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発見者による心臓蘇生、院外心停止後生存を改善/JAMA

 デンマークにおいて、バイスタンダー(居合わせた人、発見者など)による心肺蘇生(CPR)戦略の導入効果について、初となる評価が行われた。コペンハーゲン大学ゲントフテ病院のMads Wissenberg氏らによる調査検討の結果、2001~2010年の院外心停止後生存者は、バイスタンダーCPRの実施の増加と有意に関連していることが明らかになったという。JAMA誌2013年10月2日号掲載の報告より。過去10年の、バイスタンダー蘇生実施率と生存率の変化を調査 デンマークで導入されたバイスタンダーCPR戦略は、(1)蘇生法訓練の小学校(2006年10月)および運転免許取得者(2005年1月)への実施導入、(2)CPR自己訓練キットを2005~2010年で約15万個配布、(3)バイスタンダーへの救急センターからの電話ガイダンス改善(2009年からの救急センターへの医療従事者の配置開始含む)、(4)病院外へのAED配置増(2011年までに約1万5千台)、(5)ガイドライン改訂(2004年に低体温治療開始など)や早期血行再建術への着目増大による高度ケアへの改善努力、(6)救急隊員の訓練などEMSシステムの全体的強化などであった。 研究グループは、これら戦略導入が行われた過去10年間のバイスタンダーによる蘇生実施率と生存率の変化について、全国デンマーク心停止レジストリの2001~2010年の院外心停止蘇生実施ケース患者を特定して調べた。 主要評価項目は、バイスタンダーCPR、バイスタンダー除細動、30日生存率、1年生存率についての経時的傾向だった。バイスタンダーCPR実施と院外心停止後生存がともに増加 調査対象期間中の心停止患者は2万9,111例であった。そのうち、非心原性心停止例(7,390例)と救急医療隊員による蘇生であることが確認された例(2,253例)を除外した1万9,468例を試験集団とした。被験者の年齢中央値は72歳、男性が67.4%であった。 バイスタンダーCPRの実施は試験期間中、2001年の21.1%(95%信頼区間[CI]:18.8~23.4%)から2010年の44.9%(同:42.6~47.1%)に有意に増大していた(p<0.001)。一方、バイスタンダー除細動の実施も倍増していたものの、実施率は低いままであった(1.1%→2.2%、p=0.003)。 病院へ生存した状態で到着できた人の数は、7.9%(95%CI:6.4~9.5%)から21.8%(同:19.8~23.8%)へと有意に増大していた(p<0.001)。また30日生存率も有意に改善していた(3.5%→10.8%、p<0.001)。1年生存率も同様に有意に改善していた(2.9%→10.2%、p<0.001)。 なお、試験期間中に院外心停止患者の発生数自体は有意に減少していた(10万人当たり40.4人→34.4人、p=0.002)。そうした中で生存者数が有意に増大していた(10万人当たり2.9人→6.4人、p<0.001)。 全試験期間中、バイスタンダーCPRは、心停止の発症を目撃されていない場合でも、30日生存率の改善と明らかな関連が示された。同30日生存率は、バイスタンダーCPRあり4.3%、同なし1.0%で、オッズ比は4.38(95%CI:3.17~6.06)だった。目撃されていた場合の同値は、19.4%、6.1%、オッズ比3.74(95%CI:3.26~4.28)だった。 上記結果を踏まえて著者は、「デンマークでは2001~2010年の間に、院外心停止後生存者の増加と、バイスタンダーCPRの増加が有意に関連していた。同時期に起きている他の改善要因もあるので、因果関係についてはなお不明である」とまとめている。

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シスチン尿症〔cystinuria〕

1 疾患概要■ 定義シスチン尿症は、腎近位尿細管と小腸上皮における二塩基性アミノ酸のシスチン、リジン、オルニチン、アルギニンの先天性吸収障害で、常染色体劣性の遺伝性疾患である。■ 疫学発生頻度は、日本では1.6万人に1人1)、欧米諸国では0.1~1.7万人に1人であり、人種差がある。シスチン尿症は、全尿路結石の1~2%を占めるシスチン結石の原因疾患である。■ 病因前述の吸収障害のため、尿中に多量のシスチン、リジン、オルニチン、アルギニンが排泄され、尿中の濃度が上昇する。このなかでもとくに溶解度の低いシスチンが、結晶化し、結石を形成する。■ 症状シスチン尿症の臨床症状は尿路結石のみであり、症状は結石が形成されてから出現するため、結石に伴う肉眼的血尿や腰背部痛などが挙げられる。また、結石に伴う尿路感染症や腎不全を認めることもある。最初に結石が診断されるまでの平均年齢は12.2歳と比較的若年者である2)ことから、若年者の尿路結石を診察した場合は、シスチン結石を念頭に置く必要がある。■ 分類1966年以降、Rosenbergによってアミノ酸の排泄量や取り込み率で分類したタイプI~IIIが広く用いられている3)。I型は小腸上皮からのシスチン、リジン、オルニチン、アルギニンの吸収が完全に阻害されており、II型は小腸上皮でのシスチンの吸収はわずかに認められるが、リジン、アルギニンの吸収は認められない。III型は小腸上皮でのアミノ酸吸収がわずかに低下しており、アミノ酸負荷により血中シスチン濃度が上昇する。その後1999年にスペインのバルセロナ大学を中心にICC(International Cystinuria Consortium)が設立され、表に示すような遺伝子分類が提唱されている4)。画像を拡大する1)A型:第2染色体上にあるrBAT遺伝子の両アレルの変異(rBAT:2q 16.3のSLC3A1 geneで約78kDaの1回膜貫通型の蛋白質)2)B型:第19染色体上にあるBAT1遺伝子の両アレルの変異(BAT1:19q 13.1のSLC7A9 geneで約40kDaの12回膜貫通部位を持つ蛋白質)3)AB型:rBAT遺伝子とBAT1遺伝子の変異■ 予後シスチン尿症の発見が遅れたり、再発性難治性の経過をとった場合は腎不全を来すことがあり、約17%に腎機能障害を認めたという報告もある5)。そのため、シスチン結石の再発予防や薬物療法が重要な予後決定因子と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)シスチン尿症は、家族歴や既往歴を聴取し、尿pH測定で継続する酸性尿の存在や尿沈渣での正六角形(ベンゼン環)のシスチン結晶の存在、尿シスチン定性反応をみることが診断の第一歩となる。正常人の尿中シスチン排泄量は30mg/日程度であるが、同型遺伝子接合体では400~500mg/日となる。また、24時間尿中アミノ酸定量でシスチン以外のアミノ酸(リジン、オルニチン、アルギニン)の異常排泄の有無を確認して病型分類を行うが、その間冷所保存し、遮光が必要など注意を要する。画像診断では、X線で透過性がある結石として知られているが、淡い陰影として描出されることもある。CTはほぼ100%検出可能(図1)であり、CT値が700HU前後であればシスチン結石と考えられる。最終的には、排石された結石を成分分析に提出し、確定診断する必要がある(図2)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)外科的治療、飲水指導、食事指導に加え、薬物治療も積極的に行う6)。■ 保存的治療シスチン結石は丸みを帯びていることからサイズの大きな結石も自然排石する傾向があるため、薬物療法と鎮痛薬や鎮痙薬の使用と飲水指導を先行する。薬物療法は尿のアルカリ化を目的とした尿アルカリ化薬であるクエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物(商品名:ウラリット)を使用する。ただし、過度のアルカリ化はリン酸カルシウム結石形成の危険因子となるため尿pHを7.0~7.5に調整することが望ましい。また、チオプロニン(同:チオラ)やペニシラミン(同:メタルカプターゼ)、カプトプリル(同:カプトリルほか)なども使用される。これらは尿中でシスチンと易溶性の複合体を形成し、シスチンの結晶化を抑制する。小児の場合は、副作用や内服のコンプライアンスが低いため、後述の飲水指導を中心とし、薬物投与を行わないことも少なくない。■ 外科的治療大きい結石やサンゴ状結石の場合は、外科的治療として体外衝撃波結石砕石術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)や経尿道的尿管砕石術(transurethral ureterolithotripsy:TUL)も適応となりうる。ESWLの場合、シスチン結石は一般に硬く、複数回行っても砕石できない場合があるが、大まかに砕石できれば、薬物療法によって溶解が可能となる7)。■ 再発予防飲水は1日尿量が、2,500mL以上を維持できるように指導する。十分な飲水により尿量を増やし、尿中のシスチン濃度を飽和溶解度の250mg/L未満にすることが重要である。水分補給源としての清涼飲料水、甘味飲料水の摂取は避ける。食事は尿の酸性化を助長する食べ物(砂糖や動物性蛋白質)の制限は有効である。動物性蛋白質は、尿中クエン酸排泄を減少させるため、1.0g/kg/日、動物性/植物性蛋白質の比率を1にすることが理想である。4 今後の展望現在、シスチン尿症の責任遺伝子がrBAT/SLC3A1、BAT1/SLC7A9と判明し、さらなる解析が行われている。シスチン尿症の診断は、尿中のアミノ酸量の測定や排石された結石の成分分析にて行われ、治療は現段階では、結石ができてからの外科的治療や薬物療法のみである。今後は、遺伝子レベルでの早期発見や遺伝子治療による早期治療が期待される。5 主たる診療科泌尿器科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報The International Cystinuria Foundation(ICF)(英文サイト)(医療従事者向けの情報)1)Ito H, et al. J Urol. 1983; 129: 1012-1014.2)Akakura K, et al. Urol Int. 1998; 61: 86-89.3)Rosenberg LE, et al. J Clin Invest. 1966; 45: 365-371.4)Palacin M, et al. Physiology(Bethesda). 2005; 20: 112-124.5)Dello Strologo L, et al. J Am Soc Nephrol. 2002; 13: 2547-2553.6)日本泌尿器科学会、日本Endourology・ESWL学会、日本尿路結石症学会編.尿路結石症診療ガイドライン. 金原出版; 2002.7)長島政純ほか. 泌尿器科紀要. 2007; 53: 809-812.日本尿路結石症学会編. 尿路結石症のすべて. 医学書院; 2008.日本泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会、日本尿路結石症学会編. 尿路結石症診療ガイドライン第2版. 金原出版; 2013.

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第19回 PTCAで患者が死亡した場合の医師の責任 診療ガイドラインからの考察

■今回のテーマのポイント1.循環器疾患の訴訟では、急性冠症候群が最も多い疾患であり、PTCA(経皮的冠動脈形成術)の適応が最も多く争われている2.PTCAの適応を判断するに当たり、裁判所は、ガイドラインを重視している3.ガイドラインに反する診療を行う場合には、より高度な説明義務が課せられる事件の概要患者X(60歳)は、平成11年8月下旬に近医にて心電図異常を指摘されたことから、同年9月9日、精査目的でY病院を受診しました。Y病院にて、冠動脈造影および運動負荷タリウム心筋スペクト検査を受けた結果、右冠動脈#3に100%狭窄、左前下行枝#6に75%、#7および#8に90%の狭窄、左回旋枝#14に75%、#15に75%狭窄が認められたものの、左心室造影の結果、駆出率は73%と正常範囲であり、全周性に壁運動は保たれていたことから、冠動脈末梢部分の陳旧性心筋梗塞と診断されました。Xは、平成12年2月7日にY病院に入院し、翌8日、左前下行枝#6、#7および#8に対しPTCAが行われました。その後、5月15日に行われた冠動脈造影において、右冠動脈#3に100%狭窄、左回旋枝#15に75%を含む3ヵ所の狭窄のほか、前回PTCAを行った左前下行枝#6から#8、#9くらいのところまで、血流の遅延を伴う程度の99%狭窄が認められ、左心室造影では、左前下行枝の高度狭窄の影響と考えられる壁運動の低下が認められ、駆出率も61%と低下していること、また、前回造影時より側副血行路の発達が認められました。Xは、5月19日にY病院に入院し、22日に2回目のPTCAを受けました。しかし、PTCA施行中に左前下行枝中間部に穿孔が生じてしまい、心嚢ドレナージなど処置が行われたものの、左冠動脈主幹部に血栓性閉塞が生じ、これに対し緊急冠動脈バイパス手術が行われたのですが、翌23日、Xは死亡しました。これに対し、Xの相続人達は、(1)XにはPTCAの適応がなかったこと、(2)PTCAの手技上のミスがあったこと、(3)PTCAを施行するにあたって説明義務違反があったことなどを理由に、Y病院に対し、約8,000万円の損害賠償を請求しました。事件の判決ある症状に対して、一般的適応のある治療行為が行われた場合は、原則として、正当な医療行為と認められ、違法性を有しない(他人の身体に対して侵襲を加えることの違法性が阻却される。)が、一般的適応のない治療行為が行われた場合(当該症状が治療行為の必要のないものであったり、当該治療行為が当該症状に対しては治療効果を期待できないものであったり、治療効果に比して不相応に大きな危険を伴うものであったような場合)は、原則として、その治療行為は違法性を有するものと解される。もっとも、一般的適応のある治療行為であっても、患者の意識がないなど、患者の同意を得ることができないような状況にない限り、患者の自己決定権に基づく同意は必要であり、患者の同意がない場合は、原則として、その治療行為は違法性を有するものと解される。一般的適応については、一応、以上のように解することができるとしても、具体的な治療の場面では、当該治療行為を行う医療従事者の能力(知識・経験、技術を含む)の問題、当該治療行為に必要な医療設備ないし医療環境(助力を求めることができる他の医療従事者の有無等)の問題等、他の要因も加わって当該治療を実施することの適法性が判断されることになり、一般的適応があっても、知識・経験、技術等の点から当該医療従事者あるいは当該医療機関が当該治療行為を行うことは許されない場合もありうるし、一般的適応に欠けるところがあっても、患者の同意があれば、当該治療行為を行うことが許される場合もありうる。例えば、医療技術の進歩の著しい分野においては、一般的適応があるとはいえないが、一定の能力を有する医療従事者が、患者の同意を得て、一定の医療設備及び医療環境のもとで実施する場合には、一定の治療効果が期待できるので、当該治療行為が許されるという場合もありうるし、当該治療の実施例が少なく、当該治療行為の危険性についても、治療効果についても十分に検証されているとはいえないが、そのことを十分に患者が理解し、当該治療行為の実施を患者が望めばこれを実施することも許されるという場合もありえよう。一般的適応に欠けるところがあっても、患者の同意によって当該治療行為を行うことが許される場合について、これを患者の同意があれば当該治療行為の適応があるというのか、適応はないが、患者の同意によって治療行為としての正当性が認められるというのかは、表現の違いにすぎず、法的には、いずれにしても、患者の同意があってはじめて当該治療行為が正当な医療行為として認められるものと解される。そして、この場合の患者の同意は、一般的適応がある場合の同意と連続性を有するものではあるが、一般的適応のある治療行為が、それ自体で、原則として正当な医療行為と認められるのに対して、一般的適応に欠ける治療行為は、患者の同意があってはじめて治療行為としての正当性が認められるという意味で、より重い意義を有するものというべきである。このように、違法性の有無、軽重の観点から考えると、治療行為の適応の問題は、当該治療行為に対する患者の同意の問題と切り離すことはできない。そして、当該治療行為について、その内容を十分理解した上でその実施に患者が同意したかどうか、すなわち、当該同意が、患者の自己決定権の行使としての同意、あるいは、一般的適応に欠ける治療行為について正当性を与えるための同意として有効なものといえるかどうかは、患者が同意するか否かを合理的に判断できるだけの情報が医療従事者から患者に対して与えられたかどうか、すなわち、説明義務が尽くされたかどうかにかかることになる。・・・(中略)・・・本件適応ガイドラインに従うと、本件PTCAは(前回PTCAも)、危険にさらされた側副血行路派生血管の病変に対するもので、原則禁忌に該当するものであったということになるし、ガイドラインの記載に従えば、本件PTCAを実施するのであれば、まず、右冠動脈3番の狭窄に対してPTCAを行ってはじめて本件PTCAを行うことが許されるものであったということになるので、特段の事情がない限り、本件PTCAは一般的適応を欠くものであったというべきである。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(東京地判平成16年2月23日判タ1149号95頁)ポイント解説今回は、各論の3回目として、循環器疾患を紹介します。循環器疾患で最も訴訟が多い疾患は、急性冠症候群です。1)急性冠症候群に関する判決とその傾向心筋梗塞や狭心症といった急性冠症候群は、普通に日常生活を送っていた人が急速な転帰をたどり死に至ることから、争われやすい疾患といえる一方、年間死亡数が急性心筋梗塞とその他虚血性心疾患で77,217人(平成22年)と非常に多く、死亡率もいまだに高く致死的な疾患であることから、特に最近では原告勝訴率があまり高くないという特徴があります(表1)。急性冠症候群に関する訴訟において争点となるのは、本件においても争われているPTCAの適応についてが最も多く、ついで診断の遅れ、手技ミス、説明義務違反となっています(表2)。2)PTCAの適応に関する裁判所の判断わが国のCCU(心疾患集中治療室)は多くの場合、カテーテル治療を行う循環器内科医が中心となって運営されていることから、畢竟、カテーテル治療が優先的に選択される傾向があり、本判決においても、「PTCAについては、内科医が適応を決定することが多く、CABG(冠動脈大動脈バイパス移植術)よりもPTCAに重点を置いた説明がなされる傾向があるというのであり(鑑定人)、CABGよりもPTCAが患者に好まれる傾向がある」と判示されています。しかし、PTCAの適応については、本判決でも引用されているように「冠動脈疾患におけるインターベンション治療の適応ガイドライン」が作成されており、これによると、PTCAの原則禁忌として、「(1)保護されていない左冠動脈主幹部病変、(2)3 枝障害で 2 枝の近位部閉塞、(3)血液凝固異常、(4)静脈グラフトのび漫性病変、(5)慢性閉塞性病変で拡張成功率の極めて低いと予想されるもの、(6)危険にさらされた側副血行路」が挙げられています。したがって、これら禁忌に該当する場合にもかかわらずPTCAが選択された場合には、第15回でも解説した通り、違法と判断されやすくなることから注意が必要となります。本件では、2枝病変で左前下行枝近位部に病変があることから、同ガイドラインによると一般的にCABGの適応であり、その上、左前下行枝に危険な側副血行路が認められ、PTCAの原則禁忌(6)に該当することから、「特段の事情がない限り、本件PTCAは一般的適応を欠くものであった」と判断されています。3)一般的適応を欠く場合における説明義務本判決の最大の特徴は、ガイドラインに適合しない治療を行う場合には、説明義務が加重されると判示した点にあります。その結果、説明義務違反があったとされ、精神的慰謝料として約1,300万円もの損害賠償が認められています。医療は進歩し続けており、新しいより良い治療を模索する諸活動が日々行われています。その中でも、まったくの新規の治療法のような研究的色彩が強いものは、臨床研究としてIRB(倫理審査委員会)の承認を経て、しっかりとしたインフォームド・コンセント(説明と同意)の下、行われるべきであることはいうまでもありません。また、一般論として、一般的適応を欠く治療を行う場合には、より丁寧なインフォームド・コンセントが行われるべきであるということも首肯できます。しかし、この一般的適応性判断を行うに当たり、ガイドラインを重視しすぎることは、本連載でも述べている通り、現状のガイドラインのあり方、そもそもとしての医療におけるガイドラインの意義を鑑みると勇み足といわざるを得ません(ただし、本件は控訴され、高裁判決では説明義務違反はないとして病院側の逆転勝訴となっています)。ただ、本判決も含め、司法はガイドラインを重視しますので、現状においては、ガイドラインに従うか否かにかかわらず、患者に対し、(1)ガイドラインが存在すること(2)それを踏まえて個別具体的に判断した結果、当該治療方針が適切であると考えていることを説明することが肝要といえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京地判平成16年2月23日判タ1149号95頁

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エキスパートDrへのQ&A

高齢者の水分制限(とくに夜間)をどの程度すべきでしょうか?高齢者であっても、水分、アルコール、カフェインの摂取は控えたほうがよいでしょう。高齢者の中には、飲水による「血液さらさら」効果を期待して過度の飲水をされる方がいますが、実際には、過度の飲水をしても血液粘調度は生理的な範囲内に留まり、いわゆる「血液さらさら」効果は認められないと報告されています1)。このことからも、虚血性心疾患や脳梗塞のリスクが無い限り、睡眠前に水分をたくさん摂取する必要はないと考えます。就寝前の摂取はもちろんですが、夕食後にも摂取を制限することも有用です。高齢者では、お茶を飲まれる方も多いものです。「お茶を飲むなら夕方までにしてください」などと伝えることも有効です。水分摂取量の目安ですが体重の2~2.5%程度とされています。体重60kgの方であれば1日1200~1500mLとなります。ある程度、目安を示しながら水分制限を試みてください。1)Sugaya K,et al.Int J Urol 2007;14:470-472.夜間多尿が原因の夜間頻尿が最も困ります。実際に保険適応の薬もなく、ガイドラインの内容では対応できない症例が多いです。診療のコツを教えてください。『夜間頻尿診療ガイドライン』には、はじめに排尿日誌を記載いただき、尿量を把握したうえで診断を行うアルゴリズムが示されています。しかし、一般医家では、まず投薬してみて、効果があるかないかで判断するケースもあるのではないでしょうか。難治例には排尿日誌をつけていただくという方針でも結構かと思います。そのうえで、「夜間多尿」と診断された場合の対応ですが、水分、カフェイン、アルコールの過剰摂取が原因となっていることもあるため、まずは問診などで病因把握を行ってみてください。とくに就寝前の水分摂取が原因となる場合が多いので、その場合は水分制限が重要です。また利尿作用を有する薬剤を就寝前に服用しているケースもあります。とりわけ、利尿薬やCa拮抗薬は、服用者も多いので注意が必要です。その場合、薬剤を就寝直前に服用しないことはもちろん、逆に夕方までに服用していただき、就寝までに排尿してしまうなどの工夫で、就寝後の利尿を少なくすることができると期待できます。夜間頻尿については、本サイトの症例検討会でも取り上げていますので、そちらも参考にしていただきたいと思います。夜間頻尿で睡眠障害がある方に対して、睡眠薬を使用する場合に、どのような睡眠薬を推奨されますか?まず、患者さんの睡眠障害のタイプを把握することが大切です。寝入りばなにトイレに行きたくなる人やトイレが気になって寝付けないといった方は入眠障害に効く超短時間型が適切ですし、中途覚醒がある場合には短時間~中時間型でゆっくり眠らせることが重要になります。患者さんの不眠症のタイプに応じて適切な睡眠薬を選択することが望ましいといえます。ただし、最近、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が原因で頻尿になっている方もみられます。気道の狭い方に睡眠薬を投与することで、SASの症状を悪化させてしまう可能性もありますので、いびきがひどく、無呼吸になることがあるなどSASの可能性が疑われる場合には、SASの専門医に一度受診を勧めてみてはいかがでしょうか。過活動膀胱の薬物投与における、効果判定と薬剤の追加や変更のタイミングについて教えてください。効果判定は、I‐PSSやOABSSなどの質問票を用いるもよいかと思いますが、過活動膀胱は患者さんのQOLを向上させることが重要なため、患者さんに直接質問し、QOLの向上を効果判定基準にすることが重要だと思います。次に、判定の時期ですが、排尿障害治療薬の効果は一般的に3~4ヵ月程度で安定してくるため、その時点で一度効果を判定するのがよいでしょう。薬剤の追加や変更ですが、同じカテゴリーの薬剤であってもそれぞれ特徴があります。たとえば主要なα1遮断薬としてタムスロシン、ナフトピジル、シロドシンの3剤がありますが、各薬剤に特徴があります。具体的には、ナフトピジルは蓄尿障害に効果がある、シロドシンは排尿障害に効果がある、タムスロシンはその中間、などです。そこで、シロドシンで夜間頻尿が改善しない場合、ナフトピジルに変更する、タムスロシンで排尿障害が改善しない場合にはシロドシンに変更する、など患者さんの症状に応じて薬剤を変更することも有用と考えています。ミラベクロンの男性への投与は解禁と考えていいのでしょうか?また、ミラベクロンと抗コリン剤の併用について、適応や注意点などを教えてください。これまでもミラベクロンの男性への投与は禁止されていませんでしたが、警告欄に「生殖可能な年齢の患者には投与を出来る限り避ける」と注意喚起されていることから、投与を躊躇していた方も多いと思います。これは、生殖機能があるときの投与が推奨されない、ということですので、患者さんが子供を作る予定がないのであれば第一選択薬としてもよいでしょう。ただし、ミラベクロンも排出障害をまったく起こさないわけではありません。尿閉も報告されていますので、個人的には、単独投与よりはα1遮断薬と併用しながら慎重に使っていただきたいと思います。ミラベクロンと抗コリン薬の併用については、エビデンスが確立するまでは、まだ待っていただきたいと思います。現在、日本で臨床試験を実施中ですので、2剤の併用については試験結果の発表を待って判断すべきと考えています。

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『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版』が4年ぶりに改訂

 『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン 2013年版(第3版)』(編集:日本肝臓学会)が、10月15日より発売される。 2009年以来となる第3版の改訂では、肝癌治療を行ううえで重要な、再発に関する章が新設された。また、化学療法と放射線治療はそれぞれ独立した章として改められ、分子標的薬のソラフェニブに関する推奨などが加わった。文献については、2011年12月までを検索範囲とし新たなエビデンスを追加。57のCQ(クリニカルクエスチョン)において、21件の改訂が行われ、19件が新設された。 具体的には、全体を大きく8つの章に分け、予防、診断およびサ-ベイランス、手術、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法、放射線治療、治療後のサ-ベイラインス/再発予防/再発治療についてCQ形式で解説している。肝癌診療を行う治療医必携のガイドライン。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は3,780円(本体3,600円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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造血器腫瘍領域で待望の『造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版』が発売

 『造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版(第1版)』(編集:日本血液学会)が、10月11日より発売された。 白血病、リンパ腫、骨髄腫などの造血器腫瘍では、従来の化学療法に加え、分子標的療法、造血幹細胞移植など治療選択肢が広がってきている。このことに伴い、現時点でのエビデンスの整理と適切な診療を行うためのガイドラインの必要性が増してきたことから、今回初めて作成された。 本書は、全体を白血病、リンパ腫、骨髄腫の大きく3つに分けたうえで、それぞれの疾患の各病型について、総論、アルゴリズム、CQという構成で解説している。巻末には、効果判定規準一覧、薬剤名一覧、治療一覧なども付録。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は5,250円(本体5,000円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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エキスパートDrへのQ&A

前立腺肥大症、過活動膀胱合併例の治療法について教えてください。前立腺肥大症については、通常、排出症状と蓄尿症状の両方を合併している場合がほとんどです。特に、蓄尿症状がQOLを低下させる傾向にあります。その場合、α1遮断薬のみでは対応できないため、抗コリン薬を併用することになります。この2剤の併用は、エビデンスもあることから専門医は積極的に行っています。しかし、抗コリン薬は尿閉のリスクがあるため、一般医科の先生方に積極的に勧められるものではありません。一般医科で抗コリン薬を使用する場合には、まず残尿をモニターできる施設であることが必要となります。α1遮断薬投与しても、残尿が50mL以上を認める場合、抗コリン薬の投与は望ましくないと考えて下さい。次に、前立腺肥大症に夜間頻尿を合併している場合ですが、抗コリン薬を朝投与した場合は有効性が低下するといわれています。短時間作用型の抗コリン薬を就寝前1回または夕食後に投与することが有効といえます。排尿障害患者さんの治療において、専門医を紹介するタイミングについて教えてください。α1遮断薬を投与しても、50mL以上の残尿が認められる患者さんは専門医へ紹介ください。残尿のモニターが可能であれば抗コリン薬を併用してもよいですが、併用後残尿が50mLを超える場合にも相談いただく方がよいと思います。そのほか、排尿障害の背景にがんが隠れている可能性もあります。前立腺肥大症の診断の際には必ずPSAを測定してください。カットオフ値としては4.0ng/mLを参考としますが、若い方はより低めの値から注意して経過観察を行う必要があります。また血尿が持続する場合は、膀胱癌のほか、尿路結石などの可能性がありますので専門医へご紹介ください。デュタステリドは基本的にはα1遮断薬と併用するというスタンスでよいのですか?ファーストチョイスになりえますか?PSA低下作用や、高価なこともあり、基本的にファーストチョイスにはしていないのですが・・・。いかがでしょうか?デュタステリドは前立腺体積30mL以上の場合に適応になります。第一選択薬にもなりえますが、α1遮断薬と併用するというスタンスでよいでしょう。ただし性機能障害の副作用があるので、50代以下の男性に投与する場合はその点を理解していただいてから投与することが大切です。デュタステリドの効果発現には3~4ヵ月を要しますので、即時効果を期待する場合は、α1遮断薬との併用が必要になります。ただし、デュタステリドはPSAを低下させるため、前立腺癌の存在をマスクしてしまう可能性があります。投与中は必ずPSAをモニターしておくことが重要です。なお、デュタステリドはPSA値を低下させますが、がん発生抑制効果はないと考えられています。デュタステリドは約1年で3割程度前立腺体積を減少させ、PSA値を6ヵ月~1年で50%程度低下させます。投与後、徐々にPSAが増加するようであれば前立腺癌の可能性があると判断し、専門医へ紹介ください。デュタステリドの投与を中止すると前立腺体積も戻ります。数ヵ月程度で増加しますが、30mL以内に留まっている分にはデュタステリドの中止を継続して問題ありません。α1遮断薬と抗コリン薬の併用で十分な効果がない場合の次の一手について、漢方薬も含めて教えてください。漢方薬としては、八味地黄丸や牛車腎気丸があります。ガイドライン上の記載では推奨グレードC1「行ってもよい」となっています。治療選択肢のひとつにはなりますが、積極的に勧められるわけではありませんので、患者さんの希望などを加味したうえでご判断いただければと思います。

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2013年11月にC型肝炎治療ガイドラインが大幅改訂―新薬登場で

 2013年10月3日(木)、ヤンセンファーマ株式会社主催のC型慢性肝炎メディアセミナーが開催され、関西労災病院 病院長の林 紀夫氏より、C型慢性肝炎治療の変遷と最新治療について語られた。また、東京肝臓友の会 事務局長の米澤 敦子氏からは、患者が考えるC型肝炎治療の課題について語られた。 林氏は「11月に発売される新規DAAs(direct-acting antiviral agents:直接作用型抗ウイルス薬)シメプレビルの登場により、C型肝炎治療ガイドラインが大幅に改訂される。未治療例はもちろん、高齢者やインターフェロン(IFN)無効例、過去の治療で効果が十分に得られなかった例にも、有効性と安全性が高く、治療期間の短い新たな治療選択肢を提供できる」と述べた。 今後は、シメプレビルのほかにも現在開発中の新薬が続々と登場し、日本のC型肝炎治療に大きな変革がもたらされると考えられる。C型肝炎は肝がんの主な成因 日本における肝がんの死亡者数は、肺がん、胃がんに続いて3番目に多く、年間約3万人が肝がんにより死亡している(厚生労働省調べ)。C型肝炎ウイルスに感染すると、約70%の患者が、慢性肝炎から肝硬変、そして肝細胞がんへ至る。日本肝臓学会の肝がん白書(1999)によると、日本における肝硬変・肝がん患者の79%がC型肝炎ウイルス陽性であるという。つまり、C型肝炎のウイルス排除を進めれば、肝がん患者の減少につながるといえる。これまでのC型肝炎治療 C型肝炎の治療はIFN 単独、IFN+リバビリン(RBV)、ペグインターフェロン(PEG-IFN)+RBVと進化を遂げてきたが、日本人に最も多い遺伝子型1b型にはIFNが効きにくく、PEG-IFN+RBV併用療法を48週行っても、初回治療の著効率は約50%であった。また、米澤氏は「治療期間が長期にわたるため、IFNの副作用である発熱や倦怠感、RBVによる貧血などにも長く悩まされ、治療を続けるために仕事をリタイアせざるを得ないなど、患者の人生を大きく左右させてしまう」という問題点を挙げた。テラプレビル3剤併用療法の問題点 2011年9月に承認されたPEG-IFNα-2b+RBV+テラプレビル(TVR)の3剤併用療法により、ウイルス陰性化率(SVR)が飛躍的に向上し、治療期間も従来の48週から24週に大幅短縮された。しかし、TVRは高い頻度で皮疹や貧血などの副作用を伴うことから、肝臓専門医や皮膚科専門医との連携ができる医療機関に使用が限定された。とくに、副作用が出やすい高齢者には使いにくく、治療を中断せざるを得ないなどの問題点があった。シメプレビルの登場 第2世代のプロテアーゼ阻害剤シメプレビルは、優先審査を経て2013年9月に日本で承認された。C型肝炎治療薬としては初めて、欧米に先駆けて承認された期待の薬剤で、2013年11月にも発売される見込みである(製品名:ソブリアードカプセル)。未治療の遺伝子型1のC型慢性肝炎患者を対象に行われた国内第3相試験(CONCERTO試験)においては、シメプレビル+PEG-IFNα-2a+RBVの3剤併用療法(24週)の投与終了後12週までの持続的ウイルス陰性化率(SVR)が88.6%にのぼった。投与終了後24週までのSVRも再燃例で89.8%、無効例で50.9%と、高い有効性が認められた。また、安全性もPEG-IFN+RBVの2剤併用療法と同等であった(第49回日本肝臓学会総会にて発表)。2013年11月、C型肝炎治療ガイドラインが大幅改訂 現在のC型肝炎治療ガイドラインにおいて、遺伝子型1における治療は原則として「TVR+PEG-IFN+RBV」または「PEG-IFN+RBV」とされているが、シメプレビルの登場により、2013年11月に改訂され、これらは「シメプレビル+PEG-IFN+RBV」に変更となる見込みである。1日1回の服用でTVRよりも有効性と安全性が高いシメプレビルが、今後のC型肝炎治療に大きな変革をもたらすと考えられる。今後も新薬が続々登場 現在、国内で開発されている新規DAAsとPEG-IFN+RBVの3剤併用療法は、シメプレビルのほかにもファルダプレビル、vaniprevir、daclatasvirがあり、いずれも遺伝子型1に対する有効性が80~90%と高く、副作用もTVRと比べて低いという。また、IFNフリー療法も開発されており、近い将来、IFNの副作用を懸念することなくさまざまな症例に使用することができるため、期待されている。現在開発中のレジメンは、asunaprevir+daclatasvir、deleobuvir+ファルダプレビル+RBV、sofosbuvir+RBV、ABT450+ABT267+リトナビルであり、いずれも第2、第3相試験中である。「ただし、IFNフリー療法は、IFNの抗ウイルス効果によって耐性株の増殖を抑制することができないため、裾野が広いからといってむやみに使うと耐性変異を起こす危険がある。将来の治療薬に対しての選択肢を奪うこともある」と林氏は注意を投げかけた。まとめ 今後、IFNを使わない新しい治療が登場するが、患者の高齢化と発がんリスクを鑑みると、将来の治療のために待機せず、まずは専門医が遺伝子検査などでしっかりと治療方針を決定したうえで「今ある最新かつベストな治療」を行うべきである。また、IFNフリー療法という選択肢が増えても、IFNはすでにDAAsへの耐性を持つ症例の治療効果も高めることができるため、重要な薬剤であることに変わりはないと考えられる。シメプレビル登場に始まるC型肝炎治療の進化により、肝がんで命を落とす患者が減ることが期待される。

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医師個人への特別報酬が降圧治療の質を改善させた/JAMA

 高血圧治療について、特別報酬を医師個人、診療所あるいは両者の、いずれにつけると質的改善の効果があるのかを検討した結果、医師個人へつけることのみ、良好な血圧コントロール達成もしくは努力への有意な増大がみられたことが示された。また特別報酬をいずれにつけても、つけなかった対照群と比較して、ガイドラインで推奨されている薬物療法の使用が有意に増大することはなく、低血圧症の発症も増大しなかったという。米国・マイケル E. デバキー退役軍人(VA)医療センターのLaura A. Petersen氏らが無作為化試験を行った結果、報告した。JAMA誌2013年9月11日号掲載の報告より。特別報酬の効果を、医師個人vs.診療所vs.両者の支払先別で検証 研究グループは、ガイドライン推奨の高血圧治療実施に対して特別報酬を支払うことの効果について検討する、VA外来専門クリニック12施設を対象としたクラスター無作為化試験を行った。試験は、5つの特別報酬対象期間とその後12ヵ月の非介入期間からなり、83人のプライマリ・ケア医と42人の非医師(看護師、薬剤師など)が参加した。 試験では、特別報酬の支払いについて、医師個人レベル(19例)、診療所レベル(20例)、または両者に支払う(19例)という支払い群と、対照群として支払いなし群(19例)を設定した。特別報酬は4ヵ月ごとに支払われた。 試験は2007年2月に、まず参加者に対して特別報酬支払いおよび割り付け情報を含めた本試験概略の説明・講習が行われ、同年8~11月をベースライン期間とし、その後2008年4月から介入(4ヵ月を1期間とする)が開始された。2010年4月に最後のフィードバックが行われ、その後12ヵ月間を非介入期間として治療の継続性について評価した。 主要評価項目は、ガイドライン推奨の血圧閾値を達成した患者数、あるいは血圧コントロール不良に対して適切な治療を受けている患者数、またはガイドライン推奨薬物療法の処方を受けている患者数、および低血圧症を発症した患者数とした。血圧コントロール達成・努力への変化、医師個人群でのみ有意に変化 本試験期間中に支払われた特別報酬の平均総額(SD)は、医師個人群2,672(153)ドル、診療所群1,648(248)ドル、複合群に対しては4,270(459)ドルであった。 血圧コントロールおよび適切治療に関するベースラインからの変化値(達成患者・適切治療中患者数の変化を%で評価)は、対照群(86%→86%、0.47%増大)と比較して、医師個人群でのみ、有意な増大がみられた(75%→84%、8.84%増大、対照群との変化の格差は8.36%、同格差のp=0.005)。診療所群の変化値は3.70%(80%→85%、同格差のp=0.26)、複合群は同5.54%(79%→88%、同格差のp=0.09)で有意差はみられなかった。 一方で、ガイドライン推奨薬物療法の利用については、対照群(63%→72%、4.35%増大)と比較していずれの群も増大はしていたが、有意差はみられなかった。医師個人群は9.07%増大(61%→73%、格差のp=0.09)、診療所群4.98%増大(56%→65%、格差のp=0.81)、複合群7.26%増大(65%→80%、格差のp=0.30)だった。 また、低血圧症の発生についても有意な増大はみられなかった(介入群対対照群の発生比1.2%vs. 1.4%、p=0.18)。 なお特別報酬の効果は、非介入期間後は継続性がみられなかった。 著者は、今回得られた所見に関与する因子について、さらなる検討にて調べることが必要だとまとめている。

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PCIを病院到着から90分以内に施行することで院内死亡率は改善したか?/NEJM

 米国では2005年~2009年の4年間で、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の、病院到着から経皮的冠動脈インターベンション(PCI)開始までの時間(door-to-balloon time)が16分短縮し、90分以内PCI開始率は23.4ポイント上昇した。しかし、院内死亡率は0.1ポイントの低下でほとんど変化していないことが、ミシガン大学のDaniel S. Menees氏らの調査で判明した。現行のACC/AHAガイドラインでは、STEMI患者に対し病院到着から90分以内のプライマリPCI施行開始を強く推奨(Class I)している。door-to-balloon timeは医療施設の評価指標とされ、地域および国による医療の質向上戦略の中心に位置づけられるが、実際にdoor-to-balloon timeの改善が死亡率の低下に結びついているかは、これまで検証されていなかったという。NEJM誌2013年9月5日号掲載の報告。約9万7,000人の患者データを解析 研究グループは、プライマリPCI施行STEMI患者におけるdoor-to-balloon timeの短縮と院内死亡率の変化の関連を明らかにするために、米国のレジストリ・データに基づく解析を行った。 2005年7月~2009年6月までに、515のCathPCIレジストリ参加施設から登録された、プライマリPCI施行STEMI患者9万6,738例のデータを用い、4年間の各年度別解析を行った。 全体の平均年齢は60.8歳、女性が28.0%であった。高血圧が61.0%、糖尿病が18.8%、脂質異常症が59.2%、喫煙が43.3%、慢性肺疾患が11.4%、心筋梗塞の既往が18.5%に認められた。また、PCI歴ありが20.5%、CABG歴ありが5.6%で、平均入院期間は4.3日であった。 血栓除去術が20.5%、ステント留置術が89.3%で行われ、アプローチは大腿動脈が98.5%、橈骨動脈は0.8%であった。標的冠動脈は左主幹動脈が3.0%、左前下行枝が55.4%、左回旋枝が33.0%、右冠動脈は59.7%だった。高リスク群の予後も改善せず 解析の結果、door-to-balloon time中央値は、初年度(2005年7月~2006年6月)の83分から、最終年度(2008年7月~2009年6月)には67分へと有意に低下した(p<0.001)。同様に、door-to-balloon time90分以内の患者の割合は、初年度の59.7%から最終年度には81.3%まで有意に増加した(p<0.001)。 しかし、このようなdoor-to-balloon timeの改善にもかかわらず、全体的な未補正院内死亡率には有意な変化は認めず(初年度:4.8%、最終年度:4.7%、傾向検定p=0.43)、リスク補正院内死亡率(同:5.0%、4.7%、p=0.34)および未補正30日死亡率(同:9.7%、9.8%、p=0.64)にも有意な変化はなかった。 高リスクのサブグループである75歳以上(1万5,121例)、前壁梗塞(1万8,709例)、心原性ショック合併(9,535例)の患者においても、同様にdoor-to-balloon timeは有意に短縮したが、全体の院内死亡率に変化はみられなかった(75歳以上:初年度12.5%、最終年度11.1%、p=0.19/前壁梗塞:7.2%、6.9%、p=0.79/心原性ショック合併:27.4%、27.2%、p=0.60)。 著者は、「STEMI患者の院内死亡率を改善するには、door-to-balloon time以外の戦略が必要である」とし、「医療施設の評価指標や一般向けの報告にdoor-to-balloon timeを使用することには疑問が生じる」と指摘している。

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医療法学的視点から見た診療ガイドラインを考える

 9月14日(土)、東京大学医学部(本郷キャンパス)において第4回医療法学シンポジウムが開催され、全国より医師、医療従事者をはじめ約60名が参加した。 今回はテーマに「医療法学的視点から見た診療ガイドライン」を掲げ、診療ガイドラインの医事裁判での引用や使われ方、裁判官の判断に与える影響などについて識者からのレクチャーとパネルディスカッションが行われた。■診療ガイドラインの目的は「医療の均てん化と医療者の教育」 診療ガイドラインは、多種存在しているが、一般的には「医療者と患者が特定の臨床状況で適切な決断を下せるよう支援する目的で、体系的な方法に則って作成された文書」のことであり、その多くの目的は医療の均てん化と医療者の教育である。医師には、診療ガイドラインの内容に沿いつつも、診療では広範な裁量も尊重されており、患者の意向を考慮して個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましいとされていることは、医療者には周知の事実である。 しかしながら、ひとたび医療事故が起こり、裁判となった場合、診療ガイドラインがあたかも標準診療の基準のように取り扱われ、ガイドラインから外れた診療がなされた場合、医療者側の診療裁量権よりも、ガイドラインが尊重され、医療機関側に責任を負担させる、という不幸な事態が散見されている。 こうした現実が司法のどのような理論からきているのか、医療者がとり得るべき対応はないのかを今回のシンポジウムで明らかにすることを目的に開催された。■医療と司法の相互理解 最初に慶應義塾大学の古川 俊治氏(医師、弁護士)が、シンポジウムの目的を「医療と司法の相互理解を目指すこと」と述べ、5名の演者によるレクチャーが行われた。 富永愛法律事務所の富永 愛氏(医師、弁護士)は、「医療法学的視点からみた診療ガイドラインの在り方」と題し、がんの中でも特に訴訟が目立つ肝細胞がん、乳がんの裁判を例に「裁判では裁判官は必ずといっていいほど、判断の基準にガイドラインや薬の添付文書に目を通し、ケースによっては判決文で引用するほど訴訟での使用は日常化している。しかし、裁判官は、一律ガイドラインだけで判断しているわけではなくガイドラインを用いる際でも目的意識を持って作成されたものは、その目的趣旨までさかのぼって判断をしている。今後はガイドライン作成時にはその目的や使用対象者を意識して作成する必要がある」と説明した。 東京大学の山田 奈美恵氏(医師)は、医師の立場から「医療者から見た診療ガイドライン」として『肝癌診療ガイドライン』と『乳癌診療ガイドライン』を例に、これら診療ガイドラインの作成過程、臨床現場での使用の実際、その問題点を説明した。最近、医師の診療ガイドラインへの意識は、(訴訟を見据えて)変化しつつあること、診療ガイドラインが抱えるエビデンスレベルに差異があること、研修医などが個別の医学的考察の前に診療ガイドラインを過度に重視することもあることなどの問題点が医師の視点より報告された。 井上法律事務所の山崎 祥光氏(弁護士、医師)は、「ガイドラインの証拠としての扱い」と題し、医事裁判でのガイドラインの証拠能力について説明を行った。裁判官が診療ガイドラインを重視する理由として、医療水準の認定の難しさや、外からみると診療ガイドラインが何らかの「ルール」にみえることが挙げられ、この点につき医療者の考えは司法(裁判官)に十分理解されていないと説明された。今後も、診療ガイドラインが裁判などで使用されることが避けられない以上、診療ガイドラインに、その目的や対象、推奨の強さ、医師の裁量の幅などの前提部分を明確に記載することが重要であると述べた。 浜松医科大学の大磯 義一郎氏(医師、弁護士)は、「医療法学的視点から見た診療ガイドラインのあり方」と題して、(医療側に不利なケースが多い類型の)裁判での診療ガイドラインの使われ方とその判決の状況を説明した。これらを踏まえたうえで医療と司法の診療ガイドラインに対する相互理解を促進するために、司法に誤解され得る表記は避け、前文で医師の裁量権についての記載を行うことや例外事由の列挙を具体的にすること、適切なバージョンアップを行うことなど司法の側にも正しく理解できるようなガイドライン作りの提案を行った。 北浜法律事務所の小島 崇宏氏(医師、弁護士)は、「医療法学的視点から見たより良い診療ガイドラインの提示」として、自身の医事裁判の経験から裁判官は、自身の考える妥当な結論を念頭に、事実認定を試みるという思考パターンであること、そのため診療ガイドラインが時には医師の主張を覆すための証拠として用いられているのが現状であること、したがって、この点を踏まえた診療ガイドライン作りが求められることを説明した。また、医事裁判では、エビデンス不足や記載の曖昧さが裁判の結果を左右するとして、診療ガイドラインの内容について例えばグレードの低いものはその点をわかりやすく記載することや推奨度の高いものでも原則と例外を分けて記載することなど、丁寧な記載が必要と提案を行った。■シンポジウム 医事裁判で問題になる「説明と同意」 大磯義一郎氏の司会の下、再度演者が登壇し、医事裁判での診療ガイドラインの地位や診療ガイドライン以外の審理の際の判断の仕方(例えば鑑定として第三者の立場で医師が呼ばれて証言する)などの現状が伝えられた。また、最近では診療ガイドラインの普及の影響なのか和解で終結するケースの報告が多いことなどがレポートされるとともに、問題点として個々の医療ケースを考えない画一的な診療ガイドラインの当てはめ(例えば大都市の病院と離島の診療所も適用は同じだと考えている)など、裁判での問題も多いことが報告された。特に提案として、診療ガイドラインから外れる診療については、きちんと事前に患者、患者家族に説明し、同意を得ておくことや、診療録への記載が大切であり、紛争化を防ぐためにも十分に行ってもらいたいとアドバイスがなされた。 その他、医事裁判全体については、日常のカルテの記載不足、誤記載や管理不備も問題であり、特に注意が必要である。裁判に発展し、敗訴するケースではこうした点に不備がみられる場合が多いなども報告された。 今後も診療ガイドラインは、医療の発展のためにも必要であり作成されるべきであるが、裁判に使用されかつ重視されることも避けがたい事実であり、「司法にも正しく理解されるかたちに作成する」「医療者も司法の側に普段から説明を行う」などの相互理解が必要であるとシンポジウムを締めくくった。 最後に公益財団法人がん研究会の土屋了介氏(医師)が、閉会の挨拶を述べ、終了した。

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CareNet.comについて

CareNet.comについてCareNet.comとはどんなサイトですか?医師以外でも会員登録できますか?医師ではないですが、医師限定のコンテンツを見ることはできませんか?CareNet.comとはどんなサイトですか?CareNet.comは36万人を超える医療従事者に利用されている、医療情報専門サイトです。日常診療に役立つ、良質な医療情報を提供しています。株式会社ケアネットが運営しています。■いますぐ現場で使える「医療コンテンツ」手技動画や患者指導、ガイドライン解説など、明日からの臨床現場ですぐに使えるコンテンツを、豊富に取り揃えています。メディカル専門の編集部が会員医師の声をもとに厳選してお届けします。■日本語でわかる注目の海外論文を要約「ジャーナル四天王」海外の一流雑誌に掲載された論文を日本語で要約。日本の現場にもインパクトが大きいものを厳選。その他、専門家による解説や最新の国内医療ニュースなど、医療のいまが手軽にわかります。■専門外の疾患を手軽にアップデート「特集」ケアネットの「特集」では、毎回1つの疾患にフォーカスし、診断・治療の基本や最新情報、ガイドラインなどを編集部がまとめて紹介。専門外の疾患がわかりやすいと評判です。※ご登録・ご利用ともに無料です。医師以外でも会員登録できますか?医師の方以外でも、薬剤師・看護師・病院職員・製薬メーカーの方など、医療従事者または医療関係者の方であれば、ご登録いただけます。医師ではないですが、医師限定のコンテンツを見ることはできませんか?コンテンツの内容や監修の先生の意向、また薬事法や関連法規の諸事情により、ご利用いただく方を限定させて頂いております。申し訳ございませんが、ご了承ください。

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SSRIで著効しない強迫性障害、次の一手は

 強迫性障害は、WHOが指摘するところの、最も手立てのない疾患の一つである。セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)は強迫性障害の治療薬としてFDAで承認されている唯一の薬剤であるが、SSRI単独で症状を最小限にできる患者は少ない。このような例には、抗精神病薬またはexposure(強迫行為のきっかけとなる刺激への曝露)とritual prevention(強迫行為の回避)(EX/RP)からなる認知行動療法を追加することが、プラクティスガイドラインで推奨されている。米国・コロンビア大学のHelen Blair Simpson氏らは、強迫性障害患者へのSSRI治療において認知行動療法を追加することの効果について、ランダム化臨床試験にて検討した。その結果、exposureとritual prevention(EX/RP)の追加は、リスペリドンならびにプラセボの追加と比較して、症状のほか見識、機能およびQOLの改善に優れることを報告した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2013年9月11日号の掲載報告。 本研究では、成人強迫性障害の初回治療としてのSSRI治療において、抗精神病薬による強化療法、EX/RPの追加およびプラセボとを無作為化試験で比較検討した。2007年1月から2012年8月までに、強迫性障害と不安障害を専門とする外来クリニック2施設において、試験登録12週以前にSSRIを服用したにもかかわらず中等度以上の強迫性障害を認める患者(18~70歳)を適格として実施された。適格例163例のうち100例を、リスペリドン群(40例)、EX/RP群(40例)、またはプラセボ群(20例)に無作為に割り付け、86例が試験を完了した。SSRIを同量で維持している期間中に、リスペリドン(最大4mg/日)の8週間投与群、EX/RP群(1週間に2回、17セッション)、またはプラセボ群に無作為化し、独立評価委員会による4週間ごとの評価が行われた。主要評価項目は、エール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度(Y-BOCS)によるOCD重症度とした。 主な結果は以下のとおり。・EX/RP群はリスペリドン群、プラセボ群と比較して8週目におけるY-BOCSスコア減少が有意に大きいことが、混合効果モデルにより示された(対リスペリドン 平均[SE]:-9.72[1.38]、p<0.001/対プラセボ 同-10.10[1.68]、p<0.001)。なお、リスペリドン群とプラセボ群間で有意な差は認められなかった(平均[SE]:-0.38[1.72]、p=0.83)。・EX/RP群はリスペリドン群、プラセボ群と比較して反応性が良好であった(Y-BOCSスコアが25%以上減少した割合:EX/RP群80%、リスペリドン群23%、プラセボ群15%、p<0.001)。・EX/RP群はリスペリドン群、プラセボ群と比較して症状を最小限に抑えられた患者の割合が多かった(Y-BOCSスコア12以下:EX/RP群43%、リスペリドン群13%、プラセボ群5%、p=0.001)。・EX/RP群はリスペリドン群、プラセボ群と比較して見識、機能およびQOLの改善においても優れていた。・SSRIへのEX/RPの追加は、リスペリドンまたはプラセボを追加した場合と比較して優れていた。・以上を踏まえて著者は「SSRI投与中で臨床的に重大な症状が続いている強迫性障害患者に対しては、抗精神病薬を投与する前に、有効かつ問題となる有害事象プロファイルが少ないEX/RPの適用を考慮すべきである」と結論している。関連医療ニュース 難治性の強迫性障害治療「アリピプラゾール併用療法」/a> なぜ?第二世代抗精神病薬投与による“強迫症状”発現機序 自閉症スペクトラム障害に対するSSRIの治療レビュー

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心原性ショック急性心筋梗塞へのIABP、12ヵ月死亡率も低下せず/Lancet

 心原性ショックを伴う急性心筋梗塞への大動脈内バルーンパンピング(IABP)は、12ヵ月後の死亡率を低減しないことが明らかにされた。ドイツ・ライプツィヒ大学のHolger Thiele氏らが、患者600例を対象とした非盲検無作為化比較試験「IABP-SHOCK II」の結果、報告した。すでにIABP-SHOCK IIの結果として、IABPによる30日死亡率の低下が認められないことが示されていた。しかし心原性ショックの先行研究において、延長フォローアップにおいてのみ死亡率のベネフィットが示されたことがあり、著者らは本試験についても6、12ヵ月の評価を行った。なお、最新の国際ガイドラインでは、レジストリデータに基づき心原性ショックを伴う急性心筋梗塞へのIABPの推奨ランクは引き下げられている。Lancet誌オンライン版2013年9月2日号掲載の報告より。被験者の年齢中央値は70歳、約7割が男性 IABP-SHOCK II試験は、ドイツ国内36施設にて2009年6月16日~2012年3月3日の間に行われた。試験では、心原性ショックの合併症を有する急性心筋梗塞患者で早期血行再建術と適切な薬物療法が予定されている600例を無作為に2群に分け、一方にはIABPを(301例)、もう一方の群(299例)には対照治療を行った。 治療効果に関する主要エンドポイントは30日全死因死亡率だったが、加えて、6ヵ月後、12ヵ月後の生存者の生活の質(QOL)についてEuroqol-5Dを用いて評価した。 被験者の年齢中央値は70歳(四分位範囲:58~77)で、69%が男性だった。12ヵ月死亡率はIABP群52%、対照群51%、その他のアウトカムも有意差示されず 12ヵ月の追跡を完了した595例(99%)のうち、死亡はIABP群52%(155例)、対照群51%(152例)で、両群に有意差はなかった(相対リスク比[RR]:1.01、95%信頼区間[CI]:0.86~1.18、p=0.91)。 再梗塞(RR:2.60、95%CI:0.95~7.10、p=0.05)、血行再建術(同:0.91、0.58~1.41、p=0.77)、脳卒中(同:1.50、0.25~8.84、p=1.00)のいずれについても、両群間に有意な差はなかった。 また、生存者に対して行われた、運動能、痛み・苦痛、不安またはうつ症状などを含むQOL評価も両群で有意差はなかった。

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てんかんと運転免許

てんかんなどの意識障害を伴う疾患が関係する道路交通法が可決・成立し、一定の病気*と関連して生じた交通死傷事故の処罰に関する法律をまとめた刑事法新法を策定しようとする動きがある(添付資料1)。しかし、これらの法改正がてんかんやその他の疾患に対する偏見や誤解を助長する可能性があると懸念されており、日本てんかん学会をはじめ関連学会では、これらの法改正について協議を重ねている。【道路交通法改正】2013年5月に日本てんかん学会と日本てんかん協会の共催で開かれた、緊急シンポジウム(「事故をなくしたい-病気や障害と自動車社会の共存をめざして-」)の中で、道路交通法改正に関して、「排除の論理が優先しており、実効性に疑問があるばかりか、差別社会につながりかねない。関連支援法の整備や数年後の見直しなどの付帯決議が必要である」との提言が出された。これにより、2013年6月7日衆議院本会議で可決した改正道路交通法には、付帯決議が追加された(添付資料2)。詳細な通報ガイドラインや運用基準の見直しについては、関連学会と警察庁で協議を重ねている。【刑事法新法】2013年8月に開かれた法的問題検討委員会・関連学会合同会議では、今回の刑事法新法が一定の病気*を理由に刑罰が加重されるという法律であるため、問題視する声が大きかった。これらの病気による事故率が他の要因と比較して高いという医学的根拠はなく、疾患に対する差別を助長しかねず、疾患の適切な治療を阻害しかねない。今後、関連学会の連名にて、新法の慎重な運用と付帯決議追加の要望書を提出する予定である。* 一定の病気とは、統合失調症、てんかん、再発性失神、無自覚性の低血糖症、躁うつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害をいう。添付資料1画像を拡大する添付資料2画像を拡大する(ケアネット 岸田有希子)

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『尿路結石症診療ガイドライン』が10年ぶりに大改訂

 『尿路結石症診療ガイドライン(第2版) 2013年版』(編集: 日本泌尿器科学会/日本泌尿器内視鏡学会/日本尿路結石症学会)が、10年ぶりの大改訂を経て、9月20日より発売される。 今回の改訂(第2版)では、尿路結石症診療の最新の課題について、EBMの手法で徹底考察、徹底解明しており、38のCQ(クリニカルクエスチョン)形式で構成されている。 具体的には、大きく3つの領域に分け、「疫学」では「尿路結石症の発生には季節変動はあるか?」、「診断・治療」では「尿管結石の疼痛管理に推奨される治療法は何か?」、「再発予防」では「繊維性食物の摂取は尿路結石再発の予防になるか?」などのCQを設定し、疾患の基礎知識、最新の治療から生活指導のポイントまで、尿路結石症診療のあらゆる領域の疑問について臨床現場を意識した回答を行っている。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は1,995円(本体1,900円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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エキスパートQ&A

プライマリ・ケア医はどの範囲まで、がん患者さんを診るべきなのでしょうか?プライマリ・ケア医の定義がなかなか難しいところですが、地域の開業医の先生方であれ病院勤務の一般内科の先生方であれ、がん患者さんを診るべきだと思います。サブスペシャリティががんとは無関係の領域(循環器、神経、内分泌、腎臓、膠原病、感染症など)であったとしても同じことです。理由は単純です。患者さんは多いのに診る医者が少ないからです。がんは日本人の2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなるという非常にコモンな病気です。がん患者の診療において、専門医数(全国でがん薬物療法専門医<1000人、緩和医療専門医<100人)が少ないなどインフラの問題もありますが、一番大きい問題は患者さん側と医師側が日本のがん医療や一般診療に対してそれぞれが持つ固定観念だと思います。患者さん側は「大きな病院で専門医の先生にずっと診てもらわないと心配だ」、医師側は「がん診療は高度に専門化していて難しい。患者や家族の対応にもストレスを感じることが多い。治らずに亡くなっていく患者を診るのもつらいし、しんどい」といった気持ちがお互いにあるのではないでしょうか。これを少しずつでも変えていかないことには、がん対策基本法の理念である「すべてのがん患者さんに等しく適切な医療を提供する」を実現することは困難だと思います。がん診療はやりがいがあります。患者さんにとって一度は死を意識せざるを得ない疾患ですから、その患者さんや家族との対応の中で自分なりのさまざまな思索を巡らすことになります。また、自分や家族も将来罹患する可能性が高い疾患を目の前の患者さんを通じて経験し、人間の永遠のテーマである「生と死」について深く考えることができるのです。プライマリ・ケア医にできる身体的なケアにはどのようなものがあるでしょうか?がん患者さんの何を診るかについては議論のあるところですが、患者さんのQOL維持・向上のため少なくとも支持療法(緩和医療)についてはカバーすべきと考えています。支持療法の範囲は広く、緊急事態(オンコロジック・エマージェンシー)への対応、疼痛を含む症状コントロール、がん治療による有害事象対策、栄養療法、リハビリ、無再発患者の定期的フォロー(再発の有無、二次がんのチェック、骨粗鬆症、不妊、一般内科的マネジメント)などプライマリ・ケア医であればある程度対応可能な分野と考えています。抗がん薬治療はご自身のサブスペシャリティと、置かれている環境(開業医か病院勤務医か、地方か都市部か)で異なると思いますが、開業医の先生方が抗がん薬治療を扱うのは現状ではなかなか難しいかもしれません。基幹病院への紹介の仕方や、うまく機能しているシステムがあれば教えていただけますか?具体的に機能しているシステムはわかりませんが、病病連携や病診連携において大切なのはやはり「顔の見える関係」です。紙だけのやり取りでは関係が希薄になりがちですので、研究会等で基幹病院の先生と会って良い関係を築くことが重要ですし、いろいろな情報や知識も得られると思います。また紹介患者さんが基幹病院に入院したら、その病院に会いに行くことも重要だと思います。患者さんが喜ぶのはもちろん、基幹病院の医療スタッフも信頼を寄せますので、患者さんを逆紹介していただきやすくなると思います。可能であれば、基幹病院、地域の開業医、訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどで症例を通じた多職種カンファレンスを開くのもよいと思います。日常診療でがんを早期発見するためには、どこに気を付ければよいですか?有症状か無症状かで考え方が異なります。有症状の場合、そのがんはすでに早期がんである確率は低いので、ご質問そのものに対する回答にはなっていませんが、個人的には以下のような症状があった場合には、がんを疑うことにしています。すなわち、体重減少、リンパ節腫脹、原因不明で夜間に増悪する腰痛・背部痛、不明熱、嚥下困難、下血・血便・タール便、黄疸、血痰、血尿などです。また過去のがんの既往があれば、より検査閾値を下げて精密検査を進めることになると思います。無症状のがんを診断するためには、基本的にはがん検診を定期的に受けていただくことだと思います。私はがん以外で診ている患者さんに「がんについては検診を受けてください。残念ながら、あなたががんになっていないかどうかについてまでは診られていないのです」と説明しています。高血圧や糖尿病で診ている患者さんでも、患者さん側からすればがんも含めて診てもらっていると思っている方がいらっしゃいます。しかし、がんでない患者さん全員にがんが無いかどうかを診ていくのは大変だと思います。ただ、がん検診については注意すべき点があります。がん検診は早期発見のみを目的にしているのではなく、早期発見を通じてがんによる死亡を減らすことを目標としていますし、その点についてある程度コンセンサスがあるがん種についてがん検診が行われているのです。したがって、がん検診の内容に満足できない患者さんには、賛否両論あるにせよ、人間ドックを受けていただく以外にないと考えています。また、がんをスクリーニングする方法としての腫瘍マーカー測定は勧められません。スクリーニングには高い感度が求められますが、腫瘍マーカーで感度の高い検査はないからです(PSAは前立腺がんのスクリーニングには適していますが、早期診断することで死亡割合を低下させるかどうかが専門家の間で見解が異なるため現時点でがん検診に用いられてはいません)。症状もないのに患者さんの希望のみで、安易に腫瘍マーカーを測定し少しでも異常があった場合には、患者側も医師側も必要以上にがんを心配することになってしまいます。健診受診を促していますが、嫌がる人が多いです。どうすべきでしょうか?どうして嫌がるのかその理由によると思います。がんが見つかるのが怖いのか、それともがんになっても構わないし、早期発見が重要と考えていないなど、いろいろ理由があると思います。まずは患者さんの考え方を十分に把握することから始めてみてはいかがでしょう。CKDにおける抗がん治療の注意点を教えてください。腎障害の程度や、抗がん薬が腎排泄か肝代謝・肝排泄かなどによって、投与量は変わってきますので一般化できません。また、透析患者さんの場合はまた別の因子(透析性、分布容積、蛋白結合率、投与するタイミングなど)を考慮する必要が出てきます。詳しくは各抗がん薬の添付文書をご覧ください。高齢患者さんの治療に関する注意点を教えてください。一般的に抗がん治療の治療目標は二つあります。すなわち、生存期間の延長とQOLの改善・維持です。高齢患者さんの場合、抗がん治療により得られるメリットは非高齢患者さんのそれに比して小さくなります。つまり、生存期間の延長も小さくなるでしょうし、QOLも低下する可能性が十分あります。大切なことは、何を治療目標にして個々の患者さんを治療しているのかについて主治医と患者さん・家族が十分話し合い、認識を共有しておくことだと思います。個々の抗がん治療(手術、抗がん薬、放射線)の注意点については紙面の関係でここでは割愛します。食欲不振に対する対処法を教えてください。食欲不振の原因によります。原疾患によるものか、抗がん薬治療によるものか、あるいはうつ病などの内因性精神疾患によるものか、など多岐にわたります。認知症患者におけるがん治療について教えてください。がん治療に関して、その患者さんに自己意思決定能力があるかどうかが最大の問題になります。認知症のために本人に意思決定ができない場合は、家族や友人などに代理意思決定をしていただく必要があります。その際に大切なのは、代理者の意向ではなく、患者さん本人の意思を代弁する(または推定する)ことです。あくまでも患者さんが主体です。また、認知症患者の抗がん治療自体も難しいものになります。認知症の患者さんは脳の脆弱性のため、せん妄を起こしやすく、脳以外の身体の脆弱性も伴っていることが多いことから、その他の合併症(肺炎など)も起こしやすいのです。前立腺がんにおける高濃度ビタミンCの有用性について教えてくださいマルチビタミン(ビタミンCを含む)とミネラル補充療法の前立腺がん発症や進行予防との関連についてはメタ解析により現時点では否定されています(Stratton J,et al. Family Practice. 2011; 28:243–252)。上部消化管検診においてペプシノゲンがBaや内視鏡に代行できるという考え方はもう一般的になっているのでしょうか?日本のガイドラインでは現時点においても胃透視を推奨しており、ペプシノゲンはピロリ抗体や胃内視鏡と共に胃透視に比べてエビデンスレベルは下位に位置づけられています(Hamashima C, et al. Jpn J Clin Oncol 2008;38(4)259–267)。したがって、一般的にペプシノゲン測定はほかの検査の代用にはならないと考えられます。ただ、ABC検診と言って、血液検査でH. pylori感染とペプシノゲン値を調べ、胃がんのリスク評価を行う検診があり、リスクに応じて胃内視鏡検査による胃がんのスクリーニングを推奨する動きもあります。

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自閉症スペクトラム障害への薬物治療、国による違いが明らかに

 香港大学のYingfen Hsia氏らは、自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する処方薬の状況を多国間レベルで明らかにするため、IMS Prescribing Insightsのデータベースを用いた分析を行った。その結果、成人に比べ小児患者に対する処方率が高いこと、国により処方薬に違いがみられることなどを報告した。Psychopharmacology誌オンライン版2013年9月5日号の掲載報告。 これまでに、米国あるいは英国からASDに対する向精神薬処方に関する研究が報告されているが、それらの研究内容は必ずしも他国に当てはまらない可能性がある。研究グループは、エビデンスが欠如している地域を明らかにするため、ASD治療における精神薬理学的処方の範囲を多国間レベルで理解しておく必要があるとして本研究を行った。IMS Prescribing Insightsのデータベースを用いて、2010~2012年の成人および小児ASDにおける 向精神薬処方パターンを検討した。データは、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)、南米(メキシコ、ブラジル)、北米(カナダ、米国)、アジア(日本)から収集した。 主な結果は以下のとおり。・北米諸国での処方率が最も高く、次いでヨーロッパ諸国、南米の順であった。また、各国とも、処方率は成人に比べ小児のほうが高かった。・若年ASDに対して最も多く処方されていた薬剤は、英国と日本を除き、リスペリドンであった。英国で最も多く処方されていたのはメチルフェニデート、日本ではハロペリドールであった。・成人に対して最も多く処方されていたのは、リスペリドンをはじめとする抗精神病薬であった。なお、ブラジルではチオリダジン(国内販売中止)、米国ではジプラシドン(国内未承認)が抗精神病薬として最も多く処方されていた。・国により処方薬に違いがみられる点について著者は「診断基準、臨床ガイドラインあるいは保険制度によるものだと思われる」と指摘したうえで、「ASD患者に対する多くの向精神薬について、有効性と安全性のエビデンスが欠如している。処方のギャップを縮小するための研究が求められる」とまとめている。関連医療ニュース 自閉症スペクトラム障害に対するSSRIの治療レビュー 新たな選択肢か?!「抗精神病薬+COX-2阻害薬」自閉症の治療  自閉症、広汎性発達障害の興奮性に非定型抗精神病薬使用は有用か?

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喘息マネジメントの穴埋めるチオトロピウム(ERS2013)

 2013年9月7~12日、スペインのバルセロナで行われたERS(European Respiratory Society:欧州呼吸器学会)Annual Congressにて、標題テーマが議論された。 簡便な評価ツールや新たな薬剤の登場などにもかかわらず、コントロール不良の喘息(Uncontrolled asthma)の頻度は50%以上といまだ高い1)。デンマークUniversity of Southern DenmarkのSoren Pedersen氏は、「10年前と比較するとわずかに改善しているものの、依然として状況は変わらない。また、これは多くの国で同じ状況である」と述べた。同氏はまた「このようなケースでは、吸入ステロイド(以下ICS)や吸入ステロイド・長時間作用性β2刺激薬合剤(以下ICS/LABA)を吸入していてもコントロール不良であり、これを補う薬物療法として現在の選択肢以外にも有効な手段が望まれる」と述べた。 そのような中、新たな治療選択肢として、COPD治療薬として広く用いられている抗コリン薬チオトロピウム(商品名:スピリーバ2.5μレスピマット)の喘息に対する有効性が注目されている。チオトロピウムの喘息への使用については、重症例のICS/LABAや軽症・中等症例でのICSへのアドオンなど、いくつかの試験でその有効性が示されてきた2)3)。なかでもICS/LABAコントロール不良の重症持続型喘息でのチオトロピウムの有効性を示す大規模二重盲検試験PrimoTinATMの結果が昨年(2012年)発表されているが4)(http://www.carenet.com/news/journal/carenet/31588)、今回のERSでは、中用量のICSでコントロールが得られない中等症持続型喘息に対する第3相試験Mezzo-TinATMの結果が、オランダUniversity of GroningenのHuib Kerstjens氏から発表された。 MezzoTinA-asthma 試験は、チオトロピウムレスピマット5μg群(以下チオトロピウム5μg群)、チオトロピウムレスピマット2.5μg群(以下チオトロピウム2.5μg群)、それにLABAであるサルメテロール(商品名:セレベント)50μg(50μgx2回/日投与)群を合わせた3つのActive treatment群とプラセボ群間で行われた。試験はダブルブラインド、ダブルダミーの並行群間比較で、中用量ICSの維持療法を継続しながら、24週にわたり各群の薬剤を追加投与し、その後3週間フォローアップするというものだ。プライマリエンドポイントは呼吸機能改善評価として24週後のピークFEV1*、同時期のトラフFEV1、そして臨床的評価として同時期のACQ*(asthma controlled questionnaire:喘息管理質問表)スコアの改善で、Trial1および2の2つの試験結果から解析されている。 患者条件は ・中等量ICS(ブデソニド換算400~800mg)単独、またはICS/LABAの使用にもかかわらずコントロール不良の中等症持続型喘息(LABAは試験期間中は中止) ・年齢18歳~75歳の男女 ・非喫煙者または過去に喫煙歴(10pack-years以下)がある非喫煙者 ・サルブタモール(短時間作用性β2刺激薬)400mg投与前の%FEV1*60%~90% ・気道可逆性(サルブタモール400mg投与後のFEV1の改善)12%以上かつ200mL以上など。試験期間中のロイコトリエン受容体拮抗薬、去痰剤、抗アレルギー薬などの使用は許可された。呼吸器疾患、心血管疾患を含む喘息以外の明らかな併存症のあるもの、試験開始前に内服ステロイド治療を受けた患者は除外された。 試験患者数は、Trial1 1,070例、Trial2 1,030例の総計2,100例。4群間の患者バックグラウンドは同様で、平均年齢43.1歳、平均ACQスコア2.18、気道可逆性22.4%、1秒率*(FEV1/FVC)65.8%、罹病期間は21.8年と長期にわたっていた。使用薬剤は、ICS以外ではLABAが60%と最も多く、その他はロイコトリエン受容体拮抗薬が10%、テオフィリンが4%であった。 試験結果は、 ・24週後のピークFEV1:チオトロピウム5μg群247mL、同2.5μg群285mL、サルメテロール群258mL、プラセボ群62mL。プラセボからの増加はそれぞれ、185mL、223mL、196mLで、対プラセボp値はいずれの群とも<0.0001と有意に増加していた。 ・24週後のトラフFEV1:チオトロピウム5μg群119mL、同2.5μg群152mL、サルメテロール群87mL、プラセボ群 -27mL。プラセボからの増加はそれぞれ、146mL、182mL、114mLで、対プラセボp値はいずれの群とも<0.0001と有意に増加していた。 ・ACQスコアの改善:ACQレスポンダー(ACQスコア0.5点以上改善)の割合は、チオトロピウム5μg群64.3%、同2.5μg群64.5%、サルメテロール群66.5%、プラセボ群 57.7%。対プラセボORはそれぞれ1.32、1.33、1.46で、p値はそれぞれ0.035、0.031、0.039といずれの群ともプラセボに比べ有意に改善していた。 ・有害事象発現率は、チオトロピウム5μg群57.3%、同2.5μg群58.2%、サルメテロール群54.3%、プラセボ群59.1%。重篤な有害事象の発現はそれぞれ2.1%、2.3%、2.0%、2.7%と各群ともプラセボと同等であった。 Kerstjens氏は、「チオトロピウムについてのわれわれの疑問は、喘息に対する効果は重症持続型に限られるか?LABAとの効果比較は?などであった。今回の試験で、チオトロピウムレスピマットは、プラセボと比較し、両用量ともピークFEV1、トラフFEV1を有意に増加させ、ACQレスポンダーを有意に増加させていた。この結果から、チオトロピウムレスピマットは、ICS/LABAおよび高用量ICSの適応である重症持続型だけではなく、中等量ICS単独の適応である中等症持続型喘息への追加投与も効果的であることが示された。また、以前の試験結果と同じく、われわれの試験データでもチオトロピウムレスピマットの効果はサルメテロールと同等であることが示された。今回の試験結果は、チオトロピウムの追加投与によって、ガイドラインに則った治療をしても症状が改善しない多くの喘息患者にとって、意義ある結果だといえる」と述べた。※チオトロピウムの効能・効果は、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に基づく諸症状の緩解」であり、気管支喘息は承認外ですのでご注意ください。*FEV1:最大努力呼気の際に呼出開始から最初の1秒で呼出される肺気量。ピークFEV1は薬剤投与後、最も呼吸機能が上がった時点での数値、トラフFEV1は最も呼吸機能の下がった時点での数値。*ACQ:喘息管理質問表スコアasthma control questionnaire。7つの質問から構成され、0~6点の7段階で評価される(0をトータルコントロール、0.75未満をウェルコントロール)。治療後に1.5以上上昇した場合を“著明改善”、1.0以上を“中等度改善”、0.5以上を“やや改善”と定義した。スコアが大きいほど重症となる。*1秒率(FEV1/FVC):FEV1と努力肺活量(FVC)の比率。閉塞性喚気障害の診断指標。FEV1/FVC<70%が閉塞性喚気障害の基準となる。*%FEV:FEV1実測値/FEV1予測値(FEV1予測値=性別、身長、年齢から算出)1) Demoly P et al. Eur Respir Rev. 2012;21:66-74.2) Perters SP et al. N Engl J Med. 2010;363:1715-1725.3) Kerstjens HA et al. J Allergy Clin Immunol. 2011;128:308-314.4) Kerstjens HA et al. N Engl J Med. 2012;367:1198-1207.

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~プライマリ・ケアの疑問~  Dr.前野のスペシャリストにQ!【循環器編】

第1回「Q.救急外来でACSを見逃さないためには?」第2回「Q.拡張期血圧が高い…早朝血圧が高い…等々、どういう病態なのか?」第3回「Q.血圧の評価はどうすればいいのか?外来血圧?自宅で測ってもらう?」第4回「Q.降圧薬の選択がわからない。薬がありすぎる!」第5回「Q.胸痛でどこまで虚血性心疾患を疑うか?」第6回「Q.主訴が胸痛の患者さんにホルター心電図をつけたが症状が出ない。どうアプローチすべき?」第7回「Q.急性心筋梗塞のST上昇と早期再分極のST上昇の見分け方?」第8回「Q.これは絶対ACSという心電図所見はあるか?」第9回「Q.Poor r progression はどこまで精査しますか?」第10回「Q.小さいq波と異常Q波の鑑別は?」第11回「Q.虚血性心疾患例の安静時の心電図異常とは?」第12回「Q.ST-Tの異常は様々あるが、よく理解できない」第13回「Q.精査すべき脚ブロックとは?」第14回「Q.どこで判断する?精査に迷う心電図異常」第15回「Q.精査・治療の必要な心室期外収縮とは?」第16回「Q.抗不整脈薬使用の最近のトレンドは?」 あなたの悩みを5分で解決!一問一答Q&A番組!研修医、家庭医、総合医の疑問に、一問一答で回答する、1回5分のQ&A番組!「この診断で良かったのか?」「もっと検査をすべきだった?」「専門医に送るタイミングは?」プライマリ・ケア医から集めた循環器疾患の診察、検査、治療に関する16の質問を、番組MCの前野哲博先生が経験豊富なスペシャリスト・渡辺重行先生にぶつけます!第1回「Q.救急外来でACSを見逃さないためには?」1)胸部症状が定型的なのに心電図、CPK、トロポニンに異常が出ていないACS2)胸部症状以外の症状で来るACSでは見逃さないポイントとは何なのでしょうか?第2回「Q.拡張期血圧が高い…早朝血圧が高い…等々、どういう病態なのか?」血圧は何がどのように規定しているのか?DBP上昇のメカニズムなど病態ごとの血圧変動の特徴を復習しましょう。第3回「Q.血圧の評価はどうすればいいのか?外来血圧?自宅で測ってもらう?」測る度に、タイミングによって変動することも多い血圧。では一体いつ測ることが良い血圧評価につながるのでしょうか?心血管イベントと発症率や発症時間などのエビデンスを交え紐解いていきます。第4回「Q.降圧薬の選択がわからない。薬がありすぎる!」例えば、糖尿病患者に糖尿病の悪化や腎症の予防効果のあるRA系抑制薬を選択したが、降圧は今ひとつ…このような患者にはどうアプローチすべきか?2009年高血圧治療ガイドラインを復習しながら、推奨される選択薬や合剤、考え方を学びます。第5回「Q.胸痛でどこまで虚血性心疾患を疑うか?」患者さんに「胸が痛い」と言われるとドキッとする循環器非専門医の先生も多いと思います。そもそも主訴が胸痛の患者に見つかる器質的疾患はどれくらいなのでしょうか?また虚血性心疾患の兆候はどんなところにあるのでしょうか?第6回「Q.主訴が胸痛の患者さんにホルター心電図をつけたが症状が出ない。どうアプローチすべき?」主訴が胸痛の患者にホルター心電図で検査するも特異的な所見は見つからないケース。今後どうマネジメントすべきか?今回は病態からアプローチして、何が起こり、何の可能性があるのか、着目すべき点を学びます。第7回「Q.急性心筋梗塞のST上昇と早期再分極のST上昇の見分け方?」急性心筋梗塞の早期発見に欠かせない心電図。STの上昇に注目します。しかし、早期再分極を示す心電図でもSTの上昇、そしてJ波が表れます。症例心電図をとおして、急性心筋梗塞と早期再分極の見分け方を学びます。第8回「Q.これは絶対ACSという心電図所見はあるか?」渡辺先生曰く、「ACSで注意すべきはSTのわずかな上昇とT terminal inversion」。そのロジックを心筋梗塞の患者さんの心電図をみながら考えていきます。第9回「Q.Poor r progression はどこまで精査しますか?」 Poor r progression とはR波の伸びが足りないこと。R波が伸びない裏には重要な疾患が隠れているのでしょうか?またどの様な所見に注意すべきなのでしょうか?第10回「Q.小さいq波と異常Q波の鑑別は?」 異常Q波とは、幅が1mm(0.04秒)以上で深さがR波の1/4以上のQ波。特に注意すべきは1mmの幅があるかどうか、逆にいうと1mmに満たない心電図所見は正常とみてよいであろう。しかし、一見正常な所見に見えて、前下行枝狭窄である手がかりが隠れている。それは一体どんな所見なのでしょうか?第11回「Q.虚血性心疾患例の安静時の心電図異常とは?」循環器内科医は負荷心電図のⅡ、Ⅲ、aVFなどから虚血性心疾患を診断します。渡辺先生曰く「安静時の心電図所見から8割は陽性の兆候がみえる」とは渡辺先生。それはどんな所見なのでしょうか?注目はS−T波。第12回「Q.ST-Tの異常は様々あるが、よく理解できない」 STーTの異常は様々ですが、形をパターン認識することで診断がみえてくるようになります。今回はSTーT所見を大きく4つにわけ、パターンの特徴と症例をとおして見極めのコツを解説します。第13回「Q.精査すべき脚ブロックとは?」とくに自覚症状もないが健康診断や検診の心電図所見でみられる脚ブロック。ではこの脚ブロックを確認した場合どのようなコンサルティングが必要なのでしょうか?今回は心室の再分極、脱分極をおさらいしながら右脚ブロックと左脚ブロックの原理と対処を学んでいきます。第14回「Q.どこで判断する?精査に迷う心電図異常」前回の心電図所見が脚ブロックの場合の対応につづき、今回はどんな心電図所見を確認したらより精査が必要なのか考えていきます。健康診断で非特異的ST-T異常はよく見受けられますが、「他に疾患のない30歳女性」と「高血圧を有する45歳男性」ではその対応どうなるのでしょうか?第15回「Q.精査・治療の必要な心室期外収縮とは?」健康診断などでも見かけることも多い心室期外収縮。基本的には様子をみることで良いのですが、中には治療を要する重篤な疾患が隠れているケースもあります。渡辺先生が推奨する要コンサルティングのケースは3つです。1つは、心疾患ゆえに心室期外収縮を生じているとき。この判定は、心電図が正常なら心疾患なしと考えて良いということになります。残り2つはどんなケースでしょうか?一つずつ、確認していきましょう。第16回「Q.抗不整脈薬使用の最近のトレンドは?」様々にある抗不整脈薬ですが、プライマリ・ケア医が治療で使うにはどの薬がよいのでしょうか?衝撃的な試験結果となったCAST試験からPVC、SVPCに対して抗不整脈を投与する時代ではなくなりましたが、他の不整脈に対してはどうでしょうか。不整脈の種類ごとに現在本流になりつつある治療法(アブレーション、除細動器など)をふまえながら、抗不整脈薬の適応は、どのような不整脈の時なのか考えていきます。

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