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がんサバイバーの心不全発症、医療者の知識不足も原因か/日本腫瘍循環器学会

 9月30日(土)~10月1日(日)の2日間、神戸にて第6回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催される(大会長:平田 健一氏[神戸大学大学院医学研究科 内科学講座 循環器内科学分野])。それに先立ち、大会長による学会の見どころ紹介のほか、実際にがんサバイバーで心不全を発症した女性がつらい胸の内を語った。がん治療を始める前に、病歴にもっと目を向けてほしかった 今回のメディアセミナーに患者代表として参加した女性は、10代で悪性リンパ腫の治療のために抗がん剤を使用。それから十数年以上経過した後に健康診断で乳がんを指摘されて乳房温存手術を受けたが、その後にリンパ節転移を認めたため、抗がん剤(計8コース)を行うことになったという。しかし、あと2コースを残し重症心不全を発症した。幸いにも植込み型補助人工心臓(VAD)の臨床試験に参加し、現在に至る。 この女性は医療機関にかかる際には必ず病歴を申告していたそうだが、治療の際に医療者から“抗がん剤の種類によっては生涯使用できる薬剤量の上限があること”を知らされず、「後になって知った」と話した。今回、過去の治療量が反映されなかったことが原因で心不全を発症したそうだが「乳がん治療のための抗がん剤を始める際は、むくみや動悸については説明があったものの、抗がん剤が心臓に与える影響や病歴について何も触れられなかったことはとても残念だった。5コース目の際に看護師に頻脈を指摘されたがそれ以上のことはなかった。VADは命を救ってくれたが私の人生の救いにはまったくなっていない。日常生活では制約だらけでやりたいことは何もできない」と悔しさをにじませた。「生きるために選択した治療が生きる希望を失う状況を作り出してしまったことは悔しく、残念でならない」とする一方で、「医療者や医療が進歩することを期待している」と医療現場の発展を切に願った。 これに対し小室氏は、医療界における腫瘍循環器の認知度の低さ、がん治療医と循環器医の連携不足が根本原因とし「彼女の訴えは、治療歴の影響を鑑みて別の抗がん剤治療の選択はなかったのか、心保護薬投与の要否を検討したのかなど、われわれにさまざまな問題を提起してくださった。患者さんががん治療を完遂できるよう研究を進めていきたい」とコメントした。 前述の女性のような苦しみを抱える患者を産み出さないために、がん治療医にも循環器医にも治療歴の聴取もさることながら、心毒性に注意が必要な薬剤やその対処法を患者と共有しておくことも求められる。そのような情報のアップデートのためにも4年ぶりの現地開催となる本学術集会が診療科の垣根を越え、多くの医療者の意見交換の場となることを期待する。さまざまな学会と協働し、問題解決に立ち向かう 大会長の平田氏は「今年3月に発刊されたOnco-cardiologyガイドラインについて、今回のガイドラインセッションにて現状のエビデンスや今後の課題について各執筆者による解説が行われる。これに関し、2022年に発表されたESCのCardio-Oncology Guidelineの筆頭著者であるAlexander Lyon氏(英国・Royal Brompton Hospital)にもお越しいただき、循環器のさまざまなお話を伺う予定」と説明した。また、代表理事の小室 一成氏が本学会の注力している活動内容やその将来展望について代表理事講演で触れることについても説明した。 主な見どころは以下のとおり。<代表理事講演>10月1日(日)13:00~13:30「日本腫瘍循環器学会の課題と将来展望」座長:南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:小室 一成氏(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)<ガイドラインセッション>9月30日(土)14:00~15:30座長:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター)   南 博信氏(神戸大学内科学講座 腫瘍・血液内科学分野)演者:矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   山田 博胤氏(徳島大学 循環器内科)   郡司 匡弘氏(東京慈恵会医科大学 腫瘍血液内科)   澤木 正孝氏(愛知県がんセンター 乳腺科)   赤澤 宏氏(東京大学 循環器内科)   朝井 洋晶氏   (邑楽館林医療企業団 公立館林厚生病院 医療部 内科兼血液・腫瘍内科)   庄司 正昭氏   (国立がん研究センター中央病院 総合内科・がん救急科・循環器内科)15:40~17:10座長:泉 知里氏(国立循環器病研究センター)   佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院医学研究科 臨床薬理学)演者:窓岩 清治氏(東京都済生会中央病院 臨床検査科)   山内 寛彦氏(がん研有明病院 血液腫瘍科)   田村 祐大氏(国際医療福祉大学 循環器内科)   坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科 基礎系講座分子生理学分野)   下村 昭彦氏(国立国際医療研究センター 乳腺・腫瘍内科)<シンポジウム>9月30日(土)9:00~10:30「腫瘍と循環器疾患を繋ぐ鍵:clonal hematopoiesis」10月1日(日)9:00~10:30「がん患者に起こる心血管イベントの予防と早期発見-チーム医療の役割-」/日本がんサポーティブケア学会共同企画10:40~11:50「腫瘍循環器をメジャーにするために」/広報委員会企画13:40~15:10「免疫チェックポイント阻害薬関連有害事象として心筋炎の最新の理解と対応」15:20~16:50「小児・AYAがんサバイバーにおいてがん治療後出現する晩期心毒性への対応」/AYAがんの医療と支援のあり方研究会共同企画15:20~16:50「第4期がんプロにおける腫瘍循環器学教育」/学術委員会企画<Keynote Lecture>9月30日(土)11:20~12:10「Onco-cardiology and echocardiography (GLS)」Speaker:Eun Kyoung Kim氏(Samsung Medical Center)<ストロークオンコロジー特別企画シンポジウム>10月1日(日)10:50~11:50「がん合併脳卒中の治療をどうするか」 このほか、教育セッションでは双方が学び合い、コミュニケーションをとっていくために必要な知識として、「腫瘍循環器学の基本(1)~循環器専門医からがん専門医へ~」「腫瘍循環器学の基本(2)~がん専門医から循環器専門医へ~」「肺がん治療の現状」「放射線治療と心血管障害」などの講演が行われる。

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第176回 大阪府薬剤師会が狭間氏の薬局改革に賛同?その一部始終を公開

以前の本連載で触れた調剤業務の一部外部委託の実証事業に関して9月6日、大きく進展した。同日の定例会見で大阪府知事の吉村 洋文氏が、大阪府と大阪市、「薬局DX推進コンソーシアム」(代表:狭間 研至氏)と共同で国家戦略特区制度に基づく調剤業務の一部外部委託事業の提案を行ったと表明。同日、ほぼ同時並行で定例会見を行っていた大阪府薬剤師会もその場で同コンソーシアムにオブザーバーとして参加することを表明した。これで“役者”は揃ったことになる。改めて、今回の調剤業務の一部外部委託というものが何かについて解説しておきたい。まず、薬局では患者が処方箋を持参すると、それに基づき薬剤師による調剤、鑑査を経て、患者に服薬指導を行う。これが在宅業務になると、「患者宅への薬の配送」という業務も加わる。昨今では薬機法改正により、薬剤師は服薬後のフォローアップも義務化された。この辺りは近年、厚生労働省(以下、厚労省)が薬剤師業務に関して何かにつけて使う「モノからヒトへ」「対物業務から対人業務」へという流れを受けた政策である。もっともこれは言葉で言うのは簡単だが、現実はなかなか難儀だ。毎日、大量の処方箋を応需する保険薬局の現場では、どうしても処方薬の取り揃えなどモノに関わる必須の業務に忙殺される時間は多い。たとえば調剤室を完全機械化すれば、モノに関わる時間を減らすことができる。実際、そうした取り組みを行っている薬局は一部にはある。しかし、その投資金額は膨大になるため、中小薬局にとっては「絵に描いた餅」だ。そこで出てきた構想が調剤業務の一部外部業務委託である。要は処方箋を受け付ける薬局とその調剤業務を委託する薬局が別に存在し、薬は処方箋を受け付けた薬局経由か、調剤業務を委託された薬局経由で患者に届けられる仕組み。処方箋を受け付ける薬局では調剤業務の負荷が軽減されるため、その分だけ患者への服薬指導や多職種との連携などの対人業務に時間を割くことができるというスキームである。このように説明すると、「処方箋を持ってきた患者は薬もないまま窓口で服薬指導を受けるだけなのか?」「調剤業務を委託された先からの配送時間分だけ、患者が窓口で待たされるだけではないか?」との指摘もあるだろう。だが、そもそもこの構想は、主に昨今増加している薬剤師による在宅服薬指導を念頭に置いたものだ。この場合、前述のような指摘はほぼ問題なくなる。また、調剤報酬は処方箋を受け付けた薬局が受け取る形になり、調剤業務を委託される薬局は委託元からの業務委託料が収入となる。もちろんこのスキームは現行法ではNGである。当初この構想は、前述のコンソーシアム代表を務める狭間氏が経営するファルメディコの運営薬局内での分業のような形で、狭間氏が内閣府の国家戦略特区制度を利用した事業として提案された。ちなみに冒頭から「一部」とただし書きをつけているが、この提案では調剤業務のうち高齢者向けなどを中心に行われる複数の内服薬の一包化のみを対象としている。一包化は服用者側にとっては簡便な分だけ、薬局側がその作業に一定の時間を取られるからだ。特区への提案事業は、内閣府から所管省庁に検討要請が行われるが、これに対して厚労省は実施が同一の三次医療圏内であることに加え、委託先、委託元への監視指導が必要になることから特区措置の創設段階から事業参加薬局が所在する地方公共団体、つまり都道府県や市区町村の参加が前提と回答した。狭間氏自身は薬局・薬剤師業界では著名人だが、大阪府、兵庫県で複数の薬局を経営し、自身が代表取締役を務めるファルメディコは、はっきり言えば自治体からは無名に近い。そのファルメディコがこの条件をクリアするのは、当初はかなり困難と思われた。より端的に言えば、この特区事業に対して厚労省はゼロ回答、そうした意図があるかどうかは別にして「罷り成らぬ」と宣言したに等しい。本来ならばここで万事休すなのだが、狭間氏側は国内調剤チェーンのトップ3社など合計21社を正会員とした前述のコンソーシアムを形成。そこに大阪府、大阪市が乗っかる形で、瞬く間にこのハードルをクリアしてしまった。地方公共団体の参加という最も困難なハードルをクリアできたのは、たぶん大阪府、大阪市の「特殊事情」があったと思われる。それはこうした規制緩和的なものに最も頑強に抵抗するのは、多くの場合、政府与党の中核にいる自由民主党とその支持団体の関係者である。ところが大阪府、大阪市はご存じのように規制緩和を主要政策に掲げる政党である日本維新の会の牙城。大阪府政、大阪市政の与党が自民党ならば、おそらくこうした特区申請の要請があった場合には内々に大阪府薬剤師会に打診が行き、そこで「ノー」と言われれば終わりだ。あるいはこうした要請が行われた段階で、府庁、市役所の役人が忖度して事前にふるい落としてしまうことさえある。結局、大阪府、大阪市、コンソーシアムが組んでしまったことで、地元の大阪府薬剤師会(以下、府薬)は、事実上包囲網を敷かれた形となった。ちなみに府薬は、この提案が表面化してから、表向きに見える限りでは反対の急先鋒だった。しかし、当の狭間氏のほうは自身が率いる日本在宅薬学会の会見で「府薬の席は用意している」とラブコールを送り続けていた。そして結局、今回、府薬は参加することになったのだが、その会見での説明は何とも隔靴掻痒なものだった。6日、府薬の会館で行われた定例会見に赴いたが、私は定例会見での定例参加メンバーではないこともあり、府薬会長で元日本薬剤師会副会長だった乾 英夫氏自身が「なんか見かけない人いるね」と言いながら近づいてきて名刺交換することになり、挙句の果てに会見冒頭で並居る府薬役員や他社の記者の前で自己紹介をさせられる羽目になった。さてその会見、配布された資料には「保険調剤業務の一部外部委託について(国家戦略特区関係)」との記載があったが、会見では乾氏が「これは最後に私が説明します」と意味深な言い方をし、後回しにされた。会見開始から約40分、ついに乾氏がこの話題を切り出した。その内容は「(特区提案事業について)今でも非常に違和感がある」「解決し難い課題を改善するのが特区制度。調剤業務に大きな課題があるとの認識はない」「本当に患者さんにメリットになるかが一番疑問」と、従来の府薬あるいは日本薬剤師会のスタンスを並べ始めた。ところが、この後には「暫定版ガイドラインが公表され、今後は厚労省も実証事業を行う」「ただし、コンソーシアムが厚労省の実証事業よりも先行的に実施することになる」「特区事業は厚労省も管理すると思われ、患者さんの安全・安心を守る立場から関与したい」といきなり急旋回で“舵”を切った。まるで厳冬の札幌に向かっていた航空機が、いつの間にか赤道を超え、真夏の南半球の空港に着陸したかのような展開だ。府薬側の説明によると、コンソーシアムには安全性検討委員会、有効性検討委員会、経済性検討委員会の3委員会があるが、この各委員長と狭間氏との定期的なミーティングが開催されており、そこに出席してこの事業に関する意見を表明するという参加形態だ。簡単に言ってしまえば、オブザーバー参加ということだ。参加人数は最低1名だが、それ以上の場合もありうる。会長である乾氏自身の参加や正式会員参加の可能性は否定した。参加開始時期も現時点では未定という具合だ。しかしながら府薬としては調剤の一部外部業務委託に反対という姿勢は堅持するという何ともわかりにくいもの。会見に出席した役員からは、「コンソーシアムは賛同者の集まりで、中から聞こえるのは良いことが中心。批判的に検討できるか否かは中に入らないとわからない。まったく情報が入ってこない状況で見ていても、府薬としては『わからない』としかコメントできない」との説明もあった。今回の玉虫色の決定については、府薬理事会での承認も経ているが、その内部も割れていると伝わっている。実際、周辺取材をすると、断固反対という役員もいれば、この提案が表面化した直後からコンソーシアム関係者に内々の賛同を伝えた役員、外では反対と唱えながらコンソーシアム関係者には「実は賛成」と伝えた役員もいるなど、完全に同床異夢の状態である。乾氏自身は「反対だが、単に現状を確保したい『抵抗勢力』と捉えられるのも良くない」との認識を示すとともに、ほかの都道府県薬剤師会や府薬内から出てくるであろう「手のひら返し」批判については、「そこは丁寧に説明して理解していただくしかない」と語った。今回の展開は個人的にはある意味、日露戦争の終盤で日本の勝利を決定づけた日本海海戦で日本海軍が取った、敢えて敵の砲撃が近づく距離で方向転換して進路を塞いだ「敵前大回頭」も彷彿とさせる。もっとも、今回の件に関して、府薬とコンソーシアム側がこれを契機にドンパチを繰り広げる可能性はほぼないだろう。とはいえ、今回の府薬の舵取りが吉と出るか凶と出るかはまだわからない。願わくは互いにうまく伴走してほしいと個人的には思っている。

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熱傷の処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第12回

第12回 熱傷の処置《解説》今回は、熱傷の処置について解説します。熱傷の病態は、熱による皮膚の損傷とそれに続いて生じる炎症反応です。広範囲であれば全身性の炎症反応による多臓器障害を引き起こします。外来で処置できるものか、形成外科や皮膚科への紹介が必要なものか、さらに入院が必要なものか判断するのが重要です。ここでは主に外来で診ることができる範囲の熱傷について紹介します。熱傷深度と熱傷面積について判断できるようになりましょう!<熱傷の深度について>熱傷の深度の見極めにはUSA分類を用いるのが一般的です(図1)。深度によって局所の治療方法が変わります。主に症状や肉眼所見で推定しますが、精度の高い検査としてレーザードプラ血流計測法やビデオマイクロスコープが用いられたり、補助的な診断法として針刺法や抜毛法が用いられたりすることがあります。一般外来で診ることができるのは浅逹性II度熱傷までと考え、それ以上の深度の熱傷は形成外科や皮膚科へ紹介しましょう。図1画像を拡大するI度熱傷(EB)組織障害が表皮に留まり真皮に及ばないもの。局所の発赤、熱感、疼痛が主症状。→治療はステロイド軟膏(ワセリンのみ、創傷被覆材)による2~3日の経過で改善する。II度熱傷:真皮まで及ぶものを2つに分類浅逹性(SDB)-組織損傷が真皮の浅層に留まるもの。水疱形成がみられる。真皮深層の血流が保たれており、水疱基底部の真皮色調がピンク色や赤色を呈する(水疱は無理に破かないで!)。-真皮内の知覚神経受容体が刺激されるため極めて疼痛が強い。-毛根、汗腺、脂腺などの皮膚付属器が多数温存される。→治療は保存的治療(軟膏治療、創傷被覆材)で2週間以内にほとんど瘢痕を残さず上皮化する。深達性(DDB)-組織損傷が真皮の深層に至るもの。真皮の血行が障害されるため、水疱基底部は白色を呈する。-知覚神経受容体も損傷されるため、知覚は減退し疼痛も少ない。-皮膚付属器は温存されないことが多い。→上皮化までに3週間以上かかる。治療後に肥厚性瘢痕を形成する。→生命予後に影響を与える広範囲熱傷や機能障害が懸念される手や顔には手術を選択する。III度熱傷(DB)熱による損傷が皮膚全層に及ぶ。創面皮膚は乾燥、灰白色〜黄褐色を呈する。知覚は消失する。→上皮化は生じないため、極小範囲以外では壊死組織の切除と植皮(手術療法)が必要となる。<熱傷面積(%TBSA;%total body surface area)について>手掌法、9の法則(小児は5の法則)、Lund and Browderの法則があります(図2、3)。外来で簡易的にできるのは手掌法と9の法則(5の法則)でしょう。図2画像を拡大する図3画像を拡大する15%を超える場合の受け入れは皮膚科や形成外科など、熱傷の全身管理が可能な施設に依頼します。と言っても15%は外来で診ることができるギリギリの範囲です。実際は数%でも十分広範囲なので、近くに形成外科や皮膚科がある場合は早めに相談しましょう!熱傷深度、熱傷面積は受傷時の診断は経過によって変化していくことが多いため、毎回再度診断します。感染兆候、深度や面積の進行がある場合は、外科的なデブリードマンが必要になることもあるため、形成外科や皮膚科に紹介しましょう。<重症度について(予後指数)>どの施設で加療を行うかの基準としてBIやArtsの重症度判定があります。搬送医療機関の選定や治療方法の選択に必要です。BI:III度熱傷の体表に占める割合とII度熱傷の体表に占める割合を1/2にした数値との和で、目安として体表の15%以上がII度以上の熱傷を被ったら補液を伴う入院管理が必要。Artsの重症度判定:重症熱傷(熱傷センターなど熱傷専門施設のある総合病院に入院)-30%以上のII度熱傷-10%以上もしくは顔面、手足などの特殊部位のIII度熱傷-気道熱傷、広範囲軟部損傷、骨折などの合併症を伴う電撃傷中等度熱傷(形成外科のある一般総合病院に入院)-15~30%のII度熱傷-10%以下のIII度熱傷(顔、手足を除く)軽症熱傷(形成外科を有する外来治療施設を受診)-15%以下のII度熱傷-2%以下のIII度熱傷そのほか、皮膚科や形成外科に紹介すべき熱傷気道熱傷がある場合:気管内挿管と呼吸管理が必要なため、場合によっては救急や耳鼻科、皮膚科、形成外科のある総合病院へ紹介。体幹四肢の減張切開が必要:形成外科など専門医へ紹介。深度や面積を評価しデブリードマンが必要または感染の疑いがある:形成外科、皮膚科へ紹介。参考1)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.2)医療情報科学研究所編. 病気が見えるvol.14皮膚科第1版. メディックメディア;2020.3)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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医師の役割が重要な高齢者の肺炎予防、ワクチンとマスクの徹底を/MSD

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数の増加や、インフルエンザの流行の継続が報告されているが、高齢者にとっては肺炎球菌による肺炎の予防も重要となる。そこで、これら3つの予防に関する啓発を目的として、MSDは2023年8月28日にメディアセミナーを実施した。国立病院機構東京病院 感染症科部長の永井 英明氏が「人生100年時代、いま改めて65歳以上が注意しておきたい肺炎対策-Life course immunizationの中での高齢者ワクチン戦略-」をテーマとして、高齢者の肺炎の特徴や原因、予防方法などについて解説した。肺炎は高齢者の大敵、肺炎による死亡の大半は高齢者 肺炎は日本人の死因の第5位を占める疾患である1)。65歳を超えると肺炎による死亡率は大きく増加し、肺炎による死亡者の97.9%は65歳以上と報告されている2)。そのため、肺炎は高齢者の大敵であり、とくに「慢性心疾患」「慢性呼吸器疾患」「腎不全」「肝機能障害」「糖尿病」を有する患者は肺炎などの感染症にかかりやすく、症状も重くなる傾向があると永井氏は指摘した。また、「高齢者の肺炎は気付きにくいという問題も存在する」と言う。肺炎の一般的な症状は発熱、咳、痰であるが、高齢者では「微熱程度で、熱があることに気付かない」「咳や痰などの呼吸器症状が乏しい」「元気がない、食欲がないという症状のみ」といった場合があるとし、「高齢者の健康状態については注意深く観察してほしい」と述べた。とくに肺炎球菌に注意が必要 肺炎の病原菌として最も多いものは肺炎球菌である3)。肺炎球菌の感染経路は飛沫感染とされる。主に小児や高齢者において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こすことがあり、これが問題となる。IPDの予後は悪く、成人の22.1%が死亡し、8.7%に後遺症が残ったことが報告されている4)。 インフルエンザウイルス感染症も2次性細菌性肺炎を引き起こすため、注意が必要である5)。季節性インフルエンザ流行時に肺炎で入院した患者の原因菌として肺炎球菌が最も多いことが報告されている6)。肺炎予防の3本柱 肺炎を予防するために重要なこととして、永井氏は以下の3つを挙げた。(1)細菌やウイルスが体に入り込まないようにする当然ではあるが、マスク、手洗い、うがいが重要であり、とくにマスクが重要であると永井氏は強調する。「呼吸器感染症を抑制するためには、マスクが最も重要である。国立病院機構東京病院では『不織布マスクを着用して院内へ入ってください(布マスクやウレタンマスクは不可)』というメッセージのポスターを掲示している」と述べた。また、口腔ケアも大切であると指摘した。高齢者では誤嚥が問題となるが、「咳反射や嚥下反射が落ちることで不顕性誤嚥が生じ得るため、歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが重要である」と話した。(2)体の抵抗力を強める重要なものとして「規則正しい生活」「禁煙」「持病の治療」を挙げた。(3)予防接種を受ける肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチン、新型コロナワクチンなどのワクチン接種が肺炎予防のベースにあると強調した。医師の役割が大きいワクチン接種 永井氏は、高齢者に推奨されるワクチンとして肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン、新型コロナワクチンの4つを挙げた。「これらの4つの感染症は疾病負荷が大きく、社会に与えるインパクトが大きいため、高齢者に対して積極的にワクチン接種を行うことで、医療機関の負担の軽減や医療費削減につながると考えている」と述べる。しかし、健康に自信のある高齢者はワクチンを打ち控えているという現状があることを指摘した。そこで、医師の役割が重要となる。本邦の家庭医クリニックに通院中の65歳以上の患者を対象として、23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の接種につながる因子を検討した研究では、PPSV23を知っていること(オッズ比[OR]:8.52、p=0.003)、PPSV23の有効性を認識していること(OR:4.10、p=0.023)、医師の推奨(OR:8.50、p<0.001)が接種につながることが報告されている7)。 また、COVID-19の流行後、永井氏は「コロナワクチンのほかに打つべきワクチンがありますか?」と患者から聞かれることがあったと言う。そこで、COVID-19の流行によって、ワクチン忌避が減ったのではないかと考え、ワクチン接種に対する意識の変化を調査した。COVID-19流行前に肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチンを打ったことがない人に、それぞれのワクチン接種の意向を調査した。その結果、新型コロナワクチン0~2回接種の人と比べて、3~4回接種した人はいずれのワクチンについても、接種を前向きに検討している割合が高かった(肺炎球菌ワクチン:27.3% vs.54.5%、p=0.009、インフルエンザワクチン:15.8% vs.62.0%、p<0.001、帯状疱疹ワクチン:18.8% vs.41.1%、p=0.001)。この結果から、「コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えたと考えている」と述べた。 ワクチン接種について、永井氏は「肺炎球菌ワクチンは定期接種となったが、接種率が低く、接種率の向上が求められる。ワクチン接種の推進には、医療従事者の勧めが大きな力となる。コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えた」とまとめた。■参考文献1)厚生労働省. 令和4年人口動態調査2)厚生労働省. 令和3年人口動態調査 死因(死因簡単分類)別にみた性・年齢(5歳階級)別死亡率(人口10万対)3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編集. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会;2017.p.10.4)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析 その診断・治療に関する研究」(2023年8月31日アクセス)5)Brundage JF. Lancet Infect Dis. 2006;6:303-312.6)石田 直. 化学療法の領域. 2004;20:129-135.7)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172.

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薬物+EC-ICバイパス術、ICA・MCA閉塞患者の脳卒中を抑制するか/JAMA

 内頸動脈(ICA)または中大脳動脈(MCA)にアテローム性動脈硬化症による閉塞を有し、患部に血行動態不全を認める症候性の患者においては、薬物療法(内科的治療)に頭蓋外-頭蓋内(EC-IC)バイパス術を併用しても、内科的治療単独と比較して脳卒中または死亡の発生を抑制しないことが、中国・National Center for Neurological DisordersのYan Ma氏らが実施した「CMOSS試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。中国の13施設で行われた無作為化試験 CMOSS試験は、中国の13施設が参加した非盲検(アウトカム評価者盲検)無作為化試験であり、2013年6月~2018年3月に患者を登録した(中国国家衛生健康委員会の助成を受けた)。 対象は、年齢18~65歳、CT灌流画像上の血行動態不全に起因する一過性脳虚血発作または後遺障害のない虚血性脳卒中を認め、デジタルサブトラクション血管造影検査で片側性のICAまたはMCAの閉塞がみられ、修正Rankin尺度(mRS)スコアが0~2点の患者であった。 被験者を、EC-ICバイパス術+内科的治療を行う群(手術群)、または内科的治療のみを行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。内科的治療は、ガイドラインに基づき、抗血小板療法と脳卒中のリスク因子を管理するための薬物療法(必要に応じて高LDLコレステロールや高血圧の治療薬を使用)が行われ、禁煙(カウンセリング、経口禁煙補助薬)および減量(行動変容、薬物療法)が推奨された。 主要アウトカムは、無作為化から30日以内の脳卒中または死亡と、31日~2年までの同側の虚血性脳卒中の複合であった。9項目の副次アウトカムにも有意差なし 324例(年齢中央値52.7歳、男性79.3%)を登録し、手術群に161例、内科的治療群に163例を割り付けた。309例(95.4%)が試験を完遂した。 主要複合アウトカムは、手術群8.6%(13/151例)、内科的治療群12.3%(19/155例)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(発生率の群間差:-3.6%[95%信頼区間[CI]:-10.1~2.9]、ハザード比[HR]:0.71[95%CI:0.33~1.54]、p=0.39)。 30日以内の脳卒中または死亡は、手術群6.2%(10/161例)、内科的治療群1.8%(3/163例)で、31日~2年までの同側の虚血性脳卒中は、それぞれ2.0%(3/151例)、10.3%(16/155例)で発生した。 事前に規定された9項目の副次アウトカムはいずれも有意差を示さなかった。たとえば、2年以内のあらゆる脳卒中または死亡は、手術群9.9%(15/152例)、内科的治療群15.3%(24/157例)で発生し(発生率の群間差:-5.4%[95%CI:-12.5~1.7]、HR:0.69[95%CI:0.34~1.39]、p=0.30)、2年以内の致死的脳卒中は、それぞれ2.0%(3/150例)、0%(0/153例)で発生した(発生率の群間差:1.9%、95%CI:-0.2~4.0、p=0.08)。 著者は、「今後の試験でバイパス術を検討する際は、より大きなサンプルサイズ、バイパス術が最も有効な患者を同定するためのより精緻な患者選択基準の確立、バイパス術の至適なタイミングの解明、より長期の追跡期間が必要となるだろう」としている。

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スタチン開始後の効果、高齢者では大きい!?

 高齢になってからスタチンの使用を開始した患者では、若いときにスタチンの使用を開始した患者と比べて、同薬により得られるLDLコレステロール(LDL-C)の低減効果が大きい可能性のあることが、約8万3,000人のデンマーク人患者のデータ解析から明らかになった。デンマーク国立血清研究所のMarie Lund氏らによる研究で、詳細は、「Annals of Internal Medicine」に8月1日掲載された。Lund氏は、「スタチンによる治療が必要な高齢患者は、同薬による副作用のリスクを最小限に抑えるために、低強度のスタチンから開始すると良いのではないか」との見解を示している。 スタチンは安全な薬と考えられているが、一部の人に筋肉痛や血糖値の上昇などの問題を引き起こすことがある。副作用が生じる可能性は通常、スタチンの強度が高まるほど上昇し、また、高齢者では若い人よりも副作用が起きやすい。そのため、高齢患者にとっては、低強度のスタチンで治療を開始することが「好ましい選択肢」になり得るとLund氏は言う。ただし、その際には、高齢者の健康状態や、その後の心筋梗塞や脳卒中のリスク低減の必要性といった問題を考慮する必要があることも付け加えている。 スタチンは世界的に最も広く使用されている薬剤の一つだ。同薬の使用が広がった背景には、同薬が「悪玉コレステロール」とも呼ばれるLDL-C値を低下させ、心筋梗塞や脳卒中の予防に役立つことが複数の臨床試験で示されていることがある。しかし、一般的に、臨床試験の対象者に70歳以上の患者はほとんど含まれていないため、高齢者に対するスタチン使用の指針につながるエビデンスは少ない。 米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルス、心血管疾患予防センターのHoward Weintraub氏によると、現行の治療ガイドラインにおいては、脳卒中や心筋梗塞の既往がある高齢者ではLDL-C値を大幅に低下させることが推奨されている。一方、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に関しては異なった推奨が示されており、スタチンの使用に関する意思決定は全般的により個別化されたものとなっている。これは、年齢だけでスタチンの開始用量を決めるべきではないことを意味している。 今回の研究はデンマークの国民登録データを用いたもので、2008~2018年にシンバスタチン(米国での商品名ゾコール、日本での商品名リポバス)、またはアトルバスタチン(商品名リピトール)が新たに処方された8万2,958人のデンマーク人患者を対象に解析が行われた。 その結果、75歳以上の患者(1万388人)では、50歳未満の患者と比べて低~中強度のスタチンの使用を開始した後のLDL-C値の低下度が大きいことが示された。例えば、LDL-C値の平均低下率は、シンバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で39.0%、50歳未満で33.8%、アトルバスタチン20mgの使用を開始した人では、75歳以上で44.2%、50歳未満で40.2%だった。 また、年齢やスタチンの用量などを考慮して解析したところ、50歳で低~中強度のスタチンの使用を開始した患者と比べて、75歳で開始した患者ではLDL-C値の低下度が2.62%ポイント大きかった。一方、高強度のスタチン(アトルバスタチン40mgまたは80mg)の使用を開始した人では、その差はより小さかった(アトルバスタチン40mgで1.36%ポイント、80mgで−0.58%ポイント)。 Weintraub氏は今回の研究について、高齢患者の方が若い患者よりもスタチンの使用開始後の効果が大きい可能性があることを示した点で「有益な情報」だと話す。ただし、高齢患者とより若い患者との間に認められた効果の平均差は小さいものであったと付け加えている。また、「スタチンによって高齢患者の心筋梗塞や脳卒中、死亡のリスクはどの程度低下するのか」という、より大きな疑問については答えが示されていないことも指摘。「この研究結果を受けて現行の治療法が変わるとは思えない」と話している。 Lund氏も今回の研究では、「心血管疾患のリスク低減効果について直接的な評価は行われていない」と述べている。また、スタチンの使用を開始して間もない患者のみを対象とした研究であるため、得られた結果が長年スタチンを使用している高齢患者には当てはまらないことも強調している。

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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新型コロナウイルスに伴う肺炎で入院した患者を対象に、標準治療に免疫調整薬を併用した効果(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2020年10月から2021年12月までに新型コロナウイルス肺炎で入院した患者に対して、標準治療に加えて、アバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加した治療群とプラセボ群を比較した試験であり、和文要約は「コロナ肺炎からの回復、アバタセプトやインフリキシマブ追加で短縮せず/JAMA」にまとめられている。 本研究は、マスタープロトコルを使用したランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験で、プライマリーエンドポイント(1次アウトカム)は新型コロナウイルス肺炎からの28日目までの回復期間(8段階の順序尺度を使用して評価)と設定されたが、標準治療にアバタセプト、cenicriviroc、あるいはインフリキシマブを追加してもプラセボ群に比較して短縮しなかった。しかし、本研究結果のうち、アバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイント(2次アウトカム)である28日死亡率および14日後の臨床状態は、統計的な有意差こそ認められなかったものの、プラセボに対しては良好な結果だった。 今回の試験結果は、1次アウトカムに対する効果を示せなかったが、2次アウトカムは良好そうに見える結果でもあり、単純にNegative studyと片付けてしまわずに、今回のような結果になった理由を考える必要はあるだろう。本論文のEDITORIAL(Kalil AC, et al. JAMA. 2023;330:321-322.)でも、この1次アウトカムと2次アウトカムのねじれに対する解釈を提案している。 さて、本研究結果ではアバタセプトとインフリキシマブのセカンダリーエンドポイントは良好に見えたと記載はしたものの、この結果のみでは実臨床で新型コロナウイルスに伴う肺炎患者に対する臨床プラクティスを変更するほどの影響はないと考える。 では、今後どのような研究結果が判明すれば臨床プラクティスを変更しうるかを考えてみる。まずアウトカムは、今回のセカンダリーアウトカムである28日死亡率の低下や14日後の臨床状態の改善を設定することがよいだろう。そして、本研究で有意差を示すことができなかった理由は、検出力が不足していた可能性が考えられる。本研究結果を参考に28日死亡率の低下、14日後の臨床状態の改善で有意差を示すことができる参加者人数を再計算して、臨床試験を実施し、アウトカムの改善を再現することができれば、臨床のプラクティスとして検討してもよさそうである。 ただし、2023年8月の本原稿執筆時点としては、わざわざそのような臨床試験を行うメリットは乏しいと考える。 理由を説明するうえで、新型コロナウイルス肺炎に対する免疫抑制薬・免疫調整薬の役割について振り返ってみようと思う。重症COVID-19患者では、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応が宿主免疫反応により発現するが、コルチコステロイドの抗炎症作用薬が有効であることがRECOVERY試験(RECOVERY Collaborative Group. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で示された。本邦でも中等症II以上の患者で、宿主免疫反応に対して、抗ウイルス薬のレムデシビルと共にデキサメタゾンやバリシチニブ(Kalil AC, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807., Wolfe CR, et al. Lancet Respir Med. 2022;10:888-899.)が用いられている。その後、ステロイド薬とトシリズマブの併用により全死亡率が低下する可能性も示唆され(RECOVERY Collaborative Group. Lancet. 2021;397:1637-1645., WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group. JAMA. 2021;326:499-518.)、本邦の「COVID-19に対する薬物治療の考え方」や、米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の「COVID-19治療ガイドライン」でもデキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブは治療薬の候補に記載されている。 中等症II以上の新型コロナウイルス肺炎に対する治療薬としては、上記のようにエビデンスのある薬剤がすでにあり、これらの薬剤の効果を上回ることが期待される薬剤でなければ、わざわざ費用をかけて臨床試験を行うメリットは乏しいだろう。 また、新型コロナウイルスの変異株の特徴とワクチン・抗ウイルス薬の効果についても考えてみる。 宿主免疫反応による肺炎による死亡者の増加は、主にデルタ株流行下以前で問題となることが多かった。現在の本邦における新型コロナウイルスの亜系統検出割合はEG.5.1を含めたXBB系統が上昇傾向であり、免疫回避の高いオミクロン株が主流である(国立感染症研究所感染症疫学センター. 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握. 2023年第31週[2023年7月31日~2023年8月6日])。オミクロン株流行下でも、まれにデルタ株流行下のようなCOVID-19肺炎患者を診療する機会はあるが、頻度は低く、本研究の対象となったようなCOVID-19に対する宿主免疫反応が原因で中等症Ⅱ~重症となるような患者層は、適切なワクチン接種や抗ウイルス薬の投与が行われるならば、今後も臨床現場で診療する機会は以前よりは少なくなると考える。 以上より、本研究は、臨床診療を担当する立場からは本邦の新型コロナウイルス感染症治療に与える影響は乏しい試験と考えるが、臨床研究を担当する立場としては、パンデミック状況下で複数の治療候補薬がある際に、適切かつ効果的なランダム化プロセスとバイアスを最小限にする工夫をした試験であり、今後の臨床研究でも参考にすることができる研究デザインと考える。

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便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症

本邦初の慢性下痢症のガイドライン日本消化管学会編集による『便通異常症診療ガイドライン2023』の「慢性下痢症」編。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて解説。冒頭には診断・治療のためのフローチャートを掲載し、下痢症の定義・分類・診断基準から疫学、病態生理、診断検査、内科的治療について、最新知見を盛り込み、日常診療に必携の1冊となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症定価3,080円(税込)判型B5判頁数80頁発行2023年7月編集日本消化管学会電子版でご購入の場合はこちら

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旬をグルメしながらCVIT誌のインパクトファクター獲得を祝福する【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第63回

論文にも「旬」がある!?野菜や魚介類などの食材には「旬」が存在します。特定の食材がほかの時季と比べて収穫量が多く、新鮮でおいしく食べることができる時季のことです。各時季、各地域での旬の食材に精通することが、グルメの第一歩です。では、旬の期間はどの程度かご存じでしょうか。旬という言葉の本来の意味は10日間です。1ヵ月を3分し、それぞれの10日間を上旬、中旬、下旬というのは馴染みがあると思います。旬は思ったよりも短いのです。旬が存在するのは食材だけではありません。論文にも旬が存在します。論文の旬を強く意識するのがインパクトファクター(Impact Factor:IF)について考えるときです。IFは、第42回「インパクトファクターのインパクトを考える」でも紹介したとおり、学術誌の影響度を評価する指標です。IFの算出法を復習しましょう。ある学術誌Aは、2022年の掲載論文の総数が140件、2023年が160件であったとします。2年間で計300件です。この300件から、2024年の1年間に計600回引用されたとします。ジャーナルAの2024年のIFは、600÷300=2.0となります。つまり被引用論文数が分子に、掲載論文数が分母になります。IFの高いジャーナルは被引用論文数が多い、すなわち引用に値する質の高い論文が掲載されていることを意味します。CVIT誌が悲願のインパクトファクター獲得日本心血管インターベンション治療学会は、心血管疾患患者に対する有効かつ安全なカテーテル治療の開発と発展、臨床研究の推進などを目的とする学会です。私も学会役員として発展を願っております。本学会が刊行している英文の学術誌が「Cardiovascular Intervention and Therapeutics誌」(以下:CVIT誌)です。このように学会が発行する学会誌をofficial journalといいます。CVIT誌は、和文の学術誌として創刊時からVol.24まで発行され、2010年1月に上梓されたVol.25から英文誌になりました。英文誌の編集長は、初代が住吉 徹哉先生、次いで伊苅 裕二先生、現在は3代目の小林 欣夫先生です。学術誌の価値を意義付ける大きなステップとしてIF獲得があります。CVIT誌は、長年にわたり価値ある論文を発信してきましたが、IFを持っていなかったのです。IF獲得は学会員すべての悲願でした。ここで不思議に感じる人もいることでしょう。前述の計算式に従えば、すべての学術誌は、新規刊行から3年を経れば、各々のIF値を算出することは可能だからです。しかし、これは正式なIFではないのです。実は世界的に通用し評価の対象となるIFは、正しくはジャーナル・インパクトファクター(Journal Impact Factor:JIF)を指しているのです。JIFは、Clarivate社という企業が作成するWeb of Science Core Collectionのデータを土台としてIF値が算出され、同社がJIFとして認定したもののみが正式にIFを持つ雑誌として公表することができます。2023年6月に吉報が届きました。CVIT誌にJIF 3.2が認められたのです。CVIT誌の歴代の編集長と編集委員に敬意を表します。何よりも質の高い論文を投稿してくださった皆の努力の結集によって成し遂げたことです。心より祝福いたします。Congratulations!日本発ジャーナルの価値を高める方法は?まだここで満足して立ち止まってはいけません。JIFをさらに上げてCVIT誌の価値を高め、世界と戦う素地を作っていくべきです。具体的には何をすれば良いのか。それは、皆さんが執筆する論文にCVIT誌に掲載された論文を引用することです。論文の投稿先はCVIT誌である必要はありません。2023年8月に投稿すれば、順調にいったとしても、論文が実際に掲載されるのは2024年になる可能性が高いです。その論文に引用された文献がCVIT誌のJIFの向上に貢献するのは、CVIT誌に2022~23年に掲載された論文を引用した場合のみです。ここで最初に紹介した「旬」というキーワードが効いてくるのです。IFの観点からは、論文の旬は2年間しかないのです。とにかく、最新の論文を引用することが重要です。最近、どの学術誌でもガイドラインの改訂やコンセンサスドキュメントが増えています。これは最新の論文として引用してもらい、IFの向上を狙う意味もあるのです。もちろん、引用したくなるような質の高い論文をより多く掲載することが王道です。CVIT誌と同時に、日本不整脈心電学会の発行する「Journal of Arrhythmia誌」もJIFを認められました。おめでとうございます。このほか日本に編集本拠地があるJIFを持つ循環器領域ジャーナルとして「Circulation Journal 誌」「Journal of Cardiology誌」「Heart and Vessels誌」そして「International Heart Journal誌」などがあります。掲載論文に、同誌の過去号の論文を引用することを、自己引用(self-citation)といいます。自己引用はJIFの向上につながるとはいえ、ジャーナルの国際認知度向上にはあまり効果を発揮しません。同誌での引用ではなく他誌からの引用のほうが高評価だからです。過度の自己引用は、JIFの取り消しにもつながりかねません。ジャーナルの価値を高めるには、JIFを持つほかのジャーナルに論文が引用されることが大切です。日本人が運営している学術誌に複数の英文誌があることが、アジアの中でも日本の大きな強みです。日本人は日本人の論文をあまり引用しないと言われます。制度を十分に理解したうえで、日本人が相互の論文を積極的に引用し合うことによって、お互いのジャーナルの価値を高めていくことが可能となります。ひいては日本の研究活動の学術的意義の向上に結び付くことを期待します。

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看護師による簡易型睡眠制限療法が、不眠症に有効/Lancet

 プライマリケアでの不眠症の治療において、看護師による簡易型の睡眠制限療法は、これを行わない場合と比較して、不眠症状を軽減し、費用対効果が優れる可能性があることが、英国・オックスフォード大学のSimon D. Kyle氏らが実施した「HABIT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年8月10日号で報告された。イングランドの実践的無作為化対照比較試験 HABIT試験は、イングランドの35の総合診療施設で実施された優越性を検証する実践的な非盲検無作為化対照比較試験であり、2018年8月~2020年3月に参加者の登録を行った(英国国立健康研究所[NIHR]の医療技術評価プログラムによる助成を受けた)。 DSM-5の不眠の判定基準を満たした成人を、看護師による睡眠制限療法4セッション+睡眠衛生に関する小冊子を提供する群、または睡眠衛生小冊子の提供のみの群に1対1の割合で無作為化に割り付けた。両群とも通常ケアに対する制限はなかった。 アウトカムを3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月時点で評価。主要エンドポイントは、不眠重症度指数(ISI)で測定した6ヵ月後の自己申告による不眠の重症度であった。ISIは、夜間および日中の不眠を評価するための7つの項目から成り、スコアの範囲は0~28点で、点数が高いほど症状が重症であることを示す。 642例を登録し、睡眠制限療法群に321例、睡眠衛生療法群に321例を割り付けた。全体の平均年齢は55.4(SD 15.9)歳で、489例(76.2%)が女性、624例(97.2%)が白人であった。段階的治療アプローチの一環となる可能性も ベースラインの平均ISIスコアは17.5(SD 4.1)点、不眠の罹患期間中央値は10.0年(四分位範囲[IQR]:4.5~20.0)であり、486例(76%)はすでに不眠に関して医師の診察を受け、163例(25%)は最近、睡眠薬を処方されていた。少なくとも1つのアウトカムのデータが得られた580例(90.3%、睡眠制限療法群275例、睡眠衛生療法群305例)を主解析に含めた。 6ヵ月の時点での平均ISIスコアは、睡眠衛生療法群が13.9(SD 5.2)点であったのに対し、睡眠制限療法群は10.9(SD 5.5)点と有意に低く(補正後平均群間差:-3.05点、95%信頼区間[CI]:-3.83~-2.28、p<0.0001、Cohen’s d:-0.74)、不眠症の重症度を改善することが示された。また、抑うつ症状、精神的健康関連および睡眠関連のQOL、仕事の生産性についても、睡眠制限療法群で有意な治療効果を認めた。 睡眠衛生療法と比較した睡眠制限療法に関連する費用の増分は43.59ポンド(95%CI:-18.41~105.59)、質調整生存年(QALY)の増分は0.021(95%CI:0.0002~0.042)であった。獲得QALY当たりの増分費用効果比(ICER)の平均値は2,075.71ポンドで、睡眠制限療法が英国国立医療技術評価機構(NICE)の費用対効果の閾値である2万ポンド/QALYを達成する確率は95.3%であり、金銭的な純益の平均値は377.84ポンドだった。 事前に定義した有害事象の発現については、両群間に差はなかった。また、重篤な有害事象は各群とも8例で発生したが、介入に関連すると判定されたものはなかった。 著者は、「睡眠制限療法は、不眠症の第1選択の治療法として広く実施される可能性がある。また、不眠症の段階的治療(stepped-care)アプローチの一環となる可能性があり、国際的なガイドラインの実践を促進し、エビデンスに基づく介入の利用機会を増加させるのに役立つと考えられる」としている。

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便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症

便秘症の定義から治療まで最新知見を盛り込み、6年ぶりに改訂日本消化管学会編集による『便通異常症診療ガイドライン2023』の「慢性便秘症」編。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて解説。冒頭には診断・治療のためのフローチャートを掲載し、便秘症の定義・分類・診断基準から疫学、病態生理、診断検査、内科的治療について、前版以降の進歩や最新知見を盛り込み、日常診療に必携の1冊となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症定価3,300円(税込)判型B5判頁数144頁発行2023年7月編集日本消化管学会電子版でご購入の場合はこちら

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在宅アルブミン尿スクリーニング、最適な方法は?/Lancet

 一般住民におけるアルブミン尿増加の在宅スクリーニングは、採尿器(UCD)法で参加率が高く、アルブミン尿高値ならびに慢性腎臓病(CKD)や心血管疾患のリスク因子を有する個人を正しく同定した。一方、スマートフォンのアプリケーションを用いる方法(スマホアプリ法)は、UCD法より参加率が低く、精密スクリーニングによる個人のリスク因子の正確な評価のためには検査の特異度が低かった。オランダ・フローニンゲン大学のDominique van Mil氏らが、前向き無作為化非盲検試験「Towards Home-based Albuminuria Screening:THOMAS試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「UCDスクリーニング戦略により、CKD患者の進行性腎機能低下と心血管疾患を予防するための早期の治療開始が可能となるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年8月16日号掲載の報告。45~80歳の一般住民を、UCD法とスマホアプリ法に無作為化 研究グループは、オランダ・ブレダ地区に居住する45~80歳の一般住民から無作為に抽出され本研究の参加に同意した人を、UCD法群またはスマホアプリ法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 UCD法群では、UCDで採取した尿サンプルを中央検査施設に送ってもらい、免疫比濁法による尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)を測定した。スマホアプリ法群では、家庭用アルブミン尿スクリーニング自己検査キットを配布し、スマートフォンのアプリケーションを使用して自宅でディップスティックによるACR測定を行った。 いずれの群も、最初の検査でアルブミン尿高値(国際腎臓病ガイドライン機構[KDIGO]の分類でA2以上など)を認めた参加者には、2回目の検査キットを送付し、2回目の検査結果が陰性であった場合は、3回目の検査キットを送付した。2回目または3回目の検査が陽性だった参加者は、ブレダにあるAmphia HospitalでCKDと心血管リスク因子の精密スクリーニングを受け、高血圧、高コレステロール血症、2型糖尿病または腎機能障害などが発見された場合は、治療のために一般開業医に紹介された。 主要アウトカムは、在宅スクリーニングと精密スクリーニングの参加率と陽性率とした。また、探索的解析として、在宅スクリーニングの2つの方法の感度と特異度を評価することを事前に計画した。検査完了はUCD法群59.4%、スマホアプリ法群44.3%、検査の感度と特異度はUCD法で96.6%および97.3% 2019年11月14日~2021年3月19日の間に1万5,074例が登録され、7,552例(50.1%)がUCD法群、7,522例(49.9%)がスマホアプリ法群に割り付けられた。 在宅スクリーニングを完了した人(参加率)は、UCD法群で7,552例中4,484例(59.4%、95%信頼区間[CI]:58.3~60.5)、スマホアプリ法群で7,522例中3,336例(44.3%、43.2~45.5)であった(p<0.0001)。 そのうち、最終的にアルブミン尿陽性が確認された人(陽性率)は、UCD法群で4,484例中150例(3.3%、95%CI:2.9~3.9)、スマホアプリ法群で3,336例中171例(5.1%、4.4~5.9)であった。 精密スクリーニングには、UCD法群で150例中124例(82.7%、95%CI:75.8~87.9)、スマホアプリ法群で171例中142例(83.0%、76.7~87.9)が参加した。 ACR高値の検出感度は、UCD法で96.6%(95%CI:91.5~99.1)、スマホアプリ法で98.1%(89.9~99.9)、特異度はそれぞれ97.3%(95%CI:94.7~98.8)、67.9%(62.0~73.3)であり、UCD法のみ検査特性はスクリーニングに十分であることが示された。 精密スクリーニングを完了したUCD法群の124例のうち、アルブミン尿、高血圧、高コレステロール血症、腎機能低下が新たに診断されたのはそれぞれ77例(62.1%)、44例(35.5%)、30例(24.2%)、27例(21.8%)であり、111例(89.5%)が新たにCKDまたは心血管疾患等のリスク因子を有すると診断され、一般開業医に紹介された。

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脳卒中の病院間搬送、推奨時間内に収まらず/JAMA

 急性脳卒中の病院間搬送において、最初の病院の救急部門(ED)到着から転院搬送開始までの時間(door-in-door-out time:DIDO時間)の中央値は174分であり、現在のガイドラインで推奨されている時間(120分以内)よりも長いことを、米国・ミシガン大学のBrian Stamm氏らが、米国心臓協会(AHA)のAmerican Heart Association Get With The Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke)レジストリを用いた後ろ向きコホート研究の結果、明らかにした。一刻を争う急性脳卒中の治療は、すべての病院で実施できるわけではなく、しばしば病院間搬送を必要とする。今回の結果について著者は、「DIDO時間の延長に関連する格差や修正可能な医療システム要因は、医療の質の改善に向けた取り組みの目標として適している」と述べている。JAMA誌2023年8月15日号掲載の報告。病院間搬送を要した急性脳卒中患者約10万9,000例について解析 研究グループは、GWTG-Strokeレジストリにおいて2019年1月~2021年12月に、急性虚血性脳卒中または出血性脳卒中を発症し、登録関連病院のEDから他の急性期病院へ転院搬送され、かつ転院先で入院していない患者を特定し、解析した。 主要アウトカムはDIDO時間(転院搬送開始時刻-ED到着時刻)の連続変数およびカテゴリー変数(≦120分、>120分)とし、一般化推定方程式(GEE)回帰モデルを用いて、全体およびサブグループ(出血性脳卒中、血管内治療が適応となる急性虚血性脳卒中、血管内治療以外の理由で転院搬送された急性虚血性脳卒中)における、DIDO時間と関連する患者特性および病院特性を同定した。 解析対象は、1,925施設から転院搬送された10万8,913例(平均[±SD]年齢66.7±15.2歳、非ヒスパニック系白人71.7%、男性50.6%)で、このうち6万7,235例が急性虚血性脳卒中、4万1,678例が出血性脳卒中であった。DIDO時間中央値は174分、ガイドライン推奨の120分を超える 全体におけるDIDO時間の中央値は174分(四分位範囲[IQR]:116~276分)、DIDO時間が≦120分の患者は2万9,714例(27.3%)であった。 DIDO時間中央値の延長と有意な関連がみられた因子は、80歳以上(vs.18~59歳:14.9分、95%信頼区間[CI]:12.3~17.5)、女性(vs.男性:5.2分、3.6~6.9)、非ヒスパニック系黒人(vs.非ヒスパニック系白人:8.2分、5.7~10.8)、ヒスパニック系(vs.非ヒスパニック系白人:5.4分、1.8~9.0)であった。 一方、DIDO時間中央値の短縮と有意な関連がみられた因子は、救急医療サービスの事前通知(-20.1分、95%CI:-22.1~18.1)、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアが12以上(vs.0~1:-66.7分、-68.7~-64.7)、血管内治療適応の急性虚血性脳卒中(vs.出血性脳卒中:-16.8分、-21.0~-12.7)であった。 血管内治療適応の急性虚血性脳卒中患者において、女性、黒人、ヒスパニック系は、DIDO時間の有意な延長と関連があったが、救急医療サービスの事前通知、静脈内血栓溶解、NIHSSスコア高値は、DIDO時間の有意な短縮と関連していた。

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血尿診断ガイドライン2023

2013年版から10年ぶりの大幅改訂!血尿の原因疾患を診断する「血尿診断アルゴリズム」を提示わが国では母子保健法、学校保健法、労働安全衛生法、老人保健法などにより、生涯にわたり検尿を受けることが可能。こうした検尿での異常所見(潜血)が契機となって重篤な腎疾患や泌尿器疾患が発見されることも少なくない。本書は潜血が認められた患者における、血尿のタイプの判定と原因疾患の診断のためのガイドラインで、血尿の原因疾患を診断するための手順を初めて詳細な「血尿診断アルゴリズム」として提示。また、ワクチン接種後の血尿例の報告を受けて、最終章で「新型コロナワクチンと血尿」について解説している。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    血尿診断ガイドライン2023定価3,080円(税込)判型A4判頁数80頁発行2023年6月編集血尿診断ガイドライン改訂委員会Amazonでご購入の場合はこちら

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第35回

P(対象)をより具体的で明確なものにする今回は前回に引き続き、P(対象)を設定する際の要点について解説します。Pを設定する際、PがResearch Question(RQ)で設定したO(アウトカム)のat risk集団(Oを発生する可能性のある集団)であることも、押さえるべきポイントです。前述のとおり(連載第34回参照)、プライマリのOは末期腎不全(透析導入)と設定しました。したがって、すでに末期腎不全に至り、透析導入(もしくは腎臓移植)された患者さんはat risk 集団にならず、除外されることになります。できればPは設定したOを起こしやすい集団とするのもコツのひとつです。なぜなら、Oを発症しやすい集団を対象とした方が研究の「効率が良い」からです。ここで言う「効率が良い」の意味は、より少ないサンプル数や短い観察期間で興味のあるOの発生数を確保することができる、ということです。その結果、研究の実施可能性や統計的な検出力が高まります。筆者が米国留学以来関わっている、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)という血液透析患者さんを対象とした国際的な臨床疫学研究があります。血液透析患者さんは健常人と較べて、死亡や心血管イベント発症などハードエンドポイント(連載第3回参照)を起こすリスクがかなり高い集団です。ハイリスクな血液透析患者集団の中でも、その予後には国際間で大きな差があることが知られています。日本の血液透析患者さんの予後は、米国の患者さんのそれより圧倒的に良好なことが、DOPPSなどの研究成果から示されています。米国留学中にご指導頂いていたミシガン大学の腎臓内科と臨床疫学の名誉教授であるFK Port先生が、"US data are bad for patients but good for statistical analysis."と日本から来た筆者に自虐的に? おっしゃっていたことを覚えています。また、「研究対象集団」のデータ取得の場である「セッティング」についてキチンと明記することも重要です(連載第34回参照)。われわれのRQの「標的母集団」は慢性腎臓病(CKD)集団全体です。しかし、本研究で実際に診療データにアクセスできるのは自施設の外来に通院中の患者のみであったとすると、「セッテイング」は単施設外来ということになります。単施設の「セッテイング」で行われた臨床研究では、その施設の特性やそこに通院する患者背景などの偏り(選択バイアス)が結果に影響を及ぼす可能性があります(連載第34回参照)。ちなみに、このような「選択バイアス」の影響を出来るだけ減らすために、DOPPSでは「2段階無作為抽出法」というサンプリング手法がとられています。第1段階として、研究施設を所在地や経営母体(公立・私立など)、施設規模(患者数)を考慮して無作為に抽出。第2段階で、施設規模に合わせて研究対象患者を施設毎に無作為抽出。このようなサンプリング手法を用いることにより、「研究対象集団」の代表性を担保しているのです。さて、ここで、われわれのRQのPをあらためて以下のように整理してみました。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準  ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者S(セッティング):単施設外来このように組み入れ基準、除外基準、セッテイングも含めて、Pをより具体的で明確なものにします。そうすることにより、研究結果の解釈が容易となり、またその研究結果を他の状況に適用する際の判断もしやすくなるのです。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.

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間質性肺疾患の急性増悪、ニンテダニブの新規投与は有効か?

 『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では「特発性肺線維症(IPF)急性増悪患者に抗線維化薬を新たに投与することは推奨されるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)が設定されており、推奨は「IPF急性増悪患者に対して抗線維化薬を新たに投与しないことを提案する(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:D[非常に低])」となっている。このような推奨の理由として、抗線維化薬であるニンテダニブ、ピルフェニドンをIPF急性増悪時に新たに投与する場合の有効性が明らかになっていないことがある。とくにニンテダニブについては、後ろ向き研究を含めて症例報告以外に報告がない1)。そこで、順天堂大学医学部医学研究科の加藤 元康氏らの研究グループは、「間質性肺疾患(ILD)の急性増悪発症後にニンテダニブ投与が行われた症例のニンテダニブの有効性と安全性を確認する後方視的検討」という研究を実施した。その結果、ニンテダニブは90日死亡率と急性増悪の再発までの期間を改善した。本研究結果は、Scientific Reports誌オンライン版2023年8月2日号で報告された。 2014年4月~2022年3月にILDの急性増悪を発症した患者のうち、急性増悪前にニンテダニブが投与されていない33例を対象とした。対象を急性増悪後3~35日にニンテダニブによる治療を開始した11例(ニンテダニブ群)、急性増悪後にニンテダニブが投与されなかった22例(対照群)に分類し、急性増悪後の生存期間、90日死亡率、急性増悪の再発までの期間などを比較した。また、安全性も検討した。 主な結果は以下のとおり。・ニンテダニブ群は対照群と比較して、平均年齢が高かったが(ニンテダニブ群:80.54歳、対照群:73.59歳)、その他の患者背景に有意な違いはなかった。・IPFと診断されていた患者の割合は、ニンテダニブ群90.9%(10/11例)、対照群63.6%(14/22例)であった。・急性増悪後の生存期間中央値は、ニンテダニブ群213日に対して、対照群75日であった(ハザード比[HR]:0.349、p=0.090、一般化Wilcoxon検定)。・90日死亡率は、ニンテダニブ群36.36%、対照群54.44%であり、ニンテダニブ群が有意に改善した(HR:0.2256、p=0.048、一般化Wilcoxon検定)。・急性増悪の再発までの期間は、ニンテダニブ群が対照群と比較して有意に改善した(HR:0.142、p=0.016、一般化Wilcoxon検定)。・急性増悪後90日死亡の独立した危険因子は、PaO2(動脈血酸素分圧)/FiO2(吸入酸素濃度)比高値(オッズ比:0.989、95%信頼区間:0.974~0.997、p=0.009)、ニンテダニブ不使用(同:0.107、0.009~0.696、p=0.016)であった(ロジスティック回帰分析)。・ニンテダニブ群において、重篤な副作用やニンテダニブによる治療に関連する死亡は認められなかった。・ニンテダニブ群の主な副作用は下痢、悪心/食欲不振、肝機能障害であり、発現率はそれぞれ9.09%、9.09%、18.18%であった。 著者らは「例数の少ない後ろ向き研究であること」などを本研究の限界としてあげつつ、「ILDの急性増悪後の治療にニンテダニブを追加することで、重篤な副作用を伴わずに良好な臨床転帰が得られる可能性があるため、ニンテダニブはILDの急性増悪に対する有用な治療選択肢となりうる」とまとめた。

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毎日の運動でも週末だけの運動でも心臓への影響は同じ

 毎日運動するのも週末にまとめて運動するのも、心臓への影響は変わらないようだ。米マサチューセッツ総合病院(MGH)のShaan Khurshid氏らが実施した研究で、「中強度〜高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)を週150分以上」というガイドラインの推奨を満たしていれば、どのようなスケジュールで運動を行っても、心臓に同様のベネフィットがもたらされることが明らかになった。この研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」7月18日号に掲載された。 この研究では、UKバイオバンクのデータを用いて、ガイドラインで推奨されている運動量を短期間で集中的に行う場合と、より均等に(定期的に)行う場合とで、心血管イベント(心房細動、心筋梗塞、心不全、脳卒中)の発生リスクに違いがあるのかどうかが調査された。対象は、2013年6月8日から2015年12月30日までの間に加速度計で測定した1週間の運動量のデータがそろっていた8万9,573人(平均年齢62歳、女性56%)。このうちの42.2%(3万7,872人)は週150分以上のMVPAの50%以上を1〜2日で消化する「週末戦士(weekend warrior;WW)」(WW群)、24.0%(2万1,473人)はWWよりも定期的な運動習慣で推奨運動量を満たしていた(定期的な運動群)。残りの33.7%(3万228人)はガイドラインでの推奨運動量を満たしていなかった(推奨量未達成群)。追跡期間中央値は6.3年だった。 解析の結果、WW群と定期的な運動群の双方で心血管イベントの発生リスクは同程度に低下することが明らかになった。推奨量未達成群に比べてWW群と定期的な運動群では、心房細動リスクがそれぞれ22%と19%、心筋梗塞リスクが27%と35%、心不全リスクが38%と36%、脳卒中リスクが21%と17%低下していた。 Khurshid氏は、「これらの結果は、心血管系の健康にとって最も重要なのは、運動パターンよりもむしろ運動量であることを示唆している。運動量を増やす努力が週の中で均等に行われていても1〜2日に集中していても、いくつかの心血管疾患リスクや全体的な心血管系の健康に及ぼす影響は同等だ」と話す。その上で同氏は、「週に1、2回しか運動できないのであればしない方がいい、あるいは、運動による効果は期待できないと考えている人にとって、この知見は励みになるのではないか」と述べている。 米ペニントン生物医学研究センターの人口・公衆衛生科学部門アソシエイト・エグゼクティブ・ディレクターのPeter Katzmarzyk氏は、「この研究結果は、運動を自分の都合に合わせて柔軟に取り入れることで、健康への効果が得られることを強調するものだ」と述べる。そして、「一般的に、どんな運動でも、何もしないよりは良い」と強調している。 Katzmarzyk氏は、週150分以上の運動という目標を達成できない場合でも、医師は患者と協力して、患者の年齢や健康状態に適した運動目標を立てるべきだと話す。同氏は、「目標値以下でも、運動量の増加は心血管疾患や早期死亡のリスクの減少を含め、健康に多くのベネフィットをもたらす」と述べている。

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第160回 医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響

<先週の動き>1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響新型コロナウイルス感染症禍以降、医療機関の倒産が増加の一途を辿っていることが今回明らかになった。とくに診療所は競争が激化しており、今年前半は過去10年間で最速のペースでの倒産があり、今年は10年間で最多の倒産件数となる見込みである。帝国データバンクの調査によれば、診療所の経営者の平均年齢は68歳前後で、1代限りで廃業を考える経営者も増えており、地域によっては社会問題へと発展する可能性もある。コロナ禍で、政府の各種の支援策や返済のリスケジュールなどにより、倒産は一時的に減少したものの、2022年には早くも増加の傾向に転じている。とくに2023年は、医療法人社団心和会の倒産が注目され、その負債総額は132億円と過去3番目の大きさとなった。一方、医療用医薬品の販売会社の支店長は、「医療の多角化についていけない診療所が増えている」と指摘。また、「ゼロゼロ融資の返済が始まる中、患者が来ない医療機関には注意が必要」との声も上がっており、債権管理が今後の重要な焦点となる。これらの動向を受け、医療機関、とくに診療所の経営環境は今後も厳しさを増していくことが予想されている。参考1)2022年度の「診療所」倒産、過去最多の22件「コロナ関連」は減少、後継者難や不正発覚が増加(東京商工リサーチ)2)医療機関の倒産が再び増加 診療所、高齢化で厳しさ増す(日経産業新聞)2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省厚生労働省は、8月10日に中央社会保険審議会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催、急性期入院医療について具体的な検討を開始した。この中で、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度について、2022年度の診療報酬改定で「心電図モニタ管理」が削除されたため、多くの病院での看護必要度の低下に対して、「注射薬剤3種類」を増加させることで影響は相殺していた。厚労省はこのような病院側の対応について、看護必要度の適正化を求めている。また、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症の患者は、医療資源投入量が高くないにも関わらず、救急搬送後の入院後5日間は、看護必要度のA項目2点が追加されるため、入院単価の高い急性期一般1の病床へ高齢者の救急搬送を促進している可能性を指摘されるなど、今後、さらに議論を重ね、看護必要度について改善案についての検討が進むとみられる。参考1)令和5年度 第5回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2)看護必要度が「高齢の誤嚥性肺炎等患者の急性期一般1への救急搬送」を促している可能性-入院・外来医療分科会(Gem Med)3)看護必要度また見直しへ、24年度に入院の機能分化促進(CB news)3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省文部科学省は、8月16日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、大学病院に対して、大学病院の運営や教育・研究・診療、財務などの面での改革プランの策定を促進するための「議論の整理」を提案した。背景には、大学病院が増収減益という厳しい経営状況に加え、医師の働き方改革を進めつつ、教育・研究機能の維持が必要とされており厳しい環境にあるため。この「議論の整理」には、大学病院の役割や機能、基本的な考え方、運営の方針などが含まれており、大学病院の指導教官らの教育・研究の時間が減少し、臨床に割かれる時間が増大している現状を反映している。これに対して、国は大学病院の改革を支援する方針を示しており、とくに経営状況の改善や教育・研究機能の強化を求めている。座長の永井 良三氏は、現行の大学設置基準が現代のニーズに合わせて更新されるべきであり、大学病院の臨床機能の強化と、そのための国の支援が必要だと指摘した。参考1)大学病院の9割「研究成果が減少」と危惧…「医師の働き方改革」で残業規制へ(読売新聞)2)研究時間確保へ、文科省が「大学病院改革」 働き方改革に向け(Medifax)3)大学病院改革、「診療規模」「運営」の再検討を 文科省検討(同)4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターに勤務していた26歳の男性医師が2022年6月に自殺した事件について、西宮労働基準監督署は、長時間労働によるうつ病が自殺の主な原因であると判断し、「労災」と認定した。医師の遺族は8月18日に記者会見を開き、この認定を明らかにした。遺族によると、この医師は亡くなる直前まで100日間連続で勤務しており、月の残業時間は200時間を超えていた。遺族は「病院側は具体的な再発防止策を取っておらず、人の命を軽視している」と病院の対応を批判しており、遺族は昨年12月に病院の運営法人を労働基準法違反の疑いで西宮労基署に刑事告訴している。今後は、損害賠償を求める訴訟を起こすことも検討している。病院側は、労働時間に関する主張を否定し、過重労働の認識はないとの立場を示している。遺族と病院側では、実際の労働時間に関して見解が異なっており、病院側が記者会見で述べた「知識や技能を習得する自己研鑽の時間が含まれており、すべてが労働時間ではない」とする主張に対して、批判が集まっている。参考1)神戸 勤務医自殺で労災認定 遺族会見“病院は労務管理せず”(NHK)2)神戸の26歳専攻医自殺、労災認定 残業月207時間(毎日新聞)3)甲南医療センター過労自殺 遺族が会見「医師を守れない病院に患者を守れるのか」(神戸新聞)5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府政府は、全国の医療機関や薬局で電子カルテの情報を共有する仕組みを進める方針を強化しているが、今後の計画が明らかになってきた。6月に開催された「医療DX推進本部」において示された医療DXの推進に関する工程表に基づいて、岸田総理大臣は医療分野のデジタル化の取り組みを進行するよう関係閣僚に指示しており、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を加速し、来年秋には現行の保険証を廃止、これを基盤として、電子カルテ情報の全国共有化を目指す方針が決定されている。政府は、令和7年の通常国会に関連する法案を提出する方針を固めており、「マイナ保険証」を通じて、患者の過去の診療記録を全国の病院や診療所で閲覧可能にし、データに基づく適切な医療提供を促進する狙いがある。電子カルテ共有のためのネットワークの構築は、厚生労働省所管の「社会保険診療報酬支払基金」が主導して進める方針となっており、今後もさらに国民に対してマイナンバーカードの普及を働きかけ、より効率的・効果的な医療サービスの提供を行っていくことを目指していく。参考1)医療DXの推進に関する工程表(内閣官房)2)電子カルテ活用へ、政府が令和7年に法案提出方針 マイナ保険証通じ全国共有(産経新聞)3)医療分野デジタル化 “電子カルテの共有 来年度中に”首相指示(NHK)6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ/GoogleGoogleの動画配信サービスYouTubeが、誤った医療情報を含むコンテンツに対する新しい方針を発表した。これにより、「予防」、「治療」、「事実の否定」の3カテゴリーに分けてガイドラインが整理される。とくに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の存在を否定したり、確実な予防・治療法があるとの不正確な情報を含むコンテンツは許可されず、即時に削除される。また、がん治療に関する非科学的な主張、たとえば「ニンニクやビタミンCががんを治療する」といったコンテンツも削除対象となる。さらにYouTubeは、信頼性のある医療情報提供のため、メイヨー・クリニックとの協力を発表。高品質な医療情報を提供する映像コンテンツの共有が進められる。YouTubeは、医療誤報ポリシーの透明性を高め、コンテンツ制作者と視聴者の理解を深めることを目指しているとコメントしている。参考1)YouTube、「新型コロナは存在しない」など誤った医療情報を含むコンテンツを削除へ(ケータイ Watch)2)YouTubeが「有害あるいは効果がないと証明されたがん治療法」を宣伝するコンテンツを削除すると発表(GIGAZINE)

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造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版

大きく進歩した診断・治療法を解説!新規治療薬のエビデンスも!2020年補訂版から3年ぶりの大改訂!大きく進歩した診断・治療法について各疾患のエキスパートが解説。エビデンス抽出の客観性の担保を目的にシステマティックレビューの実施などMindsに準じたプロセスが新たに取り入れられ、従来よりもさらに質の高いガイドラインとなった。近年多数登場している新規治療薬にも対応しており、最新のエビデンスが収載されている。造血器腫瘍診療の指針としてお役立ていただきたい。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版定価6,050円(税込)判型B5判、図数:37枚頁数504頁発行2023年7月編集日本血液学会電子版でご購入の場合はこちら

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