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2601.

シタグリプチン、2型糖尿病の全原因入院・死亡に影響せず/BMJ

 DPP-4阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)は、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、他の血糖降下薬に比べ全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させないことが、カナダ・アルバータ大学のD T Eurich氏らの調査で示された。DPP-4阻害薬の安全性に関するベネフィットは、いくつかのプール解析で示されている。一方、実臨床におけるあらゆる原因に起因する入院や死亡などの広範なアウトカムに及ぼすシタグリプチンの影響を評価した大規模試験はこれまでなかったという。BMJ誌オンライン版2013年4月25日号掲載の報告。臨床アウトカムに及ぼす影響を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するレトロスペクティブな地域住民ベースのコホート試験を実施した。 米国の商業的な医療保険申請と研究所の総合的なデータベースを用い、2004~2009年の間に経口抗糖尿病薬の服用を開始した2型糖尿病患者を抽出した。これらの患者を、死亡、医療保険の終了または2010年12月31日まで追跡した。 主要評価項目は、全原因に起因する入院および死亡の複合エンドポイントとし、時間依存的なCox比例ハザード回帰分析を行った。現行の勧告を支持するエビデンス 7万2,738例(平均年齢52歳、男性54%、虚血性心疾患の既往歴11%、糖尿病関連合併症の既往歴9%)が解析の対象となった。シタグリプチンの服用者は8,032例(11%)(52歳、57%、11%、10%)で、そのうち7,293例(91%)は現行のガイドラインのとおり、他の経口薬への追加治療としてシタグリプチンを併用投与されていた。 1万4,215例(20%)が複合エンドポイントを満たした。シタグリプチン服用者の全原因入院・死亡率は非服用者と同等であった(調整ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.91~1.06、p=0.63)。 虚血性心疾患の既往歴を有する患者(調整HR:1.10、95%CI:0.94~1.28)および腎機能が低下した患者(推定糸球体濾過量<60mL/分)(調整HR:1.11、95%CI:0.88~1.41)においても、シタグリプチン服用者と非服用者の間に複合エンドポイントの発生率の差を認めなかった。 著者は、「新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンは他の血糖降下薬に比べて全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させない」と結論づけ、「これらの観察的データはシタグリプチンの安全性に関するエビデンスをもたらし、本薬剤を患者の必要に応じて使用する付加的治療薬と規定する現行の勧告を支持するもの」と指摘している。

2602.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(93)〕 すべての非心臓手術症例でのβ遮断薬投与は必須か?

これまで心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の投与はClass Iとされてきたが、すべての患者に投与することによる有用性は無いという報告がされるようになった。また、降圧薬としてのβ遮断薬も欧州のガイドラインからは除外された。さらに、β遮断薬間でも、心不全患者の予後改善効果に差があることがメタ解析から報告されている。  このようにβ遮断薬をめぐる種々の問題があるなかで、非心臓手術患者周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は、現在も結論が得られていない。メタ解析やコホート研究では、周術期のβ遮断薬の有効性を示した報告も数多くあるが、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACC(米国心臓協会/米国心臓病学会)ガイドラインでは、すでに他の疾患のためにβ遮断薬が投与されている患者に限って、周術期も継続投与すべき、とされるにとどまっている。  本研究では、米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例を対象に、β遮断薬の投与の有無でみた30日全死因死亡、副次的評価項目である心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率を調べ、後ろ向きにβ遮断薬の有効性について検討された。β遮断薬の投与は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子(うっ血性心不全、心血管疾患、糖尿病、虚血性心疾患、高リスク手術、慢性腎臓病)数が増えるに従ってリスクを低下させることが示され、今後ランダム化試験が必要とされるものの、術前にRCRIを評価したうえでβ遮断薬の投与を考慮すべき、と本論文では結論付けられている。  ただ、わが国では多くの施設で術前の心疾患のスクリーニングがなされ、かつ心機能を含めた評価のうえで手術が行われている。このようにRCRI以上のリスク評価のうえで手術が行われている現状を考慮すれば、β遮断薬投与の新たな必要性が問題となることは少ないであろう。ただ、β遮断薬の投与量や薬剤の選択を含め、β遮断薬の投与の是非を検討することは今後とも必要である。

2603.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(92)〕 胃食道逆流症に対する外科的手術と薬物療法(REFLUX試験)

本論文は、胃食道逆流症(GERD)の治療における薬物療法と外科的治療の有用性を比較検討したものである。研究デザインが複雑であるのが特徴で、研究デザインはRCTであるが、試験の経過観察中に実際に行われた治療法は、被験者の希望を尊重したものとなっている。すなわち、実際に外科的治療を受けたのは、当初の外科的治療割り付け群の63%および薬物療法割り付け群の13%であり、通常のRCTと異なる『partially randomised preference design』となっている。日常診療の実態に即した対処を加味した成績という点では評価されるものともいえるが、当然ながら、結果の解釈において選択バイアスによる影響が大きいことを考慮すべきである。 欧米における両治療法の評価に関して、大規模なRCT(LOTUS試験:Galmiche JP, et al. JAMA. 2011; 305: 1969-1977.)では、外科的治療と薬物治療の有用性についてはどちらもほぼ満足できるもので、手術の合併症などを考慮すると薬物療法で良い、とする内容であった。 一方、ACG(American College of Gastroenterology)のガイドライン(Katz PO, et al. Am J Gastroenterol. 2013; 108: 308-328.)では、「外科手術の副事象として運動機能障害に伴う嚥下障害や膨満感があるが、両者の有用性は同等」とされており、Cochrane Reviewでは、「外科手術の方が薬物療法よりもQOLが良いが、少数の患者では術後に嚥下障害が生じる」と意見が異なっている。このように外科的手術の有用性を検討する場合、Methodに表現できない『手術という技術力の格差』に伴うバイアスや『非盲検試験における患者の希望』が研究結果に大きな影響を及ぼす可能性に注意が必要である。 なお、日本におけるGERDに対する治療は欧米と大きく異なっている。医療経済的観点が重要視される欧米では、外科的手術が盛んになっている一方、わが国では欧米に比べて胃酸分泌能が低いこともあり、プロトンポンプ阻害薬を中心とした薬物治療が主流であり、現時点で外科的治療との比較試験は皆無である。

2604.

Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. 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2605.

非心臓手術の周術期β遮断薬投与、死亡率を抑制/JAMA

 心リスクが高い非心臓/非血管手術患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により全死因死亡や心合併症の発生率が低下することが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMartin J London氏らの検討で示された。非心臓手術患者における周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は現在も結論が得られておらず、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACCガイドラインでは、他の疾患のためにすでにβ遮断薬が投与されている患者に限って周術期も継続投与すべきとされる(class I)。JAMA誌2013年4月24日号掲載の報告。周術期β遮断薬投与と術後転帰の関連を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、非心臓手術を施行された患者における周術期早期のβ遮断薬投与と術後の転帰の関連について評価するレトロスペクティブなコホート試験を行った。 2005年1月~2010年8月までに米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例[手術当日または術後にβ遮断薬を投与された患者5万5,138例(40.3%)、非投与患者8万1,607例]および傾向スコアをマッチさせたコホート7万5,610例(β遮断薬投与患者、非投与患者それぞれ3万7,805例)を解析の対象とした。 主要評価項目は30日全死因死亡、副次的評価項目は心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率とした。無作為化試験による妥当性の検証が必要 β遮断薬は、血管手術を施行された患者(1万3,863例)の66.7%に投与され、非血管手術患者(12万2,882例)の37.4%に比べると有意に高かった(p<0.001)。 β遮断薬投与率は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子数が増えるに従って上昇し、リスク因子なしの患者は25.3%、4つ以上の場合は71.3%であった(p<0.001)。 全体で術後30日までに1,568例(1.1%)が死亡し、心合併症は1,196例(0.9%)に認められた。 傾向スコアをマッチさせた群では、β遮断薬の投与により死亡率が有意に低下した(相対リスク(RR):0.73、95%信頼区間(CI):0.65~0.83、p<0.001、治療必要数(NNT):241、95%CI:173~397)。 RCRIのリスク因子数で層別化すると、リスク因子が2つ以上の患者でβ遮断薬による死亡率の有意な低下が認められ、リスク因子数が増えるほど死亡抑制効果が高い傾向がみられた。リスク因子2つはRR:0.63(95%CI:0.50~0.80、p<0.001)、NNT:105(同:69~212)、同3つではRR:0.54(同:0.39~0.73、p<0.001)、NNT:41(同:28~80)、4つ以上ではRR:0.40(同:0.25~0.73、p<0.001)、NNT:18(同:12~34)であった。ただし、この関連は非血管手術患者に限定された。 β遮断薬の投与は非致死的なQ波心筋梗塞または心停止も有意に抑制した(RR:0.67、95%CI:0.57~0.79、p<0.001、NNT:339、95%CI:240~582)。この関連も非血管手術患者に限られた。 著者は、「ベースラインの心リスクが高い非心臓/非血管手術施行患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により30日全死因死亡や心合併症の発生率が有意に低下した」とまとめ、「RCRIのリスク因子数の評価は周術期β遮断薬の使用の意思決定に有用な可能性があるが、これらの観察的知見の妥当性を検証するために、RCRIで低~中等度のリスクの患者を対象に周術期β遮断薬投与の多施設共同無作為化試験を行う必要がある」と指摘している。

2606.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(90)〕 否定された『減塩パラドックス』―降圧の基本は、やはり減塩。

食塩摂取と高血圧とは、いわば切っても切れない関係にある。 薬剤による降圧療法は日常的に行われているが、各国の高血圧診療ガイドラインでは、薬物療法に先行する生活習慣の改善(life style modification)、なかでも『減塩』の履行・遵守を強く勧めている。高血圧診療における、生活習慣の改善の代名詞が『減塩』であり、日本高血圧学会でも学会をあげて『減塩』に取り組んでいる。たとえば、例年開催される学会のランチは減塩弁当であり、また昨年初めて行われた減塩サミットの共催に名を連ねた。 本論文は、こうした『減塩』の価値を、改めて再確認する内容をSystematic Review・メタ解析の手法を用いて報告している。いまさらとも言われかねない『減塩』の価値を検討し、証明する試みがなされ、BMJに発表された背景には、2011年に相前後してJAMAに発表された2本の論文で、『減塩パラドックス』、すなわち過度の減塩が心血管イベントを増加させる可能性が報告されたことが強く影響している1), 2)。これらの論文では、減塩が心血管イベントの抑制につながらない根拠として、減塩によるレニン・アンジオテンシン系の活性化や、交感神経系の活性化、脂質異常の悪化の可能性があげられている。 これらの論文は、JAMAに掲載されると瞬く間に反論、疑義が寄せられ、議論の的となった3)~11)。反論の中核となった論点は、食塩摂取量の推定方法 (標準的な24時間蓄尿サンプルによる推定ではなく、single urine sampleによる推定に基づいている)、データ採集の方法(数年間の隔たりがあるコホートについて解析をしており、データ採集時期に重大な差がある)であり、誤った手法によって収集されたデータが、誤った結論を導いた可能性が指摘されている。 著者らは、改めて厳格な選定基準のもと選定した研究成果に対して、Systematic Review・メタ解析を行った。その結果は、従来通り『減塩』の有効性を支持するものであり、世界的・公衆衛生学的な取り組みの修正を迫るものではなかった。CKDの評価項目にも採用されているsingle urine sampleによる簡便な評価法は、疾病についての啓蒙や、さまざまなコストの軽減、データ収集の容易さをもたらすメリットがある。しかし、このような簡便さによって、科学的な評価に耐えるデータ収集が損なわれている可能性があることを見過ごしてはいけない。ポストホック解析や、観察研究による問題提起は重要であるが、科学に求められていることは、普遍的な真実の解明であることを忘れてはならないのではないか。参考文献1) Stolarz-Skrzypek K, et al. JAMA. 2011; 305: 1777-1785.2) O'Donnell MJ, et al. JAMA. 2011; 306: 2229-2238.3) Aleksandrova K, et al. JAMA. 2011; 306:1083.4) Bochud M, et al. JAMA. 2011; 306: 1084.5) Cook NR. JAMA. 2011; 306: 1085.6) de Abreu-Silva EO, et al. JAMA. 2011; 306: 1085-1086.7) He FJ, Appel LJ, et al. Kidney Int. 2011; 80: 696-698.8) Labarthe DR, et al. JAMA. 2011; 306: 1084-1085.9) Rebholz CM, et al. JAMA. 2011; 306: 1083-1084.10) Whelton PK. JAMA. 2011; 306: 2262-2264.11) Mann S. JAMA. 2012; 307: 1138-1139.

2607.

ちびまる子ちゃん【パーソナリティ】

「いるいる、こんな人!」―パーソナリティとは?みなさんは、今までに出会った人で、「いるいる、こんな人!」と思わず別の誰かを連想してしまったことはありませんか?私たちは、いろいろな人とかかわっていく中で、新しく出会った人が、自分のすでに知っている誰かに重なってしまうことがあります。そして、その人が、国民的人気アニメ番組「ちびまる子ちゃん」のあの個性的なキャラクターたちに似ていると思ったことはありませんでしたか?普段の日常生活で私たちの心を惹きつけたり、逆にヤキモキさせる人たちが、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちに重なってしまうのはよくあることです。その理由は、「ちびまる子ちゃん」に登場するキャラクターたちの多様で魅力的な個性には、メンタルヘルスで扱われる性格の傾向(パーソナリティの偏り)が巧みに描かれているからです。彼らの存在こそ、「ちびまる子ちゃん」が20年を超える長寿番組となったことに大きく貢献しているように思います。今回は、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちの特徴を深く探っていきましょう。そこには、魅力と同時に危うさ(リスク)も潜んでいます。そこから、私たちが実生活で人とより良くコミュニケーションをするためのヒントを見つけていきましょう。パーソナリティの源 ―個体因子と環境因子厳密には、パーソナリティは、成人後に完成するという前提があります。なぜなら、まる子の年頃はまだまだ心の成長の途中で、柔軟性(可塑性)があるので、一概にパーソナリティを決め付けることはできません。しかし、あまりにも特徴が出ているので、あくまでパーソナリティの傾向やリスクとして、みなさんにぜひご紹介したいと思います。【男子】丸尾くん―生真面目キャラ―発達の偏り、強迫性パーソナリティまず、最も強烈なキャラクターの丸尾くんです。「ズバリ!○○でしょう」が口癖で、一貫して丁寧な言葉使いで一本調子な話し方が特徴です(コミュニケーションの偏り)。学級委員としていつもハツラツとしていますが、学級委員で居続けることに執念を燃やし、そのためには並々ならぬ努力もしています。ここから、彼に強いこだわりがあることが分かります(想像力の偏り)。次の学級委員の選挙を前に、ライバルが出てくるのに神経質になった丸尾くんは、クラスメート1人1人に「困っていることはありませんか?1つくらい絶対にあるでしょう」と強引に迫っていくエピソードがあります。そして、まる子たちに「親切の押し売りだ」「何でもないのにいちいち声をかけられたら迷惑なんだよ」だと責められます。ここから、彼は、こだわりが強いあまりに融通が利かず、空気が読めずに空回りしていることが分かります(社会性の偏り)。目指すのが、みんなのお手本でありながら、日頃から女子に「奇妙キテレツ」と思われてもいます。さらには、花輪クンのきれいなお母さんを見て帰ってきた時、丸尾くんは自分のお母さんに「母さま、なぜあなたは美しくないのですか?」と悪気なく聞いてしまいます。彼は、相手の心を汲み取って(心の理論)、人に合わせるバランス感覚は鈍いのでした。これらの3つの特徴から、丸尾くんはどうやら発達の特性(発達の偏り)が際立っています。さらに、成長して空気の読みづらさが目立たなくなっても、こだわりに囚われてしまうことが癖(完璧癖)になってしまうリスクがあります(強迫性パーソナリティ)。彼のこれらの特徴は、彼の心構え(パターン認識)や周りの理解によって、良さや魅力にもなりえます。こだわりは、ひたむきさ、熱意、真面目さにもなりえます。実際に、彼は、勉強だけでなく、お楽しみ会の手品や運動会の応援や合唱の練習など何ごとにおいても一生懸命にする努力家です。学級委員として、みんなのためにみんなが嫌がることも喜んでやります。そして、女子に対しての純情な一面もあります。私たちが丸尾くんから学べるコミュニケーションのコツは、丸尾くんのような人に何かしてほしい時、まず細かく具体的な指示を出して、脱線しないようにレールをしっかり敷いてあげることです(構造化)。そして、そのレールに乗せて、本人のひたむきさを生かすことです(パターン学習)。私たちが、丸尾くんのひたむきさを高く買ってあげることができれば、「立派なサラリーマン」「マイホーム購入で親孝行」「ノーベル賞受賞」という丸尾くんの夢をきっと応援したくなるのではないでしょうか?表 丸尾くんの二面性危うさ魅力こだわり、完璧癖、融通が利かない空気が読めず空回り奇妙キテレツひたむき、熱意生真面目、努力家純情花輪クン―セレブキャラ―自己愛パーソナリティまず、家庭環境が際立って恵まれているのが、花輪クンです。彼は、いわゆるセレブです。しかも、家の財力があるだけでなく、英語やフランス語などの語学、ピアノやバイオリンの音楽、お茶とお花の教養などのあらゆる英才教育を受けてきています。通学は、車という特別扱いが当たり前です。さらに、端正な顔立ちで、クラスの女子からの圧倒的な人気があり、口癖は「ベイビー」です。唯一の欠点は、字が下手なことくらいです。このように、子どもの頃から全てにおいて恵まれた環境で、挫折も知らないまま育った場合、何ごとも自分の思い通りになると思ってしまいます(万能感)。すると、パーソナリティの傾向としては、自信に溢れてしまい(自己評価が高い)、自分に酔いしれて自惚れやすくなります(誇大性)。そして、いつもチヤホヤされたいと思うようになります(賞賛欲求)。また、自惚れが強ければ、人を見下してしまいやすくなり、自分以外の恵まれない環境の人たちの気持ちが分かりにくくなります(共感性欠如)。その一方で、もともと守られていることで、自分を大切に思う気持ちが強く(自己愛)、妥協をしません。これが向上心としてより良く生きる原動力になるので、攻めは強いです。しかし、もしもその守りがなくなってしまったら、どうでしょう?つまり、持っているものを持ち続けている限りは強いのですが、持っているものがなくなってしまった時は、どうでしょう?例えば、お父さんの会社が倒産したら?成長して端正な顔立ちではなくなったら?大病を患ってしまったら?人間関係のトラブルで信頼を失ったら?彼は、何ごとも思い通りにできるという自分のイメージ(自己イメージ)が人一倍強いです。それだけに、実は、慣れていない苦しい状況によるストレスに対しては人一倍に打たれ弱いのです。このように、自己イメージと現実とのギャップに苦しむリスクが高まります(自己愛性パーソナリティ)。つまり、攻めには強いですが、守りにはとても弱いという弱点があるのです。私たちが花輪クンから学べることは、恵まれすぎていることは、逆に、人間的な成長にとってプラスにならないという客観的な視点です。むしろ、生きていて思い通りにならないことにこそ、心を鍛え養うエッセンスが潜んでいます。失敗や挫折を跳ね返す経験は、私たちの心の糧(かて)になり、心をより豊かにするために大事なことであると言えます。表 パーソナリティの源危うさ魅力自惚れやすい(誇大性)チヤホヤされたい(賞賛欲求)人の気持ちが分かりにくい(共感性欠如)守りは弱い自信に溢れている(自己評価が高い)より良く生きる原動力(向上心)になる妥協しない攻めは強い永沢―ひねくれ者キャラ―反社会性パーソナリティ花輪クンとは対照的に、家庭環境が恵まれていないのが永沢です。彼には、火事で家を失った暗い過去があります。昔は「明るい少年だった」と言われていますが、火事を境にして、今は暗く、「どいつもこいつも」といつも不平不満を口にして(不信感)、誰に対しても口が悪いひねくれ者です(敵意感情)。火事で自分だけ惨めな思いをしたことから、「自分が損をすること」にとても敏感になのです(不公平感)。「世の中は平等で公平である」という育むまれるべき感覚(規範意識)が彼の中で揺らいでいます。彼には、気難しくてすぐに殴る父親と愛情表現が乏しく厳しい母親がいます。この両親に対して、すでに小学校3年生にして反抗的な一面があります。うっぷん晴らしで、彼を慕う藤木を冷たくあしらったり、おとしめたりします(攻撃性)。「損をしないためには他人を利用する」というものごとのとらえ方が芽生えてしまい、理屈っぽくて相手の気持ちがよく分からなくなっています(共感性欠如)。校外の社会科見学で、出発の時に、わざと姿をくらませて、出発できないようにして、みんなを困らせようとしたエピソードもありました。図書室の本「みんなに好かれる性格になる本」を、永沢が読むべきだとまる子に言われたことに腹を立てて、怒りが治まらずに本を引き裂くエピソードもあります(衝動性)。彼の攻撃性や衝動性は、やがて訪れる反抗期にエスカレートすれば、不良グループに属し非行に走るリスクがあります。そして、成人後には社会のルール違反を繰り返すリスクがあります(反社会性パ-ソナリティ)。しかし、同時に、彼の反抗心や反骨精神、闘争心は、将来的に尊敬できるロールモデルに巡り合い、良い方向付けができれば、古いしきたりや価値観に縛られることなく、新しい発想や価値観をもたらすエネルギー源にもなりえます。不信感や不公平感は、現状に甘んじることのない問題意識の高さでもあります。衝動性は、フットワークの軽さでありチャレンジ精神の旺盛さでもあります。つまり、彼は、時代のパイオニアや改革者になる可能性も秘めているということです。表 永沢の二面性危うさ魅力不信感、不公平感ひねくれ者、反抗心攻撃性衝動性問題意識が高い反骨精神、闘争心パイオニア、改革者軽いフットワーク、チャレンジ精神藤木―気にしすぎキャラ―回避性パーソナリティ藤木は、ハートはとても弱い泣き虫の臆病者です。臆病な行動をとってしまって、どんなに永沢に付け込まれて「卑怯者」呼ばわりされても、藤木は永沢を慕います。「永沢くんにもいいところがある」と永沢をかばおうとする姿勢は、健気(けなげ)で優しさがありますが、同時に、これはいじめられっ子の典型的な心理でもあります。一人ぼっちにはなりたくないという怯えがあり、たとえ意地悪な相手であっても、かかわりを持ちたいと思うのです。この状況は、永沢の気分によっては、いじめにエスカレートするリスクが潜んでいます。彼はクラスメート全員から、ことあるごとに「あいつ卑怯だからな」とからかわれ、卑怯者のレッテルを貼られます。まさに、弱々しいしい彼がターゲット(スケープゴート)にされるいじめの構図です。また、藤木自身もそれに甘んじてしまい、「どうせおれは卑怯者だから」と卑怯なことをする都合の良い言い訳にして、卑怯なことを繰り返してしまいます(ラベリング理論)。さらに、残念なことは、彼は卑怯者呼ばわりされたことを涙して両親に打ち明けたのに、その両親は「そうなった原因はお前だ」「いや、あんただ」と責任のなすり合いをして夫婦ゲンカに発展してしまったことです。全く、藤木は両親から守られておらず、ますます心の支えや安心感(安全基地)がなくなってしまいます。こうして彼は、自分に自信がなくなってしまい(自己評価が低い)、将来的に、引っ込み思案で引きこもりになるリスクが高まります(回避性パーソナリティ)。ただ、彼のパーソナリティは、裏を返せば、慎重で協調性があり、争いを好まない平和主義者という見方もできます。彼の良さである穏やかさや優しさが発揮されるには、プレッシャーをひどく与えないコミュニケーションが望まれます。表 藤木の二面性危うさ魅力臆病、引っ込み思案自分に自信がない(自己評価が低い)引きこもりのリスク慎重、穏やか協調性がある、優しさ平和主義はまじ―お調子者キャラ―演技性パーソナリティはまじは、クラス一のお調子者です。いつもいろいろな芸をして、クラスメートを笑わせています。「だいたいなぁ、長山(読書家で優等生のクラスメート)みたいに真面目ばっかじゃ面白くねえんだよ。子供らしくない子供はみんなに嫌われるぜ」と彼は力説します。この発言から読み取れるのは、彼は「みんなに嫌われる」かどうかに価値を置いている点です。つまり、彼は人一倍、「みんなに好かれたい」のです。みんなを喜ばせて注目の的になりたいという欲求が強く、派手好きで、周りへの働きかけがとても積極的です(能動性)。実際に、彼のようなキャラクターは、やり手のセールスマンに多く、世渡り上手(社交性)で出世しやすく、また、芸能界ではムードメーカーとしてもてはやされ人気者になります。はまじの教訓は、「人生なんに面白おかしく過ごしたやつの勝ちだ」です。お気楽でウケ狙いのノリの良さはあるのですが、気に入られることばかりに気をとられてしまうとどうなるでしょうか?自分自身を振り返ることが疎かになり、媚びるばかりの「中身のない薄っぺらいヤツ」になるリスクもあります(演技性パーソナリティ)。真面目さや内面性を問われる集団では、親しみやすさは馴れ馴れしさになってしまい、派手さはけばけばしさになり、目立ちたがり屋、チャラい男、ブリっ子女子として煙たがれ、疎まれるリスクもあります。表 はまじの二面性危うさ魅力目立ちたがり屋、大げさ馴れ馴れしいけばけばしい媚びる、中身がない、薄っぺらいお調子者、ムードメーカー親しみやすさ、世渡り上手派手好きノリが良い、演出がうまい【女子】まる子―愛されキャラ―依存性パーソナリティ主人公のまる子は、面白いことに好奇心があり、楽天的です。みんなに気に入られ、愛される魅力的なキャラクターです。はまじとはお調子者同士でよく似ており、気も合うようですが、まる子は、はまじほど積極的ではありません(受身)。しかし、要領が良い分、甘え上手、お願い上手で、だらしない面がたくさんあります。例えば、おじいちゃん大好きっ子で、おじいちゃんにはよくおねだりをします。また、お姉ちゃんには「まる子の一生のお願い、これで17回目だよ」と言われたり、お父さんに「お前の一生は何回あるんだ」と突っ込まれるなど、まる子は一生のお願いを連発しています。飽きっぽくて怠け癖があり、よく朝寝坊をして、遅刻ぎりぎりセーフでいつも学校に通っています。すぐにいらないものを買うなどお金の浪費癖も目立っています。このようなだらしなさは、見通しが甘く(無責任)、人を当てにして(主体性がない)、生きてしまうリスクがあります(依存性パーソナリティ)。まる子の家族(おじいちゃんを除く)は、まる子を気安く助けないようにしていますが、これは、とても良いコミュニケーションのコツと言えます。表 まる子の二面性危うさ魅力だらしない、飽きっぽい怠け癖、浪費癖無責任、主体性がない楽天的、受身甘え上手、頼み上手気に入られる、愛されるたまちゃん―しっかり者キャラ―共依存まる子と大の仲良しなのは、たまちゃんです。彼女は、ピンチになるまる子をいつも全力で助けてくれます。例えば、まる子が言いたいことをついはっきり言ってしまい、みぎわさんや前田さんとやり合った時、ハラハラしながらも仲直りさせようとします。また、まる子ができ心からカンニングをして、その後ろめたさからみんなに打ち明けようとすると、たまちゃんはまる子に「絶対に言っちゃだめ」「言ったら絶交だからね」と言います。そして、心の中で誓います。「私はまるちゃんをかばうよ。どんなことがあってもかばう。絶対にみんなから責められたりしないようにするよ」と。まる子がたまちゃんに頼りがちなだけに、たまちゃんは、いつもまる子を放っておけなくなります。実は、たまちゃんのようなしっかり者が、そのしっかりしている力を発揮するには、周りにだめな人がいてくれる必要があります。将来的には、だめな人を放っておけない、自分を頼ってくれるだめな人を探し求めてしまうお節介屋さんになる可能性もあります。頼られることに頼る、つまり必要とされることを必要とするようになり、相手も自分もだめにしてしまうリスクがあります(共依存)。たまちゃんは、なぜこんなにしっかり者なのでしょうか?その答えは、たまちゃんのお父さんの存在にありました。たまちゃんのお父さんは、カメラマニアで、「何でも記念を写真に撮っておきたい」というこだわりが強く、相手の気持ちを汲み取る心(心の理論)が鈍いようです(発達の偏り)。シャッターチャンスを逃すまいとしてしょっちゅう常識外れな行動に走ります。「風邪で苦しんでいる自分の記念だ」と自分で自分の写真を撮るほどのこだわりがあります。ですので、周りに風変わりに思われることが多々あり、たまちゃんに世話を焼かせ、困らせています。たまちゃんは、将来的には、自分には恥ずかしい父親がいるという引け目から、よりいっそうとしっかり者になって、人の役に立つ仕事(対人援助職)に就くのではないかでしょうか?表 たまちゃんの二面性危うさ魅力お節介しっかり者、頼まれ上手世話焼きみぎわさん―思い込みキャラ―妄想性パーソナリティみぎわさんは、洋服、持ち物、好きなもの全てが乙女チックで女の子らしく、学級委員を務める優等生です。そして、とにかく花輪クンのことが大好きです。花輪クンのことにはつい敏感になってしまい、彼に優しい言葉をかけられただけで、気に入られていると思い込み、大喜びしてしまいます(被愛妄想)。逆に、クラスの女子が花輪クンと仲良く話していると、「花輪クンを狙っているでしょ!」と詰め寄り、嫉妬心を燃やします (嫉妬妄想)。授業中に、まる子がクラスメートの女子から受け取る手紙を、たまたま花輪クンが回してくれた時、それを見たみぎわさんは花輪クンがまる子に手紙を渡したと思い込み、大激怒します。そして、みぎわさんはまる子に「放課後、話をつけましょう。体育館の裏で待ってるわ」と書いた手紙を渡すのでした。みぎわさんの思い込みの激しさは二面性があります。疑い深く嫉妬深くて、妄想癖があるために、花輪クン以外のクラスメートには、ヒステリックで高圧的になっていくリスクがあります(妄想性パーソナリティ)。一方、彼女は、思いこんだら一直線のエネルギーを持っているとも言えます。このエネルギーを用心深さ、勘の良さ、対抗心、想像力の豊かさに有効活用することもできます。みぎわさんの「暴走」に対して、花輪クンは、はっきりしたことを言わず(中立)、心の間合い(心理的距離)をとって、巻き込まれないようにしています。これが、まさにコミュニケーションのコツと言えます。表 みぎわさんの二面性危うさ魅力疑い深い嫉妬深い妄想癖用心深い、勘が良いすぐに対抗心を燃やす想像力が豊か前田さん―怒りんぼ泣き虫キャラ―情緒不安定性パーソナリティ登場回数は少ないわりに強烈な印象を残すのが、前田さんです。彼女は、掃除係で、掃除にかける思いは熱くて良いのですが、気が強く、掃除を盾に威張り散らすことが多いです。そして、挨拶代わりに文句を言って威圧して、周りに気を使わせます。人に指図することも多く、大晦日に通りすがりのまる子に荷物を持たせたこともありました。彼女の最大の特徴は、相手に言うことを聞かせるためにすぐに怒り出すことと、逆に反撃され、行き詰り追い込まれるとすぐに泣き出すことです(衝動性)。大激怒して散々まる子たちを困らせたあと、自分が困ったら今度は大号泣するのです。そして、泣くことで、相手から手助けや譲歩を引き出し(操作性)、問題が解決すると、ケロっと泣きやみ、また威張り散らし始めるのです。また、「私に味方はいない」と漏らし、相手は敵か味方かという発想が強いようです(スプリッティング)。このように、すぐにかっとなったり、すぐに泣き出したりする行動パターンを繰り返していると、感情が揺れやすいことが本人の生き様になり、人間関係で苦労するリスクが高まります(情緒不安定性パーソナリティ)。一方で、この心の様は、感受性の豊かでもあり、このエネルギーを文学や音楽、演技力などの芸術センスに生かすこともできます。コミュニケーションのコツは、本人の感情の揺れに振り回されないように、近付きすぎずにやはり一定の心の間合い(心理的距離)が大切になります。表 前田さんの二面性危うさ魅力感情が揺れやすい感受性が豊か野口さん―ミステリアスキャラ―統合失調性パーソナリティ野口さんは、一見、無表情、無口のネクラでひっそりしていて、クラスの中で陰が薄いです。しかし、「クックックッ」という笑い声や、「しーらない」「言えやしないよ」と低いフラットなトーンの口癖は独特です。しかも、実は、かなりのお笑い好きで、「お笑いは、まず身近な所から見つけていこうね」と言い、しょっちゅう何かしでかすまる子の様子を、電柱の陰から密かに伺うなど、神出鬼没な一面もあり、かなり強烈な印象があります。まる子が前田さんにからまれ、何とか切り抜けた後に、野口さんはまる子に「これからも前田さんのことは、温かく見守っていこうね」「あ、またそろそろ泣くぞ」とボソっと告げるなど超越した視点を持っています。野口さんの特徴は、家族や友達との親密さを求めず、周りと距離を取ろうとする一匹狼キャラであることです。音楽の歌のテストの時には、壇上に出て「歌いたくありません」ときっぱり拒否をするエピソードもあります。ミステリアスで孤高でマイペースな一方、奇妙に思われて孤立して、社会生活が送りづらくなるリスクもあります(統合失調性パーソナリティ)。本人のペースを尊重しつつ、必要な時は社会との橋渡しをしてあげることがコミュニケーションのコツと言えます。表 野口さんの二面性危うさ魅力孤立奇妙社会生活を送りづらい孤高、超越した視点ミステリアスマイペース【まとめ】個性 ―パーソナリティの偏りこれまで、ちびまる子ちゃんの代表的で個性的なキャラクターたちを見てきました。彼らをより良く知ったことで、さらに彼らが私たちの身近な誰かに重なったり、または自分自身に重なってしまったりはしていないでしょうか?実は、彼らの特徴は、傾向やリスクとして、メンタルヘルスで扱うパーソナリティの偏りをほぼ全てカバーしているのです(表)。表 メンタルヘルスで扱うパーソナリティの偏り傾向またはリスクのあるキャラクターパーソナリティ強迫性丸尾くん自己愛性花輪クン反社会性永沢回避性藤木演技性はまじ依存性まる子共依存たまちゃん妄想性みぎわさん情緒不安定性前田さん統合失調性野口さんちびまる子ちゃんの友達関係―社会の縮図その他のクラスメートとして、リーダーキャラの大野君と杉山くん、お嬢様キャラの城ヶ崎さん、おバカキャラの山田、口癖キャラのブー太郎、胃弱キャラの山根、食いしん坊キャラの小杉などがいます。彼らを加えると、ちびまる子ちゃんたちがコミュニケ―ションを織りなし繰り広げる教室は、まさに私たちの社会の縮図です。ちびまる子ちゃんのキャラクターたちをヒントとして、実生活での相手のことをよく知り、同時に自分自身のことをよく知り、そして、相手と自分の関係性を見つめ直すことに生かすことができるのではないかということです。コミュニケーションにおいて、相手がどんな人なのかというパーソナリティの傾向を踏まえた上で、その魅力の裏にある危うさ(リスク)を想定して接するのと、そうでないのでは、心の余裕は全く違ってしまいます。ちびまる子ちゃんの作品を通して、人の個性の魅力と危うさという二面性をより良く知っていくことで、私たちの人生はより豊かになっていくのではないでしょうか?1)「ちびまる子ちゃん大図鑑」(扶桑社)2)「ICD-10(精神および行動の障害、臨床記述と診断ガイドライン)」(医学書院)3)「DSM-IV-TR(精神疾患の分類と診断の手引)」(医学書院)

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ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】

「うっかりしてた!」みなさんは、「うっかりしてた!」とヒヤっとしたことはありませんか?うっかりミス、いわゆるヒヤリ・ハットです。病院では、誤薬が一番多いヒヤリ・ハットのようです。どうして私たちはうっかりしてしまうのか?どうしてうっかりの程度は人によって違うのか?そして、うっかりを減らすにはどうすればいいのか?今回、これらの疑問を、国民的人気アニメ番組「ドラえもん」でおなじみの、ジャイアンとのび太のキャラクターをモデルにして、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。ジャイアンとのび太に共通する特性ジャイアンは「ガキ大将」で「悪ガキ」です。一方、のび太は、「グズでノロマ」で「弱虫」です。この2人の関係は、いじめっ子といじめられっ子として描かれることが多く、一見すると真反対のキャラクターです。しかし、よくよくこの2人を見て行くと、ある共通した特性や行動のパターンが浮き上がってきます。そして、このパターンは、スネ夫やしずかちゃんなどの他のキャラクターにはっきりとみられないものです。そのポイントは3つです。まず、2人とも、特にジャイアンは、気が早いということです(衝動性)。ジャイアンは、怒りっぽく、喧嘩っ早いです。一方、のび太は、早とちりや言ってはいけないことをボロリと漏らす失言癖があります。第2に、2人とも気が多いということです(多動性)。気の多さは、気の早さが繰り返される落ち着きのなさから来ていると言えます。2人とも、せっかちで、飽きっぽいです。第3に、2人とも、特にのび太は、気が散りやすいということです(不注意)。気の散りやすさは、気の早さや気の多さの裏返しとも言えます。つまり、気が早くて気が多いからこそ、その分、気が散りやすいとも言えます。ジャイアンものび太も要領(順序立て)は悪く、忘れものが多く、授業中に集中して聞いていないことが多いです。そして、先生の言い付けに従うのも苦手で、学校のテストも低い点数が多いです。特に、のび太はぼんやりしがちなため、ドジでおっちょこちょいです。そして、うっかり口を滑らすのは、先ほどの失言癖につながっていきます注意欠如・多動性障害(ADHD)気が早い(衝動性)、気が多い(多動性)、気が散りやすい(不注意)という3つの特性によって、学校や家庭などでの日常生活においてとても困ることが小学校低学年(7歳)までにみられ、続いている場合は、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれます(表1)。ジャイアンは衝動性の傾向が強く(多動性―衝動性優勢型)、のび太は不注意の傾向が強いようです(不注意優勢型)。しかし、この2人の程度は、薬などの積極的な治療が必要な障害と呼べるほどのレベルではなさそうです。また、この特性の傾向の子どもたちの多くは、成長するにつれて、目立たなくなることが多いです。ただ、中には、不注意の特性が大人になっても、残っている場合があります。大事なのは、私たちがこの特性をより良く知ることで、この特性と上手に付き合っていくためのヒントを探ることができるのではないかということです。表1 ADHDの診断基準(DSM-IV)混合型不注意優勢型多動性―衝動性優勢型症状(>6/9項目)が半年以上持続不注意多動性衝動性1. 不注意な間違い2. 集中困難3. 聞こえない4. 指示に従えない5. 順序立てが困難6. 課題への回避7. 物を失くしやすい8. 気が散りやすい9. 忘れっぽい1. 座位で手足を動かす(もじもじ)2. 座っていられない3. 走り回る4. 静かに遊べない5. じっとしていない6. しゃべりすぎる7. 食いぎみ(出し抜け)に答える8. 順番が待てない9. 話の遮り、割り込み7歳(小学校低学年)以前に存在2つ以上の状況(例、学校、家庭、病院、職場など)で存在ADHD特性の二面性―困った面と魅力この特性の困った面は、裏を返せば、魅力にもなります(表2)。どう見えるかは、その時代や文化など周りの状況との折り合いで変わってきます。例えば、日常の世界でのジャイアンとのび太は、困ったキャラとして目に映ることが多いですが、大長編映画で冒険する時のジャイアンとのび太はどうでしょう?この2人は、とても熱血で勇敢でフットワークが軽いのです。そして、決断力があり、リーダーシップをとっています。これは、気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)の特性から来ています。ADHDの秘めたエネルギーです。何ごともそつなくこなすスネ夫や穏やかで大人しいしずかちゃんにはないものです。平和な日常の世界で、ジャイアンが、ムシャクシャしているという理由だけでのび太やスネ夫に八つ当たりするのは困ります。しかし、場面場面をよくよく見ると、例えば、少女マンガを読んで号泣するなど感受性豊かな面もあります(衝動性)。また、のび太の散漫さ(不注意)は、計算問題などの課題をこなすことには向いていません。しかし、緻密さが求められない伸び伸びとした状況では、大らかで癒し系であるとも言えます。表2 ADHDの特性の二面性困った面魅力ジャイアン気が早い(衝動性)怒りっぽいけんかっ早い(暴力)早とちり失言癖衝動買い熱血勇敢、豪快、大胆アイデアマンチャレンジ精神フロンティア(開拓)精神気が多い(多動性)落着きがないせっかち飽きっぽい、移り気エネルギッシュフットワ-クが軽い新し物好きのび太気が散りやすい(不注意)集中力がない、散漫忘れっぽいドジ、おっちょこちょいおっとり、お淑やか大らか、癒し系おとぼけキャラADHDの特性の原因―生物学的因子それでは、気が早い、気が多い、気が散りやすいというADHDの特性の原因は何なんでしょうか?それは、一言で言えば、脳の発達の偏りです。その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のアンバランスなどが明らかになってきています。そして、さらにその原因に関しては、遺伝、胎生期の母体の喫煙、周生期の合併症などの生物学的因子が報告されています。未来のジャイアンの息子・ヤサシとのび太の息子・ノビスケは、それぞれの父親のキャラから逆転しているのも、遺伝の要素の示唆に富みます。ADHDの特性のメカニズム私たちの目や耳に入っていく情報は、インプットされる段階で、脳によって無意識的に必要なものと必要でないものに強弱を付けられています。この情報量の調整によって、仕事、勉強、日常生活で、一定時間の適度な集中力を発揮することができます。ところが、この調整がうまくいかないと、目や耳に入っていく全ての情報、特に欲求の対象に脳が飛び付いてしまうのです。そして、頭の中では、必要な情報が不要な情報に埋もれてしまい、逆に、頭がパンクして全く尻込んでしまうのです。学校から帰り、宿題に取り組んでいるのび太は、階下のママの「おやつよ」との声や、ジャイアンとスネ夫の「野球に行こうぜ」との誘いに、すぐに気が散ってしまうのです。また、欲求は、怒りや喜びなどの感情に密接につながっているので、ジャイアンが情に熱いのも納得がいきます。ADHDの特性を例えるなら、アクセルが効きすぎる車です。アクセルが効きすぎる分、ブレーキやハンドルは消耗し、しかも燃費が悪く燃料切れですぐに止まってしまいます。この車にとっては、特にこまめなアクセルとブレーキのバランスやハンドル裁きを使い分けることが必要な小道や路地、つまり複雑な情報処理が求められる現代社会を「走り抜く」のはとても大変なことなのです。環境調整―かかわり方のコツ、構造化、視覚化ADHDの特性は、ちょうど足の速い人も遅い人もいるのと同じように、その人のユニークさとも言えます。彼らがうまくいかないのは、単に努力が足りないのではなく、ぴったり合った取り組み(環境調整)が足りないのです。例えるなら、このユニークな「車」には、特別な「ナビ」(かかわり方のコツ)、こまめな「交通整理」(構造化)、そして目に見える「交通標識」(視覚化)が必要だということです。(1)ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)の母ちゃんへのアドバイスジャイアンは、店番や配達をサボったり、弱い者いじめをしたり、リサイタルで近所に迷惑をかけたりしています。これらが見つかると、ジャイアンの母ちゃんは、ゲンコツや平手打ちなどの体罰を加えて叱りつけます。ジャイアンが唯一、心の底から恐れている存在です。このかかわり方はジャイアンの乱暴さ(衝動性)の抑えになっているように描かれていますが、果たしてそうでしょうか?実は、皮肉にも、このかかわり方が衝動性をより強めている可能性があります。「悪い子は叩いていい」という学習をしてしまい、「叩かれる子は叩く子になる」リスクを大いにはらんでいます(モデリング)。1. かかわり方のコツジャイアンの母ちゃんへのアドバイスとして、まず、かかわり方のコツは、怒りなどのネガティブな感情ではなく、愛情深さや改善される喜びなどのポジティブな感情を前面に出すことです。例えば、騒々しい時は「うるさい!」と一喝するのではなく、「声のボリュームを8から5に下げると嬉しい」と具体的に肯定的に伝えることです。2. 視覚化と構造化そして、やって良いことと悪いことの線引きのルールを目に見える形にすることです(視覚的構造化)。外食や遊園地にいっしょに行くなどのご褒美リストや「がんばり表」をリビングや本人の部屋の壁に貼り、ご褒美を目指して毎日達成するとポイントが加算されるというポイント制(トークンエコノミー)を導入します(行動療法)。例えるなら、目の前に常にニンジンをぶら下げている馬の状況を作るのです(動機付け)。もちろん好ましい行動は褒めますが、逆に、好ましくない行動をした時は、まず、ポイントが加算されないことへの残念さを指摘することです。その他、トイレ掃除、お小遣いの減額、行動の制限などのペナルティを設けること、さらには一定期間、無視することがあげられます。大事なのは、好ましくない時の対応がどんなことであるかをあらかじめ本人に伝え、親もルールに従っていることを示すことです。また、有り余るエネルギー(多動性)をうまく発散させるために、地域のスポーツクラブなどに積極的に参加させることです(転換)。また、手足のもじもじ(多動性)は、貧乏揺すり、ペン回し、テーブルの指叩きなどのより受け入れられる「癖」に転換していくこともできます(代償行為)。さらに、例えば、靴の中での靴底への足指叩きなど見えないところへの転換はなお適応的であると言えます。(2)のび太(不注意優勢型)のママへのアドバイスのび太は、いつも部屋で昼寝をして、なかなか勉強をしません。そんなのび太がテストで0点を取ってくると、のび太のママは、のび太を毎回ガミガミと叱りつけています。ママはどうやら「叱ると子どもは勉強する」「勉強するまで叱り続けるべきである」という信念(スキーマ)を持っているようです。いわゆる古典的な教育ママのモデルです。しかし、残念なことに、叱られるのび太は進歩していません。と同時に、叱るママも進歩していないのです。「同じことを繰り返している」と繰り返し叱ること自体、皮肉にも「同じことを繰り返している」と言えます。のび太は懲りていないわけですが、同時に、実はママも懲りていないのでした。1. かかわり方のコツのび太のママへのアドバイスは、「叱り方」、つまり、かかわり方を変えることです。まず、目に付くのが、ママは、「勉強しなさい!」「早くやりなさい!」と口うるさく勤勉さを強調しますが、自分はいつも居間でテレビを見ていて勤勉ではありません(ダブルスタンダード)。もちろんママは主婦業を立派にこなしてはいるのですが、何かに打ち込むという勤勉さのモデルを、のび太に目に見える形で示すことが効果的です(視覚化)。例えば、ママは、日課の家事だけでなく、趣味ややりたいことの目標を掲げ、それに向かって努力している背中をさりげなく見せることです。2. 構造化ジャイアンへの枠組みと同じように、のび太にも生活の枠組みを目に見える形にすることが大切です(視覚的構造化)。これは私たちの生活にもそのまま応用できます。特に、最初に触れたヒヤリ・ハットを防止するためのヒントになる取り組み(環境調整)です。a. 時間の構造化まず、日課表や時間割によって、やるべき定時を決めることです(時間の構造化)。例えば、宿題をやる時間を決めます。その内容は、飽きないようにバリエーションで小分けにして、その間のこまめな休憩時間も決めます。そして、カウントダウンしていくキッチンタイマーを目の前にして、集中力が途切れないようにします。また、部屋を散らかしやすいなら、1日5分のお掃除タイムを決めます。アポのある日は、段取りの予定を決めます。例えば、遅刻予防のためには、決められた15分前の時間を自分の予定表に設定します。その予定表を見るのを忘れるのを防ぐため、予定表を見る時間も決めます。例えば、毎食後などです。また、付箋などのリマインダー、携帯電話のタイマー機能や「秘書アプリ」も最近は大いに活用できます。b. 場所の構造化部屋を散らかさないためには、物のあるべき定位置を決めることです(場所の構造化)。部屋の散らかりは、物の置き場所が決まっていないという頭の中の散らかり具合を映し出しています。例えば、物を使ったら、必ず定位置に戻す習慣を付けることです。また、書類などの大切なものがなくならないように、大切なものを置く場所を決めます。こまかく整理できるように、小箱も有効に活用できます。冷蔵庫の中も定位置を決めれば、無暗に突っ込まなくなります。定位置には、文字や絵で示しておけば、意識付けが高まります(視覚的構造化)。また、集中力を高める理想的な作業環境を知っておくことも重要です。実は、のび太の部屋は、最も気が散りやすい学習環境のモデルなのです。3つのポイントがあげられます。まず、机が窓に向いていることです。窓から見える人や鳥など動いているものに目を奪われがちになります。窓は、視界に入りにくい位置にあるのが理想的です。2つ目は、ドアが視界に入らない点です。ママにいつ覗かれるかと気になってしまう可能性があります。ドアは、視界に入る位置にあるのが理想的です。3つ目は、背後に空間がある点です。そこでドラえもんがどら焼きを食べていれば、どうでしょう?人は本能的に背後が壁だと落ち着きますので、背後は、壁であるのが理想的です。3. 視覚化ご褒美リスト、がんばり表、親の背中、付箋などのリマインダーなど、目に見える形にして、目に付きやすくすることについては、すでに触れてきました(視覚化)。さらに、部屋の片付けのポイントとして、大きな棚を買わないことです。大きな棚は、散らかったものを詰め込んで見えなくしているだけになります。ちょうど、部屋が片付いていない時にお客さんが来たら、散らかったものを一気に押入れに押し込んだり、一か所に寄せて大きな布を被せるのと同じです。これは、片付けたのではなく、隠しただけなのです。視覚化の真逆の行動です。つまり、ポイントは、散らかった様子を自分に見える形にして、お掃除のやる気を高めることです。のび太が0点の答案を隠さないのと同じくらい大切なことと言えます。(3)2人の母へのアドバイス1. リスクこのままジャイアンとのび太が中学生になったらどうなるでしょうか?マンガやアニメで、大学生や大人の彼らは描かれていますが、中学生や高校生の多感な思春期の彼らは描かれていません。これは、ADHDの特性のあるキャラクターを描いたドラえもんの「ブラックボックス」と言えます。ジャイアンの「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という身勝手さは、このままだと対人トラブルや反社会的な行動を生み出すリスクがあります(素行障害、反社会性パーソナリティ)。その時は、もはや体格的に母親の力では抑えが効きません。一方、のび太は、「のび太のくせに(生意気だぞ)」と言われ続けて、「どうせぼくなんて」「ぼくは何をやってもだめなんだ」と自信をなくし(低い自己評価)、そこに目を付けられて、ますますいじめのターゲットにされるかもしれません。自信のなさは、対人関係を回避しようとする引きこもりを生み出すリスクがあります(回避性パーソナリティ)。つまり、ADHDの特性は、これ自体は個性なのですが、性格(パーソナリティ)を形作るうえで大きな影響を与えやすいということです。そして、一番重要なことは、この性格は、育む環境によって、魅力にもリスクにもなりうるということです。ADHDの特性によるリスクは、例えるなら、高血圧のリスクです。高血圧は、これ自体は困りませんが、心臓病(虚血性心疾患)や脳卒中(脳血管障害)などのリスクがあります。これと同じように、ADHDの特性は反社会性や回避性のパーソナリティのリスクがあるのです。2. 自尊心と他人への敬意を高める高血圧の人が心臓病や脳卒中を予防するためには、食事療法や運動療法、深刻な場合は薬物療法が必要です。これと同じように、ADHDの特性のある子が、より社会に合わせられ、個性を発揮するためには、その方向付けがとても大切であるということが分かります。そのポイントは、自分を大切にする心(自尊心)と他人を大切にする心(敬意)ことです。そのためには、先ほど触れたかかわり方のコツを踏まえて、彼らが小さな成功体験を積み重ねていくことです。例えば、本人の「良いところリスト」を作って、貼るのも良いでしょう。ジャイアンの母ちゃんは、ジャイアンが店を手伝っていることを当たり前だと思わず、感謝することをお勧めしたいです。すると、ジャイアンは、自尊心が満たされていることにより、他人への感謝や敬意を示すことのできる大人に育っていきます。のび太のママは、のび太の特技であるあやとりや射撃のセンスを勉強に役立たないくだらないことだと思わず、好ましい評価をして、親子でいっしょに大会や集まりに参加することをお勧めしたいところです。体罰を加えたり、ガミガミ叱るのは、自尊心が低く、他人への敬意も払えない子を育て上げるハイリスクの教育ママのモデルと言えます。ここから、親もADHDの特性をよく知って、自分も他人も大切にできる心を育むかかわり方を勉強する必要があることが分かります(ペアレントトレーニング)。表3 環境調整かかわり方のコツ構造化視覚化ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)×体罰を加える◎ポジティブな感情を出す◎スポーツで発散する×隠す◎目に見える形にする◎目に付きやすくする◎具体的、肯定的に伝える◎良いところリストを作る◎ご褒美リスト、がんばり表を作るのび太(不注意優勢型)△ガミガミ叱る◎親が努力している背中を見せる◎定時、定位置、予定を決める◎小分けにする◎バリエーションを付ける(4)ドラえもんモデル―自尊心を高め教訓を導くジャイアンとのび太の未来にリスクがある中、登場するのがドラえもんです。秘密道具を出すドラえもんののび太へのかかわり方は、さきほど触れたジャイアンの母ちゃんやのび太のママとは対照的です。秘密道具は、のび太の望みを次々と叶えていると思われがちですが、実はそうでもありません。例えば、ドラえもんは、非常識なリクエストにはきっぱりダメと言い、聞き入れません。ドラえもんなりに何の秘密道具を出すかの基準がはっきりとあるのです。その基準から、どうやら、主に2つのメッセージ性がありそうです。1つ目は、自信を引き出し、自尊心を高めることです。例えば、「コンピューターペンシル」や「暗記パン」によって、勉強ができるという爽快感や達成感を味わい、成功体験を積み重ねていくことは、「自分はできる」という自信や「次はこうなりたい」というビジョンを引き出してくれます。道具は、単にのび太を助けているのではなく、のび太を前向きにさせる後押しをしているのです。2つ目は、道具を使うことによって教訓を得ることです。例えば、秘密道具によって、初めは問題が解決したかに見えて期待を抱かせますが、やがて、のび太が使い方を間違ったり、「絶妙」なタイミングで道具が壊れる展開が待っていることです。そして、最後に、ドラえもんが「道具に頼るからだ」と戒めるストーリーのオチです。のび太だけでなく、見ている私たちが気付くのは、道具を使うことは根本的な問題の解決になっていないこと、そして問題はやはり自分で取り組むのが大切であるということです。自尊心を高め教訓を導くこのドラえもんモデルは、いつもそばにいて支え続けるという母性的な面と、あるべき倫理観を示す父性的な面をバランス良く兼ね備えており、のび太の成長に欠かせない存在です。ADHDの特性の起源そもそも、なぜこのようなADHDの特性が多かれ少なかれ私たちに存在するのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由がありそうです。その理由とは、もともと人間は、ADHDの特性を持っていたのではないかとういことです。太古の昔から、人間を含む生き物は、食うか食われるかの生存競争から、早い動きに自動的に注意を向ける能力が進化しました(衝動性)。その反面、明らかに遅い動きに注意を向ける能力は、生存競争において必要がないため、進化しませんでした(チェンジ・ブラインドネス)。例えば、テレビのバラエティで、ある映像でどこが徐々に変化しているかを言い当てるクイズは、まさにこの遅い動きへの注意の能力が試されています。そして、このクイズは、きっとADHDの特性の強い人には苦手でしょう。さらに、人間の狩猟採集社会の時代では、夜中に寝ている時でも、獲物がさっとそばを横切れば、すかさず仕留める必要があります(衝動性)。また、飢餓が続けば、獲物や果実を求めて遠出をして動き回ります(多動性)。そんな勇敢であると同時にある程度向こう見ずな遺伝子を持つ種族が生き延び、子孫を残してきたのでした(適者生存)。ところが、1万年前、ほぼ同時期に農耕と牧畜が始まったことにより、社会構造が大きく変わりました。それは、狩猟採集社会から農耕牧畜社会への移り変わりです。狩猟民族の持つ瞬間的な高い集中力(瞬発性)よりも、新しく生まれた農耕民族が持つ持続的な一定の集中力(安定性)、つまりADHDの特性の少なさに価値が置かれるようになりました。ADHDの特性をより分かりやすくするために大胆に言うと、人類は、ぱっと応じるガツガツタイプとじっくり粘るコツコツタイプの2タイプに分けることができるということです。例えるなら、イソップ童話に登場する「兎と亀」です(表3)。国ごとのADHDの特性の程度の違いのわけ世界的に見ると、日本は、ADHDの子どもが少ないです。これはなぜでしょうか?1つの理由としては、日本は国土が狭い島国であったことです。この狭さ(狭小性)と出にくさ(閉鎖性)により、ADHDの特性は発揮されず、この血筋があまり増えなかったことが考えられます。もう1つの理由は、江戸時代に発展した形式を重んじる文化的な枠組みです。それまでの戦国時代は、ADHDの特性の強い戦国武将たちがしのぎを削っていました。特に織田信長は、ADHDの特性が強く、戦で先頭を切り、情報戦略を張り巡らし、時代を先駆ける型破りな革命児でした。現代の私たちも好きな人は多いです。しかし、結果的に、ADHDの特性の少ない徳川家康が天下統一を果たしてしまいました。信長と家康のADHDの特性の違いは対照的です。それは、「泣かぬなら殺してしまえ」と「泣くまで待とう」とそれぞれ対照的に読まれたホトトギスの俳句が物語っています。家康によって、鎖国が推し進められ、長らく平和な世の中が続きました。武士道や茶道などあらゆる形式が重んじられました。このような形式の重んじられた安定した封建社会は、ADHDの特性の少ない人たちが活躍するのに有利です。その一方、ADHDの特性の強い人たちにとっては、幼少期からの枠組みの強い環境がルールを守ることを根付かせて、ADHDの特性を目立たなくさせてきたのでしょう。幕末の激動の時代にようやくADHDの特性を発揮できる状況がやってきました。そして、その時に活躍したのが、ADHDの特性のとても強い坂本龍馬でした。彼は、気性が激しいことでも有名ですが、発想の転換が早く、行動力があり、時代を先駆けることができたのでした。一方、現代のアメリカ合衆国は、ADHDの子どもが多いとの統計があります。この理由は、そもそも彼らの祖先は、冒険心を持って新大陸を目指して集まった人たち、つまり、ADHDの特性の強い人たちだからではないかと思われます。だからこそ、同時に、アメリカ合衆国は、特許数が世界一です。彼らには、ADHDの特性の強いアイデアマンが多いのです。ジョブマッチング(表4)―ADHDの良さを引き出すそして今、新たな時代がやってきています。情報革命が起こり、情報が錯綜する中、国際的な競争力、発想力、行動力が問われる時代です。同時に、お財布携帯、統一化した交通カード、スケジュール管理、検索などのITによるシステム化により、生活スタイルがシンプルになり、ADHDの特性の強い人にも生きやすい時代になってきました。以前よりもシンプルで激動の「大草原」を、この「アクセル」の効きすぎる車は、きっと真っ先に駆け抜けていくでしょう。そのために、私たちはADHDの特性をよく知り、リスクをうまくカバーしつつ、その特性に合った職場環境を見いだす必要があります(ジョブマッチング)。例えば、ジャイアンの夢は、家業の雑貨店から「ゴウダショッピングモール」という自分の名を冠した大型百貨店を世界展開することです。いかにもジャイアンらしいアイデアです。実際に、未来のジャイアンは、「スーパー・ジャイアンズ」というスーパーマーケットを起業しています。ADHDの特性を生かして、起業家としての能力を発揮したのでした。しかし、ADHDの特性のリスクを考えれば、経営は優秀な部下に任せて、ジャイアンはあくまで次の起業に力を注ぐべきだということです。また、ADHDの特性の強い営業マンは、顧客の懐に飛び込むのがうまいのです。衝動性が積極性や仕事の早さとして生かされています。しかし、よくありがちな失敗は、アフターケアを疎かにするということです。よって、会社組織の取り組みとしては、アフターケアには、ADHDの特性の少ない別の担当者を向かわせるというチーム体制を敷くことです。さらに、とてもADHDの特性の強い人は、冒険家に向いています。冒険は、目的がシンプルで、達成されたら終わりというように期間が限定されています。彼らは、多動性や衝動性から、積極的な行動がパターン化して、刺激を求めやすくなっているのです。例えば、死ぬかもしれないけど、エベレストに登ることです。あえて危険な目に身をさらす冒険家の心理状態です(リスクテイカー)。これは、あえて遅刻ぎりぎりに到着するなど遅刻常習犯の心理でもあります。よって、厳しいノルマや規律を求められる学校や会社にはあまり向かないことになります。そして、方向付けが間違えば、その衝動性から、アルコール依存症や薬物依存症になりやすいリスクも潜んでいます。また、医療職において、ADHDの特性を発揮する場は、高い集中力やスピードが求められる救急や夜間当直と言えます。表4 ジョブマッチンングガツガツタイプ(狩猟採集民族)コツコツタイプ(農耕牧畜民族)ADHD特性多い(強い)少ない(弱い)モデル兎織田信長、坂本龍馬亀徳川家康特徴瞬間的な高い集中力(ぱっと応じる瞬発性)持続的な一定の集中力(じっくり粘る安定性)例一般職起業家、冒険家クリエーター、商品開発漁業、スポーツマン経営者、管理職公務員、サラリーマン農業、牧畜医療職急性疾患、救命救急緊急手術、精神科救急夜間当直慢性疾患精神疾患リハビリテーション薬物療法―「ドラえもん薬(ぐすり)」前半で触れたADHDの診断基準を満たしている場合、薬物療法を行います。その効果は、薬による一定の刺激覚醒により集中力を持続させ、学校や家庭での生活を維持していきます。これと同じように、ドラえもんの存在は、ワクワクする体験や冒険を通してのび太を適度に刺激している点で、「ドラえもん薬(ぐすり)」という一種の薬物療法とも言えそうです。では、私たちにとっての「ドラえもん薬」とは何でしょうか?それは、ワクワク感という心の覚醒を持続するために、日々の仕事や日常生活の中での夢や目標に向かって突き進んでいくことそのものです。ここに、最初に触れた「うっかりを減らすにはどうすればいいのか?」という疑問に対しての答えが見えてきます。1つの答えは、のび太のママへのアドバイスでもある作業の枠組みでした(構造化)。それは、定時、定位置、予定を決めるなど作業やチェックをシンプルに目に見える形にすることです。これに加えて、はっきりしてきたもう1つの答えは、仕事や日常生活の夢や目標を自ら意識付けて、日々の生活を生き生きと生きる心意気であると言えます。この自らへの刺激によって、のび太がしずかちゃんと結婚するという夢を叶えるように、私たちも人生をより豊かに歩んでいくことができるのではないでしょうか?1)「注意欠如・多動性障害―ADHD―診断・治療ガイドライン」(じほう) 齊藤万比古 20082)「ADHDのび太ジャイアン症候群」(主婦の友社) 司馬理英子 20083)「他人とうまくいかないのは、発達障害だから?」(PHP研究所) 姜昌勲 20124)「『のび太』という生き方」(アスコム) 横山泰行 2004

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4年ぶりの改訂!『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版』の改訂ポイントは?

 4月19日(金)~4月21日(日)、東京国際フォーラム(東京・千代田区)にて「第53回 日本呼吸器学会学術講演会」が行われた。 学会2日目、2009年以来4年ぶりの改訂となる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版」のポイントについて、作成委員長である永井厚志氏(東京女子医科大学 統括病院長)より発表された。 主な改訂のポイントは以下のとおり。●COPDの疾患定義ガイドライン第3版のCOPDの定義は「体動時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とする」(一部抜粋)であったが、第4版では「労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とするが、これらの症状に乏しいこともある」(一部抜粋)と改訂されている。COPDは自覚症状が乏しいケースもあるため、見過ごされる事も少なくない。永井氏はこれを避けるために、あえて「症状に乏しいこともある」という記載を追記したとしている。●COPDの病態概念COPDの併存疾患、合併疾患の内容がアップデートされた。なかでも、「喘息とCOPDのオーバーラップ症候群」と「気腫合併肺線維症(CPFE)」については充実した内容が盛り込まれている。また近年、話題となっているオーバーラップ症候群については、喘息を合併していないCOPDと比較して、予後が不良となることも記載された。●薬物治療 長時間作用性β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、吸入用ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA)配合薬などの薬剤が新たに上市されため、エビデンスとともにその情報がまとめられた。●COPDの増悪COPDの増悪に対する管理は、QOLや予後の観点から重要である。わが国でも、その認識を高める必要があるため、増悪管理について記載内容の見直しが行われた。●運動耐容能から身体活動性への概念転換COPD患者の運動耐容能はこれまで6分間歩行試験などが指標とされてきたが、患者自身の活動性に、より重きを置いた身体活動性へ概念が転換された。●災害時などへの対応東日本大震災後に作成する初めてのガイドラインとなるため、災害時の対応に関する記述が盛り込まれた。●その他「気流閉塞」と「気流制限」の用語の整理や、参考文献についてMindsに準じたエビデンスレベルの付記が行われた。 今回の第4版は、初めて日本呼吸器学会会員からのパブリックコメントを参考に作成された改訂版である。したがって、永井氏は今回のガイドラインについて「学会全体の協力により作成したガイドラインである」と述べた。

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切除不能大腸がんの標準化学療法後に新たな治療薬

 現在、切除不能進行・再発大腸がんに対する治療は、大腸癌治療ガイドライン(2010年版)において、KRAS野生型では3次治療、KRAS変異型では2次治療までの治療アルゴリズムが推奨されており、国内では多くの医師がこれを順守している。先月25日、これらの標準化学療法が無効になった症例に対する治療薬として、レゴラフェニブ(商品名:スチバーガ)が承認された。東京医科歯科大学大学院教授の杉原 健一氏は、4月23日のバイエル薬品株式会社主催のプレスセミナーで、本剤の作用機序や第III相臨床試験成績を紹介し、標準化学療法後の新たな治療薬として期待を示した。そのうえで、副作用管理の重要性を強調し、発売後早期に症例データを集積し、自身が会長を務める「大腸癌研究会」のホームページに結果を掲載し注意を喚起していきたいと語った。 講演で、杉原氏はまず、わが国では大腸がんは非常な勢いで増加しており、その最も大きな要因は高齢社会になったことであると述べ、自施設でも80代の患者の手術が普通になってきていることを紹介した。外科切除後に再発する約3割の患者さんには化学療法が施行されるが、標準化学療法が無効になっても全身状態が良好な患者は多く、その後の治療ニーズは高いという。経口マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブは、このような標準化学療法後の患者に対する治療薬として承認された。大腸がんでは多数のシグナル伝達経路が関与しているため、マルチターゲットの薬剤が有効、と杉原氏は説明した。 続いて、標準化学療法施行後に病勢が進行した切除不能大腸がん患者760例を、レゴラフェニブ群(505例)とプラセボ群(255例)に分け検討した国際共同第III相臨床試験「CORRECT試験」の成績について紹介した。本試験には、日本から100例が登録されたという。 主要評価項目である全生存期間は、レゴラフェニブ群の中央値が6.4ヵ月と、プラセボ群の5.0ヵ月に比べ有意に上回った(ハザード比:0.77、p=0.0052)。また、サブグループ解析では、原発部位を除く各サブグループにおいてレゴラフェニブ群のほうが優れ、KRAS変異に影響されないことが示された。無増悪生存期間、病勢コントロール率においても有意差を示した。 本剤の主な副作用としては、手足の皮膚反応、疲労、下痢、高血圧、皮疹が挙げられる。杉原氏は、グレード3になる前に減量・休薬するなど、副作用を十分にコントロールすべきと述べ、副作用を管理し長期に治療することが患者さんのメリットにつながると語った。 すでに、最新の米国NCCNガイドライン(version 3. 2013)では、切除不能進行・再発大腸がんに対して、KRAS野生型では4次治療、KRAS変異型では3次治療にレゴラフェニブが記載されており、杉原氏は、わが国の大腸癌治療ガイドラインでも、次回の改訂ではレゴラフェニブが3次・4次治療として記載される可能性を示唆した。

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【CASE REPORT】腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症 症例解説

■症例:65歳 女性 腰椎圧迫骨折後の慢性腰痛症腰椎圧迫骨折の急性期に、NSAIDs抵抗性の侵害受容性疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を段階的に導入して十分な鎮痛効果が得られ、痛みの緩和だけでなくADLの改善が達成された症例である。高齢者の腰椎圧迫骨折後の5年生存率は30%との報告(Lau E, et al. J Bone Joint Surg Am. 2008; 90: 1479-1486)もあり、腰椎圧迫骨折による疼痛(とくに体動時痛)→安静臥床の遷延→廃用症候群→寝たきり→誤嚥性肺炎→生命危機という経過が考えられる。オピオイド鎮痛薬は最も強力な鎮痛薬であることから、痛みの程度に応じて使用しADLを改善することはきわめて重要な意義を持つ。さらに、オピオイド鎮痛薬の導入にあたっては嘔気や便秘といった副作用対策も予防的に行われており、患者のオピオイド鎮痛薬に対する忍容性も達成されていた。本症例のように腰椎圧迫骨折後に痛みが遷延することは決して珍しくはない。しかしながら、このような遷延する痛みが骨折に伴う侵害受容性疼痛だといえるだろうか。言い換えると、「遷延する痛みが器質的な原因の結果として妥当であるか否か」ということだが、これは必ずしも明確に妥当であるとは言えないことが多い。確かに、本症例では、通常組織傷害が治癒すると考えられる3ヵ月を経過しても、体動とは無関係な持続痛が徐々に増悪・拡大しており、当初の腰椎圧迫骨折だけが痛みの原因とは考えにくい。したがって、われわれは非特異的腰痛症と診断した。このような症例に対して、オピオイド鎮痛薬の効果が明確では無いにもかかわらず、オピオイド鎮痛薬をやみくもに漸増し、さらに頓用薬を併用していたことは不適切であるといわざるを得ない。オピオイド鎮痛薬の使用にあたっては、1. Analgesia (オピオイド鎮痛薬を適切に使用し痛みを緩和させること)、2. Activities of daily living(オピオイド鎮痛薬の使用はADLを改善するためであることを医師が理解し患者に教育すること)、3. Adverse effects(オピオイド鎮痛薬による副作用対策を十分に実施すること)、4. Aberrant drug taking behavior(精神依存や濫用を含む不適切な使用を常に評価し、患者教育を行うこと)の頭文字をとって4Asという注意事項が知られている。本症例は急性期のAnalgesiaとAdverse effectsへの対処は適切であったと考えられるが、腰椎圧迫骨折から3ヵ月が経過した慢性期での対応については検討の余地がある。日本ペインクリニック学会が発行した「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン」では、オピオイド鎮痛薬の使用目的として、痛みを単に緩和するだけでなくADLを改善するために使用することを推奨している。したがって、組織修復(骨癒合)がある程度進んだであろう時期には、痛みが残存している状況でもオピオイド鎮痛薬を増加させずに運動療法の導入やADL改善の意義について教育すべきであったと考えられる。このことは、慢性腰痛に対して長期安静がred flagとして認識されていることと同義である。よって本症例で慢性期に痛みが残存しておりオピオイド鎮痛薬を増量しても痛みが緩和しないことから、医師が安静を指示していたことは適切であるとは言い難い。また、器質的障害による疼痛(侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛)に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合には精神依存や濫用を引き起こしにくいことが基礎研究によって示されているが、この知見は言い換えるとオピオイド鎮痛薬を非器質的な疼痛に対して使用する場合には精神依存を防止し難いことを意味する。また、オピオイド鎮痛薬の血中濃度が乱高下すると精神依存を形成しやすい。したがって、日本ペインクリニック学会の指針でも、オピオイド鎮痛薬は器質的障害が明確な疼痛疾患に対して使用し、その使用時にはオピオイド鎮痛薬の血中濃度を一定にするために徐放製剤(2013年3月現在、非がん性慢性疼痛に対して保険適応を持つ製剤は、デュロテップMTパッチ®、トラムセット®、ノルスパンテープ®である)を使用することが推奨されている。また、このようなオピオイド鎮痛薬を使用する場合にも、非がん性慢性疼痛に対しては一日量として経口モルヒネ製剤120mg換算までにとどめることも推奨されている。これは、鎮痛薬を増量することとQOLの改善効果が必ずしも線形相関にはならず天井効果が現れることがあり、高用量では精神依存や濫用への懸念があるからである。さらに、オピオイド鎮痛薬の使用期間が長くなればなるほど精神依存や濫用、不適切使用が増加することも報告されており、オピオイド鎮痛薬の使用期間は可能な限り短期間にとどめなければならない。このほか、患者自身が鎮痛薬を管理する能力が低下している場合には、家族など患者の介護者にオピオイド鎮痛薬についての知識を教育し、その管理に関与するように指導することも重要である。本症例をまとめると、急性期の腰椎圧迫骨折に対してオピオイド鎮痛薬を早期から導入し、疼痛緩和とADLの改善を達成したことは適切であった。慢性期の腰痛に対して、オピオイド鎮痛薬を増量するとともに頓用させていた点は不適切であった。したがって、オピオイド鎮痛薬の使用にあたっては、治療指針などの推奨事項を十分に理解したうえで適切に使用し、そのことを患者に教育しなければならない。つまり、オピオイド鎮痛薬に対する精神依存や濫用の形成から患者を保護することは医師の義務であると同時に、これらが疑われる患者やオピオイド鎮痛薬の不適切使用が認められる患者に対しては、痛みの重症度にかかわらずオピオイド鎮痛薬を処方しないことは医師の権利であると考えている。

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エキスパートに聞く!「関節リウマチ」Q&A part2

CareNet.comでは4月の関節リウマチ特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より関節リウマチ診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、慶應義塾大学 花岡 洋成先生にご回答いただきました。今回は生物学的製剤の投与方法や新規薬剤に関する質問です。生物学的製剤の開始時期について教えてください。また、開始時にルーチンで実施する検査を教えてください。日本リウマチ学会より、関節リウマチに対するTNF阻害薬、トシリズマブ、アバタセプト使用ガイドラインが発行されている。これに基づくと、1.既存の抗リウマチ薬通常量を3ヵ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者(コントロール不良の目安として、圧痛関節数6関節以上、腫脹関節数6関節以上、CRP 2.0mg/dL以上あるいはESR 28mm/hr以上)や、画像検査における進行性の骨びらんを認める患者、DAS28-ESRが3.2(moderate disease activity)以上の患者2.既存の抗リウマチ薬による治療歴のない場合でも、罹病期間が6ヵ月未満の患者では、DAS28-ESRが5.1超(high disease activity)で、さらに予後不良因子(RF陽性、抗CCP抗体陽性または画像検査における骨びらんを認める)を有する患者には、メトトレキサート(MTX)との併用による使用を考慮するとある。開始時のルーチンで施行する検査は、上記ガイドラインに記されている禁忌・要注意事項に該当する患者を除外する目的で、以下の検査を行う。白血球分画を含む末梢血検査、β-Dグルカン、胸部X線、ツベルクリン反応、クォンティフェロン(QFT)、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体また開始後の骨破壊の進展を評価するために、生物学的製剤開始前の関節X線を撮影することが多い。生物学的製剤の休薬や中止の判断基準を教えてください。いくつかの生物学的製剤で、休薬後、寛解や低疾患活動性を維持できるか(バイオフリー)を検証されている。日本発のエビデンスで最初の報告はRRR studyである(Ann Rheum Dis. 2010; 69: 1286-1291)。これはインフリキシマブによって低疾患活動性および寛解を24週間以上維持できた患者を対象に、インフリキシマブを中止し、その1年後の休薬達成率を確認したものである。その結果、55%が休薬を達成し続けた。ここで、休薬を達成し続けられた群は、そうでない群と比較して罹病期間が短く(4.7 vs 8.6年、p=0.02)、mTSS(modified total sharp score)が低値(46.9 vs 97.2、p=0.02)であると報告されている。他の製剤については検証中のものが多く確定的なことは言えないが、早期例で骨破壊が少なく、深い寛解を維持できた症例はバイオフリー寛解を維持しやすいようである。生物学的製剤投与中の感染症の早期発見方法について教えてください。わが国で施行した市販後全例調査の結果、生物学的製剤使用者の1~2%で重篤な細菌性肺炎の報告があった。ただし、早期発見する確実な手段はない。重要なことは感染症のリスクを評価し、リスクが高い症例は注意深く慎重に観察していくことである。さらに、事前の肺炎球菌ワクチンや冬期のインフルエンザワクチン接種を推奨する。生物学的製剤において感染症のリスクとして共通しているのは、ステロイドの内服、既存の肺病変、高齢、長期罹患などである(Arthritis Rheum. 2006; 54: 628-634)。さらに、インフリキシマブでは投与開始20~60日に細菌性肺炎の発症が増加する(Ann Rheum Dis. 2008; 67: 189-194)。よって投与2ヵ月以内は注意しながら診療する。また、トシリズマブ投与例ではCRPは上昇しないことが知られているため、スクリーニングの画像検査を積極的に行うことが望ましい。また、ニューモシスチス肺炎も0.2~0.3%程度報告されている。これについては、β-Dグルカンの測定を定期的に行い、労作時呼吸困難や咳嗽などを訴えた症例は慎重に精査を進めていく。間質性肺炎を合併した関節リウマチ患者に対して、どのように治療したらよいでしょうか?間質性肺疾患合併例ではMTX肺炎を誘発する懸念があるため、MTXを軸とした管理ができないことがある。米国リウマチ学会の治療推奨(Arthritis Care Res. 2012; 64: 625-639)などに基づき治療戦略を決定するが、一般的にわが国では、まず推奨度Aの抗リウマチ薬(ブシラミン、サラゾスルファピリジン、タクロリムスなど)で疾患活動性のコントロールを試みることが多い。これで活動性が抑制できなければ生物学的製剤の適応を考慮する。例外的に、活動性がきわめて高く、予後不良因子を有する症例や短期間で骨破壊が進行する症例などでは、生物学的製剤を積極的に第一選択薬として用いることもある。この場合、MTX併用を必須とするインフリキシマブは投与できない。よって、残りの製剤のどれかを選択することになるが、「既存の肺病変」の存在は生物学的製剤において重篤感染症やニューモシスチス肺炎などのリスク因子になりうる(N Engl J Med. 2007; 357 : 1874-1876)ため、リスクとベネフィットを考慮して治療方針を決定する。JAK阻害薬(トファシチニブ)など、新規薬剤の可能性について教えてください。生物学的製剤の登場によって関節リウマチの診療は大きく変わった。これらは劇的な効果をもたらしたが、無効例も存在することは間違いなく、TNFやIL-6などの阻害だけでは病態を十分制御できないことを示唆している。これを受けて、現在、新規治療薬として1,000kDa以下の低分子化合物の開発が進行しており、なかでもJAK阻害薬の有効性が臨床でも確認されている。FDAが、2012年11月に関節リウマチの治療薬として、JAK1/JAK3阻害薬であるトファシチニブを認可した。承認用量である5mg 1日2回12週間の投与によって、12.5%の寛解率を示した(Arthritis Rheum. 2012; 64: 617-629)。その効果は生物学的製剤に匹敵する。一方、JAK阻害によって多数のサイトカインシグナルが阻害され、炎症と免疫に与える影響は複雑である。高分子化合物である生物学的製剤が細胞外の受容体に作用するのに対して、低分子化合物であるJAK阻害薬は細胞内で作用する。細胞内で作用した同薬剤が、最終的にヒトにおける長期安全性にどのような影響を及ぼすのか、今後の解明が待たれる。

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大人も子どもも減塩によるベネフィットがある/BMJ

 世界保健機構(WHO)のNancy J Aburto氏らは、減塩による降圧効果および心血管疾患との関連、さらに血中脂質、カテコールアミン、腎機能の変化にみられる有害反応の可能性について、システマティックレビューとメタ解析を行った。これらに関する過去のメタ解析は方法論の限界や検出力不足が指摘され、さらに一部の研究者から減塩は健康を害する可能性があるといった報告もあり、WHO栄養ガイドライン専門家アドバイザリーグループ栄養・健康サブグループが、減塩と非伝染性疾患との関連を明らかにすることを求められたことによる。BMJ誌オンライン版2013年4月3日号掲載の報告より。成人・小児を含む非急性疾患の無作為化試験または前向きコホート試験をメタ解析 研究グループは、成人・小児非急性疾患の無作為化試験または前向きコホート試験で、食塩摂取と血圧、腎機能、血中脂質値、カテコールアミン値との関連を評価している試験、さらに成人対象の非急性疾患で全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、虚血性心疾患との関連を評価している試験を適格とし、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Medline、Embaseなどをデータソースとして文献検索を行った。 その結果、14件のコホート試験と5件の無作為化対照試験(全死因死亡、心血管疾患、脳卒中、虚血性疾患について報告)、37件の無作為化対照試験(成人の血圧、腎機能、血中脂質、カテコールアミンの測定を報告)、9件の無作為化対照試験と1件のコホート試験(小児の血圧について報告)のデータを解析に組み込んだ。ナトリウム摂取量2g/日(食塩相当5g)未満群のほうが降圧効果は大きい 解析の結果、成人において減塩は、有意な降圧をもたらした。安静時収縮期血圧は-3.39mmHg[95%信頼区間(CI):-4.31~-2.46]、同拡張期血圧は-1.54mmHg(同:-2.11~-0.98)低下した。また、ナトリウム摂取量2g/日(食塩相当5g)未満群は同2g/日以上群と比べて、収縮期血圧は-3.47mmHg(同:-6.18~-0.76)、拡張期血圧は-1.81mmHg(同:-3.08~-0.54)低かった。 一方で、減塩の血中脂質、カテコールアミン値、腎機能に対する有意な有害反応は認められなかった(p>0.05)。 死亡率および罹病率への影響を評価するための無作為化試験は不十分であった。またコホート試験における評価で、減塩と全死因死亡、致死的・非致死的心血管疾患、虚血性心疾患発生について有意な関連は認められなかった(p>0.05)。 その一方で食塩摂取量の増加と脳卒中リスク上昇との関連(リスク比:1.24、95%CI:1.08~1.43)、また脳卒中死(同:1.63、1.27~2.10)、虚血性心疾患死(同:1.32、1.13~1.53)との関連が認められた。 小児においても減塩と降圧の有意な関連が認められた。収縮期血圧は-0.84mmHg(95%CI:-1.43~-0.25)、拡張期血圧は-0.87mmHg(同:-1.60~-0.14)低下した。 著者は、「成人における減塩の降圧効果および脂質などへの有害反応はないということについて質の高いエビデンスが得られた。また小児においても減塩の降圧効果があるという中等度の質のエビデンスが得られた」と報告。「成人では減塩量が大きいほど脳卒中リスクや致死的虚血性疾患が低いことも認められた。これらのエビデンスは総合すると、大半の人が減塩によりベネフィットを得られることを示すものである」とまとめている。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(87)〕 クリプトコッカス髄膜炎に対する抗真菌薬の併用療法は単独療法より有効か?

クリプトコッカス髄膜炎は、進行したHIV感染症患者でよくみられる日和見感染症である。HIV感染症に合併したクリプトコッカス髄膜炎の治療は、導入療法、地固め療法、維持(あるいは抑制)療法の3段階に分けられる。米国感染症学会のガイドラインでは、導入療法としてアムホテリシンBとフルシトシンの併用療法を第一選択と位置付けている。この治療法は、アムホテリシンB単独投与と比べ、髄液の無菌化に要する時間を短縮させることがわかっていたものの、死亡率を低減させるかどうかについては明らかになっていなかった。  本研究は、HIV感染症患者のクリプトコッカス髄膜炎における抗真菌薬の併用療法の有効性を調べるために行った、オープンラベルのランダム化比較試験(299例)である。導入療法に用いる抗真菌薬を(1) アムホテリシンB単独(1mg/kg/日)4週間、(2) アムホテリシンBとフルシトシン併用(それぞれ1mg/kg/日、100mg/kg/日)2週間、(3) アムホテリシンBと高用量フルコナゾール併用(それぞれ1mg/kg/日、800mg/日)2週間、の3群に分け、その後地固め療法としてフルコナゾール(400mg/日)を10週間まで投与し、生存率などを比較検討した。  その結果、アムホテリシンB単独群よりもアムホテリシンBとフルシトシン併用群の方が、14日時点、70日時点での死亡が少なかった(14日時点:p=0.08、70日時点:p=0.04)。アムホテリシンBとフルコナゾール併用群では、アムホテリシンB単独群と比較し、生存率に有意差を認めなかった(14日時点:p=0.42、70日時点:p=0.13)。髄液の無菌化に要する時間は、アムホテリシンBとフルシトシン併用群が他の2群より有意に短かった。有害事象の発生率は3群間で同等だった。  アムホテリシンBとフルシトシンの併用療法が、アムホテリシンB単独療法と比較し、死亡率を有意に低減させたことを示した意義は大きい。本研究の対象患者には、治療開始時に髄液の真菌量が多い患者や意識障害の強い患者が多く含まれており、とくに重症患者ではアムホテリシンBとフルシトシンの併用療法を考慮すべきと考える。  日本の施設では、アムホテリシンBではなくアムホテリシンBリポソーム製剤が多く使用されているだろう。したがって、厳密にはこちらの製剤での検討も必要である。また、本研究では導入療法の期間を限定していたが、実際の現場では、全身状態が悪化していたり、髄液の無菌化が図れていない場合は、導入療法の期間を延長してもよいだろう。  最後に、本研究では、アムホテリシンBとフルシトシン併用群でも、14日死亡率が15%、70日死亡率が31%と高い。このため、治療薬の選択や治療期間について、今後も検討する余地があると考える。

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エキスパートに聞く!「関節リウマチ」Q&A part1

CareNet.comでは4月の関節リウマチ特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より関節リウマチ診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、慶應義塾大学 花岡 洋成先生にご回答いただきました。2回に分けて掲載します。プライマリ・ケア医がリウマチを疑うポイント、実施したほうがよい検査、専門医へ紹介するタイミングを教えてください。関節リウマチは骨破壊性の多発関節炎を主徴とする疾患である。発症早期に骨破壊が進行することが報告されて以来、早期診断・早期治療の重要性が認識されている。しかし、その早期診断は容易でなく、専門的知識と経験が要求される。現在、2010年の米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会新分類基準(Arthritis Rheum. 2010; 62: 2569-2581)(表)に基づき、分類(診断)を行うのが一般的である。この新分類基準ではおおまかに、罹患関節の種類と数、持続期間、血液検査所見(リウマトイド因子、抗CCP抗体、CRP、ESR)をスコア化し、分類する手法をとっている。血液検査所見のみでは診断できないことがポイントで、必ず1つ以上の関節炎の存在が必要である。しかし、プライマリ・ケア医が関節炎(滑膜炎)を識別することは困難であるため、以下のポイントを参考にしていただきたい。このスコアリング法では、とくに小関節の関節炎が多いほうが高くスコア化される。関節リウマチの好発罹患関節が小関節だからである。ここでの小関節とは、第2~5中手指節関節(metacarpophalangeal joint:MCP関節)、近位指節間関節(proximal interphalangeal joint:PIP関節)、第2~5中足指節関節(metatarsophalangeal joint:MTP関節)、第1指節間関節(interphalangeal joint:IP関節)、手関節を含む。簡単に言うと、指の第2・第3関節、手首、足趾の関節である。ここに何らかの症状がある場合は、専門医に紹介が必要である。さらに、上記血液検査で異常がある場合は積極的に紹介していただきたい。表画像を拡大するリウマトイド因子陽性でも、関節痛やほかの症状がなければ問題ないでしょうか? もしくは、リウマトイド因子陽性の場合はすべて、専門医に紹介したほうがよいのでしょうか?リウマトイド因子(RF)は、関節リウマチの診断において頻繁に測定されるバイオマーカーの1つである。1987年の米国リウマチ学会の関節リウマチ分類基準に唯一採択されていた血清マーカーであるが、その感度は60~70%、特異度は70~80%と必ずしも高くない。重要なことは、たとえRFが陽性であっても、それだけでは関節リウマチとは診断されない点にある。2010年の米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会新分類基準では、1つ以上の関節炎の存在が関節リウマチと診断する必要最低限の条件となっている。よって、RF陽性かつ1ヵ所以上の関節の腫脹・圧痛がある場合は専門医に紹介すべきである。一方、RAを発症する1.5年前からRFが陽性である患者が約30%存在するとの報告(Arthritis Rheum. 2003; 48: 2741-2749)もあるとおり、発症前からRFが陽性になることが知られている。よって、RF陽性で関節炎がない場合でも、患者さんに、1ヵ所以上の関節の腫れ・痛みが出現した際には再来院するよう伝えておくことが必要である。外来診療での治療効果(疾患活動性)の“簡単な”評価法があれば教えてください。昨今、関節リウマチの診療においてもTreat to Target(T2T)の概念が広く流布され、実臨床でも応用されている(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)。T2Tとは目標達成に向けた治療のことである。1~3ヵ月毎に疾患活動性を評価し、寛解(長期罹患例は低疾患活動性)を達成・維持することを目標とするものである。疾患活動性の評価方法として、いくつかの指標が存在する。DAS28、SDAI、CDAI(Clin Exp Rheumatol. 2005; 23: s100-108)などが代表的なものである。DAS28は複雑な計算式により算出される指標(Ann Rheum Dis. 1990; 49: 916-920)で、計算機がないと日常診療では使用しづらいという難点がある。質問にある“簡単な”指標としてはCDAIが候補になる。採血結果も不要で、VAS(Visual Analogue Scale)の測定さえできれば簡便に行える。これは腫脹関節数、圧痛関節数、医師のVAS値、患者のVAS値を純粋に足し算したものである。10以下が低疾患活動性、~22が中等度疾患活動性、23以上が高疾患活動性、2.8以下が寛解である。メトトレキサートの増量の基準や方法について教えてください。関節リウマチの診療において、メトトレキサート(MTX)はアンカードラッグである。2011年2月より、日本でも第一選択薬として使用可能となり、用量も1週間に16mgまで増量可能となった。増量の基準は、T2T(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)の概念から、低疾患活動性・寛解に至っていなければ、安全性を配慮しながら増量する。日本リウマチ学会MTX診療ガイドラインに基づくと、6mg/週から開始し、4~8週経過しても効果が不十分であれば適宜増量する、とある。ただし、これはあくまで推奨であり、初期投与量についても患者の保有する副作用危険因子や疾患活動性、予後不良因子を考慮して、適宜増減する、と付記されている。昨今、Intensive treatmentやRapid dose escalationと呼ばれるMTXの増量方法の有効性が検証されつつある。これは欧州を中心に行われた研究だが、早期関節リウマチを対象にMTX7.5mg/週から開始し、寛解を達成するまで5mg/週ずつ1ヵ月毎に増量するプロトコールである。このプロトコールで治療された群は、3ヵ月毎での診療群と比較して治療成績がよい(Ann Rheum Dis. 2007; 66: 1443-1449)。ただし、MTXによる有害事象での脱落例は強化治療群でより多く(39 vs 24%)、この強化治療の有益性がどこまであるか、世界規模での検証が必要かもしれない。専門医からの紹介で、引き続きメトトレキサートを処方する場合の注意点、専門医への受診間隔、専門医に紹介すべき所見(副作用出現や症状増悪の目安など)を教えてください。この患者さんが、メトトレキサート(MTX)内服によって低疾患活動性や寛解など、安定している状態と想定してお答えする。T2Tリコメンデーション(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)によると、低疾患活動性もしくは寛解であっても、3~6ヵ月での活動性の評価が推奨されている。さらに治療方針の決定には、総合的疾患活動性の評価に加えて、関節破壊などの構造的変化および身体機能障害も併せて考慮すべきだと記載されている。つまり、関節X線も半年~1年に1回は撮影し、骨破壊の程度を詳細に評価することが望ましいとされている。これら「疾患活動性の評価」や「関節X線の読影」は専門的知識と経験が要求される。よって現実的には、状態が安定しているのであれば1年に1回程度の専門医への受診間隔が望ましいのではないかと考える。次に、副作用出現についてである。MTXの代表的な副作用は、肝酵素上昇、口内炎、消化管障害、血球減少と感染症である。日本におけるMTX承認以降、3年毎の副作用死亡例の内訳をみると、間質性肺炎は減少し、感染症とリンパ増殖性疾患の割合が増している。骨髄障害は減少していない。消化管障害、肝酵素上昇は葉酸の予防効果が確実であり、血球減少についても葉酸依存的との報告があるため、これらが出現した際には葉酸の追加や増量が必要である。骨髄障害の背景には腎機能障害などのハイリスク例があり、脱水を契機に突然、骨髄障害を発症することも経験する。よって、葉酸補充によって改善が見込まれる肝酵素上昇や口内炎などであれば、葉酸投与量を増加し改善するか確認する。改善しない例や、重篤な骨髄障害を認めた際などには、専門医受診を勧めるのが妥当であろう。また、長期MTX内服例でリンパ節腫脹が出現した場合も専門医へ戻すほうがよい。

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. Rates of primary percutaneous coronary intervention worldwide; Circ J 2005; 698(1): 95-1002)日本循環器学会ほか. 急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008; 72(supplIV): 1347-14643)Mauri L, Silbaugh TS, Garg P, et al. Drug-eluting or bare-metal stents for acute myocardial infarction. N Engl J Med 2008; 359 (13): 1330-13424)Yoshida T, Kobayashi Y, Nakayama T, et al. Stent deformity caused by coronary artery spasm. Circ J 2006; 70(6): 800-8015)Lerman A, Eeckhout E. Coronary endothelial dysfunction following sirolimus-eluting stent placement: should we worry about it? Eur Heart J 2006; 27(2): 125-1266)Yellon DM, Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N Engl J Med 2007; 357 (11): 1121-11357)Ishihara M, Sato H, Tateishi H, et al. Implications of prodromal angina pectoris in anterior wall acute myocardial infarction. Acute angiographic findings and long-term prognosis. J Am Coll Cardiol 1997; 30(4): 970-9758)Yang XM, Proctor JB, Cui L, et al. Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. Impact of a single intravenous administration of nicorandil before reperfusion in patients with ST-segment elevation myocardial infarction. Circulation 2005; 112(9): 1284-128813)Kitakaze M, Asakura M, Kim J, et al. the J-WIND investigators. Human atrial natriuretic peptide and nicorandil as adjuncts to reperfusion treatment for acute myocardial infarction (J-WIND): two randomized trials. Lancet 2007; 370(9597): 1483-149314)Ito N, Nanto S, Doi Y, et al. High index of microcirculatory resistance level after successful primary percutaneous coronary intervention can be improved by intracoronary administration of nicorandil. Circ J 2010; 74(5): 909-91515)2011 AHA Daily news, Monday, p.6 http://www.nxtbook.com/tristar/aha/day3 2011/index.php#/616)Morikawa S, Sone T, Tsuboi H, et al. Renal protective effects and the prevention of contrast-induced nephropathy by atrial natriuretic peptide. J Am Coll Cardiol 2009; 53(12): 1040-104617)Higuma T, MatsunagaT, Maeda N, et al. Early statin treatment before coronary intervention protects against reperfusion injury and reduces infarct size in patients with acute myocardial infarction. Circulation 2005; 112: II-569 Abstract.18)Tsujita K, Shimomura H, Kaikita K, et al. Long-term efficacy of edaravone in patients with acute myocardial infarction. Circ J 2006; 70(7): 832-83719)Chen KY, Rha SW, Li YJ, et al. Korea Acute Myocardial Infarction Registry Investigators. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119(25): 3207-321420)Nikolsky E, Stone GW, Kirtane AJ, et al. Gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndromes: incidence, predictors, and clinical implications: analysis from the ACUITY(Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage Strategy)trial. J Am Coll Cardiol 2010; 54(14): 1293-130221)Bhatt DL, Eagle KA, Ohman EM, et al. REACH Registry Investigators. Comparative determinants of 4-year cardiovascular event rates in stable outpatients at risk of or with atherothrombosis. JAMA 2010; 304(12): 1350-1357

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クリプトコッカス髄膜炎に対する抗真菌薬併用療法の有効性を確認/NEJM

 クリプトコッカス髄膜炎に対し、治療ガイドラインではアムホテリシンBデオキシコール酸(商品名:ファンギゾンほか)とフルシトシン(同:アンコチル)による抗真菌薬併用療法が推奨されている。しかしアムホテリシンB単独療法と比べて同療法による死亡率の低下は示されなかった。その後の検討で、高用量アムホテリシンBおよび高用量フルコナゾールの各単独療法の有効性は示され、ベトナム・オックスフォード大学臨床研究ユニットのJeremy N. Day氏らは、未検討であった高用量アムホテリシンB+フルシトシンあるいは高用量フルコナゾール(商品名:ジフルカンほか)との併用療法の有効性について無作為化オープンラベル試験を行った。その結果、高用量アムホテリシンB+フルシトシンの併用療法による生存改善は認められたが、高用量アムホテリシンB+高用量フルコナゾールについては有効性が認められなかったことを報告した。NEJM誌2013年4月4日号掲載の報告より。高用量アムホテリシンB単独、+フルシトシン、+高用量フルコナゾールを比較 研究グループは、クリプトコッカス髄膜炎に対する、高用量アムホテリシンB+フルシトシンあるいは高用量アムホテリシンB+高用量フルコナゾールが、14日時点、70日時点の生存を改善するかについて検討した。 299例が登録され、被験者は3群に分けられ、グループ1は4週間にわたる高用量アムホテリシンB(1mg/kg体重/日)単独療法を、グループ2は高用量アムホテリシンBを2週間投与後、フルシトシン(100mg/kg体重/日)の同時投与を2週間受けた。グループ3は高用量アムホテリシンBを2週間投与後、高用量フルコナゾール(1日2回400mg)の同時投与を2週間受けた。高用量アムホテリシンB+フルシトシンの14日、70日生存改善を確認 アムホテリシンB+フルシトシン群の死亡発生は、単独療法群と比べて有意な減少が認められた。14日時点の死亡発生は15例vs. 25例[ハザード比:0.57、95%信頼区間(CI):0.30~1.08、未補正p=0.08]、70日時点は同30例vs. 44例(同:0.61、0.39~0.97、p=0.04)だった。 一方、アムホテリシンB+フルコナゾール群については、単独療法との比較で有意な生存への効果が認められなかった。14日時点の死亡ハザード比は0.78(95%CI:0.44~1.41、p=0.42)、70日時点は同0.71(同:0.45~1.11、p=0.13)だった。 また、アムホテリシンB+フルシトシン群では、脳脊髄液の酵母のクリアランス速度の有意な上昇[-0.42 log10コロニー形成単位(CFU)/mL/日]も認められた(vs.単独療法群:-0.31 log10CFU/mL/日、アムホテリシンB+フルコナゾール群:-0.32 log10CFU/mL/日、両比較のp<0.001)。 有害事象発生率は、全群で同程度であったが、好中球減少症が併用療法群で高頻度に認められた。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(83)〕 運動療法の効果:深層を読む

本研究は、重度の精神疾患の患者(統合失調症あるいは統合失調感情障害58.1%、双極性感情障害22.0%、大うつ病12.0%)で地域の精神科リハビリテーションに外来で参加している291名を対象とし、無作為に介入群(グループでの体重管理のセッション、個人での体重管理のセッション、グループでの運動セッション)と対照群(健康一般の講義)に分け、体重減少をメインアウトカムとして6、12、18ヵ月で評価したものである。 結果は、もちろん介入群での優位が示されている。18ヵ月の時点での両群の体重減少の差は3.2kgであったらしい。 確かに、一部の非定形抗精神病薬(上記全ての疾患で高い確率で使用される)においては、肥満や糖尿病が最も注意するべき有害事象である。高度に肥満した精神疾患患者を診察したことのある各科医師は多いのではないかと思う。 そのような危険な薬は使わなければいい、という意見もあるかもしれないので背景を説明すると、統合失調症は、脳内のドパミン過剰が病態と関連しているという古典的仮説があり、その治療薬として開発(発見)されたハロペリドールなどの定型抗精神病薬(Typical Antipsychotics;第1世代抗精神病薬(First Generation Antipsychotics)ともいう )は強力なドパミン遮断作用を持っていた。しかし脳内のドパミン受容体を遮断すれば、まさにパーキンソン病と同じ病態になるので、薬剤性パーキンソン症候群が出現する。かつて精神病の治療は、このパーキンソン症候群との闘いであった。パーキンソン症候群は、誤嚥・転倒リスクを高めるのみならず、独特の歩行障害や顔貌を呈するため、偏見を助長するという悪影響もあり、きわめて有害である。 パーキンソン症候群のリスクを少なくしたものが、非定型抗精神病薬(Atypical Antipsychotics;第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics)ともいう )である。当初は肥満や糖尿病に関してはそれほど注目されていなかったが、徐々に致死的な有害事象であることが判明した。しかし両者の全般的な安全性の差は明らかであり、今ではほぼすべてのガイドラインの選択肢が非定型薬に置き換わったといっても過言ではない。これにより肥満が精神科臨床のきわめて重要な論点となったのである。肥満がなぜこのように重大なこととして取り上げられたのか、お分かりいただけただろうか。 さて、以上で一般的な解説は終わりであるが、はたしてこの論文は「薬剤の有害事象と関連して注目されている肥満が、行動療法で治った」というだけのものなのであろうか?それに、この介入は激しすぎないか?個人の特性に合わせた個別のセッションをして、さらに部活まですれば、何もしない対照に比べて痩せるのが当たり前ではないだろうか?また、著者らも書いているが、現実的にこのプログラムを行うのは経済的にも無理だろう。 ここからは私個人の意見だが、この論文の隠れた重要知見は、「一般人口での類似プログラムと比較すると、一般人口では6ヵ月で効果が無くなるのに対して、重度精神疾患では18ヵ月減少し続けた」という部分ではないかと思う。 つまりこの論文は社会的排除と健康格差の論文として劇的に読み替えることができるのではないか。一般人口では6ヵ月で息切れした効果が18ヵ月も続いているのは、伸び代が大きいということである。これは精神疾患という偏見によって社会的に排除された集団においては、失われた健康も大きいと考えられないか。 イメージしてみよう、精神疾患が重度で働くことができず(経済的貧困、社会参加の減少)、住居も不安定となり、偏見のため外出機会も減り、運動機会も失われ、肥満が悪化し、生活習慣病に罹患し、人的ネットワークが小さくなり、(青年期に発症したものは)教育機会も制限されていて、遺伝負因もあり、これらは世代間で再生産される・・・まさにこれは「複合的不利」(英国ブレア政権の社会的排除対策室の定義等より)である。だからこそ、介入はとても効いたのではないか。 つまりこの集団の方が、専門家と自分の健康について語り合い、仲間とスポーツをするということは、とても貴重な、前向きな体験(大きく言えば社会的包摂)であったのではないだろうか。 そう考えると、この介入前後の主観的ソーシャルサポートの変化などは測定されていないであろうか、とても気になる。(研究全体ではなく本文のみを読んでのコメントです)  この論文から、小生は現代文明の大きな潮流を感じた。論文は深読みするのもまた面白い。

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タバコの煙に対する感受性と歯周病に関係はあるのか?

 タバコの煙に対する感受性と歯周病に特徴的な関係はみられないことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJan Bergstrom氏らにより報告された。しかしながら、喫煙者において、歯周病の進行と肺が破壊される病理的プロセスには共変動がみられたとも言及している。これまで、タバコに対する感受性が高いことで発症するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と歯周病の関係についてはあまり検討されていなかった。 本研究は、喫煙をする28人のCOPD罹患群(GOLDのガイドラインでII 期またはIII期)、COPDに罹患していない喫煙群29人、非喫煙群23人の3つの群を対象に行われた。喫煙者のグループは、タバコの煙への累積曝露量でマッチされた。評価は胸部X線とCT、一般歯科臨床検査、肺機能測定と健康関連QOL(SF-36)で行われた。 主な結果は、以下のとおり。・肺機能検査において、COPDに罹患していない喫煙者と非喫煙者とでは、一酸化炭素拡散能のみに有意差が認められた(p<0.001)。・胸部X線とCTにより評価された、気管支壁の厚さと肺気腫のスコアは他の2つのグループと比べてCOPD罹患群で高かった。・喫煙をするCOPD罹患者と非喫煙者について、歯垢、歯肉出血、歯周ポケットの深さ、残存歯数を比較すると、すべてにおいて有意差が認められた(それぞれ、p<0.01、p<0.001、p<0.0001、p<0.001)。・喫煙をするCOPD罹患者とCOPDに罹患していない喫煙者では、歯周ポケットの深さ、残存歯でのみ有意差が認められた(それぞれ、p<0.05)。・SF-36の身体的側面のQOLサマリースコア(PCS)は2つのグループと比べてCOPD群で有意に低かった(p<0.001)。・SF-36の精神的側面のQOLサマリースコア(MCS)は非喫煙群と比べ、喫煙をする2つのグル―プで有意に低かった(p<0.001)。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(82)〕 2型糖尿病患者に対して冠動脈カルシウム・スコアは有用な検査か?

従来の冠危険因子の中でも糖尿病の危険度は高く、高血圧や脂質異常症の治療ガイドラインのリスク層別化でも糖尿病のリスク比重はより重く設定されている。すなわち、糖尿病である対象者は心血管疾患発症の一次予防よりも二次予防に近い治療管理の適応となる。このような状況で、糖尿病患者の中でもより高リスクのグループを同定できないかとの数多くの試みがなされている。 Kramerらは比較的侵襲度の少ない画像診断である冠動脈カルシウム・スコアに着目して、2011年と2012年に論文出版あるいは米国心臓病学会などで発表された質の高い8つの前向き観察試験のメタ解析を行なった。総計6,521名の2型糖尿病患者が対象であり、平均観察期間は5.2年、総死亡・致死性おおよび非致死性心血管イベントで評価したエンドポイントを12.3%に認めた。そして、カルシウム・スコアが10以上の症例(71.5%)は10未満の症例(28.5%)と比較して相対危険度は5.47と有意に高値であった。しかしながら、カルシウム・スコア10以上による予後予測の感度は94%と高いが、特異度は34%と低い。さらに、カルシウム・スコア10以上・10未満による陽性尤度比および陰性尤度比は1.67と0.11であった。以上より、Kramerらは冠動脈カルシウム・スコアが2型糖尿病患者の総死亡あるいは心血管イベント発生の予測に有用であると結論付けている。 抄録およびデータだけを表面的に見れば、Kramerらの見解は妥当であるようにも思われる。しかしながら、本論文の本質はカルシウム・スコア<10の陰性尤度比が非常に低いことに尽きる。10~20年単位での長期治療が基本である糖尿病患者に対して、5年間の予後について患者を安心させることが良いのかどうかは、糖尿病専門医ではない筆者には分からない。けれども本来ならば、糖尿病患者でもより高リスクであることを見出して、2~3年以内にかなりの確率で重大イベントを起こす危険性のあるグループを同定することが、引用された各々の研究の目的であったはずである。そして、この高リスク群に対する重大イベント発生前の治療介入に結びつけることが、新たなバイオマーカーや画像診断に求められている役割である。本メタ解析の対象群の大多数はカルシウム・スコアが10以上であり、この群の更なるリスク層別化ができなかったことは、カルシウム・スコアの臨床的役割に疑問を投掛けるものである。 Kramerらによるメタ解析の結果は日本の実臨床に応用可能であろうか?以下に挙げる理由で筆者は否定的見解を取る。まず、カルシウム・スコアの計測は放射線被曝の少ないエレクトロン・ビームCTで実施するのが基本であるが(本論文でも8研究中7研究)、日本においてこの医療機器は限られた研究施設に設置されているだけである。また、日本での主流のマルチ・スライスCTではカルシウム・スコアだけの検査は保健医療で認められていない。現状では、冠動脈造影CT検査が適応となる症例に対して、造影検査と合せてカルシウム・スコアを算出しているのがそれぞれの施設の対応と考えられる。また、無症状の糖尿病患者にルーチン検査としてCTを行っても、罹病期間・年齢・腎機能などがスコアに強い影響を及ぼす。事実Kramerらも8つの研究におけるheterogeneityが非常に強いために、統計解析を繰り返して上記の結論に至っている。以上に加えて、本当に冠動脈CTが糖尿病患者のルーチン検査として有用か否かは、前向きの大規模比較試験によってCT実施群と通常フォロー群を割り付けて、CT実施群の予後が改善されることが実証される必要がある。それまでは、従来のリスク因子の丁寧な評価が糖尿病患者のマネジメントにおいては最重要項目であると思われる。

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