サイト内検索|page:128

検索結果 合計:2880件 表示位置:2541 - 2560

2541.

重症インフルエンザへのオセルタミビル2倍量投与の効果を検討/BMJ

 重症インフルエンザに対し、オセルタミビルを通常の2倍量投与しても、治療効果は通常量投与の場合と同等であったことが示された。東南アジア感染症臨床研究ネットワーク(South East Asia Infectious Disease Clinical Research Network)が、インドネシアなど東南アジア4ヵ国13病院で重症インフルエンザ患者について行った、無作為化二重盲検試験の結果、報告した。BMJ誌5月30日号で発表した。4ヵ国13ヵ所の病院で326人の患者を無作為化 ガイドラインでは、重症インフルエンザに対し通常量よりも高用量を用いることが推奨されている。同ネットワークはその推奨の妥当性を調べることを目的に、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナムの13ヵ所の医療機関で無作為化二重盲検試験を行った。 重症インフルエンザの確定診断を受けた1歳以上の入院患者326例を無作為に2群に分け、一方にはオセルタミビルを通常の2倍量(165例)、もう一方には通常量(161例)を投与した。被験者のうち、15歳未満は246例(75.5%)だった。 主要アウトカムは、投与5日目の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法によるウイルスの有無とした。投与5日目のインフルエンザ陰性率は両群とも約7割 被験者のうち、インフルエンザA型ウイルス感染者は260例(79.8%)、インフルエンザB型ウイルス感染者は53例(16.2%)だった。 5日目にRT-PCR陰性だった割合は、2倍量群が159例中115例(72.3%、95%信頼区間:64.9~78.7)、通常量群が154例中105例(68.2%、同:60.5~75.0)と、両群に有意差はなかった(群間格差:4.2%、同:-5.9~14.2、p=0.42)。 死亡率についても、2倍量群が165例中12例(7.3%)、通常量群が161例中9例(5.6%)と、有意差はなかった(p=0.54)。 酸素補充療法や集中治療室(ICU)での治療、人工呼吸器を利用した日数の中央値も、いずれも両群で有意差はなかった。 著者は「重症インフルエンザで入院した患者において、オセルタミビルの2倍量投与は通常投与と比べて、ウイルス学的にも臨床的にも利点は認められなかった」と結論している。

2542.

急性脳内出血後の降圧治療、積極的降圧vs.ガイドライン推奨/NEJM

 発症6時間以内の急性脳内出血患者に対して、1時間以内の収縮期血圧目標値<140mmHgとした積極的降圧治療と、ガイドラインで推奨されている同<180mmHgの場合を比較した、オーストラリア・シドニー大学のCraig S. Anderson氏らによるINTERACT2試験の結果が報告された。死亡および重度身体障害発生の主要転帰について、積極的降圧治療の有意な低下は示されなかったが、試験課程で脳卒中試験に認められたRankinスコアの順序尺度解析(ordinal analysis)では、機能的転帰の改善が示されたという。NEJM誌オンライン版2013年5月29日号掲載の報告より。目標<140mmHgとガイドライン推奨<180mmHgを比較 INTERACT2(Intensive Blood Pressure Reduction in Acute Cerebral Hemorrhage Trial 2)は、脳内出血患者への早期の積極的降圧治療の有効性と安全性を評価することを目的に、2008年10月~2012年8月に21ヵ国144病院から被験者を募り行われた国際多施設共同前向き無作為化非盲検試験だった。 被験者は、発症6時間以内の脳内出血患者は2,839例(平均年齢63.5歳、男性62.9%)で、無作為に、積極的降圧治療を受ける群(1時間以内の収縮期血圧目標値<140mmHg、1,403例)またはガイドライン推奨治療(1時間以内の収縮期血圧目標値<180mmHg、1,436例)に割り付けられた。使用する降圧治療は医師の選択にて行われた。 主要転帰は90日時点での、修正Rankinスケールのスコア3~6で定義される死亡(スコア6)または重大な身体障害(スコア5)とした。また、修正Rankinスコアの事前規定順序尺度解析も行い副次アウトカムとして評価した(スコア0~6の全7段階の身体的機能評価)。その他に重度有害事象イベントの発生率について両群間で比較した。順序解析で積極的降圧治療による機能的転帰の改善が示される 主要転帰の判定を受けたのは2,794例だった。<140mmHg群での主要転帰発生は、719/1,382例(52.0%)、ガイドライン推奨治療群は785/1,412例(55.6%)で、<140mmHg群のオッズ比は0.87(95%信頼区間[CI]:0.75~1.01、p=0.06)で有意差はみられなかった。 一方で、順序解析の結果、修正Rankinスコアの低下は、<140mmHg群が有意であった(より重大な障害に関するオッズ比:0.87、95%CI:0.77~1.00、p=0.04)。 死亡率は、<140mmHg群11.9%、ガイドライン推奨治療群12.0%だった(p=0.96)。 また、非致死的重大有害事象の発生は、それぞれ23.3%、23.6%だった(p=0.92)。 これらの結果から著者は、「積極的降圧治療は、主要転帰を有意に減少しなかった。修正Rankinスコアによる順序解析では、積極的降圧治療による機能的転帰の改善が示された」と結論している。

2543.

抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学

 うつ病に対し、実臨床でどの抗うつ薬を第一選択薬として処方すべきかを検討した報告はいくつか行われているが、その後の継続的な治療効果などに関する研究はほとんどない。京都大学の古川 壽亮氏らは、日本における抗うつ薬による治療実態について健康保険データベースを用い調査した。Journal of affective disorders誌オンライン版2013年5月27日号の報告。 対象は、2009年~2010年の日本の健康保険データベースより抽出された、新規抗うつ薬で治療を開始した初発の非精神病性うつ病患者1,592例。調査項目は第一選択薬の継続と効果、第二選択薬の時期と種類、抗うつ薬治療の合計期間である。 主な結果は以下のとおり。・第一選択薬の開始用量および最大用量は、おおむねガイドラインで推奨されるとおりであった。しかし最大用量に関しては、推奨範囲の最小値に近い傾向が認められた。・第一選択薬の処方継続性は、ガイドラインの推奨を大きく下回っていた(初回処方での脱落率25%、3ヵ月以内の脱落率55%)。・第一選択薬にほかの向精神薬を追加投与した割合は14%(中央期間3ヵ月)、第一選択薬から他の抗うつ薬へ切り替えた割合は17%(中央期間2ヵ月)であった。・第二選択薬の選択は多岐にわたった。・抗うつ薬治療の合計時間は、中央期間4ヵ月と短かった。また、68%が6ヵ月で治療を中止していた。・健康保険データベースにおける非精神病性単極性うつ病の診断は、おおよそのものであるという点で、本研究には限界がある。・現在のガイドラインは、実臨床とは大いにかけ離れたものとなっている。こうしたなか、ガイドラインは実際の臨床の経験を反映する必要がある。・また、医療者は治療オプションを制限し、より効果的な治療を見極めて実践できるよう、エビデンスに基づいた比較効果研究が許されるべきである。関連医療ニュース SSRI+非定型抗精神病薬の併用、抗うつ作用増強の可能性が示唆 日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき 統合失調症患者の服薬状況を検証

2544.

第54回日本神経学会学術大会レポート -パーキンソン病-

 2013年5月29日(水)~6月1日(土)の4日間、東京国際フォーラム(千代田区)において「第54回日本神経学会学術大会」が開催された。今回はとくに、パーキンソン病にフォーカスしてレポートする。【パーキンソン病治療を再考する時が来た!?】 パーキンソン病に関する複数の講演会場で、話題に挙がったキーワードは「パーキンソン病治療再考」であった。その背景には、現在のパーキンソン病治療ガイドラインのあり方と、近年、新たなパーキンソン病治療薬が登場したことで治療選択肢が増えたことなどが挙げられる。 パーキンソン病の代表的な治療薬であるL-ドパ製剤は、その症状改善効果から第一選択薬として位置づけられ、現在も広く処方されている。しかしながら、ジスキネジアが出現するという理由でL-ドパ製剤を増量せず、十分な治療効果が得られていない例が散見され、ガイドラインやエビデンスが周知されていない実態が明らかとなった。また、2012年以降ドパミンアゴニストの徐放錠や貼付剤、注射剤など新たな剤形や、非ドパミン系治療薬などが登場した。治療の選択肢が広がった一方で、臨床医が迷う場面が増えたことも現実だろう。 治療ガイドライン作成から10年が経過した。今、あらためてガイドラインに立ち返り、パーキンソン病治療との向き合い方を再考する時なのかもしれない。【運転すると知りながら、突発性睡眠の副作用がある抗パーキンソン病治療薬を処方した医師は罪に問われるのか?】 道路交通法の改正により、眠気を催す恐れのある薬剤を服用して交通事故を起こした場合、その薬剤を処方した医師も罪に問われる可能性がある。この話題は、複数のセミナーで議論となりフロアからも活発な質問が相次いでいた。(この改正案は現在、参議院を通過しており、衆議院で可決されれば改正されるだろう、とのこと)※現在、道路交通法第66条では、薬の副作用等によって正常な運転ができない状態で運転することを禁止している。 多くの抗パーキンソン病治療薬の副作用として突発性睡眠が報告されており、該当薬剤の添付文書上で、「本剤服用中には、自動車の運転等危険を伴う作業に従事させないよう注意する」旨が記載されている。とくにドパミンアゴニストは、非高齢者で、認知機能障害もしくは精神症状が無く、当面の症状改善を優先させる特別な事情がないパーキンソン病患者の第一選択薬となっており、自動車等の運転をする機会の多い非高齢者に処方する可能性が高い。 職業ドライバーの患者や、車が無くては生活できない患者に対して、どのように治療を行えばいいのか。医師は、この法律に矛盾を感じずにはいられないだろう。「この改正が現実となれば、患者とのコミュニケーションを十分に取り、降りかかる火の粉を回避するほかない」とは演者の言葉である。

2545.

第15回 診療ガイドライン その1:ガイドラインから外れた医療行為は違法か!?

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに反する診療は、紛争化のリスクを上げることから注意する必要がある2.裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をする3.ガイドラインに反する診療であっても、直ちに違法とはならないが、少なくとも「相応の医学的根拠」は必要である事件の概要患者X(死亡時79歳)は、昭和43年より糖尿病にてY病院糖尿病代謝科(主治医A医師)に外来通院していました。平成12年に上部内視鏡検査を行ったところ、食道静脈瘤が認められたことから精査した結果、HBV、HCV感染は認められないものの、初期の肝硬変と診断されました。その後、A医師は、外来で定期的に採血にて肝機能及び血小板数を測定していましたが、いずれも正常範囲内で推移しており、上部内視鏡検査上も食道静脈瘤に著変なく、経過観察をしていました。しかし、A医師は、その間、腫瘍マーカーの測定及び腹部超音波検査、CTなどの画像検査は行っていませんでした。Xは、平成18年8月7日21時頃、自宅トイレで倒れ、意識レベルが低下していたことからY病院に入院しました。その際、撮影した胸部CTにて肝臓に腫瘍性病変が認められたことから精査したところ、多発性肝細胞がんと診断され、同年10月23日に死亡しました。これに対し、Xの遺族は、肝硬変があったXに対し、肝細胞がん発見を目的とした検査を長期にわたり行わなかったとして、Y病院に対し、2,350万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(死亡時79歳)は、糖尿病にてY病院糖尿病代謝科(主治医A医師)に外来通院していました。昭和61年12月に採血検査にて肝機能障害が認められたことから腹部超音波検査を行ったところ、慢性肝疾患及び脂肪肝の疑いと診断されました。平成12年7月に、糖尿病代謝科入院中に上部内視鏡検査を行ったところ、食道静脈瘤が認められたことから精査した結果、HBV、HCV感染は認められないものの、初期の肝硬変と診断されました。その後、A医師は、外来で定期的に採血にて肝機能及び血小板数を測定していましたが、いずれも正常範囲内で推移しており、上部内視鏡検査上も食道静脈瘤に著変なく経過観察をしていました。しかし、A医師は、その間、腫瘍マーカーの測定及び腹部超音波検査、CTなどの画像検査は行っていませんでした。Xは、平成18年8月7日21時頃、心不全のため自宅トイレで倒れ、意識レベルが低下していたことからY病院に入院しました。その際、撮影した胸部CTにて肝臓に腫瘍性病変が認められたことから精査したところ、AFP 30ng/mL、PIVKA-Ⅱ 7,000mAU/mL以上であり、多発性肝細胞がんと診断されました。Xは高齢であり、全身状態も悪かったため、積極的な治療は行われず、同年10月23日に死亡しました。事件の判決診療ガイドラインは、その時点における標準的な知見を集約したものであるから、それに沿うことによって当該治療方法が合理的であると評価される場合が多くなるのはもとより当然である。もっとも、診療ガイドラインはあらゆる症例に適応する絶対的なものとまではいえないから、個々の患者の具体的症状が診療ガイドラインにおいて前提とされる症状と必ずしも一致しないような場合や、患者固有の特殊事情がある場合において、相応の医学的根拠に基づいて個々の患者の状態に応じた治療方法を選択した場合には、それが診療ガイドラインと異なる治療方法であったとしても、直ちに医療機関に期待される合理的行動を逸脱したとは評価できない。そして、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいてサーベイランス(*肝細胞癌早期発見のための定期的な検査(筆者注))の至適間隔に関する明確なエビデンスはないとされており、推奨の強さはグレードC1(行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない)と位置づけられていることからすれば、サーベイランスの間隔については一義的に標準化されているとまでは認めがたいのであるから、上記間隔については医師の裁量が認められる余地は相対的に大きくなるものと解される。・・・・・・・(中略)・・・・・・・そこで、被告医師がどの程度の間隔でサーベイランスを行うべきであったかを検討するに、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいて非ウイルス性の肝硬変は肝細胞癌の高危険群とされ、6か月に一回の超音波検査及び腫瘍マーカーの測定が推奨されている。そして、上記認定説示したとおりXの肝硬変は発癌リスクが否定されるものではなかったことに加え、上記で認定のとおり肝硬変の前段階とされる慢性肝炎であっても発癌リスクが相当程度認められることからすれば、Xの肝硬変が初期のものであったとしても、被告A医師がXに対して肝硬変と診断してから一度も超音波検査等を実施しなかったことが相応の医学的根拠に基づくものとは評価しがたい。なお、後記で認定説示した本件での検査結果から、被告A医師においてXの肝硬変がさほど進行していなかったと判断すること自体は不合理であるとはいえない。したがって、これらの検査結果を根拠として、肝癌診療ガイドラインとは異なるサーベイランスを実施していたとしても、上記で説示したとおりサーベイランスの間隔について医師の裁量を認める余地があることを併せ考慮すれば、直ちに不合理であると断定することができないとの見方もあり得ないではない。しかしながら、本件においては、そもそもサーベイランスそれ自体が全く実施されていないことに加え、被告医師において肝癌診療ガイドラインとは異なるサーベイランスを実施することが相当であるとした場合には具体的なサーベイランスの間隔及び方法をどのようなものにするのが妥当であったかという点や、それを裏付ける医学的根拠はどのようなものかという点について何ら被告における主張立証がない。以上の検討によれば、上記で説示したように医療行為において医師の裁量を尊重する必要があること及び肝癌診療ガイドラインが絶対的な基準ではないことを考慮してもなお、被告は、Xに対し、肝癌発見を目的として6か月間隔で腫瘍マーカー及び超音波検査を実施し、腫瘍マーカーの上昇や結節性病変が疑われた場合には造影CT検査等を実施すべきであったというべきである。(* 判決文中、下線は筆者による加筆)(仙台地判平成22年6月30日)ポイント解説今回は、ガイドラインについて解説いたします。ガイドラインは、添付文書同様、裁判所が個別具体的な事例における「医療水準」を判断するにあたり用いられる文書であり、特に、作成当時の多数の専門家間における合意事項が文書化されていることから、訴訟においては重視される傾向があり、民事医療訴訟において重要な文書であるといえます。ただ、ガイドラインは法的に作成が義務付けられた文書ではないこともあり、第12回で紹介した添付文書のように、「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)といった過失の推定効は認められていません。しかし、患者・家族が弁護士に相談した際に、弁護士が当該診療が適切か否か、すなわち事件を受任して裁判をするか否かを判断するにあたり、必ず参照する文書でもあることから、ガイドラインは紛争化するか否かを決定する上でも非常に重要な文書であるといえます。■ガイドラインに対する裁判所の傾向それでは、裁判所のガイドラインに対する姿勢はどのようなものかみてみましょう。本事例のような肝硬変の患者に対しては、肝細胞がんの早期発見のため定期的に腫瘍マーカーや腹部超音波検査等によるサーベイランスを行う必要があると考えられています。したがって、肝硬変の患者に対して、適切な検査を行わなかった結果、肝細胞がんの発見が遅れ、死亡してしまった場合には、医療過誤として訴えられることとなります。そして、このサーベイランスの方法や間隔については、平成11年に作成された「日本医師会生涯教育シリーズ 肝疾患診療マニュアル」と平成17年に第1版が作成された「肝癌診療ガイドライン」(平成21年改訂)の2つのガイドラインがあります。これらのガイドライン作成後に患者が死亡し、肝細胞がんに対するサーベイランスを争点として争われた判決は、民間判例データベースから検索すると6つあります(表1)。画像を拡大する表1をご覧いただけれるとわかるように、サーベイランスに関する判決では、ほとんどが原告勝訴となっています。一般に民事医療訴訟の原告勝訴率が20~40%であることを考えると、その差は明らかといえます。なお、唯一、原告が敗訴している(4)の事例は、患者の受診コンプライアンスが悪く、適切なフォローが困難であった事例であり、それでも、おおむね年2回程度は検査が行われていたことから、このような判断となっています。それではこれらの訴訟において、ガイドラインはどのように使われていたのでしょうか。表2にそれぞれの判決において、裁判所が示した適切なサーベイランス頻度を示します。画像を拡大するそして、平成11年に作成された「日本医師会生涯教育シリーズ 肝疾患診療マニュアル」においては、「肝硬変を超高危険群、ウイルス性の慢性肝炎及び非肝硬変のアルコール性肝障害を高危険群、その他の肝障害を危険群と設定し、これらの患者に対して、それぞれ定期的に諸検査を行うよう指針を定めています。同指針は、超高危険群患者に対しては、AFP検査を月に1回、腹部超音波検査を2、3か月に1回、腹部CT検査を6か月に1回、高危険群患者に対しては、AFP検査を2、3か月に1回、腹部超音波検査を4ないし6か月に1回、腹部CT検査を6か月ないし1年に1回並びに危険群に対しては、AFP検査を6か月に1回、腹部超音波検査及び腹部CT検査を1年に1回行う」と記載されています。また、平成17年に作成された「肝癌診療ガイドライン」においては、「一つの案として、超高危険群に対しては、3~4カ月に 1 回の超音波検査、高危険群に対しては、6カ月に 1回の超音波検査を行うことを提案する。腫瘍マーカー検査については、AFP およびPIVKA-Ⅱを超高危険群では 3~4カ月に 1回、高危険群では 6カ月に 1回の測定を推奨する」と記載されています。表2と比較していただければわかるように、(2)と原告敗訴となった(4)を除いた判決においては、裁判所は、判決文中にガイドラインを引用した上で、ガイドラインに沿った判断をしています。このようにしてみると、ガイドラインに違反した結果、患者に損害が生じた場合には、紛争化しやすいと同時に、裁判においても、ガイドラインに沿った判断がなされやすいということがいえます。■ガイドラインは「不磨の大典」ではないこのようなガイドラインに対する裁判所の傾向をみると、皆さんは違和感を覚えるでしょうし、批判もあるかと思います。ただ、添付文書の時にも説明しましたが、現在の裁判所は、添付文書やガイドラインを不磨の大典としてとらえているわけではありません。本判決においても、「もっとも、診療ガイドラインはあらゆる症例に適応する絶対的なものとまではいえないから、個々の患者の具体的症状が診療ガイドラインにおいて前提とされる症状と必ずしも一致しないような場合や、患者固有の特殊事情がある場合において、相応の医学的根拠に基づいて個々の患者の状態に応じた治療方法を選択した場合には、それが診療ガイドラインと異なる治療方法であったとしても、直ちに医療機関に期待される合理的行動を逸脱したとは評価できない。そして、上記認定のとおり肝癌診療ガイドラインにおいてサーベイランスの至適間隔に関する明確なエビデンスはないとされており、推奨の強さはグレードC1(行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない)と位置づけられていることからすれば、サーベイランスの間隔については一義的に標準化されているとまでは認めがたいのであるから、上記間隔については医師の裁量が認められる余地は相対的に大きくなるものと解される」と判示されているように、杓子定規に判断するのではなく一定程度の裁量の幅(グレーゾーン)が認められていると考えられます。ただ、その場合においても、「相応の医学的根拠」は必要であり、肝細胞がんのサーベイランスにおいては、単に「気が付いたらずいぶん期間が開いてしまった」ということでは許されませんので、注意する必要があります。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)仙台地判平成22年6月30日最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁

2546.

「脳卒中再発予防のためには収縮期血圧130mmHg未満」を支持する結果(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(105)より-

脳卒中既往歴のある症例の降圧目標値に関して、欧州のガイドラインは130/80mmHgとしている。これは、脳卒中再発予防におけるACE阻害薬ペリンドプリルの有用性を検討したPROGRESS試験の結果を参考にしている。一方、わが国のガイドライン2009年版では140/90mmHgとしているが、これに関しては反論も多い。脳卒中初発および再発の、最大のリスク因子は高血圧であることに議論の余地はなく、これまでの介入試験でも”The lower the better”を証明してきた。 本試験SPS3(Secondary Prevention of Small Subcortical Stroke)trialは、NIHの公的支援によっておこなわれた臨床試験である。約3,000人のラクナ梗塞患者を収縮期血圧130~149mmHg目標群と130mmHg未満を目標とする群にランダマイズして、平均3.7年間追跡された。全脳卒中、致死的脳卒中、心筋梗塞複合などにおいていずれも有意は差はみられなかったものの、厳格目標群の方が発症率が低い傾向が認められた。頭蓋内出血は厳格降圧群の方が有意に発症率が低いという結果だった。この結果は、従来の「脳卒中再発抑制のためには収縮期血圧130mmHg未満のより厳格な降圧が望ましい」というコンセンサスを支持する結果といえる。 本試験では、試験開始直後から両群間の血圧値に大きな差がみられ、その差が継続していることが大きな特徴である。3,000人規模の参加者にもかかわらず有意差がつかなかった最大の理由はやはり、イベント発症数が少なかったことによる。 医療現場では、再発予防のために抗血小板薬は必須となっており、また高脂血症があればスタチン薬を処方する時代になったため、脳卒中再発が発生しにくい状況にあることを反映しているともいえよう。

2547.

糖質コルチコイド短期投与、COPD増悪例の急性再増悪を抑制/JAMA

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪例に対する糖質コルチコイド全身療法の5日間投与は、再増悪の抑制効果に関して14日投与に対し非劣性であり、ステロイド曝露量は有意に低下することが、スイス・バーゼル大学病院のJorg D Leuppi氏らが実施したREDUCE試験で示された。COPDでは頻回の増悪により死亡率が上昇し、スイスのプライマリ・ケア医ベースのCOPDコホートの検討では約23~25%が1年以内に薬物療法を要する増悪を経験することが知られている。COPDの国際的ガイドラインは、急性増悪時の糖質コルチコイドによる全身療法の治療期間は7~14日を推奨しているが、至適な用量や治療期間は不明だという。JAMA誌オンライン版2013年5月21日号掲載の報告。ステロイド薬5日間投与の14日間投与に対する非劣性を検証 REDUCE(Reduction in the Use of Corticosteroids in Exacerbated COPD)試験は、COPD増悪時の糖質コルチコイド全身療法の短期投与(5日間)の、従来投与(14日間)に対する非劣性を検証し、ステロイド曝露量の低減の可能性を評価する二重盲検無作為化非劣性試験。対象は40歳以上のCOPD増悪例で、喘息の既往歴のない喫煙経験者または喫煙者(≧20 pack-years)であった。COPD増悪は、呼吸困難、咳嗽、喀痰量の増加または膿性化のうち2項目以上を認める場合とした。 これらの患者が、プレドニゾン40mg/日を5日間投与する群(短期投与群:第1日は静注投与、第2~5日は経口投与、6~14日はプラセボを投与)または14日間投与する群(従来療法群)に無作為に割り付けられた。180日の観察期間における再増悪率の絶対差の上限値が15%以内(再増悪率が50%と仮定した場合のハザード比[HR]:1.515)の場合に非劣性と判定した。 主要評価項目は、180日の観察期間における通常の段階的増悪を超える急性の増悪とした。再増悪率のHRはITT解析0.95、PP解析0.93、非劣性基準満たす 2006年3月~2011年2月までにスイスの5つの教育病院の救急診療部から314例が登録され、両群とも157例が割り付けられた。289例(92%)が入院した。 短期投与群の156例[平均年齢69.8歳、女性32.7%、現喫煙者49.4%、COPD grade 4(GOLD)55.3%]、従来療法群の155例(同:69.8歳、46.5%、40%、52.3%)がintention-to-treat(ITT)解析の対象となり、それぞれ147例、149例でper-protocol(PP)解析が行われた。 主要評価項目の発現率は、短期投与群が35.9%(56/156例)、従来療法群は36.8%(57/155例)だった。 短期投与群の従来療法群に対する再増悪率のHRは、ITT解析で0.95(90%信頼区間[CI]:0.70~1.29、非劣性検定:p=0.006)、PP解析では0.93(90%CI:0.68~1.26、非劣性検定:p=0.005)であり、非劣性基準を満たした。 180日間における推定再増悪率は短期投与群が37.2%、従来療法群は38.4%で、群間差は-1.2%(95%CI:-12.2~9.8)であった。再増悪までの期間はそれぞれ43.5日、29日だった。死亡までの期間、増悪・死亡またはその両方の複合エンドポイント、肺機能の回復には両群間に差がなかった。 プレドニゾンの平均累積投与量は従来療法群が有意に多かった(379 vs 793mg、p<0.001)が、脂質異常や高血圧などの治療関連有害事象の頻度は両群で同等であった。 著者は、「COPDの急性増悪で救急診療部を受診した患者に対する糖質コルチコイド全身療法の5日間投与は、180日間の再増悪率について14日投与に対し非劣性であり、ステロイド曝露量は有意に低下した」とまとめ、「これらの知見は、COPD急性増悪時の治療として糖質コルチコイドの5日間投与を支持するもの」と指摘している。

2548.

高齢2型糖尿病患者へのビルダグリプチン、優れた目標血糖値の達成率/Lancet

 DPP-4阻害薬ビルダグリプチン(商品名:エクア)は、高齢の2型糖尿病患者の治療において、担当医が設定した個々の患者の目標血糖値(HbA1c)の達成率が良好で、忍容性にも問題はないことが、英国エクセター大学医学部のW David Strain氏らが実施したINTERVAL試験で示された。2型糖尿病の高齢患者数は世界的に増加しており、65歳以上の有病率は18~20%とされる。欧米のガイドラインは、裏付けとなるエビデンスを持たないまま、高齢患者の血糖コントロールでは個々に目標値を設定することを勧めている。一方、これらの患者におけるビルダグリプチンの良好な有効性と安全性を示唆するプール解析の結果があるという。Lancet誌オンライン版2013年5月23日号掲載の報告。目標値達成をプラグマティックなプラセボ対照無作為化試験で評価 INTERVAL試験は、2型糖尿病の高齢患者に対するビルダグリプチン24週治療におけるHbA1c目標値の設定とその達成の実行可能性の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化試験で、現行の高齢2型糖尿病患者治療ガイドラインに即したプラグマティックな試験デザインが採用された。 対象は、70歳以上の7.0%≦HbA1c≦10.0%、空腹時血漿グルコース<270mg/dL、BMI 19~45の2型糖尿病患者とした。治験担当医が、年齢、ベースラインのHbA1c値、併存疾患、虚弱状態に基づき個々の患者のHbA1cの治療目標値を設定した。患者は、ビルダグリプチン50mg(薬物療法を受けていない患者などは1日2回、SU薬単剤療法を受けている患者は1日1回)を経口投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、(1)担当医により設定されたHbA1c目標値の達成率、(2)ベースラインから試験終了までのHbA1c値の変化の複合エンドポイントとした。目標値達成率:52.6 vs 27%、変化の群間差:-0.6% 2010年12月22日~2012年3月14日までに、欧州の7ヵ国(ベルギー、ブルガリア、ドイツ、フィンランド、スロベニア、スペイン、英国)の45の外来施設から278例が登録され、ビルダグリプチン群に139例[平均年齢75.1歳、男性52.5%、平均糖尿病罹患期間12.2年(1.3~35.0年)、平均BMI 29.1、平均HbA1c値7.9%]、プラセボ群にも139例[74.4歳、38.1%、10.6年(0.3~32.8年)、30.5、7.9%]が割り付けられた。ITT解析の対象は両群とも137例、安全性の解析は両群とも139例で可能であった。 HbA1c目標値の達成率は、ビルダグリプチン群が52.6%(72/137例)と、プラセボ群の27%(37/137例)に比べ有意に良好であった(調整済みオッズ比[OR]:3.16、96.2%信頼区間[CI]:1.81~5.52、p<0.0001)。 ビルダグリプチン群の平均HbA1c値はベースラインの7.9%から0.9%低下し、臨床的に意義のある改善が得られた。プラセボ群の平均HbA1c値は0.3%低下し、両群間のHbA1c値の変化の差は-0.6%(98.8%CI:-0.81~-0.33、p<0.0001)と、ビルダグリプチン群が有意に優れていた。 治療関連有害事象の発生率はビルダグリプチン群が47.5%、プラセボ群は45.3%であった。そのうち重篤な有害事象はそれぞれ5.8%、3.6%であり、有害事象による治療中止は4.3%、2.2%、治療関連死は0.7%、0.7%だった。5.0%以上に発現した有害事象として、めまい(ビルダグリプチン群7.9%、プラセボ群2.2%)、頭痛(5.8%、2.9%)、鼻咽頭炎(5.0%、5.0%)がみられた。 著者は、「ビルダグリプチンは、高齢の2型糖尿病患者の治療において、良好な忍容性を示すとともに個々の患者の目標血糖値(HbA1c)の達成に寄与することが明らかとなった。これらの知見は現行のADA/EASDなどのガイドラインの勧告を支持するものである」と結論し、「本研究は、2型糖尿病治療のエンドポイントとして個々の患者のHbA1cの目標値を用いる方法が実行可能であることを示した初めての臨床試験である」としている。

2549.

大きく変わったインスリン療法

 2013年5月28日(火)都内にて、「大きく変わったインスリン療法」をテーマにセミナーが開催された(サノフィ株式会社開催)。演者である順天堂大学大学院の河盛 隆造氏(スポートロジーセンター・センター長)は、「古くからあるインスリンを効果的に使うことで、糖尿病治療の可能性がさらに広がる」と期待を述べた。 講演後半では、浜松医科大学の釣谷 大輔氏(第二内科)から超速効型インスリンであるインスリン グルリジンによる食後血糖コントロールの意義が語られた。 以下、内容を記載する。【インスリンはいまだmagic drug】 インスリンは1921年に発見された。2021年にはインスリン発見から100年を迎えるが、インスリンはいまだにmagic drugである。現在では、血糖自己測定により主治医は糖尿病患者の血糖値を診察室にいながら把握することができる。しかし、今なおインスリンの普及は進まず、インスリンが臨床現場で効率よく用いられているとはいえない。インスリンの使い方次第では、今以上に良好な血糖コントロールにつながる可能性がある。 【糖尿病、とくに食後高血糖は心血管イベントにつながる】 糖尿病患者において、心血管イベントリスクが非糖尿病に比べて増加することはよく知られている。実際、アテローム血栓性脳梗塞で入院した患者のうち、糖尿病、耐糖能異常を有する割合は80%以上との報告もあり、心血管イベント抑制を意識した治療が重要とされている。とくに食後血糖が高いほど脳梗塞、CHDの死亡率が高いことも示唆されており、食後の血糖管理が重視されるようになってきた。【食後1時間値の血糖コントロールが望ましい】 これを受けて2007年より「食後高血糖の管理に関するガイドライン」が発刊され、2011年度では食後1~2時間の血糖を測定し、食後血糖値は160mg/dL以下に維持することと改訂された。実際、食後2時間値よりも1時間値のほうが高いとする報告が国内外でなされていることから、食後1時間値を参考にした血糖コントロールが推奨される。すでに7点測定を実施しているのであれば、現在食後2時間値を測定しているところを、食後1時間値に変更し、測定してみることも、食後血糖の変動を把握するうえで望ましい。【超速効型インスリンは食後高血糖正常化の選択肢】 この時、わずかな食後高血糖であっても内因性インスリン分泌に与える悪影響が大きいことを理解しておくべきである。ではどう対処すべきか。食後高血糖を正常化し、インスリン分泌を改善するには、一度、インスリンを用いて高血糖を取り除くことが効果的だ。超速効型インスリンはその際の選択肢として有用といえる。【インスリン グルリジンの血糖改善効果】 浜松医科大学の釣谷氏は、近年登場したインスリン グルリジンについての研究結果を紹介した。超速効型インスリンを1日3回使用している2型糖尿病患者25例を対象に、他の超速効型インスリンをインスリン グルリジンに変更したところ、インスリン グルリジン使用時の食後30分、60分後血糖値は、ほかの超速効型インスリン(アスパルト・リスプロ)使用時と比べ低値で(30分値は有意差あり)、グルリジンの血中CPRの変動はほかの超速効型インスリンと比べて改善傾向にあった。釣谷氏はグルリジンの作用発現は早く、食後の早い時間帯での血糖改善が認められていることを述べ、1型糖尿病や低血糖の懸念がある患者、胃切除後、インスリン抗体陽性が疑われる患者にも使いやすいだろう、と期待を述べた。【まとめ】 このような利点をもつインスリンだが、なかなか普及しない事も事実だ。これはインスリンに対する悪いイメージの先行や、注射という製剤ゆえのアレルギーが大きいためと予想される。しかし、現在のインスリンは痛みも少なく、常温で保存できワイシャツの上からでも打つことができる。何より糖毒性を解除できれば経口薬に戻せる可能性もある。講演後、河盛氏は「インスリンを最後の手段にせずに、的確に、積極的にインスリン療法を施すことで、よりよい治療が患者さんに提供されることを期待したい」と思いを伝えた。

2550.

ICD手術時、ワルファリン継続でも安全であることを確認/NEJM

 経口抗凝固療法を受けている患者へのペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)の手術時に、ヘパリンに変更する橋渡し療法(bridging therapy)と比較して、ワルファリン療法を継続する戦略は、臨床的に有意なデバイスポケット血腫(device-pocket hematoma)の発生を顕著に減少することが、カナダ・オタワ大学心臓研究所のDavid H. Birnie氏らによる多施設共同単盲検無作為化試験の結果、報告された。ペースメーカーやICDの手術を要する患者では、14~35%と多くの患者が長期の経口抗凝固療法を受けている。現行ガイドラインでは、これら患者について、血栓塞栓症イベントのため高リスク患者についてはヘパリンに変更する橋渡し療法が推奨されているが、デバイスポケット血腫のリスクがかなりあること(17~31%)が問題視されていた。NEJM誌オンライン版2013年5月9日号掲載の報告より。ワルファリン継続vs.ヘパリン橋渡し療法を多施設共同単盲検無作為化試験にて検討 橋渡し療法に関する問題に対して、いくつかの医療施設でワルファリン療法を中断しない手技を行うようになり、安全である可能性が示唆されたが、症例報告レベルにとどまり臨床試験はほとんど行われていなかった。 研究グループは、多施設共同単盲検無作為化試験にて、ワルファリン療法継続戦略の安全性と有効性を明らかにすることを目的とし、カナダの17施設とブラジルの1施設で被験者を登録した。被験者は、血栓塞栓症イベントの年間発生リスクが5%超の患者で、無作為に1対1の割合でワルファリン継続群とヘパリン橋渡し療法群に割り付けられた。 主要評価項目は、臨床的に有意なデバイスポケット血腫とし、その定義は、長期入院または抗凝固療法の中断、あるいはさらなる手術(血腫除去など)を余儀なくされた場合とした。ワルファリン継続群のデバイスポケット血腫発生の相対リスクは0.19 試験は、データ・安全性モニタリングボードによって、事前に規定された2013年2月27日時点の2回目の中間解析後に終了が勧告された。この時点で評価された被験者データ数は668例であった。 臨床的に有意なデバイスポケット血腫の発生は、ワルファリン継続群では343例のうち12例であった(3.5%)。一方、ヘパリン橋渡し療法群338例のうち54例で認められた(16.0%)。ワルファリン継続群の相対リスクは0.19(95%信頼区間[CI:0.10~0.36、p<0.001)であった。 重大な手術または血栓塞栓症の合併症はほとんど認められず、両群間の有意な差もみられなかった。 なお、ヘパリン橋渡し療法群では、心タンポナーデが1例および心筋梗塞が1例、ワルファリン継続群では、脳卒中と一過性脳虚血性発作がそれぞれ1例ずつみられた。

2551.

シタグリプチン、2型糖尿病の全原因入院・死亡に影響せず/BMJ

 DPP-4阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)は、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、他の血糖降下薬に比べ全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させないことが、カナダ・アルバータ大学のD T Eurich氏らの調査で示された。DPP-4阻害薬の安全性に関するベネフィットは、いくつかのプール解析で示されている。一方、実臨床におけるあらゆる原因に起因する入院や死亡などの広範なアウトカムに及ぼすシタグリプチンの影響を評価した大規模試験はこれまでなかったという。BMJ誌オンライン版2013年4月25日号掲載の報告。臨床アウトカムに及ぼす影響を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するレトロスペクティブな地域住民ベースのコホート試験を実施した。 米国の商業的な医療保険申請と研究所の総合的なデータベースを用い、2004~2009年の間に経口抗糖尿病薬の服用を開始した2型糖尿病患者を抽出した。これらの患者を、死亡、医療保険の終了または2010年12月31日まで追跡した。 主要評価項目は、全原因に起因する入院および死亡の複合エンドポイントとし、時間依存的なCox比例ハザード回帰分析を行った。現行の勧告を支持するエビデンス 7万2,738例(平均年齢52歳、男性54%、虚血性心疾患の既往歴11%、糖尿病関連合併症の既往歴9%)が解析の対象となった。シタグリプチンの服用者は8,032例(11%)(52歳、57%、11%、10%)で、そのうち7,293例(91%)は現行のガイドラインのとおり、他の経口薬への追加治療としてシタグリプチンを併用投与されていた。 1万4,215例(20%)が複合エンドポイントを満たした。シタグリプチン服用者の全原因入院・死亡率は非服用者と同等であった(調整ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.91~1.06、p=0.63)。 虚血性心疾患の既往歴を有する患者(調整HR:1.10、95%CI:0.94~1.28)および腎機能が低下した患者(推定糸球体濾過量<60mL/分)(調整HR:1.11、95%CI:0.88~1.41)においても、シタグリプチン服用者と非服用者の間に複合エンドポイントの発生率の差を認めなかった。 著者は、「新規に治療を開始した2型糖尿病患者において、シタグリプチンは他の血糖降下薬に比べて全原因に起因する入院や死亡のリスクを増大させない」と結論づけ、「これらの観察的データはシタグリプチンの安全性に関するエビデンスをもたらし、本薬剤を患者の必要に応じて使用する付加的治療薬と規定する現行の勧告を支持するもの」と指摘している。

2552.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(93)〕 すべての非心臓手術症例でのβ遮断薬投与は必須か?

これまで心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の投与はClass Iとされてきたが、すべての患者に投与することによる有用性は無いという報告がされるようになった。また、降圧薬としてのβ遮断薬も欧州のガイドラインからは除外された。さらに、β遮断薬間でも、心不全患者の予後改善効果に差があることがメタ解析から報告されている。  このようにβ遮断薬をめぐる種々の問題があるなかで、非心臓手術患者周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は、現在も結論が得られていない。メタ解析やコホート研究では、周術期のβ遮断薬の有効性を示した報告も数多くあるが、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACC(米国心臓協会/米国心臓病学会)ガイドラインでは、すでに他の疾患のためにβ遮断薬が投与されている患者に限って、周術期も継続投与すべき、とされるにとどまっている。  本研究では、米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例を対象に、β遮断薬の投与の有無でみた30日全死因死亡、副次的評価項目である心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率を調べ、後ろ向きにβ遮断薬の有効性について検討された。β遮断薬の投与は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子(うっ血性心不全、心血管疾患、糖尿病、虚血性心疾患、高リスク手術、慢性腎臓病)数が増えるに従ってリスクを低下させることが示され、今後ランダム化試験が必要とされるものの、術前にRCRIを評価したうえでβ遮断薬の投与を考慮すべき、と本論文では結論付けられている。  ただ、わが国では多くの施設で術前の心疾患のスクリーニングがなされ、かつ心機能を含めた評価のうえで手術が行われている。このようにRCRI以上のリスク評価のうえで手術が行われている現状を考慮すれば、β遮断薬投与の新たな必要性が問題となることは少ないであろう。ただ、β遮断薬の投与量や薬剤の選択を含め、β遮断薬の投与の是非を検討することは今後とも必要である。

2553.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(92)〕 胃食道逆流症に対する外科的手術と薬物療法(REFLUX試験)

本論文は、胃食道逆流症(GERD)の治療における薬物療法と外科的治療の有用性を比較検討したものである。研究デザインが複雑であるのが特徴で、研究デザインはRCTであるが、試験の経過観察中に実際に行われた治療法は、被験者の希望を尊重したものとなっている。すなわち、実際に外科的治療を受けたのは、当初の外科的治療割り付け群の63%および薬物療法割り付け群の13%であり、通常のRCTと異なる『partially randomised preference design』となっている。日常診療の実態に即した対処を加味した成績という点では評価されるものともいえるが、当然ながら、結果の解釈において選択バイアスによる影響が大きいことを考慮すべきである。 欧米における両治療法の評価に関して、大規模なRCT(LOTUS試験:Galmiche JP, et al. JAMA. 2011; 305: 1969-1977.)では、外科的治療と薬物治療の有用性についてはどちらもほぼ満足できるもので、手術の合併症などを考慮すると薬物療法で良い、とする内容であった。 一方、ACG(American College of Gastroenterology)のガイドライン(Katz PO, et al. Am J Gastroenterol. 2013; 108: 308-328.)では、「外科手術の副事象として運動機能障害に伴う嚥下障害や膨満感があるが、両者の有用性は同等」とされており、Cochrane Reviewでは、「外科手術の方が薬物療法よりもQOLが良いが、少数の患者では術後に嚥下障害が生じる」と意見が異なっている。このように外科的手術の有用性を検討する場合、Methodに表現できない『手術という技術力の格差』に伴うバイアスや『非盲検試験における患者の希望』が研究結果に大きな影響を及ぼす可能性に注意が必要である。 なお、日本におけるGERDに対する治療は欧米と大きく異なっている。医療経済的観点が重要視される欧米では、外科的手術が盛んになっている一方、わが国では欧米に比べて胃酸分泌能が低いこともあり、プロトンポンプ阻害薬を中心とした薬物治療が主流であり、現時点で外科的治療との比較試験は皆無である。

2554.

Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. One-year costs of ischemic heart disease among patients with acute coronary syndromes: findings from a multi-employer claims database. Curr Med Res Opin 2008; 24 (2): 461-4682)Buch P et al. Temporal decline in the prognostic impact of a recurrent acute myocardial infarction 1985 to 2002. Heart 2007; 93 (2): 210-2153)Haffner SM et al. Mortality from coronary heart disease in subjects with type 2 diabetes and in nondiabetic subjects with and without prior myocardial infarction. N Engl J Med 1998; 339 (4): 229-2344)De Luca G et al. Efficacy and safety of drug-eluting stents in ST-segment elevation myocardial infarction: a meta-analysis of randomized trials. Int J Cardiol 2009; 133 (2): 213-2225)Kimura T et al. j-Cypher Registry Investigators. Antiplatelet therapy and stent thrombosis after sirolimus-eluting stent implantation. Circulation 2009; 119 (7): 987-9956)Kawaguchi R et al. Safety and efficacy of sirolimus-eluting stent implantation in patients with acute coronary syndrome in the real world. Am J Cardiol 2010; 106 (11): 1550-15607)Hiro T et al. Effect of intensive statin therapy on regression of coronary atherosclerosis in patients with acute coronary syndrome: a multicenter randomized trial evaluated by volumetric intravascular ultrasound using pitavastatin versus atorvastatin (JAPAN-ACS [Japan assessment of pitavastatin and atorvastatin in acute coronary syndrome] study). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (4): 293-3028)Chen KY et al. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119 (25): 3207-32149)Fox KA et al. Decline in rates of death and heart failure in acute coronary, syndromes 1999-2006. JAMA 2007; 297 (17): 1892-190010)日本循環器学会 (班長:山口徹) 急性冠症候群の診療に関するガイドライン. 2007年改訂版/オンライン版11)日本循環器学会 (班長:小川久雄) 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン. 2011年改訂版/オンライン版12)Wright RS et al. 2011 ACCF/AHA focused update of the guidelines for the management of patients with unstable angina/non-ST-elevation myocardial infarction (updating the 2007 guideline). J Am Coll Cardiol 2011; 57 (19). 1920-195913)Kushner FG et al. 2009 focused updates: ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction (updating the 2004 guideline and 2007 focused update) and ACC/AHA/SCAI guidelines on percutaneous coronary intervention (updating the 2005 guideline and 2007 focused update). J Am Coll Cardiol 2009; 54 (23). 2205-224114)Van de Werf F et al. Management of acute myocardial infarction in patients presenting with persistent ST-segment elevation: the task force on the management of ST-segment elevation acute myocardial infarction of the European Society of Cardiology. Eur Heart J. 2008; 29 (23): 2909-294515)Hamm CW et al. ESC guidelines for the management of acute coronary syndromes in patients presenting without persistent ST-segment elevation: the task force for the management of acute coronary syndromes (ACS) in patients presenting without persistent ST-segment elevation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2011; 32 (23): 2999-305416)Stone GW et al. A prospective natural history study of coronary atherosclerosis. New Engl J Med 2011; 364 (3): 226-23517)Grines CL et al. Prevention of premature discontinuation of dual antiplatelet therapy in patients with coronary artery stents: a science advisory from the American Heart Association, American College of Cardiology, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, American College of Surgeons, and American Dental Association, with representation from the American College of Physicians. Circulation 2007; 115 (6): 813-818.18)Park SJ et al. Duration of dual antiplatelet therapy after implantation of drug-eluting stents. N Engl J Med 2010 ; 362 (15): 1374-138219)Gwon HC et al. Six-month versus 12-month dual antiplatelet therapy after implantation of drug-eluting stents. The efficacy of Xience/Promus versus Cypher to reduce late loss after stenting (EXCELLENT) randomized, multicenter study. Circulation 2012; 125 (3): 505-51320)Mauri L et al. Rationale and design of the dual antiplatelet therapy study, a prospective, multicenter, randomized, double-blind trial to assess the effectiveness and safety of 12 versus 30 months of dual antiplatelet therapy in subjects undergoing percutaneous coronary intervention with either drug-eluting stent or bare metal stent placement for the treatment of coronary artery lesions. Am Heart J 2010; 160 (6): 1035-104121)Moscucci M et al. Predictors of major bleeding in acute coronary syndromes: the Global Registry of Acute Coronary Events (GRACE). Eur Heart J. 2003; 24 (20): 1815-182322)Vehanian A et al. Guidelines for the management of atrial fibrillation; the task force for the management of atrial fibrillation of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2010; 31 (19): 2369-2429

2555.

非心臓手術の周術期β遮断薬投与、死亡率を抑制/JAMA

 心リスクが高い非心臓/非血管手術患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により全死因死亡や心合併症の発生率が低下することが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMartin J London氏らの検討で示された。非心臓手術患者における周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は現在も結論が得られておらず、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACCガイドラインでは、他の疾患のためにすでにβ遮断薬が投与されている患者に限って周術期も継続投与すべきとされる(class I)。JAMA誌2013年4月24日号掲載の報告。周術期β遮断薬投与と術後転帰の関連を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、非心臓手術を施行された患者における周術期早期のβ遮断薬投与と術後の転帰の関連について評価するレトロスペクティブなコホート試験を行った。 2005年1月~2010年8月までに米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例[手術当日または術後にβ遮断薬を投与された患者5万5,138例(40.3%)、非投与患者8万1,607例]および傾向スコアをマッチさせたコホート7万5,610例(β遮断薬投与患者、非投与患者それぞれ3万7,805例)を解析の対象とした。 主要評価項目は30日全死因死亡、副次的評価項目は心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率とした。無作為化試験による妥当性の検証が必要 β遮断薬は、血管手術を施行された患者(1万3,863例)の66.7%に投与され、非血管手術患者(12万2,882例)の37.4%に比べると有意に高かった(p<0.001)。 β遮断薬投与率は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子数が増えるに従って上昇し、リスク因子なしの患者は25.3%、4つ以上の場合は71.3%であった(p<0.001)。 全体で術後30日までに1,568例(1.1%)が死亡し、心合併症は1,196例(0.9%)に認められた。 傾向スコアをマッチさせた群では、β遮断薬の投与により死亡率が有意に低下した(相対リスク(RR):0.73、95%信頼区間(CI):0.65~0.83、p<0.001、治療必要数(NNT):241、95%CI:173~397)。 RCRIのリスク因子数で層別化すると、リスク因子が2つ以上の患者でβ遮断薬による死亡率の有意な低下が認められ、リスク因子数が増えるほど死亡抑制効果が高い傾向がみられた。リスク因子2つはRR:0.63(95%CI:0.50~0.80、p<0.001)、NNT:105(同:69~212)、同3つではRR:0.54(同:0.39~0.73、p<0.001)、NNT:41(同:28~80)、4つ以上ではRR:0.40(同:0.25~0.73、p<0.001)、NNT:18(同:12~34)であった。ただし、この関連は非血管手術患者に限定された。 β遮断薬の投与は非致死的なQ波心筋梗塞または心停止も有意に抑制した(RR:0.67、95%CI:0.57~0.79、p<0.001、NNT:339、95%CI:240~582)。この関連も非血管手術患者に限られた。 著者は、「ベースラインの心リスクが高い非心臓/非血管手術施行患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により30日全死因死亡や心合併症の発生率が有意に低下した」とまとめ、「RCRIのリスク因子数の評価は周術期β遮断薬の使用の意思決定に有用な可能性があるが、これらの観察的知見の妥当性を検証するために、RCRIで低~中等度のリスクの患者を対象に周術期β遮断薬投与の多施設共同無作為化試験を行う必要がある」と指摘している。

2556.

〔CLEAR! ジャーナル四天王(90)〕 否定された『減塩パラドックス』―降圧の基本は、やはり減塩。

食塩摂取と高血圧とは、いわば切っても切れない関係にある。 薬剤による降圧療法は日常的に行われているが、各国の高血圧診療ガイドラインでは、薬物療法に先行する生活習慣の改善(life style modification)、なかでも『減塩』の履行・遵守を強く勧めている。高血圧診療における、生活習慣の改善の代名詞が『減塩』であり、日本高血圧学会でも学会をあげて『減塩』に取り組んでいる。たとえば、例年開催される学会のランチは減塩弁当であり、また昨年初めて行われた減塩サミットの共催に名を連ねた。 本論文は、こうした『減塩』の価値を、改めて再確認する内容をSystematic Review・メタ解析の手法を用いて報告している。いまさらとも言われかねない『減塩』の価値を検討し、証明する試みがなされ、BMJに発表された背景には、2011年に相前後してJAMAに発表された2本の論文で、『減塩パラドックス』、すなわち過度の減塩が心血管イベントを増加させる可能性が報告されたことが強く影響している1), 2)。これらの論文では、減塩が心血管イベントの抑制につながらない根拠として、減塩によるレニン・アンジオテンシン系の活性化や、交感神経系の活性化、脂質異常の悪化の可能性があげられている。 これらの論文は、JAMAに掲載されると瞬く間に反論、疑義が寄せられ、議論の的となった3)~11)。反論の中核となった論点は、食塩摂取量の推定方法 (標準的な24時間蓄尿サンプルによる推定ではなく、single urine sampleによる推定に基づいている)、データ採集の方法(数年間の隔たりがあるコホートについて解析をしており、データ採集時期に重大な差がある)であり、誤った手法によって収集されたデータが、誤った結論を導いた可能性が指摘されている。 著者らは、改めて厳格な選定基準のもと選定した研究成果に対して、Systematic Review・メタ解析を行った。その結果は、従来通り『減塩』の有効性を支持するものであり、世界的・公衆衛生学的な取り組みの修正を迫るものではなかった。CKDの評価項目にも採用されているsingle urine sampleによる簡便な評価法は、疾病についての啓蒙や、さまざまなコストの軽減、データ収集の容易さをもたらすメリットがある。しかし、このような簡便さによって、科学的な評価に耐えるデータ収集が損なわれている可能性があることを見過ごしてはいけない。ポストホック解析や、観察研究による問題提起は重要であるが、科学に求められていることは、普遍的な真実の解明であることを忘れてはならないのではないか。参考文献1) Stolarz-Skrzypek K, et al. JAMA. 2011; 305: 1777-1785.2) O'Donnell MJ, et al. JAMA. 2011; 306: 2229-2238.3) Aleksandrova K, et al. JAMA. 2011; 306:1083.4) Bochud M, et al. JAMA. 2011; 306: 1084.5) Cook NR. JAMA. 2011; 306: 1085.6) de Abreu-Silva EO, et al. JAMA. 2011; 306: 1085-1086.7) He FJ, Appel LJ, et al. Kidney Int. 2011; 80: 696-698.8) Labarthe DR, et al. JAMA. 2011; 306: 1084-1085.9) Rebholz CM, et al. JAMA. 2011; 306: 1083-1084.10) Whelton PK. JAMA. 2011; 306: 2262-2264.11) Mann S. JAMA. 2012; 307: 1138-1139.

2557.

ちびまる子ちゃん【パーソナリティ】

「いるいる、こんな人!」―パーソナリティとは?みなさんは、今までに出会った人で、「いるいる、こんな人!」と思わず別の誰かを連想してしまったことはありませんか?私たちは、いろいろな人とかかわっていく中で、新しく出会った人が、自分のすでに知っている誰かに重なってしまうことがあります。そして、その人が、国民的人気アニメ番組「ちびまる子ちゃん」のあの個性的なキャラクターたちに似ていると思ったことはありませんでしたか?普段の日常生活で私たちの心を惹きつけたり、逆にヤキモキさせる人たちが、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちに重なってしまうのはよくあることです。その理由は、「ちびまる子ちゃん」に登場するキャラクターたちの多様で魅力的な個性には、メンタルヘルスで扱われる性格の傾向(パーソナリティの偏り)が巧みに描かれているからです。彼らの存在こそ、「ちびまる子ちゃん」が20年を超える長寿番組となったことに大きく貢献しているように思います。今回は、「ちびまる子ちゃん」のキャラクターたちの特徴を深く探っていきましょう。そこには、魅力と同時に危うさ(リスク)も潜んでいます。そこから、私たちが実生活で人とより良くコミュニケーションをするためのヒントを見つけていきましょう。パーソナリティの源 ―個体因子と環境因子厳密には、パーソナリティは、成人後に完成するという前提があります。なぜなら、まる子の年頃はまだまだ心の成長の途中で、柔軟性(可塑性)があるので、一概にパーソナリティを決め付けることはできません。しかし、あまりにも特徴が出ているので、あくまでパーソナリティの傾向やリスクとして、みなさんにぜひご紹介したいと思います。【男子】丸尾くん―生真面目キャラ―発達の偏り、強迫性パーソナリティまず、最も強烈なキャラクターの丸尾くんです。「ズバリ!○○でしょう」が口癖で、一貫して丁寧な言葉使いで一本調子な話し方が特徴です(コミュニケーションの偏り)。学級委員としていつもハツラツとしていますが、学級委員で居続けることに執念を燃やし、そのためには並々ならぬ努力もしています。ここから、彼に強いこだわりがあることが分かります(想像力の偏り)。次の学級委員の選挙を前に、ライバルが出てくるのに神経質になった丸尾くんは、クラスメート1人1人に「困っていることはありませんか?1つくらい絶対にあるでしょう」と強引に迫っていくエピソードがあります。そして、まる子たちに「親切の押し売りだ」「何でもないのにいちいち声をかけられたら迷惑なんだよ」だと責められます。ここから、彼は、こだわりが強いあまりに融通が利かず、空気が読めずに空回りしていることが分かります(社会性の偏り)。目指すのが、みんなのお手本でありながら、日頃から女子に「奇妙キテレツ」と思われてもいます。さらには、花輪クンのきれいなお母さんを見て帰ってきた時、丸尾くんは自分のお母さんに「母さま、なぜあなたは美しくないのですか?」と悪気なく聞いてしまいます。彼は、相手の心を汲み取って(心の理論)、人に合わせるバランス感覚は鈍いのでした。これらの3つの特徴から、丸尾くんはどうやら発達の特性(発達の偏り)が際立っています。さらに、成長して空気の読みづらさが目立たなくなっても、こだわりに囚われてしまうことが癖(完璧癖)になってしまうリスクがあります(強迫性パーソナリティ)。彼のこれらの特徴は、彼の心構え(パターン認識)や周りの理解によって、良さや魅力にもなりえます。こだわりは、ひたむきさ、熱意、真面目さにもなりえます。実際に、彼は、勉強だけでなく、お楽しみ会の手品や運動会の応援や合唱の練習など何ごとにおいても一生懸命にする努力家です。学級委員として、みんなのためにみんなが嫌がることも喜んでやります。そして、女子に対しての純情な一面もあります。私たちが丸尾くんから学べるコミュニケーションのコツは、丸尾くんのような人に何かしてほしい時、まず細かく具体的な指示を出して、脱線しないようにレールをしっかり敷いてあげることです(構造化)。そして、そのレールに乗せて、本人のひたむきさを生かすことです(パターン学習)。私たちが、丸尾くんのひたむきさを高く買ってあげることができれば、「立派なサラリーマン」「マイホーム購入で親孝行」「ノーベル賞受賞」という丸尾くんの夢をきっと応援したくなるのではないでしょうか?表 丸尾くんの二面性危うさ魅力こだわり、完璧癖、融通が利かない空気が読めず空回り奇妙キテレツひたむき、熱意生真面目、努力家純情花輪クン―セレブキャラ―自己愛パーソナリティまず、家庭環境が際立って恵まれているのが、花輪クンです。彼は、いわゆるセレブです。しかも、家の財力があるだけでなく、英語やフランス語などの語学、ピアノやバイオリンの音楽、お茶とお花の教養などのあらゆる英才教育を受けてきています。通学は、車という特別扱いが当たり前です。さらに、端正な顔立ちで、クラスの女子からの圧倒的な人気があり、口癖は「ベイビー」です。唯一の欠点は、字が下手なことくらいです。このように、子どもの頃から全てにおいて恵まれた環境で、挫折も知らないまま育った場合、何ごとも自分の思い通りになると思ってしまいます(万能感)。すると、パーソナリティの傾向としては、自信に溢れてしまい(自己評価が高い)、自分に酔いしれて自惚れやすくなります(誇大性)。そして、いつもチヤホヤされたいと思うようになります(賞賛欲求)。また、自惚れが強ければ、人を見下してしまいやすくなり、自分以外の恵まれない環境の人たちの気持ちが分かりにくくなります(共感性欠如)。その一方で、もともと守られていることで、自分を大切に思う気持ちが強く(自己愛)、妥協をしません。これが向上心としてより良く生きる原動力になるので、攻めは強いです。しかし、もしもその守りがなくなってしまったら、どうでしょう?つまり、持っているものを持ち続けている限りは強いのですが、持っているものがなくなってしまった時は、どうでしょう?例えば、お父さんの会社が倒産したら?成長して端正な顔立ちではなくなったら?大病を患ってしまったら?人間関係のトラブルで信頼を失ったら?彼は、何ごとも思い通りにできるという自分のイメージ(自己イメージ)が人一倍強いです。それだけに、実は、慣れていない苦しい状況によるストレスに対しては人一倍に打たれ弱いのです。このように、自己イメージと現実とのギャップに苦しむリスクが高まります(自己愛性パーソナリティ)。つまり、攻めには強いですが、守りにはとても弱いという弱点があるのです。私たちが花輪クンから学べることは、恵まれすぎていることは、逆に、人間的な成長にとってプラスにならないという客観的な視点です。むしろ、生きていて思い通りにならないことにこそ、心を鍛え養うエッセンスが潜んでいます。失敗や挫折を跳ね返す経験は、私たちの心の糧(かて)になり、心をより豊かにするために大事なことであると言えます。表 パーソナリティの源危うさ魅力自惚れやすい(誇大性)チヤホヤされたい(賞賛欲求)人の気持ちが分かりにくい(共感性欠如)守りは弱い自信に溢れている(自己評価が高い)より良く生きる原動力(向上心)になる妥協しない攻めは強い永沢―ひねくれ者キャラ―反社会性パーソナリティ花輪クンとは対照的に、家庭環境が恵まれていないのが永沢です。彼には、火事で家を失った暗い過去があります。昔は「明るい少年だった」と言われていますが、火事を境にして、今は暗く、「どいつもこいつも」といつも不平不満を口にして(不信感)、誰に対しても口が悪いひねくれ者です(敵意感情)。火事で自分だけ惨めな思いをしたことから、「自分が損をすること」にとても敏感になのです(不公平感)。「世の中は平等で公平である」という育むまれるべき感覚(規範意識)が彼の中で揺らいでいます。彼には、気難しくてすぐに殴る父親と愛情表現が乏しく厳しい母親がいます。この両親に対して、すでに小学校3年生にして反抗的な一面があります。うっぷん晴らしで、彼を慕う藤木を冷たくあしらったり、おとしめたりします(攻撃性)。「損をしないためには他人を利用する」というものごとのとらえ方が芽生えてしまい、理屈っぽくて相手の気持ちがよく分からなくなっています(共感性欠如)。校外の社会科見学で、出発の時に、わざと姿をくらませて、出発できないようにして、みんなを困らせようとしたエピソードもありました。図書室の本「みんなに好かれる性格になる本」を、永沢が読むべきだとまる子に言われたことに腹を立てて、怒りが治まらずに本を引き裂くエピソードもあります(衝動性)。彼の攻撃性や衝動性は、やがて訪れる反抗期にエスカレートすれば、不良グループに属し非行に走るリスクがあります。そして、成人後には社会のルール違反を繰り返すリスクがあります(反社会性パ-ソナリティ)。しかし、同時に、彼の反抗心や反骨精神、闘争心は、将来的に尊敬できるロールモデルに巡り合い、良い方向付けができれば、古いしきたりや価値観に縛られることなく、新しい発想や価値観をもたらすエネルギー源にもなりえます。不信感や不公平感は、現状に甘んじることのない問題意識の高さでもあります。衝動性は、フットワークの軽さでありチャレンジ精神の旺盛さでもあります。つまり、彼は、時代のパイオニアや改革者になる可能性も秘めているということです。表 永沢の二面性危うさ魅力不信感、不公平感ひねくれ者、反抗心攻撃性衝動性問題意識が高い反骨精神、闘争心パイオニア、改革者軽いフットワーク、チャレンジ精神藤木―気にしすぎキャラ―回避性パーソナリティ藤木は、ハートはとても弱い泣き虫の臆病者です。臆病な行動をとってしまって、どんなに永沢に付け込まれて「卑怯者」呼ばわりされても、藤木は永沢を慕います。「永沢くんにもいいところがある」と永沢をかばおうとする姿勢は、健気(けなげ)で優しさがありますが、同時に、これはいじめられっ子の典型的な心理でもあります。一人ぼっちにはなりたくないという怯えがあり、たとえ意地悪な相手であっても、かかわりを持ちたいと思うのです。この状況は、永沢の気分によっては、いじめにエスカレートするリスクが潜んでいます。彼はクラスメート全員から、ことあるごとに「あいつ卑怯だからな」とからかわれ、卑怯者のレッテルを貼られます。まさに、弱々しいしい彼がターゲット(スケープゴート)にされるいじめの構図です。また、藤木自身もそれに甘んじてしまい、「どうせおれは卑怯者だから」と卑怯なことをする都合の良い言い訳にして、卑怯なことを繰り返してしまいます(ラベリング理論)。さらに、残念なことは、彼は卑怯者呼ばわりされたことを涙して両親に打ち明けたのに、その両親は「そうなった原因はお前だ」「いや、あんただ」と責任のなすり合いをして夫婦ゲンカに発展してしまったことです。全く、藤木は両親から守られておらず、ますます心の支えや安心感(安全基地)がなくなってしまいます。こうして彼は、自分に自信がなくなってしまい(自己評価が低い)、将来的に、引っ込み思案で引きこもりになるリスクが高まります(回避性パーソナリティ)。ただ、彼のパーソナリティは、裏を返せば、慎重で協調性があり、争いを好まない平和主義者という見方もできます。彼の良さである穏やかさや優しさが発揮されるには、プレッシャーをひどく与えないコミュニケーションが望まれます。表 藤木の二面性危うさ魅力臆病、引っ込み思案自分に自信がない(自己評価が低い)引きこもりのリスク慎重、穏やか協調性がある、優しさ平和主義はまじ―お調子者キャラ―演技性パーソナリティはまじは、クラス一のお調子者です。いつもいろいろな芸をして、クラスメートを笑わせています。「だいたいなぁ、長山(読書家で優等生のクラスメート)みたいに真面目ばっかじゃ面白くねえんだよ。子供らしくない子供はみんなに嫌われるぜ」と彼は力説します。この発言から読み取れるのは、彼は「みんなに嫌われる」かどうかに価値を置いている点です。つまり、彼は人一倍、「みんなに好かれたい」のです。みんなを喜ばせて注目の的になりたいという欲求が強く、派手好きで、周りへの働きかけがとても積極的です(能動性)。実際に、彼のようなキャラクターは、やり手のセールスマンに多く、世渡り上手(社交性)で出世しやすく、また、芸能界ではムードメーカーとしてもてはやされ人気者になります。はまじの教訓は、「人生なんに面白おかしく過ごしたやつの勝ちだ」です。お気楽でウケ狙いのノリの良さはあるのですが、気に入られることばかりに気をとられてしまうとどうなるでしょうか?自分自身を振り返ることが疎かになり、媚びるばかりの「中身のない薄っぺらいヤツ」になるリスクもあります(演技性パーソナリティ)。真面目さや内面性を問われる集団では、親しみやすさは馴れ馴れしさになってしまい、派手さはけばけばしさになり、目立ちたがり屋、チャラい男、ブリっ子女子として煙たがれ、疎まれるリスクもあります。表 はまじの二面性危うさ魅力目立ちたがり屋、大げさ馴れ馴れしいけばけばしい媚びる、中身がない、薄っぺらいお調子者、ムードメーカー親しみやすさ、世渡り上手派手好きノリが良い、演出がうまい【女子】まる子―愛されキャラ―依存性パーソナリティ主人公のまる子は、面白いことに好奇心があり、楽天的です。みんなに気に入られ、愛される魅力的なキャラクターです。はまじとはお調子者同士でよく似ており、気も合うようですが、まる子は、はまじほど積極的ではありません(受身)。しかし、要領が良い分、甘え上手、お願い上手で、だらしない面がたくさんあります。例えば、おじいちゃん大好きっ子で、おじいちゃんにはよくおねだりをします。また、お姉ちゃんには「まる子の一生のお願い、これで17回目だよ」と言われたり、お父さんに「お前の一生は何回あるんだ」と突っ込まれるなど、まる子は一生のお願いを連発しています。飽きっぽくて怠け癖があり、よく朝寝坊をして、遅刻ぎりぎりセーフでいつも学校に通っています。すぐにいらないものを買うなどお金の浪費癖も目立っています。このようなだらしなさは、見通しが甘く(無責任)、人を当てにして(主体性がない)、生きてしまうリスクがあります(依存性パーソナリティ)。まる子の家族(おじいちゃんを除く)は、まる子を気安く助けないようにしていますが、これは、とても良いコミュニケーションのコツと言えます。表 まる子の二面性危うさ魅力だらしない、飽きっぽい怠け癖、浪費癖無責任、主体性がない楽天的、受身甘え上手、頼み上手気に入られる、愛されるたまちゃん―しっかり者キャラ―共依存まる子と大の仲良しなのは、たまちゃんです。彼女は、ピンチになるまる子をいつも全力で助けてくれます。例えば、まる子が言いたいことをついはっきり言ってしまい、みぎわさんや前田さんとやり合った時、ハラハラしながらも仲直りさせようとします。また、まる子ができ心からカンニングをして、その後ろめたさからみんなに打ち明けようとすると、たまちゃんはまる子に「絶対に言っちゃだめ」「言ったら絶交だからね」と言います。そして、心の中で誓います。「私はまるちゃんをかばうよ。どんなことがあってもかばう。絶対にみんなから責められたりしないようにするよ」と。まる子がたまちゃんに頼りがちなだけに、たまちゃんは、いつもまる子を放っておけなくなります。実は、たまちゃんのようなしっかり者が、そのしっかりしている力を発揮するには、周りにだめな人がいてくれる必要があります。将来的には、だめな人を放っておけない、自分を頼ってくれるだめな人を探し求めてしまうお節介屋さんになる可能性もあります。頼られることに頼る、つまり必要とされることを必要とするようになり、相手も自分もだめにしてしまうリスクがあります(共依存)。たまちゃんは、なぜこんなにしっかり者なのでしょうか?その答えは、たまちゃんのお父さんの存在にありました。たまちゃんのお父さんは、カメラマニアで、「何でも記念を写真に撮っておきたい」というこだわりが強く、相手の気持ちを汲み取る心(心の理論)が鈍いようです(発達の偏り)。シャッターチャンスを逃すまいとしてしょっちゅう常識外れな行動に走ります。「風邪で苦しんでいる自分の記念だ」と自分で自分の写真を撮るほどのこだわりがあります。ですので、周りに風変わりに思われることが多々あり、たまちゃんに世話を焼かせ、困らせています。たまちゃんは、将来的には、自分には恥ずかしい父親がいるという引け目から、よりいっそうとしっかり者になって、人の役に立つ仕事(対人援助職)に就くのではないかでしょうか?表 たまちゃんの二面性危うさ魅力お節介しっかり者、頼まれ上手世話焼きみぎわさん―思い込みキャラ―妄想性パーソナリティみぎわさんは、洋服、持ち物、好きなもの全てが乙女チックで女の子らしく、学級委員を務める優等生です。そして、とにかく花輪クンのことが大好きです。花輪クンのことにはつい敏感になってしまい、彼に優しい言葉をかけられただけで、気に入られていると思い込み、大喜びしてしまいます(被愛妄想)。逆に、クラスの女子が花輪クンと仲良く話していると、「花輪クンを狙っているでしょ!」と詰め寄り、嫉妬心を燃やします (嫉妬妄想)。授業中に、まる子がクラスメートの女子から受け取る手紙を、たまたま花輪クンが回してくれた時、それを見たみぎわさんは花輪クンがまる子に手紙を渡したと思い込み、大激怒します。そして、みぎわさんはまる子に「放課後、話をつけましょう。体育館の裏で待ってるわ」と書いた手紙を渡すのでした。みぎわさんの思い込みの激しさは二面性があります。疑い深く嫉妬深くて、妄想癖があるために、花輪クン以外のクラスメートには、ヒステリックで高圧的になっていくリスクがあります(妄想性パーソナリティ)。一方、彼女は、思いこんだら一直線のエネルギーを持っているとも言えます。このエネルギーを用心深さ、勘の良さ、対抗心、想像力の豊かさに有効活用することもできます。みぎわさんの「暴走」に対して、花輪クンは、はっきりしたことを言わず(中立)、心の間合い(心理的距離)をとって、巻き込まれないようにしています。これが、まさにコミュニケーションのコツと言えます。表 みぎわさんの二面性危うさ魅力疑い深い嫉妬深い妄想癖用心深い、勘が良いすぐに対抗心を燃やす想像力が豊か前田さん―怒りんぼ泣き虫キャラ―情緒不安定性パーソナリティ登場回数は少ないわりに強烈な印象を残すのが、前田さんです。彼女は、掃除係で、掃除にかける思いは熱くて良いのですが、気が強く、掃除を盾に威張り散らすことが多いです。そして、挨拶代わりに文句を言って威圧して、周りに気を使わせます。人に指図することも多く、大晦日に通りすがりのまる子に荷物を持たせたこともありました。彼女の最大の特徴は、相手に言うことを聞かせるためにすぐに怒り出すことと、逆に反撃され、行き詰り追い込まれるとすぐに泣き出すことです(衝動性)。大激怒して散々まる子たちを困らせたあと、自分が困ったら今度は大号泣するのです。そして、泣くことで、相手から手助けや譲歩を引き出し(操作性)、問題が解決すると、ケロっと泣きやみ、また威張り散らし始めるのです。また、「私に味方はいない」と漏らし、相手は敵か味方かという発想が強いようです(スプリッティング)。このように、すぐにかっとなったり、すぐに泣き出したりする行動パターンを繰り返していると、感情が揺れやすいことが本人の生き様になり、人間関係で苦労するリスクが高まります(情緒不安定性パーソナリティ)。一方で、この心の様は、感受性の豊かでもあり、このエネルギーを文学や音楽、演技力などの芸術センスに生かすこともできます。コミュニケーションのコツは、本人の感情の揺れに振り回されないように、近付きすぎずにやはり一定の心の間合い(心理的距離)が大切になります。表 前田さんの二面性危うさ魅力感情が揺れやすい感受性が豊か野口さん―ミステリアスキャラ―統合失調性パーソナリティ野口さんは、一見、無表情、無口のネクラでひっそりしていて、クラスの中で陰が薄いです。しかし、「クックックッ」という笑い声や、「しーらない」「言えやしないよ」と低いフラットなトーンの口癖は独特です。しかも、実は、かなりのお笑い好きで、「お笑いは、まず身近な所から見つけていこうね」と言い、しょっちゅう何かしでかすまる子の様子を、電柱の陰から密かに伺うなど、神出鬼没な一面もあり、かなり強烈な印象があります。まる子が前田さんにからまれ、何とか切り抜けた後に、野口さんはまる子に「これからも前田さんのことは、温かく見守っていこうね」「あ、またそろそろ泣くぞ」とボソっと告げるなど超越した視点を持っています。野口さんの特徴は、家族や友達との親密さを求めず、周りと距離を取ろうとする一匹狼キャラであることです。音楽の歌のテストの時には、壇上に出て「歌いたくありません」ときっぱり拒否をするエピソードもあります。ミステリアスで孤高でマイペースな一方、奇妙に思われて孤立して、社会生活が送りづらくなるリスクもあります(統合失調性パーソナリティ)。本人のペースを尊重しつつ、必要な時は社会との橋渡しをしてあげることがコミュニケーションのコツと言えます。表 野口さんの二面性危うさ魅力孤立奇妙社会生活を送りづらい孤高、超越した視点ミステリアスマイペース【まとめ】個性 ―パーソナリティの偏りこれまで、ちびまる子ちゃんの代表的で個性的なキャラクターたちを見てきました。彼らをより良く知ったことで、さらに彼らが私たちの身近な誰かに重なったり、または自分自身に重なってしまったりはしていないでしょうか?実は、彼らの特徴は、傾向やリスクとして、メンタルヘルスで扱うパーソナリティの偏りをほぼ全てカバーしているのです(表)。表 メンタルヘルスで扱うパーソナリティの偏り傾向またはリスクのあるキャラクターパーソナリティ強迫性丸尾くん自己愛性花輪クン反社会性永沢回避性藤木演技性はまじ依存性まる子共依存たまちゃん妄想性みぎわさん情緒不安定性前田さん統合失調性野口さんちびまる子ちゃんの友達関係―社会の縮図その他のクラスメートとして、リーダーキャラの大野君と杉山くん、お嬢様キャラの城ヶ崎さん、おバカキャラの山田、口癖キャラのブー太郎、胃弱キャラの山根、食いしん坊キャラの小杉などがいます。彼らを加えると、ちびまる子ちゃんたちがコミュニケ―ションを織りなし繰り広げる教室は、まさに私たちの社会の縮図です。ちびまる子ちゃんのキャラクターたちをヒントとして、実生活での相手のことをよく知り、同時に自分自身のことをよく知り、そして、相手と自分の関係性を見つめ直すことに生かすことができるのではないかということです。コミュニケーションにおいて、相手がどんな人なのかというパーソナリティの傾向を踏まえた上で、その魅力の裏にある危うさ(リスク)を想定して接するのと、そうでないのでは、心の余裕は全く違ってしまいます。ちびまる子ちゃんの作品を通して、人の個性の魅力と危うさという二面性をより良く知っていくことで、私たちの人生はより豊かになっていくのではないでしょうか?1)「ちびまる子ちゃん大図鑑」(扶桑社)2)「ICD-10(精神および行動の障害、臨床記述と診断ガイドライン)」(医学書院)3)「DSM-IV-TR(精神疾患の分類と診断の手引)」(医学書院)

2558.

ドラえもん【注意欠如・多動性障害(ADHD)】

「うっかりしてた!」みなさんは、「うっかりしてた!」とヒヤっとしたことはありませんか?うっかりミス、いわゆるヒヤリ・ハットです。病院では、誤薬が一番多いヒヤリ・ハットのようです。どうして私たちはうっかりしてしまうのか?どうしてうっかりの程度は人によって違うのか?そして、うっかりを減らすにはどうすればいいのか?今回、これらの疑問を、国民的人気アニメ番組「ドラえもん」でおなじみの、ジャイアンとのび太のキャラクターをモデルにして、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。ジャイアンとのび太に共通する特性ジャイアンは「ガキ大将」で「悪ガキ」です。一方、のび太は、「グズでノロマ」で「弱虫」です。この2人の関係は、いじめっ子といじめられっ子として描かれることが多く、一見すると真反対のキャラクターです。しかし、よくよくこの2人を見て行くと、ある共通した特性や行動のパターンが浮き上がってきます。そして、このパターンは、スネ夫やしずかちゃんなどの他のキャラクターにはっきりとみられないものです。そのポイントは3つです。まず、2人とも、特にジャイアンは、気が早いということです(衝動性)。ジャイアンは、怒りっぽく、喧嘩っ早いです。一方、のび太は、早とちりや言ってはいけないことをボロリと漏らす失言癖があります。第2に、2人とも気が多いということです(多動性)。気の多さは、気の早さが繰り返される落ち着きのなさから来ていると言えます。2人とも、せっかちで、飽きっぽいです。第3に、2人とも、特にのび太は、気が散りやすいということです(不注意)。気の散りやすさは、気の早さや気の多さの裏返しとも言えます。つまり、気が早くて気が多いからこそ、その分、気が散りやすいとも言えます。ジャイアンものび太も要領(順序立て)は悪く、忘れものが多く、授業中に集中して聞いていないことが多いです。そして、先生の言い付けに従うのも苦手で、学校のテストも低い点数が多いです。特に、のび太はぼんやりしがちなため、ドジでおっちょこちょいです。そして、うっかり口を滑らすのは、先ほどの失言癖につながっていきます注意欠如・多動性障害(ADHD)気が早い(衝動性)、気が多い(多動性)、気が散りやすい(不注意)という3つの特性によって、学校や家庭などでの日常生活においてとても困ることが小学校低学年(7歳)までにみられ、続いている場合は、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれます(表1)。ジャイアンは衝動性の傾向が強く(多動性―衝動性優勢型)、のび太は不注意の傾向が強いようです(不注意優勢型)。しかし、この2人の程度は、薬などの積極的な治療が必要な障害と呼べるほどのレベルではなさそうです。また、この特性の傾向の子どもたちの多くは、成長するにつれて、目立たなくなることが多いです。ただ、中には、不注意の特性が大人になっても、残っている場合があります。大事なのは、私たちがこの特性をより良く知ることで、この特性と上手に付き合っていくためのヒントを探ることができるのではないかということです。表1 ADHDの診断基準(DSM-IV)混合型不注意優勢型多動性―衝動性優勢型症状(>6/9項目)が半年以上持続不注意多動性衝動性1. 不注意な間違い2. 集中困難3. 聞こえない4. 指示に従えない5. 順序立てが困難6. 課題への回避7. 物を失くしやすい8. 気が散りやすい9. 忘れっぽい1. 座位で手足を動かす(もじもじ)2. 座っていられない3. 走り回る4. 静かに遊べない5. じっとしていない6. しゃべりすぎる7. 食いぎみ(出し抜け)に答える8. 順番が待てない9. 話の遮り、割り込み7歳(小学校低学年)以前に存在2つ以上の状況(例、学校、家庭、病院、職場など)で存在ADHD特性の二面性―困った面と魅力この特性の困った面は、裏を返せば、魅力にもなります(表2)。どう見えるかは、その時代や文化など周りの状況との折り合いで変わってきます。例えば、日常の世界でのジャイアンとのび太は、困ったキャラとして目に映ることが多いですが、大長編映画で冒険する時のジャイアンとのび太はどうでしょう?この2人は、とても熱血で勇敢でフットワークが軽いのです。そして、決断力があり、リーダーシップをとっています。これは、気の早さ(衝動性)や気の多さ(多動性)の特性から来ています。ADHDの秘めたエネルギーです。何ごともそつなくこなすスネ夫や穏やかで大人しいしずかちゃんにはないものです。平和な日常の世界で、ジャイアンが、ムシャクシャしているという理由だけでのび太やスネ夫に八つ当たりするのは困ります。しかし、場面場面をよくよく見ると、例えば、少女マンガを読んで号泣するなど感受性豊かな面もあります(衝動性)。また、のび太の散漫さ(不注意)は、計算問題などの課題をこなすことには向いていません。しかし、緻密さが求められない伸び伸びとした状況では、大らかで癒し系であるとも言えます。表2 ADHDの特性の二面性困った面魅力ジャイアン気が早い(衝動性)怒りっぽいけんかっ早い(暴力)早とちり失言癖衝動買い熱血勇敢、豪快、大胆アイデアマンチャレンジ精神フロンティア(開拓)精神気が多い(多動性)落着きがないせっかち飽きっぽい、移り気エネルギッシュフットワ-クが軽い新し物好きのび太気が散りやすい(不注意)集中力がない、散漫忘れっぽいドジ、おっちょこちょいおっとり、お淑やか大らか、癒し系おとぼけキャラADHDの特性の原因―生物学的因子それでは、気が早い、気が多い、気が散りやすいというADHDの特性の原因は何なんでしょうか?それは、一言で言えば、脳の発達の偏りです。その詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のアンバランスなどが明らかになってきています。そして、さらにその原因に関しては、遺伝、胎生期の母体の喫煙、周生期の合併症などの生物学的因子が報告されています。未来のジャイアンの息子・ヤサシとのび太の息子・ノビスケは、それぞれの父親のキャラから逆転しているのも、遺伝の要素の示唆に富みます。ADHDの特性のメカニズム私たちの目や耳に入っていく情報は、インプットされる段階で、脳によって無意識的に必要なものと必要でないものに強弱を付けられています。この情報量の調整によって、仕事、勉強、日常生活で、一定時間の適度な集中力を発揮することができます。ところが、この調整がうまくいかないと、目や耳に入っていく全ての情報、特に欲求の対象に脳が飛び付いてしまうのです。そして、頭の中では、必要な情報が不要な情報に埋もれてしまい、逆に、頭がパンクして全く尻込んでしまうのです。学校から帰り、宿題に取り組んでいるのび太は、階下のママの「おやつよ」との声や、ジャイアンとスネ夫の「野球に行こうぜ」との誘いに、すぐに気が散ってしまうのです。また、欲求は、怒りや喜びなどの感情に密接につながっているので、ジャイアンが情に熱いのも納得がいきます。ADHDの特性を例えるなら、アクセルが効きすぎる車です。アクセルが効きすぎる分、ブレーキやハンドルは消耗し、しかも燃費が悪く燃料切れですぐに止まってしまいます。この車にとっては、特にこまめなアクセルとブレーキのバランスやハンドル裁きを使い分けることが必要な小道や路地、つまり複雑な情報処理が求められる現代社会を「走り抜く」のはとても大変なことなのです。環境調整―かかわり方のコツ、構造化、視覚化ADHDの特性は、ちょうど足の速い人も遅い人もいるのと同じように、その人のユニークさとも言えます。彼らがうまくいかないのは、単に努力が足りないのではなく、ぴったり合った取り組み(環境調整)が足りないのです。例えるなら、このユニークな「車」には、特別な「ナビ」(かかわり方のコツ)、こまめな「交通整理」(構造化)、そして目に見える「交通標識」(視覚化)が必要だということです。(1)ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)の母ちゃんへのアドバイスジャイアンは、店番や配達をサボったり、弱い者いじめをしたり、リサイタルで近所に迷惑をかけたりしています。これらが見つかると、ジャイアンの母ちゃんは、ゲンコツや平手打ちなどの体罰を加えて叱りつけます。ジャイアンが唯一、心の底から恐れている存在です。このかかわり方はジャイアンの乱暴さ(衝動性)の抑えになっているように描かれていますが、果たしてそうでしょうか?実は、皮肉にも、このかかわり方が衝動性をより強めている可能性があります。「悪い子は叩いていい」という学習をしてしまい、「叩かれる子は叩く子になる」リスクを大いにはらんでいます(モデリング)。1. かかわり方のコツジャイアンの母ちゃんへのアドバイスとして、まず、かかわり方のコツは、怒りなどのネガティブな感情ではなく、愛情深さや改善される喜びなどのポジティブな感情を前面に出すことです。例えば、騒々しい時は「うるさい!」と一喝するのではなく、「声のボリュームを8から5に下げると嬉しい」と具体的に肯定的に伝えることです。2. 視覚化と構造化そして、やって良いことと悪いことの線引きのルールを目に見える形にすることです(視覚的構造化)。外食や遊園地にいっしょに行くなどのご褒美リストや「がんばり表」をリビングや本人の部屋の壁に貼り、ご褒美を目指して毎日達成するとポイントが加算されるというポイント制(トークンエコノミー)を導入します(行動療法)。例えるなら、目の前に常にニンジンをぶら下げている馬の状況を作るのです(動機付け)。もちろん好ましい行動は褒めますが、逆に、好ましくない行動をした時は、まず、ポイントが加算されないことへの残念さを指摘することです。その他、トイレ掃除、お小遣いの減額、行動の制限などのペナルティを設けること、さらには一定期間、無視することがあげられます。大事なのは、好ましくない時の対応がどんなことであるかをあらかじめ本人に伝え、親もルールに従っていることを示すことです。また、有り余るエネルギー(多動性)をうまく発散させるために、地域のスポーツクラブなどに積極的に参加させることです(転換)。また、手足のもじもじ(多動性)は、貧乏揺すり、ペン回し、テーブルの指叩きなどのより受け入れられる「癖」に転換していくこともできます(代償行為)。さらに、例えば、靴の中での靴底への足指叩きなど見えないところへの転換はなお適応的であると言えます。(2)のび太(不注意優勢型)のママへのアドバイスのび太は、いつも部屋で昼寝をして、なかなか勉強をしません。そんなのび太がテストで0点を取ってくると、のび太のママは、のび太を毎回ガミガミと叱りつけています。ママはどうやら「叱ると子どもは勉強する」「勉強するまで叱り続けるべきである」という信念(スキーマ)を持っているようです。いわゆる古典的な教育ママのモデルです。しかし、残念なことに、叱られるのび太は進歩していません。と同時に、叱るママも進歩していないのです。「同じことを繰り返している」と繰り返し叱ること自体、皮肉にも「同じことを繰り返している」と言えます。のび太は懲りていないわけですが、同時に、実はママも懲りていないのでした。1. かかわり方のコツのび太のママへのアドバイスは、「叱り方」、つまり、かかわり方を変えることです。まず、目に付くのが、ママは、「勉強しなさい!」「早くやりなさい!」と口うるさく勤勉さを強調しますが、自分はいつも居間でテレビを見ていて勤勉ではありません(ダブルスタンダード)。もちろんママは主婦業を立派にこなしてはいるのですが、何かに打ち込むという勤勉さのモデルを、のび太に目に見える形で示すことが効果的です(視覚化)。例えば、ママは、日課の家事だけでなく、趣味ややりたいことの目標を掲げ、それに向かって努力している背中をさりげなく見せることです。2. 構造化ジャイアンへの枠組みと同じように、のび太にも生活の枠組みを目に見える形にすることが大切です(視覚的構造化)。これは私たちの生活にもそのまま応用できます。特に、最初に触れたヒヤリ・ハットを防止するためのヒントになる取り組み(環境調整)です。a. 時間の構造化まず、日課表や時間割によって、やるべき定時を決めることです(時間の構造化)。例えば、宿題をやる時間を決めます。その内容は、飽きないようにバリエーションで小分けにして、その間のこまめな休憩時間も決めます。そして、カウントダウンしていくキッチンタイマーを目の前にして、集中力が途切れないようにします。また、部屋を散らかしやすいなら、1日5分のお掃除タイムを決めます。アポのある日は、段取りの予定を決めます。例えば、遅刻予防のためには、決められた15分前の時間を自分の予定表に設定します。その予定表を見るのを忘れるのを防ぐため、予定表を見る時間も決めます。例えば、毎食後などです。また、付箋などのリマインダー、携帯電話のタイマー機能や「秘書アプリ」も最近は大いに活用できます。b. 場所の構造化部屋を散らかさないためには、物のあるべき定位置を決めることです(場所の構造化)。部屋の散らかりは、物の置き場所が決まっていないという頭の中の散らかり具合を映し出しています。例えば、物を使ったら、必ず定位置に戻す習慣を付けることです。また、書類などの大切なものがなくならないように、大切なものを置く場所を決めます。こまかく整理できるように、小箱も有効に活用できます。冷蔵庫の中も定位置を決めれば、無暗に突っ込まなくなります。定位置には、文字や絵で示しておけば、意識付けが高まります(視覚的構造化)。また、集中力を高める理想的な作業環境を知っておくことも重要です。実は、のび太の部屋は、最も気が散りやすい学習環境のモデルなのです。3つのポイントがあげられます。まず、机が窓に向いていることです。窓から見える人や鳥など動いているものに目を奪われがちになります。窓は、視界に入りにくい位置にあるのが理想的です。2つ目は、ドアが視界に入らない点です。ママにいつ覗かれるかと気になってしまう可能性があります。ドアは、視界に入る位置にあるのが理想的です。3つ目は、背後に空間がある点です。そこでドラえもんがどら焼きを食べていれば、どうでしょう?人は本能的に背後が壁だと落ち着きますので、背後は、壁であるのが理想的です。3. 視覚化ご褒美リスト、がんばり表、親の背中、付箋などのリマインダーなど、目に見える形にして、目に付きやすくすることについては、すでに触れてきました(視覚化)。さらに、部屋の片付けのポイントとして、大きな棚を買わないことです。大きな棚は、散らかったものを詰め込んで見えなくしているだけになります。ちょうど、部屋が片付いていない時にお客さんが来たら、散らかったものを一気に押入れに押し込んだり、一か所に寄せて大きな布を被せるのと同じです。これは、片付けたのではなく、隠しただけなのです。視覚化の真逆の行動です。つまり、ポイントは、散らかった様子を自分に見える形にして、お掃除のやる気を高めることです。のび太が0点の答案を隠さないのと同じくらい大切なことと言えます。(3)2人の母へのアドバイス1. リスクこのままジャイアンとのび太が中学生になったらどうなるでしょうか?マンガやアニメで、大学生や大人の彼らは描かれていますが、中学生や高校生の多感な思春期の彼らは描かれていません。これは、ADHDの特性のあるキャラクターを描いたドラえもんの「ブラックボックス」と言えます。ジャイアンの「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という身勝手さは、このままだと対人トラブルや反社会的な行動を生み出すリスクがあります(素行障害、反社会性パーソナリティ)。その時は、もはや体格的に母親の力では抑えが効きません。一方、のび太は、「のび太のくせに(生意気だぞ)」と言われ続けて、「どうせぼくなんて」「ぼくは何をやってもだめなんだ」と自信をなくし(低い自己評価)、そこに目を付けられて、ますますいじめのターゲットにされるかもしれません。自信のなさは、対人関係を回避しようとする引きこもりを生み出すリスクがあります(回避性パーソナリティ)。つまり、ADHDの特性は、これ自体は個性なのですが、性格(パーソナリティ)を形作るうえで大きな影響を与えやすいということです。そして、一番重要なことは、この性格は、育む環境によって、魅力にもリスクにもなりうるということです。ADHDの特性によるリスクは、例えるなら、高血圧のリスクです。高血圧は、これ自体は困りませんが、心臓病(虚血性心疾患)や脳卒中(脳血管障害)などのリスクがあります。これと同じように、ADHDの特性は反社会性や回避性のパーソナリティのリスクがあるのです。2. 自尊心と他人への敬意を高める高血圧の人が心臓病や脳卒中を予防するためには、食事療法や運動療法、深刻な場合は薬物療法が必要です。これと同じように、ADHDの特性のある子が、より社会に合わせられ、個性を発揮するためには、その方向付けがとても大切であるということが分かります。そのポイントは、自分を大切にする心(自尊心)と他人を大切にする心(敬意)ことです。そのためには、先ほど触れたかかわり方のコツを踏まえて、彼らが小さな成功体験を積み重ねていくことです。例えば、本人の「良いところリスト」を作って、貼るのも良いでしょう。ジャイアンの母ちゃんは、ジャイアンが店を手伝っていることを当たり前だと思わず、感謝することをお勧めしたいです。すると、ジャイアンは、自尊心が満たされていることにより、他人への感謝や敬意を示すことのできる大人に育っていきます。のび太のママは、のび太の特技であるあやとりや射撃のセンスを勉強に役立たないくだらないことだと思わず、好ましい評価をして、親子でいっしょに大会や集まりに参加することをお勧めしたいところです。体罰を加えたり、ガミガミ叱るのは、自尊心が低く、他人への敬意も払えない子を育て上げるハイリスクの教育ママのモデルと言えます。ここから、親もADHDの特性をよく知って、自分も他人も大切にできる心を育むかかわり方を勉強する必要があることが分かります(ペアレントトレーニング)。表3 環境調整かかわり方のコツ構造化視覚化ジャイアン(多動性―衝動性優勢型)×体罰を加える◎ポジティブな感情を出す◎スポーツで発散する×隠す◎目に見える形にする◎目に付きやすくする◎具体的、肯定的に伝える◎良いところリストを作る◎ご褒美リスト、がんばり表を作るのび太(不注意優勢型)△ガミガミ叱る◎親が努力している背中を見せる◎定時、定位置、予定を決める◎小分けにする◎バリエーションを付ける(4)ドラえもんモデル―自尊心を高め教訓を導くジャイアンとのび太の未来にリスクがある中、登場するのがドラえもんです。秘密道具を出すドラえもんののび太へのかかわり方は、さきほど触れたジャイアンの母ちゃんやのび太のママとは対照的です。秘密道具は、のび太の望みを次々と叶えていると思われがちですが、実はそうでもありません。例えば、ドラえもんは、非常識なリクエストにはきっぱりダメと言い、聞き入れません。ドラえもんなりに何の秘密道具を出すかの基準がはっきりとあるのです。その基準から、どうやら、主に2つのメッセージ性がありそうです。1つ目は、自信を引き出し、自尊心を高めることです。例えば、「コンピューターペンシル」や「暗記パン」によって、勉強ができるという爽快感や達成感を味わい、成功体験を積み重ねていくことは、「自分はできる」という自信や「次はこうなりたい」というビジョンを引き出してくれます。道具は、単にのび太を助けているのではなく、のび太を前向きにさせる後押しをしているのです。2つ目は、道具を使うことによって教訓を得ることです。例えば、秘密道具によって、初めは問題が解決したかに見えて期待を抱かせますが、やがて、のび太が使い方を間違ったり、「絶妙」なタイミングで道具が壊れる展開が待っていることです。そして、最後に、ドラえもんが「道具に頼るからだ」と戒めるストーリーのオチです。のび太だけでなく、見ている私たちが気付くのは、道具を使うことは根本的な問題の解決になっていないこと、そして問題はやはり自分で取り組むのが大切であるということです。自尊心を高め教訓を導くこのドラえもんモデルは、いつもそばにいて支え続けるという母性的な面と、あるべき倫理観を示す父性的な面をバランス良く兼ね備えており、のび太の成長に欠かせない存在です。ADHDの特性の起源そもそも、なぜこのようなADHDの特性が多かれ少なかれ私たちに存在するのでしょうか?進化心理学的に考えれば、普遍的に存在することには、必ずそこに理由がありそうです。その理由とは、もともと人間は、ADHDの特性を持っていたのではないかとういことです。太古の昔から、人間を含む生き物は、食うか食われるかの生存競争から、早い動きに自動的に注意を向ける能力が進化しました(衝動性)。その反面、明らかに遅い動きに注意を向ける能力は、生存競争において必要がないため、進化しませんでした(チェンジ・ブラインドネス)。例えば、テレビのバラエティで、ある映像でどこが徐々に変化しているかを言い当てるクイズは、まさにこの遅い動きへの注意の能力が試されています。そして、このクイズは、きっとADHDの特性の強い人には苦手でしょう。さらに、人間の狩猟採集社会の時代では、夜中に寝ている時でも、獲物がさっとそばを横切れば、すかさず仕留める必要があります(衝動性)。また、飢餓が続けば、獲物や果実を求めて遠出をして動き回ります(多動性)。そんな勇敢であると同時にある程度向こう見ずな遺伝子を持つ種族が生き延び、子孫を残してきたのでした(適者生存)。ところが、1万年前、ほぼ同時期に農耕と牧畜が始まったことにより、社会構造が大きく変わりました。それは、狩猟採集社会から農耕牧畜社会への移り変わりです。狩猟民族の持つ瞬間的な高い集中力(瞬発性)よりも、新しく生まれた農耕民族が持つ持続的な一定の集中力(安定性)、つまりADHDの特性の少なさに価値が置かれるようになりました。ADHDの特性をより分かりやすくするために大胆に言うと、人類は、ぱっと応じるガツガツタイプとじっくり粘るコツコツタイプの2タイプに分けることができるということです。例えるなら、イソップ童話に登場する「兎と亀」です(表3)。国ごとのADHDの特性の程度の違いのわけ世界的に見ると、日本は、ADHDの子どもが少ないです。これはなぜでしょうか?1つの理由としては、日本は国土が狭い島国であったことです。この狭さ(狭小性)と出にくさ(閉鎖性)により、ADHDの特性は発揮されず、この血筋があまり増えなかったことが考えられます。もう1つの理由は、江戸時代に発展した形式を重んじる文化的な枠組みです。それまでの戦国時代は、ADHDの特性の強い戦国武将たちがしのぎを削っていました。特に織田信長は、ADHDの特性が強く、戦で先頭を切り、情報戦略を張り巡らし、時代を先駆ける型破りな革命児でした。現代の私たちも好きな人は多いです。しかし、結果的に、ADHDの特性の少ない徳川家康が天下統一を果たしてしまいました。信長と家康のADHDの特性の違いは対照的です。それは、「泣かぬなら殺してしまえ」と「泣くまで待とう」とそれぞれ対照的に読まれたホトトギスの俳句が物語っています。家康によって、鎖国が推し進められ、長らく平和な世の中が続きました。武士道や茶道などあらゆる形式が重んじられました。このような形式の重んじられた安定した封建社会は、ADHDの特性の少ない人たちが活躍するのに有利です。その一方、ADHDの特性の強い人たちにとっては、幼少期からの枠組みの強い環境がルールを守ることを根付かせて、ADHDの特性を目立たなくさせてきたのでしょう。幕末の激動の時代にようやくADHDの特性を発揮できる状況がやってきました。そして、その時に活躍したのが、ADHDの特性のとても強い坂本龍馬でした。彼は、気性が激しいことでも有名ですが、発想の転換が早く、行動力があり、時代を先駆けることができたのでした。一方、現代のアメリカ合衆国は、ADHDの子どもが多いとの統計があります。この理由は、そもそも彼らの祖先は、冒険心を持って新大陸を目指して集まった人たち、つまり、ADHDの特性の強い人たちだからではないかと思われます。だからこそ、同時に、アメリカ合衆国は、特許数が世界一です。彼らには、ADHDの特性の強いアイデアマンが多いのです。ジョブマッチング(表4)―ADHDの良さを引き出すそして今、新たな時代がやってきています。情報革命が起こり、情報が錯綜する中、国際的な競争力、発想力、行動力が問われる時代です。同時に、お財布携帯、統一化した交通カード、スケジュール管理、検索などのITによるシステム化により、生活スタイルがシンプルになり、ADHDの特性の強い人にも生きやすい時代になってきました。以前よりもシンプルで激動の「大草原」を、この「アクセル」の効きすぎる車は、きっと真っ先に駆け抜けていくでしょう。そのために、私たちはADHDの特性をよく知り、リスクをうまくカバーしつつ、その特性に合った職場環境を見いだす必要があります(ジョブマッチング)。例えば、ジャイアンの夢は、家業の雑貨店から「ゴウダショッピングモール」という自分の名を冠した大型百貨店を世界展開することです。いかにもジャイアンらしいアイデアです。実際に、未来のジャイアンは、「スーパー・ジャイアンズ」というスーパーマーケットを起業しています。ADHDの特性を生かして、起業家としての能力を発揮したのでした。しかし、ADHDの特性のリスクを考えれば、経営は優秀な部下に任せて、ジャイアンはあくまで次の起業に力を注ぐべきだということです。また、ADHDの特性の強い営業マンは、顧客の懐に飛び込むのがうまいのです。衝動性が積極性や仕事の早さとして生かされています。しかし、よくありがちな失敗は、アフターケアを疎かにするということです。よって、会社組織の取り組みとしては、アフターケアには、ADHDの特性の少ない別の担当者を向かわせるというチーム体制を敷くことです。さらに、とてもADHDの特性の強い人は、冒険家に向いています。冒険は、目的がシンプルで、達成されたら終わりというように期間が限定されています。彼らは、多動性や衝動性から、積極的な行動がパターン化して、刺激を求めやすくなっているのです。例えば、死ぬかもしれないけど、エベレストに登ることです。あえて危険な目に身をさらす冒険家の心理状態です(リスクテイカー)。これは、あえて遅刻ぎりぎりに到着するなど遅刻常習犯の心理でもあります。よって、厳しいノルマや規律を求められる学校や会社にはあまり向かないことになります。そして、方向付けが間違えば、その衝動性から、アルコール依存症や薬物依存症になりやすいリスクも潜んでいます。また、医療職において、ADHDの特性を発揮する場は、高い集中力やスピードが求められる救急や夜間当直と言えます。表4 ジョブマッチンングガツガツタイプ(狩猟採集民族)コツコツタイプ(農耕牧畜民族)ADHD特性多い(強い)少ない(弱い)モデル兎織田信長、坂本龍馬亀徳川家康特徴瞬間的な高い集中力(ぱっと応じる瞬発性)持続的な一定の集中力(じっくり粘る安定性)例一般職起業家、冒険家クリエーター、商品開発漁業、スポーツマン経営者、管理職公務員、サラリーマン農業、牧畜医療職急性疾患、救命救急緊急手術、精神科救急夜間当直慢性疾患精神疾患リハビリテーション薬物療法―「ドラえもん薬(ぐすり)」前半で触れたADHDの診断基準を満たしている場合、薬物療法を行います。その効果は、薬による一定の刺激覚醒により集中力を持続させ、学校や家庭での生活を維持していきます。これと同じように、ドラえもんの存在は、ワクワクする体験や冒険を通してのび太を適度に刺激している点で、「ドラえもん薬(ぐすり)」という一種の薬物療法とも言えそうです。では、私たちにとっての「ドラえもん薬」とは何でしょうか?それは、ワクワク感という心の覚醒を持続するために、日々の仕事や日常生活の中での夢や目標に向かって突き進んでいくことそのものです。ここに、最初に触れた「うっかりを減らすにはどうすればいいのか?」という疑問に対しての答えが見えてきます。1つの答えは、のび太のママへのアドバイスでもある作業の枠組みでした(構造化)。それは、定時、定位置、予定を決めるなど作業やチェックをシンプルに目に見える形にすることです。これに加えて、はっきりしてきたもう1つの答えは、仕事や日常生活の夢や目標を自ら意識付けて、日々の生活を生き生きと生きる心意気であると言えます。この自らへの刺激によって、のび太がしずかちゃんと結婚するという夢を叶えるように、私たちも人生をより豊かに歩んでいくことができるのではないでしょうか?1)「注意欠如・多動性障害―ADHD―診断・治療ガイドライン」(じほう) 齊藤万比古 20082)「ADHDのび太ジャイアン症候群」(主婦の友社) 司馬理英子 20083)「他人とうまくいかないのは、発達障害だから?」(PHP研究所) 姜昌勲 20124)「『のび太』という生き方」(アスコム) 横山泰行 2004

2559.

4年ぶりの改訂!『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版』の改訂ポイントは?

 4月19日(金)~4月21日(日)、東京国際フォーラム(東京・千代田区)にて「第53回 日本呼吸器学会学術講演会」が行われた。 学会2日目、2009年以来4年ぶりの改訂となる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第4版」のポイントについて、作成委員長である永井厚志氏(東京女子医科大学 統括病院長)より発表された。 主な改訂のポイントは以下のとおり。●COPDの疾患定義ガイドライン第3版のCOPDの定義は「体動時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とする」(一部抜粋)であったが、第4版では「労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰を特徴とするが、これらの症状に乏しいこともある」(一部抜粋)と改訂されている。COPDは自覚症状が乏しいケースもあるため、見過ごされる事も少なくない。永井氏はこれを避けるために、あえて「症状に乏しいこともある」という記載を追記したとしている。●COPDの病態概念COPDの併存疾患、合併疾患の内容がアップデートされた。なかでも、「喘息とCOPDのオーバーラップ症候群」と「気腫合併肺線維症(CPFE)」については充実した内容が盛り込まれている。また近年、話題となっているオーバーラップ症候群については、喘息を合併していないCOPDと比較して、予後が不良となることも記載された。●薬物治療 長時間作用性β2刺激薬(LABA)、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、吸入用ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA)配合薬などの薬剤が新たに上市されため、エビデンスとともにその情報がまとめられた。●COPDの増悪COPDの増悪に対する管理は、QOLや予後の観点から重要である。わが国でも、その認識を高める必要があるため、増悪管理について記載内容の見直しが行われた。●運動耐容能から身体活動性への概念転換COPD患者の運動耐容能はこれまで6分間歩行試験などが指標とされてきたが、患者自身の活動性に、より重きを置いた身体活動性へ概念が転換された。●災害時などへの対応東日本大震災後に作成する初めてのガイドラインとなるため、災害時の対応に関する記述が盛り込まれた。●その他「気流閉塞」と「気流制限」の用語の整理や、参考文献についてMindsに準じたエビデンスレベルの付記が行われた。 今回の第4版は、初めて日本呼吸器学会会員からのパブリックコメントを参考に作成された改訂版である。したがって、永井氏は今回のガイドラインについて「学会全体の協力により作成したガイドラインである」と述べた。

2560.

切除不能大腸がんの標準化学療法後に新たな治療薬

 現在、切除不能進行・再発大腸がんに対する治療は、大腸癌治療ガイドライン(2010年版)において、KRAS野生型では3次治療、KRAS変異型では2次治療までの治療アルゴリズムが推奨されており、国内では多くの医師がこれを順守している。先月25日、これらの標準化学療法が無効になった症例に対する治療薬として、レゴラフェニブ(商品名:スチバーガ)が承認された。東京医科歯科大学大学院教授の杉原 健一氏は、4月23日のバイエル薬品株式会社主催のプレスセミナーで、本剤の作用機序や第III相臨床試験成績を紹介し、標準化学療法後の新たな治療薬として期待を示した。そのうえで、副作用管理の重要性を強調し、発売後早期に症例データを集積し、自身が会長を務める「大腸癌研究会」のホームページに結果を掲載し注意を喚起していきたいと語った。 講演で、杉原氏はまず、わが国では大腸がんは非常な勢いで増加しており、その最も大きな要因は高齢社会になったことであると述べ、自施設でも80代の患者の手術が普通になってきていることを紹介した。外科切除後に再発する約3割の患者さんには化学療法が施行されるが、標準化学療法が無効になっても全身状態が良好な患者は多く、その後の治療ニーズは高いという。経口マルチキナーゼ阻害薬であるレゴラフェニブは、このような標準化学療法後の患者に対する治療薬として承認された。大腸がんでは多数のシグナル伝達経路が関与しているため、マルチターゲットの薬剤が有効、と杉原氏は説明した。 続いて、標準化学療法施行後に病勢が進行した切除不能大腸がん患者760例を、レゴラフェニブ群(505例)とプラセボ群(255例)に分け検討した国際共同第III相臨床試験「CORRECT試験」の成績について紹介した。本試験には、日本から100例が登録されたという。 主要評価項目である全生存期間は、レゴラフェニブ群の中央値が6.4ヵ月と、プラセボ群の5.0ヵ月に比べ有意に上回った(ハザード比:0.77、p=0.0052)。また、サブグループ解析では、原発部位を除く各サブグループにおいてレゴラフェニブ群のほうが優れ、KRAS変異に影響されないことが示された。無増悪生存期間、病勢コントロール率においても有意差を示した。 本剤の主な副作用としては、手足の皮膚反応、疲労、下痢、高血圧、皮疹が挙げられる。杉原氏は、グレード3になる前に減量・休薬するなど、副作用を十分にコントロールすべきと述べ、副作用を管理し長期に治療することが患者さんのメリットにつながると語った。 すでに、最新の米国NCCNガイドライン(version 3. 2013)では、切除不能進行・再発大腸がんに対して、KRAS野生型では4次治療、KRAS変異型では3次治療にレゴラフェニブが記載されており、杉原氏は、わが国の大腸癌治療ガイドラインでも、次回の改訂ではレゴラフェニブが3次・4次治療として記載される可能性を示唆した。

検索結果 合計:2880件 表示位置:2541 - 2560