。また、BMPR1A遺伝子は染色体10q23に位置しており、カウデン病(現在ではPTEN過誤腫性症候群と包括的に呼称されることが多い)の原因遺伝子であるPTEN遺伝子と隣接している。このためこの領域に欠失が生じた場合には、若年性ポリポーシスとPTEN過誤腫症候群を併発し、幼少期に発症することがある。この欠失の診断は染色体Gバンド法あるいはマイクロアレイ検査により行う。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断基準臨床的に、(1)大腸に5個以上の若年性ポリープが認められる(2)全消化管(2臓器以上)に複数の若年性ポリープが認められる(3)個数を問わずに若年性ポリープが認められ、かつ、JPSの家族歴が認められるのいずれかを満たしている場合を臨床的にJPSと診断する。■ 遺伝学的検査SMAD4遺伝子およびBMPR1A遺伝子のシークエンスおよび再構成の解析(MLPA:Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)を行う。臨床的に若年性ポリポーシスと診断されても約40%の症例には病的バリアントが認められていない。現在では、がんパネル検査を実施したときに、偶然に両遺伝子に病的バリアントが検出される場合があるが、ほとんどの場合がん細胞のみに生じている体細胞変異である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)以下に各疾患の臨床的所見とその治療について述べる。1)若年性ポリープ(Juvenile Polyp:JP)遺伝性ではない孤発性の若年性ポリープについて概要を述べる。孤発性の若年性ポリープは病理学的には過誤腫性ポリープに属し、小児の腸管ポリープの90%以上を占め、3~5歳に好発するとされる2)。孤発性の若年性ポリープは、多くが有茎性あるいは亜有茎性で、易出血性、子供の下血の原因として重要である。表面は比較的平滑で赤色調で、びらんを認めることが多い。病理学的には、異型のない腺管が嚢胞状に拡張したり、間質に浮腫と炎症細胞浸潤や毛細血管の増生を認める(図1)。図1 若年性ポリープの臨床所見画像を拡大する(a)孤発性の若年性ポリープの内視鏡像。亜有茎性の発赤調ポリープ。表面にはびらんを認める。(b)若年性ポリープの病理組織像。弱拡大像。嚢胞状に拡張した腺管と間質の浮腫を認める。(c)同強拡大像。腺管は異型性を示さず、間質には炎症細胞浸潤と血管の増生を認める。若年性ポリープでは腺腫との混在例もあることから、治療は内視鏡切除により病理学的診断も行うことが一般的である。孤発性の若年性ポリープは一般には非遺伝性であり悪性病変のリスク上昇とは関連がないと考えられている。2)若年性ポリポーシス(JPS)一方で、遺伝性の若年性ポリポーシスでは、単に若年性ポリープが複数発症している状態であるほかに、消化管が悪性化のポテンシャルを有していると考えられるため、生涯にわたり消化管病変のマネジメントを行う。病型としてポリポーシスの発生部位により全消化管型、大腸限局型、胃限局型に分けられる。わが国の病型別の頻度は全消化管型が27.4%、大腸限局型が36.3%、胃限局型が36.3%とされる3)。胃限局型であっても大腸にポリープが数個認められることが多い。また、SMAD4遺伝子に病的バリアントを認める症例では、胃限局型の表現型となることが多い(図2)。図2 胃限局型の若年性ポリポーシスの臨床所見画像を拡大する(a)胃限局型の若年性ポリポーシス例の手術標本。特に胃の体下部から前庭部にかけて、丈の高いポリープが密集している。(b)手術標本の断面像(c)ポリープの病理組織。弱拡大像。(d)同拡大像(×40)。腺管の嚢胞状の拡張および間質の浮腫、炎症細胞浸潤を認める。消化管の若年性ポリポーシスについては、孤発性の若年性ポリープと異なり、ポリポーシスの発生部位や分布および病理所見により、局所の内視鏡切除だけではなく、広範な胃全摘術あるいは大腸全摘術を考慮しなければならない場合もある。JPSが貧血や低蛋白血症の原因であるためだけではなく、将来的にも悪性腫瘍を併発しているリスクがあるためでもある。胃限局型で著明な貧血や低蛋白血症を発症している場合、胃全摘術によりこれらの症状は改善する。若年性ポリポーシス患者の悪性腫瘍の70歳時点での生涯罹患リスクは86%、臓器別では胃がんが73%、大腸がんが51%と高くなっているが、これはポリープの分布に依存する3)。■ その他のがん消化管以外のがんについては、若年性ポリポーシスにおいてはリスク上昇の報告はない4)。SMAD4遺伝子の変異は膵がんの55%にみられるが、わが国のポリポーシスセンターの171例の登録をみても、消化管以外のがんでは小腸がんや乳がんの登録が各1例ずつあるのみで膵がんの登録はない3)。■ 血管病変SMAD4遺伝子はオスラー病の原因遺伝子でもあるため、SMAD4変異症例では、オスラー病の一分症として、鼻出血や毛細血管の拡張、肺動静脈瘻を認める場合がある。とくに鼻出血は頻度が高い。■ 血縁者の対策若年性ポリポーシスと診断された発端者の第1度近親者は50%、第2度近親者は25%の確率で同じ体質を有する可能性があるので、血縁者への医療介入の機会を提供することは極めて重要である。米国のNCCNガイドラインでは、胃や大腸の内視鏡を12~15歳で開始して2~3年ごとに実施すること、また、SMAD4遺伝子に病的バリアントがある場合には、生後6ヵ月から鼻出血や肺動静脈瘻などの血管病変のスクリーニングを行うことを推奨している5)。未発症の血縁者に発端者と同じ変異があるかを検査する未発症者のキャリア診断は、原則として遺伝カウンセリングの実施体制が整備されている医療機関で行う。また、病的バリアントが認められた場合に具体的なマネジメントを提案できるなど実行可能な医療が提供できることが前提となる。4 今後の展望現在、化学予防など実施中の臨床試験は検索しうる限りない。また、リスク低減のための大腸全摘術やSMAD4病的バリアント変異例におけるリスク低減胃全摘術の有効性は不明である。そのほか、SMAD4遺伝子やBMPR1A遺伝子に病的バリアントを有するがんにおいて、有効性が期待できる分子標的薬は現時点ではない。若年性ポリポーシスは、消化管ポリポーシスがコントロールでき、当事者の疾患に対する適切な認識を持つことができれば、十分に対応可能な病態である。そのために継続的な家族との関わりを保てられる診療体制が必要である。5 主たる診療科若年性ポリポーシスは多数の診療科が連携してマネジメントを行う。消化管ポリポーシスのマネジメントが喫緊の診療なので、消化器内科がコアになることが多い。手術適応があれば消化器外科が対応する。その他、鼻出血には耳鼻咽喉科、肺動静脈瘻の塞栓療法は呼吸器内科や放射線科が対応する。未発症の血縁者へのサーベイランスや遺伝子診断は遺伝カウンセリング部門が担当する。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報消化管ポリポーシス難病班 若年性ポリポーシス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性ポリポーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews Japan 若年性ポリポーシス症候群(医療従事者向けのまとまった情報)1)松本主之、新井正美、岩間達、他. 遺伝性腫瘍. 2020;20:79-92.2)日本小児外科学会ホームページ. 消化管ポリープ、ポリポーシス.(最終アクセス日:2023年4月2日)3)Ishida H, et al. Surg Today. 2018;48:253-263.4)Boland CR, et al. Gastrointest Endosc. 2022;95:1025-1047.5) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Colorectal. Version2. 2022.Detection, Prevention, and Risk Reduction.(最終アクセス日:2023年4月2日)公開履歴初回2023年4月19日

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胃がん患者向けGLが19年ぶり改訂、2023年3月発表のエビデンスも反映

 2023年3月に「患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2023年版」が発刊された。2004年版以来、19年ぶりの改訂となる。そこで、金原出版は2023年3月31日に、本ガイドラインの作成委員長を務めた寺島 雅典氏(静岡県立静岡がんセンター胃外科/副院長)を講師に迎え「胃がんの標準治療の今-開発の歴史と今後確立が予想されるエビデンス」をテーマにセミナーを開催した。患者さんに正しい情報へアクセスしてもらいたい 胃がんについては、2004年版を最後に患者さん向けのガイドラインが作成されていなかった。しかし、寺島氏は「患者さんがインターネットなどで目にする情報には不適切なものが多く、正しい情報にたどりつけない方も多い」と言う。そこで、「正しい情報を提供するには、患者さん向けのガイドラインが必要だと感じ、胃癌治療ガイドライン 第6版1)の内容を基に作成することにした」と述べた。 「患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2023年版」は、第1章では「胃はどこにあるのか」といった基本的なことから、「胃がんはどのようながんか」「胃がんはどのように進展するか」といった内容まで、胃がんのことが総合的にわかるように作成されている。寺島氏は「この部分が患者さんへの説明に非常に役立つと考えている」と話した。第2章では、医師向けの「胃癌治療ガイドライン 第6版」の内容を患者さんがわかるように平易な言葉で説明されている。第3章では、患者さんが疑問に感じることについて、多くのQ&Aが用意されている。 本ガイドラインは患者団体からの意見も取り入れて作成されており、用語の解説を豊富に取り入れるなど、患者さんにとって理解しやすいように作成されているのも特徴である。胃がんの最新のエビデンスを反映 胃がんの外科的治療は目覚ましい進歩を遂げている。以前は、開腹手術が一般的で、進行がんの一部では拡大手術が推奨されていた。しかし、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)胃がんグループの進行胃がんに対する臨床試験2-5)において、進行胃がんに対する外科手術の意義が見直され、侵襲を減らすことの重要性が注目されるようになった。そしてStageIの胃がんでは、腹腔鏡下胃切除が開腹胃切除と比べて、無再発生存期間に関して非劣性であるというエビデンス(JCOG0912)6)などを基に、腹腔鏡下胃切除が標準治療の1つとして推奨されるようになった1)。さらに、2023年3月にはStageII/IIIの胃がん患者を対象とした幽門側胃切除術に関する臨床試験(JLSSG0901)において、腹腔鏡下胃切除は開腹胃切除と比べて無再発生存期間が非劣性であったという結果が報告された7)。「患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2023年版」では、この2023年3月発表のエビデンスも盛り込まれ、腹腔鏡下胃切除術の解説が掲載されている。また、さらに進歩したロボット支援手術も推奨される時代になっており、これについても本ガイドラインで解説されている。 薬物治療についても進歩が著しく、抗PD-L1抗体薬の使用が推奨され、今後も新しい分子標的治療薬が登場する予定である。そこで本ガイドラインでは、2021年発刊の「胃癌治療ガイドライン 第6版」の情報だけでなく、WEB速報版8)の内容も取り入れられている。具体的には「図30 推奨されるがん薬物療法」において、「HER2陰性の治癒切除不能な進行・再発胃がん/胃食道接合部がんにおけるニボルマブと化学療法を含む治療」が、1次化学療法の選択肢に追加されている。 そのような背景を踏まえて、「Q3 HER2、CPS、MSIって何ですか?」など、用語の解説も多く掲載されている。寺島氏は「患者さんが治療を理解・納得したうえで、医療者と治療方法を決めていく、Shared Decision Making(SDM)が極めて重要である」と述べ、本ガイドラインを活用してほしいと語った。ガイドライン普及のために 本ガイドラインの患者さんへの普及のために医療者に期待することを聞くと、寺島氏は、「看護師をはじめとするコメディカルの方も手に取って、理解を深めてほしい。そうすることで患者さんの説明もよくわかるようになるため、日々の業務に活用できると考えている。そして、コメディカルの方からも患者さんへこのガイドラインを紹介していただけるとありがたい」と述べた。 なお、金原出版では国立がん研究センター中央病院に、本邦初の医学書の自動販売機を設置し、がん患者さん向けのガイドラインを販売する取り組みを行っている。書籍紹介『患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2023年版』■参考文献1)日本胃癌学会編集. 胃癌治療ガイドライン 医師用 2021年7月改訂 第6版. 金原出版;2021.2)Sasako M, et al. N Engl J Med. 2008;359:453-462.3)Sasako M, et al. Lancet Oncol. 2006;7:644-651.4)Sano T, et al. Ann Surg. 2017;265:277-283.5)Kurokawa Y, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2018;3:460-468.6)Katai H, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2020;5:142-151.7)Etoh T, et al. JAMA Surg. 2023 Mar 15. [Epub ahead of print]8)日本胃癌学会. 胃癌治療ガイドライン 医師用 第6版 学会WEB速報

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【GET!ザ・トレンド】第2の聴診器ポケットエコーの進化はAirへ

(協力:GEヘルスケア社)医療検査機器の進歩は目覚ましいものがある。とくにCTやMRIは、さらに高画質化し、読影も立体的になるなど、最近ではソフトウェアの進歩も著しい。また、超音波も同様に高画質化、コンパクト化がはかられ、ベッドサイドではなくてはならない検査機器となりつつある。こうした診療機器を一堂に集めた国際医用画像総合展(ITEM 2023)が4月14日から3日間、パシフィコ横浜で開催される。ITEMの開催を前にCareNeTVやケアネットDVDでもお馴染みの白石 吉彦 氏(島根大学医学部附属病院 総合診療医センター センター長/隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)にポケットエコーの進化を振り返り、臨床現場での使い方のポイントや検査・読影のコツ、そして、今後の展望についてお聞きした。質問 ポケットエコーの進歩とハードウエアの課題について教えてください2010年にVscan(GEヘルスケア社製)がポケットエコーの嚆矢として発売されました。非常に衝撃的ではありましたが、当時は心エコーなど限定された部位・機能であり、現在のように処置などに使えませんでした。2010年に発売されたポケットエコーVscan(GEヘルスケア社製)その後、他のメーカーもポケットエコーを開発・発売していくなかで、先のVscanはプローブのデュアル化をしました。1個のプローブにセクタ型とリニア型が一体となり、携帯する機材の省力化で、臨床現場での使い勝手が向上しました。Vscan Dual Probe(GEヘルスケア社製)その間にも個々の機種は充電がしやすくなったり、起動までの時間が短縮化されたり、軽量化なども図られるとともに、本体の価格もかなり安くなっていきました。そして、現在の進化はVscan Air(GEヘルスケア社製)のように無線化であり、邪魔なコードがなくなり、プロ―ブを検査したいところに当て、機動性良く検査ができるようになりました。また、所見はタブレットやスマホに送ることができて、その画面で読影ができるようになりました。Vscan Air Carotid Artery(GEヘルスケア社製)臨床では、臨床判断と手技の向上に役立てる超音波検査を“point-of-care ultrasonography”(POCUS)と呼び、一般社団法人 日本ポイントオブケア超音波学会(j-pocus.com)が設立されるなど環境も大きくかわりつつあります。ポケットエコーで今後期待されることとしては、画質や画面の大きさ、価格、質の担保があります。たとえば、胆嚢炎について、本症では読影時に胆嚢壁の厚さや形状を知ることが大事です。ポータブルエコーでは、カラードップラーも使え、鮮明に壁の厚さもわかりやすい一方で、ポケットエコーではまだそこまで到達できていません。ほかに重要な点として非接触充電ができるようになったり、機能的にも良くなっていますが、「電池の持ち時間」がユーザーとしては気になります。もっと長時間使用できるようになって欲しいと思います。1点注意しなければいけないこととして、最近ではインターネットサイトで非常に安価なポケットエコーを入手することができます。サイトで買われたポケットエコーは、自己トレーニングなどでの使用は問題ありませんが、薬機法(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について安全性と、体への有効性を確保するための法律)を通っていない機器は、診療で使用すると法に抵触する恐れがあります。この点を医療者はよく理解して、診療にあたらなければいけないということがあります。質問 ポケットエコーの臨床現場での活用法やビギナー向けのポイントを教えてくださいポケットエコーは在宅診療をされている医療者などでは結構普及していますが、医師全体からすると、まだ5%も普及していません。理由はいろいろとありますが、はじめの頃は250万円くらいの高価なデバイスであったことが要因かと思います。ポケットエコーのメリットは、携帯性、経済性、起動時間の早さにあります。診療に使うことで診断精度と治療精度の向上が望めます。私の勤める病院では、看護師にも積極的にポケットエコーを扱ってもらっています。一例として「導尿」の有無の判断に膀胱にエコーを当て、導尿の必要があるかどうかを判断しています。導尿では、感染症のリスクや患者さんの羞恥心もあり、できればしたくない処置です。そこでエコーを当て要否を判断することで確実に導尿が必要な患者さんにだけ処置を施すことができます。これは全国でもまれかもしれません。また、膀胱の背側にある直腸の便を確認することもできます。膀胱横断面所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する診断の補助として、たとえばひざの腫れであれば、関節液の貯留か軟部組織の炎症による腫脹か、それ以外の原因なのか、ベテランでないと難しい診断もポケットエコーを使えば診断がし易くなります。触診した部位を見える化することによりポケットエコーで身体所見の診断の答え合わせもできます。ほかにもプライマリ・ケアでよくある主訴の「頻尿」では、問診では判断が難しい過活動膀胱か神経因性膀胱かどうかについて、ポケットエコーで膀胱の容量を把握し、残尿があるかないかを確認することができます。両疾患では治療薬も異なるので、適切な治療につなげることができます。エコーは軟部組織や水をよく描出するので胸水、肺B-line、胸膜、膝などの診断に強みを発揮します。今では初期の大動脈瘤の発見もできる精度であり、みつけることができれば予防的な治療も可能です。膀胱、前立腺所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する腹部大動脈所見(提供:GEヘルスケア社)画像を拡大する処置で使うのであれば、ひざの穿刺などで注射を必要な部位にピンポイントで施行できますし、膀胱、便秘、肺エコー、大静脈の点滴の適否、末梢血管確保についてポケットエコーは有効です。エコーを使用した処置により、ベテランでもそうでなくとも同じ視覚で処置ができるので、医療の均てん化にも役立つと考えています。質問 超音波所見の読影のコツやビギナー向けの学習法について教えてくださいエコーの上達については、とにかく「日々プローブを当てること」が基本です。自分でも仲間同士でもプローブを当て、手技や読影を訓練することです。もちろんこのときには指導する先輩医師の役割も重要ですし、身近にすぐできるエコーがあることも必要です。そういう意味ではポケットエコーは、エコーに馴染むという意味ではよいツールとなります。また、読影でわからない場合で先輩医師がいない場合には、成書やDVDなどで学習し、それでも難しいときは研修会などで勉強することが必要です。本当は、医学生のころからエコーに慣れ親しむのがいいのですが、現在、医学部でのエコーの講義や実習は、力の入れ具合に差があります。私が所属している島根大学医学部では、医学生にエコーの勉強会を実施していますし、エコーを使った診療の動画も島根大学医学部附属病院 総合診療医センターのサイトで公開して、学習のサポートを行っています。今年の7月には私が会長で行う「第15回 日本ポイントオブケア超音波学会学術集会」を島根で開催します。エコーに少しでも興味のある医療者にはぜひ参加していただきたいと思います。質問 ポケットエコーの将来の展望について教えてください診療でポケットエコーが普及していけば、診療ガイドラインなどにも記載されるようになるでしょう。日本ポイントオブケア超音波学会(JPOCUS)では、ガイドラインから試案を作成したりしていますし、日本救急医学会では「救急point–of–care超音波診療指針」を公開していますので、じわじわと臨床の中に入っていくと思われます。今後、プライマリ・ケアでも症状や病態の見える化は需要が増していきますので、「第2の聴診器」として医療者には必要な手技・スキルになると考えます。繰り返しますが、ポケットエコーの理想形としては、より小さく、軽く、鮮明な画像で、値段もお手ごろ、電池も長持ちし、操作も簡単、プローブのバリエーションもあり、そして、院内のPACSにつながるポケットエコーの登場を期待します。(インタビューは2023年3月6日に実施/ケアネット 稲川 進)

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第156回 大阪急性期・総合医療センターがサイバー攻撃の報告書公表、VPNの脆弱性狙われ閉域網破られる、IDとパスワード使い回しで被害拡大

診療システムの全面復旧に73日間を要し、逸失利益十数億円以上こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は足慣らし山行で久しぶりに奥多摩に行って来ました。奥多摩湖から惣岳山、御前山、湯久保山を経て檜原村に下るコース。例年この時期、御前山周辺ではカタクリの花が開花して楽しませてくれるのですが、今年は時期が早いのか遅いのか、花の数が今ひとつでした。カタクリは発芽したときは1枚葉で、この状態が7〜8年続き、葉が2枚になって初めて開花します。そういえば、今年の御前山周辺は1枚葉が多かった印象です。来春、再び訪れてみようと思います。さて、今回は昨年10月31日に起きた地方独立行政法人 大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)でのランサムウエア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー攻撃について再度書いてみたいと思います。ランサムウエアによるサイバー攻撃によって発生したシステム障害によって、診療の停止を長期間余儀なくされた同センターは3月28日、外部有識者による情報セキュリティインシデント調査委員会(委員長・猪俣 敦夫大阪大教授)の報告書を公表しました1)。委託先の給食事業者経由で病院サーバの認証情報が抜き取られ、病院内のシステムが攻撃を受けたことや、基幹システムのサーバの大部分がランサムウエアによって暗号化されてしまい、診療システムの全面復旧に73日間を要したことなど、被害の詳細が明らかになりました。報告書では、電子カルテを含む基幹システムが同じIDとパスワードを使い回す状態であったことが被害拡大を招いたとも指摘しています。被害総額は現在精査中としながらも「調査・復旧費用で数億円、診療制限に伴う逸失利益として十数億円以上を見込んでいる」としています。診療体制の完全復旧まで73日かかるこの事件については発生当初、本連載の「第135回 大阪急性期・総合医療センターにサイバー攻撃、『身代金受け取った』報道の町立半田病院の二の舞?」でも書きました。経緯を簡単に振り返っておきましょう。事件は2022年10月31日の早朝に発覚しました。午前6時40分ごろ、職員がサーバの障害に気づき、同8時半ごろ、業者の調査でランサムウエアの攻撃と判明しました。サーバ上の画面には英語で「すべてのファイルは暗号化された。復元したければ、指定のアドレスにメールを送りビットコインで支払え。金額はメールを送る時間で変わる」という文面と、データに対する「身代金」を要求するメッセージが表示されていました。同センターは「金銭を支払う考えはない」としてすぐに大阪府警に相談、同日夜に記者会見を行いました。同センターは、システム障害によって患者の電子カルテが閲覧できず、診療報酬の計算ができない状態に陥り、外来診療を中止、緊急以外の予定手術は延期となりました。電子カルテシステムを含む基幹システムが再稼働し、外来での電子カルテ運用が再開したのは約6週間後でした。病棟での電子カルテ運用の再開は12月、2023年1月11日に通常診療にかかわる部門システムが再開し、診療体制が完全復旧しました。ランサムウエア感染から実に2ヵ月以上、73日が経っていました。中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回し報告書によれば、ウイルスは外部の給食事業者のVPN(仮想プライベートネットワーク)から侵入し、事業者側のサーバと常時接続されていたセンター側の給食管理用サーバに入り込んだとのことです。給食事業者のシステムは、配食数や食事内容を管理するもので、病院のネットワークや電子カルテシステムと常時つながっており、病院はこのネットワークを利用し、糖尿病などの患者の食事内容を事業者に伝えていました。さらに、電子カルテのシステムを構成する中核のサーバはすべて同じパスワードを使い回しており、ウイルス対策ソフトも導入されていませんでした。このためウイルスの侵入から、適切な対応がとられるまでの5時間弱の間に感染が急拡大し、約20台のサーバでデータが暗号化されてしまったとのことです。3月26日付の朝日新聞の報道によれば、電子カルテのシステムはNEC(日本電気)が構築したものでした。センター側から閉域網(外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワーク)であるとの説明を受けていた同社は「利便性などを考慮し、同じパスワードを使うことも可能だ」と提案、採用されていたとのことです。同紙によれば、NECは事件発覚後の昨年11月、同じ電子カルテを使う全国280の病院を調査しました。その結果、半数以上の病院で同様の使い回しが判明しました。その後、パスワードの変更やほかのセキュリティ対策を順次進めているとのことです。サイバー攻撃を受けた根本原因が「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」という点は、一昨年10月の徳島県つるぎ町の町立半田病院(「第118回 ランサムウエア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」参照)とまったく同じです。ちなみに、給食事業者のVPN機器も町立半田病院と同じ製品で、この事業者もソフトウエアの更新を怠っていました。病院もセキュリティ意識を高く持ち組織的な取り組みが必要今回公表された75ページにも及ぶ報告書は、専門外の人間にはいささか読むのが大変です。ただ、幸いなことに7枚のスライドにまとめられた概要版も用意されているので、医療機関の経営者や幹部の方は、こちらには一度目を通しておいた方がいいと思われます。報告書では、サイバー攻撃を許してしまったセキュリティ上の課題を「技術的発生要因」 「組織的発生要因」「人的発生要因」に分けて分析、予防に向けた提案をしている点が参考になります。「技術的発生要因」については、外部接続(リモートメンテナンス)の管理不備と内部のセキュリティの脆弱性を指摘、「組織的発生要因」については、ガバナンスの欠如とベンダーとの契約に関するさまざまな問題を指摘しています。「人的発生要因」では、ベンダーに対してはシステムや機器を提供する専門家として、サイバーセキュリティの知識と経験向上に努めるべきと提案、病院に対してもセキュリティ意識を高く持ち、組織的にシステムや機器の導入および運用を心掛けた取り組みが必要だ、としています。「国はガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」と提言さらに報告書は、国に対する要望もまとめています。そこでは、「国においては、ガイドラインや法整備、財源の確保など、その役割はますます重要」「国においては、医療機関へのサイバー攻撃を災害の一つとして捉え、その支援対策を充実させるなど、患者が安全安心に医療を受けられるよう、更なる取り組みの推進が必要」など、国が主導して医療機関のセキュリティ対策に取り組むべきだと要望しています。医療機関にとってセキュリティ対策は頭が痛い問題実際、医療機関にとってはセキュリティ対策の人材確保や、そのための予算確保はなかなか頭が痛い問題のようです。自民党の「医療分野のデジタルセキュリティ対策推進プロジェクトチーム」は3月28日に初会合を開き、医療機関のセキュリティ対策について、厚生労働省、日本医師会などにヒアリングを行いました。この席で日本医師会は提出資料で、医療機関が十分なセキュリティ対策をとれていない背景として、「医療関係者が教育を受けていない」「大部分の医療機関には専門家がいない」「対策の財源がない」と指摘、「必要となるセキュリティ対策にかかる費用は本来、国が全額負担すべき」と訴えています。厚労省、警察庁もサイバー攻撃対策に本腰町立半田病院、大阪急性期・総合医療センターなどのサイバー攻撃をきっかけとして、国側の動きも急となってきています。3月30日、厚生労働省は、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の案を公表、パブリックコメントの募集を始めました2)。同ガイドラインはこれまで、本編と別冊で構成されていましたが、今回の改定では、概説、経営管理、企画管理、システム運用の計4編の構成に変更されています。たとえば、システム運用編には、パソコンやVPN機器などの脆弱性や、ランサムウエアによるサイバー攻撃などに関する対策が明記されており、バックアップデータを保存した記録媒体を、端末やサーバ装置、ネットワークから切り離して保管するといった対策を求める内容となっています。同ガイドラインは、4月28日までパブリックコメントを募集し、5月中旬に公表する予定です。警察庁もサイバー攻撃被害に関する情報収集を強化する方針です。4月6日に開かれた警察庁の有識者会議の報告書の提言を基に、4月7日付の日本経済新聞は「警察庁はインターネットで通報できる一元窓口を2023年度内にも設け、企業の申告を促す」と報じています。同記事によれば、「これまでは都道府県ごとに窓口を設けていたが通報は低調だった。被害状況は捜査や分析に向けた端緒で、必要に応じて国直轄の専門部隊にも共有する」とのことです。国がサイバー攻撃対策に本腰を入れ始めたのは好ましいことです。ただ、病院や診療所の現場の経営者たちが、国任せ、行政任せ、ベンダー任せのままでは、医療機関に対するサイバー攻撃はこれからも増え続けるでしょう。財源は国にお願いするにせよ、医療機関内でもITや情報セキュリティに詳しい専門人材を確保することは、もはや急務と言えるでしょう。参考1)情報セキュリティインシデント調査委員会報告書について/大阪急性期・総合医療センター2)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(案)」に関する御意見の募集について

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循環器領域における「睡眠呼吸障害の診断・治療ガイドライン」改訂で“睡眠”も心血管リスク因子に/日本循環器学会

 睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)が循環器疾患の重要なリスク因子であることが明らかになり、2010年に『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』が発刊された。あれから13年、3月11日に『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』の2023年改訂版が発刊され、第87回日本循環器学会学術集会の「ガイドラインに学ぶ2」において、葛西 隆敏氏(順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科 准教授)が改訂ポイントを6つに絞り、改訂の背景や臨床に役立つ点を発表した。『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』は“睡眠”を意識 SDBは、さまざまな循環器疾患に合併し、循環器疾患の悪化に関与するだけではなく、循環器疾患の発症そのものに関与することも示唆されている1)。AHAは2010年にCardiovascular Health Promotionとして、7つの修正可能な因子(適正体重の維持、禁煙、運動習慣、健康的な食習慣、血圧・血清脂質・血糖値のコントロール)をLife’s Simple7として示してきたが、「睡眠」の重要性がエビデンスの構築により高まり、2022年の改訂では追加されLife‘s Essential 8になっている。 今回、本邦の『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』にもその点が反映され、以下の6項目が改訂された。葛西氏は「とくに診断における定義・スクリーニング、検査時のスコアリングルールがアップデートされており重要」と述べ、「以前から多くの先生に引用されていたであろう“心血管疾患ごとのSDB合併頻度”についても改訂し、HFpEFなどの疾患項目数を増やした」と説明した(本GL図8参照)。また、現状の循環器診療においてSDB診断がなされているかを知るために福島県立医科大学の医師らがJROAD-DPCからその傾向を調査したところ、「入院患者のみのデータではあるが、2012~19年の期間に急性心筋梗塞以外でのSDB診断は若干増加したものの、全体としては未診断が散見され、検査の実施率も心房細動以外では低下傾向」であったことを言及し、「入院中検査は点数が算定できないことも要因の1つだが、循環器医に対して、SDB診断の普及啓発が必要である」とも話した。<『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版の主な改訂点>1)正常睡眠と睡眠障害:より循環器領域の内容に特化する形へ変更2)診断:最近の定義・スコアリングルールに関する内容にupdate3)疫学:有病率などをより近年のデータにupdate4)病態:近年提唱された新たな病因・病態生理について言及5)治療:全体をupdateするとともに、エビデンスが出ている治療(舌下神経電気刺激療法[保険収載]、中枢性睡眠時無呼吸への横隔神経電気刺激療法[保険未収載]など)の可能性に関して言及6)各疾患との関連と治療:項目を拡充し、高血圧以外の循環器疾患リスク因子にも言及。多数のエビデンスが報告された不整脈(とくに心房細動)や心不全に関して、細分化し項目を分けた。 主な変更点は以下のとおり。1)正常睡眠と睡眠障害睡眠呼吸障害以外に循環器医が注意すべき睡眠問題として、睡眠過不足、睡眠関連運動障害(むずむず脚症候群[restless legs syndrome:RLS]、周期性四肢運動[periodic limb movement in sleep:PLMS])にもフォーカスを当てた。2)診断呼吸器学会が発行している「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」同様にSDBの診断基準は国際睡眠障害分類の第3版(ICSD-3)に準じ、成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea:OSA)の診断基準の1つに「患者が高血圧、気分障害、認知機能障害、冠動脈疾患、脳卒中、うっ血性心不全、心房細動、あるいは2型糖尿病と診断されている」と書かれている点を踏襲。『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版では、スクリーニングと診断の違いを明記した(表10参照)。なお、OSAの診断基準とCPAP治療の保険適用の基準が異なる点に注意が必要。また、心房細動や粗動、うっ血性心不全、あるいは神経疾患の存在は、中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea with Cheyne-Stokes respiration:CSA-CSR)を合併しやすい点も重要。3)疫学各心血管疾患でのSDB合併頻度は肺高血圧症(89.0%)が最も高く、治療抵抗性高血圧(83.0%、AHI≧10)、心房細動(81.4%)、HFrEF(76.0%)と続く。これを踏まえ患者を診察してもらうことで、これまで以上にリスク患者をあぶりだせる可能性。4)病態OSAの機序の記載を大幅に変更し、「上気道の解剖学的異常、上気道の神経性調節異常、呼吸調節系の不安定性、覚醒閾値」について、『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』2023年版では具体的な説明を加えた。5)治療・OSAに対する舌下神経電気刺激療法(CPAPが受けられない患者に適用)の項が追加。・生活習慣是正については睡眠薬のうち非ベンゾジアゼピン系睡眠薬やオレキシン受容体拮抗薬の処方検討を考慮してもよい。・OSAの薬物療法については上気道解剖学的要因、上気道神経性調節異常などに対しそれぞれ言及。・CSR-CSA治療に対しては心不全治療薬ARNIが追加。・そのほかのSDB治療については弾性ストッキングが追加。6)各疾患との関連と治療これまで「各論」としていた項目の名称を変更し、高血圧をはじめとする13疾患にカテゴライズ。とくにSDBのリスク因子となる高血圧、糖尿病、CKD、高尿酸血症のほか、多数のエビデンスが報告された頻脈性不整脈(上室)などの内容を充実させた(表35~45参照)。

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第142回 サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県1.サル痘の国内感染が拡大傾向、注意喚起/厚労省厚生労働省は、去年、欧米を中心に流行した「サル痘」(感染症法上の4類感染症)の感染が、今年に入って国内でも感染者が増加しているため、「発疹など感染が疑われる症状がある人は医療機関に相談してほしい」と呼びかけている。厚生労働省によると、国内では2022年7月に1例目の患者が確認され、その後散発的に発生が報告されていたが、2023年4月4日時点で95例の患者報告が集積している。なお、厚生労働省は、WHOの新たな病名「エムポックス」の推奨を受けて、今後病名を変更するため政令改正の手続きを行っている。(参考)サル痘について(厚労省)サル痘の感染増加、今年87人感染 厚労省「疑う症状は相談を」(朝日新聞)「サル痘」感染 国内でことしに入り増加 “医療機関へ相談を”(NHK)サル痘感染者、100人に迫る 厚労省「疑い症状相談を」(共同通信)2.セキュリティ対策求め、オンライン診療のガイドラインを改定/厚労省厚生労働省は、このほど医療機関を標的とするサイバー攻撃の増加を受けて、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を改訂した。この中で、厚労省は、医療機関側に対して、使用するオンライン診療システムが患者の医療情報が漏洩や改ざんがされないように情報セキュリティ対策を確認するように要請している。また、オンライン診療を計画するときは、患者に対してセキュリティリスクを説明し、同意を得なければならないなど記載が追加されている。(参考)オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚労省)「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A(同)オンライン診療、セキュリティーの責任分界点確認を 厚労省が指針改訂(CB news)オンライン診療指針を改訂!「得られる情報が少ない」点を強調するとともに、過重なセキュリティ対策規定を見直し!-厚労省(Gem Med)オンライン診療の適切な実施に関する指針、2023年3月改訂版とQ&A更新(医療経営研究所)3.医療DXで診療報酬改定の医療機関の負担を軽減を/厚労省厚生労働省は、「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームを4月6日に持ち回り開催し、診療報酬改定DX対応方針案を公表した。令和6年度から医療DX工程表に基づいて、デジタル技術を最大限に活用し、共通算定モジュールの開発や共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善、標準様式のアプリ化とデータ連携などを行う。また、診療報酬改定の施行時期を後ろ倒しするなどで、中小病院や診療所などで負担となっている電子カルテなどのシステム改修コストを低減することを目的に、段階的に実装を目指す。(参考)第3回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム(厚労省)診療報酬改定DX対応方針(案)(同)診療報酬施行後ろ倒しへ、夏までに時期決定 厚労省が対応方針(CB news)4.飲む中絶薬、病院での待機を条件に月内に承認か/厚労省先月、厚生労働省が審議する予定の妊娠初期の中絶に使用される経口妊娠中絶薬の「メフィーゴパック」(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)[ラインファーマーズ]について、3月24日にパブリック・コメントが殺到したため、審議が見送りとなっていた。そして、今般、承認条件に新たに中絶が確認できるまで病院での待機を必須とする方向で検討していることが明らかとなった。厚生労働省は、インターネットや個人輸入により入手をしないよう、注意喚起を行っており、4月下旬に開催する薬事分科会で、製造販売の承認可否を審議する見通し。(参考)飲む中絶薬、病院待機を必須に 厚労省、月内にも承認審議(共同通信)ミフェプレックス(MIFEPREX)(わが国で未承認の経口妊娠中絶薬)に関する注意喚起について(厚労省)5.再生医療の産業育成、重点化で後押し/経産省経済産業省は、細胞・遺伝子治療分野が2030年まで年率30%の成長が見込まれるとして、再生医療を開発している研究機関や医療機関について、重要性が高い研究を行う拠点を重点的に補助金で支援する方針で、今年の春に公募を行い数ヵ所を決定する予定。一方、再生医療の安全性について懸念が高まっているため、日本再生医療学会は、再生医療認定医や上級臨床培養士、臨床培養士などの認定資格を持つ人が、医療機関内に一定数いることを要件とする医療機関の認定制度を発足させる方針であることが明らかになった。(参考)再生医療の治療・研究拠点に「お墨付き」、経産省が重点支援へ…3~5か所想定(読売新聞)再生医療「どの病院なら安全?」学会が認定へ 年内にも新たな制度(朝日新聞)2040年には市場が20倍? 注目の再生医療・細胞治療に匹敵する、世界初の発見(財経新聞)6.民間病院グループが民事再生法申請、負債総額132億円/千葉県千葉県で八千代病院や成田リハビリテーション病院を運営する医療法人社団心和会(四街道市)が、4月4日に東京地裁に民事再生法の適用を申請した。健診サービスのほか訪問介護ステーションの開設や積極的な多角経営を展開していたところ、新型コロナウイルスのクラスター発生などが影響したほか、前理事長の不動産トラブルなどで資金繰りが悪化し、経営状況では2021年から赤字となっていた。医療法人側は、診療体制を維持しながら、新たなスポンサーを探して事業譲渡を行う方針。(参考)「八千代病院」の医療法人が民事再生法申請 負債総額132億円 四街道・心和会 コロナ、不動産トラブルで資金繰り悪化(千葉日報)千葉県内で八千代病院など複数の病院を経営する(医)社団心和会が民事再生を申請(東京商工リサーチ)

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Fire and Forget vs.Treat to Target(解説:平山篤志氏)

 これまでの欧米での心血管イベントを低下させるためのガイドラインでは、ハイリスク患者に対してはLDL-コレステロール(LDL-C)を治療するために強力なスタチンの高用量をまず投与するというFire and Forgetの戦略が推奨されてきた。これはスタチンを用いた大規模臨床試験で、高用量と低用量を比較する、あるいはStrongとMildの高用量を比較する試験のメタ解析から得られた結論であった。また、管理目標値を設定するより、初期投与によるLDL-C低下の割合がイベント抑制には必要であるという考えもあった。 ただ、これまでのメタ解析からLDL-C達成値により心血管イベントが低下していること、また冠動脈プラークの退縮が認められることから、LDL-Cの管理目標値を目指す治療が重要であるとされていた(Treat to Target)。さらに、スタチン以外のコレステロール低下薬の有効性が示されると、リスクに応じたLDL-C管理目標値がガイドラインに記載されるようになった。 本試験は、Fire and Forget vs.Treat to Targetを検証するための試験であった。結果としては、両群で達成LDL-C値に差がなく、イベントにも差がなかったという結果であった。これまでのTreat to Targetを検証した試験では、目標値を達成することができず不十分な結果であったが、本試験では十分なコレステロール低下がTreat to Target群で達成できていたことが本試験成功の背景として挙げられる。これは管理目標値を設定しているガイドラインを後押しする結果である。ただ、わが国で通常使用可能なStrongスタチンの高用量は本試験の半量であるため、Treat to Targetで調整するよりはハイリスクの患者では、まずわが国の通常の高用量のStrongスタチンで治療を開始し、管理目標値を達成できない場合に薬剤を追加するFire and Forgetの戦略を選択するほうが実臨床に即していると考えられる。

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妊娠中の抗うつ薬使用、リスクとベネフィットは?~メタ解析

 妊娠中の抗うつ薬使用は数十年にわたり増加傾向であり、安全性を評価するため、結果の統計学的検出力および精度を向上させるメタ解析が求められている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Caen NormandieのPierre Desaunay氏らは、妊娠中の抗うつ薬使用のベネフィットとリスクを評価するメタ解析のメタレビューを行った。その結果、妊娠中の抗うつ薬使用は、ガイドラインに従い第1選択である心理療法後の治療として検討すべきであることが示唆された。Paediatric Drugs誌オンライン版2023年2月28日号の報告。 2021年10月25日までに公表された文献を、PubMed、Web of ScienceデータベースよりPRISMAガイドラインに従い検索した。対象研究は、妊娠中の抗うつ薬使用と、妊婦、胎芽、胎児、新生児、発育中の子供などの健康アウトカムの関連を評価したメタ解析とした。研究の選択およびデータの抽出は、2人の独立した研究者により重複して実施した。研究の方法論的質の評価にはAMSTAR-2ツールを用いた。各メタ解析の重複部分は、修正された対象エリアを算出することにより評価した。4段階のエビデンスレベルを用いて、データの統合を行った。主な結果は以下のとおり。・51件のメタ解析をレビューに含め、1件を除くすべてのリスク評価を行った。・各リスクの有意な増加は以下のとおりであった。 ●主な先天性奇形(メタ解析8件:SSRI、パロキセチン、fluoxetine) ●先天性心疾患(11件:パロキセチン、fluoxetine、セルトラリン) ●早産(8件) ●新生児の適応症状(8件) ●新生児遷延性肺高血圧症(3件)・分娩後出血の有意なリスク増加および、死産、運動発達障害、知的障害の有意なリスク増加については高いバイアスリスクで、限られたエビデンスが認められた(各々1件のみ)。・自然流産、胎児週数や出生時低体重による児の小ささ、呼吸困難、痙攣、摂食障害のリスク増加および、早期抗うつ薬曝露による自閉症のその後のリスク増加に関して、矛盾した不確実なエビデンスが確認された。・妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症のリスク増加および、ADHDのその後のリスク増加に関するエビデンスはみられなかった。・重度または再発性のうつ病の予防について、1件の限られたエビデンスのみで、抗うつ薬使用のベネフィットが評価されていた。・新生児の症状(小~大)を除きエフェクトサイズは小さかった。・結果の方法論的な質は低く(AMSTAR-2スコア:54.8±12.9%[19~81%])、バイアスリスク(とくに適応バイアス)が高いメタ解析に基づいていた。・修正された対象エリアは3.27%であり、重複はわずかであった。・妊娠中の抗うつ薬治療は、第2選択として用いられるべきであることが示唆された(ガイドラインに従い心理療法後に検討)。・ガイドラインを順守し、パロキセチンやfluoxetineの使用をとどまらせることで、主要な先天性奇形リスクを防ぐことが可能である。・今後の研究では、不均一性やバイアス減少のため、母体の精神疾患と抗うつ薬の投与量を調整し、曝露のタイミングで分析を実行することが求められる。

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CTAで側副血行を確認の急性脳梗塞、6~24h後でも血管内治療は有効か/Lancet

 発症または最終健常確認から6~24時間(late window)の前方循環系主幹動脈閉塞による脳梗塞で、CT血管造影(CTA)により側副血行が確認された患者において、血管内治療は有効かつ安全であることが、オランダ・マーストリヒト大学医療センターのSusanne G. H. Olthuis氏らが実施した第III相試験「MR CLEAN-LATE試験」の結果、示された。前方循環系脳梗塞に対する血管内治療は、発症後6時間以内での有効性および安全性が確認されていた。著者は、「今回の結果は、主に側副血行路の有無に基づいてlate windowにおける血管内治療の対象患者を選択できることを支持するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年3月29日号掲載の報告。側副血行が確認された患者を対象に、90日後のmRSスコアを評価 MR CLEAN-LATE試験は、オランダの脳卒中治療センター18施設で実施された多施設共同無作為化非盲検評価者盲検試験で、年齢18歳以上、CTAで前方循環系の主幹動脈(頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈のM1部およびM2部)閉塞および側副血行が確認され、発症または最終健常確認から6~24時間、NIHSS神経機能欠損スコア2以上の患者を対象とした。なお、DAWN試験およびDEFUSE-3試験の選択基準と同様の臨床および画像プロファイルを有する患者は、オランダ国内のガイドラインに従って血管内治療を行い、MR CLEAN-LATE試験の登録からは除外した。 研究グループは、適格患者を最良の内科的治療に加えて血管内治療を行う群(血管内治療群)と行わない群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化はウェブベース行われ、ブロックサイズ範囲は8~20で、施設によって層別化された。 主要アウトカムは、無作為化90日後の修正Rankinスケール(mRS)スコア、安全性アウトカムは、無作為化90日後の全死因死亡と症候性頭蓋内出血とし、同意を延期または同意する前に死亡した患者を含む修正intention-to-treat集団を解析対象集団とした。解析は事前規定の交絡因子を調整して行われた。治療効果は多変量順序ロジスティック回帰分析で推定し、補正後共通オッズ比(acOR)と95%信頼区間(CI)により示した。90日後のmRSスコアは、血管内治療群で低下 2018年2月2日~2022年1月27日に535例が血管内治療群(268例)または対照群(267例)に無作為に割り付けられた。このうち、502例(94%)の患者が同意を延期または同意を得る前に死亡した(血管内治療群255例、対照群247例、女性261例[52%])。 90日後のmRSスコア中央値は血管内治療群3(四分位範囲:2~5)、対照群4(2~6)であり、血管内治療群が低かった。 多変量順序ロジスティック回帰分析の結果、血管内治療群でmRSのアウトカムが良好であることが認められた(acOR:1.67、95%CI:1.20~2.32)。全死因死亡は、両群で有意差はなかった(24%[62/255例]vs.30%[74/247例]、acOR:0.72、95%CI:0.44~1.18)。症候性頭蓋内出血は、血管内治療群のほうが対照群と比較して高頻度であった(7% vs.2%、4.59、1.49~14.10)。

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第39回 フードコートのアクリル板は必要か?

感染対策の引き算手洗いや「3密」回避などの政府の基本的対処方針に基づき、各業界は感染対策のガイドラインを作成していましたが、5月8日から「5類感染症」に移行することで、基本的対処方針とそれに基づくガイドラインは廃止される方針です。となると、引き算していく感染対策を検討することになります。東京都民1万人が回答したアンケート調査によると、「もうやめたほうがよい」と思う感染対策は、「学校におけるマスク着用」、「黙食」、「ハンドドライヤー使用禁止」、「窓口や飲食店でのアクリル板やビニールの仕切り設置」が上位にランクインしています(図)。画像を拡大する図. 東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料1)子供のワクチン接種率が低い学校では、有効とされる感染対策のマスクを一律に緩和することについてはさまざまな意見があります。個人的には、インフルエンザと同じように流行に応じて対応すればよいと思っています。フードコートのアクリル板アクリル板などのパーティションについては、結局ヒトの感染リスクを検討した明確なエビデンスがありません。物理的に飛沫を遮断する効果は当然あるので、アドバイザリーボードでも「今後も活用はあり得る」という玉虫色の結論となっています2)。私も子供連れでよくフードコートに行くのですが、現在もアクリル板の仕切りがあります。フードコートは、たとえ定期的に清掃をしているとしても、空いた席に次の人が座っていくシステムですから、前の使用者か次の使用者がきれいに清掃することが重要です。とはいえ、アクリル板まで拭きあげる人はほとんどおらず、飛び散ったうどんの汁や鉄板の油などでアクリル板が汚れていることのほうが多く、家族4人で座ったとき、汚いアクリル板で分断されている現状を非常に残念に思っています。フードコートは、よほどの混雑でなければ、相席ということは起こりません。なので、個人的には飲食店の形態に応じて引き算していけばよいのではと考えています。まれに起こる相席を想定してまで、アクリル板を設置するのはナンセンスだと思います。現時点で、政府は「事業者の判断に委ねる」という方針のようです。参考文献・参考サイト1)東京iCDCリスコミチームによる都民アンケート調査結果(2023年2月実施)、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料2)これからの身近な感染対策を考えるにあたって(第四報)~室内での感染対策におけるパーティションの効果と限界~、第119回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年3月23日)資料

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるetrasimodの有用性(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関して、基準薬である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に変化はないが、有害事象が危惧されているステロイドは総使用量と使用期間が可能な限り控えられるようになり、新たな生物学的製剤や低分子化合物の分子標的治療が主流になりつつある。抗TNF-α抗体薬、インターロイキン阻害薬、インテグリン阻害薬、ヤヌスキナーゼ阻害薬などの開発により難治性のUCが次第に少なくなってきているものの、いまだに十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される重症患者も少なくなく、新たな治療薬の追加が求められている。 今回、ozanimodに続く2番目の低分子スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であるetrasimodの活動性UCに対する有効性と安全性を示す研究結果が、2023年3月のLancet誌に掲載された。本試験の維持療法部分のデザインは、通常の導入試験において寛解できた症例を対象とするResponder re-randomisation designではなく、寛解導入試験開始時の割り付けのままで維持療法終了時まで一貫して評価するTreat through designを採用している点が特徴的であり、今後、論議される点と思われる。 本試験の主要評価項目である活動性UCの臨床的寛解導入率および寛解維持率がプラセボに比べて統計学的に有意に高いことが示されているが、実薬の寛解導入および維持率は25%ないしは33%程度であり、対象の70%くらいの症例にとっては著明な効果が得られたとはいえない結果である。すなわち、臨床現場において従来の治療に抵抗性の重症UC患者に対してetrasimodを使用しても、十分な寛解効果を得ることができない患者が多く存在することを意味している。次々と開発されている分子標的治療薬の臨床治験の結果は、ほぼ同様の寛解率が報告されており、有効性の高い新規薬剤のさらなる開発が希求されている。 一方、安全性に関して本薬剤は免疫能低下の有害事象が少なく、重篤な感染症のリスク上昇を伴う他の新規治療薬とは異なる利点を有している。さらに、UC患者に使用される薬剤は長期使用が必要であるため、今後、長期使用の有用性と安全性に関する成績が必須であり、そのためには日本でも全国的な患者データベースの構築が待たれる。 最後に、これだけ高価な分子標的治療薬が次々と出現するたびに、学会発の診療ガイドラインに新たな選択肢として追記されるが、プラセボ対照試験ではなく市販後の新規薬剤同士の試験により、実際の臨床現場で困っている患者個人個人にとって適切な生物学的製剤や低分子化合物の選択を可能とするエビデンスが必要と思われる。

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HFpEF診療はどうすれば…?(後編)【心不全診療Up to Date】第7回

第7回 HFpEF診療はどうすれば…?(後編)Key Points簡便なHFpEF診断スコアで、まずはHFpEFの可能性を評価しよう!HFpEF治療、今できることを整理整頓、明日から実践!HFpEF治療の未来は、明るい?はじめに近年、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)は病態生理の理解、診断アプローチ、効果的な新しい治療法の進歩があるにもかかわらず、日常診療においてまだ十分に認識されていない。そのような現状であることから、前回はまず最新の定義、病態生理についてレビューした。そして、今回は、その後編として、HFpEFの診断、そして治療に関して、最新情報を含めながら皆さまと共有したい。 HFpEFの診断スコアってご存じですか?呼吸苦や倦怠感などの心不全徴候を認め、EF≥50%でうっ血を示唆する客観的証拠を認めた場合、HFpEFと診断される1)。そのため、エコーでの拡張障害の評価はHFpEFを診断する上では必要がなく、またNa利尿ペプチド(NP)値が正常であっても、HFpEFを除外することはできないと前回説明した。では、具体的にどのようにして診断を進めていくとよいか、図1を基に考えていこう。(図1)HFpEFが疑われる患者を評価するためのアプローチ方法画像を拡大するまず、原因不明の労作時息切れを主訴に来院された患者に対して、病歴、身体所見、心エコー検査、臨床検査などからHFpEFである可能性を検討するわけであるが、その際に大変参考になるのが、診断のためのスコアリングシステムである。たとえば、米国で開発されたH2FPEFスコアでは、スコア5点以上であれば、HFpEFが強く疑われ(>80% probability)、1点以下であれば、ほぼ除外できる2)。ただし、NP値上昇や心不全徴候を認めるにも関わらず、H2FPEFスコアが低い場合は、アミロイドーシスやサルコイドーシスのような浸潤性心筋症など非典型的なHFpEFの原因疾患を疑う姿勢が重要である点も強調しておきたい(図2)。(図2)HFpEFを発症し得る治療可能な疾患画像を拡大するこれらのスコア算出の結果、HFpEFの可能性が中程度の患者に対しては、運動負荷検査が推奨される。運動負荷検査には、心エコー検査と右心カテーテル検査があるが、診断のゴールドスタンダードは、右心カテーテル検査による安静時および運動時の血行動態評価であり、安静時PAWP≥15mmHgもしくは労作時PAWP≥25mmHg(spine)、もしくは労作時PAWP/心拍出量slope>2mmHg/L/min(upright)を満たせば、HFpEFと診断できる3)。ただ、侵襲的な運動負荷検査は、どの施設でも気軽にできるものではなく、受動的下肢挙上や容量負荷といった代替的な検査法の有用性に関する報告もある4-6)。とくに心エコー検査にて下肢挙上後の左房リザーバーストレインの低下は、運動耐容能の低下とも関連していたという報告もあり、非侵襲的であることから一度は施行すべき検査手法と考えられる7)。なお、脈拍応答不全の診断については、Heart rate reserve([最大心拍数-安静時心拍数]/[220-年齢-安静時心拍数])を算出し、0.8未満(β遮断薬内服時は0.62未満)であれば、脈拍応答不全あり、と一般的に定義される8)。なお、私自身も現在、HFpEF早期診断のためのウェアラブルデバイス開発に取り組んでいるが、今後はより非侵襲的に診断できるようになることが切望される。そして、HFpEFであると診断した後、まず考えるべきことは『原因は何だろうか?』ということである。なぜなら、その鑑別疾患の中には治療法が存在するものもあるからである(図2)。アミロイドーシスを疑うような手根管症候群や脊柱管狭窄症を示唆する身体所見はないか、頚静脈もしっかり観察してKussmaul徴候はないか、心エコーにて中隔変動(septal bounce)や肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波はないか、スペックルトラッキングエコーによる左室長軸方向ストレイン(GLS, global longitudinal strain)のbullseye mapに特徴的なパターンがないか…など、ぜひご確認いただきたい9)。HFpEF治療の今、そして今後は?かかりつけ医の先生方にもご承知いただきたいHFpEF治療の流れを図でまとめたので、これを基にHFpEF治療の今を説明する(図3)。(図3)HFpEF治療 2023画像を拡大するHFpEFの診断が確定し、図2に記載してあるような疾患を除外した上で、まず考慮すべき処方は、SGLT2阻害薬である。なぜなら、EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験において、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンおよびダパグリフロジンが、EF>40%の心不全患者において、主要エンドポイントである心不全入院または心血管死が20%減少することが示されたからである(ただし、eGFR<20mL/min/1.73m2、1型糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシスの既往がある場合は避ける。そのほかSGLT2阻害薬使用時の注意事項は、「第3回 SGLT2阻害薬」を参照)10, 11)。そして、それと同時に身体所見、臨床検査、画像検査などマルチモダリティを活用して体液貯留の有無を評価し、体液貯留があれば、ループ利尿薬や利水剤(五苓散、牛車腎気丸、木防已湯など)を使用し12)、TOPCAT試験の結果から心不全入院抑制効果が期待され、薬価が安いMR拮抗薬の投与をできれば考慮いただきたい13)。とくにカリウム製剤が投与されている患者では、それをMR拮抗薬へ変更すべきであろう。そして、忘れてはならないのが、併存疾患に対するマネージメントである。高血圧があれば、130/80mmHg未満を達成するように降圧薬(ARB、ARNiなど)を投与し、鉄欠乏性貧血(transferrin saturation<20%など)があれば、骨格筋など末梢の機能障害へのメリットを期待して鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄[商品名:フェインジェクト])の静注投与を検討する。そのほか、肥満、心房細動、糖尿病、冠動脈疾患、慢性腎臓病、COPD、睡眠時無呼吸症候群などに対してもガイドライン推奨の治療をしっかり行うことが重要である。(表1)画像を拡大するそれでも心不全症状が残存し、EFが55~60%未満とやや低下しており、収縮期血圧が110~120mmHg以上ある患者に対しては、ARNiの追加投与を検討する(詳細は第4回 「ARNi」を参照)。なお、HFrEFにおいて必要不可欠なβ遮断薬については、虚血性心疾患や心房細動がなければ、HFpEFに対しては原則投与しないほうが良い。なぜなら、HFpEFでは運動時に脈拍を早くできない脈拍応答不全の合併が多く、投与されていたβ遮断薬を中止することで、peak VO2が短期で大幅に改善したという報告もあるからである14)。なお、脈拍応答不全に対して右房ペーシングにより運動時の心拍数を上げることで運動耐容能が改善するかを検証した試験の結果が最近公表されたが、結果はネガティブで、現時点では脈拍応答不全に対して、心拍数を落とす薬剤を中止する以外に明らかな治療法はなく、今後さらに議論されるべき課題である15)。これらの治療以外にも、mRNA医薬、炎症をターゲットとした薬剤、代謝調整薬(ATP産生調整など)といった、さまざまなHFpEF治療薬の開発が現在進められている16)。また、近年HFpEFは、肥満や座りがちな生活と密接に結びついた運動不耐性の原因としても着目されており、心不全患者教育、心臓リハビリテーションもエビデンスのあるきわめて重要な治療介入であることも忘れてはならない17, 18)。最近は大変ありがたいことに心不全手帳(第3版)が心不全学会サイトでも公開されており、ぜひ活用いただきたい(http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)。非薬物治療に関しても、今まで欧米を中心に多くの研究が実施されてきた。例えば、症候性心不全患者に対する肺動脈圧モニタリングデバイスガイド下の治療効果を検証したCHAMPION試験のサブ解析において、肺動脈モニタリングデバイス(商品名:CardioMEMS HF System)を使用することで、HFpEF患者において標準治療よりも心不全入院が50%減少し、心不全管理における有用性が報告されている(本邦では未承認)19)。また、HFpEF(EF≥40%)に対する心房シャントデバイス(商品名:Corvia)治療の効果を検証したREDUCE LAP-HF II試験の結果もすでに公表されている20)。心血管死、脳卒中、心不全イベント、QOLを含めた主要評価項目において、心房シャントデバイスの有効性を示すことができなかったが、本試験では全患者に対して運動負荷右心カテーテル検査を実施しており、ポストホック解析において、運動時肺血管抵抗(PVR, pulmonary vascular resistance)が上昇しなかった群(PVR≤1.74 Wood units)では臨床的便益が得られる可能性が見いだされ21)、この群にターゲットを絞ったレスポンダー試験が現在進行中である。また、血液分布異常を改善させるための右大内臓神経アブレーション(GSN ablation)の有効性を検証するREBALANCE-HF試験も現在進行中であるが、非盲検ロールイン段階における予備的解析では、運動時の左室充満圧とQOL改善効果が認められたことが報告されており22)、今後本解析(sham-controlled, blinded trial)の結果が期待される。そのほかにも多くのHFpEF患者を対象とした臨床試験、橋渡し研究が進行中であり(表2)、これらの結果も大変期待される。(表2)HFpEFについて進行中の臨床試験 画像を拡大する以上HFpEF治療についてまとめてきたが、現時点ではHFpEFの予後を改善する治療法はまだ確立しておらず、さらに一歩進んだ治療法の確立が喫緊の課題である。つまり、HFpEFのさらなる病態生理の解明、非侵襲的に診断するための技術開発、個別化治療に結びつくフェノタイピング戦略を活用した新たな次世代の革新的研究が必要であり、その実現に向けて、前回紹介した米国HeartShare研究など、現在世界各国の研究者が本気で取り組んでいるところである。ただ、それまでにわれわれにできることも、図3の通り、しっかりある。ぜひ、目の前の患者さんに今できることを実践していただき、またかかりつけ医の先生方からも循環器専門施設の先生方へフィードバックいただきながら、医療従事者皆が一眼となってより良いHFpEF治療をわが国でも更新し続けていければと強く思う。1)Borlaug BA, et al. Nat Rev Cardiol 2020;17:559-573.2)Reddy YNV, et al. Circulation. 2018;138:861-870.3)Eisman AS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004750.4)D'Alto M, et al. Chest. 2021;159:791-797.5)Obokata M, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2013;6:749-758.6)van de Bovenkamp AA, et al. Circ Heart Fail. 2022;15:e008935.7)Patel RB, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:245-257.8)Azarbal B, et al. J Am Coll Cardiol 2004;44:423-430.9)Marwick TH, et al. JAMA Cardiol. 2019;4:287-294.10)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.13)Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392.14)Palau P, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:2042-2056. 15)Reddy YNV, et al. JAMA;2023:329:801-809.16)Pugliese NR, et al. Cardiovasc Res. 2022;118:3536-3555.17)Kamiya K, et al. Circ Heart Fail. 2020;13:e006798.18)Bozkurt B, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;77:1454-1469.19)Adamson PB, et al. Circ Heart Fail. 2014;7:935-944.20)Shah SJ, et al. Lancet. 2022;399:1130-1140. 21)Borlaug BA, et al. Circulation. 2022;145:1592-1604.22)Fudim M, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:1410-1414.

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良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン 2023年版

BPPV診療に必携・必読・必修のガイドライン登場!2009年に日本めまい平衡医学会が発表した「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)」をベースに、現代的な手法に則って大幅にリニューアルした診療ガイドライン。CQは10のテーマに対して設定され、詳細なシステマティックレビューを通じたエビデンスに基づいた治療を推奨しています。また、頭位変換検査や頭位変換治療の実際などが、イラストを用いて詳説されています。BPPV診療の教科書として必携・必読・必修の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    ●良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン 2023年版定価2,860円(税込)判型B5判頁数88頁(図数:16枚)発行2023年3月編集日本めまい平衡医学会

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低炭水化物ダイエットはメタボになりやすい?

 炭水化物の摂取量について、推奨量を下回るとメタボリックシンドローム(MetS)の発症が低下するかどうか、現時点では関係性を示す一貫した証拠はない。今回、米国・オハイオ州立大学のDakota Dustin氏らが炭水化物の摂取量とMetSの有病率について研究した結果、炭水化物の推奨量を満たしている人よりも下回っている人のほうがMetSの発症率が高いことが明らかになった。Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics誌オンライン版2023年3月23日号掲載の報告。 本研究は、1999~2018年の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の回答者から、食物と栄養摂取量とMetSのマーカーに関するデータを取得。そのデータを炭水化物・総脂肪・脂肪酸(飽和脂肪酸[SFA]、一価不飽和脂肪酸[MUFA]、および多価不飽和脂肪酸[PUFA])の摂取量で層別化し、MetSとの関連性を評価した横断研究である。 食品および栄養素(サプリメントからの摂取含む)の通常の摂取量は、米国・国立がん研究所(NCI)での摂取方法から推定された。炭水化物からのエネルギーが45%未満を「炭水化物の摂取推奨量を下回る」、炭水化物からのエネルギーが45~65%を「炭水化物の摂取推奨量を満たす」と定義した。MetSの診断基準は米国の診療ガイドライン1)に基づき、参加者をMetSと判定するには、8.5時間以上断食した朝に次の状態(腹囲の拡大、TG値の上昇、HDL-C値の低下、血圧上昇、血漿グルコース濃度の上昇)のうち3つが該当した場合とした。解析には多変量ロジスティック回帰モデルを用い、食事パターンとMetSの関連性をオッズ比で評価した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には20歳以上の妊娠・授乳していない1万9,078例の回答者が含まれ、炭水化物摂取量が推奨量を下回った群と満たした群の平均年齢はそれぞれ48歳だった。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回ったのは女性が半数以上(53%)で、推奨量を満たしている人よりも、エネルギーの割合としてより多くのアルコールを摂取していた。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回った人は、推奨量を満たした人に比べてMetSの有病率が1.067倍高かった(95%信頼区間[CI]:1.063~1.071、p

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肥満や男性だけでない、いびきをかく人の1/4は睡眠時無呼吸症候群/レスメド

 睡眠中に大きないびきと共に呼吸が止まったり、弱くなったりするという症状を呈する睡眠時無呼吸症候群(SAS)。いびきをかく人の25%(男性:3人に1人、女性:5人に1人)は睡眠時無呼吸を発生していたという報告もあり1)、SASの80%は未診断ともいわれる2)。しかし、SASは糖尿病・心血管疾患の発症や循環器系の疾患による死亡のリスクを上昇させるため、治療が必要である。一般的な治療法としてはCPAP(持続陽圧呼吸)治療、マウスピース治療、手術、生活習慣の改善がある。 そこで、レスメドは2023年3月16日に「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」と題してメディアセミナーを実施した。前半で富田 康弘氏(虎の門病院 睡眠呼吸器科)が「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」をテーマに講演し、後半では、レスメドの久保 慶郎氏が同日上市したPAP(気道陽圧)装置「Air Sense 11」について紹介した。健康の3本柱としての睡眠 富田氏は、「健康のために気を付けていることとして、食事や運動を挙げる人はいるが、睡眠を挙げる人は非常に少ない」と述べる。実際に、国民生活時間調査2020では日本人の平日の睡眠時間は7時間12分であったことが報告されており、年々短くなっている3)。また、経済協力開発機構(OECD)が実施した平均睡眠時間の調査では、OECD加盟国の中で日本が最も睡眠時間が短いことが明らかになっている。なお、National Sleep Foundation(米国睡眠財団)は18~64歳までの成人であれば7~9時間、65歳以上であれば7~8時間の睡眠を推奨している4)。 そこで、富田氏は7時間以上の睡眠を確保するために、睡眠を中心として生活を組み立てていくことを提案した。「たとえば、朝7時に起きるのがちょうどいいという人は24時に就寝するということを決めて、それを基に生活を組み立ててほしい」という。朝型、夜型は生まれ持ったものであるため、それに合わせた形で睡眠時間を確保することが重要ということも強調した。SASは肥満の人や男性だけの病気ではない しっかり睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気があるという人もいる。そのような場合は、SASが隠れている可能性があるという。とくに「夜に大きないびきをかく」「日中に強い眠気がある」「ときどき呼吸が止まる」「起床時に頭痛やだるさがある」といった症状があったら要注意とのことである。 SASは上気道の閉塞によって生じるため、肥満が原因となる。しかし、日本人を含むアジア人は顎が小さいため、日本人は肥満がなくてもSASを発症することもあるという。SASの原因はさまざまであるが、SAS治療のゴールドスタンダードであるCPAP治療は上気道の閉塞を抑制することにより、原因によらず治療効果が期待できる。 NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)に基づくと、日本ではCPAP治療を受けている患者は60万人を超えるとされるが、未治療の患者は400万人以上いると推定されている。また、CPAP治療を受けている女性は9.1万人とされる5)。女性と男性のSASの有病率の比率は1:2~3といわれるため、女性では未診断・未治療の患者が多いと考えられる。これについて富田氏は「肥満の人や男性に多い病気であると捉えられているためではないか」と述べ、正しいメッセージを伝えていくことの重要性を強調した。CPAPは毎日4時間以上継続することが重要 SASは、糖尿病や循環器疾患のリスクとなる疾患である。「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」では、閉塞性睡眠時無呼吸患者の高血圧や心血管イベントの抑制にはCPAPを4時間以上使用する日を70%以上とすること、日中の眠気の抑制にはCPAPを毎日4時間以上使用することが推奨されている6)。 このアドヒアランス目標を達成し、治療を継続するために、富田氏は「患者が受け身ではなく積極的に治療に取り組むことが必要である」と言う。そのような背景から「近年のCPAP治療では、遠隔モニタリング機能やスマートフォンアプリなどが利用可能であるため、患者エンゲージメントの向上に活用してほしい」と述べた。アドヒアランス・エンゲージメントの向上を目指しAirSense 11を上市 続いて、レスメドの久保氏が2023年3月16日に上市したPAP装置AirSense 11について紹介した。従来のAirSense 10では、治療へのエンゲージメントを高めることが期待されるアプリmyAirが併用可能となっている。myAirでは、使用時間やマスクの密閉性など、使用状況が100点満点でスコアリングされ、スマートフォン上に表示される。また、患者の使用状況に応じたコーチング機能も提供されている。しかし、CPAP治療を開始した患者のなかには「導入で説明された内容を覚えられない」「適切にデバイスやマスクを使用できているか不安」などの悩みを抱える患者もいる。 そこで、今回上市されるAirSense 11では、myAirと併用することで治療の「見える化」をサポートするPersonal Therapy Assistant、患者の主観的情報を医療者へ「見える化」するCare Check-Inという2つの機能が追加された。Personal Therapy Assistantでは、マスク装着などの手順についての解説動画を視聴することができ、実際にマスクが正確に装着されているか評価することもできる。Care Check-Inは患者の主観的感覚をデータとして医療者へ提供する。「眠気を感じていますか?」「治療は上手くいっていると感じていますか?」「何か課題は感じていますか?」という質問を患者に提示し、その回答を医療者に共有することができる。 久保氏は「AirSense 11は、とくにCPAP治療を開始する初期の患者にスムーズでポジティブな経験をしてもらうことを支援するデバイスである。対面や遠隔など、患者と医療者のタッチポイントが変化していく環境において、AirSense 11を通じて患者のアドヒアランス向上やエンゲージメント向上のサポートをしていきたい」とまとめた。■参考文献1)Peppard PE, et al. Am J Epidemiol. 2013;177:1006-1014.2)Benjafield AV, et al. Lancet Respir Med. 2019;7:687-698.3)NHK放送文化研究所.国民生活時間調査20204)Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2015;1:233-243.5)厚生労働省. 第6回NDBオープンデータ6)睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編集. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂;2020.p.76.

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